2018-09-19 21:51:25 更新

概要

神風「この首、驚いたままの顔してる」
届かなかった約束をこの夢の中で今一度。リアル連動型艦隊これくしょんE-3がやっと開戦。「桜の花弁舞い散るようにお友達を沈め散らすことをここに誓うのです!」


前書き

※キャラ崩壊&にわか注意です。
《《艦娘の身体欠損注意》》


・ぷらずまさん 
被験者No.3、深海棲艦の壊-ギミックを強引にねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた電ちゃん。なお、この物語ではほとんどぷらずまさんと電ちゃんを足して割った電さん。

・わるさめちゃん
被験者No.2、深海棲艦の壊-ギミックを強引にねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた春雨ちゃん。

・瑞穂ちゃん
被験者No.1、深海棲艦の壊-ギミックをねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた瑞穂さん。

・神風さん
提督が約束をすっぽかしたために剣鬼と化した神風ちゃん。

・悪い島風ちゃん
島風ちゃんの姿をした戦後復興の役割を持った妖精さん。

・明石君
明石さんのお弟子。

・陽炎ちゃん
今の陽炎の前に陽炎やっていたお人。前世代の陽炎さん。

・元ヴェールヌイさん(北方提督)
今の響の前々世代に響やっていたお人。
北国の鎮守府の提督さん。

・海の傷痕
本編のほうで艦隊これくしょんの運営管理をしていた戦争妖精此方&当局の仮称。



※やりたい放題なので海のような心をお持ちの方のみお進みくださいまし。


【1ワ●:Wishful thinking:願望的観測】


War of sea is over

艦隊これくしょんは終わったよ。


Aren't you going to go home yet?

まだ帰りたくないの?


Need to go home

もう帰らないとダメだよ。


She said,We may not be able to see each other

彼女はいったんだ、もう会えないかもって。


No way

ありえないよ。


What are you worried about?

一体何が心配なんだい?


We will be fine

私達なら大丈夫さ


it’ll turn out all right

上手くいくよ。


OK.

仕方ないなあ。


I'll tell you what

じゃあこうしようか


Let's run to Horizon of the sea.

海の水平線までかけっこしよう


First to goal wins

先にゴールした方が勝ち


Let's have the greatest dream

最高の夢を見よう


I will help you as much as I can

できる限りは手伝うからさ


Let's make a wish.

願い事をしようよ。


I Hope wars will disappear from this world……,

世界から戦争がなくなりますように……


Is not

とかじゃなくてさ。


Wishing for happiness everywhere

みんな幸せになれますように


I Wish people all over the world may live in peace.

世界中の人々が平和に暮らせますように。


That's right

そうそう


I know we'll both move on

私達は別々の道に行くんだ


150 years ago all You and I are always quarreling.

150年前、あなたと私はケンカばかりしてたよね


Those were the good old days.

懐かしいなあ。


Sometimes I wish we never built this 『Lost palace』

こんな場所は作らなきゃよかったと思うときもあるけどさ

 

But――――

でも



I'll talk about this story

私がこんな話をするのは


just because it is you.

君だからだよ


Let's make a wish.

願い事をしようよ


Then,

そしたら


We'll be friends forever and ever.

私達は永遠に友達だよ。






綺麗な夢見の声が聞こえましたね。

サラさんから英語、教わったのかな?


今回の物語では大人しくしている私


こほん、と咳払いなのです。


最終世代を代表し、電から感謝の言葉を申し上げるのです。


皆さん、あの日の暁の水平線を覚えているでしょうか。


かつての大戦から繰り返した海の戦争、世紀を越えた長い長い航路を越えて拝むことが出来た私達、人類と深海棲艦との戦いを越えた先にあった黄金色の水平線の景色。


全く


私と司令官さんが出会えていなかったらこの中から何人が今日の卒業式を欠席してたか分かったもんじゃねーのです!


私と司令官さん、それにお友達の皆さんとは鎮守府(闇)でなくともいつかは出会えましたけどね。


何故ならば司令官さんと私の強い想いはこの海で必ず交差したはずなのです。だから、私が司令官さんと出会えたのも運命。


この場の皆さんも同じく、全ての絆が運命なのでしょう。


電《終わらない夢にピリオドを打ってなお、この海に思い残したことがある人、主に2名がまだ夢から覚めたくはない、と駄々をこねたのが今回の物語の始まりでした。


150年生きた人間もどきも、1つの約束のために粉骨砕身の大正ロマンさんもこのエキシビジョンで報いがあればいいのですけどね。


その報いの要素は今全てこの疑似ロスト空間にあるはずなのです。このお花畑の中にもう会えないはずのお友達も、叶えられかった約束も。きっとこの疑似ロスト空間で花が咲くのです。


この延長に延長された終わらない夢、この場にいるのは終わったのに抜錨地点から抜錨して海にいるどうしようもない船の化身どもですね。


起床を促すがごとく撃沈させて、夢から現実に返してあげるのです。


お友達の皆さんがくぐるべきは


抜錨地点から海ではなく、街へと続く鎮守府の正門。


そう思って今を見ると、艤装をまとうこの景色、足元に寄せる波も、太陽の日差しも、全てがいとおしく思えますね。


雪の日も嵐の日もドラム缶を担ぎ、運営のクソマップ押し付けられて大破しまくった姫鬼との戦いも、今となってはただの思い出に過ぎず


このグラウンドを最終世代の皆さんで見るのも本日で終わりです。最後の海で卒業証書は受け取ったくせにいつまでも正門から出ていかねーのなら、門外まで放り出すまでなのです。


さて皆さん、この春の季節、出会いと別れ。


それぞれ海に来た理由はあるのでしょうが、夢は終わりを告げ、各々あの日途切れた現実の続きに旅立つ日が来たのです。


鎮守府(闇)のルールに則り、ルール内で形振り構わず勝ちに行く。


桜の花弁舞い散るように


お友達の皆さんを沈め散らすことを


ここに誓うのです。






天津風「神風、準備はいいわね?」


神風「応ッ!」


天津風「っ」ビクッ


神風「しかしまったく、うるさいわね。島風の声のつたない発音」


天津風「へ?」


擬似ロスト空間はなに起こるか分からないのは分かっている。

刀の予備も脇差しも装備確認。

あの日、夢のために選んだ覇道に祝福を。


卒業式でも同窓会でもなく、砲雷撃出来ずとも天下無双の艦兵士になる待ちに待った晴れ舞台の日だ。


神風「復讐活劇」


神風「さあ、司令補佐、観ていてくださいね。あなたとの約束を果たすために抜錨します」


神風「Let me show you my everything!!」


天津風「発音上手ね!?」


神風「I only have eyes for you!」


神風「I would do anything to make you smile!」


神風「I'm gonna do it. I mean it!」


天津風「~~っ!?」


天津風「なんてこといってんのっ!」







丙少将「卒業式……こないだまで戦争していた軍を学校みたいにいうか……」


提督「いいじゃないですか。学生時代の友は一生の友となると聞いたことがあります。きっと最終世代の皆さんは生涯のお友達となるんじゃないですかね」


乙中将「そうそう。例えこの卒業式で友達同士、四肢を千切り合ってもお互いに許し合えるはずさ(切実」


北方提督「……さて全員を最終海域へ投入し終えたね。皆のカードがキラキラしてる。戦意高揚状態だよ」


提督「伊13さんと伊14さんが高揚してませんね」


北方提督「寝ずにクルージングさせていたから」


提督「あなたという人は……」


甲大将「念のために観戦者含めて出撃出来る兵士は残しておかなきゃな」


丙少将「悪い島風含めて最初期勢がどんなトチ狂った行動に出るか分からねえからなあ。俺が今回みなに指示した作戦はあくまで戦後復興妖精打倒を据えてるんで、観戦勢も非常時メンバーとして数えてる。それを理解して敵チームにガチで当たっても余裕を残してくれるやつが」


乙中将「青ちゃんと北方さんのところに何人いるかね……」


北方提督「そこに関してはこっちも無策ではないさ。悪い島風ちゃん対策は重要視してはいる。ただ私も准将も今回は私情を挟んでいることは否定できないね」


北方提督「神風」


提督「というかこの箇体の操舵システム忘れてましたよ。まさか最終海域に限って旗艦の航行を操作出来るとは。ディスプレイで確認できる艦隊の航行ルートが明後日に行かない限り、使う必要もないですけどね」


乙中将「ところで青ちゃんのその紙切れなに?」


提督「ああ、これですか」ピラ


提督「スマホのほうの秘書官のタッチシステム、画面には神さんが設定されているわけですが、身体の特定の部位を触ることで神さんに簡単な指示を送れるようにしまして、それ関連の書類です」


甲大将「……なんでこんなに徹底したデータを取ってるんだよ。神風のもろ人体データじゃねえか。身長体重にB・W・Hにほくろの位置とかそれに感度まで数値化していやがる……」


丙少将「お前ってやつは……とことんやるのな……」


北方提督「本当に君は責任を取ったほうがいい。神風の過去、彼女が性に関して病的に潔癖な面があるのは知っているはずだ。女の私でも意味なく触ると怒るくらいだよ?」


甲大将「逆にいえば信頼の裏返しだな」


提督「責任は取って勝利へと導きますとも。そのための今までですから」


提督「この観戦ルームにいる皆さんは和気あいあいとした雰囲気ですが、すぐに静かになることでしょう。今の神風さんは相手が艦娘だろうと、あまりにも容赦がないと思うので」


乙中将「ちょっと楽しみ。そういえば響ちゃんのペンダント、北方さんが預かってるんだね」


北方提督「うん。最終海域で落とすと大変だから終わるまで持っててってお願いされたんだ。ヴェールヌイの存在も感じられる」


乙中将「へえ……」


北方提督(しっかし、やっぱり私は作戦立てて椅子に座ってるってのは性に合わないなあ……龍驤さんと同じく司令官ではなく海でドンパチやるのが性に合ってるのかね……)


北方提督「准将、不安要素なにかあるかい?」


提督「やはり気になるのは初霜さんと悪い島風さんの度合いですかね……普通に考えて大きな理不尽飛ばしてくるのはこの二人だし、後はうち所属の子達がぷらずまさんやわるさめさんに対して無策だとは絶対に思えないし……」


提督「少し探ろうとしたんですが、瑞鶴さんと龍驤さんには着拒されていましたし。そこは徹底したのか瑞鳳さん翔鶴さん金剛さん榛名さんから着拒されていたのはさすがに心をえぐられましたね……」


丙少将「ギャハハ、お前と喋ったら負け。さすがによく分かってる」


神風《さあ、司令補佐、観ていてくださいね。あなたとの約束を果たすために抜錨します》


神風《Let me show you my everything!!》


天津風《発音上手ね!?」》


神風《I would do anything to make you smile!》


神風《I'm gonna do it.I mean it!》


天津風《~~っ!?》


天津風《なんてこといってんのっ!》


提督「ふむ、声も聞こえますか。でもなぜ急に英語で喋ったし……」


乙中将「ん? 天津風ちゃん顔真っ赤だけど、神風ちゃん青ちゃんになんていったのさ? 甲さん英語出来たよね!」


甲大将「あいつの雰囲気的にそうだなー……」


甲大将「『あなたが私の全てだと証明してやろう』、『私はあなたを笑顔にするためなら、どんなことでもする』、『やってやるぜ!』って感じで合ってると思うぞ」


甲大将「ギャハハ、どれも愛の言葉だぜ。好かれてんな」


提督「そうですね」


乙中将「さすが。淡白だね……」


丙少将「照れているなら可愛げもあるんだけどな……」





神風「……あ、タッチ利用した言葉文字!」


神風「ふむ、ふむ……」


天津風「准将から指示でも? なんて?」


神風「内緒♪」


天津風(嬉しそうね……ま、士気があがったのならそれでいいか)




漣《……准将、私、指定位置に移動中に神風の声が聞こえたんですが》


提督「ん?」


漣《イチャイチャしてんじゃねーぞ! 自爆しろキラークイーン!》


提督「」



2



速吸「いよいよ始まりますね!」


明石君「そっすね。しかし、このカメラ、どうやってくまなく撮影してるんだろ。この想力仕様の撮影技術はちょっと解明してこちらの世界で活用したいもんですね」


秋雲「私服スタイルの人多くね」


明石君「だがそれがいい」


秋雲「観戦ルームが御披露目になった瞬間、この席を確保してくれたのは助かるねえ。観やすいし」


陽炎「皆の中破大破をベスポジで見たいがためってとこか」


明石君「陽炎さーん? 今回はそんなストリップ観る気分じゃないぞ。やっぱり皆が根性出して戦うところ良い位置で見たいだろ? 後は速水さんとお喋りする話の種が尽きないからな」


速水「話の種は尽きなくとも、盛り上がるかは正直微妙なところですね。画面の向こうは決して和気あいあいになるとは思えませんので……言葉が出なくなる可能性も」


明石君「電さんとわるさめに加えて例の神風か……」
















【想(思)想(愛)想(心)想(望)想(素直)】



――――ア――――イチヤノ――――


【想思考:トレース・人格構築完了失敗・容姿構築失敗・想、検索完了・想基艤装経由:演算応答】


――――ウォ――――オオオ――――


【イントレース、イントレース!】


【Re;boost】


【error】



――――スイキ――――?


【Re;boost】


【error】


【Re;boost,Re;boost,Re;boost,Re;boost,Re;boost,Re;boost,Re;boost,Re;boost,Re;boost,Re;boost,Re;boost】



【Re;boost――――!】


ユメ――――


【思考:生きる】


【妖精構築システム】


――――イルナ?


【運営管理権限により想に質量付与】


11111、111、44444、111、3333、888。


【Live myself to the fullest】


――――ソコニ。


――――棺カラ――――



【2ワ●:なにか忘れているような】



赤城「あら……空を獲りに来たのは飛龍さん蒼龍さん瑞鶴さん翔鶴さんに瑞鳳さんですね。あちらは私達に勝ってもその後に戦後復興妖精との戦いがあるのに、余力を残す気はないのかしら」


日向「潜水艦もいるなー。上ばっか見ていると魚雷に当たりそうだ。私は空母とは戦いたいが、潜水艦を瑞雲で捻ってもおきたい。実に悩む局面だ」


加賀「陣形のポジショニング、順次発艦の様子からして、龍驤が妖精可視の才を使って皆の艦載機になにか吹き込んでますね」


赤城「うーん……あ」


赤城「私は位置取りを変えてとりあえず観てますね」



2



天津風「ええと、いきなり全力で空を獲りに来たのはこっちが夜戦仕様だと知っている上よね……」


天津風「じゃあ、電さんの出番よね?」


電「ふむ、私もそう思うのですが、天津風さんは見落としありそうなので進言なのです」


電「制空権争いにおいてこちらは私の性能を駆使してなければ負けます。グラーフさんとサラトガさんは制空権を重視した装備ではないので1航戦と瑞雲信者で戦うことになりますから。よって明らかに私を誘っていますし、私が出るしかないのですが、この水上レーダーMarkⅡでキャッチした背後の初霜さんが気がかりです」


電「龍驤さんは猪口才上にこんな序盤に分の悪い賭けをするとは思えないのです。瑞鳳さんもいるのなら尚更ですね」


天津風「1つしかないじゃない。勝てる、と見込んでる訳よね。その空母棲姫と北方棲姫と海月姫にリコリス棲姫の艤装と空を争って……」


天津風「もしかして例の初霜がなにかやってる……?」


天津風「……、……」


天津風「もしかして海の傷痕装備の海色の想で艦載機無限補充とか。あはは、あり得ないわよね……」


電「そ れ な の で す」


電「それなら私に勝てると判断するのは打倒。私の装備の燃料弾薬オート回復のサイクルでも勝てませんね。お友達の皆さんの艦載機の種が尽きなかったら、天津風さんの考えで当たり」


電「加えて可視才で策を練れば私の艦載機と張り合ってくる気がするのです」


電「ま、とにかく別動隊の私達は私達でやらせてもらいますよ。ああ、夜までは生き残るつもりなのでご安心を」


電「それではケンカを買いましょう」


電「全機発艦なのです」


電「あの海でお友達がどのくらい成長したのか、実に楽しみなのです。まあ、私は今回は脇役に徹しますけどね」


電「神風さんと司令官さんのために」


天津風(うーん……それなら龍驤さんが発艦させてない理由がよく分からないのよね。それに大鳳さんと隼鷹が出て来てないし……)










神風「……」


長月「さすがに序盤の制空権争いの時に突っ込めば対空の自衛で精一杯の良い的だし、明確な自殺行為は控えさせてもらう」


菊月「千を越えそうな艦載機のいる戦場、しかも電のは射程に入れば敵味方関係ないからな……」



3



初霜《空母の皆さんに念を押しますが、今ある海色の想は(仮)なので即時補充は難しいです。各自20秒前後でお考えを。それと私が攻撃されて回避に移る場合、更なる遅延が予想されます!》


空母一同《了解!》


瑞鶴「おちびの蝗害航空機を確認! 西方を単艦で奪取した悪魔的アウトレンジが来るわ!」


龍驤「電のやつが誘いに乗ってきたで――――!」


龍驤「総員、気を引き締めてかかれ! はっつんに加えて防空には卯月と秋月照月もおるけど、油断大敵やで!」


龍驤「指定された艦以外は引き撃ちやよ! わるさめと神風は懐に入れたら一貫の終わりやからな!」


瑞鶴「あの3人の内どいつかはここで沈めて観戦に回してやるわ!」



4



由良「本当に空母の姫複数と戦っているような光景だね……」


阿武隈「これでも正面からだとやや劣勢という。さすが我らの電さんですね……でもでも、あたしのやる気も上がって来ましたよっ! こんな清々しい気持ちで戦えるのも戦争終結した故ですかね!」


秋月「ですね! 電さんにはお世話になりました。恩返しの意味も込めて私達の強さを思い知ってもらいましょう!」


照月「さて、私の腕前をお見せする時! 鉢巻きギュッとして! 見慣れた姫の艦載機から皆さんをお守りします!」


阿武隈「じゃあ、手筈通りに行きますか! 私の予想では」


阿武隈「神風さんが針の穴を縫うような精密航行で突っ込んでくるはずです! 私はちょっと戦いたくないので、そこは意気込みのある卯月ちゃんにお任せします!」


卯月「苦しゅうない。長月菊月望月三日月の相手もしたいぴょん。神風には悪いけども、これまで見ていた感じ、あの速度じゃあの紙装甲を補うにはまだ足らんし」


卯月「小細工すればうーちゃんが当てられるレベル」


卯月「鉢巻きしめて行くぞー!」ギュッ



* 観戦ルーム



青葉「いいですねいいですねえ! 苛烈な空の争いの中、出陣する秋月照月姉妹+卯月の我が軍が誇る防空のスペシャリスト!」


球磨「序盤から熱い展開クマー!」


多磨「ふわあ……」


甲大将「お前らも出てくれりゃ良かったのに」


多磨「やる気が微塵もないにゃ。ログイン勢……」


青葉「これは観戦が正解でしょう!」


球磨「いくら大将の頼みでもあの中に飛び込むとか冗談じゃないクマ! 安全な場所から観ていられるから楽しめるんだクマ!」


甲大将「まあ、それもあるか。観てんのも確かに楽しいな。私としてはみながトラウマ負わなきゃそれで構わねえわ。神風も電もわるさめも相手が例え曙、潮や朧だろうと関係なしでいたぶるだろうからさ……」


球磨「間違いないクマ……」


多摩「漣も入れてやって」


速吸「しかし、噂には聞いていましたが、電さんの性能はこうやって直で観ると圧巻の一言ですね。2航戦5航戦+瑞鳳さんを加えてもやや劣勢……最高戦力と呼ばれるだけはあります」


多磨「准将が画面の前でなんか考え事してるにゃ……」


提督「……」


青葉「准将さん、どうしました?」


提督「この戦いを頭の中でシミュレーションしていたのですが」


提督「そういえば」


提督「なにか大事なこと見落としている気がしまして」


提督「……?」


青葉「今後の展開の予想ですか? ぜひとも解説お願いします!」


提督「……秋月さん照月さん卯月さん」


提督「潜水艦のゴーヤさんニムさんシオイさんにイクさん。刃の届かない海中にも仕込む神風さん対策は完璧に近いですけども」


提督「今の神さんを止めるには至らないと思いますね」


提督「というか、はっつんさんの性能が予想よりも狂ってる……」


乙中将「ああ、あの子は若葉ちゃんと本気で戦いたいのと、電ちゃんやわるさめちゃんを倒して青ちゃんの評価を上げたいらしいよ。僕への恩返しも含めて勝ってくるとさ。やる気は十分だよー」


提督「個人的に応援したくなりますが、今回は敵です。終わるまでは控えますかね……」


提督(神さんは初霜さんに負けないくらい強い。けど……それはポテンシャルの話で現時点では卯月さんにも負ける、かな)


提督(問題は……やはりあの機動性の犠牲になった装甲)


提督(仮に経過程想砲が出てくれば弾着で瞬殺されること……)


青葉「准将准将、先に潰しておいたほうがいい人達くらいは指示したんでしょう? 誰を先にリタイアさせておきたいですか」ヒソヒソ


提督「4駆と白露型の面々ですね……特に白露型は総合性能高いので……一人に絞れば総合力の一番高い」


提督「時雨さん」


青葉「ふむ……」


甲大将「あ、龍驤が神風を止める気だぞ。勇気あるな」


提督「マジか龍驤さん……」


提督「神さんはあなたの天敵だと思いますが……」


提督(それとは別に……始まってからのこの嫌な予感はなんだ?)


提督(なにか致命的なことを見落としている……)


提督(いや……思い出せない感じ。忘れている、のか?)


提督「……、……」


提督「忘れさせられてる、のか?」



【3ワ●:開戦】



ガガガガガガガガガガガガガガ

ガガガガガガガ!



金剛「ベリーグッド! 艦載機の地力で劣っていてもあの防空3人娘のお陰で優勢デース!」


ドンドン!


比叡「しかし、当たりませんね……砲撃精度による砲撃重ねのあの技、本当に止めて欲しいです……」


霧島「この艤装反応、江風と木曾と、伊13と伊14ですね」


榛名「対潜と対空には曙さんと朧さんがいますし!」


朧「対潜対空装備詰みの護衛仕様ですから、頑張りますよー!」


曙「ちなみに双子のほうは始まる前にちらっと見たけど、完全に赤疲労だったわ。クソ提督にクルージングやらされまくっていたからだと思う。敵だけど、彼女達に爆雷を当てたくないわね……」



2



飛龍「本当に来た。蛮勇としか思えないけど、あの子に関しては理解しようとしても仕方ないよね」


蒼龍「無条件に称えたいと思うと同時にここまで本気でお相手しなきゃ失礼と思わせる子も初めてだ」


瑞鳳「す、凄いってレベルじゃないですね。あの艦載機の群れの中、針の隙間を縫うように航行しています。漫画みたいに未来予知とか数秒先の景色が見えてるかのような動きですよ」


翔鶴「砲雷撃も出来ない上で研ぎ澄ましてきた兵法、異例の兵士ですからね。あの精進の賜物には敬意を払う他ないですが」


翔鶴「あのような過去の大和魂のみの戦い方に最終世代の正規空母が不覚を取るのは名折れです」


飛龍「敵ながら天晴れだけども、翔鶴のいう通り意地があるからね。空母の兵法を否定するかのような行動を諌めてあげないと」


飛龍「よーし! 第2航空隊攻撃の要を認めよう!」


飛龍「友永隊発艦!」



……………


……………



龍驤「戦後復興妖精が出てくる前に死地に出て来るかー……」


龍驤(なめとるわけやないし、むしろ最大の敬意を払ってる。あの適性率であそこまでがんばるやつは軍の歴史でもあいつだけやろ。やけど、その距離をただ詰めて仕留める戦い方はな)


龍驤(深海棲艦海軍の歴史で軍が切り捨てた戦い方やねん。島風に姉妹艦がいないのと似たような流れが艦兵士にもあってな、戦略戦術が煮詰められた現代はそーいう戦い方は悪手いわれてる)


龍驤「それしかなかった。いやいや」


龍驤「共感できるでー。うちも赤城と加賀に勝つためにお前みたいに無我夢中で技を研ぎ澄ませていた時期があったからな!」


龍驤「龍驤さんが相手したるよ!」


龍驤「神風!」



3



神風(秋月照月卯月……龍驤、さんか)


神風(資料読んだ限り変な空母よね。式神そのものを加工したり、妖精可視才の使い方の技術、太陽の光とか水柱、周りにある全てを利用して来る。空母なのに前に出て対1したら戦艦にも勝つとかいうユニークな素質。元帥にもスカウトされたんだっけ)


龍驤「――――、――――、――――」


神風(私を明らかに狙ってる艦載機が115か……)


龍驤「ん? 両舵速度落としてスローダウン……?」


龍驤「抜けてきたか……」


龍驤(せやな。砲弾でも艦載機でも物理法則をガン無視しとるわけやないもんな。スローアップの緩急で飛龍達の一波を抜けたら、艦載機はターンまでに数秒はかかるし、その間狙いはつけられん……)


龍驤(そのまま空母に突っ込めば、艦載機も下手に撃てへんしなー。可視才で飛龍達を巻き込むような攻撃は控えるよう指示してあるし。ま、うちを切り抜ける気満々やね……)


神風「む、爆撃機……この精度は蒼龍さんの彗星か……」


龍驤「あはは……馬鹿みたいに真っ直ぐ進むから、少し進路制限さえ出来たら被弾するで。そのためにこの序盤で」


龍驤「卯月を近距離に出したんやからな!」


ドンドン!



4



卯月「む、今のは文句なしのスナイプ砲撃だけど」


照月「神風さんの耐久は潜水艦並みで10あるかないかですよね。なら直撃で大破じゃないんですか?」


卯月「砲弾に砲弾重ねられて弾かれた。それも超高難易度でアブー級にしか出来ん横から重ねだぴょん……」


秋月「なんですかその馬鹿げた砲撃精度(震声」


照月「砲弾に超磁気性でもあるのかな(震声」


卯月「通信きたぴょん……」


《やあ。鎮守府(闇)の最強の駆逐艦なんだって?》


卯月《響かー……》


響《卯月さんの相手は私がしよう》


響《鎮守府(闇)最強駆逐艦の私が》


響《特別に胸を貸してあげる》


卯月《通過点だぴょん! この戦いで》


卯月《うーちゃんが全力で潰したいと思ってるのはお前じゃねーし!》



【4ワ●:神風vs龍驤】



龍驤「まだ突っ込んで来るんやね!」


龍驤「相手してやるで! 全機発艦!」


神風「……話にならないわね」


神風「全機発艦してないし、背中に弾着用の烈風流星彗星忍ばせて……木を隠すなら森の中、わざわざ制空権争いしてる海に出てくる訳ね。太陽直視の目眩ましまで計算して小賢しい!」


龍驤「!?」


神風「もう捕まえた」


神風「鎮守府(闇)お得意の根性値」


チャキ


龍驤「速――――!」


神風「私の刀の前には意味ないから」



………………

………………

………………



神風(獲った。首斬られて生きてはないでしょうが)


神風「艦載機の発艦を許した……流星」


神風「抜――――刀!」


神風「よし、間合いにいる内に斬り殺せた……後は」


神風「あなたか」


ザッパーン、ガシッ


伊58「捕まえた。その流星の操縦妖精が握ってる式神、彗星に変化するでち。友永隊と江ノ草隊も狙いを定めてるよー!」


神風「……」



*観戦ルーム



速吸・陸奥「」


乙中将(会場の皆さんが首チョンパ光景を見て絶句してる……)


龍驤「もともと相討ち覚悟やっちゅーねん! 彗星ちゃん! いてもうたれコラー!」


丙少将「当の本人は超元気……!」


乙中将「つーか龍驤さん退場速いよ!」


龍驤「なめとった訳やないよ! 予想の上を行かれるって計算して大道芸まで仕込んでおいたしな!」


ドオオン!


龍驤「よっしゃ彗星ちゃん攻撃したで!」


神風《……ちょっと危なかったわ》


龍驤「はあああ!? ゴーヤの足止めホールドに加えてうちの不意討ちに友永隊と江ノ草隊の編成を無傷で抜けた!?」


乙中将「神風ちゃんの足首をつかんだままの手首が……」


丙少将「即座にゴーヤの手首を斬り離落とし、離脱。ゴーヤを艦載機に向かって投げ飛ばして防いだ……」


丙少将(そこまでやるかガチ勢マジ怖え……)







北方提督「……、……」


スヴァボーダ「ホーホー」


提督「そういえば北方提督さん」


北方提督「なんだい?」


提督「例の珊瑚の件について暁さん達と喋りました?」


北方提督「喋ってないよ。禁句だろう。瑞穂さんが鹿島さんにあの悲劇の犠牲者のことを語るようなものだからね……」


提督「自分も詳しく聞いてはいませんが、気にしてますよね?」


北方提督「藪から棒に……」


北方提督「あの撤退作戦で大和を失った君なら分かるだろう。最も君はレア度桜の大和、私は比較的適性者の多い暁型だ。3人とはいえ、処罰の具合に大きな差があったけどね。私はその件で軍法会議とまでも行っていない」


北方提督「そんな私が提督続投させて北方鎮守府に置くだなんて元帥は時々なにを考えているか分からなくなるよ」


北方提督「甲大将も秋月を失ってるのにあなたも大将にまでなった。異例の早さだ」


甲大将「うるせえ……秋月の件はいうな」


甲大将「分かるだろ。立ち直るとか忘れるとかそういうことで解決しねえんだ。ましてや割り切れるかよ」


北方提督「そうやって提督も海に縛り付けられて行くんだよねえ……」


甲大将「私は家柄もあった。七光りの部分を元帥に目えつけられた。嫌だって断ってた内に木曾達が急成長して戦果を持ち帰ったからな。私の指揮の賜物の地位じゃねえ」


元帥「そんなことはないぞ?」


提督「あ、お越しになられたのですか」


甲大将「ジジイ……大本営から抜けて来たのかよ」


元帥「……大淀から聞いて駆けつけたわ。わしも騙されたが、今に大本営にいる此方ちゃん達替え玉かよ。誰も気付かねえのも戦後復興妖精ちゃんの力だってな。お前ら」


元帥「これどういうレベルの事態か分かってる……?」


元帥「とかいう話も置いとくか。大淀から全部聞いて察したからな……」


元帥「長月&菊月ちゃんが小学校行くんだろ? わしがランドセル買ってあげると伝えなければな。孫に買ってあげるのが夢だったんだ」


甲大将「それならちと来るのが早いな」


元帥「艦兵士の手柄は提督の手柄だぜ」


甲大将「……」


元帥「そんで艦兵士も人だからな。色々な性格のやつがいる。分かりやすいのでいえば電ちゃんがあそこまでがんばれたのは准将が彼女の提督だったからだ。それと同じく球磨型も江風だってそうだ。一番大事なのは指揮そのものじゃねえんだよな。指揮にも現れるってだけで」


元帥「兵士の素質を最大限に花咲かせるための土の素質だよ。だからアカデミーだって着任希望を善処してあげているし。わしはそこに関して力入れていたんだがなあ……」


北方提督「……」


元帥「響ちゃんか。わしにとっては3番目の響ちゃんだな。響の適性者は5人も見たが、その中でも最もお前がなに考えてるか分からん響だったわ。あいつのこと好きだったんだっけ?」


元帥「全然伝わってなかったと思うけどな。なぜお前が勝手に解体して逃げた理由が全く分からないっていってたし」


北方提督「……」


北方提督「なあ、なぜ私を提督にスカウトしたんだい? あのまま私は放浪していたほうが良かったのではないかな。私よりも優秀な人材はいたはずだ。対深海棲艦海軍の提督の椅子なぞエリートの席だし、周りの反対まで押しきって選んだ訳が分からない」


北方提督「……珊瑚で暁と雷、響を死なせてしまったのに。あなたは私をかばいすぎだよ」


元帥「ならば、なぜ勧誘を受けた? 同期の暁ちゃんや雷ちゃんにも同じ事をいわれたんだろ?」


北方提督「……」


元帥「ま、それに関してはマジで悪いんだが、私情が混じってる。響ちゃんはわしの中ではいつまで経っても響ちゃんだからねえ。親にとっての子供はいつまで経っても子供っていうのはこんな感じなのかね」


北方提督「私があなたを見た時は丙将席にいたね。あのガタイの良いガチムチからそんな風に見られていたなんて気味が悪いな」


元帥(はあ、なんでわしって駆逐艦に好かれねえんだろ……海防艦からも避けられてたし。雰囲気がジジイの割に妙な威圧感あるからとかいわれたが、それかね……)


元帥「……お前のような鎮守府も必要だとね。サブちゃん、わしの前の元帥な。話していたんだよ。どこもかしこもクソ真面目で奔放に満ちた受け入れ先一つあっても良いんじゃねって」


提督「初耳だ……」


甲大将「確かにあそこを希望するやつはなんというか、悪く言えば自分を諦めてる、良く言えば自分を客観的に見れてるやつが多いな」


元帥「世界広しといえども、あの自由な場所は書類関連の隠蔽や裏工作の手腕も含めてお前じゃねえと維持すんの無理だわ。お前の不手際でわしの後ろに手が回れば」


北方提督「回れば?」


元帥「元帥の席を降りても責任取るだけだ。潮時だと思ってたからな。まあ、このオープンザドア君が無茶苦茶やり出してからはそれじゃ責任取りきれなくなってきて、死ぬか戦争終わらせるかの二択しかなくなって本当に大変な思いをしたけどね?」


提督「すみません(震声」


元帥「あー……気にするな。お前に関してはわしが見誤ってたのもある。丁のやつの教え子とか顔も見たくなかったし」


提督「左様ですか……」


元帥「そーいえばなぜかはよく知らないが近くに駐屯してる露の対深海棲艦海軍も響ちゃんのことすげえ気に入っていたしな。あれか? 傭兵の真似事してた時の連れがいたんだっけか?」


北方提督「戦友、上官だね。彼女から銃の扱い方を学んだ。才能のある女の人だったよ」


元帥(結果論だが、正解だと思うんだけどなあ。艦兵士なんていつ海から去るかわかんねえ。幸い死ぬと分かってるなら街へリリース出来る余裕はあるご時世になったんだからさ)


元帥(……海から去った後のことも考えるべきだろう。どいつもこいつも不幸な身の上背負ってるし、なにより10~20代の若えやつらばっかだし)


元帥(望月ちゃんも若葉ちゃんも三日月ちゃんも隼鷹も神風ちゃんも……)


元帥(生きているどころか、終わった戦いの後であんな風に本気の顔をしてるんなら、少なくとも正解じゃなくとも、間違いでもないと)


元帥「そういうことで勘弁してくれ」


北方提督「……」


元帥「後、准将お前に関しては話がある」


提督「今、ですか?」


元帥「米独仏露のありとあらゆる方面のお偉いさんがお前にかなりの興味持ってる。当局の大本営襲撃辺りからお前の無茶を通すためにありとあらゆるところに借りがあるんだ。話がついたから見合え。強制だ」


提督「そんな! 自分にも最近、将来のビジョンが……!」


元帥「軍は抜けさせん。深海棲艦を海から消した中心の中心人物だ。お前はもはや外交カードの価値がある。対深海棲艦海軍のために残りの人生の半分は自由を奪うぜ。もう一度いう」


元帥「逃 が さ ん」


提督「く、泣きそうだ」


元帥「独り身で要られるとは思うなよ。わしらが今まで好き勝手したツケは戦争終結とは別の支払いで借りてるんだよ」


元帥「わしと違ってお前は若いし、そりゃそんなこともいわれるってもんだ」


甲大将「良かったじゃねえか。相手は?」


元帥「一人すごいのがいるぞ。もろタイプだから、絶対に惚れさせると意気込んでたやつもいる」


甲大将「へえー」


元帥「そいつ男だけど」


甲大将「そりゃ結構なことで……」


提督「」


提督(落ち着け落ち着けー。今は出撃中の皆のことに集中しなければ)


提督「……、……」


提督(神さんに指示を飛ばす場面かな?)


【5ワ●:阿武隈《提督の敗因はあたし達を敵に回したことですね、はいっ!》』】



神風「む、この気配は伊勢さんと扶桑さん? 初霜の後ろから」


神風「!」


神風「文字書かれた……」


神風(……む、司令補佐から退がれの命令……)


クルッ、スイイー


神風(司令補佐にはモニターから向こうの動きを見ているからね……あのヤバい感じは避けたほうがいいか)






飛龍「逃げた!」


瑞鶴「龍驤まで犠牲にした神風潰しの策なのに!」


蒼龍「私達、空母の懐まで来るかと思ったよね。かなり有利な賭博だと見てたんだけどなあ……」


初霜「皆さん、予定通りに旗艦は私が引き継ぎます! 一旦下がってください!」


初霜「友永隊でやっとカスダメ与えられるような人を深追いするのは無しです! 電さんの射程が超なのもお忘れなく!」


翔鶴「……初霜さんのそれの射程範囲外ですか?」


初霜「ええ……形にするのが精一杯で本来の性能と比べて格段に落ちてます」


初霜「神風さんのあの感知能力、厄介ですね。空母の皆さんに仕掛けて来たらあの紙艤装を壊して詰みに出来たんですけど」














初霜「この経過程想砲(仮)で」


蒼龍「艤装を動かす想に繋いで質量化してダメ与える必中砲撃だよね?」


初霜「ええ、威力は弱いですが、神風さんの紙装甲ならけっこうな損傷になるはずです!」


飛龍(この子も大概だよねえ。理屈的にどうなのよ。私にははっつんが魔法使いにしか見えないや……)


翔鶴(……うーん、提督の資料を読んだ限りは想い、確か電気信号ホルモン分泌とかはまた違うって話なんですよね。同感共感理解なんだの、と……ちょっと理解出来ないです)


瑞鶴「はっつん、本気だねー……」


飛龍「でも、こっちも当てられてエンジンかかってくるね!」


蒼龍「こういうのが旗艦の素質だよね」


初霜「若葉も神風さんも電さんも向こうの全員」


初霜「本気なのが伝わってくるので」


初霜「闇の流儀に従い、鉢巻を締めて」ギュッ


初霜「本気です。なにがなんでも勝つ」


初霜「その上でないと勝つ意味も負ける意味もないです」


初霜「最後です」


初霜「皆さんもそうしないと後悔しますからね!」


翔鶴「阿武隈さんから通信来ました」


阿武隈《阿武隈です! 提督はきっとはっつんの仕込みに気がついていますね! はい、確実な根拠はなくとも信じてもらって構いません!》


阿武隈《これからどうするのか向こうの策が透けて見えますよっ!》


瑞鶴《さすがアブー! 龍驤を押さえてうちの第1旗艦を任されただけはあるわね!》


阿武隈《えっへん!》


阿武隈《皆さん、聞いてください。日向さんですが》



















阿武隈《妖精可視スコープ装備して瑞雲に意志疎通。単艦で立体攻撃を極めた航空戦艦の完成系で攻めてくると思うので注意してくださいねっ!》



*観戦ルーム



提督・北方提督「――――――――!」


北方提督「信じられないよ……」


提督「嘘だろ……お披露目までバレないと見ていたそこを見抜いて来るんですか……」


丙少将「ギャハハ! 闇んとこの兵士はお前が思う以上にお前のこと見てたってこったな! 提督冥利に尽きるなオイ!」


甲大将「相変わらず変なこと考えるなー……面白そうだけど」


丙少将「お前のいい方的にまだ策を仕込んでるよな」


乙中将「あの響艤装は適性率こそ再現されているけど、中にヴェールヌイちゃんはいないんだよね」


乙中将「戦後復興妖精みたいにヴェールヌイちゃんを現海界させて利用してくる。そんな策は事前に作戦資料に書いて皆に注意するよう伝えておいたけどね。響ちゃんがいるし、妖精さえ用意しておけば出来そうだから」


提督「」


阿武隈《提督――――! 聞こえますかあ! そっちの声は聞こえませんけどこっちの声は聞こえているはずです! 図星ですよね! 提督のリアクションが透けてみえますよ》


阿武隈《提督の敗因はあたし達を敵に回したことですね、はいっ!》


阿武隈「v(o´ з`o)ピース♪」


元帥「この戦いは皆が楽しそうでいいな。それと身内との戦いが実弾なのももうこの子達にとっては当たり前なんだろーな……」


提督「……」



【6ワ●:日向の瑞雲道と陸上戦と瑞穂ちゃんの憂鬱】



日向「スコープ装着。来たぞこの日が」


日向「航空戦艦日向の夢を私が果たし、歴史に残す」


日向「航空戦艦が日の丸の頂点に君臨する日だ……!」


日向「………ほう、私を誘ってるやつがいるな」


日向「――――、――――」


日向「――――、――――、――――」


日向「例え外付けの妖精可視才がバレようとも、一隻二隻でどうにか出来ると思われるのも癪だなー」


日向《航空戦艦の天辺に名乗りを挙げたい者とお見受けした》


日向《瑞雲を愛する同志、扶桑と伊勢よ……》


日向《私の夢の前に立ちはだかるか》ギリッ



2



扶桑「歯軋りが聞こえたわ」


扶桑「……艦種が同じだと同志と認識されるのかしら。私はただ役目が果たせればそれで十分報われるのに……」


伊勢「暗いな扶桑さん! 日向は飄々としたやつだけど実力自体は折り紙つきだから! 瑞雲瑞雲うるさいだけあって妖精可視才なくてもかなり運用が上手いし、私よりも強いですからね!」


扶桑「いえ……いつも不幸担当だったから最後くらいは」


ドンドンドン!


扶桑「私の頭の中で描く理想を越える結果で終わりたいですね……とは」


伊勢「お、おお! この距離から日向の瑞雲に当てた!」


扶桑「景気つけの砲撃、無駄にならなくてよかった。47機って日向スロットに瑞雲ガン積みじゃないの……」


伊勢「増設になにか仕込んでる線はあるけどね。対空装備は貧弱だから警戒徐行の動きしながらスナイプしようかな」


扶桑「こちらの陣営も動きに自由なところはありますからね……始めから駆逐の護衛がないのもなにげに初めての経験だわ」


ドンドン!


伊勢「編成を私の砲撃タイミングでばらした……妖精可視才でなにを指示したのかな」


扶桑「航行軌道と戦術ですね……1波が通りすぎて後ろから回り込んできますし、タイミング的に2波と多方面から……」


ガガガガ


時雨「3機撃墜だ。妖精さんは純粋で周りが見えてないよね。1波の瑞雲はそんなに練度高くなかったようだ」


伊勢「あ、時雨ちゃん来てくれたんだ!」


時雨「阿武隈さんの報告を受けて駆逐艦が要ると思って」


扶桑「白露と夕立と一緒に、例のバグった妹のほうに行かなくてもいいかしら?」


時雨「僕にとってはこっちも大事だからね。ほら、前に僕が建造して最初に見たのはレイテの記憶だっていわなかったかい?」


扶桑「聞いたわね……」


時雨「色々な意味で特別なんだよね。だから僕はアカデミーの頃に訓練を頑張って乙中将の鎮守府に着任したんだ。特注の鉢巻をもらってびしっと締めて頑張ってきたつもり」


伊勢「日向が砲撃体勢に入ったよ。装備的に弾着は難しいけど、それでも戦艦で、精度の程は知ってるよね」


時雨「大丈夫大丈夫」


扶桑「慢心していると一気に不幸に傾くわよ……」


時雨「鎮守府に着任してから海の傷痕戦の最後の海まで」


時雨「僕が扶桑さんを守れなかったことがあったかい?」


扶桑「……ないわね」


時雨「今回も同じ。油断も慢心もしないよ。さ、鉢巻締め直そう」ギュッ


時雨「僕は前に出て瑞雲を減らしながら牽制してくるよ!」



………………


………………



伊勢「頼もしいねー……」


扶桑「思えば時雨には山城ともども助けられてばかりね。主砲で日向を沈めてその恩義に応えてあげましょうか」ギュッ


伊勢(出来れば夜までには数的に優位に経ってはおきたいんだよね。夜で怖いのは主に向こうにいるし……ん?)


伊勢「後ろ、長射程の距離に山城さん?」


伊勢「陸地にいる……?」


伊勢《あー……こちら伊勢です。山城さんですよね? こっちについてくれたんですか》


山城《当たり前じゃない。扶桑お姉さまと時雨がいるなら大丈夫だと思うけど、あの日向は強いからね。日向が射程に入った瞬間、素質性能を生かしてここから支援射撃で撃沈させてあげる》


伊勢「山城さん……かなり遠いけど砲撃精度は」


扶桑「ああ……大丈夫ですよ」


扶桑「山城は地に足ついた陸から撃つと精度が段違いで高くなる子なんで射程ギリギリでも期待できます」


伊勢「山城さんそんなワイルドな素質を持ってたんですね……」


伊勢(4体1、これは日向が瑞雲の使い方を変えるか他の誰かに私達の後方を索的されない限り、山城さんの存在はバレないかなー……)



3



日向「機銃で瑞雲相手にしながら砲撃こなすとは器用なやつだな」


日向「そう言えば私が建造されてからもう10年も経つのか」


日向「春と太陽に光る水飛沫」スイイー


ドン!


日向「まあ、駆逐艦なら主砲副砲装備していなくても空砲で2発当てればいけるか」


日向「いかんいかん。この好きに喋る癖、どうにかしないとな」


時雨「獲っ……た!」


ドンドン!


日向「……獲った」


時雨(あ……しまった。殴り落とされたし、砲撃準備完了の、3方向から瑞雲……)


ドオオオン!


時雨「痛っつ……! 大破寄、」


ドン!


日向「爆煙で姿の視認はできないが分かるぞ。じゃあなー」


チャパン


日向「まず一匹」


日向(といっても妖精可視才駆使した瑞雲でも11機やられたか……それにしても駆逐艦っていうのはどいつもこいつも距離を詰めて来るのが好きだな)


ドンドンドンドンドンドン!


ドンドンドン!


日向「くそ、避け切れなかった。クリティカル被弾、中破か」


日向(……? 伊勢と扶桑の装備は主砲2つで3連装砲を掃射してきたが、確かに聞こえた主砲音の数が合わんな。新手か? どこに?)


日向(まあ……これは自分の勝ちを優先していい最高の戦いなんだ)


日向「私は沈むまで敵に背は向けんぞ」







「海の中からこんにちは!」






パシッ


時雨「今度は獲った!」


ドンドン!


日向「っ!」


日向「大破した……」


日向「……、……」


日向「く、瑞雲にお前を注視させておけば……」


日向「大破損傷と同時に艤装外して海に潜ってたのか? なんだ、その対艦兵士用の海のサバゲー戦術は……」


時雨「日向さんが主砲装備してたら終わってたよ。スロット全部に瑞雲なんか積むから、こんな猫だましにひっかかるんだって……」


時雨(最もそれで四人相手に戦えている日向さんがおかしいんだけどね……)


時雨「まあ、見ての通り……空砲で一矢報いた程度……」


日向「そうだな。装備はその近くに浮いてた主砲以外はないし、航行不可の良い的だ。介錯してやろう」


日向「無論、瑞雲でだ!」



ドンドンドン!



日向「!」


伊勢《支援の山城さんもいるのでした!》


日向「山城とかどこから……くっそー……無念だ」


パチャン


時雨(……さっすが、やっぱり戦艦は倒されるにしても、倒すにしても華があるね。日向さんを序盤で落とせたのは大きいし)


時雨「やった。僕も命拾いした♪」






山城(よし、後は伊勢と扶桑お姉様が仕留めるでしょ。次は向こうの闇の連中に演習時の借りを返したいわね。でも一番借りを返したい卯月が味方なのよね……)


山城(ビンゴブック1位の神風は射程から外れてるし……あいつには避けられて感知までされそうね。ホント感覚が電探化してるとか信じられないわ……)


山城「ここからの射程で一番潰しておいたほうがいいのは響かしら……」


山城「……、……」


山城「――――っ痛!」


山城「誰!?」


クルッ


若葉「腕一本落とされてそんなに元気に叫べるのか……」


山城「若葉!? あんた確か遠くの大和の所にいたはず。いつの間に私の背後に……というか私、探知してたのにどうやって気付かれずにここまで来たのよ!?」


若葉「資料通りの根性値……さすが地元伝説の元ヤンだな」


山城「あんたも私をそういうのね……だーかーら、それに関してはヤンキーとケンカしただけで私はヤンキーじゃないわよ!」


山城「って、あんた艤装つけてないの? 軍刀一本……」


山城「とりあえず動くな」ジャキ


若葉「増設に機銃か。蜂の巣にされそうだ……」


山城(もしかして大和ご一行の電探にひっかかって位置がばれたのかしら)


山城(この子、全身が濡れてるわね……今まで電探の探知にひっかからなかったってことは……うそー……)


山城「あんた艤装外して何十キロ泳いで来たのよ(震声」


若葉「聞いてくれ」


山城「あ?」


若葉「私は敵を殺さずに勝ちたいんだ。准将は私の舵を上手く執れるといったからスカウトを受けた」


山城「なによ、その純度100%電みたいな綺麗事は。うちの初霜や白露型ですらそんな夢は見てないわよ……」


若葉「作戦書には『今回は例え相手を殺しても死なないから、撃沈させるのは命を奪わずに勝つのと同義ってことで』って書いてあった」


山城「あの闇の提督はそういうやつよ。次からはただのなんてことない約束でも書類できちっと契約して、更に誓約書を取りなさい」


若葉「……ま、指定海域内から出れば強制離脱になるから、強制撤退を絡める手もあるんだが、どいつもこいつも命ある限り戦うって感じだ」


山城「……、……」


山城「ねえ、あなたは不満そうだけど」


山城「結論から目を逸らしているだけでしょ?」


山城「言葉で解決するような問題じゃない。なのに出てくるってことは戦うしかないってさすがに子供でも分かることだしね」


山城「神風と同じ。艤装なかろうが才能なかろうが、海になにかを求めているなら、後は○るか○らないかの繰り返し」


山城「敵も仲間も殺したくないとか」


山城「出来るけどね」


山城「もしも世界中の敵があんたを見て無条件で降伏するようになればね。でもそれは戦争終結とか」


山城「比較にならない程の大きな夢」


山城「あなたには叶えられなかっただけ。夢から覚めたのなら」


若葉「……」クルッ


山城「そろそろ現実と向き合いましょうか……って逃げるのね。私、柄にもなく優しさを見せてたのにショックだわ……」


山城「じゃあ」


山城「飴の後の鞭ね」






若葉(ごもっとも……だから戦場に来たんじゃないか)


若葉(あの子供を諭す感じ、私はずいぶんとガキに見えるんだな。見た目と理想からして仕方ないか……)


ドンドンドン!


若葉「木々が粉砕されて……」


山城「待ちなさいよゴルア!」


山城「こう見えても年下には優しいほうだから!」


若葉「鬼の山城と呼ばれたお前が優しいとは思えんぞ!」


山城「それは軍艦のほうのしごきの話でしょうが!」


若葉「艤装の主砲ぶっ放しながら辺りを平地にして追ってきてるのか……重戦車かなんかか」


若葉「航空戦艦ってなんだ」






瑞穂「全く、付き合ってられないわ。出れば解体してもらえるらしいし、出たから後はじっとしてよっと。瑞穂ちゃん戦う理由なんてないんだから」


瑞穂「陸地でじっとしてれば終わるでしょ」


瑞穂「負けそうならすぐに離脱してリタイアして、勝ちそうなら最後に残った満身創痍のやつをぶちのめして願いを叶えてもらう。これが瑞穂ちゃんの作戦ー」



ドンドンドン!



瑞穂「ん?」


山城「待てっていってるでしょうが!」


若葉「待ったら身体に風穴開くだろ……」


瑞穂「右腕のない女が鬼の形相で主砲ぶっぱしながら子供を追いかけてる場面に瑞穂ちゃん遭遇ス――――!」


瑞穂「なんで艦娘が陸地で走り回って戦っているの!? あり得ないんだけど!」


山城「……ん? あんたは」


瑞穂「げ、あんた山城……敵だっけ?」


瑞穂「あ、瑞穂ちゃん戦う気ないからね?」


山城「……」


瑞穂「そうだそうだわ。あなたとは気が合いそうって思っていたの」


瑞穂「あなた不幸とか言われてるけど、瑞穂ちゃんに比べたら超勝ち組だからね。不幸自慢最強は瑞穂ちゃんだからね」


瑞穂「私は愛した提督にスライムみたいにされて、先代丁准将にモルモットにされて海の傷痕に深海棲艦のスイキちゃんにされた挙げ句に先日、勝手に甦らされたの。不幸者同士、気が合いそうかなって瑞穂ちゃんは思ってたのよ」


瑞穂「運に恵まれないこの気持ち分かってくれるわよね……自業自得な面もある分、ほんと救いがなくてさ……」


瑞穂「瑞穂ちゃんいなくなったらわるさめのやつが泣きそうだから全てを諦めて死ぬこともできないのよ……」


山城「……く、色々な意味で泣けてきたわ」


山城「今は見逃してあげる……早い内にリタイアしてちょうだい」


瑞穂「ありがとね。良い友人が出来たわ。帰ったらお互いの不幸に乾杯しましょう」


瑞穂「それとこれはアドバイスだけど、不幸体質を自覚しているのなら深追いしないほうがいいと思うの……あ、行っちゃった」


瑞穂(あー……レッちゃんとネッちゃんならこういう趣旨の戦いはわるさめと一緒になってめちゃくちゃ楽しむんだろうけどねえ)


瑞穂(あの二人はリコリスやセンキ、チューキと仲良く一緒に遊んでるのかな)


瑞穂(残される側って辛いわ……)


瑞穂「涙出てきた……くそ……」













瑞穂「――――ん?」


瑞穂「あれ」


瑞穂「疑似ロスト空間だし、ワンチャン? 瑞穂ちゃんなら皆の想を呼べる?」










瑞穂「……なんてね。ごめん」









瑞穂「私の寂しさ紛らわすために皆を起こしちゃ悪いわよね」



6



山城「っち。海に逃げられた。あの子ホントに泳いできたのね(震声」


山城(しかし、ぶっきらぼうな見た目とやる気のなさそうな雰囲気とは違って根性はあるじゃないの)


山城「っ! 砲撃音ね。聞こえるわ。遠くからでもね……」


山城「――――攻撃、」



山城「超長射程から」



山城「大和型!」






大和「さて武蔵、山城さんをリタイアさせますか」


武蔵「ああ、全力だ。陸の形が変わるかもな」


大和・武蔵「主砲一斉掃射、凪ぎ払え!」






若葉(うわ、大和と武蔵の三式弾が島を火の海に変えた)


若葉(しかも、なんだ。大和型は相手が人間サイズでも超射程から砲撃当てるって噂はホントだったか。武蔵の三色弾を浴びて山城が火だるまじゃないか……)


若葉(大和型はおっそろしい兵器だなー)


山城「――ク――ア――――こ――――す!」


若葉「鬼の形相で海に出てきた……」


旗風「到着です!」


若葉「ああ、艤装持ってきてくれたか。助かる」


旗風「いえいえー。それにしても山城さん……大炎上、右腕の肘から先がなくて、皮膚が焼けただれてなおあの鬼のような闘志、怖すぎます……」


若葉「神風と同レベルの根性値を持ったやつがうようよいる。将の艦隊ってのはやっぱり凄いな」


若葉「出るか。さっさと山城どかして次に行かないと、だ」



7



山城(熱っつ……もう持たないわね……どいつかを沈めておきたいところ。大和型なら文句ないけど)


ドンドン!


山城「左腕があれば、駆逐の主砲くらいは、弾けるわ」


若葉「……」ジャキン


山城「……覚悟を決めてきたわね。遠慮なく!」


ドンドンドン!


山城「避けられた!?」


山城(妙に動きが軽やか、ね。あの航行の違和感はなに? 若葉って確か――――)


山城「そうか。あの艤装は適性者の身体に負担がかからない初春型の浮遊ユニットだった、わね!」


若葉「とう」


山城(魚雷? なぜ貧弱な三連装……?)


山城「当たらないわよ! そして今度は外さない」


若葉「魚雷発射っ」


山城「ここでまた魚雷? おっそいわね! もらっ――――!」


旗風「もらいました。頭に血がのぼり過ぎですっ」


ドンドン!


山城「くっそ、さすがにそろそろ退い、て」


旗風「まだ沈まないんですか……」


若葉「いや、終わりだ。右左に魚雷あるぞ。当てる魚雷を撃ったし」


山城「……進路防がれた」


山城(なる、ほど。魚雷って時間差があったわね、忘れてたわ……左と右に動けば、さっきの魚雷に被弾する。かといって私の今の損傷の低速具合じゃ、直線軌道のやつから逃げられない)


山城「当た、る、か!」クルッ


若葉「とう」


ドンドン!


若葉「主砲もある。この距離なら私でも外さん」


山城「あー、くそ……やられた」


パチャン


若葉「よし、陸地に戻るか」



* 観戦ルーム



提督「素晴らしい。形振り構わずの姿勢が勝利を呼びましたね」


丙少将「冷静だな。おい大きい響、ほんとお前んとこの兵士どうなってんだよ。ステルスのために泳いで陸地に行くとか特殊訓練でも積ませたゲリラ部隊かなんかか」


北方提督「自由な鎮守府の体質が呼ぶ自由の発想だよ。いや、若葉があんなに根性見せたところは始めて見たかな」


提督「あの子は思考が守りの方面でユニークですね。ほら見てください。陸地にあがった目的が分かります」


甲大将「木々を運んでるよな……?」


提督「簡易泊地を作るのでしょう。位置的にはこちらの皆が寄りやすいベストな場所です。こちらには特殊な夜戦部隊がいることと、長期戦になることを考えての拠点作り」


提督「伊13さんと伊14さんに資材を集めさせてあそこに運び込むつもりですね。明石さんも呼ぶはず。はっつんさんが海色の想みたいなものを作れた場合、そうじゃなくても戦後復興妖精なら無限補給をやってくるとは読めます。明石君の海上修理技能が使えない以上、入渠や補給、明石さんの艦艇修理技能を効率的に行う拠点はこちら側には必要ですから」


北方提督「なるほど、空の争いが落ち着くまで動くのを待つ訳だ。実に良い働きをするじゃないか。後でもふもふしてあげよう」


提督「まあ、若葉さんは大和さん達の火力の読みをミスりましたかね。あそこまで破壊する必要はなかったはずですし」


丙少将「いい素質だな。そういう思考が真っ先に出来る駆逐艦って最終世代じゃ少ないんだよなあ……」


甲大将「旗風も3年のブランクあるのに普通に動けてたな。驚いたよ」


提督「ええ、あの子達も自分達の意思で参加したいと。神さんと同じくあの撤退戦で出来なかった大和さんの護衛」


提督「今度は護ります! って意気込んでおりましたから」






山城「あーあ……大和を倒したかったわ」


日向「お前さえ邪魔しなければ……まだ楽しめたのになあ。ま、私は最後に思う通りに瑞雲を動かせて満足だったよ」


陽炎「お二人はものっすごい溌剌としてましたよね……山城さんなんか物理的に燃えてたのに……」


山城「心頭滅却すれば火も涼し」


陽炎「心頭滅却してるようには見えなかったけどなー……」


陽炎ちゃん「……」


日向「陽炎ちゃんよ、神風のほうを見てどうした? お、夕立と交戦しそうな感じだな」


陽炎ちゃん「個人的には一番神風を応援してますからね。共感出来るんですよ。綾波とか夕立とか雪風とか島風とか、そこらの駆逐艦の適性者は強いって言われるじゃないですか?」


陽炎ちゃん「私も駆逐艦の陽炎でしたから、艤装性能はそいつらに比べて高くなかったけど」


山城「あんたはそれでも強かったじゃないの」


陽炎ちゃん「駆逐艦では陽炎が一番強いっていわれるまでにはなりませんでしたから」


山城・日向・陽炎「……」



【7ワ●:電さん突撃】



瑞鶴「おちびが突っ込んできた――――!」


瑞鳳「うそ! はっつんも控えているのに単艦で来るんですか!」


翔鶴「問答無用で逃げに徹する場面ですね!」


飛龍「そだね! 万が一にも空母が全員リタイアする訳にも行かないし!」


蒼龍「はっつーん! 撤退の方法はどうしようか!」


初霜《電さんからはすでに射程距離に収められています! 闇と乙中将の分隊に分けて2方向にバラけましょう! 私が護衛します! あわよくば経過程想砲(仮)をぶつけて威嚇しますのでっ!》


一同「了解!」


電《闇のお友達が司令官さんに敵対するだなんて、例え遊びでもイラッとするのです……今の電の心境をいうと》


電《戦争にも勝ちたいけど》


電《命も殺したいっておかしいです?》


瑞鶴《胸に秘めてた慈悲はどこいったこの畜生が!》


電《オールトランス》


電《なの!》


電《Death!!》


瑞鳳「ああああ! クールタイムも終わってます! 深海棲艦艤装7種電探反応確認! 最強の海の悪童が来ますう――――!」


瑞鶴「総員死ニ方用意ィ!」


瑞鶴「来るわよ! 戦艦レ級の上位互換みたいな最悪が!」



2



卯月《む、逃げるのかー?》


響(空襲地帯で私と卯月さんも秋月さん照月さんも小破。まああの空母五人を気にしながらあの三人相手に小破なら上出来か)


響「それに、やっぱり」


響(卯月さんの12.7cm連装機銃砲改修装備2丁は威力が装填強化の犠牲になってるうえ弾薬の消費も激しいけど、あの撃ち方的に弾数を気にしていない。戦いたい相手がいるといったし、対空に殉じる訳でもないだろう。なら……)


響(補給……されてるね)


響(近くのはっつんさんかな)


響(確かめるために前に出て良かった)



スイイー


ドンドンドンドオオオン!

ドオオオンドンドンドンドオオオン



響「うわあ……フルトランスの電が十以上の同時砲撃、艦載機発艦しながら突撃してる……」


響《電、空母を仕留めるのかい?》


電《敵対勢力の鎮守府(闇)のお友達を仕留めるのですよ。空母のくせに前線で私を誘うなんて真似するのが悪いのです》


電《多聞丸も狙ってます。あの人の最高練度の友永隊、カスダメとはいえ神風さんに当てたので危険なのです》


電《そういえば暁お姉ちゃんと雷お姉ちゃんは?》


響《雷と暁は伊13さんと伊14さんと行動しているはずだ》


響《私は電につこうかな。といっても少し距離を取るけどね》


電《構わないのですが、私には無差別兵装もありますよ?》


響《最後の海に舞っていた1000越えの深海棲艦型艦載機の空襲に比べたらその程度は余裕だよ、うん》


響《気をつけてね。はっつんさんが海色の想のような装備を工作してる可能性が高い。それが出来るということはトランスタイプに効果絶大の経過程想砲もあるかも》


電《あー、今の深海棲艦艤装は悪質な想は入っておらずともクリアな妖精想で稼働しているので普通に効きますね……》


電《でも心配要らないのです。この距離で使って来ないということはきっと欠陥模倣、初霜さんは最後の海に比べてパフォーマンスが落ちているはずなのです。初霜さんはエンジンかかる前に沈めておきたいのです》


響《それもそうだね。それじゃ、やりますか》


響「……うん? 空母勢が二分隊に別れた?」


響(それとこの艤装反応、一番煙突の長さからして)


響(比叡さん?)



3



蒼龍「全身砲塔は凄まじいけど、やっぱり電ちゃんは近距離以外の砲撃精度は良くないね。あの戦艦棲姫艤装なんてすっごい見当違いの場所いったよ!」


翔鶴「……?」


瑞鳳「そうですね。でも装甲空母の翔鶴さんと瑞鶴さんでももらえば一発で発艦不可に追い込まれる威力で気をつけないと……」


初霜《見事な誘導ありがとうございます。射程に入りました!》


瑞鳳「! では分散です! 飛龍さん蒼龍さん! 生きていたらまた戦場で会いましょう!」


初霜「すぅー……はー……」


初霜《さて電さん、鎮守府(闇)の訓練では最後まで勝てませんでしたが、この疑似ロスト空間のステージなら》


初霜《負けません!》


初霜「探知、接続、質量化っ」


初霜「経過程、想砲!」



ドオオン!



初霜「命ちゅ……へ?」


ドオオオン!


初霜「っ!?」


瑞鶴「はっつん!?」クルッスイイー


ガシッ


瑞鶴「大破したわよ、だ、大丈夫!?」


初霜「い、痛……っ」


電《予想通り装備の過信なのです。私の耐久数値からして海の傷痕:当局の経過程想砲の一撃はその二十倍は重かったですよ》


電《それにその砲撃、ダメージと再装填の時間を考えると、私の再生のほうが速いです》


電《まあ、その貧弱な経過程想砲でも神風のやつには致命傷なので、私はこの戦場のお友達を潰しに来たのです》


電《往生してください》



4



初霜「……、……」


瑞鶴「私達のほうを潰す気ね。でも航行事態はかなり遅いし、逃げ切れそう。長の射程から詰められてないし」


初霜「………、………」


ドンドン!


翔鶴「危ない瑞鶴っ! 」


ドオオオン!


瑞鶴「翔鶴姉、大丈夫……? おちびがあの苦手な距離から当ててきたとか……」


翔鶴「ダメコンは間に合いました。大破より中破の、航行、発艦ともに可です」


翔鶴「どうやら、今の電さんは長でも射程距離範囲内なら今までよりもかなり精度が高いらしいですね……」


瑞鶴「トランスタイプになってからおちびが訓練しているところ、見たことないし、想力とか……?」


榛名《はっつんさんに鶴姉妹さん! 比叡お姉様と一緒にフォローに来ましたよ!》


瑞鶴「金剛型きたー!」


翔鶴《4駆の皆さんは?》


榛名《私情優先で来たので大鳳さんの護衛に回ってもらいました!》


比叡《あ、そうです! 思い出しました! あの精度の種は霧島と一緒にトランスタイプの資料を読み漁りましたので分かります!》


瑞鶴《マジか!》


比叡《電さんはもともと近距離砲の駆逐艦なので中以上の砲撃は苦手、ですが、それ以上の要因としてタイプトランス、深海棲艦艤装と一体化するにおいての精神影響のほうが主な原因だったみたいですね!》


比叡《トランスした深海の負の感情で深海棲艦のように狙いがお粗末になるみたいです! 今回の戦いの趣旨からして、その深海棲艦艤装の精神影響はない仕様なので、単純に》


比叡《戦争の中で培った深海棲艦艤装の扱いをリスクなくそのまま扱えているための砲精度の向上かと!》


翔鶴《それってかなりピンチ……》


榛名「合流ですっ! とにかく射程距離から撤退して体勢を建て直しましょう! まだこちらには悪い島風さんがいますが、いつ出てくるか分からない上、どんなやり方で来るか分かりません。戦略上、彼女より信用できるはっつんを失う訳にはいかないです!」


瑞鶴「でも逃げ切れるかどうかが問題よね……道中の護衛は艦載機があるけど……」


初霜「……そこは意志疎通、私がして守らせますが……」


比叡「ならば私が時間を稼ぎましょう!」


榛名「ならば榛名もです!」


瑞鶴「大丈夫か……二人といえども相手はおちび……」


比叡「前回の演習の時は一矢報いることもなく敗北を喫しましたが、その時の借りをここで返しておきたいですからね!」


比叡「アカデミー時代から比叡艤装(この子)のポテンシャルを引き出すことが出来なかった私ですが」


比叡「最後の海では私でも最後の海で艦隊の皆さんのお役に立つことが出来ました! 甲大将にも金剛お姉様にも榛名にも霧島にも、この任を全うすることで恩返しして」


比叡「私は艦娘を卒業したいと思います!」


榛名「榛名も同じ気持ちですね。なのでお任せください!」


翔鶴・瑞鶴「お願いします!」


初霜(……でも現実問題、深海棲海月姫のギミックはなんとかしないと……それくらいなら)



4



榛名「あ、北方棲姫と空母棲姫の艦載機のみ、飛ばしました! 狙いははっつんさん達ですね!」


比叡「行かせません! 三式弾です!」


ドオオオン!



榛名「敵航空隊凪ぎ払いました! お見事です! 電さんオールトランスを解除、深海海月姫、駆逐古鬼、戦艦棲姫の3種トランスです!」


比叡《電さん、私と榛名がお相手しますよ! 今回の私は前回と違いますからね! 役不足とは言わせませんよ!》


電《あー……今までの数々の非礼はお詫びするのです。が、今の私はクリアなのであの時のような暴走はしません》


電《今の電は金剛型をなめるほど馬鹿ではないので》


比叡《それは光栄ですね!》


榛名「ま、まさか電さんの口から……お褒めの言葉をもらえるとは、は、榛名は感動しました! 比叡お姉様、行きましょう!」


比叡《ですね! では比叡――――!》


比叡《気合い入れてっ! 参ります!》


比叡《提督! 見ていてくださいね!》






甲大将「……くそ」


乙中将「こ、甲さん、目元抑えてどうしたの?」


丙少将「な、泣いてる……?」


甲大将「いや、この巣立ちの日に娘から感謝の言葉をいわれたような気持ちはなんだよ。涙腺に来たわ……」


北方提督「……」



5

 


電(っち、単純な砲撃戦なら私のほうがかなり不利……息してられるのは性能差のお陰ですね)


ドオオン!


電「……っ!?」

 

電「深海海月姫及び……潜水棲姫艤装大破……?」

 

比叡・榛名「当てます!」

 

電「しまった、駆逐古鬼も……」クルッ、スイイー

 

電「く、戦艦棲姫の電探がキャッチはしましたね。あの潜水棲姫を壊した一撃は経過程想砲……?」

 

電「それと深海海月姫のほうは」

 

電「初霜さんがすでに司令官さんの想像を越えているのです。どんどんエンジンかかってきてますね。酒匂艤装の特攻性質を経過程想砲に乗せてきたのですか……?」

 

電「一人艦隊これくしょんみたいな人なのです……でもまあ」

 

電「ふふ、こうなったら正面から砲雷撃戦で比叡さん達を蹂躙するしかないですね」

 

電「トランス、電艤装と戦艦棲姫艤装」

 

電「な!!」

 

電「の!」

 

電「です!!!」

 

 

6

 

 

榛名「そんな! 電さんが主砲を拳で払いました!」


電「近づくにも意味があるんですよ! 一体化した戦艦棲姫のパワーなめんじゃねーのです! 金剛型だろうと仮に至近距離まで行けば体に風穴が開きますよ!」

 

比叡「……、……」ドンドン!

 

電「なんの! 航行術で! 一発は殴り落としてやるのです!」

 

比叡「榛名! 私の主砲の後に少しのディレイで続いて!」

 

榛名「了解! ちょうど主砲再装填完了です!」

 

比叡「主砲掃射! これで! こじ開けます!」

 

ドンドンドン!

 

電「狙いがいまいちですね! 粉砕して――――」

 

電「――――ぶっ!」

 

電「右腕が千切れ……! しまった」

 

電「これは徹甲弾の――――でも!」

 

電「なんぼのもんです!」ジャキン

 

榛名「踏ん張りましたか! でもトドメ――――ですっ!」

 

比叡「私からも!」

 

ドンドンドンドンドンドン!

 

比叡・榛名「これで沈んで!」

 

 

ドオオオン!

 

 

パチャン

 

 

7

 

 

響「ごめんね、私の魚雷が届くほうが速かった」


響「今度こそ電を沈めずに守り抜きたいんだ」

 

響「さて……」

 

電「く、響お姉ちゃんまだなのです!」

 

ドオオン!

 

響「――――!」

 

響「中、破……しかも航行不可だ」

 

比叡「……まあ、このお二人相手なら、花丸です、かね」

 

パチャン

 

電「く、撃沈すれすれの大破、再生が間に合うまで棒立ち状態なのです。なめていた訳ではないのですが……」


電「想定以上の損傷を……」

 

響「どうしよう。翔鶴さんが、前もって彗星を撃ってきていた……比叡さんと榛名さんを信じてなきゃこのタイミングに合わせられないね……」

 

赤城《お任せをー。1航戦が助けに来ました♪》

 

電「……ああ、命拾いしました。丙少将のところなだけあってこういう場面はお上手なのです……」

 

響《妹ともどもお礼をいうよ。ありがとう》

 

赤城《いえいえ》

 

加賀《まだ艦載機の射程距離です。瑞鶴は私が沈めにかかるわ》

 

電《そうですね。初霜さん、すでに戦争中並、全員の特攻艦なので沈めておくべきなのです……》

 

春風《こちら春風です。わたくしの位置の後ろの陸地に簡易的な泊地があります。補充も出来るますし、入渠施設も鋭意制作中です。利用してくれて構いませんわ》

 

若葉《無料ではないぞ》

 

電「」

 

響「スパシーバ……!」

 

赤城「さて、この場は加賀さんに任せてお二人は私が引っ張っていきますか」

 

電(あぶなかったのです。司令官さんからの任がまだあるのに……私としたことがちょっと序盤ではしゃぎすぎたのです……)

 

電(ま、戦艦を蹴散らせたから任務は1/3は遂行しましたね)

 

 

8

 

 

瑞鶴「もうちょっとで味方と合流……」

 

ドオオン!

 

翔鶴「――――え、護衛の艦載機が吹き飛ばされた?」

 

瑞鶴「……、……」

 

瑞鶴「考えられるのは超射程砲撃を8割で当ててくるとかいうスペース級かな。おちびが出てくるまで最高素質の兵士と名高い……」

 

翔鶴「大和さんと武蔵さんですか!」

 

瑞鶴「く、後方から艦載機の追っ手! 加賀さんか!」

 

瑞鶴「相手が加賀さんなら私が出るね! 翔鶴姉、私は一足先に瑞鶴を卒業してくるよ!」

 

瑞鶴「艦載機、突撃!」

 

瑞鶴「長年の因縁にケリをつけてやろうじゃないの!」

 

 

9

 

 

加賀「全機発艦して突撃ですか……あの子の個性全開です」

 

加賀「上等です」

 

瑞鶴《ちんたらしてる暇はないからね! すぐに沈めてあげる!》

 

加賀(……そうね。時間かけてたら伊勢と扶桑の射程に収められる。邪魔されたくないもの)

 

加賀「艦載機発艦」

 


…………………

 

…………………

 

 

加賀(正攻法の撃ち合いで互角……)

 

加賀(突っ込んで来てる分だけ向こうの損傷してるけど)

 

加賀《飛行甲板で艦攻塞いで、あなた装甲空母の装甲さえ捨てるような愚行に躊躇いないわね》

 

瑞鶴《乙中将との演習の時にも扶桑さんから恥を知りなさいっていわれたわね。けど私の頭じゃどん詰まった時、いつもこの選択肢に行き着くのよねー》

 

瑞鶴《逃げたら? 空は互角で、これを愚行だと思うのなら逃げたらいいじゃん?》

 

加賀「……はあ」

 

加賀「最後にそれが愚行だという理由を教えてあげる」

 



 

 

瑞鶴「……?」

 

瑞鶴「あ――――」

 

ガガガガ!

 

瑞鶴「やば……加賀さん……」

 

瑞鶴「機銃積んでたんだ!?」

 

加賀「蜂の巣になる前に私のところまで辿り着けたらいいわね」

 

加賀「ほら」

 

加賀「頑張りなさい?」

 

瑞鶴「鬼め……」

 

 


 

 

伊勢「うん、あそこに手を出すのは止めて初霜ちゃん達と合流しようか」

 

扶桑「そうね。それにしてもあの瑞鶴、まだあんな愚行を続けているだなんて信じられないわね……」

 

扶桑「それでも懐まで辿り着けそうなのがあの瑞鶴の怖いところですが(震声」

 

伊勢「加賀さんが引かないからね。引き撃ちすれば勝負ありだけど、きっと私達には分からない部分があの二人にはあるんだよ」

 

扶桑「クロスカウンターが炸裂したわ……!」

 

伊勢「加賀さん飛行甲板を鈍器代わりに使い始めた! 人のこといえないよ!」

 

扶桑「あの二人は随分と楽しそうね……」



【8ワ●:軍艦(親)の七光り語ってんじゃねえぞ夕立】



神風「空襲の爆心地からは離れたけど」


神風「……感知、白露型ですか」


夕立《お相手お願いするっぽい!》


夕立《今日はあの最後の海よりも、気分が良いっぽい!》


夕立《今の夕立は神風ちゃんにも負けない。ソロモンの、》


神風《そういう口上は嫌いだな、私》


神風《軍艦の戦果をかざすことに何の意味がある》


神風《親の七光り語ってんじゃねえぞ、夕立》


神風《素体のあなたが勝ち取ったものを吠えてみろ》


神風《そもそも悪夢とか――――》



神風《見飽きた》




夕立《そっか。そうだね。なら》





夕立《あなたが望んだ通り、結果で語りましょう》



2



夕立「速いなあ。逃げられないや」



神風「捉えた。沈め!」


ガキン


神風「……」


キンキン


神風(なにこいつ……!)


神風(三の太刀を連装砲で防がれた……)


ドンドン!


神風「っく」


夕立「すごいっぽい……未来予知してるとしか思えない身のこなし……たくさん訓練したんだね」


夕立「でも分かる」


夕立「夕立のほうが強いからあなたはここで終わりっぽい」


夕立「沈める敵には謝らないけど」


神風「私もあなたに勝つ未来しか見えないわね!」



* 観戦ルーム



丙少将・北方提督「夕立こっわ!」


提督「夕立さんになにが起きたし……神さんの斬撃を初見で防ぐどころか反撃までこなしてなお涼しい顔が出来るとは……」


乙中将「夕立のギアがかつてないほど最高速に入ってる……」


北方提督「かなり危ないね。あの夕立、今の神風より強そうだ。それに金剛さんが来てる」


丙少将「長月菊月が直に到着しそうだな。まあ、金剛も来てっからどうなるか分からねえが……」


陸奥「あ、金剛さんの狙いは長月ちゃんと菊月ちゃんだと思うわ」


提督「ん? そうなんですか? てっきり体術の道を往く神風さんと戦いたいのかと思っていましたが……」


陸奥「金剛さんは長月ちゃん菊月ちゃん卯月ちゃん望月ちゃんの後にアカデミーに来て、その時の教官は私が担っていたのよ。金剛さんは長月菊月ちゃんと演習やった時にフルボッコにされて涙目になってたことがあって」


陸奥「金剛さんが動き出したのも長月菊月ちゃんが動いてからだし、最後にあの時の借りを返したいのかなって」


提督「なるほど。知らぬところに因縁がありましたかー……」


北方提督「金剛さんはヤバいね。前に体術の手合わせしたけど、技術も身体能力も明らかに神風の上を行ってたし」


北方提督「下手したら神風が沈む……」



3



神風「く……」


神風(信じ難い……)


神風(砲撃二丁、魚雷、増設の機銃、その全てをこうも同時に器用に使いこなせるなんて。私の速度を踏まえると頭で考えている暇はないだろうし、天性のセンスか。それに加えて……)


夕立「もらった!」


ドンドン!


神風(航行を読まれた。凄まじい勝負勘の鋭さ……!)


神風「く、オラア!」


ガキン


夕立「!」


神風「なんとか砲弾反らせたけど神風刀の刀身が歪んだ……」


夕立「ここ!」ドンドン!


神風「それは――――読めてたわ!」


夕立(懐に入られた!)ジャキン


夕立「刀は抜かせないよ!」ドンドン!


神風「――――抜」


夕立「! 屈んで避けられ、この海を踏む動作……ヤバ、」ゾクッ


神風「――――刀」


夕立「いっ痛っ!」


神風「……」


神風「返す刀で首も狙ったのに避けられた……!」


神風「抜刀の一閃で右腕一本に収められたし。天晴れな勘と体術ですね。でも――――」


神風「逃がさん」



ドンドン!



神風「……」


神風「とう!」


金剛「Oh……コングラッチュレーション! 足で砲弾を蹴り飛ばしましたか! 艦兵士の体の強化はそのまま足の力が腕の3倍あるという知識とその海を踏める魔改造艤装あっての技デース!」


神風(被弾防ぐためとはいえ、かなり足が痛い……折れてはいないけど、航行が鈍る)


神風「金剛さん――――」


金剛「一気に間合いに……速すぎですネー……」


神風「その首、」


パシッ


神風「!?」


夕立「す、すごいっぽい。あの神速の抜刀を」


夕立「真剣白刃取りの神業!」


金剛「顔合わせの時はやられましたが、今回は違いマース」


金剛「とうっ!」


神風(嘘だろこいつ……私の抜刀をさばかれた上に投げ飛ばされた……私が反応出来なかったなんて――――)


金剛「空中で回避できマスカー?」ジャキン


金剛「神風は前に出てくる機を誤ったネー」ドンドン!


神風「――――っ!」



4



金剛「む、刀でダメコンしましたか。沈めるつもりが大破止まりデース……」


神風「……まだ、まだ!」


ドンドン!


金剛「とう! 戦艦パワーで殴り落としデース!」


長月「夕立と金剛か……間に合って良かったよ」


神風「助太刀かたじけない……」


長月「気にするな。いくらお前でもこの二人相手は荷が重いだろ。つかそろそろ退け。本番は夜だって分かっているだろ? お前には悪い島風の相手もしてもらわなきゃならんのだぞ」


神風「……申し訳ないわ。少しならすだけのつもりだったのだけど」


夕立「ふむ、大破損傷でも素体が元気……魔改造ならではの艤装と素体の装甲耐久の矛盾っぽい!」


菊月「なあ長月。昔に演習で夕立には負けたけど、金剛には負けたことないよな」


金剛「長月菊月、覚えていマスカー?」


金剛「アカデミーで新人だった私はお二人にいじめられて泣かされマシタ。金剛型の長女としてあの時の借りは返しておかなければならないと思ってこの戦場に颯爽とやってきたのデース!」


長月「あれは演習の作戦だろ……根に持つなよな……」


菊月「ま、睦月型は最高の駆逐艦だからな」


長月・菊月「また泣いても知らないぞ」


金剛「アッハハ、上等デース……」


夕立「楽しくなってきたっぽい! にゃが月ちゃんと菊にゃん神風ちゃん対金剛さん夕立!」


長月「長月と菊月な」


神風「……もう一人ね」







「プラス――――」





「わるさめちゃんだい♪」




金剛・夕立「!」




5

 


金剛・夕立「――――セイッ!」

 

わるさめ「砲弾もましてや拳なんか効かねっス」

 

金剛「装甲お化けネー……」

 

夕立「というかロ級のサイズが大きすぎるっぽい!」

 

わるさめ「さて神風御一向を順番にバクリ!」

 

長月・菊月「!?」

 

わるさめ「拠点まで輸送護衛してやんよー!」

 

菊月「口の中が四畳くらいもあって想像以上に広いんだが! 海水が入ってこないし!」

 

わるさめ「快適なマジモンの潜水艦みたいなもんよ」ピコピコ

 

長月「ゲームやってるぞこいつ!」


菊月「ぶったまげた。下半身が艤装に溶け込んでいるな。それにこの装甲、大和型よりも上なんだよな……トランスタイプがこうもイカれた芸当が出来るとは」

 

わるさめ「ジョーズ形態はロ級とワ級、潜水棲姫と防空棲姫のギミック装甲重ねてっからね」

 

わるさめ「ギミック展開したこの装甲を砕けるのは夜の球磨型の大先生と大井、木曾、ぷらずまと海の傷痕くらいのもんだ。あー、後ははっつんもヤバそう」

 

わるさめ「最も口の中の私は駆逐棲姫と春雨だから、本体を狙われると危ないんだけどね」

 

わるさめ「ザ・究極の輸送護衛兵士だゾ☆」

 

長月「じゃあ、いっそのこと倒しにかかれば」

 

わるさめ「倒せただろうけど、ぽいぬ姉と金剛さんの怖いところはただで倒れちゃくれねえってところだー。やられた危険が高いのは大破のお前ー。今回はわるさめちゃんも分かってる」

 

わるさめ「私が近場にいて神風をこんなところでリタイアさせたら司令官からまた怒られそう。私も電も今回は脇役に徹してお前に華を持たす戦略で動いているんだぞー。司令官から」

 

わるさめ「悪い島風ちゃんを倒せって言われてるんだろー?」

 

神風「――――、――――」


わるさめ(……?)


 

神風「――――」



長月・菊月「?」


わるさめ(この感じ――――)


わるさめ(おいおい……大丈夫かよ。司令官や鹿島っちから研ぎ澄ませと言われたのは知ってるけど、この想いの感じ)


わるさめ(私が違法建造された時に……私の精神をぶっ壊したあれ)


わるさめ(止めたほうがいいのかこれ?)


わるさめ(深海棲艦の境地じゃないの……?)


わるさめ「神風、リラックスしなさいよ。龍驤と戦った時は凄かったけど、ぽいぬ姉の時は遅くなってた。力み過ぎてんね。気負ってる感じ。待ちに待った晴れ舞台だろうから気持ちは分かるけどね」

 

 

ドオオン!

 

 

わるさめ「ゲームもやってみると面白いもんだね。今わるさめちゃんFFにハマっててさー。卯月と望月に借りてシリーズやってるんだけど」

 

 

ドオオン!

 

 

わるさめ「今やってるⅩがクソ面白いんだよ!」

 

長月「さっきから魚雷を受けているんだが!?」

 

菊月「え、一番面白いのはⅦかVIIIじゃないのか……主人公のクラウドとかスコールとか格好よくて今も憧れてるぞ。大剣使いのクール主人公ってロマンがあるだろう?」

 

長月「菊月はなに食いついているんだ!」

 

わるさめ「あー、菊にゃんのタイプはそこら辺か。私は大剣だとアーロンさんだな。わるさめちゃんは脇役に好きなの多いなあ。VIIIだとビッグス&ウェッジ、憎めない敵が好き」


菊月「分かるぞ! このシリーズの名作の共通点は脇役のおっさん連中が格好いいところだよな!」

 

ドオオン!

 

長月「うわっ」コテン

 

長月「転んだ。だから、さっきから魚雷!」

 

わるさめ「ゴーヤとイクに狙われてるけど補整ない昼のあの二人じゃこの装甲は抜けねっス。再生のほうが速いし、拠点近くまでは来ないよ。爆雷ソナー装備した護衛艦もいるし、深追いはしてこないはずだからー」

 

わるさめ「にゃがにゃが、転んだせいでスカートめくれかけてらー」


長月「っ!」バッ

 

わるさめ「そんな顔真っ赤にして睨まなくても……」

 

長月「……」ガルル


神風「……」



【9ワ●:急造擬似ロスト空間泊地拠点】


 

わるさめ「資源に加えて入渠施設に修理ドッグ、寝床にキャンプファイアの木組みに物見櫓もあるんですが……」

 

長月「信じられん。仕事早すぎだろ……おい暁」

 

暁「いらっしゃい。補給は伊14さんに頼めば妖精さんと意志疎通してくれるから。入渠はドラム缶の粗末なものだけど。明石さんもいるから艤装修理はそっちでね」

 

菊月「じゃあ神風、行くか」

 

神風「うん、悪いわね……」

 

わるさめ「それで暁、資材とかどうしたの?」

 

暁「伊14さんと伊13さんが集めたのを私と雷と若葉さんのドラム缶に詰め込んで運びまくったわ。武蔵さんと瑞穂さんと旗風さん春風さん含めて泊地の櫓を作った」

 

わるさめ「すごいこと考えたな……」

 

わるさめ「それで大和が固定砲台化してたってわけか。でもここにたくさんメンバーいるのは大丈夫か?」

 

暁「大丈夫じゃないかしら。電と響が最前線で戦ってくれていたから時間も出来たし、まだ木曾さん神通さん赤城さんに加賀さん長門さんに、司令官の夜戦メンバーも小競り合いしているからそれを突破してここは攻められないと思うし」


暁「でもずっと前線で戦わせる訳にも行かないからそこの辺りは作戦を立てているわ。兵法に長けてる赤城さんが到着してからね」

 

わるさめ「最後に1つ。あそこで雷ママが料理してるの? なぜ食べ物があるのか聞いてもよろしいか?」

 

暁「雷と若葉さんがドラム缶に食糧と日用品を大量に入れて持ち込んでいたのよ。あ、後は瑞穂さんもね。お陰で3日間は持つんじゃないかしら……」

 

わるさめ・長月「パないな」

 


2



大和「……寒い?」


春風「先程まで春の気温でしたのに、急に寒くなってきましたね。肌で感じる気温から急低下したのも分かります」


大和「疑似ロスト空間のようなびっくり箱ならではのステージですね。急な気温低下で皆の体調が崩れなければいいのですけど」


木曾《こちら木曾だ。雪が降ってきたぞ。しかもなぜかは知らんが、海面が凍り始めてる地点もある。おまけに南には雷雲も出てる。ダウンバーストが吹き荒れてる感じが》


木曾《ところで拠点まとめてんの誰》


大和《こちらの部隊の指揮は准将から指定された若葉ちゃんですね。なお、若葉ちゃんがリタイアしたら私に移ります》


木曾《若葉、俺の通信が聞こえてたか?》


若葉《まあ……勘でいい。どうしようか》


木曾《ンだよそれ。とりあえず北方勢の夜戦部隊の本体とは別機動の分隊を前線に送ってくれ。北方連中は雪の日の戦闘に長けてるだろ。俺と神通、江風は割とどんな天候でも戦えるから残る。グラーフはまだ動かせねえか》


若葉《じゃあ、わるさめも送ろう。日が沈む前には夜戦部隊が到着するんだろ? そこにこっちにいる神風部隊神風もな。そういうことで……》


木曾《わるさめに予備の軍刀持ってこさせてくれ。俺と神通の分な。剣でも刀でもどっちでもいいわ》


若葉《ああ》


木曾《こまめに連絡入れるよ。江風がな》


江風《なンで江風だよ!?》



3



瑞穂「いきなり冬とか勘弁しろっての」


わるさめ「はあ、キャンプファイアの火が温い……」


明石さん「本当ですよ。冬場は手先がかじかんで修理技能のレベルが落ちるので明石さんは嫌いです」


瑞穂「あんた長いもんねえ」


わるさめ「30年も兵士やってればわるさめちゃんよりも雪の日に嫌な思い出が多いはずだし」


明石さん「遠征は経験少ないですけど、マイナス気温の氷の海に随伴したことがあってですねえ。あの時は慣れない海で駆逐ハ級に殺されかけました。おまけに艦艇修理も普段の倍の時間がかかり作戦に支障を来して怒られたという……雪や氷には良い思い出はないです」


若葉「わるさめ、木曾さんが軍刀持ってきてくれと」


わるさめ「寒みーから嫌だね。行けたら行くっつっといて」


長月「それ絶対行かないやつだろ……」


若葉「ほら軍刀だ。任せたぞ」


わるさめ「ったくもー……わるさめちゃんトランスタイプになってから雪の日に戦ったことないんだよなー」


わるさめ「じゃあスイキちゃん、行きますか……」


瑞穂「届けたら味方が沈んでようがシカトしてここに帰るわよ」


若葉「お前、わるさめの言葉には耳を貸すんだな……」


明石さん「あ、そうだ。神風ちゃんの艤装は直しておきました。高温高圧も1つ載せときましたよっと。神風刀の予備は大量にあるのでご安心を。神風ちゃん自体の入渠もそんなにかかりません。大破でも復活が早い。低耐久なのが幸いしました」


響「やあ。明石さん、私の艤装はどうだい?」


明石さん「響改二艤装は妙なことになってましたが、基本は変わらなかったので余裕のよっちゃんです」


響「ありがとう。それじゃ私も出るよ。ここの防衛の戦力は十分だろう。ああ、電はすでに出たよ。今回は珍しく艦隊に献身的だ」


わるさめ「ぷらずまのやつは序盤からハッスルしてたなー。お陰でずいずいと比叡とハルハルをリタイアさせられたし」


天津風《こちら天津風、ビスマルクさんとプリンツさん、三日月が支援に出向いたからね。私達は別の陸地を拠点にしているけど、秋津洲の二式大艇が飛んでいたから気をつけて》


わるさめ《こちらわるさめちゃん。あまつんは来ないのお?》


天津風《天津風ね。なによあなた、急にあまつんとか馴れ馴れしいわね》


わるさめ《あまつん来るならわるさめちゃんがんばるー》


天津風《なによそれ意味わかんない……まあ、私も途中まで哨戒がてらビスマルクさんの護衛についていってもいいけど、夜戦部隊の旗艦の任もあるから無茶な戦いはしないからね》


わるさめ《よし!》


わるさめ「雷ママからもらったホットミルク飲んだら抜錨だ!」



【10ワ●:氷の海のГангут】



加賀「思わぬトラブルに見舞われたわ……」


望月「うわあ、孤立してから救助護衛に赴いたけど、海が凍り始めてら。一体どんな気象の変化だよ」


望月「加賀さん、小破だよね? 艦載機はある?」


加賀「心許ないわ。回収出来たのは20機」


望月「どうするー? あたしはどっちでもいいけど」


加賀「私は満足したから前線に向かって木曾達に加勢するわ」


望月「さいですか。合流地点がその辺りだし、あたしもそこらにうろついておくかね……」



2



木曾「うわ……パキパキに凍ってんじゃねえか。ここまで酷いの始めてだぜ」


江風「遠くにいる利根さんと筑摩さんがもう航行を諦めて氷の上を歩き始めたよ……」


ドンドン!


江風「あっぶねーな、このクソウサギ!」


卯月《ぴょ――――ん! よしよし、寒くて体が震えるけど、砲撃精度は落ちてねーのが確認出来たし! お前らを倒して進ませてもらうし!》


卯月《うーちゃんはこの戦いで大和を倒してレジェンド卯月のエンブレムをもらいたいぴょん!》


江風《でけえ夢だな! やれるもンならやってみろよ!》


木曾《利根、筑摩、卯月、照月、秋月、霧島もいるみてえだな》


木曾《強いのがゴロゴロいるな》


木曾《全員氷の下に沈めてやる》



ドオオン!



江風「へ、しま――――!」


江風「チクショウ、連装砲は見えたのに避けられなかった! 中破しちまった!」


木曾「……1匹面倒そうなのがいるな」


江風「なんだあれ! 一人だけ上手に航行出来てンじゃンか!」


木曾「さすがにソ連艦、極寒地帯の戦闘に慣れていやがる」


木曾《ガングートってこっちじゃあんまり聞かない軍艦だったな。戦争中なにしてたんだ?》


ガングート《ほとんど西のほうで活動してたよ》


ガングート《木曾と江風とお見受けした。なに退屈はさせん。このフローズの環境下では私は大和より強いと思う》


木曾《ギャハハ、面白そうなのがいるじゃねえか》


ガングート《全く、戦争だろうと遊びだろうと殺戮は勝利してこそなのだぞ。あなたのその趣味の延長戦上のような姿勢はわかりかねる》


ガングート《まあ、とにかくだ。今から交わる故》


ガングート《理解し合ってみようか》











ガングート《艦隊旗艦Гангут抜錨する》



3



卯月「ガングート、その航行の仕組み教えて欲しいぴょん!」


ガングート「ちっこいのは元気だな。子供は風の子ってやつか」


ガングート「重量と揺れを利用して足で氷をかち割るように進んでみるといい。出来るかは知らんがな」


パキパキッ、スィー


卯月「なるほど、コツはつかんだ。航行は7ノットほど落ちそうだけど、氷の上に立って戦うよりはマシだぴょん」


ガングート「……お見事。ロシアのアカデミーでは必修科目なだけあって一回で出来るほど簡単ではないはずなんだがな。こっちの駆逐艦は服と皮膚が擦りきれるほどやってようやく覚えるんだ」


卯月「日本で一番強い駆逐シリーズは睦月型、そしてその中の最強は卯月だと祖国に帰ったら広めろし」


卯月「後、気をつけろー。向こうの連中、木曾と神通なんかはすぐに環境に適応してくるぴょん。乙と甲の旗艦は素質性能が狂ってる」


卯月「ま、授業料の礼としてうーちゃんが最高峰の援護をしてやるから戦ってくるといいぴょん!」


ガングート「フハハハ、そりゃ頼もしい!」



4



木曾「よっと、慣れてきたが、海面凍り過ぎてて艤装から魚雷が撃てねえぞ。雷巡死亡ステージじゃねーか」


木曾「燃える」ジャキン


ドンドン!


木曾「くっそ、落とされた。卯月が支援についてやがる」


江風「卯月は江風が相手するよ! 前の闇との演習ではやれなかったけど一度戦ってみたかったんだよな!」


ドンドン!


ドンドンドンドン!


木曾(……といってもガングートがかなり強え。ステも負けているし、さすがに距離を詰めるなんて真似はしてこねえか。ならジリ貧で負けるわこれ)


木曾(わるさめから軍刀もらうまで砲撃戦かね……)


木曾「江風、利根筑摩の艦載機に気をつけといてくれ」チラッ


江風「了解」チラッ





利根「ぬわー! ち、筑摩ー!」スッテンコロリン


筑摩「け、怪我はっ。私の腕をつかみながらゆっくりと」





木曾・江風「スケートリンクでの親子風景か」ビシッ



5



天津風《合流地点に到達したわ》


わるさめ「ザッパーン!」


ガブリ


天津風「じょ、ジョーズ! イヤアアアアア――――!」


わるさめ「快適空間へようこそ!」


天津風「な、なにこの口の中の空間!?」


わるさめ「とりゃ」ダキッ


天津風「なにするのよ! 離れて!」


わるさめ「なにこれすごい! さすが冬場の寝床に連れ込みたい艦娘ランキング一位なだけあって超暖かいー!」


天津風「まさかあなたそのために私を指名したの……?」


わるさめ「はい。現代っ子なんで寒いのは暖房なきゃやってられねっス。ねえ、スイキちゃん」


瑞穂「そうねえ。天津風が来てこの部屋の温度があがったわ」


天津風「呆れた。本当にその場の勢いで動く人達なのね……」


わるさめ「別の理由もあるよ。ガングートとはちょっと前のわるさめちゃんプレゼンツの時の借りを返しておきたいからね」


天津風「気をつけなさいよね。ガングートさんは凍った海での戦いのほうが強いという変な素質だから」


わるさめ「分かってら。なめるつもりはなっしん。前にケンカした時にあいつが金剛さん以上に強いことは分かったからね」


わるさめ(つーか北方勢自体がふっつーに将の艦隊に劣らず強え、というかめちゃ面白いやつばっかりなんだよねー……)


わるさめ「さてあまつん、ガングート、いや北方のことを教えてー」


天津風「はあ、あなたあの准将のストーカーレベルの資料を読んでないのね……」



6



ドオオン!


木曾「被弾、痛ってえな……悪天候過ぎるぜ」


木曾「霰かこれ。目を開けていられねえな、うざってえ!」


江風「ヤバ……新しい反応……この艤装」


江風「香取さん向こうに参戦してたのかよ!?」


香取「――――、――――」スイイー


江風「利根さんと筑摩さんのほうに行ってる!」


江風「後、危ねえ! 微かにガングートさんの雷撃動作が見えた!」


木曾「俺も見えた」


江風「偵察機、瑞雲に先行してら」


ドンドン!


江風「意志疎通した動きだなあれ! 爆弾落としてった!」


ドオオン!


木曾「あっぶね……魚雷のほうも当たらねえ!」


ドオオオン!


木曾「――――!」


木曾(ちっくしょ、魚雷で狙ってたの海面下のでけえ氷塊か。爆破した氷の礫、機銃より痛え……!)


ドンドンドン!


木曾「この3連装砲は、避けられねえ……」


鹿島「とうっ!」


ガキン


鹿島「重雷装巡洋艦には環境が悪い……ですね!」


木曾「おお、軍刀の扱い上手いな……」


江風「鹿島さんありがとな! 助かったよ!」


鹿島「お気になさらず。しかし、お二人ではこの距離からでは的になるだけですね」


木曾「そうなんだよな。天候も悪いし、魚雷も狙いを上手くつけらんねえ。砲撃戦じゃジリ貧だった。どうしようか?」


鹿島「単縦陣で私が先頭でルートをナビしますよ」


鹿島「途中、左舷を執ります。氷の薄い辺りで砲撃を合図に単横陣です。氷海を砕くので魚雷発射は出来るかと……」


江風「おお、氷海を進むの上手いな!」


鹿島「江風さんは艤装のタービン周りの氷を払ってくださいね。このような霰の天候では艤装への着氷への対処を怠らずです。重心が傾いて砲撃精度はおろか、最悪転覆してしまいますから」


鹿島「後、お二人にはせっかく外套があるんです。攻撃体勢に入らないなら外套で氷から艤装を保護してあげてくださいね!」


木曾「了解。ようやく戦いになるか」



7



ガングート「へえ、動き方が格段に良くなったな」


卯月「練巡ってのは人に教えるだけあって知識はもちろん、ほとんどの素質が並以上はあるぴょん。香取に至っては妖精可視才もあるし」


卯月「つーか神通がさっきから動いてねーぴょん……あいつなら氷海航行とかすぐに覚えそうだと思ったけど――――」


ピョン


卯月「――――っ!」ジャキン


ドンドン!


卯月「あぶね……コンマで反応遅れてたら死んでたぴょん……」


神通「あれ、殺したと思ったんですが……そういえばその艤装、魔改造で跳ねるウサギ要素がありましたね……」


ガングート「痛っ――――てえなオイ」


ガングート「名乗りも挙げずに左腕を斬り落とすとは日本人にしちゃ礼儀悪ィな。まあ、戦場での侍ってのは卑怯の代名詞みたいなもんだったか?」ジャキン


卯月「艤装ねーし。氷の上を生身で渡ってくるとかバカか……」


ガングート「ちびっこ、私の肩から降りろ。それと木曾達の相手していてくれないか。神風が尊敬していた例の神通だろう」


神通「……」


キン


卯月「おー、主砲で刃を受け止めたぴょん」


ガングート「フフン、今の神通には負ける気がしないな」


ガングート「神風の刀に比べたら止まってみえるし」



ガングート「ウ」








ガングート「ラー!」



8



木曾「狙いがついた! 魚雷発射!」


鹿島「ええ!? 神通さんを巻き添えにしますよ!?」


木曾「あいつはもともと乙さんの指揮ねえとあんな戦い方しか出来ねえよ。俺らの獲物横取りして接近戦とかやってる以上、気を回していられっか。神通だってやりたいようにやってんだろ?」


ドンドン!

ガガガガガ!


江風「神通さんなら大丈夫だよ! 大破してなおキレ増すバーサーカーだしな! つうか早く決めちまってくれ! この悪い視界で意志疎通艦載機を墜とすの大変なンだよ!」


鹿島「あ、新たに味方の反応があります! もうすぐ近距離に響さんが入りますね!」


ドオオオン!


木曾「チィ、魚雷が卯月に処理された……」


鹿島「……、……」


江風「卯月、反撃してくるよ!」


ドドドンドン!


木曾「オラア! その貧弱な連射砲が当たるか! 拳痛えけど!」


鹿島「ここですっ」ドンドン!


卯月「いってえぴょん! 貧弱装甲砕けて中破したし!」


鹿島「――――っ! 気をつけてください! 飛ばしておいた偵察機が新たな敵影を発見、艤装反応――――っ」











「どもー。悪い島風ちゃん改め」






【戦後復興妖精だ。初霜ちゃん引き取りに来たー】







響「っ!」


響「今の砲撃、なんだ……?」


響(砲弾を確認した瞬間、被弾してた? 周りのみんなも中破大破のオンパレード……!)


響「……情けない」


響「支援に来たつもりが――――」


響「中破、装備損傷のまた航行不可じゃないか……!」


響「あの最後の海で――――」


響「電を死なせてしまった無念を今度は守り切ることで晴らそうと思ってたのに……」ウルッ



【11ワ●:泊地拠点急襲作戦】



初霜「申し訳ありません……高速修復材まで」


戦後復興妖精【気にするなって。好きにやればいいんだよ。傷を直したいなら直してやる。テメーら全員沈んでも私一人いればなんとかなるはずだ。ただ】


初霜「ただ?」


戦後復興妖精《准将がなに仕込んでいるか分からねえから、序盤は様子見してるんだよ。准将の指示かは知らねえが、若葉が拠点を作ってる》


翔鶴「そこから大和さんが撃ってきてたのですね……?」


戦後復興妖精《ああ。あの拠点は早期に潰したほうがいい。最低でも艦艇修理技能のある明石は仕留めるべきだろうよ》


戦後復興妖精《初霜ちゃん、グレードが下がっているとはいえ、さすが此方を倒しただけあるよ。経過程想砲はまだ私でも作れねえ装備だからな。それ持って陸上戦に行ってこいよ》


翔鶴「敵地に奇襲、ですか」


戦後復興妖精《探知が出来ねえようにしといてやる。偵察機には見つかっても電探にはひっかからねえ。要はステルスだ》


戦後復興妖精《おい金剛と夕立、わざわざお前に聞こえるようにしといたんだ。お前らも来いよ》


金剛《テートク以外の指示なら龍驤リタイアしたので第2旗艦に指定されているはっつんなら従うネー。夕立は所属が違うから、瑞鳳に連絡取ってからデース》


夕立《ステルスでも神風ちゃんの探知にひっかかると思うけど》


戦後復興妖精《神風は前線に向かう途中だ。夜戦部隊のほうと合流するんだろ。電もわるさめもちょうど拠点を留守にするみたいだから、その間にあの溜まり場ごと潰そうぜって交渉だよボケ》


翔鶴「初霜さん、いかが致しましょうか」


初霜「……、……」


初霜「行きましょう。その代わり戦後復興妖精さんが現界海で出現ポイントを拠点に設定してくれるのなら、です。わざわざ航行していくのは危険ですし」


戦後復興妖精【移動方法はそのつもりだよ】


初霜「後、奇襲作戦の内容は私が決めます。それに従ってくれるのなら実行しましょう」


戦後復興妖精【クソみてえな作戦じゃなけりゃ付き合ってやるよ。とりあえず聞かせてみろ】



【12ワ●:断捨離】



「……」




「………………」















首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねて首を刎ねてやる首を刎ねてやる首を刎ねてやる首を刎ねてやる首を刎ねてやる首を刎ねてやる首を刎ねてやる首を刎ねてやる首を刎ねてやる。









――――そうそう。




それだそれ。



貴女の成長を邪魔しているのは理性という夾雑物。





『神風性質』の刀に乗せる理性は、その速度を鈍らせる。


それ以外を積んだせいで重量制限に引っ掛かっている。

ゆえに海にでもその他を投げ捨てろ。




速く、もっと速く。

国定教科書など破り捨て、法定速度を越えてゆけ。







あなたが心で、その感覚で憧れた人の隣まで。




その人間の身体のまま『廃課金:深海棲艦』の心の境地へ。




間違いかもしれない、と迷うな。









正解か不正解などと、

やってみた者にしか答えが出せるものか。



誰も選ばぬ道だから、あなたが切り開くしかなく、その未知に可能性を捧げろ。他の道から飛ばされた誰の言葉にも耳を貸す余裕を、なぜ切り捨てなかったのか。




振り返らず、省みず。



影さえも置き去りにして。












――――おう?









電「……うん?」


雷「電、どうかしたの?」


電「おぞけ? 寒気がしまして」


雷「急に冷えたからね。まだ神風さんが治るまで5分くらいあるでしょ? キャンプファイアで身体を暖めてから夜戦部隊のほうの合流地点に行ったらどう?」


電「そうするのです」


電(……気のせいか)


電(司令官さんと連絡が取れたのならあの人がなにか気付くかも、と報告しておくのですが、この戦いは司令官さんと連絡が取れないから、艦隊の皆と乗り越えてゆくしかありませんが……)


電「はあ。私、思ったよりも司令官さん離れ出来てないなあ……」





*観戦ルーム



提督「……、……」


丙少将「戦後復興妖精のやつ最初期の甚平スタイルじゃねえか」


元帥「ふうん、あれが例の第1世代の島風の友達の戦後復興妖精ちゃんか。あれ想力艤装の塊で勝負にならねえじゃねえか。反則じゃねえか。戦術でどうにかなる相手じゃなさそうだが?」


乙中将「あれ、偶然力……の他になにか仕掛けてそうだね。飛ばした砲弾に気がついても当たる瞬間まで『気づかなかった』感じだ」


提督「ロスト空間の性質を利用した体感時間のトリック」


丙少将「あー……あれか。俺、実演されたわ。十秒が一秒に感じた。それの逆か?」


元帥「みんな艤装つけているとはいえども、戦後復興妖精の兵装は子供の小競り合いに兵器持ち出すようなもんだろ。大丈夫なのかよ。お前、策はあるの?」


甲大将「まだ神風は相手出来るとは思えねえ。電のやつに策でも仕込んだか?」


提督「いいえ、策と呼べる策はなく」


提督「ただストッパーを用意したのみですね」


提督「……ステージは擬似とはいえロスト空間なので、皆の精神性能が影響する以上、どうなるかは読めませんでしたから」



【13ワ●:泊地拠点急襲作戦 2】



神風「ごめん、拠点に戻る」


電「お前序盤から勝手な動きをし過ぎな訳です。私と響お姉ちゃんが空母勢と防空兵士を相手したからいいものの、それでも下手したら龍驤さんに沈められてましたよ?」


電「それとも司令官さんからなにか言伝が?」


神風「いいえ。感覚を理屈で説明すると、拠点が潰されそうな気がする。例えば現海界の移動を利用して急襲とかです」


電「……ふむ。ま、旗艦は神風さんなのです。それを選択するというのなら指示を出してください」


神風「では私とともに。天津風ちゃんには私は夜までには戻ると通信で伝えておきます」


神風「それと私はあえて遅れて行きますので、お二人は先に」


電「遅れて? ……まあ、了解なのです」


長月「ったく、こんな訳の分からないやつを護衛するなんて初めてだ」


菊月「でもなるべく従うように、と司令官の指示があるからな。通信が出来ない以上、事前の指示を守るべきだろう。この戦いはあくまで臨機応変といわれている以上、状況に寄るが」



2



若葉《総員、拠点放棄ー……大和型と明石さんを護衛しながら海へと急げー》


戦後復興妖精【うわー、超やる気ねえ声、艤装もつけてねえし丸裸だなオイ】


初霜「そうでもないですよ。きっと声出すことに集中していないだけで若葉は頭を撤退のことにフル回転させています」


若葉(……闇にあった資料も准将からもらったものも読んだ……が、それでこの二人倒せたら苦労しないというな)


初霜「経過程想砲(仮)っ!」


ドオオン!ドオオオン!


戦後復興妖精【初霜ちゃん、初霜艤装使お?】


初霜「爆弾埋めてありましたね! 若葉の策はこれだけですか? それなら覚悟してくださいね!」


若葉「逃げるのは得意だぞ」クルッ、タター


初霜「あ、逃がしませんよ! 待ちなさいっ!」


戦後復興妖精(鬼ごっこ始めやがった。初霜ちゃんは擬似ロスト空間の性質使って偶然力も使って若葉をこけさせられそうなのにな。あの力はあまり深く考えないからこそ、かね。加えていい子ちゃんだからそういうことに頭は回らねえと見た。ま、過程より結論だけ見てる感じだな)


戦後復興妖精(そんで資料読んでいる限り、あいつがヤバえのは追い詰められた時。ここで死んでもいいから拠点だけは潰して欲しいもんだ)


戦後復興妖精(……それと、擬似ロスト空間ステージ。ガングートのやつが海に氷を張りやがったのと同じく、この拠点も怪しいな。嵐、いや、東の空に雷雲なんて出てなかった、よな?)


戦後復興妖精【……で、私は初霜から許可降りるまで攻撃できねえんだけど、自己防衛は含まれねえから攻撃されたら、沈めにかかるぞ?】


雷「私は別にガチ勢じゃないし。ほら戦う意思もないから艤装を持ってこなかったわ。ちょっとあなたに聞きたいことがあって」


戦後復興妖精【……】


雷「てっきり私の家のことは戦後復興妖精さんの力の賜物だと思っていたけど、メモリーになかったわよね? 記憶にないの?」


戦後復興妖精【……あるよ。メモリーにしたくなかったからしなかっただけ。だが、メモリーでいった通り、曖昧なんだよ。他にも色々と契約したやつのことも少し程度、覚えている。お前に関しちゃ、気まぐれみたいなもんだ】


雷「私は知らないの。教えてくれない?」


戦後復興妖精【そりゃ知らねえだろうな。あの時のお前は母親の腕の中にすっぽり抱かれる赤ん坊だったんだから】


戦後復興妖精【ただ母が子の幸せを願っただけだ。それがいつの日かお前の心をトリガーに偶然力作動するよう仕込んだだけだ】


戦後復興妖精【あのクソ宗教団体はお前の願望そのものだよ。偶然力はロリコンの資産家がお前に入れ込んだことと、それからだと思う。お前がお前である限り、あの団体は存続する。そんでもう気付いていると思うが】


戦後復興妖精【もうあの団体は終わり。私が破棄したからな】


戦後復興妖精【人の欲望に食い潰される。貸したモノは返ってこない、皆、余裕がなくなって、この時代の渦に飲み込まれて自分のことで精一杯になるやつが増えるってこった。寄付をしてくれる人間が減少の一途を辿り、非営利ボランティアを謳ってやっていけねえだろ。つまり組織として根本から瓦解する】


雷「そう。ならいいのよ。恩を仇で返された訳じゃなくて、みんなただ余裕がない。それだけ自分のために頑張る必要があるってことでしょう。それってすごい良いことだと思うし」


戦後復興妖精【ムカつかね? 向こうから頼ってきたくせに、施した優しさを踏み台にされるのはさ。加えて人数が多いせいで罪の意識は分散するから、誰も心を痛めねえぞ。『私だけじゃなくて、みんなもー』とか思うもんだろ】


雷「ひねくれてるわね。踏み台じゃなくて受け皿になったのよ」


雷「行き場のなかった人達が自分のために頑張っているのは良いことじゃない。施しを受けたと自覚していてなおその教団を利用したと思えるようならこれからもたくましく生きていけるんじゃないかしら?」


戦後復興妖精【どうもお前と私は視点がズレてんね……】


戦後復興妖精【お前は施しを与えるが、いざ自分が逆の立場になった時助けてもらわなくてもいいっていってんだぜ? 優しい人間が馬鹿を見る。その優しい人間はお前のようなやつだって私は皮肉ってんだが】


雷「そう見えるの? 私が困った時、助けてくれる人が誰もいないなんて。私には暁達も司令官も鎮守府のみんなもいるし」


電「雷お姉ちゃん、無駄ですよ。性格の悪いひねくれぼっちは何気なく差し出された掌にさえ裏を考えるので。こいつは騙しているつもりが自分で掘った疑心暗鬼の落とし穴に絶賛どはまり中のやつなのです」


戦後復興妖精【ごもっとも。で、乱入したお前は攻撃してくんの?】


電「雷お姉ちゃんは電のお姉ちゃんなので」


電「もちろん助けるのです♪」



3



金剛「逃がしまセーン!」


暁「ちょ、引き撃ちとはいえこっちは何人いると思っているのよ! 金剛さん体術でこっちの砲撃凪ぎ払いながらただ突っ込んで来てるだけなのに、倒せないとかおかしくないかしら!」


金剛「真のレディーは数をモノともしないのデース」


暁「真のレディーはもっとおしとやかで鮮やかよ! そんな肉弾戦車のようなパワーファイトはしないわ!」


金剛「私はこの戦いの全員を沈める勇姿で提督を惚れさせて、お嫁にもらうのデース!」


暁「むしろ戦う理由が男らしい!」


伊13《ああ、拠点が夕立さんに破壊され尽くされました……》


武蔵「金剛のやつ、どうなってんだよ。私と大和でも46センチは殴り落とすと腕が破壊されんのに……もう呆れるしかねえ」


武蔵「おまけにギア入り過ぎだろ。砲精度も撃つ度に上がってる」


大和「……金剛さんや夕立さんだけなら対処は可能ですが、問題は初霜さんが追って来てることですね。彼女は艤装性能や素質どうこうの問題じゃなく、私達が無力化させられるだけなのでどうしようもないです」


春風「それじゃ出ましょうか。私達が時間を稼ぐ場面ですかね?」


旗風「行けますが、私達の練度で金剛さん夕立さん初霜さん相手だと現実問題1分も持たない気が……」


大和「うーん……司令官が欲しいですねえ。明石さん、長年の」


明石さん「無理ですー。明石さんガチで旗艦適性ないんで、戦場では指示待ち人間ですー。だから弟子に艤装渡したんですよ!」


明石さん「この場では赤城さんでしょう!」


武蔵「だな。大淀が抜けてからは元帥艦隊の旗艦だし」


赤城「むー、ガチ勢ではない私が指示を出してよろしいので?」


大和・春風・旗風・明石さん「ぜひ!」


長月&菊月「ああ、赤城さんなら」


赤城「適しているのは私と長月さんと菊月さんですね。春風さんと旗風さんは護衛のまま大和さん武蔵さんに警戒神のまま同行ですね。長の距離に入ったら拠点に三式弾をぶっぱです! 私も大和さん達の航路に偵察機飛ばしながら、長月ちゃん菊月ちゃんを支援します」


長月「そだな。春旗風はこのまま護衛輸送でいいだろ。初霜はまだ遠い。私と菊月が金剛を抑えるから確実に逃げろ」


菊月「いいのか? 夜が来る前に私達が沈む訳には……」


長月「司令官の指示通りに臨機応変だ。夜の探照灯係には暁がいるだろ?」


菊月「あー、それもそうだな。暁、任せたぞ」


暁「ふぇ、わ、私に神風さんの護衛とか……」


長月「春風と旗風、駆逐の役割は頼んだぞ。大和型はここで失う訳には行かん」


春風・旗風「お任せを!」




長月&菊月「じゃ、出るよ」



4


ドンドン!


金剛(相手は長月菊月デスカー。願ってもないデース!)



金剛(一旦、旋回して駆逐砲の外まで距離を取りマース。アカデミー時代は性能にあぐらをかいて下手に突っ込んだ結果、泣く羽目になったネ……!)


金剛(相変わらず連携がお上手デスネー。歌番の時といい、この二人のコンビネーションはあらゆる面で機能してると……バーニングシスターズ!)


金剛「ですが知ってマース! どちらか片方を潰してやれば戦闘力は半分以下! この距離からでは二人の砲撃は届きまセーン」


菊月《ハンデだ。今回は私達のほうから距離を詰めてやろう》


金剛《ムッカチャッカファイア――――!》


ドンドン!


金剛《……シット! いや、その手には乗りまセーン! 私、落ち着くのデース!》


長月《一人言まで通信飛ばしてくるんじゃない!》


金剛(といっても向こうのが速いですネ……後ろに下がり過ぎると夕立も射程に収められてしまいマース……私も提督勢の言葉に甘えて私情を挟みますか。あの二人との戦いはあまり邪魔されたくもないネ)


金剛「長引けば赤城の艦載機にいいのもらいそう……」


菊月《手加減は要らんぞ。睦月型は最強だからな!》


金剛「知ってるネ。相手に取って不足なーし!」


金剛「妹達にも提督にも金剛としてお見せできるBurning Loooveはこれが最後だし」


金剛「ふふ、決まりました!」


金剛「私らしく真正面から正攻法でぶつかってやりマース!」



5


ドンドン!


金剛「く! 精度はさすが!」クルッ


金剛「ですが、速度出し過ぎデース! 船も急には止まれなーい! 全砲門ファイア!」ドンドンドン!


ドオオオン!


金剛「イエス! 長月にクリーンヒット!」


金剛「その中破損傷なら次の砲撃で仕留めてやりマース!」


長月「この程度、傷の内にも入らん! キスカでは阿武隈と卯月を守るために二人とも大破してなお空母棲姫だって沈めてやったんだ! 行くぞ菊月!」


菊月「ああ、任せろ!」


金剛「隊列崩して二手に別れた……?」


長月「照射! 探照灯っ!」


金剛「しま、眩しっ――――」


菊月「バーニングラ――――ブ」


ヒュルル


金剛「ノー! 私が物理的にバ――――ニング! 照明弾を人に向けて撃ってはいけまセーン……!」



金剛(あ、二人が砲撃体勢)



長月「私達が単横に位置取りして同時に発射したから」



菊月「実質10列の酸素魚雷だ、避けてみろ!」



金剛「隙間があれば、避けてやりマース!」


ドオオオン


金剛「く、ここで赤城の彗星が――――」



長月&菊月「もらった。砲弾もプレゼントだ!」ドンドンドンドン!



金剛「――――!」ジャキン



ドオオオン!



6



長月「く、そ……反撃もらった……」フラフラ



菊月「おい長月、私の肩を」


ドオオオン!


菊月「――――痛っ」








金剛「ダメ、コンで航行性能は……守ったネ――――」


菊月「まだ軍刀がある、なめるな!」ブン!


ガキン


菊月「な、足の艤装で弾かれた!?」


金剛「一捻りに首を折ってあげマース」


ボキ


菊月「――――」


チャプン


長月「く、う……」


金剛「トドメデース! 空砲ファイア!」ドンドン!



ドオオオン!




金剛「……?」





金剛「まだ沈まない、の?」






――――に、





金剛(なにかいって……)








ゃん――――にゃん




長月「……」ジャキン



金剛「!」



――――メイド




長月「魂!」



ドオオオン!



金剛「くう――――! まだ……私は倒れまセンッ!」



長月「ハハ……負けちまった」



チャプン

















ヒュン



金剛「今……?」









金剛「――――!」


ガキン



神風「お見事でした。切り捨て御免」



金剛(私が反応出来な――――)


ズバン!



金剛「いえいえ、そちらこそお見事デス……」



パチャン




7



初霜「神風さん!」



神風「――――」



初霜「速いですが、射程圏内です、もらいました!」



初霜「探知、接続、質量化」


ドオオオン!



初霜「……へ?」


初霜「経過程想砲撃を斬られた!?」


初霜(私が此方さんの経過程想砲を相殺した時と同じく……見えない探知砲の接続ケーブル……を、切られた。肉眼で見えないはずだし、感じ取った? 想は妖精と同じく艤装で破壊できるけど、想の波を人間が刀で捉えるような真似が出来るはずが――――)


神風「あり得ない。そんな顔してる」


神風「底をさらけ出したわね。もはや恐るるに足らず」



初霜「!」ジャキン



ドンドンドン!












ヒュン












神風「そもそもロスト空間で人間に出来ないことがあるとでも」



神風「って、聞こえて……なさそうね」




パシッ





























神風「この首、驚いたままの顔してる」





























*観戦ルーム





明石君・秋雲・青葉・山城「」


速吸「(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル」


日向「准将から念を押されていたとはいえ、凄まじいな……」


明石君「ポーラさんは余裕そうな顔ですねー……」


ポーラ「首チョンパは私達でも即死なのでさすがに今日初めて見ましたが、あの戦い方はいつ見ても気持ちの良くないものですねえ……でも、あれが神風ちゃんですから受け入れるしかないですー」


ポーラ「ホットワイン飲みますう?」


明石君「ちょっともらいますね……」


ポーラ「あー……間接キスうー♪」


明石君(なんだろう。ポーラさん綺麗で好みなのに、ちっとも下心が湧かないこの不思議は……)


日向「さすがのお前もあれは撮らないか」


青葉「守備範囲外です。すみません、青葉ちょっと吐いてきます」タタタ







龍驤「あかーん……どんどん進化してるよ。やっぱり序盤で仕留めておく判断自体は正解やったあ……」


陸奥「神風ちゃんが呆れるくらい強いわね……刀一本でトランスタイプにも勝てそうなくらい」


リシュリュー「戦いとなると容赦ないわねえ……」


龍驤「北方にいた頃より強いやろ?」


リシュリュー「それは確実ね。でもあの子に関しては驚かないわ。放っておいても一人で訓練して強くなっているような子だったし……」














初霜「……ふぇ」


初霜「ひぃ……」ウルッ


乙中将「初霜さん、大丈夫かい?」ナデナデ


金剛「はっつ――――ん!」ダキッ


長月&菊月「初霜おおおお!」ダキッ


初霜「わ、私の首が、あそこに、うええ……」


長月「見るな!」


菊月「ああ、見る必要はない!」


金剛「ヘイ提督! はっつんを慰めてあげてくだサーイ!」


提督「ええ、初霜さん失礼して、お膝の上へよっこらせ」


ギュッ


初霜「み、皆さんすみません……不甲斐ない姿を」


乙中将「いや、あれは仕方ない。神風ちゃんがちょっと常軌を逸してた……艦兵士として未曾有の境地に行ってる……」


金剛「確かに……速い、というか、気付いたら斬られていた感じデース! 刀で斬られる前に斬られた痛みを感じたってちょっと……」


提督(まだまだ。神さんはもっと進化できるはず。ですが……)


提督(ちょっと危険かな。道を究めるためにブレーキ壊せばただの暴走。そこが身に染みてるトランスタイプのぷらずまさんとわるさめさんがどう見るかによって、仲間割れまであり得そうだ……)


提督(神さん、何のために刀を振るっているのか、今一度。決して味方を殺すためじゃないです。初霜さんを殺してからの神さんの言葉を聞いて道を踏み外さないか心配になってきた)


初霜「提督……神風さん、大丈夫、ですかね」


提督(この子は本当に感性が鋭い子ですね……)


提督「もちろん大丈夫ですよ。初霜さんは心が落ち着くまでここに居てください」


初霜「お言葉に甘えさせて貰います……」ギュッ


元帥「初霜ちゃん、わしの膝の上も空いてるからね」ポンポン


初霜「嫌です。提督か乙中将がいいです」キリッ


金剛「あ、表情が引き締まりました! 元帥ちゃん、はっつんを元気づけるの上手デース!」


元帥「その代わりわしの元気がなくなったんだけどね」



元帥(……あれ、いつの間にか北方のやつがいねえ。どこ行った?)


【14ワ●:想題】


好きに生きろ。だが責任は取れ。

それがパパの口癖だ。放任の極みだった。勉強しなくても夜更かししても怒られなかったしね。新年の挨拶はするしら誕生日は祝ってもらえたし、悩みを打ち明けると聞いてくれた。


両親が離婚してから、年に一回だけ私はママに会う。

貧乏暇なしの父と私の家には綺麗な招待状が十二月に届くのだ。


ママは再婚して世界有数の資産家と幸せに暮らしていた。私はその招待状を手に持って、東京のホテルに赴く。学校の制服で行くと、ホテルの一室で小綺麗なドレスに着替えさせられ、そして上品と優雅を極めた立食パーティーの中でママと話すのだ。キラキラと夜景が輝く都会を見下ろして、料理の名前も分からない食べ物を食べて、一夜限りのお姫様の夢を見る。


毎年の楽しみだった。


でも背が高くなるに連れて色々なことを考えるようになって思った。お土産としてもらった何気ないモノでも、私の家にあるモノ全てでも届かない高価な代物だった。この美味しい食べ物の値段を聞けば、普段、私の給食とは20倍ほども高いという。けれど別に給食より20倍美味しいという訳でもない。


釣り合わない。これが贅沢ってやつか。

別の惑星みたいだよ。高いホテルのガラス張りから見下ろす街並みの光が儚く見えた。宇宙から地球を眺めているかのようでもあった。


あそこの下町の人達はこの世界をきっと知らない。普段の私は貧乏だったから分かる。世界にこんな場所があるとは知っていても『あってもなくても関係のない場所』なのだろうと思った。あの場所で誰かが叫びをあげてもここまでは聞こえない。こちらからも同じくね。人を隔てて凍りついて温もりすら曇ってゆく。その日の帰り、冷酷で高級なビル風が心を嫌に冷やしたのを覚えてる。


学校でもそうだった。コミュニケーションが高い人は似たような人達とつるみ始めるし、あまり喋らない引っ込み思案も同じ者同士で友達になる。あの一夜の景色のような隔たりがあった。


この場所はあんまり楽しくないね。楽しくするにもみんなに煙たがられそうだ。怖い人達に目をつけられそうだしさ。卒業のヨーイドンの合図が鳴ったら私は自由に走った。


見てみたい景色はあった。

この世界の理法から外れた対深海棲艦海軍が見る海だ。私には妖精可視の才もあったし、飛び込めるはずだ。



2



響の適性が出た。艦兵士のほうが優遇されて現実問題の多くがクリア出来るから、迷わず響となった。


深海棲艦、軍艦響の歴史の夢見、衝撃的な世界を私は知ったんだけど、最も驚いたのは姉妹艦効果だった。


こうも簡単に打ち解けられるものなのか。

私には衝撃的過ぎた。学校で言うと絶対に別のグループで落ち着くであろう彼女達とすぐに仲良くなることが出来た。


暁はドジなところがあってもその健気な姿が可愛いから、クラスでは愛されそうな性格をしていた。雷はしっかり者でハキハキとモノをいって有言実行で頼りになる。学校だと発言力を持つタイプだ。私は、ぽつん、と一人で自分の好きなことをしていたし、人に合わせるのは苦手だったから、学校でこの二人と出会ってもクラスメイト以上になれるとは思えなかった。


海の魔法だった。人間に壁なんかないよって、そう私のちっぽけな固定概念を粉砕してしまった。


たくさん遠征、出撃をこなした。

最初は深海棲艦を倒すのは嫌だった。海の魔法に当てられて、彼等とも仲良くなれる道があるのではないか、と思っていたからだ。先輩が容赦なく彼等を殺すのを見て心が痛んだものだ。


海から引き揚げられて、ガチャガチャと積み上がる『人類の敵:深海棲艦』の残骸の山をじっと見つめていた。


こんなにたくさん殺すのはひどい、と思った。正直な感想だ。


そんな私は割り切るまで時間がかかった。戦えたのは、家族であり、姉妹であり、戦友である皆がいたからだ。日に日に強まっていく絆が心地良かった。


練度が低い時は死にそうな目にも何度もあった。その度に私は泣きつくように通信を入れた。「司令官、司令官、指示をくれ」


その度に指示をくれた。助けてくれた。私のミスがあって艦隊を危機に晒してしまった時も司令官は「よく頑張った」とあやすように笑いながら頭にポンっと手を置くのだ。

その時、私はいつも帽子の唾を下げて顔を隠すんだ。


どうしようか。まだ響なのに、



愛とか恋とか分かりかけているよ。



3



休みの日なんかは司令官の部屋にずっといたけど、司令官は怒らなかった。暁と雷には怒られたけどね。私はそれでも構わず司令官にちょっかいかけていた。練度も高くなって、出撃でも第1艦隊に編成されることも出て来て、こんな素敵な日々がずっと続くと思ってた。


結婚した。

司令官がそういうまでは。

私は指輪を艦隊の誰かに渡したのだと思った。私も最高練度になったらちょっとねだってみようかなって思う。そしていつの日か、と胸をときめかせていた。雷が「誰と?」と聞いたら、司令官は薬指の指輪を見せた。同窓会で会った幼なじみと入籍したんだ、と答えた。私の中で夢が壊れる音がして、目の前が真っ暗になった。おめでとう、とその場は祝福して部屋に逃げた。


どうしようもなく子供だ。相手にされる訳ないか。

私が勇気を出して1センチスカートの丈を短くしても気付いてくれなかったし。


その日から司令官の顔を見ると胸が張り裂けそうになった。出撃してもミスばかりする。戦場で艦隊の皆に迷惑をかける訳には行かない。私は整理が出来るまで艤装を手放した。


あの日と同じように自由にまだ見ぬ世界を走り出した。暁と雷には悪いことしたよ。あの頃は携帯なんてなかったし、さぞ不安にさせてしまっただろう。連れ戻されそうだから手紙も送らなかったしね。


今思うとあの逃避行が10年近くも続いたのは奇跡なのか、それとも知らないうちに最初期の島風が私になにかをしたみたいだし、それが原因なのかな。別に大した興味はないけどさ。



4



ロシアにいるママの元を訪ねた。

そこで6年、暮らした。私と暮らすのをママの再婚相手が嫌ったので、別荘を用意してくれた。そこで執事と暮らしていた。私の自由奔放な性格が悪さして学業もろくにせず自由気ままに日々を送っていたので、とうとうママに怒られてしまった。まだ私は失恋から立ち直れない。本当に自分に呆れるしかなかった。


学校に行く気はなかったので私は職を探した。その時に入ったのがロシアの軍だ。まだ未成年の女でも貴重な妖精可視才のある私は特例措置として軍に籍を置くことが許されていた。


露の対深海棲艦海軍は日本とはまるで違った。

艦娘が対人テロリストの兵士として陸地で運用される場合があったのにはさすがに目を丸くした。兵学校ではそれを前提にされた訓練も受けた。私の場合は仕官の学を修めたのだけど、響の適性を持っていたから、日本にある響艤装で建造を行い、身体能力を強化した上で前線支援の兵士の任を請け負うこととなった。その時に前任の元帥から私が逃げ出した響だとバレた模様だ。私に「戻って来ないか」の声がかかるのはまだ後だけどね。


良くしてくれた私と同じく妖精可視と適性を持っていた女性の上官から色々な武器の扱い方を学んだ。銃の作り方、重火器から手榴弾、戦車の運転もね。

初めは地獄だった。


軍では『殺すために銃の引き金を引けるやつは新兵として及第点』だ。そこから訓練された上質な兵士は『命令されたから引き金を引いた』と答えるようになる。私は違った。戦場に投入されて初めての殺しは『自分が殺されないために引き金を引いた』だった。響の艤装で深海棲艦を沈めた時とまるで同じだった。


しかし、次第に味方を守るために、に変わっていった。兵士の素養はあるといわれた。

『個人的にゃ好きなやつだ。味方を死なせないために引き金を引くのはな』とからかわれたのを覚えてる。それしか私には出来なかった。味方を守るために引き金を引く。それが最も私が私の殺しを正当化できる理由となり得たからだ。


そうして渡り歩いた戦場。

人間が深海棲艦海と大して変わらないことを知った。


一人の兵士の元に化物が群れを成して突撃する。

兵士は塹壕から顔を上げて機銃を乱射しており、深海棲艦の気を引く。その兵士のもとへ化物が突撃してくると、兵士は銃口を自らの口内に突っ込み、引き金を引く。そして同じ事を少し先にいる兵士が続ける。そうして誘導した深海棲艦海が行き着く先は戦場だ。突然に沸く深海棲艦という無差別兵器を利用するために、そんな人間ドミノの誘導方法が行われていた。


深海棲艦も使いようで市街地に送りいれると、小さな市街地の逃走経路を封鎖、駐屯地から軍隊が到着する前に民間人を確保し、男女に分けて拉致をする。100人程の女子供は市街地の外れにある製鉄工場へと押し込められた後、30名程の武装テロ組織の兵士が到着。彼等は妙な演説を六時間ほど行い、希望の領域を越えた思想に、狂ったように万歳していたという。


《よう、準備はいいかな?》


《もちろんだよ》


武装兵士が工場から連れ出し、囲んだ女に意識が割かれたところを狙った。前弾命中だ。女性を保護したと同時に突入部隊のほうの開戦も確認。


「お嬢さん、大丈夫かい?」

目前の森林から現れた私は駐屯地の軍人の格好をした10代半ばの若々しさと、肩口までの髪は黒く、そして腰辺りの髪は白い。私が声をかけたお綺麗な女性は奇妙な小さな少女にお嬢さんと呼ばれたことに違和感がありそうだ。


倒れた男が呻き声をあげたと同時に、後頭部に銃弾を撃ち込んでいた。無駄のない速い動作だ。息をするように自然に引き金を引いていた。


連絡を取った。

確保された民間人はこの少女の所属する部隊のほうに一時的な保護を受けることにした。共同戦線を張っているほうの軍に前科持ちの将校がいる。前に保護した女子供に暴行を働いてその件をもみ消した連中なので、こちらで保護してもらえるよう交渉した。


助けて彼女に名前を聞かれたので答えた。


Хибики:響。対深海棲艦海軍の艤装のない兵士。


まさか彼女がガングートの適性持ってたとは思わなかったけどね。そのことを知るのはずっと後のことだ。


一年も建つと私は敵ならば人間でも深海棲艦と認識に変わりはなかった。今やもう世話になってる国の忠実な犬だ。狙撃手として味方と仕留めた敵の数を競い合ってたほどだ。キャラ的には映画で出てくるような面白系の軍人が近いかな。いつもスベッてるまではご愛嬌さ。


今思えば軍人の中で貴重な女兵士なだけあってモテ期だったな。艦の娘は響適性があり、艤装はなくとも響であった私は日本へのほうとも書類上の関係があったため、上官から特別扱いを受けていたため、寝込みを積極的に襲ってくる人はいなかった。


「世界で一番君のことを愛してる」


仲間のマックスからそういわれたよ。笑顔で面白いジョークをいうやつだ。私のジョークの師でもあった。今思えばの話であの頃にはまだ心に司令官がいたから、男を作るような真似はしなかった。ウォッカを煽る上官から「私はまともな女だから分かる。お前は恋人は持つといい。理想は家庭だな。愛する家が貧乏でもいいな。親兄弟はひもじいほどいい」といわれた。その時はよく分からなかったが、後々にこの言葉の意味が分かった。


「世界で一番君のことを愛してる」


ああ、それとマックスは次の日から爆弾処理班のマディナを世界で一番愛することにしたようだ。


「安心してくれよ。一番が一人だと誰が決めたんだ?」


それは安心した。プレイボーイってやつはどうも面白くてダメだね。そんな愉快な仲間達と一緒に戦場を共に歩く。


ガングートと出会ったのはその頃かな。



5



彼女ほど恐ろしい軍人は見たことがなかった。

彼女の上官も作戦完遂を第1に考えており、キリングマシーンみたいに容赦がない。ガングートは軍人として完成していたから、私は好きにはなれなかったな。あの兵舎で一緒になったこともあったけど、普段の彼女は良くいえば豪快、悪くいえば大雑把なやつだった。作った飯やコーヒーの淹れ方を見れば誰にでも分かる程だ。


あの部隊はиноверецと影で呼ばれていた。狂信者という意味だ。祖国や神を信仰、といえばいいが、その容赦のなかった殺しの手際はそれらをただ殺しの正当化に利用しているかのような印象を受けた。


共に任務をこなす際に私は作戦海域である黒海で響の艤装を身につけ、ガングートと肩を並べたことがある。その作戦で神は彼女に罰を与えた。深海棲艦海、欧州棲姫に死にかけの仲間がしがみついた。ガングートはその撃破の好機を見逃すことなく、即座に味方もろとも欧州棲姫を海の底へと沈めた。


私は出来なかった。味方を撃つだなんて真似、絶対に。


その作戦の後、近くの市街で起こったテロの掃討作戦が実施された。身体にこびりついた血をヒステリックに拒否するかのような肌を殴りつける雨が横凪ぎに降ってた。


人の死体が積み重なっていた。銃撃戦の壁に使った。

積まれた深海棲艦の山を思い出した。また物言わぬ屍から、なにかメッセージを感じ取る。それを言語にすることは出来なかったけれど、気持ちの良いものではなかったと思う。


その中で司令官と似た顔を見つけて、私の心臓は不安定な鼓動を鳴らした。その時今更になって自らが引き金を引く理由に迷いが生じた。殻を抜けるように出てきた響の頃の私がいう。


こんなにたくさん殺すのはひどい。


銃口が私のこうべと同じく地面に項垂れた。

どうやら軍人としての寿命が訪れたようだった。

あの時の上官の言葉の意味を悟る。私は自由で縛り付けるものがなく、鳥のように軽かったのだ。だから容易に空を飛んでどこかに行けてしまう。私が家庭の大黒柱なら、こんな私を愛してくれる恋人がいたら、両親が貧乏だったのなら、彼等を守るために仕事だと割り切ってこの重い引き金をきっと引けた。


「司令官、司令官、指示をくれ」


戦うことを止めると、雨粒が地面を殴りつける音が大きくなった。誰かの断末魔と勇猛な号哭ともにあがる銃器の挽歌が耳から入ってしつこく頭で反響していた。生き残るために動かした逃げ足を、粘っこい泥が遮るようにまとわりつく。


なにかの建物が吹き飛んで、戦いは終わった。

艤装の砲撃音だと私にはすぐに分かった。


覚束ない足取りで私は放棄されかけた市街地を歩いた。

ガングートがいた。雨で広がった返り血の顔のままでいた。その前にはじいさんがいた。ばったりとそこの角で出くわしたのか、至近距離からお互いに銃口を向けあっていた。


じいさんの言葉は周りの騒音で上手く聞き取れない。

多分、今までのテロ活動についてのことを語っていた。子供の頃からどうのこうの、と。


Среди――――сокровищ мира нет ―――― драгоценного,――――вечную и неизменную――――признательность ―――― ――――До свидания.


聞き取れたのはそれくらいだ。確か宣教師みたいなことをいってたな。彼は長い間、教えを説いていたようだ。そんな年寄りの人生に対してガングートが発した言葉は簡潔、聞き取りやすかった。


残念、また来世で。


彼の人生は7文字にまとめられて幕を下ろした。


彼女は上官が黒といえば黒と認識する。作戦遂行の障害となった子供の頭を撃ち抜く場面、銃殺刑を執行する彼女の姿も見た。彼女は情がなく、腕の立つ軍人だった。


彼等はそもそもが矛盾している。共産主義を謳うなら神は信じても口にはしないほうがいい。神は私達の制御の外にあるのだから。


犠牲になった子供の屍を見てガングートの司令官が、こういったんだ。


私は間違っていた。

そういった。今更なにを、と私でも馬鹿馬鹿しく思った。若い命は指揮権が許す限り、作戦成功率を脅かしても生かして捕らえるべきかい。歳を取って考え方が変わったのかな、と私はその時思った。そういうこともあるだろう。


だけど、目の前の艦の娘はそれを許さなかったやつだった。

ガングートの怒髪天を衝いた。

彼女は珍しく弱気な声で、だがハキハキとこういった。



「脅威は女子供関係なく脅威だとあなたは手取り足取り教えた」


「それを、間違えていました、と」


「敵であろうが相手は人間」


「今も聴こえる銃撃音と人間の断末魔は」


「我々が尊い未来の芽を摘む音なんだぞ」


繊細だな、と思った。

彼女には女らしい一面もあったようだ。


制裁の撃鉄音が響いて、司令官が地に伏せた。

私はその突然な行動に唖然と立ち尽くしていて、ガングートが歩く後ろ姿をただ見つめていた。隣にいた兵士が倒れた上官の応急処置を始めて、私にガングートを追え、と叫んだ。私はその声で我を取り戻してガングートを追って教会へと突入した。


十字の前に避難していた子供達がいた。

ガングートはそれらと向き合い、武装を放棄して膝をついていた。手を祈りの形に変えて、今まで抱え込んでいた罪を吐き出すかのような懺悔を神の前で行っていた。


あのガングートがただの迷える子羊に見えた。


私はそんな彼女を見ながら、神とはなにかを考えていた。

救いを求める価値があるのか。

私の中の神の認識はそうだな。祝福を送りつけるのが大好きで、試練を用意して絶望を与えても、救いは保証しない。そしてあちらこちらにいるというが、姿は見たことなく、そのくせ名前だけはよく聞く。そんな流行りの都市伝説みたいなやつだ。


バカバカしい。なんだか日本へ帰りたくなった。

神だなんて暁や雷と話題にしたこともないよ。



6



その作戦が片付いた翌日のことだ。

日本の元帥から勧誘を受けた。戻って来ないか、とのことだ。理由は除籍となった提督の後釜、そこに私を推薦したいとのことだ。なぜ私かはよく分からないが、ロシアでの活動に滅入っていたこともあって私は誘いを受けて日本へと帰国した。


提督として鎮守府に着任してから理由を知った。

それがかなり適当な理由だった。

今期は暁、響、雷、そして電がアカデミーを卒業して新規着任。どうも電も含めて癖の強い個性的な子達な模様だ。響だった私には彼等と上手くやれるだろ、といった理由らしい。フリーダム元帥だな。嫌いじゃない。


でも鎮守府にいると少し憂鬱だ。私はまだ引きずっているようだ。今世代の6駆は仲のいい子達で、絵に描いたような仲良し姉妹で見ていて微笑ましい。それになかなか連携も上手く、半年経たずに四人でル級を撃沈の戦果を挙げて帰ってきたほどだ。


ただ電がちょっと私と似ていた。深海棲艦への攻撃に躊躇いが見て取れたのだ。それら電の適性データからして仕方のないことだと判断した。沈んだ敵も助けたいという理想を持つ彼女は戦争に適応するには時間がかかる。少しずつ彼女の練度があがり、戦場に適応していくのをじっくりと待ち続けた。


哨戒、遠征、出撃で彼女達の練度が80を越えた頃、珊瑚に現れた南方棲姫の撃破作戦の命を指令部から受けた。



7



今なら分かる。あの空母棲姫はロスト空間で反転建造されたやつが最悪のタイミングでこちらに放たれたのだろう。それ以外考えられない。偵察機で周りも確認したばかりだ。空母棲姫という凶悪な深海棲艦なんていくらなんでも見落とすはずがない。


支援が間に合わない。

南方棲姫と空母棲姫なぞあの四人には荷が重すぎる。


作戦は成功。6駆は決死を持って南方棲姫を沈める手柄を挙げていた。救助に出向いた主力艦隊が電を救助した後、即座に撤退。陽動部隊は電を除いた3名が殉職。


私はいずれ提督なら通る道といわれた試練と直面した。司令官としての責任を放り投げて、私に艤装さえあれば、と悔やんだ。


その日に帰投した電の顔は今も覚えている。

まず私に謝った。私のせいで、と蚊の泣くような声で何度も繰り返していた。私の胸が張り裂けた。違う。君のせいじゃない。現場のことは艦隊の命を預かる私の責任だ。


電には声も届かなかった。

その日から彼女は笑わなくなってしまった。生きているのか死んでいるのか判断に困るほど生気が薄くなって、日が暮れるまで花壇のお花を見つめている日が多くなった。

上は兵士の保持に熱心なため、療養を勧めたが、私はハッキリと彼女には解体を勧めた。そのほうがいいと思ったんだが、彼女は頑なに首を横に降った。

「去れません。時間をください」と頼まれた。こんな子供に私は大変なモノを背負わせてしまった。


私は元帥に相談した。その結果、電は休養を名目に丙少将の保護下にある新造の鎮守府に異動させることとなった。


それも間違いだった。丙少将保護下の海域で安全な海、休養が出来るであろうと私も元帥も見込んでいたのに。


悔やんでいる。


あそこにいたのは、不来方フレデリカ。

ネジの外れた狂人が電の弱みにつけこみ、徹底的に壊した。


それでも私は彼女を責めない。

その権利がなかった。

私が原因だから。



【15ワ●:強くもないままでニューゲーム】



私は立ち直れずにいた。

あの電にあんな顔をさせてしまう時点で提督として終わりだと思ってた。そんな自責の念に苛まれながらも、そこの鎮守府で半年間、提督の任についた。


電と入れ違いで、三日月が着任したかな。生真面目で絵に描いたような優等生だ。それと人の心の機微に敏感だった。


新兵でありながら生意気なことに私を慰めるような言葉を吐くのだ。空いた時間に自ら秘書艦の仕事を勉強しつつ、夜中まで私にひっついて気を回してくる。三日月いわく、大人でも子供でも司令官でも落ち込んでいる人を見ると放っておけない、とのことだ。珊瑚の件をひきずっているのは周知の事実だった。なまじ作戦が成功したために与えられた罰は私にとって罰といえないレベルだったし、罪悪感はしこりのように残り続けている。


私はロシア軍部と今も親しくしていた関係に目をつけられて、ロシアと共同戦線も張る北の重要拠点に移されることになった。

面倒だ。


三日月「司令官が一番面倒です」


三日月が異動希望を提出してまでついてきたのはさすがの私も驚いた。元帥は駆逐艦に甘すぎるよ。私は三日月になつかれたのか、それとも心から心配されたのかは分からないが、本当に要らぬお節介だったので、大人げないこともした。睦月型なのを名目に遠征重労働やお望みの秘書艦に指名して執務丸投げとかね。三日月は「がんばります」と嫌な顔一つせずにただ真面目にこなすだけだったので馬鹿らしくなって折れた。あの頃は私もどうかしてたよ。子供にまで当たるなんて。


ただ三日月の生真面目さは度が過ぎていたので肩の力を抜くように、といった。「なら司令官がしっかりしてください」生意気な。カンチョーしてやった。


三日月「小学生ですか……!」


「覚えておくといい。君がこの先どんな男と寝ようが、初めに後ろをフ○ックしたのは私だとね」


三日月「……」


三日月のゴミを見るような目があまりにも私の精神を削いだので、こういうことはそれっきりにした。


普通にコミュニケーションした。

やっぱり女同士だからか深いところの話も気軽にした。思春期だろうし、食いついてくれるかな、だなんて思ったのだ。ちなみに憲兵に三日月のファンがいたので、三日月のタイプは真面目で礼儀正しく、規律的な男だと教えてあげた。その代わり適当な理由でっちあげて深夜にロシアの駐屯地へ赴くことを見逃してもらったよ。


その時点で北方鎮守府に配属されていたのは、

三日月、島風、天津風、望月、そしてビスマルク、隼鷹、ポーラとUだ。色々な国籍の連中が入り乱れて食事の作法一つ取っても噛み合わない面倒な鎮守府だった。特にポーラと隼鷹はブレーキとなるザラと飛鷹がいないせいで四六時中飲んだくれだ。そしてリシュリュー、若葉もやってきてもう投げ出した。それぞれが個性的過ぎてまとめていられなかった。返事一つ取っても素直にしてくれるのは三日月と天津風くらいだし。


皆も色々あってここにいる。私と同じだ。なら、やりたいようにやればいいさ。そう私は思った。そして、いつの間にか北方鎮守府にはそんな風潮が完成していた。それがマッチしてたしね。


そんな頃だ。私の元に1通の手紙が届く。


親愛なる響へ。


私の同期の姉妹からだった。

驚きで机から落ちた山積みの書類をそのままにして、特急の電車に飛び乗った。



2



暁と雷、二人とも生きてた。

ただ事情が出来て二人とも6年で解体して海を去っていたようだ。二人とも成長していて私とはまるで容姿が違った。

私だけ冷凍保存されていたかのように若かった。

そりゃそうか。二人とももう齢40を越えていた。でも歳よりもずっと若く見えた。若い頃の写真も見せてもらったけど、私が想像していた以上に綺麗になってた。暁なんかは見目麗しい理想的なレディーそのものだ。二人からは「響はあんまり変わんないよね」といわれた。私は確かに童顔だし、胸も大して膨らんでないけど、背は伸びている。二人いわく「中身が」とのことだ。心外だな。私だって色々あったんだよ。「司令官のことまだひきずってる」ぐうの根も出なかったけど、線引きはしているつもり。


今思えば、司令官と同じくらい好きだった。司令官と同じく二人が誰かに取られちゃうのは嫌だった。お姉さんの立場だけど、私は気質的にはわがままで妹寄りだ。でも、二人の薬指の指輪を見て、私は心から祝福することが出来たんだ。


「響が司令官かあ。ちゃんとやれてる?」


その雷の私は言葉に詰まる。ちっともやれてない。

今までのことを話した。私が鎮守府から逃げてからの日々のことだ。二人は唖然とした顔になった。ロシアでのこと、艦娘の陸地運用、ガングート、そして珊瑚のことも話した。


「響は、どうして司令官をやろうと思ったの? 戦うのに疲れて日本へ戻りたくなった、みたいな流れだったのに」


その暁の問いにも答えられなかった。

そういえばそうだな。なぜ私は提督の任についたのだろう。別段、これといった決意はなかった。強いていうのならロシアで前線にばかり飛ばされて疲れていた時に平和な日本から誘いがかかったからか。司令官としての決意なんて特になかった。


「なにかやりたいことはあるの?」


「そうだな、とんでもなくすごいことをやってみたい。もちろん悪いことじゃなくてね」


「司令官ってすごいことだと思うけど」


「そうじゃない。なんていうか、世界が私一色で染まるような」口から出任せだけど、今の心のもやもやを吐き出したらそんな言語になった。


「司令官の責任が重いのは私達の中じゃ響が一番分かってるはずなんだけどね。気付いていないだけできっとあるわ」暁は苦笑した。


ああ、そうだ。司令官の存在は大きい。といっても駆逐艦であったあの頃の私は、駆逐艦にとっての司令官しか分からないけどね。司令官は私達の心の支えになる。加えて駆逐なんて心に傷を負っている子も多いから、司令官としては立派な背中を見せたいところだった。


目的といえる目的を初めて持った気がするよ。

今まではゴール決めずに自由な方向に飛び出してばかりだったからね。


喫茶店にあるテレビの向こうでは紛争地の学校がテロリストに占拠されていた。コーヒーカップを持つ手が震えた。胸が痛む。


海に生きるしかなさそうだ。

思えば私は戦いの中で生きることしか知らない。

二人に指摘された通り、中身が変わらないのは本当なのかもね。成長した気にちっともならない。

だったら、私はあの頃の気持ちのままでいいか。

子供の頃に分かりかけてたものは大人になってもよく分からないから、変に背伸びするより、今のちっぽけな自分で行けばいい。


髪を白に染め直した。

新しい自分になれた気分。

ずいぶんと可愛くない響が鏡に映ってた。



3



我が北方鎮守府は自由だ。

三日月は頼んでもいない執務のために早起きする。

若葉は机の上に座って本を読んでいた。

深夜の間はずっとついている望月の部屋から灯りが消える。

Uが帰ってきて街へと散歩に出かけた。

島風は天津風を連れて日課のランニングへ。

リシュリューは9時に起きて1時間くらいのシャワーを浴びる。ビスマルクはぽけっと中庭のベンチで座ったまま二度寝だ。

隼鷹とポーラは酒瓶を片手に眩しい朝日に照らされる漁船群を見ている。


それぞれのリズムがあり、考えがあり、別の方向の違う景色を見ていた。ともに所属する軍の鎮守府で暮らす仲間達なのにそれぞれが別の国にでも住んでいるかのようだ。


無断で国境を飛び越えて、それぞれの国へと不法侵入だ。


リシュリューが賭け事すると意外とムキになることを知った。

若葉が町でお年寄りの荷物を持ってあげているところを見た。

ビスマルクがコーヒーのブラックを飲めないことを知り、

三日月はぬいぐるみ集めが趣味だと知って、

天津風はツンデレだと分かってた。

Uは人見知りだけど、仲良くなるとよく笑う子だった。

島風はほとんど速度と食べ物の話しかしないのも分かった。

隼鷹とポーラが見たまんまの裏表ないやつだとも判明した。

望月は意外と寂しがり屋だった。


こんな平和がいつまでも続けばいいな、と有り体なことを思った。どこに行っても嫌いなやつはいるし、分かり合えないやつもいる。なら我慢し合うよりも、許し合える関係のほうがいい。


私が王様なら、良い国を築ける。

度を越えた理想でも、誰かが私に喝采を送ってくれたような気がした。ま、瞬時に諦めたけどね。さすがに完全に子供のままに戻るには私はあまりにも社会の構造を知りすぎていた。


この鎮守府という愛しい私の領土は守ろうと思った。皆のために。ようやく司令官としての土台を手に入れた。


だからキスカの事件で姉妹艦を3人も失った三日月や望月に気を回したんだけど、望月にはうざがられたな。この子は一人が好きというけれど、そのくせネットで誰かといつも喋っているんだよね。寂しがり屋なのを私は知っていた。しつこくしていると、望月のほうが折れて段々と心を開いて向こうから喋りかけてくれるようになった。


三日月のほうは強がるように笑っていたけど、こっちもがんばった甲斐があって、見てはいられるようになったかな。酒を飲ませたら本音と涙をポロポロと零れ、その翌日にはいつものように「司令官!」と怒ってくれた。


すごいことをやれた気がした。

でも響だった頃の私はなんかもっとすごいことやりたかった気がするんだよ。なんだっけな。


これは神風を見ていて思い出したよ。


がんばってみんなのために姫や鬼を沈めるだけでなくて、世界を平和にするような最高のMVPを取る。そして司令官に頭を撫でてもらいたかった。その後に仮じゃない指輪を私はもらうんだよ。


思い出したら吹き出してしまった。

無謀だけど嘘偽りのない純粋な夢だったな。


思い出の写真を写真だてに飾って、背中を向けて、提督服に着替えた。昔の私には今の背中がどんな風に見えているのかな。


幼児退行、というのか。

それとも童心を忘れない、かな。

いや、初心に帰る、か。


特に理由もなく、自由に走り出した。


「聞いてくれ。私は建国して王様になる決意をした」


唐突になんで建国かって、といわれたらあれさ。

王様になるってすごいことだろう?

子供が将来の夢を総理大臣とか社長って答えるのと同じ感じ。


気分は年に一度のお姫様の夢を見ていた時とよく似てる。













三日月「あなたみたいな大人にだけはなりたくないです」



けっこう怖いんだよね、この子。

将来は旦那を尻に敷く嫁になりそう。



【16ワ●:Fanfare:?】



響「あなたは、どうして……その艤装は――――」


小さい私の青白い眼が見開いている。


「これかい? 抜錨地点で響の艤装を見つけたんだ」


最終海域に突入したら、抜錨地点に響の艤装があった。誰が用意したかといえば准将以外に考えられなかった。メインサーバーの鹵獲で悪い島風が留守にしている間に想力工作補助施設を使ったんだろうね。おまけに高速建造材と妖精も用意されていた。妖精可視才のある私なら後は意志疎通するだけだ。


「ところで小さい私は世界の終わりみたいな顔をしているけど、どうしたんだい?」


響「……艤装とともに心が砕けそうになった。これではまた最後の海と同じく、妹を守れないから」


顔を隠したいとか帽子の唾を下げようとしたのか、前後ろ逆で帽子の唾はそこにないよ。


「気分転換でもしたらどうかな」


私は持っていたサバイバルナイフでざっくりと長い髪を切ってあげた。意外と小さい私はショートも似合うじゃないか。髪は女の命というけども、小さい私がこの行動を咎めないことは分かる。


響「ハラショー……髪を切るだけで少し景色が透いた」


「髪型を変えちゃうだけで新しい自分になれちゃう。そんな響はいいね」


響「きっとこれが私の中の女子力……!」


「それとこの響改二のペンダントを返すよ。ねえ、君もここに要るんだろう?」


根拠のないかまかけだったが、そのペンダントから淡い光が発される。取った形はもう一人の小さい私だった。私達よりも表情に色がない真っ白の雪のような子だ。


響「ヴェールヌイ……? 君までいるの?」


ヴェールヌイ「ここは夢の中だろう?」彼女は静かな声でいった。「なら会うこともあるさ。響が夢から醒めるまではね」


ずいぶんとロマンチックないい回しじゃないか。


ヴェールヌイ「大きい私、私の指示に従ってくれ」


「大丈夫かい? 相手は……」


ヴェールヌイ「この夢の中にいる誰よりも私達の方が強いさ」


彼女は破顔一笑した。


ヴェールヌイ「さて、私達の女子力の見せ所だ」



2


小さい私の艤装の修復が終わるまで私が前戦に出ることにしたのはいいが、ちょっと航行が覚束ないな。この身に艤装をまとったのは何十年振りだったか。不思議と秒単位で身体に馴染んでゆく。周りの砲雷撃の爆音は慣れたものだ。私は提督のくせに前線に出るという馬鹿げたことをよくしていたからか。


誰がどこにいるかも分からない。

この艤装にあるのは響艤装の初期装備、12.7cm連装砲しかなかった。神風を見ていたから、戦える武器があれば十分勝てるとさえ思えてくる。


適当に航行していたら、肉眼で敵を発見した。


ガングート「やはり来たか。そんな気がしていたんだ」


彼女が、腹を抱えて笑った。


ガングート「待っていたぞ。私は最期に――――」


ガングート「あなたと戦ってみたかった!」


30.5cm三連装砲改が火を吹いた。

手加減してくれよ。こっちはまだリハビリ中なんだから。

考えるよりも早く12.7cm連装砲を既に構えていた。身体に染み込んでいたらしい。連装砲を持つ左手を体の正面に対して真っ直ぐT字にするアカデミーの頃から何千回も繰り返した砲撃動作だ。


判断はしないことにした。考えるよりも身体に染み付いていた感覚に任せた。そうしたら身体が前に進んだ。12.7cm連装砲を撃っていると、砲撃のコツも思い出した。秒単位であの頃の感覚が甦ってゆく。


過去に艦兵士だった私はすぐに過去の練度まであがるだろう。私と同じく司令官をやっていた龍驤さんが再び艤装をまとって鎮守府(闇)に着任してからすぐに改二になったようにね。


全速全身、面舵一杯。


でも、さすがにガングートは難しいな。

彼女の強さは誰よりも知っているつもりだ。私の配下にいたから目立った戦果を挙げられなかったけど、彼女の素質は将の艦隊の旗艦と同等かそれ以上はある。阿武隈級の素質で戦艦艤装をまとっているような強さはあると見ている。


砲弾を避けたが、魚雷の回避が間に合わなかった。瞬時に身体は動いてダメコンを試みている。中破で燃料漏れ発生だ。もう詰みといってもいい。もうガングートとの距離は5メートル程だ。ガングートが主砲塔の位置をずらした。私の砲弾より速い。


被弾、大破。

それが、どうした。


「騙し討ちみたいで悪いね」


ガングート「――――は? 全快しているだと……?」


10cm連装高角砲を構えたと同時に発射したが、ガングートは反射神経でダメコンを試みたせいで狙った心臓に風穴は開けられなかったが、脇腹をえぐり取った。


嫌な胸騒ぎに従って、旋回した。

これを極めた先にあるのがきっと神風の境地なんだろうね。


ガングート「不死鳥、響……?」


ガングート「その艤装性能は響改か!」


艤装が一気に大破に追い込まれた。気付いていたのに綺麗にクリティカルヒットさせられた。ここに来てガングートのギアがあがったようだ。


ガングート「いや、ギミックの種は妖精可視才か」


見抜かれちゃった。メキメキとあがる響艤装の練度を調整して近距離で響改への改造を完了させての完全回復、そして響改の初期装備を調達した二重の不意討ちだ。獲れると思ったんだけどね。


「君なら私を最大ギアまであげてくれそうだ」


ガングート「上等」


12.7cm連装砲と10cm連装高角砲で戦う。この装備での戦いは慣れたもんだ。だけど、しばらくの時間は稼がしてもらえないようだった。戦後復興妖精の性能が凶悪過ぎた。


避けたのに当たる。反則もいいところだな、あれ。砲弾に追尾システムでもついているとしか思えないほど、この身に吸い寄ってくる。周りに分厚い氷の壁でもないと防げないな。


響改の初期装備に61cm三連装魚雷、その爆弾、起爆を狙いに来た。く、まだ身体の反応が馴染みきってないね。


響改(これ)じゃない。


避けられない攻撃は被弾するしかない。

12.7cm連装砲と10cm連装高角砲を装備から外して氷面に投げた。この装備は失うと不味いんだよ。爆破で身体が熱の衝撃で吹き飛ばれるが、意識だけは持っていかれないように強く舌を噛んだ。


これだから魚雷は嫌なんだよね。爆弾持っていても近距離まで近づくしかない駆逐艦だから、自爆テロをほうふつとさせる。


ガングート「また瞬間完全再生……!」


すぐに12.7cm連装砲と10cm連装高角砲を装備して砲撃を開始した。ガングートはびっくりしていたのか回避が遅れていた。


ガングート「ヴェールヌイかそりゃ」


「この再生能力は不死鳥みたいなもんだよね。ああ、司令官になってから信頼も手にしたけど、どちらでもないかな」


だからヴェールヌイ(これ)でもない。


ガングート「嫌な予感がするから偶然力の砲弾で何回でも徹底的に沈めてやろう!」


ハハ、まさかこのゲームの顔合わせの時にノリでいった『私は後三回の返信を残している響さんだ』の言葉が真実になるとは。乾いた笑いが私の口から漏れた。


「ガングート、私の国に来るといい。そこでは私が王様で君の罪の全てを赦してあげる。そこでは我慢は必要ない」


「我慢し合う関係ではなく、許し合える関係のほうがいいだろう?」


ガングート「……」


「ごめんね、同志ガングート。また不意討ちだ」


ガングート「――――」


ガングート「130mm三連装砲……?」


放った兵器がガングートに直撃した。右目に当たったし、死んでもおかしくないね。というかリタイアして終わってくれ。ついてきたBMB型爆雷投射機は今は必要ないし、130mm三連装砲だけでガングートと真っ向勝負は厳しい。


私はまだ倒れる訳には行かない。

准将から頼まれているんだよ。

みんなをよろしくってね。




――――まだ、







まだ!





不意に海面から砲口が顔を出した。

建造状態の私はその砲撃に反応出来た。

弾いた拳が痛いな。痛みでだけで済むのは12口径までか。


それにあれ、30.5cm三連装砲改の形とは違う。深海12inch三連装砲か。


「この氷河はガングートが反映主なのかな」


氷雪の相貌がガングートの身体を覆っている。その艤装構成は深海棲艦性質だよね。壊-現象か。理屈では分からないが、少し深海棲艦特性を保有することで撃沈を免れたようだ。

ガングートが眼を開いた。左の瞳が蒼白い。


ガングートー壊「半分深海棲艦化、北方水姫……かこれ? 理屈はよく分からんが、まだ戦えそうだ」


ガングートー壊「フハハ、余計な迷いが削ぎ落とされた気分だな。これが神風とか准将がいたっつう心境か?」


「……テロが嫌いだった君が、勝つために自ら海のテロリストに成り下がるのか。勝利のために祖国さえ捨てるのなら、確かに今の君には深海棲艦の境地が似合うよね」


ガングートー壊「ああ、半壊してんのは分かるよ。神託すらもただの御託に聞こえそうだから」


ガングートー壊「心が削ぎ落とされて正解か間違いかもよく分からないが、あなたがこうさせたのならその答えはあなたが持っているのだろうよ」


「その先の電の境地には行かせない。また君が長く苦しむ羽目になるだろうからね。そこから廃の想いに侵食する前に沈めてあげる」


「君の罪は死で洗い流しておくといい。地獄の底に堕ちてからなら大抵の過去も苦い笑い話に出来るだろう」


「電やわるさめちゃんのように、笑えるはずさ」


不死鳥のように復活。舞い戻ったつもりが、辿り着くとはね。自由に走り回っていたはずが、気がつけばスタート地点。ゴール&スタート、エンド&リスタート。


ガングートー壊「……ああ。そうしてくれ。いい加減、私は私を手に負えないんだ。ピリオドってやつは欲しいな」


深海12inch三連装砲の他に深海高速魚雷・深海攻撃哨戒鷹。

これも避けられない。


「まだまだ。標的にされるのは回避に難があった響時代からだから、慣れてるよ」


ガングートー壊「また復活か。うっとおしいな……!」


ふむ、これだね。この艤装が最高にしっくり来た。


すでに妖精さんとの意志疎通は終了している。そっちのミスは妖精のほうを倒せなかったことか。


最終改造完了。

響とヴェールヌイの装備も含めると装備は、



『12.7cm連装砲』『10cm連装高角砲』+『V-11 37mm連装機銃×2 』『爆雷投射機×2 MBM-24』『B-13-2s 130mm単装砲×4』『70K 37mm単装機銃×2』 『533mm3連装魚雷×1』 『BMB-2 爆雷投射機×2』『MBM-24 対潜ロケット発射機×1』


最初期にソ連海軍で計画された兵装案、戦争終結まで実装ならずのデータ上の空想艤装であり、それは戦後復興妖精の預り知らぬ歴史で仕込まれた対海の傷痕を想定された艤装だ。


ガングートー壊「不死鳥の艤装だか信頼の艤装だか知らないが……」


「じゃあ革命の艤装で」


ガングートー壊「革命……? そういやそれ」


ガングートー壊「ソ連時代の対深海棲艦海軍練巡服だったか」





準備運動はもういいよね?



――――ああ。




香取とも鹿島とも違う君の教鞭の性質で













迷える海の子羊を導いてあげて。
















「出るよ」


















「『Декабрист:デカブリスト』」
















ガングートー壊「もう話は十分だろう?」












ガングートー壊「давай:かかってこい」


























Хорошо:ハラショー


長い眠りから覚めたと思えば。


上等じゃないか、半端深海風情が。





























デカブリスト「『Да пошёл ты:地獄へ落ちろ』」







3



デカブリスト「やれやれ、粋がったのはいいものの身体が軋む。一線を引いたこの老体を駆り出すとは相当に切羽詰まっているとみた」


北方提督「艤装は新しいよ。老朽化してるのは君の中身じゃないのかな」


デカブリスト「そのようだね……」


私に指示を送ったのは新しく用意した別端末携帯。

そこに准将からの指令がある。メインサーバー鹵獲の時に明石さんと電が想力工作補助施設をもう1つの響艤装を用意した。


通信が取れない今回の戦い、重視したのは指示系統周りだった。司令官が通信出来ない以上、この戦いの趣旨的に拭えない懸念案件はある。


この戦いは対深海棲艦の戦争ではなく、兵士それぞれの目的があり、一人に報酬まで用意されて、思惑がぶつかり合う。願い事の欲に負けて内部崩壊、だなんてあり得そうだしね。提督である私の素質を利用して司令官を現場に送る、という策を用意したようだ。


准将が用意していたのはここまで。


ヴェールヌイに内包されていたデカブリストの部分の想を切り離し、用意されていた私の響艤装に入れた。もともと私は高練度の響だったから、龍驤さんと同じく再建造で練度があがるのも速い。

あの不死鳥再生の種は改造による瞬間回復。艤装版女神みたいなものだ。そしてガングートとの戦いで成長させながら仕込まれていた響改→ヴェールヌイ←→デカブリストの改造を完成。


デカブリスト「私、あの鷹のような兵装はどんな性能だい?」


「深海攻撃哨戒鷹。射程は超長火力3、対空8、装甲3、対潜22、回避3 索敵3、命中8、爆装14の深海棲艦艦載機だ」


デカブリスト「ふうん」


兵装、いや、この艤装は適性者の意思とは別にも動いている。今を生きる深海棲艦、中枢棲姫勢力を資材にしたトランスタイプと同じく、艤装が自律稼働してた。


37mm連装機銃×2が艤装の装備スロットの中でその砲口をギョロギョロと目玉上空に狙いを定めて動いて、礫を乱射している。生きてるみたいに稼働している。確か電はこれを中枢棲姫勢力でやってのけたという。その時の彼女は海の傷痕を獲るに足りる天下無双の兵士だったことだろう。


あの灯りを灯した大きな1つ目玉のようなコックピットの妖精想を撃ち抜いて、厄介な深海攻撃哨戒鷹×64機に覆われた空が徐々に透いてゆく。

空を飛び回り、獲物に狙いを定めて急降下爆撃を狙ってくる様は名の通り鷹だね。おまけにこいつら、深海棲艦型なだけあって無力化するだけでは止まらず、並びのいい歯で噛みついてくるのが厄介だ。


デカブリスト「君はたかが爆破片も避けられないのか……」


「至近距離から散弾喰らってるのと似たようなものだし、さすがに避けられないよ……」


デカブリスト「はあ……」


なんかため息吐かれた。

確かに神風であればやっちゃいそうな気がする。そこが神風の面白いところだ。あの子は可能性を絶えず提示するから期待してしまう。


でも深海攻撃哨戒鷹×64機を単艦で処理して、ガングートの深海12inch三連装砲と高速深海魚雷爆撃を回避しているだけでも称賛ものなのだが、彼女はそれでも不満なようだ。


デカブリスト「まだ素体性能は上に行ける。行き遅れて吹っ切れただろう。さっさと人間を辞めないか。私が愛想をつかしてしまう前にだ」


「口が悪い教官だね……」


デカブリスト「この程度で? 香取型の日和具合が伺えるね」


飛び火しちゃった。


デカブリスト「本来ならばあの程度の相手、無傷で勝てるよ」


航行回避に集中していたが、私も12.7cm連装砲と10cm連装高角砲を稼働させて空のお掃除を手伝う余裕も出てきた。すでに氷の海は消えかけている。派手に戦闘したせいもあるが、肌で感じる熱は下がってきていた。ガングートにもこっちの攻撃が効いているのかな。


533mm3連装魚雷を発射した。


デカブリスト「1つ教えよう。電探はないけれど、君には分かるはずだ。建造されていたかいないかの違いだった。建造されて人間を越えた今、君はとっくに艦兵士としても高みにいる」


「……だろうね」


スコープを覗かずとも相手の位置が手に取るように分かる。神風ほどではないとしてもね。


魚雷の爆発音に混じって、砲撃音が聞こえた。それと同時にガングートの天を衝くような咆哮があがった。小さい私とヴェールヌイのほうか。利根筑摩と香取を抑えながらこちらに支援を行う余裕すらあるのか。


デカブリスト「冗談じゃないよ。響&デカブリストが後輩の響&ヴェールヌイのほうに遅れを取るだなんて。このКапуста:間抜け」


ガングートが前に出てくる。再生能力あるのなら下がるべきだろうが、ただ敵を見つけては突撃するその様は正しく深海棲艦の特性だった。紅蓮の炎が渦巻いた左目には私しか映っていなさそうだ。


ガングート-壊「ウ」


ガングート-壊「ラ――――!」


砲撃の距離感さえ適当じゃないか。新しい玩具を手に入れた子供ががむしゃらにはしゃいでいるように見える。深海の意思に犯されても、その様相はガングートだね。


北方提督「全く」


すでに必殺を放っている。

スモークが艤装の装備スロットから吹き上がり、発射されている。さすがのガングートも不意討ちでこの艦これに未実装だった兵器に対応は出来まい。この艤装は対海の傷痕を想定された性能だしね。


『対潜ロケット発射機×1』


北の魔女の断末魔が聞こえた。ガングートなだけあって、最後までハキハキとた口調だ。その言葉は私の耳にも確かに聞こえた。


北方提督「君を助けたのは二度目だ。これで勘弁してくれよ」


その損傷でなお、爆煙を抜けてきたガングートに銃口を向ける。なにかの役に立つかと思ってこっそり持ってきた拳銃だ。深海棲艦は殺せないけど、艦兵士は人間の武器でも殺せるしね。


ガングート-壊「私としたことが弾薬が空だ。ペース配分間違えた」


ガングートー壊「ああ、楽しかったよ」


ガングートー壊「やっぱり強いな貴女は!」


そんな無邪気に笑っちゃってさ。


北方提督「当たり前だろう。強くなきゃ自由で入られないからね」


右目の窪みに銃口を突っ込んで脳を損傷させる一撃を放った。

これで終わりだね。そう思ったら沈んだ彼女の後頭部に機銃が放たれた。私の意思ではないので、デカブリストが念を押したのだろう。ただ彼女、ちょっとガングートと似ていてさ。


デカブリスト「戦場ではテロリストと会話しないでくれ。耳の穴から脳が腐りそうなんだ」


敵対勢力に容赦ないみたいなんだよ。


「君はもう少しおしとやかに出来ないのかい……?」


デカブリスト「覚えておいてくれ。私が耳を貸すのは上官である司令官と愛しい暁と雷と電のみだ」


「私、立場は司令官なんだけど」


デカブリスト「ただの出来の悪い教え子かな」


発射された一発の機銃が私の頬を掠めていった。

この艤装、癖が強すぎる。


突如、砲撃音がした。


「――――!」


咄嗟に回避を試みるも、右舷に被弾。

威力はないが、航行を読んでいたかのような連射砲撃は天性のセンスを感じる。上質なスナイパー。


「ちょっと待ってくれ……神通を倒したのか……?」


デカブリスト「艦の気配が増えているね。策で討ち取られたのかな。いずれにしても」


デカブリスト「不意討ちとはいえ私達に当てる精度は称賛に値する」


デカブリスト《貴女の所属は?》


《ふう、さすがに中将の旗艦だけはあるし。手こずったせいで、ガングートに詫び案件だ。支援をおろそかにしちまったし……》


《鎮守府(闇)第1艦隊所属》


《最終世代睦月型4番艦駆逐艦卯月》


《大破損傷だけど、お前の百倍は強いぴょん!》


デカブリスト「兎のくせによく吼える。これが例の鎮守府(闇)の第1艦隊の兵士か」


デカブリスト「ハラショー、強そうじゃないか」


デカブリスト「しごいて……なぜ旋回するんだ?」


「一旦引く。准将から指示をもらっているんだ」


響&ヴェールヌイも撤退を始めている。

この艤装は本来、皆をサポートするために用意されたものだ。皆の司令官としての役目を果たすのが最優先事項だった。卯月の背後には阿武隈と由良もいるみたいだし、彼女達と戦えばどうなるか分からない。射程に収められる前に撤退だ。


デカブリスト「残念だが仕方ないな」


准将の指示、その言葉はデカブリストにも効くみたいだね。言葉を発しなくなった。ヴェールヌイの中にいたから当然か。准将には大きな借りがあるはずだ。暁達とともに暁の水平線まで連れていってくれた提督勢の最高武勲者だ。デカブリストがさきほどいっていた上官である司令官というのはきっと准将のことを指していたのだろう。


響「大きい私!」


「やあ。調子はどうだい!」


響「Круто:最高! あのミサイルみたいな兵装は対潜ロケット発射機だよね! 感動で胸が一杯だ!」


眼を星空のように輝かせちゃって。

その気持ちは手に取るように分かるけどね。


ヴェールヌイ「はしゃぐのは撤退を終えてからだ」


響「ごめんよ。それもそうだね」


北方提督「あれこそ私がたどり着いた女子力さ」


デカブリスト「女子力じゃないし、話を蒸し返さないでくれ」


愉快なメンバーだ。

たくさんの個性豊かな私と隊列を組んだ。



後書き





↑この章に少し書き加えました。

↓次の11章で決着です。

【1ワ●:現状確認】

【2ワ●:ロデオガンマンガール☆照月】

【3ワ●:夜戦】

【4ワ●:今度死ぬのは大和だけじゃねえぞ!】

【5ワ●:再来する無力な私】

【6ワ●:海の傷痕:想題神風】

【7ワ●:願いごとを決めましょう】

【8ワ●:仲良くなるための訓練 4】

【9ワ●:愛してるよ】

【10ワ●:薄翅蜉蝣、蟻地獄 2】

【11ワ●:仲良くなるための訓練 5】

【12ワ●:ロケットが飛んできた】

【13ワ●:やり返せ! 物資襲撃作戦!】

【14ワ●:薄羽蜉蝣、蟻地獄 3】

【15ワ●:全面対決】

【16ワ●:全面対決 2】

【17ワ●:一心同体!】

【18ワ●:戦後想題編 現代:今を生きる私】

【19ワ●:最終局面 残存メンバー】

【20ワ●:最終衝突 戦術立案】

【21ワ●:Fanfare: 戦後復興妖精】

【22ワ●:最終局面 瑞穂ちゃん】

【23ワ●:最終局面 陽炎ちゃん】

【24ワ●:Fanfare:神風】

【25ワ●:Fanfare:戦後復興妖精 Ⅱ】

【26ワ●:仲良くなるための訓練:修】

【27ワ●:想題ろー&ゆー:ボート漕ぎとあなた】

【28ワ●:Fanfare:神風 Ⅱ】


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