2017-07-27 21:54:49 更新

概要

吹雪と司令官、そして鎮守府のほのぼのとしたお話です。


前書き

なんか思いついたので書いてみました。


「じゃあ、後はお願いしますね」

「ごめんなさい。あなたに全てを押しつけたりして」


「大丈夫です。私、頑張りますから」


「やっぱり私は反対だ」

「ちょっと。もう皆で決めたことでしょ。何を今更……」


「これからお前が歩もうとしている道は、極めて困難で救いの見えない偽りの日常だ」

「例え現状が改善されたとて、この先も同じとは限らない」


「分かっています。分かっていますから」


「お前の憧れは、お前を瞳に映さないんだぞ。外側だけのあやふやな日常が、そう長く続くとは思わない」


「日向さんの危惧は良く分かります」


「でも、私は決めました」


「……この先、どうなるか分からないけど」


「私は、あの人の笑顔をもう一度見てみたい」


「あの人の笑顔を目指して、私は今日まで頑張ってきました」


「だから、きっと大丈夫」


「――行ってきます。」


○月×日 晴れ

私は吹雪。艦種は駆逐艦。12期生卒の成り立て艦娘だ。

って、日記の中に私のことを書いても仕方ない。これは誰の手にも渡らせる予定も無ければ、目を通させるつもりもない。私だけのもの。

そんな私が、どうして日記に書き留めようとしたかって?

これから先、苦労が多いと思うから?

上官や先輩の愚痴を書くため?

卒業を機に、新しい"吹雪"に成りたかったから?

どれも違うなぁ。

何となくが一番適してるかも。

止め処なく書いているうちに、記念すべき一ページ目がもう埋まりそう。

何気ない体験談と共に、この日記のあり方を探していこうと思う。



○月△日 曇り

私が着任した鎮守府は賑やかな場所だった。

彼女達は本当に兵学校を卒業したのかと疑った。

旅行(新人に鎮守府内を案内すること)中に見学しただけで、本当に軍の施設かさえ疑った。

駆逐艦の子達は走りまわり、

巡洋艦や戦艦の皆さんは、各々の趣味に没頭し(特に瑞雲師匠と呼ばれていた日向先輩。あの情熱はどこから沸き上がってくるのだろうか)

空母の方々は間宮さんのアイスしか目に見えてないらしく、アイスばっかり食べている。

真面目に訓示通りの挨拶や礼儀を行っていたことが恥ずかしくなるぐらい、ここは腑抜けていた。

こんな鎮守府で大丈夫なのか、とちょっと思った。

すると旅行担当者の浜風さんが、にっこり笑って「大丈夫ですよ」と言ってきた。どうやら表情に出ていたらしい。

「初めは戸惑うかも知れませんが、少しずつでも良いのでゆっくり馴染んでいってください。」とも言われた。

まずは自分の表情をコントロールすることを覚えようと思った。

消灯の点呼が鳴ったので、今日はこれぐらいにしておく。

明日は秘書艦としての仕事が待っている。着任したての艦娘に何を期待しているのだろう。提督は何をお考えなのだろう。

ともかく、朝早く起きないと。


コンコン


「失礼します」


ガチャ


「司令官っ」


「…」


「司令官?」


「…」


「司令官、起きて下さい」


「……」


「……本当に、お好きだったのですね」


「……」


「司令官、私です。吹雪です!」


「……吹雪?」


吹雪「そうですよっ。私は吹雪です! 昨日私を任命したから、やってきたのですよ!」

吹雪「起きて下さい。朝の点呼に間に合いませんよ?」


司令官「……吹雪」


ギュッ


吹雪「え?え?」


司令官「……どこに行っていたんだ。ずっと探していたんだぞ――」


吹雪「……はい、申し訳ありませんでした」


司令官「もう離したくない。お前のことを……ずっと……」


ギュゥゥ


吹雪「――ふぁ///」

吹雪「って、何を寝ぼけてるんですか! 起きて下さい!」

吹雪「早く布団をたたんで、着替えて、朝食をとって下さい!」


司令官「ああ、悪い悪い。今すぐ支度しよう」


吹雪「きびきび動いて下さい。間に合いませんよ?」


司令官「どうも昔から、寝起きは弱くてなぁ」


吹雪「言い訳は顔だけにして下さい。もしくは五体を動かしながら口を動かして!」


司令官「そんな、ひどい……」


吹雪「ひどいのは司令官の私生活です! なんでこんなに部屋が汚いんですか!」


司令官「書類とか捜してると自然とね」


吹雪「やることが多すぎます。とりあえず机の上に食事置いておきましたから食べちゃって下さい。私が片付けしておきますから!」


司令官「いつもすまないね。吹雪」


吹雪「司令官、それは言わないお約束で……って、何で長年寄り添ったお年寄り夫婦のような感じになっているのですか!」


司令官「ふむ、吹雪はノリが良いと」カキカキ モグモグ


吹雪「食べながら書かない! お行儀が悪いですよ! あと私の性格を日報に記すのやめて下さい!」


司令官「性分でなぁ。許せ」


吹雪「農家の皆様へのありがたみが感じられません。私なんかよりも、目の前の茶碗やお皿に向き合って下さい!」


司令官「吹雪は俺のお艦か」


吹雪「上手いこと言ったつもりかも知れませんが、ネタに悦を感じる時間はありませんからね!」


司令官「ん、吹雪よ。コーヒーはまだか?」


吹雪「今煎じてますから早く!」


司令官「うーん平和だなぁ」


吹雪「平和をかみ締める前に、箸を動かして下さいよぉ!」


吹雪「コーヒーできました。どうぞ」


司令官「ありがとう。頂こうか…」ズズッ


司令官「んん、甘いっ」


司令官「これ、良く見たらココアじゃないか」


吹雪「あれ、お好きではありませんでしたか?」


司令官「私は甘いものが苦手なこと、知っているだろう」


吹雪「うふふ、そうでしたっけ?」


司令官「悪ふざけが過ぎたなら謝るから、もう一度ちゃんとしたコーヒーを作ってくれないか?」


吹雪「本当に真面目に働いてくれるんでしたら」


司令官「お望みなら誓約書もつけてやろうか」


吹雪「分かりました。いますぐ準備しますので、ちゃっちゃと食べて下さいね」


○月□日 晴れ

秘書艦に任命され、提督の身の回りのお世話をすることになった。

総員起こしの20分前に、執務室へ向かい提督を起こす。中々提督は起きてくれない。

どうやら朝に弱いようだ。

やっとのことで提督の身を起こしてあげた。寝ぼけているのか私を抱き寄せ、胸に頭をうずめた。

二、三回平手打ちをかますと、ようやく目が覚めたらしく、すまんすまんと詫びる仕草を見せた。

朝食を済ませると、以前秘書艦を担当していた瑞鶴さんから「提督はコーヒーが好きだから煎じてあげてね」と言われていたので、出してあげた。

コーヒーの出来は非常に良かったと思う。我ながら良くやったと褒めてあげたい。

しかし提督は苦いものが苦手らしい。どうしてコーヒーを煎じたのかと問われたので、以前の秘書艦にアドバイスされましたと素直に言った。

提督は苦い顔を一瞬見せて、彼女の話は嘘だ。俺は甘いものが好きだ。ココアとかを入れてくれ。と頼まれたので、今度はココアを入れて持っていった。

提督は上機嫌に新聞や書類を眺めながらすすってくれていた。一連のやり取りを見て、見た目は大人だけど中身は子供みたいな人だなと思った。

着任式の威風堂々とした提督はどこへ行ったのやら。

書くことがたくさんありすぎるので、分けて書くことにする。



綾波「司令官だ…」


暁「嘘みたい」


ヴェールヌイ「……」


司令官「綾波、暁、ヴェールヌイ。おはよう」


羽黒「提督…」


比叡「これは後で、比叡カレーを振舞わなくてはですね!」


司令官「羽黒、比叡。おはよう。ところで比叡、カレーは何が何でも作ってはいかんぞ」


瑞鶴「……提督さん」


司令官「おはよう瑞鶴。今日も立派な袋田の滝だな」


瑞鶴「っ! それどういう意味!?」


司令官「瑞鶴の想像通りの意味だと思うぞ」


瑞鶴「ったく、久しぶりに顔出してみればしゃあしゃあと! 全攻撃隊発艦…」ガシッ


日向「落ち着け。提督を爆撃して何になる」


瑞鶴「離して日向! 提督さん殺せない…!」ジッタバッタ


司令官「おはよう日向。俺の命を助けてくれて感謝する」


日向「ああ、おはよう。変わりはないようで安心したぞ」

日向「あと瑞鶴に命が狙われる理由は、自業自得だと思うぞ」


司令官「善処しておこう」ザザッ


日向「吹雪」


吹雪「あ、日向さん、おはようございます」


日向「おはよう吹雪。まずはありがとうとでも言うべきか」


吹雪「そんな、ありがとうだなんて……。私の成すべきことをしたまでですよ」


日向「何度も重ねて言うが、辛抱ならなくなった時は、いつでも辞めてもらって構わないからな」


吹雪「はい、心得ています」


日向「……すまない」


司令官「おい二人とも。遅刻したらお昼の間宮羊羹は無しだからなー」


日向「……急ぐぞ、吹雪」


吹雪「え? 日向さん、急に目の色が変わりましたけど」


日向「間宮羊羹は、死活問題に関わる」


吹雪「そんなに美味しいものなのですか。兵学校時代にも、手紙や噂で聞いた限りなのですが」


日向「間宮羊羹以外の羊羹が、泥団子みたいな味になる」


吹雪「日向さん、泥団子食べたことあるのですか!?」


日向「食いつくのはそこか。例えだ例え。実際に食べたことはない」

日向「多分」


吹雪「今、多分って言いましたよね! 私の聞き間違いじゃないですよね!」


日向「生きとし生けるものには、生涯に一度は過ちがあるものだ」


吹雪「それってあれですよね。おままごとか何かで本当に泥団子を食べたという……」


日向「探究心も罪だな」


吹雪「え? 最近なのですか? ちょっと美味しそうだなと思ってぱっくんしちゃったのですか!?」


日向「急ぐぞ吹雪。間宮羊羹が待っている」ダッ


吹雪「日向さんはやい! 絶対低速戦艦じゃない!」


司令官「本日も各々程々に職務に励むように。解散!」


ゾロゾロ


司令官「吹雪。次の予定は?」


吹雪「ヒトヒトマルマルから他の鎮守府と演習の予定があります」


司令官「分かった。選出した艦娘達を向かわせよう」


吹雪「司令官。掃海任務が発令されています」


司令官「よし、陽炎型から数人選出しよう」


吹雪「改修の意見具申があります」


司令官「許可する。明石さんに伝えてくれ」


吹雪「遠征隊の帰港を護衛せよとお達しが」


司令官「暁と綾波、そして基地航空の数機を向かわせる」


吹雪「開発班から資材が足りないとの苦情が」


司令官「日向に担当してもらおう。彼女は弁が立つからな」


吹雪「あの、司令官」


司令官「どうした?」


吹雪「私、ただ文章を読み上げているだけで、全く肉体的労働をしていないのですが、良いのですか?」


司令官「何を今更なことを言っているんだ。秘書艦の仕事といえば、司令官の手伝いだろう」


司令官「手を動かすことといえば、書類の整理やお茶汲みとか、本当に身の回りのちょっとしたことだけだ」


吹雪「でも……」


吹雪「――あ、いえ。そうでしたね。申し訳ありません」


吹雪「久しぶりの秘書艦だったので、色々と物忘れしていました」


司令官「昨日も秘書を頼んだのに?」


吹雪「あ、えっと……その、」


コンコン


羽黒「し、失礼します。提督」


司令官「お、羽黒。どうした」


羽黒「この後の演習の予定なのですが」


司令官「ああ、今回の演習は対空演習だから……」


吹雪「……ふぅ」


吹雪「駄目だな。私。もっと頑張らないと……」


羽黒「では提督。失礼します」


吹雪「あ、羽黒さん……」


羽黒「……吹雪さん」


羽黒「私はこんなこと言える立場ではないですが」


羽黒「――あまり無理はなされないようにして下さいね。吹雪さんは吹雪さんなのですから……」


吹雪「……」


吹雪「……はい」


ガチャン


吹雪「……ふぅ」


司令官「どうしたんだ、吹雪。顔色が優れないぞ」


吹雪「司令官は上機嫌ですね。いつもながら」


司令官「だって一日中女の子に囲まれながら、セクハラするだけの職場なんだぜ? 男にとっては桃源郷だぞ」


吹雪「異性の方が多いと、色々と気が滅入るという話を聞きますが」


司令官「確かに所々不便ではあるな。気兼ねに下なネタを触れられないし。トイレも気にしないといけないし」


吹雪「トイレって、司令官は何を気遣って……あ、」


司令官「適宜周期表を見て、入るタイミングを考えているぞ」


吹雪「司令官、一つ意見具申よろしいですか?」


司令官「発言を許可する」


吹雪「トイレを分割しませんか?」


司令官「その費用はどうするつもりだ」


吹雪「大本営に負担を申し立てます」


司令官「いいか、吹雪。これから俺の言うことをしかと聞くように」


吹雪「はい」


司令官「ここは本土から遠く離れた辺境の泊地。本土への通商護衛の要衝として、築き上げた」


司令官「形こそ泊地の姿なれど、実態は本土の港とそう変わりはせん」


司令官「周りを見渡せばブインやリンガなど、もっと良好な泊地だって存在する」


司令官「深海棲艦の攻勢を食い止めるため、更に戦線を拡大しようと試みる大本営のご意向もある」


司令官「そんな時勢に、辺境の泊地の"トイレを別々にしたいのでお金下さい!"と言っても、却下されることは目に見えている」


吹雪「む、……確かにそうですけれど、このままだと気にし始める艦娘達も現れ、作戦の遂行に多少なりとも支障をきたす場合が……」


司令官「吹雪、慣れると実家に居る気分になれると聞くぞ」


吹雪「慣れたくありませんよ。それとその周期表は没収させて下さい。乙女の秘密なので」


司令官「それは困る」


吹雪「どう困るのですか?」


司令官「何も知らずに用を足そうとした時、便器に血がこびりついてたらびっくりするだろう」


吹雪「怪奇現象ですね。でもダメです。プライバシーに関わりますので」


司令官「プライバシーをどうしようが、現場監督の勝手だ」


吹雪「では監督をどうしようとも、私達の勝手ですよね。司令官が私達を束縛するなら、逆も然り」


司令官「物騒なことを言うな。この前までの可愛げのある吹雪はどこへ行ったんだ」


吹雪「過去の自分に聞いてみて下さい。ほら下らない会話をしている場合ではありません。早くお昼ご飯食べちゃいましょう」


吹雪「……ふぅ」


吹雪「……。」


吹雪「("過去の自分"か……)」


司令官「……。」


司令官「――よし」スタッ


吹雪「どうしたのです。おもむろに立ち上がって。執務室でお食事をとられないのですか?」


司令官「特に意味はないよ。ちょっとした気分転換だ。付き合ってくれるか?」


吹雪「そりゃ付き合いますよ、だって私は――」


吹雪「――あなたの秘書艦なのですから」


-間宮-


司令官「よし着いたぞ」


吹雪「――ここが間宮ですか。初めて訪れました」


司令官「割と来ているような気がするんだが、俺の思い違いか?」


吹雪「間宮さんの手料理が楽しみすぎて、少し記憶障害が」


司令官「ああ、納得。ここは甘味がいっぱいあるぞー。何でも好きなの食べろ、俺の給料が尽きない程度にな!」


吹雪「ええ、良いのですか?」


司令官「もちもち。好きなの頼め」


吹雪「うわー。メニューが選り取り緑ですよ!」


司令官「日向の話によると最近メニューがバージョンアップしたようだしなぁ。俺ですら知らないメニューが増えてる」


吹雪「そうだったのですかー。へぇー。へぇ~」キョロキョロ


司令官「メニュー表をマジマジと見つめながら会話しない」


吹雪「すいません、司令官が視界から消えていました」


司令官「分かった分かった。俺は邪魔者らしいから先に席取ってるわ」


吹雪「いえ、そういうつもりでは……あ、でもあってるかも」


司令官「所詮、俺は甘味以下の価値と魅力しかない司令官ですよー」スタスタ


吹雪「どれも美味しそう~。見渡す限りの贅沢品だよ~」


間宮「お褒めの言葉、ありがとう。吹雪さん」ポンッ


吹雪「うえ!?」ビクッ


間宮「始めまして。私が甘味間宮処担当の間宮です」


吹雪「あ、ああっ。始めまたたた」


間宮「落ち着いて。呂律が感情を反映しているわよ」


間宮「あと、あなたが皆さんの言っていた吹雪さんで良いのよね。姿かたちが似ていたから、そう呼んでしまったのだけれど……」


吹雪「あなたあたたな」オドオド


間宮「深呼吸ー」


吹雪「はいっ!」スゥー


間宮「吐いてー」


吹雪「ふうぅぅ」フゥー


間宮「どう、落ち着いた?」


吹雪「よーそろー」


間宮「どうやら落ち着いたみたいね。ついでと言っちゃなんだけど、さっきの質問の答え、教えてもらえる?」


吹雪「始めまして、吹雪です。本日付けでここに着任しました!」


間宮「やっぱり吹雪ちゃんだったのね。これからよろしくね」


吹雪「こちらこそよろしくお願いします!」


吹雪「ところで間宮さん。一つ聞いてもよろしいでしょうか?」


間宮「はいはい。何なりと」


吹雪「何故、後ろから話しかけられたのですか?」


間宮「あらあら、ごめんなさいね。久しぶりに司令官が他の誰かと談笑する姿を少しでも眺めていたくて。すっかり声をかけるタイミングが無くなっちゃったから、よし、だったら吹雪ちゃんを驚かせてやるかー。と思って後ろから肩ポンしちゃったの」


吹雪「ああなるほど?」


間宮「良く分かってなさそうね」


吹雪「ちょっと良く分かりませんでした」


間宮「で、吹雪ちゃんは何をご所望かしら」


吹雪「そうですね……どれも捨てがたいのですけれど、おお。このぷりんあらもーどが私を手招いている気がする! よし、これにしよう!」ビシッ


間宮「どれどれー。あっ……」


吹雪「どうしたのですか。間宮さん?」


間宮「――吹雪ちゃん。そのプリンアラモードは、もう作ってないの。別のにしてくれる?」


吹雪「分かりました。素材の仕入れとか大変ですもんね」


間宮「……そうなのよ。この泊地って本土から結構離れているでしょう。だから補給がまばらでね。ごめんなさい」


吹雪「間宮さんが謝ることじゃないですよ。……じゃあこれにしようかな。間宮カステラと羊羹」


間宮「分かったわ。腕によりをかけて作っちゃうわね」


吹雪「……」ジーッ


間宮「……」


吹雪「……」ジーッ


間宮「……あの」


吹雪「はい?」


間宮「私の料理なんか見てて楽しいかしら?」


吹雪「参考になります」


間宮「あと、ちゃっかりと吹雪ちゃんの隣に居る提督」


司令官「はい。なんでしょうか」


間宮「その、見てて楽しいものなのでしょうか……?」


司令官「楽しいぞ。魔法のように料理が作られていく過程を見れるし」


間宮「そういうものなのですか。間宮には良く分かりません」


司令官「困惑した顔もグッジョブ。さて、様々な表情を堪能したし、小刻みに揺れるバルジも見れたんで帰りますかー」


間宮「ちょっと提督! どこを見ているのですか! もー!」


吹雪「司令官ってやっぱり変態なのですね」


間宮「ほんと。いつもの調子に戻ったらすぐこうなる。初心に帰って欲しいものね」


吹雪「え、昔からじゃないんですか。司令官のセクハラは?」


間宮「そうね。着任したての頃は全くといって良いほど、艦娘達と交流していなかったわね」


吹雪「え、それって、冗談ですよね?」


間宮「ざんねん。事実です。昔の司令官は頑固で真面目過ぎたのよね。それにちょっと女嫌いが混ざってて。仕事は出来るのに、女の子との触れ合い方が分からない系男子って感じだったの」


吹雪「へー。そんな純真な時代があったんですね」


間宮「そんな吹雪ちゃんの方こそどうだったの?」


吹雪「どうだったって?」


間宮「提督と吹雪ちゃんって同郷のよしみなのでしょう?」


吹雪「ど、どうしてそれを……?」


間宮「第六駆逐隊の子が言っていましたよ。一時期その話題で盛り上がっていたこともあったけ」


吹雪「暁ちゃん達か……。確かに仲が良さそうだったからなぁ」


間宮「あの子達って無垢でしょ。だから躊躇いも無く、提督に聞いちゃったのよ。”お二人は幼馴染なんですか?”って」


吹雪「はい」


間宮「その頃の提督、まだ新任の頃だったからとても慌てて、"ち、違う。俺と吹雪は家が隣同士だったんだ!"って否定する素振りを見せて、肯定しちゃったの。あれは面白かったなぁ」


吹雪「やっぱり懐かしいですか?」


間宮「……ええ。とっても、懐かしいわ。まるであの頃の風景を眺めているかのように、司令官は笑っているわ」


吹雪「私にとっては、今の司令官も、昔の司令官も同じように見えるのですけれど」


間宮「吹雪ちゃんは、あの司令官の負の部分を見ていないから。いずれ分かるわ。あの人の抱えている闇が」


吹雪「そんな日は来ません。私が居る限り」


間宮「それもこれも全て吹雪ちゃんのおかげよ。ありがとう。そして、ごめんなさい」


吹雪「どうか謝らないで下さい。これは、私自身が決めたことなのですから……」


間宮「……あなたが居なければ私達の時計はずっと固まったままだったの。だからこその感謝と謝罪」


吹雪「……」


間宮「辛くなったら、いつでもここに来て。たくさんサービスしちゃうから」


吹雪「――はい」


司令官「はー食った食った 」


吹雪「口が溶けてしまいそうでした。ありがとうございます。司令官」


司令官「良いってことよ。疲れたら間宮が一番。甘いものでも食べてお喋りに尽きる」


吹雪「……やっぱり、顔に出てましたか?」


司令官「割と素直に」


吹雪「そこははぐらかす所ですよ」


司令官「そう言ったとしても、突っかかってくるんだろ。知ってるぞ、長い付き合いだしな」


吹雪「……そうですね。かれこれ10年前の話ですね」


司令官「俺が引っ越してから会った試しが無いから、実際は5年ぐらいの付き合いかな」


吹雪「毎日が楽しかったですよね。朝早く家を出て、海岸を駆け巡って」


司令官「貝殻集めやカニをとって遊んで。夕焼けの水平線がどこか物悲しくて」


吹雪「時が溶けていくあの感じ。子どもならではの体験ですよね。もう私たちは味わえませんが」


司令官「なんだ吹雪。思い出に心が沈めるなんて珍しい」


吹雪「懐かしさは人を惑わすものです。私も艦娘なれど人ですから」


司令官「いつか静かな海を取り戻したら、再び遊ぼう。俺と吹雪と、確かもう一人…吹雪に妹がいただろ。三人で海岸を走り回るんだ」


吹雪「……司令官」


司令官「どうした。浮かない顔をして。……そういえば妹はどうしたんだ。やっぱり吹雪同様兵学校に行ったのか?」


吹雪「……妹は確かに兵学校へ行きました。彼女は策略に長けていました。そして、首席で卒業したこともあって、内地に呼ばれて参謀になりました」


司令官「参謀? それはびっくりした。で、妹さんは元気なのか。もうすぐ大規模作戦があると聞く。その前に、内地へ近況報告も兼ね、妹に挨拶に伺いたいと思うのだが」


吹雪「……妹は、亡くなりました」


司令官「……」


吹雪「妹は内地にて、各地のの戦術に携わり、勝利を重ねてきました。その才覚を見込まれ、この前行われた大規模作戦の全面的立案を任されました」


司令官「……」ズキッ


吹雪「司令官、大丈夫ですか。顔色が優れませんが」


司令官「い、いや。なんでもない。続けてくれ」


吹雪「妹は張り切っていました。だって初めて大任を託されたんです。心も躍りますよね。だから彼女は頭を振り絞って、立案に日々を費やしました」

「寝る間も惜しんで作成された立案書は大本営で可決され、各鎮守府に通達されました。彼女の作戦は完璧でした。緒戦において、戦局を有利に運ばせていました」


司令官「何らかのアクシデントがあったのか?」


吹雪「彼女の指揮は、全てが噛み合うことで効果を成し得るものでした。だから戦術においては常勝無敗を誇っていたのです」


司令官「なるほど。となると戦略の指揮には向かなかったんだな」


吹雪「その通りです。彼女が自分の弱点に気づいた時、既に戦線は防衛戦移っていました」


吹雪「ここでも彼女の弱点が露呈します。特定地の防衛は得意だったのですが、遭遇戦や夜戦には向かなかったのです」


吹雪「結果、大規模作戦は目的は達成できました。しかし失った物が余りにも多かったのです。失った物の中には、彼女の大切な人も含まれていました」


司令官「……事の顛末は、どうなったんだ」


吹雪「大本営は彼女を一定の評価はされど更迭。その最中に彼女は自責の念からか、その命を絶ちました」


司令官「……なあ吹雪」


吹雪「はい」


司令官「妹さんは、周りに誰か相談出来る人は居なかったのかな」


吹雪「え?」


司令官「上に立つ人には、二つのことが求められる。まず一つ、人の命を天秤にかける勇気と決断力」


吹雪「心得ています。彼女もそう考えていました」


司令官「俺達のような脅威と戦う人達にとっては特に大事だよな。ノーリスクで終わる戦いなんて、話でどうにかなる」


司令官「だか、それで解決しないのが今の大戦だ。武力には武力を。死線を超える戦いだ。どう頑張れど多数に被害が及ぶ」


司令官「だからこそ天秤にかけなきゃダメなんだ。どっちの方がより多く生き残るのか。助かる方が多いのか。きちんと見定め、失う命にも責任を持たなきゃならん」


吹雪「正論だと思います」


司令官「そしてもう一つ、諦めも大事」


吹雪「え?」


司令官「吹雪。俺は一人で料理が作れない」


吹雪「突然、何を言い出すんですか?」


司令官「洗濯も掃除も執務も一人じゃできない」


吹雪「全然駄目じゃないですか。誰かに手伝ってもらわないと」


司令官「それだよ。自分の欠点を知り、周りに助けてもらう必要があるんだ」


吹雪「それじゃ、誰が上に立っても同じじゃないですか」


司令官「違うぞ吹雪。人の自尊心程厄介なものはない。助けを求めることは、すなわち人に己の弱さを見せることだ。そんなこと、できるか?」


吹雪「……出来ません。自分に与えられた仕事は、どんなに困難であったとしても、一人で解決してみせます」


司令官「俺はどうだ。常に誰かに頼っているだろ」


吹雪「そうですね。あちこちに応援を求めています」


司令官「それだよ。すぐさま欠点を周りに助願できる人。一見頼りないと思われるかもしれないけど、人間一人で何もできないんだ。できないものはできない。だから適宜に分担して、必要な所はきちんと自分が指示を出してやるべきだ」


吹雪「……」


司令官「妹は辛かっただろうなぁ。自分で全てを引き受けてしまったんだろ。そりゃ苦しいよ」


吹雪「……司令官」


司令官「でもよく一人で頑張ってたと思うよ。少なくとも責任をとって死ぬことはなかった。妹さんは責任感が強い人だったんだね」


吹雪「……しれ、いかん」グスッ


司令官「吹雪も妹の訃報を聞いた時、悲しんだだろうけど、もっと泣いても良いんだよ。もっと弱さを見せて。俺が受け止めてやるよ。それで少しでも、吹雪の悲しみが安らぐなら」


吹雪「しれぃかん…!」トンッ


司令官「思いっきり泣くといいよ。周りには誰もいない。俺達だけの秘密だ」


吹雪「辛かったよぉぉ…… ずっと、ずっとぉぉ……! 」


○月□日 晴れ

続き。

秘書艦の仕事は多忙を極める。

総員点呼、朝の通達事項、新装備の開発、及び装備点検、備蓄資源の確認、演習、遠征、輸送護衛艦隊の選出……ざっと思いついたものだけでこれだけある。頭が痛い。

これらの仕事に右往左往している間に昼食の点呼が鳴った。あちこちの施設に出掛けていたので、久方振りに入る執務室。この空間には私と提督しか居ないので、ちょっと肩の力を抜いて、設けられた机に身体を預ける。

そんな私の疲れを見抜いたのだろうか、提督が間宮処なる所に連れて行ってくれた。曰く那珂ちゃんが艦隊のアイドルであるのならば、間宮は艦娘のアイドルらしい。全く持って謎だった。

その言葉の真意は入ってから気づかされた。ショーケースに並ぶ選り取り緑の展示物に心が躍った。どれもこれもが内地では嗜好品として、自粛を促されていたものばかり。こんな辺境の地でまさかお目にかかれるとは思わなかった。

提督がどれでも好きなものを選んで良いと仰られたので、とりあえず目についた「プリンアラモード」を頼み、厨房に声をかけた。

すると、一人の女性が厨房から現れた。彼女が噂の間宮さんらしい。

世間話に花を咲かせていると、先に席に着いていた提督がじーっと抗議の眼差しを向けていたので、話を打ち切り、急いで各々の持ち場に着いた。

甘味が到着する。卓上に置かれたプリンアラモードを見て、思わず息を飲み込む。とても美味しそう。

私には妹と違って文才が無いので、その形状の詳細を書けないのが残念である。

私なりにその衝撃と形状を言葉にするのであれば、「黄金と雲海」。内地の竹田城を例えにするのであれば、黄金は城郭で、雲海はクリームといった所だ。

一口ほうばるともう止まらなかった。提督と食べながら何かを話していたような気がするが、すっかり話題が甘味に埋もれてしまっている。それだけ美味しかった。もうこのまま昇天したって構わない。冥土の土産は十二分に携えたことだろう。

間宮処の話を記述している間に消灯の点呼が鳴った。執務室に日記を持って行って良いか提督に聞いてみよう。そしてもし許可が下りたら、そこで続きを書こう。



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