2018-05-21 08:49:00 更新

概要

#君はもう少し勉強するべきだ
20180513投稿分
テーマ「海」


前書き

私ではない誰かの思い


「こんな社会で生きて行くくらいなら、いっそのことこの命を、咲くことのなかった美しい花のように散らせたい」

そう思い始めたのはいつからだっただろうか?自称進学校に入学して、理屈の通らない理不尽を浴びて生活した時か。中学生活で自分の足枷となる、無駄な責任感を実感した時だろうか。それとも、人の喜ばれる行動を学び、それを自分のすべきことだと、知らず知らずのうちに刷り込まれていった幼少期からだろうか?挙げていくととめどなく、決壊したダムのように溢れ出てくる。それほどまでに私の脳内は、自責の念に駆られていた。


適応障害から来るうつ病。周りの環境に適応するのに多大なエネルギーを使い、毎日が疲労にまみれて、普遍的な生活がストレスによって送れなくなる心の病気だ。私は今、その見えない悪魔に魂を蝕まれている。朝起きてから夜寝るまで、一部屋の中でひたすら過ごす非生産的な毎日。それだけで私は負のサイクルに入っていったのだ。

家族や友人は「外へ出て新たな発見をするべきだ!」なんて言って来るけれども、そんなことは私が一番わかっていたし、それができないから悩んでるのに何も言わないから、関係ないのに彼らにも不満を募らせることになる。そんなつもりじゃなかったのに………。また新たに自分を責める口実ができたに過ぎなかった。

私はなんでこんな生きづらい社会に生きてるのだろう。そんな結論の出ない謎解きを続けて早三ヶ月。偶然見つけたサイトである文章を見る。

「壮大な海に、さあ出掛けよう」

最初は私も思ったさ。何が壮大かと。そんな簡単に幸せになってたまるかと。

…………その次の日、私は家を抜け出して、広くて大きな海を見に出掛けた。

そもそも私は人が駄目なだけで、文章は幼少期から読み漁るほど好きの部類だった。だから突き動かされた。私の嫌う「人」が創り出した「文章」に。

シーサイドに向かう足取りは高ぶる気持ちの表れか、はたまた人に見られたくないだけか。段々と早くなり、そして慣れない足取りで走り出した。海なんていつもそこにあるのに、逃げるはずのないものにその時はなぜか異常なほど取り憑かれていた。

走って登るには些か急な坂を一気に駆け上がり、膝に手をつき息を整える。慣れないことはするもんじゃないなと、独り言を心の奥に仕舞い込み顔を上げる。

何十、何百と見たその蒼は、いつも通りそこにいた。

湾内という、立地上全てが水平線ではなく、めらめらと燃える焔を出し続ける工業地帯や住宅街、その後ろの雪が残る山脈が遥か遠くに見えた。

「やっぱり、海なんてこれっぽっちも広くないじゃん」

海に浮かぶ空の港からは、ひっきりなしに爆音をあげて鳥たちが飛び上がっていくし、砂浜には細々と千切れた海藻が渦を巻いて、いってはきたりを繰り返す。

そんな何もないところに、ただ変化を求めて、堤防の突き出たその先に座り込む。

風が強い。ぼんやりとした脳で考える。白波が何本も何本も迫り、コンクリートの壁にぶつかった際にできた飛沫が私の方を撫でる。服が潮くさくなり、髪が傷んで硬くなる。

遮るものが何もない海上では、好き勝手に空気が流れていく。

大きな一波が押し寄せ、私にかかる飛沫が水滴になったところで、やっと理解した。

自分が海のようになればいいのだと。

海は障害物も何もない。風がいくら強くふこうが、雨がどれだけ大量に降ろうが関係なくそこにある。そして人と共存するし、牙も剥く。

だがそれはすべて海が能動的にするわけじゃない。あくまで海に何か繋がりがあるから起こるんだと。

社会は人の流れであり、自然と形成されていくものだ。それはどんな時代、どんな場所でも等しく変わらず、たった一人の人間がどうこうしようが変わることはない。

ならば自分の思うようになればいい。わざわざ自分のできないことをして、激流に呑まれるよりは関わらない方が賢明だ。それで歩み寄りたければ少し手を伸ばせばいいし、駄目だと思ったら素直に引けばいい。

これからは自分の好きなことを、好きなようにして生きていこう。それで繋がりが欲しければ橋を架け、避けたければ梶を切ればいい。

それから、波打ち際で自分を顧みたある日の少年は、水に投じた小石の如く、静かに溶けていった。


一年の月日が経った今、私はあの日とおんなじ場所で黄昏れている。

学校が変わったり、バイトを始めてみたり、繋がりを持った人に会いに行ったり………

環境は変われど、私の生き方はなんら変わりない。ただただ自身の気の赴くままに、好きなように。心の海に浮かぶ孤島を自由に開拓して。

辛いことだってあったし、逃げ出せないようなこともあった。でも私はここにある。それだけでいいんだ。

時刻はもうすぐ2時をまわり、離島の白々としたライトが彼方に見える刻。水平線はやっぱり見えないけれど、海との境界から上は、月の沈んだプラネタリウムが広がっている。あの煌めく星々に海はあるのか?なんて、たわいないことを脳内で閃いたが、すぐに波に流されてしまった。

一等星の輝く下で波止場に佇む黒い私に、潮の飛沫は少しも飛んでこなかった。


後書き

やっと分かったさ、自分が見失っていた文章を


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伊10さんから
2018-05-13 22:47:11

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