2017-08-07 14:32:23 更新

概要

長月&菊月のいざこざを解決し、とうとう本格的に開始された悪い島風ちゃんのリアル連動型艦隊これくしょん。わるさめちゃんがアイデアマンとして加入し、もはや艦これ関係なし!


前書き

ぷらずまさんのいる鎮守府(闇):終結

の続きの蛇足編です。

【注意事項】

↓新たなオリキャラ注意です。

・悪い島風&悪い連装砲君。


【艦隊これくしょん Android】
・悪い島風ちゃんが想の力で海の傷痕が製作した艦隊これくしょんをモチーフに製作したスマホゲームです。


※蛇足編はやりたい放題および勢いの投げっぱとなります。気分でお話ごとに台本形式、一人称、三人称だったりするかもしれません。海のように広い心をお持ちの方に限りお進みくださいまし。

※不定期更新です。


※今回の日常編は話が一部、生々しく重いですのでそういうのダメな方は日常編を飛ばしてください。読まなくても続きが分かるように次回の概要に簡潔に記載しておきます。

その部分、削除するかも。





【特ワ●:ま、これはこれで幸せなのです】



長月「おい司令官、スマホ触りすぎだろ」



提督「これも仕事みたいなもんですから……」



長月「ここの資材の類は運び出すんだろ。めんどいからそのついでに輸送業者にゲーセン設備も倉庫に運び込んでもらえばよくないか? あれ、数字見て驚いたけど出費が半端ないぞ……」



卯月「とんでもないぴょん! あのエデンをここから運び出すなんていちいちアーケードやりにゲーセンまで足を運ばならなくなるし、あそこはあのままでいいぴょん!」



菊月「どう考えても要らないだろ……」



提督「もともと少しの間という約束で放置しておいたんですからね。あれは海の傷痕戦に挑む前のお情けで許可した設備です。ゲーセンなんてこの鎮守府には要りません」



卯月「しっれいかーん……ダメ?」ウワメヅカイ



提督「ダメです。往生際が悪いですね」



卯月「く、やはりこの手は通用しないか。ならばお願いするぴょん。あの歌番の一件、長月と菊月にだけプレゼントあげたくせに、うーちゃんにはなにもくれなかったぴょん!」



提督「翌日にご飯奢ってあげたじゃないですか」



ぷらずま「はわわ、はわわわ……!」



長月「電は急にどうした」



ぷらずま「司令官さんからご褒美をもらったのです!? 私はそんなのもらったことないのに!」



菊月「司令官、電はあの戦争での功労者だし、勲章以外でも形にしてなにかあげてもいいんじゃないか?」



提督「それいったら皆さん功労者ですし」



卯月「じゃー、うーちゃんにもなにか寄越せし!」



卯月「あ、このペン欲しいし」



菊月「この本だな」



長月「あ、この椅子は座り心地いいな」



提督「手当たり次第に。ドラクエかな?」



長月「でも卯月に電、私からしたらお前らのその腕につけているのが羨ましいぞ。私と菊月はその時この鎮守府にはいなかったから、その約束のブレスレットは輝いて見える」



菊月「そうだな。由良と弥生の分も用意してくれ」



ぷらずま「はわ、 こんなのただの形でお二人ともこの鎮守府の仲間であることに変わりはないのにまだこれ以上欲しがるのですか!?」



ぷらずま「はわ、はわわ……!」



提督「ならそうですね、水族館に行きますか。海が広がって水族館のラインナップが充実したみたいで」



ぷらずま「!?」



ぷらずま「司令官さん、すぐに準備してくるので待っているのです!」



タタタ



卯月「顔赤くしてたけど、なんかデートと勘違いしてないかー?」



卯月「面白そうだからうーちゃん達、ご一緒するのは遠慮しとくぴょん。あ、長月と菊月、少し耳を貸せし」



長月「なんだ」



菊月「わざわざひそひそ話する必要があるのか?」



卯月「二人きりにして尾行するぴょん」コソコソ






瑞鶴「おちび、急に私を部屋に拉致してどしたの」



ぷらずま「このクローゼットです」



瑞鶴「ほーう、おちびって意外と私服を持ってるんだね」



ぷらずま「ぽんこつ空母、ファッションに詳しそうですよね。今からお出かけするので、私をコーディネートするのです。あ、卯月さんも連れて来たら良かったですね」



卯月「呼ばれて飛び出てぴょん!」



ぷらずま「ナイスタイミングなのです」



瑞鶴「よく分からないけど、どこ行くの?」



ぷらずま「水族館です」



卯月「司令官とデートぴょん!」



瑞鶴「嘘だろ……」



卯月「ぽんこつ空母」コソコソ



瑞鶴「大分前からもうぽんこつじゃないわよ。っていうか、提督さんとデートって? 提督さん頭でもぶつけたの? それとも脅迫された?」コソコソ



卯月「電が勘違いしているだけだぴょん。ちょっと電がだたこねたから、司令官がご機嫌とりで水族館にでも行きませんかっていい出しただけ。でもそれはいわぬが華だし」コソコソ



瑞鶴「おちびは提督さんとタメなのにねえ。時間の流れって残酷だね……でもそういうことなら協力してあげるかな」コソコソ



瑞鶴「まずおちび、ぷらずまモードしまいなさいよ。雰囲気ちょっと柔らかくしたほうがこの服に合うと思うし、電モードで」



電「……なのです」



卯月「OK、電なら容姿も雰囲気も受け止めやすくてメイクしやすいぴょん。手持ちの服的にもあまり華美なのは止めて、装飾少なめなシンプルかつ素朴な服装で可愛く化けるぴょん!」



瑞鶴「そうねえ。おちびは口さえ開かなければ可愛いから」



瑞鶴「ちなみにショーとか見るなら薄生地にしたら。水飛沫かかれば少し透けるし、あの提督さんちらちら見たりして」



電「……はわわ」



卯月「計算高いし……お前、大学でそうやって男を漁っていたのか。淫乱空母だぴょん」



瑞鶴「してないから。提督さんにそういうことさせてみるってのも面白そうじゃんって思っただけ」



卯月「うーちゃんは計算高いよりも、ちょっと不器用なほうが男ウケいいと思うぴょん」



瑞鶴「馬鹿っぽく見えてもあれだしねえ……」



電「あ、この中ならこのお洋服が良いのです」



卯月「んー? それは少し子供っぽいけど」



電「構わないのです」






提督「もう二時間も経つ……準備に時間かかりすぎですね。なにかトラブルでもありましたかね……」



電「お待たせしました」



提督「あ、来ましたか。それじゃ行きますか」


プルル


提督「……ん、携帯が。LINEとは珍しい」



……………


……………


……………



卯月《あ、来ましたか。それじゃ行きますか、じゃねーぴょん! 時間かけておめかしさせたのは目がついていれば分かるだろ!》



提督(……なるほど、それで時間がかかったのか)



瑞鶴《(੭⁾⁾・ω・)੭⁾⁾提督さんのトーク力》



提督「お似合いですね可愛らしいです」



卯月《はい10点! 機械的事務的マイナス90点!》



電「……はわ」



瑞鶴《だけどおちびは嬉しそうだから満点あげよう!》



提督(なんだこれ……)






卯月《会話無さすぎだし。くっそ初なカップルの初デートか》



瑞鶴《(੭⁾⁾・ω・)੭⁾⁾提督さんのトーク力》



提督(ついてきてる上、ばっちり監視されてる……)



提督「そういえば艦娘は抜錨して珍しい海の生物を見かけたりするんですか?」



電(……ぽんこつ空母と卯月さん、それに長月さんと菊月さんもいますね。先程から司令官とやり取りをしているのです。全く、別に静かなままでもいいのです)



電「珍しい、というのもアレですが、お魚はよく見ていたのです。昔に遠征に出掛けた時、響きお姉ちゃんがイルカを発見してじーっと眺めていましたね」



提督「あー、それ聞きました。電さんとよく似てたからだそうですよ」



電「……似てますか?」



提督「イルカって遭難した人間を助けてくれたりするじゃないですか。そういうところが似てる気がしないでもないですね。電さんって優しいイメージもありますから」



電「なのです。ちなみに司令官さんを例えるとしたら貝類ですね。毒があるやつ」



提督「あー、来世は貝でもいいですねえ……」






卯月「なんか見ていて退屈だなー」



長月「そうか? いい雰囲気じゃないか」



菊月「ああ、電のあんな感じは何気に初めてみた。フレデリカの時ともまた違うが、あっちが素なんだろ?」



瑞鶴「そうねー。ま、ゆったりとしたあの雰囲気でいいじゃない。私達から見て面白いトラブルなんてないほうがいいわよ」



……………


……………


……………



卯月「結局、二人で魚を眺めて、話をして、アイスクリーム食べて終わりだなー。話は弾んだり弾まなかったりのふっつーな感じ」



瑞鶴「……」



長月「ん? どうした?」



瑞鶴「提督さん今なんていったんだろ」



菊月「……」



瑞鶴「おちびの顔色が変わったわね」



菊月「あ、司令官がこっちに来るぞ」



提督「皆さんお揃いで。別に遠慮してこそこそしなくて良かったのに」



瑞鶴「おちびになんていったの?」



電「~~」カオマッカ



提督「お礼をいっただけですけど」



卯月「お礼いっただけでそれ? 気になるぴょん!」



提督「ぷらずまさんの今の服装って昔に一緒にお花を育てていた時とすごいデザインが似ているんですよ。ぷらずまさんが選んだ服装みたいなので、きっと覚えていたんだろうなって。だからいったんです」



提督「わざわざありがとうございますって。似合っていて可愛らしいですね、と」



提督「照れさせるつもりはなかったのですが」



瑞鶴「へえ! やればできるじゃん!」



卯月「それを最初にいわずにさっき口から滑りでた、と。お前天然ジゴロとかいうほんとムカつくタイプかー?」



提督「素直に話したらこのいわれようですか……」



電「司令官さんも余計なこと言わなくてもいいのです! 特に卯月さんの口が軽いですから瞬く間に鎮守府内に広まりますよ! 」



提督「別にこのくらい広まってもいいじゃないですか」



電「……思えばあなたも変わりましたよね。前は人を寄せ付けずに口数も少なくてなに考えるか分からない感じの子だったのです。でもなぜか私がお花の話をしたら黙って耳を傾けていましたけど……」



電「知らない知識だったからなのです?」



提督「ですね」



提督「あ、そうだ。帰りにひまわりの種を買って行きますか。あの時のは自分が育てましたけど、今度は一緒に育ててみません?」



電「はわわ、お願いするのです!」



電「後、歩き疲れたのでおぶって欲しいのです」



提督「了解です」



長月「……」



卯月「どしたー?」



長月「司令官も電もあの子供染みているというか自然体の雰囲気、二人だから出せるんだろうか。だとしたらそれもまた羨ましいな」



瑞鶴「提督さんのほうは夜に飲んでるとあの砕けた雰囲気だけど」



菊月「駆逐が寝静まってからの酒宴か」



卯月「今度に顔を出すかー」



瑞鶴「私達も行こっか」



………………


………………


………………



提督「……」ハアハア



電(私をおぶって5分で息切れしているのです……)



電(……背中、大きいな)



電(生きた歳月は同じだけど、止まった時間のせいで、端から見たら叔父さんと姪っ子とか、そんな風に見られるのかな)



電(私が司令官さんと同じく成長を止めなかったら、どんな大人になっていたんだろう。隣で肩を並べて、わざわざ見上げなくてもあなたの顔を見ることができたのかな?)



電「……」



提督「どうしました?」



電「なんでもないです。それより私、そんなに重いのです……?」



提督「自分の体力がないだけですね……」



電「じゃ、降りてあげないのです」



電(少なくとも私はこうやって軽いノリで背におぶってもらうような子供っぽい甘え方はしないでしょうね)



電「ま、これはこれで幸せなのです」



提督「?」




【1ワ●:わるさめちゃんと悪い島風ちゃん】




システムの構築は無事に完了した。

このゲームはサービスが終わらない限り、延々とアプデを繰り返していくソーシャルゲームだ。我ながらいつ消えて終わるか分からないゆえ、ストーリーはあえて臭わせる程度にしておいた。他のソシャゲも参考にし、ストーリーはあえて臭わせる程度、私の消滅とともにエンドを迎える予定である。しっかり完結するよ!



わるさめ「長月と菊月と卯月みたいになんかはっちゃけたことしたいな! これまた面白そうなトラブルが起きているみたいだけど今の私は暇だ。暇だ。暇だよ――――!」



とわるさめがレッちゃんの艤装に高速で頬擦りしていた時だ。心を見透かしたかのように私は登場してみました。



悪い島風【おっす! 非日常がお望みですか!】



わるさめ「おー、お前がぷらずまのやつを軍艦に変えて、司令官の車を海にドボンさせたやつか? 何者なの? 根本的におかしいだろ。なんでロスト空間消えたのに活動しているんだよー……」



悪い島風【まあ、ロスト空間は溜まり場の器なんですよー。コップが消えたらその中身の水まで消えません。といってもロスト空間内でしか形を保てない水なので、こちらの光に当てられて蒸発してしまいますねえ。要は残滓みたいなもので、あなたと電の艤装が溜まり場です。まだ完全に消えていないので、私は戦争終結によって戦後復興のシステムにより、私は現海界したわけです】



悪い島風【海の傷痕が想の魔改造によって作った戦後復興プログラムでっす。大多数の幸福のため、ただいま想力を活用して、艦これのブラウザゲーを製作しておりまっす! あ、まだ特定の人にしか配信してませんが、アンドロイドでも出来ますよ!】



わるさめ「最近、司令官がよくスマホを難しい顔で眺めているのはそのせいか。司令官の様子も少しおかしかった。でも、海の傷痕ほど焦っている様子はなく、大した問題ではないのだろう、とは思っていた。少なくとも世界滅亡とかそういう話ではなさそうかな?」



悪い島風【今回の戦後復興ですが、艦娘さんの皆さんを幸せにすることが、なによりと判断しまして、そのためのゲームです。そして私から見て最も誰かの助けが必要なのは闇の提督さんです】



わるさめ「なんで?」



悪い島風【お父さんが死んだ時に母親に捨てられたんだって。気持ち悪いっていわれて、遺産だけ持っていって、それから恋愛方面において女性を信じられないのがあの人が鉄の理由だね】



わるさめ「……あの司令官、そんな過去を持っていたのか。でも、それならば色々なことに頷ける、かな。あの司令官のあの戦争への熱は異常だった。だって、理由がない人があそこまで戦争に躍起になった理由もそこか」



わるさめ「逃避行の先がこの戦争?」



悪い島風【察しがいいですね。その通りです。逃避行があの戦争だったんですよ。何故かと問われたら、理由は1つです。あの人はそれ以外になにも出会えなかったから、です。ま、この鎮守府に着任してからは多少マシになりましたが、あの人は肩の力の抜き方が下手くそで、物事にクソ真面目すぎますね】



わるさめ「完全に同感だなー……男としての欲がダメだよねー。浮気は男の甲斐性とかいうほど器がでかくない私にとっては、そこもいいところなんだけどね☆」



悪い島風【浮気以前にあなた彼女でもないでしょうに】



わるさめ「うーん……」



悪い島風【ん、それはSNSですか?】



わるさめ「暇だし、わるさめちゃんもやろうかな。にゃが月と菊にゃんはあのテレビ効果ですげーフォロワー増えてるー……」



悪い島風【…………ぴっこーん!】



そうだ。いいこと考えた。この子の性格的にこっちサイドと手を組んでくれる可能性はなきにしもあらずだな。基本的にノリとテンションで生きているやつだ。最低限のラインさえ守ってやれば一緒に遊ぶことは出来るかもしれない。



悪い島風【そんなのつまんないですよ! しょせん2.5次元の知り合い未満の赤の他人以上のフォロワーの数よりも、ゴミ拾いしたほうが自慢としては上等ですって!】



悪い島風【見るのは面白いですけどね!】



わるさめ「分かる。面白いよね。司令官も誘ったけど、断られたよー。司令官どんなこと呟くのか興味あったんだけど、自分は日記帳にでも書くべきことをいちいち全世界に公表する神経が理解できませんって。相変わらずつまんねーやつだよー……」



悪い島風【つまんないやつだから仕方ないですよ。わるさめさん、あなたは私と上手くやれそうなので声をかけました。人手が欲しくてですね、人材を募集しているんですよー。私と一緒に想の力でコーティングした艦これの運営やりませんか?】



わるさめ「ktkr」



悪い島風【リアル連動型でして、例えば画面の艦娘さんタッチしたらリアルのほうにも伝わります! 出撃関連、遠征周りはセットしてあるのですが、任務関連に遊び心を入れたいんですけど、アイデアがなかなか。そこで企画者が欲しいんですよー!】



わるさめ「任せろー!」



悪い島風【お返事超はっや――――いっ!】キラキラ



わるさめ「いいよ。なんでもやる。だけど、条件が2つほどあるけど、それを守ってくれるのなら、の話ねー」



悪い島風【お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。のスタンスなんですが、うさんくさいとはよくいわれますねえ。人助けするのも身分証明書とか必要だなんてどれだけ臆病者なんだって。でもそれは本当で大体、私が契約した人は自分から墓穴掘るだけですよー。あ、電のはからかっただけだですし。ちゃんと戻しましたよー?】



わるさめ「まあ、私達を騙してなんかしようと本気で思ってるのならザコだしね。それがそっちの墓穴となることは分かる?」



悪い島風【ん? どゆことです?】



わるさめ「あの司令官さんは、海の傷痕当局の時とは比較にならないくらいお前の存在には緊張感も焦燥感もない。恐らくお前は敵とも見られていないと思われ。でも念には念のため、手を打っておいてあるのがあの司令官の怖いところだよー」



悪い島風【意外です。敵ともみなされていないんですか?】



わるさめ「たまたま耳に入ったんだけど」



わるさめ「海の傷痕ではなく、想の魔改造によって作られたお前は仕官妖精と同じカテゴリー。その性格は妖精の個性の範囲内だと。つまり、仕官妖精と持たされた役割が違うだけの妖精で海の傷痕当局のような危険度はないってさ」



悪い島風【正解ですね……似ても似つかない仕官妖精と同じカテゴリだと見抜ける辺り機械的に冷静な分析力ですねえ。まあ、初見でほとんど私のこと見抜かれましたし、その上マーマもいます。恐らく生態系は把握されてますねー……】



わるさめ「条件1は『笑えないオチはやらないこと』ね。誰かの命を奪うとか、宝物を壊すとかさ。わるさめちゃん基準の価値観の徹底ね」



悪い島風【いいですけど、そっちのアイデアが退屈だったらクビにしますよ】



悪い島風【それにこちらに1人いたほうがそっちとしても安心でしょう。私は別にスパイやらなんやら近くに置いても邪魔さえしなければ構いませんので】



悪い島風【遵守のため、契約しましょうか】



悪い島風【Srot4:生死の苦海式契約履行装置】



悪い島風【契約内容が守られる限りは不死の力を得ます。といっても応急修理要員と女神の間程度ですけどね。あなたが契約内容を破った時、私は破棄する権利を持ちますね。この書類の署名欄に髪の毛をおひとつ乗せて頂ければ契約完了です】



悪い島風【契約内容:艦これの運営企画に全面的に協力する。運営企画に対してわるさめさん基準の価値観に沿って執り行い、殺害等々の笑えないオチは直接間接的問わずになし】



悪い島風【細かいことまで決めてありますからご納得頂けましたら】



わるさめ「あいよー」



悪い島風【んー、ご署名していただければ、想の力を貸してあげますね。妖精がロスト空間に行けたのと同じパスみたいなもんです。ここに書いてある通り無許可で誰かを連れてきたらダメですからねー】



わるさめ「ふむふむ、任せろー。それじゃちょっくら司令官に報告してくるね!」



2



わるさめ「とのことだ☆」



悪い島風【とのことでーす!】



提督「正気ですか?」



長月・菊月「(`・ω・´)キッ」



悪い島風【時限式の高速修復材の件で怒ってるの?】



長月「当たり前だ! 親切なモノくれたと思いきや、落とし穴を用意しただろ! 一歩間違えば大惨事だったんだぞ!」



悪い島風【でも、高速修復材のお陰で成功しましたよね。あれがなければ出演は出来なかったと思いますよ。あの酷い顔はダメですからね。ほら、ちゃんと救済もしているでしょ?】



長月「……そ、それはそうなんだが、別に落とし穴なんて作らなければ、素直に感謝できたんだし、それで良かったじゃないか」



悪い島風【(●´ڡ`●)】



悪い島風【そ・れ・は・私・の・個・性・でっす!】



わるさめ「……つか、菊にゃんはなんで司令官の膝の上を占拠してるのお?」



菊月「最近ここが落ち着くんだよ」



わるさめ「なつかれたもんだねー……司令官もすんなり受け入れているし」



提督「邪魔な時はどかすだけなので不都合がない時なら構いませんよ。たまにぷらずまさんも落ち着くとかって座ってきましたし、慣れてもいますからね」



大淀「こほん」



悪い島風【あのさ、私としても別に長く生き長らえるつもりはなくて、あくまでも目的を達成したらもうさよならで構いません。ま、騙すのが好きなのは否定しませんが可愛いの範囲で済ましますから、わるさめさんを貸して?(ノ≧▽≦)ノ】



大淀「よりにもよってわるさめさんですか。他にまとも、あ、間違えました。大人の方もそちらに」



わるさめ「よどよど、わるさめちゃんへこむんだけど、本当にみんなを悲しませるような真似をすると思うの?」



大淀「はい」



わるさめ「司令官はどうなの?」



提督「そこはあまり心配はしていませんが、カタストロフガンを乱発されるのも困りますね。わるさめさんを指定してくる辺り、悪ふざけしたい感じがすごい伝わりますけど……」



悪い島風【テートクさん、このゲームは皆さんを幸せにするゲームだっていいましたよねー】



悪い島風【長月&菊月コンビはどう?】



悪い島風【幸せですか?】



長月・菊月「幸せだぞ」



悪い島風【ほらね、もっとちゃんと私を見てくださいよ。最終的にはお約束した通りにみんなこの二人のようにしますから!】



悪い島風【あー、じゃあ対価を払うからわるさめさんをレンタルさせもらうって取引はどうです?】



大淀「対価ですか?」



悪い島風【製作秘話には私の製作理由はあっても、私がしてきた過去のことは書いていないのではないですかー】



悪い島風【65人です】



大淀「……はい?」



悪い島風【私が最初に現海界してから今まで契約した人の総数です】



悪い島風【その中で成功したのは4人のみです】



大淀「どうせそんなのあなたが電さんにしたように取引した人達をハメたからではないんですか?」



悪い島風【んー、確かに私は悪いことしたよ。何人も殺したしね】



大淀「……」



提督「大淀さん、抑えてください。続きは?」



悪い島風【殺したのは、殺す必要があったからですね。あなた達だって目的があって深海棲艦を殺してたのと同じですよ。私の殺しは確実に戦後復興に貢献したのは現代が答えですかね。私は間違いだなんて思ってませんし】



提督「おかしいですね。あなたは目的のために殺しの手段を取れないはずでは」



悪い島風【私はね。でも、契約に関しては別なんですよ。何事にも特例はあるもので契約者の願いがその類であり、また、それが戦後復興に貢献するのならば殺しも出来ます】



悪い島風【61人は自爆しましたよ。私との約束を破った者、与えた力の使い方を間違って自らの落とし穴にハマった人。これはほら機密流した人がそれだね。与えた力を利用して自分の私利私欲、心を満たすために使いましたし、そんな奴らばかりでした】



提督「……4人といいましたね。甲大将と、雷さんの他に上手くやれた人がいるのですか?」



悪い島風【そうですね。甲大将の家計は二人目の成功者です。1人目は私利私欲のために契約した人です。ですが、戦後復興に貢献したといえた人と判断しています】



悪い島風【最初期の兵士でしたね】



悪い島風【島風の艤装適性者】



提督「!」



悪い島風【天津風の死体を抱えていましたね。最初期の記憶はパーパから艤装に流し込まれて真実を知っているんですよね? 大淀さん、どうなんです?】



大淀「ええ。始まりの艤装の電の死に様、中枢棲姫に殺されるだけの残酷な光景でした」



悪い島風【あんな光景ばかりの世界で現海界したものだからねえ。確かあの島風は北方領土奪還作戦の生き残りだったはずです。詳しい契約内容は言えませんが、彼女のお陰で作戦は成功して、あそこに北方の鎮守府が創設されたはずです。あの鎮守府は元帥の鎮守府となる横須賀に劣らずの歴史があるところですね】



悪い島風【おっと、話が逸れましたねー……】



わるさめ「ところでお前、その想力を維持したまま、此方ちゃんみたいに人間になろう、とかは思わないの?」



悪い島風【それで誰かが幸せになるのならそうします。私は自分の幸福は度外視設定されておりまして、別に生きることが目的ではないので必要さえあれば自分さえ殺すようなやつですよー】



わるさめ「……」



悪い島風【自分が餓死するとしても、自分のパンを餓えている人にあげます。きっと理解できる人はそういないのかもしれませんね。偽善者だと思いますか?】



わるさめ「……いや、すげーと思うよ。それはしょせん第3者の視点だと思うからね。わるさめちゃんがお腹すいて死ぬ寸前だったら、死ぬほど感謝するか、泣いて断ると思うから」



悪い島風【……1つ現実を教えてあげましょう。例えみんなが帰ってくる場所を作ったとしても別れは必ず来ますよ。それぞれの道に、とかそういう話ではありません】



悪い島風【人は必ず死にますから。それも生きようとする限り、死に方を選べません。パーパとマーマがいってました。あなた達の今を生きる力は、未来でも過去でもなく、今を最大限精一杯に生きてこそ、輝くものだと】



悪い島風【怖い、とか、危険、とか、最初から約束された安全なんてどこにもありません。この戦争に関わってきたあなた達なら分かるはずです。さあ、なにがしたい? なにをしよう?】



悪い島風【良い言葉ですよね】



悪い島風【今もその時】



提督「……4人といいましたね。残りの1人は?」



悪い島風【前世代の陽炎です】



大淀「……解体して街に戻った方ですか」



菊月「知ってる。あの陽炎はかなり強かったみたいで噂は私の耳にも入ってきていた。卯月並の素質だったと聞いたぞ」



長月「ただ夜間哨戒時に深海棲艦に襲われて2名の殉職者が出たとか。それが原因であの陽炎は解体申請したと聞いた。ほとんど入れ替わりで今の陽炎がアカデミーに来た、と記憶しているが」



大淀「そうですね。今の不知火さんも一緒に来ました」



悪い島風【前世代陽炎は最終世代陽炎&不知火と深い関わりがあります。同郷ですしね。予定ですけど、次のメインクエストはその人と関わってもらう予定です。どうも介入しないとハッピーエンドにはならなさそうなので】



悪い島風【なんとかしてあげなきゃダメな子だと思いますね】



悪い島風【皆さんのお仲間である最終世代の陽炎さん】



悪い島風【現代の闇ですよ。駆逐適性者あるあるですが、めちゃくちゃ重くてどろどろした過去をお持ちでしたねー……】



提督「……」



悪い島風【さ、艦隊これくしょんを進めてくださいなっ!】



【2ワ●:鎮守府(闇):リアル連動型・ピエロット・マン】



1 談話室にて



大淀「パソコンでなにしているか知りませんが、例の悪い島風さん関連なら私に一報を入れてくださいね?」



提督「大丈夫ですよ」



大淀「あなた大本営からこの鎮守府に連絡を入れる時、私はこういいました。『またここに連行されることはしないと誓えますか』と。あなたはイエスと答えてその実なにをしていました?」



大淀「鹿島さんと明石君に、中枢棲姫勢力との密会の段取りつけていたことは分かっているんです。あなたの大丈夫は全て大丈夫ではありましたが、それは結果論でしかありませんからね?」



提督「……少しこの艦これのゲームに違法行為が通る余地があるか確かめてみるつもりです。どんな無茶な要求されるか分かったものではありませんからね」



大淀「分かりました。そんなに本も持ち込んで……私は片付けませんからね」



提督「そのくらい自分でやりますって」



大淀「はあ……どうぞ、お茶です」



提督「どうも。大淀さんも羽を伸ばしたらどうです。しばらくはこちらにいることを許可されたと聞きましたが」



大淀「この一件が片付くまでゆっくり出来ませんよ」



提督「大淀の適性者って、明石艤装に負けず劣らずのブラック兵士の役割持たされますからねー。うちもなにかとお世話になりましたから。なにかお礼が出来ればいいんですけど……」



大淀「……」



提督「まあ、お互い仕事でしたし、そういうのはなしでもいいか」



大淀「少し期待した私が馬鹿でした」



提督「あ、なら、そうだ。この本を差し上げますよ。確か前に読んでみたいとか言ってたじゃないですか。もう絶版となりましたが、最初期の適性者達の本です。世界に1つだけしかないです」



大淀「それって、最初期に政府が回収したやつですよね?」



提督「ええ、自分が補佐官として着任した時に丁准将がくれたのです。自分は内容頭に入ってるのでどうぞ。年季が入ってますが」



大淀「あの人、こんなお宝を持っていたとは。大淀、ちょっと嬉しいです」



2



由良「ねえ、阿武隈」



阿武隈「はい、あたしも驚いています」



由良「いい距離感というか、雰囲気だよね」



阿武隈「うーん、提督も大淀さんもかなり自然体でいい感じですねえ。あの二人はなかなか古い仲だとは聞いてはいましたが」



長月「司令官と遊ぼうと思ったんだが、入りづらいな」



菊月「仕方ない。日を改めるか……」



阿武隈「というかあたし的には長月ちゃんと菊月ちゃんが提督になついていることのほうが驚きなんですけど」



由良「確かに。帰ってきたら司令官と3人で仲良くお昼寝していたしね。あの歌番の一件聞いてから納得はしたけど」



弥生「……」



阿武隈「どうしました?」



弥生「なんとなくだけど、卯月がなつくのも分かった、かも、です。卯月は甘えさせてくれる人になつくから、きっとあの人、面倒見がいいと思う……」



阿武隈「はい、優しくて尊敬できて信頼できます。でも弱いところもあって、とっても素敵な提督ですよ。あの人も最初に比べるとかなり良い方向に変わったと思います、はい」



瑞鶴「ん、みんなどうしたのー」



由良「あ、瑞鶴さん、提督さんって本読む姿は絵になっていてかっこいいですね。大淀さんと雰囲気も似てなくもない、かな。色々とマッチしてる」



弥生「本読む姿は、って何気にひどい、です」



由良「言葉の綾というやつだからね?」



阿武隈「そうですねえ……なにか集中している時は話しかけづらいオーラでためらうのに、大淀さんは自然に混ざれてますねえ。あれはちょっと羨ましいかも」



瑞鶴「関係なく話しかけちゃっても嫌がる感じじゃないから話しかけたらいいじゃん。規律には鹿島さんより厳しいけど」



弥生「瑞鶴さんは、よく一緒にいます、よね……」



長月「あいつは私達のことを子供として見ているな。接していてそれがよく伝わる」



菊月「まあ、子供ではあるんだけどな」


ガチャ


提督「皆さん、なにかご用で?」



由良「これといった用はないんですけど、観察していたといいますか……」



瑞鶴「提督さんと大淀さんが仲良いなあ、みたいな話を」



阿武隈「ええ、まあ」



提督「あの人とは腐れ縁なだけですよ」



大淀「妙な勘繰りはストレスになるので勘弁してくださいね……」



提督「ちょうどよかったです。皆さん今鎮守府にいる人全員、間宮亭2階の宴会場に集合かけようと思っていましたので」



提督「いない人はええと」



大淀「わるさめさん鹿島さん響さん雷さん陽炎さん不知火さん初霜さん翔鶴さん瑞鳳さん金剛さん榛名さんゴーヤさん明石君明石さん秋月さん秋津洲さんと、電さんは雷さんのところに向かいましたね。なので16名が不在です」



提督「という事で龍驤さん瑞鶴さん暁さん由良さん阿武隈さん長月さん菊月さん弥生さん卯月さん間宮さん島風さん天津風さん大淀さんがいるはずです」



長月「例のやつのことか?」



提督「ええ、例のやつのことです」



2 間宮亭2階宴会場



提督「突如出現した面倒くさい戦後復興妖精、名称は『悪い島風ちゃん』と『悪い連装砲君』です。詳細はお手元の資料をご確認ください」



島風「なんで私の姿を真似ているの?」



提督「島風さん、あなたの艤装はアンティークであることは知っていますかね?」



島風「アンティークというか、最初期からの使い回しって話は知っていますよー。最初期の夢にもうなされるもん。といっても、穏やかな海の景色の記憶ですけどー」



提督「最初期の島風、歴代初の島風さんはですね、天津風さんとともに北方領土の奪還作戦の功労者です。その作戦で命を落として殉職、そして艤装は回収です。死体は見つからずです」



提督「そしてその作戦には天津風さんも参加しています。こちらは死体しか見つかっておりません」



提督「頭の片隅で構いませんが、置いておいてください。悪い島風さんはなぜか本来は天津風さんの艤装である連装砲君を艤装にしている。発見されなかった島風さんの身体と、発見されなかった天津風さんの艤装を足したような見た目ですね」



天津風「……だから?」



提督「あの作戦にもいくつか謎がありまして。事後の報告書によると、島風さんは姫4体、それぞれ旗艦とした6体編成の4艦隊、計24隻の深海棲艦を沈めた形跡がありました。孤立した島風と天津風でその戦果は素晴らしいですね」



提督「実力的にはあり得ません。あの時代、兵士は充実した訓練積んでいませんし、適性者の素質もデータを見る限りは下の上といったところ。奇跡と考えない場合なにかしらの要因があると思うのですが、資料からはその要因が読み取れません。そして当時は艤装自体の解明があまり進んでおらず、その上適当に処理されておりまして、ろくに調査はされておらず、なんです」



島風「ほえー……」



天津風「その件と偽島風が関連しているのを頭の済みに置いておいて欲しいというのは、そこがなにかしら役に立つかもしれないということかしら?」



提督「というより、製作秘話によると、その妖精の基盤となった想が歴代初の島風適性者なんですよ。そこまでは書いてありますが、なぜその島風適性者なのか、までは記されていません」



提督「もしかしたらお二人は悪い島風さんと悪い連装砲君になにかしらの影響力がある『かも』という可能性の次元の話です」



島風・天津風「了解」



提督「そしてこの『艦隊これくしょん Android』に注目です」



提督「画面にいるのは誰か分かりますね」



龍驤「うちやーん!」



提督「はい、では画面の龍驤さんをこしょぐります」



龍驤「く、ふ、あっはは! なんか、脇腹をこしょぐられ、ふっ、ちょっとなんやのこれ! やめてー!?」



瑞鶴「え、なにどゆこと?」



阿武隈「……まさか」



提督「悪い島風さんは想の力であなた達とこのゲームのキャラをリンクさせています。この通り、画面の龍驤さんを触ると、リアルの龍驤さんに伝わるリアル連動仕様という悪ふざけの極み仕様です」



長月・菊月・弥生「」



由良「リアル連動するのはそこだけですか……?」



提督「……」



由良「黙らないでください。怖いですから……」



提督「このゲーム、我々が行っていた戦争をモチーフにされておりまして仕様も酷似しています。イベント海域に悪い島風さんがボスとして設定してあり、そこを突破すればクリアなのですが」



提督「とにかく装備を開発するにも出撃するにも、資材が必要です。その資材の入手方法ですが、まず任務の報酬としてもらえます。このスクリーンをご覧ください。右上にあるのが燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトです。そして任務画面にある報酬設定で、もらえる資材が確認できます」



提督「その任務ですが、最初は『秘書官の××××に10回タッチせよ! 制限時間はただいまから1分です!(ノ´∀`*)』という内容でした。ちなみにその時はグラーフさんで……」



天津風「せ、セクハラじゃない!」



提督「ええ、その通りです。やりたくてやってるわけではないのでご理解ご協力を。ここにクジがあります。この中で外れを引いた一人を秘書官にしたいと思います」



提督「イージーな内容ならば資材のために協力を要請するので覚悟を決めて頂きたい。あまりに過激なものなら最大限スルーして別の方法を模索します。前以て聞いておきますが」



提督「秘書官を名乗り出てくれる勇者はいたら挙手で」



一同「……」



提督「あ、そうだ。間宮さんはすみません。このゲーム、どうやら給糧艦は兵士として実装されていないみたいなんです。それに間宮さんになにかあるとこの鎮守府のご飯のグレードが落ちるので今回は間宮さんはなしでお願いします」



間宮「秘書官なんて私には荷が重いですしね……」



龍驤「間宮さんに行って欲しかったけど、しょうがないなー」



瑞鶴「適任は明石君でしょ。だけど甲大将の鎮守府だっけ。いつ帰ってくるか分からないからしょうがないね」



阿武隈「まあ、はい。あたしはいいですよ!」



瑞鶴「私もー」



龍驤「うちもええよー」



弥生「……」スッ



由良「あ、せっかくの機会なので私も」



島風「私も構いませんよっ!」



天津風「え、島風いいの?」



島風「だって私達から協力して欲しいってこの鎮守府に来たんだから、やれることはやったほうがいいよね!」



天津風「……それもそうか。なら、私も」



長月「私も構わないぞ」



菊月「ああ、力になれるのなら」



提督「感謝します。なら大淀さん含めて11人ですね」



大淀「!?」



提督「なら月曜日は大淀さん、火曜日は阿武隈さんと瑞鶴さん、水曜日は龍驤さん、木曜日は弥生さん、金曜日は由良さん、土曜日は島風さん、日曜日は天津風さんのローテーションです。長月さん菊月さんは上記の方になにかあった時の代理で設定させてもらいますね」



提督「そして遠征についてですが、この遠征に組み込まれた人は遠征中、睡眠状態になります。つまり出発してから帰ってくるまで意識がなくなります。といっても今遠征可能な練習航海は15分です。皆さんの予定や睡眠時間に合わせてシフトを組みたいと思っていますが、どうでしょう?」



龍驤「やるしかないん?」



提督「ええ、やるしかありませんが、あくまでリアル優先姿勢で組むつもりです」



瑞鶴「まあ、仕方ないかー……むしろ今の暇な時間に終わらせとかないと面倒くさいことになりそうだし」



天津風「というか今更だけどなんか可笑しくないかしら!」バンッ



暁「びっくりした……急になによっ」



天津風「ゲームの自分にタッチされたらリアルの自分に影響するとか遠征出かけたら意識失うとか、なんでそんなに自然体で飲み込めているの!? 私には訳分からないんだけど!」



暁「ああ……天津風は海の傷痕と直接戦ってないもんね。想の力ならあり得るし、そもそもこんなくだらない冗談をいう司令官じゃないから、本当ってこと」



天津風「なんか納得できない……」



島風「でもなんかいいね! 噂で聞いていた通りに退屈しない鎮守府です!」



提督「それでは、まずこの場で試して行きたいと思います」



大淀「……出撃に関しては」



提督「そうですね。この場で伝えておきますか」



提督「どうやらダメージ判定というのもありまして、皆さんご存じの通り損傷状態は『小破』『中破』『大破』です」



提督「大破した状態で進軍すると、轟沈の恐れがあり、轟沈イコール、ロストとお考えください。リアル連動なので」



提督「ロスト者は、死ぬ恐れがあります」






大淀「練習航海、長距離練習航海、警備任務のクリア条件は見えましたね。皆さんお疲れ様でした。この報告は」



提督「ネットにアップします。サイトは作っておきましたので、参加者には見られるように載せておきます。これは参加者で情報を出しあって探っていく他ない部分なので」



提督「このサイト内で出撃に関しての作戦を将の皆さんと練り上げたいと思いま……」



《新たな任務が追加されました》



一同「……」



提督「……確認しますね」



【鎮守府(闇):難易度 史】



【特単発任務】



【制限時間8時間:挑戦可能回数infinity(無限):参加者指定:『提督』、『暁』、『由良』、『弥生』】



【『ロスト空間世界:ピエロット・マンをクリアせよ』】



【『任務成功で各資材8000+開発資材50+高速修復材50を獲得』】



【この任務は受注した時点で私のマイホーム(疑似ロスト空間)へ飛ばされます】



提督「ピエロット・マン……?」



提督「どなたか知っています……?」



由良「……」ビクビク



提督「なぜびくびくしているのですか」



由良「阿武隈と卯月ちゃんに付き合わされてやったこと、あります」



卯月「あー、PCでやれるフリーゲームだぴょん」



提督「ゲームですか? どんな?」



卯月「寂れた夜の遊園地で殺人道化師をモチーフにした悪霊から逃げ回るゲーム。捕まればゲームオーバーのシンプル仕様」



阿武隈「詳しくいえば最怖フリゲの1つとして地位を確立した有名なゲームで、かなーり理不尽です。謎解きもあって、なによりその悪霊が怖いです。しばらくは夜一人でトイレに行けなくなりますね……」



暁「」



提督「艦これ関係ないという……」



弥生「予習しておくべき、ですね……」



弥生「……みんな、で」



暁「やりたくないけど、賛成! 大賛成!」



龍驤「がんばれ」



島風「私もやりたかったなー」



天津風「あなた、足使うの得意だしね」



提督「確かに島風さんと天津風さんは欲しかったですね。怖がっている風ではありませんし」



大淀「では参加者の皆さんはそのゲームの予習、ですね」



暁「大淀さんも、というかみんなも予習はやるの! ホラーはみんなでやるものなの!」



長月&菊月「怖がってるだろ」



暁「よ、余裕だし!」



間宮「でも提督さんいますし、なんとかなりますって」



瑞鶴「それは確かに。幽霊とかにびびるやつじゃないしね」



大淀「加えて謎解きにも活躍してくれそうですね」



暁・由良・弥生「お願いします」



提督「産まれてこの方、ホラー系統でびびったことはないですけど……大丈夫、とはいってあげられません。やはり挑戦してみないと分かりませんから」



大淀「あ、丙少将、乙中将、甲大将……のところからは北上さんですね。サイトに書き込みがありました」



阿武隈「うわあ、どこのゲームも悲惨です」



提督「丙少将鎮守府は桃鉄、乙中将鎮守府はスマブラ、甲大将鎮守府はマリカですか……有名どころですが……」



提督「桃鉄とスマブラのリアル連動型はヤバすぎる……」



卯月「ぷっぷくぷw どれも観戦したいぴょんw」



【3ワ●:鎮守府(丙):リアル連動型・桃鉄】



丙少将「俺、天城、加賀、雪風」



加賀「なぜ私が。大和さん、あなたが丙少将との空白の時間を埋めるためにも交代してください」



大和「別に空いた時間を埋める必要はありませんって。もともとあまり口も利きませんでしたし、この人は柄の悪い友達と好き勝手遊び呆けていただけですし」



日向「1/5作戦の後から凄まじく落ち込んで准将に当たり散らしているという子供っぷりだからなー」



丙少将「悪いと思っているよ。だが、俺なりに大和を大事にしていたつもりが伝わらないもんだねえ……」



大和「大事にされた記憶もないですけどね……」



丙少将「小遣いとかあげてたろ」



大和「ギャンブルで買った時の話ですか……」



日向「そういうのは性格だが、優しいのは本当だぞ。こう見えてかなり人気のある人なんだ。近くにいると欠点も多く見えるのは仕方ない」



大和「色々と良い噂は聞いてますけど、小さな頃からのこの人を知っているとまた違うんです。変わっている気はしませんし」



丙少将「ま、とにかく俺もアイツに救われた身だ。やってやろうじゃねえか」



天城「ところで桃鉄ってどんなゲームなんですか?」



丙少将「サイコロの目で進むボードゲームなんだが、全国の駅を決められた年数内で目指しながら資産を増やしていく感じ」



丙少将「もちろん悲惨な場合、マイナス、借金を背負うこともある」



加賀「……どの程度の額なんですか」



丙少将「何百億とか」



天城・加賀「」



大和「天城さんが例のポーズで倒れましたが……」



丙少将「八百長しようぜ。ジャンケンで負けたやつが一人負けで、被害は減らせる」



日向「お前の得意な全員生還の指揮どこいった」



丙少将「冗談だよ。お前らは喜ぶといい。俺達のゲームは大当たりだ。難易度は丙、つまり易しいんだ。俺の読みでは悲惨なのは甲さんとこと、闇のところだな」



大和「あ、それもそうですね。マイナスになればプラスになることもある。前向きに考えればなんとかなりそうな気がします」



丙少将「おう。問題はリアルにそのまま連動するかという点だな。とにかく俺らのリアルに影響するとしても四人の合計がプラマイ0以上になるようゲームメイクしていけば全員生還となる」



丙少将「そして、このゲームは戦略も大事だが、サイコロを回す以上、運が重要なファクターとなってくる。そのキーとなる女神様の運用が大事だな」



一同「(ーωー)」ジーッ









雪風「ゆ、雪風ですか?」



3 丙少将鎮守府:モニタールーム



わるさめ「丙んとこの全員生還教連中、このゲームが友情崩壊ゲームと知っているのかなー?」



悪い島風【某賭博録のごときドロッドロな人間の浅ましさが露呈するのが楽しみですね】



悪い島風【全てのゲームにオリ要素があるとも知らずにね!】



悪い島風・わるさめ【「あっはっは!」】



【4ワ●:鎮守府(乙):リアル連動型・スマブラ】



乙中将「バグってんだけど!」



ル級「……」



乙中将「なんでル級が秘書官になっているんだよ!?」



タッチタッチタッチタッチタッチ!



山城「……っ」



山城「ストップ! それ絶対に私です!」



乙中将「なんで山城さん!?」



悪い島風《あー、放送機具からすみません。すぐに直しておきます》



山城「しっかりしなさい。ブン殴るわよ」



悪い島風《元ヤンこっわー……》



山城「私はヤンキーに絡まれてケンカしただけで、私自体はヤンキーじゃないわよ!」



島風《一回落としてもう1度起動してもらえたら直っていると思いますのでー》



乙中将「詫び資材ね」



悪い島風《クレクレ来たー。私の運営はそんなんあげません。それじゃ健闘を祈ってますね!》



乙中将「く……スマブラってみんなやったことある?」



白露「夕立と時雨と神通さんの四人で、やったことあるよー!」



夕立「お部屋にあるっぽい!」



山城「ええと、確かあれでしょ。コントローラーが山の字を逆さまにしたようなゲーム機よね?」



夕立「?」



白露「チャンネルみたいなやつかなあ」



神通「……ジェネキャですかね」



山城「神通あんたうるさい」



扶桑「問題なのはゲーム内容が暴力系ということですよね。リアル連動型なら、想像が容易い……かなり危険、です」



時雨「そうだね。とりあえず通信設備の要領で鎮守府の外にゲームごと持ち出すべきじゃないかな。部屋の中で吹っ飛びまくるのはさすがに大惨事だしさ」



乙中将「外でも、吹っ飛ばされる飛距離によっては」



蒼龍「乙さん、飛龍のやけ酒が止まりません!」



山城「飛龍、あんた覚悟を決めなさいよ」



飛龍「おかしいじゃないですかあ。なんで肉弾戦士の山城さんと神通がメンバー選抜されていなくて、乙中将と私と扶桑さんと夕立なんですかー……」



山城「あんただって艦娘時代は私並みの力だったじゃない」



神通「でもクリアしないと先に進めませんし、こんなのに束縛され続けるのは勘弁でしょう?」



乙中将「その通り。選抜メンバーは潔く覚悟を決めましょう」



2



悪い島風【ただのスマブラではなく、わるさめちゃんプレゼンツの魔改造ボスが待ち受けているんですよねー……】



わるさめ「マスターハンド(18禁仕様)だゾ☆」



わるさめ「キャハハ(*≧∀≦*)」



【5ワ●:鎮守府(甲):リアル連動型・マリカ】



サラトガ「くすぐったいのは収まりましたね……」



大井「……甲さんは今回不参加のようで、インストされていないらしいですが、これ誰かがサラさんを秘書官にしてタッチしていましたよね」



グラーフ「なんたる狼藉だ」



北上「誰ですかねえ……」



北上「うちらの代理提督は」



北上「ということでスマホチェックのため今この鎮守府にいる皆さんに集まってもらいましたよっと」



漣「もう犯人こいつしかいないじゃないですか」



一同「(ーωー)ジーッ」



明石君「……」ダラダラ



漣「一回、潮ちゃんを秘書官に変えて触っただろー! お前が巨乳好きであることはタイプと公言した翔鶴さん鹿島さん、そして妹のアッキーの証言、そして秋雲から借りたらしい同人誌からネタはあがっているんですよ!」



曙「こいつには躊躇いなくクソ提督って呼べるからある意味で気が楽ね」



明石君「だって! リアル連動型だなんて思うわけないじゃん! 本物に伝わるならさすがに止めたわ!」



秋月「す、すみません! うちの馬鹿兄貴が!」



球磨「アッキーが謝ることはないクマー」



多摩「上がだらしないと下は大変ってことがよく分かるニャー」



明石君「多摩さんもなかなかあるよな」



秋月「いい加減にしてください! せっかく決戦時の活躍で株が大上がりだったのに、もう跡形もないですよ! ただでさえモテないのにチャンスを棒に振るなんてなに考えているんですか!」



明石君「あー、彼女欲しいわ」



山風「こいつは、もう、ダメだ……」



グラーフ「お前は自分のところの提督をもっと見習え。准将は尊敬に値するが、お前は足元にも及ばない」



秋月「お兄さんとアッシーを比べるなんておそれ多いです!」



秋雲「ストップストップ。じゃあ彼女に立候補してくれる人を秘書官にすればいいんじゃない?」



明石君「俺の心えぐろうとしないでくださいよ……」



大井「なら、私が」



明石君・秋月「!?」



北上「あー、私も」



木曾「俺もいいぞ」



北上「よかったなー。綺麗どころが3人も」



大井「ええ、私達が優しくて救われましたね」



木曾「どうした。早く選べよ」



明石君「粗相したら完全に雷撃してくる面子じゃないすか!?」



秋雲「はーい、じゃあ新たな選択肢ねー。明石さん連れてきたー」



明石さん「皆さんおそろいで、どーしました?」



明石君「その人は俺の『Worst-Ever:歴史最悪』なんですけど!?」



明石さん「?」



北上「かくかくしかじか」



明石さん「なるほど、明石さん立候補しちゃおうかな♪」



明石君「嫌だよ! あんただとなんかこう、秘書官から仲が深まって、淡い青春発展の可能性が皆無だしさ!」



明石さん「それはそうですが。弟子とイチャイチャは無理ですね。おも、弟にしか思えません」



明石君「あんた今おもちゃっていおうとしたよな!?」



秋月「しょうがないですね。妹の私が……」



明石君「妹はちょっと……」



悪い島風《面倒くさいなー》



悪い島風《山風ちゃんか秋雲パイセンの二人から選んでー》



山風・秋雲「!?」



明石さん「……、……」



明石さん「まあ、いいんじゃないですか。あんまり粗相はさせないようフォローはしますんで」



山風「明石さんがそういうのなら……」



秋雲「で、どーすんの?」



明石君「じゃあ山風さんに頼むわ」



北上「ほんっとにお前は一点で選ぶのな」



秋雲「なんだか腹立つけど、まあいいや」



山風「……ぐ、まあ、我慢する、よ」



漣「ちなみに私は尊敬できる提督じゃないとご主人様とか呼ばない気高き漣でっす」



木曾「なんだこれ。くっだらねーな……」



明石君「あー、このマリカの参加者は木曾さんと山風さんと俺と球磨さんだから」



山風「え、あたしいいよ別にやらなくて……」



明石君「つっても、指定されているからなあ……」



明石君「あ、そうだ。曙さんこのゲーム知ってる?」



曙「なんでここで私に振るのよ。知ってるけど、それがなに」



明石君「コースアウトすると助けてくれるやついるだろ」



明石君「じゅげむ役で曙さんが指定されてるから」



曙「」



朧「どんまーい。でも曙は釣り得意でしょ」



曙「嫌いじゃないけど得意じゃないし、そもそもそのゲームで釣るのは魚じゃないでしょうが!」



潮「プレッシャーかけるわけじゃないけど」



潮「ゲーム内容的にロスタイムから復活させる役割だから、かなり重要だと思うなあ」



漣「そうだねえ。ぼの様のテクで皆をフォローしなきゃ」



木曾「なー、マリカってなんだ?」



北上「木曾、マジか。国民的ゲームだぞ?」



大井「ゴーカートみたいな乗り物に乗って走るレースゲーム」



木曾「へえ、リアル連動型ってことは実際にやれんのか。面白そうじゃねーか」



曙「はあ、どん臭そうなのは山風よね」



山風「あたし、ゴーカートなら得意、だよ」



グラーフ「待て。このゲームのリアル連動型だと」



サラトガ「最高時速はどのくらいです?」



秋雲「さあ……100キロくらいじゃないかな」



山風「」



明石君「やべーな……艤装よりも速度が出る」



秋月「正直、桃鉄やスマブラよりはイージーと思いきや、事故を起こせば大怪我してしまいますね」



明石さん「レースゲームですし、タイムを競う、となると、低速でってのはクリアに差し支えますしね」



木曾「おいヤローの明石、お前は大将の代理だろ。なんか案はないのか?」



明石君「俺に提督は荷が重いって。妖精可視の才能あっても、提督としての素質は最悪だからなあ」



明石君「でも、そうだな……」



明石君「俺らの他にプレイヤーがいる。つまり敵もレースに参加するから、山風さんはその妨害役としてとろとろ走っていればいい。周回遅れは妨害のチャンスだからな」



明石君「進路妨害する程度の役割でいい。念のために俺が側につくから、木曾さんと球磨さんで1位を狙っていって、俺と山風さんが支援をするってことで」



北上「お、なかなかまともなアイデア出すじゃん」



球磨「やるからには1位は譲らないクマー」



木曾「当たり前だ。手を抜かれた時点で俺は抜けるぞ」



大井「大丈夫でしょうか……」



グラーフ「ところで准将のところのこのゲームはなんだ?」



グラーフ「難易度的には丙少将がイージー、乙中将がハード、私達がベリーハード、准将のところはアルティメットとあるが、これは准将のところが最も難しいと受け取った」



サラトガ「この『ピエロット・マン』というゲームはなんです?」



漣「あー、サラの姉さんそれPCのフリゲだったかと」



曙「そういうマイナーなのは秋雲が詳しそう」



秋雲「マイナーだなんてとんでもない」



秋雲「それ、フリゲの中ではかなり有名どころだよー」



秋雲「脱出タイプの最恐ホラゲだけど、廃墟の夜の遊園地でピエロの悪霊から逃げ回りながら、脱出方法を探すというシンプルなゲームではあるね」



大井「うわ、疑似ロスト空間で行うんだから、リアルで体験するってことだし、ホラー系は最悪じゃない」



北上「しかも面子が悪意を感じる。暁、弥生、由良というメンバーよ。頼りになりそうなの准将さんだけじゃん」



木曾「あいつんところは心配要らねえだろ」



2 甲大将鎮守府モニタールーム



わるさめ「お前らはお前らの心配するといい! 歴代のマリカをミックスして作った夢の複合ステージ、しかも相当手強い相手を用意しているからね!」



悪い島風【おう"っ! 甲と闇は簡単にはクリアさせませんよー!】



悪い島風【ここには私も参加しますからね!】



【6ワ●:いざ、ピエロットマンの世界へ!】



暁・由良・弥生「」



龍驤「あかん……みんないる場でやったのに魂抜けとる……」



長月「な、なあ、き、菊月、トイレ行きたくないか?」



菊月「ああ。ちょうど行きたくなったところだ」



長月・菊月「二人で行こう」



暁「ふえええええん! ムリムリムリ、こんなの絶対無理――――!」



由良「……わ、私もこの世界に行くのは」



弥生「む、無理です。心臓、止まる……」



提督「……うーん、なかなか驚かされましたね。ここで来るかな、と思ったところで来ない。からの、ドーンって感じがなかなかで、ピエロットマンがゆっくり遠くから姿を表してこつこつ近付いてくるのが不気味ですね。謎解きもこれになぞらえたものならば、攻略したも同然ですが……問題は」



提督「オリ要素をぶち込んでくる可能性があること、かな」



提督「自分一人で行ってきてもいいのですが、五人強制参加な以上は腹をくくってください。自分からしたら夜に見る深海棲艦のほうが余程怖いと思いますけどねえ……」



由良「深海棲艦なら倒せますから……」



瑞鶴「でも暁がガチで怯えてるね。マジ泣きしかねないわ」



阿武隈「全員で固まって動くのが吉ですかね」



天津風「明るい音楽入れたモノを持っていくのはどう?」



暁「そ、それナイスアイデア! イヤホンも!」



島風「あ、ジャージ……動きやすい服に着替えてきたほうがいいと思う!」



提督「ええ、死にたくなければ」



暁「冗談やめてよっ!」



提督「……暁さん、後ろ」



暁「そういうの止めてってばあ! 司令官のバカ――――!」



間宮・大淀「……」



龍驤「間宮さんと大淀もさっきから動かへんで……」



………………


………………


………………




提督「龍驤さん、代理よろしくお願いします」



龍驤「こっちのことは任せとき」



提督「お願いします。皆さんジャージに着替えてきましたね」



提督「おさらいをしてきます。まずこの遊園地自体にはなぜかホテルや人形の館という建築物が外れにあります。その土地一体は遊園地の経営者が買ったものですが、壊そうとしてもなぜか不幸が続いて壊せない。仕方なく駐車場は別に作ってそのままにしておくことにした、というエピソードです」



提督「この土地自体が曰く付き、ま、人形館に出てくる幽霊もホテルの化け物も、モデルが存在しますね」



阿武隈「あれ、モデルがあったんですか?」



提督「ええ、悪い島風さんも海の傷痕と同じ産まれ、つまり19世紀の人物で似ている有名な殺人鬼が一人います」



暁「さ、殺人鬼」ビク



由良「ど、どんな?」ビクビク



提督「殺した相手の血を啜る吸血鬼ですね。彼は最後に、蝋人形館の蝋人形に公判の時の自分が着ていた服を人形に着せて欲しい、と願ったそうですし」



提督「内装にもいくつか有名どころをモデルとしているところが見受けられました」



提督「覚悟はいいですね?」



暁・由良・弥生「(`・ω・)人(`Δ´)人(・ω・´)」



提督「それじゃ押しますね」タッチ



《Welcome to》



《PIERROT MAN WORLD》



【7ワ●:いざ、ピエロットマンの世界へ! 2】



由良・弥生「……」



提督「……」



由良「う、わ」



由良「暁ちゃんがいない――――」



弥生「スタート地点は、ゲームと同じパークの入り口、です」



提督「すみません、暁さんを探しに行きますね」



由良「!」


ぎゅっ


提督「ふたてに別れ、て……いたたたた!」



由良「単独行動は死亡フラグだからねっ、ね!?」


ぎゅぎゅー


提督(めちゃくちゃ強い力で腕をつかんでくる……)



提督(完全に置いてくな、の意味……)



提督「……なら一緒に行きましょう。暁さんならまず一人しかいないことに気付いた瞬間に泣き叫ぶはずですが、声が聞こえないということは声を出せない状況下にある……密閉空間にいるか、自分達とは遠く離れたところからスタート、とかですかね」



提督(一応持ってきたけど、やっぱり携帯は使えない、か)



弥生「司令官、す、進むの速いです」



提督「すみません。少しペースを落とします」



提督(予想しづらいからこれといった作戦は用意してなくて腹だけくくってくれ、といったけど、恐らく分断されるかな……)



提督「お二人ともお分かりかと思いますが、自分は身体能力は低く、悪霊に追いかけられた時に逃げ切れるか分かりません。その時はお二人だけで逃げてくださいね」



提督「全員アウトになれば任務失敗でカタストロフガンによる罰が下りますし、リトライするにしてもなるべく先に進んで情報は持ち帰るべきなので、そこらの辺りはお願いします」



弥生「りょ、了解です」



由良「……、……」



提督「それでは、園内に入ります」



2 



暁「ふええええええん……」



暁「司令官も由良さんも弥生もいない……」



暁「ここ、レストランの辺りよね……」



暁(……そこのお店のピエロの像が怖いけど、あ、あの隣の案内板見て司令官達がいそうな場所に向かわなきゃ)


コツコツ


暁「……」ジーッ



暁(パークの入り口は、ここと真逆の位置)


パリン


暁「っひ、なんの音……」キョロキョロ


パリンパリン


暁「っ、レストランの食器が、落ちて割れてるうう!」






暁(はあはあ……ここは、メリーゴーランドの近く、ベンチに座って少し休もう)



暁(このピエロの銅像、可愛くもないし、なんでこんなのマスコットにしたんだろう……)



暁「もうっ、あなた恐いのよっ!」ゲシゲシ



暁「え、柔らかい……?」



PIERROT「……」ギョロ



暁「銅像じゃない――――!」



PIERROT「♪」スチャ



暁「ほ、包丁っ!」



暁「ふぇ、ふえええええん!」



暁「じれいがあああんだずげでえええ――――!」


タタタタ



3

 

 

由良「今のは暁ちゃんの声!」



提督「大体いる方角は分かりました」

 

 

提督「由良さんと弥生さん、自分は駆け足で行くので、そこの茂みに隠れていてください。全員でジョーカーと接触する必要はありません。ちゃちゃっと救出して戻ってきますから」

 

 

由良「だ、だから単独行動は死亡フラグで……」

 

 

提督「……すみません、暁さんを一人にしておけないんです。あの子、遊園地にトラウマあるはずですから」

 

 

由良「……、……」

 

 

由良「分かりました」

 

 

弥生「私は由良さん、とそこに、隠れてます、ね」

 


提督「お願いします」

 


………………

 

………………

 

………………

 

 

女子トイレ個室にて

 

 

暁「……」ガタガタ

 

 

暁(響ぃ、雷ぃ、電ぁ~、お姉ちゃんはここでもうデッドエンドかもしれない……)

 

 

暁(というか、このデスゲームの参加者って、怖がりを選んだ感じよね……想力ってそんなことも、いや、艤装に適性率つけるくらいだから、分かるのかな?)

 

ガタ

 

暁「……っひ」

 

 

Pierrot「カアカアカアカアカツキちゃあああん♪」



暁(なんか私の名前、呼んでるううう!)

 

 

Pierrot「ココカナ」

 

ガチャ

 

Pierrot「……イナイナア」

 


Pierrot「ココニハイナイノカナ……アッア、ソトニ、ダレカイル」


 

暁(行ってくれた……)ホッ

 


暁(……思い出しちゃうな)

 

 

暁(私、遊園地でお母さんにここで遊んで待っててねって……)

 

 

暁(閉園の時間になっても、良い子にして待ってた)

 

 

暁(ずっと、待ってた)

 

 

暁(けど)

 

 

暁(お母さん、迎えに来なかったんだ)

 

 

暁(あれから遊園地、あんまり好きじゃない)

 

 

グサ

 

暁(……ん、扉になにか刺さって……?)

 

 

Pierrot「ココココココココカナ――――!」

 

グサグサグサグサ

 

暁「ぴぎゃ――――――!」

 

 

暁「と、扉、開いちゃう……!」

 

 

暁「っ、た、ただでやられてあげないんだから……!」


 

暁「えいっ!」

 


Pierrot「ンー……タックル、シタノ?」



暁「す、すり抜けた……?」

 


Pierrot「♪」スチャ

 

 

暁「あ、あ、ダメ、腰が抜け……」

 

 

提督「なるほど……そういう仕様ですか」

 

グサ

 

Pierrot「いた、イ――――!」

 

 

暁「し、しれいかん――――!」

 

 

提督「トドメです。この悪霊には地獄にお帰り願いましょう」

 


暁(容赦なく胸に突き刺した……)


 

Pierrot「」

 

 

提督「ご無事なようでなにより。迎えに来ましたよー」

 

 

暁「お……遅すぎだからっ!」

 

 

提督「立てます?」

 

 

暁「……」

 

 

提督「失礼して、よっこらしょ」

 

 

4


 

暁「し、司令官、あいつを何で倒せたの?」

 

 

提督「しょせん疑似ロスト空間であり、ここで使われているのは想力です」

 

 

提督「元ある仕組みの応用ですよ。あのPIERROTもファントムステルスになれるみたいですね。なので、一部の艤装の破片で傷はつけれます。傷つけたのなら、仕留めは出来ます」

 

 

提督(……まあ、こちらの情報を持ってるわるさめさんを引き込んでいますし、これで終わりではないでしょうが)

 

 

提督「しかし、まさか立ち向かうとは意外と勇気ありますね。あの海で度量が身に付いたようで」

 

 

提督「お陰で少しの間、観察する余裕が出来ました」

 

 

暁「ちょっと傍観してたんだ!? すぐに助けてよっ!」

 

 

提督「すみません……」

 

 

暁「でも、迎えに来てくれたから許したげる……」

 

 

暁「しれいかん」


 

 

暁「怖かった――――!」

 

 

暁「ふええええ――――ん!」

 

ヒュー

 

提督「!」

 

 

暁「何の音?」

 

 

提督「観覧車のゴンドラが落ちてきました。暁さん、ごめんなさい!」


 

――――こっちはすげー司令官の望む通りにがんばってんだから、お守りしてないでクリアしよーよ……鈍ってんねー。

 

 

――――契約上、私は手は抜けないんだよ。

 

 

――――PIERROT倒しちゃダメじゃん。正規ルートで謎解きしてクリアじゃないとね☆

 

 

――――この程度のこと、予想していない

 

 

――――わるさめちゃんだと思ったか☆

 


【8ワ●:全滅】

 

 

龍驤「ちょちょちょっと待てや!?」

 

 

卯月「司令官の体が潰れたし……びしゃっと飛び散ったの血だぴょん。うげー、司令官が肉塊になるの見ちゃったし……」

 

 

天津風「あなた落ち着き過ぎでしょ! 准将さん死亡とかこれ洒落になってない!」

 

 

阿武隈「て、提督」


 

大淀「……いえ、これ確かに内臓飛び散りましたが、傷口を見てください。この再生力、覚えがありますね」

 

ムクリ

 

提督「自分の臓物の悪臭のする目覚めとか最悪ですね……」

 

 

島風・瑞鶴「生きてる!」

 

 

提督「悪い島風さんとの契約で、契約が切れるまでは不死にされてますからね……助かりましたが」

 

 

提督「このゲーム、死にゲーでしたね……」

 

 

由良「う……刃物で」ムクリ

 

 

弥生「……刺され、た」ムクリ

 

 

暁「」

 

 

阿武隈「と、とにかくご無事でなによりですっ。皆も死なないようにされていたみたいで、なによりです!」

 

 

由良「そうだね……」

 

 

天津風「怖いから口元から垂れてる血を拭って!」

 


島風「ほいティッシュ」

 

 

長月「……大丈夫か?」

 

 

由良「もうヤダ、提督さん私もう嫌……」

 

 

弥生「同じく……」

 

 

菊月「この様子じゃリトライは無理そうだな」

 

 

提督「こっちが死なないのをいいことに、何度も殺してきますね。問題なのは、痛みがリアルだったこと。死の痛みは慣れるもんじゃないです」

 

 

瑞鶴「みんなもう心折れてる……」

 

 

暁「……」

 

 

大淀「暁さんが重症ですね……人形のように生気が」

 

 

卯月「うーちゃんなら余裕なのになー……」

 

 

提督「難しすぎる……リアルで心を鍛えてから挑戦しないとだめですこれ。いっそのことスルーしたいレベル……」

 

 

龍驤「無理にやらんでも。各資材8000+開発資材50+高速修復材50やったか。大きいけどさ、こんな辛いのスルーして他の方法で探せばええんちゃう?」

 

 

提督「それだけあれば色々と試行錯誤が可能になるんですよ。この艦隊これくしょん、とにかく時間を持って行かれるんで、短期でクリアするには、これをやるしか」

 

 

提督「ですが、龍驤さんのいう通り急がば回れ、ですかね」

 

 

暁「司令官!」

 

 

提督「どうしました?」

 

 

暁「なんでわるさめさんの声が聞こえたけど、あの人って偽島風さんと手を組んでる風だったわよねっ」

 

 

瑞鶴「はい、説明」

 

 

提督「悪い島風さんが手伝ってくれる人欲しいとのことで、製作秘話にない情報提供と交換でわるさめさんを貸し出しました。ゲームに容赦ないのは契約故みたいですね。向こうサイドに一人いてもらうのも悪くないですし、わるさめさんなら信用も出来るので……任務も与えてあります」

 

 

提督「由良さん弥生さん暁さん」

 

 

由良「あのですね、仲間が死ぬところを見たんです。例え死なないとしても、何度も繰り返すのは無理です(キッパリ」

 

 

弥生「仲間を守るためならともかく、げーむ、で特攻命令は聞かない」

 

 

提督「ですよね。お二人はキスカの事件、暁さんは珊瑚の囮の件がありますもんね……」

 

 

提督「……、……」

 

 

島風「その画面なんですかー? 私達の横に出ているハートマークみたいなの」


 

提督「なんでもありませんよ」

 

 

卯月「隙ありー! スマホ奪取!」

 

 

提督「ちょ……画面にタッチしてはダメですよ! 自分以外が操作するとセキュリティが作動しますから!」

 

 

卯月「……、……」

 

 

卯月「ぷっぷくぷぅ。これうーちゃん達→司令官の好感度だぴょん。想力で解析されているとなると、信憑性はたっかいなー」

 

 

一同「面白そう」

 

 

提督「っと、奪取」

 

 

一同「……」ジーッ

 

 

提督「知らなくていいですよ。当てになりませんから」

 

 

阿武隈「気になる……トップ3だけでも知りたいかなあって……」

 

 

瑞鶴「感情って色々あるからねー。予想がつきやすそうでつきにくい」

 

 

卯月「電、間宮、わるさめの三連単に間宮アイス」

 

 

間宮「私はどうなんでしょう。提督さんのことは好きなのは好きなのですが、初霜ちゃんとか電ちゃんとか秋月ちゃんの好感度というか忠誠度が常軌を逸していそうな気が……」

 

 

提督「止めましょう。誰も得しません」

 

 

龍驤「真に受けんから損もなしやで。気になって眠れんから、行こやー」

 

 

一同「……」ジーッ

 

 

提督「こういうのはダメです……あ」

 

ガチャ

 

わるさめ「ふう、勤労意欲を発散してきたぜ」

 

 

わるさめ「みんなもお疲れー! どう面白かった!?」

 

 

弥生「は?」

 

 

2

 

由良「春雨さん……!」

 

 

わるさめ「まーた私、こんな役回りなのかー」

 


わるさめ「事情は後で話すから司令官に報告させてー」

 

 

提督「……報告書にまとめてもらっても?」

 

 

わるさめ「あ、うん。長くなるしそうするー。じゃあ口頭で1つだけ。カゲカゲとヌイヌイのクエスト追加されるから、それさ」

 

 

わるさめ「絶対にクリアしてね」

 

 

わるさめ「新システムも解放されるから」

 

 

提督「了解です。では、早速自分は少し調べものを」

 

 

提督「大淀さん、前世代陽炎さんのデータって」

 

 

大淀「……ええ、分かりました」

 

 

わるさめ「いってら!」

 

 

暁「わるさめさん、話してもらうからね」

 

 

わるさめ「その前にこの部屋、臓物臭いから掃除しよ?」




ピコーン、




新任務が追加されました。



【9ワ●:陽炎&不知火 戦後日常編】



意外と世の中って単純なのかもしれないわね。



総務省の統計いわく全世界安全海域されたことでこの国の失業率は低下し始めているとかなんとか。海のどこに行っても深海棲艦はいない。ならば、今その見栄えのいい数字の足を引っ張っているのは深海棲艦との闘いを稼ぎにしていたところ。もちろん艦の兵士だって例外じゃないのよね。



駆逐艦陽炎の化身として過ごす日々は終わりを迎えた。



高校二年生の時から止まっていた普通の人間の女の子としてまた時計は針を進め出した。私は高校生になっても化粧とかしなかったけど、世話焼きの不知火に嗜みとして押し付けられたモノがこの家にはある。



私は少しやんちゃだったのよね。少しだけね。少しだけよ?



なんとか女のおしとやかってやつを演出しようと、清楚な感じのフレアとかキュロットスカートとか、結局一回も使わなかったファンデにマニキュアとかないのに除光液だけあったり、ヒールもある。なんだか洒落っ気に目覚めた少女の残骸がちらほらと。



やっぱり落ち着くのは陽炎型の制服ではあるんだけど、街で過ごしていくからには陽炎の殻から脱皮しなくちゃ。



この陽炎型の制服は丁寧にしまっておいて、今あるモノから好きなのを選んで、外を歩いてみた。ジャージにスニーカー、と動きやすいほうが好きなのは今も変わらず、だ。我が人生に色気がないわけだわ。



掛け時計を見る。あの日からの時間を取り戻したわけだけど、もしかして私の時計の針、手動式なんじゃないかしら、と思うくらいに進んでいかない。



思い返すと、陽炎として過ごした海の日々は辛いことばかりじゃなかった。失ったモノより得たモノのほうが多いくらいだ。やっぱりあの戦争ってどこか変ね、と思う時もあったけれど。



誰とはいわないけど、そう思わせるほどの恐るべき執念が戦争の悲惨に打ち克った。



きっと戦争の名を冠された長期の争いで、ここまで人道的に終結した戦争はない。この戦争の兵士は街の平和を維持するための生贄、防波堤だなんてもいわれていたし、この軍にくるやつなんて理由こそ違えど、普通じゃなくて切羽詰まった連中ばかりなのよ。



司令は、こういった。

あの海の結末を、こう解釈していた。



自分達は『平和を守るための尊い犠牲』みたいなクソみたいな社会の歯車の役割でもなかった。人間が産んだ罪の象徴、海の傷痕当局を倒すことで、此方という『1人の女の子を助けるための救助活動』に命を捧げたのです。

この事実が私達の本当の勲章であり、共通の救いであるはずだ、と。



こういうと私達、まるでスーパーヒーローみたいよね。



だけど、めでたしめでたし、と終わるわけもなかったわけで。



この一件は終結した戦争の後でも、晴れ渡る空をいまだに防空頭巾かぶって恨めし気に睨みながら、まだ奪われることに怯えていた被害者の救命活動のお話だ。



前世代陽炎のね。

私より早く艤装から解き放たれたあいつは未来の私、みたいなものなのかしら。でもあの人はまだグローバルで縮こまった狭い世界で深海棲艦と戦っていたみたいだ。



前世代の陽炎、私もあんたと同じ陽炎艤装をつけて戦っていたから分かる。私もあんたの境遇だったら同じことしていたと思うからね。イフの未来を歩んだもう一人の私みたいなもん。



でも、あんたの心の傷はそう簡単に癒えるものでもないからさ、いつか必ず、だなんてコツコツやっていけばいいんじゃないのかなって。



どうせ世界はずぅっとさ、

性懲りもなく回っているわけだしね。






不知火「陽炎、その悲しいまでのダサい恰好はギャグですか」



こいつは朝っぱらから不愛想な面だ。私のジャージの襟を引っ張ると、その中をちらりと見て、更に不機嫌そうな顔になる。中までチェックすんな。



不知火は性格ゆえ、私服できちっとしているのだけども、私からいわせれば服を殺しているのよね。主に怖い眼光が。



陽炎「私服私服というけど、あんたそれ陽炎型の制服よね?」



不知火「外に出る際の制服は便利ですから。とりあえず間違いはないかと」



じゃあ、私も陽炎の制服でいいや、と着替えてこようと踵を返すと、不知火に肩をつかまれる。なにやら難しそうな顔をして、いった。



不知火「それはどうなんでしょう。どこかの学生服でもないのに、街で同じ服装で出かけるのは少しおかしいのでは。海に抜錨する時は普通でも……」



そもそも『海に抜錨する時は普通でも』って言葉がすでに普通じゃないわよね。こういうのは時間が経てばきっとなんとかなって行くんだろうけど、今すぐにっていうのは難しい。



不知火が私の家の玄関を開けると、「陽炎をメーキングします」と手招きした。自信ありそうだが、どうせ根拠はないだろうな。こいつはこいつでズレているから不安な気しかしないわ。






不知火「陽炎、立ち鏡に向かって柔らかく笑ってみてください」



ブラウスとフレアスカートを着せられた。ツインの髪は、陽炎の黄色のリボンでポニーに結ばれる。うっすらと化粧もさせられた。めかしこんだ私はもはや陽炎っぽくない。指示通りに柔らかく笑うと、不知火が「大人びて見えます」といってなぜか自慢気だ。確かに誰これっていうくらい、外は落ち着いた雰囲気だ。でも、内はめちゃくちゃ落ち着かない。陽炎型の制服と艤装が恋しいわ。ワーシック。最悪な病気ね。



不知火「男性視点の意見が欲しいですねっと、誰か来ました。不知火が出ますね」



私のスマホに司令から『着きました』ってメッセージ届いているし、司令よね。不知火が玄関口で敬礼しているから間違いなさそうだ。「お、おはようございます!」とあいさつもしている。近所迷惑考えなさいよね。「汚い部屋ですが、どうぞ」やかましいわ。



陽炎「司令、時間通りねえ。ちょっと片づけてお茶出すから待ってなさい」



提督「お邪魔します」司令が目をぱちくりとさせる。「雰囲気ががらりとお変わりですね。ここが陽炎さんの家であること、それとその声で陽炎さんであるとは分かりますが、街ですれ違っても気づきませんね……」



陽炎「……なら着替える」



提督「不知火さん、えっと、自分はなにか失礼なことをいってしまったでしょうか」



不知火「陽炎のことなら大体分かりますので、申し上げましょう」不知火がいう。「陽炎はああ見えて司令のことをかなり気に入っているので『街ですれ違っても気づかない』というセリフにすねたんですね。気づいてもらえないのは嫌だという陽炎の乙女心です」



陽炎「ち、違うから! 不知火あんたうっさい!」



不知火「リアルのツンデレは苦労しそうな気がします」肩をわざとらしくすくめて、やれやれ、といった風に肩をすくめている。



提督「……」



陽炎「なんか思いつめた顔になったけど、どうしたのよ」



提督「いえ、なんでも」



陽炎「あんたのダンマリには大体こっちの想定を超えた意味があるから、口を開くより黙り込んでいるときのほうがうるさい」



提督「それは酷い……今、対深海棲艦海軍で起きていることは伝わっていますね?」



陽炎・不知火「まあ」



適当に茶を出して、三人でちゃぶ台を囲んで座る。



その起きていることというのは、島風の姿を真似た戦後復興妖精が出現して、軍周りのことで悪戯して回っているとかなんとか。

黒潮からも連絡来たけども、海の傷痕みたいに切羽詰まった感じじゃなかったし、「ゆっくり里帰り満喫しときー」と返ってきてもいる。

そのうえ、闇の連中からもそう大した危険をもっている感じではなかったので、気には留めていた程度ね。

それだけに司令の話には驚いた。秘書官にタッチすると、リアルにも伝わるとか。



提督「あ、新しい任務が……」



不知火「今の陽炎と2ショット写真を撮って闇のグループに写真を投稿すればいいのですね。なるほど、グラーフさんとガングートさんのCMから薄々察してはいましたが、悪い島風さんというのはわるさめさんの同種みたいなものですね。彼女を誘うのも納得です」



陽炎「イヤだからね。報酬は資材格500ずつ? リアルの私達、モチーフにしているのならそう大きい数字でもないし、私は自分の判断を優先させてもらうわ」



提督「ところがどっこい大きいです。サービス任務と見ました」



不知火「陽炎、協力できることはしましょう。このしわ寄せは鎮守府の皆さんに行くことになりますから」



陽炎「……はあ、分かったわよ」



不知火「司令、ツンデレもとい陽炎はこのように建前を用意すればちょろいです」



陽炎「だからあんたはうるさいってば!」



仕方がないのでこのお遊びに付き合うことにした。おい、送信する前に任務であることを書きなさいよ。すぐに司令の携帯に着信が入った。表示されている登録名は『ぷらずまさん』だった。反応が早すぎて、向こうの発狂した様子が目に浮かぶわ。私の携帯から例の任務の一環だと書き込んでおいた。



明石君《ンだよ陽炎さんかよ。化粧と服でここまで印象変わるって、もう一種の改装だなオイ》



暁《明石君は常にしっつれいね……》



龍驤《めかしこむと印象変わるなあ。うちだとスタイルの問題であかんわ》



瑞鶴《へえ、陽炎のイメージと離れているけど似合うじゃん。でも、その隣にいる男の生気の無さがマイナスに作用しているわね》



卯月《心霊写真かと思ったし》



提督「」




しまった。色々と飛び火してしまった。



陽炎「司令、とりあえず置いといて」



提督「ええ、そろそろ一つの本題に入りましょうか。この陽炎&不知火の戦後日常編を丸く収めよ、という任務があります。そこでお二人にお聞きしたいのですが、なにか里に帰ってから問題は発生していませんか。もっといえば前世代陽炎さん関連です」



珍しく不知火が司令の言葉に即答しなかった。



私もあの人のことを話すのはためらうわね。実は幼馴染といってもいい人だが、すっかり変わり果ててしまっていた。あれが同じ陽炎だったとは思えないほどに、人格が変わってしまっている。まだこの戦争をかき乱そうと裏でなんかやってるみたいだし。闇堕ち陽炎よ、あれ。



提督「自分も前世代の陽炎さんのことは軍の資料から調べさせてもらいました。彼女の噂は何度も耳にしましたし、話題にもあがりました。全体的な素質性能は総合一位の駆逐艦、あの卯月さんが総合力で二番に甘んじる成績」司令は少しだけ間を開けて、いう。「前世代の不知火さんと黒潮さんが殉職した作戦の後、抜錨無許可で鎮守府を抜け出し、独断の捜索活動を開始した、と。その途中、深海棲艦に襲われて、孤島に避難、その翌朝午前0530に救出、彼女の適性率は『なぜか1パーセントを切っていて兵士として活動が困難』、そして解体申請の流れですね。陽炎さんと不知火さんの地元です。お二人は彼女と入れ違いで来た、と」



ああ、司令がわざとらしく強調した部分からして大体の見当をつけていそうだ。確かに臭うわよね。適性率が一気に64%も下がった事案はそいつが初めてだって聞いたし。



わざわざ私達の問題に任務としてチョッカイかけさせたのは戦後復興妖精みたいだし、自然とその適性率低下の理由に悪い島風が関わっていそう、という発想に辿り着く。あまり当たってほしくないが、そんな濃い予想がすぐさま思い浮かんだ。



不知火「司令、申しわけないのですが、あの人との関わりは不知火の口から話すことはできません。陽炎にとって家族を失った思い出が関わってきますから。例え、陽炎の事情を司令が書面で知っているとしても、不知火の口からは……」



陽炎「司令はどこまで把握しているのよ?」



提督「陽炎さんが過労による怪我で植物状態になっている間に、家族が他界したと。施設に籍は置いてあったものの、すぐさま軍行き、です。不知火さんはその後を追うように軍に来た、とまでは。前世代陽炎さんのお里もここですから、陽炎さんが軍に来た理由は彼女が関連している可能性が高いとみています。ざっとそんなところ、ですかね」



不知火「……」



陽炎「簡潔に話すわね。私はおばあちゃん子だった。おばあちゃんは叔父と一緒に暮らしてた。ある日、私が学校に行こうとすると、警察が家の前にいて、外をうろついていたおばあちゃんを連れてきた。虐待発覚。その事後処理の後、私は家計を助けるためにバイト始めて、その頃叔父が秘密裏に私に接触してきた。金寄越せって高校生の私にね。従わないと母親を殺すって脅してきた。私はそのことを不知火にも黙って部活も辞めて働きまくった。私が過労でぶっ倒れて意識なくなっていた理由ね。その後、その件でお母さんと叔父が揉めて叔父がかっとなってお母さん殺害、私には不知火と前世代陽炎さんしか、仲いい人はいなくなった。そのうちの一人が泣いてた。私は叔父のほうを殺そうと思ったけど、不知火とその親に止められたから、殺しても許される深海棲艦のほうへ仇討ちへ。陽炎の適性が出て海へ。オシマイ」



提督「」



珍しく司令が鳩に豆鉄砲食らったようなレア顔をしている。



かなり簡略化したけども、めちゃくちゃ重いわよね。ちなみにこの話をしたのは、不知火を除いて司令と黒潮くらいだ。心のどこかでしこりとして残ってはいるけれど、今では別にそこまで気にしていないといったら、私は薄情に思われるのかしらね……。



陽炎「駆逐が軍に来るまでの事情なんて基本不幸でしょ。不知火に雷、卯月、雪風もか。そこの辺りが特別なだけで、戦争参加に明るい動機や立派な大志があるほうが珍しいわ」



不知火「不知火は陽炎が心配だから私も、で親は納得してくれましたから。不知火の家と陽炎が家族のような関係だったのが幸いしましたね」



陽炎「でも今はもうダメージ受けることではないから司令、その雰囲気止めてよね……」



提督「……いいえ、あなた達が着任した時に無理にでも聞いておけばよかったですね。丙少将からあなた達のことは書面でもらいましたが、前世代陽炎さんのことは少しひっかかっていたんですよ。それ恐らく明石君と同じパターンですね」



不知火「といいますと」



提督「適性者にレア分けはあるものの、基本どれも発見しにくいんです。ここから陽炎不知火二人を輩出、というのは恐らく海の傷痕が明石君に適性を無理やり出したのと同じ可能性がありますね。ただお二人の場合は戦後復興妖精、悪い島風さんになりますかね」



陽炎「は、はあ? どうしてそうなるわけ?」



提督「ああ、悪い島風さんから聞いたのですが、前世代の陽炎さんと契約したそうです。恐らくその日に一夜にして適性率が64%、意図的に低下させたのだと思われます。あの時に存在がバレるとその時点で想力発見ですからね。きっと前世代陽炎さんは何らかの口封じもされています、ね」



陽炎「でも、そんな時に戦後復興妖精が現海界して、なんであの人と契約するの?」



不知火「……あ、その事件が起きた頃は確か」



提督「中枢棲姫勢力誕生です。キスカ事件では由良さん達が海の傷痕に与えた損傷により誤作動した思考機能付与能力が戦後復興妖精にも及んでいた、と考えるのが妥当ですかね。製作秘話ノートもその異常事態から書き込み情報がかなり減っていますし、此方さんいわくその頃はぶらずまさんとわるさめさん、瑞穂さんのバグ関連で相当ブラックな労働環境だった、と」



提督「その前世代陽炎さんの事件、同時期のキスカの事件に上書きされるように落ち着きましたよね……」



陽炎「……一応、つじつまは合うわね」



不知火「司令……少しお伝えしなければならない報告が出来ました」



提督「お願いします」



不知火「そういえば、陽炎が目を覚ましたのは、ヒーロさん、もとい前世代陽炎さんがお見舞いに来てすぐです」



提督「ほぼ確定ですね。それが与えられた『契約のリターン』です」



提督「そのですね、瑞鶴さんと前世代陽炎さん不知火さんについて話をしたことは?」



陽炎「なんで瑞鶴さん? というか私ら基本的に他人の過去については詮索しないから、個人的な事情は話題にしないわよ。そういうの忘れたくて戦争やっているやつすらいたくらいだからね。過去の話は相応の理由がない限り話題にしないわ」



不知火「瑞鶴さんがなにか?」



提督「……知らないのは意外ですね。前世代の陽炎さん不知火さんは瑞鶴さんと同じ鎮守府にいました。瑞鶴さんが一度解体処分されているのは聞いたことあるかと。彼女、実はその件で提督を半殺しにしたからなんですよね」



陽炎・不知火「」



知りたくなかった嫌な繋がり。



提督「……申し訳ないお願いなのですが」



提督「お二人の過去をお話してもらっても」



陽炎「構わないわよ。不知火が喋るわ」



不知火「なぜ不知火……陽炎がいいのならお話しますが」



【10ワ●:想題、不知火】



通学団で一緒になり、道端の虫とか猫とかに目を向けて、触ろうとする女の子がいました。これが陽炎なのですが、手のかかるやつで目を向けていないと通学団の輪からいなくなることも多々あります。



なので、不知火は横断幕を持つものとして、陽炎の見張りをしていました。そのせいか陽炎とは言葉を交わすようになり、距離は縮んでいきました。一緒に遊ぶようにもなり、いつの間にやらどこに行くのにも一緒です。端から見たら、連れ回される私が陽炎の金魚の糞でしたが。



ある日に、最近この辺りをうろついている野良犬を見つけに行こう、と近所を散策しました。空き地でその犬を発見しました。確かに首輪がなかった。しかし、大型犬で私と陽炎は尻込みました。ワン、と吠えられたら、びくっと身体が固まりました。威嚇されて、噛まれる、と予感した時に、



「がるる!」



という威嚇の声が後方から聞こえました。振り替えればそこにいたのは近所にある商店街に住んでいる高校生女子でした。その威嚇の声で犬は驚いたのか、尻尾を巻いて反対の出口から逃げて行きました。私と陽炎は、その人にお礼をいいました。



ここから陽炎がなつきました。自然と私も仲良くなりました。駄菓子屋でお菓子を買ってくれたり、公園で秘密基地を作ったりして遊んだのは今も思い出として覚えています。



商店街の催し物で、ヒーローショーのヒーローをやっていた人なので顔も名前も知ってはいました。本当にその通りの人で勇敢で頼りがいのある人でした。



日曜日になると、商店街に出かけて遊んでもらいました。その時期辺りですね。ヒーロさんは軍に行く! といい出しました。ここの動機はよく分かりませんけど、人のためになると考えただけなのでしょう。そういう人です。



適性検査施設についていって、私と陽炎も検査を受けましたが、適性はありませんでした。ヒーロさんは陽炎の適性が出ました。

それから親を施設の人と説得して、2ヶ月後には海へと旅立つことになりました。

私達は止めましたが、最後にはきっとこの人なら、と答えを出しました。好きな人を信じてしまう。きっと子供過ぎて戦争のことよく知らなかったからですね。



兵士になってから、ヒーローさんの活躍は届いていました。やはり、あの人はヒーローです。不知火は返ってきたお手紙に自慢気に胸を張っていました。戦争はいつ終わるのでしょうか、と考えている間に季節は流れ、桜の花びらが散っては芽吹いてゆく。たゆたう時に、平和を謳い、穏やかに過ごしておりました。



高校一年生になった時です。

こいつ、こほん、

陽炎の様子がおかしくなったのは。



陽炎が部活を止めて、付き合いが悪くなりました。忙しい、とのことです。あえて私はなにも聞きませんでした。陽炎とは家が近い上に、親同士も仲がよかったので、家庭事情は耳に入ってきます。家のことを手伝っているのだろう、と思っていました。



しかし、日が経つごとに、陽炎は疲れた顔で笑うようになりました。子供の頃から元気なやつだっただけに心配です。私は陽炎と違って顔には出ませんが、本当に心配していました。



だから、少し学校が終わった後に陽炎を尾行してみました。隣町まで自転車で向かいます。なにをしていたのかというと、アルバイトをしていました。お仕事が終わるのを出待ちして、陽炎に声をかけました。そんなに疲れきってまですることなのか。一体なぜ急にそんなに働き始めたのか。口外しないから相談して欲しい、と不知火は素直にそういいました。



しかし、誤魔化されました。



ショックでしたが、仲が良いとはいえ、知られたくないこともあるのだろう、と不知火はそれ以上の詮索は止めました。



それから陽炎の元気も戻りつつあり、ヒーロさんがお盆に帰ってくることになりまして、陽炎と不知火でなにかお疲れ様の贈り物をしようと考えました。



「ん、なにかあった?」



ヒーロさんは陽炎を見て、そんなことをいいました。陽炎は別になにもないわよ、と答えて、3人で英雄の商店街の凱旋にお供しました。歓迎するつもりが、商店街の人達に食べ物をサービスしてもらったり、と逆にもてなされてしまいました。



なぜかヒーロさんは元気がないようにも思えましたが、深くは聞きませんでした。



それから日がそう経たない内に、幸せを3つ、不幸の嵐が非情にも奪ってゆきました。



陽炎が怪我をして、目覚めない身体になってしまったこと。



目覚めぬ内に陽炎の母親が亡くなってしまったこと。



ヒーローさんが仲間を失った海戦により、軍に居られなくなるほど、適性率がなくなってしまったこと。



大地に強い熱が浴びてむわっとした気体が視界をぐにゃりと歪ませる夏のことでした。



【11ワ●:プラモ店の2階の変な部屋】



提督「不知火さん、ありがとうございます。そこから、ですね。その部分です。前世代陽炎さんが戻ってきた理由、恐らくその海で戦後復興妖精と出会いましたね」



不知火「……どういうことです?」 


 

提督「適性率がなくなった件についてですが、あの陽炎さんにおいては少し変だったんですよ。適性率を測る検査ではまだ陽炎の適性は60%ほどは出るはずでしたが、なぜか妖精を使ったシステム的な検査では1%を切ったそうです。そして艤装を扱えないということから、システムのほうで答えとなりましたけど、適性率の数値には融通は利きます」



陽炎「なるほど、やっぱり男の明石君に無理やり適性出した芸当の逆パターンってこと?」


 

提督「ええ、ということはやはり……」



不知火「時期的にキスカ事件の後ですから、もしかしてあの時、由良さん達が与えた損傷で起きた中枢棲姫勢力への思考機能付与能力が戦後復興妖精という司令の推理も当たりですか」 


 

提督「かもしれませんね……+現海界になりますが」


 

提督「陽炎さん不知火さん、前世代陽炎さんのところへ案内して頂いても?」


 

陽炎「いいけど、あいつ今はもうただの引きこもりよ?」



不知火「とにかく重要な任務だと解釈しました。ヒーロさんのところまで案内します」






遠くに見える大きなショッピングモールは私がこの町にいる頃に出来たのですが、あのショッピングモールは3回もリニューアルしたらしい。家電量販店、スーパーなどはもちろん、大抵のモノはあそこに行けばそろう。波のように定期的にやってくるデフレのせいで、活気ある地元の商店街は今や寂れた木枯らしがお似合いのシャッター商店街になってる。



提督「競争は非情ですね……」



不知火「あのショッピングモールが地域の王様になるのを阻止せんと近場のネームドといってもいい系列の家電量販店、老舗の食品店も奮闘したのですが、高級店はほとんどその歴史に幕を閉じたそうです。この商店街にはあのショッピングモールには手に入らないモノもあったのですが……」



陽炎「肉屋さんには5円から高くても15円という揚げ物があったわね……そのお陰でもうコンビニで揚げ物類は買う気にならないし」



提督「個人商店の素晴らしさですよね。自分の地元にもそういうところあれば活用したんですが……」



陽炎「そういえば司令の家も貧乏だったんだっけ……」



提督「ええ、ここだけの話、自分の場合は雑草の味も知っているくらいです。あの頃は本当に参っていましてね……」



陽炎「そこまでだったんだ!?」



提督「冗談です」



ちょっと冗談には聞こえないわね。その不健康な見た目と、司令の食べ物は栄養が取れたのならなんでもいい、のスタイル。ある意味で調理された食べ物に対しての侮辱にも受け取れますが、いただきます、と、ごちそうさま、を欠かさないし。その根元を聞いたような気がしないでもなかった。



不知火「着きました。ここですね」



まだ店仕舞いはしていない。この店は根強い理由はちょっとマニアックな模型店だからだ。細かいパーツがショッピングモールではそろいにくい。ネットが苦手なアナログ人がちょっと遠くからも車で来ている。



提督「お邪魔します」



金属やプラスチックのパーツがずらりと並び、雑貨屋のようにごちゃっとした店内には見知らぬ少女がレジにいた。「いらっしゃいませ」とあどけない笑顔で出迎えてくれた。



少年「あれ、陽炎さんと不知火さんと准将さんですね」



不知火「おはようございます:



提督「店頭のそれは……」



少年「今ホットなので、なかなか売れ行きがいいんですよね」と店頭の棚にある模型を指差しました。電、春雨、瑞鶴、龍驤、と並んでいるのは間違いありません。闇所属の軍艦でした。「在庫品薄です。どうです?」



提督「む、それなら」と司令は全部買ってる。組み立てるの大変よそれ。 



陽炎「ねえ、私達人に会いに来たんだけど」



少年「あ、二階にいますよ。来たら通していいといわれていますのでどうぞ。奥の関係者以外立ち入り禁止になっている階段をのぼっていただければ」



提督「了解です。それではお邪魔しますね」



1階の商売スペースから見えない踊り場でターンしたら、足の踏み場もないほど物が置かれていた。草の根をかき分けるようにして進み、銀のネームプレートに立ち入り禁止、と銀のネームプレートが貼ってある扉をノックした。「どぞ」と潜むような小声がした。



提督・不知火「……、……?」



司令と陽炎が面食らっている。この部屋は暗く、天井にはなぜかスターウォーズのプロローグみたいに文字列が写し出されて流されていた。中央にはリクライニングに横たわった人間が一人いる。その周りには8つの画面があり、なにかのグラフを映し出している。



彼女は左手でマウスを操作して、器用にも足の指でキーボードを叩いている。もうその人間は、生き物というよりはこの部屋のプログラムの一部といった感じね。



「すみませんね。ちょっと目が離せないんでこのままで」



不知火「この部屋は?」



「お、不知火か。そういえば前来た時は店先だったっけ。この部屋は職場だよ。そうだねえ、波を見ているんだ。このグラフの波を見ているんだ。じっとね」そういうとカチッとマウスをクリックする音が聞こえる。「海で波を眺めているとさ、なんだか予兆みたいに天気の動きが予測できたりしない? しないか。でも、まあ、そんな感じで経済を眺めているのよ。ここって思うところをクリック。投資しているだけね」



陽炎「何の仕事なのよこれ……」 



「投資家でも無職でも。今の時代なんていうの。ほら、ユーチューバーが本業とかだと履歴書にはなんて書けばいいのかな。進化の多様性に時代が追いついてない感じがするわ」



提督「……戦争は終わりましたよ」



「准将、終わってからが本番なんですよ」と、顔も見ずにいう。「今の時代、市場の流れを見ていれば大体の事情は予測できますから。一部エネルギー事業が頓挫してシフトし始めていますね。この金の流れを辿れば、日本関連企業方面か。どーも、想の力ってやつは世界革命起こしかねないですね。どこも保険を打ち始めています。これ、火種ですねえ」



提督「……どのくらい漏れているんです?」 



「さあ……でも異常ですよ。これ、財閥が国内政治操作しようとしてますね。多分、まあ、これ、此方か。此方の尋問内容とそれを手にする奴らを洗えば、とりあえずこの財閥が出てくると思います。そいつらの、ええっと、映像系、ですね」



陽炎「頭が痛くなってきた……」



不知火「戦争は終わりました。もう、こんなことしてまで戦う必要はありますか?」



「海の傷痕此方が生きている限り、あります。准将さん、違いますか」



提督「それはどういった意味でしょう」



「証拠がつかめずにいますが、的中していると思います。それを聞くなら遠慮なく推測を述べさせてもらいますかね……」ヒーロさんは寝返りを打って、自嘲気味な含み笑いをしている。「『戦後復興妖精が現海界することをあなたは知っていた可能性が極めて高い』かと」



陽炎「はあ? 色々と疑問が沸くんだけど。まずあんたがこっちの事情に詳し、」



「陽炎も知っているはず。役人のミスで炎上したし報道もされたからあの海のことがリークしたことくらいはね。最後の電、春雨、初霜、准将さんだけが知っている海の傷痕の当局との最後が気になる。なにを話したのか知らないけど、当局が此方の身柄を託したのは報告書からして読み解けるし、そう考えたら当局の行動にも合点が行くしね」



陽炎「だから?」



「当局と結託して戦後復興妖精を利用しているんじゃないのかなって。そもそもおかしいじゃない。疑似ロスト空間が復活して、想力を扱える戦後復興妖精って、海の傷痕レベルの大事なのに妙に静かだしね。そこらも想力四次元ポケットでどうとでもできるでしょ。戦後復興妖精に危険がない確信があるとしたら……」



不知火「……したら?」



「当局、または仕官妖精が此方のためにアイデアを出して准将さんがそれに乗ったってところかな。どう考えても此方を普通の女の子として生活させる選択肢に世の中が流れるわけないじゃん。私達が産んだ生き物だとしても、だから我々は罪を悔い改め、あの女の子の生を許容しましょう、だなんてマジで謳ってんのどこぞの新興宗教だけでしょ。深海棲艦は何万の人を殺したと思ってんの」ヒーロさんはいう。「艦娘……いや、明石君の加入から公式名称は艦の兵士か。ガングートさんみたいに艦の兵士ですら殺せっていう過激な人いるし」



不知火「司令、そうなんですか?」



提督「いいえ」



不知火「ヒーロさんの妄想ということですね」



「不知火、あんたが准将をすごい好きなのは分かった。前世代より忠犬素養あるわね。でも、もっと客観的に考えてみなさいよ。その人、書面からわかるほど個性的かつストレートな変人だし、私よりあんたらのほうが分かるはず」




「本当に目的のためにその人は身内を騙さないって思うの?」




不知火「その問いにはいいえ、ですが、だからなんですか、と」



「ええー……」



陽炎「無条件で信用できるやつもいるってことよ」



不知火はちょっと妄信的に思えるけど、私の答えも同じね。例え、司令がすべてを知っているとして、私達に話していない部分があるとしても、この司令なら信用できる。鎮守府(闇)の連中ならみんなそういうだろうしね。裏切られた、としても、死ぬまで信じているだろう。



裏切られても信じたことを誇りとして胸を張れると思う。司令が私達に与えたモノがどれほどのモノか、理解しているかは怪しいけど。



提督「いや確かにあの場で当局から此方さんの生存方法についての入れ知恵はありましたし、戦後復興妖精のプログラムが作動するよう最後に調整しておく、といわれましたよ。あの場では自分だけが教えてもらいましたから、電さんも春雨さんも初霜さんも知りませんし、教えてはいません。軍にも一部しか知らせていない機密です」



陽炎・不知火「」



提督「海の傷痕消滅についての情報を探りに来るとは読んでいまして、省内だけでなく大本営や北方の総司令部にも網は張り巡らせておきましたが」司令はスマホの画面を難しい顔で眺める。「電子に想力を乗せてこの艦隊これくしょんのゲームを開発してくるとか読めなかったですね……」



陽炎「それでも読んじゃえる気がするからこその変態司令なのにね」



提督「陽炎さんはわるさめさんを自由にしてなにし始めるか読めますか?」



陽炎「ごめん無理。ざっぱなら分かるけど具体的にといわれるとさっぱりになるわ」



中枢棲媛勢力と2年も遊んでいたやつの行動は読めないわ。



「……私に教えても大丈夫なんですか?」



提督「言葉が悪いですが、愚問です。まずはお伺いしたこちらの誠意ですから」



「……あ、なるほど。私と戦後復興妖精の情報ね。それが知りたいってことは、うん、ごめんなさい。陽炎不知火の信頼の通りだわ。あいつの情報を機密漏らしてまで教えてくれるってことは決して八百長なんかしていなくて、想定外の事態が起きている故の聞き込みってことね」



「この手の話すると気を失っていたんだけどね。それが口止め方法。戦争終結してから条件がバグってるのか海のこと喋っても意識なくらなくなった。前はあの海のこと喋ろうとすると意識なくなってたから」



提督「きっびしい制約つけられましたねー……」



「不思議ですね。此方を最も憎悪してもおかしくないあなた達がなぜか全員擁護派です。あの海での戦い、なにがあったのでしょう。情報は断片として漏れていますが、最後のロスト空間で当局と会話したあなたと駆逐艦電、そして駆逐艦春雨の会話を知りたいです。その時になにか当局と契約染みた取引をしたと私は予想しています。ここについてはなぜか比較的、情報を漏らしていると思われる精神影響者のわるさめも完全に口を閉ざしている、いや、上手くいい逃れしていますね。あなたが口裏を合わせるよう指示したのなら納得も出来ます」 



提督「そんなことまで、予想できるのですか。バグに関しては色々と流れていますがネットの情報でも真に受けました?」 



「ネットの情報を真に受けるなんてご冗談を。でもその全てにヒントはあるんですよ。火のないところに煙は立たない。煙は無視しても構いませんが、火種は情報の塊です。情報の情報の情報まで分析して、それらを見極める資質を備えれば真実は自ずと見えてきます」



提督「あなた陽炎適性者だったとは思えないほど性格が変化してますね……」 



「あなたの性格なら私の解体理由も調べていますか?」



提督「姉妹艦の殉職をきっかけに、とは」



「陽炎適性者ですよ、分かるでしょう」




「私は私でケリつけないと気が済まないの」 




提督「あ、そうなんですか」



司令は意外そうな顔をしている。きっとこれはもうなにかよく分からない駆け引きが始まっているわね。この手の勝負なら司令に任せてお口にチャックよ。不知火が察したのか黙っているし。なにかいいたそうな顔がうるさいけど。



提督「効率のため、解体したのかと自分は思っていました。うちの陽炎さんはあなたより成績が劣りますが、陽炎の後釜です。想の力で契約したあなたはそちらの役割に回って戦うことにしたのではないのですか?」



そこで彼女は始めて体勢を変えた。寝返りを打って司令のほうを凝視しています。髪は伸び放題、部屋に引きこもっているからか肌は白く、そして肌は小綺麗だ。



「……ごめんなさい」



提督「契約内容について、それ以上の融通は利きませんか?」



その問いには答えずに、再び仰向けになる。



天井のスクリーンにはチャットの文字列が流れ始めている。どこのどなたか存じ上げませんが、相手のハンドルネームは『億万長者(笑)』とあります。二人はよく分からないグラフを出しあってよく分からない専門用語の混じったチャットを始めました。司令は「お邪魔しましたね」と声をかけると、部屋を後にしました。最後に、とメッセージを残しました。



提督「救いは、艦隊これくしょんに携わったあなたにも確かにありました。受け止め方次第ではありますが、自分でお力になれることがあれば遠慮なく」



「……どうも」



司令は去ったけど、私はこの場にまだ留まることにした。



陽炎「どういうこと? 私には戦後復興妖精と手を結んで、富を築いたようにしか思えないし、対深海棲艦海軍の周りに金の流れを作ったとしたら、それが戦後復興に結びつかなきゃ……」



陽炎「戦後復興妖精はこっちに想の力を持たせることで『海の傷痕:当局&此方』の殺害に協力したってことになるわよね。その戦後復興妖精、親殺しをしようとしたの?」



陽炎「ヒーロさんの仲間の敵討ち、此方を仕留めるまで終わらないわけ?」



「人の心には壁があるもんなのよ」



「此方の罪は消えないからね」



不知火「だからなんですか。不知火達だって深海棲艦たくさん沈めました。戦争を終わらせることで此方にとっての最愛の人を二人も殺したも同然です。そんな悲しいだけの連鎖は終わったんです。不知火は悲しい。いつまでも憎んでいるだけでは害悪です」



大局的に見て正しいのは不知火、だと思うけど、しかし、個人の感情で測った場合はモヤがかかるわね。大切な人を失った痛みは憎悪と化して、その奪った相手に矛先が向くのはごく自然なことだからね。過去の経験からして私にはわかる。



「誰もが肯定する絶対的な正しさが世界に1つでもあれば、歴史はもっと穏やかだったはずだ。ないから正義の反対はまた別の正義になる。争いが正義と悪に別れているのなら、世界は単純すぎる。意見が食い違うのはあの最後の海を経験したか否か。私の性格は知っているはずよね。私は私の手で一発やんないと気が済まない訳」



陽炎「方法の問題よね。前のあんたならきっと今すぐにでも大本営に乗り込んで此方と話をして一発ぶん殴って終わることができるはずよ。引きこもってネットの海に浸かっているから、そんな風になったんじゃないの?」



「不知火はどう思う?」



不知火「好きにすればいいと思います。言葉にするのは心苦しいですが、此方さんは生きるべきだと思っています。尊重するべき命です。あの存在の発祥こそが人間の罪ですから」



私達が産んだというのなら、私達は母親になるのかしら。



殺すか生かすかならば、後者を選択する。母が子を見捨てるのは間違っていると思いますから、助けられるのなら、それを此方が望んでいるのなら、そうしてあげたいわ。



それに擁護派には想の力に関する重要参考人、世界の命運を分ける人物を殺すのは愚かだ、という正当な主張も確かにある。情報が完全に抜かれる前に脇を固めてさえしまえば此方さんは人間に迎えられるはず。だけどこれをいっても平行線でしょうね。鹿島艦隊の悲劇、鹿島さんが中枢棲姫勢力を許せたかどうかといえば答えはノー、だ。されども最後には彼等に敬礼を送った鹿島さんのような強さを身につけるべきよね。



「陽炎」



陽炎「陽炎だから、私はあんたの考えていることも気持ちも分からなくもないわよ。だけど、こっちの陽炎不知火の気持ちも考えてみて欲しい」



あの海での戦いの憎しみを語りたいわけじゃない。



この部屋に残る確かなあの日の残骸が眺められただけでも、来た甲斐はあった。陽炎としてきたわけじゃないのよ。また昔みたいに不知火と三人ではしゃぐことができたらいいなって思った。動かそうとしている時計の針は思いの他、重いようだ。



興味をなくしたように、マウスをいじり始めました。チャットが更新されていく。最新の株価の数字がずらりと表示されると、億万長者(笑)さんが「そっちの近場のショッピングモール、また吸収されるかもねー(笑)」とおどけた発言をしている。



知ってはいたけど、戦争終結してもめでたしめでたし、とはいかないか。






不知火「別に不知火は落ち込んでなどいませんよ、ええ……」



怖い顔をして、不知火はそんなことをいう。司令は頬杖を突いて、窓外の空をぼけっと眺めている。問題発生時に珍しく言葉ではなく、ため息でも出しそうな雰囲気だった。不知火「ヒーロさん、重症ですよね。不知火ではどうしようもありません」



だから司令、なんとかしてください、とでも繋がりそうなニュアンスだった。



陽炎「司令でも無理でしょ。先輩の私ながら面倒臭いわ。確かに私がヒーロさんだったら、絶対に自分でもなんか一発ブン殴ってやらないと気が済まないし、海の傷痕とか戦後復興妖精の肩を持っている軍の言葉なんか綺麗事にしか聞こえないだろうしね」



提督「性格でしょうね、やっぱり陽炎の適性者です。あの人、陽炎さんと似ている部分が」



陽炎「はあ? 今のあいつと私は似ていないでしょ……」

 


提督「切羽詰まったらガンガンいこうぜ、を選択する。なまじ感情を制御できるから瑞鶴さんのように欠陥作戦を立てた提督に感情をぶつけることもなく、阿武隈さん鹿島さんのように海から逃げることもしない。暁さんも最後の海ではそうでした。自分の命令を無視して即探照灯の照射始めましたし、責任感があらぬ方向に行くネームシップ症候群?」

 


陽炎「なによそれ……」



不知火「わからなくもないですが、司令、この場合はどう動けば……」



提督「それを答えるだなんてとんでもない。もう自分はあなた達の指揮を執る気はありませんからね。あなた達はもう艦ではないですし、自分で操縦どうぞ」司令は不知火と私の顔を交互に見ていう。「長月さんと菊月さんは難題を自力で解決しました。あなた達にもできますよ」



不知火「ああ、那珂さんの歌番の一件はさすがに驚きましたね。街の男の子たちと仲良くなったそうで、SNSのほほえましいやり取りは見ました」不知火はあごをテーブルの上にだらしなく乗せていう。「しかし、今回は子供のケンカではありません。不知火の手には負えないので司令なら、と思ってもいたのですが。あの海関連のことですし」



提督「不知火さん」



不知火「はい」




提督「うざいです」




ちょっとの間はなにをいわれたのか理解するのに少しの時間を要したみたいね。その時の不知火の顔といったら、それはもうこの世の終わりのような絶望色に染まってた。いや、まあ、良い薬にもあるからね。最近の不知火、司令司令とうるさいし。



不知火「」



陽炎「ちょっと司令、不知火の口から魂抜けているんだけど……」



提督「あの人のことなら自分よりよほどあなた達のほうが詳しいでしょう。あの人がやろうとしていることは把握しましたが、どうしたらあの人の力になれるのかは自分には判断できません。常識人の正論説得が関の山ですが、それでは止められませんからね」



陽炎「じゃ、ヒーロさんがやろうとしていることだけ教えて」



提督「あの部屋のPCと繋がっていた機械、外付けのハードかと思いきや、違いますね。見間違えるはずはないです。艤装の一部を改造したモノでした。海戦時を探した可能性もありますけど、近代化回収でも使用しなかった部分は廃棄されるので一般でも入手出来なくもないですが、あの方は戦後復興妖精と契約しているので、そこからもらったギミック付きの代物かも。または妖精可視の才があった彼女が自前でこしらえたモノのどちらか」

 


陽炎「は? なんでそんなもんがあるわけ?」



陽炎「本当になにかしようとしているわけ? まさかその艤装デバイス、その想力のたまり場になった一部の艤装みたいになってる?」



提督「恐らくそれが彼女のあの妙なやる気の源でしょうかね。それに疑似ロスト空間に繋がっているのなら、意思疎通で飛べるかもしれませんね。それに想力のたまり場になった艤装が有効打とはなり得ることは確認済みです。最もそれで戦ったところで勝ち目はありませんが、あの感じだと当たって砕けろでもおかしくはないかと」



淡々と準備していたってことね……。



もしもあの人が戦後復興妖精と協力したのが五年前だとしたら、きっとあの日からああいう風にこの町で戦後復興のためとやらに敵にほぼ強制的に働かされていたのだろう。憎い相手に手を貸して、それでもなお軍の支援を選んだ。だとしたらその執念は決して私達が言葉でピリオドを打てるものではないのだろう。司令が、いった。



提督「どうしますか」



陽炎「放置以外にないわね」



司令が、そうですか、と昔みたいな無感情な声で返した。不知火がなにかいいたそうな顔でこっちを見ている。ちょっと視線が戦艦がかっているし、責めるような雰囲気だ。



なにか間違ったことをいったつもりはないのだけども、私はこの居辛くなった自宅から逃げるようにして散歩に出かけた。



【12ワ●:線路沿いにて思い出会う】



吹き付ける春の柔らかい風が地肌を撫でていく。



陽炎「あー……だっる」



照り付ける直射日光をまともに受けながら、線路沿いのあぜ道をまっすぐと進む。周りは田んぼだらけで、上を向いてぷかぷかと浮かぶ叢雲を意味もなく見上げながらどこまでも歩く。信号もなければ車の交通量も少ない緑の田舎道だ。



ここは免許取り立てのやんちゃ坊主達がメタリックなボディの単車のエンジンをふかして、そこの踏切をスタート地点として電車とレースを始める通称、不良道として有名だった。

今はどうなっているのかな。

そういう元気溌剌かつちゃんと環境を選ぶような不良は絶滅しているのかな。口からフーセンガムを膨らましながら、そんなこと考えた。



そういえば戦争終結してから1キロくらい体重が増えたっけ。



少し胸も大きくなった。陽炎やっていたころは体の成長なんか止まっていたし、気にしたこともなかったわ。好きなモノも飲み食いしてもこの体の見栄えは変わらなかったけど、今はもう違う。帰還して眺めた着実に肥大化していっているメタボ気味の町のようにならないように体調管理も必要か。うん、甘いモノは控えよう。



この風景も明らかに緑が減っていて、建売住宅なんかも出来ている。春休みのこの時期には竿を持った少年がここでザリガニ釣っているのは風物詩だったが、今日は見当たらない。

夢見のように繰り返していた戦争終結を願いながらも、いざ終わってみれば変わらないモノばっかり探しているのはなぜかしらね。この町には嫌な思い出も多いはずなのに。



陽炎「……」



いや、小学生ではないけれども、ザリガニ釣ってるやつがいる。麦わら帽子をかぶった学生服の女の子だ。高校生くらいの女の子が一人でザリガニ釣っている。なんだこれ。流行りなのかそれとも変わった趣味を持った女の子なのかどっちよ。



というか、あの学生服、どこかで見覚えがあるわね。どこだっけ。いやいやいや、どう見ても白露型じゃん。コスプレなのか似た制服の私立でもできたか。通りすがりにその子がぽつりと漏らした言葉で、足を止める。



春雨「体重がー、とか、ファッションがー、とか、実に平和ですね」聞き覚えのある声だ。「女の子らしい悩みを満喫していますね」



さすがに気のせいよね。



いやいや、どう見てもわるさめじゃん。春雨ぶっている理由は知らないけど。



陽炎「簡潔に答えろ。なぜピンポイントでここに現れたのか、そしてなぜ私の心中お察しなのか」



わるさめ「司令官は知っているよ。これで大丈夫だよね」



陽炎「まあ……それでなんか用なの?」



わるさめ「ホントは悪い島風ちゃんの出番なんだけどね、ただいま仕込み中だから代わりに私が請け負いましたよっと」わるさめはいう。「そんなことより、訳あって想の力で繋がっている非礼を先に詫びとくね。カゲカゲも色々あったんだねえ……」



想の力で繋がるってことは、建造して艤装身につけた感じかしら。アレは私達の想力を貯める器としての機能もあったから、私達の心の思いを貯めていたはずだ。なるほど、出会い頭に私の悩みをいい当てた魔法の種は理解した。



陽炎「私はあんたと違うからね。親の治療費稼ぎに来たわけじゃないから。家族周りのことは艤装身につけた時すでに割り切れていたし」



わるさめ「変なやつ」わるさめはわざとらしく首を傾げた。「親のこと好きだったからがんばっていたわけだよね。目が覚めたらすべて奪われていて、ヌイヌイに復讐止められて、すんなり止めて、前世代カゲカゲの敵討ち誓って、これ三日以内の出来事だぞ。カゲカゲの心情的に薄情っていうわけでもないさそうだしね……」



陽炎「だからなによ……」



わるさめ「お母さんの死をうじうじといつまでも引きずっていたわるさめちゃんからしたら、すごいや。ぽいぬ姉……は別ベクトルか、うん。元気一番姉も同じだ。暁もそういうところある。一番艦ってさ、やっぱりお姉ちゃんっぽいんだよ。妹の痛みには敏感なくせに自分の本当の辛いところは明るく振る舞ってごまかして隠そうとする。カゲカゲのさ、すぐにスタートテープ切る速さは才能だって思うんだー……」



陽炎「……」



わるさめ「どうした? 今の悩み、その頃より地獄か?」



そういうことではなく、解決できないなら放置しかないじゃないの。わるさめは私の心を読んだかのような言葉を続ける。



わるさめ「この戦争のこと知らずに参加したわけじゃないよね。終わらない戦争っていわれていた永遠のコンテンツ『艦隊これくしょん』の戦争に、陽炎の役割を担ってやってきた。解決できないなら放置しかないのなら、そっちのほうがすごいじゃん」



「カゲカゲは本気でこの戦争を解決できるって思って参加したんだよね」



ンなわけあるか。この戦争がどういうものかってこと、不知火の親にも散々いわれたわ。もはや日常の営みとまで浸透して経済まで根付いていた戦争だと。実際に建造して擬人化陽炎みたいになって海と鎮守府を行き来して、イヤというほど思い知らされている。



でも、解決しそうもない問題に対して、今みたいに放置を選ばなかった。



わるさめ「地に足が着いてねえな」



まあ、確かに艤装みたいにスイスイ楽に進めない。水と違って地面は固いし。



わるさめ「もう少し歩いてみなよ。答えが出たら引き返してきなさいな」



よくわからないが、とりあえずもう少し線路に沿って歩いてみるとした。すぐそこにでバイクに乗っているのは男がいる。不良には見えないが、なんとなく話しかけてみるとした。



陽炎「ねえねえ、この道ってまだ不良の電車レースに使われてんの?」



と話しかけてみた。しまった、ぼうっとしていたためか素が全開だ。



「陽炎。間違いない。うん、間違いなく陽炎だ」



陽炎「すみません、どなたですか?」



「どうした。不知火ちゃんみたいになって」



陽炎「……ん?」



割と地元じゃ有名人みたいなので名を充てられること自体はあるかな、と思いきや、どことなく見覚えがあるようなないような、懐かしい感じだ。そいつの顔を眺め回してみると、思い出した。両手を叩き合わせてから指を指して、いった。



陽炎「思い出した。駆逐艦陽炎ではなかった頃の女の子時代の!」



「いや、まあ、そうなんだけどさ」どことなく歯切れが悪い。「俺も里帰り中なんだよ」



陽炎「へえ、地元から離れてるんだ」



「あー、対深海棲艦海軍にいたんだが」



陽炎「え」



「最後の海にいたぞ。元帥艦隊の拠点軍艦に労働力として乗せてもらったから、海の傷痕のことも、あの鎮守府のことも知っているな。まあ、俺は北方のほうで憲兵していたからそっちとはあんまり交流なかったし、知らないのも無理はねえわ」



確かに北方方面は出向いたことはなかった。軍学校卒業してすぐに丙少将のところに着任した。遠征はやらされていたものの、着任したてのルーキーなので危険の少ない海域ばかりだ。地元とは戦争終わるまで帰らないって、すっぱり縁を切っていたし。



陽炎「でもなんで対深海棲艦海軍に?」



「大学辞めちまって、ふらふらしていた時期にヒーロさんに妖精可視の才あるなら軍に行け、と勧められてさ。親もうるさかったから、行ってみるかって流れだな」



陽炎「丙さんと似たような流れね……」



「俺と一緒にすんなよ。あの人は色々と高スペックだ。いや、あの海で指揮を執った人は半端ねえわ」少し照れくさそうに人差し指で頬をかいた。「あの海の傷痕と戦った艦の兵士の勇姿もな。すごかった。うまく言葉に出来ねえ」



陽炎「なにを他人事みたいに。軍にいたのなら、あんたも英雄の一人じゃん」



「勲章はもらったけど、お前んところの准将さんがすごすぎだわ。軍学校の成績じゃ俺以下だったのに准将まで登り詰めたやつなんて前例ないだろ。ビッグ組織の末端から将の席頂戴とかどんだけだよ。なんかもうあの人、なんなんだろうなとしかいえん」



陽炎「あれは一種の変態には違いないからね……」



そっちの軍学校は在籍時点で出世コースに乗れるかどうかだと龍驤から聞いたことはある。あの司令は出世コースからは外れていたみたいだから、ある意味でシンデレラストーリーだ。丁准将が司令に目をつけて補佐官につけたらしいけど、王子様は丁准将になるか。いやいや、私はなに考えているんだ。春先の季節に頭でもやられてしまったのか。



「ところでお前、その恰好なんだ? 気合い入っているが、男にでも会いに行くのか?」



陽炎「不知火のやつに着せられただけよ。あんまり好きじゃないけどさ、私も陽炎の殻から抜け出さなきゃならないし、慣れないこともいいかもって思ったのよねえ……」



「似合う服より好きな服着りゃいいのに。お前はそういうやつだったろ」



ふと、彼が薬指の指輪をはめていることに気づく。エンゲージリングってやつか。なんだか衝撃的だった。私の同級生が結婚、だなんて、時間の流れをストレートに感じる。



陽炎「結婚したの?」



「まあ、もう少し先にある実家に嫁さんいるよ。友達と会ってるから俺は暇してんだ」



陽炎「へえー。おめでと」



「おう。お前も不知火は……って聞くだけ無駄か。お前らに男とか想像できん。特に不知火な。あいつに男出来たらぜひ教えてくれ。あいつがどんな顔するのか気になる」



不知火は、うん、確かに私でも想像出来ないわ。



「そういえば不知火は家か。一緒に帰ってきたんだろ?」



陽炎「准将来たからあいつは忠犬みたいにそばにいる」



「マジか。准将さんこんな退屈なところに来てンのかよ」



指パッチンした。しょうもないことでガキみたいにはしゃぐのは昔と変わらないか。確実に時間は流れているのに、あの頃と同じね。まるで海とか空みたいな景色だ。高校の時は私大変だったから疎遠になっていたけど、中学から六人くらいでつるんでいたのよね。不知火とヒーロさんとこいつと、男二人。聞いてみたところ、他の連中は地元から離れたところで就職して年に一回しか帰ってこないとのことだ。



「よし、自転車取ってくるわ」



陽炎「そのままバイクで行かないのか……」



「改造したから乗り回して遊んでいただけだ。無免だし」



田舎ってけっこう無法地帯よね……。



でも、なんか感謝したい気分だ。少しだけ思い出した。



損得勘定だけで物事を機械的に図って結論を出すって、あの司令の影響でも受けたのか、と。そうじゃないわよね。どっちかといえば、行けば分かるさ、の性分だし。そんなこと考えながら、踵を返して歩く足は不思議と軽かった。わるさめがまだいる。



わるさめ「ザリガニ釣ったけど、要る?」



陽炎「それは要らない。でわるさめ、あんた事情は把握しているのよね?」



わるさめ「うん。ちなみに陽炎先輩はもう出撃したみたいだね……」



思えば陽炎やる前からこんな性格していたのに、陽炎の殻から脱皮するっていうのも違和感だ。ちゃちゃっと助けに行かないとね。それで解決じゃないか。



どうも私は悩みごとが1日も持たない幸せな頭をしているようだった。




【13ワ●:想題:前世代陽炎】



【死んだ仲間を生き返らせたい?】それは無理無理、とそいつは腹を抱えて笑った。【こんな連中を甦らせても、世界への復興には些細な影響力しかないだろ!】



ようやく見つけた仲間の屍を覗き込みながらそいつはいう。



一体今日という日はなんなんだ。

奇妙な深海棲艦の群れを見かけたと思ったら、非常に統率された夜襲を仕掛けてきた。向こうを指揮したのが人間だと思える程の動きだったし。やっとのこと陸地に隠れたと思いきや、妙なのと遭遇する。まるで魔法使いのように私の傷を瞬時に癒し、そして次には戦後復興やら、とのワードで契約を持ちかけてくる。



「私の傷を直したようにこいつの傷も直せるのよね。だって私達は女神とかで死んでも甦るんだから、死人を甦らせることも出来るんじゃないの?」



出来る限りの冷静を装い、いった。



【でも私の存在を話してもらうのも困りるからねー。漏洩を塞ぐための口封じの代価として、特別にその契約を可にして差し上げようか?】



【正し! 先に契約な!】



【差し出された不透明な希望を信じるも信じないのもあなた次第だよ! さあ、その人間の人間による人間のための心身をかなぐり捨てて、心のままの選択をどぞ!】



【か・げ・ろ・う・ちゃ・ん!】



手品のように現れた契約書類を差し出される。よく分からないが、この書類の文字は理解可能ではあった。

本当に甦らせてくれるのだろうか。

そんなこと考えている時間も選択肢もないと結論付ける。 この書類に書かれていることなんて真実かも怪しい。それでも他にすがる希望はないのだから賭けるしかない。

契約の印という髪を一本、千切る。



【● ●】



気味の悪い瞳は、どす黒く染まった充血色だった。奥底の知れない暗闇だが、どことなく空虚だった。迷いを振り切って、髪の毛を契約書の署名欄に乗せる。



【Trance】



どこからともなく、機械が現れる。本当に突然、そこに現れた。その艤装の形状は自律型の連想砲君とよく似ている。



【契約履行します】 



ここからは歴史に刻まれるほどの私の罪の景色だった。



そいつはやっとのことで見つけた仲間の屍の一部、それを手に取ると、私の艤装の第一砲塔を腕力で砕いた。それらが手品のように消失する。謎の連続に認識力が追い付かず、ぼけっと立ち尽くすことしか出来なかった。



【時間がかかるので、少しお話しましょうか】



【女神は、装備してないとダメなんですよね。まあ、これはルールでして、プログラムを書き換えれば抜けられる穴なんですが、私には立場上それが出来ません】



「ルール……プログラム?」



そいつは砂浜に腰を下ろして、穏やかな海の水平線を眺める。寄せては返す波音にかき消されないよう、波の間に間を見計らい、静かな声でいった。



【死んだらどうなると思いますか】



「……天国と地獄、それか無の3択なら天国を信じたい」



【どれでもない……】



正解を知った風な口ぶりだった。



【あなたが彼女を救う選択をして甦るのですから死は公平であっても平等ではないのでしょうね。ならば、そこには競争原理が働くから、人は死んでも楽になれないね】



「一体なにいって……っ!?」



不意に殺気を感じて、振り返る。



そこにいたのは、深海棲艦だった。すぐさま砲を向けるが、その口から漏れている言葉に、手を止めた。こいつはなんだ。なにを喋っている。「かげ、」と、私の名を呼び掛けていた。そのニュアンス、声音、どことなく似ていた。



【これが今の私の限界かな。生き返らせた】



「ふ、ふざけてんの! どこからどう見ても深海棲艦でしょうが!」



【人間ってホントに笑わせてくれるよね……】



【だからなに。その子はその子なのは分かっている風だよね。本当にその子なんだよ。深海棲艦だから、なに?】



【仲間だ愛だのほざいた挙げ句に泣きわめいて結局は自分の理想とは離れていたからクーリングオフ?】



【だとしたら人間の愛って悲しいね】 



【契約と同じだね】



【止めてくださいよ。私は愛を信じているんだから、永遠の愛を誓ってすぐにおじゃんにするのも、それに大人の事情で言い訳するのも】



【愛の価値を下げないでー。真実の愛を信じている純粋な子供の私の心もどす黒く汚染されてしまうよ。このクソ社会にね】



言葉で心をいたく傷つけられる。契約なんかじゃない。姿形が変わっても、あいつはあいつよ。そうでしょ。

陽炎、と名を呼ばれた。

目の前にいる深海棲艦というリアルと私の愛がせめぎあって葛藤をする。

考えた。足りない頭で思考を巡らせた。目の前のこいつは、攻撃意思が、ある。それを抑えようとしている風に見える。



ならば現状問題はまず無力化しなければならない。



無力化した後は?



深海棲艦がこちら側で生きていられるか?



それで死んだら元も子もない。



ならば匿うか?



どうやって匿うの?



そもそも一生このままなら、ずっと匿うの?



元に戻す方法を探すしか。



でもそんなのあるのか?



「……む、りだ」



結論、手に負える問題ではない。1兵士の処理能力を越えている。どうしようもない。愛情の限界を思い知らされた心は、戦場で培った判断能力が砲口の動きに連鎖する。



しかし、心がブレーキをかける。



なんなんだ。これは一体どうすればいい。泣きそうだ。



【その子は出来る限り、知能を高くしてあります。通常の深海棲艦なら、そんな風に攻撃を躊躇いませんよ】



「どういうことよ……」



「その言い方だと……」



【想いの詰まった艤装をベースに人の肉をまとう】



【深海棲艦の正体はあなた達が反転した存在だっていっているんですよ。だから、この海に縛り付けられているんです。おかしいと思いませんでしたか。深海棲艦がなぜ対深海棲艦海軍にご執心で、なぜあなた達が防波堤となり得るのか。その答えです。純粋な想いの結晶だから】



衝撃が、過ぎる。断片的なこの海の情報が頭をかけ巡る。その可能性は、なくは、なかった。もともと、深海棲艦の正体は艦娘だというのは確定はしていなくても有力な説である。



「なによそれ……」



仲間と殺し合っていただけってことじゃない。かつて喜びを分かち合った仲間と決別、そして殺し、また深海棲艦候補生の兵士が補充され、延々と繰り返してきたという。この身にまとう艤装、これは深海棲艦を殺す道具でありながら、艦娘を絶望させるモノじゃないの。自分の首を締める武装に気付かず、戦っていた兵士はまるで道化だ。



「助けてあげられなくて、ごめん」



せめて、とこの手で沈めた。なるべく痛みを感じないように頭を吹き飛ばしたつもりが、まだ生命活動を保って生きている。艤装のほうも、残りの弾薬を全て消費して破壊した。 



鉄と肉の塊だけが、そこに虚しく残る。



「あんたが、黒幕なのね」弾薬のない艤装でも、砲口を向けて攻撃の意思を示した。「ただじゃ済まさないから」



【まだ折れてないなんて見所ありますね。さっすが陽炎型のネームシップ、最高級の素質適性者です! なるほどなるほど、その心こそが今を生きる力の強さってやつかー】



【私は黒幕のパシり2号ですよー。契約して漏洩しないようにしてあるといえど、そこに関しては口が裂けても言葉には出来ませんけどね!】



【黒幕が憎い……って聞かなくても答えは分かりますね。でもそろそろ気付いていますよね。その艤装、思う通りに動かせなくなっているんじゃありませんか?】



【明日には適性率は1%以下に落ちてますからね。あなたはもう陽炎として軍には要られませんよー。そして契約内容の通り、今夜の情報を誰かに伝えることはどんな手を使ってもできまっせん! ここらは試してみれば分かると思います!】



【……あー、なんかごめんね。私は騙す気なんてなかったんだよ。本当にあなたのためを思って私なりに全力で蘇えらせたんですから。でも、やっぱり、あなたは見所ありますね。契約内容を少し変更しますか?】



【この魔法の力を貸して差し上げます。用途は限定的になりますが、そうですね、戦後復興に役立ち、かつこの情報を知ったあなたの武器はコレですね!】 



手から魔法のように金塊が沸いて出る。もはやなにも驚かなかった。心は今の海の穏やかで、思考は冴えている。冷静に物事を考えれる。日々の訓練はこの身に染み付いている。



【近々とある変態提督のせいで対深海棲艦海軍の権威は地に堕ちるかと。うーん、私の読み的にお金回りのサポートして欲しいですね。けっこう軍のお金回りも厳しくなりそうですが、それは国のお金だから、で、個人の財産なら話は別ですからね!】



【今回は事故のようでして、私はもうすぐ消えちゃうんですよね。でもパーパにお願いしてバランス調整を頼んでおきます。あなたの実家の引き出しに契約書だけ入れておきますから、気が向いたらサインしてください。私と繋がると思うんで。色々とワケわからないと思いますが、そゆことで】



【ご都合主義☆偶然力!】 



機銃の弾丸のように次々と言葉を放った後、瞬時に連装砲君ごと消失した。それと同時に遠くから、光が灯った。あれは探照灯の輝きだ。どうやら仲間が救助に駆け付けてくれたようだ。



駆け付けてくれた仲間に、先程の光景を伝えようとすると、意識が落ちた。次に目覚めた時にはベッドの上だ。紙に書き残そうとすればまた意識が落ちる。目覚める度に警告するかのように激しい頭痛もついて回った。



この身が無事なことを喜ぶ仲間の顔をまともに見ていられなかった。海へと抜錨するみんなは、やっぱり気付いていないのだ。その身にまとっている艤装は、返す刃であり、自分達の首に刃を突きつける代物だと気付かない。



私は、知ってしまったから。



肩を並べて、戦えないわ。深海棲艦を殺したくなくなった。



突然落ちる意識、艤装をまともに動かせないまでに低下した適性率、兵士としての解体申請はスムーズに受理された。この海の呪いを引き連れたまま、逃げて帰還する羽目になる。



でも闘志は消えてなんてなかった。



黒幕とやらを引きずり出す使命を新たに帯びたのだ。



2



帰還すると変わっているのは活気がなくなった地元の商店街と遠くに見える大きな建造物の景色だけ。帰還すると皆からは優しい言葉をもらえたが、まだ終わりではなかった。



始まりですらある。



学校の復帰なんて後回しだった。実家は2号店を出すとかいうので、こちらの店は私が受け持つといい出した。とりあえずは日常の繋ぎを固めて使命に没頭した。



この海の謎。第二次世界大戦時の海戦になぞらえた戦争、あいつからの情報を元に考察していけば確かにナニカの影が見える。全てのシステムがこの人の手によって造られた街と同じく、作為的に見えなくもない。ナニカの意志がこの戦争を輪廻させている。そしてその意志は考える力のある生命だ。



しかし、そこで行き詰まる。



影の正体を照らせない。分析をしつつ、新たな情報の更新を待つしかなかった。発達したネットの海に溺れて、現存しているすべての情報を整理にかかる。



日に日に肌は白くなっていくし、体力も落ちていく。



不健康な容姿に墜ちて、もう周りの目も気にしない。個性として身体に現れてていくのは必然だった。やり遂げるためには、色々なものが削ぎ落ちていくのだ。なにも捨てられないやつに、なにかを成し遂げられるほど、甘くない。



そんなある日のことだった。



昔から私によくなついてくれている女の子が家に来た。そういえば帰還した時にしゃべった以来かな。



今日はいつも一緒にいる活発な子のほうがいない。どうも階段から転げ落ちて病室で寝たキリになっているようだった。その子とお見舞いに行く。いつ起きるか分からないし、もしかしたらこのまま死んでしまう恐れもあるという。そっか、とやけに落ち着いていたのは死に慣れていたからか、情報の海に浸かりすぎて感性が鈍ってしまったのか。そんなこと、考えた。



「私は気付いてたんです。でも、なんとかしてあげるにはあまりにも、私は子供です。無力なのは悲しいです」



いつも無愛想な子がその長いまつげを悲しげに伏せた。この子とは、いつも一緒にいたもんね。友達とか仲間とか家族とか。あの海に置いてきた感情が久しく顔を出した。大切な人が隣からいなくなってしまう気持ちは痛いほどに分かる。



そしてこの子の母親が逝ってしまった。いつも不幸は唐突だった。この子はいっそのこと起きないほうがいいのかもしれない、とすら思った。起きても絶望しかない。



「早く、目覚めてください。起きて生きないと、お母さんが悲しんだままです」



それでもこの子はこんなことを想ってる。死んだ母親か。そうだね。きっとこの子の幸せを願っている。それはきっとここで寝たきりのまま、ましてやこのまま死ぬことを望んでいる訳がない。

この子は目覚めても確かな希望に包まれている。



なんとかしてあげたい、と思うのは悪い癖だと知ってる。あの海であいつと契約したと同じく変わっていない。私の魂はそういう風に出来てるのかもしれない。



海に行くわけだ。



3


 

その日、決意した。



実家の引き出しというパンドラの箱を開け放った。そこにはアイツのいった通りにあの時と同じ契約書が確かにあった。記入箇所が署名欄の他にもこちらの願いの内容を記入する欄が、増えていた。これさえあればリアルを1つ魔法でねじ曲げられる。悪魔との取引であることは承知だった。



仲間が深海棲艦に変化した光景が甦る。その記憶が欄への記入を躊躇わせた。慎重に内容を考えなければならない。どんな恣意的な解釈も入る余地がない内容を記入する必要がある。あの悪魔なら世界を救うために人類を殺す選択すら躊躇わないだろう。契約内容は、必ずや犠牲を糧に遵守されるのだ。



甘えた認識は変えなければならない。相手は魔法使いの皮を被ったメフィストフェレス。これは魔法ではなく、呪法だ。



そう考えたら自然とこの契約書を利用しない思考に流れてゆく。まだ時期尚早だ。あの子はまだ死が決定したわけではなく、自力で目覚める可能性があるのだから。



ならば、もう取り返しのつかない母親のほうを甦らせるか。ダメだ。誰かを甦りを願ってどういった悲劇が起きたか思い出せ。人は死んだら生き返らない。いや、生き返ってはならないのだ。そんな呪いを認めてしまったら、それこそ人類が滅びかねないほどのリアルの変異だ。やつの思う壺。



どうすればいいんだ。目まぐるしく巡る思考は空あえぎの感となり、乾いた喉に粘っこく張り付いた。吐きそうだ。



あの子の母親の葬式が終わった後に、あの致命的な追い込みがかかった。私宛の遺書だ。その内容には海に出て陽炎の記憶に塗り潰されてしまっていた前の私の記憶を掘り返した。

 


4



しばらくの間、心ここにあらずだった。



その紙切れには私のせいです、と呪いのように何度も書いてある。



地獄がここにもある。大切な人を助けられないその気持ちは知っている。血文字で魂に刻まれたかのように伝わった。



でも、おかしいじゃない。



なぜ? どうして?



このタイミング?



私の背中を後押しするかのようだ。 私に選択を強要するために、都合よく現実が書き換えられたかのように思える。



そこで、私は気付いたのだ。気付いてしまった。



悪魔に目をつけられていたということに。



最初期――――深海棲艦は人類に攻撃的だった。



今ではその攻撃性は酷く限定されてはいるが、黒幕の力でこんなことが出来るというのならば絶望的な戦力差だ。


 


あれ――――?


 


 


 


私達

 


 


 

 


 


黒幕の気分で、


 


 


 


いつでも全滅させられちゃう?




この戦いは負けない、といわれている。同時に勝てない、終わらない、とも。

しかし、それはあの海にいる誰もが口にしない暗黙の了解だ。

まるで脚本家がいるかのように全てが、仕組まれてる。終わらない夢を、あの日の敗北のifのため、私達は掌の上で踊らされているとしたら。



あいつの言葉が脳裏に響く。



結局、私はその子の意識覚醒を願いにして、悪魔と契約を交わした。どうせこっちが知りたいそっちの情報は、はぐらかされるに決まっている。



悪魔の懐に潜り込み、真実を探る。



契約書に髪を一本置くと、紙に赤黒い穴が空いた。1945.8.15からの終わりと始まりを彩る悪魔の瞳だ。



壁に文字が刻まれてゆく。指定された場所に一ヶ月後の午後2時に出向いて、そこで指定されたモノを買え、との指示だった。隣にいる不知火の様子からして見えているのは私だけのようだ。



「なんとかなるよ。必ず助けてみせるからね」と私は無愛想な子の頭を撫でながらいう。「あなたとこの子は仲良く平和な暮らしを送るために、この子を支えてあげなよ?」



「そのつもりです」 



強い意志のこもった瞳だ。



あの日、私は仲間を失うことで終わりを迎えた。



今度は、この子を救うことから始まる。


 

4



乾いた柔らかさの冬の風は春の予感を感じさせる。指定されたその日、時刻、モノを買った。誰も並んでいない宝くじ売り場だ。店頭のここから年末ジャンボの2等当選が排出されたことを示す看板の主張が激しい。



まあ、当たるよね。外すならここで買わせた意味が分からない。要はこの資金は種銭なのだろう。あいつは資金面がどうのこうの、といっていたし、なにをさせたいのか予想はつく。



次の指示はパソコンを用意してネットに繋げ、とのことだった。それもこなしてPCを立ち上げると、『失われた団欒の会』という妙なチャットアプリがインストールされていた。



億万長者(笑)《少しそっちには行けないので、今からいう通りにしてくださいね》



今度はまた外に駆り出された。競馬場だ。よく分からないがG1の記念杯のこれに駆けろ、と。いわれた通りにすればいい。元手が一気に跳ねあがった万馬券になった。その資産で投資しろ、といわれたのはIT関連の企業だった。



面白い。かねてから計画していたという軍事ビジネス、通信効率化のシステムに着手を始め、工作艦明石の協力により艤装の通信効率化のシステムを実現させてしまった。研究部の実験を経てその成果は実用化までこぎ着けて、海の勝敗、人類の安全海域の拡張という結果を挙げ、生存率にも貢献。多大な影響を与えるに至る。



いいじゃない。こういう支援なら望むところだ。



その頃だ。とうとうその子が目覚めた。



病院から抜け出してきたとしか思えない格好で家に来た。



5



「あなたが助けるといったら、本当に目覚めました」



無愛想な子は珍しく笑っていた。控えめな微笑みだけど、この子の最上級の笑顔に見える。「ありがとうございます」とペコリと礼儀正しくお辞儀をした。



お礼なんていいのよ。



「大丈夫? まだ寝てたほうがいいんじゃない?」



「私にはあんたが大丈夫に見えない」もう一人の子が不愉快そうにいった。「そんなにあの海でキズを負ったの……?」 



そうだけど違う。



そういおうとした途端、意識がブラックアウトした。



6



次に目覚めたのは病院のベッドの上だ。ふざけている。あの夜の海でのことに繋がるワード全てがアウトなわけ? これじゃあの海の戦いのこと言葉にすら出せないじゃない。



カルテは栄養失調だけど、怪しいもんだ。もうなにが起きても、あいつならば可能だ、と答えが誘導されてゆく。でも、あの子が起きて良かった。前回とは違って願った通りの形だったことになによりの安堵を覚える。



そしてあの子達がお見舞いに来た。



「あんたがそんな風になるなんてよほどあの海は過酷なのね」



優しい子だ。なんだろうな。母親を亡くして絶望しなかったのだろうか。いや、悲しんだはずだ。仲の良さは私に宛てられた遺書の内容から胸が痛むほど読み取れた。この子宛の遺書にはなんて書かれていたのだろう。きっとこの子を立ち上がらせる強い言葉が書き連ねてあったのだろう、と思う。



「あのさー、ちょっと私は家族全滅したから、この先の生活に困るのよね。でも、陽炎の適性が出たから、軍に行ってみることにした。あんたの敵討ちも出来るし、悪くない進路。ちなみに不知火は不知火ね」



「ってなわけで一緒に海に敵討ちに行くことにしたから」



「――――え?」



なんていった?



海の戦いに行って戦争に参加する?



「ダメ、あの海の戦いは、」



私は馬鹿なのか。またNGワードのせいで意識が落ちる。


 

7



《ふざけるな。あの空しいだけの艦の兵士にするためじゃない。深海棲艦に殺されてから、今度は味方に殺されるだけの存在になってしまう。 私はあの子を助けたのはあの海に駆り出すためじゃない。あの子の母親はあの子の幸せを願っている。あの空しいだけの艦の兵士にするためなんかじゃない。そもそもなぜ適性のなかった二人が急に適性が出たのだ。それも私の後釜とし》



打ち鳴らしたキーボードの文字入力が止まる。このチャットで一度に書き込める文字数の限界だった。



億万長者(笑)《あ、ごめん。これ私が作ったものじゃないんです。文字数短いですねー。区切りますね》



億万長者(笑)《ほーら》



億万長者(笑)《落とし穴♪》


 


なんなんだこいつは!



億万長者(笑)《運命(ご都合主義)ってやつなのでしょうね。本当に私はなにもしていないですよー。証拠もないくせに人のせいにするのは止めて前向きに解決法を考えたらどーです?》


 

億万長者(笑)《なんなら》



――――新しく契約しますか?


 


 



「なん、なの」


 

「人の純粋な想いを――――」



「玩具みたいに扱って――――!」


 



《私達をなんだと思ってるの?》


 






億万長者(笑)《わかりま千円(笑)》


 


あの日この詐欺師は、仲間を助けて、と願った私をどんな目で見ていたんだ。馬鹿なやつだと、心で笑ってたのか。絶対に許さない。こいつには更生も反省も謝罪も要らない。ただ地獄に墜ちて未来永劫、全力で苦しんで生きて欲しい。いや、違うか。私がそうさせてやる。



それだけを達成するため、この日私はその他全てを削ぎ落とした。ギギギ、とネジが軋むような音が聞こえたのを覚えている。



【14ワ●:想題、返す想の刃で復讐を】



なにかおかしい。そう感じたのは四年前のことだった。



毎日のように投稿してくる司令チャットが途切れて連絡が取れなくなった。例のチャットアプリにもログインすることも出来なかった。それでも海のことを自己から放出しようとすると、意識は落ちる。まだ契約は続いているはずだが、次の司令がない。



仕方がないので、グラフの波を眺めながら、海の情報に思考する。最近ホットなキスカの事件に目をつけた。



新造鎮守府に所属する阿武隈、由良、卯月、弥生、長月、菊月の水雷戦隊のうち4名が殉職処理された事件だ。日付的にはあいつからの連絡が止んだのと同時期だった。なにかあったのか?



調べてもハッキリしなかった。



これ、公式文に矛盾点はないのだけど、普通あんなところに鬼や姫が複数で固まって動いているだなんて、珍しい。軍がなにか隠してないか? それとも気付いていないだけか? 



この辺りから、妙な戦いがいくつかある。あんな海域で中枢棲姫を発見? それもキスカの後からだ。それにこいつらの動き、深海棲艦のルールブックに則ってはいるが、輸送船を襲ったり、あの鎮守府の近くをうろついていたり、と臭う。



阿武隈と卯月が海を去ったという。



なにか情報を抜き取れないかな、と思ってSNSを利用して接触してみたが、二人ともかなり参っているご様子で特に卯月のほうはあの海の話題に出すとケンカ越しになってくる。その元気すらない阿武隈のほうが心配だった。生き残った意味を理解して気を強く持て。



“その命はその人達にもらったものだよ。大事にするべきだ”



とだけ伝えておいた。



外側からではもやがかかるが、海で起きている一連の事件、鹿島艦隊の悲劇、そしてその阿武隈のいる鎮守府が壊滅した時に、いったん切り捨てた。目の前に黒幕に繋がると思われるモノがある。培った技術を駆使して、謎のチャットアプリの調査にかかった。この魔法もとい呪法の解明だ。



訳が分からない。 



システムを解析しても、プログラム自体がでたらめだ。コードを全コピしてみても、プログラムとして作動しない。どうして動いているかも分からない。なにか未知の技術を持っている、ととうに分かっている情報しか抜き取ることができなかった。もともと諦めが悪いせいもあるだろう。ここまで結論づけるのに2年も消費してしまった。



海は恐ろしいまでの劇的な変化を見せていた。 



中枢棲姫勢力との戦いにて駆逐艦電の深海棲艦艤装の同種がもう1人。鹿島艦隊の悲劇にて殉職処理されていた駆逐艦春雨の発見及び保護。さすがに笑った。中枢棲姫勢力は艦娘を拉致するだけの『作戦』を練ることが可能。



わかりやすい形で誰もが想像したはずだ。



お伽噺にも似た最初期の狂乱の再来だと。



驚異的かつ脅威的な深海棲艦の危険指数は恐らく『Rank:SSS』にまで届くだろう。ようやく街の皆は『ヤバくね?』と危機感を持ち始めた。対深海棲艦のこの進歩の意味を世間はどのくらい正しく理解出来るのだろうか。



金の流れが大きな変化を見せている。



アジア、いや、経済の示す数値とは違い、珍しく日本が円安になりつつある傾向が芽吹き始めている。『あの周辺国は荒れる』と見越しての金の流れかこれ。



爆心地から資産を遠ざける動きと、逆に今まで以上に急激に尖り始めた投資模様もあった。要は『この国が戦火で割を食うと見越した人』と、『この情報に価値を見出だした人』が動きを見せているようだ。確かに一気に不安定な政治情勢となりかねない情報が公式で出回れば、グローバルな経済も揺れる。今更ながら『大本営の発表』を丸々と鵜呑みにするやつはいないだろうし、動きは見せて然りだ。



透けて見えるのは『戦争の恐怖』だった。



対深海棲艦海軍は勝つか? 負けるか?



データ的には信用できないだろう。鹿島艦隊の悲劇は哨戒済みの航路で起きた事件だ。あの事件で日本の対深海棲艦海軍は世界的に信用を落としている。



最初期の悲惨を思い起こす。



一方的な防戦を強いられ、なす術もなく万を越える死者が出た。どこの国も今や深海棲艦は自然の営みのように、仕方のないことだが、対処できる問題でしかなくなっている。すでに経済に組み込まれちゃっている人間の暮らしの一部ですらあるのだ。



砲口を突きつけられ、ようやく人々は思い出し始めている。



深海棲艦という存在がいまだ有する『未知の恐怖』を。



奴等は『駆逐し切らなければいけない自然』だと。



国民の反応は予想通りだ。多数決的には、すぐに殺せ、が総意になりそうだ。やはり多数決というのは愚かだ。



その逆である。その危機感を払拭したければ、例え犠牲者が出ようとも中枢棲姫勢力は絶対に殺してはダメだ。この知能の深海棲艦は必ず『暁の水平線』の情報を持っている。終わらないと吟われた戦争の出口が見える可能性すらある。



加えて情報の海に『深海棲艦を建造していると思われる妖精を甲の大将が深海にて発見』と流れる。深海棲艦建造、なるほどね。あの夜を覚えていたから、海で砕けた艤装と人の身体で深海棲艦を建造していると即座に見抜いた。



「乙中将から金剛榛名瑞鳳初霜、丙少将から陽炎不知火暁響が」



「一気に異動……?」



「鎮守府ヤミ……?」



「電に、瑞鶴さん、それに阿武隈、卯月、春雨」



そしてこの鎮守府は次に引き入れたのは『鹿島』だった。そこで私は察した。この鎮守府の提督は『海の不自然に気付いていて、真実を探求している提督』だと。



そこにいる男の工作艦明石も、臭う。そういえば公式が『艦娘』ではなく『艦の兵士』と呼ぶようになったのも記憶に新しいな。明石君がいるから変わったのか。



続いての世間様お待ちかねの中枢棲姫勢力決戦。



軍の戦果は対峙した勢力の七割を殲滅、そして組織のヘッドといわれているうちの1人、リコリスの首を獲った。



もう1人の頭脳の中枢棲姫と、幹部の水母棲姫とレ級、ネ級は逃したようだ。



世間が望むベストではないが、『言い訳は聞く戦果』ではある。甲乙丙出動でその戦果は逆に不安を煽るものだったが、見方を変えたのならば実に上手いバランス調整と受け取れる。殺す気はなかったのだとしたらね。



発表された戦果報告書によると、やはりあの鎮守府がリコリスを仕留め、そして中枢棲姫の撃沈に失敗したと読み取れる。片方でも生きていればいい。狙ってやったとしか思えない兵士の動かし方だった。



「陽炎、不知火、あんたらいい司令に恵まれたわねえ」



「その人、終わりまで連れてってくれるよ」



そしてついに黒幕――――海の傷痕を引きずり出した。ずいぶんと人間みたいな姿をしていたのには殺意すら覚えた。お前にはクトゥルフみたいなおぞましい神の姿がお似合いだ。



海の傷痕周りの情報はずいぶんと隠蔽されていたが、入手できた一部の情報だけで私には軍に起こっている事態が手に取るように分かる。



そして想力。



これが私が探し求めていた情報であり、魔法の素だ。



そこから海は暁の水平線に向けて、駆け抜けていった。 



私も傍観していただけではなかった。魔法の素なら私にも使える。その使い方が分からなかっただけだ。道具を調達した。適当な海戦があった現場をかぎ回り適当に人を雇って目的のモノを輸送させた。



想力の活用。



その頃に軍は暁の水平線到達していた。2つの意味で笑ってしまう。鎮守府(闇)の圧倒的な戦果、歴史をくまなく探してもここまでの快進撃はそうそうお目にかかれない。あそこは、それだけの歴史を刻んだ伝説の鎮守府になった。なんか評価が微妙なのは、仕方ないのかもね。この提督、世間体というものを考えず、愚直に進んでいるし。



そして此方の鹵獲に成功したと。 



笑ってしまった。



私が開発した『艤装のデバイス』はまだ起動するのだ。このチャットアプリもまだ消えていない。

もうこのアプリのことも分かった。恐らくこれはロスト空間に繋がっていたのだ。あいつはそこにいたとしか思えないから。あの時の急な消失、そして深海棲艦はロスト空間で建造されていた。向こうに行っていた、と。



ならばこのデバイスは『妖精のようにロスト空間に行けるパス』となり得る。



まだ終わってなどいないということだ。ロスト空間はまだ完全に消えていないんじゃないかな。迅速に戦後処理を行うべきだね。



さきほど戦後復興妖精のワードも聞いた。あいつも戦後の復興とかなんとかいってたな。なるほどね、そいつが私を弄んだやつか。



ああ、長い道のりだった。



黒幕の海の傷痕は被弾した私達みたいに剥かれた。どうも此方は人間になりたいらしいね。

願ってもない。ならば、人間としての因果に絡まって苦しんでもらおうか。



ようやくこの手で、仕留められる。



無為だって。虚しいとか。



あの日から私が味わい続けた感情は理屈で終わらせられるもんじゃないのよ。振り上げる拳を愚かだと理解しながらも、降り下ろさずには居られない。



それでも、降り下ろす。やったら、やり返す。



だって、人間は何人いるのよ。



私1人変わったところで世界の人間はそれを止めないから、私が食い物にされるだけでしょうが。しょうもない。幸せになりたい、その想いこそ、戦いの輪廻の仕組みだったとか。



なんて完成された神のプログラム。



終わらないわけだわ。



2



ほらやっぱり行けた。

気分がすこぶる悪いし、頭痛もしているが、これもロスト空間に関する情報で知っている。



ここはなんだろう。清潔な色彩、そして飾り気のない真っ白な内部だ。少しだけ薬品の匂いも香る。左右には番号の振られた扉が規則的に並んでいた。どこかで見たことがあるような気がしないでもないが、思い出せなかった。



悪い島風【侵入者だっ!Σ(´□`;)】



島風か? なんで島風がここに?



いるのはてっきり戦後復興妖精かと思いきや、あの時の姿とは違っているし。



悪い島風【なんてね。そろそろ来る頃合いかと! 久しぶりのチャット楽しかったですよ!】



悪い島風【か・げ・ろ・う・ちゃ・ん!】




悪い島風【しかし、面白い発想ですね。艤装の想、それを妖精としてのパスにしましたかー】 



「分かるんだ。想力ってのは恐ろしいわねえ……」



悪い島風【……すみませんね】



悪い島風【タダでは帰せません】



こいつにタダなんて優しさがないのは知っている。



悪い島風【ったく、完璧な私の基盤に島風の想なんて混ぜるからドジ踏む仕様になってしまうんだ。もしかしてこの姿を選んだのも無意識に?】



「またドジ踏んだわよ。素が出てる」 



悪い島風【……解せませんねえ。生身で来て一体全体なにがしたいのやら。バレないとでも思いましたかー?】



「はあ、勝つか負けるか生きるか死ぬかだなんて大した問題じゃないのよ。大切なのは」



「私があんたにこの身で立ち向かったという事実」



「コレがないと、あの海に関わる全てに顔向けできない。そうやって生きていくなら死んだほうがマシ」 



「適性なくなっても陽炎を辞めたつもりはないのよね!」



悪い島風【ああ、そう。とにかくです!】



悪い島風【イベント海域にいる私の実力を知るがいい!】



悪い島風【Trance:Doublemix!(≧∇≦)】



悪い島風【悪い連装砲君セレンディピィver!】



4



あの連装砲君の性能、なんだ。



見当違いに放たれた放弾がなぜか壁で跳ねたり、宙でぶつかったりして威力を殺しながらも様々な『偶然』により、私に被弾する。どこからスタートしてもたどり着く場所は同じ、私のこの身に吸い込まれてゆくご都合主義だ。



「っ」



適当に手を伸ばした扉が開く。その部屋に身を隠した。



なんだこの部屋、艤装らしき塊と金属ばかりの妙な椅子がある。どこかで、記憶しているような、気がする。



――確かに聞き届けましたよ。



この部屋から誰かの声が聞こえた。シェイクするように私の脳をかき乱して、気分が悪い。



そして、思い出した。



これは噂でしかなかったけれど、この研究部の部屋、最初期の闇だ。成す術もなく深海棲艦と戦い続ける日々、戦場に駆り出されたのは少数の艦の兵士だけではなかったはず。

勝ち目のない戦いに突破口を見出だすため、普通の人間も駆り出されたという。そこに関して軍は『適性者のお願い』を聞いたとかなんとか。



と公式資料にはあるが、実際には『家族を人質に取って、適性者は、軍に協力するのならば、特例として家族の身の安全を優先して確保する』という内容を暗に伝える密約があったと私は見ている。



「報われない嘆きばかりね……」



艤装とその身体こそが深海棲艦を生み出す資材だと気付かず毎日のように、その身を削る。思えば、高速修復材、高速建造材、開発資材、その全てが海と鎮守府の行き来のペースをあげる罠にすら思えてくる。



その全てを開発したのは



研究部だったかな?



身体が動かない。



別に建造したわけではないし、艤装が扱えるわけでもない。殺した威力でも鉄の塊が当たればこの柔い人の身体は無力化は避けられない。勝てない、とは最初から分かってる。



仲間の生死を弄ばれてからのあの日々を思い出した。里に帰っても、私はあいつの掌で踊り続けるなかで抱いた確かな願い、あの少女二人には『健やかに二人仲良く平和に過ごして欲しい』という想いも踏みにじられた。どうせあんたが適性率を出したんでしょ。その理由を作ったのは私みたいだけどさ。

もう、なにをやっても裏目に出る日々はもうごめんだ。



悪い島風【教えて差し上げますよ】



悪い島風【陽炎と不知火の適性者は誘導しました。あの二人の個性はひどく分かりやすい。最終世代の陽炎の母親が死ぬことであらかたの道筋は決まっていたんです。そこらでパーパも納得してくれましたよ!】



悪い島風【まあ、あの母親が死んだのはあくまでもご都合主義ですけどね?】



私はこのまま負けるのか?



全てを愚弄されたまま、無力という理由でその生涯を終えるのか。もう、いいでしょ。ここまでやられているんだから後先なんて考えなくても、人の道から外れても、構わないから――



扉の死角で、息を潜めて待つ。



扉が開いて、アイツが入ってくる。肩をつかんで、その首根に艤装の破片を突き刺した。血の飛沫は予想外なことに人間と同じ色をしていた。



悪い島風【やられたー……】



悪い島風【ったく、人間って本当に現金なやつですね。もっと広く先の目でも見てよ。復興ってそういうもんでしょうに】



悪い島風【お前を生かして億万長者にしてあげてさー、陽炎不知火は戦争終わらせて生きて帰ってきた。笑えているよ。笑えないのはお前のせい。なのに、まだ私にいちゃもんつけてさ、これ以上なにを私に求めるの?】



悪い島風【誰か教えて?】



悪い島風【なんで私は】



悪い島風【そんなにキレられてんだろ?】



悪い島風【情けは一矢で十分ですよね。さいならー】 



「……いや、足りないかな」



「もう一刺し食らってけ」



【15ワ●:黄泉路陽炎思い出列車】



吐き気がする空間ね。

走馬燈のように目まぐるしく移り変わる景色に、頭に流れ込んでくる雑多に氾濫する想いの念の声なき声、疑似がつくとしてもロスト空間であるのは確かなようだ。世の中でいう黄泉路っていうのはここから戻ってきた人が広めたのかもね。



銀河の夜空にレールがかかった。どこかでガタンゴトン、と音がする。遠くのほうから、電車が走ってきている。いつの間にか私が立っている場所は駅のホームになっていた。この駅は、そうだ。この駅から電車に乗って、海へと向かった。電車は私の前で停止して、扉が勝手に開いた。



私が乗車すると、扉は閉まった。なんだかよくわからない展開に巻き込まれてないか。



《えー、このたびは黄泉路陽炎思い出列車のご利用まことにありがとうございます》



黄泉路陽炎思い出列車ってなによ。



車両内を見渡すと、乗っているのは懐かしの妖精さん達だ。妖精可視の才もないから、媒体を通してしか見たことなかったけれど、ファンタジックな小人で可愛らしい。



《ここが黄泉路といえど、切符は切っても、あなたの愛の心までは切れません》



陽炎「さっきからもろにわるさめの声だけど、なにを意味不明なことを……」



空いている席に座って、子供の所作みたいに窓のほうを眺める。



夜行列車の窓外の銀河は、フォトショットみたいに私の心を拾って映像化している景色。



小学生の成績表はそうだったな。責任感が強いには疑問を抱いたけど、友達作るのには苦労しなかった。不知火なんかいっつも一緒にいたし、ヒーロさんは人に囲まれるような性格だったし、少なくともあの叔父がやってくる前までは平和な上に幸福だった。



陽炎「小さい頃の私ってば、あんな風に笑っていたのか」



私と不知火の髪が黒いのには違和感があるわね……。



不知火は小さい頃から不愛想なやつではあったけども、子供の頃はもっと笑っていた気がする。いつから今みたいに全く表情に笑いを浮かべなくなったんだろう。



あの頃か。嫌でも記憶に焼き付いている。



母親の死を知った時辺りか。



うーん、あの頃は子供ながらにして幸福の中にいることを自覚していたのよね。だから維持しようと全力でがんばっていた。裕福な家ではなかったし、家庭環境も複雑だったけど、私なりに守ろうと気張ったつもり。その挙げ句があの様よ。今思えば婆ちゃんのことが引き金よね。よくお菓子くれたし、遊びにも付き合ってくれた人があんな仕打ちにあってる。おまけに高校生の私に金たかるとかどんだけよ。やらなきゃいけないこと、耐えるしかない日々に、だんだんと幸せは削り取られていっていた。



身も心も大人を辿る成長の中で、いつの間にか忘れていたのかも。



笑うより、歯を食いしばる時間ばかりが増えていく。

しかも私、割と顔によく出るみたいね。無理して強がっている顔だと初見で分かる。その頃か。その頃ね。不知火が、暗い顔になったり、難しい顔したり、怖い顔したり。眼光も鋭くなっていったり、と。



陽炎(……そっか、もしかして不知火が不知火になったのは私のせいなのかもね)



意識なくなってから、目覚めたら温かな家庭はなに1つとして跡形もなく全滅していた。なくなったモノを取り返そうとは思わなかった。あいつに復讐しようという感情だけだった。だって私は私の家族を守ろうとして理不尽の日々を耐え忍んだ挙句に生活跡形もなく消し飛ばされたもの。人生、ギブアップ。



陽炎《客観的に見ちゃうと、私は残念なやつねえ……がんばっているつもりがみんなに心配かけまくってる。空回りしてるわ……)



なにもかも失って、憎しみで人さえ殺せそうな原動力を手に入れた。不知火のところに全力で止められたから断念したのよね。そう、止められたから止まった。



なのに、なんで好きにやらせないと終わらない、だなんて思っちゃったのかしら。



同じ陽炎だから気持ちが分かるからかな。

ああ、あの海の後遺症ね。陽炎であることでなにか大切なモノを忘れている気がする。今日に散歩していたら思い出したけどね。「お前、自分に似合うことより好きなことするやつだったじゃん」との言葉で、思い出した。



確かにそんなやつだった。



星々の輝きは綺麗で、明かりを照らすから、陰る場所が出てくる。



陽炎の役割、ネームシップ、姉妹艦効果。

あの海では仲間の価値を思い知る日々のなかで、自分のことを忘れちゃうくらい過保護に思いやっていたのかもね。街でも海でも仲間に恵まれて大事にしすぎてしまったのかもしれない。仲間がいたから、だなんてよくありそうな教訓の逆だった。



でも、それも仕方のないことだったのかも。私の妹連中、個性的過ぎるのよ。



そういえば丙さんにいわれたっけな。



あの鎮守府に着任するの、将来の夢はありますか、と質問されるのだ。伊勢さんはそれ答えたら参考書を実家に取りに行かされて、暁なんかは十年後の自分に手紙を書かされたんだっけ。あそこは海のことだけを考えさせてくれない。うざったい、といっても、正論で返されてしまうのだ。この海で死ぬわけじゃないだろ。だったら将来のことも考えないとな。俺は提督だから、お前らの後も考えなきゃならねーから、と。



私は確か、そうだ。



答えられなかった。



生きて帰る気もあまりなかった。終わらない戦争なんだから、死ぬまでここで戦い続ける覚悟しかなかったからね。不知火は「こんな陽炎の世話です」と答えていたっけ。そして今の司令のところに異動してからは、ああもう、めまぐるしいわね。



陽炎(けど、きっと司令は、私より私のこと見ていたんだろうなあ……)



此方撃破作戦の役割に抜擢された。この想いがモノいう創作短縮摩訶不思議空間で、私という陽炎は戦える、という判断をした。私のこと見てくれていなきゃできないから。



失ったモノを頭から取っ払った。責任とか制約とか、考えるのを止めた。今あるモノ、これから手にするモノを、指折り数えてみる。なんか明るい力が湧いてきた。



その心に呼応するように、妖精さん達が稼働を始めた。

なにを始めたのかも分かる。

疑似とはいえロスト空間にいるということは、言葉での意思疎通なんて必要ないのよね。

司令いわく、イメージでが呼応して創作する夢の場所。妖精さん達がなにを作っているのかも、私には分かる。資材なんて最低値でいいわよ。今なら絶対に当たりを引っ張ってくることができるからね。そうだな、建造工程だって要らない。初霜のようにこの想の海の魔法を武装化できそうだ。なんていったっけ。



陽炎「……トランス現象だ。呼び出してごめんね。今回で本当にさよなら、ね」



銃声にも似た音が一瞬の閃光と一緒に弾け飛んだ。



空に打ちだされる福音だ。



光の玉が宙に勢いよく発射する。星空に負けない綺麗な光が、高く空に舞いあがり、大きな火薬の花を咲かせている。豪快な音とともに次々と打ちあげられる少し季節外れの風物詩だ。金、銀、青、赤、緑、覚え切れないほどの様々な色の熱の塊の粒が宙に弾けて飛散し、数秒で消える火花を咲かせる。名残惜しむかのように熱の尻尾を垂らして地上へと垂れる銀冠が綺麗。



わるさめ《カゲカゲのFanfareだい!》



艤装は生き物だからね、中枢棲姫勢力を戦友とした今、この生き物を無下に扱うことはできない。陽炎の艤装の砲塔を優しく撫でた。

さてと、陽炎抜錨しますか。



ラスト・ウェイアンカー。






陽炎「……研究部?」



白を機転とした清潔でありながら無骨な内装は軍の研究部によく似てはいるが、どことなくセキュリティが違う。監視カメラもなく、あるのは無機質なコンクリートばかりだった。



その白の廊下や壁に見慣れた赤い滴があるものだから、すぐに事情は察した。その血の跡を辿った先にヒーロさんや悪い島風とやらがいるはずだ。正面のT字の角から機械の稼働音がする。



悪い連装砲君【侵入者発見デス】



自律式の連装砲か。悪い島風というだけあって、悪そうな顔をした連装砲ね。ただ構造的に島風艤装の連装砲ちゃんではなく、天津風艤装の連装砲君に見えるけど。



悪い連装砲君【攻撃】



砲撃体勢だけど、この距離なら回避も間に合いそうだ。狭さも合って砲撃の軌道も簡単に予測できる。



と、思ったんだけど、被弾した。



陽炎「なんで砲弾がスライダーみたいに曲がってくるのよ!?」



さすがに海の傷痕みたいにロスト空間を支配するだけあるわね。要するに全く読めない。ロスト空間なら海の傷痕の装備みたいな代物だとしたら即看破するのは難しいわね。



とりあえず、砲撃してみたが、向こうは砲弾に砲弾を重ねてくる卯月阿武隈仕様だ。砲弾が曲がったり加速したり減速したり物理法則を越えた芸当で持って対処してくる。



提督「……あ、見つけました」



陽炎「なんでいるのよ!?」



提督「この空間では無粋ですね。自分はあの海の全てを紐解きましたし、ロスト空間での仕事なら自信もあります。うちの鎮守府の人達がいたら気付かない訳ないですよ」



陽炎「どうやって来たの? わるさめのやつが?」



提督「ヒーロさんのデバイスからですね。というかそれはさておいて陽炎さん、苦戦しているみたいですね」



陽炎「指示」



不知火「司令に向かってその口の利き方は頂けませんね」



あんたも来ていると思ったわよ。私みたいに艤装を身につけているってことは、戦う気は満々か。戦力は多いほうがいいし、今は細かいことはスルーしておくとするか。



提督「どうやら拙いですが、経過程想砲の必中の仕組みを流用していますね。経過程想砲とは違って欠陥部分が多いです。まず砲弾が肉眼で確認できること、そしてその砲弾は放たれた瞬間から質量を持っていること。この二点からですね」



提督「悪い連装砲君を捕まえてください。それで陽炎さんに向かってくる砲弾を塞げばいいだけです。向こうは自律式だからこその規則的な動きですし、狭い空間です」



不知火「捕まえる、ですか」



陽炎「了解!」



提督「囮は自分がやります。ああ、安心してください。戦後復興妖精に死なないようにされています。対象を撃沈させた後は別行動です。自分はここで調べたいことがあるので陽炎さん不知火さんはヒーロさんのところへお急ぎください」



司令が扉の外に出ていく。いやいやいや、その作戦は大前提として司令が囮として機能しなきゃダメじゃない。あの司令が艤装相手にどこまで立ってられんのよ。



陽炎「ちょっと、司令」



扉から出てみると、いわんこっちゃない。ただの人間が艤装の砲弾なんか回避出来る訳もなく、すでに廊下には司令が血溜まりの中に倒れている。本当に生きてるのこれ。



不知火「司令、無茶し過ぎですから!」



提督「不知火さん、これが被弾するという感覚ですか。自分はあなた達にこんな命令をしていたのですね」



良い経験になった、とでもいいたそうだ。相変わらずこいつどっかイカレてるわ。司令はどうも殺されるくらいでは死なないのはマジみたいだし、堪えてる風でもなさそうね。



提督「全く、兵士を道具とか化け物とか駒とか思っていた時もありましたね。我ながら酷いことをさせていたものです」



陽炎「そうね。なら更にいい勉強させてあげるわ」



提督「!?」



提督の首根っこをつかんで持ち上げる。不死なのなら少し作戦に活用させてもらうとした。司令という肉の盾で連装砲君との距離を詰めさせてもらうとした。



連装砲君の砲撃は司令の身体に吸い込まれるようにしてヒットするものの、司令の傷口はすぐに塞がって行くし、死にはしないっていったし大丈夫よね。あ、腕がもげた。



不知火「司令――――!」



司令のお陰で距離は大分、詰めることができた。連装砲とは言えど砲撃には一定の間がある。この距離でこのタイミングなら後は砲撃のリズムが切れた後に、砲撃をねじ込める。



陽炎「もらった!」



連装砲君に命中して、砲塔が曲がる。連装砲君がキョドり始めていた。この程度の損傷で隙をさらすなんて、どうも戦闘馴れしていないのか練度が低いわね。



陽炎「司令、助かったわ。ここからは別行動で放置でいいのよね。これは借りって思っておくわ。それじゃあ!」



不知火「陽炎――――」



ぶち切れている不知火に絡まれる前にその場から撤退しようとしたけれど、不知火の砲弾は私の横を通りすぎて、連装砲君に命中する。ん、見逃していたわ。再生機能あるのか。



陽炎「不知火もありがとね! それじゃまた後で!」



不知火「帰投したら決闘を申し込みます」



間違いなく本気の顔だ。




2



辿り着いた場所はこれまた部屋の一室だ。コンクリート剥き出しの部屋には鉄臭い血の臭いが充満していた。血の量からして普通の人間ならばすぐに致死量と見て分かる。



「陽炎、1発入れてやったよ」



壁に背中を預けて、息絶え絶えにそんなことをいっている。悪い島風とやらの首筋には破片が刺さったままだけども、ダメージがあるとは思えないほどに意に介した様子もなかった。



「ねえ、陽炎はさ、あの海で仲間を失ったことある?」



陽炎「……私はないわ」



「姉妹艦効果ってさ、酷いよね。大した時間もなくても家族みたいに想うんだ。解体してからもその時の想いは残ったままでさ。あの日、前世代の不知火と黒潮、死んでからいまだにずっと……私は……お姉さんを辞められない」



気持ちは、やっぱり分かる。奇妙な縁だったけど、あんたから受け取ったバトンのように艤装を身につけたらし、陽炎型多いもんね。たくさんの妹がいて、その中のお姉さんという肩書きには縛られる。それも役割の1つには違いない。



「五年間、いや、私が陽炎になった日から、かな」



「ようやく、この悪魔に一撃、入れた」



とてもスッキリしたような顔には見えないわね。復讐してもスッキリしない人間でしょうに。あんたは昔から正義感強いやつだし、やっぱり復讐してもスッキリしない人間のようだ。



「あんたを目覚めさせる報酬を受け取ってからの5年と10ヶ月から死ぬ気で未来とか時間とかを資材に、コイツに一泡吹かせるこの日を楽しみにしてた」



片手で顔を押さえ付けて、震えた声音でいう。



「私も戦い続けて、ようやく望みを叶えたのに」



「やっと叶ったのに、想像してたのと違う」



「失ったモノと残った傷痕を癒すための、資材にはなり得ない……」



泣きそうだ、といっているけど、すでに泣いていることに気付いているのだろうか。なんでかな。まるで自分のことのようにその心模様がトレースされているかのように、伝わる。



「……私はびびってただけだ」



「戦争が終結したのに、奪われる痛みに怯えてた」



イフの未来を歩んだ私がそういっている。此方と当局もこんな風にお互い通じていたのかな。だとしたら、私達も酷いことしちゃったよね。世界総出で此方の愛しい人、殺した。そう考えると私達に憎悪の欠片さえ抱かずに適応しようと努力している此方の器の大きさを感じるわ。



陽炎「じゃあ、私と不知火は何なの?」



陽炎「私はヒーロさんのこと、普通に不知火みたいに大事に思ってるから助けに来たんだけど。誰かの穴埋めにはならないのは分かってるけどさ、とりあえず」



陽炎「昔から助けられてばっかりだから、今度は私の番よね。この気持ちは貸し借りとかって思わないでね」



砲口を構えると、悪い島風がケタケタと腹を抱えて笑った。



悪い島風【だっせ。陽炎ちゃんが喋り始めた時からすでに死亡しちゃいましたー。この陽炎ちゃんは母親の時しかり本当に大切な人の大事に間に合わないよね】



陽炎「……で、最後の言葉はそれでいいの?」



悪い島風【あー、連装砲君壊れちゃったから今は詰みですねー。あなたはプレイヤーなので抵抗する気もありませんし、殺せばわるさめちゃんとの契約違反なうえ、テートクさんが完全に敵に回ってしまいますしー……】



悪い島風【あーあ、ここでゲームオーバーとかつまんねーから逃げますね!】



背を向けた。砲撃を始めようとしたが、「ダメです」と不知火の冷えた声音が聞こえたので、とっさに角度を変えた。なぜ止めたのかは知らないが、こいつがこういうからには恐らく『司令の命令』である可能性が高いから止めざるを得ない。



不知火「間に合って良かった。司令の命令です」



陽炎「……事情は聞ける話?」



不知火「落とし穴です。悪い島風さんを殺せばヒーロさんが死んでしまうからです」不知火はいう。「契約者は司令と同じく死にません。契約さえすれば戦後復興妖精が現海界しなくても効果は持続しますが、疑似ロスト空間のため悪い島風さんを殺してしまうと、その恩恵が受けられなくなるかもしれないから、とのことです」



陽炎「……あぶないわね。私にも製作秘話ノート見せてくれたらいいのに……」



振り返れば、ヒーロさんは確かに生きている。意識はないようだが、呼吸によって胸が動いているのが確認出来た。あの悪い島風とかいうやつは死んだと確かにいった。真に受けてしまった。不知火が来なければ絶対に当てていた。



そうしたらバッドエンドだった、と。

あの戦後復興妖精、性質が悪いわね……。



陽炎「ヒーロさんは私が運ぶから、帰投して終わりね」



不知火「陽炎、司令にした仕打ちについてお話があります」



いやー、確かに司令には悪いことしたとは反省しているけど、あれは最善手でしょ。とかそんなこといえばきっと不知火とのガチバトルが始まりそうなので、いわないでおく。



陽炎「ただいまー」



「……」



不知火「お帰りなさい」



少しだけ心配でしたが、無事に帰ってきたようでなによりです。ただ陽炎が連れてきたヒーローさんは難しい顔をしています。



提督「お疲れ様です」



瑞鶴「指示を出した以上はなにが起きたか予想出来ているんでしょうに。聞く限りヤバイ案件だったんだけど、提督さん肩の力抜きすぎじゃない?」



提督「心配はなにもしていませんでしたから。わるさめさんもです。あの子が自分達を裏切ることはあり得ませんし」



提督「それでなんと呼びましょうかね。陽炎……」



提督「ちゃん」



陽炎・不知火「!?」



「いや、私が陽炎さんで、こいつがちゃん付けで」



陽炎「嫌! 司令からちゃん付けとか背筋が凍る!」


 

提督「陽炎ちゃん、聞いてください」



提督「自分の鎮守府の始まりから終わりまでお話します。あなたには知る権利があると思いますのでお話します」



「いいのそれ。機密に触れてるんじゃ、最悪あなたの、」


 

提督「今更クビが飛ぼうと構いませんよ。それにあなたが内密にしていただければそれで済む話ではありますから。正し聞く限りは相応の覚悟を決めてくださいね」



【16ワ●:Fanfare、不知火&陽炎】



公園のグラウンドの裏にある平屋の廃墟。



柵を乗り越えて、その庭の隅には子供の頃の秘密基地がそのままあります。 起きっぱなしにしていた剣道の竹刀とか、象が踏んでも壊れない筆箱とかここに置き忘れていましたか。まだ風化せずにありますね。ここはなにも変わっていませんね。



ドラム缶の上に3人で並んで座って星空を眺めました。変わっているのは生きた歳月は二十歳を越えた私達でしょうか。背が伸びたところで、今も空は遠くて眺めは変わりませんけど。



不知火「ヒーロさん、司令の話はどうでしたか」



「ここから先は生き残った人間の自己満足の世界だといわれたことには驚いたかな。確かにそうだ。この戦いで散った人達のこと考えたら、もう一度あの戦争が勃発するとか何のために死んだのかって話にはなるし」


 

陽炎「頭では分かってたくせによくいうわね」



「いや、まさか此方をロスト空間と現海界した時の2回もブチ殺してるとは思わなかったわよ」



「准将さんの言葉は一番、納得できたかな」

 


「『正義も悪もよく分からない戦争なんかじゃなかったのです。だから、やるべきことは透けて見えています』


 

「『死者を代弁するわけではありませんが、艦の兵士で、世界を救う、だなんて信念でいる人は少なくとも終わりが見えるまでは見たことがありません。面白いことにみんな、救うではなく、守る、なんです。あの戦争は終わらなくても、防波堤やってれば人間は終わりませんからね。死んで街に伝わっても明日にはみんな覚えてません。大和ですら、流されるのは1ヶ月程度と早かったのです。そんな業務に自ら志願して命賭けていたみんなはこういうでしょう』」



「『ただ終わらない戦争の波をその身で受ける防波堤ではなかったのです。戦争の道具でもなんでもない』」



「『一人の女の子を助けるために戦った』」



「『それが、散った皆への名誉となり得ます』」



「『その女の子は人間にならなきゃなりません。それを以てしてあなた達は英雄になり得ます』」


 

「『あの子こそが我々の最高勲章なのです。その輝きに比べたら想力とか海は副産物です』」



「『そしてなにより海の傷痕を歴史に2度と出現させないよう努めること。それが生き残った我々に託された任務です』」



陽炎「私と考え方同じね。でも笑っちゃうわ。そんなこと出来る訳ないのに。人間が争いを止めることなんてあるのかしら」



不知火「確かに難しいですね」



あれは19世紀の人間の罪の象徴生命体だ。過去を見渡しても、きっと争いのない時代なんてなかった。きっといつかまた海の傷痕は復活するでしょう。もはや自然の一部とすら。



「あの准将さんも悟ってるとは思うけどね。無理だって」



陽炎「え、そうなの。あいつのことだからてっきりなんか考えているかと思ってたけど」



「最初から、大本営で当局と出会った時からあの人は無理だって、いってるよ。再出現の阻止は不可能だってさ」



「全部を助けることは出来ないけど、最大限を助けようとは思ってるから此方だって生かして想力だって解明に協力してる。それはね『海の傷痕を理解して受け入れようとする行為』なんだって、私は解釈してる」



そこまで考えたことはなかったですね。思えばあの悪い島風さんを警戒しても敵視している風でもないですね。固定観念で見ずに、客観的に判断してのことなのかもしれません。



「二人とも、司令に恵まれたねー……」



陽炎「最初は今みたいなやつじゃなくてただの戦争終結プログラム人間だから。皆に尻叩かれてああいう人間味になったのは自他ともに認めるところよ」



陽炎「今頃、不知火の親父さんと酒でも飲んでるのかしらねえ。司令はあんまり強くないみたいだけど、今日は断れないわよね。潰されなきゃいいけど……」



「……」



不知火「陽炎はその優しさを本人の前でいえるようになれば少しはツンデレも直ると思います。リアルのツンデレは苦労するかと」



陽炎「ほっとけ」


 

「ま、分かるのよねー。私も陽炎だったから。此方と当局みたいなあなたと私の関係ってやつなのかもね」


 

「弟なら乙中将、姉貴にするなら甲大将、付き合うなら丙少将、結婚するなら提督かな」


 

「陽炎と不知火は?」



不知火「兄なら丙少将、それ以外は全て司令でお願いします」ヌイッ



陽炎「選択肢狭すぎでしょ、つかこの話なによ……」



「何の憂いもなくこんな話出来るのも戦争終わったからじゃん。なんか普通っぽくて良くない?」



陽炎「父親なら丙さん、兄貴なら司令、弟なら乙中将」



「付き合うなら?」



陽炎「司れ……あ、いや、わ、分かんない」



このくらいの話でオーバーヒートしそうになられても。別に本人がいるわけでもないのに、そんなにガチリアクションされても反応に困ってしまいます。直情的なやつです。



「ドンマイ」



陽炎「いらっとする……でも、別にあの鎮守府の皆とは付き合いがずっと続いていけばいいとは思っているわよ。戦っていた時みたいに気さくな関係でいられたらなって」



誰もがそんな感じだ。過去は変わらないという輝きがある。今よりの幸福を願いながら、昔の変わらない輝きを求めるというのもおかしな話ですよね。空でも見上げれば、こうして変わらないあの頃を思い出すのに事足ります。



不知火「あ、司令から連絡が来ました。ちょっと戻ってきてー、だそうです」



不知火「聞いておいて損はない司令の言葉が聞けるらしいです」


 

不知火「ちなみに場所は陽炎の家ですね」



「……私はもう少しここにいるよ。二人は行ってきな」



陽炎「……」



「……提督としてあんたらの親に挨拶するんでしょ。そのためにここに来たはずだし」



「陽炎、その顔止めてよね。なに、また明日にでも会えるでしょ」



ヒーロさんがそういうと、陽炎は、そうだね、と微笑みました。



不知火もつられて笑いました。



【17ワ●:陽炎&不知火、戦後日常編:終結】


 

陽炎「ええと、仏壇の部屋でなにしてんのよ。3人の保護者が勢揃いして、私達まで呼んでなに? というか、私の家の合鍵持ってるとはいえ、無断で入らないでよね……」



不知火「いつものことです。うちの親はお二人のことも家族みたいに扱ってますしね」



提督さんの後ろに座りなさい。



お父さんは不知火が軍に行くといった以来の珍しく真剣な顔でした。司令もそう。仕方ないのかもしれませんが、空気が固いです。

司令は私服ではなく、軍の正装に着替えてもいます。陽炎もこの空気を読んだのか、いわれた通りに司令の後ろに横に並んで座りました。



「この子達もいる前で言ってあげて欲しいんだ」



提督「了解です」



司令は難しい顔になりましたが、腹をくくったのか、きりっと凛々しく表情が引き締まりました。



陽炎「……?」



そしてハキハキとした声でいいます。




――――最終世代陽炎さん不知火さんが軍に在籍なさってからの4年と6ヶ月もの時間をかけて、対深海棲艦日本海軍は深海棲艦に勝利を収めることができました。その戦争においての彼女達の戦果の報告を上官である私から今一度申し上げます。




さすがに驚きました。司令はカンペも見ずに不知火達の軍学校在籍時の成績から、細かな遠征、そして出撃した海戦、登録されている沈めた深海棲艦の数まで、全ての日時とともにつらつらと述べ始めました。全てをいい終えてもまだ頭をあげません。そのままの体勢で言葉を続けます。




――――これら全てが我々がこの国を防衛するにあたり、なによりの助けでありました。まだ垢抜けない年の頃の大切なご息女を戦争中の軍に預けて頂いたこと、返しきれないほどの大恩と受け止めております。





――――彼女達の力に他なりませんが、こうして無事に故郷に帰還させることが叶いました。


 


――――この場をお借りして、長らくの間ご心労をおかけしましたことに心からの謝罪と、


 


――――ご協力いただいたことへの感謝を申し上げるとともに、




――――我々は暁の水平線に到達し、戦争を終結させることが出来ましたことを、


 


――――ここにご報告致します。




深々と頭を下げる。


 

陽炎・不知火「――――」



不知火「し、司令……!」


 

これはちょっと、なんというか、来るものがあります、ね。色々な感情が複雑に混じりあって、上手く言葉に出来ません。ただ「司令、頭をあげてください」とだけお願いしました。

むしろ不知火のほうが頭を下げたいくらいです。司令には感謝しているのですから。



今日のことも含めて司令には世話になりっぱなしですね。



陽炎「ちょ、司令、なんか困るから頭をあげ、」



と、陽炎が立ち上がり、司令に歩み寄ろうとした瞬間でした。

陽炎の足元に、なぜか鋼材が突如として出現しました。そしてどこからともなく【ご都合主義☆偶然力】という声が。



躓いてこけた陽炎を司令が助けようとして、






目を疑いました。




二人の






唇が、






重なりました。




ラブコメのような展開が発動しました。



陽炎「っ! 歯、痛っ!」



提督「」



嫌な予感がしますね。窓外からスマホをこちらに向けた悪い島風さんがいます。なにを企んでいるのか知りませんが、嫌な予感しかしません。提督は「すみません」とだけ陽炎に答えてすぐにいつもの様子に戻りましたが、顔が赤いままの陽炎はこの場から脱兎のごとく逃げ出してしまいました。



不幸なことではないので、まあ、いいか、と思う私がいます。



不知火は司令のことも鎮守府の皆のことも、尊敬しています。こうして艤装から解放された自由は、英雄に該当する戦果であり、皆で勝ち取った未来です。



私と陽炎に適性が出た時、運命というものはきっと誰にでも用意されているのを確信しました。死ぬまで負けない。商店街の英雄の魂を引き継いで、私と陽炎は抜錨しました。戦争終結。それまで私と陽炎はこの地元に帰らないと誓っていました。



紆余曲折を経て、やり遂げて帰還しました。



色々な人から褒められました。帰ってきた日の夜は町を上げて、祝ってもらえました。でも、そこにあの人はいなかった。陽炎なんか1番にあの人に報告しようとしていたのに、あの人はこの街にはもういなかった。陽炎の活躍は、過去の戦争に携わった兵士全員の成果であるはずだ。何故ならば歴史は積み重ねられ、私達は孤独に積み重ねてきたわけではなく、最後はたまたま私達がゴールテープを切る役目だっただけとも思いますが。



ここに戻ってきてヒーロさんを見たら、世界を救ったはずなのに、望んでいた報いがないなんて割りに合わないな、だなんて私は思ってしまいましたけど。



戦争は終結してもその傷痕はまだ癒えぬまま。



癒えないままなんだな、と。



あの海で苦楽も共にした仲間はたくさんいます。けれど、その中でどれだけの人が海の傷痕が残した爪痕を乗り越えることが出来たのでしょう。この街にもまだ、憎悪の炎を燃やしている人がいました。彼女になんて言葉をかけたらいいのだろう。大事な人を失った原因を憎悪するのも分かりますから、止めることはどこか意志の強さに欠けてしまっていましたね。



そして今回の一件で不知火は染々と思うのでした。



海に出ることを許してくれた親にも、一緒にいた陽炎にも、私達にきっかけをくれたヒーロさんにも、鎮守府のみんなにも、司令にも、いつか私も素直に笑顔を浮かべられる日が来ればいい。



口が裂けても声には出しませんけど。



大人の話には混ざるのも不粋です。酌とかさせられましたが、今晩、司令に注ぐのは悪くはありません。女は台所を手伝い、夜は更けても大人達の話は弾んでいる様子です。


 

何はともあれ、これでひと悶着終わって、新しい生活へとスタートを切ることが出来そうですね。陽炎二人も、丸く収まりました。なんだかあの頃から長い長い寄り道をして、またここに戻ってきたような気がします。



この陽炎型の制服が、最近少しだけ窮屈になりましたね。解体されてから成長はしているようです。このまま普通に大きくなって、この服を着なくなる日もそう遠くはないのでしょう。私も、陽炎も、鎮守府のみんなも同じです。


 


そんな日が愛しいと思える日々の到来です。

 



 


 


 


 


 


 



 


 


 


 


 


 


 



――――ピコーン


 


 


 


《クリア、おめでとうございます》


 


 


 


《『新システム』》


 


 


 


 


 



 


 


 


 

 


 


《『友軍艦隊』が解放されました》


 


 

 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


もう少し鎮守府(闇)の物語は続きそうですけど。








ぬいっ。


後書き






お疲れ様でした。
読んでくれてthx。

↓戦後編3編のお話です。

【1ワ●:ぷらずまさん、総統になる】

【2ワ●:リアル連動型桃鉄 2】

【3ワ●:ぷらずま&わるさめランド、ヒビキングカード】

【4ワ●:戦後日常編:暁】

【5ワ●:ライクとラブの違いから】

【6ワ●:あの日の裏話】

【7ワ●:撃沈メーターを】

【8ワ●:大破した】

【9ワ●:命の燃料は補給できません】

【10ワ●:乙中将に聞いてみる】

【11ワ●:丙少将に聞いてみる】

【12ワ●:妹達に聞いてみる】

【13ワ●:置き去りにする】

【14ワ●:戦後日常編:暁 終結】


このSSへの評価

7件評価されています


SS好きの名無しさんから
2019-01-25 08:03:28

SS好きの名無しさんから
2018-11-21 19:43:43

SS好きの名無しさんから
2017-07-23 16:08:06

SS好きの名無しさんから
2017-07-24 06:57:59

SS好きの名無しさんから
2017-07-16 11:08:41

maniacさんから
2017-07-29 20:04:15

SS好きの名無しさんから
2017-07-24 05:28:48

このSSへの応援

6件応援されています


SS好きの名無しさんから
2019-01-25 08:03:17

SS好きの名無しさんから
2018-11-21 19:43:44

SS好きの名無しさんから
2017-07-23 16:08:10

SS好きの名無しさんから
2017-06-28 11:55:41

maniacさんから
2017-06-27 12:32:32

SS好きの名無しさんから
2017-06-27 11:42:45

このSSへのコメント


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください