2018-10-17 13:51:39 更新

概要

「上手く、笑えないよ」そういって、ろーちゃんはゆーちゃんみたいに泣いた。燃料を託して動かなくなった。北国の鎮守府で共に過ごした友の記憶を積んで進んで、もう、一踏ん張り。対戦後復興妖精編決着。


前書き

※キャラ崩壊&にわか注意です。
《《艦娘の身体欠損注意》》


・ぷらずまさん
被験者No.3、深海棲艦の壊-ギミックを強引にねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた電ちゃん。なお、この物語ではほとんどぷらずまさんと電ちゃんを足して割った電さん。

・わるさめちゃん
被験者No.2、深海棲艦の壊-ギミックを強引にねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた春雨ちゃん。

・瑞穂ちゃん
被験者No.1、深海棲艦の壊-ギミックをねじ込まれ、精神的にダークサイドに落ちた瑞穂さん。

・神風さん
提督が約束をすっぽかしたために剣鬼と化した神風ちゃん。

・悪い島風ちゃん
島風ちゃんの姿をした戦後復興の役割を持った妖精さん。

・明石君
明石さんのお弟子。

・陽炎ちゃん
今の陽炎の前に陽炎やっていたお人。前世代の陽炎さん。

・元ヴェールヌイさん(北方提督)
今の響の前々世代に響やっていたお人。
北国の鎮守府の提督さん。

・海の傷痕
本編のほうで艦隊これくしょんの運営管理をしていた戦争妖精此方&当局の仮称。

・メインサーバー君
運営管理の補助をしていた想力仕様の自我を持ったサーバー。

※やりたい放題なので海のような心をお持ちの方のみお進みくださいまし。


【1ワ●:現状確認】


響&ヴェールヌイ・北方提督&デカブリスト「やあ、姉さん」


暁「響の声がたくさん聞こえるううううう!」ピギャー


北方提督「私がこちらの総指揮を執りに来た。准将から頼まれている。ここにいるのは伊13、伊14、暁、響、響、電、若葉、大和、武蔵、赤城、神風、春風、旗風、明石さん」


北方提督「それと鹿島、木曾、江風が入渠中だね」


北方提督「電、その損傷は?」


電「戦後復興妖精とやり合いました。私のほうが損傷は大きいですね。向こうは小破なのです。初霜さんがやられて三式弾が降ってきたら逃げていきました」


電「資材は隠しておいたので、それからは無事ですが、鼻の利く犬に見つかって資材は蹴散らされたのです」


夕立「ぽ、ぽいぃ~……」


北方提督「向こうにあるのが資材の残骸の山か。多くない?」


雷「増えたのよ。なんか数値的にいえば各資材万越えと高速修復材と建造材やらネジやらが各80個くらい現れたのよね。トランス現象みたいにね。それごと夕立さんが破壊しちゃった」


北方提督「夕立、どういうことかな? タイミング的に狙ったよね?」


夕立「……」


デカブリスト「任せろ。殺してもいいんだろう。私が拷問を担当しよう。向こうで廃人になってしまうと思うが、今は『敵』だろう?」


夕立「は、話す! 話すから!」


夕立「最終海域のギミックの1つみたいで戦後復興妖精さんがメインサーバー君と結託して各提督がスマホの艦これで集めてた資材を反映させたの!」


夕立「不平等だからって両方の陣営に、そのタイミングで攻めて資材だけは優先的に破壊する作戦」


暁「ずるいわね! じゃあ向こうの陣営には潤沢な資材があって、こっちにはないってことじゃない! ずるい!」


北方提督「まあ、こっちも私を投入したしね……」


雷「あ、でもそれなら司令官がリアルマネーで資材を買えば資材は補給してもらえるってことかしら。確かワンコインだったっけ?」


夕立「メインサーバー君が決戦前に各資材の値段を500円から」


夕立「一律2000万にした」ッポイ


雷「」


北方提督「……、……」


北方提督「了解。拠点は施設を直すのにかなり時間がかかるけど、駐屯出来ない程ではないね。夜で勝負を決めよう。全員で戦後復興妖精を潰しに行く。あれが一人いるだけでどれだけ倒そうが戦力差が開いたとは思えないからね。壊滅的な被害を受けても首を獲りに行く」


北方提督「……が、弄した策は電に聞いてくれ、といわれている。准将が他に用意した策があるね? この場で構わないから教えてくれる?」


電「……」


電「中枢棲姫勢力のいずれかを復活させる策ですね。反転建造での深海棲艦海建造資材は判明している範囲で当てをつけているのです。現場で瑞鶴さん比叡さん、そして私の電艤装、空母戦艦駆逐の艤装を媒介にして中身は瑞穂さんかわるさめさんに呼応していずれかがキャッチできるかも、と」


電「ただ深海妖精役割の肝心な建造はどうやって行うのかは聞いていないのです。まあ、司令官さんはメインサーバーか戦後復興妖精がなぜか協力してくれるだろう、と見ているような気がします」


北方提督「了解、私達にはよく分からない読みがあるってことだね」


若葉「ちょっと待ってくれ。司令官に聞きたいことがある」


北方提督「なんだい?」


若葉「デカブリストってあれだろ? 確かヴェールヌイの中にコンバートとして入れられていたものだろう……?」


電「確かに。響お姉ちゃんの艤装にヴェールヌイお姉ちゃんがいるのなら、ヴェールヌイお姉ちゃんの想からデカブリストを切り離してあなたの艤装に入れたはずなのです。想を切り離す工程には技術が……」


北方提督「これ」


電「想力工作補助施設なのです!? なぜあなたが……?」


北方提督「この間、若葉について擬似ロスト空間に行っただろう。その時に初霜を観察して、コツはつかんだ」


若葉「いやいやいや……そう簡単に真似出来たら苦労しないぞ」


北方提督「……冗談。デカブリストの中にデータがあった。多分、第1世代の島風さんの仕業だろうね。素質に求められることが多いけど、仕組み自体は単純だ。今を生きる私達の想力が構成要素だからね」


神風「ダラッシャアアアアア!!」


電・暁・若葉「!?」ビクッ


神風「すみません。最高の知らせについ」


神風「司令官、司令補佐から言伝を承りましたのでご報告を」


北方提督「了解。それと若葉、大和赤城、木曾を読んできて。艤装を明石さんが修理している間に作戦会議をちゃちゃっとやるからさ」


若葉「あいよ。それで夕立は」


デカブリスト「私が送ってあげようか?」ジャキン


夕立「じ、自分の足で行くっぽい~……指定海域外に~」


北方提督「うん、その潔い引き際は好きだよ」



2



戦後復興妖精【照月はカスダメだけど資材はあるから直しとけよ】


照月「うん。噂以上に最終世代の皆さんが強い……」


戦後復興妖精【……まあ】


瑞鳳「数的に大分やられてしまいましたね」


瑞鳳「向こうは日向さん長月&菊月ちゃん、こちらは比叡さん榛名さん金剛さん龍驤さんに山城さんはっつんガングートさんと大きな戦力ばかり沈められちゃいました……」


戦後復興妖精【最初に神風誘う作戦は悪くなかったぞ。ただ電のやつと神風があの程度の策じゃ止めらんなかっただけ。まあ、神風と電を潰しておきゃ向こうなぞ恐れるに足らん】


由良「いや、そのー、あのー」


卯月「悪いけど、うーちゃんも直せし」


戦後復興妖精【大破か。派手にやられたねえ……】


卯月「北方提督のやつがデカブリスト艤装つけてたぴょん。艤装のスロットが馬鹿げた数だったうえ対潜ロケット撃ってたし、あれなんだ?」


戦後復興妖精【ハアアア……?】


戦後復興妖精【…………ヴェールヌイから想切り離して使ったのか。准将、やっぱり妙な策を弄してきやがったか。私が探知出来ねえ以上、性質は真白の今を生きるステルス仕様っぽいな】


卯月「ヴェルと同じく海の傷痕特攻艦かー……」


由良「戦後復興妖精さん、向こうの思考は読めないんですか?」


戦後復興妖精【それは向こうも分かってる以上、連中の作戦読んだら逆手に取られて終わりだろ。そもそも私はざっぱな解釈しか出来ねえんだよ。現状までの情報整理して対策立てたほうがいいぞ】


瑞鳳「というか北上さんと大井さんのやる気が……あぐらかいてぼうっとしてますが」


卯月「テメーらやる気出せし! 特に大井! 前にうーちゃんに大それた説教したくせになにぼさっとしてんだぴょん!」


大井「うちからはガングート沈んだので秋津洲と北上さんと私と由良さんと阿武隈か。秋雲はサボりましたか」


大井「ええと、小手先の作戦会議に意味あります?」


瑞鳳「どういう意味です?」


大井「戦後復興妖精の戦闘力も曖昧ですよね。強い、ということ、そして戦力として数えているのは共通だと思います。だから細かい会議をするとそいつにイニシアチブを取られがちですよね」


大井「それはあなた達が良いのなら構いませんけど、私は違います。まず最優先すべきは『そいつが信用できるのか』ってところからじゃないと、作戦に加担する気にもなりませんね。ねえ、北上さん?」


北上「おおよ。こちとらログイン勢に留まらず大将の艦隊だぜ?」


北上「無駄にプライド高いよ」


北上「どんっ!」


北上「というか参戦人数多過ぎて把握してないっす」


瑞鳳「リタイア勢を除くと」


瑞鳳「大鳳、白露、時雨、曙、朧、瑞鳳、飛龍、蒼龍、秋月、照月、イク、ゴーヤ、扶桑、霧島、伊勢、卯月、翔鶴、伊26、伊401、利根、筑摩、漣、潮、阿武隈、由良、隼鷹、香取、北上、大井、秋津洲+戦後復興妖精です」


瑞鳳「向こうは神風、電、サラトガ、グラーフ、ろー、三日月、望月、雪風、島風、天津風、ビスマルク、プリンツ、春風、旗風、瑞穂ちゃん、長門、武蔵、大和、鹿島、不知火、明石さん、わるさめ、江風、神通、木曾、暁、雷、響、赤城、加賀、若葉、伊13、伊14ですね」


北上「うわ、まだ両陣営とも多いね」


瑞鳳「まだ時間もありますし、この際だから編成組み直すのもありかと思いますが……大井さんの言葉もこれまた一理ありますので」


戦後復興妖精【逆に聞けばどうすれば信用してもらえるんだよ。そんなに私が嫌いなら今から第三勢力になるけどー?】


大井「では夜戦の先陣を全力でお願いします」ニコ


戦後復興妖精【イジメ怖い】


戦後復興妖精【というのは冗談でもともと出るつもりだったから構わねえが、ざっと向こうは半数が減る計算で頼むぜ。それが効果的な作戦とは思えねえけどな】


阿武隈「あ、私と由良さんと卯月ちゃんも出ます。瑞鳳さんもですね。他は夜もお強い4駆の皆さん、それに潜水艦の皆さんもでしょうか」


卯月「4駆のやつらと潜水艦に声かけてくるぴょん!」


戦後復興妖精【お? お前らも出るの?】


阿武隈「瑞鳳さんは丙少将からなにかいわれていると思います。まあ、丙少将は立場上、どこまでいっても戦後復興妖精さんを信用できないと思いますよ。利害が一致しているわけでもないので」


戦後復興妖精【そうだねえ。完全に身ぐるみ剥がしてマウント取るまでは敵だろうな】


阿武隈「あたし自体の考えでは戦後復興妖精さんのこと悪い人だとは思ってません、はいっ! だからそこらは他の人に丸投げします!」


戦後復興妖精【で?】


阿武隈「ちょっと戦いから離れていたから鈍くなっていましたけど、もう大丈夫ですよ。だからむしろチート的な戦後復興妖精さんには手を出して欲しくないといいますか」


戦後復興妖精【ほう、なにか想いが?】


阿武隈「思えば、提督にはお世話になりっぱなしです。スカウトを受けた時からずっとです。海にしか報いはなかったのに、海から目を背けていたうえ、ろくに砲雷撃もできずにその挙げ句、中枢棲姫勢力決戦では暴走して、でも提督はあたしにずっと期待してくれていて」


阿武隈「ぼんこつだったあたしを旗艦に置いてまで大事に育ててくれて」


阿武隈「最後の海で、ちょっとだけ返せたかなって」


阿武隈「あたしはほんのちょっとだけなのに、鎮守府(闇)は戦闘では無敗の伝説ですから、はい、仲間ってとっても強い力なんだと思います!」


戦後復興妖精【……てっきり神風に旗艦の座を奪われて終わるのは嫌だみたいな流れかと思ったわ】


阿武隈「奪われるとかそういう次元の話ではないです」


阿武隈「だからそういう理由ではなくて」


阿武隈「私の中では返しきれていない恩を提督に返したいですね」


阿武隈「提督のことですから勝つ作戦を立てたはずですし、あたしには大体シミュレーション出来ています。それすらも提督の想定内のような気はしますけど、その提督の想定を越えた――――」


阿武隈「成長をお披露目して阿武隈を卒業しましょう、はい!」


戦後復興妖精(准将って人間不審の頃の弊害か味方にもナイショにする策を立てる傾向あっからな。そこの艦隊の旗艦ってだけで、提督の頭の中ある程度予想してきたはず。対准将でいうなら阿武隈は私よか上等か……?)


伊58「この時がきたでち――――!」


伊19「正直、怖いのね……」


漣「7駆もお供しまっす! 夜なら向こうの化物とやりあえる気がするー!」


曙「もう終わるまで釣りしてようと思ってたのに……」


漣「最後くらいツンデレやめろやぼのたん!」


漣「我ら7駆! 甲の駆逐艦としてでっかい花火あげるのさー!」


潮・朧「そして観戦に回ろう」


漣「うお――――い! 二人は大先生と大井の姉御に似たね! ここは木曾さんと江風のように熱く闘志を燃やしていくところだ!」


漣「漣は電のやつを大破に追い込んだ比叡さんみたいにかっこよく活躍して――――っす!」


秋月「秋月も照月と一緒におともしま――――す!」


照月「そうだね! 向こうとは夜戦でも戦ってみたいかな!」


由良「同じく!」


阿武隈「あたし、卯月ちゃん、由良さん、漣ちゃん曙ちゃん朧ちゃん潮ちゃんゴーヤさんとイクさん、秋月ちゃん照月ちゃんの11人ですね! 十分過ぎる戦力ですっ!」


瑞鳳「あ、待って待って! 大鳳さんに引き継いで来たから私もー!」


阿武隈「了解しました! 瑞鳳さん含めて12名ですね!」


阿武隈「このメンバーで向こうに壊滅的被害を与えます!」


阿武隈「作戦は戦後復興妖精さんも聞いてくださいね?」


戦後復興妖精【おう。この余計なもんがねえ清々しい感じは嫌いじゃねえぞ】


卯月(……む、アブーのこの感じ)


卯月「覚醒してるぴょん!」


阿武隈「ふふ、この戦いでてーとくを阿武隈ラブ勢にしてやりますよっ!」


照月「あのー、戦後復興妖精さん、道具って例の想力で作れたりしますか?」


戦後復興妖精【……あ? そりゃ作れるが、でけえもんなら時間かかるぞ?】


照月「ふふ、15歳まで北アメリカ育ちの照月には特技があってですね。砲精度がグンとあがる気がするので試してみたいことがあって!」


照月「――――、――――」


戦後復興妖精【バッカじゃねえのお前】


秋月「て、照月にそんなワイルドな特技があっただなんて……!」


阿武隈「それは面白そうですね! 採用しましょう!」












北上「大井っち、どーする?」


大井「では木曾は抑えておきますか。先の氷の海の戦いを聞くに手も足も出ずに雷巡として身の程を知ったでしょうし」


北上「そだねえ。雷巡なのに常に真正面からだもんねえ」


大井「全くです。他より爆弾大量に抱えた艤装なのに」


北上「島影にでも隠れてどさくさ紛れに魚雷ぶっぱする不意討ち戦法こそ雷巡真骨頂ですよ」


北上「ゴロゴロ鳴った雷雲の存在はバレても落雷のように回避はできず。そんな狙い方が雷撃の理想よな。ちょっとやりますかね」


大井「相手が木曾と江風ならいつものようなオチになりそうですけどね……」



【2ワ●:ロデオガンマンガール☆照月】



不知火「来ましたね。ここまで遊撃部隊として様子見でしたが」


雪風「准将からは雪風の判断で『ダメそうなところに飛び込め!』と! まだまだそんな感じ? はしません!」


長門「ふむふむ、准将らしい運用だよな。丙少将は作戦の要で雪風を頼る時が多いが、准将は不確定要素のフォローに使う」


長門「ここまでたくさんいると私も滾るよ。この夜に好機があるといいな」


長門「おっと、偵察機がサラトガの第一波を確認した。夜戦が始まるな」






神風「行くよー! 4!」


響「3!」


わるさめ「2!」


北方提督「1!」


神風・響・わるさめ・北方提督「Yeah!!」


神風「Dancin' with us!」


わるさめ・北方提督・響「wow wow wow!」


神風「よろしくう~」




三日月「す、すみません! うちの人達が……!」ペコリ


雷「こちらこそごめんなさいね。うちの人も半分混じっているわ……」ペコリ



ろー「みんな!」


ろー「愛すべき仲間や家族がいる! 信念やプライドを曲げずに貫くべし、だよ! ろーちゃんは資材集めがんばりますって!」


島風「おう!」


グラーフ「貴様等いい加減にしろ! もう戦闘始まってサラとプリンツ望月加賀が先行してくれていているんだが!?」


ビスマルク「突っ込んでも疲れるだけよ。天津風のあの目を見てご覧なさい。ただ終わるのを待つのが一番良いと思う」


天津風「……」


グラーフ「まるで嵐がただ去るのをガラス越しに伺いながら待っているかのような物憂げな瞳……!」


神風「じゃあ、6駆のみんな行くわよ!」


暁「う、うん。長月と菊月に頼まれたしがんばる!」


響「私もいる。大丈夫さ」


電「まあ、そうですね」


雷「6駆で戦うのは最後の海が最初で最後だと思ってたけど」


北方提督「……ごめんね。陽動だなんてさせて」


電・響「……」


暁・雷「まだ珊瑚の件気にしているの?」


暁・響・雷・電「今度は上手くやる(のです)」


北方提督「――――」


北方提督(いやはや、私よか大分強いね。頼もしい)


北方提督「よろしく」





ろー「総員、明日に向かうのです!」


ろー「太陽の昇るほうに突撃――――!」


タタター、パシャン



2



サラトガ「Oh……発艦した夜艦偵察機が全て未帰還です」


サラトガ「向こうにも夜艦機搭載空母がいますね。それとこの艦載機撃墜処理効率……恐らく秋月型を含めた防空艦を含めたかなりの戦力が出て来ていますね!」


望月「当たり。このキャッチ反応、秋月型二人と空母は瑞鳳か。卯月、由良、阿武隈もいる。他はわかんね。聴音機にまだ潜水艦反応はなしー。あ、プリンツさんの電探はあたしよか高性能だろ?」


プリンツ「んー、7駆の皆さんもいます。確認しただけで10人、夜戦で強い方がたくさんいます。これはかなりの激戦になりますね……!」


サラトガ「プリンツさん、その情報を通信でお伝えください」


プリンツ「ヤー!」






天津風《了解。それじゃ日々の特訓の成果を見せて上げようじゃないの!》


天津風《突撃――――!》




……………


……………


チュン


加賀「――――あ」


プリンツ「加賀さん、大丈夫ですか?」


加賀「いや、大丈夫じゃない、わね」


加賀(狙、撃……? 急所を、)


加賀「最後に艦載機だけ飛ばしておくわね……」


望月「――――痛っ!」


望月「いってえ、眼鏡が割れた!」


プリンツ「ど、どこから!?」


サラトガ《神風さん聞こえますか? 加賀さん望月さんがスナイプされたのですが心当たりあります?》


神風《照月。今から戦力割いて潰しにかかる》


望月「照月? 2000メートルは離れているよな……」


神風《よく分からないけど、当てられたのなら狙われたのよ。相手が深海棲艦じゃなく艦兵士だから狙撃手みたいなことやってるんでしょ。あれはなんだろう? なんか馬? っぽいのに乗ってる?》


望月《お前のいってることが分かんねーよ……》



3



神風「単横7駆+卯月……いや、これは鶴翼陣ね」


神風(……秋月と照月が島の岸辺に陣取ってるわね。なぜに?)


響「ところで電、今回の戦いどんな風に立ち回るつもりだい?」ヒソヒソ


電「あくまでサポートの立ち回りなのです。私は司令官さんがおもんばかっているこの神風をなるべく生かせれば、と。もちろん任務も承っているのですが、それは完了したも同然なので」ヒソヒソ


響「なるほど、了解」


ヴェールヌイ「最前線だ。響も電も気を張り詰めてくれ」


ガガガガガガ!


響「でもこの通りヴェールヌイがやる気なんだ」


電「……響お姉ちゃんはあの日のリベンジはいいのです?」


響「あの日のリベンジ?」


電「野球ですよ。私は響お姉ちゃんに守られるほど弱くはありません。ヴェールヌイさんに付き合ってサヨナラ勝ちを決めてはどうなのです」


ヴェールヌイ「その通りだ。今度は決めてMVPを取りたいな」


響「任せてくれ」キリ


雷「もう射程に入るわよっ!」ジャキン


神風「……、……」


神風「!」


キン


暁「へ? 神風さん今……」


神風「暁ちゃん狙われた……!」


暁「だ、誰から?」


暁「あ――――」


雷「暁! 損傷したのは左腕!?」


神風「総員、警戒徐行に移行!」


神風「電さんは包囲網を抜けて秋月照月です!」


電「……了解」



4



照月「アーメン……加賀さん仕留めたり」


パカラッパカラッ


秋月「なにいってるか分かんないと思いますがとりあえず聞いてください。私の妹が西部劇コスで馬にまたがっています。照月はなんと馬に跨がりながらの砲撃だと7000メートル先の相手にも当てる超ロデオ艦ガールだったんです」


照月「フゥッ」


秋月「長10センチ砲ちゃんの砲口にガンマンみたいに息を吹きかけました。というか照月、そのウエスタンハット似合いますね!」キラキラ


秋月「馬の上からの射撃のほうが得意とか艦娘として色々違いますよね! 面白すぎますよ!」キラキラ


照月「艤装つけながらの乗馬ってやっぱり最高だね。想力仕様のこのお馬さん反動にも耐えてくれるし」ジャキン


秋月「私なら狙いをつけられそうにないです!」


ドンドン!


照月「ふ――――獲った」


ドオオン!


電《小賢しい……》


電《島 ご と 失 せ ろ》


秋月《秋月がお相手致しますよ!》


秋月「電さんが釣れました! 照月を護衛しながら島の中に身を隠しますっ!」


照月《艦載機なんて何機飛ばそうが秋月姉と照月を沈めるには足りませんからね!》


秋月「敵機確認! 200……400……500機弱です! ふむ、秋月の夜戦力、お見せしましょう!」


照月「照らす月の下で夜戦ですね! 主砲、対空戦闘よーい!」


秋月・照月「ど――――ん!!」



5



秋月「地面が凸凹、森が火の海……お花と虫が好きな電さんは自然に優しいと思いきや、戦闘となるとそうでもないんですね」


秋月「やはり戦争は悲しいですね!」


照月「……ここっ!」ドンドン!


ドオオン!


秋月「被弾――――く!」


電「乗馬、なかなか生かした真似してんじゃねーですか」


電「フゥッ」


秋月「電艤装の備え付けの拳銃に息を吹き掛けて……! 深海海月姫の頭部艤装を照月のウエスタンハットのごとく見立てていますよ……!」


秋月「というか驚かないんですね!」


電「まあ、私自体が深海棲艦艤装なんて扱えますし、北方提督&デカブリストのミサイルに神風の刀と速度、初霜さんのでたらめ素質、もはや乗馬ガンマンが現れたところで驚くに足らないのです」


秋月「く、ちょっと納得してしまいました……!」


照月「秋月姉乗って!」


秋月「はい!」


電「私のギミック破る手立てがないとは、ならば時間稼ぎですか?」ジャキン


電「駆逐古鬼、戦艦棲姫、深海海月ギミック展開!」


ドオオオオオン!


照月「あ、ああ! お馬さんがやられた! 魂が星に向かって」


電「天馬になりましたねえ。それではさようなら」ジャキン


ドオオオオオン!


秋月「――――あ、」


照月「秋月姉――――!」


秋月「まだ、ま」ジャキン


電「お そ い」


ドンドンドンドン!

ドオオオオオン


秋月「」


ドンドンドンドン!

ドオオオオオン!


照月「ひどいよ! 容赦なさすぎる! それが同じ鎮守府の仲間にすることなの!?」


電「はあ? 帰国子女風情にうちの流儀のなにが分かると?」


電「死んだと思ったらもう一発なのです」


ドンドンドン!


照月「一発とは(哲学」


電「さてロデオガンマンガール、脳髄撒き散らしてあなたも空駆ける天馬となってお星様になるのです」ジャキン


電「慈悲はなし」


照月「イヤアアアア――――!」


【3ワ●:夜戦】



神風「由良、卯月、阿武隈、7駆か。持つかな」



響&ヴェールヌイ「持たせるさ。私が4駆を相手にしよう」


神風「任せた。暁ちゃん雷ちゃんと私で残りを抑えるわ」


ドンドン!


神風「撃ってきたわね」


神風(でも……思っていたよりも暁ちゃんが避けるの上手ね。でも向こうは卯月阿武隈由良でしょ。当てられないとは思えないし)


神風(誘われている感じがするわね――――出てきたけど、誰かまではよく分からない。あの前に出てきたやつを1分かけずに)


ドンドン!


神風「っ!」



2



阿武隈「避けられはしなかったけど、被弾させてはいない、と」


阿武隈(……砲弾を受け流すとか、反動とか破片被害考えるとリスク高過ぎなんですよね)


阿武隈「なるほど、前の時よりも体術お化けですね……でもこれが航行術で避けられないようなら」


阿武隈「まだ負けませんよ!」


神風《未来を読まれているかのよう。前と戦った時はしょせん戯れの域を出ませんでしたか!》


阿武隈《変な動きする人ほど体さばきには癖があるんですよね!神風さんの場合はよくあるとっさの左方向への意識ですかね!》


神風(今のは中口径主砲20.3cm(3号)連装砲……改修もされてるかな)


暁「捉えたっ!」


神風「ナイス探照灯、完全に捉えたわ!」


神風《暁ちゃん、追い抜いた甲標的の処理も可能ならば頼む! 由良さんとのも合わせて2機ほど!》


暁《爆雷使うけど、それぞれ離れているから2機は厳しい!》


阿武隈「む、神風さん、速くなったり遅くなったり。タイミング合わせ辛い……というかこれ」


阿武隈(砲撃じゃ当てられない気がする)


阿武隈「なるほどー……確かにこれは単艦演習ならばお強いですね。こういうのには数の暴力が有効的ですが!」ジャキン


ドンドン!


神風「低速航行でノロノロと!いい的ですよ!」


神風「司令補佐の第1旗艦の首もらったア!」


ズバン


神風「――――痛ぅっ」クルッ


神風(防がれるどころかカウンターもらった……!)


神風「私が――――」


神風「軍刀相手に……!」


ドンドン!


神風「こなくそが!」


阿武隈「足で蹴り落とせるのですか! その艤装ならではですね!」


神風「突っ込んで来るんですか、斬り合い」


神風「上等だ!」


キンキンキン


阿武隈「せいっ」


神風(そんな、私の領域……踏み込みを入れられる分、優位性はあるはずなのに、雷雨の日も雪風の日も鍛練してきたのに)


神風(夕立といい……こうも、こうも!)


神風「現実は私の努力を嘲笑うかのように立ち塞がりやがって!」


阿武隈「こういう風に戦ってくれる相手と経験積まなかったでしょう? 積んだとしても少なくとも駆逐以下ですかね」


阿武隈「あたしに勝てばあなたに足りないピースを教えて差し上げますよ!」


神風「上から目線ですね……」


キンキンキン


阿武隈「素体馬力は38ってところですか」


神風「腕が弾か、」


ズバン


阿武隈「力の差ですね! 私は90馬力ですからね!」


神風(くっそ、左足を切られた……!)


神風(なにが力の差よざっけんな……私が海の上でその物を斬る修行に1年もかけたってのに即興でやってのけやがって……)


神風(しかも二刀流とかなめてんのかしら!私のプライドは既にズタズタに斬り裂かれたわよ!)


ガガガガガガ!


神風(艦載機の、援護射撃!)



卯月「この二人の邪魔はさせないぴょん」


ドドドドドド!


神風「邪魔だこのクソ兎が!」


阿武隈「あっ、すみません、抜けられちゃいました!」


由良「とうっ!」ドンドン!


神風「避けられな――――このっ!」


由良「超常現象ですね……砲弾の軌道を鞘で反らされた……疑似ロスト空間の魔法なのかなあ?」


卯月「気をつけるし。ビスマルクプリンツ、三日月、望月天津風がこの辺りのうーちゃん達と7駆に一斉射してる」


由良「ま、でも私は奥の暁ちゃんを倒してそのままビスマルクさん達のところに突撃させてもらいますね!」


神風「させません!」


阿武隈「おおっと! あなたのお相手はあたしですよっ!」


神風「すぅ……はぁ……」


阿武隈「!」ゾクッ


阿武隈「せいっ!」


ヒュン


阿武隈(空ぶった! 屈んでかわされて、この体勢……)


阿武隈(流れるように綺麗な動作だ)


神風「――――去ね!」




ズバン











阿武隈「ああ、やっぱり」


神風(体の全面が痛、い。嘘……避けられたどころか、抜刀速度で負け、た……の?)


神風「そ、んな――――」


阿武隈「この領域であたしに負ける程度では」


阿武隈「まだ精進が足りませんね」


神風(痛い……斬られた胸なのか、心のほうなのか……分かんない)


神風「負け、ました……」


神風「強い、です。あの人の旗艦なだけは……」


神風「こうも」


神風「遠いんですね……」







伊13・伊14「神風さん、海中にご案内――――!」




阿武隈「む……はあ」







阿武隈(手加減したつもりはないけど、涙見たら、容赦なく沈めるって最善手の判断が遅れちゃった。艦兵士とはいえ戦う以上、闇の流儀を実践出来なかったのはちょっとダメですね……!)



阿武隈「――――逃がしません」


ジャキン


ドンドン!


伊13・伊14「きゃあああ!」


阿武隈「1機の甲標的は神風さんに狙いをつけたままですよ!」


ドオオオン!


伊14「大破……浮上して位置をさらしたとはいえ潜った夜の私達に簡単に当ててくる……この人、つよ、すぎです……!」


伊14「ヒトミ! 神風さん抱えていって!」


阿武隈「トドメです!」


ドオオオン!


阿武隈「反応消失、伊13さんも往生してください!」


暁「それ――――!」


ドオオン!


阿武隈「当たりません! 暁ちゃんとは別に撃ってきたほうも!」


ドオオオン!


阿武隈「!?」


阿武隈(被弾、中破……! 回避方向に魚雷、合わされてた)



島風《お相手願! お――――う!》


天津風「島風、隣で大声出さないで! うるさいから!」




阿武隈「なるほど、いい連携ですがっ!」


阿武隈「負ける気は微塵もしません」


阿武隈「あたしは――――!」


阿武隈「沈まないし折れないし負けませんよ!」




*観戦ルーム



瑞鶴「さすがアブー!私達の理解の範疇を越えてる! アブーに勝てるのは全盛期のおちびくらいよ!」


龍驤「称賛しか出来んわ! うちらの提督の顔を見せてやりたいわ! ほらほら予想外って顔してるよ!」


青葉「撮影なら青葉にお任せを!」パシャパシャ


提督・ガングート「……」


提督「ガングートさん、信じられますか」


ガングート「信じられんが、事実だろうよ」


ガングート「あの神風と刀の決闘で真正面から下したぞ」


ガングート「噂は聞いていたが、あれがフレデリカ大佐と香取が太鼓判押した最終世代の素体最高素質か。ほとんどのことを1日、いや1時間あれば高精度で習得しちまいそうだ。もはや脱帽物の戦力だなありゃ」


ガングート「というか准将はなぜ驚く。あなたのところの旗艦だろう?」


提督「そうなのですが……彼女の完成系は最後の海でしかと見たつもりでしたが、まだまだ発展途上だったのか、と」


提督「夜戦部隊は阿武隈さんを潰すために機能するはずでしたが、夜の神風さんにいいとこ、拮抗のレベルかと見積もっておりました。さすが、ではないか。まだ自分はあの子のこと見誤ってましたかね」


提督「ですが、阿武隈さんも見誤りがある。神風さんを仕留められなかったのは後悔するかな」


提督「あの子のすごいところはそこじゃないので」


瑞鶴・龍驤「負け惜しみ乙!」


提督「く……」


ガングート「ぶっちゃけどちらの応援してる?」


提督「もちろんどちらも応援してます。勝ち負けとは別の心でね」


提督「あなたもそうなのでは?」


ガングート「そうだな。私は満足したよ。一度、提督と戦ってみたかったってのが心残りだった。すごく強いとは思ってたが、その通りだったしな。今は敵陣営の神風の勝利も願ってる」


瑞鶴「つうかデカブリスト……」


提督「種は分かるんですが、あの人がなにしても驚きませんよ……きっとあれがあの人の完成系なのでしょう」


瑞鶴「最前線で艤装つけて戦う提督がか……」


3



瑞鳳「い、痛いじゃないですかっ!」


わるさめ《よ、づほ!》


わるさめ《頭を咬み千切るつもりが脇腹しか食えなかったぜ! ステルスだったのに反応速度が以前よりも素晴らしい!》


わるさめ《夜艦機積んでるみたいだけど、わるさめちゃんは負けないぞ!》


瑞鳳「私だって負けませんよ!」


瑞鳳「鎮守府(闇)ではわるさめさんみたいな派手な戦果は挙げられなかったけど!」


瑞鳳「私だってあの鎮守府の兵士なんだから!」


わるさめ《いっちょ揉んでやろう!》


瑞鳳「そのつもりです、全機発艦!」


わるさめ《なめんな! この悪鮫ちゃん形態には防空棲姫艤装もあるんだよ! 卵焼き艤装の艦載機全て撃ち落として丸裸にして》


ガガガガガ!

ガガガガガガガガガガ!


わるさめ《こんがり焼いた後で食べてやるぜ!》


瑞鳳「く、トランスタイプはこれだから……! その化物の皮を剥がしてやりますから!」


ザッパーン!


わるさめ「ガ・ブ・リ!」


瑞鳳「わるさめさんは海面上に出てきたところを狙うしかないですよね!」


ドオオオオオン!


わるさめ「ハハ、防空棲姫装甲ギミック破るためのワ級艤装はそこじゃねえぜ! ぷらずまのやつにならって口の内側だい!」


瑞鳳「……こんのぉ!」


わるさめ「!?」


わるさめ「口が閉じない。両手で口を持ち上げるから、鮫の歯が手の甲貫通しちゃってるよおお! 見てるこっちが痛い!」


瑞穂「ほらわるさめ、召喚獣のところの仕掛け突破してあげたわよ……ったく、このくらいのギミックも突破できないだなんて」ピコピコ


瑞鳳「瑞穂ちゃんが中でゲームしてる!?」


わるさめ「スイキちゃん周り見てええええ!」


瑞穂「……うん?」


瑞穂「ちょ、わるさめ、早く口を閉じなさい! そいつが口を力任せでこじ開けてるのは――――!」


瑞鳳「もう遅いです! 瑞穂さんも獲りました、よっ!」


わるさめ「あ、やべ! 爆撃機を口内に突っ込ませるためか!?」


瑞穂「特攻じゃない! これだから闇の連中はイヤなのよお!」


ドオオオオオン!



4



漣「超強いいいいいい!」


ドオオオン!


曙「最後まで威勢だけは良かったわね」


漣「いやー、ぼのたんキツいっす……」


漣「大将の誇り、ぼのたんに任せた」


曙「私も響にもらって大破よ……航行は出来るけど、装備がもう」


漣「皆に任せ、ぐぼ――――!」


ドオオオン!


雷「あ、しゃべってるのに当てちゃった」


ヴェールヌイ「気にすることはないさ」


ドンドン!


潮「あ、当たりません!」


朧「知ってはいたけど、闇の人ってほんとに強いね……!」


ドオオオン!


朧「――――ああ、大破しちゃった」


朧「まだ、動けはする!」


潮「後方の戦艦空母の支援攻撃がさばき切れないね……こういうのには自信あったけど」


漣「うおら! なめんな6駆――――!」ドンドン!


雷「まだ沈んでなかったんだ!?」


漣「伊達に球磨型から雷撃喰らって育ってきてねえやい! 漣はもう浮き砲台に等しいけども!」


漣「倒してやる――――!」ジャキン


ドンドン!


曙「……ていっ」



響・ヴェールヌイ「ウラー!」


ドンドン!


漣「く、そう、後は頼んだ……」


チャプン


響「朧さん、隙あり!」ドンドン!


朧「ああ、まだまだで、す!」クルッ、スイイー


響「ダメコンで粘られたけど燃料庫は破壊したかな……と」


響「いた、イタタタタタタ! ヴェールヌイ、な、なんだいこれ?」


ヴェールヌイ「君の頬が大きく横に広がってるけど……」


雷「あ、曙さんがなにか引っ張ってる……!」


雷「あれは――――釣竿!」


曙「あるもの使ってみたら響が釣れたわ! 朧に潮、私がリール巻いてるうちに撃ちなさいよ!」


潮・朧「了解!」ドンドン!


響「痛たた、口のなひゃにつり針ひゃ、こうこーバランひゅがうま、く、」フラフラ


ドオオオン!


雷「ふう、あぶないわね! 真似してみたのはいいものの私には難しいわ砲弾殴り! 中破しちゃった!」


響「ご、ごめん雷!」


ヴェールヌイ「今の砲撃のお陰で糸が切れた」ジャキン


ドンドンドンドン!

ドオオオン!


潮「ああ……」


朧「でも!」ジャキン



ドオオオン!



5



ビスマルク「なにあいつ、うっとおしいわね!」


ドンドンドン!

ドオオオオオン!


ビスマルク「一人突出して6人に突っ込んできて、なんで私が中破してるのよ!?」


ビスマルク「由良アアアア!」ドンドン!


由良「……あ」


ドオオオオオン!


ビスマルク「サラトガね! Gut gemacht!」ジャキン


ドオン!


卯月《ぷっぷくぷう! テメーにこき使われているそのdrei艤装が可哀想だぴょん! 図体がでかいだけの的、豚に真珠だぴょん!》


ビスマルク「Fu◯k you」ジャキン


由良「そんな挑発に乗るようではまだまだですね!」


ドオオオオオン!


三日月「ビスマルクさあん!」


ビスマルク「……だ、大丈夫。それより!」


ビスマルク「あんたさっきから偵察機飛ばしただけでなにもしていないじゃない。戦う気がないのかしら……?」


グラーフ「前に支援を飛ばしているだろう……卯月のせいで効果的とはいえんが」


ビスマルク「卯月倒すのよ! 切り替えなさいよ資材置き場!」


グラーフ「資材置き場か。だがビスマルク、お前ももう少し私を見習い落ち着くといい。その艤装は日本に預けた祖国の宝だぞ」


ビスマルク「今の一撃で悟ったわよ。あなた頭は回るんだから、今の神風達が抜かれた今の状況の策でも立てていたんでしょう?」


グラーフ「由良には私達では勝てん。あれは単艦で海の傷痕:当局に一矢を報いた化物だ。この環境も含め実力差が有りすぎると見た。刺し違えて、など私の柄ではないので」


グラーフ「卯月を狙う。その間はサラ達のほうに投げよう。航行的に由良もまずプリンツかサラを沈めたいようだ」


グラーフ「卯月の素質と艤装の特徴は知ってるか」


ビスマルク「砲精度が高くて紙装甲と耐久で燃料を戦艦並に食う。妙な連射性能のある単装砲と連装砲を持ってて、ぴょんと跳ねる」


グラーフ「加えて判断力と反射神経、動体視力。迅速な対処、あれは神風の直感力に近いが、見ていた限り柔軟とはいえん」


グラーフ「『狙える場面をやるから当てろ』」


グラーフ「三日月も、だ」


グラーフ「――――、――――だ」


ビスマルク・三日月「了解(です)」


グラーフ「ビスマルク、一度きりだぞ。あの卯月には2度も同じ手は通じん。外したらお前を資材にして拠点に持ち帰ってやるからな」



グラーフ「さて妖精可視スコープ装着だ」






卯月《三日月! 望月! お前らと戦うのも久しぶりだぴょん! うーちゃんがどのくらい強くなったか身を持って思い知るといい!》


望月《うるせーよ……睦月型の中の実力格差は嫌というほど知ってら》


三日月《負けませんよ! 私と望月だってたくさん訓練してきたんですから! 卯月が街でゲームばっかりしてる日もです!》


三日月《あ、いや、訂正です! 望月もゲームばっかりであんまり訓練してなかったです!》


望月《いわんでよろし……》


卯月《真面目め。遊ぶことも訓練になるということが分からないのか。そんなクソ真面目な三日月には悪戯したくてたまらねーぴょん》


三日月《そういうのは司令官だけでたくさんです。成敗!》


ドンドン!


三日月(あ、魚雷を回避するのに本当に飛ばない。例の重ねの神業も夜だからかしてこないし、主に航行術で攻撃を避けていますっ)


三日月(燃料制限がありそう……と思わせた嘘だなんていかにも卯月のやりそうなことですが)


ドドドドドン!


三日月「く、う……魚雷菅狙われて。撃っておいて良かった」ジャキン


ドンドン!






卯月「……ん? この反応は、長門と雪風に不知火か?」


卯月(……雪風か。あいつ司令官の初期配属メンバーの癖にあんまり訓練していたところを見たことないぴょん。あの司令官のことだから雪風の生存力に目つけて妙なこと指示していた可能性が……)


ドンドン!


卯月「あぶねー。今は三日月達に集中しないと」


卯月(……艦載機が8機。それぞれ東西南北から2機ずつ。第2波が遅れて来る感じか。可視才利用してるっぽいから全部は難しいし)ジャキン


卯月「いや、ここは全て墜とす!」


ドドドド!


ドオオオオオン!


卯月「冷た……交叉弾の水飛沫が。破片痛てえし当てるタイミングじゃなかった。読まれているぴょん……これはグラーフかー?」


ドオオオオオン!


卯月「――――!」ピョーン


ビスマルク「高く飛んだわね! 避けられないでしょ!」ジャキン


卯月(38cm連装砲改2丁か)


卯月「当ててみろし。ポンコツ戦艦じゃないならな」ジャキン


ビスマルク「その変な艤装ごと沈むといいわ!」


ドンドンドンドン!


卯月(……ん? 待てこの反応?)


卯月「雪風の影響とか? これは終わっ――」


ビスマルク「――――外した!?」


ビスマルク「というか空中ですごい跳ねたわよ!? ずるくないあれ!」


パシャン


卯月「うーちゃんの勝ち。この距離で艦載機は味方もろとも、グラーフ、お前には無理だし」ジャキン


グラーフ「一応、私とビスマルクも機銃向けているんだが、三日月の砲口もな。弾薬と燃料も切れただろう? お前を沈める代償として私かビスマルクのどちらかを引き換えにくれてやる。誰を沈める?」


卯月「……いや、うーちゃん含め、由良さんもサラトガのほうも全員だぴょん。三日月は助かるんじゃねーかな」


レ級「終わりだな。運が悪いよ。建造地点にいただなんてさ」ジャキン


グラーフ「そのようだな……」


ビスマルク「嘘でしょ。まだなにも戦果を」


レ級「僕が強いから仕方ないかなー」


ドオオオン!



【4ワ●:今度死ぬのは大和だけじゃねえぞ!】



由良「――――!」


由良《後ろです! サラトガさんプリンツさん望月さん!》


プリンツ《そんな子供騙しに私はひっかかりません。えっへん!》


由良《由良も攻撃止めるから後ろ向いて! ね! ね!?》


ドンドンドン!ドオオン!


プリンツ・由良・サラトガ「」


望月「……けほ」


望月「なにが起きた……?」


望月「この面子に当てる砲撃精度と装甲空母のサラトガさんまで沈める重さ……?」


雪風「望月さ――――ん!」


雪風「待避してくださああああああい!」


望月「ん、なんだ?」トントン


望月「肩を叩いたの誰……」クルッ


ネ級「ネッちゃん。あ、flagshipです」ビシッ


望月「なんだ重巡ネ級flagshipかよ……」


ネ級・望月「……」


望月「あたし死んだアアアアアアアア――――!」


ネ級「うーん……あ、闇のやつ、確か不知火!」


不知火「あまり接点なかったですけど覚えてくれていましたか」ヌイッ


ネ級「最後の海のお友達は全員覚えてます!」


不知火「やっぱりネ級の反応はあなたでしたか……」


ネ級「ネッちゃんです!」


雪風「はい! 雪風です!」


ネ級・雪風「話すの決戦以来!」


ネ級・雪風「(ノˊωˋ)八('ω' )ノイエーイ!」


望月「お前ら仲良いな。瑞穂とわるさめのやつ見ていて薄々気がついてたけど、中枢棲姫勢力ってやっぱり面白い感じなのかよ……」


ネ級「わるさめスイキぷらずまはいない……?」


不知火「いますけどここにはいません」


ネ級「みんなこっちの世界で遊んでますよね……?」


ネ級「レッちゃんが怒ってる。『僕達の墓を掘り起こしてさあ! こういうことするのは大体、闇の提督だろーがよ! つかドンパチやってるならちょうどいい!』って」




レ級「榛名ア! 龍驤オ! 決戦の時の借りを返してやるよ! 今からぶっ殺しに行くから首洗って待ってろよコラ! そこの黒頭、二人の居場所教えなきゃ痛い目に遭わせるぞ!」


三日月「その二人はもうリタイアしてます――――!」



2



春風「指定ポイント到着です」


旗風「陽動部隊が派手に引き付けてくれているお陰で回り込めましたね! 彼処が敵陣営の拠点です! 大鳳、白露、時雨、飛龍、蒼龍、扶桑、霧島、伊勢、翔鶴、利根、筑摩、隼鷹、香取、秋津洲の反応キャッチです!」


大和「さてと今度は三式弾に加えて46センチ三連装砲も浴びせます。北方さんの指示通り空母を優勢して狙います!」


大和「武蔵、準備はいいですね!」


武蔵「無論だ。ちょっと急襲ばっかで意気は消沈気味だがな」


大和「主砲一斉掃射!」


ドオオオオオン!


大和「――――!」


春風・旗風・武蔵「!?」


武蔵(大和が被弾しただと。どこからだ? 大和の装甲をこうも簡単に貫く一撃は――――)


ドオオオオオン!


春風・旗風「武蔵さん!」


武蔵「クソ……私も被弾した。今のは見えたぞ。この砲弾が軌道曲げてきた可笑しな芸当は……」


武蔵「戦後復興妖精か」





戦後復興妖精【夜戦部隊そのものが陽動だったか。いや、阿武隈ちゃんと由良ちゃんなんなのあれ。最終世代の長良型すげえわ】


戦後復興妖精【ちなみにあの陸地は空だぜ。ひっかかる艤装だけが置いてあるお前らの撒き餌だ】


戦後復興妖精【さてこの状況、例の撤退と似てんね。大和を遺してその他は逃げるのが理に敵ってる訳だが、あいつみてえにその判断が一瞬で出来ねえか】


戦後復興妖精【お前ら本当にセーフティかかってると思うの? 今頃、表では大騒ぎしてんじゃね】


春風「だとしても逃げませんよ」


旗風「相手が海の傷痕級でも、です」


春風・旗風「今度は絶対に」


戦後復興妖精【そっか。ちび風、ちび津風、神風型の相手を】


悪い連装砲君&悪い連装砲ちゃん【了解!】


武蔵「ちび……その二人そうかよ。メモリーの第2世代の島風と天津風か。メインサーバーのやつもそうだが、信じられねえな。准将は人類の勝利の大義があったが、お前は大した意味もなく」


武蔵「仲間の想いを玩具に出来る性質か?」


戦後復興妖精【お前に一体、あの最初期の時代に生きた。私達の想いのなにが分かる】


戦後復興妖精【まあ、質問の答えは『イエス』だ。死人を利用してなにが悪い。お前らも人のこといえねえだろうが】


武蔵「……残念だ。ガキみたいな台詞吐きやがって」


ジャキン


戦後復興妖精【それでいーんだよ。くだらねえ御託で済ますならわざわざ舞台整えねえよ】


武蔵「なんか仕掛けたのかよ?」


戦後復興妖精【この最終海域のギミック、お前らがこの場で生き残れば拝めるだろうよ】


大和「……ギミックとやらはよく分かりませんが、ここで沈む訳には行きません。あの時の二の舞を晒して終わる訳には断じて」


大和「戦後復興妖精が相手でも」


大和「今度は私も」


大和「皆さんと一緒に帰還したいので!」







戦後復興妖精【絶望的な戦力差を知りながら立ち向かうのか】


戦後復興妖精【やっぱ人間って世代が変わるとダメなのかね。お前ら全員、艦の依り代がそんなことも身に染みてねえとはいうまい】


戦後復興妖精【今度死ぬのは大和だけじゃねえぞ!】



【5ワ●:再来する無力な私】



神風「ありがとう……」


伊13「……任務ですから。それでは」


淡白な子だった。

なにをいいたいか分かる。妹を犠牲にしてまで助ける価値はあったのか、と自問してそうな感じだった。性格ゆえ口に出すタイプではないだけでしょうね。


水面に映り込む月と私と刀身がゆらゆらと揺れている。映っているこの折れた刀と歯を食い縛る顔に唾を吐いて、上を見る。


遠く険しい。無謀だとは誰からも念を押された。

それでも、とあの日に志した道だ。

余りにも遠すぎる。どれだけ進んでも辿り着かない。


才能を言い訳にする暇があるならと、鍛練をしてきた。

それでもあの阿武隈に圧倒的な素質に負けた。

司令補佐が用意してくれた資料に阿武隈が軍刀の道を鍛えたなど書いてなかった。阿武隈は私と単艦、しかも刀の道で勝負を挑み、勝ってみせた。すなわち阿武隈が考えた司令補佐の予想を越えた策、そして私の心を叩き折る効果的な策でもある。


私がやってきたこと全てを、血の滲む修練の先に上り詰めた刀の扱い、それを数刻の時間しか注いでいないやつに蹴落とされた。悔しい。前に進む度に悔しさだけが湧いて出てくる。

下唇を噛み切って悔恨の面を更に空に向ける。

今に見ていろ!



阿武隈は強い。それでも勝たなければならない。

私は司令補佐に約束を守ってもらえなかった故に同情を望んだ訳ではない。阿武隈を越える艦兵士にならなければ、あの人は私を旗艦に選ぶはずがない。戦争中の彼はそういうやつだと、私は知っていてそれを望んだのだから。


――――ああ、やっぱりだ。あなたが提督のところに来なくて良かった。この領域であたしに負ける程度ではうちの提督の羅針盤に殺されてましたから。


今に見ていろ!

まだやれる!

まだ一歩踏み出せる!

命がある!

死んではいない!

ならばもう一踏ん張り!

命ある限りまだ先へ!

もっと速くならなければ、

また追いつけずに終わるだろうが!


――――あたしに勝てばあなたに足りないピースを教えて差し上げますよ!


足りないピースだと?

私を見て分からないのか。

本来備わっていなければならない砲塔、魚雷官もない。足りてない部分だらけだろ。


そんな船でも、もう置いてきぼりは嫌だ。


踵を返して予備の神風刀を取りに行く。先の雪の影響か足元の泥がブーツに粘っこくまとわりついた。

地面はこの歩みを阻みに来ているかのようだ。雪の日は足を踏み外しちまえと、雨の日は行かすものか、と。そして今は諦めろ、と諭されているかのように優しい柔さだった。それでも私の心が身体に熱い血潮を渦巻かせ、この足を前へと運ばせる。


急造の司令部基地で聞こえた言葉に、私の足は更に動いた。本命の部隊が戦後復興妖精に急襲を受けた、との知らせだった。


1/5撤退作戦の時と同じだ。

そこにいるのは大和さん武蔵さん、春風と旗風。

あの時、鹿島さんのマンションで私は大和さんにいった。


――――今はもう砲雷撃も出来ませんけど、刀一本で深海棲艦を蹴散らして大和さんの救助に向かいます。


今がその時。

深呼吸して切り替えると、心がクリアになる。まだやれる。今はついさっきよりも心と体が強くなっている気がした。


試練の時。

戦後復興妖精の首を獲り、大和さん達を助ける。


感じる風圧を身体で裂きながら、航行はかつてない速度が心は悪敵調伏の呪詛のうめきを上げ、軋む身体は海を往く。まだ潤わぬこの心の渇きを満たすのがこの先にある戦場のはずだ。


速く。もっと速く。


思い描いてきた理想だが、常に頭にあった訳でもない。強くなりたいという純粋な思いは、姉妹のこと仲間のこと司令補佐のこと、日々の雑音という不純物が常に乱し続けてはいた。人の心はハングリーウォーターのようにありとあらゆる成分を吸収してしまうように出来ていた。


自己が消えてしまいそうなほど。

芸術家が画に筆を夢中で走らせている時のように、刀を振るう時の私から自己が消えそうだ。それがきっと私の最高速度だという予感はする。


しかし、躊躇いはある。

自己を手放してまでも得る勝利に満足行く結果が伴うか。私は最強になるために最速を目指しているわけではなく、電が得ている絆のように彼からの認可が得たい。ぶっ壊してそこへと辿り着けるか?


違う。答えは電に負けた時にもう出ている。私はこの力であの人の笑った顔がみたかっただけだと。それが背中を追いかけていた理由、彼は振り向いてくれないし、後ろ姿を眺めるだけだったのが嫌だった。


迷いも後悔もたくさんだ。

最後、これで終わりだ。

もう置いてきぼりは嫌。間に合わないことだけは回避する。

だから全速力だ。


神風「あ……」


辿り着いた海には残骸が波に揺られて空しく浮いている。風が散らかす硝煙を鼻覚が捉え、足元に押し寄せた波で袴は赤く染まった。あの浮いている赤いリボン2つは、この焦げた髪櫛2つに晒し木綿は、隅々まで知っている艤装の破片は、彼処にある分離した体は。


神風「また私は、間に合わなかったの……」


込み上げた涙を根性で抑え込む。


神風「今度は、全員……!」


業火の慚愧に身を焦がして、私はまた空を見上げた。

まだやれる!

まだ一歩踏み出せる!

命がある!

死んではいない!

ならばもう一踏ん張り!

命ある限りまだ先へ!


強い言葉が空しく胸中に反響した。


空も海も真っ暗になって見えなくなった。袖で涙と鼻水を拭っても、絶えず溢れてくる。まるで意味がなかった。

刀が手から滑り落ちる。


戦後復興妖精【期待外れだな。やっぱり想解釈下手くそなのかね】


神風「戦後復興妖精……!」


戦後復興妖精【ギャハハ、お前の今までの全ての努力を否定してやるから】


戦後復興妖精【怖くなければかかってこいよ】


片手に軍刀をぶら下げていた。


神風「どいつもこいつも――――」


神風「私を馬鹿にして……!」


刀を拾い上げて、航行を開始した。

刀身がぶつかり合う音が置いてきぼりに感じる斬り合いだった。


戦後復興妖精【ダメだお前……】


視界がぐるん、と上を向いた。


戦後復興妖精【仲間の屍見ただけでそこまで弱くなるやつにぷらずまの代わりは務まらねえよ。全然遅えし】


戦後復興妖精【じゃあな】


沈んだ。背中から着水した。

冷たい海水が和服の中を満たした。もがいても這い上がれず、空の月明かりに手を伸ばすも沈んでゆく。


その時、悪魔が囁いた。

良かったね、これで楽になれる。


心の乱れを突くようにたぶらかされた。

私は刀を手放した。


その時だ。

あの声が頭の中でなくて、耳から鼓膜を通して聞こえた。


次の瞬間には海面上にいた。黒い手に、首根っこをつかまれている。


造形は海の傷痕:此方によく似ているが、雰囲気がまるで違う。此方のほうからは人間味を感じたけれど、こいつから感じたのはおぞましい邪の気配だ。


当局「当局による想題(メモリーズ)」


当局「神風だ」



【6ワ●:海の傷痕:想題神風】



当局「貴女はそれだから気にも留めなかったのだ。貴女のその『うん、あたちがんばる!』みたいな姿勢が薄気味悪く、そして『艦隊これくしょん』を恋のキューピッドの如く扱うなどと勘弁してもらいたいのである」


神風「……え?」


神風「誰――――もしかして」


神風「当局か? その艤装はウォースパイト……?」


メインサーバー【呵呵! 最初から未来は決まってた! 何故ならば准将も此方も含めあなた達はただの社会の歯車のリーマンに過ぎないからデス!】


神風「……どういう、こと?」


メインサーバー【どうして私に脅威がないと判断してあのまま放置していたんでしょうカ!】


メインサーバー【それは私の鹵獲作戦の時に戦後復興妖精と意思疎通により、利害の一致で協力関係を結んだカラ! 要は想力でしてやられたの一言で済むカナ! 貴女達はまーだノロノロと想力の利権戦争やっているカラー……】


メインサーバー【なぜすぐに第2の海の傷痕を産ませない方法を実施しなかったのデス! 全く持って呵呵デス!】


メインサーバー【戦後復興妖精がそっちにいたカラ、一手間かけたのデスガ、まさか利害の一致、協力関係にナレタのは幸運デシタ!】


神風「利害の一致……?」


メインサーバー【ハイ! 私も艦娘幸せにしたいと思いマス!】


メインサーバー【教えておくと現状で常駐廃の領域は神風サン、貴女ただ一人でございマス。加えて戦後復興妖精にケンカを売ったのが不味かったデス】


メインサーバー【分かりませんか?】


メインサーバー【この鎮守府(闇)から広がるこの擬似ロスト空間の海には『艦隊これくしょん』の全てがあることに】


メインサーバー【『中枢棲姫勢力』、『Type:Trance』、『海の傷痕:此方&当局』、『参戦艦兵士』プラス『北方勢力』】


メインサーバー【神風ちゃん、貴女の幸せは?】


メインサーバー【っと、最優秀プレイヤーの一人のお出ましデス】


電「間に合いませんでしたか……!」


電「なんでテメーがいるのです。その艤装は確か……」


当局「ウォースパイトである。いや、この艤装は椅子に座りながら航行出来るのが素晴らしいのである。どうだ? 町の船や車はボタン1つで目的地まで運んでくれるまでに進化したか?」


電「テメーが戦後復興妖精にしでかした業の後処理で大変なのです。罪悪感でも芽生えて化けて出たのです? 即除霊と行きたいのですが」


電「最初の質問は……」


当局「戦後復興妖精……?」


当局「ああ、リバイブフェアリーか。メインサーバの仕込みが発動したのだな。いや、あの人間の心を抱いた娘に施してやったつもりなのだが、まあ、オープンザドア君に丸投げしたことは否めんな」


電「現海界させたのは?」ジャキン


メインサーバー【やれやれ、夢の世界を創造して過去の遺物を玩具にしているとは。貴方達はそんなに好きなのデスカ?】


メインサーバー【『艦隊これくしょん』】


メインサーバー【ま、運営としては嬉しい限りデスガ、リアルは大事にネ!】


メインサーバー【と気遣える分、こちらも丸くなってしまったものであるな! やれやれこれでは優良運営になってしまうではないか!っていう感じダヨネ、パーパ!】


当局「嘲嘲:ケラケラ!」


電「嗤ってンじゃねーのです……」


メインサーバー【司令官さんには盲目デスネ。今回の准将は木偶の棒に過ぎないデスヨ。この展開が絶対にバレないように想力で誘導してあるせいで勝負になってません】


メインサーバー【あなたは気がついていました?】


電「まさか……ただ嫌な予感がしていた程度なのです。最初から乗り気じゃなかったので今回は大人しくして、そこの神風に主役の座は譲ってやるつもりでしたが……」


電「事情は変わった」ジャキン


電「『当局』、そいつだけは現れてはなりません。私達の血潮に対する冒涜なのです」


電「そいつが海の傷痕としての罪の全てを被って死んで深海棲艦が海から消えた。そいつが姿形をあの頃と変わらず維持して存在しているということはこの長い対深海棲艦海軍、引いては」


電「鎮守府(闇)が終わらせた全てに意味が無くなります」


電「当局さんもそのくらい分かるでしょう! あなたが消えたお陰で此方さんはなんとかこちらで融通利かすことが出来ているのです! 戦争終わらせようが、私達は国のほんの一部にしか過ぎず!」


電「あなたの健在が認知されたら此方さんは」


電「殺すしかなくなります! 私達の勲章は雲散霧消して、やり直しです! また血で血を洗う輪廻戦の勃発でしょう!? 私ももうお花畑は卒業したので、あなたにだけは言えますよ」


電「今すぐ死んでって!」


当局「やれやれ全く、相変わらず貴女は優しいな。そのくらい分かるのである。いちいち確認を取って許可を得るのか、といいたいが」


当局「まずはメインサーバー君の話の続きを聞いてやれ」


当局「別に当局の存在が世間に露呈されたわけでもないだろうよ。それに死の定義が前と変わらんということもあるまい」


当局「そこを踏まえて当局の復活、第2の海の傷痕の誕生、予想出来ない事象ではなかろうよ。人間は戦争終わってから仲良く長期休暇か?」


当局「と失笑の最中ではある」


メインサーバー【鎮守府(闇)の物語は冒涜された】


メインサーバー【正夢って知ってマス? 夢ってのは現実に侵食するもので夢は現実になりマスシ、その逆もまた然り。想い1つの力ってそれくらい創造力があるのデス】


メインサーバー【さて話を戻して続けマス】


メインサーバー【『中枢棲姫勢力』、『Type:Trance』、『海の傷痕:此方&当局』、『参戦艦兵士』】


メインサーバー【そこにプラス、『北方勢力』】


メインサーバー【神風ちゃん? 貴女の幸せは?】


神風「……、……」


神風「私の幸せ――――」


メインサーバー【『准将の第1旗艦になって戦争終結』、あの人が示す航路の先の景色を見たいんデショ? 呵呵!】


メインサーバー【今ここに対海の傷痕戦まで時計の針は逆にチックタックと戻りました】


メインサーバー【鎮守府(闇)の全てを凪ぎ払い、平坦な地盤を持って相成る大逆転劇の幕開けデス。私は『艦隊これくしょん』の『運営管理の役割』があり、戦後復興妖精は『戦後復興の役割』がある】


メインサーバー【これが利害の一致。『戦後』に願ったお前の幸せのために『復興』してやったマデ】


メインサーバー【『戦争』をナ!】


メインサーバー【呵呵呵呵呵! 感謝しタマエ!】


メインサーバー【ああ、大和はまた救えなかったネ! 残念デシタ!】


神風「……」


電「神風さん、要はテメー」


電「『司令官の隣で戦うために戦争がもう一回起きればいい』と心の底で願っていたと」


電「そしてそれが――――」


電「テメーの『廃の想』だったと?」


神風「ち、違う! 戦争をもう一度だなんて思うはずがないじゃない! 人類が滅亡するかしないかの戦争だったのよ!」


神風「私はそんな……」


メインサーバー【『嫌な女じゃない!』か?】


メインサーバー【こいつのメンドクサさは准将と似てる。『ずっと人間を観察してきたからそれが悪いことだって分かるし、口にすれば嫌われることも分かっている』のデス】


メインサーバー【だからそれに蓋をしてマス。准将と違う点は自分が気づかなくなるほど隅に追いやってることデス】


神風「違う違う!」


メインサーバー【あるあるデス。結局は准将もあなたの飾り。愛とかバッカじゃヌーノ。平安辺りから常にそれ吠えてるけどサ、自己がある限り無償の愛なんて成立しねーンダヨ(*>д<)】


神風「違うってばあああっ!」


メインサーバー【……ん?】


メインサーバー【サラダバー! ちょっと抜けマス!】


当局「なあ」


当局「そろそろ嗤えないのだが……貴女は3歩歩けば忘れる鳥頭か?」


当局「先に仲間の残骸を目の当たりにして、もうダメだとかなんだのと泣き言いって最後には刀を自ら捨てたであろう?」


電「諦めて刀を捨てた? 聞き捨てならないのです……」


神風「ち、違、」


当局「そのくせ当局を感知した途端に捨てた刀を手に取る。下らぬ3文芝居に片腹大嘲嘲である」


当局「小娘、あなたにはこの『艦隊これくしょん』に対しての愛がない。製作者としてはガチ泣き案件である」


神風「――――!」


当局「そんな自己中兵士、准将に相手される訳があるまい。彼なら間違いなく貴女にいうであろうよ」


当局「『遊びじゃないんです』とな、ケラケラ!」


当局「何のために解体という慈悲があったのか」


当局「刀を捨てる。その行為は仲間への裏切り、そして侮辱であり、これ以上ない自己の名誉毀損であろうよ。人間は本当に自分の首を締めるのが好きな刹那的快楽主義者であるな」


神風「あ、あ……」


電「とりあえず!」


電「そろそろ正気に戻るのです!」ドカン


電「このくらい丁のやつの煽りと大差ないはずなのです!」


電「今はとりあえずこの話は後にするのです! やらなきゃいけないことは分かりますね!? 泣き言は敵を討ってからにするのです!」


当局「電は待て。当局は別に貴女達に敵対する気はないぞ?」


電「……は?」


当局「こいつの相手は気に食わんからするだけだ」


当局「神風型1番艦神風。いや……」


神風「上等よお! 仏陀斬ってやる!」


当局「仏陀斬る、か。当局を倒して己の道の一部とするか?」


当局「『失せろ小娘』」


神風「失せるのはテメーだ!」


当局「やれやれ全く、神道を説くつもりはないが……登る道を間違えていては階段踏み外さないとかそういう話ではないのだぞ?」


当局「威徳失くして神風が吹くか戯け」



2



当局「弱すぎる……ブレが大きすぎて兵士としては三流もいいところだ。電、待ってもらって申し訳ないが、当局はだな」


電「さてと」ジャキン


デカブリスト「いや電、こいつは私がやろう」


ドオオン!


北方提督「……防がれた。その椅子から生えた黒腕は妖精工作施設だね?」


当局「ああ、貴女か」


当局「メインサーバー君から情報はもらっている。やれやれ、ヴェールヌイに勝手にコンバートギミックとは二次創作の範囲を越えてただのハッカーである。いや、身内の嫌がらせか」


北方提督「神風を返してもらおう。殺す気はなかったようだけど……」


当局「こいつの教鞭は貴女にも執れないよ」


北方提督「話があるのなら気をつけて。私は優しいけど、デカブリストは口より先に手が出るからね」


デカブリスト「コレが当局だろう。此方と同じく最長齢の人間の宝だ。年長者の話には耳を貸す。くだらない爺の戯言なら話は別だけど」


当局「刀の扱いとかなんだのと、こいつにはまだ早い。そして貴女も同類なので難しそうだな。この小娘に必要なのは『親友』なのだから。子供の時分にろくでもない大人ばかりを見てきた」


当局「その背中の通りに育った。そこがこの小娘の成長の秘訣と、そして天井である。鶏の件を覚えているか?」


北方提督「……ああ」


当局「鶏自体が可哀想なのではなく、『自分の癒しがなくなるから嫌』だっただけである。逆にいえば、だからすぐにもう一匹を殺せた訳だ。なぜなら『准将のほうが大切』だからだ。自分が可愛いだけだからその他の命すらすぐに殺せるぞ。そこらにいるただの嫌な奴である」


当局「真面目で健気な姿勢に騙されたか?」


当局「身持ちが固いのも純潔に自らの価値を見出だしているだけで、それが損なわれるのが嫌なだけ。自分の見てくれに求められる価値というのを知っているのだ。こいつは男を知らんが、その欲を知っている。まあ、こいつの神風適性全てが」


当局「上っ面。心のほうはどす黒く汚れ切っている」


当局「分不相応な目的を持つ輩ゆえ、そうなるのも致し方ないのかもしれんが、全く人は夢を見るのが好きであるよなあ……」


当局「アカデミーの頃はそうでもなかった。あの撤退作戦で本当の自分が発露したのだ。本人は気づいていなくても、艤装のほうはしっかり貴女を見ている。適性がなくなったのはなるべくして、だ」


当局「此方は優しいからいわなかっただろうがな。いっても過ぎたことである。昔からそういう夢見がちなわがままで馬鹿を見る」


当局「解せん。なぜ此方が人間に敵視されてこの手の人間がのさばるのが赦されるという」


当局「人間を見る目ということの鍛え方は学校で教えてやれんのか。素質というじょうごは違うが、教える者は常にそのじょうごに水を流すだけの作業しかせん。実に非効率で質が悪い教え方であろうよ」


当局「小娘、貴女は親友も愛も金も家族もない」


当局「そして弱い」


当局「可哀想な人間だな。死ねば楽になれるのに」


当局「苦痛もなく死ねる薬があればいいのにな。欲しいだろう?」


神風「……」ポロポロ


北方提督「その子は可哀想な子じゃないよ。私の鎮守府で唯一、がむしゃらに頑張るその子は太陽のような存在だ」


北方提督「北方を侮辱するのは止めてもらおう」ジャキン


電「……」ジャキン


北方提督「何の真似だい?」


電「当局は話を聞くだけの価値はある存在と判断しました。それが神風、引いては司令官さんの望む結果にもなるのです」


当局「前々世代の響、自由と好き勝手はまるで違う」


デカブリスト「聞こう。私達の求める自由はあるのか。大きい私がこの擬似ロスト空間で国を創りたいというのだが、船の私には測りかねる」


当局「翼が生えたら翌日には地面を這いずる虫を讃えるのが人間であろうよ。最初から人間は自由だ。なぜならばその意味を知っているから。そして鎖に縛られているからこそである」


当局「デカブリスト、貴女にはこの戦争の記憶はあるのか?」


デカブリスト「響の記憶なら大体あるが……」


当局「ならば分かるはずである。ロスト空間に国家なぞ無理だ」


当局「廃課金一人の存在で国家崩壊するほど不安定な空間だぞ? 人間の精神的変化を徹底して抑圧するならまだしも、それをやってしまえば国民は人間ではなくなる、ということである」


当局「なにより想の本質はあくまで分解して繋ぎ合わせて別の形にするのが関の山だ」


当局「行き着く先は当局のように『人間の本質を作り替えること』である。ケラケラ! 貴女は第2の海の傷痕の素質があるぞ!」


北方提督「……、……」


北方提督「納得しちゃった……」


当局「さて電、この小娘を持て」ブンッ


電「急に投げんじゃねーのです!」キャッチ


神風「……」


当局「面をあげよ、出来損ないの女侍」


当局「道を見据えたまえよ」


当局「戦争しているのに命を失うことを必要以上に恐れるならば今すぐ指定海域を出て向こうへ戻り街へと失せるのである」


当局「失い続けるだけだとしても」


当局「その古き武士道の精神を植え付けた者達は正しい。名誉心は大事にせよ。それなくした時、大和の美徳は損なわれる。戦争の記憶があるのならば生き恥は分かるな。敵前逃亡だ。尻尾を巻いて逃げることである。では何のためにそれをしてまで生きるのか?」


当局「戦争は終わらせたのであろう? 己が幸せになるためなら生き恥を晒してまでも生き延びろ。そのほうが立派だとは評されるはずだ」


当局「とまあ、これが現代の貴女達の普遍的な価値観、か?」


電「……、……」


デカブリスト「……」


当局「そうだな、聞いたことはあるかな。貴女達には教育としてこの言葉を贈ろう」


当局「人間としての生き恥は」


当局「『生命より前に世界の尊重を』、『人間より前に生命の尊重を』、『自己の利益の前に他人の尊重』を無視して生きることである」


当局「これが出来んやつが人間の癌だと当局は思うがな」


当局「ケラケラ! 思えば今ほどこんな古びたことを主張したい時代もなかったぞ!」


当局「今いった4つの教えの先に威徳はある」


当局「神風もどき、貴女は、世界より前に生命を、生命の前に人間を、他人の尊重の前に自己の利益、だ」


当局「全て反転している。世界より前に生命に固執して、生命の尊重よりも人間を優先し、自己の利益のために他者を殺す」


当局「これ則ち『深海棲艦』である」


北方提督・デカブリスト「……、……」


当局「理解したか?」


当局「『神風が吹く為に必要な精神』を諭してやったぞ」


神風「……、……」


当局「ふむ、1つ素質に見所を見つけた」


当局「切り替えは速い」


当局「前々代の響、この小娘を当局に預けてみる気はないか?」


北方提督「なぜ」


当局「貴女の頭で思い描く程度に戦えるようにはしてやる」


デカブリスト「……電、信用できるのかい?」


電「私としてはすぐに始末したいところなのですが、腹立つことに司令官さんはあなたを司令官として送ったのでしょう。ならばこの場ではあなたに従ったほうが良いと判断します」


北方提督「じゃあ神風を預けよう。電もついてやってくれ」


電「!?」


北方提督「それまでは持たせる……まだ私はやることがあるしね」


当局「とりあえず近場の陸地に向かうぞ」


*観戦ルーム



提督「……」


提督・丙少将・乙中将・甲大将「なるほど」


武蔵「いや、なるほどじゃないだろ。私の頭ではこれかなり危険な展開としか思えねえんだが」


旗風「神姉ええええ、ごめんなさ――――い! 旗はまたダメでしたけど! 神姉はどうか司令補佐に与えられた役割を果たしてくださああい!」


旗風「それとそんなやつの言葉を真に受けないでください! 私は神姉のこと愛しておりますから!」


春風「旗さん、気持ちは分かりますが少しお静かに」


大和「悔しいですね。まさかこのメンバーで手も足も出なかったとは……」


武蔵「そだな。ただの島風艤装にこてんぱんにされちまった。強さはメモリーで見ちゃいたが…」


武蔵「まだ神風がいる。託して見守ろう」


旗風「武蔵さああああん……」


春風「それで司令官様方、この状況は如何様に……」


元帥「それわしにも聞かせて。あ、旗ちゃんと春ちゃん久しぶりだね。後でおじいちゃんとお喋りしない?」


春風「元帥様は相変わらずですね……?」


旗風「絶対に長生きしますよね……それよりも丙少将」


丙少将「あー、考えてはいた。北方のやつを現場に飛ばすのも。まあ、デカブリストは俺らの予想外だったけど、あいつの機転だろ」


乙中将「丙さんが北方さんじゃ不安っていうから色々と考えたんだけども、響適性のある北方さん以外が行っても戦後復興妖精に即殺されて終わりだし」


甲大将「なら戦闘力もあって信頼できる奴に任せようってことで」


提督「想力工作補助施設で作った深海妖精を持たせてぷらずまさんに現場で資材を収集しての建造任務をお願いしましたね」


提督「予想通りわるさめさんも瑞穂さんも呼んじゃっているし、現場を見る限りそろそろのはずです」










――――あー……提督の方々



――――聞こえますか?


――――電さんよりお話は聞きました。


――――総指揮丙少将の命より今から丙乙甲陣営の総指揮を執らせて頂く、




中枢棲姫《チューキさんです》


元帥「うん、信頼できる有能人材だね……」


中枢棲姫《本当に申し訳ございません。鹿島さんには私、本当に頭が――――》


鹿島《もういいです。次言ったらさすがの私もキレますから、ね?》


中枢棲姫《……了解しました。肝に銘じておきます》


瑞穂ちゃん《チューキてんめえええ! ちょっと面を貸しなさいよオ!》


わるさめ《今会いに行きまんもす!!》


乙中将「予想出来てたけどうるさいな……」






当局《おはようございます》


当局《オープンザドア君、聞こえるな?》


提督「……」


当局《まず1つ。この小娘、器と実力に差異がありすぎだ。心に体がついて来ていない。擬似快適ロスト空間とはいえ、海の戦争のシステム化をしているせいで見ろ》


当局《深海棲艦の角が生えた。この小娘、強くなるがために直に自己すら消すぞ?》


当局《これは当局がメンテナンスして差し上げよう。この小娘はオープンザドア君の旗艦になりたいようなのでな。深海棲艦が第1旗艦はあり得んし、中枢棲姫勢力とは違ってオリジナルの深海棲艦と成り果てるだけなので、もはや立派なバグである》


当局《神風と意思疎通手段があるのは聞いた》


当局《さて》


当局《戦争終結させた『対深海棲艦:日本海軍人類代表』、わたしの記憶では貴方達は和平を手に入れたはずだが、ここで1つお伝えしておこう》


当局《当局は貴方達の味方ではある》


丙少将・甲大将「戦後復興妖精並にうさん臭え……」


当局《指示は受け付けん。ああ、此方のことだが、今も変わらず好き勝手なやつであるようだ。もはや此方はそちら側の同胞であるゆえ》


当局《道を違えた。此方の指示も受け付けん》


当局《イエスかノーで神風を通して答えを送れ》


当局《望む結果に航行ルート程度は固定してやろう》


元帥「……ねえねえなんでこいつこんなに上から目線なの?」


元帥「この場限りの夢とはいえ、わしらとどんな関係なのか分かってるはずだよな? こいつには貸ししかねえぞ」


提督「個性は先代丁准将と同類ですので」


元帥「死んでも治らねえやつか……」


提督「返事はいかがいたしましょう?」


甲大将「あの顔はイエスを確信してっからノーにして道化にしてやれよ」


乙中将「いやいや、真面目に考えようよ……」





バアン


清霜「た、の、も――――!」


丙少将「あ、ちょうどいいところ、」


清霜「短い間だったけどありがとう! 私達も抜錨するよ!」


丙少将「俺の話を聞け! 2分だけでもいい!」


清霜「それじゃあね!」


タタタ


丙少将「」














陽炎「時和模型店1号店の店長」


陽炎ちゃん「なによその呼び方……?」


陽炎「抜錨」


陽炎ちゃん「……」


陽炎「私が何のために艤装つけなかったか分かる? ヒーロさん、こっそり皆の熱気にあてられて特訓初めたわよね? 私は参加する気もなかったのも本当だけど、ヒーロさんに参戦して欲しかったから」


陽炎ちゃん「……」


陽炎「最後の海よ。あそこにはあなたが海に置いてきた全てが揃ってるわ。行くしかないでしょ」


陽炎「ああ、艤装のシステムは大丈夫。電が電艤装を扱えているでしょ? 解体して私達も変わってるから、あの海の仕様じゃなくて今回は適性率は少しでもあれば一通りは動くようセッティングされてるみたいだからさ」


瑞鶴・加賀「OK、連行」


ズルズル


陽炎ちゃん「ちょっと……なにこの馬鹿力! 黒潮、陽炎、見てないで助けてよ! 突き落とされるのは見ての通り夜叉だらけの地獄なんだけど!」


黒潮「どうせ強いし大丈夫やろ」


陽炎ちゃん「どうせってなんだ!?」


黒潮「陽炎も観たがってるし、かっこつけてきいや」


陽炎「そうそう、黒潮のいう通りただ観たいのよ! 私が子供の頃から憧れていたヒーローの陽炎をさ!」


陽炎「応援してるからね!」


陽炎ちゃん「……」


瑞鶴「うちの陽炎があんな顔するの珍しいわよー。嘘はいってないわ。私も見たいし」


陽炎ちゃん「マジですか……」


加賀「勝たせてはならないのが二人いるので戦力投入です。戦後復興妖精、海の傷痕当局を勝たせる訳には行きません。信用もできません。分かりますね?」


陽炎ちゃん「ほんと勘弁……最強格じゃないですか」


瑞鶴「あんたならいい線行けるって」


加賀「そうね。私もそう思うわ」


陽炎ちゃん「じゃあ、死なばもろとも旅の供は道連れ、黒潮が来るなら行く!」


瑞鶴「黒潮おいでー!」


黒潮「イヤや! あんな化物オールスターズの殺海、うちはごめんや!」


陽炎「行きなさい」


黒潮「うちのほうが先輩なんやで!」


丙少将「黒潮、出るんだ」


黒潮「突然なんやの! 丙はんまでうちに死ねいうんか!」


丙少将「大丈夫だ」


黒潮「はい根拠ない!」


丙少将「信じてるんだ。誰よりもお前の強さをな」


黒潮「調子ええこと言わはるなや……」


加賀「来なさい。私達だって戦ってきました。あなたは赤城さんと私が鍛えたのですから戦えるはずです」


黒潮「怖いい……!」


陽炎「あっちにいる不知火も顔には出なくても内心すっごい嬉しがると思うから、二人ともガンバりなさいよ!」


陽炎ちゃん「……参戦、かあ」


元帥「おお、見覚えあるなあと思ったら前世代陽炎ちゃん!」


元帥「大きくなったねえ! でも准将みたいに生気がないぞ! ちゃんと食べてんのか心配になるんだが!」


陽炎ちゃん「あ、ご無沙汰っす。これでも健康ですから問題はありません」


元帥「そっかそっか。それで出るんだよな……頑張れよ!」


陽炎ちゃん「……はい」


陽炎ちゃん(なら……あの面子の中でブチ殺したいのは)


陽炎ちゃん(因縁の戦後復興妖精以外いないのよね。つっても神風の獲物だしなあ……)


黒潮(嫌やなあ。陽炎ってどいつもこいつも無茶ばかりしよるから……)



コツコツ


黒潮「ん、日向はん?」


日向「黒潮、陽炎ちゃんは模型店の店長なのか?」


黒潮「え、まあ」


陽炎ちゃん「瑞雲あります」キリッ


陽炎ちゃん「これ店の連絡先とURLです。毎度あり」


日向「こやつ出来る……」


【7ワ●:願いごとを決めましょう】



大鳳「戦後復興妖精の情報含め、以上ですね」


中枢棲姫「大鳳さんが丙少将から預かった任務も含めて了解です」


中枢棲姫「戦後復興妖精は味方ではなく不確定要素としか見なしません。まず残存勢力は大鳳、白露、時雨、飛龍、蒼龍、扶桑、霧島、伊勢、翔鶴、利根、筑摩、阿武隈、隼鷹、香取、北上、大井、秋津洲」


中枢棲姫「これ以外は『敵』とみなします」


中枢棲姫「それを踏まえて質問です。この戦い、デスサドンデスということで生き残りとその兵士が所属する提督に『契約履行装置で願いを1つ叶えてもらえる』という景品ですが、皆さんの中でこれを狙って戦っている人はいますか?」


中枢棲姫「大鳳さん、ここはお話を?」


大鳳「ええ、役割上仲間割れを阻止するために必須でしたから」


大鳳「こちら側は特にありませんね。お話した通り、戦いたい、という人達を前線に投入して、その他はこの戦いそのものの勝敗、危険分子に勝たせないために前線に出ずにいざという時のために戦力を残してあります」


大鳳「危険分子というのは、戦後復興妖精、わるさめさん、瑞穂さん、そして最初期メンバー、北方提督含めた北方自由共和国所属の兵士です」


中枢棲姫「といっても賞品は魅力的です。欲がいつ出てもおかしくないので、この場で皆で話し合って願いを決めます」


中枢棲姫「この中から出た勝者はその願いを書き込むんです。出来るだけ簡素なものが望ましい」


白露「間宮券を皆の分とか?」


時雨「あ、僕、白露に賛成」


中枢棲姫「良い案です。意見が出ましたが、他にはありますか」


飛龍「白露レベルの提案が衝突なくていいと思う。本音をいうと怒られるかもしれないけどさ、中枢棲姫さん達の復活とか名誉回復とか」


飛龍「瑞穂ちゃんみたいに人間に戻ってもいいんじゃないの。それにフレデリカさんは准将が名誉回復に務めてすげーネットで叩かれたみたいだけど、中枢棲姫さん達は更に酷い」


飛龍「名誉は私達の中でしか存在しない」


飛龍「最後の海は中枢棲姫さん達の戦果は偉大なのに、私達がそれを利用した体でいるから。その認識を覆すのは申し訳ないことに私達でも難しい。せめてあなた達になにか渡せたらって思ったんだ」


飛龍「……それくらいの存在なんだよ。深海棲艦、色々とあった仲だけど最後の海であなた達は」


中枢棲姫「正直、そういってもらえるだけで私達としてはこれ以上ない勲章なんですけどね。戦争終結。この場で火花を散らすのは夕暮れ時になっても帰りたがらない皆さんの残り火の熱ですから」


中枢棲姫「線引きはしましょう。割と本気で人をぽいぽい生き返らせるのは社会的に戦争の火種です」


中枢棲姫「もしも本気でそれを望んでくれるというのなら、戦場は向こうの世界でしょう?」


飛龍「想と人間って、なんか艦娘と深海棲艦みたいだねえ。会えるけど、壁があるっていうか」


中枢棲姫「いい得て妙ですね。実際、肉体の有無と世界の壁はありますが、状態が違うだけで私達は私達で生きているようなものです。だからこうして交わえる訳です。中には自我を持たない想も多いですが」


中枢棲姫「いずれ私達もそうなるでしょうけど」


中枢棲姫「それまでは見守って差し上げられますね。実際、私はリコリス達と普通にしゃべってましたし。ドラム缶を担いで海を往く皆さんも、欧州棲姫と遊んでた皆さん見ながら、です」


飛龍「マジか……」


中枢棲姫「後、誤解しないでもらいたいのですが召喚に応じたのはセンキとリコリスがうるさいからですね。どうもスイキがわるさめさんよりもうじうじしているのでちょっと頼まれて出てきたまでです」


蒼龍「でもさ、わるさめとか瑞穂ちゃんがそれを望んだら?」


中枢棲姫「それはその時ですが、ないと思ってくれても。スイキは私達を甦らせたいのではなく、友達いないからって私達に愚痴溢したいだけなので……スイキは根からの悪人ではありませんし、もともとあなた方の人間でしたので仲良くしてあげてください、としか」


中枢棲姫「ああ、それとわるさめさんはただ私達が出てきたから、会おうって感じですかね」


中枢棲姫「それでは他に希望はありますか?」


シーン


霧島「間宮券よりも欲しいものありますね」


大鳳「なんです?」


霧島「『此方』さんのことです」


霧島「私達がどうこうするのは間違いかもしれませんが、そもそも願いを確実に叶える神頼り自体が間違いですので、もしも願いを叶えてそれが影響するのならば、偶然の範囲で答えに出会えるきっかけ程度が望ましいと思います」


霧島「『世界の人々が海の傷痕を理解するきっかけに出会えますように』ですね」


霧島「憎悪、同情、いずれにしても答えは各々に任せるとしてそこまでの理解へのきっかけを与えるのは差しでがましい、ですかね」


大鳳「それは素晴らしいです」


翔鶴「賛成ですね」


中枢棲姫「ふむ。中々面白いことを考えますね。他に案がないのなら2つで採決取りますか」



…………


…………


中枢棲姫「では」


大鳳「……あ、阿武隈さんから通信です」


大鳳「了解しました」


大鳳「すみません、由良さん卯月さんが脱落しました。向こうはグラーフさんビスマルクさん、サラトガさんプリンツさんが脱落です。レ級さんとネ級さんが暴れたみたいです」


中枢棲姫「申し訳ありませんね。リコリス不在の今、私では手綱を握れずいうこと聞かないで勝手に暴れまわるのみなので。一応はこちらの陣営の味方です」


阿武隈「到着しました――――って通信は聞きましたけど、チューキさんここにいたんですね!」


中枢棲姫「准将の旗艦の阿武隈さんですね。ご無沙汰です」


阿武隈「はいご無沙汰ですっ! 電さんから緊急通信飛ばされまして!」


中枢棲姫「……なんと?」


阿武隈「戦後復興妖精とメインサーバー君の仕込みで、この海域に『当局』が現海界したとのことです」


一同「!?」


阿武隈「なお電さんからは『私が当局の見張りにつくのでそちらに手を出さない限りは可能な限り放置しておいて欲しい』とのことです」


中枢棲姫「……、……」


中枢棲姫「電さんは海の傷痕ではなく、当局といったのですね?」


阿武隈「間違いないですねっ! そこは念を押されました!」


中枢棲姫「了解しました」


中枢棲姫「当局、戦後復興妖精もですが、最初期メンバー辺りがケンカをふっかけるかもですし、今は放置で結構です」


一同「……」メソラシ


中枢棲姫「ん?」


大鳳「申し訳ないのですが、第1世代の大鳳、清霜、武蔵、矢矧は中枢棲姫さんあなたが撃沈させた方々です……」


中枢棲姫「……最初期ですよね」


中枢棲姫「強ければ覚えているはずですが、私の記憶にないですね……准将に宛てた手紙にも書きませんでしたし」


大鳳「」


中枢棲姫「今更私に恨みがあるかは微妙なところですね」


わるさめ「チューキさああああああん!」


中枢棲姫「……中破状態ですね。抜錨しますので、しばしお待ちを」


瑞穂「チューキ! 瑞穂ちゃんテメーにちょっと聞いて欲しいことがたくさんあるのよおおお!」


中枢棲姫「ええ、はい。二人ともお元気そうでなにより」


ドンドンドンドンドン

ドオオオオオオオオオン!


わるさめ・瑞穂「ギャアアアアアアア!!」


一同「」


スイイー


中枢棲姫「隙だらけでしたので大破させて鹵獲です。敵陣営なので逃げられないよう拘束しますね」


時雨「手伝うよ」


わるさめ「姉が心配してくれない件について……」


中枢棲姫「皆さん今回の敵勢力の特に危険視する兵士ですが」


中枢棲姫「『Rank SSS:戦後復興妖精』」


中枢棲姫「これは単純に想力使用で全方位で強いチーターです。普遍的な作戦程度では意味を成さない。なのでこちらに属している体を利用してなるべく放置です。それ自体は自信家なので気にも留めないはずですし、狙ってくれる人も多そうなので」


中枢棲姫「そして同じく『Rank SSS:神風』」


筑摩「……阿武隈さんにこてんぱんにされていましたが、あの程度ではないと見ているのですか?」


中枢棲姫「見定められない点はあるのです。この子のことは擬似ロスト空間内ですが、興味が湧いてリコリスと見ておりました。阿武隈さん、実際に戦ってみてどうでしたか?」


阿武隈「強かったですよ。現時点ではあたしのほうが航行速度を除いて全て上ではありましたが、『確実に獲る攻撃だけは全て防がれたという事実』からして『まだ実力の出し方が不安定なだけ』ですね」


阿武隈「あたしの品定めですが、旗艦の素質は薄くても戦闘の素質自体はちょっと考えたくないくらいの原石ですね……」


阿武隈「最後の海の電さんと似た気配です」


阿武隈「今のままでも戦力として数えられるのでスタイルとしては完成形だとは思うんですが、まだ上に行けそうでしたのでたった1つのきっかけでも爆発的に成長するかと」


中枢棲姫「この子も『底が知れない』という意味合いで警戒を」


中枢棲姫「そして次が現状、この擬似ロスト空間内で最も脅威しておいて欲しい。手の内は把握しましたが、それでもなおです」


中枢棲姫「『Worst-Ever:北方提督&デカブリスト』」


阿武隈「例のデカブリストですか……あたしと卯月ちゃん由良さんが確認できた情報は渡しましたが、やっぱり少ないんです?」


利根「いや、香取に頼まれて吾輩と筑摩の瑞雲、それと遠方から秋津洲の二式大艇に可視才で指示を送ってあの辺りを注視していたので、あらかたはつかんでおるぞ」


中枢棲姫「デカブリストを艤装に入れるには『ヴェールヌイから想の魔改造でデカブリストの部分を切り離す工程が必要不可欠』です」


中枢棲姫「謎の白腕を使用していたと」


阿武隈「即興で想力工作補助装備を開発したと?」


中枢棲姫「あれのデータ自体はもうそちらでも判明しているでしょう。加えて初霜さんと似たような素質があるんでしょうね。恐らく、他人から見て理解不能なほどの純粋なところがあるはず」


利根「隼鷹、そこら辺りどうなのじゃ?」


隼鷹「皆知っての通り不思議な変人だろお? その通りでなにやっても不思議じゃない人ではあるなあ……」


隼鷹「子供みたいに好奇心旺盛なのはあるかね。超能力でも適性なくなった神風を戦えるって判断して鍛えていたのも、そうだな、好き嫌いはあっても物事を全く否定しない」


隼鷹「ガングートさんか三日月、若葉辺りならもっと突っ込んだこといえるだろうけど、私はあんまり深く人を見るほうじゃないしなー……」


中枢棲姫「想って『白い純粋』に磁石みたいに惹かれるんです」


中枢棲姫「だから最後の海では『電さんが准将の呼びかけにすぐに応じて引き寄せられましたし』、『わるさめさんが私達を資材にした電さんを引き寄せられた』んです」


中枢棲姫「理屈は要らないナニカがあります。特定の食べ物が美味しいから、という好きの理由さえもなく、ただただ夕陽を眺めていたら直感的に泣いた、という風にです」


中枢棲姫「純粋で強い想いといえば美しいですが」


中枢棲姫「かつての廃の領域では准将や電さんや私ですか。『戦争終結』は理解しやすいですがそれでもなお私達を見て、そこまでやるか、と思って然り。結果から遡り評されるしかないやり方」


中枢棲姫「友達が少ないタイプでは」


一同(……あっ、すごい納得)


中枢棲姫「私が要注意として名を挙げたのは現在進行形でそういう素質のある人達です。その人種はロスト空間において、全てにおいて特攻艦性能を宿すので。それを踏まえて」


中枢棲姫「作戦会議に入りましょうか」


隼鷹(……つーか神風も提督もだけど)


隼鷹(私的にはろーのやつが怖いかなあ。理屈じゃ説明できないからこの面子には黙っとこ……)



2



中枢棲姫「わるさめさん」


中枢棲姫「スイキのことよろしくお願いしますね」


わるさめ「おう! 任せとけ!」


瑞穂「なぜそこがわるさめ……そこは置いておいても待ちなさい」


瑞穂「私もそっち側に……そっちにはあんたらもフレデリカさんも」


中枢棲姫「どうせいつか死ぬのに、ですか?」


中枢棲姫「私やリコリス、センキとしてはわるさめさんとともにそちらにいて欲しいというのが本音ですね。適任なので」


瑞穂「適任ってなによ……」


中枢棲姫「わるさめさんとスイキは私達とは違って、そちら側の人間です。運命の悪戯でこちら側に来ましたが、私達とは違って艦兵士を誰一人殺めてはおりませんから。向こうの提督勢だってあなたを心から憎む人はいないはずです。理屈の話ですが」


中枢棲姫「本音をいえば、いつの日かまた会えます。この戦い限りの夢の中のように私達は会えますよ。スイキはただ向こう側にいると寂しいからでしょう?」


中枢棲姫「人間として生きて、最期はどうなろうが」


中枢棲姫「その時に土産として酒の肴になる話くらいは持ち帰って来てくださいよ。面白いやつ。あ、これはセンキの伝言ですけどね?」


瑞穂「生きるってなによ……別にやりたいこともないし、わるさめがうるさいくらいで、私が生きたところで死んでるのと変わらない」


瑞穂「そもそもあんたら勘違いしてるのよ」


瑞穂「私はあんたらのほうと一緒にいたいのよ! そこまで私が我慢してこっちで生きろとか意味分かんないわ! また会えるとかクソみたいな汎用台詞吐くくらいだったら、あんたらが人間の体を手に入れてこっちに来たらいいじゃない! 当局とは違って私達の立場的にそのくらい提督勢に頼めばどうとでも隠蔽出来るでしょうが!」


瑞穂「私を霊柩母艦としてこき使っていた時から思っていたけど、私はあんたのパシりなんてもうごめんよ! そこまでして私が罪を犯していない、こちら側で生きる権利があるっていうなら、主張する権利もあるでしょうが!」


わるさめ「……、……」


わるさめ「一応聞いてみるけど、どうなの? その気があるのならわるさめちゃんから司令官に頼み込んでみるよ?」


わるさめ「私もスイキちゃんも深海棲艦側にいたってことは見逃してもらえているだけで罪は罪ってのはあるし、私もそこについて司令官からこっぴどく叱られたことあるからさ。なにがしたいんだテメーはって」


わるさめ「……私はお母さんに会えて、言葉をもらえたし、理解もしたから、こっちで生きる。そっちには行かないけども」


瑞穂「ほらほら! わるさめはもう大丈夫じゃん! 私よかよっぽど立派よ!」


わるさめ「いや、だからチューキさんはわるさめちゃんにスイキをよろしくっていったんだと思うよ……」


わるさめ「スイキちゃんさ1つ聞くけど」


わるさめちゃん「こっち側とあっち側、皆で暮らすなら?」


瑞穂「……、……」


わるさめ「ほら、迷った。向こうの世界に未練あるんじゃん」


瑞穂「……う」


中枢棲姫「まあ、本音をいえば皆一緒に向こうで生きていたいですよ」


瑞穂「ほらほらほら! それが答えじゃん!」


わるさめ「……む」


中枢棲姫「しかし、それでは私達が殺めた命はどうなるのです。鹿島艦隊の悲劇の4名は、最初期で散々働いた深海棲艦としての償いは如何致すのです。艦兵士も深海棲艦も皆、声をそろえていう。『もっと日の当たる世界で生きたかった』と」


中枢棲姫「死を以てしても償い切れない過ち。だからこそ私達は人間のために深海棲艦という同胞を消滅させることを誓いました。それでもなお犯した罪からは目を背けることしか出来ない。恐らく提督だけでなく、艦兵士の全ての縁も切れますね」


中枢棲姫「『深海棲艦の形をした人間』という評価を得られた今、今度は私達に『人間の姿をした深海棲艦』として生きろ、というのと同じです。全く持って上部だけのたかが知れた人生ですよ」


瑞穂「そんなことないわ」


中枢棲姫「そもそもスイキは勘違いしてますね」


中枢棲姫「死んだら一緒には入られません。私達はこの擬似ロスト空間が出来たお陰で一時的に集まれただけです。この戦いが終わったら波風のように皆はまた離れ離れですよ」


中枢棲姫「だから、スイキがこっちに来ても想の状態であの頃のように皆で過ごす、というのは無理なんです」


中枢棲姫「それでもなお、というのなら折衷案を考えましょう」


瑞穂「それでもなお」


わるさめ「さすがスイキちゃん、躊躇いがねえ」


中枢棲姫「生命としてそちらには現海界はしません。ただあなた達の側にはいましょう。これが限界ですね。その方法は」


中枢棲姫「私達の想を物に宿すこと、です」


中枢棲姫「響さんがヴェールヌイさんの想をペンダントに入れていたように、です。ま、話せもしないし、意思疎通も無理なレベルなので私達はいてもいなくても同じようなモノですが、スイキの捉え方次第です。これが折衷案ですかね」


中枢棲姫「これ以上は勘弁してください。世界の皆さんに迷惑かけながら自分のために生きていけるほど私達は精神が図太くないのです……」


瑞穂「……これ以上は駄々こねても無理そうだし」


わるさめ「ならどうすんのさ」


瑞穂「『戦って勝つ』のよ。私かわるさめがね。勝者は願いごと1つ叶えてもらえるんでしょう?」


瑞穂「よし! やる気出てきたわ! とりあえずここから逃げるわよ!」タタタ


わるさめ「チューキさん達、想の状態にするためにまた死ななきゃじゃん。もしかしてその折衷案、前々から決めていた? それならセンキ婆とかリコリスママが出てきたがらないのも納得……」


中枢棲姫「というか私が最も出る必要がありましたから」


わるさめ「……最初期メンバー、だよね?」


中枢棲姫「それもありますね。この戦いには流れがありますので、彼等とももう一度、戦う必要はあるでしょう。社会的には何の意味もないですが、私の業の一つです。わるさめさんは中々頭が回るようになりましたね?」


わるさめ「まあね……」


【8ワ●:仲良くなるための訓練 4】



若葉「なぜ私のところへ……」


神風「若葉君、お願いがあるの」


若葉「……」


神風「抱いて。大事なモノを捨てることで私は腐りきっていた性根と決別して強くなれるわ」


若葉「消えろ。それと電」


電「はい」


若葉「……そいつ当局だろう?」


当局「であるな。安心しろ。このような戦いまるで興味はない。当局は巻き込まれただけである。神風とかいう奴のせいでな」


神風「斬りたい……」


電「……はあ」


電「神風、テメーは一体なにがしたいのです? 司令官さんとの約束はなんだ。雑魚の癖にあれもこれもやろうとしている時点でしょーもない。倒せといわれた敵は?」


神風「……戦後復興妖精」


電「それで当局とやって任務に支障は?」


神風「……」


電「刀、捨てたんですよね。司令官さんと電達がお前を使うために訓練した。たくさんの仲間がやられたのを知ってなお刀を捨てた。テメーはどこまでも憐れな女なのです」


電「大和さん達が泣くのも分かりませんか?」


電「戦争中にうちにテメーがいたら、私はボコボコにして丙少将の鎮守府に郵送してましたよ。見込みあると思えばその実、それくらいテメーは使えねえ兵士だったのです」


電「そして私がテメーを追い出すのを司令官さんは止めない。うちは他と違って結果の実力主義。テメーは瑞鶴さんや秋津洲さんを上回る手の施しようがない欠陥品……」


電「2度と私に向かって吠えるんじゃねーのです」


神風「……う」


電「う、じゃねーのです。なんだその声」


ドンドンドンドンドンドン!


神風「危な――――若葉君、大丈夫か!」


若葉「お、おお、神風、お陰で助かった。それと君付けは止めろ」


神風「巻き込みそうだった。関係ないだろうが!」


電「敵を仕留めるためなら味方が巻き添えになろうとも撃つ。戦場に立っている兵士に関係ないとか正気なのです……?」


電「それともまだ私がテメーの味方だとでも」


若葉「待て。なぜ私が潜伏してる場所に来た。しかも当局とか私の理解の範疇を越えてる」


当局「捨て置け。小娘、香取や鹿島から教えは?」


神風「受けたわよ」


当局「香取からは刀の扱いで……鹿島からはなにかいわれたか?」


神風「研ぎ澄ませ、と。刀を振るう理由を一つに」


当局「それだな。その教えは的を射ている。まあ、精神統一しようが今の貴女には無理だがな」


当局「やれやれ全く。香取も教えは上手いが、それを貴女にいえるとなればあの鹿島はこの戦争においては姉より出来がいいぞ。それでその体たらくとなると、あの二人といえども馬鹿につける薬は用意出来なかったということである」


当局「ならば当局からは実践的に現在位置を教えてやろう」


当局「刀を取れ」


当局「指南して差し上げよう。安心したまえ。もともと素質は貴様らとは比較にならん」


神風「……」


電「やれ。目的のために下らないプライドは捨てろ」ジャキン


神風「……分かったわよ」


電「ドオン!」


ドオオン!


神風「痛っ――――」


神風「中破した、あなたなにし、」


電「なんで渋々といった顔をしているのです? テメー、戦いを馬鹿にするのも大概にしとけなのです……?」


若葉(こわ。ビデオで観た合同演習の時と似てる)


神風「……」スーハー


神風「行くわよ、海の傷痕!」


キンキンキン


当局「ストップ。当局の両手から刀が跳ねた」


神風「手を抜いた? これが私達の怨敵だとか拍子抜けね……」


当局「ケラケラ。そうか、貴女は自分で気がついていないのか」


当局「今のは阿武隈のレベルに設定して相手をしたぞ」


神風「はあ? もっと強かったけど?」


当局「感覚というのは厄介よな。機械にはない人間特有のミスだ。感覚で実力は正確に測れんよ。それに頼るから見誤るのである」


当局「貴女は」


当局「敵が敵でないと無意識に力にブレーキかけている。艦兵士相手だと無意識に実力に理性が働いて、当局、深海棲艦の敵にはそれがない。つまり本来の実力が限定的にしか出せていないだけである」


神風「……指摘されたことないわ」


当局「貴女は悪人を毛嫌いしているであろうよ。同類になることを心底、忌避している風だ。それが人相手に刃が鈍る原因である。もともと貴女は兵士には向いていない。電と一緒でな」


当局「乗るか反るか、ましてや命を賭ける戦場で博打をするのに不向き、割りきれないクソ真面目だ。性格自体に神風の素質はあるが、適性はなるべくして失くしたのであろう」


神風「やっぱり私の生い立ちを知っているの?」


当局「当局も此方も最終世代の兵士に関しては全員知っている」


当局「自覚はしたな?」


当局「実力の出し方。この点は貴女次第だ」


神風「……、……」


電「つーことは艦兵士ではなく戦後復興妖精の相手させれば本来の実力を発揮できると?」


当局「2度もいわせるな。後はそいつ次第である」


若葉「なに砂崩しを始めているんだ。子供か」


当局「つまらんな。一体これのなにが楽しいというのか……」


若葉「なんだこいつ……」


当局「ああ、若葉だったか。貴女は呼ぼうか迷ってはいたのだがな。ファザコンが気持ち悪いので捨て置いた。決戦の招待状は欲しかったか?」


若葉「別に。ファザコンいうな」


当局「心はどこにあるか知っているか?」


若葉「……あるとしたら胸か頭」


当局「腹かもしれんぞ」


当局「割る。読む。黒い。八分。一物。決める。くくる。据える。底」


若葉「くっだらない言葉遊びだ」


当局「とりあえず飯を食え。腹を満たさねば悪人になるぞ。こーいう時には間宮がいればいいのだが、生憎と不在なようだ」


当局「ケラケラ、貴女も小難しい顔であるな。愛想のない女というのは至極残念である。そんなことだからたまに笑う顔を待ち受けにされるのだぞ?」


若葉「お前なんで知ってんだ……」


当局「電、小娘、神風のことはどう思う」


電「先に述べた通りです」


当局「電と仲直りしてみたまえ」


当局「貴女達が『お友達』になれたら完成だ」








神風「電、とりあえず食卓をともに囲みましょうか。仲良くなってあげようじゃないの」


ぷらずま「●ワ●」ハ?


神風・若葉「!?」ゾクッ


若葉(過去最高にキレてるぞ……)


若葉(さいっあくな面倒に巻き込まれたな……)


当局「飯を作れるやつは支度しろ」


当局「嘲嘲:ケラケラ」



* 観戦ルーム



弥生「丸く、なったよね……?」


卯月「まあ……うーちゃん達が強制退職させてやることなくなったジジイだし、あいつはメインサーバと戦後復興妖精に復活させられただけでこっちと争う理由はなにもねーはずぴょん」


卯月「此方に関しての約束も守っているわけだし」


由良「う、うーん、由良が始めて会った時はもっと刺々しい殺意と高笑いに満ちていたけども、後、笑ったり怒ったりと情緒不安定な感じ」


菊月「うむ……随分と濃いキャラの新種姫だと思ったよな」


長月「相変わらず意味分からないがな……」


卯月「ひねくれているゆえ遠回しで分かり辛いけど、いっている意味自体はうーちゃんには分かるぴょん」


当局《ああ、そうだ。長月&菊月》


長月&菊月「!?」


当局《貴女達の男の友二人にいっておけ》


長月「コブタとオオカミのことか……?」


当局《5円玉投げて天候操作してこいとかなめているのか無礼者が、とな。やれやれ、貴方達は神を奴隷かなにかだと勘違いしていないか? 世界中のどこを探してもないレベルのブラックである。しまいには天罰をくだすぞ》


長月「知るかよ!」


菊月「というかそんなの根に持つのか……」


卯月「こいつ態度でかいけど器小せえぴょんw」



【9ワ●:愛してるよ】



天津風「ああ、もうどうしようこれ……作戦がめちゃくちゃ」


ドオオオン!ドオオオン!

ドオオオオン!


木曾「姉さん不意打ちとは見損なったぞ!」


江風「そうだそうだ! 闇の精神に堕ちたか!」


北上「だまらっしゃい。無駄にダメコンして大破で留まってるんじゃないですよ。沈めば楽になれたものを」


大井「本当に無駄にしぶとい。あのカサカサした生き物みたい」


木曾・江風「誰がゴキブリだ!」


大井「ああ、木曾は生い立ち的にフナムシのほうが似合いますかね」


木曾「かっちーん」


ドンドンドンドンドン!


島風「まだやってるね……決着つくまで続きそう」


天津風「といっても私と島風も中破で装備も損傷しちゃったし、あそこに混じれば下手したら木曾さん達からももらいそうよね……」


天津風「阿武隈さんが強い……今まで努力してきたのが馬鹿みたい。あんなに頑張っていた神風ですら、歯が立たなかったし」


天津風「……」ウル


島風「大丈夫! こんな時こそ神風ちゃんの不屈の精神を見習おう!」


島風「一人でダメなら二人で! 二人でダメなら三人で! 作戦を立てて頑張れば倒せるよ! だって同じ艦娘だし倒せないはずがないからね!」


天津風「うん。決定打を決められたのに刺せなかった私の実力不足なだけね。とりあえず体勢を立て直さないと」


天津風(夜戦部隊、崩壊させちゃった)


天津風(どうしたらいいんだろう……)


天津風「司令官に指示を仰ぐしかないか」


三日月《お二人ともご無事でしたか!》


天津風《三日月……と望月も》


三日月《ごめんなさい。中枢棲姫勢力のレ級ネ級の乱入によって後方部隊は私と望月の他はリタイアしてしまいました》


望月《別に三日月のせいじゃねえだろあれ……》


望月《っと合流》


望月(うわ……天津風もう無理って顔してら……)


三日月「司令官や赤城さん、それに木曾さんも頼み込めば作戦を立ててくれるかもしれません」


望月「いや、それはダメだ。今回、司令官や赤城さん木曾さんは頼み込めば指揮を取ってくれるけど、同じ陣営なだけで協力しても勝たせてはいけないんだよ。その人らが勝てばうちの司令官の願いが叶っちまう。それは阻止すべきことだろ」


島風「うーん、私はこういうことにちっとも頭が回らない……」


三日月「こういう時に頼りになりそうなのは若葉さんですか。通信を飛ばしてみては?」


天津風「探知はしたけど、神風と電さんと一緒にいるみたいね。近くにろーちゃんと変な反応もある。電さんからさっき『半日ほど動けません』と通信入ったでしょう? あそこは当局がいるし、なにしてくるか分からないし、あの連中と合流するのは、どうなのかしら……」


三日月「瑞穂さんとわるさめさんもいますが、戦闘能力は頼りになっても策の組み立てが得意なタイプには見えませんよね。むしろなにし始めるか読めない分、更に混乱するような気もします」


望月「……選択肢は一つじゃねえの」


天津風「うん?」


望月「あたし達は勝つんだよ。そのために戦ってんだから。だから敵の戦力を見よう。戦後復興妖精、残りの向こうの連中、最初期メンバー」


望月「これに勝てる要素は『わるさめ&瑞穂』、『電』、『司令官&デカブリスト』、『響&ヴェールヌイ』、『神風』、どう出るか分からん中枢棲姫勢力と当局は不確定要素と見て……」


島風「見て?」


望月「どうしたもんかね……」


天津風「ねえ、皆は誰を信じる?」


望月・三日月・島風「『神風』」


天津風「私もそう。一致ね……」


三日月「司令官も信頼出来るんですが今回は例外ですね。確実に個人の欲望で参戦しているので、最終的に『自分か自分の陣営の人達を生き残らせるために私達を切り捨てる策』に出る危険があります」


島風「まー、神風ちゃんだよね。だって速いもん」


望月「神風は強い。信じるというよか信じたい、だけどな。この場に化物揃いなせいで最強かといわれると即答出来ないけどさ」


天津風「一旦、拠点に帰りましょうか。第6駆は全員生存しているみたいだし、最良は私にはぱっと頭に思い浮かばないから……」


天津風「ただ方針は見えたわよね」


三日月「といいますと」


天津風「信用できないまたは勝たせる訳には行かないなら『利用』してやるのよ。強い連中をね」


望月「なかなか悪知恵が働くようになったな……」


天津風「なんとでもいいなさい。私は今回、准将に第2艦隊の旗艦に任命されて、それだけの責任と指揮権を准将から預かっているの」


三日月「素晴らしい意気込みです。私もそういう臨機応変なところは見習いたいですね!」


望月「ミカは遊びが一切ないしな」


天津風「准将がどんな人かは知っているでしょ」


天津風「今回の仕様のせいもあるけど、私達の司令官はあの准将よ。なのに負けるって私達が周りから雑魚って呼ばれても仕方ないわ。そんなの嫌よ。北方は落ちこぼれっていわれているけど」


島風「まあ、戦果的にもやる気的にもうちはワーストだからね……」


天津風「鎮守府(闇)だってそうだった」


天津風「伊58さんだってクルージング専用機の撃沈数0、瑞鶴さんは艦載機発艦出来なかった。あの阿武隈さんなんか深海棲艦を見ただけでパニック起こすような人だった」


天津風「素質というのはあるし、望月だって卯月いたんだから思い知ったはずでしょ。それを言い訳にして終わるのは嫌よね」


望月「天津風、私達凡人は」


肩ポン


望月「諦めが肝心だと思う」


天津風「」


三日月「こら望月! 空気を読みなさい!」


望月「ミカからその言葉をいわれる日が来るとはねえ。あたしゃ感慨深いよ」


望月「ま、天津風の作戦には賛成だ。化物そろいで利用とかかんがえてなかったわ。ならそうだな」


天津風「なにかあるの?」


望月「まとまらないから航行しながら話すよ」


天津風「あ」


島風「どったの?」


天津風「身体が勝手に動いたわ」


三日月「あ、准将の操作じゃないですか? 確か筐体の舵で旗艦の航行ルートを操作できる機能があったかと」


望月「それとこっちの声は聞こえているんだよな? 拠点まで撤退は正解ってことなんじゃね……?」


天津風「そうね! それじゃ向かいましょう!」



2



天津風「帰投……!」


雷「入渠の準備は出来てるわ! まず話は傷を治してからね!」


一同「了解」


三日月「壊滅的な被害を受けましたが、策はありますか」


雷「後で北方さんから話があるって」


……………………


……………………


天津風「ああ、心身が休まる……」


三日月「入渠できる幸せが身に染みます……」


島風「これも戦後復興妖精さんのお陰なんだよね」


暁「そうね……」


望月「暁は傷が酷いな。撃沈寸前の大破か」


暁「襲撃で用意してきた高速修復材が全滅したでしょ。伊13さんが持ってきてくれた資材と合わせて1つしか確保出来なかったから姉として雷に使わせたのよ……あの子のほうがテキパキ動けるしね」


暁「あの最前線で生きて帰れたのは響が護衛してくれたからね……」


響「私もダメかと思ったよ。曙さんの釣りスキルは予想外だった。ま、阿武隈さんには撤退指示が出たんだろうね。運が良かった」


北方提督「やあ、お風呂中失礼するけどこれからのことを話し合おうか」


望月「なあ司令官、高速修復材や資材の追加は出来ないのか? 確か提督勢のスマホから明石さん工廠で買えただろ? 実際それまで貯めていたモノをこっちに持たせていたんじゃないの。戦後復興妖精の急襲で全滅しちまったけどさ」


北方提督「各セットまあ、千円程度で買えたんだが当日になって値上がりしてた。メインサーバー君か戦後復興妖精かは知らないけど」


北方提督「2000万にね」


望月「提督勢って金持ってんの?」


北方提督「期待しないでくれ。私達が今まで何回行政の一環で給料カットされたと思ってるんだ。提督勢が払える金額じゃない。それを知っていて設定したんだろうさ」


島風「甲大将ならぱっと払えそう。財閥のお嬢様なんじゃないの?」


北方提督「かもね。でも、ところがどっこい甲大将は向こうの陣営に属している」


北方提督「若葉が潜水艦にこの海で資材を集めさせてたけど、もう底をつきかけてる。ろーちゃんと伊13も丸1日クルージングさせていたから赤疲労さ。つまりもうそんなに戦線を維持出来ない」


天津風「神風達はなにやってるの」


北方提督「当局が神風の教官をしている。しばらく戦闘は参加しない。神風が復帰するまでは持たせてそれから最後の勝負だよ。今は中枢棲姫勢力、そして最初期メンバーが乱入したから」


北方提督「最初期メンバーの狙いは戦後復興妖精か当局、メインサーバーかな。かつての運営陣営だろうけど、動きを見る限りメインサーバーか戦後復興妖精のほうに行ってるね」


北方提督「とにかく今は休む時間が捻り出せるから身体を休めて。ああ、中枢棲姫のほうもわざわざ危険要素が潰しあってくれるんだから、戦力を消費するような真似はしないだろう。まあ様子見が固いと見てる」


天津風「そのくらい分かるわ」


天津風「私達はその明石さん工廠の支援も望み薄くて戦力は5割近く消滅して、残ったその大半が駆逐艦よ。しかも直に夜が明ける。ここから勝てる策を現実的に模索しなきゃならないわけで、解消すべき問題はまず戦線を維持できるだけの資材集め」


天津風「なければ向こうから奪えばいいじゃない。トランスタイプのわるさめと瑞穂も召集すれば可能性は」


北方提督「リスクが高すぎるよ」


天津風「それ+司令官が旗艦でこの襲撃任務をやるの」


北方提督「一応、私は准将から司令官を頼まれているんだけど……」


天津風「私はそんなこと聞いてないわ。そもそもあなたって鎮守府の司令室から通信飛ばして現場監督をだなんて1度もやったことないじゃない。あなたの司令官としての素質はそうじゃないでしょう?」


天津風「提督勢の中で唯一艤装をまとって戦場に立てるんだからやれないことはないはずよ。なによりあなたがガングートさんを倒せるほど強いってのはもう分かっているんだから」


北方提督「……」


天津風「私達はただ勝つために戦ってる。あなたは自分の夢を叶えるために戦っている。だから司令官に聞いてみたいわね」


天津風「私達と自分、どちらを取るのかしら」


北方提督「まさか天津風から『私と仕事どっちが大事なの』的なことを聞かれるだなんて……」


天津風「そんなこと聞いてないわよ!」


北方提督「もちろん君達だよ」


北方提督「惚れた?」


三日月「惚れないです。それが信用出来ないってのはお分かりですか?」


三日月「今まで自由だったんです。軍に所属していてもそれぞれが自由に生きていました。それが司令官、北方鎮守府の良さでもありますけど、私達は今まで1度も演習に勝ったことがありません」


三日月「話を聞いていた限り、どちらにしろ次で負けたら後はないですよね。ならば……」


天津風「交渉よ。この准将サイドの中の誰が勝っても、あなたの夢が叶うように書き込む。私達、別に大した願いなんてないからね。だから自分だけ最後まで生き残ろうって考えずにチームとして勝つことを優先してもらえないかしら?」


望月(……おお、私達を信じることで更に司令官の夢を叶えられる手段をここで切り出したか)


北方提督「もちろん出るのはかまわない。単艦でもね。その上で自分の夢を叶えてみせる。でもさ、そこじゃないんだよ。ね、小さい私?」


響「……私が口を出していいのかい?」


天津風「構わないわ」


響「わるさめさんが闇に着任する切欠になった『わるさめちゃん襲撃』の海を知ってるはずだ。あの時の私はまだ鎮守府(闇)にはいなかったけど、着任してからその全部を把握したよ」


響「准将が完全に読み負けて殺されかけたんだ」


響「中枢棲姫勢力の中枢棲姫ことチューキさんは本当に賢いよ。天津風さんのいう作戦は相手の泊地にある資材略奪。そう簡単に敵の本拠地を上手に攻められたら苦労しないさ」


響「チューキさんがそれを想定していないとは思えないし、策もあるだろう。天津風さんにはチューキさんの想定を越える作戦があるのかい?」


響「大きい私がいっているのはそこのことだ」


北方提督「事実なのではっきりいっておくが」


北方提督「私は指揮官としての腕は二流だ。現将席の誰よりも指揮官としての腕はない。天津風のいう通り、私だけにある素質もあるけどね」


北方提督「それに私だって天津風達が戦っている間、ただ突っ立っていた訳じゃないさ。方法はまだ内緒にさせてもらうけども」


北方提督「准将との通信手段を構築した」


一同「!?」


北方提督「ただ艤装と繋げるのは無理だけどね。疑似ロスト空間からはネットワークに想力を加えて提督勢のスマホに干渉しているからそこらを持ってきたパソコンを使って悪用させてもらった」


北方提督「向こうで俯瞰している彼なら私よりもこの状況を打開する策は考えられるはずだ」


北方提督「だけど、ここは確認を取っておきたい」


北方提督「いいんだね?」


島風「いいもなにも聞くしかないじゃん?」


北方提督「鎮守府(闇)は北方とは違い過ぎるんだ。暁、そうだろう?」


暁「覚悟はいるわね……」


天津風「そんなもの今更よ」


暁「あのね、うちの司令官は戦果に対して殉職者を出していない。最後の海ですらね。周りからはすごい司令官だと思われているけど、断じて不可能を可能にするスーパーヒーローじゃないから。あの人がどういう指揮を取るか知ってる?」


暁「勝つために兵士を使い捨てる作戦を組んできてるし、兵士を死なせる順番まで決めるほどなのよ。私のこのブレスレットはケッコン(仮)のやつだけど、これをもらった日に鎮守府(闇)の皆で誓った。勝つために仲間の屍を盾にしてでも海の傷痕を倒して暁の水平線まで進むって」


暁「早い話が仲間の死を前提に作戦立てられてもそれをまよわず実行出来る覚悟があなた達にあるというのなら、司令官の指揮に」


暁「賭けるだけの価値が出てくると思う」


響「ま、でもそれは司令官から助言をもらってからでもいいだろう。島風さんの言う通りとりあえず聞いてみてもいいと思う」


一同「異議なし」



4



北方提督「以上、状況だ。やっぱり連絡が取れないと流動する戦いに対応しきれないね。現場の皆に頼りにするしかないが、みんなどうしても勝ちたいんだってさ。なので指揮を仰ごう」


提督《北方の方々に一つ確認です。身内を見殺しにする覚悟は》


天津風「暁のいう通りね……大丈夫だから先に」


提督《天津風さんの略奪作戦ならば『北方提督&デカブリスト』と『資材を輸送する兵士』に、それを『輸送護衛する兵士』です》


提督《『北方提督&デカブリスト』が集中砲火を浴びてリタイアの危険性が高いですね。なお輸送する兵士とその護衛はわるさめさんが兼任するのが理想的かな。拠点までの中継地点で受け渡しし、わるさめさんは追っ手が来た場合の食い止め役に役割移行させるのが案牌ですね》


三日月「司令官一人で大丈夫なんですか?」


提督《ええ……北方さん、あなたそのデカブリスト艤装のギミックを仕掛ける際にこちら側に見られないようにジャミングかけましたよね。あなたは想力関連に興味を示して資料を読み漁っていましたし、そもそも》


提督《デカブリストはヴェールヌイの一部、つまりあなたがそれをやるには想の魔改造でヴェールヌイからデカブリストを切り離す工程が必要不可欠です。加えてこの通信設備の機転なので》


提督《あなた》


提督《初霜さんのような素質があるんですね?》


提督《『妖精工作施設』または『想力工作補助施設』のような装備を隠し持っている。それがあなたの切り札と見ております》


一同「……」


北方提督「やっぱりバレたか。ヴェールヌイがやってみて、といったからやってみたら出来たんだ」


北方提督「戦後復興妖精に絡まれた時の切り札だ。ちなみに想力工作補助施設のほう。妖精工作施設のが理想的だったんだけど、あれは無理だね。想力工作補助施設はただの人間で契約して想をまとった佐久間さんが作ったモノだし、こちらはなんとかね」


北方提督「でも性能的には(仮)かな」


北方提督「戦後復興妖精みたいなことは出来ない。それがこの連絡手段な理由だ。艤装通信は無理でこの携帯端末でしか確立できなかった」


三日月「あなたって人はそんな大事なことを隠して……!」


北方提督「切り札ってピンチに使ったほうがカッコいいじゃないか。主人公が前もって作戦会議でネタバレしてから使う切り札とか」


北方提督「敵に打ち破られるフラグにしか思えないだろう?」


望月「悲しいことにこの人の場合は本当にそれが黙っていた理由でもおかしくない」


提督《主人公はその土壇場で成長して危険を乗り越えるはずです。なので頑張ってください》


北方提督「確かに……!」


天津風「作戦としては司令官に潜入させて、物資をわるさめさんに運んでもらって途中で私達に引き渡してもらって拠点に持ち帰る、ね!」


天津風「司令官はプチ想力工作補助施設装備に加えて、もともと戦場で兵士として陸でも戦っていたし、更に艤装はステルスかかっているから潜入も現実的。わるさめさんの性能踏まえると輸送は信頼できるし、引き渡してもらってから追っ手がいた場合もわるさめさんなら戦力として申し分ないわ!」


天津風「完璧じゃない!」


望月「おー、現状の戦力でも可能な現実的な策じゃんか……」


天津風「丁将席ともなるとうちのなんちゃって司令官とは違うわね!」


北方提督(なまじ事実だから慟哭しそう……)


響「この作戦で活躍したら皆掌クルーだよ」


北方提督「うん……」


三日月「やっぱりこういう軍師的な司令官って良いですね!」


暁「ふふん。あげないからね」


北方提督「三日月の尻軽! 唯一のラブ勢だと思ってたのに!」


三日月「執務も丸投げ、私の練度も最大まであげてもらえなかったですし、ライク勢止まりですね……やっぱり私達は兵士なのでこういう司令官のほうが理想的です」


北方提督「三日月が死体蹴りする……」


三日月「ラブ勢はガングートさんがいるじゃないですか。あの人、司令官さんのこと絶対に気に入ってますよ?」


北方提督「そうかもしれないね。彼女の愛は殺人的な物理攻撃だったけどね……」


提督《つり橋効果ってやつですかね》


提督《……、……》


提督《……相手は中枢棲姫さんですので、ここから更に策を展開します。恐らく北方提督さんが想力を扱えることは読んでいる、と想定して動かねばなりません》


提督《今のは触りで、『大した意味もない』ことです。なのでここからが重要かつ決死です。数名、下手すれば全滅ですね》


提督《島風さん、そろそろ起きてくださーい……》


島風「……お、う? ごめーん、難しくて長い話が苦手でさ……」


提督《こちらで見積もった敵陣営の危険度を教えておきますね》


提督《『SS+』はネッちゃんさんとレッちゃんさんが阿武隈さん、メインサーバー君、そして悪い連装砲君&悪い連装砲ちゃんがここです。後は最初期メンバーもここら、です》


提督《『SSS』はチューキこと中枢棲姫さん、それと戦後復興妖精、及び当局です。このSSSが最高危険度と認識を」


提督《そして未知数という意味の『Worst-Ever』が1名》


提督《『前世代陽炎』》


三日月「さ、参戦したんですか!?」


提督《ええ……その線は薄いかな、と考えておりました。資料を調べても彼女はあまり記録がないんですよ。演習も戦果も駆逐艦の中でそこそこですね。映像記録も少ないですね。見ても中の上、といった感じです》


提督《ムラがあるタイプなのかもしれません》


提督《その彼女の兵士時代の戦果の数字と、同じ鎮守府に所属していた方からの評価に天と地ほどの差があったんですよ》


提督《少なくともかつてともに艦隊を組んだことのある瑞鶴さん加賀さん、そして陽炎ちゃんのアカデミー時代に教官を担当した長門さんからは素質自体は阿武隈さんと同等じゃないかな、と》


提督《そして》


提督《あの卯月さんがただの単艦演習なら阿武隈さんより上かも、といった以上、ブランクがあっても艤装を使えば強いのは間違いないです》


提督《そこまで単艦演習で強いというと皆さんのイメージは神風さん龍驤さん辺りでしょうが、彼女達ともまた違ったタイプですね》


提督《恐らくは高い素質に加えて》


提督《『艦兵士の殺し方が上手い』んです》



…………………


…………………


…………………



北方提督「最後に皆を払ってなにを頼まれるかと思えば……」


提督《北方さん、あなたが肝要ですから》


デカブリスト「……ハラショー」


デカブリスト「考える力というのは偉大ではある」


提督《お褒め頂き恐縮ではあるのですが、しょせん急造策であることをしっかり認識してくださいね》


提督《わるさめさんは知っての通り運用において不安定です。素質そのものもそうなのですが、なにより瑞穂さんが無欲のままいられる訳がなく、彼女と協調しかねませんので、自らの利益で行動を起こすパターン、それとレッちゃんネッちゃんの乱入も怖いです》


提督《策というには不安定過ぎます》


デカブリスト「背の高い大きい私、3分程度彼と話をさせてもらってもいいかな」


北方提督「もちろん」


提督《なんでしょう?》


デカブリスト「信頼してくれて構わないよ」


デカブリスト「ただ君は臆病で完璧主義者だね。策に穴があってもそこは自信を持っていうべきだ。そのほうが皆のやる気があがる」


デカブリスト「君は自覚したほうがいい。考える力というのは源に過ぎない。部屋に引きこもって頭捻っても実際には行動を起こさなければ意味がない宝の持ち腐れに成り下がる」


デカブリスト「人間、若い頃は喜びよりも悲しみばかり見てしまうものだ。私もそうだった。異国へ引き渡されてからも心では悲しみばかりだったが、今のように年老いてからは悟った」


デカブリスト「異国で過ごした時間は、私に今ある喜びに注視する精神を与えた」


デカブリスト「あなたの考える力単体でも兵士達には闇の最中を照らす灯台になっていたはずだ。だから暁(子供)達はこれから先の人生で困難にぶつかった時、必ずあなたの指揮の輝きを思い出す」


デカブリスト「彼女達に負けないようにね」


提督《……、……》


提督《心しておきます。まあ……》


提督《今の時点でみんな自分よりよほど人間できてますけどね……》


デカブリスト「ふふ、ならば期待を裏切らないよう精進するべし」


デカブリスト「こちらのことは信頼してくれてかまわないよ」


デカブリスト「それと最後に司令官へ」


デカブリスト「暁、雷、電と共に見たあの日の暁の水平線の景色は生涯の宝物だ。ありがとう」


デカブリスト「Я тебя люблю」


北方提督「!?」


提督《……? どういたしまして》


【10ワ●:薄翅蜉蝣 蟻地獄 2】



メインサーバー【あー……】


矢矧「怨敵の一人と出会えたわね。この場だからあなたも沈めておきたいわ」


大鳳「他にもいますけど……ええと阿武隈さんですよね?」


阿武隈「はいっ、阿武隈ですよ!」


清霜「こんばんわ!」


阿武隈「はい、こんばんわ! ええと川内さんが見当たりませんけど……」


阿武隈「あ、矢矧さんあたしの今回の狙いはメインサーバー君です! ちょっと不安要素を潰しておこうと思いまして!」


大鳳「同じ考えですね。私達、このメインサーバーの中に囚われていたので危険性は知ってます」


メインサーバー【まあ、やりたいことはやりましたカラ、構いません。やりマスカ? サーバー権限を活用させてもらいマス】


メインサーバー【Trance】


矢矧「話が早くてよろしい」


大鳳「私、空母なので後ろ下がりますね……」


清霜「私も少し下がるー」



2



メインサーバー【ちょ、ちょっとお! 空母棲姫と埋護姫と駆逐棲姫の3種なんですけどお!】


阿武隈「あたしの口調を真似しないでください!」


ドオオン!


矢矧「絶望的な場面とか何度も遭遇したわ。死んでからも」


ドオオン!


メインサーバー【ピギャアアアアアア!】


阿武隈「暁ちゃん真似たって優しくしません!」


メインサーバー(ふ、ふええ……装備の回転率の隙間を縫うように砲弾が飛んでくる。それも装備の優先損傷順、装甲の薄い箇所、人体的な急所!)


メインサーバー(おまけに大鳳のせいで空を取りきれないし、向こう狙ったやつ清霜に墜とされてる。あいつ照月適性もあるからか対空射撃は上手いな……にしてもそんな馬鹿にゃ。姫3種がこうも簡単に追い詰められるなんて)


メインサーバー【今を生きる人間の可能性に殺されるうううう!】


矢矧「装備の持ち腐れね……」


阿武隈「というか弱いですね……警戒していましたが、なんだか素人が上等なカタログスペック装備を持っただけの感じです」


メインサーバー【その通りデス! 私は戦うなんて役割持ってないんデスカラネ! なのでお話をしましょう!】


メインサーバー【今の事態は色々とお前らも予想外なはずデス。だからこれからのこと予測出来ている私が情報を渡すノデ、見逃してくだちい!】


矢矧「自己を持っても機械ってだけでこうも情が湧かないものなのね。初心者が良いモノ持って粋がって馬鹿見た感じが哀れ」


メインサーバー【阿賀野型のほうがカタログスペックのくせニ! どいつもこいつも素体がポンコツだって知ってるんだからネ! 無能な味方なお前らほど性質悪いもんねーヤイ! 呵呵!】


ドオオン!


メインサーバー【大破ニギャアアアア!】


メインサーバー【阿武隈ちゃあああんお話をー!】


阿武隈「あのですね、信用できないあなたからの情報なんて混乱のもとなので要りません。ここで確実に消しておくのが最良です!」


メインサーバー【賢いネ!】


メインサーバー【切り札を見せてやる】ジャキン


阿武隈「それ負けフラグなので!」


メインサーバー【2次元と3次元をごっちゃにするとか犯罪予備軍ですネ! もういっちょ装填!」ジャキン


メインサーバー【『カタストロフガン……】


阿武隈(戦後復興妖精の……装備!)


メインサーバー【ver 史実気象!』】


ドオオン!


矢矧「ん? 空?」


矢矧「違う。これ、地震――――!」


メインサーバー【波浪警報デ――――ス!】


阿武隈「あわわわあああああ!」


阿武隈「津波、50、いや100メートルはある!」


阿武隈「て、転覆しちゃ……!」


阿武隈「いやあああああああ!」ザブン


矢矧「阿武隈が波に拐われた……このくらい航行術でなんとか」


メインサーバー【さて矢矧ちゃんサヨウナラ】


ピカッ


矢矧「眩し……これ」


メインサーバー【サンダー】


メインサーバー【ドオオオオン!】


矢矧「っ、まさか落雷――――」


ドオオオオン!


メインサーバー【さてと丸焦げだネ! 阿武隈ちゃんとか大鳳ちゃん清霜ちゃんも感電して損傷したかな? ハピネスガンのお陰で私はこの通りなんとか元気デス!】


メインサーバー【呵呵……ん、新しい反応】


メインサーバー《どちら様でしょうか!》




《お、敵か。どちらの陣営でもないやつね。大破してるみたいだし、慣らしとしてはありがたい》




メインサーバー【ンー、これは】ジャキン


メインサーバー【『前世代陽炎』】


メインサーバー【カタストロフガン! ver史実気象!】ドン!


メインサーバー【波浪警報デ――――ス!】


メインサーバー【津波150メートル級のネ! 転覆して沈め!】


メインサーバー【+カタストロフガン】ジャキン



陽炎ちゃん「さっきので黒潮転覆したし……」


メインサーバー【!?】


メインサーバー【マジかオマエ! その規模を波乗りだとオ!】


陽炎ちゃん「艤装はサーフボードより上等よね」


メインサーバー【物理的に無理とはいわないケド普通出来ないデスカラ!】


陽炎ちゃん「私は航行術と砲撃機銃の精度には自信あってさ、現役時代にも津波に襲われたことあるのよー。その時の200メートルまでならなんとか波に乗れましたよっと」


メインサーバー【今を生きる人間怖いヨオ! とにかくくたばれ、スパーク!】


メインサーバー【サンダー、ドオオオ――――】


陽炎ちゃん「キャッチ」


陽炎ちゃん「&リリース!」


ポイッ


メインサーバー【そんな! 真上になげて避雷針代わりに、アババババババ!】


陽炎ちゃん「熱ああああ!」


メインサーバー【お前も避けきれてないし!】


メインサーバー【……! 再生、これは女神か!】


メインサーバー【私も、まだ、ま……だ!】


陽炎ちゃん「誤算。思ったより陽炎艤装が身体に馴染むという」ジャキン



…………………………


…………………………


…………………………




メインサーバー【error,error,e――――】


陽炎ちゃん「機械が半端に人の心持つから弱くなんのよ。それなら絶対に人間を半分機械にしたほうがこの想海では強いって」


ドオオオン!


メインサーバー【――――】


チャプン


陽炎ちゃん「海の傷痕は低スペックのAndroid使ってたみたいね……」


陽炎ちゃん「とりあえず」


陽炎ちゃん「転覆した人達を引き揚げてあげますか」



【11ワ●:仲良くなるための訓練 5】



天津風「待機場所が近くだから、ちらっと神風達の様子を見に来たけど」


天津風「一体あれは何の訓練なのかしら……!」


三日月・島風「……」ジーッ








スリスリ


神風「――――この牌は」


神風「リーチ1発ツモピンタン!」


当局「あーあ、また電が箱割れしたのである」


電「くそくそくそなのです! ルールやりながら覚えてるので私が弱いのは仕方ないとはいえ……!」


当局「おい若葉、飯はまだか」


若葉「黙って待ってろ(おこ」








島風「お? 麻雀やってる?」


天津風「はは、連装砲君」


ジャキン


三日月「ダメです落ち着いてください!」


天津風「離して! あの連中は私達がどれだけ必死で頑張っていると思っているんだろう! あそこに砲弾撃ち込まなきゃ気が済まないわ!」


三日月「見なかったことにして行きましょう! タイムロスは作戦に支障をきたしますからここは収めてください……!」



2



電「ダボが!」


ドオオオン!


神風「アアアアアア!」


神風「なにするのよ!」


電「もうやってられねーのです! 単艦演習したほうが余程有意義です!」


ドオオオン!


神風「同感だけど、ちょ待アアアアア!」


当局「ケラケラ、好きにしたまえ」


神風「ムリムリ刀持ってないし降参よ!」


電「では刀を持つといいのです……今の時間の損傷は当局が治してくれます。ただ神風お前」


電「私とお友達になりたいんですよね?」


電「どうやったらなれると思うのです」


神風「それはやっぱり一緒に遊んだり釜の飯食べたり」


電「友情とはなんなのです?」


ジャキン


電「膝を屈して降参なぞしていてはお友達にはなれないのです」


神風「へ? ど、どうしてよ! 私が引いてあげてるのに!」


神風「あなたが悪いのにさあ!」


電「私が間違っているというのなら止めてみろ、なのです」


電「友情が欲しくて力に屈するのは褒められたことではないと思うのです。本当の友達ならば友のために戦う必要があるでしょう」


当局・神風「……」


神風「確かにそうね……」


若葉「飯が出来た。運ぶくらいはしろ」



3



イタダキマース


電「む、普通に美味しいのです。若葉さん、料理がお上手なのですね」


若葉「大した工夫もないただのチャーハンと焼きうどんだぞ」


神風「戦場ではご馳走です」


当局「美味くはない。貴女、料理作るの別に好きではないということが伝わる手抜きの味であるが、それがいい」


若葉「腹立つなこいつ……」


当局「必要なことだが好きではない。これに加えてクソ真面目だと、人間ノイローゼになってゆくのである。心身に余裕はあってもやらなければ酷い目に遭うと想像が先行し、しょーもないこと考え出すので」


電「へえ、意外なのです……若葉さんを気遣っての発言だったと」


神風「いや要約すると、仕方ないからこの味で我慢してやろうっていう傲慢な態度じゃないかしら。ケンカ案件よ」


若葉「構わん。美味しいとかありがとうとかこいつの口から出るほうが気持ち悪い」


神風「そうやって割り切れるだなんて、意外と若葉は当局と相性良いんじゃないかしら」


若葉「お前の良いところでもあるんだけどな、思考が浅い。これは訓練だぞ。全てに意味がある。一連の訓練の意味が分からないのか?」


神風「遊んだりご飯食べたりして何の強さになるの?」


当局「その通りである。何の強さになるという?」


若葉「仲良くなって理解し合うことに意味があるんじゃないのか」


当局「もっと具体的に」


若葉「……だる」


若葉「神風は単艦で完成しない。こいつほど仲間と助け合う前提でしか闘えない兵士はいない。だからそのために私と電を使って補助させようとしたんじゃないのか」


若葉「准将も神風を生かすために艦隊を組んだ。夜戦部隊なんて正しくそれだ。だから神風に必要なのは」


若葉「海の傷痕でいう『あなた』と『わたし』みたいな相棒だろ」


電「……、……」


当局「いい線を行っているな。知識もある。自分の程を知っているゆえの有能である。いやはや全くその根本はあのボロ家での日々というのだから、貴女の父親は立派であるな」


若葉「親父は立派なやつだった」


当局「ケラケラ、早くに先立たれたことをすねる可愛いげもあるか」


若葉「少なくともお前よりは遥かにマシだ」


当局「……ま、仲良くなる必要なぞないのだがな」


若葉「なら何のために」


当局「理解し合う=仲良くなることではない」


当局「固定観念を捨ててみろ。刀の扱いとか、火縄銃持って戦うよりもミサイル撃ち込んだほうが強いとか、そういう話ではないのだ」


当局「貴女達が発展したと思い込んでいるもの全て、幾度となく本末転倒しそうになっている。当てをつけて大地を掘って石油でも湧けば、人間そこに希望的観測をしがちだが」


当局「まずはリスクを見なければ」


当局「究明した知識が貴女達を賢くする、不可能を可能にする、豊かな発掘が人類の救済への道となる。これが恐ろしい誤りであると、あの大戦の記憶を持つ船の化身どもが思わないのならば、人類は文明を失う羽目になるぞ?」


電「……ですね。兵器なんて正にそれなのです」


当局「さてはて腹も膨れたことである」


当局「『目的=この海における最強の兵士』」


当局「『その手段』において技術だとか、心構えだとか、正解ではあるが、ちと視野が狭いな。電と小娘、ケンカしたの初めてではあるまい。なのに、なぜ今は協力出来ていると思う」


電「そんなのは司令官さんの存在なのです」


神風「……サラトガさんからもいわれましたね」


当局「サラトガからも答えを教えてもらっていたか。不出来とはこのことであるが……」


当局「ならば、強さと暴力を分けよう。本当の強さとは同時に抑圧も発達させる。核に対して所有反対の声があがるようにな」


当局「そうして核はその存在の表裏を理解され、所有することに対してより多くの議論が交わされるが、貴女達が『艦隊これくしょん』で導き出した通りこれに対して最も成果が挙げられていない分野こそ」


当局「人間同士の理解である」


当局「神風の土台は練巡どもがもう造っている」


神風「……?」


当局「二つ目の課題は、武器が悪いことだ」


神風「この神風刀はオーダーメイドでこれ以上の刀なんて世界のどこにもないわ」


神風「この戦い方してるの世界で私以外にいないみたいなのよね。だから、最高といってもいいくらいの装備でしょう。武器にケチつけるくらいなら」


当局「得物にはケチつけろ。貴女はこの道においてプロであるからに」


当局「初期装備の12cm単装砲のようなモノだ。オーダーメイドといってもしょせん工作艦の改修、+値に過ぎん。12cm単装砲に貴重なネジ投入とかシロートか?」


当局「最高の武器。短期間の劇的な成長を欲すのならばそこだ」


電(あー……なるほど、そういうことなら確かに)


当局「電、ああ、貴女は司令官のために死ぬ覚悟はあるな」


電「!?」


当局「人間の成長が緩やかなように見えるのは絶えず成長を続けるからである。右肩下がりのグラフでも、だ」


当局「が、進化と評される成長においては話が違うのだよ。准将が深海妖精の発見から一気にこの海の真実を暴いて戦争終結へと駆け抜けたようにたった1つの変化が世界を革命するものだ」


当局「故に0から1に踏み出す際のその速度は」


当局「刀の煌めきの如く、紫電一閃である」



【12ワ●:ロケットが飛んできた】



伊13「……」


伊58「イタタ、さすがのゴーヤもキツいでち……ヒトミには悪いけど、3体1ならさすがにね」


伊19「はあ、なんとか中枢棲姫勢力から逃げられたのね……」


伊401「まー……私達潜水艦は今回、資材集めてばっかだったよね」


伊19「というかゴーヤは今回は敵陣営とはいえ味方に魚雷当てるの躊躇いなさすぎなのね」


伊58「遊び気分じゃないからね。それに模擬弾も実弾でも演習しまくったから今更でち」


伊58「ところでニムのやつは?」


伊401「ここからは離れたところで、ろーちゃん見つけたからってそっち行ったよ。ろーちゃんも大分変わったよね」


伊19「出会ったのはクルージングでばったりだったけど、その頃に比べるとね。いつからだか、妙に訓練に熱をいれ始めたのね。シオイに渓流での泳ぎ方とか教わってたし」


伊58「あー……なんかゴーヤの提督さんに興味示した辺り。『青山ですか!?』ってゆーが珍しく大声出したから覚えてるでち」


伊401「その頃だっけなあ。オリョール海でゴーヤがル級に特攻仕掛けてて、電ちゃんに抱えられて去っていったのをゆーちゃんと見たよ」


伊58「それゴーヤが異動して間もない頃でち……」


伊401「その時に電に見つかって通信飛ばされてさ、『深海棲艦のいる海域で遊んでんじゃねーのです。消えろ』って」


伊401「ゆーちゃんがかなり怯えてた……」


伊58「まあ……あの頃の電ちゃんは完全な闇堕ち状態でち。でもシオイ、泳ぎ方を教えるならイクかイヨを呼べばよかったんじゃないでちか? シオイの教え方ってゆーには合わなかったんじゃない?」


伊401「いやー、イクとイヨは感性派で人に教えるの上手いほうじゃないっていってたしねえ。ま、台風で水量上がって荒れる渓流を流されずに泳げたら大抵の海はどうにかなるって。ちなみに香取さんから教えてもらった。私はあそこで潜水航行覚えたし、鮭に模擬弾当てられるようになってからは深海棲艦にも当てられるようになったし」


伊401「基本は身に付いてるから、アリじゃん?」


伊58「ゆーの頃でその訓練やるとか信じられないでち」


伊19「……ゆーが頑張ったその理由、多分神風ちゃん。ゆーには、ああいうひた向きな努力家には思うところあったはずなのね」


伊58「戦争終わって、ゴーヤ達も兵士になる前に向き合わなきゃならないからね、自然とみんなの街にいた頃の話もよく耳にするようになったでち。ゴーヤのところは比較的そういうのおおっぴらだったけど」


伊58「初霜はさすがに驚いたでち。さらっと4年間誘拐されてたとかいうし」


伊19・伊401「……」


伊401「ゆーは10年だったんだよね。乗ってたボートが転覆して溺れて意識不明になってた期間は」


伊58「イクは元帥さんのところでしょ? 照月と引き換えにドイツからグラーフプリンツビスマルクゆーが日本に来た時は騒ぎになったよね。なんか大淀さんから聞かなかったの?」


伊19「ドイツの政治でU-ボートにされたようなものだから、そんな子に無理やらせられないって元帥のおじいちゃんがそんな感じで。だからゆーにはビスマルクさんをつけて北方に着任させたのね」


伊58・伊401「……」


伊58「まあ、自身の過去、ゴーヤの場合は船の夢見の影響が強いけど、色々とみんなあって海に来た」


伊401「生き残りの私達もいれば、死んだ人達もいるけど、死んだ人達もさ、この想の海で漂ってるんだよね? ならさ」


伊58「生き返らせちゃう、とか?」


伊19「それは無理なのね……」


伊19「ほとんどの想は海の一滴に溶け込んでしまっていて、生前のような自我のあるものじゃないし」


伊19「中枢棲姫勢力とか最初期メンバーとか海の傷痕とか、最後の海では電ちゃんもそうだけど……復活してるのって」


伊19「少なくとも重以上の人達……」


伊19「提督達が言わないだけで、ほとんどの人が気づいてる。それは想力でも出来ない、つまり人間には不可能なことだって」


伊58「……ん、ニムから通信でち」


伊26《そっちに対潜装備の鹿島さんが向かってる――――!》


伊19「ニム中破してるけど、元気そうなのね」


伊401「うわ、鹿島さんはヤバい。とりあえず身を隠さなきゃ」


伊401「ニム拾ってくるね!」


2


伊19「なんで来る方向おなじなのね……!」


伊401「ここの岩影辺りのスポットが隠れるには最適だからかな!」


伊58「ろーは倒せたんでち?」


伊26「ううん、逃がしちゃった。私、魚雷当てられちゃったし、追えなかったんだよね。鍾乳洞が水没したような、そんな広い場所があって、大きな岩を旋回したところで、ろーちゃんの魚雷が左に曲がってきてドーン……」


伊401「ドイツはいいもん造るよね」


伊19「一応、魚雷準備しておくのね……」


伊58「爆雷、前方50メートル。さすが、中々狙いのつけ方が上手いでち」


伊401「ん、なにこの兵器反応……対潜艦載機?」


伊26「にしてはなんか変? 砲弾とかに近い感じだけど………」


伊401「ちょっと確認してくる」


3


ザパン


伊401「ええと……もうすぐ視認可能距離に」


伊401「速すぎない?」


伊401《鹿島さん!? なにあの兵器!》


鹿島《デカブリストさんですかね。弾頭からパラシュートついた爆雷が分離したの見えましたか?》


伊401「はい。あ、はは、初めて観た」


伊401「『対潜ロケット』じゃん!?」


ドオオオン!


伊401「イヤアアアア!!」


伊26・伊58・伊19「うわああああああ!?」


鹿島「仲良く岩の下敷きですね……心苦しいですけど最終世代の潜水艦の皆さん根性値が異常なので、私から爆雷でダメ押しです」



ドオオオン!


【13ワ●:やり返せ! 物資襲撃作戦!】


ザパン


北方提督「疲れた……でも潜入成功」


北方提督「ダイバー装備外してデカブリスト装備っと……少しそこの大木の陰で休ませてもらう」


デカブリスト「やるじゃないか。酸素ボンベや潜水アイテムを持って私を抱えながら海の中を進むだなんて」


北方提督「ステルスといえど哨戒機には見つかるからね。天津風達を利根筑に対しての陽動に使ったのも効いたかな……」


北方提督「持ってきたものは濡れてはいないか……良かった。事前に偵察機の映像を見たけど、少し休んだら念のために高いところから敵地を見るよ」


デカブリスト「どこに資材置き場があるかな。これを読んでいたのなら資材を他の島に移す……いや、これはないか。周りに島はここだけだし、時間的に運べてもたかが量は知れてる」


北方提督「埋めてあるかもね。しょせん海軍、陸上戦は不得意だ。艦兵士だなんて特にね。その程度の知恵なら見つけるのに苦労しない」


デカブリスト「戦後復興妖精が海色の想があるから、資材を奪われても痛くはない、そしてこちらが動いた時点で私達にはそれが出来ないこともバレたかな。だから向こうの最良の策は資材を自ら破壊しても得があるところだろう」


デカブリスト「そして事前にそれをやらないとしたら巻き餌だ。そう分かり辛いところには置いていないはずだ。ねずみ獲りのような罠だ」


北方提督「想力工作施設(仮)でも海の傷痕装備は1日2日では作れない。素人が工具持ったところで海の傷痕の工作は真似できないとは予想もしてたけどさ、だからこそ初霜の異常さが身に染みる」


デカブリスト「そうだね。あの子が深海棲艦になったら最悪の化物が生まれるだろう」


北方提督「あの子を序盤で仕留められたのは大きい……」


デカブリスト「……上空に偵察機が舞ってるな」


北方提督「うん。さて視察に行こう……確認して准将の読みが当たらなければまあ、臨機応変だね」



2



わるさめ「チューキさんとやりあうだとう……まあ、司令官が作戦組んでるなら望みはあるっちゃあるけども」


瑞穂「いいのよ。向こうの戦力を削っておかなくちゃならないし、私達、こっちの陣営であることも利用しない手はないでしょ」


わるさめ「レッちゃんの乱入が怖え……無差別だろうし」


瑞穂「大丈夫よ。優先して家族を殺しにかかるのはないでしょ」


わるさめ「それコミュの一環と記憶してますが(震声」


瑞穂「ああもう……」


瑞穂「あ、誰かこっちに来てる……」


わるさめ「利根筑の哨戒で索的された三日月と天津風、島風、それじゃなく隠れている私達に来てるってことはチューキさんに待機場所まで読まれてるじゃーん……」


わるさめ「あ、通信飛ばされた。応答すっか……」


わるさめ《元気一番姉と止まない雨は姉だよね?》


時雨《止まない雨は姉って僕のことだよね……?》


わるさめ《覚悟しろよー。わるさめちゃんがこの戦いに勝った暁には》


わるさめ《時雨姉にチ○コつけてやるからな!》


時雨《本当にやりかねないから春雨はここで必ず倒さないと……》


白露《時雨が男の娘とかとんでもない。時雨の良さをなにも分かっちゃいないね!》


わるさめ《大体さあ、白露型、主にぽいぬ姉と時雨姉にはいいたいことがあるんだよねー》


わるさめ《ゆうしぐってなんですか……?》


わるさめ《史実的にもはるしぐダルオオオオオ!?》


時雨《なにそれ。みんなで仲良くすればいいだろう?》


白露《あ、それならこの機会に私も》


白露《一番一番うるさい私ですが》


白露《妹達が強すぎて一番になったことないんだよね》


わるさめ《……うん?》


白露《でも春雨倒せばすごい戦果で一番じゃん!》


白露《だから春雨、お姉ちゃんのために沈んで?》


わるさめ「!?」ビクッ


瑞穂「わるさめ、じゃれんのは構わないけど後ろに扶桑いるのと」


わるさめ「これ、向かって来てるの陽炎と黒潮艤装かー……?」


わるさめ「カゲカゲは不参加止めたか……いや、レーダーの……この航行速度の拙さは違うな」


瑞穂「なんでいい切れるのよ?」


わるさめ「カゲカゲとヌイヌイとは夜通し戦った中だから癖は分かる。これは別人だね。つまり陽炎ちゃんのほう。所属謎だし警戒しとくとして今は目の前の敵だね」


瑞穂「あんたのギミック破るための策はあるんでしょうよ」


わるさめ「楽しみだねー、づほの時のようなミスは犯さん。瑞穂ちゃんも頭回しておいてねー」


瑞穂「一応フレデリカさんから兵法は学んでるわ」


わるさめ「ガブリしなければ潜水しっぱなギミック装甲のわるさめちゃんはターン制RPG的にいうならちまちまと100ターンは余裕でかかるクソ敵だゾ☆」


わるさめ「さてやろうか!」



3



わるさめ「スイキちゃん、爆雷ソナーとかお手本だよねー。でもそんなんじゃ装甲砕けるより再生のが速くて勝負見えてるという。潜水棲姫装備で沈めてやら」


瑞穂「ったく、だからレッちゃんやネッちゃんに1つのステージに特化しろって言われたんでしょ。駆逐棲姫なんか止めて潜水系の深海棲艦艤装を後1つ取り込めば良かったのに」


わるさめ「わるさめちゃんですから。駆逐棲姫は外せないからね、仕方ないね」


わるさめ「22inch魚雷後期型、発射!」


瑞穂「魚雷なんて警戒してる相手に絶対に当たらないわ。ほら、避けられた……」


わるさめ「弾薬も自動再生だからね……とことんやってやら」



…………………


…………………


…………………



わるさめ「ウザイウザイウザアアア――――イ!」


わるさめ「遠くに戦後復興妖精がいるし、種はこいつか! わるさめちゃん達が任務あると知って燃料爆雷無限補充で根気比べとか! 私達が行かないと資材引き取りに行けないのも読まれてるうう!」


瑞穂「あんたの魚雷が下手くそなのよ。今から考えた作戦を話すから聞きながら戦いなさいよね」



4



白露「春雨の今の性格は知ってるからね! そっちの役割を考えると、絶対に先にこのちまちま勝負の我慢に限界が来るよねー!」


時雨「春雨の鮫形態は捨て身じゃないと倒せないのが嫌だけどね……潜水棲姫艤装さえ潰せばあの厄介な潜水形態は解除出来るはずだから」


白露・時雨「海面に背びれが出た!」ジャキン


わるさめ「口は開けねーやい! 駆逐棲姫トランス!」ジャキン


ドオオオン!


白露「……くう被弾中破! こっちの攻撃は……」


わるさめ「グワアアア! よく狙って潜水棲姫部分当てられるな!」


瑞穂「わるさめ、レーダー見なさいよ」


わるさめ「チィ、これは対潜哨戒機? いや、扶桑のカ号観測機か!」


ドオオオオン!


白露「やったあ!」


時雨「白露、特殊潜航艇を撃ってきてるから! 海面に出てきたのは陽動だよ!」ジャキン


白露「もちろん気付いてるよ!」ジャキン


ドンドンドン!


白露・時雨「よし、沈めた!」


白露「春雨、突っ込んで来たね! 潜っても大破した潜水棲姫艤装なら、一撃当たればそのまま爆雷から逃げられず終わりだからと見た!」


時雨「海面から浮上してくる!」ジャキン


白露「!? 甲標的発射してきた!」



わるさめ「ざっぱ――――ん!」


瑞穂「もらったア! トランスPT小鬼群!」


時雨「背中に瑞穂さん乗ってるうう!」ドンドン!


わるさめ「スイキちゃんに砲口向けていいのかなア!?」


白露「私達の一撃の火力じゃ、倒しきれ――」


わるさめ「ガ! ブ! リ!」


瑞穂「どおおおん」


白露・時雨「けほ……」


チャプン


キャハハ、キャハハ、キャハハ


わるさめ「スイキちゃんその艤装うるさいな!」


瑞穂「次、攻撃前に確認した扶桑を沈めに――――ってあれ」


瑞穂「これ、沈みかけてる……?」


わるさめ「黒潮と陽炎ちゃんか……」


わるさめ「ドンパチの気配に気付かなかったし、スムーズに乙の戦艦を倒すのか。怖いなー……」


わるさめ「狙いは戦後復興妖精だろうし、チンピラのごとく絡むのは止めといたほうがよさげかな」



5



扶桑「驚い、たわ……」


黒潮「ごめんなあ、扶桑はん」


扶桑「構わない、わ……けど、なにされたか……」


黒潮「頭に砲弾当たって喋れる扶桑はんに驚くわ……」


陽炎ちゃん「実弾、撃沈OK、恨みっこなし」


陽炎ちゃん「要はこれ」


陽炎ちゃん「究極の身内演習みたいなもんでしょ」ジャキン


ドオオン!


黒潮「容赦ないなあ……」


陽炎ちゃん「戦後復興妖精を仕留めに行く」


陽炎ちゃん「あの時は武装がなかったけど」


陽炎ちゃん「今回は違うわよ……!」



【14ワ●:薄羽蜉蝣、蟻地獄 3】



清霜「あ、島風さんだ。その甚平もあの頃と同じ!」


戦後復興妖精【清霜ちゃん? 今は島風他にもいるから戦後復興妖精で頼むわ】


清霜「なんか刺々しいなあ……」


戦後復興妖精【全部ネタバレした今更、話すこともないだろうよ】


清霜「あれれ? 私達がケンカする理由なんてあったっけ?」


清霜「矢矧さんは怒ってるけど、別に心底憎んでいるって訳じゃないからね? ほら、もともと感情の制御が上手ではないだけでさ!」


矢矧「やかましい。ただそいつ次第よ。事情はどうあれ、一言言うことがあるんじゃない?」


戦後復興妖精【ああ、そういうことね……なら聞いてくれ】


戦後復興妖精【謝罪と感謝の意がある】


戦後復興妖精【あの命賭けて必死こいてた日々は愛しいもんだ。だからこそお前らを騙して利用してたことにも謝罪の念が沸いた】


戦後復興妖精【言葉にして礼もいわねえし、謝りはしねえけどな】


戦後復興妖精【それで】


戦後復興妖精【なんでお前らまだ消えないわけ?】


戦後復興妖精【もしかして未練があるのか? 当局とか中枢棲姫に復讐でもすんの? なら止めとけ。延々と満足するまで戦争したいわけでもあるまい。今更、虚しいだけだろ?】ジャキン


清霜「待って待って! 私達も復讐したいわけじゃないよ! 戦うならそりゃ中枢棲姫さんとか当局くらいしか理由はないってだけで!」


清霜「願い事を決めたんだ!」


清霜「そのために戦うの!」


矢矧「あなた私達の心を読んでた節があるのに分からないの?」


戦後復興妖精【この戦いではやらないことにしてる。やれば当てにしちまいそうだからな。そうして見誤って負けたのが海の傷痕だろ?】


戦後復興妖精【どうも私はあまり解釈が上手くないみたいだし】


ドンドンドン!


清霜「ちょ、まだここに移動している大鳳さん狙った!」


戦後復興妖精【島風の記憶のせいで、空母好きじゃねえんだよな。ああ、今ので沈んだか大破しただろ。普通の砲弾じゃねえからな】


矢矧「なる、戦うしかないのがよく分かったわ」


清霜「矢矧さん、戦うの!?」


戦後復興妖精【相変わらず察しはいいねお前】


矢矧「清霜、私達にもこいつにも叶えたい願い事があるのよ。勝者は1人なんだから戦うしかないわ。過去の因縁は抜きにしてね」


矢矧「今とこれからのために戦う。これ以上、私達が前向きに戦える理由はないでしょ?」


矢矧「私はじゃれあうために来た訳じゃないし」


清霜「私は島風さんとじゃれあうために来ました!」ビシッ


矢矧「清霜あなたねえ、そういったらこいつがどう出るかくら、」


ドオオン!


清霜「いやあああああ!」


戦後復興妖精【望み通りじゃれ合ってやろう】


矢矧「いわんこっちゃない……」


戦後復興妖精【話は終わり。精々悔いのないようにな】




2



大鳳「いたた……すみません、ありがとうございます」


陽炎ちゃん「お気になさらずー……あの砲弾、経過程想砲の繋げるギミックを利用して曲がる必中な上、体感ギミック、当たると思ったら当たってる感じです。気をつけてくださいね」


黒潮「あれ、優しい?」


陽炎ちゃん「あのねえ黒潮、メモリー観てないの? 私達がこの人達にどのくらい感謝すべきなのか考えなさいよ。苛烈な最初期を支えた敬意を払うべき先輩でしょうが」


黒潮「うちがいいたいのはそういうことやないわ」


陽炎ちゃん「大鳳さん、戦後復興妖精と戦う気はありますか?」


黒潮(ああ……助けたのはそういうこと……)


大鳳「ええ、あります。勝とうと思ってきましたし、あの人の強さは骨身に染みていますので、お礼に一時的に協力させて頂きますよ」


陽炎ちゃん「あざっす」


黒潮「相手、想力駆使してるんやろ? 倒せるんかいな」


陽炎ちゃん「なんでもやる気なら戦後復興妖精はもう勝ってるわよ。それこそ核でも降らしてさ。海の傷痕と同じく、それじゃ意味がないんだと思う。だから、倒せるし」


陽炎ちゃん「想力なんてトランスタイプが艤装を現海界させるのと同じく自らの意思あってのもの。つまり不意に即死したら終わり。女神もあるけど、あれの供給速度に間に合わせなきゃいいのよ」


陽炎ちゃん「なので『1回殺した後、即殺』」


陽炎ちゃん「女神を積んでない場合は」


陽炎ちゃん「壊-ギミックか反転建造による復活、ワープして逃げるとか。とにかく1回殺したくらいじゃ死なないように出来ていると思われる」


大鳳・黒潮「……、……」


陽炎ちゃん「そんで他の陣営だけど、少なくとも准将は私と戦後復興妖精の因縁を知ってるから、私の抜錨を想定に全く入れてないとは思えない。恐らく戦後復興妖精は陣営になにか補助をしてる。私達がやるのは准将にとってはそうね」


陽炎ちゃん「敵対勢力の補給線を破壊してくれる存在」


陽炎ちゃん「これ以上は考える必要はないわ。あくまで戦後復興妖精を倒す目的だからね」


大鳳「あの島、戦後復興妖精と因縁がおありで?」


陽炎ちゃん「あなた達と同じで利用された過去があります。ただあの頃のような人間らしさはなく、性格は当局に似てましたけどね」


大鳳「なるほど……それは心中お察しします」


大鳳「それと」


大鳳「賢いんですね。具体的な策はありますか? あるなら意に沿うように艦載機を動かしますよ?」


大鳳「それにあの人は強いですから」


陽炎ちゃん「あなた達とともに行動していた時は強かったですが、今はあれ性格的にもただの慢心した雑兵です。チート装備持って調子に乗ってるプレイヤーです。油断は禁物ですけども」


黒潮「あ、味方が増えたよ!」


黒潮「この艤装は不知火や!」


陽炎ちゃん「と、長門さんと」


陽炎ちゃん「雪風。うわ、場をかき乱しそうなのが」






不知火「ヒーロさん」ヌイッ


陽炎ちゃん「おす。長門さんも、戦後復興妖精沈めるから不知火貸して」


長門「構わんが」


ドオオン!


長門「被弾した……なんだ今の物理法則無視した砲は……」


長門「……、……」


ドオオン


陽炎ちゃん「さすがですね。2発目で対応するだなんて」


長門「不知火は貸すぞ。私は1人でいい」


不知火「雪風さんは前に出ています」


陽炎ちゃん「そう。多分、勝負はすぐ決まるからちょっとお願いしたいことがあって」



3



戦後復興妖精【やっぱお前らも全然ダメだわ】


矢矧・清霜「」


戦後復興妖精【じゃ、終わるまでさまよってろ】ジャキン


ドオオン!


戦後復興妖精【めんどうなのが来たから相手してられねえ】


戦後復興妖精(さて長門と不知火と雪風、マーマが設定した幸運力がちとだるそうなのと……)


戦後復興妖精(陽炎ちゃんと黒潮は)


戦後復興妖精【すでに改二かありゃ】



……………………


……………………


……………………



戦後復興妖精【ちっくしょ、長門と不知火のやつ体感トリック砲にもう対応しやがった】


戦後復興妖精【ちびども置いてくるんじゃなかったわ……】ジャキン


雪風「この戦場だと雪風の予感が告げています!」ジャキン


戦後復興妖精【やってみろ】


ドンドンドン!


雪風「種はなんとなく分かるので当たりません!」


戦後復興妖精【避けてやがる。大鳳の艦載機もうざったいな……】


ガガガガガガ!


雪風「は、速いですね!?」


戦後復興妖精【捕まえた! これで避けらんねえだろ!】


ドオオン!


雪風「……っ、でもこっちも捕まえたのは同じです!」


戦後復興妖精【至近距離から殺す気で撃ったのにダメコンしてのけるとか、どんな幸運だよ……】


雪風「技術、です! 長門さんと不知火さんと大鳳さん、黒潮さんの攻撃を受けてくださいね!」


ドンドンドン!ドンドン!


戦後復興妖精【うわ、これ避けられ――】ジャキン


戦後復興妖精【ハピネスガンで奇跡起こしてやら】ドン!


ドオオオン!


雪風「……っ」


チャプン


戦後復興妖精【女神乗っけてたとはいえ、お前の沈むところ見られるなんて幸運だなオイ】


ドン!


戦後復興妖精【んなの当たるか陽炎ちゃん!】


陽炎ちゃん《チートプレイヤーはBANですわ》


ドオオン!


戦後復興妖精【……?】


戦後復興妖精(……あ、なん、)


陽炎「女神使ったわね。仕留め損ねたけど再生仕切る前に……」


戦後復興妖精(ちくしょう、あの女!)


戦後復興妖精(危ねえ、ハピネスガン使ってなきゃ死んでた……)


戦後復興妖精(いや、そんなことより)


戦後復興妖精【今、砲撃に当たるより先に……】


ドンドン!


戦後復興妖精【あ、やべ死ぬ】


戦後復興妖精(これ、キリングスキルか……!)



ザパン


神通「………ふう」


戦後復興妖精【ハア、神通!?】


ズバン



* 観戦ルーム


瑞鶴「やっぱりあいつは大人しくしていただけで強かったか」


陽炎「さっすが。私の憧れなだけはあるわ」


陽炎「卯月、最強を自負する駆逐艦としてどうよ」


卯月「あれはうーちゃんでも真似できねー……そもそもなにしてるかわかんないぴょん」


陽炎「金剛さんは見えました?」


金剛「対艦兵士の『キリングスキル』デース……」


瑞鶴「キリングスキル? なにそれ有名なの?」


金剛「艦兵士は強化された人間に過ぎないので、錯覚の類を利用した初見殺しデース。扶桑を仕留めたのもこれカナ」


金剛「要は艦兵士殺しの技術デース。起源は最初期の頃ですネ。ほら、艦兵士の艤装って全て政府のもとにあった訳じゃなく、始まりの艤装は発見されたものを政府が回収しました。海外ではその艤装がテロリストの手に渡ったケースがありマース」


金剛「ま、艦兵士を相手に人間だけで鎮圧する場合を想定して発達した分野ですネ」


陽炎・瑞鶴「怖っ!」


卯月「金剛、具体的になにしたか教えてぴょん」


金剛「マジシャンがよく使う種デース。人間の視覚は見えている範囲に対して認識範囲が少ないネ。500円玉の裏の文字でやれば分かりやすいケド……例え考え中……」


金剛「同時に飛んできたドッジボールとビー玉なら人間はドッジボールは認識しても小さいビー玉は意識的に視覚に入っていながら気づかなくなる」


金剛「それを」


金剛「陽炎フィット砲の『12.7cm連装砲D型改二』と『7.7mm機銃×2』で」


卯月「す、すげー! 師匠と仰ぎたいほどのスナイパーだぴょん!」キラキラ


陽炎「卯月のこの反応も珍しいわね」


瑞鶴「そうねえ。うーちゃんのほうがー、とかいつもならいうのに。そういう次元のやつってことか……」


卯月「うーちゃんほどになるとこいつのすごさの程が分かるぴょん!」


金剛「アブーと同次元とかいう噂は嘘じゃなさそうデス。機銃に関しては阿武隈より上。棒立ちだったとはいえ1000メートル離れた場所から脳損傷できる一撃を相手の急所に当ててマスカラ」


金剛「精度と空間把握能力、そして電探情報から艤装まとった人体構図の予想が神憑り的……そんな針の穴を通すような攻撃、絶対に何度も上手くできる技じゃないネ。でも」


金剛「ここぞという時に当ててきた不思議……雪風の影響なのか、それとも偶然なのかは知りませんが、この演習バトルで活きるスキル」


金剛「卯月、同じ事できマスカ?」


卯月「悔しいけど何回やっても無理だと思うぴょん……恐らくアブーにも無理な芸当」


瑞鶴「ちょっと待って。人体の急所を機銃で突ける化物ならおちびやわるさめのトランスタイプも、装甲耐久関係なく沈められるってことじゃないの?」


金剛「うーん、トランスタイプは一体化していて通常の急所が急所にならないこともありますが、あれば瑞鶴のいうように沈められマース」


金剛「とにかく前世代陽炎の実力はその次元ということデース!」


金剛(が、体術が下手、やはりブランクが命取りデスネ。今の様子だと懐に潜り込まれたら即殺されそう)


金剛(神通は戦後復興妖精に狙われているから、さばき切れずにそろそろ沈むかな。でも、陽炎ちゃんのほうはみるみると動きも取り戻してマス……)





青葉「准将、お待たせしました! 例の相談の件です!」


大淀「運ぶの大変でした……」



金剛「うん?」



4



黒潮「陽炎、後ろ!」


陽炎ちゃん「……あん?」


黒潮「ああもう! 後でなんか奢れや!」


ドオオン!


陽炎ちゃん「あ、黒潮やられちまった」


戦後復興妖精【庇いやがったか、次不知火!】


長門「ふん!」バキッ


戦後復興妖精【くぅ……!】


不知火「瞬きする度に位置が瞬間移動……」


陽炎ちゃん「現海界でしょ……長門さんよく対応出来ましたね」


長門「いや、防いだが当たりどころが悪くて右手首折れたぞ……カタストロフが相手の不幸だろ? 自分にかける幸運、ハピネスガンか? いずれにしても戦艦の馬力なきゃ死んでいたかもな……」


不知火「戦後復興妖精は右目、左腕を損傷しているのに、近接で繰るとは根性ありますね。しかし、満身創痍ですかね?」


戦後復興妖精【はあっ……くそ、陽炎ちゃん雪風も大概だが、神通てめえふざけんな……!】


戦後復興妖精【リタイアしても拠点にあった艤装反応、てっきり高速修復材用に取ってあるだけかと思ったら本体も死んでねえのかよ!】


戦後復興妖精【ガングートと卯月のやつに氷点下の海に沈められたかと思いきや、何時間もマイナス温度の海でただ潜ってやり過ごしてただけか……?】


戦後復興妖精【大破状態で】


不知火・陽炎ちゃん「」


神通「よいしょ。長門さん、失礼」


長門「凍傷か?皮膚が壊死起こしてないか……」


神通「建造状態といえども酷い凍傷なのでしょうね。むしろ身体が焼けただれそうなほど熱いです」


陽炎ちゃん「傷痕、えっぐい……」


戦後復興妖精【しぶといのは知ってたけど、艦娘でも死んで然りだぞ、大破で、いや、お前そういうやつだったな】


神通「殺さなきゃ死にませんよ、私」


戦後復興妖精【疑似ロスト空間呼応してんな、そのゴキブリみてえな執念に。このゾンビ女!】


神通「といっても艤装がないのでここで長門さんと不知火さんの護衛しか出来ませんね……」


陽炎ちゃん「さっきの瞬間移動に対応してもらえるだけで助かります! 現海界ギミックで飛んできたらズバンとお願いします」


陽炎ちゃん「長門さんは不知火と一緒にフォローしてくれません?」


長門「ん、了解だ」


不知火「ヒーロさん」ヌイッ


陽炎ちゃん「あんたのその期待に応えて、沈めてくるわよ」


不知火「お願いします」キラキラ



5


戦後復興妖精「よし、長門かばって神通が被弾……頭飛ばされたらもう起き上がってこねえだろ)


戦後復興妖精(……くっそ、陽炎ちゃんが想像越えてら。水柱を抜けてくるってことは体感時間差砲撃も必中攻撃も確実に処理されていやがる……)


戦後復興妖精(速度はともかく航行技術が)


戦後復興妖精(航行速度、遅くしたり速くしたり。あのスムーズな旋回は錨で重心取ってんのか……秋津洲流にアレンジ加えたアップダウン航行?)


戦後復興妖精(いやアレは――――)


戦後復興妖精【机上の空論かと思ってたわ、その航行術はよオ!】


陽炎ちゃん「昔取った杵柄であんたを獲れるとは思ってないから油断はしないけどね……」



* 観戦ルーム



漣「なんだ陽炎ちゃんのあの航行!?」


漣「初速がめちゃ速いのに、重心がぶれずにぴたっと止まった! なんか動きが私達と明らかになんか違くないですかね!?」


潮・朧・菊月・長月・弥生「……」


曙「魅入ってるわね……かくいう私もだけど」


弥生「無理ないよ……すごいもん。同じ駆逐には分かるはず……」


菊月「あれは本で読んだことあるぞ……」


漣「活字とか漣は無理っす。なんかの技術なの?」


菊月「陽炎型ってのは朝潮型の欠点克服を目指して設計されただろ。例えば艦尾の船底部分に工夫して高速航行時の速力向上とかそういうのは艤装にも反映されているが」


菊月「私達はあくまで艤装を装備した人間が海を往くんだ。当然、あのサイズの軍艦とは戦い方の違いが出てくる。軍艦ならびくともしない風で転覆とかよくあるしな。逆にいえば利点もある。人間一人の技術的な要素で色々と工夫の余地が出てくるわけだからな」


菊月「加減速……アップダウン航行くらいは知ってるだろ?」


漣「あー、アカデミーの航行術の授業でならったね。速度を落としたりあげたりする基本」


漣「航行が上手い人ほど滑らかに動けるようになるから、後で覚えるべき技術とかなんとか」


菊月「うむ。艤装種への理解も大事だが、ボイラー、錨鎖やスクリュー、波風、それに身体の重心、個人の体重やら様々な影響を調節するとな」


菊月「最高速に近い航行スタートを切れたり、逆にガクン、ピタッて感じで止まれたりもする、らしい。昔にやったことあるんだが、転覆したり、身体が損傷したりした……」


菊月「まあ、らしいというのは主にピタッと止まるのが最高難易度技術らしく、理論的には可能でも実際に出来たやつはいないからだな……」


長月「初速から一定速度を保ってる。止まり方は本当にピタッて感じで動き出したらまた同じ速度でスムーズに動いてるぞ……」


菊月「その航行術はなんだっけな……」


弥生「弥生、知ってます……」


弥生「正式には名前はないですが、パソコンで理論上の動きをモデリングしたところ、原理は違うのにトンボの動き方と似てたと……」


漣「確かにいわれてみれば止まり方の感じはトンボみたいかも……」


菊月「ちなみに魚雷と砲撃に対してあれ以上の回避術はないんだそ」


曙「というか潮と朧ってあの陽炎の一年後の後輩じゃなかった?」


潮「え、まあ、そうだね。強いっていうより、上手いって印象だった。アカデミーの時に長門さん中破させていたしかなり出来るのは知ってたけど……」


潮「あそこまでじゃなかった。同じ鎮守府の人に聞くと私の印象よりもかなり上の評価で、よく実力が分かんない人だったね……」


朧「正直トランスタイプとか戦後復興妖精とか海の傷痕とかとは感想が違う。同じ駆逐艤装、正攻法でここまで強いって単純に」


朧「憧れるよね」


漣「技術的なことは分かったけどさ」


漣「トンボみたいなあの動き方ださくね?」


一同(確かに……)



陽炎ちゃん《獲っ――――た!》


陽炎ちゃん《私の仲間の屍を弄んだ罪を精算しろ!》


ドオオン!




朧「観戦ルーム……シーンっとなったわね」


潮「長門さん達の支援があるとはいえ、本当に戦後復興妖精を沈めちゃったし……」


漣「パねえ」


陽炎・黒潮「うしッ!」


陽炎「さすが私の地元商店街のヒーロー! 惚れるわね!」


黒潮「やっぱあんたかっこええなあ! うちの仇取ってくれたわ!」


曙「二人、興奮してるのがいたわ」


漣「つーか准将さん!」


提督「……はい?」


漣「あれだけ強いなら最後の海で仕官妖精さんに明石艤装2つ用意してもらえたんだから、陽炎艤装も2つ用意して呼べば良かったじゃん!?」


提督「彼女は確かに強いですね。でも、致命的に体力がないですから、呼びませんよ。あの最後の海での指示は全員生還だったので」


提督「今はこの戦場だからこその輝きです」



【15ワ●:全面対決】



ドオオン!


デカブリスト「やっぱりこれみよがしな資材は罠か。ほいほい行ってたら死んでいた」


デカブリスト「兵士の姿もないね」


北方提督「想定していたパターンだし皆に連絡入れておかなきゃね」


北方提督《北方提督だよ。天津風、パターンはBで確定だ》


天津風《了解! 陽炎ちゃんが出て来て大金星をあげてくれた!》


北方提督《まあ戦後復興妖精は生きてると仮定しておくけど、海色の想、供給ラインは断ったね》



2



中枢棲姫「戻らなくてよろしいのですか?」


北方提督「なぜだい。私はここであなたを倒しておこうと思うよ?」


中枢棲姫「あなたの全軍がこちらの全軍に急襲されておりますが、大丈夫ですか」


北方提督「……!」


デカブリスト「ふう、欲に目が眩んだ目的立てていたら全滅していたか。だが、生憎と想定内でね」


北方提督「本拠地は空だ。こっそりみんな地殻の島に移動させておいたよ。まあ、ここに近付いただけで索的されたのならばれるし、そのくらいなら臨機応変に対応して支障は出ないだろうけど」


北方提督「受けて立つ。だから資材は可能な限り破壊しておきたかったんだ」


中枢棲姫「なるほど、もとより資材奪取は陽動で狙いは全面対決。あなたは私を倒すのが狙いと」


中枢棲姫「……引き返したほうがいいと思うんですけどね。戦後復興妖精に不備が生じても保険をかけておいて」


中枢棲姫「レッちゃんネッちゃんも攻めさせていますし」


北方提督「それで勝てると見込んだなら……君も意外と甘いな」


北方提督「ロスト空間を漂う想に成長はない。しかし、今を生きる人間というのは成長するものだよ。子供なんか特にね」


中枢棲姫「……、……」


北方提督「真理だ。絶対は」


北方提督「今を生きる命の可能性によって打ち破られる運命さ。いつだって精神を共産主義に組み込めている集団のほうが強い。最後の海で電と一体化してあなたはそれを知ったのではないのかな」


北方提督「ま、瑞穂ちゃんとはしゃべったんだろう? ならば後は任せてくれ」


中枢棲姫(意外と兵士……戦士に近いか)


中枢棲姫(いやはや、どうも手強いですねこれ)


デカブリスト「……」


北方提督「うん? なにかいいたいことでも?」


デカブリスト「中枢棲姫。私は君をあくまで」


デカブリスト「人間ではなく深海棲艦」


デカブリスト「だと思ってる」


中枢棲姫「言葉が足りないですね。人間に近い深海棲艦だと思っている、でしょう?」


デカブリスト「別に深海棲艦であることを止めた訳ではあるまい。あくまで深海棲艦だけど、人間と同じ心があり、人間と共存可能であることを認めて欲しい、という思想だと私は考えたからだ」


中枢棲姫「ですね。それだと輪に入れて欲しいという印象を受けますが、正確な解釈ではあります」


デカブリスト「深海棲艦らしく戦ってもいいよ?」


デカブリスト「私はそれでもあなたを人間の心を持った深海棲艦という人種だとしか思わないから」


中枢棲姫「……ふふ、ありがたい」


中枢棲姫「ご配慮、痛み入ります」


北方提督「そろそろ全面対決をしている頃だろう。私達も決着をつけよう」


中枢棲姫「でしょうね……少し予想外もありますが、ここからひっくり返す策を准将ならば用意するでしょう。あの人はそういう人だ。まあ、結果はこちらが不利でしょう」


中枢棲姫「なので提案を用意しておいたのです」


北方提督「肩透かし……」


中枢棲姫「あなたと私は戦力として上等です。この『全面対決』を区切りのいいところで切り上げて残りの戦力で一時休戦して」


中枢棲姫「戦後復興妖精を」


中枢棲姫「リタイアさせに行きませんか」



3



蒼龍「自信なくすなあ、向こうはもう空母赤城さんだけでしょ?」


飛龍「んー、いくら赤城さん相手でも私達と翔鶴さんで勝てないはずがないと思うけど。秋津洲も参加してくれているし」


翔鶴「赤城さんのスロットと発艦数が合いません」


飛龍「……ん?」


秋津洲「大艇ちゃんから連絡来たかも! その種も判明!」


蒼龍「それどこで拾ったの?」


秋津洲「妖精可視スコープ、時雨ちゃんが拾ったからってくれたかも! 大艇ちゃんとの意思疎通に大活躍!」


飛龍「あー、日向沈めた後で回収したのか。頼りになるねえ。それで連絡の内容は?」


秋津洲「明石さんが妖精さんと意思疎通、資材を使って赤城さんの艤装に艦載機の補充をしているから、資材が切れるまで飛んでくるよ!」


飛龍「あっちゃー……」


蒼龍「隼鷹にもそろそろ出てもらう?」


隼鷹「ええ、私もやらなきゃダメかあ……あっ、式神に酒がこぼれちまったよ……」


翔鶴(いや……資材は略奪されていないはず。中枢棲姫さんからも北方提督が動向からして海色の想は使えない、といっていたし、彼女がいうからにはこれは盲目的に信じてもいい点です、かね。なら、今更全面攻勢を仕掛けられるまでの資材をどこから調達したの、かしら?)


翔鶴「ま、まさか……」


翔鶴「いや、うん、そんな馬鹿げた真似はないですないです」



4



霧島「三日月、望月、島風、天津風、瑞穂、鹿島、明石さん、わるさめ、暁、雷、響、赤城です!」


伊勢「勝敗が決まる戦いだね!」


筑摩《……あの、空母が制空権取れないのもそうですが、実力的にもこちらが優位で大破させているのに、おかしくないですか?》


筑摩《天津風ちゃんを大破させたのですが、島風ちゃんを護衛につけて撤退して、すぐにまた出撃してきてますよ……?》


利根《女神復活も確認したぞ!?》


阿武隈「まさか――――」


阿武隈「スマホのほうから資材を調達してるとしか思えません!」


霧島「明石さんショップ、ですか? いやいやまさか」


伊勢「あれ確か決戦前に単価はね上がって買えないようにされてたよね? 各アイテム……2000万以上だよ?」


阿武隈「やります! 准将、あの提督さんなら心中上等で絶対にやりますよう! どこかから資金を調達してぶっ込んでいるんですよお!」


阿武隈「あの子が怪しい! ちょっと行ってきます!」






望月「うわあああ! 超人阿武隈に狙われた!」


ドオオン!


阿武隈「知ってるんですよ! 望月ちゃんが提督と通信しているでしょ! この端末!? 答えないと痛いですよ!」


望月「うん、それ、それだよ……!」


阿武隈「ありがとう!」ジャキン


ガガガガガ!


望月「」






阿武隈《提督! これで通信できるんでしょ!?》


提督《はい、何でしょう?》


阿武隈《あたし怒ってますよ! こんなやり方!》


提督《自分の全財産投げましたね。ああ、それと電さんですがね、あくまで軍がお願いして協力してもらっている立場だったんですよ。西方を単艦で奪取した時の報酬、目ん玉飛び出ます。加えて青葉さんと事前に話をつけて青葉チャンネルの多大な儲けもですねえ》


阿武隈《電さんなら確かにあなたの指示で出しそうですねえ!? 札束で殴り倒す作戦とか最っ悪です! みんなで頑張ってきたのに、もう一気にただのクソゲーと化したじゃないですかあ!》


提督《ええ、この周りから向けられた久々の軽蔑の視線を阿武隈さんにもお見せしたいものです》


提督《あなたもよくご存知かと》


提督《電さんも自分も人生を『艦隊これくしょん』に投げ売った……》


提督《『廃課金プレイヤー』でして》


阿武隈《んんッ! 海色の想(金)ッ!》


提督《準備時間が少ないイベントだったので》


提督《資材を金で買う選択肢をしたまで》


提督《軍艦の夢見、あなたが金の力を知らないわけではないはずです。金で買えないもののほうが少ないんですよ。今回は勝利も買えましたね》


提督《ふふ、阿武隈さんの敗因は》


提督《自分を敵に回したことですかね?》


阿武隈「こ、」


阿武隈「このおお――――!!」




提督《理屈であなたが折れないのは知ってます》






ドオオオン!



レ級・ネ級「イエスッ!」



阿武隈「あ……レッちゃんさんネッちゃんさん!」


レ級「僕らはチューキさんのほうだぞー!」


阿武隈「望みは――――」


阿武隈「あります!」


利根《もう退けないから全軍とことん突撃じゃな!》



阿武隈《イエスッ! 実力ではこっちが上回っています! だから全軍進撃ですね!》


阿武隈《打ち破ってやりまああああす!》


5



瑞穂「アアアア!? レッちゃんとネッちゃんそっちにつくの!?」


明石さん「レッちゃんさんとネッちゃんさんは無理無理ィ! 明石さん交戦直後に消し炭ですよ!」


赤城「こちらの海色の想(金)でも勢いで押されてますか……レッちゃんさんは空も大層お強い……」


わるさめ《任せろやい! レッちゃんは私が止めるぜ!》


明石さん「わるさめさんがめちゃくちゃ心強い!」


赤城「明石さん、突破されたら一目散にお逃げください。あなたにはまだ遂行しなければならない任務があるのでしょう?」


明石さん「そうですが、妖精可視才のある私が引けば赤城さんの補充効率や艦載機の動きが悪くなって一気に空を制圧されますのでギリギリまでは……」


赤城(見くびらないでください、といいたいところですが、敵は強いゆえ、自惚れ……皆さんに失礼ですかね)


赤城「力の限り持たせます」



6



わるさめ「久しぶりだなネッちゃんレッちゃん!」


ネ級「ネッちゃん達と会えなくて寂しかった?」


わるさめ「ごめんあんまり! だって思い出すだけで元気になれる最高の思い出だからね!」


レ級「本望本望、そりゃ最高だな!」


ネ級「うん。なんかスイキよりわるさめのほうが成長していると思います……!」


わるさめ「スイキちゃん面倒な性格してっから」


ネ級「ガキの使いで来ました……」


わるさめ「だろうねえ。起こしてごめんね?」


レ級「ったく。お前らが寝てンだよ」


レ級「それで僕らとやる気? お前テンション災いして最弱のスイキにも勝てたことねえじゃん!」


わるさめ「テンション最高潮だぜ! あの頃はくだらねー理由でケンカしまくってその度に散々ボコられてきたわるさめちゃんですが!」


わるさめ「今日は勝つ! 遊んでやら!」


レ級「日が暮れても帰らない悪い子はおうちに強制送還してやるよ!」


わるさめ「待った。スイキちゃんのほうに会わなくていいのかな。それ目的じゃないのか?」


レ級「お前を僕が抑えてネッちゃん行かせるからそれでいーよ。スイキには僕やチューキさんより、ネッちゃんのがいい。僕は優しくするだなんて得意じゃないし、好きじゃないしな」


レ級「だから気遣いご無用!」


わるさめ「あ、あのレッちゃんが人に優しい気を回せるように」ホロリ


レ級「飛び魚発艦! 火の海にしてやれ!」


ドオオオン!


わるさめ「不意討ちギャアアアア――――!」



7



瑞穂「火の海! わるさめもレッちゃんも敵味方関係なく被害与えてるし、あそこの辺り阿鼻叫喚じゃないの!」


赤城「資材作戦は実力差を埋めるには足りませんでしたか……空は数分で押し込まれ、伊勢さんの砲撃範囲に収まりますかね……」


瑞穂「うう、やっぱりチューキ相手だとあの幽霊ゾンビ提督の戦略でも確実に上回ることはできないか……」


ドオオン!


赤城「っ、仕留め損ね」


ドオオオオン!


ネ級「ふう……装甲砕けたけどなんとか仕留められました」


瑞穂「8inch三連装砲……ネッちゃんちょっと待ちなさいよオ!」


瑞穂「私の目的はペンダントにあんたらの想を入れることでさ、どっちかっていうと私のほうについて協力してくれてもいいんじゃないかしら!?」


瑞穂「ほらほら、あんたもよく家族皆でー、とかっていってたじゃない! 理想的な形じゃないけどさ、ネッちゃんなら賛成でしょ!」


瑞穂「対話しろ! 物騒なもん降ろしてよ!」


ネ級「レッちゃんいわく『なんで僕らがスイキのお守りしなきゃならないの。ダッセー大人』とのことです……!」


瑞穂「ああん!?」


ネ級「スイキは、こっちのほうにいたかったと見えます」


瑞穂「その通りよ! なんで私が瑞穂ちゃんに戻ってあの鎮守府にたどり着くのよって! 最後あの慰霊碑で此方の誕生日を祝って消えた時、これ以上ない終わりだった! 思い残すことなんてなにもなかったのに、なんでまた……!」


ネ級「ほんとだよ……今のネッちゃん達の身体は艦娘の損傷分離した肉を資材にした……でも、あの海の皆なら笑って許してくれる……」


ネ級「ネッちゃん達がスイキにとってどういう存在か知っているから。要はスイキがそんな風にだだこねるの、バレてる」


瑞穂「……、……」


ネ級「スイキ、運が悪い……1人だけ戦後復興妖精に捕まって景品にされて人間として復活した。1代目も1人だけ海の傷痕に捕まって殺されてた。深海棲艦の水母棲姫だったけど、向こうで生きてちゃ行けないってみんなから怒られた?」


瑞穂「いや、怒られてないし、むしろ優しくされたし、気を遣われたけども……」


ネ級「それが人類の敵、深海棲艦だったネッちゃん達が心中を決意して、泣いて怒って喜んで殺し合って死にモノ狂いで勝ち取ったモノだって分かりますか……?」


ネ級「それをスイキは要らないだなんていう」


瑞穂「――――!」


ネ級「運が悪いのは、仕方ない」


ネ級「でも、だからといって、諦めるのは間違い」


ネ級「どうせいつか死ぬ。スイキはもともとそっちの人間、電達と過ごした記憶はあるでしょう。せめて死ぬまで生きるべし……!」


ネ級「フレデリカのやつもそれを望んでた」


瑞穂「フレデリカさんに会った、の……?」


ネ級「会ったとは違う。聞こえた」


ネ級「スイキは家族で、瑞穂はフレデリカの味方」


ネ級「フレデリカは此方に仕留められた時すでに後悔してる。瑞穂の人生をぶち壊してしまったこと。だから、スイキの好きな人達はみんな、スイキがそっちで幸せになることを望んでる。わるさめもいるから大丈夫って」


ネ級「なのに死にたがる。自分が楽なほうに流れるだけの性格、変わらない」


ネ級「ネッちゃんもおこですよ……!」


ネ級「その性根、叩き直すために参上したようなもんです」


ジャキン


瑞穂「上等じゃないの……」


瑞穂「私はガチ深海棲艦やってたから電やわるさめより遥かに」


瑞穂「社会不適合者なのよ!」


瑞穂「殺してやるわ」


瑞穂「そんでシカトしやがったリコリスとセンキのやつにも伝えときなさい!」


瑞穂「『テメエら人間やったことねえから知らねえだろうけど、面白い土産話なんか期待しても無駄』ってさ!」


ジャキン


ネ級「ネッちゃんに勝てたら伝えときます」



【16ワ●:全面対決 2】



暁「う、痛いぃ……」


雷「お腹と目に破片が食い込んでいるわね……」


雷「暁、もう指定海域から出てリタイアしなさい」


暁「雷だって大破じゃない! それに私はまだリタイアしないから! まだ誰も倒せてないし、諦めたくないのよっ!」


スィィー


暁「大物、砲撃距離に捉えた……!」


伊勢「む、暁……」ジャキン


伊勢「前の演習時のように躊躇いはしないよ!」


暁「私のほうが速いし今度は負けないっ!」


ドオオン!


暁「あ、外しちゃ――――」


伊勢「損傷が祟ったね! もら――――」




………………………


………………………


………………………



暁「ふぇ?」


暁「砲撃が飛んでこない……あ」


暁(今の内に装填しなきゃ……)ジャキン




伊勢「ちょ、なにが起きてるの。うるさっ!」



――――ワン!



暁「え」


暁「あ、これ――――!」


ワンワンワンワオオオーン!


暁「苺みるくさんの声だあ!」


暁「雷い! ヒーローが私のピンチの時に駆けつけてくれたよお!」


雷「さすが私達の弟ね! このチャンスを無駄には出来ないわ!」


暁「……うん! 伊勢さん覚悟してよね!」


ドオオオン!


伊勢「そ、そんなあ……!」


チャプン




ドンドン!

ドオオオン!


暁・雷「――――」




筑摩「……感動の再会中、すみませんが」


利根「戦いの最中、恨みっこなしじゃ」



利根・筑摩(……でもさすがに後で謝ろう)



2



島風「な、なにあの流星艦載機!」


島風「動き方がなんか変だ!? 連装砲ちゃん、がんばって撃ち墜とせ!」


ガガガガガ!


島風「よし、4機も墜とした!」


天津風「きゃ、私の横を抜けていった! なぜか的外れな攻撃してたけど、もしかして妖精可視才でなにか巧妙な作戦……?」


天津風「うん? この、臭い……」クンクン


天津風「お酒……酒気帯び運転?」


島風・天津風「………あっ」



天津風《ふざけてんじゃないわよ隼鷹オオオオオオオオッ!!》


ドンドンドンドン!


隼鷹《お、怒るなよう。式神にお酒こぼしたら妖精さんが酔っ払ちまったんだ!》


三日月「あ、被弾! この艦載機、狙いがつけにくいです!」


天津風《さらっと結果オーライしてんじゃないわよ隼鷹オオオオオオオオ!》


ドンドン!ドンドン!


隼鷹《うわああああああああ!》


島風「あ、クリティカル……天津風ちゃん、ツッコミながら戦うほうが強い!」



3



三日月「きゃあ!」


三日月(ひ、被弾大破……霧島さん)


三日月《前線はも、もう持ちません……! 空を取られて対空で精一杯な上、霧島さん、利根さん、筑摩さん、阿武隈さん!》


三日月《こちらの残存前線勢力は島風さん天津風さん響さんです……! 押し負けて、撤退する隙もくれません……》


天津風《三日月! 空!》


三日月「あ、艦爆――――」


ドオオン!


三日月「……あれ? 抱えられてる?」


江風《プラス江風と木曾さんもよろしく!》


三日月「か、江風さん、助かりました!」


江風「おう」


江風《北上さんと大井さんはなンとか仕留めたよ! 木曾さんも時期に到着するが、私は中破で木曾さんは大破だかンな!》


江風《資材あって明石さんいるンだろ? 大破の損傷艦は一時撤退すれば?》


瑞穂《馬江風! 資材なんてすでにないわよ! ネッちゃんに襲撃受けて消し飛んだ! レッちゃんとネッちゃんは私とわるさめでやるから他のやつぶち殺しておいてよね!》


江風《了解。背水の陣ってやつだな。燃えてきた!》


江風「で、三日月、向こうで誰が一番厄介だ?」


三日月「阿武隈さん」


江風「よっしゃ、任せろ。沈めて来る」


江風《江風は阿武隈に行くからな!》


木曾《ああ、俺も行くわ。もう魚雷1発分しかねえし、強いやつのが良いだろうしな》


三日月(甲の艦隊、た、頼もしいですね……)



4



ドンドン!


阿武隈「江風さん!」ジャキン


江風「もらった!」


阿武隈「なんの! 避けてやります!」ジャキン


ドンドン!ドンドン!


江風「ああもう、それ避けるかよ……!」チャキ


阿武隈「こちらの台詞ですよ! 軍刀でも負けませんよあたしは!」


キンキンキン


江風(こいつマジで強え……弾かれ――――)


阿武隈「もらいました!」


ズバン


阿武隈「――――首、浅い……」


江風「オラア!」


阿武隈「痛、半分斬られた首で頭突きですかあ! 甲の艦隊はそういう無茶苦茶なところ……!」


ガシッ


江風「闇――連中にいわ――たく、ね……」


阿武隈「足、ひっかけられ……」


阿武隈「く、これは魚、雷――――」


木曾「もらった!」


阿武隈「避けられませんが、江風さんでダメコンです」


グイッ


江風(馬力で負け――――)


ドオオオン!





阿武隈「中破……」


木曾「まだまだア!」


ドガッ


阿武隈「ぎゃんっ!」


木曾「髪は短くしとけ。つかみやすいんだよ!」


阿武隈「こ、このお……」ジャキン


阿武隈「沈め!」



【17ワ●:一心同体!】



蒼龍「私の援護で仕留められない……!」


蒼龍「本当にお強いですね、響さん!」


響「しぶとさには自信があるが……ちょっと手加減してくれ」


利根《蒼龍! 後退して飛龍達と合流しろ! 瑞雲がそっちに新たな敵影を捉えた! 狙われておるぞ!》


蒼龍「え――――」


ズバン




翔鶴「――――く」


キンキン


翔鶴「ああっ」


ズバン


飛龍「なめるな!」ジャキン


ガガガガガ!


飛龍(そんな、避けられ――――)




霧島「この反応は……」


利根・筑摩「!」ジャキン


秋津洲「うあああ! あたしはバラされたくないい……」ジャキン


秋津洲「かもおおおお!」ドンドン


秋津洲「よし、刀を弾いた!」


利根・筑摩・霧島「獲った!」


ドンドンドンドン!


秋津洲「うそ、刀を手から弾いて遠くに飛ばしたのに」


利根「嘘じゃろ………」


霧島「これはちょっと見ただけで分かりますね……」


筑摩「響さんもいますし、年貢の納め時……」




阿武隈「――――!」


キンキンキン


阿武隈「来ましたか」


阿武隈「神風さん!」


神風「舞い戻ってきました」


神風「今度こそ……!」


キンキン


阿武隈「!?」


阿武隈(な、なにこれ……速い……振る速度とかじゃなくて、刀が)


阿武隈(手足、生きているみたいな感じ?)


阿武隈(刀に九十九神でも宿っているみたいな……?)


キンキン


阿武隈「なんですかそれえ! 刀の柄が、刃が持ち主の意を汲んで先に動作を始めてる以心伝心みたいな……!」


阿武隈(前の神風刀とは形状が違う……!)


神風「勝つ! 皆のために、司令補佐のために、です!」


神風「廃同士で重なる目的があったから」


神風「『刀と私』は『あなたとわたし』へとなれました!」


阿武隈・神風「負けません!」


キンキンキン


神風(……本当に強い人だ。ここに来て更に強くなってる)


キンッ


阿武隈「馬力の違いですね。手から刀を弾き飛ばした……トドメです!」チャキ


神風「とらんす!」


阿武隈「へ?」


阿武隈(弾いた刀が消えて袈裟斬りの格好で神風さんの手元に現れた……?)


阿武隈(この刀から感じる雰囲気は……よく知ってる……知ってます!)


阿武隈「身体を丸ごと入れ換える技を利用しましたね!」


阿武隈「信じられません……!」


阿武隈「深海棲艦のように動く艤装の反転建造で」


阿武隈「艤装ではなく」


阿武隈「軍刀のType:Trance!」














阿武隈「刀に電さんを宿すだなんて!」










電「魔のコンバート!」


電・神風「神風刀改めプラズマソードなのです!」



阿武隈「一心同体いぃ!」


キンキンキン


阿武隈「でも、その刀を壊せば電さんもリタイアに!」ジャキン


ズバン


神風「その動きは読めました」


電「やはり艤装を動かす際は阿武隈さんでも意識が少しは逸れますね」


阿武隈「あ、しまっ……た」


キンッ


阿武隈「弾かれ……」


阿武隈「……うん」


阿武隈「あたしの負けですねっ!」



神風「それで足りないピースとは……」


阿武隈「提督さんの言葉ですね。あの人からいわれたこと、何気ないことでも想像を越えた意味があるので」


電「ま、心配ないのです。私がいますので」


阿武隈「ですね。余計なお世話でしたね!」


神風「阿武隈さん」


神風「あなたの言葉のお陰でまた前に進めました!」


神風「ご指導、感謝致します!」






響・ヴェールヌイ「神風さん、今のはなんだい」


神風「軍刀をたいぷとらんすにしました」


電「要は妖精工作施設でこいつと一体化したのです。この通り、反転建造の際の肉体改造の深海棲艦仕様のしゃべる軍刀なのです」


ヴェールヌイ「ハラショー、さきほどの手元から弾かれた時は即座にアライズして手元に戻したということか」


響「でも確かそれって司令官があの海で撃沈した電をロスト空間で呼び寄せたのと同じだよね? それって難しいことなんじゃないのかい?」


神風「それほど仲良くなったということです」


神風「お互いの心がくっついて」


電「まあ神風の司令官さんの忠誠心」


電「私と同等だとは分かりましたから」


神風・電「目的は同じ」



* 観戦ルーム



丙少将「」


乙中将「なるほど、トランスタイプを利用しての相互理解、か」


提督「その発想はなかった」


阿武隈「……」コツコツ


提督「あ、お疲れ様でし、」


阿武隈「海色の想(金)は今までで一番最っ低の作戦です!」


提督「勝つための策に最低もなにもなく」


阿武隈「く、最近忘れかけてたけど、こういう人だった……」


瑞鶴「アブー、仕方ないとはいえドンマイ」


阿武隈「……はい」


卯月「アブー、司令官はな、飛龍蒼龍利根筑摩、あの翔鶴から平手打ちされてたぴょんw」


青葉「面白かったので全部青葉がカメラで撮ってます!」


卯月「ナイス」


【18ワ●:戦後想題編:メモリーズ 今を生きる私】



戦後復興妖精【ここ、どこの辺りだ……】


チビどもを待機させてなかったとはいえ想力工作補助施設で離脱してなきゃ、完全に海に着底していた。正攻法ならば絶対に勝てなかった。向こうが強いのも確かにあるが、私が弱いのも大きい。


戦後復興妖精【弱く、なったのか……?】


よく分からない。いずれにしろ想定とは大きく違う今がある。見積もった最終世代の実力が大きく異なっていた。幸運値をあげるハピネスガン、不幸を与えるカタストロフガン、そしてご都合主義な偶然力。


この海では素人ではなく兵士としての実力があれば、残る要素では『運』が最も大事だというのが持論だったが、全て突破される始末だ。別に今を生きる力なら私も持ってるはずだ。


誰よりも後悔してきたのだから。


戦後復興妖精【大鳳達と当局は省いて】


戦後復興妖精【中枢棲姫、デカブリスト、ヴェールヌイ、明石、秋津洲、島風、天津風、三日月、若葉、呂500、瑞穂、陽炎、わるさめ、電、神風、私】


戦後復興妖精【残り16隻】


多分、勝てねえ。この艦隊これくしょん、詰まるところ偶然に大きく左右されるいわゆる運ゲーと呼ぶべき要素がある。要はリアルと同じだ。万全を尽くし、工夫を凝らし、人事を尽くして天命を待つ、という運ゲーであり、だからこそ幸福と不幸を重ね合わせて戦った。


ことごとくを打ち破られた。ならばこうなることは私の運命だったんだろう。


まだ戦いの音は聞こえる。

歯を食い縛り海に往く。


誰の想なのかは分かんねえけど、景色が火炎に包まれた。猛烈にうねる数千度の火炎に包まれたたくさんの人間が丸焦げになり息絶えた。飛行甲板には炎に包まれた人間が芋虫のように身をよじっていた。敵襲で吹き飛んだのか、くの字に曲がった機銃に人が足をひっかけて転んだ。鎮火作業、負傷者、死体の運搬にみなが熱心だ。


あんな風には死にたくない。


続いて私の強い記憶の1つが景色に灯る。

メモリーにしなかった出会いの欠片だ。


妻と連絡が取れなくなった天涯孤独の老人の最後だった。病院のベッドの上で寝たきりの老人がいる。家族との縁が切れて、ずっと病院のベッドで独り寝たきりだ。自分の余命を知らされてなお、周りに誰もいなかった。意識はあってもろくに喋れもしない。当たり散らす相手も愚痴を溢す相手も、感謝の言葉を述べる相手もいない。ただ最後まで孤独だ。かすれた声で看護師に殺してくれ、と頼んでいた。翌朝、泣き腫らした顔で死んでたっけか。


そういう人達を見るとこんな私でも少しだけ思うんだよ。甘えるな、とか、自分のせいだろ、だなんて例え事実であっても私でもいえなかったから、人には優しくありたいってさ。同情でもなんでもいい。それは誰かにとって救いにすらなる心だ。


150年生きてうつろう時代をさまよう私には分かる。どの時代も人間の因果による最悪は戦争という形とは無関係に壮絶無比だった。


目前に広がる大海原。

かつてハワイ島を焼き尽くした深海棲艦の襲撃の生還者はこう証言したという。海が咆哮をあげて怒ったかのようだった、と。飛ぶ鳥が落ちて水平線からいきなり破壊が飛んできた、と。


私はその感覚を味わう。

空間が地震を想起させるほど破壊的に振動して、次の瞬間には衝撃音を伴って後方の景色が崩れ落ちる。確かに突然、大海原が怒りを吠えたかのような現象だった。


中枢棲姫。

深海棲艦との戦いは中枢棲姫で始まり、中枢棲姫で終わるとまで吟われた神格化した怨念、その気配を感知した。本能に身を委ねて、戦闘力を引き出しているような深海棲艦本来の惨烈を備えていた。


1、2、3からは数えるのを止めた。

ったく、最初期を生きた私からしたら信じられねえよ。あの中枢棲姫が今や家族や人間の仲間を手に入れただなんてよ。しかも人間ですら行き渡らない誰もが羨むような形の絆で、だ。海の傷痕という共通の敵があったから、の一時的なもんでもない。


この世界で唯一、他人からは価値をつけられないもんだ。


勝てねえな。最終世代くそ強えわ。

それもそうか、と私は今更ながら思った。世界を救ってる。こいつら私に出来なかったことやったんだ。


戦後復興妖精【『Intangible Energy:想力工作補助施設』】


この海に生きた独りの天才が作った切り札を出した。



2


想力工作補助施設は、

無形の想力を資源にする装備だ。


艤装が今を生きる人間の想力とし、稼働する仕組みを別の形にしている。艤装という一種の妖精形態に身にまとったモノの想力を細かく識別させ、その1つ1つを個別に抽出し、資源化する能力を持っている。


私は詳しくは知らないが、佐久間は恐らく人間が誰もが持っている『生と死』への想のみを分解可能にした。その2つの概念さえあれば、人間は枝分かれする思想の先に様々な想力を宿す。生や死は人間が生きるために自分すら殺す武器を作り出すように、表裏一体だ。


人間を生かすものとは。

人間を殺すものとは。

私達が知覚する全ての無形が資材となり、人間の頭で想像可能なことを創造し、絵に描いた餅を食う奇跡となり得る。


本来、生成が難しい女神ですらも今を生きることにより生成されてゆく自己の想力で想像可能だ。といっても、私は年齢が災いしているのか、その今を生きる力ってやつにどうも乏しいので、最終世代のやつからこっそり想力を分解して作っていた。


戦後復興妖精【……勝つために手段は選ばねえ】


このゲームのルールを逸脱したもんで沈める。

ミサイル、落雷、毒の煙幕。そら、カタストロフガンで必中化、偶然力で運命化してやる。与えた必死をその艤装とかいう玩具で防いでみろ。


気配の消失を感じる。

戦争の理不尽を乗り越えられず、沈んだやつらがいる。


海を走る。中枢棲姫、あいつだけはこの想力工作補助施設で直に干渉して、艦これ仕様の深海棲艦の防壁を剥がさなければ攻撃を無効化される。化物の皮を剥がして人にまで堕としてやる必要があった。


それに中枢棲姫以外には確殺として放った範囲攻撃の中、生き延びているやつのほうが多いという謎だ。北方のやつはヴェールヌイからデカブリストを切り離した手段が怪しい。まず中枢棲姫、デカブリストを沈めなければ予期せぬ理不尽に見舞われる羽目になる。


戦後復興妖精【……!】


右舷被弾。そんな馬鹿な!

まだ射程外にいるのに、なんでヴェルの砲撃に被弾した!?


――――最後、の、見てくれたかい?


――――ああ、凄かったよ響。


――――特大のホームランを撃ったね!


――――ヴェールヌイのお陰さ!


訳分からねえがいちゃついてんのは伝わる。


陽炎の気配を探知し、すぐに想力工作補助施設の白腕で全面を多う。一瞬の隙を突いてきやがった。


そして間髪入れずに寒気が背筋をなぞった。感覚に従って、旋回して方向転換した。想力工作補助施設の手首が跳ねた。明け透けになった司会に飛び込んで来たのは、神風!


間合いに入り込み、抜刀動作に入っている。


まだ、間に合う。砲塔を調整せずに乱射する。その反動で少しでも後方に下がった。まだ間合い、着水覚悟で身体を反らした。腹部にひやりとした冷気が通り抜け、次の瞬間には冷気は熱を伴う痛みに変わる。


戦後復興妖精【――――っ】


距離を詰めるのではなく、刀を投げてきた。直線的な起動で右胸部分、心臓を狙っての投擲だった。なめんな。そんな大きい得物、大した速度もない投擲なんて私の身体能力でどうとでもなる。


刀の柄を掴んだ。


神風は直線的な航行で距離を詰めてくる。


刀がないのに、腕を引いた。意味が分からないが、構わず私はその奪い取った刀で神風の首を狙って振り払う。


瞬間、刀が消失した。


神風・電「もらったのです!」


戦後復興妖精【――――】


胸を刃が貫いていた。

刀がこの手からロストし、神風の手にアライズした。しくじった。神風刀に電の想を入れていたのか。ともに准将を根源とした廃の想を共有するからこその芸当。


天晴れだが、心とは逆に身体のほうはこの敗北を受け入れていない。刀身を強くつかみ、体から異物を引き抜こうとあがいた。砲塔が火を吹いて神風の腹をえぐる。先に刀を離して、回避に移ったのは神風だ。


私はそのまま、ふらふら、と波に揺らいで、

誰かの砲撃が直撃して、勢いよく海底に堕ちた。


まだ、まだ。

このくらい、想定内だ。

一時撤退。


3



次に移った景色には私がいた。

こう見ているとムカつく面してんな。准将みたいに隈がある病的な瞳だ。その隣には艤装をまとった当局がいて、その正面にはごちゃごちゃとした艤装を身につけた島風がいる。あのクソガキが当局に挑んだ時の風景だろう。メインサーバー鹵獲した後にすでに見ていたもんだ。


フレデリカの違法建造技術を真似て大鳳達を艤装にトレース、満を持して挑んだが、結果は見ての通りだ。経過程想砲撃で木っ端微塵だ。妖精に対しての必殺ゆえ、妖精になってゆくトランスタイプなぞカモだ。


鼻をほじって退屈そうに観てる私がいた。矢矧はあれを嗤ってた、といっていたが、嗤ってた訳ではないな。馬鹿じゃねーの、と呆れているような顔だ。


あの頃の私は記憶を忘却していたとはいえ、もともとは私があの日に当局への復讐を誓って用意した刺客だ。今、思えばあの間抜けなクソガキをアサシンに選んだ私のミスではある。


戦後復興妖精【……】


戦後復興の役割を持って初仕事であの島風と出会って、人間が深海棲艦に押し潰されないように明確な目的を持って走り回った日々。

全て忘れてあのガキに託した。


あのガキは100年あまりの時間を――――


私が押し付けたもんのために、生きてた。

普通、そこまでするか。馬鹿だろ。


そんなあいつを目の前に映る私のように、今の私は嗤うのか?

確かに150年の時の中、私が生きていたのはその3分の1にすら満たない。だから矢矧の辛辣な言葉を受けて私は心を損傷させていたのだろうか。


よく分かんないけど、私はどうも騙しが得意のようだ。特に自分を騙すのが上手い。とても人間っぽいな、と思った。


景色が目まぐるしく走馬灯のように、移り変わる。


島風と同化した私が北方鎮守府で、ドカン、と大鳳を殴っていた景色。

鎮守府を出て空母棲姫と航空戦を繰り広げ、清霜がべそかいて泣いている。

少佐君抱えながら歌を歌ってボートを引いてハワイ島について、

そこでアフリカマイマイを食って、

サラと仲間の死体を眺めて、

ハワイ島を出て夕立の破片を握り締めた駆逐棲姫を沈めて、戦艦棲姫を倒して、オマルの島へたどり着いた。

武蔵と矢矧に会って、レイテ周辺の深海棲艦を殲滅し、私は島風を卒業し、佐久間と出会った。

ちびどもの世話をして、横須賀で仕官妖精と会った。三笠焼き食べた。日が暮れるまで自転車の練習をして、クソガキのせいで田圃に小銭落として泥にまみれる羽目になり、

ちびどもが誘拐犯に殺された。

政治に介入して、その道中、サラの殉職を知り、矢矧に正体がばれて敵討ちに連行された。

その作戦中、深海海月姫のサラと戦い、少佐君、大鳳、清霜、武蔵、矢矧は中枢棲姫に殺された。

サラが焼いた本土を歩いて、私は北方にある佐久間の家へとたどり着いて、そこで想力工作補助施設を手に入れて、

当局への反逆のため、自分を騙すために殺した。


ハハ。乾いた自嘲の声が漏れる。

輝いていた。今よりもずっと生きてた。


私の人生の輝きのピースはあの海に散らばっていた。なのに――――


戦後復興妖精【私、なにやってんだろ……】


どれだけ日々を重ねてもあの頃がしこりのように消えなかった。私はあれから今まで、一体何のために生きていたんだ。幸せってなんだよ。誰か教えてくれ。生きる意味も死ぬ意味もごっちゃになって、訳分かんなくなって、重く閉ざした口が裂けて。


あの頃は良かった、だなんていっちまう前に。


少しだけ溢れそうな涙を落とさないよう、空を仰いだその時だ。

始まりの北方の砂浜が灯った。







――――おうっ!


会えるって思ってたんだよね。


私は戦後復興妖精さんと――――


『友達契約』をしたから!










視界をひらりと舞った紙切れが顔に貼り付いた。


『私の魂を』


ああ、懐かしいな。

黄ばんでるし、くしゃくしゃになってるし。

その私の始まりの地図を広げた。


『私の魂をこの妖精さんの中に入れて! 妖精さんって死んだって話、聞いたことないし、私も妖精さんとしてこの子と同じく生きていたら死なないもんね!』


ンだよそれ。

まだ有効なのかよ。ちくしょうが。そんな紙切れで鼻を噛んでぽいっと捨ててやった。


眼の景色に入る顔は、何故かは分かんないけど、別に懐かしくもなんともなかった。私の写し鏡のような容姿だからか。服だって私と同じ出会った頃の甚平とわらじだった。


戦後復興妖精【私が死んでからなにが起きた……】


島風「当局さんが妖精工作施設で自分の肉体使ってあなたを復活させた。ああ、私の想って神風ちゃんの艤装に入ってたけど、当局さんが抜いておいてくれた。この通り、元気にしてもらえたし!」


島風「いやー、当局さんの色々なところからさ」


島風「戦後復興妖精さんの面影を感じた」


戦後復興妖精【マーマのほうに似りゃ良かったんだけどな】


向こうから大鳳が航行してきた。二人の大鳳だ。あれ、抱えられているほうが第1世代のほうの大鳳だな。一回り小さいほう。この砂浜にたどり着くと、私達のほうまで歩いてきた。


戦後復興妖精【ややこしいな。大鳳二人】


大鳳「「島風さんに至っては戦後復興妖精さん含めるとこの海に四人ですよね」」


なにハモッてんだよ。


大鳳「ああ、私が最終世代のほうです。あの、私は艤装を第1世代の大鳳さんにお譲り致します」


戦後復興妖精【……そういえばお前、あんまり戦ってねえよな】


大鳳「丙少将からこの時が来て、第1世代の大鳳さんが艤装壊れてたら私の艤装を譲ってやってくれねえかって頼まれてましたので」


大鳳「私は役目を果たしたのでリタイアします。ここ島の裏手に回れば指定海域から離脱できますからね」


大鳳は「感動の再開お邪魔してすみません」とあまり色のない表情でいうと、島の裏手へと歩いてゆく。丙少将の指示、か。よくもまあふざけた指示を出したもんだな。余計なお世話だよ。


大鳳「あなた、私達の陣営ですからね」


川内「お待たせー。事前に見つけてた人と一緒に固まってたからなんとか見つけてられた。若葉ちゃんと初霜ちゃんだっけ。あの子達が灯台みたいな役割果たしてくれて皆の想は集めてきたー……」


武蔵「同窓会かよ……紛い物のほうはそんなに私達に会いたかったのか。止めろよ、柄じゃねえだろ。気持ち悪い」


戦後復興妖精【あれお前そんなに口悪かったっけ?】


サラトガ「戦後復興妖精さん泣いてます?」


戦後復興妖精【私が泣くわけないだろ】


一同「泣いてる」


そうかよ。そういうことにしといてやる。


悪い連装砲君・悪い連装砲ちゃん【到着! 連れてきた!】


清霜「わあ! 皆そろった!」


矢矧「……」


サラトガ「矢矧さん?」


矢矧「いや、戦う理由が増えたなって」


戦後復興妖精【相変わらず勘がいいな。出るぞ】


この場にそろった面子は戦えるようにしてやる。想力工作補助施設、私から芽生えた想ならば可能なはずだ。

そして今、考えていることは同じだ。

中枢棲姫がいる。

敵は絶望的に強い。


感じるよ。

遅刻だが、すぐそこまで少佐君も来てる。


途切れたあの日の続きと似てた。


島風「戦後復興妖精さんはそろそろ」


島風「デレてくれてもいいと思うんだよ!」


そんな言葉どこで覚えてきた。


清霜「確かに! 島風ちゃんいいこといった!」


島風「でしょー」


こいつら精神年齢が同レベルっぽいな。

つか、なんで全員黙るんだよ。


私は頭をかいた。言葉を思案してもとびっきりの台詞なんざ出て来ないもんで、月並みの台詞を吐いた。


戦後復興妖精「ありがとう」


戦後復興妖精「お前らに出会えて良かった」


クソガキが1拍おいて、


島風「おっそ――――いっ!」


そういって笑った。

釣られてみんな笑った。


さあ、ここから。

最終世代に負ける要素はもはやない。

私達は強えからな。


円陣を組んだ。

あの時と同じく今を生き抜く力を叫んだ。


【19ワ●:最終局面 残存メンバー】



ガングート・リシュリュー「お疲れ」


三日月「お疲れ様です……急に現れたミサイルは無理でした」


若葉「……っち」


神通「く……」


リシュリュー「あら、若葉と神通がしかめっ面ね」


望月「そういえば若葉と神通さんはどうして沈んだの? なにか一瞬でどこかに消えたような気がしたけどさ」


若葉「神通と同じだよ。一瞬だが吸い込まれた」


神通「とても貴重な殺され方をしたような……」


神通「ブラックホール? 吸い込まれて次の瞬間には宇宙でした」


望月・リシュリュー・三日月「」


ガングート「羨ましい。ブラックホールに吸い込まれて生還した人間とか絶対にお前らだけだよ」キラキラ


若葉「心から羨ましがるのはガングートさんとうちの提督くらいだろ……」


2


コツコツ


ガングート「よう同志、最後の砲撃は素晴らしかった。見惚れたよ」


響「ありがとう、同志ガングート」


響「残りのメンバーは、戦後復興妖精さん完全体と最初期メンバー、神風+電、同志北方提督、島風、天津風、陽炎ちゃん不知火さん、長門さん、明石さん、瑞穂ちゃん、中枢棲姫さん、ろーちゃんだね」


ガングート「中枢棲姫は一応こっち側だが、ありゃ最後まで残る気はねえな。うちの陣営が戦後復興妖精+第1世代島風、大鳳、清霜、矢矧、武蔵、サラトガ、悪い連装砲君&ちゃんも独立した戦力だから合わせて9か」


ガングート「いや、これもうあれだな」


ガングート「『最初世代 vs 最終世代』」


響「だね。今の戦後復興妖精さんと最初期メンバーは強そうだ。悪い連装砲君と悪い連装砲ちゃんも含めて9名か」


響「私達が数的には勝ってる。この差は大きいよ。そして北方鎮守府の生き残りが多い。同志ガングートの鎮守府、強いね」


ガングート「そだなー……私の予想以上だ。ぶっちゃけ最終局面で生き残ってんのは、神風、デカブリストとろーのやつかと思ってたよ」


響「ふむ」



3



ビスマルク「ろー! ドイツ出身艦としての威光をオオオ!」


グラーフ「喧しい……」


グラーフ「なあビスマルク、ろーの奴は北方でどんな成長をした」


ビスマルク「神風の訓練に一番、付き合ってたわね。そのお陰で大層しぶとくなったわ……大破しても笑ってるくらいにはね」


グラーフ「……神風と仲がいいのか?」


ビスマルク「さあ。でもUの頃から神風のことじーっと見つめてばかりいたわ。理由はよく分からないけど、ろーを応援したいわ。ろーのやつが集めた資材を夕立に破壊されて、また集めた資材を今度はネ級に破壊されて」


ビスマルク「散々よ……」


グラーフ(……)


グラーフ「ああ、そう、か。そうだな。Uのやつも初霜と同じく」


グラーフ「人生に空白の期間があったか」


ビスマルク「あの子とはまた違うけどね」


ビスマルク「……ところでプリンツと雪風はなにしてるの?」


プリンツ「あっはっは! も、もう止め――!」


プリンツ「ひゃ、あい、はっあ!」


グラーフ「准将が陣営のプリンツと雪風の幸運に期待してわずかな資材で開発をさせている」


プリンツ「確かに幸運艦と、呼ばれることもありまひゅがっ、皮肉のように思えていてっ!」


雪風「雪風も、ですよ! ひょええええ――!」


提督「あれ、そうなんですか。すみません知りませんでした。自分はどうも史実の学がなくて……でもお願いします」


グラーフ「ほらあのスマホ、准将以外が触るとパニッシュメントされるだろう。今回は筐体からマスターハンド(熟練)が伸びてきてこしょぐられる」


雪風「は、早くうう! 来てくださいいい、雪風の一生分の運を使っていいですからああああ!」


雪風・プリンツ「あっはっは!」


ビスマルク(そういえば、顔合わせの時に雪風やプリンツには重要な役目がありますのでー、とかいってたわね。まあ、運要素関連かと思ってたこど、これのこと?)


ビスマルク「あ」


ビスマルク(札束ぶっ込んだ。あれ何千万よ)


ビスマルク(金策で皆から顰蹙買っていたわね。この最終局面のこの空気でまだ茶々入れる気なの……?)


ビスマルク(頭の中、狂ってる……)


ビスマルク「そして誰も止めない……」



【20ワ●:最終衝突 戦術立案】



    ――――最初世代布陣――――



 サラトガ               大鳳

          武蔵

     清霜        川内



   矢矧           ちび津風


        

       島風    ちび風



          ↓


          ↑


        デカブリスト

     長門        島風

 

 陽炎&不知火   瑞穂      天津風



          香取   

     鹿島        呂500

         神風+電


         中枢棲姫



    ――――最終世代布陣――――



少佐君「とまあ、こんな形でありますね。そういえば当局さんは戻って来られないのですか?」


仕官妖精「当局の想は戦後復興妖精が艤装のペンダントにして此方さんのほうに。暫しの別れでありますな」


少佐君「最後まで見ないとはもったいない」


少佐君「この最終局面をどう見ます?」


仕官妖精「双方共に不可解な思惑が感じ取れる布陣でありますね。潜水艦の位置取りに疑問を覚えますが、これは恐らくあの呂500の素質ゆえと見ました」


仕官妖精「呂500香取鹿島、神風+電はこれ更に1つの分隊としてでしょうか。最前線の兵士は最終世代が有利……そして最後尾に中枢棲姫もいますし、やはり勝つのは最終世代でありますかね……」


少佐君「とんでもない!」


少佐君「第1世代も実力的には劣っておりません。私はしかとこの目で彼等の伝説を見てきましたから! 島風さんもようやく半身を取り戻し、もはやあの『北方の伝説』でありますゆえ!」


仕官妖精・少佐君「……」


「「私の兵士のほうが強い」」


仕官妖精「弱虫次太郎もいうようになったでありますな……! そもそも次太郎が彼等を育てたようには見えなかったのであります!」


少佐君「なにを仰います小倉殿! あなたのほうこそ彼等を育てたようには見えませんよ!」


仕官妖精・少佐君「私はともに戦って成長しました!」


戦艦棲姫「ジジイども、黙って見てるってことが出来ない上にケンカか。最初の海、そして最後の海、お互いともに艦兵士と戦っていたじゃない」


リコリス棲姫「お互いを褒め称えるってことが出来ないのかしら。男ってホントいつまでも子供よねえ」


仕官妖精「それいったらあなた達はババアであります!」


少佐君「精神が老け込んだとお見受けしました!」


戦艦棲姫「……」


リコリス棲姫「いいんじゃない」


仕官妖精・少佐君「ごめんなウワアアアア!」


ネ級「というか……戦後復興妖精が擬似ロスト空間作ってくれたお陰でみんな顔合わせられた。これ終わったらまた散り散りになっちゃうかも」


ネ級「仲良くしてください」


ネ級「今からどっちが強いか分かりますから……!」


リコリス棲姫「あらー、ネッちゃんは良い子ねえ」


ナデナデ


ネ級「もちろんです!」


戦艦棲姫「あ、レッちゃん帰ってきた」


レ級「くそー……引き分けだった。わるさめのやつ、大分強くなってやがったよ」


ネ級「スイキも強かったです。負けちゃいました」


レ級「そっか……スイキとチューキさんは」


戦艦棲姫「まだいるわよ。チューキが艦兵士相手に負けるところが想像できないのよねえ……スイキのやつは相変わらずヒスッててウケるわ」


仕官妖精(あなたも劣らずヒステリックだった気がするんですが、歴史に学んでお口にチャックであります)


ネ級「それで」


ネ級「仕官妖精さんと少佐君はどちらが強い」


仕官妖精・少佐君「……ふむ」


「白黒つけますか」


戦艦棲姫「不粋ねえ」


リコリス棲姫「補助する内容は決めなさいよね」


仕官妖精「では公平にリコリスさん内容を」


リコリス棲姫「そうねえ、面白くなりそうなのは」


リコリス棲姫「応急修理要員と建造、かしら」



【21ワ●:Fanfare: 戦後復興妖精】



明石が布陣にいねえのが気掛かりだ。

その意図は読みきれず。


私達はこの形がベストだ。

敵の切り込みは神風が来ると見込んでいたが、中枢棲姫の前に陣取っていた。前には北方提督を筆頭に、陽炎ちゃん不知火、島風、天津風、の4名、その後方に鹿島と香取、その後ろにろーと神風+電だ。そして最後尾には中枢棲姫という所々に不可解な点がある布陣だった。


左右には超素体の陽炎、そして島風天津風に、その後方には鹿島と香取、空母がいないため、対空警戒陣として機能する布陣だ。

しかしその実、攻撃的。

デカブリスト率いる4名の第1波、そして神風部隊の第2派、そして後方から中枢棲姫が破壊的な高精度砲撃。


向こうに空母がおらず、こちらに装甲空母が二人いる。足りない戦力差は補って上回る要素になる。そして通常の演習ならば継戦不可にすれば良いのだが、この戦いの性質的に一隻を確実に沈めておく。でなければ先のように死にたいの身体で奇跡でも起こしそうな連中だ。


念のために神風に間合いに入られた時のために軍刀も携えている。練った策に殉じて叩き潰すのみ。


島風(今の戦後復興妖精さん、敬語も覚えて変な笑い方とかして営業トークとか覚えてなんだか新鮮味があるねえ)


戦後復興妖精(愛嬌? そういうの必要だから)


戦後復興妖精(私もそう思います!)


戦後復興妖精(はっや――――い!)


戦後復興妖精「(●´ڡ`●)」


島風「うわっ、気持ちわる!」


戦後復興妖精「艤装から声出して喋んな」


今思えば記憶なくても、クソガキの真似でもしていたかのような言動もある。悪い島風だなんて名乗るくらいだしな。ま、今の世の中は人として動くなら仮面をつけなきゃやっていけねえのよ。


戦闘機が空を飛んでゆく。

いつの日か見た大鳳とサラの艦載機の群れが敵勢力に向かって飛んでゆく。私も至近距離まで詰める展開で被弾するかも。艦載機の攻撃に被弾する危険を考慮して、魚雷誘爆を防ぐために魚雷管を舷側に伸ばす。


雄叫びが海を揺らした。

中枢棲姫が吠えた。砲塔の角度でも調節したのか武蔵の後方に飛んでゆく。砲塔の角度調節なのか、それとも攻撃範囲を示したのか、人間的なメッセージでも含まれているのか。


島風「開戦の合図だよ」


島風《みんな、抜錨!》


《おう!》


向こうで人間に味方する深海棲艦の凄まじい闘争の顔が、なぜか見える。今度は文字通りガオオオオ、という獅子のような咆哮が鼓膜を揺らした。


中枢棲姫《よろしくお願いします》


ったく、お前も大層な仮面つけてるよな。


2


艦これの艦載機はどの種も上空限界が定められているため、本来のモデルの性能を弄られている。サラの戦闘機なんかは本来ならもっと高く空を舞えるんだけどな。


ヘルキャット、アヴェンジャー、ヘルダイバーの種で分隊を組ませていた。すうっと排気が凝固した飛行機雲を残して敵陣に切り込んでゆく。


敵左翼の陽炎が艦載機に機銃を乱射しているが、数に間に合っていない。これはどうしようもない。鹿島が動くかと思えばそうでもない。やはりあの連中は役割を持たされていると見るべきだろう。


となれば、低速で図体の大きい長門が艦載機の標的に晒されるのは自然な流れだった。想探知で様子を探る。長門は機銃を動かして空を払っていた。こいつ、主砲を装備していない。


戦後復興妖精「長門が主砲を捨てたあ?」


空から身を守る術だけで戦場に出てきた。守りに徹するくらいなら、刺し違えて敵を仕留めるみたいなやつが、空から身を守る術だけで戦場に出てきた。向こうも陣形の都合上、長門が狙われることは承知の上だろう。長門はそうか。よくやるよ。


長門はもとより標的艦の役割を持って出てきた。


ヘルダイバーが空を舞い、爆撃が来ると思いきや、姿を現したアヴェンジャーの雷撃が長門を撃ち抜いた。

すかさずヘルダイバーが急降下して爆撃を放っては、首をあげて空へと離脱し、弾けた水飛沫と灰煙が長門を覆い隠した。一つ、二つ、三つの爆撃が身を焼け焦がしていたが、スコールが爆煙を払えば、ぬっとあの巨体が輪郭を表す。


――――まだ倒れん。


長門だからな!


確かに聞こえた船の声。

焼けただれた機銃の銃身に弾けた水飛沫を蒸発し、湯気に変えていた。もうあれは船の魂と同化して、軍艦が完全に擬人化したみてえだ。


島風「そういえば私の家に長門の写真が飾ってあったっけ。あの頃は軍艦とか興味なかったけど」


トドメの魚雷だけ投げて航行を開始して飛んできた砲弾を避けた。さっきから陽炎に狙いをつけられていたのは気付いてはいた。


陽炎ちゃん「チィ、2度も通用しないか」


不知火「当たりません……矢矧さん、強いですね」


陽炎ちゃん「不知火、戦術通りに」


不知火「お任せを。成し遂げますとも」


矢矧「大層な技ね! こいつらの相手は請け負った!」


戦後復興妖精「おう、カゲヌイコンビは任せた」


ちびどもが島風と天津風とやってるな。

まあ、あそこは耐えてもらえればいい。すぐに左翼は崩して中枢棲姫を爆死させてきてやる。抜かれて空母の大鳳が沈まなきゃいい。


後方の武蔵と中枢棲姫がぶっ放している轟音が響いた。

あの武蔵は航行性能、死んでいて拠点軍艦に搭乗して海域まで同行していたんだよな。定位置から主砲ぶっぱだけでしか戦って来なかったせいか、固定砲撃能力だけは目を見張るもんがあった。


香取・鹿島「行かせません」


偵察機と砲弾を抜けながら一時減速した。

香取、鹿島、デカブリストは背中を向けてなんとかなる相手じゃないと判断したのだろう。数の力業でこじ開けられた。


練巡ならば左翼が崩れてなお空からの攻撃が止まない今の状況が壊滅的だと分かっているはずだ。現に空の対処で私を食い止める余裕は見て取れないし、油断もしない。


戦後復興妖精「そんでデカブリスト! 対潜ミサイルも当たらねえよ! 後ろから旋回してきてんのは神風か!」


デカブリストの情報も半身を取り戻した時に入手済みだった。ただの対潜ミサイルとはまた違う。この島風が手を加えたもんだ。明石の魔改造とはまた違う。ぼくがかんがえたさいきょうのーってやつだ。


目標が潜水艦の場合は目標付近で弾頭部を切り離し、通常と同じく弾頭が分離して着水し、沈降するのだが、水上艦の場合はそのままレーダーで捉えた位置に魚雷弾頭が発射される。


戦後復興妖精「……」


その魚雷弾道が分離して射出される際に、一度だけレーダーに捉えた敵艦位置に向かって角度が曲がるが、私との間になにか挟んでしまえば良かった。軌道に入っていた木偶の棒状態の長門に魚雷が当たる。


即座に方向転換して、抜けようとしている神風を仕留めにかかる。


戦後復興妖精「機械式自動装填でも約32秒、オートアタックモードでも目標探知から発射まで2分はかかるだろそれ」


放った砲弾はデカブリストの艤装に当たった。連接した火器菅システムがおじゃんになったはずだ。厄介な装備を破壊したが、素体のほうが戦い慣れしてる。すでに130mm単装砲×4の砲撃準備が完了している。


北方提督「――――!」


戦後復興妖精「当ててみろよ!」


『爆雷投射機×2』『130mm単装砲×4』『70K 37mm単装機銃×2』 『533mm3連装魚雷×1』 『対潜ロケット』、その程度の兵装弾幕など過去に乗り越えた親睦旅行の時に比べたら取るに足らん。


航行能力は全てクソガキに任せているため、攻撃性能だけに意識を避ける。艤装と一体化し、艤装そのものが動くトランスタイプとはまた違う。単純に1つの身体に住まう意識が2つある特異形態だ。


私の素質はどうやら陽炎には及ばないが、


島風となら私にも出来る。


北方提督「あ、あ、私の夢が」


デカブリスト「ふむ、負けちゃったか……」


北方提督「くそがアアアア――――!」


キリングスキル。

厄介なデカブリストの反応消失を確認。


戦後復興妖精「デカブリストなんてクソババア倒しても自慢にならねえか。北方さんと一緒に神風の完成は向こうで観てろよ」


戦後復興妖精「練巡ども」



【22ワ●:最終局面 瑞穂ちゃん】



――――いやいや、今世代の瑞穂か。愛した提督にゴミのように扱われていたのもそうだが、経歴からして哀れな女であるなあ……やけに行方不明処理が上手く行くと思えば、勘当処分な上、経歴が偽りだらけだ。


ぷらずまのやつに輸送された先、丁の鎮守府。

そこでは意識だけがあった。

過去に機銃で蜂の巣にしてやった男の声が脳内でこだまする。

クソが。そんなもんは箱入りに育てた親族連中が悪いのよ。


大きな葬儀会社の娘。

本当なら私は、本当なら私は。


地元の名家の御曹司に嫁いで、滅多に帰っても来ない夫の家で悠々自適に過ごしているはずだったのよ。閨閥。家力の保持のために箱入りにされて育った故、未来のレールが敷かれていた。


あの野郎、なんか変だと思ってたのよ。

親公認なのに、手も出してこないしね。贔屓目に見なくても、そのために育てられた私はそこらの女よりも妻のなんたるかを心得ていたし、見てくれだって気を回していたし、実際、瑞穂ちゃんモテたし?


『挙 式 に 夫 と な る 人 が 来 な い 』


事件発生。


私は良い笑い者よ。

なんで「好きな人が出来たから」だなんて、今さらいうかなあ!?

薄々気付いていたけど切り出して来ないから、私もそっとしておいてあげたんじゃない。そういうことはもっと早くに言えよマジで!


なんで式すっぽかされなきゃなんないわけえ!?

だから瑞穂ちゃんその日の夜ロンリロンリー切なくて!


お前の盛大なラブストーリーを盛り上げるための小道具みたいにしやがってさあ。まあでもあの時の私は瑞穂ちゃんだったから、相手の気持ちを肯定して身を引いた。


未来のレールがぶっ壊れてじゃあ私どうすんのよって話。


さすがの瑞穂ちゃんも思うところがあって、親が持ってきた見合いの話は蹴り続けてやった。というかもう親に決められるの勘弁だし、結婚するなら相手、自分で見定めるっての。つか男とかもう懲り懲り。


必要としています。


とまあ、ふらふらしていた時分、そんなこといわれたもんだから、瑞穂として建造よ。成人していたし、家にいてもどうせまた家系のためになにかやらされるだけだし、艦兵士って立派でやりがいあったし。


フレデリカさんはどこかネジ飛んでることにも気付いてだけど、別に『ネジ飛んでることをおかしいとは思わなかった』のよね。周りからは清廉の太鼓判押されていたけど、被験者として協力したり、春雨や電を巻き込むのを止めなかったり、私はどっか歪んでたのよね。


なんかの道具になってばかりだったからかな。

多分、三つ子の魂百までってやつ。子供の頃から全て決められて、誰かに利用されて使われることに違和感はなかった。


――――はわわ、ごめんなさい、なのです。


――――ひゃう、卯月ちゃん、悪戯止めてください。


偽りの仮面に満ちた鎮守府に違和感はなく、ただそこにも嘘と真実の表裏がある。普通のこと。


深海棲艦で霊柩母艦みたいな真似やらされてたから、ふと考えたことがあった。そういえば私って死体ないけど、葬式は実家でやったんだろうか。家を飛び出して、何気なく深海棲艦の身体で思い返すと思うところあるな。


正義とか悪とかはよく知らないけど、深海棲艦が悪だって呼ばれる理由、人間の都合でしかなかったものね。


ったく、死にそうなやつのところに営業かけて、ご家族に塩を撒かれて饅頭投げられただなんて話もあれば、金持ってそうな連中の葬式に顔出して傷心中の家族の遺産目当てにあれこれと同情しながらモノ勧めたり。


正義や悪だなんて、とうの昔からカオスでさ、

今は道徳や倫理ですらもう曖昧でカオスじゃん。


ほとんど情報集めとかして、戦いなんか参加しなかったけど、人間の敵として人間を見ると、深海棲艦のほうが気楽でいられた。立派に、とか、真面目に、とか、幸せに、とかって舞台装置で踊り狂う人間。フレデリカさんのいうように、皆が糸のついた人形のよう。その糸の先にあるのが、大いなる力ってやつね。


人間なんかやってられっか。

深海棲艦は天職でやりがいあって報いもあった。


わるさめをいれて、7人だけの仲間。

ケンカも日常茶飯事だけど、ごちゃごちゃしたものなくて、綺麗なもんばかりだ。最後には海の傷痕だって沈めてやったしね。


それで終わり。

私は最期に成し遂げた。


はずだったのに――――


復活した。ざっけんな。


『海域突破報酬の景品』として。


また道具か。


はあ、とうとうネッちゃんにもいわれたわ。

運が悪いから、

スイキは楽したいだけになってるって。


誰かに利用されることに違和感はないけど、

別に愛を知らない訳ではない。


狙ってない傷がつくのは私がなんかに期待してたからで、よく分からず失望したのは知らない間に希望を見てたから。


だから、生きる力はあるのよね。

何のために生きるかって。

エッセイでも書いてみる。

面白おかしい不幸で売れる気がする。

チューキ達、フレデリカさんの真実を伝えれば少しくらい、私が堂々と皆のことを好意的にいったって怒られないかな。


とりあえず今は、そう。

精一杯やらなきゃね。


瑞穂「化物め……」


武蔵。航行性能が死んでいると聞いてはいたけど、浮き砲台かと思えばその実、立派な戦艦として機能している。空を制圧しているからか、5スロットに主砲ガン積みだ。改二とはいえ、チューキの壊状態と真正面から殴り合い、競るどころか圧しているだなんて信じられないわよ。戦闘能力でいえば深海棲艦勢力で最強のやつなのに。


機銃乱射していて、天津風と島風のほうに甲標的を発射して、PT小鬼群を放流したけども、やっぱり制空権取られているのは厳しい。島風&天津風は、向こうのちび風&ちび津風と互角だ。だから、向こうに意識を割くのか、それとも、もう半殺しにされてる練巡のほう支援するか。


長くは持たないわね。

どちらを倒すか、ではなく、

どちらに隙を作るか、だ。

それさえあれば出鼻を挫かれている神風が敵陣に斬り込んで後方の奴等の首を刎ねるはずだ。どちらにしようかな、で決めて左になった。戦後復興妖精の左翼になった。例の陽炎もいるし、戦後復興妖精と矢矧を抑えればそれでいい。


戦後復興妖精は香取と鹿島が劣勢ながらも抑えてくれている。下手に戦闘下手な私が混じるよりは陽炎不知火と戦後復興妖精よりも弱そうな矢矧を倒そう。決まり。


――――人を見る目がねえな、瑞穂ちゃん。


――――そいつは私の上を行く素質持ちだぞ。


戦後復興妖精の言葉が確かに聞こえたが、無視した。

不知火の放った魚雷が矢矧に命中していた。続いて陽炎の砲撃も当たっていた。艤装右舷から火炎が噴き出して、傾斜しかけていた。軽巡だなんて私と似たような耐久数値なんだから、今のでかなり危ないはずだ。PT小鬼群と自前艤装の機銃を乱射した。


トランスタイプだ。補充にクールタイムはあっても、このシステム上、弾が尽きることはない。弾が鉄を弾く音が続く。あの矢矧が、蜂の巣、原型留めなくなるほど穴を開けてやったつもりだ。


瑞穂「――――」


まだ沈んでない。おかしいわね。

1 5 0 0 発

は撃ち込んでやったのに。


傾斜している。航行の勢いでふらふらと蛇行していた。やがて、波に遊ばれるだけになった。動かないただの的だ。陽炎、不知火と私の至近弾が水柱をあげて、矢矧の姿を覆い隠した。構わず機銃を猛射する。煙突から蒸気があがった。矢矧がまだこちらに突っ込んでくる。


矢矧「まだ、まだ……」


死に損ないが、ンなこといってる。

魚雷に8本は当たって砲弾なんかその倍は被弾しているはずだ。すでに私の機銃の回転率からして2000発は越えた。全弾当たっていないとしても、死なないのはおかしい。倒れないのはもっとおかしい。


瑞穂「史実みたいな粘り見せてんじゃないわよ……!」


瑞穂「死ぬことよりも――――」


瑞穂「恥を晒して生きることを拒むってか」


瑞穂「150年前の亡霊が!」


矢矧が錨と錨鎖を切り離して、魚雷管から魚雷を投棄、武器とアンカーを手放して傾斜から回復した。その艤装のマストはおびただしい自身の血を浴びて赤く染まり、甲板の上の血が熱で泡を沸かしている。


瑞穂「――――ウソ」


チューキの反応が消えた。

うそうそうそ!

あいつが競り負けて沈んだの!?

壊状態で単純に砲撃戦に特化した神話級のあいつが!


矢矧「甘えたやつね……戦い中に味方が沈んで、絶望してる」


矢矧「今の時代はよく分からないけど……」


矢矧「一回、誰かを命賭けて守る側になってこい!」


切断されている左腕を引いて、思いっきり殴られた。



【23ワ●:最終局面 陽炎ちゃん】



この人達、強いな。

生きてるのが不思議な矢矧はまだ生命活動を保っていて、まだやる気だ。戦後復興妖精も時期に香取と鹿島を沈めて左翼は壊滅的打撃を受ける。中枢棲姫もやられて、右翼は反応からして島風がリタイアして、天津風が奮戦しているってとこか。


不知火ももうそろそろダメか。空を完全に制圧されている中、この第一線で矢矧と戦後復興妖精、そして後方からの川内と武蔵の砲撃をさばきながら、と考えると奇跡的に持ったほうだ。


陽炎ちゃん「とりあえず、一人獲った!」


満身創痍の矢矧の頭を砲撃で吹き飛ばしてやった。

それと同時にようやく神風が動いた。


神風「ありがとうございます。これでなんとか!」


戦後復興妖精が即座に方向転換して、抜けようとしている神風を仕留めにかかるが、それをさせたら詰みだ。ちょうど進行方向に私と不知火もいるし、無視は出来まい。


戦後復興妖精「陽炎ちゃん、前の礼だ!」


私もそろそろ無理だな。建造状態とはいえ、不摂生な日常が祟ってすでに倒れそう。ネットの数字の波を注視していた生活の中で張り詰めた神経の持久力はあっても、激しい運動をするとすぐ息切れして、砲撃の精度も大幅に落ちてしまっている。


不知火「なんとか私が隙を作ります」


陽炎ちゃん「ありがと。多分それで最期だわ……」


あの海で私の同期の不知火死んで、戦後復興妖精につけこまれて、戦後復興に利用されて何年も過ごしたけど、 また艤装つけて陽炎やるなんてなに起きるかわかんないな。


戦後復興妖精(こいつ)にも人間として生きた過去があって、仲間がいて、実はそんなに悪いやつではないことも分かった。誰が悪いといえば、こいつだけど、それで終わりにするにはあまりにもメモリーは壮絶だった。とりあえず今は妹の亡骸を弄ばれた恨みとか、潰された時間の苦しみとかこの想の海にでも投げ入れて、艦隊の勝利を優先しよう。


不知火の背中に隠れて、弾を避けるのは抵抗あるけども。きっとあそこまで牽引してくれる。


あの島風の戦い方は単純なインファイトだ。

攻撃を航行でかいくぐり、距離を詰めて魚雷を撃って機銃をぶっぱする。ただあの航行を担当している第1世代の島風は適性率100%か、それに近い。速いが、下手だ。


最高速度で海を走っているだけで、別に回避や航行が決して上手い訳ではないのは見ていれば分かる。戦後復興妖精と同じく、前に出る気持ちが動きにもろに出てる。


メモリーの時からそう。

こいつらは近づいたら仕留めにかかるだけで、距離を再び開けるということを1度もしなかった。


不知火がよろめいた。

魚雷に被弾したようだ。

ふらり、とよろめいた身体を支えることは我慢する。


戦後復興妖精は判断力の速さ、島風のほうは艤装適性率の高さ、素質に至っては最高級のものを双方が有していて、それが噛み合っている形だ。戦後復興妖精は傲慢なため、こいつらは他人から戦い方を教わってこなかった。あくまで『我流』だ。


戦後復興妖精「捉えた……!」


ほら、速度も落とさず突っ込んできた。修羅場を潜り抜けてきたやつだからか少しも躊躇わないし、私よりも全てが速くて厄介だけど。


機銃で胸を撃たれた。心臓から少し右か。

意識を失わないため、同時に強く舌を噛んでた。


戦後復興妖精「あ? どこに向けて――――」


砲口は斜め上の空。

12.7cm連装砲D型改二を撃つ。


戦後復興妖精「――――」


陽炎「あ、は……ま、……く、……ぶ」


声が出ねえ。

だが、あいつは顔に出るから分かる。

耳元でぶっ放したから、鼓膜破れたはずだ。


すれ違ってしまう前に戦後復興妖精の腕をつかんだ。最期に砲撃を0距離でぶっぱして頭蓋砕いて終わり。


のはずなんだけど、

くそ、島風のほうが私より『次』が速かった。


戦後復興妖精「陽炎ちゃん本当に強えな」


戦後復興妖精「私一人じゃ勝てる気がしない」


海の上からそんな声が聞こえた。



ちっ、負けたか。



【24ワ●:Fanfare 神風】


ヘルダイバー、アヴェンジャー、ヘルキャットの群れをかい潜り、視界にSaratogaMk.IIを捉えた。こちらのサラさんとは違って白い姿だった。

第1世代サラトガ、いや、電の7種目。今の一心同体の私にも分かる。あのサラトガのなにもかもがね。あなたは他の火炎のような憎悪とは違って、強い憐憫の情が渦巻いていた。可哀想だと責め立てるような特異な深海想だ。ぶっちゃけ一番ムカついた深海想らしい。


器用な艦載機による弾着観測射撃は完全に回避は出来ずとも、カスダメに留められる。されどこの艤装の耐久は9だ。つまり上手くダメコンしようが、艦載機に目をつけられたらすぐに航行性能を失ってしまう。


装甲空母が飛行甲板を腕と平行にした。被弾だが、かすり傷だ。艦載機に変化しない弾を飛ばされた。刀を握り、盾に構えたその飛行甲板ごと叩き斬る。


清霜・川内「……!」


面白い人達だ。

清霜なのに照月の艤装をつけていた。それに司令官が使うような対人近接の武器も持っている。戦後復興妖精が弄した策が見て取れた。メモリーで彼等の過去は観た。ようやくここからまた始まったのだろう。


戦いは、真剣勝負。

見せ場も与えず斬り伏せる。


懐に潜り込んだ今、熟練の猛者相手を圧倒しているこの感覚。海を滑り、凪ぐように進み、刀の重さは手に感じず、風が吹き抜けるように敵を抜いてゆく。


誰かの声も砲雷撃音もどこ吹く風の明鏡止水の心だ。私の感覚の間に間に従って進むだけで、こうも立ちはだかる壁とぶつからない。一振りが海の浮遊物を切り裂いた瞬間には新たな浮遊物が見えている。


斬り抜けている感覚とはまた違う。

高速移動している物体の速度で生じる空気の乱れで切り裂いているような感覚があった。まるで神風が吹いているかのよう。


今の私を見てるだろうか。

過去に何度もくじけていた私は。


今の私を見てるだろうか。


信じてたこと、間違ってなかったよ。

泣きわめいた日々も今、振り替えれば全て糧だった。信じていたことは間違ってなかった。


正解だったから、



――――ふざけんな! アイツら強えのに!


――――ただのザコみたいに屠りやがってよオ!


――――ここからやっと始まったのに……!


――――150年だぞ!?



カアミカゼエエエエ――――!



このまま進んでよろしい!


戦後復興妖精は明確な殺意を放っている。


分かる。

その進路の先にろーちゃんが浮上した。束の間、戦後復興妖精は体を屈めてろーちゃんの頭をわしづかみにして島風の機銃と照準を合わせる力業に出ている。乱射した機銃音と赤い血飛沫が視界に入る。


その足元に左旋回した魚雷がある。

蛇行する魚雷、試製FaT仕様九五式酸素魚雷改。


ろーちゃんからもらった最高のアシスト。


戦後復興妖精が回避に移ったその一瞬を、

斬り裂いた。



【25ワ●:Fanfare:戦後復興妖精 Ⅱ】



――――まだやれる。


まだまだ。


戦後復興妖精(こんちくしょう……!)


クソガキの想いとは裏腹に私の意識が途切れてしまいそうだ。馬鹿にしやがって。皆の背中の軍艦名が二つに千切れる瞬間を立て続けに見た。


立てた作戦が、

一瞬吹いた神風に全て凪ぎ払われる理不尽。

渦巻いた軌道の魚雷に意識が逸れた瞬間、神風が背後に切り抜けた。刀は冷えた風が内臓に吹き付けるようで、直後に裂傷の熱が燃え盛り、水面化に沈んだ。とにかく全てが速く、鋭い。


あの最後の海を越える最悪に抗おうと手をばたつかせても海面から確かに差す光は細く、遠退いてゆく。下半身が切り裂かれ、綺麗に艤装(クソガキ)との連結を仏陀斬られた。


水底に着した島風のところに沈んでゆく。


まだやれる。

こんなもんじゃねえだろ私達は!


私達の想いはまだ燃え尽きていねえだろうが!


どうか、どうか――――


今だけでいい。


想いよ、届け!


呼応してくれ、擬似ロスト空間!






――――しかと届きましたが。



――――ふふ、下半身にひどい裂傷がありますな。


――――鮫にでも噛まれましたか?




戦後復興妖精「――――」


少佐君「あの時に助けてくれた礼がまだでしたね!」


少佐君「友よ!」



2



戦後復興妖精「負けたけど、勝ちは譲らねえ!」


戦後復興妖精・島風「倒す!」


神風「壊-現象……?」


電「神風さん!」


電「史実砲はありませんが、あの装備は『海の傷痕』+『想力工作補助施設』なのです!」


電「海の傷痕を――――」



電「凌駕した性能です!」


応急修理要員からの反転建造システムを利用して艤装部分を強引に肉に繋げて身体を動かせるようにした。再生力を姫級にまで高めた上、侵食レベルを操作して人体の急所を艤装の鋼で覆い隠した攻防一体の対神風特攻艦仕様の転生だ。


建造は海の傷痕装甲服から高速建造材を使って数秒で終えて、完全再生。海の傷痕の全ての情報はとっくにそろってんだ。


第2の海の傷痕といわれてもいい。

負けたくねえ。

必ず、仕留めてやる。


『Srot1:経過程想砲』


『Srot2:海の傷痕装甲服』


『Srot3:妖精工作施設』


『Srot4:想力工作補助施設』


『Srot5:海色の想』


電「神風さん、ここです!」


電「あなたの――――」


電「ゴールです!!」


海の傷痕装甲服は、深海棲艦艤装+高速建造(修復)材に変化する。

海色の想は擬似ロスト空間の想を、資材に変換する。

妖精工作施設は、開発建造廃棄解体装備の妖精役割全てを活用可能。

想力工作補助施設は、今を生きる人間の想を分解、接合、新たな形にする海の傷痕の生体機能である想の魔改造を行う。


戦後復興妖精「経過程想砲オオオオ!」


経過程想砲は適性者の意思による稼働を可能にしている艤装想と繋げて、想を質量化することで物理的なダメージを与える。今の仕組みは神風に関連した想を積んではいないため夢見等の現象は起きずとも、想による適性者とのリンクパスの仕組みは同じ。


悪魔の装備と恐れられた経過程想砲を


斬り裂いて、来る!


想は目に見えなくとも、感知できる。確かに存在するものだ。

見えない妖精のようなもの。

想が根幹の『艦隊これくしょん』は想でダメージを与えられる。深海棲艦が人間の科学兵器を無効化しても、想力でコーティングされた艦娘の攻撃が通るように、攻撃できる。あいつの感覚の探知力は、目に見えず繋ぐ無線の想砲撃を感知して刀で仏陀斬っている。


海の傷痕から超能力と称えられた准将の真実探求の力の類い。


経過程想砲撃も突破してくる。

今の神風ならば史実砲で神風の終わりを再現しても、素体の終わりは再現できない以上、今を生きる力で過去の終焉を突破して来るだろう。


これが、

最後の海で海の傷痕を沈め、

私達の戦争に終止符を打った――――


艦兵士最高勲章を拝受した電の領域!


身体が前に進む。クソガキの判断だ。同じだ。まるで噂に聞いた海の傷痕と電の戦いと同じ展開だ。触れるしかない。妖精工作施設か想力工作補助施設で直に触れて艤装を壊して沈めるしかない。


それじゃダメだ――――


触れる前に斬り飛ばされる。

歴史に学べ。そうして海の傷痕は敗北した。


想力工作補助施設で軍刀を4本生成した。

真正面から、神風と斬り合った。両手の軍刀2本と、想力工作補助施設の白腕、妖精工作施設の黒腕の計4本の刃で刀撃の合を重ね合わせる。一瞬に気を取られている暇はなかった。


次に考えることは次。コンマの意識を取り合う達人の水準で命を奪い合う。

4本でようやく対等。それほどまでに神風は強い。

妖精工作施設の黒腕が刎ねられた。装甲服で装備を作り、空に深海棲艦型艦載機を飛ばす。神風が吹き抜けた間に高速深海魚雷mad2を生成して撃ち込む。


まだ仕留めるには至らない。

それどころで押されてる。


神風「絶対にここで勝って!」


神風「神風を卒業するのよ!」


こんなところで負けてたまるか。

島風と想いが私に流れ込んでくる。

舞鶴で見た等身大の駆逐艦島風の進水式。

大戦を終えて束の間、深海棲艦により、更なる地獄を上乗せされた最初期の私達は、人生と艦歴が唯一重なった世代だ。適性者は栄誉なことだと肉親から誇りにされ、実験的に死していく運命を――――


入渠、高速修復材、建造材、


私達が未来を斬り開いてきた!


本当はあそこで終わらずに。

まだまだ行けたはずだろ!?

百年以上、後悔してたって気付いたんだから。

今は証明しろよ!


あの頃の気持ちを思い出せ!


そして――――


あの頃を越えて生まれ変わっちまえ!


あいつよりも速く。

もっと、より速く!

出来るだろうが!


島風が一番速えんだから!


「「ここで」」







神風・戦後復興妖精「負けてたまるか!」




神風の刀を弾き飛ばした。

神風は構わず振りかぶる。

アライズして手元に刀が舞い戻り、

想力工作補助施設の白腕が斬り落とされる。

返す刀が、鋼を斬り裂いて、肩を持って行かれた。


私の刀は神風の刀を折った。


お互いが切り抜けて即座に旋回した。

神風が腰にある予備の神風刀を手に持った。


神風が、止まった。


瞳から涙を溢していた。


――――なん、で私の運、


私は軍刀で神風の腹を裂く。


ここで、燃料切れなんて……!


神風「まだ、まだ――――」


神風「う、ああああッ!」


棒立ちの状態で刀を振るが、重心の移動も海を踏むことも出来ず、威力もなければ速度もない。まるで、来ないで、と私を振り払うかのような幼稚な動作だった。


悔恨の叫びを止めるように私は刀で神風の首を切った。










海には私以外、誰もいなくなった。




3


戦後復興妖精「死にそうだ……」


装備を全て切り裂かれた。

それでも勝てたから、正解ではあった。


もう、此方のところに行って願いを書いて終わりだ。草履の花尾が切れ、波に拐われてしまう。素足で砂浜を歩いた。


その途中、膝の力が抜けて顔から砂浜にダイブした。

最終衝突に油断はなかった代わりに、絶対に敗けられないという意地があった。それでもなお、使える手は全て使ってなんとか勝ちを拾えただけに、今なら分かる。最終世代の連中は私を越えてる。私達の死にもの狂いの日々は確かに今に連結して伝承されていたのを体感した。


戦後復興妖精「……」


もう艤装の想は途切れ途切れだった。

艤装の中にいる友の想を最期に探る。





*『メモリーズ:君と出会うまで』



私の時の学校は軍国主義教育だったから、男子はたくましい。理想とされる軍人像に近いほど、優秀と評されてた。やんちゃを履き違えたかのような未熟な国家忠信精神、勤勉家な男の子が多かった。


学校には校長先生よりもふんぞり返った配属将校が兵士を育てるべく学校の統制を取っていた。夏が近付くと、先生や将校が男子をプールに放り投げる。小学校低学年時には泳げるようにならなければ、連帯責任で男子全員が平手打ちが飛んで、酷い時は拳で殴られるのだ。


怖い将校の人は軍が縮小されたため、また戦争のために子供達の思想や軍事の訓練をさせるためにいた。そんな日々の中、私達はみんな将校の戦いの話に夢中になっていた。将校の人に学校の武器庫で武器の扱い方を教えてもらうことが一番、人気のある授業だった。よく男子が山から竹を運んできて、それを切っては銃や軍刀に見立てて、軍事教練を行う兵隊の真似をしていた。


女子は地域にあった役割、男の子は兵隊として戦うために、私達は国を支えるために地元産業の商業のお勉強や、政府がいう家庭教育のため、裁縫や家庭の母のなんたるか、を教えられた。


私はそういうの苦手で浮いていたな。鎌で稲を刈ることも下手で農家の人に食べ物を粗末にしてはあかん、と怒られたり、針を使うと指を切ったり、巾着を作る授業で布を縫い合わせるにしても隙間が空いてべろんべろんになっていた。対して振る舞いも気品がなく、女子にしては運動がとても好きで走り回っていた異物だった。


いつからか好きだったかけっこもしなくなった。

男の子にも勝つほど速かったけど、いつしか学校でそれをやると、負けた男の子は「やーい、女なんかに負けてら」といじめられたからだ。勝った私も、女のくせに、とか言われて男子から馬鹿にされて、女子からは白い目で見られた。婦女子をなんと心得る、と先生に反省文を書かされて、お母さんにも怒られてしまった。


こっそりと夜に家を抜け出して、夜風に押されて稲穂の海を独りで走ってた。あの鳥に追い付けないかな、とか、蛙みたいに飛んでみたり。

「ら~ら~らん、らんらんらんっ」

歌を口ずさみながら、走ってた。

唯一、楽しい時間だった。


周りは看護婦の免許、家政の腕が認められて、一人前の女と認められている子もちらほらと増えていった。そういう子は男の子からも人気が出て、ちょっとだけ歳上の人の中には婚姻をする人もいた。

女らしくあれない私は、婚姻相手どころか友達もいなかった。



2


戦争は激化の一途をたどり、光明が見えない日が続く中、私は学校工場で軍服を作るお仕事に従事していた。洋裁のミシンの音が、古めいた木造の部屋をギシギシと揺らして、落ち着かない時間だ。


休みの時間はみんなが集まる暖炉周りで、イギリスやアメリカと戦争になる、という話を耳に挟んだ。ただでさえ貧困なのに最悪だ。私は口に出さなかったけどそう思った。軍制服を届ける際に、舞鶴にいた海兵さんがくれた長門と陸奥の写真を見て、みんな黙り込んだ瞬間があった。思っていたことはきっと同じだ。


休みの日に舞鶴で始めて実物の軍艦を観た。とにかくこいつは速いんだ、という将校の大きな声が聞こえていた。専門用語はよく分からないが、とにかく速く進める船らしい。私の何倍も図体が大きいけど、そんなに速いのかな。私が知っている船は長門と陸奥だけだ。


海に出て行く船をその場の全員で見送って、帰った。


戦争が始まったら、男の子達は外に行って、大きな穴を掘る塹壕の作業をよくするようになった。生活はどんどん圧迫されている。大本営発表を信じて、もう少しの辛抱、今こそ国民一丸となるべし。その、もう少し、がいつまでも続いた。


空襲で疎開してきた人達も囲い、生活物資を統制されて支給品にすがる生活も限界に近くなった。とにかく食べ物がなかったのを覚えてる。正確には食べるモノはあったのだが、栄養のあるモノは兵隊さんに献上して、私は芋のつるとか、食べ物にならない小さな雑魚の出汁なんかで食い繋いでいたけど、やっぱり毎日のようにお腹が鳴ってしまう。家の床下にお母さんが隠していた梅干しの入った瓶からつまみ食いしたけど、運悪く見つかってこっぴどく怒られた。


「お腹空いたんだもん」


そう私が泣くと、

その日はお母さんが、自分の分を半分くれた。


町では手に入った鰹を、よだれ垂らしながら、軍人の人にあげた人が、1週間後に餓死して地面の上で死んでいたり、盗みを働く人達も増えてきた頃、近くの海に出て密漁をした人達が、こっそりと遅延した配給の分を食いつなぐためにヤミ市を開いた。


なけなしのお金で私は出汁を取ってスープに出来る稚魚と、少しの鰹の切り身を買った。だけど、運悪く役人に見つかってヤミ市は制圧されてしまった。そこの食料は没収されて、どこかに消えてしまった。


私はよだれを垂らしながら、銃を持った将校に鰹を渡した。今思うと、すぐに口に入れたらよかった。


翌日、空から爆弾が降ってきた。防空壕に避難して、嫌に賑やかな夜を過ごして、空襲が止んだら、お外に出てすぐに家に走った。井戸水を組む桶の横でお母さんは倒れていて、焼けた木材が顔中に刺さって死んでいた。私はただその場でぽかんと立ってた。


なにを想ったのかよく覚えていないけど、

確か、なぜだか悲しいとは思わなかった。


帰る場所がなくなって、親戚の人の家に行っても、その場で門前払いをされてしまったので、とぼとぼと夕陽の中、孤独にお外をさまよった。どこかに頼らないと、と思ったけれど、そういう人達が溢れ返ってた。


同じ境遇の子と群れを成して過ごした。

食べ物はなかなか手に入らなくて、盗みや乞食をやった。犬や猫、虫を捕まえて食べたり、草を食べてみたりした。キノコだけは絶対に食べなかった。しいたけに似てる、と山から取ってきた集団が、翌日には全員の肌が紫色になって悪臭を放つ死体になっていたからだ。


冬は壊れた学校や駅、廃墟をさまよってとにかく凍死しないため風避けのある場所で寝て、夏は目立たない路上や穴の中に作った秘密基地を寝床にした。空襲の警報が鳴っても、走るとお腹が減るからその場に座って天命に委ねていた。

そうしてどうにかこうにか生きていると、

戦争は終わった。

多分、14歳の夏だった。


もはや私にはそんなの関係なかった。

でも、希望があった。戦争は終わったから、もう栄養のある食べ物は男の人にあげなくていい。とうの昔にそんなことしてないけど、なぜだかそんなことを思った。


私は誰もいない場所で手放しで喜んだ。


優秀な軍国主義者に見つかったら

殴り殺されてたかも。






重い身体を起こして徘徊した。どこまで歩いたかは分からないけど、遠くの町は絶えず騒がしかった。色々な生き物がいた。風船のように膨らんだ達磨、お正月の時の罰ゲームのように顔が黒塗りになってるなにか、鬼のように赤い人、そういうところからはすぐに離れた。


そしてまたすぐに戦争は始まった。

寄せては返す波のように繰り返す。

空だけは変わらず青かった。御天道様だけは何事もなかったように毎日、東のほうから登り、西に沈む。人々は光にすら怯えるようになった中、変わらない毎日を過ごすあれがひどく羨ましい。


もはやなにもかもが夢であって欲しかった。



3


異形の化物が海から現れた、とのことで戦いは混乱を極めた。

兵隊が束になっても敵わず、手も足も出なかったという真偽の不明の噂があちこちに流れていた。そして、なぜか私と同じくらいの女の子が、その異形の化物を仕留めたという尾ひれもついていた。あり得ないと、私は思った。軍人が勝てない相手に少女なんかが勝てるもんか。


そして、これまたおかしな噂が現れた。

都市部の軍人の駐屯地に行くと、少しの芋を分けてもらえるという噂だ。信じた訳でもなかったけど、美味しい食べ物に釣られて私は何日かかけて横須賀まで歩いた。そこの鎮守府周りには陸兵の指示のもといろいろな人達が長蛇の列を作っていた。


鎮守府から出てくる人達は手になにも持っていない。噂が嘘なのか、それとも取られないために隠しているのかは分からない。夕陽が沈んで夜の帳が落ちた頃、私はようやく工廠に入れた。


皺もなく、きらびやかな軍服を着ている人が、なにもないところに話しかけていた。なにが行われているのか全く分からない。あの人は頭がおかしいのではないか、と思った。


私の番がやって来ると、その軍人は自分の足元のほうを向いて、またなにか話始める。内容は「お願いします」の一言だった。こんな偉そうな人が床に、お願いします、だなんていうものだから、混乱した。


次の瞬間には、

「この子は島風の適性者です」

と、なぜか苦悶の表情でその軍人はいった。


私は側に控えていた軍人に腕を取られて奥の部屋に連行された。

事情の説明も受けずに、その日の夜、貨物列車に押し込まれた。ガタンゴトン、と揺れる車両の中で説明を受けたんだけど、食べ物をもらえたからそっちに夢中であまり覚えてない。


食べ物をくれたお母さんのことを思い出していた。私はただ泣きじゃくりながらリンゴにかじりついていた。


不思議だ。お母さんが死んだ時は涙は流れなかったけど、今になって止めどなく溢れてくる。


4


兵士となって戦争に参加してもらう。

食べて眠ってどこかの土地の鎮守府についてからそういわれた。どうやら異形の化物の噂は本当のようだった。意味が分からなかったけど、「軍人になるんですか?」と訊いたら、肯定された。


私が軍人!


夢のようだった。私なんかが国のために戦っていた軍人と肩を並べられるだなんてあり得ないことだとすらおもえる。女の子が軍人だなんて聞いたこともなかったけど、断る理由がまるでなかった。


その日にあの軍人が来て、妙なことをされて、30分間意識を失った。眠っていたようだけど、とんでもない夢を見た。私が飛行機に蜂の巣にされる夢だった。私の知らない海の戦いの記憶だった。


怖い、とは思わなかった。

とうの昔に恐怖は耐えられるようになっていたし、むしろ国のために軍人として死ねるのならば、どこかの路上で野垂れ死ぬよりも遥かにマシだと思えたからだ。天国のお母さんにも自慢出来る。


その日に天津風ちゃんがやって来た。


5


一緒の部屋で寝泊まりすることになって、私は喋りかけた。最初は無視されていたけれど、その日の夜中に会話に応答してくれた。


「なんでそんなに嬉しそうなの」


「私達、死にに行くのよ!」


私とは違って天津風ちゃんは頭が良かった。しっかり説明も聞いていて、現状を把握していた。それに私とは違って孤児ではなかった。海軍の造船部の中佐さんの娘だとか。ちゃんと家族と暮らしていたけど、天津風の適性が出て、この鎮守府まで強制連行されたようだ。


なんとなくだけど私も気づいていた。

軍人という割には保護されているといった風で特殊な訓練も行わなければ、厳しい言葉もなにもかけられない。それらしきことは渡された墨塗りの教科書の言葉を復唱したことくらいだ。学校で口を酸っぱくして重点的に教えられてことがほとんど墨で黒く塗りつぶされていたことには乾いた笑いが漏れた。この時に始めて、戦争に負けたって実感が沸いた。


私も天津風ちゃんに今までのことを話した。

多分、私は笑えていたと思う。天津風ちゃんは泣いてしまったけど、私はなんだかそんな風に反応してくれるのが嬉しくて、懲りずに馬鹿みたいに天津風ちゃんに話かけ続けた。


憲兵さんに、うるさい、と怒鳴られて、眠りについた。

その日の夜に私達は、島風と天津風の接点のある夢を見た。だからか、翌朝には天津風ちゃんともっと仲良くなれた。初陣もまだなのに、苦楽を共にした戦友という認識さえあった。


友達、だ。


1日だけ艤装という武器の扱いの訓練に励んだ。砲も魚雷も、なんだか意思疎通というので動いてくれる兵装が頼もしい。連装砲、というらしいけど、この子も友達だから、可愛くして、ちゃんをつけた。


その日の晩は豪勢な料理だった。

提督と名乗る男の人が現れた。そう、この人が少佐君だ。そして作戦を教えてもらった。小難しいけど、北方の海の敵を倒して帰ってくるってことだけは伝わった。そっか、どうやらここは北海道だったようだ。


私達のために芸を披露してくれたり、武勇伝を語ったりしてくれた。面白おかしく喋ってくれていたけど、私は船の夢見を知っていたから、ちっとも面白くない話なのは知っていた。船として色々な記憶から、少佐君が語る作戦がどれだけ無謀なことかも知っていた。本土空襲、敵は人間殺戮兵器の化物。私達の前に戦ったという始まりの艤装の勇敢なお話で悟った。彼女達が帰って来ていたら、その話くらいは聞く。初陣で死んだから、噂だったんだろう。


別に死ぬことは不思議と怖くなかった。せめて恥ずかしくないよう、誇れる死に方がしたかった。


物資が欠乏し、壊れ、自然も人間も火に包まれて形を変えて、毎日のように命が削られてゆく日々を過ごした。

私は人の死に慣れすぎていた。


これから私はぐちゃぐちゃな肉片になる。

そうしてお母さんのいる天国へ行く。

それが嬉しくて、笑った。


少佐君が笑いながら、泣いた。









戦後復興妖精「……そっか」


ここから島風は北方奪還作戦に出撃するんだ。

私が生まれるよりも前の島風のお話が網膜に流れた。


出会った時に同化してから見たことはある景色だった。不愉快な存在だったから、深くも知ろうとしなかった。今だとまた違うな。島風のいう『友達』は私が思う以上に重い存在だった。


分かるぜ。


なんだよ。私を気遣ったようなこといってたけど、お前が友達欲しかっただけじゃねえか。しかし、なるほど。あんな心境なら、馬鹿みたいに私の話を信じたのも、あれほど強引に友達関係にしたのも頷ける。


このクソガキは別に誰でも良かったんだ。

今はどうだろう。私なんかで良かったのかね。


そして此方や当局に対して憎悪がない理由も分かった気がする。戦いは当たり前で、そこに正義も悪もなく、生きようとして戦う人達や時代に罪はない、と考えていた節がある。


本当に大事なことは。


立ち上がり、もう少しだけ。

そうすれば、何度でも生まれ変われる。


私は四肢に力を入れた。少し休んだら、活力が戻った。腰に携えた軍刀を残して、連結部分の艤装が全て剥がれ落ちた。クソガキはまだこの身体の中にいるけど、声はなかった。私は心の中にいる友を心の中で抱き締める。確かに感じる気配の鼓動をただ聴いていた。


言葉は必要なかった。

形あるものは崩れて、朽ちる。

山も風も花も国も妖精も等しく儚い。


起き上がって前を見た。





――――ねえ。


仲間がさ、


死んでいくところ見てるしか出来ないって。


――――辛いね。



砂浜の上に膝を抱えて、島風が座っていた。


戦後復興妖精「まだ生きてたのか……」


島風「艤装と連装砲ちゃん壊されて戦う術を失ったけど、泳いで陸地にあがってた」


始まりの景色と重なった。

私も装備ないし、どうしたもんかね。

ボコったり斬り殺すのは気が引ける。

私も優しくなっちまったな。


私は足で砂浜に線を引いた。


戦後復興妖精「ここが、スタート」


戦後復興妖精「ゴールは此方の隣な」


戦後復興妖精「かけっこだ」


島風「いいね、それ。負けないよ!」


そういって笑った。


あの時もこんな風に落ち込んでいたあいつを笑わしてあげられたら良かったな。なんで生きてるとこんな後悔ばっかりするんだろう。さっきまで幸せだったのに、私はすぐに後悔を見つけてしまう。


「あそこの大きい波が寄せて返したらスタート」


私と島風は屈伸運動をして、スタートのポーズを構えた。

島風はクラウチングスタート。

私はスタンディングスタートだ。


波が打つ音と、風の吹く音に耳を澄ませた。



よーいドーン!

しまった、腰の刀を捨てるの忘れてた!



4


同時にスタートを切った。

速さは同じだった。かけっこで負けるか。ただただ前を見て走った。此方の身体が次第に大きくなっていく。島風の姿は前にはないが、横に張り付いている。速さは互角だった。

ただ砂浜って足を取られるよな。

こんなところでも運が勝敗を左右するらしい。

ゴール目前で島風がずるっと足を滑らせた。私は構わず駆け抜ける。残り5メートルだ。そのままゴールを駆け抜けた。


振り返る。

島風は踏み留まり、そこからダイビングしていたようだ。

最後まであがいてみせたけども、頭の長いヘアバンドの耳もゴールに届いてねえから私の勝ちだな。


砂に埋もれた顔をあげて、島風は「ちぇ、負けちゃった」と唇をアヒルみたいに尖らせた。


手を貸してやり、引き起こしてやった。

島風は身体についた砂を振り払うと、すぐそこにある海域指定外に向かって歩き出した。指定外に出る前に、足を止めて振り返った。


島風「次は負けないからね!」


最後にべーっだ、と舌を出して消えた。

なんでこうも島風ってのは私を苛立たせるかね。


戦後復興妖精「此方、願いはもう決めてある」


おめでとう、の一言くらいあってもいいと思うんだけどね。

私の書き込む願いは今を生きる人間のためのもんなんだからさ。


契約履行装置の紙切れに腰をかけようと、椅子を引いた。


此方「応援してる。もう」


此方「一踏ん張り」


背後から感じた気配を振り返って確認した。

満身創痍の女が闘気と血を体から滴らせ、立っていた。

なぜだ。どうして。

完全に命を絶ったはずなのに――――




――――まだ、まだ。


友の想い背負って重ねて

進んで。そうすれば、


神風は二度吹く。



【26ワ●:仲良くなるための訓練:修】



仕官妖精「お目覚めですか。こほん、本官、仕官妖精と名乗っておきますか。申し訳ありませんなあ。応急修理要員程度の役割でしか干渉できず、動くのも厳しいかと思います」


神風「お噂はかねがね……」


神風「でも生きてるなら進まなきゃ……」


軋む身体に鞭を打ち、砂浜を進み、海に乗るが、足は水面下に沈む。艤装がなかった。電の刀も折れてしまって武器もない。構わない。動けるなら泳いでいって、刀がないのなら徒手空拳で戦えばいい。


明石さん「ま、待って、くだひゃい……」


その声に振り向いた。

息絶え絶えの明石さんの指差した方向に、真新しい艤装があった。神風刀もある。


明石さん「提督さんから、神風さんより先にリタイアするなって命令でしてえ、その意味は私にも理解出来ましたから……」


明石さん「砲弾飛んできて、この有り様、ですがあ……」


明石さん「あ、ダメ、事切れそう……本官さんしゃべって……」


仕官妖精「……お任せを」


仕官妖精「艤装は時間がなくて明石には修理出来ませんでした。魔改造艤装ゆえ、本官もぱぱっと直せず、その結果、通常の神風艤装です」


仕官妖精「本官が干渉出来るのはここまでであります」


仕官妖精「明石いわく、准将殿が強化型艦本式缶を開発して送ってくれる手筈だったそうですが、これはどうやら失敗でしょうね……」


私は構わず艤装を身につけ、神風刀を定位置に挿した。その時、艤装の煙突部分に妙なものがあることに気付いた。


仕官妖精「応援してますよ。それでは」


神風「ありがとう、ございました……」


これ、指輪?

確かに私の練度は99だっけか。艤装魔改造だし、刀一本だし、あまり意味のないものだけど、足しになるのならはめない理由はなかった。


本当にこの指輪に意味があるのかな、だなんてことふと思った。


司令官と兵士の絆の証。

根性値みたいな、目に見えない力が開花して数値になるような、そんな力があるような気はした。


海へと向かう。

砂浜についた足跡も、海に出ると途切れる。

指輪を見た。司令補佐がくれたモノだ。


私が想う理由とは違うだろうけど。

落ちてた指輪、拾って、セルフで薬指にはめる。

理想とは違うけど、型破りな私にはいいや。


ケッコンしました。

祝福のファンファーレは、鳴るだろうか。




さあ、往こう。

と前に進もうとした時に気づく。




燃料弾薬、入ってねえ。




眼前に想が映った。



【27ワ●:想題ろー&ゆー:ボート漕ぎとあなた】



私には10年間の空白がありました。

ボート漕いでいたら転覆しちゃって、溺れたのは覚えてる。目覚めた時の私の身体は細くて白くて、声を上手く出すのにも時間がかかった。ただ目覚めてリハビリして、病院のベッドで過ごして退院してからも、お家にばかりいた。


お外が怖かったからお家に引きこもっていた。

あの頃の同年代の子は未来に羽ばたいていた。びっくりするくらいみんな綺麗な女性になってて、夢を持ってました。私は周りから置いてきぼりだったのが嫌だったけど、足りな過ぎる空白で皆とすれ違うのが怖くて、なにもしなかった。そこからがんばらなかった。


気付けば12年間の空白になりました。

私は本だけ読んでた。ファンタジーの物語、他は新聞とかネットの記事だ。だからかな、色々と知識だけ増えてった。


その年のドイツは国力が深海棲艦の襲撃の影響で衰退していた。ベルリンに深海棲艦型艦載機が襲った記事がその日の新聞に載ってたんだ。多くの人が職場を失ったらしい。ちょうどユーロ危機で不景気、EUの平均GDPを下回り、欧州の病人再び、だなんて呼ぶ人も出てきた。


だからその年の政治は経済改革を重点的に実施された。失業者を減少させたものの、低賃金労働を増やしたために国民の経済格差を大きく広げたとか。


学生でない15歳以上の人には国が仕事を斡旋する制度が出来て、私にも書類が届いた。大した理由もなく拒否すれば制定された制裁措置を受けることになる。


私に届いた仕事は――――


『U-511』


対深海棲艦海軍の兵士だった。

なぜ、と調べたら、分かった。病院にいた頃に血液を抜かれていた。起きてから性格診断も受けたかな?

つまり適性検査を受けていたようだ。

適性自体は眠っていた頃から出ていて、希少な適性を持つ私は国から多くの制度が利用出来たから、高い治療を続けていられたらしい。


名誉なことだ、とお母さんは喜んでた。

私には、無理だよ。


そんな言い訳、通用しなくて。

私は半ば強引に建造されて、

殺し合いの日々を過ごすことになりました。


嫌な仕事だった。

戦うこともそうだけど、ドイツでは常に不足している対深海棲艦海軍の兵士は国の制定から外れた労働を課せられていた。周りのように、プライベートを大事に出来ない。私は家に帰れず、辛い訓練の毎日だった。


何度も辞めたいと思った。

別に私はここでもがんばっていた訳じゃなかった。

ただがんばらなくても、他のみんなががんばっていたから、なんとかなっていただけだ。その証拠に私は戦果を上げたことないし、そもそも撃った魚雷が深海棲艦に当たったことすらなかった。


辛い過去の夢見も、周りでビスマルクお姉さま、とかって目を輝かせるプリンツさんも、映えある栄光の戦艦、とかって胸を張るビスマルクさんも、なにをそこまでがんばっているのか理解できなかった。


私は国民のためにがんばれないよ。

死ぬのが怖い。私は目覚めない時間の怖さを味わった。周りの時計は進むのに、自分の時間だけ止まる怖さを知ってるから。


とある日に寮舎のテレビ番組で、ボートが映っていた。オフの日に行こう、と誘われたけど、断った。

ごめんなさい。ボートは怖いんだ。


唐突に日本に異動の知らせを受けた時、ボート漕ぎを思い出した。向かい合っている過ぎた景色は見えるけど、背中を向けて進む景色は目に見えないんだ。


対深海棲艦海軍の新しい大将が、日本の伊号潜水艦の性能の低さに目をつけて、カタログスペックの高い私達数人と、日本の優秀な兵士の援軍を取り寄せた。照月と交換だ。空襲の件から対空兵士の支援を日本に要請していたらしい。イギリスフランスと共同戦線を張っていた今、戦略的に戦艦と空母、重巡、潜水艦とでも、素質の高い秋月型の照月が欲しかったようだ。


私はレーベとマックスに別れを告げて、ビスマルクさん達と日本へと渡った。戦績の高いグラーフさんは甲大将、プリンツさんは丙少将、そして私とビスマルクさんは偉大な歴史があるという北方鎮守府に着任。


日本は蟻のように働かされると聞いていた。

経済格差は比較的ないけど、人間がたくさん過労で死んでしまう国だと聞いたことがある。怖かった。私は潜水艦な上、性能、そして日本の地形上、資材を確保するクルージングに適していたから、余計に。


ビスマルク「大丈夫。私がさせないわよ」


頼もしかった。

そこのアトミラールは先日に軍の一線を引いて内陸に異動し、新しいアトミラールは私達と同じく新規着任する予定の人らしい。私達のほうが1日だけ早かったかな。初日は前任のアトミラールに案内してもらった。

望月さんとか隼鷹さんとかポーラさんもいた。


着任の挨拶の時、三日月ちゃんとも会った。この子は新しくアトミラールと一緒に転属になったらしい。私はビスマルクさんの背中に隠れていた。とても失礼だけど、そこのアトミラールは怒らないどころか、優しく笑った。「好きにするといい。とりあえず全て自習、はい解散!」と信じられないことをいった。


だけど、Uは嬉しかったです。


がんばらなくてもいいから。


それでもなにもしなくて許されるわけじゃない。他のみんなもいやいやって感じだけど、出撃しているし。私も格好だけはって思って近くの海を泳いだ。ビスマルクさんやリシュリューさん、三日月ちゃん、島風ちゃん、天津風ちゃんが、主に北方のノルマをこなしてくれてた。


本当に私は、責められなかった。

がんばってもがんばらなくてもどっちでもいい。

アトミラールも、執務を三日月ちゃんに丸投げしたり、国境を越えてロシアのところに行ったり、所持したらダメなモノを持ち込んだり。

笑っちゃうくらい自由な鎮守府だった。


良かった。安心した。

私の理想の鎮守府だ。


そうして時間は過ぎて、

みんな優しいから、少しくらい力になろうって思えて自主的に資材を持ってくるようになった。アトミラールはまた笑った。この人は私の過去を資料で知ってるからかもしれない。三日月ちゃんからは「本当に助かります」と感謝された。


少しずつだけど、無理せずにこなした。


日本語も覚えてきて、この場所の年間の行事も知って、

そんな日本という居場所の日々に慣れた。


この鎮守府はドイツより、好き。

町の人も優しい。

日本人が親切っていうのは本当だった。


その2年後のことです。


兵士名は神風型一番艦神風。


異常なほど無理をする女の子が着任しました。



2


腕立て伏せなんかしても、私達の身体は建造された時点で時が止まるから意味がないのに、その子は倒れるまでやっていた。意味がないことなんてない、心のほうが強くなる、とでもいいたそうな感じだ。


私には意味が見出だせない訓練に無理を強いて、アトミラールから強いられた炊事と平行して、私には意味が見出だせない訓練の時間を捻り出していた。睡眠時間は私の半分以下の三時間程度だった。いくら身体が普通の人間よりも強化されているとはいえ本当に馬鹿げている。


この鎮守府で明らかに浮いているその子は話題になった。


ビスマルク「適性率10%レベルで航行性能以外死んでるとかなんとか。あり得ないわね。醜いアヒルの子ってやつかしら」


ビスマルク「解体したほうが身のためよ」


ビスマルクさんは言葉が直球だけどいい人だから、その性能で戦場に出るくらいなら解体して街で過ごしたほうが身のためだと心配しているんだろう。私も、そう思う。


あの子は丁将の鎮守府から異動してきたという。最近、深海棲艦に滅ぼされた鎮守府だった。あの子はあの『1/5撤退作戦』の参戦艦のようだった。姫鬼がたくさん混じった100体の深海棲艦に救助の支援艦隊合わせて20名で食い止めたが、大戦艦大和というこの国で最高峰の防波堤を失った栄光と悔恨の戦いだった。


その結果、あの子は神風の適性を大きく損失して砲雷撃も出来なくなったという。戦争の地獄を味わったに違いない。


心も傷ついて戦う術も失って。

それでも戦おうとするなんて、異常だよ。


神風ちゃんが腕立て伏せしてる。アトミラールからもらったメニューをこなしているようだ。そのギラギラと刺々しい目は小鳥が歌う麗らかな午後の中庭から浮いていた。


怪訝に眺めていた。

目が合って挨拶された。

怖くなって走って逃げた。



3



望月「自由な時間が3時間とか4時間?」


望月「あるある。社会人ならよくあるよ」


「そう、なんですか」


望月「え、ドイツは違うの?」


よくあることではなかった。

消防士さんとかお医者さんとか銀行員さんとかは帰りが遅くなることは多いって聞いてた。それでも日を跨ぐだなんてことは珍しい。だからドイツでは兵士が少なく常に人手が足りない対深海棲艦海軍はこの国でいうブラックに当てはまる。


望月「……ぐぐって見たけどマジか。週に35時間以上の労働禁止されてるとか、制裁措置とかこんな風に残業が禁止されてんだ。プライベートの時間をゆったり取れそうだ。少なくとも日本よりマシっぽいな」


いや、望月ちゃんは毎日が日曜日みたいな感じだけど。


望月「ふーん、向こうの掲示板覗いて来たけどさあ」


「ドイツ語、読めるんですか?」


望月「無理。ゆー、読んでくれない?」


「はい」


翻訳して伝えた。

日本語特有のニュアンスにするの大変だ。


望月「感覚が違うねえ……なんつーか日本人とは違って個人主義つうか、そんな印象を受ける。こいつらの書き込み方的に有給取るのは当然の権利みたいなしゃべり方してら」


望月「こっちでは有給取ったら周りに迷惑かからないか、とか考える、かな。うん、私達はそんな風に考える」


「迷惑? なんで?」


望月「国民性ってやつ。あたしはもう逃げたやつだけど、周りからの目を気にするんだ。世間体ってやつの奴隷さ」


望月「でもまあ……不思議だよなあ」


望月ちゃんは腕を抱えて低い声でうなった。


望月「ビスマルクさんは人の評価をめっちゃ気にするよな。栄光のドイツ戦艦だなんだのと戦果を挙げたがって、それを飾るかのように誇らし気だ」


望月「対して神風は個人主義じゃん。自分の目標にだけ向かっていて、人目なんか気にしている節はないし」


望月「ビスマルクさんのほうが日本人っぽくて、神風のほうがドイツ人っぽくね?」


う、うーん。

どうなんだろ。

でも、答えは導き出せたかな。

神風ちゃんは望月ちゃんと同じ。

自由に自分の時間を使って訓練してるだけ。

でもあれだけがんばる目標とは何なのか。

興味が出た。流されていてがんばってこなかった私とは正反対の存在に強く惹き付けられた。


「ダンケシェーン……」


望月「それとここ、翻訳飛ばした?」


「関係ない話だったので、ええと」


「ハッピーミール、です……そんなことよりマクドナルドのハッピーミールのおもちゃが売り切れていたんだって、書いてあります」


望月「日本でいうハッピー、セットのこと?」


「……?」


望月「ほら、子供用のメニューでおもちゃついてくるじゃん?」


「それ、です。ハッピーセットの、ことです」


望月「ドイツじゃハッピーミールっていうんだ?」


「はい……」


望月「お前の頭、ハッピーミールかよっていうんだ?」


ごめんなさい、ちょっと意味が分からない、です。


望月「ゆーはどっち?」


望月「がんばるのか」


望月「がんばらないのか」


望月「前者なら何のためにがんばるのか」


「どちらかというと、がんばらないほう、です」


望月「北方は自由だからわかんなくなるけどさ」ポテトを咥えて、望月ちゃんはいう。「がんばるってすごいことなんだよ。ガンバれるだけでも立派だ。だけど、あたしは思う。この国はがんばるの水準高い」


「何のためにがんばるかも、分からないです。ただ、自分のペースで」


望月「がんばるなら、それじゃダメだぞ。周り基準だ。周り基準でがんばっていることが認められなきゃダメ。それに加えて結果を出さなきゃならない。人の普通よりも、がんばって結果を出してそれで始めて」


望月「認められる。この国のがんばるはレベル高いからな。みんな大して好きでもないことしてるやつのが多いのによくやるよ。そのがんばるの水準に届かない素質のやつがほとんどなのに、人生捧げてる」


望月「それが立派で正解だと」


望月「ゆーは思う?」


「難しいです。ゆーには分かりません……」


望月「あたしも」


悩み事を共有してしまいました。

二人の悩み事が解決するのはもっと後の話。


4


三日ぶりに泳いで少しだけの資材をオリョール海から持ち帰った日だった。


神風ちゃんの異常。

それが狂気だと認識した夜だった。

可愛がってた鶏を泣きながら、殺してた。


あれは食用だとアトミラールから聞いてはいたけど、神風ちゃんが世話をしていて、ペットのように可愛がってた。私なら絶対に無理だ。えらい、とか、すごい、とかじゃない。単純に怖い、だった。


神風ちゃんは重苦しい足取りで寮舎の棟に入っていった。立ち竦んだままの私にアトミラールが気付いて、肩を軽く叩かれた。


北方提督「お疲れ様、スイミングの帰りかな。夜道の散歩に出かけるなら、防犯グッズと支給品の携帯を持ってくようにね。私から位置が分かるようになってるから」


北方提督「ああ、それと今日はあまり夜に食べないのを勧める。その分、明日の朝ご飯は期待してくれ」


「今の神風ちゃんの、訓練だったんですか?」


北方提督「うん。私が口車に乗せてやらせたようなものだ。神風は悪い子じゃないから、嫌わないでやって」


「どうしてあの子は……」


「あんなにがんばるの?」


「無理する必要が、どこにあるの?」


北方提督「ゆー。ボートはまだ怖いだろうに、君はU-ボートにされた。私の性格もあって海に出ることを無理強いはしない」


「……は、い」


北方提督「10年間の空白。起きてから」


北方提督「世界は怖かったかい?」


「はい。今も、まだ少し怖くて」


北方提督「目覚めてから、本気で悔しいと思って泣いて、本当に楽しいからと笑ったことはあるかい?」アトミラールは響の面影を感じる色のない声でいった。「そんな日が君にも訪れることを祈ってる。君はもともと天真爛漫で太陽のように明るく笑う子だったらしいね?」


「だ、誰からそんなこと」


北方提督「ドイツに行った時だよ。提督として大事な娘さんを預かる身だからね。甲大将の真似をしてみた。ビスマルク、リシュリューやポーラのところにも行ってきた。神風の姉妹にも会ってきたし」


本当にこの人は自由気ままだ。


北方提督「神風は、まだ怖いかい?」


「ボート漕ぎ」


北方提督「うん?」


「あの子は前を向いて、ます。でも、見つめてるのは過ぎた景色で、背中の未来のほうは見えません。適性率なくて上手く泳げないのに、激しい海に出ようとするなんて」


「ゆーみたいに、沈んで、溺れてしまいます」


北方提督「一人じゃない。その船の舵は私が切るし、助け合う仲間がいるだろう」


北方提督「沈まないさ」


多分、とアトミラールはつけ加えた。


4


香取さんが来て神風ちゃんの訓練が本格的に始まった。神社の階段をひたすら登り降りするよく分からない訓練をしているらしい。


その日の夜中、


――――青山司令補佐あ!


女の子の叫び声が聞こえて、パニックになった。


――――私を導いてくださああああい!


あ、神風ちゃんだ。


あの子なら大丈夫かな、と私も思った。

でも『青山司令補佐』って誰だろう?


翌日の日中に神社に足を運んだ。私は勇気を出して神風ちゃんのことに踏み込んでみた。なんでそこまでがんばるんですか。


教えてくれた。好きな司令官がいます。その人の指揮のもとで戦いたい。それだけです。


神風「この気持ちがそうだとして報われる日が来るとしたら、きっと……」


「きっと?」


神風「私があの人の指揮のもとに戦争を終わらせてからです」


私にはよく分からない次元のお話だけど、恋ということにはロマンを感じる。彼女はそのアトミラールが好きで、その人の指揮下で戦争を終わらせるという綺麗な夢を見ているようだけど、それが私には正解だとも思えなかった。


戦争終結したら、困る人も出てくるんじゃないかなって思ったからだ。深海棲艦との戦争が終わるって良いことなのになんかそうじゃないのかもって思える、そんな今の社会の混沌に私は戸惑った。


良いことか悪いことか。意見はいえてもそれが本当に正解かどうかなど、きっと誰も答えられないだろう。

ただ神風ちゃんを見ていると、こんな風に思う。


正解か不正解か分からないことは、自分次第で正解に変えてしまえるのかもって。


この日から止まっていた時計の針を、

自分で押して進めてみた。

まだ、遅いペースだ。

1年で練度数値は20から40まであがった。


5


潜水艦は資源確保のクルージングによく出かけるため海域で会うこともたまにある。それぞれの予定を調節してオリョールやバシーで会うことも出来た。その時は深海棲艦の気配がなかったらお喋りしたり、作戦効率をあげるために隊列を組むこともあった。


伊401「ゆーちゃんも大分、泳ぎ方が上手くなったねえ。最初は深海棲艦に攻撃されたら目を瞑って被弾ばっかりだったのに」


しおいさんからは泳ぎ方を教えてもらった。特に渓流での泳ぎ方は勉強になったな。深度がない場所、流れが激しいけど、お魚みたいに流されずにその場で留まれるようになったし、魚なんかも素手で取れるようになった。しおいさんいわく、鮭に魚雷直撃させられるようになれば深海棲艦なんか余裕とのことらしいけど、それはお魚さんが可哀想だからやってない。


その日にル級を倒した伊58ちゃんを目撃した。魚雷精度が悪い子だったけど、巻き込まれる距離で強引に当てていた。


――――魚雷は絶対に当ててください。まだゴーヤちゃんは小破なのです。打てます。そして、撃つ限り、外すな。当て方、教えましたよね。


そんな言葉が聞こえていたから、絶句した。


血塗れのゴーヤさんを一人の女の子が抱えて海域を離脱していた。識別では暁型の駆逐艦電の反応があるけれど、姫や鬼の反応もある。あれが例の、と私は思った。


れっきとした人間な分、深海棲艦より怖い生き物だった。


通信が、飛んできた。


ぷらずま《深海棲艦のいる海域で遊んでんじゃねーのです》


ぷらずま《消えろ》


ぷらずま「●ワ●」


本当に殺意があって、私の身体は硬直した。


伊401「あれが例の……あの天使の電の適性者とは思えないね……」


戦ったり口応えしたら殺されると思った。

まるで深海棲艦のような雰囲気。

異常だ。



6


順調に私は練度を上げていった。

でっちみたいに傷の痛みにも慣れた。イクみたいに魚雷の精度も高くなった。深海棲艦も倒した数も3桁を越した頃には、私は自然と笑えるようになっていた。とうとう辿り着いた改造可能練度、呂500に私はなった。U-511から呂500に改造できる適性者は稀だという。


北方提督「求められる適性が違うからねえ。ゆーはもともとはろーの素質があって、過去の事件でゆーの適性が出た」


北方提督「今の君は過去を乗り越えた」


北方提督「新しい自分だよ」


ですって。


「最近、痛みも快感になってきた!」


北方提督「一応聞くけど、性的快感じゃないよね」


「?」


北方提督「例えば、」


三日月「試練乗り越える的な快感ですよね分かります!」


北方提督「そ、そうそれ」


三日月ちゃんが提督を睨んでいた。三日月ちゃんたまに怖い。


その頃から神風ちゃんの特訓にも付き合うようになった。

一緒に出撃もしたけど、上手く行かなかった。神風ちゃんは敵の攻撃に被弾して沈む。もっとろーが上手くダメージ与えてアシストしてあげれたら良かったんだけど、沈んだ神風ちゃんを助けるためにも無理は出来なかった。神風ちゃんは何回も大破撃沈して、その度に、こなくそって訓練に励んでいた。


確実に前には進んでいる。

艦載機にも対応して、ガングートさんにも単艦で勝てた。

そして、終わりがやって来た。

私は『対海の傷痕』の最終作戦に召集された。


戦った。

数百の深海棲艦相手に恐れず立ち向かった。

この戦いの中で神風ちゃんがやってくるんじゃないかなって、期待してた。交戦はしなかったけど、海の傷痕をこの目で見た。

神風ちゃんなら懐にさえ飛び込めば勝てる。


だなんて。


ちっとも思えない次元の敵だった。


戦いを終えて、みんな内陸に移動して聴取を受ける。

私は拠点軍艦の艦橋から暁の水平線を眺めた。太陽が空に空いた穴に見えて、まるでぽっかりと胸に穴が空いた私の心みたいだった。内陸のほうに行って聴取を終えて、鎮守府に帰った。


内野にいたせいで聴取は長引いて、北方の中では帰投が一番遅かった。

提督にもリシュリューさん、三日月ちゃん、隼鷹さんポーラさんに軽巡棲姫を沈めた活躍を褒められた。皆の胸にも勲章があった。


神風ちゃんももらっていた。

けど、神風ちゃんはその勲章を海に捨てたらしい。

いつもの北方ではなくなっていた。

ガングートさんやビスマルクさんはしかめっ面だった。望月ちゃんはイライラしていて、言動が刺々しかった。


遠征回数0。

出撃回数78。

深海棲艦撃沈数0。


これが北方に来てからの神風ちゃんの結果だった。

私達は世界から注目を浴びて称賛をされた。

公開データが新聞やネットニュースにも掲載された

だから、浮き彫りになる。悪目立ちする。

数字でしか見ない人が好き勝手いう。


地元の記者が神風ちゃんが周りから『民間船』と呼ばれていたことを記事にした。確かに砲雷撃が出来ない前代未聞の兵士だった。粗探しをする人の格好の餌だった。血税の無駄とか、終いには、周りの人にもなぜ解体しなかったとか、飛び火していた。


眩しすぎる光が、大きい陰を作ってた。

一体なにが分かるっていうの。記者が面白おかしく書いた情報なんかをそのまま真に受けて。北方の皆だって、立派に戦った。日本の対深海棲艦海軍の仲間をいじめないでよ。


私は神風ちゃんがいたから、がんばれたのに。


神風ちゃんは部屋から出て来ない。

部屋の前に立つと絶えず、間に合わなかった、という嘆き声とすすり泣きが聞こえた。彼女が欲しいものはなに1つ手に入らなかった。もう少しで北方水姫を倒せたはずだったという。必ず倒せていた、とガングートさんもいってた。もう少しだけ、時間があれば。今度は時間が進むことの恐ろしさを私は知った。


望月「前にいったろ」


望月「周り基準でがんばって結果が出なきゃ嗤いの対象になるってさ」


「がんばったよ! だから海の傷痕倒せたんだから!」


望月「そうだな、軍はがんばったよ。軍は誉められてる。けど、准将ですら叩かれてんだぜ? 作戦の粗探しされた上、フレデリカの名誉回復発言が不味かったな」


望月「ま、英雄だ。大多数の人達は祝福してくれてる」


望月「海は平和になった。損得の恩恵は世界に渡る。それで私達は民衆のなんかを満たすためのエンターテイメントだ」


望月「世界はこの話題で楽しく過ごすことに必死」


望月「どいつもこいつも頭ん中ハッピーミールだ」


望月「だっり……生きてられっか」


強く消火器を蹴飛ばした。痛って、と右足を引きずりながら、自室へと戻っていった。


1週間後に神風ちゃんが部屋から出てきた。

陰鬱とした顔だったけど、提督が無理やりご飯食べさせていた。そこに混ざって励ましたけど、言葉は届いているようで届いていない。


神風「あの男、本当に死ねばいいのに」


あんなに必死に追いかけてた人を、

あなたの期待通りに戦争を終わらせた人を、

神風ちゃんはそんな風に嗤いながら貶した。


胸が張り裂けそうになった。



8


そうして『今』が来た。

私はとにかく資材を集めてくることを命令されていたから、敵を倒すよりも生き延びることに努めた。みんなのがんばりがぶつかり合う中で、かつての海の傷痕:当局も見たけれど、最後の海のような怖さは感じなかった。むしろそれに近い気配を放っていたのは戦後復興妖精と神風ちゃんのほうだった。


苦戦していた島風ちゃんと天津風ちゃんが向かい合う悪い連装砲君とちゃんに狙いを定めて、魚雷を撃った。幸いにも当てることが出来て、悪い連装砲ちゃんを沈め、その後に天津風ちゃんが悪い連装砲君を倒していたけど、同時に沈んでしまった。仲間のために、次へと私は進んだ。


海上では神風が吹いていた。

敵が風にさらわれるように沈んでゆくと、仲間を倒された戦後復興妖精が怒りを露にし、神風ちゃんと衝突し、私も最後に魚雷を撃った。神風ちゃんのためになるべく戦後復興妖精の航行を制限するために、当てるためではなく、航行を邪魔する魚雷を撃った。


戦後復興妖精は全てが速かった。

私は海面近くまで浮上した拍子に髪をわし掴みにされて引っ張りあげられた。至近距離から機銃の雨を受けて、沈んだ。それと同時に、神風ちゃんの刃が戦後復興妖精に届いたのも見ることが出来た。


海底に沈みながらも、やった、と私は拳を握り締めた。



――――カーンカーン。


という音が聞こえた。


そんな。まだ、終わってないの?


戦後復興妖精があの時の『E-8の海の傷痕』と同じ存在感を放っていた。薄れゆく意識の中、神風ちゃんの時間が止まった瞬間を、見た。


沈んでゆく。私は唇を強く噛んだ。

まだ、まだ!


艤装はまだ動く。神風ちゃんを助けるため、潜水航行を開始した。着底した神風ちゃんは、もう死んでいた。私が身体を起こした時、淡い光を放った。私には見えないけれど、知っている。


応急修理、要員!

希望の光だ。


安心した途端、意識が飛びそうになった。

まだ、まだ、堪える。

神風ちゃんは最後、止まった。本来ならば止まるはずがない。恐らく燃料が尽きてしまったのだろう。私は近くの海辺まで、神風ちゃんを運んだ。えぐれた顔が痛いけど、まだ動ける。


資材を、集めなきゃ。


潜水航行しようと海面に触れると、水が自分の血で赤く染まった。心臓がバクバクとしていて、全身が焼けるように熱かった。呼吸も上手く、出来ない。咳をすると、血が飛び出た。


まだ、まだ。


魔法の呪文のように、唱えた。


もう諦めよう、という気持ちも、あった。

弱い私が顔を出して囁いてくる。


それじゃ、届かないよ。脳裏に過ったがんばる女の子の姿が、私の弱気を吹き飛ばしてくれる。私だって、もっとがんばれるはず。神風ちゃんの想いを知ってから、私も痛い思いをする度に堪えてきた。


「あああああああ!」


吠えた。

不幸のせいでがんばることをしなかった。

がんばってもあの頃の私は消えてくれない。


私も、生まれ変わりたいよ。

今よりも新しい自分になりたい。


だから、まだまだ!


9


言葉が出ない。

私が知らなかったろーちゃんの全てを知った。私はあんなにも周りを失望させたまま、一人で落ち込んでいたのか。悔しさのあまり投げ捨てた過去の勲章は、何気なく放った言葉があんなにも人を傷つけていたのか。こんなにも周りから想われていたのか。


神風「ろーちゃん……」


海から日焼けした潜水艦があがってくる。

戦後復興妖精に機銃で風穴開けられて沈んだと思っていた。頬がえぐれて、片目は潰れて、首も切れている。私よりも深い傷を受けてなお、胸には『資材』を抱えていた。


ろーちゃんは太陽みたいに笑ってた。


――――まだ、やれるよね?


私は神風ちゃんの、

がんばりの才能を知ってるから。


神風ちゃんはこんなものじゃない。


もう一歩で、追い越せる。


――――がんば、れ!


じゃないと――――


ああ、ごめんね。


なんだか、上手く笑えないよ。




そういって、

ろーちゃんはゆーちゃんみたいに、

泣いてしまった。


――――向こうで応援してる、ね。


その場で倒れて、動かなくなった。




明石さん「……っ」


明石さん「この、おおお……!」


明石さんが起き上がり、艤装を動かした。ろーちゃんが持ってきた燃料弾薬を神風艤装に補充した。


明石さん「絶対に勝ってくださいよ……」


神風「……う」


神風「うあああああ!」


遠吠えが身体に響くが、気付けになった。


まだ、まだ。

もう、一踏ん張り。


後少し、がんばれるよね?


【28ワ●:Fanfare:神風 Ⅱ】



12。私の耐久だっけ。それともルーレットの倍率か、アカデミーの数学のテストの点数だっけ。今を生きる私に呼応した想がこの身の道程を絶え間なく眼に投影を続ける。私だけでなく、今まで出会い別れた人達の姿もあった。


喜怒哀楽の過去がパンクして凹んだ心に空気を入れ始める。またすぐ空気が抜けてしまうけど、その度に過去を振り返り、仲間を想い、未来を描いて、パンクした心に空気を入れてもう少し走る。


それを繰り返す。

過去も現在も未来も。

きっと、死ぬまで。


嗚呼、今いる場所は何処だろう。

感覚は皆の想に寄り添うように、散り散りになる。


それでも身体はどこかに向かって自然と動く。目には見えない誰かが舵を執ってくれている気がした。本当に純粋な神風艤装なのか、と疑問に思うほど、魔改造艤装よりも身体に馴染むし、速い。想海が映す私の過去を跳躍するように、瞬きする度に場面が未来に飛んだ。


3年振りに手にした刀以外の武器だ。

12cm単装砲を空へと向ける。


行けた。

擬似ロスト空間は私達の想いを称えてくれていた。

あの日、失った神風適性を取り戻す。


砲弾が翔んだのだ。

セルフで飛ばした祝砲のアーチにそって虹がかかり、突風が背中を押し、足元の波が踊るように跳ねては、寄せて返す音がドレミを奏でて、鳥が陽気に歌う。


無闇やたらに砲弾を飛ばして私は、笑った。

全身の痛みを笑い飛ばして航行した。


持つかな。

やつがいる場所まではまだ遠い。

想い描く理想までまだえらく長えな。


タービンを回す度に魔法の呪文を紡ぐ。


まだやれるってば。

まだ一歩踏み出せる。


辿り着いた島は、メモリー1で観た戦後復興妖精の始まりの景色と似ていた。そこには此方と、戦後復興妖精がいる。此方と目が合った。





――――まだ、まだ。


まだやれる。

もう一歩。

ろーちゃんの想い積んで進んで。

そうすれば、きっと。





「神風は、二度吹く」


「ですって!」


戦後復興妖精「いい加減にしてくれ……」


戦後復興妖精「何回殺せば死ぬんだテメーは!」


お互いに腰に携えた軍刀を抜いた。


砂浜の上、合を重ねる。海の上と同じく刀の腕は互角だ。数えている余裕もなく、意識は常に一手先、二手先、三手先へと向ける。その刀とぶつかり合う度に戦後復興妖精の、負けてたまるか、の想いが鉛のように刀身からこの身に強く響いてくる。


同じモノを背負ってる。


戦後復興妖精「敗けられるか……」


戦後復興妖精「負けてたまるかよ!」


神風「私だって――――」


神風「勝ちたいよ!」


勝ちたい刃と負けられない刃が、火花を散らした。

その火花が鏡のようにお互いの過去を映し合う。刀を重ねる度に、この戦後復興妖精と第1世代の壮絶な過去、その刃に込められた150年の想いが高潔に吼えた。悲鳴をあげた私の身体を培った精神力で支え、この血と身体と感覚を使い潰して拮抗させる。


戦後復興妖精が足取りで刀を避けるとともに、上半身を捻った。

神速で襲う刃が私の刀を叩き折り、勢いで左肩に食い込んだ。


私は舌を強く噛んで意識を保ち、

大振りの反動で仰け反った戦後復興妖精の頭に向けて、12cm単装砲を放っていた。


戦後復興妖精「――――」


即座に身体を捻り、急所を守ろうと、両手が動いていた。

避けられたけど、ひっかかってくれた。

左手にある砲を動かしたと同時に、

私の右手は予備の神風刀の柄を握っている。


何十万回と繰り返した抜刀動作は、

神速。

眼前の敵の首を瞬く間に刎ねた。








景色に光の粒が蛍火のように舞った。

擬似ロスト空間が消失を始めたのかな。



それからのことはよく覚えてない。

けど、向こうに戻ってすぐに意識は取り戻した。


歓声があがって、

みんなから代わる代わる抱き締められた。


今までのことが頭に流れて、

涙、溢れた。











後書き


ようやく決着。
戦後処理完了です。
ここまで読んでくれてありがとう。


↓次回。

【1ワ●:最後の決闘、観戦ルームの様子】

【2ワ●:緊急会議】

【3ワ●:愛の告白】

【4ワ●:元帥から】

【5ワ●:卯月ママがやって来た!】

【6ワ●:准将と神風? 反応に困る】

【7ワ●:次から次へと】

【8ワ●:お疲れ様、それぞれの未来へ】

【9ワ●:お買い物と、黄昏れる男の子】

【10ワ●:赤く染まるレモンティー】

【11ワ●:面接官お願いします!】

【12ワ●:一般人の方と語る】

【13ワ●:赤く染まるレモンティー 2】

【14ワ●:赤く染まるレモンティー 3】

【15ワ●:戦後日常編 アッシー&アッキー】

【16ワ●:My life is dead】

【17ワ●:雨のち、死亡事故現場のち、営業】

【18ワ●:戦後日常編:終結】

【19ワ●:ヤバいヤバいヤバい!】


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