2018-11-13 12:40:52 更新

概要

人類で初めて艦娘に邂逅した現元帥さんと、その養子として育てられ、元帥の思惑にって元ブラックな鎮守府に配属されてしまう仕事だけは出来るボケっとした提督さん。彼らがシリアスな展開や忘れ去りたかった過去と直面して艦娘と打ち解けつつ最後には…最後にはほのぼのに…なる…のか?
初投稿シリーズな上、こんな続ける気なかったんで伏線ガバガバですけどお許しいただけると幸いです。


前書き

こちらは『ぽんこつ提督が鎮守府に着任するようです。Part4』の続きとなっております。もしそちら又はPart1を呼んでいなかった場合は本ページ下部にある作者の別の作品から順番に読んでいただけると幸いです。
ぶっちゃけ、やっつけで書いているPart5…皆様に楽しんでいただけるか不安ですが、張り切っていきましょう。



ー前回までのあらすじー


メイド服に癒されて、瑞鶴に猛烈なアピールを喰らい、ダークホースが現れて、プールに行った。以上。


真面目にやります☆


義父である元帥に元ブラック鎮守府に着任させられてしまった本作の主人公こと『提督』


彼はそこに属する艦娘たちと触れ合いながら意味深な関…ゲフンゲフン、様々な関係を築いていく。


そんな中、彼は様々な出来事を通して己の過去と向き合うことになっていく、昔愛した人との再会や両親の死の真相と。


また突如現れた兄はどのように物語に関わってくるのか!そしてなにより提督はどの艦娘を選ぶのか!


Part2で終わるはずだったせいで色々ガバガバの本作ですが、Part5も張り切っていきましょう!








ー提督視点ー


それは、約十五年前。細かいことは覚えていないが、俺の日常は突如崩壊した。


一瞬の出来事だった、兄さんと俺が一緒に散歩をしていた時に町は火に包まれた。


普段見ていた日常が火に包まれる光景。それは強烈に脳裏に焼き付いている。


でも、それはもう過ぎたことだ。物心ついて間もなかった俺は何もわからないまま兄に避難所に預けられ、元帥に拾われ今に至る。


ちなみに今はプールに来た皆から少し距離を取って兄と話している。


兄貴「まさかこんなところで再開するとはな。生きていてくれて本当に良かった。」


提督「兄さんこそね、こんなところで会うなんて。」


提督「ところで兄さん、なんであの時俺と一緒に避難所に来なかったんだ?」


兄貴「避難所もかつかつだったらしくてな。俺かお前だけしか面倒を見れないって言われたんだ。それで俺は別の避難所にな。」


兄と俺は十歳ほどの差がある。といってもこれくらいの年齢差の兄弟なら今日日珍しくないだろう。


そのため、昔から俺はかなり兄さんに面倒を見てもらっていた。兄さんは両親が死んだときでさえ、俺を優先させてくれたというわけだ。


提督「そうだったんだ。」


てっきり、俺は兄さんにまで捨てられたものだと思っていた。


兄貴「ところでお前、今は提督をしてるって本当か?」


提督「え、うん。ここの近くの鎮守府で提督をしてる。海軍関係の人に義父になってもらってさ、だから俺もなったって感じ。」


兄貴「今すぐに辞めるべきだ。」


提督「え?なんで…?」


兄貴「そんなの危険に決まってるからだろう。深海棲艦なんて得体のしれないもんと戦う上に艦娘だって安全かわからないんだろう?」


提督「確かに危険があるのはわかってるけど、艦娘は人間のために戦ってくれてるんだからその言い方は…」


兄貴「…すまない、失言だった。許してくれ。とはいえ、深海棲艦が危険なのはわかっているだろう?」


提督「そりゃ、わかってるけれど誰かがやらなきゃ…」


兄貴「その誰かがお前である必要は無いだろう。」


兄さんは一切引く気が無いといったように俺を問い詰めてくる。とはいえ、これが俺を思っての発言だと思うと一喝するのも少し気が引ける。


しかし、どこか久しぶりの兄弟の再会にしては少し違和感を覚えるのは何故だろうか。まるで兄さんが俺に提督を辞めろというためだけに再開したかのような…いや、気のせいか。


提督「でも、俺は一度引き受けた仕事を途中で放り出すのは嫌だよ。」


仕方ないので適当な理由をつけて説得してみるが、表情を見るに納得はしていないようだ。


兄貴「わかった、お前の義父に会わせてくれ。仮とはいえ息子を危険な仕事に就けるような親の顔が見てみたい。」


提督「…わかったよ、ただ俺の義父は元帥なんだよ兄さん。」


兄貴「な!?元帥?それって海軍で一番偉い人じゃ…」


提督「そうだよ、でもまぁ怖い人ではないから心配しないで。とりあえず連絡先だけ交換して決まったら詳細を送るよ。」


兄貴「あぁ、わかった。」


提督「ところで、兄さんは今どうしてるの?」


兄貴「ん?俺か?俺は普通に仕事して一人暮らししてるさ。今日は知り合いの女の子をプールに連れてきてたってわけさ。」


提督「そうなんだ、でも兄さんが無事でよかった。」


兄貴「提督こそな。」


そうして、俺は兄貴と別れるのであった。










帰り道は特に問題もなく鎮守府に戻れた。帰ってすぐ俺は親父に電話をかける。


元帥「はい、こちらお父さんです。」


提督「おう、親父さ今日偶然兄貴と会ってさ親父に会いたいって言ってるんだけど一般人と会ったりって出来るの?」


元帥「別に会うことは可能だが、本当にお前の兄なのか?」


提督「ん?さすがに実の兄を見間違えたりはしないって。」


元帥「そうか、なら予定は早い方がいいだろう。明日の午後四時に大本営で待ってるぜ。」


提督「そんな簡単に話を進めていいのか?」


元帥「お前の身内が会いたいってんなら、俺は会わなければならない責任があるからな。」


提督「そんなもんなのかね。」


元帥「そんなんもんだ、お前の兄に提督は渡さないッとか言ってみたいしな。」


提督「あんまり、話をこじらせないでくれよな。んじゃ、明日車よろしく。」


そこまで話して電話を切る。すると執務室の扉がノックされる。


提督「どうぞー」


扉を開けて入ってきたのは瑞鶴だった。お前出てきすぎ!いや、最近会って無かった気もするけど!


提督「急にどうしたんだ?なんか問題でもあったか?」


瑞鶴「私を置いてプールに行った提督さんに嫌がらせしに来ただけですよーだ。」


瑞鶴は頬を膨らませながらいかにも不貞腐れているといった体でソファに寝そべる。仮にも上司なんだけどなぁ俺。


でもまぁ、丁度暇を持て余しているので少し話すかね。


提督「なぁ、瑞鶴。俺がもし提督辞めて普通のサラリーマンになるって言ったらどうする?」


瑞鶴「え…」


驚いたような声を出した後、瑞鶴は少し考えるようにする。


瑞鶴「私は提督さんに着いてく。」


提督「いやいやいや、ナチュラルに着いてくんなよ。艦娘なんだからそれは無理だろう?」


なにこの子、脳内で半強制で逃避行でもするの前提になっちゃってるのかな?浪漫飛行かな?トランク一つじゃ生きてけない!


瑞鶴「そりゃそうだけど…提督さんが傍にいてくれないと私なにするかわからないよ?なんちゃって。」


そんなことを言いながら瑞鶴は俺の背中にくっついてくる。無い胸が当たるくらいくっついてきてる!ヘルプ!股間がアカン!なんか語呂いいな。


なんか、こいつ例の祭りから余裕が出来たというかなんというか、とっても質が悪い!


俺が苦笑いを浮かべている、その時にもう一人の来訪者はやってきた。


鈴谷「提督ー!鈴谷が甘えに来た…って、なにしてんの?」


うわぁ!一番会って欲しくない二人が俺の目のまえで邂逅したぞ!俺はどうする。逃げる←逃げる 逃げる


勿論逃げるを選択!逃げられない!あぁ、素早さが足りない!なにより鈴谷の目が怖いです!病んこれだこれ!


瑞鶴「なにって提督さんとスキンシップをしてるだけですよ?文句でもあるんですか?」


瑞鶴の挑発!鈴谷のヘイトがぐーんと溜まった!俺は逃げるを選択。逃げられない!


鈴谷「スキンシップ?鈴谷には一方的なセクハラに見えるけどなぁ?提督は鈴谷とスキンシップしたいでしょ?」


少し谷間を強調するようにして、鈴谷は俺に向かってそんなことを言う。やめて!巻き込まないで!


鈴谷の誘惑!俺の股間に一億のダメージ!火力馬鹿高くね!?もちろん俺は逃げるを選択。逃げられない!


瑞鶴「な!?なによ、提督さんは貧乳のツインテが好きなんだからそんなことしたって無駄ですよ。」


瑞鶴は特殊スキル性癖暴露を発動!絶対それ俺の部屋で見つけたエロ本情報だよね。返してもらって無いなそういえば。


鈴谷「提督…じゃあ、鈴谷のこと好きって言ってくれたのは嘘だったの?」


提督「ちげぇよ、性癖は確かに瑞鶴の言ったとおりだけどお前のことが好きだったさ。」


瑞鶴「へ…?」


あ、そっか瑞鶴って俺と鈴谷の関係を知らないじゃん。え、んじゃなんで今戦ってたの!?女の勘ってやつ!?




とりあえず、瑞鶴に状況説明。俺が鈴谷を好きなのが過去の話と聞いて落ち着いたようだ。


これで一件落…


鈴谷「というわけで、提督は今から鈴谷と二人でイチャイチャしよ!」


瑞鶴「なによ、昔の女ってだけで正妻面しちゃって今は私が提督さんと話してたんだから!」


一件落着するわけもなく、俺の上をティッシュの箱や万年筆が飛んでおります。目に刺さったら危ないからやめろ!


まぁ、実際今どっちが好きかと問われればこんな戦闘民族どっちも嫌いだって言ってやりたいんですけどね。ははは。


鈴谷「話してたって胸押し付けて誘惑してたじゃない!」


瑞鶴「な!?そんなこと言ったらあなただってさっき谷間を見せて誘惑してたじゃん!」


提督「落ち着けってお前ら、頼むから執務室で暴れないでくれ。」


とりあえず止めないと不味いのはわかる。超危険。いつか艤装展開しそうだもん。まじやばでじゃけぱない。


瑞鶴「じゃあ、提督さんが選んでよ!どっちとイチャイチャするか!」


鈴谷「鈴谷もそれに賛成!提督が決めれば文句は無いでしょう?」


なんでどっちも自分が選ばれるの前提なんですかねぇ…もうやだ、鹿島助けて。


鹿島「失礼します…って、なんですかこの惨状は…?」


提督「鹿島、俺とイチャイチャしようぜ。」


俺は全く意味の分からん台詞を決め顔で言ったのだった。




鹿島「状況は理解しました。大変だったんですね…」


最初こそ俺にイチャイチャしようと言われ挙動不審になっていた鹿島だったが、二人を退室させてから状況を説明したら部屋の片付けを手伝ってくれた。


不機嫌そうな二人を退室させた後、初めてなので優しくお願いします…なんて鹿島が言ったときは普通に夜戦するか悩んだ。最低だな俺。


いや、違う。全人類が思うはずだから俺は決して最低では無い。QED証明完了。


提督「まぁな、さっきは本当にごめんな。紛らわしい言い方して。」


鹿島「い、いえ、私こそ、その…はしたない女と思わないでいただけると…」


アカン、美人で巨乳なお姉さんが照れてる姿って男にはダメージがデカすぎる。


提督「そんなこと思わないですよ。悪いのは俺ですしね。」


最早ボーナスです、こんないいことがあったらもう明日から悪いことしか起きないんじゃないかって思うくらい!


提督「あ、そうだ鹿島は俺がもし提督辞めるって言ったらどうする?」


鹿島「お辞めになられるんですか…?」


提督「いや、実は兄に提督は危険だからやめろ見たいに言われててさ。もしかしたら~みたいな?」


鹿島「うーん、そうですねぇ。わがままを言っていいのなら、私はあなたに提督でいて欲しいですよ。トラブルこそ良く起きますが、提督が着任してからは皆とても楽しそうに笑えていますから。」


提督「そっか、ありがとな。」


鹿島「いえ、本心を言っただけですから礼を言われるようなことは何もしていませんよ。」


そうして、失礼します。なんて言って執務室を後にした。


再度一人になった執務室で俺は適当に音楽を流して暇を持て余すのであった。ちなみに聞いてたのはSKY‐HIです。かっこいいんでみんな聞こうね。







翌日早朝、俺は鎮守府近くを一人で歩いていた。


たった三か月しかここでは過ごしていない。でも、どこか俺にはここが自分のいるべき場所だと思っていた。


今日まで色々な経験をしてきた、死にかけて死にかけて死にかけて…


ん?死にかけてるだけじゃね?まぁ、いっか。


とはいえ、少しは俺がここに着任した意味はあっただろう。鹿島さんの台詞が頭を過ぎる。


ただ、いつも思うことがある。


俺より誰かならうまくやったんじゃないか。あの子を救えたんじゃないか…と。


たった刹那の仲。されど俺はあの子を知ってしまった。笑顔を寝顔を苦しむ表情を。


一つのミスが、まるでウイルスのように俺を蝕む。


鳳翔「こんな時間にどうされたんですか?」


そんなことを考えつつ海を見ていると、不意に後ろから声をかけられる。


提督「少し日の出でも見ようと思いまして、鳳翔さんこそどうされたんですか?」


鳳翔「私は倉庫に食材の確認に行くところですよ。でも、時間に余裕もありますしご一緒に日の出を見てもよろしいですか?」


提督「ええ、鳳翔さんのような美人とご一緒できるなら大歓迎ですよ。」


鳳翔「ふふふ、提督ったらお世辞がお上手ですね。」


難しいことを考えていたせいか、思いのほかそんな臭い台詞が自然と出る。いや、心にふざけている余裕が無いというのが正しいか。


鳳翔さんはそっと、俺の横に腰かける。


鳳翔「なにか悩み事ですか?」


少しの沈黙の後、鳳翔さんが何の前触れもなく俺に聞いてくる。


提督「悩みなんて大それたもんじゃないですよ。ただ、俺はしっかり提督としてやれてるのかなと思って。」


俺は細かいことを言うのは暗くなると思い、少し濁して言う。


鳳翔「私は提督はきちんと仕事をこなせてると思いますよ。」


提督「ありがとうございます。でも、どうしても考えちゃうんですよね、俺じゃない誰かならもっと上手くやったんじゃないかって。」


俺の台詞を聞いた鳳翔さんが少し考えるようにする。前方では日が昇り始めている。境界線に上る日はとても綺麗だ。


鳳翔「そのとおりだと思います。きっと提督よりうまく物事をこなす人なんて世の中に山ほどいるんでしょうね。」


わかりきっていたことだ。でも、そう改めて言われると少し胸が苦しい。


鳳翔「でも、実際に私たちを救ってくれたのはあなたなんですよ?暗い先の見えない絶望の中にいた私たちに笑顔をくれたのはあなたなんです。」


鳳翔「だから、これだけは忘れないでください。私たちにとっての『ひーろー』はあなたしかいないんですよ。」


鳳翔さんはそう言って俺を笑顔で見る。俺は艦娘をヒーローだと思っている。その彼女たちのヒーローが俺。ははは、もう意味わかんねぇな。


ただ、たったこれだけの会話で俺の中の靄が晴れた気がした。そう、俺よりうまくできるやつがいたとしてもやったのは俺だ。


他の誰でもない、失敗が俺の責任であるのと同時に成功も俺の責任であるのだ。


提督「ありがとうございます、鳳翔さん。お陰ですっきりしました。」


鳳翔「いえいえ、お役に立てたなら光栄です。」


俺は朝日を背に受けながら、お陰ですっきりするってなんかエロいなとか考えてるのだった。







そして、同日午後車内にて俺は決意を固め親父のもとに向かう。


だいたい、朝の俺はアホだ。提督辞めたら皆の胸部装甲が拝めないじゃないか。生き甲斐の八割が消えるわ。


兄さんは別の車で向かっているらしい。心配してくれる兄さんには申し訳ないが俺だってもう子供じゃないのだ。


提督「ありがとうございます。」


俺は運転手さんにお礼を言って建物に入る。そして、指定された部屋に向かった。


この時の俺は、今までで一番のトラブルに巻き込まれることになるなんて少しも思っていなかった。






ー?視点ー


冷たい音が響く、薬莢の落ちる音が次いで響く。


ようやくだ、ここまで長かったものだ。いや、まだここからと言うべきだろうか。


安心しろ、お前は絶対に俺が守ってやる。あの狂った男からも守れたんだきっと大丈夫。


人間だろうが艦娘だろうが深海棲艦だろうがあいつを傷つけさせてなるものか。


あの事件の真相を知ってからはや十年。様々なことがあった。


少し話をしようか、君たちはどちらのほうがより悪だと思う?


ん?悪にランク付けも何もない。等しく悪は悪だって?おいおい、つまらない話は辞めろよ。


君たちは人殺しと未成年の夜間徘徊に同じ刑罰を与えるのか?


話を戻そうか、今回出てくる悪の種類はこの二つだ。


無意識に人を殺したいと突き動かされるモノの殺人と。


自分の欲望や願望を満たすために利用するための殺人。


わかりやすくしようか、殺すことが仕事な人の殺人と、人を殺すと仕事が楽になる人の殺人。


俺は後者の方がより悪だと判断する。だって、殺す必要は無いのだから。


そう、だから俺は…人間を辞めたのだ。


いるかもわからないこの世界の傍観者に話しかけていると、部屋の扉が開いたのだった。







ー提督視点ー


俺はどこかから聞こえた銃声に少し嫌な予感が走り、目的地まで走る。


すると、扉を開けている大和さんが見えた。しかし次の瞬間大和さんの体が後ろに吹き飛ぶ。撃たれたのか?一体誰に?


提督「大丈夫ですか!大和さん。」


俺は大和さんに声をかけながら扉と大和さんの間に飛び込む。


大和「私は大丈夫です…提督君は…すぐに…逃げなさい…」


提督「そんな状態で大丈夫なわけないでしょうに、って…兄さん…………なにやってんだよ。」


俺は思わず目の前で銃を握っていた男性に目を見開く。少し長い髪に俺と同じか少し大きい背丈に特徴的な頬の傷。


そこに立っていたのは兄さんだったのだ、よく見ると奥に親父が倒れている。


兄貴「どいてくれ提督、その女は今のうちに殺しておきたい。」


提督「なに言ってんだよ兄さん、銃を下ろしてくれ。じゃないと俺はここからどくわけにはいかない。」


後ろで大和さんが逃げてなんて言っているが、聞いていられない。俺は銃を取り出し兄さんに向ける。


兄貴「俺に銃を向けるのか、いやお前は俺の計画を知らないんだもんな、仕方が無いか。」


提督「なに言ってんだよ兄さん、いいから銃を下ろしてくれ。じゃないと俺も撃たなくちゃいけなくなる。」


兄貴「撃ちたいなら撃てばいいさ、今回は第一目標を達成したし俺は帰るとするよ。またな提督。」


俺は歩いて行く兄さんに照準を合わせたまま警戒を続ける。しかし、撃つことは…出来なかった。


兄貴「お前はやっぱり提督なんて向いてない、提督をするには優しすぎるよ。」


去り際に兄さんの放った言葉が俺の胸に深く突き刺さるのだった。











そして、現在憲兵に事情を説明し大和さんと親父を病院に運んでもらい俺は聴取するとかで大本営で待機している。


二人は命に別状は無いらしい、とはいえ重体なのは確かだ。


特に親父は二発撃たれていて、数分病院に運ばれるのが遅かったら危なかったらしい。


状況に理解が追い付かない、親父と大和さんを兄さんが撃った?なんのために?


俺を海軍から遠ざけるため?そんな理由で人を撃てるのか?


いや、待てよ。今のうちに殺しておきたいと兄さんは言った。ならまだなにかをするつもりなのか?


隊長「おい、おい、提督。聞こえるか?」


提督「あ、隊長さん。すいません少し考え事をしてました。」


隊長「そうか、悪いがなにが起きたのか教えてもらっていいか?」


俺は隊長さんのそのセリフに対して細かく先程の状況を説明する。兄さんがそんなことをするとは思えない。


提督「二人は…結婚直後だっていうのにこんな…」


隊長に事情を話し終えた後、俺は思わず口からそんなことを漏らす。


隊長「気にすんな、あいつらもあの立場に座る以上覚悟していただろうさ。それでお前が自分を責める必要は無い。」


提督「ですが…やったのは俺の兄さんですし。」


隊長「考えすぎんなっての、とりあえずだがお前にはここ。つまり元帥の鎮守府の指揮も当分持ってもらうことになった。」


提督「え…俺より適任がいるのでは?」


隊長「いーや、大和のやつの意志だ。俺も賛同だよ、お前なら安心して任せられるしな。」


提督「……わかりました。」


隊長「助かるよ、お前さんとこの艦娘は全員ここの鎮守府に移動してもらう。ここ周辺は他の提督にカバーしてもらうとしよう。」


提督「しかし、深海棲艦の進行は今落ち着いているのでは?」


隊長「まぁな、でも嫌な予感がするんだよ。」


隊長さんはそこまで話して忙しそうにどこかに行ってしまった。


二つの鎮守府分の艦娘をまとめるとはいえ、どちらも顔見知りである以上そこまで難しくないだろう。


しかし、俺も隊長さんと同じで嫌な予感がする。あれが兄さんのなりすましだろうとなかろうとここでは終わら無いという確信がある。


大淀『全職員に連絡、鎮守府正面海域にて敵深海棲艦の接近を確認。艦娘は作戦指示どおり迎撃作戦を行ってください。』


その予感は即座に現実となった。放送を聞いてとりあえず俺は執務室に走る。


提督「大淀さん、敵はどれくらいですか?」


執務室に入るなり、大淀さんに声をかける。


大淀「良かった、提督。艦娘への作戦指揮を任せてもよろしいでしょうか?」


提督「最初からそのつもりですよ。あるだけの情報を寄越してください。」


大淀「わかりました、データを元帥のPCに転送します。」


俺は即座に執務机に陣取り、パスワードに『吹雪』と入れてPCを立ち上げる。


情報によると敵深海棲艦は十ニ隻。ここ最近では全然見かけない複数の艦隊だ。タイミングが最高じゃねぇか畜生。


とりあえず情報を大雑把に見てマイクを握る。脳内では兄さんが深海棲艦と…なんてことを思ってしまうがそんな暇はないぜ俺。


提督『元帥が意識不明のため臨時で指揮を任された提督だ。現在敵深海棲艦がここ向かって進行している。』


提督『敵戦力は空母三隻、戦艦三隻、駆逐艦五隻、姫級が一隻とのことだ。』


提督『こちらも総力を持ってこれを迎撃する。作戦指揮は俺が随時行うこととする、些細な戦場の変化も逐一俺に報告するように。』


提督『艦隊は…』


そうして、若手が元帥代理を務める異例の防衛作戦が始まったのだった。






伊勢『こちら第一艦隊、艦載機により敵艦隊を捕捉。情報通りみたいだね、でも姫級が小さい?』


提督「小さい?どういうことです?」


伊勢『んー、なんていうか小さい。普段目にする姫級より弱そうというか。って、吹雪ちゃん…?』


提督「は?吹雪さん?伊勢さんどうしたんですか、応答してください伊勢さん!」


吹雪さん?なんでこんな時に吹雪さんの名前が?


提督「第二艦隊、青葉!聞こえるか?」


青葉『そんな大声出さなくても聞こえてますよ。』


提督「良かった、そこから深海棲艦は見えるか?」


青葉『いいえ、まだ見えないですね。どうしたんですか?そんなに慌てて。』


提督「伊勢さんとの通信が途絶えたんだ。様子を見に行ってもらってもいいか?」


青葉『青葉了解です。皆さ~ん少し作戦変更ですよ~』


とりあえず、第三艦隊までを出撃させ様子を見ているのが現状だ。親父は演習などをきちんとする人なので皆かなりの力を秘めている。


とはいえ、指揮官が俺ではそれを生かしてあげることができないかもしれない。なにもかもを警戒しといたほうがいい。


なにはともあれ伊勢さんたちだ。通信ができないうえに吹雪さんというのが気になる。


提督「畜生、全員無事で帰って来いよ…」


俺は思わず、小声でそんなことを漏らすのだった。









ー伊勢視点ー


駆逐棲姫「オ久シブリデス。伊勢サン。」


目の前の駆逐棲姫が私に声をかけてくる。その姿は駆逐艦吹雪の生き写しのようだった。


私の知る吹雪は一人しかいない。元帥の初恋の人で想いが通じる寸前で沈んだ艦娘。


そう、私の知っている吹雪は沈んでいるのだ。ならこの深海棲艦は一体。


駆逐棲姫「無言なんてひどいじゃないですか、普通にしゃべるのは中々難しいですね。」


伊勢「貴方は、私の知る吹雪ちゃんなの?」


あまりにも普通に話しかけてくるので私も少し話してみることにした。


駆逐棲姫「はい!吹雪です!忘れちゃったんですか?伊勢さん。」


声や仕草は吹雪そのものだが、あまりにも禍々しい。だって、見た目は吹雪ちゃんでも肌の色や艤装が深海棲艦そのものなのだから。


その時だった。


綾波「吹雪ちゃん…」


亡き吹雪の姉妹艦である綾波ちゃんが、吹雪ちゃんのような深海棲艦に近づく。


私は止めるべきかわからなくなってしまった。綾波ちゃんが涙を堪えながら吹雪ちゃんに似た深海棲艦に近づく。


この時、私は止めるべきだった。感動の再開のようなシーンに水を差していいものかなんて考えるべきじゃなかった。


それからの展開は感動の再開とは程遠いものだったのだから。


駆逐棲姫「久しぶりだね、綾波ちゃん。それじゃ沈んでね。」


吹雪の台詞の直後、正面に大きな水しぶきが上がる。あの小さな体からとは思えないほどの火力。


伊勢「綾波ちゃんッ!」


私はその水しぶきが、吹雪に似た深海棲艦による攻撃と理解し、直撃した綾波ちゃんに駆け寄る。


伊勢「大丈夫?綾波ちゃん。」


綾波「私は…大丈夫…」


綾波ちゃんはそこまで言って意識を失ってしまった。どうやら大破しているようだ。大丈夫なわけ無いじゃないか。


伊勢「吹雪ちゃんッなんてことしてるのさッ」


私は目の前にいる吹雪ちゃ…深海棲艦に向けて声を荒げる。


駆逐棲姫「なに言ってるんですか?伊勢さん。目の前に敵がいたら撃つのは当たり前でしょ?」


私はそのセリフに思わず唇をかみしめる。状況を完全に理解したとは言えない、でも一つだけわかった。


伊勢「そう、あなたにとっては私たちは敵ということなんだね。折角元帥に良い報告ができると思ったんだけど仕方ないか。」


伊勢「第一艦隊、砲雷撃戦用意ッ」


そして、目の前の深海棲艦との戦闘を開始した。




日向「伊勢、このままでは不味いぞ。」


伊勢「わかってるってッ」


私は深海棲艦の攻撃を回避しながら日向と会話する。


日向「実際あの深海棲艦が吹雪となにか関係があるかはわからないが、駆逐艦の動きが悪すぎる。」


伊勢「そりゃまぁ、昔の仲間と同じ見た目の敵なんて戦いにくいに決まってるよね。」


青葉「どもども~、第二艦隊支援に参りました。って…これは趣味の悪い敵ですね。」


先程、提督からの通信を切ったため様子を見に来たのであろう第二艦隊が合流する。


駆逐棲姫「あれ?もう増援ですか?元帥がいないはずだからもっと指揮系統が乱れてると思ったんだけどなぁ。今回は引くとしますかね。そうだ、伊勢さん元帥によろしくね。」


こちらが合流すると同時に、吹雪に似た深海棲艦は少数のイ級を殿にして引いて行った。


衣笠「伊勢さん、今のって…」


伊勢「違うよガッサちゃん。あれは深海棲艦。深海棲艦なの…」


衣笠「………」


私は自分に言い聞かせるように言う。先ほどは旗艦としてすぐに敵だと割り切ったが、こうして考える余裕ができると正直わからなくなってしまう。


青葉「まぁ、とりあえず伊勢さん提督が激おこなんで早く通信繋いだほうがいいですよ。」


伊勢「あ、そういえば繋ぎなおしてなかったか。おいしょっと、聞こえるー?提督。」


提督『聞こえる?じゃないですよ馬鹿ッどんだけ心配させんですかこのアホッ』


伊勢「あはは、ごめんごめん。そこまで心配してくれるとはね。私に惚れでもしたのかな?」


提督『茶化さないでください。伊勢さんは俺にとって姉のようなものなんですからそりゃ心配しますよ。』


伊勢「へ?提督ってそんなに私のこと好きだったんだ。へ~」


少しうれしいような恥ずかしいような、これからはイジメるの控えてあげることにしよっかな。


提督『好きなんて言ってないでしょうが!久々で話したくもありますけど今はそっちの被害状況の報告をお願いします。』


伊勢「了解、第一艦隊は綾波ちゃんが大破。他は全員小破以下で戦闘続行可能よ。」


提督『わかりました、綾波の駆逐艦を向かわせます。空いた穴は改修に向かう際に愛宕さんに向かってもらいます。』


伊勢「了解。」


そこまで話して通信を切る。姉か…いい響きだねこれは。


日向「吹雪のことは報告しなくていいのか?」


伊勢「今それを言ったところでどうしようもないし、提督も急な指揮で混乱してるだろうし後で報告することにしただけだよ。」


日向「そうか、わかった。」


報告したところでどうにかできるのだろうか。そんなことを考えながら予め指定されていたポイントに向かうのだった。







ー提督視点ー


どうにもおかしい、深海棲艦の動き方が統率されている。またあの男が?


いや、あの男は俺の目のまえで死んだはずだ。なら、誰かほかの人間が?誰が?いったい何のために?


一人思いつく人物がいるが、強引に脳内からデリートする。その予想を信じたくなかった。


今はそんなことはどうでもいいのだ。指揮に集中しなければ、とはいえ統率されているのになぜか深海棲艦は本気でここを襲うつもりがあるように思えない。


なんというか、とても引き気味で逆にこの鎮守府に被害を出すのを恐れてるかのような…


愛宕『愛宕・高雄、ともに第一艦隊に合流完了しました~』


提督「了解、先ほど伝えたとおり深海棲艦の迎撃に努めてくれ。」


深海棲艦の目的はなんだ?ここを襲撃するつもりが無いというのなら一体…


そんなことを考えている時だった。


大淀「大変です提督!提督の鎮守府が襲撃されているとの報告が!」


その報告を聞いて俺はすべてを理解した。ここにいる深海棲艦の目的は『俺の足止め』だと。


逆に考えれば、それは俺がここにいることを知っていないとできない芸当だ。俺がここにいることを知っていて深海棲艦に内通していそうな人物…俺は考えるのを辞める。


提督「状況はどうなってるんですか…?」


大淀「長門さんが臨時で指揮をしているようですが、厳しい状況だそうです。」


提督「俺が行くってわけには…行かないですよね…」


大淀「元帥と大和さんがいない今、ここの防衛をこなせるのは…提督しか…」


俺は思い切り机をブッ叩く。どうする?どうする?どうする?


ここで俺が長門たちのもとに走ったところでなにも出来ないのはわかっている。でも、足は今にも走ろうと疼く。


それに、優先度だってこっちのが上だ。素人の鎮守府と元帥の鎮守府では襲撃されたときの世間への海軍のイメージ変化が違いすぎる。


全ての状況が俺にここに残れと言っている。なのに体は今にも動き出しそうだ。


不意に俺の鎮守府のメンバーが頭によぎる。助けに行きたい、立場なんて捨てて、責任なんてすべて捨ててしまいたい。


伊勢『敵深海棲艦が進行の停止を解除、再度責めて来てる。提督、指示を!』


そんな時に通信が入る。理解はしている、俺がここに必要なことなんてとっくに理解している…でも…


提督「畜生がッ」


俺は吐き捨てるように叫び、指示を再開した。









ー瑞鶴視点ー


よりによって、なんで提督さんのいないときにこんな大部隊が…


艦載機を放ちながらそんなことを考える。でも、これは好都合だったのかもしれない。


目のまえの敵の大軍を見て再度考え直す。この数を相手に鎮守府を守れそうにない。なら、もし提督さんがここにいたら殺されていたかもしれない。


そうだ、ポジティブに考えれば好都合じゃないか。


翔鶴「これは…流石にきつそうね、瑞鶴。」


横で艦載機を準備する翔鶴姉がそんなことを言ってくる。


瑞鶴「そうだね、翔鶴姉。でも、唾つけるくらいはやってやらなくちゃね。」


周囲では鎮守府の艦娘が総員で深海棲艦を迎撃している。


別に姫級や、強敵がいるというわけでは無い。ただ単に多いのだ。深海棲艦の数が。


扶桑「きゃあっ」


その時、扶桑さんが被弾する。それを見た山城さんがまるで修羅の如く敵に突っ込む。


山城「姉さまに手を出したやつはどこだッ邪魔するなッきゃあっ」


翔鶴「山城さん孤立しては…きゃっ」


瑞鶴「翔鶴姉ッ!くっそ、くたばれぇッ」


次々とみんなが被弾していく中、私は一人叫びながら弓を弾くのだった。










ー提督視点ー


提督「第一艦隊が…全員捕縛された…?」


長門「すまない…私の指揮が無能だったせいだ。」


目のまえで血が滲みそうなくらい唇をかみしめた長門の報告に思わず言葉を失う。


ここは俺の鎮守府、なんとか元帥の鎮守府を死守に成功し急いで帰ってきてすぐの報告がこれだ。


提督「いや、誰も轟沈していないのは間違いなく長門のお陰だ。そう落ち込むなって、捕縛ってことはまだ生きてるんだろう?」


俺はそんなことを言ってみるが、全く感情が入っていないのが自分でもわかる。


長門「しかし、捕縛とは沈むのよりも…いや、なんでもない。」


そんなことは言わないでもわかっている、といった風に目で伝える。


提督「とりあえず、皆を取り戻さないとな。まずは場所探しからか。」


俺は落ち着いてるのだろうか…不思議と涙は流れない。いや、違うこれは…怒りか。狡猾な罠にはめた相手への。


捕まったのは本防衛作戦の第一艦隊、瑞鶴・翔鶴・扶桑・山城・曙・潮の六人だ。


加賀「提督…大丈夫かしら?」


近くにいた加賀が俺を心配してか、そんなことを言ってくる。


提督「大丈夫さ、心配すんな。なにか六人の居場所について少しでも情報を持っているやつはいるか?」


朝潮「それなら、深海…」


朝潮が俺の台詞に反応し、なにかを言おうとしたのを霞が止める。


提督「朝潮、なにか知ってるなら教えてくれるか?」


俺は少し朝潮に詰め寄る、しかしそれを阻むように間に霞が入ってくる。


提督「どうした霞、朝潮に最後まで喋らせてやってくれないか?」


霞「駄目よ。」


提督「なんでだよ。」


自分でも怒りを抑えることが限界に近いことがわかる。表情が歪むのがわかる。


霞「今のあなたは話を聞いたら一人で行動するでしょう?それは危険すぎるわ。」


提督「大丈夫さ、今までだってだいたい俺がどうにかしてきただろ?」


そうだ、だいたいどうにかなる。俺には死神でもついてるんだろう。今回だって結局うまく行くんだろう。死んだとしても俺はそれ以上苦しまないし別に構わない。


霞「あんたは冷静じゃない、一回頭を冷やしなさんな。」


提督「俺なら大丈夫だ、心配すんな。朝潮続きを聞かせてくれ。」


確かに霞の言うとおりだ、俺は冷静じゃない。でも今はそんなことどうでもいい。


霞「そうは見えないわよ、お願いだから一回落ち…」


提督「うるせぇ、速く聞かせろってんだよッ」


俺は叫んでから気づく、俺はなにをした?俺は今なんて叫…


瞬間、頬に痛みが走る。ピシッという音が沈黙に響く。俺の目のまえには赤城がいた。


赤城「しっかりしてくださいッ」


そう、赤城が俺をはたいたのだ。そして俺に向かって強く言う。そして俺は奥で怯える二人を見て気づく。


あぁ、そうか。俺はあんな小さな子たちに怒りをぶつけたのか。さっきまでは全く気づかなかったが周囲の皆もとても不安そうな顔をしている。


なにやってんだ俺は。情けないったらありゃしない。しっかりしろクソ提督。お前がしゃんとしないでどうするってんだ。


そこまで考えて、俺は思い切り自分の顔をぶん殴る。


提督「いってぇ!」


痛い!まじか!?自分で殴っても結構痛いんですね!?勉強になりました!もう二度としねぇわ!


赤城「提督!?」


俺の行為を見て皆が更に不安そうな顔をする。落ち着け俺は性常だ。正常な?


提督「ありがとう赤城、俺がおかしかった。実は全然大丈夫じゃない!というか助けに行きたくて今から一人で泳いで探しに行きたいくらいにはおかしくなってる!」


提督「朝潮に霞、怖い思いさせて悪かったな今度誘拐された六人と一緒に遊園地連れてってやるから許してくれ!」


俺はいつもみたいに喋る。今話したとおり余裕もないし、正直メンタルきつすぎる。でもまぁ、あれだ…今回はまだ終わってない。


提督「だから、皆俺に力を貸してくれ。そして俺が無理をしないように見張っといてくれ。頼めるか?」


俺は決め顔でそう言った。それに対し皆が首を縦に振ってくれる。さてとっとと助けて遊園地のプランを考えないとな。


まぁ、なにはともあれまずは鹿島を見てエネルギーチャージからですかね!






顔を洗い、執務室にて。


あまり大勢いても混乱するだけだと判断し、ここにいる艦娘以外の皆には自室で待機してもらっている。


提督「二人ともさっきは本当にごめんな。」


朝潮「いえ!そんな!もとはと言えば私が口を滑らせたのが原因ですからお気になさらないでください!」


霞「別にあの程度気にしないわよ。」


さっき怯えてた癖にあからさまに強がりを言ってる子がいるけど今はスルー。


提督「それじゃ、さっき言いかけてたことを教えてもらってもいいか?」


朝潮「はい、実は深海棲艦が去り際にあの鎮守府の名前を言っていたんです。」


提督「あの鎮守府?」


霞「あんたが誘拐されてたあの鎮守府よ。」


例の事件、あの名前も知らない男の鎮守府。あそこはなにか俺に因縁でもあるんですかね?運命の赤い糸的な?繋がってるのなら鹿島がいいです。


提督「他にはなにか言ってなかったか?」


朝潮「提督をお待ちしています…と言っていました。」


霞「私たちだけじゃなくて、何人かが聞いてたんだけれど、今のあんたがこれを聞いたら飛び出しかねないって思って言わないことにしようって決めてたのよ。」


俺の信用無いなぁ~。まぁ、実際さっきまでなら飛び出してたんだろうから反論の余地ありませんけどね☆


提督「なるほどな、罠ってわかってても行くしかないんだろうな。ありがとう、今日は自室で休んでてくれ。」


朝潮「わかりました。その…司令官無理はなさらないで下さいね?」


提督「わかってるよ。ありがとうな朝潮。」


二人は執務室から出ていく。去り際に霞が扉から顔を出す。


霞「あんたを心配してる人も少ないってことだけ忘れんじゃないわよ。」


そんなことを言って、二人は退室していった。痛いところを突かれたもんですよ。


提督「そういうことだ。明日にでも早速乗りこむつもりなわけだが。護衛は任せてもいいか?」


赤城「勿論です。」


加賀「鎧袖一触よ。問題ないわ。」


長門「ビッグセブンとして汚名は返上せねばなるまい。」


陸奥「やられっぱなしってのは少し気分が悪いわよね。」


龍田「うふふ、楽しませてもらえるかしらぁ。」


朧「姉妹をさらわれて黙ってるほど可愛くないよ。」


俺は頼もしすぎる仲間たちからの返事を聞いて、作戦を考えるのだった。












ー瑞鶴視点ー


全くおかしな話だ。前に彼がさらわれた場所に今度は私たちがさらわれるだなんて。


私は一人独房のような場所でそんなことを考える。翔鶴姉やほかの皆は無事だろうか、なにより彼は無事だろうか。


その時、誰かが独房にやってきた。深海棲艦のようだ。


駆逐棲姫「こんにちは。瑞鶴さんでしたっけ?」


私はその言葉を聞かなかったふりをする。ここで下手に話したら情報を漏らしかねないからだ。


駆逐棲姫「無視するなんて感じ悪いですね。いいこと教えてあげようと思ったんですけど。」


私は無視を続ける。本当は捕まった他の皆の安否を確認したいのだがこいつが真実を話すとは思えない。


駆逐棲姫「まだ無視するんですか。まぁいいです。これは独り言なんですけどね。」


駆逐棲姫「あなたの大好きな提督は死にましたよ。」


瑞鶴「嘘…」


私は口から言葉が漏れたことに気づく。落ち着け瑞鶴、これは罠だ。私に喋らせるための罠に違いない。


頭ではそう考えても、心が落ち着かない。


駆逐棲姫「彼は最後まで艦娘を守ろうとしていましたよ。人間のほうが貧弱だというのに。」


その言葉はとても嘘には思えなかった。彼ならきっとそうするから、彼はきっと最後まで誰かを守るだろうから。


瑞鶴「…あなたたちが殺したの?」


駆逐棲姫「全部嘘ですよ。彼は生きてますからね。」


私の恐る恐ると言った質問を馬鹿にするように嘲笑しながら深海棲艦は言う。怒りで頭が埋め尽くされる。


私にとって一番大切なもので心を弄ばれたことに怒りが増幅する。


駆逐棲姫「いい表情です。とてもいい表情ですよ瑞鶴さん。」


そんな私の怒りを知らないといったように深海棲艦は言う。そしてゆっくりと口を開く。


駆逐棲姫「あなたが目のまえで死んだら提督はどんな顔を見せてくれるんでしょうかね?」


深海棲艦は酷く不気味な顔でそう言った。










ー提督視点ー


昨日、霞や赤城に説教を喰らったおかげか。思いのほか安眠出来た。


夢の中で杏仁豆腐に追いかけられていた気がしたがまぁどうでもいいか。


いや、杏仁豆腐に追いかけられるってなんだ…


とりあえず起き上がって服を着替える。思えば色々あったもんだ、だいたい俺死にかけてるだけだけど。


でも、一つだけわかることがある。俺はあのたくさんの胸部装甲ゲフンゲフン…艦娘に囲まれた生活が好きだ。


だから、守りたいって思える。対象は多いがこれも愛のようなものなのだろうか。


個人を愛せないのに集団なら愛せるとかもうこれハーレム作るしかないっすね!若干出来てるとか言わなくていいですよ。


着替えや支度を済まし、自室を出る。そして執務室に入る。


提督「それじゃ、世話のかかる部下たちを助けに行きますかね。」


俺はカッコつけるように一人呟くのだった。




一度自室に戻り、俺は拳銃やナイフなどといった様々なものを準備しておく。


一体何が起きるかわからないから、準備しておいて損は無いだろう。


その時、部屋に誰かがやってきた。


鈴谷「提督、私も連れてって。」


来訪者は鈴谷だった。いかにも着いてくる気満々と言ったようにしている。


提督「駄目だ、メンバーは昨日決めたからな。それにお前はまだ病み上がりだろ?」


鈴谷「そんなことないよ!鈴谷練度は上がってるし足手まといにはならないから!」


提督「いや、駄目だ。今回は昨日の放送で発表したメンバーで行く。」


鈴谷「提督が危険なところに飛び込むのに鈴谷は待ってるだけなんて…


提督「駄目なもんは駄目だ、ここの最高責任者としての命令だ。」


俺の返しに鈴谷は辛そうな表情を見せる。何故俺はこんなに鈴谷が着いてくることを拒絶するのだろうか。


いや、理由は分かっている。でも、言えるわけないだろう。


『お前をもう一度失うのが怖いから』なんてのは。


別に、他の皆なら失っていいなんてわけじゃない。単純に俺は一度鈴谷から目を離し、そして失った。


それが俺の中でトラウマになっているのだ。なにが最高責任者としてだ、笑えてくる。


鈴谷「……わかった。でも、絶対生きて帰ってきてね?」


提督「あぁ、俺は寿命以外では死ねねぇからな。約束するよ。」


俺は自身の問題から目を逸らし、そんな風に返すのだった。






赤城「提督、本当にそのような乗り物で良かったのですか?」


提督「こっちのほうが動きやすいからな。防御力は皆無だからやばくなったらすぐに離れるわ。」


俺はジェットスキーに乗っている。皆は俺を輪形陣で囲むようにして移動してくれている。簡単に言うと、作戦を考えたが正面突破以外思いつかなかったというわけだ!


どうでもいいけど、ジェットスキーって風が気持ちいい…なんて次元じゃねぇわ。ボワァアみたいな感じ。


通学路でこれくらいの風吹かないかね?スカート捲れまくりパーティーだと思うんだけど。まあ、全員髪型サ〇ヤ人みたいになりそうだけどね。


龍田「もう少しで到着よぉ、盛大なお出迎えは無いみたいねぇ。」


そして、特に戦闘もなく目的地に着く。すると深海棲艦が顔を出した。


リ級「オ待チシテオリマシタ。提督様ノミ着イテキテクダサイ。」


それはリ級だった。しかし、あの時のリ級とは別個体のようだ、それはそうかあのリ級は死んだのだから。


特に艤装などをつけてるわけでもなく、ただ着いて来いという。人質がいる以上従うしかないだろう。服従ってなんかエロくない?


提督「わかった。皆は警戒しつつ待機しててもらっていいか?」


加賀「孤立するのは危険かと。その深海棲艦だって信用出来ないわ、一人になったあなたを殺すつもりかもしれないわ。」


提督「んなこと言っても、ここで言うこと聞かなければ瑞鶴たちを助けられねぇからなぁ。まぁ、俺を信じろって加賀。無理はしないさ。」


加賀「…死なないで。」


提督「俺だって死にたくは無いさ。」


その場の全員の思いを代弁したような台詞に適当に返し俺はリ級についていくのだった。






リ級に連れてこられた先にいたのは、瑞鶴だった。


提督「良かった無事だったんだな。」


俺はそんな風に声をかけるが、瑞鶴は何も言わない。なにか思いつめたかのように下を向いたままだ。


また、なにか変なこと考えてるんかねぇ。こいつが暗い顔をしている時って大体ろくなことがねぇ気がする。


不意にリ級が俺と瑞鶴の間に銃を投げる。ロシアンルーレットでもするんですかね?


リ級「コレカラ2人ニ殺シ合イヲシテイタダキマス。銃弾ハ1発シカ装填サレテイナイノデゴ注意クダサイ。」


リ級「追加ルールトシテ、ドチラカガ自殺。マタハ提督ガ死亡シタ場合ハ人質ヲ爆弾デ皆殺シニシマス。」


リ級「瑞鶴ガ死ンダ場合ハ、捕虜含メ全員ノ無事ヲ保障シマス。制限時間ハアリマセン。ソレデハ始メテクダサイ。」


片言で説明されたルールはとても単純で明快だった。要は瑞鶴を俺に殺せということだ。それが最善だということだ。


趣味が悪いにも程がある。こんなんゲームである必要性が無いじゃないか。


いや、ゲームと言う形式にすることで楽しむ主催者側の都合か。


瑞鶴「提督さん…私を殺して。」


とても弱弱しい声で瑞鶴が俺に言う。その表情は笑顔だった。気持ちの悪い笑顔。


瑞鶴「今の解説でわかったでしょ?それしか手は無いんだよ。」


俺が?瑞鶴を?殺す?あんな必死で守ったのに?却下だ却下。そんな選択肢は無い。ばーか。


提督「冗談だろ?なんだ?お前好きな人に殺されたいとかみたいな異常性癖だったりするのか?」


瑞鶴「ふざけないでッ、私は本気で言ってるの。私が死ねば皆無事に帰れるんだから。それが一番じゃん。」


俺は真面目な顔で瑞鶴を見る。ふざけてんのはどっちだ、お前が逆の立場なら撃てんのかよ畜生。撃てるのかな?ちょっと撃たれそうで怖い。


よく考えたら、俺散々あいつにナイフで切られたんですよね。復讐に今度セクハラしてやろう。


いや、今度ってなんだ。俺はこの状況を乗り越えられると思っているらしい。思い上がりなんてレベルじゃねぇぞこれ。


瑞鶴「なんで笑ってるの…?」


提督「ん?俺笑ってたか?いやな、今度前にナイフで切られた復讐にお前の胸でも揉んでやろうなんて考えてただけだよ。」


瑞鶴「今度なんて無いのよ、ここで私は死んで終わりなのッ。提督さんは翔鶴姉とくっつけばいいじゃん!」


瑞鶴は怒るように言う。揉む胸が無いもんね☆あーやべぇ打開策が思いつかない。それに今回ばかりは助けも来そうにないしなぁ。


鹿島の胸見てればいい作戦思いつきそうなんだけどね。陸奥さんでも可。


最近どうもいまいち調子が出なかったが、こういうピンチになると俺って脳内がアホになるのかもしれない。


いっそ、俺の腕とか犠牲にブルー〇イズホワイトドラゴンでも呼べれば楽なんですけどね。俺の髪が金色になってスーパー〇イヤ人になるのもいいな。


とりあえず目標としては瑞鶴含めた捕虜と俺含めた救出部隊全員の生還。難易度ハードなんてもんじゃねぇ!これナイトメアとかカオスみたいなやつやん!


あのホラゲーで選択しちゃうとほぼ積む難易度。


まずは時間稼ぎだな。制限時間無くてよかったよぉ…


提督「なぁ、瑞鶴。お前本当にここで死んでいいのか?」


瑞鶴「いいもなにも、私が死ぬ以外に手なんて無いじゃん。だったら仕方な…」


提督「散々俺に自分も大事にしろみたいに言ってたくせに自分はしないのな。」


瑞鶴「それは…」


提督「そんな苦しそうな顔すんなっての。お前顔はいいんだから。これが終わったら二人きりでどっか行こうぜ。デートってやつだデート。」


二人っきりでデートとかコミュ障の俺にはきついな…なんて言ってから気づく。どうしよう、ここで死んどこうかな?駄目だろあほか。


瑞鶴「やめてよ…ここから二人とも生きのこれるわけないじゃん…」


瑞鶴はそう言いながら泣き出してしまうのだった。誰だよ泣かせたの!最低だな!俺だよ!











ー駆逐棲姫ー


あぁ、なんて面白い光景なんだろうか。好きな相手に殺して欲しいと望む少女。とてもいい顔をしている。


翔鶴「今すぐやめさせなさい!私が代わりに死にますから!」


横の牢獄内で映像を見ている翔鶴が私に向かって叫ぶ。とても素敵な表情で。


他の四人も私に向けて素敵な表情を向けている。もっとその表情を見せてくれ…それこそが生物の本質。愛や優しさなど飾り物に過ぎない。


私の記憶がそれを物語っている。


提督も瑞鶴を殺すだろう。自分を想っていることを知りながら、殺すのだ。それが正しい選択なのだから。


周囲は深海棲艦で警備を固めているので助けも来ない。提督の護衛艦隊は常に見張りをつけている。


翔鶴「こんなの酷すぎます…こんなの…こんなの…」


扶桑「落ち着いてください、翔鶴さん。きっと提督がどうにかしてくれます。」


山城「そのとおりです。あの男は極限状態でのみ役に立ちますから。」


お笑い話だ。どうにかしてくれる?この状況から?出来るものなら見せて欲しいものだ。


私の中の記憶が愛なんて所詮嘘だと物語っている、証明している。私の中にいる彼女は好きな相手に騙されて沈んだ。


私に彼女の気持ちはわからない。でもきっと絶望したはずだ、安全だと言われて送り出された地で包囲され沈むときにあの男を恨んだはずだ。


断片的な記憶しか私は持っていないが、それだけはわかる。だから私があなたの代わりにあの男に絶望を味わわせてあげる。


自分に意識が無いうちに大切なものをすべてを失わせてやる。きっと私の中のあなたもそれを望んでいるのでしょう?


そんなことを考えていると不意に、画面から銃声が響いた。








ー提督視点ー


俺天才かもしれない。これがゲームの裏をかくってやつですよ。ドヤ顔かましますぜ。


瑞鶴は驚いたように俺を見ている。そりゃ驚きますよね。当たり前です。


そう、俺はリ級を撃ったのだ。


流石に撃つのに少し抵抗はあったが、艦娘に殺せと命令を出している立場で敵を殺せないなんてお笑い話だろう。


とはいえ、自分が生を奪ったという実感は思いのほか重かった。畜生。


少しして、何者かが姿を現した。俺が目を疑ったのはそれが親父に見せてもらった写真の吹雪さんにそっくりだったからだ。


駆逐棲姫「実際に会うのは初めてですね。提督。」


提督「実際もなにも完全に初見な気がするんですが、どこかで縁がありましたっけ?」


駆逐棲姫「お話くらいは聞いてるんじゃないですか?私は吹雪ですよ。あなたのお義父さんの元秘書官の。」


提督「そうは思えませんね。話に聞いた吹雪さんはこんな性格の悪いゲームを企画するような素敵な方では無かったと思うんですが?」


目のまえの恐らく駆逐棲姫は手にスイッチのようなものを持っている。そして、貧乳だ。なにをチェックしてるねん俺は。


駆逐棲姫「転生したときに少し歪んだんですよ。とりあえず、提督は何故リ級を撃ったのですか?考えなしというわけでは無いのでしょう?」


提督「簡単な話ですよ。二人に殺し合いをしてもらうと言われたがどの二人かとは言われてなかったのでね。俺は俺とリ級だと解釈しただけですよ。」


駆逐棲姫「屁理屈ですね。」


提督「ルール違反ではないでしょう?」


さぁ、どうする?あのスイッチは恐らく人質を殺す爆弾のためのものだろう。


ここであのボタンを押されたら終わりだ。とはいえ、押されなかったとしてもそう簡単に解放なんてことは…


駆逐棲姫「ここでボタンを押すのもやぶさかではないですが、もう少し楽しませてもらいましょうか。」


駆逐棲姫「先程のゲームを瑞鶴と提督で行ってください。凶器はこちらのナイフをご使用ください。」


駆逐棲姫「そうだ、追加ルールで他の捕虜を犠牲に二人が生き残る選択肢も追加しましょう。更に自殺も許可しますよ。」


そのセリフを聞いた瞬間、駆逐棲姫が俺たちの間に放り投げたナイフを瑞鶴が拾う。俺に自殺をさせないためだろう。


もう屁理屈で乗り越えることはできない。不味いって!どうすんだよ畜生!ど☆う☆し☆よ☆う


ゲームに制限時間こそないが、しびれを切らした瑞鶴が自殺したらって…あいつ自殺しようとしてるじゃん!!!展開早いなおいおい!?


俺は瑞鶴に飛び掛かる。それを見て瑞鶴が思い切りナイフを自分に刺そうとする。しかし、一瞬躊躇してくれたお陰で俺は間に合った。


てか、躊躇するってことは死にたくないってことじゃねぇか。畜生。もう俺死ぬか!それしかない気がしてきた!


ごめんな皆!俺の物語はここで終わりだ。楽しかったよ!童貞だけど!


瑞鶴「止めないでよ…私が死ねば皆助かるんだから…」


瑞鶴は泣きながら言う。てか、俺が押し倒してる状態で泣いてるせいでやばいことしてるみたいになってるなこれ。元気になんな俺の下半身。


とりあえず、それっぽいこと言って説得をしてみようかね。


提督「なあ、瑞鶴。お前にとっての皆にお前は入って無いのか?」


瑞鶴「へ…」


提督「俺にとっての皆ってのはさ、確かに扶桑や山城がいて曙も潮も翔鶴もいてさ。お前もいてこそだと思うんだよ。」


瑞鶴は俺から目を逸らす。自己犠牲は逃げだ、死んでしまえばそれ以上心は痛まないから。俺に良く効くぞこの理論。


提督「少なくともな俺はお前がいない皆の中で笑って過ごせる自信が無いよ。」


それっぽいことと言ったが、これは本心だ。もしあの鎮守府に穴が開いてしまったら…失ってしまったら俺はその喪失感から逃れられなくなるだろう。


それは、鈴谷の時のように、少年の時のように俺の心を蝕み続けるだろう。そこで笑う自信なんて一ミリもない。


考えろ、考えろ、考エロ…どうにかしてこの状況を打開するにはどうすればいい?


瑞鶴「それじゃあ、どうしろって言うのよッ!」


提督「知らねぇよッ、でもな俺は好きって言ってくれた女を見殺しにするほどカッコつかねぇ男にはなりたくねぇんだよッ」


俺は瑞鶴に吠える。瑞鶴はそのセリフを聞いて大泣きしてしまっている。ちょっとカッコつけすぎたかな?


駆逐棲姫「気持ち悪い、愛なんてくだらないってことを理解できないなんて。まぁいいですよ。爆弾を起爆しますね。」


提督「おい、待て。まだゲームは終わって無…」


駆逐棲姫「私がゲームマスターですからね。さぁ、悲痛に満ちた顔で私の気分を良くしてください。」


ピッ…


瑞鶴「翔鶴姉…翔鶴姉…いやあああああああああああああ」


小さな機械音の後、爆発が起きる。やっちまった、俺はなんてことを…また守れなかった。


なにも変わっちゃいない、昔から俺はなにも守れない。肝心なところでミスをする。いい気になっていた、たった数回の成功で俺はなにかをなせると思い込んでいた。


誰かを守る力もないのに守ろうとして、から回ってただ苦しみを増やす。その苦しみで何度後悔してきたことか。


俺は瑞鶴まで巻き込んでしまった。俺は俺は俺は…


提督「こんのクソ野郎がッ」


俺は叫びながら駆逐棲姫に殴りかかる。しかし、俺は思わずその表情を見て正気を取り戻す。


駆逐棲姫は笑うどころか、俺の後方を見て驚きに満ちた顔をしていたのだった。




?「いい表情ですね、駆逐棲姫。それとお久しぶりです提督さん。」


後方から聞こえた声に俺は振り向く。そこにいたのは軽巡棲姫だった。


軽巡棲姫「提督さんも瑞鶴さん…でよろしいでしょうか?もご安心ください。人質の皆さんは私が解放しましたのでこのとおりご無事です。」


翔鶴「瑞鶴ッ」


瑞鶴「翔鶴姉…?生きてるの…翔鶴姉ッ」


二人がお互いの安否を確認し抱き合う。っていうかこの軽巡棲姫誰ぞ?なんで助けてくれるの?俺に軽巡棲姫の知り合いなんて…


あ、一人だけいるわ。


軽巡棲姫「思い出していただけたようですね。ここに提督さんを誘拐したものです。」


駆逐棲姫「貴様ッ、何故邪魔を…うあっ…」


立ちあがった駆逐棲姫を軽巡棲姫が銃で膝を撃つことで行動を抑制する。


軽巡棲姫「やられたことをやり返したまでですよ。あなた達の邪魔が無ければヲ級ちゃんも私たちの提督も死なずに済んだのですから。」


提督「どういうことだ?」


軽巡棲姫「私たちと提督さん達が戦っているとき、私たちは深海棲艦から攻撃を受けました。その犯人が彼女たちだったというわけです。」


軽巡棲姫「わかりやすく言うのならば。将棋中に突然盤面を第三者がかき乱したとでも言いましょうか。」


そこまで聞いて俺は理解する。あの場にいなかった軽巡棲姫はリ級があの男を殺したのを知らないのだ。


駆逐棲姫「ふざけるな…私がこんなところで…終わってたまるか…」


軽巡棲姫「いいえ、終わりです。その傷では入渠しない限りじきに死ぬでしょう。」


提督「ありがとう、軽巡棲姫。前は敵だったとはいえ今は素直に感謝するよ。」


軽巡棲姫「いえ、これはただの私の私怨ですのでお礼はいりませんよ。それに今から私があなたを殺す可能性などもあるんですよ?」


え、マジで?待って、それは予想外すぎる。どうしよう、動揺したら不味いよね?落ち着け俺。あー鹿島しゅき。


提督「それはもうお手上げだな。殺さないでくれると嬉しいです。」


軽巡棲姫「最初からそのつもりはありませんよ。戦って負けたのですから鶴棲姫や戦艦棲姫の死は仕方のないもです。」


両手をあげる俺に少し笑いながら軽巡棲姫が返す。そしてふと少し悲しそうな顔になる。


軽巡棲姫「でもこれで私は人間と深海棲艦どちらも敵になってしまいましたね。寂しいものです。」


提督「んじゃ、俺のとこ来るか?」


軽巡棲姫「へ?」


山城「は?なに言ってんですか提督。」


思わず寂しいって言われたから条件反射で言っちまったなんて言えない☆でも、もしかしたらこれは深海棲艦と和解するのの第一歩目になるかもしれないじゃん!


いや、まあ完全に後付けなんですけどね?うるせーしらねーふぁいなるふぁんたじー


そんなことを考えていると、翔鶴が笑いだす。


翔鶴「すいません、提督らしいと思ってしまったらつい…様々な問題はあると思いますが、私はいいと思いますよ。」


曙「まぁ、私たちの上司はクソ提督なんだし好きにすれば?」


山城「え?本気で言ってるんですか?」


若干一名動揺しているが、皆は俺を肯定してくれているみたいだ。


提督「皆もOKらしいし、どうだ?人は殺させられないし隠れながらの生活で良ければだけれども。」


俺はそう言って、軽巡棲姫に手を差し出す。


軽巡棲姫「私…敵なんですよ?あなたをさらった張本人なんですよ?」


提督「加賀ってやつがそれに関してなにか言ってくるかもだけど護衛するから安心してくれ。」


軽巡棲姫「いえ、そういう意味では無く…」


提督「それ以外になんの問題が?」


軽巡棲姫「ふふふ…あははは、本当におかしな方なんですね。皆さんが好きになる理由がわかりました。」


俺の決め顔での台詞に、笑いながら軽巡棲姫が俺の手を取ろうとする。そして、新たに一人の仲間を連れて俺たちは家に帰るのだった。


いや、正しくは帰れなかったのだが。



俺と軽巡棲姫の手が触れかけた瞬間、銃声が響く。俺は即座に駆逐棲姫を見るが特に変化はない。


周囲を見渡すと、そこにいたのは…兄さんだった。


俺の目のまえで軽巡棲姫が倒れる。まるで時がスローモーションになったかのように彼女が倒れるのまでが長く感じた。


撃たれたのは軽巡棲姫だった。


提督「おい、大丈夫か!?」


軽巡棲姫「やはり、人間と深海棲艦は合い入れないのですかね…でも、最後に夢を見れて…良か…


そこまで言って、軽巡棲姫は動かなくなった。


提督「兄さん…」


俺は様々な感情を含んだ声で兄を呼ぶ。


兄貴「全員動くな。動いたら提督を撃つ。」


よくわかってらっしゃる、ここで俺を撃つと言えば誰も動かないだろう。


提督「兄さんは本当にそっち側なんだね。」


俺は駆逐棲姫を回収する兄さんを見て言う。信じたくなかった、ずっと頭の中で否定していた。でも、この光景を前に否定するのはもう不可能だ。


兄貴「俺は別に深海棲艦の味方ってわけじゃない。ただ人間の敵というだけさ。」


提督「なんで元帥を撃ったんだよ。」


兄貴「そうだな、この際教えといてやろう。親父とお袋を殺したのは海軍だぞ。提督。」


提督「は?なにを言って…」


兄貴「お前の父親に聞けばいい。あの男はすべてを知っているはずだ。死ぬんじゃねぇぞ提督。」


それだけ言って兄さんは森の中に消えていった。両親を殺したのが軍…?それはどういう…


扶桑「今の方は…一体…?」


提督「俺の兄だよ、そして…新しい敵というのが正しいかな。」


俺は歯を食いしばり、兄さんを『敵』と口にするのだった。







その後、俺たちは長門や加賀と合流し鎮守府に戻ってきていた。


そして、今はあることをするために瑞鶴を執務室に呼び出しております。


提督「ということで、瑞鶴さん。」


瑞鶴「な、なによ。私は謝ったりしないからね、あの時は私が死ぬのが得策だったわけだし…」


こいつなに言ってんだ?どうやら勘違いしているようだが、まぁいいとしましょう。


提督「ええ、今から俺は宣言通りお前にセクハラします。」


瑞鶴「なに言われたって謝ら…へ?」


そして、俺は手をワキワキさせながら瑞鶴に近づく。ワキワキってどんな動きかって?そりゃワキワキした動きだよ。


瑞鶴「へ!?なに!?え!?提督さん!?」


瑞鶴はそんなことを言いながら挙動不審になっている。なにこいつ可愛い。違う!可愛くない!


そして俺は目をつむっている瑞鶴の頭を撫でてやる。それに対して意外そうな顔を瑞鶴がするが、これも十分セクハラなんです。


いやまぁ、本来の目的を言うのが恥ずかしかったから濁しただけなんですけどね。


提督「怖い思いさせて悪かったな。もう大丈夫だから、安心していいぜ。」


そう言ってただ優しく瑞鶴を撫でる。これは俺が昔してもらっていたことだ。


辛いことや苦しいことがあった時、大和さんや親父が俺をこうして撫でてくれた。不思議とそれだけでも心が安らぐのは俺が一番知っている。


瑞鶴「…提督さんの馬鹿…ずるいよ、そんなの…」


瑞鶴はそう言うと、子供のように泣きながら俺に抱き着いてきた。どうしようこれでセクハラする権利無くなったかな?


人生で一度は貧乳を好き勝手に弄んで…ゲフンゲフン、ウオッホン。


そして俺は瑞鶴を抱きしめてやりながら少しさっきの出来事を思い出す。兄さんのことを。


一つ分かってしまったのは兄さんは深海棲艦側の存在だということだ。そして、あの吹雪さんそっくりな駆逐棲姫。


そしてなにより兄さんの去り際に放ったあのセリフ…どういう意味なのだろうか。


そんなことを考えていると、瑞鶴が泣き止んだようだ。


提督「落ち着いたか?」


瑞鶴「うん、ありがとね提督さん。」


提督「俺はお前の上司だからな、メンタル管理の手伝いもするさ。」


瑞鶴「そこは普通に提督さん自身としてが良かったかな…」


提督「なんか言ったか?」


瑞鶴「うんうん、なんでもない。それより提督さんさ…あの時にいたお兄さんって…」


提督「実の兄だよ。そして多分次に俺が戦わないといけない敵。」


瑞鶴「っ…」


俺の台詞を聞いた瑞鶴が辛そうな顔をする。兄弟で敵なんてのは良く聞くフレーズではあるが自分がその境遇になると辛いものだ。


兄さんがなにを考えているかはわからない、でも一つだけわかるのは兄さんを止めるのは…きっと俺にしか出来ないのだろう。


運命のいたずらってやつだろうか。


瑞鶴「大丈夫?提督さん、その、えっと…おっぱい揉む…?」


提督「大丈夫だよ、それに揉むほどねぇだろ。」


俺は笑顔でそう返して、飛んでくるさまざまなものを回避するのであった。







さて、状況を整理しようか。


俺はベッドから身を起こし近日中の出来事を振り返る。


親父と大和さんは命に別状はないものの入院中。親父に関してはまだ意識が戻っていないらしい。


俺は無傷だが正直心労が半端ないので重症としておきます。


昨日電話で大淀さんと電話でやり取りした結果、最初の手はず通り俺は親父の鎮守府にて俺の鎮守府と親父の鎮守府のメンバーを指揮することになった。


やったね☆ハーレム。新人に元帥の代わりが勤まるはずが無いといった意見が出るのを予測し表面上は親父の仲のいい大将が親父の代わりをしていることになっている。


今日のうちに全員で親父の鎮守府に移動するとしよう。もぬけの殻になった鎮守府を襲撃する深海棲艦はいないだろう。いないよね…?


仕事に関しては大淀さんのカバーがあれば大して問題ないだろう。ずっと見てきたしね。


次に、兄さんに関してだが…いい加減目を逸らすのは辞めよう。あの人は敵だ、深海棲艦サイドだ。


吹雪さんにそっくりな深海棲艦に関しては俺はなんとも言えないが…前に親父と話した艦娘が深海棲艦になるというのが事実ならば…


そう考えると、親父に意識が無いのは好都合なのかもしれない。


そしてなにより兄さんの言動が不可解すぎる。敵なのに俺に死ぬな?なにを考えているんだ。


それにあの最後の台詞がどうしても気になってしまう。親父が意識不明の状態では答え合わせも出来ないわけだが。この点に関しては不都合だな。


よく考えたら、何故あの状況下で親父は生き残れたのだろうか。俺と大和さんが駆け付けるまでには時間はかなりあったはずだ。


兄さんが本気で親父を殺す気だったなら殺すのは容易だったのではないだろうか。なら、なんで…


謎が多すぎる、もう嫌だ。俺翔鶴連れて海外逃亡するもん。はい、嘘です。


いずれにせよ、俺はこれから親父の代わりにここと皆を守らなければいけない。


そう思って執務室でネクタイを締め直した時に扉が突然開く。


警察「提督さんですね。男児殺害の容疑で逮捕します。」


悲報、提督さん頑張ろうと思ったら逮捕される。


そして、突然手錠をかけられ牢屋に放り込まれるのであった。って、えええええええええ!







ー隊長視点ー


やっちまった、完全にやっちまった。


俺は大淀さんから提督が逮捕されたとの一報を聞いて警察に連絡を取ってすべてを理解する。


あいつが逮捕された理由は男児の殺害容疑だ。そう、少将の息子の件だ。


あれの真相を一人で追っていた少将の奥さん、つまり男児の母親が通報したらしい。


この早期段階で逮捕に踏み切ったのは憲兵に抑えられるのを避けたかったからだろう。


最近は警察の仕事まで憲兵が出しゃばることが少なくないので、このような事例は少なくない。


要は警察の側が手柄を横取りされたくないのだ。もしかしたら憲兵側が海軍の問題をうやむやにするのを避けようとした。という可能性もなくは無いがこの際どちらでもいいだろう。


民間人の混乱を避けるために深海棲艦側に人間がつくという事例を公表するのを控えたため、母親に事件の詳細を喋らなかったのが仇となった。


とはいえ、いくらなんでも情報不十分だ。提督が罪に問われることは無いだろう。


俺のどうにかしないといけない問題はこっちだな。


俺は元帥のやつの鎮守府のメンツと提督の鎮守府のメンツをどうやって落ち着けるか考えながらため息を漏らすのだった。




瑞鶴「どういうことなんですか!」


とりあえず執務室に提督に近しいと思われる艦娘を集める。状況説明する暇もなく問いただされれてるのが現状だ。


隊長「準を追って説明するから落ち着いてくれ。すくなくとも死刑とかにはならないだろうから。」


長門「それはそうだろうが、提督は特に悪事をしていたようには思えないのだが。」


隊長「そのとおりです。彼はなにもしていない、彼が逮捕されたのは男児、つまり少将の息子殺害容疑でですからね。」


加賀「それは、犯人がはっきりしているのでは?」


隊長「はい、そのとおりなんですが。海軍側としては人間が深海棲艦に与するという事柄をまだ世間に発表できていないのです。」


赤城「なるほど、でもそこで提督が容疑者になるのは密告が無い限り有り得ないのではないでしょうか?」


隊長「それが誤算でした、少将が残したデータを頼りに軍と関係の無い少将の奥さんが警察に話したようです。」


隊長「データが断片的にしか残っていなかったらしく、提督が事件に関与している。程度までしかわかっていないらしいのですがね。」


翔鶴「それで、提督を助けだす算段などは立っているのでしょうか?」


隊長「流石にまだ立てては無いのですが、少なくとも元帥が意識を取り戻せばすぐに対処できるはずです。」


その時、執務室の扉が乱暴に開き誰かが入ってくる。


秋月「大変です!テレビを見てみてください!」


青葉「そんなに慌ててどうしたんです?えっと、テレビテレビ…」


秋月さんの台詞を聞いて青葉さんが執務室のテレビをつける。そこには顔にモザイク処理が施された写真が写っていた。


深海棲艦と会話する男性の写真。周囲にはまだ何人かいるようだ。場所は森の中?いや、これは…あの島だ。


それを見てなんか専門家のような男性が人間が深海棲艦に与するなんて話している。あの写真はなんだ?合成か?


瑞鶴「あれって…」


隊長「なにか心当たりがあるんですか?」


瑞鶴「はい、つい先日私たちがさらわれた時に深海棲艦が一人手を貸してくれたんです。その時の写真に間違いありません。」


隊長「おいおいおい、ってことはこれに写ってるのって…」


瑞鶴「提督です…」


俺は全身から冷汗が噴き出るのを感じるのだった。









ー提督視点ー


警察「この写真はなんだかわかるか?」


尋問室の中でそう言って俺の前に差し出されたのは、俺と軽巡棲姫が会話している写真だった。


提督「いいえ、全く身に覚えがありません。」


とりあえず今は時間を稼ぐべきだろう。下手にここで俺が喋るのは愚策だ。ワタクシワッカリマセーン


警察「とぼけても無駄だぞ。どう見てもここに写ってるのはお前だろ?深海棲艦に内通してんだろう?」


このわからずやがぁ!知らねぇってんだよ!畜生めぇ!とは言えないので大人しく首を横に振る。絶対に頷かないもんね~


警察「まぁ、せいぜい否定し続ければいいさ。でも証拠が揃えばお前は間違いなく死刑だろうな。牢屋に案内してやるよ着いて来い。」


俺は警察に案内されて、いや、連行されて牢屋に連れていかれる。どうやら相部屋がいるらしい。


警察「下手なことは考えるなよ、大人しくしておくんだな。」


俺は乱暴に牢屋に入れられる。もーまだ私童貞なんだからもっと低調に扱って欲しいわね!はい、正直混乱しすぎてテンションおかしいです。落ち着きます。


?「相部屋なんて初めてだよ。お互い罪を犯した身、仲良くしようじゃないか。」


提督「えっと、こちらこそよろしくお願いします。…なんてお呼びすれば?」


?「あぁ、すまない。名前を教えるとお互い詮索しちまうからな俺は囚人番号08858836。ハチとでも呼んでくれ。」


提督「なるほどです、わかりました。俺は09665497なので…えっと、クロとでも呼んでください。」


ハチ「あぁ、わかったよ。こんなおっさんでよければ仲良くしてくれなクロ。」


提督「いえいえ、俺も若造ですし多分あまり長いはしませんがこちらこそですよハチさん。」


ハチさんは親父よりもさらに少し上くらいの年に見える、牢内といっても髭や髪が伸びきっているなんてことは無く普通に身だしなみはしっかりしている。


こんなところにいるくらいなのだから、罪人に違いないのだろうが不思議と怖いといったような感情は無かった。


出会って早々こんな風に警戒を弱めるのは良くないのだろうが…いや、やはりとても悪い人には見えないのだ。


とりあえずそれは置いといて、名前を出さないというのは納得だ。名前を言ってしまうとニュースなどから相手の罪を知ってしまうかもしれない。


そうなってしまえば、罪の度合いによっては相部屋は中々にきついものがあるだろう。


そして俺はハチさんと短い期間共に過ごすことになったのだった。








ー元帥視点ー


悪夢を見た、俺が助けられなかった彼女の夢を。


彼女は俺を恨んでいるだろうか、それとも許してくれるだろうか。許して欲しいなんてのは身勝手な話か。


俺のこの立場は復讐の副産物でしか無い。後悔なんて今更していない、あの男を殺したことに後悔なんて無い。


お前もきっと間違ってないって言ってくれるよな。吹雪…


隊長「目が覚めたか!」


不意に横からそんな声をかけられる、俺はなんでこんなところで寝ているんだっけか。


そうだ、俺は提督の兄を名乗る男に撃たれて…


元帥「おい、提督と大和は!ほかの皆も無事なのか!?痛ッ」


急に体を起こしたからだろうか、下腹部が痛む。


隊長「急に動くなって、お前はまだ安静にしていないといけないんだから。」


元帥「俺のことはどうでもいい、あいつらは無事なのか!?」


隊長「大丈夫だ、少し厄介なことになってはいるが提督のお陰で全員無事だよ。」


その台詞を聞いて俺はやっと落ち着く、また借りが増えてしまったようだ。提督には本当に頭が上がらない。


元帥「それで、厄介ってのはどうしたんだ?」


隊長「それがな、提督が警察に捕まっちまったんだよ。男児殺害と深海棲艦との関与の疑いをかけられてな。」


元帥「あいつがそんなことをするわけ…」


隊長「んなことは俺もわかってる。ただ、落ち着いてきてくれよ?このままだと提督は死刑に処される。」


元帥「なっ…」


隊長「今回の件の裏には艦娘否定派のやつらが絡んでいるみたいでな、覚えてるか?今回の件の首謀者は杉山悟志。あの会見の時、提督に論破されていた男だよ。」


元帥「完全に私怨じゃねぇか…」


隊長「あぁ、勿論提督を殺させはしない。俺も出来ることはするつもりだ、それでお前はどうする?」


元帥「んなの決まってんだろ。息子殺そうとしたやつは根絶やしにするさ。」


隊長「頼もしいようなイキリのような、まぁ俺も単独で動く。協力してほしいときは呼び出してくれ。」


元帥「わかった、ありがとな。」


隊長「気にすんな、昔からお前に頼られんのは慣れてるよ。一応最後に警察上層部も絡んでるらしいから気をつけろよ。」


元帥「肝に命じとくが、この体じゃどうせ大したことは出来ねぇよ。」


片手をひらひらさせながら立ち去る友を見送り、俺は思考を巡らせるのだった。







ー提督視点ー


ハチ「…ってなことがあってな。全く笑うしか無かったなあん時は。誰も思わないだろ?急に川に飛び込むなんて。」


提督「娘さんは大丈夫だったんですか!?」


ハチ「季節が夏だったからな、事なきを得たが全く子供ってのはなにをするかわからないから困るよ。」


提督「脅かさないでくださいよ、娘さんは今はどうしてるんですか?」


俺は二日もたたないうちにハチさんとかなり親しい仲になっていた。


ハチさんはどこかつかめないとこがあるように最初は思えたが、話してみると普通の気さくなおじさんで良い人だった。


お陰で今ではこんな風に笑顔で昔話を聞かせてくれたりしている。


そこまで考えて、ハチさんの表情が歪んでいることに気づく。


提督「あ、あの…どうしたんですか?」


ハチ「………娘は死んだんだ。」


あ、ヤッベ―!仲良くなったとか語ってた時に地雷踏み抜いてた!オーマイガー!


えらいこっちゃえらいこっちゃ…いや、これ本当にどうしよう。


提督「あ、あの俺…」


ハチ「悪い、変な空気になっちまったな。気にしないでくれ。」


コミュ障のようになっていた俺をそんな風にハチさんがフォローしてくれる。本当にいい人だ。


でも、いい人だからこそ不思議に思ってしまう。なぜこの人がこんな場所にいるのだろうか…と。


とはいえ、最初のやり取りで聞かれたくないのだろうと判断しその一線だけは超えないようにしている。


ハチ「そうそう、クロ。ここの飯にはもう慣れたか?」


提督「んー、おいしくは無いですけど健康面に配慮してそうですし文句は無いといった程度ですかね。」


ハチ「俺も最初は不味くて食えたもんじゃねぇなんて思ってたんだが慣れるとうまく感じるもんだぜ。」


提督「でも、俺はなれるほどここに長くはいないと思います。数日後に裁判があるので。」


ハチ「裁判か、なにやらかしたのかは知らねぇが精々処刑にはされないように気をつけろよ。」


処刑は嫌ですね。はい。死にたくないでござる!だって、死んだら鹿島と翔鶴に会えないしね☆


提督「ははは…そうですね…」


俺は引き笑いをしながらそんな風に答えるのであった。











そんなこんなで警察に連れられて、尋問室なう。後ろでメモ取ってる人と俺を問いただす人、さらにマジックミラー越しに数人が見てるのだろうか。


警察「いい加減吐いたらどうだ?この写真がある以上言い逃れは出来ないぞ?」


なんですかねぇ、ここでおえおえすればいいの?お前さん俺のレインボービーム喰らいたいの?


警察「だんまりか、いずれこの周りに映ってる人間もすぐに俺たちが正体を暴いてやる。その時がお前の年貢の納め時だな。」


残念ながらそれ人間じゃないんですよねぇ、足しか見えないからわからないだろうけどそれ艦娘なんだよねぇ。


俺は適当に脳内で突っ込みを入れながら黙秘を続ける。さっきから警察さんが机叩いたりして怖がらせようとしてるけどツインテのが百倍怖いぞ、出直してこい。


その時、扉がノックされた。


警察「はい、どうされましたか?」


どうやら警察のお偉いさんが来たらしい、なにされちゃうの俺!改造されて仮面ラ〇ダーにされるとか?


警察「え、それって、いいんですか?上の指示?はい…わかりました。」


警察がそんなことを言って部屋を出ていく、えぇ…新手の放置プレイ?困ります、俺マゾじゃ無いです。


しかし、数分後部屋に入ってきたのは意外な人物だった。


隊長「お久しぶりです、提督さん。」


部屋に入ってきた隊長は敬語でそんなことを言う。俺はとりあえず黙っておく。


次の瞬間、俺は思い切りぶん殴られた。えええええええ!?隊長さん!?なんで!?にんじゃなんで!?


そのまま俺の胸ぐらを掴み持ち上げて、背負い投げを…あれ?今なんか小声で言った…?モールス信号?


警察「ちょっと、なにしてるんですか!」


隊長「裏切り者に制裁を加えているんですよ。」


警察「ここは警察です。憲兵とは違うんですよ、罪人とはいえ人権はあるんです手を出さないでください。」


隊長「そういうものでしたか、申し訳ありません。」


警察「あーもー、憲兵ってのはこんな野蛮なのしかいないのかねぇ…」


突然の出来事にメモを取っていた警察さんが止めに入る。


そして、俺と隊長さんは席に着いた。モールス信号とはいったい…


隊長「貴様が裏切ったという情報を我々はまだ手に入れていない…」


そして、隊長は語りだすがそれと同時に床を蹴りながら貧乏ゆすりを始めた。なるほどね、大胆なもんだ。


先程の俺への突然の暴力は俺に出来るだけ近づいて一言だけ教えるための演技。


更にあの最初の行動で警察側に凶暴なイメージをつけて貧乏ゆすりを注意されないようにしたと。天才かぁ?


隊長はさっきから罵詈雑言や空想の中の俺の鎮守府や艦娘たちの話をしている。それはどうでもいい、俺が聞くべきは床の音。


軍学校時代にモールス信号はすべて暗記している。


えっと、すべてしくまれてる おまえこのままじゃしけい さいばんでたすける へたにうごくな


つまり、俺は何者かによってこのままじゃ死刑になると。だから裁判の時に助けるつもりだからそれまで大人しくしてろってことか。


って、死刑!?俺殺されんの!?童貞だよ!?


関係ないですね、はい。全国の童貞死去なされた皆様。俺も仲間入りです。


でも本当に大胆なものだ、警察の目のまえで堂々と救出宣言をするなんて。考えたのは大淀さんあたりだろう。


そんなこんなで隊長は去って行った。


警察「これだから脳まで筋肉のやつらは嫌だねぇ。今日は終わりだ、牢に戻るぞ。」


お前らその脳まで筋肉にしてやられてんだから脳すら無いんじゃねぇの?なんて頭の中で突っ込む。


そして、牢屋に戻るのだった。次回、提督死す!(死にません)




ハチ「おいおい、お前どうしたんだその怪我。警察に手を出されたのか?」


牢屋に戻ると、ハチさんが俺の頬を見て心配してくれる。


提督「いやいや、ちょっと憲兵にボコられただけですよ。」


ハチ「憲兵…?お前さん軍の人間なのか?」


俺は一瞬ハチさんの雰囲気が変わったのに気づく、それも悪い方に。とはいえ、ここで嘘を吐くのは後に要らぬいざこざを産むだろう。


提督「はい、俺は海軍の人間です。」


ハチ「……そうか、なぁ一つだけ聞かせてくれ。お前はなんのために軍人をしている。」


ハチさんは真面目な顔で俺に問う。その表情は鋭く俺を見つめていた、なにかの答えを求めるかのように。


提督「俺は…誰かを守るためです。」


ハチ「お笑い話だな、そんなことを言うやつがなんでここにいる。」


確かにそのとおりだ、誰かを守りたいと願う善人がこんなところに来るはずがない。でも、俺は誰かを守りたかった。


提督「冤罪だとか、俺は悪くないなんて言い訳は言いません。でも俺は…大切なものを守るためなら罪を背負う覚悟です。」


ハチ「口でならなんとでも言えるだろうよ。どいつもこいつも軍人は守るだの救うだの言いやがる、なにも守ってくれやしないくせに。」


その言い方はまるで、海軍になにかを裏切られたかのような言い方だった。いや、実際そうなのだろうか。


提督「ええ、口でならなんとでも言えます。実際に誰かを守るのも大変なのはわかっていますよ。」


ならばこそ、俺はここで引くわけにはいかない。これは俺の生き様、すなわち人生だ。これを否定されて黙り込むようじゃ守るなんて出来るはずない。


提督「だから別にハチさんに信じてもらわなくても構いません。俺はただ俺の守るべきものを守るだけです。」


明らかな挑発、俺はあなたになにを言われても引く気は無いといった言い方。負けないもんね!


次の瞬間、俺の視界が方向を変える。いや、俺自身が殴り飛ばされ必然的に視界が回る。


ハチ「じゃあ、どうして俺の娘を守ってくれなかったんだよッ」


そして、ハチさんは叫ぶ。


警察がやって来て注意されたが、適当に誤魔化しておいた。


ハチ「すまない、少し感情的になった。」


提督「いえいえ、殴られるのには慣れてるんで大丈夫ですよ。」


本当は大丈夫じゃないです。慣れても痛いもんは痛いです。慣れたくも無かったんです。


とりあえず、俺は下手に追及するのも愚策だと判断し沈黙する。こう言ったときは首を突っ込まないのが一番だ。


しかし、そんな考えとは裏腹にハチさんは語りだした。最近昔の話っていいことない気がするのは俺だけ?


ハチ「…あれは四年前の出来事だった、俺の妻と娘が殺されたのは。」


俺は語りだしたハチさんの話を無言で聞く。先ほどの反応からするに海軍に関係のあることなのだろう、少し身構えておかなければならない。


ハチ「なんでも深海棲艦の砲撃がマンションに直撃したとかなんとかでな。」


俺はそのセリフを聞いて戦慄する。四年前に本土のマンションが倒壊した事件なんて俺には一つしか覚えがない。


体から気持ちの悪い汗が噴き出すのがわかる。だって、それは…それをしたのは深海棲艦じゃなくって…


ハチ「最初に一報を聞いたときは絶望したよ。俺が働いてるうちに妻子が死んだなんて聞いたら誰でもとち狂うに違いない。」


ハチ「しかも娘は結婚直前だったんだ。その事件の後………結婚する相手のほうも死んだ。」


やめてくれ、それ以上はもう聞きたくない。どうか、もう何も言わないで。


ハチ「それこそ俺も後を追おうと思った。でもな、俺は独自に調査するうちに興味深いものを見つけてな。」


ハチ「あのマンション倒壊事件が艦娘の仕業だったというな。」


俺はこちらに背を向けて話すハチさんに今どんな表情を向けているんだろう。自分でもわからない。


ハチ「だから俺はその真相を知るべく色々動いていたんだがな、その最中にちょっと捕まっちまったってわけさって、どうした?クロ。」


振り向いたハチさんと目が合う。俺はどうすればいい、真実を打ち明けるか?でも、それでは鈴谷が…


いや、でもここで鈴谷をかばってしまっていいのか?彼女にずっと罪の意識を押し付けるのか?


ならここで話して…いや、それじゃ鈴谷がうちにいられなくなる。もう手の届かないところには行かせたくない…俺は…


ハチ「クロ…お前もしかして、なにか知ってるのか?」


俺の様子がおかしいのを見てハチさんがそんなことを言ってくる。俺がいまするべき最善策は…


提督「俺は、マンションに誤射した艦娘を知っています。」


様々な思考の後、俺はたった一言口に出す。


ハチ「それは誰なんだ?知ってることを全部教えてくれ、頼む。この通りだ。」


ハチさんはそう言って頭を下げてくる。逃げちゃダメなんだ、きっと俺もあいつも過去から目を逸らしてはいけない。


ただ、一つだけ確認しなくちゃいけないことがある。


提督「ハチさんはそれを知って何をするつもりなんですか。」


俺の冷たい声で発せられる質問を聞いてハチさんの表情が歪む。


ハチ「わからない…簡潔に言えば復讐なのかもしれない…理由がわからないからな。もし意図的に俺の妻子を殺したのなら俺は…そして、なにより愛する二人の死因を、死の真実を自分が知らないのが悔しくて仕方ないんだよ…」


泣いていた、ハチさんはそう言いながら泣いていたのだ。もし俺が大切な人を失ったときその死因がわからなかったら俺はどうするだろうか。


愛する人がどうやって死んだかもわからないまま、俺は人生を他のことに裂けるのだろうか。いや、きっと気になって夜も眠れないだろう。


提督「わかりました、俺の知っていることはすべて話します。」


そして俺はなにもかもを洗いざらい話した。俺との関係や自殺未遂、そして今どうしているかも全て。


ハチ「………」


話し終えてもハチさんは無言のままだった。俯いたままこちらに表情も見せない。


しばらくの沈黙の後、ハチさんが沈黙を破った。


ハチ「てめぇはそれを知っていてのうのうと生きてんのか?幸せに?」


俺はそのセリフに何も返さない。返せない。


ハチ「俺はお前が憎い。のうのうと生きているお前を殺してやりたい。」


そう言って、ハチさんは俺の首元に手を伸ばす。しかし、その手が首を絞めることは無かった。


ハチ「でもさ、クロ。俺はどうすればいいんだろうな。」


そう言いながらハチさんは俺に顔を向ける。その顔は酷く歪で、泣いていてそれで怒っているような。そんな表情だった。


ハチ「俺はさ、きっと期待してたんだろうな。海軍が意図的に俺の妻子を殺したみたいなのをさ。不都合な情報を知ってしまったからとかドラマでありがちな展開をさ。」


ハチ「それで復讐して俺は満足して地獄に堕ちるつもりだったんだ。あいつらのために何かをできたってさ。」


ハチ「でもよ、俺の大切な人を殺した相手も姉妹を失っていた上に本当に事故だったってんだろ?なら俺は…俺はこのどうしようもない感情をどこにぶつければいい…?」


ハチ「事実を隠した海軍上層部か?その殺した艦娘本人か?それとも手の届くお前か?」


泣きながら彼は話す。まるで俺に助けを求める子供のように。


ハチ「なんでだよ…なんでもっとクズみたいな人間になってくれないんだよ。殺せるわけなんてねぇじゃねぇかよ…」


そんなことを言って泣きべそをかくハチさんを、俺はただ無言で見ていた。いや、見ていることしか出来なかった。






ー警視総監視点ー


警察「…とのことです。」


私は部下から提督とやらに面会に来た憲兵の話を聞く。


警視総監「あぁ、わかった。怪しい動きが無かったのなら問題はあるまい。身体チェックは念入りに行ったか?」


警察「ええ、三度行いました。口内や服の仲間で念入りにです。」


警視総監「そう言うことなら問題はあるまい。引き続き監視を頼む。」


警察「了解しました。やだなぁ…面倒くさいわほんと。」


去り際に何か小声で聞こえた気がするが特に気にせず話を切り上げ、廊下を歩く。


あの事件から長い時間がたったが、ようやくあの男に復讐をすることができる。


それにしても、あの不審な男たちもいい話を持ってきてくれたものだ。提督という立場の人間のスキャンダル、さらにはその男があの男の息子と来た。


多少のリスクを背負っても裏工作するだけの価値はある。思わず表情が緩む。


十五年前、わざわざ様々な準備をして作り出した私の計画はあの男…元帥によって阻まれた。


証拠が無かったため、私に被害こそ無かったが準備していたものを無駄にさせられた報復は受けさせなければならない。


そこまで考えて仕事場に着き、座り慣れた立派な椅子に腰かける。


その時、電話が鳴りだした。


警視総監「なんの用だ?」


警察『突然失礼いたしました。なんでも海軍元帥を名乗る人物が総監殿に繋いでくれと言っておりまして。』


噂をすればというやつだろうか、所詮息子を助けてくれとでも言うつもりなのだろう。


どれ、少しからかってみるとするか。


警視総監「構わん、繋げ。」


警察『了解しました。ただちにお繋ぎします。』




元帥『突然お電話をおかけしてしまって申し訳ありません。』


警視総監「いえいえ、構いませんよ。日々守っていただいている立場ですからね私も。」


電話で良かった、もし正面にいたのならにやけ顔を晒すことになっていたかもしれない。


元帥『勿論ですよ、仕事ですからね。ところで海軍関係者の提督という男に関してなのですが…』


こんなに早く本題を切り出してくるとは、焦りが出ているに違いない。相変わらず自分が相手より上にいるという実感は癖になりそうだ。


元帥『裁判の際にこちらで誘拐させていただきます。』


は?今この男はなんて言った?頭がおかしいのか?


警視総監「貴様正気か?この電話は録音されているんだぞ…?そんなことを言ってただで済むわけが…」


元帥『それなら問題ないですよ。この電話の録音はあなたが自分で消すんですからね。』


このとこはなにを言っているんだ…?俺は全身から冷汗が出ていることに気づく。いや、落ち着け…そんなことできるわけが…


元帥『そうそう、話変わるんですけれど警視総監殿は若い子と立ってヤルのがお好きなんですか?』


私の思考はその男の一言で完全に掌握されたのだった。












ー提督視点ー


寝つきが悪い、眠れるはずがない。


俺はどうすればいい?いや、どうしようもないじゃないか。


ハチさんは優しい人だ。だからこそ、復讐に殺してやると思えるほどの理由を探していたのだろう。


でも、誰も悪いとは言い切れなかった。


親父がやったであろう情報操作は鈴谷を守るため、鈴谷は姉妹を失ったパニックによって。


しかも、鈴谷たちは人間を守るために戦っているのだ。そう考えると、理解したうえで向き合うことから逃げ続けた俺が一番罪深いのかもしれない。


そしてもし、ハチさんが俺を殺したとしてもそれには何の意味もない。ただの八つ当たりにしかならないのだから。


あれからハチさんはこちらに顔を向けないまま、眠ってしまった。


わかっていた、鈴谷が誰かを殺していることなんてとっくに知っていた。


俺はそれに向き合いたくなかった。だって、残酷すぎるじゃないか。姉妹を失い誰かのかけがえのないものを奪ったという実感までも背負ってしまったら…


いや、彼女はもう背負っているのかもしれない。逃げているのは俺だけで、鈴谷自身はそれを理解していて生きていこうと決意したのかもしれない。


なら、俺はこの胸の内に刺さってしまった杭をどうすればいい。きっとハチさんはこれの何倍も苦しんでいるのだろう、想像しただけで嫌になる。


今俺に向けている背中にどれだけの後悔と苦痛を背負っているのだろう。


俺はそんなことを考えながら、ただその背中を見つめていた。




目が覚める。どうやら普通に眠れていたらしい、なにが眠れるはずがないだ。


よく考えれば今日は裁判の日だ。こんな気持ちじゃ荒らすも何も無いな。いっそ処刑されてしまおうか。


俺はハチさんと特に会話もなくその日を過ごす。彼の眼はずっと歪んだままでなにかを考えているようだった。


その時、ふとハチさんが背を向けたまま俺に話しかけてきた。


ハチ「なぁ、クロ。」


提督「…なんですか?」


ハチ「俺は一つだけ嘘を吐いた。いや、嘘では無いかすべてを話してくれたお前には俺もすべてを話そう。」


俺はただならぬ雰囲気に思わず息を呑む。以前ハチさんは背中を向けたままだ。


ハチ「俺は人を殺した。」


その一言に俺は再度息を呑む。別に今更恐怖などは感じない。だがその殺人がもしまた俺が鈴谷が原因だったのなら…


もう、俺の心が持たなくなってしまう。


ハチ「娘の結婚予定だった相手が実は結婚詐欺師だったらしくてな…問い詰めた時にもみ合いになってな…」


そこまで話してハチさんは黙ってしまった。鈴谷のせいではにことに安心してしまいそうになる思考を咎める。


今更…なんて思うかもしれないが、この人がどれだけ妻子を愛していたかが身に染みる一言だった。


別に人殺しを正当化する気は毛頭ない。とはいえ、亡き愛する者のために本気で怒れるというのは立派なことだと俺は思う。


そうしていると、警察が俺を迎えにやってきた。


警察「おい、09665497裁判所に連行するっす。着いて来いっす。」


俺はそれに従い、牢獄から出て警察についていく。


その時だった。


ハチ「クロ!最後にこれだけ言っておく、絶対に守ると誓ったものは守り切れ。」


後ろから叫ばれたその声は俺の心に深く刺さる。


ハチ「俺はお前たちを許してやる、だから麗奈と詩織の分まで幸せになれッ人殺しに成り下がっちまった俺の分までだッ」


悲鳴のように叫び続ける声はまるで悲鳴のようで…怒号のようで…


ハチ「もしお前が誰も守らないような腑抜けになったら俺がぶち殺してやるッ艦娘共々全員なッ」


俺は振り返る、そこにいたのは涙を流しながら俺をにらみつけるハチさんの姿だった。


ハチ「とっとと、行けよッ俺がかっこいいおっさんでいられるうちに失せやがれッ」


その台詞は、今彼が口にした言葉がどれだけの重みをもっているかを俺に思い知らせるようだった。


きっと彼は俺や鈴谷を殺したくて仕方ないだろう。でも、それでも彼は許すと口にしてくれた。まるで悲鳴を上げるかのように。


所詮三文字口に出すだけのこと、でもそれはきっと彼が一番口にしたくなかったことに違いない。このたった数日という時間の間に彼はどれだけ考えたのだろうか。


自分が投獄されるまで愛する二人のために奔走し怒り続けた男が、復讐の相手を知って尚許すといった。


俺はその叫びに、何も返すことが出来なかった。返す資格があるとは思えなかった。





警察「えっと、さっきの方となにかあったんすか?」


提督「いえ、気にしないでください。」


今まで生きてきた中で、一番重いものを背負ってしまった。


三人の人生、その幸せをお前が背負えと。一人の男の怒りと苦悩を知ってそれでも尚…使命を果たせと。


俺みたいな男には重すぎる。実際俺自体はそんなに関係があるわけでは無いのだ。


殺したのは鈴谷だ、隠蔽したのは親父だ。でも、俺の心にこうも強く突き刺さるものがあるのは目を逸らそうとしていた罰だろうか。


もしこの世に神がいるのだとしたら、俺への罰としては効果的の一言に尽きる。感服いたしましたよ。


そして、今の俺があの人に応えるにはきっと…いつも通りの俺が一番適しているだろう。


両頬を叩いて、俺は深呼吸をして気持ちを入れ替える。


警察「ちょいちょい、聞いてるっすか?」


提督「え?すいません。少し考え事してました。」


そこまで考えて、俺は横にいる警察の人が俺に話しかけていることに気づいた。


警察「とりあえず、今からあなたを裁判所に連れて行くっす。そしたら、適当に裁判に裏があるみたいな話と艦娘反対派の関与を醸し出して欲しいっす。」


警察「そうしてくれれば憲兵側も強引に操作に介入できるっすからね。そんでタイミングを見計らってスモーク展開するんで普通に逃げて欲しいっす。」


提督「え!?え!?な、なに言ってるんですか!?警察ですよね!?」


なにこの人!?まさか…鹿島の胸部装甲に洗脳されて仲間になったとか…?おい、あれは俺だけの胸だ!ふざけんな!


警察「聞いてなかったんすか…自分は憲兵サイドの人間です。警察は憲兵の敵対組織みたいなもんっすからね。いわゆるスパイっすよ。」


警察「前にあなたの担当だった警官が隊長さんの暴れっぷりを見て身の危険を感じてたらしくて簡単に変わってくれたっす。」


提督「スパイとか本当にあるんですね。でも艦娘反対派が今回なにか関与してるんですか?」


警察「その通りっす。あなたをハメたのは警察上層部と艦娘反対派の人間っす。杉山悟志って男が首謀者っすね、例の会見の時あなたにボコボコにされた男っす。」


ははは…激おこだったもんねあの時。それにしても論破されたからって殺し方回りくどくない!?


提督「なるほど、でもさっき言ってた普通に逃げるってそんなに簡単に逃げられるんですかね?」


警察「その辺は裏で手をまわしてあるっす。警察側としてはあなたを捕まえたり殺した方が不味いんすよ。後最後に一応これを渡しておくっす。」


はえ~意味わかんない~とはいえ、なんか生き残ることは出来そうなのでいいとしよう。やったね!とりあえず俺は警察から拳銃を受け取る。提督は拳銃を手に入れた!


警察「とりあえず、時間が無いから送るっす。一応この先行くと監視カメラに音拾われるっすから変なこと言うのは駄目っすよ。」


そうして俺は刑務所内を歩き、車に乗るのであった。








そして、裁判所内にて。俺がついてすぐに法廷は開かれた。お堅そうなおっさんとおばさんが並んでいらっしゃる。


そして俺の近くには一ミリも雇った記憶にない弁護人。誰やお前、その顔絶対童貞やろ。俺もだけど…


そこからは人定質問や、起訴状の読み上げをシナリオ通りに行うが黙秘権の告知はしてくれなかった。露骨じゃね?


裁判長「被告人・弁護人の罪状認否を被告人からお願いします。」


そうして、ようやく俺のターンが来た。つってもなにも考えていません!非情にまずいです!


ともかく、証拠品などの確認に入ってしまうと捏造されたものでもTVを見ているだけの人には俺が真犯人であるという印象がつきかねない。


つまり、逃げるのなら出来るだけ早くだ。そう、今でしょ!


提督「これは罠だッ!」


そうして、俺は覚悟を決めて思い切り叫ぶのであった。







ー隊長視点ー


腰が抜けるかと思った。裁判だぞ?法廷だぞ?そこでデス〇ートの台詞叫ぶやつがいるか!?


裁判長「静粛に、被告人は罪状認否に関してのみ発言してください。」


提督「んなの知るか、悪いですがこの場は俺が仕切らせてもらいます。」


裁判長「君はなにを言って…」


では、様々な問題を解決してきた手腕って言うのを傍聴席から見せてもらうとしますかね。


提督「この際だから、俺の知る事件の真相をすべて話します。」


裁判長「被告人を捕らえてください。彼の行動は…」


提督「動くなッ動いたらこの人を撃ち殺す。」


え?俺?えええええええええ!?俺は拳銃を向けて近寄ってくる提督に思わず混乱する。


いや、これは時間稼ぎだ。それなら俺も便乗しておいた方がいいか?


とりあえず俺は腰を抜かしたふりをして、提督に捕まる。


隊長「やめてくれ…撃たないでくれ…まだ死にたくない…」


提督「俺の要求は二つだ。裁判の続行とTV中継を中断させないこと。ここでの全てを放送することだ。」


提督は俺を人質にしてTV中継を続けさせることで自分に有利な状況下で話を進めるつもりのようだ。


恐らく、俺を人質に選んだのは他の人間だとトラウマになりかねないからだろう。


さて、最初に思ってた場所よりかなり近くなったけれど引き続きお手並み拝見と行きましょうかね。


提督「まず、俺は男児を殺していません。殺したのは深海棲艦です。」


警察「お前が手を組んでいた深海棲艦に殺させたんじゃないっすか!」


俺が警察側に潜入させておいたスパイが提督の台詞にそう答える。ナイスだ、ここで全員が黙ってしまうより言い合いの形になった方が不信感が無い。


提督「それは違う、俺は艦娘反対派にスパイとして潜入していたんだ。」


警察「それがどう関係あるっすか!今はあなたの罪について…」


提督「この際だからすべて話します。艦娘反対派は深海棲艦と手を組んでいます。」


警察「だから、さっきからあなたはなにを言って…」


提督「常識で考えればわかるでしょう?深海棲艦という敵を迎撃する手段が艦娘しかないのにそれを無くそうとか危険だとか。」


提督「完全に深海棲艦と手を組んでいるに違いないでしょう?」


警察「言われてみれば…確かにそうっす…」


その台詞は誰もが納得する内容だった。昔から艦娘反対派又は否定派と言われる者たちの活動理由はわかっていない。


わかっていないというか、発表されていないだけで様々だ。例えば艦娘自体が危険だからとか、艦娘に依存したら人類が衰退するだとか、艦娘が良くない生物だからとか。


最後に関しては意味がわからんが、あえて正式に発表しないことで多少思考が違っていても【艦娘を排除しよう】という大まかなテーマだけで人を集められるようにしたのだろう。


でも、今提督が言った内容なら…すべてのつじつまが合う。正式に活動内容を発表しないことを利用し、全国放送されているここでそう言えば大して艦娘に興味のない一般人からは確実に艦娘反対派への悪いイメージがつくだろう。


提督「俺は艦娘反対派の活動を探るためにスパイとして潜入しました。そして俺は杉山悟志さんに深海棲艦と接触するよう頼まれました。」


提督「その際に生贄と、同盟の証として杉山さんにあの男の子を連れて行くように言われたんです…全く人間のすることじゃない…」


うわぁ、こいつ演技力高いぞ…全部口から出まかせの癖に無駄に表情が切羽詰まってやがる。俺も騙されないように今後気をつけよう。


警察「じゃあ、証拠として挙がっていたあの写真は…」


提督「はい、裏切った際につるし上げる目的でその際に撮られたものです。俺の後ろには他にも艦娘反対派のメンバーが写ってるのがわかるはずです。」


俺はそこまでの話を聞いて、これからアホみたいに忙しくなりそうだななんて、考えていたのだった。








ー提督視点ー


ここまで全部嘘を吐くともうなんかどれが本当かわからなくなるね…あっはっは。


とはいえ、これで憲兵が強引に捜査に介入するのに必要な材料は十分すぎるほど集まっただろう。


後で嘘について世間から叩かれようと知らん!評判なんかよりまず命だアホ!親父にどうにかさせる!


しかし、まんざらすべてが嘘とは限らない。親父から聞いた話だが艦娘反対派が深海棲艦と内通しているという話は実際にあるのだ。


というのも、前の無人島での一件。深海提督事件から人間が深海棲艦と手を組むことがある。というのが分かったため、親父も調べているらしく、実際にその手のうわさは少なくないらしい。


今回の捜査でそれをはっきりさせられると思えば、俺の嘘も無駄では無いだろう。


問題は人間の中に深海棲艦と内通している存在がいるということを世間に公表してしまった点だろうか。いや、俺の容疑がそれに近いから今更か。


まぁ、俺は世間から叩かれ始めたら忘れてもらえるまで引き籠るとしましょう。もうまじむりまりかしよ。


その時、不意に裁判所内各所で小さな爆発音が響き、スモークが撒かれる。


隊長「提督、こっちだ。逃走経路は確保してある。」


人質に取っていた隊長が声をかけてくる。


俺はその声に従い、隊長についていこうとする。その時、銃声が響いた。


杉山「おいおい、逃げてんじゃねぇよ。こっちがどんだけ準備したと思ってんだ…」


銃声の方向に立っていたのは、見覚えのある男だった。


提督「はぁ、多分人違いですよ。ほんじゃ失礼します。」


適当なことを言って誤魔化し、隊長の後を追おうとするが銃弾が俺の右腕をかすめる。痛い(涙目)本当に俺が無傷で終わるイベント発生しませんかね?


隊長はスモークの中を進んでいってしまったようで、方向しかわからない。脱出ルートわかるかな?いや、まずは目の前の問題か。


杉山「ふざけてんじゃねぇぞ、その苛立つ面をあの日から忘れたことはねぇ。あの会見の後俺は特定されて散々な目にあったんだよ。お前のせいでな。」


それ悪いの俺じゃ無くねぇかなぁ…とはいえ、目の前で血走った眼を俺に向けてるやつになに言っても無駄だと判断し押し黙る。


そういえば、知り合いに女の子に恨まれて殺されたいとか言ってるやつおったな~とか思い出す。でも、そいつも多分男は論外よね。


さて、今回はふざけてる暇がない。スモークが切れる前に目の前の男を抑えてこの場から立ち去らなきゃならない。


とりあえず、目の前で俺への想いを一生懸命語ってる杉山に飛び掛かる。拳銃は下におろしていたため即座に撃たれることは無い。


杉山もまさか銃を持った相手に飛び掛かってくるとは思って無かったらしく一瞬動きが止まる。


そこで俺は杉山の右手を掴み銃の射角を調整できないようにする。


しかし、杉山もそこで諦めるわけもなく空いた左手で俺の首目掛けて手を伸ばす。


とはいえ、俺も銃を抑えた程度で終わるとは思って無かったので空いている右手で…痛ッ、しまったさっき銃弾がかすめた傷が…


妨害することが出来ずに、俺の首を掴むことに成功した杉山はそのまま左手に力を籠める。


やばくね?いや、やばくね!?首を絞められてるせいで腕から力が抜けて杉山の右手を解放してしまう。


あぁ、走馬燈が見える…鹿島の胸とか翔鶴の尻とか瑞鶴のナイフとか…なんか一つ体のパーツですら無いな…


杉山「驚かせやがって…でも、これで終わりだ。安心しろ脳天をぶち抜いてすぐに楽にしてやるよ…ヒッハッハ」


意識がもうろうとする。死にたくないでござる、どうするかね。どうしようもないね。うん。


杉山「地獄で俺にしたことを悔いるといいさ。それじゃ、あばよ。」


俺はそのセリフに目を強く閉じるのだった。





死というのは、思いのほか怖くは無いのかもしれない。俺は死んだら二次元に言ってハーレムを作るのでとっとと死にたいくらいなのである。


ん?今も似たようなもんだろって?いやいや、こうね?俺に都合のいいことしか起きない世界みたいなね?


例えば髪に芋けんぴついてる世界とか、俺が学園一のモテ男でこう常に周りにバラが咲いてる席に座ってるとかね?


これを人は少女漫画という。あんま読んだことないけど。


死ぬ間際だというのに、そんなことを考えている自分に呆れる。って待てよ?もうすでに俺は死んでてここが二次元という可能性が微レ存…?


目を開けたら、美少女がいたり俺にチート能力が備わってるかもしれない!そんなことを考えながら目を開ける。


そこにいたのは、一人の警察とスモークがもっくもくの裁判所だった。生きてた時と変わらないじゃん!


警察「大丈夫っすか?このやばそうな男は気絶させたっす。とりあえず逃亡ルート案内するから着いてくるっす。」


提督「なんで美少女じゃないの?」


警察「なに言ってるっすか?早く行くっすよ。」


俺は地獄って随分とよくわからない展開で始まるんだな~なんて考えながら警察に着いていく。


隊長「おお、良かった。見失ったと同時に銃声が聞こえたときは身が震えたぜ…とりあえずは無事みたいだな。」


提督「はい、警察さんが助けてくれたんで。」


警察「いえいえ、気にしないで欲しいっす。仕事っすからね。んじゃ、長居してるとまずいんで持ち場返るっす。」


隊長「あぁ、今後とも頼む。何かあれば安全第一にな。」


警察「うっす、護身にだけは長けてる自信あるっすよ。」


ここまで来て、やっと俺は状況を理解できた。そう、俺は生きているのだ。


つまり、まだ死んだら二次元説は否定されていないということになる。おっしゃあ!死ぬ気が沸いたぞ!駄目だこれ。


隊長「それにしてもあんな口から出まかせが良く出るもんだ。」


提督「こっちも頭ん中パンクしそうでしたからね。こっからは全部任せますよ。」


隊長「あぁ、あんな容疑をかけられれば艦娘否定派のやつらも黙って無いだろう。どういった行動をするかはまだわからないがどう考えてもあいつらのが不利さ。」


提督「ほんじゃ、俺は鎮守府に帰りますね。」


隊長「いや、そんなわけにはいかない。お前は俺が逮捕する。」


隊長は不意にそう言って俺に手錠をかける。ん?んんん?どうゆうこと?セクハラとか?


隊長「ええ、こちら隊長。逃亡中の提督を確保。直ちに連行します。」


そして俺は、またもや逮捕されたのであった。んんんんんんんんんんんんん?








ー隊長視点ー


ここは元帥の鎮守府。俺は門から中に入り目的地を目指す。


建物内の奥の方、賑やかな声のする部屋の扉を開く。


提督「瑞鶴てめぇ、また俺に赤甲羅当てやがったな!」


瑞鶴「だって、提督さんが私の前にいるんだから仕方ないじゃん!」


赤城「加賀さん早いですね。コツとかあるんですか?」


加賀「えっと、赤城さんはまず逆走するのをやめるべきじゃないかしら…?」


涼月「この赤い甲羅三個はなんでしょうか…?あ、秋月姉さんごめんなさい…」


秋月「そういうゲームだから気にしないで大丈夫。」


照月「ええ!?涼月赤甲羅持って追いかけてきてるの!?来ないで!」


初月「僕はこの順位をキープするとするかな。」


みんなで楽しくマ〇カしてやがる。仮にも提督は拘束中のはずなんだが…


そう、例の騒ぎの後俺たちは『法廷から逃亡した提督を捕縛した。』


その結果、彼の身柄は一度憲兵側に置かれ今現在、引き渡しなどの面倒くさい書類の処理などが行われているはずだ。


といっても、憲兵側は彼を引き渡すつもりは毛頭ないので、元より軍関係者ならこちらの領分だなどと適当に言ってあしらっている。


警察側も警視総監が丸め込まれている以上そう強くは出てくることは無いだろう。


つまり、実質俺たちは提督の奪還に成功したというわけだ。


提督「隊長さん、こんにちは。今日はどうされましたか?」


隊長「こんにちは、提督さん。今回は調査に進展があったので報告に来ました。別室にて話しますので着いてきてもらえますか?」


提督「了解しました。んじゃ今三位なので後は頼みますね鳳翔さん。」


鳳翔「へ!?え、えっと、えーっと…」


提督は手に持っていたゲーム機を鳳翔に渡すと、俺と共に部屋を出るのだった。




そして、音が漏れないように遠くの部屋まであえて移動し、お互い向き合って席に着く。


提督「お疲れ様です。報告ってことはなにか進展が?」


隊長「ああ、進展なんてもんじゃないぜ。お前が口から出まかせで言ってたあれ事実だったみたいだ。」


隊長「艦娘反対派…つっても一部だが深海棲艦に対して狂信的な信仰がある人物や証拠が見つかっている。」


隊長「なにか犯罪を起こしたわけでは無いから今どうこうすることは出来ねぇがマークするには充分な理由だ。これもお前の一芝居のお陰だな。」


提督「いやぁ、そうは言ってもあれだけの大嘘吐いてしまったんでもう俺娑婆に出れる気がしないんですけどね。」


はっはっはなんて乾いた笑い声を出しながら提督がそんなことを言う。でも、それも対処済みだ。


隊長「それなら気にするな、例の男…なんだったか杉山悟志だったか?あいつに全部の罪を被ってもらった。」


提督「ほへ?」


隊長「簡単に言うと男児殺害と深海棲艦との関与だな。簡単に要約すると大人の力ってやつだ。」


提督「うわぁ、大人汚い。でも、それって警察とかは大丈夫なんですか?そんな怪しい内容に対して動かないとは思わないんですけど。」


隊長「それなら問題ない、杉山と警察側がお前をハメるために手を組んでいた証拠をつかんでな。それを材料に脅したらあっちから頼み込んできたよ。」


提督「うわぁ、ばっちぃ。大人ばっちぃ。」


隊長「まぁ、そう言うなって。だからまぁ、少しの間は顔を覚えてるやつがいるだろうがしばらくすれば霧散するだろうよ。」


提督「それは本当に助かりました、ありがとうございます。それじゃ何点か質問してもいいですか?」


隊長「あぁ、構わないぜ。」


提督「そんじゃ、一つずつ。まず少将の奥さんには本当のことを話したんですか?息子さんの死の真相を。」


隊長「勿論だ。そのうえで少将がやったこともすべて話したさ。」


ここで提督に彼女が精神崩壊を起こしたなんて言ってもどうしようもないものはわかりきっているので伏せておこう。


提督「良かった。愛する人の死因を知らないなんて言うのは悲しいことですからね。」


提督のその言葉が少し心に刺さる。彼女に真実を教えない方が良かったのかもしれないなんて今更思ってしまう。


提督「それじゃ、次にどうやって警察を丸め込んだのか教えてもらっても?」


隊長「それはお前の親父に聞け。あいつが数分電話したらすぐに警察がこっちに着いたんだからな。」


提督「あの人本当に変なところで有能ですよね。それじゃ最後に。」


提督「俺の両親の死の真相をあなたは知っているんですか?」


俺は自分でもそのセリフを聞いて顔が強張るのがわかったのだった。










ー提督視点ー


何故男には胸が無いのか。いや、まぁあるけど小さいのか。


でも、よく考えるともし男女が同じ体だったらお互い全く興奮しないのかもね。知らんけど。


そんなことを考えながら俺は親父を待つ。あの質問を隊長は適当に濁したが、その後親父との面会の場を用意してくれた。


俺は呼ばれた場所、といっても親父の執務室なのですぐ近くなのだが。そこで親父を待っている。


なんだか久しぶりな気がする。そのせいか、少し親父に会うのが楽しみな気がしている。


べ、べつに親父のことなんてなんとも思って無いんだからね!


そんなことを考えていると、部屋の扉が開く。


元帥「提督ぅ…お前どんだけ心配させんだ馬鹿やろォ…」


そして、すぐに親父が泣きながら入ってきた。相変わらずだなぁ…


提督「それはこっちも同じだろ、急に撃たれないでよ。撃たれるなら一週間前には報告してくれないと。」


元帥「んん?撃たれるってわかってたら普通逃げないか!?」


提督「まぁまぁ、久しぶり。親父。」


元帥「あぁ、久しぶりだな。提督。」


そして、俺と親父はとても久しぶりに感じる会話を開始するのだった。


元帥「それにしても、お前から話したいなんて聞いたときは嬉しかったぞ。」


提督「残念ながら親父の期待している家族水入らず的な可愛い内容じゃないよ。」


元帥「えぇ…」


提督「本気で落ち込むなよ、やりにくいなぁ…」


元帥「パパは提督成分不足なんだよ。」


提督「俺はそんなビタミンとかみたいに摂取するもんじゃないわい。それよりそんな時間無いんでしょ?とっとと本題に入ろうぜ。まずは警察に関してだ。」


元帥「警察ってのは犯罪を取り締まったり罪人を捕まえる仕…」


提督「んなことは知っとる。そうじゃなくて親父はどうやって警察を丸め込んだんだ?」


元帥「……ナンノコトデスカネー」


提督「隠しても無駄っす。こういう口調の人が裏で手をまわしたって言ってたっす。」


元帥「まぁ、別に隠す必要もねぇか。簡単に言うと俺が警視総監殿のイケない事情の証拠を持ってたってだけだ。」


提督「なるほどね、上の保身のために俺を見逃したと。汚いねぇ。ばっちぃ皆ばっちぃ。」


元帥「結局誰しも最後には我が身大事ってわけだよ。俺は綺麗だよ?毎日お風呂入ってるし。」


提督「あんたが保身させたんだろうに。んじゃ、次だ。俺の両親はなんで死んだんだ?」


俺の質問に一瞬親父の表情が強張ったのを俺は見逃さなかった。


元帥「なんだ、お前忘れたのか?お前の両親は…」


提督「親父、なにか知ってるんだろ?」


俺は濁そうとする親父に追い打ちをかける。


元帥「………あぁ。」


提督「話してくれない?」


俺は親父の反応に少し嫌な予感が走る。無知ほど怖いものは無いとよく言うが、それは無知ゆえにどんな恐怖も想像できてしまうからだろう。


元帥「…………あれは、俺がまだこの地位についていなかったころだ。」


そして、親父は一人の男の物語を語り始めた。






十五年前、海軍内は一つの話題で持ちきりだった。そう、新しい元帥についてだ。


候補は二人、どちらも経歴が輝かしくどちらが元帥になってもおかしくないといった時だった。


そんな時、海岸沿いの町と元帥候補の一人、重田さんの鎮守府が深海棲艦によって壊滅させられた。重田さんはその際に死亡。


それによって、候補はもう一人の元帥候補である吉島孝明で確定したようなものだった。


ある男が襲撃の真相にたどり着くまでは。ある男、いやここでは司令官とでも称しておこうか。


その男はな大切な……人を失った直後だったんだ。それでその事件について調べ回っていた。


その時に司令官はあるものを見つけてしまった。それが捏造された海域情報だったんだ。


そしてそれと同時に自分が大切な人を失った原因がその計画のための実験だったということを知った。


要は彼の鎮守府を使って上手く偽の情報を流すことができるかの実験をしてやがったんだ。結果は大成功ってな。


そして、深海棲艦の襲撃があったとき誰かが偽の情報を流して町と鎮守府の警備を緩くした。


ここまで話せばわかると思うが、ここで襲撃されたのがお前の街だよ。


司令官はすぐに犯人が分かった。こんなことをこのタイミングでする人間なんて一人しかいないだろ?といっても証拠を持たずに問い詰めても意味がない。


だから司令官は情報を集めた。どんなことだってした。悪に手を染めることさえいとわなかった。


そして、司令官は吉島を問い詰めた。数々の証拠を提示してな。


その時に吉島はこういった。


『取引しないかい?君がこれを黙っていてくれれば僕は元帥になれる。そうしたら君に輝かしい階級と金額を約束しよう。悪い話では無いだろう?』


その台詞は司令官にとって許せないものだった。彼は激情した。階級や金と彼女を秤にかけられたように思って感情が制御できなくなってしまった。


そして司令官は吉島を殺していた。無意識に、殺さなければいけないという怒りから来る感情に任せて。


銃声で寄ってきた憲兵に捕縛された司令官は、もうこんな経験をしたくない一心から自分が元帥になればいいと考えた。


そして、司令官は罪を自白した。全ての吉島の悪事を知り問い詰めたら抵抗されたから殺してしまったと。自分の殺人を利用することにしたのだ。


結果、司令官は周囲から称賛された。危うく悪人を元帥に担ぎ上げるところだったのだ。それを食い止めた司令官は英雄のように言われた。


とはいえ、人殺しである以上周囲からの奇異な視線も少なくは無かったのだが。


そしてそのまま司令官は自分のアドバンテージである艦娘の知識を使って元帥の地位を得た。


ここまで話したんだ、折角だから最後まで話すとしようか。


時間は冬にまで流れる。司令官、改め元帥は例の事件で壊滅した住人たちを訪ねにいった。


彼は元帥の仕事をしながら自分の罪を少しずつ自覚していた。それを誤魔化すために対象こそ違えど深海棲艦への怒りを抱えているだろう人たちに会おうと思ったんだ。


そうすれば、自分が間違って無いと肯定できるなんて思っていた。


でも、そこで彼が見た光景は前を向いて力強く生きようとする人たちだった。


家を家族を失っても笑いながら、強く生きようとする人たちだった。


元帥はその光景がまるで自分を責めているように見えてすぐにその場を去ろうとした。その時一人の子供を見つけたんだ。


その子は元帥と同じで死んだ目をしていて、怒りに満ちているようで…そんなただの子供を見て彼は安心感を得ていた。


ふと彼は近くにいた人に子供について尋ねてみた。


元帥「あの子はどういった子なんです?」


女性「ああ、提督くんですか?あの襲撃の時に両親を失ってお兄さんにも置いてかれちゃったみたいで…可哀想ですよね。」


その時、彼の中のなにかが壊れた。彼が拒み続けていた現実が彼に襲い掛かった。


そう、彼は自分では理解していたんだ。吉島を利用したということを、いや、吉島の先にある襲撃自体を自分が利用したことを。


そして、なによりその行為が自分の大切な人の死をも利用することであることを。


彼は自分の復讐のために吉島を殺したに過ぎない。本当はそこで捕まるなり裁かれるなりするべきだったのだ。彼女の復讐として殺したと、自分の意志で殺したと。


でも、元帥は自分がもうこんな思いをしたくないという恐怖に駆られ、自分の罪すら利用した。


死のう…彼はそう思った。そのすべてを自覚してしまった彼はもう生きる気力なんて少しも残って無かった。


その時、元帥のもとにボールが飛んできた。青い小さなボール。そしてそれを追うようにあの子供がやってきた。


元帥「ボールで遊んでいるのかい?」


彼はボールを子供に渡しながらそう聞いた。


子供「うん、でもお兄ちゃんもママもパパもいないからキャッチボールが出来ないの。」


その台詞は、酷く俺の心を抉った。まるで俺だけ死んで逃げるのを許さないと神が言っているかのように。


そして、彼は決めた。この苦しみを背負って…せめて誰か一人でもいいから守って見せようと。背負った罪と共に自信をもってなにかを成せたと胸を張れるように。


そして彼は…いや、俺は子供だったお前にこう言ったんだ。精いっぱいの笑顔でな。




元帥「俺がお前の家族になってやる。一緒にキャッチボールをしてあげるってな。」


親父の自白に俺は言葉を失う。なにを言えばいい?なにを思えばいい?


怒ればいいのか?同情すればいいのか?それとも、俺は…


元帥「俺はお前が俺を殺したいというのなら甘んじて受け入れる。この地位の重さを知って押し付ける気も…」


提督「歯ぁ食いしばれ。クソ親父。」


俺はそう言って思い切り親父の顔面をぶん殴る。甘ったれてるクソ親父の顔面を。


提督「なにが甘んじて受け入れるだ。アホかてめぇは」


元帥「………」


提督「誰か一人でも守る?甘ったれてんじゃねぇよ本当に。大切なもの全部拾って見せろよ、あんたはそんな小さな男なのかよ。」


俺は叫ぶ。ずっと目標にしてきた大きな背中が俺しか背負ってないなんてそんなの認めない。


提督「俺も大和さんも艦娘も人間も全部守って見せろよ、そんくらいの覚悟がねぇなら俺の親父なんて認めねぇからなッ」


俺は全部を守りたい。なにもかもを失うのが嫌だから、失うのは苦しいから。それが実現できないのなんてとっくに知ってる。


でも、目標や夢はどんなに大きくたっていいじゃないか。


元帥「………俺だって、守れるもんなら守りた…」


提督「弱音吐こうとしてんじゃねぇよッだったら死ぬまで守れよッ出来るかどうかなんざ知るか、やるんだよッ」


提督「寿命で死ぬまで俺が見張っててやるよ。だからその情けない表情どうにかして早く俺の好きなあんたに戻れよ。」


俺はそう言って執務室から出る。無茶苦茶言ってるのは分かっている。親父だって人間だ、俺の夢じゃない。


それでも、それを知っていても俺はただあの人にはあんな表情をして欲しくは無かった。あんな弱音は聞きたくなかった。


大和「少し話しませんか?」


部屋から出た俺に話しかけてきたのは、大和さんだった。






俺と大和さんは場所を移し、向かい合って席に着く。よく考えると撃たれた後に会うのは初めてだ。


提督「怪我はもう大丈夫なんですか?」


大和「はい、あの時は守ってくれてありがとう。でも、次からはまず自分の安全を第一にしてね?」


提督「多分無理ですけど…了解です。」


大和「それは了解とは言いませんよ、全くもう。」


仕方ないといったように笑いながら大和さんは言う。


人には過去があり、歴史があるとはよく言ったものでそれぞれ皆なにかしらを背負って生きている。


二人の男の背負うものを知った…知ってしまった俺は今目の前にいる女性ですらなにかを背負ってると考えてしまう。


生きる…というのは酷く簡単なようで、とても難しいのかもしれない。


提督「それで、どうしたんですか?なにか俺に話が?」


大和「はい、提督君に話しておきたいことがあって。鈴谷さんについて。」


俺はその返しに少し身構える。普段ならBWHについてですか?なんて返すのかもしれないが…今の俺にそんな余裕はない。


提督「聞かせてください。」


大和「最初は本人に口止めをされていたので言うか悩んでいたんですけど、これは提督君には知る権利があると思うので話しますね。」


そして、大和さんはそっと語り始めた。




彼女が目覚めたときの話です。幸運なことに私が久しぶりにお見舞いに行ったときに彼女は目覚めました。


鈴谷「あなたは…?」


彼女は私を見てそう言いました。


大和「私は大和型一番艦大和です。元帥の鎮守府に属しています。」


鈴谷「ここはどこですか…?」


大和「ここは海軍の保有する病院ですよ。あなたはずっと意識不明だったんです。」


鈴谷「鈴谷は…生きているんですか?」


大和「ええ、あなたは生きていますよ。ひとまず頭の中を整理した方がいいでしょう。」


そう言って、私は一度部屋から退室しました。彼女には一人で考える時間が必要だと思ったんです。


そうして、どれくらい待ったでしょうか。私は本を少し読んで再度彼女の病室を訪ねました。


すると、彼女は泣いていたんです。そして何度もごめんなさいと言っていました。何度も何度も。


大和「大丈夫ですか?」


鈴谷「……すいません…みっともないところを、私は捕まったのでしょうか?」


大和「ええ、そういう解釈で正しいと思いますよ。」


鈴谷「それで…その…罪人である私が尋ねるのは図々しいというのは重々承知なのですが…私と一緒にいた男性は…その元気でいるのでしょうか?」


私はその質問を聞いたときに確信しました。彼女が誰だけ提督君を想っているのかと。


彼女の質問に対して、最初にあえて強く返しました。あなたは捕まったのだと。それなのに最初に心配したのは自分より提督君だったんです。


甘いと言われてしまうかもしれませんが、その時点で私は彼女への警戒をほぼ無くしてしまいました。


大和「一からすべて話した方がいいみたいですね。」


そして、私は提督君の素性や今の鈴谷さんの立場などを教えました。


鈴谷「教えていただきありがとうございます。それで私はどのような罰を受ければいいのでしょうか?」


大和「罰…ですか?」


鈴谷「はい、鈴…私は故意にではありませんが人を殺してしまいました。ですから、それ相応の罰を受ける覚悟です。」


大和「そうは言われても…事実上は深海棲艦の攻撃ということになっていますし…」


鈴谷「それは偽られた事実ですよね?人間を殺してしまった兵器である私にこの世で生きる権利はありません……なので解体してください。」


大和「それは私個人の一存ではなんとも。恐らくですが、解体なんていう思い処罰にはならないと思いますよ?」


鈴谷「駄目です。解体じゃないと駄目なんです。だから…その、そう元帥殿に進言していただきたいです。どうかよろしくお願いします。」


彼女はそう言って私に頭を下げました。私を殺すように頼んで欲しいと、私が生きてきた中で最も悲しい頼み事だったかもしれません。


でも、それは罪を受け入れているようでいて逃げているように感じました。生き残ってしまった罪悪感から逃れようとしているような。


上手く言葉にはできないのですが、姉妹の中で自分だけ生き残った絶望感や関係のない市民を巻き込んでしまった罪悪感から逃れようとしているような。


中々きつい言い方になってしまいますが、それは罪を償うよりは罪から逃れようとしているように感じたんです。


その時は、わかりましたとだけ言って病室を後にしました。


それから私は、彼女との会話をすべて元帥に話しました。あの人はそれを聞いて私にもう少し色々話してみて欲しいと言いました。


私はそれに頷き、処分は検討中ということにして何度も鈴谷さんに会いに行きました。


彼女はもう死ぬと決めつけているみたいで、中々私に心を開いてはくれませんでした。下手な未練は残したくなかったんでしょうね。


そんなある日、私が日課になりつつあったお見舞いに向かおうとすると元帥に呼び止められて提督君の写真と言伝を預かったんです。


その時あの人はこう言いました。今伝えたことをお前なりに彼女に伝えて欲しいと。それで考えが変わらないのなら、解体を認めようと。


提督が誘拐される少し前の出来事です。あの人はきっと、提督君に殴られた時の自分を見ている気分だったのかもしれませんね。


そして、私は鈴谷さんの病室を訪ねました。


大和「鈴谷さん、こちらの写真を見てください。」


私はそう言って、提督君の写真を渡しました。ここに現物がありますよ、車椅子に乗っている写真です。


鈴谷「この写真は一体…なんで提督がこんな怪我を!」


大和「彼は、元ブラック鎮守府に着任しました。そこで傷つきながら艦娘のケアをしつつ指揮をしています。その怪我は艦娘がさせたものです。」


鈴谷「なんで元ブラック鎮守府なんて危険な場所に…彼が心配じゃないんですか!こんなことするなんて、提督はなにも悪くな…」


大和「甘ったれたことを言わないでください。あなたはもう彼に関わる権利は愚か心配する権利もありません。」


鈴谷「………」


大和「あなたが自殺未遂をしたときに提督君がどれだけ自分を責めたかわかっているんですか?貴方が彼をどれだけ変えてしまったかわかっているんですか?」


大和「提督君を傷つける艦娘が許せないですか?それなら自分もですね。あなたは彼の心を傷つけた。深く深く。」


私がそう言っている間、彼女はなにも言いませんでした。ただ下を向くだけで、なにも。


大和「それを自覚して、まだあなたは死んで罪から逃れようというんですか?提督君が傷ついて戦い続けるのに、あなたは逃げるんですか?」


今、本音を漏らしてしまうと正直私もきつかったです。あの人を恨みますよ、全てが正しいからこそとても残酷で、まるで迷路のように彼女の逃げ道を消す言葉の数々。


鈴谷「……なら、鈴谷はどうすればいいの…もう、鈴谷にはなにも…」


大和「あなたは艦娘です。私たちの使命は戦うことです、お国を守ることです。もし今の言葉になにか思うことがあったのならば使命を果たすことが償いになるでしょう。」


大和「これが元帥からの言伝です。もしもこれを聞いた後でも鈴谷さんが解体を望むのならそうしてもいいと言っていましたが、どうしますか?」


彼女はなにも言いませんでした。いえ、なにも言えなかったんでしょうね。少しして先に私が口を開きました。


大和「私たちは艦娘です、本来ただの兵器であって会話どころか自我すらないはずの存在が、突然こうして人の姿を得たものです。」


大和「私は、今まで数多くの深海棲艦を沈めてきました。艦娘になった当初、私はずっと敵を沈めるということに罪悪感を抱えていました。」


大和「敵と言えど、深海棲艦にも自我があるのは確認されています。それを沈めているというのに…自分だけ得た感情で笑うのはどうなのかと考えていたんです。」


大和「その時、妹が私にこう言ったんです。」


武蔵『そう難しいことじゃないさ。笑っていればいい、殺した相手の分まで笑えばいい。そうすればあの世にいる殺した相手も思い切り私を恨めるというものだ。』


武蔵『逆に私を沈めた相手が辛気臭い顔をしていたんじゃ、沈められ甲斐が無いってもんじゃないか?』


これは、武蔵が私に言ってくれた言葉だ。この台詞のお陰で私は今でも笑顔になれている。たかが一言、されど一言がその人の世界を変えることもあるのだ。


大和「これは敵を対象とした会話ですが、私は仲間でも当てはまると思うんです。」


大和「もし、私の大切な人が失敗をして私が死んでしまったとしたらその人には私の分まで笑顔で生きていて欲しいですから。」


大和「そして、残された側はその願望にこたえるのが償いなんだろうと私は思うんです。とても難しくて辛いことですが、それが生きるということなんだと思います。」


鈴谷「でも…鈴谷達は艦娘なんです。ただの兵器です、しかも人を殺してしまった…なんの罪もない人たちを…」


大和「それでも笑うんです。その奪ってしまった命を知って、命を奪った罪に心が壊れそうになっても笑うんです。それがきっと償いになるはずです。」


大和「もしかしたら見当違いなのかもしれないですけど、私はそう信じています。」


鈴谷「…なんで…感情なんて、神様はくれたんですかね…」


そう言って、彼女は泣いていました。顔をぐちゃぐちゃにしながら泣いていました。


大和「ある人と昔こんな話をしました。あなたも良く知る人です。」


提督『苦しいときや悲しいときに笑えってフレーズよく見ますけど、そんなん無理ですよね。泣きたいときは泣いといて次の日に笑えりゃそれが一番だと思いますね俺は。』


大和『そのとおりですね、でも今更ではありますけど艦娘ってどうして感情を持ったんでしょうね。兵器である私たちには必要ないのに。』


提督『意味なんて無いですよ。ただ感情がそこにあっただけ、必要不必要なんて言ってたら人間なんて三食食って寝てりゃいいだけですもん。』


提督『人間やってると分かりますけど、存外必要ないことってのが一番楽しかったりするんですよ。それが必要なことを妨害するくらいに。』


提督『だから、難しく考える必要なんて無いんです。自分なりの答えを出して、折角あるんですから恋してみたり笑ってみたり泣いてみたり。』


提督『そこに意味なんて無いけれど、不思議と無駄だとは思わないのが生きるってことなんですよ。』


これは提督くんとマンガを読んでいた時の会話ですね。提督君はなにも考えずに言っていたのかもしれませんけど、私にはとても刺さった言葉だったのでずっと覚えています。


鈴谷「私は…生きていてもいいんでしょうか?」


大和「はい、でも許されるわけではありません。罪を責任を背負ってそれでも生きるんです。精いっぱい笑顔で。」


鈴谷「…生きるって、こんなに難しいんですね。」


そう言って、彼女は顔を歪めていました。それが笑顔を作ろうとしたのか、泣き顔だったのかは私にはわかりませんでした。




大和「そして、彼女は提督君と再会したというわけです。」


俺はこの話を聞いてハチさんを思い出していた。あの人も言っていた、自分たちの分まで幸せになれと。


それはとても綺麗なセリフのようで、呪いのように思えた。永遠に消えない誰かの想いを背負い続けるという呪い。


でも、それから目を逸らしてしまったらきっと俺は俺を許せなくなる。鈴谷でさえそれを背負うことを決意したのだ。


提督「大和さん、わざわざ話してくれてありがとうございます。」


大和「いえ、これは私が話すべきだと思ったことですから。」


提督「鈴谷とは俺も話してみます。話を変えますけど、結婚おめでとうございます。」


大和「本当に突然ですね。ありがとう、これで私も提督君の正式な義母ですね。」


義母って聞くとエッチに感じるのは多分そういう本の読みすぎだろう。ゲフンゲフン。


提督「俺はじゃあ、部屋に戻りますね。いつもありがとう母さん。」


俺は少し照れ臭かったが、そう言って部屋から出る。不思議と俺は背中が軽くなったようだった。


別に、ハチさんや親父の想いを軽視するわけじゃない。ただ俺は笑おうと思ったのだ、それが償いになるかなんてわからない。


ただ一つ分かったのは、きっと生き方に正解なんてなくて自分の信じたものこそが人生の教科書なんだろうということだ。


なら俺は変態のまま生きていこう。そう決意したのだった。なんか最後で台無しだね!?





ー元帥視点ー


大和「全て、話したんですね。」


元帥「ああ、もうあいつには知る権利も覚悟もあると思ったからな。」


俺は提督が去るのを見送ってから、大和と合流する。


元帥「お前はあいつになにを話してたんだ?」


大和「鈴谷さんのことですよ。提督君は例の逮捕の件から妙に思いつめた表情を見せることがあったので、なにかあったのかなと思って。」


元帥「なるほどな、人間ってのも厄介な生き物だな。なにかと背負って生きなくちゃいけないってのは。」


大和「そうですね。とりあえず元帥には私を背負ってもらわないと。ね?あなた。」


不意に見せた大和の笑顔に頬が熱くなる。こういうことを恥ずかし気もなく言えるのはずるいと思う。


元帥「精々落とさないように頑張るとするさ。」


そう返し、俺と大和は笑顔を見せあうのだった。











ー提督視点ー


あれから一週間。俺は自分の鎮守府に戻ってきていた。


秋月や日向さんたちがまだいればいいのになんて言っていたが、あのニート生活をこれ以上続けてたら駄目になる気がした。


てか、実は半分くらい駄目になってる。働きたくないでござる!


とはいえ、それじゃいかんので強引にここに戻ってくることで仕事に復帰しようというわけだ。


あれ?なんかブラック思考じゃね?


そんなことを考えながら俺は執務室に足を踏み入れる。


鈴谷「おかえり!提督!」


すると、すぐに鈴谷が出迎えてくれた。


親父の鎮守府に来ていたメンツは普通に顔を合わせていたが、お留守番役だった大半の艦娘には会うのが久しぶりだ。


提督「ただいま、鈴谷。」


大和さんから聞いた鈴谷の覚悟を思い出す。この笑顔の奥に様々な葛藤があると思うと…思わず目を逸らしたくなる。


鈴谷「どしたの浮かない顔して?鈴谷が抱きしめて慰めてあげよっか?」


にひひなんて可愛くない笑い方をしながら鈴谷が言う。それも悪くないと思い、俺はそっと鈴谷を抱きしめる。


ん?抱きしめる?ん?


鈴谷「へ!?あ、あの…提督?」


俺の胸元にある鈴谷の顔が俺を見上げながら真っ赤になってる。可愛いなおい。って何してんだ俺はァ!


提督「ごめん、なんか無意識に抱きしめてた!」


鈴谷「無意識にってなに!?提督のエッチ!」


いや、待てよ!?お前が抱きしめるか聞いたんだろ!?おおん!?


瑞鶴「随分と楽しそうですね。私は失礼しますよ。」


俺と鈴谷がなんとも言えない雰囲気を醸し出していると、扉の方からそんな声が聞こえてくる。


おや?瑞鶴は機嫌が悪いようだ。どうしたんだろう?てか、あいつ書類にナイフ当てて何してんだ…って、それは不味くないか!?


提督「おい、瑞鶴お前なにしようとしてんだ!?」


瑞鶴「いえ、お二人でお楽しみのようだったのでこちらの書類を処理しようかと思いまして。」


提督「処理しちゃ駄目だろ!?それ重要な書類さんだよね!?」


瑞鶴「ふーんだ、提督さんは鈴谷さんとイチャイチャしてればいいじゃん!バーカ!」


提督「落ち着け、落ち着くんだ瑞鶴。お前も抱きしめてやるから…な?」


なんか、見当違いのことを言っている気もするが書類の為なら致し方なし。そう、仕方ないのだ。


瑞鶴「な!?べ、べつに抱きしめて欲しいなんて言ってないじゃな…あ。」


ビリッという音がその場に響く。あぁ、今日はいい天気だなぁ…






大淀『それで書類を破いたんですか…』


提督「はい、本当にごめんなさい…」


あの後、二人を執務室から追い出し大淀さんに救援を求めております。ヘルプミー


大淀『仕方ないので書類はこちらで作り直して明日届けます。』


提督「助かります。本当にありがとうございます。感謝感激です。」


出来ることなら今後はうちの鎮守府だけ書類の予備を五枚くらい渡して欲しいものだ。火事にでもなって全部消える気がするけど。


大淀『ちなみに、書類の中身は確認したんですか?』


提督「へ?いいえ、確認する前に二つになったのでよく見て無いですね。」


大淀『一波乱覚悟しといたほうがいいですよ。あの書類はケッコンカッコカリのものなので。』


その台詞を聞いて俺の脳内にニュー〇イプ的な感じで嫌な予感が過ぎる。


ケッコンカッコカリとは、艦娘と提督が行う契約のことでそれをすることで燃費が良くなったり練度上限が解放されたりするものだ。


『指輪』という名の強化アイテムが海域で発見されたのは前のことだが、艦娘と結婚とうのはどうなんだ?という世間の目があったため今までは使われていなかった。


そんな中で結婚かっこガチをしたのがマイファザーでござる。その結果、お互いの同意があった場合のみ『指輪』の使用が許可されたのだ。


とはいえ、指輪の支給には申請とその後の厳密な審査が必要なのだが…まぁ親父が手をまわしたんでしょうね。


提督「すいません、大淀さん。その書類ここに届く前にヤギに食べられたりしませんかね?」


大淀『そんなことあるわけないでしょ…使うかどうかは提督に決定権があるわけですし隠しておけばいいんじゃないですか?』


提督「それもそうですね、ところでうちにその書類を送ることを決定したのは誰ですかね?」


大淀『勿論、元帥ですよ。』


おし、殺す。もう殺す。これから起きる騒動で俺が死ななければ。


そこまで話して俺は電話を切る。


なんかツインテと緑のが襲ってくる未来が見える気がするけど、気のせい…気のせ…いじゃないんだよなぁ…


実用性を求めるのなら、赤城や加賀、長門などが適しているのだろうが結婚と仮にとはいえついているものをそんな理由でするわけにはいかない。


それ以前に長門と結婚とか俺が嫁側になっちまう…男のプライドが!


一週回って不知火とか?絶対いい嫁になると思うの俺。まぁ、死ぬまでロリコンと言われそうなわけだが。OMG


いずれにせよ、執務室に置いてあったもう一つの書類のほうを見て心を落ち着けよう。


えっと?海外艦がうんたらかんたら?なんだこれ?


あ、なるほどね。日本の深海棲艦が強力だから海外の艦娘に支援してもらうってことか。


それで受け入れ先の鎮守府を募集しているってことか。どうしよう俺、はろーはわゆーくらいしか喋れねぇからなぁ。


ここは、断っておくか。わざわざ支援に来てくれる艦娘たちとコミュニケーションを出来ないなんて……


俺はそんなことを考えながら、ページをめくり考えを百八十度変える。おし!受け入れよう!


あえて言おう、この胸部装甲はずるいよ。皆最高じゃないか!流石海外!流石世界!しかも日本語喋れるって!


でも、こんな可愛いなら受け入れ先なんて大量にありそうだがなんて思い、名前を見てみる。


そこにはサラトガ、グラーフ・ツエッペリン、プリンツ・オイゲン、ビスマルクと書かれてあった。


俺はその中でもサラトガという名前が目に留まる。艦だったころに日本軍とたたかった艦。なるほど、海軍に属するものなら受け入れにくくはあるのだろう。


いくら生まれ変わりや記憶があるだけとはいえ、過去に同士を殺したのには違いないのだ。


んじゃまぁ、ラッキーということで俺が受け入れます。ん?さっきまでのシリアスっぽいのはなんだったのかって?


知るかそんなの、可愛い子を傍に置けるなら置くに決まってんだろ!


それに殺したのは彼女に乗っていた人間であり、そもそも人間が同種族で争うことが無ければ兵器である彼女たちは生まれることすら無かったのだから。


しかし、そんなことを言いつつもサラトガの受け入れだけは躊躇ってしまう俺がいた。


そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされる。


曙「失礼するわよ、クソ提督。」


漣「お邪魔しますご主人様~」


朧「失礼します。」


潮「そ、その、失礼します。」


やってきたのは、第七駆逐隊のメンツだった。


提督「おう、どうしたんだ?なにか問題でもあったのか?」


漣「いえいえ、問題は無いんですがね。ぼのたんが久しぶりにご主人様に会いたいとごねまして。」


曙「な!?あんたがクソ提督に会いに行こうって言ったから私は仕方なく来ただけよ!あと、ぼのたん言うな!」


朧「でも、良かった。提督はどこも怪我してないみたいだね。」


潮「今回も無理をしたと聞いていたので、何もなかったようで良かったです。」


提督「わざわざ心配してくれたのか、ありがとうな。俺は全然元気さ。」


実際は、右手に傷があるのだが今までに比べれば何の問題もないくらいだ。あと数日で完治するだろう。


一番の問題はメンタル。ああ、潮ちゃんその年不相応な胸部で癒して…


曙「べ、べつに私は心配なんかしてないわよ。」


漣「そんなこと言ちゃって~、聞いてくださいよご主人様。ぼのたんったらご主人様が逮捕されたとき直談判しようとしてたんですわよ~」


曙「こら!漣余計なこと言うんじゃ無いわよ!」


漣「まぁまぁ、事実なんですしそう怒らなさんな~ご主人様ばいば~い」


曙「この、こら!待ちなさいよ!」


そんなやり取りをしながら曙と漣が部屋から出て行った。嵐のような奴らだことだ。


朧「それで、潮。渡さなくていいの?」


不意に朧が潮にそんなことを言う。なになに?胸部もみもみ券的な?よろこんで受け取りますよ?


潮「…あ、あの提督。」


提督「ん?どうした?潮。」


さっきまで俯いていた潮がもじもじしながら声をかけてくる。なんかこっちまでこっぱずかしくなるなこれ。


潮「ご迷惑でなければ…その、これ。」


そう言いながら潮が差し出してきたのは、お守りだった。可愛いうさぎが刺繍してある。


潮「その…提督はいつも怪我が多いので…少しでも元気でいて欲しくて…」


なにこの天使。皆様、俺は潮教に転身します。とりあえず、潮の頭を撫でよう。


提督「ありがとうな、大事にするよ。」


俺に撫でられながら、潮はかわいらしい笑顔を俺に見せてくれたのだった。危ない危ない、今まさに萌え死ぬとこだったぜ…


とりあえず、二人と少し雑談し執務を片付ける。


一通りの執務をこなして、適当に昼寝でもするかなんて考えていると。執務室の扉がノックされた。


そして、入ってきたのは瑞鶴だった。


瑞鶴「その…さっきは、書類破いちゃってごめんなさい…」


相変わらず色々やらかすくせに、きちんと謝罪するから質が悪い。謝っている相手を責め立てるってのは流石に可哀想だしね。


提督「まぁ、大淀さんに連絡をして事なきを得たから気にしなくていいさ。」


瑞鶴「そっか、良かった。それであの書類内容はなんだったの?」


不味い…これは実に不味い。もしここで真実を打ち明けようものなら鈴谷と瑞鶴の正妻戦争が勃発すること待ったなしだ!


そんな中で翔鶴を選んでみろ…今度は書類じゃなくて俺が真っ二つに…ワンチャン、アメーバみたいに分裂する可能性も…?


無いわ、いや、どっちにせよ俺が二人とか収集つかねぇわ。


提督「あぁ、あの書類な。あれはここに新しく配属される海外艦についての詳細報告だよ。」


仕方ないので俺は適当に誤魔化す。


瑞鶴「ここに新しい艦娘が配属されるの?」


提督「あぁ、この子たちだよ。」


俺はそう言ってさっきまで見ていた書類を瑞鶴に見せる。


瑞鶴はそこに映っている写真をまじまじと見た後、自分の胸を見つめていた。諦めろ、お前の負けだ。


提督「聞いてみたいんだが、お前たち艦娘からしたらサラトガが味方になるってのはどうなんだ?もしかして嫌だったりするか?」


俺は瑞鶴に問う。一番に問うべきは龍驤なのだろうが、やはり身近な艦娘に聞いてからのほうがやりやすいと思ったからだ。


個人的にはアニメとかで元敵キャラが仲間になる流れは大好物なのだが…こればっかは自分の一存で決められることではないのだ。


まぁ、それ以前にサラトガさん滅茶苦茶好みなんで土下座してでもうちに配属して欲しい!!!なんやこの溢れ出る母性は!


瑞鶴「んー、確かに敵だったってことは覚えてるけどさ。私は直接因縁があるわけでもないし…艦の記憶っていっても覚えてるってだけだし。」


提督「じゃあ、別に気にならないってことか?」


瑞鶴「私はね。敵といっても私たちが相手していたのはアメリカであってこのサラトガさんではないもん。因縁のある艦娘はどうかわからないけど。」


提督「そういうもんなのか…?もっとこう敵は絶対許さないみたいなの無いのか?」


龍驤「そやねぇ、逆に司令官は将棋してるとして敵として認識するんは誰や?」


提督「そりゃ、対戦相手…あぁ、なるほどな。」


龍驤「そやそや、勝負に負けた時。王将を取った金将や飛車を恨むことは無いやろ?それと一緒っちゅうことやね。」


提督「なるほどなぁ。」


俺は質問の返しに思わず納得する。戦ってたのは船じゃなくて国だったってことか。そんなことを考えていると、横に貧乳が増えていることに気づく。


提督「うおお!?龍驤お前いつからいたんだ!?」


龍驤「いや、普通に今会話してたやろ。キミの質問に答えてたのうちやよ?」


提督「あれ?もう一人の貧乳は!?」


瑞鶴「その言い方で返事するのは癪だけど、後ろにいるよ?提督さん。」


突然龍驤が現れたことに驚いて思わ