2019-01-14 12:00:56 更新

概要

深海棲艦との戦の後に一つの亡骸が浮かんできた
それは艦娘でもなく深海棲艦でも無かった

我・・・艦娘と共にいざゆかん! 第一章 「出現」

第六幕 【 1-6 ソノ男カレイニ蘇生セリ 】更新


前書き

本作品には実在した人物と同姓同名、全く同じ年表で同じ役職で登場いたしますが
あくまでもオリキャラです
その人物を卑下したり批評するつもりは毛頭ございません
その実在した人物像についても一切存じませんので悪しからず

また、こちらでの投稿は初となりますので
修正等多々あると思いますのでご了承下さいませ


【 1-1 ソノ者紺碧ノ波頭ニ浮上セリ 】



先の大戦の趨勢も見え始めた昭和19年

南洋独特の差すような日差しの中

複数の軍艦が隊列をなしゆっくりと航行していた


ここはとある駆逐艦の艦橋

昼食後の満腹感と眠気に抗っている当直員達

「艦長、この護衛任務が終わったら艦長ともお別れですね、次に着任される艦長は同期の方なんですよね、どのような方なんでしょうか?」


「橋本の事は降りるまでにじっくり聞かせてやるから、今は『はい分かってます』」


「制空権の混在しているこの海域、対空見張り厳となせ!  ですよね、ワッチの間はメガネを放しませんよ~」


「ならば宜しい」



「しかし合流予定の輸送船は中々見えませんね・・・」

ふと大型双眼鏡を蒼天より海面へ向ける下士官


「右舷前方雷跡!」


先任下士が警報ボタンに飛びつき艦橋内にけたたましい警報音が鳴り響く


「そこを離すな、総員戦闘配置に着け!」


先程までの緩みきった空気は一瞬にして消え、海の狼が目を覚ます

警報音と怒号が響き渡り、艦内より飛び出し持ち場へと散っていく乗組員達


「先に発見せる雷跡は本艦に向かっております」


「機関全速、取り舵一杯!」


「雷数3、いや4です、距離600 全ては躱しきれません、艦長ー」


「総員を衝撃に備えさせろ 触雷後は令なくして復仇に努めよ・・・」



ドーーーーン!(オオシオジャナイヨ)



「魚雷2発命中ね、仕留めたわ」


「天津風はここのところ調子が良いですね、2連続MVPじゃないですか」


得意満面の顔しながらも敵が沈んだ方向を指し示す天津風

「それよりあれ、海が明るくなりだしたわ」


先程ル級の轟沈した海中から光りが浮かび上がろうとしていた


「ドロップ艦ですね、 でも・・・何時もと色が違うような気がします」


「雪風もそう思う?これは不用意に近づかない方が良いかもしれないわね、 私が先頭で行くから援護体制を取りつつ着いてきて」


「はい分かりました」



少し離れた単縦陣で弧を描くように慎重に進む二人


「こちら天津風、瑞鶴さん取れますか  敵は仕留めたんですけど、  ドロップ艦のようなんですが何時もと海の色が違うので、現在少し離れた所を遊弋しながら監視しています」


《え~っ、何時もと色が違うってどういう事?  え、青いの? それ放っておいた方が良いんじゃないの? とりあえずそれ以上は近づかないように、私も直ぐにそちらに向かうわ》


「はい了解しました、このまま監視を続けます」


《こちら第一艦隊旗艦瑞鶴、司令部応答してください・・・》



浮上していた光は海上へ到達すると消え、そこには何かが浮き沈みをしているのが見えた


「何か浮いてきましたよ、夜でもハッキリ分かるぐらい白いですね・・・!!!  深海棲艦!  天津風、射線から離れて下さい!」


砲を構えて狙いを定める雪風に対し両手を広げて制する天津風

「待って雪風、ダメ!撃ってはダメよ、アレは違うわ・・・たぶん」


「でも・・・」



そうこうする内に瑞鶴達が近づいてきた


「青い光の色の後に浮いてきたのがアレなの? たしかに艦娘とは違うような感じがするわね、ちょっと照らしてみてくれない」


「暁の出番ね、探照灯照射」

そこには波間に浮き沈みをする、白い服を着た人型のような物が浮いているように見えた


「アレは深海棲艦では無さそうね」



「瑞鶴さんと翔鶴さんは念のためにここで待機していて下さい、暁は照射を続けて、雪風と電はあたしに着いてきて」


「あ~ちょっと待ちなさいよ!    これだから駆逐艦の子達は も~」


「瑞鶴、この暗闇では私達は何も出来ないわ、天津風達に任せましょう」



警戒しながらも近づく3人、それは白い詰め襟の服を着た男だった


「はわわわ 大変なのです、早く助けないないと」

男が沈まないように支える3人


「瑞鶴さ~~ん、人で~す、軍の方のようで~す」


「えっ! どういう事? こんな所に漂流した人間が居たって事?」


慌てて近寄る3人、そこには海軍軍人の姿があった



「で、どうなの?」


手首を掴み、もう一方の掌を口元へ近づける電

「呼吸もしていないし脈も無いのです、冷たいのです」


「外傷は無いようね、瑞鶴、これは提督に判断を仰いだ方が宜しいんじゃなくって?」


「そうね、   大淀さん応答願います、先程の件で提督さんとお話がしたいのだけど、 えっもう寝るって私室に戻った? いいから大至急連れ戻して!」




《あ~瑞鶴、話しは大淀から少し聞いたが、ドロップ艦がどうしたんだ?》


「艦娘じゃないわよ! 私達が夜戦までもつれこんで苦労してたのにそんなボケた事言って、爆撃されたいの!」


「瑞鶴、お止めなさい!そして少し落ち着きなさい、あなたは旗艦でしょ」


「提督宜しいですか・・・」経過を説明する翔鶴




《つまりその遺体の処理をどうすれば良いのか?って事だな、身元が分かるような物は何か身につけて無いのか?》


「はい、東洋人である事と、あと海軍らしい制服を着ていらっしゃいます、そして階級は中佐・・・あらこれは・・・」


《ん?どうした翔鶴》


「この階級章は旧帝国海軍の物です、よく見るとこの服も帝国海軍の二種軍装で間違いないと思います」


《はぁ~~~~? おいおい今何年だと思ってるんだ、まさか旧海軍の服を着た遺体が、しかもそんな離れた海域に浮かんでたとでもいうのか?  って言ってて思ったんだが、そんな危険な海域に今時人間が居るわけないだろ!そんな怪しい遺体は捨てろ!爆弾でも括り着けて沈めてしまえ!》


「司令官ちょっと待って、あたしこの人の事知ってるかもしれない・・・」


《天津風、何を言ってるんだ、お前が見知ってる人間は鎮守府の関係者だけだろうが、そんな離れた海域に居た奴を知ってるってどういう事だよ》


「分からない、見た事は無い・・・と思うのだけど何か感じるのよ、この人は絶対に連れて帰らないといけない、そんな気がするの」


《何を言ってるのか意味が分からんぞ、そんな訳の分からない遺体なんか放っておけ!もし深海棲艦と何らかの関係があってお前等に何かあったらどうするんだ!》


「司令官さんちょっと待って欲しいのです、もし逆だったら大変なのです」


《逆? 逆とは何だ》


「はい逆なのです、戦闘の後に光と共に海中から深海棲艦が現れた事は今まで見た事も聞いた事も無いのです、しかもこの方は旧海軍の制服を着ておられて、既にお亡くなりになっています、もしこれが本当に海軍さんであるなら祖国へお連れして還りたいのです、暗くて寂しい水底へもう一度送るなんて電は耐えられないのです」


《う~~~ん・・・・  おい瑞鶴どうする? そんな謎めいた遺体をそこから連れて帰るとなると危険が伴うかもしれんし、何より駆逐艦じゃ体格的に無理だ、 どちらかが背負って帰る事になると思うが》


「げげっ、私は嫌だよ~~、そりゃ本当に軍人さんの亡骸だったら志願してでも背負って帰るけどさ、ちょっと怖い気がするもん」


首を横に振りながらなだめるように瑞鶴の肩にそっと手を置き

「瑞鶴、何も背負って帰る必要は無いわよ・・・」


「提督さん、私と瑞鶴で連れて帰ります、帰投は少し時間が掛かるでしょうから0700ぐらいになると思いますので、受け入れの準備をお願いしても宜しいでしょうか?」


《分かった、不測の事態にそなえてこちらからも応援の部隊を出すから十分に気を付けて帰ってこい、以上だ》





【 1-2 ソノ男ナニ者ナリヤ 】



瑞鶴と翔鶴を先頭に魚鱗陣で海上を進む6名


「流石翔鶴姉、こんな方法を思いつくなんてあったま良いよね~」

そこには2つ横に合わせた飛行甲板に亡骸を載せ、ロープで引っ張る2人の姿と

心配の目でそれを見つめる4人は瑞鶴と翔鶴が引く航跡を打ち消し、少しでも揺れが少なくなるよう引き波の中で奮闘していた



暫くして暗闇の海上に曙が差す頃、長良率いる第十一駆逐隊が合流してきた


「お疲れ様~、  お~~こりゃ良く考えたね  あたしと名取で代わるよ」


「大丈夫大丈夫、引っ張るのはそんなに疲れないから、  それより後ろの子達と変わってあげてくれない? 夜戦までもつれ込んで大活躍してくれた後にこの有様でしょ」

疲れた笑顔を見せながらも掌を振る瑞鶴とそれに頷く翔鶴


「ヨーソロ!  みんな役目は分かるわよね、 名取とあたしが前で引き波を打ち消すから、吹雪ちゃん白雪ちゃんは左舷、初雪ちゃんと叢雲ちゃんは右舷で交代しながらお願いね、 じゃあ瑞鶴さん交代するから一端止まって」



海面に浮かんだロープを跨ぎながら


「ふぅ 流石に疲れたわ、 いくら速度を落としてるとはいえ、波頭を崩しながら進むのってかなり膝にくるわね」


「はい 雪風も疲れましたがまだ大丈夫です」


二人を労うように肩へ手を掛ける長良と名取

「みんな大変だったわね、お疲れ様でした   ねえ長良姉さん、この子達はもう」


「そうね、 もう明るくなってきたし天津風ちゃん達は先に鎮守府へ帰っても良いからゆっくり休んでちょうだい」


「「「ハ~~~イ」」」


しかし天津風だけはかぶりを振って遺体へと近づきしゃがみ込んだ


「あたしは残るわ、 何でなのか分からないけどこの人の事が凄く気になるの」


ニヤリとしながら天津風の肩越しに覗き込む長良

「ふ~~ん、どれどれ?天津風ちゃんが気になるのはどんな男前な

のかな」


顔を見た途端に困惑の表情に変わる

(あたし・・・この人見た事あるかもしれない・・・誰?何処で?・・・)



こめかみに指を当て考え込んでいた長良の頭上の電球に明かりが灯った

「叢雲ちゃん、  ちょっとこっちに来てこの方の顔を見てくれない」


夜半に急に起こされ眠気で不機嫌な叢雲は

「ふぁ~~~   何よ、天津風の好みのタイプの顔でも拝めって言うつもり?」


「そんなんじゃ無いってば」

慌てて手を振りながら否定をする天津風


「そんなに赤い顔してると逆に怪しいわよ、 この方が何だって言うの」


顔を覗き込んだ叢雲の眠気は一瞬で去り、顔色が変わったその震える唇から漏れた言葉は

「ケプガン・・・」


「あっ、やっぱり水雷参謀なんだ   あたしは凄く短い間だったから自信無かったんだけどさ」


長良を睨みつけ一気に顔が紅潮する叢雲

「何でこんな事になってるの! だってこの方は!」


「叢雲ちゃん落ち着いて、  司令官から何も聞いてないしわたしだって何が何だか分からないわよ、  ただこの方はあなたにとってはケプガンなのね」


やや躊躇しながらも頷く叢雲

「絶対とは言えないけど、  でもこの面影はケプガン・・・だとしか思えないわ・・・」



何時の間にか皆が二人の回りに集まっていた


「何?長良と叢雲はこの人の事を知ってるわけ?誰なのよ」


「瑞鶴さん、漣ちゃんと鈴谷さんを港で待機させるように鎮守府へ連絡してくれない?」


「ん~~何だか分からないけどその二人も 『ちょっと待って!』」


慈しむように遺体の頭を優しく撫でていた叢雲は視線をその者の顔から離す事なく、先程とはうって変わりか細い声で言った


「もうお亡くなりになっておられるのだから急ぐ必要はないわ、朝起きて直ぐに遺体とご対面じゃ可哀想よ   身元を調べてある程度状況を把握出来てからでも遅くはないわ   それに、 違う人かもしれないじゃない・・・」


そう言った叢雲の目には朝日に光る物がこぼれ落ちそうになっていた


※{ 「ケプガン」=若手士官の中で最先任者、ガンルームの長の事です }




【 1-3 ソノ男故国ヘ帰レリ 】



0600 起床ラッパが鳴り響き、鎮守府が動き出したその少し後に瑞鶴から無線が入った


「お疲れ様です、受け入れ準備なら先程提督さんが港へ向かいましたので大丈夫です   えっ、はい?・・はい・・   では鈴谷さんと漣さんを今日の任務から外して待機させて欲しいと言う事ですね。   分かりました提督には至急そのようにお伝えしますが、納得のいくご説明はして戴けるのですよね? ・・はい・・ では工廠の方が宜しいですね、了解いたしました」


幾枚かの書類その他を掴み走り出す大淀だった



薄暗い工廠の中から海を見つめている提督と大淀


「何で港じゃなくてここで待つ事にしたんだ?」


「長良さんが言うには叢雲さんの他にもその方と関係のあるかもしれない艦娘が鎮守府にも数名居る事と、 身元がある程度分かるまでは皆さんの心情的にもあまり公表しない方が良いのでは? との事でしたので」


「ふ~~ん、  それが鈴谷と漣ってわけか でも後で確認はしてもらうんだろ?」


「はい、鈴谷さんと漣さんの他にも第七駆逐隊や第十戦隊に所属していた艦娘なら見知っている可能性が高いと言っておられました、  人間である事は間違いないと思うとは言っていましたが、ドロップ艦のように光の後に出現したとの事ですから、念のために明石さんと夕張さんに色々調査をして戴こうかと思いまして  それで宜しいかったでしょうか?」


「ん~~~ まあそれが妥当なところだな、  編制その他の変更はその大淀の案で通達して良いぞ」


「はい、変更前の編制にある艦娘達には即時待機するよう、そして0720までに再変更の通達が無ければこの通りで出撃するよう他の皆にも伝えてあります」メガネクイッ


「ははっ 優秀な秘書官が居てくれると俺も楽が出来るってもんだな 」



そこに明石と夕張がストレッチャーに幾つもの機器を載せて現れる


「取り敢えず医務室に保管されていた機器を持ってきました、 でもこの鎮守府が軍港だった時代の物しか無かったので、夕張と艦娘用の機材を組合わせて調整はしてみましたが何処まで分かるか・・・ せめてCTぐらいあれば良かったのですけどね」


「まあ無い物ねだりをしても仕方無かろう、 当座の危険が無い事だけ分かればそれで十分だよ、 現状では民間の病院に頼む事も出来んしな、 後は大本営に任せるだけさ」



機器をストレッチャーから降ろし、準備を始める二人


「ところで提督、 上半身裸になってここに寝てもらえませんか?」ストレッチャー ポンポン


「えっ?」フリムキ


「いや~ 私と明石でさっき使ってみたんですけど、人間のも比較データとして必要なんですよ」


「あぁ、そうか・・・」ジョウハンシンハダカデココニネタノ…ムフッ…



素直に帽子と服を脱ぎ上半身裸で横たわる提督、電極などの機器をを頭や胸、腕などに次々と着けられ計測が始まる


「ほほぉ~ この辺りの反応が違うのか」ナルホドナルホド…


「前頭葉や扁桃体の辺りがかなり違うって事は・・・」フムフム ソウイウコトカ…


「うわっ 筋肉の反応低っ!」


「うるせー 俺の敵は紙切れの山なんだよ!」



少しだけイラついた提督が少し悪い顔をし始めた


「ところで艦娘のデータはもう十分なのか なんなら大淀も脱いでsh『『『提督っ!』』』」


「ハイ… スイマセン… ジョウダンデス……」


冷めた目つきの大淀が

「それより皆さん帰ってきたようですよ」


慌てて起きようとする提督とそれを制する夕張

「あ~駄目ですよ、 今取りますからそのまま寝てて下さい」



工廠のスロープを次々と海面から上がってくる艦娘達、 電極を外し終わるのももどかしく、服を掴みストレッチャーから飛び起きる提督


「提督さんただいま~~」「ただいまなのです」「帰投したわ って何よそのだらしない格好は!まさか寝起きなの!」

腰に両手を当て、仁王立ちで睨む叢雲


「いや~すまんすまん、 夕張達に頼まれて検査機器のテスト台になってたんだよ」


上着を羽織りボタンをとめ 「アレ? ボウシハドコダ?」


「みんな大変だったなお疲れさん、 長良と叢雲は申し訳ないが少し残ってて欲しい、他のみんなは非番にしておいたから今日は休養にあててくれ、 但しこの件はこちらで公表するまでは他言無用で頼むぞ」


「「「「「了解しました」」」」」 


すっと少し前に出る大淀


「皆さんには別メニューで暖かい朝食を出すよう食堂に頼んであります  あと提督から間宮券が出ていますよ」ニコッ


「「「「「「「ありがとうございます司令(提督)」」」」」」


 帽子を被りながら おや?と言う表情で大淀の方へ目線を向けた提督だが

「ね 提督」と微笑む大淀を見て


「んっ ああ 疲れた時には甘い物が一番だからな  みんなご苦労だったもう解散してくれて良いぞ」


「電はプリンが食べたいのです」「レディのキモチが…」「ソンナキ…オオヨ…」「ダヨネー…」「モウオナ……ガノコッ…」ゾロゾロ


みんなが去りゆく中、天津風だけが何度も振り返っていた


「あの~ 天津風さんも残りますか?」


「ハイッ!」 提督達の横を風のように通り抜けその男の元へ駆け寄るのだった


その様子を見ていた提督は大淀に小声で耳打ちをする

「流石は優秀なる我が秘書官殿ですな  みんなの気持ちがよく分かってらっしゃる」


「はいっ」メガネクイッ




そんな奥では遺体をストレッチャーへ移したあと、明石と夕張が遺体を丹念に調べ始めていた


「腐乱どころか肌はふやけてないし魚に囓られた痕すらないね、 血色の無さを除けばまるで眠っているみたい、  長い間水に浸かっていたとは到底考えられませんね~、  ボカ沈くらって直ぐだったんじゃない?」


夕張の手伝いを始めていた天津風が

「あの海域に艦娘以外がたどり着けるとは思えませんし、普通の航路からは離れ過ぎてます」


「ソウイワレレバソウネ…」


濡れた体を拭ってあげていた叢雲が顔を上げ

「それより明石さん何処かに名前は書いてないの?」


脱がした衣服をひっくり返しポケットの中まで丹念に調べ

「これは軍需品じゃないし叢雲さんが知ってる頃と違って中佐だからね~、 ましてや艦長さんだったんでしょ、名札は一応縫い付けてあるんだけど書いた形跡すらないわね」


「そうだね、司令部でも乗らない限り駆逐艦にはめっ・・・」何かにふと気が付く長良


「ちょっとその上着を私に貸して!」と叢雲


明石から上着を受け取り、階級章を確認する叢雲と覗き込む長良

「「中佐だ」」 ((そんなはず・・ない・・・))



横で幾つかの機器を操作してしている夕張が少し首を傾げながら


「ねえ明石、この波形をちょっと見てくれない」


「ん、どれ この波形は頭の部分?  あらこれって・・・」 画面を覗きこむ明石


「どうした、何か分かったのか?」


「ええ、これは艦娘? いやちょっと違うな~何だろ?  詳しく調べてみないと分かりませんがこの方の波形は私達に近い感じです、 恐らく提督と違って妖精さん達とも会話が出来そうですね~」


「脳波だけじゃなくてこっちの筋電計も・・・・・ん?????」



ポチッ ポチッ 機器のスッチ切り替え



「えっ!!」「あっ!!」


何かに気が付き顔を見合わせる明石と夕張


「ちょっとあんた何で今まで気が付かなかったのよ~」

「そんな! だってこの人は人間のはずでしょ、提督に使ったモードのまま使うじゃん普通、 それに明石だって直接体を調べてたじゃない」


「おいおいどうしたんだ、二人だけで騒いでないで説明しろ」


顔を見合わせていた二人が画面の一部を指し示しながら


「「提督、 この方まだ生きてます!」」


「「「「「 え~~~~~~っ! 」」」」」




【 1-4 ソノ男ヲ搬送セヨ 】


食後の気怠さを感じながら頬杖をつき窓の外を眺めていると


(… … オマエラ…カカ!   ダッテ…ンデル…言って  とにか急いで  天津風は先に行っ・・・ ダイホンエ…レンラ…  ムラク…ガラハ…)


「あ~ぁ、折角休み貰えてゆっくりしようと思ってた所にクソ提督達がギャーギャー騒ぎながら走り回ってるのを見るなんて気分を害するわね」


「え、何処ですか   あれ?ストレッチャーに乗せて誰かを運んでませんか?」


建物に入る一行を目で追い続けていた曙と潮

「ほら医務室の電気が点きましたよ」と指さす


「え~~!ご主人様に何かあったの」

2人を押しつけて窓から身を乗り出し医務室のある方を見る漣


「こら重いってば! あんたのクソご主人様はストレッチャーを押してた方よ」


「でも、医務室に用があるのってこの鎮守府にはご主人様しか居ませんぞ」


「そう言われて見ればそうね、  てかもう良いでしょ早くどいてよ!」



押しつけられていた窓枠から抜け出た潮は歪んだ胸部装甲のカバーを直しながら


「さっき川内さんが『何で提督は私を差し置いて長良達に夜戦行かせたのよ~』って騒いでいて、名取さんは夜戦じゃないからって言ってましたけど、どなたかを救助に行ってたんじゃないでしょうか?」


「ハァ? もし助けに行ってたとして治療が必要なんだったら鎮守府じゃなく直接病院へ運ぶでしょ、 それにクソ提督達が走ってきたのは工廠の方だっ {ドァバーーーーーン!}」


「ハァ…ハァ…ハァ……」


ノックも無く突然扉が開き、凄い勢いで入ってきた叢雲は室内をにらみ回すと漣に駆け寄り


「あんた、直ぐにあたしと一緒に来るのよ」

漣の手を引ったくるように掴み走り出す


「あっちょっと待って、そんなに強く引っ張らないで 転ぶ、コロブッテバ…ァァァ…」


声の消えていく先をトーテムポールの様になって覗いてみると、自分で走ってるとは思えない体制の漣が廊下の角から消え去る所だった



「ねえ、  あんなに慌ててる叢雲なんか見たの始めてだよね」

「あの~、やはり何か緊急事態があったんじゃないでしょうか?」

「別にあたし達には関係ないんじゃないの、連れていかれたのは漣だけなんだし」


そんな時に窓の方からまた何やら聞こえてきた

(ヤメ… ョウショ… マダ食べ・・  カレーが・・・  ウッ…  )


窓の外には長良に引きずられるように走る鈴谷の姿が見え、追っていくと医務室のある建物へ入って行き、その後に叢雲と漣も入って行くのも見えた

更にその後を追うかのようにワラワラと沢山の妖精さん達も現れ、やはり医務室の方へと消えてゆく


「ねえ曙、あたし達も行ってみない?」

「私も気になります」

「まったく次から次へと、うっざいわね!」

と言いながらも最初に走りだした曙であった




【 1-5 ソノ男ヲ蘇生セシメヨ 】



「とにかく体温を戻さないとなりません、夕張さんは毛布を何枚か持って来て下さい『ハイ!』  提督は執務室の給湯室のポットに湧かしたお湯が入ってますから、湯たんぽと一緒に大至急お願いします『ヨーソロ!』  明石さん血圧計と体温計を用意して下さい『ハイ』 天津風さんはその俊足を生かして近くの病院まで点滴その他一式を取りに行って下さい『わかったわ!』」


服を脱がし処置をしながらテキパキと指示を出す大淀、駆け出す他の者達


その開け放たれた扉から入れ替わるように鈴谷を連れた長良が入ってくる

「連れてきたよ~~~ ハァ…ハァ… 」「ウップ…」


口元を押さえた鈴谷は洗面台へ直行するのであった



「丁度良いところへ来てくれました手伝って下さい」


「えっ何をすれば良いの?」


診療台へ近づく長良は大淀の激しく動かしている手先を見て

「ひゃ~~~~大淀さん何処触ってんの」


顔を真っ赤にする長良を冷徹な目で睨む大淀


「この内腿の両側には大動脈があるんです! ここをさすって摩擦熱で中心体温を上げるんです 提督が湯たんぽを取りに行ってますからそれまでの緊急措置ですから、早く手を貸して下さい!」


「は はい・・・」 


目を逸らしながら遠慮がちに手を伸ばす

「冷たっ!」 一瞬手を引っ込める長良


「あぁ そうですね」


大淀は大腿部にまで掛かった濡れたFUの結び目を解き、布を取り去り水分を拭った


「もっと強く、そして速くお願いします」

「あっ はい…」 真っ赤な顔をした長良の手に当たる柔らかい感触の物が激しく揺れ始めた



長良しか居ない事に気が付き周りを見る大淀


「鈴谷さんどうしたんですか、早くこっちを手伝って下さい」


「ごめ…今動けない…」口元をタオルで押さえている鈴谷


「その胸をさすってる手をこちらでやってくれれば良いですから、お願いします」

しぶしぶ近づく鈴谷

「キャ~~~~~」「イイカラアナタモハヤクヤリナサイ」



ドドドトドドドドドド キューーーーッ ゴン! ドサッ


「待たせたわね、 連れてきたわ」 どや顔の似合う叢雲だった


「あの叢雲さん、 それって連れてきたうちに入るんですかね?」


と血圧計をセットしながら振り返る明石

その足下には叢雲と手を繋ぎながらぐったりとした漣が頭に大きな瘤を作り気絶していた


「何で綾波型があたしと同じ速度で走れないのよ!」

決して非を認めない叢雲だった


「もう 漣さんはそのまま廊下で寝かせてて良いですから先にこちらを手伝って下さい」


「わかったわ」


診察台へ近づく叢雲は急に赤面しながら

「ちょっ… あんた達何してんの! そんな事して大事な所が壊れたらどうするのよ!」


「イヤ カクカクシカジカデシテ…」


恥ずかしさで目を逸らしたその先、明石がやっている事を見た叢雲は少し冷静さを取り戻した


「それはやるだけ無駄よ、 使うのならあっちのにしなさい」


部屋の片隅にある古い水銀式の血圧計を指し示す


「えっ 何でですか?」


「そんな物で計れるぐらいの血圧があるんだったらあたしが死んでるなんて判断したわけないでしょ、 一番初めの時に頸動脈を触ったけど分からなかったの、だから血圧は60以下よ、  ちょっと二人共手を止めて静かにしてくれないかしら」



首を手で掴みそっと目を閉じる叢雲



「この安静な状態でも脈が感じられない、 50以下は間違いないわ」


水銀式の血圧計をセットして計る明石だったが

「でも音は聞こえないですが」


血圧計のポンプを明石から取り上げ操作する叢雲


「違うわよ 水銀柱の上をよく見てなさい」

50辺りから少しずつ下げていくと40を切った辺りで水銀の表面がかすかに揺れ始めた


「間違いない この人はまだ生きているのよ・・・」


それを聞いた大淀が叢雲と軍人の間に割り込むと首に手を当てながら、もう片方の手で脇の下をさすり始めた


「二人共早く続けて下さい、明石さんは反対側をお願い 叢雲さんは人工呼吸を…」


その時妖精達が次々と現れその男に纏わり付き始めた、 その数はどんどん増えていき幾重にも重なるようになり発光を始め、その光は徐々に暖かさを伴い強くなっていった。



※水銀式の血圧計は本来聴診器で音を聞いて血圧を判定します




【 1-6 ソノ男カレイニ蘇生セリ 】



妖精達に場所を譲り、離れて成り行きを見守る一同、すると廊下の方から


「アノネテルハサザナミチャンジャナイ?」「本当だ」「何で漣が廊下に寝てるのよ」


漣を追って来た3人が漣を起そうとした時に医務室の中の光に気が付いた

「えっ・・・」「あれは何でしょうか」「よ、妖精の塊?」



男の顔に赤みが差し始め安堵の表情を浮かべていた叢雲


「あんた達丁度良いところへ来たわね、漣を起こしてこっちへ連れてきて、 それと鈴谷、あんたもこの方の顔を確認して頂戴」


足下の方へ下がっていた鈴谷は近づきながら

「えっ その為に食事中の鈴谷を強引にここに連れてきたの?   あたし人間の男性なんて提督しか知っ・・・   すっ 水雷長?」


固まる鈴谷


「長良、 あんた鈴谷にちゃんと説明しなかったの、 全くしょうがないわね」

腕組みをし見下すような目つきの叢雲


「ごめん叢雲ちゃん、かなり焦っちゃってたもんで・・・」

頭を掻いて申し訳なさそうな長良


「アンタダッテセツメ『曙!』」

「あっ あんたも長い間僚艦だったはずよ、ちょっとこっちへ来て顔を見なさい」


突っ込みを入れたいのを我慢しながら、顔を確認した曙は驚愕! そして漣の元へ飛んで行った


「漣!  漣起きなさいってば!」


まだ意識朦朧としている漣を抱き起こし男の顔がよく見えるように近づける


「あれっ 艦長……  じゃあ漣はまた一緒に沈んじゃったんだ?  もうず~~~と離れませんよ… ゴシュジンサマ……」


顔をすり寄せ安らかな頬に涙する漣をも包み込み始める妖精達




「湯たんぽは見つからなかったから代りの物を持ってきたぞ!」


医務室へ駆け込んできた提督と夕張、その手にはポットとヤカンが握られていた


「うっ、何だこの状況は? それにこの光は一体・・・」


「大丈夫です提督、 血圧も安定し始めて快方に向い始めてるようです」メガネクイッ


「それは良かった!   で、その光ってる歪な塊は 妖精・・・か?」


「アレハカクカクシカジカデシテ」


「そうか、 で後は我々に出来る事は何か無いのか?」


「あとは見守るだけですね、大本営への説明は如何いた『あれ~~っ  菅艦長!!  なんでここに居るんすか?』」


「「「「「「「あっ 漣が正気に戻った」」」」」」」



二人からゆっくりと離れ始める妖精達の中から顔出した漣

「これは何がどうなってんですか 誰かkwsk!」


「ちょっと待て漣、 説明の前に一つ聞きたいんだが、この方はお前の艦長だった人だと断言出来るか」


「そんな事は当ったり前ですよ! このわたしが見間違えるはずがありませんぞ、 それにほら!この額の傷は最後に弾薬庫が爆発した時に出来た傷で、あの時と全く同じです! それで生きているんですか? ご主人様は大丈夫なんですか?」


「「「「「「ご主人様って?」」」」」」


提督の方を見る一同



(えっ大丈夫ってこれの事? じゃないよな?) と両手に握った物を見たあと


「あっ  あ~その方ならどうやら峠は越したようなんだ・・・な大淀」

戸惑いながらも答える提督


「はい、 もう血色もかなり良くなってきていますし大丈夫だと思いますが、 問題は意識が回復するのかどうかと、それよりも何で何十年も経ってから現れ『そんな事はどうでも良いんです!』」


「早くご何とかして下さい  主人様を助けてよ~~~  」


その男に取りすがり泣き始める漣

「ウッ ウッ ウェーーーン   ごじゅじんだば~~~ぼぎでよ~~ ブフェーーーーーン ヴェェーーーーン」 ゴボッゴボッ ズルズル


その光景をただ見つめていた一同は思った


((((((泣き方が汚い(下手だ)・・・))))))


「ちょっと、  これ普通だったら貰い泣きする場面なんじゃないの?  あ~~ぁ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を擦つけるから酷い有様ね」


手近にあったタオルを取った叢雲が

「漣ちょっとだけ離れてあげて、今この人を綺麗にしてあげるから  ねっ」


優しい笑顔で漣をそっと離し、顔を拭い始める叢雲


「あっ! そのタオル・・・」焦る鈴谷


「何よ、 このタオルがどうかした   ん!!」

拭った顔には黄色い液状の物が少し不着していた


「ちょっ これは何?何に使ったの」

慌てて綺麗な部分で拭き直す叢雲



「ごめっ  それさっき鈴谷が・・・」


恐縮し、消え入りそうな鈴谷


「そう言えばこの医務室何かカレーの香りがしませんか」

「でも今日は土曜日だしカレーが出たのは昨日でしょ」

「カレー美味しかったよね~」


「早朝に帰還した人達には特別に暖かい物をと急遽頼んだので、昨日のカレーを出したんじゃないかと思いますけど、  鈴谷さんも今朝はカレーを食べられたのですか?」


「いや・・・カレーの香りを嗅いだら・・・それに一晩寝かせたカレーって・・・」

更に恐縮し、存在すら消えてしまいそうな鈴谷であったがその時


「カレー? キョウハドヨウビ?……ナンカハラヘッタナ…」


「えっ 何? ご主人様が今何か喋った・・・」


皆が注目する中、鼻を少し動かしながら薄らと目を開けて周りを見渡す男


「ココハ・・・ 何処だ?・・・・」


今度は普通に泣く漣と共に歓喜する一同だった

見ず知らずの少女達に抱きつかれ困惑する菅中佐

そしてもう一人を除いて








「はぁ? 鎮守府からそのような連絡は受けてませんけど」


「うそっ・・・」




【 ソノ男カレーニテ蘇生セリ? 】



第一章 「出現」 終幕


次 第二章「覚醒」へ続く



後書き

その男は何故生き返ったのか?
ひょっとすると重大な使命を負わされているのではないか?
それは作者にもまだ分からない! (オマエモカーーイ)

そして点滴の行方はどうなる!

次章 第二章「覚醒」 第一幕【 2-1 我ハ解ヲ知ラント欲ッス 】
http://sstokosokuho.com/ss/read/13566

刮目して待て!

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先の大戦時には艦と共に逝った沢山の男達が居ました
中でも駆逐艦は海の狼とも言われ独特の心意気がありました
しかし主役になる事は殆ど無く
「あ~~ 何だその命令は! 分かったよ 死にゃ~良いんだろ死にゃ~」
と悪態をつきたくなる事が山ほどありながらも
豪放磊落
「駆逐艦乗りは3日やったら止められね~のさ」
といった生き様を織り交ぜて書いていけたらと思っております

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菅 明次様  経歴

奉天中卒業  海兵56期
4年8月23日 少尉候補生に任官
4年11月30日 少尉に昇進
5年 駆逐艦「榧」
6年12月1日 中尉に昇進
  (この間の公式資料見当たらず)
11年12月2日 潜水艦「呂63」
12年10月以前  駆逐艦「叢雲」
14年12月又は15年1月 二等巡洋艦「鈴谷」水雷長兼分隊長
          (鈴谷乗艦時に少佐へ昇進、後航海長へ就任と思われる)
16年4月10日 水雷艇「友鶴」艇長 [ 艦長 ]
17年6月3日 第十戦隊 水雷参謀  旗艦 二等巡洋艦「長良」 
17年7月20日 駆逐艦「漣」艦長
19年1月1日 駆逐艦「天津風」艦長に任命
19年1月14日 天津風へ着任前「漣」と共に逝く

19年4月20日発令 19年1月14日をもって海軍中佐に任ずる 辞令公報第1433号

心よりご冥福をお祈り致しております


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