2018-02-21 23:03:12 更新

前書き

今回でこの話は完結となります。

もし一話から読んでくださった方がいれば、深くお礼を申し上げます。

ありがとうございました。


迷い

「来週の土曜日、うちに来てください」


「なんでそうなる。てかなにしに」


「再来週から学年末試験があるじゃないですかー」


そういえばそんな時期だな。


「しかも、先輩意外と勉強できますし」


「その点で言うなら、雪ノ下の方が適任だろ」


「雪ノ下先輩、教えるのあまり得意じゃないの知ってますよね先輩?」


「あぁ…まぁな。でも俺は引き受けないぞ」


「なんでですか?」


「いやほら、土曜日は小町とデートが…」


「本当ですか?じゃあ小町ちゃんに電話して聞いてみます」


「ちょっとまて!それはやめてくれ。頼む」


「じゃあ来てくれますか?」


「いやでもな…」


「先輩、私の胸、揉みましたよね…私、初めてだった、のに…」


一色が両手で涙を拭く動きをする。嘘泣きだろ…。


「いや、つっても揉むほど大きくなかっ…っていってぇ!!!」


思い切り足を踏まれた。


このままあの事を通報されるのはごめんだ。特に、由比ヶ浜には。


「はぁ、わかった。ただし、俺は文系しかできないからな」


「はい!それでは、土曜日の13時、この駅待ち合わせで!」


うぇぇ…めんどくせぇ。

二週続けて休日出勤とか、専業主婦失格だな。


――――――


「お兄ちゃん、小町とデートするって嘘ついたでしょ」


一色め、ちくったな。


「いや、それはあくまで俺の願望なだけで嘘ではない」


「だめだよお兄ちゃん。土曜日ちゃんと行くんだからね」


「勉強はな、人に手伝ってもらうものではなく一人でやるものなんだぞ」


「じゃあ、小町もお兄ちゃんに勉強教えてもらわない方がいいの?迷惑だったの?」


「ち、ちがうぞ!そうだな、教えてもらうのも大事だな、うん」


危ない、小町に嫌われるところだった。


「わかった。行く」


「うん、がんばってね!」



――――――――――――


「駅っつっても、どのへんだよ」


今日は、小町との、もとい一色との約束の日である。


今の時刻は12:50 集合時間まで10分ある。


駅に集合と言われたが、いくらなんでも範囲が広すぎるので日曜日に偶然出会ってしまった場所で待っている。


「せんぱぁーい」


一色が走ってきた。


「おぉ、んじゃいくか」


「はやっ!もっとあるじゃないですかー!」


「ない」


「女の子の服を褒めるのは男の子の仕事ですよ?」


「生憎だが、俺は専業主婦希望なんだ。働く気は無い」


「…もういいです!行きますよ!」


なんで怒ってるんだよ。短気なの?


いや、実は少しだけ可愛いと思ったが、なんか恥ずかしいじゃん。



電車で10分、徒歩で10分程度だったが一色の家に着いた。案外近いんだな。


「ここが一色の家か」


大きさはうちと同じくらい。


女子の家に、しかも二人きりでなんて初めてだったので少し緊張していた。


「緊張してます?」


「だからお前はエスパーなの?そりゃするでしょ」


「先輩、今日はお母さんが家にいるので変なことしちゃダメですよ?」


「いやしないから」


冗談を言い合いながら一色の家に入った。


「お、お邪魔します」


他人の家特有の匂いがする。


「あらあら、いらっしゃい」


おそらくリビングであろう部屋から出てきたのは一色の母親だ。


見た目だけでわかるほど、ほわほわしている。どことなく由比ヶ浜の母親に似ている。


ていうかめっちゃ若そう。


「いろは、彼氏連れてくるならちゃんと紹介くれてもいいのにぃ」


「か、彼氏じゃないから!!」


「どうも、同じ高校の比企谷です」


「ご丁寧にありがとう、私はいろはの母です。あなたのことはいろはから毎日聞いてるわ」


「お母さん!余計な事言わなくていいから!!先輩は先に2階に行っててください!」


「お、おぉ」


「ゆっくりしてってねぇ」


後ろで一色が色々文句を言っているのを聞きながら、二階にあがる。


2階には部屋は2つあったが、『いろは』と書かれた看板が飾られている部屋に恐る恐る入った。


入ってまず思ったのが、主にピンクが基調で実に女の子らしい部屋だということだ。


それに…。一色の匂いがすごいする。


なんて気持ち悪いことを考えていると、母親に文句を言い終えたらしい一色が入ってきた。


「す、すいません先輩。お母さん、私が男の人を連れてきたことが嬉しかったみたいで」


逆じゃないのか。小町が男を連れてきたらその男家から追い返すけど。


「いい母親じゃねーか」


「とりあえず、勉強しましょう!」


「あぁ、そうだな。わかんないところあったら聞いてくれ」



一色と俺は1つのテーブルを挟み各々の勉強を始めた。俺は苦手な数学、一色は現代文だ。


20分くらいたっただろうか、一色が聞いてきた。


「せんぱぁーい、この作者は何を考えてるんですか?」


「それを考えるのがお前の仕事だ」


「作者の心情がわかんないんですよー」


「大事なのは、問題を作ったのは作者ではないということを頭に入れることだ」


「どういう事ですか?」


「問題を作った人がどんな回答を期待してるのかを考えるんだ。作者の気持ちなんてそりゃわかんけど、作者が同じ単語を2回繰り返していたら、『たぶんこれが作者の主張なんだな』と問題製作者はその部分を答えさせようとする」


「つまり作者じゃなくて問題製作者側の立場になって考えろってことですか?」


「そういうことだ」


「なるほど、ありがとうございます」


意外と真面目なんだな。学校ではいつも小悪魔振りまいてるからあまり分からんかったが。



「あ、先輩!作者の心情がなんとなくわかった気がします!」


「おぉ、そうか」


なんというか、教えたところを理解してもらうえるのは嬉しいものだな。

もしかすると教師としての才能が…


いやいやだめだ。俺は初志貫徹を守る男だ。




「そろそろ休憩するか」


「そうですね。んんー!久しぶりにこんなにやりました」


「お前もやれば出来るんだな。学校でも優等生ぶった方が男子からモテるんじゃないか?」


「真面目な私に惚れたんですか?素のままの私を好きになってくれなきゃ嫌ですごめんなさい」


「真面目な部分も、素だろ?」


「…。先輩、そういうのずるいですよ」


何が、とは言わなかった。


少しの沈黙が続いた。


「今日はすいません」


「どうした?」


「なんか、ほとんど強制みたいな感じでうちに来てもらっちゃって」


「気にすんな。勉強を教えるのは嫌いじゃないしな」


「でも…」


「誘われた時に渋ったのも、女子の家で、しかも二人きりだから少し緊張してたっていうか。だから別に嫌なわけじゃない」


「先輩も女子相手に緊張とかするんですね」


「そりゃするだろ」


「私も緊張してます」


「嘘つけ。慣れてるんだろ?こういうの」


「家に男の子を入れたの、先輩が初めてですよ?」


え、まじ?


「そうなのか…。意外だ」


「こう見えて私、男の人と付き合ったこともありません。もちろん胸を触られたこともなかったです」


「ごめんなさいね、俺で」


「いえ、私の不注意が原因でしたから。それに先輩なら…」


後半、全然聞こえなかった。


すると一色は俺の隣のへ来て、


「キスも、したことないですよ」


一色は、顔を赤らめながら言った。


自然、俺の目線は一色の唇へ向く。


「あ、今私の唇見ましたよねー先輩」


まんまとはめられたよ、この小悪魔ちゃんに。


「今のはお前が悪い」


「したいですか?」


一色の顔が段々近づいてくる。何故か俺は、避けようとはしない。


すると―――


「勉強お疲れ様ー、お菓子とジュースもって…」


一色の母が、お菓子とジュースを乗せたお盆を持ちながら入ってきた。


「ぉぉおおおお母さん!?違うのこれは…!」


「私ったらごめんなさい。ここに置いておくから好きに食べてね。それじゃごゆっくりぃ」ガチャ


「…」

「…」


「すいません…。ちょっとからかうつもりだったんです…けど…」


「…」


「普通あのタイミングで入ってきますか!お母さんのバカ!!」


「いやまあ、なに。お前が悪いな」


「でも先輩、拒否しませんでしたよね?」


「それは…。あ、お菓子食べよう。美味しそうだなー」


「む、逃げましたね…」


俺はごまかすようにお菓子を黙々と食べた。



それからまた、一色の質問を受けつつ2時間ほど勉強をしたが、ひとつわかったことがある。


こいつ、意外と数学が得意。


最後の方とか、逆に一色に教えられてたくらい。


「なんか悔しそうな顔してますね」


「そりゃするでしょ、後輩に勉強教えてもらうとか」


「ふっふーん。いつでも教えてあげますよ♪」


「調子乗んな」


悔しかったので頭を小突いてやった。


―――――――――


「今日の所はこの辺にしとくか」


「そうですね。今日はありがとうございました」


「んじゃ、一色の母ちゃんに挨拶して帰るわ」



「今日はお邪魔しました」


「またいつでも来てね。次はちゃんと気をつけるから」


気をつける、とは部屋に入る時のことだろう。


「んじゃ、またな一色」


「はい!また学校で!」


―――――――――


「お兄ちゃん、どうだった?」


「ん、普通だったぞ」


「えぇー!もっとなんかあるじゃん!」


「そうだな…。一色は意外と数学ができる」


「いやそういうのじゃなくて…」


「あと、一色の母ちゃんと一色は全く似てない」


「まあいいや、お兄ちゃんだもんね」


恐らく、小町が求めている答えはいわゆる男女で何か展開はなかったのかということだろう。


何も無かった、と思う。一部除いて。


「んじゃ、小町ちょっと勉強して寝るね」


「んぉー」


―――――――――


月曜日


いつも通り暇つぶし機能付き目覚まし時計で目を覚ましたのだが・・・


「・・・だるい」


おまけに頭も少し痛い。


熱を測ると38度あった。


「結構高いな・・・」


「お兄ちゃん大丈夫?学校には小町が連絡しとくよ」


「いやいいよ、そんくらい自分でやる」


小町の入試が近いってのに、風邪を引くなんて・・・

一刻も早く完治しなければ・・・


「小町、あんま俺に近づくなよ」


「そうだね。お兄ちゃん菌はなかなか強そうだし」


おい、中学のトラウマ思い出すからやめろ。


『比企谷菌だーにげろー!』『たっちー!』『今バリアしてましたーwww』


バリア効かないとか、どんだけ強力だよ比企谷菌・・・



「しっかり安静にしてなよ!小町行ってくるから」


「おお、いってらっしゃい」




「食欲もあんまないな・・・。とりあえずもっかい寝るか」







「ん、んぁああああ

まだ少しだるいな・・・。」


暇つぶし機能付(以下略)で時間を見ると


「・・・・17時」


寝すぎだろ俺。


喉乾いたし下に降りるかと体を起こし、ベッドから出ようとすると・・・


「・・・てうわっ!びっくりした・・・」


「あ、おはようございます。先輩」


一色が俺の勉強机の椅子に座っていた。


「え?なんでここにいんの?ちょっとまってろ今すぐ110番してやるから」


「不法侵入じゃないですよ!小町ちゃんに入れてもらいました」


「・・・」


「な、なんですか?」


「本棚とか見てないよな?」


俺の本棚にはいわゆる男の子の本が隠されている。

小町にばれないよう奥にしまっているのだが・・・


「み、見てないですよ?」


「ほんとうか?」


「ほ、ほんと・・・です」


「そうか。ならいいんだ」


あれを見られたら八幡もう学校行かない。


「てかなんで来たんだよ」


「看病です」


「いや、でも風邪移るかもしれないぞ?」


「その時は、先輩が看病してください」


「そしたらまた俺が移っちゃうよね」


「そうなればずっと私といられますよ?」


「おお、それはいいかもな」


「・・・え?」


「一生風邪ひけば学校行かなくて済む」


「・・・」


冗談をかましてやったのに一色に叩かれた。

おい、一応病人なんだぞ。


「あ、そういえば俺喉乾いてるんだった。ちょっとまっててくれ」


「あ、私来るとき飲み物買ってきたんです。はい、どうぞ」


一色がレジ袋からスポーツドリンクを取りだした。


「お、悪いな。今回は甘えさせてもらうわ」


ちゃんと看病する気で来てくれたのか。


「先輩、今日なにか食べましたか?」


「そういや、ずっと寝てたからなんも食ってねえな」


「ちゃんと食べなきゃだめです。少し待っててください」


言って、一色は部屋を出て行った。何か食べ物を持ってきてくれるのだろうか。


と思っていたのだが、一色が出て行ってから10程経った。


「一色の奴、遅いな」


もしかしてコンビニまで買い物をしてるんじゃないかと思っていると、部屋の扉が開いた。


「お待たせしてすいません。お粥作りました」


「え、まじ?」


一色が俺の前にお盆にのったお粥を置いた。

お粥をみると、朝まったくなかった食欲が一気に高まってきた。


「何から何まで、さんきゅな」


「いえ、これも看病ですから」


「一色の料理、久しぶりだな。美味そうだ」


「そうですね。先輩私の料理大好きでしたよね」


「ああ、好きだ」


「えっ・・・///」


見ると、一色の顔は真っ赤になっていた。


「おい、顔すごい赤いんだけどうつってないよな?風邪」


流石にこんな短期間でうつらないよな。


「だ、大丈夫です・・・///

い、いいからはやく食べてください!」


「お、おぉ。んじゃいただきます」


数週間ぶりに食べる一色の料理はとても美味かった。

それに、前よりもうまくなってる気がする。


「料理勉強してるのか?」


「え?あ、はい。将来ちゃんとしたお嫁さんになるために!」


「いやほんと、毎日食べたいくらいうまかった」


「ま、毎日って・・・///」


「小町には勝てないがな」


「一言余計です!」


「今気づいたんだが、汗ですげぇベタベタだ・・・」


「せ、先輩!」


「ん?」


「私が体拭きましょうか・・・?」


「なにいってんのあなた」


つまり一色の前で服を脱ぐということだよな。

絶対まずいでしょ。


「こ、これも看病です!」


「無理しなくていいぞ?シャワー浴びるし。それに俺のメンタルがもたない」


ヘタレですいません。


「風邪ひいてるのにシャワーはだめです!いいから脱いでください!」


はぁ、これはもう拒否ってもだめだな。


「わかった。けど脱ぐところ見られるのはさすがに恥ずかしい。そっち向いててくれないか」


「は、はい」




女子の前で服脱ぐってすごい緊張するんですね。初めて知りました。


「ぬ、脱いだぞ」


「・・・・///」


なんかすごいじろじろ見られてる。恥ずかしいどころの騒ぎじゃなかった。


「先輩って、意外といい体してるんですね」


「意外とは余計だ」


「じゃ、じゃあ拭きます」


てかいつの間にタオル用意してたんだよ。


「・・・」


「・・・」


「あの、くすぐったいんですけど・・・」


主に心が。


「我慢してください」



「あの、上半身は終わりました・・・けど・・・」


一色が俺の下半身へと目を移す。


「い、いや!!さすがにこっちはいいから!」


「わ、わわわわかってますよ!///」



一色に後ろを向いてもらい、俺は自分で下半身を拭く。足だよ?


「ふぅ。こんなもんか。いいぞこっち見て」


「・・・」


「・・・」


「今私、なんかすごく恥ずかしいです」


それは俺も同じだ。


「お前が拭くって言いだしたんだろ・・・」


「私が風邪を引いた時は・・・先輩が拭いてくださいね?」


心臓が大きく跳ねる音がした。むろん自分のだ。


「なななななにいってるの一色さん!?」


「っふふ、冗談ですよ♪」


まんまと騙された。俺としたことが・・・


「そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか?」


「そうできるならそうしてるんですけど・・・」


一色が窓へと顔を向けた。俺もつられてそちらを見る。


「なにこの雨・・・」


逆になんで今まで気づかなかったの?


「ごらんのとおり、私が先輩の家に入った途端降り出して・・・」


「なんでお前が来るときいつも雨なんだよ・・・」


「神様が私達を一緒にいさせようとしてるんじゃないですか?」


もう騙されないぞ。この小悪魔めっ!


「はいはいそういうのいいから。じゃあ、止むまで雨宿りしてけ」


「ありがとうございます」


「でもさすがにずっとこの部屋にいるのもな・・・。移しちゃ悪いし」


「いいんです。気にしないでください」


こんなにしてもらって、風邪をうつしてしまったらそれこそ罪悪感があるんだが・・・


「一色は、優しいんだな」


「・・・へ?」


「いやなに、こんな俺なんかのためにわざわざ家にきて看病してくれる女の子なんていないしな」


「そんなんじゃ、ないです」


「最初会ったときは、ただのぶりっことしか思ってなかったんだが」


一色と出会ってから今までのことを思い出す。


「・・・」


「でも長くいてみれば実はちゃんと乙女で、人一倍考えてて、生徒会の仕事もちょっと俺に頼りすぎなところもあるがちゃんとやってるのを知ってる」


次から次へと、一色への想いが勝手に口から出ていってしまう。


きっと、熱のせいだろう。


「・・・」


「だから、なんつーか、そんな頑張ってる一色を見てたら・・・・もっと頼ってほしいというか、一緒にいて居心地がいいっていうか」


「先輩、それ告白ですか?」


「え?い、いや!そうじゃなくて・・・」


見ると、一色は俯いている。ほんのり、赤くなっているのが見えた。


「たぶん、風邪のせいだ」


そう。今日会ってから、一色がずっと可愛く見えてしまっているのは、風邪のせいだ。



「先輩」


一色は顔を上げ、


「私も・・・先輩の風邪、移っちゃったかもしれません」



カチッという音が聞こえた。


一色は、俺の座っているベッドに片足の膝をのせ、俺の肩に両手をのせ、キスをした。


「・・・」


「・・・」


10秒くらいだろうか。


俺はその10秒間、なにが起きたのかわからなかった。頭が真っ白になったのだ。


「風邪の・・・せいです・・・」


一色は、両手を肩に乗せたまま、顔を真っ赤にして言った。


一色が、俺にまたがるようにベッドに乗り、さらに唇を重ねてきた。


「ん・・・んぅ・・・」


「んはぁ、ん・・・」


頭がぼーっとする。


抵抗は、しなかった。


どれくらいの時間唇を重ねていたのだろうか。

俺らは、かなりの時間唇を重ねた。


「んはぁ・・・」


「・・・俺も、風邪のせいだ」


「・・・はい、わかってます。風邪が治ったら、いつも通りですよね?」


「ああ」



「そういえば先輩、呼び方が一色になってましたよ?」


「あ、すっかり忘れてた」


土曜日もずっと一色呼びだったよな。


「私も気づかなかったです。まだ、いろは呼びは早かったようですね」



時計を見ると、18時を回っていた。


「私、ファーストキスだったんですけど、どうしてくれるんですか?」


「いやしらんから、お前からしてきたんだろうが。俺も初めてだったし」


キスをしている間のことはよく覚えていないが、一色とのキスは・・・


いや、あまり思い返すのはやめよう。変な気分になりそうだ。


「てか意外だな。お前はもうキス以上のことも・・・」


「キス以上って、なんですかぁ?」


一色が、小悪魔な笑みを見せながら言ってきた。


「い、いや・・・」


「あの本棚の奥にしまってる本みたいなことですか?」


「おま、みたのかよ・・・」


「男の子の部屋にはそういうのがあるって聞いてましたし、でもまさかほんとにあるとは思ってなかったです」


「忘れてくれ・・・」


「先輩も、ああいうことしたいんですか・・・?」


「え、いや、その・・・」


「先輩なら、いいですよ?」


ゴクリ、と一瞬想像してしまったが、


「いやいやそれはさすがに色々まずいでしょ。小町いるし」


「小町ちゃんがいなかったら、どうですか?」


「そ、それは・・・」


俺が慌てていると、一色はまた小悪魔みたいに微笑み、


「ふふ、冗談ですよ」


またやられた。


「俺をからかって楽しいかよ・・・」


すると一色が急に、質問してきた。


「先輩、結衣さんのこと気になってますよね」


どきり、とした。


「なんで、そう思うんだ?」


俺は、図星を突かれたように感じた。


実際、図星をつかれていた。


「女の子は、そういうの鋭いんです」


「まぁ、正直言うと、気になっている、と思う」


由比ヶ浜と、旅行した時既に気づいていた。


気づいていたのに…


「なのに私とキスしたんですかぁ?」


「い、いや!そうじゃなくてだな・・・」


「ふふ、慌てなくてもいいですよ。私は二番目でも、構いません」


「ちがう。最低な男だと思われるかもしれないが、一色のことも、その・・・同じくらい気になってる」


ほんとに最低かと思われるからこれは口にしなかったが、看病に来ていたのが由比ヶ浜だったとしたら、同じくそういう気分になっていたかもしれない。


「最低だなんて、私は思いません。私はそんな先輩が、好きなんです」


「・・・え?」


「・・・はい?」


「す、すきなの?俺のこと」


「え、なんで今ですか!?キスしたじゃないですか!」


「いやだって、あれは風邪がうつったからとか・・・」


「嘘です」


「そ、そうだったのか・・・」


「好きでもない男子と、キスなんてしませんよ」


「それなのに俺は由比ヶ浜のことも気になって・・・。なんて最低な男なんだ・・・」


「いいんです先輩。でもそのかわり、最後はちゃんと、私か結衣先輩のどっちかを選んでくださいね?」


「・・・わかった」


―――――――――


雨が止み一色が帰ってから、今まで背けていたことについて真剣に考える。


しかし、本気の恋愛など今までしたことがない。


それに、好きになったのが二人。


「これ、きついな…」


部屋で独り言をこぼしたが何も解決などできない。




「小町、相談がある」


「うん、聞くよ」


俺の真剣さは顔にも出ていたのだろう。


小町はしっかり聞いてくれた。




「そっか」


「最低なことだってのはわかってる」


「お兄ちゃん。二人を同時に好きになるのは悪いことじゃないんだよ。


大切なのは、ちゃんと答えを出すこと。どちらかを選ぶこと。


最低なことっていうのは、どっちも選ばないで逃げることなんだよ。


お兄ちゃんは真剣に考えてる。最低なんかじゃないよ」


涙を流しそうになった。妹に励まされるなんてお兄ちゃん失格だ。


「どちらかを選ぶ、か」


正直、わからない。


由比ヶ浜と一緒に旅行に行って、楽しかった。


一色の料理、美味かった。


由比ヶ浜の優しい声が好きだ。


一色のからかう時の表情が好きだ。



どちらにもそれぞれの好きなところがある。


どっちが上かなんて、決められるわけがない。



「一色は俺に気持ちを伝えてくれたが、由比ヶ浜の気持ちはわからない」


いや違う。わからない振りをしているだけなのかもしれない。


今までのトラウマに怯えて逃げているだけだ。


「お兄ちゃんちょっと頭痛くなってきたよ」


「今のお兄ちゃんなら大丈夫。小町が認めてるんだもん」


「そうだな。お前が言うからには信じてみるか」


「できる妹を持って幸せだね!」


「あぁ、ほんとだよ」


―――


小町からアドバイスをもらったが、とはいってもやはりまだ決断はできない。


運のいいことに、学校からは後2日休めと言われている。


「それまでにはちゃんと答え出さなきゃな…」



――――――


答えが決まることもなく火曜日。


体はだいぶ軽くなった気がする。


心はだいぶ重いけど。


「はぁ…。とりあえずアニメ見るか」



『俺は妹が好きだ!だからお前とは付き合えない!!


俺は、妹を愛しちゃってる変態なんだよ!!!!』



なんてこと言えたら苦労しないよな…。


そもそも妹じゃねえし。


アニメを見て時間を潰していると、小町も帰り、あっという間に18時である。


すると、家のチャイムがなった。

一色だろうか。


風邪だが、ほとんど治ってるので俺が出ることにした。


「やっはろー!」「どうも。あら、意外と元気そうじゃない」


「おお、お前ら来てくれたのか」


二日で3人もお見舞いとか、リア充入りしていいんじゃないの?これ。


「昨日も部活終わってから来ようと思ったんだけどね、雨降ったから」


「そうなのか、わざわざ悪いな。上がってくか?」


「いえ、安全を確認出来たし帰るわ。お邪魔しちゃ悪いもの」


「ぜひ上がっていってくださいー!」


後らから小町がひょこっと現れた。


「俺の風邪は人にうつらないから安心しろ」


「なんで自信あるし」


「比企谷くん自体人に交われないもの。菌だって同じよね」


なんでわかったんだよ。


「それなら少しだけ上がらせてもらおうかしら」




「うりゃー!くらえー!」


「ふ、まだまだですね結衣さん……とりゃっ!」


「うわー!また負けたー!もっかい!」


由比ヶ浜と小町はスマブラをやっている。


小町は実はかなり強く、俺も全く勝てない。


由比ヶ浜は全くの初心者で、先程から負け続けているのにすごく楽しそうだ。


やはり、由比ヶ浜はどんなことも楽しくできるのだろう。


「比企谷くん」


「ん?」


「…いえ、なんでもないわ」


「そうか」



「初めて来たわね、あなたの家」


「そういえば、そうだったな」


「あの、とても言い難いのだけれど…」


さっきからはっきりしないな。雪ノ下らしくない。


「…かまくらちゃんは、どこにいるのかしら」


そういえば君、猫大好きフリスキーでしたもんね。


「ちょっとまってろ、今連れてくる」


俺はコタツからうちのだらしない猫を引っ張り出す。


重てぇ。


「ほらよ」


雪ノ下の膝にかまくらをのせる。


雪ノ下の目がキラキラしている。


「なんというか、少し丸いけど可愛いわね。

………欲しいわ」


いやあげないから。一応大事な家族だから。


てか、この猫俺の膝の上にいる時より気持ちよさそうにしてるんだけど。


「マンションだから飼えないもんな」


「ええ、でもマンションじゃなくても飼わないと思うわ」


「なんでだ?」


「別れというのは、とても悲しくて、寂しいもの」


好きだからこそ、そう考える人も少なくないのだろう。


しかし、かといって飼ってるから別れが寂しくないという訳では無い。


うちはその覚悟をした上で飼っているのだ。


「まあ、こんな猫でよければいつでも遊びに来てやってくれ。こいつなかなか俺になつかないからな」


由比ヶ浜のキャラクターが吹っ飛ばされた。


「ええ、そうするわ。

このままあなたのようになっては可哀想だもの」


ふふっと雪ノ下は冗談めかす様に微笑んだ。



「むう、小町ちゃん強いなぁ」


「いつでもお相手しますよ♪」


「じゃ、じゃあまた来ていいの!?」


「その時は小町自分の部屋にこもってますから!」


「そ、そんなことしなくても…///」


「頑張ってくださいね、結衣さん」


「…うん、ありがとう小町ちゃん」


「それでは、少し名残惜しいけれど帰りましょうか」


帰りましょうとか言ってるけど中々かまくらから手離さないよこの人。



「じゃ、ヒッキー!お大事にね!」


「また学校で」


「おう、今日はさんきゅな。気をつけて帰れよ」




「…」

―――――――――



「小町ー、行くぞー」


「ちょっと待って!……よし、レッツゴー!」



「それじゃ、小町行くからね。しっかりするんだよ?」


「ああ、わかってる」



風邪もすっかり治り、二人の事もしっかり決断…はまだ出来ていない。


学校行きたくねぇなと、いつもより緩いスピードで自転車を走らせていると、


「おはよう、ヒッキー」


「おお、おはよう」


俺が悩みを抱えている原因の1人、由比ヶ浜がバス停に立っていた。


俺は登下校このバス停を通るのだが…


「誰か待ってるのか?」


「うん、ヒッキーを待ってたんだ」


「え、俺?どうしたの」


「なんもないよ?」


「なんだよ」


「えいっ!」


「おわっ!ちょ、危ないっての」


由比ヶ浜が自転車の後ろに飛びついた。


「へへへ、しゅっぱーつ!」


いや、あの、背中に柔らかいメロンみたいなのが当たって気になりすぎるですが。事故るよ?


「…///」


俺は無言で漕ぎ始めた。


「つっても、こっから学校までそんな遠くないけどな」


「…ねえヒッキー」


「ん?」


「二人で授業サボらない?」



決意



「ゆーうえんちー!」


ほんとにサボっちゃったよ。


優等生(仮)の俺が授業をすっぽかすなんてみんな心配するだろうな。

…。やめよう、泣きそうになってきた。


「いつまでゾンビのモノマネしてるのさ」


「俺を死人扱いしないでね」


―――


「んで、何から乗る」


「あれ乗ろ!あれ!」


言って由比ヶ浜が指を指した先にあるのは、


「なんか運転するやつか」


「私運転手ね」


「やだまだ死にたくない」


「なっ…失礼な!いいからいくの!」



平日ということもあり、それほど並ばずに済んだ。


俺たちのようにサボっている学生はおらず、親子連れが多いようだ。



「うえ…まだ具合悪い…」


マリオカート並に荒かった由比ヶ浜の運転を終え、近くのベンチで休む事にした。


「そんなひどかった?私の運転」


「酷いってもんじゃねぇぞ。免許は俺がとるから安心しろ」


「…えっと…///」


由比ヶ浜がモジモジしているのを見て気づいた。今のプロポーズっぽくね?


「いや…なに。事故られたら困るしな…。

あ、あれ行こう。面白そうだぞ」


必死に誤魔化し、俺たちが向かったのはこの遊園地で1番こわいらしい絶叫マシンである。


絶叫系はあんまり得意じゃないんだが咄嗟に指を指したのがこれだったので逃げるわけに行かない。


「ヒッキーもしかして怖いの?」


「べべつにこわくねえし。ディスティニーランドでも絶叫系乗ったし」


「へー?じゃ、先頭ね」


「ちょ、それは…」


言おうとしたが、男八幡、ここで逃げるわけに行かない。


「いいだろう。俺の勇姿を隣で見ているがいい!」


―――


「ヒッキー、死んだゾンビみたいな顔してるけど…」


死んだゾンビってなんだよ。二回死んでんじゃねぇか。


「お前の運転のあとだったからな…」


「まってて、ジュース買ってくるから」


「おお、悪いな」


俺がベンチで休んでいると、携帯が鳴った。


ちょうど4限目が終わった頃だろうか。


「うわ、平塚先生…」


どうする俺。ここで出たら確実に殺されるが、出なかったら出なかったで後から怖い。


仕方なく、出ることにした。


「…」


「…おい比企谷。現国にお前と由比ヶ浜がいなかったがどういう事だ」


「すいません、風邪が悪化したみたいで」


「学校に連絡が来ていないが」


「それは…風邪で寝込んでいたので連絡が遅れたというか…」


「女に嘘が通用すると思うなよ?」


ひ、ひい…この人超怖いよぅ…。


平塚先生が結婚できない理由が垣間見えた気がする。


「…由比ヶ浜と授業サボって遊園地来てます」


「な、遊園地、だと?

…羨ましい…」


後半本音出ちゃってますけど。


「はぁ、仕方ない奴だ。しかし、前の君ならこんなことはしなかったのだろう。これも部活での厚生ということで許してやる。学校には私が誤魔化しておこう」


ちょっと甘すぎない?この人。


「ただし、ハメを外しすぎないように。いいな?」


「すいません。ありがとうございます」



電話を切るとジュースを両手に持った由比ヶ浜が戻ってきた。


「さんきゅ。いくらだった?」


「いいよお金は」


「いやしかしな」


「いいの!元々私が連れ出したんだから」


「…悪いな」



ひと休憩を終え、次はお化け屋敷に入った。


俺の体力大丈夫かしらと心配していると、由比ヶ浜が超ビビっている。


そういえばこいつ怖いの苦手なんだっけ。


さっきのお返しだ。逆に脅かしてやろう。


「ヒッキー、暗くてよく見えないんだけど、ほんとにお化けでないよね?」


「…」


「ひっ、ひっきー?」


「…」


「え!?ヒッキーどこ!?」


「わっ!!」


「うぎゃあ!!!ゾンビー!!!!」


…いや脅かした俺も悪いけどいくら何でもひどいでしょ。


「…あれ、ヒッキー?」


「いよいよ本当のゾンビ扱いされちゃったよ」


お化け屋敷で人稼ぎ出来るレベルだろ。


「…もう!ほんとにばか!」


「ちょ、泣くことないでしょ?」


「だ、だって…ヒッキーがいなくなってほんとに怖かったんだもん…」


どくん


「お、おいおい。悪かった、冗談が過ぎた。…ぱっぱと出るぞ」


「…うん」


泣いている由比ヶ浜を見て、胸が痛くなった。


――――――


お化け屋敷をで、小腹がすいた俺たちは遊園地内のレストランで昼食を取ることにした。


「それにしてもヒッキー、ノーメイクでゾンビ映画とかでれるんじゃない?」


「俺がハリウッドデビューしたら千葉をビッグシティにしてやるよ」


「いや無理でしょ」


即答かよ。



少し遅い昼食を食べ終え、由比ヶ浜に振り回されながら遊園地を回っていると、気づけばもう下校時刻となり、空が茜色に染まっていた。


「ヒッキー、最後あれ乗ろ」


「観覧車か」


由比ヶ浜と二人で観覧車に乗るのは二度目になる。


北海道に行った時は、街頭や家の灯りが雪に反射し、幻想的な景色が広がっていた。


「前と全然違うな、景色」


「うん。どっちもキレイだけど、私はこっちの方が好きだな」


一面に広がる茜色は、由比ヶ浜とよく合っている。


ほんのり赤く見えるのは、その所為だろうか。



「私、ヒッキーとゆきのんに出会えて良かった」


観覧車の高さが一番高いところへ来たとき、由比ヶ浜が口を開いた。


「二人ともお互い取り繕う事もしないで、私もこうなりたいって初めて思ったの」


この観覧車は1周15分、残り7分程だろうか。


「俺も、お前に、お前らに変えられた」


「…」


「ちょっと前までの俺なら、旅行にも授業サボって遊園地にも来なかっただろうしな。お前に出会えて良かった」



それからお互い言葉を交わすことなく観覧車を降り、遊園地を出た。


由比ヶ浜が少し休もうと言うので、駅に向かう道にある公園に寄ることにした。


「楽しかったなぁ…」


「俺もだ」



それから2、3分の沈黙が続いた。夕日はまだ沈んでいなかった。



「私、ヒッキーが好き」


「…!」


ずっと逃げていた事、そしてずっと期待していた言葉を由比ヶ浜は俺に伝えた。


「出会った時からずっと、ヒッキーのことが好きだったんだよ」


「由比ヶ浜、俺は…!」


「いいの。私気づいてるから…」


「気づいてるって、なにに…」


「ヒッキーは、いろはちゃんのことが好きでしょ?」


なんでそう思うのかと、聞くことはしなかった。


「女の子はそういうの気づくんだから」


由比ヶ浜が、優しく微笑んで言った。


「ち、ちがう俺は…」


「ヒッキーも、いろはちゃんの気持ちはもう分かってるでしょ?


ちゃんと明日、伝えなきゃダメだからね」


由比ヶ浜は、どこまでも優しい。


そしてその優しさが、大切な人のための嘘へとなる。それを俺はよく知っている。


「私は、大丈夫、だから…

今日一緒にいられて、授業すっぽかして良かった」


「…」


「だから、またねヒッキー。応援、してる…から…」


由比ヶ浜は振りかえり、走って行った。


振り返る時に、由比ヶ浜の目から涙がこぼれるのが見えた。


俺はその涙を見た時、また心臓が跳ねる音がした。


遊園地にいた時にも感じた。そして今も。


そして俺はやっと気づいた。


あいつの涙なんか見たくない。


由比ヶ浜には笑っていてほしい。


由比ヶ浜の笑顔をずっと見ていたい。


由比ヶ浜の拗ねた表情を見ていたい。


また、優しい声で話しかけられたい。


由比ヶ浜が走り去ってから、心に不快な隙間が開いた感覚になる。


その感覚を埋めようと、由比ヶ浜への想いがどんどん溢れてくる。


由比ヶ浜に、会いたい。会いたい。


そう思った途端、ずっと固まっていた足が、今までにないくらいの力で地面を蹴った。


まだ、間に合うだろうか。


駅に向かったが、由比ヶ浜の姿はまだ見つからない。


この短時間で、電車に乗ったとは考え難い。


俺は走ってきた道を戻り、また由比ヶ浜を探す。


電話も一応かけてみたが、やはり出なかった。


「くそ…どこだ由比ヶ浜…」


冬だというのに、全力疾走し続けたおかげで汗だくだ。


そろそろ体力に限界を感じ、諦めかけたその時―――


「由比ヶ浜…!」


「ひ、ヒッキー…?なんでここに…」


由比ヶ浜は、駅から西へ離れた別の公園のブランコに座っていた。


「人の話を最後まで聞けよ」


「やだ……聞きたくない」


「俺は、お前のことが好きだ」


「……!な、んで?ヒッキーはいろはちゃんのことが…」


「…俺は、お前が好きだ」


「…嘘、だよ…」


「さっき、気づいたんだ。いや、本当は前から気づいていた。それが、確信に変わった」


「う、うぅ…」


由比ヶ浜が、目に涙を溜める。


「由比ヶ浜の表情が、全部、全部好きだ」


「……嘘」


まだ、涙を溜めている。


「由比ヶ浜の優しい声が好きだ」


「…」


「ずっと、聞いていたいんだ。お前の声が」


「……う、うぅ…ヒッキー…」


「だから……俺の彼女になってくれないか、由比ヶ浜」


「…!!!うああぁぁぁぁぁああああ…

ヒッキーいいいいぃぃぃぃいいいぃ…」


溜めに溜めた涙を一気に流し、由比ヶ浜は泣いた。そして、思い切り俺に抱きついた。


俺は優しく、抱きしめる。


小さくて、柔らかくて、そして強くて弱い、この体を、俺は一生守りたいと、強く思った。


「私も……!!!私もヒッキーが好き!!」


由比ヶ浜は、涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、まるで太陽のように微笑み、俺にキスをした。



「歯、いたいんですけど」


「しょうがないじゃん!初めてだったんだから!!」


由比ヶ浜はまだ涙で顔がぐちゃぐちゃだ。


「なら、やり直しだな」


「…え?」


俺は、由比ヶ浜の戸惑う表情を無視し、今度は俺から唇を重ねた。


「ん、んん…」

「んはぁ…」


「ヒッキー…///」


「自分からしといてなんだが、超恥ずかしいんだけど」


「私も、だよ」


「一応確認しておきたいんだけど、俺たち恋人でいいんだよな?」


「そうだよヒッキー。…は、はち…まん…///」


「あの、恥ずかしいなら無理しなくていいのよ?俺も恥ずかしくて死にそうなのよ?」


「何その変な喋り方…。せっかく恋人になったんだしさ、は、はちまんも、名前で呼んで?」


「…ゆ、結衣///」


「な、なんか前呼んでもらった時と全然違う…///」


「やめろ、恥ずかしくて死にそうだ」



「ところで、なんで急に授業サボろうなんて言ってきたんだ?」


「だって…。ヒッキーがいろはちゃんのこと好きだって思ってたから、


最後に二人で遊びたいなって思って」


「…そうか。誘ってくれてありがとな。おかげで決心がついた」


「ヒッキー、ヘタレだもんね」


「うっせ」



ここ数日悩んでいた事、由比ヶ浜と一色のどちらかを選ぶ、ということは解決した。


しかし、まだしなければならないことがある。



「由比ヶ浜、すまない。これから一色と話があるんだ」


「うん、わかったよ」



まだ、由比ヶ浜の余韻が残り名残惜しさがあるが、学校に向かった。


下校時刻はもう過ぎている。


しかし、一色はまだ学校にいる、そんな気がした。



――――――


学校につき、俺が向かったのは生徒会室である。



「はぁ…はぁ…。一色…」


「先輩、遅いですよ」


生徒会室に残っているのは一色だけのようだ。


「俺は…一色とは付き合えない」


「…そうですか。やっぱ、だめでしたね」


一色は、俺の顔を見て納得したように微笑み、俯いた。


「本当はわかってたんです。先輩は私を選ばないって」


「…すまない一色」


「なんで先輩が謝るんですか」


「…」


「結衣先輩は優しすぎるので、先輩甘えすぎちゃ駄目ですよ?」


「…一色」


「せっかくの初めての彼女なんですから、早く家に帰って小町ちゃんに報告してあげてください!きっと喜びますよ!」


一色は笑顔で言った。それが余計に俺の胸を苦しくさせた。


「ほら、早く行ってください!」


俺は一色に背中を押されながら生徒会室を出た。


一色はまだ、生徒会室に残っている。


「明日から一色の前でどんな顔してればいいんだろうな…」


俺は生徒会室から追い出された後、自分にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。



―――――――――



危なかった。


もう少しで涙がこぼれそうになった。


先輩の前で笑顔を保てて良かった。


先輩が早く出ていってくれてよかった。


こんなに真剣な恋愛なんて、今までしたことがあるだろうか。


心臓がこんなに苦しくなるなんて初めて知った。


「明日から、どうしようかな…」


私は先輩を生徒会室から追い出した後、自分にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。



―――――――――



由比ヶ浜と付き合い始めた翌日、俺はいつも通り登校している。


いつも通りじゃなかった、今日は徒歩である。


由比ヶ浜と遊園地に行ったまま自転車を忘れたのだ。


帰りに取りに行かなきゃなと考えていると、後から1人の女の子が走ってきた。


「せんぱぁーい!おはようございます!」


「一色?お前なんで…」


「なんでってなんですか?」


「いやだって昨日…」


もしかしたら記憶喪失にでもなってるのかとも一瞬思ったが違うようだ。


「あー、昨日のことですか。私がそれで落ち込んで諦めるとでも思ってるんですか?」


「え、諦めないの?」


「私の愛を甘く見ないでください!」


昨日の夜寝れない程に悩んでた俺がアホらしく思えてきた…


「…なぁ、一つ聞いていいか?」


「なんですか?」


「昨日、一色を選ばないことをわかってたって言ってたが、それならなんで俺に、その、キスしたんだ?風邪のことは嘘だったんだろ?」


「付き合うってわかってたからこそ、先にもらったんです。勝手な話ですが、ファーストキスは先輩が良かったんです」


「…そうか」


由比ヶ浜も、似たようなことを言っていた。


一色と登校していると、バス停で待っていた由比ヶ浜が声をかけたきた。


「ヒッキーおはよう!てか!彼女を差し置いてなんでいろはちゃんと登校してるの!」


「おお、由比ヶ浜、おはよう。それはこいつに聞いてくれ」


由比ヶ浜が、一色に目を移す。


呼び方がお互い苗字になっている。


「結衣さん、油断しないでくださいね?隙あらば私、先輩を落として見せますから!!」


「ヒッキー、落ちちゃダメだよ!」


「いや、落ちないから」


校門付近まで来てから、さらにもう1人の女の子、雪ノ下がいた。珍しい。


「あ、ゆきのーん!」


「おはよう。朝から賑やかね」


「おお、おはよ」「おはようございますー」


「聞いたわ、あなた達付き合ったそうね。おめでとう」


「あ、あぁ」


「由比ヶ浜さん、いつ比企谷菌が移るかわからないわ。気をつけなさい」


「ないから、そんな菌ないから」


「ふふ、早く学校に入りましょう」




以前は、もしこの中の3人の誰かと付き合ったら、一色含めた奉仕部の関係は悪い方向に進んでしまうと、

心のどこかで感じていた。


しかし、今日一日でわかった。俺たちの関係はそんなに軽く、浅いものではないと。


そして、俺と由比ヶ浜の関係がもっと深くなっていければいい、なっていきたいと思えるのは、

きっとこいつらのおかげなのだろう。



『真の恋の兆候は、男においては臆病さに、女は大胆さにある。』


フランスの詩人、ヴィクトル・ユーゴーの名言であるが、

これはまさしく、由比ヶ浜と一色の大胆さ、俺の臆病さにとてもあっている名言だと思う。


「ヒッキー!」


先に学校にはいった雪ノ下と一色を後ろに、由比ヶ浜がトトトっと駆け寄ってきた。


そして、


「早くしないとチャイムなっちゃうよ!いこ!」


由比ヶ浜が俺の手を引く。


由比ヶ浜が差し伸べたこの手を、俺は決して離さない。


だから俺は、


「ああ、行くか」


この優しい、強くて弱い女の子と、一緒に歩むことを決意した。




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2018-05-13 09:42:25

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1: SS好きの名無しさん 2018-02-27 19:48:15 ID: w19GWD9h

ガハマendとか胸糞過ぎだわ
この作者にはもう2度と書いて欲しくない

2: SS好きの名無しさん 2018-02-27 19:54:32 ID: rvd-ff0Z

ゴミですね。白けます

3: SS好きの名無しさん 2018-02-28 00:06:23 ID: TKnz3APk

何でいろは√じゃないんだよ
由比ヶ浜とか誰が得すんの不快

4: SS好きの名無しさん 2018-02-28 12:45:33 ID: S2SPqtQj

白けました。二度と読みません。

5: SS好きの名無しさん 2018-02-28 18:48:44 ID: T6EP3uAO

作者ふざけんな死ねボケ
ガハマとくっつくとか八幡にとっては不幸以外の何物でもねえわ

6: SS好きの名無しさん 2018-02-28 19:09:03 ID: zquIGYXj

>>5
自分の不注意でペットのリードを離して事故の原因を作り下手すれば事故でサブレ含め八幡まで死んでもおかしくなかったのに、3巻で首輪を直してなく無反省。
それなのに1年間お礼をせず、ほぼ初対面で本人の了承も得ずに失礼な渾名で呼び「キモい」「死ね」などの暴言を吐きまくる。
加えて修学旅行で戸部の依頼を恋愛脳から軽はずみに受けて八幡や雪乃の反対を押し切って強引に受ける。
文化祭もそうだが基本的に自分が発端なのにも関わらずその尻拭いを八幡に全て押し付けてるからな。
八幡のみならず読者からも好感が持てる要素なんざ殆どないと言っていい。
ガハマ好きな奴もこんなゴミssを書く作者マジで頭膿んでるんじゃねえの?

7: SS好きの名無しさん 2018-02-28 20:03:09 ID: DMBmyNBj

面白かった
原作もこんな感じになりそうだなw
次回作も期待してるぜ

8: SS好きの名無しさん 2018-02-28 22:39:47 ID: cFfYvUJm

このssのコメント欄を荒らしてるのは電池くんかな?
したらばにある「俺ガイルファンアート被害纏め」に報告させて貰うよ

9: SS好きの名無しさん 2018-03-02 21:37:16 ID: XTKScXaX

いい作品だった。ありがとう
八幡に共感した気になってるがその実何1つとして八幡、俺ガイルを理解してない奴らの戯言なんか気にせず頑張ってくれ

10: SS好きの名無しさん 2018-03-03 06:56:13 ID: 3z2Qm-le

現実とラノベを区別できない奴〜w

11: SS好きの名無しさん 2018-03-05 00:47:45 ID: A_jDXYwy

これは俺ガイルSS史上ベスト10に入る名作ですわ

12: SS好きの名無しさん 2018-03-12 00:31:50 ID: GENPswyW

ガハマ消えろ

13: SS好きの名無しさん 2018-03-12 23:18:23 ID: vT5KR4ct

ガハマボロックソ言われててわろた

14: SS好きの名無しさん 2018-03-14 04:05:46 ID: GoULUZwH

>>12>>13
HACHIMAN信者はpixivにでも篭ってれば?
この前の八色ssでコメ欄を葉山と由比ヶ浜の悪口だらけにして荒れて破棄させた真似をもう一度やんのかよ

15: SS好きの名無しさん 2018-03-21 16:44:32 ID: 8_gUBwLj

八幡信者ははラノベキャラにしかマウントとれないから…

16: SS好きの名無しさん 2018-03-21 18:27:55 ID: vgBSeWSW

17: SS好きの名無しさん 2018-03-21 19:17:57 ID: tNvL3nuv

※15
やめたれw

18: SS好きの名無しさん 2018-03-21 19:25:46 ID: FbdxPrt3

  /::::: 八幡月豕::::::::\ イライライライライライライライライライライライラ
  i:::::::::::::::\:::::::/:::::::::::::::::iイライライライライライライライライライライライラ 
  |:::/::::r⌒ヽ:::::r⌒ヽ:::::\::| イライライライライライライライライライライライラ
  |/:::::::ヽ_ノ::::ヽ_ノ:::::::: | イライライライライライライライライライライライラ
.i⌒|::::::::::::::::(.o  o,):::::   |⌒i イライライライライライライライライライライラ
.、_ノ:::::::::::::::i::∠ニゝ i. ・  |、_ノイライライライライライライライライライライライラ
  !::::::::::ノ::::`ー ' \・ ・ | イライライライライライライライライライライラ
  ヽ::::::::::  ──   _ ノ イライライライライライライライライライライラ

19: SS好きの名無しさん 2018-03-21 20:06:57 ID: dztx2gAH

パイぽんくっさ

20: SS好きの名無しさん 2018-03-21 22:18:00 ID: 0z1qIEMI

自分は八幡が考えた事なら基本肯定するけど
周りに妥協して馴れ合うに様になるのは八幡が絆されて妥協した様に見えるから薄っぺらく感じる
八幡が周りに流されて変化を受け入れるのはコレジャナイと思う
八幡自身が独特の価値観で「孤高」を貫いてきたキャラであるからこそ人気があるんだから、周りに尻尾ふって馴れ合うに様になるとは違うと思う
周りや親しい人間を敵に回しても自分を貫くから八幡はかっこいい

21: SS好きの名無しさん 2018-03-23 00:38:01 ID: knqXl45h

体は剣で出来ているwwwww

22: SS好きの名無しさん 2018-03-26 22:06:32 ID: ULItb5Uz

たれw

23: SS好きの名無しさん 2018-03-28 08:23:58 ID: wZ4v4RSt

八豚さんまた負けたんか

24: SS好きの名無しさん 2018-05-09 00:41:41 ID: llzQgo8_

かなりいいssでした!


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