2018-04-14 11:11:08 更新

概要

大雪の降る早朝、提督の傍で眠る叢雲は目覚めると、再び過去の事を思い出す。

工廠で色々といじりたい明石と、困る夕張、そこに訪れる大井の、意外な頼み事。

午後になった堅洲島では、異動になった艦娘の辞令受け取りが行われる。まさかの大井の服装と、やっぱり落ちる如月の書類。

激しさを増す雪の中、提督は雪中の大規模演習を指示するが、同じくもう一か所、遥か北でも大規模な演習を行っている鎮守府があった。

一方その頃、第二参謀室に呼び出されていた横須賀の小林提督は、参謀たちと巧妙なやり取りをする。

再び堅洲島では、大規模な演習を終えた艦娘たちの入渠で、大浴場がにぎわっていた。

秘書艦たちも入居中なのを利用し、提督は一人で機密資料を閲覧する。しかし、そこには衝撃の内容と事実が記載されていた。


前書き

4月7日、一度目の更新です。
4月14日、二度目の更新です。

横須賀の小林提督と参謀たちとのやり取りは虚実入り乱れていますね。

また少し前に元帥から渡された機密書類の内容は衝撃的です。
提督の過去と深海に意外な形で関りがあったと判明します。


第七十三話 雪の一日・前編




―2066年1月8日、堅洲島鎮守府、提督の私室。ヒトマルマルマル(午前十時)過ぎ。


叢雲(ん・・・っ!!)


―叢雲は目を覚ましたが、自分の状況に気付いて驚き、固まった。提督に抱き着いたまま眠ってしまったらしい。提督の肩のあたりに額を寄せ、頭と腰に手を添えられている状態だ。


叢雲(動いたら・・・起こしちゃうわね。でも・・・)ボッ


―叢雲は耳まで真っ赤になった。互いに少しだけ、心が通った気がしたが、それは深い眠りももたらした。落ち着いたな、と思った後の記憶が無い。


叢雲(すす・・・すごく恥ずかしいけれど、心はとても落ち着くわ・・・何だか暖かい・・・)


―叢雲にとって、提督は時間と共に姿や雰囲気が変わっていく人物だった。しかも、それは良い方向に向かっている。


叢雲(最初は髪も髭ももじゃもじゃで、目つきのすごく鋭い人だったのに・・・)


―戦闘で多大なストレスを受けたらしく、それを積極的に緩和せよ、と言われていたが、この提督はそういうものを他者にゆだねず、一人で苦しんでいた。いや、一つはその理由が判明したところか。


叢雲(上層部の言う意味が分かったわ。あなたは本当にボロボロだったのね。でも、強さも優しさも失ってない・・・)


―提督『そうか。完全解体とは死と一緒なのか。なら道は決まっている。提督と言ったな?要はこの子と同じような存在を集めて率い、深海とやらを殲滅すればいいのだろう?・・・いいだろう。受けよう』


―女のエージェント『あら、意外ね。・・・そう、この子の身体が気に入ったというわけね?』


―叢雲『っ!(ううん・・・私の提督になる人だもの。受け入れなくては駄目よ・・・)』


―提督『・・・は?見くびんなよババア。女の体一つで人生左右するほど、女の身体なんぞに餓えてねぇよ。よくわからんが、この子は誰かを庇ってる眼をしてる。だから死なせるには惜しい。それだけだ』


―叢雲『なっ・・・!何を言っているの?そんな事で人生をかける選択をするなんて!』


―提督『君の庇っている誰かの事を、君は自分より大事に考えている。そういう人物の命を、この無価値なおれの何かで救ってやれるなら、少しはこの生にも意味があるってもんだろ。とにかく決めたんだ。おれはもう君の提督だ。以後、おれの選択に口出しするのはやめてもらおうか』


―叢雲『そんな・・・!』


叢雲(あの時は本当にびっくりしたわ。今でも困惑しているのよ。でも、あまり考えるなって言ってくれたわね。だからもう考えない。それがあなたの望みなら)


―叢雲は、自分たちが戦いに勝ち、大団円を迎えるとは思っていない。一人も沈まずに勝つのはどだい無理な話の筈だ。しかし、もし自分が沈んで終わりを迎えるのだとしても、自分の生が悪くなかったと思えるような気がしている。


叢雲(もし、戦いがうまくいかなくて、私たちが全員沈んだら、あんたは私たちの事なんてきれいさっぱり忘れて、今度こそ好きに生きて欲しいわ・・・)


―しかし・・・


叢雲(・・・なんて、そんなの無理よね。あんたは優しいもの)


―提督が提督になった理由、言葉では理解できても、やはり納得は出来そうになかった。どうしても、自分の事を気遣って着任したようにしか思えない。そう考えるな、と提督は言うだろうが。


叢雲(悪くないわ。もう少し眠る。・・・よく眠ってて)


―叢雲はもう少し眠ることにした。以前はなかなか眠りに落ちず、眠れば悪夢ばかり見ていたらしい提督が、今は静かに眠っている。叢雲には、それが少しだけ、嬉しかった。



―堅洲島鎮守府、執務室。


漣「ふい~、良く寝ましたぞ。ご主人様ってなにげにきっちり休息を取るよね」


曙「おはよう。ねえ漣、この島ってそんなに雪が降らないって話よね?」


―執務室から見る外は、かなりの降雪で白一面に変わりつつあった。しかし、鎮守府の概要説明の際、ここは雪などまず降らないと聞いた覚えがある。


扶桑「深海が台頭して来てから、世界のあちこちで、でたらめな気象が観測されているの。もしかしたらこの雪もそうかもしれないわ」


磯波「ありましたね。気象実験衛星を深海側が掌握している可能性があるんですよね?」


山城「本来なら、この島は無霜地域に該当するはずだから・・・今年の寒さもおかしいと言えばおかしいのよね」


電「あの、司令官さんに教えてもらったんですけど、今は地球全体が寒冷化してるそうです。でも、昔は温暖化と言われていたこともあって・・・あまり気にしないのが一番だって言っていたのです」


響「まあ、これくらいは雪の内にも入らないし、寒いとまでは言えないね」ドヤッ


暁「さすが響ね。シベリアからしたら、こんなの寒さの内にも入らないって事ね?」


雷「・・・そんな事言って毛糸のパンツ履いてたじゃない!」


響「・・・ど、どうしてそういう事を言うんだい?」アセアセ


初風「ハンドレッドが言っていたわ。人は自然を自分の尺度で捉えすぎだと。いつもと変わりないと思えばそうだし、異常気象と思えば毎年異常気象だって。変化をどう生かすかの方が大事と言っていたわ」


扶桑「そうね。その通りだわ」


―ガチャッ・・・バタン


五月雨「あの、提督はまだお休みですよね?叢雲ちゃんもまだ・・・?」


漣「あー、たぶん叢雲ちゃんはご主人様に寄り添ってるんじゃないかなって。まだ休暇時間だから、急ぎでなければ待った方が良いですぞ?」


曙「どうしたの?」


五月雨「明石さんがここの工廠を見て、とにかく何か作業させろって言ってきかないんです。夕張さんは提督から依頼された仕事を幾つか持っているんですが、それも気になるみたいで」


山城「ふーん、異動して来たばかりで元気ねぇ。でもあいにく、この休暇時間は命令よ。まして明石さんはまだ辞令も受け取っていないはず。待たないと機嫌の悪い私が行くって伝えとけば、少しは静かになると思うわ」


五月雨「あっ、それは効果がありそうですね。言って来ます!」ダッ!


―五月雨はそう言うと、秘書艦たちの方を見ながらドアに向かって勢いよく走り出したが・・・。


扶桑「あっ!」


―バーン!


五月雨「あいたぁー!!」


―閉じていたドアに思いっきりぶつかった。


山城「器用なぶつかり方するわね。大丈夫なの?」


五月雨「いったぁ~・・・でも、大丈夫です!!」ニコッ


―五月雨はそう言うとドアを開けて勢いよく走って行ったが、遠くで再び派手に転ぶ音が聞こえた。



―同じ頃、工廠、第一開発室。


夕張「うーん、明石さん、気持ちはわかるんですけど、うちは辞令の受け取りが終わってからでないと任務も何もできない決まりみたいなので・・・」


明石「えー、手伝うのもダメですかー?こんなに色々と工作機械があるのに、私を着任させたのに、ダメと?」


夕張「いやぁ、意識も意欲も高いし、イレギュラーな状況そっちのけで朝から工廠に来てるのは流石としか言いようがないですけれど、やっぱり駄目なものは駄目ですから・・・」


明石「そこを何とか!特にこの、艤装服プリンターとか、限られた鎮守府にしかありませんよね?あああ・・・触りたい!何か作ってみたい!こんな生殺しなんて!」


夕張(いや~困ったなぁ・・・)


大井「明石さん、こちらにいたのね。おはようございます。あの、任務外で資源も使わない私的利用なら構いませんか?」


夕張「えっ?私が見ている範囲なら、それくらいは大丈夫だと思うけれど・・・」


大井「明石さん、確か艤装服プリンターって、艤装服が元なら別の服を作り出すことも可能だったわよね?」


明石「えっ?まあできなくはないですよね」


大井「良かった。材料は私の黒スーツと、姉さんたちから少しだけ分けてもらった衣類があるわ」


明石「なるほど。何を作って欲しいんです?」


大井「・・・夕張さん、ノートタブレット貸していただくことは可能かしら?」


夕張「いいですよ?カタログか何か引っ張る感じですか?はいどうぞ」スッ


大井「ありがとう。えーと・・・」スッ・・・スッ・・・


夕張(あれ?・・・ええっ!?)


明石(これどういう事なのかな?)


―大井は慣れた手つきで検索を始めた。が、その検索ワードに夕張と明石はひそかに驚いた。『メイド服』と入力していたからだ。


大井「うん、これがいいかしら。辞令受け取りまでにこれらの服からこの服を作る事はできますか?」


明石「あっ、私相手にそういう言い方しちゃいます~?できるに決まってるじゃないですか!」


夕張「可愛い服ですね。じゃあ私、採寸やりますよ?しかしなんでこんなかわいい服を?」


大井「ちょっとその、退くに退けない事情というか、努力が必要なので・・・」カアッ


―大井は少し赤面した。


明石「んー?」


夕張「あれ?」


大井「依頼にはあまり関係ない事だと思うの。駄目ならあきらめるけれど・・・」


明石「あっ、理由なんかどうでもいいので艤装服プリンターが触れればそれで!」


夕張「えーと・・・」


大井「志摩で支給されていた間宮券が沢山あるから、三枚でどうかしら?」


夕張「クライアントの都合には触れない主義なので、やらせていただきます。それはもう寡黙に!」


大井「交渉成立ね!」


―大井はすばやく、ひそかに動き始めていた。



―ヒトサンマルマル(13時)過ぎ、堅洲島鎮守府、執務室。


提督「定時だな。叢雲、頼む」


叢雲(館内放送)「これより、執務室にて広報通り、着任辞令受け取りを行います。該当する艦娘は呼び出し確認後、正装で執務室に来てください」


―しかし、辞令受け取りの連絡は既にしてあったため、すぐに執務室の扉が開いた。


高雄「下田鎮守府所属、高雄型重巡一番艦、兼帯着任及び辞令の受け取りに参じました!この度は私たちの提督を保護され、見事な対処を見させていただき、奇縁に感謝している所存です」


如月(・・・ああ、高雄型って、何というかわがままボディ!って感じね)


愛宕「同じく下田鎮守府所属、高雄型重巡二番艦、兼帯着任及び辞令の受け取りに参じました!うふふ、私たち高雄型、見た目だけじゃなく実力も結構なものなのよ?お礼は働きで返しますね!」


―愛宕の胸部を見た如月は、思わず声が出た。


如月「ふぁっ!?」


提督「ん?どうした?」


叢雲「どうかしたの?」


如月「ん?ううん、何でもないの。何でもないのよ?(なっ、何あの胸部装甲!戦艦でも勝てないんじゃないの?)」


愛宕「あら、もしかして私の胸が気になるの?これは自前よ~?」ニコニコ


如月「あっ・・・そうなんですね」


―愛宕は全く、屈託がない。


提督(そうか、胸が気になったのか)


叢雲(なるほど、胸ね)


摩耶「下田鎮守府所属、高雄型重巡三番艦、摩耶だ。あたしは兼帯じゃなく、ここに異動でいい。気は使わないでくれよ?あたしは不器用なりに考えて決めたんだからさ。でも、きっと役に立って見せるぜ!」


如月(あっ、ふーん・・・ここに異動して、恋を終わらせるのね。でも摩耶さん、普通にかわいい人だと思うのだけれど)


提督「対空能力という点でも、大歓迎したいところではあるが、心というのは厄介なものだ。もし今ひとつ馴染めなかったら・・・」


摩耶「そういうのは無しで良いぜ。あたしが決めた事さ!」ニヤッ


提督「わかった。・・・では一つだけ約束してくれ」


摩耶「何だい?」


提督「金ちゃんの件で見せたような可憐な心は、決して否定せずに大事にしたまま戦ってくれ。きっとその方が生き延びられる」


摩耶「・・・そういうもんかな?わかったよ」


―ガチャッ


―ドアの音とともに、高雄達に緊張が走るのがわかった。


鳥海「失礼いたします。第二参謀室付き工作員、及び下田鎮守府所存、高雄型重巡四番艦、鳥海、辞令の受け取りに参じました!」


提督「早速の活躍御苦労。こちらの意図を酌み、求められた結果を出した点は高く評価できる。ここまでの経緯や軋轢は無く、この瞬間から全てが始まり、過去は過去、総員そのように理解してもらいたい」


―鳥海は十分に実績を上げたので、工作員だった点はもう気にするな、と言っているのだ。


鳥海「ありがとうございます!司令官さん」パチッ


―鳥海は言いながらウィンクをした。


提督「んっ?」


叢雲(あら・・・まあ無理もないわね。後ろ盾が司令官しかいないのだから。気持ちはわかるわ)


如月(えっ、何か司令官に対して親しげじゃないかしら?ちょっと注意が必要ね・・・。今回の要注意新人さんだわ!実力もあるし頭の回転も速そうだし、黒髪眼鏡さんだし、絶対に夜戦数値(意味深)は高いはずよ!)


漣(ラギちゃんたらまーた色々考えちゃってますな・・・)


―ガチャッ


三隈「失礼いたします。最上型重巡二番艦、三隈、辞令の受け取りに参じました。提督、疑心を持たずに拾ってくださってありがとうございます。やっと根無し草から抜けられたし、きっと今後の・・・想定外の事態にもある程度は対処できるようになると思うわ。よろしくお願いいたしますね」


提督「想定外の事態、とは?」


三隈「私と明石さんは『運営』に所属していました。そこから見える、この戦いの全体像は、たぶん皆さんと少し違う部分があるという事です。これについては後でお話させていただきますね」ニコッ


提督「諒解した。確かに、見えない事はまだまだ多い。幸運と解釈させてもらおう」


如月(上品な人ねぇ。何気に最上型は貴重だし。うん、心強いわね!)


明石「どうも!工作艦、明石です!・・・というか、まさか私をあんな方法で見つけ出したり、『運営』を退けて着任させるとか、普通じゃないですね。・・・普通じゃないのは提督だけではないみたいですが」


如月(あれっ?工作艦て聞いてたけど、何気に可愛いし、あのスリットはどうなのかしら?)


―明石は辞令受け取りでも砕けた口調と雰囲気だ。


提督「君は他の明石とは違うような気がするな。何となくだが」


明石「違いますよ。ただの艦娘ではありますが、私は『最初の明石』でしたし、『運営』に事実上軟禁・監視されていたようなものですから。ただ、そのタイミングではなくなったって事なんだろうと思います。こんな日が来るとは思っていませんでしたけれどね」


叢雲「えっ!?」


提督「最初の明石?・・・最初だと?・・・いや、聞いたことがある。君が最初の明石だというのか?」


明石「そうですよ?提督さんはご存知ないで私を着任させたのですか?」


提督「それは把握していなかった。そもそも、最初の艦娘は全て深海側にいるのではないのか?『最初の提督』と共に」


明石「最後の戦いの時に、全員が出撃したわけではありません。私は当時、何が起きたのかを把握していませんしね。・・・それに、提督さんには、もしかしたら他にも『最初の艦娘』が着任しているのかもしれませんよ?」


提督「どういう意味だ?」


明石「今時、これだけ強い子たちが沢山いるのですから、何人か混じっていたりしませんか?・・・冗談ですけれどね」ニコッ


―明石は提督の反応を見て、巧妙に話をずらそうとした。が、そのわずかな不自然さが、提督にはかえって気になった。


提督「もしいたとしても、おれは気にしない。ここにいる子たちの目に、叛意を感じた事は一度も無いのだから。・・・まあ、確かに妙に強い気のする子はいるが、何か聞くのは野暮だと思うしな」


―提督はそう答えて微かに笑ったが、その眼は澄んでいた。明石は何か深い安心を感じた。


明石「ああ・・・存外、良い反応と良い答えですね。・・・うん、わかりました。今の話は忘れて下さい。それと、問題が無ければすぐにでも工廠の任務に取り掛かりたいと思います。何かありませんか?私を呼ぶだけの必要性があったのだと思いますが」


提督「ありがとう。では早速だが、うちの潜水艦勢が小笠原に艦載機を鼠輸送する予定でいる。その為に、各種艦載機を組み立て可能な形で分解してもらいたい」


明石「諒解いたしました!では早速とりかかりますね!」


―明石はすぐさま執務室を出ていった。


藤波「夕雲型十一番艦、藤波。・・・えっと、なんていうか、よろしくね!司令。ちょっとビックリしたんだけど、工作員だった鳥海さんにひどい事しないで仲間に加えてくれたのね。そういう司令って良いと思うよ。よろしく!」ニコッ


如月(ふぅん、やっぱり夕雲型ってどこか洗練された雰囲気を感じるわね・・・)


提督「ああ、君を説得してくれたのも鳥海だしな。彼女は優秀だと思う。作戦で一緒になったら、互いの背中を守ってやって欲しい」


藤波「うん、任せといて!」


朝霜「ってーわけでだ、あたいが朝霜だよっと。よろしくなー、司令。ああ、夕雲型では十六番艦に当たるんだぜ。あとはほら、礼号作戦でのメンバーが馴染みかな」


如月(元気いっぱいな感じね。でも意外と親しみやすい感じ)


足柄「嬉しいわ。またあなたと一緒に戦えるなんて!よろしくね!」


提督「見事な格闘戦の腕前だったな。よろしく!何かあったら足柄の指示を仰いでほしい。足柄はうちの秘書艦でもあるんだ」


朝霜「へっへー、悪くないね。マジもんの司令に足柄に、強い艦娘がたくさん。あたいが着任するには良い鎮守府って感じだな!」


提督「おっ、そういうガッツのある感じは好きだぞ?・・・よし!辞令受け取りが終わったら、足柄、みんなに間宮券あげてくれ」


朝霜「おー話せる司令じゃん!時々ここに遊びに来てもいいかい?」


提督「ああ、構わんよ」


―この日以降、朝霜は足柄と提督の居る執務室にしょっちゅう顔を出すようになるのだった。


―ガチャッ・・・バタン


霧島「どうも!元帥執務室付きだった霧島です。年末から・・・いいえ、去年から噂でもちきりの特務第二十一号、堅洲島鎮守府に着任できて、感慨もひとしおです・・・って、司令、マイクはありませんか?」


提督「マイク?いや別に要らんだろう?」


霧島「・・・まあ、無いなら良いですが。こほん、ここには既に、音に聞こえた金剛型の姉二人が着任していますから、その名を汚さぬように粉骨砕身いたしますね!それと、前元帥、井上中将とのパイプと護衛もしっかりと務めさせていただきます!」


如月(わあ、やっぱり迫力が違うわねぇ!あとは比叡さんだけかぁ)


霧島「あとは・・・少しお話ししましたが、確認したい事もあるので、後程お時間をいただければと思います」


提督「ああ、了承している。金剛や榛名とは良く話せたかな?」


霧島「はい!あの、司令、青ヶ島にいた金剛お姉さまの手を取って下さって、本当にありがとうございました。きっといつか、その優しさが良い結果を呼ぶと思いますよ?」


提督「いや、その部分は戦力として死地に引っ張ってしまったかもしれないので、優しいという解釈はどうだろうか?そもそも金剛の方が、おれよりも相当溢れる優しさを持っているしなぁ」


霧島「それは司令の対応が良いからですよ。その部分も意気に感じて、この私も海域では暴れまわりますからね!」


提督「ありがとう。無茶は無しでよろしく頼むよ」


霧島「はい。頭脳を活かして立ちまわりますので、お任せください!」


提督「さて、あとは・・・」


―ガチャッ・・・バタン


提督「ん?・・・んん?」


艦娘たち「ええっ?」


メイド姿の大井「失礼いたします。志摩鎮守府『決戦水雷戦隊・隊長』及び『筆頭秘書・給仕指導艦』大井、辞令の受け取りに参じました!」ピシッ!


朝霜「へぇ~可愛いじゃんかぁ。何かのゲームで見た事あるぜ。確か、ベルファ・・・!もごもが」


足柄「それ以上言ってはいけないわ」ニコニコ


―何かを言おうとした朝霜の口を、足柄が押さえた。


提督「正装で、と言ったはずだが」


メイド姿の大井「給仕指導艦としての正装で間違っていないはずですよ?ここの子たちも何人かこういう服装の子がいるでしょう?それも正装でないとでもおっしゃいますか?」ニコニコ


提督「・・・いや、確かにそうだな。認めよう」


メイド姿の大井「ありがとうございます。この度は重大な違反行為を働いたにもかかわらず、資源および艦娘を用いてまで私を拾い上げ、解体を無しにして精強な鎮守府に異動させていただいた事、心から感謝いたします。言葉だけではなく、行動で示したい為、戦場では決戦艦隊への積極的な投入を希望いたしますし、内務では秘書艦及び、給仕指導艦を希望いたします。この服装は私の忠誠心の表れと思っていただければ(ふっ、上品さとこの胸元の空き具合に、最高の笑顔よ。さあ、鼻の下を伸ばしてみなさいな!)」キラキラ・・・ニコニコ


叢雲(何だか昨日までと態度も言葉遣いも全然違うわね・・・)


―バササーッ!


如月「あっ!ごっ、ごめんなさい!」


―如月の書類が、派手に落ちた。


提督「ん?大丈夫か?」


如月「あっ、大丈夫よ!ごめんなさい!」ササッ


大井(良いところで書類とか落とさないでよ・・・)


―大井は提督のほうを見た。どうせこの男もこの姿とスタイルには動じずにはいられないはず、大井はそう確信していたが・・・。


大井(・・・えっ!?)


提督「ん?どうしたんだおれの眼を覗き込んで。・・・思惑はともかく、その姿は眼福だし、本音と建前の使い分けも見事。実力は申し分なし。という事で、希望の役割は承認する。よろしく頼む!」


大井「・・・・・・」


提督「聞いてるかい?」


大井「あっ!すいません。ありがとうございます!では、さっそく準備に取り掛からせていただきますね!」ペコリ・・・クルッ・・・ガチャバタン


―大井は丁寧にお辞儀をすると、忙しそうに立ち去った。



―鎮守府の廊下。


大井(やりづらい男ね。私を、あんな目で見るなんて・・・)


―大井から見た提督の眼は、明るい茶色の澄んだ目の奥に、微かにだが、遠い悲しみや疲労が感じられる、達観した男の眼だった。そして、とても綺麗なものを見るような眼をしていた。もしそれが演出なら、そう感じた自分の負けだ。演出でなかったら・・・?


―トクン・・・


―心の中の何が動いたように、自分の鼓動を感じた。自分の人生にはあり得ないと思っていた、男の提督への着任。それが現実になり、しかも引っ込みのつかない事を言ってしまった。その相手が、あの提督だ。


大井(思ったより、悪くないわ)フッ


―大井は少しだけ笑うと、一刻も早くここの仕事と流れを把握する事にした。



―30分後。再び、執務室。


漣「ご主人様、なんか降らないはずの雪が随分降りますよね。もう外は真っ白け。本土への渡航は無理ですな。何にもできませんぞ」


―如月の淹れたバニラコーヒーを飲みながら、提督と秘書艦たちは雪の降りしきる外を眺めていた。


提督「絶好の機会だな。ヒトゴーマルマル(15時)より、近海にて大規模な実弾演習を行う。天の機を逃してはならない。各秘書官は全艦娘に通達せよ。ランダムに戦力を均等に振り分け、大雪の海上での遭遇戦及び奇襲戦の演習を行うと!」


足柄「えっ?戦わせてくれるの?最高だわ!早速準備するわね」


曙「えっ?こんな大雪の中で?」


提督「もしこれが本当に深海側の手による異常気象なら、大雪だからと演習しない鎮守府は容易く敗れるだろうよ。逆だ。奴らの慢心を腹から引き裂いて、策ごとズタズタにするには、こういう演習が欠かせないのさ。いつか大雪の中でのうのうと進軍してくる深海を、ズタボロにできるかもしれんぜ?」ニヤッ


扶桑「うふふ、そういうの最高ね」


―こうして、堅洲島では大雪を利用した大規模な演習を行う事となった。



―ヒトロクマルマル(16時)過ぎ、対深海横須賀総司令部、元帥執務室。


元帥「入りたまえ」


―ガチャッ・・・バタン


大淀「失礼します。ご報告です。この大雪の中、ほぼ全ての鎮守府の資源に動きがありませんでしたが、先ほどから二つの鎮守府が大規模な雪中演習を行っているようです」


元帥「この雪の中をか!一つは特務第二十一号だと思うが、もう一つはどこかね?」


大淀「それが・・・特務第九号、北方絶対防衛線鎮守府です」


元帥「何だと!?病身をおして演習を指示しているというのか・・・何という気迫だ!」


大淀「事後報告はされると思いますが、いかがなさいますか?」


元帥「見なかったことにしてやり、必要な許可は出すしかないだろう。あの方はどうせ気付いているよ。なら、戦意が高い鎮守府がある事を喜ぶほかない。我々はそれしかできんだろう」


大淀「・・・かしこまりました」


―総司令部では全国の鎮守府の資材の動きを管理できる。横須賀さえ任務に支障をきたす大雪の中、堅洲島と、もう一つの鎮守府だけは、あえて大規模な演習を行っていた。



―北海道、根室。海を見下ろす高台。


♪BGM~Epic Celtic Music - King of the North~


―防寒仕様の士官用コートに身を包んだ、長いあごひげに巨躯の老人が、吹雪の中、刀を杖にして眼下の海を見下ろしていた。


―ドウッ・・・ゴンッ・・・ドザーン!


―閃光と共に、砲撃音や爆発音、艤装に砲弾の当たる音などが聞こえてくる。


特務第九の神通「伊藤様、提督がそろそろ屋内に入られては?との事です。病気のお体に障ります。何卒ご指示の通りに」


巨躯の老人「艦娘たちの闘気がわしの病を退けるのじゃ。むしろここ以上に養生に良い場所なぞ無いわ。ワシの事は気遣い無用じゃ。あの不肖の孫を、道をたがえた狂犬を、何としても斬るまで、我が天命は尽きる事は無いのじゃよ」ニコッ


―伊藤と呼ばれた巨躯の老人は、そう言ってにっこりと神通に笑いかけたが、その眼光は抜身の刀のように鋭く、神通は刀を突き付けられたような空気に、それ以上何も言えなくなった。


特務第九の神通「ではせめて、何か温かいお茶でもお持ちします」


巨躯の老人「ワシは別に熱燗でも構わぬからのう?まあ、お主のお茶は心がこもっとる故、我が病にも効きそうじゃから、茶を所望するがのう」ニコッ


特務第九の神通「ありがとうございます」


―神通は微笑むと、足早に鎮守府に戻った。


巨躯の老人「斗志夜(としや)よ、お主の誤った天命は、ワシが必ず終わらせるからのう・・・。だからのう、我が病よ、まだワシに追いつくでないぞ・・・」


―ヒュオオオォォ・・・


―演習の音が聞こえなくなるような猛吹雪の中、巨躯の老人は天を見上げてひとりごちた。この老人の名は伊藤刃心(はしん、じんしん、しのべ)。音に聞こえた三人の剣の達人『天下三剣』の一剣にして、『殺人剣』の道を説く剣の達人だった。



―同じ頃、横須賀、対深海第二参謀室・会議室


小林提督「以上で説明は終わりですが、いくら深海棲艦を撃滅したと言っても、肝心の鳥海を得られないのでは割りに合いませんな。結局のところ、私のような立場というものは、いかに自分の心の状態をよく保つか?が重要かと自負しております。それが叶わぬとは・・・」


―三つのモニターを前に、手を後ろに組んで直立不動の横須賀第一鎮守府・小林提督はそう言い終えた。


高橋参謀「・・・ふむ、今回の件は我々の予想外だな。君は確かに功績は上げたが、その内実は肩透かしも良いところだったというわけか」


豊田参謀「元帥に返り咲いたあの男も必死という事か。我々が思っているよりも実情は中身が無いのやも知れんな。ここ最近の横須賀での騒ぎは、元帥及び特務側の演出の可能性が高いという事か。まあ確かに出来過ぎている。あの榛名を着任させるなど」


神尾参謀室長「・・・あなた方がそう思う事が奴らの狙いだとしたら、まんまとその企てに乗っているという絵図にも見えるがね。・・・ただその場合は、この報告をしているそこの提督が、既に裏切っていると考えなくてはならず、そこが現実的ではないのだが」


小林提督(!・・・来た!)


―この局面について、小林提督は堅洲島の提督から助言を受けていた。小林提督は右腕をわずかに前に出した。


小林提督「・・・神尾参謀室長、私の立場であなたの言葉を聞くと、理由など何でもよいから、役立たずを消す理由をでっち上げようとしているようにも聞こえますが。結果が読み通りではないからと今それを考えているとしたら、私はあなたを買いかぶり過ぎていたという事になる。あくまで私の小心な妄想だが」


高橋参謀「小林君、手を戻したまえ。君にはまだまだ働いてもらわねばならん。神尾室長は用心深い方だ。君をこうして感情的にさせる事もまた、良い判別になるというものだよ」


豊田参謀「手を戻さんか!君が小心で姑息でありながら、保身とプライドだけは人一倍というのはもう分った」


小林提督「私の希望は鳥海か榛名が欲しいという一点です。私は役割を果たしました。そぐわぬ結果でも成果は成果です。榛名は無理でも、鳥海は何とかしていただきたい。まさかあのように、失われるとは・・・くそっ!」ギリギリ


―小林提督は歯を食いしばり、涙目になった。しかし、心の中では鳥海や榛名とうまく関係を作れなかった悔しさを思い出して、無理やり涙をにじませていた。


神尾参謀室長「艦娘ごときにそこまで執着する君の気持がわからないが、良いだろう。確かに約束は約束だ。鳥海なら何とかなるやもしれん。近々朗報を届けよう。うむ。あとは下がってよい」フッ


―神尾参謀室長は言いながら、あざけるように鼻で笑った。しかし、小林提督はそれに対しても怒りを見せない。


小林提督「私には本当に死活問題なんだ!」


高橋参謀「私は理解出来るつもりでいるよ。私の方でもあたってみよう。鳥海は強力な夜戦火力を持っているため、最近は重巡の中でも着任忌避されつつあるからねぇ」


小林提督「理解できませんな。実にもったいない。どちらの『夜戦』の火力も高いはずだというのに」


豊田参謀「軽口は慎むべし」


小林提督「それでは失礼いたします。・・・朗報、楽しみに待っております。我々の関係は信頼で成り立っておりますからな」ニヤッ


―クルッ・・・ガチャッバタン


―ジーッ・・・カチッ


―オートロックの作動音がし、部屋及び通信のセキュリティレベルが最大限になった事を意味するドア横の緑色のランプが点灯した。


高橋参謀「ふむ・・・これはどう解釈するべきかね?」


豊田参謀「奴は俗物だが、それ故に信頼できる面もある。我々は特務と元帥を過大評価していたと見るべきか。しかし、実態のない物は確かにその尻尾を掴めん。そういう意味では良策だったと見るべきやも知れんな」


―二人の参謀は慎重な感想を述べて、沈黙した。自分たちよりはるかに切れる男の返事を待っていた。


神尾参謀室長「おそらくそうであろうと私も思う。しかし、一つだけ気がかりな点がある。あの男の眼は欲求で濁っていた印象だったが、今は微かに狡猾さと武の気配を感じるのは、私のうがちすぎだろうか?」


高橋参謀「鳥海を失ったのだろう?気に入った女を失った後の男の眼なら、そういう物が垣間見える事もあるのではないかね?なに、次の鳥海の話をすればいつもの奴に戻るであろうよ」


豊田参謀「私もそう思う。・・・だが万が一、噂ばかりの特務の提督というものが本当に有能で、あ奴を意のままに動かしていたとしたら、それは即刻排除せねばならん難物が現れたという事になる。そのような人間は既に存在していないはずだ」


神尾参謀室長「だといいが、どうも我々は何か大事なものを忘れているような気がするのだ。これが杞憂であれば言う事はないが・・・」


高橋参謀「慎重さは美徳だ。私は笑わんよ。・・・それよりもだ、先ほどあ奴に鳥海をあてがう事について考えていた時に閃いたのだが、噂の特務第二十一号に、全国から集めた使えない艦娘どもを着任させるのはどうかね?」ニタァ


豊田提督「確かに、我々からの提案と言えど、戦力の増強ではある。元帥側に断る理由は無いな」ニヤッ


神尾参謀室長「高橋参謀、あなたも腐っても流石は参謀だな。だがそれについては既に手はずを整えていたところだ。より使えない艦娘どもを募っていただければ助かる。それと、早池峰の物資の動きを掴まれたようだぞ。あの付近の泊地の艦娘は生き残り組だ。事が大きくなる前に手を打つべきだぞ」


高橋参謀「ほっほっほ、私の商売を邪魔するものは何であれ許しませんよ。スリーパーが馬鹿どもをうまく動かしていますからな。あの浜風ともども行方不明になるやもしれませんねぇ」


神尾参謀室長「なるほど。・・・読島のほうは?」


豊田提督「問題なし。南紀州はあの方面には海防艦しか出しておらん。イレギュラーが発生しても、海防艦たちを行方不明にすれば済む事」


神尾参謀室長「ふむ・・・我々が秘密裏に行動せねばならぬ日も、あともう少しか。・・・では、ここまでで解散しよう」


―プツ・・・ン


―会議室のモニターの電源は落ち、部屋の照明も落ちた。



―ヒトハチマルマル(18時)過ぎ、堅洲島鎮守府。


―大雪の海上で、遭遇戦、奇襲戦、迎撃戦をあらゆるシチュエーションと紅白のチーム分けで存分に戦った堅洲島の艦娘たちは、そのほとんどが大浴場で入渠状態だった。賑やかな大浴場では、戦いの興奮の冷めやらぬ艦娘たちの会話が弾んでいた。


足柄「大井さん、あなた流石ね。予測雷撃の腕と射撃の腕が半端じゃないわ。ほんと、提督はいい子を引っ張ってくれたわ。凶暴さを冷静さに変えて戦うあなたのスタイル、私は好きよ?」ニコッ


大井「えっ?ありがとう。でもだからって敵側になると私を集中的に潰そうとするのはどうなのかしら?まあ、正しい判断だけれど」ニヤッ


霧島「いやー盲点でした、ここの扶桑さんと山城さんのコンビはほんと厄介ですね。舞鶴の比叡さんを破っただけのことはあるわ」


榛名「ね、言ったでしょ霧島。知らないで戦うとまず勝てないくらい強いんですよ」


金剛「それもだけど、陸奥が強いデース。なんか妙に当たらないし当てて来マース。何なんですかあれは?うちのテートクに着任していると、みんなそうなるノー?」


陸奥「こんなボロボロの状態でそう言われても、何と言ったら良いのか。戦艦としては私が最大火力艦だから、集中攻撃を受けるのはわかるけどね・・・いったた。でもみんな強くていいわ。楽しかったわね」


扶桑「あまり恥をかかずに済んだけれど・・・速度、ちょっとだけ欲しいわね・・・」


山城「姉さま、でもこれだけ名のある金剛型や陸奥さん相手にここまでやれてたら、悪くないと思いますよ?さっきも提督が、よくやったなって言っていましたもの」


扶桑「あら、提督が?」


磯風「報告に執務室に行ったら言っていた。私も聞いたよ。まあ、服がボロボロだったのですぐに秘書艦たちにここに追いやられたけどな」


扶桑「あの姿で執務室に?ふふ、あなたは堂々としていて面白いわね」


―磯風は艤装服がはじけ飛んで、ほぼ胸があらわだったが、気にしないで執務室に行ったらしい。


陽炎「ふー、戦ったわ。たくさん戦った後のお風呂は最高ね!」


不知火「・・・陽炎はいつでも陽気ですね」ニコッ


黒潮「ほんま。どうしてああいう無謀な突撃して大破しまくって、そんないい笑顔で風呂に入れるんや!」


陽炎「大破も突撃もしたけど、今回はちょっと意味合いが違ったのよ?気づかなかった」


黒潮「えっ?どういう意味?」


浦風「陽炎姉さんは今回、どうしようもない局面でだけ突撃して、大井さんや戦艦勢の攻撃を阻害して、こっちの雷撃タイミングを作ろうとしてたんよ。何回かは有効だったんじゃ」


陽炎「ふっふーん、そこに気付くとはさすが浦風ね!そういう事よ」


浦風「でも姉さん、実戦ではあんな戦い方せんでね?本当にまずい時のための練習や度胸づけならいいけど・・・」


陽炎「それだけじゃないけどね。ほら、ここって強い人ばかりだし、司令の任務でも強い子ばかり出てくるでしょ?最初から強い人とばかり戦って、実力を一気に上げたい考えなのよ」


黒潮「えっ?そんなこと考えてたん?」


陽炎「じゃあどう考えてたと思うわけ?」


黒潮「無謀に突っ込んでばかりかなって・・・」


陽炎「うわ失礼ね!」


不知火「えっ?違ったのですか?そんな真面目な考えを?」


陽炎「えー・・・ぬいまでそんな風に思ってたの?相手との実力差がまだありすぎるだけよ!」


―少し離れて、高雄型の集まっている場所。高雄と愛宕はそれほどダメージが無いが、摩耶と鳥海はかなり損傷していた。


高雄「存分に戦ったでしょ?もう気は済んだ?」


愛宕「提督には漣ちゃん経由で報告しといたけど、たぶん不問だって」


―演習のさなか、敵対したタイミングでは摩耶と鳥海が何度も激突していた。主にそれは摩耶からだったが、鳥海も受けて立っていた。残っていたわだかまり、それを消すのに必要だと判断した堅洲島の艦娘たちは、この二人の激突はあえて見ないふりをしていた。


鳥海「私は、殴り合いになっても良かったと思っています。摩耶の立場だったら、気が済むはずがないですから」


摩耶「結構思いっきり殴り返されたけどな。でも、あたしはもう今日以降は気にしねぇ。もう溜飲も下がったよ。・・・いってて」ニヤッ


鳥海「なら良かった。変な話だけど、殴り合いが出来て、ほんと良かった。司令官さんが受け入れてくれても、このまま摩耶や姉さんたちに拒絶されたままだったら、辛いもの・・・」ニコッ


摩耶「難しい立場だったのは分かってんだよ。でもさ、全部はいそうですかってわけにはいかなかったんだ。なんかモヤモヤしちまって」


鳥海「わかってます。結局、あのままだったら私、どうにもなりませんでした。だからまたこうして話せるようになって、本当に嬉しいです。あと・・・ごめんなさい!」グスッ


摩耶「もういいよ、悪かったよ・・・あたしも気づいてやれなかったしさ」


高雄「鳥海、行くところが無いとはいえ、本当にここで良いの?それだけは確認しておきたかったのよ」


鳥海「私は、ここでいいです。あの司令官さんに着任した時、何だか安心したんです。帰ってくるところがやっと見つかったような・・・」


摩耶「姉さんたちと違って、あたしらは兼帯じゃないからな。あの提督が全然違うのはよくわかるんだぜ」


愛宕「うーん、私たちも早く立場が明確になればいいのだけれど、下田鎮守府が形を変えて復旧するかもしれないし、まだ先ね。でも、高雄型も今は多くないから、ここの戦力になるならそれはそれで良いのよ。みんな一緒だしね」


―摩耶と鳥海は完全に異動してきたが、高雄と愛宕は兼帯、いわゆる複数の組織に同時に着任している形になっている。この為、摩耶や鳥海のような、提督の違いを体感できていない面があった。


高雄「これからどうなるのかしら?色々とびっくりしたけれど、うちの提督は生きていたし、あんな強い提督がまだいたなんて。未来は全然見えなくなってしまったわね。良くも悪くも・・・」


愛宕「何だか、とても激しい戦いの予感がするわね・・・」


―高雄はそう言って浴場の窓の外を見た。中庭に降る雪は既に積もり始めている。霜さえ降りないとされている暖かな島に、場違いな大雪で、中庭のフェニックスが寒そうに見えていた。



―同じ頃、堅洲島鎮守府、第一展望室。


提督「・・・・・・!」


―提督は元帥から渡された機密資料『人体の深海化と、その脅威』に目を通していた。幾つかの深海側が関わったとされる事件や施設において、おそらく実験中だった深海化途中と思われる人間の解剖・検死報告書だった。


報告書A『これら大柄な個体の特徴は、腹部の巨大な肝臓である。深海のサメの一部と同じそれは、無酸素・無呼吸での長時間の活動を可能にしている』


報告書B『硫化鉄やキチン質の装甲を体表に出せる個体を確認。ケースX2では、これにより銃弾がほとんど効かない個体が確認されている』


報告書C『シャコの一種と同じような視力を持つ個体を検死。ケースX1では、この視力により自動兵器使用時の電波を見て、自動兵器を無力化したと思われる』


―ほとんど化け物と化した、かつて人間だったはずの多くの個体は深海化した何かに作り変えられていた。深海と関わり、行方不明になった多くの人間の、おそらくなれの果てだった。


提督(実験の為としても、ひどい事をする・・・)


―ガタタッ、バサッ


提督(これは!)


―提督は多くの資料に目を通すべく、膨大なグロ画像満載真の資料をめくり続けた。が、あるところで書類をケースごと落とし、次に慌てて一枚の書類を拾い上げた。


報告書G『深海側がその完成度を試験するためにアフリカに投入したと思われる、深海化処置を施されたライオン、諜報により、深海側の呼称はAMA-L-000に該当するとの事。ツァンバ渓谷にて『対象D』により原型をとどめぬほどのダメージを与えられて撃破される。体内に埋め込まれた超高カロリーカプセル及び、対象を人間とした捕食の連続で、活動を可能にしていた模様・・・』


提督(なんだと・・・これは・・・そんな事が!)


―ダンッ!


提督「あれも深海の仕業だというのか!!」


―提督は怒りを思い出して叫び、拳をカウンターに叩きつけた。


―提督は満月の夜に、巨大な獣の前に倒れ、腹を裂かれて息も絶え絶えな老人を思い出した。ガニ族の熟練の老ハンターであり、短い期間だが自分の師でもあった、厳しくも人懐こい老人、老ンジャムジの事を。


―老ンジャムジ『逃げろ、・・・逃げるんだ若い・・・狩人よ。こいつは化け物だ。殺しを楽しんでいる。きっとこれは・・・悪魔か何かだ。ライオンはこんな事しない。逃げ・・・るんだ!』


―しかし、激しい怒りに囚われた提督に、その言葉は聞こえていなかった。


―カタ・・・カタカタカタ・・・


―怒りが全身と、刀を震わせていた。


―提督『・・・でかい野良猫が!その老人から離れろ。・・・削り殺してやる!!』ギリギリギリ・・・ズラッ


―激しい怒りが全身の筋肉を鋼のように絞り、提督は黒い刀を引き抜いた。そして、それから先の事は覚えていない。気付けば、黒い肉塊と化して動かなくなったライオンの傍で、立ち尽くしている自分がいただけだ。


提督(老ンジャムジ、あんたの仇はおれの敵だったようだ。仇討はまだ、終わっていなかったんだな・・・)


―報告書の続きを読む。


報告書G『対象の致命傷の定義は難しい。切断可能な血管及び腱という腱は全て切断され、指先や顔面、生殖器等の神経の集中している箇所も執拗に攻撃されていた。途中からは拷問に近い戦闘状況だったと思われる。肺及び心臓、肝臓に達する刺突・斬撃創は三十か所を超え、軽度な斬撃創との合計は三百八十二箇所、銃創は六十一箇所までは確認できた』


提督(ああ、そんなに斬って撃ったか。動きを止めて、殺そうとしただけだった気がするが・・・)フッ


―どれほど修練を積んでも、限界を超えた怒りに囚われると、何も見えなくなる悪い癖が抜けていない。


提督(こんなんじゃだめだな、まだまだだ・・・)


―ブン・・・ブブブンッ・・・


提督(うっ!?)


―蠅の羽音の幻聴と、様々な凄惨な情景と腐臭、血の臭いが蘇り、こみ上げてきた。戦闘ストレス障害の発作だ。


提督(しまった!症状が重い!)


―提督は書類ケースをしまい、錠をかけると、近くのトイレへと走った。戻しそうだ。



―数分後、近くのトイレ。


―ジヤアアア・・・キュッ


提督(ふう・・・まずいな、ブラックアウトしそうだ・・・)フラ・・・


―提督は第一展望室に戻ると、鍵は掛けず、部屋の隅の暖房の傍で壁にもたれかかった。すぐに暗闇が押し寄せ、提督は意識を失った。




第七十三話、艦



次回予告。


意識を失った提督が見た、老人の警告と、生々しすぎる幾つかの夢。そんな提督を見つけた曙と提督の、少し際どい出来事。


時間は少し戻り、雪で遊ぶ山雲と朝潮だったが、そんな二人が見張っている海に、異動の命令を出されている艦娘たちがいた。


特務第九の盲目の提督と、秘書艦の神通、そして剣の達人の話。


その頃、とある鎮守府では、飲んだくれの海外重巡が異動を命じられていた。



次回、『雪の一日・後編』乞う、ご期待!



矢矧『おばあさまの言うお見合いって、相手はどんな方かしら?』


ヨシノ婆さん『ふん、お見合いと言っても、あんたの遊び相手を一日するってだけだからね?本当に嫁ぐわけじゃないよ?門限も守るんだよ?』


矢矧『わかってるわ。私、そんな軽率じゃないもの。でも気の毒ね、私の遊びに一日付き合わされるなんて』


秋雲『なのに、矢矧さんは帰ってこなかったのでした。信じて送り出した矢矧さんがあんなことになるなんて!』


ヨシノ婆さん『こら秋雲、また変な事を言うもんじゃないよ!』


矢矧『まあとっても大変なことになるんだけどね』ニコッ



後書き

相変わらず引っ越しやら何やらでバタバタしております。

早く落ち着きたい・・・。


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2018-04-16 05:52:10

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1: SS好きの名無しさん 2018-04-07 17:19:56 ID: wpA9in7C

やったー!更新きたー(^^)
お疲れ様ですm(_ _)m

2: SS好きの名無しさん 2018-04-07 21:17:10 ID: X0cpRXpT

やったー!更新きたー(^^)
お疲れ様ですm(_ _)m

3: SS好きの名無しさん 2018-04-07 22:19:04 ID: R2NyjKmI

ここでも、さみちゃんのドジっ子属性は炸裂するのか(;'∀')
うちの鎮守府では、初期艦のさみちゃんが汁物を毎日頭から食べさせてくれますw
おかげで俺だけじゃなく、服もご飯が食べられて嬉しそうです(白眼)

4: SS好きの名無しさん 2018-04-14 07:05:59 ID: lVyeWMAN

天下三剣の一人が提督だったとは・・・さらに面白くなってきたぜぇ!

前々から思っていたのですが、天下三剣の苗字は伊藤一刀斎をはじめとした昔の剣客からもらったのでしょうか?

5: ㈱提督製造所 2018-04-14 13:37:00 ID: yfgtd6Dw

おお・・・遂にヨシノ婆さんの再登場だ!

・・・何かをトチ狂って提督が
「婆ぁ、俺だ!結婚してくれ!」
と言ったらどうなるんだろう・・・・・・?

まあ、いろんなモノが崩壊するのは目に見えているがwww

6: SS好きの名無しさん 2018-04-14 21:54:05 ID: lVyeWMAN

霧島「マイクチェックの時間だオラァァ!!!」ドア蹴破り
提督&秘書艦's「!?」


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