2018-09-28 18:28:29 更新

概要

注意事項

ファンタジー世界で遊びたいけど世界観を考えるのが面倒だったので
ディアボリックTRPGの「絶対隷奴」から世界観をお借りしました
どうせ私が作った最強の魔族状態なので、ダイスは適当。最早リプレイ風ですらない

在り来りな悲劇の詰め合わせ
R-18Gまでは行かないでしょうけど。安い、エロ・グロ・ナンセンスは中二病の華だと思う

あと、エロ本よ

この物語は18禁です
この物語はフィクションです
実在の氏名、団体、あとなんやかんやとは一切合切関係がありません
また、すべてのエロい人達の為に理想と現実の区別は付けてくださいね
まぁ、現実なんてしょーもないものだけど一応ね


前書き

清潔感を四角く切り取ったような部屋
病室でなければ、保健室といった風体の

部屋の隅に置かれた机、そこに腰掛けているのは一人の女
纏っている白衣から、ここの主であるのが容易に想像できた

「はい、こんばんは…。今日はどうしたの?」

あなたに気付いた女が、腰掛けてた椅子を回して立ち上がる
白衣に浮かび上がるような長い黒髪
白い肌に、赤い唇が弧を描き優しそうに微笑んでいる

「そうよね、日常なんて退屈だもの…」

それじゃあ、と間を置くて、赤い瞳があなたを覗き込んでくる
それから少しして、何か思いついた様に口を開いた

「昔話をしましょう? あるいは未来語りかもしれないけど」

それは何時か何処かの私の話
この世界とはまた違う別の世界のお話



どんな世界も、この世界につながっている


ここは魔法陣の向こう側

ここは亡者の吹き溜まり

ここは魔王たちの住む地


そう、ここは魔界…


我らは魔族で、時間は無限

全ては戯れ。上を見ても、下を見ても

待つのはただただ快楽のみ



ー霧の森ー


元より薄暗い魔界の空。森の中となれば尚更で、茂る木の葉が光を隠し足元でさえも覚束ない

そして何より、この霧だ。森全体を覆う霧の影、いつからだろうか? きっと森が出来た頃からだろう

陽が差さないのを良い事に、風が吹かないのを良い事に、流されることも掻き消されるでもなく、この森に漂い続けている霧の影

そうして、誰が言い始めるでもなく自然と そう呼ばれる様になっていた


「はぁっ…はぁっはぁっ…!!」


陰鬱とした森の中。霧のせいか 木々のせいか、不気味なまでに音の遠い世界を横切る影

何かから逃げるように追い立てられるように、必死に、懸命に足を動かして

吐き出した息は霧に紛れ、疲労と恐怖で視界が霞む

近づいてくる怒号と足音、代わり映えのしない森の景色に自分が立ち止まっているんじゃないかと不安にも包まれる


「あっ!?」


その不安は痛みを伴って否定された

木の根に足を取られ投げ出される。強かに地面に打ち付けて呻き声が漏れてしまう

当然だろう。ボロ布となった修道服、裸足のままで森の中を駆け続けて、今まで走れていた事こそ幸運だ


「あぅっ…!?」


ならばこの不幸は当然で、それでも幸運を掴もうと動かした足は悲痛に濡れた


じわり…


広がる痛み。触れれば しっとりと流れた血が指に付く

そんな足を引きずってでも幸運に手を伸ばす。森の奥、霧の奥に逃げ場があると必死で信じて見たりして

それでも不幸の足は止まらない。怒号を上げ、鼻息も荒く、無様に森の静寂を食い破りながら真っ直ぐに近づいてくる


「イタゾ…っ!!」


上がった声は人の物ではなかった

いやさ、辛うじて人の形をしているから余計に質が悪かった

ガッシリとした肉体に、人面を狂気で満ちた豚の、あるいは醜悪な蝙蝠の形に歪めたような形相は、およそ人と呼べるものではなかった


オーク…


この魔界、いやファンタジーと呼ばれる世界なら割と何処にでも存在する魔物

何も珍しいものでもなく、その性質は例によって例に漏れなく、戦力と呼ぶには一山幾ら? 程度の取るに足らない存在


でも?


それは真っ当な魔族や力ある者達から見ればの話し

ただの人間にとっては、ましてただの少女の身では悪鬼と呼ぶに相違なく、ただの暴力以上の恐怖であった




「やめ…こないで、ください…お願い…」


その懇願がどれほど無意味なものか少女は良く知っていた

だからこそ逃げたのだ。逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて、逃げた先に助けを求めて


別に彼女が何かをしたわけではない

少女、カヤ・クヴァンツはただの普通で善良な、心優しいシスターでしかなかった

朝起きれば神に祈り、昼は神に奉仕して、夜は祈りとともに眠りにつく

ただそれだけ、それだけの人生を繰り返していただけの少女であった


ではなぜ?


人ともつかぬ者たちに追われているのか?

もちろん彼女が道を踏み外したわけではない。言うなれば運が悪かったのだ

ありきたりな不幸だ。早くに両親を無くし、孤児院に引き取られたのは不幸だろう

その孤児院が教会で、物心ついた頃から神への奉仕を続けていたとあれば不幸なのだろう


あぁ、でも少女は美しかった


そんな不幸をおくびにださず。優しい笑顔で信者達を迎える少女

ステンドグラスから差し込む光に輝く金糸の髪は まるで天使の羽、その輪っかの様で

白い肌、透き通るような白い肌。血色を帯びて赤く色づき健康的で魅惑的な肌色に、誰もが目を奪われた

青い瞳が見つめてくる。サファイアのように綺麗な瞳、水を湛える深い青色に誰もが心を洗われる


そうして彼女は言うのです


天使の羽と輪を掲げ、清廉な瞳に優しい笑顔を讃えて言うのです


「さぁ、神に祈りましょう…」


まさしく天使であった

両手を合わせ膝を折り、熱心に祈る姿はまさしく天使であった

その姿を真似て皆が膝を折る。あぁ、自分もまた天使にならんと真似をする

もはや神父の言葉など誰も聞いてはいなかった。まして聞こえもしない神の言葉なんてものは まやかしだった


知れば誰もが思うでしょう「どうして、あんな娘が…」「どうして、あんなに良い娘が…」と


生い立ちを知った皆々様が「不幸だ」「可愛そうだと」褒めそやす

その度に彼女は、不幸ではないと首を振る


「私は皆さんと会えましたから…」


生まれの不幸よりも、今の幸福を分かち合いましょうと、天使の笑顔でそう言った

それを聞いた人たちは、一人、また一人と涙を流す。「いい娘」だと「天使」だと不躾に言葉にする人もいたでしょう

褒めれた彼女はまた恥ずかしそうに、はにかみ笑う。その笑顔が人を魅了するのも知らずにね


そう、少女は美しかった


その在り方が、その美貌が、人を歪めるなんて思ってもいなかった

信じていれば救われると、かつての自分がそうであったかのように。神に祈り救われたと思ったように


「だから君は邪魔なのですよ」


あの日、神父様はそう言った




痛む足を庇いながらも、どうにかして後ずさる

オーク達との間に出来た僅かな間。そんな数センチが壁になるとは思えなかったが

恐怖に急かされては、そうするしか出来なかった


「ウォォォッ!」「いやぁっぁっ!!」


オークの怒号とカヤの悲鳴が重なった

伸びてくるオーク達の腕。丸太の様な太い腕の前に、自分の体が小枝の様に思えてくる


パキッ


抵抗する合間に踏み折った小枝

下手な抵抗を続けると自分もこうなるんじゃないかと不安が心を過る


差し込んだ僅かな諦観に体から力が抜けていく

些細な事だった。少なくともオーク達にとっては私の抵抗など何の意味もないものだった

慌てて力を込め直した腕を抑えられ、無造作に伸びた腕が手が、ボロボロになった修道服を引き裂いていく

僅かに残った下着なんて、目にも入らないかのように先を急いだオーク達がその局部を露出させた


「ぅっ…」


思わず顔を背ける

それが男性器であると、そんな羞恥も漂う性臭にしかまされる

掛かる鼻息、滴る涎、そのどれも不快ではあったが、それ以上にこれからされる事への恐怖が肌を震わせた


「はな…してっ…」

「ウガッ!」


幸か不幸か。ううん、きっと賢者はこういうかもしれない「無駄な抵抗」だと

汗か、涎か、体液か、掴まれていた手が ずるり と滑った

力を込めたままの腕がそのまま飛び出し、オークの顔面を強かに打ち付ける


上に跨っていたオークが顔面を抑えて後ずさる

ふっと体が軽くなり、その隙きにオークの下から這い出ると再び足に力を込めた


「ぃっ…!?」


けれど、挫いた足が言うことを聞かない。バランスを崩して地面に膝を付ける

「逃げられる」そんな希望は直ぐ様 絶望に変わってしまった


「いっったぁ…っ」


痛めた足を乱暴に掴まれた

ずるずる とオークの元に引き戻されているのに、体は痛みに耐えるだけで精一杯になっていた

止まらない体の震え。それが痛みからなのか恐怖からなのか、確かめる様に首を動かす


目だ


爛々と狂気に揺れている目

私はソレを知っていた。あの夜も、神父様は同じ様な目をしていた…

悪魔のような。いいえ、まさしくそうだったのでしょう。目の前の、化け物たちとそう変わらない顔だった

神様の様な笑顔を貼り付け、悪魔の様に笑っていた


「いや、やめてっ…」


必死に手を握り、雑草に、木の根に、縋るようにしがみ付く

毟った雑草は仕返しとばかりに指を裂き、血の滲んだ指は木の根から振り払われた

まるで「だからどうした」と、木々達のざわめきが聞こえるようだった


「ぁぁぁ…」


時間を稼ぐには少女の足は短すぎた

オークの厳しい手に掴まれ、動かすこともままならなくなった腰

逃げ出した距離は零になり、売ってしまったオークたちへの不興は乱暴に自分へと返ってきた


1回…2回…


突き上げられる恐怖を、薄い下着が阻んでいたがそれまでだった


どんっ…


下着が破れ、熱り立ったオークの肉棒が一気に中へと押し込まれる

乱暴、なんてものじゃなかった。あまりの衝撃に声も出ず、押し出された空気だけが口から逃げていく

幸い、なのか。破瓜の血は流れなかった。ただ、そんなもの初めてじゃないというだけで、何度やっても慣れるものじゃない


少女の小さな膣の中。捩じ込まれるオークの太い肉棒

たとえ初めてではなくても、その不幸は少女の膣を広げ、中を汚して余りある


準備も何も無いままに、何度も前後に揺さぶられる少女の体


するとほら…


まるで、純血の証の様に傷ついた膣が、悲鳴と一緒に血を流した

流れた少女の純血は、僅かばかりの愛液と、オークの先走りに手を引かれ

その白い肌を、お尻を、太ももを伝って地面に ぽたぽた 染みを作っていった


「やっ、だ、んんっ!!」


苦し紛れに振り上げた腕。また、何かの幸運が重なってオークを怯ませられないかと

そんな幸運何度も続くものじゃない。もう、ここまで逃げてこられただけでも運が良かったんだと諦めても良い頃だ


振り上げた腕がオークに掴まれると、安々と体を持ち上げられた

肉棒が入ったまま体を起こされ、更に奥深くに肉棒が沈み込んでくる

逃げられない。逃げようと体を捩っても、その度に肉棒が膣の奥へ奥へと沈み込み、まるで自分から腰を振ってるみたいだった


さらに別のオークに頭を掴まれる


眼の前には太い肉棒…


嫌な予感を感じる暇もなく


「あっ…」


悲鳴を上げかけた口に、そそり立った肉棒が付きこまれた


痛い、苦しい、生臭い

口の中で生き物の様に脈動する肉棒。太いのに柔らかい、硬いのに靭やかに、口の中を暴れていく


吐き出そうと必死に頭を振り、舌を使って押し出そうとしてもまるで意味もなく

ただただオークの思うままに口内を嬲られ続ける


ふいに、胸を乱暴に鷲掴みにされた

少女の清らかな膨らみが、厳ついオークの手の形に合わせて形を変えていく

柔らかさと確かな弾力に気を良くしたのか、思うままに揉みしだかれる

それは苦痛でしかなかった。オークが喜べば喜ぶほど、乱暴になる手の動き

度重なる行為のせいか、固くなり始めていた乳首が、オークの手のひらに こすれる度に痛みにも似た感覚を連れてくる


何よりも、支えを失った体がオークの肉棒一つに引っかかっているのが問題だった

痛みと不快感、それから逃げるために縋るようにオークに体を預けて

気を良くしたオークの動きが更に速く、強くなっていく

揉みしだかれる胸と、跳ねるボールの様に突き上げられる お尻。口の中の肉棒がついには喉の奥まで届きそうになる


遠のいていく意識

縋るように伸ばした手に、差し伸べられたのはオークの肉棒

「いや」と声も出せないままに、握らされると好き勝手に動かしてくる


ビクンっ…


中で肉棒が跳ねた気がした

乱暴だった腰の動きが脇目も振らずに迫ってくる


あぁ…


もう、考えたくなかった

だってもう、次の瞬間には、化物達はきっと、私の中で…


思い出したのはあの日の夜

神父様が、そう…。この化物達の様に私を好きにした日

「お前が悪い」だとか「これは天罰」だとか「救済」だとかを宣って、抵抗できなくなった私に乱暴を働いた夜


汚らわしいと罵りながら、私と体を、肌を重ねて、壊れたように腰を振っていた


「気持ちいい」「最高だ」「これからは毎日…」


意味がわからない。そこまで言うなら殺せばいいのに、神父様は私の体を愛で続けた

そして最後は果てたのだ。汚らわしいと罵った私の中で、汚らわしいものを吐き出して…


それは、何度も…何度も…何度も何度も何度も…



「…」


だが、いつまで立ってもそれは来なかった

どころか、突き上げていた動きが止まり


どろり…


背中いっぱいに生温かい液体が降り注いでくる

それは、白くもあったが…それ以上に真っ赤に溶けていた


化物でも血は赤いんだ…


自分の事ながら、助かったと喜ぶわけでもなく、そんな考えに至った事が不思議でならない


オーク達から開放され地面に転がされる


「…ぇ…?」


オーク達に不幸を届けたのが何なのか、恐る恐る顔を上げた自分の目を疑った




「にげ、て…」


そう、叫んだつもりの声は上がらず、辛うじて擦り切れるような声を喉の奥から絞り出す

本当なら手を引いて逃げ出したい、出来るなら身を挺して庇って上げたい

だけでもそれは叶わない。カヤに出来るのはせいぜいがオーク達の慰みものになって時間を稼ぐことくらい

その間に、せめてどうか、瞳に映る少女が一歩でも遠くに逃げられる事を祈るしか出来なかった


「ぺっ…」


少女が吐き出した唾が、べしゃり と地面に赤い染みを広げる

子供ながらに無垢な素肌。その小さな手から滴る雫もまた赤く、愛らしい口元には紅が引かれていた


「おいしくない…」


あどけない表情を歪める少女

眉根を寄せて、口を引き結ぶ姿は本当に不味かったらしい

むしろそうであって欲しい。こんな化け物たちの血肉が美味しいだなんてそんな事は


「キサマッ!」「コロスッ!」「オカスッ!」


そこで、オーク達もようやくと事態を把握した

口々にたどたどしい罵声を浴びせて、太い腕を振り上げて少女目掛けて飛びかかる


「…?」


それをただただ見上げる翡翠の瞳

傾げた首と一緒になって揺れる栗色の髪。頭から生えた猫の様に獣じみた耳がピクリと跳ねた


「いやっ…」


カヤの悲鳴と同時に、オークの太い腕に殴り掛かられ、吹き飛ばされた少女

その細い体は紙切れの様に宙を舞い、地面を転がりながら太い幹の袂でようやく留まった


「アハハッ」「シンダ」「シンダナ」


そうやって薄汚く笑い合うオーク達の、その首が落ちていた


「アッ?」


腹に穴も空いていた


「エッ?」


事態を把握する事もなく死ねたのは恐らく幸運だったのだろう


「ヒッ、ヒィィィッ…」


化物様な姿の割には情けない悲鳴

気づけば少女はオーク達の傍らに立っていた。足元に2つの死体を転がしながら


「ぺっ…」


先程と同じ様に指先に付いた血肉を舐める少女

だからといって味が変わる訳もなく、再び お行儀悪く地面に唾を吐き捨ていた


「もういい…」


美味しくないなら要らない。そんな単純な理由で回れ右

けれど、だけど少し、回れ右と一緒に巻かれた風の中、美味しそうな匂いを微かに感じた


「あなたはだあれ?」


釣られるままに見下ろすと、そこには魔物でもなく魔族でもなくて随分と弱々しい生き物が転がっていた

体を屈めて顔を近づける、覗き込んだのは吸い込まれそうな青色の瞳。それは素直に綺麗だと思った

更に顔を近づけて鼻を鳴らす。やっぱり、良い匂いだ…。けど、さっきの魔物達の匂いが生臭くて鬱陶しい

持って返って洗ったら、もっと良くなるかも知れない


「私は、大丈夫だから…早く、逃げて」


なにか不思議な事を言われた気がする

逃げるとは何か? 言葉の意味とかじゃなくて、なんでそうしなきゃいけないのか分からない


「?」


少女が首を傾げると、カヤも不審を感じ取り、 よろよろ と後ろを向いた

振り向けば、今にも襲われるかも知れない恐怖は確かにあった

けれど、それにしては回りが静かに過ぎる。オークの雄叫びも、下卑た戦慄きも聞こえない

元より森の中だ、そう騒がしい筈もないのに、目の前の少女が遠くに感じるほどの静けさ


ああ…それもそのはずだ


振り返った先には誰もいなかった

いや違う、努めて見ないようにしていた。単純な恐怖から、これ以上この事態を直視しては心が壊れると本能的に避けていた


霧の中。一匹、また一匹とオーク達が倒れ込んでいく

あるいはもがき、または苦しんでいるのに、その場からも逃げ出せず

その場で何か縛り付けられたように、底なし沼にでも嵌った見たいにして、ずぶずぶ…ずぶずぶと、朽ち果てていった


「かえで、これ」


少女が霧の向こうに呼びかけると、誰も居ない、そう思っていたはずの場所に ふわりと人影が現れた


「ただ人ね、珍しい…」


透き通る様な声だった

墨を流したような黒髪と、正反対に白磁の様な白い肌

綺羅びやかな着物姿に、負ける事のない完成された容姿


美しい…


息を飲むほどに、こんな場所でなければ天使が迎えに来たと純粋に信じたのだろうけど

きっとそんな筈はない。それでも、さっきの化け物たちよりは…そんな有りもしない希望を抱いて


カヤの意識は遠のいていった



ー霧の屋敷ー


目が覚めた時には風呂場に放り込まれていた

というよりも、風呂場に放り込まれて目が覚めたというのが正しい順番だ


「話はくらいは聞きましょう」


彼女、あの黒い髪の女性はそう言った

こちらとしても願ってもない話で、その前に身を清めて来いという心遣いも嬉しいものだった


心遣い…


そんな甘い考えが未だ残ってる自分に辟易しそうになる

実際、彼女だって親切でやってる訳ではないのだろう。単純に、単純に考えて家を汚されたくなかったからか

まぁ、血と白濁に塗れた娘を家に上げたがる人なんてそうそう居ないのだろうし


「はぁ…」


ため息を一つ

それで何が変わるわけでもなかったが、心の中の もやもや は少しは出ていってくれたように思う


カヤが湯船の中で体を伸ばしていると、そのお腹、膝の上に女の子が一人潜り込んできた

頭には猫を思わせるような獣の耳、多分にもれず腰の終わり、お尻の頭からも同様に長い尻尾が生えている


未だに信じられていないのがこれ

自分が庇おうとしていた女の子が、その細腕一つで化物たちの命を奪ったこと

眼の前で起きていたのに、まるで現実感のない光景。自分より幾分か年下に見える子が…


「ぅっ…」


思わず口元を抑えた

お腹の奥が締め付けられて、喉元にまで込み上げてきた物を必死に押し込んだ

喉奥から立ち上る臭いが鼻孔をくすぐる。頭を過る光景、血と白濁と、怒号と悲鳴、自分が乱暴された事実


「はぁ…はぁ…はぁ…ふぅ…」


大きく呼吸を繰り返し、なんとか気持ちを落ち着けた

そうやって多少の余裕を取り戻した頃、その大きな瞳と目があった


翡翠のような柔らかい光を湛える瞳


子供心に心配しているのだろうか、不思議そうに私の顔を覗き込んできていた


「あなた、お名前は?」


今更ながらに当たり前の疑問を口にする

膝の上に居座る名前も知らない女の子。そろそろ助けてくれたお礼の一つも言ったってバチは当たらないはずだ


「みけ…」


名前だけの端的な返事

無口な子、という印象も受けたが、若干の たどたど しさに舌が回ってないように思う


「そう…。みけ、ちゃん? 可愛いお名前ね」

「かわいい?」


その言葉に首を傾げる みけ

年の頃は10と少し位だろうか。そんな時分の女の子が可愛いと言われて首を傾げる…

今まで言われたことが無いのだろうか? 今まで愛された事が無いのだろうか?

そんな想像が心に憐憫を起こさせる。傲慢かも知れない、それを可哀想だと憐れだと、自分の杓子で測るのは


「えぇ、可愛いわ」


それでも。思わず伸びた手は、みけの頭を、栗色の柔らかい髪を優しく撫でていた


細まる瞳、伏せる獣の耳。本当にネコみたいだと微笑ましく思っていると

ふと、手首を掴まれた。嫌がられたかと思えば そういう風でもなく、ゆっくりと指先を自分の顔の前に持ってくる


ちろっ…


指先を舐められた

こそばゆさに手を引きそうになるが、しっかりと掴まれていて、その場から動かすことさえままならなかった

更にもう一度、確かめるように指先を舐られた後、その小さな口に咥えられる


「…みけ、ちゃん? くすぐったいから…ね?」


驚かさないようにと、それでも先程より しっかりと力を込めて手を引くが ぴくり とも動かない

温かい、柔らかい、口の中、咥えられる指先、絡んでくる舌先、確かめるように舐め回されている


年下の女の子に指先を舐められているだけの非日常

何か悪いことをしているような、悪いことをさせているような

そんな背徳感が、こそばゆさと一緒になって指先から全へと広がっていく


どきんっ…


心臓が跳ねた

僅かばかりの高揚感が押し上げられて思わず声が漏れてしまった


「あっ…」


慌てて口元を押さえるが もう遅い

その開放感は確かな快感となって全身に広がっていく

性の倒錯にはまだ遠いが、それだけに、それならばと、心を許してしまいそうな気安さがあった


「ぅっ、ぁ…っ」


だんだんと、漏れ出す声が多くなる

その度に得られる快感も増えていき、いつしか全身から力が抜けていた


揺り籠の様に湯船に抱かれる感覚

指先から伝わる快感も手伝って、心も体も絆されていく


いつまで続いていただろうか、ぼぅっとした頭で開放された指先を見つめていた

指先から伝わる唾液が糸を引き、雫となって湯船に落ちる

ようやく、開放されたと安堵はあったが。同じくらいに物足りなさも感じていた


「…そろそろ、上がりましょう…」


湯船の縁に手をかける

頭が働かないのはきっと上せた せいだと言い訳をするために


しかし、そうはさせてくれなかった


膝にのったままの みけ が、まるで逃さないとでも言う様に腰に手を回してくる

お腹に乗った柔らかい唇。そのまま舌をだし、汗の雫を伝いながら上へ上へと這い上がってきた


あまりの力に立ち上がる事も ままならないまま、ついには足を滑らせて湯船の中へ引き戻される

そっと、みけの体が伸し掛かってくる

決して重くはないのに、肩に乗せられた手の平一つに体を動かせないでいた


翡翠の瞳に見下されている。深い深い翡翠の瞳に吸い込まれそうになる

何を考えているのかわからない、敵意もなければ好意も見当たらず

ただじっと、覗き込んでくる視線に、鷲掴みにされそうになる心を必死に守っていた


そんな私に痺れを切らせたのかは分からないが、次の瞬間には唇が触れ合っていた


同じ触れ合いなのに、指先を舐められるのとは比べるでもなかった

まずは驚きに身を竦めた。これが初めてだと言うほど綺麗な体ではなかったが

だからこそ余計に、その時の記憶が体を強張らせた。これから また乱暴されるのかと

こんな小さな子にまで好きにされるのかって、それに抵抗出来ない自分に泣きそうにもなる


だが、いつまでだってもそれはこなかった


重なる みけ の唇

何度も何度も重ね合わせるだけの稚拙な口づけ

柔らかい唇が、位置を変え、形を変えて、パズルを嵌めるようにして啄んでくる


愛おしい…


心の何処かがその温もりを思い出す。純粋に求めてくる行為に安心さえ覚えていた

子供にキスをせがまれているだけ、そう思えば可愛いものだ

ませた男の子が、やんちゃな女の子が、悪戯に、挨拶に、愛情を伝えてくるのは良く良くあった


体から力が抜けていく。強張りが吐息となって口の端から漏れていき…


空いた隙間に舌が入り込んできた


ちょっとした油断と気の迷い、心に出来た隙間に甘い誘惑

舌っ足らずだった喋り方とは裏腹に、口の中を這い回る小さな舌


頬の裏、上顎、下顎、そうして舌を絡め取られると、溜まり始めた唾液を 一気に吸い始める

淫らにも聞こえてくる水音。一緒になって口の中から、胸の奥から空気を吸われ、いつしか意識が遠のいていく


「はぁ…はぁ…あ、ぁはぁ…」


開放されたと気づいたのは、自分の呼吸がやかましかったせいだろう

肩で息をしながら、覚束ない視界のまま 見上げる みけの表情は満ち足りていた


まるで甘いフルーツジュースを飲み干した子供の様に


抵抗、するだけの余裕はなかった

頬に触れる みけの手に、辛うじて自分の手を重ねるのが精一杯

再び近づいてくる顔。瞳を閉じたのは、受け入れるためか、精一杯の抵抗だったのか私でも判断が付かなかった


「あぁっ…」


声が出たのは唇を奪われなかったから

声が出たのは唇が触れたから


何処かで目移りしたのだろう

みけの唇が、いつしか私の乳首を啄んでいた

キスの時にしたように、確かめるように何度かそうした後、一気に吸い付いてくる


「んんぅぅぅっ!?」


体が跳ねるのを抑えられなかった

頭の片隅が チカチカ 瞬いて、その光に目を眩ませる


指を舐められ、唇を求められ、唾液を啜られて…


知らず知らずに昂ぶっていた体は、今になって限界を迎えていた

拙い子供の悪戯から直接的な性の刺激へ、その変化は甘美なものだった


自分にも確かにあった感覚


神父様に犯された時も、化け物たちに陵辱された時も、頭の片隅にはあった確かな痺れ

官能には程遠かった。それよりも痛みや恐怖、嫌悪感に絶望に、負の感情が心を埋め尽くしていたから

その痺れは最後に残った心の欠片を麻痺させる程度のものでしかなかった


けど今は…


痛みは安らぎに、恐怖は安心に、嫌悪感と絶望は愛情に取って代わり

私を求めるこの 女の子の事が愛おしくて堪らなくもなっている


そんなのは おかしいと、頭の隅で警笛が鳴っていた


確かにそうなのかも知れない

今さっきあったばかりの子に、得体もしれない女の子に、体を許しているなんて おかしい とは思う


乳首からの刺激に心を弾ませる

愛おしさに伸びた手が、みけの頭を優しく撫でると、その小さな体を抱きしめた


弄られる胸に、吸われる乳首

這い上がってくる快感が 、触れ合う肌と肌の境界を無くしていく


もっと、ずっと、強く抱きしめて


舌先で乳首を舐られる。固く勃起した乳首が右へ左へ振り回される度、得も言われぬ快感が全身を覆っていった


みけ と、一つになっていくような錯覚


快感で反り返る体、もっと欲しくて、もっとあげたくて、求められるままに胸を口元へ押し付ける


欲望のまま みけの頭を掻き抱いて?


激しくなっていく水音、汗と唾液とお湯が混ざり合い、歓喜となって口から嬌声を押し上げる


思うままに声を張り上げて? 与えられるままに快感を受け止めて?


期待をしていた

じりじり と熱くなっていく乳首の先。出るわけもないのに、それが出来たらどんなに良かったかと思っていた


いやどうだろう?


あの時か、あの時か、すでに行為は終わっている

もしかしたら、そういう事もあるんじゃないかって

それが例え、望まぬ行為の先であっても。いまこの子に、私を求めてくるこの子に、与えられる物があったなら


それはどんなに良かった事か…



はじめての陶酔だった

縋るように みけ を抱きしめ、快楽のままに流される

体は硬直して、頭の中は真っ白になり…


気づけば、辛うじて湯船に浮いていた


立ち上る湯気、半端な照明を受けて照り返される乳首の先

とろりと、流れる落ちる唾液が白濁を映した時、もう戻れないような気がしていた




「随分と長かったわね?」


からかう様な 彼女の口振り

まるで、というよりも実際に見ていたのだろう


このために、二人で風呂場に放り込んだのかと邪推もすれど

どの道、血まみれだった みけを放っておくわけにも行かなかったのだと自分を納得させていた



自分の上で寝息を立てていた みけを何とか起こして

お風呂場から抜け出した時には、言われた通りに随分と時間が経ってしまった

場所を移して、今は畳間の一室

東洋の部屋の作りは詳しくは無いが、質素ながらもしっかりとした作りは嫌いではなかった



その一室に ふわりと彼女は現れた

豪華な着物に、墨を流し続けた様な長い髪、白磁の様な白い肌

ただ、何処をとっても目を引くのに、まるで現実感の無い、そこに浮いているだけの様な気味の悪さを纏っていた


霧里・楓。彼女はそう名乗った、この屋敷の主で、みけ(この子)の飼い主だと


助けてもらった礼を込めて頭を下げる

だが実際は、そんなものじゃなかった。見ていられないのだ、彼女を直視していられない

一度直視してしまえば、その容姿に引きずり込まれそうになる程の美貌。同性の私でさえも惚けさせるような危うさがそこには在る


傾国の美女。右に左に、歴史には何度か名前の上がる人々

それが実在すればこうもなるだろうか。人の心を握り潰すような危険な美貌は


切れ長の紅い瞳が見つめてくる

まるで品定めをしているみたいに、不躾に、舐めるように、視線が指先になり体中をなぞられているような気分だった


「なぜ?」


耐えきれずに声を上げていた。そうしなければ視線に潰されていた

「なぜ助けたのか?」と彼女に問う。まさかの善人という事も無いだろうが、何を求められても渡せるものなど たかが知れていた


「それを聞きたいのは私よ?」


だが「なぜ?」と、同じ問が返ってきた

「なぜ、森に居たのか?」なにより「なぜ、オーク達から逃げ出したのか?」

それは、不思議な問いだった


「…あんな化物を前に逃げない理由が?」


それが人なら誰だってそうするだろう

あれで人畜無害ならまだしも、じっさいは野獣よりなお質の悪い冗談だ

蛮勇を張って死にに行く人が幾人いるかも知れないが、実際は逃げ出す人が大半の筈


「逃げるって事は、まだ諦めて無いって事でしょう? 知りたいのその理由よ?」


知っているはずだと、彼女に指を突きつけられた

諦めた者達の顔がどんなだったか。絶望に固まり、恐怖に凍えて、お面見たいに上っ面を取り替える

その裏には死んだ顔が在るだけの、生きてるだけの者達を


覚えはあった

この世界に落ちる前にも、オーク達から逃げ出す前にも

みんな死にたくないの一心で、絶望から顔をそむけて笑顔を貼り付けてみたりして


「さぁ、カヤ。カヤ・クヴァンツ。悪魔と契約をしましょう?」


彼女の言葉が耳から心の奥に染み込んでいく


「私が欲しいのは、お金と、魂(こころ)と、その体」


貴女を売り払って、僅かばかりの駄賃を手に入れるのも

貴女を壊して、一時の慰めにする事も

貴女を辱めて、束の間の倒錯に溺れるのも


好きにすればいいと、彼女は、霧里・楓はそう持ちかけてきた


確かに、私の払える代価なんて彼女の示した限りかも知れない

着の身着のまま世界に落とされた私には、お金も地位もなにもないのだから


ならば、望まれるままに命を差し出すのか…


それはダメだ

彼女が契約を守るとは限らない。売り払われても それは一緒

そうなると不自然にも選択肢は一つだけに狭まっていく。いや、きっと、彼女はこのつもりでの提案だったのだろう


仮に彼女の予想を裏切っても不利益なんてなにもないのだ

宣言どうりに私を壊して、売り払ってお終い。面倒な契約なんて忘れてしまえばいい


ただ、気になることがもう一つ


「私が、全部断って此処から逃げだしたら?」


嫌だ。というのは誰でも出来る抵抗だ、しかし…


「あぁ、それは考えても無かったわね。けど…」


例えば引き返した所で、オーク達に捕まるだけでしょう?

そうじゃなくても別の魔物に襲われて終わり。貴女の願いは叶わない


この世界は優しくないと彼女は謳う

良くて性奴隷。悪いことを考えればキリがない

輪姦されて、肉便器にされて、孕まされて、あげく苗床にされて、楽には死ねないわよ?


「貴女がそれをしないって保証は…」

「無いわ。けど言ったわよ? 良くて性奴隷だと?」


つまり、この世界に落ちた人間の最高の待遇がそれでしかないと


「安心なさい、契約は守るわ。貴女が体を売るならね…」


人の寿命が定まっているのなら

この世界に落ちた時こそ、私の寿命は終わったのだろう

ならばこれは余生でしかなく、最後の望みのためにそれを使い果たせるならば


「…」


そっと、貸し与えられた服に手をかけた

粗末なバスローブとも言うべきの、ただただ白いだけの薄い和装

なんとも頼りないと思ってはいたが、紐を一つ引くだけで裸になれるのは便利だと思うしかなかった


「我が家へ ようこそ カヤ」


そうして彼女は、その美貌は歪めたのだった





翌朝


支給されたのはメイド服

和装の屋敷でそれを渡される意味は分からないが、聞いても面白そうだからと済まされた


まぁ、自分の事は良いんだ

どうせただの奴隷に拒否権はないと言われてしまえば口を挟む余地もない


ただ、どうして みけちゃんはパーカー 一枚だけを羽織っているのかと

もちろん下なんてなにもない、サイズが大きいお陰でミニスカート見たいになってはいるが

ちょっとでも雑に動けば見えてしまいそうだった


「服を着せても邪魔そうに脱ぐから」


それが楓の言い分で、それが事実でもあった

何とか良い含めての折衝案が、たまたま手元にあったパーカー一枚だけ


「ま、脱がしやすくて良いんじゃない?」


見た目にもエロいし、みけも困ってない

誰も不幸にならない賢い選択だと、楓は笑っていた


カヤは一人思う

そのうち服を用意して上げたほうが良いだろうと、そんな余裕が自分に与えられたらだが



ー霧の街ー


中世的でファンタジー感溢れる木組みとレンガ造りの町並み

それが続いたと思えば、東洋的な屋敷が顔を出す

目の端々には、どれにも当て嵌まらない掘っ立て小屋も立ち並び、玉石混交の様相を呈していた


ここは霧の街

なんの事はない、霧の森から程近い場所に出来た普通の街

日本で言うなら地方都市程度の規模でしか無いが、付近で暮らす魔族達の生活の基盤にはなっていた


特徴と言えるほどの特徴もなく

一つ、不審な点を上げるなら。程度の差こそあれ、年中霧が掛かっていることくらい

土地柄だったり、地面に染み込んだ霊的な何かだとか、理由を付けたがる者達は幾らがいたが

曰く、霧の森から流れ込んできているのだろうというのが、もっぱらの定説で


「そして犯人は私」


そう言って、彼女・霧里 楓 は得意げに胸を張った

なるほど。確かに個人の力で、森一つ、街一つ、この地方全域にまでを霧で覆っているのなら凄い事ではあるが


「なぜ、そんな事を?」


当然の疑問を カヤ が口にする

それほど力が有り余っているのか、そうまでして日光を遮りたいのかと色々予想はつくけれど


「流刑地なのよ、ここ。ある意味だけど」


私のせいとはいえ、年中霧の覆う土地

いくら魔族とて、好きでそんな所に住みたがるものは多くない


せいぜいが、日に弱いか、じめじめしたのが好きな奴ら

そうでなければ、表通りを歩けなくなった連中。そう言ったものが、この吹き溜まりにいつしか街を作る程にはなっていた


「ルールは一つ。騒ぎを起こさないこと」


綺麗な指を一つ立てて、愉快げに楓は語っている

であれば、解せない。こんな世界にも最低限の秩序があるとして、そんな中でさえ大っぴらに歩けなくなった連中

そんな者達が、騒ぎの一つも起こさないでいられるのかと


「ああ、それはね。ギブ・アンド・テイクよ?」


私は彼らの命を死なない程度に啜り、彼らは私からの庇護を得る

それが昔からの、体質や気質的に暗がりを好む者達との お約束


では流れ者はどうだろう?


もし外様な者達が騒ぎを起こしたらどうなるのか


「貴女も見たでしょう、カヤ?」


思い出したのは霧に巻かれて、ぐずぐず に溶けていくオーク達

自分を襲った相手だと、ざまぁ見ろと吠えてもいいが、それを差し引いても目に優しい光景ではなかった


「そして犯人は貴女…ですか?」

「せーかい♪」


綺麗な顔を喜悦に歪める楓

言ってみればこの街は、彼女の胃袋の中なのだろう

彼女の腹持ち一つで、住人たちは命を吸われて。時たまに一人二人いなくなるのは必要経費だと割り切って生きている


文字通りの人身御供


「では、私は…」


嫌な予感。もしかしたらマッチポンプだったのかと

オークに攫わせて、オークに追わせて、オークに辱められて…

それも彼女の、一時の享楽だとしたら


「残念だけど、人攫いは自分でやる主義なの、特に美人はね?」


また笑う。その笑顔が本物かどうかを探る前に、その表情が途端に曇った

視線の先にはオーク達。取り囲まれたのは一人の…少女のようには見えるが


助けたい


そうは思うが、自分に何が出来るのか。せいぜいが代わりに慰みものになるくらい

拳を握り込む。単純な恐怖と歯がゆさ、何度も踏み出そうとして何度も躊躇する

誰が、誰が、好き好んでオークのおもちゃになりたい物かと

思い出したかけた光景に、傷ついた体が疼き出し、それ以上はと心が拒否し続ける

けれど、だからと割り切って目を伏せられる程にはまだ…


ぐしゃ…


その逡巡の僅かな暇。オーク達の体が崩れて溶けていた


「ひぃっ…」


眼の前で突然にオークが溶けて消えれば誰だって驚くだろう

例にもれずオークに絡まれていた少女もまた、小さな悲鳴と一緒に腰を抜かしてその場に座り込んでいた

少して、こちらに気づくと何度も頭を下げながら、 そそくさと路地の向こうに消えていってしまった


「知り合い、ですか?」


見送る背中に、笑顔で手を振る楓に問いかける


「まさか。貴女は、自分のお腹の中を見たことあるの?」

「いえ…」


そう言われてしまえば確かにそれまでだった


「まぁ、私の事を知ってるってならきっと善良な市民なんでしょうね?」

「それは…単に貴女の格好が目立つだけでは?」


楓の格好。つまりは豪華な着物姿。赤やら金やら黒で装飾された晴れ着とでも言えそうな出で立ち

この世界の基準は知らないが、ぱっとみ洋装に近しい者達と…毛皮や素肌が多いように見受けられる

そんな中での その格好。それは悪目立ちと言うんじゃないかと思う


「目立つから良いんじゃない?」


その時は首を傾げるばかりだったが、道を歩く内になんとなく理解した

すれ違う者達の反応が二分されていたのだ

大まかに、道をあける者、頭を下げる者達。それとは別に、怪訝な視線を向けるものに、わざわざ絡んでくる馬鹿者達


大抵は、その場で みけちゃん に殴り飛ばされるか

ひどい時は 突然に苦しみだして そのまま ぐずぐず と溶けて無くなっていく

懸命な者達はそれを見て、呆れと嘲笑を投げかけると、残った死体や、辛うじて生きてるバカ達を引きずっていった


「…警戒色」


思ったままに言葉が漏れてしまったのは迂闊だとはおもう


「失礼ね、人を虫見たいに。まぁ、だいたいあってるけど」


さすが悪魔、地獄耳だ



ー霧の百貨店ー


人が集まれば需要が出来る、需要が出来れば店が出来る、店が出来れば金が回る

それは人間界であれ、魔界であれ何処も同じであった


必要なものを、必要な時に、あなたの手元に


そんな在り来りなキャッチコピー

言うや易し、行うは難し。が、実際やってしまうのだから恐れ入る


事実、街の片隅で始まった小さな商店は、今やその基盤を牛耳ってしまっているのだから


「したりーっ、いるかしらー」


楓が乱暴に店の扉を開けると、備え付けられていたベルが かんらかんら と音を立てた


古ぼけてはいるが、埃っぽいわけでもない店内

むしろ 見れば見るほどにその古さが味になるように設えれているのが良く分かる


見渡せば武器や防具、装飾品に消耗品などのアイテムの数々

かと思えば、日用品から雑貨品、嗜好品までもが綺麗に並べられていた

冷やかしに歩き回るだけでも楽しそうだし、実際にそれが意図されているようでもあった


「まったく、やかましいねぇ…もう少し静かにしておくれよ…」


店の奥、カウンターの裏から聞こえた声

老人のように 嗄れ、くぐもったような音と、泡立つような不快感


現れたのは、長身痩躯の出で立ちに大げさな黒いローブの人影

ただし、その頭部はタコをそのまま据え付けただけの異形の姿だった


ソウルイーター…


魔界の通貨であるソウル、つまりは人間の魂を喰らって生きている化物

性格は概ね、冷酷で打算的で保身的。その高い知能も相まって、敵にしても味方にしても楽しい存在


「あら、お言葉ね。スポンサーは大事にするものじゃなくて?」

「スポンサーに仕事の邪魔をされちゃ敵わないって言ってるのさ」


売り言葉に買い言葉

とはいえ剣呑な様子はなく、互いにからかい合っているだけの軽い挨拶の様だった


「で、今日はなんのようだい? 奴隷なら満足するようなのは居ないよ?」

「それは何? オーク達に取られちゃったから?」

「あんたが放ったらかしにした結果さね。自業自得だよ」

「それよ? どうなってるわけ? 私が遊び歩いてた間?」

「情報だってタダじゃないんだよ?」

「私の体で♪」

「よしとくれよ。あたしゃまだ死にたくはないよ」


半笑いになるソウルイーター(したり)

「ま、良いさ…」と、ため息一つをついて語りだす


楓が人間界に遊びに行ってしばらく。霧が薄くなったのを良い事に一人のオーガが威張り始めたこと

数だけは多いオークを従えて、そりゃ好き勝手にやり始めたこと

元来の住人は あんたのお陰か厭戦的だったのも災いしたね

それを聞きつけて、外からならず者はやってくるし、あっという間に滅茶苦茶さ


「ふーん。いっそ、群雄割拠にでもなれば したり の仕事も捗ったのにね」

「まったくだよ。けどそうはならなかったのさ、みんな良い子なものさね」

「飼い殺しにしすぎたかしら?」

「だろうさ。あんたに頭をたれたりゃ不自由はしない、そんな連中ばかりを集めたツケだね」

「そんな連中を相手に商売をしておいて」

「そんな連中だから食い物になるんだよ」

「まぁ、怖い」

「あんたにゃ負けるよ」


しかし、と楓は考える

思った以上に面白くもない状況だ。軒先を貸して母屋を取られた、そんな気分

とはいえだ、解決の手段としては簡単なのは助かる。要はそのオーガをヤッてしまえばいい

方位磁石の様に簡単に決まった方針に頷いた頃「楓、様…っ」と、苦しそうなカヤの声が聞こえてきた


「あ、あの…みけちゃん が…」


ずるずる と必死にで引き止める カヤを引きずりながら、店の奥へ向かっていく みけ

その先には厳重に封をされた扉があった

みけ の耳がパタパタと動き、扉の向こうの側に向きを定める、鼻を鳴らして嗅いだ匂いに吸い込まれるようだった


「奴隷部屋ね」

「まったく、勘弁しておくれよ…」


もしゃもしゃ とタコの頭を振る したり

棚からお菓子を一つ取り出すと、みけの前へと持っていく


「ほら、魔界まんじゅう だよ、これで我慢しとくれ」

「…?」


不思議そうな顔を浮かべる みけ

したり の顔と差し出された まんじゅうとを交互に見比べて「良いの?」と伺うように カヤ の方を振り返った


「あの、ありがとうございます」


みけ に頷いて返した後。改めて したりに向かって頭を下げるカヤ


「あんたも喰うかい?」

「え、その…」

「安心おしよ。人間の毒になるようなのは入ってないさ、美味いと思うかは別だがね」

「いえ、その、ごめんなさい、頂きます」


一瞬の躊躇ではあった

タコの頭を被った怪物から差し出された食べ物。それを躊躇うのは人間としては普通の反応ではあったが

それが相手の好意に泥を塗り、わざわざ気を使わせてしまったと思うと、素直に頭が下がってしまっていた


「変な娘だねぇ? あたしに ありがとうだってさ」

「まだまだ人間捨てられないのよ、可愛いものよね?」

「ダムンドには落とさないのかい?」

「それも良いけど、それじゃつまらないっても思うわね」

「かっ、悪趣味だねぇ」


そういって、くつくつ と笑う人外二人


「で、何処で拾ったんだい? あんな上物、そうそう転がっちゃ無いだろう?」

「あら、あんたが オーク達に売り飛ばしたものとばかり」

「どうだかね。家畜の顔なんて いちいち 覚えやしないさね」

「まあ、そうよねぇ…」


戦の前に情報収集とも思ったけど、オーク相手にそこまでするのも面倒くさい

現に指先一つで死滅するような脆弱な生き物だ。目障りなだけで一分と立たずに静かになるだろうし

せいぜい欲しい情報といえば


「したり、見取り図をだしなさい」

「簡単にいうね、まったく」


ぶつくさと文句を言いながら店の奥に姿を消す したり

だがそれも、踵を返すような速さでもどってくる


「ほらよ。空き家にそのまま巣くっちまってね、あたしも商売上がったりさ」

「ご愁傷さま。害虫駆除は任せなさい」

「ああ、期待してるよ。スポンサー様」



ーオーガの城ー


街から少し離れた小高い丘の上

城と言うには大げさだが、立派な館では確かに合っただろうと面影は残っている

長い年月の経過に加えて、オーク達の乱暴な扱いを受けたせいか、所々に損傷が見受けられた

周辺にオーク達が彷徨いていなければ、もはやただの廃墟と言っていいだろう


「さて、カヤ」


城を前にしてカヤに向き直る楓


「あなた が逃げてきたのは あのお城?」

「はい…」


カヤが頷いたの確認して 話を続ける楓


「確認よ? 私は貴女を あそこに連れていけばいいのね?」

「はい。それと、あの子を助けるまでが契約です」

「分かってるわ。でも、生きてたら、でしょう?」

「…」

「やだ、怖い顔」


カヤの綺麗な顔に怒りが滲む。いや、憤りだったかも知れない

どちらにせよ、睨みつけてくるその感情が楓には愉しいものだった


「ねぇ、どうして その子を置いてきたの?」


愉しげに悪魔は囁いた

二人では逃げ切れなかったとカヤは言う

それはそうだろう。幾らオークが弱くても、足手纏いを抱えて人間が逃げ切れる訳が無い

一人で逃げた貴女は正しい。けれど、その子を置いてきたのもまた事実


「必ず戻るから」と、貴女は約束したのでしょう?

「待ってる」と 、その子は答えたのでしょう?


行かないで、私も連れてって、置いていかれる恐怖を飲み込んで、震える手で貴女を見送ったのでしょうね?

貴女は知っている筈、その子も知っていた筈。一人取り残されたか弱い少女の末路、それは悲劇に他ならない


きっと縋るべきだったのよ?


オーク達に体を擦り寄せて、甘い声で鳴いて見せて

どうか、どうか、この子だけは見逃してくださいと、代わりに私を好きにしていいからと

腰を振って、体をくねらせ、オーク達の汚濁に塗れるべきだったの


でも貴女はそうはしなかった


助けを呼んでくるから、そんな有りもしない希望を言い訳に逃げ出した

見送る その子の健気な事、大好きなお姉ちゃんの代わりに自分がどうなっても構わないと


「素晴らしい愛情ね、絶対助けないとね?」

「…っ」


睨みつけてくる青い瞳が涙で濡れていた

ああ、これは正しく怒りだろう。それを受けて一層 悪魔は笑みを深める

人の激情、それこそが糧であるがゆえに


「貴女は…なんとも思わないのですか? 子供が、そんな目にあって…」

「思わないわよ?」


淡々と悪魔は答えた


「ある日何処かで誰かが死にました。珍しくは無いはず、人間の世界でだってね」


風の便りに風聞に

事故で、疫病で、犯罪で、飢餓で、貧困で、戦争で、そして嫉妬で

ある日何処かで誰かが死にました。ああ、悲しい、悲しいわね


「それで? それだけでしょう? 神様に祈って解決した? それでも人は人を殺したわ」


じゃなくたって、私達は人を食い物して生きてるの

家畜がいくら死んだ所で泣いたりしないはずよ、貴女達だってね?


「私達は…家畜ですか?」

「良くて愛玩動物(ペット)ね?」


その場合は泣く位はするかもだけど、野良犬が死んだ所で何も思わないでしょう、やっぱり?


カヤは何も言えなかった

ああ、そうだ、その通りなのだ。この悪魔が言ってる事は間違ってはいない

人が人を殺すのなんて珍しくも無いのに、悪魔に同情を求めたってしょうがない

まして、人を食い物にしてるんだ。それを責めるのなら、私達だって何かしら責められても良いはず


逃げ出した。そうと言われれば否定は出来ない。その先に助けがあるなんて保証がない以上尚更だ

あの子の前に立ち、オーク達の汚濁に塗れる未来もあったが、そこにも希望はないだろう

結局、早いか遅いかの差でしかない。この世界に落とされた時点で、人間の末路なんて決まっていたのだ


「それでも…私は戻りました。手段を用意して」

「ええ、それは幸運だったわね。神様に祈りが通じたのかしら?」

「そんなのは…」


もはや信じてはいなかった

神父に襲われた あの時も、それに今だって

望みを叶えたのはいつだって悪魔だったのだから



ーオークの城・玉座の間ー



人間の奴隷に逃げられた魔族


これだけを聞けばただの間抜けでしかない

だが、その後どうするかは その魔族次第だ

人間の奴隷なんてのは、市に行けば簡単に手に入る程度のものと捨て置くのも良い

それならそれで、執拗に追い回して逃げ惑う姿を、魔界の凶悪な魔物に捕まる憐れな様を見るのも きっと愉しい


しかしどうだろう?


プライドばかりが肥大した魔族にとっては、その仕打ちは飼い犬に噛まれる それよりも許しがたい

第一 示しがつかないのだ。支配者として、人間如きに逃げられたと合っては良い笑いもの


彼女、ヘルダ・メルダは焦っていた

外様として この土地に踏み込み、力でもってある程度は刈り取った


けれどそこまで


支配が半ば程に及んだ所で、急激にその足が鈍くなっていた

理由は簡単だ。皆 怖れていた、前の支配者を、ヘルダよりも上だと未だに傅いている

体質的、性質的に、暗くて湿って陽の光の薄い所が好きな奴らが大半ではあったが、それにしても頑なに過ぎた


人間界に放蕩にでたと噂では聞いていた

それを良い事に、そのまま天使に狩られたなどと噂を流したが誰も信じやしない


あれは死なないと


皆一様に口をそろえるばかり

おまけに、死にたくなければ手を引けと、憐憫混じりな嘲笑まで投げかけてくる始末


「忌々しいねぇ…っ」


内心の吐露を舌打ちに変えて吐き捨てる

こんなはずでは無かったと、でかい体を小さな玉座に押し込めて歯噛みをする


過去の魔王が捨てた土地、それが誰も手を付けずに放ったらかされている

年中霧が覆っている癖のある土地ではあったが、だとしてもチャンスだと思った

この土地を足がかりにして、この魔界を席巻する

そんな小さな野望は、魔族として生まれたからには誰もがたまには考える程度の願望でもあった


今頃は街を支配下に置いて、軍備を整え、次の魔都に攻め入って

それはただの皮算用。そもそも最初から間違えていることにヘルダは気づいていなかった


「アネさん…」


乱暴に扉が開かれると、どたどたとオークが入ってくる

その手には、胡桃色の髪をした女の子が引きずられていた


「へぇ…」


ヘルダの顔が獰猛に歪む

やることは山積しているが、まずは見せしめがいるだろうと


それを選ばせたのだ、奴隷たちに。一体誰が女を逃したのだと、責め立てたのだ

そうして差し出された一人の女の子

奴隷たちが匿っていたようだが、ついには捨てられたかと思うと、胸の内が少しだけ軽くなる


怯える瞳が見上げてくる

その恐怖が心地良い。これから、この女の子をいたぶって、悲鳴を上げさせ、嗚咽に濡らす

既にヘルダの頭の中にはそれだけしかなく、これからの悦楽に身を焦がしていた



ーオークの城ー



蓋を開けてみれば大したものだった

思い浮かべたのは3匹の子豚、そんな童話

たかがオークの巣、藁葺屋根か、戸板の壁と、タカを括っていたのだが、その実レンガの家であった


敷かれた絨毯、長い廊下に並べられた調度品、等間隔に並べられた燭台が作りの良さを語っていた

惜しむらくは、オークの死体がその場こちらに転がっているくらい

誰も彼も一様に白目を向いて、苦しみもがいた表情のまま霧の中に溶けていく


べしゃり…


壁の一面が血に汚れる。燭台を襲った血液が蝋燭の1本を吹き消した


「…ぺっ」


不味そうな顔をしながら廊下に染みを増やす みけ

これで何回目か、お腹が空いたのはわかるんだけど、いい加減学習して欲しい


「…お腹壊すわよ?」

「ん」


呆れ混じりに掛かる楓の声に不満そうに頷くと、そのまま軽い調子で抱きついてきた

血のしずくが べたりと着物に張り付く、そのまま汚れた手を擦り付けてもくる

幸い同じ色…だったとしても次第に黒ずんで惨劇の様相を呈してきた

可愛いペットのやること、だとしてもオーク何ぞの血で汚されてはたまったものではない


「ちょっと…」


責めるように見下ろすと、求めるように見上げてくる無垢な顔

差し出された唇は、雛が餌を求めてるような単純な仕草ではあった


「はぁ…」


甘いな。分かっていても拒む理由もなかった


頭に手を置き、頬をなで、顎の下を指でくすぐる

じれったそうに揺れる唇を捕まえて、そっと舌で割り開いた


首に回される細い腕、縋るように加わる力を抱き返して みけの細い腰に手を回す

楓の舌が みけの口に中に入ると、すぐに小さな舌が絡みついてきた

まるで、母乳でも吸っているようだった。楓の舌に絡みつき吸い付いていてくる小さな舌

滲んだ唾液を舐めとる度に、みけの瞳が潤んでくる


何度も、何度もお互に舌を絡める度、唾液が量を増して みけの口の中に溜まり出す

ただの意地悪。楓が、みけの口から唾液を全部吸い上げた


「んぅ…」


不満そうに喉がなるのと同時に唇が押し付けられる

楓の唇を小さな舌が割開き、そのまま目一杯に吸い込んできた


混じり合った二人分の唾液

楓の口の中でも持て余すほどになっていた量が、そのまま みけの小さな口の中に戻ってくる


「んく…んく…」


必死に喉を鳴らして唾液を飲み込んでいく みけ

収まりきれなかった分が、唇の端から溢れて頬を濡らしていった


「はぁ……はぁ…」


最後の一滴までも飲み干して、満足そうに吐息を漏らす

燭台に照らされる横顔から流れた落ちた雫が、絨毯に新しい染みを作っていた




城の中、息を切らせて走っていた

すでに二人の姿を見失って久しいが、足元を覆う霧が どうせ近くにいるのだろうと予感させる


「ぁっ!?」


霧の中、何かに足をつまずき転びそうになる

掴まれていた足首、辛うじて生きていたオーク

恐怖、というよりも苛立ちが先に立つ

恨みは当然あったが、少なくともこんな物に構ってる時間はないと、その手を踏み潰して足を進めた


廊下を曲がり、奥まった場所にある扉

本来なら立っているだろう見張りのオークも既に霧の中に沈んでいた

それらを押しのけ、踏み越えて、扉を開く


血と性臭


およそ人間の世界では相容れない臭いを、カヤの鼻はそうだと感じ取っていた

一瞬、足が止まる。感情よりも、本能的にその先にあるだろう嫌悪に足がすくみそうになる


「ノーチェっ!」


そんな自分の弱音を叱責するように、殊更に声を上げて部屋の中に押し入った

目についたのは、ボロ布を纏った女達と、裸の女、そうして見慣れたオークの死体

乾ききらない臭いが、今しがたまで行われていた行為を想像させるのも構わずに辺りを見渡す


胡桃色の髪、愛らしい笑顔、愛しい姿


惨状の中、何度も目を凝らす

見たくもないものを視界にいれて、その下に埋もれてはいないかと必死に辺りを見回した


「いないわよ、今頃はもう…ふふっ…」


一人の女が よろよろと身を起こす


「いないってどういう?」

「だって…だって…しょうがないじゃない…」


頭を振り、私は悪くないと、何度も何度も、支離滅裂に言葉を紡ぐ女

その肩を掴み、前向かせ、落ち着いてと、じっと瞳を覗き込んだ


「あなたが、あんたが、わるいのよ…」


すでに正気を失った瞳だった

諦めた人の顔、それがどんなだったかと、あの悪魔に問われた事を思い出していた

自分は悪くないと他人のせいにして、その他人を犠牲にして最後は自分までも切り売りをする


「お気に入りだった あんたが逃げるからっ!?」


ここまで来ると、自分の容姿が分からない程 子供ではいられなかった

むしろ、それを利用してオーク達の気を引き、ノーチェを庇っていたのはそうだった

それは結果として他の女たちを庇う事へも繋がっていた


カヤが逃げ出した後、あからさまに激しくなるオーク達の陵辱

最初のうちはカヤへの義理立てもあって、ノーチェを庇う者達も多くいたが、それも一時

続く陵辱にすり減る神経。そうして最後に巨人の女の一言が止めになった


逃亡を手引きした奴を差し出せ


「だってしょうがないじゃないっ!! しょうがないのよっ、だって、だって、だってだってだってだってっ!!!」


げほっ


咳き込み、途切れる言葉、苦しげに口元を抑えた女は、苛立たしげに自身のお腹を打ち据える

見れば、そこには確かな膨らみがあった。それが愛の結果ならば祝福されるべきだろう、慈愛を持って歓迎するべきだ


「こんなのっ、こんなのっ…」


日に日に大きくなるお腹

出始めた母乳は、オーク達の喉を潤し、より過激な責めへと追い立てる

義理なんて何の役にも立たなかった。これから化物の子を生む女には、そんなものは恨みに取って代わっていた


カヤが目を掛けていた女の子

ああ、そうだ。お前がいるから、カヤは助けを呼ぶとかいって逃げたんだ、お前さえいなければ こんな事にはならなかった

可哀想だと誰かが庇った。じゃあお前が代わりになるかと言えば、その場で黙ってしまった


みんな知っていた


あの女巨人に呼ばれた後の事を、誰も戻っては来なかった、城中に悲鳴だけが響き渡っていた夜を


「いまごろ、ふふっ、きっといいざまになってるわ…」


女を支えていたカヤの指が白くなっていた

理解はする。そんな状況、誰だって、誰かを犠牲にしたくもなる


「でも、だからって…」


この女が悪い訳じゃない

けれど、自分の胸の内に沸いた怒りと憤りを誤魔化せないでもいる

何が聖女かと。初めて抱いた感情、およそ人間らしい感情は自分を聖女の座から引き下ろすには十分に過ぎた


ー殺すの?ー


声が聞こえる

振り返れば、あの悪魔の姿。その胸の内には満足そうに寝息を立てている みけの姿もあった


「その感情は正当なものよ?」


誰も間違ってはいない、貴女も、貴女もね?


「でもね? 世界は間違いを認めてはくれないのよ?」


裁かなければいけない、正さなければいけないの

貴女の怒りも、貴女の慟哭も、全てが正しいのに、正しいだけではいられない


ーさぁ? 間違っているのはどっち?ー


そうして悪魔は笑みを浮かべた

これから流れる血を想像して愉快そうに口の端を釣り上げる


「っ…!」


立ち上がるカヤ。足元の女を見下して少し…そのまま踵を返した

心臓が早鐘を打っている。胸の奥に溜まった熱が喉から飛び出しそうになるのを必死で飲み込んだ

不安や心配、その先の恐怖が一気に燃え尽きて、怒りに変わっていく感覚


それは、きっと、単純な殺意


このままでは気が狂いそうだった。今すぐあの女の顔面を蹴り上げて感情を叩きつけたくなっていた

しかし、そんな暇はない。あんな女に かかずるよりも、ノーチェを見つける事の方が先だと自分に言い聞かせる


「あら残念。血が見られると思ったのに」


悪魔が囁いている


「そんな悪趣味、付き合うつもりはありません。それよりも、ノーチェは何処ですか?」

「行かないほうが良いと思うけど?」


笑う悪魔を横目に足を早めるカヤ


「助けると言ったはず」「生きてたらとも言ったわ」




重なる言葉は互いの沈黙で返された



ー玉座の間ー



玉座に座るヘルダ

その2メートルをゆうに超える身長は、豪奢な玉座でさえ手狭な印象を与えている

浅黒い肌。筋肉質な体は張り出した胸でさえ胸筋と見紛う程であった


その膝の上に女はの子が跨っていた

年の頃は10にも満たない程度か、胡桃色の髪と愛らしい表情とが目につく女の子

身ぐるみは既に剥がされ、幼い体がヘルダの眼前に晒されている


「ぅっ、ぁっ…」


ヘルダが腰を突き上げると女の子の口から息が漏れる

もはや嗚咽ですら無い、下から肺が押されて息が漏れただけの反応


随分と静かになったものだと、つまらそうに女の子を見下ろすヘルダ

服を引き剥がした時には随分と暴れていたものだと懐かしくも思う


「やめっ、はなしてっ!!」


女の子の抵抗なんて、ヘルダにとっては無いようなものだった

それが例え大人の男であっても同様だろう


裸になった女の子の体を見下ろすヘルダ

膨らんでもいない、括れてもいない、一部の好事家が好みそうではあるが、ヘルダの趣味という程でもなかった


使えなくもないか。そう判断して女の子を抱え上げた

見せしめが主なら、悲惨なことになればなるほど良いだろう。こんなガキなら尚更いい具合になる

ついでに自分が楽しめるなら それに越したことは無いが、この小さな体に収まり切るかどうかも怪しいものだった


足を開かせ、自分の股ぐらの上に持ってくる

女の子の視線が下に落ち、そそり立つ肉棒に注がれていた


知らない筈がない

奴隷部屋の片隅で、幾人の女たちが、何より自分が慕っていた人がオーク達に何をされてきたのか

眼の前の肉棒に股を貫かれ、血を流し、悲鳴を上げ、おしっことは違う白い液体を注がれる

きっと想像したのだろう。女の子の体が震え始め、悲鳴は すすり泣きに変わっていた


「ひっ…ぅっ、や…っ」


多少の抵抗をした所で巨女の体は揺らがない

掴む腕を叩いた所で、マッサージにもなっていないようだった


「あっ…」


体が沈む

開かされた足を必死になって閉じようとするが、巨女の腰に引っかかり、それ以上は閉じられない

近づいてくる肉棒に、じりじり と股が開かされていく

腰を振って逃れようとした矢先、肉棒の先端が女の子の中心を掠めた


熱くて、硬かった、それに太い、オーク達のそれよりも一回りは大きかった

確かめた事はある。それがお尻の穴で無かったことが不思議で自分の体に触れてもみた

入るはずがない。自分の指が入るのがやっとだったのに、自分の腕かそれ以上のものなんて


「やだっ、おねがいっ、ゆるしてっぇ」


その恐怖が再び女の子に声を上げさせたが


ーかっはぁっぅー


思考が弾けた

息が出来ない、痛いとか苦しいとかじゃなくて、体が痺れて言うことを聞いてくれなくなった

途切れ途切れに出ていく息を、必死に吸い直そうとはするけれど、上手くお腹が動いてくれなかった


「へぇ、思ったよりは入るな」


女の子の膣を、ヘルダの巨根が貫いている

半ば、より少し進んだ所か。裂けそうな程に広がり、溢れる血が愛液の代わりに巨根を濡らしていた


ずるり…


女の子の体が持ち上げられると、薄くなった圧迫感にようやく息を取り戻す

何度も何度も荒い呼吸を繰り返し、失くした分を必死に取り戻そうとしていた


ずん…


女の子の口から空気が漏れる。必死に吸い込んだ分が嘘みたいに逃げていく

更に抜かれ、もう一度貫かれる。ままならない呼吸に、体が楽になった瞬間を見計らって必死で息を吸い込んだ


お姉ちゃん、お姉ちゃん…カヤお姉ちゃん


心の中で何度も助けを求めた

来るはずのない相手。分かっていた、こんな化け物たちから逃げられるわけなんてないって

それでも見送った、もしかしたら、逃げ切れたらって、お姉ちゃんだけでも助かってって


「やだぁぁっ、おねえちゃんっ、助けてっ、助けてよぉぉぉっ!?!?」


そんなの嘘だ

ほんとは行って欲しくなかった、助かるわけないって、一人にしないでって思ってた


それも嘘

こんな、こんな事、初めてされた、こんなに苦しいなんて思わなかった

だって、気持ちよさそうにしてる人だっていたから、きっともっと、だから

ずっと、私の代わりに こんな事されていた お姉ちゃんを責めるなんてのは


「あぁぁっ、やぁっ、はぁはぁはぁっ、うわぁぁぁっ!?」


ぐちゃぐちゃ だった

自分が何を考えてるのか分からなかった

でも、唯ひたすら カヤお姉ちゃんの事だけを考えていた

そうすれば、少しは楽になったから、そうすれば、少しは忘れられそうだったから


この熱も、苦しさも、痛みも


全部お姉ちゃんのなんだって考えたら、我慢できそうだったから


「おねえちゃっ、あっあっ、おねえちゃぁん…」


必死に目を閉じる

体の中心を貫く感覚。お姉ちゃんの代わりに私が耐えないと

少しでも和らげようと、目の前の巨人に必死に縋り付くが、すぐに腰を引きずられて肉の棒が体の奥に付きこまれる


「かはっ!? はぁはぁはぁっ」


息が続かない。衝撃に目が開いてしまう

眼の前には意地の悪い顔をしている女の巨人。お姉ちゃんとはまるで似つかない酷い顔


「う、うわぁぁぁ…」


どんなに頭を振っても消えない現実

妄想も使命感も、夢に逃げる前には苦しみで引き戻される

次第に激しくなってくる衝撃に、もう何も出来ることは無かった


「おっ…」


巨女が感極まった様だった

ぐっと、女の子の腰を引き寄せ、自分の腰を突き上げると巨根の全部が女の子の中に強引に入り込んだ


「う、ぇ、あ、…」


その衝撃に心と体がバラバラになったまま、女の子の中に精液が吐き出された

貫く巨根が、子宮の奥まで突き刺さり直接突き上げている

注がれた精液が容赦なく子宮の 隅々までを白く、白く染め上げる

溢れた精液が、女の子の割れ目からも どろどろ と溢れ出し、ヘルダの腰回りを汚していく

仰け反る女の子。突っ張ったお腹に浮かび上がる巨人の肉棒


それが、びくびく と、何度も、何度も震えていた


「ふぅ…」


意外と楽しめた事に、ヘルダは気を良くしていた

姉の名前を叫んだり、それを罵倒したり、助けを求めたり

性的な快楽はともかく、無垢な子供が訳も分からず よがり泣くのは気分が良かった

満たされたのは征服欲と、支配欲、自分が一番強いのだという顕示欲


ー分かる。弱い者いじめって愉しいわよねー


「誰だっ!」


降って湧いた声に慌てて辺りを見回すヘルダ

嫌な感じだった。粘つくような纏わりつくような声、気を許せば心の奥にまで染み込んできそうな音


「誰だ。と、貴女は問うのね?」

「貴様は…」


ヘルダの眼の前に突然と現れた女

豪奢な着物を纏い、墨をぶちまけた様な長い髪を垂らした少女

その容姿にも目を引かれたが、何よりも自分よりも階級が上の魔族であることが気にかかる


「霧里・楓。霧の麗人と言えば、まだ伝わるのかしら?」


わざとらしく頭を下げる少女を訝しげに眺めるヘルダ

聞き覚えはあった。昔、この一体を収めていた魔王だと


「へぇ、あんたが。で、いまさら何のようだい? ここらはアタシの縄張りになったんだよ」


女の子を投げ捨て、楓に向き合うヘルダ。もう、遊んではいられなかった

オーク達の声が聞こえない、何時もは ぶひぶひとやかましいのに、今は廊下の向こうまでも静まり返っている

部屋の中に立ち込める霧にも圧迫感を覚えたが、何よりもこの少女の存在感の無さに目を奪われる

瞬きの一つでもした隙きにさえ、何処かに消え失せていそうな不確かさ。ついでに、その瞬間にも自分がやられているだろう予感


「捨てた覚えは無いのだけど?」

「だったら奪い返して見るかい?」


にらめっこの様だった

じっと、二人が睨み合うと唐突に楓が吹き出し、お腹を抱えて笑い出す


「ふっ、あはっ、ふふふふふっ。本気? 本気なの?」

「何がおかしい?」


ー全部よ?ー


その声と一緒に、楓の姿はヘルダの体にしなだれ かかっていた


「ちっ!?」


慌てて、大剣で振り払うヘルダであったが、打ち払った筈の感触がまるでなく

次の瞬間には、一歩離れた先に楓が ふわりと姿を見せていた


「気味の悪いやつめ…」

「まぁ、腕っぷしは強そうだけど。搦手には弱いのよね、脳筋って」

「ほざけっ」


ヘルダとて知ってはいた

この魔界には物理的な手段でダメージを与える術がない相手がいることくらい

ならばと、体に魔力を漲らせる。浮かび上がった紋章が闇色に輝いてヘルダの力を増幅していった


「ヘルファイアっ!」


巻き起こる地獄の炎が、ヘルダの掌から放たれると、楓に殺到し彼女の体を包み込む

勝ったな。そんな確信が炎の熱に煽られる。その実、恐怖から逃れるための口実だとヘルダは気づかない


「それで?」


それでも恐怖は現れる

まるで霧に掻き消されたように炎が溶けると、白煙の中から姿を見せる楓

焦げ跡の一つもなく、涼しい顔のまま、白々しい笑みを浮かべていた


「ちっ、強がりをっ!」


手応えは確かにあった

少なくても武器で切るよりは、幾らかマシだろうと確信は持てた

再び体に魔力を漲らせる。もう一度、もう一度、次こそは奴を焼き尽くすと意気込んで


その意気込みは、そのまま霧散した


「なっ…あ…」


武器を構えていた腕が下る。闇の紋章も次第にその輝きを失っていった

気を取り直し、大剣を構え直すが。時間が立つ程に、自分の体から力が抜けていくの感じていた

腕力だけじゃない、魔力だってそうだ。最低でも後一撃は使えたはずなのに、それがどうしたことか

不足の事態に、じりじり と心が焦れていた。眼の前の女を叩き潰すだけなのにそれが出来ない

自分の力なら、大抵の魔族は一撃で行動不能に出来る自信はあったのに


やぶれかぶれに大剣を振るうが、霧が掻き消えるだけで楓を捉えるには至らない

避けられている風ではない、それこそ霧を裂いているだけの、ただ空虚な感覚

幻術か? その手の魔法は幾らかあるが、魔術の痕跡はまるで見受けられなかった


「なっ!?」


不意に腕を掴まれた

纏わりついた霧が万力の様な力で、ヘルダの巨腕を締め上げている


「だぁぁっ!」


引き千切る。だが、そこで限界だった

勢いままに腕を引き、そのまま膝をついてしまう

体はまだ動くが、魔力が底をついている、何よりもこの不可解な状況に心が溶かされそうになっていた


「オレの負け、だ…」


武器を置き、頭を下げるヘルダ

なるほどどうして、今になって街の住人が言っていた事が身に染みる


死にたくないなら止めておけ、と


仕方がない。今は負けておくがもう一度力をつけたら…そうしたら


「残念だけど、敗北は認めていないのよ。ねぇ、カヤ?」

「な、に?」


気づけば、楓の隣には金髪の少女が立っていた


「お前は…」


見覚えは合った。

奴隷たちの中で一際見た目が良くて、何より自分を裏切り逃げ出した相手だったから


「ほら、カヤちゃん。こいつが貴女の愛しいノーチェを殺した張本人よ」


幼い体に乱暴を働き、汚濁に塗れさせ、恐怖と絶望のままに命を奪ったの

ああ、苦しかったでしょうね、悲しかったでしょうね、お姉ちゃんが助けにくるって信じてたでしょうに


「黙って…」


鈍重に口を開くカヤ

噛み締めた唇からは血を滲ませ、爪が突き刺さるほどに拳を握りしめていた


良いとか、悪いとかではなかった

魔族達にとって人間が食い物なら、これも自然の摂理なのかも知れない

私達が家畜を食らって生きてるのと何も変わらないと納得することも出来た


それが、赤の他人であったのなら


地獄の中で見つけた一輪の花、それを踏み躙られて平気でいられる程カヤは人が良く出来てはいなかった

あの時の殺意が胸に灯った時、再び悪魔が問いかけてきた


ーさぁ? 間違っているのはどっち?ー


少女の怒りも、悪鬼の欲望も、それが両方正しいならば

どれかを間違いにしなければ世界はそうでいられない、全部を包み込めるほど優しくはないのだと


「ぁっ…」


握った拳に柔らかい感触

みけ が体を寄せて、不思議そうに私を見上げていた


流れる栗色の髪の毛、それが一瞬ノーチェの髪の色と錯覚して…


限界だった。思わず、その優しい温もりに縋ってしまう

みけ にそんな気はなかったのかも知れない。ただお腹が空いただけだと思うけど

どうしてか、その翡翠の瞳に優しさを錯覚してしまった。自分が弱いだけ、だとしても、今はそれに触れていたい


…ちろ


流れるカヤの涙を舐めとる みけ

次から次へと溢れてくる感情。何度も、何度も舐め取る内に、次第にお腹も膨れてきた


「ふわぁ…」


眠くなってきた

このままカヤに抱かれたまま、一眠りするのも良いかと思いかけた時


「まてっ、オレを奴隷にするんじゃないのかっ」


大きな女が汚い声で騒いでいた

そう言えば、カヤもずっと泣き通している。きっとアレが怖いのかも知れない


「カヤ?」


体を揺すって顔を上げさせる。目があった所で大きな女を指さした


「ぁっ…」


涙に揺れていた瞳がブレる

悲しいとかじゃなくて、もっと別な方。やっぱりアレが怖いのだろうと思う

カヤの腕をすり抜けて、大きな女の元へと向かった

「待って」って言われなかった「ダメ」とも言われない、じゃあ良いんだろう、別に私もアレは要らないし


最後に振り返り、楓の顔色を伺ってみる


…別に興味はなさそうだ


「待て、なんだお前は?」

「?」


何? と言われても分からない。だって みけ は みけ だもの


「あー…」


大きく口を開いた。血がいっぱい出る所に噛み付いて、ぐーっと力を込めた



ー霧の屋敷ー



「はぁ…」


縁側で、一人息を吐くカヤ

丸くなっている みけに膝を貸しながら、柔らかい髪の毛を優しく撫でていた


代償行為


楓はそう言って笑っていた

私もそれを否定出来なかった。同じ様な髪の色をした女の子、それだけで理由で彼女を重ねていた

みけ にとっては迷惑かも知れない。けど、毎日の世話は考えたなら、これくらいは許して欲しくもある


「よかった…」


打ち捨てられたノーチェが私に向けた最後の言葉を思い出す

何が良いものか。間に合わなかったのに、助けてあげられなかったのに、私は嘘つきだ

そんな自虐でさえノーチェの伝える暇もなかった。私を見上げて綻ぶ顔、その瞳に映る安堵


涙は、流れなかった


縁側から見上げた空は霧の向こう側でさえ薄暗く、まるで自分の心境の様にも思えた


いつかは、感情に区切りをつけないと行けないのかも知れないけど


眠る みけの頭を撫でる


まだ、もう少しだけ、この子に甘えていたかった



ーおしまいー


後書き

前回やった特別編がものたりなかったので もう少し真面目にしてみたけど
私が最強すぎて、実際死なないな、アレは。まぁ、流行りよね異世界転生して美少女と戯れるって
実際そういう妄想するのは愉しいし、気分は分かる。弱い者いじめだってそうだし
妄想の中でまで縛りプレイが出来るほどMではないのよ

さぁ、今日は此処までよ。右手はまだ元気かしら?出すものは出した?
少しでも興奮してくれたのなら、これ幸いね

それじゃあ、また次の夜にでも ちゃぉ~♪


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