2018-04-16 17:28:25 更新

概要

童話【赤ずきん】をモチーフにしたオリジナル創作キャラの過去話です。


前書き

実際の【赤ずきん】の童話とは異なること、当然、一切の関係もないことをご了承下さい。


 むかしむかし、あるところに赤ずきんと呼ばれる可愛らしい女の子がおりました。

 赤ずきんにはなだらかな山の上に住むおばあさんがいます。

 おばあさんは病気がちで、長く病の床に伏せっていました。

 前日の晩に大雨が降った翌日のことです。

 午前中まで降ったり止んだりを繰り返しながら続いた雨は、午後になりようやく晴天の空を雲間に見せ始めました。

 いつものように赤ずきんはお母さんに言われて、山の上のおばあさんの様子を見に行くことになりました。

 おばあさんの好きな葡萄のワインと焼いたパンを籠に詰めて山を登ります。

 その姿をいつも、木陰からひそかに見守る影がありました。


 『影』は長い間、赤ずきんが生まれるよりももっと前から、おばあさんを見ていました。

 いつものように影は、赤ずきんがお母さんが見送られて山を登っていくのを見届けると、赤ずきんが行く道とは別の近道を駆け上がりおばあさんの家へと向かいます。

 近道は、赤ずきんの登るなだらかで整理された道とは違う、直線ですが岩場も多い獣道です。

 そんな獣道を苦もなく登り終え、影は綺麗なピンク色の花を付ける木に囲まれた、小さな家の窓をそっと覗き込みます。

 窓から影が家の中を覗き込むと、いつも寝ているはずのおばあさんの姿がありません。

 白いシーツがかぶせられたベッドの上にも、家の中にも、おばあさんの姿は見当たりません。

 影は慌てて、山を降ります。赤ずきんが登ってくるはずの道を、駆け足で下ります。

 ある一定の場所へと辿り着くと、影は道脇に咲いた一輪の珍しい花を摘みます。

 その花を持って、山を登ってくる赤ずきんを待ちました。

 やがて、小さな頭がはっきりとわかる赤い布が見えてきます。

 その可愛らしい顔と向き合えるほど距離が近付いてきた時、 

「こんにちは、赤ずきん」

 隠れた草むらの影からそう言って彼女を呼び止めます。

 足を止めた彼女は、草陰を覗き込むよう、舌っ足らずな愛らしい声で

「だあれ?」

 と尋ねました。

「おばあさんのお友達だよ、赤ずきん。お見舞いに行くんだろう。このお花を持って行かないかい?」

 詰んだ花を草むらからちらりと見せます。

「きれいなお花!」

 赤ずきんは嬉しそうな声を上げました。

 草むらからわずかに覗いた『影』の指先が人のものではないことに、赤ずきんは気付きません。

「この先を真っ直ぐに行くとお花畑がある。そこにはもっと色々な花が咲いているよ」

「まあ! でも、おばあさまのところに早く行かないと…」

 感極まった声を上げた赤ずきんでしたが、すぐに残念そうに表情を曇らせました。

 ですが、影は言います。

「おばあさんは今はお昼寝をして身体を休めているんだ。ゆっくり寝かせてあげた方が、身体にもいいだろう」

 そういうと、赤ずきんはパッと花が咲いたように顔を綻ばせます。

「それじゃあ少し。少しだけ」

 弾んだ声で、自分に言い聞かせるように頷くと、影が指で示した花畑の方向へと歩を進めていきました。

 影はすぐに踵を返し、また獣道を登っていきます。

 家の周りや人の通る街道や周りの匂いを探りながら、影は探し回ります。

 ですが、おばあさんの姿が見つかりません。

 途方に暮れ、家の前で項垂れているところに、少女のかろやかな鼻歌が聞こえて来るのがわかりました。

 赤い頭巾が目に入り、影は慌てて家の中へと隠れるように飛び込みます。

 ベッドの上には、やはり誰もいません。

 そうこうしている間に、家のドアの前に辿り着いた赤ずきんは、木の扉をノックして

「おばあさん、わたし。赤ずきんよ」

 と声をかけてきました。

 行き場を無くした影は、ベッドにもぐりこんで布団を頭まで被りました。

 と同時に、ドアが音を立てて開きます。

「おばあさん? まだ眠っているの?」

 そう言って、赤ずきんはベッドへと近付いてきます。

 影は焦っていました。でも赤ずきんは全く気付かず、ベッドの前に立つと布団からはみ出した頭を覗き込んで目を丸くします。

 でも、赤ずきんのおばあさんは悪戯好きでした。だからいつものおふざけだと思ったのです。

「おばあさん、まあなんて大きな耳をしているの?」

「お前の声がよく聞こえるようにだよ」

 持ってきたものをベッドの側の卓に並べながら、赤ずきんはくすくすと鈴を転がすように笑います。

「おばあさん、そんなに目が大きかったかしら?」

「お前の顔がよく見えるようにだよ」

 銀色の鋭い瞳と、赤ずきんの青くて大きな瞳がしっかりとかち合いました。

 赤ずきんは、思わず息を呑み、後ずさります。

「……おばあさんの手、なんて大きな手をしているの?」

「お前をしっかり捕まえられるようにね」

 伸びてきた獣の手が、赤ずきんの細い腕を掴みました。

「なんて……大きな、口……」

「お前を食べるためだよ!!」

 青い双眸が驚愕に見開かれるのと同時に、影は赤ずきんの顔よりも大きな獣の口を開いて見せます。

 小さな愛らしい唇からは恐怖の悲鳴が漏れました。

 そして、驚きのあまり気を失った赤ずきんをベッドに横たえると、影は窓を飛び出します。

 少しのあいだ、きょろきょろと辺りを見渡した後、家の裏に続くなだらかな坂の小道を見上げると、慌てた様子で登っていきます。

 小道を登っていくと、開けた場所に出ます。

 海を見下ろせる崖の側には、一軒の古い東屋がありました。

 おばあさんはその東屋から海を見るのがとても好きだったのです。

 東屋の中には、影が思った通り、小柄な女性の姿がありました。

 雨に濡れて息も絶え絶えになった、おばあさんの姿でした。

 影は慌てて駆け寄ります。

「おおかみ、さん」

 白い息を吐き、虚ろな瞳を開いた女性――おばあさんは、近付いてきた獣の姿を映して言うとそのまま目を閉じてしまいます。

 その閉じた瞳が、もう開くことがないことを影は知っていました。

 長い時間をこの山で過ごした影は、狼は、こうして去っていく命を幾度も見送ってきたからです。

 冷え切った身体や、その感触や、匂いからそれは確かに伝わって来ました。

 狼は、雨で匂いが消されてしまっていたことを悔やみました。

 真っ先に、この場所を思いつけなかった自分を悔やみました。

 なぜならこの場所は、彼が彼女と出会った場所でもあったからです。

 狼は嘆き、そして決意しました。自分の寿命をほんの少し、彼女に分け与えることを。

 それは決して、簡単にできることではない禁忌の術でした。

 ですが狼は既に決めていました。

 仮に、例えそれが自分の命を全て犠牲にすることになっても、狼はきっとそうしていたでしょう。

 狼の術を、願いを、山の神様は見ていました。そして、叶えることを許しました。


 そうして、おばあさんは息を吹き返しました。驚くことに、病もすっかりよくなっていました。

 目を閉じる前に見た狼の姿をほんの少し目で探した後、おばあさんは花海棠の木に囲まれた小さな家のベッドに眠る赤ずきんの元へと帰って行きました。


 禁忌を破った狼は、獣の姿を捨て山を追放され、それっきりおばあさんや赤ずきんを見ることはありませんでした───。


後書き

とある企画に出していた創作キャラクターの過去として書いたお話です。
企画からは抜けたため、キャラクターも没になっているのですが、せっかくなので残しておきたいと思い投稿しました。


このSSへの評価

このSSへの応援

このSSへのコメント


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください