2017-11-30 15:02:59 更新

概要

chirutan.txt_3の続きです


前書き

奴が来ます
クロちゃんが年上に敬語を使うようになります。


192-1

磨夢「………」

基茂「何て映画を観ているんだ」

磨夢「これは神話レベル」

基茂「確かに」

八城「おはー。お兄ちゃんまで何観てるの」

基茂「あ、あぁ…すまん。しかしこんな映画がまだ残っているとは。磨夢、後で貸してくれ」

磨夢「ん」

八城「お兄ちゃん、参考にするの」

基茂「ちょっと年が離れているが、参考にはなるかな」

八城「ふーん」

磨夢「………」

八城「巻き直し?」

基茂「何度でも楽しむつもりなんだろう」

ゆい「兄さん、会いにきましたよ」

基茂「もう会わないと約束したろう」

ゆい「わたしはご飯を食べにきたのです。兄さんなんか知りません」

基茂「じゃあはじめましてだな。ナイストゥミートゥ」

ゆい「はい兄さん、よろしくです」

基茂「…ん?」

八城「まみー、お腹減ったぁ」

磨夢「ん、分かった」

基茂「映画、垂れ流しにしとくのか」

磨夢「ん」

ゆい「濡れ場ばかりですね、この映画」

八城「まみーのお気に入りなんだよぉ」

ゆい「わたしもこういうのは好きです」

基茂「ゆいゆいは日常的に映画観ていないだろう」

ゆい「はい、わたしに娯楽なんて無用です。兄さんを除いては」

基茂「さいでっか」

八城「あうあうあうあう」

基茂「いつ買ったやつなんだこれ」

磨夢「ん、貰い物だから分からない」

基茂「貰い物か。通りでひどいシチュなわけだ」

磨夢「基茂はこういうの、好き?」

基茂「嫌いじゃない。ノーマルからアブノーマルまでいける」

ゆい「兄さんは変態でしかありません」

八城「お兄ちゃん変態なんだ」

磨夢「何を今更。わたしと二人だった時は、いつ何しでかすか分からないくらいだった」

ゆい「磨夢さん、貞操は汚されていませんか」

磨夢「大丈夫、わたしは非処女」

基茂「磨夢、それではアウトだ」

磨夢「そう」

八城「まみーよく分かんないの」

磨夢「ん」

ゆい「どうしました磨夢さん、元気ないですね。もしかして危険日ですか」

磨夢「………」

八城「まみー大丈夫?」

ドサッ

ゆい「兄さん、磨夢さんをベッドに」

基茂「分かった。お前らじゃ背負えないしな」

八城「二人でも難しいよ」


192-2

磨夢「ん、んん…」

八城「まみー、起きた?」

磨夢「ん」

八城「まみー、突然倒れちゃって大丈夫?」

磨夢「………」

八城「働きすぎとか?」

磨夢「…一理ある」

八城「ゆいちゃんが言ってたようにきちゃったの」

磨夢「ん」

八城「うーん」

磨夢「………」

八城「でも元気そうで良かった。起きられる?」

磨夢「もう少し寝ていたい」

八城「もしかして睡眠不足」

磨夢「今の単なる欲求」

八城「お昼どうしよか」

磨夢「労働者を敬え」

八城「かすむん、居ないよ」

磨夢「そう」

八城「残念そうだ」

磨夢「ん」

八城「動ける?」

磨夢「………」

八城「あたし何か買ってくるね」

磨夢「ん」


192-3

ルイ「やあやあ我こそは元フランス国王の子孫を自称しているルリネコ宅配便の一人、ルイだよ。ボンジュール、八城」

八城「ぽんじゅーす、るーちゃん。お昼休憩?」

ルイ「ウィ。時間は無いから、コンビニで済ませているんだよ。わたしはカップ焼きそばが好きなの」

八城「ほへぇ、あの大きなやつ」

ルイ「ウィ。働いている身としてはあれくらい食べないといけないよ。八城もどうしたの。お買い物かな?」

八城「うん。まみーの代わりに来たんだよ。 ぶっ倒れているかんね」

ルイ「磨夢も働きすぎなのかな。わたしは平気だよ」

八城「なんでるーちゃんは平気なの」

ルイ「仕事を楽しんでいるからかな。遠くへ行くことになったら尚更にね」

八城「隣町とか行ったりするの」

ルイ「ウィ。でもたまにだよ。大抵同じ地域しかやらないけど、仕事が楽しいから」

八城「まみーも楽しそうだってお兄ちゃんが言ってたよ」

ルイ「なら他の理由かもしんないね。ジュース要る、八城」

八城「てんきゅー、るーちゃん」

ルイ「暑くなってきたから、水分補給は欠かせないよ」

八城「そだねー。うちクーラーあったかな」

ルイ「ちなみにうちはないよ。アイスクリームはあるけど」

八城「最近美味しい味あるの」

ルイ「わたしは箱買いしているけど、ソーダ味も良いものだよ」

八城「へぇー。食べたいなぁ」

ルイ「コンビニアイスは高いから買わないよ」

八城「ふぇぇ」

ルイ「…と、そろそろ行かないと。またどこかで。アデュー」

八城「あでゅー」


192-4

ゆい「あ」

八城「ゆいちゃん来る途中だったの。お昼はないよ」

ゆい「磨夢さんは相変わらずですか」

八城「動きたくないみたい。だからお昼買いにいくんだよ」

ゆい「磨夢さん、わたしたちを試しているんですかね」

八城「まみーは何も考えてないと思うけど」

ゆい「素直に肉屋に行けばいいでしょうか」

八城「あたしはついて行かないよ」

ゆい「では、こうしましょう。とりあえず公園に行きます。何か見つかる筈です」

八城「出来れば何も見つけたくないなぁ」


192-5

八城「こんな所あったんだ。野球出来るね」

ゆい「隣町なんですけど」

八城「あっ、そっか。通りでお腹が空いてるわけだ」

ゆい「こっちの方が緑豊かで良いですよね。川も綺麗です」

八城「ゆいちゃん、こっちには詳しいの」

ゆい「いえ、初めて来ましたよ。話に聞いてたくらいです」

八城「何かお店ないかな」

ゆい「ファミレスがありますよ」

八城「普通のファミレスだね」

ゆい「まあ、普通ですね」


192-6

店員「いらっしゃいませ」

八城「お二人様だ、えへん」

店員「こちらの席へどうぞ」

八城「ふぇぇ」


192-7

ゆい「あっ、高砂さん」

高砂「しゃちょーか」

ゆい「そうですよ、羽衣です。元気してましたか」

高砂「しゃちょーが居なくてしゃびしかったわけじゃあないが、ちゃんとやってきたぞ」

ゆい「偉いですね、高砂さん。こちらは親友の八城ちゃんです」

八城「なんで相席なのん」

ゆい「店員さんが消えたのですから仕方ありませんね」

高砂「てーいんなら壁を突き抜けていったぞ」

八城「店員さんは魔法使いなの」

高砂「てーいんがまほーつかいなんじゃあないぞ。この店にまほーがほどこすぃてあるのだぁ」

ゆい「高砂さんの魔法じゃないんですか」

高砂「そーともゆー。たかしゃごがいる限りはこのままよ」

八城「じゃあ高砂さんが魔法使いなんだ」

ゆい「高砂さんは知る人ぞ知る魔法使いなんです」

高砂「ふつーのにんげんには知られんよーにしている。やちゅらにまほーと分からんよ」

ゆい「魔法自体、非科学的なものですからね。予備知識というものがないのです」

高砂「そして今のじくーいどーはまほーじゃない。念を使うだけでかのーだ」

八城「ふにゃ」

ゆい「高砂さんにとって魔法には至らないのです。消費が少ないのです」

八城「あー成程。そろそろ何か食べたいなぁ」

高砂「たかしゃごは悪意あって消したわけではないのだ。ただなんとなく…そー、何を頼むか決めておくんだぞ」

八城「はーい」

ゆい「高砂さん、最近は神事の方に関わっていないんですか」

高砂「しんじ?しゃいきんきーてないし、多分関わってないと思う。たかしゃごは見せ物じゃないからな」

ゆい「ライバルではなくなりましたか。では一つ提案です。うちの神社に来ませんか」

高砂「しゃちょー、一つ言っておこう。たかしゃごはしゃちょーの仲間になるつもりはないぞ。たかしゃごは誰かの仲間になったりはしない」

ゆい「つまり高砂さんは束縛されるのが嫌いだということですか。これは引き抜くのも大変ですね」

八城「高砂さんは何処に住んでいるの」

高砂「向こうに山が見えるだろう。そのちゅーふくにあるのが我が家だ」


192-8

八城「やっぱり飛んだりするの」

高砂「飛べない魔女はただの人間だぞ」

ゆい「自分を特別な存在とお思いですね」

高砂「ふつーの人間ばかりで呆れるな」

八城「普通ってなぁに。ゆいちゃん」

ゆい「わたし達みたいじゃない人達です」

八城「つまり変態じゃない人かぁ」

高砂「しゃちょーは変態だったのか」

ゆい「変態とは何でしょうか。単にいやらしいことだけではないと思うのです。あなた方が言うに、変態的なこれこれという文句が御座いましょう。それは一見引いているようですが、心中を覗いてみれば、その才能を畏れているというのがあるのです。したがって変態はある意味誉め言葉でもあるのです」

高砂「とゆーのはあれか。やらしーのも誉め言葉になるのか」

ゆい「はい、だからわたしは変態であることを決して恥じません。寧ろ誇りに思っているくらいです。高砂さんも変態になりましょう」

高砂「たかしゃごは、しょんなのなりたくない。たかしゃごはまほーのけんきゅーにいしょがしーのだ」

八城「あれだよ、ゆいちゃんがおかしいだけだよ」

高砂「しょーか。確かにしゃちょーは昔から変だった気がしゅるぞ」

ゆい「そうでしたか。わたしは会社の利益を第一に考えて、何度もやり直していただけです。そのため、時間の流れも遅かったのです」

高砂「おー、今が早く感じるな。やり直しにえいきょーを受けないわたしは、その時が一番良かったぞ」

ゆい「目には目を、歯には歯を、魔法には魔法、なんですね。高砂さんの場合魔力で相殺していました」

高砂「魔力をほーしゅつしていたから、その分、けんきゅーにしゅーちゅーすることができたのだ。感謝しているぞ」

ゆい「いえいえ、わたしの方こそ。しかしそれでわたしに対抗する力があることが明らかになったのです」

高砂「じょーほーやですらたいこー出来なかったんだ。しょりゃーたかしゃごに目が向けられる」

ゆい「高砂さん、ここなんですよ。あなたがライバルだというのは。あの神社を裏で操っていたでしょう」

高砂「神社のみんなは仲間だった。かつてはな」

ゆい「ある時から思う通りにいかなくなったんですね」

高砂「たかしゃごには理解出来なかった。人間にはしつぼーした」

ゆい「………」

高砂「だからたかしゃごは、どーぶつをけんきゅーすることにした。何とかしてどーぶつと話しぇるようになろう。しょーけちゅいした」

八城「なんとか動物園っていう番組を立ち上げてね」

高砂「しょーらいてきにはありだな。そして、ここだけの話なんだが二人ともきーてくれ」

八城「なになに」

ゆい「何の話です」

ゴニョゴニョ

八城「それをどっかに売るの」

高砂「既にしょーひんかしてある。しゃちょーもどーだ、一つ」

ゆい「わたしは、こう見えて一人じゃないんですよ。八城ちゃんの家には、よく通いますから」

高砂「しょーか、しょれならいーんだ。どこかに求める人が居るなら売りつけるぞ」

ゆい「あっ、そういえば高砂さん。うちの電話番号知っています。良かったら教えますけど」

高砂「たかしゃごはしょんなに電話使わないな。けど、いちおーあるから教えておこー」

ゆい「高砂さんは今後関わりも増えると思いますからね。ありがとうございます」

高砂「隣町に住んでいるのか」

ゆい「はい、山越えればすぐですよ」

八城「ゆいちゃん家って山に近いよね」

ゆい「真っ先に土砂を被りますね」

高砂「暇が出来たらしょっちに向かうかもしれない。だが決ちて、期待はしないでくれ。たかしゃごは忙しーのだ」

ゆい「また会いに来ますね」

高砂「しゃちょーがどうしても会いたいというなら…会わないこともないぞ」

八城「分かりやすいなぁ」

ゆい「昔からこんなんですよ、高砂さんは」

高砂「さて、しょろしょろ戻ったらどうだ。いー時間だし。お代はたかしゃごが払う」

ゆい「いえいえわたしも出しますよ」

八城「あたしはお金無いよ」

ゆい「では八城ちゃんのも含めて半分ずつにしましょう」

高砂「まあ、そうなるか」

店員「ありがとうございました」

高砂「またあおー諸君」

八城「あたしも箒に乗りたいな」

高砂「試しに乗ってみるか」

八城「うん。じゃあ、ほいっ…何にもなんないよ」

高砂「よし、少しまほーをかけてやろー。こうほーきにちょいと触れると」

ビュン

八城「わ、うわ、うわああああっ」

ゆい「八城ちゃんは星になったのですね」

高砂「ちょと加減がつかなかったみたいだ」

ゆい「え」

八城「わわわ、ふにゃ、ふにゃあああああっ。どどど、どこまで、どこまでえええっ」

ゆい「あ、見えましたよ。向こうの方に」」

高砂「何とかけーさんしたとーりには飛んでいるみたいだ」

ゆい「あんな滅茶苦茶な飛び方ですけど」

高砂「る、るーととしては正しいのだ。ははは」

ゆい「速さは問わず、ですか」

八城「止めて止めて止めて止めてええええ」

ゆい「楽しそうではありますね。。初心者というのはああいうものなんですか」

高砂「いや、わたしがほーきをあやちゅってるからだ」

ゆい「初心者には厳しく…ですね」

高砂「ほーきは甘くないのだ」

八城「ふにゃああ、ふにゃああっ」

ゆい「そろそろ下ろしてやりません」

高砂「そうか」

ドサッ

八城「ぐへぇ」

ゆい「こんな所に美味しそうなお肉が、と思うのは前世までのわたしです」

高砂「ゆーじんは食べ物じゃないだろー」

ゆい「はい、そうですね。八城ちゃんは食べ物じゃありません」

高砂「そう、その通りだ」

ゆい「では、わたしは帰りますね。八城ちゃんは頼みます」

高砂「家、知らないぞ」

ゆい「支部の方から連絡しますので、指示に従ってください」

高砂「久しぶりにこれを使うのか」

ゆい「ええ、それを使うのです」

みぃみぃ

ちる「あ…」

みぃみぃ

ちる「………」

猫「みぃみぃ」

ちる「………」

八城「にゃあ」

ちる「八城…ちゃん、ですよ…ね」

八城「あたし誰、あんただぁれ」

ちる「人…違い、です…か?」

八城「よく分かんないや」

ちる「………」

スタスタスタ

ちる「………」

チラッ

猫「みぃみぃ」

トトトト

ちる「あの」

八城「ん?」

ちる「ついて、きて…ください」

八城「うん」


192-9

磨夢「………」

ちる「………」

磨夢「…どういうつもり」

ちる「いや、これは…」

磨夢「ん、ちるじゃない。八城」

ちる「あなた…ですよ」

八城「ふぇ?」

磨夢「分からないの」

八城「分からないって」

磨夢「………」

八城「?」

磨夢「上がって待ってて」

ちる「はい、行き…ますよ」

八城「うん」


192-10

trrr

ゆい「もしもし羽衣ですが」

磨夢「こちら磨夢」

ゆい「磨夢さんですか。元気になったんですか」

磨夢「ん、少し寝たら治った」

ゆい「今日はどのような件で」

磨夢「ゆい、八城に何かした」

ゆい「今日は普通に会って、隣町でご飯食べに行っただけですよ。そこで昔の知り合いに会いまして。ほら、覚えてます、高砂さんです」

磨夢「覚えている、あの魔法使い」

ゆい「そうですよ、向こうも磨夢さんのことを覚えていました」

磨夢「高砂はそっちに」

ゆい「いえ、高砂さんはその場で別れました。隣町の住民だそうです」

磨夢「そう」

ゆい「もしかして高砂さんが関わっているとお思いですか」

磨夢「ん、そこを詳しく知りたい」

ゆい「話せば長くなるんですけどね…」


192-11

基茂「たでーまっと…誰も迎えに来ねーな。やしろんですら来ないとは」

タタタタ

基茂「と思ったら誰か来るな」

蕨(袖をクイッ)

基茂「ん、どした」

蕨「………」

基茂「深刻そうな顔して。何かあったのか」

蕨(コクリ)

基茂「………」

蕨(居間の方を指差す)

基茂「居間にみんな集まってんのか」

蕨(コクリ)


192-12

ゆい「あっ、兄さん。おかえりなさい」

基茂「蕨に連れられてきたが、何がどうしたというのだ」

ゆい「それなんですが…」

八城「………」

基茂「やしろん?」

八城「やし…ろん?やしろんってあたしの事?」

基茂「あぁ、そうだ」

八城「そーか。あたしがやしろん…あなたは誰」

基茂「ん、俺はやしろんがいつもお兄ちゃんと呼んでいる者だぞ」

八城「お兄ちゃん…誰だろう」

基茂「…あ、改めて言おう。自分はやしろんで、俺はお兄ちゃんだ」

八城「やしろん…?お兄ちゃん…?」

基茂「もしかして忘れてしまったのか」

八城「うん、よく思い出せないの」

基茂「………」

ゆい「状況は確認出来ましたか」

基茂「つまり、やしろんは記憶がなくなったと」

ゆい「はい、そのようで」

基茂「何か心当たりは無いか」

ゆい「それが一つだけあります。実は斯く斯く然々で」

基茂「その時一緒に居たんだな」

ゆい「はい、ああなったのは不測の事態で」

基茂「どうしてくれるんだ」

ゆい「わたしには…どうすることもできません」

基茂「やしろんはな、記憶を失ってしまったんだ」

ゆい「はい、それは承知の上ですが」

基茂「そのためにやることがあるだろう」

ゆい「八城ちゃんの記憶を修正する…」

基茂「そうだ、できないか」

ゆい「………」

基茂「何か言えよ」

ゆい「…できません。あれでは」

基茂「ゆいゆいにはできるだろう、な?」

ゆい「…グスッ」

ギュッ

ゆい「!?」

基茂「ゆいゆいって思ったより小さいよな。こうしていたら潰れそうなくらいだ」

ゆい「兄さん…グスッ、とても暖かいです」

基茂「ずっとこうしていたいが、状況が状況だ」

そっと

基茂「さぁ、できるか」

ゆい「やってみます」


192-13

ゆい「八城ちゃん」

蕨(クイッ)

八城「………」

ゆい「この写真、どう思います」

八城「楽しそうだね。何であたしたちは一緒に」

ゆい「わたしたちはですね、家族なんですよ。厳密に言えばわたしは違いますが」

八城「…家族」

ゆい「はい、何か思い出しました」

八城「嫌な思い出があったよ。あたしずっと苛められていた」

ゆい「はい?」

八城「お父さんとお母さんが居てね。お母さんは優しい人だったんだけど、お父さんがいつもあたしに乱暴して」

ゆい「はい」

八城「あたしね、とても辛かったの。何で生きてるんだろうって思ったよ」

ゆい「そんな昔にですか」

八城「昔といっても、少し前の話。その日もサンドバックのように殴られたの」

ゆい「………」

八城「お母さんは黙って見ているだけ。あたしのこと何とも思っていなかったのかな」

ゆい「何かは考えていた筈ですよ」

八城「そうかなあ、お母さんもお父さんのこと、分かっていなかった気がするよ」

ゆい「そういった家庭事情で」

八城「お母さんはお父さんの事、ちゃんと愛していたのかな」

ゆい「愛せなかったんでしょう。愛は稀薄だったのです」

八城「あたしに対する愛はあったよ。お昼頃だったかな。お父さんは寝ていた。暫くするとね、お父さんが叫ぶ声がした」

ゆい「やはりお母さんは八城ちゃんの事、愛していたんですね」

八城「その時には、もう居なかったよ」

ゆい「ん?」

八城「その後の事は覚えてないや」

ゆい「見せたくなかったんでしょうね。その惨状を」

八城「家族、嫌なものだったよ」

ゆい「………」

八城「あれ、でもかなり昔の話な気もするなぁ。真っ白だったみたい」

ゆい「小室井って苗字、思い出せますか」

八城「小室井、小室井だったかな、あの家族…違ったかな」

ゆい「んんー、手掛かりが掴めませんね」

八城「うーん?」

ゆい「しかしそこが小室井だとしたら、わたしの計画は台無しになりますね」

八城「何か考えているの」

ゆい「わたしは以前八城ちゃんに話したのです。その親を挽き肉にしてくれようと」

八城「へぇ、八城ちゃんと仲良いんだね」

ゆい「はい、今でも親友ですからね」

八城「親友かぁ…あたしには居なかったな」

ゆい「ずっと一人だったんですか」

八城「うん、ずっと一人だったよ」

ゆい「では失礼しますね」

八城「うん、お気をつけて」


192-14

ゆい「という話を聞きました」

基茂「やしろんにそんな過去があったのか」

ゆい「はい、わたしも初めて聞きました」

基茂「それはやしろんっぽくなかったろうな」

ゆい「八城ちゃんらしくなかったですね」

基茂「今の家族は思い出せないのか」

ゆい「はい、全くを以て」

磨夢「いくら伝えようとしても無駄」

ゆい「じゃあどうします、あのままにしておきます?」

磨夢「ん、それが妥当かと」

基茂「あの様子だと、誰かに連れてきてもらったのか」

磨夢「そう、ちるが連れてきた」

基茂「そうか、ちるか。当時と同じ形か」

磨夢「ちるはそう言ってた。既視感があったと」

基茂「つまり段ボールに入っていた、というのか」

磨夢「そう」

ゆい「やはり何者かが関わっているようです」

基茂「わざわざそのためだけにか」

ゆい「はい。あ、でも、良い人かもしれませんね。路頭に迷った八城ちゃんに家を提供してくれるのですから」

磨夢「ちる曰わく毛布にくるまっていたという話」

基茂「寝床はきっちりしてるのな」

ゆい「優しい人だったのです」

基茂「ゆいゆいだったりしないよな」

ゆい「わたしならその場で喰ってしまいますよ」

基茂「ゆいゆいは優しくないもんな」

磨夢「そう、いつも何か企んでいる」

ゆい「わたしは腹黒くありませんよ」

基茂「計画を立てられるのはいいことだ。準備ができる奴はな」

ゆい「はい、ですからわたしは毎朝決まった時間に兄さんを襲いにくるのです。兄さんが絶対に寝ているような時間を選びます」

基茂「オレだって徹夜するこたぁあるぜ」

ゆい「その場合は向かいません。しかし、一人で寝ているのは寂しいものです。兄さんとお話するのもありです」

基茂「別に明るい時でも…」

ゆい「暗がりだから自分の身を晒せるのですよ。明るい場所では風呂くらいしかありえません」

基茂「そうだな、風呂ならゆいゆいの肌がはっきり見える」

磨夢「基茂、大きくなってる」

基茂「うるさいやい」

ゆい「兄さん、予約するなら今の内ですよ」

基茂「そうさせてもらおう」

磨夢「………」

八城「ねえ、お腹空いたよ」

磨夢「何か作ればいい」

八城「あたし何も作れないよ」

磨夢「夕飯は自分で準備することになっている」

基茂「磨夢、台所借りるぞ」

ゆい「兄さん自らを料理するんですね」

基茂「自分で出汁を取るのは難しいな。そんなに大きな鍋あるのか」

ゆい「ドラム缶なんてどうですか。火力の調節は期待出来ませんよ」

基茂「茹で殺す気満々じゃねーか…」

ゆい「ヒトガラスープ飲んでみたいです」

基茂「あ、そうだ。やしろん」

磨夢「ん」

八城「あっ、うん」

基茂「まず、名前からだな。おま…嬢ちゃんの名前は小室井八城。うちでは下の名前で呼ぶから姓はあまり気にしなくていい。良いか、八城な。オレは愛着を持ってやしろんと呼んでいる」

八城「八城、やしろん…」

基茂「自分の名前は分かったな。オレの名前は伊崎基茂。やしろんはオレのことをお兄ちゃんと呼んでいた。ゆいゆいが兄さんと言っているようにな」

八城「基茂、お兄ちゃん…」

ゆい「では、わたしですね。わたしはこの町の神社で巫女をやっています羽衣ゆいです。ですから、わたしはいつも居るわけではありません。でも会うのは簡単ですよ。神社に来てくだされば大抵居ますし。朝昼晩にはご飯を頂きにきます。兄さんはゆいゆいと呼んでいますが、八城ちゃんは普通にゆいちゃんと呼んでもらえばいいです」

八城「…ゆいちゃん」

ゆい「磨夢さん」

磨夢「延原磨夢。磨夢でいい」

ゆい「八城ちゃんは、まみーと呼んでいましたよ」

八城「…まみー」

基茂「覚えたか」

八城「あたし八城、お兄ちゃん、ゆいちゃん、まみー」

ゆい「よく出来ました」

八城「うん」


192-15

磨夢「風呂、沸いた」

基茂「入るか」

ゆい「兄さん、わたしも」

基茂「好きにしろ」

ゆい「八城ちゃんも入りますか」

八城「うん」


192-16

八城「ゆいちゃん、肌白いね」

ゆい「外に出ているのに白いのです。不思議でしょう」

八城「うん、不思議」

ゆい「磨夢さんも、なかなか白いですよ」

八城「へぇ…あ、思い出した。ゆいちゃんはエロい」

ゆい「何故今それを思い出したんですか」

基茂「そうだ、ゆいゆいは身体的にも精神的にもエロい」

八城「あたしはゆいちゃんのそこに惹かれたんだ」

基茂「新生やしろんは、よく分かっているな。ゆいゆいの魅力はそこにある」

ゆい「兄さん、ちるさんのことを忘れては不可ませんよ」

基茂「実はゆいゆいより共有時間は長いぞ」

ゆい「自宅と学園なんて比べるものじゃありませんよ。わたしはいつも兄さんの事を考えていますけど」

基茂「ゆいゆいも依存し過ぎだろう」

ゆい「兄さんの性的対象がわたししかいないように、わたしにも兄さんしかいないのです」

基茂「………」

八城「お兄ちゃんとゆいちゃんってどういう関係なの」

ゆい「兄さんとは幾度も目合いしました。距離など一切感じ得ない間柄でございます」

八城「密着してるんだね」

ゆい「くっついたら離れないのですよ」

基茂「のぼせそうだし上がっていいか」

ゆい「兄さん、わたしを前に座らせてください」

基茂「挿入は無理なんだな」

ゆい「そうにゅうことじゃありませんからね」

チャポン

ゆい「八城ちゃんも入りませんか」

八城「うん、そうする」

チャポン

基茂「やしろんも背中向けてくれていいんだぞ」

八城「ん、何が」

基茂「あ、やっぱりいいや」

八城「?」

ゆい「兄さん兄さん、抱き締めてくれていいんですよ」

基茂「ゆ、ゆいゆいの髪は綺麗だなぁ」

八城「ゆいちゃんゆいちゃん」

ゆい「何でしょ…ブッ」

八城「水鉄砲決まったり」

ゆい「わ、わたしも仕返ししますよ。やり方分かりませんけど」

八城「両手をこうやって重ねて…こうだよ」

バシュ

基茂「ぐはぁ」

ゆい「成程こうやって重ねて…こう、ですか」

バシュ

基茂「ぶはっ…お前らスナイパーか」

八城「ゆいちゃんはまっすぐ飛ばせていないだけだよ」

ゆい「兄さんの顔に命中すれば、それでいいのです」

基茂「おのれゆいゆいめ。よしやしろん、挟み撃ちだ」

八城「あたしはお兄ちゃん狙うー」

ゆい「二段構えです。撃てー」

八城「いえっさー。発射」

バシュ

ゆい「続いていきます。えいっ」

バシュ

基茂「ぐはぁ…もう容赦しないぞ」

ゆい「や、優しくお願いしますね」

基茂「二人まとめて沈めてくれよう」

バシュ

八城「させないよ。迎撃っ」

バシュ

基茂「明らかに火力違ったよな」

ゆい「わたしには思い切りかかっていますよ」

基茂「ゆいゆいが盾になってくれたのか」

ゆい「進んでなったりはしません」

八城「お兄ちゃん、かもーん」

基茂「小癪な。ぶっ潰してくれるわ」

バシュ

八城「甘いよ、お兄ちゃん」

バシュ

ゆい「わっぷ」

基茂「ゆいゆいが盾になって…」

ゆい「二度も言う必要はないですよ」

八城「ゆいちゃんもお兄ちゃんを狙えばいいと思うの」

ゆい「そうですね。その手がありました。えいっ」

バシュ

基茂「うはっ」

八城「その調子だよ、ゆいちゃん」

ゆい「やればできるといったものです」

基茂「そろそろ上がるか」

八城「はーい」


192-17

ゆい「お次は磨夢さんですよ、八城ちゃん」

八城「話せるか分からないよ」

ゆい「話す必要はないのですよ」

八城「?」


192-18

八城「えーと…まみーだっけ」

磨夢「ん、そう呼ばれてた」

八城「仲良くしてね」

磨夢「ん」

八城「うん」

磨夢「そういえば、八城変わっていない」

八城「そーなの」

磨夢「思い出した?」

八城「まみーの顔は新鮮だなぁ」

磨夢「………」

八城「あまり覚えてないみたい」

磨夢「そう」

八城「まみーはご飯作ってるの」

磨夢「ん、わたしはみんなの夕飯を作る」

八城「へぇ、すごいや」

磨夢「手伝いにきた?」

八城「何か手伝えることあるの」

磨夢「その辺の持っていって」

八城「はーい」


192-19

ゆい「兄さん、八城ちゃん、どう思います」

基茂「可愛いな、だがエロくない」

ゆい「お風呂で吟味していたんですか」

基茂「許可は得ていた。問題ない。新しくなっても変わらないな」

ゆい「変わったのは頭だけです。肉体は変わらないのです。ちなみに兄さん、わたしは不老不死です」

基茂「不老だけで十分だ。年いったゆいゆいなんて見たかねーよ」

ゆい「この町から出て帰ってくることはあるのでしょうか」

基茂「実家に戻ったらなかなか帰ってこれねーかもな。ゆいゆいは出るわけにはいかないんだろう」

ゆい「数時間はよくても、数日空けるのは難しいですね。ょぅι"ょ隊にも迷惑が掛かってしまいます」

基茂「だとしたら、オレが出たら難しいな。文通でもするか」

ゆい「兄さんへ。前略。お元気ですか、わたしは元気です。最近は自殺が多発していまして、個人的に実りの時期となっております。わたしの神社で死ぬ人が多いので、その場で頂いております。やはり新鮮なものが美味しいですからね。お店の在庫も安定してきたので、わたしも安心して足を伸ばせるようになりました。兄さんも今度一緒に如何ですか。またお会いできることを楽しみにしております。草々。ゆい」

基茂「そんなものが続くのか」

ゆい「食人の話をすることがあれば、八城ちゃん達の話もします。時には怪文書を送ることもあるでしょう」

基茂「日常的な話がいいぞ。実家の話は長続きしなさそうだが」

ゆい「受け取る側はつまらないことでいいのです。日記をつけていれば、生きていると実感できるでしょう。そんな感じでお願いします」

基茂「オレの話がつまらなくても、ゆいゆいの話で盛り上がれば、それでいいや」

ゆい「はは、そうですか」

コンコン

基茂「やしろんか」

八城「あったりー。ここがお兄ちゃんの部屋かぁ」

基茂「そうだ、磨夢に教えてもらったのか」

八城「うん、お部屋あまり使わないから、階段のすぐ近くにしたんでしょ」

基茂「そうだ。やしろんの部屋もどっかにある筈だぞ」

八城「じゃあ、探してくるね」

ガチャ

ゆい「楽しそうですね」

基茂「ゆいゆいもついていったらどうだ」

ゆい「わたしは、もう少し兄さんと話していたいです」

基茂「オレは別に逃げねーよ」


192-20

磨夢「部屋、見つかった」

八城「うん、変な所にあったよ」

磨夢「そう」

八城「地下なら地下と言ってほしいのさ」

磨夢「背筋、凍る」

八城「階段降りる途中に可愛い絵が飾ってあったよ」

磨夢「そう」

八城「でも降りたら怖かったよ。あれは何か出そうだった」

磨夢「湧いてくるくらいに出る。かなり死んでいるから」

八城「怖い怖い怖い怖い怖い怖い」

磨夢「心霊現象に慣れるにはもってこい」

八城「ふぇ、そうなの」

磨夢「もしかして耐性ない」

八城「怖いのはまだ慣れないなぁ」

磨夢「そう」

八城「まみーは強いの」

磨夢「人間よりはマシ」

八城「あはは…」

磨夢「それで行ってみたら」

八城「え、また、今度にするよ」


193

霞「お昼の放送です」

玄那「ん、ああ、うん」

霞「クロちゃん、もう始まっていますよ」

玄那「なんと!こんにちは、放送部です。わたしクロちゃんとかすむんでお送りする」

霞「さて、クロちゃんの今日の夢コーナーです」

玄那「家族でドライブに行った。新しくできたデパートに来た。ドアが開かない。親は既に降車しているも、わたしだけ閉じ込められてしまった。仕方がないので、わたしは本を読んでいることにしたよ。車の前の所に入っていた免許の本を読んでいた。そうしたら家に戻っていた。こんなもんかな」

霞「車から出る必要もなかったということですね。クロちゃんは相変わらず瞬間移動をしますね」

玄那「夢に脈絡がないんだ。三本仕立てとかになったら尚更」

霞「それ、わたしも分かりますよ。前の夢に戻るに戻れないんですよね」

玄那「そういう時に起きかけて二度寝をすることはよくあることだろう。そして昼になる」

霞「クロちゃんはそれで遅刻するんですか。平日はたたき起こしに行きますね。さあ、今日のリクエストを流していきますよ。時の輪廻です」

玄那「あぁ、最近発掘したいい曲だ」


194-1

八城「思い出すのって大変だね」

ゆい「そうですね。ゆっくり思い出すのもいいと思いますよ」

八城「あの集まりは家族なの」

ゆい「そういうようなものでしょう。八城ちゃんは、昼間一人ですけど」

八城「そーだ。一人だから、お昼に食べるものが分からないんだよ」

ゆい「磨夢さんはお昼に帰ってこない場合は、食卓に手紙があります」

八城「手紙なんてあったかしら」

ゆい「磨夢さんから無言電話もあります」

八城「あれ、まみーの悪戯だったんだ」

ゆい「わたしの場合、時間で分かります。腹時計が鳴ります」

八城「じゃあ一緒にお家に向かおう」

ゆい「はい」


194-2

八城「ただいまぁ」

ゆい「誰も居ませんよ」

八城「蕨って子と子猫が居るよ」

ゆい「八城ちゃんはらびぃと呼んでいました。それから子猫ちゃんの名前は、レオポンですよ」

八城「らびぃ、レオポン…」

ゆい「覚えましたか」

八城「うん、覚えた」


194-3

蕨「………」

八城「ええっと、らびぃ」

蕨(コクリ)

八城「その子猫はレオポンだね」

レオポン「にゃあ」

八城「らびぃ、食べるもの分かった?」

蕨(フルフル)

八城「手紙には、いってきますしか書いてないや」

ゆい「磨夢さんも困った人ですね」

八城「お菓子の棚に付箋が貼ってあるよ。今日の日付だ」

ゆい「多分、それでしょう」

八城「本当だ、お兄ちゃんのシスコーンがあった」

ゆい「兄さんはシスコの方でしたか」

八城「うん、シスコンだよ」

ゆい「正確には妹じゃないんですよ、わたしたちは」

八城「分かっているよ」

ゆい「………」

八城「箱に当たりって書いてあるよ。もう一箱貰えるのかな」

ゆい「どう見ても手書きですよ」

八城「なんだ、残念」

蕨(がっくり)

ゆい「………」

レオポン「にゃ?」

レオポン(ええっと、わたしは誰だったか)

ゆい(あなたも記憶喪失しちゃったんですか)

レオポン(あまりにも久し振り過ぎて)

ゆい「………」

レオポン「にゃあ…」

八城「あれ、なんでみんなでがっくししてるの」

蕨「?」

ゆい「ええっと、これは…ですね」

レオポン(………)

ゆい(その目は何ですか)

八城「どしたの、ゆいちゃん。レオポンと見つめ合って」

ゆい「レオポンは可愛いなって思ったんですよ。ほら、レオポン」

レオポン「にゃあ」

蕨(がっくり)

レオポン「にゃー」

蕨「♪」

八城「らびぃとレオポンは仲良いんだね」

蕨(こくり)

レオポン「にゃあ」

ゆい「蕨ちゃん可愛いです」

蕨(ニコッ)

ゆい「蕨ちゃんは精神的な対話が出来ますか」

蕨「?」

ゆい「レオポンと心を通わすのです」

蕨(コクリ)

レオポン「にゃ?」

蕨「………」

レオポン「みぃ」

蕨(コクリ)

レオポン「にゃあ」

蕨「♪」

八城「らびぃとレオポンは一心同体だよ」

蕨(コクリ)

ゆい「ほ、ほぉ…」

八城「ところで何食べんだっけ」

ゆい「フルグラがあった筈です。美味しいですよ」

八城「へぇフルグラねぇフルグラ」

レオポン(じーっ)

八城「レオポンの餌って何かあるの」

蕨(コクリ)

ガサゴソ

八城「これをレオポンにあげたらいいの」

蕨(コクリ)

カラカラ

八城「この銀のお皿を使うのかー」

蕨(コクリ)

ザーッ

レオポン「…にゃ」

タタタッ

むしゃむしゃ

八城「おー凄い食べっぷりだにゃ」

蕨(グイグイ)

八城「うんうん、あたしたちも食べないとだね。ゆいちゃん、分けるよ」

ゆい「はい、お願いします」

八城「どしたの、ゆいちゃん、ぼーっとして」

ゆい「考え事をしていたのです」

八城「ほへぇ」

蕨(じーっ)

八城「そだね、食べよう」


195

純治「ああ、昼か。伊崎は最近教室に残ることが多いな」

基茂「昼は飯食って寝るに限る」

純治「おっ、オレの気持ちが分かるようになったか。まあオレは、起きないことの方が多いんだが。だから、授業中にこっそり食う」

基茂「よく最前列で食えるよな。端っこだけど」

純治「一番ドアに近いという帰宅部に相応しい席よ。そして端っこは視野に入りにくいだろうしな」

基茂「というより、うちはマイペースの教師が多くないか」

純治「確かに、日本史の先生のように授業も早い先生が居れば、脱線する先生もちらほら居る気がするぜぃ」

基茂「そして生徒を気にかける教師、授業放棄なんて見たことないけど」

純治「生徒を見ている教師っていうのは、うちの担任とかだな」

基茂「うちの担任は世話好きだよなぁ。懇談でよく分かる」

純治「生徒のことをしっかり見ているから、あんなに誉められる。ってことだな」

基茂「佐竹、ご名答。じゃあオレは寝るな」

純治「食うのは早いな。おやす」


196

八城「ゆいちゃんゆいちゃん」

ゆい「どうしました、八城ちゃん」

八城「はいこれ前の本。続き貸して」

ゆい「面白かったですか」

八城「文章は難しかったけど、中身は面白かったよ」

ゆい「一つ賢くなったということですね。この本は二巻から構成されています。これです」

八城「分厚いね」

ゆい「二巻が本題なのです。一巻の内容を踏まえた上で、真実を追究していきます」

八城「もっと難しくなるの」

ゆい「はい、でも面白いですよ」

八城「面白いなら読むよ」

ゆい「はい、是非是非」

八城「ゆいちゃん、これが本なの」

ゆい「はい、難解であるからこそ本と呼ばれましょう」

八城「へぇ」


197-1

玄那「最近やしろんが来ないのはどーゆーことなんだ」

霞「やしろんは屹度違う趣味を見つけたのでしょう。これぞ失って初めて気付くものですね。やしろんは別次元に行ってしまったんです」

玄那「嗚呼、やしろんは遠い存在になってしまった。我々の知り得ない分野に足を伸ばしたとでもいうのだろうか。しかし、突然来なくなるというのも不思議な話ではある。もしかして引っ越したのかな」

霞「その辺りは先生に訊いてみましょう。あくまで情報を訊くだけですよ。それ以上の事は求めていませんとも。では掛けますね」


197-2

磨夢「ん」

霞「取り込み中ですか」

磨夢「………」

霞「忙しいようでしたら直ちに切りましょう。ご迷惑お掛けいたしまし…」

磨夢「長々と語って」

霞「分かりました、長々と語りましょう。わたくし三宅霞と上井玄那は只今駅前のゲーセンに居ます。わたし達は二人で来ております。現地に於いても二人なんです。これは別に店内で二人だけということではありません。ここは町一番のゲーセンです。集まらないわけがありません。しかしですね、彼らは決して仲間とは言い切れません。同じ世界の住民であるだけです。仲間とはその中でも意気投合した人と限定されるんです。我々は各々ギルドたるものを築き上げます。これは多数でも少数でも構いません。我々は後者にあります。誰だって一人から始まるんです。わたしはまず、クロちゃんに出会いました。この邂逅がわたしの人生を変えました。時には勝ち、時には負ける。そう、わたしはこういう戦いを待ち望んでいたんです。クロちゃんとは良い汗を流しあいましたが、わたしは更に強者を求めるようになりました。周りに居ないなら作ればいいじゃない。そうして、かすむんファミリーが増えるわけです。それでその子の話なんですが、ゲーセンに来てくれないんですか」

磨夢「八城のことなら、本読んでいる」

霞「な、なんですとぉー。それはあまりにも信じられない話です」

磨夢「それが本当。何故かは知らない」

霞「誰か唆した人が居るというなら、彼彼女はわたしの敵です。月間MVPを我々から奪ったんです」

磨夢「………」


197-3

霞「先生なら、お菓子の輸入を禁止します」

磨夢「戦争…」

霞「しかし、わたしには分かっています。先生ではないです。誰かもう一人いる筈です」

磨夢「………」

霞「先生が分からないなら、推測する他はないでしょう。椎木先輩…はあまり、やしろんと関わっていないですね。では伊崎先輩、寧ろゲーマーになりますね。ごめんなさい、わたしにも分からないです」

磨夢「そう」

霞「やしろん、どうかしましたか」

磨夢「………」

霞「あのー、先生」

磨夢「K地区で飛び降り、行ってくる」

霞「はい、いってらっしゃいです」


197-4

玄那「どうだった」

霞「やしろんは違う趣味に目覚めたみたいです。どこかに誘導した人が居ます」

玄那「駄目だったみたいだな。まあ気長に待てばいい。いつか帰ってくるさ」

霞「クロちゃんは楽天家ですねぇ」

玄那「些事に悩まされていては前に進めんぞ。物事を寛大に受け止めるのだ」

霞「クロちゃん素敵です、惚れます。流石わたしが見込んだ方ですね」

玄那「やめろぃ、照れるやい」

霞「クロちゃんは男の娘なんですよね。あるいは、後継ぎになるために男装していたという設定ですか。両者とも惚れるのは問題ないです。そういう扱いですからね」

玄那「かすむんは普通の性別を受け付けないのか」

霞「あくまでクロちゃんに対してです。わたしだって普通の恋愛したいですよ」

玄那「まあ、先生とお幸せにな」

霞「ぶへえええええん」


197-5

八城「ん、ここは」

ガラガラガラ

霞「あっ、あの姿はやしろんではありませんか。噂をすれば何とやらですよ」

玄那「でもこっちに気付いてないぞ」

霞「ドアの所で立ち往生しています。虚空を見つめているかのようです」

玄那「何をしようか迷ってんのかな」

霞「真っ先に格ゲーに向かうわたしとは違う、流石玄人は違います。あ、動きましたよ。シューティングですか、良かったですねクロちゃん」

玄那「よし、ここで勝ったとて。あの筐体はウルトラ警備隊ではないか。町なんてぶっ壊してしまえ」

霞「違います、宇宙人の船を破壊するんですよ。彼らは正義の味方ですからね」

玄那「ふむ、あくまで悪を倒すことが目的で、町の破壊は多少なる損害というやつだな。市街戦の場合仕方がない」

霞「彼らは当然戦いに慣れていなければなりません。不慣れの人、あるいは戦力差により損害が出るんですよ」

玄那「それはそうだ。後者の場合はあれだろう、お約束の助っ人が登場するものだ」

霞「ヒーローは遅れてやってくる、というやつですね。彼に対してはヒーローですから。そして協力してやっつけるんですよ」

玄那「協力プレイはいいと思うんだ。しかし、リンチはいけないと思うんだ」

霞「そうです、イジメカコワルイです。あれは悲劇に相当するものです」

玄那「ゴモちゃんの事は絶対に許さない。やしろん、とてもがっかりしているぞ」

霞「そのまま出ていきそうですね。どうします、引き止めますか」

玄那「いいや、会えただけでもよしとしよう。向こうが話し掛けてきたら、そこから交流が始まるんだ」

霞「そういう思想はやめましょう。悲しくなります。昔を思い出します」

玄那「かすむんがそう語ろうと過去は過去である。さて、一戦お願いするとしよう」

霞「一戦ならぬ何戦でもお相手しちゃいますよ」


197-6

ゆい「あら、八城ちゃん。どこに行ってたんですか」

八城「駅前をぶらぶらしてたよ。げーせんとかいう所で遊んだよ」

ゆい「楽しかったですか」

八城「うん、一人でも楽しかったよ」

ゆい「わたしもそのような場所が欲しいです」

八城「ゆいちゃん、お家来たら楽しそうだよ」

ゆい「はい、事実、楽しんでいます。八城ちゃんに会って前に増して楽しくなりました」

八城「そーなんだ」

ゆい「八城ちゃんが初めてのお友達ですよ。仕事関係は、そんなに楽しいものじゃなかったので」

八城「大変だったんだね」

ゆい「知り合いと友人なんて月とスッポン、ですよ。磨夢さんも元はといえば、そちら側の人間なんです」

八城「まみーは特別でしょ」

ゆい「まあ、ある意味特別ではありますね。磨夢さんは何の躊躇もなく、魂を売りましたから」

八城「まみーは幸せが欲しかったの」

ゆい「磨夢さんに限って、それはありません。その心理の奥底に辿り着くことはできません」

八城「ほへぇ、そうなんだ」

ゆい「磨夢さんは何を考えているのか分かりません」

八城「そだね、分かんないや」

ゆい「わたしが知らなきゃ誰が知るんだって話ですが」

八城「付き合いは長いの」

ゆい「付き合いは長いですね。屋敷の方々とどちらが長いかは分かりませんが。わたしでさえ年齢を把握していませんからね」

八城「まみー、誰かに仕えていたの」

ゆい「はい、わたしもその詳細は知りませんが、一時期、某名家に奉公していたようです」

八城「へぇー、まみーそんなことしてたんだ」

ゆい「そこを出てから、わたしの所に来たんですよ。だとしたら、わたしと磨夢さんの関係も浅いものかもしれませんね」

八城「ゆいちゃんはずっと巫女さんをしているの」

ゆい「はい、神社に生まれ、神社に育ちましたよ。外の世界を知らないのは当然です」

八城「箱入りゆいちゃん」

ゆい「暫く箱に籠もりっきりでしたからね。びっくり箱にすらなり得ないのです」

八城「まみーは神社来てたの」

ゆい「磨夢さんはたまに来ていましたね。何かしらやってこつこつ稼いでいたようです」

八城「まみーは働くねぇ」

ゆい「労働年齢に制限はないのですよ。その意志があるなら、羽衣ネットワークに入社しませんか。社員共々菓子パで歓迎しますよ」

八城「菓子パー。菓子パするならいいかも」

ゆい「磨夢さんに頼んでおきます。お菓子を沢山入荷しておいてくださいとの件」

八城「おうちでやるのかな」

ゆい「と思いましたが、居間はそれほど広くないですね」

八城「そだね」

ゆい「ょぅι"ょ隊くらいなら入るんですけどね」

八城「じゃあゆいちゃんとこかな」

ゆい「流石にうちよりはそちらの方が大きかれと思います。敷地面積は考えると、また別の話になりますが」

八城「ゆいちゃん住める所が少ないのよ」

ゆい「殆ど神域ですよもう。神のおはす所に於いて、わたしの活動範囲は限られています」

八城「寝られたらそれでいいの」

ゆい「その通りです。トイレは境内にありますし、風呂と食事は八城ちゃん達の家へ参ります。布団はあったか羽毛布団」

八城「ドラム缶風呂とかしないの」

ゆい「久しくやっていないですね。八城ちゃん、やりたいですか」

八城「うん、やりたいやりたい」

ゆい「分かりました。こちらへ」

八城「何かやってるの」

ゆい「昔ドラム缶にコンクリート詰めた殺した事件がありましたね」

八城「ふぇ?」


197-7

ゆい「さて、これです」

八城「随分歩いた所にあるんだね」

ゆい「仮にもお風呂、他人に見られるわけにはいきません。あっ、でも自殺志願者が来ますね」

八城「有名なの」

ゆい「樹海だってそうですよ。彼らは森に集うものです。飛び降りるならどこでもいいものですが」

八城「ゆいちゃんは止めたりしないの」

ゆい「死を望む者に思いとどまってもらおうというのは、その人の行動、思想を否定することになります。彼らが思考の末に得た答えは、他人によって安易に覆されるものであってはならないのです」

八城「うーん、そうかなぁ」

ゆい「だから、彼らには何を言っても無駄です、彼らの決意はそれだけ固いのです。自ら大地に還ることを望むのです」

八城「あたしはお空がいいなぁ」

ゆい「昇天は逃げられてしまいますね」

八城「ところで火はどうするの」

高砂「おー、なにやってんだ」

ゆい「高砂さん、何故来たんです」

高砂「ちょいとパトロール兼人助けをしているんだ。たかしゃごはへーわを愛する者だからな」

ゆい「わざわざ隣町までご苦労様です。早速ですが高砂さん、ここに火をつけることはできますか」

高砂「お安いごよーさ。はぁっ」

八城「うぉー、すごいよ火が出たよ」

ゆい「高砂さんは魔女ですから、こういうことは、お茶の子さいさいなのです」

八城「へぇ、魔女かぁ」

高砂「しゃちょーは火遊びが好きなのか」

ゆい「頻繁にはありませんが、まあ…」

八城「ゆいちゃん、顔赤いね」

ゆい「今つけた火の所為です」

高砂「しゃちょー、これは何だ」

ゆい「これは、ドラム缶という名の鍋です。今回はお風呂として扱います」

高砂「ぎせーしゃが生まれるな」

八城「あたしはお風呂に入るだけだよ」

高砂「たかしゃごにはまるで分からないぞ」

ゆい「深く考える必要はありませんよ。今はそれ程お腹空いていませんからね」

八城「ねぇねぇゆいちゃん入っていい」

ゆい「はい、入るといいですよ。適温かと思います。脚立はそちらですよ」

八城「わーい、おっふろ、おっふろー」

高砂「たかしゃごはあの子に見覚えがあるぞ」

ゆい「曖昧なら思い出さない方がいいですよ」

高砂「そーか、そーだな」

ゆい「高砂さんは何も悪くないのです」

高砂「たかしゃごが何かしたのか」

ゆい「仮に八城ちゃんの記憶が戻れば、その怨念により、高砂さんは一生呪われることでしょう」

高砂「そんなことする顔には見えないな」

ゆい「失礼、呪いも魔法も使えない一般人でした」

高砂「そこ忘れちゃいけないぞ」


198-1

ガチャガチャ

ちる「………」

ゴンゴンゴンゴン

ちる「………」

バンバンバンバン

ちる「………」

trrr

合歓「はい。お姉ちゃんだよ」

ちる「お姉ちゃん、家の前に、居ます…か」

合歓「いや、あっしじゃないっすよ。あたしゃあ只今安宿でくつろいどるべ」

ちる「そう…ですか」

合歓「どったん、ちるたん。ストーカーでも出来たんかね」

ちる「はい。さ、さきほ…先程ま…で、ど、ドア…を、た、たた…く、おお音が…」

合歓「ちるたん、落ち着こう。今ぁ大丈夫なん」

ちる「あ…また、微かに…微か…に、聞こえ…て、き…ます。わわわたし、ここ怖くて怖くて怖くて」

合歓「ちるたん、一旦、玄関へ行こう。そこから相手の心を読むんだぁっ」

ちる「は、はい。きょ、距離が…あれば。で、では…失礼して」

合歓「頑張りな」


198-2

コンコン

ちる「………」

コンコンコンコン

ちる「………」

バンバン

ちる「………」

ドンドン

ちる「………っ!」


198-3

合歓「どうだった」

ちる「気配が…感じられません」

合歓「どがんこっちゃそりゃ」

ちる「音だけが…します」

合歓「恐ろしいストーカーやのぅ」

ちる「お化け、ですか。わたしは…み、見ることは、で、でき…ませんが」

合歓「死んでもちるたんを愛し続けっとは、凄い執念だべ。貰っていい、このネタ」

ちる「別に構いま…せんけど。げん、現状の、打開…策を考えて、もらえ…ますか」

合歓「いつも通り無視していりゃあいいじゃろ。ちるたんの家はお風呂なかったんね」

ちる「はい。その、そのあたりが…訳ありな、点…です」

合歓「訳ありね、訳ありならどうにかなるんちゃうん」

ちる「そう…ですね。うち、うちにも…居ます…し」

合歓「名付けっと幽霊の問題は幽霊が解決してくれる。時間の問題作戦だぁっ」

ちる「お姉、ちゃん…そのまま、ですよ」

合歓「こまけぇこたぁ気にすんない。その間は読書してりゃあいいべ」

ちる「はい、そうして…おきます。あ、ありがとう、ござい…ました。では、切ります…ね」

合歓「気ぃつけんのよ」

ちる「はい」

ガチャ

ちる「ふぅ…」

コンコン

ちる「………!」

玄那「わたしだぞ、上井だ、先輩」

ちる「何だ、く、クロ、ちゃん…ですか」

玄那「どうしたんだ。顔が蒼いぞ先輩」

ちる「じ、実は…かくかくしかじか…なんです」

玄那「つけられたりはしなかったのかのですかな」

ちる「きょ、今日…帰る迄は、な、なかった…です。わたしが、き、気付いた…のは、家に、は、入って、から…です」

玄那「それでわたしがノックした時も驚いた、と。大家さんに言っておこうか。わたしも防犯対策は研究中だからな」

ちる「お、オートロック…なんかは、如何ですか」

玄那「名案だと思う。しかし、わたしは締め出されることだろうな」

ちる「自己管理は、大事…です」

玄那「今の内にお隣さんと友好を深めておかねばならない」

ちる「案外、開放的…かも、しれません」

玄那「先輩は幽霊以外に閉鎖的だな。わたしとは対照的な関係にある。や、わたしも人見知りだな。知らない人とは何を話したらいいものか。思えば隣の人もあまり喋らないな。敢えていうなら挨拶くらいだな」

ちる「いえいえ、挨拶が、できる…なら、じゅ、十分ですよ。クロちゃんの、お、お隣は、どんな…方ですか」

玄那「抑揚のない仰々しい挨拶、そしてきびきびした歩き方、見た目こそは人間そっくりだが、実はロボットなんじゃないかと思っている」

ちる「アンド…ロイド、ですか」

玄那「そういうのそういうの。身体は結構大人だからな。人間の敗北ってやつかな」

ちる「………」

玄那「先輩はわたしに比べりゃある方だぞ…はあ全く。かすむんのようにはなりたくない」

ちる「ど、どのように、思って、いるん…ですか」

玄那「単純に自分の現状に満足している。あれだ、発達が見込めない。能力に対する代償だな」

ちる「あぁ、はい…」

玄那「ところで先輩、わたしはお土産を買ってきました」

ちる「しゃ、シャープペンシル…ありがとう、ございます」

玄那「今度はご当地のハイチュウにしようと思う」

ちる「まあ、なんでも」


199

磨夢「………」

ゆい「こんにちは。磨夢さんから来られるとは珍しいですね」

磨夢「何も変わっていない」

ゆい「はい、何も変わっていないのですよ」

磨夢「天への階段。確かこの辺り」

ゆい「覚えていましたか。ただ老朽化が進んでますから、軋みますよ、揺れますよ」

磨夢「滑落死しても上がっていける階段」

ゆい「むしろそっちの方が上りやすいかもしれません。揺れませんからね」

磨夢「自殺者の利用は可能?」

ゆい「生前の行いに影響します。また、それに至った経緯も重要ですね。考えた上の決断、つまり軽々しく、身を捨てるようではなりません。これら条件は厳しいものですから、自殺者が認められることは極めて少ないといえます」

磨夢「自殺であるくらいなら他殺。自分が望まない死は芸術である、と」

ゆい「他殺は不幸を伴った死です。関連形態としましては、事故死ですね。まさに階段を上って落ちるもの。人である以上は高みを望まないことです」

磨夢「それなら事故死を装った自殺にもなり得る」

ゆい「それは、わざと危険区域に踏み込むということでしょう。しかし、死ぬために向かうか、死を決して向かうか、では意味が違うのです。後者は他者の為に我が身を犠牲にする、という博愛の精神が溢れている場合があります。これこそわたしの望むものです」

磨夢「ゆいは気付いたら殺されていると思う」

ゆい「はい、霊により呪い殺されるだろうと思います。生身の人間が関与しない殺され方だってあるでしょう。霊的な力がわたしの首を絞めることでしょう」

磨夢「ゆいは自殺する気はある?」

ゆい「ありませんよ。ただでさえ儚い存在なのに、自らの手によってその寿命を縮めよう、というのは、何とも愚かなことでしょう。人間は自分に与えられた歳月をしっかり生きて、往生するのです。神様により授かった命は大切にしなければなりません」

磨夢「生きられるだけ生きる…」

ゆい「この階段はそういった人を歓迎するでしょう。人というよりは魂ですね。人には影、形すら見えませんから。死期が近くなって初めて、靄がかかった形で見えるようになるのです。魂で見る階段です」

磨夢「ところで本当に階段此処に?」

ゆい「はい、本当ですよ。たまに下りてくる方もいらっしゃいます。しかし楽園から下りてくるとは何事でしょう。林檎を食べてしまったのでしょうか。生前咎無き人であっても、楽園で罪を犯したとなれば、当然追放されます。生まれ変わる者があれば、地獄に落ちる者もあります。死者も運命に左右されるのです。そのような魂は幸福の道を歩むのでしょうか」

磨夢「いや、魂が自立しても、彷徨い続ける。一概に幸福とはいえない」

ゆい「その通りです。だから、魂は、一つの道に留まるべきなのです。神なら神、人なら人、とあるべきでしょう。例え神仏に至らなくても、再度人として生きたいという気持ちはあるでしょう。別の肉体に入り込み、新しい人生を歩んでいくのです。初めて光を見たあの時に戻るのです。母なる大地との再会に狂喜感激することでしょう」

磨夢「………」

ゆい「あっ、磨夢さん。お賽銭していって下さるのですか。お札だなんてとんでもないです。ささやかな気持ちで良いのです」

磨夢「………」

ゆい「お祓いしていきます?」

磨夢「脱がす気?」

ゆい「何を期待しているんですか、うちは神道ですよ」

磨夢「………」

ゆい「お腹が空いてきました」

磨夢「今日はグラタン」

ゆい「それは楽しみです」


200-1

基茂「海の季節だなぁ」

純治「そうだな。水着の幼女を拝みたいものだな」

基茂「ただ、海開きにはまだ早いようだぞ」

純治「海水浴場で幼女に欲情してぇなぁ」

基茂「海に逃げればバレないと思うなよ」

純治「浮き輪の下からってやつだな。あれは憧れだ。プライベートビーチでやれ」

基茂「佐竹はエロゲの主人公にさえ嫉妬するようになったのか」

純治「可愛い主人公なら許せるが、無条件でモテる野郎は気に食わんなぁ」

基茂「………」

磨夢「はろー」

基茂「奇遇だな、先生」

磨夢「海は良い」

純治「先生の水着姿はいつ見られるんですか」

磨夢「海は、涼むためにある」

純治「浮き輪なら家にありますよ」

磨夢「そう」

基茂「何故浮き輪があるんだ」

純治「家じゃ使わんからって最近郵送されてきたんだぜ。夏だからかねぇ。しかし、オレだって浮くくらいはできるぜ」

基茂「じゃあ一体誰の為に」

磨夢「………」

純治「屹度あれよ、オレの妹の為だ、二人暮らしだぜ。もうキスもした」

基茂「妹、妹…あ、そーいや、昔にこの町に来たことがあったんだ」

純治「そいつはいつの話だ」

基茂「10年くらいの話だ。家族で親戚の家に遊びに来ていた。それで妹とよく海で遊んでいた。最終日も妹と遊んでたんだ。それである浜に連れられて行った。そこで妹は言った。この場所を決して掘り起こさないでね、と。オレは何か宝物を隠したんだなと思い、家族は家に帰った。暫くして妹が居なくなったんだよなぁ。あいつはいつも一枚上手だったな。あの時も、そう。ということだ、その浜まで行こうと思う。ついてきてくれ」

純治「この話、どこまで信じていいのやら」

磨夢「基茂に妹は居ない」

純治「オレもそう思っていた所です、先生」

基茂「にゃろーめ、そんだと話が成り立たなくなるわ」

純治「は、もしかして伊崎、全て作り話というのか」

基茂「虚実の比は半々だな」

純治「半分も真実と思えんなぁ」

基茂「さて、このあたりだ。何かそれらしい地面はあるか」

磨夢「そこ、においで分かる」

基茂「先生は犬だったのか」

磨夢「………」

純治「ちょっと掘ってみていいか、伊崎」

基茂「ああ、スカならスカでいいし」

磨夢「間違いない」

純治「結構深いぞ、おっ、おっ」

基茂「当たりだな、そいつは。スコップ落ちてたから、ほれ」

純治「センキュー」

磨夢「基茂、何か分かってる?」

基茂「ああ、まさかあいつがそうだったとはな」

純治「何か固いもの当たったぞ。これは恐らくあれだ、冷蔵庫だ」

基茂「冷蔵庫を持ち歩くとはなかなかだな」

純治「けど、意外と柔らかい。砕けちゃいそうだぞ」

基茂「脆くなってんだろ、掘るだけ無駄だぞ。壊れるだけだ」

純治「グーム、そうみたいだなぁ。折角これだけ掘ったというのに」

基茂「十年前の話だ、諦めろ。さあ、手ぇ貸せ」

純治「おお、悪ぃな、伊崎」

磨夢「………」


200-2

ゆい「ええ、ありますよ。思い違いというものは。兄さんが妹だと思っていたのは別の誰かだったということです」

磨夢「あの屋敷は元々基茂の親戚の家」

ゆい「では、そこの住人でしょう。従姉妹か何かでしょう。もしくは人妻でしょう。どちらに思えますか、無論決定的ですよね。それはさておき、何が埋まっていたかということです。ずばり人骨でしょう」

磨夢「ん、そう思う」

ゆい「十年前に、この町ではそういうことがあったのです。天への階段を下りてくる方が彼らだとすれば、自然にその背景が見えてくるのです。そういうことは稀な出来事ではなかった、と」

磨夢「殺す人間も多かった、と」

ゆい「はい。そして何より彼らは闇討ちを得意とします。彼らは暗がりの中、対象に忍び寄り、斬りつけるのです。夜に会うべき相手じゃありません。兄さんももう少し早ければ危なかったですね」

磨夢「夜の危険…ゆい」

ゆい「わたしは兄さんに危険に思われているのでしょうか。だとしたら心外にございます。わたしは日々の学園生活に疲労を蓄積した兄さんの身体に癒やしを与えているのです。事実、兄さんもわたしの奉仕に大変満足しておられます。故にわたしは兄さんにとって決して恐るるものに足らないのです」

磨夢「結果的に満足を得ても、基茂はゆいを恐れている。それはに布団に入り込むこと」

ゆい「朝立ちを確認するのは、わたしの務めです。兄さんには我慢戴きたいのです」

磨夢「我慢…」

ゆい「…では、話を戻しましょう。兄さんが妹と呼んでいるのは誰だか分かりましたか」

磨夢「具体的に誰かは」

ゆい「磨夢さんでも覚えておられませんか」

磨夢「ん」

ゆい「後はあの人くらいでしょう」

磨夢「ん」


201

trrr

磨夢「こちら延原」

嘉寿夫「こちら伊崎の実家だ。延原の嬢ちゃんか。愛するうちの息子は元気にやってるかね」

磨夢「ん、相変わらず」

嘉寿夫「おお、我が息子は餓死していなかったか。いつも息子の世話をしてくれて、わたしは心から感謝するぞ」

磨夢「ん」

嘉寿夫「ところで何か用事があって電話したんだな」

磨夢「基茂の強制送還」

嘉寿夫「もう卒業したのか、早いものだ。あれから三年か。我が息子は身体的にも精神的にも成長していることだろう。中退ならそれはそれでショックだ」

磨夢「おじさん」

嘉寿夫「ん、あんだって」

磨夢「お義父さん」

嘉寿夫「息子は嬢ちゃんともう付き合っているのか。だとすりゃ、ハルさんとこのヘリ借りて早急に迎えにいくぞ」

磨夢「何がいい」

嘉寿夫「はっはー、嬢ちゃん、さてはわたしをからかっているな。今まで名前で呼んでくれていたじゃないか。急にお義父さんなんて言うもんじゃないぞ」

磨夢「ん。じゃあカズさん」

嘉寿夫「何だい、マイハニー」

磨夢「………」

嘉寿夫「嫁を思い出しただけよ、続けたまえ」

磨夢「奥さんと別れた理由は?」

嘉寿夫「嬢ちゃん、わたしは辛い過去を忘れる。前向きに生きているからな」

磨夢「じゃあ、娘の事は?」

嘉寿夫「わたしの覚えている限り、可愛いのが一人居たな。嫁と同じく、わたしの前から去った」

磨夢「天才だったから」

嘉寿夫「そうだ、我が娘は天才だったんだ。今頃世界最高峰の大学で輝いていることだろうな」

磨夢「そう」

嘉寿夫「しかし、たまには連絡してほしいものだ。わたしは娘の声に飢えているぞ」

磨夢「親族に心当たりは」

嘉寿夫「やはりマイマザーだ。マイマザーは長生きだぞ。我が国の医療機関は偉大だ」

磨夢「………」

嘉寿夫「嬢ちゃんの知り合いに医者がいるのか」

磨夢「ん、可愛い生徒がいる」

嘉寿夫「嬢ちゃんは教師をやっているのか。こちとら漁師をやっているぞ」

磨夢「可愛い魚がいる」

嘉寿夫「素潜りはあまりやったことないな。平泳ぎぐらいならできるぞ」

磨夢「平泳ぎ、覚えたい」

嘉寿夫「嬢ちゃんのスク水が見られるのか、楽しみだな」

磨夢「犬かきでそっちまで向かう」

嘉寿夫「バスとか使ってもらった方がありがたいぞ。海で土左衛門やられるのは海上保安庁にも迷惑だ」

磨夢「ん…」

嘉寿夫「嬢ちゃんは可愛いな」

磨夢「そう」

嘉寿夫「蕨ちゃんの方が可愛いな」

磨夢「確かに、近くにいる」

蕨「♪」

嘉寿夫「嗚呼、これがテレビ電話なら、向こうに素晴らしい光景が広がっていることだろうよ」

磨夢「蕨」

蕨(こくり)

ガチャ

嘉寿夫「蕨ちゃんか、わたしが分かるか」

蕨(こくり)

磨夢「頷いている」

嘉寿夫「わたしの事を覚えていてくれたか。とても嬉しいぞ」

蕨(♪)

八城「まみー、らびぃは誰と電話してるの」

磨夢「出てみたら」

八城「知らない人は怖いなぁ」

磨夢「悪い人間じゃない」

八城「じゃあ、出てみようかな。らびぃ、替わるよ」

蕨(こくり)

八城「もしもし」

嘉寿夫「はい、もしもし。どちら様かな」

八城「あたしはあたしだよ」

嘉寿夫「一人称あたしの人はうちのお義姉さんだな」

八城「おじさんのお姉ちゃん?」

嘉寿夫「優しいおばちゃんだぞ。ちなみにわたしは優しいおっちゃんだ」

八城「優しいおっちゃん」

磨夢「それは怪しい」

蕨(こくり)

八城「怪しいって」

嘉寿夫「怪しいか、そうかわたしは怪しいか」

八城「おっちゃんどなた」

嘉寿夫「わたしはわたしだぞ」

八城「おっちゃんは女かな」

嘉寿夫「いんや、男だ。わたしは昔からわたしだ。オレになったことはあまりないぞ」

八城「お兄ちゃんはオレだよ」

嘉寿夫「それに言葉遣いも悪いぞ」

八城「後顔も怖いよ」

嘉寿夫「ついでに言うと友達いないぞ」

八城「友達はゲームだよ」

磨夢「………!」

蕨「?」

嘉寿夫「それだから根暗になるんだぞ」

八城「おっちゃんはやんないの」

嘉寿夫「わたしはアウトドア派だ。休日はハイキングするぞ」

八城「こっちはみんなもやしだよ」

嘉寿夫「ジムに通ったらどうだ。金なら出すぞ」

八城「おっちゃんお金持ちなの」

嘉寿夫「普通の漁師だから、普通の稼ぎだ」

八城「へぇ」

磨夢「こっちには宝くじを当てた社長がいる」

八城「こっちには宝くじを当てた社長がいるよ」

嘉寿夫「凄い社長がいたもんだな。わたしはギャンブルなんてせんぞ」

八城「へぇ」

嘉寿夫「ドカンと当てるのは男のロマンだが、こつこつ貯めるのもいいぞ」

八城「まみーがそんなのだよね。こつこつ貯めるタイプだよね」

磨夢「ん、不断の努力は欠かせない」

八城「あたしも貯金してみようかな」

嘉寿夫「1円でも10円でもいい。貯金してみな。いつかビッグな貯金箱になっているだろうよ」

八城「うん。まみー、貯金箱ある?」

磨夢「100万円貯まる」

八城「もうちょっと少ない額はないの」

磨夢「10万円の」

八城「それなら貯まるかな」

磨夢「ん、じゃあ用意しとく」

八城「ありがとう、まみー」

磨夢「蕨も来る?」

蕨(こくり)

嘉寿夫「テレビ電話買うから、カメラだけでもそっちにつけておいてくれよ」

八城「見たいの」

嘉寿夫「見たいとも。孫みたいなものだからな」

八城「おっちゃん、結局誰なの」

嘉寿夫「当ててみな。電話番号知っているだけで、かなり絞り込めるだろう」

八城「誰の家だっけ、ここ」

嘉寿夫「まず住んでいる人を挙げてみな」

八城「あたし、お兄ちゃん、まみー」

嘉寿夫「わたしはその内の誰かと深い関係にあるということだ」

八城「深い関係?家族とか」

嘉寿夫「まぁ、そういったものだな」

八城「じゃあお父さんだね。ええっと、あたしのお父さんな訳ないしなぁ。まみーも分かんないや。…分かった、お兄ちゃんのお父さんだ」

嘉寿夫「おお、正解。息子のことはお世話になってるな」

八城「うん、お世話してる…というよりは、お世話されてる。あたし分かんないや」

嘉寿夫「あれか、遊んでもらえてるってことか」

八城「そうでもないかなぁ。お兄ちゃん引きこもっているから」

嘉寿夫「息子よ。声だけで可愛いと分かるお嬢ちゃんと遊ばないだなんて。わたしの所に来ないか」

八城「どんな所なの」

嘉寿夫「鋸千とそんなに変わらんぞ。海があるし、山もある。そっちより田舎ということくらいだ」

八城「へぇ、ここより田舎なんだ。行ってみたいなぁ」

嘉寿夫「まぁ来たくなったら、わたしに電話をくれ。船出すから」

八城「酔いそうだよ」

嘉寿夫「じゃあ泳いでいくぞ」

八城「あたしはどうやって行くのかな」

嘉寿夫「わたしの知り合いの鯨に運んでもらおう。大陸に向かうかもしれないが」

八城「あたしは外国に行くんじゃないんだよ」

嘉寿夫「そうだ、延原の嬢ちゃんと一緒に来たらどうだ。近い内に行くと思うぞ」

八城「まみーと二人でかぁ、楽しみだにゃあ」

嘉寿夫「じゃっ、そういうことでな。息子によろしく」

八城「うん、またねー」


202-1

マスター「きーっと、あなたはー食いしぃん坊ーだったのよー」

ルイ「そうだーよ、わたしーは、食いしぃん坊ー」

カランコロンカラン

敏樹「そこにぃぼぉくが、やってぇきてぁ」

マスター「もぉしや、あなたーも、食いしぃん坊ー」

敏樹「いやーいーや、ぼぉくぅは、呑んだぁくぅれー」

マスター「なーらば、わーたしが、おーつぎましょー」

ルイ「ついでぇに、わたしぃが、おかしを用意しまーすぅ」

敏樹「それは嬉ーしいーチップ払うーよ」

ルイ「ありがたーく、いただきまーす」

マスター「さあお客さーん、ジョッキでどーぞ」

敏樹「これは度数が高ーい」

ルイ「無理して飲まないでいいーのでーす」

敏樹「その分は、かえーしてもらいますー」

マスター「う、ち、の、しょうばーい。きゃ、く、の、た、めー」

ルイ「う、し、なう、ものなっら、店は、潰れーる」

マスター「ふぅ、二番行こか」

ルイ「メロディー忘れちゃったなぁ」

敏樹「僕は最初を知らないのか」

マスター「確かイントロが、テテレテレレレ、テー。てのやった気がする」

ルイ「いやいや、テーテテ、テーレテレテレー。テテテーレテレーだったよ」

マスター「寧ろイントロなんか無かったかもしれんで。急に歌い出すんやろ」

ルイ「そうだったかもしんないね。先生、こういうのは、どう思いますか」

敏樹「イントロはあった方が良いんじゃないかな。無い曲ってのが珍しいよ」

ルイ「成程、前奏あり、間奏あり、後奏があるという訳ですね」

敏樹「そうそう、演奏者と協力する必要があるんだよ。アカペラとかじゃない限りはね」

マスター「じゃああれやな。即興ならアカペラでいいということや」

ルイ「ああ、確かに。演奏してくれる人は」

敏樹「ははっ、じゃあピアノ弾かせてもらうよ」

ルイ「この前引っ張り出して、そのまんまだったんだ」

マスター「一度出したら片付けんのが面倒なんや。あれから掃除もしたし、うちのピアノは完全復活したんや」

ルイ「わたしも弾けた方が良いかな」

マスター「今のところはとっしーが来て、弾いてくれるだけでうちとしては嬉しいんやけど…るーちゃん、教えてもらったら」

ルイ「うん」


202-2

敏樹「ん、どうしたの」

ルイ「ピアノ教えてほしいです」

敏樹「おっけ、じゃあ音取ってみて」

ルイ「はい」

カランコロンカラン

マスター「いらっしゃーい」

高砂「わたしはまほー使いだ」

マスター「魔法使いは何をご所望で。素材になりそうなもんならあるかも」

高砂「蜥蜴の尻尾に、こーもりの羽、兎の耳に、鮫の背鰭。そのスパイスに何がおすすめなんだ」

マスター「五年もののワインとか、ハンバーグなんかに使う秘伝のタレがあるけど、勿論飲む前提で提供するで」

高砂「飲むぞ。でも飲むのはみな実験体だ。まんまと騙されて死んでも知らないからな」

マスター「もしかして人なんか。だとしたら何かやばいわ」

高砂「人間にしろ他のしぇーぶつにしろ、実験体としては一緒だぞ。命を賭けてうちに来ているんだ」

マスター「そういう仕事もあるんやな。楽そうや」

高砂「ところでてーいんしゃん」

マスター「ただの店員やないで。うちはマスターや。で、後二人居る訳やけど、一人は部屋に居て、もう一人はそこでピアノ弾いている子」

高砂「おーあの二人はちゅき合っているのか」

マスター「年の差凄すぎや。とっしー捕まるで」

ルイ「敏樹の即興だよ」

マスター「ほんとや、仲良くなってる。ありゃ師弟関係やめてるで」

高砂「名前で呼び合うよーになるとはもーいっしぇん越えてるぞ」

マスター「いかんいかん、るーちゃんはまだ嫁入りには早い」

高砂「いー年頃だと思うが」

マスター「おどれはいつの人間や。魔女って実はすごい年やったりするんちゃうん。うちが言えたことやないけど」

高砂「年そーおーだぞ。たかしゃごには難しいことは分からん」

マスター「そう言うんならそうか。ユイールみたいなのは普通居ないわな」

高砂「ゆいーるって誰だ」

マスター「羽衣神社の巫女。うちが考えた渾名やで」

高砂「やっぱりしゃちょーの事か」

マスター「ユイールは社長やったんか。どういう理由で」

高砂「たかしゃごがしゃちょーと呼ぶのはしゃちょーがしゃちょーだからだ。というのも、しゃちょーは、わたしのけんきゅーを支援してくれたからだ。たかしゃごにとっては感謝しきれない存在だ」

マスター「金の力って凄いわぁ。こんな魔法使いを味方につけられるんやし」

高砂「しゃちょーじゃないとそのまま持ち逃げだ。ますたーも多分そうだ」

マスター「ユイールにはカリスマがあるんやな。ほんと羨ましいわ」

高砂「しゃちょーは顔が広い。伊達にしゃちょーやってないよな」

敏樹「じゃあ僕はこれで」

ルイ「敏樹、また来てね」

カランコロンカラン

マスター「さてと。魔女さん、シェフが戻ってたきたで」

ルイ「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか」

高砂「マムシスープで」

ルイ「デザートは何に致しませう」

高砂「人面パンで」

ルイ「誰か憎い人は居ますか」

高砂「たかしゃご自身が憎まれているかもしれないな」

マスター「魔女って嫌われたりするん」

高砂「奴らはすぐに異端扱いするぞ。そうしてたかしゃごは逃げてきた」

マスター「魔女さんは、この町に住んでるん」

高砂「いんにゃ、たかしゃごは隣町の人間だ。この店は最近しゃちょーに聞いた」

マスター「そうか、ユイールに頼ったらええんか。ムーにお願いしとこ」

ルイ「マスター、お客さんの顔で良いの」

マスター「せやった、せやった。魔女さん、憎いのは自分自身か」

高砂「たかしゃごは自分が嫌いな訳でもないぞ」

ルイ「うん、可愛いよ。じゃあ可愛く作っちゃうね」

高砂「はにゃ?」

マスター「ところで魔女さん、お名前は何て言うん」

高砂「たかしゃごはたかしゃごだ」

マスター「じゃあしゃごさんにするわ。何か海老かちりめんじゃこみたいやわ」

高砂「たかしゃごは海老でもちりめんじゃこでもないぞ」

マスター「魚とかは食わんの」

高砂「しゃかなは食べるぞ。山に住んでいるから海は行かない…とも言えないな。しょざいを探しに市場を見に行くことがある」

マスター「海鮮市場かぁ。こっちは無いんやっけ、るーちゃん」

ルイ「海の方は何もないよ。潮風も吹いてこない。だから、商店街でお買い物するんだよ」

マスター「近いようで遠い存在やな。うちら駅前の人間からすればそんな感じか」

高砂「たかしゃごは山暮らしだけどな」

マスター「あれ、行動範囲広すぎん?流石魔女さん」

高砂「魔女というのは、まず空を飛ぶことから始まるっ」

ルイ「制御はできるの」

高砂「できるとも。海に落っこちたり、木に引っかかったりしないからな」

ルイ「上手なんだね。はい、パンでございます」

高砂「美しーぞ、これはげーじつだ」

ルイ「こちらはマムシスープです」

高砂「あー、美味しいなー」

マスター「あんな、無理して食わんでええで。何なら別の料理に取り替えるし」

高砂「やや、たかしゃごがふつーのりょーりが食えるともーすか。ゲテモノ食いに名を馳せたたかしゃごにか」

ルイ「はい、これはわたしの驕りで。カレーだよ」

高砂「おー、たかしゃごの大こーぶつだ」

マスター「それならええか。ごゆっくりー」


203-1

純治「この忌々しい学園とも暫しのお別れだ」

基茂「あぁ、夏休みすることねぇわ」

純治「何かを見つけるんだ。でないと休みじゃねぇ」

基茂「つっても家でゴロゴロすんだけなんだよな」

純治「嫁と海に行くのはありだな。家帰ったら夏ゲー掘り起こしてくるわ」

基茂「無人島で二人きりとか良いよな」

純治「そういう展開になるから海は最高なんよ」

楽郎「席に着けー。HRの時間だ」

基茂「補習はもう勘弁です」

楽郎「は、は、は、時が来るまで分からんぞ、伊崎君」

基茂「はい…」


203-2

磨夢「ん」

基茂「ごらんの有り様よ」

磨夢「五科目中三科目赤点」

基茂「何だこの学園、連休や長期休暇の有効活用か」

磨夢「有意義な学園生活を」

基茂「数日行けば終わりだ、たったの数日だ」

磨夢「基茂は人一倍勉強する」

基茂「オレは努力家だ。明日の予習してくる」

八城「ほへぇ」

磨夢「聞いてた?」

八城「うん、お兄ちゃん努力家なんだね」

磨夢「ん」

八城「あたしも何か学ぶことある?」

磨夢「とりあえず潜りに行けば?授業が難しいなら、基茂に弁当届けるなり」

八城「まみー、早起きしないの」

磨夢「面倒臭い。弁当はちるに頼む」

八城「ちるお姉ちゃんならお兄ちゃんも喜ぶね」

磨夢「一切の干渉はせず。己は己の道を歩め」

八城「あたしも何か作ろうかなぁ」


203-3

八城「ということで来たよ、ちるお姉ちゃん、こんにちは」

ちる「あ、はい。八城ちゃん、こんにちは」

八城「お兄ちゃん、明日から補習なんだって」

ちる「授業、難しい…です、からね」

八城「そんでね、ちるお姉ちゃんがお弁当を作ってもらえる?」

ちる「わたしが、基茂…さんの、お弁当」

八城「ちるお姉ちゃんの愛妻弁当」

ちる「真心込めて、作らせて、いただきます」

八城「食材はこっち持ちだよ」

ちる「配達、です…か」

八城「うん、るーちゃんとやり方は一緒なのん」

ちる「分かり、ました」

八城「ちるお姉ちゃん、お風呂行くの」

ちる「はい、八城ちゃん…も、一緒に…来ます、か」

八城「ご飯食べてからじゃ遅いかな」

ちる「はい、遅い…です」

八城「ふぇぇ、駄目かぁ」

ちる「お、お家に、連絡…するのは、どう、ですか」

八城「それはいいね。じゃあお電話借りるね」

prrr

蕨「………」

八城「もしもし、八城だよ」

蕨「?」

八城「まみー?」

蕨(フリフリ)

八城「これはらびぃ。まみーに繋いで」

蕨(コクリ)

磨夢「………」

八城「まみー変わった?」

磨夢「ん。こちら磨夢」

八城「あんねあんね、今からちるお姉ちゃんとお風呂行くの」

磨夢「ん、了解」

八城「よろしくね」

ちる「えらく、短かった…ですね」

八城「こんなものだよ。ちるお姉ちゃん、お風呂セット、あたしの分もあるの」

ちる「あり、ます…よ。何もかも余分に、あるんです」

八城「誰かの分?」

ちる「はい、あの人は、いつ、帰ってくるか…分かりません、から」

八城「へぇ」

ちる「では、行きます…よ」

八城「うん」


203-4

玄那「こんばんは、椎木先輩に…やしろんか。珍しい組み合わせだ」

ちる「こんばんは、クロちゃん」

八城「あんただーれ」

玄那「上井玄那。クロちゃんでいいぞ。しかしどうして」

八城「忘れていたみたい」

ちる「はあ」

八城「それはともかく、ちるお姉ちゃんについてきたんだよ」

玄那「優しい先輩だな」

ちる「優しい、だなんて…そんな」

玄那「先輩の優しさを見習ってやしろんの頭を洗いたい」

ちる「はい、では、わたしが、背中を、流し、ます、から…その、次に」

玄那「はっ、待機します」

ちる「でも、クロちゃんの、背中も、流したい…です」

玄那「…そうだな、先輩が一番わたしの疲れを知っている筈だ。お願いします」

ちる「はい」

八城「うにゃあ」

玄那「わたしはやしろんを洗うぞ」

八城「わーい、クロちゃんに洗われるー」

ちる「八城…ちゃんが、先です」

玄那「よし、行くぞ。やしろん」

八城「おっしゃー、どんとこい」

玄那「っしゃあー。痒い所はねーかー」

八城「特にどことも…あたしはあまり焼けないからね」

玄那「へぇ、普段はどのような服装で」

八城「夏になっても長袖パーカーは着るよ」

玄那「こんな暑いのに長袖か。まるでうちの理科教師のようだ」

ちる「皆木、先生…ですか」

玄那「あまりに季節感がない。身なりに無頓着なわたしでも分かりますとも」

ちる「皆木、先生は…夏に、入っても、白衣、なの、です」

玄那「夏であの服装なら、冬については言うまでもない」

八城「もうあわあわだよぅ」

玄那「おっとすまない。流そう」

八城「次は頭だよ」

ちる「わたし、クロちゃんの、背中洗って…いいです?」

玄那「わたしは挟まれるのか。どこかへ飛んでいきそうだ」

ちる「いいえ、同じ人間、そのようなことは、ありません」

玄那「それならいいんだが」


203-5

八城「あぁ、良いお風呂」

ちる「心が、安らぎ…ます」

玄那「三人で入るのが珍しい」

ちる「はい、いつも、一人…ですから。クロちゃんも、そう、ですか」

玄那「いえす、毎日付き合ってくれそうなのは先輩くらいだろう」

ちる「なかなか、会えません…けどね」

玄那「まあ、そのようで」

八城「あっ、るーちゃんだ。おーい」

ちる「あれが、噂の」

ルイ「八城」

八城「じゅまぺーる八城」

ルイ「hahaha」

八城「あにゃにゃ」

ルイ「そちらはお連れかな」

八城「うん、連れだよ」

玄那「運送屋の人か」

ルイ「うん、そうや。この駄洒落あんま言う機会ないや」

玄那「フルタイム労働者とはこれまたご苦労様で」

ルイ「給料は生活費や家賃で使うから自由に使うお金が少ないの。だから、これぐらいやんないとね」

玄那「六桁稼ぐとなると、学園とは両立できないな」

ルイ「でも趣味はないよ」

八城「あはは、ゆいちゃんみたい」

ルイ「ゆいは本を読んでいるよ。あれは立派な趣味だよ」

ちる「ただ、難しい、本ですが」

八城「あたし難しい本勧められたよ」

ちる「ふ、普通の…小説、読まない…んですね」

ルイ「今度神社の方寄ってみるよ」

玄那「終日仕事人、休みはあるのか」

ルイ「有給使うよ、長期だからね」

玄那「確かに毎日のように働いていれば当然の事ではあるな」

八城「るーちゃん、神社の方に本あまりないよ」

ルイ「そうなの?別に収納場所があるのかな」

八城「ゆいちゃんが寝てる所はって話」

ルイ「あー、それなら問題ないかな」

ちる「何か、心当たりが?」

ルイ「うぃ、蔵が怪しいよ」

ちる「確かに。祭具、だけでは、なさそう、です」

八城「御神輿かな」

ルイ「それならそれで別の場所がある筈だよ」

八城「そーかな」

ルイ「そうだよ。きっとそうだよ」

玄那「ちょっとのぼせてきた気がする」

ちる「そろそろ上がります?」

玄那「うむ、熱湯CMじゃないからな」

ちる「熱湯で、すら…ない、です」

八城「じゃあ、るーちゃん。お先ね」

ルイ「うぃ、ゆっくり浸かっておくよ」


203-6

八城「ただいまぁ」

蕨「♪」

八城「らびぃ、ただいま」

蕨(ニコッ)

八城「スマイルスマイルイッツスマイル」

蕨「♪」


203-7

磨夢「食べてきた?」

八城「うん、ちるお姉ちゃん家でご馳走になってきたよ」

磨夢「そう」

八城「今日は何だったの」

磨夢「鮭」

八城「アラ?」

磨夢「ん」

八城「うひょー」

蕨「!」

八城「らびぃも食べたのかぁ。またしてね、まみー」

磨夢「ん」

八城「ゆいちゃんはもう帰ったんだ」

磨夢「ん。夜が早ければ、朝は早い」

八城「ゆいちゃんはお兄ちゃんが好きなんです」

磨夢「そう」

八城「あたしも寝るね、おやすみなさい」

磨夢「おやすみ」


204-1

基茂「じゃあ行ってくるな」

八城「いってらっしゃい、頑張ってきてね」

蕨(ニコッ)

基茂「おぅ」

八城「さてと」

蕨「………」

八城「まみーに用事があるんだ」

蕨「?」


204-2

八城「まみーまみー」

磨夢「ん?」

八城「あれよあれあれ」

磨夢「そう、あれ。やる?」

八城「うん、おっちゃんに誘われたの」

磨夢「そう」

八城「用意はしているの?」

磨夢「言えばいつでも」

八城「じゃあ今から行く?」

磨夢「それは早い。基茂にも伝えていない」

八城「お兄ちゃんも一緒に行かないの」

磨夢「ん。そう思う」

八城「ゆいちゃんも居るしね」

磨夢「とりあえず夜に家族会議を行う」

八城「家族?」


204-3

ゆい「はいはい、兄さんならわたしにお任せを」

磨夢「ん、基茂の事は頼んだ」

ゆい「ですよ、兄さん」

基茂「飯とかどうすんだ。ゆいゆいは作れんし」

ゆい「兄さんのお好きにどうぞ」

基茂「これは苛酷だ」

磨夢「いざとなったら、我が愛弟子のちるが居る」

基茂「ちる、か」

磨夢「ゆいの場合、食材はある」

ゆい「そうですね、兄さんが居ますからね」

基茂「…夜道には気をつけるか」

ゆい「統計上、この町の治安は悪くないです。しかしご存知の通り、自殺が多いです。人は何かしら苦悩を抱えていますから」

基茂「感染形式ならおっとろしいな」

磨夢「………」

八城「大丈夫そうだね」

基茂「待て待てどこが大丈夫だって」

ゆい「兄さん、磨夢さんが恋しくなって嘆かないでくださいね」

基茂「嘆くことはないが、磨夢の料理が食えんことが辛いな。自分で作ることも考えるか」

磨夢「ん、なら安心」

八城「まみーまみーいつ出るの」

磨夢「今からバスで向かう。服装はそのままで構わない。鞄は各自持って」

八城「はーい」

蕨(コクリ)

八城「じゃあ、お兄ちゃん、ゆいちゃんいってくるね」

ゆい「いってらっしゃいませ。楽しんできてくださいね」

基茂「オヤジによろしくな」

八城「うん」


204-4

ピーンポーン

ちる「………」

ゆい「兄さんは寝ているので無駄ですよ」

ちる「そう、ですか」

ゆい「ちるさんは合い鍵持っていませんか」

ちる「持っています。でも、ここに、住んでいない…ので、容易に、使えませ、ん」

ゆい「ここの住民は居留守が多いのです。その筆頭である兄さんが出てくるなんて、宅配以外に稀な事で御座います。向こうに迎え入れる意志がないなら、どうして此方から歩み寄らないでしょうか。わたしは、この家最大の客であると自負しています。こういう身でありますから、侵入の経路は確保しています。そう、兄さんの部屋までは、あっという間です」

ちる「あれ、ゆいちゃん…!?」

ガチャ

ゆい「さあどうぞ、ちるさん。居間でゆっくりしていてください。わたしは朝の日課をこなしてきます」

ちる「は、はあ…。お邪魔しま…す」


205-1

磨夢「着いた」

八城「んにゃ。おはよう、まみー」

蕨(すやすや)

磨夢「蕨はぐっすり」

八城「そだねー。どうするの」

磨夢「わたしがゆっくり誘導する。八城、荷物少し運んで」

八城「アイアイサー」

磨夢「蕨」

蕨(zzzz)

磨夢「………」


205-2

嘉寿夫「よーす、来たか」

八城「おー来たか、おっちゃん。車でお出迎え」

嘉寿夫「おぅ。本当はそっちまで迎えに来たかったが、延原の嬢ちゃんに断られてな。頑固な所は誰にわたしの爺さんにそっくりだ」

磨夢「そう」

嘉寿夫「他人が似るなんておかしな話だ」

磨夢「………」

嘉寿夫「おぉし、乗った乗った」

八城「これがクルーマ」

嘉寿夫「おっ、珍しいか。あんま乗らんか」

八城「バスに乗ってきたけど、こっちは初めてかも」

嘉寿夫「延原の嬢ちゃんは運転しないのか」

磨夢「ん、車ないから」

嘉寿夫「そうか、おじさんが買ってあげようか」

磨夢「使わないからいらない」

嘉寿夫「それは残念だなぁ…おっ、蕨ちゃん起きたか」

蕨(コクリ)

嘉寿夫「よぉしよし、元気で何よりだ。蕨ちゃんはしっかり睡眠はとれているんだな」

八城「らびぃは昼でも夜でも寝ているよ」

嘉寿夫「はっは、寝る子はよく育つからな」

八城「あたしもよく寝ているよ」

嘉寿夫「うむ、良い心掛けだ」

八城「海綺麗だね」

嘉寿夫「この光景がずーっと続くんだ。これだから車はやめられん」

八城「へぇ、こんな楽しいものがあるんだ」


206

ゆい「では兄さん、いってらっしゃいませ」

基茂「あぁ、いってくる…」

ちる「頑張って、きてください」

ゆい「これでお家はがらんどうです」

ちる「先生達は?」

ゆい「兄さんの実家に遊びに行きました。ですから、わたしたちは飢えに苦しむことになったんです」

ちる「食べるものは、あるでしょう」

ゆい「即席料理は便利です。しかし真心のこもった料理は一味違うんです。家族団欒して食べているとこのような固執が生まれてきます」

ちる「差し入れ、ですか」

ゆい「そうです。そしてちるさんが良ければ此処へ来て夕飯を作っていただけないか…と」

ちる「つまり、先生の代役…ですか。わたしに、務まるの…でしょうか」

ゆい「ちるさんは自炊でしょう。さらに料理においては磨夢さんに教わっています。これは事実であります。過去に起こりし事は、何人たりとも否定できない事実です。必ずや磨夢さんの代役は務まるでしょう。いえ、そっくりそのままであるのではなく、ちるさんの独自性が付加されたものがそこにはあることでしょう。これはわたしの願いであり、あくまで個人的な願望に過ぎません。ちるさんの一存に委ねます」

ちる「夕飯くらいなら…昼は頑張って、ください」

ゆい「ありがとうございます。昼はいつものお店にしておきます」


207-1

嘉寿夫「着いたぞ」

八城「ここにお兄ちゃんが住んでいたの」

嘉寿夫「我が息子は飼い犬ではないぞ」

犬「ワンワン」

八城「わんわん」

磨夢「八城は猫じゃなかった?」

八城「あっ、そうか。にゃんにゃん」

犬「ガルルルル」

八城「ふぇぇ、怒られちゃったの」

嘉寿夫「そこにドッグフードがあった筈だ。それをやりなさい」

八城「はい、わんちゃん」

犬「はぐはぐはぐ」

八城「お腹空いてたのね」

嘉寿夫「空腹と散歩に厳しい犬だからなぁ」

八城「じゃあ散歩も連れていこうかな」

犬「わん」

八城「散歩に行きたいかー」

犬「ハッハッハッ」

八城「じゃあ出発だぁーっ。蕨ちゃんもおいでー」

蕨(コクリ)

嘉寿夫「あまり遠くに行かないようになー」

八城「はーい」

嘉寿夫「犬が道を覚えているし、心配することもないのだが」

磨夢「………」

嘉寿夫「延原の嬢ちゃん、是非上がってくれ」

磨夢「ん」

嘉寿夫「お茶ぐらいは用意できるぞ」

磨夢「冷たいので」


207-2

八城「あ、向こうからわんちゃん」

犬b「キャンキャンキャン」

犬「わんわん」

八城「飼い主さんが見えないよ」

蕨(じーっ)

八城「何か見えるの」

蕨(コクリ)

八城「やっぱり居るんだぁ」

犬b(フワー)

八城「飛んでっちゃったよ」

犬「アオーン」

八城「わんちゃん、次お願い」

犬「わん」


208-1

玄那「かすむんかすむん、わたしはカラオケに行きたい」

霞「良いですね、行きましょう」


208-2

霞「ところでクロちゃん、クロちゃんは実家に帰ったりしないんですか」

玄那「うぅむ、帰ることはないな。長い間帰っていない」

霞「もしかして捨てられたんじゃないですか。帰る場所がない身なんでしょう」

玄那「いや、一部の人とは未だ関係を保っているぞ。アドレス帳にいるこの人とかこの人とか」

霞「しかし家族じゃないんですよね。最低限の援助しかされてないじゃないですか。可哀想にわたしが引き取ってあげましょう」

玄那「いやいや、引き取ってもらうまではないさ。わたしは自立がしたかったから、あのアパートに住んでいるんだ」

霞「何から何まで甘やかされると何も出来なくなっちゃいますからねぇ」

玄那「そうそう、いつまでも家で甘やかされないために自立したんだ。お蔭で椎木先輩に差し入れを貰い、かすむんに起こしてもらう程度になったからな」

霞「ズバリ言いましょう。何にも改善されてないですよ」

玄那「社会適応能力の上昇だ。かすむんのお蔭でゲーセンに通うようになった。そこでは台パンやリアルファイトというものを学んだ。それと同じようなものだ」

霞「なるほど、その状況に於いてどうするかということですね。わたし達の力を借りるのも納得ですね。クロちゃんはわたし達に価値を見出しているんですよね」

玄那「わたしは元々寝起きが悪いからな。かすむんの目覚ましには助かっている。椎木先輩に至ってもそうだ。たまに料理を教わったりしている」

霞「後者については、わたしは甘やかされています。家族に頼りっきりですから。成程、クロちゃんは良い子ですね。よしよし」

玄那「うあー、髪がくしゃくしゃになるぅ」

霞「さて、着きましたよ。カラオケ」

玄那「全く折角のカラオケだというのに何の話をしてるんだい」

霞「夏季料金はお高くなっております」

玄那「よし、財布と相談だ。やあ財布。生活費に余裕はあるかい。生活費も食費も大丈夫だけど値上げには対応できないな」

霞「あらクロちゃんは稼ぎが良いですよ」

玄那「この貧相な身体を見て誰が興奮するというのかな。ああ所謂マニアか。わたしの身体を見て合法ロリだの言って興奮するんだな。なぁ、かすむん」

霞「あーら、わたしはそんな趣味なくてでしてよ。わたしは愛でるに留めていますからね」

玄那「嗚呼、その豊満な胸こそ揉んでやりたいな。とりあえず財布よ、安値でないのは仕方ない」


208-3

玄那「かすむんは歌上手いよな。ゲーソンばかりなのがまた何というか」

霞「音ゲーは意外と豊富ですよね。エロゲソングと平行して歌えます」

玄那「そして、たまにアニソンを入れるんだ。アニソンは深い。J-POP歌手との融和性もあるからな」

霞「ある作品にある歌手が多く起用されることでその歌手が好きになります。そこにジャンルの境目なんてないですよね。では、クロちゃんの素敵な歌声を」

玄那「わたしは低音だぞ。かすむんのような声はとても出せない」

霞「クロちゃんの低音は格好良くて好きですよ」

玄那「アニメ声にしたら可愛くなったぞ」

霞「電波を歌うクロちゃんも悪くないですよ」

玄那「友人に何を求めているんだ」

霞「友人に萌えを求めて悪いですか」

玄那「いや、別に悪くないが」

霞「まあ好きに歌ってくださいね」

玄那「そうだな」


209

ゆい「店長さん、この肉はどこで仕入れましたか」

店長「いつものルートですよ。お客さんも不満は無いでしょう」

ゆい「そうですね。精神が分離した以上、肉体の存在理由なんてありませんからね」

店長「でも本体に許可は取っていませんな。業者に霊魂と話す能力は備わっていないだろうからね」

ゆい「まず、生と死という相反する概念があります。人間と霊魂の対話は、それらの関係を深める役割を持っています。尤も、これを可能とするのは一部の人間です。霊魂と対話するには、まずそれが見える必要がありますからね。そして、その声を聞き取るのです。これらを同一の能力と捉えてはなりません。第一段階として霊魂の姿形を捉えること、要は見ることです。第二段階としては、最前申した通り、声を聞き取ることです。第三段階に対話となるわけですが、見る、聞くを前提としています。そして、人間の声を霊魂に伝える能力も備えておく必要があります。これらは生まれつきの能力であるのが大半です。人によっては、その経験により、突発的に身に付けるものでもあるのです。謂わば、誰がいつその能力を備えようと可笑しくないんですよ」

店長「霊魂と取引をするなんて、普通考えられないですな」

ゆい「この業界に於いて、それが普通であってほしいのです。人間の場合、そうした交渉の場が必要でしょう。死して屍拾うなしではありませんからね」

店長「素材として利用する価値があるなら、大いに敬意を払って使わせてもらうのがうちのやり方ですな」

ゆい「例え会話する手段がなくても、店長は意思疎通が出来ていることでしょう。霊魂もいつまでも肉体に未練を持っている訳じゃないです。後に向こうから了解の通知が来ることでしょう。あるいは肉体が忘れられていることでしょう」

店長「未練がないのなら、このやり方で正解でしょう。しかし、新鮮さを問われる場合、どうしても、その対話やらが必要ですな」

ゆい「わたしは神社の仕事で忙しいので、余所に当たってもらいたいですね」

店長「また今度お参りに行きますよ。軽く一月分支給しますよ」

ゆい「ありがとうございます。そうですね、日常的に食べることも重要ですね」


210-1

ゆい「こんな時代です。ということで兄さん、お風呂入りますよ」

基茂「いってら」

ゆい「兄さん、愛人を何だと思っているんですか。ここで触れ合わないでいつ触れ合うのでしょう。放置プレイは賛否両論です。今回に至っては特に、折角の二人きりの舞台じゃないですか。これは誰にも邪魔されません。さあ思う存分、わたしをめちゃくちゃにしてください」

基茂「し、しゃーねーな」

ゆい「では参りましょうか」


210-2

八城「うひいいいい」

磨夢「どうかした」

八城「お兄ちゃんとゆいちゃんが二人っきりだぁ」

磨夢「ん」

八城「あたしはまみーに甘えるん」

磨夢「………」

蕨「?」

磨夢「電話してみる」

八城「んだね、賛成ぅ」

磨夢「嘉寿夫、電話借りる」

嘉寿夫「ガッハッハ、構わん」

trrrr

磨夢「出ない」

八城「お風呂かな」

嘉寿夫「嬢ちゃん達入りな。沸いているぞ」

八城「わーい、入るぅ」

蕨「♪」

磨夢「………」

嘉寿夫「延原の嬢ちゃん、流石だな」

磨夢「ん」


210-3

ゆい「…あ。兄さん、留守電が入っていますよ」

基茂「親父宅…つまり、やしろん達だな」

ゆい「八城ちゃんが久しぶりに兄さんの声を聞きたくなったのでしょう」

基茂「オレの声なんか聞いてどうすんだ」

ゆい「兄さんの声だから興奮するんです。好きな人の声だけで絶頂を迎えます」

基茂「確かに、そういう娘は多いな」

ゆい「では、やりますか」

基茂「待て、脱ぐな」

ゆい「電話しながらのプレイ、わたしは知っていますよ」

基茂「どこで聞いたんだ、全く」

trrr

基茂「おっ、掛かってきた」

ゆい「わたしが出ますね」

基茂「結局ゆいゆいかい」

ガチャ

ゆい「羽衣ゆいです。兄さんとは将来直結する運命です」

八城「おーゆいちゃん、お兄ちゃんとのお風呂はどうだった」

ゆい「兄さんが相変わらずえっちでした」

八城「ゆいちゃんがえっちなだけなんだよ」

ゆい「む、確かに…。そちらも一緒に入ったんでしょう」

八城「らびぃは本当に良い匂いだよ。まみーがのぼせそうだった」

ゆい「磨夢さん、いつも一緒に入っているでしょうに」

八城「だよね、家が違うだけで変だよ」

ゆい「普通のお風呂ですよね」

八城「うん、普通のお風呂」

ゆい「はっはぁ、これはこれは…」

八城「ん、どゆことかな」

ゆい「違う空気を吸っているなら、その香りも変わるものです。同じものでも味が変わるんですよ。要するに環境の変化が影響された感覚の変化です。磨夢さんの場合は偶然同じ感覚を得たんですよ。そもそも知らない場所がそのような影響を与えるんですね」

八城「確かに、なかなか慣れないね」

ゆい「おじさんの家は広いですか」

八城「うちと比べりゃ小さいけど、あまり変わらないよ」

ゆい「成程、普通の一般家庭ですか。慣れるために心掛けていることはありますか」

八城「朝に散歩しているよ。海の方にも山の方にも」

ゆい「その町の地理を知ることは第一ですね」

八城「おじさん、外食にも連れてってくれるよ」

ゆい「地元の人間の案内は心強いですね」

八城「海にも行ったなぁ、おっちゃんが船乗せてくれたよ」

ゆい「潜りましたか」

八城「あたしは潜んないけど、おっちゃんのお仲間さんが潜ってたよ」

ゆい「そうですよね、わたし達みたいなのが潜れば危ないでしょう」

八城「泳ぎ方なんて分かんないもんねー」

ゆい「泳ぎ方なんてありませんよ。生命に危機が差し迫って、初めて自己流のものが開発されるんです。生きようという強い意志がそうするんですよ。必死に足掻こうとする訳です」

八城「おっちゃんも漁師の本業は海のサバイバルとか言っていたなぁ」

ゆい「は、は、は。確かに難航すれば帰ってこれませんからね。頼みの綱は羅針盤です」

八城「そんなに遠くに行かないから大丈夫らしいよ」

ゆい「欲望に命まで捧げることはありません。万事に加減というものがありますからね」

八城「ゆいちゃんは死なないの」

ゆい「人間である以上は死にますよ。不死なる実験を受けた場合などは別ですが。わたし自身、不老不死といいますか、複数の命を持っているといいますか。まあ、何だっていいんです。複雑な立場にある訳ですから、今その詳細を知る必要はありません。端的に言えば、死ぬことがあれば、死なないこともあります。そういう体質だと理解して戴ければ、結構です」

八城「なかなか複雑なんだね」

ゆい「皆そう云います。果てはバケモノと云う人もいます。人間風情が何を抜かすかという話ですがね」

八城「ゆいちゃんは人間じゃないの」

ゆい「それがよく分からないんです。人の血は引いています。アンドロイドという訳でもございません。悪魔…そう云う人もありますね。それが最も確信めいた答えだと思います」

八城「魂取られちゃうの」

ゆい「魂は美味しい人から貰うんですよ」

八城「それもそうだね」

ゆい「魂が美味しいのと肉が美味しいのは別ですがね」

八城「ふぇぇ」

ゆい「いえ、魂は美味しさよりも美しさを重視するでしょう。穢れた魂より清らかな魂を我々は求めます。穢れた魂は見飽きました」

八城「あたしの魂は綺麗かな」

ゆい「はい、模範的な魂です。死ぬ時はお願いします」

八城「あたしゃ死なんよ。ゆいちゃんの血を飲むの」

ゆい「わたしの血液にそういう作用はありませんよ。この濁りきった血に何を求めましょう」

八城「ゆいちゃん、変態だからね」

ゆい「あはは、そうですね」


211

玄那「君はネトゲを愛しているかいと言われたらああ屹度そうだよと返してしまう」

霞「何だかんだ言って、クロちゃんも廃人気質はあると思いますよ。秘伝を受け継がれましたからね」

玄那「かすむんとプレイしていたら狩り場も分かるし、嵌まると確かに否定できない」

霞「狩りも楽しくやるんですよ。例えばこのモンスター、常にレア素材を期待して狩るんです」

玄那「0.05%は流石に難しい気がするぞ」

霞「2時間で出ましたよ」

玄那「0.05%って、そんなもんなのか」

霞「ところでそこのノーパソは誰のですか」

玄那「大家さんが、作りすぎちゃったの、とか言って置いてった」

霞「組み立てたんですか、それは凄い」

玄那「没落貴族としては大変ありがたい」

霞「クロちゃんは自分から飛び出してきたんでしょう」

玄那「そうだっけか」

霞「それなのに何にもくすねてきていないんですね」

玄那「金目の物はあっても欲しいものがなかったからなぁ」

霞「あのアパートの雰囲気に適合するものでないといけませんからね。家は決まっていたんですか」

玄那「はは、それはかすむんが一番知っているだろうに」

霞「あはは、そうですね。お嬢様が汚れてはなりませんし」

玄那「あの時は世話になった。見知らぬ町で体面保つの可笑しな話だけどな」

霞「出奔した昨日今日で抜けきることはありませんよ。だから丁重に扱ったんです」

玄那「しかし少しは考えておくべきだったよな…何か変なの出てきたぞ」

霞「レイドボスですね。前に出ると死にますよ」

玄那「うむ、これは死ねる」

霞「ゲージ真っ赤でごさぁい。もうちょっと高いポーションは買えませんかね」

玄那「わたしはキマイラを飼うからお金を使っていられないのだ」

霞「確かに、ウン百万としますからねぇ。成程、それでレア素材狩りということですか」

玄那「素材だけでも売れるし、尚且つ製造すれば更に高値が付く」

霞「それは益々捨てていられん仕事ですね。レベルが上がれば効率も上がりますからね」

玄那「何よりアーチャーはぼっち職だ。だから本当に好き勝手やれる」

霞「延々と素材狩りですか。ならシーフになった方がいいですよ。ドロップ率も上昇しますからね」

玄那「サブはシーフだな。ならこっちはパーティー組んで最前線に乗り込んだ方がいいな」

霞「丁度このくらいのサブ居ましたし、攻略手伝いますよ」

玄那「そいつぁ助かる。また気が向いたらよろしく」

霞「はい、喜んで」


212

八城「おっちゃんおっちゃん、あれは何ちゅーの」

嘉寿夫「あー、ありゃあ水死体よ。またの名を土左衛門という」

八城「ふぇぇ、どじゃーもん」

富「失礼な、わしゃあ生きとっよ。スィー」

嘉寿夫「富さん、ご老体には厳しい冗談ですぞ」

富「ふぁふぁふぁ、わしゃあ泳いどる時間の方が長いだ」

八城「どじゃーじいちゃんは泳ぐの得意なの」

富「歩くよかずっと得意よ。健康にもええ。後わしにゃあ富という名前があるだ」

八城「富じいちゃんって魚さんなの」

富「なに、わしゃマグロの富さんよ。船が難破したとて、わしゃ生きて帰ってくるだ」

嘉寿夫「富さん、泳ぎはさることながら、生命力までありますな」

富「戦前はみんな必死に生きてただよ。その時の経験が生きとるだ。タメさんは違うだろうけど」

嘉寿夫「はは、オヤジは研究所に籠もりっきりでしたし、昔も今も無縁でしょうな」

富「たまには顔見せにいくか。カズ、研究所はどっちだ」

嘉寿夫「あっちの方ですね」

富「おっしゃ、ちょっくら渓流上ってくるさ」

八城「行っちゃった」

嘉寿夫「とても人間業とは思えんな」


213

ゆい「兄さん兄さん、八城ちゃん達が帰ってくるそうですよ」

基茂「やっと解放されるのか」

ゆい「え、何から解放されるんです」

基茂「自分の胸に手を当てて訊いてみるんだな。ところで、いつだ」

ゆい「三五日後ですね」

基茂「十五日後じゃないよな」

ゆい「はは、当然でございましょう。真実を申しますと、六七日後には帰るそうです」

基茂「別にすぐって訳じゃあないのな」

ゆい「そうですよ。すぐ帰ることはできませんよ」

基茂「そいつぁ参った」

ゆい「居間で交われるなんて今だけですよ」

基茂「うっせーな。スピーカーで町内に流すぞ」

ゆい「迷い人のやつですね。自殺の報告はキリがないので、やらないそうです」

基茂「人口大丈夫かよ……」

ゆい「命が一つ消えると命が一つ生まれるんです。何等問題はないですよ」

基茂「そんなんだからやしろんみたいなのが増えるんだろう」

ゆい「神が恵みを与えるなら、ありがたく享受するんです。我々は神の下にありますから」

基茂「野良が増えようが、受け取り先があればいいのか」

ゆい「はい。新たな命は生まれた瞬間からその人生を確定づけています。全て予定調和なのです」

基茂「特別な存在だからな」

ゆい「人の子を凌駕する存在ですね」

基茂「ゆいゆいは人の子だよな」

ゆい「わたしは神に仕える身ですからね。下界の民です」

基茂「ゆいゆいの親は」

ゆい「小さい時に事故で亡くなって……とばあやから聞きました。わたしが知る由もありませんが」

基茂「とりあえず、ゆいゆいはおばあちゃんっ子なんだな」

ゆい「そうですよ。そもそも箱入りでしたからね」

基茂「ああ、通りで、そういう話をされる訳だ」

ゆい「人と会うより活字を眺めていましたからね。人を人と認識しなかったんですよ。変な言い方ですね、人の定義を知らなかったんですよ」

基茂「二足歩行の哺乳類で言語能力など他の動物を圧倒する知的財産を所有しているのが人だ」

ゆい「そうですね、人間は頭が良いんです。その分、脳も大きい。思い出しました。ある時、目の前で人が破裂するように死んだんです。脳や臓器が溢れ出ていました。その有り様よりわたしは飛び散った肉片に興味を抱いたんです。嘗て人であったそれは肉塊でしかない、と。人も死ねば、精肉市場に並んでも何等不思議なことはありませんね。動物の肉ですよ」

基茂「で、そっからなのか」

ゆい「確かに興味関心はありましたが、その時ではありません。方法を知らなければ実践に移れません。試験は肝要です」

基茂「どこかで食べたのか」

ゆい「じいやが珍しく帰ってきてですね。珍しい店に連れて行ってもらったんです。外観は見るからに怪しげでした。じいやに勧められるままに食べたのがどうやらそれらしくて。わたしは普通の肉だと思っていましたが、やみつきになったんです」

基茂「普通の肉、じゃないねぇ」

ゆい「でもわたしは当時のことはよく覚えていませんからねぇ。夢か現かも分かりません。今通っている例の店に行った時にこれだ、と思いました」

基茂「その時が初めてかもしれないのだな」

ゆい「どこかで食べた記憶は、ありました。夢の味覚が鮮明に残るのは夢の話ですね」

基茂「磨夢に会った時には、そうなっていたんだな」

ゆい「そうですね、契約時には既に決まっていたことですからね」

基茂「悪魔だったり巫女だったり忙しい奴だな」

ゆい「楽しいですよ、こういう人生も」

基茂「異常だな、そういう人生は」

ゆい「兄さんに関しては、本気で食べたいと思っていますが」

基茂「オレは、そんなに肉ついてねぇ。余所あたれ」

ゆい「八城ちゃんって将来太りますかね」

基茂「太るよかぽっちゃりじゃね。ゆいゆいと違って」

ゆい「わたしは質素ですからね。八城ちゃん程食べません」

基茂「どの口が言ってんだ」

ピンポーン

ゆい「来訪者です。わたしが出ましょう」

ちる「こんにちは」

ゆい「こんにちはちるさん、兄さんは今なら居間に居ますよ」

ちる「はぁ」

基茂「どしたちる、3pか」

ちる「さんぴぃ?」

ゆい「いち、に、さんぴぃです」

ちる「さ、さんぴん茶なら、好きです」

基茂「磨夢が沖縄展で大量に買ってきたティーパックが残っているぞ」

ゆい「後ろがTなら前はMです。エムフロントです」

ちる「何の話です?」

基茂「ほっといていい。どうせエロいことしか考えてないしな」

ちる「はは……」

ゆい「えっちな女の子は嫌いですか」

基茂「そりゃあ悪魔ならえっちな悪魔が良いに決まっている」

ゆい「兄さん、人間相手にそうした感情は……」

基茂「ないな。寧ろゆいゆいにしかない」

ゆい「もぅ、兄さんったら。そもそもわたしはただの愛人であって、ちるさんの権益を侵すことは許されないのです」

ちる「あの」

基茂「ん、オレにひっついているバケモンの事は放っておいてくれ」

ちる「はぁ」

基茂「何か用あってきたんじゃないか」

ちる「はい。先生の帰宅、ですが」

ゆい「今夜から明後日にかけて、速度を上げて急接近する見込みです」

ちる「台風…みたいですね」

基茂「速度を上げて、日数が早まるのか。どこからそんな情報を」

ゆい「契約者の魂が呼んでいるんです。誰が知らずとも、わたしだけは分かるのです」

基茂「謂わば昵懇の仲ってやつか」

ゆい「はい、その通りでございます。わたし達はそのような関係にないといけないのです」

基茂「良い仲間を持ったものだ」

ちる「基茂さん」

基茂「そうだな」

ゆい「二人は愛を誓いますか」

ちる「ち、誓います」

基茂「誓います」

ゆい「では、誓いのキスを」

基茂「したことあったか」

ちる「………」

ガチャ

八城「ただいまー」

磨夢「ん」

基茂「おい、連絡ぐらい入れろ」

磨夢「ゆいが把握している」

ゆい「ふふーん」

基茂「いや、ゆいゆいは絶対把握していない」

八城「電話掛けてないよ」

基茂「だろ、どこで繋がってんだこいつら」

ゆい「テレパシーですよ」

基茂「そうだな、電波だからな」

ゆい「お誉めいただき大変光栄で御座います」

磨夢「ご飯はどうしてた」

基茂「ちるに届けてもらった。会食の場になった訳じゃないぞ」

磨夢「基茂の料理は」

基茂「残念ながら披露する機会はなかったな」

ちる「基茂さんも…料理なさるんですか」

基茂「ああ、料理ってぇもんじゃないけどな」

ゆい「兄さんのはとても男っぽいのです」

八城「それあれかにゃ。焼き飯とか作ったり?」

ゆい「はい。その系統の料理に致しましては、一挙手一投足が様式美なのです」

磨夢「わたしでさえ、その足下に及ばない」

ちる「それ程の、ものなら…わたしに、ご、ご指導、お願いしま…」

基茂「買い被り過ぎだ。ちるの方が断然上手い」

ちる「でも……わ、わたしだって、焼き飯を、作る時に、だ、団子になることが……あるんです」

磨夢「ちるは短髪」

ちる「先生や、ゆいちゃんに、比べれば…そう、ですね」

八城「あたしみたいなのは」

磨夢「幼女」

八城「ふぇぇ、髪の話だよぅ…」

ゆい「神の話と言いましたか。八城ちゃんは社というくらいですからね」

八城「何言ってるのか分かんない」

ゆい「守秘義務というやつですか。宜しいでしょう、いつか返事をお待ちしております」

八城「はにゃ?」

ゆい「真理とはその瞬間に垣間見るものなのです」

八城「お兄ちゃん、ごはーん」

基茂「お兄ちゃんはご飯じゃありません」

ゆい「いいえ、兄さんはご飯です。わたしの主食です」

基茂「本当に食い殺されそうで怖いな」

ちる(びくっ)

ゆい「兄さん、ちるさんがビクンビクンしていますよ」

基茂「ビクンビクンしているのは、ゆいゆいだろう」

ゆい「いやですねぇ、日常的にビクンビクンしていたら、多分死んでいます」

磨夢「ゆい、ローターというものがあって…」

ゆい「は、は、兄さんはそんなグッズに費やす金なんて持っていませんよ」

基茂「殆どゲームに使ってっからな。当然よ」

磨夢「そう」

八城「お兄ちゃんお兄ちゃんゲームって何すんの」

基茂「ネトゲとかえっちなゲームだな」

ゆい「えっちなゲームとは何でしょう」

基茂「ソフトなものからハードなものまである現代文学だ」

ゆい「ほぅ、その度合いはピンきりな文学なんですね」

基茂「そうだ、みなだってエロい訳ではない」

八城「じゃあえっちじゃないやつもやるんだ」

基茂「もはやおまけってのもあるっつう訳だ。ということで台所入るがいいか」

磨夢「ん、任せる」

基茂「よし、久々に腕を振るおうじゃないか」

ゆい「そういえば、ちるさんは?」

磨夢「ずっと蕨と遊んでいる」

蕨「♪」

ちる「♪」

ゆい「凄いですね。同調しています。あれはプロです」

磨夢「ちるにはちるの良い所がある」

ゆい「ははは、まるでわたしが子供じゃないみたいですね」


214-1

ルイ「こんばんは、マスター。ふぃー、寒い寒い」

マスター「外は寒いんかぁ。ストーブでも引っ張り出す?でもまだ早いやろなぁ」

ルイ「マスターは季節感覚ないよね」

マスター「うん。ここは風というのがあまり入ってこーへんから、熱がこもっているよ」

ルイ「だからにおいにうるさいんだね」

マスター「そういうことよ。店としてもよーないし、うちの健康にも悪いわ」

ルイ「マスターも健康考えるの」

マスター「言われてみると、そんなに考えてへんわ。ご飯もこうして適当に作っていることやし」

ルイ「でもマスターの作るご飯はとても美味しいよ」

マスター「るーちゃんが美味しいと言ってくれるならそれでええか」

カランコロンカラン

ルイ「いらっしゃいませー。ロボさん一体です」

マスター「いらっしゃいませー。んん、ロボさん?」

R-8000「ココガ、ハカセガイッテイタミセカ」

マスター「博士かぁ、常連さんに心当たりは……ないことはないわ。で、ロボさんどうする、油さす?」

R-8000「ハイ、オイルストレートデ」

マスター「オイルかぁ…やっぱそうやんな」

ルイ「ケーキは作れそうにないね」


214-2

マスター「はい、おまちどうっ!」

R-8000「エナジーモリモリパワーアップ!」

マスター「そりゃあ良かったわ。あのまま野垂れ死なれても困るしな」

R-8000「アンタガ、マスター?」

マスター「そうよ、うちがマスターよ。博士らしいのは知っているわ」

R-8000「ソレハゼヒトモ、オキキシタイ」

マスター「博士、博士…。るーちゃん知ってるやろ」

ルイ「うぃー、アロハシャツにグラサン掛けて青色のキャップをつけたお爺さんだね。何日か見ていたけど、最近見なくなったよ」

マスター「るーちゃんの言う通り、毎日決まった時間に来ていたじーちゃんが居ってん。自分から博士を名乗って、試作品がどうたら孫がどうたら言ってはったわ」

R-8000「シサクヒン……マゴ……ハカセダトニンシキ」

マスター「確かにそれっぽいわな。でももう来ないわ。屹度町出てったんやろうなと思ってる」

R-8000 「ソウカ、モウハカセニアエナイ」

マスター「そんな遠くに住んでるん」

R-8000「ハイ、モウアエナイ、モウアエナイ……プシュー」

ルイ「可哀想だよ、マスター」

マスター「そやな。行く宛が無いならうちで働く?」

R-8000「ハタラク?マスターノモトデ?」

マスター「人手足りてへんし、大歓迎や。厨房に居てくれるだけで助かる」

R-8000「ワカッタ。マスターノモトデ、ハタラク」

マスター「それはありがたい。うちは、リーナ・ベクメリトハム・サラドゥ。よろしゅう」

ルイ「わたしは、ルーシャリア・ダクトレン・フォン・ポルタニック。よろしくね」

R-8000「ワタシハ、ロントット・ギルデファング・カティーニャ8000ガタダ。ヨシナニ」

マスター「何やねん、この自己紹介」

ルイ「わたしも思ったよ」

マスター「ロボさんが名乗った以上は、それに因んだ呼び方をさせてもらうわ。ロントット、ならロンって呼ぶことにしよう。心残りなんは、ろーちゃんと呼べへんこと」

ルイ「りーちゃん……」

マスター「う、うちのことはマスターと呼んでもらおう」

ロントット「ハッ、リョウカイシヤシタ、マスター」

マスター「マスターというのはこの店のマスターであり、ロンの主、マスターでもある。まぁこれは形式的なもんでもあるんやけど、そのへんよろしくぅ!」

ロントット「ハッ、ワガアルジ、マスター。ワタクシメハ、セイイッパイチュウギヲツクシテイキマス」

ルイ「ロントット、わたしはマスターのマスターだからマスターマスターだよ」

ロントット「ハッ、マスターマスター」

マスター「言いにくいやろうし、るーちゃんの事はるーちゃんでええやろ」

ロントット「ハッ、ルーチャン」

ルイ「えぇー」

カランコロンカラン

マスター「いらっしゃい、ムー。久しぶりやな。どっか行ってたん?」

磨夢「ん」

ルイ「おかえりなさいませ、磨夢」

磨夢「ただいま、ルイ。マスター、いつもの」

マスター「あいよ」


214-3

ロントット「ドウゾ、オマタセシマシタ」

磨夢「新入り?」

ロントット「ハイ、キョウカラハタラクコトニナッタ、ロントットデス。ヨロレイヒー」

磨夢「わたしは延原磨夢。よろしく」

ロントット「オキャクサンハジョウレンデ?」

磨夢「そう」

マスター「ムーは常連さんやけど、来る時と来ない時の差が激しいで」

磨夢「ルイは激しいのが好き?」

ルイ「しんどいのは嫌いかなぁ」

ロントット「プシュー」

マスター「待ってやロン。まだそんな働いてないやろ」

ロントット「……ハ。R-8000、タダイマキドウシマス」

磨夢「ロボにも休息は必要」

ロントット「ソノトオリデス。ロボモヤスミタイ」

マスター「せめて一時間働いてから、その言葉を吐いてな」

ルイ「ロボは知らないけど、わたしは七時間ぶっ通しで働くよ」

磨夢「流石ルイ、働く機械」

マスター「うっわー、皮肉ぅ……」

ロントット「キカイハツネニカドウスルマノデハナク、トキオリメンテナンスヲヒツヨウトシテイマス。カクイウワタクシモ、ハカセヲモトメテ、ナガイミチノリヲアユンデキタワケデス。ソノツカレハトテモスウニチデハトレナイトヒゴロナラアエイデイタトコロデスガ、マスターノカツニヨリワタクシハフタタビカドウスルコトガデキタノデス。デスカラ、ワタクシノハタラキハルーチャンニヒケヲトリマセン。タダシ、エナジーガヒツヨウドアリマス。マスター、ワタクシニエナジーヲ」

マスター「ロンは酒とかいけるん?無理ならオイルストレート…いや、さっき飲んだやん。やったら、ロンには、その実力以上働いてほしいわけや。るーちゃんは、明け方から働いて、仮眠を挟んでいるものの、今こうして、うちで働いてくれている。暫く居てくれた後は引き続きその明け方の仕事に向かう。こう計算してみれば、七時間ってもんやないわ。なぁ、るーちゃん」

ルイ「うぃー。でも、移動時間あるし何も休むことなく引き続いてやっている訳じゃないよ。それに、マスターの店はアットホームだしね」

マスター「あはは、そんなん、照れるわぁ」

磨夢「客目線からも同じことが言える」

マスター「ムーはるーちゃん目当てやもんなぁ」

磨夢「嫉妬するマスター可愛い」

マスター「うるちゃい。うちやってなぁ、一人ん時は、モテたもんよ。そりゃあ、うち一人なら当たり前じゃないかって話やけど。そっかられーちゃんが来て、るーちゃんが来た。るーちゃんが来てからうちの利益も評判も鰻登りよ。るーちゃんが可愛いのは事実。悔しいにゃあ」

ルイ「わたしにピンクの衣装選んでくれたのはマスターだよ。マスター、センスあるよ」

マスター「衣裳の問題もあるかな。うちはいつものバーテンダー。確かにサンタコスしたら好評やったなぁ」

ルイ「今年もハロウィンとかやっちゃう?」

マスター「やるよ。とりあえずそういう日はイベントをやると決めとこう。節分にひな祭りに七夕……なんでもござれよ」

ルイ「誕生日には素敵な服をプレゼントするね」

マスター「るーちゃん、ケーキの間違いやろ」

ルイ「わたしは服を作れないよ。だからって買ってきたりしないよ。ということでお裁縫の教室に通うんだよ、磨夢」

磨夢「あの天才に指導はできないと思う」

ルイ「のん、できる屹度できる。わたしが一番弟子になるよ」

磨夢「それぐらいの熱意があれば屹度伝わる」

マスター「何や分からんけど、そうすりゃるーちゃんが作ってくれるんか。ありがとう」

ルイ「なんのなんの。友達じゃない。アミだよアミ」

マスター「アミーゴ!そういやロンは?」

ロントット「ヤメシノジュンビガデキマシタ」

マスター「ありがとう。ロンもやればできるやん」

ロントット「ロボノジツリョクヲハッキシタマシダイデアリマス」

磨夢「博士は相当の技術者」

ロントット「ワタクシノホカニモタクサンツクッテラッシャイマス」

磨夢「そう」


215

霞「地震ですねぇ」

玄那「地震だなぁ」

霞「ああっと、フィギュア落としちゃ、やです」

玄那「案外揺れているもんだ」

霞「グラスリーくらいですね」

玄那「まあまあ揺れているな。さてとかすむん、まず問いたいことはこれだにゃ。人生、楽しんでるかい」

霞「楽しんでいますよぅ。こうして家でゴロゴロしながらクロちゃんと格ゲーするのは一つの悦楽ですよ」

玄那「かすむん、それはあまりにも舐めプすぎる。攻撃が単純すぎて簡単に避けられるぞ」

霞「クロちゃん程のレベルじゃ遊べないです」

玄那「何だ、かすむんは弱い者いじめが好きなのか。良くないぞ、ゲーマーとして」

霞「わたしは弱い人と、まず戦いませんよ。練習相手になる時は別として」

玄那「そうそう、いじめっ子よりは教育者であるべきだ」

霞「教育してあげましょう、手取り足取り無知なるあなたに教えてあげましょう」

玄那「一体何を教えてくれるんだ、いやらしい」

霞「わたしは別にエロくないですよ、見た目で判断するんじゃありません」

玄那「きょぬーは誘惑しやすいだろうに。宝の持ち腐れってやつだな」

霞「世の中には天然が居ればド変態も居ますからねぇ。わたしの欲求はエロゲで満たされていますよ」

玄那「確かにかすむんって社交性があっても、赤の他人に深入りはしないんだよな」

霞「要は上辺だけの付き合いというやつですよ。パンジー相手には、そうした対応を取るべきです。パンジーは現実と向き合っているので、わたしもそうした態度を取るんです」

玄那「適応能力が優れている。わたしはパンジーにそもそも近寄られないが。それはそうと、DJかすむんは別人であったよな」

霞「あれは架空の存在ですよね。リスナーの皆さんも理解者でありますから。それにわたしレベルになると、優等生モードと切り替えられます」

玄那「そんなものがあるのか」

霞「あるんです。例えばこんな感じですか。こんにちは上井さん、次の時間の古典は小テストがありますわ。一緒にお勉強しましょう」

玄那「吐き気がした。いや……な、わたしはお嬢様学校に通っていた。周りのみんなはお嬢様言葉だった。わたしは、そんな環境で生活していた。多少無理してでも上品な言葉を使っていたよ。しかし、そこを離れる手前にわたしは、ふと考えた。学校から解放されるなら、無理して話す必要がない。そこで原点回帰だ。女系家庭であったからか、父親は少し口が悪かったからな。そんな父親に影響されたのが当時のわたしであった。そんな口調を求めて、現在のわたしの形になったわけだ。お嬢様でありながら、お嬢様アレルギーだ。だからダウナー系のかすむんは大好きだ、愛している」

霞「冗談だと分かっていても、ドキッとするものですね、愛の告白は。例え相手が居なくても、ウェンディングドレスを着たくなります」

玄那「先生とお幸せにな」

霞「やめてくださいよ、窓から入ってくるんですよ。でも窓は開けっ放しですよ」

玄那「いつでも入ってこられるように、か。そして布団も用意してるんだな」

霞「風邪をひかれたら困りますから、仕方なく用意するんです」

玄那「式はどこで挙げるんだ」

霞「羽衣神社でひっそりと行います」

玄那「優等生は割と庶民派だ。いや、庶民であるから優等生なのか」

霞「お嬢様はおばかさんです」

玄那「誰もが英才教育を受ける訳じゃないからな。甘やかされた結果馬鹿になる。わたしは進んで馬鹿になった。一人暮らしで優等生なんてよっぽどだ」

霞「色々大変なんですね」

玄那「まあ家空けてることが多いんだが」

霞「今度公民館で勉強会を開きましょう」

玄那「おっ、いいな。気分転換になりそう。家でやるのと違って」

霞「まぁ、その後カラオケに続くんですがね」

玄那「完璧な計画だ」


216-1

ピンポーン

ルイ「ルリネコ宅配便です。判子お願いしまーす」

ちる「あっ……はい」

ルイ「今日も寒いですね」

ちる「朝方は……冷えます、から」

ルイ「お客様は早起きですね。バッチリ届けられます」

ちる「早朝から、ありがとうござい、ます」

ルイ「いえいえどうも」

ちる「はい」

バタン

合歓「おっと、可愛い宅配便だねぇ」

ルイ「ありがとうございます。この辺りでは見ない顔です」

合歓「流石宅配便、この地域を網羅しとる。あたしゃあ定住せん。ただ、可愛い可愛い、もう食べちゃいとーくらいの可愛い妹の家には寄らせてもらっているだ」

ルイ「ここのお客様とは、姉妹関係にあるんですか」

合歓「向こうが信じんども、あたしゃあ信じているべ」

ルイ「……と、そろそろ行きますね。機会があったら、またお会いしましょう」

合歓「じゃあの、可愛い宅配便……さて、お、ちるたん、珍しく歓待モードな。ありがたや」

ちる「き、聞いていて、は、恥ずかしいので、とっとと、入って、ください」

合歓「なーん、怒っちょるか。おいは、愛すー妹に対する素直な気持ちを心行くままに述べてだ……あー、引っ張んにゃ引っ張んにゃ。乱暴にせんでぇー」

ちる「げ、玄関前で、語らないで…ください」


216-2

合歓「ちるたんは不治の病っちゅうやっちゃ」

ちる「そう、ですね」

合歓「要はいつ死んでも、おかしゅーない」

ちる「姉が、そんなことを、言います?」

合歓「いや、ちるたんには少しでも長生きしてほしいと。一番思っとー人間よ」

ちる「心配、しているん…です?」

合歓「当たり前よ。じゃけん、こうして、慰めに来るんじゃ」

ちる「嘘です。食糧を求めて、いるだけです」

合歓「まぁそれもあっけど、うにゃあもうそんでええ。ちるたんが元気ならそれで」

ちる「今日は、何を食べたい、ですか」

合歓「カレーライス」

ちる「即答、です、姉さん」

合歓「ちるたんに甘えられんなら甘えてやるぜぃ」

ちる「わたしが……甘え、たい……くらい、です」

合歓「ちるたんは、ずっと一人やもんなぁ。んにゃ、友達とかそげん話ゃなかとよ」

ちる「だから、わたしは……この町に、骨を……埋め、ます」

合歓「は、はは……ひどい話よ」

ちる「姉さんに、居てくれ……とまでは、言いません。姉さんは、羽を伸ばして、ください。たまに、休めに、きてくれる、だけで、わたしは……」

合歓「だから言ったやん。慰めに来とるって」

ちる「姉さんが、教えて、くれたん、ですよね」

合歓「全て計画通りってやつよ。こげん可愛い妹を排除しようなんて……だから、ちるたんがしたいようにすりゃあええ。無理に戻る必要なんてないのよ」

ちる「はい」

合歓「将来の婿も居るこったし」

ちる「あの」

合歓「何、まだ友達だって!? よっしゃ、ここは姉ちゃんが一肌脱いだる。あの男を完全にヒモにしちゃる」

ちる「目的が、変わって、います」

合歓「旦那とは仲良うやっとるんけ?」

ちる「はい、仲良く、して、います」

合歓「本当かのぅ。まあええ、あたしに出来ることがあっだら何だって協力するべ」

ちる「愛、ですね」

合歓「愛、ほぅ難しいもんだい。あたしはちるたんの事を可愛い可愛いとひたすらそう思っどるが、そういうこったでもないべな」

ちる「それも愛、ですが……もっと、こうした、具体的な……」

合歓「んだ、あたしたちにしかない姉妹愛ってやっちゃね。あたしにそういう気持ちがあるかってことね。思い出ばあるさね。あたしも親から厭われてたもんじゃが、そいはちるたんも同じだったのよ。あたしは反抗期だったもんで、何じゃ好きにせいと思っとったけど、ちるたんがそげな不当な扱いを受けていたんば許さんかった。何できるもんばなかと思っちょると、ちるたんが居るじゃん。ちるたんと遊ぶんはあたししか居らんと自分で思っとって、ネムスケが生まれんの。年ば離れとっても愛称で呼び合おうってな。あたしはちるたんを遊びに誘ったばい。ちるたんはあたしと遊ぶ時だけ笑顔を見せてくれた。見とるあたしも嬉しくなって、歌ったり遊んだりした。そん時は二人して笑うたわな。四年後にゃ出てったわ。その時にゃちるたんも本読むようなってだし、あたしも心配なくなった。ストレスの捌け口はそこにある。ちるたんも大分賢うなったわけじゃ。これで心配は要らないと思うでその場ば去ったわけよ」

ちる「ネムスケ……覚えて、います。わたしの、最大の、友人、いや、姉さん……でした」

合歓「今になって、この旅烏ばたまに様子を見にぐるようなったんや。そしてタダ飯を食らっていくダメ姉貴よ。んや、勘定は、こげな話でよかと」

ちる「はい、それで、わたしは……嬉しい、ですから」

合歓「ちるたんに疑われてもええような存在ではある」

ちる「昔は、信じません、でしたが……今では、はい」

合歓「ネムスケはここにあるぞ」

ちる「ネムスケは、生きて、いました」


217

剣「雨強いにゃぁぁぁ」

剛「グラウンド使いてぇぇぇ」

潤作「今日は階段ダッシュだ」

剛「マジっすか」

潤作「マジだ。階段+筋トレだ」

義斗「負けないよ、剛」

剛「うっしゃあ行くぞ義斗ォッ」

義斗「おうとも」

剣「さてと、わたしも行こうかな」

飛鳥「ファイトだよ、剣ちゃん」

剣「ありがとう、あすぽん。行ってくるね」

潤作「舞浜は居ないようだな」

飛鳥「舞浜先輩なら昨日茶道部に来はったから、おもてなししたよ」

潤作「舞浜の奴、野球部にも来てほしいな」

飛鳥「舞浜先輩も屹度忙しいんだよ、お兄ちゃん」

潤作「無関係の茶道部に行って、どこが忙しいんだか」

飛鳥「試合の宣伝だって。順繰りにクラブ回っているらしいよ」

潤作「ボス自らが広報担当なんて畏れ多いな」

飛鳥「ということで舞浜先輩は頑張ってはるから、お兄ちゃんも頑張ってね」

潤作「頑張る方向が違う気がするが、まあいい。行ってくるわ」


218-1

磨夢「うぃーす」

霞「先生、ここが分からんです」

磨夢「自殺の止め方……説得するのは本人の度合いによる所がある。効果が全く見られない場合、諦めても構わない。本人の意志が強ければ、説得も無駄骨に終わる」

霞「はあ、勝手に死ぬなら死ねという話ですか」

磨夢「他人が止める必要性がない」

霞「それはあくまで他人の話でしょう。親友、家族となれば別の話では」

磨夢「家族はともかく、親友?まあいるなら」

霞「わたしの親友はクロちゃんです。クロちゃんが飛び降りるなんてありえませんが、わたしは必死で止めますよ。懇願に懇願を重ねることでしょう」

磨夢「強い意志があれば」

霞「わたしが来るまでもなく落ちるでしょうね。踊り場で死に際を見たくないです」

磨夢「それなら下に居た方がいい」

霞「下に居れば受け止められますね。ただ衝撃が強いので、マットなどを敷けば便利でしょう」

磨夢「わたしなら受け止めてほしい」

霞「わたしの腕が折れます」

磨夢「わたしなら死んでも霞を受け止める。そして抱き締める」

霞「いや、死んでますって」

磨夢「ん」

霞「先生、何かお菓子食べますか。プリッツってたまに食べると美味しいですね。流石先生分かっておられます、まさしくそれです」

磨夢「確かに。これは美味しい」

霞「先生、最近菓子パしてないんですか」

磨夢「最近はあんまり」

霞「では、近日開催といきましょう。都合のいい日があったら、また教えてください」

磨夢「じゃあ霞の3サイズを」

霞「はあ、最近計っていませんから、分からんです」

磨夢「自分で計ったりする?」

霞「いいえ、母に縛られます。虫の息寸前まで追いやられます」

磨夢「それは怖い」

霞「処刑人に向いていると思います。母は怒ると家中を縛り回ります」

磨夢「モノでさえも?」

霞「はい、寧ろ人をモノ扱いします。機嫌の悪い時は、どけこの障害物と罵ってくれます」

磨夢「それは一種の愛情表現」

霞「素直じゃないんですよ」

磨夢「霞も素直じゃない」

霞「先生が一方的すぎるのでは」

磨夢「そう」

霞「そういう先生も嫌いじゃないですが」

磨夢「そう」

霞「でもわたしはクロちゃんとデートしますからね」

磨夢「ごゆっくり」

霞「先に言っておくと、カラオケに行くだけですからね。言ったでしょう、クロちゃんは親友だって」

磨夢「玄那も可愛い」

霞「あう……。先生、心変わりが激しいです」

磨夢「わたしは可愛いものに目がないから」

霞「程々にお願いしますね」

磨夢「可愛いものを前にすると卒倒するから大丈夫。相手にすることもできない。玄那は、かっこいい」

霞「クロちゃんって可愛いのか、かっこいいのか判断付きにくいです」


218-2

基茂「先生様を知らないか」

八城「まみーまだ帰ってきてないよぉ」

基茂「どこで愛を育んでいやがる」

ゆい「兄さん、お腹空いたんですね」

基茂「ああ、ゆいゆいの気持ちがよく分かるよ」

ゆい「兄さんも遂に食人にお目覚めになったんですね、おめでとうございます。理解者がいらっしゃって恐悦至極」

基茂「なんねーよ。一生分かりたくねーよ。オレが言ってんのは、その空腹感だ」

ゆい「わたしは第一目的として、ご飯を食べる為に、この家に来ています。疲れきった中、食べるご飯は何でも美味しいのです。兄さんも、そんな中気付くでしょう。新たな味覚はそこから生まれるのです」

基茂「人肉食わされる気しかしないのだが」

ゆい「わたしも嘗てそうでした。普通に生活をして、この味に出会うことはないでしょう。騙される所から始まるんです。これは牛です、豚です、鶏です」

八城「あたし豚さん好きだよ。豚の角煮ー」

ゆい「人も肥やせば豚となります。このような肉が分解者に侵食される結末は余りにも哀れじゃありませんか。その養分は同種間で循環されるべきでしょう。我ら捕食者はヒトの絶滅の加速化を望まないのです」

基茂「分解者がライバルなのか」

ゆい「分解者は、腐敗した死骸を除去するという重大な責務を担う存在です。心底から尊敬しています。我々は当然その前段階にある訳ですが、腐敗が早まれば口にすることもできません。一刻の時を争う良きライバルです」

八城「ゆいちゃんのライバルって、ちるお姉ちゃんでしょ」

ゆい「いえいえ、正妻の座には及びません。愛人とはひっそり訪れ、ひっそり去るものなのです」

基茂「どっぷり浸かって、普通に帰るな」

ゆい「愛人としてのわたしと、客としてのわたしは別なんですよ、兄さん」

基茂「客から愛人になることもあろうに」

ゆい「兄さんの幸福追求に応えるのがわたしの役目です」

基茂「オレの幸福って何だっけ」


219-1

ゆい「さてと、今年もやって参りました。いたずらしなきゃ犯しちゃうぞ」

八城「わーい、おかしちゃうぞ」

ゆい「お菓子じゃなければ、何と言うのでしょう」

八城「はにゃ?」

ゆい「お菓子ですよ、お菓子を貰うんですよ。恐ろしげな仮装をして恐喝紛いの事をするのです」

八城「とりっく・おあ・とりーと?」

ゆい「そうです、その呪文を唱えることで、奴らはひれ伏すのです」

八城「お菓子をくれるんだよね」

ゆい「そのようにわたしたちは利権を獲得していく訳ですね。さて、準備が出来たら出陣ですよ」

八城「うん」


219-2

八城「歩くお菓子屋さん、とりっく・おあ・とりーと」

ゆい「お菓子をくれないと磨夢さんがいたずらしますよ」

霞「やや、それは困りますね。わたしが寝ている時にいたずらなんかされたら困りますね。そして今日はハロウィン、わたしは、ただ散歩をしているだけではなく、お菓子を配り歩いていたんです。丁度良かった、そこの駄菓子屋詰め合わせをあげましょう。ダブってたらごめんなさい」

八城「ありがとう、お菓子屋さん」

霞「今度学園祭やりますから来てくださいね」

八城「うにゃ、ナースかすむんを見に行くの」

霞「放送部がナースって何ですか。完全に部長の趣味ですよねブツブツブツ……」

八城「部長ってお兄ちゃん?」

霞「ああ、先輩は入っていませんよ。確かに放送部は昼のみの活動で、残業なんて殆ど無いホワイトクラブですけど、男の人は少ないです。入ったら茶道部や美術部同様ハーレムが築けるので、先輩にも入って戴きたいのですがあの人は言います。ネトゲ部に入りたいと。いやネトゲ部は課外活動でしょうとわたしは諭すわけです。それに非公認です。先生が顧問になってくれればわたしとクロちゃん、先輩ほか数名と部活動としては成り立ちますが、公認されることはないですね。風紀委員が見過ごさないでしょう。そもそもですね、不純異性交遊というものがあってですね、男女の付き合いは原則禁止されています。ですから、皆が同性と付き合う訳ですね。実際けしからんもんですからね。伊崎先輩と椎木先輩は我々が見守るんです。校則なんて破る為にあるんですよ。主人公の特権というのは素晴らしいですね。要はですね、腐った恋愛脳で過ごすのではなく、仲間として付き合うんですよ。濃厚は不可ません。至って軽い付き合いで。以上、かすむんの報告でした」

ゆい「兄さんは反逆者である訳ですね。これは厳しく処罰するべきです」

霞「端から見ていると、そんな風に見えないんですよ。椎木先輩は根暗ですから、人と話すにも憚りがあるんです。彼らは見えない所で会っているんですね、わたしはそう推測します」

ゆい「ははぁ、確かに町中で二人を見ることはありませんね」

霞「意思疎通が凄いと言いますか、あの二人は、我々の想像を遥かに越えるお似合いのやつかもしれないですね」

八城「お兄ちゃんとちるお姉ちゃんはお似合いよ」

霞「将来が明るい二人ですねぇ……さて二人は、次何処へ向かいますか」

八城「どこに行ったらいいかなぁ」

ゆい「とりあえず歩きましょう。思わぬ出会いがある筈です」

八城「そだね、じゃあ行こう」

霞「頑張ってくださいね」


219-3

八城「何か光ったよ」

ゆい「降ってきますよ、これは」

高砂「うわわわわ、そこを退け、たかしゃごはここで死ぬ」

ドカーン

八城「だ、大丈夫かな」

ゆい「魔法使いですよ、何か魔法を使っている筈です」

高砂「うぅ……しゃ、ちょー、この、町の……未来は、まか……せた……ガク」

八城「大丈夫じゃないよ」

ゆい「高砂さん、今助けに行きますからね」


219-4

高砂「………おー、よく寝た」

ゆい「気付きましたか、高砂さん」

八城「大丈夫?」

高砂「たかしゃごは、へーきだ。どーした、仲間か?」

八城「あたしも魔女になったんだよ、魔女さん」

高砂「新参か。なら高砂が直々に元素まほーから教えよー」

八城「わーい、魔法だぁ」

高砂「まずは火まほーだ。マッチなんてひつよーない。こう、手先に熱を込める感じだ。はっ」

ボゥッ

ゆい「はい?」

八城「ゆいちゃん、燃えているよ」

ゆい「わちち、水、水を」

高砂「なんだしゃちょー、喉渇いたのか。たんまり飲ませてやろー」

パシャッ


219-5

ゆい「へっくちょい」

八城「ゆいちゃん、風邪引いた?」

ゆい「こんな寒い時期にあんな大量の水を浴びれば……へくしゅ」高砂「すまないしゃちょー、悪気はなかった」

ゆい「別に構いませんけど……高砂さん、いつからポンコツ魔女になったんです?」

高砂「昔からこうだぞ、たかしゃごは」

ゆい「そうですか」

八城「ゆいちゃん、機嫌直してよぅ」

高砂「そーだぞしゃちょー、しゃちょーが冷たいと、たかしゃごは死んじゃうぞ」

ゆい「では高砂さん、取引です。ご協力願います」

高砂「きょーりょくか?たかしゃごも暇じゃないが、助けてもらった恩もあるし、仕方ない、きょーりょくしよー。たかしゃごに出来ることならやる」

八城「やった、魔女さんが仲間に加わった」

ゆい「これで怖いものはありません」

高砂「それでたかしゃごは何をすればいーのだ?」

ゆい「高砂さんは、あちらへ行って禁断術式を解放してください」

高砂「やっちゃっていーのか?」

ゆい「ええ、構いませんとも。思う存分やっちゃってください。愚かな人間共に現実離れした恐怖を体感させるのです。名付けて作戦ここは悪魔の理想郷」

高砂「ここは悪魔のりそーきょー。りょーかいだ、しゃちょー」

八城「で、あたしたちはどうするの」

ゆい「とりあえずちるさん宅へ向かいますか」

八城「りょーかーい」


219-7

コンコン

八城「とりっく・おあ・とりーと!」

ゆい「どうもトリック・オア・トリートです。いやぁ、八城ちゃん、わたしたちは知り合いが居ないにも程がありますね」

八城「あたしはヒッキーだからね。少ないよ」

ゆい「わたしも参拝者の方には軽く挨拶するくらいで一期一会ですし、社員なんて少数精鋭でございますから」

八城「お菓子くれそうな人は、そんなに居ないか」

玄那「やあハロウィンの諸君、調子はどうだね」

八城「まだかすむんからしか貰ってないよ」

ゆい「だからですよ、天地が鳴動しているのは」

玄那「あの青い柱は何だ」

ゆい「空間に亀裂が生じ、魑魅魍魎が蔓延ることになります。派手な行列になるでしょう。しかし彼らは善良なのです。人に危害を与えることはありません。彼らは満足すれば帰っていきます」

玄那「何だそれは。まるで訳が分からないな」

ゆい「地域振興行事とでも思って戴ければ結構です」

八城「あっ、ちるお姉ちゃん」

ちる「ハロウィン、ですね。お菓子どうぞ」

八城「ありがとう、ちるお姉ちゃん」

ゆい「はは、ははははは」

玄那「楽しそうだなぁ」

ちる「ゆい、ちゃん?」

ゆい「ちるさんも楽しみでしょう、妖怪共の行列は」

ちる「見られるん、ですか」

ゆい「そろそろ完成するところです」


219-8

高砂「………」

グタツナ「みんな、楽しんでいるみたいだね」

高砂「そーだな。かんせーして何よりだ」

ザーミア「グタツナ様、人間共の治安部隊が攻撃しているとのことです」

グタツナ「何をしたって無駄だよ。人間共には、それが分からない」

高砂「みんなの安全はたかしゃごが守っているからだいじょーぶだ」

グタツナ「ただの観光なんだよ。魔女、巫女に頼まれたんだろう。あの巫女は全てを見通している」

高砂「しゃちょーが、どこを見ているかはたかしゃごには分からん。ただ、しゃちょーは魔族にゆーこーてきだ」

グタツナ「悪は滅びた、悪は滅びたからね。外見だけで悪と認識するのは間違っている。魔族には僕らのような善良な部類もいる、それを分かる数少ない人間が巫女だよ。無論、君もね」

高砂「まおーは、人間と仲良くしたいのか」

グタツナ「ああ、仲良くなりたいよ。人間には魔族にない技術を所有しているが、魔族は芸術的な意味では人間に優っているだろう。そうした技術、芸術を共有するのが僕らの望みだ。人間共が、どういった態度を取っているか分からない。だから、視察が必要なんだ。結果、人間共は敵意むき出しな訳だ。巫女は見ているだけだろうね」

高砂「しゃちょーは表立ったことはしない。いつだって陰から見ているだけだ。まおーはしゃちょーに会う気はあるのか?」

グタツナ「会ってもいいけど、向こうは多分来ないよ。巫女は笑っているんだ。こちらを見て、ね。ザー…こちらグタツナ。マクセル将軍、首尾はどうだ」

マクセル「ザー…こちらマクセル。上々です。人間共は無駄な攻撃に気付き撤退撤退。我々の行列に乱れなし」

グタツナ「完璧だよ、魔女。今度うちに来てくれ。盛大な宴に招待しよう」

高砂「それはいーな。ただ、ゲートだけは繋げておいてほしー」

グタツナ「ああ大丈夫さ。君は此方に戻れるとも」


219-9

ゆい「いやぁ、良いものですね。やってみるものですよ」

ちる「ゆい、ちゃんが……見せてくれたんですか」

ゆい「いえ、わたしの友人がやったことです。わたしは企画して眺めていただけですからね」

ちる「はぁ、でも、凄いです。あのような行列、は……」

ゆい「今年初開催ですよ。その所以か、あのような騒ぎが起きてしまいましたが、個人的に最初にしては悪くない出来といえます」

ちる「これからも、やるん、ですか」

ゆい「企画と運営がいれば続きますよ。毎年ならぬ頻度が増えるかもしれません」

ちる「へぇ、それは、楽しみ……です」

ゆい「キリのいい所まで行ったので、わたしは帰ります、では、おやすみなさいです」

ちる「はい、おやすみ、なさい……です」


220

霞「こちらは圭道学園放送部でござーい……わたしはかすむんです」

玄那「クロちゃんです。キャラが合わない、わたしは馬鹿をやるんだ」

霞「クロちゃんは馬鹿になれてないですよ」

玄那「天才でもないぞ。凡人というやつか、それが一番」

霞「では凡人のクロちゃん、今日はどうなさいますか」

玄那「学祭はわたし休むから何でもいいぞ」

霞「クロちゃんは小道具を頑張ってくれました。安らかに眠れ」

玄那「ハッカ飴嘗めないと、眠ってしまうな」

霞「そんな感じで音楽行きますか」

玄那「おい。会話しろ」

霞「K.Mさんリクエスト、resetでescapeです」

玄那「自演すんな」

霞「まあまあそこは流しながら」

玄那「わたしは流されないとも、必死でしがみつくとも」

霞「お腹空きましたね。ちょっとお弁当食べてきます」

玄那「わたしを一人にしても喋らんぞ。だから音楽を流す」

霞「部長、クロちゃんは戦力外でいいと思いますよ。」

美竜「どこか拾ってもらえる所が、あればだけどね」

玄那「茶道部いってくる」

霞「クロちゃんにお嬢様精神は取り戻せるのか、乞うご期待」

玄那「学祭で飲んでくるかな。なら休むこともないか」

美竜「クロちゃんには、メイドさんが似合いそう」

玄那「メイドさんはあまりいなかったな、お気に入りの執事ならいた」

霞「こないだヘリ用意してくれた方ですね。顔は知らないですが」

玄那「連絡取っている唯一の人だな。手紙のやり取りとかしている」

霞「クロちゃんって達筆でしたか」

玄那「ものっそい下手くそだぞ。でも執事はわたしの字が好きらしい」

霞「あれでしょう、昔から慣れ親しんでいて、字を見るだけでクロちゃんを思い出すんでは?」

玄那「そうだな、わたしもあの字を見ると執事を思い出す」

霞「クロちゃんの将来は安泰ですね」

玄那「執事は結構良い年だけどな」

霞「部長、出られますか」

美竜「買い出しいってくる」

霞「次の授業間に合わせる気ないんですね」

玄那「次は生物か」

霞「人体実験がどうとか言ってましたよ。人体模型君じゃ不十分だそうです」

玄那「やめて、色々やめて」


221-1

剣「にゃろう共ぉぉぉぉ、祭りだぎゃぁぁぁぁぁ」

剛「しゃあああっ、やったるぜぃぃぃぃぃ」

義斗「二人共、テンション高いねぇ。僕にはついていけないよ」

潤作「何たって、舞浜が居るからな。よくうちに来てくれた、感謝する」

舞浜「………」

潤作「舞浜?」

舞浜「やるぞ、お前らぁぁぁぁぁっ!売上は無論学園一だぁぁぁぁぁ」

みんな「おっしゃあああああああ」

舞浜「それでは、スタッフ一同ぉぉぉ、それぞれ所定の配置につけぇぇぇぇぇっ!!!!

みんな「っしゃあああああああっ」

舞浜「……どうだ部長、オレは焼きそばを作る」

潤作「昼になったら替わるぜ」

舞浜「飛鳥ちゃんによろしくな」

潤作「茶道部でまったりしてくるか」


221-2

玄那「来てしまった」

飛鳥「いらっしゃいませー」

玄那「この為に来ました」

飛鳥「自分の部活は何かないの」

玄那「売る側の人間じゃなく裏方の仕事やってたんで」

飛鳥「じゃあお客さんとして学校に来たんだ。ごゆっくり」

玄那「模擬店は冷やかしです、すみません」


221-3

霞「クロちゃんより茶道部に入ったとの報告ですよ、部長」

美竜「和服の飛鳥ちゃんが見たい」

霞「行ってきますか、部長。わたしはお客さんにおちゅーしゃしておきますから」

美竜「うちはただのコスプレ喫茶だから」

霞「クロちゃんにメイド服着せたかったら、着せればいいですよ。親友であるわたしが許可しますよ」

美竜「親友を少しは哀れんでみるべきだと思うんだ」

霞「部長、クロちゃんに遠慮することは、ありません。ああ見えてM体質が潜んでいますから、屹度喜ぶでしょう」

美竜「喜ぶ姿は見たくないかなぁ」

霞「メイド服着せないからには変わりません。どんな反応が返ってくるかは、強引にでも着せることから始まるんです」

美竜「ちょっと、行ってくる」

霞「はい、いってらっしゃいませ」


221-4

玄那「よっ、ただいま」

霞「おかえりなさい、クロちゃん。可愛いメイドさんです、似合っていますよ」

玄那「あ、ありがとう。そこで部長に会っちって、空き教室で、無理矢理着替えさせられた。部長、半ば喜び、半ば悲しんでいたぞ」

霞「クロちゃん、されるがままになっていたでしょう」

玄那「まぁ、そうだな。何か問題で?」

霞「おかしいです、クロちゃんはMだと思ったのに」

玄那「わたしがMで誰か喜ぶとでも?」

霞「は、は、は、喜ぶのは本人だけですよ。Sも同様に云えます。ところでクロちゃん、どうでしたかお茶の方は」

玄那「うむ、美味しかった。和菓子が異様に合うもんだ」

霞「お嬢様精神が蘇りましたか」

玄那「茶の嗜みは、よくやったなぁと思い返しているよ」

ガララッ

磨夢「放送…ブーッ」

霞「どうしました先生、お薬が必要ですか」

磨夢「だ、大丈夫……発作だから」

玄那「先生は裏切り者のけしからん一物に興味があるのか。ティッシュどうぞ」

霞「別に谷間を見せるような痴女的服装じゃないんですが。それでもエロいというのですか」

玄那「かすむん、輸血してやれ」

霞「気失っていますね、先生。血を抜くのは痛いので、ケチャップを代用しましょう」

玄那「先生の血液はトマトじゃないだろう」


221-5

磨夢「………」

霞「気が付きましたか、先生」

磨夢「ん」

玄那「先生、パンフレット見なかったのか」

磨夢「見たけど想像以上」

霞「そうですか。それでどうです、似合っていますか」

磨夢「とても良い。玄那は不良メイド」

玄那「それはあんまりだ、先生」

霞「クロちゃん、まず言葉遣いから正しましょう。先生は年上か分からないですが、敬語を用いましょう。お嬢様言葉でよろしいですわ」

玄那「お嬢様言葉か」

磨夢「郭言葉でもおけ」

玄那「いや、それは違う気がしますわ、先生。だー恥ずい」

霞「それでもレディ?」

玄那「乙女の貞操汚すなかれ」

磨夢「玄那は面白い」

玄那「人で遊ばないでもらいたいですわ」

霞「は、は、は、クロちゃんってあれですね、ギャグ入ってますよ」

玄那「お嬢様は、とうの昔にやめたんだから、今更出来ないんだ」

霞「深窓の令嬢はどこかにいらっしゃらないかしら」

磨夢「お嬢様じゃないけど、ちるとか」

霞「確かにそうですわ。椎木先輩は大変麗しい方ですわ。綺麗な心を持っていらっしゃいます」

玄那「あれは女神でございます。眩しすぎますわ」

磨夢「そう」

霞「そういえばクラスの方では物バをやっているそうです。わたしたちは、こちらに執着がありますけど」

玄那「湖先生に何と云われようと戻りませんわ」

霞「湖先生は割と放任主義ですよね。帰宅部以外は好き勝手しています。人手が足りていないでしょうね」

玄那「湖先生も屹度ブラバンに行っていますわ」

磨夢「それはない。店が崩壊する」

玄那「ええ、売上泥棒する方がおられますわ」

磨夢「ん、わたしならする」

玄那「ここにいた!?」

霞「先生は町屈指のワルなんで、そういった行為にも走るんですよ」

玄那「初耳だな。そうか、先生が売上泥棒するワルか」

磨夢「んー」

霞「先生、放送部をお願いします」

磨夢「わたしは適任ではない」

霞「先生が顧問でもいいですよ」

磨夢「そう」

霞「は、素直じゃないんですから」


222

ゆい「あっ、高砂さん」

高砂「たいそーなものだったな。しゃちょーも来れば良かったのに」

ゆい「魔界など行けば、この世の中に幻滅するだけですよ」

高砂「確かに、人間とは違うからな」

ゆい「魔王が善政を行っているようで何よりです。現状、向こうの方がよっぽど住みやすいでしょう」

高砂「たかしゃごは日にち決めていたけどな」

ゆい「まあ観光じゃないですからね。それに関しては高砂さんは飽和状態にあるでしょう」

高砂「あれ意外と速度出るんだぞ。しょらと陸のしゃはすごい」

ゆい「道中景色は見えないんですね」

高砂「実際下を見ていると死ぬぞ」

ゆい「此間のがそうですか」

高砂「たかしゃごは何回も死にかけている。げーいんは一つとも言えない。あれだ、一寸した油断が命取り」

ゆい「もう死んだって分からないでしょう。生死の区別もついていないみたいですから」

高砂「墜落で死ぬなら、気付かず死ねる」

ゆい「命は気遣うことです。悪行を積んでいるなら尚更です」

高砂「しゃちょーの目が黒い内は死ねないなぁ」

ゆい「死にたくても死ねない生き地獄、楽しんでくださいね」

高砂「あの頃に戻りたい」

ゆい「過去は既知でなければいけないのですから、無知では情報なんてありませんよ」

高砂「まどーがくえんは知っているか」

ゆい「知っていますよ。高砂さんが中退したところです」

高砂「けんきゅーにしゅーちゅーできないからな、仕方がない」

ゆい「当時から研究一辺倒だったんですね」

高砂「うむ、がくえんじゃ押さえきれない」

ゆい「学園じゃそこまでやりませんよ。あくまで基本を押さえるんですから」

高砂「全くそのとーりよ。たかしゃごは碌にしゅっしぇきしなかった」

ゆい「学費は大丈夫だったんですか」

高砂「やしゅかったからな。心配ない」

ゆい「高砂さんのことですから、学費払ってなかったんでしょう」

高砂「うちはびんぼーだったからな。がくえんはただのパトロン」

ゆい「にゃにゃ!?利用していただけてしたか」

高砂「みんな、たかしゃごのけんきゅーにきょーみがあるみたいだ。たかしゃごはがっぽがっぽだ」

ゆい「まあ常人でやる人はいませんからね」

高砂「特別視に嫌気が差したたかしゃごは、金だけ貰うことにしてやめた」

ゆい「流石極悪非道の高砂さん」

高砂「けんきゅーひは、けんきゅーにしか使ってないから、悪くはない」

ゆい「高砂さんってわたしみたいに趣味が無さそうですね」

高砂「本読んどけばいーだけだろー」

ゆい「読書は日常の基盤となりますからね」

高砂「けんきゅーだよ、けんきゅー」

ゆい「わたしには、そうした思考はございませんね」

高砂「そんなよーじゃ馬鹿になるぞ。馬鹿が増えるぞ」

ゆい「高砂さんの考え方では、世の中殆どの人間が馬鹿になりますよ」

高砂「そーだ、世の中馬鹿ばっかだ。けんきゅーしないやつは、みんな馬鹿だ」

ゆい「世の中、馬鹿が多くて、困りません?」

高砂「とーぜんなことに困るも驚くもない」

ゆい「概念を否定しない所が高砂さんらしいですね」

高砂「あ、そーだ。しゃちょー、今度の儀式、神社でやらしてもらっていい?」

ゆい「勿論良いですよ。供養ですか、食用ですか」

高砂「実験よー、かな」

ゆい「楽しみにしていますね」

高砂「多分しゃちょーが思っていること、たかしゃごはしない」


223

八城「にゃあ」

ちる「いらっしゃい、八城ちゃん」

八城「拾ってください」

ちる「………」

八城「にゃあ」

ちる「えっと……家出、したんですか」

八城「今日からちるお姉ちゃんの家でお世話になります。八城です」

ちる「養え、ませんね」

八城「にゃにぃ!?」

ちる「自分の事だけで、精一杯です」

八城「ちるお姉ちゃんも、大変なんだねぇ」

ちる「命懸けです、から……」

八城「うにゃあ」

ちる「わたし、もう少し頑張ります」

八城「無理しないでね」

ちる「はい」

八城「ところでお姉ちゃん、ゆいちゃんにこういう本借りてるんだけど」

ちる「はあ、これは、難しい……です。八城ちゃん、もう少し簡単な、本も、ありますよ」

八城「簡単な本?」

ちる「例えば、こうした、小説が、あります」

八城「うへぇ、怖いよぉ」

ちる「多少、怖いところも、ありますけど……面白い、ですよ」

八城「笑えるの?」

ちる「ええ、笑えます。恐怖、だけじゃないのが、こ、この作者さんの…作風です」

八城「へぇ、じゃあ読んでみようかな」

ちる「はい、どうぞ。屹度、癖に…なりますよ」

八城「ありがとう。ゆいちゃんからはね、魔女さんから借りた、この魔道書を、お姉ちゃんに読んでもらえたらな、だって」

ちる「これは、凄いです。売ったら、高く、付きそう……です」

八城「売るんじゃなくて、読んでほしいんだよ」

ちる「分かって、います……よ。難しそう、ですが、読んで、みます」

八城「魔女さん一押しだって」

ちる「これだけ、厚ければ……内容も、濃い、でしょうね」

八城「魔道学、の入門書、なんだって」

ちる「魔道学の、入門書……ですか。歴史の方は?」

八城「それはまた、別にあるんだって。魔女の歴史を書いた本もあるんだよ」

ちる「一冊一冊、内容が、濃さそう、ですね」

八城「魔法の本は、たくさんあるらしいよ」

ちる「ハロウィン、の時の、魔法は?」

八城「あれは違うんじゃないかなぁ。ゆいちゃんも予想以上だって言っていたし」

ちる「本が、あるん……でしょうか。じ、自己流……なん、でしょうか」

八城「魔女さん、ああ見えて頭いいんだってゆいちゃんが言っていたよ」

ちる「はぁ、できるものなら、会ってみたい、です……」

八城「お姉ちゃん、会ったことないんだ?」

ちる「はい、名前、ぐらいしか」

八城「空を見たら、飛んでいるかも」

ちる「魔女か、分からない、ですね」

八城「魔女さん、烏と一緒に飛んでいるよ」

ちる「たまり、ません」

八城「烏さんかぁかぁ」

ちる「猫は、どう、です」

八城「猫さんにゃあにゃあ」

ちる「成程、そのき、気持ちは、よく、分かります」

八城「黒い猫さんが好きなの?」

ちる「可愛い、ですよ」

八城「可愛いよね」

コンコン

八城「お客さんかな?」

ちる「んん?」

カッカッカッ

ちる「人では、ないみたい…です」

ガチャ

八城「鳥さんだよ、何か咥えてるよ」

ちる「これは、手紙……です」

八城「読めないよ」

ちる「この筆跡は……ああ、病院の、友達です。」

八城「病院の友達?」

ちる「年の離れた、親友です。優しい、お爺さん、です」

八城「おじいちゃんかぁ。だから、こんな字を書くんだ」

ちる「お爺さん、郵便に、頼らないんですね」

八城「で、内容は内容は」

ちる「リハビリ、生活を、続けて……いる。こっそり、抜け出して、あの廃墟に……向かった。既に、取り壊されて、いたが、地下は、残って……いた。幽霊……と、楽しく、会話した。百物語……をして、帰った。幻覚……ではなく、事実、みんな、信じない。そりゃあ、誰も、信じません……よ」

八城「それ本当?」

ちる「はい、だから、わたしに、手紙を出したん……でしょう。その話が、したくて。しっかり、受け取り、ました」

八城「へぇ」


224-1

マスター「お風呂?そんなん家で入りゃあええんちゃうん」

ルイ「それがね、マスター。家庭の事情で入れないということがあるんだよ」

マスター「確かに。るーちゃん、家より外に居る方が多いもんなぁ」

ルイ「後は、特別な時かなぁ。お風呂はお風呂でも外のお風呂が良いってことはない?」

マスター「そりゃ行かんから珍しいもんやと思うかもな」

ルイ「でしょう、ということで行こう。マスターの店と同じく二十四時間営業だよ」

マスター「おー二十四時間と来たか。二十四時間は流行るべきやな。若しくは夜間営業するとかな。ただ八時間勤務は鉄則や。うちらみたいなんは例外として。一般の従業員っちゅーんは、るーちゃんみたいな超人ばっかやないんやから」

ルイ「あはは、わたしはれっきとした人間だよ」

マスター「半日働くうちでも、肉体労働も重ねる、るーちゃんにはかなわんわ」

ルイ「わたしもマスターの料理にはかなわないよ」

マスター「もう、るーちゃんに教えることはないわ」

ルイ「そうかなぁ」

カランコロンカラン

ロントット「タダイマモドリマシタ」

マスター「ロン、ご苦労さん。休んどいてええで」

ルイ「仕入れは業者さんが来てくれるんじゃなかったの」

マスター「業者さんは定期的に来てくれはるけど、頼んでないものは、こーへんからな」

ルイ「リンスとシャンプー。マスター、分かってたんだ」

マスター「そんな偶然やって。髪の手入れは大変やから」

ルイ「マスター、髪解いたら可愛いと思うよ」

マスター「ま、またの機会な。銭湯やら行った時でええやんか」

ルイ「うぃ、マスターとおっふろー。じゅてーむ」

マスター「銭湯かぁ」

カランコロンカラン

ロントット「オキャクサンオキャクサン。ラッシャイマセー!!」

エーゲル「良い店だ」

マスター「入店と同時に評価戴けるなんて光栄や。そんで、ご注文は?」

エーゲル「ボージョレ・ヌーヴォとやらを」

マスター「るーちゃん仕入れてる?」

ルイ「あるよー。情報をいち早く掴んで送ってもらったの」

マスター「流石るーちゃんは仕事が早い。あーこれやな、はいどうぞ」

エーゲル「忝い」

ルイ「あー卵切らしてたぁっ!」

マスター「えらいこっちゃえらいこっちゃよいよいよい」

ルイ「ちょっと席外すね」

マスター「あいよ」

エーゲル「大丈夫なのかね」

マスター「普段はしっかりものなんやで。今日は偶然やね」

エーゲル「ほぅ」

マスター「ところでおっちゃん何かしてるん」

エーゲル「おっちゃんは現代必要とされていない」

マスター「お金はあるん」

エーゲル「金がなきゃこんな店来ないぞ、ほら」

マスター「封筒の厚みで分かるわ。相当凄いことやってはったんやな」

エーゲル「命懸けの仕事だったから相応の金額だ」

マスター「へぇ。戦場を駆け巡ってでもいたとか?」

エーゲル「まぁ、そんなところだよ。今は平和すぎる」

マスター「平和じゃなきゃこんな商売やっとらんよ、おっちゃん」

エーゲル「風の噂によると、この町は地域で最も自殺率が高いようではないか」

マスター「悩み事が多いんやろうなぁ。夜と酒じゃそういった層の人は救えんかなぁ」

エーゲル「そういう人間こそ救えるんじゃないか」

マスター「うちは相談に乗ることしかせーへん。お酒で解決できるなんか思わへん。難しい話や」

エーゲル「確かに、マスターと話して解決するなら、それで構わないな」

マスター「第一そんなに重苦しい話する人なんて来はらんよ。みんな愉快な話をして帰っていくわ」

エーゲル「成程」


224-2

ルイ「ただいまマスター、あっ、ぼんじゅーる磨夢」

磨夢「こんばんは、ルイ」

マスター「今日は倒れへんねんな、ムー。安心したわ」

磨夢「ん、薬飲んできた」

マスター「出来たら合法のやつを頼むわ」

磨夢「ん」

ルイ「そういえばマスター、さっきの人は何だったの」

マスター「何というか、変わったおっちゃんやったな。平和やから仕事ないねんて」

磨夢「それとなく理由をつけた、ただの無職では?」

マスター「堅物そうなおっちゃんやったから、そんな嘘は吐かんと思うで。ガタイもごつかったし」

ルイ「でも太っていたよ」

マスター「おっちゃん、普段から酒に入り浸ってるんやろうなぁ。昔はもう少しええ身体してたんやろうに」

磨夢「ここには初めて?」

マスター「うん、一見さんやで。偶然通りかかるにしても、うちは入りにくいし、情報はあったんやろうな」

磨夢「多分、わたしと同業者」

ルイ「情報屋さんだね。だとすると、ニンジャとかかな。じゃあサムライも友達もいるのかなぁ」

マスター「るーちゃん、異国文化に夢を抱くのはええけど、時代がちゃうわ。やってる人はやってるんやろうけど」

ルイ「今度伊賀や甲賀に行ってみようかなぁ。磨夢、車出せる?」

磨夢「ペーパーですが何か?レンタカーなら近くにある」

ルイ「街道を歩いていくとね、そういう人達に会える気がするんだ。戦国や江戸って素晴らしいね」

磨夢「時空を歪めるなんて正気の沙汰ではない」

ルイ「そうだよね、そうするよりは、昔を取り戻すべきだよね。磨夢あったまいい」

磨夢「旧弊社会の復興」

マスター「絶対王政なん?」

ルイ「自分勝手な王様はギロチンにかけるんだよ」

マスター「怖いわ、るーちゃん」

磨夢「純粋な市民の怒り」

ルイ「国王は国、市民の事を考えないと」

マスター「成程、労働力は必要やな。その育成、支援を行うんが国ちゅーわけか」

ルイ「うぃー。そこまで考えてから王にならないと」

マスター「王様になるんも難しいもんやな」


225

ゆい「兄さん、その辺で右腕見ませんでした?」

基茂「見たくねーな」

ゆい「プラスチックの容器に入れて、そのまま冷蔵庫に保存しようと思っていたのですが、跡形もなく消えているのです。今この家にいるのは、わたしと兄さんとレオポンだけです。猫が人の味を覚えたら、それは大変なことでしょう。保健所行きですよ。レオポンの手には届かない場所に置きます。それは兄さんの役割です。ああ、知っていますね、その顔は。既に何らかの処置は施しておられるようです」

基茂「偶然見かけたから、窓から放り投げた」

ゆい「兄さん、死体遺棄ですよ。腕だけ投げても他の部位は知らないんですね。バラバラは探す楽しみがあります。法律上よろしくなくても、わたしにとっては喜ばしいことです」

基茂「バラバラ殺人は多いものなのか」

ゆい「統計的に云えば、圧倒的に自殺が多いのですが、自暴自棄になった結果の弊害にもなりましょう、殺人です。バラバラはロマンなのです。最近徐々に増えつつあります」

基茂「おっかない世の中になったものだ」

ゆい「恨みだとか実験とか様々でしょうね。殺すなら徹底的に殺すのです。食べやすい大きさに切ってもらうのです」

基茂「そこまでの職人は居ないだろう」

ゆい「大量殺人犯なら、それも可能なんですよ。初心者の方は雑な切り方になりますが、慣れていますと、一口大にできます。店の入荷先は、その手の方に思えます」

基茂「加工品なら便利だな」

ゆい「そういった方には寧ろ怨恨なんてないのでしょう。聞いた話だと、人間精肉工場もあるとかないとか。全て仕事で片付くのです」

基茂「仕事なら仕方ないな」

ゆい「彼らは何のために働いているのでしょう。はい、お金のため、何でも引き受けるのです。そして、仕事が好きになる人もいるでしょう。切り刻む快楽を知るわけですからね」

基茂「機械がやるわけだろう」

ゆい「人がやろうが、機械がやろうが、血の海を拝めるのです。わたしには分からないですね」

基茂「話だけだと分からんからな」

ゆい「第一工場の場所が分かりませんからね。社会の闇で秘密裏に行われていれば、どこの発表もありません。みんな言い伝えです」

基茂「みんな嘘っぱちだ」

ゆい「信じるもよし、信じないもよし、真偽の定かは分かりません。ただ、ここにこうしてあるわけですから。見ます?」

基茂「見たくない。見てもいない」

ゆい「現実は小説より奇なり、ですよ。兄さん」

基茂「幻想だな」

ギュッとつねる音

基茂「いでぇ!」

磨夢「夢じゃない」

基茂「だな。だからって、ここまで強くつねる必要はねーゃ」

八城「お兄ちゃんただいま」

蕨(ニコッ)

基茂「おかえり。ゆいゆいと二人きりだとひどい話を聞かされるぞ」

八城「そーなの?」

ゆい「食材の在処とその出所を話していただけです」

磨夢「そこで拾った」

ゆい「はい、それです。ありがとうございます」

磨夢「ん」

基茂「二人は見ちゃダメだ。刺激が強すぎる」

蕨「?」

八城「闇取引?」

基茂「常人には理解できない取引ではあるな」

ゆい「兄さん、わたしは普段の食卓においても、こういった肉を食べているんです。今更隠すようなことでもないですよ」

基茂「そういう話じゃないだろ」

磨夢「ゆい、おそらく基茂はわたしたちを理解できていない」

ゆい「長いこと付き合ってこのようでは、人類がいつ根絶しようとおかしくないですよ。人間の知能の低下により、支配権が他の種族に委ねられることになるのです。下等生物に支配されるようでは、異星人に乗っ取られるのも時間の問題です。結果、地球は荒れ果て、自然の秩序体系は崩壊するのです」

基茂「待て、落ち着け。オレが悪かった」

磨夢「ちるを落とせないばかりに」

基茂「そうなのか」

磨夢「現状維持は流石にまずい」

八城「このままじゃゆいちゃんと結婚しちゃう!?」

蕨(コクリ)

ゆい「兄さん、わたし、できちゃったみたいです」

基茂「急に腹出るわけないだろう」

ゆい「いくら兄さんでも、そういう趣味はありませんか」

基茂「ゆいゆいを孕ませたら、神への叛逆だのなんだの言われるのだろう?」

ゆい「わたしは構いませんが、確かに神は許さないでしょうね。そうです、ちるさんの子供にしたら万事解決です」

基茂「ちるは愛されているなぁ」

磨夢「………」

八城「にゃあにゃあ」

蕨「♪」


226-1

ルイ「ルリネコ宅配便でーす」

ちる「何か、頼み、ました…っけ?」

ルイ「宛先不明ですね。これは恐ろしいです」

ちる「危険物、では…ない、ですね?」

ルイ「爆弾とかじゃないみたいですよ。許可さえ頂ければ、この場で開けますよ」

ちる「では、どうぞ」

ルイ「うぃー、では遠慮なくいきます」

ビリッ

ルイ「あ、大丈夫ですよ。危険性はありません」

ちる「あの、お金は」

ルイ「向こうが出しているみたいなんで大丈夫です。では」

ちる「………」

ガサゴソ

人形「コンニチ……」

ちる「………」

人形「どうも」

ちる「どうも、ちる、です」

人形「よろしく、ちる」

ちる「はい、よろしく……です」

人形「本日は当商品をお買い上げ戴き、誠にありがとうございます」

ちる「買っては、いないです。勝手に、送られて、きました」

人形「贈り物用なら贈り物用に設定してくれればいいのに。宛先は分かります?」

ちる「分からない、ですね。わたしの、住所を、知っている……だ、誰か……です」

人形「その誰かから……記憶は曖昧、何も思い出せない」

ちる「何か、食べ物、欲しい、ですか」

人形「ナポリタン小盛り、それからミルク入りのアイスティーをお願いします」

ちる「はい、分かり、ました」


226-2

人形「ちる、こういう現象、何も違和感はありませんか?人形が喋るというのは」

ちる「特には。わたし、人と話すのが、に、苦手、です……から。それに、た、魂が宿った、人形は、す、素敵、です」

人形「話すのが苦手。魂が宿る人形に拒否反応を示さない。ちるは、とっても変わった人です」

ちる「そう、ですか。変わって、います……か」

人形「普通は驚くと思います。でも、ちるは、ごく普通に接してくれました。ひょっとして、ちるも人形ですか?」

ちる「わたしが、人形、なら……や、家主は、誰、でしょう」

人形「ちるしか居ないですね。不思議なことだ」

ちる「ひ、一人、暮らし……なので」

人形「みんな一人でやっているのですか。それはすごいです」

ちる「一人で、せ、精一杯、です、から…」

人形「どうかもう一皿」

ちる「仕方ない、です。えーと」

人形「自己紹介が遅れました。ポルトナ・シェッツブルグです。よろしくお願いします」

ちる「ポルトナ、さん、よろしく、です。その、ポルトナ、さん、は……た、食べ物に、関して……す、好き、嫌いは、ありません、か?」

ポルトナ「この口に入るなら、特に好き嫌いはありませんが、強いて言うなら、パスタやハヤシライスなんかは好物ですよ」

ちる「ポルトナ、さんは……どこかの、れ、令嬢、ですか」

ポルトナ「そんな記憶がないわけでもないです。とりあえず、食べ物に関しては、そのようなものだと理解してくだされば、構いません」

ちる「了解、です」

ポルトナ「ちるはとっても優しくて、とってもおかしいです」

ちる「客人には……いえ、ポルトナ、さんは、これから、か、家族、ですから」

ポルトナ「家族かはさておき、暫くお世話になります。そうだ、少し外に出てみたいです」

ちる「まず、ご挨拶、しましょう。近所に、知り合いが、います」

ポルトナ「コンニチハ」

玄那「喋った?」

ポルトナ「ハイ、シャベリマシタ。ニヒ」

玄那「うわああああああっ!!」

ちる「もう……だめ、ですよ。脅かしては」

ポルトナ「こういう反応が見たかったんです」

ちる「クロちゃん……は、とても、怖がり、です」

玄那「先輩、質の悪い悪戯はやめていただきたい」

ちる「はぁ、別に、悪戯、という、わけでは……」

ポルトナ「ポルトナといいます。ちるの家族です」

玄那「まるで人間だな」

ポルトナ「人間じゃありません、人形です」

玄那「やっぱり人形だよな。度肝を抜かれた。わたしは上井玄那だ。玄那が呼びやすいか」

ポルトナ「玄那、認識。よろしくお願いします」

玄那「ああ、よろしく。先輩、ちょっとこちらへ」

ちる「はい?」

玄那「死ぬかと思いました」

ちる「怖い、ですか」

玄那「人形が喋れば普通怖がるもんですよ」

ちる「はぁ、髪は、伸びない、ので……ご安心を」

玄那「別に人形が怖いわけじゃないんですが」

ちる「………」

ポルトナ「どうしたんです?」

玄那「いやいや何でもないんだ。もう慣れたから大丈夫だ。しかし家族だなんて羨ましいな。いや家族なんて嫌いだが。ああ、何というか、一人暮らしを支えるパートナー、というささやかな家族が憧れだ」

ちる「それなら、ペット、です。犬猫が、無理でも、ね、熱帯魚や、鳥が、飼えます」

玄那「うちのアパートは確か、そうした制限はなかったですね。熱帯魚は、いいなぁ」

ポルトナ「金魚や出目金ですね」

玄那「いや、出目金は金魚だよ。グッピーやエンゼルフィッシュもいい。みんな可愛いぞ」

ちる「わたしの、家の庭がジャングルなら、クロちゃんの、家は、水族館、です」

玄那「はは、先輩の家の庭も植物園でしょう」

ポルトナ「ちるの庭は、そんなに綺麗なんですか。また見たいです」

ちる「す、好きな……だけ、見せて、あげます、よ」

玄那「………」

ポルトナ「玄那の水族館も見たいです」

玄那「お部屋がまるで水族館!建設予定だからな。期待はするな。」

ちる「面白そう、です」

ポルトナ「これは期待できます」

玄那「………」

ちる「ではポルトナ…さん、本屋でも、行きましょう」

ポルトナ「それは良いですね。行きましょう」

ちる「クロちゃん、お邪魔、しました」

玄那「また会いましょう先輩」

ポルトナ「これから世話になります」

玄那「多分世話しないぞ」

ちる「それは、あんまり……です」

玄那「あ、そうか。ポルトナは預かった、返してほしくば帰ってきてください」

ポルトナ「クロちゃんは何か作れるんですか」

玄那「急に馴れ馴れしくなられても何も作れないぞ」

ちる「わたしが、お裾分け、します」

ポルトナ「成程、確かにお世話になれませんね」

玄那「アルバイトで稼いでコンビニ弁当。後は、米が炊ける」

ポルトナ「一流ですね」

玄那「そうだろう、はは。わたしぐらいになると容易なものだ」

ちる「………」

ポルトナ「ちるが不安そうな顔をしています」

ちる「クロちゃんも、良い、ところ……が、あります。運動神経、です」

玄那「わたしは明らかに並以下ですよ先輩」

ちる「わたし、から、見たら、一流、です」

玄那「二流も三流も存在しないんじゃないか?」

ポルトナ「一流ですよ、クロちゃんは」

玄那「あのなぁ……」

ちる「クロちゃんも、本屋に、行きません…か?」

玄那「お断りします」

ちる「あぅ」


227-1

務「倉津務、ただいま参りました」

ゆい「つかさん、お久しぶりです」

務「正直な話、忘れておられたでしょう?」

ゆい「そ、そんなことないですよ。困った時に呼ぶのがつかさんだと認識していますから」

務「では、なんなりと」」

ゆい「もーいーくつねーるーとー」

務「お正月でございますか」

ゆい「はい、その平行線上にあるのが、初詣です。人の数が並じゃありません。そこで是非力を貸してほしいのです」

務「はっ、ょぅι"ょ隊総力挙げて協力しましょう」

ゆい「それは心強いです。ありがとうございます。しかしつかさん、冬は行事がありませんね」

務「神事があるのでは?」

ゆい「あるにはあるんですが、集まりは悪いですね。一人でやってるようなものです。もっと大々的に広報活動を行わなければなりません」

務「ゆい殿、宣伝部は既に動いております」

ゆい「でかした、褒めて遣わしましょう、つかさん。例年の数倍に膨れ上がるに違いありません」

務「ははっ、有り難き幸せっ!!来年は酉でありますね」

ゆい「ええ、チキンですね。クリスマスは七面鳥ですね」

務「豪勢な食卓ですなぁ」

ゆい「定義は絶対ではないのです。どこかの偉い人が決めただけです。七面鳥ではない他の肉ですね」

務「代表的なものはフライドチキンでありましょう。骨付き肉でございます」

ゆい「骨付き肉ですか。考えにくいですね。それはともかく、その代用は一般的家庭には適当な選択でしょう」

務「どこの貴族でありましょう」

ゆい「一攫千金、夢じゃありません。つかさん、何口か買いませんか。今年は当たる気がします」

務「ははぁ、破産しかねない程度に参加しましょう」

ゆい「一等と二等を狙いますよ。どっちが勝っても恨みっこ無しです」

高砂「しゃちょーはインチキしゅるからな」

ゆい「見えてしまうものは仕方ないのですよ、高砂さん」

高砂「そーゆーのは変人だ」

ゆい「見えてしまうのは仕方ないのですよ」

高砂「繰り返しゃなくていー」

務「高砂殿でありますか」

高砂「たかしゃごはたかしゃごだ。しゃちょーの知り合いか」

務「はっ、わたくしめは羽衣神社直属親衛隊でありますょぅι"ょ隊長の倉津務にございます。今後お見知りおきを」

高砂「しゃちょーも偉くなったものだ」

ゆい「ただのお手伝いさんですよ。今までと変わりません」

高砂「ああ、あれか。はつもーでか」

ゆい「高砂さんもうちに来てくださいね。御神籤持って待っていますから」

高砂「気が変わらない限りは行かん。たかしゃごは地元愛が強いからな」

ゆい「つかさん、あれは絶対に来ますよ」

務「素直でないのですか」

ゆい「ええ、わたしに対しては決まってそうです」

高砂「しゃちょー、たかしゃごは焼き芋を食べたい」

ゆい「芋ぐらい錬金してほしいですね」

高砂「あー、その手があった。ちょっと待っとけ」


227-2

ゆい「どう見ても芋じゃないのです」

高砂「しっぱいしゃくを集めてきたものからな。でも味は芋だ」

務「然り。味はまともです」

ゆい「こんな無駄な所に注ぐ技術があったら外見を整えてほしいです」

高砂「外見を気にしちゃ何も食えないぞ。んーと、たいちょー」

務「わたくしの事でありましょうか」

高砂「たいちょー以外のたいちょーは知らん」

ゆい「では、わたし以外のしゃちょーも知らないと?」

高砂「うん、しゃちょーはしゃちょーだ」

ゆい「あはは、それは誇らしいことです」

務「ところでしゃちょーとは何でありましょう?」

ゆい「ちょっとした商売をしているのです。高砂さんは社員じゃありませんが、当社を知る友人です」

高砂「会社の事は知らん。しゃちょーがしゃちょーな事位しか知らん」

ゆい「高砂さんには難しかったようです」

高砂「しぇぞく的なことには頭を使わない」

ゆい「社員にまともな者など居ないのです」

高砂「しゃちょーより頭おかしーのは居ない」

ゆい「お互い様ですよねぇ」

務「芋が欲しいそうです」

ゆい「高砂さん」

高砂「芋じゃないと思うな」

兎「ブブ…」

ゆい「これはもしや、宇宙からの交信ではないでしょうか」

高砂「しょれっぽくはある」

兎「ブブ」

務「この兎飼ってよろしいでしょうか」

ゆい「自然に還るなら共生すればいいです」

務「それは無理であります。わたくしには帰る場所がありますから」

高砂「うちに来るか?やしぇーどーぶつと触れ合える森の中だ」

ゆい「そして鍋に入れられるのです」

高砂「今なら悪魔にてんしぇーできる」