2017-06-12 22:20:53 更新

概要

一月三日の深夜、榛名は夢とも現実ともつかない記憶に悩まされる。

その記憶の彼方で起きる事と、提督への相談

同じ頃、小笠原諸島の向島兵站要塞では、昼間に感知した味方の通信により、希望が出始め、友軍との邂逅に期待して哨戒艦隊を繰り出す。

そこに合流する、堅洲島の潜水艦隊たち。


そして、パルミラ環礁では、秋津洲の意外な経験から、熊野と朝雲は戦闘航海術の特訓をし、ついにパルミラから次の目的地へと出発するのだった。

深夜の堅洲島では、落ち着かない榛名が提督に相談をする。そこでさらに蘇る記憶の一部と、『霧の夜事件』という都市伝説。

明けて1月4日、提督は志摩鎮守府と特防の企みに対し、二人の川内に驚きの対策を話すのだった。


前書き

※これまで、約16000~17000文字を目安に一気にアップしていたのですが、今回から、シーンの区切りごとに書きあがり次第アップしていくことにしました。合わせて、概要も書き足されていきます。


冒頭から、いきなり榛名のエラーメモリーで始まります。意味深で衝撃的な内容ですが、果たして?

小笠原の孤立していた艦娘たちと、堅洲島の潜水艦隊がやっと出会えます。が、難しいのはこれからのようです。

秋津洲は戦闘航海術に長けており、しかもその理由がなかなか微妙です。やっぱりこの世界でも、『秋津洲チャレンジ』をする提督はいたのですね。

そして、しばらく榛名と提督の話になります。提督にとっては榛名の悩みは、興味深い手がかりのようです。


第五十三話 異なる未来の予感・前編




―2066年1月3日、深夜。ある記憶。


―暗い空と土砂降りの雨の中、自分の視界と体温が奪われていくのを感じていた。心が絶望に染まっていく。


榛名(う・・・苦しい。・・・ここは・・・?)


―榛名は冷たい金属製の床に横たわっており、胸に恐ろしい痛みを感じていた。落ちてくる雨が、痛むように冷たい。そして、動かせない腕を伝って、水たまりにじわじわと自分の血が広がっていた。


―ガン・・・キンッ・・・ババババン・・・シュバッ・・・


―BGM『Devil May Cry 3 Doppelganger Theme』


―激しい戦闘の音が聞こえ、何とかしてそちらに目をやると、白い士官用コートの男と、黒いコートの男が、絶技の限りを尽くして、激しい戦いの最中だった。


白いコートの男「迂闊だったよ。これほどの男が居て、まさかたった一人で、我々をここまで追いつめるとは。全て台無しにされたが、死をもって償ってもらおう・・・!」グッ


―白いコートの男は大太刀を納刀して腰を落とすと、黒いコートの男にすさまじい絶技を放った。剣の軌道が輝き、刹那に数閃の斬撃を放って突進する。


榛名(あれは・・・虚空斬波!)


―ガガガンッ!


―しかし、白いコートの男の突進は途中で止まった。大太刀で斬撃を防ぐように構えたが、その体に三本の深い刀傷が一瞬で走る。


白いコートの男「馬鹿な・・・!これさえも、通じないのか・・・」グラッ・・・バシャッ


黒いコートの男「そんな十年落ちの技など通じない。突進する龍のごとき斬撃は、頭上からの虎の爪で叩き伏せるのさ!」


白いコートの男「ここまでか・・・そうか・・・だが、私も君も所詮・・・」ガクッ


―黒いコートの男は、動かなくなった白いコートの男を見下ろしていたが、思い出したように振り返り、榛名に走り寄ってきた。その全身は大怪我だらけだった。


黒いコートの男「榛名、今助ける!しっかりしろ!」


榛名「あ、提督・・・来ちゃダメです!だめっ!」


黒いコートの男「何を?えっ?」


―ドスッ


―榛名は、胸に突き立てられた、抜けなかったはずの深海の刀を抜くと、そのまま、自分を助けようとしゃがみこんだ提督の胸に、それを突き刺した。


黒いコートの男「榛名・・・なぜ?・・・くっ・・・!」グラッ、ガッ


―男は倒れかけたが、片膝をついて持ちこたえた。しかし、既にその口からは血が溢れ始めていた。


榛名「あ・・・あ!・・・違います、榛名はこんな事をしようなんて・・・残念ね。偽物の私を守ろうとしてこうなるなんて。あなたも、あの人も、所詮偽物だから、こうなるのよ。うふふ。相応しい、みじめな最期ですね」


―二人の、相反する榛名が話しているような、妙な話し方だった。


黒いコートの男「何を?・・・何・・・が・・・?」


榛名「違います!偽物だなんて!提督、ああ・・・その傷では・・・うるさい子ね!私の練度の足しに過ぎなかったくせに、偽物のくせに、ここまで出しゃばるなんて、誤算もいいところだわ!忌々しい」


??「あら、一番の卑怯者が何か言っているわね」ドスゥ!


榛名「ぐうっ・・・かはっ・・・あなたは・・・!?」


―赤黒いオーラをまとった手が、立ち上がろうとした榛名の胸の傷に突き刺さった。赤く燃える眼に、禍々しいオーラをまとった、戦艦・陸奥だが、その姿はまるで深海化しているようだ。


黒いコートの男「・・・何だ?君は?・・・うっ、ごほっ」


深海の陸奥「あら、つれないわね。ずっとあなたと一緒に戦ってきた私がわからないなんて。大丈夫よ。深海化しているけれど、私は敵ではないわ。この世界の戦いのケリを着けるのと、あなたの最期を看取ろうかと思って来たのよ」


榛名「あなた・・・まさか、あの陸奥なの?」


深海の陸奥「そうよ。あなたが邪魔者扱いして陥れて、ひどい事になった陸奥よ。というか、出て来なさい、叩き潰してやるから」グイッ!・・・ズアッ


榛名「うっ、ううっ!」


―陸奥がやや乱暴に腕を引き抜くと、榛名から幻影のように黒い榛名が分離した。


榛名「え?私の中に、私が・・・?」


黒い榛名「あなたがどうしてここにいるのよ!こんな、こんな事あるわけないわ!」


深海の陸奥「死ぬまでそう言っていればいいわ。さよなら、卑怯者!この世界に勝者なんていないのよ」ジャキン・・・ゴゴゴ


―陸奥は黒い榛名の胸倉を掴んだまま、深海の艤装を展開した。


黒い榛名「やめろ!やめなさい!あなたも私と同じ最初の艦娘でしょう!?やめて!」


深海の陸奥「どの口がそんな事を言うの?あなた達が私にしたことは、こんな苦痛の何倍もの苦しみだったわ。じゃあね!」ドドドドウッ


黒い榛名「くっ、こんな結末、絶対に認めない!許さない!があぁぁぁ!!」


―黒い榛名は陸奥の零距離射撃で、胸倉から下を全て吹き飛ばされ、消滅した。


榛名「陸奥・・・さん?私も・・・殺すんですか?」


深海の陸奥「ううん、そんな事しないわ。榛名、お疲れさま。とても長くて、辛い戦いの日々だったわね。もうじき、全て消えてしまうけれど、あなたが最後までこの人と一緒に戦った事は、まぎれもない真実よ。今となっては、あなたのほうが本物よ」


榛名「・・・あ、ああ!・・・全て思い出しました。榛名は・・・私は、二人いたんですね・・・」


深海の陸奥「ええ。でも、ここまで到達したから、もう同じ手は使えないわ。あなたの事も、これで大丈夫ね」


榛名「陸奥さん、あなたは何者で、どうしてここに?」


深海の陸奥「私は、『最初の陸奥』よ。でも、あなたたちと提督の事はとても好きなのよ。そもそもずっと仲間だし」


榛名「えっ?でも、堅洲島には陸奥さんは・・・」


黒いコートの男「着任はしていた。が、太東鎮守府で事故で失われてしまったんだ・・・」


榛名「提督!」


深海の陸奥「その陸奥を大切にした世界もあるという事よ。私はその陸奥ではないけれど、私がここにいる理由の一つだわ。それと・・・もう少しだけ、生きていられるわ。心臓が止まっても、あの忌々しい榛名のD波が残っているから、それがわずかに、あなたに活力を与えるはずよ?皮肉な事にね・・・」


黒いコートの男「そうか。なあ、深海の陸奥、じゃあ、君はもしかして・・・」


深海の陸奥「ダメよ、それを言ってはダメ。じゃあね。邪魔者はここで消えるわ。二人とも、お疲れ様」ユラッ・・・フッ


榛名「消えた・・・?」


黒いコートの男「・・・ありがとう、たぶん、長い間かな」


榛名「えっ?長い間?うっ・・・提督、榛名も、ここまでみたいです・・・」


―榛名の身体は淡い光に包まれ、それが少しずつ拡散し始めていた。


黒いコートの男「馬鹿だな・・・こんなところまでついてくるなんて」グラッ・・・ドサッ


―提督は片膝をつくのも辛くなったのか、横向きに倒れた。


榛名「ついていかなかったら、提督、ずっと一人じゃないですか。こんな寂しい世界で、誰にも看取られずに・・・」


提督「もともと・・・そういう死に方を希望していたさ・・・」


榛名「えっ?」


提督「でも、悪くないな。榛名、みんな無事に堅洲島に帰れたかな?」


榛名「大丈夫です!タワーはこうして、あの世界からは取り除いたし、きっと大丈夫です!」


提督「だよな。・・・ん、しばらく眠るよ。おやすみ・・・」


榛名「おやすみなさい、提督。ゆっくり休んでください・・・榛名も、ずっと、ここに・・・」


―おやすみ、と言ったが、提督のそれは永遠の眠り、死だった。猛き武人の清らかと言っていい死に顔だったが、それでも刀を握ったままだった。榛名は、ある夜の提督と扶桑のやり取りを思い出していた。


―扶桑『もし、あなたの両手が武器を握ったままだったとしても、女の心なんて、桜の花びらひとひら程度のものよ。それくらいは、手の甲にだって乗るわ。・・・ほら』ニコッ


―扶桑はそう言って、木刀を掴んでいた提督の手の甲に、ひとひらの桜の花びらを乗せた。


―ソッ


榛名「提督、私の心も、それくらいのものですよ・・・。せめて、失われた扶桑さんの代わりに、わずかでも、温もりを・・・」ニコッ


―榛名は提督の手の甲にそっと自分の手のひらを乗せると、ゆっくりと目を閉じた。忘却界に降る冷たい雨は、いつまでも止むことが無かった。



―金剛たちの部屋。


榛名(ああ・・・私、何て恐ろしい夢を。そして、とても大事な事を忘れていたんですね・・・)


―??『提督の名前は隠されていますから、その名前を記憶制御のキーワードにするのはいかがですか?誰も提督の名前を知らない筈ですから』


榛名(間違いないです。あれは、もう一人の榛名でした。でも・・・あの榛名は・・・!)


―??『陸奥め!まさかこんなやり方で我々の邪魔をしてくるとはな!仕方ない。予定は若干変わるが、結果が同じならいい。今夜の事は隠さねばならない。榛名、実力は変わらないのだから、今夜から君が『開耶姫』だ』


―白い士官用コートの男『すまないな、榛名。頼まれてくれ。君もあの榛名も、私は失うわけにはいかないんだ。陸奥は・・・二度とこんな事が出来ないようにしておこう』


榛名(あれは、横須賀の・・・提督!そして、一条御門さん?)


―しかし、自分の記憶に自信の持てなくなった榛名は、夢の件もあって混乱していた。


榛名(どうしよう?私、おかしくなってしまったの?)


金剛「ハールーナー、そんな時は提督の所に行くのが一番デース・・・」ムニャ


―金剛は何かを見通して話しているのだろうか?


榛名「えっ?」


金剛「ほら、とっとと行くネー!提督はちょっと変な所がありますが、よくわからないモヤモヤはすぐに片付けてくれるのデース!」


榛名「でも・・・こんな時間に伺ったら・・・」モジッ


金剛「あー、そういう心配もいらないデース!提督は私と添い寝していても変な空気にならないですし、そもそも、寝る時も服を着たままで警戒を解かない人ネー。いーいですかー榛名、ワ・タ・シが添い寝していてもなーんにも起きない人なんですから、榛名も大丈夫に決まっているネー!」ドヤァ


榛名「そっ、そうなんですか?お姉さまと添い寝していてもそんな感じなんですね?」


金剛「深海より手ごわい男ですネー。ホラ、さっさと行ってくると良いデース!」


榛名「わっ、わかりました!」


―榛名は着替えると、部屋を出て提督を探すことにした。提督と出会い、敗れてから、毎日が怒涛のようだ。せき止められていた時間が一気に流れ出したような感じだが、とても楽しいのも事実だった。それは、横須賀に荷物を取りに行くのも億劫なくらいだ。



―提督の私室近く。


??「あれっ?榛名さん、提督に御用ですか?」


―榛名は背後から声を掛けられた。


榛名「あらっ?磯波ちゃん?(いつの間に?私の背後を取るなんて・・・、私の落ち着きが無いだけでしょうか?)」


―磯波は静かに榛名に歩み寄ると、その眼を一瞬見た。


磯波「あっ、何か相談なんですね?提督なら、私室ではなく、第一展望室に向かいましたよ?」


榛名「えっ?わかるんですか?」


磯波「何となくですけれど、よこしまなものが無いのに真剣という事は、相談なのかなって」ニコッ


榛名「ええ。とても・・・気になる事があって(よこしまって何でしょうか?でも、とても鋭いですね・・・)」


磯波「そうなんですね?あ、飲み物などが必要だったら、この時間は内線で執務室にご連絡くださいね。では、失礼いたします」ニコッ


―磯波は静かに立ち去ったが、所作に隙が無かった。


榛名(そういえば、あの子は護衛秘書艦でしたね。やっぱり、あの提督の秘書艦は一味違いますね・・・)


―本当の護衛は、近づく者すべての心の中を見通すことだ、と榛名は習ったことがある。同じ言葉を、磯波は提督から学んでいた。



―第一展望室。


榛名(あれ?明かりがついていませんね・・・?鍵は・・・)


―スウッ


―提督が居ない時は施錠されているはずの引戸が、静かに空いた。暖房の温かい空気が流れ出るので、榛名は中に入り、すぐに引戸を閉める。


提督「・・・ん?榛名か。どうしてここにいると?」


―闇の向こう、窓際から提督の声がした。榛名は眼を夜間視力に切り替える。黒ラベルの四輪の薔薇のウイスキーを、かなり薄めて呑んでいるようだ。


榛名「磯波ちゃんから、こちらにいらっしゃると聞きました。お一人の時間を邪魔してすみません。昼間から、何かおかしくて、お姉さまに提督と話すように勧められたのです」


提督「金剛が?ふむ・・・やるかい?」ゴトッ


榛名「そうですね、いただきます。少し、お酒でも入ってないと話しづらいような、そんなバカげた妄想と夢のお話なんです」


提督「榛名がそんな表現を使うとはね・・・ふむ、聞こうか」


―榛名の予想より遥かに真面目に、提督は話を聞き始めた。



―同じ頃、小笠原諸島、向島泊地(旧小笠原泊地・向島兵站要塞)、会議室。


元職員の老人「うーむ、これはワシの考えじゃが、チャンスというものはそう多くないもんだ。次にきっかけがあったら、アプローチしてみてはどうかと思うがね」


補給部隊隊長「イチかバチかではありますが、もともと玉砕覚悟の反撃予定でしたからね。希望に賭けられるだけ、ずいぶんましかと思います。私も次の機会があったら、賭けてみて良いかと思いますよ」


隼鷹「だよねぇ?あたしもおんなじ考えだな。昼間のアレは、間違いなく味方の通信だったよ。しかも、小笠原の深海を挑発してたように思う。合わせて、味方の反応も探ってたんだろうさ。それくらいの鎮守府だと、次に考えることは・・・」


祥鳳「撤退後にこっそり、別動隊で偵察を入れる可能性が高いわね・・・」


飛鷹「ああ、艦載機が無いのが辛いなあ・・・」


千代田「でも今、おねぇと谷風ちゃんたちが出ているから、何かわかると良いのだけれど。もうそろそろ、戻るはずよ」



―同じ頃、向島近海。


谷風「今夜も全然敵の気配がしないし、あれだね、ひどい事になる気がしないね!」


千歳「敵の感がなくても、味方の感も無かったら同じなんだけど・・・みんなどう?何か感じられる?」


文月「私はあまりわからないの~。もう少し練度を上げられればいいんだけど、ごめんねぇ・・・」ペコリ


皐月「うーん、ボクの気のせいかもしれないけれど、何だか潜水艦の気配を感じるんだよねぇ。・・・あ、敵じゃないよ?味方のだよ?」


千歳「えっ?本当に!?」


―燃料がほとんどないせいで、千歳率いる駆逐艦隊は、超微速で味方を感知しようと移動していた。この方法は、速度は全く出ないが、艦娘として深海側に感知される危険性もとても少なくなる。ただし、お腹がすくのがかなり早くなるという欠点があった。


皐月「うん。ボクの勘違いじゃないと思うんだけどなぁ・・・」


文月「あっ!水の中をさーっていうこの感じのこと?」


谷風「ふーちゃん、わかるのかい?まっさかぁ~!・・・あれ?これほんとに味方の潜水艦じゃないの?なんてこったい!」


千歳「ほんと!もう私にもわかる。これ、味方よね?。感のある方にこのまま微速前進しましょう?敵意が無い事は伝えないと!」



―近くの海中。


イク「ねえねえイムー、味方だと思うけど、この微速って敵意のないアピールって考えていいよねー?」


イムヤ「だと思うわ。もうこちらにはとっくに気付いているはずだもの。やっぱり、向島要塞に向かって正解だったわね」


ゴーヤ「どうするんでち?浮いてみるでち?」


はっちゃん「水母と駆逐三隻の中途半端な艦隊に、この微速でしょ?資源カツカツで頑張ってたって事だと思うけど・・・」


イク「じゃあイクが行くのねー!なんかあったらすぐに潜るから、よろしくなのね!」ゴウッ


イムヤ「あっ、イクってば!・・・早い!」


―イクだけ加速して隊列から離れると、微速で移動する艦隊のすぐそばに向かった。


―ザバーッ!


皐月「うわあ!てっ・・・敵かな?」


イク「あー!やっぱり味方だったのね!そーんなに、びっくりする事無いのー!」


文月「えっ!?本当に味方なの?」


イク「ねえねえ、状況を手短に教えて欲しいのね!」


千歳「信じられない!こんな日が来るなんて、耐えていて本当に良かった!・・・あ、ごめんなさい。私たち、旧小笠原母島泊地の艦娘です。状況を簡潔にご説明しますね・・・」


―千歳は大規模侵攻からこれまでの事と、装備や資源が全くない事を説明した。対して、イクは合流や救助は可能だが、自分たちの所属が特務鎮守府であり、よそへの異動はとても難しい事、主な目的は次回の大規模侵攻の阻止にある事を説明した。


皐月「ボクはそこでいいよ。だって、ここまで来てくれたんだしさぁ!」


谷風「まあねぇ、もともと玉砕覚悟だったし、選択の余地は無いっていうか、そっちの方が分がいい賭けだよねぇ」


文月「ねぇねぇ~、司令官さんは素敵な人なの?」


イク「イクはかっこよくて強い提督だと思ってるのね!戦艦のお姉さま方に人気だから、なかなか隅に置けない提督なの~」


千歳「あの・・・じゃあ、ごめんなさい、すごく下らない質問だけど、お酒とかは?」


イク「飲み放題に近いのね!提督もお酒が好きだし、みんなよく呑んでるのね」


千歳「そうなのね!(これ、隼鷹と飛鷹と千代田は大丈夫ね。あとは祥鳳だけかなぁ?)」


―取り残されたメンバーの中で、祥鳳だけは複雑な胸の内を持っていることを、みんな知っていた。場合によっては、一人だけ残ると言い出しかねない可能性があった。


イク「一度みんなで話し合って、意見をまとめてくれた方が良いと思うのね。とりあえず、異動してくれるなら、装備や補給はイクたちが何とかするつもりなの!」


千歳「ありがとう。提督さんによろしく言っておいて。こちらでは、意見をまとめてみるし、補給が何とかなれば、作戦にも協力するつもりよ!」


イク「わかったのね!」


―こうして、堅洲島鎮守府と、小笠原・向島兵站要塞に取り残されていた艦娘たちの最初のコンタクトはスムーズにできた。しかし、難しいのはこれからだった。



―同日昼間、南太平洋、パルミラ環礁近海。


―ザァー


―航行中の熊野に雷跡が迫っていたが・・・。


―ギャリッ・・・スッ


―それは命中する直前で、熊野の急な転舵によって躱された。


秋津洲「うん、ふたりとも、だいぶ戦闘航海術が分かってきたかも!」


朝雲「話半分だったけど、本当にこれ、有効だわ。必殺技を閃くきっかけになったって、あながち嘘でもないのね」


秋津洲「あっ、ひどいかも!投錨と抜錨を使いこなすことで、色々な機動ができるってわかったはずなのにぃ!」


熊野「重巡である私には、とても助かる技術ですわ。1パーセントでも生き延びる確率を上げることが、今の私達にはとても大切な事だと思いますもの」


―パルミラ環礁の捨てられた泊地を拠点にして、熊野たちはここ何日か、ひたすら訓練をしていた。意外な事に最も練度が高い秋津洲から、その独特な機動、『秋津洲流戦闘航海術』を学びつつ、基本的な練度を上げていたのだ。


熊野「普段の私たちはしない機動、その3つの基本、わかりましたわ」


秋津洲「はい、じゃあ熊野ちゃん、復唱してみるかもー!」


熊野「一つ、足の艤装の角度を変化させ、蹴立てる波を変え、相手に速度を誤認させる」


秋津洲「うんうん!」


熊野「二つ、暗礁や浅瀬、潮流その他の自然条件を利用し、魚雷や砲の被弾率を下げる」


秋津洲「そうかも!」


熊野「三つ、投錨、抜錨を機動に取り入れ、急旋回や急減速等を行い、回避に役立てる!」


秋津洲「合格かも!」


朝雲「・・・ねえ、ところで一つだけ気になっていたんだけど、どうして秋津洲さん、そんなに練度が高いの?」


秋津洲「あ・・・それはね、うちの提督さんが、『秋津洲ちゃれんじ』とか言って、あちこちの鎮守府の色々な子と単艦演習させたからかも・・・」


朝雲「ええっ?何その無謀なチャレンジ!」


秋津洲「自慢じゃないけど、大和さんや武蔵さんとも戦ったことがあるかも!舞鶴の大和さんを小破させたのが自慢なのよ?」


熊野(自慢なのかしら?自慢じゃないのかしら?)


朝雲「えっ?それ結構すごくない?」


秋津洲「こうして生き延びた事を考えると、今になってみるとありがたかったかもって。提督さんは面白がっていたけど、無駄じゃなかったかも・・・」


―秋津洲の声のトーンが少し落ちた。


熊野「どうしたんですの?」


秋津洲「舞鶴の大和さんを小破させたとき、提督も鎮守府のみんなも、お祝いしてくれたなぁって。ちょっぴり意地悪されているのかなってずっと思っていたのに、そんな事無かったかもって・・・。連合艦隊にも何度か入れてもらったし。やっぱり、みんなの仇を討ちたいなぁ」


朝雲「きっと討てるわ!大丈夫よ!」


熊野「そうですわ。きっと!」


―この翌日の未明、熊野たちはパルミラ環礁を後にし、ショートランド泊地を当面の目的地にしながら、特務第二十一号に向かう航路へと旅立った。太平洋の二方面での大規模作戦のお陰で、熊野たちの旅は平時よりだいぶ会敵率が少なくなっていた。



―1月4日マルマルマルマル(午前零時)過ぎ、堅洲島鎮守府、第一展望室。


―提督も榛名も、酒は最初の一口だけで、提督は榛名の夢または記憶の話について、メモを取りつつ真剣に聞き、それからはノートタブレットで何かを調べ続けている。


提督「・・・ああ、遠慮しないでやっててくれ。これはフォア・ローゼスの黒だ。いい酒だぞ?」


榛名「はい。・・・あの」


提督「ん?・・・口に合わなかったかな?」


榛名「いえ、美味しいお酒です。・・・じゃなくて!あの、提督はこういう話も真面目に聞いてくださるんですね」


―予想外に真面目な提督の対応に、榛名は少し戸惑っていた。


提督「なんというか、こういう話の方が重要だぞ?・・・いや、ずっと昔のおれだったら、そんな気にするなとか言って終わりだったろうが、アフリカに行ってからは考えが変わったんだ。この世に偶然なんて無いってな。だから、この話も精査する。現状、何もなかったとしても、心には留め置いておくつもりだよ。案外こういう事が、重大な局面を左右するものだからな」


榛名「どうしてそう思いましたか?」


提督「あの頃、仲間が些細な怪我をして脱落した、他部隊との合流地点が間違っていた、武器の故障が続いた、補給が切れやすくなった、予想外の場所で敵部隊と遭遇した・・・そのようなもの全てが仕込みだったんだ。今のおれは、何一つ偶然など認める気分にはなれないな。ひどい話だろう?・・・今だってそうだ。偶然、強力な深海艦隊と遭遇した・・・なんて間抜けは無しで行きたいと思ってるのさ」


榛名「確かに・・・そうですね。そんな事があったんですか・・・」


提督「少しだけ引っかかっていたんだ。榛名を見ていると、実戦の経験がそう多くないように見えてしまうんだ。しかし、演習や試合は非常に強い。少なくとも、異動が不可能なくらいには十分に強かった。その不自然な状況が、この話とはぴったり合う気がする」


榛名「私、海で沢山の深海棲艦との戦いを経てきたつもりでした。・・・でも、死兵と化した磯風ちゃんの攻撃さえ見抜けず、お姉さまに助けられてしまいました。この、おかしな夢や記憶とはまた別に、自分がお役に立てるかも、不安になっています・・・」


提督「あ、そこは心配いらない。実力はあるから、何度か海で戦ってみれば、『開耶姫』の名にふさわしい力は発揮できるはずだ。それはおれが保証しよう」


榛名「提督が・・・保証!ありがとうございます!元気が出ます!」


提督「問題はむしろ、だれが何のためにそんな事をしているのか?という部分だが、こればかりはまだ推測しかできないな。拠点をここに移してしまう以上、これを仕組んだ何者かが動かない限り、何も見えないはずだし、案外、何もないままかもしれないしな」カラン


―提督はここで久しぶりにグラスを傾けた。


榛名「榛名もいただきます。・・・あの、一条御門さんが居る事と、その姿が記憶にあるのがおかしい部分です。一条御門さんは優秀な提督だったそうですが、ずいぶん前に海で消息を絶ったとされる方です。直接お会いしたことは無いはずなのです。もともと、伝聞のみで、私の憧れの提督ではあったのですが」


提督「おれがその名を出したために、榛名の記憶のロックが外れた・・・ってところだろうか。しかも、異動したせいで提督もおれになっているしな」


榛名「はい。名前をキーワードにした記憶の操作が、一部解除されたのかもしれません。でも、そんな事が可能なんでしょうか?」


提督「現時点で、可能だと判断すべきだろうな。そして、高確率で、上層部か深海、又はその両方が関わっている可能性がある、と考えておいたほうが良さそうだ」


榛名「そんな・・・」


―榛名の顔がさっと曇った。


提督「・・・が、まあ心配は要らない。逆にこの状況を利用して、何らかの良い結果を出してみたい。また時々、これについては質問するかもしれないが、榛名も思い出したことがあったらマメに教えて欲しい」


榛名「・・・はい。あの・・・榛名、ここの皆さんや提督に大きなご迷惑をお掛けするような事になりはしないかと、心配です」


提督「ああ、それ逆。むしろ、こういうのが必要というか、もっとあった方が良いくらいだな」


榛名「ええっ?」


―榛名はびっくりして提督の眼を覗き込んだ。が、その眼はわずかに楽し気な感じがするくらいで、何もわからない。ただ、不安や気遣いは無いような気がした。


榛名「本当に・・・そうなんですか?」


提督「本当。むしろ助かる。陰で起きていることは見た目よりずっと多いはずで、この件もきっと、その手掛かりとなりうる。それらを多く把握しなければ、哀しい未来しかないはずだ。実際、榛名の記憶か夢も、そうだったんだろう?」


榛名「はい。確かに、おっしゃる通りですが・・・」


提督「明日以降、より多くの資料から何か見つからないか探してみる。それと、おそらく異動しないままだと、榛名は何かひどい目に遭っていた気がして仕方ない。ここに居る今は、おそらく最悪の未来は回避したものと解釈したらいい」カラン


―提督はそう言うと、グラスを飲み干して次の一杯を作り始めた。


榛名「あっ、榛名がお作りします!」


提督「私的な酒だから大丈夫。というか、作った事はあるのかい?」


榛名「芸能のお仕事をしていた頃に、簡単にですが習いました。気持ちを込めてお作りしますよ?」ニコッ


提督「何だか恐縮だが、いただこうか」


榛名「はい!」


―ここで榛名は、水割りを作りつつ上機嫌になっている自分に気付いた。


榛名(あれ?本当にお姉さまの言う通りでしたね・・・)


―提督のほうを見ると、再びノートタブレットで何か調べ物をしているようだ。真面目な表情だが、不安を感じさせるものはない。なぜかは分からないが、自分が良い方向に進んでいるような気がしてしまう。


―金剛『提督はちょっと変な所がありますが、よくわからないモヤモヤはすぐに片付けてくれるのデース!』


榛名(うーん・・・何なんでしょう?確かに少し、不思議な方ですね・・・)


提督「なあ榛名、『艦娘矯正施設』の件なんだが・・・」


榛名「あっ、はい!」


提督「時雨の異動の時に一度行ったんだが、要塞並みに頑丈な造りだった。つまり、それだけ強力な艦娘の収容を想定しているという事になるが、実際にそんな、例えば戦艦クラスの艦娘が収容されているんだろうか?」


榛名「艦娘・・・矯正施設・・・!」


―榛名は過去のいつかのやり取りを断片的に思い出した。



―榛名の記憶。どこかの鎮守府の、薄暗い執務室。


白い士官用コートの男「仕方がない。・・・榛名、しばらく矯正施設に身を隠すことになっても大丈夫か?佐世保で事件を起こして幽閉されている榛名と、君を入れ替えてしまえば、この場を切り抜けることはできるはずだ」


―白い士官用コートの男は、冷たい眼をした、大破状態の榛名に話しかけている。


冷たい眼の榛名「くっ・・・それしかないのであれば、従います。いかなる苦しみも、問題ありません!」


横須賀の提督「なるほど!それは妙案ですな!しかし、どうやって?」


白い士官用コートの男「私に考えがある。ここから矯正施設はすぐだ。それに、まだ私のパスは有効にしてある」


横須賀の提督「パス?」


白い士官用コートの男「あそこには地下に秘密の広大な区画がある。むしろそれが本来の目的と言っていい。陸奥の無力化もそこで行えるはずだ」


横須賀の提督「なんですと?いや、そんな話は聞いた事もありませんが・・・」


白い士官用コートの男「最近少しだけ艦娘の改二の艤装に用いられ始めた、黒い対深海素材・・・あれは、矯正施設が出所だ。これ以上は言えないがね」


横須賀の提督「最近と言えば、古鷹ですな。あの黒い艤装には違和感がありましたが・・・!まさかそれは・・・いや、これ以上は聞きますまい。私も命は惜しい」


白い士官用コートの男「察しが良くて助かる。綺麗ごとばかりでは深海は打ち破れないという事だ」


冷たい眼の榛名「でも、矯正施設防衛の大和はどうします?不良品とはいえ、実力は馬鹿になりませんよ?あの子も、この出来損ないの榛名と同じく、着任不良のくせに戦闘能力だけは異常に高いですからね」


白い士官用コートの男「佐世保の榛名と戦わせる。我々はその間に準備を整え、暴走した榛名は処分されたことにし、君は矯正施設で佐世保の榛名を演じ、この榛名は今夜から『開耶姫』にすればいい。あとは段階的に鎮守府から距離を置き、少しずつリバーストリガーを蓄積していけばいい」


冷たい眼の榛名「そして最後は、偽物らしく踏みにじられ、汚され、深海に堕ちる、という事ですね。『開耶姫』も『榛名』も」クスッ


榛名(思い出しました。そして・・・そう、確か二つの大きなもめごとが、一つにまとめられ、偽の事件として世の中に出たはずです!)


―榛名はさらに重要な事を思い出していた。


提督「どうした?」


榛名「提督、『霧の夜事件』という、都市伝説を調べてみて下さい。荒唐無稽に見えますが、おおよそ事実だったはずです」


提督「『霧の夜事件』だと?ちょっと待ってくれ、調べる・・・これは・・・!」


―提督が検索をかけると、意外に多くのサイトがヒットした。だが、それよりも驚きなのは、『霧の夜事件』と入力すると、サジェストで『榛名 ニセモノ』と出る事だった。


榛名「ずいぶん前に、自分に対して、こんな都市伝説があると聞いて調べて、ちょっと驚きました。でも、アイドル活動の有名税みたいなものと割り切っていたのですが、今になってみると、単純に事実だっただけではないかと思います」


提督「しかし、漏れてはならないはずの事が漏れている。・・・いや、無荒唐無稽に見える真実を隠ぺいするには、かえって有効と判断したか?」


―『霧の夜事件』の概要はこうだ。アイドル活動をしていた『開耶姫』榛名は、実は深海の二重スパイで、ある霧の深い夜に、双方からそれがバレ、艦娘矯正施設に幽閉され、別の榛名と入れ替えられた・・・というものだ。また、この夜に発生した戦闘の巻き添えで、旧・憲兵隊は多くの犠牲者を出し、これが武装憲兵隊の発足に繋がっている、とある。


榛名「細部の真相はともかく、起きた事はこのようにも説明できる概要だったと思います」


提督「武装憲兵隊の重武装憲兵の装備については、確かに不自然なほど過剰な火力と防御力だとは感じていたが・・・あれでは、対戦車兵と言われても違和感がないくらいだものな。こういう事件があったとすれば、装備が充実したのは自然な流れだと言える」


榛名「そうですよね。提督、榛名はもしかして、本当に深海側とかかわりのあるスパイか何かなんでしょうか?」


提督「いやー、それはどうかな?スパイってのはもっと独特の雰囲気があるもんだ。おれは違うと思うな。やり取りを聞いていても、何か違う気がする。何と言うか、やや手間のかかった、使い捨てを想定した手駒と考えられていたフシがある。何をさせようとしていたかは分からないが」


榛名「何だか、不安です・・・」


―榛名はうつむき加減に視線を落とした。


提督「いや、榛名の異動も特務案件だったろう?おそらくこの事まで含めて、おれなら対処できると判断されての案件化だと思うからな。まあ、何とかするさ」


榛名「でも・・・でも例えばですよ?本当に深海側に一条御門さんが与していたとしたら、提督は戦う事になるかもしれません。失礼な質問ですが、倒せますか?」


―榛名の真剣な問いに対して、提督は微かに笑ったような気がした。


提督「さあ?どうだろうか?何しろ天下なんちゃら剣だし、風評では色々と優れた人物だったらしいからな。・・・ただ、今戦ったら、結果は見えているがな・・・」ボソッ


榛名「えっ?(どういう意味でしょうか?)」


提督「・・・さ、明日も早い。ひどい事にはならないから、安心して寝たらいい」


榛名「あ、はい。こんな時間まですいません、提督。でも、心はだいぶ楽になりました・・・」


提督「そんな不安でいっぱいの顔と声でそう言われてもなぁ・・・」


榛名「いえ・・・すいません」


提督「不安なのはよくわかるがなぁ、もう少し自分の力を信じたらいい。厳しいかな?」


榛名「自分の力は信じています。でも、艦娘である自分は、上層部や提督の意思には本当に無力です」


提督「そうだったな。では、おれもそんな感じで、榛名に無力感を与えると思うかな?」


榛名「それは・・・無いと思います。でも・・・」


―不安なのは無理もない。ある時いきなり、自分に覚えのない記憶が増えれば、それだけで混乱する。ましてその内容が、自分が何らかの陰謀に関わっているかもしれないようなものなのだから。


提督「おれを信じるのも、難しいかい?」


―提督はどこか楽しそうにしている。


榛名「あ!いえ、そうでしたね。提督の判断は信じられます。はい!大丈夫です」


―あれだけ強い自分の人生が手詰まりになったのに、この提督はそれを易々と打破した。榛名の閉塞した日々は、今はきっとこの謎めいた提督の手の中にあるのだろう。


榛名(なら、この方の艦娘になった私の悩みは、何をか言わんや、ですね)


提督「・・・まあ、それでも不安でいっぱいだというなら、それを一瞬で消して見せるけどな」


榛名「えっ?そんなことが出来るんですか?」


―提督はそれに答えず、深く息をつくと、暗い外の景色に目をやり、何かを決意したような雰囲気を出した。そして、榛名のほうを向く。


提督「ところで、横須賀での、何か二つ言う事を聞く、というあの話だが・・・」


榛名「えっ?はい・・・約束は果たしますけれど・・・」


提督「あれからずいぶん考えたんだが、やはり夜戦が良いな。何と言っても『開耶姫』榛名だ。戦っても強いし、歌って踊れるし、魅力の塊だ。誰にも渡さないようにするには、これが一番かなと」


―バッシャーン!


―榛名は、自分が雷に打たれている姿をイメージしていた。


榛名「なっ・・・やっ・・・!!??」アワアワ


―榛名の中で、提督の言葉や、様々な夜戦のイメージがぐるぐると回った。


榛名(ど、どうしようどうしよう?お姉さまの事は?えーとお風呂は大丈夫、下着は何だったでしょうか?・・・じゃなくて!この提督がそんな事を言うなんて!榛名がそんなにお気に召したんでしょうか?)グルグル


提督「・・・なーんつって!」ニコッ


榛名「・・・えっ?」ドキドキドキ


提督「冗談に決まってるだろう!」


榛名「あっ!榛名をからかいましたね!?」


提督「すまないな。でも、消えたろう?不安」ニヤッ


榛名「あっ!」


提督「本能はこの問題を不安に思っておらず、夜戦を持ちかけられた場合の方が、関心としては大きい、と。これで以降、無駄な不安に悩まされることは無いはずだ」


榛名「みっ、見事ですけれど・・・こんなのズルいです!榛名、一瞬本気にしちゃったじゃないですか!」


提督「そうでなければ不安を消せないだろう?」


榛名「それはそうですが・・・」ムー


提督「ついでに、それだけ表情豊かなスパイなど居ないと思うがね。こういう局面をチャンスととらえる打算的なものは、その眼に全く見えなかったしな。ふふふ」


榛名「あっ・・・!」


―確かにそうかもしれない。


提督「さ、色々と落ち着いたところで、とりあえずは大丈夫って事で良いかな?」


榛名「はい。今度こそ大丈夫です!・・・では、そろそろ失礼いたしますね。こんな時間まで、ありがとうございました」ペコリ


提督「ああ。おやすみ!おれはもう少し、考えをまとめてみる。それと、これは個人的な感想だが・・・」


榛名「はい?」


提督「深海か何かが榛名を利用しようとしていたとして、その予定をひっくり返し、こちらの大切な戦力にしてしまったら、きっと痛快だろうと思うのさ」ニヤリ


榛名(こんなお話なのに、そんな楽しそうに言うんですね・・・。迷惑とか、危険とか、全く考えていないんですね)


榛名「提督、何だか私、ずいぶんしばらくぶりに、自分が自分で良かったと思えてます。では、失礼いたしますね」ニコッ、ペコリ


提督「ああ、おやすみ!」


―してやられたが、悪い気は全くしない。そして、榛名自身はまだ気づいていないが、この日を境に、榛名は少しずつ、自分の素が出るようになっていくのだった。



―数分後、金剛と榛名の部屋。


金剛「おかえり。ミルク多めのミルクティー用意するネー」


榛名「お姉さま、起きていてくださったんですか?」


金剛「そりゃー色々と気になるネ!榛名の心配事の件もあるし、万が一、良い雰囲気になって夜戦なんて事になったら、哀しいですしネー」ニコッ


榛名「ええっ?・・・実は、提督に横須賀で敗れたぶんで、夜戦を提案されました」ニコッ


金剛「エッ?・・・あっ、そういう冗談を言われたのネー?」ニヤッ


榛名「はい。お陰で不安が吹き飛ばされてしまいました。提督はお話が上手というか、面白いですよね」


金剛「話してるととても楽しいデース!榛名もそれがわかって、私も嬉しいネ」


榛名「でも、あの、深海化の懸念があるからと言って、誰とも関係を結ぼうとはしないようですが、提督はどんな子が好きなんでしょうか?」


金剛「ふーん?榛名も提督が気になり始めましたかー?まあ、無理もないデース。・・・現状では、誰とも仲が良くて、特定の誰かという事は無いようデース」


榛名「あ、わかります。気遣いなんでしょうか?」


金剛「うーん、最初はそう思ったけど、どうなんでしょう。案外、艦娘なら誰とでも良い関係を築けると理解していて、気楽に構えているのかもしれませんネー。昔の有能な提督には、そういう人が多かったそうデース」


榛名「お姉さまから見て、どう思いますか?」


金剛「近づけばある程度近くには行けるけれど、超えちゃいけないラインがどこかにある感じデース。昔、色々あったみたいだから、そう簡単には心を開かない人なのかもしれないですネー。それがまたいいのですが」テレッ


榛名「そうなんですね・・・」


―しかし、榛名には別にもう一つ、気になる事があった。夢で見た提督より、今の提督は、遥かに力強い感じがし、どこか得体の知れない雰囲気があった。そして、それが妙に自分を安心させる。


榛名(本当に、夜戦の時の夜の海のようです。不思議な方・・・)


―提督は、一条御門と戦ったらどうなるか?という質問に対して、ぼかしつつも「結果は見えている」と言った。あり得ない事だが、この提督なら一条御門を歯牙にもかけないような気がしてしまう。



―明けて、2066年1月4日、ヒトマルマルマル(午前十時)過ぎ、執務室ラウンジ。


―提督は川内と、特務第七の川内を呼び、瑞穂たちから得た情報についての打ち合わせをしていた。


特務第七の川内「わかってはいたの。いつかはこういう形で復讐されるかもって。でも、特防もグルだと厄介だよね。ただ、この話には相手方に重大なアキレス腱があるはずなのよね」


提督「アキレス腱?」


特務第七の川内「うん。志摩鎮守府は結束が固いし、なんというかすごい体育会系のノリだけど、そういう人たち独特の乱暴さがあるのよね」


川内「どういう事?」


特務第七の川内「志摩鎮守府の大井と北上は、同型艦では三本の指に入るくらいの強さなんだけど、その仲の良さも有名だったのよ。私は、そんな大井が北上の深海化に気付いてなかったとは、ちょっと思えないんだよねぇ・・・」


提督「組織ぐるみでそれを隠蔽しつつ、復讐の形を取って汚点と秘密を消す意図もある、という事か」


特務第七の川内「憶測にすぎないけれど、そういう部分も多分にあると思うの」


提督「特防がそれを把握している可能性は低そうだが、把握していたとしても、自分が不利になりかねんカードだな。という事は・・・危ない橋を渡り、あえて叩き落とし、そこにわざとらしく手を差し伸べるようなやり方が一番か」


川内「何か考えがあるの?」


提督「ああ、考えがまとまった。二人とも、こういうのはどうだ?」


―提督は思いついた案を二人に話した。その案は実に人を食ったものだった。二人の川内は驚いた顔から、楽しそうな顔に変わっていく。


川内「うっわぁずるい!でも、いい方法だと思うなぁ」


特務第七の川内「提督さん、やり手だとは思ったけど、こういうのも得意なのね・・・というかずるーい!あはは!そんな事されたらみんな混乱するけど、すごく有利になるよね!うん、あたしは乗ったよ!ただ、川内は大丈夫?」


川内「こんな面白い事、やらないわけないよー!ちょっとのリスクも全部こっちの有利に働く、そういう事でしょ?提督」


提督「そうなるな。何か危害を加えられたら、それが全部こっちのカードだ。たぶんこれで、志摩鎮守府も特防も、特務第七も落ち着くはずだ」


特務第七の川内・川内「すっごい楽しみだなぁ!」


―志摩鎮守府と特防の、特務第七に対する私的制裁措置に対して、堅洲島の提督はかなり人を食った対策を考えていた。これで、ほとんどすべてが丸く収まるはずだが、あとは下田鎮守府の深海化しているらしい秘書艦たちの問題への対処を考えねばならなかった。ただ、その件は未知数が多すぎて、おそらく即興性が求められるはずだった。



第五十三話、艦



次回予告。



一月四日になり、総司令部から川内の行方について、元帥に返り咲いた参謀から回答を受けた、特務第七の鷹島提督は、その鎮守府の提督が誰であるかを知り、衝撃を受ける。


仕事始めとともに、ハンドレッドから雪風の装備品や銃器など、数々の武器が再び届く。そして始まる、雪風独自の練習。


自分の事を忘れてるんじゃないのか?と詰め寄る江風に対し、再び小学校の探索を持ちかける提督と、ついていく陽炎たち。


『霧の夜事件』について、秘書艦への任命と共に五月雨に調査を任せる提督なのだが、赤城が驚くほどのデータ解析・分析能力を見せる。


そして、ある施設では、束の間、清霜と面会する武蔵が居たが、清霜の謎の病状は悪化の一途をたどっていた。



次回『異なる未来の予感・後編』、乞う、ご期待。



足柄『ちなみにその頃小笠原では、私が「わおーん!」って吠えながら暴れているのよ!大活躍なんだから!』


提督『大活躍だが、功績点は何に使うんだ?』


足柄『まだ内緒よ!本編を楽しみにね!』





後書き

艦娘と提督の会話は、このお話ではなるべくはしょらない様にしよう、と考えているのですが、その分長くなり、前後編に別れてしまいました。


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このSSへのコメント

4件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2017-06-03 17:19:12 ID: NdMNtFCK

投稿お疲れ様です!
更新早くて嬉しい!
榛名の秘密、ですか・・・

2: 堅洲 2017-06-12 22:33:39 ID: DQNT69cd

1さん、コメントありがとうございます!

続きが遅くなってしまいました。

榛名の秘密はぼちぼち、深海側の幾つかの謀略が露呈していくお話です。同時に、着任する艦娘も増えるエピソードです。眼鏡のあの人とか、ホテルと呼ばれると不機嫌になるあの子とか、その子をかつて守っていた、獰猛なあの子とか、げほんげほん。

お楽しみにしていてくださればと思います。

3: SS好きの名無しさん 2017-06-13 01:09:36 ID: 6I2oF7nd

次回予告に久々のキャプテンが!!

4: 堅洲 2017-06-16 20:03:04 ID: s3D2HqER

3さん、コメントありがとうございます。

そうです。赤城さんが久しぶりに出ます。そしてこの赤城さん、何か・・・。

よくよく振り返ると、着任の仕方がちょっと違うんですよね。


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