2015-03-10 20:28:04 更新

概要

とある かんぬし さんと
とある かんむす のおはなしです。
おしまい♪
※誤字修正
※テーマ提供者『葉っぱの妖怪さん』に最大限の拍手を。


前書き

とある かんぬし さんと
とある かんむす のおはなしです。

実は、『提督』と『艦娘』の組み合わせよりも
『一般人』と『艦娘』の組み合わせの物語の方が想像してて楽しいです。




-雲に祈る-



--------------------------------------



祈って私のために


祈ってくれたら私はきっと


還ってこられるから



祈ってあなた自身のために


祈ってくれたらあなたはきっと


前に進めるから



--------------------------------------





チチチ…チュンチュン



朝です。


小鳥の囀(さえ)ずりに目を覚ましました。


壁に掛けられている丸い時計の針を確認します


午前5時…10分くらい…?





まだ眠いです。


でも起きなくては…


ああこの葛藤、誰もが経験するものです。


仕方がありません。





体をむっくりと起こし


温(ぬく)くて愛おしい愛おしい毛布を


これまたゆっくり引き剥がします。





温度差を感じ少しだけ身震いを起こしました。


吐く息も白いです。


着替えて、『神社』の掃除をしないと。





まずは今日一日の初めの仕事を果たさなければ。


神主の基本ですもんね。








床から身を起こしてヨタヨタと歩き障子に手を掛けます。




横に引くと、些かたてつけの悪いそれは


ガタガタと音を立てて、まだまばらな陽の光を迎え入れます。





外に顔を出します。


やはり4月の朝はまだまだ寒いです。


昼間はポカポカと暖かい陽射しが


とても気持ち良いですが、この時間は


時折、身を刺すほどの冷たい風が吹きます。





ビュオォォォ…





あぁまた、私から体温を奪おうというのですか、


お止めください風さん、


寒いです。






周りに目をやると神社を取り囲むように生えている木々も


凍えるように、その身を揺らしています。





風は、空気はたしかに冷たいですが


ここは街を見渡せる丘に建てられているため


眺めは良く、太陽の光が私を包んでくださる


お陰で心までは凍えずにすみそうです。






浅葱(あさぎ)色の袴、


装束に身を包み、竹箒を手にいざ。


まずは、神社の前から



ザッ…ザッ…ザッ…



参拝する方々は決して多いとは言えませんが


それでもサボる訳にはいきませんからね。


正直、毎日の掃除の事を思うと敷地があまり


大きくないのはとても助かります本当に。








さて、掃き掃除は終わりですね。


あぁ、後でお賽銭も回収しないといけませんね。


…その前に、『あそこ』にも行っておきますか。








この神社を迂回するように木目の階段があります。


それは、ここよりもまた少しだけ上にある


小さな公園に続くソレなのですが、段数といい


勾配加減といいちょっとした運動にピッタリなんです。


早朝に体を動かすのはとても気持ちの良いものです。








大きくカーブを描くように備えられた階段を


一段また一段と登っていきます。


春という季節は土の香りが、とても芳しく


私は大好きです。


そもそもこの季節が嫌いな人は


少ないとは思いますが。


…花粉症の方以外は。




階段の途中で、思いっきり深呼吸をします。




「…」




緑の匂い、土の匂い、ほんの少し埃りっぽい


目が覚めるほどの清々しさを覚え、


また登り始めます。








着きました。



ここは神社を含めて街が一望できます。


公園と前述しましたが、今は遊具がめっきりと


減ってしまい今は、ブランコとわずかばかりのベンチ



そして、屋根付き吹きさらしの


休憩所。そこには、小さなテーブルと


それを挟むように備えられた長椅子。


ソレらだけです。





なんでも過去に遊具で子供が大怪我をしたそうで


PTAの方々が業者に指示し取り払ってしまったそうです。


お陰で風通しの良い公園となってしまいました。








お日様が昇り始めてきました、


この瞬間は何物にも例え難いものがあります。


特別な風景。




きっと私だけしか知らない風景。




癒しの風景。




…このような綺麗な世界を目にすると


とても『しんかいせいかん』なる海の化け物に


脅かされているとは思えなくなりますね。





さて、いつも通り、休憩所の長椅子で


日の出を拝んでいきましょう。


公園の入り口からそこに移動しようと歩を進めると


何か違和感を感じました。




…ん?




休憩所の壁に阻まれて遠目から


確認しづらいのですが…




『何かはみだしています』




白い…白い綿飴のようなフワフワした『何か』が


風に揺られています。


捨て犬…しかも

白い犬でもあそこにいるんでしょうか?


尻尾だけ、外にはみ出すように寝そべっているんでしょうか?


色々と疑問がわきますが、それはそれで良いです。


犬は好きです。


何犬かな?



しーずー犬でしょうか、はたまた



まるちーず犬でしょうか?








そこに辿り着きました。


休憩所を回り込み


長椅子を覗きこみました―





刹那





一陣の風が吹きました。





思わず、目をキュッと閉じてしまいました。



そして、目を開き再び視線を向けます。



そこには犬はいませんでした。



なにもいなかったわけではありません。



何というか…女の人?



白い女性…


長く綺麗な白い髪がとても印象的なため


そのように形容してしまいます。


目のやり場に困るとても『露出の多い』不思議な衣服。


くびれた白い腹部、白い肌。


モデルのような整った顔立ち。


そして…そして…




意識したわけではありません


不可抗力です。私も健康的な男児ゆえに…


恵まれた豊満な、零れるような乳房。




そんな…


月並みな言葉ですが『美しい』女性が


長椅子に静かに寝息を立てて横たわっていました。



太陽が昇り、光が公園を照らし出しました。




その光を反射するように、彼女のゆらゆら揺れている髪は輝いていました。


まるで、宝石のような…









うーん…それにしても…



「zzz」



本当に、御立派な…御立派さまです。


はっ…!い、いけません!そうです、邪念を捨てて平常心平常心…


…よし。賢者モード



このような格好でここで寝ていては風邪をひいてしまいます。


何か、上にかけるものは…まぁ、こんな公園にあるわけありませんよね。


仕方ありません、一度 家屋に戻って毛布でも取ってきましょう。


女性が体を冷やしてはいけません。


公園の入り口に体を向けて足を踏み出しつつ、他に何か必要かと


思考を巡らせながら歩みを進めると




―シュルリ



すると、先程、『白い彼女』がいた所から布の擦れるような音がしました。



「?」


音に気付きくるっと振り向きます。



「…」



そこには、おっぱi…あ、いえいえ


上半身を起こした『白い彼女』がいました。


その目はトロンとしており、いかにも寝起きという雰囲気でした。


しばらく時間が止まったように、見つめ合ってました。


うん、やっぱりとても綺麗な方です。


なんだか、髪がキラキラと光ってて神々しさを感じます。



「んぅ…」



目を擦って少し唸る『白い彼女』


それで時が再び動き出しました。




「あ、おはようございま」









最後の「す」が言えませんでした。


いえ、彼女が言わせてくれませんでした。





「え!?」



視界が大きくぶれました。


突如、腕を掴まれ、そのやわ肌から


想像もつかない力で彼女の元に引き寄せられ…




ギュムゥ…



「zzz」



「ぁ!?」






バタッ…



ゴロン…





抱き枕のように抱えられ…


意図せず、彼女と共に添い寝をするような格好になりました。







……





「zzz」スゥスゥ




「…」



あ、ど、どうしましょう…どうじましょう゛


吐息が顔にかかります露出している肌が温かいです実は私女性に免疫がありません


あ゛あぁ゛思考が爆発しぞうでずあ゛ぁ良い匂い゛だなぁ女の人って


こんなにや゛わらかいんですねあsdfgty@kl;:!!






あ…









チチチ…チュンチュン



朝です。


小鳥の囀(さえ)ずりに目を覚ましました。



首筋に程良い温もりを感じました。この枕はこんなにも


心地良いものでしたでしょうか?


ゴロンと寝がえりを打つと柔い『何か』が頭に当たりました。



「…うん?」



目をぱちりと開けて天井を見上げましたが、その『柔い何か』で


視界を塞がれました。



これはなんでしょう?



視界を覆っているそれを右手の平で掴みました


握って放す、握って放す、握って放す、握ってh…




「ねぇ」




握って放…す…?




ん?




むっくりと、視界が開けました。


顔を覆っていたそれが退くと、整った顔立ちの女性が


こちらを見下ろしていました。



「あんまり…胸部装甲は触らないでもらえると…嬉しいんだけど」




この体勢は…まさか…膝枕…?








!?








途端、一気に頭に血が巡り、体の各機関が急速に稼働します。


急いで飛びのくと、『白い彼女』から距離をとります。


まだ頬が温いです。




あれ?私はたしか先程…


家に毛布を取りに行こうとして、背後から声がしたと思って振り返ったら


『白い彼女』に手を引っ張られて…抱き枕に…


思い出して、再び意識を失いそうになりました。




一切、動じていない彼女、一方、心臓が口から飛び出るのではないかと思うほどに気が動転している私。


傍から見たら、酷く滑稽なのではないでしょうか。


この時は本当に、何と言おうか必死で言葉を探していました。




「あ、あの…た、大変失礼しました!!」



とにかく謝るしかありません。


深く頭を下げました。



どうしましょう訴えられたら私は


勝ち目がありません。


こういう場合は大体にして女性が有利に働くものです。



『男』とはなんと、不利な立場な生き物なんでしょう。







「…」





頭を下げたまま、罵倒の言葉を待っていた私ですが一向に向こうから



声が掛けられる事はありませんでした。




「?」




不審に思い、顔を少し上げると、トロンと眠そうな顔は崩さず


じっと珍しい動物でも見るかのような視線で私を見つめていました。


そして数テンポ遅れて彼女が言葉を発しました



首を傾げつつ




「…?、何が?」




と一言だけ。




「『これ』そんなに触りたいの?」




自分の『豊かな二つのそれ』を両手で持ち上げる彼女。


どう反応して良いのか、困り果てしばらくその時間が流れました。



すると…




「クシュンッ…!」




眠そうな顔が少し崩れて小さく『白い彼女』は、くしゃみをしました。




「あ…今って…寒いのね…」




再び寝起きな顔に戻る彼女。



私は自分が先程までしようとしていた事を思い出しました。


そうです。


何か暖かい毛布等を持ってこようとしていたのですが…


あのような『恥ずかしい』事態になってしまい頭から抜け落ちてました。




「あの、お嬢さん…もしよろしかったら、何か温かいものでも?」



「ここにいては、凍えてしまいますよ?」




正確には『その格好では』と付け加えたかったですが


あえて触れない事としました。




「…」




ポケーっと私の顔を見やる彼女。


あれ?聞こえて無かったのでしょうか?




「ねぇ…」




あ、聞こえてますね良かった。




「ほうじ茶…ある?」



あ~…


え~っと…茶箪笥の中に…




「は、はい…お好きなのですか?ほうじ茶?」



「…うん」




お若いのに珍しいお嬢さんです。


このお歳の女性なら、『どとー○』や『すたー○っくす』などを


ちょっと小難しいものを


飲むものであると勝手に思っていたものですが。




何と言うか…




掴みどころの無いような、お人です




そう、まるで『雲』を掴むような…






しきりに小さなくしゃみをする『白い彼女』を連れ


階段を下って、神社の裏にある家屋に戻ります。


決して大きいとは言い難い広さの家ですが、


縁側もあり、小さな庭もありますから私は満足です。


完全に日は昇って、少しずつ温かくなってきました。



「ど、どうぞ」



「ありがと」



『白い彼女』を縁側に座らせます。


なんだか本当に掴みどころのないお人です。


達観したような視線でこちらをみつめられると


全てを見透かされているような気になってしまい


迂闊な考えが出来なくなります。




「…どうしたの?」



おっと、見惚れてしまいました。


気恥ずかしくなり俯いてしまいます。



「あ、えと…いま、お茶をお持ちしますね!少々お待ちください!」



パタパタと家の奥に引っ込むとしましょう。



女性に免疫が無いのは、本当に厄介です。




ドボボボボ…


コポコポコポ…



ふぅ、さて

ほうじ茶よし、お茶請けよし、たおるけっと よし


さて…いきましょう



…やはり大福ではいささか華がありませんかね?



う~ん…たしかお客様用に


京都から取りよせた和菓子があったはずですが…


どこにしまいましたか…


あ~…いや、あまり時間を掛けるのもいけませんね。





「おじょうさん、御持ちしました。…?」




「zzz」



おや?


縁側の柱にもたれ掛かって…また眠ってらっしゃいますね。


それでほど眠かったのでしょうか?


起きるまで、おそばにいましょうか。


起きたら、色々とお聞きしたい事もありますが今はおいておきましょう。




肩にたおるけっとを掛けて…よし




これで少しは体も温まるでしょう。


幸い、今日は午前中は特に急ぐ用事もありません。


ああ、なんと良い天気なんでしょう。



チチチ…チュンチュン








「ん…」




お鼻をひくつかせて上体を柱からゆったりと引き離す『白い彼女』


そしてその大きな、



まだ、なんだか眠そうな顔です。




「あ、どうも」


「…おはよう」




よし、こんどはちゃんと挨拶できました。




「ほうじ茶…入ってますよ?どうぞ」



「…頂きます」




お盆に乗せた湯呑みを受け取ると


淹れたときよりも少し人肌に近づいたそれに


口をつけてすすってます。



それを見て、私も一口。





「…」ズズズ



「…」ズズズ





「「…」」プハァ





あ、そうだ。





「所で、お嬢さん」


「?」





こちらに顔を向ける彼女。


う、やはりこの方の視線は苦手です。





「え、えと、何故あそこに寝ていたんですか?

普段からこのあたりに来られるんですか?」



「…」






手に湯呑みを持ち、こちらをじっと見つめる。






「…綺麗なの」






綺麗?



言い終えるや否や空を指差す彼女。






「あそこにいると…空とお日様が良く見えるの

朝日は綺麗なのよ?知ってた?」



「は、はあ」






ならどうして…





「寝ていたのですか?」





しばらく考え込む彼女





「…眠かったの。朝は弱いのかしら私?」





首を傾げながら、答える。


私に聞かれても困りますお嬢さん。



そのとき、何か振動音のようなものが…


先程からこのお嬢さんの腰辺りから聞こえるのですが。





「?、何か聞こえませんか?」



「ああ…『これ』ね」





お茶を飲み終えた彼女はお盆に湯呑みを戻すと


四角くて薄い、白い端末を取り出しました。






「けいたいでんわ…」





強かに振動しています。


画面には平仮名で『ていとく』と表示されています。




ブィィィン

ブィィィン


ブィィィン

ブィィィン



…?


一つ疑問を口にします。





「出ないのですか?」





両手でじっと、震える画面を眺めている彼女に問いかけます。





「これ…」





「……どうやって使うの?」





…えぇ~…











「ちょ、ちょっと貸して貰っても良いですか?」



「ん。」




震えるそれを彼女の手から受け取ると画面を『たっぷ』します。



私のけいたいは『がらけー』ですが、『すまふぉ』の使い方くらいはわかります。



一応、20代の若者…若者!…のはずなので…精神はあんまり若く無いですが…。



ともかく、これで出られるはずです。



通話状態になったそれを彼女に手渡します。




「…」


「耳に当てればいいの?」




頷きます。


いや、それ以外どう使うんですかお嬢さん!?




「そう、ありがとう。あんまり『これ』使った事なくて。」




耳の当てる仕草をします。



そしてそれを真似るように端末を耳元に持っていきます。




「もしもし…ええ…ごめんなさい、天気が良かったの」



「今?…○○神社…ほうじ茶、美味しいわよ?」



「あ、大福もあったわ…え?そういう問題じゃない?」




すまふぉ からなんだかあわてたような男性の声が聞こえてきます



恋人でしょうか?



こんな美しい人です。



そうにきまってます。




「―ええ…わかったわ。」



お話が終わったのでしょうか。


耳元からそれを放す彼女。



「お話し終わったのだけれど…『これ』はこのままで良いの?」



「あ、ええと…たぶんですが…ここを『たっぷ』して…あ、戻りました。」



良し、たぶんこれで良いでしょう。




「提督…今からここに来るって」



「…へ?」



聞き間違いでしょうか…





「ていとく…提督!?」








「雲龍~!!」




大分、日が昇った頃…おそらく8時を回った頃でしょうか。




階段の下から誰か、男性の声が聞こえてきました。





「はぁ…はぁ…まったく!心配したんぞ!!」



「はぁ…はぁ…なんでお前はいつもいつも勝手にいなくなッ…モガッ!」





男性が少し怒った様子で肩を震わせながらこちらに近づいてきます。


『白い彼女』は『白い』…軍服でしょうか?それを着用した男性の口の中に


大福をねじ込みました。






「それ塩大福…美味しいでしょ?」



「…」モックモック





無言で、眉をこまったように八の字に曲げる彼の様子を


優しい視線で眺める彼女。



もぐもぐと必死で租借する彼。


なんだか、あの物言いから察するに普段からこの調子なんでしょうか?



御苦労なさっているようですね。


彼女はなんだか…あの、会って間もないですが…


空気が独特ですし。


そこが、素敵と言うか、何と言うか…。




そして、彼女も縁側に座ってその様子を眺めつつ


大福に口を付けました。


ゆっくりと白い餅に当たる


濡れた桜色の綺麗な唇に目を奪われます。





「ムグッ…んぐ…ぷは」ゴクン





あ、先に彼氏さんのほうが食べ終わったようです。





「っはぁ…うんりゅ~…勘弁しておくれよ」





先程の怒りはどこへやら、すっかり彼女のペースです。


尻に敷かれていますね。


がっくりと肩を落としてらっしゃいます。





「美味しかった?」





半分以上食べた、それを口から放し問いかける。





「うん、とっても。塩大福だったね。絶妙な塩加減だったよまったく。」



小さく溜息を言いつつ感想を述べる彼。


美味しかったようで何よりです。






「あ、もしかして…雲龍がお世話になったっていう」



「あ、私、この神社の『神主』です。

『彼女さん』が寒そうでしたのでちょっと

暖をとっていきましょうと私が誘ったんです。」






軽い自己紹介です。


?



どうしてそんな、鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をなさるんですか?


この、私と同年代のようなお若い、男性は?



「誰が…彼女…ですて?」



「あ、いえ、この『白いお嬢さん』が…あれ?」



隣をみると、左手に食べかけの塩大福を持ちつつ首を傾げてます。



彼の方を見ると



いきなり吹き出して笑い始めました





「あっははははは!違いますよ!

私とこの『雲龍』とは上司と部下の関係です」






『うんりゅー』?


はて、聞き慣れない言葉ですね。





「?、提督?面白いの?」





傾げた首にさらに角度がつきます。


首に垂れていた長く白い髪がユラっと揺れました。



…え?提督?やっぱり、聞き間違いじゃなかったんですね…


もしかして…さっきの発言と良い、「提督」という単語といい…まさか





「うんとても面白いよ、

愉快です。申し遅れました

私○○鎮守府の提督をしている者です。」





とんでもない勘違いをしていました…。


お恥ずかしいです。





「この白いのは艦娘の『航空母艦 雲龍』です」





して、この女性が…「艦娘」ですか?








艦娘というのは…こんなにも―





「…あ。自己紹介?雲龍です。」







―美しいものなんですね





「初めまして?…うん、初めまして」





―なんて、慈母のような笑顔なんでしょう。








「艦娘を見るのは、初めてですか神主さん?」



「は…はい」



胸を撫でまわした事は黙っておきましょう。


おおらかな彼女は咎めませんでしたが、彼女の責任者とも


なれば、話は変わってきますから。



「あ、提督…やっぱり男の人は『これ』好きなの?」



両手でそれを抱える彼女。


嫌な予感が…



「うん?何を言ってるんだ雲龍?」



「『それ』が嫌いな男なんていないさ。なんでそんな事を?」




雲龍さん止めて下さい…





「………いっぱい『揉まれたから』…?」





首を傾げて答える彼女


あぁ…もぅ…





「…おっぱいをいっぱい?」




「うん」




「いっぱいをおっぱい?」




「提督、落ち着いて」





くるっとこちらを睨む彼、そして目をそらす私。


視線で殺されそうな…第6感が告げています。


『今、彼と眼を合わせるべきでないと』




「提督、大丈夫、くすぐったかっただけ」



そういう問題ではないんです…



「…ップ」


また、吹き出す彼。


怒って…ない?



「冗談です冗談!雲龍はこの通りなので、

私にも責める気は毛頭ありません。」



良かった…



「さ、帰ろうか雲龍。

今度は勝手にいなくなってくれるなよ?」




彼女に右手を差し出す提督さん。


それをじっと見つめ、手を取って立ち上がった雲龍さん。


スラッとしたその体は、やはり神々しく有名な彫刻家が


彫った神像のような雰囲気さえ感じます。



少し残念そうに、彼と共に歩き出す彼女。



ですが、数歩歩きだしたところで


突如彼女は立ち止り、顔を空に向けて目を閉じました。。






…数秒してからゆったりとした風が


この神社全体を通過し、彼女は再び目を開け


クルリとこちらを振り返りました。


揺れる髪がなんとも優雅です。





「明日も…晴れるわ…きっと」






その白い神像がこちらに視線を向けます。





「また、明日…早朝に会いましょ?」





手を振って再び立ち去る彼女。



また…明日。



明日、また会えるんですね…。





はい。


また、明日。


白い、二つの背に私も手を振ります。






さて、ここを片づけましょう。


縁側に膝まづいてお盆に二つの湯呑みと菓子の包みを


乗せます。










―あ




―雲龍さんの食べかけの…大福…














…ゴクリ











…パクッ











「この塩大福…『甘い』…ですね…とっても…うん、『甘い』…」






「あ」


「…あ」



今朝は、ほうじ茶の入った


保温ボトルを二つ用意してきました。


雲龍さんは白いボトル、私は薄緑色のボトルです。





おりました。


雲龍さんです。





「おはよう」




優しく、ニコリとほほ笑む彼女。


その笑顔を見た途端、彼女の周りの空気が浄化され


澄んだようにも感じられました。



ああ、神々しく美しい。





「お、おはようございます雲龍さん。」





つい、ドモッてしまいます。


やはり、今日も薄着ですね。


果たしてその格好を『薄着』の一言で済ましてしまって良いものかと


疑ってしまいますが。



街と神社が一望できる位置に供えられたベンチに座っている彼女の


横に座り白いボトルを手渡します。




「ん…ありがと」




「いえ…あ、今日は苺大福を持ってきました。」




「そう…イチゴは好き」



それは良かったです。



しばし、談笑です。


最初はぎこちなかったですが、全て


受け入れてくれるような彼女の空気に感化され


色々とお互い語っていました。








また、昨日のようにお日様が少し高く昇ってきました。




「―でも、本当になぜこの場所に?以前から来ていたのですか?」




「昨日も…言ったでしょ?ここは、お日様が綺麗なの。それに―」




「あの時間に来たのは、昨日が初めてなの。いつもは…もっと早くに来て」




「日の出をちょっと見てから…帰ってたの」





では、何故今日から…この時間に?






「…」



「一人で、静かにみる…お日様も綺麗…でも」



「二人でみると…もっと綺麗って…気付いたから、かしら」





…なんだか…気恥ずかしいですね…


私も同じで、今までは一人で、この景色を一人占め


してしまいたかったですが…


二人で拝める日の出も格別ですね。





そして、また彼女と私は訥々とお互いの事を話し始めました。









「あら…もう、こんな時間…そろそろ出撃の時間…帰らなきゃ…」




スラリと長椅子から立ちあがる彼女。


時が経つのは早いものです。


特に楽しいと。




出撃とは…たしか、鎮守府の近海に出るんでしたか…。


あまり、てこずるような敵はいないと仰ってましたが…


ちょっと不安です。










…そうです!








「あ、あの!う、雲龍さん!」





「なぁに?」





長い、白い尾を揺らして振り返る彼女。





「私は『神主』です!」





「そう…ね」





「み、皆さんの願いが…神様に届くように祈祷するのが私の役目です…」





「いつもは…『誰かの』ために祈ってました!ですが…きょ、今日から」





「今日から…『自分のため』に祈ります!『あなたのため』に!

あなたが無事に…!」





「無事に…帰ってきてくださるように!!」





…私達、人間のために彼女達が戦ってくれるなら


我々は祈ることしかできません。


そして、その祈りが届くように手助けをするのが


私のような『神職』の仕事です。


ですから…





「祈りますから…どうかお気を付けて」






「…」






「ありがとう…とても、心強いわ」






全ての罪を許す権利を与えられた聖母のような笑み。



太陽の閃光を背に浴びて私を見つめる彼女は



本当に神様の使いかと…錯覚してしまいました…



いや、ひょっとすると―











ここで…艦載機…




避けて…飛ばして…避けて





あ、当たったわ…お疲れ様。


お帰りなさい。





夕立ちゃん。


前に出過ぎては駄目よ?






あ、ほら、転んじゃった。







えぃっ…!







ズド…ン…







良し…これで全部ね。


え?


私が えむ・ぶい・ぴぃ?


何それ?




私が『一等賞』なの?


そう、嬉しいわ。




元々、こういう顔なの、あんまり表情は豊かではないのは自覚してるわ。


さ、帰りましょ?





お腹すいたわ。




神主さん…祈ってくれたから一等賞だったのかしら?





……





…ふふっ♪











雲龍さんとここで会うようになって、数カ月が経過し


今年もそろそろ終わりを迎えようとしています。



が…



どうしましょう…由々しき事態です。


年末だと…いうのに…


年末だと言うのに…




『巫女さん』が…集まりません…!



これはまずいです…非常にまずいです!


どうしましょう…




いつも通り、装束に着替えながら。


悶々と思案します。まさか、巫女さんのアルバイト募集をかけて誰も来ないとは思いませんでした。




公園の休憩所の長椅子に深く腰を降ろします。



思わず、頭を抱えてしまいます。



「…どうしたの神主?」



この声は…



「う、雲龍さん…」



「…?」






「…そう…巫女さん…」



「はい…全然…集まらないんです…」



「何人ぐらい必要なの?」



「大体…4、5人程度は…」



「おっぱいは大きい方が良い?」



「うぐっ…!」



「どう?」



「お、大きいと…うれしいです」



私が



「そう…。」




『すまふぉ』を取り出して、覚束ない操作で


どこかに電話をし始めました。





「もしもし?」



「ええ、そう、神主さん。オッパイ大きな子5人。うん。お願い。」




通話が終わったようで。


それを懐にしまいました。





「大丈夫、なんとかなるわ♪」





その笑顔は

まさしく神の遣いです。









「う~んりゅぅ~♪」




金髪…これはいわゆる


『ゆるふわうぇ~ぶ』『ましゅまろじょし』というヤツでしょうか


おぉ…『だいなまいとぼでぃ』




「私を呼ぶなんて…相当、御困りのようね?」




キリッとした目つき…


なんと『すたいりっしゅ』な外国人の方なんでしょう。


日本語お上手ですね。




「あの~…私なんかで…お力になれるんでしょうか?」




幼い体に不釣り合いな成熟したその二つの果実を持つ黒髪の子。

う~む…。





「雲龍さん、これはどういう任務なんですか?説明を要求します!」





先程の黒髪の子は、まだ体つきにあどけなさを感じましたけど


この銀髪『ぼぶかっと』の子はなんとも…『すたいるばつぐん』という


表現が良く似合います。気が強そうです。





「この編成はウチへのアテつけか?ん?おぅコラぁ…」










………


………


………まな板?





「あれ?龍驤?なんで?」




「こっちが聞きたいわド阿呆!」




「提督にいきなり『お前行ってこい』って来てみれば…何や…何々や!?」









「神主、紹介するわ。私のおともだちの…」






「愛宕で~す♪」





ゆるふわ女子の愛宕さん





「ビスマルクよ」





金髪すたいりっしゅビスマルクさん





「う、潮です!」





かんとりー巨乳女子の潮さん






「初めまして、浜風です」





ろりーた巨乳ぼんきゅっぼんがーるの浜風さん






「…龍驤や」





………まな板






「雲龍です」





いや、あなたは違います。






「ねぇ、ところでなんで私達を呼んだの?」



ビスマルクさんが腰を手に当てて私に詰め寄ります。





「あ、えと…

み、皆さんには年末に向けて、

『巫女』のお手伝いをして頂きたくて…」





「「「「「 巫 女 ?」」」」」





「は、はい…もちろん強制ではありません!その…お暇があればで」



「その…愛宕さんも、びすまるくさんも、

潮さんも…浜風さんも…まないt…龍驤さんも」





「あ゛?」




「とても輝かんばかりに美しいので、

巫女服に着替えたらとても似合うと思うんです。」





こちらを恨めしそうに睨む、龍驤さんを無視します。


きっと今視線を合わせたら目で殺害されます。




「思い出作りと思って頂いて…いかがです?」




「そ、そうね!この私にかかればどんな服も着こなしてみせるわ!」


「良いわね~♪サイズあるかしら?」


「巫女ですか…案外悪く無いかもしれませんね。」


「わ、私が…お手伝いできることなんてあるんでしょうか?」


「…まぁええわ!ここまできたらやってやるで!!」




…なんか皆さん乗り気です…あぁ良かった。






「ムゥ…!」






クイクイッ







「ねぇ…神主…」







袖を引っ張られて隣を見やると雲龍さんが頬を少し膨らませてジッと


顔を覗いています。




「何ですか?雲龍さん?」




「わ、私は…その///」



なんだか頬を少し赤らめてモジモジさせています。





「巫女服…似合うと思う?」







そんなの、決まっているじゃないですか。









「ええ、とても良く似合うと思いますよ♪」





「///」









自宅のちょっとだけ広い和室を案内して、皆さんに軽い


巫女服の着方を説明して、同時に年末から年明けまでの仕事内容を伝えます。


まず基本的には皆さんには、神社で『お守り』の販売等の


対応ですね。


その他は主に、やはり事前準備等ですかね。


あ、あとこの時期はとても冷えるので出来れば


『ひーとてっく』と『ほっかいろ』を用意して下さいね


巫女装束だけでは寒いですからね。








「これで、どうかしら?」



「合ってるかしら?ちょっと胸が苦しいわ。」



「この袴…ちょっと長いかもです」



「私も、胸が少しきついですね。」




うんうん、皆さんとてもお綺麗です。




「ねぇキミぃ」




知りません




「オゥこっち見ろや」




絶対に、みません。


胸がブカブカに余った龍驤さんなんか知りません。


認知しません。




「ねぇ神主」




声のする方に目を向けます。


そこには長く龍の尾のような長い髪を揺らした


巫女の姿の雲龍さん。





「どう?やっぱり…私も胸がきついわ。」







…綺麗です。



…良くお似合です。本当に







1月1日


ザワザワ…


アケマシテオメデトー


アケデトー


ザワザワ…




ふむ、凄い人ですね。


いや、本当に…艦娘の皆さんが『巫女さん』をしてくれなかったら


私…どうなっていたことか…


さて…祈祷も終わりましたし。




次まで時間がありますね


少し皆さんの様子を見てきましょうか





「はーい♪ここの神社のお守りはと~ってもご利益が有るんですよ~♪」




「お、おねーさん!ぼくにおまもり売ってくださいな♪」




(なんて、可愛い男の子!逃す手は無いわ…!)ジュルリ




「あ、あら~♪ぼく~?実は『お守り』よりも効く『おまじない』あるんだけど~…」ニヤリ




「もっときく『おまじない』?」




「そう…『すっごく』て『ぱんぱかぱん』よ?」




「すごぉい!ほしい!」




「…じゃあ、ちょっと一緒に神社の裏まで」





愛宕さん!神聖な神社で何をなさろうと!?




「っち…あらぁ神主さん♪ちょっと坊やにお姉さんからお守りより効く『おまじない』をと」



目つきが『狩人』の目になってます!


やめて下さい!なんかゾワゾワくる嫌な予感がします!


少年くん!神主さん直々にお守りあげるから


『喰われる』前にお逃げなさい!




「よ、よくわかんないけど!ばいばいおねえちゃんとおにいちゃん!」ダッ



「あぁ!貴重なショタ成分がぁ!」



求めないで下さい!!







なんとか愛宕さんを宥めて、お守りの販売に専念して頂きました。



さて次は『びすまるく』さんですね。


彼女は『どいつ』の出身とお聞きしていたのでより、力を入れて説明しましたが


果たして上手くいってるかどうか…



ザワザワザワ…



むこうは…びすまるくさんのいる方向ですね…




…っは!!



激しく嫌な予感がします!神主超心配!





「はぁん!ビスマルクさまぁぁ!!踏んで下さいぃ!!罵ってくださいぃ!!」






「ちょ…!こ、こっち来ないで!ほら!

あんたもお守りが目的なんでしょ!

さっさとお金置いてどっか行ってよ!このへ○タ○!!」






「ぶひょぉぉ!!もっと、もっとぉぉ!!」






「いやぁぁぁ!!なんで日本の男はこんなのしかいないのぉぉ!?」








ソっとしておこう…











次は潮さんですね


おや、なんだかきっちりと列が並んでいますね。




「あ、はい!こちらは500円になります!」



「ありがとーございました!

こんごも○○神社をよろしくおねがいします♪」ペコリ



「お嬢ちゃんは、ちっこいのに偉いねぇ~」ナデナデ



「えへへ///」




おや、あれは良くこの神社に参拝に来てくださいます


おキヌさんではありませんか。


なんだか微笑ましいですね、潮ちゃんは上手くやってますね。



神主安心安心






次は浜風さんですか。



お?




ザワザワ






「は、浜風さん!い、一緒にお写真撮って頂けませんか!?///」



「え、え…私…ですか?こ、困りました。

さすがにこういうときは上に承諾を頂かないと…」






あ、浜風さん、御写真を求められているんですね。






「神主様!こちらの方が私との撮影を希望されているのですが…許可を頂けますでしょうか?」



巫女服で敬礼はなんだか『あんばらんす』ですが、そこに…こう…ぐっときますね


これが『ぎゃっぷもえ』というものですか。


構いませんよ?


別にお金を取るわけでもありませんし。





「神主さん!あなたは俺達男の味方なんですね!!」




ウォォォ!ハマカゼチャン ト シャシン ガ トレルゾー!!



ローアングル ノ ジュンビ ダ!!



ア、テメェラ オスナオスナ!!


ザワザワザワ



なんだか一気にざわつきましたね、浜風さん頑張って下さい。


それにしても『ろーあんぐる』とは何でしょう。


いささかひっかりますが、さて次は


まなi…龍驤さんに会いに行きましょう。






「はぁい!そこぉ!列、崩さんといて!」





「はい!500円ね!次、次!」





おぉ、キビキビしてますね!


凄い速さでお守りを捌いていきます。



「んお?なんだキミィ来てくれたん?」



ええ、凄いですねまな板さん!あ、いえ!龍驤さん!



「今のわざと!?ねぇ絶対わざとやん!?」



ワザトジャナイヨー


カンヌシ ウソ ツカナイ ツカナイ




「腹立つわぁ…」イラァ









さて、茶番も終わった事ですし、最後は雲龍さんですね。






うん?



なんだか今までで一番長くて静かな列ですね。



あそこの販売店にいるのは…雲龍さん?



最前列のお爺さんの手を握って…まるでお祈りをしているようです…。




お爺さんの手の中からお守りが覗いています。


その手をさらに雲龍さんが優しく包んでいます。


そして目を瞑って祈祷していました。



しばらくその状態を維持したまま、雲龍さんの動きは止まっていました。


そして



「はい…これでお祈りは終わりましたよ…?

おばあさんの腰痛…良くなると良いですね…♪」





「ああ…お巫女さん…ありがとうよ…きっと婆さんも良くなるわい。」



「きっと、良くなるわ。

だってここの神主さんは…神様ととっても仲が良いんだもの」






…本物の巫女さんのように見えました。


他人のために願いを願う、祈る、その姿。


見惚れてしまします。


しばらく彼女の様子を眺めてしました。








―人の『願い』というものは様々で、

一つ表現を間違えるとそれは『欲望』となります






―ですが








「受験に合格したいんです」


「…大丈夫よ?自分を信じて」









―純粋な『願い』は







「今度、子供が生まれるの」


「元気な赤ちゃんが生まれてくるように祈るわね」









―誰かが、誰かのために祈る純粋な『願い』は










「こんど…彼女が大きな手術を受けるんです…成功しますかね?」


「大丈夫。大丈夫よ。私達が祈るし、

あなただって強く思ってくれるんでしょ?

だから安心して。」








―神様の耳に届くものです









「ぱぱ ね!しんせーかん と うみでたたかってるの!すごいでしょ!」


「!…すごいわね…」


「だからおねーちゃん…

ぱぱ、かえってこられるように おまもり ください。

おいのり してください♪」


「…」


「おねーちゃん?」


「…お祈り…したわ。大丈夫、きっと帰ってこられるわ。」











―私達が守るもの…











それから、三が日まではあっという間に過ぎていきました。


そしてその夜…



「皆さん、本当にありがとうございました!

おかげで無事に年明けを乗り切れました。

今日は狭い我が家で申し訳ありませんがこころばかりの『打ち上げ』を開かせて

頂きました。それでは、乾杯!」






カンパーイ!









「は~ぁ…あの男の子可愛かったな~…」




愛宕さん犯罪はやめて下さい。




「結局、散々詰(なじ)って、罵倒し疲れたわ…あ、でも

ちょっと気持ちよかったかも…っは!なにかに目覚めそう…!」




びすまるくさん神社でなんて事してるんですか!

ソっとしておいた私がおバカさんでした!




「神主さん、今日おキヌさんのお孫さん達が来てくれたんですよ?

ちっちゃくって可愛かったです♪」




潮さん、あなただけです…突っ込み疲れた私を癒して下さるのは…!




「へっへっへ…!乳がなんぼのもんじゃぁ…金があれば

豊胸なんぞ…簡単なんやで…へっへっへ」グビグビグビ






…そっとしておこう







皆さん、大分盛り上がってますね。


提督さんに休暇をお願いしたら快く許可して下さいました。



愛宕さんの提案で我が家で


今夜はお泊り道具を持ってみなさんで『ぱじゃまぱーてぃ』のようです。




さながら民宿ですね。一応、お客様用やご来賓の方々のための


衛生用品等も備蓄していましたので問題はありませんが…



なんか…男として見られてないのがいささか気になりますが


無視しましょう。


神主寂しく無いもん。











夜も更け、丑三つ時に入ろうとしています。


あまり深酒されない方々のようですので次々にお風呂の順番が


回り、今は皆さん夢の中でしょうか。


私はというと、この『お参り』で来られた方々の把握と


『お守り』の売り上げの帳簿をつけていました。







そろそろ良い時間ですし私もお風呂に入って寝ましょうか。






今夜はなんと満月が美しいんでしょう。


僅かに月のまわりに雲が浮いてますが、月の光を浴びてそれすらも


それの美しさを彩るために予め用意された装飾品のようにさえ感じます。




そんな光景を眺めがら廊下に歩を進めます。











うん?








はて?縁側の戸が開いてますね。



閉めたはずですが…




あそこに誰かいらっしゃるのでしょうか?









…廊下にポテっと白い尾が流れています。


『白い何か』が横たわっているようです。



寝巻の上からわかる、しなやかな体。






…雲龍さん?










「雲龍さん?ここで寝てしまってはお風邪をひいてしまいますよ?」






縁側に寝そべっている彼女の体を揺すります。







「…気持良いのよ」







瞼こそ閉じていましたが、起きてらっしゃいました。






?









突然の不思議な発言に面喰っていると




再びその唇は言葉を紡ぎました。





「月の光を浴びながら…横になると…癒されるの」




「あなたもやってみて?」




自分の体の横をポンポンと優しく叩いて


おいでおいでと合図を出す彼女。



…どうしたものか…






すると、雲龍さんは膝まづいている私の手首を掴んでその豊かな体の内側に引き寄せました。






…ドサ






その姿は、最初に雲龍さんと出会った時のように抱き枕のような形と


なってしまいました。





―トクン





密着した胸と背





―トクン





伝わる体温、首に当たる彼女の吐息



そして、少し早い鼓動。






―トクン






その鼓動から数拍ずれて私の胸も早まりました。






―トクン







これら全ての感覚は


以前だったら、緊張と恥ずかしさで思考を溶かしていましたが


雲龍さんと出会ってから、むしろ『求める』ようになっていました。








「ね?…廊下が冷たくて、気持ち良いでしょう?」








耳元に囁かれる甘く、官能的な彼女の言葉。


でもねっとりとしたねばつくような甘さではなく


果実のような、さらりとした心地の良い甘さ。





一言で表せば安心感。




「夜に貴方に会うのは…初めてね

…あ、初めまして『夜の』雲龍です♪」





聞いているだけで眠気を誘(さそ)う。


癒しの世界へと誘(いざな)う





「…はい、とっても…心地良いです。

温(あたた)かで、でも冷たくてとても眠くなって…しまいますね。

初めまして『夜の』雲龍さん。」







「ここで眠っちゃったら…『お風邪をひいてしまいますよ』?」




私の声真似をして囁く彼女、



良いじゃないですか。



たまになら良いんです。









「…あのお爺さんの奥さん、腰良くなると良いわね。」



大丈夫です。






「あの青年、ちゃんと大学に受かるかしら?」



大丈夫です。







「子供が産まれるって…妊婦さんがいたわね」



大丈夫です。







「素敵な彼氏さんだったわね。彼女の手術のためにお参りにきてくれたのよ?

手術うまくいくかしら?」



大丈夫です。







…皆さんの『願い』、纏めて私が神様の元へ届けます。










「小さい女の子もいたわね、ほら深海棲艦と戦っているって…」




「軍関係のお仕事なのね…」




「大丈夫よ」


…?


「その願いは私達が叶えるから」





「それを叶えるためにも、貴方にお願いがあるの」






「祈って?」



…もちろんです。






背に感じる少し拍の早くなった彼女の鼓動を感じ


彼女の手に優しく触れました。











目を明るい、明るい満月に向けます。












こうして月の光と、寄り添う温もりを感じながら


眠りに落ちるのはとても…


素敵な事です。




ああ、瞼が重いです。










おやすみなさい







ガヤガヤ…



ガヤガヤガヤ…



アラアラ♪


ワ、ワァ~///


ニッポンダンジ モ ダイタンネェ~♪


フ、フシダラデス!


コレヲ シャシン ニ トレ バ オドセルン ト チャウ?




…なんだか騒がしいです…



ア!オキタワ!







「…あ」





「zzz」スゥスゥ




皆さんおはようございます。


今日も…とても天気が良いですね。




どうやら、雲龍さんに抱かれたまま眠ってしまったようです…


なぜか毛布がかけられていました。


すると愛宕さんが、親指をグッと立てていました。


…ありがとうございます、おかげで風邪をひかずに済みました。





「ねぇ…もう、あんたらさ~…」





しゃがんで呆れたように『びすまるく』さんが目を細めて


視線を向けます。





「くっついちゃったら?」








…?




…くっついてますが?






ムギュゥ…







「物理的にじゃなくて…」








「精神的によ…」









―あの、雲龍さん



―?、なぁに?



―これ、受け取ってもらえませんか?



―これは?



―私の祈りを込めた、お守りです…。



―…ありがとう♪







「雲龍なんだか最近ずっと調子良いわねぇ」




「~♪」ポケ~




「この頃、鎮守府に戻ってきてからずっと『あれ』見てるけど、何なのかしら?」




「///」エヘヘ




「な、なんだか顔とろけてない?」




「///」イヤンイヤン




「く…クネクネしてるのです…ちょっと怖いのです。」




「エヘ…エヘヘヘヘヘ///」






「「「 い、いつもの雲龍じゃない…! 」」」












チチチ…チュンチュン



朝です。


小鳥の囀(さえ)ずりに目を覚ましました。


壁に掛けられている丸い時計の針を確認します


午前5時…くらい…?





まだ眠いです。


でも起きなくては…


ああこの葛藤、誰もが経験するものです。


仕方がありません。





体をむっくりと起こし


温(ぬく)くて愛おしい愛おしい毛布を


これまたゆっくり引き剥がします。





温度差を感じ少しだけ身震いを起こしました。


吐く息も白いです。


着替えて、『神社』の掃除をしないと。





まずは今日一日の初めの仕事を果たさなければ。


神主の基本ですもんね。








床から身を起こしてヨタヨタと歩き障子に手を掛けます。




横に引くと、些かたてつけの悪いそれは


ガタガタと音を立てて、まだまばらな陽の光を迎え入れます。





外に顔を出します。


やはり1月の朝は体中が縮こまります。


昼間はポカポカと暖かい陽射しが


とても気持ち良いですが、この時間は


時折、身を刺すほどの冷たい風が吹きます。





ビュオォォォ…





あぁまた、私から体温を奪おうというのですか、


お止めください風さん、


寒いです。






周りに目をやると神社を取り囲むように生えている木々も


凍えるように、その身を揺らしています。





風は、空気はたしかに冷たいですが


ここは街を見渡せる丘に建てられているため


眺めは良く、太陽の光が私を包んでくださる


お陰で心までは凍えずにすみそうです。








浅葱(あさぎ)色の袴、


装束に身を包み、竹箒を手にいざ。


まずは、神社の前から



ザッ…ザッ…ザッ…



参拝する方々は決して多いとは言えませんが


それでもサボる訳にはいきませんからね。


正直、毎日の掃除の事を思うと敷地があまり


大きくないのはとても助かります本当に。








さて、掃き掃除は終わりですね。


あぁ、後でお賽銭も回収しないといけませんね。


…その前に、今日も晴れですね~。




さ、『あの人』にも会っておきますか。








「はぁ…はぁ…」




いつも通りの白い影


背中を少し眺めます。



風がそよそよ吹いてます。



また、あんな薄着で…



ふわふわと風に揺れてタンポポの綿毛のように見えます。




それに合わせるように体も左右に揺らしています。




クシュン




『白い彼女』は小さくくしゃみをして


ブルッと震わせました。





念のために温かな毛布も持って来ておいて正解ですね。





そうだ、ちょっと意地悪をしてみましょう。






そして、一歩、二歩…ゆっくり近づいて







一回やってみたかったんですよね~これ







バサァッ








「だぁれだ!!」






「ヒャァァァァァ!!」モガモガモガ









毛布を頭から思い切りかぶせました。


すると毛布の塊と化した雲龍さんは激しく体をばたつかせ


内側から手を四方八方に伸ばしているせいか、



さながら、毛布のお化け。です






?






何だか様子が変です。





先程まで激しくもがいていたそれはぴたりと動かなくなりました。



そして、近づいて耳を澄ますと…




シクシクシク…








あ…












「」グスッ





「すいません、申し訳ありません、反論の余地もありません。」





「」プイッ







ああ、すっかり機嫌を損ねてしまいました、どうしましょう。




そうです!






「あ、あの、雲龍さん…ほうじ茶と…塩大福…」





「」ピクリ





お?これはいけるかもしれません!







「2個でいかがでしょう?」








「神主ずるい…」






頬を膨らませた涙目の雲龍さん




こんな表情もするんですね彼女は。










「ねぇ、神主。」




「なんでしょう?雲龍さん?」






長椅子に二人並んで朝日を拝みます。



それに照らされて出来た影が長く後ろに伸びています。







「そういえば…私達、出会って、そろそろ1年なのね…」



「言われてみれば…」






「ねぇ、神主。」



「なんでしょう?雲龍さん?」








日差しが、ポカポカと温かいです



すると私の手も温もりがかぶさりました。



なんだろうと、隣を見やると


雲龍さんがその白い手を私の手に重ねていました。











「これからも、ここにきて…一緒にお日様見てくれる?」











私はゆっくり5本の指を開いて、やんわりと重なっている


雲龍さんの指に、それをキュッと絡めました。


雲龍さんの指と、私の指から伝えあう


密着した肌と肌の感触と体温。










「勿論です。」
















なんだか、とても気持ちの良い朝ですね~。


さ、そろそろ神社に戻りましょう。


今日も縁側で、提督さんが迎えにくるまで


お話ししましょうか。














-----------------------------------------------------------



それから5年後


この神社は『戦う巫女さん』がいると言う事で有名になったが


それはまた別の、おはなし…



-----------------------------------------------------------










-雲に祈る-完-


後書き

お し ま い

ここまで読んで頂いて有難うございました。


このSSへの評価

17件評価されています


SS好きの名無しさんから
2022-02-07 22:43:15

SS好きの名無しさんから
2019-12-04 13:18:36

SS好きの名無しさんから
2016-03-28 03:39:03

SS好きの名無しさんから
2016-02-19 20:24:51

SS好きの名無しさんから
2015-12-25 09:56:58

すずとすさんから
2015-06-14 07:08:37

SS好きの名無しさんから
2015-05-17 03:03:27

SS好きの名無しさんから
2015-04-21 11:32:16

SS好きの名無しさんから
2015-03-08 16:57:14

SS好きの名無しさんから
2015-03-07 21:03:08

SS好きの名無しさんから
2015-03-07 06:38:35

SS好きの名無しさんから
2015-03-06 21:21:12

ラインさんから
2015-03-06 10:49:02

SS好きの名無しさんから
2015-03-05 22:24:17

あっぽるさんから
2015-03-03 09:36:24

ワッフルさんから
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2015-03-01 20:34:51

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2015-03-01 20:39:22

このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2015-03-01 20:34:45 ID: UgEuBRkA

続きが気になり過ぎて焦れったいです、更新待ってます

2: らんぱく 2015-03-01 21:52:51 ID: TbwCvhFO

>1コメのSS好きの名無しさんへ
コメントありがとうございます。
複数の執筆状況で中々更新が思うようにいかず、ご迷惑をおかけします
すいません。
どうか気長にお待ちいただけたら幸いです。
あれですね、雲龍さんて書いてて楽しいですね。

3: 葉っぱの妖怪 2015-03-01 21:56:04 ID: Atk1ywZV

リクエストを執筆していただきありがとうございます
今度は神主×艦娘ですか。
どんどんネタが出てきて羨ましい限りです。


4: らんぱく 2015-03-01 22:03:15 ID: TbwCvhFO

>葉っぱの妖怪さんへ
とんでもありません、こちらこそテーマを提供して頂いて
ありがとうございました。妄想が捗ります。
雲龍は最初『小学生の男の子』と絡ませようかと思ってましたが、
『神主』さんとの組み合わせが楽しいかなと思ってこちらを選んだ次第です。コメント有難うございました。

5: ワッフル 2015-03-02 18:28:43 ID: WoYXyGWg

雲龍か・・・いいですね。


続きを早く!!

6: あっぽる 2015-03-03 09:36:15 ID: 2pp1aAO4

今回も面白そうなので大いに期待させていただきます。雲龍さん別に仙人ちゃうで

ネタを分けていただきたいぐらいです本当(´・Д・)

7: らんぱく 2015-03-03 10:41:44 ID: 466NnlYD

>ワッフルさん
コメントありがとうございます。
雲龍良いですよね。
運営さん早くドロップ対象にしてください。お願いします。

>あっぽるさん
コメントありがとうございます。
自分にはもったいないお言葉です。ありがとうございます。
あ、あまり期待せずにまったりとお待ちください(震え声
ネタというか、どういう展開になったら面白いかなと思いつつ書いてます。

8: 葉っぱの妖怪 2015-03-03 13:57:27 ID: Trumw9Kr

ああ〜こころがほのぼのするんじゃ〜
久しぶりにこんなほのぼのするSS見たわ

冬イベントでE4甲で雲龍を徹夜で掘ったのはいい思い出(白目

9: らんぱく 2015-03-03 20:13:29 ID: 466NnlYD

>葉っぱの妖怪さん
コメントありがとうございます。
ほのぼの…の空気表現出来ていますかね~?
それが気がかりです、緩い空気出したかったんですよね。
お疲れ様です…大変!お疲れさまでした!

10: みいにゃん 2015-03-05 21:11:25 ID: 7qOIq1ey

雲竜欲しかったな・・・天城は居るんだけど・・・大型建造の空母組みは相性が悪すぎるのです・・・(現在大鳳50連敗)

11: らんぱく 2015-03-06 19:04:09 ID: 6ihdK423

>みいにゃんさん
コメントありがとうございます。
天城さんいるんですか…私からしたら羨ましいですよ~!
大鳳が建造できるよう祈っております。

12: SS好きの名無しさん 2015-03-06 22:24:27 ID: sem7fO5g

うん・・・願いとは何ぞやって改めて実感したな・・・

今日の更新の最後のほう泣けてきました^^;

これからも更新楽しみにしてますね♪

13: SS好きの名無しさん 2015-03-07 00:16:04 ID: QJnFMxZd

興奮します。

14: 葉っぱの妖怪 2015-03-07 03:40:19 ID: sZgPe5Fj

雲龍ちゃ〜ん、一番巫女っぽいひゃっはーズを忘れてないか?
それと浜風とビス子を呼ぶな。変態が・・・遅かったようだ。

15: らんぱく 2015-03-07 10:43:12 ID: q9cSDZSB

>12コメのSS好きの名無しさん
コメントありがとうございます。
普段、ちょっとだけ思ってる事を神主くんに代弁してもらいました。
ありがとうございます。

>13コメのSS好きの名無しさん
コメントありがとうございます。
このような拙い文章で興奮して頂けるなんて思ってませんでした。
予想外の嬉しさです。ありがとうございました。

>葉っぱの妖怪さん
コメントありがとうございます
隼鷹:忘年会と新年会
飛鷹:↑の世話
ということで。(純粋に忘れてたなんて言えない)
はて変態?私の事でしょうか?

16: みいにゃん 2015-03-07 20:15:45 ID: njQkEtGz

???『戦う巫女は私たち姉妹デース!』

雲龍さんまだ未着任だけど、この話読んでると来て欲しくなりますね

またこの私に手を汚せと・・・(資材がゼロになる><)

17: らんぱく 2015-03-08 08:35:23 ID: Ub4t3uwZ

>みいにゃんさん
コメントありがとうございました。
ともに次のイベントでは資材を溶かしましょう。

18: SS好きの名無しさん 2015-09-13 23:31:46 ID: Hyh5qnSR

続編あるならめっさ読みたいです


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