2017-08-02 16:52:56 更新

概要

いつもお世話になっている提督に艦娘たちが「ありがとう」と伝えようとするが・・・


ありがとう・・・


それは、相手に感謝の気持ちを表すために使われる言葉。


言葉で表すのは簡単な事だけど、実際に伝えたい人に言うときは緊張して言えないものである。



「司令、今日のお仕事、お疲れ様でした!」


司令はいつも忙しい・・・朝から深夜まで休みなく働いている。


「ああ、お疲れ様。 明日はゆっくり休んでくれ。」


「はい! ・・・あの、司令。」


「? どうした?」


「・・・・・・」



時々言いたい時があります。「いつもありがとうございます」と・・・



「すいません・・・何でもありません。」


「そうか・・・では霧島、おやすみ。」


「はい、それでは! おやすみなさい!」


私は部屋に戻っていった。



・・・・・・


「あ~私もよくありますよ。」


今日は休日で、村雨さんと秋月さんの3人で喫茶店で話をしていました。


「私も提督に何度も助けられましたから・・・「ありがとう」って言葉を言いたいけど、恥ずかしくてなかなか言えませんねぇ~。」


「秋月も・・・司令と面を向かって「いつもありがとうございます」と伝えたいのですが・・・緊張します・・・」


「・・・・・・」


「皆そうなんですね。」と思った霧島。


「あらぁ~霧島さん、ここで会うなんて~。」


「あら、蒼龍さん・・・どうしたんです?」


「ふふ・・・この喫茶店結構評判が良くってね~・・・大鳳さんとここで待ち合わせしているの。」


話していると、目的の人間が現れる。


「ああ、大鳳さん! 遅いよ!」


「すいません・・・場所がわからなくって・・・待ちましたか?」


「いいえ、実は今来たと・こ・ろ♪」


「そうですか・・・あら、霧島さん。 あなたもここの評判を?」


「評判と言うか・・・私たち3人がよく来るお店なんです。」


「そうでしたか・・・では、せっかく鎮守府の方々が集まったことですし、何かお話しますか。」


そう言って蒼龍たちが最初に飲み物を注文した。


「実はねぇ・・・個人的な悩みがあるんですよ。」


霧島が話題を振って・・・


「え、何々? どんな悩み? もしかして提督のこと?」


「まぁ・・・司令の事と言えばそうなんですが・・・」


「いいよ。 私でよければ相談に乗るよ!」


蒼龍が得意げに言う。


「・・・実は。」


霧島が説明した。


・・・・・・


「う~ん・・・確かに・・・難しい所ねぇ~。」


得意げだった蒼龍が考え込む。


「私も本当は言おうとした時があったけど・・・何て言うか今更って感じで言えなくてね・・・でも、やっぱり日頃の


 感謝として「ありがとうございます」って言いたいかな。」


「私もです・・・空母の性能としては皆に劣りますが、それでも提督は私を選んでくれました・・・


 「ありがとう」ですか・・・ちょっと恥ずかしいですね。」


「・・・・・・」


霧島は感じた、「やっぱり気持ちは皆一緒なんだ。」・・・と。


その後も、皆の会話は盛り上がり、楽しい休日を取れた・・・



・・・・・・


「提督、今日はこの海風が時刻をお知らせしますね。」


今日の秘書艦は海風、彼女は元気よく言う。


「ああ、よろしく!」


・・・・・・


「提督、マルゴーマルマルです。」


「そうか・・・では、そろそろ皆の食事でも作るか。」


提督は立ち上がる。


「はい、では、海風! その間に資料をまとめておきます。」


「ああ・・・よろしく頼む。」


そう言って提督は執務室から出て行った。


・・・・・・


海風が資料をまとめていると・・・



ドサッ!!



「・・・何でしょう? 今、廊下から何かが落ちた音がしましたが・・・」


気になって海風が廊下を見渡すとそこには、


「!? て、提督!!」


廊下で倒れている提督を見つけ、海風は傍に寄る。


「提督! しっかりしてください!! 提督!! 提督!!」


必死の叫びに提督は言葉を返すことはなかった・・・



・・・・・・


提督が倒れたことは鎮守府中に広がり、艦娘達が提督の元へ押し寄せる。


「提督が倒れたですって!? 嘘でしょ!?」


「提督・・・しっかりしてよ! 提督ってば!!」


「提督さん! 死んじゃやだ! 早く起きてっぽい~!!」


ほとんど植物状態の提督・・・医師が診断する・・・


「・・・・・・」


医師の診断結果を今かと待ち続ける皆・・・そして、


「残念ですが・・・」


医師は下を向きながら言葉を出す。


「提督は助かるのか? どうなんだ?」


「輸血は必要? 必要なら私の血を好きなだけ使って!」


「体は大丈夫? もし、臓器とか損傷しているなら・・・僕のを移植してもらってもいいから・・・」


皆の言葉に、医師は驚く。


「驚いた・・・皆はそんなに提督の事を心配しているのか?」


医師の言葉に、


「当たり前だろ! 提督はあたしたちの恩人なんだよ! 今度はこのあたしたちが助けたいんだ!」


「・・・・・・」


しばらく考えた後、静かに口を開く。


「残念だが・・・輸血でも移植の問題でもない・・・提督は、9割助からない。」


医師の言葉に皆は絶望する。


「そんな・・・助からないって・・・嘘だろ?」


「目の前で倒れている提督に私たちは何もしてあげられないなんて・・・」


皆が絶望している中・・・


「9割って言いましたよね? あと1割は何ですか?」


霧島が質問する。


「・・・・・・」


医師はゆっくり説明する。


「提督がかかっている病はUKW。 稀に発症する難病だ・・・現時点でこの病を治せる薬は存在しない。」


「・・・・・・」


「ただ、可能性があるとしたら・・・これは噂ではあるが・・・どこかの遺跡に存在するどんな病でも治す治療薬があると言う。」


「・・・それで、その遺跡の場所は?」


「・・・残念ながら、そこまでは私にもわからない。」


「・・・・・・」


霧島は決意した・・・「その治療薬を見つける」・・・と。



霧島は先頭に立って、各艦娘たちに指揮をとった。


本当なら全員で探したいところだが、実際のところ給仕や掃除、副業等は全て提督一人で行っていた。


だから、提督の代わりとなる艦娘たちが必要だったため、そこは霧島が決めた役割で従うほかなかった。


遺跡を探す艦娘は霧島率いる第1編成と第2編成。他の第3、第4は遠征と出撃を続行・・・


残りの艦娘たちは鎮守府の給仕と掃除係を交代制で行うことになった。



「どこにあるのかしら・・・」


霧島は海図を出して、目星の付く場所を徹底的に洗い出す。


海図は最近更新した図面で小島など明確に表記されているが・・・あくまで極一部の海図である。


全部の海域を探すには何年掛かるかわからない程広域・・・もちろん提督がいつまで持つかわからない


緊張感の中、霧島は自身の直感を信じて行動に移す。


「ビスマルクさん旗艦率いる第2編成部隊はこの海域からこの海域までを探索してください!」


霧島は指示を出すと、今度は自分も出撃準備をする。


「霧島率いる第1編成部隊! 私たちはこの海域からここまでをくまなく探索します!」


霧島の号令で部隊は散開した。


・・・・・・

・・・



遺跡の手掛かりは得られず、霧島とビスマルクたちは帰還する。


「霧島さん、お疲れ様です! どうでした?」


「ごめんなさい・・・何の手掛かりも・・・」


「気にしないでください、まだ時間はありますから・・・明日からも頑張りましょう!」


「ありがとう・・・鎮守府内は大丈夫でした?」


「・・・それが・・・」


村雨が頭を抱えた。


「? 何かあったんです?」


霧島が聞くと・・・


「実は・・・」


村雨が説明していく。


・・・・・・


「食事が作れない?」


「どういうこと?」と霧島が首を傾げる。


「提督は必ず1時間前に厨房に来て調理しますよね? 私たちも3人給仕として1時間前から支度し始めたんですが・・・」


「・・・・・・」


「1時間どころか・・・全員分作り終えるのに3時間掛かってしまって・・・遠征と出撃組と揉めてしまって・・・」


「・・・そうだったんですか。」


「その場は謝って何とか脱しましたが・・・明日から3時間前から支度しなければ行けません。」


村雨がため息をつく。


「・・・・・・」



3時間前と言ったら午前3時・・・まだ就寝している時間ですよね?



「・・・・・・」


それを聞いて提督の凄さに改めて気づいた。


いつも一人で1時間程度で皆の食事を作っていてそれが日課だったから・・・当たり前に思っていたけど・・・


「・・・・・・」


今更だけど、提督に「ありがとう」と言う機会はどこでもあったのだ。


「いつも私たちのために朝早く起きて食事を作ってくれてありがとう」でもいいし、


「皆のために副業お疲れ様です! そして本当にありがとう!」と言ってもよかった・・・


でも、その日課が当たり前だと思っていたから・・・いつの間にか提督の有難みに気付いていなかった。


・・・・・・


翌日、


村雨の言う通りに3時間前から起床し、皆の食事作りを始め、


各編成部隊は遺跡の捜索と出撃と遠征を行った。


・・・・・・


捜索を続けて1週間が経つが、遺跡は一向に見つからなかった。


艦娘たちの間にも、心配がよぎり、


「本当は遺跡なんてないのでは?」


「医師が気を遣って言ったのかも。」


と、悪い方に考えるようになった。


霧島が皆を説得して、再び捜索が再開されたが、更なる問題が・・・


「食費が足りない?」


瑞鳳さんと秋月さんに言われて霧島が頭を抱える。


「1か月の食費が全然足りないです・・・提督のやり方は分からないんですが・・・普通にやっていると、


 1週間分の蓄えにしかなりません。」


「・・・・・・」


ここでも、提督の節約技術に驚かされる。



提督の1か月の食費は秘書艦である私が随時確認していますが、正直言って高すぎと思っていたのですが・・・


瑞鳳さんたちが言うにはその食費は1週間分しか持たないと言います・・・食事は全く同じなのに・・・



「何をやっていたんだろう・・・私は・・・」


秘書艦であり、一番提督の側に仕えていた自分が提督の気遣いに全く気付かなかった事が凄く悔しかった。


「「ありがとう」って伝えたい? いつも言うべきじゃない!」


霧島は後悔したが、「今はそんなことを言っていられない」。 早く遺跡を見つけねばと、再び捜索に乗り出した。


・・・・・・


当然ながら、提督は深夜の副業によって生計を立てていた。


提督が植物状態ということは・・・来月からの皆の給料は・・・ゼロである!


それどころか、食費も賄えない・・・遠征で手に入る資材では到底足りない・・・


鎮守府は一気に貧困化してしまった。


・・・・・・


本来ならば、艦娘たちが遠征で資材を稼ぐはずだが、この鎮守府では真逆・・・


提督がほとんどの資材や資金を稼いでいた。


皆も、それが当たり前のような環境と思っており、何も気にせず一日、一日を過ごしてきたが・・・


「・・・・・・」


次第に皆の疲労が限界まで溜まっていき、体調を崩す人間も・・・


当たり前だと思っていた日常が突如崩れ、環境に適応できずに皆の精神は限界に達していた。


「皆は休んでください、私一人で捜索しますから。」


それでも、霧島は諦めない。


「霧島さん、もうやめましょう。」


「霧島さん・・・このままでは、私たちの身も危ないですよ?」


皆から諦めの言葉が飛び交うも・・・


「私は諦めません! 絶対に見つけます。」


霧島の決意は曲がらなかった。


次第に皆が霧島から離れていき、遂には霧島一人で捜索する形となってしまった。


「絶対に見つけます・・・絶対に・・・」


・・・・・・


「霧島さん・・・もう何日も寝ていませんよね? お願いですから休んでください。」


村雨が言うが、


「大丈夫です・・・さっき10分ほど休憩しましたから。」


「そういう問題じゃないです! 霧島さんまで倒れたらどうするんですか!」


「・・・・・・」


霧島は疲労しつつも、


「司令はこの鎮守府の全ての役割を一人でやっていたんです。 食事から執務に副業を! それなのに


 一番側で仕えていた秘書艦である私は何一つ気づかなかった・・・それが当たり前だと思っていたから。」


「霧島さん。」


「その時の司令の大変さを考えれば、今の私なんて大したことはありません! 何で気づかなかったんだろう・・・


 どうして普段から感謝の気持ちを持てなかったんだろう・・・」


霧島の瞳から涙が溢れる。


「・・・・・・」


「私は役立たず・・・私は役立たず・・・ううう。」


「・・・・・・」


見ていられなかった村雨はその場から去った。


・・・・・・


霧島の気持ちを知った村雨は会議室に皆を集めた。


「皆、どうして諦めるの? 霧島さんはたった一人で頑張っているのに!」


「だって・・・いくら探して見つからないんだろう?」


「それに・・・食事だってまともに摂れない・・・一部の艦娘たちはこの鎮守府を出ようかとも話していたし・・・」


鎮守府は崩壊寸前のところまで行っていた。


「じゃあ私たちは今まで何をやってた? 当たり前のように生活して当たり前のように過ごしていただけでしょ?」


「・・・・・・」


「全ては提督のおかげで生活できていたのよ! それを提督が倒れた、生活できない、挙句に出て行く?


 じゃあ皆にとって提督はただの便利屋だったの?」


「・・・・・・」


「違うでしょ! 本当なら私たちが鎮守府の生活を維持するはず! 提督が私たちに気を遣ってくれてやっているだけ!


 でも、皆はそれが当たり前のように感じているだけでしょ!」


「・・・・・・」


「皆の中には提督に助けられた艦娘だっているはず・・・提督が倒れた今、恩返しができるのは今しかないんじゃないの!」


一部の艦娘がはっとした。


「出て行きたいんなら出ていけば? 提督だってそんな弱虫なんて必要ないだろうし・・・後、江風と海風たちも・・・


 そんな弱音吐いてるんならさっさと出て行けば?」


「・・・・・・」


「私は霧島さんと遺跡を見つける! 皆は出て行きたければどうぞ! もう二度と顔を見せないで!!」


そう言って村雨はその場から去る。


「・・・・・・」


皆驚いていた。


「村雨はどうしてあんなに頑張れるの?」


「村雨の姉貴・・・本当に提督の事を・・・」


「戦艦の私が駆逐艦に説教を受けるなんて・・・でも、あの子は正しい。」


皆悩んでいた。


・・・・・・


「霧島さん! 今日は私が探しますから・・・お願いです、休んでください!」


「私は大丈夫・・・私は・・・」


「ダメです! 霧島さんまで倒れたらだれが指揮を執るんですか? 少しでいいので休んで!」


「・・・・・・」


少し考えた後、深呼吸をして、


「わかったわ・・・ありがとう。 じゃあ少しだけ仮眠します・・・ところで、皆はどうしました?」


霧島の質問に、


「皆は出て行きました。 こんな鎮守府に住めないって・・・」


「そうですか・・・」


「私は諦めません、早く見つけて提督を助けましょう!」


「・・・ありがとう、村雨さん。」


霧島は仮眠室に向かった。


・・・・・・


半日ほど休み、霧島は再び海図を開き、探索を再開。


無線で村雨が情報を報告し、直感を信じて探すが・・・見つからない。


艦娘たちの大半の姿が見えない・・・皆出て行ってしまったのか・・・


「・・・・・・」


いつもなら賑やかな食堂も誰もいない・・・いるのは、霧島と村雨の2人だけ。


「すいません村雨さん、私の事情で巻き込んでしまって。」


「いいえ、とんでもありません。 私も提督を助けたいので。」


2人は買い溜めしてあった即席の食事を調理して食べていた。


「どうしましょう・・・皆の言う通り、食糧もあと僅かですし・・・」


村雨がため息をつく。


「私一人でも探しますから・・・辛いのでしたら、村雨さんは出て行っても構わないですよ。」


「・・・・・・」


「大丈夫・・・恨んでなんかいません、もちろん出て行った皆も誰一人、恨んでいません。」


「・・・・・・」


霧島の表情を見て申し訳なくなる村雨・・・そこに、


「姉貴! 村雨の姉貴!」


村雨を呼ぶ声がして、振り向くと・・・


「江風・・・」


江風含む白露型7人がそこにいた。


「・・・何の用? もう出て行ったんじゃなかったの?」


本当は嬉しいけど、逃げた姉妹たちに厳しく接する村雨・・・


「ごめん、姉貴! あれから皆で考えたんだけどさ。」


「?」


「私たち、この鎮守府のために働きます。」


「えっ?」


「バイトでも何でもやるからさぁ、霧島さんたちは安心して遺跡を探してくれ。」


「・・・・・・」


「確かに、僕たち・・・提督に頼りすぎていた・・・村雨の言う通り、本当は僕たちがするべきなんだよね。


 だから、提督が帰ってくるまで僕たち、働きながらこの鎮守府を支えるよ。」


「皆・・・」


「給仕は任せてください! ・・・少し時間をいただきますが。」


「掃除は夕立がするっぽい~! え~と・・・掃除道具どこだっけっぽい~?」


「じゃあ僕たちは数日前見つけた短期バイトに行ってくるから・・・」


と各自散開した。


「・・・・・・」



皆・・・ありがとう・・・



村雨は心の中でそう感謝した。


・・・・・・


それから、少しずつであるが艦娘が一人、また一人と戻ってきた。


残念ながら全員は戻ってこなかったけど(特に戦艦と空母)皆、鎮守府を支えたい、提督を助けたい一心で戻って来てくれた。


・・・・・・


1か月が経過・・・


相変わらず遺跡の情報はつかめない、それでも霧島は諦めないが・・・


鎮守府では少しずつ変化が起きていた。


調理するのに3時間掛かっていたのが半分で済むようになったこと。


食費が最初の1週間と比べて、半分まで抑えられたこと。


時雨たちが探した短期バイトによって若干ではあるが、資金と資材が潤ったこと。


悪いことばかりではなかった・・・徐々に皆に希望が戻りつつあった。


「知らなかった・・・この店で買えばいつもより安くて済むんだ・・・」


「今まで鍋一つだけだったけど・・・待ち時間が長いから・・・もう一つの鍋を使って・・・なるぼど、


 これなら時間を大幅に短縮できますね!」


皆が発見した改善方法をメモし、壁に貼っていく・・・これなら必ず皆の目に止まるし、誰がやっても同じようにできるはずだ。



ある日の事・・・


「霧島さんに会いたい人がいます。」


そう言われて、霧島が外に出ると・・・


「久しぶり・・・まだ探しているのか?」


提督を診断した医師だった。


・・・・・・


「まだ続けているのか?」


医師は問う。


「もちろんです、わずかな希望がある限り私は諦めません!」


「遺跡はただの噂で伝説でしかないのかもしれんのだぞ、それでも探すと?」


「はい、私は諦めず探します!」


「・・・ふむ。」


医師は考え込み・・・そして、


「お前の提督を助けたいと言う信念・・・本物のようだ。」


「・・・・・・」


「なら・・・これを渡しておく。」


そう言って霧島は何かの古い紙を受け取った。


「・・・これは?」


「遺跡がある場所の地図だ。」


「!? 本当ですか?」


「すぐに渡すべきだったが、その治療薬を見つけて悪だくみする連中が後を絶たなくてな・・・


 お前を試す感じで、今まで言わなかった。」


「・・・・・・」


「今まで黙っていて悪かった・・・だがお前の信念を見て渡す気になった、後は頑張るんだぞ!」


「ありがとうございます!!」


霧島は礼を言った。


「その言葉・・・提督に言えるといいな。」


そう言って鎮守府から去った。


・・・・・・


「ここに書いてある場所と海図を照らし合わせて・・・」


霧島は貰った古い紙と海図を合わせる。


「そう、ここ・・・海図に乗ってる小島と紙に書いてある小島は同じ大きさ・・・ならこの2枚を合わせて・・・」


その後、明かりを照らしてみると・・・


「あった・・・ここね・・・遂に見つけた!!」


霧島は遺跡の在処を見つけた。


すぐに皆に報告、出撃準備をする。


「私、霧島と村雨さん・・・2人で向かいます。」


「2人だけですか? もっと増やした方が・・・」


「そうしたいのですが、鎮守府の維持のために全員行くわけにもいかないので・・・それに。」


「?」


「この遺跡にはたくさんの罠が仕掛けられていて、何が待っているのかが想像できません。 皆で行けば


 それだけ被害は大きいですが・・・少数なら、少なくて済みます。」


「・・・・・・」


「そして遺跡最奥端にはその薬を護る番人がいるようで・・・薬を求める人間に対して難題を出して来るとか・・・


 それに答えられなかった場合は命を取られると・・・」


「!? そんな!」


「ですから、私一人で行きたいのですが、村雨さんも決意が固いので・・・2人で行ってきます。」


「・・・・・・」


「もし・・・私たちが戻ってこなかったら・・・その時は私たちの事は忘れてください。」


「霧島さん・・・村雨・・・」


「大丈夫、大丈夫。 絶対薬を持って帰るから! 皆は気にせずに鎮守府を守ってね!」


「・・・・・・」


呼び止めようとはしたが、口に出せなかった。 それだけ2人の覚悟が見て取れたからだ・・・


・・・・・・

・・・



「・・・ここね。」


2人の前には遺跡と思われる入り口が佇んでいた。


「行きましょう! 霧島さん!」


2人は遺跡の中へ入っていった。



・・・・・・


しばらく歩いて・・・


「・・・・・・」


医師の情報によると、無数の罠が張り巡らせてあるとのこと・・・それ以上に医師はどうしてそこまで知っているのかしら・・・


「・・・?」


ふと足に違和感を持ち、下を向いた。


「!!?」


咄嗟に村雨を抱いて地面に伏せる・・・その直後、壁から無数の矢が突き出した。


「!!!?」


直感で下にしゃがんだため、2人は無傷で済んだ。


「なるほど・・・これが罠ね・・・」


2人は慎重に歩いて行った。


・・・・・・


狭い広場に着き、辺りを見回す。


「・・・・・・」


中心に何か置物が・・・よく見ると走り書きで・・・



”この奥に進む者に裁きが待つ”



また罠ね・・・それにしても裁きって?


「霧島さん? 行きますよ。」


村雨がそのまま歩き、


「村雨さん!」


霧島が叫んだ、その時、


激しい轟音とともに、両方の壁が押し寄せてくる。


「なっ!? このままでは押しつぶされる!」


2人は壁を押し戻そうとするが・・・


「だ、ダメ! 私の力ではとても・・・」


霧島は何とか動きを止められたが、村雨は駆逐艦・・・戦艦と比べて力は格段に下だった。


「村雨さん! 頑張って!」


霧島が応援するが・・・


「うう・・・くうっ・・・」


応援も虚しく、壁は押し寄せ続ける。


「村雨さん! 村雨さん!!」


霧島が叫び、村雨があと少しで潰される・・・その時だった。


「それっ!!」


「ふんっ!!」


2人の前にアイオワとビスマルクが現れた。


「Oh! 中々きついわね!」


「私の力はこんなものじゃないわよ!」


2人の代わりに壁を支えていた。


「アイオワさん、ビスマルクさん・・・どうして?」


「霧島、何そこで座っているの? 早く行きなさい!」


「・・・・・・」


「ここは私たちに任せて2人は早く最深部に行きなさい!!」


「アイオワさん・・・ビスマルクさん・・・」


「お返しは後で貰うからね・・・たっぷりと・・・利子付きでね。」


「そうね・・・私はGoodなご褒美が欲しいわね。」


「2人とも・・・ありがとう!!」


2人は先を急いだ。



・・・・・・


今度は広場に出て・・・またも、目の前に置物が・・・


”汝の上を飛来する影を全て落とすのだ”


上を見ると、確かに高速で飛ぶ黒い影が・・・蝙蝠? それとも別の何か・・・


近くにあった石を投げてみるが・・・全く当たらない。


「くっ・・・どうしたら・・・」


そう思っていると、


「ここは私たちの出番ね!」


後ろから蒼龍と大鳳が現れ、弓を構える。


「蒼龍さん! 大鳳さん!」


「なぁに、逃げたと思った? そんなわけないじゃん! あれから大鳳さんたちと陰で見守っていたのよ!」


「陰でというか・・・いつもの喫茶店でですが・・・」


そう言って2人は狙いを合わせる。


「ここは私たちに任せて! 2人は早く先へ!」


どんどん黒い影を打ち落とし、前方に徐々に入り口が現れる。


「さぁ! 早く行って! お礼は絶対貰うからね!」


「もちろんです! 蒼龍さん! 大鳳さん! ありがとう!」


2人はさらに先に進んだ。


・・・・・・


その後も罠に出くわすも・・・間一髪のところで回避したり、直感で避けたりと・・・


徐々に海水が浸かる罠だったり、毒ガスが充満する仕掛けだったりと・・・


それでも2人はかろうじて生還できた。 それは、運がいいからなのか・・・


「まだ、奥まで付かないのかしら・・・」


霧島が思っていると、


「!? なっ!?」


目の前に巨大な石像が立ちはだかる。


「お、大きい!!」


石像が持っていた巨大な斧を振り上げて、霧島たちを狙う。


「危ない!!」


間一髪のところで村雨が霧島を押し、難を逃れた。


「霧島さん! ここは私に任せて先へ!」


「そんな! できるわけないでしょ! 村雨さんも一緒に!!」


「霧島さん!!」


村雨の叫びに、はっとする。


「私の姉妹艦も、アイオワさんもビスマルクさん・・・蒼龍さんや大鳳さんだって皆が霧島さんのための道しるべに


 なってくれているんです・・・そして、私も霧島さんのための道を作ります。」


「村雨さん・・・」


「行ってください! 私は大丈夫です! さぁ早く!」


「・・・・・・」


霧島は先に進む。


「さて・・・あなたの相手はこの私! かかってきなさい!」


村雨は石像に強く叫んだ。


・・・・・・


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


霧島は必死に走り続ける。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


目の前に明かりが見えて、霧島はさらに進み・・・


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


出た場所は先ほどより大きな広場だった。


両端にはどこまで続くかわからない底のない崖・・・


そして・・・中心には置物ではなく・・・壺?


「・・・・・・」



もしかしたら・・・あの中に・・・薬が・・・



霧島が壺まで歩き・・・壺に手を出そうとした瞬間、


「!?」


目の前に大剣を持った老人の亡霊が・・・


「誰だ・・・我の秘宝を望むもの・・・」


「・・・・・・」



そうか・・・まだ番人が残っていたわね・・・



「・・・・・・」


「答えよ!! わが秘宝を望む者よ! なぜ必要だ? ・・・やはり金か?」


霧島は腕に力を入れて・・・


「違います! 私の好きな人が植物状態で危険な状態なんです。 それでこの遺跡に治療薬があると聞いて


 ここまで来ました・・・お願いします! 少しで構わないので、薬を分けていただけませんか?」


「・・・ふむ。」


番人は霧島を見つめる。


「・・・どうやら、嘘ではないようだな。お前の心から救いたい人間の映像が我に伝わる・・・


 だが、その気持ち・・・言葉だけではないだろうな?」


「? 言葉だけとは?」


「もし本当にその言葉が本当なら、お前がその人間に示す愛を我に示せ!!」


「・・・・・・」



愛と言われて、私は戸惑った。



「・・・・・・」



言葉では簡単だけど・・・私の愛・・・司令に対する愛・・・何だろう?



「・・・・・・」


「所詮言葉だけか・・・その程度の愛、見るに堪えぬ! 早々に立ち去るか・・・もしくは・・・死ぬか。」


「・・・・・・」



愛・・・司令に対しての愛・・・



「・・・私は。」


「・・・ふむ。」


「私は司令を愛しています・・・司令のためなら私はどんな困難でも乗り越えて見せる覚悟です。


 私を救ってくれた司令のためなら・・・私はどんなことだって!」


「・・・何度も言うが、言葉だけでは我の心は動かぬぞ! 態度を見せて見ろ!」


「わかりました・・・私の愛の証明・・・それは司令のために死ぬことです!」


「何っ?」


そう言って霧島は壺より奥まで走り・・・崖から身を投げた。


「・・・・・・」



司令・・・ごめんなさい。 本当は私が直接届けたかった・・・


でも、無理でした・・・司令、こんな恩知らずな私を・・・お許しください。



・・・・・・

・・・



「・・・はっ!!」


目覚めると霧島は壺の目の前に倒れていた。


「・・・どうして?」


目の前に番人がいて、霧島は助けられたのだと悟った。


「どうして・・・どうして私を助けたのよ?」


同時に霧島の瞳から止めどなく涙が溢れかえる。


「私は司令を助けたい・・・ただそれだけ! それなら自分の命だって投げ出したのに・・・どうして止めたのよ!?」


「落ち着け・・・もうよい。」


「だって・・・このままじゃあ司令が・・・助からない。」


霧島は叫ぶ。


「私はまだ司令に「ありがとう」の言葉すら言えていない、たったその一言を・・・ずっと言いたかったのに・・・


 それすら言えず司令が助からないなんて・・・それなら私が死んでいっそ他の子に助けてもらった方がいいじゃない!」


「いや・・・もうよい。」


番人が近づく。


「お前の愛・・・十分に伝わった。 それほどまでに提督の事を好きなのだな・・・ならば命を捨てるなんてことはするな!


 「ありがとう」と伝えたいのなら提督に直接伝えるのだ。」


「・・・・・・」


「さぁ・・・手を出すがよい。」


「・・・・・・」


霧島が手を前に出すと・・・手の中に輝く宝石のような秘宝が入っていた。


「すぐに戻って提督に飲ませるがよい。 そして、お前の気持ちを素直に伝えるのだ。」


「あ・・・ありがとうございます!」


「・・・その言葉を、提督に伝えられるといいな・・・」


番人はその場から消滅した。


「・・・・・・」


霧島はその場に佇んでいた。


・・・・・・


秘宝を手に入れた影響か・・・各罠がが全て解除され、皆はかろうじて生還できた。


すぐに戻って提督にその秘宝を飲ませた・・・


「・・・・・・」


皆が見守る中・・・遂に・・・


「・・・ん・・・う~ん。」


「・・・司令? 目が覚めましたか?」


「・・・霧島? どうした? なぜそんなにボロボロなんだ?」


「・・・し、し、司令ぇ~!!!!」


霧島は提督に抱き着く。


「!? どうしたんだ、霧島?」


「ありがとうございます・・・本当に・・・ありがとう・・・」


「・・・何だ? いきなり礼を言われても・・・オレは何かしたのか?」


「・・・・・・」


傍で見ていた皆も提督の目覚めに歓喜の声を上げた。


当の提督は何がなんだかわからなかったようだ・・・


・・・・・・


あれからしばらくして、いつも通りの生活に戻った。


変わったことと言えば・・・


一日の調理を駆逐艦たちが担当となり、 掃除は重巡の方たちが担当。


買い出し、力作業は戦艦の方たちが進んでこなし、提督の負担が格段に楽になった。


当の提督は、


「何かあったの?」と首を傾げていた。






「ありがとう」の言葉   終













・・・・・・

・・・





ここから余談、



「いやぁ~良かった・・・お前さんの症状が良くなって。」


「そうだったのか・・・皆には迷惑を掛けたな。」


提督と医師が話をしていた。


「その後、皆から「ご褒美、ご褒美」ばかり言ってくるから最初「何だ、こいつらは?」 と、思っていたんだよ。」


提督の話に医師は苦笑する。


「でも、お前さんの所属する艦娘達、間違いなくお前さんの事を尊敬しているようだ。」


「そうか・・・」


「あそこまでやるとは、私も予想外だった・・・お前さんの愛情は伝わっているようだよ。」


「それは嬉しいな・・・オレは自覚していないが。」


「ふふふ・・・」


不敵な笑いの医師・・・


「・・・と言うか、お前はいつまでそんな変装しているんだ?」


「いやぁ~この老人の格好は中々気に入っておってな・・・」


「あ~・・・まぁでも、本来の姿も老人だから・・・別にそのままでもいいか。」


「なぬっ!? お主! かなり失礼な事を言うな!」


「ああ、それは悪かった・・・ははは・・・」


そう言って老人は変装を解く・・・その姿は霧島が遺跡で会ったあの番人。


「では・・・我は遺跡へ戻るとしよう。 お主・・・霧島という女を大事にするがよい。」


「ああ・・・ありがとう。」


会話を終え、番人は消え去った。




余談   終









後書き

医師と番人は同一人物だったと言う結末。

いきなり倒れた提督を診断する医師の機敏な行動や霧島に今更なタイミングで古い紙(地図)を渡したり、
謎が深かった医師・・・最初から皆を試していたんです。


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トキヤですさんから
2019-01-27 13:45:59

SS好きの名無しさんから
2018-02-02 09:26:18

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トキヤですさんから
2019-01-27 13:46:00

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1: SS好きの名無しさん 2017-08-03 09:14:14 ID: i6TlgPbj

昔の映画のインデイジョーンズかw


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