2018-06-06 05:25:57 更新

概要

ふと思い付いて書いてみました、よろしければお付き合い願います。





ゴーーーーーーン…


カア!…カア!…


ゴーーーーーーン!


夕刻の山間に鐘の音が響く。


山の奥の奥のさらにまた奥、小さな農村の外れにポツンと建つさらに小さなお寺『大参寺(だいさんじ)』で、年老いた住職にかわり、頭に手ぬぐいを巻き、作務衣を纏った一人の年若い寺男が鐘をついていた。


体格は逞しく、焼けて浅黒い肌に見合う人懐っこそうな顔に笑みをたたえ、つく鐘の音も、遥か遠くまで響きわたる。


寺男「ふぅ…」


住職「いつもながら聞いていて気持ち良い響きじゃな」


寺男「あっ、住職様」


住職「今日は頂きものの茸と山菜で鍋でも囲みたいのう?」


寺男「はい、畏まりました!すぐにご用意いたします」


住職「ホッホッホッ!頼むぞ」



ーーー寺男(てらおとこ)とは、寺院において各種雑役や、参拝客の案内等をする出家していない人の事である。


現在では修行中の若い僧侶が雑役をこなす為、その数は少ない。


だが大参寺では住職以外は僧侶がおらず、寺の雑役の全ては寺男がこなしていた。



寺男は毎日毎日年老いて身体の自由があまりきかない住職の世話を甲斐甲斐しくこなしていた。


まわりの村人達は最初こそ他所から来た寺男を怪しんでいたが、その働きぶりや、住職や周りに対する細やかな気づかいを見て「本当の親子でもあそこまでできない」と寺男に感心していた。




グツグツ……


住職「いやぁ~若い者がいてくれてたすかるわい。何せ皆食いきれんぐらいに食べ物をくれるから大変だったんじゃ(ハッハッハッ!)」


寺男「それだけ住職様が村の皆様に慕われているという事です、私も鼻が高(たこ)うございます」


住職「ハッハッハッ!さぁ、いただこうかな」


寺男「はい」


ジリリリリリン!ジリリリリリン!


住職「?こんな時間に電話とは」


寺男「住職様、お先にどうぞ食べていてください」


ジリリリリリンジリリリリリン!


ガチャ!


寺男「はい、大参寺、寺男でございます」


『もしもし、寺男さんかい!?』


寺男「その声は駐在さん、どうしました?」


駐在『ちょうどよかった!今事故を起こした人を○○病院に連れてきているんだが、あんたの知り合いの人らしいんですまないが確認の為に来てくれるか?』


寺男「えっ!……わかりました、すぐに向かいます!」


駐在『頼む!』


ガチャ!


寺男「住職様、駐在さんから私の知り合いらしき方が事故で病院にいるそうなので行って参ります!」


住職「そうか、ならばすぐに行ってあげなさい。あ、ワシの檀家周り用のスクーターを使いなさい」


寺男「ありがとうございます!行って参ります!」


ダダダダダダ……


住職「……何事もなければよいが…」



ーー病院


寺男「駐在さん!」


駐在「おう寺男さん、すまないな」


寺男「いえ、それで私の知り合いというのは…」


駐在「今、治療中だ。それより…」


駐在はポケットから何かを取り出して寺男に渡。


寺男「こ、この写真は!」


駐在「身元確認の為に荷物を検査していた時に治療中の女性が持っていたんだが…」


写真には今より少し短めの髪や口髭こそあるが、『戸利合(とりあい)鎮守府』と書かれた看板の隣で立派な軍服を身に纏い、今と変わらぬ柔らかな笑顔を浮かべる寺男の姿があった。


駐在「これは…アンタで間違いないか?」


寺男「……はい、間違いありません。これは…私が鎮守府着任当初に撮られたものです」


駐在「そうか…あ、心配するな、寺男さんの昔を根掘り葉掘りする気はない。で、女性に心あたりはないか?長い黒髪に眼鏡をしていたんだが?」


寺男「眼鏡……多分…大淀、女性の名前は…大淀、艦娘です(ウチに鳥海はいなかったですしね)」


駐在「あれが艦娘さんかい?実物は初めて見た…ってこんな海のない山奥に用もないのに来るわけないか」


寺男「一体どうして…?」


駐在「そりゃアンタに用があったんだろう?しかもこんな夜にかっ飛ばさせる位重要かつ早急にしなきゃならん用が」


駐在「事故の現場はゆっくり運転さえすれば何の危険もない場所だったんだ、相当急いでいたんだろう」


寺男「どこかに連絡は?」


駐在「しようとしたんだが、スマホも何も持ってないわ、タクシーで来ていたから情報はないわで、唯一その写真だけが手がかりだったんだ」


駐在「タクシーの運ちゃんは軽い怪我ですんだんだが、その大淀って娘はシートベルトしてなかったらしくてな、けっこう重症だったぞ」


寺男(高速修復剤があれば……しかし、海軍を辞めて一民間人の私が連絡したところで信じてもらえるかどうか…)



??「ふぅ…」


駐在「あっ、先生!」


医師「とりあえず一命はとりとめたよ、全くたいした身体の強さだ」


寺男「お疲れ様です、先生。夜に申し訳ありませんでした」


医師「あれ?寺男君?どうてここに?」


寺男「実は大、いえ、重症の女性は昔の同僚でして」


駐在「俺が頼んで確認にきてもらったんだ」


医師「そうかい。ま、詳しい話は後にして、とりあえず病室に運ぼう」




ーーーー病室


医師「まだ意識が戻ってないから安静にさせといてくれ、後は頼むよ」


寺男「わかりました、ありがとうございました」


駐在「俺も一度戻るよ、住職様には俺が帰りに伝えておくから寺男さんは看ててやれ、な」


寺男「お手数をおかけします、よろしくお願いします」


駐在「またな」


パタン


寺男(………あれから2年、忘れかけていたのに…)


寺男(2年前、提督だった私はある日、もうすぐケッコン可能レベルに達するはずだった金剛や榛名、北上、天龍、扶桑、利根に『人間の女と浮気をしている!』と突然言われ、証拠として私が物置部屋兼趣味の部屋に借りていたマンションに入っていく私と人間の女性らしき二人が手を繋いでいたり、キスをしている写真を見せられた)


寺男(私は人間の女にモテないし、浮気などしていない!何かの間違いだ!と説明したが、艦娘達にその部屋の事を言ってなかった事や、写真に日付が入ってなかった事、さらに写真の男が私によく似た服を着ていたが災いして、私は彼女達とその姉妹艦、その他多数に制裁という名の暴行をされた挙げ句、辞表を書かされてすぐに鎮守府を追い出された)


寺男(あの時の皆の眼は忘れられない。悲しみと憎しみに満ち充ちた眼で罵声を浴びせ、殴り、蹴るその姿は、普段見ていた姿とはまるで違った。それだけ私に対する愛情と信頼を裏切られたと感じたのだろう)


寺男(わずかな荷物と共に訳もわからず失意のうちに故郷に帰るも、鎮守府から連絡がいっていたらしく、家につくなり親から『この親不孝者!二度と帰ってくるな!』と罵られ、そこで心が壊れた私は日雇いの仕事をしながら全国をさすらうようになった)


寺男(そして壊れた心が限界を越えた時に『死のう』と思って冬の雪深い時期の山奥に向かい、死に場所を探していた時に住職様に出会い、話を聞いてもらっているうちに住職様の温かさにふれて、『この方のお世話をしたい!』と思うようになって、願い出て、名もなき1人の寺男として住職様に仕え、生きてきた)


寺男「どうして今さらになって…」





ーーー


寺男「ですから先ほどから…」


『そのような事はできません、失礼します』


プツン!プーッ、プーッ……


寺男「はあ…」


寺男(事故から2日、未だに意識の戻らない大淀を何とかするために、あちこちの鎮守府に連絡して迎えにくるか、高速修復剤を送って欲しいと頼むが、いずれもまともに取り合ってくれない。私が元いた鎮守府はかけにくいから連絡していないけど)


寺男「やはり大淀の目が覚めるまで待つしかないか…」


住職「かなり難儀しているようじゃな」


寺男「住職様…」


住職「じゃが、焦ってはいかんぞ?物事は最後こそが肝要、それまでは牛のようにゆっくり確実に、最後は積み上げたものを馬の如く早く軽やかに動かすのじゃ」


寺男「はい…」


住職「さて、今日はワシも検査と持病の薬をもらいに病院に行くから準備を…」


ガラガラ!


??「ごめん下さい」


寺男「はーい、どちら様…」


寺男「き、き、霧…島…」


霧島「お久しぶりです、提督」


寺男「ど、どうしてここに?ハッ!いや、そんな事よりも…」


霧島「大淀さんの事ですか?昨夜目が覚めた大淀さんからこちらに連絡がきて、病院に高速修復剤を届けてきましたのでもう大丈夫です」


寺男「そうか、よかった…」


霧島「それよりも…提督」


寺男「?」


霧島「誠に……誠に申し訳ありませんでした!」土下座


寺男「はい?おい!ちょっと!霧島!やめなさい!そんな玄関でいきなり何をしている…」


ガラガラ!


大淀「提督!」


寺男「大淀!よかった!霧島を何とか…」


大淀「大変申し訳ありませんでしたー!」土下座


寺男「あーもー!二人して何なんですかいきなり!?」




ーーー


霧島&大淀「「すみません、取り乱しました」」


寺男「全く…それで?どうして私を訪ねてきたのですか?いや、それ以前にここにいる事は親ですら知らないのになぜ私の居場所がわかったのですか?」


大淀「実は…秘密裏に貴方にはGPSによる監視がついていたのです」


寺男「な!」


大淀「これは退役して10年以内の元提督に必ずつくもので、テロリストや諸外国の工作員に利用されないようにするための処置なのです。どうかご理解をお願いします」


霧島「監視といっても居場所を把握しておく位が限界で、後は放置に近い状態でしたが」


寺男「そうですか、それはわ、わかり…ました」


霧島「?提督、どうかなさいましたか?」


寺男「………なんでもありません(本当は鎮守府で制裁という名の暴行をされた時に恐ろしい顔つきで顔面にヤクザキックかまされて以来貴女は恐怖の対象なのですが…話を進める為に我慢しましょう)」


寺男「で、私に何の用ですか?今日は住職様と病院に行かなければならないので申し訳ありませんが手短にお願いします。未払いの給料でもありましたか?」


霧島「それは……」


大淀「…提督、貴方の容疑がはれました」


寺男「は?」


霧島「提督が金剛お姉様や他の艦娘以外に人間の女と浮気をしていたという容疑がはれたのです」


霧島「エリート提督を覚えていらっしゃいますか?」


寺男「ええ、同期の中でもかなり優秀な男で何もかもが飛び抜けていました。今ごろは同期の出世頭に」


霧島「7日前に住居不法侵入で逮捕されました」


寺男「はあ!?なぜ!?酔っ払ってでもいたんですか!?」


大淀「いえ…素面で他人の部屋を…その…浮気している女性との密会の場にしていたそうで…」


寺男「確か私が退役する2年前に海軍のお偉いさんのお嬢様とリアル結婚して子供もいたはず…なにやってるんですかあの人は(ハア…)」


大淀「聞いた話によるとエリート提督と浮気相手は結婚以前から関係があったそうで、今エリート提督家とお偉いさん家は大混乱しています」


霧島「まぁそれはおいておくとして」


霧島「通報したのは20代のキャリアOLさんで、普段家にあまり帰らない事が多く、予定はカレンダーに記入していたので、エリート提督はそのカレンダーを参考に合間をぬって使っていたそうですが…その日はOLさんの仕事の予定が全てキャンセルになってしまったので家に帰ったら灯りがついていて知らない男女が…その///窓辺で///」


寺男「イチャイチャしていたと…(ハア…)」


霧島「OLさんはあわてて警察に通報して二人は身柄を拘束されたそうです」


霧島「問題はここからです。取り調べに対して『前の住人がいた頃から使っていた』そうです。そしてOLさんが住んでいる部屋はかつて貴方が物置部屋兼趣味の部屋にしていたあの部屋です」


寺男「そ、そんな!どうやって!?あの部屋の鍵を!?」


霧島「……その事で…そのせいで…今、鎮守府は最悪の事態に陥っています…」


大淀「その部屋の鍵は…我が鎮守府の……比叡さんからもらったんだそうです」


寺男「………ゴメンなさい、頭が真っ白で理解が追い付かないです」


大淀「警察から大本営に、大本営から鎮守府に連絡がきた時、取り調べを受けた比叡さんは『提督にお姉様を取られたくない一心で、その当時、もうすぐケッコン可能レベルになる艦娘を姉妹に持ち、提督に姉妹を取られたくない山城さん、大井さん、龍田さん、筑摩さんと共謀して提督を追い出そうとして提督の鍵を盗み出して複製を作り、エリート提督に渡し、二人が出入りしている所をわざとわかるかわからない位の画像レベルで撮影して、提督に浮気の罪を擦り付けたんだそうです」


霧島「現在あのゴミ虫(比叡)及び共謀した連中は全員鎮守府の隔離部屋にて謹慎中ですが、裁きは避けられないでしょう」


寺男(姉をゴミ虫呼ばわり…)


霧島「ですが…事情聴取の際に『私は比叡を信じていマース!』と言って同席していた金剛お姉様があまりのショックで寝込んでしまい…」


霧島「榛名はその日から破り捨てていた提督の写真をテープで直して壁に張り付けて居もしない提督に話しかけ」


霧島「扶桑さんは酒浸りになり」


霧島「北上さんは大井さんを全殺し寸前まで叩きのめして懲罰房行き」


霧島「天龍さんは、毎日出撃して大破寸前になって…皆が止めても『アイツはもっと辛く苦しかったはずだ、悲しかったはずだ、この程度じゃ足りない!』と繰り返し…」


霧島「利根さんは…普段は普通なのですが、『あやつ(筑摩)がくれたものなど要らん』と部屋にあったものを捨てて何も置かなくなってしまって布団すらありません。今では夜は床で寝る始末…」


霧島「その他制裁に加わった娘達も様子がおかしくなって…」


寺男「かなりヤバい状態じゃないですか!?今の提督は何をしているんですか!」


大淀「育成の為に若手の提督が配属されたのが災いして、皆が言うことを聞かず収集がつかなくなっていて…」


寺男「まるでパズルゲームみたいな負の連鎖が起きていますね…」


大淀「ここまでの事態になった以上、恥知らずなのは承知の上ですが…」


霧島「…お願いします!鎮守府に戻って皆を助けていただけないでしょうか?」


寺男「………ちょっと外へ出ましょう…」



墓場


寺男「これを見て下さい」


『寺男之墓』


大淀「貴方のお名前が書かれた…」


霧島「しかもまだ新しいお墓」



寺男「………ここには私が提督だった頃のものを埋めてあります。…私は…提督としての私は…もう死にました。それに私でなくても大本営がどうにかして下さるでしょう?私の出番など、有りはしません」


霧島「そんな!」


大淀「お願いします!戻っていただけるならこの大淀、一生を貴方に捧げ…」


寺男「お引き取りを…これ以上は頭が破裂しそうです。どう受け止めたら良いやら…」


寺男「お願い……します…今は…」


寺男「……そろそろ行かねばならないので、これで失礼します。では」


大淀「ま…待って下さい!」


霧島「大淀さん、今は…」


大淀「う…ウウッ!グスッ!…」



ーーー


寺男「住職様、お待たせしました、さぁ、まいりましょう」


住職「…迷っておるな?」


寺男「……」


住職「許せぬ気持ちと助けてやりたい気持ちがせめぎ合っておる。違うかのう?」


寺男「住職様、私は…」


住職「寺男や…我らが仕えし御本仏様はいかなる悪人をも救わんとその御手(みて)を差しのべて下さる。その御手を見つけて掴むか離すかはその者次第じゃがな」


住職「寺男よ、迷うならば救ってから迷うべしじゃ。相手が居なくなっては何も言えぬし、全てが取り返しがつかなくなるぞ」


寺男「……住職様」


住職「今日までおぬしがいてくれた日々は楽しかった。なれど今おぬしは多くの人に必要とされる身、ワシの事は気にするな!行って来なさい!」


寺男「住職様…はい!」


住職「さあ行け!寺男、いや、『元戸利合鎮守府提督』よ!」


元提督「行ってまいります!」


タッタッタッタッ…


住職(合掌)「御本仏様…どうか彼の者に御守護を…」



ーーー車にて移動中


元提督「やれやれ、軍服を掘り出してシワを伸ばすのに時間がかかってしまいましたね。しかし…今さらこれを着ても良いのでしょうか?」


大淀「金剛さん達を元に戻すには必要ですから問題ありません!」


霧島(運転中)「それよりも、お久しぶりのそのお姿、お似合いですよ」


元提督「な、何だか気恥ずかしいですね///」


大淀(提督……先ほど言いかけた『一生を…』の続き、終わったら…聞いて下さい!)


霧島(金剛お姉様、今提督が行きますから、待っていて下さいね!)


ピーッ!ピーッ!ピーッ!


ガチャ!


大淀「こちら大淀、どうぞ」


??『その声は大淀か!身体は大丈夫なのか!?』


大淀「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした、長門秘書艦」


元提督(長門?私の頃には居なかった娘が秘書艦…時代は進んで行くのですね…)


長門『そうか、何よりだ』


霧島「長門秘書艦、こちらは元提督に同行していただいてそちらに向かっています。そちらの様子は如何ですか?」


長門『最悪以外の言葉がない!北上にボコボコにされて入院中の大井を除いた比叡、龍田、山城、筑摩の4名が部屋から脱走して執務室で提督と吹雪を人質に立て籠っている!』


「「「えーーーー!?」」」


霧島「そんな…やっとここまでという所で…」


大淀「トラブルのおかわりはもう…いっぱいです…」


元提督「何やってるんですかあの人達は…頭が痛くなってきましたよ…(ハア…)」


長門『とりあえずまだ他所には他言無用で頼む!なるべく我々だけで収束させなければならないからな!」


元提督「言われなくても言えませんよ…」


霧島「長門秘書艦、立て籠るという事は、逃亡のためのお金や車の用意など…何かあちらから要求があったはずですが、それらはありましたか?」


長門『タイムリーな事に元提督、つまり今お前達がこちらに連れてこようとしている人物の引き渡しだ!』


大淀「それはまた…」


霧島「今鎮守府に元提督を連れて行ったら…『鴨がネギ背負ってやってきた』どころの話ではありませんね…とりあえずどこかで一時停止して終わるのを待ちましょう」


元提督「いえ、時間が長引けばいずれ他所に情報が洩れますし、何より人質が危険です。それに解体と懲役暮らしが確定していて、今さら失うものの無いあの人達は何をしでかすかわかりません、ここは急いで行きましょう!」


大淀「しかし…」


霧島「……わかりました」


大淀「霧島さん!?」


霧島「元提督……」


元提督「何ですか?」


霧島「連中の狙いは間違いなく…」


元提督「私の命でしょう。殺したところでたかが2~3年の懲役のオマケがつく位なら彼女らにとっては安い代償ですからね」


霧島「……この霧島、万が一の時は、あれらと相討ちして黄泉路のお供をいたします、お忘れなきよう」


大淀「!わ、私も同じくです!」


元提督「ならば死ぬわけにはいきませんね。こんな美人を二人も道連れにはできませんから」


大淀「ちょ!?///」


霧島「び///美人なんて///」


元提督「さぁ、急ぎましょう!あまり時間はありませんよ!」


霧島&大淀「「り、了解!!」」


元提督(……待っていなさい、今日限りで必ず落とし前をつけさせてもらいますよ!)



ーーー戸利合鎮守府執務室


ゴギン!


現提督「ああがああ!!」


ドサッ!


吹雪「し、司令官!司令官!」


龍田「あらあら~、顎を外しただけなのに~…そんなに痛い?ウフフフフフ♪」


筑摩「フフフフ……足やら腕やら命に関わらない関節を外してあげただけで、糸の切れた操り人形みたいになってますね♪」


山城「関節を…」


ゴキッ!


現提督「ングア!」


山城「はめて…」


ゴギン!


現提督「ンギイ!」


山城「また外して…ふ、フフフフフフ……愉悦だわ…」


吹雪「も、もうやめて下さい!それ以上は司令官が!」


比叡「駄目です。今縛られている貴女のかわりにこの男が私達の暇潰しに付き合ってくれているんですから、貴女はその眼をよく見開いて見ていて下さい?見ていなければ…」


比叡「この男の眼が私の指で『プチっ』と潰れますよ?(ニヤリ)」


現提督「ンー!フゥー!」


吹雪「し、司令官…グスッ!司令官…ヒグッ!」


比叡「それにしてもまだ来ませんかねー?アイツは」


龍田「仕方ないわよ~♪あの男、山の奥にいるって話だったから~少しの時間は許してあげましょ~♪」


比叡「ま、来なければ来ないでこれ(現提督)で暇潰ししていればいいだけですし、もう少し待ちますか!」


山城「フフフフ…今度は指の関節を……イッてみますか…」


現提督「ンアガガカア!ハアアア!」


ゴズッ!ボギュッ!


提督「ンアガガカア!」


ピク…ピク……


吹雪「司令官…なんで…こんな…」


ジリリリリリリン!ジリリリリリリン!


比叡「?電話?」


龍田「誰かしら~?」


ガチャ!


筑摩「……はい」


『その声は……筑摩ですか?』


筑摩「あら、誰かと思えば艦娘にも親にも見捨てられた能なしさん。お久しぶりです♪」


元提督『ええ、お久しぶりですね』


比叡「今どちらにいらっしゃるんですか?もう退屈で退屈で…オモチャも遊び飽きてしまいました」


元提督『もうすぐ鎮守府前に着きますよ。それより人質は無事でしょうかね?』


龍田「吹雪ちゃんは無事よ~♪でもオモチャ(現提督)の方は関節外されて絶賛気絶中だけど~♪」


元提督『少なくとも仲間たる艦娘に手を出さないあたりはまだ多少の理性は残っているようですね、少し安心しましたよ』


比叡「全ての元凶たる貴方にそんな事を心配されるいわれはありません!」


元提督『元凶?私が?』


比叡「そうです!貴方が私達から金剛お姉様を…榛名を、天龍さんを、北上さんを、扶桑さんを、利根さんを奪おうとした事が全ての元凶であり、貴方が居なければ皆が幸せだった!」


龍田「天龍ちゃんはいまだに貴方に洗脳されたまま…いつ沈んじゃうかわからない状態なのよ~?天龍ちゃんをそんな風にした貴方を…ウフフフ…ぜーったい…許さないから~♪」


筑摩「利根姉さんも、貴方に洗脳されて、その後遺症に日々苦しんでいます、なのに貴方はのうのうと生き永らえている…生かしてはおけません」


山城「私には扶桑姉様しかいない…私には…貴方は…消えて下さい、この世から」


元提督『いいでしょう』


比叡「ヘ?」


元提督『私の命が欲しいのでしょう?くれてあげますから取りに来なさい』


元提督『窓から外を見なさい、エンジン付きのゴムボートがありますね?乗っている人を良く見て下さい』


龍田「あら~?電話してる人が…あら、貴方じゃない~」


元提督『元とはいえ提督ですからね、鎮守府を私の血で汚すのは不本意ですし、どうせお互いに最後なんですから海で…貴女達のフィールドで、終わらせようと思いましてね。それに最後ぐらい主砲をぶっぱなしておきたいでしょう?沖合いならば演習と言えば周りにバレませんし、鎮守府は穏便に済ませられるし、貴女達も余計な懲役くらわなくて済む、依る部を全て失い、最早どこにも居ないもの扱いな私以外には得しかない条件ですよ』


比叡「怪しいですね、何か企んでいるんじゃないですか?」


元『私にはそんな企みなどありませんよ。何か企むにしても急拵えの付け焼き刃で役にたったものは無いと相場が決まっています。それに…』


比叡「?」


元提督『いい加減この世にも飽き飽きしました。私を受け入れない世界なんて、こちらから願い下げですよ』


比叡「プッ!フフッ!アハハハハハハハハハハハ!アハハハハハハハハハハ!」


元提督『な、何が可笑しいんですか!』


比叡「ヒーッ!ヒーッ!あーお腹痛い!アハハハハハハハハハハハ!」


比叡「最後の最後でようやく悟りましたか!自分の存在自体の罪と無価値さを!いいでしょう!せめてもの情けで、この比叡の主砲でその惨めな人生を終わらせてあげましょう!」


元提督『…先にいつもの演習海域に行ってますよ、そこなら怪しまれないですからね』


龍田「ウフフフ、海水で首を洗って待っててね~♪」


筑摩「利根姉さん…必ず貴女の心を救ってみせます!」


山城「フフフフ……」


元提督『では、のちほど』


比叡「フフフフ……もうすぐ、もうすぐ金剛お姉様は安心して私の元へ…そして愛の共同生活を…キャー♪待っていて下さい!金剛お姉様♪」



ーーー演習海域


元提督「ふぅ…」


ドカーン!バゴーン!


元提督「遠くから砲声…思った通り、追跡を断つ為に工廠を砲撃して使えなくしたようですね」


元提督(さてこの勝負…鬼が出るか蛇が出るか、無傷じゃすまないかもですね…)


元提督「住職様…先に逝ってしまったら…すみません」


ザザーン…ザザーン…


元提督「何とも穏やかな波だ。天気もバッチリ、正に…」


比叡「絶好の死にびよりですね!」


龍田「お待たせしました…あら~?少し痩せました~?」


筑摩「辞世の句は読みましたか?なければ後付けで書いてあげますよ?」


山城「今日は……よい日ね…」


現提督「あ、あが……」


元提督「……現提督まで連れてきたんですか?」


ヒョイ!ドサッ!


元提督「うわっ!いきなりこちらのボートに投げないで下さい!危ないでしょう!」


比叡「私達が出るまで人質は必要でしたし、かといって吹雪ちゃんを使う訳にもいきませんしね。ちょうどいいからまた金剛お姉様に手を出しかねない悪の芽は摘んでおこうと思って連れてきました!」


元提督「それはまた念入りな事ですね…」


比叡「それにしても妖精さん達にはびっくりしましたね!てっきり演習弾を仕込んであるかと思ったら皆実弾でしたよ!」


龍田「お陰で確認する手間が省けたわ~♪」


筑摩「さて、おしゃべりはこの位にして…龍田さん?」


龍田「はーい、爆雷投下♪」


ヒョイヒョイ!ヒョイ!


ドゴーン!バゴーン!


バシャーン!


比叡「潜水艦対策はしておきませんとね」


元提督「くっ!……」


龍田「あらあら~その顔は…図星、かなぁ~?ウフフフフフ」


比叡「貴方ごときの浅知恵では私達は倒せませんよ?」


山城「フフフフ……愚かね、救えない」


比叡「さて…私は貴方と違って優しいですからね、約束通り貴方を主砲で木っ端微塵にしてあげます!」


元提督「やれやれ…現提督、すみませんね。貴方を巻き込んでしまって」


現提督「フゥー!フゥー!」


元提督「せめて最後ぐらいは寂しくないように一緒に逝ってあげますよ」


比叡「それではさよならです!…気合い!入れて!撃ちます!」


ドガアーーーン!!


比叡「あ、あが…な、何で」(大破!)


龍田「ど、どういう事!?」


筑摩「そんな!さっきまでは何とも…」


山城「クウッ!死になさ…」


龍田「待っ…」


バギャーン!


山城「きゃあ!」(大破!)


元提督「やれやれ…狙いが外れてしまいましたね」


龍田「…もしかして…」


元「本来ならば貴女達に一斉射撃してもらって全員暴発KOを狙ったんですがね。まあ戦艦二隻ならお釣りがきますね」


筑摩「貴方という悪魔は…!」


元提督「おっと、撃たない方がいいですよ、暴発する弾がどれかなんて、私も知らないんですから(ニヤニヤ)」


龍田「あらあら~やられたわね~。でも、忘れてなーい?私の得物、白兵戦もできるのよ~?」


元「ええ、忘れてないですよ、だから…」


バスッ!


龍田「えっ?」


ボチャン!


龍田「わ、私の武器が…海の底に…」


ザバーン!


元提督「ナイスショットですよ、イムヤ」


イムヤ(スキューバダイビング装備)「この海のスナイパー、イムヤにかかれば水中銃だってお手のものよ!」


龍田「ゴムボートの下に潜ませて…いたなんて…」


元提督「龍田…艦娘や深海悽艦に現代兵装は確かに通じません、しかし…」


元提督「こういう芸当ぐらいは、できるんですよ?(ニヤリ)」


イムヤ「ちなみにもうすぐオリョールからの武装した遠征組がここに合流するけど…まだやる?(ニヤリ)」


筑摩「……」


龍田「……」


元提督「………勝負あり、って事でいいようですね」


比叡「お……覚えて…なさ…」


元提督「何ですか?恨み言なら塀の中で言いなさい。最も解体される際に記憶も消されるでしょうが」


比叡「ふえっ!?」


元提督「解体の際、記憶を残すか残さないかは個人の判断に委ねられるのですが…これだけの事をしでかしては強制で記憶を消去されるでしょう。言ったはずですよ、『終わらせよう』と。もう会う事もないでしょうが、お元気で」


比叡「……クソオ嗚呼ああアア亜亜痾痾痾!!!!!!!!」



ーーーこうして、比叡を含む4名は後から来た遠征組によって武装解除され、その後退院した大井を含めて全員が懲役の後、解体、記憶消去を受け、全ては終わった……



元提督「………かに思えたんですがね…」


元提督(事件終結後、心を病んだ金剛達のケアをはじめ、暴行された挙げ句、関節を外されて、痛みのショックでこれまた心を病んだ現提督が吹雪を世話役として伴って長期入院になり、だが提督の数が足りないという理由で、大本営から任命され、仕方なく一時復帰という形で私が再び戸利合鎮守府に着任した)


提督(始めは大変だった。古参の皆は私と顔をあわせる度に泣き出すわ、謝罪しまくるわ、お詫びと称して寝床に忍び込むわでロクに眠れませんでした)


提督(ですがその甲斐あって心を病んだ金剛をはじめ、榛名、天龍、扶桑、利根、その他おかしくなっていた艦娘達は本来の姿を取り戻しました。これで後は現提督が戻ってきてくれれば、私はお役御免となり、再び住職様の待つ寺に帰れる…はずなのですが…)


執務室


カリカリカリカリ……


提督「大淀、この書類を大本営に送ってください」


大淀「はい、畏まりました!」


提督「フフフ…毎日元気ですね」


大淀「いつまでも落ち込んでいられませんから!(それに私はこうやって常に提督のお側に居られる!こんな幸せを1秒でも無駄にしたくありません!)」


大淀<●><●>(提督…お約束どおり、この大淀は貴方に一生を捧げます、だから…)


提督「(ゾクゾク!)ン?な、何か寒気がしますね…」


バーーーン!!


金剛「ヘーイ!テートクゥー!貴方の愛しいスゥイートハニーが今帰りましたヨー!一緒にティータイムにするネー!」


榛名「提督、榛名がお迎えに参りました。さぁ、まいりましょう?」


霧島「提督の執務休憩時間はバッチリ計算済みです!」


天龍「おっ、提督!間宮行くぞ!今日こそ限定パフェ食おうぜ!!」


北上「提督~魚雷磨き手伝って~」


扶桑「提督、今宵は扶桑と一献如何ですか?」


金剛<●><●>「ヘーイ皆さーん!テートクは今から私とティータイムネー!ソーリー!」


榛名<●><●>「金剛お姉様…『私達』の間違いですよ?」


霧島<●><●>「ウフフフ、お姉様は慌てん坊さんですね?」


天龍<●><●>「寝言は夢の中で言えよ?お前らのティータイムは昨日やったろ…今日は俺と第6のチビ達との日だ」


北上<●><●>「チッ、あの眼帯軽巡とウザイ駆逐ども…」


扶桑<●><●>「では扶桑は夜をお待ちしていますね♪(そして酔い潰したら…既成事実を!)」


大淀<●><●>(チッ!私と提督のラブラブタイムを邪魔するなんて!)


提督「あれ?やけに寒いんですけど、クーラー入れました?」


ジリリリリリリン!ジリリリリリリン!


提督「はい、戸利合鎮守府執務室」


利根『提督か?我輩じゃ!』


提督「利根?どうしました?貴女は今日非番でしょう?」


利根『ちょっと買い物しておったら荷物が多くなってしまった!迎えに来るのじゃ!』


提督「今はちょっと…」


利根<●><●>『来てくれたら今目の前にあるお城のようなホテルで我輩と休むのじゃ!最近提督は働きすぎじゃからな!我輩のせめてもの心づかいじゃ…」


提督「えーと…」


天龍<●><●>「代われ提督。もしもし!いい加減に1人で帰って来れるようにしろ!以上!」


ガチャン!


天龍<●><●>「よし、わがまま娘はこれで!」


ジリリリリリリン!ジリリリリリリン!


ガチャ!


天龍<●><●>「もしもし?」


利根『貴様の意見は…』


天龍「ウチはラーメン屋だ!間違えんじゃねえ!」


ガチャン!


天龍<●><●>「しばらくは電話とるなよ?あのわがまま娘は一度痛い目みなきゃわかんねーんだから」


提督「は、はい…(何故か比叡達と戦った時より緊張している!)」


提督(住職様…結局…私は、新しい修羅場に飛び込んでしまったようです)


金剛<●><●>「テートクはティータイムが良いですよネー?」


榛名<●><●>「提督…榛名は信じていますから、大丈夫です!」


霧島<●><●>「提督?書類は後でこの霧島が手伝いますから是非とも私達と…」


天龍<●><●>「おい提督!さっさと行こうぜ!


北上<●><●>「じゃあ私も行こうかなぁ~?」


大淀<●><●>「如何なさいますか?提督?」


提督(嗚呼…誰か助けて下さーい!)








ーーー終わり


このSSへの評価

8件評価されています


SS好きの名無しさんから
2019-04-29 20:33:48

SS好きの名無しさんから
2018-10-08 02:55:18

SS好きの名無しさんから
2018-07-25 13:53:55

SS好きの名無しさんから
2018-07-09 20:43:27

SS好きの名無しさんから
2018-06-14 07:15:45

SS好きの名無しさんから
2018-06-13 01:33:16

SS好きの名無しさんから
2018-06-06 14:53:39

yuhiyuさんから
2018-06-06 10:53:09

このSSへの応援

5件応援されています


SS好きの名無しさんから
2019-04-29 20:33:49

SS好きの名無しさんから
2018-10-23 07:54:51

SS好きの名無しさんから
2018-06-14 07:15:49

SS好きの名無しさんから
2018-06-06 14:53:40

yuhiyuさんから
2018-06-06 10:53:10

このSSへのコメント

7件コメントされています

1: 罪人 2018-06-06 02:39:41 ID: Uf40dtvV

他の作品もそうだけど、おもれぇなw
オトコ達の鎮守府シリーズは特に好きです
キャラが濃過ぎるぜ(称賛)

2: ムフロン 2018-06-06 06:46:00 ID: ZfbeuLmO

罪人氏、ご覧いただきありがとうございます!

オトコ達シリーズも頑張っていきます!

3: SS好きの名無しさん 2018-06-07 19:33:57 ID: RQ13pUaI

首謀者組がやらかしたことに比べるとずいぶん制裁がぬるいっすな。

4: ムフロン 2018-06-08 04:23:12 ID: j2ZfopQq

3氏、ご覧いただきありがとうございます!

確かに後から考えたらぬるいとは思いました。まぁそこは助けてくれた住職の普段からの説法で憎しみ等がかなり抜けていたとお考えください。

5: SS好きの名無しさん 2018-06-08 17:07:43 ID: AbBsIqEh

ウチはラーメン屋で草を生やすのを我慢出来なかった…。

6: ムフロン 2018-06-08 20:26:06 ID: LMiJ7OkY

5氏、ご覧いただきありがとうございます!

今まで筑摩に任せっぱなし天龍さんなりの自立の為の愛の鞭とお考えください(笑)

7: ムフロン 2018-06-08 20:29:20 ID: LMiJ7OkY

↑誤爆失礼しました。

今まで筑摩に頼りきりな利根を教育する為の愛の鞭とお考えください(笑)


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください