2018-01-10 21:07:23 更新

概要

重巡衣笠の生活を描いた物語。


前書き

のんびり更新していきます。


「おばちゃ~ん・・・このおにぎりいくら~?」


1人の女性がおにぎりを買っていた。


「ありがとう! おばちゃんも毎日仕事で大変よね~。」


店のおばちゃんと会話をし始める女性。


「今日はありがとね! また明日来るから♪」


そう言って、彼女はその場から去った。


・・・・・・

・・・



「提督~! 今日1日の書類だよ!」


「ああ 悪い、机に置いておいてくれ。」


「はいはい~。」


指示された机の上に書類を置く彼女。


「提督、大丈夫? 毎日徹夜までしてるけど・・・疲れてな~い?」


「はは・・・大丈夫。 少し寝不足だけど、まだ何とかやれるよ。」


「そう・・・あまり無理しないでよ。」


彼女は提督の体を心配した。


「そうそう・・・提督、知ってる?」


「? 何が?」


「私ね・・・もうすぐ練度MAXなのよ♪」


「そうか・・・。」


「ずっと提督の秘書艦もやってたし、ずっと旗艦もしてたからね・・・気づいたら練度が上がってたわ♪」


「・・・・・・」


「? どうしたの? 嬉しくないの?」


「まさか・・・嬉しいに決まってるだろう。」


「ふふ・・・良かったぁ♪」



この鎮守府に着任した時期は遅かったけど、秘書艦に任命されてからは提督のために必死に頑張って尽くした。


提督も私の事を信じていたし、その気持ちに答えて私はずっと提督のために・・・



「提督・・・私ね、提督の事が・・・」


その後の言葉は恥ずかしくて言えなかった。


「? オレがどうした?」


「ううん、気にしないで。」


私は顔をそらした。


「ええと・・・そろそろ演習の時間ね、行って来るから・・・提督は書類整理頑張ってね~!」



何とかごまかせた・・・本当は「好き」と直接言いたかったんだけど・・・


・・・・・・


しばらくして、


「提督! 遂に衣笠さん・・・練度MAXだよ!」


あれから何度も出撃と遠征で経験を積み、遂に練度が上がった。


「おめでとう、衣笠。」


提督もその知らせに喜んでいた。


「ねぇ、練度MAXの記念に何か思い出になる事して欲しいな♪」


「・・・・・・」


提督は顔をそらす。



提督が顔を合わせてくれない・・・きっと恥ずかしくて顔を合わせられないのねw



と、その時は思った・・・数日後に提督からある宣告を言われるまでは・・・


・・・・・・


「除隊?」


私は一瞬耳を疑った。


「提督、何を言ってるの? ねぇ・・・何かの間違いだよね?」


「・・・・・・」


提督は何も言わない。


「「除隊」ってことは「解雇」ってこと、だよね? どうして・・・ねぇどうして?」


「・・・・・・」


「何か言ってよ提督! 私はずっとあなたのために尽くしてきたのよ・・・それを・・・どうして?」


「・・・今言った通りだ。 今までご苦労だった・・・荷物をまとめて早々に出て行くことだ。」


「・・・・・・」


「何をしている? これは命令だ・・・早く荷物をまとめて出ていけ、衣笠!」


・・・・・・


涙が止まらなかった・・・だって、今までずっと支えてきた提督からの、突然の解雇宣言だったから。


私が何か気に障ることをしてしまったのかな?


何か提督を怒らせる失態をしてしまったのかな?


必死に考えたけど、私には全く身に覚えがない。


「酷いよ・・・酷いよ提督!!」


一方的に私を解雇した提督・・・結果的に私は「用済み」と言う扱いを受けた気がした。


「・・・・・・」


練度MAXになった記念に提督に渡そうと思っていたお守り・・・私は地面に投げ捨てた。


「こんな物を買った私がバカだった!!」


気持ちのやり場が無かった私はそのまま鎮守府から去った。


・・・・・・

・・・



「ふぁ~あ・・・また鎮守府にいた時の夢を見ちゃった・・・」


布団から目を覚まして、伸びをする衣笠。


「・・・・・・」


現在衣笠はアパートを借りて生活している、「解体」をしたわけではないが普通の女性と同じ生活を彼女自らが望んだ。


もし、別の鎮守府に行けばまた自分が捨てられるのではないかと思ったからだ。


「・・・もうこんな時間! 早く朝食を済ませて仕事に行かなきゃ!」


彼女は朝食を済ませて仕事場へと向かった。


・・・・・・


「今日の仕事は・・・と。」


彼女は事務の仕事をしていた・・・鎮守府で秘書艦をしていたこともあり計算や書類整理はお手の物で、


この会社の上司から従業員の給料計算や決算資料の書類整理などを任されていた。


「・・・これで今月の全員の給料計算は・・・問題なし! 後は決算ね・・・」


衣笠は電卓を使って手際よくこなしていった。


・・・・・・


昼は休憩室で手作りの弁当を食べながらテレビを見るのが日課だ。


人見知りではないが、1人でいたい気持ちが強くいつも1人で休憩をしていて、どこか寂しい雰囲気に感じられる。


「・・・・・・」


テレビの内容は適当に押したボタンを見るが、今日は珍しく緊急速報が入った。



”鎮守府提督が深海棲艦に対抗するため、近いうちに連合艦隊を結成、殲滅を計る”・・・との内容だった。



「連合艦隊か・・・懐かしいわね。」


衣笠も鎮守府にいた頃は何度も連合艦隊に参加していた・・・もちろん旗艦として。


部隊には姉である青葉を含め、古鷹や加古と馴染みのある艦娘たちと・・・


「でも、私には関係ないか・・・私は捨てられた身だし・・・」


彼女はそのままテレビの電源を切った。


「今は事務で働く普通の女性・・・鎮守府の安否なんて気にする必要はない・・・よね。」


休憩が終わり、彼女は仕事に戻った。


・・・・・・


「今日の従業員の給料計算と今月の決算、無事終わりました!」


「おう、ご苦労さん! はい、今月の給料ね。」


上司から今月の分の封筒を受け取った。


「ありがとうございます・・・では、私はこれで失礼します。」


彼女は早々に着替えて、自宅へと帰宅する。


・・・・・・


家に帰宅しても、当然1人で誰かがいるわけでもない・・・鎮守府にいた時は必ず誰か(特に青葉)がいて、


寂しいとは思わなかった。


「・・・・・・」


コンビニで弁当を買って1人静かに夕食を済ませ・・・適当に時間を潰し、時間になったら就寝・・・


これが衣笠の1日の生活であった。


・・・・・・


数日後の事、


いつも通り、仕事場に向かう途中で突然サイレンが鳴った。


「深海棲艦が出現! 繰り返す、深海棲艦がこの近くに出現した模様!」


突然の深海棲艦の襲撃、既に何人かの人間が負傷・・・鎮守府に艦娘の要請もしたところである。


「近隣住民は直ちに避難する事! 繰り返す・・・直ちに・・・」


衣笠は指示に従い、その場から避難しようとした・・・その時、


「助けて下さい! お願いします!!」


遠くから聞こえる助けを求める声・・・女性の声だ。


「助けて下さい!! 助けて下さい!!」


「・・・・・・」


衣笠は思った。


「私にはもう関係ないから・・・しばらくしたら艦娘たちが助けに来るから・・・それまで辛抱して!」


そう、自分には関係ない・・・私は普通の人間・・・深海棲艦に立ち向かう艦娘とは違う。


そう言い聞かせてその場から去ろうとした衣笠。


「助けて・・・助けて!!」


「・・・・・・」


「助けて」と言う言葉が頭から離れない・・・私には関係ない・・・関係ないのに・・・


「・・・・・・」


衣笠は声のする方に向かって走った。


・・・・・・


「た、助けて・・・」


彼女の目の前には・・・深海棲艦が、敵は今にも彼女を撃とうとしていた。


「・・・死ネ。」


主砲が突き付けられ・・・彼女は死を覚悟した・・・その時だった。


「その人から離れなさい!!」


咄嗟に側にあった鉄の棒で敵に殴りつけ、相手はよろめく。


「ほら、もう一発!!」


渾身の一撃で敵の頭を殴り飛ばす・・・致命的なダメージに敵は起き上がれない。


「大丈夫? 怪我はない?」


すぐに駆け付け安否を気遣う。


「だ、大丈夫です・・・助けてくれてありがとうございます。」


避難している最中に足をくじいて倒れてしまっただけのようだ。


「肩を貸すから・・・ほら、立って。」


衣笠は彼女を抱えると、避難所まで一緒に歩いて行った。


・・・・・・


「ここまで来ればもう大丈夫ね。」


2人は無事避難所までたどり着いた。


「本当に・・・ありがとうございました。」


救護班に彼女を引き渡し、衣笠は安心した。


「ふぅ~・・・犠牲者が出なくて本当に良かった!」


緊張が解けたのか、その場に座り込む衣笠。


「皆さん、落ち着いてください。 深海棲艦はたった今殲滅完了致しました。」


助けに来た艦娘たちが住民たちを落ち着かせる。


「・・・あら! 衣笠さん・・・衣笠さんじゃないですか!」


艦娘の1人が衣笠に気付き、駆け寄る。


「ずっと探していたんですよ、衣笠さん!!」


「? 私を探していた?」


衣笠は首を傾げる。


「すぐに鎮守府に戻って下さい、お願いします!」


突然の艦娘の言葉に、


「でも、私は・・・」


衣笠は困惑する。


「皆、衣笠さんを見つけたわ! 彼女を鎮守府まで連れて行って!!」


他の艦娘達も集まり、衣笠を押さえつける。


「!? ちょっと!? 何するのよ!」


衣笠の意見などお構いなしに皆は彼女を鎮守府に連れて行った。


・・・・・・


「何するのよ! 私は「戻りたい」って言ってないじゃない!」


衣笠の意見など聞かずに皆は鎮守府の待合室に案内する。


「・・・しばらくここで待っていてください。」


そう言って、艦娘たちは待合室から出て行った。


「何なのよ・・・もうっ!」


衣笠は怒り心頭だ。


・・・・・・


「入りま~す!」


ノックして入ってきたのは・・・


「あ、青葉!?」


そこにいたのは姉の青葉だった。


「ガサ! やっと見つけたよ!」


青葉は喜んで衣笠に近づく。


「じゃあ・・・さっきの皆は青葉の指示で?」


青葉は笑顔でこくんと頷いた。


「本当にどこ行ってたのさ・・・勝手に鎮守府を飛び出して・・・青葉寂しかったんだよ!」


青葉の表情が悲しくなって、


「・・・ごめん・・・青葉。」


衣笠は謝る。


「もういいよ・・・それより、ガサをここに連れて来たのは別の理由があるからなんだよ。」


「? 別の理由?」


「ついてきて!」


青葉に言われ、衣笠はついて行った。


・・・・・・


「連合艦隊の旗艦を私に?」


青葉が打ち明けた事・・・それは、今回深海棲艦に対抗するために結成された連合艦隊の旗艦が決められずにいた事。


皆が秘書艦だった衣笠が旗艦に適任だと思っていた事・・・そして何も言わずに鎮守府から去った衣笠を必死に探していた事だった。


「・・・・・・」


「ガサしかいないんだよ! だから・・・もう一度艦娘として皆のために旗艦になって欲しいんだ!」


「でも、私はもう・・・」



青葉の話を聞いた限りでは、私が「捨てられた」事を知らない様子・・・でも、それが理由で去った事を今更打ち明けれなかった。



「出撃は1週間後、それまでに結論を出しておいて・・・もちろんリハビリも兼ねてだよ?」


それだけ伝えると、青葉はその場から去る。


「・・・・・・」


衣笠はその場で立ちすくんでいた。


・・・・・・


かつて、自分の部屋だった場所に引きこもる衣笠、


彼女の願いで、青葉には「衣笠が戻って来た」の報告をしないでもらっていた。


「・・・・・・」


衣笠は部屋から一歩も出なかった・・・誰とも会いたくなかったのか、単に1人でいたかったのか・・・


「・・・・・・」


青葉たちが衣笠の部屋をずっと見つめている。


「青葉さん・・・1週間後の連合艦隊の旗艦・・・衣笠さんで大丈夫でしょうか?」


連合部隊の艦娘部隊が心配する中、


「大丈夫! 青葉の妹だから! 絶対に大丈夫ですよ!」


と、元気よく返した青葉だった。


・・・・・・


3日後の事だった、


ずっと部屋で籠っていた衣笠が射撃場でリハビリを兼ねて訓練をしていた。


部屋に籠っているのが飽きたのか・・・それとも、艦娘としての役目を全うしようと思ったのか・・・


「ああ~! また外れた~!」


的に当たらず悔しがる衣笠。


「出撃まであとわずか・・・それまでに昔の感覚を思い出さないと・・・」


衣笠は出撃に向け、訓練を続けた。


・・・・・・


「・・・以上が敵部隊の情報です、提督。」


「ご苦労・・・それで、旗艦はまだ決まっていないのか?」


「心配には及びません、予てより優秀な人材を用意しています。」


「ほぅ・・・」


「どうぞ・・・入って来て!」


大淀に呼ばれて・・・


「・・・失礼します!」


執務室に衣笠が入る。


「!? なっ!?」


提督は驚く、


「重巡衣笠・・・私が連合艦隊の旗艦を担います!」


「大淀! これは一体・・・」


「・・・そのままの通りです、今回の深海棲艦殲滅作戦に必要な連合艦隊の旗艦・・・彼女が一番ふさわしいと判断しました。」


「・・・くっ。」


「・・・・・・」



久々に提督に会えた・・・でも、今更未練などなく早くこの場所から出て行きたかった。



「・・・貴君を歓迎する。」


「・・・では、私は明日に向けて準備がありますので!」


そう言って、衣笠は執務室から出て行った。


・・・・・・


出撃前夜、


「明日はいよいよ出撃・・・絶対に勝って見せる!」


衣笠は改めて意気込みをする。


「衣笠さん、少しよろしいですか?」


外から大淀の声が聞こえ、扉を開ける。


「何? 大淀さん?」


衣笠の質問に、


「提督がお呼びです・・・至急執務室に来て欲しいとのことです。」


「・・・・・・」


彼女は執務室へと向かった。


・・・・・・


「何ですか、提督?」


執務室に着いたが・・・室内の空気は重苦しかった。


「・・・用件を早く言ってもらえますか・・・明日の出撃に向けての準備がまだなので。」


「・・・・・・」


提督は無言のままだ。


「・・・・・・」


私を捨てた提督・・・今更私に何の用があるって言うの?


「・・・・・・」


しばらく沈黙が続いたが、


「・・・衣笠。」


先に口を開いたのは提督だった。


「これを受け取ってほしい。」


と、ポケットから何かを取り出した、それは・・・


「指輪?」


衣笠の前に出されたのは結婚指輪だった。


「お前を愛している・・・衣笠、オレとケッコンしてくれ!」


「・・・・・・」


一瞬何を言われたのかわからなかった・・・目を閉じて、もう一度目の前を確認する。


「・・・・・・」


目の前には指輪を持った提督が・・・聞き間違いではない・・・「ケッコンしてくれ!」と提督が言った。


「何・・・急に呼び出しておいて、いきなりケッコンしてくれなんてどういう事?」


衣笠は反論して、


「提督は私の事が嫌いじゃなかったの!?」


衣笠の言葉に、


「そんなわけがない! ずっと・・・オレはお前の事を愛していたんだ!」


提督から言われた「愛している。」の言葉・・・でも、じゃあどうして・・・


「じゃあどうして・・・どうして私を捨てたのよ!?」


と、叫ぶ衣笠。


「仕方がなかったんだ・・・あの時・・・お前を解雇する前日に・・・あんなことがあって・・・」


「・・・前日?」


衣笠ははっとした。


・・・・・・

・・・



衣笠を解雇する前日、提督はある駆逐艦の艦娘の1人を轟沈させてしてしまった・・・


原因は大破にも関わらず進軍させた事・・・しかし、後になって提督は撤退命令を出していたことが判明したが、


出撃海域での天候の悪さや無線での雑音、負傷していたことによる疲労・・・その悪条件が重なって、旗艦の聞き取りを鈍らせて


しまったのである・・・結果1人の艦娘を轟沈、他5人中破・大破と、最悪な結果となった。


・・・・・・

・・・



「ずっと悩んでいた・・・悩んで悩み抜いた末にお前を解雇させた!」


「・・・・・・」


「初めて艦娘を轟沈させてしまった前日・・・その翌朝にお前を解雇させた時だ! 真っ先にお前の顔が浮かんだ!!」


「提督・・・」


「お前はいつも「提督のためなら!」と言って自ら死線を躊躇いもなく進んでいく・・・それはオレとの「絆」であり、逆にそれが怖くて


 仕方がなかった! だからオレは・・・お前を解雇させたんだ!!」


「・・・・・・」


「恨まれてもいい・・・お前が無事でいてくれるなら・・・お前が違う世界で幸せに暮らしているならそれでいいと思ったんだ!!」


「・・・・・・」


衣笠を解雇させたのは「用済み」ではなかった・・・それでも、


「何よ・・・提督だけで勝手に決めて・・・」


衣笠に瞳から涙が溢れて、


「どうして私に言ってくれなかったの? どうして私の気持ちを考えてくれなかったの!?」


と、泣き叫んだ。


「・・・すまない、衣笠。」


提督は謝った。


「どうして1人で抱え込むの? 私は秘書艦、提督の側で仕えるのが仕事・・・それなのに、どうして私に打ち明けてくれなかったのよ!」


「・・・ごめん。」


提督が良かれと思った行動・・・だがそのせいで彼女は傷ついてしまった。


「・・・・・・」


「今更こんなことを言うのは勝手だろうが聞いてくれ。 オレはお前を今でも愛している・・・お前が去った後も・・・


 お前が戻って来た時もずっと・・・お前を愛している!」


「・・・本当に? 本当に私の事を?」


「・・・・・・」


提督は彼女に手をやり、


「本当だ、オレにはお前しかいないんだ。」


「・・・・・・」


提督の言葉に嘘は無いと悟った衣笠・・・そして、


「じゃあ約束して! 明日の出撃・・・絶対に勝つから!! 提督、私が帰ってくるのを待っていて!!」


「衣笠・・・」


「何よその目は・・・そんなに心配? ずっと秘書艦で何度も旗艦も務めた私よ・・・私を信じられないの?」


「・・・・・・」


提督は悩んだ末に、


「わかった、お前が帰ってくるのを待っている。」


提督は約束した。


「でも、その前に・・・あの時本当は渡したかったが・・・今になってもこれを・・・受け取ってくれるか?」


提督はまた指輪を出し、


「・・・私でいいの?」


衣笠は躊躇いつつ、


「ああ、オレにはお前しかいない。」


そう言って、衣笠の指に指輪を通した。


「ありがとう提督・・・明日は絶対に勝って・・・絶対に帰ってくるから・・・待っててね!!」


2人は再会の約束をした。


・・・・・・


翌日、衣笠を含む連合部隊が最後の準備に取り掛かっていた。


「昨日司令官と何を話してたのガサ?」


青葉が興味津々で聞いてくる。


「別に・・・今日の出撃についての説明と他もろもろよ。」


「それだけ~? ふ~ん・・・」


青葉がつまらなさそうに呟いた。


「でも、こうしてまた皆と出撃できるなんて嬉しいですね!」


「そうだね! さっさと終わらせて帰ろうぜ・・・あたしは眠いんだよね~。」


古鷹と加古・・・青葉と衣笠と馴染みのある艦娘で4人での出撃が多かったほどだ。


「・・・絶対に勝って皆で帰って来ようね!!」


衣笠が皆に向かって叫ぶ、


「もちろん! 青葉も本気出して行くよ!」


「もちろんです! 加古、戦闘中に寝ちゃ駄目よ?」


「わかってるって! 古鷹は心配性だなぁ・・・」


他の皆の返答も確認して、衣笠は改めて深呼吸する。


「よし・・・連合艦隊! 旗艦衣笠! それに後続する部隊、出撃します!!」


衣笠たちは出撃を開始した。


・・・・・・

・・・



「・・・・・・」


提督が執務室で衣笠たちの無事を祈っていた。


「提督、失礼します。」


大淀が入って来た、


「現在の戦況報告をします。」


「・・・ご苦労、始めてくれ。」


「はい・・・海域攻略は半数を達成しましたが、小破2人に中破3人とこちら側の被害も大きいです。」


「そうか・・・」


「どうしますか、進軍させますか・・・それとも撤退命令を出しますか?」


「・・・・・・」



まだ大破になった艦娘はいない、進軍で問題ないだろう・・・だが、中破は「大破の一歩手前」、油断はできない。



「・・・・・・」


提督の脳裏には、沈めてしまった艦娘の姿がまだ残っていた・・・また沈ませてしまうのではないか、自分の命令で


また艦娘を・・・また轟沈させてしまうのではないか・・・


「・・・・・・」


でも、衣笠は「絶対に皆で帰ってくる! 私を信じて待ってて!!」と言った・・・


撤退させれば、衣笠の言葉を信じていなかったことになる・・・そうすればまた彼女は自分の前から離れてしまうかもしれない・・・


もう二度と会えないかもしれない・・・


「・・・・・・」


提督は待つことを選んだ、衣笠が・・・皆が、全員無事に帰還することを願った。


机で座して待つことしかできない提督はただただ衣笠たちの帰還を待ち望んだ。


・・・・・・

・・・



出撃してからかなりの時間が経つ・・・もう結果が報告されてもいいはずだが・・・


「提督、報告します。」


大淀が執務室に現れ、


「旗艦衣笠さん直接のご報告です。」


「・・・衣笠が?」


「・・・敵部隊殲滅を確認、見事任務を完了したとのことです!!」


「!? 本当か!?」


「はい! ですがこちらの被害も甚大です・・・大破2人に、中破が5人いますが・・・1人も沈んでおりません。」


「そうか・・・ならば入渠ドッグを開放! 負傷した艦娘を順に入渠させろ!」


「わかりました、直ちに待機中の艦娘たちを招集して準備に取り掛かります!」


そう言って、大淀は執務室から出た。


「良かった・・・」


緊張感が解けて提督は安心した。


皆も頑張ってくれたが、それ以上に衣笠が頑張ってくれた・・・旗艦として皆に的確な指示を出し、被害も抑え勝利をした。


やはり彼女を旗艦にしたことは間違いではなかった。


「衣笠、そして皆・・・ありがとう。」


提督は皆の帰還を待ち続けた。


・・・・・・


数時間後、衣笠率いる連合艦隊は無事に帰還、


大破した者から順に入渠させていく。


「衣笠・・・」


提督は衣笠に近づき、


「ご苦労だった・・・そして、戻って来てくれて本当に良かった!」


「だから言ったでしょう! 絶対に帰って来るって!!」


衣笠は自慢げに答えた。


「あ~熱いですなぁ、見てるとこっちが恥ずかしくなりますよぉ~。」


「いいじゃないですか、あれが”愛”ってやつです!」


「あ~終わったぁ~・・・もう部屋で寝たいよぉ~。」


青葉たちが2人の光景を見守っていた。


「・・・衣笠。」


「? 何?」


再び呼ばれて彼女は提督を見る。


「実は・・・オレはな・・・」


提督は衣笠にある決意を打ち明けた。


・・・・・・

・・・



「本当に辞任するのですか、提督?」


辞表を持つ提督に大淀が尋ねる。


「ああ、指揮官でありながら艦娘を轟沈させてしまった罪があるからな。」


「でも、それが理由でしたらどこの鎮守府でも日常茶飯事ですよ! それに、提督が悪いわけでは・・・」


「まぁな、でも結果的に沈めてしまいそのことでずっと落ち込んで今の今まで過ごしていた時点で、オレは指揮官に


 向いていないという事がわかった。」


「・・・・・・」


「元気でな・・・遠くで皆が日々無事でいることを願っているから。」


「・・・今日まで本当にご苦労様でした。」


大淀は別れの挨拶をした。


・・・・・・


「・・・衣笠。」


鎮守府外に衣笠が立っていて、


「提督、本当に辞めちゃったの?」


改めて尋ねる衣笠、


「ああ、もう辞表を出した・・・だからもう提督じゃないし、皆の上司でもない。」


「・・・・・・」


「少し落ち着いてから、小さな店でも開こうかなと思っている。」


「・・・・・・」


「衣笠、もし君が良ければ・・・一緒に来てくれないか?」


「・・・・・・」


衣笠がクスッと笑って、


「提督ってそんなこと言う人だったっけ?」


衣笠は続けて、


「いつも静かで机に座りっぱなしで、話すことと言えば決まって書類や出撃の事ばかりで・・・


 プライベートな事なんてほとんど話したこともないのに。」


「・・・・・・」


「そんな提督が「一緒に来てくれ?」って言うなんて・・・おかしい、あははは。」


「・・・・・・」


「いいわよ、私・・・あなたについて行ってあげる! 本当に私がいないと何もできないんだから!」


「・・・衣笠。」


提督は衣笠を抱き、


「絶対に・・・絶対にもう離さないからな!」


と涙を流し、


「提督ってそんな泣き虫だったっけ? しょうがないなぁ~、私がずっと傍にいてあげるから・・・大好きだよ!(泣)」


と、衣笠も泣きながら提督を抱きしめた。


・・・・・・

・・・



その後、元提督は鎮守府から少し離れた場所に店を開く・・・店名は”衣笠”。


料理の評判は良く、青葉や古鷹たちが常連として毎週店にやってくるため、繁盛しているようだ。


衣笠は解体し、普通の女性として生き・・・元提督の妻として日々傍で見守っていた。





 






「衣笠の思い出」 終












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トキヤですさんから
2019-01-27 22:17:44

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このSSへのコメント

7件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2018-01-05 06:34:40 ID: IwxTEK59

高いレベルの重巡は地味にいい仕事するからねえ。
他の方々から若しくは上から寄越せ言われたかな。
けど手塩に掛けた子を愛のない連中には渡せんよね。
お義父さんに喧嘩で語り合える勇者ならまだしもねw

2: SS好きの名無しさん 2018-01-06 07:47:20 ID: XumaDISA

折角遠ざけて守ろうとしても
運命からは逃げれないか

3: キリンちゃん 2018-01-06 19:38:15 ID: 7owplw2R

2さんへ:まだ最後まで書いていませんが、その通りです。
      提督が衣笠を解雇したのは、提督なりに守ろうと思った故の
      行動です。 細部まで読んで頂き感謝です♪

4: SS好きの名無しさん 2018-01-07 11:45:17 ID: A1TtQpCY

何でかな。普段ならリア充め!と
嫉妬の炎が燃えるのになあ。
生き残るんだよ。幸せになるんだよと
応援してしまう。

5: SS好きの名無しさん 2018-01-08 19:01:19 ID: Df3uTq-m

良かった。
だがもう彼は提督を続けることは出来ない。喪う痛みと愛する喜びを知ってしまった。余りにも優しい。そして脆い。
畑でも耕して平和に二人で生きる方が幸せだよ。

6: SS好きの名無しさん 2018-01-10 21:24:54 ID: E_-tT-ug

完結お疲れ様でした。
お子様にも恵まれたいい店に育ちそうですねw

7: キリンちゃん 2018-01-10 22:15:14 ID: LwRI4lg3

コメントありがとうございます~♪
また書きますので、時間があれば読んでください~♪


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1: SS好きの名無しさん 2018-01-05 06:36:19 ID: IwxTEK59

衣笠くんと鬼怒君はなぜあんなに健康的でスケベな脚をしてるのだ!


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