2017-05-07 21:07:56 更新

概要

一月三日、やや落ち着いた朝を迎えた堅洲島鎮守府と、提督の朝。私室に次から次へと来る来訪者について。

夕張はカヌーの動画から、提督の旧知の友を見つける。

波崎鎮守府の鹿島は、新年の演武会に参加し、思わぬ展開で非常に強くなる。

同じ頃、横須賀の教導艦たちの集まりでは、違法な手段で特務第二十一号の提督の情報にアクセスした『鬼鹿島』が、師の仇と目星をつけて復讐心を燃やしているのだった。


前書き

提督の寝起きに、漣をはじめとして、次から次へと誰かがやってきます。
漣のスマホの着信曲が判明したり、夕立が提督の銃と同じものを欲しがったりします。

また、遂にポール社長と提督の関係が明らかになり、提督の現在の仮の名前も判明します。

しかし、この名前は確か、陽炎の夢に・・・。


波崎では鹿島が、運よく天下三剣の一人に出会い、二つの流派の様々な武技を伝えてもらう事になります。
三剣の一人は義理の孫を気にかけているようですが・・・。

また、この物語では現時点で最強の鹿島が遂に登場します。
堅洲島の提督を師の仇と見なしているようですが、果たしてどうなるのでしょうか?


第五十一話 正月の一日




―2066年一月三日、マルナナマルマル(午前七時)過ぎ、堅洲島鎮守府、提督の私室。


漣「ご主人様~、起きていますか~?(小声)」ソロー・・・カチャリ


―漣はいつものようにメイド服を着ており、提督を起こしに来た。・・・いや、正確には遊びに来たと言った方が正しい。大抵は提督が前日に、何時ごろに起きるつもりか秘書艦たちに知らせてから眠っており、その時間に合わせて誰かが起こしに行くのだが、今日は休暇期間中でもあり、特に何の指示も無かった。その微妙な隙を利用して、起こしに来た体で遊びに来たのだ。


漣(・・・寝てますよね?)キョロキョロ


―確か昨夜は、提督は一人で眠っているはずだ。誰かが一緒に眠っているなら、起こしに行く必要はあまりないが、今朝はそうではないはずだ。


漣「失礼します・・・っと」カチャリ


―部屋の空気はうっすらと温かく、艦娘の香水の匂いはほとんどしない。漣が好きな、提督の匂いだけだ。カーペットを静かに踏みつつ、部屋の中へと進む。


漣(あっ!)


―提督はベッドで眠っておらず、コート姿でソファに座ったまま寝ており、テーブルには飲みかけのコーヒーと、バーボンの瓶、短刀と銃と、『原初の海と混沌』という本が無造作に置かれていた。


漣(あー、お部屋があったまる前に、お酒入りのコーヒー飲みつつ本を読んでいたら寝ちゃった感じね・・・よし!)ニヤッ


―漣は静かにドアに戻ると、『睡眠中です、起こさないで』という札を取っ手にぶら下げて、ベッドから毛布を取り、提督に寄り添うように座ると、毛布が二人にかかるようにして、目を閉じた。


漣(これで最近のご主人様不足も解消っと!おやすみなさーい!)


―まだ眠かった漣は、すぐに眠りに落ちてしまった。が・・・!


―BGM『まもるクンは呪われてしまった YO-KAI Disco』


―漣の秘書艦用スマホの着信曲が鳴り始めた!


漣「うわわわっとぉ!?」


提督「うおっ!?あれっ?何だ?何がどうなってる?」ガタッ


漣「と、とりあえず電話に出ますね!・・・漣だぴょん」


提督(ぴょんて・・・)


曙(通話)「朝早くから一人でどこに行ってんのよ?まさか、クソ提督の所じゃないでしょうね?」


漣(通話)「いやー、何のことかわからないなぁ~。今忙しいから、失礼するナリ~!」プツッ


曙(通話)「あっ!ちょっ・・・!」


提督「えーと、何がどうなってる?」


漣「ちっくしょう!ご主人様分を補給したかったのに!」


提督「ああ、そうか、あのまま寝ちまってたか。で、漣が毛布で寝てる、と」


漣「ダメですか?ご主人様」ニコッ


提督「いや全然構わないが。・・・おれはもう少し寝るぞ?おやすみ!」


―提督はまたすぐに目を閉じて眠ってしまった。一昨日は二度も戦闘状況が発生したし、本来は休暇中でもある。しかし・・・。


―コンコン


提督「・・・ん?」


漣「えっ?ぼのかな?」


―わざわざ札が掛けてあるのにノックしてくるとは、急ぎの用事だろうか?


提督「どうぞ」


―ガチャッ、バターン!


足柄「おはよう提督!三日になったわよ?どうかしら?まだ出撃は出来ないかしら?」ワクワク


提督「銅作戦自体の出撃なら、残念ながら、もう少しかかりそうだ。昨日の未明から、太平洋の二方面で激しい艦隊戦に突入しているようだが、海域がいつもより深く、敵の編成も異なっている。もう少し情報が欲しいところなんだよな」


足柄「そうなの・・・」シュン


提督「でも、小笠原方面に強行偵察に出るのは許可するぞ?交戦海域が深部だから、小笠原までの敵の配置に変化が起きている可能性がある。それの確認だな」


足柄「えっ?」パアァ


提督「足柄を旗艦に、強行偵察戦隊を組んで出撃するのは構わない。但し、小笠原諸島の警戒水域での戦闘は避けてくれ。銅作戦に支障が出る。つまり・・・」


足柄「緩衝海域から小笠原の警戒水域外縁までなら、交戦しても良いって事よね?」


―通常なら、その海域には敵がうじゃうじゃいるはずだ。


提督「そうなるな。ついでに、迂回航路で向かう事も忘れずにな」


足柄「最っ高じゃないの!みなぎってきたわ!編成は?」


提督「足柄に編成は任せるぞ?好きに指名して、組んで、出撃して構わない。ただし、重巡戦隊までな。正規空母や戦艦は、相手の警戒レベルを上げかねないからダメだ」


足柄「わかったわ!早速編成を考えて報告したら、すぐに出るわね!」


提督「ああ。無理はしないでくれよ?執務室には叢雲が居るから、放送で募集を募ったらいい」


足柄「まかしといて!」ガチャッ、バターン!


漣「・・・なんか」


提督「うん?」


漣「私がご主人様の横に居るのに、ツッコミも何もありませんねー」


提督「別に突っ込むところとか、無いだろ?」


漣「そうなのかなぁ?」


―ソファとはいえ、一緒に毛布を掛けてぴったり寄り添っていたのだが、そういうものだろうか?


漣「もしかして私、ご主人様の傍にいても、他の子からはなーんにも警戒心を持たれていないんですかね?」


提督「ああ、そういう・・・。いや、必要以上に意識している子もいるみたいだぞ?一昨日の夜なんて、ようやっと大浴場で、書類に目を通しつつ、薄い酒でも楽しもうと思っていたら、陽炎は寝ているわ、吹雪は飛び出して来るわで、そりゃひどいもんだった。秘書艦とか意識し過ぎなんだよ。やりたければ言ってくれればいいのに。・・・おまけに刀持った磯風が突っ込んでくるわで、大浴場がめちゃくちゃだ」


漣「くっふふ!災難でしたねぇ、ご主人様。やっぱり、一人の時間を楽しむなら、いつもみたいに叢雲ちゃんを呼ぶとか、何か工夫した方が良いですよー?もちろん、私とかぼのでもオッケーですからね?・・・あ、ぼのは全力で断るかなぁ?」


―ガチャッ、バターン!


足柄「ねえ、そういえばよ?」


提督・漣「おわっ!」


足柄「新入りの子、かなり骨があるみたいじゃない?連れて行っても?」


提督「磯風か。陽炎や本人に言って、了解が得られればいいぞ?」


足柄「ありがとう!そうするわね!・・・ああそれと、妙高姉さんと何か話した?」


提督「ん?」


足柄「酔った時の失敗を謝りに行った後から、何だか妙に提督の事を褒めているのよ。あんな姉さん、珍しいわ」


提督「ああ、世間話を少しな」


足柄「ふぅん?今もそうだけど、提督って隅に置けないわね!」ニコッ


―ガチャッバターン


漣「ちゃんと、『今も』って言ってましたねぇ」


提督「まあ、足柄も出来る女だからな。戦いの事にしか関心が無い様でいて、周囲が良く見えているもんさ。で、おれは寝る。おやすみ!」


漣「あっ!私も一緒に寝ますってば!」


提督「いいけど、そんな事ばかりしてると、襲われるとか考えないのか?」


漣「私は構わないけど、ご主人様はきっとしないと思いますからねぇ~」ニヤニヤ


提督「おっ?その自信の根拠は?」


漣「なんとなく、に決まってるじゃないですかぁ」ニヤニヤ


―漣は確信に満ちた表情でそんな事を言った。


提督「・・・漣なりに、色々お見通しって事か」


漣「お見通しの『つもり』ですけどねぇ~。・・・出過ぎた事を言ってたらごめんなさい」ソッ


―漣は言いながら、提督によりかかった。


提督「そんな事無いさ。そういう部分含めて、良いと思ってるしな」


漣「もう!直球禁止でーす!おやすみなさー・・・」


―コンコン


提督「んっ?」


漣「えっ?」


提督「誰だ?・・・どうぞ」


―ガチャッ


夕立「あけましておめでとうっぽーい!あれ?夕立も混ざりたいっぽーい!」ダッ、トスッ


―夕立はあっという間に、漣の隣に座った。


提督(素早い!)


漣「うわっとぉ!ぽいちゃん素早い!これは一本取られましたなぁ」


提督「はは、これは二度寝どころではないな。ぽいちゃんは何か用事が?」


夕立「あっ!そうそう提督さん、昨日艦娘と戦って、銃で剣を止めたんでしょ?すごい噂になってるっぽい!」


提督「ん?ああ。そうなのか?」


夕立「次は夕立が強くなって守るっぽい!でね、提督さんの銃を見せて欲しいなと思ったの」


提督「おう、なるほどね。これだぞ。・・・待っててくれ、弾は全て抜いて渡すよ」カチッ、ガシャッ、キン


夕立「わあ~!触っても?」ワクワク


提督「構わんよ」ニコッ


漣(へぇ~、ご主人様の武器を見たいとか、面白い子ね!)


―夕立は提督のH&K mk23改を手に取ると、重さを確かめるように持ったり、構えたり、照準を合わせようとしたり、じっくりと観察し始めた。


夕立「磯風ちゃんの刀を受けたのって、この部分?」


―夕立はソードブレイカー部分にわずかについた傷を指し示した。


提督「うん。そうそう!」


夕立「手を守る部分と、ノコギリの刃と、刃物を受ける部分はわかったっぽい。でも、この逆向きの刃のついた切れ込みはなーに?」


提督「それは、『ガットフック』と言って、本来なら動物を解体する時に腱を切ったりするんだが、こいつのは特殊鋼製で、糸や電線、針金などを引っ掛けて切る用途だな。フェンスの金網や、細いワイヤーくらいなら切断できるぞ?ちなみに、ノコギリ刃も特殊鋼製で、ダイヤモンドに近い硬度だから、コンクリートも切れたりする」ドヤァ


夕立「へぇ~!ねぇ提督さん、夕立もおんなじのが欲しいっぽい!どうしたら手に入るの?」


漣「おっ!何か心に来るものがあるのね?」


提督「えっ?まず、おれからの携帯許可を得たのち、銃本体は初風に申請して、部品は夕張に頼めば作ってくれるはずだぞ?・・・そうだな、改レベルになったら携帯を許可しよう」


夕立「わかった!ありがと提督さん!夕立、頑張ってお揃いにするね!」


提督「おお、楽しみにしているよ」


―こうして、夕立の当面の目標は『練度を上げて提督と同じ銃を装備する事』になった。


漣「銃と言えば、ご主人様、一昨日借りた銃、なんかすごく使い勝手が良かったんですけど、あれ、私の銃にしちゃダメですかね?」


提督「スコーピオンか。悪くないな。あとは、自分なりに少しアレンジしたり、サプレッサーつけたりするのもいいな」


漣「ほぉ~、色々教えてもらってもいいっすかね?」


提督「漣っぽさを考えつつ機能向上を図る的な、だな。いいよ」


夕立「あっ、夕立も色々参考にしたいっぽい!教えてー!」


漣(まっ、こういうのもいっかな)ニコッ


―こうして、二度寝どころか、銃についての蘊蓄を勉強する時間になってしまった。



―同じ頃、工廠そばの夕張の私室。


夕張(うーん、やっぱりこれ、どう見てもそっくりよね・・・)


―夕張は提督に渡されたカヌーの図面を見つつ、先日からネットで資料を漁っていたのだが、たまたまオーストラリアの会社が新発売の三胴式カヌーのプロモーション航海をする動画を発見していた。ただ、そのカヌーがどう見ても提督の図面のものとよく似ていたのだ。


夕張(もしかして、提督と何か関りがあるのかな?)


―艦娘の間では、提督の過去は謎が多い。


動画のナレーション『年明けとともに、ストームワークス社では、新製品のサバイバル・カヌーでポール社長自らが安全な海域を航海します』


夕張(社長が自分でプロモーション航海をするくらいの自信作なのね)


動画のポール社長『どうもこんにちは。A&Pストームワークス社の社長の、ポール・マクファーソンです。銃器及びサバイバル・アウトドア用品では自信があるわが社ですが、今回の新製品は、片足が義足の僕自ら航海に出たくなるほどの自信作です。本当はハワイまで行きたいけれど、アビサル・フリートが猛威を振るっているからね』


―周囲のスタッフから笑いが上がる。


夕張(アビサル・フリート?ああ、深海の事ね。この社長、片足が義足だわ。ポール?・・・あれ?)


―夕張はここで、何かが繋がった気がした。少し前、曙が営倉入りになった時の提督の写真だ。


夕張(この人、提督の写真のポールさんじゃないの!?)ガタッ


―義足、オーストラリア、ポールと言う名前、提督の図面とよく似たカヌー、確か、顔もこんな感じだった気がする。提督も、カヌーの図面のバージョンについて、仕様によっては誰かに迷惑がかかるからと言っていた。その誰かがこの人ではないのか?


夕張(でも、まさかねぇ・・・あれっ?)


動画のポール社長『そうそう、わが社のほとんどのツールの原案やデザインを置いていってくれた、僕の親友がここに居ない事が残念でならないよ。アラン、どこかでこの動画を見たら、僕に連絡をくれたら嬉しい。連絡先はわが社のどの窓口でも大丈夫だから』


―動画に、A&Pストームワークス社の連絡先が表示された。


夕張(うーん、提督は日本人のはずだけど・・・一応話してみようかな?)


―夕張はノートタブレットを持って部屋を出た。



―提督の私室。


漣「ほうほうなるほど、最近はマシンピストルやサブマシンガンの攻撃力は馬鹿にならないって事なんですな」


夕立「艤装とはまた違ったかっこ良さがあるっぽい!」


―夕立と漣は、銃に関するレクチャーを提督から受けていた。


―コンコン


提督「どうぞ」


―ガチャ


夕張「今日はゆっくりなんですね。あれっ?銃についての講習会みたいな感じですか?」


提督「おはようバリちゃん。いつの間にかそんな感じだな。あ、夕立がおれの銃と同じものを欲しがっているから、部品をもう二セット程、予備も含めて作っておいてもらえないだろうか?」


夕張「はい!それはもちろん任せて欲しいんですが、ちょっと気になる事があって。・・・提督、これを見てもらえますか?」スッ


―夕張はノートタブレットでカヌーの動画を再生した。提督は興味深げに見ていたが、途中からとても驚いた表情に変わった


提督「どれどれ・・・あっ!ポールだ・・・完成させていたのか!社長だと?立派になっちまって!」


夕張「えっ?やっぱりこの人、提督のお知合いですか?じゃあ、このカヌーも?」


提督「ああ。ポールはアフリカで知り合った戦友だよ。状況が落ち着くまで、オーストラリアで、あいつの世話になっていたんだ。義理堅い、いいやつなんだ。カヌーもおれの原案だが・・・そうか、連絡を取りたがっていたのか」


夕張「こんな偶然もあるんですね!でも、連絡先は交換してなかったんですか?」


提督「味方に暗殺されかけると、何も信用できなくてな。こちらから連絡しても迷惑がかかる可能性もあったから、全て消していたんだ。・・・が、今なら大丈夫かもしれないな。奇縁再び、か」


―提督は懐かしそうな眼をした。


漣「どんな知り合いなんですか?」


提督「ポールは国連軍のオーストラリア派遣部隊の優秀なハンドラーだったんだ。ハンドラーってのは、犬を連れて伏兵や罠・・・特にIED(即席爆発装置)を感知する、重要な役割だな。ブレイザーって名前の、優秀なシェパードを連れていたんだ」


夕立「へぇ~、そんな犬がいるの?賢いっぽい!」


提督「オーストラリアの派遣部隊や、一緒に作戦行動していた日本外人部隊、アメリカの派遣部隊は、ポールとブレイザーにずいぶん危機を回避してもらっていたんだ。だがある夜、馬鹿なアメ公が奇襲に遭遇して、ポールとブレイザーを放置し、自分たちだけで逃げやがったんだ。その時、ふらふらと遊撃していたおれと知り合ったのさ」


夕張「えっ?ふらふらと遊撃って、敵の真っただ中でしょう?」


漣(あ、これ本気モードの時のご主人様の話ね、きっと)


―散歩するように、夜中の敵地を歩いていた、という事だろうか?


提督「・・・ああ、まあ・・・何とかなったんだよ。バリちゃん、この動画のリンクを教えてくれないか?連絡を取ってみるよ」


夕張「よろしければ、提督のノートタブレットで動画を辿りますよー?」


提督「おお、頼むよ」


―夕張はここで、大事な事を聞きそびれていたことを思い出した。


夕張「あの・・・ところで、こんな事を聞いていいのか迷ったんですけれど、ポールさんが言っているアランと言うのは?」


提督「・・・ははっ、名前の一つがバレてしまったな」


漣「えっ?でも、ご主人様は日本人ですよね?」


夕張「ですよねぇ?」


夕立「提督さんは外人さんなの?」


提督「いや、違う。流石に世話になっているのに名無しのゴンザレスではまずいからな。しばらく日本にも不信感を持っていたので、アラン・スミシーと名乗っていたよ。おれの三つ目の名前はアラン・スミシーなんだ」


漣(名無しのゴンザレスって何だろう?)


夕張「その名前は、どんな意味なんですか?」


提督「映画業界で、監督の名前を伏せたい時に使われる仮の名前。・・・要するに『誰でもない』という事さ」


夕張「誰でもない人、アラン・スミシーですか。・・・何だか、かっこいいですね!」


夕立「本当の名前は教えてくれないのー?できれば知りたいっぽい!」


漣「あ、ぽいちゃんそれはね・・・」


―少し微妙な空気が流れた。


提督「大規模侵攻を凌ぎきったら、そこまで生死を共にした皆には、本当の名前を教えたいと思っているよ。戦時情報法第二十六の二は強力な法律だが、おれが心苦しいからな」


漣「あっ、それは楽しみですねー!」


夕立「夕立も頑張るっぽい!」


―こうして、意外な形で、提督はかつての親友と連絡を取るきっかけができた。



―同日、2066年1月3日マルハチマルマル(午前八時)、波崎の町のコンビニ。


おじいちゃん店長「お、ちゃんと来たなぁ。まあ、鹿島ちゃんはいつも時間に正確だからなぁ。動きやすい服は持って来たっぺか?」


鹿島「はい。ありがとうございます!ジャージを持ってきました」


おじいちゃん店長「よし、じゃあ行くっぺか。宮本、車だしてくれ」


―おじいちゃん店長の傍には、髭の生えたアンパンマン、とでも言った感じの、親しげな眼をした大男がおり、無言でワゴン車を出してきた。


おじいちゃん店長「うちの三番弟子の宮本だぁ。今日はあちこちから来るから、すごくためになるっぺよ」


宮本「よろしくッス!加藤師範から聞いた時は、遂に本当にボケちゃったかと思ったんですが、本当に艦娘さんが来るなんて。今日は宜しくお願いいたします」


鹿島「あっ、こちらこそ、よろしくお願いいたします!・・・店長さん、加藤さんと言うお名前だったんですね」


おじいちゃん店長「宮本ぉ、若くて奇麗なお姉ちゃんの前だと、口が軽くなってるっぺよ。ワシゃあな、剣を握れるうちはボケきらんて。それにほれ、今日はあの方も来るっちゅう噂でねぇか?」


宮本「本当に来るんですかねぇ?何年かに一度は見に来られるという話ですが。お隠れになったという噂もありますし」


鹿島「・・・あの、何のお話ですか?」


おじいちゃん店長「剣の世界にはな、『天下三剣』ちゅう、流派を超えたすごい使い手が三人いるんだわ。このうち、なかなか表に出ない『隠者』と呼ばれる使い手が居るんだがなぁ、たまに鹿島神道流の新年の演武会に顔を出してくれるんだわ。まー強いのなんの、誰も勝てんのよ」


鹿島「そんな方が居るのですか!?」


宮本「でも確か、『天下三剣』のうち二人は、艦娘さんたちに剣を教えていますよ?『剣聖』山本鉄水が『活人剣』を、『剣豪』伊藤刃心が『殺人剣』を、確か伝えていたはずです」


鹿島「すいません、私、その辺りの事に全然詳しくないんです・・・」


おじいちゃん店長「宮本ぉ、鹿島ちゃんの所属してる波崎鎮守府はな、まともな鎮守府じゃないんだわ。鹿島ちゃん、今日だって、たぶん自分の身を護るためにここに来てんだぞ?」


宮本「・・・そうだったんですか。でも、たぶん今日一日で、すごく強くなれますよ。きっと大丈夫です」


鹿島「はい!負けるわけにはまいりませんから!」


―ワゴン車に乗って一時間ほど移動し、車は鹿島市に入る。鹿島神宮のそばのうっそうとした高台の森の中にある武道館に着くと、既に駐車場は車で一杯だった。


鹿島「すごい!」


おじいちゃん店長「鹿島ちゃん、まず今日の演武会は、ちびっ子たちの一年間の練習の成果から始まり、次第に年齢と強さが高くなっていくんだわ。師範代や範士くらいの演武からは、実戦的な型の披露になって行くから、そこから覚えたらいいっぺよ。で、演武会の後は達人同士の技の交流会だから、根こそぎ持ってったらいいんだわ」


宮本「僕も、口伝の技を一部披露したりしますし、剣以外の古武術を演武される先生もいますから、きっと役に立ちますよ!」


鹿島「はい。ありがとうございます!」


―こうして、鹿島は演武会の末席に坐して、様々な剣技を吸収することになった。


鹿島(ふふ、かわいい!)


―最初は小さな子供たちの演武に始まり、次第にその年齢層と技量、技の難しさが上がっていく。昼前には子供たちの姿は無くなり、正月仕様の弁当による昼食が済むと、午後からは年配の達人たちの様々な技と試合形式の型の披露になった。武器も刀にとどまらず、槍や鎖鎌、棒手裏剣、薙刀など、多岐にわたってくる。


鹿島(素晴らしい!敵を倒すこと、武器を振るう事、それらを突き詰めた人の動きって、何て無駄が無いのかしら!)


―感心すると同時に、波崎の提督の人間性に呆れ、暗澹たる気持ちになってきていた。なんて浅いところで生きているんだろうか?と。


??「ほう、なんじゃ珍しい。艦娘とかいう戦う娘っ子かの?お前さんは」


鹿島「えっ?」クルッ


―振り向くと、ハンチング棒をかぶった、おしゃれなゴルファー、とでもいった格好の老人がニコニコと笑っている。かなり高齢のようだが、姿勢も雰囲気もシャキッとしていた。


鹿島「はい。私、艦娘です。波崎鎮守府所属の練習巡洋艦、鹿島です」


ハンチング帽の老人「おお、聞いた事があるのう。確か大湊の・・・あれは香取と言ったかの?伊藤のやつめが自分の剣を教えておったのう」


鹿島「あ、香取は私の姉にあたる艦です」


ハンチング帽の老人「ほう。じゃあ何かね?お前さんもすぐに技を覚える能力があるのかね?」


鹿島「はい。今日も、どうしても強くなる必要があり、ここに来ているのです」


ハンチング帽の老人「なんとな、強くなる必要じゃと!?・・・どれどれ」


―老人はそう言うと、鹿島の眼を覗き込んだ。


鹿島(何だろう?何でも見通すような、不思議な眼をしたお爺さんですね・・・)


ハンチング帽の老人「・・・うーむ、なるほどのう。お主、心の内に秘めた血の気が多いのう。それだけ怒りを抱えておるが、救いも期待できない状況なのじゃな。強くなる者の目をしておるぞい」


鹿島「そっ、そんな事までわかるんですか!?」


ハンチング帽の老人「相手を知らねば、こちらが相手の命運を握れぬわい。それは、斬られて死ぬという事じゃ」


鹿島「なるほど!」


―鹿島と老人のやり取りに気付いた何人かのうち、年配の武芸者たちは息をのんだ。そして、会場の雰囲気がより厳粛なものに変わると、おそらく主催者らしい、立派な髭の道場主と、何人かの範士が、鹿島たちのところにやってきた。その中に、おじいちゃん店長も含まれている。ただ、その雰囲気はいつもの緩いものではなく、戦場のように張り詰めていた。


範士たち「『隠者』高山無学様、本年の演武会へのお越し、誠にありがとうございます!願わくば武技の一端をお見せ願えればと存じます」ザッ


ハンチング帽の老人「うむ、見つかってしまっては致し方ないのう。今日はほれ、若くて可愛らしい娘っ子も見に来ている事じゃし、久しぶりに剣でも振るおうかのう。ほっほっ」ニコニコ


範士たち「誠にありがとうございます!」


ハンチング帽の老人「男というものは立ち続けねばならん。剣と、足腰と、股間の一本は、死ぬ直前まで立っておるようでなくてはのう」ニコッ


―聞いていた者たちから、どっと笑いが起きる。


鹿島「あの、てんち・・・加藤さん、この方は?」


おじいちゃん店長「鹿島ちゃんは運がいいなァ。このお方は、『天下三剣』が一人の、『隠者』高山無学様だっぺよ」


鹿島「ええっ!?」


高山無学「なに、色々と国がうるさくてのう。死んだことにして、しばらく隠れておったのよ。隠者じゃからして、隠れるのが仕事よな。文句は言わせんわい。・・・どれ、ではこの後、絶技を幾つか踊ってみるとするかのう。可愛い娘っ子が真剣に武術を学びたいとなれば、この干物もたまには泳ぐという事じゃ」ニコニコ


―再び、笑いが起きる。が、鹿島は見逃さなかった。範士たちの額には、じっとりと冷や汗が浮かんでいる事を。


高山無学「どれ、着替えてくるかのう。最初は手練れを数人、それと、真剣の大小や鎧兜、大谷石の準備も頼むぞい」スタスタッ


―高山無学が立ち去った後、範士たちは同じタイミングで深く息を吐いた。


範士たち「相変わらず、なんという『剣気』か。息をするのがやっとだ」


範士たち「『天下三剣』最強との噂は伊達ではないですな」


範士たち「準備を急がねば。絶技をずいぶん披露してくださるようだ」


―道場はあわただしい雰囲気に包まれ、範士たちが様々な準備を始めた。



―数分後。


―七人の範士が高山無学をぐるりと取り囲み、それぞれが槍や薙刀、竹刀を構えている。


高山無学「どれ、始めるかの。一本目、転(まろばし)!」


―掛け声とともに、ほぼ実戦に近い演武が始まった。


竹刀の範士「そぇやぁ!」ヒュッ


―グッ、ピキッ


―まず、最初に竹刀の範士が上段から切りかかったが、高山無学はいつの間にかその範士とすれ違いの位置におり、範士の右手の薬指と小指の関節が外され、竹刀がすっぽ抜けた。


槍の範士「はあっ!」ボッ!


―スッ、パシッ、ピタッ


―一瞬、呆気にとられた雰囲気が出かかったが、槍の範士が高山無学の背に突きを放った。・・・はずが、槍の穂先がはたき落とされ、踏まれ、木刀の先が槍の範士の喉もとに当てられた。


竹刀の範士「やあっ!」


―カッ、パシッ


―続けて、槍を踏む高山無学に別の範士が袈裟斬りを打ち下ろしたが、すさまじい速さで跳ね上げられた槍がその竹刀も跳ね上げてしまい、無防備な肩に木刀が乗せられる。


薙刀の範士「ちぇい!」ブンッ


―クルッ、ガッ、ビュン!


―薙刀は確実に高山無学の胴をとらえるかに見えたが、高山無学が一回転すると、薙刀から半身も距離の空いた位置に身をかわしており、その薙刀に追い打ちするように木刀の一閃が当たった。早い一撃を予想外に空振り、加速されたことで、薙刀の範士は慌てて薙刀を抑えようとしたが、その隙に籠手と面の位置に木刀を添えられてしまった。


鹿島(な・・・なんて強さなの!あのお爺さん)


―このような流れで、躱しと攻撃の一体化した動きで、一瞬で七名の範士が敗れてしまった。全員が敗れるまで、五秒かかっただろうか?鹿島と一部の熟練者以外は、何が起きたのかさえ理解できないだろう。


高山無学「おぬしら、剣の道が一対一、というところで止まっておるのう。危機とは常に一対多じゃ。遊ぶように鋭い剣を磨かねばならぬぞ?敵意を弄ぶくらいの心が必要じゃ。前ではなく空を見、やがて空から自分を見下ろす様でなくてはならぬ」


鹿島(そうですね。私たちも常に戦場に出なくてはならないし、一対一なんて幸せ過ぎる状況だわ。そして、戦場でも視野を狭めず広く、と言っているんですね)


おじいちゃん店長「鹿島ちゃん、あれは柳生新陰流などに伝わる『転(まろばし)』という、剣の使い方と心の持ち方だっぺよ。しかし相変わらず強いもんだなァ」


―その後の演武もすさまじいものだった。鎧を着た高山無学は、道着だけの手練れの範士三人を『介者剣』で一瞬で破ったり、大谷石に短刀を突きさして見せたり、大太刀の扱い方の演武を見せ、使用していた鎧兜を両断したりした。鹿島は驚きと感動で目を丸くして見ていた。


鹿島(あ、何だろう?刀を握りたい。体の一部のように、いつも持っていたい・・・)


―練習巡洋艦の能力で、貴重な剣の術理を吸収していた鹿島は、刀を持っていない自分に違和感を覚え始めた。


高山無学「・・・どれ、そこの嬢ちゃん。ワシがさっきやった転(まろばし)を再現してみい。その後、短刀で大谷石を貫いてみるのじゃ」ポイッ


鹿島「は、はいっ!」パシッ


―鹿島は演武場の真ん中に進むと、一礼して先ほどの高山無学の動きを再現した。


おじいちゃん店長「おお!敵の姿が見えるようだ。すごいもんだなァ!」


高山無学「ほう、これは面白いのう。では、大谷石を貫いてみい。動きをそこまで盗めるなら、あとは気合だけじゃ」


鹿島「はい!・・・やあっ!」


―ヒュッ・・・キン!


一同「おおっ!」


―会場が大きくどよめいた。


―鹿島の振り下ろした短刀は、高山無学のそれと同じくらい、大谷石に深々と食い込んでいる。


鹿島「こんなことが出来るなんて!」


高山無学「ほう。いつか『石灯篭斬り』や『地蔵斬り』ができるやもしれんのう。うむ、ワシには後継者がおる故、誰かに剣を伝える必要もないかとも思ったが、これも奇縁じゃ。娘っ子、お主にワシの剣の術理と武技を授けてやろう。・・・ただし、ワシがここに顔を出すのが面倒な時は、代わりに顔を出すのじゃ。良いな?」


鹿島「あっ、はい!願っても無い事です。が・・・」


高山無学「どうしたのじゃ?」


鹿島「私、いつまで存在し続けられるか、わからないのです」


おじいちゃん店長「・・・やっぱりなァ」


―鹿島は波崎鎮守府の状況と、自分の置かれている立場、これからの事を全て話した。が、高山無学は眉一つ動かさず、話が終わるとにっこりと笑った。


高山無学「大丈夫じゃぞ?うむ。大丈夫じゃ。おのれの運を信じて、技量を磨くがよい」ニコリ


鹿島「どうしてですか?何か、わかるものなんですか?」キョトン


高山無学「うむ。今日一日でお主は大変強くなるし、この演武会においては、今後たまにワシの代わりじゃ。それはのう、その身に宿った剣の腕がもたらした新たな道なのじゃ。・・・よいか?剣の腕を磨けば、それは何らかの力を持つことであり、力は必ず何かに使われる意味があるものじゃ。その意味こそがあらたな道になってゆく。剣がお主に道を示すゆえ、懸念しているような未来にはもうならぬよ」


鹿島「そういうものなんでしょうか?」


高山無学「まあ、平たく言うなら、ひどい目に遭って消えるような目をしておらぬしのう。お主の眼は、火山の火口の湖のようじゃ。一見、穏やかで静かじゃが、その水が消えた時の強さや暴れっぷりは、誰にも手が付けられないようなものを感じるわい」


―鹿島は自分の中に眠る、激しい怒りに気付かれたと悟った。


鹿島(そう。私、本当は色々な事に怒っているわ・・・。)


―しかし、一番腹が立つのは、無力な自分についてだ。戦う者が、こんな弱くていいのか?今までの鹿島は何をしていたのか?何もしなかった鹿島は自分自身でもある。


高山無学「うむ、良い眼じゃ。・・・のう、加藤よ、時間はあとどれくらいじゃ?」


おじいちゃん店長「今日は確か、日付が変わるくらいまでのシフトですのう」


鹿島「はい。それくらいです」


高山無学「うむ、まだ夕方じゃ。これから、鹿島神道流と、ワシの無影塵芥流の技を全て覚えてもらおうかの」


鹿島「えっ?確かに、私の・・・練習巡洋艦の能力なら、すべて覚えることは可能です。でも、いいんですか?」


高山無学「ワシの技は既に受け継がれておるが、あ奴だけでは後世に技が残らぬやもしれぬ。それに、こうやってホイホイと技を覚える娘っ子に技を見せるのは、やはり楽しいものじゃ。ワシは一向に構わぬぞ?・・・のう、鹿島神道流はどうじゃ?」


立派な髭の道場主「私も構いません。こうして正確に覚えていただけるなら、指導できる方が増えるだけ、有難いものです」


おじいちゃん店長「決まりだな。良かったなァ、鹿島ちゃん!」


鹿島「皆さん・・・はい!ありがとうございます!」ジワッ


―鹿島は深々とお辞儀をしたが、道場の床が涙でかすんだ。


高山無学「よし、では始めるかの!」


鹿島「はいっ!」


―こうして、鹿島はこの貴重な日に、鹿島神道流と、高山無学の無影塵芥流の技と心を全て学ぶことが出来た。普通の剣の他に、小太刀、二刀流、大太刀、打ち物(投擲術)、棒、槍、鎖鎌、十手、格闘技に柔術に穴所術・・・と、受け継いだ技は多岐にわたった。そして、この時間が鹿島の練度を急激に上げ、準艤装と艤装への切り替えが自由にできるようになった。



―数時間後


立派な髭の道場主「うむ、まさかこれほどとは・・・」


おじいちゃん店長「大したもんだァ。まるでコピー機みたいだっぺよ」


高山無学「ほっほっ、ワシ含めて、先生が良いのじゃろ。いいかの娘っ子よ、すでにお主はその辺の道場主や範士などより遥かに強い。戦場においては役に立つが、身を護るのには過剰な力じゃ。そして、まだ動きの全てに魂が宿っておらぬ。神髄を理解していないままじゃからな。何度か戦場に出れば、いずれ全て繋がり、理解できるじゃろうがの。そして、今日身につけた力は、お主がどう生きるか?という問いのようなものじゃ。真摯な心を忘れるでないぞ?意思無き力は悪に過ぎぬからのう」


鹿島「動きに魂が・・・神髄・・・意思無き力は悪・・・。はい!鹿島、決して忘れません」


高山無学「うむっ!・・・さて、では今日はここいらでお開きにしようかの。そろそろお暇するわい。なかなか良い正月じゃな」


立派な髭の道場主「高山様はどこへ?」


高山無学「うむ。鹿島神宮へ初詣をし、その後香取神宮へ。それから館山方面にでも行こうかと考えておるわい。徒歩ゆえ、何日かかかるがのう。気ままな旅じゃよ」


立派な髭の道場主「館山ですか?」


高山無学「うむ。ワシの義理の孫がのう、どうにも気に入らぬやり方で、何やら国から大きな仕事を頼まれたらしいのじゃ。あ奴は既にワシなど遥かに超えて強いが、いささか繊細でのう。顔でも見ておきたいのじゃよ。確か館山におるはずなのじゃ。・・・ほれ、お主と同じ艦娘を束ねる仕事らしいぞい」


鹿島「えっ?提督なんですか!?・・・でも確か、もう強い提督さんはほとんどいないはずじゃ・・・」


高山無学「そうそう提督じゃ!あ奴は訳あって、国から名前その他を消されておるからのう。表向きは居ない事になっとるはずじゃ。しかし、ワシはほれ、上の連中の相談役もやっとるからの。話は耳に入って来るのじゃよ」


―鹿島はここで、特務鎮守府の事を思い出した。


鹿島「高山さん、もしかしたら義理のお孫さんは、特務鎮守府という特別な鎮守府に勤められたのかもしれません。館山には予備泊地しかありませんから、既におられないかもしれませんよ?」


高山無学「ほほう、それはありがたい話じゃな。無駄足を踏まずに済むやもしれん。確証は無かったからのう。うむ、では、よく調べてみようかの。・・・ところでお主、いずれ異動になるという事じゃろう?」


鹿島「え?・・・はい。波崎の提督が噂通りに上層部からマークされているとすれば、ですが」


高山無学「ふむ。・・・もしもその時に異動先を選べるなら、ワシの孫のところだといいのう。お主くらい強ければ、あ奴の心の負担にはならんじゃろう」


鹿島「お孫さんですか?どんな方なのですか?」


高山無学「ワシの言葉であ奴を表現するのは難しいのう。じゃが、良い男じゃ。そして、異常な強さを持っておる。ワシはあ奴の力に伴う宿命が心配なのじゃ。強大な力には必ず、それに相対する敵がおる。世界の命運など背負わねば良いがと、常に気がかりなのじゃ」


鹿島「そんなに、お強い方なのですか?」


高山無学「あ奴の剣は既に天下には無く、天そのものじゃ。しかし、何かの運命と共にあるように感じられてのう。アフリカより帰り、その後は隠者のように生きようとしておったようじゃが、それは叶わなんだ。ワシにはそれが心配でのう」


鹿島「強い剣が導く『道』が、その人にとって良いものばかりとは限らない、という意味でしょうか?」


高山無学「うむっ!そういう事じゃ。お主は理解が早いというより、心根が素直なんじゃな。・・・そうじゃ!お主、ワシの孫の嫁にでもならんか?あ奴、どうにも女運はイマイチ故、一人で生きようとしておったようじゃが、それはあまり良い生き方ではない。お主くらい強くて、素直な心の娘っ子はなかなかおらぬし、ずいぶん見目麗しいからのう。それに、妹弟子に当たるわけじゃし、既に縁があると見て間違いなかろう!」ニッコリ


鹿島「えっ?・・・ええっ!?」


―ある程度の強さがある人間には、艦娘は兵器ではなく女の子に見える。しかし、いきなりお嫁さんとは、急な話過ぎないだろうか?鹿島は最初、スポンジのように武技を吸収する自分に対して、気を良くしての言葉かな?と思った。しかし、高山無学の眼を見て、そうではないと気付いた。


鹿島(ああ、お孫さんの事が、本当に心配なんですね・・・)


―そして、自分ならある程度大丈夫だろうと、信頼してくれているのだと分かった。


鹿島「お気持ちはとても嬉しいですが、相手の方の気持ちもありますしね」ニコッ


高山無学「良い答えじゃな。あ奴の頑固な心を、誰かが溶かし、手を取ってくれれば良いのじゃがのう・・・。うむ、歳を取ると話が長くなっていかんの。では、そろそろお暇するとするか」


鹿島「あの、今日は本当に、ありがとうございました!ただ身を守るだけではなく、貴重な技の数々を伝えて下さって」


高山無学「なに、正月の楽しい余興じゃよ。技と心を曇らさず、自由にのう。いつかまた会う時は、より強くなっておるのを楽しみにするわい」


鹿島「はいっ!高山様もお元気で!」


―こうして天下三剣の一人、『隠者』高山無学は、鹿島神道流の道場を後にした。鹿島や道場主、おじいちゃん店長を含む範士たちは、その姿が見えなくなるまで見送った。


鹿島「あの、皆さん、今日は本当にありがとうございました!」


―そして、鹿島たちも道場を後にし、帰宅の途に就く。


鹿島(ああ、何だか頭がずっしりするけど、悪い感じではないわ。自分に沢山の中身が出来たような、そんな感じ。皆さん本当にありがとうございます)


―既にこの時点で、鹿島は二つ名を持つ艦娘たちにも引けを取らない強さを持っていたが、鹿島は気づいていない。そして、隠者が言ったように、その身に宿った力が、鹿島を数奇な運命に導くのだった。



―時間はやや戻り、同日昼間、横須賀総司令部。『教導艦横須賀詰所』大食堂。


―全国に散らばっていた、ほぼ全ての『教導艦』が一堂に会し、新年の宴会を開いていた。


対馬教導隊の大井「ふふ、新年早々ご機嫌ななめね。どうしたのよ?」


―大井は、すぐ隣の席に座る、腰に二つの手錠を下げた鹿島に話しかけた。


青ヶ島の鹿島(通称、鬼鹿島)「対馬まではまだ噂が届いていないようですが、こちらはすごい騒ぎになっていますよ?一番最後の特務鎮守府が、その台風の目なのです」


対馬教導隊の北上「台風の目?面白そうだねー。どんな話なの?」


鬼鹿島「そこの提督が、私の古巣、青ヶ島の二代目の金剛を移動させ、あろう事か『開耶姫』榛名までストレートで下して異動させてしまったらしいのです。総司令部のデータベースには、表向きはもうそんな提督は居ない筈だったのですが」


対馬教導隊の北上「どうかなー?世界は広いから、強い人だってまだいてもおかしくないと思うけどなぁ」


対馬教導隊の大井「で?行き場のない二人が無事に着任できて、何であなたが怒っているわけ?」


鬼鹿島「いくら前の金剛が忘れられないからって、それでも十分に強い二代目の金剛をみすみす手放した青ヶ島について。それと・・・『開耶姫』榛名を下せる人なんているわけがないのです。私でさえ、一本を取るのがやっとだったのですから。青ヶ島の金剛を異動させた経緯は、相当な『人たらし』にしか見えません。榛名の事もきっとそうです。どんな提督か、見極めてやる必要があるんですよ!おそらく口だけの男に決まっています。容赦なんてしません!」ダンッ!


―鹿島はコップを乱暴に置いた。


対馬教導隊の大井「公式に三本勝負して勝たないと異動はダメってんだから、ちゃんとやったって事でしょう?素直に言いなさいよ。何か別の理由でたぎってるわね?」


対馬教導隊の北上「そうだよね?鹿島っちがそこまで熱くなることじゃ無いと思うし。なに、もしかして宿敵かもしれないの?」ニヤニヤ


鬼鹿島「・・・あなたたち、性格が悪いですね。色々知っていて私に話させていますね?」


対馬教導隊の北上「秋葉原から特殊なタブレットを入手したことくらいは知ってるかなぁ~」


―ギクゥ!


鬼鹿島「ど、どうしてそれを?」


対馬教導隊の大井「そりゃ、同じことを考えているからよ。強すぎて行き場のない艦娘とか、・・・何かを抱えている艦娘は、みんな同じことを考えるでしょ?」ゴソゴソ・・・スッ


―大井はバッグからノートタブレットを取り出した。


鬼鹿島「あっ、それ!私のと同じ!」


対馬教導隊の北上「すごく値段は張るけど、それだけの価値はあるよねー」


対馬教導隊の大井「使い道のない給料のほぼ一年分だけどね」


鬼鹿島「あなたたち、私が何か言える立場ではないけど、こんな事をしちゃうなんて・・・」


―秋葉原には、一部の艦娘だけがアクセスできるネットショップがある。違法な商品しか扱っていないが、色々と便利なのだ。鬼鹿島や大井が入手したこのノートタブレットは、特殊帯のマスターコードが入力されており、普段は閲覧できない情報を見ることが出来る。ただし、値段は相当なものだ。


対馬教導隊の北上「んで、鹿島っち、お目当ての特務第二十一号の提督さんは、やっぱり探している相手だったの?」


鬼鹿島「ええ。先ほど当りをつけました。おそらく六割がたそうです。だから、倒さねばなりません。幸い、近々その機会が訪れそうですから」


―限定的とはいえ、特殊帯のマスターコードを利用してアクセスした情報には、特務第二十一号の提督の情報が少しだけ見つかっていた。それは、鹿島の師を言葉で引退に追い込めるだけの経歴とタイミングの持ち主であり、他にそれだけの経歴を持つ人物はいなかった。


鬼鹿島(どうせ、作られた英雄に決まっています。見てなさい!師の仇を討ちつつ、化けの皮を剥いであげますから!)ニヤッ


―もう一人の強い鹿島は、堅洲島の提督をおそらく宿敵とみなしていた。



―同じ頃、堅洲島鎮守府、旧ヘアサロン。


提督「っくしゅん!」


扶桑「あっ、大丈夫ですか?提督、寒かったですか?」


―エプロン姿の扶桑に髪を切ってもらっていた提督は、ふと、くしゃみをした。


提督「いや、大丈夫。誰かが噂でもしているんだろ。寒くも無いし、髪がくすぐったいわけでもないし」


扶桑「うふふ、それなら良かったです。もう少しで終わりますからね?」


提督「ありがとう。今日は久しぶりにゆっくりだよ」


扶桑「はい。ゆっくりしてくださいね」ニコッ


―堅洲島では穏やかな正月の一日が過ぎていた。




第五十一話、艦



次回予告



常号作戦の経過に合わせて、小笠原までの緩衝海域に偵察に出たい足柄は、鎮守府で仲間を募り、戦隊を編成して出撃する。そして、小笠原までの海域に出てみるのだが・・・。


波崎鎮守府に戻った鹿島は、夕張と色々話し、自分の武器と鍛錬の場を整える。


錬武会の準備に忙しい神通は、提督に少しだけ武術を見てもらう事になるが、聞きつけた榛名を前にして、提督が『艦娘の剣』の長所と短所、そして自分の剣の話をする。


一方、志摩鎮守府では、特務第七への襲撃の準備で主力の艦娘たちと提督が留守にしている中、眠り続ける阿武隈を若葉が見守っていた。


次回、『結成!餓狼戦隊』乞う、ご期待!



若葉『そうか、これが絶版になった、花王の殺虫剤、キスカ・・・だな、なに?違うのか?』


提督『残念だが、こいつはアースジェットだ』


若葉『ジェットだと?ネ式搭載か!』



後書き

更新が遅くなってしまってごめんなさい。

六月いっぱいまで、多忙な日々が続いてしまいます。

また、現在イベントを甲で攻略中です。親潮が今回は落ちないらしい。うう・・・。


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このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2017-05-07 23:22:18 ID: 2zrq1teP

イベント、頑張って下さい^^

2: SS好きの名無しさん 2017-05-08 23:56:24 ID: 1ayM9Z-L

更新お疲れ様ですー。
ちょっとずつ提督のことが明らかになっていきますね。
しかも様々な艦娘が堅州に集まっている・・・
イベント、お互い頑張りましょう!

3: 堅洲 2017-05-12 23:28:11 ID: rP6pz_zh

1さん、ありがとうございます。

現在、E4甲のラストで沼り中です。
途中までは順調だったんですがねぇ・・・。

4: 堅洲 2017-05-12 23:33:29 ID: rP6pz_zh

2さん、コメントありがとうございます!

そうですね。提督の事が明らかになると同時に、様々な艦娘が堅洲島に集まってきます。

深海棲艦はなぜ深海と呼ばれるのか?

この辺りの謎が解けてくると、次第にこの物語の背景のヤバさが浮かび上がってくるかと思います。

イベント、お互い頑張りましょう!


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1: SS好きの名無しさん 2017-05-07 22:27:12 ID: 1GQHe7Pr

更新、待ってました(´・ω・`)


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