2018-07-19 00:33:22 更新

概要

傷ついた提督と艦娘達、彼等は出会い何を思い何を感じ行くのだろうか——。



————憎い。憎い憎い憎い憎い憎い!!

信じた俺が馬鹿だったんだ!

こんな、こんな屑を!!

なんで!どうして!!なんで、俺は信じてしまったんだ!!!!


————————————殺す。

殺してやる。

四肢をもぎ取って、一片の希望も残さず、じわじわと嬲り殺す!!


殺してやる!殺してやる!殺してやる!

いや、殺さなければ


「アイツ」の、為に———————————



—————————————————————



廃れた港町に静かに佇む「ソレ」は外観こそ鎮守府だったものの

その傍目から見ても分かる活気のなさは建物の迫力との差から何処か不思議な空間が広がっており

最早、廃墟といっても差し支えのないものであった


そこは、所謂ブラック鎮守府であった


疲労状態での出撃など当たり前

ご飯や睡眠は最低限

入渠は禁止

大破艦は敵の盾として認識され

どんな戦果を挙げても返って来るのは暴言や暴力など他にも沢山の非人道的な行為が日常的に行われていた


しかし、海軍側はこれを黙認

戦果を挙げていたこともあるし

第一、海軍自体


「艦娘とは人ならざるもの」


という認識が一般となっていた

国民からバッシングを受け表向きは辞職するものの

その考えの根本が変わる訳では無かった


そして、艦娘達は徐々に生気を、正気を、希望を失っていった


そして、また新しい提督が着任した



その提督、名を新井隼人という

彼は心に大きな、そして多くの傷を負っている



提督になるには「適正」が必要だった

だが、その適正を持つ者は数少なく

かつ深海棲艦との戦いでその数は著しく減少している


つまり、世界は劣勢に立たされていた


その事態を重く見た日本政府は日本全国民に適正調査を実施

そして、適正有りと判断された者を強制的に 「提督」とした


そして、彼、新井隼人は提督になった


彼は裏切られ、利用された


永劫の友情を誓い合った友は金を対価に彼を差し出し


一緒に暮らしてきた家族は自分達の身の安全を条件に我が子を戦地へ送り出す


そんな中でも、手を差し伸べてくれる人はいた

でも、それすらも、奴等は壊していった



本当に、憎い。


殺してやりたいほど

だが、それだけでは足りないのだ

「アイツ」を、「アイツ」を殺した奴等にそんな事だけでは足りない



俺が、あんな奴等を信じてしまったから


「アイツ」は死んだんだ


俺のせいだ


だからもう————



——俺はもう人を、信じては、いけないんだ



提督が着任しました。これより、艦隊の指揮に入ります。


—————————————————————



「ハァ...また新しい提督ですか...」


陰鬱げに嘆く彼女の名は軽巡洋艦「大淀」


主に提督の執務の補佐や任務の管理

そして新しく着任する提督の案内なども行なっている


つまり、これまで行われてきた非道な行為の一端を常日頃から一番近くで見ていた


「まぁ、どうせまた国民からの信頼問題云々で三ヶ月もしない内に居なくなるでしょうけど」


正門に移動しながら一人ごちる彼女の目は暗く「濁って」いた


それもそのはず、彼女は非道な行為を一番近くで見ていると同時に


その非道な行為を一番受けていた


元提督の奴等は全員屑だ

屑が密室で見目麗しい女性と二人きり

何があったかなどいう必要もなかろう


屈辱だった筈だ

苦しかった筈だ

殺したい程にも憎かった筈だ


だが、彼女は耐えた

証拠の一つでもあればこの状況が変わると、そう思っていたから


だが、そんな事は無かった


ある日彼女の必死の呼びかけが応えたのか大本営から調査員が派遣された


調査は一週間にも及んだ

最初こそ取り繕っていた元提督であったが2日もすればいつも通りだ


調査員の目の前で仲間達に理不尽な暴力を振るい、暴言を吐いてもいた

その一週間の間に汚されたりもした

普段より声を上げ

わざと気付かれるように仕向けたりもした

録音もしていたから決定的な証拠も抑えた


そして調査の結果



次の日から、その提督は居なくなった



単純に嬉しかった!

嬉しくて嬉しくてたまらなかった!!



そして——



———————次の提督が着任した



悲劇は、繰り返した



彼女は知った

人の心の、否、この世の醜さを


そして、彼女は諦めた

絶えず行われる暴力にも目を背け

毎日聞こえてくる暴言を聞き流し

汚されたとて、最早何とも思わなくなった


変えられない

逆らってはいけないのだ

逆らっても、何一つ変わりはしない

いつだって、世の中は理不尽で

弱者がなにを叫んでも

強者には何も届かない


だから、諦めるしか、できないんだ


こうして、彼女は壊れた


「あ、もう居る」


正門の前には一人の男が佇んで居た



「こんにちは、私は軽巡洋艦大淀です。新しい提督の方で...ッ!?」


「あぁそうだ、新井隼人だ宜しく頼む」


彼の顔を見た彼女は驚愕した



彼の目は死んでいた



光が灯っておらず、希望や生気、

その他の「生きている」と思わせるような要素が一つとして感じられないその目は死んでいると言って相違のないものだった


整った顔立ちがその目の違和感を増大させ

より不気味なものへと変えていく


普通に見れば、ただ少し体調が悪そうという程度だ


だが、彼女は違った


この目を知っていたからだ


見たくなくても、目を背けても、瞼を閉じても、脳裏に刻まれ離れなかった



あの艦娘達《仲間達》の目だ——



—————瞬間気付いた


あぁ、彼もまた

私達と同じ様に

人に、傷つけられたのだろうと


そして直感的に思った


もしかしたら、彼ならば

人に傷つけられる痛みを、知っているのであれば

この鎮守府を、私達を、仲間達を、

救えるのではないか————と。



捨てた筈の、祈りにも似たほんの僅かな希望を彼女は抱いたのであった———



—————————————————————



鎮守府、集会場


名前の通り集会をするための場所であるそこは

広々とした、殺風景なところだった


木造の床に壁、鉄の天井に取り付けられたちょっと大きめのライト、それ以外にはちょっとした舞台とがあるだけだった


簡単に言えば、体育館、とでも言えば良いだろうか


ただ一つ違うのは、

直立し舞台上の俺を見上げる艦娘達がいる事であろうか


「新しく到着した提督による挨拶」だ、そうだ


鎮守府に入ってすぐ大淀から

「提督着任の挨拶があるので集会場に来て下さい」

と言われ、今に至る


改めて今の状況を確認していると

隣にいた大淀からマイクを渡された


ようやくだ、今まで長かった


——さぁ、俺の復讐劇の第一歩だ。



「あー、新しく着任した新井隼人だ。よろしく頼む。えーと、まぁ初めに一つだけ言っておく俺もお前等と一緒だ。人に傷付けられた。」


「やっぱり...」


集会場が少し騒めく


なんか隣からも聞こえたけど構わず進める


「まぁ、別にだからどうって訳じゃないけどな。お前等の問題を解決してやれる程、俺は力が無いからな。」


「でも」


軽く息を吸い、先の言葉より力を込めて、言い放つ


「でも、今も、そいつの事が憎いなら。そいつに罰を与えたいなら、俺はお前等と同じ立場の人間として、それに協力する事位は出来る。」


また、少しどよめきが走る


「信じられないだろ?俺だって誰かにこんな事言われても信じられねぇ、でもな!これだけは覚えといてくれ!!」


「俺は、仲間を裏切らない」



嘲笑するべき言葉だ

最も信じられない言葉だ

何度も裏切られ、希望を打ち砕かれ、いつしか諦めもしていた


だが、彼の言葉は、何故か心に響いたのだ


同じ境遇にあったからか?他の奴等と違ったからか?


分からない。

でも、直感的に分かった


彼は本気だ


嬉しくもある。

初めて私達を理解してくれる人ができたから


だが、不安もある

また裏切られるのではないかと、

信じるのを、踏み出すのを、躊躇ってしまう


「まぁ、急にこんな事言われても信じられないだろうから・・・うーん、そうだなぁ。あ、じゃあ証拠を見せてやるよ。ついてきな。」


俺自身も、何故ここまでの事をしたか少し分からない


贖罪なら、復讐なら、「アイツ」との約束を果たすためなら、別に彼女達にここまでしなくても良い筈だ


少し考えると何となく、自分でも実感が湧いてきた


多分、俺はこの眼前の彼女達と自分とを重ねてしまい、彼女達を裏切った奴に


「怒っている」のだろう


そして、

彼、否、提督は不敵に笑ったのだった


—————————————————————



商店や住宅が立ち並ぶ栄えた街の一角に聳える一際は大きな人の目を惹く建物


それは紛れもなく鎮守府だった


世界各地にある鎮守府の中でも内陸部に位置するこの鎮守府は

他の鎮守府の支援や周辺鎮守府の提督合同会議や勲章の授与なども行われる比較的重要な場所であった


そして、そこに今、俺と艦娘達は向かっていた


別段遠い訳ではないが、不安や興奮が入り混じり

誰も声を発さない、重苦しい雰囲気が立ち込め、疲れた様なそんな印象を受けた


そんな雰囲気を打ち壊したのは、凛とした、小声ながらもしっかりとした声だった


「何故あの鎮守府に向かっているのですか?何があちらにあるのですか?」


大淀の問いかけに後ろの艦娘にも聞こえるように応える


「確かここに...前任の前任...くらいだかが居た筈だ」


「だからちょっと、暑中見舞いにな」


「前任」という単語を聞くたびに、後ろからついて来る艦娘達の肩や目線が少し揺れる


まぁ無理もないだろう、それだけの仕打ちをされたんだ


あぁ、本当に腹が立つ


腹の底から名状しがたい黒々とした感情が沸き上がってくるのが分かる


その屑と「アイツ」を殺した奴らとが重なり、頭が何も考えられないほどその感情一色になる


無意識の内に握っていた左手についた傷を見て、その思いが文字通り倍増される


要は、俺は今その野郎が勤めている鎮守府に来ている訳だ


整った作り笑顔に自分の黒々とした感情を隠し、適当な嘘で鎮守府へ入る許可を取る


中々のガバセキュリティに多少困惑しながらその野郎が居る執務室に向かう


重要施設というだけあり頑丈で耐久性や耐火性などに特化した様な質素な廊下を抜け一番奥まで進む


その数分の間でさえ他の鎮守府の提督が艦娘を連れて来ることについて陰口を言われ

そのたびに艦娘達は顔を伏せ黙りこくっていた


もう限界かもしれない


「さて、ここか」


他の部屋と違い絢爛豪華な扉を発見し、迷いなくそれを———



————蹴破った



「「「「はっ?」」」」


四方から聞こえる声は誰のものやら、もしかしたら俺が以外の全員だったのかもしれない


「失礼しまーす」


部屋に入ると眼前には勲章やら賞状などが一面に飾られた壁


それ一つだけでいくらになるか予想もできないシャンデリアの照明


その照明の光を浴び白く輝く大理石と思われる建材を使った傷一つない床


上に置いてあるもの一つ一つですら高級品に見えるほど豪華な机


そしてそこに座るは素っ頓狂な声を上げながら目を丸くする中年オヤジ


どう見ても釣り合ってない

お前はバランスというものを知らんのか


「な、なんなんだ貴様は!?お、俺が誰か心得てるのか!!」


顔も悪けりゃ性格も最悪、おまけに冷静さにも欠いていると来たもんだ


つーか



—————1人目、見つけた




思い出されるはあの日の事


俺はアイツと共に友人の家で隠れていた


日本軍は貴重な提督の素質がある人間を逃さず遂に実力行使に乗り出した


何万もの人員を配備し、俺を確保しようとしていた


信用できる友人の家に匿ってもらい、命からがら逃げ延びていた


付いて来なくて良いと言っても

「心配だから」

と、付いてきてくれる彼女も


何も言っていなくても

「新井が困ってんだったら」

と、自分の家に匿ってくれるこいつも


本当に有り難くて仕方がない


だが



——流れた涙は感動によるものではなかった



7畳もない狭い友人の自室にスーツ姿の大人達が流れ込んでくる


「なんだ!?」


「・・・ようやくかよ」


「どういう事・・・なの・・・」


外に連れ出されると数すら数えられない程の沢山の人が犇めいている


そしてそこから5人の海軍服を着た男達が出てくる


黒いスーツの奴らが周りを取り囲み

空の色が漆黒に変わり

俺の心も次第に同じ色に包まれていく


そしてその漆黒から3つの純白が湧き出てくる

だがそれは救いの手と言うよりは禍々しく

名状しがたき吐き気を催す様な嫌悪感を抱かせるものであった


気づけば目の前に3人の男が立っていた


全員が海軍服を着ていて


1人は眼鏡を掛けた冷たい目をした男


1人は温厚な笑顔を浮かべ背に修羅を潜ませる男


もう1人は



—————今現在、目の前にいる男だ


















後書き

壮大にちょっと超展開


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2018-07-18 19:06:21

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このSSへのコメント

4件コメントされています

1: ゔぇるなーと 2018-07-14 21:47:19 ID: 7QZQHAMx

多分自分でシリアスに耐えられなくなってちょっとコメディっぽくなると思われます

2: SS好きの名無しさん 2018-07-15 06:31:02 ID: KmSCzDRB

それで良いです。
ただ悲惨なストーリーは
読みづらいですから。
頑張って下さい!

3: SS好きの名無しさん 2018-07-15 07:05:48 ID: UWWN8km8

続きが楽しみです!
頑張って下さい(^^)

4: ゔぇるなーと 2018-07-16 15:23:14 ID: F4ZHdnJf

ありがとうございます!
早く投稿しますんで何卒よろしくお願いします!


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