2014-07-24 21:46:51 更新

05話


雪姫と別れた計佑は、ふわふわとした気分のまま自宅へと戻ってた。

「ただいまー」

声をかけるが返事がない事で、母はいない事を思い出す。


──ヤベ……お袋病院に置いてきちまった。


そもそも、まくらの体の様子を見てくる事すら忘れてしまっていた。


──どんだけ舞い上がってんだよ俺……


軽く自己嫌悪に陥りながら、母にメールしようとケータイを取り出す。

そこでまたさっきのやり取りを思い出してしまい、ドキンと心臓が熱くなった。


──『おやすみメールしてね!!』


──なんだよそれは……"おやすみメール"? やったことねーよそんなの……絶対からかわれてるだけなのに。

何でこーいつまでもドキドキしてんだよオレはっ。もう散々からかわれてきたじゃん。どーせ今度も……


散々からかわれてきただけに、鈍感な少年としてはどうしてもそんな風にしか考えられなかった。


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「おいまくらー?」

部屋に戻った計佑に、

「お腹すいた~!!」

まくらがいきなり飛びついてきた。

「ちょっ……いきなり何だよ!?」

あわてて引っぺがす。

「お腹すいたんだよ!! も~~!! 着替えも済ませたんだから、早くご飯につれてけー!!」

確かに、まくらの言うとおり、今はパジャマではなく普段着だった。


──って、え……?


ふと姿見を見ると、まくらの服だけが浮いていた。

「コッ、コラ!! そんなんで外に出るなっ!!」

慌ててまくらを引き止める。

「えっ、なっなんでよー!!」

「服だけ浮いて見えるんだよ、オレ以外には!!」

服をひっつかむ。

「だっだからって引っ張るなぁっ ──わぁあ!!」

ズルリ、と上が脱げてブラ姿を晒してしまうまくら。


『「・・・あ・・・」』


──硬直した計佑の頬に、まくらの平手が飛んだ。


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「いらっしゃいませ──」

ファミレスで席についた計佑に、ウエイトレスがお冷を一個だけ運んでくる。


──わかっちゃいたけど、やっぱりオレ以外には見えないんだよな……


まくらは、いつも通りのパジャマ姿に戻っている。

そして今は、計佑の向かいに座っていた。

「悪かったよさっきは……」

計佑がもう一度謝るが、まくらはまだ膨れていた。

「……何か子供の時のノリでやっちまったんだよ。 ──今度からはもうしねーからさ」

「……あ」

続いての計佑の言葉に、まくらが何か言いかけた時、

「お待たせしました──大盛りかきあげうどんでございます」

ウエイトレスが注文を運んできた。

「まあ……とにかくメシをくおーぜ。ほら隣来いよ。小皿にとってやるから」

「……っ」

何やらムッとしたまくらは、しかし席を移るのではなく、計佑が摘んだうどんに食らいついてきた。

そのままちゅるちゅると吸い上げる。

「なっ……なっ、何してくれてんのお前……」

「こっちの方が怪しまれないでしょ! ほら、計佑も食べるフリしてよ」

「……あ。ナルホド。そうだな……」


──そりゃ確かにこのほうが怪しまれはしないだろうけど。流石に近すぎるだろコレ……


目の前で、まくらがうどんを口の中に吸い込んでいる。

──それを見ていたら頭に血が上ってきて、まくらから離れると一気にうどんを食い尽くした。

「ああ~~っ!!ちょっとォ!!!」

「ごちそうさまっ、よし帰ろうぜっ」

「こんなんじゃ足りないよぉ!?」

まくらの抗議の声を無視して、会計を済ませてさっさと店を出た。


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──くそっ!! 最近のオレどうしちまったんだよっ!!


頭がぐるぐる回る。


──なんでまくらにドキドキするようになんか……いつからだ──?


そこで、一昨日知り合ったばかりの先輩のことが思い浮かんだ。


──そうだ、あの先輩と知り合ってから、なんかこんな変な風になっちまってるんだっ……!!


なんだか頭がグチャグチャで、雪姫に対するイライラすら募ってきた。

……八つ当たりなのはわかっていても。


──大体なんなんだよあのヒトはーっ!! いっつもオレの事からかってばかりくるしっ!!


しかし、その怒りはすぐに沈静化してしまう。


──……まあ、オレもヒドい事してるんだけど……いや、客観的にみたらオレのが全然ヒドい事してんだけど……


3回にも渡る痴漢行為の上に、彼女の仕事生命までも危うくしてしまった。


──……ホントにすいません。白井先輩……


自分にあのヒトを責める資格なんてなかった。ズーンと反省する。


「けーすけぇっ!!」

まくらがようやく追いついてきた。

「どうしちゃったの急に……? お腹でも痛くなった?」

不安そうに話しかけてくる。

……そんなまくらを見ていたら、またさっきのモヤモヤがぶり返してくるのを感じた。

「……悪い」

なんだかまくらを見ていられなくて、顔を背けてボソリと謝った。

「…………」

まくらはしばらく黙っていたが、

「カンチョーー!!」

いきなり明るい声をあげると、計佑に飛びかかってきた。

「はいぃ!?」

「食べ過ぎで苦しくなったんでしょー!? 全部出してやるっ!! オリャー!!」

「はぁ~~!? やめろバカ! このガキ!!」

「ガキって言ったほうがガキー!!」


そのまましばらく『ガキ』そのままな会話に興じる二人。

やがて、はしゃぎすぎで疲れたのか、地べたに座り込んでしまった。

「……ありがとな、まくら」

「んー? 何が?」

とぼけるまくらに、計佑もそれ以上は言わなかった。


──俺が気ィ使ってやらなきゃならない状況だってのに、なんか逆になってばかりだよな……ホント。


「……帰りにアイスでも買ってくか。今日は奢りだ」

借りっぱなしも面白くないし、とりあえず食いもので返しておくことにする。

「おお~? やさしーじゃん!!! 何勘違いしてるのかしんないけどラッキ!!」

まくらが飛び上がってみせる。

計佑も軽く笑みながら立ち上がり、また歩き出した。


──とりあえず、あの写真のコトが何かわかるまでは現状維持かな……


ヴー ヴー ヴー──


そんな事を考えていると、ケータイがメール着信を伝えてきた。


──……ん!? 白井先輩!!??


思ってもみなかった人からのメールに驚きつつも、中身を読む。

そのメールにあったのは短い一文だったが──


──マジかよっ!!

驚きと、歓喜に軽く体が震えた。


文面は──『わかったよ、あの写真の女の人の事!!』


しばらくは状況が動かないかと、軽く諦めかけていた。そんな矢先の朗報に、計佑の胸は弾むのだった。


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──メールがこない……


その日の夜。

雪姫はベッドに転がって悶々としていた。

両手でケータイを持ち、今はそれをじっと睨んでいる。

ソワソワとした気分で待っていたメール……それがいつまで待っても届かないからだ。


──勇気出して教えたのに!!

──こっちからメールまでしてるのに!!!

──男の子に教えたのなんて初めてだったのにぃっ!!!!


足をバタつかせる。


──私のケータイ知りたいって男の子はいっぱいいるのに……なんでよぉ!!


そんな上から目線な怒りまで抱いてしまうが、それも一瞬だった。

ふっと苦笑して、まあ私なんてそんなものなのかなぁと自嘲する。

結局のところ、本当は自分に自信のない少女──雪姫はしょんぼりする。

それでも、彼の事を考えてしまうのはやめられない。


──なんなんだろうこれ……なんでこんなに彼のことばっかり気になって。 ……もしかして……私……


最初ワクワク、次にイライラ。そしてションボリ。

初めての感情を持て余す少女の、一喜一憂の夜が過ぎていくのだった。




─────────────────────────────────



<5話の後書き>


なんか今回ちょっと難しかった気がしました。

原作通りなら先輩いないんで、最初はさくっとすませられそうな気がしてたんですが、

それはそれでモチベーションが持てなくてどうにも……

結局、最後に原作にはなかった先輩視点を足してみました。


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