2018-01-08 01:44:18 更新

概要

初霜さん&若葉の戦後日常編の概要が上手くまとまらないのでまた今度で……


前書き

※キャラ崩壊&にわか注意です。


・ぷらずまさん
被験者No.3、深海棲艦の壊-ギミックを強引にねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた電ちゃん。なお、この物語ではほとんどぷらずまさんと電ちゃんを足して割った電さん。

・わるさめちゃん
被験者No.2、深海棲艦の壊-ギミックを強引にねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた春雨ちゃん。

・瑞穂ちゃん
被験者No.1、深海棲艦の壊-ギミックをねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた瑞穂さん。

・神風さん
提督が約束をすっぽかしたために剣鬼と化した神風ちゃん。今はなんやかんやで和解して丸くなってる。やってるソシャゲはFGO。

・悪い島風ちゃん
島風ちゃんの姿をした戦後復興の役割を持った妖精さん。

・明石君
明石さんのお弟子。

・陽炎ちゃん
今の陽炎の前に陽炎やっていたお人。前世代の陽炎さん。

・元ヴェールヌイさん(北方提督)
今の響の前々世代に響やっていたお人。
北国の鎮守府の提督さん。

・海の傷痕
本編のほうで艦隊これくしょんの運営管理をしていた戦争妖精此方&当局の仮称。



※やりたい放題なので海のような心をお持ちの方のみお進みくださいまし。


【1ワ●:シアター 上映会終了】



若葉「初霜、私は2週目なんだが、どうだった?」



初霜「人間は罪深いですね。でも、それだけじゃなくて、やっぱり人間には救いの数も多いんだなって思います。ところで瑞穂さんはどう思いました?」



瑞穂「あんたに悪気はないんだろうけど、それ私に聞く……?」



瑞穂「水母棲姫として深海棲艦やってた私からいうと、悪いやつはいないわよ。善悪で測れるモノではないでしょーが。1ついうとあの戦後復興妖精に謝りたくはなるわね……」



若葉「なぜ」



瑞穂「私の家族よね!? チューキよね! 大鳳達をぶっ殺したの絶対にチューキのやつでしょ!?」



初霜「ああ……確かに中枢棲姫の確認個体は歴史で一人だけなのでチューキさんでしょうね……」



甲大将「……観るんじゃなかった」



瑞穂「ごめんなさいね!? チューキが艦橋を吹き飛ばしたものね! 次太郎とかいう拠点軍艦に乗ってたあんたの先祖もチューキの馬鹿がやっちゃってるもんね!?」



甲大将「それもあるけど」



甲大将「サラのがキツい。今のあいつと重ねちまってさ」



瑞穂「あー……此方、あんた首謀者としてどうなのよ?」



若葉「それ聞くか。お前も大概だな」



此方「……、……」



甲大将「気にするなっていうのが無理だが、まあ、好きなように苦しむといい。お前が『生きたい』っていったんだ。私も提督だからな、海の過去は消せねえし消さねーよ」



瑞穂「そうねえ。それいったら私も深海棲艦として活動してた訳だから此方を責められないわね。誰が悪いとかあの海にはなかったのよね……」



瑞穂「あの当局ですら此方の居場所を創る役割に純粋だったわけだし。その結果、本能レベルでこの戦争始めたとかいうんだし。誰かが誰かの幸せ願って争って死ぬ。ただの人の業よ」



瑞穂「って思わないと息してられないわ」



此方「あの子、すごいな」



瑞穂「うん?」



此方「なんで私に感謝してるっていえるんだろう。私のほうが長く生きているけど、私が逆の立場ならいえないよ……」



若葉「空白の過去は分からないのか?」



此方「あの後、戦後復興妖精がどんな手段を使って当局の探知を逃れたのかは分かるよ。もう百年前のこと。今は全ての情報が出揃っているから照らし合わせた消去法で導き出せる」



此方「多分、准将も気付いていると思うけど」



此方「戦後復興妖精は」



此方「当局と戦っていない」



若葉「……そうは思えないが」



此方「状況は偶然力に幸福を託した戦後復興妖精には、当局が探知を怠っている状況下で想力工作補助施設にたどり着いた。でもそんな強烈な記憶、当局が戦後復興妖精の想を探知した途端にバレる。だから、まずは隙のあった時間に当局に想力工作補助施設の存在を探知されてもバレないように細工するところから」



此方「自分から想力工作補助施設の記憶を切り離した」



瑞穂「……使うってことは知っているって前提があるから、そこの記憶をなくしたら想力工作補助施設の存在すら忘れちゃうんじゃないの? そんな繊細に記憶に細工出来るわけ?」



此方「難しいし、一か八かの賭けになるね」



若葉「賭けに勝ったと?」



甲大将「……多分、違う。分の悪い賭けを進んでするようなやつじゃなかった。戦闘でも合理的に物事を考えていたし。だから、恐らく最初に切り離したのは………」



甲大将「島風、じゃねえかな」



瑞穂「あー……確かに当局に牙を剥くのは戦後復興妖精だけじゃなくて島風もそうよね。むしろ島風のほうが最初から当局に敵意剥き出しだったし」



此方「切り離した島風の想を使って、その場にあった佐久間か戦後復興妖精の肉体……佐久間のほうだろうね。戦後復興妖精は作業しなきゃならないから、佐久間を殺してその肉体を利用して島風を現海界させた。そちらに想力工作補助施設を託して」



此方「戦後復興妖精は自分を矛盾ないように改竄する。これで当局を騙せる。加えていえば島風のほうはこれで私達を殺す武器を所持した兵士となって、想力工作補助施設を活用すれば自由気ままに行動も出来る」



此方「戦後復興妖精はすでに今を生きる人間に近く、個性は芽生えてた。だから、島風を切り離してもあのままの戦後復興妖精を演じることが出来る。しかも、その役割に従事する普通の妖精。ここらも当局を騙すことの出来る武器だし……これなら」



此方「島風が『あなたの代わりに当局を呪ってあげるよ』の台詞も、戦後復興妖精が当局や私と仲良くしていた記憶も説明出来るから」



若葉「戦ったのは戦後復興妖精じゃなくて、島風か」



瑞穂「でも当局と戦って負けたんでしょ?」



此方「そこらの辺りに外で当局が派手に戦っていたのを覚えている。すぐに収まったから気に留めなかったかな。当局に挑んだけど、秒殺されたんだと思う」



此方「だって時期的に私がすでに」



此方「経過程想砲を装備として完成させていたから」



若葉「……救いがない話だな」



初霜「ないのかな?」



若葉「なにがある?」



初霜「サラさんが反転建造させて深海棲艦になりましたよね。深海海月姫ってとても希少で私が見たのは此方さんの海の傷痕装甲服による変化と、違法建造者のトランスのみです」



初霜「あの深海海月姫、感じが似てました。初めて見たとは思えなくて。飽きるほど、私はこの鎮守府で見たのとすごく雰囲気が」



初霜「論理的な根拠はないですけど、電さんの7種目の深海海月姫はあの深海海月姫、だと思います」



此方「!」



初霜「だから、きっと電さんはトランスタイプとして彼女と一体化した時その想いを知ったはずです。そして痛烈に焼き付いているはずです。トランスタイプってそういうものなのでしょう?」



初霜「なら電さんはあのサラさんの想いを知っている。今この時代でも戦後復興妖精さんに伝えることは出来るはずです」



甲大将「そこらは最初期の深海海月姫の足跡と、フレデリカのやつが入手した深海海月姫艤装を調べりゃ分かりそうだな」



初霜「その必要はないかと。最終決戦前にフレデリカさんの研究の全てを聞いた提督がそのことに気付いていないとは思えませんから……」



瑞穂・甲大将・此方「それは確かに……」



2



若葉「此方」



此方「なにかな?」



若葉「1つ聞きたかったんだが、どうして最終決戦で北方を外野に回したんだ? 神風が廃なのは知っていたんじゃないのか?」



此方「当局の判断だね。神風は廃でも見ていたのが海ではなくて准将だから」



若葉「聞いた限り『当局を恋のキューピット扱いする輩なぞ心底気持ち悪い』とかいいそうなやつだ」



此方「んー……それで間違ってはいないよ」



若葉「……それともう1つ。ロスト空間では死人と会話出来るのか? わるさめのやつが母親と会話したと聞いたが」



此方「……どうだろうね。そういうこともあるとしか言えないよ」



此方「これは余計な言葉だと思うけど」



此方「若葉ちゃん」



此方「あなたも同じ理由だよ。私の意見をいうと、若葉ちゃんは呼びたかったんだけどね」



此方「あなたの撤退の美学、私は好きだよ」



若葉「子供の綺麗事だぞ。理想は理想のまま、終わる訳だ」



此方「まだ分からないよ」



若葉「……」



若葉「ちっ」



【2ワ●:想力について】



北方提督「当時の日本は高速修復材と拠点軍艦の開発で注目浴びて、その後にすぐ適性検査のシステムの基盤を作ったのも日本人だ。佐久間についてはその辺りの独伊仏米のほうの記録にもあるけれど」



北方提督「やっぱり適性システム周りの記録だけで想力工作補助施設に繋がる情報は今の私達の情報量を持ってしてもない」



提督「……いや、どうやって当局の想探知を掻い潜りあの装備を開発したのかは経歴を見て掴めました」



北方提督「また変態思考炸裂か……」



提督「もともと軍に妖精学なんてのが出来たのがこの戦争が始まってからです。妖精は日本が国家として認め、政治にも取り入れた始めてのオカルト的存在です。国の認定がなければ彼等の扱いように困りますからね。妖精は小人のような姿形をしているため、当時は様々な分野の学者が召集されて創設されたんですよ。物理学者に混じってイタコとか陰陽師もいたカオス具合です」



提督「佐久間さんは学者ではありましたが、人間学の畑出身です。妖精学にほぼ半ば無理やり踏み込まされた人ですね。なので実験室にこもるような人ではないですね」



北方提督「生物学ではなく人間学かい? 哲学だっけ?」



提督「ええ、見てくださいよ。当時の彼女の論文、哲学的思考に沿った論理が展開されています。ただその分、妖精を論ずる点に宗教観点を持ち出しても偏見がないですね。それでいて自分自身で調査した事実を根拠としているので独創的。これを通して佐久間さんの人柄も透けて見えてきます」



北方提督「……貸して」ペラペラ



北方提督「……なんかあまりこういうのを書くの好きそうじゃない印象を受けるね。有名学者なのに個人で本を出していないのは性格っぽい」



提督「まあ、こういう系の本って本懐を遂げるためには読むほうにも賢さを求めますからね。資本主義の輪に混ざるとどうしても経済事情が混ざるので工夫しなきゃならなくなるもんです。例えば面白い事例を持ち出したり、難しい漢字を使わない、とか」



北方提督「本当に人に与えようと思うのなら、その人に対して特別なテイストにしなきゃならないものだからね。どこぞの神様とかが本を残さないのもそういう理由だって聞いたことあるな」



大淀「……ご満足いただけましたか?」



大淀「その資料、返却しなければならないので」



提督「お疲れ様でした。大変捗りました」



大淀「いえ、ただこれは貸しでなくて結構です。准将の名前を借りられたので割と入手は楽でしたからね。まあ、これを足掛かりにあなたは上層部の方にからめとられて」



大淀「一般人には戻れないでしょうけど♪」



提督「まー……なるようになりますよ」



北方提督「佐久間って人は男女に関しての研究を主にしていたのか。実に興味深いね。男と女は違うって当たり前だけども」



大淀「当たり前じゃないですよ。時代が時代ですから」



北方提督「そだね。国家というものは政治的により良くする未知を選択した集団だから差別的な言葉はいえないものだ。あえて世間に教えていないことだが、学者の間ではこの当時から男と女が違いっていうのは常識だったようだね」



北方提督「でも私にも分かった」



北方提督「まず佐久間って人も廃っぽいね。要は戦後復興妖精と契約することで想をまとった。その想力を扱って当局の目を逃れた以外になさそうだ」



提督「ええ、人間が想力をまとう。それは詰まるところ、艤装をまとった人間、要は艦兵士が艤装を扱うようなもの。彼女達と違ってコーティングされていない想力を操れた点、そして実際に想力工作補助施設を作れたことからも重~廃だとも予測がつきます」



北方提督「そして契約することで戦後復興妖精の存在を知ったんだ。その裏の存在に気が付くのも十分にあり得るしね……具体的にあざむいた方法は分かるかい?」



提督「具体的なところまでは断定出来ませんが、その想力と何者かと繋がっていたのは見抜いて、なにかしら向こうからのアクションを得るために試したはずです。恐らく『人間』または『人間に近い生物』だと当たりをつけた。彼女の本職からして」



提督「『男性的な脳波の持ち主』だとも気付いたまであります。自分は当局の個性を看破して欺いた説を推しますよ」



提督「ただこれは賭け。海を調査すれば女性的な存在も感じ取ったはずです。特に妖精や艤装周りからは。そこから、二人いる、とまで見抜いたのかは分かりませんが、ただ実際に海の傷痕は役割を分担してあの戦争を運営していた。戦後復興妖精サイドは当局の領分ですので、男性と当たりをつけたのは正解です」



提督「確定的なことはといえば」



提督「自分や初霜さんが海の傷痕の予想を越えていったのと同じ真似を佐久間さんはしてのけていた、という事実です」



大淀「終わってから色々な人の功績が掘り出されていきますね」



北方提督「それも生き残った私達の使命だろう?」



大淀「もちろんですとも。この大淀、尽力しております」



2



明石さん「あのー、私、こう見えても多忙なので今回はログイン勢所望だったのですが、もしかして」



明石さん「私……作戦の要だったり……?」



提督「察しが早くて助かります」



明石さん「明石さんいーやー……初めて会った時のことですが、艦娘の手首切り落として冷蔵庫に保存するとかいう提督さんの作戦の要とかイーヤーでーすー……」



提督「懐かしい話を……そんなことしませんよ。今回の要というか、明石君が出られないのでご助力を願いたいのですが、まあ、作戦における準備のためですね。工作艦としての艤装の弄り方をぷらずまさんにご教示してあげてもらえませんかね?」



提督「明石君、人に教えるのは苦手のようなので」



明石さん「あー、あいつは確かにそうですね。想力工作補助施設を皆が留守の間に悪用しようということですね?」



提督「悪用というか、こうでもしないと勝ち目ないというか。この装備はそれくらいヤバいんですよ……これ1つで世界を支配出来る程の性能を秘めています。実際に此方さんがこっちに来てるのに、この静けさです。偶然力というよりもはや世界の上書きですからね。この装備1つで本当に」



提督「人間の想像がインスタントに創造出来る」



明石さん「佐久間さんですか。適性検査システムの功績でしか名を聞いたことありませんが、凄まじい執念でしたね」



提督「間違いなく廃の人でしょうね。『製作者の予想を越える一手』を最初期において、してのけた人物です。しかも、気付かれずにです。どこの時代にも天才はいるものですね」



明石さん「提督、私は構いませんが1つだけ条件があります。想力について知っていることを全て教えてください。もちろんあなたの見解です。これ、私の今後に大いに役立ちそうで」



提督「構いませんが……今後というと、やはりビジネスで?」



明石さん「ええ。今の海軍の通信システムって企業とのコラボで実現したじゃないですか。その会社は軍部の大淀ちゃんと私の工作艦技術と、もう一人、最終世代の内陸の引きこもり」



提督「夕張さんですね……適性者にしてアカデミー卒業と同時にITの道に没頭して1度も抜錨していないとかいう……」



明石さん「そうそうバリちゃんです。資金提供と情報技術は夕張ちゃんが主です」



明石さん「アンドロイド化の研究が実用段階にありまして。想力情報を知っておきたいとのことでして。あ、弟子と秋月ちゃん、出来れば山風ちゃんも誘いたいなあって。そこの口説きもご協力を願えません?」



提督「あー、山風さんは進学希望なので難しいですね。アッシー&アッキーコンビなら大丈夫です。お二人とも軍に残るつもりはないけど就職希望だといってましたし、自分のほうからも勧めてみますよ」



明石さん「助かります! 弟子も秋月ちゃんもよく働いてくれるし、根性ある子達なうえ、信頼も出来る人材なので! 山風ちゃん進学するなら吹き込んで卒業と同時に捕まえよっかなー」



提督「自分からも少しご教授していただきたいことがあります。が、とりあえず終わってからにしましょうか」



明石さん「うーす。それで今は想力工作補助施設でその破片みたいなの終わったらでいいんですか?」



提督「ええ、想力工作補助施設の妖精データから艤装を作りますので、出来上がった完成品の艤装の修理や増強の技術をお願いします。ぷらずまさんはさすがですね。あの手の装備の飲み込み早いのですぐに覚えるかと」



明石さん「手間がかかりませんね」



神風「あ、明石さん! 神風刀の予備をお願いできませんか!」



明石さん「構いませんよー。というかもしかして弄る艤装って」



提督「1つが神風艤装ですね。これに今、解析している想を入れ物の破片ごと神風艤装に。性能自体は変わらないはずです」



神風「なら私は構いませんけど。あ、司令補佐、電さんいわくもう少しかかりそうとのことです。終わり次第報告を、と」



提督「了解です。ところで神風刀って神さん用にコーデしたのは分かりますが、性能も他の軍刀とは違うのですか?」



明石さん「はい、違いますよ!」



明石さん「これ、私の師匠ですね。名のある鍛冶職人でして、その人に工作艦技術と一緒に教えてもらいまして。よく誤解されていることなんですけど、ダイヤモンドって硬いっていわれるじゃないですか?」



神風「ん? 硬いでしょ?」



明石さん「それはそうなんですが、硬いっていうのは丈夫って意味って訳ではなかとです。硬度って物質同士をぶつけ合った時の破壊力で測定する数値なんですよ。ダイヤはそれが高いほうなので破壊力には優れますが、欠けやすいんです」



明石さん「靭性という数値がぶつけ合った時の耐久値が高いことを示すとです。これだと超硬合金ですかね。つまり、硬度が切れ味、靭性が丈夫さなわけでして、日本刀の切れ味は比重は硬度に置いているケースが多いですけ。逆に剣は靭性方面ですかね。この二つの調整で刀刃の丈夫さ、切れ味に関わってきます。砲弾機銃避けは丈夫さよりで神風刀は切れ味よりです。もっとも艦これ仕様ですから神風刀は切れ味全振りでもそこらの名刀よりもよほど丈夫です」



明石さん「後は神風さんの身体や戦闘スタイルに合わせてオーダーメイドです。ま、1度作ってしまえば、何個でも簡単に。ただオーダーメイド品で全てが全く同じ刀ってのは二本とありませんけどね。そのくらい刀ってのは繊細なんです」



神風「なんだか人間みたいですね」



明石さん「面白いこといいますねー」



神風「……それで司令補佐、もうすぐ最終決戦ですけど、私は廃なんですよね。だったら、私にも想力について教えて頂きたいのですが」



提督「……、……」



提督「想力は想力工作補助施設等々のモノがなくては扱おうとして扱うにはあまりに確実性が無さすぎます。自分がぷらずまさんを復活させた工程も、『海の傷痕が限りなく不可能に近い』と評価したほどのことです。自分も上手く行ったのは正直、自分で驚く程でした。最もあの時はそんなこと考えていなかった」



提督「全てを賭けて海の傷痕を倒す。これだけしか頭にありませんでした。想いに呼応する、とか口でいえば簡単ですけどね。本気で絵空事を描いて実現するのは、限りなく難しい」



明石さん「……初霜ちゃんは?」



提督「はっつんさんは特別なんですよ。特別……いや、あえて異常と表現しますか。人間が想うことに関して一切の不純物が混ざらないなんて本来あり得ません。好き、と一概にいえども、様々な理由を経緯するでしょう。それがなく天辺まで想う。ぶっちゃけるとブレーキがないので、一歩間違えればそうなっていたかと。それほど彼女、無垢な面があったのです」



提督「……兵士になってからは変わりましたからね。乙中将のところにいた時に周りが彼女に目をかけてくれたお陰でしょうね。最後の戦いの最中はそれでした。大した理由もなく、最上位の愛情をなにかに向けられるだなんて恐怖です。自分も海の傷痕も同じ感想ですし。多分、姉妹の若葉さんも同じ感想じゃないかな」



提督「想力」



提督「故人の想という生きた魂、生前の経験が願いを書き込んだ短冊です。その短冊は今を生きる我々に呼応し」



提督「物事を短縮する力となる」



提督「それを起こすトリガーは想いの深度」



提督「今を生きる我々に対して故人の想が呼応する現象であって海の傷痕はこの現象を利用して『艦隊これくしょん』を始めた訳ではありません。これはあくまでロスト空間の性質の1つです」



提督「海の傷痕に備わった生命体の力は」



提督「『想の探知』、そして『想の質量化』」



提督「想という空想の資材を質量化して、工作することが出来た。そしてそれを技術として発展させました。その想を構成する願いの欠片を分別し、個々に分けて、その願いの欠片を繋ぎ合わせて、別の願いの形にする」



提督「これが海の傷痕の想の魔改造です。これで妖精や艤装の疑似生命を誕生させました。我々にはない海の神の力なのです」



提督「……想力工作補助施設や海の傷痕の想を質量にする力なくとも、想力を扱いたい。こうなると途端にむずかしくなります」



提督「例えば……これは大井さんが卯月さんにいった言葉だったかな……」



提督「判断力って誰が教えてくれますか?」



提督「判断、ではないですよ。判断力です。赤信号は渡るな、とかいう常識のことではありません。神さんならそうだな、ギャンブルでここは行くべきだ、という類の判断です」



神風・明石さん「……、……」



提督「これは危険だ、とか、これは大丈夫だ、とか。そういった自己判断は形から入ったとしても、やはり自分の経験測によって構築されていき形になるものです。なので誰かが教えてくれるものではないんです。人を殺してはなぜダメなの? という問いに様々な答えがあるように、自ら決めていくものです」



提督「誰かから教えてもらえる類じゃないんですよ」



提督「強く想え」



提督「ま……これで出来たら苦労しませんよってことです」



提督「想力で魔法のような芸当を、などと当てにしないでください。後悔する羽目になる。他力本願ではなく、今まで培った想いのみを信じて戦ってください」



提督「鹿島さんが教えてくれたんじゃないですか?」



神風「刀を振るう理由を出来るだけ1つに、と」



提督「その通りです。自分も同じこといおうと思ってました。自分は削ぎ落としましたか、あなたはそんなミスルートを通っていません。欠陥品などではないですよ。だってあなたは普通の艦娘として訓練をしてきて、想力に頼らず、力をつけてきた。神さんの精神は刀みたいです」



提督「研ぎ澄ます」



提督「ですね」



神風「……、……」



提督「今まで通り、全身全霊で頑張ってください、です」



神風「当たり前のことだし、なんだかなあ……」



神風「けど、了解です」ビシッ


コツコツ



電「解析、完了したのです……」



明石さん「顔色が優れませんね」



電「かつての私の7種目の深海海月姫艤装」



電「メモリーのサラトガさんだったのです……」



神風・明石さん「!?」



提督「……」



電「あの深海棲艦が一番強烈で私を最も狂わせた艤装なのですが、あの深海海月姫の感情の叫び、納得……」



電「……司令官さん、大当たりなのです」



提督「了解。では明石さん、神風艤装にお願いします」



明石さん「は、はい……」



神風「それと青葉さん、なにをこそこそと」



青葉「げ、気付いていましたか」



青葉「面白い話だったのでー……」



提督「ちょうどよかった。あなたにもお話があったんですよ」



提督「青葉チャンネルに関してのことで」



提督「少々お願いしたいことが」



………………


………………


青葉「あ、全然構いませんよ! というかこちらから相談しようと思っていたことですし!」



提督「いやー、良かったです。ありがとうございます」



提督「では神さん、明石さんのお仕事が終わり次第ちょっと支援の体でメインサーバー鹵獲作戦のほうに顔を出してきましょうか」



【3ワ●:メインサーバー鹵獲作戦 in 北方鎮守府】



丙少将「北方鎮守府か」



悪い島風【この辺りにいるはずでっす】キョロキョロ



悪い島風【そういえば北方鎮守府に置いてあるはずの島風の像が見当たらないけど、撤去したの?】



丙少将「あー、あれな。北方提督と神風がケンカした時に壊しちまって鎮守府の倉庫に置いてあるとかなんとか聞いたが」



悪い島風【】



丙少将「で、お前は油売るのかよ?」



悪い島風【何のために兵隊貸してもらったと。私は戦闘に良い思い出がないので、ダメそうならば出まっす。ほら、悪い連装砲君と、隠し持っていたスロット6!】



悪い島風【悪い連装砲ちゃん!】



悪い連装砲ちゃん【おう!】



悪い連装砲君【……はあ】



丙少将「……もしかしてさ」



丙少将「ちび風とちび津風なのか?」



悪い島風【そーですね。メモリーにあった通り、私は想を持ち歩いていて、当局にトランスタイプとして違法建造された時に装備に入れやがったのかと。今は虚しくお人形ごっこしてまーす】



悪い島風【想力に貯蓄が出来るまでは想力をケチって直してなかったんでバグってたところもあったんですけど、今は皆さんのお陰でご覧の通りに元気ですよー】



丙少将「止めてくれよ……見るだけで胸が張り裂けそうだ。俺は元帥と同じくああいうガキの不幸が一番嫌いなんだ」



悪い島風【普通だね。好きなやつのほうが頭おかしいし、つーか慣れて行こうよ。艦娘の女神とかも死んで生き返るもんですし、別に見慣れていないって訳じゃないですよね?】



丙少将「女神とかとはまた違うんだよ……」



悪い島風【通信室に行こうぜー。偶然力はかかってるから、そこらのやつには適当にいっとけー】


コツコツ


丙少将「ところでお前、神風と戦って勝つ自信あんの?」



悪い島風【あいつは私と同じスタイルなんですよね。速く動いて敵の攻撃回避して潜って必殺ぶちこむ。あいつの感覚は、私の想探知。そんなところまでよく似てる】



悪い島風【ま、私は普通に砲雷撃も出来れば、誰よりも戦闘経験を積んだ自負もあるにはあります。ただ想探知した結果、負ける要素もある】



丙少将「……神風のほうが速い、だろ?」



悪い島風【意外と鋭いですね】



丙少将「神風、真っ直ぐだもんな。あいつはお前と違って前しか見てねえ感じだ。お前は後ろばっかり見てる。そういう時、土壇場で勝つのは前向いているほうだと思う。俺の海での経験測だが」



悪い島風【そうですね。そーいうのは根性値にもろに影響します。加えていえばやる気の違いもありますねー】



悪い島風【全くない訳じゃないんですけどね】



悪い島風【( ´~`)ウーン】



悪い島風【空白の部分も多いけど、それは抜き取られただけでその残りかすは感じるんです。ま、150年も生きてりゃ本気の出し方も忘れちまうんですよ】



悪い島風【最終世代の島風と天津風ちゃんを見ましたけど】



悪い島風【私は思い出を眺めるように彼女らを見てたし】



悪い島風【それで丙少将、敵対する准将に対しての策ですが】



丙少将「分かってるよ。効果的なのは『考える暇を与えない』だろ。手段を選ばねえなら、あいつの母親引っ張ってくるとか、卯月ママ辺りを押し付ければてんてこ舞いだろ」



悪い島風【お主も悪やのう】



丙少将「だけど、そういう気分が悪いのはなしだ。普通に戦って普通に勝つ。それで勝ちだ。海の傷痕戦とは違って終わった後に後ろ髪引かれてまで手段を選ばねえ、だなんて戦いじゃねえから」



丙少将「あくまで俺らの敵はお前だってことも覚えておけよ」



丙少将「それを踏まえて」



丙少将「この海にまだ思い入れがあるやつらを燃焼させてやって終わりにしよう」



丙少将「それが総指揮としての俺の全体司令ってことで」



悪い島風【あなたらしいですねえ……】



丙少将「お前の指揮も執ってやろうか?」



悪い島風【デカく出たなオイ】



丙少将「会ってそんなに経ってないだろ。知ったかぶんな。俺はそこまで浅くねえつもりだぞ?」



丙少将「覚えといて損はねえ。准将はそこで海の傷痕に一杯喰わしたんだぜ。想探知だろうが解釈だろうが、そう簡単に人間測れねえってこったろ。しまいにゃ足元掬われるぞ」



悪い島風【……】



悪い島風【意外と鋭い指摘で驚く私がいます】



丙少将「なら俺の頭でもお前を倒せそうだ。当局&此方よりも遥かに弱え。今のお前はその程度のやつってこったな」



悪い島風【生意気な……】



【4ワ●:激闘! メインサーバー君:史実気象砲】



乙中将《発見ね、了解。感じはどう?》



龍驤《長方形の箱に手足ついたような貧相なロボットやわ。大きさはそうだな、六駆と同じくらいやね。目が赤く光ってる。ブツブツなんか機械音声でなんかいっとるわ。聞き取れん》



メインサーバー【184……168……】



龍驤《数字数えてる。カウントダウン。乙ちゃん的にはどお?》



乙中将《赤瞳といえばトランスタイプでカウントダウンは建造かな? とりあえず部隊は連携取りつつ包囲網を崩さないように攻撃、壊してもいいとのことだからね》



乙中将《それと嫌な感じがするから未知だと思って慎重にね。詰まれば悪い島風ちゃんが出てくるから任務を重く考えずにー》



2



メインサーバー【101……87】



翔鶴「うーん……削れてはいますが、あまり効いてはいないように見えますね」



扶桑「装甲値と耐久値がずば抜けているのでは……?」



伊401《ニムちゃんと魚雷ヒットさせたけど、中破止まりですね。謎のカウントダウンが止まりませんね。建造でしたっけ?》



乙中将《多分ね。ま、続行で。丙さんのところの部隊も攻撃してるし、攻撃してこないだけの的ならそれでありがたいしねえ……》



龍驤《了解、謎のカウントダウン終わる前には沈めるね!》



潮「うーん、変な敵です。海の傷痕関連なので身構えましたけど、大丈夫そうなのかな?」



漣「バグってるって話だから、そういうことなんじゃ? というか弱いに越したことないじゃーん。漣はまた海の傷痕レベルの海で戦うのは勘弁でごぜーますよ!」



金剛「いずれにしろさっさと沈めて鎮守府に帰りマース!」



霧島「……もう大破寸前ですね。無抵抗のままですし」



………………


………………



飛龍「ねえ、蒼龍」



蒼龍「彗星の煙が晴れた、ね。それでなんかメタリックなロボットから姿が徐々に変わってるよね。カウントダウンは衣装チェンジが終わるまでの時間なのかな」



飛龍「同意見。でもあの服の色彩、どこかで見たことあるような」



瑞鳳「あ、沈んじゃいましたねー……」



大鳳「想像以上に呆気なくて助かりますね」



飛龍《乙さん、見ました?》



乙中将《まあ……あの色彩の衣装は……みんなの服を此方ちゃんがデザインして実装するまで着ていた旧式の服。メモリーで見たやつと同じじゃないか?》



飛龍《ああ、そうだ! 帝国時代の名残が残った軍服!》



乙中将《悪い島風ちゃんが引き揚げに入るから、引き続き警戒は怠らないように。以上!》









――――10













瑞鳳「ストップです! 皆さん気を引き閉め直して! まだ倒れてませんよあれ!」



大鳳「あれは……白い大きな手?」



飛龍「あああああああ! トランスだ! サイッアクだよ!」



蒼龍「あれは飛龍を穢した――――!」



飛龍「わるさめちゃんプレゼンツの時の!」



飛龍・蒼龍「エロマスターハンド……!」






漣「瑞鳳さん達が白い手に捕まってブンブン回されてるんですが! 向こうは完全にお笑いの空気ですよ!」



扶桑「イヤアアアアアア!」



漣「扶桑さんがベル薔薇みたいなタッチの顔に……」



潮「そういえば扶桑さんはマスターハンド戦の一番の被害者でしたね……」



龍驤「……あっちのお笑いは放置でええわ。前の海面下におるで。どうも沈んだのではなくて潜水しとったようやな」



一同「!?」



龍驤「で、キミはなんやの?」



メインサーバー【本日の北方海域の天気予報です】



メインサーバー【大型で非常に強い艦隊これくしょんは依然として強い五月雨式の勢力を保ちながら北上中です。このままの予報で行きますと、0430に接近、北方鎮守府に上陸する可能性があります。北方海域該当地域の方は引き続き最新の天気情報にお気をつけください。また、該当地域から離れた地域でも、台風の影響により湿気を伴う空気が0450に激しい夜を降らす地域があると予想されます。低地の浸水、大シケ、鉄の雨粒の急襲にご注意ください】



龍驤「はあ……?」



メインサーバー【夕立ソロモンの五月雨影法師】



メインサーバー【Trance】



メインサーバー【史実砲】



龍驤「!」






龍驤「痛っつ! なんやの! 誰がどこから撃ってきた!? 小破させられたんやけど!」



潮「きゅ、急に夜になりました!」



漣「いつの間にか後ろに夕立さんがいるんですけど!」



夕立?「……」



龍驤《乙ちゃん! 後ろに現れた夕立に急襲されたんやけど! なんか消えては現れて五月雨式に攻撃してくるし!》



乙中将《背後から急襲ねえ。夕立のソロモンかな? 史実砲でそれを再現したんだと思う。気象予報に気をつけてね。史実砲を弄って天気予報式にするとかそいつ絶対面白いやつだよ!》



龍驤「お笑い枠のやつか……」



メインサーバー【今回の天気予報を申し上げます。強い爆走列島を伴う五月雨が強い吹雪、】



扶桑「とりあえず主砲で壊します」


ドオオン!


龍驤「彗星のダメ押し!」


ドオオオン!



メインサーバー【Trance】




一同「!?」



「名もなき、真、名もなき」



潮「……この人は」



龍驤「気をつけ。なんかの想をトレースしてる。鹿島んとこの騒ぎは聞いたやろ? 恐らく爆走列島ちゃんと同じく相当の手練れやで」



翔鶴「神風さんスタイルですね」



漣「要は憑依合体か!」







――――0




ドカン!



扶桑「ぶ、」



漣「扶桑さんがボディブローもらって空に飛んだあ!!」



扶桑「はいはい頭から着水、不幸ね……」


パチャン



「さて、お手並み拝見と行きましょうか」



漣「はっや!」



龍驤「あっぶな、初動も見えんかった! 」



潮「反応出来たのは翔鶴さんだけ……」



翔鶴「な、なんとか……!」



翔鶴「非公式の軍刀道は三段認定ですが……得意なほうでは……」



翔鶴「乙中将の指示通り軍刀持ってきて良かった……皆さん、私が至近距離で捌きますので仕留めてください……!」



ドオオオン!



龍驤「すでに防水式神を波に仕込んではいたよ! さっきは速すぎてタイミング逃したけどな!」



漣「さっすが技の龍驤!」



龍驤「漣、距離取るからうちの護衛についてきて。潮は扶桑の世話を頼むで! 翔鶴30秒くらいでええから持たせてな!」



スイイー



龍驤「これとこれとこれ……」



龍驤「――――、――――」



龍驤「艦載機発艦!」



漣「おー、綺麗に飛んでった! その発艦する時の鬼火みたいなのかっこいいですよね! というか漣はこのまま護衛していればいいんですか?」



龍驤「うん。それとこの飛行甲板滑らしてある式神を掌に持っとき。なにかあれば漣が掌から落とすのを合図に艦載機に変化するよう流星改の妖精さんにいってあるから」



漣「了解! それで剣撃してますが……翔鶴さん押されてますね。至近距離だと、味方にも当てるから砲撃も魚雷もできねえ……木曾さんとかもよくやるけど、ああいうのがうざいんすよ!」



龍驤「神風はしゃーないとしても、軍刀一本なぞどこまで極めようがメインに据えるのには役不足やっちゅーの。それでうちら倒せるならアカデミーでもっと大きく取り上げられて授業も受けるわ。軍艦が衝突前提に戦うとかないわ。艦隊の動かし方さえ間違わなければ刀一本とか封殺やて。それくらい有効射程の利はデカい」



龍驤「ましてや空もうちらのもんやし」



漣「あ、艦戦と艦攻と艦爆……」



漣「空母の弾着観測射撃ですね!」



「……」



龍驤「ハアアアア!? 弾着ミス……!?」



龍驤「いや、カスダメヒットか!」



龍驤「金剛クラスのいなしやな! あいつよりもパワーはなさそうやけど、その分、身軽……重巡……いやあの艤装は」



龍驤「軽巡か」



龍驤「……ん? あの軍帽で顔はよく見えんけど、軍服の背中、刺繍があるな。見える?」



漣「んー、あ……ああ……あの人は」




漣「矢矧さんだ!」



4



悪い島風【矢矧……!?】



悪い島風【あいつまだ原型保ってたのか】



丙少将「あ、おい! テメーが出るとこじれ……!」



悪い島風【先にメインサーバーは捕まえてくっからいーだろ!】



丙少将「いっちまった。なにが指揮に従うだよ……ったく」



5


悪い島風【逃がすかって。もう詰みだから】



悪い島風【見事に騙されてますねー】



「ア、捕まってシマッタ」



悪い島風【あのカウントダウン、サーバーからサーバーちゃんのオリジナルの想を離脱させるためのカウントダウン? 脱け殻の入にそこらの想を入れて煙に撒こうとしたんですよねー】



悪い島風【見事に騙されてますねー。マスターハンドのほうはそういえば疑似ロスト空間に捨て置いたままだったなー……】



悪い島風【よっと、想力工作施設アーンド妖精工作施設】



悪い島風(……、……)



悪い島風「おいー、お前やっぱり妖精工作施設のデータ、複製してたのかよ」



悪い島風(私が欲しいデータは入ってないな。パーパの想にはもうそのメモリー消えてた、のかね。辺りに逃がしたのなら、パーパの想なんて特殊過ぎて分かりやすいし、そこらの細工を考慮して一帯を探知しても特殊な想は特にない……)



悪い島風(加えて、艦隊これくしょんのデータはそこを除いて全てある。これをこいつから分離させて消せばそれで危険はない)



「ネエ、戦後復興妖精」



悪い島風【あれ、私を認識できるのか。なに?】



「モシカシテ戦争終わったのカシラ?」



悪い島風【終わったよ。長らくのお勤めご苦労さん。色々と聞きたいこともあるから、あの足元見やがってた殺人ブラック会社の倒産を祝いましょーう】



「date errorがたくさん」



「神風、響、瑞穂、戦後復興妖精」



悪い島風【私が把握してるよ】



悪い島風【お前は悪さ出来ねえように、入れ物に入れ直して人間状態にしてやりますよ。悪い連装砲君は使えねえから、私の……】



悪い島風【肉を使うかー……】



「オワッテナイ」



「私はオッコトシチャッタモノ、サガシテル」



悪い島風【あ? ヤバいやつ?】



「場所ノ見当ハ、ツイタケド、ヨミマケタ」



「ズット、キミの近クにイタンダ。キミは気付カナカッタ」



「探知デハ気付カナイ。ピーピーピー」



「戦後復興妖精ト邂逅ヲ果タシマシタ」



「メモリー:暁の水平線到達、マイホーム消滅前の録音ヲ流シマス」






わるさめ《ねえ司令官》


 

提督《なんでしょう》


 

わるさめ《はっつんもだけどさ、電もきっとこういうんじゃないかな》



わるさめ《戦争には勝ちたいけど、命は助けたいって》



悪い島風【……これ、例の最後の会話か?】



当局《フハハ、だろうな。では作業に入るといい。仕官妖精と初霜も手伝ってやれ。その間にオープンザドア君は、少しだけ話をしよう》



悪い島風【……!】



悪い島風(なんだこれ、知らねえぞ……? 准将なんか念には念を入れて想の解釈したし、周りのブツも調べたが……)



提督《ロスト空間のことですか?》



当局《喋る気力もないのでな。単純にいう》



当局《ロスト空間が消失した未知により、面倒な戦後処理に戸惑った場合、起きる問題を予測して少しだけ手を打ってある。負ける準備の一環でな》



当局《皆までいわんが、お前なら気付くだろうよ。絶対とはいわんが、想力は溜まり、散ってもすぐには消えず、本質は維持したままになるやもしれん。そしてその消失時間には差違があるはずだ。はず、だぞ? なのでその場合なるべく持続するように想力をオープンザドア君に仕込んでおく》



提督《……戦後処理を丸投げですか》



当局《ああ。当局を実体化させてもらえないのでな、仕方あるまい。死を覚悟した敗者には、勝者のいい分すら通らんよ。此方を盾にしても、ただの脅しだと分かるのである》



提督《図々しい……》



当局《その時はその仕込みにすぐに気付くだろうよ》



当局《それだけである。ちょうど春雨も電達を引っ張って来られたようだしな》



当局《達者でな》






悪い島風【仕込むって、なにを仕込んだ……?】



「准将ハ、その仕込みに気付イタ?」



「そこまで来てる?」



悪い島風【はあ? やっぱバグってんのか……まあ、いい。直接、聞き出してやれば済むしな。今は矢矧のところ行くかね】



6



矢矧「あなた……五航戦の姉よね?」



翔鶴「はい、最終世代の翔鶴です。お褒め頂いて光栄ですが……なるほど……神風さんが苦戦させられる訳です。メインサーバーがバグってたせいであんな妙な状態で現海界した、と」



矢矧「神風……? 朧気だけど、恐ろしく体術に優れたやつと戦って不覚を取ってしまったのは覚えてる……」



翔鶴「爆走列島さんの正体はあなたでしたか……」



矢矧「爆走列島……?」



翔鶴「自覚はないと。ええと、特攻服はご存じでしょうか?」



矢矧「それって軍服とは違うの?」



翔鶴「それとはまた違いますね。陸に戻ればお見せ出来るのですが」



矢矧「気になる。見せてもらえるかしら」



矢矧「それとあなた中々体捌きに見込みあるわね。軍はこの分野を軽んじていたけど、やっぱりわかる人には分かるのよね。至近距離戦の重要さが」



翔鶴「そうですね。私は空母なので艦載機切れた後の自衛として必要かと思いまして」



矢矧「へえー、具体的にはどんな訓練してたの? あ、時間は大丈夫?」



翔鶴「はい。大丈夫ですよ」


スイイー


龍驤「見かねた龍驤さんがツッコミに来たよ! 翔鶴お前は天然か!」



龍驤「矢矧、まずお前は敵か味方かどっちなん!?」



矢矧「はあ? 私は見ての通り艦娘よ? なぜ敵だと?」



龍驤「扶桑のこと攻撃しといてなにいっとんねん!」ビシッ



矢矧「ああ、扶桑っていったら不幸よね。なんかあの人は攻撃して沈めとくべきじゃない?」



龍驤(もうツッコミ止めよ)



矢矧「というかあなた達、変な服着ているわね。スカートで戦うとか戦争なめてんの、と活を入れてあげたいけど」



矢矧「敵はどこ?」



龍驤「戦争は終わったよ。海の傷痕は倒した」



翔鶴「あ、海の傷痕というのは当局です。私達と深海棲艦の戦争を始めた黒幕を倒して海は無事に取り戻しました」



矢矧「……はあ? あなた達が」



矢矧「当局を倒したの……?」



龍驤(当局を知ってる……? メモリーではこいつらは出会ってないはずやったし、空白の部分に関わってそうやな……)



矢矧「私達を瞬殺したようなあの化物をあなた達が倒した、と」



翔鶴「っ! 矢矧さん、そういう殺気を向けないでください。こちらも身構えてしまいますから」



龍驤「当局と戦ったの?」



矢矧「ええ、瞬殺された後、私達は当局に鹵獲されてメインサーバーの一部にぶちこまれたわ。それが最後の記憶だけど、最近になって意識が戻って、メインサーバーからの情報を渡されたんだけど」



矢矧「瑞穂、神風、響は指定されたけど、こいつらはさておき」



矢矧「此方」



矢矧「可笑しいわね。こいつがいてなにを終わらせたというの?」



龍驤「色々あるんやて! とりあえず陸にいって全部を説明するから!」



矢矧「あなた達」



矢矧「此方や深海棲艦に情けをかけた訳じゃないわよね? どんな事情があろうとあいつらに肩入れしたのならば、私は赦さないわ」



龍驤(あかん……中枢棲姫勢力のこと話せばプッツンしそうや……)



悪い島風【到着っ!】



矢矧「……」



悪い島風【お得意の感覚で誰か分かるかね?】



矢矧「……神経疑うわ。よく私の前に姿を現せたわね?」



悪い島風【あ? どこのこと? 当局の身内って知ったのか?】



矢矧「あの島風が、あなたと島風、主に島風らしくないほうがあなたとは知ってる。戦後復興妖精で当局と此方の身内だとは知ってる」



矢矧「少なくとも私はあなたのこと仲間と思っていたのよね」



矢矧「でもさ、一人だけ、逃走した」



矢矧「当局との戦いから逃げた」



矢矧「島風を含め、私達を見捨てたあなたが」



矢矧「よく顔を出せたわね……?」



悪い島風【……悪いんだが、お前らが中枢棲姫のやつにやられてからのことよく覚えてねえんだわ】



矢矧「……そう。それで翔鶴さん、戦争は終わったといったけれど、海の戦いが終わっただけで戦後処理は終わってないわよね。今こいつがいるのもそういう状況だからで間違いない?」



翔鶴「は、はい。まだゴタゴタの最中ではありますね」



悪い島風【……ああ? ちょっと待ってくれ】



悪い島風【わざわざ想力工作補助施設を駆使して……】



悪い島風【准将ご一考は現場へなにしに?】



悪い島風【こっちが留守にしている間に策でも弄してるもんだと】



提督「その一環と思っていただければ」



矢矧「……提督? その後ろにいるのは電と神風?」



龍驤「せや。うちと翔鶴の提督で丁准将やね。海の傷痕……当局&此方との海で最高勲章をもらっとるよー」



矢矧「へえ、それで当局をどうやって倒したの?」



提督「中枢棲姫勢力という深海棲艦を利用して」



提督「あなた達を殺した中枢棲姫さんで間違いないです」



矢矧「……」


スッ


神風「残念ですが、止まって見えますね」



矢矧「はあ、なんであなたそんなに刀の扱いに長けてるのよ。艤装の動かし方からして適性率が低いのは分かる。妙な改造してるわよね」



神風「少し動くだけでそこまで見抜きますか。殺気を収めて頂ければこの刃は首根に突きつけるまでで止まりますが」



矢矧「煽ってきたのはソイツよ。知りながらわざとそういう言葉を選んだってことは大体どういうやつかも分かるわよ。売っておいてなにその平然とした態度、ちょっと人としておかしいわ」



提督「……失敬。少し鈍いところがありまして」



提督「まあ、メインサーバーは捕まったようでなによりです。最悪、ぷらずまさんと神さんを、と支援ついでに」



提督「空白のところは大体、判明したので」



提督「戦後復興妖精さんにご報告をと思いまして」



【5ワ●:世界を騙した私達の物語】



悪い島風【当局との会話、此方のことだけじゃないだろ? 最後のあの場にいたわるさめと初霜は作業のほうで聞いてなかったみたいだが……】



提督「ああ、負ける準備のことですね」



電「……」



悪い島風【想力の溜まり場や残滓の可能性を事前に知らされていて、なにか仕込まれていたみたいだが……その具体的な策は会話になかった。これは現在進行形でお前だけが気付いていて、私は気付いていないことか?】



提督「そうなりますね。でも本当にそのサーバーとかあなたの復活とか、ピンポイントな想定はしていませんでした。そこのサーバーはそこのデータを持ってたのですね」



悪い島風【答えろよ。なにを仕込まれた……?】



提督「繋いでいてもそれが分からない。これが答えですよ」



提督「あなた、自分の想が読み取りにくいのをなにか間違った解釈をしているようで。自分が複雑だから、とかそういうのではないです。だってそんなに複雑に考えておりません。それら自分がよく分かっていますけど、あなたはそこと当局との会話に気付いていない様子。つまり」



提督「艦これのシステムとは違いますが、ヴェールヌイとは似たような仕組みなのかな。そこらはよく分かりません。でも探知できないのでは気付かれますから、そのように分かりづらい迷彩仕様にされていたのかな?」



提督「これはあなたと過ごしていて割と早い段階で気付きましたが、ならばそれをわざわざ伝える訳がありませんよね。あなた、信用できませんから」



悪い島風【それで? それを利用してなにをしたんだ?】



悪い島風【もしかして私を倒す策か?】



提督「そうですね。現海界。このシステム、齟齬があるとダメなので自分から説明しますね。間違っていないかの答えだけお願いします」



提督「これ、思考機能付与能力とセットで扱われることも多いですが、実体化するシステムとしてデータベースから人格をセットする工程がありますよね」



提督「そして本来の想に近い性格をインストされる、または選択する。自分の想に近いモノにするメリットは自己の安定、そのほうが現海界した際に本来の自分を取り戻すのが早い」



提督「当局もそうでした」



提督「あの人は丁准将です。本当に当局自身も先代丁准将と性格が似てましたしね。容姿のほうは比較的、適当かな? 元の姿を晒したくない場合、適当に決めるんですか? 当局は最初フレデリカさんでしたが」



悪い島風【思考のほうはそれで合ってる。姿のほうは適当だけども、私の場合は思い入れのせいで島風の姿を取ることが多かったよ。まあ、容姿のほうの推測もそれで外れてはいない】



提督「当局はフレデリカさんの容姿に先代丁准将の思考を持っていましたが」



提督「あなたは」



提督「なぜか容姿も島風さんで、中身も島風さんのような台詞を連発する。違和感がありました。この妖精、過去に島風となにかあったのでは、と。今となってはそこはもう確定ですが、初めの辺りから強く疑問視してはいました」



提督「それと」



提督「きっと当局って人間主体の視点で見なければ優しいんですよ。人間とか地球の害悪ですし。ただ我々が取らない手段を取れるのは彼が自分を人間として認識していないからに過ぎず、我々が他の動物より自分達、人間を優先するのと同じ」



提督「そしてその2つの推測が、確信に迫りつつありました」



提督「当局は『戦後復興妖精を家族として見ていて、最初期の島風に愛情を持っていることを知っている』と」



提督「陽炎ちゃん&不知火さん&陽炎さんとのゴタゴタで疑似ロスト空間に行きましたが、あの最初期の研究部は疑似ロスト空間があなたの想からメモリーの一部を映し出したものですかね?」



悪い島風【だろうね。あの中に私以外にいないし。ま、どーでもいいからそのままにしておきましたが、それがなにか?】



提督「やはり疑似ロスト空間の膨大な想の全てを常に探知しているのではなく、自分が調べようとしなければ分からないまま、と」



悪い島風【……】



提督「自分、あの時にあの研究部を調べ回ったのです。あれ、あなたの想のメモリーではないのかもしれません」



悪い島風【待て。あの研究部は私の記憶にある最初期のもんだ。それも実際に私が所属していた時の構造で、しかもちび達が壁や天井につけちまった分かりやすい傷もあった】



提督「あなたと一心同体、同じ瞳で見て耳で聴いて口で喋った存在がいたでしょう?」



悪い島風【……もしかして】



悪い島風【あの島風か?】



悪い島風【いや、でもあのガキは私が吸収して】



提督「吸収?」



提督「どこで?」



提督「その記憶は?」



提督「ちょうど当局にメンテナンスされた時はあなたの記憶がなく、その後の陽炎ちゃんとの契約時にはなぜか元通りの戦後復興妖精に戻っていましたね」



提督「さてあなたは一体なにを」



提督「《殲滅:メンテナンス》されたのでしょうか」



悪い島風【あのクソガキを私から消しやがったってことだろ?】



提督「悪い島風さん、メインサーバーが当局から情報を抜いたということは」



提督「想を切り離せるということですよね。そもそも想の魔改造が切り離した想の一部をパーツにしてモノを作るのですから。深海妖精やあなたのように」



提督「……想力工作補助施設。これを使ってあなたは当局の探知を逃れることを優先した。その方法の工程ですが、想探知を妨害はダメですね。当局がなぜ、と考えるから。つまり想探知されても違和感なく当局が気づかないようにする必要があります」



悪い島風【私がメンテナンスされたのは島風と同化することで当局に役割に支障を来すほど反抗的になったから。メモリーもこんな感じだったよな?】



提督「ええ。ですが、あなたが思い描いているのとは違う」



提督「海の傷痕の目を盗んだ『響改二のコンバート:Верный/декабристы』は海の傷痕が知るのが遅れた想力工作補助施設を使用した以外にあり得ません」



提督「……島風さんの仕業です」



悪い島風【……?】



提督「あれから百年の後、当局は想力工作補助施設の存在に気付いた。その代物を見て戦争中の彼は『戦後復興妖精がそれでなにかした可能性』を考えるはずです。そしてその情報はあなたを探知すれば分かります。ならば、知っていて見逃したか」



提督「または」



提督「『あなたが知らなかった。忘れていて、当局が探知しても分からなかった』線、それか『気づかないようにギミックを仕込んでいた』となります。後者でしょうね。海の傷痕が探知出来なくする方法は」



悪い島風【違法建造……トランスタイプ、だろうけども……】



提督「……」



悪い島風【あれは探知が困難であるだけだ。経過程想砲は想に繋げて質量化することでダメ与える装備だ。バグの電はそれで負けただろうよ。私が艤装のほうに移ろうとも、想がある以上は捕まったらバレるはずだろ。そもそもそれで負けるとしたら経過程想砲を完成させていたから、それで負けたとしか思えねえ】



悪い島風【……もしかして私は自分と島風に対して事前に想力工作補助施設でその記憶を消していたのか?】



提督「メモリーからして肉体は戦後復興妖精が主導権を握っています。まあ、島風さんのほうだと問題ありまくりですからね。しかし、あなたは当局に反抗出来ないように作られている。まず、これを打破しなければならない。結論からいうと」



提督「戦後復興妖精は想力工作補助施設により、島風さんと分離。島風さんの想を使い、今を生きる人間として復活させた。ここらは女神のような丸ごと身体を入れ換える医療でしたね」



提督「戦後復興妖精はその存在がある限り、当局へ反抗は出来ず。そして想力工作補助施設を利用しても、当局はもともと想の質量化が出来る以上、互角といったところでしょう。反抗阻止システム打破、そして探知を逃れることに成功したその策は……」



提督「見えます」



提督「『戦後復興妖精は島風さんを切り離した』、その後に『島風さんを現海界させた』、そして『想力工作補助施設を託すことを島風さんに説明した』、この後に『あなたの代わりに私が当局を呪ってあげるよ』の島風さんの決意を聞いた」



提督「そして最後に島風さんが」



提督「『あなたの想を魔改造:改竄した』」



提督「これで想力工作補助施設の存在を悟られず、島風さんという海の傷痕を倒す策を同時に仕込むことが可能」



提督「あなたが当局の探知解釈を逃れた術は」



提督「自分自身を騙すこと」



提督「人間の心を持ったことは当局も気付いていたはず。そしてあの全てを失った死者万越え、多少の精神疾患も無理もなさそうなほどの惨劇ではありましたから」



提督「これしか思い浮かびませんが」



提督「大きな矛盾が解決できず。『それならばなぜ戦後復興妖精はそこまでのことを知っているのか?』です。メモリーの記憶を捨てなればなりませんけど、あなた覚えていますよね」



提督「そこらのピースはメインサーバーや矢矧さんが埋めてくれるはず。自分の推理が正しければ、捕らえれた彼女達の想を当局が繋げた記憶を戦後復興妖精に入れたのでしょうけど」



2



メインサーバー【正解】



メインサーバー【戦後復興妖精の記憶ハ、島風達の記憶からメモリーを繋ぎ合ワセテ、紐付けプログラム作動と同時に戦後復興妖精ニ移植された記憶デスね?】



悪い島風【……、……】



メインサーバー【島風を分離シテ自身を騙したあなたは役割に忠実な妖精に戻り】



悪い島風【残りの空白の時間は本来の戦後復興の役割に従事した。崩れた積み木をまたこつこつと重ね始めたってことか……】



悪い島風【……島風のやつは百年もなにをしていたんだ】



メインサーバー【同じ事をしてた。まずあの最初期の復興を優先シテマシタ。そして当局を探り、策を練り続ケタ】



メインサーバー【……響はわからなカッタ?】



提督「あー、島風さんは戦後復興妖精と同じように自身を改竄したんですよ。そしてとうとう彼女は勝ちの目を見つけた。仕官妖精が捕まえたフレデリカさんの『違法建造の研究』に勝機を見出だした。自身をトランスタイプに改造」



提督「矢矧さんの反応的にトランスタイプとして建造したその時、艤装に入魂した『生贄』は戦後復興妖精ではなく」



提督「『清霜』、『大鳳』、『武蔵』、『矢矧』のかつての仲間。これ+ちびお二人、ですかね。サラトガさんはぷらずまさんの違法建造素材だったので、除外とします」



矢矧「……それで合ってる。私達はそれで当局と戦った」



矢矧「結果は残酷で秒殺だったわ……理不尽1つでね」



提督「……時期的に海の傷痕は『経過程想砲』を完成させてます。正面に姿を現せば木っ端微塵でしょうね。ましてや管理権限を握られたロスト空間の戦場ですから敗北は必至です】



矢矧「その場にこいつもいたわ。島風が声かけしてたけど、あなたはなにをいっていたと思う?」



矢矧「記憶がないみたいだけど、あなたは島風を殺される様をね」



矢矧「嗤ってた」



悪い島風【……】



悪い島風【……、……】



提督「それは仕方のないことです」



提督「戦場復興妖精も当局に挑んだ。その最終行程であなたは島風さんに全てを託して自分を偽り殺すことで開戦の狼煙をあげたのですから」



提督「……自分は当局の優しさを見つけました」



矢矧「……、……」



提督「当局が戦後復興妖精を紐づけていた理由、ただの防衛プログラムとしてなのか?」



提督「そもそも最後に壊しておかなかったことも疑問だ」



提督「壊すのを止めたということもありそうですね?」



提督「では何のために? 矢矧さんの想をメインサーバーが保管されていたのは偶然なのか?」



提督「あの時の当局は此方の分身として戦争妖精の役割に従事していた。だけど、戦争が終わった時、人類に負けた時ならば情は残しても問題はないです。だから敗戦した場合に戦後復興妖精に対して情により救いを残しておいた」



提督「メインサーバーには少なくともサラトガさんを除いて他の4人とちび風さんとちび津風さんの想が保存されており、メインサーバーの動向を見る限り、バグのせいか流出させましたね?」



メインサーバー【……】



悪い島風【……推測だろ?】



提督「……自分は」
















あなたの友達、研究所で見つけました。














悪い島風【出来すぎている。そんなのデタラメだろ?】



提督「やはり真偽は読めないようですね……」



悪い島風【――――おい】



悪い島風【デ タ ラ メ だ ろ?】



神風「……どいつもこいつも」チャキ



神風「切り捨てられなくなければその殺気を収めなさいよ」



提督「想力工作補助施設を借りましたよ」



提督「Sadness and gladness succeed each other:禍福は糾える縄の如し」



提督「It’s time for a nightmare:悪夢の時間です」



提督「Welcome to my wonderland:お伽の国へいらっしゃい」



提督「想と状態の戦後復興妖精を建造して現海界させる時のコードです」



悪い島風【……!】



提督「ちなみに島風さんは長く持ちません。なので、少し応急処置をしてあります。建造システムにより、適性者から想のリンクを行うことで存命させてあります」



提督「神風艤装に」



悪い島風【……】



悪い島風【……、……】



提督「欲しければ」



提督「自分達が戦う最終決戦で」



提督「あなたが勝てば差し上げましょう」



提督「想が読めなくても、意味は分かりますよね?」



悪い島風【ハハハハハ……、なるほど】



悪い島風【奢ってないで本気を出せってことか】



悪い島風【やる気の出ない年寄りに餌で釣り上げてまで本気にさせた私に、神風を勝たせてやりたいって話だろ】



悪い島風【メインサーバーの捕獲もそうだが、私はお前らのために動いてはいたんだけどなあ……】



悪い島風【それならあのクソガキの想は後回しでいい。探すのも止めとく。徒労に終わりそうだし、確実な手段のほうに時間を回すとしようかな】



悪い島風【お前らに勝つよ】



悪い島風【……こんなに】



悪い島風【こんなに――――】













悪い島風【イラつく人間はあのクソガキ以来だわ】



【6ワ●:此方が生きてる?】



丙少将「とのことだ」



乙中将(うわ……矢矧さんのあの顔、キレてる……甲さん呼んだほうがいいんじゃ)



矢矧「は? 丙少将でしたよね? 私の聞き間違いかしら?」



丙少将「何度でもいってやるぜ」



丙少将「此方は生きてるし、生かす」



矢矧「……」ブチ



矢矧「ふざけ……っ!」



金剛「提督勢に暴力はノー」



矢矧「なにこいつ……私が反応出来なかったのは初めてよ……」



乙中将「止めといたほうがいいよ……金剛型と神風ちゃんがいるから力づくでは絶対に勝てないと思う……」



矢矧「……」



矢矧「でも本当に信じられない。百歩譲って想力周りの情報を抜くのは分かるわ。考え方の1つとして想力周りは知っておかなければ同じ悲劇に対策できないってのも分かるわよ……」



矢矧「用が済んだのなら始末するべきやつでしょう」



矢矧「最初期から今までの私達の戦争の全ての悲哀の根元なのよ。どこの法が『Worst-Ever:歴史最悪』の大量殺人鬼を釈放にして支援までするの……?」



矢矧「トランス現象で産まれた命を尊重するのは」



矢矧「どう考えてもさ」



矢矧「此方&当局の次からでしょうが」



神風「これダメですね。言葉では止まらないかも。誰か人死にが出る前に」



神風「ご決断を」



丙少将「准将、どうすんだこの始末……」



提督「……、……」



丙少将「考えがまとまらねえってか……」



コツコツ



「やあ」



「北方提督さんが来たよ」



丙少将「お前……なにしに来たんだ」



乙中将「……丙さん、任せてみよう。なんとかなる気がする」



丙少将「乙さんがそういうのならとりあえず発言させてみるかね……どうぞ」



北方提督「初めまして。最終世代の北方鎮守府の提督の任についていた者だ。元響、ヴェールヌイの経歴がある」



矢矧「響ならロシアに行く前の一時期仲間だったけど、確かにあなた雰囲気が少し似ているわね。響の適性者に提督が務まるとは思えないけど」



丙少将「全くだ……」



乙中将「最近になってこの人の提督の才能自体は僕よりあると思うようになったんだよねえ……」



丙少将「時々あなたのことも分からなくなりますよ……」



北方提督「最初期の兵士には敬意を払わせてもらう。なのでいわせてもらおう」



北方提督「此方は生かす」



北方提督「死人にくちなしの時代が終わったといえども過去の人間が口を出すことじゃあない」



北方提督「現在と過去を土台に未来を創るのは今を生きる我々だ」



矢矧「……、……」



矢矧「対深海棲艦海軍の歴史に関わる最初期の人間は関係ないと? 過去を見ない愚こそがこの戦争を勃発させた本質なのに?」



矢矧「子は親を見て育つ」



矢矧「だから此方は戦争を勃発させた。確かに非は人類にもあるけど、だからといって人をあれだけ殺した殺戮者が許される道理がどこにあるの? あの惨劇に対して損得だけを考えた人間の意見が通るなら」



矢矧「この時代の人間は、畜生なわけ?」



北方提督「此方の生存は軍だけで決めたことではないからね。それを1軍人が納得しないからと暴力に訴え出るのは反乱だ。分かるかい。それをしたら君はもうお国の軍人ではなくテロリストだ。その背中に背負った矢矧の文字が泣くだろうさ」



北方提督「世間的にも人々を守る艦の兵士が人々を殺す深海棲艦になるように存在意義が反転してしまうから」



矢矧「……!」



丙少将「おお……」



矢矧「……気に食わない点がもう1つある」



矢矧「中枢棲姫勢力、私達を殺した中枢棲姫の家族とかいう奴等も二人いる。『春雨』と『瑞穂』よ。こいつらも私にとっては始末するべき人間だと思うけど」



北方提督「春雨は戦果は多大な英雄だ。中枢棲姫勢力のほうは一部の間で英雄扱いされている」



矢矧「あの中枢棲姫も多くの罪もない人間を殺してるのは知ってるはずよね……?」



北方提督「だから一部だ」



北方提督「彼等は戦後復興妖精と同じく心を持った。そして彼等がなにをしたかといえば」



北方提督「償いをするために海の傷痕を倒すことに命を賭けて、そして散っていったんだ。自分達が人間と証明することで命さえも投げ捨てて、人間に尽くしたその誠意、そして戦果は敬意を払うべきものだ」



北方提督「彼等がいなければ海の傷痕は倒せなかった。准将、そうだね?」



提督「間違いありません。あの勢力がいなければ我々は暁の水平線まで到達出来なかった。人類は絶滅していたでしょう。表向きには利用した、という流れではありますが」



提督「それは元帥も認めております」



矢矧「……、……」



北方提督「こっちにもあの勢力に殺された仲間はいる。鹿島艦隊の悲劇で4名も殺された。鹿島さんはその後かなり病んで海を去ったほどだ。でも彼女は最後にそんな中枢棲姫勢力に」



北方提督「敬礼を送った。心を持った彼等はそれほどの英雄だったんだ。君はそんな鹿島さんに比べると子供に見えるほどだよ」



北方提督「まずは瑞穂とも春雨とも鹿島とも話し合うべきかな」



北方提督「お互いの理解が足りていないだけだから」



北方提督「今のまま矛を取っても子供のケンカにしかならない」



矢矧「……、……」



矢矧「この場は収める」



矢矧「で、話した結果」



矢矧「私がそれでも始末するという決断に至れば?」



北方提督「丙少将、どうするんだい?」



丙少将「最終海域の紅白バトロワに参戦しかねえわ……」



矢矧「ねえ、他の面子もメインサーバーが半壊していたせいでどこかに落っことしたとは思うけど、彼等の捜索は?」



丙少将「しねえ。したいなら勝手にしてくれ。ただこの闘いの勝者に契約通して想力工作補助施設がとりあえず所有権を得る。お前が勝てば好きなように独裁出来るだろ。勝てばの話だが……」



矢矧「……了解、それで手を打つわ」









【7ワ●:戦後日常編 初霜&若葉】


夢、のことかな。


誰もが死語にさ迷ってロスト空間でみな夢を見ている時代があった。


夢、そう夢です。あれば素敵ですよね。きっとみんな1度は持ったことあるのでは、と思います。届くかどうか分からない目標を持つことも夢を持つのと同じことですよね?


私の夢は乙中将の鎮守府から、鎮守府(闇)に乗り換えることになり、そこで無事に目的地まで到着することが出来たので叶いました。いや、叶えた、だなんてかっこつけていってみたり。


戦争は人類の勝利で幕を下ろして今はその幕の内側でゴタゴタしているような日々です。みんなはそれぞれ次の舞台に向かう準備をしています。また会えるけど、こうやって全員で同じ舞台に立つことはないのかもしれません。


それぞれが夢を持って海を背にし始めている。鎮守府のみんなはそれぞれ目標を持っていました。駆逐の皆はやっぱりほとんど学生をするみたいです。


暁型、睦月型、陽炎型は姉妹がたくさんいて羨ましいです。初春型は姉の若葉が一人だ。それに結局、最後まで鎮守府で一緒にならなかったな。


やっぱり陽炎さん達を見ていると私も姉妹の絆が羨ましく思えまして。


私の姉妹艦は最終世代では若葉だけなのですが、ここだけの話、アカデミーの時代からあまり仲良くしている、とはいい難いです。だってあの頃の私は誘拐されて4年間の空白を過ごしたせいで、9つにしてろくに読み書きもままならなかった。周りから置いていかれていたのを自覚して焦って勉強にふける毎日でしたから。


若葉は若葉であまり自分から他人と深く関わろうとはしなかったので、私達は姉妹艦効果があるとはいえ、暁型のみんなや陽炎さん達、睦月型のみなさん、翔鶴さん瑞鶴さんのように仲良しこよしとは言い難いかな。全くお互いを知らない訳でもないんですけど、想い出が決して多いとはいえません。

あ、軍艦の思い出は別にしての話ですよ?


駆逐艦は不幸で来た方も多いので、姉妹艦効果がきっかけで仲良くなってお互いの傷を知って絆も深くなっていく傾向も多々あるそうです。私が軍に入った理由もよくある駆逐の不幸に該当するのかな。親に見捨てられたと表現すれば不幸ですが、私は不幸だとは思っていません。仕方のないことで、ただ悲しいこと。それがきっかけで今があると、そう想えばむしろ幸せの糧とすら思う。


若葉も例外じゃなかった。

だって、あの疑似ロスト空間で移した景色にいたのは若葉だもの。髪は生まれつき茶がかかっていたみたいなので、すぐに分かった。姿も今とそんなに変わらなかったですしね。


私の想像を越えて、若葉という人物は情熱を持って戦争に参加していた。


初霜の指は白くて綺麗だな。私のは水荒れしてる。


私、親に言われて習い事でピアノやっていたんだよね。

私は貧乏で馬鹿だったから家事とケンカばっかりしてたぞ。


初霜はお姫様みたいだよな、といわれた。

若葉は王子様みたい、と私は思った。


実際、同性からモテていたみたいだし。つかみどころがないというか、一歩離れて見てみれば、なんだろう。モテていた理由も分かったかな。その一匹狼の生き様が我が道を往く男の子みたいでかっこよく見えるのだ。


色々な人の夢に飛び込んだ。

若葉の心を見た。



あの時の若葉の叫びを私は忘れない。



ケンカした。初めてだ。

私、人生で初めてケンカした。



姉妹艦の境界線を越えて、私達は戦争を終え、今回の一件でようやく姉妹のような関係になれたのかな。それを若葉に聞いても、どうだろうな、と返ってくるのが予想に容易いので声にはしませんけどね。


私もまたなにか夢を持ちたいな。

若葉も提督もそうだ。始まりは夢を持って戦争に身を投じた。そしてそれぞれ最後の海まで辿り着いたのだ。


だから、私は1つだけ思うよ。


本気の夢を抱くことが出来たのなら、例え報われなくたって、勝利を刻んだあの暁の水平線まで駆け抜けたように、無我夢中で。


提督を見ていたら思う。叶うか叶わないかが眼中になかった。

ただそれだけが生きる意味だった。

その洗練されたその生き様はもはや妖精のようです。


どこまでも進んでく。

夢が叶ってもまたいつか新たな夢を持つことが出来るはず。

あの暁の水平線を越える景色を見たいな。

そこにたどり着くためになにしたらいいのかよく分からない。


今はそうだな。

若葉とも仲良く過ごしていけたらいいですね。


【8ワ●:擬似ロスト空間を探検しよう】


初霜「ちょっとお買い物に付き合ってくれませんか?」


若葉「断る」


初霜「そこをなんとか。妹からの一生のお願いです!」


若葉「……貸しだ。すぐ返してもらう」


ということで若葉を連れて街に出掛けました。といっても近くの本屋さんに出かけるだけです。せっかくなのでこの機会に若葉を誘ってみようと思っただけだ。


若葉「参考書か。相変わらずくそ真面目だな」


勉強はしないと。

若葉が北方でどんな過ごし方をしていたかは知らないけど、三日月さんから北方の実情を聞いた感じ、皆さん自由気ままに過ごしていたようですね。それはそれで良いことなのですが、ちょっと信じられないこともありますね。銃の密輸とか。


若葉「あ、持ちます」


珍しく若葉が敬語を喋って横断歩道を渡るおばあちゃんの大きな荷物を持ってあげていた。立派だ。その荷物の一つを私も持たせてもらって横断歩道を渡ります。おばあちゃんからお礼に、と飴をもらいました。


初霜「若葉、ご老人に優しいんですね」


若葉「まあな。そんなことより初霜の部屋に行こう。そこで私からの頼みを話す」


2



若葉「なんだこの部屋は」


内装などあまり気にしていなかったのですが、卯月さんや阿武隈さん達がたまーに外に出ていた時に景品の処理に困っていたとのことでそれなら殺風景な私の部屋に飾っておこう、とのことで色々とあります。まだまだ真新しいモノも多くて捨てるのはもったいなかったですしね。


二人の趣味なのかふわふわとしたファンシーなモノが多いです。陽当たりはよい部屋で窓から射し込む朝日が、人が飛び込めるほどの白くて大きなクッションに当たっている。


若葉「なんか神々しいぞ。天使が翼を休める場所みたいだ」


初霜「ほとんど寝泊まりするだけなので使っているのはベッドくらいですけどね。二段ありますが、二段目は使ってません」


秘書官を担当するようになってからは別室で作業する時間が多かったので、部屋ではほとんど寝泊まりするだけなんですけどね。


若葉「そうか。そういえば秘書官やってたんだったな」


初霜「北方では三日月さんが主にこなしていたそうですが、若葉は担当しなかったのですか? 秘書官向きだと思うのですが」


若葉「ん? 私が秘書官向きとか初めていわれたぞ?」


初霜「24時間寝なくても大丈夫」


若葉「お前は大変だったんだな……」


大変ではあったのですが、あの提督の助けになれるよう日々精進を怠らず空いた時間も活用していました。提督はやることは必要最低限で構いませんよ、といってくれたのでその通りにすれば良かったのですが、ここらは私の性格なんだと思います。


初霜「ところでこんな朝早くから訪れて何の用事です?」


昨日はあまり眠れなかったな。

原因らメモリーを夜遅くまで観ていたこと。

内容は私が思っていたよりもずっと壮絶だった。最初期の混乱は知識として知っていたんだけど、やはりあの時代を生きた当人の記憶となると、私の想像を遥かに越えてきた。私が軍に飛び込んだ時の環境とは大違いだ。ろくな訓練を受けてもいないのに初陣の相手が空母棲姫とか考えただけで涙が出そうになる。


若葉「疑似ロスト空間に興味を持った。見学するなら今が絶好のチャンスだろう。指定された海域を出て、冒険しないか」


初霜「ええー……」


若葉「今がチャンス。管理権限を持っている悪い島風のやつがなぜかは知らんが糸の切れた人形みたいになってるしな」


確かに悪い島風さんはメインサーバーを捕獲して帰ってきた辺りから魂が抜けたように無気力になっている。一体なにがあったかは知りませんが、私には提督か電さんがなにかしたとしか……。


初霜「疑似とはいえロスト空間。知識はありますよね?」


若葉「ある。だから初霜を誘った」


ということは私が廃の領域にいるから誘ったのだろう。正直、戦争が終わった今、私が見ている限り、もう廃の人物はもう闇にはいない気がする。ただ神風さん、あの人だけは戦争中の電さんに似た雰囲気をしている。なんだか見ていて危なっかしい人です。


若葉「嫌ならいい。初霜という装備がなくなるだけだ」


ああ、これはダメなやつだ。断れば若葉一人で行ってしまう。


初霜「格好が随分とラフですが、その格好で?」


若葉「もともとスカートなんてあの制服でしか来たことないし、けっこう背も伸びてサイズも合わなくなってきたからな」


初霜「へえー、スカートは軍に来てからが初めてだったのですか?」


若葉「小学校は服装は自由だったしな。というかお前はアカデミーの頃から変わらずに相変わらず質問ばっかりだな」


じゃあ演習場に行こう、と若葉は部屋を出た。

私は念のためにお守りでもある鉢巻きを持って若葉の後を追った。


3


疑似ロスト空間の演習場はロスト空間とは違って気分も悪くならなかった。静かだ。さすがに朝の6時から砲雷撃戦をしているような人はいないか。


と思いましたが、一人だけいました。

神風さんです。なにやら錨を降ろして目を閉じて、仁王立ちしています。何をやっているのか分かりませんが、 微動だにしません。若葉が「あーいう神風には喋りかけてやるな」といったので、その通りにそっとしておくことにします。


若葉はどんどん陸地から離れたほうへと進んでゆく。指定範囲があってそこを越えると自然と陸地に戻される仕様だと聞きました。あの赤い浮きがあるところがラインですね。


若葉はその浮きの前で錨を降ろして、止まりました。

もう諦めて帰ろう、とそう若葉にいおうとした時、グニャリと景色が歪みました。これはロスト空間の呼応性質、でしょうか。


初霜「……そんな、若葉、どうして」


ロスト空間でこの芸当が出来るのは少なくとも重以上だ。若葉がそうだなんて聞いた試しがなかった。


若葉「資料は読んだ。出来るってことは私も重程度はあるんじゃないか?」と若葉はぶっきら棒にいう。「多分、性質は初霜と同じだ。お前も普段は中だったんだろう?」


確かに私の場合は最大風速で廃の奥まで突き抜ける、とあの海で海の傷痕:此方さんからいわれましたね。確かに普段の程度が低いのなら今まで若葉が重だったのも頷ける。


初霜「ところでここはどこ……帰れるの?」


若葉「ここは……学校……?」

珍しく若葉がうげ、といった顔になった。


3


疑似とはいえロスト空間であることを考えると、誰の心を映したのかは分かる。多分、重にまで想を持ち上げた若葉だ。


それともう1つ確証があった。学校の体育館と武道館を繋ぐ渡り廊下に周りと比べて頭1つ分だけ高い子がいた。その子の周りを囲む女の子は背の高さからして小学生低学年の子だろう。


一見、むすっとした顔とその背の高さからして男の子にも見えるけど、私にはすぐにその子がまだ若葉になる前の若葉だと分かった。あの髪は染めているの? と聞いたら、若葉は「生まれつき」だと答えた。生まれつき、髪は茶がかかっているようだ。


ちなみになぜ女の子にモテているのかを聞けば、答えてくれなかった。私はその輪のほうに近づいてみる。向こうにいる女の子達の会話に耳を傾けることでその答えは得ましたけどね。


体育のドッジボールで活躍した。校内大会の女子の部でクラスを1位に導いたからそうだ。今の若葉は面倒臭がり屋で戦うことより逃げることを選ぶ傾向にある。白線の内側で一生懸命戦っている若葉が想像するのが難しくてちょっと信じられなかったかな。


若葉「勘違いして欲しくはないんだが、たまたま投げたやつが当たっただけで運動神経がいい訳じゃないぞ」


初霜「モテてますね。彼女とかいたんですか?」


若葉「真顔か。冗談なら冗談と分かる風にいってくれ。おい、なぜここでぽかんとした顔になる……」


だって人気あるじゃないですか。私は別に同性愛とかそういうのに抵抗もなければ理解もある。子供ながら難解なことは捨て置いて好き同士ならいいんじゃないかな、と思う。若葉はその手の恋愛の話を全くしないし、好きな人のタイプもよく知らないし。


今の若葉と同じく、昔の若葉も気だるそうな顔していた。変わらない部分もあるようだ。


若葉「初霜、今度はお前が思い描け。不公平だ」


初霜「は、はあ。やってみますが……」




小学校だ。今度は外ではなく、教室の中だった。音楽室だろう。私の記憶にあった。昼放課は音楽室で先生にピアノを教えてもらっていた。確か迫っていたコンクールの練習風景かな。


若葉は私ではなく音楽室ではしゃいでいる男子達を見ていった。


若葉「やっぱり初霜はモテるのか。じっと熱い視線を送っている男子がいる」


初霜「先生のほうじゃないですか? すごく綺麗な方ですし」


若葉「酷いやつだよお前は」


うーん、若葉のいう通りなら、私にもそんな風に周りから好かれていた時代があったということなのだろう。


若葉「そういえばアカデミーで会った時、私の水荒れした指と違って白くて綺麗だと思っていたんだよ。ピアノやってたからか」


気を回していたとは思う。指は大事に、って部屋の掃除も家事の手伝いも母から禁じられていた。もちろん泥臭くなる遊びもだ。私は押し付けられた習い事ばっかりさせられていた。


初霜「もういいですよね。ここから先はあまり見られたくないので。気分の良い話ではないと思うし…」


若葉「……そっか。この冬に誘拐されたのか。初霜はお姫様みたいだな」


初霜「どちらかといえば若葉のほうがお姫様みたいだと私は思いますけど……」


若葉は眉を潜めて、心底、なにいってんだこいつ、みたいな顔をしている。ぱっと見、王子様のほうが似合うのかもしれないけど、なんだかお姫様のほうが私のイメージには合う。その理由は自分でも上手く言えないのだけど。


【9ワ●:仮面を被ったお姫様と記号星人エトセトラ】


景色がまた映り変わる。

海の傷痕:此方撃破作戦の時とはまた違う。視覚の情報が目まぐるしく変化して気分が少し悪くなる。いつの間にか若葉が隣からいなくなっていた。はぐれてしまったのか、と思って焦る。


初霜「……これ、なんだろう」


今度の景色は意味不明だった。

内装は華やかな洋風宮殿の中に見えるけど、薄暗い。その間には二足歩行の変な生き物がたくさんいた。顔はなく、その代わりにアルファベットの記号が首から上に生えていた。AとかBとか。胴体がカードみたいに薄っぺらいので、トランプのようにも見える。そんな謎の生物がまとめて狭い箱の中に閉じ込められていて、中をいったり来たりと忙しく動き回っていた。


あの階段の上にいるのはお姫様なのかな。それらしい格好と横柄な雰囲気が滲み出ている。顔はある。でも仮面をかぶっていて顔は見えなかった。スカートはいているから女の子なのかな。その隣には従者らしき人もいた。男の人かな。それも大人だ。きらびやかな女の子の王様とは正反対にみずぼらしいボロ布をまとった服で対照的だった。


従者がその謎の記号星人のいる狭い部屋の錠を開けて、中に入った。その中で比較的、小さい子供のようなサイズの記号星人を首輪をつけて、部屋から連れ出した。


瞬きすると同時に大きな箱が現れた。男性従者はその箱の中に連れ出した記号星人を入れて扉を締める。また部屋に入って連れ出して、その箱の中に、とその作業を小さい記号星人が部屋からいなくなるまで続けた。


その作業が終わると、従者は電気盤のような形状の蓋を開けて、スイッチを押した。記号星人が大きな声で言葉を発し始めた。「足が動かないんです」、「手がないんです」、「目が見えないんです」と大きな声で騒ぎ始めた。


狭い部屋の中は白煙に包まれて見えなくなった。


やがて煙は晴れる。


記号星人は力なくコンクリートの上に横たわっていた。私はその記号星人に駆け寄るが、声をかけても体を揺さぶっても反応がなかった。最悪の気分になる。一体誰の想なのか知らないけど、この人達の命を奪われたということが分かったからだ。


従者は外にある大きな扉を開いた。連れ出されてあそこに閉じ込められた小さい記号星人も力なく横たわっていた。私は駆け寄って、その記号星人に同じように声をかけた。でも同じように絶命していた。ただこちらは凍っているように固く、冷たかった。


この箱は大きな冷蔵庫?


なんなんだ。人の所業とはとても思えなくて、私は悲しみと憤りを感じた。この王様と従者は酷い人達だ。一体なにが目的でこんなことをしているんだ。


記号星人の叫びが頭に過る。身体の不具合を訴えていた。障害を負った人達を殺しているの? そう思うと憤りは明らかな怒りに変わる。私も建造されるまでは足が悪くて歩行器を使っていた。苦労も分かる。あんまりだ。


若葉「恐らく私の過去だが、どうしてか意味不明になっているな……初霜がいるせいか……?」


初霜「若葉の過去……解説してくださいよ!」


若葉「長くなるから断りたいが、姉妹艦のよしみだ。あの姫は私だろう。私はお姫様、まあ、好き放題してたからな」若葉は禁煙グッズをポケットから取り出して口に咥えた。「従者は親父だろう。あんな仕事をしていた」


初霜「仕事?」


若葉「保健所だ。子犬とか子猫とか小さいやつは冷凍して殺す。障害を持ったやつとか病気持ちとかも優先的に殺される。部屋に閉じ込めてスイッチを押すとガスが流れるようになってるんだ」


初霜「……」


あまり気分の良い話ではなかった。保健所がどういうところかは知っているけど、私の中では見て見ぬ振りしていたことの1つだった。


初霜「これは単純な疑問なのですが、どこからが生きていてどこからが殺めてもいい命なのでしょう」


若葉「さあな。でも見てみろ。あの姫の私は意に介した様子もない」


お姫様はあくびをして、眠たそうにしている。


若葉「王様気分だ。あんな風に過ごしていたっけな」


その時だった。お姫様がこちらをじぃっと凝視してきた。今までは気付いていない風だったけど、ばっちりと目が合っていた。二人の若葉が「あ」と同時に声を出した。


わらわらと記号星人が出て来て、私達は取り押さえられてしまった。展開に困惑していたが、若葉が艤装を使って蹴散らした。そっか。深海棲艦を倒すのと同じく想基盤なら艤装で破壊が出来るんだ。私も応戦した。けれど記号星人は無制限に沸いてくる。


若葉「初霜、お前はロスト空間で特務部隊の旗艦を務めたんだろう。なにか策はないのか」


海色の想を真似して燃料弾薬無限に出来るだろうか。いや、出来たとしても向こうも同じく底が見えない以上、途方もない時間がかかるかも。疑似ではあっても『繰り返し、終わらない性質』を再現されている。明確な作戦もなく抗うのは生きている私達が不利だろう。


初霜「とりあえず捕まってみましょう」


2


お姫様に捕らえられた私達は別に投獄される訳でもなく、衣装のたくさんある部屋に閉じ込められた。お姫様はその衣装の中から無言でドレスを手に取った。可愛らしいフリルのついたデザインだった。若葉の前まで来て、それを差し出した。


若葉「何の真似だ……?」


初霜「着ろ、とのこと……?」


若葉「冗談じゃない。私に似合うかこんなもの……」


まあ、確かに前に見た若葉はズボンだったし、私服もそうだ。初春型の制服でスカートは初めて日を跨いで履いた、といっていたくらいだ。あまり好きではないのだろう。雰囲気も相まって顔の整った中性的な子に見えなくもない。


初霜「若葉ちゃん、着なきゃ先に進ませてもらえないのでは」


若葉「私をちゃん付けは止めてくれ……」


若葉は以外と合理的でリアリストなところもある。諦めたのか、その服に着替えた。そして大雑把なところもあるというのを今知った。若葉は着ていた私服をその場で脱ぎ散らかしてドレスに着替えた。着替え終わると、若葉はげんなりした顔になる。


若葉「おぞけがする。私が王子の服で初霜が姫様のドレスのほうが合うと思うんだが……」


初霜「え? 普通に可愛いと思いますよ?」


お姫様も手を叩いて無邪気に喜んでいるように見える。


次の瞬間に、景色がグニャリと歪んだ。


【10ワ●:若葉 イン 昔ながらのらーめん屋さん】


くそ、意識が飛んでいたか?


綺麗で清潔な部屋に豪勢なドレスを着込んだお姫様がいる。顔には舞踏会でつけるような仮面をつけているため、見えない。ベルトコンベアみたいに長く細いテーブルの上に参考書を広げてノートに文字を書いている。スラスラとスマートに答えを書き込んでゆく。やっているのは算数のようだな。考えていた素振りはないが、答えは全て正解という秀才振りだ。


若葉「……初霜か?」


アカデミーの頃の初霜にそっくりだった。あいつもこうやってスラスラと教科書を読むだけでその応用問題を解いてしまうようなやつだ。私は頭があまり良くなかったから、初霜が5分で解く問題にその倍以上の時間を要したっけか。


若葉(しかし……)


どうしようか。とりあえず声をかけても姫様は反応しなかったので、先程の景色と同じくいない者として扱われている。映画をダイブして観ているかのような感じだな。


初霜とはぐれてしまったようだ。


しまったな。まさかここまで無作為に誰かの想の海を漂う羽目になるとは。こうやってロスト空間では終わらない夢を見続けるのだろうか。少し考えが足りなかったのを反省しよう。好奇心は猫をも殺す。しかし、なんだか上手く帰れるような気もする。


若葉「撤退作戦は得意だぞ」


どうやって帰ろうか。まずは慌てず騒がず様子見に徹しよう。

2


外は現代チックな日本の街並みでドレスのお姫様は浮いている。


しかし、周りはそれを指摘することもなく、お姫様は自然に溶け込んでいた。学校からして私立の中学生一年生のようだ。

早朝に英語の抜き打ちのミニテストが実施されたが、満点だ。それに常に人に囲まれていた。周りとしゃべっているようだけども、そのお姫様の声は私にはなぜか聴こえなかった。周りの応答でその内容を予想することはできたが。


ホームルームを終えて、1コマの授業の鐘がなると、音楽室に移動して、合唱コンクールの練習を始めた。


お姫様がピアノを弾くらしい。指揮を執るのは活発な男子だった。私も歌ったことあるやつだったな。懐かしいメロディが流れ出した。『君とみた海』だ。歌詞的に君とみた海は八月の海だ。この曲は中一が選ぶ選曲としては少々難易度が高い。なにが難しいのかといえばピアノだ。


これが素直に感心したのだが、お姫様の奏でる伴奏は流麗で情緒が綺麗に表現されていた。晴れ渡る八月の燦々とした太陽の輝きでキラキラと光る海波に白い砂浜を彷彿とさせる旋律だった。ただそれはピアノの技術の話で合唱のほうはそこそこだ。元気なのはいいが、音程がズレている。こういうあるあるは今思うと、愛嬌みたいなものだった。


若葉「……はあ」


この姫様の日常を眺めていたが、初霜としか思えない。ピアノを習っていたといっていたし、この技術もあいつなら納得できる。アカデミーの時代からそういうやつで、私とは正反対だった。基本を覚えるとすぐに応用問題を解く。私が十回書いて記憶することを一回で覚える。艤装の扱いだってそうだった。私には誰からのスカウトも来なかったけど、あいつの成績は優良で将の鎮守府の切符さえ手に入れていた。私は希望できる範囲で最良の北方へといった。本音をいえば丙少将の鎮守府に着任したかった。私の目指す戦闘のスタイルはそこが最も適切だったからだ。


若葉「賢くて可愛くて人気者で特技があって裕福か」


アカデミーの前からこんなやつだったのか。正しくお姫様が似合うし、悪いやつにさらわれたのはお前がお姫様だからじゃないのか、とすら思えてくるほどだ。


お姫様を眺めるのも飽きた。


私は校舎から抜け出して来た道を戻った。


3


平和だな。


そういえば私も町にいた頃は海のこと気にしていなかったな。深海棲艦という生物と戦っているというが、初めてその戦闘風景を動画で見た時は驚いたものだ。この国で戦争が起きていると思うと怖くなったが、町はあまりにも平和に回り続けるから実感は出来ずにのんきだった。


実際に飛び込んでみても鎮守府の皆はのんきだったが。

最後に深海棲艦建造ミサイルが現れてから、やっと「死ぬ」と思ったくらいに戦場にいながら平和ボケしていた節はある。


だからこそ、戦争終結してから一つだけちょっと戸惑う感情が湧いた。


まだ誰にもいっていない。隠しているといっても良かった。


私は准将のことをかなり気に入っている。


別に指揮とか作戦とか、すごい、という尊敬の憧れではなくて。


経歴だ。軍学校時代の成績は中の下、妖精可視の才もD評価だ。ここまで行くと開発の助手にも使えないほど失敗しまくるはずだ。それで提督としてのエリート道から外れて一般の情報課にいた。地べたを這うも、才覚は認められず、ステータスは低い。だが、彼がいざ提督として刻んだ歴史は知っての通りだ。


卯月とか阿武隈とかそこら辺を見ていても、ああ、持って産まれたモノが違うのか、という感想で終わるんだよな。才能のあるなしを痛感させられるし、そこを認められずにあがくほど情熱家でもロマンチストでもなくなっていた。


だから、准将のような人間のほうが見ていて勇気をもらえる。私でもってそんな気になる。


そんなやつが北方鎮守府の仲間にもいた。


神風だ。あの二人は似たモノ同士だと思う。結果が出たか出ていないかの違い。


神風も准将も人間的に好きなやつだ。准将は、性格に難あり、と周りからは思われている様子だから多分これいったらまた変なやつと思われそうだ。ちなみに神風が司令官として好く理由はよく分からん。


そんなことを考えていると、賑やかな交差点に出た。


どこにでもありそうな平凡な都会の街並みだ。都会ってあんまり見慣れていないんだよな。北方鎮守府は田舎だ。それに若葉になる前の私は緑が豊かだが田舎というほどでもないプチ田舎で、どちらかといえば貧乏な家庭で産まれて育った。そして小さい頃に母親のほうが他界して親父と二人で細々と質素に暮らしていた。だからか煌びやかな都会は新鮮味があった。


ラーメン屋の前にラーメン屋があるのは都会って感じがする。


新規オープンしたチェーン店と、寂れてはいる昔ながらの引き戸にのれんがかかった店だ。新規オープンした店の店長が取材に応じている。「ええ、ともに盛り上げていきたいですね」と応えていた。なんだか鼻につく感じだったので私は寂れたほうの店に入った。


「うい」


ういってなんだよ。らっしゃい、じゃないのか。


若葉「うい」なんとなく同じ返事をしておいた。


いや、待てよ。

ここでは私は認識されているのか。それなら普通に飯食うか。


清潔とはいい難い壁紙と床、厨房からはギトい油の臭いがする。申し訳程度にある座敷は埋まっていた。私は赤い丸椅子に座る。カウンターの白の塗装が欠けたりヒビ割れがあったりと絵に描いたような昔ながらだ。こういう店は実家の近くにあって親父とよく来ていたので落ち着く。


若葉「なあ、この店の麺の太さはあの写真と同じか?」


「同じだよ」


若葉「あんかけがいいな。天津飯も捨てがたいが……あんかけソバだ」


「あいよ。嬢ちゃん若えのになかなか分かってる」


若葉「だろう」


あの写真からこの店の麺は極太で売っていると見てもいいだろう。


冬場のあんかけは王道なのだが、店の様相によって更に王道が極まる。この店は暖房がかけてはあるが、電気をケチっているのか温度が低めだし、出入り口は締めても少し隙間があった。誰かが入ってきたら冬場の風がカウンターにもろに吹き込むことが予想された。


そして私は食べるのが遅いので、ただのラーメンでは麺が伸びたりスープが冷めたりしてしまう。その点あんかけは熱を保持しやすい。そしてあんかけの場合の私の推しは細い麺だ。太い麺よりも濃厚に麺があんかけと絡むからな。そこでソバという選択が出てきたわけだ。


注文した料理が出てきて、私は割り箸を手に取った。暖房ケチるのに割り箸なところに店主の適当な性格さが伺える。味は大雑把と見た。


若葉「いただきます」


まずは贅沢にあんを大量に絡めた麺を口に含んだ。その瞬間、迸る食感に私は驚愕せざるを得なかった。この麺、縮れている。麺が数本のレーンを引いて大量のあんを絡めて口まで運んでくれる。一口でこの餡を頂けるとなると、食べ終わる頃には餡も麺もなくなる美しき調節。こんな繊細な芸が用意されていたとは嬉しい誤算である。


出入り口の引き戸が空いて、寒い風が吹き込んでくるが、これすらも調味料として私は調節していた。肌に感じる寒さと口の中で感じるアンバランスな温度が気持ち良いほどだ。寒い中で食べる温かいものはそれだけで美味い。逆もいえるよな。こたつでアイスみたいな。


しかし、私はこの時取り返しのつかない過ちを犯していたことに気付く。


「おっちゃん、キャベたま、あんかけソバ、小ライスね」


私の隣に客が座ったのだ。当然この客は風避けになる。私を取り巻く美しき黄金空間に歪みが生じた瞬間だった。さすがの私も角席に陣取らなかったミスに悔恨を禁じ得ない。しかし、座ってしまったものは仕方あるまい。この反省を次に生かすしかなかろう。私はただ下唇を噛み締めた。


生じた歪で味も変わる。私の敗北の味をごまかすかのように優しくとろけたあんを口に運んだ。


この味は少し間宮さんの料理と似ていた。食べる人のことをとてもよく考えた味だ。味わって食べる私にはこういうのが効く。

北方鎮守府にいた時に神風が作っていた飯も好きだったけどな。炊事やったことないけど、がんばって精進してる、という成長を日々感じさせる微笑ましい味だ。


「へいお待ち、キャベたま、あんかけソバ、小ライスね」


お隣の客の注文が届いた。


「いただきまーす!」


若葉「な、ん……だと……?」


私は思わず至高のあんかけソバを食す手を止めた。


といえばこの驚きの程を理解してもらえるだろうか。


おわんに盛られたライスには小山が出来ている。小ライスの量は明らかにそこらのチェーン店の大よりも量がある。私の度肝を抜くのには十分過ぎた。これだ。なぜ私はこの不確定要素を計算しなかった。こういったイレギュラーこそが個人店の醍醐味じゃないか。


なにがラーメン個人店の通だ。私は顔から火が出る思いを味わう。


きっと私の罪深き奢りを食神が見ていたのだろう。

選択を誤った私に食の神が下した罰はこれだけでは終わらなかった。


隣の客が妙な食べ方を始めたのがきっかけだ。キャベたまの卵を口に運ぶと、あんかけソバのあんをすくい、ライスとともに口に運んだ。ソバを除く全ての料理を一斉に口に運ぶ。私にとっては許されざる暴挙、この絶妙なバランスを誇るあんかけソバへの反逆だと認識するのは至極当然といえよう。


だが、実際はどうだ。

間違っていたのは私だった。


その食し方は、例えるなら錬金術。

あのキャベたまのとろふわ卵、そして餡、小ライス。

その三つを同時に口に含むことによって、注文もしていない新料理が錬成されていた。


そう、私が断腸の思いで注文を取り止めた天津飯である。


その手があったか。あの注文法なら同時に個々で味を楽しめ、合成によって天津飯も楽しめる。キャベツのおまけつきだ。私は大至急、メニュー表を確認する。キャベたま、あんかけソバ、小ライス。「そんな」思わず声が漏れた。


あんかけそばに+250円のお手頃価格――――!


無論すぐにセットメニューの確認もした!


日替わり定食はチンジャオロースと大ライスと白湯スープだった!


あんかけにあんかけのセットメニューはどこにもない!


つまり店が意図していない注文法神への反逆、製作者の予想を越える一手――――!


然るに完全なる私のD敗北。


私の正解は一つだけだ。このあんかけソバがまごうことなき当たりの逸品だったということ。私は隣の客と店主の腕前に敬意を払いながらじっくりと味わい、残すことなく完食した。


若葉「ごちそうさま」


4


それにしても妙な店だな。


出入り口の近くには新聞や漫画が置いてあった。日ハム優勝の見出しが見えた。漫画のラインナップはジャングル大帝とかあしたのジョー等々で古かった。私の地元のラーメン屋でも漫画は大抵そう昔のではないジャンプ系が多かったんだが、店主の私物でも置いているのだろうか。


お隣の客は飯を食いながらドリームトーナメント編を読んでいた。これは最近のやつだな。そしてお隣の女の風貌もどこかで見た記憶があった。短めな黒髪の可愛い若い女だ。私も人のことはいえないが、こういう店に一人で飯食いに来る若い女は珍しいんじゃないか。私の知人などそう多くはないし、テレビに出ているやつのこともあんまり知らないから軍かな。記憶を掘り返してみた。


若葉「あ、軍の適性データ……」


すぐに思い出した。軍が公開している適性者のデータは季節ごとに遊び心でデザインされる。この服装は秋の季節グラの服装だった。そこまで行くと名前まで辿り着く。


若葉「……川内?」


ドリームトーナメント編のナイター戦を読んでいる辺りもそれっぽい。


川内「おろ、やっぱり変な世界を形成しているのは君か」川内はこちらに眼を向けない。漫画を読みながら食べて喋るのもどうかと思うので私は「食べてからにしよう」と提案した。


川内「6駆だったっけ……?」


若葉「……若葉だ。口を開けばすぐに判別できると思うんだが」


提督にも間違えられたし、そんなに雷や電と似ているのか。まあ、それならそれで私も捨てたもんじゃないと自己評価の低い容姿に自信を持てるのだが、それはさておきだ。


若葉「川内なんだな。どの世代の川内だ?」


川内「第一世代」


嘘だろ。第一世代っていうとメモリーの川内じゃないか。頭の中が処理し切れない疑問符で埋め尽くされた。スペックが低いせいでどれから先に整理していいのか迷った。なぜ、第一世代がこの疑似ロスト空間にいて私の目の前に現れたんだ。これ、提督勢に報告必須の大事件だろう。


川内「現海界している訳じゃないんだよね。形は保っていられるけど、メインサーバー君が変な状態で放しちゃったからさ、そのまま疑似ロスト空間でさまよってたー。今を生きる人間の想を感じ取ったからふらふらと流れ着いたんだけど、他の仲間とはここを灯台代わりに集合できるかな」


若葉「他の仲間ってもしかして、島風、大鳳、清霜、武蔵、矢矧か?」


川内「そうだね。矢矧さんだけは見つけておきたい」川内は腕を組んで低い声で唸る。「あの人はめちゃくちゃ怒っているからね。なにか問題を起こす前に合流したいんだけど」


若葉「メインサーバー……?」


川内「ところであなたの世代は?」


若葉「北方鎮守府所属の最終世代の若葉だ」


川内「最終世代……?」


若葉「全海域から深海棲艦の反応消失、戦争は終結した。対深海棲艦海軍の勝利だ」


川内がちびちびと飲んでいた水を噴き零した。


川内「あの当局を倒した……?」


反応からしてそこらの記憶はないようだ。


若葉「詳しく教えてやってもいいが、条件がある」


川内「なに?」


若葉「失念していたのだが、私は財布を持って来ていない」


川内「仕方ないなあ……」


若葉「助かる。ごち」


私達は店を出た。


5


川内「情報の処理が追いつかない。中枢棲姫勢力にロスト空間に違法建造、キスカ、鹿島艦隊の悲劇、仕官妖精による深海妖精可視才の選別、海の傷痕大本営襲撃に、想力、最期の戦い」


メインサーバーという単語を出したからにはある程度の情報も持っているかと思えば、そうでもなかったようだ。信じられない、といった顔をしている。最初期の人間からしたら未知の情報ばかりだろう。


あの頃は拠点軍艦の全盛期で、それはメモリーの最期が示す通りに、深海妖精の反転建造システムによって深海棲艦が艦兵士だった頃の記憶を残し、拠点軍艦を優先的に潰すようになった。教科書ではコスト削減のために拠点軍艦の製造が縮小されて、各鎮守府からの出撃、安全海域はかなり限定された暗黒時代に突入する、その被害は人類の文明発達を百年遅らせた原因といわれるほどだった。あれさえなければ今の私達はもっと発達した文明だったに違いない。


今の街並みを見て、これ以上、未来化してもな、と思う。ロボットとか増えるのかね。


川内「でも戦争終わっちゃったら艦娘や今の丁丙乙甲はどうするのさ?」


長く話したためか喋るのが気だるくなってきた。

その問いには完結に答えた。


若葉「軍は解体されるが、新組織となるとか」


大淀から聞いた話ではあるが、対深海棲艦海軍は解体されるが、無くなる訳ではなかった。元帥いわく、自衛隊とはまた別の軍を創設することになるとかなんとか。そこのメンバーに今の提督勢を置きたいようだが、彼等がそれを受けるかどうかは微妙なところだった。少なくとも甲大将は実家に戻るといっていたな。戦争が終わったら家督を継ぐという約束があるとか。准将も使命を果たして海にはもう興味ないし、なにか次の準備を進めているとか聞いたな。


准将のほうは難しいだろうな、と思う。一般人に戻るにはあまりに情報を持ち過ぎている。国家機密となる情報を国家より先に掌握しているから、制限された人生を送る羽目になると思う。英雄の最高勲章はそれほど重い。最も提督に関わらず他の連中にもいえることだがどうなることやら。


川内「私達はメインサーバー君から瑞穂と神風と響を始末しろっていわれているんだよね」


若葉「はあ?」


川内「事情的にメインサーバー君の暴走に過ぎないみたいだ。別に問題ないんだよね?」


若葉「ああ。それと、これだけは聞いておく」


私は聞いておくべきことを聞いた。


若葉「お前らどうするんだ」


川内「興味ないかなあ。消えといたほうが良さそうだからそうしよっかな。私が戦う理由もなくなったし、私が守ると決めた人々も、もうそっちには一人もいないだろーし。役目は果たした」


こんな風に意識があるのに、生への執着がないのはよく分からないな。あんな最期を遂げておいて世に未練がなくなるものなのか。死んだ人間とこうして会話しているってのがおかしいか。それを考えると、もはや私の中の死生観は真新しく塗り変わってゆく他なかった。


川内「私達が生き返ると不味いだろうし。それって特別扱いなわけで、街を見ている限り、無制限に死人が蘇って許容される社会体制じゃなさそうだ。死んだんだから死なせろよって」


全くだ。川内達はとんでもないことに付き合わされているよな。


川内「ところで若葉は学び舎になんか用事あるの?」


若葉「ん?」

なんだこれ。真っすぐ歩いていたのにお姫様のいる学校に戻って来ているぞ。


6


若葉「そういえばどうやってここから抜け出せるんだろうか」


川内「分からないかなあ。准将さんは最後の海ではどうやって抜け出したの?」


若葉「確か深海妖精……仕官妖精の機能を利用して戻ったはずだ」


考えなしでロスト空間に来てしまったことを後悔する。確か資料を読んだ限りロストした状態では海の傷痕すら探知が難しく、現海界してわざわざ電達をメンテナンスしに出向いたという話ではないか。私はそこまで仲良くしているやつはいないので准将が電を呼び寄せたように私を呼ぶ真似が出来る相手もいるとは思えなかった。冷静に頭を回すとピンチでしかない。


若葉「初霜を誘って良かった。合流できたらあいつの力でなんとか出来るかもしれん」


川内「本来なら入るのも妖精の力ないと無理なんだけどね。その子、妖精なの?」


妖精ではないけど、思えば廃のやつって妖精みたいなところあるんだよな。神風も初霜も准将も電もきっとこの海における想いは純粋無垢で、まるで妖精のように純粋に役割をこなしているような印象を受ける。


若葉「海の傷痕の経過程想砲を即興で相殺したり艤装を創作したりしたやつ」


川内「私達が瞬殺された装備……その子、化け物じゃん……」


若葉「しかし、なぜ私達はこの姫様に拘束されているんだろうな」


帰宅した姫様は家で話をしている。話の内容的にどうもこの豪勢な家には父親と二人で暮らしているようだ。仲も良さ気だった。それにお姫様は会話の仕方一つ取っても上手だ。この私と正反対の彼女は正しく初霜を彷彿とさせるが、あいつは確か親は二人ともいたはずだ。


一体、このどこかの誰かの想は一体、私を閉じ込めてどうしたいんだろうか。


私は外の空気に当たろうと、踵を返して家からお邪魔した。


夜の空気を吸い込みながら、ずらりと並んだ建売住宅の灯を見つめてぼけっとする。高級住宅街というだけあって目を惹くデザインの家や庭、そして車庫には高級車ばかり停まっていた。


軍に来るまでの私はこういうのに憧れていたっけな。算数の勉強のためにどうせなら、と家計簿を電卓使わずにつけてみたことがある。子供ながら見たくなかった現実を思い知らされたような気分になった。


提督の建国の夢も今は悪くないんじゃないか、と今は思う。


ロスト空間で国を作って過ごすのも穏やかな暮らしは出来そうだ。繁栄は長く続かないだろうけども、一時でも幸福であれたのならそれでいいと思うのだ。そこで王様なんて絶対にやりたくないけどな。私が王だったら平和を保つために人類を選別する。私が許容できない奴らは全員、追放だ。そう考えると、やっぱりこの頭ブチ抜いて私が資源になったほうが手っ取り早いという結論になる。当局はそういった破滅的な輪廻の性質を見抜いていたからこそ、人間の本質を錬成しようとした。


やろうと思えば、向こうの世界でも出来そうだ。


世間じゃ魔法だの宝だの真実だの騒がれている想力も、ただ私達の知らない空間があったってだけの話だろ。同じ地球で新たな大陸で新たな文明を発見した感じに近かった。川内達がこの現代の街を見て驚くのと同じことだ。海の傷痕が持つという想を質量化するということ自体がそうで、人間はもともと頭の中を夢に質量を与えて具現化することができるんだから。


改めて考えてみると、この景色もそうか。


私とはまるで真逆だから初霜の想を映していると思っていたけど、違うな。私はそれほど初霜が好きなわけでもなかった。むしろどちらかといえば嫌いな部類だ。それでも不思議なやつだったので興味が出た。


確か初霜の親は生きているし、本人いわく都会というほど都会に住んでいたわけでもなく、特別なお金持ちな家だったわけでもないので、今の風景とは矛盾している。


裕福、人気者、頭が良い、女の子らしい特技を持っていて、ズボンよりスカートが似合う。


どちらかといえば、矛盾していないのは私のほうか。

私の理想を映しているといえばこの風景の全てに辻褄は合ってくる。あの仮面の下のお姫様の顔は私じゃないだろうか。あのお姫様の声は私なのではないか。くっだらない私の部分をなぜわざわざ映すのかは知らないが。


私はこんなものが取るに足らないモノだと知っている。外に出れば嫌がおうにも誰かと比較されて思い知らされてきた。テストの点数が悪くても、志望の私立に落ちたても、それは私の頭が悪いという訳ではない。絶対にそうだ。


だって、そうだろ。

だって、は言い訳の接続詞じゃない。


だって、あの准将だって学校のテストの成績が悪かったんだ。裕福でもなかった。帰る家すら失った。親と死別したが、親に捨てられた訳ではない私よりも環境は悪かったといえる。深海妖精だって当時は失笑の対象となる存在だった。まごう事なき馬鹿だし、准将も認めていた。


きっと馬鹿には馬鹿の学び方があるってだけだろ。


あの人は学校以外でたくさん勉強していたからこの海の真実を暴いて見せたんだ。自分が信じたことを信じ続けて行動したのみだった。きっと馬鹿はそれくらい馬鹿にならないとダメなんだ。


でも、不思議だった。


私だって若葉適性というきっかけをつかんで離さなかった。あの日から鼻で嗤われるような理想を私なりに信じて実践してきたつもりだ。結局、花は咲かず、戦果はないに等しかった。私と准将の違いはなんだろうか、提督と艦娘の違いか、男か女か、それとも私がまだ足りなかったのか。


何の犠牲もなく、海を取り戻せたらいいなって。


誰も殺さず、味方も傷つかず、戦争を終わらせる。


あの日の父の言葉に従った。orの取捨選択じゃなくて、andを選択し続けた。


困った人だって助けたし、なるべく親切にしてきたつもりだ。


信じた道がしょせんは幻想だっただけなんだな。

戦争が終わって、そりゃそうだ、と夢から醒めた。

相手がまともな人間ならば会話で平和的解決も出来た。深海棲艦からすれば、艦娘のほうにいて私達を殺す兵装をまとった奴がなにをいっているんだ、という感想だろう。


私の理想は夢ではない。ただの甘ったれた幻想だ。


だからこそ今の景色は喧嘩を売られているようで不愉快だった。


私は家の中に引き返した。


艤装使って私自身を自傷して意識を飛ばすか。それかあのお姫様でも吹き飛ばせばこの景色は消えるんじゃないだろうか。


【11ワ●:若葉の過去】


初霜「訳が分かりませんね……」


しばらく様子を見ていたけど、この空間はその子の家ではないようだった。あれから従者がお姫様を叱って、つまみ出していた。そしてお姫様はとぼとぼとこの空間から出た。


外に広がっているのは人工物の少ない田舎寄りの風景だった。雑草が生い茂り、歩道に伸びて、一人が歩くのに精一杯の幅の小道だ。その細道の先の景色は陽炎で揺らめいている。


季節は夏なのかな。ひまわりも咲いているし、外の気温も夏の熱気を思わせた。それに女の子の服は制服に変わっていた。あの生地の薄さは夏服だろう。


女の子はその道の先にあったT字路を右に折れた。その先にあるのはトタン張りの歴史を感じさせるアパートだ。その表では麦わら帽子をかぶったおばあさんが草むしりをしていた。女の子は無愛想な感じで会釈して、玄関を潜っていった。


女の子は溜まっていた洗い物を片付けると、大量の服が入った洗濯かごを持って裏手の庭のほうに出た。外にある洗濯機に洗濯物を入れると、スイッチを押して家の中に戻った。


カバンから筆記用具と問題集を取り出して、ちゃぶ台の上に置いた。勉強を始めるようだった。


というかやっぱりこの子って若葉だよね。ペンを持つ時にくるくるっと手の上で回すのは若葉の癖だと知っている。私も真似したことがあったけど、あれけっこう難しいんだよね。


若葉だと確信したら、その女の子の仮面にヒビが入ってパキン、と割れた。


やっぱり若葉だ。私が初めて見た時の若葉と同じだ。もしかして若葉が軍に入る少し前の日常なのかな。

だとしたら少しだけ気になった。私は若葉が対深海棲艦海軍に来た理由を知らない。なんだか勝手に知ってしまうのは悪い気もするけど、若葉は私が軍に来た理由を知っているし、お互い様だからいいよね?


若葉「……はあ、私は頭が悪いな」


若葉がペンを投げ出した。ノートをちらっと見ていたが、同じ漢字をびっしりとノートに書き連ねていた。そういえばアカデミーの頃にどうやったらそんな一回で物事を覚えられるのか、と聞かれたことがあった。私は上手く答えられなかった。


若葉が漫画に手をつけはじめた。読み終えると、マジックペンで手の甲に魔法陣みたいな模様を書いて変なポーズを取った。なにしているんだろう。やっぱり若葉はよく分からない。


若葉「あ、セールの時間か。まだ間に合うか……?」


二時間くらい勉強した後に、財布を持って家から抜け出した。


アパートの裏手を少し進んでいると、次第に緑が少なくなり、建造物が多くなってゆく。セールというのはスーパーの夕方のタイムセールのことのようだ。


交差点が赤信号に切り替わると、若葉は歩道橋のほうに走った。その階段ののぼりの途中、少し若葉の走る速度が落ちた。杖を突いているおばあちゃんがいた。手提げかばんの荷物が重そうだ。若葉はぷいっとそっぽを向いて速度をあげた。


あれ、と思った。今日の朝に同じことあったけど、その時の若葉はおばあちゃんの荷物を持ってあげていた。この時の若葉はちょっと今より優しくないのかな。それともそれほどタイムセールが大事なのだろうか。私はおばあちゃんの荷物を持ってあげて、歩道橋を渡った。お礼にあめちゃんをもらってしまった。ありがたくそのレモン味の飴玉を口の中で転がして、スーパーに入った。


なにやら棚の前で、傷を負った戦士のように片膝をついていた。そのタイムセール品の棚は空っぽだ。お一人様一つまでの卵パックだ。これを取り逃してしまったからか。


若葉は力なく立ち上がると、かごを手に取って、野菜コーナーのほうに行った。なにやら商品を見てずっと立ち止まっている。家事をしていたし、ご飯も若葉が作るのかもしれない。立派だ。若葉は食品の中でお得な値段の割引商品を籠に入れていた。


大量に積み重なったキャベツの前で立ち止まった。主婦達が良いキャベツを選別しているので選び終わるのを待っているようだ。キャベツコーナーが空くと若葉は選別することなく、手前の端っこにあるキャベツを手に取った。また悩むかと思ったらそうでもなかった。


謎だ。若葉が選んだのは主婦達が乱雑に選別していたせいで表面が破けたり、角に追いやられたりしていた粗悪品だ。なぜそのキャベツを手に取ったのだろう。若葉って昔からこういうよく分からないところがあったのかな。


私がその疑問を考えていると、若葉がいなくなっていた。

ああ、しまった。私もこういうところ直さなきゃ。一つのことに集中しているとその他のことは頭から弾かれてしまう。気付けばあれから三十分も経過している。この癖は本当になんとかしなきゃダメだ。


比較的、人気の薄かった冷凍食品のコーナーを抜けて、お菓子のコーナーに差し掛かったところで、私は足を止める。目立つ子がいる。黒い髪の子供達より頭一つ分大きくて、一人だけ銀と灰色の中間のような髪色をした子がいた。あの制服は確か。


初霜「夕雲型の清霜さん……?」


声をかけてみるが、反応はなかった。キラキラと輝いた眼でお菓子に夢中のようだった。その代わりその隣の茶髪の子供が振り向いた。いや、子供じゃない。あの茶髪と髪型と顔立ちは。


大鳳「あ……初霜、さんかな? ようやく想の映し主と出会えた、のかな?」


同じ艤装の適性者にもそれぞれ個性があって、似ているだけで全く同じなわけではない。あの雰囲気、そして顔の形、メモリーの二人と瓜二つだった。見間違いではなさそうだ。


初霜「最終世代の初霜です。大鳳、清霜、ともに第一世代の英霊とお見受けしましたが……」


大鳳「そうです、ね。事情はお互い把握していないようなので、まずはお話しましょうか」


大鳳さんは清霜さんの腕を取った。行くよ、と駄々っ子にいい聞かすようだった。なにやら食べたいお菓子があるようでてこでも動かないといった風だった。私はポケットに入れたままの財布を抜き取った。使えるといいのですけど。結果は使えました。


清霜「ありがとー!」


大鳳「すみません……」


初霜「いえいえ、お気になさらずに。お茶菓子もなく長話も口寂しいですからね」


2


大鳳「戦後復興妖精さんが復活してそんな訳の分からないゲームを……そんな遊びに興じるような人ではなかったと記憶しているのですけども……まあ、メモリーの話を聞くに出会った時とは性格が変わっていても不思議ではないん、ですかね?」


最初は敬語とか使っていなかったけど、それも覚えていたし、コーラを好きになって、釣りなんかもやっていた。段々と個性が芽生えていたのは確かだ。人を騙すことを楽しいと感じていた辺りから、なんだか本当に当局の娘だ、と思うくらいには性格が似ていていったかな、


清霜「本物の島風さんとは話したよね。戦後復興妖精さんのほうが主にあの島風さんだって知った時は驚いたよー。マリアナの時にやけに優しい拳骨くれたほうが本物の島風さん。でも戦後復興妖精さんのほうにも会いたいなあ!」清霜さんが楽しそうに笑った。「それに今の技術じゃもう戦艦になれそうだし!」


初霜「なれちゃいますね」


実際、私も適性率のトリックを使って提督に飛行甲板を仕込まれて戦ったことがある。艦これのシステムを改造すれば、清霜さんも戦艦艤装をまとえるに違いなかった。


大鳳「あっ、あそこにいるの若葉さんじゃないですか?」


本当だ。若葉だ。賑やかな商店街にぼけっと突っ立っている。放心状態なのは恐らくその商店街に並ぶ商品のお値打ち価格だろう。スーパーよりもお得な商品がたくさんあった。なんだか開店セールと書いてある店も多いし、若葉も知らなかったようだし、新しくお店が出来たのかな。


初霜「す、すごいです。揚げ物が20円で売っています……!」


清霜「安いのそれ?」


大鳳「私もスーパーに入った時には私も目を丸くして放心していましたが、お会計場でのやり取りを見る限り私達の時代の10円と今の時代の10円は違うと分かりましたけども」


初霜「お二人の頃は50銭硬貨とかがあった時代ですもんね。今はありません。一番小さい硬貨は1円玉で、大きな硬貨は500円です。正確ではないですが、価値的にいえばお二人の時代の10円が100円程度ですかね」


清霜「500! 10倍!? 私が触ったことのある一番大きなお金は100円玉だったよ!」


清霜さんは新鮮でオーバーなリアクションをするので面白いですね。


あ、若葉がお肉屋さんのほうにいった。豚肉を買って店を後にした。お店の気さくなおばちゃんがしゃべりかけていたけど、若葉は「はい」とか「うん」とかいう簡潔な言葉だけを返していた。学校で女の子に囲まれていた時も思ったけど、人見知りとか恥ずかしがり屋なのかな?


そう思ったけど、実はよく喋る子だった。家に帰った若葉を見て知った。


3


晩御飯の用意も若葉がするようだった。手つきがこなれているけど、ちょっと作り方が大雑把で男の人が作る料理みたいだ。食卓の上に並べている途中で、男の人が家に入ってきた。痩せた男の人だ。ちょっと提督と背丈と肉付きが似ていて、中背小肉といった感じだ。


会話からして若葉のお父さんのようだ。


若葉「そういえば私のこの間のテスト、平均で56点だった」


お父さんが笑う。「平均点越えました?」


若葉「ギリギリ。毎日六時間ほど勉強してそれだと頭が悪いと思うぞ。私より下のやつは勉強していないだけで私と同じ時間、勉強したら抜かれると思う。高望みした私立も落ちたし、頭が良くならん」


何気ないどこでもあるような会話が繰り広げられていて、胸が温かくなる。ただちょっと変なところもある。「そういえば浴衣、一度も使ってないですよね」といった。お父さんが娘に対してなぜか敬語を使っていることだ。ちょっと変わったお父さんだ。若葉はその問いに「一緒に行く友達いない。その話は止めてくれ」といった。お父さんは「ごめんなさい……」と謝った。「それならお父さんと行こう。ちょうど今日、祭りやっていたはずですし」若葉は嫌そうな顔をしている。


「お酒も飲みたくなってきましたし、付き合ってくださいよ」


これはきっとあれですね。授業参観に親に来て欲しくないのと似たような心境ですね。子供が大人の入り口をくぐる時にはよくあることのようです。私はよく分かりませんけど、そういう年頃なのでしょう。


お父さんに押し切られて、若葉は渋々といった風に頷いた。ここはアカデミーの頃と同じかな。割と押せば折れる。でも何回も使うと露骨にスルーされてしまうようになる。私が若葉の言動についてしつこく「なぜ」と聞いていたら、無視されてしまったことがありますので。


若葉はトンボ柄の着物に着替えて、お父さんと一緒にお祭りに出かけました。


清霜「ねえねえ初霜ちゃん、これって学校のテスト?」


初霜「え、はい。そうですね」


大鳳「映し想とはいえ、あまりそういうのは見ないほうが……まあ、今更ですか」


テスト用紙だった。若葉がさっき話していたやつだ。平均すると52点だ。


大鳳「というか後を追いましょう。あの子の想なんですよね?」


初霜「そうですね。その気になれば抜け出しちゃえそうな気もしますけど」


最期まで観よう。ごめんね、とここにはいない若葉に謝った。


ノートもぺらぺらとめくって見た。漢字が羅列しているけど、右端に絵が書いてあった。女の子の絵だ。あ、これパラパラ漫画かな。パラパラとしてみる。一人だった女の子を中心に周りに人が増えて行ったり、百点を取ったテストを掲げていたり。多分、私立の中学校の制服を着ていたり。


少し若葉のこと分かってきたかも。私と出会う前の若葉のことをもっと知りたいな。


私、少し悪い子になっちゃったみたい。


4


町内会のお祭りかな。


赤土の広い公園で催されていた。祭り用の提灯がたくさん並んで周囲を赤白く染めていた。ちょっと古い曲が流れていて、ほろ酔い気分の大人が笑う声、子供達がブランコを漕ぐ音、太鼓の音が賑やかな夜の喧騒だ。

あ、清霜ちゃんがわたがしの出店のほうに行ってしまった。


初霜「ええ、はい。私が奢りましょう」


大鳳「いえ、さすがに……」


清霜「見ているだけでいいよ! 雰囲気を楽しむのもお祭りの醍醐味だからね!」


よだれ垂らしながらいわれても。


初霜「あ、それなら代わりに私のお願いを聞いてもらうというのは?」


清霜「了解!」びしっと敬礼をする。


初霜「ちょっと今の提督勢とお話して欲しいんです。きっとあなた達と会って話すのは収穫になると思うんです。最初期って謎が多くて、今は戦後処理の一環で改めて真実を洗い出していますので」


清霜「お安い御用だよ。知っていることしか話せないけど、それでいーい?」


初霜「もちろんです。大鳳さんもその条件でどうでしょうか。横須賀で旗艦をやられていたのなら、あの頃の軍について多くの情報を持っていると思いますし」


大鳳「すでに故人である私が必要というのなら構いません。私もお国に心臓を捧げた身としては提督を含め、あの当局を倒した最終世代の方々を会ってみたい気持ちはありますからね」


ならよかった。

さすがにこの人達と出会ってお別れはもったいない。


清霜「若葉ちゃんずっと机でなんかしているね」


清霜さんの視線を追った先に若葉がいた。眉間に皺を寄せながら切り抜きしている。興味を持った清霜さんが若葉の隣に行ってじいっと見つめているけど、若葉は気付いた様子もない。やっぱり私達の存在って幽霊みたいなものなのかな。おばあさんの荷物を持って飴をもらえたり、物を変えたり、こちらの人々に干渉できるけど、生じる不都合は都合良くなかったことになるようだ。


大鳳さんはあちらこちらに走り回る清霜さんを追いかけるので大変そうだった。


若葉は結局2時間くらいずっと切り抜きしていた。それも一番、難しいやつ。お父さんに帰るとの声をかけられた時「今日の買い物のヘマを埋める挽回策が」と悔しそうにいっていた。


その帰り道、またまた重そうに荷物を持つご老人に遭遇した。


スイカを持っていた。お父さんのほうがスイカをすぐに持ってあげていた。どうやらご近所の人のようだった。若葉は二人の後ろについて歩いていた。表情は色がなく感情は読めなかった。木造の平屋の前でおじいちゃんと別れのあいさつをして、家路についた。


緑が増えていく細道に出ると、若葉の足が止まった。


大鳳「あ、犬、ですね」


清霜「怪我してる?」


ぐったりと倒れたままで眠っている野良犬さんのようにも見える。呼吸はしていたが、よく観れば前足の毛が濡れている。夜のせいでそれが血かは分からなかった。若葉はすぐに歩き出した。犬を助けようとしなかった。「あれ」とお父さんのほうが足を止めた。「犬?」


若葉「助けてどうする」若葉は抑揚のない声でいった。「動物殺すあの職場に連れて行くだろうから私は気付かない振りをしたんだ。見た感じ歳も取っているし、引き取り手は見つからん」


「怪我はそんな酷くはないですね。ちなみにこの毛並みの良さは野良でも最近まで飼われていた


のかもしれませんね。とにかく、こういう子を見て見ぬ振りをしてはダメですよ」


若葉「そういうやつを殺す仕事しているやつのいう台詞か?」


「それとこれとは話が別です」とお父さんは教育をするように厳しめな口調になった。「さっきのおじいさんもそうですけど、助けてあげないと。直面した問題がどういった方法であれ、解決できるのなら仕方ないから、で済ませるのは感心しませんね。こういうところの逃癖は良くないです」


若葉「そうは思わん。私は物分かりも物覚えも悪いぞ。それなら実際に助けてみろ」


若葉ったら、けっこうな不良ですね!


お父さんは間違っていないのに、その態度はどうかと思う。


お父さんは犬の足に添え木とハンカチで応急処置をすると、犬を抱え上げる。家の方向とは違うほうに歩いた。あっちは確か私がこの世界に迷い込んだスタート地点の、記号星人の施設のほうだった。でも今になって見ると、その施設はハッキリと現実味のある建物に変わっていた。


保健所、だった。


もしかして、あの四つん這いの記号星人達は動物、だったのだろうか。もしかしてあの記号星人は殺処分されていた、のかな。胸がちくりとした。頭では分かっていても、向きあいたくない現実だった。


それからお父さんは明かりのついていた部屋に入った。そこにいた職員に事情を説明して、どこかに連絡を入れていた。三時間くらいかかった。若葉はじいっと椅子に座ってその様子を眺めていた。そんな若葉にいった。「別の保健所の施設で引き取ってもらえることになりました」


若葉「結局、助けられていないじゃないか」


「世の中には色々な人がいるんですよ。ああいった老犬を優先的に引き取ってくれる方もいれば、最期まで看取ってくれる保健所もあります。信頼できる方達なので大丈夫でしょう。うちの保健所ではそれが出来ませんが、とにかくあそこで野垂れ死にはしない結末にはなりました」


若葉はしばらく無表情で黙っていました。時計の秒針が一周した時、


若葉「逃げちゃだめなのか? 解決しなきゃだめなのか?」


真顔でそう疑問を口にした。


「ダメ、とかじゃないですよ。逃げたら嫌ですか? 解決しなきゃ嫌ですか? 諦めるか諦めないか。答えはあなたが決めることです。自分的には困った人を助ける子に育って欲しいのであんなこといいましたけど、そういう教育だから、だとは思って欲しくないです。自身の心に訊ねること」


また若葉が黙り込む。自分の胸をじいっと見ていた。多分、自分の心に訊ねているのだろう。


「あなたは自分の子ですからね。きっといつか損得で考えてしまうようになるでしょう。取捨選択のorの思考に陥るのでしょうが、常にandの心意気のほうがいいです」


若葉「ごめん。分かったよ。次から助ける」


若葉はそういって笑った。初めて笑ったところ見た。


スマホ持って来ていて本当に良かった。想は映像や写真に映りますしね。


ばっちり記録しましたよ!


5


朝日がのぼって、若葉が早くに起きて家事を始めた。


玄関に挟まった新聞紙と封筒を取って机の上に置いた。

適性検査施設からの封筒があった。恐らくよくある健康診断のついでに、のパターンだろう。若葉は私が観察を始める前に、適性施設には足を運んでいたようだ。


ああ、しまった。


ついつい珍しい若葉に夢中になってしまっていたけど、これはあくまで過去の出来事なのだ。若葉の家庭は円満なのに、なぜ若葉は艤装を身につけて戦争に来たのか。ここの辺り比較的明るい理由があるのは四人しか知らない。親孝行といった卯月さんと、陽炎さんを死なせないため、といった不知火さん、困っている人の助けになりたいといって来た雷さん、そして誰かが死ぬのは悲しいから、の電さんの四人だ。

きっとここから若葉の日常は崩れてゆく。


大鳳と清霜さんは無言で景色を見ている。


二人はなんて思うのだろう。現代はあの頃のように強制連行されることなんてないけど、やっぱり子供が戦争に参加するような状況で幸福を思い描くとは思えなかった。


若葉は適性検査施設の封筒を雑に破いて、中身の書類に目を通す。やっぱり適性のことが書いてある。


若葉はお父さんのパソコンの電源をつけて、対深海棲艦海軍のことを調べていた。

え、と私は思った。若葉は「どうしよう。行ってみようかな」と呟いた。訳が分からない。わざわざこの幸福な生活を捨てて海の戦争に関わる理由がどこにあるのだ。わるさめさんと同じように、親の助けるため、といった考えかな。でもわるさめさんだって、止むを得なかった事情があったからなわけで、今の若葉を取り囲む状況にそんな理由なんて一つも見当たらなかった。


結局、理由は分からずしまいだった。


6


そして幸せが崩れるのも一瞬だった。


あ、と私と大鳳さん達は同時に声を漏らした。すぐに反応したのだが、この手は若葉をすり抜けた。代わりに若葉の腕を取って投げ飛ばしたのはお父さんだった。思わず私は眼を背けてしまった。その先にあったのは立ち入り禁止の建設中の工事現場だった。高いところから鉄骨が落ちてきた。


7


景色は瞬きの後に変化して、病院になった。


若葉は横たわるお父さんのそばで丸椅子に座りながらじいっと見つめている。ずっと、だ。面会謝絶の時間になっても許可されていたのはきっとそういうことだろう。朝日がのぼって、誰かがやってきた。学校の先生らしい。若葉に優しい言葉をかけていた、若葉は答えず、じっと見ていた。お父さんの職場の人も来た。若葉の隣にそっとついてあげていた。深夜になると帰った。その翌日に若葉の親戚が来た。見知らぬ男の人が二人きた。親戚の人と男の人達は病室から出た。思わず身体が震える大人の本気の怒鳴り声が聞こえた。


二回目の夜がやってきた時だ。


若葉はうつむいたまま。ベッドの上のおとうさんの口が動いた。目はかすかに開いている。


なにか、しゃべった。でも、若葉は動かない。


警報が鳴る。ベッドサイドモニターの波の線が直線になった。


しばらくして若葉が「うぇ」と泣き声をあげた。


8


それと同時だ。景色に穴が空いた。


若葉「そんな夢中で観るほど興味あったのか」


若葉だった。触れてみたが、触れるし、胸の鼓動もあった。本物のようだ。


初霜「ご、ごめんなさい」


若葉「私は初霜の過去を知っているし、お互い様だろう」


初霜「……」


若葉「長く喋ると感情的になったりして馬鹿なのがバレるからあまり長々と喋らないようにしていたが、今回は別だ。解説が必要だと思うしな」若葉は肩を竦めた。「私の能力が低いことは分かっただろう。でもよく分からないところがたくさんあった変なやつに見えたはずだ」


初霜「よく、分からないところはありましたが……」


若葉「だろうな。そこもお互い様だ」


なんだろう。この感じ。もしかして若葉、怒ってる?


若葉「適性検査施設から知らせが届いた時、こう思ったんだ。これは私の才能だって。艤装を身につけられるというのは才能だろう。私は才能に憧れていたから迷ったんだ。それを後押しするようにこんな現実が来たものだから決心もついた」


初霜「ただ艤装の適性者だからという理由だけ……?」


若葉「違う。私は戦争のことよく知らなかった。知らなかったが、ネットでこんな言葉を見たんだよ。『人を一人殺せば人殺しであるが、数千人殺せば英雄である』、『百人の死は悲劇だが、万人の死は統計である』だ。深海棲艦は化物だったが、その頃から『正体は撃沈した艦娘』という説は広く知られていたな。電の登場で主論化していったが、最初から深海棲艦は艦娘と想定していた。別に賢いわけじゃなかった。そう考えておくことで真実だった時の予防線を張っただけだ」


初霜「……」


若葉「戦争が敵を殺さなければ終わらないとは思わなかった。これが間違いだ。文化が違う程度の通常の人間ならば不可能ではないが、深海棲艦相手ならそうじゃない。それは最初期のメモリーを見て改めて思い知った。私はちょっと夢を見ていたんだよ。仕方ないだろう。私は物ごとをよく知らない子供だったんだから」若葉は項垂れたままの過去の自分の背中を見ながら、いった。


若葉「敵味方問わずに誰も死なせずに一番の戦果を挙げようかと」


そんな欲張りなandの夢。




若葉「親父のこと、尊敬していたんだ」





若葉「今目の前にいるそいつは後悔しながら、絵空事を思い描いているはずだ」



若葉「そんな前代未聞の理想的な終わりを成し遂げることができたら」




若葉「さすが自分の娘です」



若葉「私はそんな風に喜ぶ親父の顔がみたかっただけだ」



若葉「結局、私は何も成せなかった」


ちくしょう、と、悔しそうに泣き出しそうな顔も初めてみる。


分かる。若葉の夢は、絶対に実現不可能だ。深海棲艦相手に不殺で勝てるわけがなかった。実際追い払う程度に留めても深海棲艦はまたやってくる。それは他の誰かに仕事を押し付けるだけだ。倒さなければそれが延々と続くのみ。それを終わらせるためには戦って命を奪う方法しか用意されていなかった。若葉の夢は延々と続く線路の上を死ぬまで歩くに等しい。


初霜「それで撤退が多かったんですか。戦争が終わるまでずっとそんな風に考えていたのなら、もうそれは立派な兵士としての素質だと思います。自分から決して逃げなかったのでしょう?」


嘘偽りのない意見だ。


若葉「この件に関しては下手な慰めは止せ」


強い口調でいわれた。


若葉「お前はいつもそうだ。私が欲しいものをなんでも手に入れていくんだ。嫉妬と分かって努力してもなんも変わらない。私はそんなに出来た人間でもないし、出来た人間になろうとも思わん。だから今もお前を見ると辛くなることがある」







若葉「悪いな」











――――お前と仲良くするのは無理だ。







そんなこと、いわれた。


泣きそうになった。なんでなの。私、若葉になにか酷いことしたのかな。


初霜「ひどいこといいますね……」


若葉「付き合わせて悪かった。もしかしたら親父に会えるかもと思ったんだ」


目の前の景色に奇跡を願うかのように、若葉は「親父、なにかいってくれ」と小さな声でいった。応答はなかった。若葉は自嘲気味に笑って「じゃあな」と身を翻した。


想の映像が視界から消えてゆく。若葉が病室の引き戸を開けた時、そこが疑似ロスト空間の出口となった。


【12ワ●:あれだな。准将の口車に乗せられた時点で負けだな】


なんとか戻って来られたが、丙少将からこっぴどく叱られた。意外と怖い人だったな。拳骨をもらった頭頂部がひりひりと痛む。「女だから顔は殴らん。駆逐でも実年齢は高校生だろ」とのことだ。親に会おうと思ったという理由は隠しておいたが、いえばもっと手加減してもらえたかな。


ま、提督勢も他のみんなも拾ってきた最初期のメンバーに興味が向けられて、あれこれと追究されなくて助かった。


廊下を歩きながら、未来(これから)、どうしようかな、と考えていると、奇妙な二人組に会う。響と提督か。小さい響に大きい響だ。あの二人よく一緒にいるところを見かける。やっぱり似たような性格をしているか、仲良いんだよな。


ただやっていることは常人の理解を越える。


響は右手にグローブをはめながら、左手にダウジング棒を持っている。提督は左手にダウジング棒を持ちながら、ラインカーで白線を引いている。なにがしたいのかまるで分からないが、考えたら負けだろうな。というか提督は召集かかっただろうに。また丙少将から怒られるぞ。


北方提督「あ、若葉」走り寄ってきた。「初霜を泣かせただろう?」


私は二階の窓から顔を出して、応答した。


若葉「あんたがそういうこというのは珍しいな。余程じゃなきゃシカトだろう」


北方提督「別に咎める訳じゃないさ。限度はあるが好きにケンカすればいいだろう。私は常にそういう風潮さ。後々にどんな影響があろうが、その全ては若葉の貴重な経験になると信じて」


若葉「……なにしているんだ」


北方提督「小さい私と野球していたんだが、艤装ペンダントを落としてしまってね。なかなか見つからないから、ダウジングで探しているというわけさ」館内放送で「北方さん、早く来てー」と乙中将の呼び出しが流れた。「見つけたら行こうかな。そう遠くには行ってないはずだ」


若葉「そうか。じゃあな」


北方提督「ふむ、若葉が探すのを手伝ってくれないとは相当なことがあったと見た」


シカトして私は歩き始めた。すぐに足を止めた。


二階にある准将の執務室の前だった。准将には謝っておいたほうがいいか。初霜を宥めたのは准将だろうし、と考えて扉をノックした。すぐに返事が来たので、中に入った。


小綺麗に整頓されている部屋だ。うちの提督とは大違いだな。三日月が執務やっている時は整理整頓しているのだが、提督が手をつけると、おもちゃ箱に適当におもちゃを入れる少年のように乱雑に押し込むなだ。ポーラや隼鷹なんかは酒を書類にぶち撒けたりするし。


提督「あ、いらっしゃい」


若葉「先の件は悪かった。初霜をなだめてくれたんだろ?」


提督「はっつんさんは放っておくといつまで泣いているか分からないので。でも、事情ははっつんさんと第一世代の大鳳さんが教えてくださったので、把握はしております」


若葉「妙な説法は止めてくれ。私の繊細な部分だ。そういうの分かるだろ?」


提督「もちろんですとも……自分の場合は昔のお手紙の内容まで広まりましたので……」


目を逸らしながらいった。そういえば電のやつが広めまくったとかいう手紙の内容か。ひまわりがどうのこうのといった内容の読んでいるこっちが恥ずかしい純粋な内容だったっけか。


若葉「この件については繊細なだけで、自分の中ではもう線を引けてはいる」


提督「ついカっとなって妹さんに酷いことをいったと……」


若葉「そだな。初霜には落ち着いたら謝ってくる」


提督「ですね。そのほうがいい」


准将は席を立った。私を通り過ぎて、扉を開けて出て行ってしまった。私もこの部屋にいる理由もないので准将の後に続いた。廊下の先に准将がいて、腰を曲げて、手の平になにかを乗せていた。どこからか忍びこんだバッタのようだった。


暁「あ、司令官! 伊勢さんと買い物に行ってきたんだけど!」と暁が階段を昇ってきた。私服だ。この鎮守府に来てからはみんな私服ばかりで新鮮だ。「これをあげるわ」


提督「女心が分かる本……あ、どうも……」


あんな本を読んでなにが分かるのか。数学勉強しながら将来使わないだろ、と似たような感想だな。あの手の本を鵜呑みに信じるピュアさのほうが欲しいぞ。准将は「お返しです」と暁の手の平にバッタを乗せた。「なぜか足が一本多い珍しいバッタですよ」


暁が凍りついた。女にああいうプレゼントはどうかと思うぞ。


提督「あれ、暁さん虫は苦手でしたっけ……じゃ、庭に放してきますか」


准将は暁の手の平からバッタを取って、階段を降りた。


一階に降りて渡り廊下を歩いていると、門のほうから、


金剛「テ――――ト! クゥ――――!」


金剛が助走をつけてダイブしてきた。准将が芝生の上を転がる。ゴキッて音がしたけど、大丈夫か。准将の手の平からバッタがピョンと跳ねて、茂みのほうに消えた。


しかし、金剛というのはどうしてああも昼夜問わずにハイテンションなのか。しかも金剛は気付いているか分からないが、サバ折りみたいになっているぞ。


准将がスマホを操作した。すぐに霧島と比叡がやってきて金剛を准将から引き剥がしていた。そして寮舎のほうへと回収された。


若葉「お前、災難だな……」


提督「金剛さんは無自覚に技に移行するのがね……乙中将はそれで怪我してから金剛さんはダイブを控えるようになったらしいのですが、それで学習して手加減を覚えたようで怪我をしたことはないです。榛名さんいわく、抱きつかれる前に抱きつけばいいんです、とのことですが、実行したら恥ずかしがった金剛さんにエルボーもらいましてね。あれはもう対処不可能、災害に等しい……」


ああ、攻めるくせに攻められるとしおらしくなるっていう話は聞いたことあるな。


提督「ああ、そうだ。若葉さんに話があったんだ、今の衝撃で思い出した……」


若葉「なんだ」


提督「才能、欲しいですか?」


若葉「なにをいうかと思えば……そりゃ欲しい。一つでもあれば私も」


そう答えると、准将は口の端を吊りあげて嗤った。

む、その反応はムカつくな。
















提督「そんな恵まれた容姿して才能がないとか嫌味ですかね……?」










呆気に取られた。

容姿というのは見てくれのことか。


盲点だったな。気に留めたことはなかった。思えば可愛いといわれたことはある。主に提督とろーちゃんか。女所帯だったせいか、あんまり真に受けたことはなかったが、男からそうやって褒められると新鮮味があった。それになんだろうな。准将だからかその手の感想がお世辞だとも思えなかった。恵まれたとは思わなかったのは、周りのレベルが異常に高いからか?