2017-09-01 00:00:22 更新

概要

戦艦棲姫との戦いの決着と、飛龍と蒼龍の別れ。

そして、飛龍の涙を止めた蒼龍が見せる、遥か彼方の海の逞しい蒼龍。

営倉に入れられる鳥海と、取引を持ち込む横須賀の白露。

そして、横須賀の司令船への臨検が始まる。

提督を殺そうとする小林提督だが、当然のようにやり返され、深い取引と情報交換が始まるのだった。


前書き

戦艦勢と川内の、戦艦棲姫との戦い、その後の蒼龍と飛龍の別れ、ショートランドの蒼龍が出てきます。

ショートランドの蒼龍はバズーカ(というか無反動砲)を背負っており、かなり歴戦のようです。

また、横須賀の小林提督は命令通りに提督の命を狙おうとしますが、撃退され、交渉の席に着かされます。

ここで幾つかの謎が解け、また新たな謎が増えます。

そして少しだけ、朝潮の名前が出てきましたね。


第五十九話 涙と雨・後編




―2066年1月5日、マルヒトマルマル(午前一時)過ぎ、伊豆大島真東100キロの海上、特務司令船『にしのじま』出撃デッキ。


陸奥「みんな、一息つけたかしら?」


飛龍「はい。大丈夫です。行きます!」


摩耶「あたしも行くぜ。もう蒼龍はいない。でも、蒼龍だったものの最期は見送ってやりたい」


龍驤「ウチもや」


夕立「私もいくっぽい!」


長月「私も行くよ。見送りたいんだ・・・」


陸奥「鳥海、あなたはどうするの?」


鳥海「私に・・・行く資格なんかありませんよ・・・」


摩耶「いいから来いよ!お前だって仲間だったんだからさ。まだ言い分も理由も聞いてないしな。それに、別れは今しかない。だからついて来いよ!・・・いいかい?特務の人たち」


陸奥「いいわよ。じゃあ私が連れていくわ。おかしな動きはしないでね?私は仲間を撃ちたくないの」


摩耶「いや、あたしがしっかり押さえとくよ。陸奥さんは戦いたいんだろう?」


鳥海「・・・わかりました」


陸奥「ありがとう。あなたを信用して、預けるわ」


摩耶「ほんとにすまねぇ。色々と情けねぇよ」


鳥海「情けないのはどっちですか?深海棲艦を」


―ガンッ!


鳥海「あうっ!」


摩耶「少し黙ってろよ。お前だっていつああなるか分かんねーんだぞ?」ギロッ


鳥海(どうせ、こんな目に遭うのも今のうちだけです。全ては上層部の意図通り。多少、横須賀が敗れたところで・・・)


―この状況も起こり得る事だと想定していた鳥海は、まだ心のどこかにゆとりがあった。



―戦艦棲姫との交戦地点。


―現在、戦艦棲姫は大破手前、金剛と扶桑は無傷、榛名は小破、山城はなぜか流れ弾を浴びて中破していた。足柄の戦隊と霞の潜水艦混合水雷戦隊は既に弾薬が切れかかっている。


金剛「榛名、もうこいつは大破寸前デース!無理に装甲貫通を狙わなくてもいいですからネー?」


榛名「はい!お姉さま!でも、榛名は大丈夫です!もう少しで何かが繋がりそうなんです!」


―榛名は自分の記憶の中にある、戦艦棲姫との戦いの記憶で自在に動いていた自分と、今の自分の動きを繋げようとしていた。


榛名(まだ!まだまだです!攻撃のタイミングを読み、最適な攻撃ができるはずです!)


―自分は自分の筈だ。しかし、自分のものではない、膨大な戦いの記憶が眠っている気がする。


榛名(そして、私はそれを活かしきれていないっ!)


扶桑(最初は危なっかしい気がしたのに、形だけではない熟練者の動きになって行ってるわね・・・何が?)


山城「姉さますいません!まだいけますから、私も大丈夫です!」


扶桑「山城、気を付けて!砲を全て潰さないと、大破しても致命の一撃を撃ってくるわ!」


戦艦棲姫「クッ、シズメシズメ!シズメテヤルッ!」ドッゴゴウ!


榛名「撃つと思っていました!見えています!」ヒラッ・・・ヒュヒュン・・・ドドウッ!


―砲弾が身をひるがえした榛名の千早に大穴を開けるが、榛名は視線を外さずに斉射し返した。


―ガガガンッ!


生体艤装「ギッ?グウッ!」


―榛名の主砲はまだ無傷だった生体艤装の左肩の砲塔を撃ち抜き、既に潰されていた右肩の砲塔と合わせて、戦艦棲姫はついに攻撃手段を失った。


山城「今だわ!余勢を駆って・・・撃つ!」ドドウッ!


―ビシッ!ブツッ!


―戦艦棲姫と生体艤装を繋ぐケーブルが切断され、生体艤装に一瞬だけ白い光が走る。


扶桑「・・・今ね」ガココン・・・ドドドドゥ!


生体艤装「グッ?ゴアアアァァァァ!」


―今までの硬さが嘘のように生体艤装は撃ち抜かれ、溶けるように海中に沈んでいった。


戦艦棲姫「クッ!アア!・・・アアアアァ!」バシャッ


―戦艦棲姫はがっくりと膝をついた。それは戦闘の終わりを意味していた。


―ザアッ・・・


金剛「雨、だいぶ強くなってきましたネ・・・」


―雨はとても冷たく、空は暗いが、金剛の心は熱かった。やっと、自分の提督のもとで戦うことが出来たからだ。


榛名(ああ、何とかこの一戦で繋がりました。榛名、どうやらお役に立てそうです)


山城「はぁ、流れ弾で私だけ中破だなんて、不幸だわ」ニコッ


―しかし、山城はスッキリした笑顔をしている。


扶桑「陸奥が来ると思ったのだけれど・・・あ、今来たわね。これは提督、後でお酒に付き合わされそうね・・・」クスッ


―しかし、まだ提督の仕事がだいぶ残っていることを把握している扶桑は、おそらく気持ちの収まらない陸奥の酒に、自分も付き合おうと考えていた。


陸奥「あーっ!覚悟はしていたけれど、やっぱり私の出番はないのね。でもいいわ、飛龍さん、下田鎮守府の皆さん、お別れ・・・と言うのが正確かは分からないけれど、立ち合いには間に合ったようよ」


飛龍「・・・ありがとうございます」


―戦艦棲姫は、不安と怒りと諦めがおそらく混じっているのだろう。暗い眼で皆を見回すと、あきらめたように微笑み、その眼を海の底に移した。


特務第七の川内「じゃあ、最後は私が決めるね!みんな下がって!さよなら!次は仲間として会えることを望むわ!」シュシュバッ!


―鋭く放たれた二本の魚雷は、見本のように正確に命中し、戦艦棲姫は爆炎に包まれ、そして光の柱が立った。


飛龍「蒼龍!蒼龍うぅ!」ザアッ


―飛龍は涙ながらに近づいて、その光に触れた。


特務第七の川内「あっ!これって・・・」


艦娘たち「えっ!?」


―光の柱の中に、一瞬だけ蒼龍の姿が見えた。微笑んだように見える。そして、光の柱は淡く霧散してしまった。しかし、触れた飛龍にだけは、幾つかのイメージと言葉が流れ込んできていた。


蒼龍(ごめんね飛龍。でも、私、死んで消えるわけじゃないの。本当の自分の所に帰るだけ。そして、あなたを失ったもう一人の私が、ずっと遠くの海にいるの。今の私にはわかる。その私を助けて、またずっと一緒に。・・・沈まないでね、飛龍)ニコッ


飛龍「・・・えっ?そうなのね蒼龍、わかったわ。・・・うん」


蒼龍(・・・ありがとう)


龍驤「飛龍、今何か蒼龍が見えんかった?」


―振り向いた飛龍は、もう泣いていなかった。蒼龍が涙を止めてくれたのだ。


飛龍「ずっと遠くの海に、私を失った蒼龍が居るって。だから私、戦い続けて、いつかきっとその蒼龍と会う!もう泣かないわ。見守っていてね、蒼龍!」


―飛龍の呼び声は、束の間雨の音よりも強かった。



―同じ頃、南太平洋、ショートランド泊地~アイアンボトムサウンド間航路。


―ショートランド泊地の忘れられた艦娘たちは、今夜もまた、アイアンボトムサウンドの姫率いる艦隊を壊滅させ、帰還の途中だった。


バズーカを背負った傷だらけの蒼龍「・・・あれ?今誰か呼んだ?」キョトン


ビスマルク「そんなバカな事、あるわけないでしょう?瑞鶴のお腹の音よ」フッ


瑞鶴「失礼ねっ!あの程度の姫との戦いなんて朝飯前よ!腹ごなしにもなりはしないわね」ズイッ


プリンツ「うーん、私も特に何も聞こえませんでしたけど・・・」


夕雲「私も、何も聞こえなかったわ」


北上「あーじゃあね、こういうのは言い出しっぺが一番怪しいからねぇ」ニヤッ


ビスマルク「何よ!私が空腹だとでも言いたいの?」


北上「そーだよねぇ?・・・じゃあ、長門さんから預かったおにぎりはいらないよねっと」


ビスマルク「えっ?何言ってるの?それとこれとは別よ!よこしなさいよ!」


瑞鶴「ちょっと、もしかして私にもあげないつもり?」


北上「えー、だってさっき腹ごなしにもならないって」


瑞鶴「それとこれとは別よ!」


北上「ちぇー・・・」


バズーカを背負った傷だらけの蒼龍「あー・・・なんかごめんね、私の気のせいで。あと、私は普通にお腹がぺこぺこだからね?」


―しかし、ビスマルクも瑞鶴も、北上のおにぎりの話で蒼龍の言葉が耳に入っていない。戦いを終えた解放感もあるのだろう。またしばらくはこの海域が静かになるはずだ。


バズーカを背負った傷だらけの蒼龍(今回も生き残ったけど、いつまで続くのかな・・・。またいつか、飛龍に会えるかな・・・)


―一年ほど前、アイアンボトムサウンドの姫との夜戦時に、大破した自分をかばって飛龍が沈んでしまった。自分でも呆れるほどに泣き続けた蒼龍は、やがて大型の無反動砲を手に、夜戦時でも仲間のサポートをするようになった。今では全員が手練れになり、誰も沈まなくなって久しい。だが、本土に帰るめどは立っていない。


バズーカを背負った傷だらけの蒼龍(私は必ず、生きて帰るんだから!)


―蒼龍たちのはるか向こうに、ショートランド泊地の島影がひっそりとたたずんでいた。幾つかの光は、仲間の部屋のものだろう。だが、ともに戦ったり、時には待っていた飛龍はもういない。



―再び、伊豆大島沖合の海域。


扶桑「さあみんな、撤収しましょう?これからが山場よ!」


―艦娘たちは全員、扶桑の号令に合わせて、特務司令船『にしのじま』に帰投した。



―特務司令船『にしのじま』艦尾出撃デッキ。


―磯波と漣を伴った提督は、艦尾の大きく開いた出撃デッキのゲートから、照明に照らされた海を見ていた。冷たい雨はより一層激しさを増し、眩しい雨のすだれのように降り注いでいたが、その向こうから艦娘たちが次々と帰投してくる。


提督「おかえり!飲食及び、入渠、通常入浴、全て整っている。任務を終えた者はひとまず一息ついてくれ」


摩耶「あのさー陸奥さん、あのコート姿の強そうな男って何者だ?士官服は着てねぇようだし・・・(小声)」


陸奥「ああ、うちの提督よ?お察しの通り、とても強い人よ。士官服は嫌いみたいで、一度も袖を通したのを見た事が無いわね」


摩耶「へえぇ~、でもなんか親し気というか、話しやすそうだな」


陸奥「あら、わかる?・・・そうそう!鳥海の身柄は拘束することになるから、下田鎮守府の皆さんは、ひとまずの代表を決めておいてね」


摩耶「わかったぜ。なら・・・龍驤、頼んだ!」


龍驤「なんやウチかい!ま、しゃーないなぁ。・・・おっ!?なぁ陸奥さん、磯波と漣って、こっちの司令官の秘書艦なん?」


陸奥「ええ。そうよ?」


龍驤「うちの司令官はなんというか、胸部装甲のあっつい子ばかりで固めとったんやけど、こっちの司令官はそういう感じじゃないん?(小声)」


陸奥「えっ?まあそうね、噂では胸の大きさにはあまりこだわりがないみたいよ?(小声)」ボソッ


龍驤「ほっほ~う、ええ司令官やないの!」


陸奥「けれど、秘書艦には扶桑、山城や足柄もいるから、一概には言えないわね。私も結構よく一緒に呑んでいるし」


提督「下田鎮守府のみんな、長い間の特別任務御苦労!司令船で申し訳ないが、任務の汗を流しつつ、自由に一息ついてほしい。この後臨検を横須賀の司令船に対して行うが、明日にはゆっくりと羽根を伸ばせるはずだ。・・・あ、鳥海、君は駄目だがな」


鳥海「ちょっと待ってください!今、臨検とおっしゃいましたか?横須賀第一に対して?」


提督「本来なら君に質問の権利はないが・・・答えよう。その通り。この鎮守府は司令レベルが8。つまり、横須賀の総司令部よりも上となる。二重発令で同じ任務に当たった場合、指揮系統に重大な問題があるとして調査及び臨検を受けるのは、横須賀第一鎮守府という事になる」


―ここで鳥海の顔が曇り、今までどこかに漂っていた余裕が消えた。


鳥海「そんな・・・!」


提督「君は真面目だそうだが、工作員には向いていないな。・・・なるほど、横須賀と君はやはり繋がりがあるか」


鳥海「・・・(やはり鋭い、この提督!)」


榛名「鳥海さん、あなたは横須賀第一に居た鳥海さんよね?」


鳥海「えっ!?あなたは・・・あの榛名さん!?」


摩耶「は?面識があるのかよ鳥海」


鳥海「この榛名さんは、かつての私の同僚で、『開耶姫』榛名さんです。どういう事なんですか!?」


下田鎮守府の艦娘たち「ええっ!?」


摩耶「あの、アイドルですんげぇ強い榛名さんか?」


龍驤「ちょっと待って、実は特務に所属しとったん?」


榛名「いえ、演習でお姉さまに、試合でこちらの提督に完全に打ち負かされ、増上慢を正されました。それで、今はこちらに異動させていただき、自分を磨き直しています・・・」


鳥海「ウソです!そんな方はもうどこにも居ないと・・・!かつての名のある方は皆、海で消息を絶ったはずです」


提督「そうだな。名のある男はもう居ないかもしれないが、名のない男はいたって事だろう」ニヤッ


鳥海「えっ?まさか・・・」


摩耶「鳥海よぉ、さっきから何を一人で驚いてんだよ?」


鳥海「提督さん、あなたは戦時情報法、第二十六の一または二の対象者ですか?」


提督「まあ、二十六の二のほうだな」


鳥海「そんな・・・実在していたなんて!」


摩耶「どういう話なんだ?そりゃ」


鳥海「少なくとも複数の栄誉勲章保持者で、敵対国から身を護るために全ての個人情報が完全に抹消・保護されている方を意味します。非常に高い能力と実績をお持ちの方という事です」


提督「あまり意味なんて無かったけどな、おれ自身には。だからそんなにびっくりしないで欲しい。何か複雑な気分になるだけなんだよ。・・・さ、おしゃべりはここまでだ。鳥海、君はおそらく何らかの工作任務が割り当てられていたろう?この後、武装解除及び、艤装展開禁止措置を取り、その後営倉に入っていてもらう事になる。ただ、入浴と軽食は許可するので、その後でいいだろう」


鳥海「わかりました。・・・えっ?入浴まで?」


提督「この雨に濡れたのが気にならないなら別に無しで構わないが。・・・というわけで下田の摩耶ちゃん、風呂まで面倒を見てもらっても良いかな?」


摩耶「おっ、おう!意外と優しいんだな。摩耶でいいぜ!ほら鳥海、もう面倒をかけんなよ?」


鳥海「・・・お心遣い、ありがとうございます」ギュッ


榛名(あれ?お風呂に入れるのに、かえって表情がすごく沈んだような・・・)


??「こんばんはー!」


提督「!」バッ!


その場にいた全員「えっ?」


横須賀の白露「うわー、こっわいなぁ!提督さんだよね?銃を向けないで。お話に来ただけだから。・・・あっ!榛名さんと鳥海さん、久しぶりだね!」


―艦娘たちが驚いて振り向く中、提督の銃だけは白露を既に捉えていた。


榛名「どうしたの?白露ちゃん」


鳥海「・・・久しぶりですね」


提督「横須賀第一には出撃は禁じたはずだが、これはどういう事かな?わざわざ撃滅されに来たとも考えづらいし」スッ


横須賀の白露「うん。提督には話したんだけど、これは私の無断出撃なんだよね。戦艦棲姫との戦いに加勢しようとしたんだけど、思ったより順調で、邪魔になりそうだったから、勝手に落としどころを探しに来たの」ニコッ


提督「落としどころ?」


横須賀の白露「情報と、艦娘でどう?その代わり、横須賀が解体されないようにしてくれたら嬉しいんだけど」


提督「おれの描いている絵と、あまり変わらない着地点だが・・・。君の言っている事が横須賀の提督の意思でないという保証は無いだろう?」


横須賀の白露「あるよ。だって、私がそっちに異動したいんだもん。公称練度96だから、そう悪くないでしょ?」ニコッ


提督「なるほど。・・・情報というのは?」


横須賀の白露「知っているかもしれないけど、榛名さんと鳥海さん、それから私は着任不良って言われてたの。私は提督の趣味に合わなかったからいいけど、榛名さんと鳥海さんは、提督とぎくしゃくしていたんだよね」


鳥海「私の事を欠陥艦娘みたいに言わないで下さい!すごく悩み続けてきたんですから!」


横須賀の白露「・・・じゃあぶっちゃけるね。この件って、鳥海さんは最後に使い捨てにされる予定だったみたいよ?正確に言うと、全ての責任を背負わされて登録抹消。で、解体を免れる代わりに、私的に提督のものにされるって予定だったみたい。この件の報酬って、提督にとっては横須賀の評価が上がる事と、鳥海さんを自由にできるようになる事だったみたいなんだよねぇ」


鳥海「そんなはず、ありません!この件が無事に完了したら、私は小林提督とかかわりのない鎮守府に、自由に異動できるのが条件だったんですから」


提督「ほう」


鳥海「あっ!」


提督「白露、たぶん君の言っていることが正しいだろうな。しかし、ソースは有るかい?」


横須賀の白露「無いけど、提督が言っていたんだよね。もうじき、鳥海が戻って来る予定だって。提督が受け入れられなくてセクハラ騒動になって移動した鳥海さんが戻るなんて、おかしいでしょ?」


提督「・・・見えてきたな。横須賀の提督にとっては、榛名が居なくなった今、どうしても鳥海は自分のものにしたかったわけか。おれも男だからな。気に入った女を追いかけたい気持ちは理解できる。なるほどな・・・」


扶桑(あら、そうなのね)


磯波(追いかけた事、あるんでしょうか?)


漣(へぇ~)


横須賀の白露「私が言いたい事は以上かなぁ。ねえ提督さん、この後臨検なんでしょ?とても危ないから気を付けてね」


提督「想定はしているが、うん、ありがとう。で、ここまで言った君はもう自分の古巣には戻りづらい、という事か」ニコッ


横須賀の白露「面と向かって着任不良って言われ続けているからね。もし、私が欠陥艦娘だったとしても、一生懸命やるから、私の異動を織り込んでくれたら嬉しいなって」


提督「着任不良という言葉は、今日の昼間に知ったんだ。そして、それに対する仮説も聞いたばかりでね。もしかしたら君もそれに該当するのかもしれないな」


横須賀の白露「えっ?」


提督「表向きは命令無視の出撃の上、こちらに拿捕されたことにしておくが、臨検が終わるまで、とりあえずお茶でも飲んでいたらいい。これは・・・磯波、付き添いを頼む。磯波の指示に従っていてくれ。それと、身体検査は受けてもらう」


横須賀の白露「わかってるよ。ありがとう!提督さん!」


磯波「諒解いたしました」


漣(なるほど、いそっちは鋭いからなぁ・・・)


鳥海(そんな・・・そんなはずは・・・)


―鳥海は、自分に二重の危機が迫っていると考えていた。この任務に成功はない上に、おそらくもう一つの危機がある、と。



―30分ほど後。


―特務司令船『にしのじま』から、横須賀の司令船『むさしの』に桟橋がかけられた。


―横須賀の小林提督は神妙な表情で舷側甲板に立ち、それを見ている。


船外放送「横須賀第一鎮守府の小林提督と認む。ただいまより、臨検を行う。提督は武装解除せよ!」


―司令船の照明が小林提督を照らし出す。


小林提督「・・・諒解した」スッ、カキン・・・ジャッ・・・カコッ


―60式提督用拳銃を出すと、弾倉を抜き、それぞれの手に拳銃と弾倉を提示した。


船外放送「榛名、武器を預かってくれ。夕張は桟橋を固定ののち、金剛と共に船内の艦娘の武装解除状況を確認せよ。確認次第、臨検・聴取に入る」


―スタッ


―雨の降りしきる逆光の桟橋の上に、小林提督には見覚えのある立ち姿が現れた。


小林提督「榛名だと・・・お前は!」


榛名「お久しぶりです。私語は慎んでください」


小林提督(くっ、よりによってあの榛名の異動先だと!?)


―噂通りであれば、その提督は相当な手練れの筈だ。


??「青葉、臨検映像記録を。春風と鹿島はそれぞれ出先担当として立ち合いを。電ちゃんと曙は記録を頼む。衣笠は青葉のサポートを」


艦娘たち「諒解いたしました!」


―夜中の雨の中だというのに、その返事の士気は高かった。


小林提督(この鎮守府を束ねる提督とは、果たしてどんな男か・・・)


―スタッ


提督「お初にお目にかかる。私は特務第二十一号鎮守府の提督だ。名前は戦時情報法第二十六の二によって保護され、名乗る事は出来ない。ご了承願いたい。これより、特務鎮守府規定および通常鎮守府規定への抵触及び、二重発令、また、当鎮守府の特務に基づき、臨検を行う。ご協力願いたい」ニコッ


―ゾクッ


―小林提督は、悪寒と共に震えが止まらない自分に気付いた。本能が、死の危険が迫っていると自分を激しく揺さぶっている気がした。黒いコートは光を跳ね返さず、この男をかぐろい死神のように見せている。タクティカルコートか。だとすればこの男は、おそらくアフリカ帰りだ。


小林提督(殺せるのか?この男を・・・っ!)


―しかし、やらなければおそらく破滅だ。総司令部も、伊達にこの男を特務の提督にしたわけではないだろう。そしてその有能さが、おそらく深海や第二参謀室には邪魔に違いない。


小林提督(備えはしてある。今更怖気づきはせんぞ!)


―小林提督は、司令室やその他、臨検で見回るであろう数か所に仕込みをしていた。


提督「では臨検を開始する。むっちゃん、ボディーガードを頼む」


陸奥「はーい、地味な仕事になっちゃったけど、しっかりやらせてもらうわね」


小林提督「戦艦・陸奥だとっ!?」


提督「ん?」


陸奥「あら、珍しいの?横須賀第一にも陸奥くらい、いるでしょう?」


小林提督「そちらの陸奥は、どこかからの異動かな?」


提督「いや、昨年夏に建造での着任だが・・・?」


小林提督「そうか、失礼した」


―??『おそらく、これでもう戦艦・陸奥は二度と建造できないはずだ』


小林提督(どういう事だ?奴らが嘘をついているのか?建造出来ているではないか・・・)


―以前、ある事件の後に、戦艦・陸奥は二度と建造できないと聞いていたはずだ。しかし、目の前に昨夏に建造された陸奥が居る。


小林提督(やつら、おれを使い捨てだと思って、適当な事ばかり言っているのではあるまいな。それになぜ、このタイミングで特防の春風と総司令部の鹿島が居る?まさかおれはたばかられているのか・・・?)


―陸奥の件はともかく、春風と鹿島の件は偶然に過ぎなかった。しかし、この時生まれた小さな疑念が、窮地に追い込まれた小林提督の中で、消えない染みのように静かに広がり始めた。全てを疑ってかかる立場上、自然な事ではあったのだが。


―臨検は順調に進んだ。船内の施設と、船内に出撃してきている艦娘の確認、それと、横須賀第一に残っている艦娘、大規模作戦に出ている艦娘の照合。それらは何の問題も無かった。


小林提督(まだだ!なぜか艦娘しかいないこの鎮守府なら、必ずチャンスが発生するはずだ!)


―小林提督にはチャンスの確信があった。司令室の提督専用カードケースだけは、艦娘は立ち会えない決まりだった。ごくわずかな時間だが、司令室に自分と、この提督しかいない時間が発生するに違いない。


提督「次は司令室の通信機器等のバックデータを一通り落とさせてもらおう。最後だけは、私が単独で立ち会わなくてはならないが。青葉、データのコピーを」


―青葉は携行していた耐爆仕様のスーツケース型データメモリーを手際よく接続し、スマートフォン、通信機器、特殊帯パソコン、ノートタブレット等の全てのデータを移していった。これは仮想インターフェイスを構築できる優れもので、防諜機関と一部の特務にしか支給されていない機器だ。


提督「・・・何だか手際が良すぎだなぁ」


青葉「そんな事無いですよ~?あ、そう言えば提督、お部屋の机の所に封筒を置いておきましたから、じっくりお楽しみくださいねー」テヘッ


提督「ん?何の話だっけ?」


青葉「開けてみてのお楽しみですよー」ニコニコ


提督「そうか?わかった」


―データを移している間は、主に榛名が、司令室のロッカーや机等を調べている。


青葉「うん!データのコピーは完了しました。あとは提督のお仕事だけですねー?」


提督「そうだな。皆には一旦退室してもらおうか。データメモリーはそのままでいい。あと、バリちゃんのほう、スタンバってるかな?」


曙「ちょっと待ってね」スマホイジリー


―曙はインカムを接続したスマホを起動した。砂嵐だった画面が、インカムをつけた夕張の映っているものに変わる。夕張は『にしのじま』の営倉内で、ノートタブレットで曙と、もう一つ、『むさしの』の司令室内の画像を見ていた。鳥海に見せるためだ。


曙「うん、大丈夫みたいよ」


提督「良し、では小林提督を残し、総員退室。これより、提督権限でのみアクセス可能な機密を臨検する」


榛名「かしこまりました。提督、お気をつけて」ギュッ


―退室する時に、榛名は提督の手の中に、小さな紙切れを握らせて出て行った。


提督「小林提督はそこの椅子に座り、指示するまで立たないでもらいたい。これより、提督専用カードケースの確認を行う」ゴトッ


小林提督「承知した。今更抵抗などせんよ・・・」


提督「ではそういう眼をしたまえ」


小林提督「っ!これは失礼した(見抜いているのか?この男、いや・・・迷うな!チャンスは来た)」


―提督は司令室の真ん中に座らせた小林提督から死角になる、机の内側に移動すると、榛名の手渡した紙切れを見た。


―紙切れ『小刀が見当たりません。気を付けてください』


提督(なるほどな、おれなら・・・)カラッ・・・ゴトッ


―提督は机の一番下の引き出しの鍵を開け、頑丈な小型ケースを引っ張り出した。それはちょうど、引き出しいっぱいに収まる大きさだ。


提督「すまないが、これの特殊帯・生体認証の解除だけは君にやってもらうほかはない」


小林提督「だろうな、承知している(来た!しくじらんぞ!)」スタッ


―小林提督は机に歩み寄り、そこに置かれたケースに向かった。手提げ金庫のようなケースの中には、艦娘のカードと、装備品のカード、そして、愛用の小刀が入っている。


小林提督(肝臓を一突きし、この男を人質にとって、艦娘たちに言う事を聞かせ、鳥海を解体し、証拠隠滅ののちにこの男はサメの餌だ)


―自分が生き残るには、もうそれしかなかった。


提督「では、よろしく頼む」


小林提督「わかった」ピッ・・・ピピッ・・・カチカチ・・・ガチャッ


―提督から見て、ケースの蓋が開けきらないうちに、小林提督は小刀を素早く抜いた。


小林提督「死ね!特務の提督ッ!!」ガッ!シュッ!


提督「!」


―ガシッ!


小林提督「なんだとっ!刃ごと掴むか!」


提督「殺しの童貞が!」


―小林提督の渾身の突きは、提督の黒い手袋の右手でガッチリつかまれた。


提督「おれを殺そうとしたな」ギラッ


小林提督「くっ!(動けん、何だこの男の眼は!)」


提督「童貞におもちゃはレベルが高いぜ?」ギュッ、グイッ


小林提督「ぐっ?ぐあぁぁ!やめろ!」


―どうやったのか、小刀を握る手の一部を押されると、柄と指に圧迫された手にすさまじい激痛が走った。


小林提督「やめろ!離してくれ!がああぁぁ!」


提督「ああ、放してやるとも」グイッ・・・ドゴッ


小林提督「ぐうっ!」


提督「少し眠れ・・・」ガスッ


小林提督「うっ!?」


―小刀を奪われると、その柄で腹に一撃を食らった。身をかがめたところに、首の付け根にさらに柄尻を叩きこまれ、小林提督は意識を失った。


―すぐにあわただしい足音がして、司令室の扉が開く。提督は施錠されていないケースを閉じた。


榛名「お見事です!提督、流石ですね!」


鬼鹿島「今のは、骨指術か穴所術ですね?」


―実は、青葉が置いていったスーツケース型データメモリーには、カメラが仕込まれていた。この状況の記録と、この後起きることに使う予定だった。音声だけは、提督の服に仕込まれたマイクでのみ拾い、録音し、リアルタイムで営倉内の夕張と鳥海にだけは聞こえるようにしてある。


提督「鹿島ちゃん、あとで昼間の分も支給するので、手錠を借りられるかな?この男と話をしなくてはならない」


鬼鹿島「ありますよ?どうぞ」ゴソゴソ、スチャッ


―鹿島の手錠は微かに良い香りがした。


提督「香水の趣味が良いな。こんな男を繋ぐのにはもったいないかもしれないが、場合によっては人生最後の時になりかねん。こういう趣向もいいだろう」


鬼鹿島「そうですか?ありがとうございます。これから何を?」


提督「この男を尋問し、見極め、話をしてみる。鳥海の役割も判明するはずだ。皆再び退室していてもらおうか」


―提督は気絶している小林提督を椅子に座らせると、後ろ手に手錠を繋ぎ、背もたれに絡ませ、立ち上がれない姿勢にした。


―ドスッ


―手刀で、背中に活を入れる。


小林提督「うっ・・・ここは?そうか、しくじったのか・・・」


提督「もともと荷が勝過ぎる相手だ。戦場であれば、君はとうに泥にまみれた死体となり、冷たい雨に叩かれている頃だろうよ。だが、幾つか確認をしたい。嘘は・・・11回まではついていい。よく考える事だ」ゴトッ


小林提督「嘘が11回?意味が分からんが・・・」


―提督はホルスターからH&K Mk 23改を抜き、机の上に置いた。


提督「こいつの装弾数は12。嘘一つに対し、死なない場所に一発ずつ打ち込む。11度も嘘をついた人間は全ての意味で無価値だから、最後は心臓か額に撃ち込ませてもらおう。どちらかを選ぶ権利は与える。苦痛で気が狂っていなければな」ニヤ・・・


小林提督「なんだと・・・」


―部屋は寒いくらいだが、小林提督は滝のように汗を流した。背もたれに触れたシャツがじっとりと冷たい。


小林提督(なんという事だ!艦娘を束ねる提督がこのような男とは!上層部は何を考えている?この男の眼の奥の無法は、御しきれるものではないぞ・・・っ!)


―自分は決して善人でないからこそ、わかる。おそらく、第二参謀室の連中も、こんな男が特務の提督だとは知らないはずだ。余裕を構え、自分を使い走りにしたあの連中には、この男には対処しきれない気がする。得体の知れない神尾参謀室長ならわからない、と言ったところか。


小林提督「・・・何を話せばいい?しかし、いずれにせよおれは終わりだ。やけくそになって蜂の巣になって死ぬのも悪くないがな」フッ


提督「全てがおれの意図通りに進むなら、君は評価をさらに上げて帰ることも可能だがな」ボソッ


小林提督「なにっ?(取引をするつもりか?いいだろう、死ぬにせよ、この男を見極めよう)」


―提督の何かに当てられたのか、小林提督の度胸と才覚が久しぶりに頭をもたげた。


提督「独り言だ。まず、鳥海は工作員だったな?その扱いの予定を話してもらおうか」


小林提督「鳥海は・・・今回の二重発令を考案・発令した、第二参謀室系統から指令を受けた工作員だ。コードネームは「シーバード」。何のひねりも無いが、どうなろうが最後は責任を全て背負い、抹消の上、解体と二択でおれのもとに来る手はずだった。この任務で特務の評価は失墜し、二十一号の提督を亡き者にし、元帥に返り咲いた参謀を再び落とす、そういう予定だった。この任務に成功の際は、鎮守府に多くの予算が落ち、さらに私的に鳥海が手に入る・・・その予定だった」


提督「そんなに、榛名や鳥海が好きかね?」


小林提督「あの榛名は、ただの榛名ではない。だが、そのぶんおれではダメだったという事だろう。提督は、なってしまったら辞めることは難しい。なら、安らぎを得られるものは何が何でも得ておきたいのだ。貴様も男ならわかるだろう?」


提督「ノーコメントだ。だが、今日の昼間、『着任不良』というものを知り、さらにそれのヒントが判明しかけているところだ。榛名や鳥海、白露が着任不良の個体なら、それは別に真に着任すべき提督がいるだけで、君に何か問題があるわけではない。着任不良の子以外は、普通に君によく仕えてくれるだろうよ?」


小林提督「何だと?おれに問題があるわけではなかったのか!」


提督「これもまた、上層部のどこかの仕込みだ。だから、自分のものでない艦娘はさっさと忘れて、自分の艦娘を見つけて着任させるべきだろうな」


小林提督「知らなかった!この件でずっと自分に疑問を持っていたのだが」


提督「何人いるかわからないが、着任不良の子は海域でも建造でもない、異動組だろう?」


小林提督「・・・その通りだ。・・・むっ、そういえば白露は?」


提督「ああ、取引を持ち掛けられた。今はうちの司令船でお茶でも飲んでいるだろう」


小林提督「そうか・・・。で、次は何の話をすればいい?」


提督「君は深海と繋がっているのか?まずその確認をしたいのだが」


小林提督「深海と繋がっているだと?ははは!指揮系統にも既に深海の意思が反映しているのだぞ?誰が敵で、誰が味方かわからんし、どこに深海棲艦が潜んでいるかもわからないのだ。お前たち特務が頑張らねば、全ては深海に染まるだろうよ!このおれも、しばらく前に奴らに全艦娘を人質にされ、手先となって久しい」


提督「何だと!?」


小林提督「撃つなら撃て!だが、おそらくおれだけではない。四年ほど前の大規模作戦の時だ。奇襲を受け、司令船を人質に取られた。従うしか、無かったのだ・・・。そして、あの榛名は特別な榛名なのだ。『最初の榛名』を絶対の存在にしようとする過程で分離した、善なる艦娘としての榛名そのものなのだ。だから特別に価値がある。深海の奴らは、あの榛名を消し去るか何とかして汚し、不滅の絶対悪の深海棲艦・榛名を生み出そうとしているのだ!」


提督「つまり、海で姿を消した提督と、姿は消さなかったが深海に協力している提督と、何も知らない提督が居る、という事か」


小林提督「その認識で正しい」


提督「陸も海も馬鹿ばかりか。果たしていくつの卒塔婆が立てば終わるのか・・・」ボソッ


小林提督「何のことだ?」


提督「いや。しかし意味が分からないな。うちに来てからの榛名はなんだかとても献身的だが」


小林提督「貴様の適性がそれだけ高いという事だろう。それ自体、痛快な事だが深海の奴らには計算外の筈だ。死を前にして、やっと面白くなってきたか・・・」フッ


提督(ほう・・・、この男、才があるな・・・)


小林提督「さあ、提督としては既に生けるしかばねに等しいこのおれは、全てを話したぞ?貴様はまだ聞きたい事があるか?無ければ撃つなり、話すなりして貰おうか。どうせあがいても、希望など無いのだ」


提督「わかった。では、おれの考えを言おう。君は手柄を手に帰りたまえ」


小林提督「何だと!?どういう事だ?」


提督「ちょっと待っていてくれ・・・」サラサラ・・・ピラッ


―提督はメモに何らかを書き、それを小林提督に渡した。そこに書いてあったのは、小林提督も把握していない案件を絡めた、ほぼ完ぺきな筋書きだった。


小林提督「これは!・・・下田鎮守府や特務第七の件はよくわからないが、兎にも角にもこのように報告すれば、日常は何も変わらず、むしろ功績になり、奴らも納得せざるを得ない、という事か」


提督「理解が早くて助かる。鳥海は手に入らないが、むしろ別の榛名や鳥海を着任させた方が理想的なのも分かっていただけたかと思う」


小林提督「・・・つまり貴様は、これらの案件を全て掌握していて、全てを丸く収める筋書きにこのおれを加え、功績を与えつつ、第二参謀室や深海を出し抜くつもりか!」


提督「そうだ。君がここに現れ、この状況になったことで、全てを丸く収めることが出来る」


小林提督「ははは!何たる悪党か!およそ正当な提督や軍人の発想ではない。貴様は何も信じていないな。だからこそできる発想だ」


提督「そうだ。そして、それをおれに言える君は、死ぬには惜しい才を持っている。艦娘への気持ちも悪くない。そこでだ、君は大悪党になればいい。深海も艦娘側も超えた、人心を統べるほどの大悪党にな。その期待値を込めて、おれは君の命は奪わない」


小林提督「大きく出たな!いいだろう。全てを出し抜き、いずれ貴様も超えて見せよう。流れによってはおれの都合で貴様が命を落とし、今日のこの日を後悔しても良いという事だな?」


提督「構わんよ。退屈しなくていい。深海も総司令部もない。うまく立ち回り、上前をはね、勝つ方についたらいい」


小林提督「良かろう。だが、今日は貴様に大きな借りが出来た。命と功績と。連絡手段は考えねばならないが、何でも聞くがいい。虚実定かならぬ話をさせてもらう」


提督「では早速だが、まずこの補強増設その他の闇取引をだな・・・」ニヤッ


―提督は懐から、紛争ダイヤモンドの入ったケースを出した。


提督「不審船を沈めた報酬だ。君なら現金化できるルートもあるだろう。少し、応急修理システムや補強増設を譲ってもらえたら助かる」


小林提督「そのダイヤの価値は?」


提督「正規品なら数百万だが、そのままなら三、四百万と言ったところだろうよ。しかし、好事家の中には非正規のダイヤを好む者もいる。そこは君次第だな」


小林提督「では、応急修理システムを五枚、補強増設を十二枚、それから、零観のフル改修を一機と、三号砲のフル改修二基をつけよう」


提督「大盤振る舞いだな!」


小林提督「そうではない。既に余り始めているし、鳥海への手向けだ」


提督「有難くいただこう」


小林提督(なんという夜か!まだ世界は終わってはいなかった。この男の『無法』は、あの男の『法と秩序』を討ち破るかもしれん)


提督「それと、一条御門という男を知っているかな?」


小林提督「知っているとも。深海の首魁にして、最初の提督だ。身分を偽り、アフリカ戦線にも参加していたらしいがな。あの男はこの世界に新たな秩序をもたらそうとしている。だが、人間が二の次の世界に、新たな秩序もくそも無いだろう。何か考えがあるようだが、そこまではわからんな。だが、艦娘が消える世界は望むところではない。それが、おれが深海に転ばぬ理由だ」


提督「どうやら君は、実に提督らしい男のようだな。艦娘側の」


小林提督「深海棲艦がどうしても好きになれないのだ。榛名や鳥海のような艦娘が好きだからな」ニヤッ


提督「ははは!男の一分は世界より大事だからな!それはよくわかる!おれも艦娘は好きだ」


小林提督「気に入っている艦娘はいるのかね?」


提督「おれは重度の戦闘ストレス障害な上に、人間を信じるのは難しい状態だ。彼女たちが居なければ、こうして任務に当たるのも難しいだろうよ」


小林提督「・・・ほう」


―殺し合うはずだった二人の提督は、いつの間にか意気投合していた。


提督「あとは、『霧の夜』について何かわかればありがたいが」


小林提督「『霧の夜』にたどり着いていたか!手伝わされた自分も全容を把握しているわけではない。が、あれは深海側に大きな不都合があったらしいのだ。『最初の陸奥』に工作と奇襲を受け、『最初の榛名』の正体が暴露されかかった。また、何らかの不都合が生じたらしく、『最初の榛名』から、貴様が着任させている榛名が分離したらしいのだ。にわかには信じがたい話だがな。そして、大きくなった騒ぎを抑える為に、『最初の榛名』を矯正施設に幽閉されていた佐世保の榛名と入れ替るしかなかった。つまり、いま矯正施設に幽閉されている榛名は、佐世保の榛名ではない」


提督「佐世保の榛名は何をして幽閉されたんだ?そして、彼女はどこに?」


小林提督「提督に近づいた艦娘を、作戦海域で何人か見殺しにしたと言われている。矯正施設を守っている大和と戦い、一瞬で敗れたのまでは知っている。噂では、地図に存在しない、特務初号の実験施設に連れていかれたとも聞いたが・・・」


提督「地図に存在しない特務初号だと?(まさか、堅洲島のどこかに?)」


小林提督「心当たりがあるのか?」


提督「少し、な・・・」


小林提督「和歌山の沖合にも、地図に無い島がある。だがそこの鎮守府は深海の手に落ちている。だからそこではないはずだ」


提督「初耳だな」


小林提督「着任忌避が続いて行くところのなくなった艦娘は、その島を最後に消息を絶っている。読島(よみじま)という島だ。和歌山県の白浜あたりからしかアクセスできん。特務にはうってつけの案件だな」


―ここで提督は、和歌山と白浜という地名から、ある特務案件を思い出した。


提督(まさか、駆逐艦・朝潮が前任の提督から受けた任務とはこの件か?だとしたら危険だな・・・)


―特務案件の駆逐艦・朝潮の潜伏先は、まさにこの辺りだ。


提督「ふむ、大体こんなところか。実に有益な話になったな。ああ、先ほど陸奥の件に関して聞いていたが、あれは?」


小林提督「深海の奴らの話では、戦艦・陸奥はもう建造できなくなっている、との事だった。どうやら眉唾らしいがな」


提督「その理由は?」


小林提督「そう聞いただけだ。見当もつかんよ」


提督「わかった。では・・・臨検は終了、拘束は解除する」


―ガチャッ、バターン


榛名「大丈夫でしたか?提督!」


提督「はやっ!見ての通り大丈夫だよ」


―カメラで状況は艦娘たちに流れていたが、音声は流れていないため、榛名は心配そうだった。


提督「大丈夫。白露を呼んできてくれないか?」


―提督は小林提督の手錠を外しながら言った。


白露「はいはーい!待っていたよ!話し合いはついたの?」


小林提督「白露、お前はこちらの鎮守府に異動だ。この後異動手続きを行い、そのままそちらに所属し、私物は後日取りに来たらいい」


白露「ありがとう提督!じゃあそうさせてもらうね!今までお世話になりましたっと!・・・あっ、こちらにある荷物は今まとめて持って行っちゃうから!」


―こうして、予想外に白露が横須賀第一から異動してくる事となった。


小林提督「では、先ほどの段取りは諒解した。こちらはそのように動く。それと・・・鳥海の事もよろしく頼む。解体などにならないように」


提督「それは大丈夫だ。落としどころは考えてある。うちも戦力はまだまだ足りないしな」


小林提督「うむ。事後処理もあるゆえ、ここで失礼させていただいて問題ないか?」


提督「大丈夫だ」


―『にしのじま』から『むさしの』にかけられていた桟橋が外された。


小林提督「貴様のこれからを見届けさせてもらうぞ!特務の提督!」ニヤッ


提督「ああ。つまらないところで雑魚い死に方をするなよ?」フッ


―こうして、思わぬ形でこの夜の特務にケリがつきつつあった。夜の雨の中、横須賀第一の司令船『むさしの』が遠ざかっていく。


鬼鹿島「・・・あれは、『強い敵こそ味方とせよ』の思想ですね?」


提督「そんな大層なもんじゃないがな。あのままでは、あの男は使い倒されて消される。自分でそれに気付いており、そんな未来を回避する道を探った、それだけだろうよ」


春風「駆け引きも得意なのですね、司令官様」ニコッ


提督「はは、今夜がたまたまうまくいっただけだよ。今のところおれ一人だ。戦局をそう左右できるとは思っていないさ」


春風(しかし、歴史は大抵、強力な一個人が流れを変えていくものです。そんな方が必要な戦局でした・・・)


提督「さて・・・一息入れて全てをまとめてしまうか。まだ眠れそうにないな」


―雨は止まない。が、もうじきそれなりに地が固まる結末が見えてきていた。




第五十九話、艦



次回予告



営倉で小林提督との一部始終を見ていた鳥海は、誤解から間違った覚悟をし、面白いトラブルになる。


眠りに落ちた金剛の代わりに、提督のもとに向かい、ばったりと出くわす榛名と扶桑の意味深な会話。


私室で眠りに落ちる提督と、寄り添う榛名。


早速ぶつかる陽炎と白露。


そして、堅洲島に帰る途中で合流する、愛宕と高雄が率いる下田鎮守府の他の艦娘と、摩耶たちの再会、そして、さらに驚きの再会と、怒る摩耶。


特務第七の川内は、アメリアと鷹島提督に連絡を取る。



次回『雨降って・・・』乞う、ご期待!



鳥海『知っているんです。この後、私、薄い本みたいな事をされて、解体されるんです・・・』ガタガタ


秋雲『ねぇねぇ、薄い本てなーに?どんな内容なの?こんなの?』パサッ、ニヤニヤ


摩耶『・・・うわ!すっげぇ内容だな!ははーん、鳥海、やっぱりお前ってムッツリだろ?』


鳥海『あ、摩耶、こんなのはまだ序の口ですよ?』


摩耶『ええ!?やっぱりムッツリじゃねーか!このドスケベ!』


鳥海『しまった!私の計算では、そんな事を言われるはずでは・・・』


後書き

E5甲、未だ突破できずです。

松輪とリットリオは手に入ったのですがねぇ・・・。

皆さんはどんな状況でしょうか?

8月28日追記、E5甲で何とかクリア。

現在、E6甲輸送中です。長いなぁ・・・。

8月31日追記、E6甲クリアしました。初のローマをゲットしました。

輸送は長いですが、スムーズでした。


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1: SS好きの名無しさん 2017-08-25 19:51:01 ID: zQ_7JdZy

投稿楽しみに待ってました!
話が一気に進んだ感じですね!
私はE6丙輸送をまったりやっているところです。

2: SS好きの名無しさん 2017-08-26 00:53:23 ID: G4J9iMEm

アラアッラーの立ち位置的にも不自然なほど存在が見えなかった連合艦隊旗艦。ついに名前が出ましたね、恐らく初…では?
それと監獄の守護神、以前から気になっていましたがこの強者な雰囲気がたまりません
その他の歴任艦も作品内で要人に見える辺り(特に最近出てこない最後の旗艦)これからの流れにワクワクしています

榛名の部分はまさかの連続でもう、読み返しが止まりません好きィ…

3: 堅洲 2017-08-28 23:51:53 ID: zCYGi9SK

1さん、コメントありがとうございます!

自分は今日やっとE5甲をクリアして、E6甲の輸送です。A勝利で初のローマが落ちてびっくりしました。

物語はそうですねぇ、やっと敵側の意図が少し見えてきて、進みましたね。このお話もとても長いので、じっくりお付き合いくださいね。

4: 堅洲 2017-08-28 23:58:27 ID: zCYGi9SK

2さん、コメントありがとうございます!

いやー、掘り下げて読んでもらえて、筆者冥利に尽きます。そうなんです。親潮の回想を除いては、直接本編に名前が出るのは初めてなのです。

矯正施設の大和は、確かに非常に強いのですが、扱いの難しい子で、その為に隔離気味、という伏線があります。この子もとても面白い活躍をしますので、楽しみにしていただけたらと思います。

榛名の件は、片が着くころには深海の恐ろしいたくらみの一端が見えてきます。

今後も楽しみにしていただけたらと思います。


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1: SS好きの名無しさん 2017-08-25 19:50:18 ID: zQ_7JdZy

是非読んでみてください!


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