2018-01-09 23:51:09 更新

概要

敵に特殊鉱物の回収を阻止するべく、死地に行くことを望んだベールヌイ。
しかし、それを決断したのは提督という事になっており――。


前書き

注意として、ここの提督は艦娘からは元々嫌われてはいません。
皆提督大好きなんだよね(他人事)


瑞鶴「提督! ベールヌイが大破! これ以上の進撃は無理よ!」


翔鶴「提督、これ以上随伴艦の子たちに負荷は……」


提督(再出撃できるほど、弾薬は無く。撤退の命を出せば、敵に逃げられる)


提督「ハァ……(だが、艦艇を減らす結果になるよりかはましか……)」


ベル「……司令官、進撃、命令を」


電「はわわ!? ベールヌイちゃん、何言ってるのですか!?」


暁「そうよ! それ以上進んだら……」


北上「あんまり褒められたマネじゃないけどね……まあ、私も」

大井「そうよ! 北上さんも心配してんのよ! だから撤退の指示をしなさい!」


阿武隈「提督さん……どうするんですか?」


提督「……(何故、進撃命令を願う? そして陸奥たちは何で黙っている?)」


ベル「……司令官、敵は新種の鉱物を発見しそれを本陣に持ち帰るつもりだ」


提督「……」


ベル「司令官、作戦命令を」


提督「……進撃だ」


六人「えっ……?」


提督「単縦陣で戦闘開始し、夜戦突入後ベールヌイは敵主力に突入。攪乱している間に球磨型の主砲、軽巡以下の雷撃で仕留める」


ベル「хорошо」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




曙「書類よ、提督」


提督「ああ、ありが」ばさっ


曙「今日中に終わらせなさい。それじゃ」ばたんっ


提督「……」


提督(あの日、命令してから全て変わった。私は上から昇格され、英雄として名を残すことになった)


提督(ここに居る艦娘達の大体が昇格されることを知らない。……知ったら、現在の対応は変わるか?)


提督「……無いな、絶対」


提督(言ってみれば、俺の意志でベールヌイを殺したんだ。その事実は変わらない。そして、俺はそれを後悔しない)


北上「提督、ちょっといい~?」


提督「北上? どうした? 大井と一緒じゃないなんて」


北上「ああ、まずそこなんだ。……でさ、私達の部屋にこれ送りつけたのって提督?」


提督「鎮守府転属希望書……俺はしら」

北上「しらばっくれんな」ガチャ


提督「……鎮守府内での艤装装備は原則禁止だぞ? 分かっているのか?」

北上「分かってんのは提督かって聞いてんの!」


提督「……悪いが俺は本気で知らん」


北上「……そっかー、ごめんね。提督、ちょっと用事出来ちゃったわ」バタン


提督「……軽巡枠は来週配る予定だからな」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




提督「……それで、転属希望所はこれで終わりか?」


長門「残念ながら、駆逐艦全員が提出したわけじゃ無いがな。私達、戦艦の分を早く要求したいものだが」


提督「それは来週に戦艦枠全員に配布し、翌日提出してもらう。……その時期だと、残っている艦娘の方が少ないだろうしな」


長門「知らん。失礼する」バタン


提督「……はぁ」

陸奥「あら? 残っている駆逐艦が……五艦? ……これじゃあ、仕事回らないわよ?」


提督「……む、陸奥、驚かすな」


陸奥「あらあら? 私だけじゃないわよ?」


大鳳「提督」

扶桑「私達も」

山城「……ここに居ます」


提督「何か、ようか?」


陸奥「やっぱり、相当お疲れね。何時もの貴方ならここまでの接近は許さないわよ?」


大鳳「ご褒美です」


提督「……お前らは、知ってるだろ。何しろ、現場に居た艦艇なんだし。俺を忌避しないのか」


山城「……ソナーを無効化する鉱石」


提督「おい、それを何故知ってる? 返答によっては」

扶桑「提督。それは私達が普通以上に用心しているからよ」


提督「……それだけで特定できる物じゃない」


大鳳「あそこ周辺は何故か艦攻機に不具合が有って」

扶桑「駆逐艦の子に聞くと、ソナーが効かないと言っていたので……」


提督「……成程、だからこいつらは残ったのか」


陸奥「それって、暁ちゃんたちの事?」


提督「そうだ。だが、こいつらが分からん」


扶桑「この子は……妥当だと思いますけど」


山城「……私は、こっちの子ですかね」


提督「なら、問題ないな」


陸奥「……提督、何も考えなさすぎじゃないかしら?」


提督「……悪いが、今そちらの会話にリソースを割いてる暇は無い」


大鳳「提督、既に退職願いは出したのでしょう? ならば、考えることは他にないかと」


提督「……『Xdayは再来週』今、言えることはこれだけだ。悪いが、俺は私室に戻る。誰も入ってくんなよ」ガチャバタン


山城「……エックスデイ?」


陸奥「一体、何を指すのかしら?」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




大井「はい、北上さんと私で同じ鎮守府にしていただければ」


大井「え? 洋書はどうしたかだって?」


大井「すみません。紛失してしまい……はい、はい、はい、球磨型全員です」


大井「それでは、夜分遅くにすみません、提督。それでは」ガチャ


大井「……ふふふっ」


北上「すー……すー……」


大井「これで、北上さんは考え直してくれる……」


大井「ねえ、北上さん。提督だからって、最後まで一緒に居ようとしなくていいんですよ?」


大井「提督も、きっとそれがお望みですよ……」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




提督「スー……」


提督「フー……」


提督「執務室でこれを吸える日が来るとはな……」


龍田「提督、少しいいかしら?」ガチャ


提督「龍田か、どうした?」


龍田「……提督さんって煙草吸うのですね」


提督「これでも、ヘビースモーカーだ。もう、この鎮守府に餓鬼共は居ねえからな」


龍田「残った駆逐艦の子たちは」

提督「軍人だ。それ以上でもそれ以下でもない。それで、何の用だ?」


龍田「これよ」ビシッ


提督「軽巡枠に配布された長期休暇許可書(鎮守府転属希望書)だな」


龍田「……ハァ。やっぱり、そう読むのね」


提督「当然だ。小さいが、注釈が右下に書いてある。読まない方が悪い」


龍田「……端から騙すつもりだったのね」


提督「そうだ。既に駆逐艦は退避完了。軽巡も準備が出来次第大本営に一度送る。お前と天龍は残るのだろう? 正直に言うと、退避して貰いたいが」


龍田「騙す理由について詳しく」ドゴーン

  「聞きたいけど、まずは彼女からのようね」


提督「スー……フー……。此処じゃ無かったら軍法会議物だぞ? 北上」


北上「そーだねー、まずは説明して欲しいかな? 私の転属に付いて」


提督「説明も何も、そのままの意味だ。貴官の希望によって鎮守府を移転してもらう」

北上「私は希望していない!」


提督「……それより、鎮守府での艤装装備、および発砲、並びに器物破損……と、上官に対して傷害を負わせたってことで軍法会議物だぞ? それを承知で」

北上「そんなの知らない! いいから私の転属希望書を破棄し」

提督「龍田」

北上「がっ!?」ドサッ


龍田「少々、おいたが過ぎるわね」


提督「……そろそろ、かな」


龍田「えっ?」


提督「……こいつが起きたら、自分を責めるようなことを、今からやるんだよ」


提督「……それが、俺がコイツに与えられる、最後の罰だ」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




提督「……予定前倒しで配布した調書は……」


提督「アイツら四艦と、気の振れた一艦か……」


青葉「司令官! 失礼します!」


提督「噂をすればなんとやらだな。いいぞ」


青葉「失礼します!」ガチャ


提督「どうした、気の振れた艦娘」


青葉「酷い言いようじゃないですか!? ……いや、今はそんなことはいいんです」


提督「じゃ、なんだ?」


青葉「提督の最後の作戦、『タ号作戦』の、記録……係、に……」


提督「何処から情報を知った? 流石に初弾で味方を殺すことはしたくなかったんだがな」

川内「私だよ」


提督「……貴官は」


クルッ、ドサッ


川内「あ~、長時間逆さになってるのはやっぱきついわ~」


提督「……そうか、あの鎮守府の艦娘だな。それなら、合点がいく。青葉」


青葉「……へっ? あっ、えっと。はい!」


提督「彼女から情報を貰ったのか?」


青葉「……はい」


川内「いやーホント凄い厳重なロックだったよ。しかも時間問わずちょくちょく部屋に戻ってくるもんだからさ。何度バレたと思ったかと」パンッ


提督「少しは静かにしろ。それとも不法侵入、機密情報漏洩、人権侵害で軍法会議にかけて殺すぞ?」


川内「そういうのは、引き金を引く前に言うもんだと思うんだけどね」カランッ


青葉「じ、実弾を……歯で……」


提督「気にするな。そいつは色々とおかしいだけだ。……さて、お前が来たという事は援軍の知らせだろ?」


川内「せいか~い! 我々の最新鋭夜戦部隊でこの鎮守府を護衛しようという「不要だ」作戦が……」


提督「不要だ。恐らくだが、貴官の隊が出動すると、相手も引っ込みがつかなくなる。本格的に大戦戦が繰り広げることになるだろう。そちらの鎮守府はそう考えたか?」


川内「……あーそれは出てたんだけどね。恐らく大丈夫と言う意見で終了してしまい……」


提督「未熟、と言わざる得ないな」


川内「……さーせん」


提督「さて、青葉。記録係は認めよう。しかし、記録係は最終的に生きなければならない」


青葉「はい」


提督「だからお前は、川内と共に最終戦闘時は離脱しろ」


青葉「……」


提督「でなければ、お前を残すことは出来ない」


青葉「……はい」


提督「なら、話は以上だ。退出しろ」


青葉「し、失礼しました」ガチャバタン


提督「……と、言う事だ。この鎮守府最後の非戦闘員、戦闘員の離脱の手伝いをしてくれないか?」


川内「……頭、上げてくれないかな。元々援軍としていくつもりだったんだ。こんな手伝いしかできないのは不服だけど、精一杯努力しよう。私達が可能な限りで離脱させよう」


提督「援助、感謝する。しかし、自らの身の安全を優先だ」


川内「勿論、そこまでやる気はないよ」


提督「……スー……フー……これで終わりか?」


川内「そうだね、後は持ち帰って話をするだけだ。……けど、ホントにあんな作戦するのかい? あれは、私の目から見ても穴だらけだと思うんだけど?」


提督「ああ、そして、成功させてやる」


川内「ま、私達の間違いを指摘したんだし何かあると信じているよ。それじゃ」ガチャバタン


提督「……」


提督「出て行き方は普通なんだな」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




北上「ううん……」


 小さく呻き声を上げて、目覚めた場所は揺れていた。


北上「……ここは」

大井「北上さん! 目が覚めたんですね!」


 北上が呆然としていると、その体を大井は大きく揺さぶった。


北上「ちょ、大井っち! あんまり揺すらないで! ……て、ここ何処なの? 提督は?」

大井「……」


 直後、先程まで安どの表情を浮かべていた大井の顔が曇った。

 それに違和感を感じた北上は、大井の手を取り、問い詰めた。


大井「き、北上さん!?」

北上「大井っち、教えて。一体提督はどうなったの?」

大井「……あの男は北上さんを縛った挙句、大声で北上さんのした行為を語りだしたんです。……まるで自分が正しいと言うみたいに」

北上「ちょっと待って、一体どういうこと?」


 顔に迫る北上から目を逸らし、一瞬悩んだかのようにして、大井はため息を吐いて北上に語りだした。


大井「実は――」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 謎の爆発音、その音を聞きつけた艦娘は少なくなかった。

 指令室の前で大人数が聞き耳を立てていた。

 しかし、室内から聞こえてくる怒声に、ある艦は嘘だと言って寮に戻り、ある艦は青筋を浮かべて突入しようとしていた。

 無論、周りの艦娘から止められてはいたが。

 その場にいる艦娘は全員、ふつふつと込み上げてくる怒りを抑えるのに精いっぱいだった。


「クソガッ! これだから心の持たない兵器なんか信用できなかったんだ!」

「何が艦娘だ! 一個人にそこまでの力が投入できればそれは既に人間じゃない! バケモノだ!」

「そのせいで俺の体に傷がついた……どうしてくれるんだ!」


「提督……もう少し声を押さえて」


「黙ってろこの量産兵器! 貴様も何故この艦の暴走を直ぐ止めない? そのせいで俺は怪我をしたんだぞ!? どうしてくれるんだ!」


「……提督、怪我なら私達艦娘は毎日負っています。その程度の掠り傷ぐらいならば」


「人間と兵器を同列に扱うな、量産できる物とは違うっ!?」


 鈍い音が響いた後、どさりと床に何か落ちた音がドア越しから聞こえた。

 直後、指令室の扉が開き北上を小脇に抱えた龍田が現れた。


「金剛ちゃん、これ、配ってくれるかしら?」


「……分かったネー」


 その場にいる全員が蔑んだ眼差しを提督室に向けた後、散会する。

 その後、誰一人も不備なく書類を提出した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




大井「――と、言う事なんです。確かにあれは嫌な奴でしたけど、私達をしっかり人間として扱っていたと思っていたのですが……北上さん?」


北上「どうなってるの? 私に罰を与えるという事? それでもこれじゃあ、あの鎮守府は元に戻らなく――まさか、ていとく……」


 大井は北上を見て思わず驚いてしまった。

 北上は顔を青くしたり赤くしたり白くしたり、色濃い絶望的な顔をしながら泣き笑いを浮かべていた。


大井「あ、あの、北上さん?」

北上「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!」


 突然笑い出した北上に、驚き一歩下がる大井だった。

 いつもならば、どんな北上でも手を握り、宥めていた大井だったが、何故か大井にはその資格すら無いように思えた。

 何の根拠もない。

 だが、確かに大井はそう感じた。


 二人だけの密閉された空間で、北上の乾いた笑い声だけ木霊する。

 その中で、人知れず流れた涙の意味は、大井にはさっぱり分からなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 静まり返った鎮守府。

 艦娘の寮や工廠などの施設がある中、ここまで静まり返っているのはかなり、異様だった。


提督「スー……フー……。静か、だな」

天龍「おい提督。駆逐艦も居るんだ、煙草はその辺にしてくれ」

提督「断る、流石に吸わねえと俺も落ち着かない」


 提督は目を細め、冬の夜空を見上げる。


提督(今日、今日だ。今日中で全てが決まる……)


 視線を室内に戻し、頭のイかれた奴らをもう一度確認する。

 この場に居る、大鳳、天龍、朝潮以外に、鎮守府の外側で監視中の扶桑、電ペア、山城、雷ペア、陸奥、暁ペア、最後に青葉、龍田、不知火ペア。

 提督はパイプから口を離し、ため息を吐く。


提督「……普通、逆じゃねーか?」


 ここを脱出するのは、青葉、不知火、朝潮のみだった。

 勿論、最大乗員数だと全員は乗れないがこれだと空きがでてしまう。


 こぞって残留を希望する姿、それは一種の狂気が孕んでいるように感じた。

 しかし――


提督(死兵は……都合が良い)


 薄く笑みを浮かべ、敵の戦力の見積もりを立てる。

 脳内シュミュレーションで、

 どれくらい自分の手で敵を屠れるのかと――


艦娘「「「「緊急入電!」」」」


 それを聞いた提督は立ち上がる、再びパイプを噛みなおして。


提督「お前ら、いくぞ!!!」

艦娘「「「「「「「はいっ!!!!!」」」」」」」


 この鎮守府最後の、長い夜が始まった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 電は静かに戦慄していた。


 この『夜』という環境ならば、扶桑は逆に足手纏いになり、危険なのではと少し、考えていた。

 しかし、違う。

 現実では想定外の事が起きていた。


扶桑「砲塔が大きいと、肩が凝るの」

電「扶桑さん! そこから早く動いてほしいのです! そのままじゃ……」


 扶桑は動かなかった。

 動けば電の邪魔になることを知ってるし、かといってここを離れれば電が捌ききれない者の侵入を許してしまう事となる。


 扶桑は毅然とした表情を崩さず、ただ淡々と敵に砲撃を当て続けていた。

 そこにある執念深さに、電は戦慄していた。


電「電も、負けてられないのです!」


 一人小さく決意を固めると、自分の経験と勘を信じて爆雷を投射し始めた。

 ソナーには、何故か、潜水艦が映らない。

 しかし電の目に映る海洋の流れが、海中に艦が居ると確信させていた。


電(司令官さんが言うには、ソナーに映らない代わりに耐久率が異常に低下して……)


 事前に伝えられた情報を脳内で再生させていると、爆雷の放った場所で異常な水飛沫が上がった。


電「……爆発するとニトログリセリンのような成分で普段以上の水飛沫が上がる……と。情報の通りなのです」


 そう呟きながら、爆雷の補填を行う。

 それと同時に、魚雷を狙う事すらせず発射させる。

 新たな爆音が耳に響き渡りながら、電の心のに希望的観測が見え始める。


電(これなら、朝までの時間稼ぎが……)


 その、直後だった。


扶桑「きゃ!?」

電「扶桑さん!?」


 電が、扶桑の方向を見ると――


 ――飛ばされていた、右足が。


電「扶桑さん!!!」

扶桑「……掠り傷程度よ、心配いらないわ……」

電「どう考えても重症なのです!!! は、早くドックに――」

扶桑「それはダメよ」


 電が追及の言葉を出す前に、扶桑は主砲を放つ。

 瞬間、艤装を外し、左足の浮力装置を艤装の下に滑り込ませ、その上に腰掛ける。

 まだ発射されてない、背中に付いている艤装で敵に向かって発砲する。

 直後扶桑は、最初に発砲した艤装の砲身を手に取り、右足の出血部に当てた。


扶桑「……っ……行けるかしら?」


 血と、肉の焦げた嫌な臭いは潮風によって一瞬にして流された。

 毅然とした表情は、少し苦痛に歪んでいるが電に指示を出す。


扶桑「電ちゃん? 恐らくだけど、私を襲ったやつはここを指揮するレベルの潜水艦よ。気を付けてね?」

電「け、けど! 扶桑さん……酷いけが、してるのです」


扶桑「……電ちゃん」


「甘えちゃだめよ」


 扶桑のいつになく強気な口調に、電は思わずびくりと体を震わせる。


「あなたがいつも言っている、沈んだ敵も助けたい……良い言葉とは思うけど、それで沈んじゃったら、本末転倒でしょ?」


「私達艦娘は、軍人よ? いつもは違うけど、今回ばかりは命令通りに動きなさい」


「だからこそ、現場指揮官の私が言うわ……」


「敵旗艦のみに集中しなさい。どんな手を使ってでも、あれは沈めなさい」


電「……」


 扶桑は、一度も電の方向に振り返らなかった。

 それで狙いを外すことなど有ってはならないから。

 完璧に電を守るために、電の方向は絶対に向けなかった。


「……わかったのです!」


 電は大きく返事をして、爆雷を投射し始めた。

 もう、電は扶桑の方を、向いては居なかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ねえ山城さん」


「……何かしら、今忙しいのだけど?」


 それと同時に響く砲撃と、敵艦を飲み込む渦を発生させる水飛沫。


「山城さんって提督の事愛してるでしょ?」


「…………唐突に何なのかしら? 意味わからないんですけど?」


 直後飛んでくる至近弾を、山城は主砲と手の平でパリィして、雷は紙一重で避け続けていた。

 しかし、そんな中でも雷は質問を止めなかった。


「私は愛してる、提督の事。……報われることは無いって知ってるけど」


「……どうして私に言ったのかしら?」


「同じ匂いがしたから」


 そう言われ、山城は視界の端に雷を入れて睨みつける。


「……何が言いたいの?」


「私みたいに、司令官の為ならなんだってする人間でしょ?」


 雷のやけに断定的な言葉に、山城は言葉に詰まる。

 しかし、砲戦の勢いは止まることなく、逆に増しているようにも見えた。


 やがて、俯いていた山城は顔を上げ、顔を少し雷の方向に向ける。

 その顔は、雷から見ても真っ赤に染まっていた。


「私は、提督の事が大好きよ。私の命は、彼を愛するために今、存在してるもの」


「……やっぱり、同じだわ」


 余裕ぶって応える雷だが、既に顔からは滝のように汗を出しており、疲労の色は隠せていなかった。

 しかし、休むことなく爆雷を発射し続ける。


「私は提督を一度疑ってしまった。戦果に、目が眩んでしまったのだと……」


「……違うわよ。提督は一度あの時、撤退の指示を出していた。突っ込まざるおえない事情があったのよ」


「ええっ! 知ってるわ!」


 悔しさを滲ませた声量で、雷は叫ぶ。

 敵艦の固まっているところに突っ込み、魚雷、主砲、爆雷の順で止まらぬ連撃を繰り返す。


「私は! 一瞬でも提督の事を、疑ってしまった! 一番苦しんだ人を、もう一度苦しめる側に回っていた!」


「……そうね、許されることじゃないわね」


 その言葉が耳に響き、雷は自棄になったかのように敵本陣に突入していく。

 しかし、その進行は後ろから引っ張られる形で停止した。


「なら、その分提督の助けになりなさい。一艦でも多く敵を屠るのではなくて、一艦でも多くの敵を足止めしなさい。それが命令でしょう?」


「……ごめんなさい、山城さん」


 そう言って雷がしゅんとなると、不器用な手つきで山城は雷の頭を撫でる。

 顔を上げる雷に、顔を逸らしながら頬を染めながら呟いた。


「……落ち込むのは良いから。さっさとやるわよ」


「はいっ!」


 天使のような笑みを浮かべた後、すぐさま敵の方に向かう雷。

 それをみた山城は、勝てないな……と、自虐的な笑みを浮かべ砲撃の勢いをさらに加速させていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




陸奥「暁ちゃん? 準備は良い?」


「陸奥さん、子ども扱いはしないで。そんなんじゃすぐ死んじゃうから」


陸奥「えっ? 何を言って――」


 陸奥は暁の顔を見て、思わず声が止まる。

 何時もの元気な、無邪気な少女はそこには居なくて、まるで機械のような冷たさを宿った瞳で見返される。


「っ!?」


「陸奥さん、そんな気持ちで此処に居たら――死ぬよ?」


 陸奥は暁にかける言葉が見つからず、顔を逸らす。

 暁はそんな陸奥に対し、溜息すら吐かずに先行した。


陸奥「あっ! ちょっと!?」


 唐突に先行する暁に反応出来るわけもなく、陸奥は一人取り残される。

 しかし、陸奥は特に危機感を覚えることなく、頬に手を当てていつものセリフを吐くだけだった。

 陸奥は特に暁を追うことなく、その場で待機していた。


 だが、そのことが間違いだったと気が付くのは、そう遅い話では無かった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……あれが、私の目指してた一人前のレディなのかしら?」


 暁は溜息を吐き出し、水平線に広がる敵を見据えていた。

 既に主砲を仰角ギリギリまで傾け、更には重心を後ろに倒して飛距離を稼ごうとしていた。


「ここ」


 主砲の反動で後ろに吹き飛ばされるが、体制を変えて堪えて水平線を睨みつける。

 直後小さな爆炎が上がり、弾が命中したことを教えてくれる。


「……どれくらい、持つのかしら?」


 主砲の次弾を装填し、再び敵を見据える。

 海流の不自然な動きを捉えた暁は、ここからが本番だと、人知れず気合を入れなおした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「くはっ! このっ……」


 見誤っていた。

 自分なら、大丈夫だろうと、軽く考えていた。


 陸奥は一人、敵に包囲されながらじわりじわりと追い詰められていた。


(どうして……こんなことに……)


 気づかぬまま、唇を強く噛み後悔と屈辱の念を堪えていた。

 確実にパリィし、ダメージを減らそうとするも、相手の数が多く流石に全て捌ききれない。


 最初は、数艦だった。

 それを撃ち抜く、そう難しい仕事じゃ無かった。

 しかし、時間が経つにつれて、来る艦種や艦数が増えて行った。


 ゆっくりと、しかし確実にダメージを蓄積されいつの間にか防戦一方となっていた。


「……ビックセブンが、情けないものね」


 自嘲気な笑みを浮かべるが、それは既に遅いことだった。

 敵戦艦が陸奥に向かって多方向から主砲を向ける。

 陸奥はそれを、運命を受け入れるかの如く、目を瞑り――


「諦めんじゃないわよっ!!!」


 直後衝撃を受けて、陸奥の体はよろめく。

 瞬間爆音と爆炎が周囲で上がる。


「……どうやら間に合ったみたいね」


「暁!? どうし、て……」


 陸奥は勝手に先行したことを問い詰めようとしたが、暁のその姿に思わず言葉が詰まる。


「ああ、大丈夫。もう痛くないから、戦闘には参加できるわ」


「手、が……」


 暁は全身血に塗れ、おまけに左腕が肘から先無かった。

 それをあっけらかんと言って見せる暁に、陸奥は恐怖しか感じなかった。


「陸奥さん、これが殺し合いよ。戦闘じゃない、単なる殺し合い。覚悟が無いようだったら逃げて」


「……えっ?」


 片手で主砲を構えなおし、暁は陸奥に顔を向けることなくそう呟く。

 陸奥は、直ぐに返事は出来なかった。


 否、承諾の返事をするつもりは無かった。


「ビックセブンが、ここまで情けない姿を晒して、戻れるわけ無いでしょ」


「……私の邪魔だけはしないでね」


「了解よ♪」


 いつも通りの余裕の笑みを浮かべ、陸奥は戦闘を再開する。

 そんな中、小さく笑みを浮かべた暁に、陸奥は気づくことは出来なかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




青葉「あわわわ……何ですかあの数!?」


不知火「ただの軽巡駆逐ですが……如何せん数が多すぎますね」


「あらあら~、久しぶりに腕がなるわね~」


 その言葉に思わずぎょっとする二人。

 額に汗を浮かべながら青葉が龍田に進言する。


青葉「血が湧いて、多少好戦的になるのはむしろウェルカムですけど、私達の事忘れないでくださいね?」


不知火「私達は生きてこの島から撤退すると言う重大なことが控えていますので、その辺を考慮していただくと、助かります」


「あらあら~……不安にさせちゃったかしら? でも安心して。私、これでもここでは一番強いのよ?」


「「えっ?」」


 二人のハモった声が響き、驚いていると薄目を開けて水平線を見つめた。


「じゃあ、私が突入してみるわ~。二人はここから砲雷撃してね? 私の事は気にしなくていいわよ?」


不知火「了解です」


青葉「そ、その、本当に大丈夫ですか?」


 青葉がチラリと龍田の方を見ると、既にその場所に龍田はおらずいつの間にか移動していた。

 唖然とした表情を浮かべていると、不知火がその肩を叩き敵の方を指さした。


不知火「既に敵と接触しています」


青葉「はえぇ……水飛沫も音も立てずに、ですか」


 不知火は小さく頷きながら、主砲を構えて迎撃準備を整えた。

 青葉は唸りながらも、艤装……ではなく、カメラを構えてシャッターを切っていた。


不知火「……いくら暗いとはいえ、フラッシュを焚くのはどうかと思いますが?」


青葉「あー、そうでしたね」


不知火「……それならばフラッシュを焚かないでくれますか?」


 青葉はそれに対してまたも生返事を返して、シャッターを切っていく。

 不知火の忠告は全く持って耳に入っていないようだった。


 不知火はため息を吐き出し、適当に魚雷を拡散させていく。

 青葉のフラシュに惹かれてきたのか、それとも死に物狂いで龍田から逃れようとしたのか、此方によって来る敵艦の数が異常に多く不知火はそれらを何とか主砲二つで処理していた。


不知火「……数が多すぎるっ! 青葉! フラッシュを焚くのを止めてください!」


青葉「ブツブツ……」


不知火「青葉!」


「あらあら~? 青葉ちゃん、想定より多すぎてキャパオーバーしてるみたいよ~?」


不知火「龍田さん!? 今抜けられては……」


 その証拠に、今まで塊、停止していた敵が此方に向かって進行してくる。

 何とか数を減らしていたが、その光景を見るに完全に焼け石に水だと理解出来る。


不知火「あ、ああっ……あ」


「不知火ちゃんも危険ね~。もう撤退するからいいけれど~」


 そう呟くと、カメラで狂ったように撮影を続ける青葉と、パニックを起こしそうな不知火を担ぎ、龍田はその場を後にした。

 勿論、後ろからは敵の軍勢が追いかけてくる。


 敵戦艦が、龍田目がけて弾丸を発射する。

 二人を担いだ龍田は俊敏に動けるわけもなく、その弾丸をもろに――くらう事は無かった。


 鎮守府の方向から、ドデカい発砲音が鳴り響く。

 それが戦艦の弾と当たり、着弾点を僅かにずらした。


「……あらあら~? こんなに水飛沫を私にかけるのかしら~?」


 龍田は薄い笑みを浮かべて鎮守府へと帰投する。

 そこで待っている司令官に若干の殺意を込めながら。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




後書き

途中から書き方変えてますが、そちらの方がシリアス感が強くなりませんかね?
ヒロインは北上さん。遠い地に行くけど。
あ、あとバットエンド予定です(無慈悲)


このSSへの評価

このSSへの応援

このSSへのコメント

7件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2017-12-30 07:38:06 ID: eymzWKLA

この鉱石を元に新型を作られたら
戦況は変わるね。そして指揮官の最高の仕事は最高の意味のある死に場所を与えること。彼の判断は間違いない。
そして恨まれるのもね。

2: SS好きの名無しさん 2018-01-05 13:07:33 ID: IwxTEK59

フェニックス響よ!
今こそ甦れ!

3: decoi 2018-01-06 00:19:30 ID: KLRCYVtY

残念ながらベルちゃんなんだよね

4: SS好きの名無しさん 2018-01-06 07:38:31 ID: XumaDISA

信頼してるぞ
信じているぞ。
名前が変わろうとも君は
不死鳥だ!

5: SS好きの名無しさん 2018-01-07 06:14:19 ID: A1TtQpCY

ねえ様。なんと健気で美しい女性か。
果報者やね。

6: SS好きの名無しさん 2018-01-07 06:17:51 ID: A1TtQpCY

山城くんでしたね。余りにも着物姿が綺麗で
正月は出撃は勿論演習も休みにしてしまいましたw

7: decoi 2018-01-08 00:50:30 ID: rnJJlCUT

個人的に扶桑型が好きです。
長門型は好きですけど、最初から覚醒していたらバットエンドに行けないと思いましてですね……(ニッコリ)


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください