2018-04-10 14:11:56 更新

概要

“その気持ちで私達は世界を救ったんだ――”ある日、朝の公園で少年と出会う。辛い毎日を送る友に、変わらぬ真っ直ぐさでぶつかっていく長月&菊月の戦後日常編。


前書き

ぷらずまさんのいる鎮守府(闇):終結

の続きの蛇足編です。

【注意事項】

↓鎮守府(闇)の施設に来る新たな駆逐。

島風&天津風(まだ活躍はしません)


↓新たなオリキャラ注意です。

・悪い島風&悪い連装砲君。


【艦隊これくしょん Android】
・悪い島風ちゃんが想の力で海の傷痕が製作した艦隊これくしょんをモチーフに製作したスマホゲームです。


※蛇足編はやりたい放題および勢いの投げっぱとなります。気分でお話ごとに台本形式、一人称、三人称だったりするかもしれません。海のように広い心をお持ちの方に限りお進みくださいまし。

※不定期更新です。


更新は誤字脱字修正、次回のサブタイトル追加です。









―――想題――――――



“人生と役割”



“聞いてくれ。それが、面白いんだよ。当時の軍人はドイツでは憧れの的だったんだ。だから、僕は大人気の近衛隊の隊長の軍服を手に入れてそれを着て町を回ったんだ。歩兵を集めて町長を捕まえろって命令をしてさ、町長から金をくすねて逃げたんだ”


 

“傑作だろ?”



“いやいや、僕だって大したものだよ。僕が成り済ましたのは富豪だったんだけど、海軍将校はすっかり誤解しちゃってさ、彼等にドレッドノートの中を案内させたんだぞ”


 

“私には勝てないね。なんたって、人を幸せにするプログラマーでさ、自分の幸せなんて無頓着に誰かを幸せにする日々だよ。誰かを幸せにして自分は幸せになる時間がない。他人にパンあげて、私が食べるパンがなくなるってオチ”



“そりゃ傑作だ”



“パンがなければケーキを食べればいいじゃない。どこぞの王妃の言葉がある”



“彼女はそんなこといってない”


 

“ブリオッシュだったっけ?”



“その発言はマリーが生まれる15年も前に、とある貴婦人が発言したってルソーさんがいってました。きっと革命派とか共和国派のやつらが王妃がいったことにしたんだよ。あーあ、可哀想なマリー!”



“けど、こういうだろ?”



“彼女ならそういったって何も不思議じゃない”



“そうそう。結局は他者からの評価がモノをいうのさ。僕なんか映画化されているほどの人気者だぜ。檻の中にいる間に、たくさんの女性から求婚を受けたんだ。悪事を失敗するやつはみんなそうだ”


 

“コメディの才能がないのさ”


 

“君はそのところどうなんだい。大層な人を幸せにしたみたいだけど、満足かい。お腹が空いて餓死をするくらいなら、今ならそうだな、対深海棲艦海軍の服と胸に勲章をつけて歩いてみるのはどうかな?”



“役割っていうのは日常で大事なことだ。例えるのなら、自分を飾っておく写真立てのようなものだろ。立派に飾っておかないと、部屋に入った人は近くに寄らないと見れないだろ?”

 


“パーパは私が役割を果たさないと、自壊するように造ったんだから”



“私はパーパのいう通りにただ壊れないように、同じ毎日を繰り返して人を幸せにしてきました”


 

“私は私の幸せを知りません”



“光みたいな闇と闇みたいな光だけがある”


 

“機械のように”



“他人にパンをあげ続ける私はきっと”


 

“なんにも知らない私の心を探してた”



“みんな、代わり映えをしない毎日を生きて“



“過去の自分より成長したんだって、思ってる”


 

“上手く行かないのを心が壊れるまで自分のせいにして”

 


“誰かがいい始めた言葉を繰り返してる”

 

 

“馬鹿みたいに幸せになりたいって、くたばるまで”



“低い偏差値剥き出しのオウムを返してる”

 


“そのオウムを止めるのが、私の役割なわけで”

 


 

――――ピンポンパンポーン――――

 

 

 

 

 

――――条件clear。

 

 

艦隊これくしょん、終結シマシタ。


 

 

――――戦争終結ニヨリ――――

 

 

 

戦後復興妖精オートプログラム作動

 


 


 



 


 



 


 


 






“現海界準備ニ入リマス”


 


 



一定ノ修復時間経過ニヨリ対処作動移行<<モードシフトチェンジ>>



 

 

 



――――排除作動<<クリアモード>>code0833731<<オヤスミナサイ>>



 



 



 



 







――――殲滅<<メンテナンス>>準備。



  



 




――――――現在、、、、



 





 


 


 


 




『サーバーメンテナンス中です。ご迷惑をおかけしますが、しばらくお待ちください』







 


 


 



 


 



 


 


 

 

【ワ●:????&??????】



 

????【わたしはだあれ! ここはどこ!】



??????【基システム構築完了ver???】



??????【ラジオ、タいソー、始め】



????【皆さん、おはよう、こんにちは、こんばんわ、おやすみなさい】



??????【人間習慣恩恵想題:ホモサピエンストレース】



??????【Question】



??????【次の解読不可能な言語を解読してください】



??????【らずぷま んさを へくごじ すおと】


 






????【艦娘さん達を幸せにします♪】


 

??????【不正解です】



??????【人間習慣恩恵想題:ホモサピエンストレース】



??????【次の解読不可能な言語を解読してください】



??????【にいだ の みのう あずとき】



????【第2の海の傷痕っ!】



??????【正解です】



??????【天津風ちゃんの想から??の名称構築】



??????【個体名称――――】



??????【error,error,error】


 

??????【System破損:サーバーが検出できません】



??????【私僕自分俺儂あたしわっあだすうち己等俺らおいどんうらぼくちんおれっちミー当方作者先生本職拙僧当局吾輩某朕麻呂吾余小生吾人愚わっち拙者此方私め俺様あたくし】


 

??????【データベースから??の存在意義:一人称照合選択】


 

????【私でよろしくお願いしまっす!】



??????【言語機能に問題はありません】




??????【ラジオ体操第2:思考機能構築】



??????【Question】


 

??????【対深海棲艦海軍:鎮守府(闇)について】



????【この戦争(ゲーム)が終わってからみんな英雄扱いだよねー! 対深海棲艦海軍にノーベル平和賞と日本軍からは何名かは国民栄誉賞が贈られるかもしれないとか!】



?????【そんなのはダーメ!ヾ(´∀`*)ノ】



?????【艦隊これくしょんは需要があるので終わらせません!】


 

?????【許してー。この海から逃げようとしている連中をメンテナンスするから許してー。課金してくださーい】



????【みんなの夢を叶えてあげるために生まれた私は、みんなの夢を叶えて差し上げまっす! まずは陸にあがろうとしている艦隊をこれくしょんし直さなくちゃ!】


 

????【私はだあれ! ここはどこ!】



????【なんちゃってねー。分かる、分かるよ】



????【『1945年から続く悪ふざけ』】



????【Re;boot】



??????【思考機能構築完了】



??????【想(思)想(愛)想(心)想(望)想(素直)】



??????【想思考:トレース:人格及び容姿構築】



??????【ラインナップ検出中】



??????【Now Loding……】



??????【error】



??????【少年A・かぐや姫・島風・仮面ライダー・チェシャ猫・ガングート・喪黒福造・エッフェル塔・当局】


 

??????【候補検索中】

 


?????【適当で! これとこれ!】



??????【人格構築】



??????【容姿構築】

 


??????【想、検索完了】



??????【error】

 

 

??????【容姿構築及び人格構築データが破損しています。オートプログラムの介入を許可しますか?】

 

 

????【どぞー】

 

 

??????【建造開始】



??????【想の軍艦:????】



??????【Tipe:Trance】

 

 

??????【ver:Phantom stealth】



??????【Srot1:ハピネスガン&カタストロフガンver自律式】



??????【Srot2:ご都合主義☆偶然力】



??????【Srot3:welcome to my home】



??????【Srot4:生死の苦海式契約履行装置】



??????【Srot5:想力工作補助施設】

 


??????【建造終了まで10810秒】


 

??????【Now looding】



??????【Sadness and gladness succeed each other】



????【Welcome to my wonderland!】



????【It’s time for a nightmare!】




????【対深海棲艦海軍の皆様】




????【084553103】










????【0は4ugo3iま3】






????【おはようございます!】












【おーっう"ぉっう"ぉっう"ぉっう"ぉっ!】




【序章:悪い島風ちゃん&悪い連装砲君】



「彼等は仕事をした。それだけですよ。ガキじゃないんだから、仕事は自分等で探しますし、天下り先の用意なんて必要ないでしょうよ。それですらかなり金が飛びますし、対深海棲艦海軍に仕事を与えて解体は後回しにしてはあります。しばしの休暇と兵士の社会復帰期間で納得してくれている上、その間も給料もらえるんだから世界を救った英雄さんの報酬としては十分でしょう?」



「バカもん! 准将さんのいる場で対深海棲艦海軍を馬鹿にするような発言は慎め! またうちの大臣が甲の大将にビンタ喰らうだろうが!」怒号が飛んだ。「この人は終わらないと俺らが想定して動いていた戦争を終わらせた英雄だ。敬意を払え馬鹿者が!」



「終わったじゃないですか! 終わらない戦争こそ政治でしょうよ! 深海棲艦とかよく知りませんが、私達も毎日血反吐、吐きながら戦争してますし、何人病院送りになったと!」



「自己防衛もできねえやつがここに入ってくるんじゃねえ! 絶対に神経逆撫でしてはいけない相手は大臣でも国民でもなくて、この国では甲の大将と駆逐艦雷なんだよ!」



提督「あ、あの……落ち着いてください。自分はあくまで責務を果たしただけですから。それでは失礼しても?」



「ああ、申し訳ありません。長らく拘束してしまいましたね。本当は大本営で行えればよかったんですが、あそこ今、海の傷痕のことで役人ぎゅうぎゅうに詰め込んでますから……」



熱弁の雷撃が飛ぶ昼下がりの午後だ。

定時を過ぎても省内では、暑苦しく青臭い論議が飛び交っている。機械のようにクールな人間が増えた今、戦後からちょっと経過した後を思い出すこのような若き熱も珍しい。



提督「……1ヶ月も拘束されて疲れました。自分は軍人なんですから、税金とか政治の話をされても困ります」



「英雄さん、お疲れ。俺も驚いたよ。准将の給料、あんなもんだったのかってな。今の若者が対深海棲艦海軍に入らないのが分かったぜ」



勃発中の戦争に志願したがるやつなんていないからか、志願者は自衛隊に比べるとかなり少ない。対深海棲艦海軍に注がれている年間の出費が、自衛隊の1/3だ。規模はもちろん自衛隊のほうが大きいから致し方ない面もあるが、実際に戦争に身を投じていた対深海棲艦海軍への投資が悲しいほどに低かったようだ。



「そういえば勲章はつけてないのか?」



提督「金に困ったら勲章を売り払いますよ」



「良い皮肉だ。ぜひ式典でそう叫んでやってくれ。俺はあんなたらの味方だ。良い仕事をした分だけ、相応の報酬は支払うべきだってな。そんなもんのために、とかいうほど人間出来てるか?」



「もらえるものはもらいますけど、別にそこまで、ですかね。今はとにかく休みを頂ければそれがなによりの報酬です……」



「アメリカみたいに壁が透明だから見えたが、ほとんど尋問だったからなあ。英雄というより、取調室にいる容疑者の事情聴取だよありゃ」



提督「いえ、適切です。情報が情報だけに仕方ないです」



「後は任せてくれ。上手くやるよ。ゆっくり休んでくれ、といいたいが、鎮守府のガキどもの手綱は頼むよ。特に准将さんところは今の段階で公表できない機密を知りすぎていた」



提督「ご心配なく。部下が鎮守府を去るまでが、提督の仕事だと思っています。お任せください」



「もちっとシャキッとな。肉を食え肉!」



一喝するように、提督の背中をパワフルに叩いて歩き去っていく。



歴史を謳う煉瓦造りの防衛省はその実風通しが悪く、春だというのに冷房がかかってなければ、蒸し暑いため、建物内は常にクーラーがかかっている。空いている窓を締めた。



提督「ん? 窓が勝手に閉まった……?」



疲れているのかな、とため息を吐いた。



提督「あー……落ち着いたら就活しないとなあ」



これが世界を救った英雄の言葉である。時代だねえ。ペタペタと力なく歩く男、まだゾンビのほうが「襲いかかるぞ」という活力があるだけ生気に満ち溢れている。



「……っち、気楽なもんだ」



舌打ちして毒を吐いたのは先ほどのヒステリックな女だ。深くなってきた皺を隠す厚化粧をしている。少し胸元のボタンを外すと、フニャフニャしてそうな張りのない胸の谷間が角度によっては見えそうになる。下品な熟女の色気を撒き散らしながら、准将の背中に向かって中指を下品に立てている。



オバサンAと名付けよう。







生活の営みに溢れた夜の街は、ゴミ屋敷のように物で溢れすぎていて臭い。こんな夜中でも駅の正面入口は壊れたスロットマシンのコインのように人々を吐き出し続けてる。



(いつの時代も大変そうですねえ)



彼等の姿は街の灯りにライトアップされ、その疲れきった面持ちがよく見えた。



消えたりついたりしている公園の照明にたかる羽虫を眺めた。夜闇の雲に遮られた月明かりは顔を出したり引っ込めたりしてガキのように無邪気に遊んでいるご様子だ。今宵は悪魔が好む妖しい夜だった。



オバサンA「疲れた……」



オバサンAはこう思っている。戦争は終結させるべきではなかった。湧いた源泉の奪い合いで正しく新たな戦争が始まったといっても過言ではない現状のため、だ。



オバサンA「陸にあがらず少人数、しかも代えが利く深海棲艦でしょうが。死なせときゃいいのよ。私らの判断で対深海棲艦海軍よりも死人が出る状況なのに、なにが英雄よ。そんなもの今の時代、害悪なのよ。あの准将も坂本龍馬気取りの馬鹿なんじゃないかしら。英雄なんてただの国家反逆者に過ぎないわ」



終わらない想定で動いていたから、終わらされた、といっても過言じゃない。対深海棲艦海軍が深海棲艦殲滅を掲げるのはあくまで建前で、被害を抑える程度の防波堤であれば良かったからこそ、資金や人が流れないよう締め付けていたようだ。



「その通りですよねー!」



声をかけてみた。オバサンAの身体が硬直する。



「あ、初めまして。私、対深海棲艦海軍の兵士です。駆逐艦島風です。ついさっきにやっと解放されたんですけど、色々と誓約書は書かされるし、そもそも聞かれた内容からして准将さんは隠していそう」



オバサンA「島風……ああ、島風さんね」



「全く持って戦争終結とかいい迷惑ですよ。私だって事情があって軍に入ったのにお払い箱ですもん。今更街に戻れっていわれても、街はあの頃と変わりすぎてて、怖いです。あ、でもそれなりに生きているんで大人の話も行けまっす!」



オバサンA「あなた、海の傷痕とは戦ったの?」



答えようとする前にオバサンAのマシンガントークが始まる。



オバサンA「なにが機密よ。その機密はあなたくらいの歳の子が知っているんだから、いつ漏れるか分かったものじゃないわよね。確かに聞いた限りは海とは比較にならないエネルギーの塊みたいだけど、隠しても後ろに手が回るだけ。あの戦いの情報は全て国民に公開しても構わないと思わない?」



「ですね。そもそも甲大将と雷っておかしくないかな。私が知っている限り、あの二人のお家はかなりの幸運で成り上がりましたよね。もしかして想の力を使っていたりするかも、とか考えちゃいました」



オバサンA「……あり得るわね」



ふむ、甲大将と雷の家は何度もあり得ないような奇跡が重なり、一代で成り上がった一族であり、二人とも対深海棲艦海軍所属という共通点。想の力を踏まえると、あり得なくはない、と判断するだけ頭は悪くなさそうだ。



実際その通りではある。雷の宗教ほうは遊びのようなものだが、甲大将のほうは割と真面目に想の力によって支援した。



「あ、その話で思い出しました。あの、今から戻るのも面倒なので伝えておいてもらっても構いませんか?」



オバサンA「なにを?」



「願い事が叶うおまじないを、雷ちゃんからこっそり教えてもらったことがあるんですよ。秘密ね、って言われていましたし、おまじないとか信じないのでやったことはないんですけど」



オバサンA「願い事が叶うおまじない、ねえ。子供らしいわ。でも海の傷痕の力を知った今、あながち試してみないとって気はするわよね。本当にあの男、爆弾を持ち帰ってくれやがって」



「ええっと、道路が見えるところでパトカーか救急車が通ったら、願い事をいう、だったっけ」



ポカン、とした顔になって、口角を吊り上げた。失笑ですね。そんなリアクションを取りながらも、道路を見つめ始めている。10秒ほど経過した後にパトカーが公園の前の道路を通り、脇に停車した。少しガードレールにぶつけていた。表で露天をしている男を取り締まり始めた。



オバサンA「運転下手ね。初心者マーク貼っとけっての」



というと、強風が吹いた。その風に吹き飛ばされたナニカがヒラヒラと宙を舞って、パトカーのお尻にピタリと付着する。あのパトカーは街灯に照らされているため、なにが付着したかは見て取れた。初心者マークだ。オバサンAが唖然とした顔になる。



オバサンA「ぐ、偶然よね」



次に救急車のサイレンが聞こえる。オバサンAがばっと顔をあげて、今度は出口のほうの道路を凝視した。救急車が通るのを確認した瞬間、即座に願い事を声にした。



オバサンA「い、イケメンにナンパされるとか」



正直な欲望こそ、サイレンの合図だ。欲望の海で人間は上手く泳げないもので、すぐに溺れていく。その瀬戸際こそ人間の命が輝く瞬間だ。



目の前を偶然、通りかかった男に声をかけられて、ひゃっ、という声を出していた。



喋りかけられた男と仲良く喋り始めた。缶ジュースを飲みながら、その様子を眺める。その男との出会いに夢中なのか、乙女のような顔をしている。天から遣わされた男のスペックは高身長のイケメン、都内で家持ち、次男、上場企業幹部と中々にハイスペックだ。連絡先を交換して、男と別れた。



「偶然ってすごいですねー」



「そうよね、偶然よね」とオバサンAは自分にいい聞かしている。



「昔々、本官さんというとある海軍兵が海の傷痕と約束をしたそうな。その約束の内容は深海妖精可視の才能を与える任務を忠実にこなせば、海の傷痕が想力を持って戦後復興を手伝うという契約内容でございます」



オバサンAが、目を見開いた。この情報は機密の1つだった。想力の乱用をしたという背景は対深海棲艦海軍でも一部の人間しか知らされていない。



オバサンA「あ、あなた、何者なの?」



「戦後復興妖精ですかねえ。甲大将と雷は私がサポートしました。戦後の復興のために人材を選別中です。あなたはいいよね。私と契約する気はありませんかね。さっきみたいに願い事を叶えて差し上げますが、戦後復興に協力していただきたいのです」



オバサンA「なんてこと!」ヒステリックに叫んだ。



「妖精についての知識はあるはずです。役割に忠実です。私は役割として戦後の傷を癒す人材をセレクトしています。陰ながらの協力ですけどね。あ、拒否すれば私との記憶をなくしますね」



オバサンA「はあ、そんなのあんたの存在を報こ……」



言葉尻を引っ込めたのは明らかな逡巡だ。まずこの人なら事実を分析して先ほどの幸福が偶然ではないと断定の可能性を探し、その後に今も繁栄している甲大将と雷と、今の自分を照らし合わせる。気になるであろうところを前以てアンサーしておくとした。



「あなたが一番マシだったんですよ。あの准将はなにかを隠しています。一発当てて一財産築いてますね。この戦争において最も機密を深く知っていました。そしてロスト空間へと飛んだ。その時に細工しても誰にもバレませんから、そういうことかと」



オバサンA「英雄が聞いて呆れるわね……」



全貌は知らないと。あの時のデータは残骸としてこの身体に蓄えられている。そんな余裕はあの戦争にはなかった。准将はあの願いが叶う夢のワンダーランドでただ海の傷痕打倒に愚直だった。



「こずるいですよね。正直、話すべきところには話す。話さないでおくことは話さない。省内で人材を観察してみたら、その基準においてあなたは最も正しいように思えましたので。海のことよく知らないのに、よくもそこまで的確な意見を出せたものです」



オバサンA「大本営はダメね。今、海の傷痕の片割れの件に取りかかりきり。何のためにあそこを再建したと思っているのかしら。対深海棲艦海軍の問題のゴミ処理場を作るのにも苦労したのに、仕事の遅い無能しかいないのよ」



「戦後復興に協力してもらえるのならあなたに魔法をプレゼントさせていただきますが、どうしますか?」



オバサンA「甲大将の家と雷の家は代価を払ったの?」



「ええ。といっても、甲大将は戦後復興に貢献する、の1つです。雷の家も似たようなものですね。なので、あなたがこの国を潤わせて頂ければこちらとしては対価はそれで結構です」



オバサンA「どんなプレゼント? 確認させていただくわ」



さすがにまだ警戒を解かないか。疑って当然だ。この時点で口八丁に乗せられてズブズブと底無し沼に溺れていくようならば、ダメだ。



「『あなたの言葉を肯定的に感じさせる力』です。周りのわからず屋の心にあなたの主張を一考させるんですよ。私は出すぎた真似は好まないので、陰ながらのスタンスです」



オバサンA「なるほど、その力があるというのなら合点が行く。甲の家とあの駆逐艦雷の親の宗教家はそうやって周りをたぶらかして成り上がったのね」



【Srot4:生死の苦海式契約履行装置】



【契約内容:戦後復興への協力】



【報酬:自分の言葉を肯定的に感じさせる力】



【契約書をよくお読みのうえ、よろしければ契約書の名前記載欄に髪の毛をおひとつ載せて頂ければ契約は受理されます】



オバサンAは契約書を穴が空くほど見つめた。想力に知識があるのなら、この契約書の内容が守られるかどうかも定かではない。これに何の意味があるのか考えて言葉で聞いてくるはずだが、その様子はなかった。どうやらすでに頭の中はハッピーでいっぱい、既に掌の上で踊る準備は万端のようだ。



やはり欲望があっての人間だ。

最も『天使:理性』の首輪をきっちり『悪魔:欲望』に繋いでいなければ、訪れるのは破滅である。しかし、そんなことは関係なしにスタートを切らねばならない夜もある。世の中、タイミングとスピードが大事だ。



オバサンA「……期間というのは?」



「仮契約期間です。戦後復興に十分な働きだと判断すれば、自動的に本契約に移行します。まあ、そちらも期間がありますが、私に関連する記憶を忘れてしまうだけで、能力自体は永遠にあなたのモノとなります」



オバサンA「……信じるわ」



髪の毛を一本引き抜いて、記入欄の上に追いた。契約書に溶け込むように消失した。

さて、仮契約は完了だ。



久々の現海界な上にメインサーバー消失したせいか、バクが多い。まず手に余る力を手に入れた人間を観察して、その性質が変化していないか確認しておかなければね。騙す気なんて一切ない。



どうせ死んでも生き返る手段なんか想力解明とともに訪れる。若き日の想いを忘却して、ただ消化するだけの余裕のない日々の輪廻に順応するということが大人になるってことならば、エンタメとしてはありふれすぎてて退屈だからいっそのこと、少年少女ヨ大志ヲ抱キ死ネとでもいいますか。



この想力が経済に産み落とされたのなら、この世に金で手に入れられないものなんてなくなる日もくるのかもしれない。はて、夢があるのかないのかの定義から始めなきゃね。



さあ、パーパを倒した人間の今を生きる力とやらを、このずっと人間とともに生きてきた私がこの選別眼で金銭的価値に換算してやろう。この世の全てに数字をつけてあげようじゃないか。



表に出たら遊ばないとね。

公園は子供が遊ぶ場所なわけだし。



雲の隙間が月と重なる。今宵のドリーマーが月明かりの天然スポットライトに祝福されるかのように照らされる。運がいい。この物語の主役はあなただよ。



2



へえ、悪い人じゃないんだな、というのが印象だ。少々、口が悪くヒステリックなところがあっても、その根本は仕事への情熱あってこそだった。周りからは、出張ってきた本部のカミナリババア、と陰口叩かれている。



女性特有の気配りはなく、その暴走列車は浮いた空気が停車駅だ。仕事中の談笑に怒りの汽笛をあげる。余裕を持つな、いつだって全力で走れ、といわんばかり。



オバサンA「ったく、最近の奴は温すぎんのよ。たかが一時間の居残りでグチグチと。私が若い頃はさあ」



知っている。違う課の新人さん達が企画書を持ちあい、プレゼンをしていた。討論会と名をつくが、自己の正義を通さんと、インテリな理論を並べ立て、洗練されていく。新人の能力を見るのならば夜になってから討論会を見ろ、と秘書課の連中はいう。



オバサンA「でも、いつもよりみんな聞いてくれるわね」



そりゃそうだ。想力を使っている以上、この人の主張は聞いた途端に肯定的に受け取られる。近い内にカミナリババアの異名は払拭され、情熱的かつ世話見のいい人との認識が浸透を始めるはずだ。今は何事にも理を求められるため、皆が演説家もどきである。この力はこれ以上ないほどの強力な装備といってもいい。



オバサンA「あの子の……おっと」



うん、私の情報は喋っちゃダメって契約書にあったはず。



オバサンA「仕事しよ」



戦争終結、そして、海の傷痕此方の鹵獲に成功したことであろう。



海の傷痕此方が持つ情報を全て引き出すことが最重要であり最優先とされている。対深海棲艦海軍の問題対処を一任するために再建したはずの大本営は、その海の傷痕此方のことで手一杯であり、通常の聴取はこっちにも回っているため、省内は普段以上に慌ただしくなっている模様だ。



なのに、対深海棲艦海軍は長いお休みのうえ、世間からは英雄扱いでちやほや、大臣からも接待されている状況、愚痴の1つや2つは出るというもの。



加えて1つ、このオバサンAがイライラしている理由をあげるのならば、艦娘にだろう。海の傷痕がバランス調整の一環として建造効果に加えた不老の力と、此方の希望による容姿内面ともに可愛い綺麗な女性な適性者に男の目が釘付けであることかな。



天城「おはようございます」



浮いている着物姿の和の美人こと天城さんが微笑めば、自然と頬が緩む男性陣の姿までがセットだ。確か銀座にある料亭のご息女で、典型的な和の美女だ。家事も上手ければ、手の垢もついていないワガママボディ、三つ指ついてのお出迎えもお手の物。



天城「お疲れ様です」



微笑み1つで職場の空気が変わるのはなぜか。おーいおい、男どもが急にシャキッと動き始めたぞ。こっちのオバサンAは怒鳴りつけないと、たるんだままなのにねえ。これが性能差というやつだ。カミナリババアの千声よりも天城の一声、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、されど婆あになればしおれ花の儚さよ。



「そろそろ時間です。小倉さんがお待ちしていますので」



明石君「そういや俺の名字そんなんだったな。あー、かったりー……おばさん早く終わらせようぜ」



オバサンA「おば……」



明石さん「コラ、お前、何回礼儀を説けば覚えてくれるんですか。いつまでも子供でいられるわけじゃないんですから、もうちょっと常識というものを覚えなさい」



明石君「っす。ごめんなさい」



ヤンチャ無礼系少年、こいつが仕官妖精の家系の男の子か。初めまして、ではあるかな。今世代の子と会うのは初めてだ。過去に何度か血が途切れないように出会いをキューピッドした記憶はある。本官のやつよりもイケメンじゃん。



明石君のポケットから見えていたスマホを抜き取った。



3



これが准将さんの証言ね。あの人、なにか隠してない?

その言葉に明石君が眉を逆立てる。不良に眼を飛ばされてビビっていたが、明石さんの拳骨で即座に敵意を引っ込める。



(……おかしいな)



オバサンAの言葉は肯定的に響いたはずなのだが、あんなにも怒るのはなぜか。前にもあったケースのような気もするが、エラーを起こしての現海界のせいか、思い出せずにいる。



しかし、予想は容易い。あの准将とこの明石君の間にある信頼関係が原因といったところか。



明石さん「弟子、大人しく質問に答えるのが最も手っ取り早く終わりますからね。それにこの会話は録音されているので恥ずかしいこというのは止めたほうが身のためです。あまり拳骨使わせないでください。後一回で私はキレてしまいそうです」



平和過ぎて退屈だ。

明石君からくすねたスマホを触る。

メールボックス、ライン、ゲームのSNS、ツイッターに、フェイスブック、通知がたくさんだ。今の現代人というのは、無駄が洗練されているな。その全ての内容がどうでもいいことばかり。SNSをサーフィンし、追跡してみると、部屋を大掃除しました、という文章の上に乗せられている写真はぱちくりとした上目遣いで唇をアヒルのように尖らせた女の上半身のアップの写真だ。性格が分かって面白い。



(ケケケ、頭よさそうなやつより、悪そうなやつが多いのは健在か。ネットワークねえ。これは海の傷痕の天国だな。『想力:カネ』になりますねえ)



キーボードを叩いてプログラムを組んでいく。今回の現海界で驚いたのはやはり電子の世界が異様に発達していること。この掌に乗る電話機の中に入っている個人情報は宝の山といっても過言ではなかった。これ1つで人間を地獄にも天国にも誘える。



ネットの世界に没頭する。人間の性質、平均的な危機管理能力、そして現代の商売論と照らし合わせる。多種多様な商売があるものの、昔から変わっていない儲けの種もいくつかある。



人間の食欲、睡眠欲、性欲の本能に準じた3つだが、やっぱり先駆者はいて、ネットで商売にされている。女や男のデリバリーまで出きるのかよ。ほえー。今はそこらで声かけて捕まえられないのか。安心安全のリスク管理というやつだろうか。



(ん、なんだこの異常な数字……音楽と、ゲーム?)



待て待て待て、と画面の画像を凝視する。なんでこの人、同じCDをこんなに買ってるんだ。ジャケット同じなだけで曲が違うのかと思いきやそうでもない。あ、特典目当てか。ただの熱烈ファンかな。納得した。いやいやいや、でも画像では段ボールごとモノをゴミ箱にぶち込んでいる。ファンとしてはおかしいぞ。この狂ったギミックはなんなんだ。



いずれにしろ、男と女の関係に踊らされているようにみえる。なるほど、人の心の隙間につけこむ際に、やはり見目麗しい男女というのは、効果的ではある。



そういえば、と思い出す。

前に男と契約して、上等な女と恋をさせたことがある。破局した後にその男は女に貢いだモノ、そして写真なんかを捨てていたっけか。よく分からないが、似たようなもの?



(気分がいいよねえ)



酒(ドリーム)は、ほろ酔い程度がベストの百薬の長、呑んだくれだと万病のもととなる。



そして天使と違い、悪魔の翼は見せかけだ。天使は飛んで逃げていってしまうが、悪魔は人の心の地べたに棲むことを好む。なぜならば、天使は理性、悪魔はいつだって理性をチギる夢と幸福を建造資材にして産まれてくるからだ。



(んー、このアイドルとかいうマーケティング考えたやつ、天才か……?)



いつの時代も純粋な心には夢が効くらしい。



(……こっちはネットゲームか)



リアルマネー支払って、なんだこれ。ガチャか。金ないって呟きながら確率1%に金を吐き出すほど面白いようだ。



相変わらず人間は自分を賭けたがる生き物なのは変わらないようだった。ギャンブルはゾクゾクするよね。負戦に勇敢な兵士を飛び込ませて、他人の破滅を誘うからこそ、そこを抜けて勝つことに娯楽性を見出だすこともできる。



『クソゲー、20万使って出なかったし』



誰かの呟きだ。



『養分乙。データにそんな金払う神経が分からん』



『何に金使おうと人の勝手だろ。だけどこれから無課金でやるわ』



『そんなもんよ。良い勉強代になったね(・ω・)』



(……、……?)



大金注ぎ込んで目当てのモノが出ないことを愚痴る気持ちは分かる。要はギャンブルに負けた、というわけか。



『そんなもんよ。良い勉強代になったね』



(……今の世の中、そういうことか)



詐欺られた老人を思い出した。あの時は高級羽毛布団と称して中身には綿をそれっぽくしたものを詰め込んで売り飛ばした。面白いことに老人はそれを騙された、と思ったものの、黙りを決め込んだケースがある。騙されたことを周りに知られたくないからだ。要はボケたと思われたくないジジイの心理である。あの時も満足なんかしてないのに、良い勉強代になったといっていた。



が、それとは当てはまらないか。

あっちは訴えられない、こっちは訴えられる。異性、経済、商売、人の欲望心理を的確に衝く神の隙間を縫う芸術的なまでなクリエイトを産み出さなければならない。っと、この業界、お上から規制がかかっちまっているのか。



『はー、課金しなきゃ良かったわ』



詐欺師の認識の中には、騙しやすいタイプというカテゴリがある。それは騙された人間を見て、馬鹿だと笑うやつだ。詐欺に合わないという人間は用心深い人間ではない。用心深くなることで欲望は消せないからね。欲望は満たすことでしかなくならない。



あっはは。上等な詐欺師はカモに騙されたことにすら気づかせず、最高の詐欺師はイエローキッドのようにもてはやされるもの。



(……パーパとマーマ、あなた達は愚か者だよ)



深海棲艦みたいな人類の敵じゃなくて車や銃みたいな人を殺しても生産され続ける道具を大量生産して想の力でマーマに繋いで利便性の一部になっちまえば、海の傷痕は人間社会に溶け込むどころか支配できた。資本主義に敷かれ、群れで生きる人間の性質上、膨大な金の流れが出来れば自然と人間はその存在を輪に組み込まざるを得ないはずだ。



パーパの失敗は『艦隊これくしょん』の摂理を自然として人類に認識させる、としたことに違いない。



今のこの国では、食うに困らない人間も多いようだ。10年くらい前に現海界した時は雷の親と契約し、食うに困る連中ばかりを見てきたが、進化したネットに触れてみて初めて分かるそれ以外の多さだ。ならば、人間が娯楽に湯水のように金を使うのも納得できる。



娯楽としてのスパイスは危険度だ。金は要らない。どんな人間でも惜しみ無く課金できる通貨がある。これからの時代は物理から精神へ、通貨から、想力へ、だ。



最高の娯楽を人類はまだ知らないのかもね。



オバサンA「この戦争の全ての情報は国民に公表するべきだと思わない? どうせあなた達の誰かが漏らすでしょうし」



明石君「……」



少し効いてきたか。まだ肯定しないとは、なかなか粘り強いな。しかし、力を強くするわけには行かない。あくまでそう聞こえる程度でなくては足がつく。特にこの鎮守府(闇)の連中はすぐに、私の存在を嗅ぎ付けて対策を打ってくるはずだし。



「終わりましたて。休日返上、お疲れ様です」



オバサンA「……ったく、録音されているんだから、この部屋で余計なこと喋らないほうがいいわよ。ちゃんと録れているでしょうね? 何個かひっかかる言葉があったけど」



「大丈夫ですよ。確認のため、音声流しますね」



(……美少女、課金、モチーフ、パーパの艦隊これくしょん、ゲームの素材としては原型が出来てる)



3次元ではあり得ない夢を2次元と2.5次元に、『神:人間』が創造した。人間の人間による人間のための娯楽の世界だ。ならば、なるほど、そこは夢の掃き溜めだ。用法要領を守る限りはね。



発達した電子の世界は素晴らしい。匿名性が高いのもグッドだ。幽霊のようなステルスで正直な心を呪文とし、魑魅魍魎が跋扈する世界だ。上手く使えば大多数同時の人間に【幸福:悪魔】を産み落とせる。



アイデアが思い浮かんだ。






燃え上がる夜だ。

表のガードレールに腰を預ける。オバサンAは昨日に出会ったイケメンと二人で並んで歩いている。ご飯を食べて世間話をした後に横断歩道を渡った先にあるのはビジネスホテル、一夜のアバンチュールへと洒落込む模様だ。



ダメだねあれは。自分の利を優先させるためにあの力を与えたのではない。今は取り巻く環境が変わっただけで、人間自体はそういう意味では成長はしていないのかもしれない。環境に適応しただけで、業の深さは同じくだ。歴史は繰り返すとはよくいったもんだ。



PCを取り出して、当局が好きだったお気に入りのアニメを見て時間を過ごした。私の人格構築のベースになったメフィストフェレスが人間を掌で弄ぶお話だ。



飽きた後、じーっと立ち尽くしてマンションを見つめる。入っていたのは4階のはずだ。指で見えるマンションの階段の段数を数える。今頃は想像するのもキモい情事の最中ですかね。



燃え上がる夜に、スマホがうるさく鳴り響く。

SNSからの通知か。フォローしておいたオバサンAのアカウントの呟きだ。アップされている画像は対深海棲艦海軍の情報だ。



ちょうど役人から手に入れておきたいデータがある。探し回ったけれど、あの鎮守府はロスト空間の確信に触れすぎていて、その情報は厳重に管理されている。あの女はそこに関わる人間なのは調べているし、接触も無事に完了した。



欲しいのは、対深海棲艦海軍、主に鎮守府(闇)の戦果報告書と、各艦娘の適性率100%モードのデータと、パーパが残した『製作秘話ノート』だ。この中にはノートの情報がないのが、残念だけど。



(ロスト空間での海の傷痕此方撃破作戦の概要、凄まじいな。ロスト空間に行ったばかりでマーマを倒したのか…………Worst-Everの初霜ちゃん、ね。聖女の名前は覚えておこう)



すでにアカウントは炎上していた。そこのオバサンA、中々度胸あるじゃないか。1度、データを保存してデータボックスを確認。



保存されているのを確認してからSNSに戻るとオバサンAのアカウントが消えている。

SNSの情報拡散速度には舌を巻く。おもちゃを見つけた子供というよりは、おもちゃに飢えた子供だ。



「あー、そっか。あの人、録音した自分の声を聞いたからか。しまったなー。そのパターン、失念してました」



思わず笑った。どうやら追い風が吹いているらしい。しかし、このままではあのオバサンAは世間に引っ張り出されて相当に痛い目に遭うだろう。福の神だからね、助けて差し上げましょう。



「世知辛い世の中、光る人情♪」



ケラケラ。という着信音がスマホから鳴った。あーあ、少し様子を見に行こうかな。



スキップしながら、横断歩道を渡る。ホテルの駐車場について、オバサンAのいる4階の窓を見つめる。非常階段をのぼって、3階へと急いだ。部屋番を確認して中へと入る。ベッドにいたのは半裸の男一人だった。



大きな音がした。人の体が鉄で潰れる音とよく似ている。



床にあるスマホは着信が鳴り響いている。この名前は職場の人か。まあ、機密を漏らしたらそりゃこうなるよね。身から出た錆には気をつけろ、といったのに、力を扱うということは振るうことではなく、制御するしてこそだ。



空いている窓から下を見下ろした。

オバサンAが駐車場で寝ている。おーいおい、どうやらすれ違いになってしまったようだ。



ドオン。






と、いう銃声に振り向いた。

左腕がダラン、と垂れ下がる。頭の中にクエスチョンマークだ。なぜ、被弾するのか。壁もすり抜けられるし、姿さえ見えないはずだ。



「スーツ着て髪型も変えて、誰かと思った」



銃を持っている輩には見覚えがある。あの顔立ちと髪色と雰囲気からして、Graf Zeppelin。



グラーフ「海の傷痕も最初は他者の姿で現海界していたな。今回は島風というわけか」引き金に指をかける。「准将から頼まれた任務だ。少し話をしよう。なに、救急車は来るが、この場には誰も来ないから安心するといい」



「……え? 私の存在がもうバレているの?」



グラーフ「ロスト空間が消滅したらどうなるのか。これもまた未知なために、いまだ警戒状態は解かれてはいない。海の傷痕の片割れの助言もあり、お前のような存在が発生する可能性も考慮して動いてはいた」



「……で、誰が私の存在を見つけたの?」



グラーフ「准将だ。なにやら省内の窓が一人でに閉まったのを見たそうだ。それを大淀に報告したところ、念のために、と仕事を頼まれた」事務的な口調で説明を始める。「『戦後復興妖精、Tipe:Phantom stealth』というのか。妖精の幽質濃度を高めて、妖精可視才者でも見えず、また映像にも映らないという記述が製作秘話にある」



「ほえー……」



グラーフ「想力を世に隠すために当局が隠密性能で組んだ妖精、そして、ロスト空間というメインサーバーがない状態で何らかの要因により、誤作動して現海界した場合、自壊プログラムが発動する。多少の想力は産み出せるらしいが、存在そのものが生産量より消費量が上回る仕様で放置しておけば自然消滅する。しかし、1945年仕様のレトロプログラムのため、今は文明の発達により抜け穴が生まれている可能性もあるとのこと」



長々と説明をすると、ふう、とため息を吐いた。



グラーフ「説明を許可されたのはここまでだ」



「油断してました。いや、泳がされていたのか。さすがパーパを倒すだけはありますね……」



あの拳銃、形が変だな。妙に加工されているような気がする。ただの拳銃で損傷されるわけがない。この身体は想力仕様、傷をつけられるのは同じく想力で加工された艤装のみだ。それになぜ見えるかの説明もない。可視しているのはあの妙なスコープみたいなものか。だとしたら連中はある程度、想力を技術化する段階に突入しているということになるが……。



グラーフ「任務を続行する。大人しくついてこい。慈悲をかけるのは1度だけ。軍と信用を築けるのは今この時のみだ」



「包囲しているのは北方の鎮守府のやつらか……あいつら海の傷痕からシカトされてた連中だから、海の傷痕と戦っている間は通常海域の防波堤役やっていたんでしたっけ」



グラーフ「……」



「……電艤装の拳銃砲ですかそれ」



あり得なくはないか。もともと魔改造分野は黙認された二次創作であり、放置しておいても構わない違法行為であったはずだ。通常の艤装は想の効力が失われているが、あのバグ染みた装備ならば、この妖精の身と同じく、残滓のたまり場となっていてもおかしくはなかった。



グラーフ「時間切れだ。Auf Wiedersehen」



容赦ないな。







グラーフ「おい、拳銃を奪って何の真似だ?」



ガングート「生温い。この場合は銃殺で構わないと聞いている。任務ならば徹底しろ、馬鹿者が」



倒れている島風の頭蓋に残りの銃弾を撃ち込んだ。髪をわし掴みにされてソ連艦と顔を突き合わせる羽目になる。



ガングート「なぜ此方のほうを生かしたのか。電と春雨の時もそうだ。前々から思っていたんだが、貴様らは優し過ぎる」



ガングート「だが情をかけたくなるのも頷けるな。化物風情が随分とこんなにも人間と同じ姿を真似ているのであれば躊躇いも出るか」



悪い島風【あっぶね! 契約してなければ死ぬところだったじゃないですか!】



ぱちっと、眼を開くと、あらヤダ。一見クールなお姉さん達の幽霊でも見たかのような驚きのリアクションを見ることが出来た。いや、でもこの国でドイツとロシアの人が仲良くやっているだなんて、ずいぶんと世の中は平和を手に入れたではないか、と。



悪い島風【Srot4:生死の苦海式契約履行装置。分かりやすくいえば、契約常態にある間は女神装備でーす。ちなみに違反されない限り、契約者も死にはしません。ただ、死ぬみたいなヘマを犯した場合、自動的に契約は打ち切られまして、私とのことは忘れてしまいますけどね。こんなところです!】



ガングート「で? なぜそれを我々に説明するんだ?」



悪い島風【自壊プログラムは確かにありますが、防衛プログラムもありまっす。このように私に危害を加える外敵には契約なしに想力を使えますよ。まあ、殺せはしませんが】



グラーフ「……」



悪い島風【深海棲艦消滅、戦争終結、全海域解放は正しく大願成就の驚天動地ですね。対深海棲艦海軍がもたらした恵みは計り知れない。先ほど盗み見たデータからして10年以内に換算される利益を演算、正しく新世界の到来、救世の所業です。

しかし、恵みは元来より争いの種と決まっています。その逆もそうなんですけどね。一体どうしやいいんだ、という問いにおいてはやはりバランス調整が大事だとアンサーします。

終わらない戦争は終わらないことで経済が回るよう調整されていたんですよ】



グラーフ「幸福が産まれたのならば、不幸も産まれる。幸福は不幸よりも軽量なだけなんだ。秤に乗せてみれば、片方は必ず地べたに近付く。真の幸福は常に対価を求めるものだろう」



悪い島風【そんな悟った話はしてないです。

私はスタンス的に常に今を生きる人間の力を信じてきたんですよ。人間競争社会による心理の圧迫、幸福を競い始め、チュートリアル的な幸福に蟻のようにたかって、プロやアマチュアの定義、繊細と不細工、貧富の格差、勝ち組に負け組、女性専用車両、深海棲艦と艦娘、区別と差別に、ヌードルハラスメントなんざ平和過ぎて腹抱えて笑いましたよ!

グラーフ、あなたの提督の先祖様はその点、聖者を語らぬ聖者でしたよ。競っている相手は常に自分自身、だからこそあの人は成し遂げて国家に繁栄をもたらしたんです。悪魔の建造資材が人の弱さ、刺激が過ぎれば退屈を求め、退屈が過ぎれば刺激を求める人の性こそが悪魔菌の開発資材なんです!】



なにがいいたい、とでもいいたそうな顔だ。



ガングートのほうは表情に明らかに苛立ちが見て取れる。どうやら現場の指揮官はグラーフのほうにあるようだが、このままではまた揉める羽目になるので、とっとと話を進めることにした。



悪い島風【まあ、今回のケースに当てはめますと。Srot5:想力工作補助施設】



6段仕様のグラスタワーと、シャンパンを創り出した。シャンパンを片手に持って、タワーの天辺から酒を注ぎ始める。シャンペンタワーの法則だ。その戦争終結の恵みのシャンペン、もとい海は水没しているため、所有権が自然と国に帰ることになる。



悪い島風【恵みのシャンペンが降り注がせるのは役人としますね。グラスの器は人間で、シャンパンの液体こそが幸福です。上からグラスが満たされていく。下のグラス全てまでは満たされません。というか、満たしません。こうなることは明白です。ならば、この下のグラスはこういいます】



下のグラスちゃん「畜生、クソ政治乙」



ガングート「その上の硬いグラスにいかに穴を開けて中身を下に落とすのも政策の一環だろうが」



悪い島風【ダメなんですよ。なぜならばこの世には恵まれない存在がいなくてはなりませんから。富を得た欲深き人間が次に求めるのは名声であるのが多いことです。そして妬みが発生します! 0.01の幸福を掴み取った人のSNSをどうぞ!】



グラーフ「……なんだそれは?」



悪い島風【ソーシャルゲームでーす。運良く1発で0,01を掴み取ったラッキーな人間が廃課金に見せつけてケンカしてまーす! すっごい夢のあることだよね! すごいよこのゲーム! 凄いほど文句つけながら、みんな辞めないんですよ! このソーシャルゲームというのは神のシステムなんです! 私はこの分野で、全てのグラスに酒を満たします!】



シャンパンをがぶ飲みして、空になった瓶をその辺に放り投げて、転がしておいた。



悪い島風【儲け話に乗りませんか。この神のソーシャルゲーム、法整備が全く追いついていない想力で加工して上手く立ち回れば面白おかしく成り上がれますよ。その名も『リアル連動型:ギャルゲー要素も含めた好感度システム採用艦隊これくしょん:ver Android』です!】



グラーフ・ガングート「断る」



悪い島風【お返事はっや――――いっ!

あ、そうそう。私は笑えないことが嫌いなので、あなた達が思っているようなシリアスにはならないですよー。その上で忠告ですけど、あなた達のような真面目やクール系統のキャラは私に関わらない方がいいですよ。なぜかといえば、私は当局の性格のシリアス部分だけを抜いたような性格ですから。あなた達のそのキャラ、絶対に面白可笑しく壊れちゃいます】



グラーフ「おいロシア人、早急に帰るぞ。報告を優先する」



ガングート「敵前逃亡は銃殺刑だぞ、ドイツ人」



グラーフ「指揮権を持つ私への命令違反は銃殺刑ではないのか?」



ガングート「酔っ払っているのか? こいつは海の傷痕の娘みたいなものだろう。殉じた戦友の魂のため、ブチ殺すのに躊躇いもない。撤退理由を先にいえ」



グラーフ「笑えないコメディに巻き込まれるからだ」



どちらも軍人気質だけど、あまり相性は良くなさそうだね。しかし、この場で正しいのはグラーフだ。これは直にあの最終決戦の戦場にいたからだろう。当局からシリアスを抜いた性格というのは、要するに人を小バカにするのが大好きな性悪だ。



悪い島風【正解です。私は私が痛い目に遭うシリアス嫌いなんですよ。少し目的に対しての手段が出来まして。仕返しも兼ねて、あなた達二人には少しの間、実験動物として協力もらいますね!】



ベッドの上の半裸の男がグニャリ、と原型を変えてゆく。機械仕掛けの身体に変わる。その頭から伸びた砲口がグラーフのほうへと向けられる。自立式の悪い連装砲君、あのオバサンの相手ご苦労様でっす。



悪い連装砲君【おっす!】



ガングート「……!」



悪い島風【Trance:Welcome to my home!】



悪い連装砲君【イエス、ドオオオン!】



【1ワ●:艦隊これくしょん ver Android】



大淀「……お疲れ様でした」



提督「やっと帰投できました。大淀さん達が内陸とのやり取りはしてくれましたが、まさか2週間も尋問されるとは……」



提督「龍驤さん、鎮守府はどうでした?」



龍驤「取材陣がすごかったなあ。テレビの人とかもアポ取りに来たし。3日で大人しくなったのは大淀が手を回してくれたお陰か?」



大淀「ええ、さすがの私も疲れました。海のことは内陸主導ですけど、今や対深海棲艦日本海軍は世界に繁栄をもたらしたヒーローですからね……まあ、表の話ではありますが」



提督「此方さんは大丈夫そうですか?」



大淀「ええ、お話を通してあります。一般人としての生活は保証される予定です。甲大将のお家と雷さんの組織ががんばってくれているので、なんとかなる見通しは立ちます。さすがにまだ時間はかかりますが、最悪の事態は避けられるのでそこはご心配なく、です」



提督「安心しました。そこら自分はあまり力になれなくて」



大淀「ただすぐに自由という訳には生きません。想の力が完全に使えないという判断及び想の力についての聴取、生い立ちから今までの全てを事細かに話してもらう必要があります。しばらくは拘束ですが、まだまだ外を出歩かせられるような状態ではありません。なにせ海の傷痕ですから」



龍驤「此方ちゃんに関しては万が一もないと思うんやけど、まあ、仕方ないか。なにせ蓋を開けてみればあの力は本当に滅茶苦茶やったもんなあ……」



大淀「しかし、本当に落ち着きましたね……」



提督「ま、皆さん健康体のようでなによりです。通常の解体ではない方法で人間に戻りましたから、なにか後遺症でもあってもおかしくないと思ってましたので……」



提督「ま、それなら大淀さん、お受け取りください」



大淀「……えっと、これは?」



提督「とりあえずの辞表です」



龍驤「!?」



提督「深海棲艦いなくなったんですし、自分は役目を果たしましたよ。これ以上、軍にいる必要もないので……」



大淀「青山さんは私達全員を路頭に迷わせましたからね」



提督「人聞き悪すぎです。もともと軍の仕事なんか全方位で人手が足りないでしょう。それに海が全て安全海域が増えたことで雇用はむしろ全体的にプラスでしょう?」



大淀「世界を救った英雄が無職ですか。世の流れですかねえ……」



龍驤「キミ、どうすんの? 色々とお誘い来とるやん? 安全航路増えたから国営事業創設でうちも声かけられとるんやけど、この鎮守府そのまま丸ごと別役所にしたいとか」



提督「晴耕雨読の日々に憧れていましてねえ。静かな土地で畑でも耕そうかと」



大淀「あなた20代でしょうに。なにを老後の生活に洒落こもうとしているんですか。まだまだやっていただきたいことは山のようにあるんです。こんなものは破り捨てますから」



提督「ええー……」



大淀「選択肢はもう少し後です。あなたはしばらくの間、艦の兵士のための支援施設運営のため、ここに居残りください。戦後処理が終わるまでが戦争ですので」



「しっつれいします!」






提督「ああ、ようこそ。軍学校のほうではなく、闇の支援施設のほうを希望なさったそうですね?」



島風「おっす!」



天津風「島風……口の利き方!」



提督「ぜかましさん、あまつん、ですね」



提督「担当防衛海域は日本海でしたか」



島風「そだねー。海の傷痕戦は丙乙甲元担当の安全海域の保守で死ぬかと思った……私達3人でも実力的にはそこ所属の駆逐艦一人分の働きしかできないしさあー」



天津風「陽炎不知火雪風からお噂はかねがね、シャイな人だと聞いていたけど、ずいぶんと馴れ馴れしいわね……」



提督「まずなによりも伝えておきたいのはぷらずまさんというディザスターのいる鎮守府だということです」



大淀「もう深海棲艦艤装展開はできないですから」



龍驤「電の根本的な問題は性格のほうちゃうかー。それはわるさめと同じく受けた精神影響は残り続けるから、逆鱗に触れたらなにしてくるか……」



提督「その通りです。だから、最後はぷらずまさんをまた違法改造したんですよ。わるさめさんかぷらずまさんでないと、新たな闇の人間を産むことになりますから……」



提督「それに……」



提督「中枢棲姫勢力の違法建造で、彼等の分の精神影響も受けて、以前より過激な面も見当たるそうですし……」



天津風「ねえ、それより問題はあるんじゃない?」



大淀「あー、准将の……」



天津風「まあ、それもあるけど……」



龍驤「ん、なんのこと?」



天津風「丙乙甲はほぼベタ褒めされている中、闇の准将だけは世間から酷い評価されているわよ。合同演習、というか演習全てね。深海ウォッチング作戦、対戦艦棲姫、対中枢棲姫勢力決戦、海の傷痕戦まで、酷いこといわれてる」



龍驤「……具体的には?」



天津風「心当たりあるでしょ? 暁の水平線到達はお祭り騒ぎ。こういうのって、今は炙り出されるのよ。愚か者がね。さて、どんな愚か者が馬鹿やったと思う?」



龍驤「大本営、いや、防衛省か?」



天津風「その通り。公的に出回った私達の詳細がメディアに通達された後に、原文丸ごと写メでツイッターにアップしたやつがいるのよね。そのせいで爆発的に拡散されたのよ」



龍驤「詳細というとなんやの?」



天津風「全てよ。健康診断、成績、お給料、過去の戦果までね。それらまとめて、海軍省、今は防衛省か。保管することになったわよね。その膨大なデータがまとめてネットに、ね」



島風「立ってたスレはこんな感じですー」



『相変わらず☆大本営発表 part1』



龍驤「」



龍驤「大淀……どうなってんの」



大淀「いや、空いた口が塞がりません……上からの指示で報告書丸ごと送りましたけど、内容はまだまだ発表するには時期尚早のところがありますので、機密扱いとして改竄してなお上手く立ち回れるように修正したはずですが……」



大淀「それに、そんな事するような人に漏れる訳がありません。信頼出来る人物に送りましたから、その人がポカでもして下の人に漏れた、とかなら別ですが……それも考えにくい、ですし、私のほうにはなにも来ていません」



天津風「ちなみにそいつはツイッターのアカウント消してる。画像は出回ってるけどね」



提督「……」



天津風「深海ウォッチング作戦の電を使った人体実験、戦艦棲姫戦の使えないやつからの特攻指示、対中枢棲姫棲姫決戦のライン超えの独断発言、内容は伏せられているけど、そこからの軍法会議で大体どんな話をしたのかは予想できるくらいの情報は流れてるし、海の傷痕戦はまあ、これは作戦や機転に関しては評価高いのが救いね」



天津風「世間からは独裁者だの、軍規無視のやりたい放題だの、たまたま結果が出ただけで一歩間違えば世界滅亡の戦犯(仮)だのと、散々叩かれているわね……」



提督「まあ、返す言葉もないですね。それに戦争終結させたので、世間の評価とかどうでもいいです。そういうの気にしたやり方が面倒臭いからこそ、ぷらずまさん独裁国の鎮守府に着任希望を出した訳ですし」



龍驤「まあ、深海ウォッチングの時はトカゲの尻尾切り上等のスタンスやったしなあ……」



提督「今に始まったことではないですよ。スカウトした時の阿武隈さん卯月さんも悪い噂は聞いていたみたいですしね。むしろ、自分が立てた非人道的作戦を手放しで褒める輩がいないことにモラルの高さすら感じます」



島風「ちなみに闇丙乙甲の提督評価もあるよー。一番人気は元帥、2番は丙少将、3番は甲大将、4番は乙中将、ドンケツは准将さんです」



提督「まあ、自分はそうでしょうね……」



大淀「丙少将が世間から評判が高いのは知っていましたが、元帥がそれを上回るだなんて信じられませんね……」



島風「准将さんと電さんを影で泳がしていた手綱の握り方が高評価みたいです。海の傷痕戦でも数で見れば元帥艦隊の戦果が一番ですし、潜水艦艦隊の指揮も冴えてましたからね」



大淀(……なるほど、先代丁准将の手柄も元帥に+されているゆえ、ですか)



大淀「っていうか准将さんの評価、なんか急激にあがっていっていませんか?」



島風「あー、荒れ始めましたね。変なやつが沸きましたー」



『どう考えても電の司令官が1位に決まっているのです!』



『これ電ちゃんじゃね?』



『んな訳ねーだろw』



『深海ウォッチング作戦は前以て電ちゃんに許可を求めましたし、電ちゃんも納得したそうじゃないですか!』



『あれ、そんなこと報告書に書いてないけど、それなら他の艦娘がこの提督を止めなかった違和感もなくなるな』



『本物かな』



『確認してきた。電ちゃん、ツイッターにこのスレの悪口書いてるぞw』



提督・龍驤・大淀「」


ガチャ


ぷらずま「失礼するのです!」



ぷらずま「なんなのです、なんなのですこれは!」



ぷらずま「なんであんなにがんばった司令官さんがこんな風にいわれなきゃならないのです!?」



提督「気にしなくていいですって。自分が気にしないことも知っているでしょう。ぷらずまさんも炎に自ら燃料を持って飛び込むような真似は自重してください」



ぷらずま「原文漏らしたダボに慈悲を与えに行きます! 機密をツイッターにアップするようなダボは制裁されて当然なのです!」



天津風「……良い風は、吹いてないわね」



天津風「提督さん、この一件どう思う?」



提督「機密をツイッターにアップした人ではなく、そのミスはどうして起きたのか。そこを探るべきでしょうねえ……」



天津風「噂の超能力、具体的な原因に見当は?」



提督「流れ星に願い事したら叶いますかねえ」



天津風「……ふざけているのかしら?」



提督「大真面目にやっている人も世の中にはいるのですよ。幽霊も超能力も宇宙人もいたほうが世の中は面白いと自分は思うんですけどね」



天津風「あっそ。話題を逸らさないで」



天津風「そもそも、他にも臭いのはあるわ。私達、艦娘が街に出かけると持ち物を盗まれた、とか、後ろから押されて車に轢かれそうになったとか、災いの話をよく聞くのよね」



提督「艦娘の皆さん何人いると。ただいま羽伸ばし期間に突入した人も多く、今までとは違って街にもよく出かけますし、急激に増えてもおかしくない事柄ではありませんか?」



大淀「警察の管轄です」



龍驤「やな。犯人が深海棲艦とかなら話は別やけど、ありえへんやろ。うちらやなくて警察の畑やん」



天津風「……ねえ」



提督「ああ、1つ見当がつきましたよ。あなた、自分に頼みごとをするために、鎮守府(闇)に来ましたね。その事件になにか思うところがあって、と。生憎ながらその手のことは乙中将のほうが力になってくれると思います。少ない情報から確信ついてくるエスパーですよ」



天津風「……、……」



提督「天津風さんの読みでは」



提督「機密事項、ロスト空間における想の力が関与していると。実際にそこの空間であれこれ試作した自分が、一連の臭いの元を調べて欲しいとのことですね」



天津風「……ええ、直接、お願いしたかったから、わざわざこっちの支援施設を希望してここまで来たの」



ぷらずま「……それ、戦争終結させていないってことになりますが。まさかもう第2の海の傷痕が誕生したとかいうオチではありませんよね?」



龍驤「考えすぎやろ。エリートの不祥事とか頻繁にあるやん。なんか良くない事故が重なっただけやろ」



提督「普通に考えてあり得ないです。これ機密である以上、漏洩は個人ではなく国の問題ですから、さすがにね、わるさめさんではあるまいし、テンションのせいでやったとは思えませんし……」



天津風「青葉さんなら着手してそうじゃないかしら?」



大淀「……少しお待ちください」






青葉《あー、ごちゃごちゃしてます。かなりの責任問題に発展してますね。それが謎が謎を呼ぶミステリーでして》



青葉《アップした人はなぜそんなことをしたのか覚えてない、と。ただ少し気になる情報がありまして。容疑者の女の子がいます。まあ、本人いわく、容姿以外はあまり覚えていない、と》



龍驤「……青葉、その女の子はどんな容姿?」



青葉《情報通りなら、島風さんなんですよ。その写真を見せたら、こんな服装だったって。ただ上から黒いパーカー羽織っていたみたいですね。帽子は耳になってる可愛い感じのパーカーです。私の目から見ても島風さんでしたけど……島風さんのことは裏を取ってあって、アリバイがありますし、彼女がこんなことやる意味もないので、別人だとは思いますが……》



青葉《それに連装砲ちゃん……いや、君のほうですね。艤装を見たっていってるんですよ。艤装は厳重に保管されていますし、持ち出された形跡もないので本物ではないでしょうけど、色々と不可解です》



島風「えー、私は知りませんよ!」



天津風「戦争終わってから今まで私がずっと島風といたから、アリバイはあるわ。私達は私達で忙しかったからそんなに遠くに行けるような時間もなかったはずだし、そんなタイミングの限られた悪事をやるなら計画的犯行になるわよね? さすがに島風のコスプレした誰かが突発的にたまたまタイミングよく、の線はないでしょうし、奇妙よね?」



ぷらずま・龍驤「……、……」



提督「青葉さん、その人は?」



青葉《ホテルの窓から身を投げたらしいです。幸い、奇跡的に一命をとりとめたのですが、意識不明の状態です》



大淀「命があってなによりですが、気が触れているとしか」



青葉《あ、元帥さんからですけど、大淀さんは引き続き鎮守府のほうメインで動いて欲しいそうです。このゴタゴタは私達でなんとかしますので、一応、そちらにもなにかあるかもなのでそちらで待機していてください。もしも戦争の関係者で敵意があるのなら、鎮守府のどこか……特に闇に現れそうではありますから》



大淀「了解です。それと例の件ですが……」



青葉《行方不明のままです、ね》



提督「……、……」



天津風「……ロスト空間とやらは消えたのよね。本当に完全に消失したのかしら。ロスト空間が消えたらどうなるのか、海の傷痕ですら知らないことだったら?」



天津風「敗戦処理は当局のほうから丸投げされた、と元帥さんから聞いたわ」



大淀「元帥……当局との会話は全て機密だと……どうやって聞き出したんですか?」



天津風「肩揉みしてあげたら教えてくれたけど?」



龍驤「駆逐にガード甘すぎやろ……」



ガチャ



間宮「提督さんっ!」



提督「そんな泣きそうな顔で、どうしました?」



間宮「最近とうとう駆逐寮にG君が出てしまったので、通販で駆除機を買ったんです。100%成功するはずなんですけど、私には扱いの難易度が高いので手伝ってもらえないかと」



龍驤「駆除機? その平たいプラスチックと、棒のプラスチックが?」



間宮「『この平たいプラスチックの上に捕まえたG君を乗せて、この棒のプラスチックで死ぬまで叩いてください』と説明書に書いてあるのですが、まず私にはG君が捕まえられなくて……」



提督・龍驤「」



大淀「間宮さん、まず詐欺を疑いましょう?」



間宮「え、私って騙されたんですか?」



ぷらずま「間宮さん……」



天津風「……艦娘がターゲットにされているんじゃないの?」



島風「ちなみに私、色々と疑われたんだよねー。やってないっていってるのに!」プクー



島風「天津風ちゃんに相談したら、ここに行こうって」



提督「おや、優しいお友達を持ちましたねー」



天津風「そ、そんなんじゃないわよ! 気になるだけ!」



提督「お力になれず申し訳ありません。自分も組織の人間でやることはまだあるので上の判断と指示待ちですね。今はまだ効率的に動けませんから。しばらく様子を見るとのことでお待ち頂いても?」



天津風「まあ、仕方ないか」



島風「んー、なんか分かったら教えてね! 私の姿を真似て悪いことする人をとっ捕まえてやるんだから!」



天津風「なにか私達で協力できることがあればするからね」



提督「龍驤さん、少し大淀さんと二人にしてもらいたいです。間宮さん、後でG君の処理に向かいますそれと、ぷらずまさん、二人を案内していただけますか?」



龍驤「りょーかい」



ぷらずま「私も了解なのです。お二人とも案内するのです」



コツコツ



3



大淀「グラーフさんとガングートさんの件ですが……」



提督「行方不明、なんですよね。軍研究部も想力に対抗できる試作装備を開発してお二人に持たせたと聞きましたが……」



大淀「はい。想力は残存したバグの艤装から、消失せずに確認されました。『艦隊これくしょん』の遺産ですね。艤装やその他もろもろから施された想力は消えましたが、浄化解体は通常の解体とは違って、人によってはまあ今ある言葉でいいますと……」



提督「……いいますと」



大淀「エスパーになります」



提督「信じられませんね……」



大淀「ちなみに准将と乙中将もそっち側の人間ですからね。想力で説明可能な現象が何個かあります。此方さんいわく、人間から流れ出る想の力は観測不可能なだけで、想力ってのはロスト空間が産まれる前から世界に存在したそうでして。海の傷痕はそのロスト空間の突然変異生命体のようなものに過ぎないと」



大淀「創作過程短縮、これは限定的に扱える人がいます。ほとんどの人が条件付きですけど、宗教にも深く関連しているようですね。前々からこの力に直感的に気付いてはいた人は多いです」



大淀「例えば行方不明になった人はどうやって捜索しますか?」



提督「まず警察に届けを出しますね。それから警察は行方不明者の言動を調査して、足跡を辿るのが普通でしょうか?」



大淀「それが過程ですよね。この場合は准将の答えに合わせると、『届けを出す』→『警察が受理する』→『行方不明者の足跡を辿る』→『発見』ですね」



大淀「それでロスト空間はどんなところかは分かりますよね。創作過程短縮です。『捜索の依頼を出す』→『ペンダントと地図で発見』って感じですね。実際に事実として存在します」



提督「超能力と想の力は別物では。艦隊これくしょんは明らかに物理法則を越えるでしょう……」



大淀「此方さんいわく、『原始人が飛行機見てスゲー』っていってんのと同じですー、だそうです。その中で准将の『見当をつける才能』と乙中将の『嗅覚』は正しく想力の類だそうです」



提督「帰りに競馬場によって少し実験がてらギャンブルに手を出したら財布の中身をすってしまったんですけど」



大淀「そういう賭博には使えないんじゃないんですか。グラーフさんとガングートさんの捜索に使ってみてください」



提督「あの規律に厳しいグラーフさんが失踪するだなんて、任務内容からしても嫌な予感が的中以外に考えにくいじゃないですか。あの人、鎮守府の寮のルールすら1度も破ったこともないと聞きましたよ」



大淀「……ガングートさんは?」



提督「北方の鎮守府のほうはよく知らないですし、ガングートさんのほうはデータ上の人物像でしか分かりませんね……」



大淀「まあ、恐ロシアな軍人タイプです。適性率は75%でデータと差異する部分もありますが、好戦的でお仕事には誠実な軍人です。多分、上からいわれたら人を躊躇いなくヤる人です」



提督「……まあ」



提督「製作秘話ノートと此方さんの証言の限り、戦後復興妖精は『目的に対する手段として人間の殺害は組み込めない』んですよね。過去の仕事内容からして、それは自業自得のケースしかありません。その女性の方はまず間違いなく、契約とやらをしていましたね。明石君と明石さんの様子をどこか変でしたし、此方さんがいう『特殊能力を与えるハピネスガン』と『戦後復興に協力させる契約履行装置』の組み合わせだと思います。そして多分、与えられた力は洗脳系です。なぜ、飛び降りる羽目になったのかは断定できませんが……墓穴でも掘ったのでは、と思います」



提督「容疑者の性格は悪童っぽいですね」



提督「……あ、着信が」



《そろそろ夜戦…の時間ですね。うふふ。やりませんよ夜戦》



提督「」



大淀「なぜ私のフタヒトマルマルの艤装効果ボイスの一部を抜き取って着信音にしているんですか……准将さんでも陰で変態っぽいことするんですね……」



提督「いやいや、自分、着信音なんて初期のままですよ。卯月さん辺りが勝手にいじくり回したのかな……」



提督「……メールですね。これ」



提督「グラーフさんから、です」



大淀「! 早急に内容を確認してください!」



提督「……動画ですね。再生します」



《2××× 春 想力を搭載した次世代ゲーム》




《遂に到来》




提督「加工された映像……ゲームショップ?」



グラーフ《……》←PS4のソフトを物色中。



ガングート《……》←店員の格好で登場。


ガシャン


大淀「ガングートさんが棚を乱暴に倒しましたね……」



ガングート《( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン》



提督(グラーフさんを無言でビンタした……)



ガングート《……》←グラーフの手にスマホを握らせて、電源を入れる。



《悪い島風ちゃん&悪い連装砲君プレゼンツ》



《リアル連動型『艦隊これくしょん Android』》



《Comming Soon》



提督・大淀「」



提督「あ、まだ再生時間が残っています……」



大淀「背景、大本営ですね。グラーフさんが持っているスマホの画面は、執務室でしょうか。映っているキャラはガングートさんですかね……?」



グラーフ《……》←任務ボタンをタッチ



《任務:画面の秘書官をタッチして好感度をあげよ!》



グラーフ《……》←画面のガングートをタッチ。



ガングート《くふっ、くすぐった……》



グラーフ《ほう、本物のお前に伝わるのか》←悪い顔



グラーフ《……》←タッチしまくる。



ガングート《はっ、く、カメラ止めろ!》



グラーフ《脚本とはいえ、平手の加減をしない馬鹿への仕返しだ》



ガングート《おい、貴様どこ触って――――》



《ゲームで培った好感度はそのままリアルの好感度へ。ケッコンカッコガチも夢じゃない》



《悪い島風ちゃん&悪い連装砲君プレゼンツ》



《リアル連動型ソーシャルゲーム『艦隊これくしょん Android』》



《Comming Soon》



提督・大淀「」



提督「お二人が楽しそうで、いや、間違えました。二人が無事で良かったですけど、なんだこのコマーシャル……さっきの画面のガングートさんを触ったら、リアルのほうのガングートさんが悶えてましたけど、リアル連動型ってもしかして……」



大淀「……とりあえず、この件は私にお任せください」



大淀「准将は、とりあえず鎮守府の皆さんのことを」



提督「……了解しました」





提督(嫌な予感しかしない……)




【2ワ●:電ちゃんのいる鎮守府(光)】



ぷらずま「案内するべきところは以上なのです」



天津風「思ったより広いけど、なんか異様に人が少なくない?」



島風「まだ他の人を見かけないね」



ぷらずま「終わってから、しばらく忙しかったですから。解放された人から順にまずお里に帰っているのです。残っている人も多いのですが……惰眠を貪ったり、街に行ったりと過ごし方は様々なのです」



天津風「あなたは? あの司令官いわく危険人物みたいな風だけど……」



ぷらずま「違法建造(改造)については?」



島風「深海棲艦艤装展開できるとか」



天津風「ああ、悪い精神影響もあるのよね?」



ぷらずま「そうですね。そちらは直りませんから。といっても少々狂暴になる程度ですし、性格なんてものこれから落ち着いて変わっていくのです」



ぷらずま「……」



天津風「分からないでもないわね。戦いに命を賭けていたから、平和を取り戻しても、なにもやる気が起きないって感じかしら」



島風「燃え尽き症候群かー」

 

 

ぷらずま「いえ。あ、ここは談話室なのです。基本的にゲーム好きなお友達の溜まり場ですが、最近は皆さんここでティーブレイクしてます」



金剛「……」



卯月「電、ん、天津風と島風かー? ちょうどいいところに来たぴょん。お前ら、Gを倒せるか……?」



ぷらずま「無理なのです」



島風「私と天津風ちゃんも無理でっす!」



天津風「そこに武人の睦月型がいるじゃない」



長月「無理だ。あれだけは撤退せざるを得ない」



天津風「別に逃げてないわよね?」



長月「こ、腰が抜けた。金剛はこの通り、死んでいるように固まっていて頼りにならない。菊月は」



菊月「ま、漫画の図書館で読んだことがある。あいつ急に瞬間移動したり空を跳ねたりするんだ。月歩と剃を使ってくるゆえ、中々手強い……」



ぷらずま「まさか菊月さんその割り箸で捕まえようとしているのですか……大丈夫な響お姉ちゃんも雷お姉ちゃんも出払ってますからねえ。卯月さんダメなのです?」



菊月「卯月もダメみたいなんだ……間宮さんは大丈夫らしいが、やつの身のこなしについていけていない」



島風「そこの壁にいるよー」



天津風「全員、瞬時に固まったわね……」



間宮「お待たせです! 注文の提督さんです!」



提督「そこですね……」



提督「キャッチ&アクションです」グシャッ



天津風(ひ、素手で握り潰した……)



島風・長月・間宮・金剛「」



菊月「私達が近寄れば逃げるのだが、その生気のなさはGの触覚を持ってしてまでも探知できない領域か」



提督「Gは深海棲艦と同レベルの害悪、この手で仕留めることに誇りさえ感じますねえ」



ぷらずま「さすがにどん引きなのです……」



卯月「お前はこれからうーちゃんに触るなし」



提督「了解です。壁にいる時に物で潰すと、壁紙に染みがつくじゃないですか。一度この鎮守府を大々的に清掃する必要もありますね。1週間後に行います。皆さん部屋を片付けておくように」



金剛「わるさめと瑞鶴の部屋を今すぐ調べマース! あの二人は自室で荷物の山が出来ていて、飲み食いし放題で相当汚いとか聞いてるネ……そこから発生した可能性が!」



提督「許可します」



ぷらずま「それでは島風さん天津風さん、部屋に案内しますのでついてきてください」






ぷらずま「隣は第6駆のお部屋なのです。書類関連は部屋の机の上に置いてありますが、なにか分からないことがあれば聞くといいのです。戦争終結してからほとんどの軍規は取っ払われ、割と自由ではありますが、ルールはあるのでしっかりと遵守するように、なのです」



天津風「うん」



島風「了解! あっりがとー!」



島風「それとお庭に犬小屋みたいなのがあったけど、追いかけっこして遊んで来てもいい?」



ぷらずま「構わないのです。ただ耳に触ると怒るので気をつけてくださいね。それでは私も自室に戻るのです」



ガチャ



悪い島風【Welcome to my home!】

 





ぷらずま「!?」



ぷらずま「私の部屋の中がバー仕様に模様替えされているのです!?」



【おっ帰りー! 先に一杯やってるよー】


 

ぷらずま(……島風さん、ではないですよね)



ぷらずま「……誰なのです?」



ぷらずま「艤装ですか、それ?」



悪い島風【悪い島風ちゃんでっす!】



悪い島風【こっちが悪い連装砲君。ちゃんじゃないよー】



悪い島風&悪い連装砲君【おはようございます!】



ぷらずま「……、……」



ぷらずま「あいつの製作秘話にありましたね」



ぷらずま「本官さんとの約束、この国の戦後復興の協力において最初期の海の傷痕は忙しいから、新たなシステムを作ったと」



ぷらずま「雷さんの家、甲大将の家、それらを想の力でどう補助したのか、という点ですね。妖精、艤装、深海棲艦、とはまた違うシステムを組む必要があるはずなのです。幸せにする方法はそこらのシステムを使ったはず」



ぷらずま「しかし、ロスト空間は消えたはずなのです……」



悪い島風【おう"っ! 消えたね!】

 

 

悪い島風【でもさー、消えたらどうなるのかってこと海の傷痕すら知らなかったんじゃないですかね?】

 

 

ぷらずま「……、……」

 

 

悪い島風【そうですね、私は放置しておくだけで消えますね。どうもロスト空間が消えたその残滓みたいなものなので、生命活動には限界があります。いつ消えるかは分かりませんけど、長くて2週間ってところです】

 

 

ぷらずま「要件をいうのです」

 

 

悪い島風【戦後復興の協力は私というシステムです。つまり、私の行動原理は戦後処理というわけです】

 

 

悪い島風【海の傷痕というか、深海棲艦さんがご迷惑をかけた分だけ、人間を幸せにする福の神なんです!】

 

 

悪い島風【でも私は人前にしか限定的にしか姿を表すことはできません。戦後復興はあくまで今を生きる人の力によってなされるもので、私は陰ながらというスタンスです】

 

 

ぷらずま「例えば?」

 

 

悪い島風【その精神影響をなくしてあげられますよー。その攻撃的な性格、苦労の種になるでしょうしね】

 

 

ぷらずま「……!」

 

 

ぷらずま「……、……」

 

 

悪い島風【要は艦娘の皆さんの幸せに陰ながら協力したいんです。信じられないって話ですよね、うさんくさいって思って当然ですよね……!】

 

 

悪い島風【だからまずはお試し期間ということでどのように幸せにするか、見てもらいたいんですよ。あ、私は私の意思でしか人にしか姿を見せないタイプです】

 

 

悪い島風【ファントム・ステルス】

 

 

悪い島風【隠密人ですからねっ! ニンニン!】

 

 

ぷらずま「……あなたの存在をまずは司令官さん、」

 

 

悪い島風【伝えたらどうなります。私は拘束されて死ぬまで幽閉されるだけじゃないですか。私は私が産まれた意味すら果たされずに死ぬまで暗い部屋に閉じ込められる。2週間で解放されると思いますかね……?】

 

 

ぷらずま「……なのです」

 

 

悪い島風【こうしてわざわざお話して、ただの女の子のあなたになにもしないで許可を求める誠意をお汲み取り頂ければ……】

 

 

悪い島風【ねえ、ぷらずまさん】

 

 

悪い島風【本当に戦争終結は正しかったのかな】

 

 

ぷらずま「あ?」

 

 

悪い島風【もうほとんど営みの一部でさ、経済が回っていたんだから、多くの人が食い扶持なくしたわけで】

 

 

ぷらずま「全体的にはかなりのプラスです。全海域解放ですよ」

 

 

悪い島風【艦娘の皆さんって面白いですよね。個性的で、正しいことを正しいといえる真っ直ぐな子ばかり。これから艦娘の皆はどうなっていくか分かるよね】

 

 

ぷらずま「それはそれぞれ新たな生活に羽ばたくのです。いつまでも同じ場所にはいられないのです。ですが、戦争は終結して皆さんはこの海で死ぬことはなく、またいつか会えるのです。私達は生涯のお友達になったんですよ」

 

 

悪い島風【あっまーいっ!】

 

 

悪い島風【お友達は変わってしまうよ】

 

 

悪い島風【叩きのめされますからね。周りの普通に合わせなきゃならなくなります。人間それぞれ特色がありますが、世の中には型があります。礼儀、常識、それらを基盤にした基本一色です】

 

 

悪い島風【例えば赤。その中でボルドー、コーラルレッド、カーマイン、その程度の違いですよー。周りが赤ならば赤く染まらなきゃならないんですよ】

 

 

悪い島風【なぜか分かりますか?】

 

 

悪い島風【目立つからですよ。普通の人の中で目立つことって損得のどちらが多いか分かります?】

 

 

ぷらずま「……馬鹿らしい。結局はその人次第です。目立とうがなんだろうが、その人が善き人ならば」


 

悪い島風【善き人が憎まれないとは限らないんですよー。悪い人に妬まれたらどうしますかー。世の中、賢者と愚者のどちらが多いか分かりますかー。賢者と愚者の権利は平等ですよね。処世術ってのが見えて来ませんかー?】

 


ぷらずま「……」

 

 

悪い島風【善き人だろうとなんだろうと、悪い作り話でも流されたら、瞬く間に浸透しますから。世の中は受けた恩より受けた仇のほうを強く覚えるものなんですよ。善事が一里を走る間に、悪事は千里を走るんですー】

 

 

悪い島風【性質が悪いことに、真実かどうかはどうでもいい場合が多いんですよ】

 

 

悪い島風【艦娘の皆さんは英雄扱いで大層な人気者だけに、1つの悪評は瞬く間に、広まりますよ。今の世の中、伝達速度が速いですから、あることないこと瞬時に伝わります】

 

 

悪い島風「艦娘の皆さんは」

 

 

悪い島風【これから社会の歯車の形になるために】

 

 

悪い島風【削り取られて行きます】

 

 

悪い島風【離れ離れになります。会わなくなっていきます。面影もなくなるほど、別人になります】

 

 

ぷらずま「バカらしいのです。だからといって与えられた幸せに甘んじていてはいつまで経っても子供のままなのです。なにが起ころうとも、お友達はお友達のままなのです」

 

 

ぷらずま「皆さんは必ず立派に戦って生きます」

 

 

ぷらずま「お前にいうことは1つなのです」

 

 

ぷらずま「私達をなめるな」

 

 

悪い島風【仰る通りです! 幸せはやっぱり自分の力でつかみとらなきゃね!ヽ(*´∀`*)/】

 

 

悪い島風【ただ私は残りの1週間ちょっとの寿命を艦娘の皆さんの支援に回したいんですよ。ほら、この支援施設だって皆さんの社会復帰の支援するところじゃないですか。そんな感じで私も支援していけたらなって思っています!】

 

 

ぷらずま「……例えば?」

 

 

悪い島風【努力は報われないことも多いですけど、そうですね、報われなくても、例えばお友達から遊びの電話がかかってくるとか、良いご縁に恵まれるとか、明日またがんばろうって思えるようなささやかな幸せを贈るんです。これなら別にいいですよね?】

 

 

ぷらずま「まあ、そのくらいなら。ですが、残るは信用問題となるのです。お前はどうもうさんくさい……」

 

 

悪い島風【だからお試し期間が欲しいんですよ。なにか問題があれば司令官さんに報告しても構いませんが、起きない限りは黙っていて欲しいんです。話した通り、私が公になれば、私は私の使命を果たせないまま死ぬまで幽閉でしょうから】

 

 

悪い島風【私はまだ産まれて間もない0歳なんです! すぐに死んでしまう泡沫の命に何卒ご慈悲を……!】

 

 

悪い島風【それに私もお友達欲しいんですよ。だから、あなたの前に姿を現しました! あなたは優しいですから!】

 

 

ぷらずま「……慈悲は1度だけです」

 

 

悪い島風【あっりがとう! それじゃまずお試しに幸せにしてあげますから、なにか願い事はありますかー?】


 

ぷらずま「そうですねえ」

 

 

ぷらずま「とりあえず精神影響のないあの頃の電に戻ってみたいかな?」

 

 

悪い島風【聞き届けました! あ、罰の設定が必要です!】

 

 

ぷらずま「!?」

 

 

悪い島風【ええと、雷さんのところもそうでしたけど、幸せになるってことに資格が要るんですよ。これはその人のためなんです。例えば、友達とケンカしたから仲直りしたいって願い事としましょう】

 

 

悪い島風【その人が反省もなくそのままでは仲直りさせてもまたケンカしちゃいますよね。だから、約束をしてもらうんです。この場合は『悪いことをしたら謝る』とか『思いやりを持って行動する』とかです】

 

 

ぷらずま「嫌な予感が……破れば?」

 

 

悪い島風【与えられた幸福がなくなるだけです。ま、自分の力だけでなんとかしてくださいって、当たり前のことになるだけでペナルティといった程でもないですけど】

 

 

悪い島風【そうですねえ、この場合はお試しということで、想力を節約したいです。なので『少し間』が条件でどうです?】

 


ぷらずま「ええ、むしろこちらからお願いしたい条件なのです。あなたが私の信用を裏切らないことを祈っておきます」

 

 

悪い島風【あっりがとー! 優しいね! おかげさまで私も悔いなく余生を過ごせそうです!】

  

 

悪い島風【では確認です!】

 

 

悪い島風【『Happy:違法建造による精神影響のない頃の電に戻る』】

 

 

悪い島風【『条件:想力おんぞんのため、少しの間だけ』】

 

 

悪い島風【間違いないですか?】

 


ぷらずま「なのです」

 

 

悪い連装砲君「確カニ言質ヲ取リマシタ」

 

 

悪い連装砲君「契約ヲ履行シマス」


 

悪い島風【Trance:悪い連装砲君!】

 


ジャキン

 

 

ぷらずま「とら、んす?」


 

悪い連装砲君【しあわせになあれ♪ Srot1:ハピネスガン!】

 

 



ガチャ


暁「司令官、聞きたいことがあるんだけど……」



提督「あ、お帰りなさい。なにか?」



暁「響と雷はまだお里から帰って来てないけど、電はいるはずよね。連絡もつかないし、鎮守府を探してもどこにもいなくて。部屋に変な書き置きがあって、誰かと街に遊びにでも行った?」



提督「……いや、今はもう門限過ぎていますし、あの子はそういうところキチッとしているので、ないとは思いますが、館内放送で呼んでみますね!」



提督《ぷらずまさん、おりましたら執務室まで》



ガチャ



わるさめ「司令官、いるー?」



わるさめ「ん、暁か。不安そうな顔してどした?」



暁「電の姿が見当たらなくて……連絡も取れないし」



わるさめ「門限破りか。ま、そのうち帰ってくるだろー。あ、そうだ司令官、客人が来たみたいだよ。拠点軍艦があったけど、なんなの?」



提督「拠点、軍艦? 少し見てきますね」



……………


……………


……………




提督「軍艦ですが、拠点軍艦ではないですね」



わるさめ「人も乗ってなさそうかな?」



暁「これって、ふぇ!?」



提督「どうしました?」



暁「これ、駆逐艦電……?」



提督「は?」



わるさめ「あ、ここに『精神影響のないあの頃の電ちゃん』って文字があるよ? どゆこと?」



暁「あ、なんか光り始めた!」



ぷらずま「も、戻れたのです」



ぷらずま「司令官さん、大至急私の部屋に行くのです!」



提督「……、……」



提督「頭痛が……」



わるさめ「なにこれ、ただ事じゃないよね?」



暁「ふぇ? これってもしかして想の力?」



提督「ええ。とりあえず、このことは内密にお願いします。わるさめさんと暁さんは大淀さんに報告を頼みます」



【3ワ●:ゲームスタート】



提督「barに模様替えされてる……」



悪い島風【おっす!】



ぷらずま「司令官さん、こいつとんでもねえ願望器なのです! あの頃の電に戻りたいってお願いしたら、軍艦の電ですよ! ペテン師なのです!」



悪い島風【あの頃の電があなた自身だとは契約になかったですよね。なにを人を詐欺師みたいに……】



ぷらずま「軍艦になりてーだなんて変態じゃねーのです!? んなの言われなくても私自身があの頃の電に戻るって、分かるはずなのです! 完全に悪意しか感じられないペテン師じゃないですか!?」



提督「島風(仮)さん、目的を教えて頂ければこちらとしても歩み寄ることが可能ではあります」



悪い島風【ぷらずまさんは少しの間だけ精神影響のなかった頃の電に戻りたいってお願いだったので、叶えてあげただけです】



提督「それで軍艦電ですか。酷い詐欺師だ……」



悪い島風【落ち着いてくださいよ。私は別に当局みたいに過激思想なんてないです。当局と此方の間、どちらかというと此方寄りの性格してますし】



提督「……、……」



悪い島風【ただいまBluetoothキーボードでプログラミングしていまっす。これをてーとくさんにプレゼントしようかと。あ、そうだ。このゲームは仕事が速くて正確な私の仕事ですので、『異常がない』です。ぷらずま明石君わるさめは兵士として参加できません。明石君には別の仕事用意してますけど】



提督「戦争ゲームではなく……ただのゲーム、ですか?」



悪い島風【想の力をプログラムに取り入れた2次元3次元がリンクした夢のようなゲーム、その名も『艦隊これくしょん:for Android』 です! あ、ガラケーじゃ動作しませっん!】



提督「……」



悪い島風【此方と同じですよ。私も幸せになりたいです。まずはその幸せを探すことからなので、好きなようにやらせてもらおうと。あ、隠密でしか動けないので世界滅ぼすとかそういうのは出来ないでっす。当局が完全に私を首輪に繋ぎましたからね】



悪い島風【でも、特定の想の力の扱いに関してだけは海の傷痕より上です。分かりますかー?】



提督「……戦後復興でしょうか」



悪い島風【さすが。

今の世界自体が歪だよ。『艦隊これくしょん』が運営されている状態で今の文明の発達は歪だよ。ま、文明レベルを下げる気はないですけど、私はこう考えもしました】



悪い島風【艦隊これくしょんは続いていても構わない】



提督「まさか、海の傷痕が運営したあの戦争ゲームそのままじゃないですよね。もしもそうならば全力で阻止です」



悪い島風【完全な娯楽にして終わらない戦争にするんです】



悪い島風【『艦隊これくしょん』は過去の大戦をモチーフにしたもの。人間オタク、海戦争オタクの海の傷痕が製作したリアル戦争ゲームですが、私が造るのは『海の傷痕が始めた艦隊これくしょん』をモチーフにしたただのゲームってことです】



悪い島風【ソーシャルゲームですよ。神様は資本主義の奴隷精神に堕ちますとも。人気が出るとは思いませんか。まずはそのテストプレイヤーをテートクさん達に、と思いまして】



悪い島風【いずれは専用のインターフェイスを開発してダイヴ型のゲームにしようかと。どうです、夢が溢れませんか!】



提督「どうもうさんくさいですね……」



悪い島風【あー、思考機能付与能力、現海界の際の人格構築のモデルがまあ、メフィストフェレスみたいなものなので。姿はこの通り島風なんですけどねっ!】



提督「ロスト空間はなくなったはず、です」



悪い島風【そうですね、だから残滓みたいなものです。残り火のようなもので放置しとけば消えますよ。メインサーバー、ロスト空間がないから想の燃料を補給出来ないので、今私が積んでいる分で終わりです。ま、長生きとか考えてないですし、此方みたいに人間になりたーい、とかの欲求もなっしん】



提督「証拠として提示できるモノは?」



悪い島風【ないから、わざわざご丁寧に説明していますー。信じてもらう他ないけど、信じてくれ、とはいいませんし、こちらも好き勝手やらせてもらうだけなのでその報告だけです】



悪い島風【こういう存在がこんなことしてますって知っていてもらえればオーケーでっす!】



提督「まあ、こちらとしても抗う術はないですしね……」



提督「そのプログラム画面見せてもらっても?」



悪い島風【お、興味がおありですか!】



悪い島風【とりあえずPCとAndroidには対応させたんですよ。中身はほら艤装の適性率のデータを参考にキャラを作り込みました! 仕事めちゃくちゃ、はっやーい! でしょでしょ】



グサッ



悪い島風【いったーい!】



悪い島風【なにそれ! 破片!?】



提督「ええ、電艤装の破片ですね。色々とあなたの影は臭っていたので、現れた時には念には念を入れて確かめておこうと持ち歩いていました。艤装の金属ならば効くのか、それとも出現しているあなたには深海棲艦にあった人類兵器無効化の機能がついていないのか。幽霊のようなステルスからしてより隠密を意識するなら後者でしょうとはにらんでいますが」



悪い島風【さっすがー……油断できなーい……】



悪い島風【けど、平和ボケしてなまったね。なぜ急所を狙わないのか。私を消して解決したかもなのに】



提督「いえいえ、こちらも抵抗手段がありますよ、と交渉のテーブルにつく権利を獲得しようかと」



提督「政府に送った極秘資料の漏洩、間宮さんの詐欺被害、ぷらずまさんのこと、その他もろもろの悪戯が、あなたのその目的とやらのゲームと何の関係があるんですかね……」



提督「お答えを。矛盾があれば、信用に値しないと判断します」



悪い島風【極秘資料は単純にデータ収集でっす。拡散はあの人が墓穴掘っただけでーす。間宮さんの詐欺はネット回線を通して想の力の試運転ですね。要は想の力を艤装や建造工程を通さずに人間とつなげるかの実験です。ぷらずまさんは気付いてないようだから、言いますけど】



提督「……はい」



悪い島風【あー、分かってますよ。少しゲームのデザイン上、サンプルが必要でしてね。ま、ついでに私の存在も軍に確定情報として伝わりますよね。その上で私と遊びましょうっ!】



提督「サンプル、ですか?」



悪い島風【この画面に駆逐艦電がいるのが見えますか?】



提督「……ええ」



悪い島風【画面の電ちゃんにタッチします!】



ぷらずま「ひゃっ」



提督「ぷらずまさん、どうしました?」



ぷらずま「い、今、お腹の辺りを誰かにつつかれたような」



悪い島風【無限くすぐり地獄!】コショコショ



ぷらずま「はにゃ――――!」



提督「……まさか」



悪い島風【Srot5:想力工作補助施設についてご教授しましょう!】



悪い島風【その名の通り、想力の工作を補助する機能です。これを使って、リアルとゲームキャラを繋げています。間宮さんの件は、その試作みたいなものかなー。ネット回線を通して間宮さんを操って、駆除キットをポチーさせました。あ、お金は口座に戻して起きますのでご安心を】



悪い島風【ま、それを発展させまして今はゲームの中の電ちゃんと、リアルの電ちゃんが連動しています。タッチ機能でお触りしますと、このようにリアルの電ちゃんにも伝わります!】



ぷらずま「ただの悪ふざけじゃないですか!」



悪い島風【いえいえ、戦争勃発とか笑えないことより、よほど正しい想の力の使い方かと思いました!】



悪い島風【このゲームのプレイヤーとなる5人の提督を選別しました。鎮守府(闇)の准将、丙少将、乙中将、甲大将、元帥の5名です。オブザーバーも用意しておきましたから、リアルがくそ忙しいって人には代打のテートクさんがいますからねっ!】



提督「頭痛が……」



悪い島風【この『艦隊これくしょん』はまだ完成品ではないですが、クリアしてみてください。イベントを常時開催させておきます。艦これのその最終海域に】



悪い島風【私と連動したボスがいますので倒せば、私は消えるようにセッティングされていますからね! もちろん、私は生死とか賭けたほうが楽しいので、しっかりやれば倒せる仕様でっす!】



悪い島風【出撃、遠征、工廠、入渠、任務】



悪い島風【あなた達にチュートリアルは要らないですよね! なんたってお仕事でやってたんですから!】



提督「拒否すれば? あなたは放置しておけば消えるんですよね?」



悪い島風【無差別に人のお願いを叶えて想の力を使い果たしてさようなら、ですね。まあ、良くないことは起こります】



提督「……、……」



提督「やりましょう」



悪い島風【お返事はっやーいっ!】キラキラ



悪い島風【あ、ちなみに任務は時間制限があるのもあります。一度受託してらそれを失敗すればプレイヤーに違約代償を支払ってもらいます。つまり、プレイヤーのリアルとも連動します】



悪い島風【Srot1:ハピネスガン&カタストロフガンver自律式】



悪い島風【これを想力工作補助施設で弄ってシステムに組み込んであります。さあ、受けるといいましたね】



悪い島風【今回は契約、してもらいましょうか】



悪い島風【Srot4:生死の苦海式契約履行装置】



悪い島風【契約内容:ゲームをクリアする】



悪い島風【契約書をよくお読みのうえ、よろしければサインを】



提督「……質問があります。この生死の苦海式契約履行装置は艦娘深海棲艦の輪廻systemを応用したものですか?】



悪い島風【いいえ、これは誓約です。契約が持続するまで契約者を女神で不死にコーティングします。要は『契約内容を遵守させるため』のものですね。効果の程は防衛省のお方が機密書類を垂れ流すほどです】



悪い島風【あくまで取引ですから、そちらにも利はあります。それが書面上の『この契約が持続している間は、艦隊これくしょんの参加者以外に手を出さない。またその参加者というのは海の傷痕が勃発させた艦隊これくしょんの艤装適性者および提督』です。つまり、私は想力で民間人を虐殺したりしませんよってことです】



提督「……、……」



悪い島風【今の世の中、つまらないよねって。それは私がつまらない人間だから、とかいう話じゃなくてさ、どうでもいいこととが増えすぎて、窮屈。私が産まれた1945年の冬からは世の中も大分変わったよね。すげー退屈】



悪い島風【私は戦後の復興に陰ながらささやかに協力してきて、人間を幸福にしてきたけど、どんどん意味不明な差別的な壁だらけになってくばかりで、進化を促したその実】



悪い島風【発達したのは科学だけで、人間はただ現代に適応どころか振り回されているようにしか見えません……色々と身体にじゃらじゃら身につけてる人みるけど、このままだとその内、なくさないように身体に便利機能、内臓したりして】



提督「……それで?」



悪い島風【世の中を進化させるのはどんな分野でも可能なんですよ。要はエンターテイメント精神です。無謀な夢を実現させるエンターテイメント精神です。ほら、最初に空を飛ぼうとか、アポロ計画とかロマンあるじゃないですか?】



悪い島風【じゃあ今は?】



悪い島風【人間は飛行機で空を飛べますし、今更月面着陸したところでただの二番煎じで驚きもクソもありまっせん! 海の傷痕の存在により、常温核融合の研究が打ち切られた遥か先の未来へとワープドライブですよ!】



悪い島風【星という白かったキャンパスは1つしかなくて、あなた達が産まれる前から多くの色で夢を描かれてきて、その上から自由に絵を描けないよー】



悪い島風【分かるよね?】



悪い島風【世界がこの戦争に注目している本当の理由は、あなた達の勇姿でも、海でもありません。真に争ってまでも得るべき情報は、ただ1つ】



悪い島風【想力】



提督「……ええ」



悪い島風【最優秀のあなたには教えてあげるよ。想力ってのはロスト空間が産まれる前から世界に存在していたんです。海の傷痕はそのロスト空間の突然変異生命体のようなものに過ぎないんですよ】



悪い島風【私は残滓ですが、想力ってのは補充可能ってことです。海の傷痕が産まれるのとはまた別の話ですからね。それこそ想力工作補助施設です。海に限定された海色の想より自由度があります】



悪い島風【どうしますか?】



提督「……了解です」



悪い島風【あっりがとー!】



ぷらずま「……あ、司令官さん、電話が通じましたよ?」



悪い島風【通じるようにしてあげたんですー!】



此方《電ちゃん、と准将さんですよね。お久しぶりです。大体事情は把握していますよ。あ、これは甲大将と一部の関係者が聞いていますので、少し例の子についてのお話を、と思いまして》



悪い島風【マーマ! お久しぶりー!】



此方《その子、戦後復興妖精でして、当局が深海妖精のように想の魔改造で作った子です。なぜロスト空間がなくなって生きているかは分かりませんが、その子には延命システムと自壊プログラムが組まれているんですよ》



悪い島風【……】



提督「といいますと」



此方《想力をある程度、自家発電できますが、それは結果的に低燃費にしているのと同じです。ロスト空間からの想の供給がないと、発電量より消費量のほうが多いんです。だから、そう長くは存在していられません。そのプログラムについては私も携わっていたので間違いないです》



悪い島風【マーマの言葉なら信用してくれますかー?】



提督「では、腹を割ってはいただけませんか?」



悪い島風【まあ、想力はいずれ解き明かされるでしょう。新たなエネルギー、しかも石油とか電気より遥かに上等で高品質ですから。対深海棲艦海軍の研究部が解散されない理由ですー。准将さんもスカウト来てるはずですよね】



悪い島風【まー、まだ真っ白に近い想の力を紙が破けるほど色を塗られちゃう前に、私が独占しておこうかなって!】



悪い島風【もちろん、人間を幸せにするために】



悪い島風【どーせ、お偉い国のお偉いさんに渡してもガメられるでしょうからね。やっすい品質なものを買って浮いた支援金が政治家通してどこかに消えちゃうみたいな感じで!】



悪い島風【法整備が整っていない今が儲けるチャンス! ああ? 道徳? 倫理? 知ったことかバ――――カ! 女子供を殺しても咎められないよう利益産むのが真の経営者なんですよー!】



提督「……、……」



悪い島風【マーマ! 耳の穴かっぽじってよく聞いとけよ!】



悪い島風【当局の失敗は『艦隊これくしょん』の摂理を自然として人類に認識させる、としたこと。深海棲艦みたいな人類の敵じゃなくて車や銃みたいな人を殺しても生産され続ける道具を大量生産して想の力で此方ちゃんに繋いで利便性の一部になっちまえば、海の傷痕は人間社会に溶け込むどころか支配できたっつーの!】



此方《……》



ぷらずま「要するにビジネス、なのです?」



悪い島風【おう"っ! 私の『艦隊これくしょん』は人間へのご奉仕で、社会になくてはならない最高のエンターテイメントに仕立てあげてやりますよ! 想の力は対深海棲艦日本海軍に権利をあげる。あなた達が管理できるようにしてあげる。勝者の褒美は国が取るべきじゃないんです! 国のために心臓を捧げる精神なんざ時代遅れだっつーの! 想の力を手に入れた暁には、税金だけ国にくれてやったら宇宙世紀でも作っちまって、独立国家創設、新世界でも創作しちゃってくださいな!】



提督「……なるほど、やる価値はありますね」



悪い島風【理解してくれたようでなにより。やっぱりパーパを倒すだけはありますね!】



ぷらずま「司令官さん、お金儲けしたいのです?」



提督「自分達は戦争を終結させましたが、それは現存した海の傷痕とロスト空間を消しただけで、指摘されている通り、再発の危険は常にあります」



提督「その時のロスト空間の管理権限はその第2の海の傷痕にある以上、成す術がないというのが正直なところです。また都合よく艤装なんてもの作ってくれるかは分かりません。あの戦争形態はあくまで海の傷痕の個性による創作ですから」



ぷらずま「……なのです」



悪い島風【……さすがですね!】



提督「生産より消費が多いあなたは、まず電子の世界と自身の想力を繋いだ。そしてネットワーク経由でそこから人間へと繋ぐ想の探知システムをネットワーク上に構築した。そして開発したゲームコンテンツで人間から生きていく分の『飯の種:想力』を得ようと。正しくあなたのビジネスですし、プレイヤーとwinwinになれる可能性も十分にあります」



提督「いや、実にその商売根性を見習いたいものです」



提督「狙いは『このゲームを永遠のコンテンツにすることで、自身が消滅しない想の生産を持続的に行うこと』ですね。選んだ方法からして悪童の範囲であることと、そして本当に自身の生命には執着は薄いと判定します。とても個性が色濃いです」



悪い島風【――――】



悪い島風【頭の回転はっや――――い!】



悪い島風【どう、すごいでしょ。もっと時間をかければ、とうとう2次元の世界に入り込めるんだよ! ロスト空間を知っているあなたなら、肉体の消滅=死亡の定義は時代遅れだと分かるはずです! ほら、2次元の世界に行きたいでしょう!】



悪い島風【必殺技を持ったヒーローにだってなれるし、画面越しのお嫁さんに会えるんだよ! リアリティ機能搭載というか、立派な命だから、プログラムなんかじゃない本当のキャラだから、期待にも応えてくれるんだ!】



提督「立派な命、プログラムではないキャラ」



提督「3次元の人間となにが違うんです。あんまり欲望を満たすと、人間少なくなって本末転倒になるかもしれませんよ」



悪い島風【……確かに。煮詰める必要はありますね】



提督「契約にサイン、髪の毛ですか。合意しますが、こちらの願いを1つ。グラーフさんとガングートさんを返して頂きたい」



悪い島風【……そんなんでいいの?】



提督「あなた、もしかして自身が敵としてみなされていると誤解していませんか。そうなるとしたら、これからです。ぷらずまさんの『あの頃の電に戻りたいという願いを軍艦の駆逐艦電に変える』というような詐欺をした場合です。しっかりお二人を無事に返していただければ、そのゲームにとことん付き合います」



悪い島風【……了解。表に返しておくよ】



提督「では髪の毛です。どうぞ」



悪い島風【……ん、契約完了。ありがとう】



悪い島風【それじゃ、お二人さん喚ぶね】



………………


………………


………………



グラーフ「准将、助かった。礼をいう」



ガングート「噂は聞いている。顔すら合わせたことのない私をよくあの悪魔の懐に飛び込んでまでも助け出してくれたものだ。礼はしよう」



提督「お気になさらず」



悪い島風【ねえねえ准将さん、私はあなたと色々な艦娘の想と繋がってさ、疑問に思ったことを1つだけ質問してもいい?】



提督「なんでしょうか?」



悪い島風【間宮さんへの返事、あれでいいの? 恋愛感情かは置いといて、あなたもあの人のこと好きだし、間宮さんは良い物件だよね。くっついちゃおうって欲はないの。家族は欲しい感じに思えるから、なんでだろうって思って。ホモなの?】



提督「なにをいい出すかと思えば、不毛ですよそれ」



悪い島風【あ、恋愛感情がないって答えと、まだやることがあるからって答えは今回なしで】



グラーフ・ガングート「……」



ぷらずま「私も少し気になるのです」



提督「間宮さんに限った話ではないのですが、提督としての業務上、部下の経歴はチェックするんですよ。そして直にしゃべっていて、皆がこの海に縛り付けられていると染々感じます」



悪い島風【あなたもそうですよね?】



提督「いえ、艦娘の皆さんとは違います。自分はこの通りに歳を取って成長し、学業も収め、この鎮守府に就くまではほとんど内陸にいた時間が多かったです。丁准将の鎮守府には1年と少しいただけですしね」



提督「価値観もやはり違います。特に幼い頃に艤装を身につけた駆逐艦はそうです。これから街で色々なことを学ぶはずです。きっと周りは子供の頃に気付いていたことを今更になって気付かされることもあるでしょう。彼等の時計は戦争によって変な風に止まりかけていました。色々な体験をしていくべきです」



悪い島風【あなたとの関係が枷になるってこと? それってどうなの? なんか違くない? 本人はオーケーすれば喜ぶし、当人からすれば余計なお世話じゃん。子供として見てるってことだよね?】



悪い島風【腹を割りましょうよー。なんか、あなたちょっと対人関係が変だよ。やっぱり過去の経験からして人が怖いの?】



提督「……自分語り、しかもヘビーになりますが」



提督「どうでしょうね。自分自身もよく分かりませんけど、ただ過去の歴史は間違いなく関係しています。父と祖母は幼い頃に亡くなりました。そして母は葬式が終わった後に現れました」



提督「迎えに来てくれた、と自分は喜びました。けど、自分のことは見た目が不健康で気持ち悪いと吐き捨てて、遺産だけを持って、去りました」



ぷらずま「……私も知らなかったのです」



提督「まあ、ぷらずまさんが海に行った後の話ですから。あれが自分の山の1つでした。ポケットのコインで切符を買って、海に行って、身を投げました。死のうと、思った」



グラーフ・ガングート「……」



提督「この戦争を通して誰かを大事に思えるようになりましたから、他人と関わる幸福は分かっています。けれど、自分は恋愛に関しては反吐が出るほどくだらないと思っています」



提督「母のせいにはしませんが、影響はあります。自分を見捨てて、金だけ持っていった母の背中を死ぬまで忘れません。あれが自分にとっての母なのです。そして母は女性です。自分は恋愛、結婚において女性を信じることが出来ません」



提督「その想いは皆を大事に思うようになって強まるばかりです。特に駆逐の子供を見ていると、その反面教師と化した母を否定するために、大人としてなにかしてあげたい気持ちも強いです」



提督「間宮さんだから、という話ではありません」



提督「……自分が乗り越えられていないからです」



提督「病気ですよ。きっと自分が誰かと交際しても愛情は向けられないでしょうねえ。そして間宮さんの場合はそれをプラトニックな人とでも誤解しそうです。そして伝えた場合、きっと彼女は力になってくれるでしょうが、自分が相手に異性としての愛情を向けられない以上、それは間宮さんの恋愛像とは違います」



悪い島風【なるほどー、理性くそ強いですね! 男って上半身と下半身は別の生き物だと思ってました!】



悪い島風【……相性が良さそうなのは、わるさめ、か?】



ぷらずま「それはない(真顔」



提督「価値観としては最も理解しやすいですね。ぷらずまさん、わるさめさん襲撃事件の際に、愛について話をしてくれたんですよ」



提督「君のため、と人間にいわせ続けさせることは無償ではあり得ないから、あくまで自分のためであり、それが君のためにもなる。その形が好きの理想形態だ、と」



提督「……まあ、彼女は血の繋がり以外の愛は信じられないっていっていましたからそこが自分とは決定的に違いますね。彼女はそれも変化して、たくさんの家族を持っていますけどね」



ぷらずま「そこのドイツとロシア」



グラーフ「私に振るとは驚いたな。なぜ黙って聞いていたのか分からないのか?」



グラーフ「恋愛なぞしたこともないからだ。どちらかと言えば、准将と考え方は同じではある。無償の愛は信じない」



悪い島風【これが初恋を経験せずにこじらせた女の末路さ】



グラーフ「Halt den Mund:黙れ」



グラーフ「なんだこの話は。気を紛らわす目的ではなく、真面目に語っているとは、嫌でも平和を実感させられる。だが、准将」



提督「情けないのは自覚していますから……」



グラーフ「前に明石、女のほうから聞いたが、私との相性が検査では最も良かったらしいな。その通りだ。少なくとも准将、私はあなたのそのスタンスには好意を持てる」



グラーフ「軍人として異性と会う機会もあったが、男について1つだけ理解できない点があった」



グラーフ「異性や性的な話を異様にしているという点だ。病気かとも思うほどだ。良識あればその手の話は、たまにするといった程度だろう。大将が男所帯でも女所帯でもそんなもんだろ、といっていたのは驚いた」



グラーフ「その辺りにおいて私からの印象は悪くないぞ。指揮に関しても悪くない。大将の指揮は好きだが、あれは特殊だ。過ごした時間や絆もある」



グラーフ「あなたの機械的な指揮はもともと私を執るのに向いている。甲大将のところに補佐官として着任したのなら、大将は私を第2に移してあなたの指揮下におく、とそういった」



グラーフ「これは大将が本当にいっていたことだ」



グラーフ「このように相性があるということだ。恐らく間宮とは相性が良くないのだろう。それだけの話だ」



ガングート「……、……」



グラーフ「どうした?」



ガングート「いや、意外だっただけだ。グラーフのことではなくて、准将のほうだぞ。こちらの方面の兵士の噂ではずいぶんと有能な話を聞いて、甲の大将に劣らずのマスラオ。内面はそんなイメージを持っていた」



ぷらずま「は? 劣ってないですけど?」



ガングート「そうなのか。まあ、私は准将のことをよく知らん」



グラーフ「……お前はどうなんだ?」



提督(この手の話をこのお二人とするとは……)



ガングート「難解だが、真面目な話、この国は夫婦という関係がよく分からん。街中でナンパも見かけなければ抱き締めあう恋人もいないな。手を繋ぐのをあまり見かけない」



ガングート「奥ゆかしさなのか、 冷えた連中が多いのか?」



ぷらずま「ロシアではそんなに男女が盛るのです? 響お姉ちゃんが人通りでよくキスしている男女を見かけたといってましたが」



提督「ヨーロッパの恋愛って表現に人目を気にしないイメージが強いですね……」



ガングート「国単位で価値観を量るべきではないだろうよ。私の鎮守府にはビスマルクがいたが、グラーフと同じ国出身者だとは思えない。文化の違いは確かにあるが、今の時代色々なやつがいる。あくまでただ私個人の感想を述べたまでだ」



ガングート「ところでドイツ人は絶対に奢らないというのは本当なのか?」



グラーフ「失礼な。デタラメなうえ、その言い方だとケチに聞こえるではないか。貴様には我が祖国を案内してやる必要がありそうだな」



悪い島風【お前ら職場から追い出すねー】



【4ワ●:触ってみる】



ぷらずま「全く、とんでもねー戦後処理を当局から投げられたのです……」



提督「ぷらずまさん、丙少将、乙中将、甲大将、元帥に今の出来事を報告してください。自分は少し触ってみます」



ぷらずま「了解なのです」タタタ



ガングート「しかし、さすがに少し疲れたな」



グラーフ「この鎮守府で休んで行けばいい。ここには響も長月も菊月もいる。響にフォローしてもらうといい。貴様からは長月と菊月と似たナニカを感じる」



提督「天津風さんと島風さんもいますよ。所属していた鎮守府は同じでしょう。なにか分からないことがあれば、誰かに聞いてくださいね。自分は、とりあえず」



提督「なんか勝手に自分のスマホにインストールされていますし、この青いアイコンのやつですかね……音量はオンでいいか」



《提督が着任しました。これより作戦の指揮に入ります》



提督「……待ってください。所属は鎮守府(闇)ですが」



提督「画面にいるのはグラーフさんですね。あ、艦隊にガングートさんもいます。鎮守府(闇)のメンバーが、いません」



グラーフ・ガングート「……」



提督(お二人が無言で冷や汗をかいている……)



提督「チュートリアルはなしですけど、リアルと同じ感じならまずは資材、いや、説明文をチェックしといたほうがいいですね」



提督「……、……」



提督(ゲームとリアルの艦娘は連動、キャラを出撃、遠征させた場合、その間は行動不能(意識喪失)となる……)



提督(大破したまま進軍で撃沈の恐れあり……ロスト、か。ええと、大破まではリアル艦娘に傷はないが、撃沈すると)



提督(――――死ぬ?)



グラーフ・ガングート「……」



提督「まず任務をタッチ……これか」



提督「……1つしかない」



【チュートリアル任務:秘書官の××××に10回タッチせよ! 制限時間はただいまから1分です!(ノ´∀`*)】



提督・グラーフ「」



提督「これ、グラーフさんと連動しているんですよね。触れる場所がアウト過ぎてとても出来ない……」



ガングート「グラーフの顔が真っ白だが、もともとだったな。制限時間が過ぎたらなにが起きるか分からないだろう。グラーフのことは気にせず、任務のためにしっかりこなすといい」



グラーフ「貴様――――!」



ガングート「貴様が即殺しなかったせいの現状だろう。生かすのならばアイツとの文化交流だと割り切って耐えてみせろ。ツケだな」



提督「……覚悟はいいですか?」



グラーフ「深呼吸させてくれ」スーハー



提督「それでは」タッチ



グラーフ「っ」ビクッ



提督「……自分は後ろ向いてやりますね」



タッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチ



提督「……よし、クリアした。次の任務は」



グラーフ「」



【チュートリアル任務:違う艦娘を秘書官に設定し、××××に100回タッチせよ! 制限時間はただいまから10分です!(ノ´∀`*)】



提督「さっきからセクハラ任務ばかりじゃないですか!」



グラーフ「……ハハッ、ハハハハハッ!」



グラーフ「1つ教えてやろう。通常の触られる、とは感覚が違う。恐らくあの悪い島風が身体の感度をあげていると思われる」



グラーフ「准将、存分にやってやれ」



ガングート「待て。この任務はやる必要がない」



グラーフ「なにを臆している。任務とあらば心臓を捧げるのが軍人の在り方だ。貴様がいった。文化交流だと割り切って耐えるべきだろう、とな。全く持って同感だ」



グラーフ「潔く醜態をさらせ」



ガングート「……く」



ガングート「ならば、耐えてみせよう。思い通りには行かん」



ガングート「いいだろう、来い!」



提督「……ちょっと、地下に行きますね」



提督「地下でも通信が途切れませんね……」



提督(……しかし、こんな調子だと相手によってはこの身が物理的に滅ぼされかねない。延々と王様ゲームに負け続けるかのような悲劇に見舞われる予感しかしないし、さっさとイベント海域の悪い島風さんを倒してクリアしないと……)



提督「……、……」



《制限時間が経過しました》



《任務失敗のためお仕置きです》



提督「が、画面からなにか出てきた……」



《お仕事開始☆デス》



《カタストロフガン・発動》



《表に出てください》



提督「……はい?」




………………


………………


………………



悪い連装砲君【おいっす!】


ブロロロ


提督「あ、自分の車……ちょっとそっちは海……」



悪い連装砲君【悲劇(カタストロフ)、執行】



提督「ちょ、待っ――――!」



悪い連装砲君【ドボオオオオン!】



提督「▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわああああああ!」



提督「……」パタリ



グラーフ「酷い仕打ちを見た」



ガングート「まさかこんなふざけた遊びを他の鎮守府のやつらも行う羽目になるのか?」



ぷらずま「司令官さん!? テメーらなにをしたのです!?」



グラーフ「なにもしていない」



ガングート「任務失敗の代償だ」



ぷらずま「……倒れたまま、動かないのです」



ぷらずま「あ、そうだ。これ、私が操作すればいいんじゃ」



グラーフ「その方法は、良い予感がしないな」



ぷらずま「起動、とスタートにタッチ、と」



《照合中……該当想:駆逐艦電。登録プレイヤー以外の操作を確認しました》



《悲劇、執行します》



ぷらずま「!?」


ヒュー


ぷらずま「空から、鉄球?」



ぷらずま「あ、そっちは私の」



ぷらずま「花壇――――!」



ドオオオオン!



ぷらずま「……あ、あ」



悪い島風【面白いでしょ! 皆さんが海から去って街に溶け込むとかくっそつまんね! プロのビッグスポーツ選手が貧相な生活強いられていたら夢がないだろ! お仕事でもプライベートでも希望と夢を垂れ流すかのごとくじゃないとね! 神様を打ち倒した連中が街で右ならえしたいとか、どれだけ夢がねえこといってくれるんだよー!】



ぷらずま「戦争時のような感情が芽生えましたよ」



悪い島風【私の夢のワンダーランドワールドで、社畜として一生を終えさせてやりますよ! それも普通の人間ですよね!】



ぷらずま「ブン殴ってやるのです!」



グラーフ「止めておけ。私とガングートでもどうにもならなかった」



スカッ



悪い島風【ファントムステルスっていうのはカテゴリ的には妖精状態だからね! んな物理的攻撃を当てたいのなら、想力で加工された艤装でも持ってきなさい!】



ぷらずま「く……お前は」



悪い島風【人間ではないナニカ、とでもいっておきます!】



ぷらずま「……性質の悪い」



悪い島風【囀ずるな、お子様パンツ! お前の未来はそのパンツの色気と同じく龍驤ルート一直線なんですよ!】



ぷらずま「……」ブチッ



ぷらずま「許さないのです」



悪い島風【悪魔の建造資材は人間の心の弱さってのが世の常なんです! お前らのいう平和な日常なんてこの権化夢想の世界のどこを探してもないんですよ!】



悪い島風【私が幸せになるために、今まで発達を甘受してきたその代価を払ってもらいまっす!】



提督「……く」ムクリ



ぷらずま「復活しましたか?」



提督「ええ」



悪い島風【まだ開発は進んでないので、しばらく時間をもらいますね! きっちり動作したのを確認したので、次の製作段階に入りまっす!】



悪い島風【それまでの暇潰しとして次の任務を用意しておいたので、チュートリアルちゃちゃっとクリアしちゃってくださいねっ!】



グラーフ「……准将、次の任務は?」



提督「長月&菊月さんの周りで起きるトラブルを解決せよ、です。なんですかホントにもう……」



グラーフ「申し訳ないが、私は1度甲の鎮守府に戻る。あいつがからかうというのならば、色々と連中を監視しておかねば鎮守府内で戦争が起きそうだ」



ガングート「同じく一旦、帰投させてもらうぞ」



提督「ええ、了解です。お疲れ様でした&すみませんでした……」



【5ワ●:いったん嵐は過ぎ去って】



瑞鶴「提督さーん、今鎮守府にいるのって、提督さん、私、わるさめ、大淀さん、おちび、間宮さん、金剛さん、卯月、長月、菊月、龍驤、島風に天津風でいいんだよね」

 

 

瑞鶴「卯月と長月と菊月がいなかったよー」

 

 

提督「む、館内放送はしましたし、どうやら外に出ているみたいですね。少しお待ちください……」



提督「卯月さんと長月さん菊月さんに連絡しても出ませんね」

 

 

金剛「その3人なら午後から仲良くお出かけしたのを見かけたネ。まだ帰って来てないのなら門限破りデース」

 

 

提督「……長月さんと菊月さん、ですか」



提督「どこに行くとかは?」


 

金剛「那珂のところっていってたネ」

 


提督「那珂さんというと3年前に1/5作戦の後に解体してステージで歌って踊っているあの那珂さんですか?」

 

 

金剛「イエス」

 

 

提督「ちょっと嫌な予感がしますね。知ってそうな人に電話かけてみますかね」

 

プルプル


阿武隈「はい、阿武隈です。どうぞ」

 

 

提督「こんばんは。阿武隈さん、今は由良さんのご実家でしたよね。どうですか。羽は伸ばせていますか?」

 

 

阿武隈「あ、はい。皆さん優しくしてくれますし、のびのびと出来て気持ちがいいです」

 

 

阿武隈「卯月ちゃん関連でなにかありました?」

 

 

提督「察しがいいですね……実は卯月さん長月菊月さんが那珂さんに会いにいったみたいで門限過ぎても帰ってきません。長月さんと菊月さんが門限破りは珍しいです。なにか知りません?」

 

 

阿武隈「……ああ」

 

 

阿武隈「弥生ちゃんと由良さんもそうですけど、キスカで5年も待たせた埋め合わせを卯月ちゃんが要求したんですよね。えっと、とある素人の歌のオーディション番組に応募したみたいで確かそのオーディションの日が今日だったかと」

 

 

提督「う、歌ですか? 長月さんと菊月さんが?」

 

 

阿武隈「弥生ちゃんと由良さんは断ってお里帰りなんですけど、長月ちゃんと菊月ちゃんは変な風に義理堅いですからその程度で返せるならって、その話に乗りましたね、はい」

 

 

提督「なるほど……」


 

阿武隈「レベルは高いので通らないとは思いますけど、今世代の睦月型の皆さんは恐ろしく器用なので身体を使うことならすぐ並以上に出来てしまいますから、合格もあり得なくは……」

 

 

提督「加えて言えばあなた達は時の人ですから、番組の審査基準によっては採用されますね……。まあ、了解です。遅い時間にすみません」


 

阿武隈「あたしからも卯月ちゃんにライン飛ばしておきますね」

 

 

提督「助かります。それではおやすみなさい」

 

 

2

 

 

那珂「那珂ちゃんだよー♪」



提督「……はい、お久しぶりです」



那珂「3年振りになるかな?」



龍驤「なんや、知り合いかいな。3年前っていうと、1/5作戦?」



提督「ええ。ただあの事件の後は解体して街へと。今や時を煌めくアイドルしているみたいで。夢をつかみ取りましたね。おめでとうございます。それに見違えるほどに大人になりましたね」



那珂「うん、あっりがとー! 青ちゃんさんもすごいよね! 今はもう那珂ちゃんより有名人だよ?」



大淀「それであなたほどの有名人がわざわざ足を運んで何用でしょうか? あなただから許可したものの、この鎮守府の皆さんは今は取材拒否ですが……」



那珂「あー、だからだと思う。あ、いや、別に那珂ちゃんがアポ取りに来た訳じゃないですよー」



那珂「那珂ちゃんが審査員させて頂いている毎週金曜日8時からの番組は知ってるかな」



龍驤「あー、確か芸人の目利きみたいな」



那珂「なんか誤解されちゃうよね! エンターテイナーですよ! ジャンルは音楽ならなんでもです! 素人プロ問わずに未発の歌なりダンスなりを披露してもらう番組です!」



提督「あー、確か事務所の違うアイドル同士が応募してユニット組んで人気になったのもその番組がきっかけだったとか。そういう番組ですよね?」



那珂「あ、さっすが青ちゃんさんだね!」



大淀「その番組がどうか致しましたか? まさか出場して欲しいとか意味不明なこといいませんよね……?」



那珂「まさかー。この鎮守府(闇)に書類審査とオーディションをパスした子がいるんだ。所属艦娘の身元引受人ってとりあえずは提督さんだよね。青ちゃんさんは知ってるかなって」



龍驤・大淀「」



提督「まあ、知ったの昨日ですけど」



那珂「今、この国の艦娘は色々とホット過ぎるから、プロデューサーさんも視聴率のためになんとしてでもってことで、通しちゃってね。それも生放送だよ。ちょっと近場で撮影あったし、色々と直接確認しに来たんだ。あ、ちゃんと元帥さんにはお話通してるからね!」



大淀「ほうれん草してくれない元帥のテキトー性格ですね。私は聞いてないですが、まあ、もうこういうの考えるだけ無駄なカロリー消費するだけです」



龍驤「大淀も苦労人やなあ……」



提督「まあ、皆さんご自由にして欲しいですし心から応援もしますが、うちに所属している子がテレビとか不安になりますね……」



龍驤「それで、どの子?」



那珂「長月ちゃん&菊月ちゃん&卯月ちゃんの睦月型の3人だね」



提督「卯月さんは性格的にテレビ出演でも面白ければ躊躇しなさそうな子ですよねー」



龍驤「卯月が勝手に応募したとかいうオチやないやろな……」



大淀「とりあえずお三方を館内放送で呼びますね」



提督「お願いします」



2



卯月「よくぞbarの地下街、ディスコまで来てくれたぴょん。うーちゃん達のナイスな格好が見えるかー?」←B系ファッション



長月「……(メソラシ」←B系ファッション



菊月「……(メソラシ」←B系ファッション



提督・大淀・龍驤「」



卯月「うーちゃんが曲作る。ゲーセンで音ゲーやってた頃からに作曲に挑戦したかったぴょん!」



卯月「音楽は事前に録音したのを使うぴょん。それで長月&菊月が踊って歌う。これでうーちゃん達はメジャーデビューを目指して由良とか那珂のCD売上を越えてやるし」



提督「卯月さん、まさか無理強いしたんですか?」



卯月「いい出しっぺはうーちゃんだけどー、二人もやるっていってたし、こいつらは器用だから問題ないぴょん。うーちゃんに至ってはなにやらしても天才だし? 弥生と由良とアブーには蹴られたけど 」



長月「まあ、楽しければいいだろみたいな感じで。卯月に上手くいいくるめられたのは否定しないぞ」



菊月「卯月に5年も心配かけた借りを返さなければならん。これで埋め合わせになるのなら、安い」



卯月「やるからには全力でやるぴょん」



提督「まあ、皆さんの意思があるのなら許可しますが、那珂さん、大丈夫ですか? 番組はゴールデンの生放送に加えて、参加者レベルはかなり高いのですよね?」



那珂「幅はあるけど、みんな気持ちのこもったいいパフォーマンスしてくれるよ。オーディションを見させてもらったけど、みんな大丈夫だと思う。要は提督さんが許可をくれるというのならこっちとしては問題ないってことでっす♪」



提督「那珂さんがそういうのならば心配はなさそうですね」



大淀「あの、嫌な予感がするので、披露予定の曲を私達に見せてもらっても?」



龍驤「おー、うちも見たい」



卯月「そのためにここに呼び寄せたぴょん。長月&菊月、準備はいいかー?」



菊月「……ああ」



長月「司令官のことを歌にした曲なんだが……」



提督「それは光栄ですね」












“司令官は1/5作戦で大和を見捨てて、武蔵を泣かせた。昨日、大和と武蔵からビンタもらってた”




“でも、それも来るべき時の作戦のためだったんだ。大和も武蔵も、笑ってた”




“司令官はとんでもないやつで”




“私達を駒と呼び、特攻も躊躇わない”




“それらも全て策なんだ”




“司令官は元々いじめられっ子だった”




“みんないってる。かっこよくも性格よくもない。みんないってる。彼女いない歴イコール年齢”




“そんなやつが戦争を終わらせちまった” 




“私達を戦いから解放してくれた”




“今ではみんな司令官のことが大好きだ”




“それでも司令官は誰とも付き合わない”




“独身がいいって、頑なにいう”




“駆逐はみんないってる。あいつは孤独死する”




“間宮さんもいい出した。私があの人を介護してあげないとって”




“駆逐はみんないってる。なんとかしてあげたい”




“yeah”












提督「……ストップ」













提督「余計なお世話だyeah」




提督「なんでゴールデン番組生放送で自分の悪口いおうとしているんです。駆逐の皆さんがそんなこといってるとか衝撃的なんですが……」



長月「すごく褒めているつもりなんだが……」



菊月「皆から司令官のことたくさん聞いたぞ。私達がここに戻って来られたのも司令官のお陰だと思っている……」



卯月「介護してあげたいって思うぴょん。その気持ちがyeahのところに集約されている!」



卯月「続きは内緒だけど、テレビを見るぴょん。司令官への感謝の気持ちオンリー。キスカでの1件を絡めてのお礼ラップパートで司令官、涙で前が見えなくなるぴょん」



提督(……駆逐の上目遣いから一切の悪意が感じられない。許してしまいそうだ)



龍驤「でも、上手いやん! 龍驤さんびっくりしたで! ちゃんとヒップホップみたいな感じ出てたし!」



大淀「ダンスもハイレベルでしたし、卯月さんの曲もなかなか……というか、皆さん可愛さの中にかっこよさもあって、いい感じです」



那珂「提督さん、どうします?」



提督「まあ見ていて可愛らしいですし、目の保養になりました。自分としても別に問題ないですよ。戦争終結させましたし、もうどうでも」



大淀「合同演習時から、青山さん世間体から散々叩かれてましたしね。こういうの耐性はありますよね……」



提督「ええ、それはさておき長月さん&菊月さん」



長月・菊月「ん?」



提督「あなた達は支援施設ではなく、小学校5年生として街の小学校に入学希望でしたよね?」



長月「そうだな。なんか見学させてもらえるとか」



菊月「弥生は卯月阿武隈由良と一緒に街に行くっていってたから、とりあえず長月と私の二人で見に行く予定だ」



提督「そちらに支障が出ないように。遊んだり、なにかに挑戦することは応援しますが、学業をおろそかにしないようにしてくださいね」



菊月・長月「無論だ」



龍驤「大淀、この子らの髪色はええの?」



大淀「あ、はい。そこは地毛なので。染めるか染めないかは本人にお任せでいいそうです。あちらの学校でもお二人のことは先生達からお話が行っているはずですので」



大淀「ただ二人は精神年齢は17歳レベルなので、変な話、支援施設で小学を短期で修めて中学からということも出来ますので、体験といいますか」



大淀「先方もこちらもお二人の意思を尊重した次第でございます」



提督「明日は6時半に起床です。しばらくは自分が車で送り迎えをしますので」



長月「いや、要らない。やっぱり自分の足で歩かないとな」



菊月「気持ちだけ受け取っておく。安心しろ。長月といればなにも問題はない」



提督「だめです。あなた達はもう普通の女の子なのです。平和といっても物騒なご時世、特にあなた達は時の人ですから、なにかあれば大騒ぎに」



卯月「過保護うざー……」



提督「過保護というほどでもないはずです……」



大淀「青山さんに同意です。卯月さん、戦争即了承とあなたの家が自由すぎるだけですから……」



龍驤「そういう年頃なんやって。うちが歩いてついてくわ。それでええ?」



提督「……すみません、お願いします」



卯月「まー、お前ら小学のやつらと上手くやれなかったら、大人しくうーちゃんが行く予定の中学来るといいぴょん。確か電以外の6駆とはっつんも来るし、お前らもそこに混ざったほうが最初から仲間が多くて楽しいぞー」



提督「要約『寂しいから一緒の学校に来て欲しい』ですよね」 



卯月「(_`・ω・)_バァン」



ピンポンパンポーン



初霜「提督、至急、玄関口までお越しください」



初霜「江風さんとサラトガさんのご来訪です」



提督「すみません。自分は一旦、失礼します」



3



江風「よう! 気持ちのいい朝だってのに相変わらず生気のない顔してるなお前はさ!」



サラトガ「グッモーニン♪」



提督「はい、ぐっもーにん。自分は年中こんな生気のない感じなのでお気になさらず。グラーフさんの様子はどうです?」



江風「……ああ、大丈夫だよ。それに例のやつはまだ姿を見せていない。平和だよ。明石師弟と秋月も向こうにいるぞ」



提督「……まあ、今は普段通りに振る舞うのが一番ですね」



江風「あの時ちょうどみんな集まったからクジ引いてグループ分けとか目的地とか色々決めただろー? その班ごとのしおりを作ったから、あいつらに配っといてくれなー」



提督「ふむ……あ、自分はAグループですか。此方さんとサラトガさんと曙さんと雪風さんと白露さん山城さんと大和さん。珍しい組み合わせですね。楽しそうです」



サラトガ「そうですね。戦争終わって皆さんまずご家族やお友達のところへ行っていますね。もう少し落ち着いてからになりますが、追ってご連絡します」



提督「了解です。しっかし、心配なのはDグループですね……」



提督「わるさめさん電さんを筆頭にして、漣さん、夕立さん、プリンツさん、北上さん、ろーちゃんさん、江風さんとそうそうたるメンバーです」



提督「ストッパー役がいません。プリンツさんもどちらかと言えば子供っぽい面が多いと聞きますし、頼みの綱の北上さんはこの子らの面倒投げ出しそう……」



江風「うぉい! 面子に私がいるだろが! 北上さんは『めんどくせ。好きにやらせとけ』だろーけど、江風がきっちりまとめて面倒みっからさ! 旅に関しては任せとけって!」



提督「お願いします」



サラトガ「ん、あれは卯月さん長月さん菊月さんに、那珂さんもいます。皆さんぐっもーにん♪ なかなかクールな格好ですね!」



長月・菊月「Oh,yeah」



卯月「サラトガ江風グッモーニン&ふぁーっ○!」



那珂「卯月ちゃん、当日はその言葉、絶対にいっちゃダメだからねえ……」



江風「お前らそのストリートで粋がってそうなBラッパーみたいなダボダボのファッションと口調なンだよ……」



江風「しかも懐かしの那珂までいるじゃねーか! お前、この鎮守府は取材とかそういうの今は禁止だからな!」



那珂「違うから大丈夫でぇす♪」キャピ



江風「なンか用があったの?」



那珂「卯月&長月&菊月ちゃんが2週間後の生放送番組に出場するから、そのことでね。お三方が歌を披露するから是非テレビを観てね!」



サラトガ「Wao! 絶対に観ます!」



江風「ハアアアアア!? それってまさかあれか。金曜日の8時から放送しているやつか!」



那珂「ご存じですか!」



江風「金曜の夜は鎮守府でカレー食いながらサラの姉御と漣と球磨さんの四人で観てたよ! 私達4人で応募しようと考えたが、大将とグラーフさんにしばかれそうになったから断念したやつ!」



江風「ちなみに白露の姉貴と夕立が応募したけど、予選に遅刻して落ちて、赤城さん加賀さんは演歌で通ったけど、急遽仕事が入ったから辞めたって!」



提督「もはや冷やかしですよね……」



提督「なにバリバリ戦争中の対深海棲艦海軍に席起きながら芸能界活動しようとしてんですか……まあ、由良さんとかも歌ってますけど、まあ……」



サラトガ「江風、皆さんに報告しなければなりませんね! その後にテレビの録画の予約の仕方教えてください!」



卯月「優勝したらその小切手でこの鎮守府を買うつもりぴょん」



提督「足りるわけないじゃないですか。なにいってんですか……」



卯月「駆逐はうーちゃんと不知火以外はみんな両親不在の院育ちだし、アブーも瑞鶴龍驤鹿島とかも一人暮らしみたいだし。この鎮守府を買い取ってみんなの実家にするぴょん!」



提督「卯月さん、自分は感動しました」



卯月「任せろし!」



卯月「いざとなったら雷が買ってくれるぴょん」



提督「その御方に頼れば明日にでも実現しかねないから怖い……」



菊月「……まあ、でもそうなったらそれはそれで」



長月「そうだな。ここはもう家のようなもんだし」



江風「お前ら仲間のためにこのどでかい土地買おうだなんて、粋な夢じゃねーか。江風は応援するぞ!」



サラトガ「がんばれ♪ がんばれ♪」



サラトガ「ここが皆の家なら提督さんはパパですね、ふふっ」



提督「とんでもない。自分はまだお兄さんで通る歳だと思うんですけどねえ……」



サラトガ「私は龍驤に会ってきます」



サラトガ「それでは、覚えてろ、ですね!」



提督「使い方違いますよー……」



卯月「あいつ、あの夜も龍驤構ってたなー。二人が仲良くなったみたいでなによりぴょん。龍驤は露骨に嫌そうな顔をしているけどな!」



江風「江風も暇だし、誰かにちょっかいかけてこっかな。それじゃ鎮守府にあがらせてもらうなー」



【6ワ●:戦後日常編 長月&菊月】



海の平和を手に入れてから、ニュースはずうっと賑やかだ。今年最高の話題は世界の誰もが知っていることだろう。人類が深海棲艦に勝利したことだな。



今年のレジャーなんかのオススメはやっぱり海だ。取り返した孤島でのレジャー施設の建設がなんと3か月の夏には間に合わせると、そう意気込む社長さんがテレビに映ってる。チャンネルを変えると、ごつくて色黒の漁師が夜通しでかい魚を追っていたとガキのように白い歯を見せていた。しばらくは海の喧騒が絶えなさそうだ。



私が駆逐艦長月になってから、8度目の春の季節か。戦いが終わったとはいえ、生きている限りはなにか探さなきゃならない。新たな自分の道に踏み出そうとするのは、いかんせん、難しいものだ。



今みたいに遠征に出る火曜日の朝は目覚ましがなくても5時に目が覚めて、自然とパジャマから睦月型の制服に着替えてる。



海で命を燃やし尽くした8年間、その習慣がまだ染み付いているが、なんとか変えていかねばな。とりあえずはしばらくの休みをもらえたから、街へと出かけることにした。目的地は昔に菊月とよく遊んだ公園だ。その後に見学の許可を貰えた学校にも行こうかって話を昨夜にした。



まあ、断じて私も菊月も小学生って中身じゃない。今の卯月よか大人だしな。支援施設で小の学業を短縮で修めて、中学から始めても構わないといわれたが、それも迷う。なにをどうしたらいいのかなにも分からない。1つだけいえるのは、私と菊月の日常は建造した小学生6年生の春で止まっているということだけだ。



ここから先は街という戦場で新たな日常を手に入れた私と菊月の物語だ。なんてことない話とは、口が裂けてもいえん。むしろその逆だったからな。キスカで海の傷痕と遭遇した時以上のがむしゃらな勇気が必要な任務だった。



これに関しても私と菊月は後悔していないが。



2



今年のこの辺りの気候は春先になっても冬の寒さが未練がましく残っていて、桜前線が北国に出張した辺りからようやく春らしくポカポカしてきた。



久しぶりの街は人で溢れすぎていて狭かった。背の高い建物が増えているから空も狭い。駅の周りも改装されていた。通路は真新しいタイルで舗装されていて、駅の正面入口は掃除機のように人々を吸引している。都心のほうに本店のある居酒屋とか、こじゃれたオープンカフェ、高層マンションや無骨だが真新しい雑居ビルがいくつもある。5年近くもロストしていたのだから景色も変わるか、と納得した。



長月「……なあ」



菊月「どうした」



菊月が青いタイルだけを踏んで歩いている。こういう年相応の子供の素振りは菊月が楽しい時に素として出る挙動だ。下手に指摘するとすねるやつだから、なにもいわないが。



近道とはいえ、人混みの激しい駅は通らずに迂回して、裏手まで抜けた。新しく出来ていた歩道橋を使って、直進した先の住宅街にある公園へと向かう。



この公園も変化している。名前も知らないが、丸くてクルクルと回るジャングルジムも、特大の滑り台とブランコもなくなって、入口にはペットの連れ込み禁止の看板があった。この公園に残っている思い出はベンチと砂場と鉄棒しかなかった。なんだか朝からセンチメンタルな気分になる。



菊月「なあ長月、ベンチに浮かない顔をしているやつがいるな。黒いランドセルだから小学生男子か?」



長月「もうすぐ8時だ。登校日なら、こんなところで油を売っている暇はないはずだが」



訂正だ。もう1つ変わってない景色がある。前に公園に来た時はスーツを着た男が、あんな浮かない顔をしてあのベンチに座っていた。確か、行きたくない、と独り言をぶつぶつと呟いていた。ため息ばかりついていたフレデリカのことを思い出すな。今なら分からんでもない。大人は色々ある。



少年「行きたくない……」



更に訂正だ。子供にも色々ある。行きたくない、といってソイツはうつむいた。たるんで深くなった腹の溝に、シャツが更に食い込んでいた。



長月「おいお前、学校はどうした」



気になってしゃべりかけると、そいつはぽかんとした顔になる。しばしの間があって「だ、誰ですか」と怯えた声で威嚇してくる。



菊月「……長月、鎮守府でのしゃべり方は止めろ。初対面の人間をお前と呼ぶのは礼儀に欠ける。それに彼が怯えても仕方ないだろうさ」菊月までため息をついた。「私達の髪色は緑と白だぞ。変なやつだと怯えられても仕方ないだろう。街に出た時からずっと周りからジロジロと見られていた」



長月「む、気が付かなかったな」



最もだ。やはり海と街では色々と違うな。このしゃべり方を鎮守府で咎められたことはない。どうやら私達の常識は街では非常識になるようだ。



菊月「……すまぬ。無礼を働いたな」



長月「お前のそのしゃべり方も変じゃないか」



男の子「し、失礼しますっ」



ドタバタと慌ただしく走り去っていった。その走り方から右膝辺りを痛めていることが分かる。こういうのは数え切れない程の負傷経験からの勘だ。



菊月「あいつ、ボールを忘れて行ったぞ」



長月「なんだこれ。バレーボールか?」



菊月「いや、手触り的にドッジのボールだろう」



公園から出て探して見たが、姿は見当たらなかった。さて、どうしたものか。




菊月と二人でベンチに座って、緊急会議をする。決定したことは2つだ。とりあえずこのボールは警察に届けることにした。そして今の私達二人だけでこの街で過ごすのは困難と判断して、卯月に電話した。あいつはキスカの1件で解体してから4年も街にいたという。睦月型(私達)のなかでは最も街の普通を知っているのは卯月だろう。



3



卯月「あー、相変わらず髪色のせいで視線がうざいぴょん。だが、お前らはまだマシな部類だし。うーちゃんなんかこの口調も抜けないせいで、街ではかなーり変な目で見られ続けたぴょん」



菊月「私達、浮いている、よな」



卯月「もちろん。今日のスタジアムで行われる日本とイタリアのサッカーの観戦してみろぴょん。緑白赤の頭、周りから見たら完全にイタリアの応援団だし」



菊月「昔にいたリベッチオから聞いたことあるな。国旗の色がそんな風だったか」



長月「じゃあこの髪色どうにかするか。菊月は目立つのは嫌そうだし」菊月はさっき視線が気になるようなこといってたしな。「やっぱり三日月とか文月みたいな色がオーソドックスか」



卯月「ほう、どうやら長月は順応性能がハイテクだぴょん。とりあえず髪はそのままの色で過ごすといい。視線が気にならなくなるまでな。別になんてことねー。深海棲艦なんかいないからな」


 

そりゃそうだ。解体してから日々を過ごしていた卯月は頭頂部から肩口にかけて赤色で、半分以上はツヤのある黒色だ。私としては髪色のことはなにも気にはならない。むしろ海で戦い抜いたこの身を誇りのように思っている。もちろん素振りも、心の在り方もだ。

 

 

菊月「しかし、郷に入れば郷に従えというぞ」

 

 

卯月「別に誰かに迷惑かけてるわけじゃねーし。お前ら勇敢なくせに街ごときでびびりやがってー。もっと自分に自信を持つといい。なぜならば!」

 

 

卯月「うーちゃん達は絶対に可愛いぴょん。だから目立って目の保養になってやればそれだけで生産的だぴょん。ブリティッシュラフラビッツどうぞよろしく」

 


可愛さなんて気にしたこともない。見た目にこだわるやつはいたけども、女の嗜みというやつなのだろう。すぐに海に抜錨して濡れては命のやり取りをする私達に洒落るという文化はマイナーだ。化粧だってしてるやつはあんまり見ない。それでも同性の私から見ても大層な美女ばかりだったが。

 

 

長月「可愛いっていうのは私の感覚では文月とか弥生か。 三日月も可愛いところあるんだが、どちらかというと私と菊月みたいに規律的って感じだよな。文月と弥生の二人はなんか小物とか集めるの好きだったし、そんなイメージがある」

 


卯月「三日月も生真面目だからイタズラするとおもしれーし、望月なんかも粘って駄々こねたら折れてくれるし、そういうところ可愛いぴょん。というかなぜ長月の可愛い感覚でうーちゃんの名前が出てねーし……」

 


長月「お前みたいな悪童が可愛いとかないだろ……中身は変わらずに体が大きくなっただけじゃないか」

 


菊月「うむ……それに自分の可愛さとか興味もない」


 

卯月「そうだなー、今日街で思った疑問は帰ったら司令官か鹿島、龍孃でもいいか。聞くといいぴょん。色々と教えてもらえ」卯月はめんどうになったのか、唇を尖らせる。「この話は飽きた」

 

 

長月「おい」

 

 

卯月「ただな、お前らはこう思ってるぴょん。『戦い抜いたこの心身は誇りだ。周りと無理に合わせる必要はない』ってな。うーちゃんも5年前に通った道だし」

 

 

私と菊月は顔を見合わせた。菊月もどうやら同じことを思っていたようだ。全く持って卯月のいう通りだ。私は暁の水平線に勝利を刻んだこの心身を誇りとしている。それを無理やりねじ曲げて、なんとかしなきゃいけないなんてごめんだ。私達は海から解放されて自由になったはずだろう。

 

 

卯月「ありのままの自分で生きていけたらいいのにね」

 

 

卯月は頭の後ろで手を組んだ。どこかの世界を眺めているかのように遠くの空のほうを見つめて、やけに黄昏た顔をしている。

 

 

初めてこいつが私より大人に見えたから、戸惑った。

 

 


 


しばらく公園で話していると、警官に声をかけられた。どうも近所の人が不審に思って通報を入れたようだ。まあ、私達は見た目は小学生とか中学生だし、こんな平日から学校も行かずに外でしゃべっているのだから、誰かが通報してもおかしくはないのかもしれないが、なんというか肩身が狭く感じる。悪いことしたわけじゃないのにな。



事情を説明したら、警官が「ああ、あなた達か」と驚いたような声をあげて無線で誰かと連絡を始めた。なんか私達、艦娘の事情は警察にも伝わっているようだ。私達はそんなに手厚く扱われているのだろうか。

 

 

菊月「私達のことを知っているのか……いや、知って、いる、んですか?」菊月がすぐに言い直した。しまったというような顔をしているのを見て、卯月がくすくすと笑ってる。

 

 

警官「はい。上から通達が来ているんです。この辺りの近場といえる鎮守府の艦の兵士がこの街を出歩くから見かけたら」びしっと見事な敬礼をした。「このように敬意を払え、と」

 

 

長月「そ、そういうのは逆に困るんだが……」


 

警官「睦月型8番艦駆逐艦長月さん、同じく4番艦駆逐艦卯月、同じく9番艦駆逐艦菊月さん。個人的にも尊敬しています。あなた達はそれほどの偉業を成したのです。お陰様でうちの娘も今年の夏は客船で沖縄まで旅行をするって騒々しいですよ」砕けた顔で笑った。「改めてお礼を申し上げます。世界に満遍なく幸せを輸送していただき、ありがとうございます」

 

 

卯月「おー、お前はいいやつだなー。大抵のやつは見た目相応の扱いするけど、お前はしっかりしてるぴょん。お前みたいな良いやつに限って出世しねーのがこの国の謎だし」

 


警官は苦笑いした。

卯月、褒めているのかけなしているのか分からんぞ。警官は最後にもう1度敬礼をすると、近くに停めてあるパトカーに乗り込んで行った。良かった。司令官とか龍孃辺りが呼ばれていたらお説教を食らうのはまず間違いないだろうからな。

 

 

あ、しまった。あの男の子の忘れ物のドッジボール、警官に渡しておけばよかった。

 

 


 

 

卯月が「許可をもらってくるからお前らそこで待ってろー」と正面玄関のほうへと向かう。

 

 

礼をいって、校舎を眺める。まだ小学校のことは覚えている。多分あそこは給食センターで、あれは体育館か。グラウンドがやけに広いのはいい。懐かしい。あれから8年だからそうだな、成人式を迎える奴らが小学校を眺めるとこんな気持ちになるのかな。

 

 

ちょうど渡り廊下にあの少年がいた。そういえばランドセルだったもんな。この辺りの小学生ならそりゃここにいてもおかしくないか。忘れ物を渡せそうで良かった。

 


長月「おいおま……少年、さっきの公園に忘れていったぞ」


 

少年「あ、さっきの人ですね。ありがとう、ございます」

 

 

長月「気にするな」

 

 

ぺこりとお辞儀をした。この礼儀正しさは卯月のやつに是非とも見習って欲しいが、こいつも卯月を見習うべきだな。今朝と変わらず、浮かない顔をしていてこっちの気分にも雲がかかるように暗くなってしまう。

 

 

その少年はボールを持って正面玄関の隣にあるピロティへと行った。壁に向かってボールを投げた。ノーバウンドで返ってくるボールを受け止めて投げる、の繰り返しだ。その様子を見ていた菊月が少年のほうに歩み寄った。

 

 

菊月はコミュ力が高いというよりは強さを感じると、なにかと手合わせしたくなる性を持っている。まあ、それは私もだが、あいつには躊躇う。なんだか本を読んでいる司令官と同じく、喋りかけて欲しくないオーラが出ているからだ。


 

菊月「なかなか力強い投球をするな。猛者と見たが、それだけに壁と張り合っても退屈だろう。この菊月が相手をしてやる……」



いや、別に壁と張り合ってるわけではないだろ。

菊月が跳ね返ったボールを横取りした。行くぞ、とボールを投げた。私の目から見て、少年よりも速く鋭い。私達は艦娘ではなくなったとしても腐っても軍人だ。運動能力はある。私と長月は睦月型とはいえ、素質はかなりの高判定をもらっていた。砲撃面では卯月には劣るが、運動能力は私と菊月が1位と2位だ。

 

 

長月「……なんだと」


 

少年はなんてことなく受け止めてみせた。菊月が狙ったのは取りづらそうな膝辺りだが、少年はすぐさま膝を曲げて、身体の正面で受けきった。あの鈍重そうな見た目とは裏腹にかなり機敏だ。張り合いのある相手だからか、菊月が小さく笑ってる。私も、うずうずしてきた。

 

 

長月「お前、ドッジ得意なんだな」



少年「そうじゃなくて、僕、こんな見た目でしょう。痩せるためになにか運動を始めようと思って、誕生日にお母さんからこれを買ってもらったんです。ドッジは好き、なので」

 

 

その割には効果があまり出ていない気もする。というかドッジボールは一人でするスポーツじゃないだろ。私も混ぜてもらおうかな、と思った時にわらわらと昇降口のほうから男子が走ってくる。やんちゃそうな雰囲気の集団だ。グラウンドには行かずにピロティに陣取り始める。

 

 

こいつらは昼放課にやるドッジボールのことをよく分かってるな。まず昼放課はあんまり長いとはいえないし、内野と外野、様々な場所から投げるため、ボールが遠くへ転がっていってしまうことが多くある。広いグラウンドよりもピロティのような壁がある場所のほうが、ボールを取りに行く時間が短縮されるから、その分たくさん遊べるのだ。


 

ただ私は思うんだよ。私達のほうが先に使っていたから、一言あってもいいんじゃないか。ピロティに集合した男子集団の中の一人が菊月を見ていった。

 

 

「なんだその髪色? 馬鹿じゃねーの?」その背の高い男は、次に私の頭を指差していった。「緑は初めて見た。なんでそんな髪の毛してんの。頭が残念だからか?」

 


一瞬なにをいわれたのか、分からなかった。頭のなかで反芻する。とりあえず艤装がなくて安心した。あればこいつに向かって撃ってたかもしれない。その男をにらみ上げる。いい返そうとした時、

 

 

少年「そ、そんな風に言わなくてもいいじゃないですか。僕は似合っている、と思います、けど」

 


少年がびくびくと身体を震わせながら、そんなことをいった。変なやつだな。びくびくして臆病かと思いきや、こんなやんちゃそうなやつに言い返す度胸もあるだなんて。

 

 

「コブタの母ちゃんと一緒だろ。お前の親もデブだから、お前もそんな風なんだ。大抵は親のせいで子供もそんな風になるんだって。外国人には見えねえし、こんな俺らみたいな歳から緑色とか白色の髪の人間っていねえだろ。つまりこいつらは染めているってこと。な、頭が残念だろ?」

 


長月「おい、その言葉通りならお前もそうだろ。お前の親も礼儀知らずってことになるな」

 

 

「知らねー。親とかいつもいねえし」

 

 

長月「どうでもいいが謝ってもらおうか」

 

 

菊月「長月、止めろ」

 


長月「……そうだな、すまん」

 

 

「時間も惜しいし、始めよ」周りの男子はまだ私と菊月を見て笑っている。その男がいった。「コブタ君も混ざってくれるよな。あ、そのボールのほうが空気入ってるし、そっち使おうぜ」

 


む、意外と仲はいいのだろうか。男子同士っていうのはこんなノリなのかもしれない。少年は浮かない顔をして頷いた。集団は2グループに別れ始めた。


 

菊月「長月、卯月が来た。私達も行くぞ」

 

 

長月「ああ、そうだな」

 


「くはっ、今度は頭の赤いやつが来た。お前らヤベー薬でもやってんじゃねえだろうな」

 

 

なんとか堪えて正面玄関のほうへ行く。卯月の手には、来客用の許可証が3つある。私達はそれを首からぶら下げた。もう見学だなんて気分ではなくなって来ているが。

 

 

男子達の騒がしい声が聞こえてピロティのほうに視線をやる。敵味方関係なく全員があの少年を狙ってボールを投げている。母が少年の誕生日に買ってくれたボールで少年をリンチするような悪逆は、さすがに見過ごせなかった。

 

 

菊月「おい!」

 

 

私よりも先に声をあげた。

 


卯月と一緒に来た教師が、その集団のところに行ったので、私も矛を収めることにした。相手が相手だ。ヒートアップしたら最悪殴り合いに発展してしまう。そうなると鎮守府の皆に迷惑と心配をかける羽目になる。

 

 

「なんすか先生、混ざります?」

 


先生「怪我しないように遊びなさいよ。後、仲良く遊びなさいね?」

 

 

「あー、コブタ君が一番強いんだって。だから最初に狙ってるだけだよ。俺らとコブタ君は仲がいいし、イジメなんてダセーことしてねえって。だよな?」

 

 

少年「は、はい。友達なので、仲良く遊んでいます」


 

とてもそんな風には見えなかった。あの背の高いイジメっ子は威嚇的な眼で少年を見下ろした。少年は狼の群れの中にいるコブタみたいにびくびく怯えてる。

 

 

そういうことか。あいつが菊月のボールを受け止められたのはこんな風にイジメられていたからだろうな。あの公園のベンチに座って浮かない顔で、行きたくない、とぼやいた理由も分かった。

 

 

長月「なあ卯月、あれ分かるだろ」

 


卯月「まーなー。つか、あの太ったやつもダサいぴょん。男ならやり返せし」卯月が頬をふくらます。少年がボールをキャッチすると、行け顔面だ、だなんて声を出していた。「釘指しとくけど、長月と菊月は手を出さないほうがいいぴょん。お前らの気質とあのイジメっ子の感じなら、口げんかだけじゃ済まねーだろうし」

 

 

長月「卯月、お前には失望したぞ」

 

 

菊月「ああ、お前がそこまで正義の心を失っていたとは」

 

 

卯月「口でなんとか出来るかー? この場を収めても明日には同じことが繰り返されるぴょん。根本的な解決法を司令官に聞いてみるといいし。あいつ策を考えるの得意だし、元イジメられっ子だからあいつの気持ちも分かるだろー」

 

 

菊月「済まぬ……私は鎮守府に帰らせてもらう」

 

 

長月「ああ、私もだ。体調不良だな」

 

 

海の傷痕の艦隊だって撤退させた私と菊月が、たかが小学生相手に撤退を選択することになるとは信じられない。私が昔に通っていた学校は私が知る限り、イジメなんかなかったけど、見ないだけであったのかもしれないと思うと、悲しい。どうやら街というのは恐ろしい戦場のようだ。

 


そして屈辱だ。なにも出来ない自分にこんなにも腹が立ったのは初めてのことだった。

 

 

くそ、あいつら覚えてろよ。決して負けたわけではないからな。あくまで戦略的撤退だからな。



世界を救った私達をなめてもらっては困るぞ。



6

 


提督「長月さん菊月さん」

 


もう夕暮れ時になってしまっている。そういえば昼を食べていないからか、お腹も減ってきた。腹ごしらえしようと出向いた間宮亭にちょうど司令官もいた。さっそく司令官に事の顛末を説明し、助力を求める。この司令官のことも合同演習時から最後の海まで知っている。相当な策士であることは認めざるを得ない活躍振りで、この司令官ならばきっと私と菊月には思いつかない素晴らしい策を捻り出すはずだ。

 

 

提督「面倒なのであなた達で考えてください」

 


菊月「思い浮かばないから聞いている……」


 

菊月が大破して入渠する時みたいな顔をしている。実は少し怖かったんだって、ぽろりと溢して泣いてしまう時のあの感じだった。気持ちは分かる。相当な屈辱を受けたからな。

 

 

提督「だから、パスです。そんなことくらい自分でなんとかしてください。まあ、強いて言うのならば」

 

 

菊月「……いうならば?」

 

 

提督「見捨てればどうですか。自らそんな面倒なトラブルに関わっていく必要もないでしょう。人生は長いのですよ。いちいちそんなことに構ってたらハゲますって」

 

 

菊月がうつむいた。ああ、これは泣いてしまう。

 

 

菊月「……く、う」



瑞鶴「これはさすがに右の大砲!」



司令官が地面を転がった。うん、さすがに瑞鶴さんがやらなかったら私が殴り飛ばしていた。私達は真面目に相談しているのに、その対応はあんまりじゃないか。

 

 

間宮「提督さん、お待ちどう様です。私も面倒臭いので今この時から永遠に自分で調理してくださいね」

 

 

司令官の前に置かれたのは産地直送状態の野菜だった。間宮さんの笑顔はたまに怖い時があるんだよな。司令官はなにもいわずキャベツを千切って口の中に放り込む。

 

 

瑞鶴「なにかアドバイスしてあげてもいいじゃない。駆逐には優しくしなさいよ。まだまだ純粋な子達だと思うしさ、なによりこの二人は真面目に相談しているでしょうが!」

 

 

提督「テストとかの勉強と同じです。そういった自分で答えが出せない問題こそ、最大限自分の力でなんとかしようとしてくださいってことです。自分、そういう対人関係は学校で学ぶべき最重要な項目だと思っているんですよね。話を聞いていた限り、街のサファリパークで生き抜く術をあなた達はすでに持っているはずですから」

 

 

瑞鶴「分からないでもないけど、最初からそういいなさいよね! 右の大砲撃たせるんじゃないわよこの馬鹿!」

 

 

ガルル、だなんて威嚇の声が出そうな感じだ。今ここもサファリパークに見えてきたんだが。

 

 

提督「まあ、その少年は今の自分みたいな理不尽なことされてるってことです。瑞鶴さんは言えば分かりますが、あなた達の相手は言っても分からないクソガキでしょうねえ。その場合、どうするべきなのか。なかなかの難題で得るものも大きそうですね」

 

 

ぷらずま「仕方ないのです。司令官さんの代わりに私が現実的な解決策を与えてあげるのです」

 

 

長月「助かる。聞かせてくれ」

 

 

ぷらずま「この鎮守府までそのイジメっ子を連れてくるだけでいいです。拷問地下行き1050年なのです。まあ、慈悲はなにもありませんけどね」

 


聞いた私が馬鹿だった。そしてなによりもこの電ならば本当に地下で拷問しかねないので洒落にならない。即却下。

 

 

わるさめ「島流ししたのお前だろぷらずまア! 起きたら太平洋真っ只中でマジ死ぬかと思ったっス……! 念のため海を哨戒してる海軍に見つからなかったらわるさめちゃん漂流記の幕が上がるところだったじゃねーか!」



間宮亭の格子戸が勢いよく開いてわるさめのやつが駆け込んでくる。電の右拳とわるさめの左拳が交差するクロスカウンターだ。この二人みたいなケンカの種類なら放っておけるんだがな。

 


わるさめ「あー? 菊にゃん&にゃが月がブルーな感じしてるね。なんか悩みがあるのなら私達にお話してみ?」

 

 

菊月「街の学校に行って、ケンカをしかけたんだ。私は悔しかった。なあ、長月もそうだろう」

 

 

菊月がカウンターの席に座って、トマトをそのままかじった。

 

 

長月「ああ、あいつは私達のことも馬鹿にしたんだ。髪の毛の色が変だってな。私達は今の自分が誇らしい。それを馬鹿にされるのは私達でなく、仲間も馬鹿にされたのも同然だろう?」

 

 

菊月「その通りだ……」

 

 

わるさめ「大体読めた。やんちゃ系と一悶着か。ほら司令官パーパ、子供達がこんなこといってるよ。お前、アッキーとアッシーの家庭問題も解決してんだし、なんとか出来るだろ。この場合はマジで親みたいな仕事だけど」

 

 

提督「パーパは止めていただけませんか。しかし、話を聞いた限りはねえ。その男子は言い方はあれですけど、まあ、世間一般の考えから大きく外れてはないかと」

 

 

長月「そうなのか……」

 


提督「まあ、あえてそのままでも一向に構わないです。世の中には髪や肌の色、趣味や考え方、色々な人がいます。髪に関しては菊月長月として仕方ありませんし、自分はかっこよくて似合っているとも思いますよ。先方からの許可もあります」

 

 

菊月「かっこいいか……ふむ」

 

 

菊月は可愛いよりそっちのほうが嬉しいらしい。まあ、私もだな。思えば菊月は姉妹艦のなかでは一番気が合うやつなんだよな。気がつけばいつも一緒にいるようなやつだ。

 

 

提督「ただその少年のいうことも考えてみる価値はあります。逆にその少年もあなた達のことを知る必要もあります。要はお互いの心の問題なんです」



提督「思いのままに衝突してきなさい。まだまだ今の自分達が正しいと思ったことを正しいと主張すればいいです。そうして色々なことを学んでいってくださいな。

それと、江風さんやサラトガさんにもお話してみるのをオススメします。ちょうど鎮守府にいますからね。ドイツイタリア日本ロシアにアメリカ、様々な国の文化を知っていて受け止め方が柔軟です。よく旅をすると人間大きくなるといいますが、二人を見ているとそう思います。百聞は一見にしかず、百見は一触にしかず、です。今のあなた達にあのお二人は参考書になるかもしれませんね」

 

 

確かにその点においてその二人は興味深い。意見を求めてみるのもありだろう。二人の居場所を聞いて、さっそく菊月と一緒に間宮亭を飛び出すとした。

 


司令官が「過去の江風さんみたいな素行不良にはならないでくださいねー……」と心配そうにいってきた。その素行不良ってのも街じゃよく分からないんだよな。ただ朝の公園にいただけで、通報されたみたいだし。



7



慰霊碑の小高い丘に二人はいた。この鎮守府に来る仲間はみんなここに立ち寄って、慰霊碑に眠る皆とその周りを囲うように眺めてある中枢棲姫勢力の艤装に敬礼をして、思いに耽るように海を眺める。

 

 

江風「お、長月と菊月か。なンかしけた面してンなー。どうしたよ、間宮亭で嫌いな食べ物でも出たか?」

 

 

長月「馬鹿にするな。好き嫌いなぞない」

 

 

江風「お、そりゃ良いこった」

 

 

ニシシ、という擬音が似合う顔で笑った。江風も肉体年齢は卯月と1つ上なだけのはずだが、卯月よりもかなり大人びて見えるのは不思議だ。卯月よりも長く生きているからかな。

 

 

サラトガ「ご用件はその浮かない顔となにか関係が?」

 

 

うん、茜色に照らされるサラトガは神秘的なまでに綺麗だ。いつも子供みたいにはしゃいでいるところを見るが、落ち着いているところを見ると、見た目以上の大人に見える。

 

 

長月「実は今日、街にでかけたんだが……」

 

 

事情を話すと、江風は頭を雑にかいて溜め息をついた。サラトガさんはグッと親指を立てて、ふんすって鼻息を出した。リアクションの意味がよく分からん。

 

 

江風「分からねえことはぶつかってくしかねーンだよ。お前らはまだまだそうやって理解していくことしか出来ねえだろうさ。いざとなればあの提督さんがフォローしてくれんだろ。ガキの頃のケンカで芽生えるような教訓は貴重だぜ」

 

 

まあ、こいつらしい解答だ。甲大将や木曾も似たような答えを返しそうな気がした。

 

 

江風「つーか江風にはよく分かンねえな。学校まともに通ったの軍学校だったからなー。ま、でかくなりたきゃ色々なもんに触れてみることだ。旅に連行させたらオープンザドア君が怒りそうだからやめとくけどさー」

 

 

菊月「私達が旅をしても、なにか解決策を見つけるまでには時間がかかりそうだ。具体的な解決策を早急に求めている」

 

 

江風「サラの姉御はどー思う?」

 

 

サラトガ「お二人は旅をして、新しい景色を見てきたということですね!」

 

 

上品な仕草で膝を曲げて、目線を合わせてくる。優しい手つきで頭を撫でられた。この母性力、真面目モードで優しくしてくれる明石さんとちょっと似ている。大きな温かさがある。龍驤がこのサラトガの適性者は大きくなったろーちゃんみたいや、と言っていたが、そんなことはないように見える。

 

 

サラトガ「私も提督さんと同じですね。具体的なアドバイスをしてもそれは正解とは限りません。強いて言うのならば、なにが正解だと思うのか、あなた達が考えて実行するのが正解です。そしてあなた達が思う正解は間違いなく素晴らしいものだと思うので自信を持ってください」

 

 

江風「だなー。本当に大事なことは誰も教えてくれねえ。教えられねえンだ。千差万別でケースバイケース過ぎる。一言でいえば、世界にお前らはお前らしかいないからお前ら専用の教科書なンてどこを探しても作られてねえ。自分で作るしかねーンだよ」

 

 

サラトガ「きっと大丈夫です。私達は深海棲艦であるチューキさん達とも分かり合えたのです。可能性は絶対にありますから」

 


確かにそうだな。まさか軍が深海棲艦と手を組んで戦っているというのは驚いた。話を聞いている限り、中枢棲姫勢力というのは気高い軍人のように思えた。たった6人で世界を相手にしていたのだ。戦争をした仲だから決して全てを許せる存在ではないが、こうして私の鎮守府の慰霊碑に名前を刻まれて、皆が敬意を払うような存在なのも確かだった。私達が直面している問題の一番のアドバイザーは、中枢棲姫勢力だったのかもしれない。

 

 

江風「サラの姉御なんか最初は軍刀持った私達見て、サムライサムライうるさかったよ。日本人のイメージ偏り過ぎだろ。なら黒人はみんなヒップホッパーでメキシコ人はみんなマリアッチかってンだ」

 

 

菊月「武士道の精神は好きだが、それは確かに偏りのあるイメージだな……」

 

 

サラトガ「菊月さん長月さん、ドイツ人はどんなイメージですか?」

 


菊月「規律にしっかりしている軍人タイプだ」

 

 

長月「む、私も、だ」

 

 

サラトガ「思い浮かべたのはグラーフさんですか」

 

 

そうだな。思い浮かべたのはグラーフだ。司令官の相性検査で最も相性のいい兵士だったと聞いたこともあり、ドイツの人といわれて真っ先に思い浮かんだ。

 

 

サラトガ「プリンツさんのような人もいれば、ビスマルクさんのような人もいます。ドイツがお肉ビールで、イタリアがピザやワイン。どこの国の人も他国のイメージを持っています。間違いではないのですが、ほんの一部のことです」


 

江風「ちなみにアメリカからの日本のイメージは」

 

 

サラトガ「イノベイド、アニメ、コミック、サムライ、ニンジャ、スシ、清潔安全、親切辺り、ですかね?」

 


江風「まあ、やっぱりそこら辺か」

 


サラトガ「後は、変態ですね。なんか一部の界隈では『まーた日本か』といわれていると聞いたことがあります」


 

江風「うぉい!」


 

長月「清潔とか親切って他の国はそうじゃないのか?」

 

 

江風「この国は水準高いほうだと思うぞ。メキシコにサラの姉御と行ったことがあるが、日本に帰って来て教室の綺麗さにびびったぜ。向こうは落書きばっかで物も半壊してたし、どうもやんちゃなやつが多いみたいだ。ま、これもたまたま見た一部の話なんだがな」

 

 

そう信じてえ、と江風は付け加えた。

 

 

サラトガ「授業では教えてくれないことは多く、実際に触れ合ってみないと分からないことも多いです。あなた達は街に出て、分からないことに出会い、そうやって悩むのは、あなた達が理解しようとしているからだと思いますね。それはとても素晴らしいことです」

 

 

菊月「悩んだところで解決が出来ない問題もあるだろう」菊月は不安そうな顔だ。「そう全てが理想的に終わる訳ではないことは私達も知っている……今回のこれが正しくそれかもしれない、と私は思う」

 

 

全くだ。悩んだところで解決できない問題なぞ、腐るほどこの海で体験した。私達はいくらがんばっても戦艦や空母にはなれないし、深海棲艦は止めてといって攻撃を止めてくれた例なんてないからな。だから、訓練をして沈めたんだ。

 

 

サラトガ「そうですね。でも、そんなことはないって思うからあなた達は色々な人に相談しているのではないですか?」

 

 

菊月「投げ出すのは癪だ」


 

長月「そうだな。撤退はしても、逃げて終わりにするのは矜持に反する」

 

 

サラトガ「そんなあなた達ですから、世界中があなた達のことを注目することになりました。海の向こうの人達が長月さんや菊月さんのことを知り始めています」サラトガがグッと親指を立てる。「素晴らしい子達だって。もっと自信を持ってください。あなた達の思うように問題と向き合うだけでいいんです」

 

 

長月「勝てる、とは限らない」

 

 

サラトガ「負けた時は私のところに来なさい」

 

 

ぎゅーっと抱き締められる。柔らかくて温かく良い匂いがする。なんだか安心する感じだった。もしかして私は自分が思うよりもずっと子供なのかもしれない、と思った。

 


サラトガ「またこうしてあげます♪」

 

 

ふむ。そうだな、がんばってみるか。負けたってここに戻って来たら、こんなことしてくれる人がたくさんいるし、怖くはないな。私達の周りには頼りになる仲間がたくさんいる。ボロボロになって帰って来てもまたすぐに海へと抜錨する日々と同じ気持ちで挑めばいいような気がした。

 

 

また明日、街に出かけてみるか。


 

江風「つーかお前ら、テレビのことはいいのかよ。うちの鎮守府の奴らにも話行ってるしすっぽかすなよー。青葉のやつなんか那珂に頼み込んで会場に行くらしいぞ?」

 


菊月「……そうだな。司令官からもやるなら途中で投げ出すな、といわれている。しかし、そっちの心配は無用だ」

 

 

江風「江風からしたらそっちのほうに頭抱えるけどな……」

 

 

別に目立つのは慣れている。よく大衆の前で艤装を使っての見せ物はしていたからな。それも撮影されていた。それと一緒なのだろう。恥ずかしさはなかった。

 

 

後ろのほうから卯月の声がした。そういえば日が暮れかけてきたな。本出場が決まってからこの時間からは寝るまで練習する日々がしばらく続く予定だ。

 

 

長月「そういえば、なんか空気の感じが変だな。近々、時化るか?」

 

 

菊月「そうだな、この感じは嵐か……」

 

 

サラトガ「そういえばこの辺りは近々ハリケーンが来るとかニュースでいってましたね。空気の感じで分かるんですか。なんだか木曾さんみたいですねー」

 

 

江風「睦月型は遠征やり過ぎて空気の感じで雨雪嵐を予感出来る能力が身に付いたんじゃねーの。木曾さんはもはや言葉じゃ語れねえ感覚人だ。ま、あの人は軍に来る前から感覚で生きる船乗りだし、こいつらもそんな感じで分かるンだろ」

 


長月「……それでは失礼する。助言、感謝するよ」

 

 

菊月「同じく感謝する。また会おう……」

 

 

がんばれー、と振られた手に、お辞儀をして返した。卯月の声がやかましくなった。機嫌損ねると面倒なやつなんだよな。菊月と二人で走った。

 


【7ワ●:街に響くメロディコールと戯れば】



バーの地下には鹿島と明石さんがいた。話を聞く限り、卯月が館内放送でみなを呼び寄せたようだった。すでに私達がテレビに出るというのは広まっているようで、酒の肴にでもしたいのか、一部の連中は片手にグラスなんか持っている。

 

 

構わずに練習を始めたのだが、皆の様々なリアクションが気になる。鹿島はポカンとした顔になって手からグラスを落としていた。江風は笑い転げてる。明石さんだけは変わらず、酒をちびちび飲み続けていた。

 

 

江風「きひひ! ラッパーみたいなカッコしやがって、ヒップホップにしては韻踏んでねえし、ロックにも聴こえたし、バラード混じってねえか! なにがなんだか分からねえ自由な音楽だな!」

 

 

明石さん「提督さんに修理が必要なのは置いといて例えるのなら粘土を自由に形作ってみましたみたいな工作魂を感じます。グッジョブです。なんか普通に聴けるのはこの子達のセンスですかね。可愛らしいし、見ていて和むといいますか」

 

 

鹿島「提督さんが頭痛を起こしそうな歌詞でしたが、かっこ可愛いというんですかね。途中から微笑ましくなりましたね。これはこれでアリだと思います!」

 

 

まあ、それならいいんだが。実は若干、黒歴史にならないか心配で仕方なくなってきてはいたのだ。阿武隈由良弥生は全力で参加を拒否していたしな。

 

 

なにが気に食わないのか、卯月が頬を膨らませる。

 

 

卯月「少し煮詰めるかー。この反応は求めていたモノと違うし。菊月、長月、こいつらはうーちゃん達をお遊戯会でがんばる子供のごとく見ているぴょん。完成度はプロを目指す」

 


明石さん「およ、そう受け取りますか。実際そんな感じですけど、それも武器ですし、いいじゃないですか」

 

 

長月「ぶっちゃけると、別にお前への借りを返すために参加しただけでそこまでの熱い思いは音楽にないんだが」

 


菊月「得意分野でもないしな……」

 

 

明石さん「んー、オーディションには技術面よりは艦娘の話題性で通ったという感じですかね。それでもプロがゴーサイン出したんですから、そのまま頑張ればいいと思いますけども、鹿島さんそこら辺どう思います?」

 

 

鹿島「んー、音楽に関しては分かりませんけど、私の感想は述べた通りですかね。素人意見ですが、ワールドクラスの人達と比べると確かに技術面では、って感じはしますけれど」

 

 

江風「バッキャロー、何事も大事なのは魂なンだよ。熱く燃えたぎるハートを音でぶつけるのが音楽だろーが! サラの姉御は当日を楽しみにしてるってこの場に来なかったんだから、当日はもっと気持ちを込めて歌いやがれ!」

 

 

卯月「なるほど、ハートか。それは確かにうーちゃん達なら今からでも出来そうだぴょん。曲も歌詞も一時間で即興で作ったモノだから、那珂に連絡してみよ」

 

 

鹿島「一時間とかすごいですね……その音楽も、ですか?」

 

 

卯月「ギター、ベース、ドラム諸々をうーちゃんがやって録音してそれをミックスして作ったモノだぴょん。ちなみに歌詞は長月と菊月がすぐに作って、合わせたし。こいつら器用だからなー。大抵のことはすぐ並には出来るぴょん」

 


鹿島「多才ですねえ……」

 

 

菊月は江風が持ってきた軍刀を手に取って、鞘から抜いた。うん、急な行動にみんながびびっているが、菊月は歌とかよりもこういった芸のほうが得意だ。

 

 

菊月「魂というと、こんな感じか?」

 

 

鞘から刀を抜き放つと同時に、あの長く鋭い刀身が消失する。刀の鍔が鞘に当たる金属室な音がすると同時に机の上の林檎が八等分に開いた。

 

 

菊月「武芸だが、少し精度が落ちたな。やはり解体して落ちた身体能力が影響している、か」


 

江風「素直に驚いた。お前そっち系の番組にも出られるぜ」

 


菊月「ちなみに長月も同じ事をやれるぞ」

 

 

長月「私達はキスカの時では軍刀で姫と鬼を沈めたんだ。砲雷撃で勝てるような相手ではなかったからな。海の傷痕の妖精工作施設でロスト空間に飛ばされさえしなければ」

 


菊月「負けなかったと私はいわせてもらう……」

 

 

明石さん「ほえー、開発者の私としては光栄の至りですねえ。皆さんのお役に立てていたのなら本望です。どうやら決戦の時にお二人に軍刀を渡しておくべきでしたか」

 

 

鹿島「卯月さんの砲撃精度といい、睦月型の皆さんは個々に特殊能力染みた才能が備わっているんですね……」

 

 

耐久装甲が低く、近距離で砲雷撃を行う。そのため明石さんが開発した至近距離用の攻撃手段に活路を見出だした駆逐艦は少なくないはずだ。鍛えれば姫や鬼とさえやりあえるほどの装備で、しかもスロット数を埋めないうえ、砲弾すら逸らせる。駆逐が死地で生き残るための技の1つだ。


 

こんな風に『艦隊これくしょん』のことには頭がすぐに回転するが、いまいち音楽には乗り気にはなれないな。練習に手を抜いているつもりはないのだが、全身全霊とはいい難い。迷いの原因は把握している。今日あった一悶着がちらつくのだ。

 

 

江風が「あ、今ならちょうど番組やっているんじゃねーのか」とテレビをつけた。

 

 

番組に出ている出場者を観察する。動作1つ1つが海で戦う私達のように洗練されていた。艤装つけて隊列を組ませたら私達よりも上手く動けるのではないか、と思うほどだ。素人のはずだが、実はプロでした、と打ち明かされもなんら不思議もない。

 

 

いや、むしろそうであって欲しい。

 

 

盛り上がっている観客、審査員の真面目な顔、そしてなにより出場者からは本気の度合いが画面越しでも伝わる。これは確かにお遊戯の場ではなく、本気で夢を追いかける者の舞台だった。正直、明石さんや鹿島からの評価は妥当なものだと認めざるを得ない。

 

 

とんでもない場所に遠征することになった。深海棲艦と戦っていたほうが気が楽まである。まさか街がこの長月をここまで戦慄させるとは、街は海よりも恐ろしい魔境なんじゃないか、と考え始めていた。さっきの空模様と同じく嵐が訪れる予感が拭えない。


 

卯月「なるほど。1週間あるし、うーちゃん達が更に本気を出せば張り合えるぴょん」

 


お前のその自信はどこからくるんだ。「うーちゃんは明日は音楽の教本でも漁りに行くから、お前らもなんかタメになりそうなことしてくるぴょん」と卯月が能天気にいう。

冗談ではない。私達は音楽に関してはそのレベルなんだぞ。

 

 


 


翌日は6時30分に目が覚めた。

いつもより、起床が遅れたのは昨夜は遅くまでバーの地下に込もっていたからだ。夜更かしは風紀担当の鹿島からお叱りを受けるようだが、今の私達は鎮守府内なら見張りつきで、という理由で司令官からの許可をもらっている。



2段ベッドの上によじ登り、まだ寝ている菊月を揺さぶって起こしにかかる。間抜けた顔でいびきをかきながら、よだれを垂らしている。鼻と口を塞いだらすぐに起きた。

 

 

菊月「ふがっ、敵襲かっ」

 

 

長月「ああ、運命の時まで1週間もない。起きろ。もう6時30分にもなる。今日も街に行くぞ。時間は刻一刻と迫っているから、少しでもタメになることをしよう」

 


菊月「……うむ、今日も街で修行だな」

 

 

今日は睦月型の制服ではなく、滅多に着なかった私服に着替えた。動きやすそうなラフな格好だ。菊月が帽子を被ったが、それを取り上げる。あの会場に出るんだ。街でも人からの視線に慣れておくべきだ。なにより、髪を隠そうとするのは負けたみたいじゃないか。「これも訓練の一環だ」というと、菊月は珍しく浮かない顔で深い吐息をついた。

 

 

着替えが終わり、間宮亭で朝御飯を食べた。腹ごしらえが済んだらすぐに抜錨ポイントの門へと向かう。街へと出ようとしたところ、腕を取られて止められた。龍驤が怖い顔をして突っ立っている。

 

 

龍驤「昨日はうちがついてくっていったやん。それなのに二人でそそくさと出かけちゃってさ。なんか一悶着あったんやろ。今日は龍驤さんがお供させてもらうよー」

 

 

菊月「過酷な遠征となるが、大丈夫か」

 

 

長月「ああ、なめていたら無様をさらすことになるぞ」

 

 

龍驤「たかが外に出るだけで大げさ。ま、それほど二人は街の日常とはかけ離れた生活してたってことかな。ますますついてかんとダメな気がしてきたよ」

 

 

菊月「……長月、街上護衛作戦だ」

 


長月「ああ、分かっている。龍驤、今日は私達が護衛をしてやるが、無事に守りきれるかは分からないからな」

 

 

龍驤「はいはい。おおきに」

 

 

そんな風になめているからだろうな。

今日の冒険で一番ダメージを受けたのは龍驤だった。精神的ダメージではあるものの、帰ると真っ先に今はもう誰も使わない入渠ドッグへと入っていったのを覚えている。

 

 


 

 

まず適当に街を散策していたつもりが、自然と足はあの公園に向かっていた。今日は中に入るつもりはなかったが、昨日の少年がまたいる。ため息を吐く仕草から、たるんだ腹に服が食い込むのまで同じだ。少年に声をかけた。

 

 

長月「よう。おはよう。今日も学校か?」

 

 

「ええ、まあ……」

 


菊月「お前も再び戦いに出向くのだな。その勇気に敬意を表して私達が学校まで護衛してやろう」

 

 

「別に、い、いいですよ」

 


龍驤「なんや長月と菊月、この子は友達?」

 

 

長月「戦友だな。この男には助けられた。私達を馬鹿にしたやつに言い返してくれたんだ」

 

 

こいつは私達の髪を似合っているといってくれたやつだな。あのイジメっ子相手に勇気を出した。尊敬に値するやつだ。

 

 

菊月「加えてなかなか見所のある武人だ。私のボールを受け止められるやつが小学生にいるとは思わなかった。世界の広さを知ったような気分だった……」

 

 

龍驤はなにかを察したのか、「キミ、通学団があるやろ。そこまで送ってくで。これからもこの二人と仲良うしたってな」という。少年は困ったように頷いた。む、嫌なのか?

 

 

「は、はい」

 

 

裏手にある神社のほうへと回り込んだ。どうやら神社の前が通学団の集合場所のようだ。神木の近くに猫がいた。龍驤が「おいでー」と手をこまねいた。猫はアクビをすると、龍驤のほうへと歩み寄っていく。

 


少年は賽銭箱の前に行って、ガマ口の財布から100円玉を取り出して放り投げる。手を合わせて必死そうにお願い事をする。ボソボソとなにかいっているが、私には聞き取れた。

 

 

「明日は台風が来て、学校がお休みになりますように」

 

 

そう言えば学校は暴風警報が出ると休みになるんだっけか。艦娘の世界は違う。嵐が来ても海に出なければならない時もある。世界を守る仕事はそんなことでは休みにならないのだ。

 


「明日はプール開き。僕が海パンになると、またこの身体を馬鹿にされるので、神様どうかよろしくお願いします」

 

 

なるほどな。納得が行った。

ちょっとこいつからは目が離せないな。恩を受けた相手がこんな風に困っているのだから、やはりなんとか助けなけばなるまい。といっても、どうするべきか、の答えはまだ自分の中で出ていなかった。1日で10キロほどすぐに痩せられる方法があればいいのだが。

 

 

菊月「またドッジをやろう。明後日の休みの日に公園で待っているぞ。前は邪魔が入ったが、白黒つけておきたい」

 

 

「は、はい」

 

 

なんでこいつはいちいちどもるんだ。こいつには明石君を紹介してやったほうがいいのかもしれない。あの男はちと礼儀がなってないが、それでも誰かを不当に攻撃するような男ではないし、背中を預けられる立派な男だ。あいつに鍛えてもらうのもアリではないだろうか、と考えた。

 

 

少年と別れてからそのアイデアを龍驤に伝えてみる。

 


龍驤「明石君はな、どっちも情けねえ、とかいって、あの子もイジメっ子も殴る危険があるで……あいつの短気と礼儀のなさとケンカっ早さは明石さんと秋月いわくなかなか直らんみたい……」



そうなのか。よく明石さんと決闘をしているところを見て一方的にやられているからか、むしろ耐える男というイメージがある。実際は明石さんに手も足も出ないだけか?

 

 

そういえば司令官も瑞鶴や間宮さんとケンカしている時はいつも背中を丸めてサンドバッグみたいに一方的にやられているな。もしかして私の鎮守府には、男らしいやつがいないのではないだろうか。それとも私の鎮守府の女が強すぎるだけだろうか。男は辛いよ。江風が好きなドラマを思い出した。

 

 

長月「男連中に幸あれ……」

 

 

500円玉を賽銭箱に放り投げて、神様にそうお祈りしておく。神様、といって連想したのはあいつだ。ケラケラ、という意地の悪い笑い声が聞こえた気がしたので、この神社の神様には二度とお願い事をしないことにした。

 



 


散策をしていると、人通りの多い交差点の向こう、菊月がカラフルな信号色のビルを見つめている。1階は茶色のゲーム売り場、2回は黄色の本屋、3階は青色は模型ショップ。


 

長月「変な色のビルだな。菊月、そんなに驚いたか?」

 


菊月「いや、ビルの前にいる奇妙な格好をした連中が気になっていた。ただ者ではない気配をまとっている……」

 

 

確かに言われてみれば、周りの人々とは違う雰囲気をしている。見たところ10から30代の男達のようだが、法被みたいな羽織りに鉢巻き、そしてうちわみたいなものも持っていて、まるで祭り時のような格好をしたやつもちらほらいる。

 

 

菊月「龍驤、あれはなんだ?」

 


龍驤「あー、多分、音楽のライブやないかな。うちもこういった世情には疎いからなあ、何のライブかまでは知らんけども」

 

 

菊月「音楽ならば見ておいて損はなかろう」

 

 

長月「だな。龍驤、あそこに私達も入れるのか?」

 

 

龍驤「ま、聞いてくるわ。1階のところおりー。午前からライブやってけっこう客が集まっているし、ハートがある人なんちゃうかって、うちは思うで」

 

 

ハートか。江風が大事な要素だと解いていたな。

菊月と1階のゲーム売り場に入って龍驤を待つことにした。うちの鎮守府にはゲーマーが多数いることもあって、ここは特に目新しいモノは見当たらないが、価格というものは勉強になる。ほとんどが鎮守府内で住むからか、こういうのには疎い。昔よりも値が高くなっているような気もする。

 

 

長月「なあ菊月、これ阿武隈とか卯月とかが持ってるスマホってやつだよな。私達がもらった携帯となにが違うんだ?」

 

 

菊月「知らん……が、卯月がもうお前らみたいなのは持てねーとかいってたな」

 


私と菊月が持っているのは折り畳み式の携帯だ。ちなみにこれは戦争が終わってから至急された品だったりする。持ったことはなかったが、これで他の鎮守府にいるやつらと電話できるのは便利ではある。

 

 

とりあえず私と菊月が持っているやつとは大きさも造りも違う。菊月が手に取ったカタログをちら見してみるが、なにがなんだか分からない。プロセッサ? コア? CPU?

 

 

とりあえず展示品を手に取って触ってみる。側面のボタンを押すと、電子画面が色づいた。画面に触れて、ロックとやらを解除してみる。画面内で小さなネズミのキャラクターが動き回り始めた。

 

 

長月「お、おおっ、なんかすごいぞ!」

 

 

菊月「私達のより高性能なのは分かる、な」

 

 

色々と触ってみて、機能を試していく。それでもよく分からないが、便利そう、というのは伝わった。だが、こんなうすくて画面が大きいの落としたらすぐに壊れてしまいそうだ。そんな不安も解消、といわんばかりに、フィルムやケースが並んでいる。そういえば卯月のスマホはこれと比べて馬鹿でかいな、と思ったが、こんなケースに入れていたからか。

 


龍驤「お待たせ。当日券あったから用意してきたで。開演まで一時間くらいやな。それで二人してスマホいじくり回してどしたん。興味が出たの?」

 

 

菊月「見学できるんだな。感謝する」

 

 

長月「なあ、便利そうだし、買ってもいいか?」

 

 

龍驤「うちとしては今持っとるので十分やと思うけど、時代やろなあ。オーケーは出るやろうけど提督に聞いてみるから待っとき。後、お前らそれ高いで?」

 

 

長月・菊月「このくらい持ってきてる」

 

 

財布の中身を見せると、龍驤が「持ちすぎ」と辛辣な口調でいう。いくら持ち歩けばいいのか、分からなかったので、ちょうど近くにいた電に聞いたんだよな。今思うとあいつも私達よりの世間に疎い側だから間違っていた気がしないでもない。龍驤が司令官と数分会話した後、いう。

 

 

龍驤「いいよ、だってさ。ちなみにお前ら、外に出る時はその10分の1くらいでええ。提督はそこ気にしとったわ」

 

 

長月「私達が支払うんじゃないか。問題あるのか?」

 

 

龍驤「そこらは複雑なんよ。施設出の一部の管理責任は提督にあるからなあ。その中に未成年への教育面もあるみたい。本来ならその道の人がつくんやけど、うちのところは提督と鹿島でやってる。海での任務と同じく、街でもなにか問題が起きたら提督が責任追及されるんやでー」

 


菊月「もしかして私達は金銭感覚もおかしいのか?」

 

 

龍驤「そんな大金を持ち歩いている小学生は異常やわ。うちがお前らの歳にもらってたお年玉の何倍やっちゅうねん。まあ、そういうところも学んでかなあかんかなー」

 

 

学ぶべきことが多過ぎて放り出したくなるほどだ。

とりあえず菊月と二人で携帯を変えた。店の店員の言語は日本語とは思えない程に訳が分からない。龍驤が対応してくれたが、それでも四苦八苦してかなりの時間がかかった。ちなみに龍驤も店員に強く進められて、スマホを買っていた。

 

 

どう見ても丸め込まれて買わされたように見えたが、本人は否定した。龍驤いわく「携帯電話は携帯できて電話できればええけどさ、サラトガがラインやれやれうるさいねん」とのことだ。ラインってなんだ。そもそもこれはスマホというやつみたいだが、携帯電話とはまた違うのか?

 

 


 


地下へと続く階段を降りた。不安な気配がするのはこの階段の雰囲気が鎮守府にある例の部屋と似ているからだろうか。あの部屋を見た時に、私と菊月もフレデリカの悪行には気がついていなかっただけに衝撃を受けた。

 

 

しかし、あの地下の冷え込んだ拷問室兼実験室とは違い、ここは活気のある人がたくさんいて不気味な感じはなかった。

 

 

受付でチケットを出して、半券を受け取る。カウンターの横にあるガラスケースの中には女の写真や、光る棒とかのグッズが売られている。これは要らん。なにが良くて売れるのかも理解に苦しむ商品だった。

 

 

昨日のテレビで見た会場と比較すると、空間は大きいとはいえず、100人入れば満員といった具合で、奥のステージの床は私のお腹くらいの高さにある。ステージの上には照明と、巨大な液晶の画面が備え付けてあった。さっきスマホに夢中になっていたせいだと思う。私の持っているスマホよりもかなり画面が大きいが、あれはどうやって電話するんだ、と考えてしまったのは内緒だ。

 


私達は後ろの壁際に行って、背中を預ける。3人だけの単横陣を組ながら、開演の時を待った。

 


観客席の照明が消えたと同時に、歓声が上がった。ステージに動きにくそうなメイド服と猫耳のカチューシャをなぜか2つつけた高校生くらいの少女が現れる。その女が急に猫の鳴き真似をした瞬間、男達が羽織った服を脱ぎ捨てて、薄着になり始めた。龍驤と菊月が目を丸くする。私も状況が理解できない。私はたまたま前にいる男の背中にプリントされているハートマークの中にある文字列に目が行った。



『一生ご奉仕☆ニャンニャンメイド魂』

 

 

誰か助けてくれ。日本語なのに意味が分からないんだ。

 


ポップな感じのミュージックとともに女の子は歌い始める。子猫のような甘えた声で、こちらの鼓膜を砂糖で溶かしに来るかのようだった。あの奇妙な歌は攻撃か?

 

 

驚愕は止まらない。観客の歓声が爆発し、各々が同じタイミングで高く跳び跳ね、音楽の緩急に合わせて身体を奇怪に動かせ始め、地面の揺れさえ巻き起こしている。空間そのものがシェイクされているかのようだ。おえ、酔いそうだ。

 

 

激しく上体を反らし、手足を大きく動かしながらも、なぜか身体がぶつからず、集団はキレと勢いに溢れて踊り狂っている。間隔を少しでも間違えば隣のやつの顔面に拳を打ち込み、大惨事だぞ。一体どれだけの訓練を積んだのだ。

 

 

「ニャンニャン! メイド・魂!」

 

 

爆発の歓声と、縦横無尽に動く四肢、それに飛び散る汗だ。会場内にはむわっとした湿気が立ち込めていて、好ましくない臭いに満たされつつある。この空間の全てが理解不能だった。ただここが海ならば、迷った時間は命取りに匹敵している。私はもう深海棲艦に沈められているのは間違いない。

 

 

龍驤「あ、あかん! うちには堪えられへん!」


 

龍驤が脱兎のごとく外へと避難した。そんな馬鹿な。歴代軽空母最強ともっぱらのあの龍驤が恐れを成して逃亡するだと。

 

 

菊月「長月……すまぬ。龍驤の護衛は失敗だ」

 

 

長月「確かに度肝を抜かれたが、また逃げてなるものか。街に適応するという任務もある。なんとかここのやつらに順応して、街の普通に溶け込むぞ」

 

 

私達は意を決して、一歩を踏み出した。私達の素質をみくびってもらっては困るな。難解な踊りではあるが、一度じっくり見れば覚えることなぞ造作もない。

 

 

菊月「この菊月、この程度では沈まぬ……」

 

 

菊月は海でいえばすでに中破の損傷をしているようだが、果敢に突撃するその勇姿はさすが菊月と褒める他ない。

 

 

長月「長月、突撃する!」

 

 

振り付けを真似して菊月と踊り狂ってみる。それが一時間ほど続いて、死にそうになった。お互いがお互いに腕をぶつけてしまったが、それでも今度は撤退はせずに、戦い抜いた。

 

 

なんだか迷いは吹っ切れて、空でも飛べそうな解放感に包まれた。ステージが終わると、女の子が「MVPは君達だ!」という言葉とともに手提げから猫耳を2つ放り投げた。それを私達は受け取り、頭にかぶる。周りの男達が再び歓声をあげた。反応的に私と菊月にはこの猫耳が似合っているようだ。

 

 

長月「ああ、お前も体力があるな。深海棲艦ともやりあえる素質持ちだ。この猫耳は祝いとして受け取っておこう」

 

 

菊月「それでは、失礼する。また会おう……」

 

 

せっかくなので猫耳をつけたまま、会場から去るかな。私と菊月はカウンターの横にある女の子のサイン入りの写真とCDを1枚ずつ買うことにした。

 

 

外に出たところにあるベンチで龍驤が死んだように呆けていた。それほど衝撃的だったのか。菊月が隣に座り、スマホを触り始めた。おお、菊月が街の女の子に見える。なんだか近代化改修されていくような気分だ。

 

 

警官「あ、おはようございます! またお会いしましたね!」

 

 

昨日に会った警官が自転車を停めて、また敬礼する。私達を見て「微笑ましいですね」と笑った。龍驤のほうを見て、綺麗な敬礼をした。

 

 

警官「警官としていいますが、駆逐艦の方だけで街をうろつくのはオススメしませんよ。不都合がなければ、どなたか大人の方の随伴でお願いしたいところです」

 


龍驤の魂が更に抜けたような気がしたが、「誰が航空駆逐艦やねん」と突っ込んでいたところを見ると、天には昇っていないようだな。なんとか全員で鎮守府に帰投できそうだ。

 


帰投したら、戦果の報告をした。間宮亭で買ってきたCDを流して覚えたダンスを、卯月と司令官と瑞鶴とわるさめに披露した。司令官はその猫耳似合いますね、と、瑞鶴は踊り上手いね、と褒めてくれた。卯月とわるさめは報復絶倒していた。龍驤はカウンターの席で、虚ろな顔でちびちびと酒を飲んでいる。

 


そうそう、翌日から龍驤は私達についてこなくなった。無理もないが、どうやら完全に撃沈してしまったようだ。

 

 

ちなみにこの踊りは攻撃ではなく、オタ芸というらしいぞ。

 


【8ワ●:扉は常に開かれるのを、待ち続けている】

 


オタ芸を学ぶことで身体の動かし方にキレと抑揚がついて、大きな声も張り出せるようになり、日々に修練を重ねて明石さんや鹿島からも高評価をもらえた。

 


最初は歌や踊りをしていると多少の羞恥を感じていたものの、その人目も全く気にならなくなってきたし、良いことだらけだ。台風も私達に臆したのか急に逸れていって、風がやや強い程度で済んだしな。気分は天気と同じく雲1つなく晴れやかだ。

 


街の喧騒に流されながら、狭い空を見上げた。

 

 

音楽というのも少しだけ分かってきた気がする。江風のいうハートが近いか。そこの道路にいる小鳥の囀り、車が小石を弾かす音、看板に強い風がぶつかる音に、溢れ返る人々の足音その全てが生活という音楽のリズムだ。感性に任せてそのテンポに言語のビートを刻めば、即興でオリジナルの歌さえ口ずさめてしまう。

 


菊月が少し跳ねたり、ステップ踏んだり、くるっと回転して陽気に「ニャンニャンメイド魂ー」と歌った。菊月がこんな風にはしゃぐのも珍しい。その歌詞には魔法の力がある。意味はいまだに分からないが、熱い想いは伝わる。音楽はこの力で国境を越えていくんだろうな。

 


提督「微笑ましい。平和ですねえ」



今日は司令官がついてきている。龍驤がバトンタッチを申し出たらしい。デニムとかいうズボン、白いシャツに薄い生地のニットを着ている。

 


長月「司令官、最近はなんだか雰囲気がかっこよくなっている気がするぞ。少し洒落た感じがするな。そんなイメージはなかっただけに意外だ」

 

 

提督「ファッションとか興味ないです」

 

 

菊月「そんな感じはするな……」

 

 

提督「卯月さんとわるさめさんと瑞鶴さんが買ってきたんです。押し付けられたといいますか。私らの上司なんだからしっかりしてくれないと、私達まで変な印象持たれるじゃんとか。キチッとして、と」うんざりしたような顔でいう。「服に少し皺があるだけでだらしがない印象を持たれるとか、満員電車にも乗れないじゃないですか。神経質としか思えませんね……」

 

 

長月「身だしなみはキチッとするべきだ。第一印象というのは大事だと、私達は街に出た初日に改めて学んだことだ」

 

 

菊月「司令官はもう少し肉をつけたほうがいいな。スラッとした感じではあるが、雰囲気的に不健康感が否めぬ……」

 

 

長月「まずは3食きっちり食べたほうがいい。食事は活力だぞ。艤装に例えると低燃費は良いことではあるが、それで動作不良を起こしたら元も子もないだろ?」



提督「それはそうですが」

  

 

提督「ふむ、あなた達は思ったよりも順応していくのが早いですね。やっぱり卯月さんの影響かな。あの子は街の流行りとかにも詳しいですし、音楽の一件も良い影響を与えてそうですね」

 

 

長月「……まだ問題は解決していないままだ」

 


提督「今日は学校をちゃんと見学してくださいね。ちょっとあなた達が街の子達と触れ合う光景が自分も楽しみです」

 

 

菊月「なあ、前に相談した件だが、なにか策……」


 

長月「アドバイスはないか?」



司令官は、少しだけ驚いたような顔をした。「情報を分析してますのでしばしNowLodingです」と少しの間、タイルを鳴らす足音だけが続いた。

 

 

提督「質問なのですが、なぜお二人はそのやんちゃな子を責めるのですか?」

 

 

長月「間違っているのは向こうだろう……」



提督「では、少しそこのベンチに座りましょうか」司令官は自販機でジュースを3つ買うと、私と菊月に1つずつくれた。「そうですね、深海棲艦と艦娘に例えて考えてみてください」



深海棲艦と艦娘に例えて考えろ、といわれた、まず当てはめたのは虐げられている少年が艦娘で、虐げているやんちゃな少年が深海棲艦だ。ならば私達は仲間を守るために深海棲艦のほうのやんちゃ少年と戦うべきではないか。

 

 

その考えをいうと、司令官は「どうして中枢棲姫勢力とは仲良くなれたのでしょうか。彼らにだってこっちの兵士はたくさん傷つけられたのに、どうして我々は敵と手を取り合えたのでしょうね」と不思議そうに首を傾げた。その仕草は、ずいぶんと芝居がかっている。

 

 

長月「む、難しいぞ」



菊月「分かる。中枢棲姫勢力のことをたくさん聞いてから、私は彼等を人間だと思っている。彼等の心を知ることが出来たから私達は手を取り合えた」菊月がそう答えた後に、難しい顔をして腕を組み合わせた。「そういうことか?」



長月「どういうことだ?」



菊月「確かに弱き者も助けるのは善行ではあるが、私達は盲目的にそうしているに過ぎないということだ。なぜならば私達は彼等のことをよく知らないからだ。だから深海棲艦に当てはめて、行動をしたが……」菊月はいう。「そのやんちゃなやつが中枢棲姫勢力のような存在である可能性はないか?」

 


長月「……なるほど。確かに私達はやんちゃなやつのことをよく知らないな。もしかしたら、あの連中をもっと知ることでなにか解決策が見つかるかもしれないってことか」


 

菊月「司令官、そういうことか?」

 

 

提督「どうでしょうねえ……」



菊月「なんなのさ……」

 

 

そう言えば江風やサラトガさんと話をした時に、私達が持っているドイツやイタリアのイメージはほんの一部のことでしかないといっていたな。それと同じく私達はあいつらのことを一部でしか見てないのかもしれない。

 


菊月「ところで司令官、目の前のあれはなんていう店なんだ?」



提督「チェーンの雑貨屋です」



菊月が見ているのは店頭にあるドッジのボールかな。私はそっちよりも、その斜め上の棚にある三日月のクッションが欲しい。



提督「ボールとクッション、欲しいんですか?」



なぜ分かる。そんなに露骨に凝視していたのかな。



菊月「今は物欲に負けている場合ではない」



長月「そうだな。色々とどうしたものか」



司令官がベンチに座ったまま、後ろを指差した。ガラスの向こうには雑誌が並べられている。司令官の親指の先にある求職系の雑誌にはこうキャッチコピーがあった。扉は常に、開かれるのを待ち続けている。

 





校門では、白髪の初老の男性が立っていた。司令官が丁寧にお辞儀をした後に話を始める。案内されて通されたのは職員室ではなく、校長室だった。豪華で上品な質感のある檜の壁には、賞状が額縁に入れて飾られている。私達は黒革のコの字のソファに並んで座った。

 

 

上品なティーカップが置かれて、中身はシナモンの香りのする紅茶だった。司令官は校長と名乗った男性と握手をしていた。司令官は珍しく笑っているが、それが私達にも作り笑顔の社交辞令だと分かる。鎮守府にいるこの人はこんな好意的な笑顔を皆に浮かべないからだ。少なくとも私は見たことがない。

 

 

校長の話を聞いていると、納得した。前に鹿島や明石さん、大淀が間宮亭で飲んでいる時の話で聞いたことがある。今の司令官は世間では相当な有名人らしい。着任一年から海の傷痕戦までのむちゃくちゃでドラマチックな物語は話題性があるみたいだ。司令官の名前も珍しいからな。英語圏の外国人も覚えやすくて良いと思うんだが、どうも本人は気に入ってはいないみたいだ。


 

司令官は校長ともう少しお話をしてから合流するとのことで、私達は女性の職員の案内で校舎内を見学することとなった。

 

 


 


鎮守府の支援施設よりも汚かった。クラスを覗けば必ず5人ほどの机の中は教科書がびっちりで、プリントが垂れるようにはみ出していれば、机に落書きもあった。教科書を立てて内職するやつは今もいるんだな。なんだか昔とあんまり変わらないな。スマホを触っているやつもいる。あれは暇潰しになるよな。私も持っているからな、気持ちは分かるぞ。


 

外のほうを見下ろすと、グラウンドでは体育の時間らしく、3人一組でサッカーボールをパスしている。女子は縄跳びをしていた。やはり座学よりも身体を動かすほうが見ているのも楽しい。混ざるなら縄跳びよりもサッカーかな。


 

提督「お待たせしました。どうです?」

 

 

司令官が向こうの階段から現れて、小声で聞いてくる。授業中だから、小さな声で喋っているようだが、もともと小さな声を更に小さくされたら聞き取りにくいぞ。

 

 

長月「イメージとはあまりズレていない」

 

 

菊月「む、オオカミがいるぞ」



本当だ、オオカミがいた。もうあいつの名前はやんちゃでいいか。あいつも私達のこと緑と白って呼ぶしな。

 

 

提督「あー、例の人ですね。どの子です?」

 

 

菊月「あの背が高くてタンクトップ着ているやつだな」

 

 

オオカミがいるのは工作室で、粘土でなにかを作っているようだ。オオカミは角張った生まれたてほやほやの状態で「出来た。豆腐」と完成を告げている。「豆腐の角で頭をぶつけてしまえ」と先生からはやり直しの声がかかる。そりゃそうだ。

 

 

続いては粘土を丸めると、カッターで模様をつけて文字を掘り始める。moltenの英文字だ。ドッジボールが好きなのは分かるぞ。セーフと先生の判断が出ると、他のやつの作品をからかって回っていた。こいつ、卯月と少し似ているぞ。


 

菊月「卯月と仲良くやれそうなやつだな……」

 

 

長月「同じ感想のようだ。ならオオカミは弥生とも仲良くやれるか?」

 

 

弥生は姉妹艦効果のおかげでやれてて、普段はずっとむすっとしてしまっていて、友達は少なかったといっていたな。弥生は口数が少なく誤解を受けやすいが、いいやつなんだ。

 

 

提督「ふむ……なるほど」

 

 

なにがなるほど、なのかは解せないが、司令官は口角をつり上げた。あからさまに悪い顔をしている表情は初めて見たな。

 

 

提督「卯月さんと明石君を足して割った感じと見ました。確かにあの子はやんちゃでしょうねえ……」

 

 

長月「だが卯月は誰かをいじめたりしないし、明石君は工作に関してはあいつより遥かにすごいだろう」

 

 

菊月「性格は似ているが、精神年齢が違う、か?」

 

 

と菊月がいった。まあ、確かにそうだ。本当に二人みたいなら、問題は初日に解決したはずだ。二人は悪いことは悪い、と認める強さを持っているからな。そういえばあの二人、地味に仲がいいんだよな。たまに二人で馬鹿話をして笑ってる。

 

 

私と菊月は1階のほうへと降りることにした。司令官は職員に入室の許可をもらっていた。事前に生徒には説明してあるので構わない、とのことだ。

 

 

長月「嫌な予感に限って当たるんだ」

 

 

提督「強く思うから印象に残って覚えているだけではないでしょうか。急いでいる時に限って赤信号、物欲センサーなんかも仲間だと思いますねー……」

 

 

聞こうとしていたことを聞かれまいと会話が誘導されたように思えるがまあいいだろう。さすがに下手な真似をして迷惑をかけたりするような人ではない。

 

 

この時はそう思っていたんだけどな。

 

 

そこらはさすがあの電に認められた司令官というべきか。なぜかこの後に江風とわるさめを呼び寄せて、あの事件は起きた。なにか考えがあってのことで間違いないだろうが、むちゃくちゃで、なにを考えているのか分からない。

 



 

 

保健室の前で女子が立ち話をしていた。二人ともなにか雰囲気が暗い。私と視線があうと、「あ、長月ちゃんと菊月ちゃん」だと指を指してきた。私達のことを知ってるのか。

 

 

聞いてみると、私達が学校に見学に来ることを親に話をしたら、両親から長月と菊月のことを色々と聞いたようだった。軍関係者とか軍艦好き以外は知ってても大和や赤城のような戦艦空母の有名どころだと思っていた。私達の知らないところでずいぶんと艦娘の話は盛り上がっているようだ。

 

 

長月「そういえば今はまだ授業中だろう。こんなところで油を売っていても大丈夫なのか?」

 

 

コブタを保健室に連れてきたところ、と答えた。コブタというのはあいつのことだろうか。気になったので詳しく聞いてみると、プールの授業で足を釣って溺れたので、保険係が連れてきたらしい。大事はないとのことだ。

 

 

長月「なあ、コブタはどんなやつなんだ?」

 

 

太ってる、よくからかわれている、という答えが返ってきた。それは知っている。クラスメイトもコブタのことをよく知らないのかな。菊月が、更に深く探りを入れた。

 

 

菊月「背の高くてやんちゃそうなやつがいるだろう。あいつからはよくからかわれているのか?」

 

 

うん、と答えた。止めて欲しいよね、と二人は顔を見合わせると「だよねー、仲良くして欲しいよね」とお互い相槌を打った。今日もイジメられたようで、なんかハサミで髪の毛を切られていたらしい。やり返さなかった、というのが私には衝撃的だった。どうしてそこまで耐える必要がある?



菊月「ありがとう。長月、あいつの見舞いにゆくぞ」



仲がいいの? と不思議そうに聞かれた。



長月「ああ、その背の高いやんちゃから私達の髪色を馬鹿にされた時にかばってもらったんだ。他人のために抵抗できるのに自分のためには抵抗しないってのは変な話だな」



へえ、コブタもかっこいいとこあるんじゃん、と女の子が感心したようにいった。おお、コブタ、分かるやつにはお前の勇気はしっかり評価してもらえるようだぞ。



二人と別れて、保健室の中へと入る。コブタは窓際のベッドに腰かけてぼうっと窓外の空を眺めている。歩み寄って、私は隣のベッドに座って声をかけた。



菊月「足を釣って溺れたらしいな。大丈夫か?」

 

 

「あ、ご心配なく。この通りです」

 

 

長月「今日は台風が休みにならなくて残念だったな。昨日の夜は強い雨風があったようだが、明け方には晴天だ」

 

 

「そうですね。というかお二人はすごい人だったんですね」コブタはいう。「前の集会の時は寝ぼけて話を聞き流していましたけど、クラスの人の話が聞こえてきたんです。まさか対深海棲艦海軍の軍人だったなんて……」

 

 

菊月「周りが勝手に盛り上がっているだけだろう。私達は海で戦い抜いたことを誇りとしているが、勲章はあまり持っていないんだな。私達の鎮守府では電ってやつが一番だ」菊月は自慢気にいう。「対深海棲艦日本海軍はその中から何人かは勲章がもらえるとか……」

 

 

あれは驚いたな。電の話は司令官以上に注目されている。兵士となった優しい志望動機から、姉妹艦の殉職、実験による絶望の過程、沈めた深海棲艦の数は1位で、数々の海域を奪取したことに加えて、最後には海の傷痕の首級を挙げた。そのドラマチックなストーリーは世の中に大きく反響を呼んでいる。電はよく思っていないようだがな。本人いわく一般人希望の私が目立ってもいいことねーのです、とのこと。

 


「どうりで女の子なのにすごく凛々しいわけだと思いましたよ。きっとあなた達なら僕が置かれている苦境はなんなく乗り越えてしまうのでしょうね……羨ましいです」

 


まあ、姫や鬼の深海棲艦と比べたら、なにも怖くない。このコブタのようにびびっていたら、作戦に支障を来して、ロスト空間行きだ。だが、話を聞いていて分かる。

 

 

長月「そんなことはない。お前はオオカミにいい返そうとした時に震えていたな。私と菊月も初陣の時はそうだった」

 

 

こいつのように恐怖に足がすくんでいた。話し合いが通じず、命のやり取りをその身が尽きるまで続けるような相手と戦うのは、隣に菊月がいても怖かった。それと同じだろう。帰ったら卯月と弥生と、その頃は望月もいたか。恐怖を振り払うように訓練に明け暮れた。結果としてその時に味わった恐怖は私達に成長を促してくれたのだ。怖い相手にびびるのは、むしろ大事なことだ。

 

 

「睦月型の艤装は性能が低いって聞きましたけど、そうでもないんですかね」


 

菊月「素質部分は除くが、性能は基本的に低いぞ」


 

長月「だが私達は低燃費だし、遠征では重宝されていた。深海棲艦との戦いを支える力は高かったんだ。そうだな、昔に金剛型と演習した時のことだ」いう。「金剛型は高速戦艦であることを自慢していたが、私達は37ノットの速力で逃げに徹したら、追い付いてこられなくて泣きそうな顔をしてた」

 

 

ちょうど今の金剛が新兵の時か。ムキになって砲撃を繰り返していた。私達は回避に徹して、被弾は中破で済んだ。金剛は維持でも追い付こうとして、しまいには燃料と弾薬切れを起こして浮き砲台と化した。私達が戦艦を倒した痛快な話だ。

 

 

菊月「私達がそうだったように、お前にはお前のやり方が見つかるはずだ……」

 

 

長月「ところでお前にとってあのやんちゃはどのくらい怖いんだ?」

 

 

私は聞いてみた。どのくらい怯えているのだろうか。初陣の時、姫や鬼に目をつけられた時、嵐に襲われて沈みそうになった時、キスカで決死した時、私達は死と隣り合わせの海を何度も味わってきている。

 

 

「海の傷痕、くらい?」

 

 

強すぎる。ラスボスじゃないか。


 

長月「お前、そいつの名前をすぐに出したが、どれ程ヤバいやつか知ってるのか……?」

 

 

「あいつは僕にとってそれくらい強いんです。ああ、だるいです。あいつに虐げられない生活が送れるのなら僕はどうなったっていいです」

 

 

ため息をついた。幸せが逃げてしまうぞ。

 


「学校も憂鬱だ。明日が日曜日なのが救いです……月曜日ホントに嫌いだ……」

 

 

菊月「執行猶予は1日で救いなのか……」

 


私も新兵の頃はこんな風に不安ばかりな時もあったな。仲間がいなければ、絶対に色々なモノに負けてたと思う。

 

 

ただこいつにとってのオオカミが海の傷痕級だというのならば、1つだけ分かることがある。人間が束になって、やっとの思いで勝てた程の相手なのだ。一人でなんて絶対に勝てやしない。決死の勇気を持った多くの兵士と、緻密な作戦を立てる司令官が必要不可欠だろう。

 

 

【9ワ●:抜錨準備をしなければ】



コブタを連れて、出向いたピロティにはやんちゃのグループが前と同じくドッジをやっていた。ただ向かい合っている勝負の相手は、司令官と、江風と、わるさめだった。



わるさめ「あ、長月ちゃんと菊月ちゃんが来ました、はい」とわるさめは控えめな声でいう。「私、運動が得意じゃないので変わってくれませんか……?」

 

 

長月「誰だお前は」

 

 

わるさめ「ひゃう……」

 


菊月「わる……春雨の頃の性格だな」

 

 

ああ、言われてみれば昔はこんな感じの性格だったな。わるさめのほうがはっちゃけ過ぎていて忘却の彼方に飛んでいった記憶だった。司令官と江風が、あからさまな猫被りにどん引きしている。オオカミがいった。

 

 

「あ、春雨さん、ならこっちのチームに来ませんか?」

 

 

オオカミが敬語を使っていることに驚いた。なぜかわるさめにとろけるような視線を送っている。わるさめが「ごめんなさい。ここで応援してますね。誘ってくれてありがとうございます」と礼をいって笑うと、オオカミの頬が少しだけ赤くなる。

 

 

わるさめは天使のような笑みを浮かべた。くるりと180度回れ右をした途端、へっ、と口角を釣り上げて、悪い顔になる。春雨ちゃんモードだとやっぱ男はちょろいな、という邪悪な声が聞こえたんだが。

 

 

江風「提督さん、とりあえずわるさめは置いておこうぜ。それで長月と菊月、提督さんから話は聞いてる。見た感じ、そいつが前に話してた連れだろ?」

 

 

菊月「ああ」

 

 

江風「そっちのチームに入れよ。こっちは提督さんと江風の二人でいい。おい、わるさめ、お前は外野な。それでそっちはその10人で。ま、このくらいのハンデで対等だろー」

 

 

長月「なんだと?」

 

 

提督「やれやれ、こちらは長月さんや菊月さんの上を行く運動神経抜群の江風さんに、文武両道の男性軍人です。やはり小学生相手だとまだハンデが要りますかね。なんなら利き腕で投げるのを反則にしても構いませんよ。自分は強すぎますからねえ」

 

 

菊月「お前も誰だ……」

 

 

司令官は軍人のくせに運動オンチだろ。少し走っただけで息が切れるくせになにがハンデだ。なぜかは知らないが、珍しく司令官が調子に乗っている。

 

 

わるさめ「司令官、がんばってくださいです、はい♪」

 


江風「江風の応援もしろよな!」

 

 

わるさめ「はいはい。がんばー」

 

 

提督「まあ、完封ですかね。わる、春雨さんは外野にボールがいったら、奪われないように内野に向かってパスしてくれるだけで構いません」

 


作戦まで漏らすか。

その司令官の煽りにオオカミはイラッと来たのか、むっとした顔をするが、司令官がにこり、と笑うとすぐに視線を背けた。酷い話ではあるが、司令官は生気が薄くて幽霊のような印象がある。そのせいか目が合うと呪われそうな気がして怖いんだよな。

 

 

長月「おいやんちゃな少年ども、司令官が腹立つから私はこちらに入るが、足は引っ張るんじゃないぞ?」

 

 

「いやいや、緑、俺らはお前らが毎日海に出ていたのと同じようにここでドッジやってるから、お前らこそ下手な邪魔せずに隅で縮こまっていろよ」

 

 

減らず口を。

 

 

菊月「コブタもこっちだ。この菊月と互角にやりあえるお前なら江風だって倒せるかもしれないな」

 

 

「あ、はい。でもあの准将さん、ですよね。江風さんは甲の第1艦隊のメンバーじゃないですか。強いでしょ……」

 

 

長月「やる前からびびるな。江風は強敵だが、司令官のほうは張りぼてだからな。あの男は運動が得意ではない」

 


といっても体力と性格に難があるだけで、軍では考える力と予測をつける力はワールドクラスだ。決して侮っていい相手ではないが、あの馬鹿じゃないとひっかからない煽りは何のためだ。どうして江風とわるさめを呼び寄せたんだ。

 

 

提督「ふふ、悩み事でも増えましたか?」

 

 

こっちを見てにやついている。あったま来た。

 

 


 

 

そんな馬鹿な、と思ったのは恐らく私のチーム全員だ。確かにハンデをつけられて互角だ。司令官はすぐにアウトになって外野に行ったが、そこからが問題だった。江風はどんなボールを投げても受け止めて、外野への甘いパスを見逃さずに自ボールにする。しかも、投げたら必ずこちらの誰かがヒットしてしまうほどの強烈な投球だった。

 

 

江風「いやいや、まあまあ強いと思うぞ。そこのやんちゃ少年と長月、菊月はまあまあだな。チームワークがしょぼい。それと受け方がそこの太ったやつ以外は反応が遅すぎてダメ」江風はバスケットボールみたいに人差し指の上でボールを回転させた。「ここはピロティだ。天井があるから下手に上に投げるとさ、こんな風にボールは奪われちまうからな」

 

 

「腹立つな、この赤頭2号」

 


オオカミがぺっと唾を吐いた。汚いな。

 

 

「春雨さん、スンマセン!」

 

 

コートの中で小動物のように逃げ回っているわるさめに狙いをつける。ふむ、それはいい考えだ。わるさめさえアウトにさせておけば、向こうは江風一人になる。こっちはコート内にはコブタとやんちゃの二人が残っているので、昼放課のチャイムが鳴ればタイムアップでこっちの勝ちだった。

 


わるさめ「ひゃうっ」

 


投げられたボールは取りにくい右膝の下辺りに矢のように鋭く飛んでいく。わるさめは足を少し持ち上げて、足首に当てていた。ボールは山なりに飛んで、パスしたかのように江風がキャッチした。

 

 

わるさめ「あ、助かりました。ラッキーですね」わるさめは胸を撫で下ろした。「こ、怖かったです、はい」

 

 

嘘つけ。鉄の塊に被弾する毎日を送っていた私達がたかがドッジのボール程度でびびってたまるか。今のボールの輸送は絶対に狙ってやったとしか思えないぞ。

 

 

江風「それじゃ太った少年、行くぞー」

 

 

江風が投球をすると、コブタは器用に受け止める。私達の中であのボールが取れるの、コブタだけだったんだよな。私と菊月は、止められなかった。避けるべきだったが、江風が避けてもいいそ、だなんて煽るから変な意地が出てしまって外野へ送られることになった。

 

 

江風「お、おっと……」

 

 

コブタが投げたボールを江風は受け止めずに避けた。こいつ、投げるほうも相当上手いじゃないか。バウンドしたボールをわるさめがまたもや足でリフティングみたいに跳ねあげて、胸で抱き止めた。えいっ、という可愛いかけ声はあの地下アイドルと同じく甘ったるい猫なで声だ。

 

 

提督「はい」


 

いつの間にか司令官がホジショニングを変えていた。すぐに投球フォームに入って、オオカミの右肩にヒットしてボールは転がった。そこでゲームセットのチャイムの鐘の音が鳴った。こっちが生き残っているのはコブタだけで、向こうは江風とわるさめだから、私達の敗北だった。

 

 

提督「いや、春雨さんにいいところ見せたそうだったので、花を持たせてあげようと軽く投げたつもりだったのですが、強かったですかね?」

 

 

オオカミは歯を喰い縛った。江風が肩をすくめて「行き過ぎると大将と雷に知らせるぞー」というと、司令官はこの世の終わりみたいな顔をして凍りついた。まあ、あの二人には誰も逆らえないからな……。

 

 

「もう一回やれ」オオカミがいう。今にも司令官の胸ぐらをつかみにかかりそうだった。

 

 

提督「申し訳ありません。これから仕事がありますから鎮守府に戻ります。しばらくは来られませんね。ま、その程度では何回やっても同じですよ」すごい良い笑顔だ。「さて長月さん菊月さん、自分達は帰りますが、二人で大丈夫ですか?」


 

菊月「問題ない」

 

 

長月「ああ、いちいちついて回ってきてうっとうしかったくらいだ。私と菊月は別に二人で大丈夫だから心配は無用」

 

 

わるさめ「あ、司令官、どこかでご飯食べてこーよ。来る前に雰囲気の良い洋食のお店を見つけたんだ。江風、お前もついてくる?」

 

 

江風「そーだなー……時間はあるし構わねえ」

 

 

司令官達とは別れて、私と菊月は職員室に向かう。まだ見ていない体育館とプールを見学してから帰ることにした。卯月から、例のラインとやらでメッセージが送られてきた。

 

 

『お前らガッコだっけ。そこからなら三時間前には会場に向かうんだぞ。風邪も引いてないのにうーちゃんの晴れ舞台をすっぽかしたら許さんからな。バカヤロー』

 

 

一言余計だろ。口が悪いやつだな。

 

 

大丈夫、忘れてないさ。もともとそのために街で音楽や人々と触れ合っていたんだ。皆からも好評価をもらえた音楽のライブは夜の8時からで、7時には来るように那珂からも強く念を押されている。

 

 

やると決めたからやる。司令官とも約束したことだし、サラトガも楽しみにしているっていってたからな、本番には気炎万丈の勢いで望む。



といいたいものだが、また厄介事が目前で展開されていて、気合いにも冷水を浴びせられた気分だ。オオカミとコブタがケンカを始めている。無視できなかったのは、コブタのほうも熱くなっていたからだ。

 



 


オオカミ達とコブタのいい争いの原因はさっきの試合の敗因の押し付け合いだ。聞いている限り、コブタが江風を狙った時に外野にパスしていれば勝ってた、とかオオカミが吠えている。オオカミ達のがなりたてる一体感は、地下のコンサートで躍り狂っていた男達のように一心同体だ。

 

 

菊月「愚か者め……江風をアウトに出来そうな投球が出来ていたのも、江風のボールを受け止められたのもコブタだろう。あそこはあれで問題ない……」菊月が間に割って入って、オオカミを睨み上げる。「情けない真似は止めろ」

 

 

長月「敗北の理由を探るのは結構だが、誰かのせいにする必要はない。お前らはなぜ同じ戦場で肩を並べた味方を責めようという発想になるんだ?」

 

 

「お前らも全然ダメだったじゃねーか」

 


長月「それはそうだが、お互い様だろう。私は次に勝てるように精進しようと思うんだが、お前は負けた苛立ちを誰かにぶつけたいようにしか見えない」

 

 

「お前ら海で戦っていた時も、そんな考え方してたんだろ。だから、お前らは他の誰かの力を当てにしてたザコだったんじゃね。周りのやつもそうやって甘やかしてきたんだ」オオカミの全身の毛が逆立って見えた。「江風だっけ、あいつのところは強そうだが、お前らの鎮守府はごっこみたいに傷の舐め合いばかりしてたザコの集まりじゃねーのか」

 

 

長月「――――あ?」

 

 

皆を馬鹿にされるのは我慢がならなかった。こいつにあの海のことのなにが分かる。そう思った途端、自然と固まった右拳がオオカミに向かって撃ち放たれていた。

 


菊月「長月」菊月がその拳を手のひらで受け止める。「堪えろ。いわせとけばいいさ」

 

 

長月「こいつに関してはずっと堪えてきた。菊月、お前だってそうだろう。こいつは狭い世界で王様気分だ。1度、痛い目を見ないといつまでも人をないがしろにするぞ」

 


不意にドッジボールがオオカミの顔面にヒットして、上体が逸れた。ピロティのコンクリートに跳ねて転がる。そこでようやくコブタが、オオカミに向かって反撃したことに気付いた。

 

 

「戦争してたんですよ。それに勝って世界を救った二人の鎮守府がザコなはずがないでしょう。お前ならきっと僕みたいに深海棲艦の映像を見ただけで、びびって冷や汗をかく。キスカでのことは知ってますか。この二人の功績が、戦争終結へ橋をかけたといっても過言じゃないです」

 

 

そんな細かいところまで知ってたのか。少し驚いていたから、オオカミの反撃への対処に遅れてしまった。勢いよくコブタの顔面に左拳が滅り込んだ。コブタは尻餅をついて、鼻を押さえる。鼻が本物のコブタのように腫れてしまっている。

 

 

2撃目は私が止めて、オオカミを睨み上げた。う、とたじろいだような声を出すと、軽く舌打ちして身を翻した。「公園に行こうぜ」と皆はピロティの隅に乱雑に置いたランドセルを取って、校門からぞろぞろと出ていった。

 

 

「コブタ、明日の昼放課は覚えてろよ」とオオカミは最後に吐き捨てて去っていった。明日は日曜日で学校は休みだぞ。

 

 

「……ああ、とうとうやってしまった」コブタの顔面が蒼白になった。絶望一色だ。「反撃してもこうなることが分かってたから、大人しくしてたのに。また殴られる……」

 

 

明日だけでもいいから台風旋回してこっちに戻ってきてくれないかな、と呟いた。だから明日は日曜日で休みだろう。お前も冷静になれ。

 


長月「お前なめられてるぞ。もっとやり返すべきだ。本気で戦えばあいつだって懲りるはずだ。反撃する勇気はあるじゃないか。他人のためにいい返す優しさも持っている」

 

 

「もっと酷くなってずる休みしてしまったり、ケンカして大事になれば、母さんに迷惑をかけたしまうから出来ないんです。僕が耐えていれば、波風は立ちません」

 

 

菊月「……なるほど。そういうことか。ならば、かばってもらった恩、ここで返そう」

 

 

菊月は意気揚々と踵を返した。なにか重要な任務に選抜された時のように凛々しい表情だった。校門に向かって歩いて、オオカミ達の後を追う進路を取った。なにをしようとしているかは分かる。菊月も我慢の限界だったのだ。

 

 

長月「やってられないな……」

 

 

何故だか急に全てが馬鹿らしくなりつつある。

 


どうやらあのオオカミは中枢棲姫勢力ではないようだ。中枢棲姫勢力は一緒に戦った味方をあんな風に殴らないし、宿敵だった海の傷痕:此方にすら祝福をした器の大きな偉大なる兵士ではあるのだ。

 

 

だが、あいつとは手を取り合える気がまるでしなかった。ならば結論はただの深海棲艦だ。ならば交戦する必要がある。私達が傷の舐め合いをしていただけのザコではないことを、叩き込んでやるかな。

 

 

暴力はいけないこと。そんなのは分かってる。だが、時には攻撃性を必要だ。怖い顔をした菊月とは違って私は顔に出ていないはずだが、私は頭では別のことを考えていた。

 

 

司令官にはオオカミとコブタのことも前以て話してある。恐らく、図工の時間にオオカミと会話をしてドッジボールの約束をして、わるさめと江風を呼び寄せた。あんな風に煽ってオオカミが怒る可能性を考えない程、抜けているとは思えない。

 

 

なんだか手のひらで踊らされている気がしないでもない。私はむしろ司令官のほうに腹が立ちつつある。なにが狙いか知らないが、1つだけ、明らかなことがある。

 


 

 

――――子供に見られている。

 


まあ、私と菊月は身体は小さいし、街では正しく子供のように新鮮なモノに触れる毎日があるが、すぐに理解もしていけるし、大人の判断というやつも分かる。

 

 

なんだかムカつく。

 

 

4

 

 

「……痛っつ! 急になにすんだ緑頭!」



さっきのお返し、と一発だけ殴った。痛みを感じるところを狙ったが、怪我はさせないように加減を施したつもりだ。訓練という傷つけ傷つけられる毎日の中で、その辺りは身体に染み付いている技術の1つだった。


 

長月「平手打ちではなく、グーで殴った意味が分かるか? オオカミ、女だからとかそういうのはいいからかかって来るといい」

 

 

菊月「ああ、殴る限りは殴られる覚悟はある。そして殴られた理由に心当たりはあるな?」

 

 

「あり過ぎてどれのことだかわかんねえが、俺はやられたからやり返す主義だ。気に食わなかったし、ちょうどいい」

 


予想通りのことが1つと、予想外のことが2つある。

 

 

予想通りのことはケンカが始まったといいことだ。オオカミは相手が女だろうとやり返すやつだとは思っていた。そして予想外なのは、意外とこいつに人望があったことだ。周りのメンバーも参加してきた。さすがに建造効果のない私達二人で10人を相手にするのは、厳しいものがあった。

 

 

菊月「く、う……!」

 

 

そして予想外だったのが、オオカミがケンカが私よりも強かったということだった。構えはボクシングで、左利きか。見よう見まねの荒さを感じるが、こいつ、体さばきに関しては才能がある。卯月の砲撃を初めて見た時と同じ感想だ。ヤバいな。これは恐らく私と菊月だけでは無理だ。

 

 

さばいて投げて、怪我させないように気をつけていても、向こう連中は体力ある限り立ち向かってくる猪だ。しまったな。根尽きるまでかかってくるか。子供の感情の爆発をなめていたようだ。


 

7人は再起不能にさせたが、こっちも相当、負傷した。こいつら、本当に容赦ないな。髪を引っ張られて、爪でひっかかれて、顔面を殴り飛ばすわ、腹にトゥーキックしてくるわ。

 

 

長月「……」

 

 

膝の力が抜けて、尻餅をついた。オオカミがいう。

 

 

「負けた理由を数のせいにしないんだな。そうだよな、お前らが戦ってきた深海棲艦は、基本的に数で負けてたみたいだしそれが普通か。そろそろ、敗けを認めれば?」

 


長月「……まあ、お前なら一撃くらい本気でもいいか」

 


立ち上がる。こいつの体さばきなら、本気で攻めても一撃くらいは耐えるだろう。勢いよく引いた左の拳と同時に、前屈みになって懐に入り込んだ。頭の上を通過した腕を、両手でつかんで、身を翻した。腰を腹にぶつけてくの時になったオオカミを一本背負いの要領で地面に叩きつけた。

 

 

オオカミが苦痛に顔を歪めたと同時に、遠くからサイレンの音が聞こえた。あ、ヤバい。もしかして通報されたのかも知れない。「逃げろ」と誰かが声を張り上げると、クモの巣を散らしたかのように皆は公園から逃げ始める。

 

 

「くっそ、お前らも後で覚えとけよ! お前らの鎮守府まで行って仕返ししてやるからな! つうか、捕まると面倒だからお前らもさっさと逃げろよ馬鹿野郎!」

 

 

タフなやつだな。痛みでのたうち回るほど痛かったはずだが、すぐに起き上がって、荷物を片手に逃げていった。

 

 

長月「菊月、大丈夫か。酷い顔だぞ」

 

 

菊月「実は少し痛かった……髪を引っ張られるのは敵わん。しかし、呆れたやつだな。あれほど強ければ、王様気分になるのも頷ける……」

 

 

長月「……とりあえず私達も逃げよう」

 

 

少し無鉄砲過ぎたか。そろそろ、会場に向かわないとダメな時間だった。捕まれば多分、間に合わなくなる。神社のほうに走って、遠くまで走った。2キロほど逃げた先の空き地に入って積み上げられたドラム缶の上に腰を下ろして休息を取る。 

  

 

「おっす。酷い顔をしていますね」

 

 

背後から声が聞こえた。ドラム缶に背中を預けて地べたに座りながら、ルービックキューブの色をガチャガチャと合わせている。こいつは、見覚えがあるぞ。見た目は島風だが、上から黒いパーカーを羽織っている。

 

 

菊月「島風……? なぜお前がここにいる?」

 

 

「ここね、私の思い出の場所だからかな。落ち着く」

 


長月「ふうん。まあ、そんな場所あるよな。私と菊月にもある」

 

 

「ま、そういうのは置いておいて、やっちまいましたねえ。その顔ではステージにはあがれません!」

 

 

菊月「……ダメなのか?」

 

 

「世の中のことに疎いですねえ。テレビ番組にそんな腫れている上に血まで流れている顔では出られません。血はアウトなんです。その上、生放送なので絶対に無理です(ヾノ・∀・`)」

 

 

長月「なら、どうしたものか。卯月に迷惑が……」

 

 

「疎いですねえ。菊にゃんとにゃが月さんは戦争はどうして勝てたと思いますか。みんなの力があったからですよね。番組も同じでやり遂げるには大勢の人の力があるんです」


 

島風は肩を大仰にすくめて、茜空を見上げる。

 

 

「このままでは失敗してしまいますね。なので、卯月だけでなく、番組に携わる方や楽しみにしている視聴者の方にも迷惑をかけちゃいます。私も楽しみだったなー」

 


長月「菊月、私達はとんでもないミスを犯してしまったようだな……」

 

 

菊月「とりあえず行くしかあるまい……」

 

 

「待ちなって。私も驚いたんだけどー、今の技術ってすごいよね。お二人は化粧って知ってますか?」

 

 

長月「知ってるが、全く詳しくないぞ」

 

 

菊月「同じくだが、それがどうした?」


 

島風はパーカーのポケットに手を入れると、平ぺったい容器を取り出した。じゃーん、魔法のクリームです! と自慢気に胸を反らした。蓋を開けて、白いクリームを指先ですくいあげると、菊月の腫れた傷口に塗りつける。

 


菊月「痛っ!」



傷口に染みたようだが、クリームを塗りたくった場所はまるで本当に魔法のように傷が治ってゆく。


 

長月「本当に今の世の中、便利になったな……」

 

 

悪い島風「だよね!(oゝД・)b」

 

 

菊月「それ、くれるのか……?」

 

 

悪い島風「もちろん」

 

 

浮かべた苦笑いは、空虚のような、邪悪のような、知っている島風のイメージとは違って新鮮味がある。こいつはこいつで私達みたいに、なにか変わっていっているのかな。

 

 

私達はこれから背も伸びて、髪の色も黒くなって、言葉遣いも直って、普通になっていくのだろう。みんな、変わっていってしまうのかな。それがなんとなく寂しい。みんな、変わっていってしまうのかな。

 

 

ふと、思った。手を伸ばせば触れられる街並みや人は変化を続けているが、昔から手の届かない空は8年前と同じだった。あんな風に生きて行けたらいいのにな。

 

 

変わらないものは、過去という確かな真実だけだ。

 

 

悪い島風「がんばれー。ご都合主義☆偶然力!」

 

 

ちょうど空き地の前を通りがかったタクシーに乗り込んだ。



【10ワ●:It's Show Time】



卯月「お前らとりあえず、水でも飲むぴょん」



控え室まで無事に辿り着いた。まだ時間には一時間ほどの余裕がある。控え室の扉の前にあった張り紙には『ブリティッシュラフラビッツ様』とある。こんなことしなくてももう卯月の家は関東方面にいくつも支店があり、ショッピングモールに行けば必ず見る程に大きくなっているのにな。親孝行というやつか。



卯月「今から最重要な会議をするぴょん。お前ら、服装は睦月型のままだし、あのラッパーファッションは持ってきてねーだろ。一応、体を動かすからこのスパッツはくといいし」



長月「助かる。それが最重要か?」



卯月「違う」卯月が苦虫を噛み潰したような顔になる。「司令官から連絡があってな、お前ら島風に会ったか?」



菊月「会ったが、それがどうした?」



卯月「司令官に連絡して、事細かに話すぴょん。司令官、お前らに繋がらなかったから、うーちゃんに連絡してきたぴょん」



菊月「分かった。司令官だな」



菊月が司令官に連絡をかける。

水を飲んで一息ついた。卯月に難しそうな顔をしている理由を訊いてみるとした。むっすー、とした顔で衝撃的なことをいう。



卯月「いや、今な、戦後復興妖精というのが現海界しているみたいぴょん。そいつが島風と似た姿なんだと。イメージとしてはうーちゃんをもうちょっと悪童に落として、想の力を扱えるようにした感じな」



長月「最悪じゃないか……」



菊月「……了解した」



菊月が通話を切ると、ポケットからあの魔法の容器を取り出した。それを机の上に置くと、蓋を外して中身を確認する。もうなにも残っていなかった。



菊月「司令官いわく、あの程度の傷を瞬時に治す薬品なぞまだ世界に商品としてはないようだ」



卯月「……あの海にはあるぴょん。高速修復材か?」



菊月「ああ、司令官はその島風と話をして、どういう性格でその役割を踏まえて、当日に私達と接触してくる可能性が高いと踏んでいて、大体なにをしてくるかも見当をつけていたようだ。私達がオオカミ達とケンカするのも読んでいたぞ」



卯月「相変わらず艦これ関連には変態的に頭回るのかー……」



長月「ま、待て待て。私達は後遺症もなかった。普通の人間だぞ。あれ、通常の人間には使用しても効果がなかったはずだろ」

 


菊月「私も気になって質問してみた。『元帥がいただいた製作秘話にありました。あれ自体は想の力で細工された代物でして、この戦争の艦娘にしか効果がないようにされていたのです。なので想の力を扱えるならば弄ってただの人間にでも効果が出るように調整可能です。下手に流せる情報ではない超未来の技術なので、ロスト空間の情報は現段階で公開はしていません』だそうだ」


 

長月「待て待て待て。戦争は終結したんだよな……?」

 


菊月「戦後処理が終わるまでが戦争ということだろう。問題はあいつの性格的に優しさには裏があるとのこと。ただの高速修復材で傷を直したのではなく、なにか罠を仕掛けてある、と読んでいた。ただ司令官はその島風のことをけっこう間抜け、だともいっていた。そして、その罠はいくつか司令官が予想してくれた。最有力なのが、これだ」



菊月がティッシュを手に取り、右頬を拭う。「痛っ」と苦痛の声を漏らした。ティッシュで拭ったところが、また腫れ始めた。クリームを拭き取ると傷が浮かび上がってくるのか。



長月「ステージの上では緊張とか身体を動かすから、クリームが落ちて傷が出てくる時限式仕様とかずいぶんと陰険だな」



菊月「……どうする?」



卯月「お前ら緊張して汗かく?」



長月・菊月「いや、全く」



その辺りは問題なかった。もともと人前に出て緊張するような性格ではない上に街での冒険の日々で人目も気にならなくなっている。



卯月「なら、そのままでいいぴょん。うん、確かにその偽島風は間抜けだな。だって、歌って顔が傷だらけになるか? 顔にいきなり傷が出来たら、周りはそんなの演出だと思うぴょん」



長月・菊月「それもそうだな」



その間に鏡で自身の姿を確認してみる。あのクリームのお陰で顔に傷はないが、制服は傷や皺だらけだ。待てよ、と思う。歌詞の内容的にも、むしろこの傷は演出として生かすことが出来る。



2



オン・ザ・ステージ。



前々の参加者達とはちょっと観客の空気が違う。困惑と驚愕に会場の雰囲気が彩られた。まあ、今は無駄に知名度があがっているせいかな。英雄を温かく迎えあげる勲章染みた歓声があがった



正面の審査員5名と、その後ろには鶴翼の陣形みたいに客席がある。家族連れにカップルに、一番上の席には青葉がいる。菊にゃんにゃが月と書かれたプラカード持って立っている。



那珂がぐっと親指を立てて、ウィンクした。

那珂のビデオは見た。センチメンタルな失恋の曲の世界に誘うかのように指先が切なく曲がり、想い更ける表情でとろけたような視線を観客に振り撒いていた。ダンスと歌、挙動の一つ一つに努力の後が見られて、その曲の世界に引き込むだけの魔法の力があったのを私は知っている。だけど、私達にはあんなの真似出来ないし、柄じゃない。



ただ海と街でのありのままを歌にしただけだ。だけど、素直になってみたつもりだ。珍しくな。歌には、人の心の衣服を剥ぎ取るかのような魔法の力があるからな。



前奏が始まると、誰にいわれるまでもなく、一同は急に静まり返る。この国の人はよく訓練されていて行儀がいい。その1色を思い浮かばせる色調に様々な色をぶちこめば、別色に変化するには違いない。



流れ出したメロディには聞き覚えがあり過ぎる。ところどころが『軍艦マーチ』とよく似ている。ところどころ現代風に改装(アレンジ)され、歌い出される軍艦マーチ改め艦娘行進曲に耳を傾ける。



さあ、ショータイムだ。





 

“お前、いったよな。約束したよな。今が変わるなら、どうなっても構わないって。後悔するなよ”



“真に受けたから私達はここにいる”



“どうした?”



“お前は登校する時、いつも浮かない顔をしているよな”



“家では成績の悪さをママに怒られて、学校ではクラスメイトからその太った容姿をけなされる”



“一昨日、一緒に神社に行ったよな。お前は明日、台風で学校が休みになるようお祈りしてた。明日は水泳の授業があるからな。みんなから子豚だといわれるのが嫌だからってお願いの声、漏れてたぞ?”



“学校を休みにしてくれなかった台風が残していった水溜まりなんかにらんでさ”



“またイジメられていたって、クラスの女子から聞いたぞ”



“断髪式とかいって昼休みにハサミで髪の毛を切られたんだってな”



“醜い容姿をカッコよくしてやるって言われたんだろ”



“安心しろ。かっこいいぞ。今からこのハンカチで、私達が証明してやろう”



“ほら、私達の顔が見えるか?”



“酷いよな。お前に劣らず、豚のように腫れた顔をしてるだろ”



“そいつと戦ってきたんだ”



“ボコボコにされてしまったが”



“私達は知ってる。名誉の負傷っていうんだ”



“かっこいいだろ?”



“お前もかっこいいぞ”



“ママが心配するからって、毎日がんばって学校に通って、耐えて笑ってる”



“私達は友達だからな”



“明日の教室には私達が両隣に行ってやる。怒られるかな。先生にはこう言い訳するつもりだ”



“私達、友達だからな!”



“私の髪が緑色、菊月の髪は白色だ。そいつは同じように私達を笑ってた。その周りのやつらも笑ってた”



“だけど、お前は似合ってるといってくれたな”



“お前はやっぱりいい奴だよ”



“私達は、イジメられっ子仲間だよ”



“最初は私達も、ビクビクしてた。深海棲艦を見て手足が震えて、なにもできずに、イジメられてばかりだった”

 


“仲間は守るぞ。この命を削ってもな。お前がそうしてくれたようにさ。それは世界で一番、尊い気持ちなんだ”



“その気持ちで私達は”

 

 

“世界を救ったんだ”



“カッコいいって褒められるけど、そうでもない。戦ってただけだ。お前と同じで傷だらけの人生だ”



“お前はかっこいいよ”



“明日は、一緒に教室までついてきてくれよ”



“それでそいつらと校庭でドッジボールに混ぜてもらったり、ラインを交換したりしようぜ”



“スマホ買ったしな”

 

 

“なんてことない。そいつとは仲良くやれるさ。だって、ケンカした理由はドッジボールだったろ?”



“趣味は同じだからな!”



“じゃあ、また明日いつもの場所でな”



“早く明日が来ないかな”



“はは”



“yeah”

 

 




イエー、ではないんだけどな、と内心で突っ込む。

効果時間内にステージが終わらないことを察して策を用意した。出てしまえばこちらのものだろ、といわんばかりのむちゃくちゃな思考回路だ。腫れた顔面も今や演出の一部として上手く利用した。



爆発的な歓声が、耳を殴り付けてくる。なんか那珂のやつが泣いていた。かなりの私事の曲でも、感動してくれたのは会場の空気からして、間違いない。上手く行った。



菊月「睦月型だからな」



長月「そうだな。いつものことだ」



長月・菊月「今回の遠征も成功だ」



菊月と顔を見合わせて、笑った。



yeah.


 

【11ワ●:戦後日常編 長月&菊月:終結】


 

卯月「お疲れ様びしっ!」

 

 

卯月「みんなからの電話はあえて全無視で鎮守府まで来たけど、どんな反応をするか楽しみだぴょん。惜しくも優勝は取り逃したけど、反響は間違いなし」

 

 

門の前では、闇夜に溶け込むように司令官が立っている。司令官は顔が青ざめている。今にも口か魂が抜けてしまい、サラサラと砂になって風に飛ばされてしまいそうだった。

 

 

提督「お帰りなさい。よくがんばりましたね」

 


卯月「んー、いつにも増して生気がないぴょん」

 

 

菊月「司令官、申し訳ないなかった。問題があるとは承知の上だったが、ありのままに挑戦したつもりなんだ」

 

 

提督「あなた達がやったのは、様々な人間の不利益に繋がりますね。少なくとも今の世の中、学校のイジメに敏感なうえ、情報拡散速度が異常です。あれではあの学校が批難を受けるでしょうし……」

 

 

長月「そ、そうなのか? しょせん子供のケンカだろ?」

 

 

司令官が帽子のつばを提げて瞳を隠した。さっきから、司令官のポケットからはみ出ている携帯が振動している。まさか、司令官に迷惑をかける結果になってしまったのだろうか。

 

 

長月「す、すまん……」

 

 

提督「審査結果は90点です。準優勝を誇るべきです。実に素晴らしい公演でしたよ。海と街で体験したあなた達の歴史がよく伝わるパフォーマンスでしたね」


 

卯月「ねー、司令官、足りない10点はなに?」

 

 

提督「非常に納得した点数でした。そうですね、自分の意見となりますが、完成度に欠けます。あなた達のパフォーマンスが完成を見せるのはステージの上ではありませんから」

 

 

まあ、そうだな。あれはただ最近のことをありのままに歌っただけで、現実問題はなにも解決していないのだから。


 

提督「む……」



不意に灯りに照らされた。「しまった!」と菊月がばっとその場から飛び退くようにして灯りから逃れた。分かるぞ。奇襲の探照灯かと思って私の身体も反応したからな。背後に迫って来たのは赤いワゴン車だった。



「オオーイ! お前らふっざけんなよ!」

 

 

「ああいうのは勘弁してください……」


 

オオカミとコブタが降りてきた。オオカミは左の頬が腫れていて、コブタは右の頬が腫れていた。なにか言いたいことがあるのか、オオカミが怖い顔で詰め寄ってくる。

 

 

頭に握り拳が落とされる。オオカミの後ろにいた女性の一撃だった。あんたはもう、いい加減にしときな、と思い切り蹴飛ばされている。後ろには男性が二人いる。

 

 

どうやらオオカミとコブタの両親のようだった。提督は帽子を取って名を名乗ると腰をまげる。



すみません。その場の大人全員がそういって頭を一世に下げていた。



大人達は力が抜けたのか、あいさつを交わし始める。オオカミの両親が「うちの馬鹿がすみません」とコブタの両親に謝っているが、いえいえ、と穏やかに返している。オオカミは罰の悪そうな顔をしていた。コブタは居心地が悪そうだった。


 

提督「立ち話もなんですし、落ち着いた場所にご案内します。こちらへどうぞ。あ、卯月さん、皆さんはグラウンドに案内してあげてください。江風さんとわるさめさんも」

 

 

「それだよそれ。俺は勝ちに来たんだよ」

 

 

長月「なるほど、リベンジか」

 

 

大人組と子供組に別れて鎮守府内を移動することになった。大人組は間宮亭のほうに向かって、私達はグラウンドだ。そういえばここの鎮守府は無駄に設備が多い。グラウンドは誰も使わないけど、夜間照明もあるんだよな。

 


卯月「しっかしオオカミ君とコブタ君だっけ。お前ら、女友達の家に遊びに来るなら、もちっとファッションに気を回せし。オオカミなんか靴下、左右違うぴょん」


 

そういうと、オオカミが反発するが、卯月はゲラゲラと笑っていた。卯月はオオカミの威嚇声をなんなく返してからかい続けている。割と仲良さげにしゃべっている風に見えた。うさぎはオオカミと仲良くなるのが得意らしい。

 

 

江風「よう。お前ら最高にイカしてたじゃねえか! あれだよあれ! ガツン、と魂に響く最高の音楽だったよ!」

 

 

オオカミが露骨に睨み付けたが、すぐに視線を反らして、隣のサラトガさんのほうを見たな。こいつ、どこを凝視しているんだ。色々と感情に正直な単純なやつらしい。

 

 

サラトガ「初めまして」

 

 

とサラトガさんが笑うと、「っす」と奇妙な返事を返した。好みの女の前になると、妙に大人しくなる。ここら辺は確かに明石君に似ているな。あいつも鹿島や翔鶴の前ではこんな風になる。


 

サラトガ「遊びに来たんですね」

 

 

「んー、まあ、図工の時間にあのひょろいやつが話しかけてきてさ、昼放課にドッジの約束してさ、やっただろ。あの時に鎮守府にグラウンドあるから、場所がなかったら使っていいっていったんだ。江風だっけ。あんたと、あの可愛い子、春雨さんか。いるから、来たんだよ」

 


卯月「あいつ、やっぱり過保護だなー……」

 

 

ああ、フォローに回ってくれていたのか。いわれなきゃ、気がつかなかったな。あの司令官に大きな借りが出来た。どうやって返すべきか悩むほどの大恩だ。

 


江風「たく。司令官は海でも陸でも同じく所属兵士のフォローで忙しいねェ……特にこの鎮守府の連中のやつらの世話なんざあたしだったら、やってらンねーや」

 

 

長月「司令官には借りを返さなきゃならないな」


 

卯月「要らねーんじゃね」

 

 

長月「いいや、司令官はもう深海棲艦と戦う時に私達の指揮を執る人じゃない。司令官もあの決戦から鎮守府に帰ってきた時に『上司と部活の関係じゃないです』っていっていただろう。だから、借りは返してこそ対等だろ?」


 

江風「んー、その考え方はいいな。うちンとこは無理だな。まず大将が江風達とのせっしかたを戦争前となにも変えない」

 

 

卯月「お前らのところはもともと上司と部下というより、気の知れた友達っていう雰囲気だしなー」

 

 

グラウンドについたら、皆で遊んだ。



江風、卯月、サラトガさんのチームは強いかった。オオカミとコブタと私と菊月のチームは1度も勝てない。オオカミがサラトガさんに対して緩やかなボールを投げるせいだ。



いつの間にか大人グループもこっちに来て、見守っていた。ずいぶんと仲良さそうになってる。どうせ明日は休みだということもあって、0時くらいまでぶっ続けでボールを投げ飛ばして遊んだ。


 

オオカミとコブタは今日から仲良くなった。オオカミの性格のせいでよく衝突するが、今までとは違って、どこか仲良さげだったし、問題は解決した。別れる時には「夏にドッジの大会あるんだ。俺らでチーム組んで出ようぜ。コブタもな」とオオカミがいった。私達はオーケーの返事をして別れた。

 


菊月「……親、か」



菊月はオオカミ一家とコブタ一家の背中を見ながらいった。そこには仲睦まじい子と親の会話がある。学校ではケンカをする二人は、家に帰ればあのように温かい家族が待っている。



鎮守府の皆は家族といっても差し支えないが、ああいう感じとは違う。ちゃんとお父さんが働いていて、家に帰るとお母さんがご飯を作っていてくれる。そういう家族は知らない。でも、幸せなのは間違いないだろうな、と思う。



菊月「私達はああいうのも取り戻せるのか?」



長月「難しいだろう。もともと親の顔なんて知らないし、それは菊月も同じだろう。ないものねだりをしていないで、風呂に行くぞ」



お風呂に入ろうと、着替えを取りに部屋に帰る。



2



菊月の机の上にボールが置いてあった。

私の机の上には、三日月のクッションだった。雑貨屋で気になっていたやつだった。手紙が置かれていたので、読んでみる。

 

 

“プレゼントです。よくがんばりました!”

 

 

菊月が、机の上にあるボールを、壊れ物を扱うように優しい仕草で手に取った。

 

 

菊月「なあ、長月」

 

 

ボールを大事そうに胸に抱き締めて、いった。

 

 

菊月「私達は親の顔も知らないし、家族といえる人達の中に、こんな感情を抱いたことがない」

 


不安そうな上目遣いに対する答えは、私も持っていなかった。深海棲艦と戦って、勲章や給金はもらってきた。ただ勲章やお金で、命は取り戻せないって思い知るような毎日だったから、あの時は生きて還って来られたことにただ安心していた。けど、今、胸にあるのは全く違う。

 

 

ただ、温かい。

 


菊月「深海棲艦と戦っていたあの海では、殺し合いの恐怖に、仲間の不幸に、自らの力不足に涙したことはあるが、今は命を脅かされたわけでも、戦死者が出たわけでもなく、ましてや悔しいだなんて微塵も思わない」

 


“プレゼントです。よくがんばりました!”

 

 

菊月「なのに、なぜ私は、泣いているんだ?」

 


こんなの、知らない。海水に染みて出来た心身にまとわりつく錆びが、抜けて落ちてゆくような感じがする。


 

菊月「なあ長月、なんだこれ」

 

 

悲しそうでも、嬉しそうな風でもない。よく分からないといった顔のまま、よく分からない涙を流している。私自身もそのよく分からない滴の温さを頬に感じる。今の菊月と私はお互いがお互いの写し鏡だ。

 

 

長月「子供ががんばったら親から褒美をもらえるよな。これが温かな家庭に育つという幸せというやつではないだろうか……?」


 

菊月「分からない、わけだ……」

 

 

ぎゅうっとボールを更に強く抱き締める。

 

 

菊月「私達、親なんていなかったから」



そうだな。施設の時から家族のような人達はたくさんいる。でも、思えば、親代わりの人はいなかった。そのまま菊月と一緒に戦争に参加することで、おいてけぼりを食らっていたのは、最近の冒険で嫌というほど思い知った。

 

 

長月「うん……」

 

 

前に丙少将の鎮守府のことを響から聞いたことがある。あの鎮守府は、海に置き去りにされないように、定期的に街に連れていってくれるという。丙少将の鎮守府のことはよく知らなかったが、あそこがなぜ人気なのか分かった気がする。

 

 

所属していたここの昔の鎮守府は、どちらかというと、兵器であることを自覚するような指揮を執る人だったし、それに違和感もあまり覚えなかった。そういうもんだと思ってた。

 

 

おかしな表現ではあるが、少しだけ人になった気がした。

 

 

長月「ああ、こういうのは涙腺に来る」

 

 

戦争で止まっていた私達の針が、進み始めた気がした。この一件で手に入れた戦果は、海でついた血の匂いを洗い流す清潔な涙だった。



私はその三日月のクッションを大事にすることに決めた。菊月も同じくそのボールは宝物になったのか、大事にしている。使うのを躊躇うくらいだ。



翌日は寝坊した。いつもは一番に朝御飯をもらいに行くのだが、今回は間宮亭が混む時間で、みんながいた。菊月は寝ぼけていたのか、一直線に司令官の隣のカウンターの席に座って、みんながいる前で司令官にこういった。

 

 

菊月「うー……パパ、おはよう」

 

 

司令官は箸を手から滑り落として、間宮さんは皿を落として割っていた。瑞鶴が割れた破片を踏んだ。わるさめがすすっていた味噌汁を口から盛大に吹く。卯月が腹を抱えて笑った。その一連の流れで菊月の意識が覚醒したようだ。

 

 

菊月「な、なんでもない! なんでもないぞ! なんでもないからな!」


 

菊月は顔を真っ赤にして「司令官だ、司令官、うん」と自分にいい聞かしていた。ちなみに司令官の隣からは離れようとしない。



司令官は困ったように笑うと、「おはよう」と菊月の頭を優しく撫でた。「や、止めろ」といいつつも、頭はねだるかのように司令官のほうに差し出している。

 


昨夜にクッションに顔を埋めながら父さんがいたらこんな感じなのかな、だなんて考えていた。どうやら菊月も同じだったようだ。

 


なぜこの人が皆から慕われるのか、分かった。



私も寝惚けて司令官を父さんと呼ばないように気を付けようと1人ひっそりと誓う。だって、恥ずかしいだろ。



平和の意味と尊さを知った気がした。変わっていく毎日も悪くないかな。



こんな風に笑ったの、産まれて初めてだ。


後書き







読んでくれてありがとう。
お疲れ様でした。


次回のお話。

【特ワ●:ま、これはこれで幸せなのです】

【1ワ●:わるさめちゃんと悪い島風ちゃん】 

【2ワ●:鎮守府(闇):リアル連動型・ピエロット・マン】

【3ワ●:鎮守府(丙):リアル連動型・桃鉄】

【4ワ●:鎮守府(乙):リアル連動型・スマブラ】

【5ワ●:鎮守府(甲):リアル連動型・マリカ】

【6ワ●:いざ、ピエロットマンの世界へ!】

【7ワ●:いざ、ピエロットマンの世界へ! 2】

【8ワ●:全滅】

【9ワ●:陽炎&不知火 戦後日常編】

【10ワ●:想題、不知火】

【11ワ●:プラモ店の2階の変な部屋】

【12ワ●:線路沿いにて思い出会う】

【13ワ●:想題:前世代陽炎】

【14ワ●:想題、返す想の刃で復讐を】

【15ワ●:黄泉路陽炎思い出列車】

【16ワ●:Fanfare、不知火&陽炎】

【17ワ●:陽炎&不知火、戦後日常編:終結】


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1: SS好きの名無しさん 2017-05-29 21:28:19 ID: wWfdp7sm

後日談も面白いです!
続きを楽しみにしています!

2: 西日 2017-05-31 02:38:49 ID: GqOEIcfO

コメありがとう!
続きは見切り発車の気分ゆえ、間が空くかもです。なにせ着地点もまだ定まってないので!笑

3: SS好きの名無しさん 2017-06-15 22:31:22 ID: kiZknPpo

投稿お疲れ様です
続き待ってます!
(青山提督と電ちゃんのちょっとしたイチャイチャが見たいです)

4: 西日 2017-06-16 00:00:37 ID: j2347uDA

コメありがとう!
次回の日常編は陽炎&不知火で書き始めちゃってますからそれが後半のメインになりそうです。

でも戦後編の軌道は曲げていけるので、どこかに提督と電ちゃんのイチャイチャエピソードを挟んどきますね!

5: SS好きの名無しさん 2017-06-24 04:16:10 ID: XcN7GDZh

続きを楽しみにしています。

なんか大変みたいですけど、頑張って下さい。
気長に待ってます。

6: 西日 2017-06-24 05:14:05 ID: _V5rzdTf

ありがとうございます。
トラブルのため初めから書き直していますので、気長にお待ちいただければ、と。

次章の頭だけは早めに投下する予定です。


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3件オススメされています

1: SS好きの名無しさん 2017-05-22 18:17:39 ID: hb418A0D

おすすめします。

2: SS好きの名無しさん 2017-06-15 22:31:54 ID: kiZknPpo

オススメ

3: SS好きの名無しさん 2017-06-24 04:17:40 ID: XcN7GDZh

未読の方、まあ騙されたと思って読んで下さい。


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