2018-07-13 18:59:49 更新

概要

人類で初めて艦娘に邂逅した現元帥さんと、その養子として育てられ、元帥の思惑によって元ブラックな鎮守府に配属されてしまう仕事だけは出来るボケっとした新提督さん。彼らがシリアスな展開の中で艦娘と打ち解けつつ最後にはほのぼのとしたラブコメを展開していけたらなと考えております。初投稿ですので、その点はご配慮ください。


前書き

この作品は多少のグロテスク描写やシリアスがメインとなりますが作者がそれだと心が病むので場にそぐわないぽんこつ提督にボケ役をしてもらう作品となります。
他に、キャラ崩壊・独自解釈・設定改変なども何点かあるのでご注意ください。
個人的にとても内容を深く書きいってしまうタイプなので、かなり長引くと思いますが気長にお付き合いいただけると幸いです。
無事Part1を終えることが出来ました…
もし気に入って頂けたのなら、同サイトにてPart2をあげていくのでそちらの方にもお付き合い下さいませ。


ープロローグー


深海棲艦、それは自然災害のようなものだ。


突然海から現れ、人間をただただ蹂躙する化け物。


化け物なんて言ったが、容姿が少女のような個体もいる。いや、容姿がどうだろうと関係ないか。


あるものはあれは神だ、神がついに人類に裁きを下しに来たんだなどと崇め。

またあるものは世界の終わりを悟り全てを悲観した。

しかし、軍隊は深海棲艦を倒すべき敵だとし戦いを挑んだ。


深海棲艦が初めて姿を現してから半年後、人類は戦力を強化し深海棲艦迎撃作戦を決行した。

作戦内容などの細かいことは無意味なので省いてしまおう。


結果はいたって簡単。人類の大敗だ。


理由も単純で、人類側が用意した兵器や武器の類が一切効かなかったからである。

文字どうり効果なし、傷のひとつもつけられなかった。


その作戦から生還を果たした人間は後にこう語る。


兵隊「あいつら、笑ってた…俺達を殺しながら笑ってたんだ。あいつらは悪魔だ。おしまいだよ、おしまいなんだ…」


その作戦は民衆の混乱を防ぐため公に公開されることは無かったが、情報とは漏れるものである。


裏ルートから流出した情報は噂となりどんどん広がっていった。そして、その内容は人類を絶望させるには充分すぎる内容だった。


そんな時だった、突然ある海軍施設に妖精が現れたのは。


現れたといってもある1人が視認できたというだけで、周囲の人間には見えていなかった。


状況が状況だったため、現実逃避してるくらいなら女でも抱いとけ。なんて周囲に茶化されたりもしたが彼には確かに見えていた。


更に驚くことに彼はその妖精と会話することまで出来たのだ。


そして妖精はこんなことを言い出した。


妖精「深海棲艦に対抗できる手段がある。」


そして妖精は大量の物資が必要だと彼に要求してきた。


海軍でもそれなりに権力のあった彼は、どうせ人類滅びるしいいや~といった風に妖精に要求されたものを渡した。


そして二日後、謎の施設と謎の美少女が彼の前に姿を現した。


?「初めまして!吹雪です!司令官よろしくお願いします!」


彼は状況が理解できなかった。そりゃそうだろう、弾薬やボーキサイトなどを渡した妖精が少女を連れてきたのだ。


というか、司令官とは自分のことなのだろうか…


彼は人身売買や誘拐などを妖精がしてきたんじゃないかと恐怖しつつも[吹雪]と名乗る少女に話を聞いてみた。


結果から言うと、誘拐でも人身売買でも無いらしい。妖精に作ってもらったと言っている。


意味がワカラナイ。人間って性行為でできるんじゃないのか!?と思わず口走ってしまい。

照れる吹雪の前で妖精にセクハラだっ!と頭を叩かれてしまった。痛くはなかったが…


その時、警報が鳴った。慌てて周囲を見回すと友人が駆け寄ってくるのが見えた。


友人「おい逃げんぞ!深海棲艦がついにここにも…って、おい軍施設に女連れ込むなよって学生服!?そういう趣味なの!?」


友人の情報量の多いセリフを聞いて彼は即座に弁明に入る。


軍人「いや、違う違う俺の女じゃないしそういう趣味でもロリコンでもないし深海棲艦も来てな…くないのか。」


吹雪「そ、そんな司令官さんの女だなんて私なんか全然!」


同じタイミングで吹雪も真っ赤になりながら訂正したせいで友人には何も伝わらなかったようだ。


そんな中、彼は状況を飲み込んだ。要はここが襲撃されようとしているのだ。


深海棲艦にも思考能力はあるようで襲撃されるのは軍施設や国家の中枢が多い。


いつかここもターゲットにされるだろうとは思っていたがこんなにも早いとは…


その時横で深呼吸していた吹雪が急によし!と声を上げた。


吹雪「私の出番ですね!ちょっと怖いですけど…頑張ります!」


吹雪はそう言うと謎の建物に向かって走って言ってしまった。


その姿を見ていた友人が首をかしげていたが今は放置することにした。


彼は吹雪を追いかけ謎の建物に入った。

中はホテルのようになっていたが、ホテルには無いであろうカプセルや執務室と書かれた部屋があった。


中を探し回っていると海につながっているところで武器のようなものを装備しようとしている吹雪を見つけた。


吹雪も彼に気づいたようで声をかけてくる。


吹雪「司令官!お見送りに来てくれたんですか?って、あ、すいません…出撃命令が無いと出撃出来ないんでした…私ってば張り切りすぎちゃって。」


彼女はそう言いながら恥ずかしそうに口を抑える。


吹雪「司令官!出撃命令をお願いします」


しかし、そんな可愛らしい動作を取った直後吹雪は姿勢を正すとキリッとした表情で彼にそう言ってきた。


彼の脳内は?で埋め尽くされていた。だって、人類を滅ぼすほどの脅威に少女が立ち向かおうとしているのだ。


普通に考えたら兎がライオンに挑もうとしているようなものだ。意味が分からない。


しかし、彼も吹雪がなにか特別な存在であることはなんとなく察していた。彼はその直感に従い吹雪に告げる。


軍人「許可する。」


吹雪「はい!駆逐艦吹雪、抜錨します!」


吹雪はそう言うと海の上をスキーのように滑りながら大海原に進んで行った。


彼は吹雪が視界から消えるまで立ち尽くしていたが、唐突に自分のしたことの重大さに気付いた。


彼は素性もよくわからない少女を死地へと向かわせてしまったのではないか?と。


彼は思わず吹雪を引き戻そうと走ろうとするが突然目の前に現れた妖精によって阻まれた。


軍人「妖精さんどいてくれ!俺はとんでもないことを!」


妖精「大丈夫ですよてーとくさん。今は吹雪さんを信じてあげてください。」


妖精さんはそう言うと着いてきてくださいと彼を高い塔のような者に誘導した。


妖精「ほら、てーとくさん見てみてください。」


妖精さんはそう言うと彼に双眼鏡のようなものを差し出した。


彼はそれを使い深海棲艦が出現したとの情報があった方角を見る。


そして、彼は深海棲艦と戦う吹雪の姿を見た。


ここの軍施設は大した規模ではない。三つの施設が並んでいるだけの小規模なものだ。

いや、正しくはさっき四つめが増えたのだが…


そのため、深海棲艦も小規模な部隊で進行してきたようだ。小さなワニのような形の深海棲艦が四体。

とはいえ、傷すらつけられない人類にとっては一体でも脅威なのだが。


そんな相手を前に吹雪は戦っている。敵の攻撃を避けて、腕に持った小型化された砲台のようなものから反撃。器用なものだ。


妖精「あれが、艦娘。深海棲艦に対抗するための人類に残された手段です。」


吹雪の戦いに見とれている彼に妖精がそう教える。


軍人「艦娘…」


彼は意味もなくその名を呟いてみる。彼は吹雪の戦いを見ながら様々な感情が渦巻いてるのを感じた。


深海棲艦という脅威に対抗できるという喜び、

なにか触れては行けない領域に手を出してしまったのではないかという恐怖、少女が戦っているのに何も出来ない自分への苛立ち。


そんな彼の葛藤を気にもしないといった風に吹雪の足についている魚雷のようなものが深海棲艦の最後の一体に命中した。


彼は思わずガッツポーズを取ったが、妖精さんと目が合った瞬間拳から力を抜く。


彼は急ぎ足で吹雪を見送った場所へと向かった。


軍人「吹雪さん!大丈夫ですか!」


彼は吹雪が帰ってきた瞬間声をかける。


吹雪「司令官!わざわざ出迎えてくれるなんてありがとうございます!私は大丈夫です!」


吹雪は元気一杯と言わんばかりに答える。彼はそんな彼女を安堵の表情で見つめていた。


そして気づいた。吹雪の服がボロボロになっていることに。


軍人「わわわわわ、ごめん!?」


彼は思わず目を逸らす。中途半端に脱げているせいでかなり刺激的な姿になってしまっていた。

吹雪「へ?司令官?」


吹雪は不思議そうに司令官を見たあと自分の衣服を確認する。


吹雪「きゃぁ!」


自分の状況を理解した吹雪は可愛らしい悲鳴をあげるのであった。

その後、てーとくさんのえっち~なんて言いながらやって来た妖精が吹雪をどこかに連れていった。


妖精2「てーとくさんはこっちカモーン」


声を聞いて振り向くとさっきとは別の妖精が手招きしていたのでついて行くことにした。


着いた場所は先程も見かけた執務室という部屋だ。中には立派な机と椅子が置いてある。


妖精2「てーとくさんはここにお座りくださいな。」


妖精に言われるがまま立派な椅子に座る。フカフカで今にも眠そうだ。


妖精2「それじゃ、色々話させてもらいますね。」


妖精さんの話をまとめるとこうだ。


・ボーキサイトなどの資源で艦娘を作ることが出来るということ。


・艦娘は船の生まれ変わりで同じ名前がつけられているということ。


・この施設は鎮守府でカプセルのようなものが建造ドッグといい、そこで艦娘が出来るということ。


・艦娘は入渠ドッグと言われるお風呂に入ると時間経過で怪我や衣服の損傷が治るということ。


・深海棲艦に対抗する手段は艦娘だけだということ。


・妖精は見える人と見えない人がいて、気に入った人間にしか、例え見えていても近づかないということ。


大まかにまとめるとこんな感じだろうか。頭がパンクしそうだ。


そんな風に話していると扉がノックされた。


吹雪「吹雪です!入室してもよろしいでしょうか?」


彼は妖精を見たが黙ってこっちを見ているので扉に向かってどーぞと声をかける。


吹雪「シツレイシマス…」


吹雪はガチガチに緊張しているようだ。今更感があるが、容姿はやはりどこからどう見ても普通の女の子である。


よく見ると年は中学生くらいだろうか清楚な黒髪が可愛らしい表情に似合っている。


吹雪「あ、あの、司令官…そんなに見つめられるとさすがに照れます…」


軍人「へ!?あ!?ごめん!悪気はないんだ…」


赤面しつつ目を逸らす吹雪に彼は謝罪する。これが人間と艦娘の初邂逅だった。



ー第1節ー


目が覚める、懐かしい夢を見たもんだ。あんな女の子一人にたじたじだった男が今では元帥なんて笑える話だ。


支度をして執務室に向かう。廊下で数人の艦娘にあったので挨拶を返す。


大和「おはようございます、元帥。」


執務室に入ると大和が挨拶をしてくる。俺はそれにおはようと返し椅子に座る。


俺が書類に目をつけようとすると大和が声をかけてきた。


大和「元帥、例の鎮守府ですが本当に彼に任せてよろしいのですか…?」


心配そうな顔で大和は聞いてくる。


例の鎮守府、元ブラック鎮守府は前提督が狡猾だったため、かなり長期間のブラック運営が行われていた鎮守府だ。


艦娘が不遇な扱いを受け、人間に恨みを抱いてるなんて報告も調査団から上がっている。


俺は大和にできるだけ笑顔で返す。


元帥「可愛い子にはたびをさせよってね、まぁ、俺の目が行き届いて無かったのが悪かったからな…。あいつに何かあったら俺も腹を切るさ。」


大和「もう、元帥ともあろう人が簡単に腹をきるなんて言わないでくださいよ。」


大和は呆れたと言った風に返してくる。


妖精さんと出会ってから二十年。今では人間は深海棲艦と対等に戦えている。勿論、艦娘あっての話だが。


俺は吹雪と出会ってから様々な情報を開示し、妖精さんと力を合わせ鎮守府を増やしていった。


それに伴い人類も活気を取り戻し、今では深海棲艦が出現する前と同じくらいにはなった。内陸限定の話ではあるが。


海では今でも深海棲艦と艦娘が激戦を繰り広げている。人間がやることなんて作戦を立てる程度のことだけだ。


俺も色々な功績が認められ元帥になったが、権力がいくらあったところで深海棲艦は倒せない。


そのため俺は艦娘を大切するよう指導してきたが、艦娘を無下に扱ういわゆるブラック鎮守府は絶えない。


鎮守府は増える一方なのでいくら元帥といえど全ての鎮守府の内情を把握するのは不可能だ。


最近もブラック鎮守府の提督を一人追放したが艦娘達のメンタルケアに手を焼いている状態だ。


そこで新人提督である俺の息子をそこに配属することにした。


息子と言っても実の子では無い。深海棲艦に襲撃された際の生き残りの少年を養子としただけだ。


俺は溺愛しているが本人はあまり懐いてくれない。悲しい…


なぜ、そんな息子をブラック鎮守府に着任させようとしているかというと、可能性を感じているからだ。


軍学校で成績首位、過去のトラウマを乗り越えた経験あり、深海棲艦との邂逅経験もあり。


欠点は少し恐怖に対して鈍いところだろうか。


うちの鎮守府の艦娘達は息子が小さい頃から知っているので心配しているが、多分大丈夫だろう。


そう、多分、きっと、なんとか…やっべ、心配になってきた…


ちなみに、今日が息子の着任日だ。だからあんな夢を見たのだろうか。


まぁ、考えてても仕方ないかと思い俺は机の書類に手を付け始めた。



ー第2節ー


人は何故、勉強するのだろうか。それはいい職場を求めるからである。


人は何故努力するのだろうか。それは後に楽をするためである。


しかし、これはなんだ。目の前の就職先である鎮守府はボロボロだ。


いや、建物は古いっぽいけど崩壊したりしてるわけじゃない。だけど、雰囲気がやばい。やばたにえん。お茶漬け食いたい。


朝潮「ここが私たちの鎮守府ですか!司令官!」


親父が書記官兼護衛としてつけてくれた朝潮ちゃんが目を輝かせている。


提督「そうらしいね、随分とボロいけど。」


朝潮「ボロいですけどこの朝潮、司令官となら火の中だろうが水の中だろうがお供します!」


提督「そりゃ心強いな。」


心強いけどやばいよね、日の中で執務とか閻魔かなんかかよ。水は…死ぬな。うん。


ちなみに、この朝潮ちゃん艦というより犬っぽい。忠犬朝潮公だ。


フリスビーでも投げたら取ってくるだろうか。取ってきたら癖になりそうだからやめておこう。


ちなみに、俺が元ブラック鎮守府に着任させられることは前もって知っていた。


知った時にはそりゃあ親父に抗議した。なんでですか!とかWhy!とか色んな言語で聞いた。


返答は全部信じているだった。英語の時はちょっと考えていたっぽいが諦めたらしい。


信じられると悪い職場に飛ばされるらしい。これからは信用のない男を目指そう。


とまぁ、グダグダしてても始まらないので入るとしましょうか。


とりあえず敷地内に入る。建物はいくつかあるようだ。


鎮守府の扉を開け玄関に入った時、石が飛んできた。飛んできたと言ってもそんなに強い力じゃない、園児が積木を投げるようなイメージだ。


朝潮「危ないです司令官!」


それをいち早く察知した朝潮が石を見事にキャッチ…出来ず俺の腹の辺りに当たる。


俺は体制を崩して倒れかけている朝潮を支える。大丈夫ですかねぇ、このボデーガードちゃん。


朝潮「ありがとうございます司令官!お怪我は!」


朝潮が石の当たった辺りを見ながら問うてくる。


提督「大丈夫大丈夫、どっちかというと朝潮のが心配だよ」


いろんな意味でだけどね。


朝潮「私の身まで案じてくれるなんて…流石です!」


駄目だこの子、皮肉とか通用しない子だ。もう帰りたい。


? 「出ていけ…」


石の飛んできた方から声がする。そちらを向くと川内が親の敵を見るような目でこちらを見ていた。


朝潮「何をしているんですか川内さん!この人はこれからあなたの上司になるって…


提督「朝潮、すまないがちょっと下がっててくれ。」


俺は話をややこしくしないように一度朝潮をさげる。


川内は体中に傷がついている。よく見たら左腕が無い、そしてその傷口を右手で隠している。入居で治るとはいえさすがに見ていられない。


ここで、下手に会話をすると地雷を踏みかねないと判断し出来るだけ口数少なく会話を試みる。


どうでもいいけど下着見えてるよ川内さん。腕の傷よりそっち隠そうよ川内さん。


提督「入渠ドッグは使える状況なんですか?」


川内「使えるよ。まぁ、人間様の許可があればだけどね。」


俺の質問に川内は皮肉を含んだ言い回しで答える。下着見えてるけど。


提督「それじゃ、入渠してもらうんで入渠ドッグまで案内して貰えますか?」


川内「は?」


俺の頼みを聞いた川内が間抜けな声を出す。しかし、少し考えるようにしたあと口を再度開いた。


川内「…わかった、こっち…。」


俺と朝潮は黙って川内について行く。入渠ドッグに到着してから中を確認するとここは割と綺麗になっていた。


習ったとうりであれば、入渠ドッグには提督の許可がないと艦娘は入ることは出来ない。一体どんな仕組みなんだか。


提督「そんじゃ、入っていいですよ川内さん。」


川内「…」


川内は少し警戒するように俺を見ていたが、そのあと無言で入渠ドッグに入っていった。


朝潮「なんですか!上官に向かってあの態度は!」


朝潮は頬を膨らませながらそんなことを言っている。こう、なんか小さい子が頬を膨らませる動作可愛いよね。潰したくなる。


そんなことを考えていると、後ろから視線を感じた。


振り返ってみると、そこには傷の残った少女が二人、物陰からこちらの様子を伺っていた。


二人は俺が振り向いたのに気付き、近くの物陰に身を潜めたつもりのようだが片方金髪の子の方のお尻が隠れきれていない。


こんな典型的な頭隠して尻隠さずを見れるとは思ってなかった。無視するのもあれなので、俺はとりあえず話しかけてみることにした。


提督「なにか御用ですか?」


?「ひぇっ…やめて、痛いことしないで…時雨助けて…」

?「盗み聞きしていたのは謝るよ。何か罰を与えるつもりなら僕がなんでも受けるから…だから、その夕立だけでも入渠させてくれないかな…」


二人の少女の名前は夕立と時雨というようだ。


夕立は怯えるように時雨の後ろに隠れ、時雨はそれを庇うかのように俺に一歩迫ってきた。


我ながら最低だとは思うが、時雨のなんでもというワードに一瞬エロいことを考えてしまった。ええぃ、煩悩退散!!


提督「えっと、大丈夫だよ。夕立ちゃん…かな?俺は痛いことはしないから。時雨ちゃんも怪我してるし二人で入渠しておいで?」


夕立「お風呂入っていいっぽい!?って、あ、ごめんなさい…いいんですか…?」


夕立は一瞬目を輝かせたかと思うと、突然下を向いてしまった。なに?この子情緒不安定なの?


そういえば、情緒不安定な子ってメンヘラになりやすいそうですね。このビジュアルでメンヘラ…ありじゃね?


くだらない思考をしながら、不思議そうな顔をする俺に時雨が解説を入れてくれる。


時雨「えっと、前までいた提督が夕立の口調がイラつくっていつも怒っていたから…」


時雨は後味の悪そうな顔でそう言う。その時のことを思い出しているのだろうか。


ぽいって語尾で切れるとか絶対タンスの角に小指ぶつけてタンスに切れる系の人だなと俺は分析する。


どうでもいいけど、キレルタイプってポケ〇ンにいそうだよね。


提督「夕立ちゃん、俺はそんなことじゃ怒らないから安心していいよ。早く入渠しておいで?」


朝潮「そうですよ!司令官は寛大なお人なんです!」


俺のセリフに朝潮もドヤ顔で続く。お前いたんだ。てか、なんでお前がドヤ顔なんだ。


夕立・時雨「ありがとう」っぽい!」


俺のセリフを聞いた二人は嬉しそうに入渠ドッグに走っていった。駆逐艦はかわええのぉ…傷は痛々しいけど。


提督「んじゃ、俺たちはとりあえず執務室に向かいますかね。」


朝潮「はい!」


こうして俺は頼れるぼでーがーどと共に執務室に向かうのだった。



ー川内視点ー


早くこれからの行動を考えないと。


入渠ドッグで傷を癒しながら私は一人悩んでいた。


恐らくあの提督が私を入渠させたのは信頼を得て情報を引き出そうとしているに違いない。


そうでなければ私みたいな低練度の艦娘入渠させて貰えるはずがないのだ。


もし、提督が執務室で艦娘の練度を確認したら那珂を入渠させてもらえなくなってしまう。


私が情報を洗いざらい話して懇願するという手もあるが、資源の無駄だと切り捨てらてしまってはどうしようもない。


でも、これ以上妹のあんな痛々しい姿を見てはいられないのだ。私がなんとかしないと。


いっそ、提督を脅して…いや、それはリスクが高すぎる。


失敗したら私だけじゃなく那珂や神通まで解体されるかもしれない。それじゃ駄目だ。


それよりも前に練度2の私じゃ、提督と一緒にいたあの朝潮にも敵わないだろう。


川内「どうすればいいの…」


思わず絶望が口から出る。その時だった。


夕立「ぽーい!」


時雨「夕立、嬉しいのはわかるけどあまりはしゃいだら危ないよ。」


夕立と時雨が入渠ドッグに入ってきたのだ。


夕立「川内さんこんにちはっぽい!」


時雨「こんにちは、川内さん。」


川内「え、え、うん、こんにちは。二人とも。」


私に気づいた二人に慌てて挨拶を返す。


でもどうやってここに入ったんだろう。それに夕立はぽいって言うのはやめたって…


悩んでも仕方ないので本人に聞いてみよう。それが一番簡単だ。


川内「ねぇ二人とも、どうやってここに来たの?それにその語尾…」


私は途中で言葉を切る。殴られるからやめたんじゃなんてのは流石に言えなかった。


時雨「さっき、廊下で新しい提督さんが許可を出してくれたんだ。」


夕立「その時にぽいって言うのも許可してくれたっぽい!」


川内「へ、へぇ~そうなんだ。」


これは一体どういうことだろう。情報を聞き出すなら私で充分なはず。前提として駆逐の子が情報を持っているとは思わないだろう。


ということは、二人を入居させた理由は別にあるということだ。考えろ私、考えるんだ。


そして、私は一つの可能性を思いつく。もしかしてあの提督は二人に性的な行為をしようとしているのではないか。


そのために入渠させて体を綺麗にさせたとすれば辻褄が合う。


駆逐の子にあんなことやこんなことを…最低だ。でも、逆らったら解体される。


二人に手を出させるわけにはいかない。ここは私が腹を括るしかないだろう。


もしかしたら、満足させれば那珂のことを入渠させてくれるかもしれない。


私は震える体を両手で押さえ込んだ。


夕立「ねぇねぇ、時雨。川内さんなんか辛そうっぽい?」


時雨「多分なにか勘違いしてるだけじゃないかな?ほら、僕達はゆっくり傷を直そう。」



ー提督視点ー


提督「ここが執務室か。」


特に意味もなく口に出してみる。扉には執務室と書いてある。


ちなみに、ここに辿り着くまでかなりさまよった。館内マップくらい用意してほしいよね。


これで開けたら執務室じゃなかったなんてあったらそれはそれでびっくりなのだが。更衣室とかだったら…なんつうか、万歳。


提督「んじゃ、朝潮。いっちょ入りますか。」


朝潮「はい!行きましょう!」


朝潮の元気一杯の返事を合図に扉をノックし、執務室に入る。


中には四人の艦娘がいた。


めっちゃ見られてます。視線が刺さっております。視線を刃物のにする能力者とかいたら俺多分もう大量出血で死んでる。


俺は深呼吸をする。すーすーすー、ほへー。


提督「えー、本日からこちらの鎮守府に配属されました。提督ですよろしくお願いします。」


俺は自己紹介をする。しばしの沈黙…


こう、自分が最後に喋ってから沈黙が訪れると死にたくなるよね。LINEのグループとかだとガチで自殺考える。


長門「…私は戦艦長門だ。前提督の秘書官を務めていた、よろしく頼む。」


少しして長門と名乗る艦娘が口を開く。少し表情は強ばってはいるが話せないわけではないようだ。


神通「えっと…私は神通です。軽巡洋艦です。その、よろしくお願いします。」


扶桑「私は戦艦扶桑です。妹の山城ともどもよろしくお願いします。」


瑞鶴「瑞鶴です…」


長門に続くように三人も挨拶をしてくれる。しかし、瑞鶴はそっぽを向いてこちらに顔を見せようともしない。


朝潮「私は提督の書記官兼護衛の朝潮です!よろしくお願いします!」


瑞鶴「護衛なんて、私たちは随分と信用が無いのね。」


朝潮の自己紹介を聞いた瑞鶴が鼻で笑いながら小声で嫌味を言う。怖い、女って怖い。メンタルの護衛は誰がしてくれますかね?


俺は四人が座るソファーの対面側に腰掛ける。朝潮もそれに習うように横に座った。


とりあえず、グダグダしてても仕方ないので会話を切り出すとしよう。


提督「まず、この鎮守府の艦娘のうち負傷してる子を全員入渠させたいのですが負傷した子を集めたりって出来ます?」


長門「全員か!?全員入れていいのか!?」


俺の言葉に長門がまるで宇宙人でも見たかのような間抜けな声を出す。どうしたのこの人。


神通「えっと、提督が放送室のマイクで呼びかければすぐ集まると思いますけど…」


扶桑「で、でも、大丈夫なんですか…?着任そうそうそんなに物資を使ってしまって…貯蓄分をほぼ使い切ってしまうのでは…?」


長門さんが思考停止したのを察知したのか、神通さんと扶桑さんが俺の質問に答える。扶桑さんの心配も最もだが、今は物資に関してはそんなに気にしなくていいのだ。


提督「あぁ、それなら大丈夫ですよ。元帥からぶんどったのがもうちょっとで届きますから。怪我の酷い子には高速修復剤もばんばん使ってあげてください。」


そう、俺はブラック鎮守府に着任させてくれやがった親父に承諾する代わりに大量の物資を要求したのだ。多量の要求分を真顔で準備された時は流石に驚いたが…


ちなみに、高速修復剤とは艦娘の入渠を促進させる液体のことだ。入渠する、つまり風呂に入る時これを入浴剤のように入れると怪我の治りが良くなる魔法の薬だ。


瑞鶴「は!?はぁ!?元帥からぶんどった!?」


今度はさっきまでこちらを見向きもしなかった瑞鶴が俺を見ながら間抜けな声を出した。


他の三人もすげぇ顔してる。スマホで写メろうかな。ダメですよね。知ってます。


提督「いや、元帥とはちょっと縁があってですね。あんま、気にしないでください。」


あまり、今後は俺と元帥の関係を表に出すのはやめた方が良さそうだ。これまでも俺が元帥の養子だとわかった途端態度が変わった人物も随分といた。


ちなみに、俺がそう答えてる時何故か朝潮がとても誇らしげにしていた。お前なんもしてなくね?今んところ。


提督「それで、多分俺が呼びかけても警戒する子がいると思うから長門さんに皆を入渠するよう言って欲しいんですけど、それでも大丈夫ですかね?」


俺は入渠の指示を俺が直接出さなきゃいけないのかという意味を含めて長門さんに聞く。


長門「あぁ、ここで提督が私に皆を入渠させるのを許可してくれれば問題ないが…」


長門さんは少し考えるようにしていたが、すぐに質問の意図を察し返してくれる。間接的でも提督が許可をすれば入渠出来ると。どんなシステムなんだマジで。


瑞鶴「それでいいんですか~?自分でやった方が好感度上がると思いますけど~?」


瑞鶴さんがいかにも煽るような口調で横槍を入れてくる。瑞鶴さんは俺が好感度を上げるために入渠を許可したと思っているらしい。


アホかこいつは、入渠程度で上がる好感度があるなら入れまくって即ハーレム作るわ。


提督「いや、やっぱり急に来た人間より長門さんのが皆も安心するでしょうしお願いします。」


長門「あ、あぁ!任せてくれ!」


長門はそう言って執務室を出ていった。まさかあんなに嬉しそうな顔をするなんてちっと罪悪感が。


ちなみに、何故俺が最初から皆を入渠させたかというと俺の沽券のためだ。


いや、まぁ、怪我をした女の子を放置するのも充分問題だとは思うのだが。


考えてみてくれ、同じ建物の中を美少女が半脱ぎでうろうろしてるんだぞ?股間に悪すぎる!沽券だけに股間ってやかましいわ!


んで、もしも女性ばかりの職場で股間について気付かれでもしたら…想像するだけで身震いがする。


入渠すると衣服も治るらしいので、とりあえず入渠してもらおうというわけだ。


長門さんが執務室から飛び出した後、しばしの沈黙。話題がない。いや、話さなきゃいけないことはあるんだけどね?


直後、執務室の沈黙を破ったのはスマホの着信音だった。俺は部屋の角に移動し電話に出る。


提督「はい、こちら提督です。」


そういえば、誰からか確認していなかったな。


元帥「よー生きてるかー?」


提督「あ、間違い電話したか。失礼し…


元帥「ちょっと待って待って!間違ってないよ!?」


提督「なんの用だよ元帥…」


元帥「おいおい、二人での会話の時は父さんと呼べと…


提督「あ、なんか電波悪いみたいですね。」


元帥「ごめんって!元帥でいいから切らないで!」


元帥「あれだ!頼まれてた物資運んどいたから報告をだな。」


提督「あぁ、ありがとう…って、自分で運んだの?」


元帥「暇だったからな。」


提督「トラックで物資を運搬する元帥って…」


元帥「そう、哀れみのような声を出すな。やっぱ人の上に立つものは自分から動かないとな!」


提督「言ってることは正しいけどもうちょいカッコいいことしてくれよ…」


元帥「カッコつけようにも書類仕事が基本だからなぁ…」


提督「ほら、深海棲艦に特攻するとか。」


元帥「それ死ぬよな!?」


提督「解体されて物資になるとか。」


元帥「俺人間だぞ!?それにかっこいいかそれ!?」


元帥「…えっと、提督さん怒ってらっしゃる…?」


提督「別にこんな悲惨な鎮守府押し付けられて怒ったりしてませんよ。」


元帥「バイバイ!」


ガチャっという音が耳に響く。逃げやがったあのクソ親父。


俺は先程まで座っていたソファに戻る。


こう、なんだろうか、彼女も出来たことが無い身としては女性とどう話せばいいかわからない。


てか、前提として艦娘って女性なのだろうか。


親父の鎮守府のメンツは俺がガキの頃からの付き合いだったから何にも思わなかったが、いざ初めて会う艦娘となるとどうすればいいのかわからない。


そうです、私がコミュ障です。何が悪い。


扶桑「でも、提督さんが優しい方でよかったです。」


沈黙を破ったのは扶桑さんだった。扶桑さんは非常に大人っぽく色気に満ちた雰囲気を醸し出す艦娘だ。


エッチだ…ご馳走様です。いかんいかん、煩悩退散!!せっかく話しかけてくれたんだから会話を続けないと。


瑞鶴「第一印象を良くして私たちをこき使おうってんでしょ?扶桑さんそんなに簡単に騙されちゃ駄目ですよ。」


俺の考えとは裏腹に瑞鶴さんがまた嫌味を言ってくる。瑞鶴さん?俺も傷つくんだよ?泣いちゃうよ?出来れば扶桑さんの胸で泣きたい。


提督「まぁ、傷ついた艦娘を入渠させるのなんて当たり前のことですし優しいってわけでもないですけどね。」


扶桑「へ?」


俺の返答に扶桑さんが首を傾げる。瑞鶴も神通さんも似たようにしている。


これは不味った。扶桑さんの優しいってのは雰囲気とか喋り方の事だったのかもしれない!


それを俺はてっきり入渠のことと勘違いしてしまった。恥ずかしい!助けて朝潮!


ってなんかこいつうとうとしていやがる!お眠なのか!?お眠なのかァ!?まぁ、可愛いんで許そう。


腹を括って俺は素直に訂正しようと思った矢先、瑞鶴が口を開いた。


瑞鶴「入渠できるのが当たり前って言ったの…?いま…」


提督「は?」


今度は俺が間抜けな声を出す番だった。なんだその言い方は。入渠できるのが普通じゃないみたいな言い方…


そこで、俺はここが元ブラック鎮守府であることを思い出す。正直想像以上だ。


てっきり、大規模作戦の失敗時にでも前提督が逃げ出したせいでみんな傷だらけなんだろうなんて思っていたのだが、さっきの発言から考えるにここでは入渠すらまともにさせてくれなかったのかもしれないのだ。


つまり、彼女たちの中には怪我をしたまま何日も放置された子もいるかもしれないということだ。


ブラック鎮守府を甘く見ていた。まさかここまでとは…


提督「えっと、とりあえず俺は怪我をしたらすぐに誰でも入渠許可出すんで安心してください。」


神通「本当ですか!?練度が低い子でも誰でも入れてくれるんですか!?」


突然、俺の発言に食いついて来たのは神通さんだった。神通さんのイメージとは程遠い本当に驚いたと言った声とともに身を乗り出す。


その声で目が覚めたのか朝潮がおどおどしている。癒されるなぁ…もしかしてこの子、俺のメンタルケアに派遣されたのでは…?


提督「さ、さすがにここで嘘を言うほどクズじゃないですから落ち着いてください神通さん。」


とりあえず、俺は神通さんをなだめるように言う。いやね、座った状態から身を乗り出されるとですね。谷間がですね。


ええぃ、落ち着け。煩悩歓迎!あれ?なんか、違くね?まぁいっか。


神通さんは俺のセリフを聞いて冷静さを取り戻したらしく少し頬を赤らめながら身を引いた。こう、恥じらいと言った言葉が似合う動作だ。


流石の俺でもこの反応には驚いたので、話を聞かないわけにはいかなかった。


提督「神通さん、扶桑さん。この鎮守府はどのような運営方法をしていたのか教えて貰ってもいいでしょうか?」


俺の質問に二人は俯いてしまった。話しにくいことなのだろうか、それとも思い出すのが嫌なのだろうか。


俺が話しにくいなら話さなくてもと言いかけたとき、意外にも瑞鶴が割って入った。


瑞鶴「仕方ないから私が説明してあげる。それでいいでしょ?」


提督「いいんですか?」


瑞鶴「私がするって言ってんだからいいに決まってるでしょ。その代わり二人っきりでなら…だけどね?」


瑞鶴は含みを持たせた言い方で不気味な笑みを浮かべる。怖い怖い、頼れるボデーガードガイレバナー


二人っきり、実に良いワードだ。女の子にこんなの言われたらそれだけで好きになりそう。


まぁ、今の場合は自分に嫌味を言ってくるあからさまに敵対意識を持った相手だけど。殺されんじゃないの俺。


まぁ、怖くないと言ったら嘘になるがここで引いても話は進まないと思い俺は瑞鶴に同意し、三人に別室に移ってもらった。


提督「それでは、話してもらえますか?」


俺は二人きりの執務室で瑞鶴に話を切り出す。


瑞鶴「あんた相当お人好しだね。あんだけ言われたのにホイホイ私と二人きりになるなんて。」


瑞鶴はそう言うと懐からナイフを取り出した。展開早いなぁ…瑞鶴は俺にナイフの刃先を向け、続ける。


瑞鶴「殺されるとか思わなかったの?」


どうやら、俺はここで死ぬらしい。やだなぁ、童貞で死ぬのは。


瑞鶴に頼んでヤラセテもらってから死のうか。多分死に方が悲惨になるだけだな。ははは。


とりあえず、下手に嘘を吐くのも意味がないと思い俺は素直に答えることにした。


提督「超思いましたよ。てか、現に今そうなってるし。」


瑞鶴「へぇ?ならなんで逃げなかったの?」


提督「それは、この鎮守府について知りたかったからですよ。」


瑞鶴「へぇ?知ってどうするの?」


提督「なんとかできるものならなんとかしようと。」


瑞鶴「あんたに何ができるってのよ。」


提督「それは話を聞かないとなんとも。」


瑞鶴「はん、話を聞いたとこであんたに出来るのなんて同情や哀れみくらいなもんよ。そんなのいらない!そんなのもらったって翔鶴姉は帰ってこない!あなたに私たちの苦しみはわからないのよ!」


瑞鶴は叫んでいた。それは悲鳴のようで、怒号のようで、自嘲のような声だった。


とりあえず、まずは説得だ。瑞鶴を落ち着けなければ。俺になんか穴が開いたらその時は笑おう。


提督「わからないですよ。」


俺は静かに瑞鶴の言い分を肯定する。


提督「人の苦しみが分かるなんてのは詭弁です。それがわかるなら人間関係がこじれるわけがないですからね。」


本心から俺はそう思う。他人の喜びもわからないのに苦しみだけ理解したら大損じゃないか。嫌じゃ。


実際のとこ今すぐにでも逃げ出したいのだが、ナイフが首元に突きつけられているので逃げられない。ふえーんままーたすけてー


提督「逆の立場になりゃ簡単にわかります。俺は目の前で深海棲艦に家族を殺された。その苦しみは瑞鶴さんに分かるわけない」


瑞鶴「え…」


首元のナイフから力が抜ける。でもここで行動を起こすのは愚策だ。人間じゃ艦娘の力には敵わない。


提督「だから、苦しみはわからないけど怒る理由はわかりますよ。家族が普通に生きてるやつがですよ?苦しかったよねわかるよ。なんて俺に言うんですよ?」


俺は少し間を開けて瑞鶴の顔を見る。瑞鶴は俺から目を逸らした。


提督「お笑い話ですよね。家で家族で食卓囲ってるやつが俺の苦しみが分かるんだそうです。どんだけ想像力豊かなんだよって。でも、俺はある人に救われた。その人は全然かっこつかなくて馬鹿でダメダメで。ついでにポンコツで、親バカで、人を見る目が無い人です。」


提督「でも、その人は俺が一番つらかった時に俺が家族になってやるって言ってくれたんです。同情するでもなく、憐れむでもなく、ただ笑顔でそう言ってくれた。」


俺は友達にでも話すように通常のトーンで喋る。人は同情を無意識にするものだ。それに賭けてみる。


瑞鶴「黙れッ!」


瑞鶴は声を荒げると俺を床に強引に倒し馬乗りの形で顔の真横にナイフを突き刺した。馬乗りってエッチだよね。


ってそんなこと言ってられねぇわ!怖い怖い怖い。ヘルプミー!


そうでしたね、人間じゃなくて艦娘ですもんね。てか多分これは俺が話過ぎた。途中で辞めるべきだった。


瑞鶴と目が合う。歪な表情、怒っているような悲しんでいるような酷く不安定な顔をしている。そして瑞鶴は叫ぶ。


瑞鶴「良かったじゃん、あんたは救ってもらえたんだから!でも、私たちは…


提督「俺がどうにかする。それで問題解決。」


瑞鶴「へぇ?じゃあ今すぐ翔鶴姉を返してよ、ねぇほら!」


提督「それは出来ない。」


瑞鶴「はっ!それで救うなんてよく言ったものね。呆れて笑えて来るわ。」


どうやら、最終手段に出るしかないみたいだ。九割の確率で刺されるけどまぁもうどうにでもなれ。


説得してダメならこっちも自棄になるしかないじゃない。いぇい。ぶっとんでこーぜー。


提督「お前はいつまで翔鶴に甘えてるんだ?」


瑞鶴「は?」


提督「さっきから聞いてれば翔鶴、翔鶴ってお前は翔鶴がいないと生きていけない病気かなんかなのか?」


俺は煽るように鼻で笑いながら言う。まぁ、殺されたら来世で童貞卒業するよ。カマキリとかになりませんように。


提督「お前はさっきから翔鶴を理由に逃げてるだけじゃねぇか。自分が立ち直ろうともせず翔鶴翔鶴って」


そう、瑞鶴のこれは言い訳に過ぎない。だって俺の家族も蘇ったわけでは無いのだから。


てか、ぶっちゃけマジレスすると蘇ってきたら怖くて多分俺逃げちゃう。


瑞鶴「違う!」


瑞鶴は否定の言葉であろうか、何かを叫びながら俺の左腕をナイフで切りつけた。血が出る。


いや、めっちゃ痛い!!!泣きそう!痛い!助けて朝潮!超痛い!血ドバドバ出てる!!やっべうっはwww


落ち着け、落ち着くんだ俺。平常心平常心。深呼吸深呼吸。実際は大して血は出てないです。


瑞鶴「違う…本当は傷つけるつもり何て…無くて…私…ただ、脅して本音を聞こうと…」


瑞鶴は後ずさりながら俺の傷を見て両手で口を押えている。俺は地面に落ちたナイフを右手で遠くへ押しやり体を起こす。


はぁ、これでやっと一安心だ。瑞鶴が漏らした言葉から察するに彼女は人間を信用してないのだろう。だから、何故か優しくしてくれる俺になにか裏があるんじゃないかと脅してきたわけだ。人間不信の到達点かな?


とりあえずここは一回俺が存命できるプランを出そう。比較的平等なプランを。


提督「瑞鶴、俺を試してみないか?」


瑞鶴「…試す…?」


提督「簡単なことだよ、俺は今からここで提督として色々頑張ってみる。」


提督「その中で、俺が気に入らない行動をするようなら殺せばいい。抵抗するけど俺のが非力だし簡単だろ?」


てか、こんなこと言わなくても殺されそうですけどね。泣きそう。


提督「いや、出来れば追放とかのがいいんだけどね。死にたくないし。」


提督「そしたら、また別の提督がここの鎮守府に配属されるだろうから、その人と仲良くやればいい。今ここで俺をどうにかするのは簡単だろうが、別に俺がどんな風に艦娘を扱うか様子見してからでも遅くないだろ?」


地に落ちた信頼は、口で取り戻すのは不可能に近い。口ならなんだって言えると言われただけですべてぱぁだ。ぱぱぱぱぁ。


だから、ここは行動で信頼を勝ち取るのが最も効率的なやり方だろう。


命がかかっているので俺もそれなりにいい提督を演じないといけないが、嘘もつき続ければなんとやらだ。


瑞鶴「わかった…」


瑞鶴は短く言い、涙を拭う。そして俺の瞳をまっすぐ見つめてくる。


瑞鶴「でも、まだ信じたわけじゃない。今は見逃すだけ、それを忘れないで。でも、その、腕…ごめんなさい。」


瑞鶴は強気に喋りだしたと思ったが俺の腕の傷を見て謝りつつ視線を逸らす。


傷自体は大したもんでもないので完治に時間はかからないだろう。うん、まぁ、悪い子では無いらしい。


提督「気にしてないさ。」


俺はそう言い、執務室の中の救急箱でとりあえず応急処置を済ます。実際問題、片手が無い子に比べればこの程度…


痛いな。うん。痛いわ。俺は腕無くなったことないしね。


提督「それじゃ、この鎮守府の話を聞かせてもらおうか。」


さぁ、一波乱あったけれど俺はやっとこさ本来の目的に入った。




ー川内視点ー


どうすればいいのだろうか。駆逐の子たちを守ろうにも私も初めてだしどうすればいいかわからない。


でもやらないと夕立と時雨が…


私は一人悩み続けている。完全に勘違いなのだが本人は気づいてないようだ。


ちなみに、その夕立と時雨は横で気持ちよさそうに入渠中だ。


その時だった、


駆逐艦達「やったー!お風呂だー!」


なんと大量の駆逐艦達が入渠しに来たではないか。私の懸念は確信に変わる。


やっぱりあの男はロリコンで駆逐の子に手を出そうとしているに違いない。何て最低な男。


私は入渠が済んだので急いで入渠ドッグから出る。これは一刻を争う。駆逐の子たちをあの変態の魔の手から守らねば。


入渠ドッグの出入り口から出ようとすると、そこには艦娘があふれ返っていた。


私は思わず呆然とする。まさかここまで節操無しだとは…女ならだれでもいいのだろうか。いや、艦娘ならか。


とりあえず集団の前方にいる長門に話を聞いてみることにした。


川内「長門さん…これは一体…」


長門「おぉ、川内か探していたんだが既に入渠していたとはな。」


長門「新しい提督が皆を入渠させていいと言ってくれてな。私が皆を連れてきたとこだ!」


長門はとても嬉しそうに言う。使えない子はまともに入渠も出来なかった前に比べれば気持ちはわかる。


でも、長門は気づいていない。あの男の本性に…あの男は変態だとここで言うのもありだが、それではリスクが高い。


解体をちらつかせ脅されたりしてしまうかもしれない。それなら…手段は一つ。


私は執務室に向かった。


長門「お、おい、川内どこ行くんだ?」





ー提督視点ー


提督「ぶえっくしょい!」


瑞鶴「ちょっと、ちゃんと聞いてるの?」


提督「聞いてるよ。いや、なんか酷く俺の性癖を悪く言われた気がしてな。」


瑞鶴「なによ…それ…」


瑞鶴はいぶかしげな眼で俺を見ている。仕方ないやんそう感じちゃったんだし。


ちなみに、あんなことがあった後なので二人きりでいるのは怖くなって別室から連れ帰った朝潮を膝の上にのせている。


腕の傷に関しては転んだと言ったら普通に信じた。純粋すぎてなんかもう…


提督「気にするな、大体はこんな感じか?」


俺は朝潮を膝から下ろし、瑞鶴から聞いた話を右手で執務室のホワイトボードに書き込む。


まず一点目、艦娘の扱いについて。


・性能で艦娘の優劣を判断し、無能と判断した艦娘。または反抗的な態度をとった艦娘は大破するまで使い、放置。


・逆に優秀な艦娘は高速修復材を乱用しただただ出撃。艦娘の疲労などは考慮しない。


・轟沈するのは無能だからと言い続け、作戦を失敗した場合でも反省などは一切しない。


次に二点目、資材について。


・計画を立てず、空母や戦艦をひたすら投入。結果、資源の枯渇。


・更に資源が枯渇した状態でも建造や開発を繰り返し、資源が切れると潜水艦に責任を押し付けた。


・友人などから資材を不正に手に入れてやりくりしていたらしい。


最後に三店目、施設について。


・前提督の更に前の頃使われていたお食事処などはあるが今は機能していない。


・入渠、建造ドッグは使用可能。


・艦娘に部屋は与えられておらず、大半が空き部屋。


なんだろこれ。自分で書いてて衝撃だわ。ここまで人って酷くなれるもんなの?


瑞鶴「前の提督は私たちを兵器としか見てなかったからこれが普通だったのよ。」


瑞鶴「あなたも人形とかを殴ったところで何も思わないでしょ?それと同じなのよ。」


瑞鶴が補足してくれる。ちなみに、人形は殴らない。かわいそうだしね。


昔、人形を投げてから人形を見つめてたら罪悪感が生まれて抱きかかえて頭撫でたこともあったな。


いや、何やってんだろね俺。


提督「兵器ねぇ…」


艦娘は鋼材や弾薬からできるから兵器だなんて言う人がいるらしいが、


それは人間を精子と卵子からできた兵器というのとなんら変わらないであろう。


俺がそんなことを考えていると執務室の扉がバンッと開いた。


そして、入ってきたのは川内さんのようだ。


川内「提督、私が相手をするから!だから他の子には手を出さないで!」


ん?何言ってんのこの子?とりあえず瑞鶴が懐からナイフ取り出したけど?何本持ってんの?四次元ポ〇ットなの?


あれかな?俺の童貞捨てたいっていう感情がテレパシー的な何かで伝わった…?いや、そりゃないか。


提督「え、えっと?なんのことですか…?」


俺は右手を前に出し、瑞鶴をけん制するように川内に質問する。


ちなみにボディガードちゃんは俺の後ろに隠れている。ほんと何しに来たの君は。


川内「しらばっくれても無駄よ、あなたが入渠を餌に私たちにエ、エロいことしようとしてんのは分かってるんだから!」


こいつ、夜戦馬鹿だって聞いてたけど夜戦ってそっちの方だったのか!?いつも頭ん中ピンクなの!?


瑞鶴「一瞬でも信じた私が馬鹿だった!ここで死ねぇ!」


瑞鶴はそう言いながら俺に飛び掛かってくる。俺は仰向けに倒れながらナイフを持っている瑞鶴の右手を右手で押さえる。


ヒィ!あかん!これはマジで死ぬ!朝潮ちゃん!?駄目だあいつ壁際で丸まって震えてる!


提督「落ち着け瑞鶴!そんなこと考えてないから俺は!」


瑞鶴「いまさら何言ってんのよ!なんかしたから川内さんがああ言ってるんでしょうに!」


提督「なんもしてねぇ!強いて言うなら入渠させただけだ!それでアウトか!?」


なんてことだ!全世界の男たち!異性に風呂入れって言うのアウトらしいですよ!刑罰は死罪だって!笑えねぇ!


瑞鶴「はぁ?それだけでエロいことされるなんて考えになるわけないでしょ!ねぇ、川内さん!」


川内「ふぇ…?」


瑞鶴「え、何その微妙な反応…」


提督「おい!瑞鶴とりあえず力抜け!そろそろ刺さる!刺さっちゃう!まず話を聞こう!」


とりあえず睨んだままだが瑞鶴はナイフをしまってくれた。やべぇよ、この鎮守府。命何個あっても足んねぇって…


とりあえず、川内を瑞鶴の横に座らせて話を聞くことにした。朝潮は俺にひっしり抱きついている。かわええのぉ。


提督「えっと、とりあえず傷が癒えたようで良かったです。」


俺は川内のさっきまでなかった左腕を見ながら言う。この鎮守府左腕の負傷多いね。


川内「え、えっと、ありがとうございます…」


提督「それで、俺がエロいことするなんて思ったのはいったいなぜなんです?」


川内「その…私なんかを入渠させてくれたのは容姿が気に入ったのかなって…」


川内「それで、その後に駆逐の子も来たから…この子たちに手を出させるわけにはって考えたら止まらなくなって…。」


川内は顔を真っ赤にしながら言う。なるほどこいつは夜戦(意味深)馬鹿ということか覚えておこう。


提督「別に俺はそんなことする気は無いです。俺にとっては怪我してる艦娘を入渠させるのは当たりまえですから。」


瑞鶴「えと、私も勘違いで急に襲い掛かって、まぁ、その…ごめん。」


瑞鶴も目を逸らしながら謝ってくる。もう俺お前怖いよ。夢に出るわ。


でも、何かをしたとききちんと謝る辺り、やはり悪い子ではないのだろう。これも前提督のせいってとこか。


提督「その色々あったから、一回整理する時間を作ろうか。俺は工廠に行ってくる。」


瑞鶴「わかったわ、でも、誰に襲われるかわからないから気をつけなさいよ。」


お前がそれ言うのか。って滅茶苦茶内心思ったけど俺は素直に了解とだけ言って執務室を出た。





ーところ変わって廊下にてー


?「貴方が新しい提督さん?」


提督「はい、そうですよ。」


廊下を朝潮と歩いて移動していると女の子に声をかけられた。


オレンジのもさもさした髪の女の子だ。横には紫のポニテ?なのかなこれ。髪型とかよくわからん。


まぁ、そんな感じの子が一緒にいる。


陽炎「私は陽炎!んで、こっちが不知火って言うの。入渠させてくれてありがと!」


陽炎のお礼に合わせ、不知火と紹介された子もこっちに頭を下げた。


提督「俺は提督、これからよろしくお願いします。」


俺はそう言い手を差し出す。しかし、それを見た陽炎は少し身を震わせ後ろに下がった。


それを見ていた不知火が代わりに俺の手を握った。


不知火「こちらこそ、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。」


不知火「それと、ここの艦娘は皆少し警戒心が強いのであまり素早く動くのは控えた方がいいと思います。」


提督「あぁ、わかりました。ありがとうございます。」


不知火「いえ、お気になさらず。行きましょう陽炎。」


不知火は陽炎の背中を押すようにして歩いて行った。


さっきの瑞鶴の話を思い出す。『駆逐艦は無能だからってよく前提督が暴力を振るっていたのよ。』なるほど嘘ではないらしい。


以後気を付けるようにしよう。しかし、どうしたものか。


実は今、俺は滅茶苦茶ピンチだったりする。そう、工廠に行くとは言ったが場所がわからないのである。


簡単に言うと迷子。OMG


陽炎と不知火は…さっきの別れ方からして今話しかけるのは良くないだろう。


とりあえず、朝潮に聞いてみよう。


提督「朝潮、工廠の場所はわかるか?」


朝潮「わかりません!」


提督「いい返事だな。いいこいいこ。」


俺はそう言いながら朝潮の頭を撫でる。使えないけど可愛いからもういいよ。


とりあえず、どうしようもないので不知火の言うとおりスローモーションで移動する。意味ないって?知ってる。


?「あの…何してるんですか…?」


意味のないスローモーション歩きを俺と朝潮でしていると突然後ろから声をかけられる。


そこにいたのは白い髪の女性だった。


提督「えと、工廠への行き方がわからなくなって困ってます。」


?「それとその動きになんの関係が…?」


提督「いや、なんか魔法の力で行けないかなとか思ったり思わなかったり…」


誤魔化そうとしたら余計変なこと言った気がするけどまぁいいや。


?「ふふっ、可笑しな人ですね。私でよければご案内しますよ。」


白髪美人は笑顔でそう言う。今顔をよく見てわかったがこの人なんかやばい。


エロい…?いや、それでは表現しきれない何かがある…俺の何かが全力で危険信号を発している。主に股間。


ええい、煩悩退散!まずは名前をさり気なく聞かねば。


提督「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。俺は提督です、以後よろしくお願いします。」


鹿島「わかりました。私は鹿島、練習巡洋艦です。こちらこそよろしくお願いします。」


自分が名乗ると相手も名乗るの法則。これ何かと便利なのよね。


鹿島さんはついてきてくださいと言い歩き出した。俺はそれについて行く。ちなみに後ろに一匹ついてきている。


俺は疑問に思ったことを鹿島さんに聞いてみる。


提督「鹿島さんは俺が怖かったりしないんですか?」


鹿島「怖い…ですか。私は前提督さんとはほぼ接点が無かったんですよ。」


鹿島さんは語りだす。声は少し悲しそうだ。


鹿島「練習巡洋艦自体、私と姉の香取しかいないのですが前提督さんは私たちのことを理解していなかったみたいで」


鹿島「提督さんは練習巡洋艦の使い方ってわかります?」


提督「えっと、演習などでの練度上昇を促進するですよね?」


鹿島「はい、正解です♪私たちは演習などで周りの皆に指導することに長けています。」


鹿島「でも、その代わり実戦では運用が難しいんですね。前提督は演習などに要点を置く方では無かったので…」


鹿島「ご存知のとおり私たち艦娘は人間のお役に立つのが幸せなんです。でも私は前提督さんにこの鎮守府には要らないと言われてしまって。なのでこれでも提督さんには期待してるんですよ!もしかしたら使ってくれるんじゃないかって。」


我ながら使うというワードに股間が反応しかけているのはクズだという自覚はあるが、それと同時に嫌悪感を抱いた。


人間のお役に立つのが幸せという言い方に。まるで人間の奴隷じゃないか。


といってもここで俺が何かを言っても意味は無いのはわかっている。だからもう一つの疑問を口にした。


提督「そこまで言っといて解体はしなかったんですね。」


鹿島「えっと、それは解体するのも面倒だとかで…」


鹿島さんは困ったように笑いながら言う。これは地雷を踏んだなと思い謝罪に入る。


提督「すいません、変なこと聞いてしまって。」


鹿島「いえいえ、気にしてないですよ。」


鹿島さんは見た目こそ少し魅惑的な雰囲気を醸し出しているが、割と普通の大人の女性といった感じだ。


鹿島「着きましたよ、こちらが工廠です。」


提督「わざわざありがとうございます。演習が出来るくらいに落ち着いたら、是非力を貸してくださいね。」


俺のセリフを聞いて鹿島さんは少し驚いたような顔をした後


鹿島「はい!全力で頑張っちゃいます!」


と、満面の笑みで答えてくれた。あかん惚れる、それは反則。


その後、鹿島さんは『では、わたしはこれで。』と言い去っていった。


俺は工廠の入口に突っ立ってその姿を見送っていた。後姿がエロい!最高だ!





ー瑞鶴視点・執務室にてー


一人きりの執務室で私はソファに寝そべる。


さっきまでは川内さんもいたが、私に紛らわしいこと言ってごめんなさいと言った後、提督にも謝ってくると言って出て行った。




瑞鶴「翔鶴姉…」


今は亡き姉を呼ぶ。翔鶴は先月の作戦中、前提督の無理な進軍指示によって行方不明になっている。


捜索しようとしたが、前提督はそれを許さなかった。今でも姿を現さないのだ、間違いなく轟沈したのであろう。


私は帰還してすぐ前提督を問い詰めた。何故あそこで進軍させたのかと。捜索するよう言わなかったのかと。


前提督「あれだけ苦戦していた海域を突破するのに翔鶴の犠牲なんて安いもんだ。一航戦も建造できたし、お前ももう用済みだよ。」


それを聞いた私は前提督に殴りかかろうとした。


前提督「私に危害を加える気か?まぁ、いい。それをしたらどうなるかわかっているんだろう?」


前提督は狡猾な男だった。もしも、艦娘が自分に危害を加えたらその姉妹艦や仲のいい艦を解体すると脅迫していたのだ。


自分が解体されるのは別にいい。しかし、自分の行動で仲間に被害が及ぶと思うと何もできなかった。


それが、この鎮守府の惨状を生み出した原因である。


結果、私はその怒りを歯を食いしばって我慢することしか出来なかった。


それがさっき爆発してしまった。自分でも何がしたかったのかわからなくなっている。


本音を言えば、あの提督が何も悪くないのはわかっている。でも、怖いのだ。


前提督がいなくなってから今日まで鎮守府の時間は止まっていた。何も起きなかった。


それは寂しいような気もしたが、これ以上悪いことも起きないことを意味していた。


私はその止まった時間に安堵していた。苦しいくらいなら、楽しさも苦しさもない場所にいたい。そう思っていた。


その時、あの提督が来た。しかも皆を入渠させたりまでした。


私はその指示を聞いて嬉しかった。でもそれと同時に怖くなった。


嬉しいことがあったら、また苦しみがのしかかってくるのではないか。


一度でも報われてしまったら、私は苦しみに耐えられなくなってしまうのではないか。


そこで、私は提督を悪人と決めつけた。どうせ、なにか悪だくみしているに違いないと。


でも、殺されそうになってもあの提督は何も言わなかった。それどころか私を怒りもしなかった。


まだ、信じたわけじゃない。でも、あの提督は私の怒りに真剣に向き合ってくれた。それは事実だ。


私は考えるのをやめ、執務室を後にする。廊下に出るとやけに上機嫌な鹿島さんを見つけた。


瑞鶴「こんにちは鹿島さん、なにかいいことでもあったんですか?」


鹿島「こんにちは瑞鶴さん、ふふふ♪わかります?」


鹿島さんは少し恥ずかしそうに頬を掻く。


鹿島「実はさっき提督さんと会ったんですけど、優しい方できちんと私を使ってくれるって約束してくれたんです。」


正直、鹿島さんがそういうと少々エロく聞こえてしまうが、艦娘としてのことだろう。


瑞鶴「優しい人…ですか。」


鹿島「どうしました?」


瑞鶴「いえ、あの提督は本当に優しい人なのかなーと思って。」


私にとって、人間とは憎き存在だ。それはある一人しか知らなかったからだが。


下を向きながら言った私の頭に鹿島さんがそっと手を乗せ撫でてくれる。


鹿島「さぁ、どうでしょうね。」


鹿島「でも、私たちが信じなかったら優しい人も優しくなくなっちゃうかもしれませんよ?」


私は鹿島さんの目を見る。彼女の瞳は優しかった。この人はきっと私の考えてることがわかっているんだと思えるような瞳。


瑞鶴「そうですね、私たちが信じないとですよね。」


私は撫でられながら、目じりが熱くなるのを感じていた。





ー提督視点ー


いざ、工廠の中に入ろうと俺は覚悟を決める。その時だった。


ちゃららららーんとアホっぽい音楽がポケットから流れる。正しくはポケットのスマホからだが。


スマホを開くと、そこには親父と着信という文字が大きく映し出されていた。


俺は朝潮から少し距離を取り、通話のボタンを押す。


提督「この電話番号は、現在使われていないか電波の届かない場所に…


元帥「流石にわかるからね!?」


提督「あら、元帥左手を負傷した俺になんの御用ですか?」


元帥「怪我したのか!?いったいどうして!?」


提督「艦娘に刺された。」


元帥「刺されたってお前、大丈夫なのか!?」


提督「まぁ、傷は浅いから大丈夫。刺した子も今は落ち着いてるっていうかなんというか。」


元帥「本当か!?実は今死にかけたりしてないか!?」


提督「死にそうになってたら間違いなく元帥の電話なんて出ねぇよ。」


元帥「それもそうか…なにはともあれ無事でよかった。」


提督「左腕は無事じゃねぇけどなー。」


元帥「ま、まぁ、それは置いといて。その鎮守府はどうだ?」


俺は親父の質問に瑞鶴からの解説を要約して説明する。


元帥「そこまでか…彼がそんななぁ…」


彼とは前提督のことだろうか。言い方から察するに親父は前提督と面識がある?


提督「元帥は前提督のことを知ってるのか?」


元帥「知ってると言っても一度面談をしただけだがな。悪い人には見えなかったんだが…」


提督「それ元帥さんがその時点で前提督の本性を暴いてればこうならなかったんじゃないですかねぇ?」


元帥「うっ、我が息子ながら痛いところを…細かいことは知らなかったんだもん!」


そう言って親父は電話を切る。大体のものは親父の罪に収束する気がする。今度真顔でぶん殴ってやろう。


妙に緊張していたのがゆるんだ俺は、朝潮を連れて工廠に入る。


中にはカプセルのようなものが並んでいる。これが建造ドッグというやつだろう。


奥の方にいたピンクの髪が特徴的な艦娘に声をかける。


提督「こんにちは、明石さん…ですよね?」


明石「へっ!?あっ!?提督さっ…


彼女の言葉が途中で途切れたのは、勢いよく振り向いたまま体制を崩したからだ。


ドテッというような音が響く。ドジっ子って可愛いよね。


提督「すいません、驚かせちゃって。大丈夫ですか?」


俺はそう言いながら手を差し出そうとする。実際に手を差し出さなかったのは先程の不知火からの警告を思い出したからだ。


明石「い、いえ、大丈夫です!それでどのような御用でしょうか!」


明石は慌てて立ちあがると俺に問うてくる。なんというか落ち着きがないといったような感じだ。


提督「えっと、大した用事ではないんです。これからお世話になると思って挨拶に。」


明石「そんなためにわざわざですか!?その、お茶とかも出せないんですけど…それに汚いし…すいません。」


明石は驚いたように言うと次は急に落ち込みだす。テンションの落差激しいな。


提督「全然気にしてないので大丈夫ですよ。汚いのは…今度一緒に掃除しましょうか。」


俺は周囲を見渡しながら言う。正直に言うと、かなり散らかっている。


ただまぁ、男の子としてはこう面白そうながらくたが部屋中にあるというのは魅力的ではあるが。


明石「一緒にってそんな!提督さんに手伝わせるわけにはいかないですよ!」


明石は滅相もないといった感じで両手を震わせながら言う。なんだろこの人、駆逐艦と同じ匂いがするぞ。


俺が少し対応に困っていると奥から誰かの足音が近づいてきた。


?「明石、少しは落ち着きなさいよ。まぁ、緊張するのもわからなくはないけど。」


足音の主は近づいてくるなり明石さんの頭にチョップをかます。明石さんがあうっとか言ってる。俺もやりたい。


夕張「貴方が提督ね?私は夕張、この明石と一緒に工廠を任せられている艦娘よ。」


ほう、夕張。そのワードを聞いて胸を見るが小さい。いや、カミングアウトすると俺は貧乳好きなんでオールOKですけど。


提督「夕張さんですね。よろしくお願いします。」


夕張「今一瞬失礼なことを考えていたようだけど今は不問にしてあげる。」


夕張さんは満面の笑みで言う。ここで俺が貧乳好きだと言ったらどんな反応するんだろう。


セクハラですね。落ち着け俺。とりあえず夕張さんは鋭い艦娘と記憶しておこう。


夕張「それと明石のこの態度は許してあげて、提督っていう存在と話すのって今が初めてだから。私もだけどね。」


提督「え?前提督は?」


俺は思わず反射的に疑問を口にする。


夕張「前提督は工廠は汚いし匂いが移るって言って近寄らなかったのよ。いつも命令は秘書官の長門さんからの伝達だったわ。」


提督「でも、夕張さんは普通なんですね。」


夕張「ん?私?私は他の艦娘とだべったりしていたからね。明石は工廠に籠りっきりだったからさ。」


夕張「なんていうかコミュニケーション慣れしてないのよ。ね?明石。」


明石「へっ!?いや、私だって普通に喋れるけど提督には…その、どう接すればいいかわからなくて…」


唐突に話を振られた明石さんが夕張の言い分を否定するが、俺と目が合いまた落ち込んでしまった。


提督「別に普通に話してくれていいですよ?そんな敬語とかも気にしないんで。」


そういう俺は完全に敬語だけどね。仕方ないよね、異性と会話するとか無意識に敬語になるよね。伝われ…


明石「わ、わかりました。頑張ります!」


夕張「貴方は悪い人じゃなさそうだし私も頑張るわ、開発や修理なら任せて。」


提督「はい、よろしくお願いします。」


俺のセリフに合わせて朝潮が敬礼する。存在を忘れかけていた、危ない危ない。


とりあえず、そこで俺は工廠を後にする。


工廠を出てすぐ、見覚えのある艦娘に遭遇した。


長門「提督、先ほど瑞鶴にあなたが工廠に向かったと聞いてな、探しに来たんだ。」


長門は工廠の出入り口で俺にそう話しかけてくる。よく見ると長門の後ろにもう一人誰かいるようだ。


川内「その提督さ、さっきはごめん…私のせいで危ない思いをしたのにちゃんと謝ってなかったから…」


川内「それに、最初にあった時も態度悪くてごめんなさい。」


なんてこった夜戦(意味深)馬鹿だと思ってた子が割といい子だった。長門の後ろから恐る恐るといったように川内は謝罪してくる。


いや、きっとここの子は皆本当はいい子なのだろう。いい子でいられなくしたのは前提督なのだ。そしてその原因を作ったのは親父。


提督「いや、もう気にしてないですよ。安心してください。」


川内「本当に…?」


提督「嘘はつきませんよ。」


川内「良かった…ありがとう提督!」


川内はそう言って去っていった。いや、男とは情けないものだ。女子の満面の笑みを見るだけで惚れかけるなんて。


え?俺だけだって?嘘だ。お前らも美少女に笑顔を向けられてみろ。間違いなく堕ちるぞ。


長門「なにかあったのか?」


提督「いや、大したことじゃないですよ。」


長門が首を傾げ聞いてくるのを、俺は適当に流す。その後長門は何故か俺を見つめてきた。


やめろ、その凛々しい眼光を俺に向けるな。男としての自信が保てなくなる。イケメン怖い。


レディースのイケてるやつってイケレディなのかな?聞いたことないな。


長門「なぁ、提督。何故あなたは私たちに敬語で話すんだ?」


提督「え?何故って初対面の相手には敬意を払うのは当然じゃないですか?」


長門「ふむ、そういうものなのか…しかし、あなたは私たちの上司だ。」


長門「そんな相手に敬語を使われるのはいささか違和感があるというか…文句があるわけでは無いのだが。」


俺は長門のセリフからなんとなく想像を膨らませる。多分学校で先生に敬語を使われるようなものだろう。


確かに少々違和感がある。


提督「わかった、敬語を使うのは控えるよ。」


長門「そうか!ありがとう。」


長門は嬉しそうに言う。敬語を外されるのがそこまで嬉しいのだろうか。


長門「ん?あ、いや、前提督は私が意見具申をしても一つとして承諾してくれなかったものでな。少し舞い上がってしまった。」


俺の表情で内心をなんとなく察した長門は俺に慌ててそう訂正する。


意見というのは大事なものだ。存外簡単な見落としなどを気付かしてくれるのはいつも第三者視点だったりする。


実際、巨乳一択だった俺が貧乳好きになったのは親父との熱い語りあいがあったからだ。どうでもいいですね。


提督「それはそうと、長門はどうして俺を探しに?」


長門「あぁ、そうだった。それなんだが怪我のある艦娘全員の入渠が完了してな。それの報告に来たんだ。」


提督「わざわざありがとう。それじゃ…えっと、この鎮守府内に全員集まれる場所ってあるのか?」


長門「それなら食堂か多目的ホールが適当だと思うぞ。」


提督「なら、度々悪いんだが皆を一時間後にホールに集めて欲しいんだが、頼んでもいいか?」


長門「了解した。一時間後というとヒトヒトマルマルといったところだな。任せてくれ。早速伝達してくるとしよう。」


提督「ちょっと待ってくれるか長門。」


俺は学ばない子では無い。ここで笑顔で長門を見送ってしまってはいけない。


きちんと多目的ホールとやらの場所を聞いておかなければ一時間後に迷子で呼び出しといて遅刻する無能提督が出来上がる。


次は白髪の天使も助けに来てくれはしないだろう。


長門「ん?どうした提督?」


提督「いや、多目的ホールの場所を教えといてもらってもいいか?」


長門「あ、そうだったな。すまない、すっかり忘れていた。多目的ホールは工廠の横にあるんだ。着いてきてくれ。」


俺は長門に着いていく。きちんともう一匹後ろにいるのを確認したし大丈夫だろう。


長門「ここが多目的ホールだ。」


長門は大きな扉を開きながらそう言う。イメージとしては学校の体育館のような場所だ。


提督「ありがとう、長門。それじゃ伝達頼むな。」


長門「あぁ、任された。」


長門はそう言いその場を後にする。俺は時計を確認する。ヒトマルマルヒト、約束の時間を過ぎている急がねば。


提督「すまない朝潮、俺は少し用事があるから多目的ホールで待っててもらっていいか?」


朝潮「わかりました!お任せください!」


とりあえず朝潮は迷子になられても困るしここにいてもらおう。


俺は一人執務室に向かう。


廊下を移動中に長門の声で放送が聞こえてきた。内容はヒトヒトマルマルに多目的ホールに集合というもの打ちあわせどうりだ。


俺は少し急ぎ足で執務室に入る。中に誰もいないのを確認し一息つく。


いや、正しい表現としては人間と艦娘は誰もいないだが。


妖精「やぁ、遅かったねてーとく。」


提督「ごめんごめん、ちょっと迷子になっちゃってさ。」


妖精「いや、怒ってるわけじゃないよ。なんてったって今日だけで二回死にかけてるんだもんね。」


妖精は両手を上に向け、もう勘弁といったような動作をする。


妖精「それで言われたとうり情報を集めてきたから話すよ。」


そう、実はこの妖精さんは俺がガキの頃から一緒にいた妖精さんで、今日俺と朝潮と共に外部から来た一人だ。


妖精の単位って一人であってんのかな?まぁ、どうでもいいか。


そして俺は、廊下などの移動中に隠れてこちらの様子を伺っている妖精さんたちを数体確認していた。


そこで、俺は避けられてると判断し工廠に行く際にこの妖精さんに情報収集をお願いしといたのだ。


妖精から情報を引き出すなら妖精を。人間を避けているなら尚更だろう。


提督「ありがと、ごめんな面倒なこと頼んで。」


妖精「気にしてないさ。ナイフ突きつけられるのに比べりゃ楽ってもんよ。」


妖精「つっても、話すには少し昔話から入らないといけないんだよてーとく。」


提督「昔話?」


妖精「そうそう、妖精がなんで前提督のような人間に力を貸したのかについてだな。」


それは俺が妖精さんに調査をお願いした内容だった。


俺はこの鎮守府の惨状を見て、どうしても腑に落ちないことが一つだけあった。


それは、普通善良な人間にしか懐かない妖精が何故前提督のような人間に懐いたのか。である。


妖精「まぁ、そんな昔でもないんだけどな。まず前提督は最初から悪い人間だったわけじゃないんだ。」


妖精「最初はいたって普通の人間だった。欠点としては少しメンタルが弱かったくらいだな。」


妖精「そんな彼に妖精は懐いた。んでまぁ細かいことはわからんけど色々あって提督になったわけだな前提督が。」


妖精「最初はここじゃない鎮守府に勤めていたらしい。そこで普通に艦娘とも仲良くしてたんだとさ。」


妖精「ここの妖精さんたちはそこの鎮守府から移動してきているから間違いないぜ。」


妖精「ただ、八か月前にその鎮守府が襲撃されたんだ。深海棲艦にな。」


俺はその内容に心当たりがあった。鎮守府が襲撃されて壊滅に陥ったと。


妖精「それで、ここからが問題なんだよ。実は襲撃の当日、前提督の娘と妻が鎮守府に来ていたらしいんだ。」


俺はそれを聞いて思わず顔が強張る。この言い回しは…恐らくそういうことなのだろう。


妖精「しかもそれはな、妖精さんのせいだったんだと。」


詳しく聞くと、前提督の奥さんも妖精が見える人で頑張っている前提督に誕生日サプライズをしようとして二人を妖精が呼び出したらしい。


逆に考えると誕生日が…いや、考えるのはやめよう。


妖精「まぁ、言わなくてもわかると思うが…結果は全員死んだ。艦娘も妻も娘も。」


妖精「ただまぁ、不幸中の幸いというか災いというか、前提督だけ生き残ってしまったってわけさ。」


妖精「んでまぁ、元帥も彼を思って提督を辞めさせようとしたんだが、前提督はそれを頑なに拒んだ。」


妖精「それで半年前着任したのがこの鎮守府ってわけさ。」


提督「それじゃあ、妻子を守れなかった艦娘に復讐するためにこんな運営を…?」


妖精「結果的にそうなってはいるが、前提督の目的はそこじゃない。」


妖精「前提督はただ簡単に、かつ純粋に、深海棲艦を殺したかっただけらしい。」


妖精「妖精たちの話を聞くにもうすでに心が壊れていたんだと思う。恐らく悲しみを殺意に変えて自分を守ってたんだろうな。」


妖精「妖精たちも何回も前提督に従うのを辞めようと思ったらしいが、前提督が壊れる理由を作った罪悪感がそれを許さなかったんだとさ。」


酷く後味の悪い話だ。結局、妖精さんの前提督への善意がこの悲劇を産んだということなのだから。


前提督は恐らく、強い自分を演じることでしか悲しみから逃れることが出来なかったのだろう。


ここの艦娘にしたことは許されることではないが…同情くらいはしよう。


妖精「すまない、しらけちまったな。」


妖精「ここの妖精さんたちは今はまだ人間に接するのが怖いってだけでいい子だから問題はなさそうだぞ。」


提督「そうか、ありがとな。」


妖精「気にすんな。」


妖精はそう言いながら俺の片頬を飛びながらビシッと叩く。


妖精「この後みんなの前で挨拶すんだろ?しゃんとしてないと舐められるぜ?」


提督「それもそうだな。ちっと顔を洗ってくるよ。」


俺は妖精に笑顔で返し、執務室を出た。





ー第3節ー


現在の時刻はヒトマルゴーマル。執務室を出た後、洗面所を探してうろうろしていたら時間が近づいていたのでホールにやってきた。


いい加減見取り図かなんか貰おう。このままじゃトイレに行きたくなったときに死ぬ。


俺がいるのはホール内の奥にある小部屋内だ。最初からいては拍子抜けだろうという長門の計らいでここに隠れている。


外からは様々な喋り声が聞こえてきている。


?「今度の提督もどうせクソよきっと。もうやってらんないわ。」


?「曙ちゃん…話す前からそう言うのは駄目だと思うな。それに、私たちのこと入渠させてくれたし…」


?「おやおやあ?潮チャンはもしかして顔を見てもないのにご主人様の好感度高めですかな~?」


?「な、そんなのじゃないよ!からかわないでよ漣ちゃん…」


?「なんでもいいけどもうちょい落ち着きなって三人とも…」



?「私たちを入渠させてくれた優しいテートクはどこデスかー!」


?「金剛お姉さまが顔もわからない司令にメロメロに…比叡も負けていられません!金剛お姉さま~」


?「ワッツ!?なんで比叡がくっついてくるの!?」


?「比叡お姉さま、落ち着いてください。そろそろ時間ですよ。」


?「そうですよ、金剛お姉さまも一回落ち着きましょう。」



なんか滅茶苦茶楽しそうです。いいなぁ、楽しそうだなぁ。


妖精によると前提督は艦娘を虐待しようとしていたわけでは無いので、ほぼ何もされずに放置されただけの子もいるらしい。


つまり、人間を恨んでいる子とそうでない子の差が激しいということだ。


まぁ、前提として虐待されていないだけで不遇な扱いを受けたのは確かなので、


人間に対しいいイメージを持っている子はいないだろう。姉妹艦が虐待されるのを見聞きしたという可能性もある。


長門「失礼するぞ提督。」


そんなことを考えていると、長門が部屋に入ってきた。


長門「もうそろそろ時間だ、まぁ、最悪の可能性を考えて私も警戒するが…気を緩めないでいてくれると助かる。」


長門は少し悲しそうにそう言う。恐らく艦娘が俺を襲うことを危惧しているのだろう。


提督「わかった。まぁ、死んだら死んだときに考えるさ。」


俺はそんな軽口を言いつつ部屋から出た。


瞬間、視界に大量の美少女が写る。小さいのから大きいのまで。どこがとは言わない。


俺の姿に気づいたのか、場が静まり返る。視線が俺に集中する。ふえぇ、怖いよぉ。


俺はホール内のステージのようなものに上り、置いてあるマイクの前に立つ。


あれ?朝潮どうしたっけと思いホール内を見渡す。すぐにホール内の右端に朝潮の姿を確認し安堵する。


さて、なにを話そう。なんも考えてなかった。やっべwwwww


落ち着け、とりあえず自己紹介だ。


俺は少し咳払いし、マイクに口を近づける。


提督「初めまして、この鎮守府に今日から…


俺が途中で喋るのをやめたのは、あまりにも音が小さかったからだ。マイクを手に取り確認する。案の定電源オフだった。


俺はマイクと艦娘たちを数回交互に見る。恥ずかしい!恥ずかしい!HA☆ZU☆KA☆SI☆I!


俺はマイクの電源をオンにして再度喋る。


提督「初めまして、この…


しかし、音量は変わらない。アイエーナンデ―!?嫌がらせか!?嫌がらせなのか!?


?「ぷっ…」


誰かが噴き出す音が聞こえた。音のした方を見るとオレンジ色の胴着のようなものを来た艦娘が笑いをこらえていた。


ふっ、いっそもっと笑ってくれ。俺は土に帰るから。死んじゃうね。悲しいね。


その時、長門が大急ぎといった感じで俺に別のマイクを渡しに来た。


俺はそれを受け取る。電源よし!さぁ、始めようか。


提督「初めまして、この鎮守府にきょぅ…


今度はきちんとマイクが音を拾っていたが、急に機能を停止した。なんでさ!?やっぱ嫌がらせなの!?


?「あはははははっははは」


?「駄目だよ飛龍!笑ったら失礼だよ。」


さっき噴き出した子が今回は完全に笑っている。それを小声で注意する水色っぽい胴着を着た子も笑いそうになっている。


それを合図に周りの子たちも数人笑い出した。穴があったら飛び込みたい。


もういいよ、俺マイク不信になる。信じられるのはやっぱ自分の声だけだわ。


提督「初めまして、鎮守府に今日から着任することになった提督です。よろしく頼む。」


長門に敬語は出来るだけ使わない方がいいと念を押されていたので使わず喋る。


提督「マイクが使えないので聞こえづらかったらすまない。」


提督「えぇ、まず俺は君たちに暴力は振るったりしない。」


艦娘たちが少しざわつく。恐らく、信用ならないといったようなとこだろうか。


提督「信じろとは言わない。ただ、これは俺の宣言だと思ってくれればいい。」


やはり信頼は行動で勝ち取るしかない。時間はかかるが、仕方ない。頑張るぞい。


提督「次に、鎮守府の運営方法だが。君たちが知っているものとは大きく変わると思ってくれ。」


提督「細かいことはこれから決めるが、君たちの意見も取り入れようと思っているので何かあったら言ってくれ。」


提督「三つ目に、入渠に関してだが俺に感謝する必要は無い。」


提督「俺は練度などに関係なく、怪我をした子は入渠させるのが当たり前だと考えている。だから気にしなくていい。」


ちなみに、これも本心だが、もう一つ理由がある。


それは入渠させた真の理由が俺の股間に悪いからというものだからだ。


何回か廊下で艦娘に礼を言われたが、感謝されると俺の良心が痛い。かといって真実を伝えるわけにもいかない。


さて、俺は経験上壇上で話が長い人間は嫌われると知っているので、早々に切り上げよう。


別に、話すことが無いとかじゃないんだからね!勘違いしないでね!


提督「俺も鎮守府に着任するのはここが初めてなので、及ばないこともあると思うが精いっぱい努力するのでともに頑張ろう。」


俺はそう言ったあと、帽子を取って頭を下げる。


またもや、艦娘たちがざわつく。なんだろう、十円禿げでもあったかな?育毛剤探しとこう。


提督「それと、早速なのだが今日の午後から仕事を頼もうと思う。」


一瞬、空気が冷たくなる。怖い、一部の眼光鋭い方のせいで体感温度十度くらい下がったよ今。


提督「内容は、鎮守府内の掃除だ。」


俺の発言と同時にまたまた艦娘たちがざわつく。悪口言われてんのかなぁ…潔癖症とか言われてんだろうなぁ…


提督「全員、昼食を済ませた後ヒトヨンマルマルに再度ここに集合してくれ。って、どうした?」


俺が最後に問うたのは艦娘のうちの一人、黒髪ロングの赤色と白色の混ざった胴着を着た艦娘が手を挙げたからだ。


?「提督の発言を妨げたことをお許しください。しかし、提督。昼食を済ませるとはどうすれば…?」


は?なにいってんのこの人。ご飯の食べ方知らないの?いや、それは無いか。となるとなんとなく察しはつく。


提督「文字どうり、昼食を食べるという意味だがそういった施設はここには無いのか?」


?「いえ、施設というか食堂はあるのですが、提督以外使用禁止だったうえに食材もここには無いので…」


なるほど、なんとなく予想どうりだ。前提督は食べ物すら与えていなかったということだろう。


習ったとおりであれば、艦娘は飢餓で死ぬことは無い。食欲はあるが、食事は必須ではないのだ。


俺の思い込みかもしれないが、前提督は徹底して艦娘を人間として扱わないようにしているように思える。


当たり前か、彼にとって彼女たちは性能だけはいい使い勝手の悪い兵器でしかなかったのだろうから。


提督「なんとなく理解した。それじゃさっきの指示は後回しにする。ヒトサンマルマルに食堂に集合してくれ。」


提督「詳細はその時に伝える。今は解散してくれて構わない。集まってくれてありがとう。」


俺はそう言いさっきの小部屋に戻る。艦娘たちがざわついているのは今は放置だ。


ポケットからスマホを出し、電話帳から親父に電話をかける。


元帥「お前から電話かけてくれるなんて俺は嬉しいぞ提督。」


提督「はいはい、元帥、一個頼んでもいいか?」


元帥「え?お、おう?いいぞ、何でも言ってくれ。」


提督「俺の鎮守府に大量の出前を取りたいんだけどいい?」


元帥「…なるほど、なんとなくわかった。人数分の出前を取ろう。時間は?」


なんつうか、こういうとこで頼りになるところが腹立つんですよね。この親父は。


提督「ヒトフタゴーマルに着くように頼むよ。」


元帥「任せておけ、代金は必要経費で落としておこう。ついでにそこの鎮守府にも食材の供給ラインを引いておこう。」


提督「元帥今めっちゃかっこいいぜ。」


元帥「本当か!?」


親父は先程までの威厳のある声から親バカの声に変わる。なんだかなぁ。


提督「今、残念になったわ。」


元帥「そんなぁ…」


提督「まぁ、頼りにしてるよ。クソ親父。」


俺はそこで電話を切る。なんかキャラかぶりが出てる気がするが今は気にすんな。


さて、俺は食堂の様子を確認しに行かなければ。


まぁ、場所わからないんだけどね☆


とりあえず、部屋を出て長門を探す。すると先ほど噴き出したオレンジと水色がいた。


水色「提督!先ほどは失礼な態度を取ってしまいすいませんでした!」


オレンジ「私もすいませんでした。いや、あれは私悪くない気がするけど…」


提督「いや、気にしてないよ。逆にあんなの笑ってくれないと俺もどうしようもなかったしね。」


実際、あそこで全員真顔だったら俺多分マイクと一緒に飛び降り自殺決行してたかもしれない。マイク貴様も巻き添えじゃぁ…


水色「提督が優しい方で良かったです。自己紹介が遅れましたが私は蒼龍、空母です。ほら、飛龍も!」


オレンジ「へ?あ、えっと私は飛龍です。同じく空母ですよろしくです。」


提督「あぁ、よろしく頼む。」


俺はそこで会話を切り上げ長門探しを続ける。すると、部屋の隅で落ち込んでいる長門を見つけた。


提督「お、長門。少し頼みが…って、どうした?落ち込んで。」


長門「あぁ、提督か…すまない、私がしっかりマイクテストをしなかったせいで恥をかかせてしまった。」


提督「別にあれくらい気にしてないさ。それより食堂の場所ってわかるか?」


どうやら長門は仕事は完璧にこなしたいタイプらしい。まぁ、気にしてないってのは嘘なんですけどね。おこです。


長門「案内しよう、今度はミスはしない。」


長門はそう言い俺の前を歩きだす。道案内のミスってなんだろね。


数分後着いた食堂は予想どうりの状況だった。簡単に言うと汚い。現時刻はヒトヒトサンマル、頑張ればどうにかなりそうだ。


提督「長門、掃除用具とかってどっかにあるか?」


長門「ん?それなら食堂内にあるはずだが何に使うんだ?」


提督「そりゃ勿論、お掃除ですよ。」


僕はキメ顔でそう言った。






ー赤城視点ー


私は今、加賀さんと鎮守府内を散歩している。


先程までは多目的ホールで提督の挨拶を聞いていたが、私が昼食について質問したらすぐに解散してどこかに行ってしまった。


あの提督は何をするつもりなのだろう。


加賀「赤城さん…何か考え事?」


赤城「いえ、考え事って程でも無いんですけど提督について考えていました。」


加賀「悪い人には見えなかったけれども…まだ、信用は出来ませんね。」


赤城「ふふ、加賀さんにもそう見えたんですね。優しい人だといいんですけれど。」


加賀「とりあえず、様子見といったところですかね。ってあら?食堂にもう誰かいるのかしら?」


食堂の近くを通った時、中から音がしたので加賀さんと二人で中を確認する。


提督「おい朝潮!お前手伝うって言ってきたのにバケツの水溢してばっかじゃねぇか!」


朝潮「すいません司令官!すぐに新しい水を汲んできます!」


提督「やめろ!これ以上水を撒いたら乾かなくなる!お前は箒がけをするんだ!」


朝潮「わかりました司令官!」


覗いてすぐ私と加賀さんの目に入ったのは掃除をする提督と朝潮ちゃんの姿でした。


長門「赤城と加賀か。どうしたんだ?」


私たちが掃除をする二人を見ていると、扉の近くにいた長門さんが話しかけてきた。


赤城「えっと、これは何をしてるんでしょうか?」


私は長門さんに聞く。提督が掃除をするなんて聞いたこともない。


長門「あぁ、提督が言うにはここで皆に食事をしてもらうのに不衛生じゃ申し訳ないだろ?だそうだ。」


加賀「どうして、自分で…」


長門「私もそう思って艦娘に命じればいいんじゃないか?と提案したんだが、人の上に立つものは自分から動かないとな。だそうだ。」


長門「終いには私にまでさっきからいろいろ頼ってるから休んでていいよ。とのことだ。何を考えているんだか。」


長門さんは困ったように言うが、その表情は柔らかいものだった。


長門さんの説明を聞いて再度提督のほうを見る。


提督「朝潮!?お前なんで箒をバケツに入れてんだ!?」


朝潮「なにか間違っていたでしょうか?」


提督「大間違いだ大間違い!箒は濡らしちゃダメなんだよ!」


朝潮「すいません!濡らしてしまいました!」


提督「もう駄目だ!お前は長門と待機しててくれ!って、さっきの…」


提督と目が合う。今語るのも変だが。彼は中々容姿がいい。身長は175くらいだろうか。


細身ではあるが頼りないといった印象は無い。顔も整っている、優しそうな顔だ。イケメンと言って相違ないだろう。


私は考えるようにする提督を見て声をかける。


赤城「私は赤城と言います。そして彼女は同じ一航戦の加賀さんです。」


私の紹介に応じるように加賀さんは頭を下げる。


提督「せっかくあいさつしに来てもらったところ申し訳ないんだが、今はここの掃除をしなくちゃいけなくてな。」


提督「ここにいると濡れちゃうかもしれないから後で俺からあいさつしに行くんで今は下がっていてくれ。」


私は加賀さんを見る。加賀さんは仕方ないですねと言った風に頷いてくれた。


赤城「私たちでよければお手伝いしましょうか?」


提督「ん?いいのか?でも、無理にする必要は無いんだぞ?」


赤城「いえ、私たちがやりたいと思ったんですよ。」


提督は私のセリフを聞いて加賀さんのほうを見る。


加賀「私も赤城さんがするのなら。」


提督「なら、頼もうかな。」


朝潮「でしたら私も!」


提督「お前はステェェエイ!」


朝潮「了解しました!」


私は提督と朝潮さんのやり取りを見て思わず笑ってしまった。


この提督さんはきっといい人なんだろう。理由は無いけれども私はそう思った。


そしてさり気なく参加した長門さんも含め四人で掃除を始めた。




ー提督視点ー


提督「ふぅ、終わった。」


赤城「お疲れ様です。」


加賀「えぇ、赤城さんもお疲れ様。」


長門「ん?もう終わりか?」


赤城さんと加賀さんが合流してからしばらくして、食堂の掃除が終わった。


なんか一人汗一つかかないで仁王立ちしてる体力馬鹿がいるが今はスルー。


俺は腕時計で時間を確認する。ヒトフタヨンゴー、危なかった。


まともに左腕が使えないのを考えていなかったのもあって思いのほか時間がかかってしまった。


提督「三人ともありがとう。本当に助かった。」


赤城「いえ、気になさらないでください。」


加賀も頷いている。さて出前を受け取りに行かねば。


俺は食堂から鎮守府の門に急ぐ。


元帥「出前でーす。」


提督「…」


元帥「出前ですよー。」


提督「アホなの?」


元帥「なんだお前、珍しく頼ってくれて嬉しかったからわざわざ会いに来たっていうのに。」


提督「もうなんでもいいわ。とりあえず食堂まで案内するから運んでくれ。」


元帥「おうよ、了解した。お前ら運ぶぞー。」


親父がそういうと、丸い器を数人のサングラスをかけた人たちが運ぶ。グラサンかけてても服装がいつもどうりなので丸わかりだ。


提督「いや、大和さんに大淀さんと日向さんたちまで何やってんですか…」


グラサン大和「え、えっと、だ、誰かと勘違いしてるみたいですけど私たちはグラサン四姉妹ですよ…?」


元帥「いやな?俺がお前んとこ行くって言ったらこいつらも心配だから行くって聞かなくてな。」


グラサン大和「もう、なんで言っちゃうんですか!」


提督「まぁ、心配しなくても左手以外は元気ですよ。」


グラサン伊勢「え!?逆に左手がどうなってるのか気になるんだけど!」


グラサン日向「おい、伊勢。今私たちは正体をバレてはいけないんだ。あまり私語はするな。」


グラサン大淀「もうバレてるっていうか…日向さん伊勢って呼んじゃってるじゃないですか…」


提督「なんつうか、皆いつもどうりで安心しましたわ。」


元帥「そりゃ良かった。まぁ、あんま長居は出来ないから運んだら帰るがな。」


そう言って五人は黙々と器を何往復かして運ぶと一人ずつ俺の心臓が動いてるのを確認して帰っていった。ちなみに、元帥は殴っといた。


あれが最強の鎮守府のメンバーなんだぜ?泣きたくなってきた。


俺が食堂に移動すると、すでに数人の艦娘が食堂周辺に集まっていた。とりあえず、立って待ってるのも悪いし中に入れてあげるとしよう。


提督「もう中に入っていいぞ。そしたら適当に仲いいやつ同士で席に座ってくれ。くれぐれも机の上のものには触るなよ?」


俺の指示を聞いた艦娘たちが食堂に入っていく。すると、横から不意に話しかけられた。


扶桑「提督さん、これから何をなさるのですか?」


横にいたのは扶桑さんだった。今は見覚えの無い艦娘と一緒にいるようだ。


提督「それは秘密です。ところでそちらは?」


俺は笑顔で返し、続いて扶桑さんの横にいる艦娘を見ながら問う。すると彼女もそれに気づいたようだ。


山城「私は山城、扶桑姉さまの妹です。よろしくお願いします。」


提督「あぁ、こちらこそよろしく頼む。」


なぜかはわからないが、山城さんは俺に自己紹介しながら扶桑さんの腕に自分の腕を絡めた。目つきもちょっと怖い。


なんか警戒されてる?初対面のはずなんだが…少し話をしてみるか。今はツインテ以外は怖くない!


提督「二人は姉妹ってだけあってよく似てるんですね。」


俺はとりあえず、第一印象をそのまま口に出してみる。


扶桑「ふふっ、そうですかね?山城、私たち似てるらしいわよ?」


扶桑はそう言いながら山城を見る。


山城「い、いえ、そんな!姉さまの方が何倍も魅力的ですよ!」


山城は口では否定しているが、表情は満更でもないといった感じ…てか、ニヤけてる。不気味だ…


扶桑「ところで提督、呼び止めといてあれですが皆さん集まったようですよ?」


俺は扶桑に言われ周りを見渡す。するとほぼ全ての席が埋まっていた。


俺は扶桑さんに軽く礼を言い、食堂の前方に移動する。艦娘たちは机の上の器に興味津々のようだ。


提督「えぇ、急な命令だったのに集まってくれてありがとう。机の上にある器の蓋を取ってみてくれ。」


艦娘たちは俺のセリフを聞くなりすぐに蓋を開ける。中にはお寿司が入っていた。うまそう。


提督「毎回こんなものを食べさせることは出来ないが、今日はお祝いということで皆どんどん食べてくれ。いただきます。」


艦娘たちは驚いたような顔をしていたが、駆逐艦の子からいただきますと言い、徐々に手を付け始める。


内心毒などを疑われるかとも思ったが、割とみんな普通に食べてくれている。良かった良かった。


しかし、何人かの艦娘は食べてはいるが俺から視線を外さないようにしている。恐らく警戒しているのだろう。


俺はそれじゃ寿司を楽しめないと思い、出来るだけ目立たないように席を外すことにした。


俺は食堂から出て、さりげなく持ってきた自分の分の器を開ける。やっぱね、寿司食べたいよね。


しかも見た目的にこれは特上寿司…食べれなかったら一生後悔する。


しかし、現実は残酷だった。器を開けたら中身は空っぽだった。


え?なんで?俺食べたっけ?食べてねぇよ。


さっき他の艦娘たちが食べているのは間違いなく中身が入っていた。


俺は器の中に紙があるのに気づいた。それを手に取って小さな字を読む。


『特上寿司を食べられると思った???残念!提督の分はありませんでした!』


俺はその紙を真っ二つに切り裂く。犯人の目星はついている。ってか伊勢さんだろう。昔からよくこういう意地悪をされていた。


とりあえずあれだな、大和さんに頼んでお仕置きしてもらおう。食べ物の恨みは強いのだ。許さない。絶対許さない。


瑞鶴「一人でこそこそ何してんの?」


その時、不意に後ろから話しかけられる。なんてことだ。心が弱っているときに一番合いたくない艦娘に遭遇してしまった。


提督「あぁ、瑞鶴か。今俺は心が弱っているんだ、面倒ごとは辞めてくれ。」


瑞鶴「なによ人を厄介ものみたいな扱いして…あながち間違っては無いけど…」


瑞鶴は怒ったように反論してくるが、思い当たる節がありすぎたのだろう。急に申し訳なさそうに俺から目を逸らす。


そりゃそうだよな。嫌味言ったり、左手切ったり、殺そうとしたり…なんか怖くなってきた。


瑞鶴「そ、そんなことよりもう全部食べたの?かなり量あったと思うんだけど。」


瑞鶴は誤魔化すように俺の手元の器を見て言う。警戒しろ俺、これも高度な心理攻撃かもしれない。


提督「いや、手違いでな、俺のだけ空だったんだよ。」


実際は手違いなどではないが、まぁ下手に追及されても面倒なのでそう言う。


瑞鶴「へぇ…ちょっと待ってて。」


瑞鶴はそう言うと食堂の中に戻っていった。そういえば昔ちょっと待っててって言われてから待ち人が帰ってこなかったのを思い出す。


しかし、瑞鶴はすぐに戻ってきた。なぜか手には器を持っている。それで俺はすべてを理解した。


こいつは俺の前で特上寿司を食べようとしているのだ。俺に嫌がらせをするために。なんて嫌な奴だ!許さん!


ところが、瑞鶴の行動は俺の想像とは全く違うものだった。


瑞鶴「ほら…その私お腹いっぱいだし、残り食べてもいいわよ…」


瑞鶴はそう言いながら器を俺に差し出す。あれ?こいつこんなに良いやつだったっけ?っていかんいかん餌付けされてなるものか。


提督「いいのか?」


瑞鶴「さっきも言ったけど、私がいいって言ってんだからいいのよ。ほら…」


瑞鶴は少し頬を赤らめながら視線を外しつつ俺に器を押し付ける。俺これ知ってるツンデレだ。ツンデレ(゚∀゚)キタコレ!!


でも、よく考えたら殺すってツンどころじゃなくない?キルデレ?何それ怖い。


俺は器を受け取り、寿司を口に運ぶ。うめぇ!昨日食ったバナナよりうめぇ!当たり前か。


瑞鶴「その、私も考え直したの…」


俺が食べるのを見ながら瑞鶴が喋りだす。なんだろう、ついに三本目のナイフ登場だろうか。


瑞鶴「さっきあんたは信じなくてもいいって言ってたけど、鹿島さんに言われたの、信じないと誰も優しくしてくれないって。」


なんてことだあの白髪女神、問題児の更生にまで裏で手を貸してくれるなんて。これもう運命じゃね?プロポーズしてくるか?


瑞鶴「だから、私はあんたのこと一回信じてみようと思う。」


瑞鶴はそう言い、少し照れ臭そうに笑い俺を見る。不覚にも俺はそれに見入ってしまった。


瑞鶴「それと、さっきは、その、ありが…「バァァァニングラァァァブ!」


突然瑞鶴のデレシーンに突撃してきた乱入者はそう叫びながら俺に突っ込んできた。


誰だこの人!てかそもそもバーニングラブとは何!?愛で燃え殺されるの!?どっちかというと今突進で死にかけたんだけど!?


とりあえず、即座に両手を上にあげ寿司を守り抜いた俺は状況を確認する。


俺の体に抱き着いているのは謎の乱入者。ちなみにかわいい。瑞鶴は驚いたまま固まっている。とりあえず、俺は器を横に置く。


提督「え、えっと、貴方は一体?」


金剛「私は金剛!英国で生まれた帰国子女デース!よろしくお願いデース!」


超ハイテンションな金剛と名乗った艦娘は俺に抱き着いたまま自己紹介をする。


やっべwwいい匂いするしなんか柔らかいもの当たってんだけどやっべww


落ち着け俺、とりあえず深呼吸。俺がやるべきことは一つ。


提督「あぁ、よろしく頼む。」


俺はそう言いながら金剛を抱きしめ返した。


金剛「へッ!?テートクも意外と大胆なんデスネ…でも、時間と場所は弁えないとだめデスよ…」


金剛は俺が抱きしめ返した途端、少し恥ずかしがりながら言う。おうけい、今晩暇かい?と聞こうとしたとき


瑞鶴「いつまでくっついてんのよー!」


瑞鶴が俺にナイフを持って襲い掛かってきたのだった。






榛名「大丈夫ですか?司令。」


提督「あぁ、大丈夫。俺こそすまない、初対面なのに手当てしてもらっちゃって。」


榛名「榛名は大丈夫です!それにもとはと言えば金剛お姉さまが原因みたいですし…」


榛名さんは申し訳なさそうに言う。


あの後、襲い掛かる瑞鶴から金剛を守った結果俺は態勢を崩し、地面に思い切り左手の肘を打った。ちなみに切り傷に響いて『ピギャァ』なんて悲鳴を上げてしまった。


そして、なんか呟きながら去って行った瑞鶴と入れ替わりで金剛の姉妹艦だという三人がやってきた。


その辺で私がテートクに怪我をさせちゃったヨー…と落ち込んでいる金剛さんを慰めてるのが比叡さんと霧島さんだ。


そして俺の肘に湿布を貼ったりしてくれているのが榛名さんというらしい。


提督「それで、一つ聞きたいんだけど金剛さんはなんで急にあんなことをしたのかわかる?」


榛名「金剛お姉さまですか?多分それは提督に優しくしてもらったから感謝の気持ちを伝えようとしたんだと思います。


榛名「その、なんというか、金剛お姉さまは少しスキンシップが過剰なので…。」


榛名さんは困ったように言う。なるほどあの殺人タックルがスキンシップと来たか。


もしも俺が内臓損傷とかで死んだら主犯は絶対金剛さんだろう。


霧島「司令、お体は大丈夫ですか?」


榛名と話していると金剛さんも落ち着いたようで、三人がこっちに来た。


金剛「ごめんネ、私のせいで…」


提督「いや、金剛さんのせいだなんて思って無いよ。気にしないでくれ。」


そう、主犯はあのツインテールだ。一瞬でもデレたと思ったが甘かった。次は殺られるかもしれない…用心しておこう。


金剛「やっぱりテートクは優しいネ!」


金剛さんはそう言いながらまたもや抱き着いてくる。


比叡「…羨ましい……」


少し不穏なトーンの声が聞こえた気がするが。もう死んでもいいかと思う提督さんなのでした!まる!






俺は皆が食べ終わったタイミングを見計らい、もう一度食堂の前に移動する。


提督「えぇ、食事が終わってすぐで悪いんだが皆にはこれから掃除をしてもらおうと思う。」


俺は出来るだけ声を張って皆に指示を出す。俺がなぜここまで掃除をさせようとするのかというと五時に荷物が届くからだ。


瑞鶴から部屋が艦娘には無いという話を聞いて、さっき出前を頼むと一緒に布団などの生活用具一式を人数分注文しておいたのである。


更に俺の手元にはこの鎮守府の見取り図がある。やっとこさ手に入れたぞ。やだ、俺今超優秀じゃなーい?


提督「それじゃあ、掃除場所の分担をするから姉妹艦ごとに並んでくれ。」


俺の指示どうり列になった皆に適当な場所を任せ、掃除を開始するように指示する。


人数が多いのでそんなに時間がかかることは無いだろう。まぁ、全員が全員朝潮みたいじゃなければだが…


とりあえず食堂から全員がいなくなったのを確認し、俺も約束を果たすために食堂から出た。


提督「どうも、掃除しにきましたー。」


明石「へ!?提督さん!?」


場所は工廠、わざと集中する明石さんに後ろから話しかける。案の定、慌てふためいている。可愛い。


夕張「あら、ここを掃除しに来てくれたんだ。」


夕張さんも明石さんの声で俺に気づいたらしく話しかけてくる。


提督「ここが一番掃除大変そうでしたからね。」


特に、横に積まれているドラ〇もんの秘密道具っぽいやつらとか。


夕張「まぁ、工廠は物が多いしね…って、あら?今は朝潮さんは一緒にいないのね?」


夕張が俺の周りに朝潮がいないのに気づき聞いてくる。


提督「あぁ、彼女には門の見張りに行ってもらいました。何か届くかもしれませんし。」


ちなみに、実際はただの厄介払いである。口には出さないが。


夕張「てっきり、そういう趣味なのかと思ってたわ。」


夕張さんがからかうように言う。そういうとは朝潮のような、つまりロリ―タコンプレックスのことだろう。


提督「いやいや、俺は夕張さんのが断然好みですよ?」


からかわれたらからかい返す。定番だが、夕張さんは適当に返してくれると思いそう返す。


夕張「ふぇ!?ふ、ふーん、そ、そうなんだ。」


夕張さんは急におどおどしながら頬を掻きつつ言う。あ、この人攻められると駄目なタイプの人だ。これから攻めまくろう。


提督「まぁ、とりあえず掃除しちゃいますかね。」


このままだと微妙な雰囲気になると思い、俺は話題をぶった切り掃除を始める。


俺は明石に何度も自分たちで出来ますから!なんて言われたが、気にもせず続ける。そして、ドラ〇もんエリア以外の掃除が終わった。


明石「後は…ここですね。」


明石さんが山を見ながら言う。


夕張「捨てちゃうのも勿体ない気もするけど、変なのしかないのよねぇ。」


夕張さんが少し名残惜しそうに言う。


提督「ちなみに、どんな効果のやつがあるんです?」


夕張「一歳だけ若返るやつとか、爪が少し伸びる機械とか?」


逆になんでそんな効果が出るのか小一時間問いただしたくなるが、今は気にしないでいよう。


明石「とりあえずバーッと捨てちゃいましょう!」


明石はそう言いガラクタ(仮)をゴミ箱に放り込んでいく。俺もそれに習ってゴミ箱に入れていく。


途中で体が縮んだり角が生えたりしたが、すぐに元に戻ったのでスルー。気にしろって?今考えると割と凄かったな確かに。


ガラクタ(仮)を捨てていると、妖精さんが一匹俺のそばに寄って来た。


工廠妖精「あ、あの、よろしくお願いします。提督さん。」


後ろから他の妖精さんたちもこちらの様子を伺っている。


提督「あぁ、こちらこそよろしく頼むよ。」


俺は精いっぱいの笑顔で返す。すると、他の妖精さんたちも安心したようでこっちに寄ってきた。


しかし、妖精たちが次に話し始めた内容は中々に辛いものだった。


妖精s「提督さん!前提督さんを責めないであげてください!」


妖精s「彼をおかしくしてしまったのは僕たちのせいなんです!」


妖精たちは俺に必死に頼んでくる。後ろに明石さんたちがいるが彼女たち艦娘には妖精さんは見えるが声は聞こえない。


俺の記憶が確かなら、前提督は今牢屋に入れられているはずだ。恐らく責めるなというのは不可能に近いだろう。


ここは真実を伝えるのが妖精さんたちへの俺ができる最大限の誠意だろう。


俺は、俺の声が掃除中の二人に聞こえないよう小声で喋る。


提督「前提督は誰が何と言おうと悪いことをしてしまった。だから責められないようにすることは出来ないんだ。」


妖精s「そんな…」


妖精さんたちが下を向いてそんな風に声を漏らす。まぁ、俺の出来ることはするとしよう。


提督「でも、俺も実は彼がどうしてあんな風になっちゃったのかは知ってるから少し元帥に相談してみるよ。」


妖精s「元帥さんとお知り合いなんですか!?」


提督「あぁ、少し縁があってね。だから俺のお願いは無下にはしないはずさ。」


俺のセリフを聞いて妖精さんたちの表情が明るくなる。これは後でまた親父に電話しないとな。


妖精s「提督さん!今なら強い艦娘を建造できる気がするから建造してもいいですか?」


妖精さんたちがそんな風に俺に提案してくる。もう一人くらい人間不信じゃないとりあえず頼りになる艦娘がいてもいいと思い、俺はOKを出した。


俺はそんな妖精たちを見送り、またガラクタ(仮)の片づけを始めた。


しばらくして、山が無くなった。


途中で胸が大きくなるマシーンですと明石が紹介したものをさり気なく夕張が隠していたが、触れないでおこう。


お礼を言う二人を後に、俺は工廠を後にした。








工廠を後にした俺は一度執務室に寄って食堂に戻る、というのも掃除が終わった場所は食堂にいる長門に報告してチェックを受けるように言っておいたからだ。


提督「やぁ、長門掃除の状況は?」


現時刻はヒトロクサンマル、流石に皆終わっているだろう。


長門「あぁ、皆綺麗にしていたぞ。まぁ、暁たちのところは私が手伝ったんだがな。」


長門は少し苦笑いしながら言う。これは朝潮タイプがいたなと無言で納得する。


長門「それで、この後は何をするんだ?」


提督「あぁ、姉妹艦ごとに部屋を割り当てていこうと思う。」


長門「部屋とは、あの部屋か?」


俺は長門のよくわからない言い回しに少し首を捻る。部屋って何種類もあったっけ?


提督「あれだ、寝たりとか着替えたりとかするとこのこと。」


長門「そ、そうか。部屋まで与えてくれるのか…」


長門は少ししみじみとそう言う。どうしたのさね。


提督「んで、俺に放送機器の使い方を教えてくれないか?それと、各部屋の扉にこの紙を張るのを手伝って欲しい。」


俺はそう言い、妖精(以後提督妖精)に作るよう頼んでおいた艦娘の名前の書かれた紙を長門に半分渡す。


長門「これはなんだ?」


提督「流石に全員に個室を与えてやれるほど部屋はないからな、一枚の紙に名前のある四人で相部屋をしてもらおうってことだ。」


提督「そこで、その見取り図のコピーを見て、図の記してある部屋の扉に今渡した紙を貼ってくれってことだ。」


?「それは私も手伝ってもいいかしら?」


突然、食堂にいたお姉さんに声をかけられる。どう見てもエッチなお姉さんだ。ええぃ、煩悩撃滅!


提督「えっと、貴方は?」


陸奥「私は陸奥、そこにいる長門の姉妹艦よ。よろしくね?提督」


提督「え、はい、よろしくお願いします。」


俺は彼女の放つ色香に思わず敬語が戻ってしまう。だって、だって仕方ないじゃん?何がかはわからんけど…


長門「いいのか?陸奥」


陸奥「長門がこんなに働いてるのに私だけ何もしないっていうのも、ねぇ?」


陸奥さんはそう言いながら俺を見る。好きです。ちゃうねんなにを考えてんだ俺は。


提督「そういうことなら、是非お願いしたい。」


俺はそう言って陸奥さんにも紙の一部を渡す。


陸奥「お姉さんに任せて?」


陸奥さんはそうウインクしながら言うと、食堂から出て行った。なんやなんや股間がうずくで。ナンデ関西弁混ざってんだ俺は。


長門「それでは、私達も行くとするか。」


そう言って歩き出す長門に俺は着いていくのだった。


しばらくして、紙を貼り終えた俺は鎮守府前で荷物が届くのを待っている。


俺は遠方からトラックが近づいてくるのを確認する。


提督「また来たんですか。」


業者「は?」


降りてくるのは元帥だと思い軽口を叩くが知らない人でした。嫌だ、超恥ずかしい。


提督「いや、なんでもないです。それじゃ、ホールに運んでもらっていいですか?」


業者「えっと、了解しました。」


業者の人たちは布団や歯ブラシ、スマホといったものが入っている段ボールを運び込んでいく。どうやら食料なども届けてくれたらしい。


さすがに全員分の布団となるとかなりの量だ。軽々と運ぶ業者ってすごいよね。時々辛そうな顔する人いると敬礼しかける。


俺は業者の人たちが運び終わり帰るのを確認してから放送室に向かう。


途中の廊下で、青い髪の子と白い髪の子が自分の名前を見てここに監禁されるんだわなんて言ってたがそんな物騒なことはしない。


放送機材をパパっといじって準備をする。マイク君動けよ?動いてくれよ?


提督『えー、各自まず部屋の扉にある紙から自分の部屋がどこかをを確認してくれ五分後に再度アナウンスを流す。』


俺はそこでマイクをオフにする。うまくいったようだ、マイクも中々悪いやつでは無いらしい。


ちなみに、長門と陸奥さんに迷子になってる子がいたら教えてやってほしいと頼んであるので多分大丈夫だろう。


五分後、再度マイクをオンにする。


提督『それでは、戦艦のものはホールで布団などの生活用品一式を回収して自分の部屋に運んでくれ。』


ホールには紙を貼っている最中に自分たちも何か手伝えないですか?と言ってきてくれた赤城と加賀、朝潮が待機している。


受け渡しが完了し次第、スマホで赤城が伝達してくれる算段になっている。


ちなみに、戦艦からにしたのは最後に駆逐艦に運ばせるようにすることで布団が運ぶのが困難な子たちの手伝いをしてもらうためだ。


とりあえず同じことを繰り返し、全員分運ぶのが完了した。


提督『今運んでもらったものは各自自由に使ってもらって構わない。部屋のほうも周囲の迷惑にならないように相部屋の者と使用してくれ。』


提督『今日の命令は以上だ。今後は自由時間とする。しかし、消灯時間は守るように。また、夜食に関しては随時連絡する。』


そこまで言ってマイクを切る。こうして一日目の提督としての仕事があと二つになった。


疲れすぎて魂抜けそう。そして俺は各部屋の様子を見に放送室を後にした。






ー不知火視点ー


陽炎「あーふかふかの布団で寝れるなんて夢にも思わなかったわ~」


黒潮「ほんまやわぁ~、新しい司令はんがいい人でほんま良かったわ~」


私の姉妹艦で、今日から相部屋になった二人は布団に倒れ込みながらそう言う。


陽炎「ほんとよね~不知火もそう思うでしょ?」


陽炎が急に私に話を振ってくる。黒潮も涎をたらしそうな顔をしてこっちを見ている。


不知火「確かに、前の提督よりはマシだとは思います。」


私はそんなことを言って誤魔化す。本心では優しくていい人と思っているが、警戒しておいて損は無い。


黒潮「不知火はいつも気ぃ抜かへんねぇ。今くらいくつろいでもいいんちゃう?」


黒潮がそんなことを言ってくる。私からしたら二人がいささかくつろぎすぎなだけに見えるのだが。


不知火「これでもくつろいでるほうですよ黒潮。」


陽炎「それでくつろいでるとか凄いわね~」


陽炎が布団の上を転がりながら言う。


私は先程の陽炎からの質問を返してみることにした。


不知火「陽炎、あなたは提督についてどう思っているんですか?」


陽炎「んー、正直まだちょっと怖いけどいい人だと思ってるのは本当よ?」


陽炎は前提督に暴力を振るわれていた。といっても執拗に殴ったりされたというわけでは無い。


まるでゴミをどけるように蹴ったり、物をどけるように投げられたり。


私はその姿を見て何度も前提督を殺そうとしたが、俺に何かしたら黒潮たちを解体するように友人に頼んでいると言われては何も出来なかった。


そういった経験上、人間をそう簡単に信じたりは出来ない。


とはいっても、本心では理解している。


例えば、蟻の一匹が怠けていたところで全員が怠けているわけでは無いのと同じように人間も全員が前提督のような悪人というわけでは無いのだ。


だから、今は私は警戒しつつの様子見という行動を取っているというわけだ。


陽炎「難しい顔してどうしたのよ不知火、そんな顔してると脱がせちゃうわよ~」


不知火「へ!?」


私が無言でいると突然陽炎が私の服を脱がそうとしてくる。


不知火「な、やめてください陽炎!」


陽炎「良いではないか~良いではないか~」


陽炎は私の制止を無視して続ける。


黒潮「へへーん、面白そうやないの~」


それどころか、黒潮まで陽炎に協力して私を脱がそうとしてくる。


その時だった。


提督「失礼するぞー、様子を見に…」


提督が部屋に入ってきた。私は今半脱ぎの状態だ。


不知火「このッ、変態!」


私はそう言いながら手元にあった何かをおもいきり提督に投げつけた。






ー提督視点ー


状況を整理しよう。部屋に入ったら美少女が半脱ぎで俺の顔面に何かが飛んできた。


でも、全然痛くない。ので顔に飛んできたものの正体を探る。紫色の布、ってかこれブラじゃね?


俺は高速で近づく胸を手で隠した不知火さんに頬をぶたれながら意外と胸あるんですねなんてどうでもいいことを考えていた。


痛い、頬が超痛い。不知火さんは俺をぶった後ブラと思われるものを回収し陽炎さんと黒潮さんだっけか?扉の紙にそうあったから多分そうだろう。に説教している。


ぶたれた際に態勢を崩した俺が起き上がると不知火がこっちを見た。なんや、次はパンツでも投げるのか?


不知火「その、司令は何も悪くないのに思い切りぶったりして申し訳ございません。」


以外にも不知火は俺に謝ってくる。てかパンツ投げるってなんだ。思考を落ち着けろ俺。


提督「いや、俺がノックしなったのが原因だから気にしないでくれ。」


俺のセリフに不知火が安堵の息を漏らす。前提督だったら殴ったりしていたのだろうか。


陽炎と黒潮も申し訳なさそうにこっちに頭を下げている。正直君たちにはグッジョブと言いたいくらいだったりする。


不知火「ところで、司令は何をしにこちらへ?」


不知火に問われ俺は当初の目的を思い出す。


提督「ん?あ、あぁ、部屋の使用を遠慮したりしている子がいないかと思い確認に周っていたんだ。」


他の部屋は割と普通にくつろいでいた。使ったことは無くても知識はあるらしい。


不知火「そうでしたか、それで、その…先ほどのことは忘れていただけると…」


不知火が恥ずかしそうにそう言う。


黒潮「これは責任取らなあかんで司令はん!」


陽炎「式には呼びなさいよ~!」


黒潮と陽炎がからかってそんなことを言ってくる。


しかし、無言で不知火に睨まれて二人とも布団の中に隠れていった。


この子怖い、逆らわんようにしとこ。


提督「あぁ、俺も色々すまなかった。今日はゆっくり休んでくれ。」


俺はそう言って彼女たちの部屋を後にするのだった。







全ての部屋を周り終え、ここは執務室。俺は妖精さんとの約束を果たすために元帥に電話をかける。


元帥「はい、こちらパパ。どうした?」


提督「ほい、こちら提督。疲れてるんで本題に入ります。」


俺はそう言い、前提督が変わってしまった理由を親父に話す。親父は無言で聞いていた。


提督「……ってわけなんだ。」


元帥「なるほどな、納得がいったよ。それでお前はわざわざそれを知らせるために?」


提督「いや、そうじゃなくて。妖精さんたちが前提督をあまり責めないで欲しいって頼んでたんだ。だから…」


元帥「それは出来ない。」


俺は意外にも即答した元帥に思わず反論する。


提督「なっ、なんでだよ。前提督は…」


元帥「何も悪くない。なんて言うつもりじゃ無いよな?」


俺は元帥にそう言われ思わず何も言えなくなる。そして元帥は続ける。


元帥「確かに、彼を変えたのは深海棲艦や妖精だったかもしれない。」


元帥「だが、結局それで艦娘たちを傷つけたのは前提督の弱さだ。深海棲艦でも妖精さんでもない。」


提督「それはあまりにも酷くないか!?」


元帥「なら、深海棲艦に家族を殺されたお前はそれを理由に人を殺してもいいと思うのか?悲しいからとかを理由にして?」


俺は思わず息をのむ、親父のこんな冷たい声を聞くのはいつぶりだろうか。


元帥「…わかっただろ?そういうことなんだよ。誰かに嫌なことをされたとしてそれを自分がしてしまったら自分もその時点でクズなんだよ。」


元帥「とはいえ、俺だって同情くらいはするさ。でもそれは俺としてだ。元帥として彼を許すことはできない。」


提督「あぁ、俺が悪かった。忘れてくれ。」


俺は電話を切り、乱暴に立ちあがり壁を蹴った。


壁を蹴った足に鈍く鈍痛が響いたのだった。






ー元帥視点ー


大和「中々きついことを言うんですね。元帥」


受話器を置いた俺に大和がお茶を渡しながら言う。


元帥「あー、嫌われたかもしれない。最愛の息子に嫌われたかもしれない~」


俺は酷く情けない声を出す。だって嫌われたくないもん!


大和「もう、そんなに後悔するくらいなら彼の提案を飲めば良かったんじゃないですか?」


大和は通話を聞いていたようだ。流石地獄耳!


元帥「そりゃ、俺もそうしたかったけどさぁ。甘やかすだけじゃダメじゃん?」


俺は溢れ出そうな涙を堪えながら大和に問う。


大和「まぁ、確かにそうですけど。最近厳しくありません?彼をあんな鎮守府に配属したり。」


俺はそのセリフを聞いて少し真面目な表情になる。まぁ、大和になら本当のことを言っても問題ないだろう。


元帥「正しくはあいつだったからあそこに配属したんだがな。」


大和「どういう意味です?」


大和は不思議そうに問うてくる。


元帥「お前はあいつが恐怖というものに鈍いのは知ってるだろ?」


大和「そうですね、昔車に弾かれそうな子を庇って自分が弾かれるなんてこともありましたし。あの時は肝を冷やしましたよ。元帥は大泣きですし。」


大和はやれやれといった風に言う。


元帥「ははは、まぁ、俺もあんときは焦っちまってな。すまんすまん。」


元帥「んでまぁ、あいつを着任させたのには二つ理由がある。」


元帥「一つ目は期待しているからだ、あいつならあんな環境でも恐れずにどうにかしてくれるんじゃないかってな。」


元帥「そして、二つ目は……あいつに海軍の現状を知ってもらおうと思ったからだ…」


俺は一瞬言うのを躊躇したが、ここまで来て言わないなんてのはおかしな話だろう。


大和「海軍の現状ですか…?」


元帥「あぁ、あんな状況になるまで気づけなかった無能元帥とかについてだな。」


大和「なっ!あれは鎮守府以外にも様々な隠蔽工作がされていたからで元帥の責任では!」


元帥「いや、俺の責任だ。覚えとけ大和、上に立つというのは下の責任をすべて持つということだ。例え何も知らなかったとしてもな。」


大和は俺のセリフに息を呑む。


まぁ、三つ目の理由は言う必要性は無いだろう。これは俺の勝手な願望だ。


あいつに恐怖といったものを覚えて欲しいなんてのは。


俺はそこまで考え悲しそうな表情を大和がしているのに気づく、俺のキャラに合ってなかっただろうか、力を抜こう。


元帥「まぁ、俺は親バカだからあいつならきっとなんとかしてくれるって思っただけってのが本音さ~」


大和は何も言わない。今日は俺も調子が悪い、あまり真面目すぎるのは良くないですよ!何て言われてから気を付けているが難しいものだ。


元帥「すまないな大和、難しい話をしてしまった。あとで一緒に風呂なんてどうだ?」


大和「はい…って!何言ってんですかこの変態!」


大和はそう言ってそっぽを向く。俺は大和に冗談だよなんて言いながら、今は亡き彼女を思い出していた。






ー提督視点ー


提督「クソッ」


俺は一人きりの執務室で悪態をついてみる。


親父の言うことは正論だった。ぐうの音も出ないほどの正論だったのだ。前提督の弱さが全ての原因だと。


でも、もしも目の前で愛する者が殺されて壊れない人間なんていたらそっちの方が異常なんじゃないかなんて考える。


俺のことじゃねぇか。笑えねぇ。


とりあえず、俺はどんどん悪い方向に行こうとする思考を鹿島さんを思い出すことでリセットする。


あぁ、マイビューティーエンジェル鹿島様!尊い!いや、落ち着け俺、なんかキモくなってる。


俺は一度深呼吸をし、執務室の本棚にある本を手に取ろうとする。その時だった。


ピピッ


俺が本を取ろうとすると、部屋のどこかから音がする。なに?爆弾でも起爆すんの?俺死んじゃう!


そういえば、習ったことがある。執務室には緊急時のシェルターがあり本棚のどこかにそのスイッチがあるらしい。


俺は執務室の絨毯をめくりあげてみる。そこには階段のようなものが出来ていた。なんやこの男の子を刺激するギミックは!


とりあえず俺は階段を下ってみることにした。


階段は意外と長かった。やっとこさ全てを下りきり、照明をつける。その時、誰かに声をかけられた。


?「あらぁ?随分と久しぶりじゃなぁい?」


部屋は暗いが割と広い、角にはイスと机、そしてパソコンが置いてある。そしてその横の壁に鎖で手足を縛られた傷だらけの女性がいた。


?「ってあらぁ?あなたは誰かしらぁ?前提督じゃないのぉ?」


思わずその光景を前に立ち尽くす俺に、女性は声をかけてくる。とりあえず名乗らねば。


提督「俺は提督といいます。今日からここに前提督の代わりに着任しました。」


龍田「私は龍田。よろしくお願いしますねぇ?提督。」


龍田さんは不気味な笑みを浮かべながらそう自己紹介をする。


提督「とりあえず、それどうにか取りますね。」


俺はそう言って彼女を拘束している鎖を外す。流石に見るに耐えない。エロ同人みたいだし…少し苦戦したが、何とか解くことができた。


提督「ふぅ、解けました。ところでどうしてこんなところに拘束されッ」


龍田「ありがとぅ、それじゃぁさようなら。」


俺が疑問を口にすると、龍田さんが俺の首を締めあげてきた。ハウワッツ!?死ぬ死ぬ!


よく考えたらってか、少し考えればわかることだったわ。こんなとこに監禁されてる人がまともなわけねぇやーん。恨むぞ二分前の俺。


さすがに艦娘といったところか、力が強く引きはがせない。意識が朦朧とし始める。


龍田「きゃあっ」


俺の意識が飛びかけた時、龍田さんが悲鳴を上げたかと思うと俺は解放される。うおお首いてぇ。息苦しい。


どうでもいいけど悲鳴可愛かった。いや、殺されそうになった相手に何考えてんだ俺は。


そして、突然現れた乱入者は俺に声をかけてくる。


瑞鶴「大丈夫!?生きてる!?」


提督「もしかしたら死んでるかも。」


瑞鶴「へっ!?生きてるわよね!?」


提督「そだね。生きてるね。」


瑞鶴「紛らわしいこと言わないでよ!」


今の会話のうちに状況を理解した。恐らく俺の首を絞めている龍田さんに瑞鶴がタックルかなにかをしたんだろう。


龍田「あらぁ?何するのかしら瑞鶴さん」


龍田さんが起き上がりながら言う。瑞鶴は俺と龍田さんの間に立ち牽制するような態勢を取っている。


瑞鶴「それは、こっちの台詞ですよ龍田さん。提督に何してるんですか!」


おお、何この状況。昼間の敵は今日の友?こいつ自分のこと棚上げしすぎじゃない?


龍田「なにって殺すだけじゃない。天龍ちゃんより苦しませてから殺さないとねぇ?」


そう言って龍田さんは俺に笑顔を見せる。怖いよ、いや、美人だけど。


瑞鶴「龍田さん、この人は前提督じゃないですよ!」


龍田「それがどうしたのかしらぁ?人間なんて皆殺しにすればいいのよぉ。」


龍田さんはそう言いながらこちらに近づいてくる。瑞鶴はそれを見て懐からナイフを取り出す。どんだけ持ってんだよ!あれか?胸が無いからいっぱい入るのか!?


瑞鶴「落ち着いてください龍田さん、それ以上こちらに来るのならこのナイフを使います。」


瑞鶴はナイフを前に構え、龍田さんをけん制する。修羅場ってこんな感じなのかな?


龍田「ナイフを使う?姉妹艦が沈んだ時ですら前提督に反抗できなかったような子がぁ?」


龍田は舐めるような声で瑞鶴を挑発する。そのセリフに瑞鶴が後ろめたそうな顔になる。


龍田は瑞鶴に考える余裕も与えないかのように続ける。


龍田「あらあら、どうしたのかしらぁ?肩の力が抜けちゃってるわよぉ?そんなんでナイフを振れるのかしらぁ?」


龍田はそう言い自ら瑞鶴の持つナイフの刃を左手で握る。龍田の手から血が垂れる。ぽたぽたと。


瑞鶴「な、なにしてるの!?」


瑞鶴が慌ててナイフを引く。その時にナイフを握っていた龍田さんの手を綺麗に切り裂く。赤い鮮血が飛び散る。


龍田「あらぁ、痛いわぁ?酷いことするのね、瑞鶴さん。姉の仇は取れないのに私にはこんな傷をつけるなんてぇ。」


龍田さんは自分の手のひらを舐め、そう言いながら瑞鶴に近寄る。瑞鶴は違う、私のせいじゃと言いながら後ずさるように逃げる。


ホラー映画かな?てか、毎回俺の味方キャラ弱すぎじゃね?朝潮とか瑞鶴とか。


いや、今回に関しては龍田さんが強すぎるだけですね。そうですね。こんなことを考えている間にも龍田さんは瑞鶴を追い詰める。


龍田「ねぇ、瑞鶴ちゃんいっそここで死ぬってのはどうかしら?」


瑞鶴「死…ぬ…?」


龍田「そうよぉ、そうすれば翔鶴さんにも会えるんじゃないかしらぁ?」


瑞鶴「翔鶴姉に…会える…」


瑞鶴はうつろな目でそう言う、おいおいおい、なんかやばそうだぞ。炭酸抜きコーラだわ。刃牙アニメ化おめでとう。


ちなみに、実は俺は今多分逃げ出せる。二人がいるのは部屋の奥で俺の後ろはすぐ階段だ。


いくら艦娘の運動神経がいいとはいえ、足に怪我をした状態で成人男性の全力疾走に追いつくのは少し難しいだろう。


執務室にさえ着けば、ボタンを操作しシェルターを閉めた時点で俺の生存は確定する。『俺の』だけだが。


でも、これやばいよね?瑞鶴なんかナイフ両手で握って震えてるし…


その時、俺は瑞鶴の顔を見てしまった。執務室で見せた感情の入り混じった表情をしている。あの表情は自分を責めているのだろうか。


突然、昼の瑞鶴の笑顔を思い出す。あの時の笑顔は魅力的だった。まぁ、直後にナイフ持って襲い掛かってきたけど。


我ながらかっこつけだとは思うよ?思うけどさぁ…ここであんな顔してる女の子を見捨るわけにはいかないでしょう。俺だって男なんでね。


提督「瑞鶴ー、聞こえてたら自殺なんかやめとけ。」


提督「お前は俺を三度も殺しかけてんだから地獄に行くことになって天国の翔鶴には会えねーぞ。」


瑞鶴「死んでも…会えない…?」


瑞鶴はうつろな目をした顔を俺に向け、問う。龍田はさっきまでの笑顔が消えている。こっわww


提督「あぁ、てか、いつかどうせ死ぬんだから現世楽しんでからにしとけ。」


瑞鶴「楽しむって…何を…?」


提督「え!?えっと、なんだろう。ゲームとかスポーツとかかな?まぁ、俺は付き合ってやるよ。」


突然の変化球にそんな風に返す。現世の楽しみとはなんだろう(哲学)


瑞鶴「本当…?あなたは翔鶴姉みたいにいなくならない…?」


提督「んー、今がかなりピンチなんだが…まぁ、大丈夫だろう。寿命以外では死なないと約束しよう。」


瑞鶴「そっか…約束だよ…?」


提督「おう。」


瑞鶴は俺のキメ顔での返事を聞くと、そのまま気を失ってしまった。俺は瑞鶴という少女の認識を間違っていたらしい。


正直、ただのツインテナイファーだなんて思ってたが、彼女はただの弱い女の子なのだ。あの態度や行動は自分を守っていたに過ぎないのだろう。


全く、今更庇護欲掻き立てるとか何様だっての。そんなことを思いつつも、瑞鶴の寝顔が可愛かったので良しとした。


龍田「あらぁ?なんかいい話みたいになっているけれど私を忘れてないかしらぁ?」


龍田さんが瑞鶴の落としたナイフを俺に向けながらいたずらっぽく言う。


提督「忘れてたわ。忘れたついでに見逃してくれると助かる。」


俺はそう言いながら瑞鶴に忍び足で近寄ろうとするが、龍田さんがその間に割って入る。


龍田「そういうわけにはいかないわねぇ。それにここで貴方が死んだらいいシナリオになると思わないかしらぁ?」


提督「趣味悪いなぁおいおい…」


龍田「そうかしらぁ?bad endっていうのもまた一興なのよぉ?」


さてどうしよう。大ピンチ。瑞鶴が意識を失ったのは完全に予想外だった。これじゃぁ、二人で逃げることができない。


とはいえ、それだけ彼女が追い詰められていたと考えると責めるわけにもいかないしな。寝顔可愛いし。あえてもう一度言おう、寝顔は可愛い。


まぁ、百パーセント龍田さんは瑞鶴みたいに説得するのは不可能だろう。手持ちのアイテムはスマホだけ…


異世界でもないし文明の利器もこの状況じゃ何の役にも立たない。いや、一つだけ助けを呼ぶ方法がある。


問題は、どうやって龍田さんに気づかせないかだ。一つ思い付いたけど嫌だなぁ…まぁ、するしかないですね。


俺は予備動作なく龍田さんに突進する。龍田さんがナイフを振り上げる前に俺は手のひらを思い切りそのナイフに突き刺す。


ああああああああああああああああああ、信じらんねぇくらいにいてぇ!!!!でも、ここで気を緩めるわけにはいかない。


俺はそのままナイフを龍田さんの手から奪おうとする。しかし、無駄よぉ。何て言いながら龍田さんはそれを軽くいなす。


ここまでは予想どうりだ。龍田さんの視線は今俺の左手に集中している。俺は完全にフリーな右手をポケットに突っ込みスマホで通話から着信履歴の一番上を選択。


確か、すぐに留守電になる緊急通話が上から三番目にあるはず、それに賭ける。


現代っ子舐めんな!今時のやつはスマホくらい画面を見ないでも操作できんだよ!


提督「いってぇぇぇぇぇぇぇ、痛い痛い痛い痛い!マジ痛い!半端ねぇ!」


俺はわざと大袈裟に騒ぐ。もしも赤城さんが電話に出て大声でも出されたら龍田にすべてがバレる。それではすべてが無意味になるので絶叫で音を掻き消す。


そう、これは勝率の低い賭けだった。俺はさっき皆に物資を運んでもらう際、赤城さんと電話でやり取りした。


つまり、今の着信履歴の一番上にいるのは赤城さんが持っているスマホということになる。元帥には自分からかけているので発信履歴になるはずだ。


ならば、あえて龍田に身を挺したナイフ奪還作戦に見せて注意の逸れた右手で助けを呼ぼうという算段だ。


海軍製のスマホには、緊急時にすぐ伝言を残せるように緊急通話というすぐに留守番電話に切り替わる機能がついている。まぁ、使い道九割遺言らしいですが。下手したら今も遺言になるんだけどね悲鳴が。


こっからは賭けだ、今の悲鳴をスマホ越しに誰かが聞いていてくれればワンチャンある。


まぁ、もしスマホを放置していた場合や、執務室の絨毯を瑞鶴が戻してしまっていた場合は積みだが今は考えないようにしよう。


今はただ目の前の龍田さんから時間を稼ぎつつ通話が切れるまでに情報を残さなければ。あるかどうかもわからない救助を当てにして。


龍田「あらあら?そんな大袈裟に騒いだところで周りには聞こえないわよぉ?」


龍田さんは都合のいい勘違いをしてくれたようだ。まぁ、いっそ全てバレてて殺されるのの方が楽な気もするが。


提督「へぇ、防音なんですか?この部屋は。」


龍田「そうよぉ?ここは緊急時のシェルターだしねぇ。」


龍田さんはわざわざ解説してくれる。これで赤城さんに場所が伝わっただろうか。てかまず聞いてるかなぁ!


龍田「ところであなた、私が怖くないのかしらッ?」


龍田さんはそう聞きながら俺の首を刈り取るかのように距離を詰めてナイフを横に振る。俺はそれをすんでのところで身を引き回避する。


危なすぎるこの女!普通会話しながら首切ろうとするか!?昔から伊勢さんの瑞雲に襲われてなかったら絶対回避できんかった。


提督「そりゃ、なんの前触れもなく人の首を斬ろうとする人とか怖くて仕方ないですよ。」


龍田「ふふふ、今のは首の皮一枚切り落とすつもりしか無かったわよぉ?それに、怖いなら逃げ出したらどうかしらぁ?」


龍田さんが俺の後ろを覗き込みながら言う。てか、首の皮だけ切るとか何その荒業。職人?


提督「いやぁ、それなら瑞鶴も連れてくんで鎖にでも捕まっててくれません?」


龍田「駄目に決まってるじゃない?あなたとこの子が一緒に生きる選択肢は無いわよぉ?」


ほんま趣味悪いなこの女!今度暇なとき王道のラブロマンス見せまくって趣味の矯正をしてやる!


龍田「でもあなた、この子と知り合ったのは今日なんでしょう?それなのになんでそこまでして助けようとするのかしらぁ?いつでも逃げられたのに。」


龍田さんは気に入らないといった顔で俺の血が流れる左手を見て言う。痛みは一週回ってもう感じなかった。


提督「さぁね、なんででしょうね。惚れでもしてるんじゃないですかね。」


俺は心にも無いことを冗談めかして言う。惚れるとか無いわー。いや、容姿は好みなんですけどね?マジレスすると艦娘今んとこ皆好みです。龍田さん含みますよ。


龍田「へぇ?人間の癖にそんなこと思うのねぇ。いっそこの子を殺しちゃおうかしらぁ。」


龍田さんはそう言って瑞鶴のほうを向く。不味い、瑞鶴は今気を失っている。つまり何の抵抗も出来ない。ここで瑞鶴を殺されれば全てがパァだ。俺の左手の激痛の意味が無くなるのは避けねば!


助けも来なさそうですし、自棄になるかぁ。土下座してでも鹿島さんの胸くらい揉ませてもらっとけば良かった。


提督「あんたも情けないもんだよな。」


龍田「へ?」


急に口調が変わった俺に龍田が視線をこちらに向ける。そうだそれでいい、瑞鶴から俺に殺意を変えろ。本当は嫌だけどね。


提督「あんたも前提督に逆らってなにも出来なくて鎖に捕まってたんだろ?なんだっけ天龍?そいつもさぞ無能な艦娘だったん…」


俺が喋り終わる前に龍田が俺を突き飛ばし、俺の上に乗りつつ左足の脹脛にナイフを突き刺す。やはり艦娘には姉妹艦の悪口はタブーのようだ。


洒落になんねぇww俺の左半身に何の罪があんだよ可愛そうだろwwてか痛すぎんだろww


龍田「天龍ちゃんを馬鹿にするのは許さないわよぉ?」


嗚咽を漏らす俺に龍田さんが言う。その表情はまるで化け物のような、ただ恐ろしいものだった。


目的は達成したけど足刺されるとか思わねぇよ畜生。あーガチで痛い。泣きそう。でも、ここまで来てしまったら説得以外に策は無い。


それなら今やることは一つ、この女が俺を殺さない限り口を動かし続けろ。正直百パーセント無理な気がするが賭けに出るしかない。


提督「おいおい、さっきまでの余裕はどうした?急に人間らしくなっちゃって。」


龍田「お前ら人間と同じにするなッ!」


龍田はさらに俺の足に深くナイフを突き刺す。俺は声を上げないようにひたすら我慢する。説得するときに相手に優位だと思われてはいけない。


相手のほうが力が強いなら尚更だ。精神だけは自分のほうが余裕があるように演じるしかない。


最悪こいつの精神を道連れに死ねば瑞鶴の生存率は上がるはずだ。なんで俺は自分を殺そうとしたやつを必死こいて守ろうとしてんだろうね。笑えて来たわ。


提督「お前さ、気づいてるか?今やってること前提督となんも変わんねぇぞ?そうやって一方的に暴力を振るって自分だけ満足して。」


龍田「違うッ、私は天龍ちゃんの仇をッ!」


提督「それは俺じゃない。瑞鶴でもな、それにその行為は前提督を肯定することになるんだぞ?」


龍田「何を言ってるの…かしら?」


提督「前提督はな、深海棲艦に家族と仲間を殺されてな心を病んだんだ。だから、お前たちに暴力を振るって自分自信を守ってたんだよ。強い自分を演じることでな。」


提督「今のお前が俺たちにしているのと同じようになあ!」


俺は龍田に怒号を浴びせる。さっきまで俺はこのことを理解していなかった。これは罪だ、例えそうせざる負えない状況に誰かにされたとしても誰かを傷つけた時点でそいつは罪人なんだ。親父のセリフが頭を過ぎる。


死ぬ前に最後に思い出すのが親父とはな。道連れにしてやりてぇ…龍田さんに頼んでみるか?


龍田「違う、違う、違う、チガウ、チガウ、チガウチガウチガウ。」


龍田さんは壊れたおもちゃのように言う、そしてナイフを振り上げたと思うと俺の心臓に目掛けて振り下ろした。


龍田「ごへッ」


しかし、ナイフは俺に刺さらなかった。それどころか俺の上に乗りかかっていた龍田さんが吹き飛ぶ。


今度の声は可愛くなかった。もろ鳩尾に入ったような感じ。


赤城「ふぅ、どうやら間に合ったようで良かったです。」


そう言って救世主は現れたのだった。




ー赤城視点ー


何分か前、急に提督からいただいたスマホから提督の悲鳴が再生された。


相部屋の加賀さんが丁度欠伸をしていたタイミングだったので、驚いたまま挙動不審になってしまっていた。


加賀「こ、これは一体なにが流れているのかしら?趣味の悪い着信音…?」


加賀さんが怪訝そうな目で私を見る。違いますよ!?と否定した後、提督の痛いという悲鳴が続くスマホを手に取る。


画面には緊急着信と出ている、ということはこれはリアルタイムの悲鳴ということだ。


私は横から恐る恐る画面を覗き込んでいた加賀さんを見る。加賀さんは無言で頷く。加賀さんもこれが提督からのSOSだと理解したようだ。


続いてスマホから声が再生される。


龍田『あらあら?そんな大袈裟に騒いだところで周りには聞こえないわよぉ?』


提督『へぇ、防音なんですか?この部屋は。』


龍田『そうよぉ?ここは緊急時のシェルターだしねぇ。』


そこで通話が途切れる。二人で会話していたようだ、提督ともう一人は龍田さんだろうか。龍田さんは確か前提督に逆らって捕まっていたはず。


私はその会話を聞いて場所の候補を二か所に絞る。民間人の避難場所となった際に活用する鎮守府裏のシェルターと執務室内の提督用の緊急シェルターだ。


赤城「私は執務室に向かいます。」


加賀「わかりました、私は民間シェルターの方へ。」


加賀さんは私の一言ですべてを察してくれる。本当に優秀な女性だ。そして私たちは二人で自室を出る。


そして、執務室に着いた私は絨毯が捲れているのを確認しすぐに下に向かった。


そしたらナイフで今にも提督を殺そうとしている龍田さんを発見し、蹴り飛ばし現在に至る。


私は龍田さんを視界から外さないようにして横目で提督の姿を確認する。


赤城「大丈夫ですか提督?」


提督「んー、まだ生きてるけど死にかけですね。」


彼の姿は酷く痛々しいものだった。倒れたまま私に右手をひらひらと向けているが、左の手のひらと左足に大きな傷があり、血が今も流れている。


しかし、龍田さんも傷だらけだった。足にもかなりの傷があって状況はよく理解していないとはいえ、ぱっと見た感じ本気で走れば逃げ出すことも出来そうに思えるのだが…


そこまで考えて部屋の奥に瑞鶴さんが倒れているのを発見する。それで私はすべてを理解した。


この人は今日会ったばかりの彼女を助けようとしたのだ。本当に怖いもの知らずというかなんというか。


龍田「あなたも邪魔するのかしらぁ?赤城さん」


私に蹴られ、倒れこんでいた龍田さんが起き上がりながら言う。


そして、私と目が合う。その顔を見た瞬間全身の産毛が逆立つのがわかった。まるで悪魔のような、笑っているようで怒っているような顔。


怖い。ただその感情ですべてが上書きされた。そのせいで私は動くのが一瞬遅れた。


そう、龍田さんは瑞鶴さんに襲い掛かったのだ。動けない私の肩を誰かが掴む。


そしてその誰かは私の肩を思い切り引き、飛び込むような形で瑞鶴さんに襲い掛かる龍田さんに体当たりをするのであった。





ー提督視点ー


人間ってすごい。存外勝手片足だけでも動けるもんだなと思いながら倒れる。


うつぶせに倒れたせいで脹脛の傷が地面に直撃する。


提督「痛すぎだろ、うおっほっうおっほっほっほっ」


余りの痛さに変な声が出る。オランウータンみたいになっちまった。ちなみに何が起きたか説明しよう。


赤城さんがかっこよく登場。しかし、その直後龍田さんが瑞鶴に襲い掛かる。


赤城さんなぜかフリーズ。今まで守った意味が無くなるのは絶対嫌なので赤城さんの手と肩を使って強引に起き上がり捨て身のタックルをお見舞いしたわけだ。


いや、痛み半端ないってwwこんな痛いとか普通思わんやんww先に言っといてやww


龍田「また、邪魔をッ」


龍田さんが俺にナイフを刺そうとするタイミングで赤城さんが動き出し、龍田さんに締め技を決め取り押さえる。


瑞鶴「え…?なに…?」


どうやら、瑞鶴も目を覚ましたようだ。遅いよ、もっと早く起きてくれよ…しかし、これで完全に形勢逆転といった形だ。


提督「おはよう瑞鶴、元気か?」


瑞鶴「え?提督さん?こんなところで…私なにして…!」


瑞鶴は急に落ち着きを失い周囲を見回したと思うと、赤城さんが龍田さんを取り押さえているのを確認してまた落ち着きを取り戻す。


瑞鶴「ねぇ、あれからどうなったの?」


瑞鶴が俺に尋ねる。俺はうつ伏せの状態なうえ瑞鶴は俺の右側にいるので怪我は見えてないようだ。


提督「んー、簡単に言うと俺は、とりあえず気絶するねこれ…」


俺はそう言いながら意識を失ったのだった。


こうして俺の楽しい鎮守府生活一日目は幕を閉じた。もちろん皮肉だけどね。







見知らぬ天井、よくわからないが外が明るいから朝なのだろう。俺は体を起こそうとする。


実際に起こせなかったのは起き上がる際支えにしようとした左手がとんでもなく痛んだからだ。


提督「痛ッ!」


俺は思わず声を上げる。倒れ込みながら左手を見ると包帯が巻いてあった。


それを見て昨日のことを思い出す。俺なんだかんだ生き残ったんだな。


それとも幽霊だったりするのだろうか。いや、足があるし多分違うだろう。


瑞鶴「どうしたのッ!?」


すると、突然瑞鶴が部屋に飛び込んできた。朝の挨拶はしっかりしないとな。


提督「おはよう、瑞鶴。」


瑞鶴「おはよう、提督さん。急に叫び声が聞こえたからなにかあったのかと…」


提督「あぁ、ただ怪我のこと忘れてただけだ。」


瑞鶴「そっか、それと昨日のこと赤城さんから聞いた。その助けてくれて…ありがとう。」


瑞鶴は少し恥ずかしそうにするが最後には笑顔で礼を言ってくれる。できるならずっとその顔でいて欲しいもんだ。もうヤンこれは勘弁。


昨日の出来事はまるで夢のようだった。ちなみに、現実味が無いといった意味でだ。


四回も殺されかけるとか普通無いだろう。まぁ、生きてるのは単に運が良かったんだろな。


提督「なぁ瑞鶴、俺どんくらい寝てた?」


瑞鶴「えっとね…今がマルキュウサンマルだから十四時間くらい?」


瑞鶴の言うには何日も寝込んでたとかではないらしい。


しかし、皆に晩御飯を食べさせてあげられなかったのは申し訳ない。


提督「ところで、この包帯はお前が?」


瑞鶴「うんうん、明石さんがやってくれたの。明石さんはある程度なら人間の治療も出来るんだって。明石さん呼ぶね。」


瑞鶴はそう言ってベッドの横のボタンを押す。


そうか、あのドジっ子医療スキルあんのか。手術とかはしてほしくないな、うっかり心臓にメス刺しそう。


俺は周囲を見回す、恐らくここは工廠の中の医療スペースだろう。昨日ここも掃除したからわかる。


提督「てか、なんで瑞鶴ここにいんの?」


瑞鶴「へ!?えと、その、それはその怪我させちゃったのが私が不甲斐ないからだったから心配で…って、あぁもうなんでもない!」


瑞鶴はぶつぶつ言ったかと思うと、急に怒り出す。えぇなんでさぁ…


提督「お、おう、なんかわかんないけどとりあえず了解したから落ち着け。」


俺はとりあえず瑞鶴を落ち着ける。


明石「提督さん、目が覚めたんですね。良かった。」


そのタイミングで明石がやってきた。ナース服のようなものを着ている。エッチだ…っていかんいかん煩悩ゴアウェイ。


提督「おかげさまで、他に怪我をした人とかはいなかったですか?」


明石「いえ、提督さんが一番重症ですよ。驚きましたよ、急に半身血だらけで運ばれてくるんですから…」


明石さんは困ったような驚いたような感じで言う。


明石「ちなみに、倒れた原因は恐らく貧血と疲労によるものだと思います。手足の傷は傷跡は残りますけど治るので安心してください。」


提督「そうですか、ありがとうございます。」


明石「へ!?え、あ、はい!」