2018-10-17 14:48:58 更新

概要

「もしかして、あなた」「お、お前もコンビニ強盗?」笑う青葉、怯える秋津洲、寝てる金剛。戸惑う強盗二人が榛名と神風を拐ったことから始まったバーニングラブワゴンの旅。なぜか深まっていく四人の絆、榛名の戦後日常編。


前書き

※キャラ崩壊注意です。


※やりたい放題なので海のような心をお持ちの方のみお進みくださいまし。


【1ワ●:リアル連動型マリカ 2】


 

木曾「俺はバイクか。いいね、ウイリーが出来る」



球磨「カートより速度が出るはずクマー」



山風「……」ビクビク



球磨「まーだびびってるクマ……」



明石君「ま、最悪置物でも怪我しなきゃいい」



木曾「だな。それより、アイツだろ。明らかに特別な車に乗ってるぞ」



明石君「外車だな」



悪い島風【悪い連装砲君を魔改造した悪い連装砲君verカマロでっす!】

 


明石君「ドイツ車仕様か。かっけーなー」



2



明石君「ちょ、山風さん」



山風「なに」



明石君「なんでずっとガガガガって感じで壁に向かってアクセル踏んでるんだ。木曾さんと球磨さん、悪い島風のやつはもう半周くらい先にいるぞ……」



山風「バックの仕方、分からない……」



明石君「仕方ねえな。妨害チャンスまでに整えとかねえと」ブロロロ



明石君「ブレーキ踏みながら、このバーを下げろ。ほら、メーターの横にあるRの英文字が光っただろ? この状態でアクセル踏めば戻るから。アクセルはゆっくり踏めよ」



山風「……ん」ブロロロ



明石君「そうそう。次は同じくバーを動かしてDのところを光らせてアクセル踏めば前に進む……」



山風「ん、わかった。ありがと」ブロロロ



山風「このJは……」ピョンピョン



山風「ああ、ジャンプか……」



曙「……」ムスッ



山風「そのキントウンみたいな乗り物は楽そうでいいね」



曙「デートか。イチャイチャしてんじゃないわよ」



明石君「俺的にはアッキーの面倒見ている感覚だけどな……」



山風「……曙ちゃんも釣りの時みたいな格好してる」



曙「させられているのよ……コースアウトしたら、私が釣り上げて戻さなきゃならないんだから。落ちないようにしなさいよ」



曙「死なないとは思うけど、多分痛いと思うし……」ボソッ



明石君「それじゃアイテム取りに行くぞ。そう何度もチャンスはねえからな。俺はとにかく悪い島風を狙うわ」



山風「それじゃ行こう」


ブロロロ


明石君(木曾さんと球磨さん、大丈夫かな。前に演習した時に球磨型はむちゃくちゃやるような。落ちるの覚悟でいちかばちかのショートカットとかは止めてもらいたい)←マリカ予習してきた。



2



木曾「ギャハハ、速えーと気持ちいいな! バイクは初めて乗ったが最高時速でブッ飛ばしても感覚で乗りこなせるもんなんだな!」



球磨「お前は感覚でなんでもやってしまえるようになってしまったクマー……出会った頃は魚雷も9割外すやつだったのに」



球磨(……それにしても悪い島風のやつが、先頭争いに加わらずに後方の集団に留まっているのが恐いクマ)



球磨「楽しむのはいいけど、警戒を怠ってヘマするんじゃ……あ、木曾、速度落とせクマ! そのまま突撃するとドッスンに潰されてしまうクマ!」



木曾「だったら逆に速度あげりゃいいんだよ!」



球磨「キノコブースト……まあ、回避出来たのならいいクマー」



木曾「悪い島風このままぶっち切って、1位独走しとけば終わるんだろ! 俺に任せとけ!」ヒャッホウ



木曾「スゲー! 球磨姉、この坂をのぼってプロペラを取ってみろよ! パラグライダーみたいに空を滑空できるぞ!」キラキラ



球磨「複合ステージクマー……」



球磨「ステージはWiiのやつで、キャラにアカベエとかいたし、アーケードも混ざってるクマー……となると、なにか他のオリジナル要素のギミックとか仕込んでいる危険も」




球磨(……あのままで終わると思えないクマ) 



球磨「それにあいつの外車のカート、かまろ? どっかで見覚えあるクマー、思い出せないけど……うーん……」



球磨「……、……」



球磨「( ゚(エ)゚)ハッ!」



………………


………………


………………



悪い島風【さてと悪い連装砲君verカマロよ。後方でノロノロしていたお陰でいいアイテムも取れたし、行きますか】



悪い島風【この手のゲームは超得意だぜ】



悪い島風【あの島風(クソガキ)譲りの速さを持つ私がかけっこで負けるわきゃねーだろ!】



2



明石君「ん、木曾さん達が二週目に入ってからコースの風景が変わったぞ。テレサ……ここは……あっぶね!」キキキ



明石君「ヒュードロ池じゃねえか!」



木曾「おい野郎の明石と山風。悪い島風が三位をキープして球磨姉の後ろにいるから頼むぞ。ステージもガードレールねえからチャンスだ。暗闇の底に叩き落としてやれ!」



明石君「おう。俺は3連単の赤甲羅取れたから、全部撃ってやるつもりだ」



山風「あたしはスター取れたから、ぶつかって飛ばしに」



球磨「作戦変更! お前ら妨害なんて考えずに逃げたほうがいいクマ! このマリカは桃鉄やスマブラよりヤバい設定されているクマー!」



悪い島風【一撃目、行きますよー】



明石君「空が光った? これもしかして……」



悪い島風【ドオオオオオン!!】



明石君「あばばばば! 落雷ィィィ!」



明石君「死んだかと思ったし! クルマもショートして動かねえんだけど!」



妖精「出番っす。直します」 



明石君「おお、そうくるか。でも、タイムロスだな……身体もちっちゃくなってるし。山風さんは大丈夫……か?」



山風「うん。スター使ったから無事」ピカピカ



明石君「よっしゃ、俺は甲羅飛ばすからぶつかってきてやれ!」



山風「無敵だもんね。跳ねにいく……」



悪い島風【させるかよ! 変☆形!】



球磨「やっぱり――――!」



球磨「あの車種、漣と一緒に映画で見た!」



球磨「トランスフォーマーのバンブルビーだクマー!!」



木曾「ずっりィな! 金属生命体かよ!二足歩行で走るなよ! タイヤで走れよな!」



明石君「かっけえ……!」キラキラ



山風「でも、あたし無敵だし、当たれば壊せる、かな」



悪い島風【もっちろん! スター使えば私の悪い連装砲君の装甲もぶち破れるよ!】



山風「なら行くよ……木曾さんと球磨さんはその間に1位をぶっちぎるべし……」



悪い島風【……!】



山風(位置取りを変えて私から離れた……避けているってことは本当に効くのかな?)



山風「当てるよ……吹っ飛べ」



悪い島風【く、足を少し持っていかれたか。少しタイムロス、でも山風たん! ブレーキは踏もうね! その速度だと落ちますよ!】



山風「あ、ここヒュードロ池、しま、」キキキ



明石君「落ちたアアアア!」



曙「釣り上げてくるわ……」



悪い島風【よお! 艦これ世界に需要のねえイレギュラー!】



明石君「甲羅では、無理かなあれ……」



悪い島風【よそ見した代償は高いぜ!】



明石君「っ! 踏み潰す気かよ! 避けきれ、」


グチャ


曙(紙みたいに潰れてひらひらしてる……)


3


悪い島風【そーれそれそれ! その貧弱な車で逃げてみろよお!】



球磨「街ステージのビルを飛び映って移動とかお前、管理権限あるからってガキ大将みたいなズルし過ぎだクマ!」



悪い島風【それが速度的にはその他と同じなんだよねえ! 一気に距離は詰められていないしね!】



悪い島風【それにテメーらは実質仲間だから4体1じゃねーか! ちょっとくらい眼を瞑れってんですよ!】



悪い島風【っと、そろそろ3周目のラストか!】



球磨(といってもデフォで踏み潰し出来るのはどうなんだクマ……)



悪い島風【いっておくけどさ……このゲームはただのメンテナンスの時間稼ぎの繋ぎだよ。メモリーをちりばめ終えてから、あなた達は焦りを覚えるでしょう】



球磨「?」



悪い島風【なんたってメモリーにあるのは!】



悪い島風【誰も知らない最初期の真実で、埋もれていた英雄達がそれでようやく表の世界に認知される!】



球磨「……つまり、最初期の闇クマ?」



悪い島風【お味噌汁! ご飯! 魚の煮物!】



悪い島風【天・津・風ちゃん♪】



球磨「……頭おかしくなったクマ?」



悪い島風【例えばさ、高速修復材、誰が作ったと思う!?】



悪い島風【一人の少女の希望と勇気が作ってその涙の滴に、何度テメーらは命を助けられたっつーうんだよ!】



悪い島風【軍の連中が手柄としてその功績を世間にパフォ利用するために更なる兵士を集めるためのエサにされたよ!】



悪い島風【10にも満たねえガキどもで捨て艦戦法するあの北方の始まりの海で、私とあいつの未来は始まったのさ!】



悪い島風【メモリーの中にあるのは、私の真の目的までたどり着ける、最初期からの私の記憶なんですから!】



球磨「!」



悪い島風【……ん?】



ガガガガガ



ガガガガガガガ



ガガガガガガガガガガ!



悪い島風【おう"っ!】



悪い島風【艦載機だとう!】



グラーフ「待たせた。支援艦隊到着だ」



グラーフ「我が祖国の車を傷つけたくはないが」



グラーフ「あの性悪には前々からの借りを返しておかなければな……」



グラーフ「SBD」



ドオオン!



悪い島風【しまった、友軍艦隊のこと忘れてた!】



球磨「グラーフ――――! よくきてくれたクマ!」



グラーフ「球磨、私は艤装があるとはいえ出来ることは進路妨害程度に限られる」



グラーフ「勝て。メモリーを入手しろ」



グラーフ「表に出ていない英雄なぞ、この海の歴史の中に腐るほどいるだろう。だが、それを究明することも」



グラーフ「戦後処理の一環」



グラーフ「最終世代として生き残った我々の責務だろう」



悪い島風【全く、テメーらはいつの世も先祖の尻拭いの輪廻の歴史に遊ばれてますよねえ!】



球磨(……もう少しまともに頭を回してみるクマ……木曾は下手に頭使わせるよりも感覚に任せてぶっち切っていたほうが素質のパフォーマンスは発揮できるクマ)



球磨「……、……」



悪い島風【さ、走れ走れ! ラストステージ!】



悪い島風【残りの2週はスターロードだ!】



4



木曾「っち、追い付かれるな。1位だからかろくなアイテム引けねえし……」



木曾(この場所は予習でやったことあるな)



木曾(確か、この辺りを)



木曾「ギア入れ換えて、ジャンプだア!」



悪い島風【近道か! 行ってらー!】



木曾「ん、追ってこねえ……艦載機を交わしながらじゃキツいか? リスクの回避を選ぶとはさすが営業だな! 俺がこれに成功すれば追い付いては来られねえ!」 



木曾「着地点にズレはねえ。勝った。こういった感覚のなんとなくを成功させるのは俺の得意だからな!」



ヒュー



木曾「よし、着地っ!」


グチャ


木曾「」



球磨「リアル連動型でそんな風に落ちればそりゃ無事では済まないクマ……跳ねて落ちたし」



球磨「曙! 木曾が追い付かれる前に早く釣り上げるんだクマー!」



曙「すでに向かってるわよっ!」



悪い島風【アハハ、絶望のお知らせだ! 引きがいい!】



球磨「!? 3位でスター引いたクマ!?」



グラーフ「艦載機も弾かれる……」



悪い島風【当たり前だ! 深海棲艦に科学兵器が通じねえパーパのシステムを弄って、全ての攻撃を効かねえようにしてあるアイテムだからな!】



悪い島風【踏み潰してやら! 球磨……!】



悪い島風【捕ったりイイイイ!】



球磨「クマ――――!」


グチャ



悪い島風【そして、近道をする!】ジャーンプ



木曾「ンだと。でも、しくじった、か?」



木曾「コースから外れたところに落ちてやがる」



曙「釣り上げたけど、壊れたバイクの修理に時間も取られるのね……あいつが落ちてくれたら、楽なんだけど」



悪い島風【ちょっとズレちまったけど】



木曾「人型の乗り物きたねえな! 腕でコースのはじっこをつかんでぶら下がってやがる!」



悪い島風【簡単にはクリアさせませんっ! よじ登りまして!】



悪い島風【もう少し足を止めてろ! 木曾!】



悪い島風【捕ったりイイイイ!】



グチャ



……………


……………


……………



山風「惨事だね……」



山風「アッシー……あのバンブルビー、解体出来ないの?」



明石君「無茶いうなよ。さすがの俺もアレは解体して壊すことはできねえわ……」



山風「ところでそれは……サンダーのアイテム?」



明石君「おう。どうすっかねえ。これって全員小さくしちまうし、これで妨害成功しても木曾さんと球磨さんが追い付けるとは限らねえし、周回遅れの俺らは論外だし……」



明石君「つーか、山風さんまたスター引いたのか……」



山風「……、……」



山風「ぴ、こーん」



山風「グラーフ、さ――――ん!」



グラーフ「む、悲痛に叫ぶ時以外に大きな声を出せたのか」



山風「木曾さんと球磨さんがここの辺りに来た時に、あたし達のところで止まるように、して欲しい……」



グラーフ「妖精可視の才があれば手荒に行かずとも済むのだが、致し方あるまい。了解だ」



………………………


………………………


………………………



木曾「おおい! グラーフ、なんで俺らの進路妨害してンだよ! 止まれってことか!?」



球磨「山風と明石君がなんか手を降っているクマ」



木曾「……作戦でもあんのかね」


キキキ


山風「悪い島風は、先にいった。近道はしないみたい……」



山風「サンダー、見られたから、ジャンプのタイミングで使われたら不味いと判断したんだと思う……」



グラーフ「しかし速度をあげて超スピードで走っている。どうやらこのレース、負けてくれるつもりはないらしい」



山風「グラーフさんは艦載機を全機飛ばして悪い島風を少しでも妨害して。アッシーとは根性値高いから逆走して、悪い島風を同じく身体を張って、妨害で」



山風「木曾さんは、このまま追って。正攻法で追う人がカモフラージュでいるから」



山風「アッシーはその前にサンダーを私のいうタイミングで使って欲しい……」



明石君「おう」



山風「私と、球磨さんは」



山風「――――、――――」



一同「ナイスアイデア」




5



悪い島風【なんか作戦会議してるけど、どんどん離され てますよー……】



悪い島風【……明石君が逆走したな。追い付けねえと判断して、私がゴールする前に妨害する腹か……?】



悪い島風【木曾が追ってきてるか……】



ドオオン!



悪い島風【サンダー来た!】



悪い島風【残念ながらショートはしないですよ! 仕様に乗っ取って小さくなりますけどね!】



悪い島風【……ん、このレーダー】



悪い島風【スター使った山風が近道か!】



ガガガガ!



悪い島風【こなくそっ! 悪い島風ちゃんのワイルドスピード並の運転テクで回避してやるぜ!】



グラーフ「なるほど、戦闘経験は浅いのか」



悪い島風【……く、進路制限で本命、恐れを知らない艦載機か! 】



SBD「ドオオオン!」



悪い島風【自ら、巻き込まれることにも関わらず、艦爆落とすか……!】



悪い島風【すぐに修理してやるもんね! たかが十数秒程度のタイムロスでなにも変わりませんよ!】



悪い島風【それにまだ完全に壊れていないよ! 腕が、動かせる!】



山風「着地、怖いけど、スター状態、なら」


ドン


山風「上手く、出来た。スター、切れたけど」



悪い島風【ラッキーだ! 落ちた場所が悪いね!】



悪い島風【キャッチ】ガシッ



山風「ひ、止めて、来ないで……」



悪い島風【うへへぇ、その顔たまんないです! 命に代えても宇宙の闇夜に沈めないと!】



悪い島風【&リリース!】ブンッ



山風「いやあああああ―――!」



曙「山風! すぐに引き上げるから待ってなさい!」



悪い島風【残念でしたー!】



ヒラヒラ



悪い島風【――――!】



悪い島風【やられた!】



球磨「ふう、タイミングばっちりだクマー」



悪い島風【サンダー使って踏み潰した紙状態の球磨を! 山風が輸送しやがったのか!】



球磨「お返しに、甲羅を当てておいてやるクマー!」



悪い島風【野性の勘ですかねえ! 後ろ向きでよく狙いつけられますね!?】



悪い島風【急がなきゃ負けちゃう!】



木曾「安心しろ。急いでも負ける」



悪い島風【バイクで腕伝って登ってくんじゃねえ! っていうかそこに陣取るンじゃねえよ! 前、見えねえだろうが……!】



悪い島風「運転中のドライバーに対してやっていいことと悪いことがあるんですよ!」



木曾「じゃかましい」



明石君「へへ、そこにはトラップがあるぞー!」



ツルッ



悪い島風【そんなバナナ――――!】



曙「んしょ……はあ、なんとか戻せた……」



山風「た、助かった。曙ちゃん、ありがと……」



曙「……別に礼なんていいわよ」



グラーフ「……球磨がもうゴールする」



山風「チェック、メイト……」



悪い島風【ち、】







悪い島風【ちくしょー! 負けたアアアア!】



木曾・明石君・グラーフ「WRYYYYYY!」



曙(グラーフさんが……)



山風(段々面白いノリが出来る人に、なってきてる……)



【2ワ●:リアル連動型 スマブラ 2】


1


飛龍「ちょっとちょっと!」



飛龍「私の艦載機、味方にも当たるように設定されてるんだ!? 扶桑さん、ごめーん! チーム戦じゃないみたい!」


ドカーン!


扶桑「ぐぼっ」



乙中将「扶桑さんがぶっ飛んで星になったア! どうやら友永隊はスマッシュ技設定されてるみたい!」


ヒュン


扶桑「1機減りました、残り2機です……」



飛龍「扶桑さん、ご、ごめんね! ちょっと乱闘状態で狙いをつけるのが難しくて!」



扶桑「お気になさらず……仕様をつかむための尊い犠牲と思っておきます……」



夕立「ぽーいー! アームズ!」バキッ



夕立「アーンド! ぽいキック!」ドゴッ



飛龍「夕立が素敵なパーティー始めてる……」



扶桑「敵キャラの鳩尾とか喉元とか狙ってるのは野生の本能でしょうか……」



乙中将「楽しそうなのが怖いよね……」



乙中将「僕は設置型。これモデルなにかな。スネークとかかな。メタナイトがよかったなー」



乙中将「夕立がスピードの近接タイプで、扶桑さんも近距離型だけど夕立より速さがないけどパワーがあってリーチが長い。飛龍は遠距離だね」



扶桑「私、これモデルはドンキーだと思います……」



乙中将「うん、さっき空中でクルクルしながら移動してたもんね……」



扶桑「いわないでください。想像したら恥ずかし過ぎます……!」バキッ



乙中将「ぐふっ」



扶桑「あ、ああ! すみません、つい……!」



乙中将「軽傷だから大丈夫……」



乙中将「でも、クリアはしなきゃね」



飛龍「そういえば丙少将のところはクリアしたんですよね。なにやらメモリーがもらえたとか」



扶桑「一体何のデータが入っていたのですか?」



乙中将「あー、先日の会議で見せてもらったんだけど」



乙中将「軍が記録していない最初期の戦闘映像だった。まあ、戦後復興妖精の契約映像でもあったけど」



乙中将「本来の姿だと思われる戦後復興妖精と、最初期の島風が映ってた。あの北方領土奪還作戦で、作戦を成功させたのは」



扶桑「やはり、島風さんと天津風ですか」



乙中将「『戦後復興妖精との契約により同化した島風』と『天津風艤装』だ。記録では天津風のほうの艤装は見つからず、島風のほうは身体が見つからず。悪い島風は島風の身体と天津風艤装を持っているよね。その辻褄も合う推測も立った」



乙中将「あの映像をもとに調べたら、あの作戦での彼等の戦果は見直されるかもね。最初期時代に軍が握り潰したと思われるものもたくさんあると思うから、どうなるかは分からないけれど、きっとあれは真実だと思う」



飛龍「……准将はなんと」



乙中将「僕と同見解だね」



扶桑「あなたと准将がそういうのなら、恐らくそうなのでしょうね。とりあえず、クリアしてメモリーを持ち帰らなければ」



夕立「乙さん! 敵、全滅させたっぽい!」



乙中将「よくやってくれました。次のステージか」



飛龍「でも闇は1度、失敗したんですよね。友軍艦隊による支援が期待できるとはいえ、大丈夫、でしょうか」



扶桑「最近ではあの子犬の件もありますし、やはり心配ではありますね……」



乙中将「ま、大丈夫だと思うよ」



乙中将「さて、僕らはちゃっちゃとこの茶番をクリアして」



乙中将「『艦隊これくしょん』の海域に出撃しなきゃね」



一同「了解!」ッポイ



2



わるさめ「よくぞゼルダ城まで辿り着いたなー!」



わるさめ「楽しく遊ぼうネ☆」



乙中将「ちょっと……僕らんところのラスボスわるさめちゃんかよ!」



飛龍「嫌な予感しかしませんよ!」



扶桑「胴体から上だけしかありませんね。その胴体は宙に浮いていて……」



わるさめ「トラ☆ンス」



乙中将・扶桑・飛龍「!?」



扶桑「あの、胴体と繋がってはいない二つの白い手は」



乙中将「マスターハンドだ!」



扶桑「わ、私のところに飛んできました! 空から拳を降り下ろしてきますっ!」



わるさめ「と思わせて、優しく掌で包み込みます」



乙中将・飛龍「!?」



わるさめ「指の隙間から、通常サイズまで小さくした超テクニシャンの左手のほうを忍び込ませます」



扶桑「い、いやっ、どこを……!」



扶桑「……あ、や、やめ」



扶桑「きゃあああああ―――――!」



わるさめ「完成です」



扶桑「……」パクパク



乙中将・飛龍「扶桑さ――――ん!」



わるさめ「ごちそうさま! やり捨て御免☆払いのけ!」



ドガアアアン!



乙中将・飛龍「」


シュン



扶桑「」



乙中将「復活しても屍のままじゃないか……!」



飛龍「想像もしたくありませんが、精神肉体ともに壊滅的なダメージを受けることは分かります……」



わるさめ「わるさめちゃんのが張りがありました! この調子で(自主規制)して(自主規制)した後に(自主規制)吹かせてやるよオ!」



飛龍「予想を裏切らない最悪な行程だよ!」



夕立「悪いことはダメ! 姉としてお仕置きするっぽい!」タタタ



わるさめ「よくぞ向かってきたぽいぬ姉!」


ワーワーギャーギャー


乙中将「夕立のあの身のこなしはさすがだね………」



飛龍「おまけにあのキレッキレな動き、今日はギアがいい感じに入ってますよ!」



乙中将「……、……」



乙中将「………、………」



乙中将「さて、夕立が時間を稼いでくれている間に作戦会議だ。扶桑さん、酷だけど話だけはがんばって聞いてね……」



乙中将「――――、――――」



扶桑「後は、お願いしますね……」



乙中将「ごめんよ扶桑さん……」



扶桑「不幸には慣れてますから……」



3



夕立「」



わるさめ「ぽいぬ姉の弱点は脇腹だって知ってるんだゾ☆」



わるさめ「5分も耐えるとはなかなかー……わるさめちゃん自信なくすぜ……」



わるさめ「さあ、一機失おうか!」



わるさめ「やり捨て御免☆払いのけ!」



ドガアアアン!



わるさめ(……ん、扶桑はあそこでまた泣きながら寝たままで、乙中将と飛龍は複雑な地形利用して下に隠れたか)



わるさめ「ラスボスだからねえ……」



わるさめ「感知、出来ちゃうんですよね……」



わるさめ「追尾式ロケット☆パンチ」



4



乙中将「なんだあれ! 追跡してくるんだけど!」



飛龍「あの卑猥な手の形! 捕まったらただじゃ済みませんよお!」



乙中将「トランスっていったから恐らくあのマスターハンドには艤装と同じく想が入魂してあるはず!」



乙中将「でもなんの想だよ! 男優かなんかの想かよ!」



乙中将「でも、右手は僕らを狙ってて、片方の手は夕立が相手してるから、本体はがら空きのはず! 飛龍、任せたよ!」



飛龍「とりあえず艦載機、発艦!」



飛龍「乙中将、その爆弾かなにかを設置して追ってくるあれを撃退できませんか!」



乙中将「出来なくもないけどリアルだから煙るし、地形が壊れるかもしれない。あれは自動追尾だから、僕らの首を締める結果になりかねないから、まだそれは決断できないよ!」



わるさめ「……みーっけ! ぽいぬ姉は左手の相手で精一杯で助けに来ないぞー」



乙中将「ふ、風船で浮いてる?」



飛龍「チャンスです! あの風船を割れば、友永隊!」



わるさめ「あらよっと」



乙中将「え、艦載機が消えた!」



飛龍「ち、違います! 今のは、わるさめが艦載機を、手で」



わるさめ「マスターハンドは各自1キャラ扱いなのさ!」



乙中将「……、……」



わるさめ「艦載機お返しー!」



ガガガガ!



飛龍「痛っ! 被弾しました!」



乙中将「あ! むらびとの技のしまうと取り出すかよ!」



わるさめ「かかっておいでよ動物の森イイイイ!」



飛龍「艦載機、発艦!」



わるさめ「く! 4方向からの同時攻撃か!」



わるさめ「当たって砕けろ動物の森イイイイ!」



乙中将「被弾を気にせず突っ込んできた!」



乙中将「後ろの右手と挟み撃ち……!」



飛龍「あ、あああ―――――!」


ガシッ


わるさめ「シェイク!」



飛龍「うわあああ――、ふ、振らないでえええ!」



飛龍「き、気持ち悪く……」



飛龍「もうダメ、見ないでください、乙中将……!」



(自主規制)



乙中将「飛龍……」



わるさめ「余所見してんじゃねえよ! 部屋から作戦考得るのは出来ても現場じゃできねえのかなあ!」



わるさめ「野郎はオープンザドア君しか興味ないからとっととスマッシュ!」



ドガアアアン!



わるさめ「さて、残りは一機ずつだ。誰から仕留めるかなー……」



5



飛龍「最悪……私達が一番最悪なんじゃないですか……!」



乙中将「ああ、わるさめちゃんが相手の時点で、恐らく僕らが一番の貧乏くじを引かされてる……!」



夕立「ぽい!」ドゴッ



乙中将「夕立が左手をかなり追い込んでる……!」



マスターハンド・右手「…………」



飛龍「ふ、扶桑さん! 狙われてるううう!」



扶桑「……2度も」ムクリ



扶桑「穢されないわ……!」


ガシッ


扶桑「少し痛いですからお覚悟をっ!」


ボキッ


乙中将「ナイス! 人差し指をブチ折った! 悶絶してる!」


バキボキゴキ


飛龍「ついでにスマッシュ!」


ドガアアアン!



乙中将「これは思わぬラッキーだ! 大した苦労なく右手を仕留めた!」



夕立「ぽ、ぼいいー!」



夕立「乙さん達、後は任せるっぽいいい~……」



ドガアアアン



乙中将「かなりダメージ与えてくれたね! ありがとう! 後は僕らに任せてゆっくり休んでて!」



わるさめ「左手、パーで払いのけろー!」



飛龍「全機発艦! 食らう前に仕留めてやる!」



わるさめ「おっとしまってやんよ!」



乙中将「……く、払いのけダメージを覚悟で左手を艦載機から守る気か……わるさめちゃんのパーセンテージ的に……!」



飛龍「ああ、ダメだ、押し負け……」



わるさめ「飛龍、討ち取ったり――――!」



ドガアアアン!



わるさめ「左手よ! そのまま乙中将と扶桑も凪ぎ払えー!」



乙中将「わるさめちゃん! 僕らにメモリーくれる気はないの!?」



わるさめ「あるよ! でも話は別なんだよね! 契約上、遊びに本気でなきゃならないのさ! だからねだるな勝ち取れ!」



ドガアアアン!



わるさめ「!? 左手が吹っ飛ばされた!?」



わるさめ「……あー」



ガングート「支援艦隊ガングート、到着だ」



乙中将「ガングートさん……」



乙中将(……まだ電ちゃんのほうが……これも貧乏くじ引いたっぽいなあ)



ガングート「よう乙の将、数年前の演習振りか。あの時の決着をつけたいもんだが、今はこいつを沈めるのが先だな」



乙中将「嫌だよ! 北方とは2度とやりたくない! 君達、提督からして大道芸人集団だもんよ! というか演習はそっちが反則犯して僕らの勝ちだったじゃん!」



ガングート「あんな結果では不完全燃焼だろう」



わるさめ「だーかーらー! 余所見してんじゃねえよ! 待ってやらないかんな!」



乙中将「あ、しま、」



ドガアアアン!



ガングート「オラ」


ドガン!


わるさめ「いったああい! 女の子の顔面容赦なく殴るううう!」



わるさめ「調子乗ってんじゃねーやい!」



わるさめ「ポケット戦艦がアアア!」



ガングート「こんな茶番に付き合わされる身にもなれ。それとお前、例の春雨だったか?」



ガングート「なんでそっちにいる」



わるさめ「一応いっとくけど演技に過ぎないからね! 私にもこうする理由があるのさー!」



ガングート「敵につくか。そうか。それじゃ……」



わるさめ「動作が遅いね!獲った!」



ガングート「リーチが短いな」



わるさめ(ん、砲塔の向きが私じゃなくて……)



ドンドン!



わるさめ「あ、扶桑……お前、乙中将の」



ドガアアアン!



扶桑「」



ガングート「都合いい。扶桑が爆弾を服に隠してたもんでな……けほっ」



わるさめ「……くそ、お前こそ仲間を敬えよ!」



ガングート「おら」


ゴキッ


わるさめ「い、痛……腕が折れ……」



ガングート「おいおい、この程度で心折れかけているのか。とても訓練を受けた軍人とは思えないな……」


ゴキッ


わるさめ「や、止め、ふ、ふええん……」



ガングート「お前のようなやつにゃ少し痛みを刻み付けておかないと繰り返す羽目になる」



ガングート「深海棲艦(バケモノ)側についたテロリスト、この言葉を知ってるか?」



ガングート「お前を赦すかどうかは神が決めることだが」



ガングート「神のもとへ送るかどうかは俺が決めることだ」



ガングート「ハハハ!」



わるさめ「っひい!」



ドカバキボコ



ガングート「うちの神風より遥かに弱いが……ったく、こんな軟弱者が本当に日向と伊勢と神通を倒したのか……?」



わるさめ「……う」ムクリ



ガングート「根性数値は春雨とは思えんな」



わるさめ「しょせん何も知らねーやつだからと、黙って聞いていれば……!」



わるさめ「チューキちゃん達はバケモノじゃねーよ!」



わるさめ「お前よりも人類に貢献した」



わるさめ「人間だ!」



ガングート「吠えたな。その威勢やよし! 」



ガングート「が、実力は伴ってないな!」



…………………


…………………


…………………



時雨・夕立「ロシアの軍人怖い……」ガクガクブルブル



白露「は、春雨、大丈夫……?」



わるさめ「大丈夫だから、白露姉……」



乙中将「……」



乙中将「ガングートさん、少しやり過ぎ……わるさめちゃんもあれだけど、あれは青ちゃんも怒るよ……」



ガングート「やり過ぎ、か。……覚えておこう」



ガングート「が、謝りはしないぞ。准将がやっていなかった部分を私が悪童にしてやったまでだ」



乙中将「そこは痛み分け……としても、そこじゃなくて中枢棲姫勢力の悪口ね……?」



ガングート「なおさらだな」



ガングート「あの海戦の内野のことはよく分からないが、どんな事情があっても『Rank:SSS』の深海棲艦だろう。実際、当時はどれだけ国民の不安を煽ったか知っているはずだ」



ガングート「ランクが上なほど、大きな海の粗大ゴミってことだろうよ」



わるさめ「なんだと……」



白露「は、春雨、ダメだよ!」



ガングート「准将は上手く丸め込んで利用してみせたからな、なかなかの器とお見受けした。准将には敬意を払っているが、春雨、お前は准将の格を下げる愚か者だ」



白露「ちょっと! いい加減にしてください!」



ガングート「ただ意見が食い違うだけでそんなに怒ることかね……」



ガングート「今日はそうだな、空気を呼んで帰るか」



山城「わるさめのやつは、まあ、あなたがやってくれたから置いといて、扶桑お姉様を道具扱いしやがったわよね」



山城「少し外で」



神通「語りましょうか」



ガングート「構わん」



蒼龍「……乙中将、いいんですか?」



飛龍「止めたほうが」



乙中将「いいよ別に。程度は分かってるはずだから」



乙中将(あー……だから北方は好きじゃないんだ……)



乙中将(神風ちゃんといい、闇とケンカになりそうだから、最終作戦は外野に回されたこと気付いてもいないのね……)



乙中将(あそこの人達、提督からして闇に思い入れ持ってる人ばっかだし、一悶着ありそう。青ちゃんにも伝えとくかな……)



乙中将「嫌な臭いがしてきたなー……」



わるさめ「……」



乙中将「わるさめちゃん?」



わるさめ「……ひゃう」



わるさめ「す、すみません、私、闇に帰ります、ね」



乙中将(なんか春雨ちゃんみたいになってる……)



【ワ●:鎮守府(闇)と鎮守府(北方)と】



提督「……了解です。わざわざありがとうございます」



提督「珍しくわるさめさんが部屋に閉じ籠っているのはそういうことですか……」



ぷらずま「どういうことなのです。あのわるさめさん、お忍び里帰りの時以上に落ち込んでいるからさすがに気になるのです。今はまだ暁お姉ちゃんも立ち直れていないのに……」



提督「……」



ぷらずま「別に聞いても我を失ったりしないのです」



提督「ガングートさんが中枢棲姫勢力の皆さんをわるさめさんの前でバケモノ、海の粗大ゴミだと馬鹿にしたらしいです」



ぷらずま「あー……それに加えてフルボッコにされたと。道理でわるさめさんが凹むわけなのです」



ぷらずま「……中枢棲姫勢力のことは私達の中でだけ功績が認められていますからね。ガングートさんの評価は世間一般のものと捉えて構わないのです」



ぷらずま「が、司令官さん」



ぷらずま「わるさめさんへの暴力はお友達の教育としては少し度が過ぎますね……?」



阿武隈(電ちゃんがそれいっちゃうんだ……)



提督「……少し様子を見てきますね」



………………


………………


………………


龍驤「北方の連中はなー……海外艦多すぎ、イロモノ多すぎで尖り過ぎやで。過去に演習したことあるんやけど、2度とやりたくないわ……」



明石君「仲間の仇とまでは行かねえが、さすがに気分悪いな」



大淀「……島風さん、天津風さん」



天津風「みんな別に悪い人じゃないわよ……我が強いだけで」



島風「……うーん」



島風・天津風「……」



天津風「あんまり言いたくないけど」



天津風「准将、すごく嫌われてるわよ。主に一人だけどね。北方とはあまり関わらないほうがいいと思う」



島風「そだね……」



卯月「あー、長月、菊月」



菊月「北方には三日月と望月がいたな」



長月「別に司令官の悪口は聞いたことないぞ?」



鹿島「そういえば香取姉から准将と因縁のある教え子が北方にいると……」



大淀「……」



明石さん「もしかしなくてもあの子ですか。私、艤装を魔改造してあげて、特製の刀も作りましたよ?」



ぷらずま「因縁、というと……」



間宮「考えられるのはあの撤退作戦、ですよね」



大淀「はい。1/5撤退作戦時、准将が指揮を執った子達は心がバッキバキに折れて適性なくなりまして」



龍驤「丁の鎮守府から北方に異動というと」



龍驤「神風型か……」



大淀「あの作戦時に准将に脅迫紛いの指示を受け、15%まで適性落ちて春風さんと旗風さんは解体したのですが、お一人だけ軍に残ったんです」



大淀「神風さん」



大淀「准将は神さん、と呼んでいたとか……」



ぷらずま「ほう、親しげじゃないですか。どうせ神風さんにそう呼んでくれ、と頼まれたのでそう呼んでいたのでしょうが」



阿武隈「ここに着任するよりも前に?」



卯月「なるほどっぴょん。深海妖精のためなら兵士を平気で殺すような時の司令官に、純粋な駆逐(少女)がなにかの勘違いで好意を……」



阿武隈「つまりぃ……」



一同(被害者か……)



【3ワ●:とにもかくも、神風】

 

 

大和「ほえー、鎮守府(闇)みたいに広いんですね」

 

 

武蔵「闇の鎮守府はもともと丁のやつが口挟んで、フレデリカを着任させやがっただけで本来あそこはただの港になる予定だったらしいぞ」

 

 

大和「丙少将と青ちゃんさんの鎮守府近いと思いきや、そんな予定が……」

 

 

武蔵「丁のやつが噛んでいたんだから、秘書官の大和も知っていると思っていたが……」

 

 

武蔵「そういや、丁のやつは書類関係は大和ではなく、あいつに仕事を手伝わせていたっけか」

 

 

大和「そうですねえ……私を秘書官にした理由は人と合う時の空気のためだとかなんとか、マスコットみたいな秘書官でしたから……」

 

 

武蔵「北方は闇みたいな新設より重要な上に歴史がある。そーいや乙中将はここで補佐官やってたみたいだな」

 

 

大和「あ、丙少将から聞きました。乙の旗は代々この鎮守府に着任するのがしきたりみたいなものですが、ここにいると一般人が来るから別の鎮守府を持たせてもらったとか」

 

 

武蔵「その一般人っつーのは親御さんだろうな……あの人の地元近いし。ん、あいつは……」

 

 

トコトコ

 

望月「あ、うーす……」

 

 

武蔵「髪が跳ねてるが寝てたのか? もう昼過ぎだぞ」

 

 

望月「皆ががんばってくれたお陰でニート生活満喫してる。司令官ならいないよー。ガングートの姉さんも隼鷹もリシュリューさんも酒飲みポーラもー……」

 

 

望月「天津風と島風は闇にいったしなー……」

 

 

大和「望月ちゃんは行かないんですか? 長月ちゃん菊月ちゃん卯月ちゃん弥生ちゃんもいますよ?」

 

 

望月「あー、そだね。仲良いの卯月くれーだけど……」

 


望月「向こうの司令官がクソ真面目すぎて上手くやれる自信ないし、あたしはこの北国で冬眠して生涯を閉じるよ」

 

 

武蔵「閉じんな。引き込もってないで外出ろよ……」

 

 

望月「めんどくせー……」

 

 

望月「本日はどんな用件で」

 

 

大和「落ち着きましたからね。先代の丁准将鎮守府の1/5作戦の後に、駆逐艦の皆さんが北方の鎮守府に異動したと聞きましてご挨拶に」

 

 

大和「聞いた限り、神風さんはいるのですよね?」

 

 

望月「いるよ。大和さん、今の准将どう思ってる?」

 

 

大和「青ちゃんさんですか。少しこじらせていますが、可愛い人だと」

 

 

望月「あの撤退作戦の後、神風型はごっそりここに異動してきたけど、神風以外は那珂さんと同じく1ヶ月で解体申請したことは」

 

 

大和「ええ……知ってはいます」

 

 

望月「そんな顔すんなよなー。大和さんのせいじゃねーし……」

 


大和「……青ちゃんさんのせいだとでも?」

 

 

望月「原因はそうだと思うよ……」

 

 

望月「神風なんか本当に嫌ってるからなあ……現存してた神風型は皆、艤装適性率が10%前後にまで落ちたから。それでも残ったのは神風だけ。あの作戦で姉妹艦失って、大和さん死んで」

 

 

望月「あの司令官は、なにか間違ったことしたのなら論理的な内容でお願いしますって怒ってた神風に真顔でいったんだろ……」

 

 

望月「あんときの神風は16の新兵だったし、経験もそうない時に1/5撤退作戦のアレはねー……とあたしゃ思うよ」

 

 

武蔵「ったく、あの頃からあいつにもう少し人の心がありゃコミュ能力も多少はマシになっていた気がするんだ。指揮に間違いはなくても、それ以外が全部間違ってた」

 

 

武蔵「あいつの言葉は大体、概ね正しいんだが、兵士は物わかりの良い機械じゃねーんだからよ……」

 

 

武蔵「でも、あいつは好ましいほうに変わったと思う」

 

 

望月「武蔵さんがそういうならそうなんだろね。卯月も好いているみたいだしさあ……」

 

 

武蔵「もしかしてあいつ北方全員に嫌われてるのか?」

 

 

望月「いんや、神風くらいじゃねーかな。嫌い、というより、怖がられてるかねえ……うちの司令官は元々艦の兵士だからビビらないし、ガングートさんもリシュリーさんも己の目で見極める人だし、ポーラはどーでもよさげ」

 

 

 

望月「島風と天津風は印象と大分違って面倒見の良い人だって連絡きたし、三日月はどっちつかず。卯月達と神風の間で処理に困ってそう。若葉も初霜がいるからそうだな。香取さんも鹿島から聞いたみたいで好意的。そんでろーちゃんはゴーヤのツレであの作戦にも参加してる。ビスマルクも褒めてたよ」

 

 

武蔵「割とお前らは闇の連中と繋がりあるんだなー」

 

 

望月「ま、とにもかくも」

 

 

望月「神風」

 

 

大和「うーん……」

 

 

武蔵「どうかしたか?」

 

 

大和「神風ちゃんってあの鎮守府では」

 

 

大和「青ちゃんさんになついていた珍しい子だったと……」

 

 

武蔵「あー、なんか二人でいたとこ見かけた気はするな」

 

 

大和「青ちゃんさん、武蔵の第2艦隊についていたじゃないですか。訓練のデータ取ってくれていたと思いますが」

 

 

武蔵「そうだな。でも、神風達とあいつの話しなかったからな。私があんまり好いてねえ感じ、伝わってたんじゃねえの」



武蔵「神風は真面目で本読むのが好きで……あいつと趣味は合いそうではあるから……」

 

 

武蔵「あの頃のあいつだよな……」

 

 

武蔵「……嫌な予感しかしないから触れたくねえ」

 

 

大和「一応の根拠、青ちゃんさんの相性検査知ってます? 私もびっくりしたんですが、1位はグラーフさんだったのですけど、2位は神風さんだったんですよ」

 

 

武蔵・望月「マジかよ」

 

 

2

 

 

望月「あそこのスタジイの木の木陰にいる。それじゃあたしゃ部屋にもどっから、なんかあれば神風、若葉と三日月も食堂にいるはずだからー。香取さんと酒飲みと天然ドイツ人は知らね」

 

 

大和「はい。ありがとうございます」

 

 

望月「ん、じゃねー」トコトコ

 

 

神風「……」

 

 

武蔵「本読んでんのか。変わらねえな……」

 

 

大和「神風ちゃん、大和です、お久しぶりです。読書の邪魔してごめんなさいね」

 

 

神風「……はい。お久しぶりです。武蔵さんも」

 

 

武蔵「おう」

 


神風「なにか私に用件でも」

 

 

大和(……壁がある感じですね)

 

 

大和「落ち着いたので挨拶と、あの時のお詫びに北方まで足を運んだのですが……あ、その私とおそろいの和傘、大事にしてくれていたんですね」

 

 

神風「ええ。宝物の1つです」

 

 

神風「それと、お詫びなんてとんでもないです。生きていてくれた。それだけで十分ですから、お詫びは止めてください。前に武蔵さんからも謝られましたが、力不足だったのは私も同じでしたから……」

 

 

武蔵「神風、妹達は元気にしてっか」

 

 

神風「はい、元気に暮らしているみたいです」

 


武蔵(……なんだ、笑えてるじゃねえか)

 

 

大和「青ちゃんさんとは会いました?」

 

 

神風「は?」

 

 

神風「( #^ω^)ビキビキ」

 


武蔵(名前出しただけで即キレたぞおい……)

 

 

大和「ごめんなさいね……」

 

 

神風「あ、ち、違います!」

 

 

神風「エリート、フラグシップ、鬼も姫も入り交じった深海棲艦を50の数も引き受けてくれた大和さんが謝るだなんてとんでもないです。私達のために敵に背を向けなかった大和さんには感謝の言葉しかありませんから!」


 

大和(……武蔵からあの後のことは聞きましたが、神風ちゃんはどんな風に思っているのか、聞いてみたいですね)


 

大和「無事に民間に被害を出さずにやり遂げた、と聞きましたし、お力になれたのなら幸いですね」

 

 

神風「……護衛や救助はこなれた分野でしたから」

 


神風「ただ、あの男は私達、神風型各1艦に……」

 

 

神風「鬼旗艦の艦隊と戦わせる決死を強いましたが」

 

 

武蔵「……すまん」

 

 

神風「いえ、指揮官の判断です。武蔵さんにあの時点で艤装を渡すと、大和さんの救援に駆けつけたはずです。ある程度、距離が離れてから、艤装を渡すのはありな判断かと」

 

 

神風「もちろん、武蔵さんを責める気はありません。私だって姉妹に置き換えてみれば、絶対に理性が吹っ切れて命令を無視していた未熟者でしたから……」


 

武蔵「 =(´□`)⇒グサッ!!」

 

 

武蔵「……くっ、ああ、あの時の私は愚か者だったぜ」

 

 

神風「あの作戦はついこの前までの最終決戦まで継続されていました。その結果、全員生還を私達は成し遂げましたよ」

 

 

神風「私の姉妹達は艤装適性がなくなったとはいえ」

 

 

神風「責務をまっとうしてなお、生き永らえています」

 

 

神風「これ以上の戦果は望めませんから」

 

 

大和「ではなぜそこまで青さんを……」

 

 

神風「あいつの名前出すの止めてもらえませんか」

 

 

神風「 ( #^ω^)ビキビキ」

 

 

大和(それとこれとは話が別なんですね……)

 

 

神風「……私は作戦に関する指揮を問題視するつもりも、責めるつもりもありません。作戦は成功したんです」

 

 

大和「ではなぜ……」

 

 

神風「海の傷痕がアライズさせた深海棲艦100体なんですから、準備不足、対応しきれなかったですよね……」

 

 

神風「私達、神風型は始めての大規模作戦、あの男の指揮に忠実に従って駆逐棲姫率いる水雷戦隊を神風型3人で各1艦隊ずつ決死で足止めしました」

 

 

神風「脅迫紛いの指示により……至るところから水分を噴出し、女としても撃沈するような無様をさらし……」

 

 

神風「バッキバキに心折れて適性なくなりました」

 

 

神風「そんな私達に」

 

 

神風「作戦の後になにか一言くらいあってもよかったんじゃないんですか……」

 

 

神風「人間として」

 

 

神風「私達を道具としか考えていません。神風型はあの男に使い捨てにされたんですよ」

 

 

神風「提督志望ともあろう御方が、私達の艦名、それと格好も相まって特攻かなにかのための駆逐艦だと思っていたんじゃないですか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



私達は新撰組かよ。

 

 

 

 


 

大和・武蔵(あ、目から完全にハイライト消えた……)

 

 

武蔵(あん時のあいつなら相手が駆逐艦でも兵士として来た以上、甘えたこというなって更に突き放すんだろーな……)

 

 

武蔵(あ、でも上層部の人事が珍しく有能じゃねえか。あいつを適性施設に飛ばした理由、垣間見えた気がするぞ……)

 

 

大和「で、でも、私は神ちゃんがよく青さんとお話しているのを見かけましたが……」

 

 

神風「なるほど。私の前で気安くあいつの名前を出したのはそこで誤解されているからですか」

 

 

神風「……少し色をつけてお話します。やつの言葉に出していない台詞は私がこう思っていたであろうという想像をもとに付け加えます」

 

 

神風「誤解だとご納得して頂けましたら、今後は私の前で2度とやつの名を出さないでください」

 

 

神風「では」

 

 

【4ワ●:神風:鎮守府(丁)にて、オープンザドア君と】

 

 

神風「……」パラ

 

 

提督「神風さん、探しました。次の遠征のスケジュールについて少し丁准将から伝言がありまして」

 

 

神風「!」バッ

 

 

提督「明日の7:00の海上護衛の遠征にご同行願えますか?」

 

 

神風「あ、うん、分かった」

 

 

提督「どうも。それでは」

 

 

神風「ちょっと待って。み、見ましたか?」

 

 

提督「気配が薄くてすみません。見ました。自分も読書が趣味でして、ついお手元の本に目が行きました」

 

 

提督「それでは失礼」

 

 

神風「あ、補佐官さんも本を読むんですか」

 

 

提督「ええ、それでは」

 

 

神風「な、なんでそんなに帰りたがるんですか」

 

 

提督「? 用件は伝えましてお返事もいただけましたし」

 

 

神風「そういえば大和さんや武蔵さん、司令官以外とは業務上のお話しかしませんよね。食堂でもいつもお一人ですし」

 

 

提督「そうですね。一人が好きなので」

 

 

神風「補佐官さんはどんな本を読むんですか?」



提督「この戦争関連です。といってもあなた達のモデルについての史実系はあまり読みませんが」

 


神風「そ、そうなんですか」

 

 

神風・提督「……」

 

 

提督(めんどくさ……)

 

 

提督「そういう本はどういうところが面白いのです?」

 

 

提督「挿し絵的に十代の女の子向けとお見受けしましたが」

 

 

神風「あ、うん。私達、海に出ると護る側で弱音は吐けないから、こういう護られる側視点のお話って憧れまして」

 

 

提督「なるほど……自分も護る側に分類されるの、かな」

 

 

神風「私達はそうですね。あ、そうだ。興味あるのならお貸ししましょうか?」

 


提督「……その本は、神風さんの趣味なんですね?」

 

 

神風「そうなりますかね」

 

 

提督「ありがたくお借りします」

 

 

神風「!」パアア

 

 

神風(なんだ、人を寄せ付けない雰囲気あってとっつきにくい人かと思っていたけど、意外と話せる人なのね)

 

 

神風(……引かれなかったし)

 

 


 

 

提督「遠征、お疲れ様でした」

 

 

提督「あ、これ、ありがとうございました。読み終えましたので、お返し致します」

 


神風「はい。男性向けのお話ではないですが、面白かったですか?」


 

提督「新鮮味がありました。このお話、モチーフはこの海の戦争だったりします?」

 

 

神風「え、そうなのかしら。陸での戦いだけど……」

 

 

提督「艦娘が深海棲艦になる、という説は有名ですよね。味方が化物と化してかつての味方と殺し合ってました。男と女の立場を入れ換えての陸での戦争に替えた風に思えます」


 

提督「ので、面白かったですね」

 

 

提督「主人公の少女には感情移入はできませんでしたが、 自分に艤装があれば、こんな風に戦えていたのかもしれないと新鮮な想像が出来ました。仮想戦記も悪くないものです」

 

 

神風(あれ? 私と補佐官さん、趣味も同じでジャンル嗜好もマッチしてるの、かしら)

 

 

神風「わあ……!」キラキラ




 

 

大和「あ、確かに一時期、神ちゃんと青ちゃんさん一緒にいるところを見かけてました! 神ちゃんが楽しそうだったので、覚えています♪」

 

 

武蔵「私も覚えてるな。あいつのほうは楽しそうでもなんでもなさそうだったように見えたが……」

 

 

神風「いつも私のお話に付き合ってくれましたし、感情を表に出さないだけの恥ずかしがり屋さんだと思っていたんです」

 

 

神風「あの人も私のこと、気に入ってくれているのかなって」

 

 

武蔵「断言する」

 

 

武蔵「それはない」

 

 

大和「む、武蔵っ!」

 

 

神風「いえ、いいんです。間違っていません」

 

 

 




 

 

 


完全なる私の勘違いでしたから。


 


 

 


 

 

神風「今思えば、補佐官として指揮を取る際には第2艦隊というのが通例でしたから、提督として鎮守府に着任するためにそのチャンスを棒に振るわけにも行かず、その時が来たら上手く舵を執るために『嫌々』話に付き合ってくれたんでしょうね」

 

 

大和「ああ……あり得そうな話ではありますね……」

 

 

武蔵「第2旗艦の私と折り合い悪かったが、神風が妙になついていたから、私もお前とケンカしないようにあいつが指揮を取る際は従ってたしな」

 

 

武蔵「……丁のやつが目をつけた教え子だ。そういう計算は出来るやつだし、するやつ、か(メソラシ」

 

 

神風「ええ。あの頃の私は、ただただ」

 

 

神風「愚かでした」

 

 

武蔵(新鮮で面白いっつー感想もどうも嘘くせえな。どうせ補佐官として指揮執る時のために神風の性格を知っておこうってところか。そのために本も借りてみたんだろう……)

 

 

武蔵(あいつ、私と大和の知らんところでなにやらかした?)

 

 

武蔵(……嫌な予感しかしねえ)

 


2

 


神風「そういえば、青山司令補佐って、お一人でいることが多いですよね」

 


神風「別に悪いとかそういうことではありません」

 

 

提督「そうですね」

 

 

神風「……」

 

 

提督「なにか」

 

 

神風「なにか過去に?」



神風「あ、気軽に聞いてしまって、ごめんなさい」

 

 

提督「なにもありませんよ」

 

 

神風「そういえば、今日のお昼の麦飯の握りは私が作ったんですが、お味はどうですか?」

 

 

神風「神風にしては珍しく料理が下手ですけど」

 

モグモグ

 

提督「普通に美味しいですよ。ごちそうさまです」

 

 

神風(表情は変わらないけど……まあ、それならいいか)

 

 

丁准将「珍しい組み合わせであるな。なので、申し訳ないが、耳が悪さをしていた」

 

 

提督「いえ、別に聞かれて困る話もしていないので」

 

 

丁准将「青山君の過去が気になるのか、神風君」

 

 

神風「え……いや」

 

 

丁准将「いやいや、この男を見ていればなにか過去にあったと思うのが普通である。かくいう我輩もそうだ」

 

 

丁准将「しかし、青山君の心の一寸先は闇、ならば深入りはしないほうがいいぞ」

 

 

丁准将「父と祖母が死に、母に捨てられ、自殺未遂を犯した男の心情は気になる。我輩は戦いの中で死を望む兵士ではあるが、そういった不幸で死を選ぶ輩の人間的心は全く分からん」

 

 

神風「……!」

 

 

提督「丁准将、あなたは少し言葉に気遣いが足りないように思えます」

 

 

丁准将「まさか君が傷ついた、という訳でもあるまい?」

 

 

提督「あなたは誰かをオモチャのように、遊びでつつく」

 

 

提督「あなたは知らずのうちにオモチャにした人間に恨まれて割を喰いそうだ。まあ、ろくな死に方しないタイプの人間に見えますね」

 

 

丁准将「クハハ、心当たりが多すぎる。しかしだ、青山君、仮にも師へ、その言葉はあんまりである」

 

 

丁准将「君を次の丁に推薦しようと思っていたが、取り止めるかもしれんぞ。将の席ならば鎮守府に提督として無条件で着任できるというのに」

 

 

提督「別に。提督になろうとして軍に入ったわけではなく」


 

丁准将「クハハ! そうだったな! 君のそういう目的のために極限まで研ぎ澄まされたところは好ましい!」

 

 

提督「……それでは失礼します」

 

 

…………………

 

…………………

 

…………………

 

 

神風「司令官、あまり人の過去をネタにするのは……」

 

 

丁准将「我輩と青山君のいつものコミュニケーションだが」

 

 

丁准将「怒ったと思うか?」

 

 

神風「いや、いつもと変わりませんでしたが」

 

 

丁准将「異常であろう?」

 

 

丁准将「『気にしていない』のだよ」

 

 

丁准将「家族の死も、それを話の種にされるのも、小馬鹿にされるのも」

 

 

丁准将「ま、我輩はこう見えても彼を気に入っている。あの人を寄せ付けないオーラのまま、目立てば彼の身に待つのは破滅であろうよ」

 

 

神風「そんな過去があれば、あんな風に人と関わりたがらないのも分かります……」

 

 

神風「人と深く関わるのが、怖いのですかね」

 

 

丁准将「なんとかしたいのか?」

 

 

神風「もちろんです」

 

 

丁准将「大和君でも無理だがね。心は開かん。しかし、1つアドバイスである」

 

 

丁准将「彼の目的は戦争終結である」

 

 

丁准将「神風君、兵士として強くなるといい。そこが本当の彼とのスタート地点となろうよ。趣味だの本だの、男だの女だのではなにも変わらん」

 

 

神風「まあ、大和さんがどんな風に気にかけても、変わりませんからね……」

 

 

丁准将「余計なお世話は一番艦(長女)の気質かな」

 

 

神風「とにかく、私はあの人のこと武蔵さんみたいには思いません。同じ鎮守府の仲間ですから、お互いに支え合う存在になるべきでしょう」

 

 

丁准将「……」

 

 

神風「あの人が過去の闇に溺れているのなら、なんとか助けられるよう精進します」

 

 

神風「護衛や救助は得意ですから」

 

 

丁准将「フハハ、恐らく」

 

 

丁准将「泣く羽目になるな」

 

 

丁准将「実に楽しみである」ニタニタ

 

 

神風(うっとうしい……)



3

 

 

神風「よし! 演習、終わり! どうでした!?」

 

 

丁准将「いや、むしろ我輩が君に聞きたいのだが」

 

 

丁准将「神風君なにがあった。大和君を単艦で中破させたように見えたが……?」

 

 

神風「司令官には聞いてないです。司令官補佐です」

 

 

丁准将「……だそうだぞ、青山君」

 

 

提督「艤装の弾薬庫と燃料庫を調べて見なければ砲撃精度も正確には測れませんが、観測できた限り8割で当てていたように見えます」

 


提督「夜戦、恐くないんですか?」

 

 

神風「夜はあんまり怖くないわ。潜水艦は怖いけど……」

 

 

丁准将「毎年の合同演習の後日となるが、決闘演習でも出てみるか? 今、龍驤君が解体したゆえ、チャンプは長門君だが、この調子なら駆逐部門ではいい線行けるかもしれんぞ?」

 

 

神風「それ公式戦ではないですし…でも、1位は誰でしたか?」

 

 

丁准将「甲の江風君、乙の夕立君だが、正確には不在だな。駆逐と軽巡の素質最強は解体していなくなってしまったのだ。1位に君臨しても意味があまりないゆえ、個人演習が盛んなのは戦艦と空母だな。ま、戦艦ではうちの大和君ではある。空母は天城かサラトガ、赤城か」

 

 

丁准将「軽巡は阿武隈、駆逐は卯月だったはずだ」

 

 

提督「阿武隈のほうはともかく、卯月は驚きですね。まあ、噂程度に知ってはいますが……」

 


神風「例のキスカの生存者、ですか……」

 

 

提督「強いのならば惜しい人材ではありますが、仕方ありません」

 

 

提督「強い素質を持っていても、心が折れたのならそれまでですから。この辺り神風さんは才能がおありだと思います」

 

 

神風「!」

 

 

丁准将「心技体、我輩の目から見ればこの全てを備えている兵士は木曾君、神通君、日向君と伊勢君、龍驤君、赤城君くらいだな。工作艦明石もそうだが、あれはただ歳喰っているゆえだな」

 


神風「というかその面子は明石さんに限らずみんなベテランでは……」

 

 

提督「丁准将より歳上なのは明石さんだけですけどね」

 

 

丁准将「うむ……兵士の色恋沙汰嗅ぎ付けると、男はどんな車乗ってるの? と聞くバブル世代のババアである……」

 


丁准将「ところで『心技体』が完全な兵士は珍しく、提督として未熟であればそういった良い兵士ほど舵執りが難しくなる。青山君、この中の才能で1つ取るとしたらどれを重要視する」

 

 

提督「体ですね。技術がある程度あればの話ですが。心は兵士であればいいので……」

 

 

丁准将「しかしだな、これはカテゴリがいかにも別である風だが、連鎖するものでもあるよ。健やかな身体に健やかな心は宿る、といった風にな。心技体、どれか1つさえあればな」

 

 

丁准将「他はおのずとついてくる。二兎を追う者、一兎をも得ず。二兎、三兎捕まえたければ、まずは一兎を捕まられるよう精進すべし、だ」

 


提督「……勉強になります」



丁准将「神風君はこれに当てはめると体、そして心が最もダメだな。根性値が低い。理不尽1つで心が折れてしまいそうである」

 

 

神風「……そんなことはないと思いますが」

 

 

丁准将「今日はまぐれではないのかな。少女の青き気分でブーストかかっているだけの瞬発的な能力をもとに作戦は組めないぞ?」

 

 

丁准将「……」ニタニタ

 

 

神風(っく、相変わらずこの司令官は………!)

 

 

丁准将「ま、神風君、感情が君は盲目にしているだけだ」

 

 

丁准将「青山君は引きこもっている部屋の空気を換気でもしたまえ」

 

 

丁准将「君達、相性自体は悪くはないよ」

 

 

神風「!」パアア

 

 

丁准将「我輩はこれにて」

 

コツコツ

 

丁准将「武蔵君」

 

 

武蔵「ん? なんか用か?」


 

丁准将「年よりの冷や水だが、破局に命を賭けよう」

 

 

武蔵「意味分からねえ……とうとうボケたか」

 

 

丁准将「フハハハ! いい得て妙な表現ではあるな!」

 

 

……………

 

……………


……………

 

 

神風「青山司令補佐は」

 

 

神風「鎮守府の提督になるつもりは?」

 


提督「丁の准将なら、自分の馬鹿げた仮説にも耳を傾けてくれそうですし。今はまだ論文が完成していないのでお見せできないのが心苦しいですが」


 

提督「あ、すみません、答えになっていませんね」

 

 

提督「この戦争を終わらせるのが目的です。提督としての着任は方法の問題に過ぎませんのでこだわってはおりません。が、提督として着任したほうが捗るかも、と最近は思います」


 

神風「あの、私、もっと精進します!」

 

 

神風「一番強い駆逐艦、いや、艦の兵士になるって」

 

 

神風「決めました!」

 


提督「はい。応援しています」

 

 

 

神風「だから」

 

 

 


――――だから、もし青山司令補佐が、

 

 

 

 

――――鎮守府に提督として着任することになった時、

 

 

 

 

 

――――私をあなたの、

 

 

 

 

――――第1艦隊の旗艦にしてくれませんか。

 

 


提督「……、……?」

 

 

神風「……」

 

 

提督「機会に恵まれたのなら、その時はお願いします」

 

 

神風「よしっ!」

 

 

神風「それでは夜の訓練もう少ししてきますね!」

 

 

神風「あ、それと」

 

 

神風「大和さんみたいに私のことは神ちゃんでいいです!」

 

 

提督「そういえば大和さんそう呼んでましたね」

 

 

提督「……神さんで」

 



 

 

武蔵「神風、知ってっか。ロボットに気持ちを言葉で伝えても伝わらねえんだ。インプットしてやらねえと」

 

 

神風「そうですね……」

 

 

神風「約束を、了解です、といったのに」

 

 

神風「あいつが提督として鎮守府(仮)に着任した時、その約束も覚えていなかったみたいで」

 

 

 

 

 

 

 

 


 



私には一報もありませんでしたが。


 

 

 

 

武蔵「」

 

 

 

大和(……あら?)

 

 

大和(青ちゃんさんがあの鎮守府に着任したのは撤退作戦の大部後でその頃の神ちゃんは北方に来ていたから……)


 

大和(その約束)

 

 

大和(神ちゃんのなかではまだ有効だった?)

 

 

神風「もう話は山頂付近です……」

 

 

武蔵「転がり落ちるだけか……」

 

 

神風「転がりません。落ちるだけです」

 

 

神風「断崖絶壁ですから」

 


2

 

神風「えっと、包装紙の中に感謝のお手紙も入れておいて、と」

 


神風「うん! 完成ね!」ガッツポ

 

 

那珂「あ、神風ちゃん、手作りじゃん! それ誰に渡すの? お姉さんに教えてー♪」

 


神風「あ、その、これは……な、なんでもないです!」

 

 

那珂「あの明るい憲兵さん?」

 

 

神風「違います。司令官と陸軍の人達には皆で上げたじゃないですか」

 

 

那珂「と、なると……青ちゃんさんかな。補佐官さんにも皆であげたけどー……」

 

 

那珂「最近、本の貸し借りしてるところ見たよー? あれれー、本命? 那珂ちゃん気になるなあ♪」

 

 

神風「っ! そ、それじゃ失礼します!」

 


…………………

 

…………………

 

…………………

 

 

神風「あ、あの、青山司令補佐!」

 

 

提督「あ、なんでしょう」

 

 

神風「あれ、今の大和さん、ですか?」

 

 

提督「ええ……少しからかわれてました」

 

 

神風「そういえば、大和さんと仲良さげですよね」

 

 

提督「あの人は誰にでもあんな感じだと思いますけど」

 

 

提督「なにか自分に用でしょうか?」

 

 

神風「あ、ええと、その、あのですね……」

 

 

神風「これ……」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「中身は本ですか?」

 

 

神風「ち、違いますよ! 今日は何の日か知っているはずです!」

 

 

提督「チョコレート、ですか」

 

 

神風「ああ、もう! そうですよ、チョコレートです! 恥ずかしいので、さっさと受け取って持ち帰ってください!」

 

 

提督「……どうも」

 

 

 

 

――――ハア。

 

 

 

神風(あ、あれ? 今、溜め息、つかれた……?)

 

 

提督「ありがとうございます」

 


神風(なにかの間違いよね、うん)

 

 


 

 

武蔵「……」キリキリ

 

 

武蔵(立ち込めてきた暗雲から雷落ちることが確定してっから胃がめちゃくちゃ痛ってええええ!)キリキリ

 


大和(武蔵が小破クラスのダメージ受けてます……)

 

 

4

 

 

神風「あれ、大和さん、青山司令補佐はいないんですか?」

 

 

大和「青ちゃんさんですか。ごめんなさい、分かりません。でも今日は提督が司令部に呼び出されたので、今日の分の執務を頼まれていたはずですよ?」


 

神風「了解しました。ありがとうございます」

 

 

神風(それなら借りた本を返すのはお昼の時でいいかな)


 

トコトコ

 

 

春風・旗風「……」ジーッ

 

 

神風「あれ、二人ともどうかしたのかしら。青山司令補佐の部屋の扉見つめて……」

 

 

旗風「春姉が少しお話があるそうで」

 

 

春風「お留守、でしょうか。返事がありません」

 

 

旗風「まだ朝方ですし、寝ているのかもしれません」

 

 

神風「違、」

 

 

春風「えいっ。失礼致します♪」

 

 

神風「ち、ちょっと、執務室にいるみたいだから」

 

 

旗風「中に入ってしまいました。仕方ありません、春姉を連れ戻してきますね……!」

 

 

旗風「司令補佐のお部屋、本が山積みですねー……」

 

 

神風「勉強家なのかな……?」

 

 

春風「といっても軍学校の成績はあまりよくなかったと本人から聞きましたが……相変わらずよく分からない殿方ですね」


 

神風「……、……」

 

 

神風(……最新の妖精図鑑と海外の深海棲艦の生態小説に、最近の安全海域の海図に……愛知県の、常滑の海にばつ印に、このプリントアウトされたコピー用紙には)

 

 

神風「深海妖精、論?」

 

 

バサバサ

 

 

神風・春風・旗風「!?」

 

 

提督「あー……床で寝てしまってたか」

 

 

提督「……」

 


提督「すみません」

 

 

春風「い、いえ、というかなぜあなたが謝りになるのです……」

 

 

提督「ノックで起きられなかったみたいですから。あなた達がしないわけないです」

 

 

提督「っと、寝起きの姿はあまり見せたいものではないので、失礼ですが、自分に用件なら、少しお待ちを……」

 

 

旗風「ふふ、はい。では出ましょうか」

 

 

春風「……」トントン

 


神風「な、なに」

 

 

春風「いえいえ、最近仲が良いですよね。図々しいかもしれませんが、念のためにこの人の人柄の確認をしに来たのです。姉妹艦ですから、分かるんです。でも」ヒソヒソ

 

 

春風「私達が悪いのに気を遣ってくれる優しい殿方なのですね。わたくしは彼の良さに気づきませんでしたわ」ヒソヒソ

 

 

神風「や、止めてもらえるかしら。そ、そういうんじゃないからっ……」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「神風さん、すぐに済みますので少し残っていただいても?」

 

 

神風「え、あ、うん」

 

 

春風「旗風、お邪魔虫は退散致しましょう」

 

 

旗風「春姉、い、痛いから引っ張らないでくださいよぅ……」

 

 

パタン

 

 

神風「あの、昨日のちょこれいと、食べましたか?」

 


提督「はい。ありがとうございます」

 

 

神風「美味しかったですか?」

 

 

提督「?」

 

 

神風「よし……じゃないや、なんでそこで首傾げるんですか?」

 

 

提督「すみません」

 

 

提督「市販のチョコを溶かしてまた固めただけですよね? 市販のチョコの味がしただけです。自分、チョコレートは市販のものしか口にしたことないので、美味しいと不味いの基準がよく分からず。ただ甘め、のチョコレートですよね」

 


提督「自分、甘みが強いチョコレート好きじゃないんですが、食べ物を粗末にするのもアレなので」

 

 

提督「我慢して食べました」

 

 

神風「――――」

 

 

提督「?」

 

 

提督「素直な感想ですが、もしかして……ここ」

 

 

提督「嘘ついて美味しいっていったほうが、神風さん的には嬉しかったり、しましたか………?」オソルオソル

 

 


 

 

武蔵「案の定じゃねえかあんにゃろオオオオ!」

 

 

大和「武蔵、気持ちは分かります。青ちゃんさんのビンタ案件が着実と増えていっていますから……」

 


武蔵「分かりやがれ! 人の心があれば分かるこったろーが!?」

 

 

神風「いいえ、ここは別に良かったんです。だって私は正直、誠実にあろうとしての発言で、こういう不器用なところは愛嬌だと解釈しましたから」

 

 

武蔵「お前もなんつーか……」

 

 

神風「間違いなく乙女ふぃるたーかかってました」



神風「ああ、私はあの時の私を殴りたい……! 私が深海棲艦になったら間違いなく艦娘じゃなくあいつの命奪いに行っていたわ……!」

 

 

大和「殺気が……」

 

 

大和(というか、その時点で深海妖精深論があるのならそれが明るみになれば、乙中将がなにか嗅ぎ付けたのでしょうか……)

 

 

大和(……話が逸れるから黙っておきますか)

 

 

5

 

 

神風「馬鹿正直ですね。でも、なんだか嬉しいわ。甘いのはあまり好きじゃないんですね」

 

 

神風「もう1回、作り直してきていい?」

 

 

神風「なんだか意地でも美味しいって言わせてやりたいし! ああ、チョコレートじゃなくてもいいです。好きな食べ物はありますか?」

 

 

提督「柔らかい食べ物ですね。辛めのが好きです」

 

 

提督「というか、その神風さん」

 

 

提督「あなたが自分に構ってくれるのは嬉しく思えますが、自分の正直な言葉を伝えても……」

 

 

神風「!?」

 

 

提督「あ、いや、行動のほうが分かってもらえるかも?」

 

 

神風「!!?」

 

 

神風「ちょ、ちょっと、待って! まだ覚悟が……じゃなくて、私は別にそ、そういう感情ではなくて!」


 

神風「断固として健全を求めます!」

 

 

提督「そこの机にあなた宛の文を書き留めました。お持ち帰り願います」

 

 

提督「それでは」

 

 

神風「……? 分かりました」

 

 

神風「あ、これ、神風型の本、ですか」

 

 

提督「…………」

 

 

神風「……お邪魔しましたー……」

 

コツコツ

 

 

神風(お手紙の内容、なんだろ……?)

 


神風(不器用な人だから、感謝のお手紙とか、かしら)

 

 

神風「……ん? 洗面所の下にあるゴミ箱に」

 


神風「私が、書いて一緒に包んで、おいた」

 

 

神風「お手、紙……?」

 

 

神風「う……」ウルッ

 



 

 

武蔵「……」

 


大和「……」

 

 

神風「……」

 

 

武蔵・大和・神風「( #^ω^)ビキビキ」

 

 

武蔵「おい、聞くのはあれだが、ここまで来たら神風が書いた手紙の内容とあいつがお前に書いた文の内容を教えてくれ」

 

 

神風「……私の手紙は、生涯で唯一の乙女モード前回の内容です。秘めたささやかな胸の想いと、日々、私のお話に付き合ってくれた感謝を、書き連ねた内容です」

 

 

神風「あいつの手紙は『最近、砲雷撃の成績が下がってるから、自分に喋りかける暇があれば訓練に励め。近い内に深海棲艦に殺されそうな相手と仲良くするだけ無駄ですし、疲れますから、今後はお控えください』という内容でした」

 

 

武蔵「……く、でもそれ多分あいつなりに考えがあってのことだが、残念ながら情状酌量の余地は認めねえ……」

 

 

大和「でも、あの、撤退作戦の時は、そんな青ちゃんさんの指示に従ったんですよね?」


 

神風「ええ、最初は支援艦隊が来るまで3人で深海棲艦を誘導して、固めたところに3人で応戦する、と。私達の連携は丁准将にも褒めていただけた部分ですから、そのほうが飛躍的に生存率はあがる、と進言しました」

 

 

武蔵「私はそん時、姫鬼混じりの25体頼まれたんだよな……神風達のところには行きたくても行けなかった。大和のこともあって精度がおろそかというふがいなさだ……」

 

 

神風「那珂さんは唯一、水上偵察機を積んでましたし、別の役割もありましたからね……」

 

 

神風「あの男は即座に私の提案を却下しました」

 

 

神風「私達にこういいました」

 

 

神風「『引き付けが上手く行かなかった場合、護衛対象の民間船に被害が確実に及びますから」」

 

 

神風「『神風さん、あなたは兵士である自覚が足りない。仲間や司令官と力を合わせれば、と幻想を抱いている。指示を無視したこの先の現実にあるのは生き地獄ですよ』 」

 

 

神風「『民間船への被害は出させません。安全航路に深海棲艦が表れた意味、今、軍規に反して自分の指示に従ってもらえない場合、言い訳もできない』」

 

 

神風「『平和が脅かされた時の国民のパッシングはあなた達を精神的に殺せるレベルですから、自分の指揮に従ったという言い訳は用意したほうが身のためですね』」

 

 

神風「『あなた達はもちろん、歴代の神風型、対深海棲艦海軍に留まらず、あなた達の親兄弟も』」

 

 

神風「『一生』」

 

 

神風「『家族共々後ろ指を差される覚悟がおありなら採用できますが』」

 

 

神風「『民間船がある以上、あなた達の決死の勇姿は彼等が覚え、必ず残ります。ならばこの失敗は上層部に、そして上層部は指揮執った自分を大和さんの件と合わせて尻尾切りでしょうかね。ま、あなた達は護衛は得意なはずです。安心して役割に殉じてください』」

 

 

神風「私達は泣き叫びながら、戦ったわ……」

 

 

武蔵「まあ、間違っちゃいねえんだが、なんかあいつがいうとな……」

 

 

大和「言い方ってありますよね……脅迫に聞こえます」

 

 

武蔵「ここにガングートのやついるんだろ? なんていってた?」

 

 

神風「なんだ悪いやつじゃなさそうだ、と」

 

 

武蔵「……そうか、あいつらしいな」

 

 

武蔵「撤退作戦の件に関しちゃあいつは悪くねえよ。そんなことわざわざいわせちまう兵士の心構えの問題もあるからな」

 

 

武蔵「……ただ、私も作戦に参加したから神風の気持ちはすっげえ分かる」

 

 

神風「あれに関してはあの人の指揮に文句はつけませんが、作戦は成功した代償になかば廃人と化していた妹達になにか一言くらいくれても」

 

 

神風「いいんじゃないかなあ……」

 

 

神風「( #^ω^)ビキビキ」

 

 

武蔵「今の闇の連中はまともなのも多いから、それを伝えれば、瑞鶴辺りがあいつをシメてくれると思うぞ」

 

 

神風「やるなら私が、やりたいんです」

 

 

武蔵「そっか……」

 

 

神風「私、あいつが鎮守府に提督として着任したと聞いた時、そして合同演習で武蔵さん達と戦った映像を見て、こいつはクズだったんだって理解したんです」

 

 

神風「北方に異同してからずっとあいつのところと演習を組んでくれと頼んでいたのですけど、司令官があそこと関わりたくない理由があって却下されていましたね……」

 

 

神風「天津風と島風、睦月型の皆さんも嫌だとキッパリ拒絶しましたし」

 

 

武蔵「あー、あの電に会っても複雑だよな」

 

 

大和「どういう意味です?」

 

 

武蔵「北方の提督は先々代の響やってたんだよ。今はそうだな、あいつと歳が同じじゃねえかな。姉妹艦効果って残るやつには解体しても色濃く残るから、思うことあって闇と演習したくなかったんじゃねえか?」

 

 

大和「ほえー、そうだったんですか……」

 


神風「とにかく、お分かり頂けましたら」

 

 

神風「私の前であいつの名前を二度と出さないでくださいね」ハイライトoff

 

 

大和「でも、もう1度お話してみるのをオススメしますよ。青ちゃんさん、本当に変わりましたから。もちろん良い方向に、です。神ちゃんのお慕い像に近くなってると思います♪」

 

 

武蔵「そこに関しては大和と同意見だ。なんなら今から電話して確かめてみるか。よほどのことがねえ限り、私と大和の電話は無視しねえはずだし」

 

 

神風「ならばハッキリさせましょう。私が聞いていることは隠してお繋ぎください。あいつ、私のことを覚えているかも怪しいですし、いると分かればそれで察して来そうですから」

 

 

大和「覚えていると思いますけど、なぜそう思うのです?」

 

 

神風「『必要がないから』」

 

 

大和「そ、そんなことありませんよ。仮にも提督です。慕ってくれていた艦娘のこと、忘れたりなんか……」

 


武蔵「繋げるぞ。会話は聞こえるようにするから、静かに頼む」



【5ワ●:武蔵「今、大和と丁のやつのところにいた時の話をしてたんだが……」】

 


提督《なんとか5秒で出ましたよ。暴力はやめてください》

 

 

武蔵《今、大和と昔話が弾んでんだ。丁のやつのところにいた時の話をしていたんだが》

 

 

提督《すみません、忙しいのでそういう話ならまた後で……折り返しかけますので》

 

 

武蔵《5分程度で済む。どうしても時間作れねえか?》

 


提督《分かりました。何のことです?》

 

 

武蔵《いや、大和と私の記憶で食い違うことがあってな。大和がお前と仲良くしていた駆逐艦いたっていってんだが、私の記憶にはなくてな。那珂と話していたのはたまに見たが》

 

 

提督《……、……》

 

 

提督《……………、……………》

 

 

神風「コタエロヤ( ゚Д゚)アアン!!」

 

 

大和「お、落ち着いてください」

 

 

提督《あー、ええ》

 

 

武蔵(……ふう、覚えてはいそうだな)

 

 

提督《神風》

 

 

武蔵《そうか!》

 

 

提督《型、なのはすぐに思い出せたんですけど。なので大和さんの記憶で合ってると思いますよ》


 

武蔵(▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわあああああああ!)

 

 

大和「武蔵、代わってください!」

 

 

大和《大和です! 神ちゃん、あ、いや、神風ちゃんですよね! 春風ちゃんでも旗風ちゃんでもなく、神風ちゃんですよね! 私、庭で青ちゃんさんが本の貸し借りしているのを見たことがあります!》

 

 

提督《あ、神風さんで間違いないです》

 

 


 


 

 



自分には最後まで理解不可能だった逆ハーレム系のオタク本を読んでた子ですね。毎回読むのが苦痛でしたが、あの子が自分の感想楽しみにしていたので、がんばって読んでました。

 

 

 

 

 

 

大和(▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわあああああああ!)

 


 

大和「青ちゃんさん!」

 

 

提督《はい》

 

 

大和「大和、これから闇までビンタしに参りますッ!」

 

 

提督《……》

 

 

武蔵《さすが闇の提督なだけあるな! ほじくり返せば信じられねえ仕打ちばっかしていやがる!》

 

 

提督《あまり精神攻撃は効かないようになりましたよ。自分には物理のほうが効果あります》

 

 

武蔵《珍しく馬鹿かテメエは! じゃあな、くたばれ!》

 

ツーツーツー

 

 

神風「で」ニコ

 

 

神風「あいつのなにが変わったのかしら?」

 

 

神風「というか、そうかあ、嫌々読んでたのかあ……悪いことしたかしら……」

 

 

神風「( #^ω^)ビキビキ」

 

 

武蔵「ああ、すまねえ……お前が正しい……」

 


神風「でも、あの人が変わったのは今ので分かりました。声の感じが優しく砕けた感じになっていましたから」

 

 

大和「む」

 

 

神風「それに今は風の噂で間宮さんとよい仲であるとも聞きました。あの間宮さんです。周りも見守っている感じと聞きましたし、皆がそうするのなら、きっと、とはって……」

 

 

武蔵「お、おう! 今のは偶然悪い感じになっちまっただけだ! そうだろ大和!?」

 

 

大和「え、ええ、そうですね! その通りです!」

 

 

悪い島風【おおっと! 手が滑って爆弾落としちゃった!】

 

 

武蔵「ん? 今、島風の声が空からしなかったか?」

 

 

大和「しましたが、どこにもいませんね。なにかの聞き間違いでは……」

 

ヒラヒラ


 

神風「なにか紙切れが落ちてきて……」パシッ

 

 

『陽炎と提督のヴェーゼ写真』

 

 

武蔵「!?」

 

 

武蔵「なんだこれ、知らねえ!」

 

 

大和「青ちゃんさんはノリでこんなことはしませんよね。本気とも思えませんし、事故かと……」

 

 

大和「私、フォローするのも疲れてきましたあ……」

 

 

神風「……、……」

 

 

神風「浮気ですか、穢らわしい……」

 

 

神風「さすが英雄様です……それに相変わらず駆逐(純粋)艦をたらしこむのがお上手なようで」

 

 

大和「神風ちゃんもお代わりのようで、随分と……」

 

 

神風「適性率15%ですから、神風ちゃんとかあの海で消えてしまってどこにもいないんですよ」ニコ

 

 

神風「まあ、あいつはそうですね」

 

 

神風「やっぱり◯らなきゃダメか」ハイライトoff

 

 

大和「神ちゃん、ちょっと落ち着きにお茶でもしましょう……」

 

 

 

神風「落ち着いております」

 

 

神風「……食堂までご案内しますね」

 

 

プルル

 

 

武蔵「あ、すまねえ。先にいっててくれ」

 

 

 

………………

 

………………

 

………………

 

 

武蔵《んだよ、なにかいい忘れたか?》

 

 

提督《もしかして、神さんが聞いてましたか?》

 

 

武蔵《察してたのかよ……》

 

 

提督《あなたがそんなことで自分に連絡かけてくるとは思えませんし、その話題なら神風型とか那珂さん、大淀さん辺りに聞くと思いましたし……心当たりもありましたからね》

 

 

武蔵《なんで融通利かせなかったんだ?》

 

 

提督《利かせたところで、それもまた騙すことには代わりありませんし、神さんのは勘違いではありませんからね。自分はそーいうやつです》

 

 

提督《あの頃の自分がどういうやつかは把握していたつもりです。あの子の感情も分析してみたところ、多感な頃の駆逐艦あるあるでしたから》

 

 

提督《まあ、戦争終結のためなら、あの子を死なせることに躊躇いなかったと思います。あの頃の自分のあの形で幸せになっていたと思いますか》

 

 

武蔵《なるほどな……確かにそうだ。徹底的にやったのはお前なりの考えか》

 

 

提督《気遣いでもありませんよ。神さんは丁准将とは上手く行ってなかったみたいなので、第2艦隊と関わり合った自分にその分の感情が向いたのだと。操舵をミスりました》

 

 

武蔵《ビンタ案件が4つはあるぞ。今増えたから5つだ》

 

 

提督《!?》

 

 

武蔵《だが、昔のお前の話だろ。今はどう考えてんだ》

 

 

提督《……、……》

 

 

武蔵《少なくとも真面目に悩めはするレベルなんだな。分かったよ、ビンタは結果が出るまで見送りにしてやろう》

 

 

提督《それはどうも……》

 

 

武蔵《暁達がへこんでんのも知ってるし、色々と大変なのは分かってるが、軍を去るなら神風のことも決着つけてからにしてくれ。ああ、この件に関しちゃ手を貸すぞ》

 

 

武蔵《あの作戦の戦後処理みてえなもんだしな》

 

 

提督《……ええ、了解です。お1つ聞きたいのですが、神さんは嘘や方便がかなり嫌いだったので思うのでボッコにされるの覚悟で正直に話したほうがいいですよね?》

 

 

武蔵《……そうだな》



提督《どうも。それでは》



武蔵《あー、待て。陽炎とのありゃなんだ?》

 

 

提督《めちゃ長くなるので今は事故とだけ。近々、大淀さんから連絡があると思いますので……》

 

 

武蔵《あいよ》



【6ワ●:ピエロットマンの世界へ 準備中】

 

 

由良・弥生「え"」

 

 

提督「由良さん弥生さんもう一度、向かいます」

 

 

提督「これ、丙少将がクリアしましたが、メモリーカードをもらえたそうです。恐らく、自分のところと乙中将、明石君提督代理のところも用意されています。これは鍵ですね」

 

 

由良「メモリーカードの中身というのは?」

 

 

提督「先日の会議で見せてもらいました。このパソコンにデータが入っています。では、再生します」

 

 

提督「可視の才がないと見えませんが、島風さんの正面に小さい子供がいます。顔とかは妖精さんで、弥生さんと同じくらいの背がある妖精。会議の結果」

 

 

提督「本来の戦後復興妖精の姿だと判断しました」

 


由良・弥生・暁「!」

 

 

由良「見せてもらっても……」

 

 

提督「構いませんが条件が2つあります」

 

 

提督「その1、他言無用です」

 

 

提督「その2、最初期の闇に関わる部分ですのでお覚悟を」

 

 

提督「気持ちのよい映像ではありません」

 

 

提督「天津風さん」

 

 

天津風「?」

 

 

提督「あなたの死体が映ります。大丈夫ですか」

 

 

天津風「普通に大丈夫じゃないわよ……でも、見るわ」

 

 

提督「島風さんも大丈夫ですか?」

 

 

島風「うん、覚悟は出来てるよ」

 

 

提督「了解。気分が悪くなれば止めますので」

 

 

提督「これは元帥に報告し、明るみにすべき偉大な功績であり」

 

 

提督「長い対深海棲艦海軍でも衝撃映像です……」

 


提督「艦の兵士個人としては、海の傷痕を沈めたぷらずまさんが歴史最大といわれていますが、この映像には」

 

 

提督「歴史最高の武勲が記録されています」


 

【7ワ●:想題(メモリーズ):1947】

 

 

与えられた役割は仕官妖精との約束のため、疲弊しきった世界の復興作業への陰ながらの協力だ。

 

人間を数字で見ていた。

 

意志のある機械として設定されたゆえか、感情の機微に疎くはなかった。この想の海であるロスト空間から、膨大な人の心のデータベースから人の心を計算し、可能性を消していく消去法、そして誰にでも当てはまるようなことをさも超能力があるかのように見せかける話術により、相手の心に触れて言葉を引き出し、更にそこから分析、理解する仕様だ。

 

 

しかし、パーパとマーマが忙しいゆえのオートシステム、ある程度の判断力のため、複雑な自我を持たせられた。


 

深海棲艦に奪われたとある孤島にて、初めての現海界。

 

 

砂浜の奥にある人工樹林の荒れようは深海棲艦との戦闘痕跡であり、その見るも無惨な樹林が積み重なり、テントのような形になっていた。その中に辺りの自然の残骸と同じように生命力が消え失せている女の子がいた。

 


あぐらをかいて座っている。その前には大きくて横に長いバッグ、隣には壊れた艤装が2つ置いてあった。艤装の損傷状態が激しいが、視界に収め、データベースから艤装名を導きだした。艤装名、島風及び天津風。


 

島風「妖精って、あなたみたいなのもいるんだね」

 


戦後復興妖精「はい」

 

 

戦後復興妖精「人間の願いを、叶える妖精です」

 

 

島風「そうなんだ」

 

 

戦後復興妖精「驚かないんですね」

 

 

島風「短い間に、信じられないことばかりあったから」


 

確かにそうだ。深海棲艦に、艤装、妖精、新たな戦争、短い間に人智を越えた奇々怪々の百鬼夜行と言わんばかりの意味不明が押し寄せている。今の最初期はパーパとマーマの狙いからは遠いのは明白だと断言できる。

 


戦後復興妖精「お力になりましょうか」


 

バランス設定がまだまだ悪い。これからパーパとマーマが最初気の兵士と提督というデバッガーを観察しながら、この『艦隊これくしょん』のアップデートを繰り返してバランスは改善されていくが、今の状況が続けば、最悪数年で深海棲艦に陸のほとんどが消し飛ばされる恐れがある。それは不味いといえる事態だったので、今回はその復興支援目的の現海界だった。

 

 

その点に関していえば、いいカモを見つけた。今の艤装適性者は貴重な兵力であり、この子と契約することで人類の抗う術を1つ維持できる。そしてこの最初期の兵士の願いはこの戦争に関わることだという可能性が高いと分析していたからだ。人類へ有利、延命に繋がれば人間は今を生きる力によって決死で次へと繋ぐだろう。今、人間に最も与えるべきモノは時間だった。

 

 

戦後復興妖精「近くにうようよいる深海棲艦を殲滅にすることも、助けが来ないことは分かるはずですし、なによ、」

 


島風「いいよ、もう」

 

 

島風「北方領土奪還作戦は失敗して、私はここで終わり」

 

 

投げやりな言葉だったが、不思議と巌とした決意を感じさせる。


 

島風「撤退命令は出ないから。特攻作戦だったんだ」

 

 

島風「出撃前に、豪華なご飯を食べさせてもらった」

 

 

島風「魚の煮物とお米と豆腐の入ったお味噌汁」

 

 

島風「その代償に」

 

 

島風「心臓を捧げろ、と命令された」

 

 

かの中枢棲姫にあてがわれた電と同じく、捨て艦戦法の被害者か。根性論と武士道を勘違いした非効率な指揮を強制されたようだ。立ち話、人間の上下、なにより状況を踏まえればあり得ないといいきれず、そして致し方ないとはいえる。

 


戦後復興妖精「1つ質問が」

 


戦後復興妖精「生きているのですから、帰ればいいじゃないですか。北方領土奪還作戦はまた後日にやり直すでしょう」

 

 

島風「そう、また出撃させられるんだ」

 

 

島風「勝ち目のない戦いに、何度も何度も」

 

 

島風「死ぬまでずっと繰り返すんだ」

 

 

死んでも繰り返すんだな、それが。

でも、素晴らしい。よく今の段階でこの戦争ゲームの設定をお分かりで。

 

 

島風「キスカのことを知ってる私があなたみたいなことをいうんだ。また来られるよって」

 

 

キスカ、キスカ、と。キスカ島の撤退作戦のことか。

この少女は戦時を経験しているとはいえ、いきなり連行され、戦え、と命令されている。加えてろくな訓練も受けていない女の子だ。このような深海棲艦に囲まれた孤立無縁のなか、このように壊れていないだけでも立派といえる。

 


島風「参加した人はみんな、殺されちゃった。でも、みんなお国のために最後の瞬間まで戦っていたんだ」

 

 

島風「私の友達、姉妹艦じゃないけど、すぐに仲良くなれたお友達もね。私だけ生きてるけど、私だけ命令を無視して帰ることは出来ない」


 

島風「あの戦争のこと、お友達が教えてくれたんだ」

 

 

島風「お父さんが生きて帰ってきた。戦争は負けたけど、そのお父さんのように、国のために命を捧げることを、恥だとは思わない。それがどんな命令であっても、ってさ」

 

 

島風「ここで作戦を成功させずに一人だけ尻尾を巻いて帰るのは」

 

 

島風「みんなの勇姿を汚す」


 

そういう考え方は時代ってやつか。

聞いて取れるのは震えた声音からは臆病、そして力のあるその瞳から見て取れるのは少女の勇気だった。

この子が兵士として守る多くの人間はこの子より価値があるのか判断はすぐに出来なかった。この子は期待値で言えば平均以上に未来に貢献できる素質を秘めているような気がした。

 

 

気がしたってらしくないな。

早速バグってきてるんじゃ。



といっても、その破壊された艤装では戦えない。

理解した。なぜこんな深海棲艦の近い海辺にいるのかと思えば、そんな理由か。相手に背中を向けるということを拒絶することこそが、この子の唯一の抵抗なのだ。この島風はここで殺されるのを待っているだけのようだ。



戦後復興妖精「そのバッグは」

 

 

島風「この奥の街の瓦礫から拾った」

 

 

島風「さっきまで」

 

 

島風がバッグの中身を開いた。

灰色の糸のようなものが引っ掛かり、半分くらいまでしか開かなかったが、中身はしっかりと確認できた。人間の断片だた。

 

 

島風「打ち上げられてた友達の死体を集めてた」

 

 

OK、必要な情報は大々抜き出した。

もうこいつに契約させることは容易かった。もう会話の必要性はないものの、人間のご機嫌とりの一貫で話に耳を傾けるとした。意外と契約を取ってくるのってめんどいな。


 

戦後復興妖精「その天津風とは建造させる前から仲がよかったんですか」

 

 

島風「知り合ったのは3週間前だよ」


 

白露型なら白露型と、陽炎型なら陽炎型と、という風に過程をある程度無視した感情作用なら設定されている。姉妹は仲良し。そんな誰かさんの理想に沿って設定された姉妹艦効果だが、島風と天津風には該当しない。この二人はどちらかというと似て非なる史実効果のほうだ。

 

 

知り合ったのはたった3週間。その間に受け入れられたくない現実ばかり見たのだろう。対深海棲艦海軍のため新たに設けられた新基準の徴兵制度、突然赤紙でも届けば訳のわからない適性があるという理由で、戦ったことのない少年兵として連行される。すぐに死を命令され、今ここ、だ。


 

島風「ケンカもたくさんしたけど」

 

 

そんなクソッタレな日々の中、同じ境遇の人間がいた。歳も近い。子供二人が仲良くなるにはあまりにも十分すぎる条件だ。たった3週間だ。子供は面白い。

 

 

島風「仲直りも早かったんだー」

 

 

島風が天津風を触る手は、まるで何十年も連れ添った相手に対してのようで、二人の馴れ初めから今までを詳しく聞かずとも、3週間とは思えない想の凝縮が見受けられた。


 

なるほど、感情か。確かにこれは使いようによっては便利だ。感受の仕方には気を配らなければならないが、人間の大事の尺度に見当をつけることで効率的に状況を整理することが出来る。


 

戦後復興妖精「確かに生きて帰ってもすぐにまた地獄のような戦場に駆り出されるかもですね」

 

 

戦後復興妖精「なら」

 

 

戦後復興妖精「そのお友達に、武勲を立てさせる気はないですか」

 

 

島風の表情に光が差したように見えた。

しょせん親離れもまだしていないガキに過ぎない。

こいつはここから逃げたくない。生きて帰っても恥さらしとして不名誉を得る。そして、またどうせこんな戦場に向かう羽目になると断定している。ならば、この作戦を成功させて生きて帰らせる。そしてその作戦の武勲は、この子の友達であるという天津風のモノになるよう仕向ける。これな垂涎モノの好条件のはずだった。

 

 

島風「そんなこと出来るの。お願いっ!」

 

 

返事早えな。

しょせんガキだな。そんなことが出来るのなら、深海棲艦全部滅ぼしてー、とか、この力を人類のためにー、とか面倒な問答が飛んでくるところだ。島風がこんな調子は追い風だ。トントン拍子に話は進む。

と思っていたが、予想外の言葉を投げられた。

 

 

島風「あなたはお友達いないの?」



戦後復興妖精「いませんが」

 

 

島風「悲しいね」

 

 

戦後復興妖精「友達がいたから、友達が死ぬのです。あなたのほうが悲しいと思いますが」

 

 

島風「んーん、それだけじゃないよ」


 

島風「妖精さんのなかでもなんか変だね。あなた以外はみんな大勢といること多いのに。こんなところで一人でいる妖精さんも、いるんだね」

 

 

島風「友達いると楽しいよ」

 

 

戦後復興妖精「それより、あなたの願いのほうですが」

 

 

複数の深海棲艦を探知した。直にここにある想力を探知して群がってくるだろう。この状態は消えることも出来るが、あくまで隠密状態であり、実体は消えてはいないので、このゲーム内の兵器ならばこの身は被弾する。今の深海棲艦の性質からして数打てば当たるといわんばかりの無茶苦茶な攻撃をしてくることは想像に容易かった。

そろそろ話を進めなければ。

 

 

島風「ペンと紙切れ?」

 

 

戦後復興妖精「そこに、願いの内容を書き込む欄があります。それと署名の欄のところにあなたの髪の毛をおひとつ乗せていただければ」

 

 

島風「ほえー……この誓約欄は? すでに書き込まれているみたいだけど」

 

 

戦後復興妖精「私にはあなたの願いを叶えるために、誓約が必要なんですよ。必ず守って頂けるなら願いを叶えます」

 

 

戦後復興妖精「誓約のほうですが『死なないこと』です。死んだらその時点で魔法の効果は切れてしまいます。この場合は天津風の戦果が、なにかしらの理由で撤回されます」

 

 

島風「……、……」

 

 

島風「騙されるのには慣れてる。出撃前にも、そんな風に素敵なことをいわれたんだ。この作戦を成功させれば、多くの人が助かるって。でも、成功させれば、の話」

 

 

島風「成功なんかしないって分かってた。実験と奇跡のために、みんなは死んでいった。私は近い内に死ぬよ。そうでなくても病気や、寿命もある。私が、死んだら、じゃダメだ」

 

 

分からない分からない。こいつはなにをいっているんだ。

少なくともあなたが生きていれば、この天津風の素体となった少女がもたらした功績を誇りとする人間達の顔は拝める。それでいいじゃないか。自分が死んだ後のことなんて、どうでもいいとすら思えないほどにどうでもよくなるんだから。天国からここを観賞できるとかそういうの信じているやつか?



戦後復興妖精「魂とか天国とか信じているのですか」

 

 

島風「魂は信じている。けど、天国は信じないことにした。私、深海棲艦っていう生き物をたくさん殺したもん。天国には行けないから、信じないことにしたんだ」

 


戦後復興妖精「都合がいいですね。人間らしいといえばそれまでですが。それではどんな誓約なら」

 

 

この時の私は新人営業マンだった。

接近している深海棲艦に焦りを覚えていた。

一刻も早く契約を取りたいがために、主導権を自ら譲渡するという愚行を犯していたのだ。商品を買ってもらいたいが、なかなか首を縦に振らせることができず、相手の値切りに合わせてしまう。感情というのは効率的でありながら非効率的でもある、と思い知らされた勉強代は高くつくことになる。

 

 

戦後復興妖精「もう深海棲艦が攻撃範囲に入っています。艦載機がもうこっちに飛んできています。なら、願いの内容は、そうですね」

 

 

島風「あ、やっぱりそれでいいよ!」

 


なんなんだ。

でも、好都合だ。

島風がペンを握った。

 

 

島風「あなたの友達になってあげる!」

 


嫌な予感がしてペンを奪い取ろうとしたが、速い。こいつ、書き込むの速すぎる。かろうじて読める程度の下手くそな字で、すでに願い事を書き込んでいた。書き終えると同じに髪の毛を置いた。ここで、無理やり冷製に思考を回した。誓約は死なない限り、だ。役割に支障を来すのならば、最悪、殺せば契約は白紙になる。それで終わりの話か。

 


戦後復興妖精「契約、履行シマス」

 

 

自動で契約(役割)が履行される。



戦後復興妖精「あ、ぎ……」

 

 

身体の異変にその場で倒れた。想で出来た体が焼けるように、熱い。こいつは、なにをした。

なんだ。目の前にいたはずの島風が天に召されてゆくように、淡い光となって消失していく。この感じは想力か。肉体が消失した、のではなく、願いの内容になり、物質がまるごと精神に変質したようだ。どんな願い事をした。大慌てで契約書の願いの記入欄に目を通した。

 


『私の魂を、この妖精さんの中に入れて! 妖精さんって死んだって話、聞いたことないし、私も妖精さんとしてこの子と同じく生きていたら死なないもんね!』


 

馬鹿か! もっとやりようがあるだろ。それこそ、お前が妖精になる、で済む話だ。思い立ったが吉日、そのことしか見えなくなってよく考えもしない未熟なガキの無鉄砲さ全開だ。

 

 

――――これでいつでもお喋りできるし、あなたも一人じゃないよ!

 

 

――――天津風ちゃんの勲章ももらえるようにしてくれるんだよね! あっりがとう!

 

 

――――私、あなたのこと好きになった!


 

戦後復興妖精「ふっざけンな島風(クソガキ)……! テメエみたいな気色悪い下等生物が私と同化とか……!」


 

戦後復興妖精《パーパ! ちょっと応答して!》

 

 

当局《なんだ? 今、輪廻システム周りで猫の手も借りたいほどだ。此方のやつは新しい艤装の構築に夢中で手伝ってもくれんのだ。まさかお前まで当局になにか押し付け》

 


戦後復興妖精《ごめん、しくじった。島風が願いで想になって、私の想と同化したから、すぐにメンテナンスして!》

 

 

当局《マーマと似てぽんこつか………性格は当局のほうに似たか。作っておいてなんだが、ベースの配分が不味かったかな。最悪なところだけ取ったようなやつだな》

 

 

当局《……、……》



当局《こちらから確かめてみたが、本来の役割に不備はない》

 

 

戦後復興妖精《今後に不備が起きるよ! こいつ馬鹿だから!》


 

当局《いや、そのままでいい》

 

 

戦後復興妖精《このクソオヤジ、なに抜かして……!》

 

 

当局《本来の役割に異常は発生していない。それに正確には同化ではないぞ。お前の身体に入っただけだ。書き込んだ願いが適当だからか、お前の防衛プログラムが作動する余地があったな。食べ物が消化されたら、排出されるのと同じく放置しておけば、そのうち消える》

 

 

戦後復興妖精《役割に支障は来さない?》

 

 

当局《断言する》

 

 

当局《ただ食べ物は栄養となって、お前の身体に取り込まれるだろうな。つまり島風の想を吸収したことで、お前の性格に変化は起きる。だが、性格なぞもともと適当だ。どんな性格でも持たせた役割に反抗は出来んようになっている》

 

 

戦後復興妖精《パーパは苦しむ我が子を助けてくれないの?》

 

 

当局《いやいや全く、当局を父と呼ぶお前も大概だな。当局に父親の役割が持てるわけがない。しかし、お前が父親と呼ぶなら子に与えるとしよう。あえて千尋の谷に突き落とす》

 

 

当局《友は、悪くないぞ》


 

当局《ケラケラ!》

 

 

戦後復興妖精《せめて選ばせろよ、このクソオヤジが!》


 

当局《選べばそこに損得思考が発生する。自分にとって都合がいいを基準で選べば、それは友という道具であるよ。始まりの話に過ぎんが、当局の理想とは違うな》

 

 

当局《リスクはあるが、恐れるな。なにかしらの縁で廻り合い、適当に、なんとなくの関係が続く。意識して友達作るとか、地獄の不便だ。友は気付けば友と呼べる存在になっているものだ。本当の友は、お互いを友達だと言葉で確認もしない》

 

 

当局《はずだ、と当局は染々思う》

 

 

当局《当局の初めての友もそんな感じだ。今や敵だがな》

 

 

戦後復興妖精「くそ、な、んだ、これ……!」

 


視界の景色が目まぐるしく変わる。ロスト空間に飛んだのか、と思いきや、先程の風景が想の波の間に間に移る。これは恐らく島風の想が見せている記憶の景色。

 


ボロ布みたいな服を着た少女が二人、死んだような顔だ。

建造が行われて、二人は初めて言葉を交わした。親と引き離されて徴兵されたこと、死ぬしかないことを悟りながらも、少女達は日々、強がって笑った。

 

 

天津風が笑う。天津風が苦笑いする。天津風とかけっこしている。天津風と一緒に毛布にくるまって、話をする。高い体温であったかい。友達友達友達友達、魚の煮物とご飯とお味噌汁。気持ちの悪い喜怒哀楽が濁流のように流れ込んでくる。その病原菌に対しての免疫力がつくかのように、慣れていく。島風の心がトレースされているのか、天津風の存在が大きくなっていく。好意と自覚できるほどに膨らんでいく。苦しくて破裂しそうだ。いい加減にしてくれ。

 

 

戦後復興妖精「つうか島風ちゃんよオ……お前の願いの内容に作戦成功させるどころか肝心の天津風の勲章のこと書いてねえし、なにしてんだよ! その場の勢いで大事なところ忘れてンじゃねえよ……」

 

 

――――ん、大事なことっていった? あなたにとっても大事なことなの?

 

 

戦後復興妖精「!」

 

 

――――ありがとう。口が悪いけどいい妖精さんなんだね。

 

 

――――でも、あなたの中、なんだか寂しい。

 

 

――――なにもない部屋みたいな感じ。

 

 

――――天津風ちゃんとの想い出飾っていい?

 

 

戦後復興妖精「必要ねえんだよこンのクソガキ…!」

 

 

一ヶ月も経過してないのに。

なぜここまで。

 

 

空に深海棲艦型の艦載機を視認した。

大した性能ではない艦爆だ。もろに食らっても、大破はしないはずだ。回避に移ろうとした瞬間に、地面に置いてあるバッグの中身が視界に入った。身体が硬直する。

 


艦爆が、弾けた。

 


戦後復興「っ……」

 

 

次の瞬間に、私は煙を凪ぎ払うように手を動かして、覆い被さったバッグの中身を確認する。なんとか天津風の死体は無事だった。とっさに、死んでいる友の亡骸を守った。

 

 

戦後復興妖精「ふざけんなよ……」

 

 

なんだよ。友達持つとこんな痛い想いをするのか。

涙がぽろぽろと溢れているのを自覚した。ふざけんなよ。

 

 

――――なんで、

 

 

――――天津風ちゃんがこんな目に遭わなきゃならない。


 

戦後復興「く、う……」

 

 

死体を取り出して、胸に抱いた。

喜怒哀楽が艦爆と同じく心で弾けた。



戦後復興妖精《パーパ》

 


当局《バランス調整のために許す》

 

 

本官と同じく魔改造の妖精の身だった。

そこにあった壊れた天津風艤装の修理に入る。資材などロスト空間から腐るほど産み出せる。建造妖精の役割を超性能でこなす。天津風艤装を、その場で修理した。

 

 

戦後復興妖精「これは怒りだ」

 

 

戦後復興妖精「この量産型、最初期の特攻深海棲艦め」

 

 

島風「建造はっやーいっ! その艤装で沈めまくってやれば天津風ちゃんの戦果になるかも。頭いいし、契約内容にないことまで! 本当にありがとう!」

 

 

戦後復興妖精「お前のためじゃねえ、あくまで天津風ちゃんのためだア!」

 

 

戦後復興妖精「いやいやなにいってんだ! 絶対に天津風の戦果にしてやらねえ! お前の思い通りにさせてたまるかってんだ!」

 

 

もう自分でも支離滅裂だと自覚できる言葉をひたすら叫んで、天津風艤装をまとい、海と向き合う。万全の連装砲君、そしてパーパから補給されている想力で、この辺りの深海棲艦を全てブチ殺してやるよ。天津風ちゃんの仇だ。

 

 

その激情は怒りだ。北方の冷えた海の水とは対照的に流れる瞳から流れる水は温かい。


 

戦後復興妖精「どうしてこんなことに……」

 

 

島風「ねえねえ、この力をさ、艦娘を助けになるなにか作れないのかな。艦娘は必要だってのは分かる。だけど、私達のように無為に死んでいくのはあまりにも悲しすぎるよ」

 

 

戦後復興妖精「まだ軍が気付いていないだけで、テメエらの身体なんか資材ありゃ直るんだよバ――――カ!」

 

 

その苛立ちを深海棲艦にぶつける。深海棲艦が砕けて飛び散る様は、舞う花びらのように美しく見える。天津風艤装、連装砲君と想力の装備で、沈めまくる。

 

 

戦後復興妖精「死ね死ね死ね!」

 

 

戦後復興妖精「テメエもそうだ島風!」

 

 

戦後復興妖精「気づけよ! 天津風が、わざと強いほうの敵を引き付けたってこと! 天津風ちゃんの決死でお前はここで生きていたんだ!」

 

 

戦後復興妖精「それなのに、死ぬのを待ってるとかいってんじゃねえよ! 天津風ちゃんをなんだと思ってンだ殺すぞ!」

 

 

島風「そっかあ……」

 

 

でも、いつかまた私は天津風と廻り合うだろう。そういう輪廻の戦争なのだ。いつかまた天津風の想を背負った誰かと出会う。そんなこと、私としては嫌だ。流されているだけだ。もしもこの連装砲君が、修復されて保管されたら、新たな天津風がやってきた時、その想を夢見で知ってしまうだろう。戦後復興妖精の存在がバレるのと同じだ。

 

 

苛立ちを深海棲艦にぶつける。天津風艤装、連装砲君と想力の装備で、視界に入る敵全てを沈めまくる。深海棲艦が砕けて飛び散る様は、舞う花びらのように美しく見える。


 

スカッとしない。八つ当たりのようだ。

天津風ちゃんは戻ってこないんだから。

でも、それでも、知った。今を生きる人間の強さを知った気がした。過去と未来に支えられている今が、こんなにもこの身体に強い力を巡らせる。まるで負ける気がしなかった。

 

 

戦後復興妖精「死なないことが、誓約だぞ……」

 

 

この輪廻の戦争のなかで、いつか必ずまた会える。

繋げ。生きろ。帰投するんだよ。

さすれば、いつか必ず、巡り合えるはずだ。


 

きっとこっち側で。



私の戦後復興は、ここから始まった。

旅のともは道連れ。

戦争が終わっても続いた延長戦。



人間にご奉仕するために産まれた私の物語の始まりだ。



【8ワ●:ちょこっと考察タイム】



提督「以上です」



提督「この後に悪い島風さんの言葉で『第二部に続く!』とのナレーションが入りますが、空気壊れるのでここで止めました」


 

雷「島風――――!」ダキッ



島風「おう"っ!」



龍驤「天津風も島風もなんか食べたいもんあるか? 煮物とかご飯とか味噌汁なんか毎日食べさせてあげるよ!」



天津風「あの二人は最終世代の私と島風じゃないわよ……」



瑞鶴「それでもなんかしてあげたくなるわ……」



阿武隈「ですね……」



間宮「今晩は本気を出します。提督さん」



提督「経費で落とすことを許可しましょう」



卯月「やったぴょん。お前ら今日はなにが食べたい?」



弥生「卯月、シャラップ、だ」


 

卯月「弥生が恐いぴょん……」



長月・菊月「……」ポロポロ



卯月「二人はめっちゃ泣いてるし……」



陽炎・不知火「……」ジーッ



天津風「な、なによ」



陽炎「同じ陽炎型の私と不知火に甘えてもいいのよ?」



不知火「今晩は島風さんも含めて四人で寝ますか」



島風「天津風ちゃんの体温高くてほんと温いですよ! 冬なんか引っ張りだこでしたから!」


 

天津風「寒くなってくると司令官は私を秘書官にするのよね……」



大淀「こほん、気持ちは分かりますが、准将」



提督「ええ、皆さん、考察タイムです」



ぷらずま「ダボども、島風さんと天津風さんのこともそうですが、もっと驚くべき点があったはずです」



ぷらずま「これ、衝撃的な情報の断片があったのです」



提督「そうですね、対深海棲艦海軍において、艦の兵士、個人では海の傷痕を沈めた電さんが最大の功績を誇っていますが、この映像には最高の功績が見受けられます」



雷「……最後の辺り、『ねえねえ、この力でさ、艦娘の助けになるなにかを作れないのかな。艦娘は必要だってのは分かる。だけど、私達のように無為に死んでいくのはあまりにも悲しすぎるよ』と」


 

響「そこと、『まだ軍が気付いていないだけで、テメエらの身体なんか資材ありゃ直るんだよバ――――カ!』だね」



提督「ですね」



提督「資料からして時期的にこの1年後から艦の兵士の生存率が大幅にあがりました」



提督「……この島風さんが戦後復興妖精に混じることで」



提督「高速修復材が生まれたのかと」



一同「!」



大淀「あの頃の軍はこの戦闘の調査を適当にしてましたからね。あれだけ天津風さんの艤装で暴れたのなら痕跡は残ります。天津風の功績が残ったはずなのに……」



提督「契約外のことですし、戦後復興妖精のあの反応を見るにそこは意地でノータッチを貫いたのだと思いますが……島風さんの死体が、天津風さんは艤装のほうが見つからない。悪い島風さんはその見つからない部分を持っていた。色々と辻褄は合います」



大淀「……その2つの自我が融合して落ち着いたのが、今の悪い島風さんだとすると、性格のほうも納得できますね」



阿武隈「艦隊これくしょんのゲーム、進めるべきです」



提督「ですね……では解散で」



提督(……、……)



大淀「……」



……………………


……………………


……………………



大淀「准将……なにかこの段階でお気づきになられたことがあればお話してください。陽炎さんと不知火さんと前世代陽炎さんとのいざこざで、疑似ロスト空間の研究部へ赴いたそうですね?」



大淀「……陽炎不知火さんの証言的にその構造は閉鎖的な最初期の研究部です。ならあの場にいたなかなら、悪い島風さんの想が映した空間だと思うのですが」



大淀「話すのは不味いというのなら構いませんが、事後のフォローにも限りはあります。一応、秘書の役目も担っているのでお話していただければ私の立場のほうからも意見がいえます」



提督「別に隠しているわけじゃないですよ。悪い島風さんに危険はないというのが自分の意見ですし。艦隊これくしょん、自分のところのメモリーを入手次第、前世代の陽炎ちゃんに協力してもらえるようお願いしまして」



提督「海域のデータ解析してもらいます。攻略が楽になりますからね。ということをまずお伝えしまして、本題です」



大淀「なぜ悪い島風さんが危険ではないという判断をしたのか、ですね? そこ、すごい気になります」



提督「大事起こすつもりならやり方があまりにも意味不明なことと、一応わるさめさんに疑似ロスト空間、悪い島風さんのことを調べるために送りましたが、どうも本当にこの艦隊これくしょんのゲームの運営のみしかしていないそうです」



大淀「断定材料なっしん、です。つまり、勘ってことですか……」



提督「まだ空想を繋ぎ合わせたちぐはぐですが」



提督「悪い連装砲君にはあの映像の天津風さんの想が詰め込まていると思っています。またはどこかに天津風さんの想が保管されいる。彼女は海の傷痕がいた頃の殉職者ですから、ロスト空間に行けてなおかつあの映像を見る限り、あの島風さんなら探し当てることは可能でしょうね。当局に頼めば余裕です」



大淀「……探知できないバグとはまた違いますからね」



提督「想さえあるのならば、二人はまた巡り合えるでしょう」



提督「最後の海で死亡したぷらずまさんを復活させたように」



大淀「つまり……人間としての現海界、ですか?」



提督「そこもまだ不透明ですが、そうだとしたら製作秘話ノートを見たがっていたのは、そのバグについての知識が欲しいから、でしょうかね……」



提督「フレデリカさんから教えてもらった禁断の知識ではありますが、想の同化というのはつまるところバグの精神影響を引き落とすトリガーです」



提督「艦娘艤装と、その想を深海妖精が反転建造にて、深海棲艦の資材にしますが、それとは違い、深海棲艦艤装に詰まっている想に艦娘の素体が犯されることによる精神への影響です」



提督「そして種類が多いほど妖精化していく」



提督「なので艦娘、深海棲艦ともに還るべき場所、ロスト空間への繋がりが強くなり、妖精能力としてアライズ&ロスト現象が生物機能として宿る。深海棲艦の壊-現象もこれと同じですね。深海棲艦のはシステムなので損傷具合に関係してギミック発動する設定ですが、それを艦娘で発生させようとすれば駆逐艦電(壊)、駆逐艦春雨(壊)となります。方法はご存知の通り、そのシステムを持つ深海棲艦を取り込み、壊現象をねじ込む違法建造(改造)です」



大淀「……、……」



大淀「ちょっと待ってください」



大淀「ですが悪い島風さんの場合は更に別ケースですよね。だって、もともと想の塊である妖精が、また別の想、島風さんの想と同化した。これは艦娘を資材にした反転建造によって産まれる深海棲艦とも、その深海棲艦の本体である艤装を取り込む違法建造ともケースが違いますから」



提督「ええ……そこがまだ未知の部分。製作秘話ノートですが、あれ大雑把なんですよ。此方さんの殺人衝動で殺されていた当局が忘れないように、適当に書き留めたものでして、内容は事細かというわけではありません」



大淀「私は中は見ていませんけど、普通のノートの厚さですしね……」



提督「とりあえず今から想の魔改造をしていた此方さんに繋ごうかと思っていたんです。一応、戦後復興妖精のようなトラブルから危害が及ばないよう大本営にいる此方さんの護衛に初霜さんをつけていますが、そろそろ交代させあげないとですし、連絡取ろうかと」



大淀「そうですね。繋いでみます」



……………………


……………………


……………………



此方《なんとか甲大将に時間をもらえたけど、なにをするにも内緒は難しいんだ。あいつならって、20分くらい見逃してもらえたけど甲大将と初霜ちゃんも聞くからね……》



提督《お疲れ様です。まだ時間はかかりますね……》



提督《要件は大淀さんから伝えた通りなのですが、助言を願えますか》



此方《想の魔改造とは違いますねー。例えば四角い塊があるとしましょう。それにタイヤとかエンジンつけて車にしようっていうことです。そこの技術をある意味でバグらせたのが》



此方《工作艦明石さんの魔改造です。あれはあれで重要度が低いだけでバグ並の驚きでしたから……》



提督《なるほどです……明石さんが最初に製作者の予想を越えてきたプレイヤーですか》



此方《まあ……想に、別の想が同化する》



此方《車の例えだと、その四角い金属にまた別の金属が混じる。強度は変わるし手触りも変わってきます。そんなイメージで間違いはないです》



提督《……む》



此方《では有機物で例えます》



此方《初霜ちゃんから聞いたんですけど、『1048号室』って映画が、そっちの鎮守府のシアターにありますよね?》



提督《ええ、一応、鎮守府に置くものは目を通して審査しますので自分も観たことありますよ。ホラーでしたが》



此方《……あ、ごめん! お偉いさんと対談の時間が早くなったみたい! その映画の主人公と悪魔を置き換えて見ればいいと思います!》



此方《あ、戦後復興妖精が実際にどうなっているかは私にも分かりません! 答えをいえなくて申し訳ありませんが、あくまで私の見解として参考にしてくださいね!》



提督《了解です。ありがとうございました》



甲大将《よう、久しぶりー》



提督《お久しぶりです》



甲大将《初霜、そっちに帰らせるぞ。金剛龍驤陽炎不知火の中から代わりを送ってくれないか》



甲大将《子犬が死んじまったんだろ。今は大分マシになったが、初霜、4日間くらい泣きっぱなしだったんだぞ。今もなんか泣きそうだし、そっちでケアしてやってくれねえかな……》



甲大将《私よりお前のほうが適任だろーし》



提督《ああ、あの子は放っておくといつまで落ち込んでいるか分かりませんしね……了解です。すぐに手配します》



……………………


……………………


……………………



大淀「その映画の内容はなんです?」



提督「悪魔のいるホテルの部屋に、オカルト作家が宿泊するお話です。その悪魔に襲われながらその部屋を抜け出そうとしててんやわんや。オチはその作家は部屋から抜け出だせたのですが、なぜか妻に作家と死んだはずの娘の声の録音を聞かせるんです。身体を悪魔に乗っ取られてしまった、と思われるオチです」



提督・大淀「……」



提督・大淀「……あれ?」



大淀「ちょっと待ってください! 悪い島風さんのケースに当てはめてみますと……戦後復興妖精の身体に、島風さんが入り込んだので、この場合、オカルト作家が戦後復興妖精、そして悪魔が島風さんとなりますから」



提督「このオチに照らし合わせますと」



提督「戦後復興妖精の想を島風さんが乗っ取ったってことになりますね……?」



大淀「あの悪い島風さんが、戦後復興妖精の演技をした島風さんって可能性も……! そうなら大事ですよ!」



大淀「最初期をリアルタイムで生きていた人間なんてもう世界には一人もいませんし、即人間国宝指定されるレベルの存在じゃないですか!」



提督「いや、此方さんがいますし。それにその仮説は怪しいです。映像で当局が『防衛プログラムが作動した』と『食べ物が栄養として取り込まれる』、『役割に不備は生じない』と発言していたので、乗っ取ったというのはどうなんでしょうね」



提督「まだただの可能性として頭の隅に置いておく程度でいいんじゃないですか」



提督「乙中将と明石君がもらったメモリーと、この闇が手に入れるメモリーは中身を確認しておかねばなりません」



提督「というわけで暁さんの様子を見てきます」



大淀「……わるさめさんはどうでした?」



提督「あー、自分が様子を見に行った時は」








ガングートのやつ、絶対にぶちのめしてやるからな――――!





提督「この通り、元気でしたから」




はわ、はわわ。



北方ですか。

神風さんも司令官さんを敵視しているというではないですか。

私の司令官さんに使い捨てにされることがどれだけ幸せなことか理解もできないあんな北国の保健所の犬どもが、この伝説の鎮守府に牙を剥いて吠えるとか片腹痛いのですが……?


まーた身体で覚えさせないと分からないお友達の登場なのです……?


神風さんなんかは司令官さんのお陰でせっかく拾った命なのに。5体満足のままではいたくないということなのです……?


ぷらずま違うぞ。あいつら自分達が闇より強いと思ってんだ。ガングートのやつはそういう上から目線だったからな!


丙乙甲元に勝って事実上最強の鎮守府になった(闇)よりも強いと思っていやがるんだよ――――!



なのです!? なのです!?



はわ、はわわわわあ……!



世界にはまだこんな面白い屈辱が残されていたのです!?



望み通りあの世まで輸送してやんよ――――!



北方の皆さんは病気なのです!

早急に昔のテレビみたいにブン殴って直して差し上げないと!



大淀「」



提督「ちょっと頭痛のお薬を」



大淀「本当にここは大変、ですね」



提督「慣れましたよ。あの二人が元気なようでなによりですし」



大淀(変わりましたねえ。今の准将と直接会ってお話してもらえれば神風さんも分かってくれると思うんだけどな……)



大淀「……」



大淀(元帥さんが作戦が崩壊するから闇とは関わらせんなっていって最終作戦時の北方を安全航路保守に回した理由も分かりますが……)



大淀(そのツケというかなんというか、ドンパチ展開ですよねこれ……そういえば元帥の采配のクレームも北方から来ていましたっけ)



大淀(板挟みにされたの私でしたし)



大淀(この鎮守府にいると心労で病みそう……)



大淀(初霜さんが秘書官なら、さすがにそういう悩みは吐けないでしょうし、一人でがんばっていたんでしょうか)



大淀「准将、お疲れ様です。よく1年もあの子達の提督やってくれました。本当に、お疲れ様でした……」



提督「いえいえ、自分がここに希望して着任したので……」



提督「……大淀さん、元帥はお時間取れませんか」



大淀「甲大将と元帥は無理です。半年間は確実に上層部の戦後処理で手が離せないでしょう。元帥さんがなにか?」



提督「すみません、前言撤回します」



提督「悪い島風さん、海の傷痕の時のように作戦会議をしましょう。もしも、本当に島風が戦後復興妖精を乗っ取り、疑似ロスト空間を管理しているとなると」



提督「人間がロスト空間を技術的かつ永続的に管理できるということ」



提督「此方さんと当局に託された『今を生きる人間の可能性』により、『第2の海の傷痕を誕生させないための手段』となり得ますので……」



大淀「了解しましたが、お耳に入れて意見を伺うだけですね。このような場合の対処は戦後復興妖精が現れた時から元帥さんから指示を受けていますので」



大淀「丙少将を対戦後復興妖精の総指揮に据えとけ。それだけいえばあいつらならなんとかやるだろーから、と。適当ですが」



提督「ありがたい。了解です。自分よりも立ち回りが上手そうです」



大淀「では丙少将に連絡を取りますね。ああ、細かいところは適当に決めてしまっても?」



提督「お願いします」






丙少将《大淀さん、話は理解したんだが、なんで俺だよ?》



丙少将《戦後復興妖精関連ってことはこの戦争の核の問題だろ? 一番深いところに関わってた准将が適任じゃねえのか?》



丙少将《ロスト空間と海の傷痕との深いところの話は俺はよく分からねえぞ?》



大淀《ええ、ですから私や准将が知り得る情報は全てお話します。その上で総指揮をお願いしたいのです。お任せしたい理由、まず表向きには戦争が終わったことになっています》



大淀《……が、悪い島風さんは予想以上に大事になりつつあり、丙乙甲の鎮守府にも通達が行きます。みなさん休暇中ですが、集合させて、艦隊これくしょんのゲームのクリアに当たります》



丙少将《いや確かに遠征とかで気を失う仕様……さっき出撃もしてみて、兵士は疑似ロスト空間に飛ばされたことも確認した。あれだな。漫画とかアニメであるダイブ型のゲームをやらされているみたいだと伊勢はいってたが》



大淀《リアルと比較してどうでした?》



丙少将《1艦隊6名編成固定だな。それ以上は編成できない。マップはただ機械的な部分があると思う。偵察機とかの索的値が足りないとボスマスが逸れたりするし、航空争いから砲撃戦、それから雷撃戦、夜戦の流れ》



丙少将《まあ、突き詰めると最後は運だな》



丙少将《……ただこれ、艦によるルート固定があるみたいなんだよ。それも複数必要の場合もあるっぽい》



大淀《了解。さて丙少将、こちらはこの戦後復興妖精の一件は穏便に行きたいのです。准将を総指揮に任せると不安な面もあるのは最終作戦でお分かりかと思いますし、ちょっと要らないところに飛び火もしそうなので。乙中将は全体見させると鈍りますし、というか鬼ごっこで街中に艦載機放つとか無茶苦茶やるのは准将寄りですし、元帥の人選は適当かと》



大淀《最も穏便、平和的、胃が痛くならない人選です》



丙少将《ちょっと待ってくれ。俺も適任とはいえねえ部分に答え欲しいから、あいつに変わってくれ》



提督《はい代わりました、青山です》



丙少将《電と春雨は俺の指揮に従いそうなのか?》



提督《ご心配なく。お任せください》



丙少将《なら問題ねえか……》



丙少将《じゃ》



丙少将《丙乙甲の全員、闇の鎮守府に泊まらせるな。大人数になるが、お前のとこなら部屋数的に相部屋にすれば余裕はあるくらいだろ?》



丙少将《ただ皆にもスケジュールあるから、そこの辺りは大淀とかに丸投げするわ。里帰りやらなんやら終われば一旦闇に戻ってくるよういっとけば大丈夫だろ。遠征とかは暇なやつに手伝ってもらうか、または俺らが自腹を切る、かだ》



提督《……自腹? どういう意味です?》



丙少将《後で攻略サイトに書こうと思ったんだが、この艦隊これくしょんのゲームは資材とか修復材のアイテムをリアルマネーで買えるんだ(震声》



提督「」





運営より、新たなお知らせでっす♪




大淀「准将! ゲームからお知らせが届いています」



丙少将《俺のにも届いた。内容は》



丙少将《暁の水平線到達時に生存していた全ての艦の実装準備完了だ》



丙少将《じゃ、北方の連中も呼ぶべきだな。空母、駆逐、戦艦、海外艦も試してみないとだからな。大淀から正式に通達送っといてもらえるよう伝えといてくれ》



提督「」



【9ワ●:殺陣の神風】



三日月「!?」



三日月「あ、あの! 大和さん武蔵さん! もしかして神風さんにあの人の話をしたのですか!?」



武蔵「お、おう。悪い。あの撤退作戦の話から……」



若葉「奇跡の撤退作戦か」



武蔵「なぜ奇跡をつけたかよく分かんねえ」



神風「三日月ちゃん、そこをおどきなさい」



神風「私の神風刀にゲテモノの血を吸わせますので」



三日月「だ、ダメです! 司令官から神風さんに刀は渡すな、と強くいわれています!」



大和「若葉ちゃん、この刀は?」



若葉「明石さん特製の刀だ。適性率15%の神風は軍に残ったものの、得意距離の砲撃すらままならない」



武蔵「つっても乙中将んところの」



神風「神通さんは一種の化物だから」



神風「リスペクトしてるわ」



若葉「……神風も普通に化物の類だと思うが」



武蔵「適性そんなに低くても強いのか?」



三日月「ええ。ここ、北方の第1艦隊旗艦はガングートさんですが、個人演習的に一番強いのは神風さんです」



三日月「あ、強さのタイプは龍驤さんと似てますね」



武蔵「なるほどな。タイマンだとメチャクチャ強えタイプか」



三日月「はい。艦隊戦でも強いですけど……」



若葉「適性がないゆえ、艤装をろくに扱えずとも少しでも艤装を扱えるのなら機能する剣の道を極めたんだ」



三日月「司令官とともに独自の戦闘法を研究しつつ、暴風雨の日も豪雪の日も血の滲むような修練を重ねていましたから……」



三日月「結局、あそこの鎮守府とは演習できないまま戦争終結してしまいましたけど」



悪い島風【おっす!】



一同「!?」



神風「し、島風……? あなた、闇にいるはずじゃ……」



悪い島風【いやー、私は……おう"っ! おうおうおう色黒眼鏡! 腕痛いから離してくださいよコラー!】



武蔵「オイ、テメー一体なに者だよ……?」



武蔵「今のはトランス現象だろーが……!?」



神風・三日月「は!?」



悪い島風【トランス現象、でもありますが、正確には現海界です!】



大和「あー、あなたが例の悪い島風さんですか」



武蔵「大和、知ってるのか……?」



大和「ええ、闇丙乙甲元の提督、此方さん大淀さんも把握しています。本官さんと同じく特別な役割を持って海の傷痕が製作した妖精です。役割は……」


  

大和「戦後復興みたいです」



武蔵「あいつが忙しいっつってたのはこいつ周りのことか……とんでもねえ大事じゃねえか」



悪い島風【そだね。私ー、闇の連中とは仲良くやれてましてー】



悪い島風【リアル連動型の艦隊これくしょんのゲームをパソコンとアンドロイド端末で運営してまして】



悪い島風【擬似ロスト空間なら艤装を貸し出せますので演習、出来ますよ?】



神風「よくわからないけど――――よしッ!」


 

悪い島風【……】



悪い島風【えー、丙乙甲はわるさめちゃんプレゼンツをクリアして海域への出撃、資材貯蓄、練度上げを始めました】


 

悪い島風【ちょちょっとアップデートしておいたので、北方のみなさんもご参加して頂けます!】



「やっほ」



武蔵「……なんだよ、提督さんいるじゃねえか」



大和「銃を持ってますけど……」



北方提督「少し射撃をしていたんだ」



大和「日本ですよねここ……」



三日月「司令官、ええと色々とお話しなきゃならないことが」



北方提督「大淀さんから通達きたよ」



北方提督「みんな荷物まとめてきて。お泊まりに行く」



北方提督「鎮守府(闇)だ。これ命令」



武蔵「……なんでまた」



悪い島風【あー、なるほど。そうきましたか。多分こういうことかと】



かくかくしかじか。



武蔵「お前なに作ってんだふざけてんのか(震声」



大和「し、しかし、あの鎮守府に行くだなんて」



神風「司令官のご命令とあらば、挟んでおいた本の栞を抜きます」



三日月「あ、刀が……!」



神風「神風型1番艦神風、抜刀です」



北方提督「神風はあそこの鎮守府を良く思っていなかったと思うんだけど、なんだか楽しそうだね」



神風「はい。大和さんや武蔵さん、それに青山司令補佐、またあの時の皆と同じ鎮守府で暮らせるだなんて夢のようです」



神風「楽しみだなあ……♪」ハイライトオフ




【10ワ●:戦後日常編:榛名 with 金剛&秋津洲&青葉】


1



戦争終結、皆さんがそれぞれ理由を持って参戦した艦隊これくしょんの戦争は全員生還という伝説の戦果を残して、再び街へと溶け込む日々の到来ですね。それぞれまた別の場所で、そしてまたそれぞれまだ見知らぬ人との素敵な出会いが待ち受けているのでしょう。


私はそうですね、特にやりたいことはありません。


ただ皆さんの幸せを願うばかりです。榛名はそれで大丈夫なんです、と実は戦争が終わる前から空想にふけっていました。

でもそういう訳にも行かなくなりました。戦いを終えて帰投した時に提督から「あなたがまた新たな道へ踏み出す日を心待ちにしております」といわれたからです。


金剛お姉様も比叡お姉様も霧島も、それぞれに個性があります。きっとそれぞれ、未来像というのを持っているはずです。榛名は姉妹の中では最も自己、欲が欠けているように思えて、その欲というのは個性から来るものではないのかな、と思います。例えば龍驤さんの我が強いのも、電さんがぷらずまさんになってしまったのも、提督が戦争終結に魂を捧げていたのも、各々の歴史を経て相成った個性で、それが勝利へと繋がったのですから。


実際、私は提督に心配されていたのでしょうね。ふとした拍子に電話で、いわれたんです。


「榛名さん、あなたは優しすぎる。雷さんのように自分が頼りにされるのが好きだからではなく、その優しさは他人本意ですね。あなたが頼まれごとをされた時、仕方ない。それでその人の助けになるから、といった印象を受けます。今は確信を持っています。あなたほど都合の良い女性はなかなかいません。仲間がいるとはいえ悪い人に騙されないか、少し心配です」


提督としてではなく、軍人としてでもなく、仲間としての言葉というよりは、子供の心配をする親といった風な感想です。


でも、思い返せば思い当たることはあります。小さな頃から、榛名は良い子だね、とよく褒められていましたから。よく良い子であろうと、していました。


でもすでに私という歴史は消せはしないのです。

筆の先は真っ白ではないですから。


でも好きな風に描くことはできますね。なにか私にも譲れないモノが見つかるといいなってそんな風に思います。そしてきっとそれが生きる力へと変わってゆくはずです。提督にアドバイスを求めてみたところ、旅でもしてきたらどうですか、と。


提督いわく「悩みの先には必ず、あなたらしさがあります。感覚というモノは、いい換えればその人の根源です。誰かの答えのコピべではなくあなたが考えたのならば、その解決法、そこに至る思考回路、その全てに榛名さんのらしさが滲みます」


「らしさ、ですか」


「あ、根源と書いて、らしさ、と読みます」


というわけで金剛お姉様と、偶然、はち合わせた秋津洲さん、それにツイッターで旅の模様を呟いてから、青葉さんが「重巡不足のため闇に召集されました。青葉も拾ってください」とのことでたくさんの旅の供を道連れに出発です。


とまあ、四人でなにをしたのかといえば秋津洲さんの想いを届けるための、支援艦隊として出動していました。


びっくりしたのですが、秋津洲さん。


好きな人との関係に白黒つけておこうとしたとか!


もちろん金剛お姉様がそれに手を貸さないわけがありません。戦争が終わってイギリスから帰ってきていたという男の子と秋津洲さんを見守りつつ、頭を悩ませました。だって彼は恋人がいるというのですからね。少しだけ、榛名は悩みました。そんな人に想いをぶつけても、いいのかなって。金剛お姉様は、構わないデース、と自信あり気にいいましたけど。


いつか榛名にもそんな日が来るのでしょうか、と思いました。提督も、金剛お姉様も、大好きですが、たった一人の特別な異性の最愛の人といわれると、しっくり来ません。


榛名は大丈夫……ではないですね。右も左もわかりません。


初めてため息をついた気がします。






サッカースタジアムにて、今日一番のゲームの始まりです。


といっても特別試合、選手は二人、観客は二人ですね。


「む、昔のことだけど、本当に何気ないことだったけど」


何気ない偶然が二人のどちらかの前にボールとして転がり落ちる。それが試合開始のホイッスルみたいですね。私の鎮守府で恋を知っている仲間の足元へその気持ちが転がったのは9年前のお話。


「まだ、あの、ええと」


「そういえば、あったなー。数学の時間に」


そのボールを少女は前に転がした。でも眼の前のディフェンダーはそのボールを真っすぐ真剣に見つめて、少女の前に敵として立ち塞がりました。少女は不器用でボールのさばき方が分からず、ただ真っすぐにボールを前に転がすだけでした。そうしている内に少しはコツがつかめたのかアクションが変化して、ディフェンダーを抜き去ろうとしますが、ボールを奪われてこけてしまいます。


「う、うん。あ、そこじゃなくて、その!」


そして再度、取り戻そうと躍起になる。


プロの選手のような技を究めたスマートなドリブルではありません。華麗なところなんてどこにも見当たらず、部活にがむしゃらな部員のような泥臭い真剣さがありました。思わず応援したくなるような、そんな情熱がひしひしと空気を伝って、この榛名の心まで確かに届いていました。

ただただ闇雲に無様な真似を繰り返しているだけ。もはや相手にされていなかったようにも見えます。ですが本人が諦めるまで続くサドンデスです。試合終了のホイッスルなんて鳴りません。


「その、そのお……」


ディフェンダーの足がもつれました。とうとう彼女は大きく足を振った。思い切りのある大胆なシュート、決めてしまってください、と心から応援した瞬間です。


「――――!」


時が止まる瞬間を肌で感じました。その全力のシュートの行方をきっとこの空間にある全てが制止し、その放ったシュートの行方に注目するかのような静寂、そして激しく高成る鼓動の音、そのままゴールネットを破って、空の彼方まで届いて!


「ごめん」


秋津洲「……答えてくれて、ありがとう。あなたが、私を海に連れていってくれたから……あの鎮守府のみんなに出会えたのは、あなたと出会えたお陰です、から」


そのままゴールネットを揺らさず、蹴り飛ばしたボールはキーパー真正面でした。ウィニングショットとはならず、がっちりと受け止められました。ここで彼女は諦めました。きっとゴールとはならずとも、思い切り蹴ったボールを真正面でしっかり受け止めてくれたことで、胸の想いとの決別となり得たのだと榛名は思いました。


少女はとうとう膝をついた。敗北しても、試合を終わらせたことに感極まっているのかもしれません。大逆転シュートを決めた選手のように、胸を逸らして、叫びました。


「か――――も――――!」


チームメイトの私と榛名は成し遂げた選手に駈け寄り、その勇姿を褒め讃えます。あの海を乗り越えた私達が一度くらいの挫折で、沈むわけがありません。支援艦隊として死力を尽くし、何度もパスを送って誘導しても、ゴールとならずでしたが、秋津洲さんに悔いはなく。


相手の心のゴールネットを揺らすというのは難しいモノなんですね。あ、秋津洲さんの恋のお話です!


「いいよ……なんかもうすっきりしたし……」


そういって笑う秋津洲さん。その晴れやかな笑顔を見て、試合には負けても勝負には勝った。そう榛名は思いました。


その日、私達は寄り道して帰ることにしました。

どこか綺麗な景色でも見に行こう、と青葉さんがおススメのスポットを紹介してくれたので、貸してもらっているワゴンは北へと進みます。そんな何気ない旅の終わりに、ちょうど鎮守府(闇)へと向かうお仲間を1名追加することとなりました。


そして、私達は大事件に巻き込まれたのです。



【11ワ●:榛名のバーニングラブワゴンの旅】


秋津洲「苺みるくさんと暁ちゃん達を見て、ちゃんと伝えないと後悔するって思ったかも……」


金剛「確かに、でも、ちゃんと間に合って看取ることができて良かったデース」金剛お姉様がほっとしたような悲しいような、複雑な表情をしています。


秋津洲「暁ちゃん達は6駆がついていたけど、元気そうだったかも」


秋津洲さんはストローをすすりました。


どうも聞いた話によると、暁ちゃんは一人で部屋を暗くしてあのピエロットマンのゲームを部屋に籠もってやっていたみたいですね、特訓、なのでしょう。苺みるくさんのあのがんばって生きている姿を見ていたら、榛名の胸にもこみ上げるものがありました。綺麗な感情が感染するかのように、満たされました。


暁ちゃんはきっと大丈夫です。あの子は丙甲連合軍、日々の地獄のような訓練、それに最後の海戦を乗り越え、そして今度もまた糧とし、強くなりました。小さな子とはいえ立派な人です。


そしてそれは秋津洲さんも同じです。最後の海、彼女はおろろろしませんでしたからね。


青葉「皆さん、青葉達は一時間もお邪魔していますし、そろそろ出ます?」


金剛「ですネ。ファミレスには久々に来ましたが、ついつい長居してしまいマース」


秋津洲「青森の果樹園でリンゴ狩りして鎮守府のみんなへのお土産に帰るかもー」


三日後には闇に帰ってきてーって提督から連絡がありました。


面白そうな展開といえばいいのか、大事になっていることを不安に思えばいいのか分かりませんが、色々な鎮守府の方が闇のところにお泊まりして例の悪い島風さんが始めた艦隊これくしょんのゲームのクリアに当たるみたいですね。かつてない大規模イベントでそれはそれで楽しみです。


お会計を済ませて、駐車場へ出ます。夜中とはいえ、大きな人工照明に辺りは隙間もないくらい照らし尽くされていますね。鎮守府や海とは違ってお月さまの明かりは豆電球みたいに小さ過ぎて、存在感がありません。だから、賑やかな街並み、人の喧騒のほうに、自然と目が行きました。


仕事帰りのサラリーマンが二人、片方が酔い潰れている男性の方を支えて歩いています。頭にネクタイ巻いていますね。ああいう漫画みたいな風景って現実にあるんですね。「榛名、行くヨー」と金剛お姉様の声をかけられました。


私はワゴンの後部座席に乗り込みました。各地を回って買い物ばかりしていたからか、広かった車内は少し狭くなってきています。


金剛お姉様が車を発進させます。公道を右折して北進です。バイパスを走ってインターの入り口を青葉さんがナビしています。


私はきらきらとした夜景のドライブを楽しんでいると、ふと、ジャージ姿の女の子のほうに目が行きました。運動服でランニングしているようですが、ジョギングにしては大きめのサイズなリュックを背負っているから、違和感です。それに髪を結っている黄色のリボンに記憶がひっかかり、その斜め前方の女の子を観察します。


青葉「あ、金剛さん、あそこの女の子の横につけてください! 青葉の知り合いです!」


金剛「マナーが悪いからノー。その少し前のコンビニに入ってあげるから待つデース!」


青葉さんもひっかかったようです。だとすると、榛名との共通の知り合いである可能性もありますね、


金剛お姉様が車をコンビニの広めな駐車場に入れてくれて、女の子が通るであろう道の前で通過を待つことにしてみます。ランニングにしては速度が早いですね。速度でいうと、五十メートル十秒は切るかもしれません。青葉さんが手を振って女の子を呼び止めました。


青葉「青葉ですう、奇遇ですね! どうしてこんなところに!?」


「ああ、青葉さんと、おろろろの……工作艦ですね」


秋津洲「水上機母艦かも! というかあたしのその呼び方、北方にも伝わっているの……?」


どうやら秋津洲さんにも覚えがあるようです。


「有名ですから。工作艦としてのほうが優秀な秋津洲。ああ、褒めているつもりです。どこに所属しているかまでは把握していませんが、確か、ええと、伊58と同じ鎮守府でしたっけ」


秋津洲「今は鎮守府(闇)かも!」


「……うわ、最悪。あ、こほん、いや、なんでもないです」


女の子はそういって笑いますが、私と目が合うと、げ、といった顔をします。「そちらは、金剛さんと榛名さんですか。昔、乙中将と演習した時に会ったのが最後でしたよね。お久しぶりです」


榛名「あ、榛名、分かりました!」


その髪型に顔の形、そして後ろで結っている大きな黄色のリボンと声音、様々な容姿の情報から、ようやく思い出すことができました。


榛名「北方の神風さんですね!」


2


この神風さんは人を寄せ付けないオーラがあります。前に会った時もこのようなオーラを出していましたが、榛名とおしゃべりした時は真面目で熱意のあったがんばりやさんの子だったと記憶しています。榛名の提督とも相性よさそうな印象ありました。なんだか、変わったように見えましたね。やさぐれた感じです。


青葉「ところで神風さん」青葉さんが首をかしげます。「召集のこと知っていますか?」


神風「はい。ですから今、向かっている途中ですが」


青葉「まさかとは思いますが、北方から中部地方のほうまで走って……?」


神風さんはきょとん、と首を傾げていいました。


神風「3日もあればつきますし、浄化解体で体力も少し落ちたのでトレーニングがてら走って向かうことにしたんですよ。あ、司令官からは許可をもらっているので大丈夫です」


金剛・榛名・秋津洲・青葉「」


青葉「見た目未成年なんで警察にしょっぴかれますよー……」


神風「ああ、追いかけ回されましたね。逃げ切りましたが」


金剛「神風、私達の車に一緒に乗って行ってくだサーイ!」


秋津洲「そのほうがいいよ。女の子一人で夜通し三日もだなんて危ないかも!」


神風「危ない……?」


青葉「物騒ではありますからね。事件に巻き込まれてからじゃ遅いですから」


自ら厄介事に首を突っ込む性質の青葉さんがいっても説得力はないですが、その通りです。神風さんは「へっ」と口元を歪めて、呆れたような顔をしています。よく分からないリアクションです。多少腕に覚えはありそうですが、浄化解体された今、私達に超人的な運動能力はないのに。


神風「でもそうですね、闇の人達に聞きたいこともありましたし、ありがたく好意に甘えさせてもらいます」


青葉「青葉、ちょっとコンビニで飲み物買ってきますね!」


秋津洲「あ、あたしもついていくかもー」


お二人がコンビニへと入っていって、金剛お姉様は車へと乗り込みました。神風さんを後部座席のほうへご案内しようとしたところ、「榛名さん、一つおたずねしますが」と声をかけられました。


神風「鎮守府(闇)の第一旗艦の阿武隈、それと対深海棲艦海軍の最高戦力の駆逐艦電(壊)は、榛名さんの目から見て最強だと思いますか」


なぜそんなことを聞くのかは分かりませんが、聞かれたので真面目に考えてみました。阿武隈さんはいうまでもなく、素晴らしい素質の持ち主です。最後の絶望、提督不在の時に執った持久戦を踏まえての進撃の判断は、提督から満点の判断です、と褒めていてもらっていたのを覚えていますし、あの時の阿武隈さんは確かにみんなの折れかけていた心を繋ぎとめ、勝利へと導いたのは事実です。もちろん実力のほうも相当で、鹿島さんから現存最高の素質の持ち主、と評価されているくらいです。


榛名「連携、判断力等々も含めての総合力では阿武隈さんは一番だと榛名は思います!」


神風「まあ、あいつが旗艦に選んだのなら『かなり使える』んでしょうね」


ちょっと棘がある言い方ですね。


神風「電さんのほうはどうです」


榛名「戦闘力では軍の最高戦力という肩書に相応しいです。その点に関しては春雨さんもそうですけど、提督いわく、最強は春雨さんで、最高を基準にすると電さんみたいですね。旗艦能力は阿武隈さん。私達の鎮守府で純粋な強さでランクをつけるのなら」


神風「……気になります」


榛名「電さん、春雨さん、阿武隈さん、龍驤さん、卯月さんは確定だと思います!」


由良さんも相当お強いですし、明石君や秋月さん、実力は第一線級の戦力ばかりです。みんなあの鎮守府で切磋琢磨して強くなりました。甲乙つけがたいですが、個人演習的なランクをつけるのなら電さんから卯月さんまではみな同意見で間違いない、と榛名は思います。


神風「あの武蔵さんから強いと太鼓判押されていた龍驤さんがベスト3に入ってもいませんか」


思えば神風さんが戦っているところを榛名はこの目で観たことがありませんでした。乙中将のところにいた時に北方の方々と演習しましたが、神風さんは出て来ていません。その理由に山城さんが怒っていましたね。『乙中将との演習は出ても得るモノがないから出たくない』といったみたいです。


榛名「でも電さんと春雨さんはトランスタイプですから私達とは強さが違って当然なのかもしれませんね。彼女達との演習は深海棲艦戦もリアルにシミュレーション出来て錬度や連携において効果的だったのも、私達が短期間で丙乙甲元と張り合えた理由ではあります」


神風「別にあいつらのあれはズルでもなんでもないわ。あのような力には薬物でドーピングした際の副作用のように代償があるはずです。あの強さはあの人達が地獄のような日々と引き換えに習得したもののはずですから、否定する気は毛頭ありません」


しみじみ、といった風にいいました。このような感想は新鮮です。みんなはチートっていうのに、それを正当な力だと言い切った人は初めてです。


神風「張りぼて、だとも思いますけどね」


神風さんは「へっ」と口元を歪めて、またやさぐれて見える笑みを浮かべました。そして、ぼそっと衝撃的な発言をもらいました。「私なら海の傷痕を単艦で沈められたはずなのに……」


榛名「え……?」


神風「すみません。失言でしたね。私も飲み物を買ってきます」




秋津洲さんは飲み物をじいっと見つめていて、その隣で青葉さんが店員さんとお話しています。どうやらこのパックの飲み物、青森の一部、それも特定の自販機でしか販売していないものだったみたいですが、最近になり人気が出てきて、コンビニで販売されるようになったとか。波の来ている商品のようです。青葉さんは本当に色々なことをお知りですね。話の幅が広くて、青葉さんのお陰で移動中も会話が弾みますし、素敵だなって榛名は思います。


入店音が鳴り響き、お客さんがやってきました。


そそくさとレジの前まで来ました。リスのお面をかぶっています。


「叫べば殺す。金を出せ」


静かに、しかし店内に響き渡る声でした。服の裾から、黒い銃口を覗かしています。


榛名、さすがに大丈夫ではありません。




私達はコンビニの奥の隅で、固まっています。怖いには怖いのですが、戦争の兵士だったためか、あのような砲塔よりも遥かに小さい銃を見ても、怯えたりはしませんでした。ただ街でこのような事件に巻き込まれたという恐怖に足がすくみます。びくびくと、秋津洲さんと肩を寄せ合って震えているだけで、叫んだり、逃げたり、そんなことは出来ませんでした。青葉さんは「うげ」と眉を潜めていて。「これ警察沙汰ですから青葉達のスケジュールも代わりますね」といいました。


神風さんは両手をあげていますが、少しもこわがっているようには見えません。さきほどから視線がちらちらとおにぎりのほうへと向かっています。まるで強盗をあしらいながら、どれを買おうか考えているようにも見えます。「野菜かなあ」といいました。


店員がレジからさっとお金を取り出しました。


その時、また入店音が鳴りました。


金剛お姉様かと思いきや違います。金剛お姉様、運転席で鼻から風船ふくらまして、寝ています。こんな時金剛お姉様なら、きっとかっこよく畳んでしまうはずです。秋津洲さんが、スマホで通報をしているようですが、指が震えているせいかタップがずれて上手く行かないようでした。


私は強盗さんの様子を伺います。


なぜ、こんな悲しいことをしてしまうのでしょう。


入ってきた人はそそくさとレジまで歩いて、強盗を突き飛ばしました。かっこいい、です。

その人は店員のほうに向き直りました。


「騒げば殺す。さっさと金を出せ」


あ、提督、今度はフルフェイスの人でした。


青葉「ふふっ、コントですかね?」


青葉さんが爆笑しました。

榛名はゆっくりと歩いて二人のほうに歩み寄ります。「止めておいたほうがいいですよ。馬鹿が拳銃持っているので性質が悪いです」神風さんに止められましたが、歩み寄ります。


え、怖い。なんで銃持っているんですか。

お前、今、金出せっていったのか。


強盗お二人の目と目が合う瞬間です。いや、顔は隠れていますけど。


もしかして、あなたも強盗ですか。

え、あんたもか。ど、どうするんだ消えろよお前オラ。

いや、協力して、山分け、とか。

6、4なら乗ってやってもいいぞ。













店員「す、すみません、レジに1万と7千円しかなくて2で割り切れなくて……!」












青葉「ふふ、青葉、お腹、痛いいぃ。2で割り切れますし、6:4分配ならその点はいいですよね、くふっ」



榛名はお二人にいいました。


榛名「こんなことしたら、悲しむ人がいるでしょう!」


と榛名はいいました。強盗さん二人は間を空けて、声をそろえていいました。「それが、いないんだ」と。それは申し訳ないことを聞いてしまいましたが、でも、こんなニュースを見て悲しむ人が生まれるかもしれません。犯行に至った動機は知りませんが、榛名の胸はちくちくと痛みます。


榛名「榛名! が! 悲しみます!」


「なんだお前、うざってえ」


拳銃の砲口が向きました。


神風「ねえ、逃げたほうがいいんじゃないかしら。サイレンの音、聞こえないの?」


唐突に榛名は腕をつかまれて、即答部に銃口が突きつけられました。「つ、ついてこい!」といわれたのでさすがに大人しく従います。銃口を押し当てられて、ようやく恐怖というものが芽生えました。このくろがねから漂う死の気配は、海を思い起こしましたから。


「お、お前も来い!」


なんというか考えが足りない人達だったのは、ちょっと前のやり取りを見ていれば分かります。刃物のほうの強盗さんは右ならえをしたように、神風さんを引っ張り寄せて、首筋に刃物を当てて、同じく人質にしました。


駐車場を出ると、腕をなにかロープのようなものでぐるぐるに縛られました。その後バンに押し込まれました。


「あ、僕も乗せて!」


扉が閉まるまでに、後部座席を開いて、神風さんとともに刃物のほうの強盗さんも乗り込んできました。銃のほうの強盗さんは「むちゃくちゃだ。お前のせいで」とだけいって車を発進させました。同じく人質となった神風さんは動揺している素振りは全くなく、無言で席に座ったままです。


神風「榛名さん、さすがですね。落ち着いている風に見えます」


演習での戦闘数値を測る補佐官のように、榛名を見定めているような気がしました。


これからどうなるか分からないのに、なぜそんな言葉をいえるのか、今思うと疑問ではありますね。きっとこの時の私は神風さんのことをよく知らなかったのだと思います。だって、予想できるわけないじゃないですか。『艦娘の生命力を利用して防具をつけずに至近距離から銃撃を回避する訓練を毎日していた』なんて今でも信じられませんし、半信半疑なほどです。


榛名が気付いたのは悪い島風さんから答えをもらってからでしたが、この時すでに世界はおかしかったのだと思います。


だって、サイドミラーに映っていたこの車のボディに『バーニングラブワゴン』というロゴがいつの間にか張り付いていましたから。


【12ワ●:榛名のバーニングラブワゴンの旅 視聴者サイド1】


金剛「ノ――――! 榛名あああああああああああああ! 一生の不覚デース!」青葉の胸倉をつかんで激しく揺らさずにはいられまセーン。「青葉、すぐさま榛名と神風を助けに行きマース!」


青葉「すみませんん! 青葉あまりのコントにその場でお腹抱えてうずくまってましたあああ!」


秋津洲「ど、どうすればいいの!? と、とりあえず警察には通報したけど、提督にも伝えたほうがいいよね! 今からかけてみるかも!」秋津洲がすぐに提督の携帯にかけようとして、異変に気が付きました。「つ、繋がらないよ!、どどど、どうしてか分からないかもおおおお!」


青葉「あ、青葉のスマホも繋がりません!」


少し深呼吸して、自分を落ちつけました。


なにか、妙な胸騒ぎがシマシタ。冷静に思考を回して辺りを観察すればすぐに異変に気がつきました。サイレンが、遠くなっていく。通報してコンビニ強盗を通報したのなら、もう警察が来てもいい頃でしたカラ。極めつけはコンビニの店内の様子デース。


強盗に襲われたはずの店内は、まるでそんなことなかったかのように通常の営業、店員は品棚の整理をしていましたからネ。そこに気付くと同時に、ボンネットの上にどんっとなにかが落ちてきました。そうですネ、悪い島風デース。ただ私が聞いたのとは様子が違いマシタ。


金剛「なんか世界が一瞬で差し替えられたかのような……?」


秋津洲「確かに、そんな感じがしたかも……」


青葉「いや、この感覚、青葉は覚えています。仕官妖精さんにロスト空間に連れて行かれた時と同じ違和感がありました。お二人は此方撃破作戦に准将が選定するくらい、想の流れに敏感な人ですよね。もしかして私達、疑似ロスト空間にいたりして……」


金剛「……私達が艦の兵士、そしてあり得ないような事態、そしてまだ疑似ロスト空間やらなにやらがあることを踏まえると、むしろそれ以外に考えられないくらいデスガ……」


秋津洲が紙飛行機を作って、窓から飛ばしたネ。


ふわふわと風が運びますが、十メートルほど進んだところで、落ちました。あの時とは違って飛んでいきませんネ。まあ、あの時と今の想の深度が違うから、という単純なオチもありましたが、それは違いマース。私が全力のラブで榛名を呼び寄せようとしても、繋げなかったデスカラ。


青葉「……お二人は准将の『深海妖精論』に目を通したことがありますか?」


秋津洲「あたし、そういう難しいのは全く知らないかも」


金剛「……同じく」


着任してから、戦争終結までやるべきこと、与えら得た役割が多過ぎました。そういったことは提督が考えて、作戦を伝えられて、目的を達成するために役割を全力で果たして、最後の海まで駆け抜けた日々でしたカラ。今なら研究部が狂喜乱舞したというあの論文を読んでおいてもいいかもしれまセン。


秋津洲「深海妖精について、だよね?」


青葉「いえ、深海妖精論の存在仮定からの世界説です。すごく面白いですよ。想力という名称ではありませんでしたが、そのような力が深海に存在しているとにらんでいたみたいです。准将のその論文は想力の存在とともに、ありとあらゆる解釈が出来て、いくつもの世界の真理が想像できていく、という理由で研究部から、宝の地図、といわれた論文です。まあ、想力ではなく、魂ですね。オカルトな上、魂をなにか運命論における超越的存在みたいに書いた病的な解釈で、突飛過ぎたために見向きもされなかったみたいです。この海の戦争のシステムから、世界を見たんですよ。ま、一言でいえば妄想ですね。今は違いますけど」


金剛「今の状況と、関係あるんです……ネ?」


青葉「はい。その深海妖精論からの学者説ですが、もともと私達は全ての可能性を持ち得た存在。今や想力ですが、魔力といえば分かりやすいですかね、ほら、なんでもできそうな気がしてくるでしょう。存在が発生する前をStage0、そして産まれ落ちた時がStage1、そしてStage2が死、です。Stage1からStage2はもともとの魔力が限定されている状態でありながら。まだ全ての可能性を秘めている状態です。私達はなんにでもなれる可能性を秘めているってことです。抜き取った一部だけですが、これはですね、私達の適性と深く関わりがあります」


金剛「……もしかして、はっつんの……?」


青葉「そう。海色の適性です。なんにでも適性が出る、これを言い換えればなに者にでもなることができる可能性、つまりStage0の状態です。人間にあてはめれば、赤子でも個性が出ますからあり得ないことなのですけれども、初霜さんの存在、そしてロスト空間の存在証明、および、想力の発見、ここらでこのような疑問が投じられたそうです」


秋津洲「パンクしそうかもー……」


青葉「『もともと私達は完全なる命であり、存在が世界に観測された時に願いごとを書きこめる真っ白な紙としての限定的な機能を得る』です。これは想力……女神妖精だと分かりやすいかもです。あれは私達の命を助けることしかできず、他の妖精と同じ真似はできませんね。純粋なまでの救いの願いの塊、これが真っ白に書きこんだ魔法の呪文です。その無数の魔法の海こそロスト空間です。だからあそこは私達のもともとのなんでもできる、を体現できる空間である、とのことです」


金剛「……む」


青葉「そしてそこで産まれた存在こそ海の傷痕です。当局は実に興味深いことを残して去りました。『海の傷痕は願いの器、人間と神の中間管理職である』と。准将は先代元帥の残した言葉からこの海の戦争から海の傷痕、トランス現象の真理を引きずり出しましたが、それは『神の影』を踏んだに過ぎず、海の傷痕を投影した陰の持ち主を観測することで、我々は我々が行っているゲームのルールを完全に知ることができる。世界の真理の究明に至るってロマンですよ!」


金剛「結局、なんでもできる想の力が今の異常の原因。最初と同じデース……」


青葉「今、初霜さんが大本営で此方さんの護衛に選ばれた理由は彼女がロスト空間にて、まだ解明されていない想の力を使いこなしたって理由なんですよ! 想力の観測はもう現実的ですから、後は真っ白の紙に、願いを書きこみ、エネルギーとして活用するその方法です!」


金剛「そういえば、悪い島風は紙切れに願いを書きこみマース。それは悪い島風が戦後復興妖精として海の傷痕から与えられた制限がかけられた能力だからカナ。戦後復興妖精の今までからしても自分で願いを叶えることは出来ませんから、今のこのパラレルワールドだか平行世界だか未来だか過去だかなんだかは特定できませんけど、この状況は……」


青葉「あ、そう。ですね。青葉もそうだと思います!」


金剛「誰かの願いによって引き起こされたモノ……?」


悪い島風は関わっていそうデース。

となると、契約したのは艦の兵士の誰か。それがなぜか榛名か神風か、で見当をつけたのは話を聞く限り、このコンビニで相当に面白い事件が起きたからですネ。提督とも繋がらないし、私の処理能力を越えていて頭が痛いネ。


だから秋津洲は正直、癒しデシタ。こんなことをいいました。


秋津洲「世界の真理が解き明かされるって面白くないかも。だって、分からないことがなくなっちゃうってことだよね」


悪い連装砲君【謎はナクならないと思ウわよ?】


ええ、連装砲君でしたネ。アライズ現象? ミニワゴンのボンネットの上に乗っかっていました。なぜか体の真正面にはディスプレイを抱えていました。あ、車のバッテリーがあがってしまったのはその悪い連装砲君が流した番組を見すぎてしまったせいデース……。


【13ワ●:榛名のバーニングラブワゴンの旅 参加者サイド1】


連れ去られ、押し込まれた先は森の中のコテージです。窓はありますが薄暗い部屋に放り込まれました。


秋津洲さんが警察に通報していたはずですが、けっこう遠くまで追いかけられもせずにここまで運ばれてしまいましたね。計画性がないというか、なんというか、私達は目隠しもされておらず、ここがどこであるかも道路の案内板を見ていたから分かりました。


強盗さんは二人で今後のことを話していました。


神風「さらわれるだなんてレアなシチュエーション、面白い訓練になるかと思いましたけど得るものはなさそうですね……」


といって、神風さんが立ち上がりました。なぜか両の手首を縛っていたロープが床に落ちていました。ゆっくりとでも、着実に犯人に歩み寄りました。犯人がぎょっとした顔になり、ナイフの切っ先を神風さんに向けました。


「止まってください。怖くないんですか?」


刺すぞ、という意思が確かに伝わってきます。もうやっちまったんだ。人を撃つことに躊躇いはないぞ、といわんばかりの投げやりな覚悟が、その表情から伝わってきます。


さすがに解体された今、艦娘のような身体能力はありません。金剛お姉様くらい体術に秀でていれば、いちるの望みも賭けられるのですが、大の男を相手に駆逐艦では危険過ぎます。「神風さんっ!」と私が制止の声をあげたのが失敗でした。大声に怯えた猫のように、男のそのナイフの爪が大きく振られます。


ぽたりと、深紅の液体が、床に零れました。


神風「ド素人の癖に横に振るうとかマジでないわ」


瞬間、刃物の強盗さんの身体がサイドボードまで吹き飛びました。柔術、でしょうか。しかし、顔一つ分も背が高くガッチリした体格の男性を女の子がああも吹き飛ばせることが出来るのでしょうか。そして神風さんのあの上ずった声音、恐怖というよりは喜びのあまり掠れているかのような印象を受けて、榛名の頭には色々とクエスチョンマークで満たされていました。


「ガキが、なめた真似しやがって」


続いて制裁の撃鉄音が轟きました。


これにはもう絶句です。次の瞬間に床に寝そべっていたのは銃を持った強盗のほうなんですから。しかも、神風さんの右手には拳銃が握られています。窓のほうに向けて引き金を引きます。何回も、です。弾が尽きたところで、拳銃を背負っているリュックの中に仕舞いました。


「なに者だよ……」


驚く私と違って、呆れかえっているような声でした。


神風「あなた達、本当に間抜けですね……私の髪色が黒でも茶でもないですし、変な頭している娘だなって思わなかったんですか。そこまで辿り着けば、今ホットなんだから対深海棲艦海軍の艦の兵士だって思い浮かびません?」


「銃を回避できるとか思わねえだろうが!」


はい、最もだと榛名は思います。


神風「……それも、そうですね」神風さんは腕を組んで、うーん、と唸りました。「これは単純な疑問なんですけど、なんでコンビニ強盗なんて頭足らない真似をするんです。あなた達が奪おうとしたの二日三日あれば余裕で稼げるような金額じゃないんですかね。というより銃のほうは妙、ですね。その拳銃はどこから入手したんです?」


「たまたま拾ったんだ。計画も練ったのに、他のやつと被るとかあり得ねえだろ……」


「嘘おっしゃい。計画を練ったという割には犯行の日がおかしいです。だって、月末ですよ。その日は給料日の人も多いですから、コンビニのレジに万札を抜き取って金庫に置いておくでしょう。夜中だと店員一人ですけど、普通、金庫の開け方なんて教えないでしょうし……」


「……ああ、そうだ。そういえばそうだ。俺が馬鹿だったよ」


神風「拳銃なんて用意するくらいだから多少は計画的な犯行かと思いましたが、たまたま拾ったと仮定しても、人を拘束する道具を事前に用意しているのっておかしいですよね……?」


「それは、偶然だ」


「そして店員が取り出した金を奪うのではなく、榛名さんを優先しましたよね。もしかして対深海棲艦海軍の人間をさらうことが目的だったのでは、と勘繰ったのですが……?」


強盗は沈黙して神風さんをにらんでいます。神風さんがどんな顔をしていたのか知りませんけど、強盗の表情はこわばり、ひきつりっていました。視線を流して、ぽつぽつと犯行動機を語り始めました。


「拳銃は作った。パーツ揃えてな。突発的なのは認める。軍の情報は全て頭に入っていた。ファミレスで艦の兵士を見かけたんだ。あの金剛とかいう奴、確か素手のケンカはめちゃくちゃ強いんだろ。お前らの成績、公開されているからな。どうせやることねえし、後を追った。車で寝ていたから今がチャンスだと思ったんだ」


金剛お姉様達とたむろしていたファミレスに、この人はいたらしいです。さらおう、と考えたのは近くの工事現場に拘束できる道具がそろっていたから、らしいですね。犯行に至った動機は、対深海棲艦海軍に恨みがあるから、だとか。この強盗さんは保険会社に勤めていたらしいのですが、軍のせいで、クビを切られてしまったようです。


「戦争を終わらせやがって」


強盗さんは、強い憎しみがこもった声でいいます。


「深海棲艦はもう立派な経済の一部、自然災害だったんだ。安全航路を通る際、運輸会社、資材の運輸だけじゃなくて旅行会社とかも、海に関わる会社はほとんど保険に入る」


金を奪おうとしたのは物のついでだよ。拳銃持ったら、そういうことやりたくなったんだよ、とどうでもよさそうにつけ加えました。


榛名には衝撃的でした。戦争終結させたことは、平和になることだ、と信じていました。だって深海棲艦は最初期から様々なモノを私達から奪ってゆく生命災害です。私達は英雄だと褒められて、行く先々に光があって、どこまでも行ける海を手に入れたのに、こんな風に恨まれるだなんて。多くの命を救いあげたつもりが、指の隙間からさらさらとこぼれていったものがあっただなんて。


「なんだよその顔はよ。悲しい。自分が傷ついたって顔しやがって……!」


神風「実物は初めてみたけど、榛名さん、ねえ。ぬっる……」神風さんは軽蔑したかのような眼差しを向けられました。「優しさも弁えなければ愚かです。あなたはあなたの役割を果たした。海の傷痕を倒し、戦争終結させた対深海棲艦海軍の歴史の報いをこの程度で疑問視しますか……?」


榛名「違います。自分達の行いの正義の問題ではなく、自分達の行いにより不幸を背負った人がいたら、悲しくなるのは当たり前です」榛名は強くいい返しました。「私達が忘れてしまえば、きっと海の傷痕の輪廻が起きます。優しくない想がきっと第二の海の傷痕を生んでしまうのですから」


「御立派。英雄様はさすが喰うに困らねえだけあって大層な思想(娯楽)をお持ちなようで。俺みてえな庶民以下のゴミは今日を喰い繋ぐだけで精一杯なんですわ」強盗さんはいいます。「なにがどうあれ忘れないでくださいよ。お前らのこと本気で死ねって思っているやつもいるってこと」


神風「ま、私にも分かるわ。組織から使い捨てにされたやり場のない気持ちはね」


「なんだ、公務員にもやっぱりそういうのあんのかよ」


そういった強盗さんの顔面が床に叩きつけられました。


「痛っ!」


神風「小物、私を同類視するんじゃないわ。毎日を死んだように生きているからたかがその程度のことで道を踏み外すんです。会社クビになった程度で強盗とか片腹痛いんですよ」


神風さんはいいます。


「3万です」


「はあ?」


神風「公務員の私の給金の額ですよ。差し引かれて、の額ですけどね。もちろん、月です」


「嘘つくんじゃねえよ!? 少な過ぎるだろ!?」


神風「嘘ではないんですよね……もちろんストライキ禁止です」


「おいあんた、さすがに嘘だよな!」


榛名「ええと、私達は色々と他の公務員とは制度が違います。神風さんのその御給金だと、確かえっと、出撃も遠征も哨戒もなにも働いていない十八歳未満の駆逐艦の……」


神風「出撃も遠征も哨戒もしていません。まあ、寝床はありますし、ご飯は出てきますので、暮らしてはいけます。北方の鎮守府なんて、過去の栄光は消え去り、今や使えない兵士は流れ着く北の果てのゴミ捨て場です。長くなるので説明はしないですが、あり得る数値だとは分かってもらえたら話を戻しましょう。別に人間一人くらいどうとでも生きていけますが、あなたがそこまで私達を恨むのは失ったその居場所でなにかやり遂げる大志があったからでしょうか?」


強盗さんはなにもいいません。


榛名「では、またやり直せばいいじゃないですか。きっと、なにか見つかります!」


「……うるせーな」


神風「これは私という人間の指揮を初めて執ってくれた人のお言葉ですが」


神風さんの声音が少しだけ柔らかくなりました。


神風「常に死を見据えて動き、己が理想の散り様に殉じるべし」


あれ、と榛名は思いました。その言葉、どこかで聞いたことがあります、榛名のその記憶を掘り起こすと、瑞鶴さんから聞いた言葉であることを思い出します。ただ瑞鶴さんが提督からスカウトをされた際に、口説き文句として使われた言葉の一部だった、と榛名は記憶しています。


「かっこいいじゃねえか。戦場で生死を賭ける軍人の言葉って感じがするな」


榛名「理想は、あなたにありますか」


「……そういえば」と強盗さんは懐かしむようにいった。「ガキの頃、社長になりてえって思っていいたな。そのくらいだわ。いつの間にか夢なんか忘れて勉強ばっかして大学入ってたくさん就活して一番、待遇の良かったところに入った。そんでそのまま今に至るって感じか……」


神風「会社起こせば社長じゃない。簡単ね。後はあなたの努力と運次第です」


「なあ、なんとかならねえかな。俺のやっちまったこと……」


なんだか、話せば分かる人のようです。


神風「気付くのが遅いんですよ。あなた達ほど間抜けな強盗を見ていると、なんだかあほな犬が悪戯したみたいな風にも思えて拉致されても犬に手を噛まれたくらいに思えなくもないんですけど、さすがに人間扱いしなきゃ失礼ですし」


榛名「榛名、は……」


さすがにあんなことをしでかしてしまった後では、もう警察から逃れることはできません。榛名としては誘拐されたことはなかったことにしてあげたいのですが、強盗のほうはどうにもなりませんし、罪には罰は必要です。


でも、と思いました。でも、この人はせっかく思い出した夢を自らの過ちで潰してしまっている状況です。それこそが、最も重い罰なのではないか、と。提督、榛名は甘いですか?


その私の内心を見透かしたかのように、彼女は現れました。


悪い島風【榛名さん、契約、します?】






「なんだテメエ、どっから現れやがった」


悪い島風【時間を1日だけ差し上げましょうか。その制限時間の間、この二人は警察に追われません。そして誓約を達成できれば、この強盗二人の罪は白紙、強盗についてはなかったことにして差し上げます。榛名さんの誓約内容は『この二人が心を入れ替えて同じ過ちを繰り返さないようにすること』です」


神風「はあ、想力については少し聞いていたけど、現在進行形で情報戦争が行われているだけあってとんでもないものですね……」神風さんはいいます。「そこまでする必要ないですよ」


少しだけ、悪い島風さんの様子が、おかしかったのを覚えています。


まるで深海棲艦が艦娘を見るかのように、じいっと神風さんの一挙一投足を観察するかのように見つめていました。なぜかは分かりません。忌々しそうに唇を歪めると、続けました。


悪い島風【どんな事情であれ、戦火の苦悩に巻き込まれた人を想いやる気持ちがないなら黙っとけ】


悪い島風さんのその声は島風さんの声ではなかったです。地を這うように低く、それでいてかすかに震えていて、刃のような鋭さがあり、得体の知れない暗い重みも感じました。呪詛を唱える時、きっと人はこんな声を出すのだろう、と思いました。


神風「……む」


悪い島風【こほん、榛名さん、悪いことしたから罰を受けなきゃだなんて正義を建前以外で声を大にするのは賢くありません。世の中、悪いことをしても罰を受けない人間はいるんですから。正しいと思うことは自分で決めてください。罪には罰を、しかしどんな悪の欠陥にも苦悩することができる優しさをあなたは持っているはずです。それこそ榛名の艤装の適性素質なんですから】


榛名「……はい! 榛名はそれで大丈夫です!」


少し悩みましたが、どんな間違いを起こした人間でもその心を入れ替えたのなら、幸せを思い描く権利はあるはずです。榛名がそう思えないことがあるとすれば、きっと誰かの命が失われてしまった時です。榛名だって殺した深海棲艦が仲間を沈めたのならそれは許せません。でも、今回は消せない過去であっても、やり直しが利くものだと判断しました。間違っているか正しいか、なんて榛名には分かりません。ただ信じたいことを信じる決断をしただけです。


やっぱり馬鹿なのでしょうか。金剛お姉様には、怒られてしまいました。


よく分からないけどあんた馬鹿じゃねえの、と強盗さんがいいました。そこだけは同意しますね、と神風さんが肩をすくめて、ため息をつきました。


「あの……」


いつの間にか、もう一人の強盗さんが身を起こしています。控えめに左手をあげています。


「夢、語っても」


神風「もうこの船が出る前に乗っていいと思う……」


「僕、ずっと、あなたのような素敵な彼女が欲しかったんです」


神風さんがもう一度、肩をすくめました。


神風「私を落とすのは簡単じゃないからね。がんばって惚れさせてみなさいな」












「えっと、あなたじゃなくて、榛名さんのほう……」












悪い島風さんと拳銃の強盗さんが大笑いします。


神風さんは顔を真っ赤にして、肩をぷるぷると震わせていました。




拳銃のほうの本名は吉岡さん、ヨッシーさん。刃物のほうの本名が山西さんでヤッシーさん。苗字を語った後に学生時代のあだ名を教えてくれたので、特に理由はありませんが、ニックネームのほうで呼ぶことにしました。


その後から悪い島風さんがサービスサービス、とちゃちゃっと社長になるための下地を整えてくれました。皆が半信半疑でしたが、悪い島風さんが起こした数々のあり得ない魔法を目撃してから、考えを改めたようです。もうこれは手品でもなんでもなく現実に魔法が存在している、と。


「それじゃここに出勤すればいいのか?」


悪い島風【そうですね。ビッグな出版会社ですよ。社員証はあなたが忘れたことになっております。営業課に顔を出せば、同僚が渡してくれるかと。同僚の名前とか上司の名前とかあなたは知らないでしょうけど、多過ぎて教えません。面倒臭いのであなたで上手く立ち回ってください】


神風「というか会社を起こすんじゃないんですか……」


「いや、こっちのが良い。でけえ会社から出世して社長に、とか夢があるだろ」


神風「……あー、確かに」


「僕がいた職場です、ね」


悪い島風【そうですねー。想力節約出来るので。こっちのヨッシーのほうの保健会社でも構いませんよ?】


「いえ、いいです。僕、保健会社は好きじゃない」


悪い島風【なんでです?】


「オヤジが死んだ腹いせに強盗を企てたんですよ。保険会社って口のいいこというけど、契約書を隅から隅まで読まないと落とし穴がある。特定の病気になったら、とか治療費をー、とかあるでしょう。僕のオヤジがその特定の病気になったから連絡したのに、これこれこうだからって保険料を払わずに粘り始めて、結局保険は降りなかった。そんな説明聞いてない。契約書にも隠すようにトリックみたいに書いてある。最悪な連中だったよ」


「当たり前だろ。収支をプラスにするんだからよ。パチ屋のイベントと一緒だ。あれだって結局、店側のほうが儲かるように出来ているだろ。客が儲かる客のためのイベントじゃなくて、カモを呼び込む店屋のためのイベントだよ」ヨッシーさんはいいました。「お前、親が死にそうだからって会社勤めの人間がそれは大変ですね、この身を削ってでも、お力になりますっていうと思ってンのか。俺は深海棲艦で損した人間を気遣う振りしながら、夜に飲む酒のこと考えていたっての」


神風「ほんとあなた達、性根が腐っていますね……」


「嬢ちゃん達も若えだろ。見知らぬ大人の言動を信じないほうがいいぜ。ギャンブルも止めとけ。酒はたしなめ、タバコは止めておけ、だが喫煙者への理解は持て」


神風「……む」神風さんが、少し考え込みました。「ギャンブルは嗜んでいるわ」


これには榛名も意外です。でも少し似合っている気がしますね。神風さんが着物の袖をめくって、さらしをちらつかせながら、「丁か半かっ」といっている姿は似合っていて絵になります。ですが、榛名の予想を裏切り、神風さんの言葉から出てきたのは現代チックなギャンブルでした。


神風「ソシャゲ」


「ガチャってやつか。あれもギャンブルだな。若えやつらが手え出せる仕組みだ。俺はよく知らねえけど、そっちの業界はあんまり良い噂を聞かねえな」


悪い島風【あー、私が艦これゲームの参考にしたやつですね。お給料雀の涙の神風さんにガチャにちなんだ教訓を教えて差し上げましょうか。かの有名なあの名曲、大事マンブラザーズの歌詞のサビ、ダメになりそうな時、大事なことといえばなんでしょうかっ!】


悪い島風さんがクエスチョンを問いかけます。


神風「負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、信じ抜くこと」


悪い島風【ガチャを引きそうな時それが一番ヤバいー♪】


神風「セイッ!」


【14ワ●:榛名のバーニングラブワゴンの旅 視聴者サイド2】


青葉「くふ、もう止め、ふふっ、青葉のお腹を虐めないで……!」青葉が背中を丸めて、小刻みに震え続けていマース。「神っ、風さん、さすが、適性率15パーセント、こんな面白キャラに変化していただなんて……!」


秋津洲「青葉ちゃん青葉ちゃん」


青葉「なんですか」


秋津洲「セイッ!」


青葉「んふふ、秋津洲さん、止めてください、ようっ、ふふ」


最悪の想定もして泣きそうなほど心配していたのが馬鹿みたいデース……。


この今の身体能力で殴り込みも考えましたが、この強盗達が間抜け過ぎること、そして神風が作り出す謎の空気でもはやバラエティ番組を視聴しているような気分になったネ。


しかし、この番組を見逃す訳には行きまセーン!


自分を拉致した強盗のために悪い島風と契約してしまう榛名のその優しさ、姉として心配でしたカラ。榛名は提督の知っての通り、とっても優しい子デース。中枢棲姫勢力との決戦時、レ級のために攻撃を制止して声を聞く時間を創るような優しい子な上、心を痛めてしまいますカラ。


いつか壊れてしまうんじゃないか、と心配デシタ。


なにか成長してくれるといいな、と私はもう番組の虜デース。


この私を番組開始十分で虜にする悪い島風のプロデュース能力、ただ者ではないということがテートクにも伝わると思いマス。え、そんな変な顔してどうしたんデース?


青葉「強盗に拉致られてこんな展開は正しく珍事件! 青葉、目が離せません!」


秋津洲「確かにこの4人の旅の終着点が気になるかも……」


悪い連装砲君【走り始メタ4人を乗せたラブワゴンが向かう先はゴシップ誌の出版会社、果タシテこの4人に待ち受ける結末トハ……榛名さんサイドが移動のため一旦、CМ】


私はこの隙にレモンティーとトッポを買ってきマース!


【15ワ●:榛名のバーニングラブワゴンの旅 参加者サイド2】



す、すごいです。私と神風さんは確かにいるのに、周りはいないように扱います。それどころか、身体が触れても、通り抜けて行きます。幽霊になったかのような気分です。


悪い島風【とーちゃっく!】


大きな門の向こうにあるのは整備が行きとどいたお庭です。そのガーデンのベンチにはオフィスレディさん達がお弁当を広げています。こつこつ、と人の行き交うその広場、綺麗なレンガの先にある回転扉をすり抜ける。大音量のスーツ姿の人達と、鳴らす革靴の合唱は新鮮でした。


悪い島風【あの二人は探知できるようにしておいたよ。五階にいるねー】


榛名「様子を見にに行きましょう!」


神風「声は聞こえるけど、地面に着く足、でもその足もすり抜ける……」


悪い島風【お前、丁の鎮守府にいた頃、深海妖精論、読んだんですよね?】


神風「そんなことも把握されるとか、不愉快な力ですね」


悪い島風【かまかけでーす。記憶なんか覗けないよ。ありとあらゆる情報を得ることは出来ても、繋いだ人間の記憶なんか覗けない。でも、なんとなく分かるんだ。ここらは技術がいりますね。それで、神風、お前は進路決めたの? 春風と旗風の二人と連絡取っていますよね?】


神風「そうですね、去年大学に進学したみたいです。私も誘われましたけど、まだ軍に残る理由があるので今はなにも返していないです。榛名さんは金剛さん達とキャンパスライフでも?」


榛名「榛名もまだ具体的なことは決めていません。この休暇中には、と思ってはいます」


悪い島風【この物語の結末、胸に刻んでおいたほうがいいよ】


神風「どういう意味です」


悪い島風【救いの兆しを示す神は信仰に値しても、願いを叶える神様はただの悪魔だってことだよ。戦後復興妖精として生きた一世紀以上の旅路、人の願いを叶え続けた先にあるのは人類絶滅の未来だよ。あなた達は波のように絶え間なく惨いことを神様に願い続けていますからね。その結果、産まれたのが海の傷痕という被害者であり、今度はまた想の力を奪い合っている始末です】


神風・榛名「……」


悪い島風【学習しねえ獣を助け続ける私の人生ほど空しいもんはないですよ……】


と、そんなことを話している内に五階のオフィスに到着です。


なんというか、汚い部屋ですね。各々の机が向かい合って給食時のような配置で並んでいます。一つだけ隔離されるようにポツンと机があります。少し小太りで白色の額縁をかけた男性がそこでパソコンを叩いています。どなたかが「編集長」と声をかけたので、どうも編集長のようです。


ヨッシーさんは部屋の左上の机の上のパソコンと向かい合っています。その隣のヤッシーさんが自分の机のパソコンを向けながら、なにやら説明をしています。どうやら雑誌に使う写真のレイアウトの仕方を教えているようです。ヨッシーさんは四苦八苦しながらページを作っています。


神風「こんにちは。ガンバっているじゃないですか」


「嬢ちゃんは軍学校では教えてもらわなかったのか。職場で出勤してきたら、おはようございます、なんだぞ」


神風「出勤しにきたわけじゃないですし」


「というか、まあいいや。この手の作業は苦手ではない。好きでもないけどな。契約書は創れるんだが、ヤシ坊、編集勤めはこんなデザイナーみたいなことしているのな」


榛名「どんな本なんです?」


「ああ、榛名さん、ゴシップ誌ですよ。フライデーとかセブンとか、有名ですよね」


神風「あんまり良いイメージないですね……」


「だよな」ヨッシーさんが頷きました。「人の秘密に付け込むようなジャンル。不味いこと取りあげて有名人を地獄に叩き落とすんだろ。他人の荒探しみてえなちゃちい真似、好きじゃねえわ」


神風「呆れた。コンビニ強盗はちゃちくないんですか……」


「ええっと」ヤッシーさんがいいます。「普段は善人ぶっているやつらの本性が露呈するっていうのは、悪いことを悪いと糾弾する正義の行いみたいに思えていました」


「女性誌だろ。なあ嬢ちゃん方もやっぱり他人の秘密、気になるのか?」


神風「別に。でも、興味のある相手のことは知りたいって思うのは自然なことじゃないですか」神風さんはしみじみといった風にいいました。「知らないほうがよかったこともあります。でも、有名人とかの秘密知っても身近な人とは違って厄介事に巻き込まれるとも思えませんし、安心安全で需要はあるんじゃないですか」


「なんで目が虚ろだよ。でも、ゴシップ誌とか大抵、有名人とかだから他人だろ。どういう層が読むんだろうな。昼下がりで人の家庭の噂ばっかしているような団地の奥さんとかかね」ヨッシーさんは椅子のせもたれに深くもたれかかって、白い天井を眺めました。「ヤッシー任せた。俺はネタ考える」


そういって目を閉じましたが、数秒の後、ぱちりと目を開いて、指パッチンしました。なにか面白いオモチャを見つけた子供のような目で、こちらを見つめて来ます。その後に席を立って、白ぶち眼鏡の編集長の机のほうに向かってかろやかなステップを踏みながら、歩いていきます。


「編集長、企画案はまだですが、すごい面白いネタを見つけました!」


「ずいぶんと元気そうだな。聞いてやるからいってみ」


ヨッシーさんはとっておきのアイデアといわんばかりにどや顔をしていいます。


「対深海棲艦海軍のゴシップネタです」


ここでオフィスに来てから無言だった悪い島風さんが反応しました。「これだから世界は面白い」となにやらずいぶんと嬉しそうです、まさかヨッシーさんは神風さんや榛名さんからなにか情報を抜き取って、記事にする気なのでしょうか。でも、榛名に大した秘密はありません。強いていうなら、提督に感謝の気持ちを込めた恩返しを個人的にしたいとこっそり思っていることです。まだ金剛お姉様にも教えてはいません。提督の驚く顔を見たいのでドッキリ的にしたいのですが、お二人の力になれるのなら榛名は記事にされても、はい、大丈夫です!


「今、性別関係なく興味の的ですよ。軍人なんかは芸能人と違って脇が甘いです。機密関連はしっかりしていますが、それも一部だけの話で艦の兵士、世間知らずのガキが多いです。その上、艦の兵士っていうのは可愛い子も多いでしょ。提督のほうも人気沸騰中ですよね。幅広い読者の獲得のきっかけになりますし、取材に行ってきていいですか?」


「俺も考えたがダメなんだわ。取材完全に拒否られている。艦の兵士は未成年だし、世間の評価は正しく英雄だ。今の時期に下手に突いたら割を喰うのは俺達のほうなんだ。それに今の対深海棲艦海軍は触れたらどうなるか分からない機雷みたいな秘密があるのは知っているだろ?」


「俺、艦の兵士とコネがあります。とりあえずつかんできたネタで判断するというのはどうでしょうか。もしかしたら」ヨッシーさんはいいます。「普段と違うネタが取れるかも」


「というと?」


「提督と艦の娘どもは指揮を執る司令官とそれに命を預けるガキでしょ。誰かの評価を滑落させるようなネタではなく、大人と子供、駆逐艦辺りなんざ世間から同情に値する経歴の持ち主が多いです。上手くすれば心温まるエピソードが引き出せる。これ方面なら、軍の機密を裂けてかつ軍人連中の評価もあがります。普段と趣が違っていいのでは? 俺が読者ならここの雑誌、他のゴシップ誌とは違ってこういうこともやるんだって、売店でうちの雑誌を手に取るきっかけになります」


「ほう、なかなか良い着眼点だ。旬なネタだし、ホットエピソードならウィンウィンまで持っていけるか。ヤッシーと取材に行ってこい。ネタ次第では一考の余地あり、だ」


「了解です。絶対に他社と被らずに出し抜く新鮮なネタ、持ってきますよ」


踵を返すと、ガッツポーズしました。その話を聞いていた周りの同僚さん達にも良いアイデアだと評価されたのか、ハイタッチを交わしながら、まるで凱旋のようなパレードを経て、机へと戻ってきます。なんだかユニークで楽しい職場ですね!


神風「駆逐の事情には手を出さないほうがいいと思うけど、結局、人の暗い過去を掘り起こして世間のオモチャにするってことじゃないですか。それに駆逐に手を出すのはおススメしないですよ。今の元帥、孫を駆逐に重ねていますから鬼のように怒ると思います」


「理解した。そこを上手くやるのが仕事だろ」


「神風、さんですよね。あなたもやっぱり軍に来た理由は暗いモノが?」


神風「ありふれた事情でつまらないです。それよりも」


神風さんはへっ、とやさぐれたにやつきを口元に貼り付けます。


神風「准将だろ。あの男をネタに取りあげて地獄に落とせ。それなら私は協力してあげてもいいわ。私が地獄に堕ちるとしても、あの男を道連れに出来たのなら本望よ」


「目がマジ過ぎて怖えんだけど……だけど、アリだな。あそこの鎮守府、信じられないような噂が多いし、ちょっとつつけば面白いネタが出てきそうだ」ヨッシーさんの獲物を前に舌舐めずりするような顔で、榛名のほうを見ます。「お嬢ちゃん、あそこの鎮守府所属の金剛型だろ?」


榛名「そうですけど……」


「俺らのこと、助けてくれるんだよな」


神風「いわんこっちゃない……」


確かにあの鎮守府は海の『艦隊これくしょん』の核の部分に最も触れた鎮守府なのでしょう。ロスト空間、深海妖精、中枢棲姫勢力、仕官妖精、想力、海の傷痕について、榛名も情報を持ってはいます。しかし、機密に該当する部分があり、提督からも口止めされていることが数多くあります。だから榛名の鎮守府において取材は徹底的に拒絶状態であり、情報を包み隠さず語ったのは国家機関の事情聴取のみです。榛名はまだ軍人であり、そう軽々としゃべるわけには行きません。


榛名「榛名の独断で申し上げられることはなにもありません」


悪い島風【下手くそだねえ。その言い方じゃ水面に破紋立てるのに等しいですよ】


「ハッキリしたぜ。あの鎮守府には面白いネタがありそうだ。取材に出向く価値はある」ヨッシーさんは席を立ちます。「駆逐艦を騙すのは少し良心の呵責があるし、なにより甲大将とか元帥さんに目をつけられたら面倒臭え。今の准将、確か二十代のガキだろ?」


榛名「ガキじゃありません! 榛名の提督はかっこいい大人の男性です!」


「かっこいいっつうと丙の将じゃねえの。世間様にもあの鎮守府は好評価だぜ。乙の将はちっこいよな。見たことあるけど、なんか生意気なガキって感じだったわ。准将は最近、丁の席についたやつだろ。あの席のやつは大体が理屈っぽいからな、一番どうこうしやすい気がするぜ」


神風「違います。丁の席は人の形をしたゴミが座る席です」神風さんはいいます。「人の心が分からないやつらですし、代々非業の死を遂げる呪いの席だって軍ではいわれていますから」


榛名「それは違います。誰よりも戦争終結に魂を燃やす提督が頂戴する称号席です。榛名の提督は尊敬に値する立派な人ですから」


神風・悪い島風「【……】」


確かに先々代も先代も深海棲艦によって命を奪われています。先代の丁准将はあの最後の海で指揮に参加したと榛名は聞いています。電さんの死亡撃沈が確認された後、特攻命が下されました。その一番槍をあげた甲大将の艦隊の撤退時間を稼ぐため、拠点軍艦で特攻を仕掛けて軍艦とともに戦没したと聞いています。提督も、先代の丁准将も、この海で魂を燃やし尽くした立派な軍人ではあるんです。先代は瑞穂さんの件で確かに複雑ではあるのですが。


「いずれにしろ、システム的に損得考えてくれる機械人間なら最高の取引相手だぜ」


「逆に情がなくて容赦ない怖いタイプかと……」


「いずれにしろ、会ってみなくちゃ始まらねえよ」


ヤッシー行くぞオイ、と上着を手にかけて意気揚々と、オフィスを出て行きます。


アポなしでは門前払いされると思いますが、榛名は心を鬼にして二人を見守ることにしました。少しだけ楽しみがありました。それは榛名のいない場所で提督がどんな挙動をするのか、気になります。新たな提督の一面を見ることができそうな気がして、榛名の胸は弾んでいました。


「あ、そういえば携帯がねえわ」


悪い島風【お任せあれ。そのくらいちゃちゃっと用意してあげますよー。名刺もね】


ヨッシーさんは礼をいってから、こんなことをいいました。


「お嬢さん方、もう一個覚えとけ。こういう謎に親切なやつが一番厄介なんだよ」






久しぶり、という程でもありませんが、鎮守府(闇)に到着です。


駆逐艦の門限の夜6時になるまで大きな門前は開きっぱなしです。そこから秘書の方がみんなの帰宅の確認に館内を回って点呼を取ります。外出届けのない、または連絡のないメンバーが帰ってきたら、駆逐軽巡は鹿島さんから、それ以外は提督からお叱りを受けてしまいます。本当は外出においてはもっと厳しいルールだったのですが、一部から「うざい」といわれ、このルールに落ち着いたそうです。


今はまだお昼すぎで門は開いてはいますが、見慣れない運送業者さんのトラックがいくつか鎮守府内に停まっていました。業者さんがなにやら荷物を運び入れていますね。


そして花壇の前には、鎮守府のみなさんがいます。みんな運動服ですね。今いるメンバーで、作業の組分けをしているようです。


提督「数日中に過去最大のお客人がこの鎮守府にお越しになります。部屋の割り振りは皆さんが到着してから決めたいとのことで保留ですが、食堂、お風呂、そして普段使っていない館の清掃、色々と改装が必要でして、女性陣は清掃、小物等々をお運びいただき、自分と明石君は大きい荷物を」


明石君「兄さんちょっと待ってくれよ。どう考えても明石の姉さんと肉弾専門空母は俺ら側だろ」


瑞鶴「誰が肉弾専門空母よ! 解体されてもう普通の女の子なんだけど!」


明石さん「全くです。かよわい明石さん捕まえて力仕事やれ、だなんて信じられませんよ」


明石君「うおい! あんたら解体されてなお握力60を誇るパワーファイターだろうが!」


秋月「アッシーの馬鹿! そんなんだから後で怖い目を見る羽目になるんですよ!」


ギャーギャーワーワー、と今日も榛名の鎮守府は賑やかです。


明石君は良い子なんですけども、少し思ったことをそのまま言葉に出してしまうのが傷ですね。その度に秋月ちゃんや明石さんにたしなめられているのを見かけますが、これがなかなか治らない悪癖のようです。といっても、鹿島さん、翔鶴さん、私とおしゃべりする時は変な風にどもってしまいます。ちょっといまいちよく分からないところもありますね。


全員が散らばったところで、ヨッシーさんが門の前に立ちます。ヨッシーさんに気付いた長月さんがとことこと歩いて来ます。前まで来ると、にこっと笑顔を浮かべて、こほん、と咳払い。


長月「こんにちわ。私、ここの所属の長月と申します。なにか御用でしょうか?」


いつも知らない人を見ると警戒して威嚇するような顔をしていた長月さんが、ご丁寧にお客人を出迎えています。榛名、長月さんの成長に感動のあまり抱き締めてしまいましたが、するり、と腕がすり抜けてしまいます。そういえ今は幽霊さんみたいな状態にされていました。


「長月、さんですか。こんにちわ。私、こういうものですが、提督さんに用事がありまして」


ヨッシーさんは見たことのない気さくな笑顔を浮かべて、名刺を長月さんに差し出しました。長月さんは右手をあごに添えて少し考えるような素振りをしました。その後、背筋をピンと伸ばしました。左手で名刺の左をつかみ、次に右手で名刺の右端をつかみ、そのまま、頭を下げました。


長月「少々、お待ちください」


もう一度、お辞儀して提督を呼びに行きました。



【16ワ●:榛名のバーニングラブワゴンの旅 視聴者サイド3】



金剛・秋津洲・青葉「可愛い!(かも!)(デース!)」


青葉「青葉見ちゃいましたけど、お二人も今の見ました!? 見ました!? 今の長月ちゃんの名刺の受け取り方、見ました!? 名刺の受け取り方が分からなくて、精一杯悩んだ末に左手、右手、お辞儀という卒業証書をもらう際の作法で対応しましたよ!?」


金剛・秋津洲・青葉「やっぱり駆逐艦は最高(ですね!)(かも!)(デース!)」


テイトクーウ! そんなに熱のある視線で見つめないでくだサーイ! え、違うって? いやいや、こればかりは実際に見て欲しかったデース。あの長月はキュート過ぎて私達を萌え死させるには十分過ぎる破壊力を秘めていたネ。あの長月は世界に平和を届けるエンジェルだとしか思えまセーン!


いやー、この時ばかりは元帥ちゃんの駆逐ラブの気持ちが分かったネ。


【17ワ●:榛名のバーニングラブワゴンの旅 参加者サイド3】



「申し訳ありませんが、お話できることはありません」


「私ども、機密を探りに来たわけではなく」


「お引き取り願えますか?」


やはり予想通りというか、提督はきっぱりと強い拒絶の意思を込めて、そういいました。榛名にも絶対に口を割ることはないだろう、と伝わる強い言葉と態度でした。ヨッシーさんは少したじろぎました。取りつく島もない、と直感したのでしょう。しかし、諦めが悪かったのはヤッシーさんのほうでした。一歩前に出て、おどおどした様子で提督に言葉を投げます。


「准将さん、戦争終結において海を取り戻したこと、一般人の評価は御存じですよね」ヤッシーさんはいいます。「よくも悪くも、です。中には深海棲艦が消滅したことで、割を喰った人もいます。その結果、悲しい事件を起こしてしまうような人達もいます。逆恨みされるような」


提督は眉ひとつ動かしません。それがどうした、といわんばかりの鋼の精神です。


「これは僕自身の単純な興味ですが、あの戦争の一番の被害者は誰だと思いますか?」


「話の流れ的にはそのような割を喰った方で」


「もしも、人の願いを叶える妖精がいたとしたら。何のために創られたのか、分からないですけど、妖精のようにそんな役割を持たされている命があるとしたら。それが最大の被害者だと僕は」


その自信なさげに放った言葉に提督が少しだけ眉を動かしました。悪い島風さん、戦後復興妖精はお二人の前で秘密なにそれ美味しいの、といわんばかりに願いを叶える力を披露していたので、ヤッシーさんはそれが想力である、と察していたのかもしれませんね。想力自体は世間に漏れている情報ですけども、悪い島風さん、戦後復興妖精はまだのはずです。その点が提督の意識を引いた、のでしょう。


悪い島風【私は戦後復興妖精です。海の傷痕が製作した仕官妖精の家系の存続および人類側が敗北しないようバランス調整のために創られた妖精です。最後のパスです。この糸の先にある釣り針にぶら下げる餌はあなたで考えてください】


悪い島風さんがパスを投げた後に、ヤッシーさんは言葉を続けます。


「いつまでも自由意思のない奴隷として生きているわけですから。人間のような自我があったのならなおさら地獄だと思いませんか。だって自我があるのなら、夢や愛を抱くことだってあります。でも、妖精のように役割を持たされていたのなら、それに逆らうことが出来ないはずです」


提督「なにがいいたいのです?」


「戦争が一度でも起きたのなら、その後はずっと戦後です」ヤッシーはいいます。「戦争は終わりません。それが目的ではなく手段とする私達は、それを捨てる必要がいまだにないからです。そしてその妖精の役割は、海の傷痕を越える脅威になり得る存在に進化しているとは思いませんか?」


提督はなにも答えません。しつこいセールスに、居留守を使わなかったことを後悔しているような、そんな感じです。でも、榛名は知っています。この提督はなにか対処を考えなきゃ、と思考を巡らし始めた時の反応です。苺みるくさんを拾ってきた現場にはいませんでしたが、きっと電さん達に駄々をこねられた時、こんな顔をしていたのではないでしょうか、と榛名は思います。


「人の願いを叶えた先にあるのは人間の滅びです。ゴシップ誌はそのイメージに近いと思います。誰かの秘密を記事にして、時にその秘密を持った人を破滅に追いやってしまうことがあります。それも需要はあるのですが、僕等はあまりにも波のように絶えず惨いことを祈り過ぎています」


提督「世知辛いですね」


「ええ、もしも我々が知らない英雄がいたとして、その功績は世に、」


提督「掃いて捨てるほどいます。なので自分、英雄といかにも特別であるかのように呼ばれるのは好きではありません。なぜ我々がそう呼ばれているか、お分かりですか?」


「……それはもちろん、終わらないとされた戦争をたったの一年で、あなたは」


提督「大多数の人間にとって都合が良かったからですよ。軍の皆の功績は成し遂げたといえることですが、それは過去にこの海で魂を捧げた先人達の積み重ねがあったからです。受け継がれていくそのバトンを受け取った我々がたまたまゴールテープまで駆け抜けたに過ぎません」


「まるでマラソンのようにいいますね……」ヤッシーさんの言葉に熱がこもり始めました。いつもおどおどしていた彼とは違って、なんだか男らしい顔つきです。「コースなんて決まっていなかった。だから出口の見えない戦争だったんです。ですけど、マラソンに例えるのなら、そうですね。あなたの深海妖精論は拝読させていただきました。あれがなければゴールテープは切ることは出来なかったはずです。ゴールを見つけたのはあなたという存在があってこそのはずですが、あなたは機械的に謙虚だ」


提督「やっぱり、初対面の人に見抜かれる程度に自分は浅い人間なんですかね……」


提督はぽつりと漏らしました。


提督「あなたのお話に思うところはありませんが、少しだけ得るモノはありました。どうやら自分、人の本気の言葉とそうでない言葉を判断できるように心は弛緩したようです」


「……はい?」


提督「ああ、いえいえ、すみません。個人的なことです。自分は軍人なので、一般の方にお話できることはないのですよ。取材拒否は上の決定なので、お互いのために引いたほうがよろしいかと。仮にしゃべったとして、自分とあなたの両方に組織から無益な制裁が下りますし」


「……ですから、機密ではなく」


提督「無理だと答えは申し上げたはずです」提督は突き放すような笑みを浮かべました。「ですが、あなたが仕事として記事のネタが欲しいがゆえの場合の答え、ですね。あなたは述べた理想のためにどこまで切り捨てられますか。お言葉ですが信用できないのはお分かりいただけるはずです。あなたが話して欲しいという内容、お話するとしてもゴシップ誌を選択する必要がありません」


「良いイメージがないのは当然ですよ。ゴシップ誌ですが、と真正面からいって答えてくれる人のほうが少ないですし、どんな風に脚色されて記事にされるか分かったものじゃないです」


提督「そこが信頼できるのなら、話せる範囲で話しても構いません」


「……と、いいますと?」


提督「……今日のところはお引き取りください」


そう力強くハキハキというと、ヤッシーさんはたじろぎました。頭を下げます。


「お時間、ありがとうございました。そうさせていただきます」


ヨッシーさんもヤッシーさんも、粘ることは諦めたようです。時間を取らせたことに礼とお詫びを述べると、踵を返しました。ヨッシーさんの営業スマイルが崩れかけて、頬がひくひくとひきつっていました。この人はちょっと上手く行かないことがあると、すぐに怒ってしまうようです。


榛名「そういえば神風さんの姿が見当たりませんが……」


悪い島風【あー。神風さんは車の中に飛ばして監禁しておきましたよ。ちょっと今の神風と准将を合わせると、話が変な風にこじれそうですから。見ての通り、悪霊ですよ】


見ればラブワゴンの助手席に神風さんの姿がありました。大きく見開いた瞳は瞬き一つしないで、射抜くようにこちらを見つめていました。怖いです。初めて見た電さんのトランス状態の瞳と通じるモノを感じました。亡者のうめき声が聞こえてきそうな、周りの色とりどりの草花がしおれていってしまうような、そんな飢えた深海棲艦の瞳に思えました。


ワゴンに戻って、後部座席から神風さんに声をかけます。


榛名「あ、あの、どうかしましたか?」


神風「……いいえ。それより、成果はありましたか」


「全くないです……」ヤッシーさんが目だし帽を深くかぶり、表情を隠しました。


「こっちが下手に出てりゃ、ゴミを見るような目で見やがった。生意気な若造だわ」


クソ、と生えている草を踏み潰して、足元に転がる石を大きく振った足で蹴飛ばしました。「ぶっ殺してやろうか」と吐き捨てます。もしも本気だとしたら榛名が刺し違えてでも止めますが、その後、すぐに踏み潰した草と同じように、へなへなとその場に座り込みました。


「なんでこうも、俺の人生、上手く行かねえんだ」


神風「榛名さん、もういいんじゃないかしら。こいつら性根が腐っているし、踏み潰された雑草のほうが遥かにたくましいです。こんな人種、手を差し伸べるだけ無駄ですって」


悪い島風【ハッキリいうと、テートクさん応答する気は全くなかったよ。どんな口実で迫ろうがダメっぽいね。私があなた達だったら別のカモを探しに行きますかねー……ま、私の場合ですし、それは正解かどうかも、よく分かりませんが】


ヨッシーさん、空に向かって唾を吐いても、自分の顔に落ちるだけです。顔をうつむけました。確かにこの逃避行は契約による一時的なものであり、そのゴールまで辿り着けなければ、二人が望んでいる強盗の過去はなかったことになりません。


それが良いことなのか悪いことなのか、それはもう榛名の中ではどうでもよくなっていました。今のヨッシーさんは、私が榛名として歩んだ歴史と重なっていました。まるで損傷して海へと沈みゆく中、もがいているようでしたから。


悪い島風【榛名さん、泳げないモノは陸でも海でも溺れるものです】


榛名「提督はああ見えて押しに弱いです! あの程度ではなく、もっと形振り構わず、です」


悪い島風さんの言葉を遮って、榛名が知っている提督の弱点をお伝えしました。後で提督に謝らなければなりません。この人達に提督が不利になるような情報を渡してしまったこと、電さんに裏切り行為と見なされない言動でしたが、それでも彼等を見ていたら教えずにはいられませんでした。


榛名「なるべく物ごとを大事にしたくない人でもあります。この鎮守府に榛名がいなかった頃から後ろに手が回りそうなことには、逐一、上に報告も入れています」


榛名の頭に浮かんでいたのは、秋津洲さんのあの想いを伝える姿でした。結果がダメだったですけど、秋津洲さん自身は納得していました。この人達はまだ納得しているようには榛名には見えません。榛名の出来る支援には限度がありますが、提督を想う気持ちを押し殺して出した渾身のパスです。


榛名「そして、とっても優しい人です。榛名を出汁にしても構いませんので提督の予想を上回る作戦を考えて、最後まで諦めないでください!」


お二人はあんぐりと口を開けて、こちらを見ています。


先に口を開いたのはヨッシーさんです。


「なら、もうちょっと強引に行ってみるか」


身を翻して、鎮守府のほうに歩いて行きます。


ヤッシーさんはその後ろ姿を見つめながら、いいました。


「榛名さん、今、提督さんを売るような情報を渡しましたよね。どうしてそこまで僕等に施してくれるんだ。僕等がどんなやつらなのかは出会い方で分かっているでしょう……?」


榛名「強盗だなんて、あなた達は間違っています。けれど、私が悪い島風さんと契約を持ちかけられた時、あなた達は救われたような顔をしていました。強盗は間違っていますけど……けど、それはたまたま刑罰に触れる形で発現してしまっただけです」


神風「本気でいっているの……?」


信じられないといった顔で神風さんはいいます。


榛名「あなた達は今、真剣に生きているじゃないですか」


与えられたチャンス、放り投げられた浮きに沈まないよう必死につかんで離さないようでいるようなそんな必死さが伝わります。本当に諦めている人はきっとこんな面倒なことまでして、救いにしがみつくわけがないとそう榛名は思います。さっきだって提督の拒絶に、上手く行かねえ、と嘆いたヨッシーさんもそうです。わざわざ考えてここまで来た。わざわざもう一度、鎮守府に行った。これが人間の生きる力でなくてなんだというのですか。


榛名はそう自信を持って、答えたつもりです。


悪い島風【それこそ榛名の適性です。だからこそこの契約を持ちかけました。ま、しょせん綺麗事ですね】悪い島風さんが、にやにや、と意地悪げにいいます、【そんな言葉は届きませんね。それで人間が良き方向に変化してくれたら私は苦労しないんですよね。ほら、見てください】


鎮守府の門の近くにある花壇の手入れをしている電さんがいます。なにを話しているのか分かりません。そして提督がまた鎮守府の正面玄関から出てきます。さすがの提督も、強硬手段に訴え出そうなそんな、不機嫌そうな様子でした。電さんが「司令官さん!」と普段は見せない笑顔で振り向きました。


その瞬間、ヨッシーさんの両腕が俊敏に動きました。


「提督さん、黙って俺のお話に付き合ってくれや。そこに車、あっからさ」


電さんの喉元に、ナイフを突きつけました。



【18ワ●:榛名のバーニングラブワゴンの旅 視聴者サイド4】



金剛・秋津洲・青葉「あの強盗、死ぬ気(デース!)(ですか!)(かも)!」


ここは素直に謝らないとだめカナ。私達三人がまず心配したのは強盗の命デスカラ。電ちゃんにあんな真似、私達の鎮守府では気分でつっかかるわるさめくらいデース。電ちゃんにあのような脅迫行為をしたら、大破は確実。大破ってとても痛いんデス。それも何十回もさせられマース。ああ、提督は甲ちゃんと丙ちゃんの連合艦隊の特訓時、留守にしていましたネ。「死なせてください」と秋津洲は死んだ魚のような目で、懇願していたほどデース。人間相手でも容赦はありまセン。


電ちゃんは少し上を見上げて、強盗の顔を観察していました。そして、次に、


電《こ、怖いのです、司令官さん、電を助けて……》


金剛・秋津洲・青葉「おいおい!」


もちろん、私達はその場で転げ落ちたネ。吉本新喜劇の「怖かった……」のあの時の周りのリアクションのノリデース。提督も、電ちゃんが全く怖がっていないことは気付いていたからこそ、ため息をついたのだと思います。ヨッシー、憐れな。数秒で電ちゃんにオモチャにされていマース!


「冗談で英雄さん達にこんなことする訳がないのは分かってもらえるか?」


提督「分かりました」


聞きたいんですケド、即答したのは電ちゃんを気遣ってのことデスカ?


ほら、やっぱりそうじゃないデスカ。後で聞いたんですが、電ちゃんも悪い島風と契約しているみたいで、例えあのナイフで傷つけられても死なないデース。それになにより、私達の鎮守府であの程度の脅しで本気で恐怖するのは恐らく間宮さんと瑞鳳、由良と阿武隈くらいですネー。


この騒動を起こして電ちゃんと提督を巻き込んでしまった不始末、姉としてしっかり榛名を叱っておきマース。ですから、もう少しだけご静聴願いマース。


神風「お前#&@*私の+◇※▲∴;¥!」


ええ、神風は車内へ入ってきたテートクを見るやいなや日本語からはかけ離れた意味不明な奇声をあげながら即座に襲いかかったネ。そしてすぐさま人体の急所を躊躇いなく殴打してマシター。悪い島風が邪魔だと判断したのか、神風は車内をするりと抜けて、車外へと転がりましたケド。


あの場で最も怖かったのは発進した車の隣を並走しながらテートクを睨んでいた神風デース。


あ、途中で走るのやめていマシタ。


【19ワ●:榛名のバーニングラブワゴンの旅 参加者サイド4】


榛名「ヨッシーさん、強引に、とはいいましたけど、こんなことはダメです!」


「うるせえ黙ってろ」


ヨッシーさんのその言葉に、提督が腕を組んでまぶたを降ろしました。なにか思考を始めたようです。電さんは「変な薬でもやっているのか、それとも単純に頭がおかしいのか。妖精さんにしゃべりかける私達も、一般人から見たらこんな風に頭おかしくみえるのでしょうか」と。


やはり演技だったようです。少しもこの状況に億した様子はありません。


提督「ですから、そちらにお話できることはありません」


提督の変わらない声が車内に響きました。至って冷静沈着です。なぜか電さんを人質に取ったヨッシーさんのほうが慌てているような気がします。ヤッシーさんはどうしたらいいのか分からない、といった風におどおどしているだけです。ヨッシーさんがいいました。


「いいや、あんたは答える。もちろん無料とはいわねえ」


提督「金銭の類を積まれても口は割りませんし、恐らく、ええ、多分、そのナイフで切り裂かれようが、しゃべらないでしょう。あなたが人質に取ったのがこの子で良かった」


電「司令官さん、電はちょっぴり怖かったのです。だってこいつ殺す気ないのにこんなことしていたように見えました。つまり勢いです。わるさめさんのように引き金は軽そうですから」電さんは天使のような笑顔を浮かべます。「強盗さん、この司令官さんの口を割らせる方法、電は興味あるのです」


「俺、コンビニ強盗をしてきたんだ。都合のいいことにしがみついて逃げている。もとはといえばお前らが災害指定されている深海棲艦を消滅させたからだ。その手の保険会社があることくらい軍の人間なら知っているだろ。お前らのせいで俺は真っ逆さまだ」


提督と電さんの表情が少しだけ陰りました。


車は人気の薄い場所へと進み、立ち入り禁止されている小道へと侵入しました。整備されていない獣道のため、車体がガタガタと揺れて、車体がこすれて弾きだされる鈍い音は、ヨッシーさんの痛みを代弁しているかのようです。電さんのお尻がシートから浮かんだ時、提督が電さんにシートベルトを強引に締めました。本当に提督は冷静沈着です。


「それに金なんか積めねえよ。あのコテージも、誰かが放置しているだけだ。だから俺に財産どころかお前らみたいに胸に飾って誇る勲章なんか人生で一つもねえ」


ヨッシーさんは舌打ちしました。


「そして、その勲章に魅力も感じねえ。そんなの、大したモンじゃねえだろうが。お前らだって自らにそんな大した価値を見出していないから行かなくてもいい戦争に参加したんだろ。ならよ、俺と同類だ。命を賭けて戦うことくらい、こんなクソな俺にだって出来るんだからな。なにも尊くねえ」


提督「理解しました。崖からこのままダイビングしようという気ですよね。ナイフを突きつけて俺のいうことに従え、とか正に強盗、誘拐犯の脅しじゃないですか。本当にコンビニ襲いそうな人ですね……」


「俺は引かねえぞ、おい、ヤッシー、お前も覚悟を決めろよ」


「准将さん、こ、この人なら本当にやってしまいますから、嘘でもこの場は……!」


提督・電「そのチキンレース、受けて立つ(のです)」


提督は顔色一つ買えませんが、電さんは愉快気に笑っていました。車は森を抜けて吹き抜けの丘に出ました。このまま突っ切れば本当に海の中にドボン、です。ええ、さすがの榛名も大丈夫ではありません。


だから榛名は気付いたんです。私は間違っていました。こんな状況を招いたのは榛名のせいですから。だから、お二人とも、ごめんなさい。榛名、反省します。


百メートル、五十メートル、絶壁へと車は向かっても誰も言葉を発しません。ヨッシーさんは恐怖を煽るように、アクセルを強く踏んで速度をあげました。


そして十メートルを切った時、提督が言葉を発しました。


提督「すみません、自分の負けで……」


電「ださいのです……」


「ありがとよ。でも、悪いな。車は急に止まれねえんだよな」


崖からジャンプしました。




悪い島風【ま、お任せを。今回は危なそうな橋でしたので私が密着していたんですし】


車は空中でピタっと停止しました。滞空したままバックして丘へと戻りました。後部座席から提督と電さんが出てきます。提督は驚いた様子もなく、電さんは「まーたあいつの差し金ですか」と大きなため息をついて、呆れている様子です。強盗さん二人のほうが驚いています、ね。ヨッシーさんとヤッシーさんはそれぞれ座席で、明らかな安堵のため息をつくと、外へと出てきます。


提督「さすがになんでも、とは行きませんが、なにが聞きたいのです?」


「話が早くて助かるぜ。ダメ元で聞いてみるが、今の物理法則を無視した現象見ただろ?」ヨッシーさんは提督の隣に座りました。「防衛省勤めがポカして漏らした想力ってやつだろう。あんたら、その想力について絶対になにか知っているはずだ。研究部じゃなくてあんたの見解が聞きたい。あ、これは記事にしねえよ。約束する。上手く行けば金儲けの種になるし、公開するのは惜しい」


そこは機密ですが、ヨッシーさんはもう記事にするためのネタではなく、完全に個人の興味で質問をしています。


提督は「自分、学者じゃなくて軍人でしてあの海のシステム以外で正確に解説するのは難しいですが、自分の見解でよろしいのですね?」といいます。


「長くなりそうだな。ほら、あんたもどうだ?」


懐からタバコを取り出して、一つ提督に差し出します。あ、提督って喫煙者なんですね。そういえば稀に海の上の小舟で吸っている、と聞いたことはあります。


提督「ロスト空間という想力が形作る空間があります」


「あー、職場で話題になったことある。兵士が消えちまう現象をロスト現象っていうんだっけ」


提督「ええ、その消えた兵士はロスト空間という想の海へと流されます」提督は火をつけてもらって、ふう、と口から白煙を吐き出すと。人差し指で空を指差します。提督「今、あなたが視界に収めて認識しているこの透明な空気や波の範囲そのものが想力だとしましょう」


「おう」


提督「量子学のお話になりますが、電子は波の形をしていています。あの波に触れれば、指先に水滴がつきますよね。無数の粒で構成されています。その無数の粒の一つ一つが想でして、我々が観測すると同時にそれは点、一粒になります。その一粒一粒に想力というエネルギーを観測することが出来ました。その想力、正しく魔法というべき神域の力を秘めていたんですよね」


「神域? 想力っていうのは神様か?」ヨッシーさんがぽつりと漏らします。「あ、だから海の傷痕は神様っていわれていたのか。もしかして海の傷痕ってやつはロスト空間で産まれたのか。だから、あんなむちゃくちゃな海の戦争をおっ始めることができたってことかよ」


提督「そういうことです。誤解しないでもらいたいのですが、全ての可能性=なんでも出来る、ではありません。想力というのは主に七夕で短冊に記した願いです。その一つに一つの願いごとしか書き込めません。しかし、その一つの願いごとを実現する力があります。そしてそんな無数の願いを叶える力が、観測すれば観測するほど見つかるのがロスト空間の想の海です。そしてその想力を生み出すのは我々です。我々は死後に、その粒になり、どこかに漂います」


「……待て待て。あんな風に車を浮かしたり、バックさせたり、そんなこと短冊に書きこむ変態がいるのか、それほど世界は広いってことか?」


「それが海の傷痕の根源的能力です。想の魔改造、その願いを更生する様々な要素を繋ぎ合わせて全く別の願いの形にするのです。その力を使って製作したのが、我々人類と深海棲艦との戦争となりますね。厳密にはなんでも出来る、ではありませんが、海の傷痕が能力を使用するに当たって必要な資材が我々人間の想となり、死後に海の傷痕の過ごしたロスト空間に還る。それを利用して我々の可能性を全て実現してのけるのですよ」


「……あんな魔法みたいにぱぱっと?」


「いいえ。ですが、そこもそんな風にしてしまえるのが恐ろしいところですね。ロスト空間だと絵画を描くのに筆とか絵具とか用意しなければなりませんが、特定の想力さえあれば不要です。願いごとを書きこんだ短冊さえあれば、です。つまり、過程を省いて、結果だけを引き寄せることも出来る。ここらの説明は省きますが、ロスト空間に関していえば創作過程短縮空間です」提督は空き缶の口に灰を落として、いいます。「想力についての見解です。鵜呑みにしないでくださいよ」


こういう風に聞いてみると、私達はよく海の傷痕という規格外の存在を倒すことが出来たんだな、と。しかも、全員生還を成し遂げました。敗北していれば海の傷痕当局が望んだ世界、第二の海の傷痕を産ませないようにするためのミサイルが世界に降り注ぎました。あの時、私達が負けていればみんな仲良く深海棲艦です。それを想えば、あの海の兵士に留まらず人類を救ったということになるのですね。なんだか話が大きくて実感は湧きませんが、役割を果たせたこと誇りに思えます。


「願いを書き込む短冊ね。つまり、俺ら一人一人が光の御子だとでもいいた気だな」ヨッシーさんはそういって背中を丸めます。「ロスト空間で、時間の流れが違う、という眉つばの話は」


提督「……恐らく体感速度の話です。想の海に触れることでより多くの経験に触れることになります。その短冊にかけられた願いを構成するに至るまでの過程です。有名な学説だとジャネーの法則ですね。体感時間は年齢と反比例して歳を取ったほうが時間を短く感じる。それを心理学的に説明した学説です。よく二十代とか三十代とか過ぎるのあっという間だよ、とかいうでしょう?」


「……そうだな。つまりその理屈で体感速度が変わってくるわけで、別に重力歪んで時間の流れが、とかタイムスリップ的なことではないってことか……ん、待てよ」ヨッシーさんはいいます。「その理論だと俺らの寿命を考慮した時間は体感速度的に二十歳かそこらで折り返しを迎えているってことかよ。夢のない話だ」


むむ、榛名にはそこまで理解するのに時間がかかりました。ヨッシーさん、なかなか賢いお人なのですね。提督は地面に置いてあった棒で数式を書き始めました。しばらくして「……そうなり、ますね」と答えました。


提督「短冊の願いごとが書き込まれるのは死んだ時、です」提督は、いいます。「希望のある話じゃないですか。人生は死ぬその瞬間まで自らの価値が決まらないってことです。死ぬまで我々はなに者にもなれる可能性の塊、それは実例があります。それこそ」


電「海色の適性、ですね?」


提督「ですね。だから、こういう解釈も出ています。我々は産まれたその瞬間から、もともと完全なる平等を持って産まれたことになるので、我々を不平等にしているのは我々自身でしかない。我々はこの海の世界の影を引きずり出しましたが、神様の存在は想力、海の傷痕も、その先にある想力も、発端は人間です。海の戦争と同じく輪廻のカルマだったんです。なので海の傷痕は当局が製作秘話ノートの自然説(リヴァイアサン)に書き留めた『海の傷痕は神と人間の中間管理職』という表現は的確だと思います。根本的な問題は我々にあった。その問題は歴史上、ただの一度も解決していません。だから『艦隊これくしょん』という形で我々が支払う羽目になったのです」


「もういい。途中から興味なくした」ヨッシーさんはタバコの先端を空き缶のプルに押し付け、火を消しました。「ヤッシー、お前もなにか聞いとけばいいんじゃねえの」


提督「お一つだけでしたら……」


「じゃあ、どうしようかな……」ヤッシーさんはたるんだあごの肉に手を添えて、低い声で唸ります。そして閃いたのか、手をポンっと叩き合わせました。「取り繕わない素直な評価を聞きたいです。榛名さんを兵士として、人間として、どう評価していますか?」


予想外だったのか、提督は少しだけ目を見開きました。榛名にも不意打ちでしたが、正直、とっても興味があります。最後の海から帰投した時に聞きましたけど、提督が榛名のこと、どう思っているのか、たくさん聞きたいです。良い評価も悪い評価もまとめて。


提督「自分は彼女を駆逐艦と同じ風に、見てしまいます」


榛名「それは榛名が……子供という意味でしょうか……はい、榛名は大丈夫です……」


悪い島風【目からハイライト消えていますけど……】


「そ、それは榛名さんを子供として見ているということ、ですか……?」


ヤッシーさんが代弁してくれました。ありがとうございます!


提督「そう、ですね。あの人は深海棲艦にすら情けをかけていましたからその優しさは諸刃の剣染みています。例えば自分とお二人がこの崖にぶら下がっているとして、榛名さんはその三人をすくいあげようとします。全てを追いかけて、自分すら落ちてしまうようなそんな人に思えます。優しい子はたくさんいるのですが、その中で最も程度を弁えないのが榛名さんです。彼女は悪い人間に騙されて不幸になりそうで不安です。今までストッパー役に金剛さんがいるので、彼女はそのままでいられたのでしょうが、あの子、自分の力で生きていけるのかなあ……と」


電「余計なお世話だと思うのです……」


提督「そうですね。ただ彼女はそのあり方を変えないと思います。ので、一種の美徳です。見習うべき点は多いですね。彼女を見ているとどうも自分の人間としての小ささを思い知らされます。自分は聖人君子ではなく人間の内部を数値的に観て、損得勘定で動いていた時が人生の大半を占めます。彼女を見ていると自分は神聖でも清潔でもなくても、そうあろうとしなければならない、と、そう考えさせられます。彼女の優しさは感染する類のものです。もはやアレは才能ですね」


むむ、そんな風に思われていたのですね。


確かに冷静に考えてみれば、自らをさらった強盗さん達のために、というのは神風さんのいった通り、榛名のほうが普通ではなかったのかもしれません。けれど、提督がそんな風に思ってくれているのなら、榛名にとっては間違いだ、というほどのことではありません。


ただ今回のように提督に迷惑をかけないようにしないと、ですね。榛名のせいで誰かを悲しませる結果になるのは本望ではありません。提督のように頭をひねって考えなければならない点であり、今後の課題です。ただ欲をいえば少しだけ榛名のこと、女性としてどう思っているのかも聞きたいところですけれど、きっと提督を困らせてしまいますね。榛名の単なる興味心でも本気で悩ませてしまいそうなので、止めておきます。


悪い島風【タイムリミットです】


「想っていうのは、相手の心情まで分かるのか?」


悪い島風【解釈にはコツが要りますけどね】


悪い島風さんはヨッシーさんとヤッシーさんを交互に見つめると、笑いました。晴れやかで清々しさすら感じるその笑顔は、その容姿通りに混じりっ気のない島風さんみたいでした。私達は旅を終えて、スタート地点という終着点へと連れ戻されました。


【21ワ●:戦後日常編:終結】


あの時と同じです。ヨッシーさんが後部座席を開いて私を押し込もうとしています。あの時はすぐさま中に押し込まれましたが、状況が榛名と思っていたのと違います。だって、店員さんがスマホを片手に通報していて、店内は荒れたままです。

そんな。罪が消えていない。


榛名「……ダメ、だったのですね」


「あ、あの榛名さん、ご、ごめんなさい」


悪い島風【あなた最後までおどおどしていますね……】


「ええっと、榛名さんが提督さんを見る目で分かりました。榛名さんが、あの提督さんのこと気に入っているってこと。僕にはあの人のどこが良いのかまでは分かりませんでしたし……」


初対面から提督のことを気に入ったっていうほうが珍しいのは確かですが、最高の提督だと榛名は思っています。


悪い島風【ヤッシー、可愛い彼女欲しいんだっけ。とりあえず数年は出来ないねー】


「あれはよく考えずに勢いで口走ったことですから。でも、僕、もうちょっと自分を磨きます。あの提督さんを見ていて自信が湧きました。あの人、別に性格も良くなかったですし、ルックスも幽霊みたいでかっこいいとはいえませんし」


榛名「そうですか? 榛名はとってもかっこいいと思いますけど……」


「だからでしょうね。僕ももう少し自分を磨くよ。あの提督さんみたいになにか一つでも魅力があればいいんだって思った。可愛い子追っかけるんじゃなくて可愛い子が寄ってくるみたいな」


榛名「ヤッシーさん、口説き文句の才能はあると榛名は思います。あの提督はヤッシーさんの言葉で口を割りかけました。だから、途中、強引に追っ払ったんだと榛名はそう思います!」


悪い島風【ヤッシーはほんの気の迷いだから、反省するやつさ。しっかり償ってきなー】


問題は、と悪い島風さんの視線がヨッシーさんに向きました。


悪い島風【あなた、変わらなかったね】


「これでいいんだ。理想的なクソッタレだ。俺はなにも変わらなかったんだよ」


ヤッシーさんは私の両腕に巻き付いているロープを解きました。遠くから聞こえるサイレンの音に耳を澄ませて、「まあ、ここで待つか」と車体に背中を預けて、タバコを口にくわえました。


榛名「変わりました。なにも変わらなかったのなら榛名は連れ去られていたはずです」


「まだ逆恨みしているぞ。テメエらのせいでってな。一日程度じゃ変わらねえよ」


榛名「本心、ですか?」


「本心だ」


ぽつぽつと、ヨッシーさんは自らの過去を語り始めました。


大きな不幸もなく、大きな幸せはあっても特別視して大事にすることはなく、淡々と流れるように生きて来た人生の中で、初めて絶望を覚えたのが深海棲艦消滅によるリストラだった。そんで軍を逆恨みをした。それでも良かった。それでも良かったんだ。憎悪だろうが、なんだろうが、俺はそのお陰で行動を起こせた。悪かったのはお前らを逆恨みしたことじゃなくて、その結果、強盗誘拐の行為に至っちまったことだ。俺がなにかするにはなにか燃料が必要だった。前に進むために積んでく燃料は綺麗なモンでなくても構わなかった。だから、俺はお前ら逆恨みし続ける。でも、あの提督が憎悪を針に変えた。進路を示す針だ。


あの男が、なんでも出来る可能性、願いを書き込む短冊の話を聞いて思った。


勝負は最後まで決まらない。その道中は汚い感情だが、前に進めばそれでいい。それは途中で変わっていくはずだ。なぜなら俺はゴールを見定めたからだ。その紙切れに描きこむ願いが、あんたらに対する憎悪ではなくなるはずだ。だから、そのために俺は檻の中へと行く。そして様々なモノを失うだろう。俺が今まで大事にしてきた世間体とか経歴とか、全部に傷がつくんだ。そして、俺は後悔という新たな燃料を積んで前に進むことができる。俺はそういうクソな人間だ。


もう片方のお嬢ちゃんの言葉はやっぱりいいよな。


なんとか理想の散り様に殉じるために、生きていられそうだ。


ヨッシーさんは空を見上げました。


「ンだよ、俺もまだ枯れてねえんだな。なら捨てたモンじゃねえよな」


片手で顔を覆いかくして、泣きながら笑っていました。なにかをしゃべりましたが、声としてはかすれて聞き取るのは難しかったです。お礼をいわれたのは、気のせいでしょうか。


榛名「お二人とも一人ではありません。最大の敵はよく自分だといいますが、なにかを成すとき必ず誰かが立ち塞がり、誰かを抜き去らなければなりません。どんな人でも必ずチャンスは巡ってきます。その時になればシュートです!」


悪い島風【おう"! そのボールはゴールネット揺らさずとも誰かが受け止めてくれますよ! それはそれで報いの形の一つです! あなた達と向き合った榛名さんに出会った昨日みたいにね!】


ヨッシーさんが吐き出した白煙は、円の形をしていました。その白煙は風で雲散霧消して、空へと吸い込まれるように消えました。









その後ですか?


金剛お姉様に飛びつかれ、抱きしめられ、頭を撫で回されました。榛名のバーニングラブ、確かにこの目で見届けました。色々とお話したいこともありマスガ、さすが私のシスターデース。あの二人の心を見事に氷解させマシタ!


といわれましたね。はい、榛名は金剛お姉様に褒められてとっても嬉しかったです。


秋津洲さんと青葉さんにも旅路について色々と聞かれました。神風さんもいたのですが、警察に色々と拘束された後、「殺意のボルテージを抑えるために走って向かいます」といい残して、走り去ってしまいましたね。近くまで来ていると、三日月さんから教えてもらいましたが。


榛名「提督、以上が!」


金剛「私達が!」


秋津洲「提督の電話に!」


青葉「応答できなかった理由です!」


提督「めちゃくちゃ奇想天外でしたが、理解しました。ならまあ、お咎めはなしで……」


そういって踵を返したその隙に「えい」と榛名は金剛お姉様の真似をして提督に抱きついてみます。提督は首だけ動かして榛名を見た後、金剛お姉様と同じように、そのまま引きずるようにずるずると館内に向かってしまいます。「提督、それはあんまりです」と榛名がいうと、提督は榛名の背中と膝裏に手を回しました。これはあのお姫様抱っこというやつです。


榛名「榛名……感激です!」


提督「す、すみません……」


提督ががくっと膝を着きました。提督は「は、榛名さんが重いというわけでは決してなく、むしろ軽いと思いますが、今膝をついた理由は自分があまりにも非力だからです」と悪さした子供が必死に言い訳を並べているように見えて、可愛く思えました。


提督「本当にすみません……」


榛名「はい! 榛名はもちろん、大丈夫です!」



後書き


お疲れ様でした。ここまで読んでくれてありがとう。

5編のお話↓(区切りの問題で100万文字余裕で越えます。かたじけない)

【1ワ●:くだらねー蛇足の物語】

【2ワ●:雪降る北の鎮守府の、神風型1番艦、神風と申しやす……】

【3ワ●:交流会、戦艦テーブル】

【4ワ●:暁型白露型神風型テーブル】

【5ワ●:阿武隈VS神風さん】

【6ワ●:間宮さんの恋話と、画面越しの提督と】 

【7ワ●:ピエロットマンの世界 said 弥生&提督】

【8ワ●:ピエロットマンの世界 said 暁&由良】

【9ワ●:疑似ロスト空間、演習場】

【10ワ●:あの電、凪ぎ払わせてもらう】

【11ワ●:戦後想題編神風:脣星落落、返り咲き】


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2018-10-17 18:09:13

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2017-09-24 05:52:18

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1: SS好きの名無しさん 2018-10-17 18:10:49 ID: 4Gc9LjkH

平成30年『防衛白書』86頁

💀韓.国.🇰🇷💀

19年連続で『軍拡』実施

特に『ミサイル・海軍・空軍』の『軍拡』が顕著である。

極めて危険な『兆候』

かが『流石に気分が高揚します。』


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1: SS好きの名無しさん 2018-10-17 18:10:02 ID: 4Gc9LjkH

平成30年『防衛白書』86頁

💀韓.国.🇰🇷💀

19年連続で『軍拡』実施

特に『ミサイル・海軍・空軍』の『軍拡』が顕著である。

極めて危険な『兆候』

かが『流石に気分が高揚します。』


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