2018-04-16 17:56:17 更新

疑い


突拍子のもない嘘も本当になってしまえば、後は崩されていくだけ。


一冊の雑誌から艦むす達との絆に暗い影を落とすことになる。




?「これは何だろう?」


?「時雨姉さんどうしたの?」


時雨「何かの雑誌みたいだね。誰かが置いていったのかな」


?「村雨姉さん達のでしょうか?」


時雨「どうだろうね、僕には分からないけど他の子達かもしれないよ、春雨」


春雨「忘れ物かもしれないです、はい」


時雨「なら届けよう」


春雨「はい、一緒に行きます」


時雨「ふふ、ありがと」


艦娘寮の待合室で拾った一冊の本、表紙は明らかにゴシップ的な文字の並びに、噂好きな艦むす達の誰かの本だろうと時雨は思い。

春雨と一緒に忘れ物届けに持っていく。


時雨「これ、待合室に置いたままだったから置いておくね」


伊良湖「あら、わざわざありがと。時雨ちゃん、春雨ちゃん」ニコニコ


春雨「時雨姉さんの付き添いですががんばりました、はい」


時雨「それにしても変な本だね、提督に関する事も表紙で書かれてるみたいだ」


春雨「大人向けって感じです」ドキドキ


伊良湖「駆逐艦寮にあったなら、もしかしたら…背伸びした子が買ってきたのかもしれないわね」フフ


時雨「それなら、なっとくだね。」ニコッ


春雨「一体、誰のなんでしょう?」クビカシゲ



その数日後、艦むす達にある噂が立つことになる。



ーーーー執務室。


提督「なんだか、艦むす達が自分を避けている気がするんだが、何か聞いていないか?」


長門「…いや、何も聞いていないが」


提督「・・・」



長門は少しだけ戸惑うような素振りの後に、提督の問いかけを否定した。提督も、何か知っていそうだとは思ったが特に突くこともなく、それ以上は聞かなかった。




ーーーー鎮守府、三階、廊下。


提督「あ、加賀、少しいいか?」


加賀「何か用?忙しいのだけど」ジッ


提督「あ、いや。忙しいのであれば後でいい」


加賀「そう、なら失礼します」タ、タ、タ



加賀の刺さるような目線と、突き放す言葉に提督は戸惑い、聞きたかった艤装のことに関しての話を聞けなかった。



提督「なんだ、どうして…あの目線は軽蔑するような……いや、考えすぎだな」タ、タ、タ


加賀「・・・」ジッ


提督が踵を返して執務室に帰る姿を加賀は、廊下の曲がり角から、少しだけ顔を出して見ていた。



―――まるで監視するように。






ーーーー更に数日後。


執務室


金剛「・・・」


提督「・・・どうした?いつもだったらこの時間に紅茶を勧めてくれた思うんだが」


金剛「今そんな気分じゃないネー」


提督「そ、そうか、すまなかった」アセッ


金剛「・・・」チラッ


提督「・・・」カキカキ


金剛「Hey、提督ぅ、私達になにか言うこと無いのー?」


提督「・・・え?!い、いや。なにもないと思うが?」ドギマギ


金剛「あの事が本当だったらネー、ちゃんと言うんデース」


提督「な、何のことか分からんのだが」アセッ


金剛「本当ですかー?」ジー


提督「あ、ああ・・・」メセンソラシ


金剛「私は信じるネー。困ったことがあったら相談して欲しいデース」


提督「あ、ああ。分かった(疑われててるのか?あの金剛が?そんな馬鹿な、信じてくれるはずだ。そもそも後ろめたいことは無いと・・・いや、もしかしてこれか?)」スッ



提督がもしやと思い引き出しを開けると、そこには書類&指輪一式が有った。



提督「・・・(練度は全員が最大までだが、これを使う相手とか考えたことは無かったな。それでなのか?)」


金剛「提督ぅ?なにか隠してるですカー?」


提督「いや!何も隠してない!」ドキッ


金剛「・・・教えてくれないんですカー?」


提督「・・・すまない」


金剛「分かりました、デース」シュン


提督「・・・実は――」


ジリリン!ジリリン!


提督が話そうとしたと同時、黒電話の音が執務室に響き渡る。秘書艦の電話ではなく、提督直通の黒電話であることから、明らかに大本営からだった。



提督「はい・・・」


金剛「・・・」ジー



提督の話が気になる金剛は、悪いことと思いつつも聞き耳を立てていた。



提督「な、なんですって!自分はそのような事は!」ガシャ


金剛「提督ぅー大丈夫ー?」


電話の内容に余程驚いたのか、急に立ち上がった提督は椅子を勢いそのままに倒してしまう。


提督「・・・そんな、資材を・・・どうして、どうしてなんですか!?自分には訳が分かりません!」


金剛「・・・」ビクッ


いつもとはまったく違う、不快感をあらわにする提督の姿と怒号に、金剛は驚いて一歩下がった。


ガシャン!


提督「何がどうしたってんだ・・・クッソ!」


金剛「て、提督ー?」


提督「すまない、金剛。君の前で怒鳴ってしまって」


金剛「何か有ったのですカー?」


提督「・・・いや、大丈夫だ。しばらくは溜め込んでいた資材がある」


金剛「意味が分からないデース、ちゃんと説明して欲しいネ」


提督「・・・(俺が横領だって?そんな事はしたことがない。しかも、嫌疑が晴れるまで資材と運営費の停止・・・遠征で資材は手に入るが金ばっかりははどうしようもない。提督権限で金は暫くの間だけ持つが最悪、身銭も必要だな。提督だった両親の遺産もまったく手を付けてなかったから行けるか?)」


金剛「・・・デース」


提督「金剛、すまないが俺は少し席を離れる」


金剛「逃げるんですカー?」ジッ


提督「逃げる?何を言ってるんだ」


それはまさに疑っている目だった。金剛の目は提督の目線と交差して、提督の目に映る金剛は自分を非難しているようにも見えた。

身に覚えがない冤罪を疑われて、しかも、仲が良好だと思っていた金剛にですら聞かれてしまったことで、頭に血が上っていくのが分かる。



提督「おれは横領なんてしていない。でも今は、金が必要なんだ」ガチャ、バタン


金剛「どうして何も言ってくれないネー、あの本の内容は本当のことなの?」ボソッ



金剛だけ残した執務室に、つぶやいた言葉が虚しく消えていった。





敵意


数カ月後、鎮守府は財政難に陥っていた。資材はあるのに運営費がないことで艦むす達の食事などがとても賄えなくなっていた。光熱費も払えないことで士気は下がる一方。             ・・・・

緊急時は資材を近くの街などに売ることで費用を賄えるが、その行為を疑われていることで、禁止されていた。

別の鎮守府に要請はしたが断られるだけだった。


何もかも悪い方向に向かっていく、何かの意思を感じるが、誰がどの様な意思を持っているか分からず。

嫌疑も晴れないままズルズルと現在に至っていた。


追い詰められていく。


ここまで何も出来ない自分をあざ笑うかのごとく、両親の残した遺産は等に底をつき、自分の財産すら無く、提督として近くの街から借りた借金が膨らむばかりだった。



提督「辞めるしか無いのか」ボソッ


時雨「・・・」


小さな声だったが、時雨にはとても大きく聞こえた。

駆逐艦を除いてこの頃にはほとんどの艦むすが、提督の言うことを聞いてくれなくなっていた。

少なくとも自身に満ちていた提督の姿はなく、両親の遺産を使い果たしたストレスと自身の食事すら削り、そこまでして身銭を切っていたことで頬が痩せこけていた。


提督「俺が何したってんだ」


時雨「提督、落ち着いて」


時雨が提督の左頬に右手で正面から触れた。頭を抱え込んでいた提督は触れられた瞬間、少しだけビクリと身体を震わせた。


提督「し、時雨か?そうか、今日の秘書艦は時雨だったな」


時雨「(駆逐艦以外の)みんなは話を聞いてくれなくなっちゃったね」


提督「仕方がないさ、腹が減ればイラつきもする。無能の自分が、ここに居るだけでも不快になるだろう」


時雨「…提督」


ーーーーガチャ!


?「提督さん!すぐ来てほしいっぽい!」


提督「な、なんだ?」


時雨「・・・夕立?」


ノックもせずに、慌てた様子で入ってきたのは夕立で、すぐにでも食堂に来てほしとのこと、時雨と提督は、引っ張られるように夕立に連れて行かれた。



ーーーー食堂。


提督「これは・・・どうしたんだ?」


時雨「僕にも分からない、夕立?」


夕立「夕立も分からないっぽい」


ガヤガヤ。


夕立に連れられてきた提督達の目には信じられない光景だった。

財政難であるはずなのに、艦娘達は普通の食事をしていた。どこからそんな金が出てきたのかも分からず、提督が呆けていると、一人の男が近づいてきた。


?「やぁ、挨拶もせずに悪かったね」敬礼


提督「失礼、どなたでしょうか?」答礼


顔立ちがよく、気さくな感じの男の格好が、紺色の提督服であることから同じ立場の人間だと分かる。

しかし階級が、自分よりも上であることに気づいて礼式にそった挨拶をした。


イケメン提督「僕は別の鎮守府から来たんだ」チラッ


時雨「…」敬礼


イケメン提督「・・・」ニヤッ


時雨「…」スッ


夕立「・・・っぽい?」


問われたことに答えつつ、時雨を盗み見るように見た男は、時雨と目を合わせずに身体を見てニヤリと笑った。

時雨は提督の影に隠れるように一歩下がると、この鎮守府の提督の後ろ姿を見ていた。

夕立はそんな時雨の行動が分からずに首を傾げるだけだった。



イケメン提督「んー嫌われちゃったかな?警戒しなくても可愛がってあげるのに」ニヤニヤ


提督「あの、目的をお聞きしたいのですが」

                                  ・・・・・         

イケメン提督「キミは無粋な男だね、見てわからないかい?僕が持ってきた新鮮な食材を振る舞っているのさ」


提督「なぜーー」


加賀「とても美味しいわ、流石に気分が高揚します」


提督「加賀・・・それに他の・・・」


艦娘それぞれが、嬉しそうに食事をしていた。久々のちゃんとした食事に、艦娘達の幸せそうな顔を見て、提督の心境は複雑になる。


イケメン提督「美味しいかい?」


加賀「ええ、あなたは?」


イケメン提督「彼と同じ提督だよ、別の鎮守府からここの現状を聞いて助けに来たんだ」ニコッ


加賀「そう、それなりに期待はしているわ」


イケメン提督「はは、ありがと」


時雨「妙な気分だね」


提督「時雨?」


時雨は特にそれ以上は言わなかったが、表情は硬く、時雨としては珍しいく不機嫌そうにも見えた。


イケメン提督「いやいや、練度も高くて美人揃いじゃないか、僕は自慢じゃないが僕の居る鎮守府の艦むす全員とケッコンカッコカリしているんだよ」ニコッ


提督「は、はぁ」


イケメン提督「君、ちゃんと食べてる?」ポンポン


提督「うっ」ヨロッ


イケメン提督「おいおい、これぐらいでよろけるなよ。ひ弱だな」ニヤッ


時雨「…」キッ


夕立「・・・」ジッ


時雨が睨むと同時に、夕立の顔も険しくなる。提督を馬鹿にされたと思い。

静かな炎を目に宿す。


イケメン提督「はは、勘違いするなって。それより色々と話があるんだけどさ、いいよな」グイッ


提督「・・・グッ」


優男と思ったがとんでもなかった、時雨達に分からないように提督の肩にのせた手に力を込めて痛みを走らせる。

これは脅しだと直感で分かった。


提督「時雨、悪いが食事をしてきてくれるかい?」


時雨「提督、僕は…大丈夫だよ?」


提督「お腹が減っているだろ?食べれるなら食べてくるんだ」


時雨「うん、提督がそう言うなら…分かったよ」


提督「ありがと」ニコッ


イケメン提督「さぁ行こうか」


仕方なく頷き、秘書艦無しで話をするために執務室へと向かった。


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