2017-12-17 00:07:01 更新

[第1話「吹き荒れる[竜巻]」

ビュゥゥゥゥと冷たい風が吹き渡り、海面が揺れ動く。木々全てを枯らしてしまいそうな風だ。こんな日に海に出ているのは誰も居ないだろう。

と思っていたが、一人だけ居た。強風に黄色く短い髪を揺らし、白いジャージ姿の艦娘がこちらに向かって来ている。彼女は「俺」の近くまで来ると静かに礼をして言った。


「初めまして。今日からここの鎮守府にお世話になる「島風型2番艦 竜巻」だ。よろしく頼む。」


かなり落ち着いた声。とてもじゃないが「あの島風」の妹とは思えない。まぁ「普通なら存在しない艦」だから仕方ないだろう。

彼女大戦中に建造されていたが、建造中に終戦。そのまま解体されて設計図も大本営の偉い人が何処かに紛失してしまったのだが、深海凄艦に対抗する戦力補充の為に無理矢理建造され、改造されたのだ。他にもそんな艦は多数存在する。

艦娘の中でもイレギュラーな存在の彼女らは他の艦娘からは「失われし設計図達」と呼ばれた。


「よろしく頼むよ。竜巻。寒くは…」

「無いです。私は姉より厚着なのでご心配無く。」

「ならコーヒーは…」

「自分で用意出来ますので。」

「お、おぉ…」


何か不知火に似た空気を感じる。だが話し方は不知火よりキツく、眼力も不知火が遥かに劣って見えるレベルだ。何故あの姉の妹がコレなんだろうか…絶対大本営の趣味だろ…。

そんな事を考えていると、突然警報が鳴った。ジリリリリリリリと大きく高いベルの音が鎮守府全体に響き渡る。


[鎮守府近海に駆逐イ級多数確認しました。大至急殲滅に向かって下さい。]


そんな放送が聞こえ、鎮守府に灯りが灯る。それを見て竜巻は呆れた顔で言う。


「やれやれ…今灯りを付ければ敵に居場所を教えてる様な物。すっかり平和ボケですか。」

「し、仕方ないと思うよ?75年も平和なんだし…」


そう言う俺はどうやら眼中には無かったらしく、彼女は黙々と荷物の中から艤装を取り出し、装着していた。手持ちの連装砲にまるで警官隊が持っている様な盾が付いている。


「司令。あの駆逐達を足止めすれば良いんですか?」

「え?あ、うん。他の艦娘達が来るまで耐えてくれたら嬉しいけど…」

「良かった…なら…」


竜巻は俺に背を向け、艤装の引き金に指を掛けて言った。


「別にあの雑魚共を倒してしまっても構わんのだろう?」


その言葉は借り物の様だったが、とてもカッコよく聞こえた。俺は何て言って良いのか忘れ、ただ小さく一回頷いた。それを見て笑う竜巻。その笑顔はまるで小さな少女の様に純粋だった。


「姉譲りの速さを捨てて得たこの「装甲」。装甲駆逐艦 竜巻参る!」


他の駆逐艦より少し遅いぐらいの速度で竜巻は港を出た。その背中に迷いは感じられず、それどころか逆にこの状況を楽しんでいる様に感じた。

どんどん遠くなる小さな背中を俺はずっと見つめていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「パッと見40ってところですかね。」


私は耳元に付けた探照灯で敵の数を確認しながら鎮守府近海を進む。よく見ると思いがけない程の迎撃の速さに驚いたのか、ビビって逃げ出してる艦が数多い。このまま逃げられてもつまらない。私は声を張り上げて言った。


「振り向くな!私に背中を向けるな!」


その言葉で逃げ出そうとしていた艦達は止まり、私を見る。私はそのまま敵艦に向かって叫ぶ。


「ここに居るのはただの駆逐艦だぞ!1vs多数!恐れる理由が何処にある!?かかって来い!でなければ殺してからもう一度殺す!」


挑発が効いたのか駆逐イ級達は私に砲を向け、放つ。私は盾を構えて突っ込んだ。盾に砲弾が直撃し、跳ね返る。その跳ね返った弾を私は上手い具合に敵艦に直撃させる。


「これで20体目か。」


私はそう言いながら盾で駆逐イ級の首を搔き切る。緑色の血が吹き出し、ジャージがま緑色になった。私はジャージを脱ぎ捨て、姉と同じ露出度の高い制服姿になる。

この季節にこの姿はかなり寒い。こんな日でと姉は着込まないと聞いたが、頭のネジが10本程足りないのでは?

そんな事を考えていた時、一発の砲弾が左から飛んで来た。


間に合わない


私は左手を失う覚悟で砲弾を左手で殴り飛ばそうとする。だが、砲弾は私の手に当たる前に消えた。何かが砲弾を打ち消したのだ。私は鎮守府の方を見る。鎮守府の方からは一人の駆逐艦がこちらに向かって来ていた。

黄色く長い髪、私と同じ露出度の高い制服姿。当てはまるのは一人だけだった。


「姉さん!」

「はっやーい!私より先に戦闘開始するなんて生意気ー!」


姉は凄いスピードで私の前を通り過ぎながら言う。40ノットを超える姉は寒々しい姿をしているが、この時だけはこの制服がカッコよく見えた。


「竜巻は鎮守府に行ってて!」

「姉さん。私はまだ戦えます。」

「そうなの?なら手伝って!」

「了解。」


私達は姉妹で連携を取りながら敵艦を沈めて行く。最初40は居た駆逐イ級達はすぐに居なくなった。

姉さんは「妹の方が撃破数多い!」とか言ってたが、すぐに諦めてくれた。姉さんに引っ張られて私は鎮守府に戻ると、鎮守府の全艦娘が港で待っていた。80、いや90は居るだろう艦娘達は私を見て呆然としていた。


「誰だ島風の隣に居るのは…?」


そんな声が聞こえる。提督め、私が着任する事を伝えて無いのか?なら教えるしか無いだろう。日本の人々から忌み嫌われしこの名を。存在しないはずの艦の名を。

私は鎮守府前方広場で唖然とする艦娘達に向かって声を張り上げて言った。


「私の名は「島風型2番艦 装甲駆逐艦 竜巻」!今この時よりこの艦隊に加入し艦隊の指揮を受ける者だ!」


私の声は鎮守府全体に響き渡り、騒ついていた艦隊を静かにさせた。艦娘達の視線が全て私に向き、全員が閉口する。そんな中で一人だけが私の目の前に立ち、手を差し出して口を開いた。


「私は「長門型戦艦 長門」だ。よろしく頼むぞ竜巻。」

「あぁ。足を引っ張ら無い様に心掛けよう。」


私は差し出された手を握り、力強く応える。まぁ提督の事は許してやろう。それより何か忘れている気がする。とても大事な事のハズだったのだが…まぁ良いや。


ーーー一方その頃キス島近海ーーーーー


「二、逃ゲロ!ヤツハ…化物ダ!」


頭から血を流した戦艦ル級が叫ぶ。だがその叫びは虚しく砲音に打ち消され、ル級の頭と共に吹き飛んだ。

ル級が見ていた方向には一人の艦娘が居た。黒く短い髪、紫のラインが入った黒いパーカー。パーカーが風で揺れ、チラチラ見えるタンクトップ。恐らく「天龍型」だろう。だがその姿は「天龍」とも「龍田」とも違っていた。


「チッ…竜巻のヤツ…忘れてやがるな。まぁ良い…次会ったら「殺す」だけだ。」


艦娘はそう言うと朝日の中に消えた。


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2017-12-30 21:36:13

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