2018-08-08 12:28:19 更新

概要

この作品は、『ポンコツ提督が鎮守府に着任するようです。』の番外編となります。人間として完全に狂っているある男と深海棲艦達が織り成す日常的で非日常。それをお楽しみ下さい。


前書き

注意:本文閲覧前にお読みください。
・この作品ではグロテスク要素、サイコパス要素が含まれております。苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・勘違いされそうですが、作者は一般人です!サイコパスとかじゃないです!
・深海棲艦の性格などは勝手な私のイメージですのでキャラ崩壊に注意です。
上記のことを許容してくれる方は、この作品をお楽しみください。また、本編である『ポンコツ提督が鎮守府に着任するようです。』の方も是非よろしくお願いします。


生きているのが、退屈だった。与えられた人生、与えられた生き方。くだらない


ある日、人が死ぬのを見た。車に轢かれて死ぬのを。赤い鮮血、絶望に満ち溢れた表情。


僕はそれが美しいと感じてしまった。日常にそぐわないワンシーン、自分が今常識や日常からかけ離れたところにいるという愉悦。


僕はその特別感に酔いしれた。思えば僕はその時からとっくに狂っていたのだろう。


しかし、その一件以降は何も無かった。残酷なほどに日常は日常でしか無かった。


そんなある日のことだ、深海棲艦が現れたのは。


深海棲艦と呼ばれる侵略者はひたすら人類を蹂躙した。僕はそのニュースを見る度興奮が収まらなかった。神がついに人間という生物に裁きを与えに来たんだと。


その姿はまさに非日常、現実離れしたもの、僕が求めていたものまさにそれだった。


それから僕はひたすらに深海棲艦の情報を集めた。多少裏の世界にも手を出し、やっと手に入れることが出来たのは五枚の写真だけだった。


大半の写真にはクジラのようなワニのようなものが映っている。しかし、一枚だけ女性の姿をした深海棲艦を収めている写真があった。


頭に大きな帽子のようなものを被り、マントを羽織っている。手には杖だろうか、そういった何かを持っているように見える。


恐ろしいほど白い四肢に蒼く怪しげに光る瞳。まるで、『死』の一文字を擬人化したかのような姿。


僕は彼女に一目惚れしてしまっていた。


そんなある日、人間が深海棲艦に挑もうとしていることを知った。


人間とはどれほど愚かな生物なのだろうか、神の使いからの美しき制裁による死すらも受け入れようとしないとは。


これは、後に知った話だが、人類は深海棲艦に傷一つつけられなかったらしい。


僕はその噂を聞いた時、疑念が確信に変わった。やはり、深海棲艦とは人間に制裁を加えに来た神の使いなのだと。


しかし、それからすぐに艦娘という忌々しい存在が現れた。


それは、深海棲艦と対等に戦えるばかりか殺すことが出来るという。


僕は激怒した。あんなにも美しい深海棲艦に傷をつける?頭がおかしいんじゃないだろうか。


艦娘の勝利をメディアで知る度に一時の感情で鎮守府にテロ行為を行おうと思ったが、それでは人間に殺されてしまうと思い留まった。


それだけは絶対に嫌だった。死ぬのなら深海棲艦に殺される。それは僕にとって絶対だった。


それが、僕が中学生の時の出来事である。


時は流れ、二十年後。僕はもう三十過ぎのおっさんになっていた。あれから幾度も深海棲艦に殺されようと海岸を転々としたが、艦娘に阻まれ続けた。


とはいえ、それで引き下がる僕ではない。僕はある鎮守府から情報を抜き出していた。何かと苦労したが、深海棲艦のためならなんともない。


そして今、僕はボートに乗っている。


海軍の警戒が薄いルートを使い、無人島に向かう。


僕の目的は一つだ。今日の午後、ここの付近の海域に海軍が掃討作戦を行う。僕はそれを知ってここに来た。


深海棲艦に知能があるのは知っているが、どれほどかはわからない。ここからは賭けだ。


いや、賭けと言っても負けたところで目的の八割は達成されるのだが。


僕は無人島で持ってきた打ち上げ花火を打ち上げる。これで、深海棲艦に僕の存在は気付いてもらえただろう。


案の定、深海棲艦の偵察機がこちらに飛んでくる。僕はそれに白旗を降る。


別にここで殺されても構わない。というか目的の八割はそれなのだから。


しかし、偵察機は僕を確認し来たルートを戻っていく。


しばらくして、僕が恋焦がれていた姿の深海棲艦がやってきた。空母ヲ級、それが彼女の名前だ。


なんて美しい響きだろうか。名前を呼ぶだけで幸せになれる。


恐らく、彼女は僕を罠か何かと判断したのだろう。後ろには隠れるようにして近づいてくる深海棲艦が見える。


彼女はこちらを睨みつけながら近づいてくる。そして、無人島の近くまでやってきた。


その時、僕と彼女の目が合った。青く揺らめく瞳。僕は身近に死を感じる。僕はそれに興奮を覚える。


しかし、彼女は攻撃をするどころかこちらに更に近づいてきた。僕はその姿に見惚れてしまっている。


写真なんかとは違う。その姿から漂う死の匂い。どうしようも無く美しい白い肌。僕はとっくに彼女に溺れている。


ヲ級「オ前ハ何者ダ?」


彼女は僕に話しかけてくる。会話は出来るようだ、なら僕の目的の二割も果たせるかもしれないと思い直ぐに口を開く。


僕「僕はあなたに魅入られたものです!あなたがたに危険を知らせに参りました!」


彼女は少し不気味なものを見る目で僕を見る。そんな怪訝そうな表情さえ、僕には美しく見える。


僕「本日、午後に付近の鎮守府がここの掃討作戦を画策しております。そしてこれが、その作戦内容をまとめたものです。」


そう言いながら僕は鎮守府から密かに手に入れた作戦内容をまとめた紙を差し出す。


ヲ級はそれを受け取り興味深そうに見たあと口を開く。


ヲ級「オ前ハ同族ヲ裏切ルノカ?ナゼ?」


僕「それはあなたに一目惚れしたからです。ヲ級さん。」


ヲ級は僕のセリフを聞き、少し頬を色づかせる。


僕はあまりそういった動作に可愛いなどと感じるたちでは無いのだが、これが恋の力だろうか不思議と魅力的に感じた。


ヲ級「マ、マァ信ジルワケデハ無イガ警戒シテ損スルコトハ無イダロウ。受ケッテオク。」


完璧だ。これで僕は目的の二割を完遂した。後は殺してもらえれば全てクリアだ。


そう、僕のこの行動は憧れである深海棲艦の役に少しでも立ちたいと思い決行したものだ。


そして、今ここで深海棲艦に危害を加えようとすれば中学生の頃からの夢である、深海棲艦に殺されるという欲も果たされる。


しかし、その時僕の中にさらなる欲が産まれてしまった。そう、出来るのならばもっと彼女を見ていたい。


その腕を瞳を脚を体を耳を口をミテイタイ。


傍で愛したい。愛されたいなどとは言わない。ただ、アイシテイタイ。


僕「それで、お願いなのですが。その情報が役立った暁には、私をあなた方の仲間にしては頂けないでしょうか…?」


僕は懇願するように彼女に言う。彼女は少し考えるようにした後、僕の目を見る。


ヲ級「人間ナノニ深海棲艦ノ仲間ニナリタイノカ?」


僕はその問いに頷く。


ヲ級「イイダロウ。シカシ情報ガ役ニ立ッタラダ。嘘ダッタナラ…ワカッテイルナ?」


彼女はそう言い、偵察機を残し去っていった。


僕は股間の辺りに熱を覚える。僕は興奮しているのだ。二十年憧れ続けた、愛し続けた存在との邂逅。


とはいえ、ここで一人で興奮を収めるわけには行かない、偵察機が見ているのだ。


僕は彼女の声の余韻に浸りながらその場にうつ伏せに倒れる。


おかしな話だ。ずっと死を望んで生きてきたはずなのに彼女に会った途端、死より望むことが出来た。


僕「ははは…」


僕は自嘲するように乾いた声で笑う。


そのまま横になっていると突然、強い眠気に襲われた。そういえば、ここ数日情報を集めるためにほぼ寝ていないのだった。


僕は眠気に抵抗しきれず、その場で意識を失った。



ー第2節ー


?「オイ、起キロ人間。」


僕は誰かに声をかけられる。まだ意識がはっきりしない。


顔を左右に振り意識を覚醒させる、目の前には彼女がいた。どうやら、僕は眠ってしまっていたらしい。


ヲ級「オ前ノ情報ハ確カニ役立ッタ。助ケテモラッタヨウナモノダカラナ礼ヲ言ウ。」


ヲ級「相手ノ作戦ヲ把握シテイナケレバ間違イナク私タチハ全滅シテイタダロウ。」


僕「光栄です。お役に立てたのでしたら本当に良かった。」


ヲ級「ソコデ約束ドウリお前ヲ深海棲艦ノ仲間トスル着イテキテクレ。」


彼女は僕が乗ってきたボートを見ながら言う。


僕は言われたとうり、ボートに乗って彼女の後を追った。


しばらくして着いたのは、先程より大きな無人島だった。ヲ級は島を歩いていく。


深海棲艦が陸を歩けることに僕は疑問を抱いた。僕は彼女にそれを口にする。


僕「あなた方は陸を歩けるのに何故本土に進軍しないのですか?」


ヲ級「マダ、オ前ニ多クノ情報ヲ与エルコトハ出来ナイ。」


しかし、彼女はその疑問に答えてはくれなかった。まだ、完璧に信用してくれた訳では無いらしい。


しばらく歩くと、鎮守府のような建物に着いた。深海棲艦もこのような施設を利用するのだろうか?


ヲ級は施設の中に入っていく。僕もそれに続いた。


ヲ級「ココダ。」


彼女がそういった場所は広間のような場所だった。そしてその中には数人の深海棲艦がいる。


海軍が発表している情報が正しい名称であればレ級とリ級、そして軽巡棲姫だ。


リ級「ヲ級、ソイツガサッキ言ッテタヤツカ?」


ヲ級「ソウ、人間ナノニ深海棲艦ニ味方スルッテ言ッテル。」


リ級「殺サレカケタカラ生キ延ビルタメニ嘘ヲ吐イタトカデハナイノカ?」


ヲ級「イヤ、最初カラソノツモリダッタヨウダ。」


レ級「テカ、ココニ人間ヲ連レテ来テヨカッタノカ!?」


軽巡棲姫「人間一人程度、何カシタラ殺セバイイノデスヨ。」


レ級「確カニソウダナー。」


深海棲艦達が会話している。僕はその光景を見れたことに心から喜びを覚えた。


こんな光景海軍でも見た事ないだろう。僕は今、誰よりも深海棲艦に近い人間になったのだ。


ヲ級「トコロデリ級、コイツヲ試スト言ッテイタガ何ヲスルンダ?」


リ級「ソウダッタナ、レ級連レテキテクレ。」


レ級「アイアイサー!」


深海棲艦は僕になにかさせるようだ。試さなくともここで死ねと言われれば舌を噛み切ってでも死ぬというのに。


少しして、レ級が何かを連れてくる。それは、人間の女性だった。彼女は僕を見るなり声を上げる。


女性「助けてください!お願いします!なんでもしますから!」


レ級「ナンカ急ニ五月蝿クナッタケド連レテキタゾー。」


レ級は女性を僕の近くに投げ捨てる。ぐえっなんて声が響く。


リ級「アリガトウレ級、トコロデソコノ人間。」


リ級は僕を見ながらそう言う。


僕「はい、なんでしょうか?」


リ級「オ前ハヲ級タチノ危機ヲ救ッテクレタヨウダガ人間ヲソウ簡単ニハ信用出来ナイ。」


リ級「モシ、オ前ガ本当ニ人間ノ敵ダトイウノナラココデコノ女ヲ殺シテ見セロ。」


女性「へ…?」


女性が不意に声を漏らすその顔は絶望に溢れていた。いい顔だ、犯したくなる。


軽巡棲姫「セッカク捕獲シタノニ実験ハイイノデスカ?」


軽巡棲姫がリ級に問う。


リ級「実験ハソノ男デ代用スレバイイ。ソウスレバコノ女ハ用済ミダ。」


女性「用済み…?」


軽巡棲姫「ナルホド、納得シマシタ。」


そう言い、軽巡棲姫は身を引く。実験がなにかはわからないが、この体はまだ彼女たちの役に立てるらしい。なんて光栄なことだろう。


リ級「ソレデ、デキルカ?人間。」


リ級がそう言うと同時に深海棲艦達の視線が僕に向く。そして、僕は女性に近づく。


女性「…嘘ですよね?なんで、殺すなんて…へぐっ」


僕は無言で彼女の首を締め上げる。苦しそうな顔。あぁ、いい顔だ。キスしたくなる。


女性「なんで…なんでこんな…」


女性が掠れた声で僕に問う。


僕「さっきなんでもするって言ったじゃないですか。だから、死という救いをあげるので僕の生贄になってくださいよ。」


女性「あなた…狂って……


突然、彼女が何も発しなくなる。これが人を殺すという感覚。思ったより気持ちが悪くなる。


とはいえ、僕は女性に死という救いを与えたのだ。その死を少しくらい利用させてもらっても罰は当たらないだろう。


僕「どうでしょうか?僕は合格でしょうか?」


僕はただの肉塊となった彼女から手を離し、後ろのリ級に尋ねる。


リ級「正直、予想以上ダ人間。ソレデ早速ダガ、私タチノ提督ニナッテハモラエナイカ?」


これが僕と彼女達の美しい破滅へのプロローグだった。




(カタカナ表記は読みにくいのでここから下はカタカナ表記を辞めております。)


その後、リ級から聞いた話によるとこういうことらしい。


ここの施設はもともと鎮守府だったらしいが。深海棲艦に襲撃を受けた際に放棄されたらしい。


しかし、施設自体は使える状態だったらしく入渠などが出来ないか調査したらしいのだが、出来なかったのだという。


艦娘たちが入渠する場合、提督に許可が無いと入れないと知り、人間つまり先ほどの女性を捕まえたらしい。


結果は失敗、そこで今僕を提督とした状態で試そうとしているわけだ。


僕も最初は深海棲艦の提督になんて恐れ多いと断ったのだが、お願いだなんて言われたら断れるわけがない。


狂提督「リ級さん、入渠していいですよ。」


僕はそうリ級さんに言う。リ級さんは前に試したときは見えない壁に阻まれたらしい。


しかし、今回はスムーズに入ることができた。


リ級「まさか、こんなに簡単に行くとはな。では、実際に傷を癒してみよう。」


リ級はそう言って奥に行ってしまった。


レ級「それにしても人間、お前同族をあんな風に殺すなんてやべぇな。罪悪感とかねぇの?」


レ級が僕に話しかけてくる。罪悪感?僕は彼女を救ったのに何を言ってるんだろうか。彼女の救いを利用したことについてだろうか。


狂提督「罪悪感は多少ありますけど、信じてもらうには仕方なかったですからね。」


レ級「ほーん、なんで人間の癖に私たちの味方をすんのさ。」


提督「それは、ヲ級さんが好きだからですよ。」


ヲ級「!?」


僕のセリフにヲ級が反応する。レ級はほほーんと言いながらヲ級に問う。


レ級「ヲ級さん、あんなこと言ってらっしゃいますけどヲ級さんはどうなんですぅ?」


ヲ級は顔を赤らめながら困ったようにしている。そんなヲ級に助け舟を出したのは軽巡棲姫だった。


軽巡棲姫「こらこらレ級、あまりヲ級さんを虐めてはいけませんよ。」


レ級「ちぇー、ノリが悪いなぁ。まぁ、いいや。私は散歩でもしてくるよ。」


レ級はそう言ってその場を後にする。


ヲ級「ありがとう、軽巡棲姫。助かった。」


軽巡棲姫「いえいえ、気にしないでください。ところでそちらの人間さん?」


軽巡棲姫は僕を見て言う。


軽巡棲姫「好きとは好意を抱いてるということですか?」


提督「はい、彼女を愛しています。」


僕のセリフにヲ級が両手で顔を覆ってしまう。あぁ、愛しくて仕方がない。


軽巡棲姫「それじゃぁ、あなたは彼女になら殺されてもいいと思いますか?」


提督「勿論、僕の四肢から体のなにもかもまで差し出せますよ。」


軽巡棲姫「ふふふ、予想どうり。あなたみたいな狂ってるモノ私とても好きよ。どうですか?ヲ級さんではなく私じゃダメかしら?」


軽巡棲姫は俺の耳元でそんなことを言ってくる。酷く魅力的ではあるが、二十年の恋は伊達では無いのだ。


提督「駄目ですね。軽巡棲姫さんも美しいですけど、僕はヲ級さんがいいんです。」


軽巡棲姫「あらあら、振られてしまったわ。こんなに愛される誰かは羨ましいわね。」


軽巡棲姫はヲ級を見ながら言う。ヲ級はそんな軽巡棲姫をあなたもかといった顔で見ている。


その後、しばらく情報交換などをしているとリ級が出てきた。


リ級「入渠というのは素晴らしいものだな、傷が治るどころか力が湧き出てくるようだ。」


提督「それは良かったです。お役に立てて本当に良かった。」


リ級「堅苦しいのはやめてくれ、お前はもう私たちの提督になったのだからな。人間の鎮守府ではそっちのが上司なんだろう?」


提督「そんな、とんでもありません。僕なんかが深海棲艦の上司だなんて。」


リ級「まぁ、そう言うな。私は対等な関係を望んでいる。すくなくとも信頼は出来るらしいしな。」


提督「そう言うのでしたら…いや、そういうことならわかった。」


リ級「あぁ、その方がよっぽど提督らしい。お前もそう思わないか?軽巡棲姫」


軽巡棲姫「えぇ、そうですね。」


リ級は軽巡棲姫に同意を求め、軽巡棲姫もそれに同意する。


リ級「ところで私はこの有り余る力をどこかで発散して来ようと思うのだが、お前たちもどうだ?」


リ級はヲ級と軽巡棲姫に問う。


軽巡棲姫「いいですね。私も最近何もしていなかったですし。入渠もしてみたいですしね。」


ヲ級「私も先ほどからイライラが溜まってるから行く。」


提督「そういうことなら、いい情報があるので聞いていかないか?」


僕は不吉な笑みをしながら提案するのだった。





それからしばらくして、僕は抜錨する彼女たちを見送る。


僕が提案したのは、ある鎮守府への直接攻撃だ。


といっても、何も考えずに彼女たちを特攻させたりはしない、ある情報があったからだ。


この情報は、海軍の掃討作戦の情報収集時に偶然手に入れたものだった。


内容は艦娘と他の鎮守府の提督のメールでのやり取りである。


簡単に言うと、ある鎮守府の提督が誕生日なのでパーティーを開くので、その際の海域の護衛を頼むというものだった。


それに対して、他の鎮守府の提督は三時間だけ出撃などの都合上空きが出来てしまうというものだった。


それがちょうど今だった。


僕がこのことを話すと、彼女たちはある程度進行してみて敵に見つかったら帰港すると言い出て行った。


ちなみにこれは彼女たちには話していないが、そのパーティー。誕生日の提督の妻子まで来るという。


あぁ、想像するだけでも胸が躍る。


誕生日に妻子ごと殺される人間はどんな顔をするのだろうか。直に見たいものだが今は想像で我慢しよう。


それから約二時間後、彼女たちが帰ってきた。


リ級「帰港したぞ、大勝利だ。反撃されるどころか艦娘の一人も出てこなかった。」


ヲ級「ここまで簡単に鎮守府を潰せるなんてな。」


軽巡棲姫「でも、そのせいで入渠する必要も無いですね。」


軽巡棲姫は少し悲しそうに言う。


提督「まぁ、いつか機会もあるでしょうし。それを待ちましょう。」


軽巡棲姫「そうですね。敬語戻ってますよ?」


提督「おっと、失礼。」


僕は軽巡棲姫を元気づけよと思ったのだが逆に敬語を指摘されてしまった。


リ級「なにはともあれ、こんな情報を流すくらいだからな。信用に足ると判断しよう。よろしくな提督。」


提督「あぁ、こちらこそ。」


こうして、世界で初めての深海棲艦の提督が生まれたのだった。







あれから一か月、様々なことがあったがこの環境にも慣れ始めた。


この鎮守府の噂を聞きつけ、戦艦棲姫と深海鶴棲姫もここに仲間を連れてやってきたため中々賑やかになった。


あの鎮守府襲撃事件は提督を殺し切れていなかったことが後に発覚したが、人間の一人程度気にするのも阿保らしいだろう。


ちなみに、その直後レ級がなんで僕を呼ばなかったのさ!なんて拗ねていたのを思い出す。


そして今はリ級さんに戦術などを教えてもらっている。提督なのだからそれくらい覚えたいと僕がお願いしたのだ。


リ級「お前は随分と呑み込みが早い。教えがいがあるというものだ。」


提督「いや、リ級の教え方がうまいだけさ。ありがとう。」


リ級「そう素直に礼を言われるのは慣れないな、今日はここまでにするか。」


提督「なぁ、一つだけ聞いていいか?」


リ級「ん?なんだ?」


提督「お前たちはなんで人間を襲うんだ?」


僕は昔からの疑問を口にする。リ級は少し考えるようにした後、口を開いた。


リ級「お前は何故、生きている?」


提督「深海棲艦を愛するため。」


リ級「ははは、お前にこの質問では意味なかったな。簡単に言うならしたいからだ。」


リ級は呆れたように笑い、語る。しかし、僕には少し意味が分からなかったので考える。


リ級「お前は、眠くなったりお腹が減るのに違和感を持ったことはあるか?」


提督「いや、無いな。」


リ級「それと同じだ。ただ殺したいから、襲いたいからその衝動のままそれをやっている。まぁ、本音を言うと自分でもよくわからないのさ。」


リ級は最後にすまないなきちんと返せずに。と言って執務室を出て行った。


予想どうりだ。彼女たちは神からの使者なんだ。人間への制裁を下しに来たんだ。


僕は思わず顔がにやける。僕はそんな高貴な存在と今一緒にいるんだ。僕は気分がいいまま執務室を後にした。


鶴棲姫「あら、提督さんじゃん何してんのさ。」


不意に後ろから声をかけられる。


提督「鶴棲姫かただ散歩していただけだよ。」


鶴棲姫「へー、私も暇だし一緒に散歩しようよ。」


提督「あぁ、構わないぞ。」


僕は彼女の誘いに乗り、二人で歩く。話した内容は思い出せないような適当なものだった。


僕は会話の切れ目にリ級にしたことと同じ質問をしてみる。


提督「なぁ、鶴棲姫。お前はなんで人間や艦娘を殺すんだ?」


鶴棲姫「なんでかぁ…んームカつくから?」


提督「ムカつく?」


鶴棲姫「うん、なんか人間を見ているとイライラするんだよね。後は寂しさを紛らわすためかな。」


提督「寂しいか…それはここにいても消えないのか?」


鶴棲姫「うーん、なんつうかここは楽しくて好きだよ?提督さんのこと最初は警戒してたけどそんなの無意味そうだしね。」


鶴棲姫「でも、そういうのじゃないんだ。トラウマって言うか消えないんだ寂しさが…ずっと。」


鶴棲姫は悲しそうな顔で言う。


提督「なら一緒にたくさん人と艦娘を殺そう。僕も今作戦指揮とかについてリ級に教えてもらっているんだ。完璧に覚えていつか僕も役立てるようになるよ。」


鶴棲姫「本当に提督は人間なのに私たちに優しいよね。ありがと、期待してる。」


提督「期待にこたえられるように頑張るよ。」


僕は鶴棲姫に笑顔でそう言った。







ーヲ級視点ー


ヲ級「また鶴棲姫と喋ってる…」


戦艦棲姫「どうしたの?ヲ級ちゃん。」


不意に近くにいた戦艦棲姫さんに独り言を聞かれてしまった。


ヲ級「戦艦棲姫さん、その、提督は私を好きって言ってたのに…ずっと鶴棲姫さんと話してるから…」


戦艦棲姫「ふふふ、つまりやきもちを焼いてるんですね?」


ヲ級「なっ!?その、そういうわけじゃ…」


戦艦棲姫さんに図星を突かれて言い返せなくなってしまった。


戦艦棲姫「ヲ級さんは彼をどう思ってるんですか?」


戦艦棲姫さんは優しい笑顔で聞いてくる。


ヲ級「…愛してるって言われて…嬉しかった。だから、お返ししようと…」


戦艦棲姫「ヲ級ちゃんは乙女ですね。でも、彼を好きというわけでは無いんですか?」


戦艦棲姫さんは質問攻めにしてくる。自分でも整理がついてないのに…


ヲ級「その…好きとかわからない。でも、好いてくれるのは嬉しい。」


戦艦棲姫「なら、話しかけてみたらどうです?そうすれば自分の中でも色々わかるかもしれませんよ?」


実は私は戦艦棲姫さんは苦手だ。いっつもほほ笑んでいて何を考えているかわからない。嫌いというわけではないのだが。


そのタイミングで鶴棲姫さんと提督が別れるのが見えた。


戦艦棲姫「ほら、チャンスですよ。」


戦艦棲姫さんはそう言って私を物陰から押し出した。仕方ない、私も少し勇気を出そう。


戦艦棲姫「ふふふ、青春ですね。空もあんなに青いですし。」


戦艦棲姫はヲ級の背を見送りながら快晴の下、一人呟いていた。




ヲ級「提督…こんにちは。」


提督「ヲ級か、こんにちは。」


私の挨拶に彼も笑顔で返してくれる。そんな彼の顔を見つめる。私は人間の笑顔を知らなかった。


私が襲う人たちは皆泣いたり絶望していた。その表情が私は嫌いだった。でも、殺さないといけない。そんなナニカが私を戦場へと赴かせた。


そのナニカはきっといつまでも消えることは無いのだろう。


提督「どうしたんだ?」


そんなことを考えていると、不意に提督に声をかけられる。


ヲ級「ふぇ!?な、なんでもない…」


私は驚いて変な声を出してしまった。それを誤魔化すように質問をする。


ヲ級「提督は、私を好きなのか?」


提督「あぁ、好きだよ。」


即答された。頬が熱くなる。好きというのはこうやって相手にぶつけるものなのだろうか。


ヲ級「あまり直球で言わないで…その…恥ずかしい。」


提督「あ、そうか…すまない。」


彼は少し悲しそうな顔をする。別に言われたくないわけでは無いのだ。でも、何て言えばいいのか…


ヲ級「そ、その、好いてくれるのは嬉しんだけど…私は好きとかわからないから…」


私の台詞を聞いて彼は少し不思議そうな顔をしていたがすぐに口を開く。


提督「別に無理はしなくていいんだ。嫌ったっていい。ヲ級はヲ級のしたいことをすればいいさ、僕はそんな君が好きなんだから。」


私は好きというセリフに何度も言うなと怒ろうかと思ったが、彼の笑顔を見て胸のあたりが苦しくなる。


ヲ級「馬鹿…」


私は思わずそう言ってその場を後にしてしまった。







ー提督視点ー


なにかやらかしてしまっただろうか。僕は走り去るヲ級の背を見ながら考える。


僕は真実しか言っていない。これで彼女が僕を嫌うようならそれは仕方が無しだろう。それでも迷惑と思われないように僕は彼女を愛し続ける。そしてその愛が色あせる前に深海棲艦に殺されるのが一番だろう。


レ級「おーい、女たらし提督~」


そんなことを考えているとレ級が走り寄ってくる。


提督「別に俺は女たらしじゃないぞレ級。」


レ級「正面切って好きとか言えるやつのどこが女たらしじゃないんだかねぇ。」


提督「確かにそうだが、俺がそれを言うのはヲ級にだけだ。」


レ級「あーはいはい、爆発しとけリア充~」


レ級とはかなり仲良くなれた。彼女はラフな感じで話しかけてくれるので僕も喋っていて楽なのだ。


提督「それで?何か用か?」


レ級「あぁ、そうそう。ちょっと暇だし海でも散歩しようと思ってさ許可取りに来たんだよ。」


現状、ここの最高責任者は僕ということになっている。そのため出撃や補給の際は僕に許可を取る必要があることになったのだ。


提督「別に構わないけどお前は海軍だと結構危険視されているようだから艤装をつけて気を付けていくんだぞ?」


レ級「わーってるって、ついでに適当な艦娘でも沈めてきてやんよ!」


レ級はそう言って走り出した。ちなみにその後、レ級ははぐれていた白髪の空母を沈めたぜ!と言いながら帰港したのだった。






そしてまたいくつかの暦を数え。


深海棲艦たちは順調に戦果を伸ばしていった。必要に鎮守府の付近を攻撃しに来る艦隊があったが練度が低かったので返り討ちにしていた。


戦艦と思われる黒髪の艦娘を沈めてからそれも落ち着いた。戦艦棲姫に感謝しないといけない。


僕も徐々に艦隊指揮が出来るようになり、提督にふさわしい人間になりつつあった。


今日もバタバタしていたが一日を終え、今は十九時半。もう外は暗くなっている。


外が晴れていたので、少し星空を眺めに外に出るとリ級を見つけた。


リ級「お前も星を見に来たのか?」


リ級が僕に気づいたようで声をかけてくる。


提督「あぁ、今日は天気が良くて風もある。絶好の天体観測日和だからな。」


リ級「そのとうりだな。」


僕たちは空に輝く星を眺める。星座などは覚えていない。僕にとってはただの星だ。それでも綺麗なのには変わりない。


リ級「綺麗だな。」


リ級が呟くように言う。


提督「本当に。」


俺も短く返す。俺はふと昔に聞いたことを思いだす。


提督「生き物ってのは死んだら星になるなんて言ってるやつが昔いたよ。」


リ級「ここで、ただの隕石だというのは野暮というものなのだろうな。」


リ級は少し笑いながら言う。そして、少し切なそうに続ける。


リ級「でも、それなら、死ぬのも悪くないのかもな…」


提督「僕は星にはなりたくないけどな。」


僕はそんなリ級に言う。


リ級「なんだお前、あんなこと言っといて。」


リ級はそう言いながら笑う。彼女の笑顔は凄く美しい。僕が笑顔にこんなことを感じるのは深海棲艦にだけだが。


提督「だって、僕はもし死んだら天国でまたみんなで集まりたいからさ。」


リ級は僕の台詞に少し驚いたような顔をするが、それもいいかもなと笑った。


そして、沈黙の中二人で夜空を見上げる。その時、不意にリ級に後ろから肩を叩かれる。


振り向くと、唇が塞がれた。彼女の唇で。数秒触れ合う柔らかい感触。僕は驚きのままされるがままになっていた。


提督「っは…リ級?」


リ級「軽い女とは思わないでくれよ?私にはお前しかいないんだからな。」


リ級「つまり、お前のように言うなら私は天国で集まるのならお前と二人きりがいいというわけだ。」


そう言って再度唇が塞がれる。僕は彼女のその切なさの溢れる表情に見惚れ、無言でそれを受け入れた。


再度触れ合う数秒、なんとも表現しにくい背徳感の蜜に溺れる。


そして、リ級は僕の目を見る。そして少し悲しい顔をする。


リ級「お前のヲ級への思いは知っている。だからこれはただの私の自己満足だ。返事はいらない、愛しているぞ。」


リ級はそう言ってその場を後にした。


僕はどうすればいいのだろうか。ヲ級を愛してしまっている僕は彼女に応えることはできない。しかし、答えを出さないのは残酷なのではないか。


いや、答えを出した方が残酷なのだろうか。その時、近づいてくる足音が聞こえた。






ーヲ級視点ー


私は風が気持ちいのでお散歩していた。その途中、提督とリ級を見つけて様子を伺っている。


なにを話しているかはわからないが、二人で夜空を見上げているのを見ていると胸がもやもやする。


声が聞こえる距離まで移動しよう。静かに、素早く、ばれないように。


私は二人のそばの木に隠れることに成功した。バレてないようだ。良かった。


しかし、安心したのもつかの間私は絶句した。


そう、目の前の二人がキスをしたのだ。


痛い。なんだかすごく心が痛い。意味がわからない。ぶつけても怪我してもないのに、今までで一番痛い。


提督「っは…リ級?」


リ級「軽い女とは思わないでくれよ?私にはお前しかいないんだからな。」


リ級「つまり、お前のように言うなら私は天国で集まるのならお前と二人きりがいいというわけだ。」


声が聞こえてくる。私は必死で胸を抑える。痛みが引くことを願いながら。


そんな私のことはつゆ知らず、リ級は再度提督にキスをする。


リ級「お前のヲ級への思いは知っている。だかたこれはただの私の自己満足だ。返事はいらない、愛しているぞ。」


私はそれを見て、さらに胸が痛くなる。入渠すれば治るだろうか。この目から溢れる雫もきっとどこかがおかしくなってしまったんだ。


リ級がこちらに近づいてくる。私は必死に息をひそめる。痛い。とっても痛い。


リ級が去るのを待ってから私は提督に話しかけるのだった。






ー提督視点ー


目のまえで愛しい彼女が泣いている。その涙は美しく、普段の僕なら歓喜するのだろうが今はそんな感情が起きもしなかった。


ヲ級「ねぇ、提督。私おかしいの。入渠させて。」


ヲ級は泣きながら言う。彼女は今のやり取りを聞いていたのだろうか。


ヲ級「さっき、リ級と提督がキスするの見た。それからずっと胸が痛いの。」


ヲ級はそう言う。


これは僕の勘違いなのかもしれない。もしかしたら、本当にどこかおかしいだけなのかもしれない。


もしそうだったら、僕の行動は馬鹿丸出しだがそれでもいいと思った。もとから見返りなど求めない愛なのだから。


ヲ級「な、なに?」


提督「なぁ、ヲ級。僕は君が好きだ。」


困惑しているヲ級に優しく言う。ヲ級の顔は見えない、何を考えているかもわからない。


それでも、僕は構わなかった。最初から触れることする無いと思っていた恋だ。嫌われようと構わない。


提督「きっとその心の痛みは『嫉妬』だと思う。僕の願望かもしれないけれど。」


ヲ級「でも、私は…好きとかわからない…から。」


提督「僕だってわからないさ。ただ僕は君と一緒にいたい。君を抱きしめたいって思う。それが好きってことだと思うんだ。」


ヲ級「私は…抱きしめられて嬉しい。これが…好き?」


提督「それを決めるのはヲ級自身だ。ヲ級はどう思いたい?」


ヲ級「私は、提督を好きになりたい。だから、好きってことにする。」


提督「そっか、ありがとう。俺も好きだよ。」


そうして二人は星空の中抱きしめあっていた。歪な告白と返事ではあるが、そこには確かに愛という不確かなものはあるのだろう。


リ級「皮肉なものだな、私の告白ですべてうまく行くなんてのは。なんだろう…トテモ壊シタクナルナァ」


そして、寒空の下一人物陰で呟くものもいた。その表情をもし見ていたなら酷く歪とでも表するのが適していたのだろう。








その夜の出来事から、僕とヲ級の距離は一気に縮まった。しかし、逆にリ級との距離が遠ざかったと言える。


ヲ級「提督、抱きしめて欲しい。」


提督「あぁ、構わないさ。」


僕はそう言ってヲ級を抱きしめる。最近はこうしてハグを要求してくるようになった程だ。


ヲ級「ここは…落ち着く。」


ヲ級はそう言いながら僕の胸に顔をうずめる。そんな姿を眺めているだけで僕は幸せになれた。死んでもいいと素直に思えるほどに。


鶴棲姫「ちょっと、人前でイチャつかないでよね!これだからバカップルは…」


レ級「本当だぜ…からかい甲斐が無いったらありゃしない。」


戦艦棲姫「私は構いませんよ?微笑ましいですしね。」


ギャラリーなんて気にしないといったように僕から離れないヲ級を抱きしめたまま三人に話しかける。


提督「どうしたんだ?三人そろって。」


レ級「いや、まぁ、大した用事じゃないんだけどさ。最近リ級が元気ないじゃん?」


鶴棲姫「さっき偶々三人ばったり会ってその話してたの、それで提督さんならなんか知ってるかなって思ってさ。」


僕はその質問に思わず口ごもる。これは多分僕が勝手に言っていいことでは無いだろう。


それを察したのか、戦艦棲姫が口を開く。


戦艦棲姫「どうやら話しにくいことのようですね。それじゃ追及するのは辞めましょう二人とも。」


レ級「えぇ!なんでだよ!追及すんのが楽しいんじゃないか!」


鶴棲姫「はいはい、あんたは空気を読むってスキルを身に付けなさいね。」


二人がごねるレ級をあやしていると執務室の扉が開いた。


リ級「どうしたんだ?皆集まって。」


レ級「え?何って丁度リッ…」


鶴棲姫「何でもない、何でもない。気にしないで?」


鶴棲姫がレ級を強引に黙らせて言う。


戦艦棲姫「ところで、リ級さんこそどうされたんですか?」


リ級「ん?あぁ、私は提督に話が合ってな。」


リ級はそう言って僕を見た。





ここは鎮守府の裏手、誰もいない寂しい場所。


そこに僕とリ級は二人でいた。


そして、リ級は不意に僕を押し倒す。そのまま上から押さえつけられる。


提督「キスの次は性交か?外でするのはあまりいい趣味だとは思わないが?」


リ級「それもいいな、だが違うさ。殺すだけだ。」


リ級はそう言って僕に拳銃を向ける。陸では深海棲艦は艤装を展開できないのでこういった武器を使うらしい。


リ級「…………なぁ、私の告白を利用してヲ級と近づけて満足か?」


少しの沈黙の後、リ級が言う。


提督「利用しようとしたわけじゃない。ただの偶然だ。」


リ級「でも、結果的には利用したのに変わらないだろう。私の想いを。」


リ級は瞳を潤わせ、そう問い詰めてくる。そして絞り出したような声で続ける。


リ級「こんなでも私だって女なんだ。嫉妬くらいするさ。だから殺されてくれ…」


僕はその場で目を閉じる。少し早い幕引きだが、悪くは無いだろう。当初の目的は果たした。天国で気楽に過ごそう。


しかし、リ級は撃たず質問してきた。


リ級「抵抗しないのか…?」


提督「ん?僕は十分なくらいに幸せだからね。強いて言うならヲ級が僕が死んで悲しんでたら慰めてやってくれ。」


リ級「この状況で他の女の名前を出すなんてな…」


提督「僕はリ級が何をしようがヲ級が好きだ。それは変わらないさ。」


伊達に二十年間片思いしていない。この恋はきっと死んでも冷めない。


リ級「お前はそういう男だったな。なら殺すのは辞めだ。」


リ級はそう言って俺の体を拘束したまま唇を奪う。


リ級「殺さずにお前の初めてをすべて頂いてやろう。そして罪悪感と共にヲ級を愛せばいい。私を脳内にチラつかせながらな。」


提督「俺に罪悪感なんてものがあると思うのか?」


リ級「さぁな、お前がどう思ったところでお前の初めては私のものだ。私ノ初メテモナ。」


そう言いながらリ級は僕と体を交わすのだった。正直に言おう。僕の体は彼女の四肢に間違いなく興奮し快楽に溺れていたと。


とはいえ、それは愛などではない。ただの快楽への欲求だ。そんな美しいものでは無い。


どれくらいたっただろうか、全てを終え、お互いに果てた後リ級は言う。


リ級「はぁ…はぁ…、安心しろ。このことをヲ級に言ったりはしない。お前だけが知っているというのが一番最適だろう。」


僕は何も言わない。彼女の美しい裸体を見つめる。先程まで僕と一つになっていた彼女を。


リ級「愛しているぞ、提督。」


彼女はそう言って再度、僕の唇を奪うのだった。歪んだ愛情、嫉妬に狂った女の末路。


いや、この言い方は失礼か。


愛しているとはなんなのだろうか、一方的に向けられる暴力的なほどの愛。僕は衣服を整えながらそれも悪くないと一人微笑を浮かべるのだった。





シャワーを浴びて廊下を歩いていると、ヲ級が駆け寄ってきた。


ヲ級「どこ行ってたんだ?浮気したら駄目だぞ?」


提督「安心してくれ、最初からヲ級以外を愛することなんて僕は出来ないよ。」


僕はそう言って先程まで他の女…いや、艦を抱いていた体で彼女を抱きしめる。


ヲ級「すぐにそういう恥ずかしいことを言う…」


顔を赤らめ恥ずかしがるヲ級の視界の外で、僕はどんな表情を浮かべていただろうか。


背徳感というスパイスに惚れこんで、笑っていたのか。罪悪感という棘に刺され暗い顔をしていたのか。


まぁ、ヒントを与えておこうか。俺はどうやら自分で思っているよりずっと狂っていたみたいだ。







それから俺とリ級は体だけの関係になった。とはいえ、力づくで愛されるその行為に愛など到底無いのだが。


性欲も二十年の片思いの前には無力だという意味だ、中々にロマンチックな話だとは思わないかい?


ちなみに、背徳感に酔いしれたのは最初だけだった。


そんなことを考えながら目の前のヲ級を見る。いっそ彼女を抱けばいいのだろうか?そんな簡単な話では無いか。


ヲ級「な、なぁ提督。」


提督「どうした?ヲ級。」


ヲ級「人間は好きあっている相手とでぇとというものをすると聞いた。そのそれは私でも出来るのか?」


ヲ級は恥ずかしそうに聞いてくる。愛らしい、抱きしめたい、滅茶苦茶にしてしまいたいなんてありきたりな感情が芽吹くが性欲はあらかた消化してある。


いや、消化されているが正しい言い方か。全く皮肉にもほどがある。


提督「うん、というか今もうデートしてるようなものだと思うよ?」


ヲ級「そうなのか?」


提督「あぁ、デートってのは好きあっている二人が一緒に出掛けたり二人きりでいることを言うんだよ。」


ヲ級「そ、そうなのか…そうか…」


急に下を向いてしまった彼女がそんなことを言う。かすかに見える頬が赤い、可愛いにも程がある。


リ級「相変わらず仲がいいな。」


そんなやり取りをしながら廊下を歩いていると反対側からやってきたリ級が素知らぬ顔で声をかけてくる。


ヲ級「か、からかわないで…否定はしない…けど…」


ヲ級が更に赤くなりながら顔をそっぽに向ける。


リ級「本音だよ、からかってるわけじゃないさ。」


リ級はそう言いながらすれ違いざまに反対を向くヲ級を確認し、俺の頬にキスをする。


本当に質の悪い艦だ。


ヲ級「全く、あのリ級までからかってくるだなんて。」


ヲ級が少し照れたように文句を言う。この胸の痛みは決して罪悪感では無いと決めつける。


提督「それだけ僕たちが仲良く見えるんだろうさ。」


ヲ級「ぬぅ、少し離れた方がいい?」


ヲ級が悲しそうな顔で言う。本当に愛らしいというかなんというか。


提督「そんなことは無いよ、僕もヲ級にそばにいて欲しいしね。」


ヲ級「そういうことを真顔で言うな…馬鹿。」


再度照れるヲ級を撫でながら、僕は昼食を取りに食堂に移動した。




軽巡棲姫「提督、大変申しにくいのですが…食料がもう少しで底を突きます…」


食堂に行くと、軽巡棲姫が申し訳なさそうに言ってくる。


今までの食糧は、この鎮守府に備え付けられた非常食で賄っていた。深海棲艦は食事が必要ないとはいえ二人分を賄うのには持った方だろう。


提督「仕方ない、調達してくるとするさ。」


ヲ級「人間のとこに行くのか?危なくないのか?」


軽巡棲姫「ええ、軍の監視もありますし本土にたどり着くのも困難では…」


ヲ級と軽巡棲姫が心配そうに声をかけてくる。


提督「大丈夫さ、そのためのあの子だろ?海軍の監視の穴を抜けて行って帰るだけ安心してくれ。」


俺はそう言ってPCの画面を開く。そこには軍の展開状況が細かく映っている。仕事ができる人間は使えるものだ。


提督「それじゃ、速く行ってきてしまうとするさ。」


ヲ級「提督一人じゃ心配だ、私も行く。」


ヲ級が今にも泣きだしそうな顔でそう言う。


提督「大丈夫さ、逆に僕一人のほうが危険は低いと思う。だから待っててくれ。な?」


ヲ級「………わかった。」


ヲ級を説得し、僕は本土に向かった。




本土に着いてすぐ、適当に人間を殺し現金を頂く。少し気が引けたが救いの代償としては今後必要無い金など安いものだろう。


そして、捕まるわけにはいかにので証拠を隠蔽し遠くの店に向かう。大きなショッピングモールを見つけ入ってみることにした。


どうにかこうにか保存食を大量に購入することは出来たが余りに大量の人間を見て吐き気がする。


僕は気を紛らわせようと何かないか周囲を見渡す。その時プラネタリウムが目に入った。


星空は好きだ。僕が救った人間たちが光り輝いているようで、死んだら星になる…か。リ級のことを思い出すが頭から即座に消し去る。


僕はプラネタリウムを見ることにした。


プラネタリウムの内容はいたって平凡なものだった。綺麗ではあったのだが。


僕はあの夜のことを思い出す。あの時リ級を強く拒んでいればこんなことにはならなかったのだろうか。


そんなことを考えていたせいか、不意に知らない人にぶつかってしまった。


男性「すいません、ちょっと考え事をしてい…」


相手の男性、二十代後半くらいだろうか?が先に謝ってくる。しかし、僕の顔を見て少し顔が強張る。


提督「いえ、気にしないでください。僕も同じく考え事をしていたもので。」


僕も謝罪を返す。何故だろか目の前の彼に強く思うものがある。人間なのに醜く見えない。


わかりやすくいうなら、周囲の人間が黒で塗られている中で彼だけ白く見えた。


提督「どうかされましたか?」


とりあえず、厄介ごとになると面倒なうえ帰りが遅くなると折角の手駒が殺されかねないので適当に声をかける。


男性「あ、いえ、なんでもありません。」


彼のその返しを聞いて、僕はその場を去る。そしてその直後彼が合流した女性を見てすべてを悟る。


あれは空母瑞鶴だ。ということはあの男は提督なのだろう。


しかし、それを理解したうえで僕が彼に抱いたのは敵対意識ではなく同族意識だった。







提督「ただいま、結構買ってきたからこれで当分大丈夫じゃないかな。」


ヲ級「心配で死ぬかと思ったぞ馬鹿」


ヲ級がそう言いながら抱き着いてくる。


軽巡棲姫「申し訳ありません、私たちは買物は出来ないので危険を侵させてしまうことになって…」


提督「いやいや、僕の食べモノなんだから僕がとりに行くのは当り前さ。それに君たちを危険に追いやるくらいなら喜んで僕が変わるさ。」


軽巡棲姫「そう言うこと言われると勘違いしますよ?」


軽巡棲姫の台詞にヲ級が抱きしめる力が強くなる。


提督「他意は無いさ、それに今日は面白い男に会えたからね。」


僕は監禁している子供を見ながら、先ほどあった男のことを思い出していた。









我ながらおかしな話だ。あの男に会ってからずっと彼のことを考えている。


同性愛者でもないのにどういうことだろうか。でもなにか彼とは仲良くなれる気がしたのだ。


今日は皆が出払っているので、特にやることもないので前にレ級が拾ってきたテレビを見てみることにした。


やっていたのはお笑い番組だ。こういう作品は大抵趣味が悪い。


芸人などに苦痛を与え、その苦しんでいる姿で娯楽を得るなど人間の醜さが良く見える。


同族で殺しあう生き物などに救いは無い。人間にはもう死以外の救済など存在しないのだ。


何故僕は人間に生まれてきてしまったのだろう。いや、彼女たちの役に立てているのなら結果オーライといったところか。


僕はテレビのチャンネルを変える。といってもリモコンが無いのでテレビの横のボタンを押すしか無いのだが。


その時、画面に興味深いテロップが表示された。


『艦娘は人類の敵!?真相に迫る会見』と書かれている。


本当にふざけている。僕は艦娘は嫌いだ。といっても人間のように生理的に無理なわけでは無い。


あくまで敵だから嫌いで会って、強いて言うならボードゲームの相手の駒程度にしか思っていない。


つまり、イラつく行動をされたところでその対象になるのはプレイヤーである人間なのだ。


しかし、これはなんだ?散々守ってもらっといて散々犠牲にしておいて人類の敵?愚かにもほどがある。


そんなことを考えていると、会見が始まるのか二人の人物がステージに上がる。


そのうち一人には見覚えがあった。そう、ショッピングモールの彼だ。モザイク処理がされているが、声と動作が同じだ。


ここまで連続で見かけてしまうと運命を感じずにはいられないといったところか。僕は彼に釘付けになった。


会見は艦娘の危険性などについてが主なようだ。元帥と名乗った人物が一つ一つに細かく説明を添えて安全性を説いている。


その時だった、誰かがこんなことを叫んだ。


「深海棲艦と艦娘は手を組んでいるに違いない!あいつらも俺たちの敵だ!」


醜い。おぞましい。やはり死ぬべきだ。恐怖や不安に駆られ自己の破滅へ進もうとする人類には死が相応しい。


守ってもらって助けてもらって犠牲になってもらってこんなことをよく言えたものだ。反吐が出る。


同じことを感じたのか、元帥が机を殴る。さぁ、どんな話をしてくれるのか。見せてもらおうか。


しかし、僕の考えとは裏腹にマイクを握ったのは彼だった。そして彼は語りだす。


そこからはただの茶番だ。彼が先ほどの内容を言った男をコテンパンにのすだけの。


情けない話だが、僕は彼に魅入られてしまったらしい。傷を受け、我が身が危険に晒されようとも艦娘を守ろうとする。


あれこそ、本来の人間のあるべき姿では無いのか。あれが僕の求めた人間のあるべき姿では無いかと。


そうだ、深海棲艦が死への救いを与えてくれるのなら人間は生への救いを与えるべきなのだ。


とはいえ、この世で救いを得ていいほど人間は美しくない。ならば必然的に死による救いが正しいと理解できないのだろうか。


いや、きっと彼は間違った教えをされているのだ。ならばそれを救えるのは僕だけなんじゃないか…


軽巡棲姫「どうされたんですか?」


不意に帰ってきていた軽巡棲姫に声をかけられる。


提督「なぁ、お前はもう一人人間が増えてもいいか?」


軽巡棲姫「へ?ヲ級ちゃんとの子供ですか?」


提督「違う。一人攫ってきて欲しい人間がいるんだ。」


僕は今までで一番不敵な笑みと自負した顔でそう言った。










それから数日後、例の男がバカンスに鎮守府から離れているという情報を得て軽巡棲姫に誘拐の実行を命じた。


つい先ほど任務は成功。これから連れていきますと連絡が来た。


楽しみで仕方がない。彼は確実に良い駒になる。その核心が僕には会った。


そして、執務室の扉が開く。挨拶から始めるとしよう。


提督「やぁ、また会いましたね。」


男は警戒するような表情を僕に向けている。会見によると彼は二十歳やそこららしいがとてもそうとは思えない。


男性「随分と強引なお招きに預かり光栄ですよ。」


男は皮肉の混じった台詞を口に出す。この状況で怯えるどころか挑発的な口調で切り出してくるとは…やはりまともじゃない。


提督「それに関しては申し訳ないと思っているよ。ただ一つだけ心得ていてくれ。リ級頼む。」


とはいえ、会話の主導権を握られるわけにはいかないので僕はリ級に手はずどうりに命令する。


例の少将の息子をリ級が連れてくる。


少年「おじちゃん助けて!僕お父さんとお母さんのとこに帰りたい!」


子供が助けを求めて男に叫ぶ。いいぞ、その調子だ。君には彼の中で大きな存在になってもらわなければならないのだから。


男性「お前…子供になんてことを…」


震えた声で僕を睨みながら男が言う。あぁ、いい表情だ、他人のために本気で怒る顔。絶望の顔よりも純粋に美しい表情だ。


そして僕は知っている。君のような人間は自分が傷つくより他人の痛みのほうが心によく響く。僕が深海棲艦たちが傷つくのを嫌がるのと同じように。


提督「簡単なことだ。君がなにか不穏な行動を起こせばこの子が死ぬ。わかりやすいだろう?」


男性「あぁ、最高にわかりやすいな。ありがたいご配慮だことで。」


主導権を握る僕の台詞に男は思い切り舌打ちをしながら返す。あくまで下手に出る気はないようだ。


会話において、一度でも下手に出ると相手に状況的有利を作り出したと言って過言では無いことを理解しているようだ。


提督「ただ、話すだけでは退屈だし将棋は出来るかい?」


男性「将棋くらいできるさ。」


僕のお誘いへの返答を聞いて、僕は席を移動しつつ倉庫に眠っていた将棋盤と駒を準備する。


男性「リ級、その子と一緒に下がってくれ。僕は彼と二人きりで話がしたいんだ。」


リ級「あぁ、了解した。」


とりあえず、リ級を下げる。一対一の状況でないと男はまともに会話する気は無いようだ。


リ級が下がったのを確認し、歩兵を進めつつ僕は彼に話しかける。


提督「さて、君は艦娘についてどう思っている?」


男性「艦娘は人間にとってのヒーローだ。俺たちを守ってくれる英雄そんなもんだろ。」


男も歩兵を進めつつ返してくる。予想どうりの返しだ、やはり彼は僕の思ったとうりの人間に違いない。


男性「なら、今の人間たちの艦娘への態度は許されるべきものでは無いと思はないか?」


提督「確かにそれは俺も幾度も思ったさ。それがなんだってんのさ。」


男性「やはり君は素晴らしい。そう思うなら僕と一緒に人間を滅ぼさないか?深海棲艦と共に。」


まずは、彼の心を揺さぶるところからだ。僕はあくまで人間を消したいだけだ。ならば彼の艦娘を守りたいという思想に矛盾しない。


一番の問題は教育だ。生が正しいという誤認識を正してあげなければならない。人間は生きていてはいけないのだ。


提督「…却下だ。確かに人間は愚かだと思うがそれは理解していないだけであってきちんと伝えていけば状況は変わるはずだ。」


男性「一応言っておくが、勘違いしないでくれよ。僕は艦娘のためになにかをしようなんて気はない。」


彼を動揺させるのは必要だが、嘘はつきたくないのでしっかりと真実を伝える。


男性「ただ、僕は人間という愚かな存在に死という救いを与えたいだけなんだ。深海棲艦たちとね。」


提督「死が救い?何を言ってるんだ?」


またもや予想どうりの返しだ。可哀想に…素晴らしい思想を持っているのに生まれた環境が悪いだけでここまで歪むものなのか。


男性「多分それが僕と君の違う所なんだろう。僕は死。すなわち人間などから解放されることが救いだと思っているんだ。」


僕は彼を諭すように言う。これでわかってくれるとは思わないが、目的を明確にするのは大事なことだ。


提督「残念だが、俺はそう思わない。なんで俺を誘拐したのかはしらないが残念だったな。焼くなり煮るなり好きにしろよ。」


男性「いや、君はきっと理解してくれるさ。だって、君は僕が求めた人間の完成形なんだから。」


これは、僕の願望に近いものだった。しかし、彼は僕に酷く似ている。死への認識が違うだけだ。


提督「俺が…人間の完成形?」


男性「あぁ、君は他人を自分より優先することができる。更には恐怖に支配されず艦娘に感謝の心を持てる。」


男性「あの会見を見て確信したよ。君はこちら側の人間だ、狂っている。」


そう、彼の恐怖を恐れず大切なもののために命をはれるところ。更に単純な恐怖心を上回る心の強さ。


それでいて彼は、僕の調べた限りでは周囲を救っている。それは彼のカリスマを僕に教えてくれる。


嫉妬なんてしない。僕は別に死んでいいのだ、要は今の僕の席に相応しいのは彼だということなのだから。


もとから死を望むものである僕の二つ目の願望。彼に深海棲艦を率いて欲しい。それがなにか僕の望むものを産んでくれる気がした。


自分でも過大評価しすぎなのは分かっている。それでも彼なら何かを成し遂げてくれると直感が言っている。


僕の思想は破綻しているのだろう。それでも僕は生まれた願望を叶えたかった。


提督「だから僕は君に仲間になることを強制したりはしない。いつまでも待つさ。」


男性「……」


彼は口を閉じる。そろそろ最初の駒を置くタイミングだろう。僕の目的は君を壊すことなのだから。


提督「そうだ、せっかく来てもらったんだし面白いことを教えてあげよう。沈んだ艦娘はどうなると思う?」


僕は酷く不気味な顔で彼の香車を取り、それを手で弄びながら続ける。


提督「深海棲艦になるのさ。」


そう言って、香車を自分の持ち駒の中に置いた。










ーヲ級視点ー


私は執務室の扉に耳を当て中の音を聞こうとする。しかし、何も聞こえない。


鶴棲姫「中が気になるの?」


ヲ級「な!?べ、べつに気になってるわけじゃ…」


鶴棲姫に急に話しかけられ間抜けな声を出してしまう。


実は、提督が人間を一人軽巡棲姫に命じて攫ってきたと聞いて気が気でない。提督の好きな女の人でも来たんだったらどうしよう。


戦艦棲姫「さっき少し見たけれど、男のにんげんだったよ?」


ヲ級「そっか、それなら良かった…」


私は思わず息を吐きながらそう言うがその後で、鶴棲姫を睨む。はめられた!


鶴棲姫「しばらくしたら出てくると思うから、その時に自分の目で確認するといいと思うよ。」


ヲ級「……」


私は無言でそっぽを向く。それを見た鶴棲姫は少し微笑みながらその場を後にする。


ヲ級は戦艦棲姫がその後酷く歪んだ表情でいたことを知ることは無かった。










ー提督視点ー


男性「今…何て言った?」


提督「聞こえてなかったわけでは無いだろう?言ったとうりさ。」


いい反応だ。彼は今、敵について見失っているだろう。追い打ちをかけさせてもらおう。


提督「そのとうりだ、君たちが戦っているのは過去に誰かが共に戦い人間のために沈んだ存在と他ならない。」


表情から見るに僕の読みは図星だろう。


男性「冗談だろ…?」


提督「事実だ。僕もこれを知った時は衝撃を受けたものさ。」


最初に知ったのは、軽巡棲姫の報告が原因だった。艦娘だったような記憶があると。


僕はそれをもとに様々な情報を漁り、少将から海軍の最高機密を手に入れた。その内容がこれだ。


副産物として、いいものを手に入れたが披露するのはとうぶん先だろう。


提督「ちなみに逆もある。沈んだ深海棲艦は艦娘になる。海上で彷徨っている艦娘の存在を知っているだろう?」


提督「どうだい?まるで将棋のようだと思はないか?違いがあるとすれば、深海棲艦側には王将がいないということだろうか。」


嫌でも理解しやすいように将棋をしていたのだ。思考を逃がしはしない、簡単な思考でわかるように誘導する。


男性「……つまり、艦娘サイドの王将は人間だと言いたいわけか。」


驚いた、彼は思考を辞めていない。この事実に向き合おうとしている。本当に素晴らしい。


提督「あぁ、今はそうなっている。しかし、僕はこれが解せない。」


僕は拳を固める。激情を僕が覚えるのなんて深海棲艦がらみのみだな。


提督「何故、艦娘。将棋でいうなれば飛車などになりうる艦娘が本来歩兵以下の使い捨てになるべき人間を命がけで守る?」


提督「逆だろう。あの強さと美しさを持つ艦娘は人間が身を挺して守るべきだ。」


提督「そんな下等生物が王将の地位に我が物顔でいるどころか兵を愚弄する?ふざけているにも程があるッ」


僕は机をたたく、盤上の駒が微妙に動く。


提督「それはずっと昔からだ。人間は常に必要のないものまで犠牲にしてきた。弱肉強食とは本来生きるために必要なものの話だ。」


提督「しかし、人間は生きるだけでは飽き足らず他の生物を犠牲にして自分たちの生活を豊かにしてきた。」


提督「深海棲艦が人間を殺すのを初めて見たとき僕は神による裁きだと思い、歓喜したさ。」


提督「艦娘によってそれは妨害されるようになったがな。ちなみに僕は艦娘は嫌いだが敵だからという理由でのみだ。」


提督「だが人間は違う、醜いうえに汚らわしい生きているだけでも罪に値する。」


提督「それを深海棲艦は救いに来てくれたんだ。死という解放を与えるために。」


提督「最初は僕も殺されるつもりだった。でも、僕は今彼女たちの力になれている。だから僕はこれからも多くの人間に救済を与える。」


提督「だから君にもその協力をしてほしいんだ。どうだろうか?」


僕は思っていることをすべて口に出す。最後は僕の願望でしかない。実際は彼は深海棲艦には必要ないのだろう。


でも、彼がいれば僕は深海棲艦たちも幸せになれると思ったのだ。なにより彼女たちのためになると。先ほども言ったが直感に過ぎないのだが。


そう、単純に深海棲艦や艦娘が現れるまでは地上最強だったから好き勝手出来ていただけだ。


ならば、人間より強い生物が生まれたのなら好き勝手されても致仕方ない…それに抗う人間は自分勝手にも程がある。


つまりこれは制裁だ。弱肉強食に逆らう醜い地球を汚し続けた人間への罰。これは正義に他ならない。


男性「人間を嫌ってるくせに人間に救いを与えるとはずいぶんといい人間なんだな。」


提督「そういうわけでは無いさ。僕は深海棲艦の仕事を手伝うだけ。彼女たちが人間に救いを与えるから僕も与えるだけだ。」


実際、深海棲艦がいなければ僕は行動など起こせなかっただろう。僕の行動の動力源はどうしようもないくらいの彼女たちへの愛なのだから。


そう言い、僕は銀将を彼の王将の横に置く。


提督「さて、これで積みだ。中々に面白かったよ。」


男性「そりゃ良かった。ただ、俺はあんたと組むつもりは無い。例えどんな理由があろうとな。」


提督「気が変わることを祈っているさ。君は王将になれる存在だ。できれば深海棲艦の王になってほしいものだよ。」


男性「そこまで買ってもらえるなんてな、あんたはなんなんだ?」


提督「僕かい?僕は歩兵で充分だよ。部屋を用意してある、案内しよう。」


あぁ、それでいい。僕は王を作るだけの歩兵でいいのだ。




僕は彼を空き部屋に案内する。


提督「ここの部屋を自由に使いたまえ。」


彼は大人しくついてきて、開けた扉の中に入る。


少年「おじちゃん!」


部屋に入ってすぐ、先ほどの子供が彼に飛びついく。僕はその光景を見て適当に部屋を後にする。


すると、物陰からヲ級が様子を見ているのを見つけた。


提督「どうした?」


ヲ級「提督が浮気していないかの確認…」


そのセリフに酷く心にナニカが突き刺さる。僕はそれを振り払いヲ級を抱きしめる。


提督「安心してくれ、例えなにがあっても僕が愛するのはヲ級だけだから。」


そう言って、幾度も他者と触れ合った唇でヲ級にキスをしたのであった。


その味は、酷く魅惑的な味だったとでも記しておこう。













後書き

提督の思想は破綻していますね。結局、人間は死ぬのこそ正しいと信じている、つまりそれは魂を救うことになる…と。我ながら歪んだキャラを産んでしまったものです。
さて、本編と密接にかかわってきましたね。深海棲艦たちに待つのは破滅か救いか、よければ最後までお付き合いくださいませ。


このSSへの評価

5件評価されています


SS好きの名無しさんから
2018-09-04 14:00:53

楽々会長さんから
2018-07-23 11:00:09

黄鼬狐さんから
2018-07-10 14:56:30

ばんせーさんから
2018-07-08 19:05:50

SS好きの名無しさんから
2018-07-01 18:23:34

このSSへの応援

6件応援されています


SS好きの名無しさんから
2018-09-02 21:42:59

楽々会長さんから
2018-07-23 11:00:11

ドリブル名人さんから
2018-07-18 14:40:00

黄鼬狐さんから
2018-07-10 14:56:35

ばんせーさんから
2018-07-08 19:05:51

SS好きの名無しさんから
2018-07-01 18:23:37

このSSへのコメント

7件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2018-07-01 18:26:35 ID: PQW4zEsg

良いね 面白いよ!
本編の裏の作品大好きだ!!
アンチも出てくるだろうけど、頑張って下さい(^^)b

2: 狸蟹 2018-07-01 18:32:18 ID: 2y0edYLZ

1コメ様、コメントありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです!
自分の書きたいものを自分なりの表現で書き続けていこうと思います。

3: SS好きの名無しさん 2018-07-04 11:30:55 ID: mMRgfuxI

ファ!?なんだこれはたまげたなあ...(尊敬
更新まってるゾ

4: 狸蟹 2018-07-06 14:53:10 ID: A0KEcpFb

3コメ様、コメントありがとうございます。じゃけん、更新しましょうね~頑張らしてもらうゾ

5: ばんせー 2018-07-08 19:07:52 ID: zCqBBEhN

まさか連携してるとは思わなかったぞい素直にすごいと思った
続き待っとるぞー

6: 狸蟹 2018-07-08 21:18:28 ID: moG5ACya

ばんせー様、度々コメントありがとうございます。
本編との関係上中々更新できませんが少しづつ関わりを深めていこうと思います。サイコパスになりきるの難しいんですよね…(遠い目)

7: ばんせー 2018-08-09 22:45:17 ID: HGGmjnRE

話し言葉と書き言葉の混同気をつけてな
とうり→とおり(通り)


このSSへのオススメ

1件オススメされています

1: ばんせー 2018-07-18 04:00:20 ID: MBw6pVaE

連携がすごい
俺にはできないわ


オススメ度を★で指定してください