2018-11-11 22:23:52 更新

前書き

さあさ 寄ってらっしゃい見てらっしゃい
ここにご覧遊ばす御話は
一切全てが真か分からぬ
一切合切うつつやも分からぬ
それでも良いなら聞こえにおいで
それでも良いなら話されにおいで

さあさ お話致す御話は
ある探偵殿のお話じゃ
艦の力をその身に宿し
人の心をその身に宿した
故にそれは誰より脆く
故にそれはひたすら強い

ただの 人間の話でござぁい…




序の幕



ぱらりぱらりと鳴る、広告のラッパの音。


がやりがやりと騒ぎ立てる男ども。きゃっきゃと姦しく話を盛り上げる女ども。


そしてただ五月蝿く騒ぐその世迷供を通り抜ける人力の車と、髭の蓄えた紳士達。


いつもの様に、その都は時間を過ごしてゆきます。



ここは帝都。



人も情報も犯罪も。何もかもが全てがごった返す、この世界の坩堝と言って良い程の場所。


ここには、様々な人生と事情、情事や因果。

そして悩みが詰まっております。


その悩みを解決するために、探偵業といふものが栄えたと言うのは当然の事でございましょう。


そしてこの探偵業にあたって。風の噂にて、ひどく有能なる探偵事務所があると聞きました。


大通りを少し抜け、路地裏へ。

その路地裏を曲がった先にその建物は御座います。


古びた建物、それは探偵事務所で御座います。

よく御覧になりますと看板も掛けてありましょう。


其処に、その高名なる探偵様がいらっしゃいます。

曰く、解決ならざる事件無し。

曰く、怪傑ながらの能力を持つ。

女性ながらにして、途轍もなく高き評価をお受けになっている探偵さまです。


その建物に今日も依頼人が入ってお行きになります。今日も今日とて、繁盛であります。



「失礼する」



そう、呼び鈴を鳴らした、依頼人と思われる青年は、そのまま無作法にも建物に入り、思わず絶句致します。


何と、探偵さまと思われる軍服を着られたそのお方は、机の上にて居眠りをされていたのです。


戸締りもせず、職務も行わずに、ただただ惰眠を貪り食っていたのです。



「こいつは、何と言う昼行灯だ。

所詮噂は噂だと言う事か」



と、身なりの良いその訪問者が一人ごちると、その御方は眼を覚ましました。


そして悪怯れる様子もなく眼を擦り、身嗜みを整え、そしてようやく、礼を尽くします。



「ハハ、これは失礼。見苦しい所をお見せしてしまいました。



その御方…都中に響く名声を持つ探偵さまは。

机の横の帽子掛に掛けてあった軍帽を被ると、また改めて体勢と体裁を取り繕います。



「非礼を御許し下さい。自分の名はあきつ丸。この探偵事務所の所長をしている者です。

以後、御見知りおきの程を」




そして自己の紹介を致しますと、にひるに微笑みました。




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





「はあ、山の奥より砲声が…で、ありますか」



早速探偵さまは依頼の方をお聞きになられます。



そして聞いた話によりますと、この青年はさる富豪の一人息子。今では、厭世家と成りそのまま命を自ら絶った父に変わり指導者として働いてるのだと。



そうして忙殺されていた、そんなある日の事。



自らの私有地である広大なる御庭からなんと、物々しい鉄と火薬の音が聞こえたのだと。


それも、拳銃などより圧倒的に重々しく、過剰な程に大きな音が。


流石に不審に思い、使用人や警護の者に見に行かせるも成果は無し。ええいと思い、自らが行っても同様だと言うのです。



「故に、それについての捜査を貴女へお頼み申し上げたい」



そう、依頼人さまはおっしゃいました。

その傍にあるケエスの中身を見せながら。

…その、札束の山を見せながら。


そして更に、驚くべき一言。



「こちらは前金。

報酬の方は、解決の後改めて送らせて頂きます」



「…はは、これはこれは。

随分と気前の良い事でありますな」



「その理由は、聞かないで頂けるとありがたい」



元々受けようと思っていた所にその莫大な報酬。当然探偵さまにそれを断る理由はありません。



「ええ、ええ。委細承知致しました。依頼を受けましょう。では早速、そちらへ赴かせて頂きましても宜しいでしょうか?」



「そう仰ると思い、あちらの通りの方に足を用意しております。では、行きましょうか」




そう言い、足早に事務所内を後にする依頼人さまの姿の後ろ姿を、あきつ丸どのは不思議な心持ちでじっとお見つめになりました。



…暫くの後、くすりと微笑みながら指をお鳴らしになりますと、ごく小さい艦載機が窓を閉め、事務所の端に乱雑に置かれている軍刀と一つの黒々しい鞄を探偵さまの手元に送りました。


これが彼女の身支度なのです。



そして最後に、大ぶりな黒い外套を羽織りますと、ぼそりと一言、独りごちました。



「やれやれ、退屈は無さそうでありますな」



そうして、事務所の中に動く物は居なくなりました。



その艦であり、人である探偵さまは。


今日も今日とて、しがらみを、依頼を、その懊悩を。それら全てを解決する為、煩雑たるその帝都へと歩みを進めました。




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




第壱幕





さて。


その屋敷に着くまでは省略致します。

力車に揺らされる御依頼者さまや探偵さまを詳らかに描写していても仕様が無い故。



さてさて。


探偵さまは依頼人宅を一目見ますとほぅ、と嘆息をつきました。


その嘆息は疲労によるものでも嘆きでも無く、単純に目の前の豪奢な邸宅に関心してのもの。


目の前にした者の心を奪う程の美しさ。

いやはや、正に天晴な豪邸でございます。



あきつ丸さまはその感動をこう言い表しました。



「一廻りするだけで日が暮れそうですな」





閑話休題。




探偵さまのご要請もあり、早速件の裏庭へ赴く事と相成りました依頼者様と、彼のボディ・ガードとを含めた御一行。


根が脚を絡め、葉が眼を隠す雑木林をえんやこらえんやこらと超えていきまして、夕暮れ時には何とか轟音がしたという場へ到着しました。



「此処でその砲音が聞こえたと言うのですな?」



「えぇ。正確にはそれに似た音、ですがね。

…しかし、既にお聞かせした通り、ここには何も残っちゃあいません」



「ほう」



「はっきり言いまして、無駄足です」



「無駄足とは…また奇な事をおっしゃりますなぁ。流石は名門の御子息様であります」



「…」




あからさまに皮肉られて、依頼人さまはその端整なお顔の眉をおひそめになります。




「…流石、帝都きっての奇人殿は言う事が違います。無駄足なんてものは無いと?」



「ええ。この世にある行動は全てに意を内包しています。無駄なんて物はこの世に無いのです」



「はは、まるで宗教ですな」



「それで結構。理解できぬを蔑むは人の常でありますからな」




その様な言葉をお交わしになりながらも、探偵さまは持参なさった鞄より何かを取り出します。



それは、丸められている巻物と…



「…走馬灯?」



そう、そのお取り出しなされたもう一つ。それは正に走馬灯そのものでありました。


訝しむボディ・ガードと依頼人さまを我関せずとばかりに、探偵さまはその走馬灯と巻物を手に両の眼をお閉じになりました。



すると、なんと!次の瞬間!

そこに小さき艦載機が現れたのです!



一行がざわめき、驚きますが、探偵さまはそちらへの反応は行いません。


さて、驚きが冷めやらぬ内にその機体は何処へやらに飛んでいってしまいます。



すると又、探偵さまは目を閉じ、黙想。そうしますと再びそこには模型のような艦載機が。



そして又々目を閉じ…



…と、こうして八回程その行動を繰り返しました後。あきつ丸さまは帰投を提案なさいました。



気づけば周りはすっかり暗くなっております。

それを断る必要も無論有りませんので、御一行は帰路に着く事に成りました。



「では、お互い足元にお気を付けて」



あきつ丸さまは、そのような、童にでも言う様な事を戯れに仰りながらその手の走馬灯を照らしました。


眩い程に照らすその青白い光は、まるで死出の灯火そのもの。見たものの背中をぞくつかせる様な代物であります。






「…失礼。」



「おや?如何なさいましたか、御子息殿」




帰路の途中。依頼者さまは徐にあきつ丸さまへ近づくと、些か青褪めた顔で彼女へ話しかけました。




「先程の行為は一体…何かの魔術ですか?

あのような物、見た事が有りません」



「それは残念。少し前ならば海へと行けば幾らでも見る事が出来ましたのに」



「巫山戯無いで頂きたい。

…あれは一体何なのですか」




探偵さまはその問いを受けますと、顎に手を置き、ほんの数秒程思案をお巡らせします。



そして、こうお答えになりました。




「一つ明かしますと。

実は自分、人間では無いのであります」と。



それを聴くと依頼人さまはうんざりとした様子で離れて行ってしまいます。




(巫山戯た女め。

人を食ったような態度ばかり取りやがる)



(……だが…)




御依頼人さまは、青白い光で照らされているあきつ丸さまの姿をまじまじとご覧に成りました。



(…格好が綺麗すぎる。)



ボディ・ガードや自分を見ますと、雑木林を通る際の苦労が偲ばれる様なそれ相応の格好。


土と葉の緑で汚れ、枝でほつれて破けた服。そんな、見窄らしい格好をしております。



ですが、探偵さまのお服にそのような後は御座いません。身幅の広い外套を羽織っているのにも関わらず。



(それだけじゃない、奴は此処に着いた時も息切れ一つ起こしていなかった。)



(…人間では無い、というのが真であるなら)




と、依頼人どのはそこまで考えますと、それを打ち払いますように頭を横にお振りに成ります。


馬鹿々々しく血迷った考えに、その様な事はあり得ないと正気付いたのでありましょう。




(…だが、こいつなら……)





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





山より降り、何とか自らの事務所へと戻って来たあきつ丸さまは、夜更けの帝都で愕然と致します。



…何を隠しましょう。

事務所が滅茶苦茶に成っていたのです。



空き巣でありましょうか?そうであるならば金品を奪っていくでしょう。それに、ここまで徹底した破壊をする理由は無い筈。



であるなら、これは怨みを持つ者の犯行。


…或いは。この事件に関わるな、という警告。




探偵さまは、目の前の現実を受け止め、そして一言、こうお呟きになりました。






「糞ッ!」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



第弐幕




後書き

ただ好きなようにやってるだけのものです。変だとしてもご了承下さい。


このSSへの評価

2件評価されています


SS好きの名無しさんから
2018-11-05 11:33:09

SS好きの名無しさんから
2018-11-04 21:17:52

このSSへの応援

1件応援されています


SS好きの名無しさんから
2018-06-17 10:01:33

このSSへのコメント

1件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2018-06-10 09:46:29 ID: xU1wiDmg

すこです


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください