2017-06-30 20:31:23 更新

概要

どこにでも存在する幽霊の目撃情報だとかの噂話。
だがそれがもし、本当なら?
そう思って書いた話です。


前書き

ここの鎮守府は、かなり古くから存在している。
なので、幽霊の目撃情報だとか深海棲艦を鹵獲して体の隅から隅までマッドに調べ尽くしているだとかの突拍子もない噂が流れていたりする。
これらの話は、新たに配属された艦娘達に面白おかしく話を盛られた状態で伝えられて最早一種の『常識』のようなものと化している。

当然、これらの事を信じる者は少ない。
更にその少数の中でも心の底から信じきっている者は居ない。
なぜならそれはただの噂話であるから。
皆は『おい!あの建物幽霊が出るぜ!』と言われて最初の方は「え?まじ?」となるだろう。
だが自然と「はは、やっぱ嘘じゃんか」と言った感じで信じなくなる。
ここの艦娘達も同じだ。

だが、だからこそ。彼女達は餌食となるのだ。
『本当にいた幽霊』の……。


発端



何の変哲もない横須賀鎮守府の普通の艦娘の部屋。

あるのはそこの住人の私物や、最低限生活に必要なトイレだとか台所だとかそういったものだけ。

そして、部屋にある二段ベッドの上で寝ていた駆逐艦娘がふと目を覚ます。


「……」


何故目を覚ましたのかは恐らく、この駆逐艦娘は寝る前に何か心の片隅に不安を残していたからだろう。

なにか大変な事を忘れているような―――


「………あ」


そして、その駆逐艦娘―吹雪は気づく。

上体を起こし、目を擦り、二段ベッドから同僚に気を遣って音を立てずに降りる。

そして自分の机の前に立ち、引き出しを開ける。

そこにあるのは1枚の報告書。

今回の演習で使用した資源等が明記されているもので、吹雪が提出し忘れてしまったものだ。


(ああ…やっちゃった…司令官に怒られちゃう…)


時計を見る。

自分が寝た時から予想以上に時間は経っておらず、今は夜の11時であった。

この時間帯ならまだ司令官は起きているだろうか?


「間に合うかなぁ…」


間に合うかどうかを不安に思いつつ、そして間に合ったとしても叱られるだろうなと思いつつ吹雪はハンガーに掛けてある自分の制服に手を掛けた。


そして、ここからである。

今の今まで『噂』だった幽霊の話が、

『現実』となったのは。



……………ガタッ……―――



「…え?」





音が聞こえた。




その音は確かに、暗い部屋の中に響き、

吹雪の鼓膜を震わせた。


「……?」


振り向いてみる。

見えるのは先程と変わらない部屋。


―どこから音がしたのだろう?―


考えようとするが、今はこの出し遅れてしまった報告書を出すのが先決か。

そう思い、吹雪は一旦その疑問を胸の奥深くにしまい込む事にした。


異変が起こったのは、部屋から出ようとドアノブに手を掛けた時だった。


「…え?」


開かない。ドアノブを回すが、扉は固く閉ざされていて開く気配が無かった。

立て付けが悪いだなんてことは絶対に無い。

何故なら今日一日中出入り出来ていたのだから。


そんな時である。

背後から何かを引き摺るような音が聞こえたのは。


「白雪?」


僚艦の名前を呼んで、反射的に吹雪は振り向いた。

だがそこに居たのは吹雪が予想していた人影では無かった。


窓からの月明かりで見えるシルエットは僚艦の姿では無くて、長身の女性の物だった。


「だ、誰…!?」


目の前に居るのは長身の女性。

長身の女性が居る。

何故、部屋の中に長身の女性が居るのか?

という至極当然の疑問より先に、まず吹雪が感じたもの。

それは。圧倒的な恐怖だった。


初めて深海棲艦と対峙した時の恐怖だとか、上官の艦娘から激怒された時の恐怖だとか、

そう言った類の恐怖とは全く違う。

それはとにかく、心が直接冷え込むかのような。

冷たい何かに掴まれているのかのような。そんな恐怖。

目の前の長身の女性はただそこに居るだけなのに、そういった恐怖が心の底から湧き上がってきたのだ。


鼓動が急加速し、吹雪はドアノブをとにかくガチャガチャと回す。

だが開く気配はやはり無い。

そうこうしてる間にも、背後からの濃密な気配と何かを引き摺る音は段々と近寄ってくる。


「なんで…なんで開かないの!?なんで!?開いて!開いてよお!!」


目から涙を流しながら叫んだのとほぼ同時に、肩に何かが触れた。

考えるまでもなく、肩に触れたのは背後の長身の女性。


そして耳元に…いや。直接脳に届くかのような透き通った声で。

それこそ実体が無いかのような声で、確かに意味のある言葉が紡がれた。




― つ か ま え た ―




「いやあああああああああ!?」


そしてドアノブが回転し、扉が開いた。

内側からではなく、外からの力によってだ。


「ちょっと吹雪!?大丈夫…ちょっ!?」


そこに居たのは寝間着姿の隣室の駆逐艦娘―敷波だった。

吹雪はその姿を確認する前にその胸に飛び込んだ。

そしてこちらを心配する敷波の声も耳に入らないまま泣き続けた。


背後にいた長身の女性は、跡形も無く消え失せていた。

吹雪の肩に、手形という痕跡を残して。




起床



その後吹雪の頼みで敷波と同室の綾波もわざわざ起こして連れてきて、吹雪の部屋で4人で寝る事にし、そのまま朝を迎えた。


―悪夢でも見たんだ―


そう思い込む事により自身の心を落ち着かせる。


だがそれが悪夢ではなく現実であるというのに気づいたのは着替える時、肩にクッキリと残った手形を見た時である。

そして吹雪は同室の相棒である白雪、隣室の敷波と綾波と共に司令官の元へと向かった。


まずは司令官に言うべきだと。

そう考えたからだ。

だが、吹雪達は知らない。

偶然廊下で出会った司令官に廊下で直接話してしまった事により、廊下を通り掛かった他の艦娘達数名が『長身の女性』の事を知ってしまった事。

そしてそれがまた噂となって流れ、どんどんと尾ひれが付け足されていき、更に幽霊が規模を広げていく事を。

この時の吹雪達は想像出来なかった。


なお。報告書の件により、廊下で夜の事を話した後に結局少し怒られた。




禁秘




まず、私は考えを整理した。

今日の朝である。

朝風呂へ入りに行こうと廊下を歩いていた矢先に、慌ただしい様子の駆逐艦娘吹雪とその僚艦達に引き止められた。

ただならぬ様子だったので、なんだなんだと思って聞いてみた所、長身の女性がどうこうとの事だった。


私は「一考してみよう」とだけ答えて風呂へと向かった。

向かう前に報告書の件で吹雪を軽めに叱ったが。


そしてその後私は吹雪達を呼び出し、昨日の事は絶対に他言しないようにと。

そう伝えた。


「本当か嘘か。どちらにせよ混乱を招くような話題は皆に知られない方が良い」


そう秘書艦と考え、結論づけたためである。


―取り敢えずはこれで様子を見てみよう―


そう思いながら私は普段通り、書類の山を見てため息と共に仕事を始めるのだった。



「他言は避ける」、その判断は正しかったと言える。

だがしかし、『吹雪達との会話を廊下でしてしまった事』と、もう一つ『その話を提督がそこまで脅威として見ていなかった』という事。

そこが間違えた。




その頃、軽巡僚と重巡僚を繋ぐ廊下にて―

『幽霊は夜に出る』という常識を覆し、


ヤツが現れた。

しかも、かなり危険な―




騒霊




軽巡僚と重巡僚を結びつける廊下。

普段はそれなりに人通りの多い所なのだが、今日は人通りが少なかった。

Extra-operation、通称『EO海域』の攻略にそれなりの艦娘が出撃しているのもあるが、やはり人通りが普段より少ない一番の原因は巡洋艦を対象にした訓練が行われているからであろう。


そしてそこの廊下を、一人の軽巡洋艦娘が通りかかる。

その軽巡洋艦娘は、EO海域へと出撃して今さっきそこの主力艦隊を撃滅して戻ってきた第一艦隊の旗艦―神通であった。


攻略の際に僚艦の艦娘が小破し、入渠した。

入渠が終わるまでの間で他の僚艦達を労った後、時間が残ってしまったためしばしの自由時間を…という訳だ。



……だがそんな自由時間も、直後に終わってしまうのだが。



「……?」


まず、神通の長年の戦闘で培った六感が反応した。

背後から気配がしたのだ。

振り向いてみるが、そこには何もない。


気のせいかと思いつつも、意識は背後へと向けたまま廊下を歩く。


そして廊下の所にある棚の、その上にある花瓶がゴトリと動いた。

そして誰も触れていないにも関わらず少し浮いた後、横へ動き、そのまま速度が上がり、それが神通の後頭部へと――――



「なに!?」



―当たる前に振り向いた神通が反射的に花瓶を両手で受け止めた。

受け止めた拍子に中の水が服に掛かってしまったが、そんな事はどうでもいい。


(なぜ花瓶が…?)


花瓶をまじまじと見つめるが、神通の手のひらに乗っているのは至って普通の花瓶である。

それなりの重量があり、勢いがあれば人一人の命を奪うのは難しいだろうが、それでも意識を刈り取るには十分な重量の花瓶だ。

それが神通に向かって飛んできたのだ。


―誰かが投げた?―


それは無い。誰かが居たら気づくハズだし、そもそもここの主力艦隊の一人である神通に花瓶を投げるなどという愚盲な行為をする艦娘などこの鎮守府にいない。


―独りでにに飛んできた―


それは絶対に無いとその考えを一蹴する。

だが、『独りでに飛んできた』。

それが事実であり絶対である。

何故ならそこには誰も居ないのだから―――




そこまで考えた所で鳥肌が立ち、心臓の鼓動が一気に加速する。


神通はその花瓶を素早く元にあった位置へと戻した。

そしてその場から離れた。

早歩きのつもりが、段々と小走りになってしまう程の速さで。



それ程までに、神通は漠然とした謎の恐怖を感じ取った。

だが、まだコレが序の口であるというのは誰も知らない。















後書き

お知らせがあります。
友人からの指摘で、『ホラー』と『コメディ』だとなんか一貫性に欠ける。と言われました。
そして調べたのですが、どうやら自分はコメディの使い方を間違っていたようでした。
そのため一度タグの付け直し等を行いました。

そして、登場キャラの更新も行っていなかったのでそこも修正いたしました。

これからも、読んでくださっている方々。
よろしくお願いします。


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2017-07-08 19:09:43

SS好きの名無しさんから
2017-07-01 01:34:19

誰だお前さんから
2017-06-26 00:42:43

SS好きの名無しさんから
2017-06-25 19:18:23

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2017-06-23 23:54:41

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2017-06-19 18:59:31

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2017-06-17 22:52:10

いちごオレさんから
2017-06-17 01:17:24

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