2017-10-17 22:09:41 更新

概要

「きみの声をとどけたい」外伝です。コトダマラジオをちょっと再現してみました。


前書き

2017年も劇場版アニメーションは大豊作。翌年の夏まで劇場で上映されると夢にも思わなかった「君の名は。」を押しのけるように、「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」「メアリと魔女の花」「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」「Free!」「魔法科高校の劣等生」などなど。半分くらいは触ったつもりでいたわけですが、まさかの"大本命"が8月末に公開されるとは夢にも思いませんでした。
それが今回モチーフにした「きみの声をとどけたい」です。平凡な高校生・なぎさが、廃屋の中で見つけた放送機器。しかしこれらは生きていて、実際に声は届いていた。そこから一種奇跡といえる物語へと発展していくのです。
「君の名は。」ほどエモーショナルなシーンが連発するでなし、男子との恋愛要素もほぼなし。淡々とした高2の夏休みが描かれるわけですが…そこに描かれる、女子高生たちの本音、生きざま、心の声…それほど難しく感じないながらでも、一回見ただけで"名作"と感じられるものを持っていたのです。
しかし、ラジオが主題であるはずなのに、実際に「他人」に向けたラジオ放送をやっている風景はあるものの、どういう内容で話されていたのかとかの音声は示されませんでした(仲間内の言葉の交換であるとかのシーンは結構あったが、私物化しているようにも見受けられる部分でもある)。
「よぉーし、ならばっっ」
構成作家ばりの想像力でもって私が彼女たちのラジオを作ってやろうやない、というのが今回の作品のきっかけです。
製作開始は2017/9/14。ファーストランが終わり、大半の劇場で見られなくなったことがきっかけと言っても過言ではないでしょう。コーナー名など、もちろん創作。ラストのコーナーの、紫音となぎさのツーショットは、完全に想像の産物です。実際の解体工事に入った(画面上では、店内の椅子等が運び出されるシーン)のが2017/8/28(月)と考えられるので、それより少し前の彼女たちを描きました。もちろん、彼女たちは旧矢沢邸の"最期"を知らされていない時期です。
彼女たちの放送ぶりは、はっきり言ってど素人感満載。あえて整っていない感を出しつつ、ダイアローグにしていきました。10/17版でほぼ完成を見ましたのでお知らせいたします。
2017/9/20 暫定版 上梓(21,690字)。
2017/9/21 少し改訂(21,846字)
2017/10/11 さらに加筆修正(22,183字)
2017/10/17 ほぼ完成版/誤字表現等見直し(22,612字)


~~~~ジングル~~~~

なぎさ 「ラジオアクアマリン。日ノ坂町商店街よりお送りしています。みなさーん、お元気ですか?DJのなぎさです」

かえで 「ごきげんいかがですか? DJのかえでです」

雫 「皆さんこんにちわ、DJの雫です」

紫音 「最後はわたし、DJ紫音です、きょうもよろしくおねがいします」

なぎさ 「午後3時を回りました。今日も、この4人でお昼のひと時、楽しんでいただきたいと思います。それではタイトルコールと行きましょう。せーのっ」


 「コトダマラジオ、スタートですっっ!!!」


(BGM、軽快なそれに)

なぎさ 「さて、このコトダマラジオも、放送を始めてから一か月を越えましたね。最初は紫音ちゃんと私で試験放送、みたいな感じで始めたんですが、かえでちゃん、雫ちゃんが加わって、幅が出てきて、リスナーさんもぼつぼつ増え始めたところに、あやめさんと乙葉さんの加入で、一気に形になっていったんですよね」

かえで 「ああ、そうだったね。でも、今いないから言うけど、藍色…あやめとの初対面は強烈だったよな」

雫 「私もあの時のかえでちゃんの驚いた顔が忘れらんないよ」

紫音 「でも、私一人で放送しているよりは、いろんな人に聞いてもらえたのでよかったかも…」

なぎさ 「そうなんです!私がこのラジオのタイトルを「コトダマラジオ」ってしたのも、紫音ちゃんのお母さん・朱音さんに届いたらいいな、気が付いてもらえたらいいな、で始めたとはいえ、町の皆さんにも聞いてもらいたいとの思いがありました」

かえで 「へぇ、そうなんだ。始めた時から?」

なぎさ 「うーん、最初は本当に冗談半分だったし、リスナーは紫音ちゃんのお母さんの朱音さん一人だと思ってたから。でも、私たちの声がラジオを通して、リハビリセンターの人や町に流れ始めたことで、「あ、これは私たちと朱音さんだけのラジオじゃないんだ」って思い始めたの。それが7月の下旬。あやめさんたちが入ってくるまでのことなんだ」

かえで 「ああ、だとしたら、本当にあやめたちが入ってきたのって、運命的だったのかもなあ」

雫 「確か、あれって…登校日だったから、7月31日だったかな?」

かえで 「そんな時期だったかな。ラクロスの魅力とかいろいろ話してたのは覚えてるよ」

紫音 「でも、確かに「こう」とか「ホレっ」とかじゃあ、リスナーは何のことかわからなかったでしょうね」

かえで 「まあ、あの時の衝撃は人生でもなかなかなかった出会いだったわ・・・、って紫音・・・さん?」

雫 「ああ、会話に乗ってくれたぁ!!」

なぎさ 「うんうん。ラジオ始める前までは、マイクに向かうのもダメだったけど、こうやっていろいろしゃべってくれるようになった紫音ちゃんを見ることができて、本当にこのラジオはじめてよかったって思ってます。もうすぐ夏休みも終わりで、この放送もいつまでお届けできるかわかりませんが、最後の時まで皆さんお付き合いいただきたいと思います」

一同 「よろしくおねがいいたしまぁーーす」


なぎさ 「いやー、それにしてもアツかったですねぇ、今日も」

雫 「私ンち、犬を飼っているんですけど、庭の小屋の中でさすがにばててましたよ」

かえで 「あーー、わかるわかる。この気温じゃ、どんな動物だってばてちゃうよね」

なぎさ 「それに引き換え、日ノ坂海岸のサーファーさんはこの暑さをものともしない体制で頑張ってますよねぇ」

かえで 「この間の台風の残していった波がいい感じなんだろうけど…波乗りって、いまいち何が面白いのかわかんねーわ」

雫 「あ、私も…だいたい、泳ぎ苦手だし…」

なぎさ 「そぉ?将ちゃん曰く、波って同じものは来ないから、一期一会だからこそ乗り切った時の爽快感は忘れられないって言ってたよ」

かえで 「でも、フィニッシュってどうしても海に投げ出されているようにしか見えないし、なんかこう、成功したっていう達成感が、ねぇ」

なぎさ 「確かに。球技とか、勝敗を決めるスポーツとかとはちょっと違うし…」

かえで 「プロサーファーっているらしいけど、本当にあんなお遊びみたいなので食っていけんのかね?」

なぎさ 「それは私にもよくわかんない。サーフィンが職業になるってこと自体が結びつかないよぉ」

雫 「私にはただただ溺れるっていうイメージしかわかないわ…」

紫音 「あの、話の途中で悪いんだけど・・・」

なぎさ 「え、なになに?紫音ちゃん?」

紫音 「なんでサーファーの人たちって、ウエットスーツ着ているのかしら?」

なぎさ雫 「あぁぁぁ」

なぎさ 「あまりにも湘南の普通の光景だから、疑問に思ったこともないわ」

雫 「私も不思議だった。泳ぐのと一緒だから、別に水着だけでもいいかなって」

なぎさ 「ああ、確かに水着だけでやってる人もいるにはいるけど、プロっぽい人って例外なく黒装束だわ」

かえで 「あーー、これだからスポーツ音痴とはしゃべりたくないんだよなぁ」

なぎさ 「じゃあ、かえでちゃんは、理由、知ってるの?」

かえで 「まず、これだろうな。ずっと水中に居るから」

なぎさ 「えー、なんでなんで?」

かえで 「オレたちの体温より水温は低いのは常識的に考えてもわかるよな?だとしたら、体温は奪われていく方向になっていくんだよ」

なぎさ 「温度って高いところから低いところに移動するんだったよね」

かえで 「波待ちしている人たちにとって、寒いと体を動かしづらくなる。今がいくら夏だからって、水温は高くて30度以下。だから、少しでも体温の低下を防ぐために、ウエットスーツがあるってわけ。ウエットと素肌の間の水の層が体温で温められて、それが体温の低下を防いでいるっていうのがメカニズムなんだけどね」

なぎさ 「そうなんだ、知らなかったよ」

雫 「うんうん。勉強になるなあ。ほかにはどんな理由があるの?」

かえで 「後はボードとかが当たって怪我したりしないように、とか、浮力があるから沈みにくいとか。そんなところかな。ボードってFRPっていう素材でできているけどこれが樹脂とガラス繊維が原材料。ささくれとかが出ていると即ケガにもつながるからね」

なぎさ 「なかなか…凄い情報もかえでちゃんに披露してもらいましたが、紫音ちゃん、今の説明でご理解いただけましたか?」

紫音 「え、ええ。なんとなく・・・」

なぎさ 「実は、サーファーがウエットを着ている理由、本当はこうなんですよってご存知の方は、私たちに教えてくださいね」

雫 「現役サーファーも、丘サーファーの方も聞いていらっしゃるでしょうしね」

かえで 「半分知り合いの受け売りだけど、まあ、これが正解じゃねえかな?」

なぎさ 「オープニングトークはいったんここまで。それではここで一曲。今日は、夏も終わりに近づいていますので、そんな雰囲気の曲を邦楽中心でかけたいと思います。まず一曲目はさだまさしさんで「秋桜」・・・次のコーナーは、雫ちゃんの名物コーナーですよ。ダイヤルはそのままでお願いしまぁす」


~~~~ジングル~~~~

なぎさ 「ラジオアクアマリン。日ノ坂町商店街よりお送りしています。続いてはぁ…」

雫 「雫の夏休み お菓子研究のコーナー~~~」

一同 「パチパチパチパチ…」

なぎさ 「私がこのラジオやっててよかったって思えるのは、このコーナーができて、一気にリスナーさんが増えたことだと思うんだよ」

かえで 「それはオレも思った。雫がしゃべり始めてから一気に認知度が上がったもんな」

雫 「え、そ、そうかな」

紫音 「雫さんのコーナーのおかげで、私もお菓子作り、始めたいと思えてるから…」

なぎさ 「そうなんだ!紫音ちゃん!」

かえで 「何しろ今までハズレなし、だからなぁ」

紫音 「なので、今日もすごく楽しみにしてます」

なぎさ 「というわけで、今日のお菓子は何でしょう?」

雫 「今日ご紹介するのは、ミルフィーユです」

一同 「おおお」

かえで 「もう、響きがおフランスって感じだよなぁ」

なぎさ 「脳の中でサクサクが止まらないんですぅ」

一同 「あははははっ」

雫 「ミルフィーユっていうのはフランス語で『千の葉』を意味する言葉で、パイ生地の一枚一枚が薄い葉っぱに見えたことからこういう言葉になったと思われます」

かえで 「でも確かに、あのパイってほんっとにサクサクだよなぁ」

雫 「四角く広げた小麦粉生地に平らにしたバターを乗せ、何回も折りたたんで作るので、折りたたむ工程を重ねるほど層が増し、パリパリとした食感になるんです」

なぎさ 「生地とバターの層がパリパリを生み出しているんだぁ、凄いなぁ」

雫 「工程を5回繰り返し729層となったものや、6回繰り返し2187層になったものがあるんだけど、高級店ほど6回繰り返したものを使ってサクサク感をより出しています」

かえで 「うへっ、そんなに。そりゃサクサクするはずだわ」

なぎさ 「ねえ雫ちゃん?素人の私とかでもうまく作れるの?」

雫 「うん、難しくはないけど…時間がかかるところが玉に瑕、かな?」

かえで 「ええ、どうして?」

雫 「パイ生地っていうのは、折りたたんで層を作って生地を休ませまた折りたたんで、の繰り返し。実際に作るとなると一日仕事と言っても大袈裟じゃない」

なぎさ 「ええっっ、そんなに。私じゃぁ、無理かも…」

かえで 「オレも。こないだのパンケーキのほうがすぐ結果も見えるし楽しかったけどなぁ」

雫 「だから、手間暇はかかるけど完全に自分で作るとなると感動もひとしお。それができないのなら、手軽な冷凍パイシートを使うっていうのもあり、かな?」

なぎさ 「なんだぁ、そんな手があったのか、ちょっとずるーい」

かえで 「パイシートか…これなら手軽に作れそうだな」

雫 「それでも、やっぱり手作り、というか、自分で作った生地で焼くミルフィーユには勝るものはありませんから、私はぜひとも時間が許すなら生地作りから挑戦してみた方がいいと思います」

紫音 「お母さんが目覚めたら、これ作ってお祝いしてみようかな」

なぎさ 「それがいいかも!!」

かえで 「紫音の想いのこもったパイ生地でお祝いか…そんな日が一日も早く来るといいな」


雫 「で。今日はそのミルフィーユ、完全手作りで挑んでみましたので、どうぞみなさん召し上がってください。ちょっと準備してきますね(退出)」

なぎさ 「ええ?その手間暇かかるミルフィーユ、雫ちゃんが作ったのぉ?」

かえで 「マジかよ。ああ、昨日来なかったのはこれ作ってたのかぁ…」

紫音 「すごく食べてみたいな」

なぎさ 「それにしても、いままで雫ちゃんのコーナーで、美味しくなかったものを食べたことがありませんが、皆さんはどう思いますか?」

かえで 「まあ、お菓子だし、よっぽど分量を間違えない限り食べられるもののはずだけど、雫のって、なんかこう、一工夫あるんだよね」

紫音 「むしろ、レシピ通りではなく、必ずアレンジしてあるのが素敵です」

なぎさ 「この間のクッキーにしたって、さりげなくココナッツの粉末とツブツブ入れているだけで食感が違ったもんね」

かえで 「あれはほんっとにしてやられたって感じたよ。仮にレシピとしてあっても、なかなか思いつかないもんな」

紫音 「それだけ雫さんって研究熱心なんでしょうね。お菓子に」 

雫 (紅茶を伴い入ってくる)「ハイ。それではお待たせしました。今日は薫り高いアールグレイの紅茶とともにお召し上がりください」

なぎさ 「さあ、実況タイムのスタートですよ、かえでちゃん」

かえで 「はい、それでは、リスナーの皆さんにわかりやすい放送向上委員の私龍ノ口かえでがこのミルフィーユを皆さんに想像できるようにお伝えしたいと思います。」

雫 「かえでちゃん、頑張って」

かえで 「ケーキ皿に盛られたミルフィーユですが…まず、一番上には、粉糖でしょうか、格子模様に振りかけられています。これってどうやったの?」

雫 「あ、そ、それは、普通に網焼き用の網の上から粉糖を振りかけてみたの」

かえで 「なぁるほど。断面は、パイ・クリーム・パイ・クリーム・パイの5段重ね。つまりパイ生地は3段というわけですね。ではちょっとフォークを入れてみますね…」

  (スゥワサク)

かえで 「今、マイクから音が聞こえましたでしょうか?凄いサクサク感!!フォークがすんなりと突き抜けました。音からして美味しそうですね」

なぎさ 「あーー、もう我慢できないっっ。早く食べてみてよ」

かえで 「わかったよ。では一切れ食べてみたいと思います・・・パク…モサモサ…モグモグ…」

雫 「で、どう?」

かえで (飲みこみ)「プハー!!いつもうまいとしか言わない食レポベタの私ですが、これは本当に飛び切り美味しいです。パイ生地のもつ塩加減やバターの香りを邪魔しない、甘さを少し控えたカスタードクリームにしてあるのがまたいい塩梅です」

雫 「生地に練り込んだバターは、ちょっとおしゃれに、発酵バターを使ってみたんです。香りがよくなるらしかったので」

かえで 「なるほど。それが効いているんですね。本当にお店に出してもそん色ない出来栄えだと思いますね」

なぎさ 「かえでちゃんばっかりじゃあ何なので、私もいただきまぁす」

紫音 「あ、わ、私も食べたいと思います」

二人 「パク、モサモサ…モグモグ」

かえで 「では今度は私が聞き手に。なぎさ、どう?うまいか」

なぎさ 「(目を潤ませながら)どうして…どうしてこんなにおいしいものが作れるの?ねえ、どうして…」

かえで 「なぎさって、感動するとすぐこれだからなあ。で、紫音さんはどう?」

紫音 「あ、結構おいしいと思います。甘さ控えめなところが少しだけすきかも」

雫 「わたしからのアドバイスとしては、とにかく時間と根気が大事。パイ生地を食べるお菓子といっても過言ではないので、そこだけは注意してほしいところですね」

なぎさ 「(少し声を上ずらせながら)以上、雫ちゃんの夏休みお菓子研究のコーナーでした。でも美味しかったなぁ。本当にパティシエでやっていけそうだと感じました。ではここで、夏の終わりにふさわしいこんなバラードを。サザンオールスターズ "いとしのエリー"」


~~~~ジングル~~~~

なぎさ 「ラジオアクアマリン。日ノ坂町商店街よりお送りしています。先ほど紫音ちゃんはお母さんのお見舞いに行くので席を外しましたが、代わりにDJあやめさんに来ていただきました」

あやめ 「DJあやめです。こんにちわ。今日もよろしくお願いします」

なぎさ 「あやめさんが来てくれたということで今日もこのコーナー行ってみましょうか」

あやめ 「はいっっ。DJあやめのラジオアクアマリン 向上委員会」

一同 「ぱちぱちぱち」

かえで 「でも藍色…あやめさんがいなかったら、この放送も、ただのお遊びで終わっちまってたからな」

あやめ 「当然ですっ!放送を志す者、いい加減に遊び半分でやっていいわけではないのですっ(キリッ)」

なぎさ 「確かに、あやめさんが来てから放送してるって感じることは多いけど…かたッ苦しいな…」

あやめ 「何かご不満でも??」

なぎさ 「あ、いや、なんでもないです・・・。それで、今日の向上委員会のテーマってなんでしょう?」

あやめ 「よくぞ聞いてくれました。今日のテーマは"滑舌"です」

雫 「かつぜつ・・・カツレツなら、食べたことあるけど」

あやめ 「ムッッッ(怒)」

かえで 「かつぜつ、か…。何か聞いたことはあるけど…」

なぎさ 「それと放送ってどんな関係があるんですか?」

あやめ 「そもそも、ラジオは、声と音だけしかリスナーに伝わりません。動作や表情、身振り手振りが映像で伝わるテレビとは、伝え方そのものにハンディがあるのです」

なぎさ 「わかるわかる」

かえで 「動作が伝わらないのは、初対面の時にこっぴどく叱られたからよく覚えてるわ」

あやめ 「ということは、しゃべる言葉の精度というものを上げないと、伝わるものも伝わらない、ということなのです。滑舌とは、言ってみれば正しく発音するということ。発声やイントネーションも大事ですが、一音一音を大切に出すことが最も求められるわけです」

なぎさ 「そうなんだ」

かえで 「言われて見れば、いくらオレたちがボランティアでやっているっていったって、聞き苦しかったり、聞き取れにくかったりしたら、リスナーさんは増えるどころか減っちまうだろうしな」

雫 「私が一番気をつけないといけないなぁ…」

あやめ 「特に!!(人差し指をなぎさにつき出す)」

なぎさ 「え?わたし?」

雫 「私じゃなくて?」

あやめ 「まあ、雫さんもそうかもしれませんが、メインでしゃべることの多いなぎささんがその基礎をしっかりとマスターしておかないといけないことは今の解説でお分かりいただけたはず」

なぎさ 「あ、や、やっぱり…」

あやめ 「幸いにも、最初あなたたちの放送を聞いたときに、聞くに堪えないとは思ってませんでした。藍色仮面としていろいろクレームめいたメールをしたことはありますが、放送の何たるかを知らないずぶの素人が、あそこまでのクオリティーを出せていたのですから、むしろそれは驚愕に値する出来事でした」

なぎさ 「それって褒めてくれてるんだ…」

あやめ 「だからこそ、この放送をもっとブラッシュアップさせたいと思って参加させていただいたわけです。ようやく形になってきているだけに、ここは一つもっともっと聞きたいと思わせる放送にしていこうと思っているんです(キリッ)」

かえで 「でもそれって本番中でやるべきことなのかと…」

あやめ 「ムッ?!滑舌は実地が基本。マイクを前に、本番さながらの状況でないと上達は困難です。さっきも言いましたように基礎そのものができていないわけではないので、今からやることは、むしろ、リスナーの皆様にも滑舌がいかに重要かを知っていただく機会にしたかったということもあります」

かえで 「あ、そういうことか。オレの理解力が足りなかったわ」

雫 「なんか、私にももってこいのような気がする…」

あやめ 「そうですわね。雫さん。もともと声を出すのが苦手な方のようにお見受けしますから、基礎ができているのなら、これから声は出しやすくなるはずですわ」

雫 「そうなんだ…やってみる価値はありそうね」

あやめ 「さて、準備段階は終わったということで、これから実技にはいるわけですが…あれ?なぎささん?口をパクパクさせて、どうしました?」

なぎさ 「あ、こうやって口を大きく開けたり閉めたりすると滑舌ってうまくなるのかなって…」

あやめ 「うん、まあ間違ってはいませんね。舞台俳優さんを見ていればわかりますが、口の開け方がすごいですよね。これは、その動作によって息を出す量=声帯を振るわせる空気の量を最大限に引き出すことで、マイクなどが必要ないほどの声量を発生させるわけです」

なぎさ 「えへ。合ってたよ」

あやめ 「しかしながら、滑舌と口の大きさはあまり関連性がありません」

なぎさ 「えーー、そうなの?」

かえで 「そうなんだ。てっきり口の大きさが関係していると思ってた」

雫 「口の大きさは関係ないんですか?」

あやめ 「ここで私が言いたいのは、正確な発音に口を開ける大きさは関係ない、ということです」

なぎさ 「日常会話がまともにできていないならまだしも、みんな言っていることは伝わっているもんね」

かえで 「そりゃそうだ。練習しなくてもア・イ・ウ・エ・オはちゃんと言えてるもんな」

あやめ 「確かに、皆さん、滑舌が悪い、声が通らない、というほどひどいレベルではありません。とはいえ、日常会話レベルの声と放送で使う声は別物でなくてはなりません。先ほども言いましたように、言い間違いや聞き取れないといった事故を防ぐために、正確な発声が必要になる。だからこその滑舌なのです」

かえで 「じゃあ、どうやって訓練や練習するのさ?」

あやめ 「(メガネキラン)これが、意外に早口言葉なんです」

なぎさかえで雫 「早口言葉でぇ??」

なぎさ 「あれで練習なんてできないよぉ」

雫 「舌噛んじゃいそう…」

あやめ 「皆さん、話は最後まで聞くものです。それをゆっくりと言うんです」

なぎさ 「早口言葉をゆっくり言ったら、意味ないように思うんだけど…」

かえで 「早口言葉をゆっくりか…あ、これ、意外に行けるんじゃね?」

あやめ 「ほう。かえでさんがそのことに気が付かれるとは…さすがスポーツで鍛えられているだけのことはありますね(ニヤリ)」

かえで 「早口言葉って、遊びで言わせる場合は、しどろもどろにさせるのが目的なわけじゃない?それはその発音や語順になれてないから。ゆっくり言えば言葉そのものをかみしめることになるし、間違わないように言おうと意識するから、当然発音も明瞭になる。いいことずくめじゃん」

あやめ 「あ・・・あなたの口から私が言おうとしていたことをすべて言われるとは…ちょっと心外…」

なぎさ 「でも、なんとなくゆっくり言う意味はつかめたよ。早口で言えるようになったら免許皆伝、てなもんだろうしね」

雫 「そういうことか…面白そう」

あやめ 「というわけで、これからここにいる3人には滑舌を練習してもらうわけですが、さすがに練習風景を放送で流すわけにはまいりません。なので、少し長めの曲をかけて、その間に練習をしてもらいます。さて、その曲なんですが…いろいろ悩みまして、無難なところでまとめたいと思います。実は私のお気に入りなんですが、モルダウ「我が祖国」よりをおとどけします」


--曲終わり--

あやめ 「ゆったりした曲調だったので、練習にも邪魔しなかったようで、なかなかにクオリティの高い練習になったと思います」

なぎさ 「でも、クラッシックの世界って、無限ですよねぇ」

雫 「今まで聞いたことのない曲も結構聞いたし」

かえで 「乙葉さんの曲もいいけど、やっぱクラシックって落ち着くよなぁ」

あやめ 「はいはい。曲談義はここまで。では、リスナーの皆さんに滑舌が上達したかどうか、披露していただきたいと思います」

なぎさ 「え?わ、わたしから?」

あやめ 「まずはコトダマラジオマスターたるなぎささんから範を示してもらいませんと…!」

なぎさ 「ええぇ。自信ないよう」

かえで 「まあまあ。オレも意識してしゃべったことないから意外とずっこけるかもだし。ビビらずやってみろよ」

雫 「なぎさちゃん、ファイトっ!」

なぎさ 「そう言われちゃうと…では行きますっ!!・・・・・・・・青巻紙赤巻紙黄巻き巻き…」

かえで 「一回目でまともに言えてないじゃん…あははっ」

あやめ 「いやっでも、間違え方は悪くないですよ。前の言葉につられて言ってしまうのは人間の本能でもあるんです」

かえで 「ああ、ピザ10回言わされた後に、ひじを指さしたら「ひざ」って言ってしまうのとおんなじ理論か…」

雫 「そういうことがあるから早口言葉なのか…」

あやめ 「まあ、合格とはいきませんが、これから精進すれば上達間違いなしです」

なぎさ 「ほんとにぃ?やったー」

かえで 「まずは一回でもまともにできてから喜ぼうな」

あやめ 「では、つぎはかえでさんです」

かえで 「では早速。隣の客はよく柿食う客だ、隣の客はよく柿食う客だ、隣の柿はよく柿食う客だ」

雫 「うわーーー、すごぉーい」

あやめ 「ぜんっぜんすごくありません。さっきのなぎささんと違って致命的です」

かえで 「え?なんで?まともに言えてたじゃん?」

あやめ 「二回目までは、ね。でも3回目、隣の柿は、と言ってしまってますよね」

かえで 「え、マジで?気が付かなかったよ」

あやめ 「なぎささんのは、言ってみればつられただけ。でもあなたのは、文章の意味を理解していたら間違うはずのないところで間違ってしまってます」

かえで 「でも、それだからこその早口言葉なんだろ?」

あやめ 「確かに、間違えやすい語順で並べているからこそ、練習のし甲斐があるわけで、この文章を理解していれば、「次は何を言うのか」をわかるようになります。意味の無いようで、しっかり発音すべき言葉が並んでいるのです」

かえで 「なぁるほどなぁ。昔の人はよく考えたよなぁ」

あやめ 「それでも2回も間違わずに言えたのは立派。そこは褒めておきますね」

かえで 「まあ、なぎさよりは、ちっとはましってところかな…」

あやめ 「では、雫さん?準備はよろしくて?」

雫 「あ、ハ、ハイ…蛙ぴょこぴょこ3ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ6ぴょこぴょこ…」

(雫、まだ間違わずに言い続けている/恍惚とした表情のあやめ、ただびっくりするなぎさとかえで)

あやめ 「す、すごいっっ・・・難易度結構高いのに、今までノーミス…」

かえで 「え?これで10回目?すごくね?」

なぎさ 「もう、この辺でいいんじゃないの、先生?」

あやめ 「いやぁ、ここまで流れるような調べの蛙ぴょこぴょこ、ひっさしぶりに聞きましたわ。いつまででも聞いていたい感じですよ!!」

雫 「・・・はぁはぁ、もう、いつになったらやめてっていってくれるんですかぁ(ゼェゼェ)」

あやめ 「あ、これは失礼してしまいました。それにしても、雫さんの早口言葉はぱ-ふぇくとでありますぅ」

雫 「そ、そ、そうですか(ハァハァ)」

あやめ 「であるからこそ!雫さんには会得してもらいたいことがあります」

雫 「な、な、なんでしょう(ハァハァ)」

あやめ 「それは腹式呼吸です」

なぎさ 「あ、それ、音楽の時間に聞いたことあるなぁ。お腹から声を出すっていう意味らしいけど」

かえで 「人間て基本的には肺に空気を送って呼吸するわけだけど、それは体に酸素を取り込むのが主目的。話したり笑ったりってのは、お腹の中に入れた空気を使うことが多いんだよ」

雫 「あ、も、もしかして私って…」

あやめ 「そう!肺の空気を使ってしゃべっているのと同じなのです。だから息苦しく感じるのです」

雫 「息が続かないんじゃなくて、使う空気を間違っていたってことかしら」

あやめ 「まあ、端的に言えばそうなります。詳しいことは、またの機会に譲るとして、これを会得できれば、カラオケでもロングトーンとかがきれいに歌えますよ」

なぎさ 「あの曲の仕上げももうすぐだしね」

かえで 「そうだよ。息苦しそうに歌ってたけど、それが原因だったのか…」

雫 「なるほどぉ…でも早口言葉は完璧でしたよね。あやめさん! 」

あやめ 「はいっっ。この3人の中では間違いなく早口言葉マスターですわっ!」

なぎさ 「これは意外な結果になりましたが…」

かえで 「まあ、なんといっても、エースのなぎさがこの体たらくじゃぁねぇ…」

なぎさ 「確かに…」

あやめ 「そうしょげることではありません。日々の生活の中に取り込んだり、しゃべるときに気をつけるだけで滑舌はよくなりますから、一に練習、2に練習、の心意気で臨めば、マスターたる雫さんには簡単に追いつけますよ」

なぎさ 「とまあ、こんなへたくそでお聞き苦しい点があったかと思いますが、何分見習DJですのでご容赦くださいませ。というわけで、ここまで、DJあやめのラジオアクアマリン 向上委員会のコーナーでしたぁ」


なぎさ 「それではここからはしばらく、音楽でお楽しみください。次のコーナーはお待ちかね、「DJ隊が行く!日ノ坂NOW」のコーナーです。」

♪~~(もちろん、カフ下がる)

乙葉 「あ、皆さんお揃いね」

あやめ 「乙葉チンっ!」

なぎさ 「あ、いらっしゃーい」

かえで 「先に始めてましたよ」

雫 「こんにちわ」

乙葉 「紫音さんは?」

なぎさ 「お母さんのお見舞い。でも今日のラストのコーナーまでには戻ってくるって」

乙葉 「そう・・・」

あやめ 「で、今日の差し入れは何ですかねぇ~~~♪」

乙葉 「大したものじゃないけど、お父さんからもっていきなさいってこれ持たされちゃった…」

雫 「あ、こ、こ、これ、小鳩屋のプリンじゃん!!」

かえで 「どうした雫、顔真っ赤だぞ…」

雫 「これが興奮せずにいられますかってんですよ!!行列必至で、どの媒体にも必ず出てくる超絶有名店ですよ!!知らないなんてモグリですわ」

かえで 「実際オレ、知らないし」

なぎさ 「私も聞いたことない」

あやめ 「おいしいと評判だ、とは聞いたことありますけど…現物観るのは初めてですわ」

かえで 「まあ、夕の奴なら、こんなお上品なプリンくらい、知ってるだろうけどなぁ…」

雫 (少し平静を取り戻す) 「ああ、でもラジオやってて、小鳩屋のプリンまで食べられるなんて…幸せだわぁ」

乙葉 「では、みんなでいただいちゃいましょう。紫音さんの分は、冷蔵庫の中に…」

一同 「いっただきまぁーす」パクッ

なぎさ 「!!」

かえで 「!!!」

あやめ 「!!!!」

雫 「うはぁ・・・・・・・・こんなとろけそうな生地、どうやって作ってるんだろう…」

かえで 「なんだよこれ?!今までのプリンて、なんだったのか?こんなうまいの生まれて初めてだぜ」

なぎさ 「ああ、こんなにおいしかったら、行列できるの、わかるわぁ」

あやめ 「さすが乙葉チンのお父様チョイスのおみやは一味違いますねぇ」

乙葉 「ちょっと照れるなぁ…」

なぎさ 「あ、もうすぐ音楽のコーナーも終わりだから、そろそろみんなスタンバイしてくださいよ」

かえで 「おっと、その前に食べきっとかないと…ガツガツ」

雫 「あーぁ、せっかくの上品なプリンもかえでにかかったら台無しだよ」

かえで 「どーせ私はがさつで品なんかありませんよ―――」

あやめ 「そこの二人っゆっくり食べてんじゃない。もうすぐ本番ですよ」

なぎさ・雫 「あ、は、はい・・・」


~~~~ジングル~~~~

あやめ 「ラジオアクアマリン。日ノ坂町商店街・アクアマリンスタジオよりお送りしています。続きましてはこのコーナー」

なぎさ雫乙葉 「DJ隊が行く!日ノ坂NOWのコーナー」

一同 「パチパチパチパチ」

あやめ 「ここからは仕切りをわたくしDJあやめが、そして音楽担当のDJ乙葉も加わりましての5人体制でお届けいたします」

乙葉 「(あいさつ代わりにキーボードで演奏)ご機嫌いかがですか?DJ乙葉です。ワンコーナーだけですが、よろしくお付き合いください」

なぎさ 「それにしても、生演奏の聞けるミニFMってなかなかないと思うんだけど…」

かえで 「それはそうだな。乙葉さんを連れてきた藍色…あやめさんにも感謝しなくっちゃ」

あやめ 「オホン…褒め言葉はそのくらいにしてコーナーに戻りますわよ。さて、今日の日ノ坂NOWですけどどこに行ってきたんでしょうか?」

乙葉 「はい。今日はいつも美味しいお魚をとどけてくれる、日ノ坂漁港にお邪魔してまいりました」

あやめ 「今までは寺院とかが多かったですけれども、今回は漁港とは。さぞやおいしい情報も仕入れてきたんでしょうね?」

雫 「ま、まあ・・・詳しくはレポートしながらお伝えしてまいります。」

あやめ 「期待が高まりますねぇ。それでは実際のレポートとまいりましょうか」

(乙葉、キーボードで即興で環境BGMっぽい曲を弾き始める)

なぎさ 「今回お話をお伺いしたのは、日ノ坂漁協の組合長さん。名前は(キューシート見る)、水谷康作さん」

乙葉 「漁協では、朝一番のセリから、夕方ごろまで地元の方はもちろん、観光客の方にもおいしいお魚を提供していらっしゃいます」

雫 「所属する漁船は35隻。主に相模湾で漁をするそうです」

あやめ 「今の時期って、旬のお魚ってなんでしょう?」

乙葉 「夏の青魚、ということでサバやアジが最盛期を迎えています。今回は、漁協の皆さんの協力もあって、駿河湾名物のシラス丼を御呼ばれしてきました」

あやめ 「おおお、いとしのシラス丼!私の大好物なのでありますぅ」

なぎさ 「さすがに生シラスは、時期的・時間的に無理だったんですけど、シラスってこんなに甘みがあるんだって初めて知りました」

雫 「水揚げされた直後にさっとゆでて加工しているので、旨みが逃げないのが特徴だそうです」

乙葉 「このほかにも、漁協のやっている直営食堂では、お刺身定食や珍しいマグロカツ定食など、メニューは盛りだくさんです。しかも、利益度外視の格安価格でご提供していらっしゃいます」

あやめ 「さすが漁師町って感じですね」

なぎさ 「ただ、漁に出られない日があったり、そもそも旬を迎える魚とかがないときは、一部のメニューがお休みになるのでご了承くださいと、漁協長の・・・水谷さんもおっしゃっておられました」

あやめ 「ほかにもイベントとかってやっているんでしょうか?」

乙葉 「ゴールデンウィークやお盆、シルバーウィークなどには、直売所が臨時にできて、取れたてのお魚はもちろん、地元の干物や加工品などをほぼ卸値で観光客の方に買っていただくイベントをやっています」

なぎさ 「このお魚目当てでやってくるリピーターさんも結構いるようで、大人気だそうですよ」

雫 「このとき出される、漁師汁は、無料なのにクオリティーは高いと評判です」

あやめ 「地元なのに、結構知らないこともありましたよ。かえでさんはどうですか?」

かえで 「今回は取材に同行できなかったけど、一度漁協の方もよってみたいなって思いましたね」

あやめ 「うーん。日ノ坂町も巡れば巡るほど隠れたスポットが満載ですよねぇ。次は、どんな場所を発掘してくれるのでしょうか?以上、DJ隊が行く!日ノ坂NOWのコーナーでした。それではここで一曲。きょうはDJ乙葉の生演奏でお届けします。「Pure Song」

(乙葉以外全員退出/乙葉熱唱)


扉、開いて紫音が帰ってくる。

なぎさ 「あ、紫音ちゃん、間に合ったね」

紫音 「ただいま」

かえで 「で、お母さんの具合、どうだった?」

紫音 「・・・・・・・」

雫 「そうか、まだ…」

なぎさ 「で、でも大丈夫だよ!声をかけ続けていれば、いつかは気が付いてくれるよっ」

紫音 「本当にそんな日が来るかしら…」

あやめ 「そんな弱気ではいけません!為せば成る、なさねばならぬ、というではありませんか」

なぎさ 「え、ちょっと意味わかんないんだけど…」

雫 「行動を起こせば結果が出るってことでいいですよね?」

あやめ 「そのとぉーり(財津一郎風に)」

かえで 「なんか、そのセリフ、どっかのCMで聞いたな…」

あやめ 「ともかく!今はラジオで呼びかけ続けるしか道はありません。DJだった彼女が気が付くきっかけはこれしかないのですから」

紫音 「えぇ・・・」

なぎさ 「わたしも応援するから!」

紫音 「あ、ありがとう・・・(でも、この放送もあと何日か…)」

雫 「私も!」

紫音 「ありがとう(彼女のコーヒーが飲めるのもあと何日か…)」

かえで 「オレもっ!」

紫音 「ありがとう(彼と会えるのももうすぐ終わり)」

あやめ 「わたくしもっっ!!」

紫音 「え、ええ・・・」

なぎさ 「少なくとも夏休みの間はラジオ、続けて行こうね。みんな?」

一同 「サンセーイ!!」

・・・

乙葉 「『Pure Song』、いかがだったでしょうか?私も出ているジャズ喫茶でも、バンドメンバーと一緒に歌を披露していますのでよかったら遊びに来てください。それではほかのメンバーにつなぎたいと思います。」

一同 拍手しながらDJルームに入ってくる。

あやめ 「さすが乙葉チンですぅ!うまいっ」

かえで 「そりゃ、メインボーカル張れるわ、この歌唱力なら」

雫 「乙葉さん、いつ聞いてもすごーい」

なぎさ 「興奮さめやらぬDJメンバーたちですが、ここでいったんクールダウン。名曲の「We are the World」をお届けして、本日最後のコーナーに参りたいと思います。それではDJ乙葉さん、かえでさん、雫さん、あやめさん、お疲れさまでしたぁ」


~~~~ジングル~~~~

なぎさ 「ラジオアクアマリン。日ノ坂町商店街よりお送りしています。さすがにそろそろ夕暮れ時って感じの時刻になってきました。ドライバーの皆さんは、早め点灯で、よろしくお願いしますね。それでは、今日最後のコーナーです」

紫音 「紫音と二人きりのコーナー」

なぎさ (ぱちぱちぱちと拍手)

なぎさ 「このラジオも、早いもので放送を再開してから一か月近くになりました。紫音ちゃんのお母さん・朱音さんに届くように始めたラジオですが、紫音ちゃんの想いをとどけようとこのコーナーを作ってから、私でちょうど一周した形になりますね」

紫音 「でも、私をマイクに引っ張り出してきて、しゃべらせ、お母さんに思いをとどけさせるって企画を出したなぎさには感心するわ」

なぎさ 「えへへ。考えたでしょ?」

紫音 「おかげで、少しだけだけど、気持ちもほぐれてきたし、なんか毎日が楽しく思えるようになってきたの。それもこれも全てなぎさのおかげよ。ありがとう」

なぎさ 「えへへ。紫音ちゃんからお褒めを戴いたところで、今までの4人とのトークからいろいろと思ったことを二人で話し合いたいと思います。まずトップバッターが乙葉さんでしたよね」

紫音 「ええ。でも私、乙葉さんと知り合えたことで、救われたなって思えるんです」

なぎさ 「というと?」

紫音 「彼女は、私がしてきたことを丸ごと飲みこんでくれたんです。声をかけ続けたこと、ラジオで気づかせようとしたこと。声の力、言葉の力を信じることが大切だから、今のままで続けて行けば声はきっと届くって言ってくれたんです」

なぎさ 「私も乙葉さんからそんなこと言われたんだよね。曲の音合わせの時に…」

紫音 「そうだったの…でも、以前コトダマの話をしてくれたことがあったよね?確か初対面の時…」

なぎさ 「そうそう。もうすこしだったのになぁ・・・」

紫音 「あれから、私、自分だけでお母さんにしゃべりかけるときは、少しだけ力を込めて言うようにしているの」

なぎさ 「そうなんだ」

紫音 「さすがに少しくらい反応があってもよさそうなのにな…」

なぎさ 「今までやってこれたんだから、続けて行かないと…ここで止めたりくじけたりしたら、お母さん、目を覚まさなくなっちゃうよ…」

紫音 「そうね。継続は力なりっか…」

なぎさ 「次がかえでちゃん。彼女との話ってぜんっぜん合わなかったでしょ?」

紫音 「そうでもなくてよ」

なぎさ 「ええ、マジで?!」

紫音 「私、お母さんのことしか考えられなかった人生だから、かえでさんのラクロスにかける情熱とか、クラブ活動全体を想う気持ちとかがアツくって、ただただ聞いているだけだったと思うけど、ああ、こんな人生を送ってもいいんだって思えたの」

なぎさ 「うんうん。いつからあんなにラクロス中心になったのかは覚えてないけど…そこに感動したんだぁ」

紫音 「もしお母さんが目覚めてくれたら、私は自分の人生を歩きたいと思い始めてるの。そのきっかけをかえでさんがくれたんだと思ってるの」

なぎさ 「おお、これは意外。次はあやめさんでしたね」

紫音 「今だから言うけど、あやめさんって、すっごいオタク気質の方ですよね(薄ら笑い)」

なぎさ 「あー、それっ言っちゃいけない部類の言葉だと思うけど…」

(ラジオの前のあやめ、ハンカチを咥えギリギリと歯ぎしりwwww)

紫音 「でも、あやめさんの、ラジオに対する情熱は痛いほどわかったし、おかげでただのお遊びで終わらなくしてくれた功績には感謝してます」

なぎさ 「私も勉強になったこと、いっぱいあったなぁ。5秒無言だと放送事故とか、ラジオフリークでないと知らない様な知識もいっぱい教えてもらったし…」

紫音 「そうね。あやめさんもこのラジオを語る上で外せない一人なのは間違いないわ」

なぎさ 「それ、ナイスフォローwww今の会話、ぜったい聞いてるだろうから、もう少し褒めとく? 」

紫音 「あんまりやるとくどくなるからこの辺でw」

なぎさ 「それもそうね。で、前回が雫ちゃんでした」

紫音 「この対談が私の中では一番きつかったかなあ。雫ちゃんって、人の話の聞き上手だけど、自分から話題を作ったり会話を始めたりするタイプじゃないのね」

なぎさ 「うんうん。そんなところはあるな、雫ちゃん。自分からは話題を振らないっていうか、話に入っていくタイプ」

紫音 「でも、彼女の得意分野のお菓子の話にしたのがよかったのかしら。それからはうまく流れにも乗れた感じがする」

なぎさ 「確か、市松模様のクッキーのことがきっかけだったよね?」

紫音 「そうそう。最初はこのクッキー、なんて名前なの、から始まって、結構アニメーションで見かけるんだけどっていったら、そこからこのお菓子がどんな作品に出ているかとか、お菓子が出てくるアニメは間違いなく面白い、とか、語り始めたんだったっけ…」

なぎさ 「そうそう(大笑い)。雫ちゃんって、結構アニメも観てるんだって気がついた日になったんだったよね。意外な一面が知れた回だったです」


紫音 「今まで転校続きで、友達と呼べる人ってほとんどいなかったけど、日ノ坂のみんなと知り合えて本当によかったって思ってます」

なぎさ 「そう言ってくれるとありがたいなぁ。でも最初の出会いって、私、めちゃくちゃ泣いてたんだっけ…」

紫音 「そう。「不法侵入したものですっ」て入ってきて、わんわん泣き出すんですもの。私としてはポカーンって感じだったのは覚えてるわ」

なぎさ 「それから、ラジオやろうってなったんだったよね」

紫音 「最初は乗り気じゃなかったし、マイクを前にしても話すことなんかないし…」

なぎさ 「でも、今こうやって、みんなと知り合えたことで話すことだらけになってきてる」

紫音 「ええ。今までの私がここまで会話しているのも不思議なくらい。実際、話すことはいっぱいあったのに心のどこかがしゃべらせないようにしてたのかなぁ…」

なぎさ 「それはちょっとあるかもしれないよね。でも、その封印を私たちが解いてあげられたのは、紫音ちゃんにとってはよかったんじゃない?」

紫音 「うん。それはあるかもしれない…」

なぎさ 「もう少し機会と時間があったら、紫音ちゃんのこととかもっともっと知っておきたいなぁ。これからもずっと友達でいられるように」

紫音 「なぎさ…そこまで言ってくれるんだね…」

なぎさ 「それはそうだよ。ラジオが結び付けてくれたみたいなものだからね。紫音ちゃんとの出会いは。だからもっともっとおしゃべりしていたいんだ」

紫音 「そう、それもいいわね…」

なぎさ 「なんか、ちょっとトークばっかりになりましたので、耳休めに一曲お届けします。今年公開になったアニメーション映画「夜明け告げるルーのうた」のエンディングテーマ、斉藤和義で「歌うたいのバラッド」」


--曲終わり--

なぎさ 「紫音と二人きりのコーナー、後半戦に移ります。さて紫音ちゃん。実はこのラジオに直接お手紙が届いていたんです。知ってました?」

紫音 「え?住所もわからないのに…」

なぎさ 「とはいっても、ここで放送しているのを知ってるリスナーの方が、直接ポストに入れる形でお手紙くれているんです。で、その数なんと今日までで20数通!!」

紫音 「え…そんなに…」

なぎさ 「「ラジオアクアマリン、復活おめでとうございます」って短いものから、すっごい長文まで。これってすごくない?紫音ちゃん!!」

紫音 「凄いを通り越して…感謝しかないですね」

なぎさ 「でね。今日は、そのお便りを紹介したいと思うの。これからずっと聞いてくれるかもしれないリスナーさんからのお便りでもあるし、紹介しないのはちょっとって思ったりしてるから…」

紫音 「そ、それはいいことだわ。私も内容知りたいし…」

なぎさ 「よかった。じゃあ・・・(ごそごそ)さっそく読んでみたいと思います。うわー、なんかマジでラジオやってるって感じぃ…オホン!」

---ミニFMアクアマリンの復活を心待ちにしていたものです。ラジオの周波数は、朱音さんが事故に遭われる前からずっとそのままにしていて、たまにスイッチを入れて「ああ、どうせやってないわな」を確認するのが日課になってました。それが突然のように、女の子の声が聞こえてきて、驚いたのが7月の初めころ。「お母さん、聞こえますか?」の声だったと記憶してますが、あ、もしかして、あの時のお子さんがラジオを復活させようとしているんだと気が付きました。そうこうするうちに、日ノ坂高校の方々が本格的にラジオに取り組み始めていくのを見て、「なんか青春してるなぁ」と思って聞くようになっていきました。

---今までの朱音さんだけでやっていたラジオと違って、高校生の目線から投げかけられる視点や、作っていくコーナーなどがすごく斬新で、聞いていて私たち大人が気が付かされる点も多くありました。学業のこともあるだろうし、今のメンバーで聞けるのも夏休みの期間だけだろうな、と思って聞いていますが、私としては、私をはじめ、町の人たちが持ち回りでもいいから、このFMを残しておくべきだと思うのです。

---DJなんてやったこともないし、ましてずぶの素人。アクアマリンのご意見番・あやめさんにこっぴどく叱られそうな予感しかしませんが、私としては、高校生のあなたたちの後を引き継いでいけるのなら、そうしたいと考えています。高校生でも出来たんです。大人の我々ができないわけがありません。

---朱音さんの意思を受け継いで、シオンさんがやろうとしていることを私たちの町で盛り立てていく。ミニFMって、そういう場だったと思うんです。だから、是非、このアクアマリンの火は消さないでいただきたいです。それを言いたくて手紙にさせて頂きました。読んでいただき、検討していただけると幸いです。


なぎさ 「ラジオネーム アクアマリンを残し隊 さんからいただきました。こんな内容だったんです」

紫音 「・・・(少しだけ目を潤ませている)」

なぎさ 「(彼女の涙腺も緩み始める)私ね、最初の第一声って、本当にいたずらっていうか、放送されているって感じてなかったの。でもね(涙声に変わっていく)、紫音ちゃんにあって、紫音ちゃんのことも受け止めて、放送をちゃんとやろうって思った時でもね、私、ほかの人が聞いてくれてるって感じてなかったの。よくて、リハビリセンターの人くらい。ところが、この人のお便りにもあるように、周波数ずっと固定でラジオの復活を心待ちにしている人がいたことに感激したの。と同時に、「朱音さんって愛されていたんだなぁ、町の人に」って思ってうらやましかったの。だから、勉強そっちのけでラジオにこの夏取り組もうって決めたの」

紫音 「うんうん・・・(結構涙があふれている)」

なぎさ 「そして、こんな手紙をくれる町の人の愛情っていうか、やさしさがすごく胸に刺さるの。今日まで放送してこれたし、少なくとも私は、私だけでも、夏休みの期間はマイクの前に居ようと思ってる。それから先のことは、この方も言っているように、大人の方々に任せてもいい。この一旦消えたアクアマリンの火を消さないように誰かにバトンは渡したいって考えるようになったの」

紫音 「で、でも、それって…」

なぎさ 「障害があることもわかっている。だいたい、みんな仕事もあるだろうし、この喫茶店だって、いつまでもこのままであり続けるなんて土台無理。だいたい、紫音ちゃんのうちだしね」

紫音 「!!」

なぎさ 「誰かが引き継ぐっていったって、別のところにスタジオ移すだけでも、許可とかいろいろあるだろうし。とにかく、夏が終わってからどうなるかって不透明な部分って多いと思うの」

紫音 「・・・」

なぎさ 「でもねっ!」

紫音、びくっとする。

なぎさ 「この人も言っているように、私たちの役目って、この夏で終わらせていいと思ってる。ラジオのもつ力がこれだけの人に伝わっただけでも、私たちが始めた意義ってものがあるし、これからのことは町の人にゆだねるのが正しいって思ってるの」

紫音 「なぎさ・・・ちゃん・・・」

なぎさ 「そりゃぁ、わたしだって、このまま終わらせるのなんかいやだよ。しのびないよ。でも私たちの役目ってものをこのお便りが気づかせてくれたんだ」

紫音 「それって…」

なぎさ 「ラジオを終わらせないために始めたってこと。12年も放送されていなかったのに、これだけの人たちが気にかけ、応援してくれている。あの時は突然終わってしまって喪失感しかなかった町の人たちも、いま私たちが始めたことであの時の感覚を取り戻しつつあるように感じているんだよ」

紫音 「で、でも、私・・・」

なぎさ 「紫音ちゃんがこの月末でこの町からいなくなることは聞いたし、そうなるとこの建物だって誰も管理する人がいなくなる。でも町のシンボルとして存在し続けていた「アクアマリン」を思い出してくれたことが私たちがこのラジオをはじめた意義だと思ってるんだ」

紫音 「・・・」

なぎさ 「本当のことを言うと、私、この夏でDJ卒業するの、少し嫌だったんだ」

紫音 「そう・・・」

なぎさ 「友達との単なるおしゃべり、私の中だけで満足するはずだったのに、しっかりとした番組にもなってきたし、もう生活の一部。今日のあやめさんの滑舌ではないけど、言葉ははっきり言わないと相手に伝わらないって、すごく重要なことだと思うのね」

紫音 「それは私もそう思う」

なぎさ 「それがコトダマだっていい続けていたわけだけど、こうやって私の言った言葉たちが見ず知らずの人たちに伝わっている。そしてそれがまた人づてに伝わっていく。本気のコトバは、本気のネガイは、伝わるんだな、いつか現実になるんだなって」

紫音 「…」

なぎさ 「だから、ラジオは終わらせたくない。ほかの誰かに引き継ぎたい。そのうち、町内会の人たちとも話し合いを持ちたいなって思ってるの。私たちの後釜とか、これからの運営とか。この放送、町内会の人が聞いてくれてると助かるんだけどなぁ…」

紫音 「それもいいわね」

なぎさ 「そもそも紫音ちゃんのお母さんが始めたラジオ。紫音ちゃんの想いもだけど、お母さんの朱音さんの想いも無駄にしないようにしないとね」

紫音 「そうしてくれると、私もうれしい。お母さんの伝えたかったものも守られるだろうし…」


なぎさ 「さて、放送時間も残り少なくなってきました。今日はわたくしDJなぎさからお願いがあります。私たち日ノ坂高校の面々がDJとしてお耳にかかれるのも、そう長くはありません。今は確かに喫茶店にあるスタジオで放送できていますが、9月に入ってからどうなるのかが全く不明なのです。ただ、ラジオをこのまま終わらせたくないっという思いは、私たち女子高生DJ全員の総意でもあります。私たちの後に続かなければ、確実にまたラジオのない、あり来たりの毎日になってしまいかねません。今日明日、の話でなくて結構です。ラジオを引き継いでやってみたい、という方がいらっしゃいましたら、ぜひ手を上げていただきたいのです」

なぎさ 「私たち高校生DJのできることは何とかやってきたつもりです。これから先のことにしても、どういう形であれ、とにかく電波を出し続けていくことが、大事だと思うのです。私たちがそうであったように、そして朱音さんもそうだったように、最初はみんな素人です。だからその一歩が踏み出せないのもわかります。町のためになるかどうかもわからない、その気持ちも十分に理解できます。でも、12年前まで、町の生活の中にこのアクアマリンはありました。そして、今、ラジオのある生活というものが町の人たちに何かを与え続けていられることに私は感謝しています」

紫音 「そこまで…」

なぎさ 「だからこそのお願いです。ぜひこのアクアマリンの火を消さないでほしいのです。ずっと放送し続けてほしいのです。私たちの後を引き継いでほしいのです。これで終わらせたくないのです。だから…だから…(涙で言葉にならなくなる)」

紫音 「なぎさちゃんの気持ち、皆さんにも伝わったことだろうと思います。」

なぎさ 「紫音ちゃん…」

紫音 「私だって、最初はお母さんがラジオから聞こえてくる私の声に反応してくれるかなって試しで始めたのがきっかけでした。別に町の人とか、他人のことは全く考えてませんでした。でも、なぎさちゃんに勧められるままにDJをやっていくうちに、私の中でもいろいろと変わり始めていきました。私のことやお母さんのことを町の人が覚えていてくれたこと。12年、お母さんと向き合いつつも、看病ばかりで、ろくに楽しいこともなかった今までの中で一番楽しい夏休みを過ごさせてもらいました。そのことは、なぎさをはじめ、日ノ坂高校のDJさんたちには感謝してもしきれません」

なぎさ 「うんうん・・・」

紫音 「私の母は、意識をとりもどさないまま、いまだに寝たきりです。私の呼びかけ、DJのみなさんの呼びかけも、今のところ効果はありません。それでも、アクアマリンを復活させられたことは、母の望みでもあったのかな、と思ってもいます。私自身はこの月末で町からいなくなってしまいますが、ぜひ、ラジオ・アクアマリンは場所が変わっても、続けて行ってもらいたいです。私矢沢紫音からもお願いいたします」

なぎさ 「紫音ちゃん、ありがとう。やっぱり、朱音さんの娘さんが言うと、リスナーの方にもギュギュっと伝わったんじゃないかなぁって思います」

紫音 「伝わるのって、ギュギュって感じ、かしら?」

なぎさ 「うーん、こういうときの効果音って思いつかないよ。ズキューンってどうかな?」

紫音 「誰に狙われたの?ライフルかなんかで」

なぎさ 「あーーー、もうこういう時、伝え下手の私だとせっかくの良い話も台無しになっちゃうんだよなぁ」

紫音 「(少し薄笑いを浮かべながら)そのパーソナリティーがなぎさのいいところなんだけど」

なぎさ 「それって、褒めてくれてるんだね?」

紫音 「まあ、そういうことにしておきましょう(苦笑)」

なぎさ 「というわけで、最後は感情が入りまくってしまってお聞き苦しい点もありましたことはお詫びいたします。しかし、私たちが真剣に取り組んだ結果を途切れさせたくない、という思いはご理解いただけたと思ってます」

紫音 「そうですね」

(エンディング「キボウノカケラ」フェードイン)

なぎさ 「では今日もこの曲、NOW ON AIR 「キボウノカケラ」をかけながらお別れです。本日もお聞きくださいましてありがとうございます。明日も、午後3時より、放送を開始いたします。本日最後の「紫音と二人きりのコーナー」、私DJなぎさと」

紫音 「DJ紫音でお送りいたしました」

なぎさ 「それではみなさま」

なぎさ・紫音 「ごきげんようぉぉ」


~~2017.8.某日 ラジオアクアマリン放送記録音源より書き起こし~~


後書き

当方としては8作目のSSとなりましたが、いかがだったでしょうか?
とにかく、6人のキャラを立たせないといけない(夕に関しては、まだラジオに絡んでいない時期であり、結果的に登場しませんでした)。方向性などは、3回見て何とかつかんでいるつもりでしたが、それでも物足りないと感じて、実に! 20年ぶりに映画のパンフレットを購入(そうです。「君の名は。」ですら、買っていない私が、ですよ)。彼女たちにより一層近づく準備もして臨みました。
実は一番難しかったのが、会話に絡んでこなかった乙葉。曲作りという局面では破壊力抜群でしたが、そこだけしかクローズアップされなかったので、実際の会話とか、想いなどがどこまで私が追えるのか、が一番の課題でした。あやめは小難しくしゃべらせておけばいいし、かえではボーイッシュに。雫は、私の中では少しだけサヤちんを思い起こして書いています。なぎさは、主役であるものの、感激屋なのでそこも考慮しながら書いていったつもりです。
ラストの二人の語らい。これは、当方の勝手な、そして物語の設定にない部分になりますが、全体的に軽かった物語に少しだけ重みを与えたいと感じて創作しました。紫音がどれほどの想いを持ってここまで来たのか…言霊を信じる、見えるなぎさに何が求められているのか…難しいというよりは、どういうエンディングにしようかと悩む局面になったのは事実です。

ただ、彼女たちの「コトダマラジオ」は、最初の遊び半分から、完全に町のコミュニティーラジオに脱皮していった。そして、放送する場所を失っても機能できたことをやはり大きく取り上げたいとおもいました。なので、最後の二人のコーナーには、直接投函されたというお便りを紹介するシーンも加えました。
ラジオで育った当方をはじめとする中年層以降は、ラジオの偉大さを知っています。それを今の世代に伝えるべきではないか、とも考えています。
初稿から一か月でようやく一通り完成いたしました。


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