2017-09-02 12:04:30 更新

概要

※二番煎じ感…ですかねえ…ってなシーンあるかもしれませんのん。
私史上2作目となる本作品。
深海棲艦の脅威は薄れ、平和の風吹く鎮守府で提督を務める少佐、吉野貴哉はある朝女と出会う。艦娘は練度の上限に達しようとしており、我こそはと吉野に求婚をするようになる。このやり方も他所とは一味違っており、吉野は苦労するのだが―。愚直にして弱腰である彼の男としての器が問われる。


前書き

※時間ができ次第、少しずつ書きます※
オリジナルキャラクター。
キャラクター独自設定。
史実無視。
適当世界観。
稚拙表現ニキ(SSだから素人丸出しでええやろ)
 ご了承くださいm(_ _)m


 朝からセミが夏の演奏会を開いているらしい。メロディー、リズム、エフェクト…あらゆる音が会場であろう林の中から聞こえてくる。―夏真っ盛り。立っているだけでも汗が滴るほど暑い中、黒地のメッシュ生地で出来たランニングを身にまといストレッチに勤しむ男がいた。


「だーっしゃぁ、今日も走るかあ!」 


高らかに声を張り上げるのはこの鎮守府の管理人…いや、提督である海軍少佐・吉野貴哉だ。

ここに配属されて半年の青二才…にも届かない新米である彼は、体力維持のため毎朝鎮守府内を見廻りのついでに走っている。深海棲艦の脅威も薄れ始め、日本全体には平和の風が吹いていた。彼も例に漏れず平和の風潮に乗っかり、意気揚々と生活している。どうやら今日は気分が良いようだ。


「先輩に褒められちった〜!"ランク入りはしなかったけど、精一杯頑張ったな"なんて言ってもらえるなんて、最高♪」


「今日は調子が良いから外周に行ってみーよっかな〜♪」


サイクリング用のボトル片手に、最近買ったばかりのワイヤレスイヤホンをつけ、お気に入りの曲をセットして走り出す。コースは約10km。鎮守府の正門を出て、港まで走り、街のアーケードを抜け、正門前の通りに戻ってくる。これを1時間かからない程度に走る。


「おじさん、おっはよ〜!!」


「お〜う、あんちゃん元気だな〜!後でさかな持っていってやるからなあ!」


漁協もすっかり経営が安定し、様々な所から船がやってくるようになった。日焼けで真っ黒になった壮年の漁師も、吉野たちに魚を分けてやれるくらいには余裕があるらしい。走りながら挨拶を済ませ、アーケード方面へと足を運ぶ。


「おばさん、おはようございま〜す!」


「あンら〜、軍隊の兄ちゃん、今日もいい顔してるねぇ、ほら、ちょっと寄っていきな!!」


何せ気分が良い。言葉に甘え、吉野は足を止めてイヤホンを外すと、雑談を始める。


「今日はいい天気ですよねえ、ホント」


「ンねえ、ここは潮風も吹くから最高よねえ」


「セミも大合奏ですね」


「あらやだ、アンタも洒落が上手くなったんじゃないの〜」


泣きぼくろを両側に携えたふくよかな女性は、主婦がよくやる"手首のスナップを効かせるやつ"をしながら笑顔でそう彼を褒める。


「僕なんてまだまだ、ですよ〜。おばさんも褒め上手になりましたね」ニッコリ


そう答えると、や〜ね〜もう、とまんざらでもなさげな顔で反応する。しかしそのすぐ後、彼女は真剣な表情を吉野に向け、こう尋ねた。


「最近、隣町で怪しい女が出たって話、アンタ聞いたかい?」


「怪しい女、ですか?一体どんな?」


吉野は鎮守府での執務で多忙なため、隣町まで足を運ぶ余裕はない。まして自分の街について知る機会もほとんどないのだ。例に漏れず今日の話も初めて耳にするものだった。


「噂では、男にすり寄って金目のものを盗むどころか、世話になったその男たち全てを殺して逃げるっていう話だよ」


「そんな事件が…」


「アンタも気をつけなよ、この辺りじゃ滅多に見ない美男子なんだからね」


「…分かりました、注意しますね、それじゃ」


 何故隣町の事件に注意しなくてはならないのか。顔は良く見積もって中の上、高身長でもなければ筋肉質なわけでもない。唯一自慢できるのはコミュニケーション能力程度。海軍に入ったばかりの新米少佐なんかに、擦り寄る人なんているだろうか。そんなことを考えながら、吉野は海岸線を走っていた。目の前に何かが落ちているように見える。それは近づく度にどんどん大きくなっていく。


「こ、これは!!―」


彼の眼前に有るのは今にも息が止まりそうなそど弱った女だった。彼は咄嗟に声をかける。


「大丈夫ですか!聞こえますか!?」


「たす…て…くだ…い…」


女は、波音に掻き消されそうな声でで吉野に答えた。もちろん彼には文として聞こえていないが、とにかく彼は鎮守府に彼女を連れて行くことにした。



 女を背中に乗せて走ること5分、吉野は鎮守府に到着した。普段から走り込みをしていたことが功を奏し、彼に疲れた様子は全く見られなかった。


「提督、おはよう。…その人どうしたの?」


「時雨か、今すぐ明石を呼んできてくれ!」


「う、うん、分かったよ、すぐ呼んでくる!」



……

………


「…こ…ここは……?」


周りは暗い。わずかにぼやけるが、窓の外には光る月があるように見える。何しろ、今の私にはほとんど見えていない。なぜここにいるのか、どういう経緯でここに至ったのか、そもそも自分は何者なのか…遠い昔に…捨てられたような記憶だけは残っている。…考えただけで脳が抉られるように痛む。不毛な自問自答はやめにしよう、そう思った時、ドアの開く音が聞こえた。


「あ!起きたみたいですね、具合は悪くありませんか?どこか痛い所は?」


この女は誰だろう。どうしてこんなに心配そうな口調なのだろう。顔が見えない。表情が見えない。こんなに視力が低かったのだろうか、私は。


「そんなすぐには話せないでしょ?yes,noで答えられるようにしなくちゃじゃないかな?」


「あ、そっか。体調は大丈夫ですか?」


「…はい」


「声、出ますね、私は明石です、こっちは時雨です。よろしくお願いしますね」


「ねえ明石、提督、呼んできた方がいいかな?」


「そうですね、私が呼んできますから、時雨さんはここにいてください」


「分かった」


時雨?明石?…提督?ますます疑問が募る。


「あの、ここは…」


「ん〜、鎮守府って言っても分からないよね、ここは………」


鎮守府…?何処かで聞いたことのある単語…。少し頭に響く単語、忌み嫌っていた、声を聞くだけで胸が焼けるような感覚…


「…それで、…ここの提督はね……」


提督?提督…ていとく…テイトク…!!!!提督…提督…提督提督提督提督提督提督提督提督…全身が焼ける…頭が…顔が…


「…ねえ、聞いてる…?」


「ぅ…うううううううぁあぁ……」


「どうしたの?気分が悪いの?大丈夫?」


「提督…提督…あの男…あいつさえ居なければ…私は…ぁあああああ…!!!!」


「大丈夫か!?」


先の二人のとは違う声が耳に入ってくる。もしかして、あの、提督だろうか。顔も見たくない…声も聞きたくない。……


「提督!!この人が急に…!!」


「大丈夫ですか?僕の声が聞こえますか?僕の目を見てください!」


…?提督と呼ばれてる割には声に重みがない…?あの憎たらしい声じゃない…?


彼女は吉野に目をやる。彼女の目には、提督というには遠く離れた格好をした彼が映った。…ふと我に返る。先程までの感情は微塵も感じられなくなっていた。


「ふう…落ち着きましたか?」


「は…はい…。あなたは…?」


「ここの提督を務めております、吉野貴哉って言います。よろしくお願いします」


「提督…。提督…。」


提督にしては威厳の欠片も感じない。男っぽい雰囲気ではあるが…。


「とりあえず、今日はここで安静にしていてください。…あ、お腹、空いていませんか?何か持ってきましょうか?」


「…お水を…下さい」


「お水ですね、すぐ持ってきますね!」


そういうと吉野は足早に医務室を後にした。

明石も頃合いを見て工廠へと戻っていった。

今、ここに居るのは女と時雨だけである。

…時雨がこちらを睨みながらこう放った。


「提督はお前にはやらない。提督は僕のものなんだ。そう…僕のもの…。」


急に何を言い出すのかと思えば、彼女をライバル視しているのだろうか。初対面の女を恋敵と認定するとは、変わった娘だなと微笑ましくなる。その直後に、吉野が戻ってきた。


「はい、お水です。それと、みたらし団子、良かったら食べてください」


「ありがとう…ございます」


「提督、病人に団子を食べさせるなんてナンセンスどころの話じゃないと思うよ」


「えっ!?ああ〜やっちゃった〜!無理して食べなくて良いですからね、ごめんなさい!」


「大丈夫です、頂きますね」


結局、団子は一口しか食べられなかったが、彼の優しさに少しいい気分がした。時雨がライバル視するのは無理もない話だと心の中で頷いた。


「…すみません、眠くなってきました…」


「そうですか、しっかり休んでくださいね。おやすみなさい。ほら時雨、行くよ」


時雨は立ち上がって、彼女に鋭い視線を送った後退出した。提督のあとを行く姿には何か動物のような雰囲気があった。



翌朝、外には靄がかかっている時間に目が覚めた。昨夜は見えなかったが、枕の横には壁掛けの電話機があった。とりあえず手にとって耳にあてがう。


「吉野です、どうしました?」


「あ、いや…おはようございます」


まさか提督が出るとは思わず、女は戸惑った末に挨拶をした。


「おはようございます、今からそちらに向かっても良いですか?少しお話したくて」


「…構いませんよ」



「体調はどうですか?異常ありませんか?」


「ええ、これといってありません。」


「良かったです、早速ですが、お聞きしたいことがあるんですが…」


「お名前を伺っても…良いですか?」


「私…私は…ええと…」


「美佳っていいます…」


「美佳さん、ですか。素敵な名前ですね」


彼は微笑みを浮かべる。その笑みが、彼女にとってはどこか優しさを感じるものであった。



……


 美佳がここの世話になって一週間が経過した。体調も順調に回復し、提督や艦娘とも良い関係を築き始めていた。―ただ一人を除いて。


―なぜあんな女と仲良くするのか…―あんな女のどこがいいのか…自分とどこが違うのか…そう考えて夜も眠れぬあの娘を除いて―。


 そんな彼女をよそに数日が過ぎた。彼らの関係は進展もせず後退もしなかったが、何よりあの女と吉野が共にいることに腹を立てていた。

 

 執務中、本日の秘書を務めていた時雨がこう話題を提起した。


「提督、今の僕の練度、どのくらいか…しってる?」

「ああ、知ってるけど?」


時雨の練度は数字にして95を超えていた。艦娘たちの練度が99で頭打ちになると、大本営から戦力増強用のブースター(彼女達は指輪と呼んでいる)が各鎮守府に一つずつ送られる仕組みになっている。このことを"ケッコンカッコカリ"と俗称する。実際、指揮官と部下である関係なのだから恋仲にはなりえないのだが…。


「それじゃ、アレ、送られてくるの、かな…」

「…ブースター、またの名を指輪、のことか?」

「そう。提督は、誰に渡すのかなーって、ちょっと気になってさ」

「…そうだな〜…。内緒、だな」

「え〜、教えてよ〜」

「へへへっ、ささ、仕事再開だ」


彼にはブースターを与えるという考えがなかった。一端の提督となるまで多くの先輩のもとで学んだが、彼らのほとんど、いや、全てが"ケッコン"と称して艦娘にブースターを与えていたのだ。海軍に所属する上で、俗世間の行いを任務の一部に取り入れるということが吉野には考えられなかった。―そんなことを艦娘たちに告げるのが憚られ、はぐらかしたのであった。


 一日の執務が終わり、執務室の時計は日付変更線を跨ごうとしていた。既に時雨を執務から外し、吉野は一人押印作業に励んでいた。


「きれいだ…とても…」


外には満月が輝いていた。地球からは38万kmも離れた所にあるのに、なぜこうも鮮明に輪郭を見ることができるのか、月を見るたびに考えた。もちろん答えは分からない。いや、分かってしまっては楽しみが減るような気がして―。

コン、コンと、ドアが鳴る。入るよう促すと、そこに現れたのは美佳だった。


「すみません、こんな遅くに」

「いや、僕もたった今仕事が終わったばかりですから」

「そうでしたか、少しお話が…」


 気分転換に外へ行きましょう、と吉野が促し、二人は港へ足を運んだ。沖の方では夜戦好き達がやれ探照灯だ、照明弾だ、夜偵だと実戦なみの夜練に励んでいる。―月が綺麗だ。


「それで、話ってなんですか?」


吉野がそう尋ねると、美佳は彼の方を向いて話す。


「明日、私の父がここに来るそうです。道に倒れていた私を助けてくれた吉野さんにお礼を言いたいそうで…急な話で申し訳ありません…」

「そうですか、いやいや、全く問題ありませんよ。僕の勝手な良心で美佳さんにここで療養をさせてしまっているんですから。お父さんはどんな方なんですか?」


そう問うと美佳の顔は少し引きつった―ように見えた。美佳は表情をもとのように戻し、こう答える。


「父は、生一本で教育熱心でした。小学校の頃から私を"人前に出して恥ずかしくない人間"に育てようとしていました。お陰で、一般的な優等生にはなったのですが…」


彼女の話す速度は遅くなり、遠くの海を見ていた麗しい横顔は俯いてしまった。これ以上は聞けないだろうと悟った吉野はお世辞にも上手いとは言えぬやり方で話を切り上げる。


「へ〜、素敵なお父さんなんですね、明日が…ってか今日?が楽しみだな、ははっ」



……

朝がやってきた。頭上には雲ひとつない青空が広がっている。セミは相変わらず壮大なチューニングを始めているようだった。吉野はいつもと違って白を貴重とした軍服に身を包んでいる―少佐にしては様になっていた。左腕に着けた時計は8;30を指している。隣には美佳が落ち着きのない様子で立っていた。そろそろ美佳の父がこちらに到着する頃合いだ。

―5分後、黒塗りのリムジンが鎮守府に入ってきた。大企業の社長か何かだろうか、とにかく社会的地位の高い人物であることは彼にも想像ができた。リムジンの左後部のドアが開く。

目の前に現れた男は――


「佐山元帥!!」

「やあ吉野君。元気にやってるかね」

「お、お陰様で、日々任務に励んでおりますっ」


佐山は数年前まで軍の第一線で活躍していた元提督である。深海棲艦の脅威に怯むことなく戦い続けた、言わば海軍の英雄であり、伝説であった。まだ提督としての器量もあり、大本営からは続投の通達が下っていたようだが、「若い者に任せる」と言って辞退した。


「おぉ、美佳も迎えてくれているのか、どうだ、元気か」

「え、ええ…まあ…」


そうか、と頷いて佐山は笑みを浮かべる。


「と、とりあえず中へお入りください、こちらへどうぞ」


吉野はぎこちない口調で元帥を執務室へ促した。あとにも先にも、彼が緊張しているのはこの瞬間しかないだろう。


 「今日は暑い中、お越し頂きましてありがとうございます。お、お茶、どうぞ」

「あぁ、ありがとう。娘が迷惑をかけていないか?」

「いえいえ!とんでもございません、ぼ…私の方こそ迷惑を掛けてはいないか心配になってしまって…」

「ははは、その心配は要らんよ。娘も君のところで世話になって喜んでいたぞ?『吉野さんはとても優しい人です』って連絡も来たしな」

「そ、そうですか…へへへ」

「ちょっと、お父さん!」


包み隠さず楽しげに語る佐山と照れて頭をかく吉野をみて、美佳は赤面して父を諌める。


「おっと、これは悪かったな美佳。…さて、本題に入るとしよう。吉野君、君に頼みがある」


そう言って佐山はソファに座り直す。吉野もそれに応じて姿勢を正す。微かに喉を鳴らして唾を飲む。どんな話が佐山の口から出るのか、真剣になる吉野に対し、佐山が放った一言は驚くべきものだった――



「君に娘を貰ってほしい」

「はい……え!?」


吉野は脳内の血流が一瞬止まったような気がした。


「娘さんを…僕が…?」


あまりの驚きで一人称が戻ってしまう。入隊するまで女性と交際はおろか、会話もままならなかった吉野にとって、美佳を嫁に迎えるという頼みをされても、佐山の発言を飲み込むことができなかった。


「簡単に言おう、美佳と結婚してほしい。私はかねてから美佳に自分と同業の者の妻となって欲しいと考えていた。そして、私の後継者となってほしい。どうだ?」

「し、しかし、どうして私が…?」

「…君の信条は何だ、吉野君」

「マイナスをゼロに近づける、です…」

「そう、それなんだ。以前、他の者にもこの話をしたんだ」

「娘さんの話、ですか?」

「ああ、皆笑顔で承諾してくれた。そして、今みたいに信条を聞いてみた。しかし、どいつも揃って自分を過剰評価するような物言いだった。確かにご立派だった…が、どうも納得の行くものではなかった…。君は違った。自分を格上の者だと勘違いしていないだろう。その姿勢が良いんだ。どうだ、引き受けてくれないか」

「…少し、考えさせてください…」


その場で答えを出すのが憚られ、吉野は一度冷静を取り戻すことを選んだ。


 応接室でのやり取りを終え、吉野と佐山は2人外で話をしていた。美佳は応接室に残り駆逐艦たちと談笑している。


「―かつて、君のような中将がいてな。成績優秀、指揮能力に長け、内外から評判のあったやつが。ある日、彼の鎮守府を訪れた時、彼は私にこう言ったんだ。

『娘さんをください』と。娘はまだ若かったが、可愛い子には旅をさせよ、だろうか、あいつと付き合わせてみたんだ。1ヶ月くらい経った後、近くを通りかかったので寄ってみたんだ――」


最後の一文字を発すると同時に、佐山はその皺のある顔に怒りを浮かべた。軽く歯を軋ませ、こう続ける。


「娘は、美佳はあいつに酷い目に遭わされていた。綺麗な髪はまさに野良犬のそれのようになり、白く透き通っていた肌は青い痣で汚れていた。―なぜ彼がこんなことをしたのか、何を間違ったのか…私はすぐに分かった。あいつは私を、娘を利用しようとしていたのだ。先も君に伝えたが…」

「後継ぎ、のことですか」


吉野はそう反応した。怒り、悲しみ、哀れみ…まだ感情の整理がついておらず、その場しのぎではあるが佐山の話を繋ぐ。


「そうだ。その事に気づいた途端、私はいかに自分が愚か者であったかに悔しさ、いや自分に対して怒りを覚えた。すぐに美佳を連れ戻し、治療に専念させた。お陰で外見はかつての美佳に戻ったが、心には深い傷が残ったままだ。君ならその傷を癒やしてくれるだろうと思っている。」


なるほどそういうことか、と吉野は納得がいった。美佳に初めて会ったとき、彼が提督であると知るやいなや彼女は声を荒げたことがあった。提督に対して、佐山より美佳の方が忌み嫌っている印象がここで確実なものになった。


「分かりました。」


佐山がこちらへ体を向ける。吉野はすぐに答えを出すのを躊躇った。


「結婚の話、2週間待っていただけませんか。私も突然の出来事で整理がついておりません。美佳さんにも考える時間が必要なはずです。いかがでしょうか、佐山元帥」


佐山は首を傾げてこれを聞いていた。そしてこう尋ねた。


「なぜ美佳に考える時間なんかが要ると考えるのかね、吉野君」


吉野もまた首を傾げた。そして気づいた。この男は、提督としては立派な存在だが、父としての器量が足りないのだと。


「元帥のお考えとしては、私が後継者となり、美佳さんとの間で子孫を残していってほしい、そういうことでよろしいですか?」

「そういうことだ。それがどうした」

「結婚というのは、男女間で永遠の愛を誓うことだと私は考えます。そう、"愛"なんです。すなわちそれは"幸せ"に基づくものだと。幸せは一方的に与えるのではないんです。双方が、互いに築いていくものだと思っています。先程のお話を聞く限り、美佳さんに選択の自由は与えられていなかった。美佳さん自身はその提督との交際を望まなかったのに、させられたんです。だから彼女が傷つくことになってしまった。互いの幸せを考えずに、結婚だなんて――」


「何が言いたいんだ、貴様はァ!!」


佐山が側の柵を蹴ってそう叫んだ。彼の目には焦燥と怒りが浮かび始めていた。


「簡潔に申し上げましょう。


『人の気持ちも考えないで後継ぎのことばかり考えるなんて下道の極み』です。


あなたは教育熱心な父親だったと、美佳さんから聞きました。現在も講師として様々な所で講演を行っていることも聞いたことが有ります。教育をする立場なら、教育を受ける側に合わせて授業を進めますよね。子育ても同じでしょう。一人の大切な娘を、自分の勝手な考えで蔑ろにするなんて、父親として、男としてどうかと思いますよ、元帥」


佐山は呆気にとられた顔をしている。愚直な男の特徴である弱腰な態度を備えていた吉野から、まさかこんな発言があるとは微塵も想像できなかったのだから。

佐山は静かに、肩を揺らして笑った。


「流石だ、吉野貴哉。元帥である私に率直な意見をぶつけてくれるのは今までで君だけだ。子供を持たずしてその言い様、少佐とは思えぬ器だな。よし分かった。2週間待ってやる。美佳にも考えさせよう。ありがとうな」

「い、いえ、こちらこそ…」



 佐山は美佳を連れて鎮守府を後にした。吉野は見送りを終え、執務室に戻ろうと振り返る―そこには艦娘が壁のごとく単横陣を組んで立ちはだかっていた。


「俺は潜水艦か?」


おどけて見せるが彼女達の表情は綻ぶばかりか一層厳しいものになった。


「提督…結婚、するんだって…?」

「榛名は大丈夫です、提督を信じていますから!」

「提督が私から離れていったら…こんなに不幸なことはありませんね…」

「司令官さんは電たちのものなのです」

「頼られるのは私だけで良いと思うわ」

「私が一番っぽい」

「あたしが一番だもん」


その他多くの艦娘が言葉を並べている。彼女たちの目には光がなかった。吉野はなんとなく、不吉な風が背中を撫でるような感覚を覚えた。


「これは会議を開かないと、だな」



 会議室では、当時遠征で事情を知らない者もいたため、吉野自ら説明をしていた。やはり先程の連中の目の色は艶消し調だ。


「今朝、佐山元帥がいらっしゃった。要件としては、娘さんの美佳さんと結婚をしてほしい、ということだった」


そう伝えたるやいなや、彼女たちはざわついた。吉野には大方の予想がついてはいたが、やはり彼女たちの眼差しは痛かった。自分は何一つ悪いことはしていない、否、するつもりもないのに。


「それで、提督はどうするつもりなんだ。そこが釈然としない限り、私達の信頼は堕ちていくばかりだ」


戦艦・長門がそう尋ねる。彼女に倣って、他の者も吉野に視線を注ぐ。吉野は手を頭に触れながら、


「結婚なんてする気はないし、これからもするつもりはない。俺は美佳さんに対して親切にはした。だが、恋には落ちていない。親が勝手に決めた相手と結婚なんて、どちらにとっても幸せなこととは言えないだろ」

「…なるほど。我らが指揮官らしい態度だな。わたしたちとの関係も、あるのだから…」


指輪のことだろう、と吉野はすぐに分かった。彼の頭には結婚という考えは存在しないというのに。


 事件やトラブルもなく、時間は流れていった。…そして約束の2週間後、佐山が美佳を連れて鎮守府へやってきた。吉野は2人を応接室へ案内し、話を始める。


「久しぶりだね、吉野君。早速だが、君の意見を聞こうと思うんだ。聞かせてくれないかね」


吉野は姿勢を正して佐山を見つめる。佐山は僅かな自信を感じる面持ちでこちらを見ているが、美佳は少し下を向いて目を瞑っている。


「結論から申し上げます。大変申し訳ありませんが、美佳さんとの結婚は遠慮させて頂きます」


答えを告げたその時、深海棲艦の大規模な出現を示す警報がけたたましく鳴り響く。この音を聞くのはいつ以来だろうか、と思いつつ立ち上がる。普段とは違い、その顔には軍人らしさがにじみ出ていた。部屋の扉が大きな音を立てて開く。入ってきたのは時雨だった。吉野は彼女から第一艦隊を出撃させたという報告(元来、艦隊の出撃の可否は提督が判断することになっているが、緊急を要する際は秘書を務める艦娘に決定権が与えられている)を受ける。


吉野は佐山と美佳両名に応接室から出ないよう伝え、時雨と共に指揮へ向かう。

佐山は自分が指揮を取れない状況に加え、娘の岐路に立つこの時に起きている事態に不安や焦燥を抱え、眉間に皺を寄せ、腕を組んで黙り込んでいる。一方美佳は、目を開いているものの下を向いたまま静かな呼吸を繰り返している。

―片側の口角が少し上がっている。天地の狭間を往来する稲妻の光が、時折彼女の顔を照らしていた。…雨が降り始めた…。



執務室では、吉野と時雨の2人が無線を介して出撃中の艦隊と連絡を取っていた。


後書き

 ここまで!お疲れ様です!
清楚系と、ギャル系、出してみたい。言うてどっちかしか残らんのだけど。
キャラの名前ぇ…美佳に…早希(どっかで出てくる)に…構成は出来とる。打つのが面倒!指ちかれる。こわれりゅ。


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SS好きの名無しさんから
2017-08-01 05:34:09

SS好きの名無しさんから
2017-07-20 21:07:06

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SS好きの名無しさんから
2017-07-20 21:07:07

このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2017-08-01 05:37:21 ID: 5HGqnOq0

見た目が美しいことから
美佐恵などはどうかな?

2: クロード 2017-08-05 21:43:31 ID: hXO8UnUe

>1さん
コメントありがとうございますっ
みさえ、ですか〜。どうも某ママしか浮かばないので、一文字ずつ頂きますね!

ゆっくり更新していくのでお付き合い下さい^^


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