2018-09-12 22:20:29 更新

夏の終わり


短い夏が終わり、秋を待たずに冬が来る。

長い間使ってきた傷の目立つボルトアクション式のライフルを構えて、命令された軍事境界線をスコープ越しに見つめる。


?「…」フー


何かが動いたのを直感で感じ取り、息を整える。トリガーに伸ばしていた指をかけていつでも撃てる態勢になる。

銃口(マズル)を上げ、狙撃態勢で待つ。


?「・・・」ドサッ


?「ヒッ、ドウシタ!オイ!」


?「オ」ドサッ



一人が倒れ、仲間を心配したもう一人が倒れる。

声は聞こえないが、口元の動きで何を言っているのか大体だが分かった。


ザ、ザ、ザ。


?「二人」


うつ伏せの狙撃態勢で背後から人が来るのを感じ、一言。


?「そうか、ご苦労さん」


?「交代か?」


?「交代だ」


会話はそれだけだった。

その場で立ち上がり持ち場を交代して、ライフルスリングを肩に掛けて振り向きもせずにの場を後にする。

少し離れた後に小さな銃声が一度だけ聞こえた。


?「三人」ザ、ザ、ザ


軍事境界線―――。

最近ではそれすら曖昧になってきた。

長期に渡る戦争で、ほぼ冷戦状態が続いている。

狙う相手が人であるならまだ平和だ。

それが兵隊になればここも危ういか・・・、などを考えながら、冷めたスープを飲み干す。

温めたはずのスープ、考え事を少ししただけですぐに冷める。

室温はマイナス九度。

湯気はすでに冷気になっていた。口から出るため息は白く、音は少し遅れて聞こえる。


体を冷やさないようにもう一枚だけ、上着を羽織ってからそのまま窓の外を見た。


?「・・・」


一軒家の外には何もなく、ただ広い平原が広がる。

昔は農家だった名残も、ただの草原となり、やがてはそれも枯れ、すぐに雪景色になるだろう。

今は使っていない暖炉を見て、コートも着るべきかと考える。

今の御時世、家でコートを着ているのも珍しくはない、冷戦で物資が滞り、燃料がなければ暖炉もただの飾りだ。


ラジオをつけてソファに座るとそのまま寝転ぶ、ラジオからは世界情勢が伝えられる。

と言っても、殆どが虚言だろう。

          ・・・

本当のことをラジオが伝えた試しなんてない。

都合の良いように作られたおとぎ話は眠気を誘うのには最適だった。



?「・・・」



数時間ぐらい寝ただろうか?ラジオの放送時間は終わっているようで、試験放送の音が流れ続けている。

外も暗くなり、手探りで明かりを探す。


今日は運がいい、すぐに蝋燭台と、オイルライターが見つかった。

手に持った蝋燭にオイルライターの火をつけて、テーブルの上においた蝋燭台の針に蝋燭を刺す。

電気を付ければいい話だが、この時間に電気を使っていたら何を言われるかわからない。

それに、蝋燭の火は好きな方だ。眺めているだけでも暇は潰せるし。


少しだけの空腹を抑えるために食器棚に置いていた堅パンの入った容器を持ってくる。

小型の軍用ポータブルストーブで湯を沸かし、少し値の張る紅茶を用意する。飲むためでもあるが堅パンを浸して少しだけでも柔らかくしようと考えてだ。


小麦ではなく、ライ麦で作られた堅パンは恐ろしいほど固く、人を殴殺出来るとまで皮肉られたパンだ。

咀嚼する音だけが部屋の中で唯一の音だった。ラジオはすでに消している。

紅茶に浸して小さく千切り口に運ぶ、少ない量で満足感を得るためだ。


コンコン。


と、玄関のドアを叩く音で食事が止まった。

すぐに腰につけていたレッグホルスターから銃を取り出す。蝋燭を消して、姿勢を低くしてしばらくそのまま待機する。

目が暗闇に慣れ始めた頃に―――。


コンコン。


二回目のノック。

緊張感が全身を支配していく、これで幻聴でも聞き間違いでもない。軍人でなければここから数キロ離れた隣人住人でも、夜間外出禁止令の事は知っているはず。

ドアに近づかずに、近くの窓から外を窺う、周囲に人影はいない。手鏡で窓の外、壁側に張り付いていいないか確認したが特に問題はない。

窓をゆっくりと開いて、外に出る。普通なら中で応戦するのがセオリーだが・・・。

家の角から玄関の方を手鏡で見てみる。


人影が一つ。

しかし、あれは。

明らかに小さい、大人と言うには余りにも背が低く、先程から疑問に思っていた答えがそこにあった。


    ・・ ・

ノックの位置が下だったからだ。

幻聴と思ったのはノックの聞こえてくる位置が下過ぎて、何かの工作でもされてるのかと思った。

しかし、二回も同じ場所からノックされれば何事かと思う。見つかれば軍所属以外、合図しなければ即射殺の夜間外出禁止令を無視してまでこんな人里離れたところまで来た理由を問い詰めなければならない。

拷問なんてしたこともないが、やり方は知っている。あくまで知っているだけだ。

ただスコープの接眼レンズ越しに見えた物を撃つのとは違う。者が物に変わっていくだけで、シンプルで簡単だ。


だがこれは、処理できる範疇をかるく超える。

見つかっていると判断しながら周囲を捜索する。特に見られている気配もなく、玄関の人影は。


?「・・・」スッ


ドアに寄りかかり、そのまま力なく座った。


?「・・・(玄関の前で座ったら出れねぇだろが)」


心底どうでもいい事を思わず考えてしまった。結果的には周囲にはネズミが数匹と、フクロウが一匹いただけ、


スッ、ギッ!


たった今、数匹のうちのネズミの一匹が減った。


?「おい、何してる」スチャッ


?「・・・」


拳銃のトリガーから指を外して、目の前の者から当たらない程度の少し下を狙う。

月明かりが頼りの暗闇の中で、どんな姿をしているかは全くわからない、輪郭だけで人だと理解できるのは、軍所属のおかげか、狩りをしてきた勘なのか。

しかし反応はない、もう少し近づく。この手の場合は爆弾を持っているか、ワイヤーが繋がっていないか確認するべきだ。


・・・特になし。


もう少し近づく。


?「・・・スースー」


寝ていた。

その光景に毒気を抜かれた気分になった。

拳銃を左腰にあるレッグホルスターに押し込み、右ポケットからオイルライターを取り出した。

火をつけて何者かと確認する。淡い火の光は揺らめきながら周囲を照らす。



?「・・・女の子?か?」



ウエーブかがった髪はライターの火の光でも銀髪だと分かる。まず見かけない。だとすれば答えは簡単だった。



?「境界の奴らか」


少女「ん・・・」コシコシ


独り言に眼の前の少女が反応した。右手で目をこすりながら見上げる、よく見るとくまの人形を左手で抱えていた。


?「・・・お前は誰だ?」


少女「・・・?」カシゲ


?「名前だ、まさか無いのか?」


アリス「アリス・・・アルコート」


アリスは境界の奴らがよく娘に付ける名前だった。物語のヒロインからだと聞いた気がする。

アリスはその場で立ち上がってこちらを見ている。恐怖心とかは無さそうだ。


?「何しに来たんだ?どうやってきた?」


アリス「わからない、起きたら家の近くにいたの」


?「そうか」


アリス「お腹すいたの」


?「・・・」


ハッキリ言って物凄くまずい状況だった。こんな姿を別の奴らに見られたら反逆罪のやら何やら言われてもおかしくはなかった。

誰もが疑心暗鬼で、なにか些細なことでも密告される。密告されたものは無罪であっても拷問を受けてほぼ有罪となる。

この世の地獄がそこにはあった。


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