2018-08-09 17:40:49 更新

概要

最近の使徒を倒してから数日が経った。ミサトは責任者としての作業に追われ、精神的に詰まる中、シンジはある猛暑の昼にレイの部屋を訪れた…。


前書き

すみません、物語の展開で詰んでます。

2018/7/23最終更新

基本的に地の文はミサトとシンジの一人称です。
一部例外あり。

更新が多少亀です。これからもそうなると思いますが、頑張りますのでご了承願います。

シンエヴァの公開年とうとう決まりましたね!
楽しみで仕方ありません…!


prologue



シンジ「じゃあ、また明日…」


レイ「おやすみ…」


バタン




シンジ「………」トボトボ


月がまぶしい。街灯なんてなくても、遠く向こうの道がひらけて見えるくらいに明るかった。僕は浮かない顔をしてミサトさんの家に帰っていた。

…綾波の家に通い始めて何週間か経った。

自らの気持ちを告白するという、ちょっと昔のラブコメ的展開というよりは、自然な成り行きで家に通うようになったという、現実的で静寂な展開に過ぎなかった。


綾波の家に通い始めるきっかけは、リツコさんが綾波に、再び更新された新しいICカードを渡しそびれて、僕にその配達をお願いされたのだ。

その時、前回綾波の家に来た時のあの感触が、また生々しく蘇った。あの、入れ物のような体に付いた真っ白な二つの乳房…。故意ではないとはいえ、柔らかいL.C.Lの匂いと、綾波のあの無表情な顔を思い出すと、確かに象徴的な何かを感じて、僕はその後もそれを思い出しては、自らを安定させていた。

ICカードをリツコさんから受け取る。無機質なカードに、無機質な綾波レイの写真。綾波は相変わらず、身体的な成長はあまりないように見えた。


綾波の家のドアの前に立ち、僕はインターホンを試しに押してみた。やっぱりベルは故障していて鳴らない。ノックを軽くしてみる。


シンジ「綾波?僕だけど…」


すると、ドアが開いた。綾波はまだ寝巻きで、目を擦りながら僕を見た。


レイ「どうしたの?」


シンジ「…綾波、まだ寝てたの?」


レイ「…昨日、再テスト徹夜だったの」


シンジ「そ、そうなんだ…お疲れ様。あの、ICカードがまた新しくなったみたいだから…」


レイ「…そう。ありがとう」

僕はレイにカードを渡した。


シンジ「じゃ、僕はこれで…」


レイ「……」

綾波は僕をまじまじと見つめていた。或いは僕ではなく、その背景を見ていたのかもしれない。すると、綾波は口を開いた。


レイ「…上がる?」


綾波の家にある物といったら、あの固そうなベッドと、水の入ったビーカーと包帯と処方箋とその薬が上に乗った引き出しがあるくらいだ。…あとは…父さんの眼鏡か。

カーテンの隙間から、もうすぐ昼間を告げる太陽の日光が漏れている。もし僕がここで冗談半分にカーテンをバッと開けてしまえば、綾波は砂になって消えてしまうんじゃないかな、と思うほど暗く、そして暑い。

僕は丸い椅子に座って綾波の入れるコーヒーを待っていた。綾波はネスカフェのコーヒーの粒が入ったボトルを頻りに見つめ、やかんがコトコトと音を立てているのが少し聞こえてくる。僕はなんだかこの部屋がどうしてもぎこちなく感じてしまい、落ち着かなかった。でも、あの眼鏡を見ると、いくらか落ち着いたーー、いや、妬みのようなものがーー、感じられる場合もあったかもしれない。


レイ「…コーヒーってこれ、どれくらい入れればいいの?」


シンジ「スプーン一杯程度でいいんじゃないかな」


レイ「これくらい?」


シンジ「…まあそんなもんか」


綾波はコーヒーをカップのなかに入れ、やかんの熱湯を入れようとした時だった。


レイ「あっ!」


シンジ「どうしたの!?」


レイ「火傷…」


シンジ「ああ、可哀想に。すぐ冷やそう」


レイ「大丈夫、ちょっとだから」


シンジ「ほらいいから、手を」


僕は何も考えずに綾波の手を取り、流しの蛇口をひねり、流れる水に綾波の手を当てた。

当てている間、綾波は僕をしげしげと見つめているのに気づいた。そこで僕の顔は思い切り赤くなった。


シンジ「あ…ごめん」


綾波の手をパッと離す。


レイ「いいえ…ありがとう」


シンジ「…コーヒー、入れようか」


レイ「ええ」


僕はやかんを持ち、コーヒーの入ったカップに熱湯を注いだ。熱湯の流れる心地よい音と、コーヒーの香りがする。すぐそばで綾波の香りが加わり、僕の心臓は乾いた音を立てていた。


僕と綾波は二人対に座って、コーヒーを飲んだ。苦味が舌を刺した。綾波は何の反応もなくコーヒーを飲んでいた。

しかしこんな暑さの中、熱いコーヒーを飲んでいるのに綾波は何食わぬ顔をしているのがすごいと思った。僕は随分汗をかいていた。でも僕はこの沈黙の時間が少し幸せに感じていた。


レイ「…楽しい?」


シンジ「えっ?」


いきなり聞いてきたものだから僕は少しびっくりしてしまった。


レイ「今こうしているの、楽しい?」


シンジ「あ、うん…。綾波とお茶することが出来たのはとても嬉しいよ」


レイ「そう…」

少し、綾波の顔が赤らむ。


レイ「…今こうしていると、心がポカポカする」


シンジ「え、う、うん…」


僕はとっさにコーヒーを飲んで逃げる。綾波らしくない告白に似た綾波からの発言だった。いや、コーヒーが温かいからポカポカするのだろうか?だが外気はポカポカどころかギラギラ太陽が照りついている。色々考えているうちに、コーヒーを飲み終えてしまった。


シンジ「じゃ、じゃあ僕はこれで帰るね、宿題やらないとっ」

僕は何故だか分からないが、さっさと帰る支度をして外へ出ようとしていた。羞恥からだろうか?そうに違いない。

玄関ドアを開ける時に振り向くと、綾波がすぐそばで僕を見ていた。急な接近に僕は思わず息を飲んだ。そして、シュンとした顔をしている綾波は息をかけるように僕にこう言った。コーヒーと微かなL.C.Lの匂いがした。


レイ「…また来て」


シンジ「う…うん。また来るよ、絶対」

僕は玄関ドアを開けて綾波の家を出た。

こうして綾波と僕は逢瀬を重ねるようになった。最初は手を繋いでみたりするだけで綾波の顔が赤くなったりするくらいだった。でも次第に愛というのはエスカレートしていくものである。肩をくっつけ合うようになる。ハグをするようになる。接吻をするようになる。そして…。



その、そして、のあとに続く言葉の行為をしたのがまさに今、僕が常夏の星空の下を歩いている夜に起きたことだったのだ!

ぼんやりと考えながら歩いていくと、駅が見えてきた。時間帯はまだ早い21時台だったので、仕事帰りのサラリーマンなどはまだまだいた。アスカやミサトさんはきっとできあいの食材で夕食を済ませていることだろう…いや、お姫様状態の彼女らに自分で夕食を済ませるということがあるだろうか?そう考えたら、何か買った方がいいかもしれない…。

そして今、綾波は何食わぬ顔で、しかし動揺を隠せない状態でいるだろう。何故なら僕だってそうなのだから。あの、簡易的なベッド、その上に散らばる包帯、月の光が照らす白の裸体、そしてそれを包み込む己の身体…。

もう、ミサトさんたちのことを考えることが、脳内で物が軋む音に邪魔されて、次第に出来なくなっていた。ミサトさんたちに勘づかれる前に、今日はさっさと帰って、さっさと寝てしまおう…。

僕は最寄りの駅に降りた時にそう決心した。



葛城宅


アスカ「遅いわねぇあいつ」


ミサト「全く、いつまで遊びに行ってるのかしら?シンジくんの同級生って、もしかして夜遊びするような子なの?」


アスカ「ぜんっぜん。一人は関西弁を話すタチの悪いやつで、一人は異常なまでのサバゲーヲタよ」


ミサト「…シンジくんは変わった子に好かれるわね」


アスカ「あのシンジもただの馬鹿変態だけどね……ぁあーーっ!超お腹空いたんだけどォ!この美しい私と美しい三十路をほっぽって一人遊ぶなんて、許せないわ!」


ミサト「三十路は余計よ…」ギロッ


アスカ「あっ、いっけね」


プシューッ


シンジ「ただいま」


ミサト「こんな時間まで何やってたの?心配してたのよ?」


シンジ「すみません…トウジがゲーセン行く行くってうるさくて…」


ミサト「今度から、なるべく早く帰りなさいよ」


アスカ「ちょっと!私たち何も食べてないから飢えて死にそうなのよ!!」


シンジ「そうじゃないかと思ってたから…」


シンジはかなり大きいレジ袋を床に置いた。


シンジ「すみませんが、僕はしばらくの間炊事をしないことにしました。ミサトさんには申し訳ないけど、元の生活に戻ります。今日はインスタント類のものを、これでもかというくらいに買ってきました。どうか、これで済ませて頂けるとありがたいです」


アスカ「なっ…」


ミサト「どうしたの突然…またどうして?」


シンジ「…僕には少し時間が欲しいんです。そうですね…僕もそういう年っちゃあそういう年だから、思い詰めることはいくらでもあるんです。だから、少しでも時間を得ようと思って…それに、疲れましたし…」


ミサト「…そうね。少しシンジ君に頼りすぎてたところがあったかもしれないわ。いいわ」


アスカ「ミサト!」


ミサト「いいのよ。前の生活なんて全然慣れてるし。アスカも…まあ協力してあげなさい」


アスカ「…なんでよ…楽しみにしてたのに…」


シンジ「えっ」


アスカ「いいわ!何でもない!虚弱なアンタのことだから仕方ないわ!この私がカップラーメンで我慢してあげる!ありがたく思いなさい!」


シンジ「う…うん」


アスカ「さーて、何を買ってきたのかしら…」ガサゴソ


シンジ「じゃあ、僕はもう風呂入って寝ますね。すごい…疲れてるんで」


ミサト「そう…おやすみ」


シンジ「おやすみなさい」


シンジは風呂へと向かった。


ミサト「……」


アスカ「おっ!UFOの塩焼きそばじゃん!これ食ーべよっと」


ミサト「そうね、じゃ私はサバ缶とカップヌードルのカレーにしようかしら」


アスカ「ふん、オヤジねオヤジ」


ミサト「うっさい!……ねぇ、アスカ」


アスカ「?」


ミサト「シンジくん…今日は何をしていたか、分かったわよね?」ニヤリ


アスカ「……あたぼうよ」ニヤリ


女の目は刃より鋭いことを知らない僕はまだまだ鈍感であるということに気付かないままベッドに入った。しばらくぼんやりと暗い空間を眺めていたが、やがて本当に眠くなって、深い眠りへと落ちた。カチッというティファールのポットの沸騰が完了する時の音が聞こえた。

僕はレイの夢を見た。


その夢は、あの夜の時だった。僕は綾波のベッドに仰向けに横になり、それを裸の綾波が覆って、僕の顔を見つめている。僕も裸だった。その部分はあの夜の時と一緒だった。唯一違うのは、雨が激しく降っていることだった。


レイ「…楽しい?」


レイは僕に聞いてきた。


シンジ「…これは、楽しいとかのことじゃないと思う。人間的なことなのかもしれない」


レイ「…私は人形じゃない」


シンジ「…うん、それはそうだ」


僕と綾波は抱き合いながら深い接吻を交わす。雷が向こうの方で鳴り響き、雨が一層激しくなる。先導したのは僕だったと思う。綾波は何も知らないから、人の愛し方も、自分の愛し方も…。雷が光ると、一瞬、綾波の白い身体、赤い瞳が視界に入っては消える。その時だった。

綾波は僕の硬く、熱くなったものを持った。綾波の手は冷たく、優しく、背徳感なんて全くない純潔な手だった。人の愛し方を知らない綾波が何故それを持ったのか、持つことを知っていたのかはよく分からない。生物学?そんな堅苦しい概念で綾波を見たいとは思わなかった。

すると、綾波はゆっくりと上下に動かし始めた。僕は少し呻く。快感、焦燥、外気のせいで汗をびっしょりとかいていた。動かしている間、綾波は無表情で僕の顔を見つめていた。特に意識してはいないようだった。ただ、僕が悦びを得ているのかにだけ興味があるように見えた。

やがて僕はもう我慢がならなくなった。その時、雷が同時に光る。その前に大きく光った雷の音が同時に大きく鳴り響き、僕はそこで射精した。ドロドロした、あの人間の全てが詰まった液体が綾波の顔にかかった…。


はっと目を覚ました。僕は汗をぐっしょりと、Tシャツが雑巾みたいに濡れるほどかいていた。そして、僕のペニスが勃起をした状態で、下着まで濡れていた。夢精だった。

時計を見ると午前の三時近かった。僕は吐息をつきながら、そばにあるボルヴィックの水を開封し、一気に飲み干した。そしてミサトさんたちには申し訳ないが僕はシャワーを浴びて、パンツと寝間着を取り替えた。

自分の部屋に戻って、気付くと、もはやすっかり目が覚めていた。僕はため息をついて布団に横になり、イヤホンをつけて暗い朝の中で、何となく音楽を聴いた。いい曲で、メロウな曲調が、この時に限っては少し僕をがっかりさせた。

もっと、悲劇的な曲が聞きたかった。

もう一度、目を瞑る。



翌日になって、ふと自分の体が暖かみに包まれていることに気づき、目が覚めた。目をうっすらと開くと、視界では、長く艶かしい茶髪が川のように布団の上を流れていた。そして、僕の胸元に顔をつけて、儚い息をしながら眠りについている…。

カーテンから漏れる日光が髪を照らしていた。

いつ僕のところに来たんだろう?

だって、あの時に起きたのは三時くらいだった。てことは、三時以降に彼女はふらふらとやってきて僕のところで寝ているというのか?

…一体何を考えているんだか。

僕はその美しい寝顔、成長し膨らみ始めた乳房、美脚をむき出しにした短いパンツを目でスライドしながら見た。彼女の手は僕の背中に回っている。

この時にしか出来ない千載一遇のチャンスだと思って、僕は彼女を、力を入れて抱く。

乳房が僕の体に優しく押し付けられ、暖かく、甘い香りがする。僕の心臓がまた乾いた音を立てていた。長い髪を押しのけ、彼女の後ろ頭を抱えて、僕の顔に近付けて、接吻をしてやった。

すると、勿論、彼女は目を覚ました。比較的長い接吻だったと思った。

次の瞬間には、彼女の足が僕の顔に勢いよく飛び出し、衝撃が走っていた。


アスカ「・・・」


シンジ「・・・」


アスカ「…あんたが女ったらしなんだってことはとうの昔に知ってんのよ」


シンジ「えっ」


アスカ「今日のことをミサトに言ったら殺すわよ」


シンジ「い、言わないよ、いたた…」


アスカ「ふん、気安く私の体に触れた代償ってやつね」


シンジ「大きいよ…」


アスカ「シンジ…」


シンジ「・・・何?」


アスカ「あんた、えこひいきとヤッたの?」


シンジ「」


アスカ「昨日、あんたの様子が可笑しいから、ミサトと一緒に考えたのよ。そしたら、絶対彼女が出来たに違いないわって結論に至ったの」


シンジ「い、いないよ!全くアスカも被害妄想激しいな、ははは…」


アスカ「被害妄想ってどういうことよ」


シンジ「さ、さんざん僕の布団で寝てたじゃないか」


アスカ「!」


シンジ「別に…アスカのこと嫌いじゃないから。それに、そんな彼女がいるなんていう事実無根な話、スキャンダルみたいに噂しないでよ。そんなことすると…嫌いになる」


アスカ「うっ…」


僕は愚か者だ。綾波と口を絡めあった唇で、僕はアスカに嘘をついたのだ。なんて最低な人間なんだろう。


アスカ「わ、分かったわよ…」


シンジ「だから、このことは水に流してs」チュ


その時だったのだ。アスカは僕の唇を咄嗟に奪ったのだ。朝日が二人の温もりに、更なる暖かみを足して、暑い。

僕はアスカの背中を強く抱き、深い接吻を交わした。


アスカ「…嫌いになったら、殺すわよ」


シンジ「…分かった」


こうして愚かな嘘をついた僕は、空前の三角関係を結ぶようになる。だが、嘘などすぐばれるに決まっている。そのことは分かっていながらも、人間は未熟だから嘘をつくのだ。この嘘が、僕の悲劇の始まりだった。その後、僕たちはその日は一度も互いに口を開かなかった。




1



ミサト「この書類は何?」


リツコ「日本国政府があなたを呼んでいるみたいね。NERVについての話がしたいそうよ」


ミサト「ルートは?」


リツコ「もちろん機密」


ミサト「んー…なんか胡散臭いわね…今までそんなことなかったし、第一そういうお願いは私に直々にやらないとダメじゃない?」


リツコ「あなたももう少佐でしょ…日本には畏怖っていう言葉があるの」


ミサト「そんな大した身分じゃないけどね」


リツコ「血塗られた悲劇の女少佐…」


ミサト「何よそれ」


リツコ「アイロニーよ」


私は手にしていた書類をデスクに叩き起き、立ち上がった。

この、何とも胡散臭い招待状のようなものが本当に政府のものだとは信じがたかった。

結んでいた髪を解き、煌めく青髪を靡かせる。

関係のないことだが、もう三十路にもなって短パンとは、なかなか度胸のあった女になったものだと自ら私は思った。

だが、自画自賛するつもりはないが、どうしても自分の脚はまだまだ綺麗に思える。いや、実際そうなのだ。肌白い滑らかな美しいふくらはぎ。今こうして歩いていても、まるでモデルがパリコレを闊歩しているような妖艶さがうかがえる。

…ああ、ダメよ、私ったら。ナルシシズムなんてもうまっぴらよ!

この時、何となく私は、書類は政府からのものではないと確信した。



昼のNERVの社食はカレーだった。塩味が比較的強くて、どちらかというとしょっぱい。

私はリツコを連れて、昼食を食べていた。


ミサト「あ」


リツコ「どうしたの?」


ミサト「あの書類のこと、あんた知ってるんでしょ」


リツコ「私がどうして知ってるのよ」


ミサト「…いや。そんな気がしただけよ」


リツコ「ただ、使徒は千変万化で日進月歩だわ…。だから政府も焦っているというのは否めないわ」


ミサト「そうね」


リツコ「この時期においての、エヴァ初号機の凍結…。あの人、一体何を考えておいで?」


ミサト「あの人の頭ん中なんて分からないわ…なにせ、あの子のパパなんだもの」


リツコ「それは一理あるわね」


ミサト「はぁ…司令が凍結とか命令しても、悩み苦しむのは私たちなのよ…分かってるのかしら…」


リツコ「そうね…」


私は椅子にもたれてため息をついた。

刹那、私の胸部に両手がかざされた。


ミサト「きゃあっ!?」


加持「よっ、久しぶりぃ」


加持は、手の圧力を強めた。


ミサト「んっ、だ…めっ…ちょっ…」


私は手をどかせ、加持を振り払った。

リツコは何食わぬ顔でそのままカレーを食べている。


ミサト「この変態野郎!!」


そして私は例のごとく加持の頬に力いっぱいの制裁を加えた。運良く客の人数が少なくてよかった、と私たち三人は思った。


加持「いってぇ…会ってすぐビンタかよ」


ミサト「あんたこそ会ってすぐ乳を揉むってなんのつもり!?」


リツコ「ひさしぶりね、加持くん」


加持「だな。調子はどうだ?」


リツコ「いつもの通りよ」


加持「まあ、こっちもいつも通りなんだけどね」


リツコ「加持くんとミサトのやりとりを見てそうだって分かったわ」


ミサト「どういう意味よ!!」


加持「久方ぶりにこう入れたんだから、三人で仲良くつるみたいねぇ」


ミサト「だぁれがあんたなんかと!!ごめんなさい、私忙しいからそんな暇ないの!」


私は残っていたカレーをガツガツと食べ、すぐに完食した。そして、トレーを持ちながらそのまま去っていった。


加持「全く、昔の方がノリがよかったんだけどなぁ」


リツコ「でも、加持くんはもう政府に頼んでいるんでしょう?」


加持「あ、ばれちゃってる?」


リツコ「全然。まだ政府のだって信じてる」


加持「目ん玉飛び出すだろうなぁ…行ったら俺が出てきて、あんたかよぉ!?って。ハハハ」


リツコ「ミサトがあんな様子だから、何されるか分かんないわよ」


加持「殺されるかもな」


リツコ「ミサトならやりかねないわね」


二人は笑った。そして加持はまたどこかへ行ってしまった。

リツコは一人になった。




トウジ「なあセンセ…。なんちゅう顔しとんのや?」


シンジ「えっ?」


トウジ「さっきから神妙そうな顔しとるぞ」


ケンスケ「何かあったのか?あっ、もしかしてパイロット非番になったとか」


シンジ「いや、現役だよ…まだ…ね」


ケンスケ「なぁんだ…その座を頂きたかったんだけどな」


トウジ「図々しいぞケンスケ」


ケンスケ「なんてね、冗談冗談」


トウジ「で、どうかしたん?」


シンジ「別に…あっ」


気付くと、アスカがこちらに視線をじっと送っていたのである。その眼差しには、美しさの中にどこか触れてはいけないようなものが映っていた。僕がそれに気付くとすぐにアスカは視線を黒板の方に向けた。


トウジ「ははーん、さてはいつも通りの夫婦喧嘩かいな」


ケンスケ「全く碇は、綾波といい、アスカといい、葛城さんといい……」


シンジ「違うよ!……違うよ」


今の、アスカの顔…何かを訴えかけているのだろうか?それとも促しているのか?羨望なのか?婉曲なのか?外を眺望している綾波をおまけにちらりと見ると、自分の頭の中が混乱し始めてトウジとケンスケの姿も見えなくなった。この空間には僕とアスカと綾波の3人しかいないのだ。それ以外は全て僕の幻覚に過ぎない。そんな気分だった。


トウジ「女って面倒だからな」


その時、アスカと綾波と洞木の背中が同時にビクッと動いた。その現象を僕は少し滑稽に思った。


アスカはそういうことがあっても、今日は一切何も喋らなかった。何も言わずにコンビニで買った弁当をちまちまと食べ、頬杖をついて授業に臨んでいるだけだった。その虚無なまるで綾波の性格がそのまま乗り移ったかのようだった。放課後になると、アスカは僕を見ないうちにさっさと帰ってしまった。僕は教科書を片付けていたので慌てて呼び止めようとしたが、帰る間際のアスカの横顔が、無表情だった。こちらに目も合わせず、すぐ帰っていったのだ。

僕は呼び止めるのをやめてしまった。


トウジ「今は無理や。そっとしときいや」


ケンスケ「家で仲直りできるなら…しておいた方が身のためだよ」


シンジ「…先、帰るね」


トウジ「頑張れ」


アスカが行った3分後くらいに帰り始めたので、下校する途中すぐにアスカに追いついてしまった。一歩一歩確実にミサトさんの家に進んでいるはずなのだが、どうしてだろう、狐につままれたような感じで、家までの距離が遠く感じた。ただ、アスカの後ろの茶色い髪がユサユサと揺れて、コツコツと靴の音を立てて歩を進ませている。

夕方の淡い日光が、アスカの後姿を橙に照らした。それは実に美しい光景であった。


ミサトさんの家の前に着いた時、アスカはドアの前で止まった。ビクッとして、僕もアスカの少し空いた隣で止まる。

そして、アスカは僕の方をとうとう見た。

…蕩けた目だった。何かを求めている目だった。

僕はそれが何であるかを察しつつ、鍵を開けた。ドアを開けて、アスカの腰を支えながら家の中へと入った。

ドアが、バタンと閉められた。



ミサト「さっきは殴って悪かったわ…。だけど、平気でああいうことをするのは社会不適合者よ」


加持「悪かった悪かった。昔みたいにもっとノリのいい奴だと思ったんだ」


ミサト「あの頃の私とは違うわ…。責任だって疲労だって年だって重なっていくもの。出来ることならそりゃあ、あの頃に戻りたいわよ」


加持「お互い楽に寄り添うことは出来ないって、わけか…」


ミサト「そうね」


私と加持は、自動販売機の置いてある休憩所で、コーヒーを添えてベンチに座っている。一時の業務が何とか終わり、まだ釈明作業やらなにやら残っているが、これ以上やると強迫性障害になってしまうくらいに疲れ果ててしまったので、このまま直で帰るつもりであった。その時に、歩いていたところを加持に捕まったというわけだ。


加持「あの人は元気にやってるか?」


ミサト「誰?」


加持「お前の息子…兼彼氏」


ミサト「一言余計よ…まあ、そこそこね」


加持「どうかしたのか?」


ミサト「今まで料理してくれたんだけど、急に料理をやめてインスタントで我慢してくれって言うの。シンジくんがまさかそんなことは言わないだろうと思ってたけど、私もちょっとシンジくんにいろいろと甘えすぎてたところがあったと思ったから、承知したわ」


加持「ふーん…」


ミサト「それだけ?でもね、私はそのシンジくんの態度の理由を知っている気がするわ」


加持「恋、だろ?」


ミサト「嘘!?どうして分かるのよ?」


加持「中学生の男子なんて、そんな気持ちになっちゃったら何も出来なくなるのも当然だからさ。特にシンジなんてナイーヴで清楚な男だから、尚更だよな。お前だって、恋に落ちる時はそうだったろ?」


ミサト「え?え、ええ…」


私は意表を突かれ、少し頬が赤くなった。私は顔を少し背け、つい髪を耳に搔き上げた。その時、加持が少し笑った気がした。


加持「いいんじゃないか?まあ、女に囲まれた生活をしているんだから、一人や二人好きになるだろう。経験が不利になることはないさ。アスカは、また違うかもしれないけど」


加持は笑った。だが私にはそこで笑う意味が理解できる気もしたし、理解できない気もした。


ミサト「…ありがとね。ちょっと早いけど、私疲れたから帰るわ。コーヒー、ゴチね」


加持「ああ。こっちこそ捕まえて悪かった」


私は加持と別れると、家に電話をかけた。呼び出し音が耳元で鳴る。




プルルルル プルルルル…


『留守番電話サービスに接続します。ピーという発信音のあとに、メッセージをどうぞ』


ピー


ミサト『あ、二人とも?遅くなってごめんなさいね。今から帰るけど、何かいるものはあるかしら?適当に買いにコンビニ寄るから、もしあったら連絡ちょうだいね。おやすみ』


ガチャッ





シンジ「・・・」


アスカ「・・・続けるわよ」



2


私がコンビニのビニール袋を提げながら家に入ると、既に部屋は薄暗くなっていて静かだった。アスカもシンジも、ペンペンも寝てしまったようだ。それもそうだ、今何時だと思っている?腕時計を見ると、短い針が1を指していた。

ドアの鍵を閉め、靴を脱いだ。

二人分の食事を一応は買ってきたが、まあこういう結果にはなるわな。

私は独り、コンビニの弁当をレンジで温めずに食べた。昔に比べたら美味しいかもしれないが、どこか味気のないのは何故だろうか?答えは分かっているはずなのに、知りたくなかった。

食べ終えると、少しぼうっとした。電球の明かりを見つめ、ぼんやりとした。

しばらくして、こうしていても時間の無駄だということを知り、私は風呂は入らないでシャワーを浴びるだけにしてさっさと寝てしまおうと思った。

服を脱いで、裸になって浴室に向かった。

髪と、体と、顔と、全て入念に洗った。すべすべとした肌を維持し、色気づいた姿を守ることが大事なのだ。私はそんな思いを勝手に抱いていた。

浴室から出て、バスタオルで体を拭く。何だかんだ、風呂に入っている時よりスッキリした気がする。


廊下を歩いてリビングに行く途中、シンジの部屋のドアが目に留まった。

…勝手に開けると、怒りそう。でも、寝てるから大丈夫か。

私はドアを開けた。その時、目を疑った。

寝心地よさそうな顔をして眠るシンジの隣に…アスカが眠っていた!

布団を二人で掛け合い、まるでおしどり夫婦のような形式で、ただ夢の世界を彷徨っている!

二人は顔を向き合って、目を瞑っている。


…私は、ドアをすぐに閉めた。閉めたあと、ドアに寄りかかり、心臓が乾いた音を立てた。動悸のような現象が起きて、息苦しい。深呼吸を二回ほど軽くして、何とか治った。

あれ、私、どうして慌てているの?私には、もう既に心を寄らせることのできるものがいるではないか。

一体、何を慌てているのじゃ?


少し歯ぎしりをして、リビングに向かった。手は自然と冷蔵庫の中のヱビスビールを取っていた。



アスカ「…危なかったわね」


アスカは小声で言った。


シンジ「今、ミサトさんはリビングでビールを飲んでるみたいだよ…」


アスカ「そう…そんなことより…ゆっくり…外して…」


シンジ「あっ…」


愚かな僕は、いちばん大事なことであるーー、ミサトさんには…いや、誰にもバレてはいけないことをーー、忘れていた。

万が一の為の安全が施されるものをしているにも関わらず、その時ちょうどミサトさんが帰ってきてしまった。

僕とアスカが汗をかいている中、さらに心臓が乾いた音を立てた。その背徳感を快楽とする変わり者は少なくはないが…僕はあまり好まない。

ミサトさんが風呂に入っている間に「山」を迎えたつもりだった。しかしミサトさんは突然、何の躊躇いもなくドアを開けてきて、僕たちは狸寝入りをする他なかった。廊下の光と女のシルエットが混ざり、少し眩しかった。

そしてミサトさんは何も言わずにドアを閉めた。そのことに、僕は焦りを覚えた。

何も言わずに閉めたというのは、一体どういうことなのだろうか?まず、アスカと僕が一緒の布団で寝ていただけで驚天動地の出来事である。にもかかわらず、彼女は何の驚嘆の声も発さずに行ってしまった。何らかの反応をしないで欲しいとは願いつつも、少し期待してしまう僕は逆に戸惑った。…もし、一目でミサトさんが既に全てを分かってしまっていたとしたら、僕はどうしたらいいだろう?もうエヴァにも乗れなくなってしまうだろう。誰からも非難され、侮辱され、屑の底辺へと叩き落とされることだろう…。

僕は、ゆっくりと離した。その下には、溜まり落ちている欲望がゆらゆらと揺れていた…。



アスカ「私たち…どうしたらいい?」

急に、アスカは悲しい目をして本題に入った。


シンジ「多分、毛布で見えてないから大丈夫、だよ…」

明らかに接近した距離に二人の顔があったのは見えたと思うけれども。


アスカ「明日…学校行けないわ」


シンジ「僕だって、行きたくない…」


僕たちは、強く抱擁を交わした。


シンジ「…明日は、とりあえず朝は起きて、ミサトさんに挨拶しよう。そして、欠席する言い訳を伝えるんだ」


アスカ「そうね…」

アスカは静かに同意した。やがてうつらうつらとアスカはしだして、僕の胸の中で眠ってしまった。僕はアスカの頭に接吻した。シャンプーと汗が混じった官能的な香りが漂っていた。

薄暗い中、ダンボールの黒い山が月光に照らされ、我々を見下している。ふと、リビングの方から、ミサトさんのいびきが聞こえてくる。

相当疲れてるんだな…と思った。いつもいびきはかくが、その大きさが尋常ではない。ネルフの責任者的立場を担う彼女にとって、今の時期の疲労は度を越すのだろう。

その時、明日は土曜日であることに気付いた。

明日は午後まで三人揃って寝ていようじゃないか。そう思って僕は目をゆっくりと閉じた。



目を開けると既に日が当たって明るくなっていて、穏やかな暖かさが身に感じた。

枕元にある時計を見ると短い針が12を指していた。やっぱり昼まで寝てしまっていた。アスカもまだ、静かな寝息を立てて眠っている。

僕はそっと身を起こして、リビングに行った。ミサトさんはテーブルに伏して、缶ビールを手に触れながら、少しいびきをかいて寝ていた。

疲れた後のビールは格別だとミサトさんは言うけれど、最近の疲労はそれに勝るものがあったのだろう。あのミサトさんが酒より睡眠欲が上だなんて…考えたこともなかった。よっぽど疲れているんだろう。僕はそのまま寝させてあげようと思って、ミサトさんに何も声をかけなかった。

冷蔵庫から水を取り出して、グラスに注いで飲んだ。喉が渇いていて、ひと飲みで飲んでしまった。グラスを流しに置いたあと、はっとして、僕の部屋に戻った。

あの欲望の塊は、依然として布団の傍らに置かれていた。持つと、塊は揺れ、気味悪く、異臭を放っていた。所詮、人間の放埓な欲望なんてその程度の次元だ…。こうしてゴミになってしまうのだから。

僕はそれと包装のものを、ビニール袋に入れて、縛って捨てた。奥底に捨てた。

その後、さっと歯磨きをして、顔を洗った。もう今日のやることがなくなってしまった。

僕は寝ているミサトさんの向かい側の椅子に座って、ぼんやりとしていた。

どんなに暑い日でも、冷房さえあれば快適な日となる。そういえば、ペンペンも冷蔵庫から出てこない。根拠はないが彼も寝ているのだろう。なんとなくそう思った。

…昨日の夜のことを考えずにはいられなくなった。なるべく他のことに気を紛らわそうとしたが、手持ち無沙汰過ぎて不可能だった。早く誰か起きて欲しかった。

ミサトさん…あの時どうして、何も言わずにドアを閉めたのですか?あれは明らかに尋常ではない光景でしょう。一応世話係をしているのだから、きっと何か言われてしまうだろうとドキドキしましたが、何のお咎めもなく、あなたはそうやって気持ちよさそうに寝ています。ミサトさんははじめ、僕とアスカが一緒に寝ているのを見て、何を思ったのでしょう?あの謎めいたシルエットからは何らヒントを与えてはくれませんでした。

でもミサトさんは分かっているはずです…恋というものがどんなに幻想的で、その反面物質的な汚さを含んでいるのかを!

そう心で問いかけてももちろん無駄だった。ミサトさんは微動だにせず突っ伏して寝ているだけだった。気付くと、自分の下部から熱さを感じた。

ああ、僕はまだ放埓になっているのか。どうか早く、誰か起きてくれ!この杞憂な観念に終わりを告げたい。その為には誰か起きないと!

しかし誰も起きなかった。一人、心が騒動を起こしているだけで、部屋は沈黙を今までずっと守り通していた。

僕はため息を思い切りついた。


やがてミサトさんが起き出した。僕がぼんやりとしていると、ミサトさんが顔をやおら上げた。寝ぼけた顔をして、テーブルに唾液が垂れた。ミサトさんは僕を見た。僕はティッシュをあげて、テーブルの唾液を拭かせた。ミサトさんが口元を拭いた時、少し糸を引いていた。僕にはそれがいくらか官能的に見えた。


ミサト「今何時…」


シンジ「午後2時です」


ミサト「あー、私ったら寝てしまったわ…」


シンジ「僕も昼に起きたし、アスカはまだ寝ています」


ミサト「今日はみんなダラダラみたいね」


シンジ「一日はこういう日もあっていいでしょう」


ミサト「ま、そうね」


ミサトさんは腰をポリポリとかいた。あろうことか、ミサトさんは残りの入っていた缶ビールの中身を飲み干した。ビールとかは絶対に飲み残さない人なのだろうか。


ミサト「昨日…アスカと一緒に寝ていたわよね?」


その質問で、僕は青天の霹靂に撃たれた。


シンジ「えっ」


ミサト「分かってないと思ったら大間違いよ…」


シンジ「…」

何の返しようもなかった。とにかく、僕の頭の中は真っ白になっていて、ミサトさんの顔がよく見えなかった。


ミサト「…いつからあんなに仲良くなったのよ?」


シンジ「えっ?」

僕は思わずすっとんきょうな声を出してしまった。


ミサト「だってさぁ、今までお弁当のおかずだの風呂の順番だの何だのって、小さいことで揉めるくらいだったじゃないの!それが何、あんなラブラブにグウグウ寝ちゃってさぁ〜!シンジくんも意外と、なかなかやるところはあるわね」

ミサトさんは、僕に肩をうりうりと、なすりつけた。僕はまだびっくりしていて、反抗する暇もなく、返事をする暇もなかった。

…とにかく、バレていないでよかった。そう思った瞬間、肩の荷が思い切り降りた。


シンジ「…そ、そうなんですよぉ!冗談で一緒に寝ようって言ったら、まあ最初ははぁ!?とか言って僕の顔をビンタしたんですけど、僕が寝ているうちにこっそり入ってきたわけなんですよね。全くアスカは素直じゃありませんから、ははは…」


ミサト「ホントよね〜。でも、よかった。アスカに心の拠れる所が出来ていて。あの子もいつもはああだけど、割と波乱万丈な人生…あっ」


シンジ「ミサトさん?」


ミサト「あっ、これは、その…ね。………まあ、このことはいずれ話すわよ。多分…話す日は近いと思う…から」


シンジ「…」

波乱万丈?あのアスカが?まさか。僕は驚きの連続でもう身体がどうにかなりそうだった。

…まあ、ミサトさんの言った通りだ。確かに、アスカの真実を知る日はそう遠くない気が僕にはした。

ミサトさんは立ち上がって、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。アスカはまだ起きてこない。



私だって、どう取り繕っていればいいか分からなかった。このままシンジくんの前で寝ぼけたフリして何事もないような感じでいればよかったのだ。

でもつい、口が走ってしまった。シンジくんがアスカと営んでいる(不確定事項だが)様子を目撃した時、自分の心臓が締め付けられ、立っているだけでやっとだった。どうしてこんな気持ちになってしまうのだろう?何と説明したらいいのだろうか、憎悪、と言えばいいのだろうか?そうだ、私はアスカに対して憎悪を感じてしまったのかもしれない。でもこの憎悪は世の中ではタブーとされるものである。

どうしても、アスカとシンジくんが一緒に寝ていたのを許容することが出来ない自分もいた。でも私は、愛すべき人…いや、あいつはろくでもないやつ…でも…大事にしてくれるのは彼くらいしかいなかった…。

そんな時に会ったのがシンジくんだ。息子同然の付き合いだったし、この子が笑顔であれば、使徒との戦いで無事であれば、何でもよかった。しかし、いつからか分からないが、シンジくん…シンジが男に見え始めるように思われる日が多くなった。そう、「男」だ。

私は、正直これはマズイと思っていた。司令からは親権を譲られており、一切の責任を任されているのに、こんな不埒な感触を抱いている自分がなんとも哀れに思えた。

そして今、こうして目覚めた先に、アスカと夜を明かすシンジが、疲れて死にそうな私の目の前で座っているわけだ…。

私はこういうわけでどうしていいか分からず、とにかく下が愛液で濡れているのを隠すために、ティッシュのあるキッチンにビールを取りに行くフリをして駆け込んでいくのだった。

罪深い女とは、私のことを言うのかもしれないと思うと、少し笑える。

ん?でも、ちょっと待って?シンジくんは、レイとも何かつながりがあるんじゃないの?

そう考えると、私の頭は膠着した。まさか…シンジくん…。


あなた、とんでもない男ね…。


それでも、別にシンジくんを見切っているわけではない。親としての役割を果たすのはこのまま続けていくつもりだ。だが、全てを悟ってしまった私は前よりもぎこちなく彼に接することになる気がしてならない。


悪いのは、全てシンジだ。


あなたが、魅力的なのがいけないんだ。


冷蔵庫の缶ビールを取って、昼からタブを起こして飲んでしまう自分は幸福であると同時に、ある種の女の情感を、身に沁みて感じるのだった。



やがてアスカが14時くらいに起きてきて、エアコンのガンガン効いた部屋の中でぼうっと過ごしていた僕とミサトさんの元へ現れた。


アスカ「おはよう」


ミサト「もう昼どころか…」


アスカ「知ってる」


ミサト「…今日は、みんな疲れて寝ちゃってる日みたいね。そりゃそうだわ、あんなにキツい使徒は久しぶりだったものね。本当に苦労したわ…まぁ私の場合はまだ苦労してるんだけどね」


シンジ「まだ何か仕事があるんですか?」


ミサト「そうよ…あなたたちは知らないかもしれないけど、裏ではいろんな人がいろんなことを言ってくるのよ。世の中そういうもんよ!でも私たちはね、律儀に対応していくしかないの。それが大人ってもの」


アスカ「大人ってやだわ…なりたくもない」


ミサト「なるもんじゃないわよ本当に、大人って。楽しみなんて、ビールとそれから…」

ミサトさんは僕の方を突然向いてきた。


シンジ「…」

そしてすぐにミサトさんは目を逸らした。


ミサト「…あなたたちの成長を見ることくらいね」

そういってミサトさんは軽く笑った。


アスカも、なによそれ、って感じの照れ隠し笑いをした。

僕は少し場の空気が軽くなって、どこか肩の荷が下りた。


シンジ「あの使徒は…確かに強かった…ゼルエルなんかより…でも、ミサトさんの指示と忍耐があったこそ、そして僕たちの勇気があったこそ勝てたものじゃないですか。それに何を文句を言う必要があるんですかね?」


ミサト「人に論理性はないわ…。それでも、正義を貫く必要が私たちにはあるの。マザーテレサもそう言っているわ。…そもそも、使徒を倒さなかったら、人間は滅んでいたのよ!そんな重要な仕事に文句を言うのは確かに言語道断ね…。私の判断が正しかったからこうして人類は守られたようなもの…なのに何故、いちいち人はいちゃもんをつけてくるのかしら?意味がわからないわね!」


やはり、ミサトさんはこの仕事に堪えかねているに違いないな、と僕は思った。

今回の場合は、程度が違う。ミサトさんの言った通り、ミサトさんの判断がなければ確実に人類は滅んでいた。

それに批判も何もないではないか。

むしろノーベル平和賞ものだ。

人はそこまで厳しいのか?

よく、分からない。父さんはミサトさんに何の報酬も与えず、何の褒め言葉も与えていないのだろうか?

そうだとしたら…酷すぎる。たまには、父さんに電話をしてみてもいいかもしれないと、僕はふと思った。

ミサトさんは涙目になっていた。


後書き

鋭意制作中。
作品向上のため、ご意見ご感想お待ちしております。


ミサトとシンジの時系列のジレンマが、愛、憎悪、憂鬱、時に道化を以て倒錯し、最後にそれがひとつになった途端にシンの結末を迎えんことを望み、描画を試みる。


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零人_改さんから
2018-04-20 03:23:55

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