2015-02-14 01:39:00 更新

概要

鎮守府に着任した長門が感じた不安。そしてその原因との相対。長門はくじけない。


前書き

初投稿ー。ちょっと思うところがあったので書いてみた。不安いっぱい。
誤字脱字、誤表現、文章の甘さは初めてって事で見逃してください。
読んでくれる方へ、感謝。長門視点の短編SSです。


「私が、戦艦長門だ。よろしく頼むぞ。」

他の提督と比べると、若い提督の所に着任した。

その割には落ち着きのある、そして翳のある提督だった。

深海棲艦を駆逐し戦果を挙げる事を望んでいる私としてはいささか拍子抜けだった。

「着任お疲れ様です。私が鎮守府の案内をさせて頂きます」

「よろしく頼む」

そんな事を感じたせいか着任した鎮守府全体が、どことはなしに活気がないように思えた。

新人の私に対して距離を置いているようなわけではない。

どちらかというと私かそれとも別の何かに気を使っている、そんな気がする…。

鎮守府は広く施設を回りきった時には夕日が眩しかった。

案内役の彼女と共に波止場の見える位置まで来た処でどこからか子供のような声が聞こえた。

「駆逐艦たちか?」

視線をめぐらせてみると、本物の子どもがいた。

思わず声が出そうになるのを堪えゆっくりと呼吸をした。

そこでふと思う。本物等と思うのは失礼だな、と。

だが私たち艦娘ではない、人の子ども、ましてや児童とも言える年齢の子どもが鎮守府に居るのが不思議だった。

私の内心を見抜いたのか横にいた彼女が口を開いた。

「気になりますか?」

「あぁ、まさか子どもが鎮守府にいるとは思えなくてな」

「あの子は提督の一人娘ですよ、時々こうしてみなさんと遊んでいるのです」

そう言った案内役の表情はやはり翳があった。

「少し質問していいか?」

「どうぞ」

提督は何を考えてとか、何故子どもが、など色々思いつくが言葉が上手く出てこない。

何とか、口にした言葉は

「子どもが何故鎮守府にいる?」

少し後悔した。

迷った挙句が先ほど口にした事と変わらなかった。

「子どもが居てはいけませんか?」

「いや、提督の娘が何故ココにとか、命令でも受けているのかとか、危険ではないかとか全てひっくるめての質問だ」

口にした瞬間気づく。

彼女の促しは私のために口に出してくれたのだと。

苦虫を噛み潰したような顔になりながらも視線を案内役に向けると、そこに彼女はいなかった。

慌てて振り向いたが彼女は少し離れた所にあるベンチに向かって歩いていた。

仕方なしに私もベンチまで歩いていき、隣に座った。

「申し訳ありません。少々かかる話なので座って話しますね」

「わかった、頼む」

「提督の御子様ですが、命令で一緒に遊んでいるわけではありません。私たちの意思で一緒にいます」

「で?」

「そして、今現在での話ですが鎮守府は安全です」

「何故そう言い切れる?」

「鎮守府近海は海上・海中による二重の警備を行っています」

「海中?」

「潜水艦による近海の警備です」

「しかし、いや、だからと言って完全ではないだろう?」

「確かに完全にとは言い切れないでしょうが、それでも様々な『対策』がありますのでそこまで心配する必要はありません」

話を反らしにきているとは思ったが敢えてのった。

「対策とは?」

「まず、海中には広範囲に渡って機雷が敷設されています」

「不便だな」

「それと先ほども言いましたが、海上・海中による二重の警備網」

スルーされた。

「さらには海からは建物が邪魔になって直接狙えません」

「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるともいうがな」

「一航戦の二人がそもそも近寄らせませんし、もし三式弾のような攻撃が来たら私たちが盾になればいいことです」

カチンときた。

「そもそも子どもがこんな所で遊ばなければいい事ではないか?」

「子どもには遊び場が必要ですよ?」

混ぜっ返されて苛立ってきた。

「別のもっと安全な場所にすればいいだろう。それに私たちが盾になれば被害が出る」

「私たちってそんなに柔ではないですよ?」

苛立ちで声が荒くなる。

「答えろ!何故ココなのか!」

「…御子様の母親が亡くなっているからです。無条件に味方で、守ってくれる母親はもういません。御子様が安全に遊べる場所はココが一番安全なのですよ」

衝撃を感じた…私たち艦娘には【親】はいない。

居ないのが当たり前なのだから。

生まれながらに様々な知識を有し戦場を駆け巡り深海棲艦を駆逐する私たち艦娘は、守る側であって誰かの庇護下にはいない。

守ってもらわなければ生きていけない存在がこうも儚いものとは思いもよらなかった。

キケンだ、ここでは遊んではイケナイ、別のバショで

守ってくれる人が居なければ、キケンと言われたらどこへ行けばいい?

私は誰だ? 戦艦 長門だ。

深海棲艦を駆逐するだけの存在ではない。

守るために生まれてきた。

戦功ばかりを焦って自分の本質を過つ所だった。

守ればいい。

ただそれだけだ。

苛立ちで煮えたぎっていた頭が冷えると同時に案内役は微笑んできた。

「今更ですまない、案内役、貴女の名「大淀です」」

言葉尻に言葉を被せてきた…。

「ずいぶんとイイ性格だな、大淀」

「計算どおりですから」

「なら計算ついでに教えてくれ。あれはいつもなのか」

指さす方角には提督室があり、窓際には泣き出しそうな顔をしながら娘を眺める提督がいた。

「…ええ」

沈痛な面持ちの大淀が辛うじて言葉を紡ぎ始めた。

「逢魔が時とでもいいますか、この時間はそうですね」

「原因はなんだ?」

「…無くす事への恐怖でしょうね」

「奥方が亡くなったのはいつだ?」

「ずいぶんと不躾な質問をしますね。……一年程前です」

「一年も、か」

「『も』と捉えるか『しか』と捉えるかは各々差があると思いますが?」

「提督である以上、あのような状態では士気に響くだろう?」

「ついでに加えるなら。この一年弱、警備こそ強固ですが、海域攻略は一切していません」

「な…」

あまりの腑抜け具合に堪え切れなかった。

「馬鹿な、喪に服して一年も棒に振ったとでもいうのか?!」

思わず大淀の顔を凝視してしまう。

「提督は何も口に出しません、辛いとも、悲しいとも、苦しいとも、ただ黙って一日一日を耐えています。提督の時間は奥様が亡くなったあの日からずっと止まったままなのかもしれません…」

信じられなかった、あまりにも価値観が違い過ぎた。

かぶりを振ってから提督室を見直すとそこには誰もいなかった。

部屋の奥に下がったのかと思い凝視しようとするが

「そろそろ夕食の時間ですからね、少し待てば迎えに出てきますよ」

そう言われたので素直に待つと建物から出てくる提督の姿があった。

少し離れた所で父親に気付いた娘が駆け寄り抱き付く。

提督はしっかりと抱き留めそのまま抱っこして歩いていた。

先ほど見せていた泣き出しそうな顔はそこにはなかった、が逆にその姿が痛々しすぎて見ていられなかった…


夕食後、自室に戻り横になってはみたものの大淀との会話ばかりが頭を駆け巡り落ち着かない。

情けない、情けない、いくら提督であろうと、父親であるんだし、男であるんだし、自分の感情を押し殺してよいものか。

挙句、回りへの配慮のつもりが現状を停滞させている原因になっている事から目を背けている。

余裕が無い時こそ回りを頼ればいいのだ。何故そうしようとしない。

ここにいるみんなはそんなに頼りないとでも思っているのか、あの提督は。

自分が悩んでも解決するわけではない。

なら、ぶつかってみるか。

元より悩んでいるのは性に合わない。

提督室までに落ち着こうと一呼吸入れ、歩いていく内に思考が一つに纏まりつつあった。

どう話すべきか纏まった所で提督室のドアをノックする。

中から返事があったので入室許可を得てからドアを開く。

「失礼する。提督に少々質問があり夜分申し訳ないが参上した」

「何か鎮守府で不明な点でもあったのですか?」

「その態度です」

「?」

どことはなしに活気がない鎮守府に不審を感じた。

提督自身にも同じモノを感じた、そして提督が原因なのだと思ったと告げる。

「そう感じた理由は?」

「奥方の事を聞きました」

「聞いてしまいましたか…」

「はい」

「しかしながら長門さん、私は、その事は区切りをつけているつもりです」

「お言葉ですが提督、『つもり』など口にする時点で吹っ切れていないと思います。そして『その事』等と直接口に出来ない事が提督自身の心の傷の深さの表れだと私は推測します。」

「それは長門さんの自説ですか?」

提督はそういうと鼻で笑った。

「何が可笑しいのでしょうか、聞かせてもらえませんか?」

「私が区切りをつけていないとしても、何か問題がお有ですか?」

質問を質問で返され、まともな会話をする気はないと判断した。

攻め方を変えてみるか。

「稀にみるヘタレだな、貴様は。提督という権限で回りを封殺し殻に引きこもるか。まるでシジミのようだ。」

そう言って嘲笑と侮蔑した態度をとる。 

提督室付近にいたのか、天龍が挨拶もなく室内に入ってきて怒号した。

「長門てめぇ!」

天龍の怒号で廊下が騒がしくなる中、提督自身が私を挑発してきた。

「口先だけはさすがビッグ7ですね。陸の上でもビッグ7なのでしょうか。実は吠えるだけしか能のないピッグ7じゃないのですかね?」

提督に忠言しようとしていたがビッグ7の名を汚された瞬間キレた。

拳を打ち鳴らす。

どうやら口では伝わらないようだな。

向こうでは提督が帽子と上着を脱ぎ、近寄りつつ口を開いた。

「パフォーマンスは終わりましたか?」

言い終わるな否や提督の顔面への渾身の右を放ったが、横に避けた提督に腕を取られ引き倒されそうになる。

強引に腕を引き抜き、上体を起こした所で目の前に提督の掌底があった。

口と鼻を打ち上げるような掌底で上体は崩れ、息も詰まった。

何とか顔を戻そうとしたが、動きに合わせて一撃を顎にくらってしまった。

視界がぶれる。

三度崩され、体勢を立て直せないまま今度は腿に蹴りをくらった。

足に力が入らなくなってしまい右に傾いてしまった所で右の打ち下ろしをもらった。

うずくまるような体勢にはなったがダメージは、ほぼ無い。

が、身体の硬直だけはどうにもならない。

なりふり構わずタックルに行ったが提督に頭を掴まれそのまま顔面に膝を打ち込まれる。

膝蹴りを入れられつつもそのまま提督を抱きしめる形で引き倒そうとしたが、素早く腕から逃れた提督に左腕を決められ仰向けに投げ倒された。

追い打ちに顔面への踏みつけを食らった処で、このままではダメだと悟った。

力では勝っている自信はあるが技術で負けている。

しかしビッグ7としてのプライドもある。

部下としても、提督には腑抜けでいられては困る一心から必死に言葉を探す。

「そんな程度があなたの本気か?私はまだ何度でも ゴッ」

提督に踏みつけられる

何度も、何度も、何度も

肉体的には損傷はないが衝撃からどうしても息が詰まる

手は出せないが地面に仰向けでいる以上提督の顔はしっかり見える

憤怒に満ちた顔だが何故か胸元を片手で抑えている

別に息が上がって苦しいわけでもないように見える

唐突に私は悟った。

「提督よ、命は有限だ」

「私たち艦娘は不老ではあるが、不死ではない」

「人と同じに死ぬ」

「だから、命ある限り、私たちは、艦娘は、大切な気持ちを伝えるのをためらわない!提督よ、あなた自身はどうなのだ!今日を、明日を、毎日をそうやって後悔を滲ませ、気持ちを封じ込めたまま生きていくのか!」

「提督として、人として、男として、父親として、胸を張って生きられるか?!」

何のために生きるのか、何を為すのか。

私が提督に向き合って欲しいと思ってる。

伝えた。

届いただろうか。

静寂が支配し始めた。

胸を踏みつけていた足をどける、上半身を引き起こす。

数歩引き下がった足音がする。

下がってしまった事で気持ちが溢れて出てしまったのか提督が嗚咽し始めた。

振り向くと、立っていることも出来なくなったのか膝立ちでむせび泣く提督がいた。

「天龍ちゃん、ちょっと通してほしいのです」

「おっと、あぁ」

膝立ち状態の提督の頭にタオルがかかる

「両者痛み分けなのです」

初期艦腕章をしていたとはいえ、駆逐艦に割って入られ不満はあるが、沈黙することで了承する。

「長門さん、やり過ぎなのです」

提督に振り向き正座する事で顔の高さを合わせる電

「司令官さん、今長門さんが口にしたように電達、艦娘は、いつかは死ぬのです」

「でも命令一つで栄光を運ぶのです」

「命令一つで死地にも向かうのです」

「命令一つで困難にも打ち勝つのです」

「明日会えなくなるかもしれない私たちだから、大切な人への気持ちをちゃんと伝えるのです」

「だからたとえ沈んでも後悔はしないのです」

「先に沈んだなら奥様を迎えに行ってくるのです」

「一緒に沈んだなら三途の川も一緒に渡るのです」

「残されたなら、忘れない事で、伝える事で、気持ちを繋ぐのです」


「でも出来れば助けたいのです…」


一目をはばからず電を抱きしめる提督。

「あらぁ、提督ぅ、抱きしめるのは電ちゃんじゃなくてこっちでしょ~」

龍田がそういう先には抱っこされ寝ぼけ眼の一人娘がいた。

タオルで顔をぬぐい娘を抱きしめる提督。

抱きしめる力に何か感じたのか娘が父親の頭を撫でつつも質問した。

「おとーさんどうしたの?」

再び泣き出してしまい言葉が出ない提督。

娘もつられて泣き出してしまった。

提督室に鳴き声がこだまする。

少し落ち着いてきたのか提督が涙を流しながら娘にこういった。

「父さんな、母さんが亡くなってから凄い不安だった。お前が父さんの前からいなくなってしまうんじゃないかって。みんなが父さんのせいで帰ってこれなくなるんじゃないかって」

「おとーさん、だいじょうぶだよー。おとーさんのむすめだもん、いなくなったりしないよ」

「へっ、俺様がそうやすやすと沈むかよ」

みんなで天龍を睨み付けた。

その後も黙ったまま娘を抱きしめてた提督

「悲しい事があって泣きたいときはパァーって泣けばいいの。泣いて喚いて抱きしめて、助けてもらえばいいの」

思いがけない娘のしっかりした言葉に驚かされる。

「あぁ、そうだな。ありがとう、娘よ」

「どういたしまして」

「あの~、司令官さん?そろそろいい時間なので娘さんは寝させた方がいいと思うのです」

「そうだな、娘よ、父さんはまだかかるから一人で先に寝ていておくれ」

「え~」

「じゃあ、俺様と一緒に寝るか?」

出遅れた雷が若干泣きそうな顔をしているが無視しておこう。電に任せればいいだろう。

天龍と龍田に手を繋がれて部屋に戻っていく提督の娘。

「たつたおねーさんもいっしょにねるー?」

「はいはい、いいわよ~」

遠くでそんなやり取りが聞こえた。

「さて司令官さん、部屋があまりにも酷いので掃除をしたほうがいいと思うのです」

「頼めるか…?」

「だそうです、長門さん」

ちゃっかりこっちに押し付けようとしてきた。

「すまん、頼むわ 長門」

苦笑交じりの顔をした提督に言われてしまった。

その顔には翳が無かった。

髪をかきむしりながらもこう答えるしかなかった

「いいだろう」

こうして一人で提督室の後片付けをする羽目になった。

取り敢えず現状の把握をしてみたが…絨毯と床に血がついている、以上。

思ったよりやる事が少ないが、敷いてあった絨毯は自分の血でしみ抜きが必要だった。

床掃除してから別の絨毯を引っ張り出した。

不幸中の幸いとでもいうべきか、投げられたがモノを壊したりという事はなかったのであっさりと片付いた。

取り敢えず鏡を見たら顔を重点的に攻撃されたので鼻血の後がある他、顔の左側が腫れあがっていた。

風呂かサウナでも入って早く腫れを引かせなければと思って大浴場まで行ったが

入渠になった…。

戦艦相手に素手で損傷させるとはどうなんだとも思いつつ、高速修復材が用意されていたのでありがたく使わせてもらった。

風呂に浸かって考えていると、少しくらいはやり返そうかと考えがよぎった。




翌朝早くから、私は提督室にて仁王立ちで待っていた。

ドアを開く音がし、提督が姿を見せる。と同時こちらに気付き驚いた顔をする。

その表情に満足した私は、したり顔で提督を見ながら声を上げた。


改めて挨拶といこう。

「私が、戦艦長門だ。よろしく頼むぞ。殴り合いなら任せておけ」



後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。
アニメ3話見て思うところあったので感情に任せて書いて、直して、悩んで、結局投稿してみました。
最初に大まかな流れ考えてから投稿するまでに、三週間かかったぞ?!
正直書いてる途中で、書いて終わりにしよう、そうしよう。投稿したら黒歴史になるんじゃね?って思いました。今も思ってる、すげー不安。
ただ深夜のテンションで何%か経験って意味でやってみようかと思うのでチャレンジ。
そうそう、前書きで『長門視点』と書いたのは、提督の話を書こうとしてその中でのやり取りの一つがコレと。
提督視点の話は書いてもいません(笑)プロットの段階
もし書き上げて投稿できる心の余裕があればやってみようかと思います。
最後までお付き合いして頂き誠にありがとうございます。


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このSSへのコメント

1件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2015-05-28 10:25:00 ID: Y94qCkk7

なかなかおもしろかった


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