2017-08-03 12:03:18 更新

概要

ほら、ハイエースあるじゃん?
で、ふと見ると、もうダンケダンケしたくなっちゃうんだよね。
全く、駆逐艦は最高だぜ!(犯人の供述)


前書き

久しぶりに書きます。
前書いてた「ちてち!」とは関係ありません。
っていうかツンデレとかジト目とかっていいよね。分かる人いるかな?
ちなみに今回は台本書きしません。ご了承ください。


「…」

「う、えーっと…」

「何?」

 二人の間に気まずい空気が流れる。

 二人がいるのは、鎮守府に近い商店街だ。月末になり、EO海域も全て突破したので、こうして余暇を過ごしている。

「折角お買い物しに来たんだからぁ…もっと楽しんだ方がいいぴょん、弥生」

 赤髪の少女が言った。

 弥生と言われた彼女は赤髪の少女を見て言う。

「結構楽しんでるつもり…だけど?卯月」

 卯月と呼ばれた少女は頬を膨らませる。

「だーかーらーぁ、何で皆うーちゃんって呼んでくれないぴょん!?」

 卯月が憤慨するが、弥生は無視し、買い物を続ける。

「あっ、これ…いいかも」

「ぷっぷくぷぅ」

 卯月がまた頬を膨らませた。

「…ナレーターも何でうーちゃんって呼ばないぴょん」

 卯月は…って俺?いやいや、仕事上そう呼べないから。

「はー?…う、こんなことしてる内に、トイレに行きたくなったぴょん」

 彼女は弥生にこのことを伝えようとして立ち止まる。

「弥生ーっ。トイレに行ってくるぴょーん」

 返答は無い。

「あれ?…まぁいいぴょん」

 卯月が辺りを見渡し、そしてトイレへと向かって行った。




「…あれ」

 弥生が声を上げた。周りに知り合いはいない。

「ちょっと離れすぎたかな」

 彼女は帰り道に向かおうとして、ふと何かに気が付く。

「あれは…」

 彼女が気づいたものは、テレビでのロケ車や輸送用の車として使われていそうな中型車。そう、ハイエースだった。

 しかしハイエースなど何処にあってもおかしいものではない。弥生がそう思っていると、車から若い男性が降りてきた。

 その男性はふとこちらに目線を遣った後、車内の誰かと話す素振りを見せ、車に乗り込んだ。

「?」

 一見すると何の意味も無かったように見えた行動が、弥生には何かあるように思えて仕方がない。

「とりあえず、帰ろうかな…」

 彼女は帰路に就こうとする。

 だが、そういう訳にはいかなかった。

「あの車…!」

 そう、例のハイエースがすぐ目の前にやって来たのだ。

 ハイエースは窓を開けた。

「よぉ、そこのお嬢ちゃん!家まで送ってこうか?」

「!」

 間違いない。これは誘拐だ。この若者達は、私を誘拐するつもりなんだ。

 そう確信した弥生は即答する。

「いえ、…結構です」

 しかしその直後、彼女は後悔した。

 ——周りにこの若者以外誰も人が居ない。ならば走って逃げるべきだったと。

 ハイエースのドアが開く。そして若者達が降りてくる。

 弥生は駆け出した。いくらなんでも、人間と駆逐艦の速力はかけ離れている。ならば、今からでも逃げれば遅くない。

「あっ…」

 しかし、弥生は石畳の隙間につまずき、転んでしまった。とっさに受け身を取ることには成功したが、既に若者達に追いつかれてしまった。

「ハァ、ハァ、オメェ速すぎるんだよ…。でも、やっと捕まえたぜ、ヘヘッ」

 足が竦んで動かない。声を出そうにしても、思ったように出ない。

 弥生は、海での死闘より、圧倒的に恐怖を感じていた。

「よっ…と」

 弥生が担ぎ挙げられる。何故だか、うまく力が入らない。

 抵抗も虚しく、絶望していると、視界の片隅に赤い何かが見えた。

 それは目を見開いて硬直する卯月であった。

「卯月ぃ…」

 助けを求める声を出してしまう。

 そして車に運び込まれる時、彼女は右手を前に突き出した。

 ドアが閉じられた。




「あ…ぁ」

 見てしまった。弥生が誘拐される姿を。

 あの時何も出来なかった絶望感に、卯月は思わず涙を流す。

 いや、それでよかったのかも知れない。あそこで飛び出していたら、自分も連れていかれたのかもしれないのだから。

「そ、そうだ…電話…」

 卯月は公衆電話へ駆ける。

 素早い手つきで電話を掛ける相手は、提督。

「司令官!卯月!」

 述語が欠損した文で話を始める。

『ど、どうした?そんなに動揺して』

「弥生が誘拐された…ぴょん!」

 今思い出した口癖を付け足す。

『な…、冗談じゃ無いよな』

 提督も動揺しているようだ。

「そんな訳ない…ぴょん!や、弥生がぁ!」

『分かった分かった!今どこだ!?』

「えっと、〇〇の前ぴょん!」

『分かった、憲兵を向かわせる!』

「司令官は!?」

『悪いが、今どうしても手が話せない仕事があるんだっ…!』

「分かったぴょん…」

『後は憲兵に頼ってくれ!』

 電話が切れる。

「そ、そうだ、車のナンバーは…」

 卯月は記憶を引っ張り出す。

「あっ!」

 メモを取り出し、思い出したナンバーを書き始める。

「向かった方向は…」

 向かった方面も書き込む。

「よし」

 書き込み終えた。そしてそこに、憲兵達がやって来た。

 …白露型駆逐艦も混じっているようだが。

「大丈夫ですか!?」

 憲兵が声を掛ける。

「大丈夫っぽい!?」

 白露型駆逐艦の夕立が声を上げた。

「うーちゃんは大丈夫ぴょん!でも弥生が!」

「話は伺っています!何か手がかりはありますか?」

 その言葉に対し、卯月は紙を渡して答える。

「とりあえず色々メモしておいたぴょん。これが何かの手掛かりになれば…」

 メモを受け取った憲兵達は、それを見て驚愕する。

「これは…」

「ん?…このナンバー…!」

 どうやら彼らには何か心当たりがあるらしい。

「何かあるっぽい?」

「ええ…。このナンバーは盗難車。さらに言えば、この車は今までさまざまな艦をさらってきた、いわば『手練れ』です」

「我々もいままで追跡を続けてきましたが、奴らはすぐに姿をくらます。分かっているのは車種とナンバーのみ」

「そんな…」

 やはり口癖を忘れ、卯月は落胆する。

「なら夕立に任せるっぽい!」

 そこに夕立が名乗り出る。

「夕立の、この水上電探があれば大丈夫!」

「あれ?対空電探じゃないぴょん?」

「時雨に借りたっぽい」

 夕立が誇らしそうに胸を張る。

「しかし、街中では遮蔽物が多すぎるのでは?」

「あ…」

 えへへ、と、夕立は笑う。

「なら吾輩に任せろ!」

「!」

 その場の全員が振り向く。そこにいたのは、

「吾輩がいればもう安心じゃ。このような時のために、カタパルトを整備したのじゃからな」

 利根であった。

「まさか…、瑞雲で?」

 その問いに、利根は頷く。

「そうじゃ。見つけ次第、爆撃もできるぞ」

「いやそれはダメぴょん!」

 卯月が鋭く突っ込む。

「ま、まぁ冗談は置いておいて、索敵は任せろ」

「感謝します!」

 憲兵が敬礼をする。

「よし、まだまだ、筑摩のやつには負けんぞ!」




「へへっ、また良いもん手に入れたなぁ…」

「奴らの所へ行けば、追跡も逃れられるし、しかもこいつらは好きにしていいって言うしな」

 男達の声が聞こえる。

「~~~っ!~~っ!」

 弥生が必死にもがくが、それは無駄な抵抗に過ぎなかった。

 彼女は口にガムテープを張られ、手は後ろに縛られ、さらには足も縛られている。

 ――これ以上の抵抗は、何の意味も成さないようだった。

「さ、着いたぜ」

 そう言って、車は止まる。

「…」

「よっこらせっと」

 弥生は男に担がれ、外に出される。

 そしてまず分かったのは、ここは砂浜であること。

「!」

 そして、海には空母ヲ級がいたことであった。

「うす。今日も持ってきました」

 男の報告にヲ級は頷いた。

『ヨロシイ。デハイツモドオリニ』

「「うーっす」」

 男達は返事をし、歩き出す。

「しっかし、いい商売だぜ。金も貰えるし、なにより………だからな」

「ははは!そうだよな!だからやめらんねぇぜ!」

 かなり下品な会話だ。弥生は思う。

 だがそれと同時に、あることにも気づく。

 ――瑞雲だ。空に、瑞雲が飛んでいる。おそらく…利根のものだろうか。

 自分の位置を知らせるために叫びたいが、それで瑞雲のことを察知されては元も子も無い。

 瑞雲が自分を見つけるのを、彼女はただひたすら祈り、待つしかないのだった。

「…っ」

 息が詰まる。緊迫する。この深海棲艦らに、あの水上爆撃機が見つからないか。そして自分の身を案じてしまう。

「にしても、これはいつ見ても不気味だよな」

「ああ。なんか…怖いよな、これ」

 二人目の語弊力の無さに多少呆れるが、今はそんな場合ではない。

 そう、目の前にある『これ』とは、補給ワ級のことである。

 補給艦。つまりこれに乗せられて、自分はどこかへ連れ去られてしまうのだろうか。

 しかしそんなわけにはいかない。帰らなければならない。皆の元へ。

 だがその希望空しく、弥生はワ級に乗せられてしまうのであった。




「…!見つかったぞ!」

「本当ぴょん!?」「本当っぽい!?」

 見事に二人の声が重なる。

 どうやら利根は弥生を発見したようだ。憲兵はすでに無線機を構えている。

「場所は…砂浜?…何、深海棲艦がいるじゃと?」

「!!」

 この場にいる全員の顔が変わる。これに深海棲艦が関わっているのなら、これは重大なことだ。

「憲兵よ、弥生は……にいる!急行せい!」

「了解、総員、急行せよ!場所は……!」

 憲兵は無線機で即座に連絡。連絡後、仲間からの返答が返ってくる。

「は、早く行くっぽい!」

「ええ!さあ、乗ってください!」

 その一言で、その場の全員が車に飛び乗る。ただし、利根を除いて。

「あ、あれ?利根さんはどこいったぴょん?」

 利根はすでにその場に居なかった。

「もういっちゃったっぽい。本当に、ここの利根さんは不思議」

「ありゃ」

 どちらにせよ、車は出発する。

 行先は、例の砂浜。

 弥生を救い出すことを目的として。




「…っ」

 弥生は今にも涙がこぼれそうだった。このまま連れ去られてしまうのだろうか。どこか遠いところに。

 しかし、それでも今涙を流さないのには理由があった。

 言うまでもなく、あの瑞雲の存在のおかげだ。

 あれがあるから、自分はまだ救われる。まだ帰れる。今や、瑞雲は弥生にとって一筋の光であった。

「さて、じゃ、ヤろうぜ」

「おう!…へへへ、この時を待ってたぜ」

 だがその光も消えかかっていた。目の前には、欲望に顔を歪ませた男達が立っている。

 …このままではまずい。恐らくこのままでは…。

 その瞬間、

「うおぉあっ!?」

 船が揺れた。いや、違う。

 砲撃だ。ここが砲撃を食らったのだ。

「ちょ、な、なんだよ!?」

 男達は状況を把握できていない。

 当たり前だ。戦場を幾つも経験してきた弥生と弥生と、あくまでも一般人である男達とは訳が違う。

「っ!」

 船体に穴が開く。この船がタンカーであれば爆雷でも投げ込まれていただろうか?弥生がいる以上そんなことは出来ないが。

「〜〜〜っ!!」

 彼女は必死に叫ぶ。

 真っ先に助けを求めたのは——




「っ!」

「どうした?卯月よ」

 誰よりも先に現場に到着していた利根が卯月に尋ねる。

「聞こえたぴょん!弥生の…、弥生の声が!」

 といって卯月は指を指す。

 その先にあったのは、

「補給ワ級…か。間違いなかったようじゃな」

 中破したワ級だった。

「よし、大発を回せ!救出するのじゃ!」

「了解!」

 利根の指示に従い、憲兵が出動する。

 そしてすぐに報告が来る。

『救出!…不審者確保!』

「よし、よくやったぞ。帰投せよ」

 一仕事終えたような顔をする利根の隣で、卯月は俯いていた。

「む?どうした、卯月よ」

「…うぁっ、うぅ…」

 泣いていた。

「ははは!泣くな。お主はよく頑張った。うむ、頑張ったのじゃ。弥生も救われた。だから、泣くな」

「うっ、あぐっ、利根さん…」

 周りに、少女の泣き声が響く。

 青い、蒼い空に。




「卯月…」

「弥生っ!よかったぴょん…」

 二人は再会して抱き合う。

 それを見ると、まるで映画のワンシーンのようだった。

「あの、変人達は?」

「おお。それならもう刑務所行きじゃ。長くは出てこれんじゃろうな」

「よかった…」「よかったぴょん」

 その返答に思わず二人は安堵する。

「利根さん…。本当にありがとうございました…」

「何、礼はいらぬ。それよりも言うべきなのは…」

 利根は少し間を置いて言う。

「卯月に、ではないか?」

「——っ」

 弥生の息が詰まる。

「こう見えても、こやつは活躍したのじゃぞ?お主の居場所を当てたりな」

「えへへ…」

「ぽーい!夕立、結構頑張ったぽい!夕立は!?」

「お主はただ単に付いてきただけじゃろう」

「ぽい…」

 微笑ましい会話を他所に、弥生は歩く。

「えっと…こういうこと言うのは、ちょっと恥ずかしいけど…」

 卯月は唾を飲む。

「…ありがとう、卯月」

「ぴょーぉぉん!何でうーちゃんって呼んでくれないぴょん!?」

「恥ずかしいでしょ…?」

「ぷっぷくぷぅ」

 その会話に、周りは笑い出す。

「さあ、帰るぞ?皆が待っておる」

「はい」「ぽい!」「ぴょん!」

 利根を除く全員が車に乗り込む。最後に乗り込むのは、弥生だ。

「さ、いくぴょん」

 弥生は頷き、こう答える。


後書き

これにて完結。NKT…。
台本書きに比べ、やっぱりこっちはかなり時間食いますね…。さらに読みにくかったかと。
やってみたかったんですよ!ていうか気分転換!許し亭許して。
とりあえずここまでわざわざ読んでくれた皆様、本当にありがとうございます。これからも頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします!

ちなみに最後の文の後はご想像におまかせします。


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2020-04-11 12:46:32

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2017-08-14 23:30:05

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2017-07-02 21:35:30

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