2018-05-25 23:42:59 更新

概要

8編は戦後日常編はなしでメモリーの4までに。2018 1月6日次回のサブタイ追加。以降の更新は誤字脱字修正のみ。


前書き

※8編に戦後日常編はなし。
予定してた初霜さんのほうは次の9編に変更。


※キャラ崩壊&にわか注意です。


・ぷらずまさん
被験者No.3、深海棲艦の壊-ギミックを強引にねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた電ちゃん。なお、この物語ではほとんどぷらずまさんと電ちゃんを足して割った電さん。

・わるさめちゃん
被験者No.2、深海棲艦の壊-ギミックを強引にねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた春雨ちゃん。

・瑞穂ちゃん
被験者No.1、深海棲艦の壊-ギミックをねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた瑞穂さん。

・神風さん
提督が約束をすっぽかしたために剣鬼と化した神風ちゃん。今はなんやかんやで和解して丸くなってる。やってるソシャゲはFGO。

・悪い島風ちゃん
島風ちゃんの姿をした戦後復興の役割を持った妖精さん。

・明石君
明石さんのお弟子。

・陽炎ちゃん
今の陽炎の前に陽炎やっていたお人。前世代の陽炎さん。

・元ヴェールヌイさん(北方提督)
今の響の前々世代に響やっていたお人。
北国の鎮守府の提督さん。

・海の傷痕
本編のほうで艦隊これくしょんの運営管理をしていた戦争妖精此方&当局の仮称。



※やりたい放題なので海のような心をお持ちの方のみお進みくださいまし。


【1ワ●:E-2-輸送ゲージ】



甲大将「……」イラ



北方提督「いやー、なるほどね。基地航空隊はそういう仕組みか。そして陽炎ちゃんが割れなかったボスマスの情報は」



乙中将「意地悪いなー。航戦2以上はダメ、空母を編成するとマスから逸れるのに、相手に空母ばっか出てくる。航巡がいなかったら詰んでたかもしれないね……特に日向さんと扶桑さんと利根筑さんは……お疲れ様」チラ



筑摩「も、もう勘弁してください。一体何回出撃したのかすら記憶がなくて……」ゲッソリ



扶桑「撤退数は56回です……友軍がいるとしても輸送ゲージ2000は不幸だわ……戦力との兼ね合いでドラム缶を駆逐と軽巡の方にガン積みでも1回で80が限度でしたし……」ゲッソリ



利根「吾輩、1日で26回も大破したのは初めてなのじゃー……」ゲッソリ



日向「あっはっは! 私はこういう戦いをやってみたかったんだよ! 空母がいない状態、航戦で制空権を狙っていく戦いが!」キラキラ



北方提督「瑞雲はやっぱり尊い、よね」



陽炎ちゃん「それならこの人らに全て任せればよかったのでは……」



日向「馬鹿をいえ。疲れた状態では存分に楽しめないだろう?」



陽炎「日向さんも割と自由ですよね。北方さんと相性いいなおい」



北方提督「ま、問題点はやっぱり装備回りかな。開発はあらかたしまくったし、任務も平行して装備ももらったけど……」チラ



丙少将「分かる。ああ、分かるよ。まったりの俺のところに飛龍蒼龍はやっちまったってな! 江ノ草隊と友永隊めちゃくちゃ強い設定だもんな……! 秋月の防空値イカれてるし、開発不可の駆逐最強装備の10cm高角砲+高射装置を持ってないもんな……!」



秋月「私、駆逐の中でもかなりの便利屋でしたね……高連装砲ちゃんがここまで強い装備に設定してあったなんて」



秋津洲「……」ズーン



北方提督「落ち込まないで。二式大挺の行動半径大きいし、他の航空機の行動半径が2マス増える。秋津洲さん、尊いよ」



秋津洲「……かも? あたし、使える?」キラキラ



北方提督「……今回は二式大挺ちゃんだけ貸してね」



秋津洲「▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわあああああああ!!」



瑞穂「つっても水上機母艦必要なんだから性能に不満あっても秋津洲しかいないでしょうよ。私は絶っっっ対に出ないから」


バサバサ


瑞穂「提督一同が土下座するなら出撃してあげてもいいけど、瑞穂ちゃんは味方の背中を撃つことしかしないからね」


バサバサ


瑞穂「さっきから私の頭に降りてこようとしているこのフクロウなによ!? 機銃で蜂の巣にすっぞゴルア!」



響「スヴァボーダさんが瑞穂ちゃんのことをお気に召したようだ。思えば電とわるさめさんもお気に入りだから、違法建造者に興味を持っているのかな」



瑞穂「変なやつね……」



明石君「速吸さん、記録のほうはどうです?」



速吸「ええ、准将を除く各艦隊50回の出撃により、ルート固定艦は大分絞れましたね。ボスマスルート前までの編成は軽巡×1と駆逐×2です。そしてボスマスへは索的値は300、そして秋津洲さんを加えたところ、到達しました。水上機母艦×1です。戦艦×1以上の編成で砲撃戦が2巡しますね。それと他海域からのデータの計算上、彩雲装備でT字不利を回避できる説が濃厚……」



甲大将「全員にキラ付けて、航空基地隊出して急に夜戦になるマス乗り越えてボスまで行くぞって意気込んで」



甲大将「初手に羅針盤でお仕置きマスに逸れて、またキラ付けからやり直すんだろ? おまけに資源もその度飛ぶし。それでようやく今から輸送ボス撃破しに行ける」



甲大将「ただのデータならともかくこっちはみんな人間がやってるんだぞ。お前らよくこんなゲームやってられんな」



甲大将「クソゲじゃねえか」



乙中将「」



甲大将「秋津洲、おら、旗艦で出てくれ。木曾と江風……は北方のところだから使えねえし、今日は出かけてっか」



甲大将「友軍艦隊にいるやつで、とりあえず北上と大井」



北上「私と大井っちはやる気ないけど大丈夫?」



大井「気乗りはしませんね……」



甲大将「大丈夫。お前らいつもやる気ないだろ。残り3人はルート固定用の軽巡は由良で、駆逐×2は山風と秋雲かな。頼めるか?」



由良「あ、今はお暇ですから由良で良ければお力になります」



山風「まあ、メンバー的に私が出るしか、なさそうだし……」



秋雲「陽炎不知火は……」チラ



陽炎「大本営の仕事で疲れてるから今回はパス」



不知火「同じく」



黒潮「見ての通り出撃って感じじゃないんや。秋雲、よろしゅーなー。たまには上のお願いも聞いてーな」



秋雲「あいよ……そいえば秋雲は陽炎型だったっけか。姉妹艦効果薄くて忘れてたや」



響「秋津洲さん、甲の旗艦だなんてすごい」



秋津洲「人生、本当になにが起きるか分からないかも……」






甲大将「ん、ちょっと待て」



甲大将「雷巡の先制雷撃めちゃくちゃ強くね?」



筑摩「ええ! タ級を砲撃戦前に撃沈させるのは大きいです!」



弥生「ドラム缶を外せるとこんなにも変わる、んですね……」



利根「確か吾輩らの大破の半分近くタ級じゃったな……」



甲大将「秋津洲と山風に対空装備ガン積みさせといてよかったわ。由良にも甲標的積んでおいたし、なるほどな。大体分かってきた。あ、これ、秋津洲はダメでも瑞穂にも甲標的積めるんじゃねえの!」←ちょっと楽しくなってきてる。



日向「秋雲が大破したぞ。避けきれなかったか」



甲大将「んー……構わん。夜戦ゴー」ポチ



秋雲《嘘だといってよバーニィ! 大破状態で探照灯強制発動の捨て身献身とか秋雲の柄じゃないってえ! これだから甲はさあ!》



丙少将「ちょ、甲さん!? 俺らロスト心配して大破撤退が主ですよ!?」



甲大将「陽炎ちゃんでも割り切れてねーとかだっけか。悪い島風のことだから、死にはしねーだろ。ほら、なんか秋雲に攻撃いっても耐久1でずっと耐えてる。これ、大破→夜戦じゃ撃沈しない仕様なんじゃねえの?」



丙少将「……そういえば昼戦でもそうだったな。利根と筑摩と駆逐が大破しまくてったけど、ロストはしなかった」



乙中将「でもロストシステムあるらしいから……となると、これ、大破した戦闘の中では沈まないんじゃないかな。なら、そうだな。大破進軍がアウト、なのかなー……」



乙中将「皆さん、ながらクルージングは絶対にアウトね。特に北方さん」



北方提督「分かってるさ。後、今は改修作業で忙しい」



明石さん《この装備でいいんですね?》



北方提督《ああ、ネジが5つも飛ぶけどマックスになるはず》


カーンカーン


明石さん《あ、すみません。失敗してしまいました》



北方提督「ま、仕方ないさ。面倒だから成功するまでやってしまおう。まだネジはあるしね」



明石さん《うーん、私がミスするような難易度ではないはず。これ多分、確率的な操作されてますね。偶然力なのかなあ?》



明石さん《ああ、また失敗してしまいました。負担が大きくなりますけど、確実化したほうが……》



明石君《姉さんだっせえな。俺ならその改修失敗する気しねえけど》



明石さん《やかましい! 私の実力以外の運要素が邪魔してるんですってば! 中型砲の改修ミスるなんて10年ぶりですよ!》



北方提督「ちょっと待ってて。そう高い値段でもないし」



明石さん《ネジですよね! お値段これで割引できません!》



北方提督「資本主義の犬め!」



明石さん《役割には逆らえないんですよ!》



明石君「コントかよ……」



甲大将「北上! 大井が戦艦棲姫潰したから残りは旗艦の重巡棲姫だけだ! でももうお前しか攻撃出来ねえ! また行くのめんどいから決めてくれ!」



速吸「こちらからの声は出撃中の皆さんには聞こえないですよっ……って、ええ!?」



丙少将・乙中将「!?」



北方提督「夜戦とはいえ姫にcritical500ダメ越えだって……!? こんなのただの雷巡ゲーじゃないか!」



北上《あーよかった……活躍できて……》



日向・筑摩・利根・響「北上様大先生――――!」



丙少将「んー、雷巡の木曾に魚雷積んでも先制雷撃発動してねえから……甲標的載せたやつが先制雷撃できるんじゃないかこれ」



北方提督「陽炎ちゃん! 甲標的を積める兵士は!?」



陽炎ちゃん「んーと、少し待っててー……あ、黒潮、そっちから海外サバ通してアクセスして」



黒潮「はいな」



陽炎ちゃん「あー、雷巡は全員にちとちよさん……いない人はまあ、いいか。後は瑞穂さんと由良さんの改二に」



甲大将「あ、由良はこのまま私がもらってっていい? 友軍枠から選べっていわれてるしさ」



由良「え、ええ? 甲って柄じゃありませんよ。利根さん筑摩さんみたいにたくさん出撃させられないのなら構いませんが」



甲大将「大丈夫だろ。次のラスダンだけだし」



由良「んー、それならまあ」



甲大将「さんきゅ。よろしくな」



陽炎ちゃん「あ、後は阿武隈さんの改二も」



響「ちょうど阿武隈さんが来たよ」



阿武隈「すみませーん、由良さんいますかあ?」



丙乙甲北方「……」



丙乙甲北方「友軍枠の阿武隈ゲットオ――――!」


ガシガシガシガシ


阿武隈「急に提督勢に抱き付かれた阿武隈なんですけど!?」



丙少将「甲さん、あなたのところは雷巡が2名もいるんですよ」



北方提督「そうだそうだ」



乙中将「大きい響ちゃんのところには雷巡最強の木曾さんいるじゃん!」



甲大将「というか北方のやつはいいとしても、いやダメか。私と阿武隈から離れろよ。セクハラだぞ」



丙少将・乙中将・北方提督「産まれてこの方そんなの気にしたことないくせに!」



甲大将「女を辞めた記憶はねーよ……私をなんだと思ってんだお前ら……」



阿武隈「ゆ、由良さん、なんなんですかこれぇ……」



由良「今は甲標的を積める人が人気あるんだよ……」



阿武隈「は、はあ……確かに積めてましたけども」



瑞穂「……クリア画面見なさいよ」



甲大将「新しいボスマス出たな。クリアじゃねーのかよ……」



陽炎ちゃん「あ、クリアしたら解析が取れた。ボスマスは1回撃破でゲージは割れるって。あっ……」



陽炎ちゃん「進路の縛りは同じくだけど、戦闘はターン制じゃなくなってリアルみたいに戦えるって」



丙少将「やっとかよ……」



陽炎ちゃん「でも固定のほうが……」



陽炎ちゃん「海外艦、ドイツ艦が2隻以上とフランス艦1隻の連合の空母機動じゃないと逸れる。ボスマス編成は割れないー」



丙少将「友軍枠にリシュリューはいたっけか。でもドイツ艦のほうが無理だな……」



乙中将「青ちゃんのところしか条件満たせないじゃん」



丙少将(鹿島んとこにいったっけか……っと連絡来た。あいつが休暇中に俺に連絡とかプライベートの話とは思えねえな……)



丙少将「……、……」



丙少将(メインサーバー? あの野郎、内陸で休暇取らせても海のトラブルと関わる羽目になってんのかよ……)



【2ワ●:メインサーバー 考察】



悪い島風【逃がしちまいましたよー】



丙少将「准将から報告は聞いている。今から確認を取るぞ。此方ちゃんも」

 

 

此方「うん」

 


丙少将「追尾してるか?」


 

悪い島風【ええ。位置もサーチしてるので、あなたのゴーサインで】



悪い島風【30分もあれば捕獲できる状況です。下手に刺激してもあれだし、今は泳がせてあるけどね】



悪い島風【ま、どうするかの話を聞きに戻りました】



丙少将「そっか。メインサーバのやつだが、悪い島風を現海界させた張本人と推定。そのままこちらの世界をさ迷っていて、悪い島風が疑似ロスト空間を形成してそれを察知していた。悪い島風と電が当局から情報を抜いていたところで侵入された。疑似ロスト空間を利用されて、妖精ver深海棲艦を建造して准将と鹿島のところに放った」

 

 

丙少将「俺らの情報を整理するとこの流れだが、色々と見えて来る」

 

 

丙少将「まず疑似ロスト空間に侵入したタイミングだ。悪い島風の意識が当局に割けられているところに侵入したのは、思考機能付与能力がある時点で偶然じゃねえ。機を見計らっていたと俺は見るが」

 

 

丙少将「どうやって、その状況を知ったのか」

 

 

此方「メインサーバは私が行っていた仕官妖精の管理と、当局が行っていた戦後復興妖精の管理も補助していたんだよね。だから二人の役割は把握しているはず。そのデータが残っていたから、戦後復興妖精の目的を演算していくつか予想出来てたんだと思う。だから……」

 

 

此方「断定は出来ませんが」

 

 

此方「もともとメインサーバが当局の想を持っていて、バレないようにここの近くに撒き餌したのかと。戦後復興妖精が当局にご執心になることを見抜いていたと思われます。まあ、それも恐らく手段の1つでしかなかったと思うのですが、実行したのはこれが当たったからでしょう」

 

 

此方「そもそも相手が相手。当局の想がここの近くにあった偶然を疑うべきですから。神と人間の中間管理職ともいう海の傷痕を神の社と賽銭箱の間に設置しといたってところに芽生えた個性、スパイスなユーモアを感じます……」

 

 

悪い島風【あ、マーマのそれかも。妖精工作施設のデータもあったし、私も解体可能、まあ、私の目的はほぼ達成されましたが、艦これ的にいえば勝利A判定ですかね。足りなかったのは私に関する当局の記憶。それだけがピンポイントでなかったってところ】

 

 

悪い島風【これはあり得ないことです。想ってのはそれだけで瑞穂ちゃんみたいにまんま人間の基盤になるので。壊れていたとしてもそれは個人の塊のはずですから、存在すればそこに断片はあるはずなんですよ。あの『私に必要な情報の中で、とある特定の想だけがなかった』のは状況的に不自然と見るべきなので『当局の想を持っていた線でいうなら、当局の一部の想を消したまたは持ち逃げしていた』が自然】

 

 

悪い島風【……つまーり、なるほど】

 

 

悪い島風【私にケンカ売ってんのか】

 

 

此方「恐らく今まで見つからなかったのは『運』だと思う」

 

 

丙少将「世界規模で演算していたやつが運に頼るのか?」

 

 

此方「製作秘話になりますけど、丙少将は雪風の運の良さを知っていますよね。あれって史実効果でして『機能』なんですよ。戦後復興妖精の『ご都合主義☆偶然力』はそれを装備にした幸運の力です。ここまで行けばもはや運ではなく運命に近くなるんです」

 

 

丙少将「……」

 

 

此方「最も何でもできる訳じゃないです。例えば宝クジ1等のクジがどこにあるかくらいなら予想をつけます。これが今も人間が解明出来ていないけど、確かに存在している超能力の1つに該当します」

 

 

此方「私達が知る廃課金は何らかの要素でこの域に達していることが多かったです。准将でいうなら見当がそれに近いですが、あの人は思考の組み立ての力……考える力も大きい。限定的な範囲ではありますが、少なくともあの海の戦いにおいてその二つの要素が常軌を逸してました」

 

 

此方「あの人の深海妖精論を読みましたよ。レール自体は正しい。核心には迫っていますが、細かいところでけっこう外れています。だから電ちゃんに留まらず、暁の水平線に行くまでにバグや中枢棲姫勢力、フレデリカさんの出会いを必要とした」

 

 

此方「謎の全てに通じる電ちゃんのいるこの鎮守府に准将が着任した時、すでにゴールまでのレールは敷かれていたというわけです。お二人が幼馴染みで互いを好きあっている、だなんて奇跡的とさえ」

 

 

此方「准将が例え途中で殉職していても、そのバトンを引き継ぐ誰かがまた私達に近づく。それが繰り返されて、ほぼ確実に世界は私と当局にたどり着いた。もう『艦隊これくしょん』はクリアされる運命でした」

 

 

悪い島風【鎮守府(闇)は本来クリアまでにかかるであろう残りの350年を短縮したっつーことでっす。本官のやつマジで当たり引いたわ】



悪い島風【乙中将だけど、この鎮守府(闇)と誰よりも早く仲良くしたり貸したりしていましたよね。あれが嗅覚、こっちは直感力といってもいいです。ちなみに方向性が違いますが、神風もコレのジャンルです】

 

 

悪い島風【准将は『少しの情報があれば真実に辿り着く』で、乙中将は『なにもないところから情報源に当てをつける』んです】

 

 

悪い島風【今は乙ですが、こいつ本来は甲の器ですよ。未来的には甲将席がベスト。まだガキ臭いところがありますから、乙に留まってるけどね】

 

 

悪い島風【今の元帥なんか引退させてやりゃ良かったんだよ。あのジジイを老害にしたのは下のテメーらが上に行きたがらねえからでーす】

 

 

悪い島風【お前は丙将席がベストかな。甲大将は史元帥。丁将席が青山君、そして乙将席は元ヴェル。提督の最終世代はこの布陣が最高だったと思うよ。あ、フレデリカさんは性格さえあれじゃなけりゃ元帥と丁将席のどちらも行けそう。私が元帥なら艦隊も闇以外は大異動させてたなー】

 

 

丙少将「そういうのは酒の席で語れよ。話が逸れてんだろ」

 

 

悪い島風・此方【「すみません……」】

 

 

悪い島風【あー……丙少将のことだから被害を恐れているんだけど、少なくとも無関係の一般人には危害は及ばせませんよ】



丙少将「それで悪い島風、もう化かし合いは止めにしよう。装備の全性能を教えてくれ。どう考えてもその力が必要なんだが、お前の言葉が信用出来ねえのはさすがに分かるだろ。そこの不確定要素から固めねえと策を組み立てられねえんだよ」


 

悪い島風【よろしい。ならば契約だ】

 


悪い島風【それとこれだけいわせてー。丙少将のことだから被害を恐れているんでしょうけど、もう全ての準備はわるさめちゃんプレゼンツの間にこさえてあるので大丈夫でっす】


 

此方「……どゆこと?」



悪い島風【想力工作補助施設で各装備の性能は極限までパワーアップしてます。ただいまサーバのやつのために悪い連装砲君をほとんど擬似ロスト空間の制御に回しております。その意味ですが、サーバのやつを好き勝手させないためでっす。マイホームの力は榛名の誘拐騒ぎの時に見せましたが、実演してみましょうかね】



悪い島風【マーマ、ちょっとごめんねー】



悪い島風【ゆるゆるゆる。1秒……5秒……10秒っと】


パシッ


此方「急に平手……」



悪い島風【痛くもない力でしょうよ。それで丙少将】



悪い島風【何秒に見えました】



丙少将「あ、一瞬だが……?」



此方「……」



悪い島風【10秒です。時間が速く感じましたよね】



悪い島風【これがロスト空間の時間の速さ。装備のマイホームは擬似ロスト空間の性質をある程度は操作可です。もちろん純粋なロスト空間とは違って人がいても快適な仕様です。想力工作補助施設で手を加えたものとご認識していただければ】



丙少将「そういえば青葉から誘拐騒ぎの話は聞いたな。もしかして榛名達がいたのは擬似ロスト空間だったのか? だから戻った時、まだ強盗の現場だったってことか?」



悪い島風【ま、大体合ってる。私がつくことで実験も兼ねてました。天気なり時間のズレなり繊細に調整して擬似ロスト空間であることを気付かせないようにね。ちなみにあそこには長月と准将と電も少し引きずり込んだけど、気付けていなかった風なので大成功かな。ロスト空間の管理権限を所有している以上、リアルなんてやりたい放題ですよ】



悪い島風【それプラス、偶然力もあるのでサーバのやつがなにをしようが無駄ですし、すぐにでもこっちから発見できます。ま、あなたが危惧するような被害は出しませんのでご安心を】



丙少将「それも確証がいる」



丙少将「此方ちゃん、つーわけで契約するが、念には念を入れてその情報の裏付け頼めるか?」

 

 

此方「了解」

 

 

此方「それで疑似ロスト空間の管理権限の問題、そして戦後復興妖精の装備はどうするんです? 想力工作施設は疑似ロスト空間の生成と保持が可能なので、これを破棄したら怒られるどころでは済まないと思いますし、軍にいる以上は私を鹵獲した意味を考えると入手の必要があると思いますが」

 

 

丙少将「そうなんだよなあ。最後に悪い島風との戦い前に吹っ掛けようと思っていたところだが……」

 

 

悪い島風【あ、そうだ。私を倒した艦の兵士の提督にあげようと思っていたんですよ。ギミックがそれに関連したものです。准将、そして北方提督は確定的に狙っている。他はまあ、我欲がないんですよね】



丙少将「当たり前だろ。俺らの手に余る宝箱だわ」

 


悪い島風【そこをギミックに応用して】

 

 

悪い島風【もともとメンバー全員出撃可でしたが、相手するのだるいので想力でボスマスくる前に仲間割れさせようとしていたんですよね。仲間同士で戦う。殺し合うレベル。つまり戦争させて、私はそれを遠くから酒の肴に笑い転げる予定だったんですよ】

 

 

此方「低俗な……」

 

 

悪い島風【もちろんセーフティはかかるので、本当に死ぬ訳じゃないです】

 

 

悪い島風【そして再出撃は不可】

 


悪い島風【疑似ロスト空間の管理権限は渡してもいいよ。中立になれるマーマが所持できるようにするのでそれが無難かな、と進言しておきましょう!】

 

 

悪い島風【丙少将としても想力工作施設は北方提督にだけは渡したくないと見ました!】

 

 

悪い島風【そして私は准将と神風から首を斬ると】

 

 

悪い島風【いわれてしまいましたので】

 

 

悪い島風【気が変わった。故の提案】

 

 

悪い島風【私が出る前に神風倒されるのは萎えるので】

 

 

悪い島風【初めから紅白戦にしよ?】

 

 

悪い島風【丙乙甲&戦後復興妖精チームvs准将北方提督チーム】

 

 

悪い島風【ただこれ、准将北方が『丙乙甲に加えて私が敵に回る時点でかなり不利』なので少しテコ入れしますけどね】

 

 

悪い島風【もちろん、提督さん達が納得すればでいいですよ?】

 

 

丙少将「お前と組めと? あくまで敵はお前だぞ。沈める相手と組んで戦うのかよ?」



悪い島風【勝てばその後で私を倒せばいいじゃん。そこまでは共闘って話だよ。なぜこの形式を提案したのかといえばー】



悪い島風【丙乙甲は准将に負けたことを悔しがってるからさ】



丙少将「……」



悪い島風【それと手っ取り早い方法を選択しただけ。ま、准将に勝ちたいなら演習でもすればって話だけど分かってるだろ?】



悪い島風【あいつは意味のない演習で本気を出さない、いや、出せないに近いかな。全て決着したんだ。あの時と違ってどうしても勝たなければならない理由がもうないからね】



悪い島風【でも、少なくとも神風に関しては例外っぽいね。なので、喧嘩を売った相手の私が混ざることで話は別になる】



悪い島風【ラストチャンスですよー】



丙少将「その前にサーバの策が先な」

 

 

悪い島風【……ま、そーですね】

 

 

【3ワ●:仲良くなる訓練 3】


 

武蔵「おお、想像以上だな。偵察機の映像が間に合ってない」

 

 

北方提督「神風はやっぱり対艦兵士だと強いね」


 

隼鷹「無理なんだって。こっちもきっちり作戦立てないと勝てるものも勝てないってば。夜の神風とか戦いたくねーよー……」

 

 

リシュリュー「そうね。隼鷹は夜だと動けないしね。私も相手するのは嫌だからお酒飲みながら見ているわ」


 

リシュリュー「それにしても闇討ち仕様とは考えたわねー……訓練の成果も出てきてる」

 

 

隼鷹「私達がああいう動き方をしてやれば神風を活かせたのかなー……」



若葉「自由過ぎてこういった協調性とは皆無だったな」

 

 

………………

 

………………


 

神風「………」



長門「まだまだ!」

 

 

神風「……!」

 

 

…………………

 

…………………



 

若葉「おお、長門が間合いに入った刀神モードの神風の初撃を艤装を割り込ませて防いだ……戦艦はさすがだな」

 

 

隼鷹「うちではガングートしか出来なかったよな……抜刀からのあれは、来ると思ったらもう斬られてるレベルで速いからなあ……」

 


リシュリュー「さすがに元帥艦隊は私達とは違うわよ」



リシュリュー「長門は胆力があるわ……懐に入られた神風にちっとも怖がらない。被弾には慣れていても、斬られるあの痛みはまた別で慣れていないでしょうに」



ポーラ「んー……切り抜ける性質上1回仕留め損ねるとどうしたも距離が空いて不利になるんですよねえ……あの戦闘スタイルだと攻撃に手一杯で航行に錨を駆使して色出すのも難しいですし」


 

陽炎ちゃん「……」


 

武蔵「なんだ、久し振りに間近で見て熱が出てきたか?」



陽炎ちゃん「いやー……頑張ってるなって」



陽炎ちゃん「私は適性なくなって泣く泣く海から去ったから分かるわ。あの子はその状態で長門さんとやりあえるまでになるって信じられないわねえ。しかも神風艤装で」



陽炎ちゃん「多分、素質の廃要素の源は執念じゃないかな……なんか選んだ道で逃げるってことをしないというか、生きることに命を投げ捨てるという矛盾になってるほど意味不明に特化してるというか……」



陽炎ちゃん「……ま、兵士になる前の事情も関係してそうだから深くは探らないけど」



武蔵「ああいう根性値高いやつは私も長門も好きだぜ」



陽炎ちゃん「あー、確かにあの手の武人タイプは好きそう」



リシュリュー「初撃で仕留められないとダメね。長門さん、もう気付いて事前に副砲の砲撃準備を始めてるし……」

 

 

北方提督「……というか他の連係レベルが凄いね。寄せ集めとはいえ、さすが将席の人達だった。そこに練巡の指導も混ざるとここまで短期間で形になるものなのか……」



北方提督「夜になる前に君達を半分も掃除して夜になれば長門さん以外を仕留めたし。相討ちだけど、一騎討ちそこまで持っていけたら神風に任せられるからね」

 

 

北方提督「長月&菊月の素質が素晴らしい。電はトランスだけが能だと思っていたけど、近距離はほぼ当ててたし判断も悪くない。ま、15年も海の真ん中にいれば嫌でも強くなるか。鹿島さんから指導受けてたみたいだしね」

 

 

武蔵「電はデータの性格よりもずっと度胸あるぞ」

 

 

武蔵「サラトガの夜戦艦載機と駆逐が半端ねえよな。グラーフはサラトガと長く組んでただけはあって上手……いや、龍驤と似て小賢しいだな。あいつは妖精可視才もねえのによくやるよ」

 

 

リシュリュー「ここまで持っていけたのは旗艦指示の賜物ね。天津風ちゃん頑張ったわね。偉い偉い」

 

 

天津風「こちとら必死よ。連携訓練しないと出撃どころじゃなかったわ……」

 

 

北方提督「ふむ、天津風にもっと旗艦やらせれば良かったかな」

 

 

天津風「嫌よ……北方勢なんか私にはまとめられないわよ……」

 

 

若葉「……ん? 神風のやつ新技を覚えたのか」

 


北方提督「へえ……あの海を踏む技術を両足で使えるようになったのか。もうあの艤装の航行術もマスターに近いね」

 

 

北方提督「遅くなることでもっと速くなる」

 

 

陽炎ちゃん「スローボールの後のストレートみたいな」

 

 

隼鷹「3人くらいに見える」

 

 

ポーラ「2人です。酔いすぎですよう」

 

 

リシュリュー「あなたもね。ちゃんと1人だから。残像は見えないから」

 

 

北方提督「両足で海を踏めたら旋回よりも速く振り向くことも出来る。さっきいったポーラの弱点もなくなるね。航行術も器用になるし」

 


北方提督「で、体術で一番強い艦の兵士は誰だっけ?」

 

 

武蔵「金剛。神風は陸で金剛をあしらったらしいが、海となるとまた話は別だろ。長門であれなら金剛はちと難しいな」

 

 

北方提督「金剛さんはそこまで強いのか」

 

 

武蔵「次点で大和と私、長門、木曾、神通が並ぶんだが、金剛との間には壁がある。体術なんて砲雷撃と航行性能の効率化が主だろ。至近距離の殴り合いなんか鍛えねえよ。金剛だけがその分野をガチで修めてる。つうか本格的なのは金剛が開祖じゃねえかな……」

 

 

武蔵「興味あるなら丙甲元と闇の演習の映像を見てみるといい」

 

 

北方提督「そうしようかな。ちなみに体術なら私も自信はあるよ。陸になるけど戻ったら金剛さんと手合わせしてみよう。面白そうだ」

 

 

武蔵「ただの人間がよくいうよ。自由ってのは勇敢か腑抜けじゃねえとぼさけねえよな」



若葉「建造状態の私達よりも強いぞ?」



武蔵「マジかよ。じゃあ、手加減はしてやるから私とやるか?」

 

 

北方提督「構わないよ。手加減はしてくれないと困るけども」

 

 

2

 

 

神風「ぜえぜえ……勝った、わ……紙一重、運みたいなものだけど……」


 

神風「どうでしたか、鹿島さん……」

 

 

鹿島「もっと精進です。神風さんが相手と一騎討ちの状態になったのなら圧倒するまでにならないと。互角ではダメです。それでは神風さんを外して他の方を入れたほうがいいので」

 

 

鹿島「がんばってください♪」

 

 

長門「手厳しいな。だが、その通りではあるか」

 


鹿島「長門さん、運、でした?」

 

 

長門「違う。あそこまで拮抗したから勝負を決めたのは運のように見えるかもしれんが、実際に神風と戦ってみないと分からない」

 

 

長門「ガングートのやつが神風とやりたくないってのがよく分かったよ。神風が近付いて来ると、どうしとも神風のみに意識を割いてしまう。秒単位の神経削り合いの攻防戦だ。刀一本の超速度、慣れないのもあってすぐに赤疲労になるんだよ……」

 


神風「……逆にいえば慣れられたら私は負ける訳ですか」



長門「そうなるな。初見の相手くらい仕留めてみせろ」



鹿島「んー、神風さん、これは私の個人的な考えですが、その刀を振るう理由、たくさんあると思いますが、なるべく切り捨てて1つの理由にしてください。これ、きっと疑似ロスト空間で生きてくると思うんです」



神風「これまた難しい……」


 

天城「それで私はなぜ演習場に呼び出されたのでしょう……」

 

 

鹿島「申し訳ないですね。天城さんに攻撃はしないのでサラトガさんとともに神風さんを沈める気で艦載機を発艦させてもらえますか?」

 

 

鹿島「妖精可視才持ちの空母との経験を積ませてあげたいので」

 

 

天城「斬りかかってこないということでしたら構いませんよ。ですが夕食の支度もあるので2時間でお願いしてもよろしいですか?」

 

 

鹿島「了解です。さあ神風さん、2時間しかありませんよっ」

 

 

神風「了解……!」

 

 

3

 

 

提督「ふむふむ、お見事。良い成長グラフです。実践に投入出来るレベルにはなりましたね」

 

 

グラーフ「准将が休暇中に色々あったんだ。あまりの失敗続きでビスマルクや電がキレたり、天津風が半泣きになったり、神風の代役になってもらった島風の体が飛んだりな」

 

 

ビスマルク「イライラして砲塔の角度間違えて、グラーフに当ててしまったわ。主にあなたがそんなところにいたから悪いのだけど」

 

 

グラーフ「ビスマルクさん、任務の間は別だが同郷だからといって気安く喋りかけないでもらえないだろうか」

 

 

ビスマルク「ほらこの調子よ。すねちゃったのよね。すぐに建て直すと思うけど」

 

 

グラーフ「難しいな。私と貴様の心の間にはベルリンの壁が3枚ほどある」


 

ビスマルク「そんなに壁が出来ちゃったの……」

 


プリンツ「准将! そんなのすぐに私が壊して差し上げますよ!」

 

 

ろー「私もー」

 

 

提督「お願いします。そして島風さん」

 

 

島風「なんですかー?」

 

 

提督「遅いです」

 

 

島風「Σ(´□`;)」

 

 

提督「なにが本来の性能を邪魔しているかはお分かりですか?」

 

 

島風「素体性能、ですかね?」

 

 

提督「ええ。メモリーの最初期の島風さんは速度50ノットまで出せていたみたいです。これは適性率によって艤装の航行性能をフルに引き出せていたからです。あなたはそういうタイプではありません」

 

 

提督「鹿島さん教えてあげてください」

 

 

鹿島「了解」

 

 

鹿島「過去にケースはありますから。島風さんって主に二つのタイプに偏るんですよ。両方、の人もいますけど稀です。1つは航行面で速い人。島風さんのイメージはこちらが主ですが、もう1つ」

 

 

鹿島「自律式の連装砲ちゃんの扱いが上手い人です。あなたはこちらですね。このタイプは戦術面に寄りがありますから、島風艤装の魚雷の扱いに長けます。通常性能と比較すると回避が低めで雷撃が高めですので短期間で成果をあげるには酸素魚雷の扱いの上達、です。速度も意識して損はありませんが、速くなること事態が目的ではないですね」


 

鹿島「戦果を伸ばすなら神風さんとは違って、速さは第1に置くのは止めましょう。でも、疑似ロスト空間の性質がどういう風に作用するか分かりません。提督さん、そこらはどうしましょう?」

 

 

提督「想力は無限ではありませんので神風さんと速度の要素を取り合いする必要もないですし、そもそも呼応するのはあなたではなく、神風さんの方だと思いますね。ま、今を生きる以上、変化があるので断定は出来ませんが……」

 

 

提督「魚雷の命中率をあげましょう。そのために連装砲ちゃんも囮に使うくらいの。ここらは訓練でしたことありますよね。それです。あなた射撃性能も平均より高めですので対空も上がり幅は期待できます」

 

 

島風「あ、砲撃とか機銃も好きです! 弾も速いよね!」

 

 

提督「速ければなんでもいいんですね……」

 

ガチャ


北方提督「失礼する」



提督「どうかしました?」



北方提督「神風と准将に話がある。出来れば3人で」

 


提督・神風「構いませんが」



【4ワ●:もっと捨てるべきなのでは?】



北方提督「口を出すべきではないのかもしれないけど」

 

 

北方提督「神風、上手くなったね。強くなった」

 

 

神風「努力が形になるのは嬉しいですが、慢心はしません。精進あるのみです」

 


北方提督「だけど、ここらで頭打ちだと思う」

 


北方提督「あの頃の北国の寒さのような冷えた空気と刀のような殺気が薄くなってる。神風の必死さが消えてるからだと思う」

 

 

北方提督「前に私が准将のことを聞いたね。ハッキリさせておいたほうがいいといったやつだ。君は司令官として、といったね。それは本当かい?」



神風「いきなりなにを。そこは間違いありません。いくつかの感情を経由しますが、それが形成する矢印の先には司令官としての信頼です」

 

 

北方提督「満足してるように見えるんだよね。君は北方にいた頃よりも元気で明るいから。ここに来てからだから原因は察することは出来る。准将、貪欲さに飢えていないのは不安要素ではないのかい?」

 


提督「……、……」

 

 

提督「出来ることはしているつもりです。神風さん次第ですね」



提督「あ、すみません。少し席を外します。丙少将から呼び出しかかったので……」

 


………………


………………



北方提督「神風にモチベーションの維持のために悪い島風ちゃんの首を切れ、と約束させたみたいだし、そこらに気付いて懸念していたんだと」



神風「?」



北方提督「捨てただけ。自分のことを捨てることで強くなった人間だと思っているんだろうね。あの人は合同演習からもう人間止めかけていたし……必要があれば合同演習でも仲間の死より勝利や検証を優先してたよ」



神風「それは確かに……」



北方提督「今は違うね。捨てさせているのは取るに足らないものだよ。強くなるために神風にとって本当に大事なモノを捨てさせたくないんだと思う」



神風「意外と優しい……」



神風「とはいいません。あの人と電さんが凡人なら私なんか劣等ですよ。なにかを捨てるために強くなれるなら一切合財持っていってもらっても構いません」



北方提督「ほう。春風や旗風を殺せるのかい?」



神風「それは……」



北方提督「それでいい。捨てたら苦労するよ。それを強さと錯覚するだけの冷酷に過ぎない。もっといえばただの状況判断だ」



北方提督「そこらを把握して神風次第といったのかもね。神風は『自分や電さんのように捨てなくても強くなれる』という意味じゃないかな。要は神風に期待しているってこと」



神風「ハア? あんまり適当なこといってると斬るぞ?」



北方提督「こわ……」



神風「捨てなくても強くなれるだなんて話があるか。捨てていたからこそあの人は戦争終結まで辿り着けたし、私だって色々な犠牲を払って今の強さを手に入れているの」



神風「代価がなしとか詐欺を疑うわ。無料だなんてものには裏があるのが相場よ。そもそも私は至近距離戦しか出来ないんです。色濃い死をベッドしてようやく敵を倒すチャンスを得る」



神風「捨てなきゃ戦えない。それが私です。今も割りとそうではあるのですが、そのうち電やわるさめと同じように神風の形をしたナニカになるでしょう」



北方提督「そういえば」



北方提督「現実の世界に理想を見るか、理想の世界に現実を見るか。男女で傾向があるらしいね。前者が男、後者が女だとさ」



北方提督「さて神風に質問だ。旗艦を担っているけども」



北方提督「どういう旗艦を目指すんだい? そこまでいっておいてまさか理想を語らないよね?」



神風「最も欲しいのは常に的確な判断を下せる能力です。艦隊をS勝利に導くことに貢献する」



北方提督「丁に影響されてるねえ……」



北方提督「S勝利の意味はたくさんあるけど、最初期からのあしき風習だと思うんだよね。殉職者を出しても『S勝利判定』になるのはさ」



神風「でなければ死んだ仲間が報われません」



北方提督「ではその仲間を死なせてまでも手にする勝利と、死なせずに撤退するのとどっちがいい?」



神風「状況によりますが、選べるのならば後者でしょう」



北方提督「だよね。神風はそっちだと思った」



北方提督「……鹿島さんと准将も話を気づいてなさそうだからいうけどさ」



北方提督「今の神風はもうその艤装を実戦レベルで扱えるから」



北方提督「敵を倒すことに集中するのではなく」



北方提督「仲間を守るために刀を振るったほうがいい」



北方提督「その答えなら神風はそっちのほうが全体に意識が行く。そして神風は一体に集中しなきゃだ。だからその一体は姫とか鬼ではなくて『最も仲間の被害に繋がる敵』を『感覚』で選ぶといい」



神風「……、……」



北方提督「この路線はオススメだ。過去の電を考えたら分かるけど、最強には理解されない孤独がついてくるものだ。でもね」



北方提督「最高の兵士ならば周りに敬愛される孤高に変わる」



北方提督「最後の海では電が正にそれだった。試してみる価値はあると思うよ」



北方提督「それが出来たらさ、たくさんの人を」



北方提督「喜ばせてあげられるんじゃないのかな」



神風「……」



北方提督「神風の不運はね」



北方提督「香取さんも鹿島さんもそれぞれで教えてなお足りない。君がこの時代の練巡に恵まれていなかったことだ」



北方提督「ぶっちゃけ私が一番向いてそう」



神風「そんなことはありません。二人の教えは確かに私を導いてくれていますから。私の精進が足らないだけです」



北方提督(鹿島さんは艦兵士の教科書の延長線の上、香取さんは艦兵士の専門書の延長線上。この子にはもっとアウトローな教えが要るとは思っていたんだよねえ……)



北方提督(私に練巡の適性あれば良かったんだけどね……まあ、無い物ねだりしても仕方ない)



北方提督「もう時間はあまりない。がんばれ」



【5ワ●:メインサーバー 鹵獲準備編】



丙少将「つーことだ。メインサーバのほうは乙さんと甲さんと悪い島風に任せるから、准将は海域を突破しといてくれ」



提督「了解。それで悪い島風さん、そろそろ自分と想力を繋げるの辞めてもらえませんかね……紅白戦になる以上、策が筒抜けになるのは痛すぎるので」



悪い島風【……、……】



悪い島風【いーですよ。スマホは繋げたままだからな。それとわるさめちゃんと電はトランスタイプにしておくよ。もちろん一体化じゃないからね。それで勝負にはなりますかねー】



提督「お二人次第ですね。それで自分が勝った場合ですが、元ヴェールヌイさんはどうするんですか。建国しちゃいますよ……」



悪い島風【擬似ロスト空間に建国させればいいじゃん。問題はあるけど、違反ではないからね。人間は宇宙は人類のものだって宇宙人対策にいっちゃってるけど、擬似ロスト空間はなにも明言されていないよー。どうせ作っても国は潰される。受け入れ規模はほぼ無限だし、今の世界に不満全て解決しちゃえるからね。でも勝てた場合の話ですし、思うとこあるならそっちで話をつけておけば?】



提督「……そうですね」



提督「では自分は海域に出撃してきますね」



悪い島風【さてと、私は乙丙の兵隊借りて大規模かくれんぼの鬼役やってきまーす。メインサーバのやつを見つけるぞー】



【6ワ●:とあるランチでのこと】



島風「ごちそうさまでしたー!」



天津風「あなたもう少しゆっくり食べなさいよ……消化に悪いわよ」



島風「らーめんとか具材食べたらすするだけじゃん。あ、でも間宮さんのお料理美味しいから速く食べると損した気分にはなりますね!」



間宮「あはは……ありがとうございます」



神風「……、……」



神風「仕込みから味付け、どれを見ても手間の愛情が感じ取れます。私も炊事を年単位で修行しましたが、届きませんね」



電「……、……」ズズズ



島風「電ちゃん、難しい顔してどうしたの?」



間宮「なにか嫌いなモノでも入ってましたか?」



神風「残すのなら私に寄越しなさい」



電「いえ、嫌いなモノなどありませんし、残しません。しかし、やはり……」



間宮「そういえば最近、いや、丙甲の演習の後の辺りから中華系のお料理をお出しするとそんな感じになりますよね」



電「中華において私はマーミヤンを越える味と出会ってしまったのですよ……」



間宮・神風・島風・天津風「!?」



間宮「……!」



間宮「少しお時間を頂けますか」



電「ほう、その秘蔵の高級食材を取り出すとは」



電「素材からこだわった本気料理を食べて比較しろ、と……」



電「よろしいのです。受けて立ちましょう」



島風「私達も食べていい!?」



間宮「もちろん。少しお待ちください」



………………


………………


………………



神風「餃子に天津飯、チャーシューメン、回鍋肉、えびのチリソースに、フカヒレスープまで……」



天津風「すごく美味しい。グルメみたいな感想すらいわせてくれない。語彙が貧弱になる美味しさよ」



島風「うま――――!」パクパク



神風「この味に勝てる店があるの? というか評価基準は」



電「……」パクパク



間宮「どうでしょう」



電「質問なのです。このチャーシューメンなのですが、お店で出すとしたらいくらになりますか? もちろん0円とかはなしで黒字の値段価格」



間宮「素材、仕込先、下味、色々と工夫を施しても……お店で出すとなると」



間宮「600円、ですかね」



電「……間宮さんの完敗、ですね」



間宮「そんな……! 長年研究してきた電ちゃんの好みにも合うように味つけしてなお負けるだなんて……!」



電「加えてあのお店のチャーシューメンは……」



電「500円だったのです」



間宮「ワンコイン!?」


バァン!


間宮「あり得ません……!」



電「……このお店なのです」



神風「……かんこちょう、鳴いてません?」



天津風「そもそもこの味を越えるのなら有名店になってると思うけど?」



島風「間宮さんを越えるとかぜひとも食べに行きたいねー」



電「確かに有名店ではないのがおかしいのです。詳しくは知らないのですが、私はこんなことで嘘をつきません」



電「ちなみに司令官さんと私とわるさめさんの地元です」



間宮「……、……」



提督《えー、皆さん、闇所属艦隊、それとリシュリューさんは1時間後にプレイルームに集合してください。E-2のボスマスゲージを吹き飛ばしに出撃します》



島風「お? 通常海域じゃなくてエクストラステージ?」



天津風「とうとう来たわね」



神風「私達の訓練の成果を見せる時が来ましたか」



電「さて皆さん、出撃なのです」



【7ワ●:E-2】



提督「フランス艦が必要なのでリシュリューさんをお借りすることになりましたが、彼女はどうです?」



ビスマルク「それで私も外してリシュリューか。彼女、戦艦の仕事をそつなくこなすから大丈夫でしょう」



神通「モニターで観戦できるのはいいですねー」



山城「神通は北方艦隊で明石君のところと演習しに行かなくていいの?」



神通「もう10連戦させられましたからね。区切りがいいので今日はあがらせてもらいました」



山城「ガングートや長門とかの戦闘民族と10連戦とかよくやるわ」



神通「それより准将、この艦隊の夜戦仕様は面白いのですが、対潜装備がありませんよね。潜水艦はどうするのですか?」



提督「対空に寄らせてあるので、潜水艦相手は皆を信じてお祈りするのみです。凌げば次に進めますので。潜水艦はマーク出ますし、警戒陣で突破です」



山城「神風が隊列から出ないけど、温存してるの?」



提督「いいえ、旗艦大破で強制帰投になりますので突っ込ませるのはボスマスのみです。公式記録には残りませんが、上手く行けば神さんは深海棲艦撃沈の戦果です」



神通「神風さんは真っ直ぐな子ですし、応援したいですね……」



ビスマルク「1度神通に聞いてみたかったんだけど、適性率10%でどうやったらそんなに戦えるわけ?」



神通「根性と執念?」



ビスマルク「あなたのは参考にならないようね……その2つは神風も相当だし」



提督「神通さんは特殊なケースですので……」



山城「あ、すごいじゃない。大破どころか中破なしでボスマス直行してるわよ。輸送の時は全員合わせて116回も大破したのに……」



提督「あれは聞いた限りギミックと配置が嫌がらせとしか」






天津風「来たわね。電探確認、敵も連合かー」



天津風「ホ級エリート×3とPT小鬼軍×3と、本丸は浮砲台が×2とヲ級改×2……え」



天津風「旗艦がロ級後期型flagshipの5隻編成……?」



電「……」



島風「私の偽物の嫌がらせじゃん……神風ちゃんが倒せない深海棲艦だ……」



リシュリュー「どうするの? 私が狙ってあげましょうか?」



天津風「お願いします。それで神風さんは……」



神風「長月ちゃん&菊月ちゃんは貸してください。この3名は遊撃枠でお願いしたい」



長月「分かった。旗艦指示には従おう」



菊月「ま、護衛は私と長月に任せておけ」



長月「ところで今更だが、望月はやる気のほうは大丈夫なのか?」



望月「もう眠りたくない……眠るくらいなら戦う」



長月「望月の欠陥が直っただと……」



天津風「置いといて。それでろーちゃんとサラトガさんグラーフさんは訓練した通りでお願いします。三日月と私は機銃も装備してるから基地航空隊が漏らした小鬼群片付けかしら」



天津風「全員、神風の動向にも意識を向けておくように」



天津風「以上ね! それじゃ戦闘海域に突入!」



一同「イエス、マム!」



3 



望月「護衛にあたしがつくとしても、ヲ級改2隻の攻撃はさすがに凌げないぞ」



プリンツ「うーん、私も敵空母を狙いますけど、あの砲台が邪魔です。でも必ず1体は序盤で大破にしてやります!」



グラーフ「よろしく頼む」



サラトガ「私はあまり制空権を意識した装備ではないです。夜戦仕様が祟って昼戦に移行するまでには空母を沈めておきたいのですが、グラーフさん大丈夫ですか?」



グラーフ「ああ、仕事はこなす。私の役割だからな」



グラーフ「……艦載機発艦」






三日月「甲大将の艦隊はさすがですね! 上手いです!」



島風「うんうん。でもこのパターン、神風ちゃんがヲ級に突撃しようとする流れじゃないかなー」



天津風「タイミングを伺ってるわね。私達は少し前に出ましょう。グラーフさんの初手が控え目なのは陽動でしょうから。ほら、バカみたいにヲ級が艦載機発艦し始めた」



グラーフ《聞こえるか。私の装備と練度は把握しているな。少し数を減らしてくれ。その後ならば確保が可能だ》



天津風「了解。それじゃ前に出ましょう」






神風「二人とも、私に気を回す必要はないので仕留められるなら仕留めてくださいね」



菊月「艦隊として出撃している以上そのつもりだ」



長月「しっかし昼になったり夜になったり、これが擬似ロスト空間の性質か。擬似ロスト空間ってのはゲームの世界みたいだな」



長月「4年も過ごしたけど、これとはまた違うよな」



菊月「そうだな。此方のやつが快適にしてくれていたんだろう。拉致られた身でしてくれていた、というのもあれだが」



神風(天津風ちゃん達が前に出て、ろーちゃんも魚雷を狙いに深く潜りましたか……)



神風「出陣します」



長月「厄介なヲ級だな?」



神風「浮砲台」






サラトガ「……What?」



プリンツ「狙いに行ったのは浮砲の小鬼……?」



グラーフ「まあ……神風のアレは考えても分からないな」



望月「その通り。神風は気にせず続行のほうがいいよ。天津風のほうもそうするつもりみたいだし」






神風「うーん、やっぱりね」スイイー



神風「こいつら全員でグラーフさんを狙ってたか」スイイー



神風「ここまで近寄れば深海棲艦特性で私達に気が向くでしょう。なのでお二人で適当に沈めてあげてください」スイイー


ガガガガガガガガガガ


長月「艦載機の嵐の中でよく悠長に喋っていられるな!」



菊月「こいつも闇の住人らしいな」



菊月「長月、照らしあげるから当ててくれ」


ドンドン


長月「まずは一体!」



長月「だが艦攻の礫が避けきれないぞ! 長くは持たん!」



神風「……」



神風「頑張ってください。次の仕事があるので」






提督「……、……」



神通「……素晴らしい動きです」



山城「砲台が攻撃準備に入る前に突撃したから事前に読めていたってことよね。謎の世界だわ。あんな無茶苦茶なやつの護衛やらされている長月と菊月がこの艦隊の不幸枠ね……」



ビスマルク「あの子達ってあのキスカで海の傷痕を撤退させただけあって素質高いし、肝も座ってるから大丈夫でしょ」



電「あの敵陣の真っ只中で探照灯とか端から見たら自殺行為なのですが……それは長月さんと菊月さんの役割なのでがんばれ、なのです」



電「ところで司令官さん、神風さんの動き方が変わりましたがなにかあったのです? まさか神風さんとも一緒にお風呂入ったとか?」



山城「不潔だわー……」



提督「入ってません。雷さんだけです」



提督「神さんのあの変化はよく分かりません。攻撃は最大の防御といわんばかりの攻め方でしたが、今は艦隊の皆の支援に徹する動きをしてますね。また変な進路を取りましたし」



提督「……、……」



提督「……不自然な五隻編成、空いた枠に、とか?」



提督「あー、ヤバいですね。提督としての能力不足で神風さんを制御出来なくなりかけています。あの子の感覚を読んで対応しなければならないとか……」



提督(あのタイプは乙中将と相性がいいんだけどな。けど……あの子の心的に自分が期待に応えてこそですね)



提督(腕をグイグイ引っ張られてるような感じだ。神風さんについていけてないのは自分のほうか……)



ビスマルク「あ、ろーとリシュリューがヲ級改を沈めたわね。うざったいPT小鬼群も天津風と三日月が処理してるし……」



神通「でも神風さんの動きがひっかかります。それで終わりではないと考えているような気がしないでもありません」



山城「……長月と菊月がもう大破寄り中破の装備損傷ね」



提督「……、……」



提督「…………、…………」



提督(今回は見守るのもありですが、この雰囲気のまま勝利させて帰還させれば明確な形になる。勝ちの意味が大き過ぎますね)



提督(様子を見て訓練した方式で指示を出してみますか……)






長月「はあはあ……後はリシュリューが仕留めてくれるだろ」



神風「っ!」



菊月「どうした……?」



神風「お気になさらず」



神風(……このパターンは)



神風《司令補佐から通達。即時、警戒陣を。艦載機弾薬温存です》



………………


………………


………………




リシュリュー「とりあえず」


ドンドン


神風「さすがです。ホの字を仕留めましたね」



天津風「でも空に勝利Sの文字が出ないわね……」



神風「……姫ね。それもかなり上位の」



グラーフ「その感覚電探は馬鹿げた性能をしているな。偵察機が反応をキャッチした。新たにホ級旗艦の水雷戦隊、それと」



グラーフ「当たっている。姫だな。この装備は深海15inch連装砲後期型×2と特殊潜航艇、鳥型艦攻か……」



「コンナトコマデキタノ? バカナノ…? オロカナノ……ッ?」



「アハハハハハッア!」



島風「……ええと確か!」



島風「チャーシュー棲姫!」

















欧州棲姫「フフ、オイシソウ……ッテ、チガウワ!」










長月&菊月「」



神風「ノリツッコミですって……!?」



島風「あー、お昼に食べたチャーシューを食べたい」



サラトガ「わるさめさんみたいで面白い方ですね!」



グラーフ「サラ、雰囲気に騙されるな。アレの台詞的にただの欧州棲姫ではない」



リシュリュー「思考機能付与されているわよね?」



グラーフ「ああ。つまり少なくとも」



グラーフ「中枢棲姫勢力の幹部クラスだ」



天津風「ど、どうしよう。分からない。そんなの私じゃ……」オロオロ



神風「天津風ちゃん、大丈夫だから落ち着いて。根拠は」



神風「周りにいるのは最後の海を乗り越えた最終世代の兵士だということ」



天津風「!」



天津風「……、……」



天津風「私とろーちゃん、そして三日月と長月&菊月で水雷戦隊の相手ね。制空権だけは渡さないでください。後はリシュリューさん、それと島風、神風が分からないからやり方は任せる……」



一同「了解」



リシュリュー「神風とろーちゃんは置いておいても島風は近距離まで詰めるの大変でしょ? あのレベルの相手なら策になるし、久しぶりにやる?」



島風「おう? あれというとあれですね! やりましょう!」



島風「それじゃ神風ちゃん、競争だね!」



神風「よーいドン」 スイイー



島風「あ、ずっる――――いっ! 待て――――!」






神風(ふう、サラトガさんとグラーフさんは頼もしいわね。あの後に欧州棲姫と制空権を拮抗させてる。うちの酔っ払い空母に二人の勇姿を見せてあげたいわ……)



欧州棲姫「……ココデ――――!」



島風「追いついた! 消臭力さんには悪いですがさくっと勝たせてもらいますよ!」



欧州棲姫「チガウ、ワタシ、ニオイケサナイ!」



欧州棲姫「コンナノ、ワタシ、ノゾンデナイ……! チャーシューデモ、ショーシューデモナクテ、ワタシハ……!」



神風「さあ、その首もらい受けるわ!」



神風「長州力!」









欧州棲姫「私ヲ切レサセタカラ大シタモンデスヨ――――!」



ドンドン!







神風「見てから回避余裕でした」



欧州棲姫「バケモノカヨッ!」



島風「あっぶな! 1発で大破しちゃうから手加減してくださいよ!」スイイー



リシュリュー《弾着観測連装砲ちゃん行ったわよー》



島風「お見事! 意思疎通可能範囲、了解ですっ! 指示を出しとくね!」



ヒュー、ストン



連装砲ちゃん「オイッス」



欧州棲姫「!?」



神風「センターリシュリューからのバックホーム! さすがの強肩ね! 敵の背中の艤装に着地したわ!」



リシュリュー《投げやすいのよね》



島風「連装砲ちゃん! 行っけ――――!」



島風「豚骨!!」



島風「ハリガネ!」



島風「おかわり」



島風「ダダダダダ――――!」



連装砲ちゃん「オウッ」チャキ



ドドドドドドドンドン!




欧州棲姫「ッ!」






欧州棲姫「……クッ、ウットオシイ!」ポイッ


ドンドン!


島風「あ! 連装砲ちゃんが大破しちゃった!」



島風「くっそー! 仇は取るから!」スイイー



島風「……」ジーッ



島風「ねーねー、姫さん」スイイー



島風「その両手で持って乗ってるやつ。それって速い?」スイイー



欧州棲姫「……」スイイー



島風「……あ、頭の冠で思い出しました。欧州棲姫さんだ。すっごく気品があってオシャレな深海棲艦だから覚えてました」



欧州棲姫「……」テレ



島風「後その乗り物はレッド◯ロンで見たことあります! なんで原付に乗ってるんです?」スイイー



欧州棲姫「ヤカマシイッ!」ドンドン!







プリンツ・望月・サラトガ「……」



サラトガ「少なくとも」



プリンツ「中枢棲姫勢力幹部クラスだ」



望月「キリッ」



グラーフ「合ってた! 間違いはない! あいつがただ水母棲姫や戦艦棲姫のようなお笑い枠だっただけだろう!」




10



提督「緊急速報」




















提督「島風さんアホの子だった」





電「わるさめさんが天然になればあんな煽り方しそうなのです……」



神通「こ、個性的なだけかと」



山城「あまりに残念だから鬼の神通ですらフォローに回ったわ……」



提督「後」



提督「北方勢なんなんです……戦い方が自由過ぎるよ……」



提督「弾着観測連装砲ちゃんってなに……」



山城「ちょっとビスマルク! あんたんところの所属でまともなの天津風と三日月と望月の3人だけじゃない! ろーちゃんなんか水雷戦隊相手なのに嬉々として突っ込んでいたわよ!?」



ビスマルク「ヤマシロ? 私も数に入れなさい?」



ビスマルク「……北方は自由過ぎたのよ。みんなアトミラールの気質がどこかに感染してしまっているわ。あ、私以外ね? 私は誇り高き栄光のドイツ戦艦だから」キリマルク



山城「あんたも怪しいわよ……」



電「あの欧州棲姫は完全にセンキさんタイプなのです……」



提督「救われましたね。チューキさんタイプだったらコントの始まりですでに島風さんは沈められていると思われます……」



11



天津風「もう嫌よ! 私、戦いたくない!」



欧州棲姫(壊)「……ク、ウ」←大破



三日月「分かります……神風さん島風さんが欧州棲姫を分離させて私達が水雷戦隊を片してからサラトガさんの艦載機が全て欧州棲姫へと」



三日月「大破してなお必死にダメ与えてくる相手を」



三日月「全員で囲み、四方八方からなぶって……」



望月「序盤で島風が精神を大破させてたのが大きいよな……」



天津風「これが人間のやることなの!? どちらが悪者か分からない! こんなのあんまりよ! 深海棲艦だって生きてるのに、せめてせめて……!」



ドンドン


天津風《総員なぶるのは止めて!》


ガガガガガ



サラトガ《了解です。サラは別になぶっているつもりでは》



天津風《皆さん!》



天津風《もう一撃で仕留めてあげてください!》


ドオオン!


天津風《命を!》


ドンドンドン!


天津風《命を尊んで!》










リシュリュー《嫌よ。あいつのエイみたいなダッサイ飛行機で服が汚されたもの。なるべく苦しんで死んで欲しいわ》


ドンドン


ろー《分かったー。ろーは楽しく辺りを泳いでますって!》


スイイー


島風《あ、ちょうどいい! そういえば准将から酸素魚雷の扱い上手くなれっていわれてたから練習しなきゃだ!》


ドオオオン


神風《アッハッハ! 姫姫姫の御首ィ――――!》


チャキ









三日月「准将、聞こえますか」



三日月「これが北方なんです(真顔」



望月「まー……なんつーか……准将ブーストかけても最弱のうちの戦いなんざこんなもんだ」



リシュリュー「あなたみたいなお笑い芸人が欧州感出してるってだけでリシュリューは気分が悪いのよ。でもなぶるのも飽きてきたし、そろそろ沈ませてあげるわ」



ドンドンドオオン



神風「ここ! もらっ――――!」


ドオン!


神風「……ぶっ!」パチャン



島風「神風ちゃん大破! 左腕が被弾してパージしちゃった!」



リシュリュー「タイミングが悪かったわね。あなたごとリシュリューが沈めちゃった♪」



【8ワ●:E-2突破報酬】



天津風「帰還、しました。目標撃破完了、です」ポロポロ



山城「よくがんばったわね……」ナデナデ



天津風「私、私っ、欧州棲姫さんが可哀想でっ……」



提督(途中まではとても素晴らしい連携でした。いい感じでしたよ。とはいえないこの空気……)



提督「皆さん本当にお疲れ様でした。戦争は悲しいですよね……あの欧州棲姫さんとは仲良くなれた気がしましたから……」



神風「……」



リシュリュー「ごめんってば……」



神風「いえ、謝ってもらうことではないです」



神風「ただ私と単艦演習してもらいたいなって……」



リシュリュー「あなたと決闘なんてイ・ヤ♪」



神通「でも神風さんの働きは素晴らしかったと思います」



神通(欧州棲姫が現れるまでは……)



神風「神通さん……」



提督「ええ、今までで一番いい働きでした。深海棲艦を倒さずとも大きな戦果は確かにあります。偉大な一歩です」



神風「納得は出来ません。すみません。少し疑似ロスト空間に赴いて今日の反省点を克服してきます」



三日月・望月(なぜ戦闘中にその真面目さが最後まで出せないのか……)



サラトガ「最後はともかく形にはなりましたね。あのレベルの艦隊に大破なしで勝利したのは運の要素を極力減らせたからです」



グラーフ「やはり戦艦の存在は大きいな。二人は艦隊に欲しいところだ」



提督「……とのことですがリシュリューさん」



リシュリュー「疲れるからイヤよ」



提督「それは残念……」



天津風「ねえ島風……」



島風「ん、天津風ちゃんおこ? どったの?」



天津風「あなたがあの空気を作り出した原因! あなたはいつもそう! そのマイペースで指揮を乱すのよ!」



島風「……」



提督「まあ、落ち着いてくださいよ。反省は次までに生かすよう指揮を執りますから」



天津風「いいえ、今日はいわせてもらうわ。恥ずかしいのは格好だけにしておきなさい……!」











天津風「この痴女風!」



提督「」



島風「天津風ちゃん、落ち着こう」



島風「どっちかといえばさ」



島風「天津風ちゃんの格好のほうがえっちじゃん」



天津風「あり得ないわ。ねえ准将?」



提督「いや、痴女度は島風さんですよ」



島風「可愛いと思うんだけどなあ。えっちな格好なのは?」



提督「天津風さんに軍配があがるかと」



島風「だよねー」



天津風「」



電「司令官さん、珍しく馬鹿いってないで報酬画面なのです。確認してください」



提督「あー、突破報酬ですか……」



提督「あ、装備の中に岩本隊ある。それと、これなんだ。衣装? よくわかりませんね」



島風「瑞穂ちゃんの時みたいにカードはあるんですかー?」



提督「ありますね。3枚もある」



神風「現海界させてあげてください」



提督「ですね。皆さんステージに注目です」



ワーワーパチパチ



照月「どうも! 秋月型防空駆逐艦二番艦、照月でーす!」



神風・プリンツ・ろー「長10cm砲ちゃんです!」


ダキッ


照月「う、うぅー……苦しい……!」



電「遠征のほうに回す駆逐も少ないのです。正直次がラスダンであることを考えると準備方面で捗る軽巡駆逐辺りが一番ありがたいですね。艦隊の幅も広がりますし」



グラーフ「総統のおっしゃる通りだ。防空駆逐は皆の助けにもなる。しかも欧州のほうからスカウトが来て支援に出向いた実力者だ」



提督「照月さん。悪い島風さん……島風さんに似た人に捕まりました?」



照月「そうなんですよ! 帰国した時、報酬にしとくから拉致りますね! って島風さんみたいな子がですね……!」



提督「なるほど、詳しい話を……」



サラトガ「あ、それならサラが照月ちゃんの案内をしながら」



提督「……サラさん、耳を貸してもらえますか」コソコソ



サラトガ(分かっております。この案内で照月ちゃん口説き落とします♪)



提督・サラトガ「( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ」



照月「?」 






提督「はい。では残り2名を現海界させてあげないとですね」



ワーワーパチパチ



春風「ごきげんよう。神風型駆逐艦の三番艦、春風と申します」



旗風「同じく神風型駆逐艦五番艦、旗風と申します。それにしても久しぶりだなあ。この格好を着付けたのも……」



神風「ウオオオオアアアア\( 'ω')/アアアアアッッッッ!!!!」


ダキッ


旗風「ふふ、神風姉が元気そうでなによりです」



春風「司令補佐もお久しぶりです。あなたの鎮守府のお噂はかねがね……」



提督「3年振りですか。お久しぶりです。いやー、お二人とも背も伸びて大人っぽくなりましたね。お綺麗になられた」



春風・旗風「……」ジーッ



提督「……うん?」



春風「申し訳ありません。司令補佐がそのようなことを色のある顔でいうとは思わず、少し動揺してしまいました……」



旗数「……お褒めいただき、ありがとう存じます」



旗風「って感じでしたよね、私。ふふっ」



リシュリュー「うーん、可愛らしい子達ねー」



ビスマルク「神風の妹とか嘘でしょ……似ているのは格好だけじゃない」



ろー「でも神風ちゃんの初めの頃の雰囲気と似てるよー?」



神風「というか二人からお手紙が返って来なかったのって捕まってからか……」



春風「ですわね……」



神風「あ、そうだ! お二人に聞きたいことがあるのよ!」



旗風「なんでしょう?」



神風「彼氏は出来た!?」



ビスマルク「いきなりなに聞いてるのよ。今はまだ他に聞くことあるでしょうに」



神風「今聞くことなんです! 二人が雌猫のごとく盛って動画で男との情事を保存しているのかなあって思うと気が気ではないわ! 恋人いたのなら私にも会わせて! どぐされなら伐採する!」



神風「お姉ちゃん、ヤキいれるのは得意だから!」



一同「」



提督「すみませんね。神さんちょっと過激な恋愛と直で関わってしまって。神さん、休憩どうぞ」



旗風「ええと、残念ながらお相手はおりません……」



春風「旗はアプローチする相手がいるので、いつ出来てもおかしくありませんね」



旗風「ちょ、ちょっと、春風姉、止めてください。あの人はそういうのじゃないよ」



神風「そういうんじゃないのね! 安心した!」



電「……大学生でしたよね? スケジュールは大丈夫なのです?」



春風「ええ、ご心配なく」



神風「司令補佐! 私が春と旗の案内をしますね! さ、行こう行こう! 大和さんと武蔵さんもいるから挨拶しに行こう!」






照月「あ、サラトガさん、あの人って」



明石君「……」コツコツ



照月「秋月姉の実のお兄さんだよね!」


タタタ、ダキッ


明石君「歩いているだけで見知らぬ美少女に抱きつかれるとかさすがは鎮守府だわ」



明石君「サラトガさん、この子は誰です……? 」



サラトガ「秋月さんの姉妹艦の照月ちゃんですー」



明石君「うん? あ、その鉢巻……」



照月「秋月型防空駆逐艦二番艦の照月! よろしくね!」



明石君「つうかアッキーの妹なら俺の義理の妹みたいなもんか。明石の男のほうだ。よろしくー。とりあえず暑苦しいので離れなさい」


グイッ


照月「あれ? なんか聞いていた感じと違います?」



明石君「あえて聞かない。それとアッキーならさっきまで北上大先生と……」


ダダダダ


サラトガ「あ、目を輝かせながら走ってきましたね」



秋月「あなたは――――!」キラキラ



照月「秋月姉だ! やっと会えた! 」



秋月「照月! 私がお姉さんになる日が来るなんて感動で胸が一杯です!」



北上「……サラの姉御、彼女が今回の囚われのお姫様、もとい突破報酬ですかい?」



サラトガ「イエス。春風さんと旗風さんもゲットです」



北上「おお、豪華じゃん」



照月「北上さん! よろしくお願いしますね!」



北上「よろー。明石君の妹でもあるの?」



明石君「ってことになるな。ま、アッキーが楽しそうでなによりだ」



照月「良いお兄さんだねえ」



秋月「ですけど、絶対あいつに近づいちゃダメですからね!」



北上「あらよっと!」



照月「ちょ、ちょっと!」



秋月「北上さん、いきなりスカートめくらないであげてください! 姉として怒りますよ!」キッ



北上「すまん」



北上「それで明石君、どうなのさ」



明石君「これがアッキーの妹だって……?」



明石君「戦闘力が違うぞ……? 海で大破したアッキー見たことあるけど確かスクリュー柄だったし……」



秋月「ね、照月、分かりましたよね! あの男は節操なしの馬鹿ですから近づいちゃダメですよ!」



照月「あ、はは、なるほどねー……」






大和「あ……! 神ちゃんと、あのお二人は!」キラキラ



武蔵「おー……春と旗か」



春風・旗風「武蔵さん、ご無沙汰しております」ペコリ



春風・旗風「……それと」



春風・旗風「大和さんよくぞご無事で――――!」


ダキッ


大和「心配かけてごめんなさいね。でもこの通り元気です!」



春風「すぐにでも会いに行きたかったのですが、お忙しそうなのでら落ち着くまでは、と連絡だけで我慢しておりました」



武蔵「別に構わなかったのに。お前らガッコはいいのか?」



旗風「あ、大丈夫です。私達は突破報酬? それで閉じ込められておりまして」



春風「艤装も渡されてお馴染みの格好に着せ替えられましたね」



武蔵「あいつほんと好き勝手やってんな……」



神風「那珂さんも来ないかなー……」



春風「さすがに難しいでしょう。那珂さんは毎日が過密スケジュールみたいですし」



神風「仕方ないかあ……」



神風「それで皆さん」



神風「また丁の艦隊に来ませんか?」



武蔵「断る」



大和「武蔵は会わないうちにツンデレになったみたいでして」



武蔵「違えよ!」



春風「司令補佐ともお会いしたのですが、ずいぶんと雰囲気がお変わりになられましたよね」



旗風「……本当に驚きました。人ってしばらく見ない内に変わるんだなあって」



武蔵「あいつはあの頃よか大分丸くなってはいるなー……」



大和「お二人も背が伸びましたね。すっかり垢抜けて綺麗な大人になりました。こういった月日の流れを容姿で感じられるって、良いものですね」



神風「それで続きですがお二人とも私のところを贔屓してくださいよ! ちょうど戦艦が欲しいって流れになりましたし!」



武蔵「北方のリシュリューとかガングート誘えば良いじゃねえか。連携的な意味合いでは神風もそっちのがいいんじゃないのか?」



神風「ガングートさんは甲大将のところに、リシュリューさんは疲れるから嫌だそうです!」



大和「せっかくですし、今晩辺りに皆でお話しますか!」



武蔵「まさか春や旗と酒が飲める日が来るとはなー」



春風「そうですねえ。私も旗もあまり強くないですが」



旗風「お酒は飲めますけど、まだ私には美味しいって感じがいまいちよくわからないのです。そういえば神風姉」



神風「うん?」



旗風「司令補佐との進展はどうです? 私と春風姉のお兄さんにはできそうですか?」



神風「そういうのではないわ! むしろ今はその手の思考は邪魔だとさえお姉ちゃんは思う!」クワッ



武蔵「神風はなかなか面倒くさくなったよな……」



神風「心外です! 私は司令補佐の指揮に応えることに全力であるだけです!」



春風(どうやらあの頃と変わらないモノもあるみたいですね)



春風「……ふふ」



【9ワ●:司令官さんが乙女心を分かってきたのです】



わるさめ「以上が最後の海での皆の頑張りだゾ☆」



春風・旗風「ちょっと言葉が出ません」



旗風「こういうのは躊躇いますが、素直な印象をいいますと、よく全員生還、できましたね……としか」



神風「あー……私も海の傷痕と戦いたかったなあ。木曾さんと江風さんのところが私だったらそこで奴の首を刎ねていたわ」



江風「抜かせ。お前じゃ絶対に海の傷痕を倒せねーよ。威勢がいいのは嫌いじゃねえけど、江風達全員でなんとか勝てた海なンだぞ。神風一人で倒せるなら苦労はしねーよ」



わるさめ「そもそも神風じゃ無理。あの本調子じゃないぷらずまに負けた時点で役不足っス。本丸行く前に深海棲艦の軍勢でアウトー」



望月「そだな。たまのビッグマウスだ。海の傷痕どころか姫一人に苦戦した挙げ句、倒せなかったし」



神風「」



木曾「終わった後で話を聞くのと実際に戦場にいて体験するのとでは天地の差だぜ。まー、でもあそこに神風がいたらと考えるとすげー頼もしいよ」



神風「き、木曾さん。私の中で木曾さんの評価が鰻登りです。ぶっちゃけ粋がった年寄りのチンピラだと思ってました」



木曾「粋ってんのはどっちだっての。表出やがれ」



春風「神風、どの程度戦えるようになりました?」



旗風「なったんですよね?」



神風「……(目そらし」



わるさめ「お春にお旗、艤装もあるんでしょ? 気になるのなら姉と戦ってみればー?」



江風「おいいい! この二人はエンジョイ勢なンだぞ! トラウマ植え付ける気かよ!」



春風「わたくしと旗も、それなりに強くはありましたよ?」



神風「……少なくとも戦果は長女の私が負けてたよね」



旗風「うーん、そんな気がするようなしないような」



わるさめ「峰打ちでいいじゃん。エンジョイ勢とかぷらずまが戦うとなれば絶対に5体満足じゃすまさねーけども」



旗風「あ、一応は閉じ込められている間に艤装もあったから馴染ませおいたよ。体は覚えておりまして、砲雷撃はこなせます」



春風「ですね」



神風「……言葉は安し。あの適性率から私がどのように這い上がってきたのか教えてあげましょう。手加減はするし、スイッチは入れないようにするから安心して」



春風「スイッチ?」



望月「入れば仲間の手足を削いででも戦闘不能にしてしまう。私も三日月も手足を削がれてダルマになりかけた」



春風・旗風「」



木曾「一応、やり過ぎねえように俺も側で待機してっからよ。それで終わったら俺とも演習しようぜ。江風もやるだろ? 一応、神風も駆逐艦だぜ?」



江風「うーん、そうだなー。戦ってみたくはあっかな」



わるさめ「それじゃ演習場に飛ばしてもらおー!」



2



提督「……」



北方提督「大和さん、准将が武蔵さん相手だと縮こまるのは何故だい?」



大和「ひびりさんだからです♪」



提督「手厳しい……」



武蔵「昔からは考えられない人間味だよなあ。びびるって感情も最後の戦いで手に入れたか?」



提督「……鎮守府で過ごす日々の中ですかね」



武蔵「聞きたいことあったんだ。最後に電を復活させた時、ロスト空間でなにやったんだ? 女神を作って電の想とチューキ達の想にそれぞれの死体に入れたと聞くが、よく1、2時間でやり遂げたよな。あれってどうやったんだ?」



提督「現在進行形で人は死して想になりますからね。自分と龍驤さん初霜さん本官さんの3人で女神の要素を探して引っ張り込みました。本官さんがそれで女神妖精の性能を使用できたので」



提督「電さんの想はお話した通り、呼んだら向こうから来てくれました。そして自分はチューキさんと仲良かったですからね。ここは最悪、わるさめさんを引っ張ってこようかな、と。チューキさんの想も呼び寄せることに成功」



提督「わるさめさんが電さんの死体を輸送してくれていたのと、本官さんがチューキさん達の艤装を深海妖精の性能でロスト空間に輸送してもらっていたので、器はそろえました」



提督「そしてまず中枢棲姫艤装をロスト空間にて修復、そこにチューキさんの想を仕込んで復活させます。その後チューキさんが家族の想を引っ張り寄せて、残りのメンバーも同じく復活させる。次に電さんの死体と想を使用して女神の力で復活させて」



提督「本官さんにより、中枢棲姫メンバーの艤装を使用して違法建造でぷらずまさんver海屑艦隊のトランスタイプ」



提督「最後に現海界って流れですね」



武蔵「電もチューキ達も死んだ場合に利用するって策を事前に用意していやがるのがお前の怖いところだよ……」



北方提督「なるほどねえ……それが海の傷痕に読み負けたといわせた最後の一手か。確かに電、中枢棲姫勢力ともに廃と重で構成された海の傷痕の特攻艦の完成」



大和「大和は話についていけないとです……」



北方提督「此方選手、いかがでしたか」



大和「当局さんの件もあるので聞くのは……」



此方「ダイジョブダイジョブ。少なくとも当局が満足していたことはあの想を調べて分かったし、鹵獲された時点で割り切ることにしていたから。薄情、と受け取られるかもですが」



此方「今の私になにをいうかも分かる」



提督「……全くです」



此方「ロスト空間で女神を作る。それに間に合う可能性はなくはないけど、限りなく不可能に近い。そのレベルで見てた」



此方「私は艦の兵士の皆の心を集めても結局のところ分かってなかったんだよ。人間の精神面のことを知ったかぶってたに過ぎない。当局もきっとそう。弱点に成りうるとは考えていたし、だから数百規模の深海棲艦を湧かせたり、最強の電ちゃんや中枢棲姫勢力を撃沈させた。そんな心を折るような戦いをした」



此方「運を除いて敗因を突き詰めると、心のほうで劣ってたから負けた」



此方「以上が海の傷痕からの批評です」



提督「こういう席ですし、此方さんに聞いてみたかったんです。あえて皆さんの前でいいますが、当局さんって大悪党ですけど、優しい人だと思いますか?」



此方「……どうだろうね。役割からして私を今の風にすることが目的でそのために他を切り捨てられた人だから。本官さんが死んでから、私と当局の個性もそれぞれ変わり始めた。私からしたら当局は優しい人だよ。突発的なトランス現象で生まれ落ちた私の唯一無二の家族といってもいい」



此方「でもさ、私もよく分からないところなんだ」



此方「むしろ准将のほうが知っているんじゃないかな。当局は私に本当の弱味は見せない。最後、私がいない時に当局と会話をしたんでしょう? きっとそれがわたしでもなく、海の傷痕でもなく、今を生きた当局という命の素顔だったと思うから」



提督「自分は深海妖精を陸地に誘ってから、この戦争を運営管理している海の傷痕の存在に気付き、心からの怒りを覚えました」



提督「利益すらなかった戦争の枠で子供を数多く殺し、時間を止め、未来への歩みさえ遮る。こんな業は人間が出来る訳がなく、人類史において殺さねばならない唯一無二の悪だと」



提督「大本営で楽しそうに喋っていましたし、確信もしました。ですが、最後に腹を割って喋れば当局の口から出た言葉全ては今後のため」



提督「……此方さんを想う愛に関連していた」



提督「役割だからのみの理由とはとても思えない」



提督「……いざ、終わらせてみれば」



提督「自分のためだけにあの戦いに生きていた自分ですから、同じくあの戦いのために生きていた当局のことも分からなくはないことに気付いた」



提督「解り合うし、意識を伝えるというのは難しい。自分達のように先の子供は理由を覚え、戦いに身を投じて、そして悟り、こうして未来永劫、繰り返されていく。我々の経験を語ってもきっと未来の子供の魂には刻まれない。自分が大戦時のことをざっぱに悲しいなあ、と思うのと同じで分からない。思いしるその日までいつまでも自分本意だ。自分のような馬鹿は特に」



北方提督・武蔵「……」



電「……お茶が美味しいのです」ズズズ



北方提督「電、いつからそこに」



電「少し前です。司令官さんの隣の椅子が空いてないので大和さんのお膝を借りているのです」



提督「すみませんね……」



大和「むしろお礼をいいたいといいますか。電ちゃんを膝に乗せるだなんてけっこうレアな体験させもらっていますのでー」



電「ま、75点をあげましょう」



大和「ふふ、採点が厳しいなあ」ナデナデ



電「此方ちゃんもよーやくこうして暇が出来たのに、それが悪い島風さんのせいで休暇、とはいかないのが残念なのです」



此方「大本営の毎日の尋問に比べれば天国だよ……」



北方提督「じゃ、そろそろ私から」



北方提督「准将、最終海域の話は聞いてるよね」



北方提督「手を組まないか」



提督「もともとあなたと組まされましたが」



北方提督「組むからといって協力関係になれるとは思わないからね。力を合わせて本気で勝ちに行くという意味で組みたいんだ」



提督「建国ねえ……」



北方提督「ああ、別に違反ではないはずだ。法の整備は整っていないからね。妖精工作補助施設で疑似ロスト空間内に作る。なに、もちろん危機管理も任せてくれ。こちらとしてはあなたが噛んでくれても構わないよ?」



大和「ほわー……話の規模が大き過ぎますね」



武蔵「冗談ではないだろうな。真顔だ」



提督「うーん……」



北方提督「なぜ躊躇う。新たな場所は人類に必要だと思わないかい?」



電「トランスタイプになって研究部にいた頃に会ったやつの中でこーいうやつたくさんいましたね。本気で憐れに思えたのです」



北方提督「なにが憐れだという」



電「道徳観のなさがですよ。利権を獲得するために汚い手を使う。それでいてルールに触れてないだの合法だの、と正当性を主張するところがそっくりなのです。責められたら、悪くない、と法に正しさをすがるがごとき主張を始める」



電「法に」



電「正義も悪もないって知ってるくせに」



電「私の哲学ではありますが、道徳のない人間に人間としての幸福はありません。動物としての幸せが関の山でしょう。ただの正当性を欲しがるのはあなたの昔からの欠陥なのです」



電「温かい道徳の基盤がない自由に人の幸福が満ちることはあり得ません」



電「私から見てどうもあなたは争いを憂い過ぎて疲れているようですね。分かりますよ。私はトランスタイプになって虚しさは飽きるほど、痛みには慣れすぎましたから」



北方提督「……」



電「疲れたのなら私みたいに国を作るのではなく施設を作るといいのです」



電「施設名は心のやすらぎが花言葉のペチュニアでいいのでは?」



電「老人ホーム、ペチュニア」ニタニタ



北方提督「く、ここまで小馬鹿にされたのは初めてだ」



武蔵「まー……私は電の言葉に共感したけどな」



提督「同じく。誰かのために、としてもそれが疑似ロスト空間で新しい国を、ではねえ。それでなければならない決定的な理由が弱いです。曖昧なプランですし……」



提督「諦めないのなら勝ってからもう1度この話をしましょうよ。とりあえず勝ちに行くのは自分も同じではあるので、獲らぬ狸の皮算用は置いておいて勝利のために手を組みましょう」



北方提督「それでお願い。思っていたより上等な返事をもらえたよ」



此方「戦後復興妖精&丙乙甲連合軍ってかなり厳しいと思うけど……闇の人達も今回はほとんど向こう側にいるし、北方はええと……甲大将に取られたガングートさん以外はこっちか友軍枠みたいだけど」



提督「うちの鎮守府の子達なら欠陥直すために観察しまくってきましたから。経歴から性格、細かな癖まで把握しています。確かに強い子達ですが、今回は敵に回ってもらえたほうが楽のようにすら感じます」



北方提督「それに丙乙甲の旗艦も私の艦隊だし、1航戦もいる」



提督「赤城さん加賀さんはうちに来て欲しかったです」



北方提督「分かる。提督なら誰もが赤城加賀の1航戦の指揮を1度は執ってみたいと思うものだ」



北方提督「電のお姉ちゃんズもみんなこちらだよ」



電「なのです」



電「司令官さんと私の敵に回る。この展開を知れば闇のお友達は血の涙を流して世界を恨むでしょう。それでもなおこの手で傷つけなければならないだなんて」



電「電は悲しいのです♪」



北方提督・此方・大和(とっても嬉しそう……)



提督「……そういえば、電さんがアカデミーを卒業して初めて着任した鎮守府の提督さんでしたっけか」



北方提督「そうだね……想い出はいつも持ち歩いてる。あの頃の電はういういしさの塊で可愛いかったよ。私のところに来たのも『響お姉ちゃんの司令官さん。仲良くなれそうだから』と」ポチ



大和「可愛いすぎますー……」



《あ、あの……私のお名前は、花、はわ、間違えましたっ。駆逐艦の電なのです》



電「おいカメラ止めろ――――!」



電「着任挨拶なんか撮影して保存していたのです!?」



此方「可愛い。そう、これが私の望んだ電の適性者ですよ」



武蔵「お前にもこんな愛らしい時代があったんだな……」



北方提督「准将、取引といこう」



提督「オーケー。それでとりあえずの手を打ちましょう」



電「……」ムスッ



提督「……、……」



提督「今の電さんのほうが好きですけどね」



電「!?」



電「私はとても嬉しいのですがちょっと待ってください! いつからそういう乙女心を察することが出来るようになったのです」



武蔵「今年一番驚いた……感動したぜ……」



提督「」



大和「ねえ武蔵、まだなにか彼に望みますか?」



武蔵「……わーったよ。私の目が節穴だった。お前と神風のほうがこいつのことをちゃんと見てた。なにも不満はねえよもう」



大和「ということで准将」



大和「私と武蔵はこちらの陣営につきます」



北方提督「スパスィーバ……!」



武蔵「神風のことは頼むぜ。もうここしかねえんだから、勝たしてやりたいってのは私も同じだ。大和を取り返した今でも、いや、今だからこそか。あの頃の仲間には思い入れがありすぎる」



提督「……、……」



提督「わかりました」



提督「この延長戦、もっと策を煮詰めます」



北方提督「決まりだね。こちらの総指揮は准将で構わない」



提督「了解です。やはり向こうは悪い島風さんが兵士として突出していますからね。少なくとも海の傷痕クラスには強いので、ただの策では無理なところもある。特定の方のタイプトランス疑似での強化許可も降りておりますが……」



木曾「よう。悪いけど、話は盗み聞いてた」



神通「あ、私と日向さんもです。とても面白い話をしていたので……」



日向「今回私達はこちら側ではあるが、些細なことだ。だが向こうは違うだろうな。丙乙甲は少なくとも本気の准将と戦って勝ちたいと思っている。少なくとも丙さんはな」



木曾「大将も同じだな」



神通「乙中将も、です」



日向「丙乙甲の旗艦を務めた私達がいうんだ。間違いはない」



提督「……、……」



電「まー、私は遊びのつもりでしたが、全身全霊とあなたがいうのならばもちろん応えるのです。私に遠慮など不要です」



電「これが最後」



電「私はもう1度だけ、ぷらずまになりましょう」



日向「そう。それでいいんだよ」



神通「真剣とは持てる力を全て出しきらなければ意味を成しませんから」



木曾「ハハ、大将の敵に回ったのは初めてだが、恐ろしくやる気が出る。もう戦争終わってツレになっちまったからかね」



提督「了解。ですが奇策は用いません」



提督「これだけの大艦隊、歴戦の兵士しかおらず、闇の時のように闇の策を弄する必要もなく、練るのは単純に」



提督「正面から相手の策を叩き潰す正攻法のみです」



大和「主砲一斉掃射ーって感じの戦いが大和は好きですね!」



武蔵「私も小細工は苦手だ。日向はオールラウンダーだが、木曾も神通も気質的には当たって砕いていくほうが性に合ってんだろ」



木曾「ハハ、そだな。俺の性格はチンピラに過ぎねえよ」



神通「まあ、猪口才相手を単純に捩じ伏せる戦いが気持ちいいですね」



北方提督「よし、私のグループは作戦練ろう。私、あんまり得意じゃないから旗艦の人達は手伝ってくれ。日向さんはそうだな」



日向「今、向こうはいないんだろ?」



日向「長門はこっちに誘って来よう。貸しがあるんだ」



北方提督「おお。負ける気がしないね」



3



提督「少し悪い島風さんのところ行ってきます」



提督「ぷらずまさん、それに神風さんもついて来てもらいますか」



電「メインサーバーの鹵獲現場に? なにしに行くのです?」



提督「悪い島風さんを本気にさせに挑発です」



提督「その前にぷらずまさん、想力工作補助施設の件ですが、ちゃんと扱えて情報は抜けたんですよね?」



電「一見ややこしい能力していますが、トランスタイプなら深海棲艦艤装扱うのと勝手はあまり変わりませんでしたよ。艤装を動かすのと同じように、想力を工作出来たのです」



提督「ちょっと調べて欲しいものがあるんですよ。ええと、これこれ、ちょっと気にはなったので捕獲しておいたのですが」



大和「それは、鉄の破片ですか?」



武蔵「艤装のか?」



此方「……電艤装?」



提督「イエス。戦争終わってから護身用に持ち歩いておりました。初対面時に悪い島風さんをザックリさして妖精であるかどうか確認するためにも使用しました」



電「それを調べてどうするのです?」



提督「この中に想が入っています。陽炎ちゃんと陽炎さんと不知火さんの騒ぎの時に疑似ロスト空間に出来ていた最初期の研究所、興味があって調べ回りましてその時に」



提督「少し気になる想と出会いまして」



提督「最後の海で中枢棲姫さん達を復活させたようにこの艤装に想を入れておいたんです」



電「悪い島風さんは気付いていないのです?」



提督「気付いている素振りはありませんねえ……」



提督「……ま、バレてないってことは」



提督「最後のあの時、当局が自分に仕込んだといったのは確定的ですしね」



此方「……どゆことです?」



提督「悪い島風さんが自分の想の解釈がしづらい理由を勝手に誤解しているようですが」



此方「あー……なんか複雑でよく分からないとか」



提督「そんな複雑なこと考えておりませんよ。つまりそういうことです。当局が念を入れて戦後についてなにか起きそうなトラブルについては一応の手を打ってある、と。後はお前なら勝手に気付いてくれるだろって。今、分かりましたが」



提督「自分には想の解釈がされないようになんかされてると思われる。やっぱりそうですよね。悪い島風さんが自分の心を解釈出来ていたのなら陽炎さん不知火さんの戦後日常編の時に」



提督「研究所で自分がなにしていたかを問い詰めて来ないのはおかしいですから。まずはその辺りのネタバレに赴きます」



提督「その前にぷらずまさん、想力工作補助施設がありますよね。悪い島風さんが留守にしている今がその時です。少し作業を手伝って欲しいのです。これの中身の情報を抜きます」



提督「電艤装、浄化解体されて想が抜けてなお特異な性質で溜まり場になったものですね。えーと、響さんのペンダントにヴェールヌイさんの想がありましたが」



提督「丙少将の桃鉄ゲームで調べたにも関わらず、悪い島風さんは響さんのあの戦後日常編の時に改めて念入りに調べるまでヴェールヌイの艤装だと分かっても、そこにヴェールヌイがいるとは気付いていなかったような風です」



提督「グラーフさんが悪い島風さんを発見した時、艤装の溜まり場を用いた装置にもギリギリまで気づかなかった。ファントムステルスを見破られたことでその怪しい装置を調べ、そこでようやく察知したと思われます」



提督「ので、想が完全に消失していなかったバグの関係した溜まり場周りも同様に探知または解釈が難しいのかもしれません」



此方「まあ……あの子の探知は私よりも性能が低いはずだしね。もしかしたら私や当局とも違って近距離でも直感的な察知は無理だとしともおかしくないね。でも話をしていた限り」



此方「私よりもずっと人間出来ているけど」



提督「どうでしょう。あの人は自分と似て鈍感なところもあるかと思いますけどね。まあ、これに入れた後にメモリーを観たのですが、あの最初期の研究所を疑似ロスト空間が映していた理由も分かりました。悪い島風さんは絶対に気付いておりませんね」



此方「当局のほうはブラフだと……?」



武蔵「お前のそういう根本の性格は不動なままか……」



提督「誉めないでくださいよ。照れます」



大和「あれ? 北方さんのフリーダムが感染……」



提督「いやいやまさか……」



提督「こほん。とにかく自分はぷらずまさんとこれを調べてから神風さんも連れて悪い島風さんを脅しに出ますね」



提督「あのメインサーバーの目的は恐らく」



提督「自分の見当がヒットすれば」



提督「戦後復興妖精さん」



提督「殺意剥き出しになりますね」



電「あなたという人は……」



電「それでこそなのです♪」



【10ワ●:薄翅蜉蝣、蟻地獄】



瑞鶴・加賀「……はあ」



陽炎ちゃん「……」プルプル



不知火「腕立てが20回も出来ないとは呆れてモノもいえません」



陽炎ちゃん「もー無理……」パタリ



陽炎「体力ないわねえ。いっつも引きこもっていたせいよねえ。昔は私達が息を切らしても追いつけなかったのに」



伊58「これだから都会っ子は」



不知火「ゴーヤさんはうちで最も体力ありますからね」



陽炎ちゃん「ちなみに都会っ子じゃないわよ。田舎でもないけど。というか、ここまで体力落ちていたとは思わなかった……」



瑞鶴「体力作りのために提督さんと朝に走るんだっけ?」



陽炎ちゃん「うん……島風の日課に付き合うことに……」



加賀「体力つけなさい。もはや不健康の領域よ」



伊58「……うーん、見れば見るほど昔の面影がないでち」



陽炎「ん? ゴーヤって私と不知火より長いんだっけ?」



伊58「ゴーヤは10年だからアブーと卯月より1年長いでち。まー、この陽炎が軍に来た時は今の乙中将が乙将席に着いてから。それから瑞鶴のあの提督半殺し事件が起きてからすぐ解体していったと聞いてはいたー。二人は同じ鎮守府だよね?」



瑞鶴「そうだねー……」



加賀「ええ……南方のほうで。正直この子があそこに来たのは驚きでしたが、てっきり将のところに行くかと」



陽炎ちゃん「それいったら加賀さんもでしょ」



加賀「駆逐艦と正規空母では違うのよ」



陽炎ちゃん「あー、航戦は別にしても戦力の偏りになるから将のところにはもともと正規空母がいて基本2名までなんだっけ……」



陽炎「やっぱり私より強かったのかしら?」



瑞鶴「残念ながらね」



不知火「ヒーロさんは子供の頃から不知火達のヒーローでしたからね」



陽炎ちゃん「昔の私はそんなに輝いていたのね……割と加賀さんからはきつく言われていたけど、愛の鞭でしたか」



加賀「……ええ、砲雷撃精度も高かったけれど」



瑞鶴「勝負勘と旗艦性能も半端なかったわね……でも一番は」



加賀・瑞鶴「航行術」



加賀「まだあなた以上の素質は見たことがないわ……」



陽炎ちゃん「すばしっこかっただけですよ」



瑞鶴「演習してた時は届くようで届かない。そんな感じだったかなー」



伊58「聞きたいけど、どーせ感覚の天才肌でち」



陽炎ちゃん「どっちかといえば感覚派なのは確かね。兵装の殺し合いの最後は理屈じゃなかった気はする…………」



陽炎ちゃん「それと、ぶっちゃけあの瑞鶴さんのあの件? あいつの指揮のせいもあるから胸がスカっとしたわ。いつかあの司令はシメられるとは思ってたし……」



瑞鶴「……まあ、悪いやつというより」



瑞鶴「提督に向いていなかったんだと思う」



加賀「そうね、根からの悪人だとは思わないわ。指揮に秀でたところはなくあまり努力もしない人でしたけど、鎮守府では明るい人で、いいところもたくさんありましたから」



瑞鶴「こいつ以外の駆逐はみんな好いていたもんね。ちょっと今の提督さんと似てるかも」



陽炎ちゃん「そういえば龍驤さんが解体したのもあの司令が絡んでたらしいわねー……昔から変わってなかったってことか」



瑞鶴「あー……後で龍驤から聞いた時はびっくりした。明るい話じゃないからお互い触れないようにしてるけど」



伊58「ところで皆は最終海域の仕様は聞いてる? この面子では陽炎不知火が未確定で、加賀は提督さんのほう。瑞鶴とゴーヤは丙と乙だから今回は提督さんの敵に回るでち」



瑞鶴「ゴーヤよ、ぶっちゃけあの提督さん敵に回すのめちゃくちゃ怖くない? 丙乙甲がバックにいるとはいえ、この鎮守府にいたせいもあって、勝てる気がしないんだけど……」



伊58「んー? ゴーヤはそうでもないでち」



伊58「色々と話は聞いて提督さんも見たけど、戦争終結してからはなんか雰囲気から怖さが抜け落ちて、なんだか今はもう丙乙甲の指揮のほうがって気がしないでもないよ?」



伊58「あの提督さんは確かにすごいとしか言えないし、ポンコツのゴーヤ達を部下に最強の鎮守府にまで持ち上げたでち。これ以上ない指揮官だったけど」



伊58「ゴーヤ達が勝てば、面白いでち」



伊58「ゴーヤ達がめちゃくちゃ優秀だったからこそ」



伊58「提督さんの指揮もすごかったって解釈のほうがいいな」



伊58「お礼的な意味合いで、あの提督さんも電ちゃんもわるさめもまとめて叩き潰して敗北の味を初体験させてやるでち」



陽炎「ゴーヤの根性の源はこういうメンタル面よね」



瑞鶴「なるほどねえ。ま、ゴーヤのいう通りか。おちびに関しては1度は叩きのめしてやりたいとは思っていたのよ。戦争中は敵わなかったけど、これがラストチャンスよね」



加賀「5航戦妹、今度は負けないわ。必ず七面鳥にしてやる」ギロ



瑞鶴「」



陽炎「私はパス。観戦でいいや」



陽炎「不知火は参加するでんしょ? どうする?」



不知火「司令のほうです。お誘い受けようかと」



陽炎「だよねー……」



陽炎ちゃん(やる気あるようで……)



陽炎ちゃん(あー……引きこもりたい)



陽炎ちゃん(こんな私より今の陽炎のほうが強いだろうな。私が届かなかったモノ、持ってるし)



陽炎ちゃん(小さい頃は犬にびびってた二人が)



陽炎ちゃん(世界に名の轟く英雄だものね……)






陽炎ちゃん「……」プルプル



不知火「なんだかんだでがんばるんですね」



陽炎ちゃん「びびったわ。200メートル走ってぜえぜえいうのはさすがにね……健康ではありたいし」パタリ



陽炎ちゃん「どうしても連続で30回出来ないわ……今年で私、いくつになるんだっけ……」



不知火「24です」



陽炎ちゃん「そっか……あ、春先なのに珍しいやつが」



不知火「トンボですか?」



陽炎ちゃん「薄翅蜉蝣(うすばかげろう)」



不知火「蟻地獄のやつでしたっけ? 昆虫に詳しいのですか?」



陽炎ちゃん「いんや、陽炎時代に何気なく図鑑を開いた時に、私と同じ名前だったからちょっとその項目を読んだだけ」



不知火「あ、分かります。不知火も気性現象の不知火のことを知ってますから」



不知火「鬼火の一種で正体は蜃気楼だとか。陽炎は小規模な気象現象ですが、不知火のほうが大きいみたいですよ」ヌイッ



陽炎ちゃん「ふうん。ま、あの陽炎よりは背もあんたのほうが大きいわよね。私は解体して長いから私が一番、大きいけど」



不知火「縦だけじゃないですか」



不知火「さっきからヒーロさんの周りをその薄翅蜉蝣が粘着して飛んでます。その子、損傷でもしているのでしょうか。不安定な飛びかたです」



陽炎ちゃん「こういう飛び方なのよ。カゲロウというだけあってひらひらと不安定で、つかもうとしてもかわされるみたいな。陽炎稲妻水の月のごとし」



不知火「すばしっこいとかなかなか捕まえられないという意味でしたか。あ、ヒーロさんの頭に止まりましたよ。そのトンボって羽を畳めるのですね」



陽炎ちゃん「うーん、珍しい」



陽炎ちゃん「この子が羽化するのは次の季節のはずなんだけどね」



【11ワ●:甲大将とガングートさん】



甲大将「お前、近場の教会にいたのか。クリスチャンなの?」



ガングート「こう見えても私なりに敬虔だぞ」



甲大将「信仰はなく知識しかねえが、神って救ってくれんの?」



ガングート「救ってくれるさ。考え方の違いがあるだけだ」



ガングート「私の育ての親は部族出身でな。家では眠っている者を起こしたら怒られるんだ。眠っている間は魂が体を留守にしているから起こしたら魂が戻って来なくなると」



甲大将「文化の違いってやつか。睡眠はコンビニみたいに能率化して管理的だよな。おかしな話ではある。リアリストは神を信じないやつが多いが、歯車になってる資本主義の思想根底には神の魂があるっつうのに」



ガングート「そうだな。資本主義は神に労働を捧ぐ思想だ」



甲大将「お前は労働する気がなさそうだよな。私もだが」



ガングート「あー……今回の騒動か」



ガングート「途中まではそれなりだったんだが、どうも戦後復興妖精や神風を眺めているとな、馬鹿らしくなってきた。休暇と割りきって楽しんではいるぞ?」



甲大将「それがいいよ」



甲大将「一連の話を聞いたが、やる気なくなったわ」



甲大将「男の提督連中はなんであんなに楽しそうなんだ」



ガングート「ハハ、男の子だからじゃないのか」



甲大将「んー、珍しく丙少将も楽しそうだったしな。私も馬鹿騒ぎは嫌いじゃねえんだけどいまいちやる気がなー」



ガングート「そういえば甲大将はメモリーを見たか?」



甲大将「中途半端なところだけは見た。マリアナんとこだけ」



ガングート「その後の当局との会話からハワイ漂流、レイテ突入、その後に戦後復興妖精は内陸に行って詐欺と政治やらやり始めるんだが、なんとも救われない物語だったよ」



甲大将「救われねえのか……まあ、今の戦後復興が答えだもんな。本当にあった最初期の映画ってだけで観る価値はあるか」



甲大将「バトルよりそっちのが興味ある。あの少佐君、私の先祖の次太郎だろ。私は信じてねえんだが家にグラマンF6Fでサマールの島を飛び回って深海棲艦と戦ったって伝えがあるんだよ」



ガングート「飛び回っていた」



甲大将「ちょっくら観てくるわ……」



甲大将「ああ、そうそう。私んとこも一応ラストは出るけど旗艦はガングートにすっからよろしくな。深く考えなくていいぞ。面子的にマジなやつはいないから、好きにして構わねえ」



ガングート「そうか。あなたの仲間達はどうする?」



甲大将「あいつらに負けんのはなんか癪だな」



ガングート「了解した。それと聞きたいんだが、駆逐艦で最も強い兵士は誰だ?」



甲大将「江風」



甲大将「っていってやりたいがその結論は親馬鹿ならぬ提督馬鹿かね。あいつも強いんだが、卯月辺りと同格ってところか。まあ、トランスタイプ含めるのなら電、次点でわるさめだろーよ」



甲大将「含めないのなら最後の海基準だと、そうだな、想力をロスト空間で兵器化出来るっつう点で」



甲大将「初霜改二」



甲大将「純粋な駆逐艦の兵士としてなら」



甲大将「響改二」



甲大将「そんなところだと思うぞ。見事に闇だらけだな。ああ、私には神風は計り切れねえや。話を聞いた限り、度胸とか根性が相当なのは分かるけど」



ガングート「……そうか。なるほど」



甲大将「?」



ガングート「私は少しやる気が出てきたぞ」



甲大将「ほう。そりゃ良かった。まあ、なんかあるなら悔い残さねえようにな。ラストだろうし」



ガングート「ああ。ずっと戦ってみたかった相手がいた」



甲大将「……、……」



甲大将「ま、それなら楽しんで来てくれ」



【12ワ●:戦後想題編 メモリー:2-2】


マリアナ海戦の筋書きはこうだ。

連合軍は敵深海棲艦勢力、空母棲姫を北方鎮守府の第一艦隊旗艦島風が特攻により撃破、同時に殉職。


これでうっとうしい立場は断ち切られ、本来の役割に戻る。


対深海棲艦海軍のテコ入れ作業、彼等と戦い、このように死んでいくだけでは数年で人類は敗北するだろう。ただでさえ選ばれた少女しか戦えない戦争だ。陸からの支援が必要不可欠だった。


島風(ちょっと! どうして海から逃げるの! このままじゃ……)


戦後復興妖精(サラトガが支援に来たし、放置しとけ。向こうは艦載機も補充出来るし、大鳳も中破程度の損傷だ。あいつはそれでも発艦可能な装甲空母な。敵の姫様はぶっ殺したから、後は突撃気質のザコを空から蹴散らして終わりだ。死ぬとしたら判断を誤った駆逐の清霜一匹くらいじゃねーの)


それだけいってもぎゃあぎゃあうるさいので無視を決め込む。


島風に身体の舵を取られないように細心の注意を払いながら、ロスト空間(想の海)の中でただ一つある我が屋の鎮守府に向かって、航行する。島風も私と同化した時に大体の情報を知ったはずだ。誰かが死んだらすぐにご対面することになるだろう。そうなればこのガキも黙ってくれるだろうか。


木材で作られたログハウスのある孤島が見えてきた。


砂浜で艤装を外して、そこらに捨て置いておいた。重い足取りで家の扉を開くと、そこにはパーパとマーマがそれぞれの作業に没頭している。「ただいま」と声をかけると、マーマから「お帰り」とそっけない声が帰ってくる。パーパは作業に夢中なまま、こちらに目を向けすらしなかった。


戦後復興妖精「パーパ、色々と話をしたいんだけど……」


当局「当局は深海妖精製作で忙しいのだ。猫の手も借りたいほどにな。だが、特別に休憩がてら聞いてやるのである。ここでうるさくすると此方が怒るので、そうだな、外に出るといい」パーパに腕を引っ張られるように連れ出された。下手打つとマーマの殺人衝動で殺されるからな。


島風「あなたがこの戦争を始めたんだってね!」案の上、島風の声が出る。「ふざけているにも程がある。こんなことやれるの、人間じゃないよ! 今すぐに辞めるべきです! 子供でも分かる!」


戦後復興妖精「こいつなんとかして消してくれ。役割に邪魔すぎる……」


当局「フハハハ。確かに辞めるべきだし、子供でも分かるな。返す言葉もない。だが、ではどうして人間は戦争をするのだ? 辞めるべきだと子供でも分かるのに、だ」パーパは腹を抱えて笑う。「それでも戦闘機は明日も空を舞い、乗員の死体は増える。マリアナに行ってきただろう。あれもそうだ。大鳳が沈んだ日、日本の艦上機は400機程、アメリカは100機ほど失った。死んだパイロットも日本のほうが多い。水葬は見たか?」


島風「大人の事情って馬鹿みたいだよ! そんなレベルなら子供の事情にも耳を貸してよ!」


当局「貸してやっている。それが今の深海棲艦の核だ。大義も忘れて子供のように純粋無垢な塊の亡霊船である。ま、はしゃぎ過ぎてはいるな。無念も度を越せば呆れ返るであろう?」


人間サイドからすれば悲劇に違いなかったが、こちら側から見れば喜劇である。


当局「その戦後復興妖精の役割がバランス調整、まあその一つに生活水準向上の項目がある。今のままでは無理だな。近い内に人間が死ぬ。そうならんために戦後復興妖精を作ったのである。故に最初の島風の適性者よ、同化した今、その戦後復興の力で人間を救えばいいのだ」


島風は黙り込む。物分かりがいいというより、最初から分かっていたのだろう。


この戦争を終わらせるには、このパーパとマーマの存在まで辿り着かなければならない。それは困難極まるが、仕官妖精が選出する深海妖精可視の才持ちの人間が有能ならばこの海の真実にたどり着くこともあるだろう。今は実力行使でも説得でも解決なぞ出来ないのだ。現実的な手段としてはパーパのいう通り、この特別な役割の立場と能力を駆使して少しでも戦死者を減らすことだ。


島風「ねえ、みんなは死んでいる?」


当局「まだ死んでいない。だが、壊滅的な被害を受けて遭難したな。ハワイ辺りか。あそこは深海棲艦の支配する海域であり、助けは絶望的だな。史実効果を設定したつもりはないのだが、これは単純に運がないだけか。ま、戦後復興妖精の助けがなければ、姫に殺されていたのである」


島風「助けに行く! はやくはやく!」


戦後復興妖精「姫を沈めた手柄つきの殉職処理がパアになっちゃうだろうが!」


当局「その前に家に来い。これから先のことも踏まえて、念のためにその島風に余計なことを喋らせないようにしなければならん。やれやれ、不良娘の父親役も大変であるな。本来ならこのような子供なぞ殺してやるのだが、娘の初めての友達であるゆえ、融通を利かさなければ」


戦後復興妖精「娘? 友達?」


黙って聞いていれば望んでもいないことを、被害者面でほざくその態度に艦人袋の緒が切れた。左のジャブからのアッパーであごを打ち抜いてやった。


当局「家庭内暴力とは当局は一体どこで教育を間違ってしまったのか。まだ産まれて一年も経ってないというのに……」


戦後復興妖精「さっさと島風を消せよ」


当局「仕事をしてこい。大鳳と清霜を帰還させる意味は大きいとお前も判断したはずだ。まあ、適性者は増えているのでその二人が死んだくらいなら取り返しがつくが、その島風はご執心のようだ。どうせ帰りの道に深海棲艦と会う。死んだことにするチャンスなぞ腐るほどあるわ」


戦後復興妖精「……はあ。島風、救助にいってもいいが約束だ。お前は出るな。これ以上余計な真似をしてみろ。代償を支払ってもらう。脅しではねえのは同化している以上は分かるはずだ」こちらからもあえて言葉にして釘を差しておく、「大鳳と清霜は私の手で惨たらしく殺してやる」


お前はそういうやつと同化したんだよ。

島風はなにもいわなかった。ただなんだろうな。てっきり怒るかと思えば、そうでもなさそうな感じだ。苛々とも怒りとも、もちろん喜びというやつでもなさそうだ。

私が島風と同化して最初に味わった感情かこれ。天津風ちゃんの死体を見て、涙が出た時と同じだった。色は清々しい空とは違って、海の濁った深い青と似ている。


これが悲しみの色か?


【13ワ●:難破船護衛輸送、ハワイ脱出作戦】


現海界地点は目的地から少し離れた場所にした。救助地点に流れ着いた言い訳は適当で大丈夫だろ。


途中に遠くで赤黒い海を肉眼で発見した。


遠目で様子を伺ってみれば救命用のボートが20隻ほど波に揺られて浮かんでいた。この海の赤黒さの理由をすぐに察した。恐らく戦場から脱出して救命用のボートに乗り込んだが、今はただただ救助待ち、神に祈るしかないのだろう。


戦後復興妖精「神に祈るのはお勧めしないんだが」


島風(あの人が聞き届けても、迎いに寄こすのは深海棲艦で救いは死でしょ!)


嗤った。分かってきたじゃないか。


といっても、現場はちっとも笑えない。

悲鳴が聞こえた。この太陽が昇った日中、地点的には深海棲艦が支配する海域内だ。やってくるのは味方より深海棲艦だろうし、偵察機の気配も辺りにはなかった。そこらの絶望はこの戦争に関わる当人達がよく知っているだろう。


そしてこの海を赤黒くしているのは血だ。

誰かが鮫に襲われていた。

その血の臭いを嗅ぎつけて、更に増える。

こうなれば夜になって鮫が散るまではここでは地獄絵図が描かれていたはずだ。


人間が人間を抱えて泳いでいた。

近くのボートまで泳いで抱えた人間を中へと入れていた。もうどこのボートも定員ギリギリだ。もう無理だ、入らない、と先客が拒否をしていた。抱えられた男がふざけるな、と取っ組み合いを始めた。鮫に喰われないために誰かを地獄へ落として落とす。このかすかに漂う弾薬の臭いは恐らく銃かな。ボートに乗るために人間同士で殺し合ったとみえる。


「私は乗りません! この人だけなら詰めれば乗り込むことが出来るはずです!」


へえ、こんな時でも我が身を優先させない人間がいるらしい。心が強いとか優しいとか、そういうのではなく、死にたがりの類だ。なにかの懺悔で最後に善行を、といった風に聴こえる。


海面から鮫のせびれが現れた。あいつのところへ向かっている。救助した男の尻を押してボートに押し込むと、くるり、とターンした。顔が見えて、思わず「うわ」とげんなりしてしまった。


少佐君「海の悪魔め、お相手致しましょう! かかって来るのであります!」


島風(少佐君だあ! 生きていたんだね、よかった!)


しぶとく生きていやがったのか。

誰かが私の存在に気がついたらしい。大声があがった。どいつもこいつも、こちらを見ると助かった、という希望に彩られた表情になる。少佐君は向かい来る鮫で手一杯で意識がこちらに向いていないようだった。周りのボートからの声を無視して少佐君のほうに向かう。


戦後復興妖精「よう」


少佐君「島風さん!? 無事だったのですか!」


戦後復興妖精「がんばれー。少佐君の勇姿は私が世に伝えとく。忘れたらごめん」


少佐君「助けてさえくれたら自分の口で武勇を語りますよ!?」


そんなくだらない会話を鮫は待ってはくれずに少佐君に襲いかかる。少佐君は鼻っ面に鋼材、だろうか。破片を突き刺していたが、鮫は意に介した様子もなく、ガブリ、と噛みついた。

島風がうるさいが、もう少しだけ様子を見てみる。鮫が噛みついた肘から先はスカだったようで、衣服の中で腕を引っ込めたようだ。少佐君は足を噛まれたが、両手で鮫の両目を覆う。

すると、鮫が口をぱくりと開いた。

その次は海面上にいる私の脚に噛みついてこようとしたので、足を海中の鮫めがけて、蹴り飛ばす。海水をかきわけ、鮫の腹に直撃した。小さい鮫が海から空へと吹き飛んだ。良い的だった。島風が艤装を動かして鮫に向かって機銃を乱射して絶命させた。


戦後復興妖精「おらよっと、背中に捕まっていろ。それと連装砲ちゃん」


自律式の連装砲ちゃんに指示を出して辺りをさまよう鮫を掃除してもらいながら、ボートを集めてもらう作業に入った。


その後に衣服やなにかでボートを繋いで、この身で牽引すればいい。真っすぐ進むことは難しいが、そこは海の男どもが手足で流されないように抗えばいい。陸地のほうへと引いてやる。救助作業中におんぶしてやった少佐君にいう。「けっこう戦えていたな」


少佐君「これが初経験ではないので……ともに生還した同期から聞いたことがあったんです。鮫に噛まれた時に眼を覆ったら鮫は口を開けてくれたんだ、と……物は試しですね」


戦後復興妖精「苦難しているねえ。さて深海棲艦に発見されたらアウトだ。戦場からして、ここの場所は把握している」少佐君は提督の立場もあるので進路を決めてもらおうじゃないか。「本来の進路予定のリンガ泊地、そしてまだ機能しているラバウル、そして最寄りだが、敵陣営のハワイ島、どこへ向かう?」


少佐君「ハワイへ」


おや、すぐにそこを選ぶとは。

聞けば大鳳達がそこにいることを知っていたようだ。まずは助かることを優先、ハワイから救助が来るのを信じて固まって待っていたらしい。ハワイ島は敵に奪われてはいるが、底を尽きかけた補給物資を入手しにハワイ島へ行く、という上の判断を聞いていたらしい。確かに深海棲艦が物を奪うということはないので資源はあるはずだ。補給が済めば助けに来てくれる手筈だと。


少佐君「島風さんがいるのなら尚更です。とにかく陸地に行けば望みはありますし、生きて帰るために艦の娘の戦力も集めておくべきです」少佐君は苦笑いした。「後、個人的にリンガ泊地は赤道直下の灼熱でハワイ島のほうがマシです。ラバウルはソロモンの対処で激戦区ですから、とりあえず最寄りのハワイです。ということで島風さん、よろしくお願いします」


戦後復興妖精「……請け負った」


少し驚いた。迅速で的確な判断、そして今後のことも考え、なにより他人を救って鮫と戦い始める度量もそうだ。少佐君はなかなか練度の高い兵士のようだ。上から派遣された艦の娘の中間管理職、ご機嫌取りするだけの使いかと思っていたが、少し評価を改めるとしよう。


島風(ねえ、みんな安心したせいで疲労が一気に出ているのか士気がないよ。北方の鎮守府の第一旗艦として言葉をかけてあげて。このままじゃ余計に時間がかかっちゃうかもだから……)


後ろの連中の顔は絶望色になっている。助かることだけを考えていたが、いざ助けが来ても、ハワイ島へと向かう。どうなるのだろう、先行きの分からない漂流劇の幕開けは不安でいっぱいだ。確かに男達ががんばらないとボートの列が乱れて引くのが面倒臭くなってしまう。


戦後復興妖精「おいボートの列が乱れているぞ! 働かない荷物は私が海に捨ててやる!」


そう怒号で尻を叩いてようやく手足を動きだすが、活力が全くなかった。


島風(ああ、もう私が声を出すよ! あなたはどうしてそうやって脅すかなあ!)


戦後復興妖精(余計なこといったら分かっているだろうな?)


島風(分かってる!)


とのことなので許可してやった。どういう声かけをするのか実に楽しみだ。


島風「皆さんすみません! ちょっと苛々していて当たってしまいました!」と謝罪から入った。「まるで寝ているように生気がありませんが、眼を覚ますことのない人達の分も起きて生きてください! 助からなければ救いようのない罪だけが残るだけです!」


ダメだな。ヒーローがそんな余裕のない声ではみなの不安を煽るだけだ。


島風「必ず助けます! 姫が来てもまた倒してみせますよっ!」


そもそも米兵もいるなかで日本語が通じているかも怪しい。殺すぞ、と単純に殺気を出してやれば伝わるからそれが最も手っ取り早いと思ったから脅したのだが、このガキの口から出るのは私とは逆に頼もしく、そして優しい言葉ばかりだった。


島風が大声で歌を歌い始めた。声を張り上げ過ぎていて、音程の取れてない不格好な歌だった。だけども、鎮守府で聞いたことのある軍歌だ。アメリカさんも聞いたことはあるだろう。あの北方の鎮守府では老若男女が知っている歌だった。


その島風につられるようにして歌声が重なり始める。日本人はともかく、アメリカさんはその歌を聞いてから真似て声を出しているため声の重なり具合もちぐはぐで、とても聞いてはいられなかった。だけども何度も繰り返し歌っている内にリズムが生まれ、皆が手を動かすタイミングも合ってきて、波に翻弄されなくなってきた。みんな本当は泣きたいくせに、無理に笑っていた。


人間ってやっぱりよく分かんない。私だったら音痴でうるさいし、深海棲艦が反応したらどうするのかってキレるけどな。人間ってやっぱりよく分かんない。


いつか答えが分かるだろうか。

波に揺られながらそんなこと考えた。


少佐君「ボエ~♪」


そして少佐君、お前の音痴はもはや私への攻撃だぞ。


2


清霜「島風さああああああああん!」


飛びついてきた清霜の首根っこをつかんで砂浜にブン投げておく、私は顔面から砂浜に倒れ込んだ。半日程度も衣服で連結したボートを20隻、念のために周囲の探知、精神をすり減らしてなお、歌を歌いながら人間を60名近くもぶっ続けで曳いてきたのだ。疲労困憊の極みだった。太陽が沈んでいるとはいえ、砂はまだ少し熱かった。そのまままぶたを降ろして眠った。


硬いベッドの上で眼を覚ました。


コトン、とプラスチックの器が差し出された。大鳳だった。「ご無事でなによりです」との微笑みに私は言葉は返さず、無作法にそのスープを飲みほした。味は薄く生温い。格子戸から吹きこんできた乾いた風のほうに眼をやる。椰子の木が不格好に並ぶ景色の中、キャンプファイアが催されていた。


戦後復興妖精「大鳳、野人どもが泊地に変えているようだが、ここで過ごすつもりか?」


大鳳「半日は皆さん眠って英気を養っていましたが、こういったことが必要でもあるんです」


なるほど。深海棲艦型の艦載機がいつ飛んできてもおかしくないので火なんて消したほうがいいと思うが、大鳳のいう通り、必要であるのだろう。なぜかは理屈では説明できないが、人間がこういった意味不明なことで性能を底上げすることは知ってはいる。


戦後復興妖精「資源はどうなんだ?」


大鳳「いまだ捜索隊が物資を探していますが、かつての戦火のせいか特に食糧が心許ないです。今は日米で会議を開いております。幸いながら空母が一隻だけほぼ損傷はなしでありますので、皆さんはそれに乗り込んで私達が護衛、となるのではないかと思います。向かう先はまだ決めかねているそうです。なにせ通信が出来ないようで……」


戦後復興妖精「深海棲艦に襲撃を受けた際に島の形が変わったとか聞いた程だしな……」


くるくると陽気に踊りながら、近づいてくる二人組に舌打ちをした。「清霜さん、そんな感じです。ただ私の脚を踏まなくなりましたね!」と少佐君の声がする。「あうとさいどちぇんじ! へへん。身体を動かすのは得意だしねー」と清霜は得意げに鼻を伸ばしている。のんきか。


戦後復興妖精「少佐君、元気そうだな」


少佐君「傷は浅かったのであります。しかし、こうして騒げるのは今だけですね。飲めや騒げやの宴を開いても心の傷に応急処置程度にしかならず」少佐君は苦笑いした。「艦の娘の傷も大したこともなく、不測の事態、または万全の状態になり次第、労働になると思うのでどうかごゆるりと」


清霜「妖精さんもいるから艤装も直してくれているよ」


戦後復興妖精「そっか……ん、お前らそれは傷か?」


大鳳「ええ……清霜ちゃんも私も深くはないのですけどね」


大鳳にも清霜の腕には包帯を巻かれている。

そっか。そうだった。まだ世界は艦の娘の入渠というシステムに気付いていなかったのだ。人間の科学力ではまだ尻尾すらつかめない建造の不思議、なぜか超人的に強くなって艤装も身につけられる。燃料と鋼材で身体を治せるとは気付くまい。


清霜「そういえば島風さんは姫に特攻を仕掛けたけど、無傷……?」


少佐君「強いからですよ! なにせあの奪還作戦を成功させて帰還された方ですからね!」


清霜「なるほど!」


それで納得しちゃうのかよ。さすがに大鳳はなにか聞きたそうな顔をしている。少佐君はよく読めないやつだな。さすがに本気でいったつもりはないのだろうが、陽気なやつなのでよく分からない。クソ、人間について本気で学んで行かなければいつかボロが出てしまいそうだ。


戦後復興妖精「あー、話しておくべきことだ。小破程度で済んだんだよ。姫を運よく沈めてからはひたすら逃げ回ってさ、島風が逃げ足に秀でたお陰で海域を離脱することは出来たんだ。その途中には沈みかけた船を見つけたから弾薬と燃料を探して補充をした。燃料のほうはタンクが破裂して風呂みたいになっていたよ。その時に脚を滑らして燃料の中にドボン、した」


清霜「うわ、臭そう……」


戦後復興妖精「するとな、なんか傷の治りが早かったんだ。試してみる価値はある」


少佐君「それは試してみる価値しかありません」


報告して燃料を分けてもらえるようかけ合ってきます、と少佐君は走って去っていった。いつの間にかキャンプファイアの火が消えていた。でも、色濃くなった夜闇の中を慌ただしく動きまわる人の群れが見て取れた。運んでいるのは白布がかぶせられた担架だった。


島風(……亡くなった人なのかな)


だろうな。急きょこしらえた泊地に軍医はいても設備的に満足な医療が施せるとは思えなかった。ましてや銃撃や爆発に巻き込まれた連中がよく持ったほうだと思う。


部屋から出るとした。

死にそうなやつの面でも拝んで来るとしよう。人間はこういった静かな時の死に際だとなにを言葉にするのだろうか。やつらが複雑なのはスパコンの何百倍も上等な知能が曳いてくる個性だと当たりはつけてはいたが、人間というのはどうも実際に会ってみないと分からない。


ムカつくほど、色々なやつと出会っている。


3


と思ったが、口を開けるやつがいなかった。

四角いテントの中には死んでいるのか生きているのか分からなく、血と薬品の臭いがきつ過ぎてすぐに外に出た。換気してなお、空気が悪い。金魚の糞のようについてきていた清霜と大鳳はまだ中から出てこなかった、入口から除いてみると、二人とも半死人の連中の手を握っていた。


戦後復興妖精(なあ、あれもそうなのか?)


島風(あなた、面白いこと考えるね。さすがに手を握るだけで傷は治らないよ……)


そうなのか。てっきりボートの連中のように謎の元気パワーがさく裂して包帯だらけの半死にの男達が勢いよく軍歌でも歌い始めるのかとも思ったが、さすがにそれはないようだ。傷ついている人への優しさだよ、と島風がいった。自分で自分の手を握ってみた。よく分かんねえな。


新たに運ばれていく担架の後を歩いて追いかける。


甚平のポケットに手を突っ込んで、意味もなく口笛を吹きながら砂を踏んで進んだ。

驚いたことに軍艦の中に死体を積んでいた。まさか死体を持ち帰る気なのか。軍艦の近くで、艦載機を発見する。一瞬、身構えてすぐに探知をしたが、味方の艦載機のようだった。


艦載機は空中で旋回して飛行甲板に戻る。サラトガがいた。

眼があって、手を振られた。軍艦の入り口の灯に照らされて、大人びた笑みが見えた。あれが練度90越えのサラトガ改二の適性者か。この島から脱出する際に利用しない手はなかったので、無視するのを辞めて近づいてみた。「ナイストゥーミーチュー」と本場の英語をしゃべった。


戦後復興妖精「ナイストゥーミーチュー」


サラトガ「はい、こんばんは」


戦後復興妖精「じゃあ、日本語で。あんためちゃくちゃ強いな」


サラトガ「私では空母棲姫に空を奪われ、そのまま沈められていたでしょう。素質、というやつですかね。私の国の研究部が適性者ごとに能力、そして本来の艤装性能に振り幅があるみたいです。あなたという島風の適性者は素敵なブレイバーなのですね」


戦後復興妖精「どうも」


そこらの話は興味なかった。答えは全て知っている。


戦後復興妖精「……なあ、死体を持ち帰るのか。ただの重しだろ?」


サラトガ「リアリストですね。彼等は共に帰るべき仲間ですから」


戦後復興妖精「海に捨てろよ。あ、アメリカじゃ問題あるんだっけ?」


サラトガ「海軍全体として水葬は許可されております。正し、深度の条件があります。日本の対深海棲艦海軍も同じですよね。聞いたところ、流す時は魂が戻ってこないように脚のほうから流すそうですが」


ふうん、そうなのか。頭はいいくせに、どうしてこうも人間ってやつは無駄が多いのかね。


島風(あなたも死にたくないよね。天津風ちゃんの死体を見た時、泣いたでしょう? あの時の気持ちは私のせいだから、と割り切れているみたいだけど、本当にそう思うのなら)島風が悲しげに囁いた。(きっとあなたはまだ自分で生きることを始められていない赤ん坊なんだよ)


天津風ちゃんの時か。悲しかった。そうか、そういえばあれが悲しいか。海のような色と似てはいたな。


でもガキのいう通り同化したせいで島風の凄まじい感情が私に感染しただけのことだ。あの天津風のことなどよく知らないし、しゃべったこともない。なのに泣くほうがおかしいんじゃないのか。


島風(人が死んだら、悲しいでしょう?)


ならなんでお前らって常に殺し合っているんだ?

よく分かんない、と島風は答えた。

なんだよそれ。

お前も私もこの世界のこと全然知らないんじゃねえの。


4


空が白んで月が欠け、太陽が昇りかけた頃、少佐君が大慌てで部屋に飛び込んできた。こいつは本当にノックという作法を覚えてくれないな。仮に全裸を見られようが構わないのではあるけども礼儀は大事だ。私に対する礼儀はな。


少佐君は荒い鼻息を出していった。


少佐君「燃料を使ったところ、傷が通常よりも早く治ったのであります!」


別に知っていることなので驚かなかった。


島風(資材、か。ねえねえ、私達の身体って丈夫じゃん。それって鋼材とか、他の資材も混ぜたらもっと治りが早くなるとか!)朝っぱらから元気で嬉々とした声だった。(その速度ってどのくらいになるんだろう。もしかして突き止めれば一秒とかで治るとか!)


あり得ない話ではなかった。

ここらの話を少し少佐君に吹きこんでおくか。


戦後復興妖精「昨夜それについて考えたんだよ。艦娘って建造すると丈夫になるだろ?」


少佐君「へ? ええ。まあ」


戦後復興妖精「艤装と繋がって無機物みたいになっているとか?」私は偶然、思いついた風を装って言葉を続ける。「戦えない状態は、燃料がない状態と似ている。軍艦をまた進ませるようにするためにさ、燃料が必要だろ。それと同じだ。鋼材なんかも試してみたらいいんじゃないの。そうだな、燃料と鋼材は液体上にして水に混ぜるとか。お風呂とかでいいんじゃね。陸のほうで取れる原料も試してみてさ、私達を治せねえのかなって」


少佐君「その発想はなかった……とりあえず鋼材の件は試してみましょう!」


とすぐに慌ただしく走り去ってしまった。


島風(想力……ねえこれを利用したら一瞬で治らないかな?)


治るだろうな。だが、それが出来たら苦労しないのだ。想力なんて存在は遠い未来で海の傷痕に辿り着く辺りで気付くやつが出てくるだろうな、といったところだ。今は未知を未知と認識しているのみの試行錯誤の歴史だし、そもそも人間が進行する理屈の科学力で想力が解明できはしないだろう。物質とは対極の精神の力なのだ。想像が質量を持って創作を短縮する力なぞ今の段階で辿りつけてたまるか。


島風(私達がルール違反を犯して想力乱用するんじゃなくてさ、私達もともと想力で強化されているわけだよね。ルールの中で与えられた想力を利用すればいいんじゃないのかな?)


戦後復興妖精(妖精か? 貴重な女神や応急修理要員の想でも混ぜるつもりか?)


島風(そうじゃなくて艤装の一部を混ぜるとか? あれって私達とリンクした身体の一部だし、私達に力を貸してくれる味方の想力の塊だよね? なにか効果を与えてくれたりしないかな?)


天才かよ。

艦娘はいわば軍艦人間だ。確かに艤装は想力の塊であり、建造した艦娘の身体も想力をまとうことで身体機能を向上させている。損傷というのはまとった想力を削られているということも同じだ。そういう意味では建造して無機質影響を受けた身体は燃料と鋼材で治りは速くなるのだが、想力を混ぜることで驚異的な速度の回復力が実現されてもおかしくなかった。想力は短縮の力があり、傷の治りを短縮するなぞ正しくその用途に当てはまる。


戦後復興妖精(偶然力でたまたまその状況を試すことになるよう操ってみる)


それを実際に試すはずだ。今はまだ平和といえるが、この状況を打破するためには今ここにいる皆の力が必要だった。この大発見が当たり、『艦娘が秒の時間で傷を直し、再び前線に戻ることができる』となれば、全世界の希望と成り得た。


通信手段がない今、なんとしても帰って伝えなければならない。ここにいる全員一人一人が世界を救う勇者に任命されたも同然だろう。そしてこのシステムを使えば、みなが生きて帰る可能性も大幅にあがる。


これは私にも分かった。

必ずみなの士気は爆発する。


大鳳「失礼しますね。朝食をお持ちしました」


戦後復興妖精「おう。御苦労」


大鳳が朝飯を運んできた。木の皿が二つだ。片方は昨日に飲んだスープだろう。もう一つのメインディッシュは謎の物体だ。とぐろを巻いているなんかだった。清霜が「うげ」と嫌そうな顔をした。これがなにか心当たりがありそうだったので、「これなに。普通に食えるけど」と聞いてみる。


清霜「あ、ちょうどそこの窓の外に張り付いているやつだよ」


窓のほうに眼をやる。ねばねばとした液体の跡を残しながら窓を這っている、思わず口から吹いてしまった。(めっちゃ大きいカタツムリなのこれ! 気持ち悪っ!)と島風が悲痛な声をあげる。初めて意見が合ったな。あんな気持ち悪いもんを食べるとか人間ホントに無理だわ。


大鳳「食べても大丈夫ですよ。この辺りに生息しているマイマイさんでして、食料として普及していたそうです。これがこの色なのは火をしっかり通してあるからです。なんか火をしっかり通さないと、寄生中が脊髄の中に入って脳障害を起こしてしまうそうです」


戦後復興妖精「食えるか! ちょっと食べちゃっただろ!」


大鳳「知らせないほうが幸せかと思いまして……」


清霜「アメリカの人達が色々と知っているんだよね。そこのヤシの木とか燃料になるんだってさ。キャンプファイアの火をつける時とかヤシの木でやったしね。意外と資源はあるみたい。ただ選択の余地はないから、みんなこの大きなカタツムリを食べていたよ……味は悪く、悪くない」


清霜がパクリとかぶりついた。大鳳は眼をつむりながら口に含んだ。


戦後復興妖精「お前らすげえな……」


清霜「深海棲艦に比べればこの程度は余裕だよ! 怖くないもん!」


大鳳「ええ、食べておかなくていざという時に戦えなくなるほうが嫌ですから」


あの海を越えて度胸がついたようだった。あの地獄に比べたらなんてことないか。


清霜「帰ってお母さんに会わなきゃだしね」


大鳳「大きな勲章をもらえば兄が狂喜乱舞しそうです。その顔、見てみたいです」


清霜・大鳳「生きて帰ろうね」


ずいぶんと仲良くなったようで。

人類の存亡とか深海棲艦の殲滅とか、そういう言葉は二人の口から出てこなかった。大義や理想ではなく、身近な人間のことを考えている。


家族ねえ。


私は私のパーパとマーマを思い浮かべてみる。子供を自営業の運営を回すために産んで、その直後からこき使い、現在進行形で人間を殺し続けているだけに留まらず、マーマは定期的にパーパを殺しているような最悪な家庭だ。


清霜・大鳳「もちろん島風さんも」


いや、私は適当に死んどくわ。次こそ殉職してみせるぜ。


島風(あなたはなんというか、面倒臭い性格しているね……)


お前のような後先考えずに同化しやがる馬鹿よりはマシかな。

とりあえず二人が食べて私が残すのは負けたような気分になったので、無理やり口の中に詰め込んで水で胃の中に押し流した。


食事が終わった後、適当にしゃべっていると、昼前の時間になる。窓の格子のほうから少佐君が走って来る。気が触れたみたいに大声を出していた。窓外まで来ると「島風さん、あなたの推理は見事に的中であります!」と右拳を天に突き上げて、何度もその場で跳ねた。


少佐君「鋼材が少なかったので大鳳さんの艤装で壊れて分離した破片を溶かしてみたのですが、サラトガさんが入渠したところ、時間にして10秒程度で傷が塞がりました!」


え、え、と困惑する大鳳と清霜に少佐君が自慢気にその研究結果を語り始めた。長ったらしくだ。


その説明を耳で聞きながら、少佐君の向こうで慌ただしく駆け回る兵隊を見つめる。持ち込んでいるのは資材か。方角的に海のほうだ。日本人の「船にこの設備を」という声が聞こえて、なにをしているか察した。人間も馬鹿じゃねえな。軍艦に入渠施設を移そうとしていると見た。


確かに軍艦に設置したら、そこを拠点に戦える。


そして皆の顔は昨日よりも遥かに輝いていた。この熱気と眩し太陽、そして綺麗な薄い青色の海に似合う表情をしながら、歌を歌いながら嬉々として資材を運搬していた。この情報が広まったのはすぐのようで、司令長官から「世界を救うために」と御高説を聞かされた。


夕方に警報が鳴った。サラトガの偵察機が深海棲艦勢力の接近を確認したとのことだ。私が来てから二日も持たなかったか。ただみんなの働きぶりが凄まじかったのもあり、いつでも出航できる状態なのは不幸中の幸いといえた。


私は用意された簡易な部屋から出る。


大鳳と清霜は刺繍入りの軍服を身にまとい、軍帽をかぶる、初陣の時とも朝の時とも違って凛々しい兵士の顔をしていた。その後ろ姿、背にある『大鳳』と『清霜』の文字を見つめる。それぞれモデルの軍艦に名前負けしない風格が身についてきたな。予想以上の成長グラフに舌を巻く。


出発は三十分後だった。私は高い丘に登って、海のほうを観察するとした。


なぜか清霜と大鳳も後をついてきた。まあ、いい。


その丘では空を飛ぶ偵察機を見つめるサラトガもいた。そういや、全員がこんなに近くで顔を合わせるのも初めてのことだった。サラトガは「必ず帰って伝えなければなりません」とこれまた覚悟を決めた兵士の顔をしていて、昨夜の穏やかな女性らしい顔つきは消え失せていた。


戦後復興妖精「敵は30体くらいだっけ」


サラトガ「旗艦に新種がいます。空母棲姫よりも小柄ですね。空母棲姫が女性というのなら、あれは少女のような風体です。足がなく、可愛らしいサイドポニィですが深海棲艦です」


その情報ですぐさま分かった。

駆逐棲姫。

これまた面倒なやつが来た。アレの厄介な点はとにかく『速い』のだ。性能的にパラメータが突き抜けてはいるが、その中でも速度と雷撃には眼を見張るモノがある。その未確認の深海棲艦の生態を教えるわけには行かないので、予想として伝えておいた。


戦後復興妖精「姫の可能性が高いな。今度は向こうから死地が来た」


全員表情を変えなかった。そうですか、といわんばかりの余裕がある。てっきり清霜なんかは涙目になって狼狽するかと思っていたが、うん、あの成長の雰囲気はまやかしではなかったようだ。


皆が思っていることは同じだろう。

入渠、そして高速修復の件は絶対に持ち帰って伝えなければならない情報だと認識は共通している。

その使命を果たせば人間は深海棲艦に勝てるのだと、人類は負けないのだと、多くの命を未来に繋げるのだと。


気炎万丈の全員の声が重なって、海に向かって飛んで行った。



こんなところで、












死んでたまるか。


【14ワ●:VS 駆逐棲姫】


軍艦護衛の任務の開始と同時に敵深海棲艦殲滅の命も受けた。

少佐君の胸倉つかんで司令長官と話をさせてもらった。こちらの要求は「清霜、大鳳、サラトガを率いる私が深海棲艦の戦いに指揮を執るからお前らは進むことだけを考えろ」だ。実際はもっと優しくいってやったけどね。


まだ人間は深海棲艦との戦い方を知らない。生き残りたいのなら戦う術を持たないただの人間が戦線に出しゃばらないほうがいい。前のように特攻でも仕掛けたら、この一隻の船に向かって深海棲艦はなだれ込んでくる。その結果、死ななくてもいい仲間達が処理し切れない程の死体になったのが先の海戦の結果だ。私達の支援に専念してくれるのが最もこちらとしても助かる。


島風(空は取れるし、空母棲姫よりは地獄を見ずに済むかな?)


戦後復興妖精(マリアナの時より地獄だぞ)


なぜならば任務は急襲してきた深海棲艦勢力の殲滅ではなく、この敵勢力が溢れかえる海域を抜けて、この船を泊地まで輸送護衛することだからだ。つまりこの一戦だけでなく、限られた資源での連戦が想定される。しかもあの時よりも使える道具は劇的に減っているときた。軍艦に爆弾の一つでも受けて沈没してみろ。乗員達が救命ボートで逃げ出せたとしても交渉すら出来ない悪魔どもがうじゃうじゃいる敵地で戦う術もなく浮いているだけだ。その先は想像するに容易い。


それをメンバーに伝えてから、更に私から作戦の前に心持ちについて話しておくとする。


戦後復興妖精「もう死ぬと思ったら敵一匹を道連れにしろ。強いほうがいい。それか味方の盾になって沈め。こっちは実質4人でそれ以外は護衛対象のデクの棒に過ぎねえからな。そのもろいデクの棒どもを故郷へ返すために、お前ら身を削って戦い抜く覚悟はできているか?」


予想通りの答えが返ってきたので、この話は終わりだ。


当然ながらサラトガは制空権、必要ならば大鳳もそこに加わるが、大鳳と清霜は主に艦載機は船の護衛に回してもらう。やっぱり私が切り込み隊長だよな。数が少ないし、錬度はサラトガ以外お粗末だ。更にいえばこのサラトガは素質性能がそう高いほうではなく、大きい力をただ大きく振るう傾向がある。時間があればそれとなく空母の妙味ってやつを教えてやりたいんだけどな。空母の性能は搭乗数では決まらないのだ。そこを熟知しているのであれば軽空母のほうが余程強い。


少佐君「進路のご報告です」重い足取りで少佐君が歩いてきた。「泊地ではなくマリアナ海域へ戻り、戦線の友軍と合流します」


悪くはねえ。マリアナは奪い取り、深海棲艦を追っ払っておく必要がある。深海棲艦の中にはB29と同等の飛行距離を持つ艦載機を持つ深海棲艦もいる。奪還し返さなければ日本の東京まで深海棲艦の攻撃が飛んでくる恐れが出てくるのだ。そうなれはだ日本国含めてアジアにとって命取りになる。


かつての戦火を散らして散々な目に遭ったマリアナの記憶はあるのだろう。どうやら軍人としての使命、そして高速修復の情報を持ち帰る欲張りな進路を取った。


サラトガが長い睫毛を悲しげに伏せた。


戦後復興妖精「サラ」


ニックネームで彼女の名を呼ぶ。


戦後復興妖精「次にその顔したら、ブッ殺すぞ」


もともと米兵と上手くやれっか、というのが下っ端日本兵の総意といってもよかった。


しかし、ともに死線を乗り越え、生き抜くために手を取り合うことで仲良くなってしまった面も否定は出来なかった。人間は本当に色々なやつがいるからな。


マリアナの飛行場から発進したB29の空襲はこれから先も深い傷痕として残るだろう。その甚大な被害で、今は更にマリアナの海は絶対に、と精神的な問題でもあるはずだ。


少なくとも、ここにいる兵隊の皆はそうだ。

人間はどこまでも残酷になれるが、仲良くなることで相手を思いやることが出来る。私はこの時のサラトガの想を探知して知ることが出来た。日本国と深く関わるサラトガは去年の出来事を厚かましくも、申し訳なく思っているみたいだからな。


だが今は他のことに意識を向けている余裕なんかないのだ。


少佐君「任務が失敗した時は世界人口の半分が深海棲艦に殺されると思いなさい」


少佐君が珍しく凛々しい表情で、鋭い声を出した。


少佐君「艦の娘の傷の高速修復、私達はそのレベルの発見をしたのです」


戦後復興妖精「今一度いうぞー。人間のパイロットは機体に乗せて発進させるなよ。戦うな」


少佐君「パイロットがみな負傷して、操縦できる人がいないのであります。そもそも先のマリアナで艦上機は9割も破壊されてこの空母に残っているのはF6F一機のみであります」


戦後復興妖精「そりゃ都合が良い。それじゃ各自、抜錨準備に入れ」


清霜・大鳳・サラトガ「了解」


艤装をセットし始めた皆に続き、私も島風の艤装をこの身に装備する。


少佐君「島風さん、無事に生きて帰ってきてくださいね?」


戦後復興妖精「おう」


少佐君「あなたは不思議な人でありますねえ……私の立場がまるでない。激励の一つでも飛ばして勇気づける程度の格好はつけさせてくれてもいいでしょうに、あなたの言葉のほうが清霜さんや大鳳さんそしてサラトガさんを強くする」軍帽のつばを下げた。口元は笑っていた。「出会った時に作戦を告げ時は恨めしげな眼で泣いていたというのに。あの北方海域で一体なにがあったというのか」


解釈的には別にこちらに支障の出るような疑いは持たれていないようだ。そういえばそうだな。少佐君は北方の海戦で私が出会う前の島風と会話をしている。私と別人みたいに性格が変わっているし、北方奪還に加えて、空母棲姫撃破から奇跡の生還、究明作業に高速修復の情報の発見、そして帰宅の護衛任務、この長旅を終えたらいくつの勲章がもらえることか。


戦後復興妖精「私は出る。少佐君は司令部に提出する戦闘詳報でも作っといてくれよ」


少佐君「またあの歌をともに歌いたいものですなあ」


勘弁してくれ。お前の音痴は聞くに堪えないんだよ。


敵深海棲艦は数こそ多いが低級ばかりで、しかも空母がいないという幸運に恵まれた。


とりあえず敵影は目の前の35体のみで、すぐさま駆逐してやればサラトガの艦載機はまた補充すればいい。艦載機の群れが空を舞って、敵機目指して空を真っすぐに飛んでいく。戦線はなるべく離すが、出来るだけ後ろの護衛にも気を回せる範囲、と考えていたが、大鳳と清霜に任せても問題ないと判断したので気が変わった。今の二人は背中は任せるに値する。


島風(あはは、艦橋から私達が見えるね。島風の速度と魚雷の能力を見せつけてあげよう!)


戦後復興妖精「見られている以上は本来の性能に限定するぞ」


島風(おう! 華の二水戦、島風の能力だけで十分だよ!)


とにかく駆逐棲姫は私が沈めよう。性能は知っている。まだ新種というだけあってラインナップに加えられたのは新しいが、確かアレは白露型の春雨をモデルにして作った日本製の姫のはずだ。無論、姫の名を冠するだけあってべらぼうに強い。

私の中では夜に会いたくないやつNo.1だ。


航行技術で砲弾と魚雷を回避しながら、艤装にくっつけた連装砲ちゃんで砲撃を放つ。こちらの数が少なく相手の水雷戦隊の数が多い時は一体を沈めるよりも、中破以上の損傷を与えたら次だ。


自律式の連装砲ちゃんと島風の艤装に装備されている高角砲の砲塔を慌ただしく動かして敵を打ち抜いてゆく。


島風(敵さんおっそい! 止まって見えちゃうね!)


そうなっているのは制空権を取っているお陰で、私一人が標的にされていないのも大きいし、中破させた敵深海棲艦をサラトガの艦載機が処理してくれているのも大きかった。しかし、このまま押し切ることが出来るのは向こうが低級だけの場合だろう。


一匹、常軌を逸した化物がいる。空母棲姫とは違ってよく動きまわり、はしゃいでいるやつだ。「アハハッ」と笑いながら、飛ぶ鳥を落とすかのように、艦載機を次々と撃墜させていく。艦功の機銃がまるで当たっていなかった。海の上で踊るかのような繊細で抑揚のある航行をしている。


島風(あの姫の深海棲艦……)


思ったのは同じだった。


戦後復興妖精・島風「速い」


島風のお株を奪うかのような航行能力を有していた。艤装の作りも艦娘よりも上等に設定してあるのは嫌というほど思い知っている。駆逐棲姫は下半身を丸ごと艤装に設定している。私達のように二足で海をゆくのではなく、人間サイズの船に人間の上半身をセットしているため、私達より海を安定して滑らかに動きまわれる。小周りはこちらに部がありそうだが、二足航行の私達はバランス感覚も重要なので、全速前進して強風に煽られれば転覆してしまう恐れが出てくる。あの駆逐棲姫にはその心配がない造りになっている。下半身の船、細身の上半身がマットのように風を受け、単純に前に進む速度は向こうに軍配があがっていた。


駆逐棲姫が低級深海棲艦を素手でつかみ、強引に位置を変える。空を守るために輪形のような隊列を組ませ、深海棲艦はそれに呼応するように対空に重視を置き始める、基盤となっている想の本能による挙動か。深海棲艦には知能がなくても、戦闘においては本能でそつなくこなしやがる。


どうやら私に特攻するために、空を他に任せたか。なかなか知能は高いほうか。


連装砲ちゃんを自律航行にして、迎え撃つ。


低級を回してもスペックはたかが知れている。高錬度のサラの空襲は止め切れず、沈むのは時間の問題といえた。突っ込んでくる駆逐の姫に高角砲を向けた。連装砲ちゃんと意思疎通をし、地道に損傷を与えていく。私は迂回して輪形で空に夢中の深海棲艦の左翼に回り込んだところで、駆逐棲姫が突撃してきた。


戦後復興妖精「ったく駆逐の姫様、その性能とんだ宝の持ち腐れだな……」


駆逐棲姫はその輪形陣を突っ切る最短でこちらに近づく進路を取った。


連装砲ちゃんが背後から発砲する。すぐに旋回して狙いを切り変えるという支離滅裂な行動、すでに手の平の上だった。

タイミングはばっちりだ。


直線状に撃っておいた酸素魚雷が駆逐棲姫艤装の艦尾に直撃する。小破から大破にまで追い込むと、駆逐棲姫の表情から笑みが消える。


島風(戦後復興妖精さん、あの子、右手になにか妙な破片を持っていたよね?)


そういえば右手になにか握り締めてはいたが、気に留めてはいなかったな。


駆逐棲姫「ヤラセ、ハ、トドケ……」


想を探知して解釈を試みる。深海棲艦は純粋無垢な分だけ察知しやすかった。


こいつの想いに強くあるのはソロモンでの記憶だった。

ベース的に分類されているのはやはり駆逐棲姫というだけはあって駆逐艦だった。


その手の中にある破片には微弱な想がある。

亡骸か。


わざわざソロモンで夕立の破片を拾って日本へ輸送護衛中のようだった。残念だけど人間は君を温かく受け入れてはくれないぞ。深海棲艦風情が、虚しい姉妹愛の夢を見やがってさあ。


駆逐棲姫「わたし、カエラナキャ、ヤラセハ、シナイ……」


戦後復興妖精「こっちの台詞だよ、駆逐棲姫!」


駆逐棲姫の艤装は魚雷によって艦尾を損傷してなお加速する。受けて立つ、といわんばかりに私も前に出た。思っていることは同じだった。人間も妖精も深海棲艦も戦争中だと似たような存在なんだな、と思う。邪魔だ。そこを退け、の言葉の代わりに死の撃鉄をぶつけ合う。


戦後復興妖精「ぐ……」


強え。弾幕、魚雷、速度、思い切りの良さ、大破してなお押し負ける。一体なにがあそこまでこいつを強力に仕立てあげるというのだ。目には見えない強力な装備を隠し持っているかのようにすら思える。想の探知でも分からない。数値の理屈を越えた世界の不思議に謎は深まるばかりだ。


駆逐棲姫「オチロォ!」


右舷に被弾、中破航行可、燃料漏れ発生だ。

こうなれば性能差に圧倒されるのみだった。面倒臭え。後は大鳳達に任せて、ここで殉職処理を頂くとするか。北方奪還からの勇躍、十二分に働いたはずだ、と物思いに耽っていると、連装砲ちゃんがその砲塔から火を吹かして駆逐棲姫の艦尾に砲弾を命中させた。


島風(みんなにはあれだけ好き勝手いっておいて諦めるの速すぎるよ!)


戦後復興妖精(あいつ強いんだよ。お前は速いの好きだろ?)


島風(諦めの速度は要らないから!)


身体の舵を取られる。連装砲ちゃんを動かしたのは島風か。砲や魚雷の精度はともかく、艤装の航行術においては練度が低いくせに私より扱いが上手かった。駆逐棲姫の攻撃を上手く交わし続ける。砲や魚雷を回避して速度を持って懐まで喰いつかんとする本来の島風の戦い方だった。


島風(ぐ……攻撃が当たらない。北方の海でも、敵に全然当たらなかった)


戦後復興妖精(島風、今の感じで航行面の舵を執れ。攻撃は私が担当するから)


私の見立てではそれで勝てる。

了解、との声もなく、海を往く。すでに死は色濃い。あの時みたいに不思議な謎パワーが湧いてこねえかな、と物は試しだ。大声で歌ってみた。突然寄生を発したせいか駆逐棲姫の身体が一瞬びくっと震えたが、残念ながら隙となる程ではなかった。


島風の力を借りることで航行面をグレードアップした。しかもオートのため、他に意識を回せる。先ほどよりも砲撃も魚雷も精度があがっていた。


戦後復興妖精「海行かば水漬く屍山行かば草生す屍大君の辺にこそ死なめかへりみはせじ海行かば水漬く屍山行かば草生す屍大君の辺にこそ死なめかへりみはせじ海行かば水漬く屍山行かば草生す屍大君の辺にこそ死なめかへりみはせじー」


もはや謎の呪文だが、魔法の効果はある。気分が高揚するし、攻撃にリズム感が出るね。器用に魚雷の列の間を縫い進み、弾着観測射撃、砲撃の連撃をお見舞いする。


島風(もうすぐ航行不可になるから、そろそろ決めて!)


戦後復興妖精「なら200メートルほど連装砲ちゃんに寄れ。意思疎通範囲を越えている。ちなみに一秒が生死に直結する。あの駆逐棲姫、相打ちでも薙ぎ払う気になっているぜ」身体がターンして連装砲ちゃんとの距離を縮める。「遅いぞ。速く、もっと速くより速く」


島風(速いでしょ!?)


遅いんだよな。前とは立ち場が逆になってら。


意思疎通範囲になると新たな命令を送る。私が高角砲の連撃が放った砲が駆逐棲姫に被弾、間髪いれずに連装砲ちゃんが砲撃を開始する。弾薬も燃料も全て使い切って構わない。予想通り、駆逐棲姫が苛烈な攻撃をしかける連装砲ちゃんのほうに狙いを切り変えた。


戦後復興妖精「さようなら!」


連装砲ちゃんに向かってすでに酸素魚雷を撃ってある。駆逐棲姫の速度も十分に観察できたし、タイミングもばっちりだ。


駆逐棲姫の艦尾に被弾、爆発音とともに水柱が空に弾けて、黒煙が絶え間なく吹きあがる。「ア、ア……マタ、ワタシハ……」との声が聞こえた。介錯の砲撃を撃ちこみながら、更に前に進んだ。


駆逐棲姫の身体は海の上にバラバラに弾け飛んで漂流している

胸から上だけで連装砲ちゃんをつかみ、浮いているといった状態だった。真っ二つではあるが、まだ少しだけ身体と艤装が連結している。高角砲を調整して、最期の一撃を放った。


私がそれを届けてやるよ。

今度はこっち側に来るといい。きっと姉とも会える。


沈みゆく駆逐棲姫に囁いた。

大破した連装砲ちゃんを回収して島風艤装の定位置にセットしておいた。しかし、よくもまあ勝てたものである。姫なぞ駆逐艦一隻で勝てるような性能には設定されていない。私という島風は最初期にして歴史最強の駆逐艦といっても過言ではないほどの戦果である。足ですねをかいてから、ちりちりと燃えている甚平の裾をちぎって海へ投棄した。


戦後復興妖精「なるほどね……」


いつの間にかうじゃうじゃいた低級深海棲艦も空からの攻撃で水底に沈み切っていた。


独りでは勝てなかった。島風とそれぞれの分野を分担することで凌ぎ切ったことは疑いようもない事実だ。二人で力を合わせれば不可能がひっくり返る可能性が出てくるようだ。

道理で人間は群れるわけだ。


大破は島風だけ。大鳳、清霜、サラトガに加えて護衛対象にも損傷はなし。

っつうことは文句なしで勝利S判定だろ。


【15ワ●:VS 戦艦棲姫】


勝利の祝福か宿命か、技術員がようやく通信設備を修復。間もなく、フィリピン駐屯軍が泊地にしているサマール島のオラスにある軍部施設との通信に成功した。

電報によると先のマリアナ海戦のド派手さも幸運を呼んだようで、周辺に潜伏していた深海棲艦は分散を始め、各方面から各個撃破の勝利報告が相次いでいるとのことだった。恐らく空母棲姫という頭を失ったため、手足が好き勝手に行動を始めたのだ。多少の理性がある姫や鬼がいなければそんなもんだ。


救援要請も受諾され、艦内に張り詰めた緊張の糸がたるんだ。が、そこはやはり名のある司令長官だった。最初に日本語で「我々が空母棲姫を仕留めた戦果は承認された」といって、その後に英語でアメリカ兵にも同様に伝えた。ま、勲章は生きて帰れたらだがな。


その空気の中でも、少佐君は独り嬉々として戦闘詳報を綴っている。水路誌や海図、それに信号誌に眼をきょろきょろと動かし、戦闘詳細に手をつけていた。


ちらりと覗いてみれば、先の駆逐棲姫の戦いについての記録だった。パイロットのくせに航海士の学もあるようで慣れた手つきだ。そういえばマリアナの時の艦橋で似たようなことをしていたっけか。航海士として艦長を補佐していたのだろう。


戦闘詳報の記述を終えると、図面を引き出した。ハワイの海図でも書いているのかと思えば、軍艦の砲塔資料、魚雷、そして深海棲艦の暫定情報の塊だった。熱心な顔でなにやら図面を引いている。


偵察機には辺りに深海棲艦の敵影は発見されておらず、後の偵察と船のレーダー室からの探知に任せてしばしの休憩をもらえることになったので、大鳳と清霜、サラトガを召集して次なる備えに移るとする。海図を広げて、海域についての説明と戦術的教唆の座学を実施した。


戦後復興妖精「さて清霜、このような面倒臭い地形はなにを危険視する?」


清霜「ええと、狭そうだし、衝突とか?」


戦後復興妖精「それは常に気をつけような……」


変な答えが返ってきたらド突こうと思っていたが、呆れ返させた清霜の勝ちでいいや。


大鳳・サラトガ「潜水艦ですか?」


戦後復興妖精「その通り。北方海域での知識ではあるが、この手の地形で潜水艦型深海棲艦において駆逐は必ず聴音機を装備しろ。この面子では空よりも海の中だ。絶対にT字有利を引くことを避けるよう細心の注意を払うべし。潜水艦は怖え。不意討ちで戦闘に入る前に大破させられることなんてザラだ」


大鳳の表情が強張った。嫌な記憶を掘り返したようだけども、気にせず講義を進める。


戦後復興妖精「先制対潜も教えてやりたいけど、難易度高いから後回しで」黒板に図を描いた。「これが警戒航行序列の基本の進みだ。ジグザグ航行、大きな魚雷回避効果が見込める」


とのことで実際に抜錨して、航行訓練を実施する。

すぐに上の許可をもらえた。物分かりがよくて助かる。実際の軍艦と艦娘じゃ勝手が違うが、サイズ的な問題で深海棲艦はそもそも大戦時の死者の想で塗り固められているため、そのまま流用しても通じる場合も多々あるのだ。トレース的な思考は間違っていなかった。


立場上、伝えられないが、深海棲艦の想に繋いで新たに戦術面もそれぞれの国の特色が出ていることが分かった。マリアナでの敵艦載機の戦術、先に交戦したあの深海棲艦はほとんどが米軍想で構成されていたのだが、単騎で突っ込むと挙動が一瞬、怪しくなる。これはその想に艦が一隻で空母の護衛もなく突っ込んでくる戦術自体を想定外としたからだ。


駆逐棲姫は即対応できたが、あれは例外だ。

本当はもっと教えてやれたのなら戦闘も楽になるだろうが、そうも出来ない歯がゆさがある。少佐君に先の戦闘詳報を見させてもらったが、大鳳も後ろに流れて行った深海棲艦をきちっと処理出来ているし、清霜も短距離の砲撃の精度があがっている。地獄を越えた成長の証といえよう。


潜水警戒陣で軍艦の側面について練習をする。


途中、スコールに見舞われ天測が不可になり、難航したが、幸いにも時間を喰っただけで敵の勢力とは遭遇はしなかった。


我が艦隊は、粛々と進撃中だ。


進路を取っている泊地から電報が入ったのは太陽が沈みかけてからだった。レイテ島周辺海域から大量の深海棲艦反応、このさもしい連合艦隊の護衛輸送中の北方鎮守府旗艦島風および大鳳、清霜に応援要請、護衛を救助隊に引き継いだ後に迂回してレイテ湾突入し、敵勢力を撃滅せよ、と。


指定された戦場付近では現時点で確認された深海棲艦反応は100の数を越えていた。


現地点でも深海棲艦反応を確認の報告が清霜、そして大鳳が偵察機から報告を受けた。夜戦の波を何度も越えた先に救助隊と合流し、そのまま更なる激戦区へと駆り出される。頭の中で海図を描くほど絶望に支配されていく。何の浮流物もなく果てない広大な海、カラカラとした南の陽差しに当てられて輝いていた海は殺意の牙を剥き出しにした。


召集を受けて、私達は整列に移動する。士官室にはそれぞれ、日米の分隊長も集まっていた。艦長はすでにマリアナで失っているため、司令長官の言葉により盃を交わし、解散後、分隊長はそれぞれの持ち場へ戻り、隊員のもとで同じく酒を飲み交わすこととなる。私は艦娘の皆と、だ。やるのは言葉だけで酒は飲ませねえけどな。さてと、この場は司令長官も言葉を選ぶ必要がある。


「諸君、天から授かった重要情報は伝達を終えて、我々は任務を完遂した」


さあ、どの言葉を選ぶ、さすがに日本式の言葉は自重するべきだろう。


ここにいるのは先の大戦で殺し合いをしたアメリカと日本の兵隊だ。お互いに思うところが多く、作戦前からケンカが絶えなかった。今はどうか、と問われたら、大分マシになってはいる。多くの英霊を見送り、漂流し、短い仲でも苦楽を共にして、されど芽生える感情は確かにあった。


「我々は帰還するために生を辞す。各々の戦闘配置につき、これまでの訓練、精魂を出し切り、任務に悔いを残さぬよう、励みなさい。今は過去の荷物を捨て、未来に舵を取る」軍帽を取って分隊長に辞儀をする。「我々は深海棲艦なぞに滅ぼされない。今はただ人類に乾杯しよう」


なるほど人類万歳ってか。

各々が酒を煽り、士気を高める。

司令長官が苦笑い混じりになまりの強い弱音を連ねたのを私は聞き逃さなかった。沖縄特攻で拾った命に、今になって友が手引きしていら。あの時に出来なかった最期の奉公のため、いざ海を往かん。ああ、と帽子のつばで眼を隠すと、口元で穏やかに苦笑した。死にたくねえなあ。


顔の皺よりもずっと深い心の皺を感じた。


私は机の上に飛び乗った。少佐君が「ああ。私が作った戦闘詳報が!」と半泣きの面になったが、無視する。縫い合わせた深緑の甚平のポッケに手を突っ込んで、仁王立ちをする。


戦後復興妖精「島風型一番艦島風だ。マリアナ海戦では空母棲姫を撃沈、先の戦いでは駆逐棲姫を撃沈、救命した人数も数えるの面倒なほどだ。深海棲艦に負ける気がしない」


任せろ、といいたくなった。人間の真似をしたくなったのだ。その司令長官の想い、私にも手に入るだろうか。それを知れば人間の秘密を知ることが出来そうな気がした。私は死んでもまた復活させられるだろう。私の死はここにいる全員の死よりも、遥かに軽いとは分かる。


島風(あ、私もそういうのいいたい!)


ま、一心同体の身だ。お前にも働いてもらうわけだし、この場は許可してやろう。


島風「全員、国へ帰そう。その為に今作戦で私は血肉を捧ぐと誓う!」


杯を強引に司令長官の杯とかち鳴らせて、中身を煽る。しまった。飲み干しちまった。まあ、いい。その後に追加で酒入れて、分隊長どもとも同じように杯をかち鳴らした。みな、国に帰りを待つやつがいるだろう。大鳳達もそうだ。こんなところで死んでたまるか、の想いは同じだった。


司令長官は少し呆けた顔をして、「次太郎」と名を呼んだ。少佐君が反応した。そういえばそんな名前だったか。「なあ次太郎、この子まだ14だったよな。お前、その歳の頃こんなこといえたか?」と震えた声でいう、少佐君は答える。「まさか。14歳なぞ警報が鳴れば逃げ回っておりました」と申し訳なさそうにいった。「島風さん、というか、マリアナ以降、艦の娘達が血気盛んで」


米の分隊長が笑いながら英語でいった。

日本は近い将来、女性に支配されるだろう。


戦後復興妖精「The same to you」


お前らもな、といってやった。米兵の男どもも思うところがあったようで苦笑していた。


2


闇が色濃い夜戦では偵察機が上手く機能せず、索的面で不備が出る。南西の方角から深海棲艦勢力を確認しているが、闇が色濃い夜戦では広範囲において眼になっていた偵察機が上手く機能せず、索的面で不備が出てくる。頼みの綱は電探、そして私の想の探知だが、こちらは4名、加えてこのメンバーで軍艦護衛も並行する。清霜の水中聴音機で辺りの潜水艦の位置を特定、その情報を耳に入れて想の探知で警戒網を敷いておく。


後は先と同じく。大鳳の艦載機は夜に戦闘力が格段に落ちる。

サラの力を借りて、またまた島風の性質頼りの特攻をしかける。


作戦の伝達を終え、各々の役割に入った。


不意に悪寒が全身を拘束した。この広大な海の時が止まったかのようにさえ思える。次の瞬間には地震を想起させるほどの振動を感じた。世界が大きく揺れて、激しい突風に煽られた。バランスを崩しそうになるが、なんとか踏み止まった。


なにが起きた? 地震か?


右上腕部に大きな鉄屑が突き刺さっていた。細かな破片も、だ。黒煙があがっている。清霜がサラの腕を手に取って、素早く軍艦内へ退避護衛を始めた。一体なにが起きたというんだ。


大鳳「急襲艦隊に姫を確認です。新種ではないですが……ハワイを空母棲姫とともに焼いた敵です……!」


戦後復興妖精「この長射程で、この威力……」


大鳳から特徴を聞いた。想の探知にひっかからないということは少なくとも長距離にいる。加えてサラは馬鹿じゃねえ。陣形での航行練習中でも偵察機を飛ばし、気を張り巡らせていた。練度90だぞ。こちらの世界最強の空母を一発で戦闘不能に追い込む凄まじい一撃の重さは――――


戦後復興妖精「戦艦棲姫か……!」


戦艦棲姫とか勘弁してくれよ。どうしてこうも最初期では個体数の少ないレアな奴に眼をつけられてしまうのだ。島風の砲撃火力数値は改造されていない今29が精々だ。対する戦艦棲姫は220ときている。私の7倍近くの火力に全振りした強力な姫であり、空母機動艦隊がこの姫一隻に海の藻屑とされている。


大鳳「島風さんでもそんな顔をするのですね。どうにもならないって」


こんなところで死んでたまるか。大鳳は出航前と顔つきは変わらなかった。


空は取ります。そう冷静沈着な表情と涼やかに凛として声で飛行機を空に舞わせた。


戦後復興妖精「サラと清霜は戻ってきたら作戦に変更なしと伝えてくれ」


それじゃ行ってくる。航行を開始した。


戦艦棲姫の水上打撃艦隊か。こいつら足は遅い癖に進路は決まって真っすぐだった。障壁があれば迂回することは頭になく、海の障害物を薙ぎ払い、突破してくる性質のようだ。進路上にある障害物全てを海の底へと吸い込ませていく掃除機みたいな連中だった。


島風(ル級、だっけ。北方の海でも見た。あいつは私の砲撃でなかなか沈められなくて挙げ句に大破させられたんだよ! 私がル級と砲撃戦で長期戦になると、きっと負けちゃう!)


戦後復興妖精「……分かっているよ」


島風(速く! もっと速く! そして魚雷で装甲を抜いて沈めるべき!)


夜の砲雷撃、電探知と想の探知をフル回転させて警戒網を敷く。独りでは管理出来ないが、今、私は二人いる。役割分担をし、島風艤装を本来の適性率とはかけ離れた戦闘力を発揮する。


錨を降ろし、海の底へと降ろす。ベストポジションだった。岩間に喰い込んだ。鎖を調節すると、引っ張られるように速度が落ちて、そこで鎖を引きながら強引に進路をねじ曲げ、大きくターンした。速度と航行術で十二体の重編成の水上打撃部隊相手にT字有利を強引にかすめ取った。すぐに偶然力を作動。岩間の錨が外れるように調整し、戦闘位置は理想形となる。


戦後復興妖精「三体目の姫、喰ってやら」


放たれる砲雷撃の嵐は先のスコールを思い起こさせるほどに荒々しく降り注ぐ。限界航行能力を持って魚雷の間を抜いて、砲撃を回避する。絶えず吹きあがる水柱を抜ける。速度と技を持って敵の攻撃の嵐をかいくぐり、重雷装をブチ込むコンセプトの島風艤装とは相性の良い敵といえた。


しかし、敵は12体、手数では負けている。


集中砲火を浴びて無傷とは行かなかった。ダメコンにて被害は小破に済ませてはいるが、砲塔もいつまで作動してくれるか分かったものではない。


魚雷の一本を大事にしながら、確実に周りの低級の装甲を抜いて、夜戦連撃で沈める。


また海が咆哮をあげた。じっくりと狙いを定めていた戦艦棲姫がブッ放してきたようだった。これはちょっと回避するの難しいな。航行部分で相手しよう、錨を手に取り、砲弾の軌道に合わせるようにして薙ぎ払う。身体が爆発したかのような衝撃が駆け抜け、景色がぐにゃりと歪む。


島風(被、弾中破……! 錨周りと右腕が壊れたけど、艤装の攻撃性能に損傷はなし!)


戦後復興妖精(夜戦だぞ! 攻撃面は任せて航行に集中しろよ! ハ級が撃ってきてる!)


砲塔の照準を合わせ始めた戦艦棲姫に高格砲の連撃を浴びせるが、戦艦棲姫は歯がにもかけず、狙いをつけている。分厚い装甲を盾にして主砲で敵をブチ抜くことに一貫していた。ただの力自慢じゃねえ、どこかで己の性能を生かした戦い方を身体にしみ込ませてきていやがる。


島風(……この反応、しまっ――――!)


海中から潜水艦の想を探知、魚雷を発射してきていた。即座に連装砲ちゃんをわし掴みにして、分離する。魚雷の盾にした。連装砲ちゃんには悪いがこの身に直撃するよりはマシだった。それでも中破だった。水しぶきが舞い上がり、身体に衝撃と灼熱を感じた時、


シズミ、ナサイ――――?


無慈悲な怪物の一撃が重なった。


3


とっさにダメコンを試みても、左舷上部の高格砲を貫通し、左の脇腹に風穴を開けられてしまう。大破撃沈に至らなかったのはこの身体に二つの意識があったからだろう。私はもう全ての艤装操作を手放しているが、島風のほうが平衡感覚を維持している。


先程の砲撃は偶然力を作動させていても避けられない。運命になるほどに狙いをつけられた被弾必須の一撃だった。燃料庫から漏れた油の臭い、弾薬庫に引火して爆発したのでは、と錯覚するほどに身体から灼熱を感じる。焼けた意識が天へと昇ってゆく。


戦後復興妖精「……最初期の試作品(プロト)、が……」


かすれた景色の中でなぜか近距離にいる戦艦棲姫の挙動が確かに見えた。弾着観測射撃の構えだった。大鳳の艦載機が飛礫を浴びせている。空も制覇していないのに装甲耐久で強引に、そして確実に沈めに来ていることが伝わる。避けなきゃ死ぬ。こんなところで死んでたまるか。


戦後復興妖精「嘲嘲! 調子に乗ってンじゃねえぞソロモンからの亡霊船がア!」


咆哮。内側に溜まる熱量を天空に吐き出した。


「ー……ぱ?」


確かに戦艦棲姫の身体が硬直した。本能で感じ取ったのかもしれない。この身はプロトとは比較にならない当局お手製の想で構成されている。深海棲艦製造を担当する当局の気配は深海棲艦にとって憶すに値する神の気配だ。その硬直の隙に戦艦棲姫の巨大な艤装の主砲塔に砲弾が命中した。


清霜「へへん! 夜だと駆逐艦もけっこうやれるって私は知っているんだよね!」


清霜の夜戦連撃か。戦艦棲姫、大破の装備損傷。


清霜「島風さん、私に捕まって! 傷を治す準備をしてみんな帰りを待っているよ!」


ここからだ。姫が本気で憎悪を剥き出しにしてくるのは死が迫った時だ。戦艦棲姫に壊現象はなくとも。その性質は姫鬼共通の感情だった。戦艦棲姫が半壊した艤装をなおも強引に動かす。まだ夜戦補正の乗った主砲を放つことは出来る。当たれば最悪、二人ともお陀仏だ。


上空に三機の艦載機も見える。


零戦と彗星と流星だった。夜とはいえ、戦闘の零戦が上手く二機を誘導している。連携を上手く取りながら、流星が雷撃を浴びせ、彗星が戦艦棲姫の頭上で大きく旋回した。ハハ、と乾いた笑いが漏れた。大きく性能が落ちる夜の空母の大鳳でも確実に一撃を与えるアウトレンジの戦術法だ。


弾着観測射撃。


爆弾が戦艦棲姫艤装の主砲に落ちて、衝撃が海を突き抜ける。吹き飛ばされないように清霜という柱を強くよたれかかる。生温い南風が黒煙をさらう。晴れたその先に戦艦棲姫の巨体はなく、砕け散った艤装が海の上を漂流していた。海に片手を入れて、残留物を海から引き揚げる。戦艦棲姫の首から上だ。一応、戦果証明、そして姫の素体は研究部に送っておくことにするかね。


戦後復興妖精「清霜よくやった。ぶっちゃけ窮地を救われたわ……」


清霜「貸しってやつだね?」


元気一杯にウインクした。

黙れ。いくつ貸していると思ってンだ。


清霜「大鳳さんもすごい。艦載機のあの技、どこで覚えたの?」


大鳳「いえ、先の海戦で島風さんの指示で飛ばした艦載機があのような戦術を取っていたので、ハワイで少し練習していたんです。上手くいって良かったわ……」大鳳は胸を撫で下ろして笑う。「大破損傷なのに島風さんが思ったよりも元気そうですし」


そうでもないのは風穴空いた腹と欠損した手足を見たら分かるだろ。清霜に護衛されて艦内の入渠設備に向かった。服も脱がずに湯の中に飛び込んだ。さすがに傷口に染みる。


清霜「それじゃごゆっくり。私は海に出るね!」


清霜の後ろ姿を見送って、側で待機していた少佐君に声をかける。


戦後復興妖精「目的地の海図と水路誌、それと向こうとの電報詳細を持ってきてくれ」


少佐君「……了解であります」


少し眼のやり場に困っている風だったが、そういえば風呂施設みたいなもんか。


島風(ねえねえ、周り男の人ばっかりなんだから、少しはさ隠す仕草くらい……)


やかましい。乙女の羞恥なんざ感じている場合か。それに少佐君が眼を逸らしていたのは私の青臭い肢体ではなく、お隣のサラのほうだろう。バスタオル一枚の姿だ。この緊急時、清霜がわざわざ手伝ったとは思えないし……いや、あり得そうだな。置いといて、サラの容体を確認する。


戦後復興妖精「サラ、意識はあるか」


眼を閉じたまま、少しだけあごを動かした。戦艦棲姫の一撃の重さは身を持って体感した。戦後復興妖精の機能をフルに発揮させても大破の無様をさらした。夜戦の戦艦棲姫のクリティカルをもらえば通常の艦娘であるサラが一撃で大破撃沈になるのも無理はない。


砕けた艤装の破片を溶かして、風呂へと流し込む。量は多いほうが回復も速くなるとは思うが。弾薬も燃料も限りがある。目的地までは持たないだろう。向こうの救援がどのタイミングで来てくれるかが命運だ。そちらに偶然力を回したいが、向こうまで想の探知が届かず射程外なのが歯がゆかった。しかし、その歯がゆさは戦えるだけ私はマシなのだろう、と思う。


この船の乗員達は迫り来る敵に対してなにも出来ない。

いくら訓練しても、その砲を撃てば眼をつけられるだけ。軍艦の装備では深海棲艦を損傷させることはできないのだ。それでもこの入渠施設の中で男達は燃料や弾薬を慎重に運びいれ、この水の中に投入し、乾いたパンや握り飯を運びいれてくれる。みんな出来ることを全力でやっている。


少佐君「望みのモノですが、あまり濡らさないでくださいね。これでどうなされるのですか?」


戦後復興妖精「レイテ方面の敵は私達が向かう泊地のほうに寄せるべきだ。そして向こうの軍部の指示は南下して迂回だが、この泊地周辺の水路を通るか、または車でもいい。入渠施設を設備した乗り物で突っ切るほうが速え。レイテ方面の敵は私達が殲滅している泊地のほうに避難させる」図面を眺めながら最適と思える意見を具申する。「島の西側が戦場だ。南下進撃は深海棲艦を掃除しながら、という意味だろうが、陸地からサラと大鳳が艦載機を飛ばして西方に誘導。レイテ周辺は入り組んでいるとはいえ、このでかい島の周辺にたった100体と見て動くべきだと思うよ」


少佐君「誘導……それなら我々でも……!」


さすが島風さん、と瞳を輝かせた少佐君の頭をわしづかみにする。


戦後復興妖精「恐らく現時点で私が世界で最強の兵士だと思う。この船の護衛を請け負う4人でマリアナから三対の姫を仕留めた。ろくに連携訓練もしていない面子でな」私がマリアナで死んだことにしておさらばしていればここにいる全員はすでに死んでいるのは間違いなかった。「深海棲艦にこの船の艤装で攻撃しても沈められないけど、こんなの艦娘じゃなくてお前らでも出来る。現場での戦術的な動きは海軍ではなく陸軍に近いだろうからな」


少佐君「……なにがいいたいのです?」


戦後復興妖精「現場の艦娘は戦闘に集中させろ。艤装を扱うのも大変なんだぞ。あれこれ考えて敵の撃破の仕方まで考えながら姫相手に戦えているのは私がズバ抜けているからだ。分かるかよ。つまり、私達を導く頭脳だ。私達の舵を取る提督の存在があれば戦況は大きく変わる」


少佐君「……、……」


戦後復興妖精「考えろ。艤装を扱えずとも考えることで深海棲艦と戦える。私達という武器の使い方をな」


必要不可欠だ。深海棲艦を潰しているだけではこの戦争は終わらない。真実を究明する頭脳こそ、この戦争の全貌を暴く鍵だ。人間が歴史で常に雄々しく未知に立ち向かい抗う歴史、不可能相手にもがくことこそたった一度きりの生の証明だろう。そうやってしぶとく種を残して次へと繋げていく。その行程が飽きるほど繰り返せば、いつかすげえやつがこの海の全てを暴くはずだ。


戦後復興妖精「大鳳と清霜とサラは死線を乗り越えてもう敵に怯えず戦える。建造してすぐに実戦に放り込まれることも珍しくない現状、この兵士を失う意味は分かるだろ。土産だ」


戦後復興妖精「死体だが鹵獲した。この黄泉路参りの旅が終わったら死ぬほど考えろよな」


戦艦棲姫の身体の残骸を投げつける。


少佐君「了解であります」


と敬礼をして入渠施設から慌ただしく走り去った。


大鳳から新たな敵影を発見したとの連絡が入った。ヲ級の空母機動部隊だった。私の艤装は妖精さんが急ピッチで修理中だけれども、とても抜錨できる様ではなかった。サラの艤装が中破だが、戦えなくはないレベルまで修復されている。サラがゆっくりと、起き上がる。


戦後復興妖精「なあサラ、作戦は分かるか」


サラトガ「艤装をつけて、この空母の飛行甲板から全機発艦してすぐ戻ります」


戦後復興妖精「そうそう。よろしく頼む」


空母なんざ艦載機飛ばすだけでいいんだ。清霜と大鳳が私達と同じく大破した時に海に抜錨できるよう身体を治すのが最優先だ。だからサラの戦力だけをばらまいてすぐさま身体を治しにかかる判断は正しい。妖精も多くを失ったけども補充されているので連度はマリアナ程ではない。相手は空母棲姫ではなくヲ級だしな。こちらの大鳳と清霜も錬度もあがってあの時以上に戦える。


島風(あなたさ、この旅で変わったよね。わざと死んで退散するかと思ってた)


知識のテコ入れだ。戦う方法を開発してやっているのさ。こんな痛い思いしてまで手間かけて育てた連中を死なせたら、ただの徒労だ。時間の無駄でしかないじゃねえか。


島風(気づいていないんだー……あなた割と鈍いというか面倒臭いんだねっ!)


右腕で思いっきり、自らの頬を殴りつける。


島風(いった――――いっ!)


左腕が勝手に動いて、左頬を殴った。

身体が一つで心は二つ。ケンカする時は一つの身体を殴り合う。自分で自分を殴る奇行に周りがざわついたので矛を収めるとした。本当にこいつ、私から分離してくれねえかな。ここまで腹の立つやつに二度と出会える気がしないぞ。


【16ワ●:レイテの海でさようなら】


救援部隊は指定された地点に出迎えに来なかった。

電報から激戦の模様がひしひしと伝わって、しばらくの後に途絶え、この船はそれでもなお進路を予定通りに進める。夜明け頃になると、うっすらと空から光明が差してようやく乗員が望遠鏡にて島影を確認したが、新設されたオマルの簡易泊地は瓦礫の山となっていた。


船を着ける前に私が上陸し、辺りの様子を確認した。

泊地にする際に周囲に水道を引いたのが仇になったようだ。辺りの水路から深海棲艦反応があった。そして軍艦パーツの浮流物、派手に砲撃戦をして深海棲艦の標的とされたようだった。焦土にも近いその地面は足を踏みしめる度に散り散りと熱の温度が伝わってくる。


上空に深海棲艦型艦載機が編成を組んで飛行していた。

空を見上げながら辺りに想探知を張り巡らせる。いくつもの魂がまだ残留している。その想に意識をかき乱され、メモリーが私という器に流れ込んでくる。辺りに綺麗な死体が地面に敷かれるようにいくつもあった。いくつもの銃が転がっている。


島風(……う、これって)


叫び声をあげそうになった島風を察して想の探知を切っておく。

不意に地面が大きく振動した。


夜闇が薄れて白み始めた空を飛ぶ艦載機に花火が浴びせられる。その花火は深海棲艦型艦載機を編成隊ごと薙ぎ払う。炎上しながらフラフラと軌道を上下させて、向こうの山のほうに墜落していく。物見櫓の残骸の天辺に立って、遠くのほうに眼をやればその原因が分かった。


敵機に三式弾を浴びせたようだ。その装備が積めるとなると艦種も大幅に限定される。


持参してきた双眼鏡で確認する。背を向けていたが、あの軍服は日本の対深海棲艦海軍仕様だった。清霜と大鳳と同じく、背中に軍艦名が書いてある。


戦後復興妖精「武蔵……?」


いつの間に軍は武蔵の適性者を確保していたのだ。鎮守府から発つ頃に聞いていないので数日中に建造し、即戦場に放り込まれたクチか。となれば大和型といえども練度はたかが知れている。先の戦艦棲姫のような耐久装甲にあぐらをかいた戦い方をするのが関の山だろう。


深海棲艦型艦載機はその持前のしぶとさで蛇行を続けながらも、緩降下し、足に抱えている魚雷を武蔵の上空から落とした。土煙が爆ぜた。被弾はしたと思うが、突風が煙を晴らした時、その大きな身体は仁王立ちで建材し、空を見上げていた。戦艦の頼もしさを感じる。


島風(行こう。状況を聞くためにも合流するべきだよ!)


戦艦ならば戦力にはなるが、この戦場はレイテ方面だ。武蔵とか嫌な予感がする。まあ、大和型となると特に清霜の士気があがるのは間違いないんだけどな。ちょうどこの辺りの深海棲艦の反応もどうにかしないと少佐君達の乗った船をつけられないし、ついでに声くらいかけてみるか。


2


やはり面倒なやつだった。武蔵の適性者のイメージは大体固まっているのだが、まずこいつは武人肌でもなく大和の国に魂を捧げた軍人といった風でもなかった。むしろ本人は「国家問わず兵隊が死ぬのは清々しました」といった時だけ武蔵らしく豪快に笑ったのが印象的だった。武蔵といえばもっとがっちりした体躯をイメージしていたが、どちらかという華奢といった肉付きだ。


質疑応答には応えてくれたが、必要最低限のことしか言葉にしない。


島風「その身体の右側は損傷?」


軍服から露出する顔や首、そして右手、身体の右側の皮膚が焼けただれている。


武蔵「故郷で空襲です。B29にやられました」


建造すると同時に傷は治してもらえるはずなのにな。どこぞの誰かが雑に妖精と意思疎通して建造したらしい。適性率を測ってみたところ、40%もないといったところか。想探知で更に詳しく調査してみると、主に航行性能面に不備が出ている。浮砲台のようなとんだ欠陥品だった。


戦後復興妖精「生存者は」


武蔵「拠点を守らなかった私に罵倒を飛ばしながら山のほうに逃げていきました」


戦後復興妖精「あいつら馬鹿だよな。無理やり連行して建造して適性者がみんな国のために命を捧げるもんだと思っていやがる。私の初陣の時もそうだった」


武蔵「なぜ味方するのです?」


戦後復興妖精「なんで敬語? 別に私は気にしないぞ?」


武蔵「電報内容は知らされている。北方奪還、マリアナ海戦で空母棲姫、ハワイでは駆逐棲姫、そしてここに来るまでの航路で戦艦棲姫を撃破。あなたに敬意を払わず誰に払えという」武蔵は肩をすくめてため息をついた。「なぜ反抗しない。それほどの無茶な黄泉の旅を押し付けられて」


戦後復興妖精「北方ではカニを食べて、マリアナでは清霜とか大鳳のお守やって、ハワイでは歌を歌ってカタツムリを食べて、ついさっきは酒を飲んでいたね」私も同じように肩を竦めてみる。「豪勢な親睦旅行のせいでB29のパイロットとも仲良くなっちまった」


この通り、日本式の痛烈なアメリカンジョークもいえるようになっちまったよ。


さてユーモアはここまでだ。

この武蔵、欠陥品といえども深海棲艦に攻撃、それも三式弾を積んでいるとなると大いに利用価値はある。腐っても戦艦武蔵の適性者という見方に切り替える


戦後復興妖精「戦え。死にたくはねえだろう。逃げた艦の娘なぞ国に居場所はねえぞ?」


武蔵「大和型だ。お国に反乱を企てないのなら殺されはしないと思うのだが」


戦後復興妖精「武蔵の価値を把握しているようでなにより」


物言いからして親兄弟の類もいなさそうだな。いたのならそっちにも政府の手が伸びる。しかし、天涯孤独な身なら多少のわがままも押し通るというものだ。温かい血筋の絆なぞ財産と似たようなもので、あるから失うし、縛られる。なければ人間はもっと自由に行動できるようになる。


武蔵「島風はなぜ命令に従う。日本兵も米兵も、見るだけでおぞましくはないか」


おぞましいね。ただ私はうっとうしさのあまりだ。そこに恐怖は微塵もない。私が恐怖するとしたら当局と此方の神のごとき存在だけだった。それに比べたら生きている人間なぞ怖くもない、というのが正直な感想だった。日本やアメリカがどうなろうが、ふうん、という程度の感想だ。


脅迫も通じなければ自身や国民の死すらどうでも良さげなコイツの説得の言葉に詰まる。こういう時こそ、クソガキの出番か。今まで散々意味不明な勇気を振りまいてみんなを励ましていたからな。人間特有の謎のパワーの共鳴に期待してみるとする。

島風は一つ返事で了解した。


島風「誤解しているみたいだけど、私達は誰もお国のために戦ってないよ」


武蔵「……理由はどうあれ、国にいいようにこき使われているだけだろう」


島風「みんな大事な人のために戦っている。また会うためにね。お国のため、だなんて本当の目的じゃないよ。死なせたくないよね。だから私は守るよ。確かに上に思うところもあるから私は帰ったら英雄だし、物を申そうと思ってる。私達の価値は把握している風だし、だったら変革できるのは私達だけ」いっていることは重々しいのだが、声音は酷く軽く陽気で気が抜けるほどだ。「その力、用途がないのなら私達に貸してよね」


島風が言葉をかけ終えたところで艤装に想の探知をしてみた。解釈は上手くはないが、先の私の時とはまた違うな。恐らく武蔵にとって私よりも島風の言葉のほうが効果はあったようだった。なるほどね。さきほど三式弾を撃っていたし、自らの命さえ興味なくても、決して無気力な訳ではなく、戦う理由がなかっただけのようだった。その理由と希望を差し込むことで揺れた。

このガキがそこまで考えて物を喋っている訳ではないだろう。才能というやつだ。


戦後復興妖精「私は死んでも仲間を故郷へ帰還させるつもりだ。だから私が死んだ時はその変革やらなんやらは影響力の大きそうな大和型のお前に任せるわ。そう遺書にも書いておくからさ」

しからばダメ押し。


武蔵は腕を組んで長考に入っている。意固地な上、優柔不断なやつだ。覚悟のない者に命を賭けろ、といった以上、少しは返事を待ってやろう。その間にやることはある。


辺りに想探知をしかけて深海棲艦の存在を確認する。先ほどよりも明らかに数が減っていた。しかも厄介な潜水艦が大幅に削られている。清霜、ではないな。あいつが対潜をそつなくこなせるとは思えない。


探知外にいて探知は出来なかったのかな。


いつの間にかこちらに近寄ってきているってことは謎の人物は電探を装備しているな。武蔵の背後から人の気配がしたので、わざわざ探知はしなかった。深海棲艦を倒している以上、敵ではないだろう。現れたのは同志だ。同じく対深海棲艦海軍の軍服を着ていた。


戦後復興妖精「矢矧、だと……?」


矢矧「その甚平の格好と島風艤装は噂の北方の駆逐艦?」


こっちはイメージしていたよりも軍服が似合っているためか、凛としている。鋭い眼光と静かながら確かに感じる戦闘意欲、こっちは当たりといってもいい。適性率も70%を越えており、雰囲気で分かる。今まで見て来た中で最も素質性能が高い。


この矢矧の適性者は強い。


矢矧「そのデクの棒はレイテの夢見で竦んじゃっているから動かないわよ。ちょうど私、通信が途切れて勝手が分からなくて困っていたのよ。軍のことさっぱりだからとりあえず戦って慣らしていたけど、同じ軍所属だし合流させてもらっても構わないわよね?」


戦後復興妖精「構わないけど、お前は夢見のほうは大丈夫なのか。レイテ参戦艦だろ」


矢矧「あなたもでしょう……」


矢矧「私は戦いには望んで参戦したの。深海棲艦に身内を殺されたから」その双眸から轟々と燃えたぎる強い戦闘への熱を放出している。「数が多過ぎるし、まともな指揮を執れる人の元へ就きたかったのよ。ここの支部の人達は私達や深海棲艦を理解しているようでいなかったからこうなったんだと思う」


戦後復興妖精「最新鋭、お前の欠点は把握している?」


矢矧「軍艦の話なら練度。そちらに大鳳いるんでしょう。マリアナでは運が悪かっただけで、同じ問題点を私も抱えていたわ。適性者を乗員と例えるのなら私は対潜も対空も先ほどまで実戦訓練していたし、問題は解消した。少なくとも火力耐久装甲以外の性能は武蔵よりも上のつもりね」


冷静な判断力と戦場においてもこの平然とした態度。こいつは使えそうだ。


島風「武蔵さん、とりあえず前に進みなよ」とガキが勝手に声を出した。「武蔵さんはいいよね」


武蔵「……なにが」


島風「大和型だ。島風型の私と違ってお姉ちゃんがいる」


武蔵「……分かったよ。確かに私自身、今の私に思うところもある」


島風「安心して。国へ帰った時にはいつの間にか生きる意味も積んでいるよ」


生きる意味、ねえ。産まれた時から役割を持っている妖精の私にはよく分からない話だ。今もそのために生きているが、そうだな、人間っていうのはそういうのなしで勝手に産み落とされるもんな。役割を持って産まれたとしても、苦悶する。愛だの絆だのにご執心で海のように無形を自分の願う形にこねくり始める様は滑稽だ。人間っていうのは実に面倒な設計図で作られている。


戦後復興妖精「私達の船にまだ燃料と弾薬があるから積んでこいよ」


矢矧「あなたは」


戦後復興妖精「それまでに辺りの深海棲艦を潰しておく」


矢矧「その中破艤装で?」


戦後復興妖精「それでもお前らの百倍は強いから安心してくれ」


気を引き締めて事にかかろう。レイテが終われば帰還となり、この初陣の修学旅行もようやく帰路につける。加えて少佐君達には提督の重要さ、支援についても諭しておいた。あの男なら頭をひねって今頃、有用な策を頭の図面に並べているところだろう。


矢矧「そういえば1匹だけヤバい気配を感じて私が接敵を避けたやつがいるんだけど……」矢矧が眉間に皺を寄せた。「姫か鬼か知らないけど、そいつがここを焦土にしたのよ」


戦後復興妖精「特徴は分かる?」


矢矧「逃げる人間を追っていった時に電探を作動させたから覚えている。主砲的には戦艦だけど、魚雷も装備していて、加えて航空機も飛ばしていた小柄なやつね。見た目は人間の子供だったけど、黒い外套を着ていたわ。でも正面から見たら露出面が多くて清々しい格好をしていた」


戦後復興妖精「了解。見つけたら慎重に対応するよ」


ソロモンのほうから戦艦棲姫が来ていたからな。ラバウルの激戦区から流れて来たのだろう。私達が喰い荒らしたから多少は楽になっているか、火薬の臭いにつられて流れてきたのかもしれない。風貌の情報からして一致するのはある意味、姫や鬼と同等の深海棲艦。


戦艦レ級だ。

エリートやフラグシップ性能ではないことを切に願う。


仮に上位個体でも撃沈自体は不可能ではなかった。武蔵と矢矧を捕まえた今、足りなかった砲雷撃の穴埋め、清霜を駆逐としての本来の対空護衛救助の役割に専念させられる。大鳳、サラトガの航空戦力、そして武蔵と矢矧の火力に私の雷撃での砲雷撃戦をこなせるようになったのだ。


編成人数6か7。

これが艦の娘が各自の役割を発揮するにおいて必要な頭数だ。


3


少佐君「それでは作戦通りに」


兵隊たちは情報をまとめ、作戦をすでに形にしていた。敵が分布している辺りに陽動して、深海棲艦をまとめて指定ポイントにおびき寄せる。要は各海域を回って各個撃破では長期に見積もらなければならないが、そこまでの資源的な余裕はもうなかった。ただでさえ激戦区で、消耗し切っている。こうしている内にも深海棲艦の数は減っているのもあり、一気に一網打尽で構わない。敵はそんな単純な作戦にも上手くはまってくれる。知能で数の差をひっくり返す策は正しい。


大鳳「少佐さん、大丈夫、なのですか?」


少佐君「仕方ありますまい。操縦士は軒並み負傷で任務成功に支障を来しかねません。私はこの通り健康そのものなので引き受けますとも。南の飛行場で燃料を補給して深海棲艦をこの地点付近まで必ず誘導致します。ルート付近ではすでに避難勧告が出されているため、人気はないはずです」


戦後復興妖精「グラマンだろ。操縦できんの?」


少佐君「F6Fの操縦は初めてですが、勝手は米兵から嫌というほど聞きました」


まあ、別れのあいさつは要らねえか。船の中でやったし。

作戦は頭の中に叩き込んだ。この作戦が成功すればアジアの太平洋防衛ラインの深海棲艦勢力は一掃だ。時間の余裕は出来るし、この連中を生きて帰らせればしばらくは対深海棲艦日本海軍の支柱となるだろう。全員バラバラの鎮守府に異動になるだろうがな。


こちらの交戦現場の作戦は私が組み立てて、西部へと移動中の車の中で説明する。その他は陸にあがり、現地民と山中へと避難した同志の救助活動に専念するようだった。弾薬燃料鋼材ボーキもろもろの資材は残り一回フルに補給したら枯渇するといった程度の量しか渡されなかった。


清霜「武蔵さん!」


さきほどから清霜が犬のように武蔵にまとわりついているが、武蔵のほうは意に介した様子もなかった。矢矧と同じく、共に戦う仲間に殺気の籠もった眼を向けている。サラがお気に召さないようだ。さすが訓練も受けていない兵士なだけあって私情全開の様である。


サラトガ「ここでファイトは申し訳ありませんが」


武蔵・矢矧「……」


大鳳「あの、お二人とも。サラさんは悪い人ではありませんし、矛を収めては……」


戦後復興妖精「この中じゃ私の次にサラが強いんだぞ。新入りども、旗艦の私の意向に背いて無駄に資材を使わせるなよな。この場で雷撃処分してまでも戦力になるほうを残すぞ」


大鳳「本当にやりかねない人なので、この場はどうか……」

大鳳がすでに半泣きに近かった。


武蔵「……分かった」


矢矧「同じく。敵空母は嫌いなんだけど、旗艦の命には従うわ」

敵じゃねえって。


そもそも用意された陸軍の戦車ジープをまともに運転できるのがサラしかいねえんだ。私も車の運転くらい出来なくはないけども、この馬鹿でかい車両には急きょ突貫で作った簡易の設備があって、そこで妖精可視の才持ちの私が艤装の修理やら装備の補充やらやらなければならないのだ。敵地につくまでお前らただのお荷物が面倒を起こしたらブン殴るぞ。


4


通信を聞きながら、戦闘海域の図面を眺める。

指定された戦闘海域は南東の方角、サマール島とレイテ島の間、レイテ湾の裏側地点であることか。武蔵の沈没箇所からは離れていて妙な記憶は掘り返されないかもしれない。スリガオ海峡も通らず、ピンポイントに沈んだ艦はいない地点での戦いだ。


三方を陸に囲まれ、孤島もいくつかある。

地形的にやはり注意すべきは潜水艦だ。戦艦棲姫の時も潜水艦がふらふらと攻撃せずに泳いでいたものだから警戒を甘くしてしまって大きなツケを払うことになった。みなにも強く注意喚起をしておいた。


清霜「指定の地点に着いたよ。ここからならサラさんの艦載機の航空距離なんだって」


戦後復興妖精「了解。清霜、艤装には水中聴音機と爆雷を装備させとくからな」


清霜「あいあいさあ。今回は武蔵さんと矢矧さんもいるし、絶対に負けないよね!」


戦後復興妖精「そうだな。精々、撃破数で武蔵を越えるようがんばってくれ」


荷台から降りて、サラに艤装を装着させる。


この地点から発艦して少佐君の支援に回しておく。誘導は成功させなければ後が面倒になる、なるべく一点に集中させて掃除しなければ、この周辺の島全部が焦土になっちまう。


新たにいくつか引かれた水路は海にも繋がっており、深海棲艦はそこを通っていったとの矢矧からの証言もあった。この最初期の深海棲艦がどれくらい馬鹿かといえば『狭い水路に押し寄せて身動きが取れなくなるほどギュウギュウ詰めになる』レベルだ。おまけにほとんどの深海棲艦は陸にはあがれない構造をしているため、陸地に吹き飛ばされたらその場でもがくだけの浮砲台と化す。上手く行けば、深海棲艦を何十体も空からの艦爆一つで仕留めることが出来る。


戦後復興妖精「――――、――――」


妖精との意思疎通を駆使して役割に沿った繊細な動きを指示する。鳩の群れのように飛び立つ戦闘機を見送り、サラの艤装を着脱にかかる。荷台にあげるのは戦艦の昔に丸投げして私は装備の整備にすぐに入る。

一連の流れを見ていたサラが首を傾げていった。


サラ「一体、フェアリーとなにを話したのです?」


戦後復興妖精「あー……空母適性者には操縦妖精と一定の意思疎通が可能になるけど、妖精可視の才能を持っていればもっと緻密な意思疎通が出来る。例えば狙う敵の順番、攻撃開始タイミング、空を旋回させて攻撃を待機させたり。マリアナの海で思い突いて大鳳にやってみて成功した」


サラトガ「グッド。戦術として有用です」


戦後復興妖精「帰ったらいくらでも話すから、早く運転に戻ってくれよ」


妖精可視と空母の適性を併せ持つやつは単機で姫を沈められるほどに早い。ちょこざい動きは正規空母向きではないが、あるに越したことがない。この才能を空母で生かすとしたら、制空権において正規空母の補助の立ち回りを 要求される軽空母や航巡、航戦の適性者だろう。


清霜「そういえば私って最初は清霜じゃなかったんだよね」


戦後復興妖精「あ? お前、他の適性もあったのか?」


清霜「うん。秋月型の二番艦だったかなあ」


戦後復興妖精「照月!? おいこのガキ清霜チャアアアン!? お前なんでそっちの適性者にならなかったんだよ! 秋月砲がありゃマリアナであんなに血を流すことなかったぞ!?」


清霜「ええっと、武蔵さんと同じく航行部分が上手く機能しなくって。それでこっちに」


戦後復興妖精「ああ、なるほどね……」


後は目的地を目指すまでだ。整備も間に合うし、到着時間までに艤装も直し切ってやる。ちょうど誰も見ていないし、私が建造と開発妖精の技術を流用して修理時間を本来よりも短縮させる。その道中、避難場所の近くを通り、原住民から差し入れをもらえたのが幸運だった。鎮守府で最期にカニを食べてから量のある飯を口にしていなかったのだ。私の中ではカタツムリはまともじゃねえから。


不幸な問題もあった。道があるとはいえ、日本のように整備はされていないからか、道路の凹凸が激しく、いかんせん酔ってしまうのだ。後半の旅路はゲロ吐きながら艤装整備する羽目になった。


島風(気持ち悪いけど、こういうのも楽しいよね!)


ほんとこいつ頭おかしいよ。

全く、やれやれ。散々な親睦旅行だ。

クソみたいな思い出ばかり増えていきやがる。


5


沖についたら、戦闘海域に突入準備。

時刻は1500、気候は雲も風もなく晴れやかだ。だからこそ、遥か彼方の空に立ち上るどこぞの戦争の煙がよく見えてもいる。他は知らねえ。私達が一番、多くの敵を掃討する作戦に放り込まれたんだ。貧乏人も英雄も余裕がなけりゃ似たようなもんだな。同じくこき使われて暇なしだ。


清霜「暑い……艤装が鉄板みたいで、お肉が焼けそうだよー」清霜がいう。「ほら武蔵さん見て。ここなんか特に焼けているよ……熱っ、火傷したああああ!」


戦後復興妖精「なに触って怪我してんだ馬鹿かテメエは!」


武蔵「ほら、温いが水だ。上から包帯撒いておけ」

巻いておけ、といったくせに清霜の指に巻きつけてあげている。お前ら仲良いな。


二人は放置してみなの艤装の装着を補助して回る。予想される決戦の模様を頭で描いていると、ふと思い出した。整備に夢中ですっかり忘れていた。戦艦レ級についてだ。未確認の深海棲艦

だったはずだが、北方の海で出会ったことにしておこう。あの海は私以外に真実を知らない。


戦後復興妖精「そういえば矢矧が見かけた例の深海棲艦だが、北方奪還の時に戦ったんだよ」


矢矧「……へえ」


戦後復興妖精「航空機も飛ばすし、砲の威力も戦艦級だ。なかでもヤバかったのは艦爆、まあ、魚雷なんだけども、こいつのコレは航空機でもあり魚雷でもあるみたいだったな」


大鳳「奇怪な武装を持っているんですね……」


戦後復興妖精「ああ、魚と似ている。トビウオだ。生き物みたいに動いてレーダーで捉えられなかったんだよ。その深海棲艦を発見したらこのトビウオに細心の注意を払ってくれ。戦艦が一撃で大破撃沈する威力だ。まともにもらえばその時点で死亡撃沈すると思うこと」


パーパにレ級なぞどういう意図で創ったのか聞いてみたいほどである。レ級は空も海も海中にも手が伸びる。姫を単機で仕留められるほどの装備を仕込んだ単独にして艦隊型の深海棲艦である。こいつの潜伏するこの南方の戦場では勝利Sをもぎ取るために大破進軍決行しなければならないと来ている。親睦旅行の観光の終点では更に吐き気を催すイベントが用意されていた。あまりのビッグサプライズにまたゲロ吐きそうだよ。撒き散らすのがゲロで済めばまだマシではあるが。


大鳳から敵影の発見報告が入る。


矢矧「思ったより各戦場で奮戦しているのか数が一桁少ないわね」


戦後復興妖精「安心してくれ。今頃は少佐君が大量に深海棲艦を招待している。後方からたくさん駆けつけてくれるぞ」


夕立がいれば素敵なパーティーなんとかかんとかっていい出しそうな場面だな。


矢矧「期待するわ。一体でも多く沈めて帰りたいから」


やる気は十分なようでなによりだ。

さて、抜錨だ。

こんなクソ暑い島と海、二度と見ないで済むように。


6


敵機接近、同時に潜水艦隊も清霜が水中聴音機でキャッチした。面倒な潜水艦の処理を優先するため、清霜と小隊から分離して、殲滅に向かう。分離したのは武蔵の航行が想定以上に鈍足だったからだ。私達が全力で走っていると例えるのなら武蔵は歩いているに等しい速度だった。この低速具合ならば潜水警戒徐航も意味をまるでなさず、潜水艦の格好の的になる。


戦後復興妖精「矢矧、先陣だ。先行隊を潰してこい。武蔵は矢矧の支援砲撃だけでよし。サラは空だけに集中してくれ。艦載機の扱いは大鳳のほうが上手いから空優先で矢矧の前に各五機ほど艦功と観戦を飛ばして、動かし方は戦況を見極めてくれ。私と清霜は潜水艦を処理してくる!」


了解の返事を聞いてから、潜水艦撃退の地点へと急行する。

敵潜水艦は孤島の周辺でフラフラと海底をさまよっている。清霜が装備している聴音機から爆雷の投下ポイントまで清霜を誘導しておいた。敵深海棲艦が接近にようやく気付いて移動を始めた。そこで想探知に切り替えて、動向を繊細に測る。動き方は私達に狙いをつけることしか考えていない馬鹿正直の極みだった。


清霜に指定ポイントに指示を出して、私が狙いを惹きつける位置に錨を降ろして囮になる。清霜の爆雷が投下されると同時に私に向けて魚雷が発射された。


ギリギリまで回避しない。

想の探知が大きく途切れたのを合図に動く。


損傷なしだ。魚雷が海に白い線を引きながら遠退いてゆく。

最悪、潜水棲姫程度は想定していたのだが、いるのは精々カ級エリート程度だった。最初の試練は無事に完全勝利Sだ。

だがまだ序の口。

機銃も装備している清霜に武蔵の護衛につくよう命を送る。


私はすぐさま陸地へと戻る。

潜水艦を警戒して装備を対潜に整備していたので、砲雷撃用の装備に切り替えるためだ。資源が心許ないが、みなは海の上で必死だ。少しズルしてしまおう。私が装備を作るところを目撃されると面倒なので開発妖精を側に置いておく。実際に仕事するのは私だけどな。


島風(一発で狙ったタービンだし、五連装酸素魚雷なんて開発できたんだ……?)


提督には出来ないな。特別な妖精である私がズルをしただけだ。装備は増設にタービン、そしてポンポンと高角砲、五連装酸素魚雷だ。電探は想の探知があるから必要なかった。戦艦棲姫戦の戦術を更に磨きあげる装備だ。今までよりもずっと速く動いて酸素魚雷を当てに行く。


再度、抜錨した。今度は最前線の矢矧と肩を並べる。


島風(あの矢矧さん、すごい……)


同じ感想だった。思わず航行意識を緩めてしまったくらいだ。


敵の先行部隊はホ級エリートを旗艦とした水雷艦隊で弱い部類に入るといっても、矢矧に一切の損傷はなかった。魚雷の隙間を縫い、射程に入ると連装砲で交叉弾を撃ち、進路を誘導して、ディレイをかけて低級のザコから確実に仕留めている。ハ級の砲撃を体術で捌いてもいた。


あの矢矧、錬度数値5でろくに訓練も受けていないはずだ。

あの矢矧の想像以上の素質の高さは嬉しい誤算といえよう。どの分野にも天才っているもんなんだな。


そう思ったのも束の間、矢矧から通信が入る。敵機からの反射波をキャッチ。深海棲艦の特徴的に鬼だ。


戦後復興妖精《おい矢矧、下がれ! 鬼だ! 駆逐古鬼!》


ヲ級改のエリート3体とリ級改を2体も引っ提げて来ていた。大きく旋回して戻って来た矢矧が艦隊に合流し、少し下手くそな輪形陣を組む。大鳳とサラがすぐさま空に戦闘機を舞わせた。ヲ級改となれば出し惜しみしている余力もなかった。制空権はなんとしてでも確保する。


こちらの艦載機をすり抜けてきた敵機への対空射撃を浴びせる。


戦後復興妖精《すぐさま殲滅する! 後がつかえているみたいだからな!》


一機の新型艦爆赤が爆弾を落とした。それに想力を混ぜた機銃をぶつけて空中で爆破させる。《武蔵狙いのは処理した! 全員散開! 煙で見えねえけどもう一個艦爆が墜ちてくる!》すぐさま指示を出し、身体の舵は島風に取らせた。転舵号令を出して間もなく右舷に重心を寄せて身体を傾斜させて旋回、落ちた速度は旋回を終えた時にしなる弓矢のように最速に変えてこの身を飛ばした。足元の波を切り裂いて、飛ぶ矢のように砲雷撃を置き去りにして敵空母の懐に飛び込む。《武蔵清霜、そっちにリ級改がいった! サラと大鳳を守ってやれ! 武蔵は当てろ! 当てなきゃブチ殺すぞ!》


五連装酸素魚雷をばら撒く。


が、失敗した。魚雷の速度が遅い。これならもっと距離を縮めて放つべきだった。


偶然力、想のブースト、ありとあらゆる要素を駆使して最速に押し上げ、自らが放った魚雷すらも置き去りに前に進む。放った魚雷に反応し、回避行動を取ろうと重心を左に傾けたヲ級改の首根っこをつかむ。「遅え!」魚雷は無駄撃ち出来ない。当たらなければ当たるようにすればいい。力任せにヲ級をひっくり返して大きな頭蓋を強引に魚雷に当てて爆殺した。


速く、もっと速く!

化物(レ級elite)の反応が後方の陸の水路にある!


転舵、続いて大物の駆逐古鬼を仕留めにかかる。洒落た日本式の着物、今を生きている人間の私達よりも上等な着物をまとうのは皮肉を飛ばされているような気がして不愉快だった。


矢矧が砲撃を飛ばしているが、駆逐古鬼に上手く避けられている。さすがに初陣で鬼を単機で仕留められはしないだろう。超能力の類がなければ無理だ。駆逐古鬼の砲撃が交叉し、矢矧はその中央を進んでいるが、水柱で反応が遅れた。魚雷に被弾していた。


私は矢矧の損傷を気にせず、駆逐古鬼のほうへと本来以上の島風艤装の性能を発揮させて強引に舵を切った。速度に対して敵の砲撃の焦点が合っていない。真正面、斜め上から飛んできた砲弾は少し上体をクの地に曲げれば回避できる。最短距離で衝突も構わず、海を爆走した。


機銃を乱射し、距離を一気に詰める。駆逐古鬼が反射的に取った行動はその右手の大きな艤装を振り上げることだった。衝突を避けられないと判断して体術に訴え出たらしいが、それも遅い。魚雷を一つ抜いて右手に持っておく。肩で駆逐古鬼の上体を押した。偶然力を行使して転覆させる。


しかし、深海棲艦は水底から這い上がってくるように出来ているため、浮上性能が備わっている。殺すには完膚無きまでに叩き潰してやらなければダメだ。


すぐにこの身は旋回をし、視界に入った光景は清霜達のほうに立ちのぼる黒煙だった。生体反応はある。損傷はあるが、沈んではいなかった。その煙を大主砲の咆哮が吹き飛ばし、そこから武蔵の巨体が雄々しく現れる。猛々しい轟音をあげて、主砲をリ級改に向かって撃ち放つ。


向こうは直に片がつく。損傷が軽微なのを祈るばかりだ。


戦後復興妖精「矢矧、中破かそれ」


矢矧「駆逐古鬼が浮上し切っている。私を助ける暇あるなら……!」


戦後復興妖精「ああ、そうだ。面白いこと教えてやろう」


駆逐古鬼が砲撃体勢に入っていた。矢矧の身体を借りるとした。駆逐古鬼の砲撃のタイミングに合わせて右脚をあげて矢矧の腰を踏んだ。そこから空中に飛んだ。迫りくる砲弾を足先を上手く使って蹴り落としてやった。足の甲が痛むが、深海棲艦だろうが駆逐レベルならば体術で処理は可能だ。正し、駆逐艦ならば両腕では無理だ。建造しても人間性質は残されているゆえ、脚力も三倍に設定されている。足の力なら20センチ程度の砲撃なら蹴りで塞ぐことはできなくもない。


島風(す、すご……!そんなこと出来たんだ! でも足が少し損傷してるよ!?)


次弾装填に夢中の駆逐古鬼に機銃を撃ち放つ。爆発が起こり、駆逐古鬼の身体が木端微塵に吹き飛んだ。


矢矧「な、なぜ機銃で爆発が起きるの?」


戦後復興妖精「衝突した際に魚雷をあの服に仕込んでおいただけ。倒す準備が終わったからお前を助けに来てやったに決まっているんだろうが、その証拠に被弾した時は無視していただろ」


矢矧「……、……」矢矧は呆けた顔をした後、「ありがとう」

と少し照れくさそうにいった。


戦後復興妖精「最新鋭、電探反応を確認してみろ」


理不尽の嵐の戦場じゃそんなこと考えている内に死ぬ。助けたのは別に矢矧が大事だからではなかった。深海棲艦を倒す武器を失うには惜し過ぎる状況であったからだ。


電探はレ級の反応をキャッチしているはずだ。

加えて多くの味方機も想探知にひっかかった。


矢矧「少佐が任務を完遂したのね?」


手筈通りだった。大量の深海棲艦型艦載機がサラトガの艦載機に守られた一機のF6Fの後に続くような軌道でこの戦場に向かって飛行していた。深海棲艦型艦載機の燃料補充はロスト空間と繋がっているため、供給は自動だが、いつまでも飛んでいられる訳ではなく、持続航行距離には限界がある。島の地図で念入りに距離を計算したから予定通りの進路で来たのなら、あの艦載機はすでに燃料が尽きかけている。実際に探ってみたところ、6割程が持って十分程度だ。


前以て大鳳とサラには敵機を沈めるのではなく、空を奪われないようにすることを優先するよう命令してある。空を舞う敵機を潰すのではなく、守る意識の元に無暗な突撃を控えさせていた。敵機は艦載機や武蔵の主砲の轟音がうなりをあげるこの海域に興味を持ったようで私達を目指して軌道を変える。空の挙動は想定通りだ。


戦後復興妖精「矢矧、私の護衛な。私より前には絶対に出るな。酸素魚雷に当たる」


矢矧「了解」


水路のほうから来ている水上型深海棲艦のほうに想定外の異常があった。狭い水路に群れを成す深海棲艦に爆弾で一声処理する手筈だったが、その手間が悪い意味で省けたということだった。


数が多くて思う通りに速度を出せないレ級が航空機を飛ばし、砲雷をブッ放して周囲の深海棲艦を木端微塵に吹き飛ばし始めていた。陸が変形する。ひしゃげた陸地に水路の水が流れ込み、海までの通路を広大にして進む深海棲艦らしく無茶苦茶な行進だった。吉を見出すとしたら、本来流れつくであろう深海棲艦も倒してくれていることか。


しっかし、真に驚くのは少佐君のほうか。

サラの飛行機を護衛に回してやったとはいえ、たった一機で与えられた無茶な任務を完遂しやがった。その飛行機は近場の飛行場へと着陸体勢に入っているのが見える。多くの敵機はこちらに流れており、しつこくまとわりついているやつは味方機が対処しているので、あの少佐君の悪運が尽きていなければまた生き残りそうだ。


航行をしながら、レ級の撃沈手段を張り巡らせる。


戦後復興妖精(おいガキ、最期に選択させてやろう。偶然力の残りはどう使う)


島風はすぐに答えた。レ級を仕留めることに惜しまず使うか、それとも死に直結する理不尽を回避するため、味方の防御に回すか。全員生還の勝機はもはや幸運に頼る手しか残されていない。


島風が選択したのは後者だった。その選択をしたからには理不尽の雨をこの身に受けても、私達がレ級を必ず仕留める、という意気込みの上に成り立つ決断だった。


島風(去年の電ちゃんは一人だったんだよね)


そうだな。仕官妖精のやつの初期官の電は初陣で死亡撃沈した。真珠湾、相手は中枢棲姫に単艦だ。

中枢棲姫はその名が示す通り深海棲艦型の中枢存在、当局と此方と深海棲艦、その中間管理のやつだ。レ級どころではない相手に単艦で挑まされた。仲間もいなかった。優しい少女だった。仕官妖精のやつはその電の損傷を見て、気が触れたように雄叫びをあげ、救助に向かおうとしたところで、爆弾により全身が火に包まれ、人生を終えた。


島風(必ずみんなを帰還させてあげなきゃダメだ)


つくづく妙なやつだ。私のように産まれ落ちた意味もないくせに、私と同じく役割を持っているかのように迷いがなかった。そろそろこのガキに呆れ返りも度が過ぎて脱帽したくなる。


さあ、そろそろ気を引き締め直すか。

私はもともと殉職予定だ。死んでもいい。ただここまで踏ん張って無駄死にってのも腹が立つよな。それに冥土の土産は豪勢なほうがいい。


進撃。戦闘開始。

最期の戦果は戦艦レ級だ。


7


矢矧とともに戦闘海域に雪崩れ込んでくる低級深海棲艦を処理しながら、分離した大鳳達のほうに視線をやる。空は押され気味だった。晴れやかな空には絶望色のほうが強い。


敵機が最期の力を振り絞ってその憎悪を叩きつけているためだった。虚勢に過ぎない。下手を撃たなければ時間が経過すれば空は希望で染まり切るだろう。当たり前だ。こちらの空母は死線を潜り抜けた大鳳と練度90越えのサラである。低級ごときに後れを取るはずがなかった。


正し、私と矢矧がレ級を空の争いに介入させなければ、の話だ。

あいつの空の強さは数値にすると107とヲ級改フラグシップを上回る。一人で空を奪い、同時に16インチ三連装砲と12.5センチ連装副法で戦艦と砲撃戦をこなし、この島風(私)と雷撃戦もやってのける超弩級の深海棲艦である。


航空戦に砲雷撃の、その全ての行動は単純なように見えて複雑かつ緻密な行動を要求される。なぜ姫や鬼ではないレ級が一人でそこまで複雑な行動を同時にやってのけられるかといえば、通常の軍艦が高格砲、魚雷、そして主砲副砲にそれぞれ指揮官が就くように、アイツの中ではレ級の主体想の中に複数の司令系統が存在しているからだ。戦艦、空母、駆逐、それぞれに関連した想で役割分担調整を施されている。航行と攻撃を分担してこなしている今の私と島風みたいなもんだ。


島風(了解。航行面は私に任せて!)


レ級と対峙する時は、その三つの機能が宿る尻尾の艤装を中破以上に持ち込むことが最優先事項だった。中破まで追い込めばレ級のあの尻尾艤装から空母の機能が失われる。そしてそうするために博打を打つしかない状況だった。レ級との間に挟まれた深海棲艦を仕留めながらお互いの顔が直線状に突き合うその時を待ちわびる。手足を動かしてレ級との隔たりを壊していく。なるべく接近して意識を私に向けねえと一気に戦況が傾きかねない。


戦後復興妖精「9体。水路から生きて海に来やがった敵の処理は任せる」


矢矧の了解を相図に少しだけ航路をずらして、漏れた深海棲艦を矢矧に喰いつくように誘導した。それと同時に矢矧が主砲を発射したことで完全に深海棲艦の意識が矢矧に集中した。後方から新たな敵影の想を探知したが、無視をした。後方の憂いは大鳳達に投げて、速度をグン、とあげた。


34体+レ級elite。


こうなれば、もうみなを信じる他なかった。乱戦ではろくに信号のやり取りさえ不可能だった。艤装があるといえども、その全てを操作するのは適性者の人間一人のみだった。四方八方から砲撃に対応し、攻撃をしかけながら、周囲の状況を冷静に見渡し、的確な指示を送ることなぞ不可能だ。一秒で送るべき指示が変化を遂げるような激流のような戦闘に移行していた。


レ級と確かに眼が合った。


姫鬼級でもないくせに笑っている。楽しくて笑っているのではなく、深海棲艦らしい憎悪の色で塗り潰されて人間の笑う、というより、もっと根源の動物の牙を剥く、といった表現が的確だった。それも意図してのことではなく、そういう風に顔を作られたからだが。


レ級の尾の艤装から飛び魚が舞う。


発艦というよりは口から吐しゃ物のように吐き出すといった風だった。10機、30機、50機を越えた辺りで数えるのを止めて想の探知を半径50メートル以内に集中させた。観れば分かる。全機発艦150以上は越えている。皆にも見えているはずだし、あれの危険度は前以て教えている。


機銃で誘爆を誘い、一匹の飛び魚を誤爆させると、周り一体の飛び魚が連鎖的に爆発を引き起こした。

レ級は大量に相手に向かって飛ばすだけ。数の割に処理自体の難易度は高くないが、それは私の機銃精度を以てしての技術だ。海面を飛び、海中を潜り、高速で懐に飛び込んでくる飛び魚の三次元的な動きは艦の娘の装備を駆使しても初見で対処するのは難しい。


戦後復興妖精「クソ、これだけ数が多いと直撃は避けても……」


爆破片が絶え間なく小さな傷を身体に刻んでゆく。至近弾なのか爆弾なのか、周囲の海に穴が空き続けている。その巻き起こる渦に身体が吸い寄せられ、真っすぐ舵を取ることが出来ない。すでに左舷艤装に爆破片により多くの破孔が出来ている。いつ燃料漏れてもおかしくない。


放った雷撃も飛び魚が律儀に反応して相討ち、レ級本体まで届くことはなく。


爆弾で凹凸の絶えない海を、主舵一杯の全速前進だ。


戦後復興妖精「耐えた甲斐はあったか……」


レ級の尻尾艤装は絶え間ない攻撃に弾薬補充が間に合っていなかった。海の振動が止み、間抜けに艤装の主砲の空周りの音が聞こえる。レ級は深海棲艦の純粋が祟って、なんで、という素朴な疑問にご執心のようだった。


その間にすかさず酸素魚雷を放った。惜しみはしない。レ級は高速深海魚雷を放ってきたが、真正面から魚雷を撃った瞬間も視認している。今の私に当たる訳がない。


それに深海棲艦特有の攻撃性が仇になった。

回避していれば酸素魚雷が直撃することもなかっただろうに、攻撃行動をしたせいでクリティカルヒットだ。一気に大破まで追い込むことが出来た。戦況は大きく変わり、終わりの光明がすぐそこまで到来している。やつの首は手を伸ばせばそこまで届く距離だ。


戦後復興妖精「……お前のせいで余計な仕事が増えるばかりだ」


レ級のフードに隠れていた眼を真正面から睨みつける。


その時だ。レ級がなにかを喋った。


その言葉を聞き取ってから仕留めにかかる。ボロボロの艤装に酸素魚雷を直撃させた。血肉と鉄が木端微塵に四散。少し距離を詰め過ぎたか、爆発でこの身も損傷した。中破から一気に装備損傷の大破だが、絶対に成さなければならない最優先事項と引き換えなら構わなかった。


島風(今のレ級さ……もう殺してっていったよね……?)


そうだな。勝手に想の探知したんだから分かるだろ。あのレ級を作っていた想は三つだ。蜂の群れのように爆弾飛ばしてきたのは米国のホーネット、戦艦の距離で砲撃してきたのは英国のドレッドノート、そして最期にド下手な魚雷を放ったのは日本国の電だ。恐らく中枢棲姫と戦って真珠湾で散った電だろう。胸がチクリとして、舌打ちした。島風、感傷に浸る余裕はまだないだろ。


今日の友は明日の敵。戦争しているんだから珍しくもあるまい。

そして敵はブッ潰すのみだ。

なのだが、ダメだ、身体が動かねえ。


うつ伏せになり、大地にあごを乗せて、戦火真っただ中の大鳳達の様子を伺った。ありゃ誰か死ぬな、とそう想った。大破と中破のオンパレードだった。サラと大鳳は大破、全機発艦の後に増設しておいたスロットの機銃で応戦している。敵に群がられた空母の最期を彷彿とさせる。


矢矧は、すげえな。海の上に身体があるだけでも立派だ。嫌になるほどの攻撃をその身に受けてなお、雄々しく苛烈に残った武器で応戦している。鉄破片を片手に敵と戦うのは船として無様とさえいえる。体術、か。生まれ育ちは知らないが、なにかしら武術の心得があるようだ。


最も損傷が激しく、そして生命を散らしているのは武蔵だった。

多くの深海棲艦の攻撃が武蔵に集中しているのはあいつが航行に欠陥を備えて狙いやすい上、艤装が馬鹿でかい戦艦だからだろう。燃料庫から漏れた油が海を汚しており、その目立つ跡のせいで多くの深海棲艦から眼をつけられていた。絶え間ない至近弾、そして爆弾を6発、被雷は4だった。右腕がすでにもげて、壊れかけた主砲で応戦している。右舷の艤装が海の中に沈んだ。巨大で雄々しい不動の大地が深海棲艦という大波に削ぎ落される風景を見ているようだった。


レイテか。そういえば史実でも武蔵はあんな風だったな。

清霜と一緒に私も武蔵の護衛に派遣された。あんな風にボコられる武蔵を護衛したのも虚しく、多くの乗員を乗せた武蔵という船は沈んでしまった。


島風(ぐ、偶然力の追加はなんとからならないの!?)


無理だ。一日に使用できる量は決まっている。ちなみにパーパに助力を頼むのはおススメしない。あいつの性格は実際に会って話して分かったはずだ。人間の形をしているだけの悪魔のようなやつだ。精々が希望を振りまくとともにきっちり絶望を仕込んでくるはずだ。身体の操縦を島風が執るが、無意味だった。肩足が欠けた状態で私達は海に浮くことは叶わない。今、パーパに助力を頼めば「なんだもっと近くで見たいのか」と嘲笑いながら少しだけ前に進めやがるだろうな。


戦後復興妖精「あー……ダメだ。この感じ、意識ももう持たねえ……」


北方奪還で出会った時、お前もこうして海を眺めることしか出来なかったんだろう。このクソったれな現実を作ったのが誰かと思えば、当局と此方ではあるが、その怪物を産み落としたのは紛れもなく人間だった。同じだった。人間同士で戦争しているのとなにも変わらない。


その業は歴史の中で絶え間なく輪廻して、いつの時代もこうして命を散らしてはしゃぐ。そして明日には何事もなかったように海は夕焼け色に小金て、輝く水平線を見せてくれるだろう。


誰かが沈んだのを見ると同時に夜闇に包まれかけた水平線から咆哮が聞こえた。


「一人支援艦隊到着! 夜っ戦だ――――!」


たかが川内一人増えたところで死体の数は対して変わらねえよ。

その馬鹿でかい声のせいだな。

解けかけた意識の糸を離してしまった。


8


眼が覚めた頃には空が白みかけていた。

海岸沿いの泥の上で眼を覚ました。視界に入った空に敵艦載機の姿はなく、海のほうから撃鉄の音も響いてはいなかった。透き通るような波音だけが耳に心地良く響いた。


上体を起こすと、清霜と川内の姿があった。膝の山に顔を埋める清霜に川内は無言で寄り添っていた。


おい、どうなった、とは聞かなかった。


全滅を免れただけでも儲けといえる。加えて海のこの静けさからして敵勢力は殲滅完了したようだった。四名の命と引き換えに、だ。川内は深海棲艦を撃滅した後、仲間の引き揚げ作業もこなしてくれたようだ。パーツだけの物いわぬ仲間から顔を背けたのは何故だろう。内陸にいる軍人から想いを込められた背中の刺繍、それぞれの軍艦名がまだ冷めやらぬ熱気を放っているようにすら感じる。


もう一人のわたしがガキに恥じぬ大声で泣いた。


脳裏に過ぎったのは北方鎮守府から出航してからの記憶だった。マリアナでの死闘。

ロスト空間でのパーパとの会話。

漂流していた救命ボートを歌を歌いながら曳いた記憶。

戦死者についてサラとの会話。

カタツムリを食べた思い出。

そしてメンバーが成長したことの実感、皆で声をそろえて吠えた「死んでたまるか」の意気込み。

駆逐棲姫、戦艦棲姫を圧倒した戦い。

サマールについてからの旅路、まだ大した世間話もしていない矢矧と武蔵のこと。


言葉にならない彼等の置き土産が胸にある。


戦後復興妖精「川内だろ? 一応作戦がどういう状況にあるか聞く」


川内「作戦成功。敵影はなし」川内は簡潔にそう答えた。「ごめんね、到着が遅れた」


戦後復興妖精「よくやった」浮かない顔の川内の背中を叩いた。「大した訓練も受けていねえだろ。私の見立てでは全員死んでいたはずだ。隣の清霜が命拾いしたのは川内が支援に来てくれたからだ」


川内「皆が清霜ちゃんを守っていたからね」川内はいう。「よろしく頼まれた」


清霜「私が一番、歳下だからって。私、よく分からないよ」

私も分からない。答えられなかった。


先のこと考えるとあの中で最も生き残らせるのはサラだろう。歳下よりも戦力になるやつを生き残らせるべきだった。あの面子の中で駆逐艦一隻を優先するなぞ非効率的だ。その判断が出来ない連中ではなかったはずだ。なぜみなは清霜を最優先で生かしたのか、その理由が察せずにいた。

心中で舌打ちすると、右頬に鈍い衝撃を感じた。

泥のうえに倒れてしまった。


島風(分かれよバ―――カ!)


ガキが殴りかかってきやがった。


腹にすえかねたので身体の左半分の操作を奪い返して左手で自らの顔面を殴り飛ばした。懲りずにクソガキは殴り返してきた。私も懲りずに殴り返してきた。あまり人に見せるべき光景ではなかった。右側の瞳のほうからだけ涙を垂らしている。ガキがただのガキに成り下がっていた。


あまりにしつこいので、私が折れて殴るのを辞めた直後だ。


遠くから少佐君の大声が聞こえた。


9


杖を突いて歩いている。

岸に横たわる仲間を見ると、なんともいえぬ顔をして、倒れるようにその場に尻もちをついた。


誰もなにもいわなかった。私も声を出すのは止めておいた。その場の重苦しい雰囲気がこの口を一文字に引き結ばせたのだ。少佐君は川内と清霜の背中を優しく撫でて、


少佐君「さあ、仲間とともに鎮守府に帰投しましょう」


その冷酷なまでに落ち着いた声だけが、世界に響いた。


戦後復興妖精「少佐君、私に肩を貸してくれ。二人だけで話がある」


私も同じように冷酷なまでに落ち着いた声で話をかける。


川内にはみなの側についていろ、と命令しておいた。近くの茂みに座り込んで周囲を想探知で人影がないか確認した。右脚の膝から下がないので、その場に座り込んで話を始めるとした。

少佐君には御苦労、とねぎらいの言葉一つでもかけてやる働きをしたのだが、それは話の後にするか。


戦後復興妖精「今回、出発時点で資源が異常に少なかったよな」


少佐君「……ええ、大本営の意向です」


戦後復興妖精「この戦いに敗北したらどうなるか分かっているのに、貯金の底まではたこうとしなかったわけだ。それがなにを意味するかは分かると思う。先を見据えて、の主張はクソだぜ。この一連の戦いに負けていたらアジアの支配権は奪われていた。私達を替えが効く道具と思っていなけりゃここまでケチれねえよ。ろくな作戦すら立てていねえし、全てが準備不足だった」


少佐君「……改革を?」


戦後復興妖精「ああ。今回、失った大鳳と矢矧、武蔵にサラは生き残っていれば単機で低級の深海棲艦の群れなぞ沈めてみせる程に成長していたよ。この戦力さえあればしばらくは安定するだろう。私達が発見した入渠効率の情報も踏まえると、戦力を失ったのは大きな痛手でしかない」


少佐君「同感ではありますが……」


上には上の事情があるのだろうが、とても適切な判断が出来ていたとはいえない。


戦後復興妖精「少佐君のことは買っている」


その元来の明るい性格、度胸もあり、兵をいたわる心も持っている。けっこう高性能なやつだった。この長旅で十分に少佐君の人柄は把握したつもりだ。私は契約書を権限させた。島風に継ぐ第二の契約者は少佐君にすると、前々からひっそりと決めていた。


少佐君「へ、その紙はどこから……」


戦後復興妖精「今回、殉職した四名を復活させてやる」


少佐君はなにをいっているんだ、という顔だ。頭の上に疑問符が透けて見えた。


戦後復興妖精「その望みと引き換えに制約だ。契約書に目を通してくれ」


少佐君「……、……?」


戦後復興妖精「私は島風じゃない。人間に味方する特別な妖精といったら信じるか?」


島風「ええっと、この子は戦後復興妖精さんといって北方の海で私を助けてくれた人」島風が声に出したが、構わなかった。「薄々、疑問視していたでしょう。私が北方の海から帰還を果たしたのがあり得ないことだってさ。まるで別人になったように性格が変わったことも。ちょっと訳があってこの妖精さんと一緒になっちゃって、そのお陰で今まで色々と戦えていたんだよ」


少佐君「妖精、でありますか。た、確かに今の感じ、着任した頃の島風さんの雰囲気?」


戦後復興妖精「契約書に目を通してくれ。契約するかどうかの判断は委ねるけど、私の存在は機密ではあるから拒否した場合は色々と弄らせてもらうぜ。もちろん、制約のほうには私の存在を口外出来ないように書いてある。同意するなら識別用に髪を一本ちぎって署名欄に」


少佐君「了解であります」


戦後復興妖精「ずいぶんと返事が早いな……」


少佐君「あなたが何者であろうと、私は今まであなたという人を見てきましたからね。うさんくささはありましたけど、それでもあなた以上に信頼できる人は私の中にはおりません」


そっか。それならこのクソみたいな旅もした甲斐があったというもんだ。

人間って面倒臭いくせに単純でよく分からない。

この旅で学んだことは人間がよく分からない生き物ということだけだ。みなが清霜を生かした理由もそうだけど、全ての問いに答えるのが難しかったし、実際、答えられないことのほうが多かった。


少佐君は署名欄に髪を置いた。契約は完了した。


戦後復興妖精《黙っていたってことは認めてくれるんだろ?》


そういうと、即返事が来た。

当局《ああ。大勢が四名の殉職を確認していたら面倒過ぎて切っていたが、川内と清霜、その男の三人くらいなら請け負ってやろう。その男、中々見込みがあるぞ。人を見る目があるようでなによりである》と少佐君はパーパにも買われているようだ。《褒美として受け取っておけ》


想力により、結果は塗り替わる。

あの四名の死体は手足が欠けてはいるが、人間の原形を留めている。私には実装されはしないが、例の応急修理要員や女神の力を駆使して救うことは可能だろう。その辺の人気のない岸に流れ着いたことにしておけばいい。この契約のお陰でその二つの装備も人類側に知識として伝わり、対深海棲艦海軍の現場のテコ入れは十分だ。少佐君もこれから現場のほうで私側になる訳だしな。

契約書に書いてある通り、この契約含め私のことを相手に伝えられないように制限がかけてある。

破れば虚しく死ぬだけだ。精々がんばって戦後復興の役割に励んでくれ。


少佐君「ともに鎮守府に帰ってはもらえないのでしょうか……?」


戦後復興妖精「この身体は捨てる。死体にするから持ち帰って埋めといてくれ」


少佐君「……」


戦後復興妖精「ンな顔するなよ。私は日本の内陸のどこかにいるよ」


島風「未来を創り続けていたらきっとまたどこかで会えるよ!」


少佐君「そうですか」軍帽を下げて瞳を隠した。「こんな綺麗な別れ、初めて経験します」


この長旅の戦果(みやげ)は莫大だった。

アジアの脅威となる目ぼしい敵戦力に壊滅的打撃を与えた。しばらく深海棲艦の活動は沈静化するだろう。然るに兵士の命が使い捨てにする選択なぞ取らなくても済む。きっちりと訓練を受ける余裕も多少は出てくるはずだ。

そして、私とともに戦った仲間がこの旅で培った経験を新たなる仲間へ叩きこむはずだ。アジア圏が深海棲艦との戦争にじっくりと腰を据えて武器を構える時間が与えられたことを意味した。


北方鎮守府所属、旗艦島風。

そして共に出発した多くの同志の亡骸は無事に輸送完了した。


これはまた現海界してから知った話なんだが、その島風が挙げた戦果はしっかりと認知された。ちなみに北方奪還の勝機は天津風艤装を使ったからか、天津風ちゃんの戦果としても認知されていたんだが、島風のほうはこの旅のせいもあって私でも引くほど大きく持ちあげられていた。最初期を救った英雄として北の島国で島風の像が建てられて多いに崇められたからな。


気色悪いから壊しに行きたいが、まあ、その、なんだ。

不思議と満更でもない気分ではあったんだよな。










そして拠点軍艦の登場、深海妖精の完成。

最初期は少しの平和期間の後、荒れ狂う後半に突入する。

私が現場を離脱して内陸でなにしてたかって?


研究と詐欺と政治だよ。

後、子育て。


【17ワ●:戦後想題編 メモリー3:1959】


1947年、7月の出来事だ。

私達が持ち帰った艦娘の入渠システム、そして修復の高速化は世界に伝わった。各国の対深海棲艦海軍が協力して人員も経費も惜しみなく注がれ、わずか一年で高速修復材を開発した。それに伴い、適性者の建造時間を大幅に短縮する高速建造材の研究も勧められている。


最も、こちらは後回しだ。

高速修復材は開発された当時、酷く貴重な品でなかなか量産化する体制が整わなかった。完全な高速修復材を使用するには艤装パーツの多くを使用しなければならず、まだ戦線は苛烈を極め、適性者も数多く出てきたため、艤装を高速修復材に回すよりも艤装前線で戦う兵士の建造が優先されたからだ。


妖精がまた艤装を作るには一カ月の時間が必要なため、慎重であったことも原因だ。しかし年々ラインナップが増えていくこともあり、次第に高速修復材に回せる艤装も多くなってきた。


すでに数字は出ている。艦の娘の継戦力はあがり、殉職者も減っていた。


今、ブラウン管に戦場を撮影した偵察機の映像を流している。

あの海で散った仲間達は全員が沖で発見された。まだ息をしていたのは応急修理要員のお陰だ。それぞれが帰投を遂げてそれぞれが別の鎮守府に配属になったが、あの海の経験を経て、今やもうそれぞれの所属艦隊の旗艦となって活躍していた。清霜はポカして死なないかちょっと心配だが。


一番出世したのは契約効果もある少佐君だ。


対深海棲艦海軍は組織として横須賀に元帥が治める鎮守府を置き、それぞれ東西南北に鎮守府を新たに発足、そこを収める提督をそれぞれ丁丙乙甲の将席の地位を与えた。その中で少佐君はあの親睦旅行に留まらず、対深海棲艦海軍に多大な功績を残し、今は甲大将の地位に就いている。


島風(良い風来てる!)

来たんじゃなくて私達が吹かしたんだろうがよ。このガキは相変わらず元気である。


正方形の部屋がいくつも並んでいる。廊下も天井も床も、全てが真白だった。私の服装も白いのは研究員らしく、白衣を着込んでいるからだ。あの海で殉職を遂げてから、研究員としてようやく対深海棲艦海軍の研究部の門戸をくぐることが叶った。ここでの私の名は『山田花子』と適当に決めた。どこかの教科書に書いてあった名前を頂戴している。経歴もエリートに偽造してある。


戦後復興妖精「さて、ここでの仕事もそろそろ終わりか……」


人間も馬鹿じゃない。入渠システムの設備をつけた拠点軍艦も戦場に動員して艦娘の損傷を戦場からそう遠くない場所で癒す作戦を組み込むことに成功している。効果は絶大といえた。


私は私で次のテコ入れがある。経済復興の仕事だ。政治にもメス入れしなければならず、そして本官の血を絶やさないため家族を見に行かなきゃならない。世継ぎは絶やさないように、とパーパとマーマから役割を持たされている。最も始まりの提督である彼の家族なぞ手厚い待遇を受けているはずなので必要はないと思うけどね。


戦後復興妖精「辞表を出しに行くかね……」


「勘弁してよ。あなたを辞められたら海の戦争は行き詰ると思うの」


通路の突き当たりのT字路から姿を現したのは佐久間という研究所の妖精部門のリーダーだ。


私はこの研究チームに所属している。仕事はほどほどに前の島風として残した功績の反省点、目立ち過ぎを懸念してなるべく直接的に手柄を挙げるような言動は極力、控えてきた。実際、その全てはこの佐久間の功績となっている。しかし、閃きの側にはいつも私の何気ない言葉、との認識を持たれているようで、こうして付きまとわれて束縛されているのだ。佐久間は察しが良くて賢い女だった。


佐久間「あ、これ貸してあげる。心理学の本と面倒な思想本、興味示していたわよね?」


この研究所で過ごす間に人間のことを勉強し、観察していて多少は分かってきた。最新の心理学の本は海の向こうにあるからなかなか手に入れられなくて、海の向こうの研究所とパイプのある佐久間からよく貸してもらっていた。連邦捜査局、FBIの組織のものだ。


戦後復興妖精「人の心理は面白いです。日本にもFBIみたいなの作ればいいのに」


佐久間「それあなたと話して無理だって結論が前に出たでしょう。法務省がそれらしき組織の維持に力を入れているけど、あなたが想像するのとは差異があるかもね」


一度、近年の犯罪率増加、そして科学捜査の発展に伴って、そういった警察とは別の捜査局の設立の話はぽっと出たようだが、警察さんが縄張りに土足で踏み込まれるのを嫌がって流れたとか。


ここは軍事機密を取り扱うので政治家の視察訪問、国家の取締介入もあるのでそういう話はよく流れ込んでくる。一般の妖精可視才持ちが悪用をしないため、法律が制定するまでは極秘の機密。


政治のほうは面倒だ。最初期で馬鹿やりまくっていた首脳陣がまだいる。

本来ならば退陣に追い込まれたはずなのだが、北方鎮守府が出した戦果が輝き過ぎたため、国民からの指示は爆発的にあがり、そのまま居座り続けている。これは一時的なものだと思っていたが、連中、アピールだけは上手い。研究部の成果、今の右肩上がりの戦績、それに伴って安定の兆しを見せ始めた世界の経済成長グラフも上手く自分達の手柄に見せかけている。やっこさん後ろに手が回らないように細工してあるが、私がその気になればいつでも入れ替え可能ではある。


最もなんとかするべきは資源の調達だ。


対深海棲艦において各アジアの脅威を取り除いて、アジアには戦時と比べたら遥かに友好的な協調性が生まれた。私達が創設した比較的平和期間で資源において日本は戦時中よりも格段に潤沢にはなったのだが、輸送船の護衛については戦時中とあまり変わっていなかった。


油、ボーキ諸々を運ぶ輸送船がルートの途中、4割の確率でトラブルに見舞われて運輸に支障を来たしている。内陸の政治に必死で各輸送会社に丸投げ部分が残ったままである。

繰り返す、というか、放置したままだ。

米国は戦時中から資源の輸送を重要視していた。さすがにその影響がどう出たかを分かっているはずだ。艦娘の出動海域的に輸送は要。それを襲う深海棲艦や海賊等々を排除にて減らせば大丈夫などという考えも透けて見えるほどだった。そんな攻撃は最大の防御な考えはもはや時代遅れといえた。深海棲艦の数は減るどころか増えているのだ。輸送ルートの安全確保は最も早く対処を施行するべき点の一つだ。


戦後復興妖精「佐久間さん、これ辞表です。お受け取りください」


佐久間「設備的にも研究にひたすら没頭できる研究者にとっての天国じゃないの。ここ以上の場所はないと思う。あなたは本当になにを考えているか分からないわ。不思議な人」ふふ、と笑った。「そういうところがあなたの魅力よね」

うっせババア、気味悪いンだよ。


「ばっびゅ―――ん!」


T字路から元気なガキが走ってきて、私を追い越していく。その後に続いて「待ちなさいよ!」と廊下を走るガキを諫めるもう一人のガキも現れた。元気だねえ。


この研究部でテコ入れするとしたら後は適性検査くらいか。何の適性があるか効率的に調べる機械がありゃ捗るだろうな。妖精との意思疎通で適性を検査するのは妖精可視者の意思疎通レベルに大きく左右されるため、想像以上に時間がかかる。意思疎通レベルの高い者は希少だしな。


戦後復興妖精「子供は元気ですねえ。あの歳だと駆逐艦の適性者ですか?」


佐久間「うん。伝説の兵士の第二世代だから大いに期待されている子達ね」


もらったコーラのプルを開けて、口をつけた。冷えている気遣いが嬉しい。


炭酸が口内を刺激して一気に目が覚めて腹もふくれる。これ美味いよな。私の中では人間の三大発明の内の一つに指定されているんだよ。これが艤装の燃料なら最高だな、と飲みながら思う。酒よりも好き。長く人間やり過ぎて私にも嗜好という個性がいくつも芽生えている。


佐久間「さっきの子達、それぞれ島風と天津風の適性者よ」

コーラが気管支に入って、盛大に吹いてしまった。


【18ワ●:第二世代、ちび風&ちび津風】


戦後復興妖精「ちび風とちび津風な」

呼び名を勝手に決めた。


佐久間のやつ、私が珍しい反応したのを見た途端に「担当はあなたにするわね」と辞表を受け取らずに去っていった。まだ軍学校もなければ、練巡の確保もない。機密保持を兼ねて、ある程度の基礎は研究部に併設された施設で私達が教える。終わり次第、着任予定の鎮守府に通達して送り出す、という流れになっているからだ。私は手隙だったし押し付けられた。


色々ときな臭い。


この島風と天津風、歳は12歳だ。自発的にやってきて受けた軍の検査でヒットしたらしい。本人達の軍の所属理由は古臭く大和魂あふれるモノではあったが、どうもいつもの密約が軍と交わされたようだ。出身から経歴を調査すればすぐに分かった。建前で塗り固められているし、金銭のやり取りは本人達も気がついていないようだが、親に売られたといった理由が最もしっくり来る。


ちび風「その水、ちょーだい」


二号が飲みかけのコーラの缶を取り、ごくごくと飲み始める。


戦後復興妖精「クソガキ、私のモンに無許可で手を出すとは良い度胸だな……?」


島風(信じられない! なんであなたはこんな子供相手に殺意を出すかなあ!)


凄むと、チビ島風が手から缶を落とした。コーラが私の白衣にかかったのでブン殴ってやろうとしたところ、「うっわあああああああああん!」と大声をあげて泣き始めた。やっちまったね。島風の適性者というだけで苛々して当たりがきつくなってしまったのは認める。


島風「ごめんね。ほら、ポッケにあった飴あげるよー」


ちび風「……おう?」

十二歳ってそんな子供騙しで泣きやむものなのかね。


ちび風「あっりがとう! 良い人だ!」

瞬間的に笑顔になった。こいつ気持ちの切り替えが速い。なんか馬鹿っぽいけど。


島風「どういたしまして。ほら、ちび津風ちゃんもとい、天津風ちゃんもおいでー」


対してちび津風は部屋の隅で立ったまま、明らかに警戒したオーラを振りまいている。「いいです」と断ると、ちび風の腕を取って引っ張り寄せた。馬鹿な妹の世話をする姉といった感じだ。さすが天津風ちゃんだ。知らない人へのまともな反応だ。ちび風とは違ってちっともイラつかない。


島風「二人とも戦場に出ることを選んだけど、どういう意味か分かる?」


ちび津風「分かってる。昔、襲われた連絡船を守るために兵士が戦うところを丘から見たもの」


おろ。ちび津風のほうは子供ながらもその瞳からは覚悟の熱が灯っていた。御立派だ。こういうやつはたくさん見て来た。最初はこれなら世話はかからない、と思っていたのが大きな間違いだ。実際に戦場に立つと、ポキっと心が折れるのだ。

覚悟を決めていたと思い込んでいた分だけ反動もでかく、後で世話が大変になるパターン。実戦経験を積まねば本当の成長はないんだよ。


島風「おお、偉いね。この天津風ちゃんは頼りになりそうだ」


ちび津風「……別に」

ちび津風はぷいっとそっぽを向いた。照れているみたいだ。

これが可愛いというやつか。可愛いな。


ちび風「もうこのしゅわしゅわする飲み物がないよ。おかわりー」

このクソガキ2号、空き缶投げてきやがった。


…………


…………


佐久間「工廠の使用許可と建造許可の申請書?」どれどれ、と佐久間は眼を通すと、頷いた。「へえ、そういえばあなたって島風の適性率が20%あったわね。一時的に建造して身体能力を強化して座学と並行してその子達に手取り足取り艤装の扱い方を教えてあげたいってことね?」


戦後復興妖精「はい。そのほうが効率的ですし、それが出来る信用はありますよね?」


佐久間「うん。私は許可する。でも建造は所長の許可いるから今すぐは無理ね」


戦後復興妖精「了解です。ささ、君達は夜までお勉強しよう」


ちび風「部屋の中、飽きた。外でやりたい」


戦後復興妖精「今日のお外、見た?」


ちび風「見た。白いいつもの冬だった。外で勉強教えて」

ざけんな。北海道の真冬で大雪だぞ。島風二人の馬鹿は風邪引かなくても、私とちび津風ちゃんは当てはまらねえんだよ。


ため息が出る。こいつら清霜より歳が下なんだよな。鎮守府に着任する頃には一つ歳を取るか取らないかといったところだ。今の身分が祟ってかつての北方のようなスパルタは難しい。

今の私はそんな性格設定ではなかった。

平凡な中身に容姿、そんな女がガキ相手に怒鳴り散らせば悪目立ちする。私がまともに戦えるようにしてやれるかどうか甚だ疑問だ。いっそのこと島風に任せちまおうかな。さきほどのやり取りからして私よりガキの世話するのは上手いようだし。


島風「じゃあ、お外へ行こうか。北方なら特に冬の恐ろしさを学ぶのも勉強になるし」


嬉しそうにはしゃぐちび風とは対照的にちび津風のほうは不満そうだ。そりゃそうだよな。誰が好き好んでこんなマイナス気温の中で抜錨したがるという。ガキの心は理性が弱く感情的でないまだによく分からん。ガキの相手はガキに任せて身体の舵は譲るとした。


戦後復興妖精「あ、その書類、貸してもらっていいですか?」


佐久間「いいわよー。それじゃまた連絡するから」


紙切れを眺める。最近、気になっていることがある。1946年に賠償艦としてソ連に渡った駆逐艦響である。その適性者は殉職処理された私と入れ替わるように現れたのだが、いたく才能のある適性者のようでメキメキと短期で練度をあげていって、改二になったという。


ヴェールヌイ。研究部でも話題になった。まだ戦線にいる艦が実装されたのは世界初ケースだった。日本国籍でありながら、艤装はソ連所属艦のモチーフなため、ややこしくなった。ソ連の対深海棲艦海軍が所有権を主張して暗に譲渡を要求してきたのだ。


結果、適性者の響はソ連のほうに日本からの派遣という形で片付いたが、少しひっかかっている。近場の北方鎮守府に所属していたため、直に見たことはあった。その時に不思議なことに艤装にあるはずの想が探知できなかった。パーパに問い合わせても、知っているから放置でスパっと切られた。

気になるじゃないか。艤装の想の探知が出来ないってことは私達に一矢報いることが出来る。気にしないほうが無理だ。

思考から現実に返る。いつの間にか着替えが終わっていた。


北方領土に構えるソ連軍から「お前ら防寒なめているだろ。このくらいは着こめよ」となかば押し付けられるようにもらったモコモコした服だ。コサックダンス踊るやつが着ているイメージのあれだ。なかなか温かいが、しょせん服だ。着ようが、寒いもんは寒い。


抜錨地点にある艤装をちび二人は身にまとって、冬の海の上へと浮かんだ。


寒ィな。吐いた息が凍りつきそうだ。感覚をシャットダウンしたいが、念のために島風を監視しておかなければならない。もう十年以上一緒にいるし、ガキも私の戦後復興の役割に馴染んできてはいる。パーパに逆らうような言動は表に出さなかった。裏ではこうやって海の戦争を人間サイドで暗躍することによっていつかパーパとマーマを倒すことが出来る、と役割に熱心ではある。


そういうことなら私も是非もなかった。むしろ、島風を応援している心も芽生えていた。


私はあの二人に逆らえないようにされているけども、パーパ&マーマが艦の娘に殺されるところは見てみたくもある。その時は指差して笑う自信があるね。産まれた時から絶え間なく仕事させ過ぎだ。こうして私達が育てた兵士があの二人を沈める兵士になると思うと、ケラケラである。


先行したちび二人を追って、ボートに乗り込み、白雪が降る北方の冬の海に抜錨した。


島風「……すごくない!?」


そうやって声に出してしゃべりかけるの止めろ。周りに変なやつだと思われちゃうだろうが。


でもまあ、確かに島風が驚くのも無理はない。私も「へえ」の言葉を内心漏らす程度には反応した。ボートから適当に訓練材の的を海に流してやったのだが、近距離からの砲撃でちび風とちび津風ともに二発で命中させていた。まだ建造して間もないのにこの精度から素質の高さが伺える。


魚雷、機銃、航行、状況判断、後は座学を見てからの判断となるが、成績次第では上に早期着任の話をして早期に試験を受けさせてもいいかもしれない。そのほうが早くこのガキどもの世話の役目を果たせるし、願ってもないことだった。演習させたいが実弾演習は無許可じゃ無理か。


遠くで警報の音が聴こえた。


その音に引っ張り寄せられるようにして漁船が群れを成して陸地のほうへと向かってくる。島風は二人をすぐに呼び寄せて船の隣につかせた。警報の音からしてよくある危険警報だ。


漁船か客船が北方鎮守府担当の安全海域周辺に敵影を察知したのだろう。


だけど、勘違いの可能性もまだある。深海棲艦を発見すれば拠点軍艦から通信が届いて、第二次災害警報の音へと変わる。探知可能範囲で探知したが、どうも間違いのようだ。いてもはぐれのザコが数匹ってくらいだな。猟師のジジイ達は「魚あ動きいずい(おかしい)」と、海がいつもと違う、といった感覚的なことで深海棲艦だあ、と騒ぎ立てる。不審者を発見したのと同じように交番警察にちょっと見てきて、と警報を鳴らす奴も多い。気持ちは分かるんだが、ちょっとここらもしっかりルール決めようや。


吹きつける風の音、漁舟が漁港へと向かう様を眺める。


島風は深海棲艦がいたら、電探を使ってみさせるつもりで待機しているようだった。意図は把握したので、私は強引に島風から身体の舵を奪い取った。そしてボートにあるドラム缶と釣り竿を取り出した。せっかく海に出たんだから、釣りでも楽しみたくなった。釣りはなかなか面白い。


魚のような読むのが難しい生物をどうやって餌にくいつかせるか、かかりを待っている時間も思考を巡らせ、釣り竿に細工を施し、思考錯誤する。海での時間潰しには持ってこいだった。魚も資源には間違いないし、釣れたら今晩のおかずに加えてもらおうという魂胆である。


数分後、警報が鳴りやんだ。

やはり見間違いだったらしい。こっちも坊主だ。


氷雪が降る中、肉眼で確認するのは難しいが、ちび風が「電探に反応」と報告をした。深海棲艦ではなく、近海哨戒から戻ってきた北方鎮守府所属の艦の娘だった。冬仕様の軍服を着込んでいるが、寒そうだった。二人もそれを把握したのか、ほっとしたような顔になる。昔ならはい油断、と砲弾の一つでも放っていたところだ。帰るまでが出撃です。


「研究所の方と訓練生とお見受けしましたが、警報が鳴ったら避難をしてください」


「すみませんね。すぐに戻りますので。二人とも研究所に帰るよ」

といつものようにへらっとした顔で笑う。


矢矧は表情に色がねえんだよな。だからか、ちびどもも少し固くなってしまっている。身体から発しているとげとげしい空気が殴りかかってきそうな感じだもんな。こいつはこういうやつだよ。あの島で出会った時から勇敢で刺々しく凛々しい。


つり竿を片してボートの操縦に戻る。


矢矧「あの、この子達の艤装、陽炎型の天津風と、島風ですか」


ちび津風「そうです。着任予定は二人とも北方鎮守府です」とぺこりとお辞儀したちび津風とは逆にちび風は矢矧に興味があるのか周りを旋回して色々な方向から眺めまわしていた。


ちび風「すっごく強そうだし、速そうですね!」


矢矧「……うん、強いし速いわよ」


なに考えていたか当ててやろうか。これが本来の島風よね。あのむちゃくちゃなやつは一体何だったのよ、と、ちび風と初代島風を比較している。矢矧は考えごとすると、顔に出やすいんだよな。


「おーい帰るぞー」と二人に声をかけて、引き返すと、矢矧も並行して突いてくる。なぜか顔をじいっと見つめられた。今の私とは顔を合わせたことが数回ある程度の仲だ。お互い覚えているかも怪しいくらいだ。挨拶くらいしといたほうがいいのかね。


矢矧「じー」


戦後復興妖精「あの、なにか……? 密漁疑うのなら調べてくれても……」


矢矧「ごめんなさい。あなた、なんか雰囲気があいつと似ていてね……」


戦後復興妖精「あいつ?」


矢矧「ともに戦って死んだ仲間よ。出会ってすぐに死に別れになったけど」


どうなっているんだ。容姿も性格も変えているはずなのに、なぜ結び付けられるのか。雰囲気って、それで結び付けられるのかよ。人間ってこういう不思議な感覚を持っているよな。学習能力の成果だろうが、私からしたら想探知もなく、勘づくのは超能力の一種と変わらなかった。


矢矧「今でも覚えているわ。私が驚くくらい強かったから」


戦後復興妖精「ああ、伝説の兵士のことですか。今度の島風も素質が高いですよ」


ちび風「矢矧さん、その島風ってどのくらい強かったんですか?」

ちび風お前、敬語使えたのかよ。なぜ私に使わないんだ。もしかしてなめているのかな。


島風(逆に気に入られているから使わないんだと思うなー)

考えてみれば、そっちのほうが厄介だな。


北方鎮守府に帰って、その日は晩飯を食べてから風呂に入るまでの時間を座学に費やした。予想外に二人とも頭が悪かった。

ちょっと意外だった。

一つの教えに紙の一枚がその単語で埋まるくらい物覚えが二人とも悪かった。教えたことをその日の内に記憶して、なぜ、どうして、としつこいくらいに何度も尋ねられた。その度に答えてやる。


風呂に入ってから一応、見回りのため二人の部屋を覗いたら、二人とも起きていた。倉庫に忍び込んで自律式の連装砲ちゃん&君を持ち込んでいた。さすがに雷を落とそうとしたが、島風から制止の声がかかった。

扉の穴からなにをしているかを伺ってみた。

軍隊式の腕立て伏せをしていた。背中の上に連装砲ちゃん&君を乗せていた。1、2、3、4、と100まで数えたところで二人とも倒れ込んだ。ちび風が「連装砲ちゃんと連装砲君って生きているのかな」と不意にいった。ちび津風が「弟みたいに思っているわ」と答えた。


ちなみにこの夜にちび風が操作を誤って連装砲ちゃんに砲撃させてしまって壁が壊れた。


その日の夜、私はもう一度しっかり二人の書類に目を通した。

この二人の産まれはハッキリしない。建造状態なのである程度は想探知解釈で把握できるし、一応の書類に目を通して真実は予想がついている。

ここに来る前にも一度、売られている。

恐らく戦後に深海棲艦出現が重なったことによる生活苦により、小学校も通えず労働力として売られた。働かされていたのは開拓作業所だ。そこのことも調べたところ、かなり危ない橋を渡っている裏世界が関連した会社だった。

一縷の望みをかけて軍で適性を測ったのが吉と出たのだろう。

取引額はちょっと私の一年分の給料よりも桁が違った。まあ、二人の読み書きが不安定な訳だ。教育を受けていないのだ。


島風の提案でそこから私は二人に教えた。

砲を持つ前にペンを持つべし。


ちび風が、あくびをしながらいった。


もしも私がお姉さんみたいに頭良くてたくさん稼げたらさ。もっとお母さんと一緒にいられたのかな。


そんなことを不意にいった。

ちび津風が目尻に涙を溜め始めた。意外と泣き虫なんだな。強がりなちび津風に、素直なちび風。二人とも過去にそれぞれ嘆く部分はあるようだ。慰めの言葉は出なかった。私、親を想う気持ちはよく分からねえんだよ。ごめんな。


島風がいった。今日は勉強がんばって明日は少し町に遊びに出よう!


待て。スケジュールってもんがあるんだよな。

外出許可は申請しておくけどさ。通るように他鎮守府の見学や合同訓練なんかに参加させてもらえたらタメになるだろ。

そういうことには当てがなくもなかった。

向こうは私の存在を知っている。最も口に出そうとしたら、罰がくだるけどな。契約者は想で繋がり、私を通してパーパに監視されているのだ。私は研究所のツテを辿って鎮守府の提督と連絡を取った。矢矧さん矢矧さん、とちび風がなぜか矢矧に興味を持ったのか、会いたいとせがんできてうっとうしかった。


艦の娘は建造の身体能力強化で普通の人間なら過労死するくらいの仕事量をこなしているんだぞ。しかも矢矧は錬度の高い日本軍の五本の指に入る兵士だ。戦闘の腕も経てば、軽巡で暇があれば遠征にぶち込まれて輸送護衛をやっている。

休憩はあっても、休みの日なんかあるはずがないだろ。


2


佐久間と話して私の休暇に重ねて外出届けが取れたのは意外にも一週間後と早かった。なんとか通してくれたら辞表を捨てる、といったら、喜んで善処してくれた。


目的地は横須賀の史元帥の鎮守府だ。島風に身体を委ねていたのだが、ボートを艤装で青森の港まで曳かせていた。一応、お前らの外出理由は訓練だし、駆逐である以上、ドラム缶を担いで嵐の中もっと遠くまで行く機会も出てくるだろう。港につく頃には息切れを起こしていた。


ボートを停泊させて、目的地までは予定通りの列車で向かう。

ちびども二人は列車に乗ってから目をキラキラとさせていた。最近になって増えてきた無煙の列車に乗るのが初めてのようだった。飯食って駄弁って飽きると、座学の教授を求められたので島風が講義を始めた。なんだか歳の離れた姉妹といった風だった。


横須賀は改装を施されて北方の鎮守府よりも遥かに大きかった。なぜこんなに棟があるかも分からないレベルで無駄が多い。大きい家、とちび風がはしゃいでいた。これからの日本はきっとこんな横に広い家も造るの難しくなって大きい家は空に伸びるんだろうな、と私はそんなこと思う。


門前で見張りをしていた憲兵にあいさつをして、提督と連絡を取ってもらった。


案の定、元帥は不在にしており、秘書官のもとまで案内してもらった。艦娘に事務をやらせる余裕があるとは思えない。馬鹿じゃねえの、とあの親睦旅行前の私なら思っていただろうが、最近人間の都合というものが分かってきた。


佐久間が交際していたという男に別れを切り出されたとかいっていた。男は政治家の家系で、知的な佐久間のことを気に入っていたようだが、政治家の妻としての役目を研究職である佐久間では果たせないために破局したのだ。

人間には人間の事情がある。

大体馬鹿らしいけど、仕方ないよな。人間がそういう生き物だってことは歴史の教科書を読んですぐに分かったし。


憲兵に案内された豪勢な紋様が入った木製扉をノックした。どうぞ、との声が聞こえて、失礼する。ちび風と天津風は入ると同時にそれぞれすぐに自己紹介した。島風もその後であいさつを交わして今日の訪問の旨を改めて伝えた。「天津風さんと」

大鳳「へえ、島風さんですか」懐かしむような目をちび風に向ける。「装甲空母の大鳳です。今日は私の艦隊の演習見学ですよね。その後に艤装をつけて少し対空射撃の訓練をしてみましょうか」


ちび風「おう!」と元気に手をあげるちび風の頭をちび津風が押さえて下げさせる。「すみません。よろしくお願いします!」と謝るようにいった。


大鳳は優しく微笑んだ。


3


艦隊の訓練風景を眺めている。艦娘もずいぶんと増えてきたし、ある程度の錬度に到達する余裕も出来たのは良いことだ、とかつての北方奪還の海で出会った島風を思い出して染み染みと思う。隊列の組み方、対艦載機の機銃掃射、理に適った動きをしていた。


大鳳「驚きました。あの子達、想像以上に素質が高いですね。それに知識がないと出来ない動きも」不意に声をかけられる。「研究職と聞きましたが、兵士の教鞭を執るのがお上手なのですね」

島風「あの子達のやる気があっただけですよ。それより他のみん、」

そこで無理やり引っ込めさせた。この馬鹿、他のみんな、っていおうとしたぞ。


大鳳「他の?」


戦後復興妖精「いえいえ、あの平和期間を築いた大鳳さん達と肩を並べるにはまだまだですよね。やはり実戦経験は兵士を格段に成長させるんですね?」


大鳳「いや、あの一連の戦いは……」大鳳が視線を背けて、げんなりした声でいう。「同じく私の教鞭を執ってくれた人が高性能で、空母棲姫、駆逐棲姫、戦艦棲姫、駆逐古鬼、レ級、ヲ級改フラグシップ、その他もろもろの深海棲艦を片付ける武蔵さん顔負けのモンスターでして……」

背に腹は代えられなかったとはいえ、さすがにやり過ぎたよな。反省はしている。


大鳳「でも今戦えばちっとも負ける気はしません」

あれ? 大鳳ちゃんちょっと調子乗ってね?


戦後復興妖精「私も研究職ですから、深海棲艦の姫鬼の恐ろしさは分かっているつもりです。だからこそ、信じられませんよね。北方にいますから、確かにその島風さんは恐ろしい素質を持っていたのだとは分かりますよ。でも、きっと大鳳さん達が上手に立ち回ったからこそでしょう」

こんな風におべっかもバッチリだ。ちょっとは私も大人になっちまったかな。


戦後復興妖精「あの艦隊の皆はそれぞれ別の鎮守府に配属になったんですよね?」


大鳳は横須賀で元帥艦隊の旗艦や秘書官までしているから艦娘では一番の出世だ。聞いた話では装甲空母の特性を理解してからは空母としての腕が格段に上昇していったらしい。今では鬼一人の六隻編成の深海棲艦ならば単艦で沈めたこともあるようだ。

清霜は鹿児島の鎮守府にいるとか。出会った夕雲型の姉妹艦達に色々と教えているらしい。元気にはしゃいでいる姿が目に浮かぶわ。

矢矧は北方鎮守府だから知ってる。

武蔵は沖縄まで飛ばされたとか。相変わらずの低速超火力らしいが、砲撃精度は随一だとか。

最も戦果を挙げたのは数年前にソロモン諸島で姫を二隻も撃沈したサラだ。本人は余裕が出来たら、日本に派遣艦として在日したいと希望を出しているらしいが、米国も自領海域の保守で大変だ。通るのはまだまだ先だろう。


ま、この最初期でお前らが誰も死んでいないのが、奇跡に近いほどだと思う。


私は別に予定があるのでここでお暇させてもらう。二日後に迎えに来る。守秘義務に包まれた私の外出申請は名目上、こっちの研究部に顔を出さなければならないことになっているのだ。少し顔を出したら本当の目的に移行するつもりだけどね。

大鳳に事情を告げて鎮守府を出た。


背後から聞こえた声にぎょっとしてすぐさま振り返る。


「戦後復興妖精でありますね。いや、会いたかった」

帝国時代の軍服をまとった妖精だった。


「お初に。此方と当局から聞いてはいますね?」


その日、私は兄弟分の仕官妖精と出会った。


4


仕官妖精「いやいや、称賛させて頂く。始まりの島風は妙に違和感があったのであります。情報を収集するほど舌を巻く活躍ぶりに、もしもその時が来たのならば私の使命の第一候補に、と考えていたのでありますが、まさかあなたの仕業だったとは、合点が行ったのであります」


戦後復興妖精「おじさん、うるさいぞ。研究所に着くから静かにしろ」


仕官妖精はぺちゃくちゃとずっとこの様子だ。1946年から産み落とされ、私とは違って動向をマーマに見張られているけども、仲良くおしゃべり出来るような間柄ではないはずだ。仕官妖精はずっと一人で現世をさまよっていて、その十二年間分の孤独を晴らすかのような長話だった。


島風の話に似ていて他愛ない人間視点の内容は耳タコなので聞き流しながら進んだ。


研究所はどこも似たような造りとなっているが、北方よりも機密レベルが高いだけあって、見たことのない機械(システム)がたくさんあった。案内人の指示に従って、妙に入り組んだ通路を通って、設備をじろじろと眺めながら歩いた。


仕官妖精は歩幅についていけないのであります、と私の肩に乗ってきた。実にうっとうしいが、妙な素振りをして変に思われるのも面倒だ。面倒、というか億劫だな。なにせ島風が声に出して私にしゃべりかけるヘマを何回かしたせいで研究所に忍び込んだ最初は変人扱いされていた。妖精をスパイとして活用しているのでは、と疑われた程だ。あいつらがそんなことしねえのはお前ら研究者が一番分かっているはずだろう。


持ち込んだ研究資料を提出して、狭い独房のような部屋でこなれた出張会議をする。こいつらが知っていることは私も知っているので、内容に合わせて発言に線を引けばいいだけだった。その時に初めて佐久間が空いた時間を利用して行っていた個人的な研究の詳細資料に目を通した。


Intangible Energy(無形資源)


そういえばオカルト好きなやつだったっけ。海の戦争を本職にしたのも、それが理由だっていっていた。海の資源についての話だった。小難しい文章で読むのも面倒だ。途中で辞めた。


事前に送ってある研究資料の成果報告だけをしてその場は解散だ。二時間ほどお勤めすれば、46時間の休みがもらえる美味しいお仕事だった。

さてと、後は少し外れの町に出向いて本来の目的だ。


仕官妖精「鎮守府に戻るのでありますか?」


戦後復興妖精「てめえのせがれが世継ぎ作っているかの確認だ」


仕官妖精「不粋な……」

一応、仕事なんだよ。もしも血が途絶えそうだったらそこもテコ入れだ。


島風(ほ、本当なのそれ? 人間には心の準備というものがね……)


馬鹿かお前、私が嫁入りするわきゃねえだろ。


5


ふうん。事前に調べていたので大雑把な事情は把握している。

本官の後を継いで軍人家系のままだった。さすがに始まりの提督として重用された本官だけあって、裕福に満たされている。

本官自体は忙しい最中で家に戻ることもなく、戦死しており、その血はすでに本官の弟しか残っていなかった。

弟君も陸軍のほうだが、軍人として生きている。階級は大佐と中々だ。古臭い木造の広い家には妻もすでにいる。そして子供も男が二人いて、庭でボール遊びをしていた。久しぶりにこんなに楽な本来の仕事に出会ったかもしれない。


パーパと連絡を取った。近況報告をしてから想力の供給をしてもらう。


血が途絶えないよう、あの男の子二人にセレンディピィの魔法をかけておく。なにか生死の境に立たされることになった時、身を守る奇跡をまとわせておく。早々死ぬほど危険な目に遭うことはないだろう。念のために現海界している想のパイプを使ってロスト空間にいるパーパとも繋げておく。少なくともロスト空間が消えやしない限り、一世代は大丈夫だろうよ。


そういえば仕官妖精が静かだ。


こいつは恐らく今の地球で最も暇な生物だろうから、自分の家くらい見に来たことがあるはずだ。しゃべりかけて長話に付き合わされるのを嫌って想探知で解釈に努めてみるとした。これは喜怒哀楽でいえばどれなのだろう。懐かしむ、見守るといった皺の入った感情のような気がした。


そうか、弟君が愛した嫁は本官と将来を誓った仲の女のようだ。気になったので聞いてみたら「なかば親に私とくっつけられましたが、弟も気があるのは把握しておりましてなあ」と苦笑する。「いずれにしろ、二人とも幸せそうで良かったのであります」

よく分かんねえ。恋慕の情も私の大の苦手な想いの一つといえる。


仕官妖精「ところで戦後復興妖精さん、もう少しテコ入れする訳には行きませんか。例えば適性者の手引きです。今の環境は好ましい。今の落ち着いて腰を据える時間はそう長くは続かないはずであります。この比較的、平和な間にもっと兵士を育てておくべきでありましょう?」

そして私の嫌いなこと一つ、パーパでもないのに私の役割に指図をしてくるやつだ。


戦後復興妖精「うるせえ」


確かに仕官妖精がそのような言葉を私にいうのも分かる。似たような立場ではあるよ。仕官妖精はこの『艦隊これくしょん』を突破する勇者を選ぶ役割を帯びた。私はその勇者達の住む国を整えるバランス調整の役割を持っている。一見、協力関係を結べそうな関係だ。しかし、本官は私と違ってあくまでパーパとマーマと敵対関係にある。協力=裏切り=私の死、である。


仕官妖精「しかし、あなたの立場は私と違ってかなりの融通が利くのであります」

本官は喰い下がらなかった。


戦後復興妖精「無能の指図ほど不愉快なもんはねえな。テメエはまだこの海で電をただ死に追いやった挙句、自分すら死ぬ羽目になった間抜けに過ぎねえよ」私はそう吐き捨てた。「私はテメエより違う。大鳳も清霜もサラも武蔵も矢矧も全員を地獄のような連戦から生きて帰らせ、入渠システムとその効率化も発見して、今はちび風とちび津風も育てている。分かったら失せやがれ」


仕官妖精「失せないのであります。暇人をなめてもらっては困る。365日つきまとえますよ」


戦後復興妖精「勘弁してくれ……」


仕官妖精「生前は出来が悪かったゆえ、暴言暴力なぞ腐るほど受けたのであります。加えて死も味わった。そして罪を知った。そちらに就くならば宣戦布告でもしますよ」仕官妖精はいう。「本官は必ず此方を撃沈する船を見る。そしてそこまで漕ぎ着ける提督を必ず選出するのであります」


島風「初めまして。島風でっす!」

ガキがデカい声を出した。すぐさま引っ込めた。代わりに私が伝えてやるとする。


戦後復興妖精「私の中にいる居候が出しゃばった」


仕官妖精「む、例の……島風さんですか」


戦後復興妖精「代弁してやる。私は本官さんの味方だよ。本官さんが才能を与える者の選択肢を増やすために内陸のほうを豊かにするよ。そういう協力しか出来ないけど、私もロスト空間にいるあの人を倒したいから、艦娘のみんなを助けられるよう後方支援に努めているからね。だそうだ」


伝え終えると、仕官妖精は笑った。

仕官妖精「なるほど。実をいうとあなたの動き的にどちら側か分からなかったゆえ、協力を持ちかけました。今は断られましたが、お会い出来たのは幸運だったようでありますなあ」


戦後復興妖精「今は、じゃねえよ。未来永劫だよ。このガキはただ私の中にいるだけだ」


仕官妖精「慣れましたか?」


戦後復興妖精「そりゃな……」

何十年も一緒にいれば慣れるだろうよ。


仕官妖精「そうですか、では若者よ、大志を抱いて生きるのであります」

と仕官妖精は私に敬礼して踵を返した。


仕官妖精「きっと失ってから気付くのも、これまた人の性なのでありましょうなあ」

なんだよこいつ、途中からまるで意味が分からん。


島風に聞いてみたところ、同じく理解不能だったようだ。少し気になったのでパーパに繋いで質問してみようかと思ったが、止めた。あいつは想力解釈については私より下手くそだ。マーマが一番上手いのだけども、パーパを介してからしかマーマに繋げない。

あ、パーパとの繋がりが一時的に消えた。

たまにあるけども、いつもすぐに復活する。マーマの殺人衝動にやられちまったんだろ。深海棲艦でも作って殺せばいいのだが、どうもパーパじゃないとダメみたいなんだよな。マーマいわく、大事な人を殺したほうが収まるとのことだった。普段は優しいマーマも内に狂気を秘めている。私はどちらかといえばパーパよりも激怒したマーマのほうが怖いね。

念のために想の繋がりが復活するまで島風を表に出さないよう、極力努めた。



想の繋がりが復活したのは一時間後だった。

仕事は予定よりも早く終わった。鎮守府に戻ってもやることは特にない。ようやく休暇らしくなってきた。周りに知り合いがいる訳でもなかった。久々に見知らぬ土地で一人だった。

ため息をついて騒々しい町中を歩いた。

鉄の黒いスクールバスが日の照った道路をゆっくりと私の前を歩いてゆく。黒い排気ガスが風で雲散した後、向かいにある食品店の美味そうなサンプルに目を奪われる。

今、食うと生活リズムが狂いそうなので、軽くなんか食うか。

たまたま近くにあった出店で名物の饅頭を買った。

饅頭の文字を見ながら思う。そういえばこれに烙印してある軍艦の適性者、なかなか現れないな。運営のマーマが出し渋っているのか後回しにしているのだろうか、と他愛ないことを考えた。

三笠焼を口に押し込みながら、騒々しい人込みの群れに混じる。

大戦が終わり、その後にやってきた深海棲艦もあの戦いから大分落ち着いたため、ここ十年でずいぶんと人間には活気が産まれていた。この人込みで走り回っているやつもいる。

町を我が物顔で闊歩するヤクザ者も昼間から堂々とそれらしき雰囲気を振りまきながら表を歩いているし、みんなけっこう自由に生きている。私のような引きこもり生活のやつは珍しそうだ。


気の向くままに歩いていると、人気の全くない畔道に出た。

ぽつんとある店を覗いた。何の店かと思えば自転車の店だった。最近、話題にあがる。

研究者の健康管理を担当する医師が最近はサイクリングが流行しているので、運動がてらどうですか、と勧められたことを思い出した。単純な興味で買ってみる。せっかくの休暇だしな。


島風(その乗り物は見たことしかないけど、速いらしいね)

移動のための乗り物なんだから、歩くより遅かったら売れないだろうに。


乗り方の説明をしてもらって近場の公園まで押して向かった。


疎開してきたかのような見てくれの子供達が一つの竹馬に群がってはしゃいでいる。そこから少し離れたところで自転車にまたがった。ペダルを漕ぎ出して前に一メートルくらい進んだところで景色が激しく揺れる。落車してしまったようだ。意外と難しいぞこれ。


島風(あっはっは! かっこわる――――!)


黙れ。油断しただけだ。


今度は気合いを入れて、もう一度、乗ってみた、二メートルほど進んだところでまた落車した。慌てて自転車を起こした。買ったばかりの車体にすり傷がついてしまった。自分の心配しなよ、と島風がいってくる。そういえば頬もひりひりする。どうやら私も傷を負っていたようだ。唾をとけとけば治るから放っておけばいい。だけど、自転車はそうもいかないんだ。


結局、日が暮れるまで自転車に乗り続けた。


その私の努力は報われて、なんとか乗れるようになった。乗っている間は戦闘中のように集中しなければならなかった。「あー、あのねーちゃん、乗れるようになってる」とガキに指を差された。いらついたのが仇になってまた落車してしまった。くそ、あんなガキに嗤われるだなんて。


島風(私も乗ってみていい?)


ああ、いいぞ。ただ気をつけろよ。簡単なように見えて難しいんだ。島風に身体の舵を委ねて私はこいつがこけたら大笑いしてやろうと構えていたのだが、島風はたった一回で上手に乗りこなしてみせた。「ふっふん。簡単じゃん」と自慢げにいいやがった。アレだな。私がこの身体で培った経験があったからこそだろう。きっとそうに違いない。私は自分にそう言い聞かした。


島風「なにこれはっや――――い!」


島風はグングンと速度をあげて、風を切って進む。

おい馬鹿、速度を出し過ぎだ!

荒れた道をそのままの速度で運転したせいで、ブレーキをかけた時にはもう遅かった。地面から出ている木の根っこに車輪をひっかけてしまった。身体が宙に放り出されて、背中から田んぼに落ちる。めちゃくちゃ痛い。偶然力をかけたのが幸いしたのか、軽い打撲で済んだ。身体の舵を奪い返して、田んぼから這い上がった。泥水の中に私の小銭入れのひもが出ていた。


戦後復興妖精「このクソガキが……!」


手を突っ込んで硬貨を拾い集める。汚れていてよく見えなかった。手の感触を頼りにかき集める。硬貨は三枚ほど見つけられなかった。なんだか馬鹿らしくなって諦めた。今回は働いているし、これといった趣味もなく、引きこもってばかりの生活だ。金ならまた溜まるだろうし。


島風(ごめん……)


戦後復興妖精(いいよ別に、ただ失った金はお前の取り分から引くからな)


島風(分かったー……)と島風は珍しくしおらしくいう。(あ、そうだ! 自転車をさもう一つ買ってちび風とちび津風にあげようよ! 私は島風だから分かる! 絶対に喜んでくれるよ!)


珍しく落ち込んだかと思えば切り替え速すぎだろ。ちび風かよ。

あの店に行って、自転車をもう一台買った。店のおっさんに「どうやって持ってくんだ」といわれた。

そういえばそうか。中に二人いても身体が一つしかなかった。どうやって持っていこうか。と思考を巡らせると、「家、どこ?」とおっちゃんがいった。横須賀の鎮守府まで。

近場じゃねえか。高い買い物してくれた礼だ。そこまで運んでやるよ。


ありがたく好意に甘えるとした、傷の手当てまでしてもらった。

近場、というが歩いていくと結構な距離で片道一時間はかかる。そういえば私が単純に素直な礼をいったのはこれが初めてかもしれない。


おっちゃんと一時間の逢い引きをする羽目になった。


6


鎮守府に到着すると、門前で礼をいって別れた。なかなか聞けない町の面白い話が聞けたので意外と退屈はしなかった。最近、やくざモンが鎮守府辺りをうろついている、とのことだった。

やくざっつう種には興味あった。

要は悪い意味の暴力で利益を産むやつのことのようだ。縄張りってのは面白かった。別にお前らのものでもないのに勝手に線を引いて王様のように振る舞う。あれか。ガキ大将の進化系のような印象だ。


おっちゃんは仕官妖精と同じようにしゃべりまくるし、聞いているだけで良かった、なんというかさ、男って歳を取るとおばちゃんみたいになって女はおっちゃんみたいになるよな。


憲兵に汚れた身体の事情を質問された。答えたらまた嗤われた。くそが。


自転車を中まで入れてもらったところで、鎮守府の海のほうでちび風とちび津風、それと大鳳がいた。なにやら慰霊碑の説明をしているみたいだった。ちび風が私に気がついて「あ! それ自転車だ!」と指を差して大声をあげた。「二人にやるよ。今日がんばった褒美だ」といった。


島風(あーあ……あなたも段々と人間臭くなってきているよねー)

はあ? と島風に意味を問おうとしたが、大鳳が固まっていた。


しまった。素のしゃべりが出た。まさか容姿も違うし、人間の知識ではまるっきり違う容姿で生きているだなんて絶対に思わないはずだ。気がつかれないとは思うが、なぜ固まるのか。


戦後復興妖精「大鳳さん、いかがなされました」


大鳳「あ、いえ、気のせいです。今のあなたから懐かしい人の面影を感じて」


本当、人間のこういうところってなにがどうなってんだ。油断も隙もねえ。


ちび風「これくれるんだよね! 乗ってみてもいい!?」

目を輝かせたちび風は聞いたくせに答えも待たずに自転車にまたがった。


戦後復興妖精「待て待て。それ乗るの難しいから……って……嘘だろ……」


ちび風は最初で乗りこなしていた。


ちび津風「こら、危ないから速度を落としなさいよ!」

とちび津風がちび風の後を追った。自転車に乗って。こいつら、ちくしょう。


大鳳「もしかしてその服の汚れや生々しい傷は……」

察したようだ。くそ、まさか大鳳にまで憐れみの感情を向けられるなんて散々な一日だぜ。


ちび風とちび津風が戻って来た、走り始めた時とは違って、仲良さそうだった。「ちぇ、追い抜かれちゃった」とちび風は頬をふくらましている。ちび津風は勝ったからか、少し嬉しそうだった。まあ、天津風ちゃんの笑顔を拝めたのなら贈り物として選んだのは正解だったようだ。


ちび風・ちび津風「ありがとう」

どういたしまして。


大鳳「自転車、面白いですか?」


ちび風「面白いよ。貸してあげる」


大鳳も興味あったようで、自転車に乗った。


一メートル進んだところで落車した。


戦後復興妖精「大丈夫ですか」


頬を赤らめている大鳳を見て、内心腹抱えて笑った。


7


最高に都合の良い夜が訪れた。

その夜に元帥鎮守府に省に勤めるお偉いさんが視察に来たのだ。しかも飯を食べた後にちびどもに座学の教鞭を取っている部屋にまで大鳳が案内して連れて来た。あいさつをすると「お構いなく」といって授業を参観する親御のようにこっちを観察し始めた。


教えているのは深海棲艦特性についてだ。生体反応、特に危険度が高いほど、人間を優先的に狙う。「なにか人間に恨みでも持っているみたい」とちび風がいった。その通りだ。子供って鋭いところあるよな。

鹵獲に成功して生体を調べたところ、人間がいない状況でもその性質は変わらないが、実際はその感覚で人工物に囲まれたら人間の気配を感じ取っているからだ。人間がいない環境での深海棲艦は比較的、大人しいのではないか、という説も出ているが、そっちが正解だった。


案の上、どうして、なんで、と疑問符の嵐がやってきた。

一つ一つ答えてやっていると、就寝の時間になった。二人はまるで言葉を覚えるように、何度も同じことを書いたため、ノートは十ページ以上も埋まっていた。

ここまで物分かりが悪いと、私もそろそろ自信を失くすな。もしかして人を教えるのは下手くそなのかね。


「先生、この子達すごく頭が良いんじゃないか?」政治家のおっさんがそういった。「あの発明家のエジソンもこんな感じだったらしいよ。先生に、なぜ、なぜ、と聞くような子供だったとか」


戦後復興妖精「それなら良いですね。最近は私の教えが下手なのかと自信がですね……」


「エジソンは退学を勧められた。君はしっかりと教えている分、その先生よりも先生の才能があるのではないかな」と自分でいっておいて、どうだろう、という顔で思案を始めた。なんだよそれ。二人がエジソンみたいに成し遂げる才能があるなら私の責任は重大過ぎないか。


ちび津風「でもエジソンになるべきは私達じゃなくて研究職のあなたのほうよね」


「ハハ」


オチたな。

未知の研究を軍のためにしている私は発明家みたいなもんだ。でも島風のほうがひらめきで高速修復材を作れたんだぞ。エジソンに負けないくらいの発明品だと思うよ。まあ、私が教えた入渠は発明ではなく、もともと知識として知っていただけに過ぎないけどさ。


授業が終わり、少し政治家の人に話しかけた。もうすぐ出るとのことだが、意外と大らかな人物で会話に付き合ってくれた。食堂のほうで茶を飲みながら。今の政治状況の現場の声を聞いた。yはり内陸のまつりごとに力を入れていてその恵みは海のほうにもあるにはあるが、足りない。


最初期の海はまだ荒れる。

深海棲艦の製造を担当する妖精が後付けで海にバラ撒かれるのを私は知っていた。もうそろそろ第二波が来るはずだ。その時は大量の深海棲艦を沸かして、この平和期間で艦娘の艤装には適性者のたくさんの想が貯蓄されたはずだ。その艦娘を殺害し、反転建造により深海棲艦が生成されることによって、次第と波は収まっていくことになる。


ふんだんに溜めこみ始めた資金をもっと海軍に流せ。

そうしなければ手痛い仕打ちをもらうことになるだろう。

恐らく、最初期を支えた兵士である大鳳達も失う。

そのためのテコ入れをどうするか、のシナリオも考えてある。今度はそちらの世界に飛び込む。本当はあの時に佐久間に辞表を渡して行方を晦ますつもりだった。ちびどもというトラブルがなければ今頃は身体ごと入れ替えて、また想力で身分を偽って政治界に潜入準備を始めている。辞表を突っ返された時は事故死するつもりだ。もともと機密塗れの箱庭から無事に足を洗えるとは思っていないし、死体をきっちり残して死んだことにしたほうが後腐れもないだろうしな。


翌日はそのことに考えを張り巡らして、ちび風達の合同練が終わった頃に、帰路についた。


8


佐久間「調べれば調べるほど、不思議よね」

ガキのように笑いながら、佐久間はケースの中のネズミに視線を移した。私が留守にしている間に北方のやつがはぐれの深海棲艦の残骸を輸送してきたので詰まっていた調査に乗り出していた。深海棲艦の血液を調べる研究だ。

始まりの艤装が証明した深海棲艦は艤装でしか倒せない。大いに期待されている研究のためポピュラーだが、絶対に究明して技術化することはできない。


出来たら人類は想力を手にしたも同然だからな。


それでも世界の学者達が熱心な理由は二つある。人類が積みあげて来た真理を足蹴にするような物理法則を無視した性能であること、そしてこれを究明することにより、人類の発展に繋がることはちょっと調べればガキでも分かるレベルだからだ。


佐久間「私達が知らないエネルギーがあるって予想が一般的だけど、全く尻尾をつかめないわ」


そもそも想力自体が私にとっても未知の現象といえる。恐らくマーマとパーパも解明し切ってはいないだろう。お前らも研究に使う道具の構成物質とかよく知らねえだろ。

物理ではなく精神の力だ。

深海棲艦は人間の想いの結晶体、人間が人間を見て頭を抱える様は滑稽に映った。人の想いを物理法則に当てはめようとしているのがもはや憐れにさえ思えた。


島風(ねえ、佐久間さんとも契約しない?)

不意に意味不明なことをいってくる。


理由を聞いてみれば、島風の考えは意外にも合理的だった。

少佐君と契約したのは私が抜けることで深海棲艦相手に戦場では適切な指示を取ることが出来るやつを残しておくためだ。少佐君は契約によって授けた深海棲艦の知識を活用して艦隊を活躍させた。もともと度胸もあり、勉強家でもあり、あの旅で見込んだゆえの契約だった。それは当たったのは少佐君の出世が証明している。それと同じように私が研究職から抜ける穴を佐久間に埋めさせようという考えだ。


しかし、どういう契約内容にするんだ。


少佐君の場合は深海棲艦と戦う術を教えたけども、佐久間は研究者で求めているのは深海棲艦と艦娘の真実であり、下手を打てば想力に辿り着いてしまう。想力を究明するのは深海妖精から辿り着く正規ルートでなければならない。どういった恵みを授けるのか答えが出なかった。


島風(私の勘だけど、この人すっごく人類に貢献してくれると思うんだ)


それはどうかね。

でも契約者を増やすというのは賛成だ。

どういう内容がいいかと思えば、やっぱり『適性』かな。今の適性者の調べは建造妖精による調査だが、意思疎通力の低さが祟って非効率的だった。ちょうど佐久間のチームで研究している分野でもあった。これは統計データを収集してシステム化すれば効率化出来る作業でもある。各地に適性検査施設はあるけれども、一人を調べるのに一日かかるのもザラだ。これを平和期間になる前までは大至急、兵士の増員のため、数打てば当たるといわんばかりの横行状態にあった。

いつ深海妖精が完成するか分からない以上、ここでの仕事はそれを最期にしよう。


ちび二人は出来が悪いが、成長が早く、実際に戦場に立たせても兵士として機能するレベルだとは判断している。あいつら二人は初陣の大鳳や清霜よりは役に立ちそうだし、座学は私である必要もない。夜中に人気のない場所を指定して「大事な話がある」と佐久間に遭い引きを取りつけた。


まあ、契約は無事に済んだのだが。


問題が発生した。


ちび風とちび津風が研究所からいなくなった。逃げ出した、と騒ぎになったが、今更臆して逃げ出すとは思えなかった。短い間だが、二人の面倒を見ていた私は確信を持っていえる。

私の部屋から鍵が消えていた。まさか外に出たのか、と慌てた。

そんな馬鹿な。自転車がなくなっていた。

二人の捜索に陸軍と警察が連携して動いた。

やらかした。これ、私の責任問題だよな。研究職から離脱する機会はここっきゃねえ。


島風(二人を見つけ出してからね!)


二人は建造状態なので走り回りながら想探知で索的を試みたが、ひっかからない。加えて偶然力を酷使して二人を見つけることはできずとも手掛かりくらいは。

二人の行方はつかめなかった。ただ内緒で外に出ただけなのならとっくに二人を見つけているはずだ。私の想力効果が及ぶ偶然では出会えない、となると、過ぎるのは最悪の予感だ。


事件に巻き込まれた。それも攫われた可能性が高かった。


どこのどいつだ。正気の沙汰とは思えない。平和期間とはいえ電の真珠湾突撃からレイテの海までの地獄の記憶はまだ人々に新しく、艦の娘をさらうということがなにを意味しているか分からないはずがない。なにかあれば一族郎党、社会的に抹殺されてもおかしくない重罪だぞ。


いや、待てよ。


そもそも建造状態の二人なんだからそこらの人間相手に不覚を取るとは思えないし、ちび津風のほうはしっかりしているので知らないやつの甘言にひっかかるとも思えない。不意を突かれた後、二人を黙って従わせるほどの脅迫文句を事前に用意していたとしたら、計画的犯行となる。顔見知りの線もあるな。研究部の人間まとめて怪しく思えてきたが、建造もしていない今を生きる人間に想の探知が出来ない。


他になにがある。

建造状態の二人をさらう手段と、隠せる場所は。

さらう方法は二人が歳端もいかないガキだと考えると、不可能ではないだろう。身体が強くても心はガキだ。丸めこまれてどこかについていってしまうこともある。特にちび風のほうは好奇心旺盛で危機感が薄く、そうでもないちび津風のほうは振り回されがちだしな。


しかし、どこだ。

そう時間は経過していない。そんな遠くに行ったとも思えない。さすがに遠くへ連れて行かれるのなら、ちび風でも抵抗する。薬の類か、拳銃でも使ったか。いやいや、あの二人は演習で砲弾すら恐れていなかった。そんなものに怯えることもなく立ち向かうはずだ。


ならば、二人は抵抗しても逃げ出せない環境にあるとしか思えなかった。


全力で頭を回して、導く結論は、


海。


船の上だ。艤装がなく、海の上の船ならば逃げ出すことも出来ないのにも筋は通るし、海に近いこの研究所からそう時間が経っていないのに探知を逃れるほど遠くへ行っているのにも頷ける。更にいえば二人とも人間に暴力を振るうということに抵抗を覚えていて大人しくしている線も十分に考えられた。陸地のことは警察と陸軍に任せておけばいいだろう。私は海を探すとした。


偶然力を行使して、研究所へ帰る。

誰かに見つかればそのまま拘束されそうだ。


抜錨ポイントに向かう。ボートでは速度が出ねえな。

連絡船の運転も出来るけども、どうしようか。

私が目をつけたのは、島風艤装だった。

私に島風の適性がわずかだが、あるというのは周囲に知れているし、そこ自体は疑問に思われねえか。

再度、建造を即決した。

佐久間の発明が役に立ったな。高速建造材の出番だぜ。

数秒で建造を終えて島風艤装を見にまとう。


よう連装砲ちゃん、久しぶり。

軽く挨拶してすぐさま抜錨して冬の海に出る。

思わず叫んだ。

めちゃくちゃ寒いよォ――――!


9


戦後復興妖精「やっぱり逃走経路は海か!探知にひっかかった!」


岩手のほうに逃げやがったか。

組織的な犯行だろうな。あの二人をさらってなにをしようとしているのかが分からねえ。そこら辺の金持ちのガキとは違って、国が血相を変えて対処するんだぞ。警察のお偉い様も血眼になる。身代金の類なら馬鹿、政治的要求ならば面倒臭い。最悪なのは艦娘である二人自体に目的があってさらった場合だろう。なにされるか分かったもんじゃねえ。


海を奔りながら、身体にかかる水しぶきで身体が凍りつきそうだ。

人気の薄い沖の岩場に漁船が停泊させてあった。


二人の想も探知範囲に収まった。動いていないところを見ると、もう少し奥に進んだ山のふもとにアジトらしきところがあるのかね。念のために艤装は装備したままで行くか。艤装をつけたまま陸を走るのはなかなか疲れる。

その途中、樹木の影にいたらしい見張りに発見された。

容赦なく発砲してきやがったので、こちらも容赦なく距離を詰めた。

鉄の飛礫が当たり、思わず顔をしかめる。しょせんルール外の武器である。青あざが出来るくらいかな。男の右腕をつかんで、全力で握りつぶした。右の肘関節を砕く音が聞こえると、男が悲鳴をあげてその場に倒れた。服をちぎって男の口の中に押し込むと、左腕をつかんで強引に起き上がらせる。交換条件にならねえかな、という考えだ。最悪、盾にすればいい。


戦後復興妖精(おい島風、相手は洒落にならん連中なのは分かるな?)


島風(……うん)


戦後復興妖精(お前が思うような砂糖みたいに甘い解決は無理だ)


うだうだやっている内になにが起きるか分からない。建造状態ならば拳銃で即死はしないとはいえ、殺せない訳ではない。深海棲艦と比べて艦娘は頭脳面で天と地ほどの差をつけているが、身体性能はかなり低く設定してある。万が一を考えると、やるべきは敵勢力の早期での無力化だ。確実性を求めるのなら殺す気で無力化するのが一番だった。人間に愛着も出てきた今日この頃だったが、ガキを誘拐するような人種には欠片の情も湧かない。


念のために連装砲ちゃんに意思疎通を駆使して自律モードにしておく。


やっこさんのお出ましだ。正面のほうから発砲音や悲鳴を聞きつけたのか、正面のほうから大の男がわらわらと出て来た。ちび二人の想の色具合からして悪いやつらなのは間違いがなかった。

砲を構えて撃った。


人間がまとめて弾けて吹き飛んだ。撤甲弾を撃ち込まれた船のようだ。正面の人間の胸に風穴が空いて砲弾は列に並ぶ人間を貫通していった。数秒で物言わぬ屍が積み上がり、冷え込んだ空気に血の臭いが混じる。


10人以上はぶっ殺したか。

まだ生きていた男の首をつかむ。人生のストックのある私にケンカを売ったのが間違いだったな。男は妻子がどうとか命乞いしていた。知るかよ。一思いに首を折ってやった。


今回の私は前回とは違って英雄ではなく、大悪党として生涯を閉じることになりそうだ。


アジトのほうへと駆け込んだ。木製の扉は蹴り壊してやった。

暖炉の近くにちび津風がいた。錠は見たところ鉄。あの太さの錠なら動けないだろう。

そして強烈な薬物の臭いがした。

何の薬か知らないが、艦娘をさらうために即効性を実現したとしたら、試製したやつはぜひとも研究部に誘いたい人材だな。抗生物質が気になるほどだ。


男の気配を感じて即座に砲撃をした。砲弾は男からは外れて、木板壁に風穴を開けた。


「なんだお前。そこを動くな」


戦後復興妖精「一つだけ、聞きたい」


プラスチックのテーブルの上のろうそくの炎が揺らいで消えたと同時だった。ちび津風の想の消失を確認したのは。


内側から込みあげた島風を全力で押しつぶした。冷静さを失っているのは嫌でも分かった。きっと初めてだろう。このクソガキがここまで本気で怒っているのは初めてのことだった。なるほど、これが冷静さを欠く人間の怒りか、と冷静さを欠いた声を私は出した。


戦後復興妖精「こいつらがお前になにしたよ……」


いちかばちかの劇薬を使ってさらった以上、死んでも構わないといった風だ。


「殺すことが目的だったからに決まっているだろう」


ちび風のほうが人質に取られている。男の腕の中にいる。銃口を突きつけられていた。このような場合、即答部に押し付けるものだが、この男は眼球と涙骨の間に銃口を押しつけていた。こいつ、艦娘についての知識がある。そこに発砲されたら艦娘といえど脳を損傷、即死もあり得る。


戦後復興妖精「目的は? 私達に詳しいんですね?」


「なに者だ。なんでこのガキじゃねえのに島風の艤装をつけているんだ?」

質問を質問で返されちまった。

まあ、簡単に答えてくれねえよな。


全力で思考を巡らせる。どうすればいいのか。ずいぶん派手にやったとはいえ、人気の全くないこの辺りでは人が駆けつけるのを待っての時間稼ぎは有効とはいい難かった。覚悟を決めての力ずくか、それとも会話で交渉でもしてみるか。私は万が一を考えて安全索の後者を選択する。


――――騙す。


それが上手く行けば最良といえた。ちぐはぐな思考を編んで、口から嘘八百を並べ立てた。幸い、ちび風は口に布を押し込まれていて、余計なことを喋ることはできないし、都合が良かった。


戦後復興妖精「島風艤装を身につけている以上、私が島風の適性者であることは分かりますよね。その子が正当な島風となる予定ですが、死んだら私に白羽の矢が立つでしょう。戦闘には向いていないのですが、見ての通り、そこの島風とは違って殺しに躊躇いもなく成績的にも私が上なので」


「安心した。じゃあ、遠慮なく殺してもいいな」


偶然力を自分にかけた。どれが当たるか分からないが、最も当てをつけた予測を口にする。


戦後復興妖精「艦娘を私兵として取り扱うのはおススメしません」


わずかばかり、男の眉が逆立った。当たりだったのか?


艦娘をさらってどうするか。身代金要求は馬鹿過ぎるし、どこかに売り飛ばすのもこれまた馬鹿げている。国が総力をあげて捜索するような価値のある適性者を買い込むなぞ、そうそういないだろうよ。海外でもそうだ。平和期間を作った彼女達がどういう風に認知されているか知っているはずだ。なので、金が目的ではなく艦娘そのものに価値を見出しているはずだ。


私兵化はその一つの予想に過ぎなかった。


まだ法案が通る前のことなので、恐らくそこに目をつけたのだろう、と思う。慌ただしい時期がようやく過ぎて近くに妖精可視者と適性者への法律の改正案が制定するという話は大鳳のところに訪れたやつから聞いていた。

社会情勢的にこういうやつが出てきてもおかしくはない。それほど信用されていないのだ。特に大本営なんかは散々やらかしてきたからな。


戦後復興妖精「ま、その子を話せば見逃してあげます」


黙り込んだ男にそういった。なかなか相手から思う通りに情報を引き出すっていうのは難しいな。相手は精神不安定な訳でもなく、犯行的にも腹をくくっている風だ。男が「交換条件だ」といったところで、勝負は決まった。さきほどの砲撃、わざと外しておいたんだよ。


「っ」


その風穴から事前に意思疎通しておいた連装砲ちゃんが砲口を忍ばせ、砲撃をかました。


男が吹き飛んだが、木端微塵ではなかった。どうもブランクが祟っているのか、男の右脚を潰した程度だった。


すぐさまちび二人を確保して両手が塞がったが、自律式の連装砲ちゃん一人で相手は余裕だった。加えていつ死んでもおかしくない手負いだ。こうなれば形勢逆転だった。


「意味ねえよ」男は諦念の滲んだ声を出した。「そいつも直に死ぬ。お前もそうだ。犯罪者だろうと艤装使ってあれだけ殺せば無事じゃ済まねえだろ」


命さえあれば、だなんて思えないレベルの裁きが下るだろう。

私がこの場を生き伸びたところで人生終わりだ。十年前の私ならなにかのために自分を犠牲に出来る人間なのに、馬鹿を見るだなんて喜劇だ、なんて笑い飛ばしていたけど、最近は人間も人間なりに必死だと知っているので、悲劇との認識だった。


転がっている銃を手に取った。


「お? 一思いに殺してく、」

言い終えるまでに頭を撃ち抜いた。


戦後復興妖精「死んで楽になれたと思うなよ……」


必ずロスト空間で捕まえる。悔やむ暇もない本当の地獄を味あわせてやるぞ。


戦後復興妖精「ちび風、私の声が聞こえるか……?」


拘束を解いて、口の布を外してやって、頬を軽く叩く。


ちび風「う……ん……」


ちび津風のほうの死体をロープ使って身体の前面に括りつけ、ちび風のほうはおぶってやった。偶然力はすでに全て使ってしまっている。ちび風の生命力に頼るしかなかった。


家の外にあったドラム缶に溶かした雪を入れて艤装の燃料、弾薬を放り込んだ。あの暖炉で艤装を溶かすにはちょっと時間がかかり過ぎるが、やるしかねえ。


ちび風を冷たい水の簡易な入渠施設へ入れた。


効果はあるはずだ。艦娘は深海棲艦との戦いで内蔵損傷など日常茶飯事だ。それに耐える身体と治す治癒力も備えている。薬物で神経系統をやられようが、それも損傷に過ぎない。その証拠に建造妖精は神経系が原因の身体の障害も建造ついでに直してくれる。解体、そして建造の行程は私が出来るのだが、高速建造材がない今、島風の建造時間は三十分もかかる。悪手と判断した。


ちび風「ごめん……ちょっと、自転車……」


乗りたくなったんだろうな。喋らなくていい、と私はいったが、ちび風は言葉を続ける。


ちび風「でも、こんな目に遭うほど、悪いことし……た、かな……?」


戦後復興妖精「喋るなっつってンだろうが! なんでお前はいっつも私のいうこと聞かねえんだよ! お前ら島風っていうやつはみんなそろって私の神経を逆撫でしやがって!」


ちび風「ねえせんせー……教えて。私と、天津風ちゃん……」


死にそうな時にも人は涙を流す。


ちび風「何のために、産まれたの……?」


声を振り絞るようにいった。それが最後の言葉だった。

力を失ったのか船のように水の中に沈んでゆく。その最後の質問に答えたかった。でも私には答えられなかった。


本当にこいつらは何のために産まれた。


兵士になることで、今から生きる意味、そして生きた意味も作ることが出来たはずだ。

だが、実際どうだ。深海棲艦と戦って死ねるのならまだこいつらにとって救いはあった。守るべき人間に殺されて、戦うことも出来ず、一方的に蹂躙されただけだ。


窓に私の顔が映っている。

どうやら泣いているようだ。

分かる。

これは島風の感情でもあるが、同時に私の感情でもある。張り裂けた胸のこの痛み、最初に同化して天津風の死体を見た時とは違った。私が悲しいから泣いている、と自覚できた。だって二人と過ごした少しの時間だけど、充実していた過去が景色を占有している。


戦後復興妖精「そうか。きっとこれが……」


此方が欲しがっているオリジナルの感情なんだな。


10


戦後復興妖精「着いたぞ」

雪降る寒い北方の海を越えて、研究所に戻ってきた。着いたぞ、ともい一度背中に抱えたちび風とちび津風に声をかけてやった。もちろん返事はなかった。

私も凍えて死にそうだ。雪が冷たい。おぶった二人も冷たい。

研究所に警報が鳴り、憲兵が増えていく。みんな私に銃を突きつけていた。そのまま殺してくれても構わなかった。ちびどもの責任管理、無許可建造、艤装の持ち出し、使用、無断外出。罪は数えればキリがなかった。


制止の声を聞かずに、降り積もる雪に足跡をつけて進んだ。


研究所の入り口に佐久間が立っていた。


もうこの扉は私では開けない。私のキィでは弾かれるだろう。本当は二人を部屋まで運んでやりたかったが、どうやらここまでが限界のようだった。くくりつけたロープをゆるめて、二人の亡骸を冷たい雪の上に寝かせた。


佐久間は悟ったのか、なにも言わなかった。


戦後復興妖精「何の罪もない子供達だ」


その言葉を言い終えた瞬間、取り押さえられた。抵抗する気はなかった。


ただ二人が死んだ理由がよく分からない。殺されるような真似をしていないのに、なぜ殺されたんだろう。あいつら二人は何のために産まれてきたのだろう。ちび二人と同じように「なんで、どうして」と自問を続けるが、答えは出てこなかった。

誰も教えてくれなかった。


【19ワ●:結末】


殺されはしなかったが、拘束されて脅迫的な尋問を受ける日々が絶え間なく続いた。答えられることは答えたが、しつこく何度も何度も聞いてくる。身体の痛みよりも心の痛みのほうがひどかった。四角い箱に閉じ込められたマウスの気分を味わう日々だが、私は踏ん切りがついたら死のうと思う。


そんな決断をした日の夜に佐久間がやってきた。


何回もそこらの人間にあの事件の詳細を聞いたが、答えてはもらえなかった。佐久間はその事情を話に来てくれたようだった。


どうやら佐久間を利用した絡み手を使って来たのだろうが、海にさらわれたと考えて独断で建造、島風艤装で犯人集団を虐殺、ちび津風は着いた時には死んでいた。ちび風のほうは入渠で治そうとしたが、間に合わなかった。嘘ではない。証拠も探せばあの小屋の中にあったはずだ。これで人間側の現場検証的にも矛盾はなかったはずだ。


佐久間からあの事件の真相を聞いた。


裏の人間が関わる海上の運送業者だったらしい。業界全体にいえることなのだが、日本は戦時中から今も油槽船の数が少なかった。資源の輸送を、兵站への考えが甘いところがあったようで、労力を最大限に割くこともなく、輸送については会社がそれぞれ定める護衛方法に丸投げしている部分があった。

そのため深海棲艦が現れてから海の運送会社の7割がなにかしらのトラブルに見舞われる。行政機関は聞く耳を持ってくれなかった。

そこで目をつけたのが艦娘と提督と深海棲艦周りの法整備の甘さだったようだ。

トラブルに見舞われてばかりで、やっていられない。政府には改善する予兆もない。最初は民間で造っちまおうとのことだったようだが、そこの部分はしっかりと禁止されているため、無理やりにでも聞く耳を持たせちまおう、という発想に至ったようだ。

艦娘の価値を知っている。そいつらを殺せば動機に注目せざるを得ないだろう。そうしてこちらを見て、事の深刻さや優先順位が分かるはずだ、と考えたようだ。

納得した。もともと殺すつもりだったのだ。確かに資源は大事だ。最優先事項の一つといってもいい。

雪解けとともに私の疑問も溶けていく。

もう季節は春に差しかかっていた。


戦後復興妖精「佐久間さん、私は覚悟を決めました」


佐久間は言葉を発しなかったし、素振りも見せなかった。やり取りは記録されているからだろう。冷静沈着で賢い女だった。佐久間とは契約してから艦娘のような身体能力こそないが、建造に近い仕様なので、その想が読み取れた。意味を察してくれたようだ。人間のこと分かってきたと思っていたが、そうでもなかった。私は賢い人間の佐久間にちび達のように聞いてみる。


戦後復興妖精「人が死ぬのは悲しいのはなんで?」


佐久間「人を好きになったからでしょう」


きっちりと声に出して答えてくれた。そっか。私は人間を好きになっちまったのか。佐久間から、熱を感じた。炎のような怒りだ。赤ではなく、青かった。単純な怒りとは違った。あのちび達もこんな顔をしていた。なにかを本気で決意したような顔だった。


佐久間「ねえ私が死んだら私の実家に来て。個人の研究のための部屋があるの。そこで今、研究をしているわ。それを死ぬ前までに完成させる」


戦後復興妖精「……覚えていたらな」


後は任せた、と私はそういって舌を思いっきり噛んだ。


次に現海界した時に驚いた。佐久間は数年で適性検査のシステムを完成させて、全世界に普及させていた。もっと驚いたのは、次のメモリーで語ることになるけど、最終世代のお前らに伝えておきたいことがここに一つだけあるんだよな。


お前らは仕官妖精が選んだ勇者達だけど。

私も知らぬ間に勇者を選んでいたようなんだ。

フレデリカでも准将でもない。

この佐久間ってやつが、恐らくこの海の戦争で最高位の天才だ。

契約を利用して、想の探知を打ち破り、ただの人間にして海の傷痕を殺す武器を用意した。


ここまでいえば分かるだろ。

想力工作補助施設は佐久間が製作したもんだ。


【20ワ●:戦後想題編:メモリー4】


次に私が現海界させられた時はあれから十年以上の時間が経過していた。想の状態でも復活させてもらえなかったようで、その間の記憶が丸々となかったが、私には昨日の出来事のように研究所での悲劇を思い起こすことが出来る。パーパは「仕事の時間である」とだけ復活した私にいった。


戦後復興妖精「あの主犯格の男の想を寄越せ」


当局「面倒なので出来る限り、分解してやった。それと第二世代の島風と天津風の想は確保してある。ほら、この艤装の破片に二人の想を入れてある。最も妖精状態とはまた違うので、想があるだけで意思疎通も出来ない状態である。これ以上の施しは出来ん」

今日はやけに優しいじゃねえか。裏を疑う程だった。


当局「仕事を真面目にこなしてくれているのでその報酬とでも思えばよい。裏はないぞ?」


にたにたと嗤うその顔を見て裏を探るなっつうほうが無理だ。しかし、その二つの破片をありがたく受け取った。ペンダントにしてくれていたので、首からぶら下げた。ちび風とちび津風の想を感じられる。感じられるだけで、無味無臭だった。今の私には十分な慰めになる。


当局「現海界させてやる。ま、同じように人類に味方してこい」


とのことで休む暇もなくまた私は役割に従事する。




次に身分を偽って忍びこんだのは政治の世界だった。

商工省の石油課の事務官補佐というお役人ではあるが、小間使いに等しい身分だ。目立たないのならそれで良かった。このポジションなら重要な会議は無理でも、その会議に出ることが出来る経験の浅い有望若手に吹聴できる。


季節は秋だ。この時期は省内がやかましい。

国会も終わって、次の新政策の実現を目指して、みながやかましくなる時期だからでもある。若い連中が語る青臭い理想ばかりをそれぞれの上司が物見のように見物して値踏みをしていた。夜も更けているというのに、実に熱心なことだった。


今回は思ったよりも手間取らなくて済みそうだと思ったのは、佐久間のように賢い連中で埋め尽くされていたからだ。毛色こそ違えど、これから先の展開を予想出来ている。


最も他の代表者達を抑えて合理的かつ説得力のあるプレゼンが出来ていたのが、資源運輸について暑く語る若手さんだ。その他がそれぞれの部署の要望主張を引っ込め、その海の戦いを重要視して対深海棲艦海軍のための軍需産業の新政策についての論議に移り変わっていった程だった。


話は輸入している鋼材、ボーキ、燃料、といった資源の所轄を移しちまおう、とのことだ。

これは名案な上、シンプルで分かりやすかった。

資源の権限をまとめて一括に移すことで民間企業にかかる税金負担を減らし、活発化を狙った政策案だ。いかに合理的であるとはいえ、通すのは戦争を彷彿とさせるくらいの競争があるのだが。そのために一つ一つ手を打って、根回しし、実現に近づけていく。気の遠くなるような作業なんだよな。政治とは情熱と判断力を駆使して固い板に穴を繰り抜いてゆく作業だ、どこぞの偉人さんの言葉だ。正しくその通りである。


しかし、流れ的にあまり私が省内に忍びこんで意味がないな。

近々、予想を越えた災害に襲われ、軍需の活発化をせねばならない事態に追い込まれる。


一刻も早く。その予想が出来ているのは恐らく私一人だろうが、テコ入れが終わるよりも早くその事態がやってきて、おのずと私が促そうとした道へと一歩を踏み出さざるを得なくなるはずだ。


と、考えていたのだが、資源管理についてのアイデアは局の最高職の熱烈な指示を受け、私が想定していたより早くも通ってしまった。


ちなみにこの件で私の上司が過労死で消えた。人事課のやつにこき使われた、というのは違うか。本人も気合いが入っており、宗教染みた思想のもとに粉骨砕身した結末だった。こいつのことを語るだけで長編の物語になるほどだ。


そんな涙ぐましい働きを見せるものだから、側にいたのに、熱のなかった私は浮いた。というか、目をつけられて腫れ物扱いされていた。


しっかり残業もして与えられた仕事はこなしていたが、なにが気に喰わなかったのか。


ポストも人事によって異動させられた。出世から外れた閑職といってもいいポストだ。適当に退職になるまでじっとしていろ、と暗に突きつけられたようなものだった。


多分あれが悪かったな。「お前からはちっとも熱意が感じられない」といわれた時、「お前みたいに脱線してばかりの暴走電車よりマシだ」と答えたことかね。全く縦社会は嫌になるよ。少なくとも私が上に行けば結果は出せるのに。見る目がねえな、とそんなこと吐き捨てて部屋を去った。まあ、こうなるよな。私は人間にこびへつらうのが嫌で世渡りが下手くそだ。


しかし皮肉といわんばかりに得た役職は狙い通りのものではあった。商工省は一時の軍需省であり、通産省に改組されたとはいえ、海の戦争とも密に関わりがある。いまだに軍需産業系統の企業の所轄権限を所有しており、私はそこの石油課の下っ端だ。


根性論、熱意が根付く男達は現場視察に出向くことも多い。なぜかといえば所轄下に置く現場の声は武器となるからだ。


私は適当に中間管理の書類が正確ではないといちゃもんをつけて無理やりに視察の許可を申請してた。要職についている海軍出身者に懲りずに何度も接触を試みていると、ようやく理解を示してくれた。もちろん正規業務ではないので、空いた時間を活用しなければならない。

そのために私は初めて熱意を出した。効率を求め作業を整然として三時間かかっていた仕事を一時間までに短縮、その行程に半年の時間を要した。その頃の私にはあだ名がついていた。


島風。


さすがにびっくりしたわ。まず見た目が似ている。まあ、童顔で背も低い。顔も島風と似ているし。国会も終えた秋の戦争状態のような局はそれぞれシマと暗喩されることがあった。それを気にせずにあちこちのシマに粉かけて新風を吹かしている様を例えて、島風、だそうだ。


「眩しいですよね」


昼を木陰のベンチで取っている集団から声をかけられた。この集団か。仲良しこよしだよな。一流大学卒業者、キャリア組もノンキャリア組も省内で大衆討議の合戦の競争を通っている。

しかし有能が集まろうともポストは限られているのだ。

要は就職早々に蹴落とされた組の連中だった。立ち直りも遅いものだから余計に上司から見向きもされなくなってゆく。ここの上の奴らは雄獅子のように態度がでかいし、千尋の谷に蹴り落とすことが好きなんだよな。見ていて動物園みたいだった。


「島風ちゃん、まさか出世コースに乗ろうとか?」


戦後復興妖精「官房総務課長」


連中の顔を見れば分かる。なにをいっているんだ、と目が口ほどに物をいっていた。そのポストは有力な次官の出世コースの一つだった。もちろん競争が最も激しい役職の一つであり、一度落ちぶれたものが目指すのは難しかった。

しかし、これは目標ではなく、手段に過ぎなかった。

業務に所轄行政に関する企画というマネージメントがあるのだ。

ここにテコ入れをするつもりだった。石油だけに滞っている軍需の流通に潤滑油を流し込み、海の戦争に向けて再発進させる。


「目的……なにか将来性のあるプランがあるのですか」


しゃべりかけてきたやつだけが真面目な顔だった。お前はねえのかよ。何のために早稲田を主席で卒業してきたんだよ。お前がここに見学にしてきた時は次長に飲みに誘われた先で熱い議論を交わしていたのを見たことあるぞ。人事の連中は公式選考の他によその省よりも優秀な人材を確保するために個人面談をしている。お前らのその時の熱意はどこへ行った。


戦後復興妖精「別に私は経済に対して野望とか、そういうのはないですよ」といっておく。「ただ現在進行形で勃発している戦争を軽視し過ぎだと思います。そこに目を向けたまでです」


「深海棲艦ですよね。あれはもう一種の災害認定として通っていますから」


戦後復興妖精「だから?」苛々したので強めな口調でいう。「まさか艦娘を民間が例えている防波堤、とでも認識するつもりですか。平和期間なぞいつ終わるか確証もありません。どう見ても、準備が不十分でしょう。今こうして私達が悠長に構えていられる時間はいつ崩壊してもおかしくありません。尊い兵士が現場で命をすり減らして設けた期間でなにをすべきか考えべきかと」


「適性検査施設の設備も最新を取りそろえて、最近ではアカデミーの創設もされましたし、資源の調達管理にも例の適性者の誘拐事件から労力を注いでいますよね。対深海棲艦海軍の軍費も昨年度よりも増額されています。しかし、見合った成果がないので仕方ないですよ」


戦後復興妖精「知った上で不十分だと申し上げているのです。ところであなたは?」


聞いたところ、大蔵省のやつらしい。こちらに用事があって出向いて、大学の同期と昼食を取って友好を深めていた最中だとか。


戦後復興妖精「最も多い兵士の種は駆逐艦、そして平均年齢的に仕方のないことです。義務教育も終えていない彼等が血と涙を流して戦っているのです。いまだに徴兵という古びた形で。彼等の人権は侵害されたままで」


あ、そうですか、がんばって。


興味を失くしただけに留まらず、小馬鹿にしやがった。


戦後復興妖精「はあ? 深海棲艦は災害指定されたンだからお前んところから金融機関に介入できる余地があるだろうが!」


ソイツをブン殴ってやった。


戦後復興妖精「今の銀行なんかなんであんなに人が増えてんだよ!同名の銀行が百メートル先にあるのは『無駄』だろう。金利0を唄って国民からただで金を借りておいて恥ずかしげもなく、私達は金融危機を乗り切りましたって自らの手柄のように謳わせていたよな。皮の面千枚張りのやつしかいねえのかオラア!」


今回の私はもはや全開で素を出している。それほどイラつくやつが多かったのだ。


「女だからってなんでも多めに見られるとは思うなよ……?」


「止めろって。いつまで学生気分でいやがんだよ……」


女であるつもりはねえよ、女の身体で現海界しているだけだ。


「そもそもお前はそれなんだよ。そんなのつける必要があるのか」


戦後復興妖精「コレに触るな」


ちび風とちび津風のいるペンダントに触れようとした手を払う。

右の頬を打たれる前に、左の頬を張ってやった。さすがにこの派手なケンカは周りから止められた。ちなみに私はこれが初めてではなかった。


腕まくりをした大柄な男が豪快に笑いながら近づいてきた。「おう島風ちゃん、今日も元気にやっとるな!」とあからさまに体育会系の男だ。


「元気がありあまっているなら俺が相手してやるぞ!」


戦後復興妖精「上等だ!」


とその男に突撃して取っ組み合いを始めるが、いつも投げ飛ばされる。さすがラグビーとかいう競技で鳴らしただけはある。女にも手加減なしだ。というか、性別の壁を越えて男女で取っ組み合いのけんかを始めるのは私とコイツくらいだった。私の見た目がちびだからか、親子のじゃれ合いのように周りからは思われているらしいな。20戦はしたが、全敗だった。


戦後復興妖精「クソ、覚えていろよ。私は新しい風を吹かせてやるからな!」


仲裁に入ってきたので仕方なく、身を引くとした。頭も下げずに踵を返した。今日は一段と強い島風が吹き荒れた、と省内で笑い話にされた。


2


ようやく捩じり込んだ休暇に年末が重なってきたのが幸運だ。遠出の時間が捻り出せたし、先方との連絡も事前に取れた。


最近は軍事的な動きが多々あり、緊急作戦のために召集されたメンバーがいるという。彼等が清霜の所属している鹿児島の鎮守府に募ってなにをしているかといえば、中規模作戦が遂行予定だとか。省内にいてから前線の話は聞くようにしているが、知らない話だった。


私は海軍の所有する連絡船に乗せてもらえる手筈だ。


その船着き場で将校達が規律良く生前と並び、敬礼を捧げている。対深海棲艦海軍の軍服を来ているので、所属はすぐに分かった。その白髪交じりの男の背中にある『甲』の記号が刺繍されていた。甲大将か。道理で。


「こういう堅苦しいのは止めて欲しいといったでしょうに……」


島風(あ……! 少佐君だ―――――!)


島風が歓喜の声をあげた。何十年振りだ。忘れていた。そういえばあいつ出世して甲大将の席にずっと座っているんだったな。

どうしよう。今回はなんか適当でいいやと思って島風のような姿に設定してある。興味を持たれる可能性がある。考えたが、すぐにまあいいや、に収まった。


契約上、少佐君はどんな手段を用いようが、私の存在に関することを伝えることはできない。声も文字もジェスチャーもだ。無理にそれをしようとすれば私やパーパにも伝わる。生きているってことは守っているということだ。そして契約は死ぬまでずっと続く。放置で構わねえか。


当局《あー……二人とも海に関与していればこういう出会いもあるか》


珍しく向こうからコンタクトを取って来た。

本当にちび津風とちび風の一件から気持ち悪い優しさを見せてくる。上手く偶然力を駆使して個室にて会話できるよう取り計らってやろうか、と信じられないことをいってきたのだ。


確かに今の身分的に私の報告によって対深海棲艦海軍に恵みが訪れる可能性が出てくる。だからこそ私が乗り合わせることを許可してくれたのだろう。大将が話を、という偶然はあり得なくもなかった。私は断ったが、島風の熱烈な要望により、偶然力作動。

二十年振りの再会だ。


3


お前も歳を取ったな。白髪も増えているし、皺も深かった。それとは対照的に私はあの頃の姿とあまり変わらない。

中身はどうだろうか。なにか変わったかな。一つだけいえるのは島風のほうはなにも変わっちゃいないということだ。


少佐君は私が部屋に入って名乗った時から肩を震わせていた。


少佐君「お久振りであります……しまか、」


思いっきり口を両手で塞いだ。いや、今のあだ名は島風なんだけどさ、お前が大声出すと、部屋外にいる奴らが中に入ってきちゃうだろ。「静かにしろ」とどすを利かせた声でいうと、少佐君はソファの上に腰を降ろして、何回も深呼吸した。

ようやく落ち着いたらしく、静かに喋った。


少佐君「あなたと過ごした日々は今でも私の糧となっておりますよ」


戦後復興妖精「ふうん。お前しぶとく生きていたのな。すぐに死ぬかと思っていた」


少佐君「酷いですね……ですが、それもなんというか懐かしく、そしてあなたの可愛らしさに思えてきた今日この頃ですよ。変わらぬモノを見てこの湧き出る感情、私も歳を取りましたなあ」


戦後復興妖精「可愛らしい……お前、気持ち悪くなったのな」


少佐君「老体にも容赦なく鞭を打ちますか……まあ、あの頃はあまり出来なかった世間話でもしますか?」週刊誌を開いて読んでいるのは漫画だった。「この漫画が面白いですよ。今、私の生きる意味にも近いです。これが楽しみでして」

海に生きる意味を見出せや。


島風「どんなのー?」


少佐君「その感じはもう一人のほうですね。『あしたのジョー』と『巨人の星』であります」

これは後世に残る傑作になる、と力説を始めた。ボクシングと野球の漫画らしかった。どっちもすげえ特訓しているな。艦娘にちょうど良さそうだから取り入れたらいいんじゃねえの、と私は海に紐付けて漫画を見てしまう。やっぱり思考回路は海に汚染されているな。


少佐君「私はこの漫画が続く限り死ねませんね」


冗談でいっているようには見えない。ボクシングも野球を詳しくは知らなかった。どっちかといえばボクシングのほうに興味を持った。この格闘技を覚えたらあの体育会系の課長を沈められねえかな、と思ったゆえだ。さすがに無理か。


少佐君「『サザエさん』は読んだことありますか」


戦後復興妖精「貝の?」


少佐君「違いますよ。私達があのマリアナに駆り出された翌年に連載が始まった漫画です。なんてことない家族の日常なのですが、微笑ましいこと限りなく、面白いのですよ」


微笑ましい家族だなんて皮肉なもんだなオイ。だからこそ、でもあるか。今、思えば漫画はヒットにおいて時代背景っていうのが大事だよな。きっと少佐君がいうように多くの人が憧れた家庭なのではないだろうか。手塚治なら読んだことあるんだけどな。持ち物の漫画の中から一冊適当に手を取って、読んだのが私的には大当たりだった。タイトルを確認する。


ビッグコミックの黒イせぇるすまん。


読み切りだが、これは連載するべきだ。絶対にヒットする。黒い冗談のパンチが効いていて、人間の欲望を逆手に取るような悪い男の虜だ、いつか取り入れて活用してみよう。結局、その少佐君とのしばしの時間はお互い無言で漫画を読みふけるだけの時間となった。連載が続く限り、死ねない、といった少佐君の気持ちが分かる。私は死んでもまた現海界して読めるけどさ。


ちなみに島風が気に入ったのは連載が始まったばかりの『ドラえもん』だ。


戦後復興妖精「黒イせぇるすまんとドラえもんか。ガキとは気が合わないわけだ」


少佐君「書いている人は同じなんですよねえ」


と少佐君はそういって笑った。

嘘だろ。同じ作者なのか。


4


出撃は明後日の妙朝のようだ。


町中を闊歩した。

最近は都会の空気を吸い過ぎて田舎が恋しかったこと、少し一人になりたかったゆえだ。鎮守府っていうのはどうも気が立って落ち着かない。あそこにいるとやらなければいけない準備に目移りして気が休まる暇もなかった。そんなことは提督と艦娘に任せておけばいい。


最近、開通した駅の前にみずぼらしいガキがいた。物乞いをしていたので、一目で浮浪のガキだと分かった。眼が見えないようだが、なんとなく観察していると、その物乞いに恵みを与える連中がいた。本当に眼が見えないのか甚だ疑問だ。そうやって同情を買って騙している線が濃い。


私はそいつにいった。「ほらよ、本当に眼が見えないことを証明したらコレをやるぞ」といった。少年が声に振り向いた時を見計らって、持っていた財布を手の平に乗せて、持っていた小さな詰め物の袋を少年の前に落とした。本当に目が見えないのならば地面に落として音がするほうに反応するだろうが、少年は私の手の平の上にある財布をしっかりと見ていた。盲目は嘘のようだ。


次に驚かされたのは私のほうだ。

少年は右目に左手を突っ込んで、眼球をえぐり出した。さすがにこの行動は予想していなかったので、私は呆然とその場に立ちすくんだ。次の瞬間には「視えなくなったのでもらいます」と少年は私の手から財布を奪って走り去ってしまった。嘘つけ。見えていなければあんなに速く逃げられるか。


島風(……あれ多分、白いガラス……義眼っぽくないし、どこかで拾ったのかな?)


戦後復興妖精「視えるけど、片目がなかったと……そりゃ予想していなかった」


島風(追わないの? いつものあなたなら怒っていると思うけど……)


戦後復興妖精(私の負けでいいや。向こうが一枚上手だった)


生活に困っていなきゃあんな真似もしないだろう。食うに困るガキに一つ善行したってことでいい。ちび風とちび津風の一件から、どうもガキに甘くなっているような気がするけども、そんな自分を咎める気分にもならなかった。それにああいうたくましいガキは嫌いじゃなかった。


島風(一文無しじゃん。鎮守府でなにか食べるの?)


戦後復興妖精「ちょうど騙しっていうのをやってみたかったんだ」


島風(悪いことはダメだよ……)


戦後復興妖精(交渉だよ交渉。騙すことは別に悪いことじゃない)

最近はそう考えるようになってきた。今いる政界は騙し騙されの世界でもあったし、ちび達の一件をいまだに引きずっていた。あの時、もう少しあの男と上手く交渉出来たのなら、と思っている。手が早い感情的な私には必要な能力ではないか、と思い始めている。


町並みを観察する。王道は持っている者からかっさらうことだろう。三十分くらい散策して、当たりをつける。ビルの一階にある不動産会社に眼をつけた。頭を全力で回転させて、巧みな言葉を思い浮かべて、そのオフィスへと入った。そこにいたのは事務員と営業マンが一人ずつだった。


私に対応したのは営業マンのほうだった。


紙切れを眺めていた営業マンの顔はすぐさま笑顔に切り替わる。好意的な笑み、と私は判断した。私の服装は綺麗なスーツ姿で清潔な印象だろう。金を持っているような格好だし、実際今回はお役人なので収入的には比較的裕福といってもよかった。安定もしている。営業マンだけあって、そこらのことを一目で見抜いたのかもしれない。


ならば、そうだな。

この辺りに別荘が欲しくて大きな地所を探している、といった風に喋った。

そこで営業マンは攻勢に出て、様々なパンフレットを取り出して、懇切丁寧に説明を始めた。そのお陰でここらの土地価格や流通の情報も入ってきた。

世間話を交えていると、営業マンがこちらの身分に探りを入れてきた。答えると、少し間が出来た。都市部からの役人だとは思わなかったのだろう。ポスト的に将来性のない下っ端だと見抜けるやつはそんなにいないだろうしな。


実際にそうだと分かる身分証を提示した。仕事で出張に来ていて、その時間の間に、とも伝えた。

実際にこの眼で見てもらいたい、というと、営業マンはそのほうがいい、といった。


海外の詐欺の面白い話を聞かせてもらった。アメリカで水面下の土地を売るといった詐欺が横行しているとか。その土地の将来性で売り込み、ほんの少しの頭金を取りつける。その詐欺師の巧みなトークと頭金の額の少なさから実際に土地を見に行く輩は少なかったそうだ。この程度だし、手をつけておこう、と金を払い、実際、後々に見に行けば車で行けないほどの奥所だったという。営業マンのその熱弁ぶりはまるで、あなたを騙す気なんかないんですよ、と証明したがっているようにも見える。


実際に土地の視察に行く際は営業用の車を出してくれた。

ここの近くに線路が通るので、時期に価格が沸騰するから買うなら今だとか、ここの周辺には猫屋敷があって猫が多いから嫌いならおススメはしないが、直に役所が対処するので、立地条件を考えればここも悪くない、とか。なんだか絶対に土地を買わせてやる、といった気概を感じた。


営業マンのことが気に入った、とも添えておき、その後に私は本題を切り出した。「昼食を取ろうと思うんですが、この辺りは初めてでして、美味しいお店を知りませんか?」と。


ちょうど車に乗っていることもあって、レストランまで連れていってくれて、わざわざご馳走までしてくれた。どうやら私はそこまでして捕まえておきたい客のようだ。


結局、他の不動産会社も回ってから決める、とのことで別れた。

ただでこんな美味いもん食えたわ。

ここまでちょろいと、人間も可愛く見える。更にここからふっかけられそうな気もしたが、引き際も肝心だよな。

こうして私は騙しの味を覚えた。確かパーパとマーマも人間から産まれ落ちたんだっけな。


もしかしたらあの二人も騙せたりして。

人生ってさ、こういうくだらない経験が役立ったりするんだよな。


5


今回は内心、全滅しちまうのも悪くない、と考えていた。

現場の踏ん張りの価値が上にはいまいち伝わっていない。平和期間で少し危機感というのが鈍っている。目と鼻の先に恐怖を突きつけてやればくるっと方向転換しそうな奴も多いように見えるのだ。作戦自体は成功が望ましくも、深海棲艦の恐怖を心底、感じられるような戦場が欲しい。


と、そんなことを考えていたのだが、参加する連合艦隊のメンバー的には全滅は難しそうだ。


すでに大鳳は到着しており、清霜と肩を並べてドッグのほうから南西の海を見つめていた。あの二人はあの軍艦名の刺繍が入った軍服を着ていた。清霜の横顔をちらっと見たが、出撃前なのに嫌に落ち着いているが、ひりひりとした熱を通りすがりに感じた、静かな闘志を秘めて遠くの戦地を眺めているといった風だ。大鳳は儚げに海を見ている。想いを馳せているように遠くを見ている。


清霜「絶対にサラさんの仇は取るよ」


思わず、足が止まる。


サラの仇?


すぐに今回の作戦資料を確認した。

三日前の出来事のようだ。生還者は1名。

哨戒中に新種の姫と交戦し、戦線が壊滅した。所属していた艦娘、拠点軍艦、乗員の1名を除いて壮絶な戦死を遂げていた。


サラの殉職。

一瞬だけ頭が真っ白になった。

十分にあり得たことだ、と自分を落ち着けて、資料を最後まで目を通した。引き際を誤ったのが原因のようだが、それも仕方ないといえる。遭遇したのは港湾棲姫だ。交戦当時は撃沈確認を取ったが、より凶悪な状態で復活という謎の現象により、不意を突かれたことが原因として書かれている。


あのサラが見誤ったとは思えないな。

よく原因が分からなかった。


しかし、相手が港湾棲姫となると、撃沈も十分にあり得るのは疑いようもない。


その討伐に中規模作戦として対深海棲艦日本海軍の出撃命が下ったようだった。脅威レベルのランクはAA+に指定されていたので、納得もした。空母棲姫より上位種認定されたら、そりゃこのような大きな動向を見せて然りだった。それで召集されたのが、あの親睦旅行の面子な訳だ。


大鳳、清霜、武蔵。

矢矧は支援部隊として追って合流予定のようだった。


そこに総指揮として少佐君、そして奇遇にも私がこの場にいる。今度は意図しない同窓会、演目は仲間の仇討ち。私は立場上、参加出来ないし、鎮守府から海に出ることもない。島風の適性があるというのは周知の事実だが、さすがに戦線に出られる立場ではなかった。


港湾棲姫、の情報が薄い。


あり得ないといってもいい。港湾棲姫のデータなぞ私の頭にある。敵艦載機の発見数があまりにも少ない。唯一生還した乗員の生還数は少なく、混乱していてよく覚えていないという供述も多く見受けられた。


臭うな。この詳細書類、デタラメじゃないのか。対深海棲艦日本海軍の協力を要請した元はどこだろうか。手元の資料はいくつもの複雑な司令系統を通しているので、そこまで読み取れないが、確証のない推論を深読みし過ぎても深みにハマるだけで大した答えは得られまい。


とにかく、だ。

港湾棲姫に対して空母が大鳳だけってのが大間違いだぞ。




出動する拠点軍艦は二隻、空母とその護衛の駆逐艦一隻ずつだ。

そして清霜と大鳳の後ろに武蔵がついている。弾薬を使って軽く訓練をしていた。その様子を双眼鏡で眺めさせてもらったが、武蔵はあの時と変わらねえな。低速の中の低速、浮き砲台に近く、波に弄ばれているようにすら見える航行速度だった。


しかし、腐っても大和型の大英雄である。


あの艤装は大いに目立つ。人間サイズの艦娘にして軍艦一隻を撃沈可能なその一斉射の火力は大迫力だ。精度も大変よろしい。ただあの欠点である棒立ちにも等しい航行を補うために重要なのは提督のほうの指揮に大きく左右されるもんだ。

そこも聞いたのだが、少佐君も歳取っても甲大将の席にいるだけあって、的確な批評をした。「空母と並んで後ろで撃っていればいい」だ。同意見だ。あの火力と精度ならば得意距離からスナイプするだけで上手く行けば姫を損壊に追い込めるだろう。

ただその場合、前に出て陽動役をこなす清霜の負担が半端なかった。

制空権の確保が最優先なので、大鳳は恐らくそれで精一杯だ。

サラの頭ならきっとこう考える。前衛艦に艦載機の護衛もつけずに飛びこませるのは信じられない。そこらの技術はサラのほうが上だった。大鳳は敵を狙うのは得意でも艦載機での護衛方面の成績はあまりよろしくない。


清霜は照月の適性を持っていたためか対空面に素質才能を開花させたので、本来なら駆逐艦らしく護衛担当させたほうが輝くはずだ。


前線でパフォーマンスを発揮するのは矢矧のほうだ。あいつは見ていた限り私と同じく前に出るのが得意なやつだった。そう思うと、大鳳、サラ、島風、清霜、武蔵に矢矧、あの面子は偶然にも艦種、素質才能が噛み合った艦隊だったと思う。


出撃メンバーの錬度が高い。敵数もそう多くはない。

そしてすぐ側に損傷を秒で直してみせる高速修復材も積んである。加えていえばサラの仇を討ちに往く。闘志も十分だった。


その熱は拠点軍艦に配置された兵士にも伝わっていたはずだ。その中で最も周りから期待されていたのは武蔵だったと思う。やはり戦艦、あのモデルの武蔵の屈辱を晴らすかのような派手な戦果を挙げてきたからか。あの派手な一斉射が敵艦隊を吹き飛ばす時を今か今かと待ち侘びている。そんな期待が武蔵には集まっていた。


明朝だ。私は大鳳達がMS諸島を目指して海へと出てゆくのを小高い丘から見送った。




順調に進撃中の電報が少佐君御一行から届いた。

それと同時刻、1300に支援艦の矢矧と拠点軍艦一隻がこの鎮守府に到着した。なにやらドッグのほうが騒がしかった。現場には入れてもらえなかったが、盗み聞きをした。航行途中、深海棲艦と出くわして矢矧が中破状態で到着したからのようだ。すぐに入渠と高速修復材で復活したが。


私は役所仕事に取りかかり、この鎮守府の資材管理の詳細報も取りに出向いた。


廊下を歩いていると、手荒いの出入り口からぬっと出て来た手に首根っこをつかまえられる。

強い力だった。視界がぐわんと横に移動して、壁に背中をぶつけた。こんな手荒い真似を受けるなにかをした覚えはねえぞ。私に狼藉を働いたのは矢矧だった。お前になにかしたのか?


矢矧「今回、嫌な予感がするのよ」とよく分からないことを切り出した。「北方にもソ連のほうから小さな姫を発見したとあって、そっちのほうに出向く予定だったんだけど、無理をいって鎮守府の皆に任せて私はこっちの支援にねじ込んでもらった」


戦後復興妖精「御武運を……」


矢矧「あの島風でしょ?」


矢矧は鋭い声でいう。


矢矧「あなたが声援だなんて似合わないわ」


戦後復興妖精「あの、というと? そういえば私のあだ名が島風というのをご存じで?」


今回は姿も似ているからな。思えば研究所の時に矢矧に会ったが、その時にも似ている、と言われた気がする。こいつのこういう鋭いところは相変わらずのようだった。


だが、それがどうした。私があの島風だという証拠は絶対に出てこない。あの島風だという理論的な根拠を出すとしたら、『建造で老化しない』という点だろう。戦死処理されたが、実は建造状態で生き長らえていた、という推理だ。


しかし、そいつがどうして役人をやっているのか、も分からないはずだ。最悪、死んで姿を変えればそれで煙に巻ける。こいつの言葉はその程度の力しかなかった。


矢矧「あの山田とかいう研究者は少し柔らかくなっていた感じだったから人違いだろうけど、今のあなたはあまりにもあいつに雰囲気が酷似しているわね。そこら辺どうなの?」


戦後復興妖精「仰っておられる意味が分かりません。お疲れですか……?」


矢矧「さすがに現甲大将があの伝説となった島風と天津風のいる北方鎮守府の提督だったのは知っているわよね。甲大将の急な電報で急きょ引き返すことになった上、深海棲艦にモテたせいで到着が予定より遅れたのだけど、その甲大将の命はなんだったと思う?」


戦後復興妖精「さっきからなんなんですか……こんな暇があるのですか?」


矢矧「『北方にある島風艤装を輸送してくれ』」


ちょっと待て。いや、その程度の命令なら契約には違反ではないか。してやられたのか。歳取って老獪になった少佐君に私が一杯喰わされたとでもいうのか。いらっとした。


矢矧「あなたを見かけて即行で悟ったわ。最後に島風と喋ったのは甲大将だというのは清霜と川内の証言だけど、なんか臭いのよね。だってあいつレ級を倒して丘で一人、楽をして倒れていたもの。清霜大鳳も見ていて、あの程度の傷で死ぬような人じゃないって」

なんだその勝手過ぎる理屈は。


矢矧「私も帰還してからサラと仲良くなったわ。いつの日かサラが日本に駐屯してともに肩を並べる日を楽しみにしてた。死にモノ狂いで平和期間を築いた戦友が死んだの。なにも思わないの?」


矢矧は私の首根っこをつかんで離さない。


戦後復興妖精「……」


矢矧「強引に建造して島風艤装を身にまとわせて戦場に連れていくわ。拠点軍艦、ちょっと機関部が損傷して航行可になるまでに日を跨ぐから川内に積んだドラム缶に燃料と弾薬を入れて戦線に出向こうと思ってる」


色々と信じられない暴挙に出ようとしている。私は戦闘経験のないお役人だぞ。島風適性があるのは職場でも周知だったが、強引に建造されて戦場に出た、となれば、大問題になるぞ。もちろん矢矧、お前もお咎めなしじゃ済まないだろう。この人殺し、と叫んでやりたかった。


すぐさまパーパと繋いで返事を求めた。


あの島風だという確証を出さなければいい。

そんな信じられない返事だった。本当に前に現海界してから気味が悪いくらいの配慮だった。


もちろん私としても大鳳達が心配ではある。あのように命を賭けて生還させた仲間が死ぬのは損した気分になるし、ちび二人の一件で、嫌だ、という感情も持つことが出来た。

願ったり叶ったりだったのだが、本当にいいのかよ、と今一度、問い正した。返事は変わらなかった。今回のテコ入れに支障が出てくる出撃なのに。


とりあえず私は矢矧の誘いを断ったが、まあ、なんだ。


周りの抗議に耳を貸さずに妖精可視才のある川内に命令して本当に私を無理やり建造させやがった。高速建造材まで無許可で使うおまけ付きだ。もはや軍法会議となる違反をいくつも犯しているが、それを意に介した様子もなく、軽巡の力で私の腕を引っ張り、抜錨した。


帰ったら島風があだ名じゃなくなっちまっているな。

戦果でもあげたら、そのまま対深海棲艦海軍に籍を異動させられるまでありそうだ。


そのほうが私はいいかな、とクソガキがいった。


そういえば最近、島風が出てくる頻度が減っているな。


島風の答えはこうだった。

眠ると、なかなか目覚めない。


6


太陽を横切りながら海を往く。

静かだった。思えば島風はサラの殉職を私が知った時、騒がなかった。とうとう私に吸収されてゆくのだろう。やがて永遠に目覚めなくなるはずだ。思うことはある。心待ちにしていた日も少しだけ寂しいという感情が湧き起こる程度には一緒に日々を過ごしたようだった。別に別れの言葉も要らない。もともとこいつは北方の海で死んでいた命だ。


川内「そういえばここらの海は……」

と川内が重苦しい沈黙に耐えきれなかったのか、声を出した。口を開けば夜戦夜戦とやかましいやつらしいが、暗い空気が苦手な上、会話の切り出し方を見るにあまり物事を考えて喋るタイプではないようだった。ここらの海は矢矧にとって良い思い出ではないだろう。


矢矧「夢見で見たわ」


浦風や金剛の轟沈かね。米潜水艦に魚雷を撃ちこまれて左に傾斜して沈んでいった。本来ならば目標は矢矧だったのだが、途中で矢矧が先頭ではなくなったために狙いを金剛に切り替えて魚雷を発射した。金剛はおばあちゃんながら長門型や伊勢型の低速では対応できない場面に多く駆り出され、戦艦として最前線で常に活躍していた。その金剛の最後もよくある潜水艦の魚雷による沈没だ。その後に火蓋を切った沖縄海上特攻を矢矧はどう思っているか知らない。適性者によって感想は違うはずだしな。


矢矧「家族がすぐお隣で死んでいくのを分かっているけど、見向きも出来なかったわね」


と矢矧はそう答えた。

ま、しょせんは艦の記憶だ。平気そうだった。


矢矧「今はそんな思い出話よりこれからの戦いのことを喋るべきよね?」


川内「というかこの島風、本当に当たりなんじゃないのかな」川内がそういった。「急に建造されて連れ出された一般人のはずなのに慌てた様子もなく、雰囲気が兵士のそれと似ているよ」


まあ、もう隠す必要もないのでは、とも思う。私があの島風だと露見するのをパーパが許した理由はもはや一つしか考えられなかった。全滅だ。どうせ死ぬ、という確信があるからではないのか、と考えている。それはきっと私が戦闘に参加しても結末に変化がない故なのだろう。


戦後復興妖精「なあ矢矧、私が味方じゃないって分かるか?」


矢矧「ようやく認めたわね……」


戦後復興妖精「私はお前らの仲間にはなれないぞ」


そう矢矧に伝えた。どことなく矢矧からは信頼を感じるからだ。確かにあの海ではむちゃくちゃやって伝説にまで昇華した戦果を挙げた。頼りにされるのも戦力として連れ出されるのも納得だ。矢矧から確かに感じる絆を否定の意を込めて私はいった。


戦後復興妖精「利用しただけだ。今までもこれからも」


矢矧「大鳳と清霜、それに甲大将はそ言葉になんて返すのか興味がある。でも私でも分かるけど、あなたはこちら側で戦ってくれるんでしょ? それだけで無茶した甲斐はあるわよ」


川内「私はその島風が戦っているところ見たことないから楽しみかなー」

脳天気面でそういう。


矢矧が私を振り解くようにして、海へと投げ出した。重いから自分で航行しろ、と一言くらいいえよな。


私は久々の島風艤装の航行機能で海の上を往く。私はあの頃よりも大分、弱体化している。島風がなかなか目覚めない今。あの役割分担戦法が取ることが出来ないからだ。


戦後復興妖精「お前、夜戦でしか活躍出来なかったんだっけ」


川内「参加した戦いが夜戦ばかりだったからか高揚する?」


戦後復興妖精「ふうん。矢矧、川内は夜だとどのくらい強いんだ?」


矢矧「砲雷撃戦は清霜に完封されるレベルで弱いわね」

それは酷いな。駆逐艦に完封されちゃうのか。


矢矧「でも避けたり近づいたりするのがすっごく上手ね。探照灯や照明弾を持たせて僚艦ばかりやっているわ。ああ、偵察機の扱いはかなり上ね」


川内「大鳳さんから技を教えてもらったんだよね」


大鳳か。そういえば川内は妖精可視の才があるっつっていたな。マリアナで大鳳を介して装備妖精と意思疎通して空を舞わせた、あの技術を川内に教えたのだろう。妖精の役割にかなりの融通を利かすことのできる技だ。特に夜だとバイロットとの妖精可視才は重宝するだろうし。


戦後復興妖精「じゃあ、偵察機を飛ばして様子を見てこいよ」


川内「構わないんだけども。そういえば今回の旗艦って大鳳さんだっけ?」


矢矧「そうね。この島風が旗艦命令に従うかは別にして」


戦後復興妖精「従わないぞ。私は命令するだけだ」


川内「うえ、聞いていた通りの人だなー……」


川内が妖精と意思疎通して偵察機を飛ばした。ここからなら戦場も少しは見て帰って来る事は出来るはずだ。川内が「サラさんの仇討ちの出撃なのにやる気がないよね」と少しだけ責めるような口調でいった。


返答に困る。

確かにサラが死んだのは悲しいが、客観的に見てしまう自分が強すぎるのだ。今までもこれからもずっと私は世界を俯瞰し、騙し続けてゆく。それが私の役割であり、生きる意味でもあった。わざわざ声にして伝えなかったが。


矢矧「もしもあなたに死んでも復活できる妖術みたいなのを持っていたとしたら」矢矧がいう。「同情するわ。それはきっとあなたがやりたいことではないのでしょうし」


戦後復興妖精「はあ?」


矢矧「犬として産まれたら犬を、人間として産まれたら人間を、妖精として産まれたら妖精として生きるのよ。その中でも妖精として生きるのだけは嫌ね。あいつら自分の意思で戦争に参加しているとは思えなくて」


戦後復興妖精「だったらどうなんだ?」


矢矧「都合の良い道具みたい。そんなこと考えられないほど単純に洗練されている生き物ならいいのでしょうけど、あなたは気配もそうだけど人間にしか思えない。あなたがやりたいことって何なの。それって押し付けられているだけじゃないの?」


考えたこともなかったな。

私は戦後復興妖精だ。この戦争の調整のために何回も生きては死んで仕事をしている。確かに押し付けられた役割ではあるが、人間よかマシだろ。大した理由もなく、創られて、産まれた意味とか生きる意味に悩むのは憐れにすら思える。


矢矧「実存は本質に先立たないから、人間として生きるのは面白いと思うわ」


その矢矧の言葉の意味を考えてみた。

艤装はパーパとマーマによって作られ、役割を持って産み落とされたものだ。しかし、人間は何の役割を持って産み落とされたのだろう。きっと、そうだな。それは大鳳達が艦の娘となって戦う人生を決めて歩んでいるように、産まれ落ちた後に自分で見つけて意味を色づけてゆく。とても自由に思えて、逆に役割に縛られた私が可哀想とすら思えた。


じゃあ、私のやりたいことってなんだ。生きる意味ってなんだ。

くだらない、と切って捨てるにはあまりにも興味が湧いた。


その問いの答えが出る前に、遠くから轟音が鼓膜をぶった。

あの日の戦艦棲姫を思わせる世界の揺れ方だった。

今思うと、私の人生(戦い)が始まった音だ。




川内の偵察機が戦闘風景を記録して戻って来た。

敵艦隊は125隻という馬鹿げた数を誇っていた。死を覚悟するのに十分過ぎる数だったが、先の轟音はこちら側の艦隊の砲雷撃の音ではなかった。川内がいうには「深海棲艦が深海棲艦を殺し始めた」とのことだった。その意味不明な情報の真意を探るため、想探知のアンテナを張った。


清霜と大鳳と武蔵は戦闘態勢ではあるが、長射程で陣形を組んだまま、錨を降ろしている。


矢矧「ここまでトラブルなくて助かった。予定にズレなく合流出来たわね……」


矢矧が到着の旨を伝えると、艦隊と合流する。私は航行しながら港湾棲姫の想をずっと解釈していたが、今までの深海棲艦と明らかに違う。単純な殺人衝動以外になにか複雑な感情の塵芥がある。それらが影響した結果があの奇行なのだろう、とは予想がついた。となると、港湾棲姫が陸上型の基地タイプであることを踏まえると、あれは『陸地』と見立てて作った戦術の類か?


清霜「矢矧さんに川内ちゃん! それと……ん、スーツ姿の艦娘……?」


大鳳「え? この風貌、島風さんの適性者ですか?」


武蔵「……うん?」


どうやら武蔵は矢矧と同じく感覚が鋭いタイプらしい。すでに察し始めている。私はひとまず想探知を切っていう。パーパは何の干渉もしてこないし、構わねえだろう。なにか不都合が生じるならそっちで処理してくれ。


私はあの港湾棲姫を撃沈するぞ。


戦後復興妖精「姫を前に余裕だな。戦艦棲姫戦の二の舞になるぞ馬鹿」


武蔵「お前、もしかしてあの島風なのか」


大鳳「いやいやまさか……」


清霜「ハワイで食べたモノは?」


戦後復興妖精「あの気持ち悪いカタツムリのことだろ」


清霜「島風さんだ――――!」

これだけで本物認定しちゃえるのか。


抱きついてきた清霜の頬を張って、引きはがす。


戦後復興妖精「同窓会に来た訳じゃねえ」


大鳳「一人、足りませんものね」


武蔵「サラを倒したやつだろ。相手に不足はねえけど、なめたら沈む」


矢矧「姫の中でも異質よね、アレ」


港湾棲姫がいた。周囲の深海棲艦を殺している。信じられない話だが、拠点軍艦の残骸、数えるのも億劫なほどの深海棲艦の残骸が溶接されて、平坦なプレートが出来ていた。加えて、あの膝上にいるあの小さな姫は北方棲姫か。港湾棲姫の膝上で空母の破片を片手に無邪気に遊んでいる。物を工作するとか、船の残骸をオモチャに見立てて遊ぶとか。仲睦まじい親子のように見える。


矢矧のいう通り、二匹とも異質だ。


射程圏内にいる艦娘を攻撃してこなかった。それどころか、私達に反応した深海棲艦を片っ端から砲撃をブチ込んで沈めている。ありがたいことなのだが、それ以上に不気味だった。いくら知能が比較的、マシな姫といえどもこの奇行種はなんだ。本来の生物構造から逸脱している。皮肉なことに人間のようなその仕草は深海棲艦に当てはめたら異常者にカテゴリされる。


矢矧「ねえ……一旦、帰って作戦を練り直すのは」


矢矧が弱気なのが珍しかったのか、一同の顔が険しくなった。恐らく私だけでなく、矢矧のこういった勘が鋭いのは周知のようだった。私も矢矧に共感した。

こいつらは今まで見てきた深海棲艦の中で群を抜いてヤバい。確証はないが、杞憂とは思えない怖気を私に感じさせる程だ。


清霜「攻撃してきた! 一機だけだけど!」


清霜が対空射撃の準備に入った。

深海型艦載機を一機だけこちらに飛ばしたのは北方棲姫のほうだった。清霜が機銃を乱射して空を飛ぶ飛行機を墜落させたが、軌道が妙だった。私達を狙ったには航行の軌道がズレている。北方棲姫は一機、二機、とまた発艦する。


全員が即座に戦闘を開始した。攻撃されたからではない。

私達を無視して後方の拠点軍艦を狙ったからだ。




少佐君の指示が来た。

武蔵と清霜を後退、大鳳の発艦は烈風を十機だけに留める。私は機銃で前に出て矢矧の援護を指示された。迅速かつ的確な判断だ。北方棲姫は遊んでいるのか、こちらを撃沈しにこない。武蔵を射程のギリギリ、清霜を狙われた拠点軍艦と武蔵の護衛に回す。わざわざ時間をくれるのだから適した陣形を組み直した。戦闘が始まれば前衛部隊の私と矢矧、大鳳が地獄だろうな。


少佐君《前衛部隊の……あなたがいるので不粋ですかね》


戦後復興妖精《私を信用出来るのか?》


少佐君《無論であります。強いていうのならあの時とは違って後方に高速修復材を大量に積んだ入渠施設があり、300名が待機していることをお忘れなく、すぐに武蔵に撤甲弾を積ませて港湾棲姫を狙わせます。空は無理なのでしょうで細かな指示を出している余裕はなさそうですね》


まあ、港湾棲姫と北方棲姫相手に大鳳一人で小技を駆使してどうにかなるとは思えなかった。拮抗も無理だ。完全に奪われて敵艦載機の標的とされながらの戦いだった。


戦後復興妖精「大鳳、空は捨ててもいいから矢矧の護衛に回してくれ。私は裸で構わず、北方棲姫が海に出た瞬間に仕留めに向かう。港湾棲姫には魚雷が効かねえ。陸上型は私の天敵だ。川内のことはよく知らねえ。適当にがんばっていろ。攻撃に迷ったら止めて守りに徹しとけ」


川内「大雑把だねえ。でもま、私達の現場の動きなんてそんなもんか」


後方からの支援砲撃が見事に姫に突き刺さった。

武蔵がぶっ放したらしい。クリティカルヒットで港湾棲姫はすでに損傷している。少しタイミングが早いな。私と矢矧がもう少し距離を詰めてからがベストだったのだが、火蓋を切っちまったからにはやるしかない。魚雷が効かねえ相手というだけで過去最難関の戦場なんだけどな。


姫二人が搭乗していた軍艦は大きく傾き、海の中に沈み始めた。

北方棲姫が海の上に飛び降りて、子供のような無邪気な殺意を放った。


航空値105、こいつだけでも大鳳で粘って時間稼ぎが関の山だろう。陸上型、魚雷は効かねえけど、砲が効くなら殺しようはある。この艦載機の雨あられを潜り抜けていつものように近づいて仕留める戦い方だった。島風のやつは起きてこねえから、私が一人で全てこなすしかない。


機銃を空に構え、航行を始めた。

26ノットのとろい速度だった。


北方棲姫との距離が縮まってゆくのは、向こうが前に出ているからだ。艦載機を空に舞わせた後に5インチ単装高格砲を空に向けて、私を真似たかのような航行を始めていた。本当に何なのだ。まるで人間の子供のような学習能力を発揮していた。それに拠点軍艦を狙ったのも気がかりだ。


戦後復興妖精「これ、下手なこと考えると死ぬな……」


港湾棲姫も発艦を始めていて、すでに大空襲の様ですでにもう自分以外に意識を割くことも出来なかった。港湾棲姫は砲撃準備を終えたのか、あの15インチの要塞砲をぶっ放す衝撃が全身で感じた。武蔵の砲撃なのか、敵か味方の艦爆なのかもよく分からない。いくつもの水柱が空に伸びて飛散して浴びる水しぶきは大槌にでも打たれているようだった。


想探知、至近距離といえる距離までも少しだ。


セットした酸素魚雷を放った。直線状に五つの魚雷が発射されて、水しぶきの向こうにいる北方棲姫への命中を確認する。「アッハハハ」と子供の甲高い笑い声が聞こえた。損傷はなし、だ。魚雷は無効化されているが、そんなことは最初(ハナ)から分かっていたことである。


北方棲姫は空から堕ちてきた大鳳の烈風を胸に抱き留めていた。

私のことはまるで眼中にない。そのまま私の隣を抜けて行こうとした北方棲姫の首をわしづかみにして強引に正面に連れてくる。烈風を艤装の収納部にしまって、こちらを純粋無垢な瞳で見ている。「気味悪ィ」と機銃を向けて乱射した。戦う気がないのならそれはそれで助かる。


北方棲姫「ア……アア……!」


北方棲姫の赤黒い瞳が小刻みに振動していた。


北方棲姫「オマエ……!」想探知をしてみると、ようやく深海棲艦らしい破壊衝動を感じられた。しかし、普段の深海棲艦とは違う。「コノ世界カラ、カエレ!」


なにを感じ取った。もしかして戦艦棲姫と同じく私から当局の存在を感じ取ったのだろうか。

しかし、反応は戦艦棲姫とは違った。あいつは怯えていたが、こいつはその真逆だ。殺意を剥き出しにして戦闘の意思を明確にしていた。艦娘のことなど眼中になく、私だけが敵だといわんばかりに。


戦後復興妖精「やる気になったところでもう遅えわ」


その小さな身体を空中に放り投げてやった。見動きが取れない空中のほうが砲撃を当てやすい。10センチ高角連装砲は北方棲姫に命中した。艤装の甲板部分と顔半分を砲弾がえぐったのを視認出来た。背中から海面に落ちた時、北方棲姫は分離して海面に浮かぶ自らの艤装に触れた。


戦後復興妖精「……は?」


疑問を考える前に砲撃を続けた。

北方棲姫はフラフラと二足で海面に立った。さきほど艤装に触れた途端、あの白い肌が艤装の鋼鉄に溶け込んでいったように見えた。いや、見間違いではなかった。北方棲姫は五体満足で元気に砲を構えていた。すぐに想探知で調査する。


戦後復興妖精「強く、なっている……?」


復活しただけではなく、全ての数値が向上している。燃料弾薬ボーキも満タンだ。


北方棲姫(壊)「還、レ!」


全機発艦、もう空は敵機で埋まっていた。

旋回して敵機から逃げる。回避をしながら、砲と機銃を忙しく動かせるが、さすがに追いつかない。艤装にいくつもの破孔が開き、確実にこの身は削られていく。北方棲姫はすでに通常の深海棲艦と同じく猪突猛進で回避なぞ念頭になく、真っ向からの殴り合いに応じており、それだけ見るならば負けはしないが、私が空に押し潰されるほうが速そうだ。


戦後復興妖精「……!」


加えて遠くで怒号が聞こえた。ちらりと視界に入ったが、港湾棲姫のたけり狂う雄叫びのようだ。北方棲姫を傷つけたことが逆鱗に触れたのか。空母棲姫は間合いに踏み込まれたことによってあのような怪物の本性を顔に貼り付けたが、こいつの怒りの琴線はこのガキを傷つけられた時のようだった。加えてあいつも同じか。艤装が肉体に溶け込むような状態になっている。


私と同じく矢矧が一度、倒したのだろう。

そして同じく復活した。


空が明け透けになってゆく。艦載機が私を狙わなくなった。大鳳が空を奪い返したのではない。その大鳳も意味が分からないといった風に上空を見ている。群れを成した深海棲艦型艦載機は綺麗に群れとなって空を飛んでゆく。私達を無視して。


戦後復興妖精「なンで……?」


なんで、こいつら拠点軍艦を先に潰すだなんて戦術が使えるんだ。


戦後復興妖精《清霜、武蔵! こいつら拠点軍艦を狙い始めた! 少佐君も聞いているだろ!二人に護衛させながら戦闘海域から離脱しろ! 守り切れねえ数の艦載機に特攻されている!》


それだけ伝えると、私は北方棲姫に向き直る。艦載機が向こうに全て向けた分、空の脅威はなくなったも同然だ。ただの砲撃なら私のほうが圧倒的だったのは先の戦いで把握している。しかし、こいつらに備わる機能に謎が多過ぎた。油断はしないが、じっくり攻める余裕もない。


島風(おはよー……)


戦後復興妖精(起きたか! おい島風、すぐに状況を把握して航行を担当しろ!)


島風(うん……? おう? なにこれ! みんなそろってる!)


戦後復興妖精「そこはとりあえず置いとけよ!」


声に出して突っ込んでしまった。

島風がやる気を出したのか、オート航行が開始される。これなら私は攻撃に全神経を割ける。速く、即行であの姫を沈めて拠点軍艦の支援に出向かねば拠点軍艦は清霜武蔵とともに沈んでしまう。川内から通信が入った。《十秒後にそっちの姫を目がけて撃つよ! でも私の精度じゃ外す! 意識は向けられるはずだからなんとか!》


戦後復興妖精《おう! その支援は助かる!》


川内の支援砲撃を号令にして、島風は航行を開始する。砲撃を回避して相手にきっちりと当てる。弾薬などなくてもこの艤装からは空砲撃という極めて威力の低い砲弾が繰り出される。向こうの攻撃は全く当たらず、私が攻撃に全集中を傾ける。その全てが弾着観測射撃、連撃だ。


戦後復興妖精「ハハ」


笑いが漏れるほどの余裕を手に入れた。北方棲姫の小さな身体が削られてゆく。人間と同じ色をした血肉を乾いた空気に晒してゆく。北方棲姫は近距離での撃ち合いでは敵わないと悟ったのか、強引に突っ込んでくる。そうだよな。お前らは憎悪のままに前に進んでくるやつらだ。ブラフもないその直線的軌道航行、もはや通常の深海棲艦と同じだ。


戦後復興妖精「獲った!」


連撃は北方棲姫の艤装甲板部と額に命中。直撃弾を喰らった頭と艤装は木端微塵に消し飛び、その魂を海へと散らした。「ちょっとごめん!気付くの遅れっ!」と島風の声がした時だ。


直撃弾をもらった。

装備損傷、一気に大破の航行不可に陥ったが、意識はある。


港湾棲姫の要塞砲をまともに食らってしまった。


矢矧《なぜかあなたの――ばっかり狙っていたお陰で――でも仕留められたわ》

矢矧からノイズ混じりの通信が入った。


港湾棲姫は憎悪というより、悔恨に満ちた顔をしていた。その断末魔は悲壮のように聞こえる。なぜかは知らないが、あの北方棲姫は余程、大事な存在だったようだ。


胸がチクリ、と痛んだ、


ちび風とちび津風を思い出した。今の私達はこちらの都合で殺したに過ぎない。それはきっとあの輸送会社のやつと同じだ。港湾棲姫のようにこんな風に唐突に奪われた。あの時の小屋で窓に映っていた私はあれとは違って泣いていたけど、きっと感情は同じだろう。私には分かるんだ。


川内に航行を協力してもらって、拠点軍艦まで向かった。


7


艦載機の大空襲を受けた拠点軍艦は損傷はあるが、奇跡的に小破程度で済んでいた。少佐君が武蔵の装備をすぐさま三式弾に切り替えて対空射撃で敵編成隊を薙ぎ払わせた判断が早かったお陰だと武蔵はいった。


武蔵の損傷は中破、そして清霜は小破、前線では私は大破、その他の皆は中破だ。


サラの仇を討った。


その達成感がかすかに空気を柔らかくしている。最初に異変を感じたのは矢矧だった。またなんか嫌な感じがする、といった。

視認できる範囲に深海棲艦はいないが、こいつのこういう察知能力は大体当たるので、想探知を張り巡らせた。清霜も電探を確認した。


太陽光を曇天の雲が遮り、海を陰気な影が覆った。南方の海なのに背筋が凍りつくような、そんな怖気を辺り一帯が包んでいる。反応は二つあった。

一つは湾岸棲姫と北方棲姫がいた辺りから微弱な深海棲艦反応、恐らくこのタイミングで現海界する深海棲艦だろう。


不意に地響きのような衝撃が吠えた。


拠点軍艦の主砲指揮所の戦闘配置についている兵士が、その区画丸ごと消し飛ぶ。唐突な光景に疑問を浮かべる暇もなく、今度は艦橋が吹き飛ばされた。すぐさま全員が警戒徐航の陣形を取り、大鳳が残機を全て発艦、清霜が敵が撃ってきた艦載機を撃ち落とそうと前に出た。


私はそこでようやく我に帰って再度、想探知を試みる。


戦後復興妖精「――――」


私が死を覚悟した瞬間だった。

この猛り狂い、煮立つような複雑な感情を内に秘めた想。


そいつは自らの巨大な艤装(船)に寄りそうようにして身体を預けている。


今までのどの敵よりも、沸々とした殺意を秘めていた。


遭遇した厄災は『Rank:SS+』


中枢棲姫。


戦後復興妖精「全員逃亡……」


拠点軍艦が入渠を終える前に潰され、全員が損傷している状態、更に大鳳は先の戦いで艦載機も両の指で数えられるほどしか残っていなかった。戦ってなんとかなる相手ではないのは明白だ。


大鳳「しません。拠点軍艦の乗員を可能な限り救出のため脅威を抑えます」


それが旗艦の指示だった。

その後すぐに清霜から通信が入った。


清霜《生き残った人に後のことは任せるね!》


普段と変わらない元気な声で死の決意を伝えられた。


大鳳「川内さんは救助をお願いします。皆さん、覚悟を決めましょう」




大鳳「各員」












大鳳「死ニ方用意」




震えた肩と声、泣きそうな顔の見た目相応の女から特攻命が下る。


対深海棲艦海軍の特攻前の儀礼の言葉だった。

戦闘開始の号令が下されるまでたった十秒の時間だった。それぞれなにを思ったか。いくつ死線を潜っても、怖いもんは怖い。皆が抱いているのは勇気ばかりではなく、恐怖と臆病に支配されながらも戦う意思を手放さないように瞑想していた。


戦後復興妖精「背後の脅威を仕留めてくる」


全ての機能をフルに回転させても勝てないが、それでも、と偶然力を平等に皆に分け与えた。後は皆の武運を祈るのみだった。

私は航行を開始した。


大鳳「島風さん、またどこかで会えたらいいですね」


大鳳が清廉に笑った。

清霜の反応が消失したのと同時だった。


9


猫の耳と、大きなアゴが特徴的な艦載機が空を舞っている。

私が得ている全ての想の供給が遮断されていることから、絶対にここから逃がさない、という製作者の意思を感じた。


まとった偶然力のお陰か被弾は最小限に抑えられてはいるが、直に沈むだろう。この眼で敵を捉えた。サーバに繋げない今、あの新種の深海棲艦は想探知で探るしかない。


特徴的な大きな頭部にある穴は綺麗な空を映し出していた。

白いドレスと髪が風でふわふわと舞う。


美しい静寂を奏でているかのような深海棲艦だった。


あの猫とアゴの艦載機の想も確かに感じ取った。

熊と猫を模したベアキャットの戦闘機だった。

そしてあの白い姿と憎悪に塗られてなお感じる優しく大らかな想の感じ、私にはすぐに分かった。



戦後復興妖精「サ、――――ラ――――か」



囁くように彼女の名を呼んだ。


戦後復興妖精「サラだろお前……」


全てを悟った瞬間だった。

そういうことか。妙に優しかったのはやはり、裏が合った。

サラと殺し合いをさせようなどと。

深海妖精の完成。拠点軍艦を狙うのも、私達を狙うのも、納得した。拠点軍艦を開発して戦場に設置することで艦娘の生存率は大幅にあがった。サラが記憶していたその拠点軍艦の記憶、それが本体である艤装の想に強く残り、北方棲姫も港湾棲姫もあれを真っ先に潰す行動を取った。


戦後復興妖精「正気に戻れよ!」


無駄なことなど分かっていても、それでも叫んだ。


戦後復興妖精「なんで仲間を殺しにかかっているんだよ!」

あんまりだ、と叫びながら私は空砲を撃ち続ける。


中枢棲姫にも勝るとも劣らないその耐久を撃ち抜く奇跡を願った。偶然、奇跡でどうにかなることではなかった。それでも撃った。必ず私が殺してやるからな。一秒でも速く沈めてやる。それがサラにとっての唯一の救いのはずだ。

叶わぬ願いを砲に込めて儚く絶望に抗った。


矢矧、反応消失。

続いて大鳳の反応が消えた。

武蔵が沈んだ。

サラがこちらに砲を向けた。


拠点軍艦を沈めたのだろう。辺りを漂う想の死臭で背後を見ずとも地獄を思い描けた。間に合わなかったか。結局、こうなるのか。ちび風とちび津風を守れなかったように仲間を救うには私はあまりにも無力だった。悔しい。こんなこと繰り返すのか。人間か神のどちらかが絶滅するまで。


戦後復興妖精「許さねえ……」


私達という盾が消えれば、サラは人里に向かうだろう。深く思い入れを語った日本へと進撃を開始するだろう。今のこの深海棲艦とまともに戦える艦娘は全滅した。最悪、万を越える死者が出る。私の戦後復興の全てを水泡に帰すかのような、地獄絵図が描かれるはずだ。


戦後復興妖精「絶対、許さない……」


私の反乱の狼煙の声はサラだけが聴いた。

優しく微笑んで、すぐに幕を降ろしてくれた。



【21ワ●:火の海を歩き終え、白い始まりの大地へ】


茫然自失ゆえか、メンテナンスの後遺症なのか、ここからの記憶は曖昧なんだ。


気付けば陸地にいた。

かつてない現海界の速度だ。死んだ後にすぐ産み落とされたようだ。現海界の地点はどこだろう。少し記憶にひっかかる。私の職場の辺りのようだ。この時、当局がなにかいっていたが、よく覚えていない。多分この景色を見て笑っていたんだと思う。


私は脱け殻のようなこの身体でただぼけっと街並みを眺めた。

空襲警報が鳴り響き、夜の空には深海棲艦型艦載機が飛んでいた。爆弾で建造物が砕けて燃えて綺麗だった。道路には燃えたランプが蠢いて、線上に飛散する水飛沫が灯りを鎮めてゆく。


暗がりを照らす命の灯りが消えてはまた点いて。

絶え間なく焦げた肉の臭いを纏った黒煙が天昇していた。タイルの隙間を伝う黒く濁った水は血と油の臭い。燃料漏れを起こした船(人)が蛇行し、アリゾナの涙をアスファルトに垂らして進み、沈みゆく。そんな火の海を、私はただ無気力に歩いた。


偶然力を全て自分にかけて、

ただ歩いた。

幸福に出会えますように。

無意識に願う。


時間感覚はなかった。




視界が移したのは海辺だった。

雨が降っていた。大きな庭のある平屋の軒先に私は雨宿りした。それが全ての始まりだった。虚ろな眼が捉えたのは『佐久間』の表札だった。空っぽの心が従うままに進んだ。


離れのコンクリートの部屋まで歩いた。

佐久間が部屋の中にいた。この時の佐久間の老いた顔と、そして大願が成就したかのように、泣いていたのを覚えている。そしてその後の言葉が私を正気に戻した。



運――――艤装に設定されている運の値。


これが深海棲艦を建造した奴をも落とす穴。


あなたの戦績的に運を操作する技術を使えるんじゃないの?


ううん、今このタイミングで私のところに来たのがその証拠。


あなたと契約することで私も纏った。


精神で突き付ける見えない刃に神は気付かず。


恐らく莫大な精神力である程度、無形資源を操作できる。人間でもね。ただもう私、廃人みたいになってる。ストレスで頭なんか禿げたし。


それでも、

無形資源研究の成果、私の執念の勝利。


『Intangible Energy:想力工作補助施設』


神をも騙す純白の腕。


今思うと、無形資源、想力と同義の意味と佐久間は捉えていたに違いない。人類の歴史を足蹴にする未知に対して一人の研究者が創り上げた神殺しの装備だ。その装備の製作課程の一切は今も謎に包まれている。



――――後は任せて。


最後に聞いたあの佐久間の言葉の重みを私は思い知った。



いい――――?

やり方は任せる。あなたの後ろにいるやつのことは分からないからね。


あなたの記憶を、想いを、工作して、あの子達二人を殺した根源に立ち向かって。



ここから先は私の記憶は欠けている。

歴史を紐解いた限り、今は現在進行形で陸地の地形が変わるほどの空襲を深海棲艦に受けていたから、そちらに気取られていたんだと思う。この千載一遇のチャンスを棒に振る私ではなかった。


当局を欺き殺すことが出来る代物を手に取らない訳がなく。


私がメンテナンスされたのは百年近くも先となっている。


その期間、私はずっと当局を騙し続けていたのだと思う。そしてそのメンテナンスの時は私が当局に牙を剥いた日だ。恐らく百年間の準備をして挑んだが、結果は知っての通り、敗北だ。


陽炎ちゃんのところは覚えているんだけども、後はそうだな。あの漫画のアニメを当局と見た記憶もある。仲良くしてたのは信じられねえよな。加えて此方と当局を好意的に見ている私もいるんだ。本当にここらからよくわかんねえ。


ああ、そうだ。

ただこの装備を発見した後の島風の言葉だけは強く覚えている。


――――私があなたの代わりに当局を呪ってあげる。











これだけ情報あれば十分だろ。

分野的には准将かね。

この空白の記憶、お前なら真実を導き出せるはずだ。





暇潰しくらいにはなるだろ?


後書き












_(._.)_ペコリ

↓9編のお話

【1ワ●:シアター 上映会終了】

【2ワ●:想力について】

【3ワ●:メインサーバー鹵獲作戦 in 北方鎮守府】

【4ワ●:激闘! メインサーバー君:史実気象砲】

【5ワ●:世界を騙した私達の物語】

【6ワ●:此方が生きてる?】

【7ワ●:戦後日常編 初霜&若葉】

【8ワ●:擬似ロスト空間を探検しよう】

【9ワ●:仮面を被ったお姫様と記号星人エトセトラ】

【10ワ●:若葉 イン 昔ながらのらーめん屋さん】

【11ワ●:若葉の過去】

【12ワ●:あれだな。准将の口車に乗せられた時点で負けだな】

【13ワ●:仕返しに若葉のベストショット写真集】

【14ワ●:戦後日常編終結】

【15ワ●:決戦当日の朝】

【16ワ●:ちょこっとブリーフィング:丙乙甲連合軍】

【17ワ●:ちょこっとブリーフィング:准将北方連合軍】

【18ワ●:ちょこっとブリーフィング:最初期メンバー】

【19ワ●:『想題:戦後復興妖精』&『想題:神風』】


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2018-01-06 18:48:31

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このSSへのコメント

3件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2017-12-14 09:06:26 ID: Yo3FX1vG

終わりが近づく事に寂しさも感じますが、最後まで楽しみにさせて頂きます!

2: 木鈴 2017-12-14 20:38:31 ID: DSsKyzkF

完結までもう少しなのですね…重厚な物語だっただけに寂しいです。
とはいえ続き楽しみにしています。

3: 西日 2017-12-26 04:25:55 ID: Am2wWHuQ

気付けばおまけの物語のはずが本編より文字数多いという……

終わりまで見えてますが、もう少し、は更新速度によりけりです。
続きは気長にお待ちください。


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