2018-07-30 13:27:10 更新

概要

人類で初めて艦娘に邂逅した現元帥さんと、その養子として育てられ、元帥の思惑によって元ブラックな鎮守府に配属されてしまう仕事だけは出来るボケっとした新提督さん。彼らがシリアスな展開の中で艦娘と打ち解けつつ最後にはほのぼのとしたラブコメを展開していけたらなと考えております。初投稿ですので、その点はご配慮ください。


前書き

こちらは『ぽんこつ提督が鎮守府に着任するようです。Part1』の続編になります。もしそちらを呼んでいない場合はPart1から読むことをお勧めします。
ちまちま更新していくのでお付き合いくださいませ。誤字・脱字の指摘他感想などいただけると嬉しいです。



ー前回のあらすじ&作品紹介ー


切られて、刺されて、刺された。以上。


はい、真面目にやります。許してください。


姉を失った瑞鶴や、姉妹を傷つけられた川内と龍田。彼女たちの問題を命がけで提督は解決した。


その他にも部屋を与えたり食を与えたりなど、まずは普通の鎮守府と同じものを目指し提督は行動する。


しかし、まだ問題は多かった。艦娘に対する前提督の半年に及ぶ虐待は未だ深い爪痕をちらつかせる。


そして、提督は前提督の行動の意味も知ってしまう。善意による悲劇を…


これは、様々な出来事の中でちょっと変態な提督が艦娘と絆を紡いでいく物語です。


まぁ、そんな感じのシリアス多めの艦娘とぽんこつ提督の日常を引き続きお楽しみください。









ー提督視点ー


赤城「は、はぁ?龍田さんを許す?」


提督「はい、話はまとまったんで許そうと。」


瑞鶴「何言ってんの!?その怪我龍田さんにやられたんでしょ!?」


部屋から出て、とりあえずどうするか説明しようとすると二人が驚きの声を上げる。


瑞鶴に関しては左手の二の腕の方の傷を見せてやりたいところだがまぁいいや。


提督「まぁまぁ、落ち着いてください。細かく説明するんで。」


俺はそう言って二人を落ち着けてことの経緯を話す。


ちなみにここは尋問室の目のまえで俺が話終わるのを三人とも待っていてくれたようだ。


加賀さんはさっきから無言で話を聞いてくれている。


提督「……てなわけで、天龍さんも解体されてなくてここに来るって言うので、解体するのも酷かなぁと。」


加賀「私は反対です。仮にも上官に逆らったのですからそれなりの罰は必要かと思います。」


話し終わると、加賀さんが俺に言う。二人もそれと同意見といったように俺を見る。


どうでもいいけど美人に見られると頭かゆくならない?俺だけ?


提督「それは確かにそうなんですけど、彼女の場合既に充分すぎる苦痛を味わってると思うんですよね。」


提督「それにまぁ、突き詰めれば彼女のあの行動は人間への憎悪があったからで極論ですけど彼女自身は悪くないかと。」


赤城「しかし、龍田さんは先程もいいましたが人心掌握に長けています。下手に自由にするのは危険かと。」


赤城さんが反論してくる。確かに昨日の瑞鶴へ行った精神攻撃は核心をついていたように思う。俺には無意味だったけど。


提督「あ!なら、常に俺が龍田さんの傍にいるってのはどうです?」


赤城「駄目に決まってるじゃないですか!それが一番危険ですよ!」


俺の提案を赤城さんがばっさり切り捨てる。(´・ω・`)。いい案だと思ったんだけど。


瑞鶴「なんであんな人まで助けようとするのよ、自分が危険を背負ってまで…」


瑞鶴が不安そうな顔で俺を見る。その原因はさっき龍田さんとの会話で発覚したが、それを今言うのも変か。


提督「そりゃあれだ、俺は美人に弱いからな。」


俺の返答に瑞鶴は少し驚いたようにしたが、呆れたといった顔で俺を見る。


加賀「わかりました。では、信頼のできるメンバーで監視をするというのではどうでしょう。」


結局、加賀さんのその案が採用され常に監視をつけるということになった。


俺は反対したのだが、それくらいは許可してください、これでも譲歩してるんです。と言われれば認めるしかない。


とりあえず、赤城さんからカギを受け取り横のドアから龍田さんがいる方に入る。


赤城「今回は解放することに…


俺は赤城さんの口を手でそっと塞ぐ。龍田さんは眠ってしまっていた。


提督「とりあえず、工廠のベッドに運んであげてもらえますか?目が覚めたら入渠させてあげてください。」


赤城さんと加賀さんはわかりました。といった後、龍田さんを起こさないように運んで行った。


俺はそれを見送り時計を見る。ヒトマルサンマル、まだ朝食には間に合うだろうか。


提督「瑞鶴~食堂まで運んでくれるか?」


瑞鶴「うん、任せて。」


瑞鶴に車椅子を押してもらい食堂を目指す。しばらくして不意に瑞鶴が話しかけてきた。


瑞鶴「ねぇ、提督さん。」


提督「ん?ここから自力で移動しろとか言うなよ?片手で移動すんの割ときついから。」


瑞鶴「そんなこと言わないってば!」


怒られてしまった。解せぬ。瑞鶴の言いそうなことを考えたらこれだったんだけど。


瑞鶴「昨日の約束、忘れないでね。」


瑞鶴は少し真面目な声で言う。俺は一瞬なんのことかわからなかったけれど昨日の夜のことだと気づく。


彼女が今、どんな表情をしているかは見れない。だが声を聴けば大体わかるものだ。


提督「おう、安心しろ。」


俺は短くそれに応える。俺も死にたくないし死んだら怒られることも無いだろう。


そんなやり取りをした、次の瞬間だった。


?「バーニングゥゥゥゥゥウ」


提督「瑞鶴避けろ!正面から来るぞッ!」


瑞鶴「ふぇ?」


瑞鶴は少し間抜けな声を出したが、すぐに車椅子ごと横に避ける。


?「ラァァァぶっ…」


突撃兵の声が急に力を失ったのは俺が避けたため、転んでしまったからだ。多少の罪悪感はあるが背に腹は変えられぬ。


金剛「なんで避けるんデース!?昨日はあんなにWantしてくれたのに!」


提督「なんか危ない言い回しをしないでくれ!それに怪我で車椅子に乗ってるやつに突っ込んでこないでくれ!」


俺は突撃兵こと金剛さんに必死で説明する。罪の意識が無い分この殺人タックルが一番怖い。いつか崖とかで道連れにされる気がする。


瑞鶴「へぇ?昨日金剛さんとナニカあったんだ~」


後ろで瑞鶴が不穏な声を出す。いや怖い、周りに危険人物しかいない。助けて!鹿島さん!


提督「いや待て瑞鶴!?抱きしめただけだからね疚しいことはしてないよ!?」


瑞鶴「本当に?夜中に呼び出したりして…」


提督「お前が一番俺の夜の行動わかってんだろ!落ち着いてくれマジで!」


瑞鶴「あ、そっか。ごめんごめん。」


はっはっは、ついに五本目のナイフ登場かと思ったぜ…そろそろ何かで癒しが無いと死にそう。


金剛「瑞鶴さんとテートクは夜一緒に何かしてたんデスカー?」


金剛はそう聞いてきたかと思うと、突然なにかを理解したように手を叩く。


金剛「テートクゥ!私は一夫多妻でも全然ダイジョーブデース!」


金剛は俺に親指をビシッと立てて言ってくる。はぁ、俺もう未来が予想できる。後ろから殺気がするもん。


瑞鶴「こ、こ、この変態!」


俺はなんも悪くないんだけどなーと思いながら瑞鶴に殴られるのであった。ナイフじゃない分まだマシかね。






榛名「大丈夫ですか?司令。」


提督「あぁ、腕に比べればこのくらいなんてことはないさ。毎度ありがとうね。」


俺はとんでもないデジャブを感じながら榛名さんに手当てしてもらっている。


ちなみに、すぐそこでまたやってしまったネー。と落ち込む金剛さんを比叡さんと霧島さんが慰めている。


これテンプレ化すると俺の身がもたないな。まぁ、榛名さんに手当てしてもらえるしいっか。


榛名「でも、昨日の長門さんが言ってたのは本当だったんですね。」


提督「ん?長門がなんか言ってたの?」


榛名「はい。時間は覚えてないんですけど提督が大怪我したから今日は各自就寝してくれってアナウンスがあって。」


どうやら俺の怪我を知った長門が独断で皆に知らせてくれていたらしい。晩飯について艦娘たちに責められるかと思っていたがそれなら大丈夫そうだ。


榛名「差し支えなければ、怪我の理由を教えてもらってもいいですか?」


榛名さんが聞いてくる。ここで真実を告げるのは愚策だろう。まぁ、いつもどうり釘にご登場願おう。釘さんいつもお疲れ様っす。


提督「いや、ちょっと作業中に転んでしまって。その時に運悪く地面に落ちてた釘が刺さってしまったんだ。」


実際に傷跡を見られたら釘では無いのは一目瞭然だが。包帯で隠れているので問題ないだろう。


榛名「痛そうですね…体には気を付けてくださいね?」


提督「あぁ、ありがとう。榛名さんも怪我とかしないようにね。」


榛名「榛名は大丈夫です!入渠すれば治りますしね。」


提督「それでもさ、あまり怪我をした姿は見たくないからね。」


だって、服破けるんだもん。股間に悪いしバレたら瑞鶴に切られて俺女の子になっちゃう。


俺の返しに榛名さんは少し頬が赤くなる。おっ?これチョロインじゃね?おっ?はい、嘘です勘違いですね多分。


霧島「司令、お体は大丈夫ですか?その、なんだか昨日もこんな会話した気がしますけど。」


金剛「ごめんネ、また私のせいで…」


比叡「その、お姉さまもこう言っているので許してあげていただけると…」


霧島さんは苦笑しながら言う。金剛さんが昨日より落ち込んでいるからだろうか、比叡さんがフォローを入れる。


提督「いや、気にしないでくれ。主犯は瑞鶴だしな。まぁ、金剛に関しては抱き着くのはいいけどもう少しゆっくり来てくれ。」


金剛「テートク―!」


俺の台詞を聞いた金剛さんが感極まったといったように抱き着いてくる。俺はその頭を右手で撫でる。


慣れたって言うか金剛さんに関してはペットをあやしている気分だ。


比叡「ところで、その傷は痛くないんですか?」


比叡さんが俺の包帯を見て問うてくる。ここで心配させるのもあれだし適当に濁しておこう。


提督「処置が大袈裟なだけで大して痛くは無いんだ。心配してくれてありがとう。」


比叡さんは俺が礼を言うとそっぽを向いてしまう。え!?何故だ!?


霧島「とりあえず、私たちは自室に用があるので失礼しますね。行きましょうお姉さま方。」


霧島さんが三人を連れ、歩いていく。てか、霧島さんが妹に見えない。実は霧島型戦艦だったりしない?


四人が去るのを見送った後、俺は重大な問題に気付く。


俺…どうやって食堂に行こう…瑞鶴がいない今、車椅子を押してくれる人がいなくなった。右手で動かすか?いや、きつすぎる。


この状況で右手が筋肉痛にでもなったら俺マジでなんも出来なくなる。呼んだら来そうな人を呼んでみよう。


提督「朝潮ー、助けてー。」


しかし、何も起きなかった。本当に使えねぇなあの忠犬!!!


時雨「なにかあったのかい?」


その時、聞き覚えのある声がしたので振り向くと、時雨と夕立がいた。俺にはその姿が女神に見えた。







提督「いや、本当に助かった。」


時雨「車椅子を押すくらいいつでもするよ。ねぇ夕立?」


夕立「夕立と時雨に任せるっぽい!」


あぁ、久々の癒しやぁ~心が浄化されるの~


ちなみに現在、二人に車椅子を押してもらいながら食堂を目指している。


提督「そういえば、二人は朝食は済ませたのか?」


時雨「まだだよ、食べに行こうと思って廊下を歩いていたら提督を見つけたってわけさ。」


提督「そうだったのか。じゃあ一緒に食べないか?俺も一人で食べるのは寂しいからな。」


夕立「夕立も提督さんとご飯食べたいっぽい!」


時雨「夕立も乗り気みたいだし、僕もそのお誘いを受けるとするよ。」


そんなことを話していると食堂に到着する。これは後に聞いた話だが、長門が朝食を取りに来るようアナウンスしていてくれたらしい。


尋問室付近では流さないようにする当たり。長門の仕事っぷりが見て取れる。


食堂に入ると長門が話しかけてきた。


長門「おう、提督待っていたぞ!って一緒にいるのは瑞鶴では無いのだな。」


時雨・夕立・提督「おはよう」ございます」っぽい!」


長門「あぁ、おはよう。朝食は私が届けるからその辺に座っていてくれ。」


俺たち三人は長門に礼を言い、席に座る。


夕立「提督さん提督さん!今日お暇なお時間あるっぽい?」


提督「ん?急にどうした?作ろうと思えば作れるが何するんだ?」


夕立「夕立と遊んで欲しいっぽい!提督さんと遊びたいっぽい!」


なにこの子超かわいい。一家に一人欲しくなるタイプの子だわ。でも、遊ぶと言っても俺はこんな体なのでどうしたものか。


提督「遊ぶのはいいが、俺は今まともに動くのもままならねぇからなぁ。何するんだ?」


夕立「んー、今考え中。」


夕立はその場で考え込んでいる。口でんーとか言ってる辺りが可愛い。あえてもう二回言おう。可愛い、超可愛い。


時雨「それなら、トランプなんてどうかな?それなら片手でもなんとか出来るんじゃない?」


時雨が考え込む夕立に助言する。こう見ていると時雨は少し大人っぽく見える。ロリコンと言われるかもしれないが、彼女からは駆逐艦とは思えないなにかを感じる。


時雨「提督もそれでどうだい?」


提督「ん?トランプだな。了解した。執務やってからだから夕暮れになると思うがいいか?」


夕立「楽しみにしてるっぽい!」


時雨「三人じゃあんまりだから誰かに声をかけておくね。」


そんなこんなで話していると、長門が朝食を運んできた。日本の朝食によくある焼き魚や味噌汁といったものだ。


提督「よく急な頼みだったのにここまで作れたな。」


長門「それに関しては彼女を褒めてやってくれ。」


俺が不意に口に出した言葉に長門が横についてきていた女性を紹介するように言う。その女性は軽く会釈し自己紹介してくれる。


間宮「給糧艦の間宮です。これくらいしか取り柄が無いですがよろしくお願いします。」


提督「提督です。こちらこそよろしくお願いします。」


間宮「とりあえず、長門さんに言われたように朝食のメニューを考えて手伝ってもらいながら作らせていただきました。」


そのセリフを聞いて厨房の方を見ると陸奥さんや扶桑さんたちがせっせと料理していた。早く当番制にしないとな。


提督「結構雑な命令だったのにここまで完璧にこなしてくれて助かりました。」


間宮「いえ、こちらこそ料理する機会を与えてくれてありがとうございます!それに皆美味しそうに食べていて。」


そこまで言って間宮さんは涙ぐんでしまった。俺は空気を読んでそれに気づかなかったように朝食をいただくことにした。


提督「いただきます。二人もちゃんと言えよ?」


夕立・時雨「いただきます。」っぽーい!」


なんか今回のぽいは伸びていたなとか思いつつ味噌汁に手を付ける。美味い。え、美味い。


今まで海軍学校で食っていた飯はマジで不味かった。なのにこの味噌汁は滅茶苦茶美味い。え?使ってる食材同じよね?


提督「間宮さん…」


間宮「え、あ、はい。」


提督「毎日俺に味噌汁を作ってください。」


間宮「ふぇ!?」


俺は間宮さんを見つめながら言う。毎日食いたいほどうまかった。ってあれ?


この言い回しが誤解を招くことに今気づいた。間宮さんはまだお互いを知らないですしとか言ってる。可愛いなおいおい。


提督「あ、すいません!そのプロポーズとかじゃなくて、毎日食いたいくらいうまかったって意味です!」


間宮「あ、あぁ、そういう、お口にあった様で良かったです!」


間宮さんは少し恥ずかしそうにしたが、すぐに笑顔を向けてくれる。これ別にプロポーズでも良かったかもしれんな。結婚したい。


夕立「なんか夕立忘れられてるっぽい。」


時雨「ふふふ、僕で良ければ毎日どころか三食作ってもいいんだけどね。」


間宮さんに見とれていた俺は駆逐艦二人のそんな不満げな声に気づかなかったとさ。








食事を済ませた俺は、長門に車椅子を押してもらい執務室にやって来ていた。


ちなみに、食堂を出る際に陸奥さんたちにも礼を言ったのだがこれくらいなんてことないなんて返されてしまった。


そして俺は今、執務をしているわけだ。報告書の作成なり訂正に関しては提督妖精と秘書官に命じた長門に手伝ってもらいすぐに終わった。


てか、俺より仕事早いんですけど俺の存在価値とは…泣きそう。


そこで、ふと俺は昨日妖精さんに建造をお願いしたのを思い出す。妖精さんとの約束に関しては…何も言わないのが吉だろう。


提督「なあ、長門。」


長門「ん?どうした。」


提督「ちょっと工廠に行きたいんだが運んでくれないか?」


長門「それくらいならお安い御用だ。すぐに向かうか?」


提督「あぁ、頼む。」


しばらくして工廠に着く。移動中長門とはくだらない世間話をしていた。


どうやら明石さんと夕張さんは留守のようだ。妖精さんに声をかける。


提督「妖精さん、昨日頼んでいた建造って出来てますか?」


妖精「はい!今開けますね!」


俺はその妖精さんに皆で分けてくれといいポケットからお菓子を渡す。本当は謝罪のつもりで持ってきたものだが口には出来なかった。


長門「妖精さんまで労うとはな。」


長門がそんなことを言ってくるが聞こえないふりをした。


それからすぐに、大きなカプセルのようなものが開く。少し音がうるさい。


中から出てきた女性は、白髪がよく似合うロングの胴着を着た人だった。正しくは艦娘だが。


翔鶴「初めまして、私は翔鶴と言います。わざわざ工廠までお迎えいただけるなんて光栄です。」


俺はその艦娘の名前に思わず顔が引きつる。翔鶴。そう、瑞鶴の姉だ。つまりこれは…


長門「私は秘書官の長門だ。よろしく頼む。そしてこちらが提督の…って、どうかしたか?」


長門は俺の顔を見てそんな風に問う。


翔鶴「えっと、もしかして…私は期待外れでしたでしょうか…?」


翔鶴さんが少し悲しそうな声で言う。違うそうじゃない。


提督「いや、翔鶴さんは綺麗ですし強いと聞きますし来てくれたのはとても個人的には嬉しいですし歓迎するどころか踊って祝いたいくらいなんですが、その…ちょっと事情が…」


翔鶴「え、えっと、ありがとうございます…?それで、事情というのは?」


翔鶴さんは俺のべた褒めに少し照れたようにお礼を言い質問を投げかける。俺は少し考えた後


提督「立ち話もなんですし、少し場所を変えましょうか。」


そう言って、執務室に場所を移すことにした。




そして現在執務室。移動中に怪我についても聞かれたが後で説明しますよと言っておいた。


まず、一つ大事なことを解説しておこう。現在艦娘は同じ名前、容姿の子が数人いるというのは珍しくない。


しかし、同じ鎮守府で二人以上同名艦が建造されることは無いのだ。轟沈または解体したときを除いた場合ではあるが。


逆に考えると、轟沈または解体した場合同名艦が建造できるようになるということになる。


つまり、目の前の彼女の存在は同時に瑞鶴の知る翔鶴がこの世に存在しないことを意味する。


情けない話だが、天龍さんのように翔鶴さんも実は沈んでなかったみたいな展開を望んでた俺がいた。


しかし、今は考えていても仕方がない。そう思い、翔鶴さんにことの顛末を話す。


話した内容はざっとこんな感じだ。


ここが元ブラック鎮守府だということ。俺は着任したてでまだまだこれからだということ。昨日俺が怪我をした原因。


そして、瑞鶴とここに前に別の翔鶴がいたということ。


ちなみに、怪我の原因つまり龍田のことまですべて話したのはブラック鎮守府を経験していない一般艦娘として今後意見を聞きたいからだ。


翔鶴「そういうことですか…」


俺の説明を聞き終わった翔鶴さんが言う。長門も俺の話を聞いて察したのだろう表情が暗い。


提督「その、だから…」


翔鶴「もしよければ、瑞鶴のことは私に任せてもらえませんか?」


提督「え」


翔鶴さんの意外な申し出に俺は声を漏らす。翔鶴さんはそのまま続ける。


翔鶴「仮にも妹ですからね、私も姉としてきちんと妹には言って聞かせないと。」


提督「でも、そのあまり言いたくないですが…危険が及ぶ可能性も…」


翔鶴「覚悟の上です。着任早々我儘だとは思いますが駄目でしょうか?」


翔鶴さんは俺をまっすぐ見て言う。ったくそんな決意に満ちた目を見せられたら断れるわけがないっての。コミュ障だよ?俺。


提督「わかりました、お任せします。その代わりなにかあったらすぐにこれで連絡してください。」


俺はそう言って翔鶴さんにスマホを渡す。翔鶴さんはそれを受け取るとそれでは話してきます。と言い瑞鶴の部屋に向かった。


別に俺は瑞鶴を疑ったりしているわけでは無い。しかし、感情とは、人格とは違う動きをするときがある。


あの人がそんなこと…なんて言うまわりくどい言い回しを良く聞くが、それもその類だろう。


瑞鶴は恐らくまだ姉離れ…いや、前の翔鶴離れが出来ていない。そのせいで常に依り代を求めている節があった。


さっきの食堂まででの移動中の会話は俺を依り代候補として見ていたんだと思う。とはいっても、考えててもどうにもならないか。


提督「俺たちは執務を終わらせよう、とっとと食事当番とか決めないとな。」


俺は長門にそう言い、執務を続けるのだった。






ー翔鶴視点ー


姉妹艦とは、家族のようなものである。


私たち艦娘は生まれる前、即ち艦の記憶であるころから姉妹艦についてよくわかっている。


そのため、実際に艦娘として会うのが初めてでも普通に接することができるのである。


でもこれは初めに会った艦娘にのみ言えることだ。


何故なら、一度でも姉妹艦と実際に会い思い出を作ってしまった瞬間、自分が一人であるように姉妹艦もその一人しかいなくなる。


だから、今の瑞鶴にとっては私はただの姉に似た誰かにしかなれないのだろう。


いや、姉の代わりになってしまうのかもしれない。


いずれにせよ、私は瑞鶴にとって向き合いたくない存在になるだろう。


でも、私は姉として。例え瑞鶴に認められなくても彼女を前に進ませてあげたいと思った。


おせっかいかもしれない。でも、私にここで引き返すなんて選択肢は無かった。


私は扉をノックする。


瑞鶴「はい~誰ですか…」


部屋から出てきた瑞鶴は私を見て言葉を失う。


翔鶴「初めまして、今日着任しました。よろしくね瑞鶴。」


瑞鶴「無事だったんだね!翔鶴姉!」


瑞鶴はそう言い、笑顔を向けてくる。その笑顔が引きつっているのは本心では理解しているからだろうか。


予想していた反応ではあるけれどやはり心が痛む。目を逸らしたくなるが提督に自ら進言したのだ、やり遂げないと。


翔鶴「ごめんなさい、私はあなたが知っている翔鶴さんでは無いの。」


私の言葉に瑞鶴は辛そうな顔をする。そして扉を閉めてしまった。部屋の中から声がする。


瑞鶴「ごめんなさい…少し…時間をください。」


私はただ部屋の前で立ち尽くしながら瑞鶴の泣き声を聞いていた。







俺は執務をひと段落させ、休憩ついでに散歩をしていた。


まぁ、散歩っつっても後ろで長門に車椅子押してもらってるわけだが。


提督「なぁ、長門。本当に翔鶴さんに任せてよかったんだろうか。」


俺は不意に長門に聞いてみる。


長門「さぁな、それは私にもわからん。でも間違いだったとしても、彼女たちが自分達で問題を乗り越えようとするのはいい経験になるんじゃないか?」


長門は少しため息を吐いた後に続ける。


長門「毎回提督が身を犠牲に問題を解決していてはすぐに死んでしまうからな。」


提督「ははは…まぁ、これからは気を付けるさ。」


長門「あぁ、そうしてくれ。って陸奥じゃないか、どうかしたのか?」


長門は俺に返しながら逆から歩いてきた陸奥さんに声をかける。なにかを考えているような顔だ。


陸奥「長門、ちょっと提督と話したいことがあるんだけれど二人にしてくれない?」


長門「ん?まぁ、陸奥なら大丈夫だと思うがどうする?」


長門はそう言いながら俺を見る。まぁ、何か言いたそうだし話を聞いといて損は無さそうだ。


提督「わかった。悪いが長門、席を外してくれるか?」


長門「了解した、話が終わったら連絡してくれ。」


長門はそう言い、この場を去った。陸奥さんと二人きりとか最高じゃないか!


結構シリアスが続いたせいでエロス要素が少なかったので陸奥さんガン見してチャージしましょう。


陸奥「さっき翔鶴さんを見たわ。」


そんな俺の考えとは裏腹に陸奥さんは語りだす。


陸奥「私は彼女が行方不明になった時一緒に出撃していたの。それで少し気になって後をつけたわ。」


そして、彼女は瑞鶴と翔鶴さんのやり取りについて教えてくれた。盗み聞ぎしたことに関しては申し訳なさそうにしていたが。


陸奥「なんでこんな話をするかというとね?あなたと一緒にいる長門は二人目なのよ。」


俺はその二人目という単語ですべてを理解した。つまり、この鎮守府では長門は一度沈んでいる。またシリアス展開ですね。次の犠牲は右足かな?


提督「それを長門は知ってるんですか?」


陸奥「敬語なんてつかわないでいいわよ。長門は知らないわ、一部のこのことを知っている子にも口止めしてる。」


提督「それじゃ遠慮なく。なんで長門にそのことを言わないんだ?」


陸奥「言わないって言うよりは、言うタイミングを逃したのよ。会ってすぐに初めましてなんて言われてね。前提督もそんなことを気にする人じゃなかったし。」


俺は少し考える。なぜ陸奥は俺にこれを喋ったのだろうか。意図がわからない。


提督「陸奥にとっては前の長門はどんな人だったんだ?」


これは少し酷な質問だっただろうか。いや、多分翔鶴さんのことを見て前の長門さんのことが頭の中に満ちているのだろう。


悲しいことや辛いことは口に出すと収まるなんて言うが、あれは口に出して認識することで大したことないと思えること限定だと思っている。ソースは親父。


とはいえ、吐き出して涙を流してしまえば落ち着けるというのも確かだ。その相手に陸奥さんが俺を選んだなら納得がいく。上司である俺なら関わることも少ないだろうと考えでもしたのだろう。


陸奥「あの長門と変わらないわ、責任感があっていつも自信に溢れていて失敗なんてしない艦娘だったの。」


陸奥「私は前の長門が好きだったわ。変な意味じゃないわよ?一緒にくだらない話をしたり、歩くだけでも楽しかったわ。」


陸奥はそのまま様々な話をしてくれた、時に笑い。時に困り顔になり。時に怒り。俺もそれに相槌を入れたり質問をしてみたりした。


しかし、急に陸奥さんの声のトーンが下がる。その表情は見覚えのあるものだった。


陸奥「でも、ある日長門は他の子を庇って沈んだわ……長門らしいわよね。」


陸奥さんは笑顔で言う。やめてくれって、無理して笑う表情ってのは見てる側は辛くなるだけってもんだ。


陸奥「でも、それからすぐにあの長門が来たの。正直、意味が分からなかったわ。泣いたり悲しんでる暇もなかった。」


陸奥「初めましてって言葉があんなに残酷に聞こえたのは初めてだったもの。」


陸奥「その、ごめんなさいね。長々と変な話を聞かせてしまって。まとめると瑞鶴さんのことしっかり支えて欲しいってことなんだけれど…色々脱線しちゃったわね。」


陸奥は笑顔で言う。その表情は仮面のようだった、何かを隠すかのような表情。言い方は悪いがそれが俺には気持ち悪く見えた。


陸奥「それじゃ、失礼するわね。」


提督「ちょっと待ってくれ。」


俺は急ぎ足で去ろうとする陸奥を引き留める。今から言うことはおせっかいなのかもしれない。でも、せっかくの美人にあんな笑顔で笑っていて欲しくないと思った。


陸奥「なにかしら?」


提督「お前は誰にも支えられないで大丈夫なのか?」


陸奥「え…?えと、私は時間もたってるし、これでも人生経験は豊富な方なのよ。だから大丈…」


提督「大丈夫な奴はそんな表情しないよ。」


俺は陸奥の顔をまっすぐに見ながら言う。陸奥の表情は昨日の瑞鶴や龍田と似たものだった。感情の入り混じった顔。その顔が大丈夫な奴の顔なら俺は常にナイフで襲われるのを危惧しながら生きていかねばならないことになる。なにそれ怖い。


俺のそのセリフを聞いた陸奥の瞳から雫が一つ落ちた。


陸奥「あ、あれ?なにかしら?ゴミでも入っちゃったのかしら。」


陸奥は涙を堪えるようにしながらそんなことを言う。


これは俺の勝手な意見だが、中途半端に強い人間が一番ストレスや悲しみに弱い。それは、我慢しようとして貯め込んだままどうしようもなくなるからだ。


いっそ弱ければすぐに誰かに吐き出したり、泣いたりできるからまだマシだろう。本当に強いやつは言わずもがな。


提督「なぁ、思いっきり泣くことって悪いことなのか?」


俺は陸奥に問うが、陸奥は俺に顔を見せまいとしているのか背を向けている。


提督「俺はさ、泣くのって割と大事だと思うんだ。だって嬉しいときに笑うのと大差ないだろ?悲しいときは泣くのが普通なんだよ。」


ちなみに、だから俺は苦しいときに胸を見るのも普通だと思ってる。嘘です、許して…


提督「さっき陸奥は泣いてる暇もなかったって言ってたけど、それがダメなんだと思う。まぁ、泣けば全てが良くなるってわけでもないけどな。」


提督「別に意味もなく泣けってんじゃない。俺じゃなくても誰か信頼できるやつとかに同じ話をしてこみ上げるものを我慢しなければいい。」


提督「そうやつがいないなら、頼りないかもしれないが俺だって構わない。いつでも話を聞くさ。」


ぶっちゃけ、長門なら事情を知らなくても慰めてくれる気がするので俺の出番は無いだろう。


提督「もしかしたら俺は全く見当違いな話をしているかもしれない。でも、思うところがあったなら参考にしてくれ。」


そこまで言って俺はその場を立ち去ろうとする。車椅子片手操作超大変だけどね。中国語っぽくなったな。


俺はここから少し離れたら朝に連絡先を交換した時雨にでも運んでもらうとしよう。それで長門をここに呼べば完璧だ。


陸奥「ちょっと、どこ行くのよ。」


しかし、そんな考えを掻き消すかのように俺は呼び止められる。俺が方向転換した車椅子を陸奥に向けようとすると陸奥が後ろから抱き着いてきた。


わっつ!?何が起きたんや!?あれか!?実は地雷踏んでて首絞められてる感じ!?犠牲は足じゃなくて命だったか!?


陸奥「女を泣かせるなんて最低な男ね…責任くらい取りなさいよ…」


陸奥はそう言って俺に抱きつきながら泣いていた。俺はくだらない思考を辞める。


責任か…確かに、俺が泣かせたようなものなのだからこの状況は当然なのかもしれない。最後の最後で長門に頼ろうとしていた自分が情けない。ってなるか普通!心臓がマッハで動くわこんなん!


どれくらいたっただろうか、陸奥が泣き止む。俺の心臓も落ち着いたので声をかけようとすると耳元で陸奥が言う。


陸奥「ありがと。」


そして頬に圧力がかかる。そう圧力。なんか湿り気のある圧力。


それからすぐに、陸奥は去って行ってしまった。


頬への圧力がなんだったかはわかっているが、自覚すると茹でだこになりそうなので気にしないでおく。


提督「人のこと言えた立場じゃないんだけどね。」


俺は誤魔化すようにそんな独り言を言いながら長門に連絡するのだった。


やってきた長門に頬が赤いと指摘されたのは照れのせいかそれとも…移動しながら顔を洗わねばならないと密かに決意したのだった。







ー翔鶴視点ー


私は一人、閉じた扉を見つめている。この扉の中で私の妹が泣いている。


それなのに私は迷ってしまっていた。私が彼女になにかしてあげる資格があるのか。生まれたばかりの身でそんなことを考えるのは思い上がりなのではないかと。


不意に提督のことを思い出す。彼は自分の怪我のことをやりたいことやったらこうなったなんて言っていた。


どれだけお人よしなんだろう。会ったばかりの相手を自分が傷つくのも恐れずに救おうとするなんて。


彼ならばこんな時でも迷ったりしないのだろうか。そんなことを考える。


しばらくして、扉が開いた。


瑞鶴「すいません、取り乱して。話があるんですよね?どうぞ上がってください。」


瑞鶴は敬語で言う。そうすることで区別をつけているのだろうか。


翔鶴「ええ、お邪魔させてもらうわ。それと敬語は…」


瑞鶴「いいえ、外しません。」


私が敬語を外して欲しいと言い切る前に否定される。


私は部屋に入り、瑞鶴と向き合うように座った。頑張れ翔鶴、姉なんだからしっかりしないと。


翔鶴「まず、細かいことは提督から聞いています。私の前の翔鶴さんのことも。」


瑞鶴「そうですか、それであなたはどこの翔鶴さんなんですか?」


私はそのセリフで彼女が今どういった心境なのかを悟った。この子はまだ前の翔鶴さんを諦めきれていない。


最初に会った時の私への言葉と、今の私がここで建造されたのを否定するような言い回しはそれの表れだろう。


翔鶴「瑞鶴、私はここで建造されたこの鎮守府の翔鶴よ。」


瑞鶴「嘘よッ!翔鶴姉は生きてる!きっと天龍さんみたいにどこかで…」


提督から龍田さんと天龍さんの話は聞いていた。それがきっと瑞鶴に余計な…といっては変かもしれないが少しの期待を抱かせてしまったのだろう。


自分からやるといったことだが、きついものだ。真実を告げ続けるしか出来ないというのは。


翔鶴「あなたの知る翔鶴さんはもういないの。私がその証明よ。」


瑞鶴「違う違う、そんなの嘘よ…」


翔鶴「そうやって逃げていても彼女は帰ってこないのよ。」


瑞鶴「うるさいッ!」


心が痛い。私は本当は部外者なのだ。なんでこんなことをしないといけないのだろう。なんで苦しい思いをしなければならないのだろう。


でも、これは誰かがやらなきゃいけない。人も艦娘も後ろを向いたままでは生きていけないのだ。どこかで前を向かなきゃいけない。


苦しいときや悲しいとき、過去にすがって生きる人は耐えきれなくなってしまう。それは生まれたばかりの私ですらわかる。


なら、今私がするべきことは一つだろう。


翔鶴「瑞鶴ッ!」


瑞鶴「へ…」


私が急に声を荒げたため瑞鶴が驚いたような声を出す。その表情は少し怯えているような表情だ。


それを見た私は一瞬躊躇するが、さらに声を荒げる。


翔鶴「あなたの知っている翔鶴はもうこの世にはいないの!いい加減に目を覚ましなさい!」


瑞鶴「うるさいッ、何も知らないくせにッ!」


瑞鶴は振り絞るように言った後、私の頬をはたいた。瑞鶴は泣いていた。


翔鶴「私だってこんなことしたくないわよ!でも、姉なんだから仕方ないでしょ!」


私は頬を抑えながら叫ぶ。頬を雫が伝うのがわかる。それに気づいたのか瑞鶴は何も言わない。


翔鶴「あなたにとって私が姉じゃなくても、私にとってあなたは…妹なん…だから。」


涙が流れてうまく喋れない。それでも続ける。


翔鶴「なぜかなんてわからない。でも、私は私は…!」


そこまで言って涙が止まらなくなる。会ったこともない彼女にどうしてこんなに感情移入してしまうのだろう。


これが艦の頃の記憶なのだろうか。前の翔鶴がどんな気持ちで瑞鶴を置いて逝ったのか、それが痛いほど理解できてしまった。


翔鶴「きっと、前の翔鶴も…あなたには幸せになってほしいって…思ってるはずだから。」


私は泣きながらただただそう伝えるのだった。










ー提督視点ー


空母翔鶴はマリアナ沖海戦にて空母瑞鶴と同じ戦場で沈んでいる。戦時中の艦に魂があったかはわからない。


でも、もしあったとしたらその時彼女は瑞鶴に何を思うだろうか。生きて欲しいと思うんじゃないか。幸せになって欲しいと。


艦にとっての幸せが何かは俺にはわからないが、姉妹兄弟って言うのはそんなものだ。


そんなことを考える。海軍に所属するものとしてこれくらいの知識は持っていて当然だ。


今部屋の中で叫んでいる翔鶴さんはその時のことを知っているのかもしれない。それとも覚えてたりするのだろうか。


どちらにせよ、その時の自分と前の翔鶴さんを重ねているのだろう。


ちなみに、空母瑞鶴はその後エンガノ岬沖海戦に参戦、完全な負け戦にたった十八機の艦載機と共に参戦し沈んだ。


言い方は悪いかもしれないが、命を軽んじた作戦と言えるだろう。そんな作戦でも日本の勝利を信じて散っていった人たちには心からご冥福をお祈りする。


ミッドウェー海戦で先輩を失い、マリアナ沖海戦で姉を失った空母瑞鶴も艦としては最後まで武勇を見せて満足しているだろう。


でも、もし感情があったら。自分のいない戦場で先輩を失い、目のまえで姉を失った彼女が失うことを恐れる怖がりな寂しがり屋になるのは当然では無いだろうか。


俺はそんな二人の声が聞こえてくる部屋のドアをノックしようとする。


しかし、それは後ろにいた長門によって阻まれた。


長門「提督よ、今は彼女たちを信じてやってくれないか?」


提督「…」


俺は無言で長門を見る。


長門「確かに、提督は凄い人間だと思う。どんな問題にも正面から挑んでどうにかしてくれるからな。」


長門はただ、怪我をしすぎないでくれよ。と苦笑しながら言う。そして少し表情が暗くなる。


長門「それに、私がどうにもできなかった陸奥の問題もどうにかしてくれたんだろう?いや、前の長門の問題か。」


提督「お前…そのことを知って…」


長門「これでも姉妹なんでな。気になって嗅ぎまわっていたことがあったんだ。」


長門「でも、私はどうしようもなかった。私がそれに対してなにかを言うのはお節介なんじゃないかなってな。」


長門「でも提督はそんなことを気にせずいとも簡単に陸奥の悩みを晴らして見せた。素直に尊敬する。感謝もある。」


長門「ただな…私がなにも出来なかったという事実は変わらないんだ。」


長門はそこまで言って口を閉じる。俺は彼女たちの提督とはいえ、俺が提督になる前の問題については全く無関係だ。


そしてもし、問題の渦中にいる人間が悩み続けたことを無関係に等しい俺がいとも容易く解決するというのは彼女たちのためになることなのだろうか。


それは、もしかしたら…酷く残酷なことだったのではないか。


提督「すまない…」


俺は思わず謝罪の言葉を口にする。それが失礼なことだとはわかっていても言ってしまう。


長門「謝ることは無いさ、提督が陸奥を救ってくれたことも、私が何も出来なかったのも事実だからな。」


長門「ただ、あの二人は今自分たちだけで乗り超えようとしている。だから、今は気が済むまでやらせてやって欲しい。」


提督「…わかった。」


俺の台詞を合図に俺と長門は執務室に戻ったのだった。二人の泣き声を背に。








ー翔鶴視点ー


どれくらいたっただろうか。涙も落ち着き、私は瑞鶴を見る。


彼女の叫びや涙からどれだけ前の翔鶴が彼女にとって大きな存在だったかわかる。それでも、その人はもういないのだ。


瑞鶴「本当は自分でもわかってるよ…」


瑞鶴が涙を流しながら言う。その声はまるで助けを求めるようなそんなものだった。


瑞鶴「でも、翔鶴姉がいなくちゃ私…どうすればいいか…」


翔鶴「私がいる。」


私は瑞鶴を抱きしめながら言う。強く、強く抱きしめながら。


翔鶴「私はあなたの知る翔鶴にはなれない。でも、私だって頼りないかもしれないけどあなたのお姉ちゃんなの。だから…だから…」


さっきから何かが溢れてくる。それのせいで涙が止まらない。でもその何かは絶対に瑞鶴を一人にしちゃ駄目だと私に伝えてくる。


翔鶴「私もあなたのお姉ちゃんにしてください。」


そしてまた二人で泣いていた。一人は無き姉との別れのため、一人は過去との因縁とでも言おうか。


きっと、瑞鶴にとっての一番の姉は私じゃない翔鶴なのだろう。それでもいい、だから私『も』姉にして欲しいといった。


死別を乗り越えるというのは忘れることではない。それを受け止め前を向くことだ。だからこそとても難しい。


どれくらい泣いたか、瑞鶴が私を見る。


瑞鶴「色々ごめんなさい、これからよろしくね……翔鶴姉。」


その言葉に私はまた涙が止まらなくなる。彼女は恐らく様々な葛藤を経て、私を姉と認めてくれた。姉と呼んでくれた。


翔鶴「えぇ、私こそよろしくね。」


なら、私も彼女の姉として立派な艦娘になろう。そう決意を固め瑞鶴に言葉を返した。











ー提督視点ー


俺は執務室に戻ってきていた。帰ってきてすぐは瑞鶴たちが気になって執務に手がつかなかった。


その後、とりあえず食事当番を決め、皆に確認するようアナウンスし、今に至る。


目のまえには翔鶴さんがいる。ついさっき執務室にやってきた。そしてことの顛末を話してくれた。


提督「良かったです。瑞鶴は彼女ときっちりお別れできたんですね。」


翔鶴「多分そうだと思います。私は情けないことに泣いてばかりだったんですけどね。」


翔鶴さんは少し恥ずかしそうに言う。いや、良かった本当に。ナイフの傷だらけで帰ってきたりしないで良かったよぉ…


まぁ、そんなことを考えるが実は最初からあまり心配していなかった。瑞鶴があそこまで縋る対象と同じ容姿の翔鶴さんに危害を加えるとは思って無かったからだ。


提督「きっと、泣いてしまうくらい彼女を想える翔鶴さんの優しさが瑞鶴に届いたんでしょう。」


翔鶴「そうですね、そうなのかもしれません。」


翔鶴さんは納得するように二回言う。それにしても翔鶴さんにはなにかお礼をしないと。こういうのは本人に聞けば間違いは無いだろう。


提督「翔鶴さん、着任早々瑞鶴のことを任せてしまったうえ解決までしてもらったのでなにかお礼をしたいのですが欲しいものとかあります?」


翔鶴「な、そんな、お礼なんて…私は妹の問題を解決しただけですし…あっ、でも強いて言うなら瑞鶴にするみたいに敬語を外してもらえませんか?」


提督「え、えっと、そんなんでいいのか?」


翔鶴「はい、それがいいんです。」


翔鶴さ…翔鶴は笑顔で言う。美少女の笑顔とか惚れちゃいそう。しかもタメ口OKとかもう告白していいんじゃね…?落ち着け俺。


翔鶴さんはその後、今は瑞鶴のそばにいますね。と言って退室していった。


俺は翔鶴の白い髪や綺麗な顔を思い出していた。はぁ、これが恋ってやつなんだね…落ち着け俺。部下に惚れるとか威厳も何も無くなるわ。


俺は不意に考えていたことを長門に聞いてみる。


提督「なあ、長門。艦娘と人間の恋愛ってどう思う?」


長門「ん?難しい質問だな。私たちはあくまで兵器だからな、そもそも恋愛するというのがおかしな話だ。」


長門「だが、艦娘の中にも人間に恋愛的感情を抱いている者がいるという話も聞くからな。」


提督「そうなのか。長門はそう言った経験は無いのか?」


長門「私か?はっはっは、そういうのは私には合わないさ。」


長門は笑いながら言う。確かにこの人が照れてるイメージとか湧かねえわ。逆に男が抱かれてそうまである。


長門「そういう提督はどうなんだ?艦娘で気になる者がいたりするのか?」


俺は思わず口からギクッって言いそうになった。でもまぁ、長門になら素直に言ってしまってもいいだろう。


提督「んー、まぁ、本音を言うと今んとこ話した艦娘全員可愛いからな。見た目の面に関しては全員気になるってことになってしまう。」


提督「ただ、恋愛なんてするなら俺は性格を優先したいからまだ会って日が浅いし何とも言えないわな。」


長門が俺の返しに少し驚いたような顔をしながら返す。


長門「全員ってことは私も入っているのか?」


提督「え、入ってるな。うん。」


長門「そ、そ、そうか。」


長門はそう言いながら俺から目を逸らす。あれ?さっきのイメージ総崩れしたぞ今。


長門「ゴホン、少し話が逸れているな。戻すとしよう。」


長門は少しの沈黙の後、わざとらしく咳をし、言う。


長門「さっきは艦娘としての意見を言ったが、個人的には人間と艦娘の恋愛はいいと思っている。」


長門「私たちはいつ沈んでもおかしくないような生き方をしているからな。もしそんな二人がいたら私は応援したいとも思うよ。」


提督「確かにロマンチックなもんだよな。悲恋話にだけはなって欲しくないもんだ。」


長門「ということは提督も賛成派なのか?」


提督「そうだな、てか反対したところでお互い好きなもんは好きなんだからどうしようもないだろうよ。」


長門「確かにそうだな。」


長門は苦笑しながら言う。好きだの愛だのはコントロールできない。だから禁止とか言っても意味無いんだろう。


長門「ところで提督、この後はどうするんだ?」


提督「とりあえず執務が一段落したら昼食にするとしよう。」


俺は長門にそう言って、執務を再開した。






長門と昼食を済ませ、午後に残った執務も終わらせた俺は娯楽室に向かっていた。


娯楽室と言っても何もない部屋だ、今度時間のある時になにか遊べるものを仕入れるとしよう。


時計を確認する。時刻はヒトナナニーマル。少し遅くなってしまった。俺は後ろの時雨に声をかける。


提督「ごめんな、わざわざ迎えに来てもらっちゃって。」


時雨「これくらい気にしないでよ、それに元はと言えば忙しいのにわざわざ僕たちの我儘を聞いてもらったんだしね。」


提督「いや、それこそ気にしないでくれ。俺も少しくらい遊ばないとやってけないから魅力的なお誘いだったよ。」


そう、俺だって少しくらい癒されたい。じゃないと美人の発するプレッシャーと降り注ぐ殺意で死んじゃう。駆逐艦という癒しを我に…


時雨「そっか、お仕事頑張ってね。僕にも手伝えることがあったらなんでもするよ。」


あー、この子天使?横目に見える可愛らしい笑顔で心が浄化される。今なら陸奥さんと鹿島さんが二人一緒にいても冷静でいられそう。


そんなことを話していると娯楽室に到着する。部屋に入ってすぐに夕立が寄ってきた。


夕立「提督さん提督さん遊びましょ!」


あーまじべーわー、膝にのせてなでなでしたいこの子。


提督「あぁ、約束だったからな。遅くなってしまってごめんな。」


そう返しながら、俺は部屋の中に予想してなかった顔がいるのに気づく。


提督「ってあれ、陽炎達もここで遊んでいるのか?」


部屋の中には夕立以外に、陽炎・不知火・黒潮がいた。


時雨「あぁ、三人には僕が声をかけたんだ。大勢いた方が楽しいと思って。」


陽炎「そゆこと!司令には負けないわよ!」


不知火「なんで私がこんな…」


黒潮「まぁまぁ、不知火もそう言わんで楽しも?な?」


若干一名不満なようだがそういうことらしい。六人いればトランプでもそれなりに盛り上がるだろう。


提督「それで何をするんだ?ババ抜きとかか?」


陽炎「そりゃ勿論!大富豪でしょ!」





陽炎「なんで私が大貧民なのよー」


大富豪を終え、ビリになった陽炎が泣きながら言う。俺も手を抜こうか悩んだがそれはそれで一人怒りそうな人がいたのでやめといた。


ちなみに結果は以下のとうりだ。大富豪・夕立、富豪・不知火、平民・俺&時雨、貧民・黒潮、大貧民・陽炎。


不知火「私が…負けるなんて…」


黒潮「まぁまぁ、富豪ならええ方とちゃうん?」


不知火は最初こそ乗り気でなかったが、途中から目がガチになっていた。怖い怖い。そういえば昨日、俺この子のブラ被ったんですよね。


夕立「夕立の勝ちっぽい!?やったぽーい!」


時雨「僕は平民でいいかな。提督と一緒だしね。」


夕立は大喜びといった感じで騒いでいる。時雨は俺を見ながらそんなことを言ってくる。


提督「まぁ、そうだな。変に金が有り余るよりは平民が一番かもな。」


時雨「そうだよね、提督ならそう言ってくれると思ったよ。」


時雨はそういいながら少し不敵な笑みを浮かべた気がした…気のせいだよな?


陽炎「再戦を要求するわ!」


不知火「陽炎に賛成です。このままじゃ終われません。」


黒潮「はぁ…、そういうわけやから、付き合ってもらってもええかな…?司令はん。」


黒潮が申し訳ないといったように言ってくる。姉妹が個性的だと大変そうだねぇ…


提督「あぁ、俺は別に構わないぞ。もう一回やろうか。時雨と夕立も構わないよな?」


夕立「勿論っぽい!でもまた勝利はいただくっぽい!」


時雨「夕立もやる気みたいだし僕も構わないよ。」


そうして、第二回戦が始まった。




陽炎「なんでこうなるのよ…」


陽炎が完全に元気を無くしている。悪いことをしたなぁ…手を抜こうにも紫の人が怖いんですわ。


今回の結果はこうだ。大富豪・時雨、富豪・俺、平民・不知火・黒潮、貧民・夕立、大貧民・陽炎。


不知火「そんな…二度も負けるなんて…」


黒潮「まぁまぁ、トランプ程度でそんな気にすること無いで?ぬいぬい」


不知火「ぬいぬい言うな!」


黒潮「そこは突っ込むんやな。あはは…」


夕立「夕立…貧民になっちゃったぽい…」


時雨「大丈夫だよ夕立、僕が大富豪だから夕立にお金を分けてあげる。」


夕立「本当!?時雨大好きっぽい!」


めっちゃ落ち込んでる人と抱きしめあって百合百合してるのがいるが、今は陽炎を元気づけるとしよう。


提督「まぁまぁ、陽炎そう落ち込むなって。トランプなんて楽しんだもん勝ちだろ?」


陽炎「勝たなきゃ楽しくないのよ!大人げない司令なんて嫌いよ嫌い!」


あぁああぁあぁぁああ、何この心の痛みは…あかん、今すぐ俺に鹿島さんを補給してください。死んでしまいます!


提督「ごめんな…でも、手を抜いた方が失礼だと思ったんだよ。」


陽炎「ぬぅ…次は絶対勝つんだからね!」


陽炎はそう言いながらまたトランプをきっている時雨に再戦を申し込んでいる。元気がいいもんだ。


ナイフも出なければ襲い掛かっても来ない。更に姉妹間のトラウマで病み始めたりもしない。何て平和なんだ。これが普通なんですけどね。はい。


その時、急に娯楽室の扉が開いた。


?「遅れました~、時雨ちゃんお誘いせんきゅー!ぼのたん連れだすのに手間取っちゃって。」


?「この!離しなさいよ!こら漣に朧まで!そしてぼのたん言うな!」


?「仕方ないでしょ、漣が全員で行くって約束しちゃったんだから。」


?「私はみんなで遊ぶの楽しみだな…」


扉から姿を現したのは四人の制服?の少女だった。ちなみに一人引きずられている。


時雨「漣ちゃん、ごめんね?急に誘っちゃって。」


漣「いいのいいの!こういう楽しそうなのはじゃんじゃん誘ってくれないと!ぼのたんもこんなに喜んでるっしょ?」


ぼのたん「喜んで無いわよ!さっきからぼのたん言うなっての!」


時雨「えっと、とても喜んでるようには見えないんだけど…その、ごめんね?曙ちゃん。」


ぼのたん「あっ、いや、トランプで遊ぶのは嫌ってわけじゃないんだけど…」


?「あー気にしないでいいよ時雨。これはただの発作だから。」


ぼのたん「なっ、発作ってなによ!」


時雨「そうなんだ、朧が言うなら間違いないのかな…?」


四人と時雨はそんなやり取りをしている。どうやら仲がいいみたいだ。


漣「って、ご主人様本当にいるじゃん!」


先程の会話から、恐らく漣ちゃんだと思われる人物が俺を見ながら言う。ん?ご主人様?


提督「ご主人様って俺のことか…?」


漣「他にいないっしょ!ご主人様はご主人様ですよ!私は漣って言いますよろしくぅ。ほら次、潮!」


潮「へ!?え、えと、よろしくお願いします。提督。潮と言います…」


朧「朧です。周りの姉妹艦が色々あれで迷惑かけますがよろしくお願いします。」


続けて二人が自己紹介をする。しかし、ぼのたんとやらは俺から目を逸らしている。なんかデジャブ。


どうでもいいけど、俺の視線は潮ちゃんの胸に釘付けだ。でかくない?その身長でそれって成長したら…やっべ鼻血出そう。


提督「えっと、漣と潮と朧と…ぼのたんかな?」


ぼのたん「ぼのたん言うなクソ提督!次行ったら殺すわよ!」


ひぃぃぃ、こいつ絶対瑞鶴と同じでトラブル持ってくるやつだ!てかクソって言われたし!やめろ幼女にそう言うこと言われると目覚めかけるだろ!


ぼのたん「あっ…」


ぼのたんはしまったといったように口を塞ぐ。まぁ、確かに上司にその態度はいかんよなぁ。別に気にしないけど。


提督「悪かった、もう呼ばないから何て呼べばいいか教えてくれないか?」


ぼのたん「へっ…?怒らないの?」


提督「そんな小さいことで怒るほど元気が残ってないんだわ。体ボロボロだしな。」


俺は包帯グルグルの体をフリフリして言う。


曙「ふ、ふーん、私は曙。よろしくクソ提督。」


クソは外さないんですね。なにかしたかね俺。まぁ、思いつかないからいいとしよう。


朧「本当に優しいんですね。提督は。」


朧が驚いたように言う。漣と潮も嬉しそうな顔をしている。


提督「優しいって程でも無いさ。そんなんで怒る方がみっともないと俺は思うね。」


そこまで言って、後ろからなにかに抱き着かれる。


夕立「漣ちゃん達ばっかと話しててずるいっぽい!夕立とも遊んでほしいっぽい!」


抱き着いてきた夕立の控えめな胸を満喫したのち、次は勝つと言い続ける不知火と負けないと呪詛のように唱える陽炎を落ち着け第三回戦を開始した。





陽炎「やったわ…ついに抜け出した…」


提督「なんとかな…」


第三回戦は人数が多かったのでチーム戦で行った。結果とチームは以下のとうりだ。


大富豪・漣&潮、富豪・不知火&黒潮、平民・時雨&夕立、貧民・俺&陽炎、大貧民・曙&朧


正直、最初の手札で泣くかと思った。陽炎ちゃんって不幸艦だったりするのだろうか。ビリ回避しただけでも褒めてくれマジで。


陽炎「良かった~ありがと!司令!」


そう言いながら陽炎は俺に笑顔を向ける。まぁ、貧民なんだけどその笑顔で色々報われたので良しとしよう。


不知火「なんで…私じゃ力不足なの…?」


黒潮「落ち着きって!なんかアカンオーラ出とるよ!?」


不知火が負のオーラ全開で怖いのでスルー。黒潮頑張れ、応援してるぞ。


曙「なんで私が大貧民なのよ…」


朧「なんでってドヤ顔で序盤から強いカード出しまくったからでしょ。」


曙「納得いかないわ!朧、今度私と大富豪の練習するわよ。」


朧「練習ってなにをするの…」


なんか曙は修行するみたいなことを言っている。大富豪の修行ってなんだろね、頑張れ朧。応援してる。


漣「あれれ~?あんなに部屋から連れ出すときトランプなんてくだらないって言ってたぼのたんが修行するって聞こえましたぞ~」


漣が曙にちょっかいを出しに行っている。平和だなぁ本当に。


曙「うるさいわね!私だって負けっぱなしは嫌なのよ!あと、ぼのたん言うな!」


漣「おやおやぁ?大貧民が大富豪様にそんなこと言っていいのですかなぁ?」


曙「そんなの関係ないでしょ!このっ、このっ」


曙はそう言いながら漣を捕まえようとするが華麗に避けられている。


提督「ははは、漣の言ったとうりだと俺たち貧民も周りに頭が上がらないな。」


陽炎「もういいわよ…ビリじゃないならオールOKよ。」


俺と陽炎がそんな話をしていると話が聞こえていたのか潮が話しかけてくる。


潮「提督さんと陽炎さんには大富豪になった私がお金分けてあげますから大丈夫ですよ。」


うわぁ、天使だァ。さっき胸がデカいとか考えてすいませんでした。煩悩退散…


提督「ありがとな、潮は優しいんだな。」


潮「へ、そ、その、ありがとうございます…」


潮は恥ずかしそうにお礼を言い、下を向いてしまう。嘘だろこんなかわいい子初めて見た。嫁にしたい。


落ち着け俺、煩悩退散!これじゃロリコンだよ!夕張さんに否定したじゃないか!


夕立「んー、平民微妙っぽい…」


時雨「でも、平民はのんびり静かに暮らすなら最適じゃないかな?」


夕立「それもそうっぽい!平民でも幸せに暮らすっぽい!」


若干、紫色二名が再選を要求していたがそろそろ夕食時なので解散となった。俺は時雨に運んでもらい食堂に向かった。






なっかちゃん「みんな~♪なっかちゃんだよ~♪」


なんか食堂に着いたら前の方でステージしてる子がいる。どうしてこうなった。


ちなみに、時雨は俺を食堂に届けた後夕立を誘いに行った。それはそうと状況を整理しよう。


自分で言ってるくらいだから彼女の名前はなっかちゃんなのだろう。そんなことを考えていると横から話しかけられる。


川内「今日だけ許してやってくれないかな…提督。」


神通「私からもお願いします…」


話しかけてきたのは神通さんと川内だった。よく見ると同じ服装をしている、姉妹艦だったのか。


それはそうと、許すとはなんだろうか?状況的にあのなっかちゃんだろうか。


提督「二人は姉妹艦だったんだな。それで、許すってのはあちらで踊ってる子のこと?」


どうせもいいけど二人は姉妹艦って二人はプリ〇ュアみたいだね。


川内「そういえば言ってなかったっけ、ちなみにあの踊ってる子も私の妹だよ。」


なんてことだ、三人目がいたわ。でもなんか二人はプリ〇ュアって三人いなかったっけ?


神通「昨日の入渠で喉が治って、歌えるようになったのが嬉しかったみたいでステージをすると聞かなくて…」


まぁ、要約すると人前で歌ったり踊ったりするのが好きらしく、久々に人の集まるところで歌いたいとのことだった。


提督「なるほどなぁ…でも、少し迷惑そうな顔してるやつもいるしどうしたもんか…」


ちなみに、迷惑そうな顔をしているのは加賀さんと山城さんだ。睨んでるようだがなっかちゃんよく怖くないね…


提督「とりあえず、時間決めよっか…あと、十分くらいで満足してくれるかな?」


川内「わかった。それで説得してみるよ。那珂も提督には感謝してるみたいだし。」


そう言って川内はなっかちゃんの方へ向かっていった。いや、さっきの川内の発音からするに正しくは那珂ちゃんなのだろうが。


神通「それはそうと提督、その状態で夕食を食べるのは難しいでしょうしお手伝いしましょうか?」


二人きりになった神通が嬉しい提案をしてくれる。車椅子だと食事をとりに行くのが中々大変なのだ。俺は軽く頷く。


神通「それでは、取ってきますね。」


神通はそう言い小走りに食事をとりに向かった。一人になった俺は周囲を見る。


皆普通に食事をしつつ会話を弾ませている。これを見るに中々改善されたと言っていいだろう。


その時、ふと俺は朝潮を発見し声をかける。


提督「おーい、朝潮。」


朝潮「司令官!どうされましたか?」


提督「いや、ここでの生活はどうかなと思ってな。」


昨日の夜色々あったせいで、朝潮とほぼ話せなかったため少し心配していたのだ。


朝潮「皆良くしてくれますし、姉妹たちとも仲良くなれたので問題ありません!」


提督「そっか、良かった。すまないな呼び止めて。」


朝潮「いえ!いつでも頼ってください!それでは。」


朝潮はそう言って盛り上がっている席に向かう。少し心配で様子を伺っていたが問題は無いようだ。


よく考えれば当たり前のことだ。ここの子たちが敵対心を持っているとしたら人間なのだから。俺も艦娘になりたい。


男だから艦息だろうか?


なにはともあれ、朝潮には落ち着くまで姉妹と一緒にいてもらうのが得策だろう。俺と行動を共にされたらとんでもない爆弾撒きまくりそうだし。


しばらくして、なっかちゃんのステージが終わるのとほぼ同時に神通さんが夕食を持ってきてくれた。


提督「わざわざありがとう。」


神通「いえいえ、お気になさらないでください。あーん」


神通さんはそう言って今日のメニューであるカレーをスプーンですくい俺の口に近づける。


ん?あーん?それはもしやあのあーん?カップル御用達の?


提督「えと、あの…神通さん?あーんとは?」


神通「いえ、片手だと食べにくいかと思いまして…駄目でしょうか。」


提督「頂きます。」


俺は少し恥ずかしそうにしながら言う神通さんを見てキメ顔で即答した後、差し出されたスプーンからカレーを頂く。


正直に言おう。恥ずかしすぎてドキドキとかなんて次元じゃなかったわ。ドッドッドッドみたいな感じ。軍隊かな?


提督「その…恥ずかしいんで自分で食います…」


神通「はい…その、私もおかしなことをしてすいませんでした…」


お互いなんか微妙な雰囲気でいると川内となっかちゃんとやらがやって来た。


川内「ん?どうしたのさ二人と…」


那珂「那珂ちゃんの第一ファン発見!」


川内が何か言ってきたが、那珂ちゃんが突っ込んできて俺に話しかけてきたせいでかき消された。なっかちゃんじゃなくて那珂ちゃんなのね。


提督「だ、第一ファン?」


那珂「そう!那珂ちゃんの傷を治してくれたのは那珂ちゃんのアイドル力を見込んだからなんでしょ?」


那珂「だからあなたに那珂ちゃんのプロデューサーになってほしいの!」


えぇ、俺提督だったはずが急にプロデューサー勧誘されてる。なにさこの状況。アイ〇ルマスター?


川内「こら、提督は忙しいんだからそういうのは私がやってあげるから。」


川内は那珂ちゃんにチョップをかましながら言った後、俺に顔を近づけ小声で続ける。


川内「その、那珂はこういうの好きだからさファンになったフリだけでもいいから付き合ってあげて欲しいんだけど…」


さっきからご主人様になったりプロデューサーになったりファンになったり忙しいな俺…と思いつつファンになるよと返し那珂を見る。


提督「あぁ、ファンの第一号なんだからファンクラブが出来たら第一会員にしてくれよな?」


那珂「えっ、本当にファンになってくれるの!」


那珂はとても嬉しそうに言う。この笑顔のファンにならなってもいいなと俺は思った。


提督「あぁ、でも今度は周りに迷惑がかからないところでステージをしてくれな?」


那珂「わかった!それじゃもう一曲歌って…


川内「今の話聞いてなかったでしょ!」


走って行こうとする那珂を川内がチョップで止めて捕縛する。そのまま俺たち四人は一緒に夕食を取った。






夕食を取り終え、とりあえず俺は風呂に入った。


傷にしみたり上手く洗えなかったりと、かなり難航したがどうにかなった。


風呂から上がった後、再度合流した長門に包帯を巻いてもらった。


その後、少し今後の予定を相談し執務室の横にある自室まで送ってもらったという状況だ。


我ながら、非常に動きにくい。動けないことはないんだが滅茶苦茶痛い。


昨日のように生命の危機でもなければ出来るだけ動きたくないもんだ。


現状、この鎮守府は結構いい方向に改善できていると思う。とはいえまだ二日しか経過していないので皆の内心はわからないが。


もし、鹿島さんが裏で悪口とか言ってたら俺提督辞めちゃうまである。もしかしたら人間辞めちゃうまである。


先程長門とも話したが、ここから出撃に遠征・改修などやることはまだまだある。


気を抜くことはできない。そんなことを考えているとスマホが鳴りだす。


画面には通話と親父の文字。やれやれといったような身振りをしてから出る。


提督「はい、こちら提督。」


大淀「夜分遅くに申し訳ありません、大淀です。」


電話の相手は大淀さんだった。声や口調は仕事モードだ。


提督「あれ?大淀さんどうしたんです?親父のスマホなんか使って。」


大淀「軍の電話使ってしまうと盗聴とかのリスクがありますからね。最近深海棲艦の内通者がいるなんて噂もありますし。」


提督「内通者とはなんです?人間なのに深海棲艦の味方をするやつがいるとか?」


大淀「はい、作戦が筒抜けだったりしたことがあったんですよ。なのでないとは思いますが…一応警戒してるんです。」


提督「嫌ですねぇ、周囲に疑心暗鬼になるのわ。」


大淀「本当にそのとうりです。一回話を戻しますが、提督に一つ聞きたいことがありまして。」


提督「ん?俺に聞きたいことですか?」


大淀「はい、前提督に会えるとしたら会いますか?」


俺は一瞬思考が停止する。前提督、ここの鎮守府を崩壊させた張本人。それに会う?


でも、会えるとして俺は彼に何を言うのだろうか。何を言えるだろうか。責め立てる?彼の内情を知っていても?


ならば同情…いや、それはしてはいけないだろう。なら俺は会うとしたらなんのために…


でも、会わなければならない。そんな感覚がよぎった。恐怖よりもその義務感が強かった。


提督「会います。会わせてください。」


俺の返事を聞いて大淀さんは少し黙り込んでしまったが、すぐに返す。


大淀「……そう言うと思ってました。元帥に相談して日取りなどは追って連絡しますね。」


提督「わかりました。よろしくお願いします。」


そこまで話し終わり、大淀さんは少し息を吐き仕事モードからいつもの口調に戻る。


大淀「はい、提督君くれぐれも気を付けてね。」


提督「わかってますよ、これでも気を付けてるんですよ?」


大淀「本当にあなたは昔から怪我が絶えなくて…心配するこっちの身にもなってよ?」


提督「あはは…以後気をつけます…」


大淀「まぁ、それがあなたの魅力でもあるんだけどね。それじゃバイバイ。」


大淀さんはため息をつきながら言い、電話を切る。相変わらず公私をしっかり使い分ける人だ。


そして俺は前提督の話題で思い出したPCを見るために執務室に向かった。






おのれ階段許すまじ、シェルターの階段を下るのにかなり時間をかけてしまった。


ちなみに一段一段座りながら降りたのでかなり疲れた。長門とかなら背負ったりしてくれそうだがプライドが許さなかった。


俺はやっとこさたどり着いたシェルターでPCを立ち上げる。パスワードは無いらしい。


画面がホームに移行し、ファイルが表示される。その瞬間背筋が凍り付いた。


ホーム画像には、死体が写っていた。俺は右クリックでメニューから即座に画像を切り替える。吐き気がする。畜生。


画面には女の子一人と、形的に人間だろうと判断できるナニカが写っていた。大量の血とともに。


状況的に前提督の家族だろう。その時、後ろから声をかけられた。


龍田「それを見るのはあまりオススメしないわよぉ?」


なんでここに龍田が!?二日連続でここで死にかけるのか俺は!?


加賀「一人でこういうところに来るのは…あまり感心しないですよ。」


続いて加賀さんが入ってくる。これなら安心だろうか。


話を聞くと、俺と朝別れた後に龍田さんを入渠させ、その間に監視するメンバーで割り当てをしたらしい。


それで、今加賀さんが監視しているタイミングで俺が執務室に向かうのを見つけ二人で追いかけたらしい。


加賀「人目のないところは危険です、そういうところの探索は私や赤城さんがいるときにして頂きたいです。」


提督「すいません、以後気をつけます。」


俺は頭を掻きながら謝罪する。言い方はきついが心配してくれているようだ。


龍田「でもぉ、監視をつけるなんて酷いわぁ。そんなに怖いかしらぁ?」


はい、怖いです。と即答しそうになるのを堪える。この怪我全部この人にやられたんだよな~


提督「まぁ、俺は反対だったんですけど。監視がダメなら周りが認めてくれなかったもので。」


加賀「当然です、あなたは本当なら解体されていて自然なくらいよ。」


俺の説明に加賀さんが強気に続ける。龍田さんはあらぁ?と言いながら俺に絡みつく。ひぃ、なんやなんや絞殺されるのか!?


龍田「随分と信頼が無いのねぇ。でも、私これでも提督のこと結構好きなのよぉ?恩人だしね。」


龍田さんは俺に絡みついたまま笑顔を向けて言う。あら素敵、昨日のことが無かったらうっかり惚れるわ。


加賀「あまりベタベタしないでもらえるかしら、見てて不快よ。」


龍田「ふふふ、ごめんなさいねぇ?」


龍田さんはそう言って離れる。この会話のうちに俺の吐き気は引っ込んでいた。異性の抱擁つうか接触っていい精神安定剤だわ。


さて、本題に戻るとしよう。


提督「龍田さんはこれの中身を知ってるんですか?」


龍田「いいえ?中身は知らないわぁ。でも、それを使う前提督の表情が壊れていたからいいものでは無いでしょうねぇ。」


提督「なるほど、んじゃ中身は前提督のみぞ知るってわけですか。」


加賀「わざわざあなたが見る必要は無いんじゃないでしょうか?大本営に任せるのも手だと思いますよ。」


加賀さんはさっきから俺を心配してくれる。イメージからお堅い厳しい人だと思っていたが本当は優しい人なのかもしれない。


提督「大丈夫ですよ加賀さん、それに俺はこの鎮守府の提督としてこれの中身を知っておかなければならないですから。」


加賀「…わかりました。」


俺は加賀さんの返事の後、機密事項が書かれていることを恐れ二人にはPCが見えない方へ移動してもらった。


俺は自分の頬を叩き、気合いを入れなおし一つ目のフォルダを開く。すると画面に大量の文字が写る。


『アイシテル、ミライ・ナナエアイシテルアイオシテルアイシテルアイステルアイアシテル…ゴメンナサイユルシテワツィノセイデユツシテ…


ミライとナナエというのは恐らく妻子のことだろうか。文面はとても長く続いている。


しかし、大体が愛していると許してという文字とそれの打ち間違いといったようだ。


強い自分を演じるうえで弱い自分をここで殺していたのだろうか。この悲鳴を口にしていればまだマシな結末だったのかもしれない。


俺はそれを閉じ、次のフォルダを開ける。最初こそ不意打ちを喰らったがその手の類のものが出るかもしれないと身構えていれば多少は大丈夫だろう。


次は画像が表示される。写真のようだ。家族写真や子供の写真。おかしなところは父親だけ切り抜かれているところだろうか。


胸糞悪いの一言に限る。思わず表情が強張る。


加賀「大丈夫ですか?」


加賀さんが俺の表情を見て声をかけてくる。なんつうかお姉さん力高いな。


提督「大丈夫ですよ、とっととチェックしちゃいますね。」


俺は加賀さんに笑顔で返し、続いてPCを操作する。そして一つだけロックのかかったファイルを発見した。


俺はそれをクリックし、パスワード入力画面を表示する。そして、PCの横にあるパスワードと書かれた紙の文字を打つ。


ミライナナエと入力し、フォルダを開く。やはり最後は最愛の妻子ということか。


そして開いたファイルには大量の文字列が並んでいた。しかし、今度は意味の分からない文字列ではなく普通の分だ。


俺はそれを読む。『深海棲艦に関する情報の漏洩と襲撃者に関して。』タイトルはこうなっており文章の初めにはこう綴ってあった。


前提督「これを誰かが見ているとしたら、私は恐らくもうおかしくなっているのだろう。」


前提督「私は自分で自分が制御できなくなってしまった。薬を打ってから数分しか自我が保てない。」


前提督「いつおかしい状態から戻れなくなるかわからない。だから今のうちに私が持ちうる情報をすべて残す。」


この文面を信じるなら、前提督は自分の意志で艦娘を虐待したりしたわけじゃないのだろう。


しかし、元帥の言うとうりだ。自分の意志では無くても罪は罪なのだ。俺は続きを読む。


前提督「まず、深海棲艦に内通者がいるのは確かだ。俺はこの耳で聞いた。」


さっき大淀さんから聞いた話と合致する。とはいえ聞いたとはなんだ?


前提督「俺は前の鎮守府で深海棲艦の襲撃を受けた。そこで妻子を失った。その際俺は奇跡的に生存したのだ。」


前提督「そして聞いた、深海棲艦が『確かに情報どうりだったな』と言うのを。」


深海棲艦が会話可能というのは昔からわかっている。一時期、和解するという意見も出たが問答無用で襲われたため現実味がないと否定された。


でも、これが真実だとしたら海軍内部かそれを抜き取った存在がいるということだ。


前提督「そしてその後、あいつらは『提督のところに帰ろう』とも言った。深海棲艦に提督と呼ばれる存在がいることの証拠だ。」


前提督「そして俺はやつらのいる位置を大体だが掴んだ。ここにその海域のデータをまとめたものも記しておく。」


前提督「狂人の戯言に思えるかもしれないが、頼む。誰でもいい、俺が成し遂げられなかったんだとしたらお願いだ。」


前提督「未来と奈々枝の仇を討ってくれ。どうか、お願いだ。誰でもいいから頼む。」


その下には一つの海域のデータと、また意味の分からない文字列が続いていた。


俺は思わず言葉を失う。つまり前提督の無理な出撃や進軍はすべてこの海域にたどり着くため。


つまり、仇を討つためだったというわけだ。完全に私怨に基づいた行動で咎められるべきものだが、この文だけでも彼の苦痛が俺に流れ込んでくるようだった。


提督「なぁ、加賀さん。」


加賀「なんでしょうか?」


提督「この鎮守府の出撃データとかってどこにあるかわかります?」


加賀「それなら執務室にありますけれど…」


提督「では、階段を上るのを手伝ってもらってもいいですか?」


そして、俺は龍田さんと加賀さんに支えられながら執務室に戻る。


龍田さんが移動中に大丈夫ぅ?なんて聞いてきたりしてきた。


加賀さんは最後まで酷い顔をしているなんて言って心配してくれたが、大丈夫ですと返して退室してもらった。


俺はしっかり笑顔で話せただろうか。多分出来てなかったんだろうな、龍田さんにまで心配されてしまったのが証拠だ。


一人の執務室で加賀さんに教えてもらった出撃データを確認する。


序盤の進行は先程見た海域だが、ある時期を境に様々なところに出撃している。完全に適当と言っていいだろう。


先程の前提督の文面を思い出す。俺は執務室の椅子に座り、前にここに座っていた男の無念を考えていた。


瞳から溢れだすものを必死に堪えながら、ただ一人で。








ー司令官視点ー


あの件から、俺はさらに艦娘を避けるようになっていた。


吹雪はなにかを言いたそうにしていたが、綾波のことがあったせいで言い出せないと言ったような感じだった。


そのまま時間は流れ、鎮守府などの数も増えてきたころ久々に俺に外出許可が下りた。


こう言うとまるで囚人のようだが、実際鎮守府内に監禁されていると言っても過言じゃないのだ。


ちなみに、艦娘にも外出許可証が出ているので朝から姉妹艦などと一緒に出かける姿を見た。


俺がどこに行こうか考えていると、吹雪が話しかけてくる。


吹雪「一緒にでかけませんか?司令官。」


彼女は俺を思ってか、綾波の件から時間の空いたときはずっと傍にいてくれる。


普段から罪悪感があったのでそれくらいはいいかと思い。俺は頷いた。


外はとても寒かった。季節は冬だ、何日なのかはわからないが十二月だというのは確かなはずだ。


吹雪「寒いですね~、司令官!」


司令官「あぁ、そうだな。つい最近まで暑かったような気もするが。」


吹雪「何言ってるんですかもー。ずっと寒いですよ?ここ最近。」


俺は提督になってから時間の流れがとても速く感じていた。いや、毎日がいっぱいいっぱいだったからなのかもしれないが。


司令官「それで?どこに行くんだ?」


俺は吹雪に問う。しかし、吹雪はいたずらっぽく微笑み言う。


吹雪「そこは男の人がエスコートしないとですよ?司令官。」


司令官「ははは、困ったな女の子が喜びそおなところなんてわからないぞ…」


結局、俺と吹雪はショッピングモールに向かった。二人で雑貨屋に入ってみたりゲーセンで遊んだりした。不覚にも楽しかった。


ひととうり周り終え、外も暗くなり帰ろうとしたとき広場に大きなクリスマスツリーを見つけた。ここは天井が無い、内庭みたいなイメージだろうか。


そこにはたくさんのカップルが集まっている。どうやら今日は十二月二十五日、クリスマスだったようだ。


ツリーの近くで不意に吹雪が俺を見つめる。ただならぬ雰囲気に俺は目を逸らしてしまう。


吹雪「司令官、艦娘と仲良くなるのはまだ怖いですか?」


司令官「別に怖いとかじゃない、必要ないと思うだけだ。」


俺はそんなことを言って誤魔化す。自分が怖がりだとも認められない、本当に情けない男だこった。


吹雪「じゃあ、なんで最近私の出撃が減ってるんです?」


司令官「………」


答えられるわけがない。君にいなくなって欲しくないからなんて。そんな自分勝手な感情。


吹雪「私たちは艦です。戦場で沈むのは仕方ないことなんです。」


吹雪が俺の震えていた手を握り、続ける。


吹雪「本当はとっても怖いですし、皆とずっと一緒にいたいんですけどね。」


恥ずかしそうにこめかみを掻きながら言う彼女は、降り出した雪で少し魅力的に見えた。不謹慎だろうか、そんなことを考えるのは。


吹雪「だから、司令官が守ってください。」


先程までとは一変して吹雪は真面目な顔で言う。私たちを守って欲しいと。


守る?俺にそんな力は無い。たった一人の少女でさえ沈めてしまった俺にそんな力は…


司令官「吹雪…俺はそんなすごい人間じゃないんだ。ただの怖がりでそんな司令官なんて器じゃないんだ…」


俺はすべてを吐き出す。情けなくたって構わない。そんな重責俺には無理だ。


司令官「失望しただろ?だから俺にはお前らを守ることなんて…」


吹雪「知ってますよ。ずっと横で見てましたから。」


俺が言い切る前に吹雪が言葉を遮る。そして、静かに俺の唇を奪った。


唇に感じる微熱が無駄に心臓の鼓動を早くする。雪も空気を読むかのように降り続く。


吹雪「なにからなにまで失格ですよ司令官。こういうのは本当は男の人からするんですからね…?」


吹雪は赤い頬のまま、いたずらっぽく言う。


司令官「お前…なんでこんなこと…」


吹雪「そんなの決まってるじゃないですか。司令官が好きになっちゃったからですよ。」


吹雪は怒ったように言う。でも、それはきっと俺じゃなくて俺の演じた虚像のことだ。それは俺なんかじゃない。


本当の俺は弱くて臆病で情けないやつなのだ。


司令官「違うんだ吹雪、俺は本当はそんな立派な人間じゃなくて…」


吹雪「知ってますよ。さっきも言ったじゃないですか。」


吹雪は仕方ないといったように言う。


吹雪「私はそんな怖がりなあなたを好きになってしまったんです。たったそれだけですよ。」


本当に情けない話だ。こんな少女に好きって言ってもらえるだけで頑張ろうなんて思う自分に笑えて来る。現金な奴だよ俺は。


俺は柄にもなく無音で吹雪にキスをする。歯がぶつかってカッコつかなかったのは内緒だ。






ー元帥視点ー


全く、夢で黒歴史を思い出させられるなんて思いもしなかった。あの後吹雪にキスをしといて手を握るのが恥ずかしくて出来なかったなんておまけつきだ。


夢で見た彼女の顔を思い出す。俺は彼女を愛していた、それは間違いないのだろう。


そういえば、もう少しで彼女の命日だ。不意に胸が苦しくなる。七夕が命日なんて最悪な偶然もあったもんだ。


今の俺を彼女が見たらかっこいいと言ってくれるだろうか。それとも臆病者のほうが好みなのだろうか。


それはもう一生わからない。ならせめて俺は彼女の言いつけだけ守って生きていこう。


元帥「早朝から俺の心をあまり痛めつけないでくれよ。吹雪。」


俺は自室に置いてある写真に声をかける。当然と言えば当然だが返事は無い。


元帥「行ってきます。」


俺はそう言って自室を後にするのだった。







元帥「やぁ、お久しぶり。面接以来だね、前提督君。」


俺は面会室の向かい側にいる前提督に声かける。前提督は何も言わないでただ下を向いている。


よりによってあんな夢を見た日にこいつと話すことになるなんてな。


元帥「いいよなぁ?自分だけ精神崩壊して罪に問われても何もわからないなんて御大層な身分だよな?」


皮肉を込めて言うも、前提督に変化はない。ただ下を向き続ける。俺の中で怒りが限界を超える。


元帥「なんか言えよッ!てめぇの尻拭いをしてる俺の息子がてめぇの代わりに傷ついてんだよッ!」


俺は思い切り防弾ガラスの壁を殴り怒号をあげる。拳の痛みなんてどうでもいい。しかし、前提督に変化は無い。


元帥「チッ…」


俺はその姿を見て大袈裟に舌打ちをする。怒りでどうにかなりそうだ。


その時、前提督が口を開いた。


前提督「仇を…仇を討たなきゃ…」


そのセリフで俺の怒りが再度限界を超える。


元帥「てめぇは敵討ちの為なら周りのやつを傷つけていいとでも思ってんのかよッ、ザケてんじゃねぞッ!」


そこまで言って、昨日提督に言ったことを思い出す。


元帥「でも…てめぇみたいなクズの本心を…見抜けなかった俺が一番…」


急に心が痛くなってくる。そう、こいつを面接で採用しちまったのは俺なのだ。なら全責任は俺にあるのだろう。


彼女の言葉が俺に酷く突き刺さる。『下の責任を取るのは上の人間なんですから』なんて。


大和「失礼します。元帥、とりあえず落ち着きましょ?」


状況を察したのか急に部屋に入ってきた大和に連れられ、俺は面会室を出る。


そして大和に勧められるまま横長のソファに座った。


ここは大本営施設の牢獄だ。軍内部で罪を行ったものや重要罪人をとらえる施設である。


俺は今日、提督が面接を望んでいることを知り先に顔を合わせに来たわけだ。ちなみに前提督は無期懲役の判決が出ている。


大和「全く、お体は大事にしてくださいよ?手から血が出てますし。」


大和はそう言いながら傷の手当てをしてくれる。さっきガラスを殴った際の傷だろうか。まるで痛みを感じない。


元帥「すまん、ついカーッとなっちまってな。」


大和「昔からですけど直した方がいいですよ?それ。」


元帥「ははは…精進するさ。」


俺はそう返し、さっきの前提督を思い出す。俺は彼の本性を暴けなかった。それだけはどうしようもない事実なのだ。


元帥「なぁ、大和。さっきの話聞いてたんだろ?お前はどう思う。」


大和「ご自分でも仰ってたじゃないですか。全部元帥のせいですよ。」


元帥「ははは…手厳しいな…」


大和「だって、こう言わないと怒るでしょう?何年一緒にいると思ってるんですか。」


大和は優しい笑顔でそう言う。彼女は俺をよく理解してくれている。なにかと頼ってしまうのはそのせいなのだろう。


元帥「そうだな、いっそ結婚でもするか?」


大和「へっ!?その、なんというか…心の準備が…」


俺は自分の中に渦巻く彼女の言葉を思い出しながら、満更でもない反応をする大和を見逃したのだった。








ー提督視点ー


PCを見てから三日がたった。俺がここに着任してから六日目の朝だ。


あれから、俺はあのPCの情報は直接元帥に伝えようと思いまだ手元に置いてある。


他にも、出撃や演習のローテを組んだり必要なものと不必要なものの整理をしたりととにかく忙しい日々だった。


加賀さんと龍田さんは会うたびに心配してくれたが、俺が普通に応対することが出来ていたからか今は安心してくれているようだ。


龍田さんといえば、天龍さんが鎮守府に約束どうり着任した。天龍さんはまだ人間に慣れていないらしく少し避けられているが仕方ないだろう。


ちなみに、一番大きな報告と言えば電動車椅子を入手した。元帥からのプレゼントだ。これで単独行動が可能になった。てってれ~ん。


とはいっても、怪我も落ち着いて実は普通に歩けるようになっている。少しぎこちないが。


俺は片足をかばうようにベッドから降りて…その時、俺は異変に気付く。


なんかいる。物理的に横に。俺は恐る恐る顔を右に向ける。


時雨「やぁ、おはよう。提督」


夕立「もう朝っぽい…?」


これは事案ですね。明日の朝刊は成人男性女児二人に性的行為を強制だなこれは。


いやいやいや待て待て、俺は昨日そんなことした覚えもなければ酒も飲んでいない。


とりあえず、本人たちから聞くのが一番だろう。


提督「な、な、なぁ、なんでここにいるんだ…?」


時雨「………秘密…」


時雨は少し頬を赤らめて顔を逸らす。詰んだ。人生終了のお知らせktkr。


夕立「提督さーん怖かったぽーい!」


自分の人生を見つめなおしていると夕立がくっついてくる。って、この言い方は俺まさか夕立にもなにか…


夕立「おばけが襲いに来るっぽい!」


提督「は…?おばけ…?」


事実をまとめると、夕立と時雨は元帥から車椅子と一緒に送られてきたテレビでよくある心霊番組を見たらしい。


それで怖くなってしまい、俺の部屋に来たらもう寝てたからベッドに入り込んだそうな。


提督「なるほど、そういうことか…でも、意外だな時雨はそういうの平気なイメージあったんだけど。」


時雨「……僕だって女の子なんだからね…馬鹿。」


なんつうかさぁ…女の子の照れ顔の馬鹿とか言うセリフは男を殺しに来てるよね…さっき、照れていたのも幽霊の類が怖いと知られたくなかったのだろう。


燃える…違う、物理的に燃えてどうする。萌えるだよ萌える。


とりあえず、俺はそのまま上に乗っかる夕立の頭を撫でつつそっぽを向いてしまった時雨に話しかける。


その時だった。


瑞鶴「提督さん!起こしに来…」


提督「瑞鶴、何も言うな。わかってる。」


俺は真顔でそう言うと、このロリコンがァ!と言いながら襲い掛かってくる瑞鶴をいなすのだった。







瑞鶴「その…ごめんなさい。」


俺はなんとかナイフの攻撃から身を守りつつ事情を説明した後、支度をしてここは執務室。


恐らく先程の攻撃について瑞鶴が謝ってくる。


翔鶴「もう、瑞鶴はすぐに刃物を出すのはやめなさい?」


瑞鶴「ごめんなさい…」


提督「ははは、まぁもう名物みたいなもんだし気にしないさ。」


俺は包帯グルグルの左手を振りながら言う。


執務室には今日の秘書官である瑞鶴と俺のほかに翔鶴も手伝いに来てくれていた。その翔鶴に瑞鶴が言う。


瑞鶴「でも、提督さんって駆逐艦みたいな小さな女の子が好きなんだよ翔鶴姉。」


提督「俺の性癖を勝手に捻じ曲げるな。さっきも言ったがあの二人は勝手に入ってきただけだ。俺が好きなのは普通に同年代から年上だアホ。」


瑞鶴が俺の返しを聞いて少し悲しそうな顔をする。俺がロリコンのほうがからかいがいがあるとでも考えていたのだろうか。


提督「ちなみに、翔鶴とか俺の好みドストライクだったりする。」


翔鶴「ふぇ!?じょ、冗談はやめてくださいよ提督!」


翔鶴は慌てながらそんなことを言う。可愛いなぁ。頬が少し赤いとこがグッド。


瑞鶴が翔鶴を庇うようにしてこちらを威嚇しているがスルー。


なんだかんだで瑞鶴は翔鶴を姉と認め、元気にやっている。彼女の内心は俺にはわからないが笑顔に嘘はないように思う。


翔鶴のほうも瑞鶴を支えていてくれている。俺も多少は冗談を言い合えるくらいには話せるようになった。


他の艦娘とも打ち解けつつあるのだが、曙と不知火だけは中々心を開いてくれないが問題は無いだろう。


問題と言えば、あのPCの内容だろうか。あれが事実かどうかも見極めなければならない。まずは元帥に相談せねば。


翔鶴「どうかされましたか?」


提督「ん?なんでもないさ、気にしないでくれ。」


顔に出ていただろうか、翔鶴にそんな風に声をかけられたが誤魔化しておく。


そのまま俺は大本営からの伝聞を確認する。色々書いてあるが、反軍主義者に注意されたし。という一文に目が留まる。


反軍主義者とは、深海棲艦という敵がいるのに軍はいらないとか艦娘は危険だとかほざいてる連中だ。


第一、軍と艦娘がいなくなったら誰が国を守るんだっての。頭の悪い連中だこった。


瑞鶴「提督さーん、これサインしといてー。」


提督「了解、そこらへん置いといてくれ。」


俺は伝聞を読み終え、執務を開始するのだった。


執務の最中、翔鶴の胸を見て癒されていたらツインテに制裁を喰らったのは言うまでもないだろう。







提督「いやぁ、一仕事した後の朝食は美味ですな~。」


赤城「毎日朝からお疲れ様です。」


ところ変わって食堂にて、たまたま居合わせた赤城さん達と一緒に朝食を取っている。


横から喧嘩のような声が聞こえるがスルースルー。


加賀「それはそうと、五航戦…あなたまた提督に刃物を向けたそうね、上下関係も理解できないのかしら?」


瑞鶴「な!あれは提督さんが駆逐艦の子に手を出してたからで!」


提督「出してねぇよ!なんちゅう冤罪かけようとしてんだお前は!」


翔鶴「まぁまぁ、皆さん落ち着いて…」


そんな会話をしながら箸を進める。加賀さんと瑞鶴の二人は少し心配だが、このメンツは同じ空母というのもあって仲がいい。


なんかオレンジと水色もいた気がするが最近見かけないな。


赤城「そういえば提督。」


提督「ん、どうしました?」


赤城「今日は演習の予定でしたが、提督はご覧になるのですか?」


提督「あぁ、それなんだが少し用事があって全ては見れないんです。」


赤城「用事ですか?どこかにお出かけになるとか?」


俺はその質問に真実を告げようとして躊躇う。折角鎮守府内の空気が良くなってきたのに前提督の名前を出すのは良くないだろう。


提督「ちょっと、元帥に色々報告しに行かなくちゃならないんですよ。」


瑞鶴「え…」


俺の返答に声を出したのは瑞鶴だった。


提督「どうした?瑞鶴。」


瑞鶴「えと、その、いなくなったりしないよね…?」


これは昨日気づいたことなのだが、瑞鶴は俺が鎮守府を出ることに酷く怯える節がある。


昨日コンビニに間食を買いに出たときもわざわざ着いてきた。どちらかというと俺が彼女から離れるのを怖がっているというべきか。


これに関して、俺は彼女の支柱になっているんだと思う。いくら前の翔鶴がいないという現実を受け止めても喪失感や寂しさが無くなるわけでは無い。


つまり、心にぽっかり穴が開いてしまうのである。それを怒りや人を疑うことで支えていたのを俺と翔鶴が壊してしまった。


必然的に俺と翔鶴がその支柱代わりになるのは仕方ないかもしれないが…いや、今はこれでいいとしよう。


提督「大丈夫だ、約束しただろ?寿命以外じゃ死なないって。」


瑞鶴「………」


俺はそう言い親指を立てるが、瑞鶴は何も言わない、彼女は今日の演習メンバーに入っているので着いてくることも出来ないのだ。


その時、意外な人物が声をかけてきた。


加賀「提督、その用事は艦娘が同伴してはいけないのでしょうか?」


提督「い、いや、別にそういうわけじゃないですが…」


加賀「なら私をお供にお付けください。五航戦なんかよりは確実に提督の安全を保障します。」


加賀さんはそう俺に提案する。なんつうか言い回しが回りくどいが、これは私が提督を守るから安心しろと瑞鶴に言ってるようなものだ。


ツンデレじゃね!?マジか、クールツンデレ即ちクーデレは需要高いっすよ!


提督「…そういうことならお願いします。これでいいか?瑞鶴。」


一瞬悩んだが、加賀さんなら大丈夫だと判断しお願いする。


瑞鶴「ふん、そんなこと言っといて何かあったら一航戦のプライドも落ちるものね。勝手にすれば。」


そう言って瑞鶴はそっぽを向く。二人とも素直じゃないと周りから見るとただの仲悪い人なんだなぁ。ツンツンとか新カテゴリーじゃん。


その後、加賀さんは去り際に小声で俺にありがとうございます。と言っていった。


俺は加賀さんのイメージを怖い人から優しいお姉さんに変更した。やだ!俺の好みじゃん!







とりあえず朝食を終えた俺と瑞鶴、翔鶴は執務室に戻った。


提督「そういえば、翔鶴は今日が初めての艤装使用になるんだろ?俺にはよくわからないけど怪我とか気をつけてな?」


翔鶴「演習ですし、怪我の危険はないと思いますよ。心配してくださってありがとうございます。」


瑞鶴「演習は使うのペイント弾だからね。でも、翔鶴姉は態勢崩さないようにね?転んじゃうと的にされちゃうから。」


翔鶴「バランス感覚は取れる方だと思うんだけど…少し心配になってきちゃった。」


提督「まぁ、演習だからそこまで気に病まず堂々としていればいいさ。俺は多分見に行けないが応援してるよ。」


翔鶴「はい、期待に添えられるように頑張ります。」


瑞鶴「私の力を見せてあげるわ!」


そんな会話をし、二人を見送る。轟沈判定などは普通提督がやるのだが、今日は長門に任せておいた。


ちなみにメンバーは以下のとうりだ。


Aチーム、鹿島・扶桑・山城・時雨・夕立・赤城  Bチーム、瑞鶴・翔鶴・陸奥・黒潮・不知火・陽炎


とりあえずは、初めての演習なので姉妹艦を多めに組ませている。その方が気楽にできるだろう。赤城さんと鹿島さんは多分大丈夫。


結果は帰ってきてから報告してもらう算段になっている。俺はLINEで加賀さんに執務室に来てもらい、PCを回収して執務室を後にした。







大和「迎えに来ましたよーって、提督一人じゃないんですね。」


車で迎えに来てくれた大和さんが加賀さんを見て意外そうな声を出す。


提督「少し事情がありまして。二人でも大丈夫ですか?」


加賀さんは横で少し申し訳なさそうな表情をしている。


大和「別に問題ないですよ。後ろに乗ってください。」


提督「ありがとうございます、大和さん。」


普段はこんな堅苦しく敬語を使ったりしないのだが、横に加賀さんがいるので形式上仕方ないだろう。


自分の提督が元帥の息子なんて知ったら色々面倒くさくなりそうなものだ。


車に乗り込み、目的地である大本営に向かう。


俺は時間が結構あるので、加賀さんに瑞鶴について聞いてみることにした。


提督「加賀さんは、瑞鶴のことが好きなんですか?」


加賀「………後輩ですからね。」


少しの沈黙の後短く答える。これは肯定の意だろう。


提督「朝はありがとうございました。正直、俺にはどうしようもなかったので。」


加賀「いいえ、私こそ無理言ってこうして同伴することになり申し訳ありません。」


提督「それは気にしなくていいですよ。加賀さんが優しいからこうなっただけですしね。」


加賀さんは優しいと言われて少し照れているのか窓のほうに顔を向け、小声でそんなことありません。と言った。


俺も空気を読んでそこで会話を辞め、窓の外を見る。平和な街並み。とても戦争中には思えない。


車が走り、親子が歩き、店にはタイムセールなんて書いてあったりする。


この平和が全て艦娘の戦いによって守られていると考えると彼女たちには頭が上がらない。なぜか、システムが逆になっているが。


それどころか、守ってもらっておいて危険だとか言う輩もいる。人間とはどれだけ愚かな生き物なのだろう。そんなことを考えていた。


てか、俺も人間なんだけどね☆







大和「到着しましたよ。」


提督・加賀「ありがとうございます。」


俺は大和さんの声を合図に車から降りる。その瞬間だった。


元帥「怪我は大丈夫か!?我が息子よ!」


元帥が俺に突っ込んできた。俺はそれを華麗にかわす。ヒラリといった感じで。ヒラリマントってなんかあったよね?


その時、驚ているような表情をした加賀さんと目が合った。あ、そういえば俺が元帥の養子って秘密でしたね。


加賀さんの表情から感情が読み取れるのはレアかもしれない。


加賀「その、提督は…元帥の息子さんなのですか…?」


提督「違いますよ、多分勘違いしてるだけだと思います。」


俺は適当に誤魔化す、あとは親父が話を合わせてくれれば…


元帥「息子よ~、なんで避けッ」


提督「黙っとけッ!」


俺は親父を思い切り殴って黙らせる。加賀さんは固まっている。これは…驚いてるのか?


大和「はぁ…とりあえず、応接室に行っといてもらえる?提督君。」


提督「りょーかい。加賀さん行きましょう。」


俺は状況が理解不能といったように固まっている加賀さんの手を引いて応接室に向かった。







加賀「あの…先ほどのは…大丈夫なの?」


応接室で加賀さんが恐る恐るといったように聞いてくる。


ちなみに、移動中に俺に手を繋がれてるのに気づいたのか慌てて振りほどかれた。落ち込む。まぁ、少し照れ顔見れたので良しとしよう。


提督「とりあえず、深呼吸して落ち着きましょ?」


加賀さんはゆっくりと深呼吸をする。どうやら落ち着いたようだ。


提督「まぁ、簡単に言っちゃうと俺は元帥の養子でさっきの行動もなんら問題ないんです。」


加賀「そうだったのね…安心したわ。」


驚きすぎたのか、敬語が外れてしまっている。いいな、この喋り方。好き。


提督「驚かせてしまってすいません。あと、いつも敬語つけてますけど今みたいに外していいですよ。そっちの方が魅力的ですし。」


加賀さんは少し申し訳そうな顔をしていたが、魅力的と言われて少し恥ずかしそうに目を逸らす。


加賀「そう言われるのは初めてだわ…いつも、不愛想とか言われていたから。」


提督「いや、普通にいいと思いますよ。俺は。」


超本心だ。なんか単純に好き。その声でその口調を一生聞いていたい。これプロポーズだなおいおい。


加賀「それなら、あなたも敬語を外して欲しいわ。私だけ外すのは少し…」


提督「えっと…わかった。これでいいか?」


加賀「えぇ、ありがとう。」


元帥「いちゃついてんじゃねぇぞ~。」


そんなやり取りをしていると頬に湿布を貼った元帥が部屋に入ってきた。手にもけがをしているようだが大和さんにでもやられたんだろう。


提督「いちゃついてねぇよ。艦娘たちには俺があんたの息子って隠してるんだから気を付けてくれよ?」


元帥「あぁ、それに関しては大和に説教喰らったし以後気を付けるよ。」


元帥と一緒に入室してきた大和さんが無言で頷いている。大和さんが説教したなら俺から何かを言う必要は無いだろう。


提督「それで、今日来たのは少し真面目な話なんだ。これを見てくれ。」


俺はそう言ってPCをつけて中身を元帥と大和さんに見せる。途中で加賀さ…加賀に見たら後悔するかもしれないと言ったが、覚悟は出来てるわ。だそうだ。


そして、俺は三日のうちに鎮守府内で照らし合わせたデータなどを交えて話す。


それを聞いている二人は、表情が仕事モードになっていた。


提督「それで、この海域になにか異変があったりしないか?」


元帥「調べてみないことにはわからないな。大和、手の空いてる鎮守府に調査依頼を出しといてくれ。」


大和「わかりました。」


大和さんはそう言って部屋を出て行った。加賀は表情からはうまく読み取れないが、この話を聞いて何を考えているのだろうか。


元帥「それで、お前はどう考える。提督。」


不意に親父が俺に問う。親父の仕事モードは苦手だ、まるで知らない人のようだから。敬語になってしまうのもそのせいだ。


提督「俺は信じようと思います。前提督が精神崩壊の際に勝手に作り出した妄想という可能性も十分にありますが、事実だった場合かなり厄介ですから。」


元帥「俺と同じ意見だな。調査などは俺が任されよう。でも、もしなにかあった場合は作戦にお前も加わってもらう。それを肝に銘じて置け。」


俺は親父の真面目な顔に思わず息を呑む。そして首を縦に振った。


それを見た親父は表情を緩める。俺の知る親父の顔だ。


元帥「そんじゃ、昼飯にでもしようか。大和にラーメンでも作ってもらおう。」


そうして、四人で昼食を取るのだった。




元帥「そんで提督、誰か好きな艦娘は出来たのか?」


提督「なんでそんな修学旅行の夜みたいなテンションで息子が部下に恋してるか聞いてくんだよ。」


元帥「あ、でも大和は駄目だぞ?息子と嫁の容姿が同じとか複雑すぎてきついわ。」


大和「何言ってんですか!?まだ嫁じゃないですからね!?」


提督「まだ…?」


大和「余計なことは言わない。いい?提督君。」


提督「アッ、ハイ。サーセンシタ。」


元帥「んでどうなんだよ提督~。」


提督「てめぇは酔っ払いか。俺は…そうだなぁ、鹿島さんとか?」


そう言うと横の加賀さんに肘でつつかれる。え?なに?加賀って俺のこと好きなの?いや、落ち着け。勘違い駄目絶対。


元帥「鹿島かぁ、確かにお前好きそうだな年上の優しいお姉さんタイプ。」


何故か再度加賀さんが肘で俺をつつく。どうしたのさね。


提督「人の性癖を口に出すなクソ親父。もういいわ、俺大和さんと結婚する。」


大和「ん?私?それじゃ、式はいつ上げよっか。」


元帥「息子に嫁取られるとかどんな状況だよ!」


大和「だから私まだ結婚してませんって!!!」


そんなやり取りをしながら昼食を食べる。加賀は表情が変わらんから何考えてるかわからなかった。まぁ、少し笑っていた気もしたが気のせいだろう。


その後、少し休憩を挟んで。俺たちは再度車で移動するのだった。




着いたのは大きな建物、前提督が収容されている場所だ。


俺は車から降りながら前提督という男を思い浮かべる。彼女たちを傷つけた張本人。目の前で妻子を失った男。


加賀「ここで、何をするのかしら?」


加賀が俺に聞く。真実を告げるべきだろうか。俺は迷ってしまう。


元帥「前提督に会い行くのさ、こいつが会いたいって言うからな。」


加賀の表情が強張るのがわかる。拳も強く握られている。それは恐怖から来るものか、それとも怒りからか。


俺たちは無言で室内を進んでいった。


そして、面会室の前に到着する。前提督はもう中にいるらしい。


どんな男なのだろうか。どんな顔をしているのだろうか。


元帥「提督、ここからはお前ひとりだ。行ってこい。」


提督「おう。」


俺は適当に返し部屋に入る。チラッと見えた加賀の顔は俺でもわかるほどにナニカが渦巻いていた。


室内に入り、椅子に腰かける。そうすることで無意識に視界から外していた前提督の姿が目のまえにくる。


俺は思わず体から力が抜けてしまった。想像と違いすぎる。


身長は俺より低く、体格も全然しっかりしていない。表情からは生気を感じれずまるで廃人のような…


いや、これはもう…廃人じゃないか。


提督「初めまして、前提督さん。俺はあなたの鎮守府を継いだ提督といいます。」


前提督「………」


返事は無い、それどころか聞いているのかすらわからない。目もうつろなままだ。大淀さんが少し後ろめたそうだったのはこれが理由か。


俺には彼に言葉が届くかわからない。でも、一方的にでも話すしかないだろう。


その時、前提督が口を開いた。


前提督「仇を…仇を討たなきゃ…」


彼のその言葉が物語る、すべての元凶。深海棲艦と人間の敵、それを実感させる一言。


これは恐らく無意識に口から出た言葉だろう。なんの意図もない決意を音にしただけ。


提督「俺はあなたのPCを見ました。情報提供には感謝しています。しかし、あなたが艦娘にした行為を俺は許さない。」


提督「だから、俺はあなたが追い続けた敵を倒します。でも、勘違いしないでください。」


提督「俺はあなたの仇を討つんでもあなたのために敵を倒すわけじゃない。それだけは覚えといてください。それを言うためにここに来ました。」


提督「それがきっと、艦娘や海軍のためになると思うから。だから……あなたはもう休んでいてください。」


俺はそう言い部屋から出ようとする。去り際にありがとうと聞こえた気がしたが空耳だろう。俺は礼を受けるようなことはしないのだから。


部屋から出る。そこに加賀と大和さんの姿は無く、親父が一人で待っていた。


元帥「ほれ、一服どうだ?」


親父はそう言って俺に煙草を差し出したのだった。


気のせいだろうか、その時の親父の表情が酷く弱々しく見えたのは。




元帥「ふぅー…」


親父と共に外に出て煙草を吸う。加賀と大和さんは待合室にいるらしい。


提督「親父は煙草辞めたんじゃなかったのか?」


元帥「はは、初恋の相手にやめろって言われたんだがな…まぁ、こんな日くらい許してくれるだろうよ。」


そう言う親父の背中は小さいものに見えた。


元帥「なぁ、前提督と話して何を思った。」


提督「話すっつうか、人形にでも話しかけている気分だったよ。」


元帥「悪くない例えだな。それでお前ならどうする?前提督の罪を許すか?」


提督「許さないさ。許しちゃいけない。それを気付かせたのは親父だろ?何をいまさら。」


元帥「あぁ、でも前提督は責任なんてとれる状況じゃない。ならその罪を被るべきは…」


ここで俺は親父がなにを考えているのか理解する。なるほど、あんたが考えそうなことだ。


提督「逃げんのか?責任取って元帥辞めるとでも言って?」


元帥は俺の顔を見たまま何も言わない。なら言いたいことを言うとしよう。


提督「親父の考えそうなことだよな。どうせ前提督の罪の元凶は俺だとか考えてんだろ?何年そのアホ面見て育ったと思ってんだよ。」


元帥「流石だな。だが、逃げるってのは違う。俺は責任を取って…」


提督「それじゃ前提督と同じじゃねえか。全部誰かに押し付けて自分は隠居生活?全部忘れて廃人になるのとなんら変わらねぇだろ。」


元帥「今の発言は撤回しろよ。俺はこれでも元帥だぞ?お前の首なんて一言で飛ばせる。」


こっわ。親父にこんな脅迫される息子とかめったにいねぇだろ。でもまぁ、俺は弱気な親父は嫌いだ。


提督「へぇ?今から捨てるとか言ってる地位を使って脅迫とは面白い話ですねぇ元帥殿?吹雪さんだっけ?彼女が泣いてるぜ。」


元帥「いくらお前でも気易く彼女を罵倒しようってんなら許さねぇぞ。」


そう言って親父は俺の胸ぐらを掴む。ビンゴ、吹雪さんが親父のウィークポイントで間違いないらしい。


さて、今回ばっかは奇跡的な助けなんてもんは無いだろう。発言には気をつけないとな。


提督「親父の方がさっきから吹雪さんのことわかってないだろ。」


元帥「会ったこともないお前に何がわかんだよ。」


提督「いつもの下の責任を取るのは上の人間ってのは吹雪さんの言ったことなんだろ?」


親父は何も言わない。でも、その表情を見ればあっているのだとすぐにわかる。


提督「確かに、俺は会ったことないから見当違いのこと言うかもしれない。だがな。」


提督「その言葉は上が下の責任取るんじゃなくてどうにかしてやれって意味じゃねぇのかよ。そういうあんたが吹雪さんは好きだったんじゃないのかよッ」


俺の台詞を聞いた親父の胸ぐらを掴む手の力が弱まる。俺はその瞬間に思い切り親父を殴る。力をこめた瞬間に思い切り左足の傷が痛む。


ホゲェェェ、相変わらずいってぇなぁ…泣きそう。


元帥「なら、どうしろってんだよッお前は何も知らねぇだろうがよッ」


起き上がりながら親父が叫び俺を殴る。右足で踏ん張り、左足を痛みを覚悟で踏み込み再度殴り返す。


提督「俺が知ってるあんたはどんな時でも笑顔でどうにかしてただろうがよッ」


親父もムキになっているのか殴り返してくる。包帯グルグルの息子を殴る親!何て大人げない光景だ!


元帥「俺はそんなに強くねぇよッ裏でいっつも泣いてたさッそんな情けないのが俺なんだよッかっこつけてただけだッ」


痛いよぉぉぉぉぉぉおぉぉぉ、泣きそう。てか、若干痛みで涙出てきた。それでも殴る。


提督「そんなの知らねぇなッ勝手にカッコつけてたんだったら最後までかっこいいクソ親父でいやがれッ」


そして、親父が倒れる。やったぜ、怪我したまま勝った…俺の勝ちだァ!違う違う、本題から逸れてるわこれ。


元帥「親父を殴るなんてそんな育て方した覚えはねぇぞ。クソ息子。」


提督「なら育て方間違ったんじゃねぇの。クソ親父。」


俺の返しを聞いて倒れたまま親父が笑いだす。自嘲するかのように静かに。


元帥「ありがとうな、吹っ切れた。今日はどうしても弱気になっちまってな。」


俺にはその今日の意味はよくわかる。毎年今日は親父が弱い、去年も一日中海を見ていたのを覚えている。


提督「んで?どうすんだ元帥を俺に譲って隠居すんの?俺海軍滅ぼすよ?」


元帥「そんなんしたらお前間違いなく暗殺されるわ。お前がしっかりするまでは…俺も頑張るとするさ。」


提督「じゃあ、永遠に無理だな。加賀の胸見て幸せな気分になるようなやつがしっかりすることは無いだろうさ。」


そう言いながら親父に手を差し出し、起き上がろうとした瞬間手を放す。親父はまた倒れる。ザマァww


振り向くと、加賀と大和さんがいた。そして、加賀が俺を睨みながら近づいてきたと思ったら、不意に変態と言いながら頬を叩かれ、俺は親父の横に倒れ込むのだった。


俺と親父は二人顔を向き合わせ。笑いあったのだった。七月七日の夕暮れはとても美しいものだった。









大和「なんで男ってこう、肉体言語でしかわかりあえないんですかね…」


俺は加賀に、親父は大和さんに手当てされている。


ちなみにあの後、俺は加賀に素直に謝りました。怒っては無いわ。なんて真顔で言われたが怒ってるようにしか見えなかった!


元帥「そっちのがなにかと心に伝わるもんがあるんだよ。」


元帥が笑いながら言う。しかし大和さんに頭を思い切り叩かれる。


大和「二人とも万全ならともかく提督君はあんな傷だらけなんですよ?それを殴るなんて全く。」


元帥「あ、あの傷にしみるんでもう少し優し…いたたたたた痛い!」


加賀「提督も提督でそんな傷で無理しないで欲しいものね。」


そんな二人を見ていると加賀が話しかけてくる。


提督「えーっと、考えとく。」


俺の曖昧な返事に加賀が傷口に消毒液を大袈裟につける。傷口にしみこませるように。


提督「痛い痛い痛い!加賀優しくして!お願い!」


どうでもいいけど優しくしてって台詞エロいよね。痛い痛いいったい!


加賀「無理しないと約束するの?」


提督「はい、約束します!なのでもうちょっと痛くなくしてくれ!」


加賀はそれを聞いて手当てを普通にしてくれる。


加賀「全く心配する身にもなって欲しいわね。」


俺は加賀の小声のデレを聞こえないふりをした。心配するのが辛いのは重々知っている。


だって、俺はそれが嫌だからどんな問題も解決したくなるのだから。


提督「んで?クソ元帥。この後の予定は?」


元帥「あぁ、鎮守府に戻んねえとな。俺の隠居計画はお前にぶち壊されたし仕事しなきゃいけないんでな。」


提督「んじゃ俺は帰るわ。」


元帥「あぁ、お前の鎮守府に送ってから帰るとしよう。まぁあれだ…」


提督「気持ち悪いから改まってお礼とか言うなよクソ親父。あんたには借りがありすぎるんだ俺は。」


親父は無言で俺に笑顔を向けた。俺も気まぐれでその笑顔に変顔を返したのだった。


その後、車で鎮守府付近の大通りで下ろしてもらい元帥と大和さんと別れる。


車内で槇原敬之が流れていたが、大和さんの趣味だろう。俺もNo,1とか好きだよ。


鎮守府までの道のりを加賀と歩く。俺は不意に加賀に思ったことを聞いてみる。


提督「なぁ、加賀。お前は俺を好きか?」


加賀「その、恋愛対象とするには…少し早いと思うわ…まだお互い知らないことが多いし…」


加賀のぎこちない返答で俺は質問の仕方が悪かったなと思い、言い直す。


提督「そうじゃなくて、提督としてって意味でな?」


加賀「紛らわしい言い方をしないで欲しいものね…」


なんか睨まれた…なんでさぁ…


加賀「提督としては尊敬も感謝もしているわ。上官として好意を抱いていると言って間違いないわね。」


提督「そっか。なら、安心したよ。」


そうして俺と加賀は、俺たちの鎮守府へと帰るのであった。








瑞鶴「ちょっと!どうしたのよその怪我!」


鹿島「大丈夫ですか…?提督さん。」


執務室に戻ると、瑞鶴と鹿島さんが部屋の前にいた。二人とも俺の増えたけがに気づいたのか声をかけてくる。


提督「ははは、ちょっと転んでな。」


瑞鶴「たかが転んだ程度でそんなに顔に傷ができるわけないじゃない!一航戦は何してたのよ!」


瑞鶴がそう言って加賀に詰め寄る。元帥と殴り合ったとも言えんしどうしよっかなぁ。


鹿島「痛そう…本当に大丈夫ですか?」


鹿島さんは俺の傷を近くで見て本当に心配といった顔をしている。結婚しよう。そうしよう。


とはいえ、ここで求婚しても惨敗KO待ったなしなのでやめよう。


提督「心配かけてすいません。でも、大丈夫ですよ。」


そう、主にあなたの笑顔があればね。そして俺は後ろから聞こえてくる声に気づく。


瑞鶴「なにが提督の安全を保障するよ、一航戦の名が泣くわね。」


加賀「言い返す言葉もないわ…」


提督「おい、瑞鶴。加賀はなんも悪く無いんだそう責めないでやってくれ。」


瑞鶴「……一航戦も呼び捨てするんだ。はい、これ。」


瑞鶴はなにかを小声で言った後、俺に書類を強引に渡しいなくなってしまった。


あいつ本当に何考えてるかわかんねぇわ。まぁ、いっか。


提督「とりあえず、鹿島さん演習について報告してもらっていいですか?」


とりあえず、俺はそう言い執務室に入った。



執務室で鹿島さんと二人きり。グへへ…これは、いいシチュエーション…


まぁ、手を出す勇気もなにも無いんですけどね。


ちなみに、加賀には疲れてるだろうし休んでおいてくれと言ってある。親父に関しても口止めしておいた。


鹿島「演習自体は問題なく完遂しました。途中で翔鶴さんが転倒するというハプニングもありましたが終盤には問題なく隊列を組めていたので問題ないかと。」


提督「わかりました。練度などに関しては後に確認しておきます。怪我をした子は?」


鹿島「いません、ただ艤装の調子が悪いとかで陽炎ちゃんの艤装を今明石さんに修理をお願いしています。」


提督「報告ありがとうございます。約束が果たせてよかったです。」


鹿島「はい♪忘れないでいてくれて嬉しかったです。」


提督「いえいえ、鹿島さんとの約束は絶対に忘れませんよ。」


死んでも忘れない。絶対に…多分…恐らく…


鹿島「ふふふ、嬉しいです。ところで提督、私には敬語のままなんですか?」


提督「ん?外していいんですか?」


鹿島「はい、というか皆それを望んでると思いますよ。」


長門もそう言っていたが、鹿島さんが言うなら事実なのだろう。嘘でも信じるまである。


提督「そうか、じゃあこれからは外すとしよう。ありがとな鹿島。」


鹿島「はい!それでは今日私は食事当番なのでそろそろ行きますね。」


鹿島はそう言って執務室を後にした。最高だ…あの存在がもはや鎮痛剤と言ってもいいだろう。


俺は久々に感じる一人の時間の中、外の景色を眺めていた。







傷をかばいながら入浴し、夕食も済ませた。


まぁ、色々あったけど大して痛くなかったなと一人きりの執務室で一日を振り返る。


加賀に元帥との関係がバレたのは少々問題だが、彼女は言いふらしたりすることは無いだろう。


親父のあんな情けない姿を見るのは久々だったが、立ち直るのだけは早い男だしこっちも大丈夫だろう。


提督「今日も一日お疲れさまでしたっと。」


龍田「そうねぇ、お疲れ様。」


あえて口に出してみる。そうすると一日の終わりを実感するうえ、なにか返事がした気までする。


ん?返事?


俺は慌てて振り返る、そこには龍田さんがいた。


提督「え、えっと、いつからいらっしゃいました…?」


龍田「酷いこと言うのねぇ?ずっと、後ろにいたわよぉ?」


この人絶対暗殺者かなんかだろと思いながら一度心を落ち着ける。鹿島の笑顔を思い出せ…なんか空も飛べる気がしてきた…


提督「それで、なにか御用ですか?」


龍田「御用というかぁ、報告かしらねぇ?」


提督「報告?」


龍田「えぇ、食堂に急いだほうがいいんじゃないかしらぁ?」


俺はそのセリフを聞いて気づく、龍田さんが単独行動していることに。


天龍さんと龍田さんの一件後も空母による監視は続いていたはず…そして今の言い方…


提督「なにかしたんですか…?」


龍田「さぁ、どうでしょうねぇ?」


俺はそのセリフに返事をせず、食堂に走ったのだった。







赤城「てーとくー、てーとくも飲みましょーよー」


食堂に着いた俺は、絡まれていた。酔っ払いに。正しくは酔っ払いたちに。


瑞鶴「ちょっとぉ、赤城さん近すぎですよ。てーとくさーん」


近いのはお前だ俺にすり寄るな。離れろ、ナイファーに興味は無い。


翔鶴「ふぇぇぇぇえん、演習で失敗したぁ」


翔鶴さんの泣き顔は新鮮なので写メっとこ。どうやら泣き上戸らしい。待ち受けに設定しとこっと。


加賀「…………」


加賀さんは無言で飲んでる。でも、微妙に顔赤いし助け船は無さそうだ。


提督「龍田さん、これどうしてこうなったんですかね。」


龍田「最初は瑞鶴ちゃんが飲みだしてねぇ。五航戦には負けられないとかで加賀さんと赤城さんも飲みだしちゃってねぇ。」


龍田「それで、最終的に皆集まって飲みだしたのよぉ。」


確かに、明日は特に演習も出撃もない。てか、俺も休みだ。


現状、海軍では鎮守府の数もかなり増えたのでそれぞれで防衛エリア、つまり担当が決まっている。


それがどこかの鎮守府が休暇に入る場合、何個かの鎮守府でエリアを拡大し隙を無くすことで補っているのだ。


瑞鶴「ねーえー。私のこと見てよー龍田さんとばっか話しててずーるーいー。」


瑞鶴はそう言って無い胸を押し付けるように抱き着いてくる。畜生、こんなやつにドキッとする自分が憎い。


加賀「五航戦、惨めなものね。提督が迷惑がっているわ、離れなさい。」


どうやら、加賀は酒に酔っているわけでは無いらしい。助かった、瑞鶴は加賀に任せていいだろう。


加賀「それに、そこは…私の場所よ。」


そう思ってた時期が俺にもありました。突然加賀が俺に正面から抱き着いてきたのだ。


我、夜戦に突入す。いや、駄目だ、いくらなんでも酔ってる相手を押し倒すのはアカン。


現状、右に瑞鶴。正面に加賀。なんだこりゃ合体ロボかなんかか。とりあえず収まれ俺の股間。合体ロボにそのパーツは無い。


とりあえず俺は加賀を強く抱きしめ周囲を見る。強く抱きしめる意味?細かいことは気にすんな。


奥の方ではなんか天龍さんが駆逐艦と戯れてる。あれ?駆逐の子も顔赤いけど法律的にどうなの?


すげぇ、朝潮が片手で逆立ちしながらもう片方の手でで皿を指の上で回している。別に裏返ってるスカートの下とか見てないんだからね!


てか、なんであんなことできるのに掃除できないのあの子。


とりあえず、このままでは俺の理性が飛ぶので加賀に離れてもらわねば。


提督「落ち着け加賀、お前それ絶対記憶残ってたら後で後悔するやつだぞ。」


加賀「スー…スー…」


あれ?寝てない?この人。寝てるくせにこんながっしり抱き着いてんのかこれ!?


俺は助けを求める視線で後ろを見る。そこに龍田さんの姿は無かった。次回、俺の理性死すッ!


って待て待て、もうちょい頑張れ俺の理性。そんなことを考えていると今度は左になにかがくっつく。


赤城「加賀さんは呼び捨てなんですかー?私だけなんでさんづけなんですかー」


さよなら理性。お前はいいやつだったよ。こんなの正面と左から押し付けられて理性が持つ奴なんているか畜生。


待て待て待て、ここ駆逐艦いるから絶対だめだ。頑張れマイ理性。


提督「えっと、今日話してる時に敬語外して欲しいって言われてですね…」


赤城「それじゃぁ私にも外してくださいよ~」


顔が近い、キスするか?いや、そんな選択肢ねぇよ馬鹿野郎。


提督「わかった、わかったから離れてくれ赤城…頼むから!」


赤城「瑞鶴さんや加賀さんはいいのに私は抱き着いちゃ駄目なんですかぁ?」


赤城が不満そうに言う。瑞鶴が右で不敵な笑い方してる。怖いぞお前。


提督「違う違う、赤城はなんだそのあれだ…魅力的っつうか俺が耐えられないんだよ色々!」


赤城「へっ…わ、わかりました…」


赤城が俺の台詞を聞いて少し恥ずかしそうに身を引く。よく耐えたぞ理性、褒めて遣わす。


瑞鶴「へぇ?それじゃぁ、私は魅力的じゃないって言うんだぁ?」


加賀「頭に来ました。」


瑞鶴と寝てたはずの加賀が言う。第二ラウンドファイッ!連戦だが耐えてくれよ理性。


提督「加賀に関してはどう考えても魅力にあふれてんだろ。だから離れてくれ!」


加賀「……わかりました。」


加賀は満足そうにそう言って離れる。いいぞ、物分かりがいい子は好きだ。問題は右のやつに加賀がどや顔をかましたところか。


瑞鶴「ねーえ、私はー?私はどうなのー?」


俺は人の容姿は正直な意見が一番だと思っている。だからあえて言おう!


提督「…巨乳だけが正義じゃないって、そう思わないか?」


俺は出来る中で最高の決め顔でそう言った。結果はもちろんぶん殴られた。


そのまま、上に乗られる。これが騎乗、ゲフンゲフン…


瑞鶴「なによ…私だって好きで小さいわけじゃないもん…」


瑞鶴は悲しそうに言う。やっべこれ俺地雷踏んでたパターンだ。もはや地雷にスカイダイビングした次元だわ。


やべぇ、このままだとナイフが出てくる!何か言わないと!


提督「瑞鶴!」


瑞鶴「え、ひゃ、ひゃい!」


俺は体を起こし瑞鶴の両肩を掴んで名を呼ぶ。瑞鶴は顔赤くしてる、なんつうかちょっと可愛い。


さて、何を言うべきか。考えてなかったテヘッ☆じゃすまないよね、この状況。ならあれだ思ってることを言おう。


提督「その、なんだ、俺は彼女にするなら貧乳のほうがいいと思ってるぞ!」


俺は瑞鶴の目を見つめて言う。


直後、みるみる瑞鶴の顔が赤くなっていき俺は再度ぶん殴られた。


痛い、今日何回殴られるんだ俺は…


そして、瑞鶴は翔鶴のほうへ行ってしまったのだった。加賀たちは自分の胸を見ている。


余談だが、飲み会があったら酒に弱いふりをしておくことをお勧めしよう。


理性があると、立て替え役にされたり絡まれたりする上、後片付け押し付けられるのであまり酒に強いアピールも推奨しない。


だからといって実際に酒に飲まれてはいけない。財布抜かれんのとか普通にあるからね。気を付けてね新社会人の皆さん。


てか、どうでもいいけど俺今回なんも悪くなくない?


長門「大丈夫か…?」


そんなことを考えていると、長門と陸奥に声をかけられるのだった。







長門「ははは、それは災難だったな。」


提督「流石に勘弁だわ、俺も酔った相手のいなし方なんて知らないからな。」


陸奥「提督は女性経験少なそうだものね。」


提督「ほっとけ。」


間宮「本当にすいません…」


鹿島「間宮さんは悪くないと思いますよ…?」


間宮さんが申し訳ない取ったように謝る。ここは執務室、長門と陸奥に誘われ酒を飲んでいる。


その途中で、間宮さんが謝罪しに来たというわけだ。その後、鹿島も執務室に来たので一緒に飲もうと誘ってこのメンツになった。


間宮さんの謝罪の理由は、自分が少し目を離している間にあの惨状が出来上がったことについてだった。


詳しく聞いたところ、倉庫に食材の確認に行くため酒の場所を瑞鶴に教えたところ皆がどんどん取っていってあぁなったのだと言う。


提督「どう考えても勝手に飲んで潰れた連中が悪いですから、気にしないでください間宮さん。」


俺も鹿島に続いてフォローに入る。


間宮「そう言ってもらえると助かります。でも、このような事態を再発させないよう気をつけますね。」


間宮さんは口ではそう言うが、表情は暗い。失敗を気に病んじゃうタイプのようだ。


陸奥「でも、本当に女性経験少ないの?提督は。」


陸奥が嫌な空気を晴らそうと思ったのか、そんなことを聞いてくる。


提督「ほ っ と け 。」


俺は強調するように言う。まぁ、ここで暗い話をするのもあれだしな。


陸奥「ふーん?お姉さんが練習に付き合ってあげようかと思ったんだけどなぁ?」


陸奥がそんなことを言う。そのセリフで鹿島さんと間宮さんが赤くなっている、可愛い。


何が問題かってこの人酔ってんのか酔って無いのかわかんないんだよね。だって雰囲気エッチだし。素でも言いそう。


でもまぁ、俺も酒が回ってるので少し乗ってみよう。受け身だとさっきみたいになるしね。酔うとエロ耐性が上がるのだ俺は。


提督「じゃあ、このあと俺の部屋来るか?」


陸奥「へ!?」


提督「冗談だよ。」


長門「ヴァージンのくせにそう言うこと言うからだぞ陸奥。」


長門がおかしそうに笑いながら言う。


陸奥「な!?この!変なこと言わないでよ長門だってまだなんでしょ!」


長門「あぁ、そうだがなにか問題あるか?」


なんか二人で絡み合いながら喧嘩してる。とりあえず、さっきの一件があったため俺の理性は今最強なので特に何も思わない。


やっぱ、胸が最強っすね。思い出したら鼻血出そう…どうどうマイ理性。


とりあえず、間宮さんと鹿島さんがこの会話を聞いて真っ赤になってるので止めるとしよう。


提督「酒で気分が上がるのはわかるけどそういう会話は程々にな。」


長門と陸奥はそのセリフを聞いて二人とも元居た位置に座りなおす。


このとうり、長門と陸奥もなんだかんだでうまくやってるらしい。それに関しては良かった。


それからしばらく会話しながら飲んだ。結果、俺以外全員寝た。マジかよ。


途中で鹿島が私はエロくなんかないですもん!何て叫びながら服を脱ごうとしたり、間宮さんが私には料理しかないんですとか病みだしたりしたがなんとかなった。


鹿島に関しては言動と行動が真逆だしな。見たかったです、はい。止めたけど。


ちなみに、最後まで耐えていたのは長門だったが襲うなよ?なんて言って寝てしまった。


逆に襲われそうなほどイケメンだった。怖い、怖い。


現時刻はマルマルマルマル。結構いい時間だ。俺は執務室のソファで寝るメンツに緊急用の毛布を掛け胸を凝視してから執務室を後にした。


もちろん、一番見たのは鹿島です。現場からは以上です。




廊下に出た俺は執務室の横の自室ではなく食堂に向かう。


先程のメンツがどうなっているのか確認するのと、駆逐艦の子たちが心配だったからだ。


その時、ふと後ろに誰かの気配を感じた。はっはっは、どうせ龍田あたりだろう。


しかし、振り向いても誰もいなかった。え???幽霊さん???


川内「提督、上だよ上。」


俺は声の聞こえた上の方を見ると、天井に張り付く川内がいた。


提督「何やってんのさ。」


川内「散歩してたら足音が聞こえて隠れただけだよ。」


なんで隠れるんだ?日本人ってみんなニンジャってのは本当だったのか?いや、俺も日本人だけど。


川内「夜はいいよねぇ夜は。」


俺がそんなことを考えていると川内が言う。


提督「確かに俺も夜は好きだな。月明かりが綺麗だし海もその光で映える。」


正しくは、そこに佇む美人が好きなのだが台無しになるのであえて言わない。実際窓から差し込む月明かりに照らされた川内は綺麗に見える。


ん?待てよ?つまり今俺もイケメン度七割増しなのでは…?元がブスだから意味無いですね…


川内「おお、提督も夜の魅力がわかる人だったの!これは嬉しい発見だよ!」


提督「あとはなによりあれだな、仕事しないで済む時間だからな。」


川内「なんかそれは微妙だなぁ…ところで、こんな時間にどうしたの?」


提督「あぁ、酒で潰れてるメンツが心配でな。」


川内「…あぁ、なるほどね、私も手伝うよ。」


提督「そうか?ありがとな。」


そうして、俺と状況を理解したらしい川内は食堂に向かった。




山城「なんで私はともかく姉さまがこんなこと…」


時雨「まぁまぁ、山城。そう言わずに。これで風邪ひいたら可哀そうじゃないか。扶桑さんもそう思うだろう?」


扶桑「そうね時雨。それに山城?いいことをすればいずれ巡り巡って返ってくるのよ。きっと…そう、きっと…」


食堂に着くと、三人が寝ている皆に毛布を掛けている最中だった。


提督「やぁ、もしよければお手伝いしてもいいですか?」


俺は三人に話しかける。三人とも俺と川内に気づいたようだ。


扶桑「あら?どうされたんですか?提督。」


提督「いえ、こうなっているんじゃないかって思って俺と川内も布団でもかけてやろうかなと思いまして。」


俺は座って寝てたり壁にもたれかかって寝てる集団を見ながら言う。パーティー後かよ…


扶桑「そうでしたか、では空母の方々に布団をかけてあげてもらっても?」


提督「わかりました。やろうぜ、川内。」


川内「おっけー。」


そうして、布団をかける作業をする。金剛姉妹や陽炎たちも寝ているようだ、不知火涎垂らしてるし。


さて、俺は赤城と加賀に布団をかける。寝てるんだし顔をうずめても…とか一瞬思ったが、後方から山城さんの視線を感じてやめておいた。


いや、視線で殺されるかと思ったわ。真のハンターは目で殺すって本当だったのね。


瑞鶴にも布団をかけてやる。こいつ黙ってりゃ可愛いのにね。勿体ないやつですよ本当に。


飛龍さんや蒼龍さんには川内がかけてくれたようなので最後に翔鶴に布団をかけてやる。


目に涙が溜まっていたので指で軽く拭ってやる。やっべなにこれ癖になりそう。彼氏っぽくない?それっぽくない?


まぁ、とにかく全員に布団をかけ終え時雨に話しかける。


提督「時雨たちは飲まなかったのか?」


時雨「僕たちはさっきまで部屋で雑談してたんだ。それで部屋に夕立がいなくて二人に一緒に探しに来てもらったらこうなってたのさ。」


提督「なるほどな。」


扶桑「お手伝いありがとうございます、提督。」


山城「なんか怪しい動きしてた気もしますけどね…」


時雨と話していると、山城さんと扶桑さんも話しかけてきた。


提督「いえいえ、本来俺の仕事ですしね。こちらこそありがとうございます。」


山城さんの視線が痛い。変なこと考えるんじゃなかった!


とりあえず俺は誤魔化した後、四人と別れ自室に向かう。


自室に戻り、ベッドに飛びこみ前提督と未知の敵について考えていた。夢はなんかよくわからない短髪の女の子に追われる夢でした。まる








日差しが窓から降り注ぐ。いつのまにか眠ってしまっていたようだ。


毎朝、今までのことは夢なんじゃないかと思うが左手の包帯が夢じゃないことを物語る。


そして俺は朝の支度をするのであった。胸の内にある決意を抱いて。


今日は休日だ。休みだ。最高だ。ずっと寝てたい。


とはいえ、そういうわけにはいかない。今日俺は大人の階段を上るのだ。


そのために早起きをしたのだ。現在時刻はマルロクマルマル。対象の行動予測時間まで十五分だ。


俺は物音を立てないように廊下を移動する。勘違いされそうだが別に寝起きドッキリとかはしない。ドアに鍵は無いので出来ないことも無いけど。


これはあるナイファーを避けつつ美少女とのデートを執り行う作戦である。


俺はナイファーの部屋の付近の物陰に隠れる。完璧だ…俺のスニークスキルに惚れ惚れするぜ…


部屋からナイファーが出ていくのを確認して、部屋のドアをノックする。ちなみにナイファーは俺を起こしに行ったはずだ。まぁ、俺はここにいるわけだが。


翔鶴「はーい、こんな時間にどなたですか?」


翔鶴がそう言い、扉を開ける。目をこする動作が可愛い。超可愛い。


提督「おはよう、翔鶴。」


翔鶴「え!?提督!?いやだ、私ったらすっぴんで…」


翔鶴は慌ててドアを閉めようとする。ぶっちゃけすっぴんでも可愛いぜ…口に出す甲斐性は無いけどな!


俺はドアを閉めさせないよう抵抗しながら考えていた言葉を口に出す。


提督「翔鶴、俺とデートしないか?」


そうだ、いきなりデートに誘っては翔鶴に拒否されるかもしれない。なら、娯楽室に置くものの買い物ということに…


あれ、俺今何て言った…?なんか盛大に間違った気がする。


翔鶴「そ、その、今日ですか…?」


翔鶴が赤くなりながら問い返してくる。俺も頬が熱い!あぁ、燃える!燃えねぇけど!


提督「あ、いや、その、今日娯楽室に置くボードゲームとかを買いに行くんだが…一緒にどうかなって思ってさ…」


カッコよく誘うつもりがいつもどうりのコミュ障を発揮した!オートスキルとか聞いてませんよ!


翔鶴「は、はい。そういうことでしたら…是非。でも、その今はすっぴんなので…」


翔鶴さんはそう言ってドアを閉める。やった…誘えた…満足だ、あとは折角の休日だし寝て過ごそう。


いや、待て誘った意味ないじゃんそれ。デートコースを考えるか…?いや、露骨なのは引かれるかもしれない。


なら、行き当たりばったりのほうがいいか…少しは調べておこう。そうしよう。


そう思って自室に向かおうと思い振り返る、そこには笑顔の瑞鶴がいた。


俺は瑞鶴の頭を笑顔で撫でて自室の方向に進む。後ろから鉄拳が飛んできたのは言うまでもない。


提督「いてぇ…」


最近どんどん体がボロボロになっていってる気がする。それに慣れ始めてる自分が怖い…マゾにはならんぞ…


瑞鶴「私が起こしに行ってあげてるのにその間に翔鶴姉にナンパするなんていい度胸じゃん。」


瑞鶴は見るからに不機嫌だ。頬が膨らんでるし。


さぁ、俺はどうする。1、逃げる 2、謝る 3、瑞鶴も誘う


3は無しだ…俺の休日が休日じゃなくなっちまう、それだけは避けねば。


提督「ごめんな、ちょっと翔鶴に買い物に付き合ってもらおうと思ってさ。」


瑞鶴「へぇ?デートとか言ってなかったっけ?さっき。」


この地獄耳が!耳栓すんぞごらぁ!なんとか誤魔化さないと。


提督「いや、実際のところは娯楽室に置くものを買いに行くだけなんだ。トランプだけじゃ…あれだろ?」


瑞鶴「へ~、じゃあ私も連れてってよ。」


あああああああああ、嫌じゃあああああああ。来るなアアアアア。とは口には出せない…


どうする、どうするんだ俺。考えろ考えろ考えろ…なんも思いつかねぇ☆


てか、思いついたものを脳内で試すと全てナイフに襲われる俺が見える。なにそれ怖い。


提督「あぁ、わかった。一緒に行くか。」


俺は涙を堪えながらそう答えたのだった。




現在時刻はマルハチマルマル。食堂で朝食を取っている。


瑞鶴にいじめられた後、執務室で寝ていたメンツと食堂のメンツを起こした。


陸奥と長門は手を出さなかったの?とかどっちが襲われるか賭けていたんだがなとか言ってたけど俺お縄になっちゃうから。


ちなみに、鹿島は二日酔いで現在自室で休養中です。


そして、目の前の二人が謝ってくる。


赤城「昨晩はご迷惑おかけして本当に申し訳ありませんでした…」


加賀「私も…反省しているわ…」


二人とも顔真っ赤にして謝っている。ほげぇ、可愛いよぉ。それにしても昨日…この二人が俺に抱き着いてたんだよな…


うっ、思い出すと鼻血が…落ち着け、鹿島の胸をって逆効果じゃねぇか!


提督「気にしないでくれ、誰にでも酒で失敗する経験なんてのはつきものだからな。」


赤城「うぅ…でも、私提督に抱き着くなんてこと…恥ずかしさで死にたいくらいです…」


加賀「赤城さん、私もよ。死ぬなら一緒に死ぬわ。」


提督「赤城はとりあえず落ち着いてくれ、加賀もそんな普通に心中を提案すんなって。」


俺はいろんな意味で荒ぶる二人を説得しながら朝食を済ませる。あの後、LINEのやり取りでヒトマルマルマルに門集合になっている。


俺が席を立とうとすると、加賀が声をかけてきた。


加賀「提督、今日はなにか用事はあったりするの?」


提督「あぁ、ちょっと瑞鶴と翔鶴に付き合ってもらってショッピングモールに買い物に行くことになってる。」


加賀「……そう、五航戦の子達と…それなら仕方ないわね。」


提督「仕方ないとは?」


赤城「加賀さんと私で昨日のお詫びに手伝えることがあるならって話してたんですけど、必要なさそうですからね。」


赤城が笑顔で捕捉してくれる。あーこの人誘えばよかった…ってかもう結婚したい。いや…俺には…鹿島が…まぁ、恋愛関係でもなんでもないけどね。


提督「詫びなんていらないさ、たまの休日くらいゆっくり体を休めてくれ。」


俺はそう言って席を立つ。そして食堂を出ようとした時だった。


漣「ご主人様~お願いがあるんですけど~」


俺はピンクの悪魔に捕まったのだった。ちなみに、星の〇ービィではない。




どうしてこうなった。俺の周りには一人の美人と美人の皮を被った貧乳ナイファーと四人の少女がいた。


ちなみに、全員私服だ。前に布団などと一緒に支給された衣服を着ているようだ。


潮「ごめんなさい提督…漣ちゃんが。」


俺の引きつった顔でなにかを察したらしい潮が左側を歩きながら声をかけてくる。


提督「潮が謝ることは無いさ。逆にお前はショッピングモール行ってみたいのか?」


潮「……はい。」


潮は少しの沈黙の後、恥ずかしそうに頷く。正直な子はかわええのぉ。


なぜこうなったか解説しよう。漣に捕まる→脅される→姉妹も一緒にショッピングモールに連れてくことに。


脅された内容は俺が昨日私を襲ったと叫びまわるとか言われました。多分それやられたら殺されちゃうよ俺…


ちなみに、瑞鶴と翔鶴には事情を話してある。二人は仲睦まじく話しております。畜生瑞鶴そこ変われェ!


現状、そんなよくわからんメンバーでショッピングモールに向かって歩いている。


漣「ぼのたんも良かったね~ショッピングモール行けて~」


曙「な、別に私は行きたいわけじゃないし!漣たちがおかしなことしないか監視に来ただけよ!てかぼのたん言うな!」


漣「ぼのたんは相変わらずツンデレですねぇ。でも、体は正直だったってね☆」


曙「な、変な言い方するんじゃないわよ!あれはただ少し興味があったってだけよ!」


漣「こちらに、先ほどショッピングモールに行けると聞いてそわそわしてたぼのたんの録画ファイルがありま~す☆」


曙「な、なに勝手に撮ってんのよ!この!渡しなさい!それとぼのたん言うな!」


漣「ご主人様からの愛のあるプレゼントはいくらぼのたんでもあげないぞ☆」


漣はスマホを奪おうとする曙から華麗に逃げ回る。器用なもんだ。ちなみに愛は無い。


朧「なんか、本当にごめんね。提督。」


俺の右側、潮の逆側を歩く朧がその光景を見て謝る。あぁ、本当だよ畜生めぇ!ってのが本音だが。潮と朧も被害者なのだ。


提督「気にしないでくれ、それに朧もショッピングモールには行ってみたいんだろう?」


朧「ん、まぁ興味はある。」


この反応は行ってみたいんだろう。まぁ、なんだかんだショッピングモールの近くにまで来ちまったし今更どうこう言ったところで意味無いんだけどね…


ちなみに、その辺はもう集まった時点で諦めてる。今度赤城と加賀のどっちかとデートしよ。そしてプロポーズしよう。待て待て飛躍しすぎだ俺。


問題は、これ俺が謎の子連れビッグダディに見えるとこだ。俺は割と老けて見えるのだ。


覚えとけ皆、雰囲気が大人とかってのは遠回しにおっさんという意味だ。んで、俺はまさに良くそう言われる。


だから多分、周りから見たら俺謎の超子連れお父さん。瑞鶴と翔鶴も二十歳くらいには見えても漣達ほどの娘がいるようには見えないだろう。


ショッピングモールで浴びさせられるだろう奇異な視線を予想し、ため息を吐きながら俺たち一行はショッピングモールに歩くのだった。




漣「おお!これが例のショッピングモールなんですな!」


漣が目を輝かせてそんなことを言う。


曙「ちょっと、恥ずかしいから騒がないでよ!」


曙が漣に注意する。俺と左右の二人はその光景を温かい目で見ている。


ちなみに、艦娘の容姿自体はあまり公にされていない。公表されてるのは一部だけだ。なのでこうして普通に外出しても大して問題ない。


まぁ、髪色に関しては目立つが今日日珍しくないだろう。


提督「んじゃ、とりあえず皆色々見たいと思うし自由時間にするか。迷子とかトラブルがあったらすぐに俺に連絡すること。」


提督「一回、ヒトニ―マルマルにここで集合にするか。それでいいか?」


俺がそう聞くと、漣が手をあげる。


提督「どうした?」


漣「ご主人様とのデートタイムを配分するべきかと!」


提督・曙・瑞鶴「はい?」


なんか三人でハモッタが気にしない。デートタイムとはなんぞ。


漣「つーまーりー、一定の時間だけご主人様と二人きりになれるってことですよ!」


瑞鶴「そんなの必要なくない?提督さんは待機しててもらってトラブル対応ってことで。」


なんだそりゃ、俺は保護者か?いや、状況的に間違って無いのか…悲しい、ピー〇ーパンになりたい。


漣「じゃあ、瑞鶴さんはいらないんですねOKです。潮はどうする?」


潮「へっ!?私は…その、少し欲しいかな…」


瑞鶴「なっ!別に要らないわけじゃないからね!その、私も提督さんと…二人きりに…雑用に使いたいんだから!」


瑞鶴が言う、途中声が小さくて聞き取れなかったが雑用とか言ってる時点でもっとひどい言い方でもしたんだろう。


漣「ふへへ、瑞鶴さんからぼのたんと同じ匂いがしますよぉ…グへへ。」


漣が不敵な笑みを浮かべる。なんか駆逐艦のイメージ俺間違ってるのかもしれない。


漣「それじゃ、最初は漣がご主人様のこともらいますね☆バイバーイ!」


提督「ほへ!?お、お、おおおおお。」


俺は急に手を引かれ、漣に誘拐されたのだった。







ー漣視点ー


私はまだこの人を信じ切れていない。そもそも接点が少ないのだから仕方ないと思う。


確かに、私たちに優しくしくれるし身を挺して艦娘を救ったなんて話も聞いた。


でも、私はそれを見ていない。噂だけで人を信頼できるほど楽に生きていない。


目のまえで姉妹が暴力を振るわれるのを見た。目の前で仲間が沈むのを見た。


幾度も自分の無力さを憎んだ。幾度も人間を憎んだ。


私はよく馬鹿だと思われるが、そんなことはない。これでも結構思慮深いのだ。


だからこそ、私は彼を見定めないといけない。そのために着いてきて強引に二人になれる状況を作った。


鎮守府だと人目のないところで二人きりになることになるので少し怖かったが、ここなら問題は無いはずだ。


漣「ご主人様は漣たちのことをどう思ってるんですかぁ~?」


彼はどう答えるだろうか、恐らく本心では思惑を妨害した私をうざいと思っているだろう。きっと、彼は瑞鶴さんと翔鶴さんだけを連れてきたかったのだろうから。


でも、本当のことは言わず嘘を吐くはずだ。私は嘘には敏感なのだ、と言ってもぼのたんを見てれば鍛えられるからだけど。


彼は少し困ったように考える。さぁ、どう答える。


提督「んー、可愛いと思ってるぞ。」


漣「は?」


思わず素で声が漏れる。可愛い?あぁ、私の言い方がおちゃらけてたからか。本気で言ってるように見えるのはきっと気のせいだろう。


漣「そうじゃないです、艦娘という存在をどう考えてますか?提督。」


私は真面目な顔と口調で聞く。彼は驚いた顔をしているがまたすぐに考えるようにする。


提督「んー、難しい話だが人間からしたらヒーローとかじゃないか?」


漣「ヒーロー?」


提督「だってさ、深海棲艦なんて化け物から守ってくれてるんだぜ?それでいて人間に仕えるとか普通逆だよな。」


提督「守ってもらってるくせに艦娘は危険とか言ってるやつらは頭がおかしいと思ってるよ。」


この人は本気で言っているように見える。今の世の中は、艦娘というのは人間の奴隷というようなイメージが強い。


艦娘は余り世間に出ていないので存在は知っていても、それこそ内陸の人間からしたら兵器でしかないのだ。


だからブラック鎮守府や、艦娘反対勢力が出てくる。そのため、彼のように言う人はめったにいないはずなのだが…


そんなことを彼はさも当然のように言う。


漣「なにいってるんですか?私たちは兵器ですよ~兵器に感謝するとかナンセンスです☆」


私はあえておちゃらけたように言う。動揺を察されてはいけない。


提督「なに言ってんだお前は。こんな自分勝手に動いて俺を脅迫しといて兵器とか笑わせんなよ。」


彼は少し怪訝そうな顔で言う。兵器じゃないなら私はなんなのだろう。ヒーローと言われてもいまいちわからない。


漣「なら私たちはなんなんです…?」


思わず口に出してしまう。すると、彼は私の頭を撫でながら言う。


提督「なんか小難しいこと考えてるみたいだけど、お前は艦娘なんだよ。人でも兵器でもないんだ。」


提督「別にそれでいいだろ。お前の考えてんのは人間が猿かチンパンジーかみたいな的外れなもんだよ。」









ー提督視点ー


どうしたのこの子。急に口調が変わったと思ったら黙って俺の顔をガン見してるぞ。


答え方に問題でもあっただろうか。猿とチンパンジー良い例えだと思ったんだけどなぁ。


キスでもするか?ここでやったら通報されんな。まぁ、声かけてみるか。