2018-09-17 00:54:57 更新

概要

深海棲艦によってすべてを奪われた提督が復讐をする話です。
初めてのSSです、自分が仕事中とかにふと思いついたことを書いているので、
前後の設定とかめちゃくちゃだと思います。あと語彙力とかも死んでいます。
それでも読んでもらえるとうれしいです。応援、コメントもお待ちしています。
更新はかなり不定期です。


父「ほら付いたぞ」


そういいながら父は車を脇に留める。


母「ふふっあなたの見たいものはすぐ目の前にあるわよ」


母は、車から降りてその温かい大きな手で僕の手を引く。

車から降りると風の流れに沿ってほのかに潮の香がするのがわかる。山に囲まれた自然の風との違いに

僕は感激する。ここは横須賀、内陸部に住んでいる僕にとって、海というものを初めて見たときだ。

一面に広がる波打つ青い海、見たこともない白くて大きな鳥が何十羽と大空を羽ばたいている。

ここからすぐ近くに見える市場のような場所では多くの人がにぎわっているのがわかる。


父「父さんの言う通りだっただろう?ここには多くの人でにぎわっているのさ!」


確かにその通りだった。これだけの人を僕は見たことがない。

数十年前に突如として現れた深海棲艦 と呼ばれる人類と敵対する生物。

人類がそれまで所持していたすべての兵器を使い、対抗を試みたが、そのすべてが失敗に終わり、人類は制海権を失ってしまう。

内陸部へと拠点を移し細々と暮らしていた人類にこれまた突如として現れた艦娘と呼ばれる存在に窮地を救われた。

深海棲艦に対抗できる唯一の存在として、その後多くの人類から重宝されてきた。現れた当時は制海権はまだ敵の手の中にあり、

海伝いの川からにも出没することもあり、海の周辺で生活していたのは艦娘とそれらを指揮する軍人程度のものだった。

しかし、数十年たち、艦娘の数も増え練度も上がり、装備も十分に整ってきた。

日本海周辺の制海権は人類の手にあり、安全が整ってきた。

それに伴って、内陸部にに避難していた人たちは徐々に引っ越しをはじめ、今や内陸部に住んでいる人間のほうが少ないくらいだ。

僕が生まれたときにはすでに人類は海岸付近への引っ越しが完了している状態だった。だから僕はこれだけの人を見て感激しているのだ。

そして…僕がどうしても見てみたかったものが…


父「おっ…運がいいみたいだね。あっすみませんちょっとよろしいでしょうか?」


父は大きな声を出して、下の砂浜を歩いている人影に走り寄っていく。

長く黒い髪に白と灰色の露出の多い服、そして何より目立つのはその背中について大きい装置のようなものだ。

背中と並行して縦に伸びている筒状のようなもの、そしてその筒状から黒い輪が彼女の体を包むように左右に広がっている。

その輪先端には円盤が付いていて、細長い棒のようなものが計8本伸びている。これが噂に聞く艤装というものだろうか。


???「ん?失礼あなたは?」

父「突然呼び止めてすみません…えーと艦娘のお方…ですよね?」

???「ああ、そうだ。えーと…軍の関係者ではないだろう?」

父「ええ、えっと息子がどうしても艦娘を見てみたいといって…少し話をしてくれませんか?」

???「ああ、そんなことか。最近一般人に会う機会も増えてきたからな外出も少し気を付けなければ……

っと話だったか、執務があるので少しだけでよければだがいいだろう」


と彼女は前で腕を組んで歩いてくる。そう、僕が合いたかったのはこの艦娘だ。

村に住んでいる大人たちより小さい女の子たちが、砲弾飛び交う戦場で戦っている。艦娘の気持ちをいろいろ知りたかったのだ

僕はこの日のためにいろいろ質問を考えてきたけど

彼女のその凛々しい姿に茫然として考えてきたことが頭からすっかり消えてしまった。

陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクしていると


???「とおおおおおおおおう!」


僕は後ろから誰かに抱きつかれて地面に一緒に倒れる。

よろよろと起き上がって後ろを振り返ってみると、オレンジと黒の服をきたお姉さんがたっていた

右手にレールのようなものが取り付けて合って、肘付近に小さい飛行機が付いていた。


???「誰この子?超かわいい!ねぇねぇ知り合い?」

???「こら!失礼だろ!それにお前は演習の最中だったんじゃないのか?」

???「休憩中だったけど、監督が離れていくの見たから、ちょっと散歩を…ははは…」

???「はぁ…まったく、あとで教育が必要なようだな……すみません」


と両親と話を始めてしまった。


???「ねえねえ、あなた名前なんていうの?」


後ろから肩を抱きしめられて、横から顔をのぞかせる。

あっけとられてる僕のことなんかお構いなしにぐいぐいと顔を近づけて彼女は名前を聞いてくる。

彼女からは女性特有のいい匂いがする、抱き着かれているせいか決して小さくない胸も当たっている。

思春期男子にはうれしいシチュエーションだけど、いきなりこんなことされて僕の口はさっき以上に呂律が回らなくなる。

何とか名前を言うと彼女は嬉しそうに


川内「へぇ~…いい名前だね!私は川内っていうの軽巡洋艦よ。よろしくね!」


軽巡洋艦?っていうのはわからなかったけど、その人間っぽくない名前どうやら彼女も艦娘のようだ。

僕はまだ震えている口を動かして聞いてみたいことを聞いてみた


川内「えっ?何のために戦っているかって?うーん…私さ艦娘として生を受けて日が浅いからさ、特に理由はないかな…

守りたい人もいるわけじゃないし…あっでも妹たちは守りたいかな?」

川内「だから今のところ艦娘としての目標、制海権の奪還とか人類を守るのが今の私の目標かな?先輩たちはいろいろ個人的な目標あるみたいだけど」


その真面目な答えを聞いて火のついた僕はさらに質問を重ねる


川内「うーん………そりゃあ怖いよ。怖いに決まってるよ。敵はまだまだ未知、知らないことのほうが多い。

私が慕っていた戦艦さんもこの前味方をかばって沈んじゃって…」

川内「怖いもあるけど…許せないっていう気持ちのほうが大きいかな…」

川内「ん?…ふふっわかってるよ復讐って気持ちにのまれちゃいけないことくらい…君はすごいね。

そんな年でもそういうことしっかりと理解しているんだ。」ナデナデ

川内「もうちょっと話してみたいけど…そろそろ休憩時間も終わっちゃいそう…じゃあね~」


と彼女は僕の肩をたたいて走り去っていた。笑顔を浮かべながら顔だけをこちらに向けて手をブンブン!と振っている。

急に消えた温かみに少し寂しさを覚えていると、ちょうど父たちも話を終えたみたいだった。あいさつをして艦娘と別れる


父「どうだ?相手がちょっと変わっちゃたけど聞きたいことは聞けたかい?」


僕はうなずいた。納得いく答え…とは少し違ったと思うけど、それでも話を聞けて良かったかなって思っている。


父「ははそうかそうか。せっかくここまで来たし、鎮守府のほうと市場のほうも回ってみるか!」

母「そうね~私も鎮守府のほうに興味があるわ。艦娘ってあんなにも話しやすい人なのね。兵器と聞いていたけど

あれじゃあ普通の女の子と変わりないわ」

父「なんだ母さん。母さんも父さんの話を信じてくれなかったのか?」

母「大丈夫よ。ちゃんと見て確認したから今度から信じられるわ」

父「それって父さんのことは信じていない…ってことかよ」


両親はそう言って笑いながら市場のほうに足を進める。僕は両親の手を握りながらついていく。

母は僕のために歩幅を合わせてくれるが、父はそういうのが苦手みたい。すぐに僕はつらい体制になって文句を言う。

母もそれにのって父をからかい、申し訳なさそうに父が歩幅を合わせようとする。

僕はこんな平和な日々がずっとずっと続くのだろうと思っていた。終わりなんてきっと来ない、そう信じて疑わなかった。

でもそんなことはない。忘れてはならない。今は戦争中だということに


それが起こったのは帰り道の途中だった。いや帰り道…というほど進んでいない。

市場に鎮守府といろいろ周り、満足して帰ろうと車に乗った時だ。僕は鼓膜が張り裂けそうになるほどの爆音と

目が焼けそうなくらいの強烈な光と、全身を溶かしそうなくらいの高熱と

体がバラバラになるのではないかと思える衝撃を受けて気絶をしたらしい。

気絶したらしい…というのは僕はその時の記憶があいまいになっていて、思い出せないからだ。でも記憶がないってことは多分気絶

していたんだと思う。


次に目を覚ましたのは病室だった。目が覚めるまず見知らぬ光景が目に入る。近くにいた人に聞いてみたらここは病院…というらしい。

病院…確かケガをしたときに治療してくれた建物をそう呼んでたような…と僕が思っていると、突然男の人が入ってきた。

その男の人の隣には女性が立っている。艤装?をしているので艦娘の人だろうか

彼は自ら提督だと名乗った。提督…?確か艦娘達を指揮している人…とテレビで見たような気がする。

女性のほうは古鷹と名乗ってくれた。


提督「君は…自分の身に何が起こったか…わかるかい?」


わかるわけがない、僕は必死に両親を探した。近くに見当たらないから提督にも聞いた。


提督「…………すまない、君の両親は…深海棲艦の砲撃にあって…亡くなってしまったのだ」


亡くなった…?僕は彼の言葉が理解できず必死に両親はどこ?といった。

いや理解できないではなく、理解したくないというのが本当のところだろう。


古鷹「私たちがもっと哨戒をしっかりとしていれば………ごめんなさい」

提督「まて、それ以上は言うな…これは君だけの責任じゃない。私たち横須賀鎮守府の皆すべての責任だ」


隣にいた女性が頭を下げそれを手で静止させ、提督も頭を下げる。

しかし、そんな光景は僕には見えていない。僕は必死に声を出し、両親はどこだと聞き続ける。

それを聞いてもすまないとしか言わないので、しまいには叫びながら狂乱した

どこ!どこ!と頭を振って、手でかきむしり、泣き叫び続けた。

いったいどれほどそうしていたのだろうか。僕は徐々に冷静さを取り戻していた。提督は僕が変わるまで、ずっと

頭を下げていた。何とも律儀なのだろう。時計を見るともうすでに30分は確実に経過していた。

僕は提督に詳しい状況説明を頼んだ。


提督の話によると、哨戒中の艦隊が深海棲艦を補足、駆逐艦のみのはぐれ部隊だったため、即座に戦闘に入りこれを撃破。

しかし、駆逐艦に気を取られ、本体の接近に気がつくのが遅れてしまった。その場所が不幸にも先ほどの砂浜のかなり近いところだった。

近くには鎮守府があるため、そこからすぐに迎撃部隊が送られ、その部隊はあっけなく轟沈した。

しかし、不幸にも敵の艦隊が放った砲撃が浜を超えて道路に止まっていた1台の車に着弾した。

車は即座に爆発し炎上した。中にいる人はまず間違いなく助からないだろうと思われていたが、

僕だけが道路に放りだされていた。どうやら最初の砲撃で、車から放り出されて車の爆発に巻き込まれなかったのが幸いしたらしい。

その後即座に病院に搬送、懸命な治療により一命は取り留めたようだ。


提督「と…いうことだ。…改めて…本当にすまない!君が不自由なく生きれるように我々もできる限り支援をする。」


僕は冷静になった頭で提督に言葉を発する。


提督「ッ!すまない…確かに今これを言ったら相手を怒らせるだけだな…今日のところは引き上げるとする…

君から会いたいと思ったときに呼んでほしい」


そういって彼は頭を名一杯下げて、部屋を出た。古鷹と名乗った彼女も頭を深く下げて、提督に続いた。

僕は妙に冷めた頭でこれからのことを考えた。何をしようか、どこで暮らそうか。しかし、何をどう考えても

いい気分にはならず、代わりに心の中はとある感情でいっぱいいっぱいになる。


この日僕は精神が崩壊しかねない悲しみとそれを紛らわすための深海棲艦への復讐心、そして

提督になる決意を手に入れた。しかしその代わりにあるはずだった平和な未来、両親、そして右腕を失った…










数十年後横須賀鎮守府…

長門「提督お疲れさまだ」


私は執務室に赴き提督に敬礼をする。堅苦しいのは嫌いと提督は言っていたが、私が慣れているし、何より

職務中に態度を崩すのはよくないと考えている。言葉遣いで少し崩しているのだ姿勢くらいは正しておきたい


提督「ああ君もお疲れ様。今回の出撃結果も大変すばらしいものだったよ。君にとっては…あの程度朝飯前かな」

長門「…提督何度も言っているが提督の指揮があってこそだ。今回も提督の事前の作戦のおかげで被害がなくて済んだんだ」

提督「そう言ってもらえるのはうれしい…この老いぼれ最後の指揮も見事に完遂できたというわけだな」

長門「…………………」


そう、この提督は艦娘が発見され、ここに鎮守府が置かれたときからここの艦隊指令官を務めている。

鎮守府立ち上げに携わってきた一人だ。すでにそのころから三十後半という年齢。そこから20年ほどが経過して

60歳を迎えようとしていた。提督はそれをきに引退すると決めていたようだ。


長門「なあ…提督やはり…考え直してくれないだろうか?私たちにはあなたが必要なのだ。」

提督「書類ミスを少しづつだが増えてきている。老眼でメガネをかけなきゃいけない、力がなくなり前は出来た荷物の整理も

今や艦娘達に任せている状態…」

長門「それは…そうだが、老化なのだ仕方がないだろう…その分私たちがしっかりと補佐を…」

提督「そうだ。老化だこれは人間である以上避けることができないものだ。これからもっともっとひどくなるだろう。

なら私もフォローができるうちに若いものに任せて経験を積ませたほうがいい」

長門「しかし……………………」

提督「はぁ…長門よ気持ちは素直にありがたい。私もお前たちを途中で投げ出すのはつらいさ…」

提督「でもな、これはさけることができない別れだ……最後に提督としてみるお前の顔がそんなんじゃ俺もさみしい

どうだ?笑って送ってくれないか?」

長門「…………………」

長門「ああ、………またいつか会える日が来るといいな!」


私はさみしい気持ちを押し殺し、提督の要望に応えられるように最大限の笑顔を見せた。


提督「まあそれには少し早いけどな、引継ぎもある」


早とちりした私はそのまま顔が赤くなってしまった。恥ずかしくて提督から視線をそらす。


長門「お、おほん!……で、私を呼んだのには何か理由があるのだろう?その話を持ち出すということは

新しい提督の話…なのか?」

提督「よく、わかったな。次に来る提督が決まったから君にはいち早く見せておきたいと思ってね。」

長門「私に…か、それは何か特別な理由があるのか?私が最古参の艦娘だからか?」

提督「いや、そっちの理由もあるけど少ない。こっちが理由」


と提督は私に書類を渡してくれた。次期提督の詳細プロフィールのようだ。


長門「ふむ…む、まだ二十歳じゃないか…そうか、いよいよあの学校から卒業生が出たということか。」


学校。将来提督になるために作り上げられた専門学校のようなもの。通常提督の職に就くためには将官以上の階級が必要となる。

しかし、ここ数年では艦娘に限定してだが艦隊司令を務めるのに将官以上の階級が必要なくなっている。

若いころから艦隊指令官を務めさせ、経験を積ませる狙いがあるようだ。ただそれ以外にも公表していない理由もある。

艦娘は艦娘でいる間は歳をとらない、艤装の完全解除をして艦娘としての力を失って初めて歳を取るり始めるのだ。

なので、経験を積み艦娘としての実力が向上しようが、根本的な思考回路は思春期女子そのものだ。

そのため、若い提督のほうが艦娘の士気も上がるのではないか。という別の狙いもある。

要するに艦娘のご機嫌取りをしているのだ。

学校ができたのはつい最近。今年度から始めてその学校から卒業生が出るということだ。


長門「ここの鎮守府は規模や位置の関係上相当重要なポジションにあたるぞ…大丈夫…なのだろうか?」

提督「正直なところ私もそれは大丈夫…と断言はできない。ただ成績表だけを見てみるとかなり優秀のようだね」

長門「訓練だけではどうしようも………お、おい提督!……ここに書いてあることは本当か?」

提督「ああ………一切の不備がないことを約束しよう」

長門「鎮守府襲撃事件の唯一の被害者…そうか、彼は提督になったのか」


あの頃に比べて艦娘の練度や艤装もさらに強化され続けてきた。もう2度とあの事件が起きることはないだろう。

しかし、過去に一度それは起こっている。その事実を忘れてはならない。

私は彼の人生を狂わせてしまったことを今更ながら後悔している。あの時は迎撃作戦で忙しく、彼については後で

事後処理の一環として聞いた程度だったのだ。


長門「……………………」

提督「あまり、悔やむなよ、これも何度も言っていることだが、あの事件はこの鎮守府皆で償っていかなければならない問題だ…

と、近いうちにやめてしまう私が行っても説得力はないかな?」

長門「いやそんなことはない、少しでもには軽くなる。ありがとう提督」

提督「ふふ、それを聞いて安心したよ。…っと少し話し込んじゃったね。執務…手伝ってくれるかい?」

長門「ああ、もちろんだ。しかしこの量はまた一段とおおいな、誰れか手伝ってくれる人がいないか少し探してくるとする。」

提督「よろしく頼むよ~」バタン

提督「………………………」

提督「君にはつらい役を押し付けてしまったね…」

提督「……起きてしまったことは、仕方のないことだ…がんばってくれ、長門…みんな…」







数か月後横須賀鎮守府正門…

長門「ふう・・・いよいよこの日がやってきたか………」


そういいながら私は大きく伸びをする。提督がやめて1か月ほどは仕事のほとんどが執務仕事だった。

手伝っているとはいえ、1人でやるのは初めて。提督と同じ仕事をするのは正直かなりきつかった、慣れていないせいだろうか。

提督はずいぶんと余裕そうにやっていたし…


古鷹「お疲れ様です。長門さん早いですね。予定時間まだ20分くらいありますよ?」

金剛「私たちも人のことはいえないネ」

加賀「これから長い間お世話になるかもしれない人です。少しは気分も高揚するというもの」

時雨「歓迎会の準備もバッチリだし、いつ来ても大丈夫だね」


そういってやってきたのは鎮守府立ち上げから長い間提督に仕えてきたメンバーたちだ。

今回の新しい提督の着任のために、引継ぎ作業や艦娘の指揮などかなり力を貸してくれた。


長門「なんだ、みなずいぶんと乗り気だな、提督がやめると知ったときの泣き具合は半端じゃなかったと思っていたのだが…」

時雨「や、やめてくださいよ…\\\」

金剛「たしかにそうネー…でも提督もいっていたから…別れるのはしょうがないって…前を向いてって…だから

私は今新しい提督に期待してるってことデース!」

時雨「それにどんな人かなって想像したら少しわくわくもするし…優しい人がいいなぁ」

金剛「私はおもしろい人がいいネー!Tea Timeがもっと楽しくなるネー…加賀はどんな人がイイ?」

加賀「えっ?私は…別に……まあそうですね…強いて言うなら頼れる人が……いえ、何でもありません」

時雨「加賀さん可愛い♪でも頼りがいがある人もいいよね~」


長門「ははは、盛り上がるのはいいことだがあんまりハードルを上げすぎると、いい人なのに来たときにがっかりするかもしれないぞ?」


詳しい事情を知らない艦娘達が騒いでいるのを横目に古鷹が長門に話しかける。


古鷹「えーと長門さん、今回の提督ってあの…」

長門「ん?ああ…さすがに覚えていたか、あったのは一度だったのだろう?よく覚えていたな」

古鷹「まあ…あれだけ大きな事件ですもの、よく覚えています。彼は大丈夫ですかね?片腕を失っているはずですが…」

長門「さあ…私もあの後彼がどんな人生を送ったかわからない、義手でもつけているとは思うが…まあ生活は不自由になったと思う。

むろん、これからは私たちで補佐していかなければならないがな」

古鷹「はい!それはもちろんです!…でも、どんなふうに育ったんでしょうね…そこは少しだけ、楽しみで…ちょっと怖いです」

長門「……そうだな。彼が取り乱したのは、事件直後だけだったんだろう?あの年であんなこともあれば、だれでもいいから甘えたい

と思うだろうに…ところでまだ誰にも言っていないよな?」

古鷹「ええ…でもなんで提督からのご要望なんですよね?どうして片腕と事件のことは黙っててほしいなんて言ったんでしょうか?」

長門「まあ…あまり聞かれたくない話なのは確かだが、ここに着任する以上片腕のことは会えばすぐに気が付くし、それに合わせて 

事件のこともすぐに気づくだろう………っと、はやい到着だな。」


遠くのほうから一台の黒い車が見えてくる。大本営が所有している車のようだ。間違いなく提督を載せているだろう。

全員が固唾を呑んで見守る中、車は鎮守府の前に到着する。助手席から憲兵が下りてきてドアを開ける。

まるでVIPでも扱うかのようなそのしぐさ、中の人はそれは階級の高い人なのだろうか?


事情を知らない艦娘達「えっ…」


と彼女たちは声を出すのを我慢することができなかった。

白い制服を身にまとった青年だった。歳は20くらいだろうかがっちりとした体形でそれなりに鍛えているのがわかる。

提督が体を鍛えているのはかなり珍しい、顔立ちも整っていて、見た目はかなり好印象を持てるだろう。

ただ提督の右の服の袖はふらふらと風に揺れていた。要するに右腕がないのだ。

そして提督から感じる雰囲気というか感じが何かおかしいと感じた。怖い雰囲気だったのだ。


艦娘「…………………」

憲兵「大丈夫か?」

提督「…心配するな。何年この体で生活してきたと思っている」

憲兵「そうだったな…じゃあ頑張れよ」


そういいながら憲兵は助手席に乗りこみ、ほどなくして車が出発する。


提督「……………」

金剛「あ、…エート…」加賀「…」時雨「あー…その…」

長門「初めましてだ、提督私は戦艦長門だよろしく頼む」

古鷹「あ、私は古鷹です。よろしくお願いしますね。」


と2人は臆せず提督に近寄り手を差し出す。


加賀(あの近寄りがたい雰囲気の方にあそこまで堂々と近づくなんて…)

金剛(さすがネ。私もあれくらい積極的にならないといけないのかな…?)

時雨(…なんか覚悟してた…って感じがするなぁ、もともと知ってたのかな?)


しかし提督はその手を取らず代わりに艦娘達を見て鋭い声を上げる


提督「…おい」

時雨「は、はい!」(とっさに反応しちゃった…)

提督「執務室に案内しろ。あいさつは後でいいだろう」

時雨「え、あ…うんわかったよ…ついてきて…」

長門「全員で行く必要もないだろう。私も案内をするほかの人はとりあえず待機だな、時間になったら着任の挨拶がある

   ……と思うからその時にな」


とそんなやり取りも気にせず提督は足早にその場をさる。時雨と長門もそのあとを急いで追う


金剛「なんというか…正直、がっかりネ」

加賀「そう…ですね。でも片腕しかありませんでしたし、もしかしたら過去に何かあったのかもしれませんね」

金剛「うーん、これから一緒に暮らして一緒に戦うだから、挨拶くらいはしてほしかったネ…」

金剛「古鷹は何か聞いてたりする?提督について」

古鷹「えっ!?わ、私ですか?」

金剛「さっきも話てた時、妙に落ち着いていたように見えたのデス。だから、もしかしたら…って」

加賀「それについては私も気になっていました。詳しく…とは言わなくても、せめて片腕がないとか

その程度くらいなら言ってくれてもよかったのではないですか?」

古鷹「…す、すみません。提督からの要望で…内緒にしててほしいと…あ、私が行ったことは内緒に…」

金剛「ふーん…?自分の口から言いたかったんでしょうかネ?」

加賀「まあ、いつかは言ってくれると思います…とりあえず挨拶まで…何してますか?」



横須賀鎮守府は最前線。となればそこの拠点はそれなりのものとなるのも必然。

執務室までの10分ほど、私たちは無言で歩いていた。

やたらと歩く速度の速い提督に私は必死でついていった。先頭の長門さんもそれに合わせて歩幅を大きくしている。


提督「…ここの艦娘は戦闘において何を重点的においている?」

時雨「ふぇ!?」

提督「……?」

時雨「あ、………すみません」


急に話かけられたからびっくりして変な声を出してしまった…恥ずかしい


時雨「えーと…戦闘において……何より連携を大切にしています。すべての艦種とどのように組んでも大丈夫なように

いろいろな方との連携の演習を行っています。あとは………」

長門「ほかと違うといえば、引き際だろうか…別の鎮守府よりも撤退のタイミングが早く設定されている。

前任が何よりも轟沈を恐れてのことだったが…まあそれによってうちの士気も大きく上がった。

戦果もかなり良かったと思うぞ」

提督「……そうか」

時雨「て、提督は…どういったことを大切にしていきたい…?」


それは新しい提督になって、一番艦娘達が懸念していたことのだ。昔はそこまでもなかったが、今は、艦娘の扱いが

だいぶ改善されてきている。提督と艦娘の間で、本当の結婚もあるみたいだ。

しかし、それでもごく一部ではまだ、艦娘の扱いが改善されていない場所もある。休みもなく入渠もままならずとにかく目先の戦果

を狙う人だ。もし、そういった提督だったら………


提督「………やつらを数多く倒す。それだけだ」


どっちとも取れないその発言に時雨は顔を少し険しくする。


提督「あそこか。お前たちは下がっていろ、それからヒトロクマルマルに全員を集会室に集めておけ」

時雨「…………」

長門「了解だ。時雨」と手をツンツン

時雨「あ、りょ、了解です」ビシッ

時雨「………………」バタン

時雨「長門さん、あの提督は大丈夫かな?…少しだけ不安を感じます。」

長門「大丈夫…と断言はできないな…あそこまで変わっていたのか、前にあったときの面影はもうすでに残っていないな…」

時雨「前…?」

長門「機会があったら話す、しばらくは様子を見ておこう」

時雨(大丈夫かな…ちょっと後で夕立にも相談してみようかな…でも、相談って何相談すればいいんだろう)


ヒトロクマルマル鎮守府集会場~

広い集会場にはこの鎮守府にいるすべての艦娘が集められていた。

すでに提督のことは知れ渡っていて、艦娘達は動揺というか不安な気持ちに包まれている。


夕立「提督さんそろそろくるね…大丈夫…かな?」

時雨「それはどっちの大丈夫って意味?」

夕立「わかってて聞くなんてひどいっぽい!…時雨の話を聞いた限りじゃ、遅刻とかそういうことはしないと思うから

もう1つ…私たちの扱いについてっぽい…」

夕立「あれから提督にあってないんでしょ?なんか変なことととかしてなかった…かな?」

時雨「見てないから…わからない、けど執務室から1歩も出なかったみたいだね」

夕立「な、なんで知ってるの?見張ってたぽい?」

時雨「僕じゃなくて別の人がね…あそこにいる好奇心の塊さんだよ」


そういいながら時雨は重巡洋艦が集まっている場所に目配せする。

青葉、もはや説明は不要であろう。別に新聞を作っているわけではないが、その持ち前の好奇心と情報収集能力で

横須賀鎮守府はおろか、ほかの鎮守府のいろいろな事情を知っている。頭の回転もそれなりに早く、

しっかりとした準備をしてあげれば危ない秘密も抜いてきてくれるとか


青葉「大丈夫ですよ。っていっても、部屋を出ていないだけで、中でなにしてたのかまではちょっと…」

古鷹「もう、またなの?でも……その何かわかったら私にも教えてほしい…な」

青葉「ほうほう、古鷹も気になっているんですね。まあ、提督かなり男前ですからね…イケメンですし!」

古鷹「え!?ちょ、…そっちじゃないよ~」

加古「お、まじか、古鷹がそこまで思うなんてそっちの意味で少し気になってくるな!」

古鷹「もう…ちょっとは真面目に…」

加古「ははは、わかってるって…でもそこはもうなんていうか祈るしかないんだろ?しょうがねーっていうか…」

青葉「少しだけ推測してみるならここがどれほど重要な場所かなんて大本営が把握してないはずない。

そしてほかにも実績のある現提督がいる中、それを押しのけて着任した提督なので…大丈夫だと思いますけどね」


そんなふうに話をしていると、急にざわめきがなくなった。集会室に提督がやってきたのだ

提督の情報は事前に艦娘の間に流れているので、片腕がなかったり、雰囲気が怖いといったことで

驚いて声を上げる人はいないが、それでも全員が息をのむ


提督「ふう…堅苦しいことは嫌いだ、だから単刀直入に俺この鎮守府で何がしたいかだけを言わせてもらう

俺は深海棲艦を殺して回る。そのすべてがいなくなるまでだ。悪いがお前たちには俺の復讐の道具として

使われてもらう。以上だ」


着任式にしては異例の内容、異例の短さで、言いたいことだけを言って提督はさっさと集会室を離れてしまった。

艦娘達は即座にざわめき始める。当然だ。面と向かって道具扱いすると宣言されたのだ、これからのことも心配になるだろう。


時雨「提督………」

夕立「時雨、その、とりあえず部屋に戻ろ?」肩をぽんとたたく

時雨「うん…そうだね」

夕立「大丈夫っぽい、何があって私が守るもん!」

時雨「うん、そう…だね!僕もだよ夕立」

青葉「それにしても、あそこまで堂々と言い切るんですね。あれでは艦娘も離れてしまいますよ」

古鷹「でも、その、そんなに悪い人じゃ…」

青葉「ふーんずいぶんと肩を持つんですね?何か知っているんですか?」

古鷹「えーと…」

青葉「私から言わせてもらえば、あの人は私たちを道具扱いしようとしているいわば敵…そんな人ですよ」

加古「おい…一応提督だしそこまで言わなくても…」

青葉「言葉の綾ですよ。さすがに私もそこまで思っていません。まあ今後に期待ですね……あれ?あそこ何か落ちてません?」

加賀「あれは…提督のペンかしら?さっきまで執務室にいたし、そのままポケットに入れてきたのでしょうね」

長門「ふむ、では早急に届けないと提督も困るだろうな。誰か……………」


と長門は艦娘達を見渡す。しかし当然ながら俯いたり、目をそらしたりして誰も名乗りを上げない


長門「まあ…仕方がないな。私が…「まって、私行ってくる!」」

神通「ね、姉さん!ちょっと待ってください」

川内「どうしたの?神通?」

神通「どうしたもこうしたもないですよ…長門さんが行くっていうんですから任せちゃっても…」

川内「いいのよ。私が提督と話してみたいんだから。いつまでもこんな疑ってたらきりないでしょ?」

那珂「でも私も川内ちゃんのこと心配だよ…」

川内「もう…うちの妹たちは心配しょうね…」とため息をつく


川内はそのまま反転、ペンを持って走り去ってしまった。


神通&那珂「姉さん!「川内ちゃーん!」」

長門「こ、行動が早いな川内は…」

金剛「長門サーン、どうしますか?」

長門「別にペンを持ってったくらいで取って食われるわけじゃない、私たちは執務に戻るとしよう。1か月もまともな出撃

がなかったからな出撃案件もいろいろたまっているだろう。武装の点検も怠らないようにな」

那賀(大丈夫かな・・・)

神通(長門さんがあそこまで言い切るなんて…何か知っているのでしょうか…)


鎮守府内廊下


提督(……………)廊下を歩いている

提督(まあ、あんな挨拶をすれば深くかかわろうとはしないだろう。)

提督(1か月鎮守府が完璧に動けていないだけで、あそこまで仕事がたまるのか…まあいい出撃の依頼ならありがたいからな

やつらを殺せる)

提督(自ら出撃できないのは残念だが……ここの艦娘達なら余裕だろう)ハイライトオフ

提督(そうと決まればさっそく出撃の編成を…)タッタッタ!テイトクー!

提督(ん?)タッタッタ!テイトク~!

川内「ちょっと提督!気づいているなら無視しないでよ~!」

提督「あ?お前は…」

川内「ん?どうしたの提督?」

提督「いや…気のせいだな。それで何の用だ」

川内「ほらこれ!」ペンを差し出す

川内「さっき集会室で落としてたよ!」

提督「あ、ああそうか。気づかなかった」

川内「………………」

提督「………………」

提督「おい?落し物は届けたんだろ?ならもうは用はないだろ?」

川内「………………」

提督「?」無視して歩き始める

川内「ねえ提督。悪いがって言葉信じていい?」

提督「何?」

川内「…なんでもない!じゃーねー!」


彼女は振り返り走り去った。笑顔を浮かべて手を振りながらだ。

俺はその後姿を見えなくなるまで、追い続けてしまった。


提督「はあ…時間無駄にしたな。早急に準備に取り掛からなきゃな」



数週間後鎮守府会議室

加古「おい!いくらなんでもそれは無謀じゃないのか!?」


ここの鎮守府存在する会議室、提督が新しくなって初めての出撃のため作戦を立てたいと長門が提督に言って行われた。

すでに出撃は1週間後に迫っていて、この鎮守府総出で、3つの作戦を行うこととなっていた。すべて別の海域で行われるため、

提督はそのすべてを指揮しなければならない、負担を減らすためにと長門が今回の作戦をあらかじめ共有したい主要メンバーを集めたのだ。

提督は作戦の内容はまだ完璧には決まっていない、すべてを決めてから話すつもりだったと、言っていた。

が正直私からしたらその内容こそ話し合いで決めてほしかったものだ。


提督「この編成で問題ない。この編成が一番に戦果を挙げるのにつながる。」

時雨「ほかの2つは僕もそれでいいと思う…だけどここの海域だけはどうしても納得できないよ」

加賀「同感です。敵の編成がわかっていないのでしたらこの編成は少し偏っていますが、悪くない編成でしょう。

しかし、今回は敵の編成が事細かにわかっている状態です。間違いなく主力です。鬼や姫といった強敵はいなくとも、

戦艦の数が以上です。わかっている以上、私たちはこれに対抗できる編成にするべきではないですか?」


今回の出撃1つ目は軽巡旗艦の偵察隊と推測される部隊の迎撃だ。

これには神通、那珂、夕立、村雨の水雷戦隊で当たる。これは問題ない偵察により敵の練度も圧倒的に低いことが分かっている。

2つ目3つ目は海域が違えど似たような任務だ。先月に現れた深海棲艦の大艦隊を殲滅するという任務だ。

大艦隊は、姫、鬼といった強力な敵は確認されていないが、いかんせん数が多い、今までも何度もほかの鎮守府が進軍をくりかえしているが

大破撤退を繰り返しているようだ。よほど相手の熟練度が高い見れる。大規模な連合艦隊も組んで挑んだりもしたが、敵の数を減らしただけで、戦果らしい戦果は上げられずにいた。そこでほかの鎮守府も総出で波状攻撃を繰り返し、とにかく数を減らそうという戦法に変更した。

敵艦艦隊の補充らしい補充も確認されてはいないので、いつかは殲滅できるだろう……と、いうのが大本営の考えだった。

2つ目の海域には金剛、加賀、加古、青葉、伊19、白露

こっちに出撃する艦隊は、はぐれ部隊をたたくことになっている。なのでこの編成でも問題はない。

3つ目の海域には長門、古鷹、川内、時雨、鳳翔、占守となんと海防艦を持ち出してきた。はっきり言って異常と呼べるものだ。


神通「海防艦は戦闘の力が皆無というわけではありません。対潜能力に限っていえば私たちの中で勝る人はいないです

しかし今回の戦いにおいて潜水艦が見つかったという報告は一度もありません。まして占守は艦隊戦の経験が豊富とは言えません。

練度の高い敵と戦うのは少し酷…ではないでしょうか?」

加古「それもそうだけど、あたしは2つ目3つ目の海域に出撃する艦隊をもう少しバランスよく編成したほうがいいと思うんだけど?」

時雨「ここの鎮守府は確かに大型の艦娘は少ないけれど、いくら何でもアンバランスすぎじゃないかな?…提督何か納得のできる理由はあるの?」

提督「…この場にいる全員が納得できるような理由は持ち合わせてはいない。だが最適な編成だ。」

加賀「……………ええそうでしょうね。駆逐艦…海防艦はコストがかかりません。」

長門「ッ!おい加賀!」

加賀「おとりとしては十二分に活躍してくれると思います。まして大本営は今回の作戦だけで艦隊を倒し切ると考えていないのでしょう?

いくら波状攻撃を繰り返すと言ってもコストの問題があります。おとりが大破したのを理由に撤退すればコスト軽減も狙え…」

長門「これ以上の発言は認めないぞ…加賀…」

加賀「……失言でした。撤回します…」

長門「…………提督…なぜ、言えないのだ?私たちは納得のできる理由があるのならば、納得できる。

せめて話してみてくれないか?」

提督「長門、お前が言った通りだ納得のいく理由がない。だから話すことができない」

加古「提督…そいつはいくらなんでおかしな話じゃないのか!私たちはそんなわけのわからない命令のために

命はらなきゃいけないのかよ!」

長門「提督…あなたの復讐とやらも…これでは達成できないぞ…?これでは火力が薄すぎる1回の戦闘で、

できるだけ多く敵を倒すなんて…」

時雨「…提督まさか、とはおもうけど…駆逐艦をおとりにして…大破したら撤退…すぐに入渠させて

また出撃…なんて…馬鹿なこと考えてないよね…?」

提督「………………………」

時雨「こうすれば…計算したことないけど…多分、出撃回数も多くなる…私たちも沈みたくないから、必死で

戦う…こんなこと繰り返してたら…迎撃数が上がるとか…思ってない…よね?」

提督「…………………」

提督「もし、そうだとして、なんだ?どのみち出撃を管理するのは俺だからな」

時雨「ッ!!」


時雨は手を抑えて涙を流しながら会議室を出ていった。


長門「し、時雨少し待つんだ!」

神通「…平行線ですね。最低です…提督…」

加賀「……………」

加古「ありえねぇよ…あんた本当に人間かよ…」


3人も浮かばない表情を浮かべて会議室を後にする

部屋に取り残された2人、提督は静寂の中、机に並んでいる大量の資料をまとめている

ほかの鎮守府から送られた敵の情報に、こちらの艦娘に関する資料かなりの量だ。

それを片腕でかたずけるのはかなり手間暇がかかるだろう。


長門「…手伝おう、提督」

提督「……………」


返事はないが、作業を初めても止めてこない、私は無言で作業を開始した。


長門「なぜ、あんな言い方をしたのだ…あのいい方はどっちともとれる言い方ではあったが、

あの状況では悪いほうにとらわれても仕方がないぞ」

提督「………………」

長門「…どうして言えないのだ?何か後ろめたいことがあるのか?」

提督「………………」

長門「あれでは復讐を果たす前にみな、去ってしまうぞ…?」

提督「………………」

長門「………………」

提督「お前はなぜ、私が非人道的でないことを前提に話をしている?」

長門「…?」

提督「………………」

長門「提督、では逆に問わせてくれ。あなたは非人道的な人間なのか?」

提督「………………」

長門「答えがないなら私も答えを保留する。私だってこれで長く生きてきた。見た目は一切変わらんがな…

考えなしの阿呆には見えないからそれを前提としている、はっきりと言ってくれれば私も変わるとは思うけどな」

提督「………復讐に女子供を利用するやつが非人道的な人間でないというのならば、俺は非人道的ではないのだろうな」

長門「いや、そんな奴は間違いなくクズだろうな。もしそれが、本当の女子供…ならな」

提督「………………」

長門「前任提督には大変よくしてもらっていたが、私たちは兵器だからな。使われて当然だ。……

フッ、自分で言って少しむなしくなってしまったな。」大量の書類を持ちながら

長門「すまないな、私も先に上がらせてもらう。これくらいの量なら、提督でも大丈夫だろう」


私はそう言いながら書類をまとめて執務室に足を運ぶ。

幸先は不安しかなかった。もし、もし仮に提督の言っていた作戦が時雨の言う通りだったとすれば

私の戦果にすべてがかかっていることになる。


長門「…ッ!」

長門(くそ…少し気分が…ビックセンブが聞いてあきれるな…あれだけの艦隊を率いる覚悟がないとは)

長門(連携に慣れていたからか…?そういえばこうやってすべてが期待されることは全提督の時は

ただの1度もなかったな)

長門「………………」


私はそっと携帯があるのを確認して、執務室を後にした。

外の空気が吸いたかったのだ。…ついでに頼りたい人もいた。

途中すれ違う白露型姉妹たちの涙を見たときは、心が張り裂けそうになってしまった


長門(提督を信じている私は…間違いなのだろうか…)


あんな境遇にあった提督だ、力になってやりたかったのだ。

心を開いていないだけで、きっといつかはいろいろ教えてくれると信じているのはおかしいのだろうか?

ここで悪と決めつけて提督を糾弾するのが正解なのだろうか…?



鎮守府近くの砂浜

前提督「久しぶりだね、長門うまくやれているかい?」


懐かしい老人の声に私は予想以上に張り詰めていたらしい心が解放されるのがわかる…大きくため息をついた


前提督「なんじゃ、ため息とはらしくないの。ビックセブン様ともあろうものがどうかしたのか?

長門「私も自分自身でそんなふうに思っていたところだ…」


私は浜辺の木陰に座りながら前任の提督に連絡をしていた。退役し、ただの一般人となった全提督に合うことは

かなりめんどくさい手順を踏まなければいけなくなってしまったが、電話ならば特に問題はない。気軽に相談してくれと

前提督が教えてくれたものだ。提督も老後を楽しみたいだろうから極力かけないようにしようと心に誓っていたが、

結局かけてしまった。まさか一月持たないとは思ってもみなかったが


長門「すみません…提督…」

前提督「もう私は提督ではない提督と呼ぶのはやめたほうがいいんじゃないか?」

長門「誰にも聞かれていない場所で、慣れているからな…提督がいやじゃなければ続けたいのだが…」

前提督「まあ、なら好きにしなさい」

長門「感謝する」

前提督「提督と…うまくいっていないか?」

長門「…よくわかりましたね…っていても、私が今連絡をする理由はそれしかないか…?」

前提督「まあな、お前さんは優秀だったからな仕事のそうだったとしたらよっぽどのことだと思う

加えて予想をするなら今世間を騒がせている大艦隊…のことだと予想をしとるがどうだろう?」

長門「…すごいな…どこでそんな情報を?」

前提督「おしゃべりな元同僚じゃよ」

長門「そうか…ああ、その通りだ。提督の組んだ編成に艦隊全員が納得できなくてな…私自身も提督を

信じていいのかわからなくなってしまった」

前提督「………………」

長門「提督も、境遇を知っているだろう?今の提督の境遇を。だから私は力になりたかったのだ。それに、私は

あの提督が考えなしであんなことをする安保だと…思っていない」

長門「だから…どうしたものかと…」

前提督「長門よ。お前の答えはすでに出ているではないか」

長門「なに?」

前提督「力になりたいのだろう?ならすでに答えは出ている。お前は頑固なところがあるからな一度決めたら

なかなか曲げようとはしない。なら決定的な何かがあるまで、あやつを信じ続ければいい。」

長門「………そう…だな。私は誰か、味方がほしかっただけかもしれない」

長門「ありがとう提督。気持ちが軽くなった。私の答えは最初から決まっていたようだ」

前提督「なあ…長門よ。もし不都合がなければ…作戦の内容を教えてもらってもよいか…?」

長門「…あ」

前提督「どうした?」

長門「そういえば…肝心の内容を聞くのを忘れていた………」

前提督「おいおい…それは…さすがに…」

長門「す、すまない…」

前提督「じゃあ提督とは何でもめたのじゃ?」

長門「へ、編成だ。編成を聞いてほかの艦娘達も起こって出て行ってしまったのだ」

前提督「編成…」


私は聞いた通りの編成を全提督に報告した。


前提督「非常識じゃのう」

長門「……………」

前提督「ありえん編成と言ってもいい大型艦はいないが重巡はほかにもいるだろうに…」

長門「……………」

前提督「そう…間違いなくありえない編成じゃ。なぜ私がありえないというかわかるか?」

長門「それは…」

前提督「戦艦と殴り合う編成ではないということじゃ。じゃが長門よ…あやつがいつ…戦艦と殴り合うといった?」

長門「え…?」

前提督「その作戦概要本当にすべて見たのか?作戦の内容も聞いていないのにそれを決めつけるのは…酷だと思わんかね?

もしかしたら提督のほうに新しい任務が来たのかもしれない新しい情報があるかもしれない

確認しないで決めつけるなぞ、らしくないの…長門?」

長門「たし…かに…」


私はあっけとられた顔をしていた。なんていうことだ、私はただ提督を信じていなかっただけではないのか?

提督のこと信じていれば、こんなことをするはずがない、理由があるはずだと、疑えたはずだ。

だが提督は復讐にとらわれて非人道的になってしまったと心の中で思っていただけかもしれない

まさかそれを提督と直接会う機会がなかった全提督に指摘されるとは…


長門「…提督、カッコ悪いところを見せたな」

前提督「安心せい…だれもみてはおらんよ」

長門「フッ…では提督私は執務を手伝はなければならない。片腕ではきついだろうからな」

前提督「おう、そうするとよい。気をつけてな」


そういって全提督は通話を切った。さっきまでの悩んだ顔はどこに行ったか、長門はすがすがしいくらい

生き生きとした表情をしていた。


長門(提督がどっちの人間かわかるまで、信じ続けるとしよう。私が提督のことを信じるだけではだめだ。

提督からも信頼してもらわなけらばならない。この作戦をすべて知るためにも!)

長門「1週間か…短すぎるな…」


鎮守府執務室

長門「むっ?…提督がいない…?どこで何をしているのだ?」


書類は机の上に置きっぱなしだ。私が持ってきたものも、特にかたずけられた形跡もない。

どこで何を…と思っていると、すぐに見つけらた。資料室だ。


長門(こんなところで調べものか?)


それがすぐに違うということは長門にも理解できた。提督は段ボールから資料を取り出して

棚にしまっているからだ。前提督が新しい資料を種類ごとに保管していたものだ。

長門自身としては段ボールのほうが管理が楽でよかったのだが、几帳面な性格なのだろうか

わざわざファイルに閉じなおして棚に分けているのだ。


長門(片腕じゃあ大変だろうに…ここは艦娘達もよく通る通路だからだれか気づくはずなのだが…まあ無理もない)


そう思って長門は資料室に入ろうとして…先客がいるのに気が付く


長門(む………先を、越されてしまったようだな……そういえば最初の時も私を押しのけて提督に気にかけていたな)


長門の優しい目の先には不愛想な提督にこれ何処あれどこ、と必死に仕分け作業をしている川内の姿があった



少し前鎮守府資料室

提督「ふう……」


鎮守府にある様々な資料をまとめた部屋、資料室。

その量は膨大であり、整頓が苦手な人が管理をすればあっという間にここはゴミ屋敷になるだろう。

幸いにも全提督や、ここの艦娘にそういう人はいないが、それでも必要と思う資料はそれぞれ違ってくる。

そこで提督は前からちまちま必要不必要の資料を分けてきた。

しかし、片腕では作業効率は激減する、近くにも艦娘が通りかかってきているが、

気まずそうに視線をそらしこの部屋に入ろうとはしない。


提督(まあこうなる理由に心当たりしかないが…)


ほら、今日も扉の前で立って中の様子を見て………


提督「?」


離れていこうとしない、おかしいと思って作業を止めてみてみると


川内「………………」

提督「なんだ…川内か」

川内「大変そうだね。手伝うよ!」


そういいながら川内は部屋の中に入ってくる。止めたところで聞きはしないだろう。

なら…


提督「おい、勝手に触るなよ、事細かく分かれてるんだから」

川内「えーーー…なら提督教えてよ!私が提督の手になるよ」

提督「そのつもりだ、適当に触るなよ。」


こっちで指示して言う通りに動いてもらったほうが早いだろう。

こうして川内と作業をすることとなった。



川内「提督~…これは?」

提督「そこだ……おい、そこじゃないぞ…」

川内「え?あれ?このファイルは…」

提督「はあ…そのファイルは主砲に関係するもの、それは魚雷のほうだ」

川内「うう…ってちょっと待って艦載機も種類ごとに分けてるの?」

提督「当たり前だ。…おい、もしかして…」

川内「だって~…わからないもん…」

提督「はぁ…ほら早く分けるぞ」

川内「細かすぎるよー」


しばらく資料室は指示する低い声と苦痛の声が聞こえ続けてくる。

川内は細かい作業が苦手のようだ、自分の片付け方と合っていなくて、ちょくちょく指示とは違うことをしている。

とはいえ細かいことに気配りはよくできている。そのおかげで、見落としがほとんどない。

しかも、彼女は物覚えも結構いい、早々に言われたことを習得して、自分の片付け方に合わせてくる。

1時間もするば、資料室から指示する声はなくなり、代わりに楽しそうに話す声と、それにたまにうなずく

小さい声が聞こえるようになった。


川内「…それでさ~本当にひどいんだよ!私のほうがお姉ちゃんのはずなのに」

提督「………………」

川内「最初に来たときに間違えのは、しょうがないと思うけど、食堂のおばちゃん今でも私のこと間違えるんだよ!

神通のほう見て「妹たちの面倒見るのは大変でしょう~?」って!ひどいと思わない?」

提督「……そうだな」

川内「提督?ちゃんと聞いてるの?」

提督「聞いてるぞ、ちゃんと返事をしただろう?」

川内「もう、そうじゃないよ!しっかりと相手の目を見て話さないと」

提督「………………」

川内「………………」

提督「なぜ、お前は俺の味方をする?」

川内「えっ?」

提督「……いや、心当たりがないならそれでいい」

川内「思い浮かぶよ、編成のことでしょ?」

提督「…そうか、ならなおさらだな」

川内「簡単な話だよ」


川内は作業を止めて、座り直し提督のほうを見て、ビシッ!とピースをする。


川内「私が提督のこと信じているからだよ。それに助けたいと思っているからだよ」

提督「質問の答えにはならないな、なぜそう思えるんだ?」

川内「んー………今は、言えないかな」

提督「何…?」

川内「提督も似たような感じでいろいろ隠しているでしょ?だからお相子だよ」

長門「そうだな、それまでは提督も私たちのことを不審に思いながら手を借りるといいさ」

提督「長門…いつの間に」


長門は中に入りながらあたりの資料を見て回る。


長門「なるほどずいぶんときれいに分けられているな。…提督はかなり几帳面だな、艦載機も事細かに分かれている…」

川内「でしょー?本当に大変だったんだよー」

長門「…まあ、確かに細かいがこの程度できなければな…」

川内「なによ!私の味方じゃないの?」

長門「事実だからな」


近くにあった書類を大量にとり、作業を始める。この程度と川内に言っただけのことはある。

かなりのハイペースだ。あとで確認したことだが、それでいてミスが極端に少ない。さすがというべきだろう。


長門「そうだな…提督私の話も聞いてくれないか?ずっとしゃべらないでいるのもさみしいからな」

提督「別に…話す分には勝手だ。好きにしろ」

長門「聞いてくれないのはさすがにへこむぞ…」


長門と川内はその後仕事をこなしながら他愛のない話をした。むろん長門には突っ込んだ内容を織り込んで

作戦の内容を聞き出すという理由があったわけではあるが…

隠す理由がわからないので何とも言えないが、提督は質問の意図を的確に読み取り返答してくる。

要するにこちらの知りたいことを1つも答えないのだ。

提督と攻防しているみたいでおかしくなって長門は少しわらっていた。


長門「こんなところだろうな。」

川内「もうへとへと~」


それからしばらくして仕分けの作業は終わっていた。すでに窓からは大きな夕日が見えている。

かなりの時間やっていたことになるだろう。


長門「慣れるまでにはそんなに時間かからないだろうな。ただこれだけきれいに分けられていると、片付けの時に

ミスをすると大変なことになりそうだな」

川内「はぁ………!ねえ、おなかすかない?」

長門「そうだな…提督一緒にどう…提督?」

提督「……………」


提督は窓から移る大きい夕日をじっと眺めていた。窓の淵に腰かけ体を壁に預けながら左手をおなかの上にのせている。

顔だけを窓に向けながらぼーっとしている。


川内「夕日好きなの?」

提督「…………嫌いじゃない。…お前たちはどうだ?」

川内「え?私?うーん…好きだよ!何せ夜の入り口だからね」

長門「お前は相変わらずだな。……私も好きだ、御託を並べる必要もない。きれいの一言で終えられるからな」

提督「そうか…」

長門「好きな理由…聞いたら答えてくれるか?」

提督「……聞くならな」

長門「では聞かないでおく。後の楽しみとしてとっておこう。」

川内「そうだね~…じゃあ!1週間後の作戦成功で納めたら聞くっていうのはどう?」


唐突だった。さすがというべきかさっきの作業中遠まわしに聞いていた題材を、川内はずばっと言ってくる。

そこが彼女のいいところでもあるのだろう。ただ慎重に言葉を重ねた私からしたら、今回ばかりは黙っててほしかった。

提督もその質問については返答を返さなかった。


長門「川内…さすがにそれは…「勝つ気ないの?」」

提督「…………」

川内「どう?」

提督「評価は相手が勝手にやってくれる。勝つ気はない、やつらを多く殲滅するだけだ」

川内「…………まあ、今はそれでもいいや」


納得いく答えではないだろうが、川内はあっさり引き下がった。


川内「じゃあ…ご飯にしよ?」




~出撃前夜執務室~



長門「では提督最後の確認をさせてもらう」


私は手に持っていた書類を提督の机の上に並べる。敵の編成、自軍の編成、進行ルートなど、今回の3つの作戦に

必要な情報が乗っていた。


長門「編成については…皆なんとか納得してくれた。」


これは嘘だ。もちろん納得している人なんて1人もいない。いや、川内と私は納得しているので1人もってわけではないが、

1割未満の納得じゃ意味がないだろう。ただ、せっかく提督の考えてきた編成だ。初めてで緊張などもあるだろうから、

嘘をつく。ただ一応命令違反をする人は1人もいないので、その点については大丈夫だろう。


長門「だから今回はこの編成で行こうと思う。そして肝心の作戦だが…」

提督「あまり凝る必要もない。俺の指揮下は初めてだろう。前任のやり方のほうがいい」


提督は今回作戦についてはあまり口出しをしなかった。第3部隊は試行錯誤して様々な作戦が出されたが、

その作戦に対しては提督は1つも文句をつけなかったのだ。あのような常識外れの編成を組んだので、

作戦のほうにも何か考えがあるのではないかと思っていたが、そうでもないようだ。


長門「…まあ、提督がそれでいいのならそれでいい。一応考案した作戦はここにまとめられている。目を通しておいてくれ」

提督「わかった…」

長門「変更点は…なし、なんだな。では報告は以上だ」

提督「艤装のチェックを忘れるな」

長門「むろんだ。久々の戦闘だ。提督必ず成功させて見せよう」


私は拳を胸の前で握り提督に笑いかける。相変わらずの無反応で、少し恥ずかしくなった私はそのまま執務室を出る。




~執務室前廊下~



長門「…………ダメ…だったな」


嘆いているのは作戦についてだ。第3部隊の旗艦である私が、作戦会議に出ないわけにはいかない。

第3部隊の全員といろいろ作戦を練ってきた。いかに被弾率を抑えて敵を撃破するか?

この編成でできることは何か?考えるだけ考えつくし、演習も行ったそっちについては何も問題ない。問題ないのだが…


長門「結局…提督の考えはわからずじまいだな」


そう、あぶりだしてやると意気込んだ、提督の謎の編成の目的が結局分からずじまいだったのだ。

最後の最後まで、情報を探し出すのもありだとは思うが、明日は早い。そして大事な出撃があるのだ。

徹夜をするのはさすがにまずい。まあ、ここまで来たら提督を信じて明日の出撃に備えるしかない。


川内「あれ~長門さん元気ないね?」

長門「元気の必要がないからなこれから休むところだ、君も今日くらいは休んだほうがいいんじゃないか?」

川内「そうなのよね…早朝出発で到着は昼過ぎ予定…夜戦は今回はお預けかも…」


曲がり角で鎮守府きっての夜行性さんが顔を覗いていた。

心底残念そうに落ち込む川内、変わらない彼女に長門は少しうれしさを覚えた


長門「川内、いきなりでなんだが礼を言おう。」

川内「えっ?どうしたのいきなり?」

長門「なに、最近艦娘達の結束は以前より厚くなっている。いいことであるのは間違いないが、

その厚くなる理由は…わかるだろう?誰かが提督との懸け橋にならなければならない。その点君は

出会った当初から、懸け橋になってくれている。だからその礼だ」

川内「なーんだ、そんなことか…ううん大丈夫だよ。って言うか私が勝手に信じているだけだし、懸け橋っていうほど

艦娘達と掛け合わせているわけじゃないしね」

長門「いや、十分さ。私も自身が持てるからな」

川内「まあ、長門さんがそういうならそれでもいいんだけどね。ありがとね~」


彼女はそう言いながら手をひらひらさせて、離れていく。

出会った当初から変わらないマイペースな彼女。想像もつかないかもしれないが、これでも彼女は

この鎮守府で上位から数えたほうが早いくらいに練度が高い。

その性格から出る、正確な射撃、危険な夜戦での立ち回り、そして作戦や準備段階においても、彼女は一手先を読む

ゆえに彼女は軽巡洋艦でありながら連合艦隊の旗艦にすら選ばれることもあるのだ。


長門「…頼りにしているぞ」




~鎮守府???~



川内「………」


寝静まった鎮守府で彼女は1人歩いている。

行き先にはおそらく目当ての人がいるだろう。いや、いてくれなければ困る。明日の出撃時間を考えると

この時間がラストチャンスだ。頼みの綱はもうあの人しかいない。

例の大規模艦隊を相手にするのだ、あの人もまだ起きているだろう

目的の扉の前に立ちノックをする。


???「はーい…空いてるわよ~…」


中からけだるげそうな声が聞こえる。休憩をはさんではいるだろうが、1日ぶっ通しの作業をつらいだろう。


川内「ふう~…よかったまだ起きてた。」

???「そりゃそうよ…明日の出撃のためにこれだけの量を終えなきゃいけないんだから…」

川内「…ちょっと手伝ったほうがいい?」

???「いらないわ。それにあなたはあの第3部隊で出撃するんでしょ?今日は体を休めなさい」

川内「まあ、それもそうだね」

???「それで…なにか用なの?」

川内「実はね…」




~鎮守府出撃ドッグ~



早朝の出撃ドッグには久しぶりに多くの艦娘でにぎわっていた。。

第1、第2、第3部隊の出撃時間はすべて一緒となっている。そのため出撃のために艦娘がドッグに集まっている。

工房にいる妖精たちは総動員で艤装のチェック、それぞれ部隊の旗艦たちで、作戦の最終確認。

出撃でない艦娘達もおにぎりの差し入れや、艤装チェックの手伝いで忙しそうだ。


夕立「時雨…大丈夫っぽい?」


スミで座りながら艤装のチェックをしていた時雨に姉妹たちが寄ってきた


時雨「うん、大丈夫だよ。何度も何度もシュミレーションしてきたし、艤装のチェックも問題ない」

村雨「そういう問題じゃないよ…わかってるでしょ?」

白露「そうだよ!…いくら準備したって、覆せないものじゃん…」

時雨「大丈夫だって、僕に任せておいて、長門さんを守り切って、ちゃんと帰ってくるから」

村雨「うう…時雨ぇ~…」ダキッ

時雨「はいはい、よーしよし…」


時雨は村雨を抱きしめながら首に顔を近づけた。自分のことのように心配して不安な出撃を前に

声をかけてくれた姉妹たちに思わず涙が出そうになったからだ


アナウンス「第1、第2部隊の出撃準備完了しました。各自持ち場に戻り、最終確認が完了次第

出撃をしてください。」


ドッグ内部にこの鎮守府の工作艦、明石の声が響き渡る。人で不足で数の少ない整備員をまとめる、

実質的なリーダである。一応リーダーは存在しているが、妖精の訳の分からない技術の前に

何ができるかと言われれば、その手伝いや資源を運ぶ程度である。ゆえに基本的に指示は

明石が行っているのだ。


時雨「ほら…出撃の時間だよ、みんな待っているよ」


村雨の背中をさすり、ポンポンとたたいて村雨に離れるように言う。


村雨「……じゃあ、頑張ってね」

夕立「私たちもいっくぽい。時雨…気を付けてね」


名残惜しそうに遠くから見てくる姉妹たちを見て笑顔を向けていると、

第3部隊に編成された全員がいつの間にか集まってきた。


長門「おはよう時雨。調子はどうだ?」

時雨「問題はないよ。ありがとう」

鳳翔「おにぎりの差し入れですよ。皆さんでいただきましょう」

占守「わぁ!うれしいっす!」

川内「ん~…」

古鷹「ありがとうございます。鳳翔さんも出撃でしょうに…」

鳳翔「いいですよ。やりたくてやっていることですし、それに、生活リズムは

しっかりとしていますから、体調は万全ですよ」

長門「助かるよ…っと、おい、川内寝ぐせがひどいじゃないか…」

川内「ん~…そのうち治るよぉ…」

長門「女子なんだから少しはなぁ…ほらそこに座る!」


長門は眠気でぼーっとしている川内を強引に座らせて手櫛を行う。

おにぎり片手にんーと気持ちよさそうに声を出す川内。


長門「占守大丈夫か?確か実戦で砲戦を行うのは初めてだろう?」

占守「そうっすね…まあ、訓練通りにやれば…何とかなると思うっす」

川内「ちゃんと…臨機応変に対応しないとだめだよ~~」

占守「今の川内さんに言われても…なんて思いましたけど、成績だけは優秀なんっすよね…この人」

古鷹「うん。私もかなり助けられてるよ」

川内「えへへ~♪」

時雨「僕もそれだけスイッチの切り替えが上手にできたらな…」

鳳翔「人には一長一短があります。時雨さんには時雨さんのいいところがありますよ」

時雨「…ありがとう。鳳翔さん」

長門「……よし!これできれいになったぞ」

川内「長門さんありがと~」

長門「そろそろ最終確認を終えるところだろう。皆の者準備を始めるぞ」


海面で第一部隊の面々が準備を進めていると、提督が姿を現した。


長門「むっ、提督か今日はミーティングを行っているのではなかったのか?」

提督「問題ない。こちらの作戦を伝えるだけで終わりだ。細かいことはすでに終えている。」

長門「そうか…」


ちらりと仲間の顔を見てみると案の定いい顔をしている人は川内以外にいない。


川内「あっ提督。おはよう」

提督「ああ…」

艦娘達「…………」


それ以降話はなく気まずい雰囲気だった。というよりかは敵意すらもあるので、

緊張が流れていた。

気まずい雰囲気を破ったの明石だった。


明石「提督、出撃準備すべて完了しました。」

提督「そうか…………健闘を祈る」


それだけを言うと、出るタイミングを計っていたのか、提督はドックを後にする。


長門「よし!時間も惜しいさっそく出撃をするぞ、接敵は1時間後の予定だ。道中で作戦の再確認を行う。」


艦娘達からは元気な返事をもらい、機関部を温め始める。

提督が来て士気が下がったらどうしようかとも考えたが、それは杞憂だったようだ。


艦娘達「第1部隊出撃します!」


新しい提督での初めての作戦、不安しか残らないがそれは自分の力不足が原因だ。

この作戦を成功で納めて、改めて提督と話をすればいいだろう。




~作戦海域外~



長門「偵察機より入電、進行ルートに想定していない敵部隊を発見した。戦艦を旗艦とした戦隊のようだ。

戦艦も1隻、空母は見えない。提督どうする?」


作戦海域に向かう最中第3部隊は艦隊と遭遇した。敵の背後をとっている位置となる

幸いにも向こうは偵察機1つも飛ばしておらず、

先手を取ることができそうだ。大した強さもないので、問題なく撃破できるだろう。

しかし、今回本命の強さが強さだけに、弾薬1つ無駄に使いたくないのが本音のところだ。

だから気づかれずに終われるのならそれに越したことはないのだが…


提督「…殲滅するぞ。長門お前の主砲で戦艦を狙え。あとはいつもの動きでどうにかなるだろう。」

長門「いいのか?正直私は弾薬が惜しいと思っているのだが…」

提督「問題ない。それより本番を前に実戦経験を積むほうがいい。演習とは勝手が違う、1度その編成で

の戦いを試してみてもいいだろう。」


なるほど、確かに相手はそこまで強くない。占守はともかく、ほかは実戦経験も豊富だ。

技術もある。万が一にもやられる心配はないだろう。


長門「了解だ。なるべく無駄弾は使用しないようにする。…と、いうことだ戦闘準備はいいか?」

古鷹「任せてください!」

時雨「あの程度なら造作もないさ」


距離は長距離、長門ならば問題なく射程に収めることができるが、せっかく気づかれていないのだ

ここは気づかれるギリギリの位置中距離まで詰めて攻撃を行うのがいいだろう。川内、古鷹も攻撃に加われば

戦艦を落とせるかもしれない。


時雨「占守いいかい?僕たちの役目は長門さんたちの主砲の後、陣形を離脱。

高速で接近して敵をかく乱するのが役目だよ。幸いにも軽巡洋艦がいるから主砲はバンバン飛んでくる。

だから、なるべく回避を優先して無理のないときに主砲を撃ってね」

占守「りょ、了解っす」


緊張した面持ちで主砲を構えなす占守。

今回の作戦は敵が少数だった場合を想定した作戦だ。速度の速い駆逐で敵をかく乱しながら残った艦隊が

中距離で砲撃を行うという作戦。危険ではあるが、駆逐艦が高確率で狙われるため、回避能力の高いものが行えば、

ノーダメージで切り抜けられることもよくある。しかし陣形を崩すということは、それだけでデメリットにもなる。

一斉砲撃の命中率や威力を考えると、残った艦娘には、より正確な砲撃が必要となるし、不測の事態に陥ったときに

フォローが不可能になってくる。


長門「………撃て!」


十分に近づいたところで長門の合図とともに、3名が主砲を放つ。

きれいな放物線を描いて着弾したそれは、戦艦を倒すのに十分な火力を持っていた。


川内「戦艦轟沈を確認!至近弾で駆逐2隻中破したよ!」

古鷹「次弾装填始めます」

時雨「いくよ!」

占守「は、はいっす!」


機関部をフルで回転させ、高速で接近を開始する。敵は旗艦を失って混乱をしてはいるが、

深海棲艦の混乱はそこまで大きくはならない。ほんの一瞬隙ができる程度だ。

軽巡と重巡が態勢を即座に立て直し砲撃を行う。

時雨はそれを余裕をもって回避、海面に着弾する。波が荒れるがその程度でこちらの動きは阻害されない。


時雨「時雨…いくよ」


砲撃の隙をついて射程圏内に収めて、その小さな主砲で砲撃を開始する。

中破した駆逐艦に砲撃があたり轟沈する。そしてわざと敵を横切るように走行する。

当然敵は目の前をうろつく時雨を目標に取る、残った4隻すべての主砲がこちらを向くが…



占守「1人じゃ…ないっすよ!」


占守の主砲が今度は重巡をかすめる。残念ながら大したダメージにはなっていない。

と、そこにさらに大きな水しぶきが起き上がる。装填を終えた川内が放ったものだ


川内「夾叉弾確認…位置調整するから、長門さんたちも合わせてね!」


そういいながら川内はわずかにずれた射角の微調整を開始する。1発で夾叉弾を発生させられたのは運がいい。

高速で動く艦隊同士での砲撃戦は夾叉弾が出てからが本番となる。もちろん1発で直撃させられればそれに越したことは

ないのだが、そんなことが起きるのは、よほど集中できる先ほどのような場面か、運がいい時くらいである。

それが1回で出たということは、次の砲撃でかなりの高確率で当てられるということだ。

しかも夾叉弾で起こる水しぶきや波で敵は混乱を起こす。もちろんそれはこちらにも言えることだが…


時雨「占守!近づきすぎだよ!それじゃあ魚雷をよけられない」

占守「わわっ…」


それは近くにいる勇気ある2人が囮をしてくれるため、こっちに砲撃はほとんど飛んでこない。


古鷹「装填完了です!」

長門「すまん少し待ってくれ……」


戦艦である長門は主砲の装填が1番遅い。あの囮もいつまで続くかわからない以上、敵は早急に叩きたいところだが


鳳翔「長門さん、焦らず…です」


ここまでだんまりを決め込んでいた鳳翔が突如として動き出す。あらかじめ遠方にとどめていた、艦載機を一気に

敵艦隊に向けて突撃を命じたのだ。海面すれすれを飛び、魚雷を放つ流星に、上空からの急降下で爆撃を行う彗星。

味方を巻き込まないように細心の注意を払いながら針の糸をを通すような見事な爆撃で敵を翻弄していく。

遠距離、近距離、空中と立て続けに起こる攻撃で、状況整理が追い付かず混乱する敵艦隊。


長門「装填完了だ…立て直す前に一気に決めるぞ!」

川内「りょーかい!」

古鷹「任せてください」

長門「よし…撃てぇ!」


爆音とともに放たれた砲撃が敵艦隊に直撃をする。時雨たちが合わせて撃ちだした砲撃もあり、

敵艦隊はすべて轟沈という結果に終わった。


時雨「お疲れ様。何ともなくてよかった。」

占守「はぁ……すごい緊張したっす…」

長門「二人ともよくやってくれた。怪我はないか?」

占守「自分は問題ないっす。時雨さんがほとんど引き付けてくれたので…」

時雨「1回至近弾を貰っちゃったけど問題ないよ」

長門「そうか…無理だけはしないでくれよ。」

川内「ねーさっきから提督に繋がらないだけどなんかあったのかな?」

長門「なに?」

古鷹「そ、その言い方だと誤解が生まれますよ…正しくは指令室に提督がいないみたいなんです。」

長門「ふむ…いや、別にいつでもいる決まりがあるわけじゃないからな。それに今回は3つの作戦の同時展開だ

全提督が指揮をしてた時にはあまりこういうことがなかったのでわからないが、提督もいろいろやることが

あるのかもしれない。」


指令室に提督が不在となると、現状判断を下すのは長門ということになる。

しかし、まあ考えるまでもない。


長門「弾薬、燃料の消費は予想の範囲内。損傷は軽微だ。引き続き作戦を続行するぞ。」

艦娘「了解!」


初戦は何とか無事に終わったが、これは予期せぬ戦いだ。まだ本番は始まってすらいない。

気を引き締め直して、第3部隊の面々は静かな海を走行し始める


~作戦海域内~




占守「それにしても…ずいぶんと静かっすね。海域間違ってたりしませんよね?」

時雨「ちゃんと確認したと思うけど…じゃあやっぱりこの裏なんだね。」


そういいながら時雨は目の前に存在する大きな島を見渡す。

今回の敵艦隊は島を背に一歩も動かないというのだ。背後からの攻撃をなくすことによって

砲撃や雷撃をされる心配はなくなり前だけに集中することができる。

こうすることで敵に翻弄されることなく、純粋な殴り合いを行うことができるのだ。

潜水艦や艦載機を持ち出せばいいのでは?と思うかもしれないが少ないが軽巡と駆逐も存在する。

しかもその装備が対潜対空でまとまっているのだ。先に戦艦という壁を取り除かない限り、

大打撃を与えることは難しいだろう。そんな感じで偏って編成ながらかなり厄介な敵となっている。


鳳翔「…偵察機が破壊されました。やはりこの裏にいるみたいです。かなり高度を上げたはずなんですけれど…」

古鷹「それだけの対空装備が整っているんですね…」

川内「それで…提督はどこまで迎撃すればいいって明確な指示はなかったけど、どこまで戦うの?」

長門「やれるだけ、だな。とはいえわかっていると思うが、今回の編成はこちらがかなり不利だ。

敵があまり動かないという話ではあるが、まさか1歩も動かないということはあるまい。そこだけ

注意しておいてくれ。…とはいえ、防衛線を張っているなら、T字有利を保つのはたやすいだろう。」


装備や陣形などの再確認を行いながら島の周りを走行する。

緊張で震える手を握ることでごまかし、震える足は少し足踏みすることで落ち着かせる。

レーダーに反応があり、目標はすぐ近くにいることがようやく判明する。


鳳翔「艦載機発艦させます!」

キリキリと限界まで延ばされた弦からかなりの速度で矢が放たれる。まっすぐ飛んでいった矢は

重力に従い落下を開始するが、始まった瞬間矢は炎に包まれ代わりに、艦載機が姿を現す。

敵に空母が存在しないため、制空権をとるのに艦上戦闘機は少しで十分。軽空母の中でも

とりわけ少ない搭載数を圧迫しないのはいいことである。


長門「よし…見えてきたぞ」


島の奥のほうから姿を見せたのは艦隊は情報通り、大多数を戦艦で占める連合艦隊のようだ。

タ級のフラグシップもちらほら見える。


時雨「多い…ね。」


もちろんこれは事前に知っていたことだ、今更言うことでもない。それでも実際に見てみるそれは、

恐怖の一言に尽きる、数十を超える敵艦隊が自分たちを見据え、挑発でもするかのように、

笑いだすタ級。まるでゴールの見えないマラソンのようだ。どれだけのペースで戦えばいいのか

想定するのが難しい。しばらく冷や汗を流しながら、長門たちは島を離れ、ゆっくりと正面になるように、走行する。

隣の人に鼓動が聞こえるのではないかというほどに心臓が暴れ、いつ始まるかわからない開戦の合図

を今か今かと待っている。


長門「ッ!散開!」


長い沈黙を破ったのは向こうの戦艦だった。その大きな主砲による一斉掃射。ただ、距離が離れているおかげで

回避をするのは難しくない。

全員は余裕をもって回避をするが、そのあまりの物量により、海面は大きく乱れる。

陣形は一瞬で崩れてしまった。


占守「じ、陣形が!」

川内「無理に戻らないで、ついてきて!」


古鷹「長門さん!」

長門「わかっている!合わせるぞ!」


装填の隙を狙い中距離で近づいた古鷹の砲撃に合わせて、長門も攻撃を行う。

その砲弾は、見事に戦艦に直撃、爆発とともに暗い海に沈んでいく。


古鷹「きゃっ!」


お返しと言わんばかりに放たれた敵の重巡の砲撃が貰った古鷹は小破した。


時雨「古鷹さん!」

古鷹「き、機関部に影響はありません。攻撃、続行します!」

長門「無理に戻ってもどうせまた、離されるだけだ。この陣形を保つぞ」


2つに割れた陣形を整え直して、次の砲撃に備える。



鳳翔「これは、演習ではなく、実戦よ…」


次々と迎撃される艦載機を見るのは心苦しいが、今はとにかく数がほしい、

暗示をかけて艦載機を放ち続ける。すでに矢筒には半分ほどしか矢が残っていない。

そのほとんどは駆逐艦や軽巡洋艦と刺し違えるようにして迎撃されている。

残りの艦載機は戦艦と戦うためにとって置きたかったが…これでは数が足りない。

やはり加賀さんのほうがこちらに来るべきだったか…


鳳翔「そんなふうに思ってはいけませんね…」


皆この編成で行える数少ない戦法で必死に戦っている。時雨も、占守も怖いはずなのに、距離を詰め勇敢に戦ってくれている。

ここで自分が先にあきらめてどうすると言うのだろうか。


鳳翔「足りない力は知恵で補わせてもらいますっ!」




川内「次の砲撃で距離…詰めるよ」

占守「分かったっす…」


そろそろ戦艦の装填が終わるころだ。川内はそれに合わせて一気に近づき、

魚雷をお見舞いしようと考えていた。占守は…申し訳ないけれど、砲撃の分散…いわゆるデコイとして

連れていくつもりだった。


川内(心苦しいけど…でもさすがに…ねぇ)


戦艦の砲撃が終わり近づけば重巡洋艦が相手になってくるだろうが、とてもよけきれる自信はない。

占守と一緒に少し離れて走行すれば何とかよけられるのではないかと思っている。

占守も訓練のおかげが、実戦経験のわりにかなり動きがいい。川内は落ち着いて対処すれば

あの砲撃もよけきれるのではないかと踏んでいる。


占守「川内さん…遠慮する必要ないっすよ。占守覚悟は決めてるっすから」


見透かされていた。さすがは艦娘、長いことやってきたけれど人を見る目というか、的確に察する人が多くて

困ってしまう


川内「ははは…じゃあ頑張ろっか!」


こっちの考えを見抜いたうえでそれでもなお自分についてくると言う占守。ならもう遠慮はいらない。

全力で事に当たり自分のなすべきことをなすだけだ。足についている魚雷の状態を確認しながら

こちらをめがけて飛んでくる主砲に立ち向かう。



長門「川内ッ!」


戦艦の主砲を危なげなく回避して、川内と占守が距離を詰める。当然待っているのは小型艦による一斉掃射。

川内はともかくとして、占守にあの量の回避は難しいのでは…と考えていた長門だが、明らかに

川内に向かう数のほうが多い。注意深く見てみると、川内は水しぶきをあげながら機関最大で、左右に動き続ける。

一方占守は川内の少し後ろに位置して最小限の動きで回避をしているようだ。

うまい。これなら川内はかなり目立つ、占守への攻撃を最小限にとどめることができるだろう。

持ち前の観察眼をこなして、川内はあの砲撃を無傷で切り抜ける。


時雨「僕も合わせてくるよ」

長門「わかった。援護しよう」


長門は貴重な1発を夾叉弾を起こすために使った。時雨を狙う敵艦隊はその衝撃で砲身がぶれて明後日の方向に飛ぶ。

時雨は魚雷発射管を下に向けて近づけるギリギリのところまで近づき、魚雷を放つ。古鷹も魚雷を使えるが、長門一人での

かく乱はまず不可能、今回はそっちに回っている。その代わりに空を飛ぶ流星が急降下し時雨に合わせて魚雷を放つ。


時雨「よしっ…」


戦艦1隻の大破を確認した。正直に言えば戦艦1隻を大破させたところで大して状況は変わらないが、それでも

この編成でも戦えると精神的活力になる。

陣形が乱れた時に用意した戦術がこのよる魚雷攻撃だ。陣形が乱された以上、足並みをそろえて砲撃と

言うことはできない。かといって駆逐や軽巡が好き放題砲撃したところで昼戦では戦艦はまず倒せない。

そこで戦艦の砲撃を陽動や、かく乱に使い一撃で沈める威力を持った魚雷を使って敵に打撃を与えようという算段だ。

陣形が乱れてもこれなら、戦艦相手にも戦えるし、乱れた陣形を立て直す時間も必要ない。

昔の船がそんな戦い方をしたところでデコイにもならないだろうが、艦娘としてなら話は別だ

小回りの部分で言ったらその差は圧倒的、こんな無茶な戦い方でも切り抜けられる

だが先の戦闘でも言った通りこの戦いには致命的な弱点が存在する…


川内「占守!伏せてっ!」

占守「えっ?」


占守は誰か…まあこの状況なら川内だろうが、思いっきり引っ張られる。誰かに抱き留められるように、引き寄せられ

直後その華奢な体に爆音と熱が襲う、口を思いっきりかみ衝撃と痛みに耐えようとしている。主砲だ


占守「せ、川内さん!」

川内「あはは…ごめんね、魚雷撃ったらさっさと戻せばよかったね…」


そう力なく言う川内に抱き留められた占守は慌てて体から離れて状況を確認する。

どうやら占守は少し前に出すぎていたみたいだ、川内は魚雷を放った後は反転して下がろうとしていたのだろう。

そこでまだ援護が必要だと勘違いして至近距離で砲撃をしていた占守をかばったのだ。

右手に付いた観測機を飛ばすレールは無残にひしゃげていてもう飛ばすことはできない。

左右についた主砲も所々かけていて、その数は半分になっている。

間違いなく大破しているだろう。機関部が無事なだけまだましだ。


占守「そ、そんなことはいいっす!自分がわるいんっすから!」

川内「ほら…そんなこと言ってないで…離れるよ…」

古鷹「早く下がって!」


主砲を放って牽制しながらなんとか川内達を助けようと距離を詰める。


長門「バカもの!無理に近づくな!」


長門の静止の声届かず、周りをおろそかにした古鷹が砲撃に当たって中破した。

これがこの戦術の弱点。他者のリカバリーが用意にできないのだ。現に川内も自力で距離をとっているが、こちらとの

距離はまだ遠い、あたりに無数に存在する戦艦も相まって、近づくことが難しいのだ。

無理に近づこうとすれば、先ほどの古鷹のように散開している艦隊の餌食になるだけ。

ここまで個々の損傷が進んだ以上、もう散開して戦うことはほぼ不可能。一度合流を図りたいところだが…


長門(どうする…?)


川内は大破、古鷹は中破、ほかに損傷らしい損傷をしている人はいないが川内と占守、長門と鳳翔、古鷹、時雨と

4つに分断されている。…時雨?そういえば時雨はどこに行ったのだろうか

と考えが時雨に向いたところでまた砲撃音が鳴り響く。

急いで確認をしてみると、時雨がまだ、接近戦を繰り広げていた。


長門「何をしているッ!早く撤退しろ!」

時雨「必要なんでしょ!囮、僕がやるからっ!」


確かに必要だ、あの凶弾がこちらに来ないというだけで合流する確立は跳ね上がる。


鳳翔「今は時雨さんに任せましょう。正直言ってここまで太刀打ちできないのは想定外です。

提督がなんていうかわかりませんがここは早急に撤退するべきかと」


鳳翔は長門の肩をたたき長門に合流の手はずを整えるように伝える。

長門は少しばかりいら立ちを覚えて、鳳翔をにらみつける。

鳳翔の目が少し揺らいでいるのがわかる。彼女も時雨を囮を使うのにためらいがあるのだろう。


長門「…すまない」

鳳翔「いいのですよ、私もそろそろ役目を終えます。囮は任せてください」


すでに矢筒は空。残りは空を飛んでいる艦載機のみ。操縦も妖精がしているので、後は鳳翔が指示を出せばいい。

自身は沈まない程度なら囮になれるわけだ


長門「提督との連絡は今だに取れない……撤退だ。全力でこの海域を離脱するぞ!」



左右にジグザグに曲がりながら、砲撃を回避していく。

川内は達はすでに長門に向けて走行を開始、古鷹も態勢を立て直して合流をしようとしている。

長門たちに向けて砲撃を行おうとしている敵ののみを狙い挑発していく

ここまで戦って1つわかったことがあるのだが、重巡洋艦の練度がかなり低いみたいだ

戦艦のような状況に適した砲撃ではなく、ただただ条件反射で主砲を打っているのではないかと時雨は考えている。

ここまでも、戦艦の攻撃を余裕をもって回避した後、そのまま突っ込んで重巡の攻撃をよけながら攻撃…と

何度も繰り返してきたのだが、いまだにこの動きに相手が付いていけてない

砲撃はフェイントにかかって明後日の方向に飛んでいくし、主砲はよく当たる。


時雨(ならそこに勝機はあるかもしれない)


戦艦は足並みをそろえて砲撃することにこだわっているらしく、主砲を放つタイミングがつかみやすい。

そのタイミングで一度距離を置き、回避をした後で再度また攻撃を仕掛ければいい。取り巻きの小型艦も

主砲装備が貧弱なため、これも脅威にはなりにくい


時雨(撤退まで、もう少し…)


正確な時間はわからないが、川内は機関部を失っていなかったし、もともと速度も速いから合流もすぐ行えるだろう。

古鷹も、川内より近くにいたからすでに合流しているころだと思う。

そろそろ撤退の準備を…と考えていた時雨だが。


時雨(砲撃音!)


どこから来るかあたりを見渡して確認しようしていたが、

砲撃のせいで不規則に海面が揺れるため、普段起こりえない波が発生している。

そのせいで足をとられる。確認できた主砲はまっすぐこちらに飛んできている。

しかし、波に取られて回避が間に合わない。


時雨「うああぁ!」


重巡からの攻撃、相手も波にのまれながらの攻撃のため、直撃とはいかなかったが、駆逐艦の装甲を破るには

十分な火力だ。持ってた主砲の先端がひしゃげて撃つのが難しい。足についた魚雷発射管もボロボロ、

撃ったら誤爆の可能性が出てきてしまった。


時雨「こ、これ以上…っは」


川内達の様子はもう気にしている余裕はないのでわからないが、攻撃が不可能になってしまった以上

すでに囮としては活躍できない。沈むつもりもさらさらない、つまり逃げるしかない。

しかし…


時雨「ッ!?」


時雨は予想外の衝撃によって意識を失った。時雨は認識していなかったが、戦艦の1人が

足並みをそろえず砲撃を行ったのだ。機関部もやられて、もはや浮力を保てない

ゆっくり…ゆっくりと海の中に沈んでいく。


川内「よ…っと」


が、体が沈む直前ものすごい速さで川内が横切る。

周りの戦艦、重巡は再装填、小型艦は時雨に夢中で気が付くのが遅れた。

川内は時雨の横を機関最大で横切りすれ違いざまに、手を取って抱きかかえ、煙を上げながら長門に合流しようとする。

させまいと戦艦による副砲の雨が降り注ぐ、おびただしい量の水しぶきがあがり、川内はあっという間に見えなくなる。



長門「……………」


川内は一度こちらに戻って占守を置いていってから長門の静止も無視して、ボロボロになった機関を動かして、

時雨の救出に向かっていった。長門もすぐに向かおうと考えていたが、すでに全員の合流が完了している以上、

旗艦が離れるのは得策ではない。水しぶきで囲まれた川内を祈るような形で眺めている

すると占守が突如として何かを警戒するように後ろを振り向いた


長門「?どうした占守」

占守「いえ、ほんの一瞬っすけど、ソナーに反応が…」

長門「何…?どうだ…?ほかのやつは何か分かったか?」

古鷹「いえ、反応はありません」

鳳翔「同じく、私はソナーは持ち合わせていませんので…」

占守「この海域どうも海底の凹凸が激しくてソナーが安定しないっすよ」

川内「じゃあこれを使ったらいいよ」


と、後ろから川内の声が聞こえる。あれだけの副砲を浴びても損傷個所がほとんど存在しない、よけきったというのか。


長門「川内!無事だったのか…よかった、それでこれというのは?」


川内はこれこれ、と自身の艤装からとある装置を取り出した。投石器と似たような形をした装置と

小さい装置を持った妖精が川内の方に止まった。小さい装置にはヘッドフォンが取り付けられていて、それを

妖精がその小さい頭に取り付けている。

爆雷投射器とソナーと呼ばれるものだ。どちらも三式となっており優秀な対潜装備だ。


長門「せ、川内…こんなものいつの間に…」

占守「潜水艦がくるって分かってたんすか?」

川内「ううんわからないよ。さすがにわかってたら提督も指示してたと思うし。」

古鷹「じゃあ…どうして?」

川内「提督はどうもとある情報筋から潜水艦が潜んでいると読んでたみたいだよ」

鳳翔「ならどうして提督は言ってくれなかったのでしょうか?」

川内「そこは聞かないとわかんないけど、多分大本営を説得する材料がなかったんじゃないの?」


基本的に作戦は大本営が管理している。それもこのような大本営じきじきの作戦の場合、

編成や戦略なんかは大本営を通す必要がある。ほかの鎮守府とも波状攻撃という形で連携をとっているため

あまりにも戦略にそぐわない編成や作戦を行おうとするとストップがかかるわけだ。

じゃないと他者に迷惑がかかる可能性がある。

ちなみにこの三式は明石さんに無理を言って用意してもらったものだ。本来積むはずだった、一部の装備をこれに変更したのだ。

艦娘や多分提督はこれに気付いていないと思う。


占守「よ、よくわからないっすけど…試してみるっす」


占守はソナーを装備して耳を澄ませる。


占守「…ああービンゴっすね。潜水艦の反応があるっす。数3フラグシップにエリート…少数精鋭

ってやつっすね」

長門「なるほど、提督はこのために占守を編成に入れたのか…」


占守の探知機は他と違い対潜に少し特価している。駆逐艦も今回の作戦に参加するとき

ソナーより電探を積むだろう。それに意識も水上の向く。そしてこの凹凸している海域

よほど運がよくないと発見は困難だろう。


川内「決まりだね。おそらくその潜水艦が提督が本来倒したかった相手だとおもうよ…っとちょうど通信入ってきたよ」

提督「少し席を外していた。状況を聞きたい」

川内「とりあえず私と時雨が大破しちゃって、古鷹さん中破。長門さんまだ損害ないからまだ戦えると思う。」

提督「そうか…」

川内「あと…想定外の敵部隊を占守が見つけたよ。潜水艦で数は3」

提督「本当か?」

川内「嘘は言わないよ~3式あるから占守だけでも戦えると思うけど…」

提督「おいちょっと待て、なんで3式持ってるんだ?装備に組み込んだ覚えはないが」

川内「まあまあ、細かいことはいいじゃん!それで、どうするの?」

提督「………そっちの意見を聞きたいどうだ?」

長門「正直に言って難しいぞ。すでに艦載機は壊滅、私たちはちょうど左右から挟まれた状態になっている。

占守を潜水艦相手に回すとなると、戦艦を止められるのはもはや私だけだ」


そう、相手の戦艦はまだ1隻ほどしか沈んでいないのだ。大破して主砲がひしゃげたものもいるにはいるが、

健全な奴はまだ8はいる。


提督「潜水艦はおそらく隠し玉だ、ここで確実に息の根を止めておきたい。」

長門「提督…いや、了解だ。任せておけ」


通信が切断される。重苦しい空気が周りを支配して、思考を-の方向に導く


長門「提督からの伝達は聞いたな。これより目標を変更する。」

古鷹「勝ち目は、あるんでしょうか?」

川内「無理かな…潜水艦と戦艦に挟まれて、私と時雨は大破して爆雷を効率よく使えるのは占守だけ。

時雨はしかも意識を失ってて、古鷹さんが抱えている状態、古鷹さんも行動は阻害される。

鳳翔さんも戦闘能力は現状ほとんど皆無…つまり10隻ほどの戦艦を長門さんが3隻の潜水艦を

占守が戦わなければならない…」

長門「状況解説感謝する。さて、どうす…ッ!下がれッ占守!」

鳳翔「長門さん!」


状況が目まぐるしく変わり、一度作戦をしっかりと立て直したいところだが、

忘れてはならない。ここか敵地ど真ん中だ。そんなことができる場所ではないのだ。

占守を守ろうとした長門とを鳳翔がかばう


長門「ほ、鳳翔…」

鳳翔「だ、大丈夫ですよ。問題ありません」


甲板が半壊していて、機関部も所々かけている。中破だろうかこれ以上砲弾を貰うのは危険だ。


長門「!占守を守りながら潜水艦を撃破するぞ!作戦を立てる暇はもはや残っていない!」

提督「まて、無策な突撃は被害しか出さない。それは許可できない」


突如耳元に低い男の声が届く。提督だ


古鷹「そ、それならばどうしろというのですか!」


自らの命もかかっていることもあって、古鷹は普段よりとげとげしい態度をとっている。


提督「心配するな。無策な突撃を許可しないだけだ。たった今第1第2部隊より通信が入った。つなげる」

金剛「ヘーイテートク…私ちょっと誤解してたかもデース…」

金剛「第2戦隊テートクより通達された『バッドウェザーによる変更されたルート』を走行中救難信号をキャッチしたデース。

状況はかなりデンジャラスみたいですけど…どーするネ?」

提督「フッ…追加だ。悪天候の範囲が作戦海域内まで進行した。空母の運用が困難な事、電探の不足により本作戦を中止。

その後の行動は好きにしろ。どうせ消費されるはずのものだったものだ。」

金剛「ハーイ任せるネー!」


その掛け声とともに敵艦隊に着弾音が聞こえる。しかし、見渡す限り砲撃者はどこにもいない。

戦艦は2隻が大破、1隻轟沈している。なかなかの戦果だ。


鳳翔「長門さん。背後です!敵艦隊の背後に第2部隊を確認しました!」


鳳翔はわずかに飛んでいる、自分の艦載機を敵艦隊上空に回す。当然その程度の装備では敵の対空装備の前に

なすすべもなくやられてしまう。しかし…その艦載機の実に何倍以上の艦載機が代わりに姿を現す。

金剛がいるということはおそらくあれは加賀の艦載機、次々に姿を現しあっという間に制空権をものにする。


神通「提督、こちらも救難信号をキャッチしました。偶然…ってすごいですね。ちょうど私たちは時間調整のために

ちょうど近くの海域で待機をしていたころです。提督ご命令を」

提督「命令も何もお前たちに出した任務は変わらん。作戦海域に時間通りに突入すれば、時間つぶしは

好きなようにやればいい。」

神通「フフッ…作戦開始時刻まで残り8時間…了解しました。では、勝手にやらせてもらいます」


さらに爆音が鳴り響く。察するに水雷戦隊による魚雷攻撃だろうか、現にこちらの視界に4隻の艦娘を確認した。

死角からは第2部隊が副砲と主砲を交互に効率よく放ち、敵のかく乱を狙う。


川内「へへっ提督やるじゃん…」

長門「ぐずぐずしている暇はないぞ!全軍反転!あの潜水艦をたたくぞ!」


頼もしい増援ではあるが、敵の火力のほうが圧倒的に上。現在は不意を突いたおかげでどうにかもっているが

態勢を立てなおされてしまってはこちらの鎮守府の火力ではどうしようもない。

立て直す前に潜水艦を攻撃する時間との勝負だ。

せっかく提督が作ってくれたこの状況…無駄にはできない




~鎮守府ドッグ~


川内「ふぅ……久々にあんなに苦戦したよ…」

長門「そうだな…皆、報告は私が済ませる入渠に行ってくるといい」


あの戦いはいくつかの戦艦と潜水艦3隻の轟沈という戦果で幕を閉じた。もともと凹凸がひどい海底で、奇襲ができなかった

潜水艦に勝ち目などなかった。放つ魚雷は岩に阻まれ、振ってくる爆雷は回避不能。戦艦の援護もない以上、3式を持った占守

に勝つすべはなかった。潜水艦を倒した後は即座に帰投。あとは大本営の最強の艦隊たちに任せておけば大丈夫だろう。


時雨「第1部隊は一度補給をしてから、戻ったんだよね?」

古鷹「うん、速度も速くて被害も皆無だったから戻ってきて補給してから即海域に向かったの」


意識を失っていた時雨も、走行途中に目を覚ましている。援軍の存在に驚いているようだったが、

轟沈ゼロで終わったことに安堵しているようだった。腰抜け過ぎて長門に負ぶってもらってここまで来たのだ。


時雨「ねぇ…やっぱりこの作戦ってさ。最初っから全部このための作戦だったのかな?」

長門「うーん……状況的には間違いないんだが、やはり真偽は提督に聞いてみなければわからないだろう」



~執務室~

長門「…………以上が本作戦の戦果および被害状況だ。何か質問はあるだろうか?」

提督「いや必要ない。すべて聞いていたからな」

長門「そうか…」


これで報告はすべて終了後は入渠に向かうだけ…なのだが


長門「差支えなければ提督、聞きたいことが山ほどある…入渠前に少し話をしないか?」

提督「構わん好きにすればいい」


長門は苦笑して、上着を持ってくるから待ってくれといい自室に戻ろうとする。現状長門は大破をしていて、服のあちらこちらが破けている

さすがにこの状況で話すのは少し恥ずかしい。

提督があんな風に言うということは答えるかはわからないが文字通り勝手にしろということなのだろう。

それでも意識はこちらの話に向けてくれるいうことだ。


提督「おい」

長門「なんだ?」

提督「宿所までは少し遠いだろ?」


そういいながら提督は執務室にあるクローゼットを開けて中から服を取り出す。

提督の証である、純白のきれいな軍服を取り出した。提督は近くにあった汚れを落とすブラシで

軍服を軽く撫でて、長門に差し出す。


長門「いいのか?」

提督「予備であるやつだ。1度しか使っていない、嫌なら構わないが」

長門「フフフ…いや提督、提督が言うならありがたく借りるとする」


貴重な提督の好意だ、無下にするわけにもいかない。いや、というかしたくない。

そのまま長門は提督の上着を羽織って一緒に外に向かう。ほとんどが入渠や出撃で出払っているため、

この姿を誰にも見られないのはよかった。提督の貴重な好意を無駄にしたくないとあの場では速攻でOKを出してしまったが

今となって少し恥ずかしかった。まだ初夏とはいえ夕方にもなれば海の近くは普通に肌寒い。

が、羞恥心で体温が上がり、少しも寒くはなかった。



~鎮守府付近のとある岸壁~



大きな夕日が海面に近づく。もう少しで日没だ。今日は風も少なく波も穏やかだ、優しい潮風が鼻をくすぐる。

暗くなったせいか、灯台に明かりが灯る。艦娘には必要のないものなのだが、近頃は近海で漁が行えるほど

平和になってきたのだ。この灯台はその漁をするための漁船を導くためのものということだ。

さらに遠くには多くの明かりが照らし出される。遠いからよくは見えない、まるで光の球体のようだ。

そのきれいで不規則に並ぶ光は陸地のあちこちに現れる。市場、民家、酒屋…

その多くの明かりの元で人々は生活を続けている。

長門からしたらもう何百…いや何千という回数の光景を眺め続けてきた。

しかしその心に飽きの感情は1つも出てこない。

なぜならその光景は長門が文字通り生涯をかけて守り続けてきたものだからだ。そしてこれからも守らなければ

ならないものだから。だから飽きは起きない。守り続けてこれた結果だと、胸を張って言うことができる。

さてそのような景色を横目にやってきたのは鎮守府近くの岸壁だ。

途中で提督は自販機によりコーヒーを買ってきてくれる。

涼しい風を感じながら火照った体を冷やす冷たいコーヒーはとてもおいしかった。


長門「それで…君は確かまだ入渠中じゃあなかったのか?」


そう、さっきまで並んで歩いていた2つの影は今は3つに増えていた。その2つはやたらと近い。

シルエットからもわかる通り、腕を組んでいるのだ。


川内「だって~こっちのほうが面白そうだったんだもん。それに入渠待ちの暇つぶしもほしかったし。」


入渠待ちで時間をつぶしていた、川内とばったり会ってしまったのだ。大破している彼女は本来なら

入渠の優先順位としては高いほうなのだが、今回は見える損傷よりもメンタルのほうに不安の残る

艦娘が少し多いのだ。今でこそ、ちゃんと意味の合った編成だったと納得してくれた人もいるが、

出撃、戦闘中は提督の意味の分からない命令で命を張っていたということになる。

入渠は体を治すだけでなく、リラックス効果ももちろんある。何せ日本人が編み出した最強の銭湯だ。

…そんな感じで川内は大敗しているにもかかわらず、ほかの子に順番を譲ったということだ。

ちなみに川内は今、提督が予備で着てきた上着を着ている。。

何か羽織るものを持ってきなさいと言おうとしたが、川内が恨めしそうにこちらをにらんでくるのと

それを言う前に提督が渡してしまったため、言うに言えなかった。

一応提督は下にもう1枚着ていたため半裸になっているわけではないが、

それでもその引き締まった体を隠すには少し不十分だ

風にあおられて右袖が顔の周りで暴れる。

すごく邪魔そうなのだが、提督は気にせずスタスタ歩き続ける。


川内「提督~どこまで行くの?」

提督「どこでも…まあ、このあたりでいいだろう。」


提督は岸壁に腰かけると、片手で器用に缶コーヒーを開ける。

それを一気に飲み干してから、


提督「どうだ?ここなら聞きたいことも聞けるだろう。」

長門「話してくれるのか?」

提督「場合による」


空きの缶コーヒーを置き夕日に視線を合わせて、声だけ反応してくれる提督。

全く不愛想にもほどがある、人と話すときは目を見て話すということを学ばなかったのか…

学ばなかったんだろうな…

彼の境遇を知っているから長門だからこそ出せる結論だった。


長門「では…私も失礼して」


長門は提督の右隣に腰かける。今日は波も高くないから、足を出しても濡れる心配はない。

あ、私もーと川内は提督の左隣に腰かけ、その筋肉の目立つ立派な腕に自身の華奢な腕を巻き付ける。

提督は特に気にする様子もなく、されるがままになっている。


長門「では単刀直入に、提督今回の編成を組もうと思った理由、教えてはくれまいか?

そしてなぜそれを艦娘に伝えなかったのか」

提督「……………」


だんまりだ。夕日をじっと眺めて、微動だにしない。


川内「じゃあ、それ私が言ってあげるよ」

長門「なんだと…いやそういえばお前は対潜装備の三式を持って行ってたな。しかも無断で…」

川内「あはは…見逃してほしいなぁ」

長門「はぁ…とりあえず話してみろ」

川内「いいよ…まずは、提督が潜水艦がいるかもって判断した理由から」


川内はおもむろに折りたたまれた紙を取り出した。印刷された紙をさらにもう1回コピーしたのだろうか。

若干薄れているそれは、各鎮守府の被害情報が書かれた紙だった。やれやれ、と長門は首を振る。

これも立派な違反だった。そういえば川内は自分の考えや行動を貫き通すために、

平気で規則を破る人だったなと長門は今更ながら思い出した。一歩間違えれば軍法会議ものだったが、

周りの人に恵まれているおかげか、いまだにバレたことはない、いやバラしたことがないといったほうが正しいか…

どちらにせよ川内のこういう行動には助けられてる部分も多い。長門は報告するつもりはないが…


提督「川内…これ何処で手に入れた?」

川内「ふふふ…提督さんあなたには致命的な癖があるんだよ…」

提督「癖だと?」

川内「そう、ちゃんと読み終わったものはしまわないと…ね?」

提督「…………」


そう、この提督読んだものをそのままにする癖があるのだ。別段不思議な事でもない。

提督になるために猛勉強をしている時、必要な本を出したりしまったりするのは片腕では大変である。

すぐ取り出せる机の上においておけば後でとるのも楽である。まあ…そのせいで机が汚くなったりもするのだが。

さすがに職に就いてからは、重要書類も扱うことになるためこういう事を無くそうと努力をしていが、

さすがは川内といったところだろうか、提督の癖をいち早く見抜き、毎日情報を入手できる機会を

うかがっていたのだ。こうなるとそのために提督を手伝っていたのではないか?と疑問も出てくるが、

川内は否定した。まあ、そこは今はどうでもいい


提督「なるほど…」

川内「納得してくれた?」

提督「あまり褒められたことではないがな」

川内「処罰…するの?」

提督「いや、明らかに俺のミスだ。別に処罰するつもりはない」


川内はわざとらしくはぁ~と息を吐く安堵しているのだろうか?最初からやらなければいいものを…

おっと話がそれた、とはいえ川内はそれを見て判断したということだろう。

私はそれを見せてくれと川内に頼み、提督をチラ見する。

肩を竦めた。まあ、読んでも大丈夫だということだろう。


長門「ふむ………旗艦の魚雷による大破、砲撃、砲撃、…戦艦の魚雷による大破…」


長門もこの資料をみて なんとなく理解できた。旗艦や、戦艦正規空母といった、敵戦艦と撃ち合うのに重要な

艦娘達はすべて魚雷によって大破されている。さらに、艦娘達からの報告を確認すると、砲雷撃戦が始まってから

味方の最初の被害は敵の魚雷攻撃によるものだと判明した。しかもほぼすべて


長門「1つだけならともかく、熟練度、戦術、装備、それらがすべて違う、

複数の鎮守府がすべて同じやられ方をしているというのか」


しかもそれが魚雷による攻撃と来た、もちろん目に見える敵でも魚雷を扱う敵もいる。

それでも艦娘に限った話で言えば、魚雷は不意を突かれないと、それこそ空母ですら簡単に回避できてしまう。

いくら敵の数が多いとは言え、魚雷という一撃必殺の攻撃は砲撃より回避が優先されているところがほとんどだ。

ゆえに、この被害報告は異常ともいえる。なるほどゆえに提督は潜水艦の可能性を頭に入れていたのだろう。


長門「しかし、これでは決定打…はそうか、今回の作戦はもともと潜水艦の存在を確かめるための作戦

だったのか…なぜ大本営にこのことを言わなかったのだ?」

提督「言った。だが信じてもらえる根拠も、証拠も、実績もないからな。すべて無視だ」

長門「ならば、ここの艦娘に言わないのはおかしいだろう?もし潜水艦の存在を

あらかじめ私たちが把握していれば、もしかしたら早期発見できたのかもしれないだろう?」

川内「うーん私もこればっかりは分からないなぁ…提督教えて?」

提督「…………はぁ…」


提督は小さくため息をついてからこちらを向く。


提督「正直俺はあんたたちを信用していないし、俺もあんたらから信用されるようなことはしていない。

ゆえに、伝えなかった。無用な混乱を避けるためにな。」

川内「無用な混乱って…そんなの起こるかな?」

提督「可能性の話だ。例えば俺が潜水艦のことを話して万が一に気が付けず、轟沈したとき、

潜水艦に気を取られすぎて、戦艦にやられた時…犯人捜しが起こる可能性がある。

しかもこの鎮守府は提督を新たにして、まだ日が浅い…内部の結束は少なからず緩くなる」


犯人捜し…しかもこの場合は達の悪い犯人がいない犯人捜しだ。

誰のせいでやられたか、いもしない犯人を捜し魔女裁判。提督、潜水艦を見つけられなかったもの、

戦艦を抑えきれなかったもの…上げ続ければきりがない。


長門「なるほど…つまり提督はあらかじめ、その矛先が自分に向くように仕向けたのか…?」

提督「…………」


否定なし…つまり図星ということだろう。潜水艦のことを一切伝えず、もし仮に何か被害があったら

潜水艦のことを伝えてくれなかった提督が悪いと怒りの矛先が向きやすい。


長門「しかし…この鎮守府の艦娘達はそれこそ百戦錬磨の強者ぞろいだ。提督のわずかに感じたその疑問

にだって、全力で答えてくれるし、何より仮にそのせいで轟沈してしまったとしても、

そんなことは起こらないと思う。」

提督「さっき言っただろう?俺はあんたたちのことを信用していない。もしかしたらそのようなことが起こる

だから手を打っただけだ。」

川内「うーん…じゃあ提督は何のために自分に矛先が向くようにしたの?なにがしたいの?」


提督は川内をちらりと見た後、また視線を海に戻す。小さくため息をついた後。


提督「言ったはずだ。やつらをすべて倒す。それが俺の生きる意味。俺の成し遂げるべきことだ。

だが…残念ながら俺にその力はない。艦娘にしかその力はない。なら、その力をどう効率よく使うか。

すでに俺が直接手が出せないと決まった以上、次に俺が考えるべきはそれだ。

今回についてはあの異常な被害状況さえどうにかすればあとは俺たちの鎮守府でやれることはない。

大人しく別の鎮守府に譲ったほうが、奴らを楽に殺せる。」

提督「状況証拠がすでに揃っている以上後は実際に行って確認をすればいい。だが、

そこで万が一にも失敗すれば、脆いこの鎮守府は崩れる可能性もある。

人間と艦娘がバラバラになるのはまだ問題ない。提督の変えはまだいる。

だが、艦娘同士でいざこざが発生し、亀裂が生じた場合、艦娘に変えはない。

前任が作ってきた高度な連携を崩さないためには、共通の敵を作る必要があった」


珍しく、口数の多い提督。相変わらず横目で、提督の表情を見ることはできないが

その横顔からは、ほんの少しだけ、長門は寂しさを感じた。


川内「まあ、なんかいろいろ言ってたけど、要するに私たちが信用できなかったってことでしょ?」

提督「…そうだな、うだうだいろんなこと言うよりもそっちのほうが早い。お前たちが信用できなかった

だから俺は隠していた。そのほうがことがスムーズに進むと思ったからだ。実際進んだ」


他者が信じられないから、重要事項を黙っていて、勝手にその重要事項を探る役をやらされて、

それでも艦娘のつながりのために、自身を犠牲にする。艦娘には効率よく戦ってもらうために

仲良くしてもらわなければならない。これは士気の問題だろう。

そうあの第1第2部隊の件もある。

あの後調べてみたら、第2部隊が行く予定だった地域が悪天候だったという情報は何1つ入ってこなかった。

つまり提督はもともと、第3部隊の護衛として第2部隊を使うつもりだったのだろう。

第2部隊をもともと違う海域に行かせようとしたのは、大本営をごまかすためだったのだろうか?



川内「なんだかんだ言って…提督私たちのために行動してくれたんだね」

提督「結果的にそうなっただけだ。すべてはやつらを殺すためだ。そのための努力なら惜しむつもりもない」

長門「だが…提督やはり今回の件、言ってくれればもっとことはスムーズに進んだと思う。

今すぐ…というつもりはない。ただ…少しは私達のことを信用してはくれまいか?

そのなんだ、提督は私たちが信用できない理由でも…いやすまな、忘れてくれ」


長門は風で揺れている彼の右袖を見て、思い出した。そうだ、彼の右腕は

我々の不注意のせいでなくなってしまったのだ。彼もあの時は幼かったとはいえ、

それくらいなら理解しているだろう。


長門「聞きたいことは聞けた、提督あなたが私たち今回の作戦を隠していたことには不満もあるし、

信じてほしかった。ただ、どんな理由であれ私たちを守るために自分を犠牲にしようとしてくれたことに

関しては感謝している。…ありがとう」

川内「そうだ提督!最後に聞いていい?」


川内は提督の腕から離れて立ち上がってからスカートの埃を払う。


川内「今回の作戦提督の思惑通りに事が進んだから大勝利でしょ?ねえ提督はさ、夕日好き?」


それは作戦前に提督と約束したものだった。この作戦が勝利で終われば、夕日が好きかの質問をすると

いうものだ。約束というよりかは、どちらかといえば報酬といったほうがいいだろうか

その場で聞けたものを川内が勝手にそう言ったのだった。

提督も川内の後に立ち上がりまじまじと夕日を眺める、その夕日はすでに沈みかけていて

あたりも暗さが目立ってきたころだ


提督「夕日は好きだ。俺はあれを明日への道しるべだと思っている。

今日という日を無事に生き延び、明日に託して今日を終える。

神々しく輝くその太陽はまるで見ているもの休息を与えるかのような安らぎを与えてくれる。

その夕日を見ながら、考えるのだ。過去の思い出、今日の出来事、未来の自分

一通り考えきったらまた何も考えずに夕日を眺める。その地平線に沈むその時まで。

そんなふうに楽しく見れる夕日はとてもきれいだ。だから俺は夕日が好きだ。」


近くに置いてあった缶をもって話は終わりだと言わんばかりに、提督は鎮守府に向かって歩き始める


提督「そして…あの日以来俺は夕日をきれいだと思ったことはただの1度もない。」


そんな言葉とともに、慕ってくれる艦娘を置いていって。




~???~

ガン!ガン!

草木も眠る丑三つ時、断続的に聞こえるその音は止まることを知らない。

かれこれ30分くらい続いている。

ガン!ガン!ガン!………

疲れた可能用に一呼吸間合いを開けてからまた鳴り響く。この音を聞いたものは誰もいない。

ただ1人…この音の発生源を除いて……


???「クソッ!」


その音は最後嘆くその声と共に終える。




~鎮守府訓練室~



朝…すでに気温は28度を超えている。薄着の軍服はすでに汗でベトベトだ。

むろん…それだけではベトベトにならない。提督は別に脂肪が多いわけではない。


提督「97…98…99…100…」


彼はランニング、腹筋、バーベルなど早朝からトレーニングを行っていた。

普段は艦娘が使う訓練室ではあるが、こんなにも早朝に使う人はわずかしかいない。しかし今日は

誰もいなかった。まあ、あれだけの作戦の翌日である。今日の執務も休みにしてあるし、皆休みたいのだろう。

片腕だけで腹筋を行う。もう、慣れたものだ。1回も出来ずに悔しい思いをしていたのが懐かしい。


提督「そろそろ…執務を執り行わなければ、」


そういって彼は入り口付近に腰かけ、タオルで汗を拭きとるそして近くに置いてあったペットボトルを手に取って

中の液体を口に含む。キンキンに冷えた甘めのスポーツドリンクで喉に染みて火照った体を冷ましてくれる。

………いや待て、そもそもこのドリンクはなんだ?今日は暑さも相まって、喉がかなり乾いていたので、

気にせず手に取ってしまったが、俺は基本的にここに飲み物は持ち込まない。汗を拭いてから風呂に入り

そのあとキッチンでお手製のスポーツドリンクを飲むというのが昔からの習慣だ。

このスポーツドリンクはそのお手製のドリンクの味そのものだった。いったい誰が…


時雨「ふふ、お気に召してくれたかな?」


訓練室の入り口のすぐ外側にはタオルを持った時雨が立っていた。そのタオルは少し濡れているのがわかる。

気遣ってくれたようだ。


提督「時雨か…これのドリンクは皆が使うものとは別の冷蔵庫に入れておいたはずなんだが?」

時雨「だからそこから持ってきたんだよ。いっつも運動の後にこれ、飲んでいたじゃないか」


もしかして今日は違うもの飲みたかったかい?、と時雨は持っていたタオルを提督に渡しながら

ニコニコと笑って会話をする。提督も無下にするつもりはないようだ。

使っていたタオルを受け取って、それを使って汗を拭きとる。

着任当時から昨日まで変わっていなかった敵対するような眼を向けていた時雨がどういう風の吹き回しか

今日はニコニコと可愛らしい笑顔を向けてきてくれる。


提督「……………急にどうした?前は合っても顔をそらして素通りしていたじゃないか」

時雨「昨日のうちにね。川内さんがいろいろ教えてくれたんだよ。提督は私たちを信じていないから

あの作戦を告げなかった。それでも僕たちのためにみんなの怒りを受け止める受け皿になってくれたって。

あ、あの作戦の本当の意味ももうしっかりと理解しているよ」

提督「あのおしゃべりが…」

時雨「だから僕たちのことを信用してもらえるようにまずはこうやって身の回りのお世話をしようと思ったんだ」


つまりは俺が艦娘という存在を信じてほしいからこういう事をしているのか…

確かに奉仕は信頼を獲得するそれなりにいい手段といえるだろう。

時雨は飲み終わったペットボトルとタオルを回収する。


時雨「さあ、提督朝ごはん食べに行こうよ。それとも先にお風呂にでも入るの?」

提督「ああ、風呂だな先に行って皆と食ってろ」


しかし時雨は提督の言葉を無視して待っているから早く来てね~と手を振って

訓練室を後にする。提督はしばらく座ってぼーっとしていた。どこかに腰かけて窓を眺めてぼーっとする

それは昔からの癖だった。そうしている時は大抵何かを考えている時なのだ。


提督「………勘違いも甚だしいな」




~食堂~



提督「先に食べておけ…と言ったはずなんだが…」

時雨「僕は待ってるって言ったよ?」


首をかしげていたずらっ子の笑みを浮かべる時雨の席には白露型の姉妹たちが同席していた。

あれから30分くらい本当に食べずに待っていたみたいだ。と、言うのになぜか

スープから湯気が立っている。


夕立「あそこから提督さんが来るのみてたっぽい!」


そう指さす先を見てなるほどと思った。どうやらここから男性用浴場にの入り口が見えるようだ。

時雨はどうも俺の朝の行動パターンを知っているようだったから、風呂を上がった所を確認した後

に朝飯を頼めばそれほど時間を空けずに俺と同席することが可能だろう。


村雨「ほら提督も早くご飯貰って一緒に食べましょ?」

白露「提督早く~お腹空いて…もうお預けは勘弁~」


ここで断ったとしても、来たからには朝飯は食べるつもりだし、別の席に行ったところで

勝手についてくるだろう。観念した俺は間宮からいつもの和食セットを受け取り

席に座る。周囲から好奇な目で見られて非常に居心地が悪い。


白露姉妹「いただきま~す!」

提督「いただきます」


手を合わせて小さく会釈をして味噌汁を飲む…口いっぱいに広がる

アサリの出汁、ゴロゴロと大量に入ったアサリ、程よく存在をアピールしてくる青ネギ

シンプルな味噌汁ではあるがそれゆえに素材の味を存分に楽しめる。

朝からハイクオリティな味噌汁だった。


提督「…?おい食べないのか?」


見ると姉妹たちがこちらを身ながら硬直していた。


時雨「ああ、ごめんよ提督。ああやって挨拶するのは何と言うか提督らしくなかったな~なんて」

提督「それは偏見だ。自然の恵みに、そしてこれを作った者たちへの感謝を表すための言葉だ」


口にするからこそ意味がある…と提督はそう言って次々と料理を口に放り込む。

食べている間も時雨たちは提督にかなりのペースで話しかけてきた。

今まで会話らしい会話もしていなかった分、いろいろ吹っ切れたみたいで質問は止まらなかった。


夕立「うう~…提督さん全然答えてくれないっぽい!」

提督「同席は認めたが質問に答える義理はない」

村雨「少しくらい答えてくれてもいいじゃない…」

提督「ちゃんと答えているだろう?」

白露「そうだけどそうじゃないの!私はもっと提督のことが知りたいの!」


姉妹たちが聞いてきたのはなんてことはない。川内達が聞いてきたのと似たようなものだ。

結果も一緒提督ははぐらかす。質問には答えてくれるのに、一番知りたいことだけを

的確にそらす。


提督「もういいだろう?俺は執務に移る。今日は最低限の偵察任務だけだからそれに備えろ」


あ、ちょっと!と呼び止めるが提督はそれを無視してさっさと食器をかたずけてしまった。


時雨「うーんやっぱり一筋縄ではいかないみたいだね」

夕立「というか提督さんはどうして私たちを信じてくれないっぽい?」

時雨「それがわからないから皆で悩んでいるんだよ…」


難しい顔をしながら時雨は食後のコーヒーにミルクを入れる。


白露「ほかの人たちでも同じ反応なのかな?」

夕立「一番近くにいた長門さんと川内さんでも同じ反応だって聞いたから多分同じっぽい」

村雨「と…いうよりこんなことしようって話したの時雨よね?大丈夫…なの?」


姉妹たち…というかあの作戦において最も被害を受けた時雨が大丈夫といったから村雨も合わせてきたのだが

個人的に言えばまだ提督のことはあんまり信用していなかった。

私たちを信じられないからなんて理由を述べられても、作戦何も言わずに死地に送った。

この事実に間違いはない。ほかの人たちも提督のことを知ろうと躍起になっているみたいだけど

それでも1部の艦娘たちは私と同じようなことを思っている。

根はいい人だ…そんなこと言われてもはいそうですかとは言えない。

ゆえに私も彼のことを見極めようとしている。信じてる彼のことを知るためではなく、

彼を信じるために彼のことを知る。


時雨「大丈夫だよ。提督の過去のことはもう聞いたろう?仕方がないことさ。

それに人を見るの眼に定評のある川内さんの言葉だからさ」

村雨「なら…いいんだけど」


胸の内の不安は一向に消える気配はしなかった。なんというかこのままいっても

一向にうまくいく気がしなかったのだ




~夜執務室~



提督「なぜ…言ったんだ?」

川内「別に言うなって言われなかったじゃん?」


一応今まで形式上秘書官を務めていた長門は先の戦いで現在入渠中。そのため今日は

川内が代わりを務めることになっている。もちろん川内の仕事ぶりはすでに提督も

把握済みだし、長門との引継ぎも終わっているためスムーズに始められる。

無駄話をする余裕もあるというもんだ。


提督「だからって…あの様子では知らない奴を探すほうが難しいんじゃないか?」

川内「多分一生みつからないんじゃないかな~」


つまり全員知っているということか…


提督「はぁ…まあ、別に知ったところで問題はない…いやあのような行動が

今後増えるとなると困りものだな」

川内「えーいいじゃんいいじゃん!可愛い女の子からのご奉仕がこれから一杯増えるんだよ?」

提督「別に俺にそんな趣味はない」

川内「確かに…提督から求めてきたらそれはそれでちょっとビックリしちゃうかも」


川内はいらない書類をまとめて縛り、明日に回すものと、提出するものにわける。


提督「ちょっとまて、書類は俺が確認するから置いておけ」

川内「えー、もしかしてまだ信用ないの?」

提督「お前は詰めが甘い」

川内「そんな~~……あっ!今日映画の日じゃん!ごめん提督先に上がるね!」


項垂れていた川内は水を得た魚のような勢いで執務室を後にする。

やっていた執務を中断して川内のまとめた書類に一通り目を通す。


提督「…だから詰めが甘いと言われるんだ。」


今日の報告書の中に混じっていた1枚の資料。

鎮守府襲撃事件報告書…俺がすべてを失った忌々しき事件。

なぜこんなものが?などと考える必要はない。川内だ、彼女が俺が席を外している間に

読んでいたものだろう。ここにある資料は1枚だが、報告書は全部で10枚ほどあったはずだ。

資料室の整理や、取ってくるように頼んでいたので、その時に持ってきたのだろう。

なぜ読んでいたのかは分からないが、おそらく知りたいのだろう。

だが、こんな報告書を読んだくらいで俺のことが理解できるわけがない。

分かるのは被害状況くらいだ。


長門「すまないな…川内は最近提督と同じく書類をそこらに置いておく癖が出てきてな」


ノックもなしに入ってきた…正確には開けっ放しのドアから入ってきた長門は

近くに来るなり、書類をのぞき込む。


提督「…近しい者の癖が移るのはよくあることだ。」

長門「ほう、提督からそのような言葉が出るとはな」

提督「事実だからな。」


相変わらず可愛くないというか、ただ事実を述べているだけだというのか。


提督「もう20時間はたったのか」

長門「ああ、被弾した戦艦は私だけだったからな久々に1人だったが、かなり詰まらなかったな

提督よければ話し相手になってもらえないか?」

提督「入渠はもう終わったろ?」

長門「ずっと一人で20時間も風呂に浸かり続けてたからな。ただただ話したいだけだ。」


少しは罪悪感というか、働きに対する報いは必要と思っているのか、珍しく提督は

コーヒーでいいか?と言って準備を始めた。

コポコポとコーヒーメーカーからコーヒーが落ちる音だけを聞きながら

私と提督は話を始めた。…と言っても楽しく話せるような話題なんて存在しない。

私に誰かと楽しめるような趣味はない、休日も部屋でごろごろするか、散歩をするくらいである。

だから提督との会話も自然と鎮守府に関係することになってくる。


長門「そうか…では大本営はしっかりとやり遂げたのだな」

提督「ああ、大和率いる第1部隊はあの連合艦隊を壊滅。潜水艦による奇襲が

なくなったことが強く影響したと大和直々から連絡を貰った」

長門「あの大和から称賛を貰ったのか、すごいことじゃないか」

提督「俺は何もしていない、あいつらを殲滅したのは100%お前たちの力によるものだ」


提督は溜まったコーヒーをマグカップに入れて砂糖とミルクを用意して

戸棚に置いてあったクッキーを適当に並べて机に持ってくる。


長門「謙遜するな。提督の目論見は見事に的中、おかげで占守は潜水艦を撃破することができたのだ」

提督「いや、どれだけ緻密な作戦を立てようが、どれだけ高性能な装備を作ろうが、

奴を倒したのはお前たちだ」


アツアツのコーヒーをブラックで飲み、苦みに残った口にバターの香る甘いクッキーを頬張る。

甘味を強く感じ取れて今マイブームの食べ方だ。提督は言うことはないといった感じで

静かにコーヒーを楽しんでいる。


長門「提督、確か新たに、大本営から任務が来ていただろう?水上打撃部隊を用いて

先日の海域の残党狩り…意見を聞いてもいいか?」

提督「言えるようなものは何も持ち合わせていないぞ?」

長門「何を言うか、提督が優秀なのはもう私も把握済みだ、それに今ここで管理している任務の

数は少ない。奇襲攻撃が容易に可能なあの海域での残党狩りだ。きっと周到に用意している、

と私は踏んでいるのだが」

提督「過大評価しすぎだな。1日でどうにかできるようなものでは…」

長門「では……………この書類はなんだ?」


長門が机に置いてある書類の束から1枚を取り出してくる。これはさっき

机の上でチラっと見かけたものだ。休憩を入れるために先ほど多少の整理をしたのだが、

まあそれくらいでは大して位置は変わらない


長門「ふふ、やはり癖は自覚していても直せるものではないな」

提督「はぁ…」


そこに書かれていたのは偵察部隊による報告、近海の敵の情報など、起こる可能性の出来事を

想定して作られたいくつかの編成案と作戦が記されていた。

中には常識はずれな編成や、少々過剰な連合艦隊に波状攻撃による掃討作戦

夜戦での奇襲など、多種多様な作戦が考えられている。


長門「すごいな…あらゆる状況に対応できる編成から、一転突破型…これを1日で?」

提督「学生時代に考えたものをこの状況に照らし合わせて再検討しただけだ」

長門「提督…どうしてなんだ…?私たちはそれなりに力があると思っている。練度も高いし

連携もうまくいっている姫、鬼型だって何度も倒してきた。しかし、これらはすべて

提督との連携があって初めてできる芸当だ。提督が作戦を隠しては、そして

私たちだけで行動を起こしても倒すことは不可能だ」


そこまで言い切ると中に残っていたまだ暖かいコーヒーを一息に飲み干した。

息を吐いた後静かにコーヒーカップを置き、提督を見つめる。

その優しい笑顔で見つめてくるその赤い瞳にたまらず提督は顔をそらす。


長門「提督、もう少し、もう少しでいい。私たちにあゆみ寄ってはくれないか?

提督が距離をとっているのは明白だ。」

提督「気を遣っているだろ?それで十分だ」

長門「確かに、言わないだけで提督は気を遣ってくれたな。だがそれは信頼ではない。

歩み寄らずに、結果だけを私たちにくれただけだ。結果だけをくれて私たちが戦果で返す…

それでは商売と同じだ。そこに友情も信頼も存在しない。それでは嫌なのだ」


提督はすっと立ち上がると、執務室のはじっこに置いてあった鞄を取り出す。

あれは着替えやタオルといった入浴セットのほかに、スポーツドリンクや筋トレサポーターといった

筋トレ用品も入っている。執務が終了した後軽く運動して風呂に入る。

それが提督の執務後の流れだった。風呂に入った後はいろいろしているが、基本的には寝るだけ


提督「そうしたいのはお前たちだけだ。俺には必要ない」


反論は許さないといった感じで、鍵を頼むと付け足して、彼は執務室を後にしてしまった。

長門はソファーで頭を抱えてため息を吐く

復讐のためだけに力を貸せと言っている彼を説得するのは並大抵ではない。

しかもこちらに心を開かない理由もそれにかかわってくる。原因が明確になっているのに

解決手段が一つもない状態だ。まだ提督は私たちの力を疑っているのか?

あの時確かに深海棲艦の侵入を許すほど装備も練度も設備も整っていなかった。

でも今は違う。それを提督にわかってもらいたい。そして押し付けるようだが

彼も提督となった以上、この海を守る義務がある。それはわかっているはずだ。

そのためにも彼には艦娘を信用して、前任が指揮をしていた時、もしくはそれ以上の

連携を行わなければならない


長門「そうはいってもな…私は考えるのが苦手だ、どうすれば心を開いてくれるだろうか?」


だが、結局浮かばない。考えても浮かぶのはとりあえず話を続けようくらいだ。

やはり自分1人ではどうしようもない。幸いにもここの艦娘達も提督に少なくとも嫌悪以外の

感情を抱き始めている。協力を要請すれば快く引き受けてくれるだろう。

相と決まれば全は急げ、長門も立ち上がり執務室を後にする。


長門「待っていろ。私が、必ず…これは私がしなければいけないことなのだ…」


~数日後深夜鎮守府内廊下~


川内「んん~~~~!」


大きく背伸びをしながら私川内は廊下に掛かっていた時計を眺める

現在の時刻はフタサンマルマル。夜型の川内は今日も今日とて姉妹や近くを通った哀れな生贄(駆逐艦)たちと一緒に

遊びこんでいた。新たな提督が着任してからまだまだ態勢は万全とは言えない。今は比較的に出撃がない

夜戦大好きでいつも夜戦夜戦と言っていた私もさすがに今の状態を見て出撃したいとは言えない。

提督がここの事をしっかりと把握しきって、万全な状態になるまでは夜戦はお預けだろう。

とはいえ夜戦がないだけ夜行性の川内は夜遅くまで起きている。簡単に生活リズムを変えられるわけない。

なので暇を持て余した川内は妹たちと映画を見たり、そばを通りかかった人に問答無用で絡んでいたわけだ。

提督の仕事を手伝うときもあるけれど、最近ではいろいろな人が提督の手伝いをすると張り切っているため、

場所が開いていない。


川内「それにしてもお腹空いたな…」


今日は例の海域の残党狩りの出撃があった。相変わらず提督は最低限のことしか話してくれなくて、

こちらで毎日のように質問攻めをしてようやく口を開いてくれたといった感じだ。

今回は敵の奇襲を警戒して、水上打撃部隊と警備部隊の連合艦隊で出撃を行った。警備部隊は

ソナーや偵察機を多く積み、戦闘領域外からでも戦闘領域内の状況を確認できるようして、外から

領域内と領域外に敵がいないかの索敵を行っていた。とはいえ今回は海中、空共に奇襲はなく、

弱り切って数を減らされていた残党を難なく撃破することができた。

提督の考え抜かれたルートで道中も一切の接敵がなく、予定していた時刻よりも早く帰投して

早めの夕食をとったのだ。そのためか、こんな時間だというのにお腹が空いてしまった。

普通なら体重を気にして食べるとしてもヨーグルトとかにするのだろうが、お構いなし。

川内はおにぎりなんか食べようかな~と考えていた。


川内「…?なんかいい匂いがする…」


食堂に近づいていくにつれて中から何か甘い匂いがしてきた。

ジューと何かをフライパンで焼く音も聞こえてくる。食堂は別に普段食事の用意をしている

補給艦のみが使えるわけではなく、ほかの人たちも別にいつでも自由に使って大丈夫だ。

特に夜なんかは、食の時間が安定せず早めに夕食を食べた人たちが夜食を作るために訪れる人が結構いる。

が、深夜11時こんな時間に使っている人は珍しいし、ましてやフライパンを使う料理を作るなんて

よほどお腹が空いているのだろうか?まあ、この鎮守府にも大食いはいるし、カロリーなんて

日々の訓練や出撃で全部なくなるから、食べても太らない。


川内「すみません~…誰かいますか?」


恐る恐る厨房に入っていくと、そこには危なっかしい手つきで料理をしている一人の男性がいた。


提督「なんだ…お前か」


提督だ。ボウルの中には黄色い液体、まあ間違いなく卵だろうけれど。そして卵焼きを作るのに最適の

形をしたフライパンには今も卵が焼ける音とバターの香ばしい香りが厨房を漂う。

提督は片腕と、見たこともない固定器か何かを器用に使って、卵を少しづつ入れながら卵を巻いていく。


川内「それ…大変じゃない?」

提督「慣れればどうってことない」

川内「食べていい?」


提督はこっちを見た後にため息をついて、5分待てと厨房に備え付けられてある椅子を顎をクイッとして示す。

体をプラプラさせながら、鼻歌を歌って待っていると卵焼きをもって提督が近づいてきた。

ホカホカの卵焼きの上には大根おろしが乗っている


川内「うわぁ………おいしそう…」


程よくおなかを空かせていた私はすぐにでもその卵焼きに飛びつきたかったが、提督が冷蔵庫で

何かを取り出しているのでそれを待つ。


提督「好きなほうをかけて食べろ。おすすめは自家製のこっちの調味料だ」


提督は今まで見たことないような、自信にあふれた笑顔をこっちに見せてくる。

私的にはあまり冒険はしたくない派で普通の醤油にしようかな~なんて考えていたが、提督のそんな笑顔を

見てしまってはこっちを選ばずにはいられない。調味料を適量かけて、湯気の立っているうちに

卵焼きを口に運ぶ。


川内「あっつ!…ふ~!ふ~!はふはふ…」


熱さで口が暴れる。というかあまりの熱さに涙が出てきた。ここで出てくる定食の卵焼きもアツアツではあるが

ここまで熱くない。暴れる口で何とか咀嚼をして味を楽しむ。


川内「…………」

提督「どうだ?口に合うか?」

川内「これ、おいしい!!すごくおいしい!」


卵はまるで雲のようにフワフワでそれでいてしっかりと硬さを実感できる絶妙な柔らかさ。

噛んだ瞬間に口の中一杯に広がる、出し汁はここでよく使う出し汁とはまた別ものだと感じる。おそらくは

海産物を使った出し汁だろうが、何の出汁かよくわからない。そして卵の味と出し汁の味を引き合わせるかのような、

ほんのりと感じる甘さ。おそらくバター、まさに適切な量というべきか、濃い場所薄い場所が存在せず、

均等に甘味が広がる。上に載った大根おろしを一緒に食べれば、これまた違った味に変わる。

大根のシャキシャキとした歯ごたえに、かけた調味料は、醤油と言われると否定したくなる、優しい味わいだ。

繊細な卵焼きの味を損なわず、それでいて醤油独特の自己主張を忘れない。どこで売ってる醤油なんだろうか?

そのあとは3つも使った大きな卵焼きはあっという間に川内によって平らげられた。

終始無言。その手は最後まで止まることを知らなかった。


川内「はぁ~………提督これすごいよ!こんなにおいしい卵焼き生まれて初めてかも!」

提督「それは何よりだ。」


提督も自分で作った卵焼きを突きながら私の話に耳を傾ける。


川内「それにしても、提督料理できたんだね。なんというかすごい意外だよ」

提督「これでも学校では1人で暮らしてきた。これくらい当然のことだ」


嘘だ。それならこんなに手間暇をかける必要はないはずだ。この調味料も自家製と言っていた。

おそらく卵焼きに使っている出し汁も自家製だろう。

提督が卵焼きを食べ終わるまで、ずっとにらんでいたら諦めたように話してくれた。

最近になって分かってきたことだけど、提督は押しに弱い。

今まで悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらいに弱い。それが知れ渡っている現状、

提督は艦娘の頼みや疑問を答えてくれるようになってくれている。


提督「俺は昔料理人になりたかった。両親も立派な料理人だ。レシピは家に帰って見つけた。それだけのことだ」


昔、つまり深海棲艦に両親を殺される前、レシピを見つけたのはその後ということか、


川内「ふふふ、提督ようやく過去について話してくれたね」


今まで聞いてもはぐらかされた気になっていること、提督の過去というか気持ち。

着任から1か月ようやく聞き出すことに成功した。


川内「あまり話したくないことかもしれないけど、ありがとうね。」

提督「…礼だ気にするな。」

川内「礼?なんの?」

提督「料理をうまいと言ってくれたことだ。たとえどんな料理でも、作った側からすれば作った料理を

うまそうに食べてくれるのはうれしいものだ。」


なんていうか、今日の提督は気持ち悪いくらいに素直というか人が変わったようだった。


川内「でもすごくおいしかったし…お礼なんてむしろこっちが言いたいくらいだよ。

ねえねえ!気が向いたらでいいからまた作って、ほかの人も分も一緒に!」

提督「…気が向いたらな」


そういって提督は自分と私の皿をもって洗面台へと向かう。


提督「片付けは俺がやっておく遅くなる前にお前も早く寝ろ」

川内「うん、わかった…ねえ提督、全部さらけ出しちゃったほうが、楽になると思うよ?」


提督は片付ける手を止めて少しにらんだ目つきをしてこちらを見つめてくる。

すべてを拒絶するかのような憎悪に満ちた目は、先ほど料理をふるまってくれた時に見せてくれた

子供っぽい無邪気な笑顔を見せてくれた人と同じ人物には思えなかった。


川内「何年見てきたと思っているの?私、提督とより長生きしているんだから誤魔化せないよ」

提督「お前に…何がわかる」

川内「分かるよ。……そして、何もわからないよ。私は」


そういってお休み提督と笑顔で手を振って川内は厨房を後にする。

口の中に残る卵焼きの余韻に浸りながら、そろそろか、と川内は思う。

今日、提督と会えたのは偶然だ。でもその偶然が幸運を呼んだ。提督は本当に心の底から

孤独を望んでいるわけじゃない。復讐だって怪しい。きっと提督も助けを求めている。

具体的にどうしてほしいとかそんなことはわからないけれどそれは間違いない。

1か月提督を見続けてきた結果と、長年生き続けてきた経験がそう判断させた。


川内「まあ、失敗しちゃったらしちゃったで…」


別に私が嫌われるくらいだからどうってことない。

おそらく今日もやっているに違いない。だから今日こそ、今日こそ

気持ちも隠し切れない、不器用で、不幸で、それでいて優しい

大事なあの人を、今日こそ…


~???~



ガン!ガン!

甲高い金属音が寝静まった鎮守府に鳴り響く。強さも、頻度も、バラバラだ

丑三つ時…規則正しいこの鎮守府ですでに起きている人間はいない。いくら次の日が休日などと言っても軍人だ。

いつ敵が襲ってくるのかもわからない。寝不足や生活リズムが狂ったせいで、負けましたなどでは話にならない。

故に遅くてもこの鎮守府では12時を完全消灯として寝ることを推奨している。

もちろん強制ではない。この前の大規模戦闘前日の明石だって仕事が間に合わずに徹夜したぐらいだし、

作戦で夜に出撃をすることなんかがあると、夜食なんかを作ったりするため深夜に食堂に立つこともある。

後は…悩みがあるとかそんなくらいだろうか、基本的にお人よしが多いこの鎮守府一人でゆっくり考えられる

時間は全然ない。少し思いつめた表情を顔に出すとすぐに飛んでくるのだ。

ゆえにストレスを発散するには丁度いい。やり場のないこの怒りをさらけ出すには丁度いい。


???「なんて…思っているんでしょ?」


聞こえないはずの、いや聞きたくない声を聴いてしまった。

ゆっくりと振り返ると月明かりに照らされたオレンジ色の服を着た、お調子者…川内がいた。


川内「さすがに、バレると思わなかったの?ここに来てこれ、何回目だったっけ?…提督?」


そう呼ばれた俺は、川内のほうを横目で見た後、視線を下に落とす。

目の前には机の上に置かれた何らかの破片。腕で抱えられる程度の大きさでその色は

まるで深海を思わせる黒に染まっていた。所々に傷がついていて、錆びている。

そして俺の左手にはグリップが巻いてあった、少量の錆びと汚れがついているが…これは先ほど巻いた新品だ。

別の不良品をつかまされたわけではない。これも最初は穢れを知らぬ白だった。しかし今は汚れにまみれ

破け、見るも無残な姿になっていたのだ。


提督「もう………覚えていないな。」

川内「そうなんだ…」

提督「何も言わずに寮に戻ってくれないか?」

川内「提督が私と少し付き合ってくれるならね。」


俺は顔を思いっきり見上げて川内を見つめる。ついていった先のことは予想できる。質問攻めだ。

めんどくさい事この上ないが仕方がない。また適当にあしらえばいいだけの話だ。


提督「分かったよ…付き合えばいいんだろ…」


満面の笑みを浮かべた川内はついてきてと颯爽と部屋を去る。

ため息をつきながら川内をどう言いくるめるか頭を悩ませながらついていく。



~砂浜~


川内に連れてこられたのは、海に面している鎮守府ならどこでも見れそうな

砂浜だった。夜になると、すべての余計な音が遮断されて、波の音のみが響き渡る。

先の見えない夜の海が一面に広がり、この心に秘められたドス黒い感情を

表しているようだった。


提督「おい…川内」

川内「やだ」

提督「何も言っていないぞ?」

川内「わかるもん、ここで話すの嫌なんでしょ?」


正解だった。忘れるはずもない、今日この日までどんなことがあろうと

今までたったの1度も1秒も忘れることはない。

顔を90度傾けるだけで、あの忌々しい惨状を思い出させる。

そう、ここは両親が深海棲艦に殺された場所のすぐ近く…

そして長門と川内と会った場所でもある。


川内「今日話すことは此処じゃないとダメだと思うのだから」


しぶしぶ了承した旨を伝えると、川内は砂浜に座り込み、

隣をポンポンとたたく。仕方がなく座って、懐からタバコを取り出す。


川内「提督…タバコ吸うんだ?」

提督「普段は吸わない。…あの後くらいだな」

川内「あの後?……ああ、さっきのあれのこと」

提督「そうだ」


溜まっていた気持ちを吐き出すように、深く煙を吐く。

川内もそれくらいの気を遣っているのか、タバコが吸い終わるまで、

黙って提督を見ている。


提督「それで、何の用だ。」



吸い終えてからしばらく沈黙が続いていたが

それを破ったのは意外にも提督だった


川内「質問に答えてほしいんだ。まず、あれはなに?」

提督「あれではわから…「真面目に答えてよ提督」

提督「…………」

川内「ねぇ、もう終わりにしようよ?…あれはなに?」


川内が差しているあれというのは先ほどの部屋で殴っていたものだろう。


提督「あれは…昔拾ったものだ。」

川内「昔?」

提督「分かるだろ、昔だ」

川内「…なるほど、あの事件の後ってことだね」

提督「そうだ、そしてあれは、深海棲艦の装甲の破片だ。退院した後

あの浜辺で偶然見つけた。」


普通ならそういったものは軍によって回収されるのが基本だが

提督は本当に偶然入手した。はじめは装甲だとわからなかったが、

育成学校で世話になったとある先生から教えてもらったのだ。

ついでに言えばその時は見逃してもらえた。次見つけたら没収だそうだ


川内「そうだったんだ。よかったね、見過ごしてもらえて。

没収なんて起きたら提督ここには入れられないかもしれないよ?」

提督「そうだな、次からは見つからないようにしなければな…お前とかに」


皮肉を込めて言ったつもりだったが、川内はそうだねと言って少し笑みを浮かべた


川内「じゃあ提督なんでその装甲なんて、殴っていたの?」


確信に迫るごとに提督はいちいち沈黙する。若干のいら立ちを覚えつつも、

そこはぐっと我慢。これは千載一遇のチャンスだ。ドブに捨てることがないように

慎重に話を進めなければ…


提督「ストレス発散だ。」

川内「嘘…、頻度が多すぎだよ、それじゃあ病気だよ。」

提督「川内、俺がストレス発散だといえばそれはストレス発散なんだ」

川内「私が言いたいのはやりすぎってことだよ…」


悲しそうに眼を伏せて川内は感情に任せて立ち上がり、拳を握りしめて

言葉をつなげる。


川内「そのストレスって深海棲艦のことなんでしょ?復讐したいって言う…

私たちだけじゃ足りないの?私たち頑張って強敵も倒し続けてるんだよ?

提督の復讐の対象は深海棲艦だけなんでしょ?別に、私たちと

仲良くしてもいいじゃん!なんで毛嫌いするの?」

提督「前にも言っただろう。」

川内「信頼してないから…でしょ?なんでよ、理解できないよ…」

提督「理解できない…だと?」


ビクッと川内の体が震える。彼の示した初めての本気の拒絶

短い一言ではあったがそこに込められた負の感情は図りしれない。

川内同様に提督も立ち上がる


提督「お前たちに何が分かるんだ!俺の気持ちか?俺の未来か?

知りもしないのに偉そうと!お前何様だよ!」

川内「て、提督…」


提督の気迫に驚き川内は後ずさりをする。汗をたらしながら手を握りしめて

懸命に提督に向き合おうとする。しかし提督はそれ以上詰め寄ることなく

再び地面に座りこむ。


川内「提督?」

提督「違う…そうじゃない…わからないのお前たちじゃない、俺だ。

分からないんだ…」

川内「どうしたの提督?」


頭を抱える提督に川内はおそるおそる背中に手を伸ばそうとする。


提督「俺が、お前たちを信用できないんじゃない…俺が子供なだけだ。

理解ができない、解決策が見つからない。あるべき道しるべは、

とうの昔に消え去った。何もかも、わからなくなった…」


そうして提督は語りだす。彼女の必死な呼びかけに、

長年耐え続けていた心はついに悲鳴を上げて崩れ落ちたのだ。

川内は伸ばした手を戻して、提督の横に座りなおす


提督「俺は両親を殺されあるべきはずだった未来を失った…

料理人になる夢、普通の女の子と結婚して幸せな家庭を築く夢、これからの両親との生活。

そんなあったはずの未来が唐突に終わりを迎えた。」


あの忌々しい事件鎮守府襲撃事件。提督はそこで唯一の被害者家族となった。


提督「復讐に走った理由は言うまでもない。誰も恨んでいない、

誰にも復讐するつもりもない、だが、未来を失って家族を失った俺には

俺を導いてくれる、道しるべが必要だった。だから俺は復讐に走った。

失った心を支えるために…」


俯いていた提督はゆっくりと顔を上げる。

その顔には今までのような決意のある顔ではなく、迷いが見て取れた。


提督「自分で選んだように見えて、その実この道は半ば決められた道、

それ以外に選択肢はなかった。それゆえに崩れるのだって早かった。

復讐に走ると言いながら分からなくなったんだ…」

川内「分からなく…なった?復讐をすることが?」


提督は川内を横目に首を横に振る。


提督「至極当たり前のことに気づかされたんだ。いや気づいてはいた。

心のよりどころを奪われたくないから、認めなかっただけだ・

自分自身で復讐を果たすことは決してできない。海軍で勉強をするたびに

艦娘の力を目の当たりにする度に俺は復讐を果たすことができないと痛感させられる。」


提督「そして、復讐が果たせないのなら俺の人生はいったい何だったんだ…

艦娘がしっかりとしていれば俺の両親は死ぬことはなかったんじゃないか?

復讐を果たしたいのに自分でできない。復讐を果たすためには艦娘の力が必要。

だが、そもそも艦娘がしっかりしていればこんなことにはならなかった。

艦娘の力に、必要性を感じるとともに怒りを覚えた。

だから俺は必要以上に干渉しないようにしてた」

川内「提督…どうして…」

提督「このバランスは今は均等に保たれているがどちらか片方に傾くのはよくない

怒りに傾けば、復讐は一生お預け、俺は艦娘に危害を加えてしまうだろう。

ただ必要以上に求めれば、俺の心は一生救われない。自分自身で復讐ができなくなるからだ。

それは俺の今までの人生のすべての否定を意味する。

だから艦娘は信用せず力だけを自らの手で行使する。俺はそうやってこれかも生きる…

これで満足か?何もかもわからなくなったが、この生き方以外やるつもりはない

やはり俺には、復讐がお似合いのようだ。」


これで終わりだと言わんばかりと立ち上がろうとする。

しかし腰あたりを誰かが強く握る。言うまでもない川内だ

悲しそうな顔でこちらを見上げ逃がさないとばかりに強く握る。


川内「提督、もうやめようよ…復讐に頼った生き方なんて、そんなのよくない…

復讐の人生がよくないって、私に言ったの提督だよ?覚えてる?」


言い聞かせるように、彼が迷わないようにゆっくりと立ち上がり、

慎重に言葉をつないでいく。

提督「聞いていなかったのか?それは俺の人生すべての否定だ。

俺はせっかく生き流れえたこの命生きてるうちは訳のある人生を過ごしたい。

奴らを殲滅し海の平和を取り戻すそれが俺の使命だ。」

川内「分かってるよそんなの!だから艦娘を信じないで1人で戦う必要なんてないじゃん!」

提督「何が信じないで…だ!お前たちがあの時しっかりしていればこんなことにはならなかったんだ!」


それを言われると正直返す言葉もない、守れなかった人々を思い出して俯き川内は拳を握りしめる

しかし川内はその時まだ実戦に配備されていない訓練兵のポジションだった。

はっきり言って川内にはどうすることもできない。


提督「…失言だった。でもお前たちは頼らない。俺はこれからもこの生き方を…」

川内「別の選択肢があったら?」

提督「何…?」

川内「提督がこの生き方を選ぶのは別の選択肢がなかったからでしょ?」


ついに言ってしまった…もう、後戻りはできない。いや後戻りできる位置はとっくに前だ。


提督「別の選択肢…だと笑わせるな。何がある?夢も、希望も、両親も、腕も、過去も、現在も、未来も、

すべてを失った俺に生きる道なんて一つしかない。こんだけボロボロになったんだ俺はどうせ朽ち果てる。

ならば…犬死するくらいなら…あいつらを巻き込んでやる!…あいつらを道ずれにしてやる!

俺からすべてを奪ったあいつを…殺して…殺して殺す!」

川内「それでもあるもん!別の選択肢!誰かと一緒に過ごせばいいんだよ!

もう何もかもわからなくなっちゃったんでしょ?私たちと過ごしたこの1月で

なら今がチャンスじゃん!今なら変われるよ」


憎悪ですべてを否定する提督に川内はなおも説得を続ける。言っていることはさっきと変わらない。

提督に伝わっていないだけだ。


提督「誰が一緒に生きてくれるんだ!?笑って話せるような過去も!精一杯目標に向かって生きれる今日も!

目を輝かせながら語れる未来もない俺みたいな人間と寄り添って生きる人間なんて誰が…」

川内「私がいるもん!「」


提督はもう1人じゃないということを彼はまだわかっていないだけだ。


提督「…………」

川内「提督さっきの選択肢の話…確かにつらい過去があってその時は選択肢は1つしかなかったかもしれない。

でも今は違う。私たちがいる!。私たちと共に生きるっていう選択肢があるじゃん!」

提督「何度も言わせるな!それは…今までの俺を否定することになる!それにお前たちはこんな俺と生きれるのか?」

川内「こんなじゃないもん!なんでわかってくれないの?失ったならまた取り戻せばいい…」


ダメ、溢れてくる…


川内「夢がなくなったんでしょ?なら新しい夢を探そうよ。

希望がなくなったんでしょ?なら新しい希望を探そうよ。

腕がなくなっちゃんでしょ?言い方きついかもだけどそれだけだよ!私が文字通り右手の代わりを務めるよ!」


涙が、感情が、内に秘めた思いが、


川内「過去がない…ってそんなことない!私は提督の着任の時を覚えている!無愛想だったよね…

あれから反応は薄かったけど提督と楽しく過ごせたよ。今なら笑って話せる

現在だってある!今日だって執務、一緒にやってたでしょ?休憩時間に私のわがままで一緒にアイス食べて…すごくおいしかった

今日の分の大量の書類をかたずけるために精一杯頑張ってこれた!これが今!」


自分を痛め続けて来て、気持ちを殺し、大事なことに気づかずに過ごしてきた鈍感な彼を思う

この気持ちが…


川内「未来だって…あるもん!戦争は…いつか終わる…終わったら何をしようか考えようよ…、そんなに先のことじゃなくてもいいよ

明日誰と話そうかな、誰とご飯食べようかな?そんなんでもいいじゃん!それだけでも立派に語れる未来だよ…

そして両親…失っちゃったんでしょ?だったら私たちが変わりを務めるもん!悲しくなったら慰めて、

つらくなったらそばにいる!うれしくなったら一緒に喜ぶ、そんな両親の代わり、勤められるよ!」


人付き合いは不器用でそれでいて、手先は器用で、愛想はないのに、人一倍気を利かせられて、

あしらうのは苦手なのに、艦隊戦では相手を手に取るように操り、全然優しくないって言ってるのに

その行動すべてが優しさであふれている、そんな彼を支えたい。


提督「うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!何が代わりになるだ!

何が支えるだ!お前に失ったものの気持ちがわかるわけないだろ!両親を失った痛みを!悲しみをッ!?」


なおも拒絶をする提督を川内は思いっきり抱きしめる。すべてを包み込んでくれる

優しい母親に少しでも近づけるように精一杯背伸びをしてちょっと無理やり提督の頭をさげて

その頭を全身で包み込む。


川内「分かるわけ…ないじゃん。提督だって今までずっと言ってくれなかったもん…でもようやく言ってくれたね。」

提督「言った…?俺が何を言った?」

川内「言ったよ。ようやく。悲しいって今。それに今までの話も…1つずつ話してみて…?

両親を失って本当にすべてを失ったの?

提督「失った…失ったに決まっている。

川内「嘘…じゃあ提督…両親を失ってどんな気持ちだった?」


胸の中でピクリと提督が震えるのがわかる。


提督「気持ち…だと?」

川内「そう気持ち…思ったんでしょ?悲しいって、提督は両親を失って代わりに…そういう気持ちを手に入れちゃったんだよ。

捨てたくても捨てれない、でもため込むこともできない。忘れたくてしょうがないのに毎晩夢に出てくるそんな矛盾に包まれた気持ち。

つぶれそうだったんでしょ?だから復讐に走った。そして…私たちの力におそれちゃった…って所だと思う。

私たちがあの時しっかりしておけばよかった。申し開きなんてしない全部私たちのせい。

でも…いつまでも、そんな悲しいこと言わないで…信じないなんて、恐れてるだなんて!

少しくらい、信じてよ。私提督のために、どんな敵だって倒せる!この主砲はみんなを守るためにある!

昔は弱かったでも、あの事件の後から地面に這いつくばりながら、仲間の死を見ながら強くなってきたんだよ…

提督もいつまでも昔のままでいないで、前向いて歩こ?私たちが一緒ならつらい過去も乗り越えて新しい未来切り開けるよ。

だから…今は、今だけは、提督の隠し続けてきた本当の気持ち、私に教えて?

愚痴でも、罵倒でも、暴言でも…なんでも受け止めるから」


抱き着かれるままだった提督は震える手を懸命に持ち上げて川内の二の腕をつかむ。

つかんだ後、手には徐々に力が籠められ、震えている


提督「つらかった…なんで…母さんがなんで父さんが…わけわかんなかった。」


ポタ…ポタ…と水滴が砂浜をはねる音がうっすらと聞こえる。


提督「どうして俺だけなんだ…なんで俺だけが生き残ったんだ…

どうして、どうして助けてくれなかったんだ…畜生…畜生!」

川内「よしよし……提督それでいいんだよ。今までため込んでた分私が全部受け止めてあげる。」


優しく頭をなでながら、夜の更けるまでの短いようで長い時間川内は

提督の内に込められた『すべて』を聞き続けた。


~後日鎮守府内にて~


提督がすべてを川内にぶちまけた後、恥ずかしさで部屋に戻ってから悶絶をして、

翌日鎮守府内の艦娘に頭を下げすべてに話をした。反応は様々だった。

こんなもんかと落胆するもの、同情をして改めて支えたいと意気込むもの、

三者三様だったが、それでもこれだけは変わらない。私たちが彼を支えていこうと。

まだあって少ししかたっていない彼ではあったがそれでも彼にはそれだけのことを思わせる

何か魅力のようなものがあると、確信している。



川内「あ、提督!」


別に待ち合わせをしていたわけじゃないけど、私は提督なら絶対ここに来ると確信して、

彼をずっと待っていた。すべてを話して、すべてを無くした彼が私たちと人生の

再スタートを始めるのに、ここ以外の場所を私は知らない


提督「よぉ、どこにいるかと思ったら…俺がこのまま執務始めてたらどうするつもりだったんだよ。」

川内「うーん、その時はその時かな~」

提督「相変わらずお前の行動は計画性皆無だな」


彼はやれやれと首を小さく振り、私の隣に座ってくる。

サクッと砂のこすれる心地いい音が波の音に交えて聞こえてくる。

そう、ここは数日前本音をぶつけ合った砂浜だ。

そして目の前には…小さな小さな石が大量に積み上げられているものがある。


提督「先に始めていたのか、というかよく見つけたな、普通に探したら見つからないと思っていたが」

川内「ふふーん、私を舐めすぎだよ提督!……って言っても本当に偶然なんだけどね。」


と私は下を出して苦笑をする。ここは提督が作った両親の墓だ。

もちろん下には死体はない。爆発の影響でほとんど残らなかったそうだ。

残った骨も、対深海棲艦のために、研究に回された。

これが提督の両親の墓なのかは、半信半疑だったが、昨日提督が

ここの艦娘にすべてを話すと決意したとき同時に教えてもらった。


川内「提督、ほかの人たちにも話したんでしょ?なら多分他の人たちがくる前に、

いち早くお墓参りに来るんじゃないかな~ってずっと待ってたんだ。」

提督「はぁ~~なんというか頼もしいというか恐ろしいというか、お前との心理戦は

勝てそうにないな。」


その言葉に満面な笑みを浮かべて私は手を差し出す。


川内「提督には提督のいいところ一杯あるよ。戦略立てるのとかだって上手だし、

気遣いできるし、料理も上手だし!」


怪訝そうな、不思議そうな、困惑していそうな、なんとも表現しがたい表情を浮かべていたので、

朴念仁と言って提督の手を取る。


川内「人にはできることがそれぞれ違うって事!だから手を取り合えばなんだってできるよ!

つらい過去だって変えられるし、変われるよ」


握り閉めて、提督に見せつけるように顔の近くに持ってくる。


提督「…そうだな、お前が証明してくれた。感謝する」


手を介して二人で見つめあっていると、遠くから、話し声と足音が聞こえてくる。

ずるいとか、私もと、言っているのだから、来た人は鎮守府にいる艦娘達だ。

名残惜しいけれど、提督との二人っきりの時間は終了のようだ。


提督「なあ、川内」

川内「なに?」

提督「まだ、復讐を忘れて真っ当な生活して、数日しかたってないが…

俺がすべてをさらけ出した後のあいつらの顔を見てると、なんとなく思うことがあるだ」

川内「思うこと?」


聞き返しては見たけど、なんとなく言いたいことは想像つく、10数年口を悪く、素直にならずに

生きてきたのだ。そんな簡単に口調が変わるとも、素直になれるとも思えない。


提督「今の生活も…」


提督&川内「そんなに悪くない」


苦虫をかみつぶしたのような提督の顔にしてやったりと声をあげて笑って、私は仲間の元に走った。

結局彼の復讐劇は始まる前に終わってしまったと言えるだろう。

でも、これでいいと思った。少なくとも彼は人生を復讐に費やしていいような人間じゃない。

彼の味わった数十年の苦痛は、経験は間違いなく、私たちをそしてこの戦いを終わらせるために導いてくれる。

足りない分は私たちが補えばいい。いつかこの戦いが終わるその日まで…



隻腕提督の復讐記 END






長門「フフッ…」


優しい目つきをして、長門は艦娘にもみくちゃにされている提督を見つめている。

全く、仮にもあれは提督が作った墓所だというのに、それを忘れてその近くではしゃいでいるなど…

まあ、あの両親とは私も少し話したことがある。彼らならば、しんみりしている提督より、

多くの仲間に囲まれて、困ったような嬉しいような顔をしている提督を見ているほうが

いいに決まっている。


長門「……………………」

長門「ああ、提督久しぶりだ。」


その様子を木陰から眺めていた長門は踵を返して鎮守府に向かう。その途中懐から携帯を取り出して

電話を始める。提督…いまだに前任のことを呼ぶのに使っている直さなくてもいいと言われているから直していないが、

彼が本当の意味で提督になった以上、私も予備慣れているからという理由で使い続けるのもよくないだろう。


長門「いや、朗報だ。私たちの提督のことだが…フフッそうだ、ようやく彼は私たちの提督になった。

そうだ、彼は乗り越えた、己とつらい過去に…」


朗報…を話している割に長門の表情はあんまりいいものとは言えない。

決意を新たにした、そんな凛々しい表情だ。


長門「…そういうな、提督。あなたも言っていただろう?これは私たち皆の問題だ。

彼がここまでの誠意を見せてくれたんだ。今度は私たちも番だ」


そういい終わると長門は携帯をしまう。

あの様子では鎮守府に戻ってくる頃にはお昼時になってしまうだろう。

おおざっぱなものしかできないが、私からのささやかの祝いだ。久しぶりに料理を振るってやるものいいだろう。









後書き

皆さんの応援や評価を糧に何とかここまで書き終えることができました!
皆さま本当にありがとうございました!
一応隻腕提督の復讐記はこれにて終了となりますが、第2幕を用意しております。
次回は今回のように見切り発車ではなく話の内容を考えつくしてからしっかり描きこもうと思っています。
そしてまた新たにマギアレコードという作品や、別シリーズで艦これの話も考えている(実はマギレコのほうは
別のサイトですでに始めています!)ので、興味があったら是非読んでもらえると嬉しいです。
最後になりましたが皆さま読んでくださって本当にありがとうございました!
次回作でもよろしくお願いします!


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このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2018-04-24 20:46:20 ID: oJqfUNkX

那珂の字が那賀になってますよ
頑張って下さい(^^)

2: ポテ神提督 2018-04-29 10:43:20 ID: tE2xkL4P

さて、これからどうなるのか楽しみです!頑張ってください!

3: ゆっくりff 2018-05-02 00:08:03 ID: rg30nwVp

1番さん
指摘ありがとうございます!誤字脱字は何回読み直しても消えませんね…

4: ゆっくりff 2018-05-02 00:10:06 ID: rg30nwVp

ポテ神提督 さん
○○鎮守府と○○提督シリーズいつも楽しく読ませてもらっています!
あんなに面白い作品が作れる方が満足いく作品になるかどうかわかりませんが…精一杯頑張らせてもらいます!

5: SS好きの名無しさん 2018-05-17 01:55:58 ID: Jt1llydB

前提督?が全提督になってます。
(自分の意見が間違っていたらすいません)
すごく面白いです!!
次の更新が待ち遠しいです。
頑張って下さい!!

6: あすたりすく 2018-05-17 06:58:59 ID: qatpTnxS

セリフとの間は改行したほうがいいと思いますよ。

続き頑張ってくださいね。

7: SS好きの名無しさん 2018-05-20 15:02:07 ID: ftOk4LY4

復讐者か~面白かったです。でも、何か足りないような感じがします。

8: 無名の決闘者 2018-05-27 23:08:10 ID: OBmlCENy

続きが楽しみです。頑張って下さい。

9: SS好きの名無しさん 2018-08-04 00:56:44 ID: HKaRDpkO

まだ序盤だろうし
しっかり書きあげおねがいしまー

10: にゃんだふる 2018-08-24 23:08:38 ID: a17QqyBZ

このSS、良い……。クールキャラが上手く書けるって羨ましいですなぁ。
川内可愛いなあ。時雨可愛いなあ。
明日バイトなのに一気読みさせた罪は大きいですぞ。(いいぞ、もっと書け)

改行を上手くするともっと読みやすいかなとは思いましたす。


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