2017-11-24 08:59:48 更新

概要

美的感覚がおかしな世界で提督が頑張って生きる話+色々と小話(予定)


前書き

物書きド素人且つ遅筆です、ゆっくりしていってね!!
かなりのご都合主義で進行、艦これSS処女作。

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自分の作品が万単位の閲覧をされたのは初めてです、感謝多謝。

※稀に細かい部分や勘違いしていた部分を修正する場合があります。


プロローグ

金剛「軍人や上司としてはrespectしてるけど、Loverとしての魅力はnothingデース!!」



金剛型の部屋の前で聞こえてしまった、できれば聞きたくはなかった類の言葉だ。


今まで艦娘達に下心ありとはいえ安心感を持ってもらおうと、出来る限り無理のない環境や編成、補給などを心掛けてきた。


どうやらそれも無駄な努力に過ぎなかったようだ、容姿の悪さが異性との関係に響くのは承知していたがどうやら甘く考えていた、これも慢心か……



榛名「提督には申し訳ないですが、榛名も提督が理想の男性とは考えにくい所があります、素晴らしい指揮官なのは確かです」


霧島「私も榛名の意見に賛同ですね」


比叡「私は元々お姉様一筋です!! 司令は目じゃありません!!!」



彼女の妹達もどうやら同意見で纏まったようだ、尚更心にグサッと見えない何かが刺さる。


自分の容姿の悪さといったら、短足・チビ・力士体型と三拍子揃っていて顔が朝○龍である、救いようがない。


学生時代のあだ名はドルジだったし、鍛錬好きで筋肉質過ぎたから細身が好きな大多数の女の子にウケが悪かった。


中学時代から露骨に冷たくされたり「ブサイク死ね、生きる価値無し」みたいな視線で一部の女子から睨まれたこともある。


うっすらと汗をかいた時に駆逐艦達から「ちょっと臭い」と言われた時も結構傷ついた、ちゃんと清潔を心がけているのに……



俺は元々は海上自衛隊の一兵卒だったのだが、数年前の深海棲艦の出現により提督に昇進した。


提督適性試験という簡易テストがあるのだが、妖精さんが視認でき尚且つ会話まで出来たので問答無用で提督の椅子に座らされて現在に至る。


妖精さんが見えるのは少数で、会話まで出来るのは数えられる程度しかいないそうなので提督就任はもはや命令に近い強制ぶりだった。


学生時代は女性から疎まれて過ごしたので大学卒業後は、女性から逃げる為に海上自衛隊に入ったのに何故こうなったのか、正直辛い……


友人の数合わせで合コンに連れていかれた日には、女子から完全無視を決められ開始数十分で帰ったからな、もう二度と行かぬわ……



先ほどの金剛型姉妹の発言にショックを受けて覚束無い足取りでようやく提督執務室に着いた、唯一の安息の地である。


大体の提督は秘書艦という助手の艦娘を任命するのだが、俺は顔がアレなので誰も立候補せず、指名などしたら暴動を起こされそうな雰囲気だったので秘書艦は指定していない。


他の鎮守府の話だと秘書官指定しないと艦娘達からブーイングや志願者が出るそうだが、俺は着任して数年だけど出たことは無い。


艦娘も元は女の子だから何も悪くはない、俺だってブスか美人選べと言われたら美人を選ぶ、仕方のない事だ。


なんか考えてたら色々辛くなってきた、仕事止めて私室のベッドで軽く寝よう、今まで報告以外で誰も来なかったしバレはしないだろう。



提督「世の中外見が全てと言う気はないが、8-9割は占めているよな…… なんでチビ不細工に生まれちまったんだろ…… 辛いわ、寝るか……」



???「提督よ、私の声が聞こえますか? 目覚めなさい」



あれ、俺の部屋には誰もいないはずなんだが……


目を開けて声の発する方に顔を向けたが、真っ白い空間に、猫を抱えた女性が居た。


何処か見たことのある衣服と猫だ、もしかして猫吊しか?とも思ったが


それにしては美人で頭身がリアルすぎる。



猫吊し「そう、私はあなた達の言う猫吊し、ただあの姿は大部分の鎮守府に深刻な不具合が起きた時に見せる仮の姿」


猫吊し「本来はこの世界を管理している、あなた達の言葉で言うならば女神にあたる存在」


提督「それは……凄いものだ、それで此処は恐らく夢の中とは思うがこんな場所に姿を見せるとは、俺に何か問題でもあったのか?」



俺が考えていた事をあっさり先読みしてきたあたり、本物の女神様かもしれないな……



猫吊し「察しが早いと説明する手間が省けて助かります、私は貴方が艦娘の待遇向上や国の防衛に対して多大な功績を挙げた事を見てきました」


猫吊し「そして自分らしく生きられない苦悩も」


猫吊し「多少の下心有りとはいえ、貴方は艦娘達を支えてきました、だが貴方自身は艦娘からはあまり報われていない」


提督「!?」


猫吊し「そのように警戒なさらないで、私は貴方が貴方らしく生きられる場所を今までの功績に対して与えたい、それだけなのです」



何処まで知っているんだ?  監視されるのは好きではないが、相手は神の様な存在、隠し事など到底できないか?



提督「その褒美は俺にとって大きな不利益になる事は無いのか?」


猫吊し「誓いましょう、貴方にとって恩恵となることを」


提督「……わかった、その褒美、有り難く受ける事にするよ」


猫吊し「良い返事です、そして貴方の意識はたった今、目覚めようとしている、目覚めた時には既に恩恵を授かっているでしょう」



猫吊しがそう言うと急に光が強くなり、彼女の姿が次第に消えていく。



提督「ま、待ってくれ!! まだ聞きたいことがいくつか……!! 眩しい!!!」


猫吊し「私が貴方に出来る事は此処まで、貴方の行く道に幸あれ」



提督、目覚める

眩しい光と共に俺の意識が覚めていくのがわかる、目を開いた時には見慣れない天井が見えた。


此処は何処なのだろうか? そんな事を考えていると視界の外から男性の声が聞こえた。


声が聞こえる方に顔を向けると、白衣を来た初老くらいの男性が居た、恐らく医師だろうか。



医師「気が付いたようだね、ここは軍の管轄の病院だ、気分が悪いとか身体が動かないとか異常は無いかね?」


提督「う~ん…… だ、大丈夫です、俺はどうして此処に寝てるのでしょうか?」


医師「詳しい事は私には知らされてはいない、元帥が君を見つけて此処に送ってきたのだよ」


医師「あと、君は2日ほど眠っていたので、身体が固かったり少し動きが鈍いと感じるかもしれない、退院後は適度な運動を推奨するよ」


医師「そういえば君の目が覚めたらお偉いさんに連絡を寄越せと言われていたな、君はここでまだ安静にしてるといい」



はぁ、軍の病院かぁ、とりあえずは安心して寝てはいられそうだ、って確か元帥が俺を見つけたって言ってたよな!?


何でだ!? 俺は確か私室で仮眠をしていただけのはず、それが何故元帥が俺を見つけたことになっているんだ……


色々考えてもわからん…… と、とりあえず元帥に呼ばれるまで大人しくしていよう……



────提督、2日後、軍の施設



明後日、診断と検査を受けて目立った後遺症や違和感が無いと判断された俺は退院し、俺を拾ったという元帥と会談することになった。


憲兵に連れられて移動用の車両に連れていかれるが、この時に憲兵が疑問を隠せない顔で俺を観察するように見ていた。


立場を考えたら無理もない、どう考えても怪しい男だからな、おまけに超不細工だし不安を煽るのも無理はない。


どうのこうの考えているうちに、そう遠くなかったのか数分で元帥が待っている建物に到着した。



憲兵「こちらの入り口から元帥がお待ちしている部屋に案内します、付いてきてください」



俺は軽く肯定の返事をして周りを見渡す、外から見た感じ極端に大きい建物ではなかったが軍の偉い人が来るだけあって質実剛健な作りをしている。


比較的新しいように見えるし憲兵の人数もかなり多い、そして立哨や巡回担当の憲兵達は俺の顔を見る度に微かに驚愕の表情らしきものを見せる。


不細工すぎていつもこんな反応されるから慣れてしまった自分が正直悲しいところである。


憲兵が部屋の前で止まり立哨している憲兵達に敬礼をする、そしてドアをノックして問いかけた。



憲兵「元帥閣下、予定通り会談を希望していた人物を連れて参りました、入室よろしいでしょうか?」


元帥「ああ、入室を許可する、入ってくれたまえ」



許可と同時に憲兵が部屋のドアを開き俺を招き入れる、どうやら立派な机に陣取っている壮年の男性が元帥の様だ。


だがどうにも違和感がある、それは俺が知っている元帥の顔ではないからだ。


元帥とは直接会話した事が無いとはいえ、大規模作戦に数度参加した俺は元帥の顔を見たことがあるし、写真なども見たことがある。


しかし目の前にいる元帥は俺が全く知らない人物だ、どういうことなんだ、これは……



元帥「憲兵、君は退出してくれ、彼とはあまり聞かれたくはない話をするのでね」



そう指示されると憲兵は部屋から出払った行った、元帥は俺の顔色を窺い口を開いた。



元帥「色々と知りたい、という顔をしているね、無理もない話だ」


提督「失礼しました元帥閣下、私を介抱していただきありがとうございました」


元帥「そう畏まらなくても良い、君は軍属ではないのだからね、取り敢えず椅子に座りたまえ」



ど、どういう事だ!? 俺は確かに鎮守府所属のはずだ、色々理解が及ばない事が有りすぎる……



元帥「先ずは君を介抱した理由を簡潔に説明しよう、お告げと思われる様な夢を見たのだ、猫を抱えた女性が君が倒れている場所を私に教えてきた」


元帥「そしてその女性は君の事を艦娘を救済する者と言っていた、私は半信半疑で指定の場所に向かった、そして君が倒れていたという訳だ」



そうか、猫吊しが根回ししておいたから俺は無事だったのか。



元帥「そして君には大変辛い事実かもしれんが落ち着いて聞いて欲しい」



何だろうか、こんな前置きがあると言うことは大変なことが……



元帥「君が身に付けていた軍の認識表から調べた事だが…… 君の戸籍はこの国には少なくとも無かった」


提督「……はっ? えっ、いや?」



言いたい事があるのに衝撃がデカすぎて喉から上に出てこない、上半身と頭から変な汗が出てきたのが分かる。


取り敢えず俺は深く一呼吸入れて元帥に問いかけた。



提督「私はこの国に存在しない人間ということはこれから先どうなるのでしょうか?」


元帥「話が脱線するが、君にはお告げに従って艦娘を率いる提督に就任して貰いたいと思っている、信じがたいがお告げは本物だった」


元帥「つまり君は艦娘を救う何かを持っているということだ、我が国……だけではなく艦娘という存在はかなり冷遇されている」


提督「冷遇の理由をお聞かせ願いたいのですが……」



元帥は深い溜め息をつき、逡巡しながら口にした



元帥「艦娘は容姿が…… 醜いのだ……」


提督「容姿が…… ですか?」


元帥「そうだ、世辞ですら美人とは言えぬ、私としては国を守ってくれる艦娘達に対して容姿が優れぬからと見下すつもりは毛頭ない」


元帥「だが世間はそうでもないのだ、現に鎮守府就任を拒否、またはそれが認められない場合は強行的に退役する者も続出しているのだよ……」



まるで俺自身が受けてきた差別や迫害を艦娘達が受けているのか、にわかに信じがたいが……


戸籍は無く軍属ではなくなった俺、見知らぬ元帥、容姿が醜い艦娘…… この違和感、俺はもしかして……


ここは俺が今まで生まれ暮らしていた世界とは違う? 高い確率でそうとしか思えないな……



元帥「艦娘を救ってくれる者が存在している、怪しげなお告げにすら縋りついたら君が倒れていた」


元帥「私のやり方では艦娘達を救うのは難しいのだ、艦娘だけに構っていられる立場でもない、君が艦娘達を救っては貰えないだろうか」


元帥「正直に言えば打算的な考えもある、今ここで艦娘達の信頼や力を失えば我が国は深海棲艦に辱められるだろう」


元帥「断られるのは苦しすぎるが、巻き込まれただけの君には拒否権がある、君の意見も尊重しよう」



俺は艦娘だけでなく女性のほとんどに差別や迫害を受けて生きてきたが、ここで我関せずを貫いて良い物なのだろうか。


そんなことをしたら差別をしてきた奴らと同じ場所に立ってしまう気がしてならない、この申し出を受けるべきか?


幸いな事に鎮守府の提督としての経験は数年に渡って習得している、持てるものを以って最善を尽くす、そうあるべきだろう。



提督「元帥閣下、お眼鏡に適うかどうかは難しいですがお受けします、条件がいくつかありますが……」


元帥「本当かね!? いかんな、つい嬉しさが表に出てしまったようだ、条件を言ってくれ、善処しよう」



俺が肯定の意思表示を見せると元帥は安堵した様子を見せた、余程切羽詰まっていたんだろうな……



提督「私が提示する条件は戸籍の確保は必須として、もう一つは鎮守府への物資輸送の優先順位を上げて頂くことです」


元帥「前者は少々時間がかかるが出来ないことは無い、あまり合法的な方法では無いがね、後者はここで確約出来るという証拠がない」


元帥「だから着任後は密に連絡を取り合い物資のやり取りを行おうではないか、こちらも出来る限りの誠意を見せよう」


提督「分かりました、これで取引の成立ということで宜しいでしょうか?」


元帥「細かい点は後日に話し合ったり資料として閲覧してもらうことになるが大筋の合意は得られた、私は成立として考えている」



敵と接触して命のやり取りを行うのは彼女たち艦娘だ。


物資が底をついたり滞ったりする、これはとにかく避けなければならない、最も重要な要素の一つだ。


お互いに満足する合意が得られて俺は思わず息を吐き出した。



元帥「ところで君は軍属で鎮守府所属だったというのは本当かね? 君が着ていた制服や認識票、偽物とは思えぬくらいしっかりと作られていたが」


提督「ええ、私は数日前まで確かに鎮守府に提督として着任し艦娘達の指揮や管理をしていました、数年ほどの経験ではありますが」


元帥「……君はまさに天啓のような何かなのだろうな、この時代では非科学的ではあるがな、艦娘や妖精に頼っている立場でこう言うのも難だが」


元帥「提督の経験があって助かった、それで身体の方はどうかね、異常などは見られたか?」


提督「異常は見られませんでした、極めて健康です、あと肥満に見えますけど体脂肪率かなり少ないので安心してください、鍛えてますので」


元帥「そうか、健康状態も良好なら明日にでも担当する鎮守府に着任してもらえないだろうか、着任に関する書類などは今日中に鎮守府に送ろう、後で写真を撮らせてくれたまえ」


元帥「戸籍については少々の時間が必要だが必ず確保させよう、今後の人生に関わってくるからな、今日は来賓用の個室に泊まると良い」


提督「ありがとうございます、少々考えを纏める時間が欲しかったものでして」


元帥「来賓用の個室には外で待機している憲兵に案内してもらうと良い、本日は話も纏まった、解散としよう、ご苦労だった」


提督「会談の機会を用意していただきありがとうございました、これにて失礼いたします」



カチャリ…… バタンッ。(ドアの音)



元帥「……極めて眉目秀麗な男子だった、世が世なら傾国の美男とでも呼ばれていただろう、あとは艦娘を毛嫌いしてくれなければ良いが」



提督が鎮守府に着任しました

やや遅めに朝を迎えた俺は支給された最低限の生活必需品と返してもらった制服を鞄に積め、施設を出て憲兵に乗用車まで案内された。


元帥は既に大本営の方に帰られたそうだ、あのくらい偉いと無理もないな、今回はどうにかして時間を作ったのだろう。


憲兵が言うには鎮守府の案内は現地所属の艦娘がしてくれるそうな、書類は早朝にデータで送ったそうなので今頃あちらでは準備をして待っているとの事。


数時間はかかるそうなので運転手と雑談したり、軽く居眠りしたり必要書類の確認でもしながら車に揺られながら行くか。



────長門、着任予定のK基地、提督執務室



長門「事務仕事を疎かにする気はさらさら無いが……」



私は執務机に小奇麗に纏められた書類の束を見ながら溜め息を一つ吐く、数週間は戦闘はおろか演習もしていない。


提督が不在の今、代理が出来る誰かかやらなければならないのだ、それが私だったというだけの話だ。


こんな醜女しか居ない場所を希望する提督など居らず、男性の提督で長続きしているのは粗暴で道徳と倫理の無い者だけだ。


女性の提督も多少は存在するが、艦娘以上の醜女は見たことは無い。


艦娘は長寿命・高い身体能力・長い青年期・強力な艤装を扱う力などの恩恵を受けることができる、だが引き換えに美貌を極度に失ってしまう。


妖精さん自体もかわいいにはかわいいが、かなりシュールでなんともいえないタイプのかわいさなのだ。


妖精さんの美的感覚は恐らく我々とは正反対なのだろう、だが妖精さんの力を借りねばこの国を守ることは出来ない。



長門「次の提督など早急には見つからないだろうな……」


大淀「たっ!! 大変です!!! 長門さん!!! 新しい提督がこちらに来られます!!!」


長門「大淀、どうしたと言うんだ、新たな提督が着任して数か月以下で辞めていく、そんなに騒ぐ事ではないだろう?」


大淀「てっ、提督の写真を見てください!!! とっ、とにかく見てください!!!」



大淀が持ってきた書類を加減して引ったくり、緑茶を飲みながら流し読みする。


どんな男が来ようとすぐに辞めて行くのだから、顔などそこまで気にする必要は……


次の瞬間、私は驚愕のあまり緑茶を噴き出さずにはいられなかった。



大淀「きゃああぁぁっ!? 長門さん汚い!! 噴出さないでください!!!」


長門「ごほっ!! けほっ!! そんなことは些末事だ!!! なんだ、この……この……」


大淀「美男子とかイケメンという言葉では形容出来ないくらいの端正なお顔ですよね!!! 正直女としてちょびっと濡れちゃいましたよ!!!」



大淀が醜い面を赤面させながらもじもじしている、正直不気味としか思えん。


午後には着任する……だとぉ!? こうしてはいられん、すぐにでも出迎えと案内の準備をせねば!!!


こんな不細工を通り越した女のような何かしかいない場所に、こんな美丈夫が来るとは信じられん!!!



長門「……全艦娘を広間に招集させろ、今すぐにだ!!!」


大淀「了解しました!!! 緊急放送で全艦娘を招集します!!!」


長門「提督の顔の事については伏せておく、提督が来るまでに事態の沈静化は難しいだろうからな……」



────提督、K基地入り口前



運転手「到着しました、入り口はあそこですね」


提督「ありがとうございました」



荷物を確認して送迎車から降り、基地運営施設の入り口を見やる。


此処が今日から人生の一部をかけて働く場所、そして俺と同じ差別を受けた艦娘達がいる場所。


上手くやれるだろうか? いや、持てる全てを使って向き合う、それだけを考えるんだ。


俺は浮き足立つ心を押さえつけ呼び鈴を押した。



長門「もしもし、本日着任する提督か?」


提督「ああ、そうだ、○○提督だが書類が届いていると思う、入れては貰えないだろうか?」


長門「了解した、入ってくれ、皆も待っている」



失礼する、と一言だけ告げドアを開けると、数十人の艦娘が俺を待ってくれていた。



長門「わ、私は長門型一番艦の長門だ、提督、当基地は貴方を歓迎する」


提督「おお!! 君が誉れ高い長門型の長門か!! 提督として歓迎を受けた事に報いる様、尽力しよう」



ん? 容姿が醜いと元帥から聞いていたが、長身の美人じゃないか……


他の艦娘達はどうなんだ? 俺は辺りを見回した


大勢の美少女と美人が俺を食い入る様に凝視している、正直怖い。



長門「そ、それでは提督、皆に向かってスピーチをお願いしたい……」



長門がとろけた瞳で俺にスピーチを求めている、何故か呼吸も荒い、疲れているのだろうか? 心配になる。


と、とりあえず先ずはスピーチをするか……



提督「艦娘の皆よ、俺は元帥閣下の推薦でこのK基地に就任した、元帥閣下は艦娘の待遇に酷く嘆いておられた」


提督「過労死や轟沈をさせる時代にそぐわぬ、非人道的な運営とも呼べない管理をする提督もいると聞いた」


提督「艦娘の待遇を自分の手が届くところから改善したいと考えている」


提督「俺は神様でも無いし人間を止めている訳でもない、だから自分の手の届く場所だけだ」


提督「先ずは君達からだ、君達の待遇を改善し、そこから戦績を上げていく」


提督「戦績に繋がるとなれば、時間はかかれど艦娘の待遇改善も次第に広がるのではないかと考えている」


提督「持てる全てを以て最善を尽くす、だから君達も俺に力を貸してくれる事を願っている、俺からは以上だ」



上手く容姿の事をはぐらかしてスピーチ出来たと思うが、反応や如何に……


……あれ? とても静かだ、シーンという擬音が聞こえそうなくr



艦娘達「ウオオオオォォォォォ────ッッッ!!!!」



揺れた、建物と地面が、歓声? 怒号? 腕を振り上げる艦娘達から発せられた音が、とにかく凄まじい振動を起こした。



長門「喝ッッッ!!!!」



長門が仁王立ちで一声を投じる、それだけで艦娘達は静寂を取り戻した、何が起こっているのか見当がつかない。


歓迎されているのか? 以前の鎮守府での着任時、歓迎はしてくれていたのは確かだが淡泊で落胆が隠せていない反応だったのを思い出す。



長門「提督にはこれから荷物を執務室に置いてもらう、その後に各施設を把握してもらい解散となる」


長門「申し訳ないが着任が非常に急すぎた為に歓迎会は開けない、代わりにささやかな宴会程度は翌日までに用意しよう」


提督「その辺りは無理もない、では長門、執務室までの案内をお願い出来るかな?」


長門「勿論だ、ついてきてほしい、お前達は雑務や訓練を終わらせたら寮で待機だ、提督への質疑応答は後ほど時間を確保しよう」


長門「解散だ!!!」



長門が「こっちだ」と手招きをするので付いていくことにしよう、艦娘達は渋々と自らの持ち場に戻っていく。


艦娘は容姿が醜いと聞いたが、皆の顔をさらっと確認しても美人と美少女しかいない。


元帥が嘘をついているのだろうか? だがこんな意味のない嘘を吐くとは思えない、何かがおかしい。


この世界は俺が元居た世界とは違う可能性が高いという説も気になる、まさか価値観が根本から違うのか?


私室にはTVくらいはあるだろうから、施設の案内が終わったらじっくり確認したい。



長門「満点、とは言えないが良いスピーチだったと思う、ここは最前線には遠く育成向けの基地であるのでね」


長門「最前線の基地には向かない内容だった、ちゃんと事前に調べておいてくれていたのには感心だな」



廊下を歩きながら長門はそんなことを言う、それは就任に当たって当然の事ではないのか?と俺は問いかけた。



長門「艦娘の提督というのは軍では非常に人気のない役職だ、特に男子からの人気は常にワースト争いだ」


長門「艦娘を見てどう思った? 顔が整った女子が居ないと思っただろう、艦娘用の基地は男子からは『醜女の墓場』などと言われている」



醜女の墓場だと? やはり価値観が大分おかしい様だ、艦娘は可憐な少女や美しい女性しかいなかった。



長門「だからわざと嫌われようとおざなりなスピーチをしたり、職務怠慢を貫いて異動する提督ばかりだった」


長門「酷い者は暴力沙汰や汚職が常態化している者さえいた、艦娘は戦闘と汚職と暴力の板挟みにされ疲弊しきっているのだ」


長門「男性提督の定着率は最低だが、女性提督は今は数こそ少ないが定着率が高いのでそちらに移行していく可能性もあるだろう」


長門「だから貴方の様な真面目な男性提督が着任して嬉しかったのだと思う、まだ第一印象に過ぎないがね」


長門「さて、執務室が見えてきた、あそこが執務室の入り口だ」



俺も学生時代に女子から多少の嫌がらせを受けていた事はあったが、そんな生易しいものではない。


ずさんで人命を軽視するブラック鎮守府が、この世界では割と当たり前に行われているようだ、それも相手が不細工という理由なだけで。


人である上でそんな外道な事は絶対に許してはならない、自分の心に戒めとして覚えておかねば。


長門がドアを開けてくれた執務室、内装は質の良さそうな家具が見栄え良く配置されている。


視線の先には長髪のストレートヘアの眼鏡をかけた知的な艦娘が立っていた、顔からはまだ少し幼さが抜けていない感じがある。



大淀「ようこそK基地へ!! 私は事務担当艦の大淀です、有事の際には戦闘も行いますが普段は事務や経理を行っております」


提督「こちらこそよろしく頼む、これは有り難いな、実は以前の担当鎮守府では事務担当艦はいなかったので、今回は仕事が捗りそうだ」


長門「秘書艦がついているから仕事の負担はそれなりに軽減されていただろう」


提督「俺みたいな男と毎日面合わせして仕事やりたいという変わり種の艦娘はいなかったよ」


長門「そんなバカな……」


大淀「あ、ありえません…… と、とりあえず荷物は私が提督私室に運んでおきますね!!」



何がありえないのかわからんが、俺はそう多くはない荷物を大淀に手渡した、彼女の顔は紅潮していてほんのりと息が荒い、軽度の風邪でも引いているのだろうか、無理はいけない。


長門に連れられ執務室を出るが大淀がとても名残惜しそうにこちらを見ていた、またすぐに会えるのにどうしたものか。


工廠には明石、食堂には間宮、酒保兼居酒屋には鳳翔、娯楽施設には夕張がそれぞれ説明と案内を買って出てくれた。


皆、美人で気立ての良い娘達だ、何故か皆一様に顔が赤く息が荒かったが……



長門「重要施設の説明はこれで終わりだ、細かい事は後日必要になったら適当な艦娘に聞いておいてほしい、これで解散だ」


提督「ありがとう、助かったよ、俺は執務室に戻るよ、考えたいことが色々とある」


長門「了解した、フタマルサンマルからは提督への質疑応答の時間を設けたいので、その時間になったら広間に来て欲しい」



わかった、と俺は長門に告げ執務室へと歩を進める。


執務室には大淀が待機していたが、一人で考える時間が欲しいと提案したところ、酷く落胆して執務室を去って行った…… 年頃の娘は難しいな……


先ずはこの世界の世俗を簡潔に確認せねばならない、椅子に座りリラックスした姿勢でTVのリモコンの電源ボタンを押した。



提督、常識を知る

……うむ、とりあえず落ち着いてから考えよう。


TVを1時間ほどで見終えた俺は混乱した頭を出来るだけ正常に戻す為に、深く呼吸する。


この時間で学んだ事、気づいた事をちゃんと事実と受け止めて纏めてみよう。


男子の俳優やアイドル、アナウンサーなどが俗に言う冴えないモブみたいなおっさんやリアクション芸人みたいな外見の人しかいないんだが……


女子の方はモテない女芸人や喪女みたいな人しかいない、かなりの地獄絵図だ……


逆にモテないのを売りにしている芸人とか、個性派・色物俳優などはハンサムや美人が多い。


マスコットもかわいい系とシュール系の立場が逆転している、この世界のサン○オとかデ○○ニーの立ち位置どうなっているのか……


ただ衛生観念は変わっていないのか、顔が荒れている人はあまりいなかった、この世界のハンサムや美人も肌は綺麗だ。


あと背丈に関しては男子の中背は少なく見えた、極端にチビとノッポが好まれ体型は肥満と干物が人気。


女子の方は背丈は十人十色だったが、肥満みたいなタイプがどうやらかなり男子受けが良いらしい、だが乳房が大きい人はあまり好まれない模様。


相撲中継がたまたま放送していたので視聴してみたが、客層のほとんどが若い女性であることに気付く。


力士達の扱いもまるで男性アイドルのようだった、黄色い歓声が飛び交っていた。


これらを踏まえると…… 俺ってもしかして…… いやまさかそんな馬鹿な!!


今思い出すと案内をしてくれた艦娘達は、何故か熱っぽい顔と視線で俺を見ていた。


俺は思わず洗面所の鏡の前に立ち、自分の顔と身体をペタペタと触る。



提督「……俺ってハンサム扱いなのか!?」



もしそうだとしたら、この世界では自分の振る舞い方を考えねばならない。


だが自分がハンサムだと自覚して生きた事など全くないので、どうしたらよいのかさっぱりだ。


しぱらくは当たり障りのない、尚且つ謙虚に生きていくのが良いかもしれない。



大淀「提督、そろそろ質疑応答のお時間です」


提督「ああ、わかった、準備はすぐに終わるから待っていてくれ」



ノックの後に聞こえてきた大淀の声に返事を返し、支度を手早く終わらせる。


振る舞いに悩んでいるところに質疑応答の時間、非常に困ったものだ。


ある程度は真摯に答えるつもりだが、はぐらかすところはうまくやらんとな……



────提督、運営施設の広間



開始時間まで残り15分程度、送迎車の中でも見たがもう一度、K基地所属艦娘について再び確認をすることにした。



『戦艦』:長門(改)  『高速戦艦』:金剛(改)、榛名(改)、ビスマルク  『航空戦艦』:伊勢(改)、日向(改)


『正規空母』:蒼龍(改)、飛龍(改)、グラーフ・ツェッペリン  『装甲空母』:大鳳


『軽空母』:鳳翔(改)、龍驤(改二)、飛鷹(改)、隼鷹(改)、千歳(航)、千代田(航)


『重巡洋艦』:古鷹(改二)、加古(改二)、高雄(改)、愛宕(改)、摩耶(改)、鳥海(改)、鈴谷、熊野  『航空巡洋艦』:最上(改)、三隈(改)


『軽巡洋艦』:長良(改)、五十鈴(改二)、名取(改)、天龍(改)、龍田(改)、夕張、大淀  『練習巡洋艦』:香取(改)


『駆逐艦』:陽炎(改)、不知火(改)、黒潮(改)、親潮(改)、浦風、磯風、浜風、谷風、皐月、水無月、文月、長月、菊月、三日月、望月、秋月


『潜水艦』:伊19(改)、伊58(改)、伊26、U-511  『工作艦』:明石  『給糧艦』:間宮



現在のところ、計56名の大所帯だ、一流どころの提督は100名超えていても統括しているとの事だ、信じられない……


教育担当の艦娘は既に『改』には到達しているか、一部の艦娘は『改二』に改装されているようだ。


資料によると、この基地は『改』まで到達し尚且つ的確に指示を理解し、戦闘行動に移せるようになるまで練度を高めるのが目的と書かれている。


指定の練度まで達した艦娘は戦闘が激しい地域の鎮守府や泊地に送られていく。


教育係は他所の鎮守府から直接指定でもされない限り、この基地に残って教育を続けていくとの事だ。



大淀「提督、そろそろ開始の時間ですが準備はよろしいでしょうか?」



簡潔に肯定の返事をして質疑応答の前に心身を引き締める、広間は既に大勢の艦娘が集まり喧噪が聞こえる。


いつの間にか用意された簡易ステージに上がり、テーブルの近くの椅子に腰かける、逆側には長門と大淀が座った。


お昼に放送していた某番組を思い出す、お題の書かれたサイコロなんか出てきそうな。



長門「皆、よく集まった、これから提督への質疑応答の時間を設ける、提督との円滑な情報伝達や意思の疎通の為にな」


長門「あまり俗な質問はするな、提督が拒否するような品の無い質問をした場合は訓練メニュー追加を検討する」


長門「開始前、くじ箱で全員に番号を書いた紙を配った、順番に質疑応答をしていくがフタフタマルマルには終了予定だ」


長門「時間の都合上、最後までに全員が質問するのは難しいだろう、その辺りは覚悟しておけ」



俺が言うのも難だが、長門はかなり司会に向いていないと苦笑せざるを得ない。


真面目なのが取り柄なのは良い事だが、これでは盛り上がりが無い、艦娘達もざわついている。



提督「長門、あまり堅苦しくしないように、コミュニケーションの催しなのに全く盛り上がっていないぞ」


長門「提督…… あまりハメを外させない方が……」


提督「構わない、聞きたいことも委縮して聞けなくなるぞ」


金剛「テートクの言う通りデース!! 長門はprudeね!!」


鈴谷「そ~そ~!! 長門さんいっつもおかたいってば!!」


長門「ぬぅ…… 提督、お困りなら私に代わってくれ」



渋々と腕を組んで椅子に腰かける長門、女の子なんだから股おっぴろげて座るのやめなさい……



提督、質疑応答を受ける

大淀「では提督への質疑応答を開始します、番号1番をお持ちの方、どうぞ」


龍驤「ウチが1番やね!! んじゃあ…… 司令官はお好み焼きは好きぃ?」



龍驤か、酒保と居酒屋で忙しい鳳翔に代わって軽空母のリーダーを務めているそうな。


改二という事もあり、経験と信頼を買われて稀に大規模作戦にも駆り出されるそうだ。



提督「お好み焼きは好きだ、関東生まれだから粉物は滅多に出てこなくてな、たまに食べたくなるな」


龍驤「ほぉ~、わかっとるねぇ、ついでだけど大阪と広島のではどっちがええ?」


提督「広島のお好み焼きが好きだな、大阪のも嫌いではないが甲乙つけるなら広島のお好み焼きだ」


龍驤&黒潮「そ、そんなぁ!!」


浦風「ぃやったぁ~!! ぶち嬉しいのぅ!!! 提督、食べとうなったらウチが作ったるけぇ!!!」


提督「ありがとう、その時はぜひ浦風に頼むよ」


龍驤&黒潮「…………」(呆然としている)


大淀「早速波乱の雰囲気ですが会場が少し温まってきました、番号2番をお持ちの方、どうぞ」


間宮「私です、ええっと今後の参考までにお聞きしたいのですが、提督の好きな食べ物と嫌いな食べ物は何ですか?」



間宮は言わずとしれた給糧艦の顔だな、彼女が配属している施設は食に対する不満が非常に少ないと聞く。



提督「そうだな、すぐに思いつくのはハンバーグとピザだ」


ビスマルク&グラーフ「ガタッ!!」(立ち上がる音)


金剛「ビスマルク、Sit downネ~」


蒼龍「グラーフ、急にたちあがっちゃダメだって」


提督「実はな、実家にいた頃は両親が和食派であまり洋食が無かった、だから子供が好きそうな洋食は大体好きだぞ、反動で子供舌になってしまってな」


提督「嫌いな食べ物はセロリと魚介の卵かな、生臭いものは苦手だ、他にも色々あるがすぐには思い出せないな」


間宮「ありがとうございます、参考になりました」


鳳翔(これはいけません…… 私は洋食はあまり得意ではない……)


大淀「実に間宮さんらしい質問でしたね、次は番号3番の方、どうぞ」


千歳「3番です、では質問しますね、提督はお酒は強いですか?」



千歳は育成強化中の軽空母だったな、この質問をしてくるということは恐らくこの世界でも酒豪……



隼鷹「まあそこは気になって当たり前だよなぁ? 酒とコミュニケーションは切っても切れないしねぇ」


飛鷹「あなたは理由をでっちあげて呑みたいだけでしょうが」


提督「期待に応えられず済まないと言っておこう、俺は下戸だし一年を通して酒を飲む習慣はない」


千歳「ああ、そんなぁ……」


隼鷹「どうしてそこで呑むと言ってくれないのさぁ!! 千歳ぇ、今夜はやけ酒に付き合うぜぇ!!」


千歳「流石は隼鷹、話が分かるぅ!!」


飛鷹「呑ませないわよ?」


千代田「飛鷹さん、千代田も手伝うよ、お姉もいい加減にしなさい!!」


大淀「提督は下戸なので皆さんはアルハラとかしないでくださいね? 次は4番の方、どうぞ」


浜風「4番はこの浜風です、提督は既に秘書艦の選定はお決まりでしょうか?」



浜風、不知火と同じくらい生真面目な艦娘だな、銀髪と片目隠れの髪型は印象的だ。



提督「秘書艦か…… 俺は秘書艦は余程の事がない限りは雇わない方針でいる」


提督「大淀には事務と訓練に集中してもらい、長門は育成と戦闘に復帰をさせようと考えている」


浜風「!? ……差し支えなければご理由を聞かせていただけないでしょうか」



浜風以外の艦娘達もざわめいている、ここはしっかりと説明せねばならないな。



提督「事務仕事を軽く見ている気はない、だが戦闘や訓練と違って命の危機や身体を痛めつけるという事は無いだろう」


提督「艦娘は常に過酷な任務に心身を晒している、君達には休める時はしっかりと休み、仲間との親睦を深めて貰いたい」


提督「それが俺の考え方だ」



偽りのない本心を吐いたが、どう受け取るのだろうか…… 正直なところ一人執務に慣れ過ぎてしまっているのもある。



浜風「……わかりました、それが提督のお考えならば」


大淀「提督がそう仰るならば致し方ありませんね…… 次は5番をお持ちの方、どうぞ」



暫くは当たり障りのない質問(身長・体重・年齢・趣味・軍の志望動機など)を受けた。


流石に軍の志望動機については「女性から迫害されていて逃げたかった」とは言えないので、とりあえず無難な理由にしておいた。



大淀「さて、時間も圧してきましたのであと2-3人の質問で締め切ろうと考えています、番号14番の方!!」


鈴谷「14番は鈴谷だよ!! みんな意外に質問しなかったからするけど~、提督は何人の女の子とお付き合いしたことあるぅ?」



鈴谷か、良くも悪くも気さくな今時の女子学生という印象が強い娘だ、そしてやはり恋愛系の質問が来たか。



長門「鈴谷!! どういうつもりだ!!」


鈴谷「長門さんとみんなも気になってるんじゃないの~? だって提督ってばこんなにカッコイイし超イケメンなんだよ?」



確信に近いものを感じていたが、鈴谷にはっきりとイケメンと評価されるとなんともむず痒い感覚がするな……


俺はこの世界ではどうやら容姿が非常に整っているらしい。



長門「提督、無理に答える必要は────」


提督「鈴谷の予想を裏切るようで済まないが、俺の過去の女性遍歴はゼロだ、女性と交際したことは無い」


鈴谷「ええ~…… えええぇぇぇっ!?」



会場の空気が一気に疑惑や困惑の様相を見せる、艦娘達が動揺を隠せずにざわつき始めた。


長門、大淀、鈴谷は絶句して俺の顔を見つめ続けている、そんな顔で見るな…… 俺が生まれた世界だと信じられないレベルの不細工なんだよ……



鈴谷「うっそだぁっ!!! 鈴谷をからかって遊んでるんでしょ!?」


提督「質問には答えた、もういいだろう? あまり触れてくれるな……」


鈴谷「ぶぅ~…… なんか納得いかない……」


熊野「……恐らく提督自身の理想が高すぎて、それに釣り合うほどの淑女がいなかった、ということもありましてよ?」


鈴谷「あぁ~…… そういう事もあるのかなぁ、提督って超イケメンだしね……」


大淀「か、かなり際どい質問にも動じず、切れ味鋭い返答でした、番号15番の方、どうぞ」



とてもすごい誤解を受けたまま終わったような気がする…… 次は答えやすい質問を希望したい。



伊58「15番はゴーヤだよぉ!! 提督って普段もお堅い感じの喋り方なのぉ? ちょっぴり近寄りがたい子がいると思うでち」



伊58ことゴーヤ、Uボートと仲良いあたり潜水艦組では面倒見がよさそうな娘だ。


このような質問をするという事は堅苦しく息苦しい態度と思われている可能性がある、少し考え直さないといかんか?



提督「この口調は提督に就任してから意識して変えた、一兵卒だった頃は年相応の若者口調だったぞ」


提督「30代になって人の上に立つ事を考えたら、見かけだけでも正さないとならんと思って矯正した」


提督「堅苦しいと思うが気兼ねなく話しかけてくれ、道徳や倫理が欠如した言動さえしなければ怒る事は滅多にない」


伊58「そうでちたか、提督の事ちょっと分かったでち!!」


大淀「理解が深まったようで何よりです、次が時間的に最後の方になりそうです、番号16番の方、どうぞ」



時間も予定の終了時間にかなり近づいてきたな、やはり際どい質問もあったがどうにかここまで簡潔に答えたと思う。


最後はどんな質問がくるだろうか、気を抜かずに答えねば。



高雄「番号16番は私、高雄です、提督は秘書官を雇わないとの事ですが志願は受け付けていますか? 私は志願を強く望んでいます」


提督「確かに雇わないとは言ったが…… 君は何故志願を考えたのか、聞かせてもらえないだろうか」



まさか最後の質問で秘書艦をやりたいという艦娘が出てくるとは思いもしなかった、かなり強めに雇わない理由を説明したのだが。


艦娘達も固唾を飲んで静かに耳を傾けている。



高雄「わかりました、私が提督の秘書艦を志願した理由は『艦娘の指揮と運営をする上で理想の提督』と考えたからです」


高雄「提督は艦娘の待遇を向上させたいと仰っていました、この基地に着任した過去の提督も似通った事を口にしたことはありましたが、実行した方は皆無です」


提督「その理由だと俺も口だけの提督である可能性が高いのではないか?」


高雄「確かに…… 可能性の問題ではありますが、提督は着任のスピーチも質疑応答についても『醜女』と呼ばれる私達に対してとても真摯に接して下さりました」


高雄「私は今までの艦娘としての生き方に疲れ果てています、恐らく皆も私と同じ気持ちを持っているのではないかと」


高雄「貴方の様な真摯で誠実な提督なら、今の状況を改善してくれるのではないかと期待を持っています」


高雄「提督の目標をお手伝いしたい、その想いから秘書官を志願しました、私の考えは以上です」



ここに来て艦娘達自身の問題が浮き彫りになったか、志願する理由としては最もな理由ではあるが……


志願を望んでいるならば、素直に力を借りるべきだろうか? 俺の女性不振の部分がこの決断を鈍らせる。



提督「…………」


高雄「あの、提督……?」


提督「高雄、君を秘書艦に任命する、今後は迷惑をかけるだろうがよろしく頼む」


高雄「!? あっ、ありがとうございます、提督!!」



彼女は大勢の前でしっかりと意見を述べた、信用するとまでは言い切れないが気持ちを汲み取らないという選択は出来なかった。


もう一度ちゃんと艦娘達と向き合う、俺もそういう覚悟を持たないといかんな。


さて、これで質疑応答の時間は終わりか? 多少の問題はあったがつつが無く終わったようだ。



大淀「これにて質疑応答の時間を終了します、提督、本当にお疲れ様でした」


提督「今夜は遅くまで皆に付き合わせてすまなかった、僅かでもお互いに距離を縮められたなら幸いだ」


長門「これにて解散だ、明日の準備を済ませ速やかに就寝するように」



────高雄、基地の敷地内、寮へと続く道


私は提督への質疑応答の催しを終えて、妹達と夜空の下で雑談しながら歩いている。


基本的に部屋を出てしまえば目的がバラバラなので、部屋を除いて姉妹全員と会うのはあまり無いものね。



摩耶「んあぁ~!! 今日は大騒ぎな一日だったなぁ」


愛宕「摩耶ちゃんの言う通りね~、ぱんぱかぱ~んなハンサムが提督として着任してくるんですもの~」


鳥海「あれほどの美男子は色んなメディアでも滅多にお目にかかれません、ましてや『醜女の墓場』に着任するとは予測など不可能です」


愛宕「鳥海ちゃんは変なところまで生真面目に計算するんだから~、それとぉ、高雄すごかったわぁ」


摩耶「確かになぁ、アタシなんて提督がハンサムすぎて尻込みしてたってのによぉ」


高雄「ふふっ、今でこそ安堵してるけど、心拍の高鳴りがすごい事になってたのよ」


高雄「それに私達を見て顔色をあまり変えない人なら、差別せずに私たちの待遇を向上してくれると思ったの」



鈴谷の質問に対して提督は動揺こそ感じたが、不快な表情は全く見られず。


運よく私の番も辛うじて回ってきた為、秘書官の志願を願い出るという一種の賭けに出た。


提督の理想に非常に共感したのは勿論、言葉にしようのないハンサムな提督のお傍に居たいという私欲もあった。


断られるのは覚悟していたが、今は秘書艦に任命された事に胸を撫で下ろしている。



鳥海「司令官さんの方針は私達にとっては非常に魅力的ではありますが、今までの提督の事を考えると疑惑の方が強いですね」


鳥海「だけど高雄姉さんが志願するという事は、司令官さんには期待を持っても大丈夫だと信じたいです」


摩耶「高雄姉はそういうところ鋭いよな、アタシなんてちっともわかんねぇ」


愛宕「摩耶ちゃんはそのままでいいわよぉ、摩耶ちゃんの可愛くていいところだもの~」


摩耶「愛宕姉も考え無しという点ではアタシと似たようなもんだろ!? 能天気でふわふわしすぎ!!」



愛宕は掴みどころの無い部分ばかりを見せる、だけど時折聡明な艦娘が気づかなかった事を指摘することがある。



愛宕「んもぅ~、高雄ったら眉毛の端が吊り上がってるわよぉ?」


高雄「愛宕、貴女は提督についてどう思う? 貴女が特に動きを見せなかったのが気になって」


愛宕「あらぁ、高雄ったら鋭い~、そうねぇ、まだ分からない部分がたっくさぁ~んあるからなんとも言えないわねぇ」


高雄「では『好き』か『嫌い』かで答えるならどちらかしら?」


愛宕「ん~…… 『好き』かしらね、自分だけがいいとこ横取りってタイプではなさそう、まだわからないけどぉ」


高雄「愛宕がそう言うなら私の考えが間違いになる確率は低そうね」


愛宕「ふふ~ん、信頼してもらえてうれしいわぁ」


摩耶(やっべ、話についていけねぇ……)


鳥海(摩耶ったら全く理解できていない顔ね、後でわかりやすく教えてあげないと)



今日の出来事を色々と雑談している内に、私達高雄型専用の部屋に到着した。


時刻もフタサンマルマルに近い、入浴の準備をして身体を洗い、明日に備えて就寝しなければ。


今日はいつもより大きな出来事があったけれども、これからの展望を考えると少し希望が湧き立つ、そう感じられる一日だった。



────提督、私室


艦娘達からの質疑応答を無事に終えた俺は、提督執務室に備え付けられた私室でくつろいでいる。


入口に下駄箱と段差がある畳部屋で地べたで寝るのが大好きな俺には嬉しい誤算だ。


以前の鎮守府の私室は洋室でベッドだったのである、畳と布団で寝られるのは良い物だ。



提督「色々と質問されたもんだな、容姿の良い男だと女の子はやはり喰いつきが違うな…… まあそれは男にも言える事なんだけどな……」


提督「以前の世界では不細工な俺が世間の女子から疎まれ、この世界では俺から見たら見目麗しい艦娘達が迫害されている、か……」



皮肉に近いが何とも言い難い状態だな、布団を敷きながらそんなことを考える。


彼女たちは自ら疲れ果てていると言っていた、提督としては執務や待遇改善をしてあげられるが個人としては彼女達に何をしてあげられるのだろうか?


個人的にしてあげられるようになるにはもっと理解をお互いに深める必要がある、先ずは日々のコミュニケーションと執務で結果を出さねばならない。


明日は執務で基地の現状を把握し、そこから舵取りを検討しなければな。


色々と思案するが今日は夜も遅く時間切れのようだ、今日は風呂に入って体中の汚れを落として寝る事にしよう。



提督、執務に従事する

時刻はマルロクマルマル、時計のアラームが数秒鳴り響いたところで俺は目を覚まし体を起こしてアラームをオフにする。


カーテンを開き天気を確認、良くも無く悪くも無く薄曇りと言ったところか、降雨するという感じの雲ではないな。


顔を洗い眠気を覚ましてから制服に着替えようとするも、新たな制服は本日中に届くと書類に書いてあったので今日限りは私服で過ごすことになる。


以前の制服だとデザインと階級は違う、勲章はそれなりにあったものだから恐らくおかしな事になると思われる、だから避けよう。


人と面会するような仕事は提督代理だった長門、事務担当艦の大淀、秘書艦の高雄に任せれば一応は大丈夫だろう。


コンッコンッとドアを叩く音が聞こえ、その後すぐに秘書艦の高雄の声が聞こえてきた。



高雄「提督、起きていらっしゃいますか? マルロクマルマルを過ぎたので念の為確認に参りました」



おお、すごいな、ちゃんと遅刻しない程度の時間に確認に来てくれた。


以前は稀に寝坊した時には遅刻確定の時間に渋々見に来てたという感じだった、出来る限り顔も見たくなかったんだろうな……


これはコミュニケーションの機会ではないだろうか? 以前の世界なら間違いなく露骨に嫌悪感を見せられお断りされたが、今度は行けるだろうか?



提督「ああ、おはよう高雄、ちゃんと起きて布団から出ている、立って待たせるのも何だから部屋に入ってくつろいでいると良い」


高雄「えっ? えっと、し、失礼いたします!!」



とりあえずズボンをささっと穿いて、ドアの鍵を開け高雄を部屋に招いた。


ああ、良かった、高雄の顔を見る限り露骨に嫌悪はされていないようだ、少なくとも顔には出ていない、まあこれから嫌がられたら流石に止めるが。


急な訪問だったので上着はまだ来ていないがノースリーブインナーシャツを着ているから、セクハラにはならんだろう。



高雄「おはようございます提督、今日も私服でお過ごしになられるのですか?」


提督「実は以前の制服は傷みや解れが酷くてね、一度新調しようと思っていたんだ、今日の内に新品の制服が届くから明日からは制服を着用する」


提督「面会が必要な事案は長門、大淀、そして君に頼もうと思っている、その時はよろしく頼む」


高雄「はいっ、高雄に御申しつけくださいね」



制服の事はとりあえずはありえそうな理由で誤魔化した、この世界に連れてこられた事は出来る限り隠さなければ。


間違いなく頭のおかしい人物として色んな人物から目を付けられてしまうだろう、これに関しては些細な事にも迂闊な言動は出来ない。


色々考えて準備をしていたら、恐らく視線だろうか? 俺は嫌悪感を向けられてばかりだったので視線に関してはやや敏感になっている。


この部屋にいるのは俺と高雄、つまり高雄が俺を凝視している事になる、俺は警戒しながら高雄の方に目を動かした。


すると、どうだ、高雄は俺の出っ張った腹部を目を見開き、唇を真っ直ぐにして凝視していた。



提督「どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」


高雄「…………」


提督「高雄、聞こえているか? 高雄、しっかりしないか」


高雄「はっ!? て、提督!! 申し訳ございません!!」


提督「俺の腹が見事に出っ張っているのはわかるが、見つめるようなものでもないだろう?」



我に返った高雄は顔を紅潮させ、あたふたしながら姿勢を正し、そして言った。



高雄「提督のお腹は…… その、あのぅ…… すごくセクシーだなって思いまして…… や、やだっ、私ったら!!」


提督「俺の出っ腹がセクシー……」



そっ、そう来たかぁぁぁ~…… 何がセックスアピールになるかは不明瞭な部分はあったが、まさかこんな出っ腹が性的な要素になるとは……


自分はこの世界ではハンサム扱いらしいが、どのように性的魅力を感じるのかを折角なので聞いて見るか。



提督「俺みたいに背が160cm強しか無い上に横と奥行きが長い、ぶっちゃけるとかなり太っている男子を君はどう思う?」


高雄「ぶっちゃけ!? 提督もそういうお言葉使いをなさるのですね…… 体型についてはそうですね……」


高雄「小柄な男性はとても庇護欲をかきたてられます、太っている男性は柔和な印象が強くなりますし、丸みがあって抱き締め甲斐があると思います」


高雄「お顔はとても可愛らしいと思います、例えるのが難しいくらいに美青年です、外出したら芸能界隈などは特に気を付けてください、海軍の後ろ盾があるから簡単には手を出してこないとは考えていますが……」


高雄「提督のお顔と体型で甘え上手だったら大概の女性は落ちるのではないでしょうか、提督は自立心がとても強そうな印象があります」


高雄「す、少し熱弁してしまいました、申し訳ありません!!」


提督「いや、貴重な意見をありがとう、見られるのは慣れているが評価というのはされた記憶があまりないのでな」


高雄「提督は容姿が際立ちすぎて評価するのが難しいのではないかと思いますよ? 私のような醜い女が提督を評価するというのもおかしな話ですし……」


提督「そう卑下するものではない、君は服装をしっかりと整えているし礼節も備えている、本当に醜い人間というのは外面に差はあれど内面が特に酷いものだ」


提督「高雄の様な女性から高い評価を頂けるのは実にありがたいことだ、もっと自信を持ってくれ」


高雄「提督、ありがとうございます……」



提督という立場とはいえ、何で俺はちょっと上から目線で褒めているのだろうか、なんというか我ながら実に気持ち悪い。


見られ慣れているというのは嘘ではないな、汚物を見る目で見られてばかりいたからな、はっはっは!! はぁ……


だが、高雄から異性の評価をもらえたのは良い参考にはなりそうだ、何かしらの武器になるかもしれん。


さて、着替えも終わったことだし、腹も減ったし高雄と一緒に食堂へ向かうとしよう。



提督「準備良し、執務に必要なものは執務室に準備してあるから大丈夫か、高雄、部屋を出よう」


高雄「その前に提督はお食事は済ませましたか?」


提督「ああ、これから食堂に向かうのだが」


高雄「提督、それは避けたほうが良いと思います、艦娘達に囲まれて色々な攻めに遭います、狼の群れに子羊とはまさにこの事ですわ」


提督「そ、そうか、俺は何処で食事をしたらよいだろうか?」


高雄「私が執務室まで食堂の料理を持っていきますのでお待ちください、料理カートは間宮さんが恐らく置いてある場所を知っていると思いますので」


提督「分かった、流石は秘書艦だな、大人しく執務室で料理を待っている事にする」


高雄「お任せください、秘書艦と一緒に食事をすることになりますが問題はございますか?」


提督「いや、何の問題もない、ではここで別れることにしよう」


高雄「はい、また後ほどに」



執務室に向かって歩いていくが艦娘と遭遇する気配はない、皆は食堂に一直線なのだろうか。


執務室のドアを開けるも見事な無人、ドアを閉め座り心地の良さそうな執務用の椅子に深く座る。


悪くはない座り心地だ、これなら長時間の執務にも身体は耐えられそうだ、眠気はまた別の話だが。


執務室の色んな家具を物色しているとドアをノックする音と高雄の声が聞こえた。


高雄の声に対して許可の返事をするとドアが開き、高雄の姿と料理を乗せたカートが現れる。



高雄「お待たせしました、提督の希望を聞き忘れていた為、好きな料理と答えていらっしゃったハンバーグ定食を持ってきました」


提督「おお、良いね、ちゃんと答えておいて良かった、これが間宮の料理か……」



以前の鎮守府は小規模だった為に給糧艦は所属していなかった、当番制だった為にみんな頑張っていたがやはり本職には及ばなかった。


匂いと盛り付けだけで美味いと確信できる、間宮の料理はすごいものだ。


高雄は鯖の味噌煮定食という非常に渋い定食を持ってきた、年頃の娘が食べるものにしては渋いな……


それにやはり艦娘であるせいか、戦艦や空母より多少は少ないが健康的な男子の俺より量が多いな。


茶碗というかそれラーメンどんぶりなのではないか? というような食器に白飯が山の様によそわれ、鯖の味噌煮も5尾ほど皿に盛りつけされている、サラダは大皿、味噌汁もどんぶりである。


俺の方は朝からハンバーグかよ、と思われがちだが身体を鍛えるのが好きなので朝から肉はあまり苦にはならない。


うーむ、やはり育ちが良いのか高雄は綺麗に魚を食べるな、魚だけではない、食べ方そのものに品がある。


量が凄まじいので時間内に食べ終えるのにも速さが必要だ、手早く食べてはいるが品の無さは感じられない、見事だ。


俺も食べ物には感謝して余程苦手なもの以外は綺麗に食べようとするが、それに品の良さを加えるとなると難しいものだ。



高雄「普段は周りの艦娘もたくさん食べるので慣れていましたが、男性の前でこんなにたくさん食べるところを見られるのは恥ずかしいですわ……」


提督「君達には食べる義務がある、気にしないで任務に支障がない程度にしっかりと食べるべきだ」


高雄「ご配慮に感謝いたします、艤装をしばらく装備しなければこんなに食べなくて済むのですが……」


提督「それは噂程度には聞いたことあるな、実際は見たことは無いが」


高雄「ええ、一般の成人男性程度の食事量で済みます、艤装を扱うには多量のエネルギーが必要みたいです」



艦娘はやはり謎だらけだ、人間から改造されるというが物理的要素はなく霊的な何からしいが……


艤装も人間では今のところ整備は難しいそうだ、明石が整備出来るから人間でも出来そうではあるが、機械的な部分はともかく「それ以外」の部分は全く手が出せない。


明石も元々人間のはずだが艦娘に改造されて以来「それ以外」の部分が「知覚」できるようになったらしい、見えるのか理解なのかはわからないが。


艤装は明石と妖精さん達に任せるしかないようではある、自前の艤装の簡単な整備くらいは艦娘でも出来るようだが。


色々考えている内にハンバーグ定食を食べ終えた、見た目に違わぬ美味しさで口も腹も満足だ。


高雄もあれだけあった鯖の味噌煮定食を俺とほぼ同じ時間で食べきった、すごい速さで箸動かしていたからな……


ちょっとした食休みをしてから執務を行うと高雄に提案、カートと食器は食休みを終えたら食堂に持っていくとのことだ。



────十数分後



高雄に食器を片づけてもらい、執務室に戻ったと同時に本日の執務を開始。


先ずやらねばならない事は入渠ドックの修繕だ、銭湯のような施設で複数の艦娘が入渠できる仕組みになっている。


今すぐに使える入渠ドックはたったの一つ、つまり最低限しかない、これでは実戦をすることは出来ない。



提督「忙しいところ済まないが、入渠ドックが何故1つだけ残されて壊滅状態なのか聞きたい」


高雄「……詳しい事はわかりませんが全てを壊してしまうと、ドックを使わざるをえない状況になった時、対応できないからだと思います」


高雄「作戦行動中に決断を迫られ結果として艦娘を轟沈させる以外に、艦娘に重大な不備や事故が起こると信用を問われ、降格の原因になるという話を聞いたことがあります」


高雄「後は歴代の提督は我々艦娘に嫌われる為、そして異動の理由を作る為に意図的に修理せずに放置したままにしてあるのだと思います」



彼女の話を聞き唖然とする、あまりにも意味が分からない、そして独り善がりで傲慢にも等しい理由を聞かされ腸が煮えくり返りそうになる。


恐らく中破・大破の怪我を負った艦娘を数日放置することもざらにあったのだろう、明石の説明では修復剤の貯蓄も少なく常に順番待ちの状態だったそうだ。


大本営に問題を持ちかけても前線勤務の基地ではない為、後回し・たらい回しばかりで入渠ドックの修復がままならなかったそうだ、提督が長期的に着任しなかったのも原因の一つかも知れないとも言っていた。


命を懸けてまで国土と国民の命を守ってくれている艦娘達に対して、姿が醜いからという理由でこの仕打ちだと……!!!


元帥が嘆くのも無理はない、せいぜいふざけた態度で艦娘達を冷遇する程度だと考えていた俺が浅はかだった。


生活品質や生命にも関わる施設を、自分の保身の為だけに最低限の機能を残して放置する、これは紛れも無く迫害そのものだ。


滾る怒りを抑えきれず、俺は拳を振り上げ執務机に叩きつけようとするが、高雄が見ている事に気づき怒りを堪え拳を震わせながら静かに下した。



高雄「提督……」


提督「済まない、俺たち海軍の将校が不甲斐無いばかりに艦娘達を辛い目に遭わせてきた」


高雄「良いんです、提督は何も悪くないです、だって着任したばかりで何も悪い事をしていないのですよ?」


高雄「だから『あなた』は何も悪くないんです」


提督「……ありがとう、君に救われたな、まだ明確な目的も無く大雑把にしか言えないが…… これから色々良くしていこう」


高雄「独りで抱え込まないでください、私はそれをさせない為に貴方の秘書艦になったのですから……」



艦娘から好意的に救ってもらったのは初めてかもしれないな…… 彼女達は常に苦しい思いしていたというのに高雄は強い女性だ。


気持ちを落ち着けてこれから何をすべきなのか、しっかりと考えなくてはならない。


実戦や高度な演習に艦娘が耐えられるように、工廠関連を最優先として修復していく事にしよう。


資材については元帥から約束を取り交わさなければならない、ある程度にまとまったらすぐに連絡だ。


高雄と相談した結果、入渠ドックが実用に耐えられる数を揃えるまでは基地内演習と鍛錬に費やし『自発的な』出撃は可能な限り保留。


資源の確保は大本営からの配給と、無理のない遠征任務で慎ましく稼ぐことになりそうだ。



────数時間後



昼食も朝と同様に執務室まで運んでもらい残さずに食べて、執務をこなしている内に時刻は夕方間近。


巡洋艦が引率して練度が未熟な艦娘達を編成して演習を行っていたのだが、どうやら無事に演習を終えて執務室まで報告にやってきたようだ。


紅白二組に分かれて演習を行っている模様、本日の編成は確かこの書類に……



紅組:天龍・大淀・皐月・水無月・文月・長月   白組:香取・夕張・菊月・三日月・望月・秋月



ふむ…… 高速の水雷戦隊による演習だな、まだ夜戦をさせるには早いのだろうか、昼に切り上げて報告とはな。


正直、艦娘の練度の把握は一朝一夕で見定め把握するのは無理なので、俺自身も時間に余裕があったら視察せねばならないな。



天龍「演習の結果を報告しに来たぜ、駆逐のチビ共はぼちぼちってところだ、夕張と大淀は兼任だから正直気長に考えてくれってところだな」


香取「天龍ったらしっかりと報告なさい、勝利側は紅組です、大淀の状況把握と天龍の指揮、皐月と水無月が相手の目的を巧く阻み、文月と天龍が先陣を切り長月がフォローに回り手堅く攻めたのが勝利の要因と思います」


香取「白組の敗因は文月と天龍の攻撃までは読めていましたが、長月のフォローまで手が回せず後退などで立て直しをしなかったのが敗因とと考えています」


天龍「香取が説明したほうが分かりやすくて早ぇからそっちの方がいいだろ、んで今日のMVPは文月だ、こいつは見た目に寄らず結構好戦的だぜ、天然と見せかけて抜け目無いところもあるしな」


文月「ん~、なんかねぇ、もやもやってするところで攻撃とかぁ身体を動かすとぉ、なんとなくうまくできちゃうの~」


天龍「天然で勘が鋭いとかなかなか質が悪いな、おい」


皐月「悪戯に全然引っかからなくて、卯月お姉ちゃん悔しがってた事もあったね~」



以前の鎮守府では報告が事務的なのは仕方ないとは思うが、本当に必要事項だけ報告してあっさり解散だったからな……


こうして艦娘の様子まで報告してくれるのは初めてだ、色々な事が判って今後に役立てそうだ。


そしてMVPか…… 「良くやった」的な言葉でしか褒めてなかったな、褒めても基本的に無反応だったのがすごく辛かったが……


大規模作戦の時にMVPを勝ち取った艦娘に褒美を進呈しようとしたら、かなり塩分の高い事務的対応されて以来、何もしないのが正解と気づいて辛かった……



提督「MVPか、良くやったな、文月」


文月「むふぅ~、ありがとぉ、しれいか~ん」


提督「他の皆も演習ご苦労だった、問題や改善すべき要点を纏め報告書として後に提出、解散だ」



解散とは言ったものの皆一様に動かない、むしろ動揺すら見られる、どうしたことか、何か下手を打ったか?


少々の沈黙の後、俺は秘書艦の高雄に視線を向け冷や汗を少々流しながら無言で助けを求めた。


軽く咳払いをして彼女は私に視線を向け、言葉を発した。



高雄「提督、彼女達はMVPの文月に労いを希望しているのだと私は思います」


提督「し、しかし、労いの言葉なら今かけt」


高雄「『良くやったな』が労いの言葉では、多感な精神年齢の駆逐艦や一部の巡洋艦は決して満足致しません」


高雄「過酷な訓練や任務を国の為、国民の為、そして提督の為に自ら課しているのですから、もっと強く労ってあげてください」



強く労ってあげろとは言うが、どうしたらいいんだ…… そもそも強く労おうとして拒否された経験があるのだが……


まさか執務中にコミュニケーションの要望をされるとは思いもしなかった、見通しが甘く出てしまったか。



天龍「おいおい、褒め方がわからねぇんなら文月に直接聞いたらどうなんだよ、女心がわからねぇとやっていけねぇぞ? まあ俺たちは女扱いされる事はそんなにねぇけど」


大淀「文月は提督にどういう風に褒められたいのかな?」


文月「う~ん、あたしねぇ、司令官に抱っこしてほしい!!!」


艦娘達「えっ!?」



なん…… だと……!? フツメン以上の提督のみが許されるスキンシップとか、いきなり難度が高すぎる!!!


無邪気な駆逐艦にすら体臭が気になると言われて、それ以来近寄られなくなったというのに……


高雄、助けてくれ!!! どうしたらいいんだ…… 視線を彼女に向けてみるも、彼女も若干冷や汗をかいている。


彼女の顔が近づいてきて「少しよろしいですか?」と小声で耳打ちを要求、俺は耳を傾けた。



高雄「提督は艦娘と密着したり肌同士が触れても問題はありませんか?」



何を言っているんだ? こんな美少女・美女と合法的に密着出来るとかご褒美だろう? と思ったが『この世界』では美醜感覚が逆転しているという事を混乱して忘れていた。


こ、これはフツメン以上の提督達がごく当たり前に行っていた、そして羨望だった艦娘とのコミュニケーションが俺にもチャンスが来たということなのか!?


焦ってはいけない、下心を持つなというのは無理だが相手は女性だ、紳士的に事を済まさねばならない。



提督「……その点については大丈夫だ、むしろ艦娘達の方が俺に触られるのは嫌悪感はないのか?」


高雄「とんでもありません、提督ほどの美男子に言い寄られて嫌悪感を示したら、女として欠陥があるのではないかと思います」


提督「そ、それは言い過ぎなのではないか? とにかく俺は抱っこしてあげる事に抵抗はない、少し覚悟はいるが……」


高雄「良かった…… それなら文月を抱っこしてあげてください、きっと喜んでくれますよ」



耳打ちでの打ち合わせを終わらせ、改めて天龍・香取達と向き合う、そして椅子から立ち上がり文月の前に歩いていく。



提督「文月、良く頑張った、俺で良ければその…… 文月が希望する抱っこをしようではないか」


文月「やったぁ!! あたし、司令官だから抱っこしてもらいたかったの~」


長月「嘘だろ、ありえん……」


菊月「何てことだ……」


皐月「あっ!! いいないいなぁ!!!」


水無月「次はさっちんがMVP取って抱っこだね!! でも驚いたなぁ、抱っこしてもらえるなんて」


三日月(文月姉さんいいなぁ…… っていけません!!! 提督に抱っこしてもらうなんて、そんな恐れ多い……)


望月(流石のあたしも、驚きで眠気が水平線まで吹っ飛んだぜぇ……)



艦娘達が固唾を飲んで見守る中、俺は文月の前で片膝を折って屈んだ、文月は今か今かと待ちわびている様にも見える。



提督「文月、抱っこをするにはそのだな…… 文月の腋に手を通さないといけない、その様な事をされても大丈夫か?」


文月「うん、いいよぉ」


提督「よし、わかった、では行くぞ、よっと!!」



俺は文月の腋に手を当て下半身の力と腕力で文月の身体を押し上げ、そして高く掲げた。


俗にいう「高い高い」の状態である、まさか自分が小さな女の子相手にこんな事をする日が訪れようとは……



提督「よーし文月、たかいたかーいだぞ!!!」


文月「あははっ!! 天龍さんの電探よりたかぁ~い!!!」


天龍「し、信じられねぇ…… 男の提督が艦娘とイチャつくとか、俺は寝ぼけているのか?」


秋月「文月ちゃん楽しそう、私も頑張ってMVPになれば抱っこしてもらえますかね?」


香取「秋月、貴女は巡洋艦である私達とそんなに体型が変わらないので流石に厳しいと思いますよ」


香取「彼は、歴代の提督と違い、色々と規格外の感性と器の広さをお持ちなのかもしれませんね……」



一頻り高い高いを繰り返した後、両腕で文月の下半身と背中を支えて抱っこの姿勢をする。


睦月型の下の姉妹は駆逐艦の中でも一際小柄な艦娘ばかりだ、10歳児程度の体躯しかない文月はそう力を込めなくても易々と持ち上がった。


そういえば体臭は大丈夫だろうか? 昨日はちゃんと風呂に入って石鹸で体を洗ったのだが、何しろ前科があるのでな……



提督「文月、ああ、その、なんだ…… 俺って体臭がキツイと昔言われたことがあってな、臭くはないか?」


文月「ん~ん? 全然臭くないよ~? すんすん…… なんかすごく安心する匂いだよ~♪」


提督「そ、そうか、それは良かった、では文月、解散もしなければならないから抱っこはここまでにしよう」


文月「えぇ~っ!? 短いよぅ…… もっと抱っこしてもらいたい!!」


長月「文月姉、あまり司令官を困らすな、さあ、降りるんだ」


文月「やだぁっ!!! あたしもっと司令官に抱っこしてたい!!!」


菊月「困ったものだ、文月姉が聞き分けないのは珍しいが……」


三日月「そうね、普段はそんなに我儘を通す姉ではないのだけど」


望月「んあ~、これだとキリが無いねぇ、司令官、妥協点を見つけてあげないと文月姉はずっとコアラの様にくっ付いたままになるよ?」



妥協点とか言われても、こんなイレギュラーは過去に類を見ないわけで…… 我儘を通そうとする子供の対応何てしたことないぞ……



香取「提督、このままでは解散できません、なので文月を部屋まで抱っこしてあげるというのは如何でしょうか?」


香取「文月もこれ以上は提督に迷惑がかかります、提督がお仕事出来なくなったら皆が困ります、提督も貴女の事を苦手に思うようになるでしょう」


文月「むぅ~、皆が困るの?」


天龍「そういうことになるわな、あんまり提督に迷惑かけると抱っこどころじゃなくなっちまうぞ?」


文月「司令官に抱っこしてもらえなくなるのやだ、だから香取先生の言う通りにする……」


天龍「よぉし、良い子だ、部屋に着いたらちゃんと降りるんだぞ」


文月「……は~い」



二人のおかげで渋々ながら妥協点で了承してくれたようだ、流石は普段から駆逐艦の教導をしているだけはある、正直ホッとした。



提督「皆、ご苦労だった、先ほど言った通り演習の問題点等を纏めて後に提出、解散とする」


提督「高雄、駆逐艦寮まで皆を送ってくるので執務室の留守を頼む」


高雄「承りましたわ、いってらっしゃいませ、提督」



高雄に留守を任せ、執務室の外へ出る、天龍と香取は書類作成の為に自室へ、大淀と夕張は各々の持ち場へ戻るとの事ですぐに別れた。


文月を抱っこしながら廊下を歩く、文月は俺の身体にしっかりと両腕で抱き着き笑顔を浮かべている。


皐月と水無月は今回の演習の内容を賑やかに話し、長月と菊月と望月は頷きながら相槌を打ち、三日月はそんな三人を静かに眺めていた。


秋月は流石にちびっこ達の輪に入りずらそうだったのか、俺より2-3歩下がって歩いていた。



金剛「Oh... Holy Fuck... 私の目の前でIncredibleなCaseが起こっているネー!!! テ、テートクに艦娘が抱き付いているネー!!!」


榛名「あまりにも現実離れな光景過ぎて、榛名は大丈夫ではありません……」


ビスマルク「驚くべき光景ではあるけれども、一介の駆逐艦が提督に密着するなんて風紀によろしくないわ」


金剛「そうじゃないデショー!! Very Handsomeなテートクに合法的にくっつけるなんてShit!!で羨ましいデス!!! これだからKrauts Girlは困るネ!!!」


ビスマルク「ハッ!! 料理の事でInselaffenに難癖つけられる筋合いはないわね、貴女は英国淑女にも大和撫子にも程遠い、日本式に言うなら笑止千万ね!! ハルナを見習ったらどうかしら?」


金剛「いい度胸してるネ、今から近海に出なサーイ!!!」


ビスマルク「貴女との練度いくら離れてると思ってるの!? 私の教導をしているのは貴女!!! 勝てるワケないでしょう!!!」


金剛「だってテーブルゲームでもビデオゲームでも滅多に勝てないなら、力に訴えるしかないデース!!!」


榛名「お姉様、お止め下さい、榛名がお姉様の為に頑張って練習相手になりますから!!」


金剛「あ~ん♪ 流石は私のLovely Sister 榛名ネー!!! 特訓して、いつかジャガイモ戦艦にギャフンと言わせてやるのデス!!!」


グラーフ「よさないか、二人そろって見苦しいぞ、良い歳した戦艦がみっともない真似をしないでくれ」


グラーフ「高速戦艦三人で部屋に住んでるのに、貴女達は仲が良いのやら悪いのやら……」


グラーフ「しかし、フミヅキは役得だな、私もアトミラールに抱っこしてもらいたいものだ」


金剛・榛名・ビスマルク「えっ!?」



高速戦艦達と空母一隻がすごい会話をしていたが耳に入っていなかったフリをしよう、うむ、そうしよう。


色々な艦娘とすれ違ったが大体が信じられないという目で文月と俺を見ていたということだ、男提督と艦娘の溝は想像以上に深い様だ……


そうこうしている内に駆逐艦寮に到着、秋月は現在は菊月・三日月・望月達と共同生活しているので部屋の前で別れ、俺は皐月達の部屋の前まで同行した。



提督「文月、部屋の前に着いた、降りて部屋に入りなさい」


文月「……うん、そうする、司令官ありがと~」


提督「良い子だ、そう悲しい顔をするものではない、いつでも抱っこするとなると依怙贔屓になってしまうので出来ないが、ご褒美としての抱っこはこれからもしよう」


文月「ほんと!? あたし、抱っこしてもらえるようにがんばる~!!!」


皐月「司令官!! ボクもご褒美もらえるようになったら抱っこしてもらいたい!!!」


水無月「じゃあ水無月はおんぶしてもらおうかなぁ、えへへっ」


長月「長月は遠慮しておく、上官にそう易々と触る気になれん」



上の三人は無邪気なものでご褒美に目を輝かせ喜んでいる、結果的に喜んでもらえたので良かった、提案した高雄に感謝せねばならない。


長月の様な控えめな娘は何らかのストッパーとして必要になるだろう、こういう役割を担う人間は必要だ、無理に甘やかしていけない。


文月達が部屋に入ったのを確認して、俺も執務室へ戻ろうと今来た道を戻る。


帰りにすれ違った艦娘に労いの言葉をかけ、程なくして執務室に辿りつく。



提督「ふぅ、ただいま、あんな事をするのは初めてかもしれんな」


高雄「おかえりなさいませ、これからはする機会が多くなると思いますよ? 明日にはきっと鎮守府中の噂になっていると思われます」


提督「ふむ、それをどのように捉えるか今後の運営の鍵になりそうだな」


高雄「戸惑いや躊躇いを隠せない艦娘も居れば、愛情を求めて直球勝負に仕掛ける艦娘も出てくるでしょう」


提督「それは困ったな、その時はまた高雄に助けを求めることにしよう」


高雄「て、提督ったら、それは困りましたわ」



軽口を叩きながら執務用の椅子に腰かけ、執務を再開する。


就任歓迎の宴会までは中途半端なくらいの時間がある、出来る限りの仕事を終わらせておかなければ。


今日は艦娘とのコミュニケーションを図る事が出来て初日としてはなかなか良いスタートだった、ただコミュニケーション自体はまだまだ及第点とは言えないな。


この後の宴会も気を引き締めて艦娘からのコミュニケーションに備えねば、迂闊なことは出来ない。



高雄「提督、その書類に認可印は必要ではありません」


提督「……? あっ!?」



────提督、食堂



半ば機能停止状態にあった基地の為、あまり仕事が無かったせいか本日の業務は割とあっさり目に終了した。


現在は執務を終えて歓迎の宴会をするために食堂に来ている、大量のテーブルと椅子は整理して部屋の隅に片づけられ、樹脂で出来たジョイントマットがかなり広く敷かれている。


職務を終えた艦娘達がマットの上で馴染みのグループを形成し、ちゃぶ台の上の料理に舌鼓を打ちソフトドリンクやアルコールドリンクで喉を潤して雑談で盛り上がっている。


妖精さん達は別途用意されたスペースで盛り上がっている、艦娘達と交流をしている妖精さんもちらほらいるようだな。


重巡洋艦グループから愛宕と摩耶が高雄を手招きしていたので、食堂まで同行してもらった高雄に労いの言葉をかけて解放した。



提督「さてと、俺は何処のグループに混ざればいいのやら」


提督(見事なまでに周りが女性しかいない、男は冗談抜きに俺一人か……)


千歳「ふふっ、提督、こちらにいらっしゃってください、さぁさぁ」


隼鷹「呑もうぜ呑もうぜえぇ~、安心しなって、取って食えるほど酔わせないって!!」


提督「うおぉっ、待て待て二人とも、両腕を引っ張らないでくれ!!」



断る間もなく酒豪二人に強引に連行される、行き先は空母グループの席だ。


鳳翔は笑顔で困ったような顔をして、グラーフは呆れ顔で両目を手で覆い、飛鷹と千代田は自らの姉妹を窘めている。


蒼龍と飛龍は料理に夢中であり、大鳳は先輩である龍驤に酒を注いで料理を小皿に分けている、龍驤は大鳳に注いでもらった酒を満足げに飲んでいる。



飛鷹「あぁぁ~っ!! もうっ、隼鷹!! 貴女、昨日提督はお酒飲めないの言ってたでしょう!!! すぐに解放しなさい!!!」


千代田「お姉、呑めない人を無理矢理連れてくるのはやめなさい!!! 提督も少しは抵抗しなさい!!!」


提督「抵抗はしたのだが、君達は艤装が無くてもすごい力が出るのだな…… あっさりと連行されてしまったんだ」


鳳翔「少しばかりお二人にはお話が必要かしら?」


隼鷹「そんな固い事言わないでくださいよ~!! こんな色男を眺めながら呑むとかそうそう出来るもんじゃないんですよ!?」


千歳「男女問わず、端整な容姿の異性を肴に一献傾ける、これは最高の晩酌です、鳳翔さん」


グラーフ「あまり羽目を外さないで欲しいものだ、この二人に口煩く言っても無駄な事が多いが」


鳳翔「翌日が非番の日を狙って泥酔するので、生活が極端に乱れたという話はまだ聞いたことは無いですね」


龍驤「鍛錬もちゃんとサボらずについてきてるんやし、摂生は出来てるんちゃうんかな、ウチは特に困ったことは無いで」


大鳳「千歳さんは大丈夫なのですが、隼鷹さんがたまにほんのりお酒臭いままトレーニング室に来たりしますけど、それはセーフなのでしょうか……」


飛鷹「隼鷹、貴女ねぇ……」


隼鷹「うっひっひひひ!!! 酒抜いたつもりがほんのり抜け切れてなかったみたいだねぇ~」



軽空母と正規空母って場所によってはあまり交流が無いと聞くが、この基地は珍しく交流がある基地の様だな。


二航戦の二人は先ほどから言葉を発していないのだが、ちらりと視界に入れるとすごい勢いで箸を動かして料理を口に運んでいた。


以前の鎮守府では正規空母は赤城と加賀くらいしか居なかったが、彼女達とあまり変わらないペースで食べてるな……



蒼龍・飛龍「鳳翔さん!! おかわりお願いします!!!」


鳳翔「たくさん訓練してたくさん食べるのは良い事ですが、提督がお目見えになられてますよ?」


蒼龍「えっ!? やだやだやだぁっ、ウソっ、提督来てたの!? たくさん食べられてるところ見られちゃった!?」


飛龍「来てたの気づかなかった…… 今まであまり気にしてなかったけど、やっぱり男性の前ではたくさん食べてるところ見られたくないよね……」


蒼龍「不細工な上に大食艦とかもう女として終わってるかもしんない、ははは……」


飛龍「それを実際に口に出すと結構キツいね……」



俺としては笑顔でたくさん食べる巨乳美女ごっつぁんです!!って感じなんだがな、口にはとても出せないが。



提督「たくさん食べるのは君達の仕事だから気にすることは無い、勿論鍛錬で身体を追い込むのが前提ではあるが」


提督「それに君達は食べ物を出来るだけ粗末にせず、出されたものをきっちりと完食しているのだから、食べ物に関わっている人達はとても嬉しいと思うぞ」


蒼龍「そんなこと言われたの初めてです、今まで無関心か大飯食らいの化け物みたいな扱いでしたから……」


飛龍「なんかもう黙って弓だけ弾いてろって扱いだったよね、労ってもらうなんて何時以来かな……」



前任の提督どもめ、どれだけ軋轢の傷跡を遺して去っていきやがった? 入渠ドックの件もそうだがまだまだ氷山の一角の気がしてならない。



隼鷹「そんなテンションでご飯食べんのは良くないぜぇ? 食事と酒はもっと楽しくしないとねぇ!!」


龍驤「せやせや、隼鷹の言う通り!! 辛気臭い顔で飲み食いするもんやないで!! 宴会自体もかなり久しぶりやし!!」


提督「提督就任の度に歓迎の宴会していたのではないのか?」


鳳翔「最初の数人は就任祝いで宴会を催していました、ですが……」


龍驤「鳳翔はお淑やかな人やから言いにくいやろうけど、正直言ってな、やっても嬉しい顔されんのや」


龍驤「見た目も中身もバケモンに酒を勧められたり言い寄られたりしても、気持ち悪いだけなんやて、人の好意なんやと思うとるんや、ほんま腹立つで」


グラーフ「我々が醜いので人としての礼節すら不要とでも思っているのだろう、我々もベースは人間だというのにな、嘆かわしいものだ」


龍驤「イカンね、辛気臭い顔で飲み食いするなって言ったばかりやのに、でも司令官は嫌な面せぇへんでちゃんと向き合ってくれる、好意を受け止めてくれてとっても感謝しとるで!!」



今まで信じられん迫害を受けていたというのに強い娘達だ、『提督』という役職に嫌悪感を持っていてもおかしくはない筈だろうに。


高雄も言っていたが『個人』に対しての評価と『提督』に対しての評価を憎しみに囚われず分別出来る、素晴らしい精神の持ち主が多いな。



長門「このグループにいたのか、提督、準備は出来たのでその場で良いから宴会の開始と乾杯の音頭をお願いしたい」


提督「おお、長門、探しに来てくれたのか、わかった」


長門「お前達!!! これから提督が乾杯の音頭を取ってくださる!!! 静かにするように!!!」



長門が両手で拍手を3回ほど繰り出す、戦艦なだけあって凄まじい、まるで紙鉄砲のような快音だ。


長門の声に反応して艦娘達が座りながら我々を見ている、音頭を始めるとしよう。



提督「この度、このK基地に提督として着任した○○提督だ、今夜は就任祝いの歓迎パーティーを開いていただき感謝している」


提督「たった一日という極僅かな期間であるにも関わらず、君達が受けた迫害、そして艦娘と提督の溝の深さを知った」


提督「恐らく今日知ったことは氷山の一角、これからも俺は信じられない事を目の当たりにする事は想像に容易い」


提督「『艦娘』が『提督』である俺に心を開いてくれるか、それは君達次第でもあり俺次第でもある」


提督「俺は昨日言った通りに艦娘の待遇を向上させるのが目的でこの基地に就任した、不満の一つでもぶつけてもらって構わない」


提督「この基地が本来の機能を取り戻す箏、そして艦娘が安心して職務を全うできる環境を目指す、それが俺の責務になるだろう」


提督「君達の未来へ向けて、国の未来へ向けて、そして護国の『艦娘』の未来に向けて乾杯だ」


提督「乾杯!!!」



飲料と酒を持った艦娘はグラスを、それ以外の者は食器や腕を振り上げて叫んだ。



艦娘達「ワアアアァァァァ────ッッッ!!! 乾杯!!!」



食堂が揺れる、なんというかすごい歓待のされようだな、不満を持つ艦娘が居てもおかしくはないと思うのだが。


自分への期待が高い事を改めて知る、身の程には大きすぎる傾向はあるが。



長門「今までの提督が酷すぎた反動か、実に頼もしく感じるな、期待も大きい」


提督「それは否定できん、俺は提督としてそんなに優れているわけではない、だが期待には応えなければな」


長門「卑下はしないでほしい、提督としてはまだわからないが一人の男としては素晴らしいと思っている、支える覚悟を持っても良いと思えるくらいにはな」


提督「ありがとう、誉れ高い戦艦長門にそう言われたからには敬意を払って職務を全うせねばならんな」



「折角だから楽しんで飲み食いしてくれ」と一言のこして長門は戦艦グループの方へと去っていった。


ずっと立っているのも目立つので、その場で腰を下ろして空母グループに混ぜて貰う事にしよう。



隼鷹「いい語りだったねぇ、これから期待させてもらうからねぇ!! あぁ~、酒が進む!!」


千歳「お酒の種類が増やして頂けるように私も頑張っちゃおうかしら、ふふっ」


提督「君達は本当に酒が好きだな…… すぐに増やせるとは言えないが長い目で見てくれ」



そんな事を言っていると飛鷹と千代田から甘やかさないで欲しいと睨まれる、どうやら筋金入りの呑兵衛なのか……


今まで苦しい思いをしてきたのだから、多少の役得くらいさせてあげたいものだ。


確か美男子を眺めながら飲む酒は美味いと言っていたな、お酌でも労いでするのも有りか、これを利用しない手はない。


懐かしいな、一兵卒の下っ端時代はご機嫌取りでやりたくもないお酌をやっていたものだ。



提督「いい飲みっぷりだな隼鷹、グラスをこちらに出すんだ」


隼鷹「お、どうしたんだい提督? これでいいんかね」



隼鷹の隣に肩同士が触れるくらいに距離を詰め、隼鷹の持っていたグラスにビールを注ぎ込む。


隼鷹は酔っぱらった顔で何が起きたのかわからぬ顔で、俺の顔を見つめている。



提督「隼鷹、今日も訓練ご苦労だった、これは俺からの気持ちだ」


隼鷹「えっ」


提督「どうした、呑まないのか?」


隼鷹「いやいやいや!? えっ!? うへええぇぇぇぇっっっ!!!」


飛鷹「あ、鼻血出てるわ、ティッシュ何処かしら」



ほんのりと赤かった隼鷹の顔が茹だった蛸の如く真っ赤になっていく、目を見ると凄まじい勢いで泳いでいる。


そんなに想定外の事だったのか? 目を回しそうな勢いで顔色が変わっていく。



提督「千歳もグラスが空になっているぞ、お酌をしてさしあげよう」


千歳「っ!? ……ふへへっ、ありがとうございますね、提督~」


千代田「お姉!! 鼻の下の長さがやばいことになってるからぁ!!! 顔引き締めて!! 顔!!」


提督「次は鳳翔だ、毎日の家事の半分は君がやっているそうではないか、これは労わずにはいられんな」


鳳翔「あ、ありがとうございます提督、私にまでお気遣いしていただいて……」


龍驤「あかん…… あんなに顔が緩み切った鳳翔はそうそう見れへん、司令官のルックスやばすぎやで……」



美人は顔が脱力しきっても可愛いのか、女性の失望又は辟易した顔ばかり見てきたから新たな発見だ。


そして、こんな俺でも美人に喜んで貰えるのは嬉しいものだ。



グラーフ「アトミラール、私にも注いでいただけないだろうか? 貴方の様なハンサムに注いでもらえる機会など、この先無いだろうからな」


提督「良いぞ、提督だからといって過剰な遠慮は要らない、グラスを寄越してくれ」



グラスにビールを注いでいるとグラーフはそれをじっと見つめている、そして浅く溜め息を一つ吐いた。



グラーフ「なるほど、これがオシャクというものか」


提督「お酌の文化はドイツ人としては理解し難いものか?」


グラーフ「いや、そうではない、見目麗しい異性に酒を注いでもらうというだけで、なんというのだろうな? 良く分からないが嬉しい気持ちがこみ上げてくる」


提督「そうか、その様に感じる酒はいつもより美味いぞ、飲んでみると良い」



俺がそう言い終えるとグラーフはこちらを僅かに見て、グラスの注いだビールをゆっくりと一気飲みした。


どうだろう、美味く感じられただろうか? 飲み終えてグラスを口から離し、控えめに息継ぎをした後に声を放った。



グラーフ「うむ、良いな、何が良いのか言葉にはしがたいのがもどかしいな……」


提督「ああ、風情とか侘び寂びの一つだと思えば良い、ドイツだって雰囲気を大事にして酒を飲むだろう、それと同じものだ」


グラーフ「これがワビサビの精神……」



グラーフはお堅い性格の女性かと思っていたが、見知らぬ知識にきょとんとする顔を見ていると可愛らしい女性なのかもしれないな。


さて、他の空母にもお酌をしないといかん、次は誰にお酌をしようか。



飛鷹「あら提督、私達にもお酌してくれるの?」


千代田「気持ちは嬉しいんだけど、二人して呑兵衛の身内がいるから監視しないと駄目なんだから」


飛鷹「千代田の言う通り、私達は個人的な飲み会を除いていつもお酒は飲んでいないんです」


提督「そうか、それは残念だ、酒を飲まずに監視しないといけないくらいに羽目を外すのか?」


飛鷹「隼鷹は全裸になって女の尊厳を捨てた踊りとか始めますよ」


千代田「お姉は笑い上戸になっちゃって、笑いすぎた末に嘔吐するのよ!!」


提督「それはなんというか、ご愁傷さまとしか言いようがないな……」



この二人はお酌はする必要は無いというか、とてもではないがお酌を受ける余裕が無さそうだ。


別の空母にお酌してくると苦労している二人に一言告げて席を立つ、二人からは楽しんでくれと返ってきた。



提督「さて、君達二人なのだが…… 実年齢を聞く気はないが、呑める年齢ではあるのか?」


龍驤「あ~、この見た目だとそれは聞くのは仕方ないちゅうか、ウチはちゃんと呑める歳やで、そんなに強うないけどな」


大鳳「私はジュースです、艦娘になる前も現在も呑める年齢ではないので」


提督「わかった、二人ともグラスをこっちへ」


龍驤「おーっとっとっと、悪いねぇ司令官、艦娘やっててこんなイケメンにお酌してもらえるなんてなぁ」


大鳳「どうもありがとうございます、こうやって上司に日々の鍛錬を労ってもらえるのは嬉しいものです」


提督「大した事は出来ないが、それで君達の負担が少しでも減るというのなら、こちらも労いたくなるものだ」


提督「ところで報告書では空母の中では特に鍛錬がハードな二人と聞くが、オーバーワークなどには気を付けてくれ」


提督「人間としての鍛錬の基準しか知らぬものでな、艦娘として設備等が足りなかったら具申してほしい」



その事を尋ねると大鳳は嬉しそうに眼を輝かせ、龍驤はややうっへりとした態度と表情を見せた。



大鳳「実はですね、トレーニング設備があまり充実していないものでして、鍛錬としては少し物足りない部分があるのです」


龍驤「人間用の設備でも効果が無いワケではないんや、それでも大鳳はトレーニング馬鹿すぎて物足りんらしいんや」


大鳳「龍驤さんはもっと鍛えるべきです!! 経験・知識・技量は確かに圧倒的に私よりも遥か上ですが、体力は私より少ないですからね」


龍驤「旧式の軽空母に体力を求めんで欲しいで…… 戦艦と同等の体力馬鹿に勝てるワケないやろ」


提督「龍驤も先輩として苦労しているな、君達は艤装の装着無しでも凄まじい力を発揮しているが、どういう仕組みなんだ?」



先ほど千歳と隼鷹に腕を引っ張られた時、重機あたりにケガしない程度に加減されて引っ張られた感覚だった。


問答無用で引っ張られてしまい、下っ端時代には自分より10cm以上背の高い相手とレスリングや相撲をしてもそうそう負けなかった自分の肉体が全く通用しなかった。



龍驤「う~ん、ウチらもようわからんのや、でもなんとなく何が上乗せされているのかはわかるで」


龍驤「大雑把に説明すると『(人間の身体能力 + 艦娘としての力) × 艤装の出力』って感じやな、艦娘としての力は対応した艤装に耐えられる程度に身体能力を上げてくれるで」


大鳳「このままだと日常生活が出来なくなってしまうので、普段は人間並みに力を落として生活しています」


大鳳「艦娘としての力を発揮すると艦種によって差はありますが、旧式の駆逐艦でも人間の10倍くらい身体能力になります」


提督「最低で10倍か、それはただの人間が勝てないわけだ、しかしそれでは何かの間違いで力が暴走したりしないのか?」


龍驤「それは大丈夫やな、少なくても怒りに任せて壁ドンしたくらいでは出たりせぇへん、妖精さんがうまく調整してくれてるんやろな」


龍驤「訓練すればに意識して出せるようになるで、スポーツ選手も競技中はすごいパワー出すやろ、アレと同じや」



そう言うと龍驤は手近にあった新聞紙一部を丸ごと手に取り、おもむろに新聞紙を握り飯の様に握り始めた。


やがて新聞紙は龍驤の決して大きいとは言えない手の中にすっぽりと収まってしまうが、それでも龍驤は構わずに新聞紙を圧縮

し続けた。



龍驤「そんなに出力や馬力の無いウチでも、これくらいの事は艤装無しでも出来るんやで」


提督「これは…… 新聞紙一部がビー玉サイズになってしまった……」



すっかり小さく圧縮されてしまった新聞紙だったものを手に取ってみる、金属の様に硬くなっている、テーブルの上に落としてみるが響いた音が紙のそれではない。


艦娘の力を発揮してこれなら、艤装を付けたらどうなってしまうのだろうか、人の大きさに軍艦の性能という物の恐ろしさの片鱗を感じている。



提督「今日は良い物を見せてもらった、これからも期待している、龍驤」


龍驤「ええぇ~っ!? それだけなんか!? こんなクリーチャーみたいな容姿の女がゴリラみたいな怪力しとるんやで?」


提督「別に人間に敵対する気も無いんだろう? これ以外の感想はないぞ、強い力は強大な暴威に振るってこそだろう」


龍驤「あ~…… まあ、ベースは人間だし、人間に反逆する気も更々無いっちゅうかな……」


龍驤「ウチ、司令官の事を信じてええかな? 今までの上司が酷すぎてなぁ、信じる事に挫けそうやったんだわ……」


提督「構わんよ、辛くなったら相談しに来ると良い、大鳳も酒が飲めないくらいに若いのだから遠慮せずに相談してくれ」


大鳳「お言葉に甘えさせていただきます、あと龍驤さんの事お願いしますね」


大鳳「この基地では古株な上にトップに近い艦娘でして、立場が立場だけに相談相手が居ないのではないかな?と私は思ってました」


提督「なるほどな、上に立つと相談相手も極端に減るからな、下に愚痴るワケにもいかん」


龍驤「ありがたいんやけど大鳳、こんなに人がいる場で言わなくてもいいやん? 恥ずかしいわ……」


大鳳「数少ないチャンスを逃すのも勿体ないと思いまして、尊敬している大先輩に恩返しさせてください」


提督「仲良き事は美しきかな、実に良い関係ではないか」



士気がガタ落ちしていても仲違いや仲間割れの類が起きていない、空母しか確認がとれていないがとりあえず安心した。


上司が酷すぎて共通の敵相手に結束が固くなったというパターンなのかも知れないな。


さて、一通り空母の皆に絡んだので鳳翔や間宮の手伝いをしたり、料理に舌鼓を打つことにしよう。



────数時間後



踊り出す者、脱ぎだす者、気分が悪くなる者、愚痴る者、泣き出す者、笑いだす者、上司に物申す者、色々と出たがどうにかみんなで協力して沈静化。


一時期の乱痴気騒ぎは随分と納まり、ちらほらと解散して自室に戻る艦娘達も多くなり、既に半数は居なくなっている。


現在残っているのは片づけに従事している者か、酒がまだ足りずに飲んでいる者、そして完全にダウンして地面にへばりついている者くらいだ。



飛鷹「ほら、隼鷹、みんな飲み終えてる上に夜も遅いし帰るわよ、ここに居ても片づけの邪魔になるわ」


隼鷹「えええぇぇ…… アタシはまだ呑んでいたいんだけどさぁ、ってわかったわかった!! そぉんな怖い顔すんなってぇ!!」


千代田「お姉、起きてってば、もう呑めないなら帰ろうよ、身体起こして」


千歳「……う~ん、千代田、おんぶして…… 部屋までおねがいぃ~」


龍驤「うぃ~…… 吐くほどやないけど飲み過ぎたわ…… そろそろ帰ろかね」


大鳳「肩をお貸しします、腕を回してください、龍驤さん」


蒼龍「う~、たくさん食べたねぇ、すごい種類出てきたから目移りいっぱいしちゃった」


飛龍「体重計が怖いけど、とても久しぶりの宴会だから食べるしか選択肢がなかったよね」


鳳翔「たくさん食べていただけて良かったです、残った料理は保存して希望した人にお出ししようかと思っているわ」



空母の皆も解散の雰囲気が漂い始め、自主的に片づけを始めたり、泥酔した姉妹や仲間の介抱をしている者もいる。


ただ一人、座ったまま動かずに眠そう目でちゃぶ台をボーッと見ている艦娘もいたので、俺は体調確認の為に声をかける。



提督「グラーフ、しっかりしないか、体調は大丈夫か? 気持ち悪かったら正直に言うんだ」


グラーフ「……ああ、アトミラールか、大丈夫だ」


提督「先ほどから微動だにしないが、皆はもう解散して自室に帰るようだぞ? 立ち上がれるなら自室に戻るんだ」



起立を促してみるも脚の踏ん張りが利かないのか立ち上がってすぐに尻餅を突いてしまう。


数度立ち上がらせたところで諦め、グラーフの上半身を持ち上げてから肩を貸すことに決めた。



提督「このままでは立つ事ができないな、上半身を持ち上げるからそこから俺の肩に腕を回すんだ」


提督「鳳翔、片づけている最中にすまない、グラーフの上半身を持ち上げてくれ、俺がやるとセクハラになってしまう」


鳳翔「わかりました、ではグラーフさん、持ち上げるので失礼します」


グラーフ「……Nein!! ホウショウ、それは許可できない、アトミラールが持ち上げてくれ」


鳳翔「えっ!?」


提督「っ!? どういうことだ、説明するんだ、グラーフ」



まさかグラーフがこんな妙な拒否をするとは思わなかった、極めて品行方正と報告書に書いてあったのだが……


鳳翔の腕を乱雑にならないように払い、こちらを強く見つめグラーフは口を開いた。



グラーフ「どうしたアトミラール、フミヅキに出来てこの私には出来ないという道理は無いだろう?」


提督「……かなり泥酔しているようだな、少なくとも成人した女性にする事ではない、あまり困らせないでくれ」



鳳翔に目配せするが、彼女もやや困惑した表情で俺を見ている、グラーフがこんな事を言うとは酒はやはり恐ろしい。



提督「鳳翔、ビスマルクか二航戦は近くにいるか?」


鳳翔「三人とも既に私室へ帰ってしまったようです、姿が見当たりません」


提督「そうか…… 鳳翔、無理矢理でもいい、彼女をどうにかして私室へ帰らせなければ」


グラーフ「無理矢理? それは聞き捨てならないな、それもハラスメントの一つだ、アトミラール」


提督「頼むから大人しく鳳翔に介抱されてくれ、それだけでいいんだ」


グラーフ「断る、だがアトミラールが私を『ダッコ』してくれるというなら大人しく部屋へ戻ろう」


鳳翔「っ!?」


提督「……グラーフ、君は今、泥酔して正常な思考が出来なくなっている、そんな状態での発言は易々と受け入れられない」


グラーフ「そうだな、私は今とても気分良く酔っている、それはよくわかる」



口頭での説得をしてみるも、彼女の態度は軟化する気配はない、ドイツ人はお堅いは言うがこんなところまで堅いのは正直困る。


彼女は要望を通さない限り、この場から立ち上がる事すらしないだろう、こんな変な理由で決意表明をしてもらいたくなかった。



グラーフ「私が何も考えずに泥酔したと思っているのかアトミラール? 素面の私ならこんな失態は招かないだろう」


グラーフ「だが酔った勢いに乗れば、愛想の無い私でもビスマルクの様に感情をぶつけられると考えたからだ」



今日は人生ではかつてない受難だ、まさか見目麗しい異性の我儘に二度も遭遇することになるとは……


子供の文月にも手を焼いたというのに、成人女性のグラーフからまさか同じことをされるとは完全に想定外だ、しかも普段は品行方正だと言う評価を受けている相手だ。


物々しい雰囲気を察したのか片づけの手伝いをしていた長門と古鷹がこちらに向かってきた。



長門「どうかしたのか提督? グラーフと揉めているようだが」


古鷹「私で良ければお力になります、提督」


グラーフ「ナガトとフルタカか、力づくでどうにかしようと言うならば今夜ばかりは抵抗させてもらう」


提督「こんな状態なのだ、力技で解決しようとも思ったが20万馬力の艤装を操る彼女に勝てるか?」


長門「私はやや旧式の戦艦なのでな、超重量の41cm連装砲を装備出来るように工夫はされているが単純な馬力はそう高くはない、最近実用化された改二に改造されれば希望はあるかもしれないが……」


古鷹「私もグラーフさんの半分程度の出力しかありません、とてもではありませんが暴れられたら勝ち目はないでしょう……」


グラーフ「暴れたりはしない、ただ私はアトミラールに『ダッコ』して部屋まで送ってもらいたいだけなのだからな」


長門・古鷹「っ!?」


長門「いい加減にしないかグラーフ、文月が抱っこしてもらった件については噂で聞いた程度の知識しかないが、文月は子供でありお前は成人だ」


長門「正規空母という立場でありながら、酒の勢いに飲まれてこんな駄々を捏ねるとは感心は出来ない」


古鷹「私もそう思います、グラーフさん、いつもの貴女らしくありません」


鳳翔「グラーフさん、お水を飲んで少し休んでからお部屋に戻りましょう、酔いが少し醒めればきっと長門さんが言っている事がわかります」



三人からの言葉を受け止めたグラーフ、僅かの間、無表情のまま微動だにしなかったが微かに挑発的な微笑を浮かべて言葉を発した。



グラーフ「日本の女性は本当に控えめだな、これが『奥ゆかしい』という事なのか、私も祖国では控えめとよく言われてきたが敵わないな」


長門「挑発は止せ、些細な事で仲間割れが出来るほど我々に余裕はないはずだ」


グラーフ「貴女達には私と同じ『想い』を感じたのだが、それを押し込めたまま生きていくつもりなのか?」


グラーフ「私達はベースは人間ではあるが艦娘となった以上は戦う事が兵器としての宿命だ、この命は戦争という地獄の中でいつ果てるともわからない」


グラーフ「戦場以外では『醜い兵器』として蔑みを受け、命を預けなければならない『提督』からも存在を軽んじられてきた」


長門・古鷹・鳳翔「…………」


グラーフ「そんな最中に命を捧げても構わないと思える程の『理想の提督』が現れたのだ、我々の醜い容姿を見ても嫌悪感を表に出さずに、艦娘の未来を真摯に慮ってくれる提督が!!」


グラーフ「泡沫の夢でもいい、一夜の儚い幻でもいい、提督の善意につけ込む事になってしまうが『ぬくもり』を感じたいと思ってしまったのだ」


長門「……このような失態を演じたのも『それ』が目的という事なのか?」


グラーフ「そういうことになるな、自分でも失態とは思っているがそれでも構わないと思っている、今まで醜女扱いばかりで『女』である事など既に捨て去ったと思っていたのだが、そう簡単には捨てられなかったようだ……」



彼女の吐露は自嘲をしている様にも見えた、長門・古鷹・鳳翔も根は勤勉で真面目であるが為に似た者同士のグラーフの心情を否定できずに戸惑っている様だ。


ただ一つ違っていたのは文化の違いだろうか、欧米では極度に感情を押し込めたりはしないと聞いている。


長門達も彼女と似た想いを隠していたようだが、その差が表れてしまったのだろう。



提督「言いたいことは分かった、長門・古鷹・鳳翔、今回は彼女の意見を受け入れる、助けを要求しておいて申し訳ないが」


長門「貴方はそれで良いのか? こんな我儘に付き合う必要はないのだぞ?」


提督「確かに我儘なのかもしれないが、これで彼女に『悔い』を残さずに済むというのなら、それは提督の責務であると俺は思う」


提督「だが文月にも言った通りこれでは依怙贔屓になってしまう、今まで模範的な軍人として振る舞ってきた実績に対しての褒美として彼女の要求を受け入れようと思う」


グラーフ「……!?」


提督「だが今回だけだ、酒に飲まれて多少風紀を乱したという点は今後響く事になるだろう、まあ千歳や隼鷹はかなりの頻度で泥酔による問題を起こしているそうだが……」


古鷹「提督のお考えに感心しました、私は提督がそれで良いというのなら何もいう事はありません」


提督「迷惑をかけてしまいすまなかった、三人とも、俺はこの酔っ払いを部屋まで送っていく事にする」


鳳翔「いえ、迷惑だなんて、お力になれずに申し訳ございません」


提督「そう落ち込まないでくれ、今回は俺の認識が浅慮だったんだろう」



今日だけで何度も艦娘の待遇について考えを改めてはいるのだが、それでも足りないのは歯痒いものだ。



提督「さてグラーフ、抱っこして欲しいとの事だな、身体を触ることになるが…… 構わないか?」


グラーフ「問題は何もないアトミラール、貴方の様な絶世の美男子に抱きかかえて貰えるのならばな」



流石に文月のように子供を抱っこするのは淑女に対して礼を失するのではないかと思ったので、俗に言うお姫様抱っこをする事にした。


彼女は俺より10cm以上背が高いが持ち上げてみると実に細長く軽い、筋肉も付いている筈なのだが男のそれとは大分違う。



グラーフ「こ、これは…… ビスマルクが言っていた『オヒメサマダッコ』という抱え方ではないか」


提督「ビスマルクは君に一体何を吹き込んでいるんだ……」


グラーフ「日本に来たら食だけではなくサブカルチャーも嗜み程度には学ぶべきだと彼女は言っていた」


提督「サブカルは正直学んでほしくないというか人を選ぶというかだな…… まあいい、しっかりと首に腕を回してくれ」


グラーフ「了解した、これは…… 実に良いものだな…… 物語に出てくる高貴な女性になった気分だ、女として大切に扱われるというのはこんなにも嬉しいと感じるのだな」


長門「片づけは私たちに任せてグラーフを私室まで送ってあげてくれ」


提督「すまない、君達も程ほどに切り上げて就寝をしてくれ、では行ってくる」



グラーフを抱きかかえたまま食堂のドアを鳳翔に開けてもらい、廊下へ出て空母寮へ向かう。


三人に視線を向け軽く頭を下げて謝意を示し、食堂から二航戦とグラーフの部屋へと歩を進めた。



鳳翔「羨ましいものですね、想いを隠さずに直接ぶつけられる勇気が、私では立場と外聞に縛られ、あの様には振る舞えないでしょう……」


長門「そう……だな…… 私も鳳翔と同じだ、戦艦としての、提督代理としての体裁が邪魔をするだろう」


古鷹「お二人はこの基地には無くてはならないですからね」


長門「古鷹はどう思う? グラーフのあの行動は」


古鷹「私も鳳翔さんと同じ意見です、重巡洋艦の筆頭として皆を導かないといけませんから」


長門「なるほどな、教導艦娘も一筋縄ではないという事か」



────提督、二航戦とグラーフの相部屋



皆、既に私室に帰ったのか廊下は随分と閑散としていた、艦娘には全く遭遇せずに部屋まで辿りついた。


グラーフは身体をしっかりと密着させ、俺の首と肩に両腕を回して抱き付いている。


部屋の前に到着したのは良いが両腕が塞がっているのでドアをノックできない、と考えていたらグラーフが気を利かせて代わりにノックをしてくれた


少しだけ間延びした声がドアの向こう側から聞こえてくる。



蒼龍「はぁ~い、もしかしてグラーフ?」


グラーフ「その通りだソウリュウ、酔い過ぎてしまってな、アトミラールに送ってきてもらったのだ、開けてほしい」


提督「そういうことだ、頼む」


蒼龍「えっ、嘘ぉ!? 今開けます!!!」



ドアを開けて出てきた蒼龍は既にパジャマだった、スタンダードな無地の緑色の長袖・長ズボンのパジャマ、髪はいつもの結い方ではなく下ろしている。


元の素材が良ければ本当に服って何でも似合ってしまうものだな……



蒼龍「わあぁっ!? グラーフがっ!!! お、お、お姫様抱っこ!? ひりゅぅぅぅ~う!!! グラーフがぁっ!!!」


飛龍「んもぅ、夜遅いんだから静かに…… 私は今、夢を見ているんだわ、これは夢よ、早く起きないと多聞丸に怒らr」


グラーフ「ヒリュウ、残念ながらこれは現実だ、アトミラールのぬくもりを感じるからな、んふ~」


飛龍「こんな現実見たくなかった、いや、むしろ超イケメンに私も抱っこしてほしかった……」



飛龍は蒼龍とは対照的な実にラフな格好をしている、女性向けショートパンツにTシャツ一枚という、鍛えられた豊満な身体でピッチピチになっていて実に色気がある。


グラーフ「さて、私が使っているベッドに降ろしてほしい、だがその前にアトミラールに感謝と謝罪をしなければならないな」


提督「どうした、急に改まったりして」


グラーフ「駄々捏ねた事は狙って実行したとはいえ、羞恥心もあったし罪悪感もやはりあるのだ、貴方の善意につけこんでいるのだからな」


グラーフ「艦娘として生まれ変わって大切な家族や友人を守るために訓練や任務を受けてきたが、祖国でも日本でも心無い扱いに挫けそうになっていたのだ」


グラーフ「貴方の様な素晴らしい人のぬくもりを心身に感じる事が出来て本当に良かった、そして戦う理由が新たに一つ出来たのも嬉しかった」


グラーフ「家族や友人、そして仲間だけでなく貴方の為に命を散らしたとしても、決して悔いは無いだろう、アトミラールはそれを覚えておいてほしい」


グラーフ「明日には元の私に戻っているだろう、隠していた感情を晒すのは今夜だけだ、本当にありがとう」


提督「気にすることは無い、悩みや迷いが晴れたのならそれで良いさ、艦娘の事を配慮するのは俺の義務でもあるからな」


提督「それになグラーフ、命を散らしても構わないと簡単に言うものではない、その命は君だけの物ではない、君が無駄死にと知ったら守るべき家族や友人、仲間は酷く悲しむ、だから何としてでも生きる為に戦うんだ」


グラーフ「……Danke. アトミラール、貴方ほど艦娘に真摯な人は見たことは無い、そして貴方の為にこの命、捧げても決して惜しくはない、だが貴方の言いつけは守らなければな、生きる為、そして守る為に戦おう」



そう告げて彼女を静かにベッドに降ろすと花開いた様な笑顔で微笑んでいた、美人の笑顔というのは筆舌に尽くしがたいものがある、俺自身も救われる。



蒼龍「ていとくぅ~、ラブシーンを見せつけられる側にもなってください、グラーフもこれからは迷惑かけたら駄目よ!!」


飛龍「まあグラーフの言いたい事は大体の艦娘が言いたい事でもあると思うんだよね、だから強く非難は出来ないかなぁ」


飛龍「提督も夜遅いので気を付けて私室に戻ってくださいね、誰か護衛を付けますか?」


提督「いや、大丈夫だ、基地の敷地に入るような命知らずはそうそう居ないだろうしな」


蒼龍「そうですか~、わかりました、あっ、提督ちょっといいですか」



蒼龍が部屋の外に出ると手招きをしている、どうやら聞かれたくはない話でもあるのだろうか。



蒼龍「提督も外見だけでなく内面や行動も罪作りな人ですね、グラーフの顔見ました?」


提督「良い笑顔だったな、紆余曲折を経たが彼女にとってプラスになったのならば良かったと思う」


蒼龍「そういう答えではなくてですね!! えーっととにかく、グラーフのあんな笑顔は見たことないですね、微笑を浮かべる事はあっても、あんなに柔らかくて優しい笑顔は初めて見ましたよ」


蒼龍「ただ艦娘なので非常に絵面がその、とっても残念と言いますか、私が言えた事ではないんですけれども……」



ああ、そうだった…… 日が浅いから度々忘れてしまうが艦娘はこちらの世界だと、俺と同程度の不細工扱いなんだよな……


金髪碧眼のクールビューティーに綺麗な笑顔を向けられるとは思っていなかったから、つい役得と思ってしまったが。



蒼龍「あれはもう上司から敬愛する人へ一気に格上げした顔でしたね」


提督「言いたいことは分かっている、俺としても彼女の気持ちをぞんざいに扱ったり無碍にする気はない、信じてくれ」


蒼龍「提督って生き仏様か悟りでも開いてらっしゃるんですか? 艦娘相手に嫌な顔一つ出さないですよね、むしろそれが好評過ぎてたった就任二日で人気がストップ高なんですけれども」


提督「国の運命を握っている相手に対して高飛車で横暴な態度を取る方が、俺には余程理解できないぞ……」


提督「話の途中ですまないがそろそろ戻ってもいいか? 深夜帯になりそうだ」


蒼龍「そういえばそうでした、引き留めてしまってごめんなさい提督、今日も執務お疲れ様でした!!」


提督「ああ、君達も任務と訓練ご苦労だった、俺は私室に戻るとするよ、また明日」



蒼龍達の部屋から離れ私室へ向けて一歩を踏み出す、今日は初執務と就任祝いがあったせいか未知の出来事がとにかく多かった。


数か月は今日ほどではないにしろこのような毎日を送ることになるだろう。


艦娘と提督の溝の深さは深海よりも深いのかもしれない、確実に溝を埋めていかなければならない。


決して楽観視は出来ないだろう、だが時間の有無や戦況は微妙なところ、戦いに勝つ事と同じくらい難しい事にもなりそうだ。


今日の出来事や艦娘の事を纏めている内に、いつの間にか執務室の前に到着していた。


疲労で頭も回らなくなってきているし、風呂でも入って寝る事にしよう、難しい事を考えるのは目が冴えて元気な時にすればいい。



提督「……とりあえず、今日は俺にしては頑張ったな、明日に備えて寝よう」



小話:提督、性欲処理に悩む

今日も怠る事無く執務に励む為、早朝から起床、するのだが…… 男なら誰でも付いている股間の一物が元気に主張している。


ここまでは稀にある事なのであまり気にせずに朝の支度をしていく、カーテンを開き、洗面台で顔を洗い歯を磨き、鏡を見て頭髪を整える。


新調した制服に着替えようとするが、普段ならここで朝勃ちも既に収まって通常時のサイズに戻るはずなのだが、どうにも今日はなかなか頑固である、一物は未だに主張を止めない。


それなりに頭の中は焦ってはいるのだが、無駄に焦っても一物が沈静化するわけでもないので、そのまま制服に着替えた。



提督「不味いな…… 高雄が来るまでに静まってくれれば良いのだが」


高雄「おはようございます提督、お迎えに上がりました」



ドアのノック音の後に秘書艦である高雄の声が聞こえてきた、まだ一物は沈静化せずズボンの股間部分を押し上げてテントを形成していた。


俺はこの状況により焦ってしまい、たまらず高雄に向けて一声かける。



提督「あ、あ~、その、先に食堂に向かってくれ、後から行く」


高雄「わかりました、もし問題がありましたらすぐに連絡お願いします」


提督「ああ、すまないね、遅刻しないようにはするから」



素直に言う事を聞いてくれて助かった…… 流石にこの姿を艦娘達には見せられないな、威厳どころか尊厳もガタ落ちするに違いない。


せめてテントが張らない様に一物の位置を調整して、ちょっともっこり程度に納めなければ……


最初の一か月くらいは高雄が執務室に朝食を運んで一緒に食べていたが、艦娘の皆と親交を深める為に色々画策して親睦を深めていったので、提督である俺に対して慣れが備わったので、食事も食堂で取ることになった。


一物の位置を巧い具合に処理をして、勃起している様には見えない程度には改善した、これで食堂へ行けるだろう。


しかし何故、今日はこんなにも勃起が収まらないのだろうか? 疲れマラの説も考えたが激務ではあるものの酷くストレスを感じる労働環境ではないのでそれは違うだろう。



着任して2ヶ月と数日、施設と設備の調整や修理、演習や鍛錬の視察、資源の調達、艦娘及び妖精さんとのコミュニケーション等々……


ゆっくりと休憩に浸っている間もなく、休暇も体力と体調を考慮しながら返上して執務に従事し、非常に毎日が忙しなく過ぎて行った。


ここ数日、漸くまともに休憩が取れる程度には仕事が減ってきており、休暇も数日前に久しぶりにまともに過ごしたくらいだ。


もしかして、激務が少なくなりリラックスできる時間が増えてきたから、さっさと溜まった性欲をどうにかしろという事なのだろうか……


確かに自己発電も全くせずにずっと仕事に打ち込んで来たからな…… 下っ端時代を思い出すな、遠征での訓練とか身体中の水分が干からびるまで訓練で締め上げられて、基地に帰ってきて疲労が取れたら股間の連装砲装填済みという感じだったな。


とりあえず変な歩き方にはならない程度には勃起を隠蔽出来た、身だしなみを軽くチェックして食堂へ向かおう。



程なくして食堂へと到着、ドアを開けると全てではないが艦娘達の視線が俺に集中する、複数の艦娘達から挨拶をされたのでそれを返事してから秘書官の高雄を探した。


既に高雄は姉妹達と食事を楽しげに食べており、邪魔をするのも気が引けるので適当な席を確保して一人で食べることにしよう。


カウンターまで行きメニューを吟味するが、やはり間宮のハンバーグは絶品なのでいつも通りに注文。


朝の6-7割はハンバーグ定食を食べているような気がしてならない、ハンバーグもソースのバリエーションが多種多様だから中々飽きないので嬉しい誤算だ。



提督「おはよう間宮、今日もハンバーグ定食を頼む、ソースはグレイビーで」


間宮「おはようございます提督、いつもの定食ですね、承りました」


提督「いつも美味い食事に感謝している、何か不備はないか?」


間宮「提督がいらっしゃってからは設備も修理されて、ずっと使われなかった備蓄倉庫にも多少ですがストックが置かれるようになりました、不備なんてとんでもありません、本当に感謝しています」


提督「そうか、不備無しは良い事だが、数十人の艦娘の食事を毎日作っているのだから、君自身も過労など倒れたりしないよう無理せずに気を付けてくれ」


間宮「まあ、こんな地味な給糧艦にも気にかけて頂けるなんて…… 提督のご期待に応えつつ体調管理も気を付けないといけませんね」


間宮「忙しい時には非番の艦娘や妖精さんが手伝ってくれますし、非常時には鳳翔さんや料理が出来る子に代理をしてもらった事がありましたので、多少の事では機能停止はないと思います」



ふむ、なるほどな、ある程度のバックアップ体制は食堂には準備されてはいる様だ、食堂はしばらくの間は問題なさそうだな。


多少の時間を待ち、手伝いをしていた秋月からハンバーグ定食を受け取り、艦娘だらけの大テーブルへ向かう。


定食の乗ったプレートをテーブルに置き、椅子に尻を乗せ姿勢を正して「いただきます」と食事に感謝を示した後、ふと気づいた。


んっ!? なんかすごく良い匂いがする…… ハンバーグの匂いは勿論良い匂いなのだが、そういう食欲を刺激する類の良い匂いではないのだ。


周りは艦娘だらけである、艦娘は基本的にというか俺の経験では少女から20代半ば程度の外見の女性しかいない。


普段でもお互いに物理的に距離が近くなったりすると、やはり女性なのかほんのりと女性独特の良い香り? 匂い? そういうものがするのだ。


セクハラじみた事を言ってはいるが良い匂いはどう考えても良い匂いなのだからそういう評価しかしようがない。



その様な若く見目麗しい(この世界では極めて不細工扱い)艦娘達が数十名も自分の周りにいるものだから、良い匂いが充満しているのである。


自己弁護になるが普段はこんなに他人の匂いが気になるという事は無かった、食堂に大人数の艦娘がいても過剰に匂いに反応するという事は今回が初めてだ。


ある程度頭で考えられる品性は自分に残っているようだが、この匂いはヤバい。


下品な言い方になるが性欲を刺激するタイプの良い匂いなので、悲しいかな、股間の一物がギンギンに反応してしまう。


さらに勃起しようとしている一物がこれ以上酷くなる前に、そして艦娘達にこの惨状が露呈しないように手早く食事済ませ、執務室に逃げなくてはならない。



鈴谷「ちぃ~すっ、提督ぅ、今日も元気してますかぁ~っ?」


熊野「おはようございます提督、鈴谷、朝はそうやかましくするものではありませんわ、賑やかは良いですけれど」


提督「あ、ああ、おはよう、鈴谷と熊野」


鈴谷「や~っと提督の隣の席に座れたよぉ、提督が食堂に来るようになってから初めてじゃない? こうやって隣に座れたの」


熊野「提督の人気は天井知らず、この機会を逃す理由はありませんわ」



そう言いながら、二人は頼んだ定食のプレートを俺の両隣の席に置き、そのまま椅子を引いて着席する。


不味い、いやハンバーグ定食はとても美味しいが、このシチュエーションは不味い、うら若い学生の様な制服美少女が両隣に座ってくるとかヤバい。


鈴谷が隣に来るのは予想できたが熊野まで隣に座るとは思わなかった、向かいに座って鈴谷を窘めてもらうのを期待していたのだが当てが外れてしまった。



鈴谷「朝から超イケメンの隣でご飯食べられるチャンスがあるなんて、今までの艦娘生活じゃ考えられなかったよ~、初めて役得って思ったかも」


熊野「鈴谷ったら、提督が美男子なのは周知の事実ですが慎ましさを持ちなさい」


鈴谷「そんなこといって熊野もそんなに席詰めて提督の隣に座らなくてもいい~んじゃないの? 私も詰めちゃおっと」


熊野「他の男子でしたらこんな事は恐ろしくて出来ませんわ、ですが提督なら受け入れてくださるとこの二か月で理解しましてよ、勿論拒否されたなら止めますわ」


提督「い、いや、大丈夫だ、君達はよくやってくれている、俺自身が癒しになるなら受け入れよう……」



今回ばかりは全然大丈夫じゃあないがな!!! うわぁ、なんだこの匂い、心地良いくらいに良い匂いがする、二人とも尋常じゃないくらいに可愛いし、こんな可愛いのに距離詰めてくるとかヤバすぎる……


近くで顔を見ると二人とも顔のパーツの造形や整い方がまるで俺とは違う、性別違えど本当に同じ人類なのか……



熊野「提督、顔がやや赤くなってるけれど気分が優れないのではなくて?」


鈴谷「なんか汗もすごいかいてる、大丈夫? ご飯全部食べられそう?」


提督「ああ、あ、あと少しの量だからな、食べきれる……」


鈴谷「ちょっと前まで激務だったもんね、食べ終わったら高雄さん呼んでくる? 一人で執務室行くのちょっと危なそうだし」



高雄と一緒に勃起を隠しながら執務室まで廊下を歩くとか、今の俺には拷問過ぎる。


高雄の外見自体が俺にとっては性的にとんでもない凶器だと言うのに、普段はこれでも耐えてはいるのだが今は絶対に耐えられん。



提督「……二人の言う通り今日は少し体調が優れていないのかもな、一人でも執務室には戻れそうだが高雄には本日の午前は少し休むと伝えてはくれないだろうか、たまには一人になりたい」


鈴谷「あぁ~、無理しないでね提督、ちゃんと伝えておくからさぁ、たまには私達艦娘も戦闘以外で頼りにしてね!!」


熊野「承りましてよ、折角提督にお近づき出来たのに少ししかお喋り出来ないのは痛恨の極みですが、提督に無理をさせるわけには行きませんわ」


提督「す、すまない、二人とも俺と話をしたかったというのに気を遣ってもらって……」


鈴谷「いいっていいって!! 食べ終わったら食器も片づけといてあげる!! だからちゃんと元気になってよ?」


熊野「貴方無しの艦娘生活なんてもう戻りたくないですわ、しっかりと療養なされて?」



食事もいい具合のタイミングで食べ終えたので、軽く礼をして鈴谷と熊野に後を任せ食堂を後にした。


今の俺には艦娘は刺激が強すぎる、早く執務室へ行って一人にならねば……


一物の位置を意識しながら、そして尚且つ変な歩き方にならない様に誤魔化しながら廊下を歩く、変に見えていないか不安だ。


その時、前から一人の艦娘がスプリンターのような速度で疾走してきた、こんな時になんて厄介な!!



金剛「バアアァァァニングゥゥ……!!! ラアアァァァヴッッッ!!!!」



何故、いつもこの娘は俺に対して低空タックルを真っ向から仕掛けてくるのだろうか、そして今はとても間が悪い。


艦娘のパワーをまともに正面から受けたら恐らくただでは済まないだろうから、毎度の事ながら受け止めたことは無い。


今日も勢いに逆らわずに最小限の動きで回避する、金剛はそのまま床をかなりの距離滑っていった。



提督「金剛、素人丸出しの低空タックルでは俺を捕らえるのは無理だ、あと廊下は非常時以外は走るなと言っているだろう」


金剛「あぁ~ん!! なんでテートクは私にはPhysical contactしてくれないんデス!? 他の艦娘には触られても避けたり怒ったりしないのにぃ!!」


ビスマルク「相変わらずすり抜けるような回避の仕方するわね、レスリングを長年やってるとは聞いていたけど」


榛名(お姉様、実は榛名も提督にお触れになった事も触れられた事もありません、いつも距離を取られてしまいます……)


グラーフ「Guten morgen. アトミラール、今日も貴方の姿を見る事が出来て嬉しいものだ」



高速戦艦+ドイツ組は今日も仲良しだな、しかし金剛のタックルはどうにかならないものか、何かの拍子でもらったら多分病院送りだぞ。


ビスマルクは高飛車なところはあるが元来は品行方正ではあるし、グラーフはあれ以来決して我儘を言うことは無く、笑顔を見せるようになり、人懐こい大型犬のように接してくる。


金剛型は…… 彼女達は決して悪くはない、悪くはないと思ってはいるが以前の世界の「金剛姉妹の本音」が記憶にこびりついて、必要以上に距離を詰めてこられると身体が勝手に拒絶してしまう。


提督としてこんな体たらくは容認してはいけないのだが、「本音」の記憶はそう簡単に払拭は出来ない、どうしたら良いのか自分でもわからないのだ……


しかし立ち話にも関わらず、四人との距離感が近くてだな、ほんのりと良い匂いがして股間に響く……


なんでも良いから四人から距離を取らねばならない、嬉しい状況なのに社会的に立場が危ういとか、こういう部分で男は辛いな……



提督「あぁ~、済まないが四人とも、今日はあまり心身が優れなくてな、午前は少し休ませてもらうことにした」


金剛「What!? テートクはお疲れデスか!? 私が至れり尽くせりってのをしたいデース!!!」


ビスマルク「貴女では無理ね、ホウショウやハルナでもないとね、私が世話したら逆に面倒かけそうだから遠慮しておくわ」


グラーフ「ふむ、私で良ければ看病に呼んでもらえると嬉しい、アトミラール次第ではあるが」


榛名「榛名も看病は大丈夫です、榛名で良ければご指名ください!!」


提督「今回はその、言いにくいのだがコミュニケーション疲れだな、一人の時間が欲しいんだ、勿論身体の方もそこそこ疲れてはいるのだが」



みんな看病を提案してくれるとは良い娘達だな、ビスマルクは尽くすより尽くされるタイプなのは多少は否めない。


断る理由としては一応嘘をついている訳ではないし、変に食い下がられ無い事を祈ろう。



グラーフ「ふむ、そうか、貴方の傍に居られないのは残念だが身体を大事にしてほしい」


金剛「なんか前からグラーフはテートクに随分デレデレじゃないデスか……」


ビスマルク(同郷のよしみで本人から色々と話を聞いたけれど、面倒な事になるから黙っておくのが良いわね)


榛名(榛名もグラーフさんと提督が親密なのはとても気になっていました…… 榛名はグラーフさんが羨ましいです……)


グラーフ「アトミラールは素晴らしい男だ、戦果はまだ控えめだがついていくには何の疑念も無い」


金剛「ただでさえ競争相手が多いのに、グラーフは完全にダークホース、想定外ネ~……」



提督就任どころか、人生の中でこんなに女性が心配してくれるのは初めてかもしれない……


風邪引いて倒れた時も下っ端時代は男の同僚に多少手伝ってもらった程度の記憶しかないな。


以前の鎮守府では誰かしら艦娘が顔を見に来て死にそうではなかったら放置、アンタッチャブルな扱いだった……



提督「話の途中で済まないが、そろそろ執務室にいっても構わないだろうか?」


ビスマルク「コミュニケーション疲れなのだから、無駄な長話は今の提督には苦痛に感じるんじゃないかしら」


グラーフ「確かに、アトミラールの負担にならない様に会話を切り上げるべきだな」


金剛「ノオオォォォッッ!!! 数少ないテートクとのコミュニケーションが~!!!」


榛名「お姉様、ここで提督に無理をさせてしまうのはお互いに良い事はないと思います」


提督「その、なんというか、すまない…… こんなに会話を楽しみにしてもらっているとは思わなかった」


ビスマルク「大したことは無いわ、コンゴウはこっちでなんとかするから執務室に行きなさい」


グラーフ(コンゴウの気持ちはわからんのではないのだがな……)



グラーフ達に別れを告げて再び執務室へと向かう、色んな艦娘達とすれ違うが会釈だけして、やや早歩きで急いでいるのをアピールしつつ歩く。


漸く執務室に辿りついた、いつもと変わらない艦娘遭遇率の筈なのに随分と執務室が遠くに感じられたな……


執務室の奥へと向かい提督私室へと入る、勿論ドアには鍵をかけておく、これでとりあえず盗撮でもされてない限りは勃起は見られないはずだ。


提督私室に篭り一息ついたところで問題が浮上した、基地には性欲を促す媒体が無いのだ、インターネットは機密の都合でかなり制限がついている。


性的コンテンツを扱っているサイトに行けないワケではないが、流石に職場、ましてや基地でそういうコンテンツを漁って自慰に耽っているという評価はされたくはない。



そういう評価がどこからか漏れ出て艦娘達の耳にでも入ったら、失望や嫌悪の目で見られる事は火を見るよりも明らかだ。


つまりは提督私室にいても自慰は出来ないのである、最近は妄想力も減ってしまって媒体がないと自慰しにくいのが辛い……


焦らずにゆっくりと考えた結果、元帥閣下から用意してもらった住居に行くしかないという結論に達した。


戸籍無しの住所不定だった俺に、元帥閣下は約束通り戸籍と住所と住居を用意してくれた、ただ住居を使うのは今回が初めてである。



インターネット含めた生活インフラは完備しており、生活家具も最低限は用意しているとの事で身一つですぐに住めるそうだ。


提督の椅子を空けるのは多少の裁量が許されている、提督である俺がいないと出来ない仕事というのもほぼ少数。


名目としては「賃貸した住居の視察」でもいいだろう、大淀に伝えて書類上は尤もらしい目的に変えておけば良い。


早速だが大淀に連絡を取り執務室までに来てもらおう、話はそれからだ。



────提督、賃貸アパート前



大淀に住居賃貸の書類の件を話し合い、留守番を任せて住居の前までやってきた、K基地から自動車で一時間弱かかったが毎日直行直帰をする職務ではないので、移動による不便さはそこまで苦痛には感じなかった。


特に目新しい要素の無い新築のアパートだ、外観に古臭さや経年による汚れみたいなものはほぼ無い。


機械化されたセキュリティ要素があるわけでもなく、一般的な単身者用の賃貸アパートだ、入居できる部屋の数自体も少なく小さい建物だ。


とりあえずプライベートがある程度守られた新しい我が家に入ってみよう、鍵をドアの鍵穴に差し込んで回すと金属が擦れるような音がして鍵が開いた。



中に入ると窓のシャッターが下りたままなので部屋がとても暗い、窓を開けてシャッターを上げよう。


日光が部屋に充満すると同時に把握しづらかった部屋の全貌が見えてくる、一人暮らしするにはかなり広い部屋だ。


1LDKだが最低限の家具は用意されており何故か嗜好品寄りのTVとHDDレコーダーまで置いてあった、流石のデスクトップPCやゲームハードは無いが。


素晴らしい事に既にインターネットも構築されているようで、LANケーブルと自前の給金で買ったノートPCを接続するだけですぐにでも使える様だ。


これでやっと心を落ち着けて自慰を一人で行うことができる…… 下っ端時代にも考えたが個人空間はやはり必要である、自慰とか本当に苦労したものだ。



ノートPCをインターネットへと接続し、逸る心を落ち着かせて性的コンテンツを扱っているサイトを閲覧する、やはりここはオーソドックスにアダルト動画だろうか。


股間の一物をおっ立てながら大手のアダルト動画販売サイトを物色する、動画のリストを開きサンプル動画を数種類見たところで俺は気づく。


貧乳の土偶、または女オークがイケメンとファックしている動画しかない…… 股間の一物は既に準備完了にも関わらず性的欲求に全く響かない。


俺以外の男性なら恐らくとても性欲を刺激する動画なのだろう、だが俺には萎える要素のほうが大きすぎる、あまりの酷さに罵声の一つでも言ってしまいそうになる。


普通なら下半身産業まで美醜逆転の範疇に収まっている事に気づくべきだった、だが煩悩と性欲塗れの思考では考えが及ばなかったのである。



アダルト動画がこの惨状だと成年コミックや薄い本界隈、そしてイラスト投稿型SNS等はどうなっているのだろうか?


検索してみるも俺は予想は当たってしまった、それも実に悪い方向に。


純愛物は土偶や雌オーク、果てには正気が保てなくなりそうな某神話系クリーチャーの女子が、俗に言うヲタ系男子、モテない系芸人のような外見の男子と終始イチャついていた。


凌辱物は女クリーチャーをナイスミドルな男性がとても口に出して言えない性行為をしている、これって種付けおじさん物なのだろうか……


そしてとにかく巨乳物がない、巨乳クリーチャーとか見ても少しも嬉しくはないが、みんな胸部が尋常ならざるまな板である。


異性に嫌われるのも辛いが、「オカズ」の9割以上が自分にとって死滅している世界ってのもなかなか辛いものだ……



折角新しい我が家まで足を運び、インターネットでアダルトサイトを使ってまでオカズ探しをしたが自分の嗜好に直撃する物は無かった。


ノートPCの前で両手で顔を覆い、大きく深い溜め息を一つ吐く、股間のテントはずっと張り詰めたままだ。


途方に暮れていた俺はオカズ漁りを止め、大手の通販サイトで食品やゲームハードとソフト、音楽や書籍などを眺めていた。


書籍カテゴリを除いていた時に「世界の艦船型少女」という写真集に近い解説本が視界に入った。


そういえば艦娘の正式名称は艦船型少女だったな、今となってはやや形骸化しつつあるが。


大本営の方もこういう民間向けの依頼を受けてるのか、艦娘なんてトップシークレットに近いが実際人間側が分かっている事は少ないからな。



レビューの内容は低評価だらけだ、まあ想像はついていたが大体は「艦娘の容姿の酷さ」についてのレビューだな。


「艤装の機能美とデザインはとても美しい、艦娘はノーコメント」「過剰なまでの不細工と醜い体型の女性が集まった写真集」「海戦するとはいえ慎ましさの欠片もない制服ばかり」など好き勝手言い放題だ、流石は匿名が基本のインターネットである。


サンプルページも数枚ほど公開されており、艤装を扱っている艦娘の姿と艤装の簡易的な解説と図解が掲載されていた。


艤装についてはかろうじて理解している部分を書いているだけなので、情報量はそう多くはない。


艦娘の特性や高速修復剤などの便利な道具などについては機密なのか、特に記述は見当たらなかった。



サンプルページを数枚見て俺は気づいた、艦娘の写真がとてつもなく性的欲求を刺激することに。


艦娘達は駆逐艦から戦艦まで訓練などで引き締まった健康な身体の物が多く、実に健康的なエロスを感じさせる。


世間では極めて醜いとされる顔や体型も、俺にとっては絶世の美女に見えるし性欲を過剰に刺激する。


腰は過剰なまでに細くくびれも凄まじい、腕を回して抱きしめたくなる程に。


アンダーが細いせいか、異様に巨乳や巨尻が目立つ艦娘もいるし、スカートが過剰に短い艦娘も多いので程よく鍛えられて肉付きの良すぎる脚をこれでもかと言わんばかりに見せつけられる。


臀部に肉がパンパンに詰まった艦娘とか、スカートが短いのでたまに尻の肉が丸見えになったりするし、尻全体を横振りしながら歩くので非常に股間に悪い。


巨乳の艦娘はメロンでも服の中に詰めているのかというくらいに自己主張が激しい、前から見れば実に柔軟に揺れる、そして横から見れば尋常ではない服の押し上げ方をしている、押し上げというより最早突き出しである。



乳揺れとか尻揺れとか露出に対して、恥じらいを見せるには見せるのだが「このスケベ男!!」という恥じらい方ではなく「気持ち悪いものを見せてごめんなさい」というタイプの恥じらい方をするのだ。


俺から見たらただのご褒美とか眼福の類なのだが、彼女達にとっては色々と複雑な問題なのだろうな…… ああ、色々考えていたら艦娘写真集を絶対に買うしかなくなってきた。


軍事技術関連書籍で自慰をするという軍人にあるまじき事になるのがアレだ、だが背に腹は代えられない。


艦娘関連の書籍を数冊ほどダウンロード販売で購買する、もう我慢できん、ここ2ヶ月は「提督」として生きてきたが今日ばかりは「男・オス」に戻らさせてもらう。



────数時間後



ヌいた、とてつもなくヌいた、学生時代の頃よりヌいたのではなかろうか……


結論としては艦娘はとてつもなくエロいということだ、一部の大人びた駆逐艦から成熟した戦艦まで満遍なくエロい。


煩悩を発散し余韻に浸りつつも次第に理性が正常に戻ってくる、俗に言う「賢者モード」に移行しつつある、俺は今から基地に戻り艦娘達の顔をまともに見る事が出来るだろうか。


艦娘で性欲発散しまくった後の罪悪感とか背徳感が凄まじいのである、信頼を裏切った感覚もかなり強い。


いや、前向きに考えるんだ、性欲に身を焦がして艦娘達に欲情して襲ってしまうよりは遥かに正しい選択をしたんだ。


とりあえずしっかりと手を洗って自慰の痕跡を消してから基地に帰ろう……



────提督、1時間後、K基地



テンション低めの賢者モードのまま基地へと帰投、正門を通り正面玄関の扉を開ける。


基地の中に入るや否や、提督代理の長門と秘書艦の高雄が待っていた、大淀にはちゃんと通達を頼んだはずだが。



長門「ようやく帰って来たか、心配したぞ、提督」


高雄「体調が少し優れないと聞いていましたので心配しておりました、大淀も外出を止めるべきでした」


提督「体調は大丈夫だ、ただ少し一人になりたかっただけだ、体の良い理由もあったからな」


長門「貴方が居ないというだけで少し混乱が起きたくらいだ、大多数の艦娘が玄関で帰りを迎えると騒ぎ、提督代理と秘書艦で足りると説得するのに多少は手古摺ったが」


高雄「大淀から伝言があったので大丈夫でしたが、外出する時も護衛の一人でも連れてください、立場的にも危ないですし、類稀な美貌を持ちながら自覚が薄いので気が気でなかったのですよ!!」


提督「す、すまない…… 今日は俺が迂闊だった、外出する時の護衛は連れていく事にする、心配をかけたな」



こんな美人達に身の心配をしてもらえるとか嬉しすぎて涙が出そうだ、だがこれではっきりしたことがある。


今まで以上に定期的にヌかないとやはりヤバいな、週1-2くらいでアパートに戻って自由な時間と環境を作らなくてはならない。


しかしこれだけ心配してもらっているのに艦娘でがっつりと自慰していたとか、罪悪感が凄まじい……



提督「二人とも、これからは週1-2くらいはアパートで過ごそうと思うのだが良いだろうか?」


高雄「提督がお一人になりたいお気持ちはわかりました、私としてはそうしてもらったほうが提督の心身に良いかもしれません」


長門「私も高雄と同じ意見ではあるが、艦娘全員に聞いて見てからで良いだろうか?」


提督「ああ、構わない、自分以外全てが女性となると変な疲労が溜まってしまってな」



どうにかして提案することが出来たが、これで猛反対されたら冗談抜きで社会的に死ぬ日がくるかもしれない。


セクハラ or 性犯罪で提督辞任かつ人生終了とか俺は絶対に嫌だぞ…… 



長門「……提督、貴方はとても麗しいが今日はなんというか、そう、いつにも増してとても色気を感じるが何かあったのか?」


高雄「長門もそう思いますか? いつも以上に引き込まれる感じがします」


長門「あと微かに磯臭いな、いやイカの匂いか、ほんのりと匂う」


高雄「あ、これはイカの匂いだったのね、鮮魚を扱っているお店にでもお寄りになられたのですか、提督?」


提督「っ!? い、いや特に寄り道はしていないぞ!? そんなに臭うか!? い、今すぐにでも風呂入らないとな!!!」


長門「ふむ、まあ既に夕方で食事も近いし、一汗かいたなら風呂に入ってきても構わない」


高雄「そうね、今日は提督も一人になりたいと色々な艦娘に仰っていたそうですし、仕事も私達が出来るものばかりなのでお風呂でゆっくりなさってください」


提督「い、いやぁ、すまない、食事も一人で食べる事にするよ、私室へ持って来てもらえないだろうか」


高雄「お承りました、私室までお持ちいたしますね」



あんなに手を洗ったのに何故イカ臭いの分かったんだ、艦娘恐ろしや。


たかが家に帰って自慰するだけだったのに、異様に手間がかかって疲れてしまった。


艦娘にこんなにも心配されるなんて、思っていた以上に自分だけの身体では無くなってきているんだな……


信頼を得ることが出来て嬉しい反面、責任と期待も大きくなっている、期待に応えられるよう奮闘せねば。


……とにかく風呂だな、他の艦娘にもイカ臭いとか言われたらショックだし、何かの拍子でバレたら目も当てられん。


浴槽にどっぷりと浸かって、自慰環境確保とか今後の展望について考える事にしよう、今日は変な疲れ方をしたな……



提督、遠征での演習を試みる

着任しておよそ半年、工廠と入渠ドックは半分程度、他の設備も完全とは言えないが復旧しつつある。


元帥閣下とも直接取れない場合も多々あるが密に連絡を取り合い、物資は極端な遅延や減量も無く基地へと安定して運ばれてくる、約束を反故にするような人でなくて心底良かったと思う。


ここで基地内の艦娘だけでなく、別の鎮守府に所属している艦娘達との演習をそろそろ実施しようと考えていた。


仲間内では手の内も知れてくるだろうし、色々あの手この手を変えてみても「癖」や「思考」がある程度理解していると、先読みが出来て刺激も少ない上に経験にならないのではなかろうか。



数週間前に近隣の鎮守府に演習の提案を要請したところ、この地方では最大級且つ最強を誇るS鎮守府から返答が来た。


本土の領海内では深海棲艦は何処からか紛れ込んだ駆逐艦・巡洋艦か、単独偵察をしている潜水艦程度しか見かけない。


ただ平和なのは国土付近の領海内の話であって、外洋に出ればまばらながらも深海棲艦の拠点と活動区域に鉢合わせるとの事。


過去に片手で数えられる程度には大艦隊で本土に侵攻してきた事もあったそうだが、平時の現在では先ず起こりえないそうだ。


従って領海内を航行してS鎮守府からK基地まで演習に来てもらうのは、そこまで大きな弊害にはならない。



提督「まさか、S鎮守府から遠征による演習を検討してくれるとはな」


大淀「建前は検討ですが、書類には面倒事さえなければほぼ確定していると記述があります」


提督「消費予定の弾薬や燃料はどうなっている?」


高雄「S鎮守府が小型の輸送船を使って運んでくるそうです、提督のお腹の様に太っ腹ですね」


提督「それは褒め言葉として受け取っていいのだろうか……」


高雄「勿論ですわ、提督のお腹は外は脂肪でもっちり、中は筋肉でがっちり、触っても鑑賞しても実に素晴らしいお腹です」


長門「高雄、お前…… なんて羨ましい!! 提督、この長門にも腹を触らせてもらえる栄誉を!!」


大淀「羨望の眼差しを向けざるを得ません!! 私も提督のお腹に癒されたいです!!」


提督「君達は話が脱線し過ぎだ、俺の腹はそんな大したものでもないぞ、そんな事より演習の話に戻るぞ」



半年の間にかなり艦娘達との距離も縮まり、上半身の一部を触られたり手を繋いだりする程度には仲良くなってきた、俺からお触りは憲兵事案なのでやらないが。


冗談や軽口の一つも言える雰囲気にもなり、艦娘達が言うには基地が和気藹々で活気に満ちているのはあまり記憶に無いそうだ。


日常生活や待遇も劇的に改善されて、心身共に健康になり練度も以前よりもハイペースで積み重ねされていると報告書に記述があった。


提督としての仕事は半分くらいは真っ当に遂行出来ていて安心した、残り半分は教導と戦果だがこちらはまだ目に見える成果はない。


練度が上がり「改」となった艦娘も数人出てきたが、経験がまだ足りず教導艦娘や長門の許可が下りず、他所の鎮守府へと移籍した艦娘は未だ無しなのだ。


そこで他鎮守府からの演習を考えた、外からの刺激と実践に極めて近い状況を作り出し経験を積んでもらうことにした。



提督「S鎮守府か、艦娘100隻に届く勢いの大型基地と聞く、S鎮守府の提督は…… これは驚いたな、俺よりずっと若いし、女性なのか」


長門「戦果は南西での防衛や侵攻にかけては随一との事だ、艦娘達の練度が高く結束も強いからこその戦果だろうな」


高雄「S鎮守府は特に結束が固いとの事です、提督が艦娘と強い信頼で結ばれているそうなので」


大淀「特筆すべきは20代後半で少将にまで昇格しています、我らが提督は少佐なので差は歴然ですね」


提督「こちらは何一つ戦果は無いから当然ではある、しかし丁重に扱わなければならないな…… 気難しい人でなければ良いが」


提督「艦娘からの信頼が篤いとの事だが、何かしらの秘訣があるのだろうか、あやかりたいものだ」


長門「謙遜するものではないだろう、貴方は私達を気にかけてくれているからな」


大淀「秘訣、というものではないですがS鎮守府の提督には、我々艦娘には共感できることが一つありますね」


提督「ふむ、やはり性別だろうか、同性同士なら共通の話題も多いだろう」


高雄「それも当たりですが、一番の原因はやはりアレですわね」


大淀「そう、アレですね、艦娘と同じくらいに顔が不細工という事ですね、艦娘ではない純粋な人間でありますが」



────S鎮提督、S鎮守府執務室


※以下、S鎮守府所属の人物には「S鎮」表記されます



S鎮提督「ぶええぇぇっくしょん!!! ……んあぁ~、風邪でも引いたかな、激務だらけで休まる暇も無いし」


那智(S鎮)「だらしがないな、激務であることは認めるが足柄の方がまだ振る舞いに品性があるぞ」


S鎮提督「なっちはお堅いんだから、どうせ男なんて寄り付かない職場なんだから職務以外は気楽にやりましょうよ」


那智(S鎮)「そんな態度だから嫁き遅れも間近なのだぞ、立場に見合った振る舞いをしろ」


S鎮提督「いいのいいの、どうせ男なんて腐敗した廃棄物みたいな顔面の女には優しくないしさ、元帥閣下くらいじゃない? こんなクリーチャー達にも紳士対応してくれる人ってさ」


那智(S鎮)「否定は出来ん…… ところで遠征による演習の予定はどうなっている、どうやら2泊3日程度の泊りがけの様だが」


S鎮提督「K基地から、より強い相手との経験を積ませる名目で演習要請来たから行ってくるわ、あそこってクソ野郎が就任しすぎてボロボロって話らしいんだけど」


那智(S鎮)「書面や噂では半年前に新たな提督が就任したそうだ、今でも提督の椅子に座っている」


S鎮提督「ふ~ん、まあ男の提督ってだけで地雷要素だから用心に越しておく事は無いわね、艦娘に酷い事してたら出来る限りの手を使って提督の椅子から引きずり降ろしてやりたいくらいよ」


S鎮提督「そろそろ休憩時間じゃない、漣ちゃんところにいってゲームやってくるわ、品薄のニ○テン○ーの新ハード買ったっていうから超楽しみだわ~、フヒヒッwww」


那智(S鎮)「程々にしておけ、熱中し過ぎていつも休憩時間ぶっちぎりで帰ってこないんだからな、我が姉上の堪忍袋の緒もそろそろ千切れるぞ」


S鎮提督「わ、わかったわよ~、妙高ちゃんの説教ホント長くて怖いから気を付けるわ」



ああ~、妙高ちゃん年下なのに怒らせると怖いからなぁ、というか多分私が最年長なのよね、艦娘自体が現れてから数年だし。


艦娘現れなかったら提督なんてやってなかったわよねぇ、軽度コミュ障の引きこもりゲームオタクだったからね。


提督簡易検定で妖精さんが見えなかったら今頃どうなってたんだろ、社会適応出来ずに社会に飼い殺しの過労死させられてたかもなぁ。


放射性廃棄物扱いされる程度には外見がクリーチャーなので、風当たりも尋常ではなく辛かったし……



無駄に肉付きの良すぎる胸と尻と太腿は「気色が悪い」などと面と向かって罵られるし、なんでお腹や顔や二の腕とかに肉が付かないのよ、腹立つわ!!!


長すぎる髪は「呪われてる人形の様だ」とか言われるし、どうせ不細工だし切っても伸びるから髪の毛なんて無頓着でいいのよ、開き直ってやるわ!!!


だけど、こんな世の中で同じ待遇の艦娘のみんなに会えて、清濁併呑と切磋琢磨して今の関係を作れたのは人生の中で宝物だと私は思う。


企業の事務員から命のやり取りをする軍属に転職するなんて思わなかったけど、みんなの為に今を頑張らないとね、という事で綾波型の部屋に行って漣ちゃん達とゲームしよ!!



────S鎮提督、数日後の海上航行中



S鎮提督「目的地の陸が見えてきたわね、みんなの調子はどう?」


那智(S鎮)「隊列を崩す者も、顔色が悪い者も特に居ない、今のところは万全だ」


S鎮提督「そう、なら良いわ、でも陸に上がったらもう一度確認する、不慮の事故は避けたいからね」


那智(S鎮)「相変わらず過保護だな、軍にあるまじき甘さだぞ」


S鎮提督「あんた達教導艦が全然ムチだけだからこっちがアメをあげないと未熟な子がブッ潰れるわよ、全く!!」



軍属だから厳しさはどの職場以上に必要だけど、それが原因で再起不能になった子の人生滅茶苦茶になったら責任と罪悪感が重すぎるわ!!


普段はそこまで厳しくはないのに訓練になると一部の艦娘が涙を流すレベルでキツいからなぁ、那智ってば。



足柄(S鎮)「那智ってば相変わらずお堅いわねぇ、だから普段から部下の子にビビられるのよ」


S鎮提督「部下に慕われる慕われないは別として、あんたも訓練のキツさは那智とどっこいだし、テンションの高さは那智には無いウザさよ」


足柄(S鎮)「何よぉ、勝ちたいから訓練するのよ!! 強い相手に勝つ為の訓練って燃えるじゃない!!!」


S鎮提督「足柄の気力の高さは褒めてあげたいけど、やっぱりウザいわよ、ゲームの対戦ですら負けると尋常じゃない悔しがり方とリベンジマッチ要求するし、まさか足柄がゲームするとは思わなかったけど」


足柄(S鎮)「私も提督にゲームで打ちのめされるまで興味無かったけど、遊んでみて競技性の高さが分かったというか、本質はテーブルゲームとそんな変わらないわね、だから負けると悔しいのよね」


足柄(S鎮)「というかウザいって言い過ぎじゃない!? 酷いわよ!?」


S鎮提督「妙高や那智に落ち着きが無いって怒られなくなったら、ウザくないって言ってあげるわ」



輸送船に待機していた足柄が外の様子か那智との通信が気になったのか、待機室からデッキへと出てきた。


正直なところ、ゲームにまで脳筋思考で挑んでほしくなかった、プレイスタイルは艦娘やってるだけあってかなり頭使う癖に、挑む理由は実に脳筋すぎるわ。


輸送船を停泊させてもらう為の港湾施設が見えてきたわね、以前より綺麗になって僅かながら拡張されているわね……


少しはまともに職務を遂行している提督なのかしら? 他の箇所も確認しないと評価は何とも言えないけれどね。



S鎮提督「人員を確認するわ、整列をして頂戴」


那智(S鎮)「整列ッッッ!!!」


S鎮提督「那智含め12人しっかりいるわね、ざっと見た感じ体調や顔色が悪そうなのは居ないわね、悪かったら今すぐに申し出る様に」



少しの間に様子を見てみるけど不調を訴える艦娘は居ない、各々から体調に問題はないという返答が戻って来る。


全員の体調を確認した後に、K基地から輸送車で迎えに来た艦娘達との待ち合わせ場所へと向かう事にしましょう。


人員輸送車と艤装輸送車が一台ずつ止まってる、待ち合わせ場所と地図を照らし合わせてみても恐らくあの場所になるわね。



S鎮提督「こんにちは、貴女達がお迎えの艦娘かしら?」


天龍「はっ!! お迎えにあがりました、少将閣下!!!」


龍田「この度はご足労おかけしました、こちらの準備は完了していますので、そちらの準備が完了次第出発できます」


S鎮提督「こっちも大丈夫よ、大きい方が艤装輸送車よね?」


天龍「そうです、艤装をこちらの輸送車で外してから人員輸送車へお乗りください」


S鎮提督「わかったわ、あと貴方達、口調はいつも通りでいいわよ、疲れるでしょ」


龍田「ご厚意痛み入ります、しかし閣下相手にそれは出来ません」


S鎮提督「いいのいいの、所詮民間上がりの小娘なんだから、そんなに偉ぶれる程人間出来てないわよ」


那智(S鎮)「提督がこう言っているから気にする必要はない、普段は子供みたいだからな、礼節がわからんのだよ」


S鎮提督「いつも那智に失礼な態度取られているし気にしなくてもいいわ」


天龍「……はぁ~、んじゃあそうさせてもらっかなぁ、3日間よろしく頼むぜ」


龍田「天龍ちゃん、ちょ~っと我慢が足りないわねぇ、ごめんなさいねぇ」


S鎮提督「やっぱり天龍型ってそういう喋り方多いわよねぇ、艦娘の神秘よね、微妙に違う娘も見たことあるけど」



艦娘全ての艤装取り外しが完了して、天龍は艤装輸送用車両へ、龍田と私達は人員輸送用トラックに乗り込む。


龍田と私は運転席と助手席へ、艦娘達は人員輸送のコンテナへと入っていく。


資源の詰まった小型輸送船はK基地の艦娘少数と、港湾施設の憲兵に護衛してもらうと聞いたから、まあ大丈夫でしょう。


艦娘もあまり大きくはない基地の所属だと、暇があれば免許取らされてこんな仕事もするっていうんだから本当に大変よね、正直尊敬するわ。


ウチの艦娘達は基本的な軍用車両の免許は取らせているけど、大型とか変わり種の免許取ってるのは武闘派とか真面目ちゃんくらいねぇ。


あ、そうだそうだ、艦娘に提督の評判聞かないとね、男の提督って本当にまともなのはごく少数だからねぇ。



S鎮提督「龍田、貴方のところの提督って半年前に着任したって聞いたんだけど、どんな感じの人かしら」 


龍田「……そうですねぇ、きっと驚きますよぉ、私も初めて見たときは一瞬だけど金縛りにあった様な衝撃でしたわぁ」


S鎮提督「えっ、なにそれ、正直すごく気になるわね…… 人柄はどうかしら、変な事されたりしてない?」



天龍と龍田を見て思ったことは制服がくたびれていたり、疲労の色が隠せていなかったり、そういう兆候は全く見られなかった。


念の為、聞いておくのも有りね、ふとした瞬間に兆候を漏らしたりすることもあるかもしれないし。



龍田「ふふっ、お心遣いありがとうございます、ですが現在の提督が来てからは基地は本当に活気のある場所になりました」


龍田「廃れていた施設や部屋も大分修繕しましたし、お喋りすら出来ず皆が自分を押し殺していた頃に比べたら、雲泥の差になってますねぇ」


S鎮提督「う~ん、かなり高く買われているのね、貴女達の提督に会うのが楽しみになって来たわ、ここに来るまでは不安でしょうがなかったんだけどね」


龍田「それは無理もないですねぇ、男の提督って艦娘を見た目とか能力で人間と思っていないのがほとんどでしたし、私達も今は『兵器』ですけど元は『人間』なのを忘れてほしくないです」


龍田「そういう私達も提督が来てくれるまでは『兵器』である事のほうが長かったので、『人間』としての私達にすごく久しぶりに戻れた、そう感じます」



現在のK基地提督は艦娘の事をしっかりと監督している様ね、最後の判断材料として直接相対するくらいかしら。


K基地は育成の為に改修された基地と聞いていたけど、実態は極少数の艦娘だけが無理矢理に卒業しただけで、異動先で既に精神的に追い詰められていた艦娘が失意のまま退役、酷い物になると非業の轟沈を遂げるという実話があると聞いたくらいね。


軍の文書にもその記述が残っているくらいで元帥閣下も非常に頭を悩ませていたのを覚えているわ。


龍田との会話もそこそこにしていたらK基地の敷地が見えてきた、龍田の説明では艤装輸送車は工廠へ、私達が乗る人員輸送車は司令部施設の入り口前で停車するようね。


司令部施設入り口前には艦娘と思われる女性が二人、一人は大柄な身体に黒髪のロングヘア、もう一人はそれなりの背丈に黒髪ロングヘアと眼鏡をかけている。


特徴からして戦艦長門と軽巡洋艦大淀かしらね、龍田が車両を停車させ私に降車の指示を出す、輸送コンテナの中で座っている艦娘達に私は降車するように指示を出す。



長門「今日はご足労に感謝する、私は提督代理の長門だ、龍田も出迎えの任務ご苦労だった」


大淀「私は事務担当兼任艦娘の大淀です、長旅お疲れ様でした、龍田さんもお疲れ様です」


龍田「いえいえ~、任務ですから~、私は輸送車を駐車して通常の任務に戻りますねぇ」


長門「ああ、わかった、行ってよろしい、そして貴女には我々の提督の執務室に来てもらうことになる、よろしいか?」


S鎮提督「そうね、案内をお願いするわ、その為に来たのだから、龍田に話を聞いたけど○○提督に会うのが楽しみね」


長門「……そうだな、面食らってしまうかもしれないが、会ってからのお楽しみという事で」


大淀「それでは私達の後についてきてください、基地について不明な点がありましたらご説明します」



勇猛で知られる長門が面食らってしまう相手って…… 謎は深まるばかりだわ。


私は案内を受けながら司令部にドアから入り内部と艦娘達を観察していく、噂でしか知らないけれどとても荒廃していたとは思えないくらいに綺麗に清掃はされているみたいね。


無駄な調度品や芸術品は一切無く、実用品が疎らに置いているだけで無駄遣いなども見られないわね。


各々の生活をしている艦娘達を観察するも、沈痛な面持ちや疲労が極端に表れている顔をしたり、身なりがくたびれた艦娘は見当たらない。


外では訓練に勤しむ艦娘や中庭や広場で戯れあう駆逐艦、廊下ですれ違う艦娘はこちらを確認するとしっかり敬礼をしてくる。


提督執務室の前に案内されるまで観察をしてみたけれど、何処をどう見ても健全な運営がされている基地にしか見えないわね。



大淀「お待たせしました、此方が提督執務室となります」


長門「入ることにしよう ……提督よ、長門だ、遠征演習にてS鎮守府の提督が来て下さった、入るぞ」



長門がドアをノックして確認をすると、中から「入室を許可する」と返事が聞こえた、いよいよK基地の提督と面会ね。


あちらはまだ少佐と聞いたわね、階級の差は歴然だけれどどう出てくるか、ウチの艦娘達は…… チラ見したけど程よく緊張している感じ。


長門がドアを観音開きにして入室し、私達もそれに従って入室をする、中には軍帽を被り直立している提督と傍らには重巡洋艦の高雄が静かに待機している。


軍帽の所為か顔ははっきりとは見えない、体型は見事な色っぽさを醸し出すあんこ力士体型、思わず触りたくなる出っ張ったお腹ね。


背丈はかなり小さい、私が170cm強なので10cmくらい差がありそう、正直言ってかなり可愛い背丈かも、秘書艦と思われる高雄と比べても10cmくらい低い。


色々品定めと思案をしていたらK基地の提督が高雄と共に軍帽を脱ぎ、お辞儀をした。



提督「遠路はるばる当基地にご足労頂き、基地と全所属艦娘を代表して感謝いたします、少将閣下」



…………ハッ!? い、今、私気絶してなかった!? ちょっ、ちょっと待って!!! 目の前に人生の中で見た事も無いような見目麗しい? 端正? ハンサム? 色々言葉並べてみるけど、どれもしっくり来ないそれ以上の美男子が居る!!!


な、何が起こったの!? 何を言ってるのかわからねぇかも知れないが超スピードとか催眠術とかって言いたくなるような状況よ、これぇ!!!


30代半ばって言うからおっさんが出てくると思ったら童顔すぎてどう見ても20歳前後くらいにしか見えない、美少年顔すぎてどんなハンサムでも裸足で逃げ出すわ!!


丸刈り頭も良く似合い過ぎて、頭のてっぺんから足の爪先までマスターピースってどういう事なのよ……



長門「S鎮提督殿、どうなされた? 我が提督に不作法等が有ったならすぐに詫びよう」


S鎮提督「へっ!? ……ふ、不作法なんて無いわ、完璧すぎて言葉も出ないわ……」



そ、そうだ、ウチの艦娘達は大丈夫かしら、私はショックのあまりに固まってしまったけど非日常である戦場を潜り抜けた彼女達なら……


って、みんな呆然としてるしッッッ!!! 目を擦って再確認したり、身体の一部を強く抓ったり、艦娘同士で現実かどうか確認してるし!!! こりゃいかんわね……



S鎮提督「せ、誠意ある歓待に私達一同感謝するわ、○○少佐、お互いに初対面だから手始めに握手でもしましょう」


提督「ありがとうございます閣下、ではお手を失礼します」



第一印象が良くて仲が取り持てそうで尚且つ階級が下の相手には、大体握手を求めるんだけど今回は特に文句無しの及第点ね。


……決して私が異性として個人的に握手したいって訳ではないわよ、本当よ!?


○○少佐が私の手を両手でしっかりと握手して深くお辞儀する、ヤバいよヤバいよ!! 相手が手袋着用とは言え、こんな美青年に握手されるとか手袋外してくれば良かったわ……



S鎮提督「ふひゅっwww」


提督「ん? 今、何か音がしましたが閣下は聞こえましたか?」


S鎮提督「んんっ!! い、いや何も聞こえなかったわよ!? 気のせいよ、きっと!!」



あまりの感動ぶりに変な声漏れちゃったよ…… ○○少佐がお辞儀で床を見ていて良かった……


艦娘達からは目線でしっかりしろと野次られているし、那智なんてすんごい厳めしい顔で私を見てるわ……


色々な経験で成長してしばらく鳴りを潜めていたとはいえ、本来の私であるコミュ障ブサヲタの部分が出てきちゃったわ、危ない危ない……



提督「S鎮守府から海上を突っ切って此処まで来たのですから、閣下と部下の艦娘達もお疲れでしょう、本日の予定は明日の演習に向けての会議ですが、その前に2時間ほど休憩をしてください」


S鎮提督「そうなると、イチロクマルマルから会議という事で良いのかしら?」


提督「その予定になります、イチキュウマルマルを目途に会議を終わらせ、その後は自由時間になります」


S鎮提督「ほぅ、それで私達の宿泊場所はどちら?」


高雄「宿泊施設については艦娘寮に空きがありますので艦娘の方達はそちらに泊まっていただく事になります、ただ12人ともなると恐らく雑魚寝になってしまうと思われます、そして寝袋になってしまうかと……」


S鎮提督「訓練が目的で来ているのに丁重にもてなせと場違いな事は言わないわ、軍人だからそのくらいはね」


高雄「お気遣いさせて申し訳ありません、それで閣下の宿泊する部屋は宿泊用賓室がありますので、そちらで寝泊まりになります」


高雄「そちらは一般的なホテルとそう変わりのない部屋ですので、ゆっくりおくつろぎください」


S鎮提督「偉くなって良かったと思う事は、ちゃんとした部屋が用意されるってところかしらね、くつろがせてもらうわね」


提督「説明は以上になります、では会議の時間15分前に大淀に迎えにあがらせます、会議場所を案内させますので」


S鎮提督「了解したわ、休憩に入って良いかしら?」



休憩の承諾を確認すると○○少佐は了承、そして大淀が賓室まで案内を買って出てくれたので大淀に一声感謝の言葉をかけたわ。


先ずは賓室を先に案内してもらったけど艦娘の皆と色々会話したいので、部屋には入らずに艦娘寮の空き部屋までついていった。


空き部屋に案内してもらったところで大淀に感謝と別れの挨拶をして解散してもらったわ。


空き部屋は2部屋あったんだけど12人座るにはちょっと狭いけど、無理矢理1つの部屋に入ってもらい、皆が集まって座ったところで私は号令をかける。



S鎮提督「さて、皆、口を必要以上に閉じているのに疲れたでしょう、騒音にならない程度には喋っていいわよ」


那智(S鎮)「では遠慮無く…… 何故あの様な麗人がこんな醜女の墓場で指揮を執っているのだ!! 面食らうどころの衝撃ではなかったぞ!!!」


足柄(S鎮)「那智の言うとおりよぉ!!! 奇策で翻弄されるよりも焦ったわ…… 命のやり取りしているわけでもないのにぃ!!!」


扶桑(S鎮)「艦娘になって以来、いえ、子供の時以来かしら、男性に紳士的に対応されるなんて、素敵な方でしたわ、うふふ……」


山城(S鎮)「姉様が男性に夢中になるなんて不幸だわ…… でも、とても麗しい人を見れたから幸福なのかしら?」


赤城(S鎮)「そんなに○○少佐が気になります? 私は強い相手に勝ちS鎮提督に勝利を捧げられるならそれで満足ですね、その後に美味しいご飯があれば最高です」


S鎮提督「赤城は相変わらず野菜みたいな名前の戦闘民族みたいでブレないわね……」


加賀(S鎮)「まあ赤城さんですから、私も○○少佐の事は気になります、容姿もですが軍務における能力はどうなのか」


赤城(S鎮)「加賀さん、とても早口なので少しは落ち着いて喋ってください、興奮し過ぎです」



う~ん、みんな足元救われたというか、やはり動揺は隠せないわね、軽巡や駆逐艦の子達はどう感じているのかしら。



球磨(S鎮)「やべぇクマ、球磨の本能に訴えかけてくるくらいのイケメンだクマ、○○少佐の抱き枕用テディベアになりたいクマ」


多摩(S鎮)「膝の上を陣取ったら動きたくないレベルのハンサムにゃ、ずっと撫でていてもらいたいニャ」


木曾(S鎮)「…………有りだなッッッ!!!」


S鎮提督「そんな気合の入りすぎた下心だらけの『有りだな』は見たくはなかったわね…… 屈指のストイック艦娘ですらこうなってしまうなんて……」


吹雪(S鎮)「あのような男性っているんですね…… 眩しすぎて直視できないくらい……」


叢雲(S鎮)「そこのところは吹雪に同意ね、艦娘とは対極の位置にいて近寄りがたい…… というか不可侵な何かを感じるわね」


伊168(S鎮)「二人ともちょっと考えすぎじゃない? カッコイイ男の人に会えたからラッキーくらいでいいじゃない!! ○○少佐写真撮らせてくれないかなぁ、愛用のスマホが唸るわね!!」


S鎮提督「流石にそれは難しいんじゃないかしらね、○○少佐が許しても側近の艦娘が許してくれないと思うわよ、俳優とかアイドルってレベルの容姿を明らかに上回ってるし」


伊168(S鎮)「ですよねぇ、人生の中で会えたら奇跡ってレベルのハンサムなのになぁ、思い出に撮っておきたいなぁ」


S鎮提督「欲しい気持ちはわからないでも無いけど、写真を撮るのはやめておきなさい、大惨事になるかもしれないわ」



ウチの艦娘達の感想も大体同じね、堅物の那智と木曾ですら興味を持つ程の美男子とはね…… 赤城は実にブレないというか足柄と違うタイプのバトルマニアね、今日で足柄より重度と分かったけど。


写真撮りたいのは同意だけど存在が知れたら面倒な事になるだろうから極力避けるでしょうね、ネット等に拡散されたら○○少佐の生活がブチ怖しになるだろうし、大本営も余計な問題を抱える事になるわ。


○○少佐の事は当然気になるけれども、休憩貰ったから少しでも疲労を抜いて演習の段取りを決めないとね、お迎えが来るまで大人しくしていましょ。



────S鎮提督、数時間後、作戦会議室



休憩しながら雑談をした後、大淀が私達を作戦会議室まで案内して、今はその作戦会議室で演習の段取りを纏めている最中ね。


演習海域の指定、周辺の哨戒をする艦娘の手配、深海棲艦襲撃時の対応手順、天候の観察、演習の視察をする提督の護衛など色々と話し合ったわ。


○○少佐は決してお互いの艦娘相手に嫌悪感を見せる事は無く、艦娘の受け答えにも誠実に対応していたわ、こんなタイプの提督は元帥閣下以外では見た事ないわね。


流石に任務の上では嫌悪感を出さなかったとしても、プライベートでは艦娘とは流石に顔合わせは少ないんじゃないかなとは私は思う。


まあ任務でしっかりと艦娘とか私相手に誠実に対応してくれるだけ、人間としてはかなりの人格者ね……



提督「ふむ、少々予定時間よりオーバーしてしまいましたが、お互いに完璧とまでは行きませんが細部の把握までは出来たでしょうか」


S鎮提督「何事においても完璧という言葉はないわね、それに近づける努力をするべきとは思うけれどね、久しぶりに有意義な会議だったわ」


提督「久しぶりですか……」


S鎮「そう、久しぶりね、艦娘達にもしっかりと意見や疑問を口に出させ、それにしっかりと答える、お通夜みたいな会議じゃなかったって事よ」


提督「……少将閣下にお褒めいただき光栄です」



僅かだけれど辟易とした表情を出したわね、何に対してうんざりしているのかは憶測がつかないけれども、聞きたいけども大勢の前で聞くものではないわね。



提督「これにて演習の会議を終了とする!! 少将閣下と部下の艦娘達も長い時間お疲れ様でした」


長門「そろそろ夕餉の時間だ