2017-12-07 21:07:46 更新

概要

浮かない顔をしながら空港へと向かう凛と花陽。それは、凛の別れでもあった。しかし、ある日、凛から花陽に手紙が届いた。それは花陽を愕然とさせるものだった…。


前書き

一応凛推しの方はご注意ください。
自作の過去作品の転載です。ご了承ください。


小泉花陽は、星空凛とリムジンの後ろに乗っていた。薄く暗いブラインドが掛かっている窓からは、紫外線カットされた日光が眩しくなくもなく照らされている。こんなに晴れていたのはかなり久しぶりだった。ここ五日間雨が降り続けていて、人々の気持ちを暗澹たるものに変えていた。その反動からか、彼女たちは互いに何も喋らず、ただリムジンの中の「二つの点」に慣性の法則が働いているに過ぎなかった。…いや、その反動ではなかろう。

何故なら、凛はとても暗い顔をしている。何故なのかは後々分かる事なのだが、花陽は凄く心配になった。


「…お腹すいた?」と、花陽が沈黙を破ろうと試みる。しかし、


「いや、別に…」と、凛はバッサリと切った。


花陽はそれっきり、また口を噤んで窓の方を向いてしまった。時々凛の方をチラ見しては様子を窺っていた。凛は静寂の眼差しを下に向けているに過ぎず、折角久しぶりに晴れているというのに花陽の目からはまだ雨が降り続けているように見える程に彼女は暗くなっていた。



目的地に着いた。

空港だ。

凛はバッグを持ち、外に出た。

花陽も手ぶらで後に続く。

リムジンにはまだまだ荷物が多かった。それらは全て荷物を持つ人に持たせた。凛が荷物を持つ人と荷物のやり取りをしている間、花陽はリムジンの窓を見た。

自分が映っている。それは確かに自分が自分であるという自己確立の確認だった。さっき乗っていた時、凛から見たら、一体私はどういう顔をしていたのだろうか。悲しい顔だったのか、アホヅラこいた顔だったのかは分からない。少なくとも、凛はとても暗かった顔であることは分かるのだが。

それに、花陽はいつも自分がどういう姿になっているのかと、とても心配する。それは花陽自身のナルシシズムでもあった。

もし私が死んだ時、「これが、貴女の行為です」と、天国の使者に見せられたらどうなるのだろうか。

私は死んでもまた死ぬのではないか。花陽はそんな事を思いながらリムジンの窓の自分を見ていると、後ろから軽く叩かれ、振り向く。

凛が財布の中身が無い事を見せながら、「くれ」という素振りを見せた。

花陽はポケットから1万円札の札束を出し、そこから20枚位引っ張って渡した。

凛は何も言わず、荷物を持つ人の方へ向かって行った。

そして、その20枚位のを、そのまま荷物を持つ人に渡した。

花陽はまたリムジンの窓を見た。


…いいんだ。こんな金くらい。私は凛に渡して、それで喜んでくれるならそれで良いんだ。何せ、凛は私の全てなのだから…。

すると、リムジンの窓に凛が映ってきて、花陽の頬にキスをした。

花陽は照れ臭くなって、リムジンの窓の自分がにやける。よって、自分は今にやけているという事が分かる。


「来て!来て!」

と、凛が空港の入り口に向かいながら言う。凛は乱らに走っていた。

でも、その姿を追いかける花陽は凛を女神のように感じていた。


ロビーに立った。

凛がパスポートや航空券を渡す。

すると、係員は一度壁にかかっている時計を見た。

そして、パスポートと航空券を凛に返し、時計を指差しながら、時間が迫っているから急げと言った。

「急いで!」

と、凛が足早に駆ける。花陽は腕時計を見た。確かに少し急がないと間に合わない。

その時だった。

子供がこっちにぶつかってきて、挙句の果てには子供が手に持っていたマヨネーズらしきものが服に思い切りついてしまった。

後から来た親はすぐに謝る。どうやら中国人のようだ。花陽は初めて、中国という国に恨みを覚えた。

仕方がないので、トイレに行って軽く服を洗った。でも、案の定落ちるような気配は無かった。

花陽は顔を上げる。トイレの洗面所の鏡に花陽が映った。

少しぼやけて見えた。目をこするとピントがあって、服が汚れた自分が確かに立っていた。

何故こんなにも私は心配性なのだろう。服が汚れているだけで、自分がとても惨めな存在である事を誤解してしまう。顔は全く問題無い。むしろ可愛い。可愛過ぎて、自分の顔で自慰をした事がある。なのに、心配性という訳の分からない自分がそこに立っている。映されている。そこまで顔に自信があるのに何故なのだろう。もう嫌だ。こんな下らない事考えたくない。花陽は自分を守るように蛇口から出ている水を顔にかけた。


「遅いよ!」と、待っていた凛がまた走り始める。

凛と交差した人が振り向き、呆然と立ち尽くす。

凛と交差した人が振り向き、凛に向かって指を差す。

ああ、君は何処まで誰もが見惚れるような要素がある、美しい人なんだと、花陽は改めて思った。


荷物検査。金属探知機に凛は難なく通った。

しかし、花陽は引っかかった。警備員が通るのを止める。それを見た凛が心配そうに止まった。

ポケットからペンダントを取り出す。

また引っかかった。警備員が再度止める。

ポケットから鉄製のZIPPOを取り出す。

また引っかかった。警備員が再度止める。

しかし、もう物は無い。1人の警備員が驚愕の顔を見せる。

「仕方ない、お前ベルトコンベアに入れ」と、警備員は言った。

そして、花陽はベルトコンベアに横たわった。


スキャンの時は花陽の骨が見えた。

花陽がスキャナーの中で頭をかくと、映っている骨組みも頭をかく。

骨格を見られるという事は彼女にとってかなり恥ずかしいことであった。

しかし、彼女の体には、金属らしきものは一つも無かった。

スキャナーから出ると、警備員は笑っていて、すまんすまんとでも言うように手を合わせていた。

花陽はつい中指を立てそうになったが、呪ってやる、あのポンコツ金属探知機、と心からそう思うだけに留めた。


ベルトコンベアを抜けると、もうそこは目的地だった。サングラスをかけた凛がこちらに振り向き、近づいてきた。そして抱きつき、回った。

凛の顔はサングラスで表情が分からないので花陽は思わずサングラスをどけた。

凛は泣いていた。その表情を花陽に見られたくなかったのだろうか、彼女はすぐにサングラスをかける。

そして、花陽のそばから静かに離れた。

凛が向かう目的地へ行くための航空タクシーに乗る入り口に行った。彼女は航空券を係員に渡し、搭乗の許可が降りたのだろうか、係員は航空券を返した。彼女は搭乗する寸前、立ち尽くす花陽の方を振り向き、手を振った。そして、中に入って消えていってしまった。

それを花陽は思わず追いかけた。しかし、忌まわしい係員が通せんぼをする。

「凛…」

花陽は静かに呟いて、諦めてリムジンへと帰った。

リムジンのドアを開け、どっかりと座った。花陽は上を向いた。虚ろな目をして、口をぽかんと開けていた。


「…どこに行けばよろしいでしょうか、ミス小泉」白人のドライバーは花陽の方を向いてそう言った。


「どこでもいいよ、ずっと走ってなよ。お願いだから今は私に構わないで」と、花陽は本音を吐いた。


「…畏まりました」冷静に状況分析したドライバーは、少し微笑んでから、前を向いてアクセルを踏んだ。



上の窓を見ると、凛が搭乗している航空機が丁度、大空に飛び立っていた。


花陽は何かがこみ上げてくるのを感じ、目を瞑ってしまった。・・・














4年後、凛から手紙が届いていた。花陽は執事から手紙を受け取り、デンマーク経由の印が押されている封筒をじっと眺めた。


「…ごめん。暫く一人にさせて」と言うと、執事は黙って部屋を出た。


その後も暫くの間、彼女は封筒を開けることはなく、そのまま見つめているだけだった。

花陽のそばにライターがある。いっその事、燃やしてしまおうかとも思った。しかし、今の彼女にそんなことが出来る筈もなく、結局腹を割って開けることにしたのだった。


封筒を開くと、一通の折り畳まれた手紙と、一葉の写真が入っていた。写真には、凛がヨーロッパのどこかの有名なところらしい所で、弾けるような笑顔で一人の男と写っているのが分かった。

幸せそうな凛を見ると、花陽はとても安らかな気持ちになった反面、どこかもやもやとした、まるで喉につっかえる魚の骨のようなしぶとい、苛立たしい心持ちがした。

写真を見るのはやめて、手紙を開いた。すると、柔らかい書体の文面は花陽にこう語り掛けた。


『お元気ですか?あれからもう何か月も経ってしまっていたのですね。早いものです。私はあの後デンマークに移住して、一人で暮らしています。でも写真を見ればお判りの通り、早速一人の男性と交際を始めました。彼はね、優しいし朗らかで、頭脳明晰なんですよ!日本語も喋れるんです!知り合ったのはやっぱり仕事関係の中でただ一人日本語が話せる方が彼だけだったので、それで会話が盛り上がっていく内に…という感じです。多分この先も結婚を見据えてはいると思います。まだ気配はありませんけど(笑)。

そういえば、花陽の方も、仕事はうまくいっていますか?前向きに生きていますか?また、高校の時みたいにみんなで集まりたいですね!もし何かあればご返信をお待ちしています。…というか返信して!手紙ででもいいし、Eメールでも何でもいいよ!私は手紙の方が味気があっていいなと思ったから手紙にしたけどね(笑)。じゃあ、また。     凛よりp.s.写真をもっとよく見て!』


しばらく花陽は何度も読み返した。一字一句漏れがないように何度も確認した。

すると、花陽は何を思ったのか、机に突っ伏してそのまま嗚咽を出して泣いた。それから部屋のドアから、夕方まで花陽の嗚咽が聞こえてくるのだった。

「どうしていつもの語尾じゃないの…」




花陽が顔を上げたのは、午後7時を過ぎたあたりだった。そして、花陽は机のライトをつけ、すぐに写真を注意深く眺めた。

場所はおそらく、コペンハーゲン。しかし、周りには住宅街しか写ってなく、言語も書いてなかったので確証は持てなかった。ただ、二人が肩を組んで、笑顔で写っているだけだ。花陽は、どうしても凛の手紙の最後の文の意味が分からなかった。


その時だった。花陽はまた、あのもやもやとした気持ちになった。あの時はそれを感じてすぐ見るのを止めたが、次は、それでもなお見てみようと、彼女は考えた。

気持ちをぐっとこらえ、凜を見つめる。と、その時、花陽はある事に気付き、愕然としたのだ!


凛の首の所をよく見ると、なんだか朱色のように一部が赤く染まっていた。一を見れば十分かるように、そのような朱色が腕、脚の所に点在していた。

そして、凛と男の顔を見ると、少し、凛は男を遠ざけているように見えた。きっと、或る懸隔からくるものだとはすぐに分かった。


決定的だったのは、この写真を撮られたのが今から2年前の秋だった、ということである。


花陽は執事を呼び、封筒と手紙と写真を倉庫に入れるよう命じた。執事が部屋を出るのを確認すると、花陽は席を立ち、星空に輝く星々と、研磨された勾玉の如く綺麗に光る月を窓から静かに、一粒の涙の滴りと共に眺めているのだった。


それから二度と、凛から手紙が来ることはなかった。


FIN


後書き

お読み下さりありがとうございました。


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