2015-02-01 22:48:53 更新

前書き

真壁 瑞希が恋をしました。
※注意
短編です
Pに恋するものではありません
学校生活が主体です
オリジナルP、オリジナルキャラクターが出てきます
完結は未定です


それは不意に訪れました。今まで感じたことのなかった感覚。わからないけれど……暖かい。


第1話 in the name of “What“


朝一番の授業が終わって伸びをひとつ、窓から差し込む日差しが眠気を誘います。昨日のレッスンが厳かったので、ついつい居眠りしてしまいそうになります。

次は化学の授業なので教室移動をしようとしていました。休憩時間は10分ありますが、小テストがあるのが化学の悪いところです。

昨日は予習を忘れてしまったので、教室について少しでも勉強しなきゃと急ぎました。

そこで階段を降りようとしたら、ツルッと。

「あっ……」

人は本当に驚いたときにはあんまり声は出ないものなんですね、勉強になりました。

他人事のように思っていても眺める景色はドンドン変わっていきます。階段を見ていた目線は私の意識とは別に階下の地面を見ていました。

足は行き場を失っていますし、掴むものもありません。

……天使になった気分です。羽は無いですけど。

「ちょ、おま!?」

私より驚いた声が聞こえました。けど内心の驚き度では負ける気がしません。

階下を見ていたはずですが、にゅっと黒い物が出てくるのが見えました。学校の制服を着た、見覚えのある男の子です。

「あぶねぇ!」

階段から落ちた私をたくましい男性がふわっ と優しく抱き止めて見詰めあいそして二人は恋に落ち情熱的なキスを……

なんて百合子さんが読んでいた本を朗読しながら興奮していたのを思い出しました。

けれど現実は本のようにはいきません。私は男の子に突撃してしまい、後ろに倒れ込みながら悲痛の声をあげられてしまいます。

私が地面に激突するより先に、助けてくれたみたいです。正直、今になって心臓がドキドキしてきました。

「いつつ……お前、大丈夫か?」

頭を抑えながら自分の胸板にいる私に男の子が尋ねてきます。

体がこわばっているなか、私もかろうじて顔をあげるとお互いの目線が合いました。

とても、とても不思議な時間です。

時間が止まったようにも感じられるし、いつの間にか過ぎているようにも感じる。

この空間だけ日常から切り取られたみたいに、いつもとは違ったなにか。でも、心地良い。

「……大、丈夫、です」

つい言葉が詰まってしまいました。階段から落ちたせいか、それともこの空間のせいなのかわかりませんけど。とにかく心が落ち着きません。

慌てて男の子から退いて座り込み、大きく深呼吸をします。

落ち着け、瑞希。

「まあ、とりあえず保健室行っとけよ。なにかあったらあぶねーしな。というか立てるか?」

そういいながらよっこいしょ、と立ち上がって適当に制服を払うと手を差しのべてきました。心配そうに覗き込む顔、私とは違ったたくましい手。

また、不思議な時間が訪れました。いつまでもこの時間が続いてほしいと思えるような、そんな感覚。

「ありがとうございます」

差し出された手を握ると、力強く、でも優しく引っ張って私の体を起こそうとしました。

「あっ……」

どうやら腰が抜けてしまったみたいです。歩くことはおろか立つことすら出来ません。

心臓は少しだけ落ち着きを取り戻しつつありますが、やっぱりビックリしたままでした。

「んー、まああんだけのことがありゃあそりゃそうだよな、ほれ」

男の子は私の前にしゃがみこむと、後ろ目で私に乗れと催促をしてきました。

これは……俗に言うおんぶというものでしょうか。この年になっておんぶされるのは中々気が引けます。

戸惑う私はおそるおそる男の子の肩に手を伸ばしました。

「保健室まで行くから、あんまり手に力入らないようなら俺に体重預けとけ。それくらい出来んだろ」

私もアイドルなのでプロポーション維持のために色々努力していますが、それでも43㎏はあります。

けれどこの背中の主はそんなのものともしないで、ふわっと簡単に私を背負いました。

あっ、茶髪。うちの学校、染髪は禁止なのに良いのかな。

「ありがとう、ございます」

全身で伝わる相手の体温に体が暖まります。けれど何故でしょうか、心も暖かくなっていくのを感じます。

分からないけど、すごく、すごく安心できる。

少しだけ目を閉じてしまおう、少しだけ。保健室に着いたらまた目を開けるから……

「じゃあ行くぞ」

はい……おやすみなさい。

そうして私は心地良い暖かさに身を預けました。


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