2018-09-22 23:14:27 更新

概要

ーー艦娘が現れ、軍が深海棲艦に対抗する術を得てから数年後。
艦娘に全てを任せ、自らは後方から見守るしかない現状を嘆き、軍は秘密裏に新たな戦力の開発を開始した。
全ての艦種の能力を兼ね備え、単体最強と謳われる戦艦レ級ーーーーあれと対等に渡り合えるようなそんな兵器を、我々も開発しようじゃないか、と。
更に数年後、艦娘と深海棲艦の戦いが激化する中、それは完成した。・・・・・・人体を改造するという、人道を明らかに踏み外した方法で。
『殲滅艦』出雲。神の名を冠するその艦艇の参戦は、この戦争に一体何をもたらすのかーーーー。


前書き

初投稿です。堅っ苦しい概要すみません。この話には、厨二病みたいな装名が多々出てくるので、どうか暖かい目で見てくれるとありがたいです。
この物語は『出雲』という見た目男子高校生の人体兵器が主人公となっています。出雲シリーズとして、日常だったりシリアスだったりラブコメだったりを書いていく予定です。シリアスでは流血表現、残酷描写を含む予定ですので御注意下さい。
細かい修正等で更新することが多々あります。あくまで修正なので、物語を読み進めることに何ら影響はありません。
初投稿ゆえ、執筆に慣れてません・・・・・・。不定期投稿になると思われますのであしからず。



ーー真夜中の海に、轟音が響く。



戦艦棲姫「グッ……!!」



巻き上げられる水飛沫の中、吹き飛ばされる一隻の深海棲艦ーー戦艦棲姫。



数ある深海棲艦の中でも上位に君臨するだろうその姿は、深い傷を負い、夥しい血を流し、もはや轟沈寸前にまで追い詰められている。



「…………」



バシャバシャと、何かが水上を歩き、戦艦棲姫の元へと近づいていく。



それの周りには、奇襲のため戦艦棲姫に同行していた筈の多数の深海棲艦達が、黒い煙を吐きながら水面に浮かんでいる。



戦艦棲姫「キ、貴様ハ……イッタイ…………」



よろけながらも、戦艦棲姫は立ち上がる。もはや虫の息なのは、誰が見ても明らかだった。



「……【第壱砲門】、開」



短く発せられた声。瞬間、淡い蒼色の光の粒子が浮かび上がり、腕に収束する。光が消えたかと思うと、それの右手には、一本の刀が握られていた。



「……もう、諦めろ」



刀の柄に、手がかかる。



戦艦棲姫「クッ…………!!」



直後、おもむろに戦艦棲姫が背後の化け物を模した砲塔を起動する。たとえ沈むとしても、せめて一撃ーーそう考えたのだろう。



戦艦棲姫の砲塔がそれを捉え、正に砲撃を繰り出そうとしたーー刹那。



一閃の蒼白い光が、戦艦棲姫を通り抜ける。



戦艦棲姫「ーーーー?」



何が起きたのか、という一瞬の間を置き、正気を取り戻した戦艦棲姫は、尚も一矢報いようとそれに砲搭を構えた……次の瞬間。



ピッという音を立てて、戦艦棲姫の上体がずるりとずれた。



視線が、自分の意思に反して、下へ下へと落ちていく。



ここにきて、戦艦棲姫はようやく気付く。ーー自分の体が両断されたのだ、と。



戦艦棲姫「……ぁ………………」



斬り口を引き金として、体全体にバチバチと火花が散り始める。そして、斬り離された上体が海面に倒れると同時、戦艦棲姫は轟音を立てて爆発した。



「…………」



爆音が鎮まり、辺り一面文字通り火の海となった中に、さも当たり前のようにそれは立っていた。



戦艦棲姫を斬ったその刀は、従来の刀とは異なり、峰から刃先にかけて、刀身全体が漆黒に染まっていた。刃紋はおろか、鍔、反り、厚みすらないその異様の黒刀からは、今しがた斬った獲物の血が滴り落ちている。



その様を一言で形容するならば、まさしく妖刀。



左手に携えた鞘に、静かにその刀を滑り込ませる。カチッと柄の縁が鞘に嵌まる音がしたかと思うと、刀は光の粒子となって空中に霧散した。



ふぅと小さく息をつき、月の昇った夜空を見上げ、瞑目する。それからしばらくすると、あ、と何か思い出したかのように声を上げ、腰に取り付いている無線機を手に取った。



「……本部に入電。こちらⅩⅩ。大本営沖に出現した敵艦隊の殲滅に成功。被弾、損傷はゼロ。これより帰投する」



「……ああ、一隻残らず掃討した。何か問題でも?」



「……姫級? ああ、戦艦棲姫か。時間は掛かったけど撃沈した。他……それ以外はいなかったな」



「……そんな驚くことでもねぇだろ。いつものことだ」



「……ああ、わかった。詳しい話は後で話す。じゃあな」



そこまで言って、無線を切る。そして、くるりと踵を返し、先の火の海の中を引き返す。



「…………」



風に靡く銀髪が、真っ暗な空と対比するように、火に照らされて白く煌めく。靡いた前髪の隙間から見え隠れする双眸は、片方は黒く、もう片方は蒼く、虚ろな光を宿して眼前の暗闇を見据えていた。



ーーその異様な姿は、まさしく《死神》。



「……お前等と同じだよ」


        

水上を滑走しながら、その男は呟く。






「俺は、お前等と同じーーーー『化け物』だ」






       *     *     * 




コンコンと、扉を叩く。



提督「入れ」



中から提督の声が聞こえる。相変わらず、そっけない声だなぁ。もう少し、感情込めて言っても罰は当たらないと思うんだけど……まぁいいや。



川内「失礼しまーす。提督、さっき呼び出しあったけどどーしたの?」



扉を開けると、提督が執務机に肘をつき、手を組んで座っていた。……心なしか視線が冷たい。



提督「……はぁ。今日から秘書艦はお前だろう。今まで何をしていた」



川内「えっ!? あ、あれ、そうだっけ? ごめんごめん、昨日の夜戦が長引いたからさっきまで寝ててさ。わ、忘れてたわけじゃないからね?」



提督「……ほぅ?」



提督の額から、ピキッて音がした気がする。



し、しまった。焦りすぎて、本当に私が忘れてたみたいになっちゃった!



提督「……よし、しばらく川内の夜戦出撃を控えるとするか」



川内「えー!!? な、何で!!?」



提督「馬鹿者。執務に支障を来すようなら減らして当然だ」



川内「こ、今度から! い、いや明日からちゃんとするから! だからどうか夜戦だけは……」



提督「却下だ。毎度毎度許していては何も変わらないだろう。たまには厳しく言わんとな」



川内「そんなぁ…………うぅ……夜戦がぁ…………」



最近夜戦が無かったから、気合い入れて出撃したのが仇に……。ていうか何で起こしてくれなかったの神通……。



提督「まぁ、それはさておき、だ。川内、今すぐ外出の準備をしろ」



絶望にうちひしがれていると、提督はクローゼットから取り出した軍服にいそいそと袖を通しながら、私に言った。



川内「えぇ……? どこか行くの……?」



提督「落ち込みすぎだろう……。先程、大本営から緊急の召集がかかった。今日の1400から、あちらで話があるそうだ」



川内「へー……それって私も行かなきゃいけないの……?」



提督「当然だ。召集がかかった際には、秘書艦を必ず同伴させるように上から言われている。……もうそろそろ、大本営から迎えの車が来るはずだ。それまでには準備しておけ」



川内「はぁ……。わかったよ、じゃあ準備してくるね…………」



とぼとぼと、力なく自室に向かう。ああ、何もかもにやる気がでない…………。



提督「……仕方ないな。ならもしも今日の出撃で夜戦になったときは、川内を編成に組み込んでやーー」



提督が言い終わるよりも先に、私は光の速さで執務室を飛び出した。



川内「30秒で支度してくるねっ!! 提督は玄関で待ってて!!」



提督「……全く」



最後に見えた提督の顔は、やれやれといった表情で苦笑していた。





ーー時は過ぎ、その一時間後の1330。



私と提督は、会議を行うと言われた部屋に向かうため、大本営の長い廊下を歩いていた。



川内「それで、今日は何の会議なの?」



提督「詳しいことはまだ何も聞かされていない。どうやら呼び出されたのは私だけのようだから、私が関係しているということは分かっているのだが……」



川内「え……て、提督、何かしたの?」



提督「いや、身に覚えは無いな。……おい、そんな目で私を見るな。何もしていないと言っているだろう。……というより、今回の会議は私への叱責ではないだろう。仮にもしそうだとしたら、日時を指定して、召集理由も含めて予め知らせて来るはずだ。それに、緊急で呼び出す必要はない」



川内「そ、そっか。じゃあ何なんだろ、これまでに緊急の会議なんてなかったんでしょ?」



提督「ああ。まぁ、大方これから始まる大規模作戦に関することだとは思うが、もしかしたら長く掛かるかもしれない。そうなっても、終わるまで待っていてくれ」



川内「ん、わかった」



と、話しているうちに、もう目的の部屋の近くまで来ていたらしい。すると、私たちを待っていたのか、こちらに気づき、部屋の扉の前で、一人の将校さんが私たちに向かって手を降っているのが見えた。



川内「……? ねぇ提督、誰かいるけど」



提督「ん? ……あぁ、あの人か」



提督は小さく溜め息をついた。あ、やっぱり知り合いなんだ。



提督「……お久し振りです、元帥殿」



元帥「うむ。君も元気そうだな」



川内「ふぇっ!?」



衝撃の事実に、変な声が出てしまった。こ、この人、海軍元帥さんだったの!?



提督「どうした川内。急に変な声出したりして」



川内「い、いや、この人がまさか元帥さんだったなんて思わなかったから……」



元帥「ああ、すまん。初対面だと言うのに、自己紹介もしていなかった。私は海軍本部、元帥だ。宜しく頼む」



川内「あ、わ、私は川内型軽巡洋艦一番艦、川内です!」



そう言って、私はビシッと手を頭に寄せて敬礼する。



すると、元帥さんは一瞬きょとんとして、すぐに声を上げて笑い始めた。



元帥「いや、悪い。何もそんなに畏まることはない。気楽に接してくれたまえ」



川内「は、はい…………」



いや、那珂だったらまだしも、それはちょっと私には厳しいかなぁ……。



元帥「それはそうと、今日は急に呼び出してすまなかったな。何か邪魔をしてしまったか?」



提督「いえ、ちょうど今日分の執務を終えたところだったので、不都合はありませんよ。それに、緊急の召集は初めてだったので。来ない訳にはいきません」



元帥「ふっ。相変わらず真面目だな、君は」



提督「元帥殿も、お変わりないようで。先に中に入って座っていても宜しかったのに、わざわざ私が来るのを待っているなんて」



元帥「元帥たる者、階級に甘んじてはいかん。たとえ人の上についていようと、同じ人間であることにかわりはないからな」



提督「……やはり、頭が上がりませんね」



元帥「お互い様だろう。……それよりも、早く本題に入りたい。ただ話に華を咲かせるために、呼んだのではないからな」



提督「わかりました。じゃあ川内、大人しく待っているんだぞ」



川内「う、うん。いってらっしゃい」



そう言って、提督は元帥さんと共に部屋の中へと入っていった。



元帥とあんなに親しく話せるなんて・・・流石は最前線を任されてるだけあるなぁ、うちの提督は。



暇になった私は、ぶらぶらと廊下を歩く。大本営の廊下は、海方面の壁が全面ガラス張りになっていて、湾内の海を一望することができるようになっている。



おそらく、湾内に深海棲艦が現れても、即座に発見、対応できるようにこうなっているのだろう。



川内「いつもと違う場所にいるからかなぁ。……海がいつもより綺麗に見えるのは」



普段息を吸うように海を見ているのに、ここから見る海は、何か新鮮で心地がいい。



窓縁に肘をつき、ぼーっとその風景を眺めていると、遠くで扉の開く音がした。



反射的にその方向を見ると、二人の若い男の人が部屋から出てきた。その瞬間、私はその二人に視線を奪われてしまった。



川内「…………!」



一人は、白い軍服を着て、片手に軍帽を持っているため、他の鎮守府の提督さんだとすぐにわかる。私が気になったのは、もう一人。



その人は、髪が真っ白だった。艦娘だったらいざ知らず、人間で白い髪の人なんて、年寄りを除いて見たことがない。



そして、服装も軍服ではなく、髪の色とは対照的に、真っ黒な半袖、長ズボン(ブラックレザー)の軍兵のようなものを着ていて、手には黒い手袋をしている。簡単に言ってしまえば、全身真っ黒。



それに、見た目は提督さんよりも若く見える。もしかしたら、今の私の姿と同じくらいなんじゃ……。



そんなことを考えていると、その二人組がこちらに近づいてきた。



二人は私より少し離れた位置で窓に体を預け、楽しそうに喋り始めた。いや、楽しそうにしてるのは提督さんの方だけだった。もう片方の黒い人は、全然笑ってない。たまに相槌を打ったり、むっと顔をしかめるくらい。



それから暫くして、話が終わったのか、黒い人を残して提督さんが行ってしまった。去り際に手を振っていたから、割と仲が良いのかもしれない。



「…………」



黒い人は、私と同じように窓縁に肘をつき、静かに海を眺めている。何か、近寄りがたい空気を纏いながら。



んー、何者なんだろ、この人。海軍の提督と話をしてたし、海軍の関係者なのはわかるけど……。でも、どこかの鎮守府の提督って訳でも無さそうだし……うーん…………。



??「……なぁ」



川内「ふぇっ!?」



いきなり声を掛けられ、またしても変な声が出てしまった。やばっ、こっそり見てたのバレてた!?



??「さっきから凄い視線を感じるんだけど……何か用か?」



バレてた。



……今さら気づいたけど、この人オッドアイだ。右眼が青い。あと目が完全に死んでる。



川内「あ、き、気づいてたんだ。え、えっと、特に用とかはなくて……ご、ごめんなさい」



??「いや、別にいいけど……」



そう言うと、この人はまた顔を外に向けてしまった。何なんだろ、この人…………。



ーーそれから暫くして。



川内(うぅ……沈黙が痛い)



さっきから、お互いに一言も発していない。いやまぁ知り合いって訳じゃないから当たり前っちゃ当たり前なんだけど……。あちらに至っては、私の存在を認知してるかどうかも怪しい。



再度窓の外の景色を眺めようとするも、横が気になって仕方ない。そこで、私は窓の外に顔を向けつつ、横目でこの人を見ることにした。だって暇なんだもん。



??「…………」



……うわ、体はスラッとしてるのに、何か凄い引き締まってるのが服の上からでも分かる……。提督も割としっかりしてるけど、この人は何て言うか、軍人だから、弛まないように鍛えてるって言うより、戦うために鍛えてるみたいな感じがする。



見れば見るほど提督って感じじゃないけど……一体何者なんだろ、この人…………。



長門「……む、ようやく見つけたぞ。こんなところで何をしているんだ」



そんなことを考えていると、奥から長門さんが出てきた。多分、というか間違いなく、ここの長門さんだろう。



??「……長門か。暇だったから海を眺めてただけだけど」



長門さんは、黒い人の前で立ち止まるや否や、はぁ……とため息を吐いた。



長門「さっきの放送を聞いていなかったのか? お前の呼び出しだぞ、早く行ってこい」



??「え……放送なんて流れてたのか。全然気付かなかった」



え……放送なんて流れてたんだ。全然気付かなかった……。



長門「気付かなかった、じゃない! 全く……何でお前はそう外に無頓着なんだ。もう少し興味を持ってもいいんじゃないのか?」



??「余計なお世話だな。興味ないことに興味なくて何が悪い」



長門「はぁ……本当にブレないな。まぁ、そういうところがお前らしいが……」



そう言って、長門さんはうんざりしたようにこめかみに手を当てる。もしかしたらこの人のお目付け役みたいな感じなのかな……大変そうだな長門さん……。



……いや、本当にお目付け役だとしたら、余計この人が何者なのか知りたくなるけど。



長門「とにかく、提督が執務室で待っている。放送からそれなりに時間が経っているからな、なるべく急いで行け」



??「いや、でも廊下は走っちゃダメとか何とか……」



長門「ことの元凶はお前だろうがっ! 屁理屈を言ってないで早く行け!」



長門さんが大声を張り上げると、はいはい、わかったわかったと言いながら、黒い服の人は廊下の奥へと去っていった。



長門「全くあいつは…………む、川内じゃないか。こんなところでどうしたんだ」



川内「あ、いや、私、ここの艦娘じゃないから。提督がここで元帥さんと話をしててーー」



提督「ーー少し前に終わったところだ。待たせたな、川内」



川内「あ、提督。おかえり」



声がして、後ろを振りかえると、提督が軍帽を被りながら立っていた。



長門「……ああ、貴方が川内の提督か。初めましてだな、私は長門だ。とはいえ、貴方の鎮守府にも長門はいるだろうが」



長門さんは、苦笑しながら右手を差し出す。提督もそれに合わせて右手を出し、しっかりと握った。



提督「確かにいるが、最近着任したばかりでな。君の方が練度は断然上だし、改二の姿の長門と出会うのは初めてだ。やはり、世界でも名高いビッグセブンの改二の姿は貫禄が違うな」



長門「フッ、そうか。それは光栄なことだ。……ところで、先程提督……んん、元帥と話をしたと言っていたが……」



提督「……ああ。今朝、元帥殿から緊急招集がかかったんだ」



長門「……!」



提督がそう言った瞬間、長門さんの凛々しい眉がピクッと動いた。



長門「緊急招集…………成る程、貴方が……」



ブツブツと、長門さんが何かを呟く。声が小さすぎて、内容まではわからないけど。



提督「……長門?」



長門「あ、あぁ、すまない。こちらの話だ。……ところで、貴方は最前線に位置する鎮守府の提督とお見受けするが・・・」



提督「……ん、まぁそうだが。何故わかった?」



長門「やはりか。いや、先程、元帥と話をしたそうだからな。今さらだが、私は元帥直属、つまりは大本営の艦娘なんだ。今朝方そのような話を聞いていたから、もしやと思ってな」



提督「……成る程」



そこまで言うと、長門さんの表情がガラリと変わった。さっきまでの、微笑を浮かべていた時とは別物みたいに、真剣な表情になった。



長門「これは余談だが……最近、深海棲艦の動きが活発になっている節がある。ついこの間も、大本営湾内に戦艦棲姫が現れたのだ。真夜中、皆が寝静まった時間帯、突如奇襲を仕掛けてきた」



川内「えっ!?」



提督「…………」



ひ、姫級が大本営に!? そ、それって相当まずいんじゃ……



長門「その時は、幸いある一隻の艦が哨戒に出ていたおかげで襲撃は免れたが……かなり危険な状況だった。この話は、今日の対談で元帥から聞いているはずだ」



提督「…………」



川内「『ある一隻の艦』……?」



軍艦最強の大和さんとかかな…………他の艦娘じゃたった一隻で追い払えるわけないし。 



長門「大本営近海に、姫級以上の深海棲艦が現れた事例は殆どない。……つまり、今まではただ防衛に徹しているだけだった深海棲艦が、とうとう攻めに転じ始めたと捉えられる」



長門「もしそうだとしたなら、もはやこの戦いの激化は必至だ。……だからこそ、元帥は今日、貴方をここへ呼んだのだろうな」



長門さんはそう言うと、鋭い瞳で提督の目をじっと見つめる。……いや、睨み付けている、と言った方がいいかもしれない。



提督「……長門、君はどこまで知っている」



長門「私は秘書艦だからな、今日の話の内容ならすべて把握している。……あいつは強い。強いからこそ、どこかで必ず綻びが生まれるだろう。そうなったら、どうかフォローしてやってほしい。ーー川内、お前も頼む」



川内「へっ? あっ、う、うん」



突然話を振られ、困惑する私。



ぜ、全然話についていけてないから、何を言われたのかわかんないまま返事しちゃった……



提督「……ああ、わかった。善処する」



長門「すまないな。じゃあ、私はこれで」



張り詰めた空気が瓦解し、長門さんが苦笑しながら別れを口にする。そして、手を振りながら、廊下の奥へと戻っていった。



……えーっと。



川内「て、提督。元帥さんとの対談って一体どんな話だったの?」



長門さんは「あいつ」って言ってたし、もしかしたら誰かが大本営から異動してくるのかな?



提督「……明日になればわかる。とにかく、私達は鎮守府に戻るぞ」



提督はそれだけ言うと、くるりと来た道のりを引き返し始めた。



川内「え、ちょ、ちょっと待ってよー!」



……明日になればわかる、かぁ……。提督は話してくれなかったけど、長門さんの話からだと、誰かが異動してくるのは間違いない、のかな。一体誰が異動してくるんだろう?



ーーこうして、私達は鎮守府に戻った。その後提督は、調べたいことがあると明石さんの工廠へ向かい、そして私はというと、昼の約束通り、夜戦の編成に組み込まれ、今日の話を綺麗さっぱり何もかも忘れて、思う存分夜戦を楽しんだ。……明日から起きる波乱を、知るよしもなく。





ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

ーー






ーー後日早朝0400、執務室。



コンコンと、執務室の扉が叩かれる。



提督「ーー入れ」



ガチャリと音を立てて扉が開かれ、一人の白髪の青年が執務室に入室した。



??「…………」



提督「よく来てくれた。私がこの鎮守府の提督だ。歓迎する……『出雲』」



白髪の青年ーー改め出雲は、ぶすっと顔を背けながら、執務机の前で立ち止まった。



出雲「……昨日の晩に元帥から知らされた。最近の深海棲艦の不穏な動向とか諸々……そこら辺の話もあるし、俺が何のために異動させられたのかは大体分かる。まぁ…………これからよろしく」



提督「ああ、よろしく頼む」



出雲「……それで、何でこんな早くに俺を? 本来なら、今日の正午に来る予定だった筈だけど」



出雲の光のない瞳が、提督の目を捉える。



提督「少し、話がしたくてな。お前のことは元帥殿から聞いてはいるが、やはり本人から直接聞いた方が、機密文書に記されていた以上のことを知ることができるだろう」



提督「それに、お前がこの鎮守府に着任したことを他の艦娘たちにも把握してもらうためにも、今朝のマルロクマルマルに臨時集会を行うことにしている。お前に関して知らないままにしておくと、後々混乱してしまうだろうからな」



出雲「ああ……それは別に構わないけど……」



提督「唐突で悪い」



出雲「……いや、それでいいさ。大勢の艦娘がいる中で一人男が混じってるなんて、知らなかったら怖いだろうしな」



提督「そう言ってくれると助かる」



少しも嫌な顔を見せずに出雲が了承してくれたことに、提督はほっと安堵な表情を浮かべる。ーーやはり、元帥殿が仰っていたことは本当なのか。



出雲「……で、話って?」



提督「……そうだな、聞きたいことは山ほどあるが……まず一番聞きたいのはーー」



話を切り出そうとして、一度、ぐっと声を押し殺す。ーー果たしてこれは、安易に聞いてもいいものだろうか。



提督「…………」



出雲「……? どうした?」



提督の顔が陰ったのを察知して、出雲から声がかかる。



提督「ーーあ、ああ、すまない。何を聞こうか迷っていた。聞きたいことがありすぎて、その中から一つ選ぶとなると……な」



出雲「……そうか。別に一つ選ぶ必要はないだろ。俺がここに着任する以上、時間はいくらでもあるんだからな」



提督「あ、ああ、それはそうだが……」



出雲「ーー聞きたいことって、もしかしなくても俺の《過去》の話か?」



提督「……!!」



思惑を言い当てられ、提督の心臓が思わず跳ねる。



元帥から渡された、『殲滅艦 出雲』に関する資料。その中に唯一記されていなかったものーーそれが、出雲の過去だった。



そこに違和感を覚え、元帥に尋ねるも、「それに関しては、本人から聞きたまえ」の一点張りで、情報を聞き出すことは出来なかった。



本来なら、どんな提督だろうと、どんな艦娘だろうと、過去、もしくは史上の事実は資料に掲載されるのが一般的ーーにも関わらず、出雲に関しては、過去の情報が一つもない。



唯一分かっていることは、『殲滅艦 出雲』は、海軍で極秘裏に開発された、人間を改造して造られた《人体兵器》だということのみ。これは、元帥の口から直々に伝えられたことだった。



そこで、大本営から戻り、青葉や明石、大淀の力を借りて出雲が人間だった頃の情報を徹底的に洗い出そうとするも、見つかるどころか掠りすらしない。



何故ここまで固執するのかは、自分にもわからない。だが、何か捨てきれないものがあるような気がしてならなかった。何故、こんな非人道めいた計画に、自らの身を預けたのか。何が目的で、計画に加担したのか。



ーー知りたいことは、全て過去に纏わることだった。



提督「……どうしても、か」



出雲「ああ。悪いけど、まだあんたのことを信じ切ってるわけじゃない。時間が経って、そんくらい信頼できるようになったら、そのうち話す。……まぁ、そこまで面白くも深くもない話だし、期待して待ってても無駄だと思うけどな」



出雲は肩をすくめ、本当に大した話じゃないと言わんばかりに息を吐く。……本人が言うのなら、仕方がない。機を待つしかないのだろう。



出雲「……知りたいことはそれだけか? なら、俺は今日あるっていう集会まで休みたいんだが……。何分、こんな早朝に呼び出されたもんだから、結構疲れが溜まっててな……」



提督「そ、それはすまなかったな。この部屋の隣に仮眠室があるから、そこを使うといい。……まぁ、本音を言えば、聞きたいことはまだあるのだが……睡眠時間を削ってまで来てもらったんだ、それは追い追い聞かせてもらうとしよう」



出雲「別に寝る訳じゃないが……そうだな、そうしてくれると助かる。じゃあ、とりあえずこの話は一旦終わりってことで……」



そう言い終えると、出雲は欠伸をしながら、気怠そうな足取りで執務室の扉へ向かう。



出雲「……あぁ、そうだ」



取手に手をかけ、扉を半分ほど開けると、出雲ははたと何かを思い出したように振り返り、言った。



出雲「それじゃ、改めて…………これから宜しく頼みます、指揮官」



提督「……ああ、宜しく頼む」






ーー翌朝、0500。



ジリリリリリと、けたたましく目覚まし時計の音が鳴る。



川内「んぅ……」



布団を頭から被り、音を遮る。よし、これでもう少し……。



と思った瞬間、謎の横揺れに襲われた。



川内「うー……何、神通……? 私まだ眠いからおやすみ……」



神通「もう、姉さん、起きてください! 今日は提督から全艦娘に招集が掛かってるじゃないですか。急いで準備しないと間に合いませんよ?」



川内「わ、わかったから。とりあえず揺らすのやめて……徹夜明けで頭に響く…………」



うぅ……しまった、我が姉妹のしっかり者がまだ……。



川内「んー……今何時…………?」



神通「マルゴーマルマルです」



川内「早すぎだよ…………確か集会ってマルロクマルマルからだったじゃん……私は昨日の夜戦で疲れてんの……」



神通「そう言って、昨日は昼間まで寝てたじゃないですか。それで昨日、夜戦禁止勧告受けたんじゃなかったんですか?」



川内「うっ……いや、そうだけど…………」



こ、こうなったら仕方ない……妹には犠牲になってもらおう!



川内「……な、なら最初に那珂を起こしてよ……那珂が完全に起きたら私も起きるから……」



よし、これでしばらくは寝れるはず……!



神通「那珂ちゃんなら毎日私より早く起きて、アイドルの特訓をやってますよ。『アイドルは皆を幻滅させるようなことはしないから、遅寝遅起きはしないんだよ!!』って。まるで誰かさんのことを言っているみたいですね」



そう言って、神通はクスクスと笑い始めた。いや、それよりも。



川内「な、なん、だ、と……?」



な、那珂が、いつも早起きをしている……だと…………!?



川内「し、知らなかった……」



神通「そういうわけですから、姉さんも早く起きてください。時間はあるに濾したことはないですよ」



川内「ち、長女としての威厳が……」



神通「姉さんにそんなものを求めてもしょうがないですから」



川内「なんか神通が酷い!?」



神通「毎夜毎夜、夜戦だ夜戦だと騒ぎ立てている人が何を言っているんですか……」



川内「むぅ……」



くっ……そんなこと言われたら起きるしかないじゃん……。



川内「んっ……くぁ…………ふぅ。……あぁー体がだるい…………」



神通「夜戦で寝るのが遅くなるのは仕方のないことですが、姉さんの場合は日常化してますからね。ちゃんと生活リズムは規則正しくしないとだめですよ?」



川内「えー? でも私が夜戦じゃないと本気出せないのは提督だって分かってるだろうし、今日早く起きなきゃいけないのもいつもなら無い臨時集会のせいだし。私はちゃんと自分の仕事はこなしてるし、次の夜戦に向けてぐっすり寝れる。win-win?ってやつじゃん」



神通「……今度、提督に相談してみましょうか……」



川内「? 何か言った?」



神通「あ、い、いえ、何でもありませんよ」



神通はそう言って、取り繕ったように笑顔を張り付ける。何か嫌な予感がする……。



制服に着替え、髪を整えると、ドアの近くで待っていた神通が扉を開け、廊下に出た。



神通「では、そろそろ行きましょう。もうマルゴーサンマルですから、少し急いで行きますよ」



川内「だから早いって……。あ、そういえば集会ってどこでやるの?」



神通「大講堂です」



川内「ん、わかった」



そこで、ふと私は昨日の話を思い出した。



……そういえば、今日誰か大本営から異動してくるんだっけ? 多分今日の臨時集会ってその事だよね……一体誰が来るんだろうなぁ……



少し私の中で期待が膨らみ始める中、私たちは大講堂へと向かった。





ーー0555、大講堂。



川内「うわぁ……やっぱりすごい数だね」



神通「この鎮守府内の全艦娘がここに集まってますからね……。まぁ、これくらいにはなるでしょう」



大勢の艦娘で埋め尽くされ、ガヤガヤと四方八方から話し声が響き渡る。



「急にどうしたんだろうね。こんな早くに皆を集めるなんて」



「もしかして、新しい艦娘が来るっぽい!? 楽しみっぽい〜」



「あはは、まだ決まった訳じゃないけどね……」



「特別集会って何気に初めてだよねぇ〜。ま、私にとっちゃどーでもいいんだけど。あ〜眠い……ふわぁ〜」



「そうですね北上さん♫ 全く……何の用なのかしら。おかげで髪のセットに時間かけられなかったじゃない」



「まあまあ、そんなカリカリしても仕方ないクマ。提督のことだから、何か重要なことなんだクマ」



「スクープの臭いがします!! 記者魂が疼きますねー!」



「いや、それはないんじゃないかな……そろそろ大規模作戦が始まる頃だし、多分そのことだと思うよ?」



「ん〜……そうですかね? でもさっきから何か血が騒いで仕方ないんですよぉ!」



「それもう病気だよ……。っていうか、加古はもう起きて〜!!」



「zzz……」



誰もこの集会が何のために開かれたのかわかっていないのか、ああなんじゃないか、こうなんじゃないかとそこらかしこで推測が飛び交っている。あと全然関係ない話し声もちらほら聞こえる。



川内「みんなやっぱり知らないんだねー。まぁ、あの時来てないから当たり前か」



神通「姉さんはこの集会で何を話されるのか知っているんですか?」



川内「いや、私も知ってるって訳じゃないんだけどーー」



提督「ーー皆集まったな。こんな早くに召集をかけてすまなかった」



提督が壇上に上がると、ざわめいていた空気が水を打ったように静まり返った。



こほんと一度咳払いをして、提督は続ける。



提督「ではこれより、臨時集会を行う。今日集まってもらったのは、この鎮守府に着任する新たな艦船の紹介のためだ」



夕立「ほら、やっぱり当たってたっぽい!」



時雨「そうだね。でも……」



提督「『何故こんな早くに?』と思った奴も多いだろうが、早朝でなければ遠征などに出てしまい、このことを知らないままの艦娘が出てきてしまうからだ。そうなると、かなりの混乱を引き起こしてしまう」



提督がそう言うと、天龍が不機嫌そうに口を挟んだ。



天龍「なぁ、たかだか一隻の艦娘がここに来るのを知らせんのに大袈裟じゃねぇか? これまでそんなこと一回もやんなかったじゃんかよ」



大井「そうよ、そんなので睡眠時間を減らされるんじゃたまったもんじゃないわ」



提督「……今から紹介する艦は、普通の艦娘とは全く違う。だからこそ、全員に知ってもらわないと困るんだ」



加賀「ーーそれは、さっきから貴方がその艦船のことを『艦娘』と呼ばずに、『艦』と呼んでいることに関係があるのかしら?」



「「「「……!!」」」」



ふとした加賀さんの言葉に、会場がどよめく。



((((艦娘じゃ……ない?))))



ふと、頭の中で昨日の光景がフラッシュバックする。



ーーさっきから凄い視線を感じるんだけど……何か用か?



川内「……いやいや…………んん?」



神通「……? 姉さん?」



……いや、まさかね。



提督「……ああ、そうだ。これ以上、時間を掛けても仕方がない。出雲、出てきてくれ」



「ーーはい」


             ・・

提督が声をかけると、一人の青年が壇上に…………え。



「ーーーー」



ーーつい最近見たばかりの、一切の曇りのない白い髪。それとは正反対の、真っ黒な兵隊を思わせる服装。そして、左右色違い(オッドアイ)の死んだ瞳。



出雲「大本営から異動してきた、『殲滅艦』出雲だ。今日からこの鎮守府に着任することになった。よろしく」



ーーその青年は、紛れもなく、昨日大本営で出会ったあの青年だった。




       *     *     *




最初の喧騒ぶりよりも少し大きく、場内がざわつき出す。



……それも当然か。私も、この件を元帥殿から聞かされた時は驚いた。



提督「混乱するのも分かるが、一旦聞いてくれ。今から、こいつについて説明しようとーー」



したところで、横から声がかかった。



出雲「……すいません、指揮官。それは俺が説明してもいいですか?」



提督「む?」



出雲「俺のことは、俺が一番よくわかってるんで。それに、本人から説明した方が納得しやすいと思うんですよ」



提督「……それもそうだな。では頼む」



出雲「ん、了解」



そう言うと、出雲はふぅと息をひとつ吐き、スッと前に出た。



出雲「あー、……海軍が、何年か前からお前ら艦娘について研究していることは知ってるな?」



時雨「え? う、うん。そう言えばその割に、僕たち艦娘がどういう存在なのかっていうのはまだ何一つ解明されてないんだよね。僕たちもまだわかってないくらいし」



出雲「ああ。そこで軍は、研究対象を艦娘から艤装に移すことにした。あくまで軍が知りたいのは、深海棲艦への攻撃手段だからな。艤装の解析が済めば、いくらでも対深海棲艦用の兵器が造れる……とでも思ったんだろうな」



不知火「……? どういう事ですか?」



出雲「結果的に、軍は艤装の構造の解明に成功した。そしてすぐにそれを利用して、兵器の開発に取り組んだ…………が、全て失敗に終わった。構造上には何も問題はなかったし、不備も確認されていなかったにも関わらず、全ての兵器が作動しなかったんだ」



出雲「改良に改良を重ねても、一向に作動しない。不審に思った研究員が、再度艤装内部の研究、砲撃実験を繰り返しているうちに、ある一つの研究結果が浮かび上がって来た」



大淀「ある研究結果……?」



出雲「ーーそれは、艤装は持ち主……つまり、艦娘の《魂》を動力源にして作動していた、ってことだった」



「「「「っ!!!??」」」」



出雲「まー当たり前だが、大砲だの戦車だの、そんな魂どころか生きてすらないただの鉄の塊じゃあ動く訳ねぇよな」



大淀「ちょ、ちょっと待ってください! た、魂を動力源にしてるって……それじゃ、まるで私たちが命を削って艤装を動かしているみたいな言い方ですが……!?」



出雲「いや、そうじゃない。まぁ例えるなら、ここで言う《魂》ってのは、いわば体力みたいなもんだ。走れば確かに削れるが、時間が経てば元に戻るだろ? 本来は若干ちょっと違うけど、殆どそれと同じだよ。別に使えば使うほど寿命が縮まるとかそんなんじゃないから安心していい」



大淀「そ、そうですか……」



出雲の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす艦娘一同。



出雲「……話、進めていいか?」



大淀「あっ、す、すいません。お願いします」



出雲「……で、話を戻すが、軍は結局何一つとして兵器は生み出すことができないとわかり、全ての兵器の開発を中止した。その代わり、その研究結果を利用して、また新たな研究が始まった」



出雲「ーーそれが、俺だ」



「「「「……?」」」」



出雲の言葉に、多分ほとんどの艦娘が頭に疑問符を浮かべたのだろう。……ふむ、この情報量で気づいた奴は、青葉、大淀、霧島辺りか。目が大きく開いているのがその証拠だな。



出雲「……あぁ、まだ話してなかったか。この際だからパパッと言うが、俺は対深海棲艦用として改造された人体改造兵器だ」



「「「「!!!??」」」」



出雲「さっきの続きから話すと、軍は人体を改造して、艦娘の能力、及び艤装を備え付けることで、深海棲艦と渡りあえる兵器を造ろうとしたんだ。勿論、こんなこと公にしたら、騒ぎになるどころの話じゃなくなるから、あくまで秘密裏に開発を進めていた」



朝潮「ひ、人を改造するって、そんな非人道的な……」



摩耶「酷ぇことしやがるな……軍はそんなとこまで堕ちたのかよ…………」



そう吐き捨てるように摩耶が呟き、心底軽蔑するかような表情を浮かべる。他にも、摩耶や朝潮と同じことを思った者も多いようで、ヒソヒソと喋り声が聞こえ始めた。



出雲「……何か勘違いしてる奴がいるみたいだから言っとくが、別に軍は無理矢理人を捕まえて改造を迫った訳じゃない。ちゃんとしかるべき人員を募って、本人との合意の上でやったんだ。そこまで堕ちぶれてねぇよ」



加賀「……あなたはさっき、自分がそうだと言っていたけれど…………他にも、その人体改造が行われた人はいたのかしら?」



出雲「いや、いない。俺の改造が最初で最期だったからな。理由としては、人員がほぼいなかったのと、俺の改造が、最初にして大成功だったから、ってとこか。……まぁでも多分、他にいたとしても無理だったと思うけどな…………」



時雨「……? どうしてだい? 人体改造を良しとする訳じゃないけど、もしもそんな技術があるのなら、大量に開発することだって可能なはずじゃ……」



出雲「それはーー」



提督「ーーそれは、人間一人を改造するのに、莫大な資金が必要になるからだ」



出雲「……指揮官」



……この話は私からせねばなるまい。これは軍の機密事項の一つだが、出雲がいる以上、この鎮守府内では意味のないことだろう。



提督「例えば……いや、例えるにしても例はこいつしかいないのだが……こいつを改造した際には、軍の総資金のおおよそ3/5が消し飛んだ。そんなものを、必ず成功するとも限らない中でポンポンと量産してしまえば、大本営どころか全ての鎮守府の機能が停止してしまう。そうなってしまえば、日本どころか世界が終わる」



出雲「……そういうことだ。だから、この人体改造に関しては俺が最初で最期なんだ」



出雲はそう言い終えると、疲れたように大きく息を吐いた。



出雲「……とりあえず、これで俺に関しての説明は終わりだ。指揮官、後はお願いします」



提督「わかった、ご苦労。ではこれで最後とするが、何か質問等あれば言って欲しい。もしこの機で言いづらいことならば、後で私もしくは出雲本人に聞きに来てくれ」



青葉「は、はいっ!! 質問よろしいでしょうか!」



ビシッと手を挙げ、意思表明をする青葉。まぁ来るとは思っていたが、やはりか。



提督「ああ。何だ? 青葉」



青葉「最初の方に言っていた、『殲滅艦』というのは一体何なのでしょうか!? それに、出雲さんの艦種もまだ聞いていませんし……」



ああ、そういえば言っていたな。



提督「出雲は対戦艦レ級を想定して改造された特殊艦だ。戦艦、空母、巡洋艦、駆逐、潜水艦に至るまで……全ての艦種の能力、特性が備わっている。そのため、艦種は特に定まってはいない。そんな中で、大本営近海の初出撃時、その戦いぶりを見た将校達から、『殲滅艦』と揶揄されるようになり、次第にそう呼ばれるようになったんだ」



青葉「す、全ての艦種の能力を備えている艦、ですか……な、なるほど…………。あ、ありがとうございまーー」



天龍「オイオイ提督よぉ。何かすげー過大評価してるみたいだけどよ、そいつホントに強ぇのか? 戦艦、空母って……笑わすなよ、ただの人間じゃねーか」



青葉の声を遮って、全員に聞こえるようにわざと大きく発せられた挑発するような声が場内を駆け抜けた。



艦娘全員の視線が、一斉にその声の主に集まる。



龍田「や、やめなよ天龍ちゃん。初対面の人に失礼でしょぉ?」



天龍「いんだようるせーな、ここでちゃんと艦娘もといオレの怖さってヤツを教えてやらねーと」



龍田「あまり意味ないと思うわよぉ……?」



ヒソヒソと、姉妹間で話が聞こえる。どうやらイキった天龍を、龍田がなだめようとしているらしい。



提督「……天龍、今のはどういう意味だ? どうせまた新参者にカッコつけたいだけなんだろうが、私が先程言ったことに嘘はない。正式に大本営から通達を受けているからな」



天龍「べべべべ別にカッコつけたいわけじゃねーよブッ飛ばすぞ!! オレはただ思ったこと言っただけだ!」



うがーっと今にも飛びかかってきそうな天龍を、龍田がどうどうと鎮める。ここまでが一連の流れなので、特に口は挟まない。



天龍「……ごほん。ま、まあ要するにだ。オレが言いたいのは、何で提督はそいつの実力を見たこともないのに勝手に認めてんだよってことだ」



提督「だから、それは大本営が……」



天龍「別に提督はその目でそれを見たわけじゃねーんだろ? オレ達みたいに艦の頃の戦歴があるならまだしも、たかだか人間上がりの素性もわかんねぇ奴の実力を、紙に書いてある文字だけ見て決めつけるってのはどーなのよ」



提督「む……」



……確かに、天龍の言っていることも一理ある。



ただ大本営から送られてきた情報だけを見て、それが正しいと判断するのは早計だ。



出雲「…………はぁ」



そんなことを考えていると、隣で、出雲が呆れと疲れが混じったようなため息をこぼした。



無論天龍がそれを聞き逃すことはなく、ぎろりと出雲を睨みつける。



天龍「あ? んだよ新入り。何か言いたいことでもあんのか?」



出雲「いや別に? まぁ確かにな、って思っただけだ」



天龍「誤魔化すなよ。『こいつめんどくせぇ』って思ってんのバレバレなんだよテメェ」



出雲「……わかってんならいちいち反応すんなよ。本当に怠いから」



天龍「あ"あ"!!?」



ビキッと、天龍の額に青筋が浮かぶ。その怒りの矛先である出雲は、我関せずと言わんばかりに右手で片方の手袋をいじっている。



天龍を発端として雰囲気の悪くなりつつある講堂内が、徐々に喧騒を取り戻していく。



……これは少しまずいな。



提督「天龍、一旦落ち着け。出雲、お前も煽るんじゃない。この集会は、お前達が喧嘩するために開いているわけではないんだぞ。それに、周りの者達の迷惑も考えろ」



天龍「……ちっ」



出雲「別に煽ってるわけじゃねぇんだけど……ていうか、最初から最後まで俺何も悪くなくない?」



提督「それを煽りというんだ。全く……少しは自重しろ」



出雲「解せぬ……」



とりあえず、興奮を抑えることができたようだ。主に天龍だが。



……とはいえ、このまま解散させてしまうと、後で天龍が因縁ふっかけて暴動を起こしそうだな。さて、どうしたものか…………。



時雨「ちょ、ちょっといいかな、提督」



提督「む? どうした、時雨?」



事態の収拾に頭を悩ませていると、時雨が片手を上げているのが見えた。どうやら、何かこの空気を打破する案があるらしい。



時雨「天龍の言い分も最もだし、いっそのこと直々に見せてもらったらどうかな。僕らも、出雲さんの戦い方とか見てみたいしね」



提督「それは、出雲に出撃命令を出せ、ということか?」



時雨「ち、違うよ! 他の鎮守府の艦娘達と演習するみたいに、僕たちと模擬戦をしてもらうんだ」



時雨の提案に、周囲の艦娘がどよつく。



提督「……ああ、なるほど」



びっくりした、まさか出雲を単艦出撃させろと言っているのかと思ったじゃないか。



……だが確かに、それなら出雲の力をこの目で見ることができる。



天龍「お、いいなそれ! それならあいつと正々堂々やりあえんじゃねーか!!」



時雨の案に、天龍が嬉々として乗っかる。そして龍田はというと、もう止めるのを諦めたらしく、にこにことお転婆な姉を見守っていた。



やいのやいのと場が盛り上がりを見せる中、壇上でそれを見守る男二人。



提督「ふむ……」



少し考えた末に、私は時雨の案を出雲に提案してみることにした。



提督「……私としては、お前の正式な実力を測ることができれば、これからの艦隊や作戦に組み込む際、その情報が活かせるだろうから、是非とも見ておきたい。……だが、昨日の今日で無理をして来てもらった手前、無理矢理やらせるのも気が引ける。だから出雲、この案に関してはのるかそるかはお前がーー」



出雲「いいですよ、別に」



……言い終わる前に、承諾を得た。



出雲「俺としては、こいつらとはできるだけ戦いたくはないんですけどね……。いくら模擬戦だからとはいえ、加減間違えたら怪我させるかもしれない」



提督「……お前の言いたいことはわかる。だが、全力でやってもらわなければ、模擬戦をする意味もなくなる。それに、模擬戦といえど、それは実戦と何ら変わりのない『戦い』なんだ。怪我を恐れていては話にならん。それに、入渠すれば怪我などーーっ」



ーーざわり、と、何かが体の内側を這い回る感触。



出雲「…………」



出雲の剣幕に、気圧されているのだろうか。体が、ピクリとも動かない。



出雲「……『入渠すれば治る』なんて、表面上の話でしかない。傷は傷だ、受けた記憶までなくなる訳じゃない。そいつも……周りの奴も」



そういって、出雲は無表情な顔を悲痛に歪め、強く右手の拳を握る。



……何となくだが、今、出雲の過去に少しだけ触れた気がした。……それも、苦々しい筈の、悲痛の過去に。



提督「……すまない、失言だった。取り消そう」



出雲「……こっちもすいません、話が脱線しました。あー、えっと、模擬戦でしたっけ。まぁ遅かれ早かれやることにはなってただろうし、どうせやるなら早いほうがいいので」



提督「そ、そうか。では、私はここにいる艦娘たちを解散させた後、模擬戦を行う艦娘を何隻か選考する。出雲は、今から一時間後に海上演習場に向かってくれ。装備等が必要だろうから、それは工廠の明石に頼めばーー」



出雲「あー……艤装は必要ないです、自前のを持ってるんで。あと、ちょっといいですか」



提督「……?」





出雲「模擬戦の方法についてなんですけどーー」




       *     *     *




ーー解散から一時間後、時刻は0730、演習場にて。……簡潔に言おう。



「ちょっとどいてどいて! あんたたちばっかりずるいわよ、私だって見たいのに!」



「ず、瑞鶴……上の方が空いてるみたいだから、上に行きましょう?」



「はわわわ、ほ、本当に浮いてるのです」



「うみゅぅ……つ、潰れるぅ…………」



「暁、大丈夫かい? 私の膝でよければ貸すよ」



「だ、大丈夫よ! こ、これくらい、レディならなんともないんだからっ……!」



「そんな無理して近くで見ようとしなくても……」



「はぁ……なぜ不知火まで……」



「何言ってんのよ。あんたが部屋でずっとそわそわしてるから、私たちが一緒に来てあげたんじゃない」



「べ、別にそわそわなんて……!」



「いや、あれでそわそわしてないっちゅうんは無理あるやろ。読んでた本、全然ページ進んどらんかったで?」



「そ、そんなですか…………?」



「……それにしても、こんな戦闘狂でバカ真面目な不知火が他人に興味持つなんてねぇ……?」



「な、何ですか。不知火に落ち度などあるはずが……陽炎、今すぐそのニヤニヤをやめてください。さもなくばその緩んだ頰がねじり切れることになりますよ」



「ちょっ、いはいいはい! わかった、わかったかや頰ひっぱふのやめっ……アーーーーーー!!!!」



「あんたも懲りんなぁ……」



……観覧席がこの鎮守府のほとんどの艦娘で溢れ返り、もはや座れずに立って観戦しようとする者まで出始めている。



模擬戦の旨を伝えたあと、各自自由に過ごすよう言ったはずだが……



大淀「皆、新しい男の人に興味津々なんですよ。これまでは男性と関わるとしたら提督しかいませんでしたからね」



提督「自然に心を読んでくるな……。だが、そうか。お前たちからしてみれば、あいつで二人目なのか。大本営で会う奴らを除いてだが」



大淀「ええ。彼、顔も整っていますし、何かと話してみたい娘もちらほらいるみたいですよ?」



提督「……そうか、それは良かった。天龍のように、部外者が艦隊に入ることをよく思わない奴も多々出てくると思っていたが……それを聞いて安心した。あいつが孤立してしまうことだけは避けたかったからな」



大淀「ふふっ、はい、そうですね。しかし、それにしても……」



クスッと笑ったかと思うと、大淀はくるりと演習場の方向に体を向けた。そこには、出雲と選出した六名の艦娘が模擬戦の定位置につき、スタートの合図がなるまで待機してもらっている。どうやら疑問あり、といった顔だな。



大淀「これは……本当に大丈夫なのでしょうか」



提督「これが出雲の出して来た条件だ。最初は私も反対したが……本人が言って聞かなかったからな、やむなく承諾した。……まぁ、もし危険な状況になったら強制的に止めるから安心しろ」



大淀「それならいいのですが……しかしーー」






ーー海上、待機艦娘。



天龍改二Lv.98「ーーまさか1対6の演習方式で、しかもこっちは実弾、実機使用とはな。ナメてんのかあいつは?」



武蔵改二Lv.99「正確には7対1だがな。……まぁ確かに思うところはあるが、あちらがいいと言っているのなら構わんのだろうよ。私らは本気で相手をするだけだ」



加賀改Lv.98「全ての艦種の性能を兼ね備えた艦、だったかしら。それなら一隻だけでも私たちと渡り合える、ということ……? 随分と低く見られているのね」



赤城改Lv.99「あの……何か殺気立っているところすみません。食事中に呼び出されたものですから、よく事情が……」



加賀「赤城さん……集会の途中で突然いなくなったと思ったら、また食べていたんですか……」



球磨改Lv.99「集会の途中で抜け出すとか……よく提督が怒らなかったクマね」



赤城「今回の模擬戦?に出れば許してやると言われました! ……で、この模擬戦というのは?」



加賀「はあ……この模擬戦はですねーー」



北上改二Lv.98「はーあ、まさかあたしらが呼ばれるなんてね〜……ま、いーけどさ。ちゃっちゃと終わらせて部屋でゴロゴロしよーよ、大井っち」



大井改二Lv.98「はい、北上さん! こんな模擬戦さっさと片付けて、北上さんとあんなことやこんなことを……うふふ♫」



球磨「大井は少し自重しろクマ……」






大淀「……あれ? 確か、こちらから出す艦娘は6人でしたよね? 一人多い気がするのですが……」



提督「……ああ、最初は武蔵、加賀、赤城、球磨、大井、北上の6名で組む予定だったんだが、そこに天龍が乱入してきてな……。出雲に一人増えてもいいか聞いたところ、何人増えても構わないそうだから、天龍を無理やりねじ込んだんだ。要は、実質1対7だな」



大淀「な、何人増えてもいい、ですか……。よ、よほど自信があるのでしょうね。ほとんどの艦娘がレベル上限に達しているというのに……」



それを聞き、大淀が感嘆の声を漏らす。……だが、それは少し違うだろう。



提督「……いや、あれは自信があって言ったんじゃない。あれは……自負だ」



大淀「……自負?」



私の言葉に、大淀が首をかしげる。



提督「……直にわかるさ。それよりも、両方とも準備ができたようだし、早く始めるとしよう。大淀、放送マイクを頼む」



大淀「あ、は、はい! 了解しました!」



開始の合図を大淀に任せ、ふぅと軽く息をつき、観覧席の背もたれに体重をかける。



提督「……さて、お手並み拝見といこうか」




     *     *     *




……あんな大勢の艦娘と面を向けてはのは久しぶりだったな。



割と緊張した。



大本営にいた頃は、元帥が気を遣って、艦娘たちに俺が着任したことを伏せてくれていたから、艦娘と顔を合わす機会はほとんど無かった。



あっても、作戦実行時の情報共有のために、長門と日向と、あと数人かと話をするくらいだ。



ーーそれでいいと、内心思ってた。いや、むしろそれでよかった。



ただ送り出すだけじゃなくなっただけで、どれだけ救われたか。同じ戦場に立てるようになって、どれだけ嬉しかったか。



……閉じた両目を、ゆっくりと開く。



もう……《あんな悲劇》は二度と起こさせない。



だからこそーー




「ーー負けられない。悪いな」




ーーーー演習開始の、笛が鳴る。




       *     *     *




ーーそれは、一瞬のことだった。



天龍「っしゃあ! ブッ飛ばしてやらァ!!」



合図と共に、天龍が愛刀を片手に飛び出していく。



武蔵「お、おい待て天龍! 迂闊に飛び込むな!! まだ私達は奴の力を何一つ分かっていないんだぞ!!」



天龍「るせェ!! アイツはオレ一人で片付けてやる、絶対邪魔すんじゃねぇぞ!!」



虚を突かれ、武蔵が慌てて呼び止めるも、天龍は構わず滑走スピードをぐんぐんと上げる。徐々に遠ざかっていくその後ろ姿には振り返る気配すらなく、もはや聞く耳など持ってはいなかった。



武蔵「くっ、天龍め……この模擬戦はお前の鬱憤晴らしのためにやっている訳ではないのだぞ……」



北上「別にいーんじゃない? この際、天龍に全部任しちゃえば」



交戦中とは思えない、間の抜けた声が武蔵の耳を掠める。声の主は、前方で球磨、大井と共に陣を取る重雷装巡洋艦ーー北上からだった。



彼女は飄々とした態度を崩さず、手にした酸素魚雷をぷらぷらと遊ばせながら続ける。



北上「天龍も改二になって強くなったみたいだし、ちょっとやそっとじゃやられないでしょ。それに、巡洋艦やら駆逐やらが先陣切るなんて当たり前のことじゃん。ああは言ってるけど、今は頭に血ぃ昇ってるだけだって。時間が経てば、ちゃんとやるだろうさ」



天龍が近接戦闘に秀でているのは周知の事実だ。海域攻略において、天龍の斬り込みに助けられた場面は少なくはない。それによって敵の主力が混乱したからこそ、今まで味方が轟沈するというリスクを避けることができた…………が。



武蔵「だが、天龍だからなぁ……」



北上「ま、天龍だからねー」



そういって、からからと北上が笑う。武蔵も呆れたように息を吐き、苦笑を浮かべた。



玉に傷なのは、あの難儀な性格だ。単純で感情の起伏が激しい故に、公私を分けることができない。それは、同時に扱いやすいという意味でもあるのだが……旗艦である武蔵からとってすれば、なかなか苦労するところがあるのだろう。



赤城「えっと……今は待機、ということでいいのでしょうか?」



一向に進む気配がないことに気付き、後方から赤城が声をかける。



武蔵「む、そうだな。取り敢えず、今は相手の動きを見て力量を測ることとしよう。先も言った通り、まだ私達は相手の力を何一つとして分かっていない。不用意に近づくのは危険だ」



球磨「それもそうクマ。じゃ、天龍には犠牲になってもらうってことクマね」



武蔵「言い方に悪意を感じるが……まぁそうだな。折角撒いてくれた種だ、しっかり見させてもらおうじゃないか。ーー『殲滅艦』とやらの力を」



武蔵の口がにやりと歪んだその時、赤城と同じく後方で待機していた加賀に、事前に発艦していた索敵機から報告が入った。



加賀「ーー天龍が相手艦を捕捉したわ。今から戦闘に突入するみたいね」






天龍「ーーよぉ」



出雲「…………」



天龍の刀が、出雲の鼻先でキラリと光る。その距離、僅か数㎝。



飛び出した直後、天龍は滑走しつつ、いつものように電探で索敵に入った。毎日行う演習でも、索敵による相手艦の位置の把握は必須事項。いつ回り込まれて、奇襲を受けるか分からないためだ。



ましてや、今回の模擬戦の相手はたった一隻。さらに力量も分からないとなれば、相手の居場所を見失った時点で後手に回ってしまうことになる。そうなってしまえば、たかだか一隻とはいえ、奇襲で艦隊が全滅することもあり得る。



そんなことを懸念しつつ、索敵に入った直後ーー天龍は目を丸くした。



それもその筈。出雲は、定位置から一歩も動いていなかった。



奇襲や撹乱など、一切動く気配がない。まるで、攻め込んで下さいと言わんばかりに留まっている。



こちらを侮っているのか、はたまた今更策を講じている最中なのか。どちらにせよ、その出雲の態度は、天龍を刺激するには十分すぎた。



ーーそして、現在に至る。



天龍「まさか動いてすらねぇとはな。それにこっちには実弾投入だの人数の増員だの……ハンデのつもりかよ?」



出雲「ハンデなんてくれてやった覚えはないな。ただ、そっちの方が戦いやすいかと思っただけだ」



天龍「はっ、よく言うぜ。ま、そのお陰でオレが今ここにいるからな。礼は言っとくぜ……てめぇをブッ潰せるチャンスをわざわざありがとよ」



出雲「気にするな。どうせ結果は変わらない」



出雲の無自覚な煽りに、天龍の歯がギリッと軋る。



天龍「あっそうかよ…………なら聞くが、てめぇが今、武器も持たずに丸腰っつーのもハンデか?」



刀を突きつけたまま、天龍が怒りに口を戦慄かせながら吐き捨てた。



そうーーーー出雲は、この模擬戦が始まってから今まで一つも装備を着けていない、いわば丸腰の状態だった。



刀を突きつけられている今この状況下でも、出雲はポケットに手を突っ込み、防御の体勢すらとろうとしていない。



まるで隙だらけーーだがだからこそ、天龍は衝動的に斬りつけたくなるのを抑えて、突きつけるに留めている。



天龍(仮にも、大本営から派遣されてきた人材だ。何かあるに違いねぇ)



天龍「おら、どうなんだよ」



出雲「別に丸腰って訳じゃないが……まぁ、できれば使いたくはねぇな、少なくともお前らには。ーーただ」



天龍「?」



眼前に煌めく刀に臆することもなく、出雲はうんざりしたように息を一つ吐きーーーー表情が変わる。





出雲「ーー本気で『戦る』なら、話は別だがな」




 

ーーゾクリと、悪寒が背筋を駆け抜ける。



天龍「ーーーーっ!」



ーー気が付くと、天龍は構えていた刀を振り抜いていた。



それは、天龍の意思ではなく、出雲の殺意に当てられ、無意識下で働いた防衛本能。



半ば不意打ち気味に放たれた一撃は、出雲の無防備な首筋を捉えーー



ーーキィィィンという甲高い音を発てて、止まった。



天龍「なっ!!」



完璧に捉えたと思った斬撃が止められ、天龍が驚愕の表情を浮かべる。



刃先を見ると、いつの間に取り付けたのか、首の刃が当たっている範囲を覆うように、真っ黒な鎧のようなものがパキパキと音を発てながら纏わりついていた。



天龍「なっ、何だコレ……!?」



出雲「『砲門』ーーそれが俺の艤装の名だ」



天龍「ほ、砲門だぁ……? 何言ってやがんーー」



出雲「ーー死にたくなけりゃ避けろ」



言い終わるが否や、黒い鎧がパキパキと崩れ、光の欠片となって霧散すると同時、入れ換わるように出雲の左手に刀が顕現した。



ーーそして、一閃。



天龍「ぐっ!!」



横薙ぎの一閃を、すんでのところで刀の腹で受け止める。……が。



天龍「ーーがっ!?」



振り抜いた力は天龍の刀に留まらず、衝撃波となり体を突き抜けた。



力に負け、天龍の体が吹き飛ばされる。そして、水飛沫を上げ、激しい音を発てて着水した。



天龍「がはっ、げほ……! ……く、くそ、何が…………」



出雲「ーーまだ終わってないだろ」



天龍「っ!?」



息吐く暇も与えず、出雲が間合いを一瞬で潰す。ーーまた一閃。



天龍「くっ……!」



先程とは違う縦薙ぎの一振りを、今度は横に飛び込み回避する。



空中でひらりと一回転し、天龍が着水、一瞬生じた間を利用して体勢を立て直す。



出雲「ーーーー」



なおも、出雲の斬撃は続く。右、左、右、上、斜めーー全方位から斬撃が飛び交い天龍を襲う。



天龍「がっ、ぎっ、クッソ……がっ!!」



嵐のような剣戟を、長い実践で培った勘を発揮し紙一重で捌ききる。が、勢いまでは受け流しきれず、徐々に押しきられていく。



天龍「ッ…………舐めってんじゃねぇぇぇぇ!!!!」



出雲「ーーっ」



ーー瞬間、今までとは明らかに異なる音を発てて剣がぶつかり、火花が散った。



捌くことで精一杯だった天龍が、歯を食い縛り、足を踏み込み、斜め上から迫る刀を迎え撃ったのだ。



天龍「ぐぅ…………っ!?」



出雲「…………」



力と力が拮抗し、カチカチと鋼同士が擦れ合う音が響く。


 

天龍「…………オイ……!」



出雲「……あ?」



天龍「コレは……どういう……ことだッ…………!!」



己が持つ全ての力を両腕に込めながら、天龍は殺意を剥き出しにして目の前の相手を睨み付ける。



その理由はーー



天龍「何で………………抜いてねぇんだよ!!」



出雲「…………」



ーー今、両者の目の前で軋めき合う刀の片方が、鞘に収まったままだったから。



言うまでもなく、それは出雲のものだった。



出雲「……だから言っただろ、できれば使いたくないってーー」



天龍「フザけんのも大概にしやがれッ!!」



出雲の声を遮って天龍が怒鳴った直後、背負った艤装の砲搭が起動し、出雲を捉えた。



出雲「っ!!」



僅かに出雲が怯み、刀に込めた力が一瞬緩む。その隙を、天龍は見逃さない。



天龍「らァァァァ!!!」



瞬間的に力を爆発させ、出雲を刀ごと吹き飛ばす。が、一瞬怯んだとはいえ、力も技量も出雲の方が上。そのまま勢いに押されることなく、少し後退するに留める。



天龍(十分ッ……!!)



生じた隙に乗じて、再度艤装を起動、照準を合わせーーそして、爆音。



普段ならば演習用のペイント弾故に殺傷能力は皆無だが、今回は鉄をも穿つ実弾。更には、対象との間隔が数mという至近距離での発射。直撃すれば、致命傷は避けられない。











後書き

・出雲 兵装『砲門』 詳細

第壱砲門 “夜叉” ーヤシャー
……艦艇衝角断刀(衝角船より命名)。刀身は薄く、峰から刃にかけて刀身全体が漆黒に染まっている黒刀。従来の刀と異なり、鍔や反り、刃紋が一切無い。

第弐砲門 “??” 
……

第參砲門 “??”
……

第肆砲門 “??”
……

第伍砲門 “??” 
……

ー第陸よりリスクありー

第陸砲門 “??” 
……

第漆砲門 “??”
……

第捌砲門 “??”
……

第玖砲門 “??”
……

第拾砲門 “??”
……

特殊艤装
第零砲門 “??”
……


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1: 切り干し 2018-09-02 00:57:40 ID: ioq-QNuD

更新楽しみにしてます>^_^<
続き頑張って描いてくださいね

2: Ganguto 2018-09-02 14:07:25 ID: vI1UzJcE

@切り干しさん
ありがとうございます。
これから戦闘シーンに入るところなのですが、如何せん描写が難しく勉強中です……
少し空いてしまうかもしれませんが、近日中には更新すると思いますので、期待して待っていて下さい!

3: SS好きの名無しさん 2018-09-17 19:38:34 ID: vfDsyo1p

NHKニュース(9月17日(月))

海上自衛隊

南シナ海で『対潜戦』訓練実施・公開

護衛艦『かが』等が訓練参加

かが『流石に気分が高揚します。』

4: Ganguto 2018-09-17 22:34:52 ID: 7HB0h8hg

@3さん


くろしお『なんかついてきよるな……』


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1: SS好きの名無しさん 2018-09-17 19:39:20 ID: vfDsyo1p

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南シナ海で『対潜戦』訓練実施・公開

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かが『流石に気分が高揚します。』


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