2018-09-05 23:09:51 更新

概要

提督さんと、ある鎮守府のおはなし


前書き

初めましての方は初めまして! クソ文才たくちゃんでございます!
今回は初めて地の文というやつを使わせていただきました
多分色々と稚拙な所あると思いますが甘く見てくださるとありがたい・・・






「…ここは………?」



目を覚ますと、謎の部屋にいた

こんな部屋は心当たりがなかった



自分の名前は思い出せる

幼少期の記憶もある

だが、ある辺りからの記憶だけがない

いや、記憶がないというのは正確ではない

あるにはあるのだが、靄がかかったように見ることができない

…所謂記憶喪失だろうか?

ひとまず、自分について、探ることにした










服装を見る

とりあえず自分のことを思い出すために自分の姿を見てみる

どうやら自分は、真っ白な服を着ているようだ




手足を見る

左手の薬指には指輪がはめられていた

あぁなるほど、俺は既婚者らしい



体を見る  

手はかなり繊細で、重労働にはあまり向いていなさそうだ

だが、体の感覚として、筋肉はそれなりについているように感じる




被っていた帽子を取って見ると…なるほど理解した これは提督業を営む者の帽子だ

つまり自分は所謂提督というやつだったらしい




ポケットの中身をすべてひっくり返す

何もない




「…やっぱり思い出せないか」

これが、今できる自分についてのすべてだった

それでも何も思い出せないということはまぁ、今は諦めるしかないのだろう














自分の正体がわからないとすれば、次にやることは一つしかない

この空間について調べることだ



とはいっても、ここにいても知りえる情報はほとんどない

床はフローリング

壁はよくある白色の壁

いくつかの家具

しかしその中に中身は一切ない

ただ一つだけ、目の前に扉がある




「…仕方ないか」

そう言って、とりあえず、扉を開ける




そこは、知らない廊下につながっていた

「…まぁ、この部屋にいても何もないし…」




「外に出て、歩き回ってみるか」

そう決心し、扉の外へと一歩、足を踏み出した瞬間…











暗転









「おーい、おーーい?」




隣から呼びかけられる

その声で俺の意識は覚醒した

「…ん  あぁすまない、寝てたか」

どうやら俺は執務中にもかかわらず、秘書艦の前で堂々と寝てしまったらしい




「起こしてくれてありがとな、衣笠」




青葉型重巡洋艦の二番艦、衣笠

彼女は俺が着任したころからの仲だ




衣笠「ん、どういたしまして」




衣笠「それより大丈夫? やっぱり疲れてるんじゃ…」




確かに言われてみると、寝ていたはずなのにまだなんとなく体が重い気がする

だが俺は部下に心配をかけまいと、気丈に振舞ってみる

「大丈夫さ、ヘーキヘーキ」




衣笠「嘘、提督って疲れててもすぐ元気なふりするんだから」

だが付き合いの長い衣笠はそんなのはお見通しらしい




衣笠「はい、今日の執務は終わり終わり!」

そう言って衣笠は俺の前の道具を片付ける




衣笠「そもそも提督は大規模作戦の直後で疲れてるのに働きすぎ!」




衣笠「あとは私がやっておくから、提督は自分の部屋でしっかり休んで!」




「いや、それは流石に申し訳なさすぎるというか…」




衣笠「いいの! 私は基本いつも暇なんだから、今日くらい提督の代わりに忙しくなるって!」

…なんていい部下だろう



「…なら、お言葉に甘えるとしよう」




「ありがとうな、衣笠」




衣笠「うん! その代わりしっかり休んでね!」

衣笠に感謝しながら、俺は執務を後にした











霞「ちょっと! 何やってんのよこのクズ!」

執務室から自室に向かう途中、突然後ろから叱咤の声が聞こえた




「うげっ…霞…」

朝潮型駆逐艦、霞 こいつも衣笠とどっこいくらいの古株だ

悪い奴…じゃないんだが…




霞「ちょっと、何よその反応!!」




霞「ってそんなことはどうでもいいわ!! あなた執務はどうしたのよ!?」




厳しい

サボりや遅刻は厳禁、上官の俺にも容赦がない…

まぁ俺のためを思って言ってくれているので、ありがたいが

「いやぁ…衣笠が今日は休めって言ってくれたもんだからさ」




「ちょっと寝てこようと思って」




霞「そうだったのね  …うん、確かに最近のあなたは疲れているように見えるわね」




こんな風に、キチンと俺のことを心配してくれている、ママかお前は




霞「わかったわ、その代わりキッチリ寝てらっしゃい!明日からはキチンと執務できるようにね!」




「わかってるよ」




霞「あと、衣笠さんにはキチンとお礼を言うのよ、いい?」




「はいはーい」




霞「はいは一回!」




…ママかお前は











自分の部屋につくと、私物のなさに驚く

改めて、自分の部屋を使う暇すらないほど働きづめだったことを実感する




「…よいしょ」

汚れもない真っ白な提督服を脱ぎ、軽いタンクトップに着替える

なんとなく、精神的にも重苦しい何かが去った気がする




そのまま、ベッドにダイブする

いい弾力だ

少し前に友人からベッドくらい質を良くしろと言われて買ったものだった

それから最近まで忙しかったおかげでほとんど使っていなかったが、なるほど確かに良質なものだ

これならすぐに眠れそうだ

そうして、俺の意識は闇に落ちていった







…どれくらい経ったのだろう

ふと、目が覚める

ちらりと枕元の時計を見る

時計の針は、すでに午後六時を指していた

寝始めたのが昼飯を食って少しの時間だったから、実に四時間ほど寝てしまったわけだ

「…さて、起きますか」

そう言って、顔をあげると、目の前に人がいた

「…うぉ!?  って赤城か…」




赤城「はい、おはようございます、提督」

航空母艦、赤城

うちの主力であり、古参であり、そして何より…

俺の大切な、妻だ




赤城「衣笠さんから提督は自室にいると言われたので、ご飯を呼びに来たのですが…」




赤城「…あまりに提督が幸せそうな寝顔でしたので、起きるまで堪能しようと思いました」

赤城はそういって少し照れながら笑った




「…そか、ならすぐ飯に行こうか」




赤城「えぇ! 今日は何にします?A定食?B定食?それとも…」

食事のことになると、彼女はより一層顔を輝かせる

その顔を見るのも、また一興






今日はスタミナでもつけようかと思い、スタミナ定食にしてみた

…まぁ、どうせいくつかの肉は赤城に取られるが

席を取ろうとすると、食堂にはもうすでに相当の艦娘がいた

その中に、赤城と同じような袴で、飯を食べようとしている子がいる

一航戦、赤城の相棒、航空母艦加賀だ




加賀「あら、提督に赤城さん こんばんは」




赤城「こんばんは加賀さん となり、いいですか?」




加賀「えぇ、もちろん」




加賀はずっとこんな感じだ

一見無愛想に見えるが、実は色々と感情は動きやすいほう

この前なんか、映画で号泣していた




加賀「…提督?」

…なにか変なことを考えていませんか? そんな目で俺を見てきた




「ん…? ど、どうした?」




加賀「…いえ、なんでもないです」




食事の会話の中身はは、別に大した物じゃない

今日の出撃だどうだだの、訓練中に誰誰が、とか

いつも通りのことではある

それでも俺は、それを楽しく聞いていた

赤城が楽しそうに語るので、自然と関心がわく

それは加賀も同じようだった




「「「ごちそうさまでした」」」




食事を終えて、会話もひと段落したところで、席を立つ

加賀はこれから工廠に用があるというので、分かれることにした




赤城「提督、これからどうします?」




赤城「一杯、呑んじゃいます?」




「ぜひそうしたいが、残念ながら後だ」




「衣笠にお礼を言わなきゃいけない」




赤城「そうですか~…」

赤城は少しむくれ顔だ




「いやぁ、ごめんって」




「お礼言ってきたら飲もう、な?」




赤城「はい、じゃあ先におつまみ持って提督の部屋に集合しておきます!」




「あぁ」

どうせ先に始めちゃうんだろうけど










衣笠「…あ”」




執務室を開けると目に飛び込んできたのは、転がった空き缶と

しまったという顔でこちらを見る、衣笠と、蒼龍、飛龍の二航戦コンビだった

「…なんと驚いた、執務代行のお礼をしようと来てみれば、執務室で飲み会とは」




衣笠「し、執務はキチンとやったよ!?」




机に目をやると、なるほど未と書かれた所には一つも書類は残っていない…だが

「俺の秘蔵の酒を開けやがってーーー!!!」




衣笠「ひー! 許してーー!」




「ていうかお前らはなんなんだお前らは!?」




蒼龍「…いやー、執務室に遊びに来たら衣笠ちゃんしかいなくてー…」




飛龍「なんやかんやで酒飲んじゃえーって流れになってー…」




「…で、今に至ると」




蒼龍&飛龍「「はい」」




「…」

なんやかんやの部分が気になるが、それ以上に自分のお酒を飲まれたことがショックだった

コンビニでも買える安物だが、ここは前線の島 そういったものさえ貴重なのだ

輸送されてくるのは大体日本酒だし…

さてどうしたものか



飛龍「ね、ねぇ、提督~?」

飛龍が、恐る恐る話しかけてきた




「ん?」

謝ろうとしているのだろう

…まぁ時にこういうこともある

許してやろう




飛龍「…許してちょ?」




前言撤回、ぜってぇ許さねぇ

「…ちょ?じゃねぇおらぁーー!!!」




蒼龍「ほら怒られたーー! だからやめようって言ったのに~!!」




飛龍「な、やろうと言い始めたのは蒼龍じゃん!?」

醜い争いが始まった…




「…ごちゃごちゃうるせぇ!! 罰としてお前ら! 明日の基礎訓練のメニュー二倍だ!!」




蒼龍&飛龍「「えぇぇーーー!!??」」

ガチで嫌そうである

それもそのはず、うちの訓練メニューは普通であっても、軍人の俺が死ねるレベルだからだ

それが二倍

いくら艦娘でも、地獄だろう

だが俺は容赦しない 酒の怨みはデカいことを知れ








「…お待たせ~」

自室のドアを開ける




赤城「遅かったですね、提督」

そういう彼女を見ると、やはり待ちきれなかったのだろう、既にツマミを開けて食べている




「…まぁちょっと色々あってな…」




赤城「二航戦の子たちですか?」




「…どうしてわかった?」




赤城「ここで問題起こすのなんて、大体二航戦の子ですから」

そう言って笑う顔は、達観したお母さんの顔だった

俺なんかよりもずっとアイツらと一緒にいるのだ、色々と見てきているのだろう




赤城「あ、でもあの子たち、いつもはふざけているように見えるんですけど、戦いになると変わるんですよ」




赤城「敵を狩るジャッカルのような目になって、こっちが怖いくらいですよ」




「そうなのか…」

戦果は凄まじいので、戦闘中もふざけてるわけではないとはわかっていた

だがそんな性格だったとは

演習を見ている限り、そんな様子はないので驚く




赤城「演習ではそんな顔を見せませんから提督がご存知ないのも当然かもですね」

俺の知らないアイツらがいるというのは、少し悔しい




赤城「…とりあえず飲みません?」




「それもそうだな  じゃ、乾杯」




赤城「はい、乾杯!」










「…あー…酔ったな」




赤城「えぇ、酔いましたね」

あっという間に二時間ほどがすぎていた




「…ぷふっ、赤城、名前の通り顔が真っ赤だぞ」




赤城「そういう提督だって、お猿さんみたいに真っ赤ですよ」




「「ふふっ…あははっ」」

二人共、元々酒に強いほうではなかった

そんな二人が酔うと、どうしてもこうなるのだ

それでも、こんな下らない軽口がとても楽しい




「…寝るか」




赤城「ですね、酔ってるおかげで良く寝れそうです」




赤城「…そういえば今日はここで寝るんですか?」




「ん…? あぁ、今日くらい自室のベッドで寝るか」




赤城「わかりました」

二人そろって、フラフラとした足取りでベッドへ向かう

二人が入るには少し狭いかもしれないが…

一緒に寝るのは赤城だし、別に気にしない

それは赤城も同じようだった




赤城「ではおやすみなさい、提督」




「あぁ、おやすみ、赤城」

こうして、今日も平和な一日が過ぎた











明転





それは、俺の記憶だった

こうして俺は、記憶を取り戻した




とはいっても、これが全てではない

靄が掛かった中の、ほんの最初

ほんの導入の部分の記憶だけだったが、靄が晴れたようだった




目を開ける




「…またか」

また、あの真っ白な部屋

さっきまで、幸せな光景を見ていたせいか、とても殺風景だ



だが、今回は前回とは少し違った

そこは以前と同じく真っ白で…

しかし、いくつかの家具があった

…それは、種類から置き場所まで、すべてが先ほどまで見ていた俺の部屋そっくりそのままだった

しかしそこに彼女はいない




それが、少し寂しくて、悲しかった

記憶はまだ蘇りはしないが、それでも彼女には隣にいてほしかった

そんな気がする




しばらく自分の部屋を観察してみる

といっても、私物はやはりほとんどなかった

それでも、本棚に遭った数冊の本をペラペラとめくり、時間をつぶす




その中に、薄い書類があった

どうやら論文らしい

名前を見ると、自分のものではない

タイトルを見る、そこにはこう書かれていた

『反転について』

中身を見ても、艦娘とか深海棲艦がどうとかということしかわからない

まるで専門の化学式でも見ているようで眩暈がしたので、それもそっと元の場所に戻した




そうして一通り書物を読み終わり、また部屋の捜索をしていると、アルバムがあった

どれも、あの鎮守府で撮ったものらしかった

艦娘一人増えるごとに写真を撮るのか、集合写真だけでも相当な数だった

それに加えて、戦闘中の緊張感あるシーンから、日常の何気ないワンシーンまでがあるのだ

アルバムは、かなりの数になっている




だれ一人として悲しそうな顔をしているものはなかった

その中を見ても、俺は幸せだったことがわかる





「…これは」

その中に、彼女…赤城との写真が一枚、目立つように貼られていた

どうやらケッコンした時の写真なようだ

俺も赤城も、じっと見つめていたくなるほど、いい顔をしていた

まだ記憶はすべて戻らないが、それでも彼女を愛おしいと思えた




「…さて、どうするか」

アルバムも一通り見終わると、この部屋でやることはなくなってしまった




「やっぱり、ドアを開けて次の記憶を見るのがいいのかな」

先ほどもそうだった

ドアを開けると、広々とした世界が広がっていて

そこに足を踏み入れるとあの記憶の世界に飛ばされたのだ

ならば今回もそうしてみようじゃないか




ドアノブに手をかけ、扉を開けてみる

しかしそこは、以前の真っ白などこまでも続く景色ではなかった

真っ白でもなく、しっかりとした色がそこにはあった

先ほどの記憶では、俺の部屋は、直接廊下に通じていた

扉を開けると、その通りの、先ほど見た廊下に続いていた

「これもうわからねぇな」




それでも、一歩踏み出してみる






暗転










「…了解しました」

電話を置く




「先の作戦から三か月程度で新しい作戦か」

俺たちは三か月前に、敵空母群並びに敵の飛行場の破壊、殲滅という作戦を行ったばかりだった

作戦は無事成功、一人の犠牲者を出すこともないという、完全勝利で終わったのだ




今回の作戦は、その残存兵力の掃討

上曰く、残存の空母群が集合しているという

偵察によればそれも精々エリートクラスのものばかり

前回の大規模作戦に比べれば、強さも規模も大したことではない




とはいえ、これは戦争

慢心で沈めましたなど許されない




「よいしょ…」

椅子に腰かけ、先ほど送られてきた作戦書を読み込む

その情報から、作戦の詳細を詰めていく

誰一人として欠けないような作戦を

前回のように、完璧な作戦を










「…よし、できた!」

作戦が詰め終わったころには、もう既に日は沈みかけていた

しかし、そうして完成した作戦は、いつも通りの

完璧な作戦であった

誰も沈まず、敵を倒す作戦




すぐに皆を集めて作戦を知らせるために、館内放送用の無線のスイッチを入れる

「本日20:00より、臨時の全艦招集を行う   集合場所は会議室だ」




「繰り返す、本日20:00よりー…」









20:00

臨時の招集とはいえ、艦隊のほとんどがキチンと出席していた

数人は遠征があるので、どうしようもないのだ




「皆、臨時なのに集まってくれてありがとう」

その声とともに、そうだよーとか、お風呂入りたいとかヤジが聞こえた

そういいながらも出席してくれるあたりにはやはり感謝しかない




「今日の昼、上から一本の電話が掛かってきた」




赤城「誰からの電話だったんですか?」




「元帥だ」




蒼龍「げ、元帥さん!?」

驚くのも無理はない

元帥といえば、この海軍でトップの役職

そんな役職から直接お電話なぞ、並大抵のことがなければ叶わない




赤城「そ、それでどんなご用件だったんですか?」

少し焦り気味に赤城が聞いてくる

…ははぁ、さては俺が問題を起こしたと考えてるな~?




「作戦の話だよ  …少し重要なね」




赤城「あ、作戦のお話ですか  …よかった」

最後の言葉を小声で言ったあたり、俺の考えは当たっていたらしい




飛龍「ですがまた作戦ですか? 私たち、この前も大きな作戦を完遂したばかりですよね?」




「まぁ…あの作戦のエピローグ的なものと思えばいい」




赤城「エピローグ?」




「前回作戦の敵の残存兵力を根こそぎ奪う作戦さ」




「次なる飛行場を襲い、それにおびき出された残存兵力を一気に叩く」




加賀「…なるほど、確かに前回の作戦では全艦の掃討には至っていないものね」




衣笠「うちだけなの?」




「いや、一応よその戦艦部隊が来るが…  正直要らない気もする」




赤城「それ、慢心ですよ~」

…そうだった、赤城は艦の頃に色々とあったんだったな




「すまん」




赤城「別にそんなに謝らなくてもいいんですよ?」




霞「それで、いつから開始なのかしら?」




「一週間後に開始らしい」




朝潮「一週間!? け、結構急ですね…」




「正直そう思うが、まぁ敵もそこまで強いわけではない」

そう言って、上から送られてきた情報を広げる




「前回の攻略地点がここ、ミッドウェーだ」




「そこから流れた残存部隊が…ここ、ジョンストン島付近に集結しているという」

ジョンストン島、ミッドウェーからそのまま南東方向にある島だ




「とはいっても、そこまで大した戦力じゃない」





「予想される戦力は、正規空母3、戦艦3、巡洋艦6、だ」




「本営によれば姫クラスの確認はなし…となっている」




蒼龍「本当に大したことないわね」

まぁそう思うのも無理はない

正規空母、戦艦といっても出てくるのはヲ級やル級程度だろう

前回はこれの二倍以上の戦力と連戦していたのだ




「確かにな  でも赤城ではないが慢心は禁物だ」

まぁ、負けることはないと思うが、と心の中で思う




「…それでは編成と作戦を発表する」

そう言った瞬間、先ほどまでの空気とは打って変わり、緊張が走る



「第一艦隊! 赤城、加賀、蒼龍、飛龍、利根、筑摩!!」




「第二艦隊! 衣笠、加古、霞、朝潮、大潮、霰!!」




「今呼んだ奴ら以外は、一旦下がってくれ」

編成に入っていない奴らが、ぞろぞろと会議室から出ていく




そうして全員が出て入った後、口を開く

「…よし、では作戦を発表する」










そうして、六日が経った

出撃メンバーは各々訓練を繰り返し

それ以外の奴らは遠征をしたり、メンバーのサポートをしたり

鎮守府の皆が、団結していた




霞「ほら霰!! ぼっさとしない!!」




霞「これが実戦だったら沈むわよ!!」

訓練をしている霞の叱咤が飛ぶ




霰「うぅ…ごめんなさい…」




霞「…次にできればいいわ」




霞「さてクズ、どうだったかしら」

陣形の最終確認、ということで俺は霞たちの訓練を見ていた

その判断を下すという役目で




…正直、完璧とはいえなかった

朝潮、霞はキレがよく、完璧に訓練を行えていた

流石は古参、練度も桁違いだ

しかし、大潮と霰はそうじゃない

やはり二人に比べれば、多少、質は堕ちる




「十分に出来ていたと思うぞ」

とはいえ二人とも練度は高く、二人に比べれば劣るだけで、動きに問題があるわけではない

『完璧』ではないが『十分』 

それが、俺の率直な感想だった




霞「そう、『十分』ね」




霞「…なら『完璧』を目指すわよ!!」

…うーんさすがは霞、俺の思いも察したようだった

ただ、大潮と霰の顔は徐々に青くなっていた

そりゃこの後も地獄の訓練だなんて言われれば当然である




とはいえ、作戦を翌日に控えた状況で無理をするのは得策ではない

「まぁ待て霞  ここでぶっ倒れて明日出れません、なんてことになったら大変だろう」

霞が少しムッとする



「お前の気持ちもわかるが、無理はいけない」




「わかってくれ、な?」




霞「…わかったわ」

不服だが従ってやろうという顔である




霞「…その代わり!」




霞「次は完璧だって言わせてやるんだから」

完璧と言われなかったことが相当悔しいのだろう

次回の挑戦状を叩きつけてきた




「ほう、おもしろい  楽しみにしているよ」

それを、俺は少し煽り気味に返す

こうした方が、霞は燃えるからだ




霞「上等じゃない…!! 絶対完璧だって言わせてやるわ!!」




霞「さぁ皆! 訓練を終わるわよ!! この後は各自キッチリ休養を取ること!はい終わり!!」

そう言って、霞は帰っていく

その様子を見て、朝潮たちはクスクスと笑っている




朝潮「やっぱり司令官は霞の扱い方を良く知ってますね」

当たり前だ、だてに長く付き合ってない










霞たちの訓練を見た後執務室に帰り、スマホを開くと、メッセージが一件、届いていた

赤城からだ

「今日の夜十時にお部屋に行ってもいいですか?」とのことだった

いつもは部屋に来るときは何の知らせもなく来ていた

別に俺はそれを何とも思わなかったし、そんな関係がうれしかった

だから今回のように事前に確認を取ることには珍しい




とはいえ、断る理由もないので即座に了承のメッセージを送った




衣笠「…何ニヤニヤしてるの?」

はっと正面を見ると、いつの間に帰って来たのか、衣笠がいた




「べ、別にニヤニヤなんかしてないぞ!?」




衣笠「本当かな~? 口元が緩んでましたよぉ~?」

…マジか




衣笠「赤城さん?」

…女の勘ってすげえのな




「…そうだよ」




衣笠「おーおーおー、ラブラブですなぁ~」




「うっせ」




衣笠「アツアツですなぁ~!」




「うるせぇやい」

作戦前日というのに、緊張感のかけらもない会話だった

ただ、それは不安よりも安心感をもたらした

あぁ、これほどこいつらには余裕があるんだなと

昔空母一隻にひぃひぃ言っていたころを思い出すと、その安心はより高まる




「…衣笠」




衣笠「ん? どうしたの?」




「なんか… ありがとう」




普通の衣笠なら、突然何ー?とか言って面白がったろう

だが衣笠にも何かが伝わったのか、この時は面白がることはなかった

衣笠「…うん、どういたしまして」

そう言って笑う衣笠は俺に昔を思い出させ俺の涙腺を刺激したのだった











「…すまん、遅れた」

時刻は、約束の時間を十分ほど過ぎていた




赤城「もう…遅いですよ提督」

赤城が寂しげにそう言う

彼女は窓から差し込む月明かりに照らされて、とても神秘的な美しさを醸し出していた




「赤城…」

意識もせずに、彼女の名前を口に出していた




赤城「…別に、大した用件があるわけじゃないんです」




赤城「作戦についてとか、装備についてとか」




赤城「そういう話をしたいわけじゃないんです」




赤城「…ただ、あなたと二人きりになりたかった」

そういう彼女の目にはうっすらと、涙が浮かんでいた

俺にはそれが何の涙なのか、少し理解ができた




赤城「今日、訓練が終わってから鎮守府を見ていました」




赤城「そのどこを見ても…」




赤城「あなたとの記憶がよみがえってきて…」




赤城「そしたらどうしようもなく、あなたと二人きりになりたくなったのです」




赤城「どうしようもなく、あなたが欲しくなったのです」

赤城がほほ笑んだ

最初に会った時と

出撃してMVPを取ったときと

そしていつもと同じ

美しい笑顔で




提督「…赤城」

その笑顔に俺はもう、我慢ができなくなっていた

抑えられないほどの激しい感情に、突き動かされていた




赤城「はい」




提督「…愛してる」




赤城「はい…! 私もです」

赤城はこれまでで一番大粒の涙を落とし、そう頷いた




赤城に近づく

一歩

また一歩




赤城の肩に手をかける

それを、赤城は振り落とすことはなかった

少し涙が残る、その顔で

こちらに優しく微笑む

そして俺も微笑み返し…




優しく、静かに接吻をした




赤城「…ふふっ、ようやくしてくれましたね  キス」




「あぁ、ようやく覚悟ができたよ」




赤城「…」




「…」

二人の間に、静寂が流れる




「赤城」




赤城「…はい」




「続きを、してもいいか」




赤城「えぇ、もちろんです」




赤城がそう言うと同時に、俺たちはもう一度、接吻をする

赤城「んっ……」

今度は、先ほどと違って、獣のように

そうしてかなりの時間が経ち、唇を離す




赤城「提督…続き してください」




俺はゆっくりと頷くと、赤城の腰に手を回す

…今夜は長くなりそうだ









翌朝

目を覚ます

隣には赤城がすやすやと、幸せそうな顔をしながら寝ていた

その顔を見て、改めて自分は幸せ者だと思った




とはいえグダグダともしていられない

今日の昼には作戦開始だ

「んーー!! …よし!!」

一気に伸びをし、体を起こす




真っ白な提督服を身にまとい

鑑を見て服装を正し

部屋を後にした





装備の最終確認や作戦の確認

通信機材のチェックに補給の確認

随伴する別鎮守府の艦隊との連絡




それらを終わらせる頃には、すでに作戦開始直前になってしまっていた




岬には、作戦メンバーが既に艤装を見にまとい整列している




今日の秘書艦代理の大淀が、俺にマイクを手渡す

「今日の作戦に際し、ここにいる全員への激励の言葉を贈る!!」




「今回の作戦は、敵を徹底的に叩く作戦だ!」




「これが成功すればこの周辺の深海棲艦勢力は一気に減ずる!!」




「更に勝利に近づく!!」




「慢心せず」




「全力で、戦ってくれ!!」




「皆の武運長久を、祈っている」




「…以上」




赤城「気をつけ!!」

作戦旗艦の赤城が皆に号令をかける




赤城「敬礼!!」

ビシッという音がなるほど、統率の取れた立派な敬礼をする

それにこたえるかのように、俺も自然と気合の入った敬礼をする

少しして、敬礼をやめると同時に、赤城の声が響く

赤城「…提督! お願いします!!」




「…あぁ」




「作戦、開始!! 抜錨!!」




そう言うとともに、皆が抜錨し、一斉に地平線へと向かっていく




その勇ましい背中が地平線に消えるまで、俺は彼女たちを見送り続けた












あの部屋で目を覚ます

今度もまた、部屋の様子は変わっていた




以前から、更に家具が増えていた

以前見た記憶から、三ヶ月近くが経過していたらしいが、それを考えても相当の増え方だった

作戦が落ち着き、部屋でのんびりとする時間も増えたのだろう




ふと、先ほどまで見ていた記憶が思い出される




赤城とのあの感覚が、思い出される




胸の内に、言葉にできないほどの温かいものを感じた




早く次の記憶を見たかった

あの戦いを即座に終わらせて

また赤城や、皆と過ごす楽しい記憶が見たかった

だから、すぐにドアへと向かう




「…ッ!?」

…しかし、ドアノブに手をかけた瞬間、不意に全身を撫でるような悪寒がした

それは微かで…それでいて間違いようのない




破滅の予感




しかし、怖気づいてはいられなかった

一気にドアノブを捻り、外に出る

焦りを断ち切るように飛び出す




暗転するまで一瞬に見えたものは




どうしようもなく、遠くまで広がった




静かな海だった











暗転









…ふと、目を覚ます




「…俺は…確か………」




そうだ、夜明けとともに攻撃隊を発艦させるため、赤城たちに休憩を取らせたのだ

そしたらアイツらが「提督も休んで」と言ったから、仮眠をしていたんだ



時計をチラリと見ると、時計の針は三時を少し過ぎたくらいだった

「そろそろ最終確認や航空機の装備指示をしないとな」

そう言ってゆっくりと腰をあげた瞬間だった




大淀「提督!! 大変です!! 敵艦隊が………!!!」









提督「状況は!?」




提督服を正しながら執務室に直行し、すぐに戦局を確認する




大淀「偵察情報によると戦艦3、重巡3で編成された艦隊のようです!」




大淀「既に蒼龍が中破、その他艦艇も小破しています!」




大淀「特にレーダーを中心に損傷大!」




提督「…そうか」

何か嫌な予感がしていたから少しだけ、安堵する

中破程度であれば速力もほとんど落ちない

今退却命令を出せば、何の問題もないからだ




レーダーの損傷も、旗艦の持つ無線機でこちらから情報を送れば解決する




しかし、その前に敵艦隊を撃破しなければならなかった

撤退中に背中を撃たれてはたまったものではない




夜間なので空母は使えない

夜間戦闘機なるものが米軍の協力で開発されているという噂もあるが

うちにそんな便利なもんがあるわけがない




「艦隊を現時刻を持って解散」




「以降、第一艦隊は衣笠を旗艦とする加古、利根、筑摩、霞、霰に再編成」




「第二艦隊は赤城を旗艦とし加賀、蒼龍、飛龍、朝潮、大潮に再編成」




「第一艦隊は被弾を避けつつ、しんがりとして敵艦隊を迎撃」




「夜明けと共に撤退しろ」




「第二艦隊は中破の蒼龍を護衛しつつ即座に撤退だ!」




大淀「了解しました!」

その情報を大淀が瞬時に赤城たちに伝える




定石通り

これが一番のはずだ




大淀「…皆さん? 皆さん!?」

突然、大淀が焦りを含んだ声で叫ぶ




「どうした!?」




大淀「…あぁよかった、繋がった」




大淀「どうやらスコールがひどくて無線がつながりにくいようで」




提督「なるほど… 今連絡できてよかった」

もう少し遅ければ、こちらの指令は届かなかっただろう

運がよかった




大淀「別鎮守府の支援艦隊にはどう伝えましょうか」




「そうだな…」

今から彼女たちが急行しても、恐らく到着は夜明け直前になるだろう

そうであるなら、いっそ帰投させるのがベターだろう

「作戦中止を伝達、即刻帰投するよう伝えてくれ」




「当然謝罪も添えてな」




こうして、指示がひと段落つくことになった

作戦は中止となる

しかし、また何度でも出撃すればいい

むしろこんなところで仲間を失わないことの方が、よっぽど大切だからだ








指令を終え、ここまでの到着時刻などを計算する

損傷も考え、ドックへ指示を飛ばす

そうしてしばらくして指示がひと段落し

少しソファに腰かけようとした

瞬間




大淀「…加古さん…?  加古さん!?」

またもや、大淀の声が焦りを含んだ声で呼ぶ

しかし、今回はその声に恐怖が含まれていた




「お、おい…加古がどうしたって…」




大淀「…提督」




大淀「加古さんの反応が…消失しました…」




耳を疑った




「どうなっている!?戦況は!? 加古は沈んだのか!?それとも…!!」

焦りから、自然と早口になる




大淀「わからないんです…!! スコールのせいで音声無線が途絶えてGPSしか使えないんです!!」




…その時




GPSの反応が、一気に三つ、消えた




時が止まったかのようだった




大淀も、俺も、何も声が出ずただ茫然とGPS反応を見ていた




一瞬か、それとも永遠に近い時間だったのか、はっと目が覚める




壊れてしまうほどの勢いで無線機を取り、声を送る

「加古…!! 利根!! 筑摩…!! 衣笠ァ…!!」




「霞…! 霰…!!」

必死に声を送る

すると無線から微かに声が聞こえてきた




霞『…司令官…敵…』

霞だ

しかし声にはいつもの張りはなく、弱々しい




「霞…! どうなっている、周りに衣笠たちはいるか!? 戦況は…!?」




霞『敵… 戦艦棲姫………3   重巡棲姫………3』




………耳を疑った




姫が、それも六体も




「…逃げろ霞!! 今周りに見える奴全員に伝えろ…!」




「今すぐに逃げ帰れ…!!!」




そう伝えた瞬間




音の背後で、猛烈な爆発音がした




確かな、爆発  




弾薬庫、誘爆の音




そしてGPSを見ると、霰の反応が消えていた




「………」

言葉を、失う




霞『霰…? あら…れ………』




霞『うっうわあああああああああああああああああああああああ!!!!』

霞の慟哭が響いた




霞『よくもぉ…よくも霰をォ…!!!』




「やめろ!!霞!! 突撃をやめろ…!!!」

GPSは、明らかに撤退する航路とは真逆の方向に向かう




刹那




また、爆発音がした




霞『あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!』




霞『足がぁ…!!!足がぁぁ!!!!』




…もう、聞きたくなかった




霞『…殺してやる』




…やめろ、霞…!




霞『殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!!』




やめてくれ…!




霞『殺してや




通信が




途切れる






…どうすれば




こういうときは、どうすればいいんだっけ




あたまがまわらない




まだ、だいにかんたいをもどさなければいけないのに




なにも、おもいうかばない









大淀「提督ッ!!!」




「ッ!!」

大淀の声で、はっと目を覚ます

そうだ、思考を破棄している場合ではない

懺悔なら後でできる

今は…

今は生き残っている第二艦隊を戻さなければ…!




「大淀! 第二艦隊との通信は!?」




大淀「こちらもスコールが激しいですが、今はなんとか可能です!!」




「よし、全艦に伝えろ、スコールがあろうと何があろうと、全速力を出して帰還!!」




「空母隊は全機を雷装から爆装に変更! 朝日に紛れ急降下爆撃に移れるよう用意せよ!」




大淀「攻勢に出るんですか!?」




「違う、敵艦隊の足止めだ」




「爆撃をすれば敵艦隊は混乱し大幅に追跡が遅くなる」




「そうすればアイツらが戻ることが容易になる…!」




大淀「しかしそれでは艦載機が…!」




「艦載機などいくらでも作れる、今は犠牲をこれ以上増やさないことがなにより大切だ!!」




大淀「了解!」

大淀が大急ぎで通信を送る




「周辺の鎮守府にも救援を要請!!」

とはいっても、時間は相当にかかるだろう

それでも、この状況だ  

要請しなければ彼女たちをさらに危険にさらす可能性もある









そして、数時間後

朝日が昇るとともに、通信が入る




大淀「…やりました! 艦爆隊、爆撃に成功!!」




大淀「敵戦艦棲姫中破2、重巡棲姫は撃沈1!大破2!!」

大淀が大喜びで伝える




「そうか…! よかった!」

胸をなでおろす

これならば敵艦隊はこちらを追うことは不可能だ




大淀「はい! これで皆さん無事に…」

不意に、大淀が意識を失いかける

幸いすぐに意識を取り戻したようだが、その顔には明らかに疲労の色が見て取れた




「…大淀、少し休め」




大淀「いえ、ですが…」




「無理をするな、働き過ぎだ」




大淀「…わかりました、お言葉に甘えさせてもらいます」

そう言って、大淀がソファで横になる




するとすぐに寝息を立て始めた

本当に疲れ切っていたのだろう




今度は俺が無線機を取る

GPSを見ると、順調に第二艦隊は進んでいるようだった

またもや、俺は胸をなでおろす




…執務室は静寂に包まれていた

その静寂は、否が応でも俺に先ほどの霞の通信を思い出させる




恐らく




いや、確実に沈んだのだろう




他のみんなも




そう考えると、自然と涙がこぼれてきた




そして同時に、これ以上沈めてなるものかという決意も




「…よしっ!!」

気合を入れるため思い切り自分の顔を叩く




「赤城、調子はどうだ」

艦隊旗艦の赤城へと無線を送る




赤城『………雨が未だ強いことを除けば順調です』

やはり第一艦隊のことを考えているのだろう

声だけでそれが察せた




「…そうか」




「…」




赤城『…』




二人の間は静かだった




それどころか、周りも水を切る音しか聞こえない




…だれ一人として、口を開く気になれないのだろう







そして、その静寂をどうにかしようと、声をかける

「なぁ赤城」




返事がない

いかに気持ちが沈んでいるとはいえ、返事くらいはするはずだが…




「赤城?」




またしても返事がない

背中に嫌な汗が流れる




GPSを見る、そこにはしっかりと6個の反応が、キチンと存在する

少しばかり陣形が乱れているが、誤差の範囲と言えた

それを見て、安心する

どうやらまたもや無線の調子が悪いらしかった

もうすでに天気はよくなっているはずなので、故障だろう




…しかし、不意に嫌な予感がし、GPSを見る

するとそこには、確かに6個の反応があった




しかし

その陣形は、先ほどとは大きく異なるものだった

それはもはや陣形とは呼べず、ただただ乱雑に配置された点のようであった




最悪の場合…突然の敵襲ということも考える

そうだった場合、非常に危機的だ

空母はほとんど攻撃能力はなく、昼であるため駆逐艦も有効打は出せない

きっと、GPSの位置情報の誤差だろう

そう、信じることにした




…したかった






最悪の予想が当たっていると、わかるまでは




一つ、反応が消える




「…は?」

唐突過ぎて、思考が止まる




二つ、反応が消える




「……え?」

徐々に、頭が現実を飲みこみ始める





三つ、反応が消える




「ま、待ってくれ…!!」

止まるわけがないのに、声をあげてそう叫ぶ




四つ、反応が消える




「おい…!? 赤城!?どうなっている!?」

無線機を取り、必死に声を送る




五つ、反応が消える




「おい!! 赤城!!頼む!!返事を…!!!」

必死に声を送る




「お前だけでも、返答をしてくれ!! 赤城!!!」

泣くように、叫ぶように






しかし




それをあざ笑うかのように




六つ、反応が消えた














「………」

海を見つめる




「………」

地平線を見つめる




「………」

何も起きない、ただの海を




「………」

何のシルエットも写さない、ただの地平線を




大淀「…提督、そろそろ報告を」




「…あぁ、わかってる」

作戦失敗

………艦隊、全滅

報告をしなければいけない

何を言われようと




「………」

ぬるりと立ち上がる

その目は、もう既に生者のそれではなかった




死なない理由を考えていた




しかし




彼女たちを失った世界に




何より、彼女を失った世界に




もう、何も生きる理由は見当たらなかった




「………」

もう一度だけ、地平線を見つめる




大淀「…」

大淀も空気を読んでいるのか、今は催促しなかった




…すると地平線の向こうに、一つのシルエットが浮かんできた




「…あか、ぎ」

自然にこぼれた、その名前




「あかぎ…赤城…!!」




大淀「ッ! 提督!!暴れないでください!!」

突然海へと走ろうとした俺を、大淀が止める




「放せ!! 赤城、赤城が来ているんだ!!」




大淀「…そんなわけは…  っ!?」

それは、確かに俺の幻覚などではなかった




ボロボロになりながら




もはや弓も飛行甲板も原形をとどめていないながら




血まみれになりながら




それでも帰ってきた、彼女の姿があった




大淀「…嘘…」

驚きで俺を抑えていた大淀の力が抜ける




「赤城…赤城!!!」

その瞬間、俺は海に向かって飛び込もうとする




大淀「提督!! 待ってください! 今すぐボートを用意します!!」




大淀「鎮守府にいる皆さんに通達!! 今すぐドックの用意を!!」

大淀が大急ぎでそう通達する







提督「…赤城!!」

ボートで赤城に近づく




赤城「てい…とく…」

目はうつろだった




一気に力が抜けたのか、倒れかける彼女を、急いでキャッチし、ボートに乗せる




…赤城をつかんだ手を見ると、血だらけだった




赤城「提督…ごめんなさい…」




「そんなのはどうでもいい!! 今は喋って体力を使うな…!!」

そういい、鎮守府へ向けて全力で進む






長月「ドックへの搬入作業、急げ!!」




陽炎「傷がひどいわ…バケツありったけ用意して!!」




大淀「どうなるかわからないわ! 明石、念のため医務室も開けておいて!!」




明石「了解!!」




鎮守府に戻ると、全員があわただしく動いていた




皆、赤城のために必死だった




「赤城…立てるか?」




俺も、できることをしなければ




赤城「は、はい…立てまッ…」

立とうとした瞬間、腹を抑える




「…おぶるからしっかり掴んでてくれ」




赤城「はい…」




ボートから降りると、全員が作業を中断し、こちらに向かってきた




「提督、手伝いますよ」  「大丈夫ですか」  「赤城さん、お水です」




こんな状況なのに、なぜか心が温かくなった




もう作戦失敗と艦隊全滅は知れ渡っているはずだ




それでも、誰一人として俺を責めることはない




それが… せめてもの救いだった




島風「提督! 担架持ってきました!!」

息も絶え絶え島風が担架を置く

担架は結構遠い場所にあったはずだが島風が全速力で持ってきてくれたのだろう



「ありがとう!!」

そういい、ゆっくりと担架の上に赤城を乗せる




大淀「力仕事は私たちに任せてください」




明石「えぇ!!」

そういって、それなりの重量のはずの赤城を軽々と持ち上げる




「あぁ、頼んだ」

情けない話だが、艦娘には人間の男でさえ勝てるかどうかというほどの力がある

ここは、二人に任せるべきだろう




そう思った瞬間、赤城が俺の袖を引っ張った

赤城「…一緒に、いてください  てい、とく…」




今にも消え入りそうな声で、赤城が言う




「…わかった」

ぎゅっと赤城の手をつかむ




赤城「ありがとう…ございます…」

にっこりとほほ笑みながら、弱々しく笑う赤城を見て…

情けなくも、涙がこぼれてしまうのだった












明転






…目を覚ます

自分が涙を流していることに気づく




部屋は色々なものが散乱していた

棚から落ちている本

倒れて割れた花瓶

そこから漏れた水

萎れた花

傾いた時計




そして、唯一なんの手も加えられていないアルバム




それを見た瞬間、霞の通信を思い出す




次々と消える信号を思い出す




やり場のない、表現のしようもない感情が沸き上がる




…帰って来た赤城の笑顔を思い出す




苦しみが悲しみが消えることはない




それでも、その笑顔は、それらを幾分か楽にしてくれた




嵐は過ぎ去った




沈んでいった彼女たちのためにも

生きている彼女たちのためにも

…必死になって帰って来た彼女のためも




俺が前を向いて、歩かなければいけない




涙を拭き、深呼吸をし、再び扉に向かって歩き始める




ドアノブを掴み、捻り、ドアを開ける




するとそこには何もない美しい青空が広がっていた




大切な仲間を失ったが、それでも前を向かなければいけない




ついに決心し、ドアの外に足を踏み入れる




意識が途切れる直前に




白んだ空に




ちらりと黒い点のようなものが




見えた気がした






暗転














明石「…提督、今お時間いいですか?」

明石がそっとドアを開けながら聞いてきた




「赤城の件か」

赤城の奇跡の帰還から、一日経っている




明石「はい…」




「そうか… あぁ、入ってくれ」

昨日は赤城を緊急治療室に送ってから色々な所に連絡を入れていたため、ロクに見舞いもできなかった

そろそろ容体について聞こうと思ってので、ちょうどいい




明石「わかりました…」

恐る恐る入ってくる明石

その様子から、嫌な予感がした




「それで、どうなんだ赤城は」

食い気味に聞く




明石「えぇっと…」

心臓がバクバクする

一命はとりとめてくれ、そう心の中で願う




明石「結論から言いますと、赤城さんは無事です」

一気に、緊張が抜ける




「そう、か…! よかった」




明石「ただ…」




明石「艦娘としてはもう限界ですね」




明石「傷は癒せるといっても限界はありますから」




「いや…いいんだ」




「生きてくれた…それだけで今はいい…!」




「ありがとう、明石…! 本当に………」




明石「当たり前じゃないですか、それに」




明石「私だけじゃない、鎮守府に残っているみんなと…提督のおかげですよ」

優しい声で、明石が言う




明石「ぜひ、赤城さんの所へ行ってあげてください、きっと喜びます」




「あぁ…! 本当にありがとう…!!!」




明石「…それから、私これから明日の朝まで少し招集があって…」




「そうだったな」




明石「こんな状況で本当に申し訳ないんですが、赤城さんのことをお願いします」




「あぁ」







鎮守府の仲でも最も小さく、遠い場所にある小屋

そこが、赤城の病室だった

元々は本当に病室だったのだが、皆が入渠によって損傷を治せるため最近は物置と化していたのだ

それを昨日総出で片付けたため、まだあちらこちらに埃がある

・・・病室としてこれでいいのか

そう思いながら歩いていると、赤城のいる個室に着いた





「…」

赤城の病室の前で、逡巡する

入っていいのか

入ったとして、なんと声をかければいいのか

ドアノブを握ったまま、そんなことを悩んでいると




赤城「入ってもいいですよ、提督」

中から赤城の声が聞こえた

…なんで俺だってわかったんだよ




そういわれては仕方なく、病室へと入る

「…おはよう、赤城」




赤城「はい、おはようございます提督」

明るい笑顔で彼女はそういった

しかし、その顔には包帯がぐるぐると巻き付けられていた




「…」

その姿を見て、改めてどう声をかけるべきかわからなくなる




赤城「…私たちは昨日、敵襲に遭ってから撤退を始めました」

赤城が淡々と語り始めた




赤城「私たちは当初、なんの障害もなく帰投していました」




赤城「しかし、第一艦隊の全滅の報」




赤城「そして敵艦隊を艦載機で足止めを指示されました」




「…」

霞の通信を思いだす

自分のせいだ

…全部




赤城「…その指示は的確でした」




赤城「もしあそこで艦載機を出していなければ、いつか戦艦棲姫はともかく重巡棲姫には補足されたでしょう」




赤城「だから、あの提督の指示に何ら問題はなかったんです」

提督のせいではないんだ、そういっているようだった




赤城「…でも、甘かったんです」




赤城「提督から通信をもらった後、私たちは唐突に急降下爆撃を受けました」




赤城「その回避の際に私が通信機を落としてしまったのです」

あの時、唐突に通信が切れたのはそういうことだったのだ




赤城「そのことを皆さんに伝えました」

赤城の顔が、急に暗くなる




なんとか口に出したような、弱々しい声で語り始める

赤城「そうしたら蒼龍が、無線機を拾いに行く、そう言ったのです」




赤城「…少ししたら後ろで爆発音がして、蒼龍が…」




赤城「…それに気付き、救出に向かった飛龍も、その直後に…」




赤城「その後は堰を切ったように被弾していきました」




提督「…攻撃分類はなんだったんだ」




赤城「…魚雷でした  それも新型艦載機を使っていました」




赤城「航空、潜水艦用と両方があったと思われます」




赤城「…爆撃は何があっても航空機が空を切る音が聞こえます」




赤城「だから訓練をすれば避けるのは容易です」




赤城「…魚雷も、本来雷跡と音で判断可能…のはずでした」




提督「…まさか…酸素魚雷…」

コクリと赤城が頷く




提督「…いや、それでもある程度の近さなら発見も…っ!!」

…あの日は、予報外れの雨と風が吹いていた

それに加えて対空対潜レーダーの損傷

予定外の潜水艦の登場

敵の新魚雷

新型艦載機




…条件は揃っていた




赤城「…ごめんなさい…」

突然、赤城が涙を流しながら言った

その涙は、悲しみよりも悔しさを孕んでいた




赤城「旗艦の私が…未熟なばかりに…」




「違う…! あれは様々なことを想定できなかった俺の…!」




赤城「…それでも、あの時無線機を落とさなければ…!」




赤城「蒼龍を止めていれば…!」




赤城「私が…盾にでもなっていれば…」

そう言った赤城を、俺は気が付くと強く抱きしめていた

赤城が傷だらけだということすら忘れて

ただただ、強く




「…これ以上…言うな…!!」




「その先の言葉はただ自分を傷つけるだけだ…!」




「…お前はこうして帰ってきてくれた、それだけで…」




「俺にとっては十分すぎる救いなんだ」

涙ながらに、笑って見せる




すると赤城もわかってくれたのだろう、口をつぐみそれ以上は言わなかった




「…赤城」




赤城「…はい」




「お前だけは、俺の前からいなくならないでくれ」




「たとえ何があっても…」




「お前だけ…お前さえいれば、俺は強く生きることができる…!」




「だからっ…!」

大の大人が涙を流しながら懇願する…

その姿は情けなかっただろう




赤城「…永遠に、というのは不可能です」




赤城「万物には終わりがありますから」




赤城「…ですが」




赤城「この命尽きるまで、全力でお傍にいさせていただきます」

…しかし赤城は、そんな俺を受け入れてくれた

傷だらけだが…それでも以前と変わらない

優しい笑顔で





「…ん…寝てたか」

確か、赤城の傍にいようと思い、書類を持ちこんでやっていたんだった

しかし赤城が寝息を立て始めた辺りまでは覚えているのだが、その先の記憶がない

…情けない話だが、寝落ちしてしまったようだ

時計を見ると、もう五時近いではないか




空は白み始めていた




赤城「Zzz…」

赤城の方を見ると、珍しくぐっすりと眠っていた

赤城だって生きているのだから寝るのは当然ではあるのだが

いつも俺よりも先に起きているので、こうして寝顔を見るのは何か新鮮だ




赤城「提督…」

…夢でも見ているのだろうか、俺のことを呼んだ




「…さてと!!」

ぐっと伸びをし、また書類に取り掛かるろうとし、




何とはなしにもう一度窓の外を見る




すると白い空に




黒い点のようなものが




一斉にこちらに向かって飛んできていた







ウーーーーー  ウーーーーー




一斉にサイレンが鳴る



それとともに鎮守府が一斉に慌ただしくなる




「…」

それを聞きながら、俺はただ呆然としていた




敵は先の戦いでこちらの戦力を激減させた

…なら、その戦力を減らした後は?





こちらの戦力の壊滅を確認したのち




バラバラになっていた艦隊を集め




この鎮守府を、消す




…単純、明快

なぜ気付かなかったのだろう

当然のことだったのに…




大淀『空襲!空襲!! 全員直ちに地下に避難してください!!』

大淀の館内放送が飛ぶ




それによって、はっと意識を戻す 

「っ、こんなことしてる場合じゃない!! …赤城! 起きろ赤城!!」




赤城「…は、い…?」




「起きてすぐにすまない! 空襲だ!避難するぞ!!」

それを聞くと、赤城は一気に意識を覚醒させた




赤城「わかりました! 直ちに…ッ…」

しかし、一気に体を起こしたとたん、赤城の表情が苦悶に満ちる

恐らくまだ傷が痛むのだろう、しかもその痛みは並大抵のものではないはずだ




「大丈夫か赤城!?」




赤城「すみません… っ…!」

そうしてベットから立ち上がろうとすると、またもや激痛に襲われたようだった




「無理をするな…! 俺がおぶってやるから!!」




赤城「はい…ありがとうございます…」

申し訳なさそうに赤城が言う




ちらりと敵機の様子を見ると、まだ少しは距離があるようだった

一気に走り抜ければ、まだ間に合う




「…よし、しっかり捕まってろよ!!」




赤城「はい…!」






赤城の病室は、この鎮守府でも最も外れにある

そこから地下のある本館へは、それなりの時間がかかる

人をおぶっていると、なおさらだ




時間は少ない

だから最短の少しリスキーだが、外を通るルートを選んだ




「ハァ・・・ハァ・・・!! 赤城、大丈夫か!?」

持てる全力で走っているので、相当に疲れてきたが、そんなことを気にしている余裕はない

心配なのはむしろ赤城だ

俺はは知っているので、当然揺れる

揺れれば傷が相当痛むはずだ




赤城「大丈夫…です!」

だが赤城は気丈に振舞う




「…よし、もう少しだからな!!」

そんな赤城を見て、一層やる気がわく




すると向こうから、数人の艦娘が走ってきた

こっちに向かって手を振りながら近づいてくる

俺を手伝いに来てくれたのだ




それがとても嬉しく、思わず声を張り上げで呼ぶ

「おーーい! ははっ  ありがとなー!!」




赤城「皆さん… 私なんかに為に…!」




「当然さ、俺たちは大切な仲間だからな!!」




それを聞いて、赤城は感極まったのか涙を浮かべていた

赤城「…はい!!」




(もうすぐでアイツらと合流できる)




(そうすれば数人で赤城を運べる)




(本館までの到着を、より早めることができる)




(空襲が終われば、すぐに近くの鎮守府に連絡し、掃討作戦を始めてもらう)




(…ここは爆撃でボロボロになるだろう)




(…俺は多くの仲間を失った)




(でも、まだまだこの鎮守府はやれる)




(…ここから立て直すんだ!)





あと500m…




あと400m…




あと300m…




あと200m…




あと150m…




あと125m…




あと110m…




あと105m…




…その時




目の前で、光が爆ぜた







「…がはっ!?」

ガバリと体を起こす

一瞬、何が起こったのか全く理解できなかった

しかしとりあえず生きていることだけはわかった

爆弾はかなり近くで爆発したはずだが、死んでいないあたり軽い物だったのだろう

かなり遠くに吹き飛ばされていたようだが、アイツらも無事なようだ




しかし、背負っていたはずの赤城がいないことに気付く

後ろを見ると、かなり遠くに飛ばされた赤城の姿があった




「…っ!?」

すぐに向かおうとするが、どうやら足を怪我したらしく、痛みが走った

それでもそんなものを気にしている場合ではない

今赤城はまともに動ける状態ではないのだ





赤城「てい…とく………!」

何かを訴えるように、赤城が手を伸ばす




「待ってろ! 今すぐそっちに………」

思い切り地面を蹴って、向かおうとした




その瞬間だった




赤城「来ちゃ………ダメです………!」




そういった赤城の真上で、子供くらいの大きさの爆弾が




光を放った




                        







明転




…目を覚ます




しかし、今までとは景色がまったく異なっていた




真っ白な世界




人も、家具も、部屋も、色すらもない世界




その白さがより一層、直前に見た記憶を強く思い出させた




「…」

手を伸ばす赤城、その真上で爆ぜる爆弾…

陸にいる艦娘は、人間よりも多少頑丈なだけのただの女性だ

直上で爆弾を喰らって生存しているわけがない




赤城だけは…赤城だけは絶対に死なせないと誓った

それなのに…俺は………




「…クソっ……くそぉ………!」

それは涙と言うより、嗚咽だった




ふと、人の気配がして顔をあげる

するとそこには、服はボロボロになり、肌は焼けただれた一人の男がいた

怪我はかなりのものであり、顔からはそれが誰であるか判別できないほどだ




しかし、その男は俺の知っている人物だった

…いや、俺であった





提督「やぁ」

…どうしてなのか、自分が二人いることに違和感は感じなかった




「…」

『俺』は気さくに挨拶をした

ボロボロの姿で




「…お前は、俺なんだな?」




提督「そうだね、俺はお前だ …だが、俺はお前ではない」




「…意味が分からない」




提督「そりゃそうだ」




提督「同じ体、同じ名前、同じ器を使う、そういう意味では俺はお前だ」




提督「だが、存在は異なる」




「…もう少しわかりやすく言ってくれないか」




提督「魂が違うって、言えばいいのかな?」




「…二重人格というやつか?」




提督「うーん、ちょっと違うかな」




提督「君は、俺の代わりに体を使うために生み出された存在なんだ」




提督「いわば、スペアだ」




「スペ…ア…?」

スペア、つまりは代用品だ

…この俺が代用品?

そもそも代用ってどういうことだ

どうして俺がお前の代わりに体を使う

疑問はいくらでもあった

しかし、それらを口に出そうとした瞬間、『俺』が口を開いた




提督「この俺はね、死んだんだ」

…は?死んだ?

つまり、あの爆撃で俺は死んだのか?




提督「違うよ、あくまで死んだのは、人格としての俺」




提督「体は…この通りボロボロだけど生きてるよ、今頃は病院のベッドじゃないかな」




「つまり、お前の人格が死んだってわけか?」




提督「そう、理解が早くて助かるよ」




提督「…でもね、体は生きている だからその器に入れるモノが必要なんだ」

…嫌な汗が垂れる




「…俺が、お前の代わりになる…ってのか…?」




提督「…そう」

初めて、申し訳なさそうな表情を浮かべる




「どうしてだ!? なぜ俺が!?」




提督「さっきも言ったけど、俺は死んだんだ」




提督「…少し違うか、修復不可能なほどに、精神は壊れてしまったんだ」




提督「皆を死なせて…目の前で赤城を失って…」




提督「俺はもう、ダメになっちゃったんだ」




提督「でも、誰かが俺に変わって体としての俺を維持しなきゃいけない」




提督「…だから、代わりの人格である君が呼び出されたのさ」




「…待て」




「…どうして、お前の尻拭いを俺がしなければならないんだ」




提督「…」

今まで饒舌に語っていた口が、閉じた




「あれはお前の記憶だろ!? 人格を俺に移すために俺に見せた、お前の記憶だ!!」




「アイツらを沈めたのはお前だ!!」




「赤城を殺したのはお前だ!!」




「全部お前のせいだ!!」




「…なのにどうしてそれを俺が背負わなきゃいけない…!」




「お前の罪を…どうして俺が………」

ガクリと膝をつき、涙を流しながら『俺』に訴える




長い沈黙が続いた




そうして、『俺』が口を開いた




提督「…ごめんね」




…絶句した




ごめんね、だと?




血にまみれたお前の罪を




真っ白な俺が背負うというのに




ただ一言の謝罪だけで済ませると?




押し付けられた罪を背負って、生きろと?




提督「…一つ安心してほしいのは、あれらの一件において君は咎められな…」




「ふざけるなよ!?」

我慢の限界だった

『俺』の胸倉を思い切り掴み、押し倒す




提督「ぐっ………」

奴は強く背中を打ったようだが、そんなものは知ったことではない




「ふざけるな…」

首を絞め始める




「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな」

少しずつだが確実に絞める




提督「…これで気が収まるのなら、いくらでもやってくれ」

その言葉は、むしろ死ぬことを望んでいるように聞こえた




「…あぁわかったよ、なら殺してやる」




「お望み通り、

首を絞める力を、一気に強くする




…こんなことはただの憂さ晴らしに過ぎない

むしろ『俺』が死ねば、本当に俺が器に収まらなければいけなくなる




そう分かっていても、力を緩めることはできなかった




「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」




「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」




「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」




『俺』の首がゴキリとなる直前、奴はにやりと笑って




音もなく四つの文字を表した































…どれだけ時間が経ったのか、気が付くと『俺』の姿はなく

目の前にあの扉があるだけだった





これをくぐれば、元の世界に帰ることになるのだろう

今度は一人称視点で回想映像を見るオブザーバーではなく

自らの意思で動かなければいけないアクターとして生きなければいけない




「いいよ、やってやるよ」

そう呟いて、ドアノブを握った、瞬間




世界が一気に変化した  一面真っ赤な世界だった




膝の上まで、真っ赤な水で浸かる




前を見ると、扉は少し先へと移動していた




…そこまでにあったもの




漂うちぎれた腕、足




腹に穴が開いたまま浮かぶ死体




上半身のない死体




顔のない死体




「…だからどうした」

歩き始める




「知るか」

浮かぶ腕を蹴とばす




「いいんだよ、もう」

死体を押しのける




そうして、勢いそのままにもう一度ドアノブを握る




またしても世界は変わり




今度は、どこまでも続く白い世界に戻る




ただ一つの変化は




目の前にある




左半身はえぐられ肌は焼け爛れ顔は上半分ほどが消し飛び腐った




赤城




「…」

赤城の前でじっとその顔を見つめる




そして顔を近づけ…口付けをする




長い口付けのあと、こうつぶやく