2018-11-07 08:08:42 更新

概要

某掲示板に投下中だったもの。
掲示板のサーバー故障中の為、一旦こちらにもアップします。

・独自設定、キャラ崩壊多数
・主に憲兵さんがメイン、提督含め他の職員も多数出ます
・息抜きにコメディを書きたくなって始めた、オムニバス形式のお話。なので更新は不定期です。

上記の点にご注意願います




こんばんわ、瑞鳳です。


今日は最近仲良くなった隼鷹さんと部屋飲み中。

所謂ガールズトーク…と言えば、もちろん話題はそんな事。


ん?恋のお話?

それもあるけど…年頃の女2人揃ったら、その延長線上も行くでしょ。

とてもじゃないけど『あいつ』には見せられない、女の本音を晒し合う。



そう、それこそが女子会の醍醐味なの。





番外編・女子壊






「へー、憲兵とは随分仲良いんだねぇ。」


「うん!__とはしょっちゅう遊んでたの!」


「……で、女としては見てもらえてないと。」


「………ふふ、そうなんだよねー……。」


お酒を飲みつつ、出てくるのはあいつの話。

隼鷹さんは憲兵長に一生懸命近付いてるみたいだけど、ちょっとずつ打ち解けられてるみたい。

いいなぁ…私なんて打ち解けたってレベルじゃないのに、あいつはこれっぽっちもそんな目じゃ見てくれない。

好意どころか、エロい目ですら見てくれないってどう言う事よ。もう。


「あいつ口調とかヤンキー臭い割に、クソ真面目だもんねぇ。

なまじ過去や距離がある分、今は翔鶴に分がある感じかぁ。」


「………それだけじゃ、ないんだよね。」


「ん?」


「隼鷹さん…まず友達として仲良すぎるのって、ダメなのかなぁ?

私結構お酒でやらかして、ついついやり過ぎちゃったりして…。」


「………具体的には?」


「そうだね…さっき、知り合った頃に私がヤケ起こして迫ったって言ったよね?その後肩に吐いちゃって…。」


「んー…ま、そんぐらいじゃ愛想尽かすタイプじゃないね。」


「あー……他にも色々…。」


「……言ってみ?」


「例えば…普段飲んでて、セクハラやひっどい下ネタ言ったり。それこそあいつの乳揉むなんて序の口で……。

性感帯やらフェチやら言ったり根掘り葉掘り聞いちゃったり…今日あの日だからお肉食べたい!とか言っちゃったり…あ、おならしちゃった事も何度か…。


あいつには何でも話せちゃうから、ついつい…。」


「……あ、ああ。」


「……一回、あいつが寝てる時にパンツ被せちゃったんだ。」


「…は?」


「……あいつとは、よく部屋飲みしてたの。

でも皆、いつもなーんにも言わない。その時点で、__だったら何も起きないだろって皆思ってたんじゃないかな。


私、映画の定額サービス入っててね。部屋飲みの時によく一緒に観てたの。

その日はあいつちょっと疲れてて、途中で寝ちゃったんだ。


丁度ね、その時観てた映画の主人公が、パンツ被る場面だった。

それでふと思い立って、寝てる所に私のパンツ被せて…。」


「待ちな。パンツ被せたって頭かい?それとも顔?」


「………顔。」


「ひゃひゃひゃひゃひゃ!!!やべーよ!!その映画ってもしかして…。」


「あ、もちろん洗濯したのだよ?洗濯カゴから出そうかちょっと迷ったけど…。

息苦しかったんだろうね、悪夢見たらしくて…フオオオオオオオオオオオッッッ!!!って飛び起きて…ぷっ…。」


「〜〜〜〜〜っ!!〜〜〜〜っ!!」バンバン 


「ふふ、殺す気か!!って怒られちゃった。

…でもそれだけ。パンツ自体にはぜーんぜん慌ててくれなかったなぁ。」


「あちゃー…翔鶴で慣らされたとか?」


「あいつ中高生の頃、お母さんいない日は洗濯担当だったみたいでね、お姉ちゃんの下着も洗ってたんだって。だから見慣れちゃってるんだよ。

何でもお姉ちゃん、今は東北の方で艦娘やってるらしいけど…悪い意味で女慣れしてるの、お姉ちゃんのせいっぽいね。

いつもお風呂上がりに裸で出歩いて、俺がキレてた〜って言ってたもん。」


「ははは…でもさぁ瑞鳳。」


「ん?」


「……そりゃ女として見てもらえないよ。いくらあたしでも、そこまでやんない。」


「……だよねぇえええええ!!!!」


分かってる…分かっちゃいるのよ……!!

でもダメなの、あいつの前じゃ甘えちゃうしさらけ出しちゃうの!!

ふふ…バカの出来る親友と言う距離が、今ほど憎らしい日々も無いわね…。


「話聞いてると、同棲長いカップルみたいじゃん。

でもあんた達の場合、知り合ってからすぐそれだろ?裏返すと…憲兵からは完全に女として見られてないよね。」


「……うう、お姉ちゃんには食い付いたクセに〜〜…!!」


「姉ちゃん?」


「…私のお姉ちゃんも艦娘なの。××鎮守府の祥鳳、知ってる?」


「……え!?あれ瑞鳳の姉貴!?ただの姉妹艦だとばっかり…。」


「実姉でもあるのよ…前のとこにたまたま演習来て、ついでに遊びに来たんだ。

その時__も会ったんだけど、そしたらあいつ…


“…やべえ、お前の姉ちゃんタイプだわ。”


とか言い出して〜〜〜〜……!!」


「瑞鳳、缶潰れてる。」


「ダメ!あっちの提督と出来てるから!!って嘘ついてごまかしたけどね!

はーあ…私そんなに魅力無いかなぁ。そりゃちんちくりんだけどさ。」


「あー…元カノが翔鶴な上に、あそこの祥鳳にも食い付く…美人が好きなのかねぇ、可愛い子よりもさ。

あっちいた時、あいつ他に誰かと何かあったりしなかった?」


「意外と何にも無かったよ?誰に対してもああだから、人望はあったけどね。

まぁ、そのー…私がこっそり囲ってたのもあるけど…いつも真っ先に遊びに誘って。」


「……なかなか努力は実らず、ってとこか。」


「………うん。」


……………つらい!


あーあ、女の子らしさかぁ…これでもそれなりには持ってるつもりなんだけど。

あいつといる時は、ぜーんぶ吹っ飛んじゃうんだよね。


「……瑞鳳、良かったら他の連中も呼んでみる?翔鶴も入れてさ。」


「…へ?」


「敵を知り己を知る、なーんて事もあるかもよ?

翔鶴も変わった奴だけど、何かヒントはあるんじゃないかい?ついでに、他の奴も参考にしてさ。」



「隼鷹さーん、お疲れー!」


「お、来たねー。座んなよ。」


一通り連絡して来たのは、二航戦の2人と翔鶴さん。瑞鶴ちゃんは出掛けてるみたい。


飛龍ちゃんに蒼龍ちゃん…この二人も、なかなかの物をお持ちで。

うーん、揉みたい…でもそれ以上に、今はこの無い胸をじっと見ちゃうなぁ。

いや、それより身長が欲しい。皆すらっと見えるもん。



……チビだから、たまに近くにいても気付いてくれないんだよね。


「さっきまでえぐい話してたんだよ。瑞鳳、なかなか持ってる奴でさ。」


「なになに、下ネター?」


「ふふ、教えないよー。」


駆け付け3杯するまでも無く、女が5人揃えばあっという間に盛り上がる。

一通り女子高ノリなトークをした後、蒼龍ちゃんが爆弾を落としてきた。


「翔鶴さーん、高校の時の憲兵さんってどんな感じだったの?」


……高校時代、かぁ。

あいつと翔鶴さんが付き合ってた頃だ。私は昔話でしか知らない、あいつの事。


「そうね…目立つ方では無かったわ。運動は得意だから、体育祭でよく駆り出されてたぐらいかしら。

空手の道場に通ってたから、放課後になるとすぐそっちに行ってたわね。」


「部活じゃなくて?」


「うん。うちの高校は空手部が無かったの。

だから付き合うきっかけまでは、あまり話す事は無かったわ。」


「きっかけって何だったの?」


「ふふ…通り魔から助けてくれた事かしら。

襲われそうになった所を、犯人を倒してくれて…。」


聞いた事ある。

前のとこでもあったけど、あいつは誰に対してもそう。困ってる人を見ると体が動いちゃうから。

………この前助けてくれた時だって、下手したら怪我してたのに。


「その時はさっさと帰れよ!って、すぐどこかに行っちゃったの。

でも、同じ学校だから…しばらくは、こっそり遠くから見てた。お礼も言えずに別れちゃったから。」


「青春ー。ねえねえ、そこからは?」


「そうね…共通の友達もいなかったから、思い切って手紙を下駄箱に入れたの。」


「このご時世に大胆だねぇ!ラブレターって奴かい?」


「ええ…遠巻きに見てる間、彼の普段の行動をいっぱい目にして。段々好きになってた自分に気付いたの。

それで手紙を入れたのはいいけど…名前と連絡先を書き忘れちゃって。」


「やっちゃったねー。内容はどれぐらい書いたの?」


「………枚。」


「……へ?」


「………原稿用紙30枚に、改行もせず想いの丈をひたすらぶちまけたわ。」


「「「「怖いわ!!」」」」


うわぁ…無記名でそれはヤバいよ…そ、その頃からストーカー気質だったんだ…。

長い手紙もらった事あるって言ってたけど、あいつよくそれで流したね…。


「あ、あはは…その後どうなったの?」


「次の日学校に来なくてね…高熱で休んでるって聞いたの。

それで居ても立っても居られなくなって、放課後家に行ったわ。」


「…ん?待て、家どうやって調べた?」


「その……こっそり見てた時期に、気付いたら家まで付いてってた事があって…その日は部活休みだったから…。」


「「「「だから怖いってば!!!」」」」


よ、よく付き合えたわね…。


でも翔鶴さんは、そんな話でも愛おしげな顔をしていて……ああ、思い出の一つ一つが、本当に大切なんだって思った。

それと、今でもあいつが大好きなんだろうなって。


………むぅ。


「インターホンを押したら、ふらふらの彼が出て来たの。ご両親は法事で遠くに行ってて、一人で寝込んでたみたい。

一応行事のプリントコピーして、その体で来たって言ったけど…今思えば、違うクラスだから不自然よね。

でも、そんな事考える余裕も無かったんでしょうね。そのまま廊下に倒れて、助けてくれって…。」


「大変だ…そこからは?」


「看病したわ。担いでベッドまで連れてくの、大変だったわよ?

まず寝かせて熱を見ようとしたら、手を掴まれたの。


おでこに触れた時だけど、冷たくて気持ちいいって……その時かしら、二度目に手を繋いだのは。最初は助けてもらった時。

きっと心細かったのね…少しこのままにさせてくれって、寝付くまでそのままでいた。


お粥を作ったりはしたけど、ぐっすり寝てたからすぐには起きなかったわね。

でも苦しそうで、昔妹にしてあげたみたいに、落ち着くまで胸を叩いてたわ。


助けてもらったもの…今度は私が何とかしなきゃってね。」


「そこで付き合う事になった感じ?」


「ううん、その日は寝てる間に帰ったわ。机に鍵が置いてあったから、ポストに入れてね。

あれは金曜だったわね…それから週明けに、やっと学校に来たの。


この前はありがとなって言ってくれたけど、その時はそれだけ。でも連絡先は交換出来たわ。

何を送ろうかって思って下駄箱を開けたら…封筒が一枚入ってた。」


「やっぱり差出人って…。」


「“あの手紙のせいで知恵熱出しました、勘弁してください。


付き合うとか経験無いけど、こんな奴でよければよろしく。あんたにゃ負けました。

この前は本当に助かった、ありがとう。”


……って。

ふふ、今思うと恥ずかしかったのかしらね?

付き合い始めたのは、その手紙のやり取りからよ。」


「………青春。」


「そうね……青春だったわ。」


「へー。ねえねえ、そこから初体験ってどれぐらい掛かった?」


「……2ヶ月。」


「2ヶ月ぅ!?また長くね?」


「それまでタイミングが無かったのもあるけど…彼は元々ガツガツ迫ったりするのが嫌いなのよ。

その頃は特に、私を傷付けたくないって思ってた節はあったわ。


それである日、うちが誰もいない日があったの。

彼は道場疲れで寝落ちしちゃって、今しかないって思った。」


「……どう焚きつけたの?」


「んー…正攻法だと煙に巻くって思ったから……


…ベッドに手足縛っちゃった♪」


「逆レじゃん!!」


「生!?生だったの!?」


「あー…片田舎だったから、まだ自販機が残ってて…そこでこっそりね。

だって……そうでもしないと一線超えるなんて無理だったもの。あの人は特にね。

でも、そんな状態でも優しかったわ…。」


「__も掴み所無いとこあるもんね。性欲あるのか無いのかいまいち分かんないし。」


「瑞鳳ちゃんは、前の所いた時そう言う場面見なかった?」


「下ネタとかは普通に乗ってくれたけど、実際誰かをエロい目で見たりは無かったなぁ。

下ネタは軍学校のノリで慣れたせいって言ってた。

そうそう、あいつ軍学校の時、同級生に『そっち』な人がいたみたいで……。」


「え!何それ気になる!」


……卑怯だなぁ、私。


こう言う場で話がどんどん脱線してくのは、よくある事。

でもこの時は、わざとそっちに持ってっちゃったんだ。

私の知らないあいつの事を聞くのは、やっぱりちょっと辛かったもん。


「わははははは!!今んなって痔主になったの、そいつの呪いじゃねーの!?」


「人のを生で蹴る羽目になるとは思わなかったって、遠い目してたわ…。」


「ふふ、あの人もちゃんと男の子だもの。」


「お、元カノの貫禄ー?」


「そうね…でも、今の彼をちゃんとは知らないわ。そっちは瑞鳳ちゃんの方が詳しいわよ。」


ちらりと目が合った時、胸がズキッとした。

その時の翔鶴さんは、ライバルを見る感じじゃなくて…本当に、羨ましげな子供のようで。


一瞬、その先を言うか迷った。

結局私は…囁いてくる悪魔の誘惑に、勝てなかったんだ。



「………翔鶴さん、それからどうして別れちゃったの?」



………ほんと嫌な女、私。



「………最近やっとそう思えたからだけど、私が子供だったからよ。


あの頃は特に怒るのが苦手で…やきもち焼いても、どう伝えればいいか分からなかった。

でも、ああいう人じゃない?男女問わずそれとなく色んな人に助け船を出して…彼に好意を持つ子も、少なからずいたわ。

どうぶつければいいのか分からなくて…それで…。


彼の2歩前を狙って、吸盤付きの矢をプシュっと…。」


「うん。待って、その理屈はおかしい。」


………さっきから話してて思ったけど、いや、絶対そうだ。

翔鶴さんって、もしかしなくても…。



「…翔鶴さん、色んな人から天然って言われない?」


「言われるわ。失礼しちゃうわよね、瑞鶴だって翔鶴姉は天然だからーって言うのよ?」


「………やべえ、こいつ重症だ。」


「隼鷹さんも言うの?もう。」


「いや、翔鶴さんは天然だよー。この前もさー…。」


あー、やっぱりどっかズレてるかぁ。


でもそんな天然さが、あいつの中に割って入れた秘訣なのかもね。

それにこの人も根は優しいし、女の子らしい。

散々私と喧嘩してたのも、怒れるようになったって事なんだろうな……。


私、いつもあいつにじゃれたり甘えてばっかりだ…。

辛い時にそばにいてあげた事なんてあったのかな?


……ほんとはね、前から気付いてるよ。

翔鶴さんの話をする時のあいつは、いつもと目が違う事。


「……そういう馬鹿な事の、積み重ねだったのかしらね。

“俺じゃお前を安心させてやれない”って、振られた時に言われたわ。


散々泣いたし、説得もした……それでも彼の方が辛く見えてね。最後は私が折れたの。」


ああ…そっか……あいつ、多分…。


………ごめんね、翔鶴さん。

それでも私、やっぱり負けたくないんだ。


「隼鷹さん、___借りて良い?」


「あたしの?何すんのさ?」


「……瑞鳳渾身の一発芸、推して参ります!」


しんみりした空気を戻したくなった…なんてのは建前。これ以上は聞きたくなかったのが本音で。

この空気をめちゃくちゃにしたくなった私は、隼鷹さんからあるものを借りた。


今この手にあるは…隼鷹さんのパンツ。(黒、花柄)

例えるならば、弾薬を込めるヒットマン…ゆっくりとした動作でパンツを広げ、震える手でそれを……被る!!



「ダメだ…もう私は…でも……!!

……気分はエクスタシィイイイイイイッッ!!!!」


「「「「ぶはははははははっ!!!!!」」」


「クロス・アウツ!!」


でも本家みたいに特殊なのは履いてないから、とりあえず下だけ脱ぐ。今の私はキャミとパンツのみ。

そして…あの映画みたいに渾身のポーズを決め、こう告げるんだ。



「変態仮面、見参!!」


「おい、さっきからうるせーぞ。」ガチャ 



………アレって、時間止められたっけ?



「………………………。」バタン


「待って!!せめて何か言って!!」


「瑞鳳ちゃん、彼なら無かった事にしてくれるから…。」


「そう言う問題じゃないよおおおおおお!!!」


「ぶははははははは!!!やべえ!最っ高のオチじゃねーの!!」


「飛龍、今の動画撮ってた?」


「うん!バッチリ!!」


「のおおおおおおおおお!!!」


その後延々余韻を引きずり、湿った空気は無くなりました。

ただ……あいつの中での私の『女』は、さらに壊れちゃったと思います。


私があいつにとって、女子壊から女子・改になる日は、果たして来るのでしょうか。

そればかりは、神様のみが知っている始末なのでした。


追伸


パンツの被り心地は、悪くなかったです。





今日も今日とて平穏なる日、警邏を終えて詰所でしばしの事務作業。

眼鏡はと言うと、演習組の案内と警備で駐車場に出てる。


今日はうちで演習やるらしいが、大体そう言う時は俺が行かされる。

しかし珍しく、この日はたまには私がと眼鏡自ら警備に向かった訳だ。


何か怪しいなぁ。今日来るとこ、どこからだっけ…



『こん…こん…。』


「はーい。」



タイミング悪いな…たまに暇つぶしに来る奴はいるが、今日は誰だ?

のそのそとドアを開けると、そこには……



「……………。」バタン



……何も見てないぞ、俺は。外には誰もいない。




第17話・ANEKI CRISIS-1-





『こんこんこんこんこんこんこんこん!!』


うるせえ!!今俺はいない設定だ!無視無視!!

はぁ……やっと静かになったか…疲れてんのか俺、何であのバカがドアに…。



「……………。」ニコッ



窓に、スーツ姿の女が見える…何かこう黒髪ロングでニヤニヤした亡霊が見える…。

あはは…た、たまにはサボって寝てやろうかなー…。


「戻ったぞ。どうした?そんな虚ろな目をして。」


開けんじゃねえ馬鹿野郎。

おい、後ろに何かいるぞ。お前と口調被ってそうな女が立ってんぞ。


「…おお!いつの間に後ろに!これはこれは失礼致しました。」


わざとらしんだよ、ニヤケ面が隠せてねえぞクソ眼鏡。

眼鏡の後にいるスーツの女は、腕を組んだまま殴りたいドヤ顔で俺の方を見てるじゃねえか。


「あー、失礼。演習の艦娘の方でしょうか?

集会室でしたら母屋の方入って1階右から三番目の部屋に…。」


「…見取り図ならいただいている。

演習準備までは少々自由時間があってな、顔を出させてもらった。」


「いえいえ、私共などたかが憲兵隊ですし、第一初対面でしょう?

提督がお待ちですよ、出口はあちらです。」


「ふぅ…つれない事を言うじゃないか。なぁ、__。」


「__とは確かに自分のアダ名ですが、よくご存知ですね。

えーと、あなたは確か○○鎮守府の…あ、やはり自分とは初対面ですね。初めまして。」


「確かに『仕事では』初対面だな。立派にやっているようじゃないか。」


「いえいえ、大体あなたにはセクシーで立派な妹さんがいらっしゃるでしょう?

自分などそこらの雑草にも劣るイチ憲兵でして…名前を呼ばれるような資格など…。」


「それは『艦娘としての姉妹艦』の話だろう?

確かに私はどちらでも長女にして長子だが…『一個人の家族として』は、その下にいるのは格闘技をやっていて、そして今は軍属でもある者だ。

せっかくの家族水入らず、腹を割って話そうじゃないか…少しはこの『戦艦・長門』の血縁者である事を誇れ。


なぁ?『弟』よ。」


「……馬鹿野郎!帰れ!!」



「コーヒーをどうぞ。」


「ああ、お構いなく。ありがとう。」


ニヤつきながらコーヒー淹れんじゃねえよクソ眼鏡…買って出た訳ゃこれか!


はぁ……一番仕事で会いたくねえ奴が来た…。

そうなんだよ…目の前にいる『戦艦・長門』は、何を隠そう血を分けた俺の姉貴だ。


……そして、生粋の馬鹿でもある。


「……お袋に今日の事は?」


「言ってある。だが、母さんには黙っておくよう頼んでおいたよ。

ああ、父さんにも伝えたんだが、お前に連絡はしていないらしいな。」


「親父…あんにゃろう。」


「ふふ…そう怖い顔をするな。全く、昔はこんなに可愛かったのに…。」


姉貴はしれっとスマホの画面を眼鏡に向け、その瞬間眼鏡が鼻水吹き出した。

そこに映っていたのは……!!



『長門の服(子供用ドレス)で女装させられた憲兵・6歳』



「だぁしゃああああああああっっっ!!!」


「おっと危ない。ふふふ、良いではないか減る物じゃなし。」


「俺のプライドと社会的地位が減るわボケェ!!まーだ待ち受けにしてんのかこの野郎!!」


「ふっ…それは勿論、可愛い弟だからな。年度別にベストショットを入れてある。」


「おめーのベストショットは俺の黒歴史なんだよ!!消せ!!今すぐ消せ!!」


「くくく…他には無いのですか?」


「ああ、例えばこの七五三の時など…」


「おめーもスマホ下ろせや!」



はぁ…はぁ……こ、こんのクソ姉貴が…!!


そもそも俺が空手を始めた理由も、元を辿ればこいつが元凶。

ガキの頃、腕っ節で勝てなかった俺は事あるごとにこの馬鹿に女装させられていた。


“強い男になりたい、姉貴に負けないぐらい。”


そう考えた俺は空手道場の門を叩き、そして今に至る。

無駄の無い方向へ筋肉を纏い、生来お袋譲りの女顔だった顔面も少しは厳つくなった。因みに姉貴は親父似だ。


「ふふふ…まぁまぁ、久しぶりに…。」


何より勘弁して欲しいのは、全く変わんねえこの…


「かわいいでちゅね〜〜」スリスリスリスリ


「なぁぁあぁぁっ!!!やめろ!!やめろおおおおおお!!!へぐっ!?」


頭のおかしい猫可愛がり。

へへへ…首に極まってるぜ…女の筋力じゃねえよ、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラだ…。


「げほっ!げほっ!」


「おっと、極まってしまったか。すまんな。」


「結構な腕前で。艦娘以前も何か経験がおありで?」


「女子ボクシングを少々。今は趣味と実益を兼ねて総合をやっている。

敵艦も対人も、殴り合いなら任せてくれ。」


「それは素晴らしい…是非ともこいつの根性を叩き直していただきたいものですな。」


絞まって聞いてりゃ好き放題言いやがって…あの頃の俺じゃねえの見せてやんよ畜生が…!!


「…らぁ!!」


「…っと、掠ったか。しかし本気で当てに来ない辺り、貴様も甘いなぁ。

仮にも姉弟だぞ?もっと攻めるがいいさ。」


「ちっ…生憎仕事中なんでな、まだやらかしてねえ奴にゃこれが限度だよ。」


「ほう、そこは規定厳守か。弟ながら見上げたものだ。

ふっふっふ……ならば思うようには動けぬという事か…いいだろう、全力で可愛がってやろうではないか…。


…さぁ!お姉ちゃんの胸へ飛び込んで来るんだ!」


「………小学校時代のアダ名はゴリ子。」


「………なっ!?」


「……高校時代、女子に告白される事5回。

19歳の時、やっと出来た念願の彼氏との初体験で、全力のハグの末にアバラをへし折ってフラれる。

実家では風呂上がりに全裸でおっさんの如く歩き回り、しかし酒飲める歳になってもいちご牛乳が卒業出来ない。」


「……は、裸だったら何が悪い!!」


「悪いわ。床が濡れんだよ。

また、可愛いものや幼女に目が無く、親戚の女の子相手によだれ垂らして俺に回し蹴りを喰らう。

見栄を張ってブラックコーヒーに挑み、お袋の顔面に噴射してブチ切れさせる事数回。

ある移動で駆逐艦数名を乗せてワンボックスを運転中、警察から任意同行寸前を喰らった……理由は顔が逝ってたから。

尚、本人は不服と愚痴っていたが、弟たる俺からすれば容易に想像出来る表情であった事も付け加えておく。」


「………き、貴様…!」


「もっと攻めろって言ったのはてめえだろ?殴れねえから頭でボコってるだけさ。

…えーと、他にログはっと……お、これもいいな。

えー…あまりのモテなさに耐え切れなくなった姉貴はある日でぶぅっ!?」


「……ハァ…ハァ…ひどいじゃないか!そ、そんなにお姉ちゃんをいじめなくてもいいだろう!?」


「……お、俺はたった今…ぶっ飛ばされたんだけど……。」


「大体あの件はお前に話していない!まさか…。」


「そのまさかよ。」


ガチャリと開いた扉の向こうには、見覚えのある美人がいた。

そう…一度遊びに来いって言われてこいつの鎮守府に行った事がある。その時知り合った、頼れる姐さんだ。


「……陸奥さん!!」


「……通称ムツペディア。長門のお馬鹿な行動を記録するデータベース。勿論、逐一弟くんには報告済みよ。

あらあら…この陸奥に隠れてこんな所でサボるなんて…分かってるのかしら?」


「ひっ…!」


「お邪魔したわね、弟くん。

今日は私達泊まりだから、後でゆっくりお話しましょ?」


「え、ええ…また後で…。」


「は、離せ!私はもう少し弟と…!!」


姉貴は陸奥さんに首根っこ掴まれ、ズルズルと母屋へと引きずられて行く。

うわぁ…陸奥さんあんな怖え笑顔すんだ…ありゃ折檻コースだな。


「おお……良いか、ああ言うタイプの女こそ怒らせてはならん。」


「ええ、肝に銘じ……ってかおめーも共犯だよ!知ってたな!?」


「ふっ、上司としては一度貴様の姉を拝んでおきたくてな。

……ただ、想像以上だったな。すまなかった。」


「……あんたが引くレベルだよ、確かに。」


軍学校時代から周りにゃツッコミキャラ扱いされて来たが、元を辿ればあいつが原因な気もする…。

今も離せ、離せ、と外から喚く声が聞こえてくるが…この時俺は、ある事を失念していた。


「__ちゃーん!!__ちゃーーん!!」


「げっ!?」


その時あいつが叫んだのは、元カノの本名。

そうだ…あいつはあのバカと面識がある…!


「はーい!!お久しぶりです、お姉さん!」


「た、助けてくれないか!?秘蔵の弟コレクションをあげるから!」


「………内容は?」


「……寝顔シリーズ0歳〜7歳!今なら恥ずかしいサービスショット+1枚付き!」


「…もう1枚、お願いします。」


「……わかった!」


「ふふ……そちらの方、恨みはありませんが、演習前に少し準備運動はいかがですか…?」


「おめーら勝手に人の黒歴史取引してんじゃねえええええ!!!!」


ああ…もうめちゃくちゃだよ…!

姉貴は妙にこいつの事気に入ってっからな、俺からしたら爆弾に爆弾のコラボだ。

ひとまずこのバカを集会室にぶち込んで…。


「どうしたの?」


「づほ!良いとこに来た!!」


「……この人達は?」


「…今日演習に来た艦娘。ついでにそこで引きずられてんのは俺の姉貴な。

このバカを集会室にぶち込むの、手伝ってくんねえか?」


「……へー。」


……何か、ぴくって不穏な音が聞こえたのは気のせい?


「どうも初めまして!瑞鳳ですぅ!__にはいつもお世話になってて…」


パアアアアァ…って感じの眩い笑顔で、づほは姉貴に挨拶した。

……あれ?何か嫌ーな予感がするんだけど…。


「ひとまず集会室に行きませんか?一度お姉さんとはお話したかったんですよー。」


「ま、待て…そこを掴まれたら首ゅっ!?」


「ほらほら、お茶もありますから是非中へ!」


づほと陸奥さんに引きずられ、姉貴は母屋へと消えて行った。

……こ、これは…結果として良かったのかなぁ…?


「ふふ…お姉さん相変わらずね。じゃ、私も行くから!」


「あ…おい!」


元カノも続いて中へ消えて、俺はポツンと佇むばかり。

ま、いっか…演習後がまためんどくせえけど、そこは陸奥さんにお願いしよう。







「……ふふふ…お前達、中々強引じゃないか。」


「弟くんに恥かかせないの。長門と違って真面目に憲兵やってるんだから。」


「なっ…私程真面目な艦娘はいないだろう!?」


「真面目なのは戦闘だけでしょ?」


「ふふ、お元気そうで何よりです。」


「__ちゃん…艦娘になったとは聞いていたが、立派になったものだな…。」


「いえいえ、まだまだひよっこです。」


「ふふ……そういえば瑞鳳と言ったな?君は__とはどう言う関係だ?」


「前の所からの友達です。この前私もこっちに異動して…いつも__にはお世話になってます。」


「おお、仲の良い艦娘がいると聞いていたが、君の事だったのか。

因みに聞きたいのだが、あいつは今彼女は出来たのか?__ちゃん以来すっかり聞いていなくてな。

全く、__ちゃんのような器量好しと別れるなどあいつは…。」


「……ええ、『今は』いませんよ。」


「……『いずれ』は出来ると思います。」


「……ほう、なるほどな。」


「あらあら、弟くんも大変そうね。」


「くく…今日の演習なんだが……。」







「たまには演習でも見てきたらどうだ?」


「姉貴の戦闘ですか…大体、まだ仕事ありますよ?」


「一日ぐらい私に任せればいい。

彼女達の日常を守るのが我々の仕事だが、同時に我々もまた、戦争に於いては彼女達に守られる立場だ。

演習を見るだけでも、何か感じるものがあると思うぞ?」


「………そうですね。じゃあお願いしてもいいですか?」


「任せておけ。」


あきつ丸の件もあって、この時俺は眼鏡に促されるまま見学を決めた。

確かに演習は感じるものがあった…だがそれ以上に、俺は思い知る事になるのである。


血を分けた我が姉は、やっぱ真性のバカであると言う事を。

何してくれんだ、あの姉貴め…!!





「憲兵君、見学とは珍しいねー。」


「ええ、憲兵長に勧められたのもありまして。」


「あそこの長門、君のお姉さんだってね。昔あっちに演習しに行ったけど、よく覚えてるよー。」


「……どう言う意味ででしょうか?」


「あはは…ごめん、正直キャラ濃いなって…。」


「ほんっとすいません、あのバカは…。」


演習は、鎮守府前の沖で行われる。


提督に案内されてたどり着いたのは、浮きで描かれた境界線の横。区画の中間地点だ。

見学者は、停められた見学船から演習を見る形だ。


提督は船から別のボートを降ろして、そのまま左側に向かう。

そして各提督が自陣に浮かされた指示船に乗り、艦隊を指揮する。これが通常の演習スタイルらしい。


今日は他のメンツは遠征や出撃でいないようで、見学船にいるのは俺だけ。

いつも陸で仕事だから、初めて見るな…ん?あっちの指示船誰もいなくね?


『憲兵君、聞こえるかい?』


「あ、はーい。」


『あちらの提督が多忙でね、今日は不在なんだ。

代わりに、僕と君のお姉さんの対決になる。』


「え?」


『選手兼監督って奴だよー。楽しみだねー。』


「マジですか!?」


そうこうしてる内に、各チームが陣を組んで行く。

6対6、フルメンバーでの演習になるようだ。


うちの方はづほと元カノ、相対するは陸奥さんと……そして姉貴。

俺の方に気付いたのか、お姉ちゃん頑張るからなー!!とクソでかい声で手を振ってやがる。

やめろ。皆めっちゃ見てる。


『憲兵君、君の持ってるトランシーバーは複数同時受信が出来る。チャンネル2を押してごらん。』


「はい。」


『聞こえるかしら?』


『ちゃんと見ててねー。』


「あ、本当だ!」


『こうやって艦娘はインカムで会話が出来るんだ。

ただ、混線予防に君のは僕以外と会話出来ないようになってる。だから応援はしっかり声出してねー。』


「了解ですー。」


皆真剣な顔だ…何かこっちが緊張してくるぜ。

トランシーバーを横に置いて、俺は食い入るようにその様を見つめていた。






第18話・ANEKI CRISIS-2-







『ぱんっ…!』


見学船の対岸には、審判船がいる。

そこから放たれた空砲と共に、遂に演習が始まった。


まず、お互いの空母から先制が始まる。

放たれた矢が飛行機に変わり…あれが攻撃!?


ミニチュアサイズの艦載機から放たれたものは、その実凄まじい爆発音と煙を伴っていた。

すげえ……なんて迫力だ…。


『演習で使われてるのは、音量と発煙のリアリティに重きを置いた演習弾さ。艦娘自体は艤装の防御壁で守られている、心配はいらないよ。

音と煙を実戦に近付ける事で、感覚を慣らせる意図もある。』


「ペイント弾じゃないんですか?」


『艤装には演習モードがあるんだ。

被弾数に応じてダメージをカウントし、一定に達すると浮遊以外の機能が停止される。

そこで轟沈判定となった者は失格、最終的に敵を多く轟沈判定にさせたら勝ちってわけ。』


「なるほど…。」


次第に爆煙が晴れて、ここからでも状況が見えてきた。

今のはどっちが多く喰らった…?


『……やられたわ。』


『くくく…今回は駆逐のエースを連れてきたからな。なあ、秋月?』


『はい!!』


「……!?」


双眼鏡で海面を見ると、姉貴の陣の方に多くの残骸が浮いてる…あれは…!!


『予想はしてたけど、思ったよりやられたねー。憲兵君、アレも駆逐艦の役目の一つさ。』


「撃墜されたって事ですか。」


『ああ。なかなかやるねー。』


『すまないが、そちらの翔鶴も知った仲なのでな。どれ程のものか喰ってみたくなったのさ。

__ちゃん!!瑞鳳!!そんな事では我々には勝てんぞ!!もっと本気で来い!!』


おいおい…まだ一発もぶっ放してねえのによく言うなぁ…。

だがあの二人の方を見ると、空気が異様に殺気立っていた。


『…翔鶴さん、絶対勝と?』


『……そうね、絶対に負けられない理由があるわ。』


『その粋だ!でなければご褒美にはありつけんからな!!』


………ご褒美?


『翔鶴さん、f○oってやってる?』


『少しならやってるわ。』


『アス○ルフォ君、いいよね…。』


『そうね……オトコノコプレイトカシタカッタ……でもやっぱり、現実的にはメイドよね。』


『…ナニイッテンノヨコロスワヨ……翔鶴さん、あなたは何も分かってないわ。そこはゴスロリでしょ。』



……待って、その会話は何?



『ふふふ…私は敢えての第六コスを推したいところだが、何にせよ、私に勝たねばそれらを得る事は出来ん。

さぁ!私を沈めてみせろ!!さすれば約束通りのものをくれてやる!!』


『……ええ、負けませんよ。』


『どちらかが長門さんを沈めれば…。』


『『__に好きな女装をさせる権利が手に入る!!』』


「おめえら何賭けてんだ馬鹿野郎おおおおおおおおっっっ!!!!!???」


横隔膜に激痛、直後に立ちくらみ。一瞬俺の前に波が立つ幻を見た。

この時、自分でもビビるぐらいの大声を出した事は、生涯忘れる日は無いだろう。


そして俺は思い出すのだ……この鎮守府は馬鹿だらけだと言う事実を。



『へー…面白そうだねー。』


『提督、僕ってたまに男の娘扱いされちゃうんだ…でも、だったら本物と比べてみたいな…。』


『その…あたし的にはナースがOKかなって。』


『憲兵さんなら香取さんコスっぽい。ストッキングと長袖で体格誤魔化せるし、胸は詰めれば…』


『いえ、体格隠しならグラーフコスね。ドイツ艦のなら、男性でもサイズ差はそこまで…』


高まる結束力、迸る悪巧み。

自陣はもうダメだ!常識人…常識人はどこ!?あ、いたぁ!!


「陸奥さぁん!!何か言ってやってくださいよおおおお!!!」


『……ごめん。弟君の女装、ちょっと見たいかも…。

あ!でもちゃんと勝つ気でやるわよ!安心して!』


「フォローになってねえええええ……!!」


自陣を見る、明らかにオーラが違う。殺る気が違う。

夕立の魚雷が捉えたのは、向こうの駆逐…クリティカル!時雨は……空母沈めやがった…!

他の奴らも怒涛の快進撃…だが確実に、姉貴と陸奥さんだけを残す方向で進んでる…。


『……ふう、面白いじゃないか…そろそろ本気で行かせてもらおう!!』


『きゃっ!?』


『阿武隈さん!!』


『うう…やられた…。』


一発だと…!?

続く陸奥さんも、今度は夕立を潰した。素人目でも分かる…あの二人、ただもんじゃねえ。


『数の優位など些事さ…問題は、一撃の正確性と殺傷力だ。ましてや耐久性ならば、そう易々とは負けん。

くくく…これで姉ちゃん頑張れコールが私の耳に…さぁ弟よ!!恥をかきたくなくば私を応援するのだ!!』


(ゴミを見るような目で親指を下に向ける憲兵)


『何故だぁぁあぁぁっ!?』


「てめえの胸に手ェ当てて感じろボケェ!!」


『……ならば、同じ戦艦はどうかしら?』


直後、一際でかい砲撃が聞こえる。

あいつは確か…ビスマルクか!!


『ふっ…いいだろう!!受けて立つ!!』


「なっ…!?」


弾を…撫でた…?


軌道を逸らされた弾は、明後日の方向に飛んで行く…。

一瞬の油断。姉貴はそれを見逃さず、逃げられない軌道でビスマルクに砲が向く。


だが、放たれたのはそれだけじゃなかった。


『なっ…!?』


斜めからもう一発、今度は陸奥さんからの弾もビスマルクを狙う。

二つの砲撃はやがて重なるように線を描き…倍となった爆煙が、ビスマルクを包んだ。


『くっ……艤装停止、失格ね…。』


『私と陸奥を舐めないでもらおう。我々はコンビとなった時、真の強さを発揮する。』


『普段は私が世話係だけどね。』


『なっ…それを言うんじゃない!!』


『………僕を忘れてもらっては困るよ。』


時雨!!


砲撃が姉貴達の方へ向くが、効いている気配は無い。

だが俺の位置からは見えていた…アレは…!!


『ふん…削る気か?だが微々たるものだな。』


『派手にやったね、煙で今も足元が見えないよ……お陰でお留守さ!!君達がね!』


『………!!』


時雨の足下からは、二発の遅い魚雷が姉貴達に向かっていた。

砲撃の最中、こっそり魚雷を放っていたらしい。


派手な水柱が上がる…どうなった!?



『貴様もお留守だぞ?』


『……!?』



ドウッ…と言う音と共に、時雨の小さな体が宙を舞った。

水柱ごとブチ抜く姉貴の弾が、時雨にとどめを刺したのだ。


『ふふ…失格か……後は任せたよ。』


自陣はづほと元カノ…最後は2対2の構図が出来上がっていた。

だが…時雨の狙いは、違う所にあったらしい。


『ふふ、こちらのHPもあまり無いようだ。

良い仲間を持ったな……君達を温存しつつ、こちらをある程度削っておく。

よほど弟の女装が見たいと見える…なかなかの好き者揃いのようだな。』


『ええ…故に勝たなきゃいけません。メイドの為に!』


『せっかく託してもらったからね…負けないよ!ゴスロリの為に!』



………夢中になってたけど、これ俺ピンチじゃね?



「陸奥さーん!!頑張って!!超頑張って!!」


『ええ…頑張るわ……でも、その……。


私、弟くんのOLとか見たいなって…。』



神様、あんたをブッ殺していいですか?



『瑞鳳ちゃん、ヘアゴムって持ってる?』


『あるわよ…2本。』


『……一人勝ちは、無理そうね。』


『うん…だから共同プロデュースしよ?』


スピーカーから聞こえた不穏な言葉に、思わず双眼鏡を手に取った。

奴らの手元を見る…うん、各々持ってる矢を全部ヘアゴムで纏めて……え?それ引くの?マジで?

奴らは矢尻を豪快にわし掴み、ギリギリとその束を引いている…しかしその動きは、寸分違わずシンクロしていた。放つ瞬間さえも。


射抜く正確性なんぞ、もうどうでもいいのだろう。とりあえず姉貴らに向かえば、奴らの狙いは叶うらしい。

バズーカの如く飛んだ、二つの矢束。

そいつらは次々艦載機へと変化し…その瞬間だけ、太陽が隠れた。


空に広がる一陣の闇…ではなく、ムクドリの大群の如く空を覆い尽くすのは、ウジャウジャと飛ぶ艦載機の群れ…。

そいつらが一斉に攻撃を開始した時、スピーカーからポツリと姉貴の声が聞こえた。




『………嘘だろ。』




しかしこの瞬間、最も死を意識したのは俺だった。間違いなく。








「ふふふ…女の子の歴史は偉大だよね!」


「ええ、メイクや体格を隠すテクニック……現代に生まれた事に感謝したくなるわ。」


いくら俺でも、艤装付きの女6人に囲まれたらひとたまりも無い。

無理矢理着替えさせられた挙句、手足を縛られ顔面を塗りたくられ、とどめにヅラを被せられた。


何処からかゴツいカメラ片手の駆逐艦が現れ、探照灯が熱いぐらい焚かれている。

ここは白壁の視聴覚室、だが机は全て退かされていた。


「……やばいね…ハァハァ……。」


「…….うん、やばいよ……ハァハァ……。」


ははは…人生で初めて、こんなに沢山頬染めた女の子に囲まれてるぜ…息荒いけど。

ああ、タイツって窮屈だし、つけまって超パサパサする…女の子って大変だね。



……今俺は、ゴスロリメイドになっている。



「ほう…見学に行かせたら、性別が変わって帰って来たか。意外と似合うものだな…。」


「……こいつら全員、憲兵への暴行罪でしょっぴいていいですかね?」


「すまないが貴様が諦めた時点で、立件不可だ。」


「ですよねー…。」


もはや心は折れ、されるがまま。

時よ早く過ぎ去れ…ついでに俺の記憶も。


「……くくく、悪くないな。お前の6歳頃なら至高中の至高なのだが。」


「クソ姉貴、鼻血を拭け。

お前ビッグセブンじゃねえよ、バカのナンバーワンでオンリーワンだよ。」


「そんなに褒めるなよ照れるじゃないか!」


「耳鼻科行ってこい!!」


「ふふふ、せっかく可愛く仕上がったんだから、目くじら立てないの。」


「そうだよ。あ、磯波ちゃん、スリーショットお願いしていい?」


もうどうにでもなりやがれ。

両サイドにはづほと元カノ…腕をがっしり掴まれた俺は、全てをかなぐり捨てた笑みを浮かべていた。


「良いショット撮れましたよ。ほら。」


…まぁ、少なくともこいつらはいい笑顔してんじゃねえの?

これが見れたんなら、ズタズタになったプライドも少しは報われる。そう思わないとやってられない。


……尚、自分で見ても似合ってたのが、物凄く悲しかったりした。

俺、強い男になりたいんだけどなぁ…あはは…。





「……__ちゃん、随分立派になったものだな。あの戦法は、アレで実戦でも使えるぞ?」


「反則負けだったけどな、演習自体は。」


この日演習組は、寮の空き部屋に泊まりだった。

姉貴に呼び出された俺は、久々にまったりと話をしている。


「……でもよ、実戦だとアレ、全部実弾って事だろ?

そう思うと、皆すげえ事してんだなって思ったよ。」


「防御壁はあるが、確かに痛みは演習の比ではないな。命の危険もある。

…だが、戦いと言うのはそう言うものさ。それでもこんな風に馬鹿の出来る日常がある限り、私達は戦える。それを守る為ならな。」


「……毎日仕事でヒーコラ言ってるけどよ、アレ見ると何か情けなくなっちまうぜ。すげえよ、姉貴達は。」


「私の誇りさ…でもな、お前も立派に戦っている。一度陸に上がってしまえば、日常の守護を預けられるのはお前達だからな。


二人から聞いたよ…瑞鳳を誘拐から助けたそうだな。

それ以外でもお前の方が、よほど危険に身を突っ込んでいる。今まで何度犯罪者の逮捕に協力した?

もし反撃を受けていたら、死んでいた可能性はお前の方が高かったぐらいじゃないか?生身である以上はな。


大丈夫だ、お前は立派にやっているよ。」


「……姉貴。」


普段ならブッ飛ばしてる所だが、何でかこの時ばかりは頭を撫でる手を払い除ける気にはならなかった。

……ガキの時を思い出すな。結局、腐っても姉貴か。


「……だが、無茶はするなよ。誘拐の話を聞いた時、気が気では無かったぞ。」


「ああ、気を付ける。

でも…いざって時は命賭けるぜ?何てったって憲兵さんだからな。」


「ふっ……大きくなったものだな。」


姉弟水入らず、たまにはこんなのも悪くない。

その後は眠くなるまで、実家の頃みたいに話をしていたもんだった。






「…磯波ぃ、頼んでたの出来た?」


「うん。憲兵長と憲兵さんのツーショット。」


「ふふ……良いねえ、インスピレーション湧きまくりだよぉ。

あー……捗るわぁ……。」



……廊下で起こっていた、腐敗臭漂う不穏な動きに気付かないでな。






軍人あるある…と言うか、男所帯あるあるなんだが、そう言う場所は色々不透明な話が湧く事はある。

それこそ男子校だとか、男臭いイメージな競技の部活とか。


艦娘制定以降そんなイメージも薄くなった気はするが、そいつはあくまで当事者たる海軍の一部だけの話。

俺が軍学校の頃はやっぱり噂もあったし、何なら実際にぶち当たった事もある。


憲兵隊は陸の扱いだ。

そして艦娘に纏わる組織は海軍で、女所帯なわけだ。


実態とパブリックイメージ。

この辺の乖離を、俺はある件で感じる事となるのである。





第19話・思春の花はラフレシア






「〜〜〜。」


「〜!〜!」


ある日の昼休憩、俺は中庭でぼーっとしていた。


いくつかベンチがあるのだけれど、この時間は皆思い思いに会話に花を咲かせている。

だが食後の眠気にウトウトしてた俺は、そんな会話もちゃんとは聞こえていなかった。


「あら、珍しいわね。」


「…ああ、天気良いからな。」


そこにふらりと元カノが現れ、しれっと隣に座った。

うーん、寝る程時間ねえな…ひとまずこいつと話して誤魔化すか。


「この後は詰所?」


「事務作業だな。飯食った後はちょっとキツいぜ……くぁ…。」


だめだ、やっぱ眠い…。

うつらうつらとした頭の中、周りの話し声が聞こえてくる。


「……イサン……ホ…。」


ポツポツと耳に飛び込む声も、眠りを誘うばかり……と思いきや。


「………っ!?」


突然走った強烈な悪寒に、俺は一瞬で目を覚ました。



「……ど、どうした……?」


ゾワっとする感覚の発生源は、隣に座ってた元カノ。

口元は微笑んじゃいるが…目はカッと見開かれている。

怒ってる……?いや、でもこのパターンは見た事ない。一体何だと思案している内に、あいつは口を開いた。


「ねえ……あなた、憲兵長と噂になってるわよ?」


「………は?」


「ちょっと『お話』してくるわね…。」


「あ、おい!」


元カノはつかつかと話してる子達の方へ近付き、何やら色々聞き出してるようだ。

あ、あの子らだんだん顔が真っ青に……そう思ってすぐ、あいつはこっちに戻って来た。


「……な、何の話?」


「妄想って怖いわね…あなたが痔になった辺りから、憲兵長と何かあったんじゃないかって話がちらほら出てたみたい。」


「待て…何かって、何?」


「うん、その…ホモ疑惑よ。」


「……はい?」


この時ショック以上に、クエスチョンマークで頭が埋まった。

俺らの何処にそんな要素があるんだと。いつも殴り合いしてるし。



「……憲兵長、磯風ちゃんとよく似てるわよね。あの子を短髪な大人の男に変換したって感じで。」


「従兄弟だからな…まずあいつの親父さんと叔母さんが瓜二つらしい。」


「それで眼鏡に憲兵の制服じゃない?」


「そうだな。」


「…言われてみればBLに出て来そうって納得しちゃったわ。憲兵長には悪いけど。

やっぱり陸って多いのかな…って言ってたわよ。」


「…ああ、確かにいそう…。」


眼鏡と、今や名物幽霊と化したあきつ丸が本来どういう関係だったかは、実はあの件の関係者以外知らない。

あいつも実際に行動は起こさないタイプの変態……なるほど、本性知らねえ奴には、せいぜい顔のいい変人程度の認識か。


「世の中にはね、色んな趣味の人がいるわ。

そう言う噂の種は、元を辿ればそうであって欲しいって言う願望が多いもの。


でも……あなたにもあらぬ疑いが掛かるのは、捨て置けないわね。」


「……待て、弓は使うなよ?」


「ふふ、大丈夫よ、噂の元を探して『お話』するだけだから…。


ね?」


あ、これすげえキレてる。


こっちもあらぬ噂は迷惑だが、それよりもこいつに釘を刺す方が先だ。

うっかり元を見つけようもんなら、出動案件になる気しかしない。


でも噂の元ねぇ、見つからねえ気もするけど…。

まぁ、ほっときゃ皆すぐ飽きると思うがな。火が無い以上は、煙は立たねえってもんだ。


そうだ…この時俺は、認識が甘かった。

火のない所でも、ガソリン掛ければどこでも燃える。そんな当たり前の事を見過ごしてしいたのだから。





午後、いつものように鎮守府内を見回ってると、廊下であるものを見付けた。


USBメモリ?落し物かね…。

後で落し物の報せでも出そうと、ひとまずそいつを詰所に持って帰ったんだ。


軍内って特色上、落し物は中身を確認しなきゃならない。

情報漏洩や風紀管理の関係で、拾ったらチェックが義務化されちまってるからだ。


正直俺は、この手のチェックが好きじゃない。

誰にだって秘密の一つや二つはある。前ん所で財布拾って、風俗の名刺入ってた時はいたたまれなくなったもんだ。持ち主は整備さんだった。

メモリかぁ…それこそ海での水着姿やら、女子会の動画やら入ってたらどうしよう。

女の子だけの秘密に割って入っちまうようで、何とも嫌ーな気分になる。


はぁ……しかし手掛かりが無い以上、中身を見るしかない。

PCにそいつを突っ込み、表示されたファイルを見た。


ん?サンプル.zip?

そいつを解凍してみると、何やら複数の画像。その中の一枚目をクリックした時……


俺は、開けてはいけない扉を開いたと気付いた。



「どうした?そんなに固まって……これは…!?」



眼鏡が覗きに来たが、恐らくこいつが一番面喰らったであろう。


漫画的に美化されているが、身近な奴からすると一発で分かるぐらい眼鏡がモチーフのキャラクター。

その対面、眼鏡と熱い視線を交わしているのは……同じく漫画調にアレンジされた…。


「……貴様に似ているな。」


「ええ…で、対面のはあんたにそっくりですね。」


恐る恐る、次の画像を開く。

次も開く。開く、開く、開く……。


開いて……あは、あははは……。


「憲兵長…。」


「ああ……間違いなく…。」


「「ホモだこれえええええっ!!!??」」


思わずハモっちまったよ。

何つーかこう、組んず解れつどったんばったん大騒ぎ。ケダモノなお友達って感じだ。

め、目眩がして来やがった…ついでに刺激もねえのにケツが痛えのは何でだろう。


「おい、まだ意識を飛ばすな。」


「ひいっ!?」


肩に触れられた瞬間、思わず悪寒が走った。

ダメだ、完全にディスプレイからトラウマ貰ってる。

だが眼鏡はまじまじと画面を見て、何やら納得した様子だ。


「ふむ……この絵柄は見た事があるな。あいつか。」


「……は、犯人に心当たりが?」


「ああ。あいつもこう言うのを描くとはな…少し訪ねてみるか。」




俺達は寮に行き、眼鏡の案内のままにそいつの部屋を訪ねた。

しかし返事は無い。どうやらいないらしい。


「ふむ…今日は休暇か。さて、何処にいるのやら。」


「何者なんですか?」


「絵の得意な駆逐艦でな、趣味で同人活動をやっている。

ただ、一度それ絡みで灸を据えた事もある。」


「……何やらかしたんですか?」


「奴は身近な人間からインスピレーションを得るクチでな。作品自体はオリジナルだが、キャラクターのモデルが僚艦だったのさ。因みにレズ物だ。

それで名誉とプライバシーに関わると言う点で灸を据えたのさ。」


「……で、その毒牙が俺らに向いたと。」


「ああ。その件以降は、既存のアニメや漫画の二次創作で収めていたのだがな…。」


ドアの前でげんなりしていると、ちょんちょんと脛をつつく感触がした。

足元を見ると、浮き輪モードのあきつ丸がタブレットを掲げている。


『よければ手伝うのでありますよ。』


「アキ…すまない、頼めるか?」


『了解であります。霊体で動くので、キョウは浮き輪とタブを預かって欲しいのであります。

__は自分と一緒に動くのでありますよ。』


「分かった、頼んだぞ。」



“……実際どうすんだ?”


“幽霊には、霊気の残り香が分かるのであります。さっき覚えたので、そいつを辿れば…。”


“いやぁ、目の当たりにするとサブイボ止まんねえよ……お、俺が眼鏡に…。”


“全く、腹の立つ事でありますなぁ…あの後自分もデータを見ましたが、居ても立っても居られず駆け付けたのであります。”


“やっぱムカつくか、あいつがああ言うネタにされると。”


“ええ……作者は何も分かっておりませぬ!キョウは受けでありましょう!!”


「おめーもかこの野郎!!」


思わず声出して突っ込んじまったよ。

あーそうだ、こいつは何でも行ける変態だった…!


“むっ!あちらから匂うのであります!!”


“あ、待て!”


あきつ丸は壁をすり抜けて何処かへ。

おいおい、参ったな…見付けても霊感ない奴相手じゃ…。


「ぎゃああああああっ!!??」


悲鳴!?


叫び声のした方に走ると、そこは視聴覚室。

中は真っ暗だが、電気を点けてみると…。


「け、憲兵さぁん!!」


「おわっ!?」


明るくなった瞬間、腹の辺りに誰か突っ込んで来た。

またガタガタ震えてんな…すると頭の中に、あきつ丸の声がした。


“ちょっとスマホに取り憑かせてもらったのであります。犯人はこの子のようですなぁ。”


“こいつが…。”


「……お前、確か秋雲って言ったな?」


「うん!!ス、スマホに幽霊が…!!」


「………丁度いい、お前を探してたんだよ。」


「………へ?」






「………さて、貴様がここに連れて来られた理由は分かるな?」


「………。」


詰所に秋雲を連れて行き、俺らは尋問を始めた。

さて、どう言う経緯でああなったのか…。


「懲りずにまた身近な所、それも私達に手を出すとは…今度の灸は、少々熱くなるぞ?」


「…秋雲さんねぇ、男描けるようになりたいんだよねー。」


「男?」


「うん。やっぱ女の子ばっか描いても幅広がらないからさぁ。

どんなジャンルもドンと来いって精神としては、そろそろBLにも進出しようかな…ってね。」


「……で、何故私達なのだ?それこそ二次創作で済む話だと思うのだが。」


「……そりゃああんた達、噂になってたからさ。」


「噂?」


「憲兵さんが痔主になった頃から、ホモ説が囁かれ始めたんだよ。それでこないだの女装の件があったっしょ?

アレ見た時こう、インスピレーション来た!って…いやぁ、捗ったよねぇ。」


「自重しろ。」


「いったっ!?もう、ゲンコツしなくてもいいじゃんかぁー。」


「ふむ…出所はこいつでも無いか。では、貴様が着想を得たのはその噂からと言う事でいいな?誰から聞いた?」


「__、いる?さっきの噂の元を連れて来たわ。」


「__…。」


詰所に入って来たのは元カノ…で、申し訳なさげに手を引かれて来たのは…。


「……磯波!?」


こないだの件でカメラマンをやってた子だ。

えぇ…こんな大人しそうな子が?


「さて、磯波ちゃん…どうしてそんな噂を立てたのかしら?」


「……その…私、提督に憲兵長へお使い頼まれて、たまたま見ちゃったんです…。

憲兵さんと憲兵長が……うう…キ、キスする所!」



あ の 時 か ! !



「どう言う事だ…?そのような事は……あ。


……ウボェアアアアアアアアアッッッ!!!!」


「憲兵長!?どうしたのさ!?」


ああ、思い出しちまったか……。

眼鏡はゴミ箱掴んで盛大に吐き始め、秋雲はその背中をさする地獄絵図。

で、ぽっと頬を赤くする磯波を尻目に、その隣からは新たな地獄の波動が放たれていた。


「ふふ……ふふふふふ………そう、そうだったのね…。」


「…待て、話せば分かる。俺は取り憑かれてただけだ。」


「大丈夫よ…男ばかりの軍学校で壊れちゃったのよね?私が『戻して』あげるから…。

だからちょっと、縛っても良い?」


「…元カノ逆レ物!!閃いた!!」


「おめーは自重しろ!!」


泣いてんのに何だこの殺気は…!!ダメだこれ…性的にどうこうどころか命のやり取りの話になる!

こいつは話聞かせるまでが大変なんだよ…どうする?どうするよ俺!?


「きゃっ!?」


その時、元カノに飛びかかる赤いものが見えた。

このフォルムは…!!


「あきつ丸!!」


『翔鶴殿、やめるのであります。アレは自分が原因なのでありますよ。』


「あなたが……?」


『キョウ、話していいでありますか?』


「げほっ……ああ、この際仕方あるまい…。」





「そんな事が…。」


「……グスッ…憲兵長…。」


「あきつ丸……いや、アキと私は本来そう言う関係だったのさ。その時アキが、こいつの体を借りたんだ。

ああ…でも私もその瞬間は今思い出した……ウプ…ひ、秘密にしてもらえると、助かる…オェツ…。」


あきつ丸が間に入ってくれた事で、何とか事態は沈静化した。

はぁ…犠牲は眼鏡の胃だけで済んだか。しかし見られてたとはな…。


「ごめんなさい!そんな事とは知らないで…。」


「ああ、まぁ何も知らなきゃそうなるな…。」


なるほどね、あの撮影でやたら頬染めてたのはそう言う事か…この際だ、噂流した件についちゃ不問にしてやろう。刺激強かったろうしな。

………ところで、一番の問題は…。


「……秋雲ぉ…。」


「………っ!!」


「さーて…あの漫画見た限りじゃ、人に見せる気満々だったっぽいな?」


「ご、ごめん!!アレはやり過ぎたよぉ!!

でも、まだ磯波しか見てない!!今なら取り返し付くって!」


「このUSBのを渡すつもりだったのか?」


「いや、それは違うよ?バックアップをUSBに入れて持ち歩いてるんだ。落とす前に視聴覚室にいたから、それであの時探してたの。

磯波には最初に見せるって約束して、アップローダーのURLを…。」


「……秋雲ちゃん、来てないよ。」


「「……へ?」」


「………秋雲、お前それ何で送った?」


「LINEだね…確か出来てすぐの徹夜…ああっ!?」


「誰だ!?誰んとこ誤爆した!?」


「待って!!今確認するから!!」



『HN:お淀』



「………もう一回見ていい?」


「………うん。」




『HN:お淀』




「……どうすんだおめえええええ!!!!???」


「ごめんよおおおおおおおお!!!」


「ふふふ……もうこうなっては止められまい…。

大淀君は、楽しそうな事なら私や提督にすら容赦しないからな…。


……秋雲。貴様、男を描けるようになりたいと言ったな?」


「う、うん…言ったねぇ。」


「……ならば『漢』しか描けなくしてやろう!!」


「ひっ!?待って!!お助けえええぇ!!」


あー…あいつ終わったな…。


秋雲をずるずると引きずり、眼鏡は何処かへ消えてしまった。

はぁ……なんか疲れた。取り敢えずこいつら外出すか、詰所ん中ゲロくせえし。


「はーい解散ー…もう帰るか…。」


「ええ…色々とすいませんでした。」


『ゲロは自分が片付けておくのであります。

全く、中身は自分だったのにひどいでありますなぁ。』


「ごめん、頼むわ…詰所は俺が鍵掛けとく。」


ドタバタ騒いでる内に、今日の終業時刻はとっくに過ぎていた。

磯波も帰したし、俺ももう帰っかな…。




「……少し、そこに座ってかない?」


「どうした?」


気分でも悪くなったのかと、俺は誘われるままにあいつとベンチに座った。

メシ時の今は、どうやら俺らしかいないらしい。


上を見ると、月がぽっかりと。

風が吹いてるが、前より少しじっとりした気もする。


そんな風を浴びた時、そこに乗ってこいつの匂いがした。


「……ったく、ひでえ目に遭ったぜ…まだ解決してねえけどよ。」


「妄想の捗るお年頃って言っちゃえば、それまでかもしれないけどね…でも漫画はやりすぎよ。ましてやあなたがモデルで…。」


「……そう言えば昔、お前の部屋にレディコミがあったな。」


「えっ!?知ってたの!?」


「背表紙がモロだったんだよ。」


「うう…ばか。」


……へっへっへっ、久々に一本取ってやったぜ。こいつの真っ赤な顔なんて、再会してから初めて見たな。


後は気分が落ち着くまで、本当に他愛もない話をしてた。

同級生や先生が今どうしてるかとか、俺の軍学校の頃の話とか。

それでひとしきり話をして、そろそろ帰るかと立ち上がろうとした時だ。


きゅっと、手を掴まれたのは。


「うん、暖かいわね。生きてる。」


「…当たり前だっての。」


「…無茶はしないでね?」


「艦娘に心配される程、危険と生活してねえよ。大丈夫だって。」


「……うん。」


……あきつ丸の話が、効いちまったかな。


別れてる以上、そんな義理はねぇ。

だから自分でもバカだとは思うんだが……目の前で不安に駆られてる奴を放っとく事は、出来なかった。


「………!!」


「俺もお前も、それに皆も。そう簡単に死ぬタマじゃねえよ。大丈夫さ。」


「……うん!!」


手を握り返して、笑うだけ。

自分で振った女相手に出来る事なんて、それぐらいのもんだった。


「じゃあな。」


「うん…また明日。」


寮に入って廊下を歩くと、珍しく誰もいない。


梅雨時とは言え、夜は廊下も少し肌寒い。

2時間寝て、風呂でも入るか…部屋に入って着替えると、俺はすぐにベッドに入った。


何か忘れてる気がすんなぁ…まあ、今はまず仮眠だ。

被りたての布団はまだ冷たくて、体温が馴染むには少し掛かる。



そんな中、手だけは妙に暖かかった。






「おはようございます。」


「ああ、おはよう。」


「なんか眠そうですね?」


「ん?昨日は空き部屋を借りたからな。慣れないベッドのせいだろう。」


「……あ!!そう言えば秋雲どうなりました?」


「…私の部屋に監禁したよ、『漢』を学ばせる為にな。

今夜の夕方までは出さん。提督も許可済みだ。」


「……漢?」


「これでも漫画集めが趣味でな…私の蔵書を24時間読むのを罰にした。

『刃○』シリーズ、『原○夫』や『山口○由』作品全巻…全部読むまで帰れま10と言う奴だ。」


「………ああ、確かに漢ですね…。」


迸る血と汗の方でな。


その後部屋から出てきた秋雲は、眉毛が気持ち太くなっていた。

あと、何か輪郭が変わった気もする。


この年の夏、秋雲は有明には行けなかったと言う。

しばらく何を描いても筋骨隆々な漢しか描けず、再び所謂萌え絵を描けるようになったのは、9月になってからだったそうだ。


尚、あの漫画はお淀のせいでしっかり広まっていた事も付け加えておく。



お陰で磯波が目覚めました。









「199…200……っと。」


仕事後余裕がある日は、いつも飯の前に部屋で筋トレだ。体が資本だから、こいつはなるべく欠かせない。

そこからシャワー浴びて食堂に行くのがお決まりなんだが、ここである事を思い出す。


“そう言や明日休みか、ゆっくり出来るな…”


それが頭をよぎった時、俺の中にある衝動が湧いてきた。


「せっかくだし飲みてえな…。」


汗もかいたし、腹も減った。ビールが俺を呼んでる気がする。

そう思っていたら、ちょうど携帯が鳴った。



『暇だったらでいいんだけど、飲み行かない?明日休みなんだ。』



……外泊申請、まだ間に合うかな。






第20話・変わらないもの







「うーす、お疲れー。」


「お疲れ様ー。」


正門前に出れば、さっきの連絡の主がいた。

まぁ言わずもがな、づほなんだけど。


お互いこっちに来てそんなに経ってないが、俺の方が先な分、多少は街の知識も増えた。

そんな事を見越してか、新規開拓したい!とづほに呼び出された訳。


「あっちのマンションの方?」


「そう。そこからバス出てるから。」


ここから街に出るのに手っ取り早いのは、路線バスだ。

最寄りのマンション群のとこから出てて、そいつに乗れば市街地。

提督の家も確かこの辺だよな…あ、時雨だ。


「今通ったの、時雨ちゃんよね?」


「たまに飯作りに行ってるらしいぜ?

練習とか言ってるが、提督の手綱握りに行ってるのが正解だろうな。家入れてもらえるようになったみたいだし。」


「あー、また他の女においたしないようにだ?ふふ、可愛いじゃん。

でも良いなぁ…私もご飯作る相手とかいればなー。」


「相手作っても、激辛はやめてやれよ?」


「やりませんよーだ。__もご飯作ってくれる子見付けなよ。」


「余計なお世話だっての。」


場所が変わっても、こいつとサシの時は何も変わんねえな。

いつも通りの他愛も無いやり取りで、バスへと乗り込んだ。



「「かんぱーい。」」



前から気になってた店に来たが、こりゃ当たりだ。

づほも気に入ったらしく、随分と機嫌が良い。飲み過ぎたら止めるけど。


「少しは慣れたか?」


「こっち?うん、思ってたよりは馴染めたかなーって感じ。」


「そりゃ良かった。」


焼き鳥食いつつ、グダグダと会話は進む。

気を遣わないでいい関係だし、正直異性と飲んでるって感覚は無かったり。

でもそれが、俺とこいつが親友たる所以でもある。


あ、卵焼きもうめえ。


「ふむふむ、このダシは…。」


「お、研究家モード?」


「卵焼きは一番好きだもん、拘っちゃうよね。」


「づほの確かに美味えもんな。磯風もお前の爪の垢飲んで欲しいぐらいだぜ…。」


「えへへ…でもあの子、そんなにヤバいの?」


「俺がケツ悪くしたの、あいつのマカロンがきっかけ。『いそかぜ』の名は伊達じゃねえな…ありゃGUSOHだわ。」


「あ!トイレの件だ!」


「そ。思えば俺の健康運、あそこから下降の一途だぜ…。」


……トドメはづほのロシアン卵焼きだったのは、敢えて黙っておく。

あ、そろそろ次頼むか。づほも空いてるし。


「づほも酒頼む?」


「あ!ちょっと待って。今日はねー…。」


いつもは3杯目までビールなのに、珍しい事もあるもんだ。

メニューとしばらくにらめっこして、ようやく次を決めたらしい。


「じゃあ私マッコリで!」


「珍しいな、どうしたよ?」


「たまには他のお酒試そうかなってね。」


「おいおい、後で暴れんなよ?」


「大丈夫よ、酔わない酔わない。せっかくだし一緒に飲も?ボトル入れて。」


「まぁいいけどよ。じゃ、店員さん呼ぶか。」


それから追加も飲み始めて、お互い良い感じに酔って来た時だった。


「そう言えば、もう知り合って一年経ったんだねぇ。」


「言われてみりゃそうだな。早えもんだ。」


「で、君は先に異動したわけだけど。こっちで狙ってる子とかできた?」


「いや…さすがに地雷原でバタフライするような真似はしねえ。

それに、未だにちゃんとは知らねえ奴もいるぐらいだぜ?」


「…ふーん、翔鶴さんで頭いっぱいだもんね。」


「おいおい…あいつで頭パンクしたのは違う意味でだよ。

だから相変わらずだな、特に何が起こるでも無しって所さ。春とか来る気しねえ。

それ訊いて来るづほはどうなんだよ?最近。」


「私?相変わらずよ。あーあ、どこかにいい人落ちてないかなあ。」


「お前だったら大体の奴落ちるだろ、卵焼き出せば一発じゃねえか?」


「だから焼く相手がいないんだってばー。」


俺はともかく、こいつは引く手数多な気もするんだけどなぁ。酒癖はちょっとアレだけど…。

俺も元カノ以降誰とも出会わなかったって訳じゃねえが、結局何もなかったしな。そのまま今に至るだ。


「……モテ期、人生で3度あるって言うよな。」


「1度目は翔鶴さんでしょ?じゃああと2回だ。」


「あー…まぁ、高校の時は確かにあったかも。1回あいつ以外の子に、告白されたな。」


「翔鶴さんの前?」


「いや、後。だからすぐ断った。」


「軍学校は何も無かったんだっけ?」


「俺らの世代は確かに女の子増えてたけど、無かったな。

“ちょっと見た目のバランス悪いかなー”って囁かれてたの聞いたし…。」


「ま、まぁ気にしない気にしない。」


背もでかい方にはなれたし、体も頑張って細マッチョって自負できるぐらいまで持ってったけど…女顔は『多少』厳つくなれたってぐらい。ガタイとツラが合ってねえのは自覚ある。

ああ、こないだの女装の辛さを思い出してきた…。


「……そう言えばよ、こないだのマジ恥ずかしかったぞ、こんにゃろう。」


「ん?ゴスロリメイド?

えー?すっごい可愛かったじゃん!ほら!」


「ぶっ!?待ち受けにしてんじゃねえよ!」


「あはは、盛れてるでしょ?これから夏祭りやクリスマスとイベント毎に…どう?」


「ぜってーやんねぇ。」


「ちぇー、いけずぅ。」


断固拒否。スカートなんぞ二度と履きたくねえ。

しかしどうなるもんかと思ったが、マッコリはづほと相性良いらしい。

良い感じにほろ酔い、今の所はヅホラ覚醒とは至らずだ。


「でさー。」


「何?」


「……どうして翔鶴さんと別れたんだっけ?」


「昔言ったろ?行動が過激で持たなくなったって。」


「それはね。聞きたいのはそこに至るプロセス。」


「………笑わない?」


「大丈夫。」


ああ…確かに何考えてたかまでは、づほにも話してなかったな。

今思うと、自過剰だなーって思うんだけど…まぁ、過ぎた事か。


「白状すると、別れるまではめちゃくちゃ好きだったよ。色々あってもな。

だから別れてからも、しばらくは悩んだ。」


「へー…。」


「…でも、俺じゃダメだなって思ったんだよな。安心させてやれる器じゃねえって。

確かにぶっ飛んでる所に疲れてたのはあるけど、まずそうさせる俺が悪いだろ、ってな…。」


「……何かきっかけあったの?」


「…別の子に告白された時だな。

その後友達に説教されたんだよ、『お前は誰に対しても親身すぎる』って。」


「その子は何がきっかけ?」


「告白してきた子?んー…元々おとなしい子でさ、学祭のイベントも馴染めてなかったから、ちょっと心配になって引っ張り出したんだ。」


「翔鶴さんは一緒じゃなかったんだ?」


「学祭中は公開演武で忙しかった。で、俺学校じゃ帰宅部扱いだから暇しててな。

その日はその子イベントに混ぜて終わったんだけど、友達出来て良かったなー、なんて安心してた。」


「で、しばらくして告白されて、友達からお説教を喰らったと。」


「……だな。『__ちゃんの事もうちょい考えろよ!』って、マジ説教だった。

そこでちょっと、考える事は増えたっけな…。」


「お人好しの自意識無しだった訳だね。」


「う…ぐうの音も出ねえ。

でも、この性分は直んなかったんだよなぁ…結局憲兵になったのも、だったら人を守れる仕事をしようって思ってな。

消防や警察も考えたけど、姉貴はもう艦娘やってたから、こんな仕事もあるぞって勧められて。」


「そして加減の出来ない人助けの末、2回警察のお世話になった。」


「はは…バレてないの入れたら、もうちょいあるな…。

で、話戻るけど、その頃友達に言われたんだ。『お前が逆だったらどう思うよ?』って。


あいつとは付き合い出して1年経ってたからな…感情表現下手なのは、俺もよく分かってた。

……矢とか飛んでくる割に、裏で泣いてた場面もあったのかもなとか考えたよ。」


「……それで鉄の味チョコに繋がると。」


「…空手で血の味はよく知ってたからな、すぐ分かったよ。

ここまでさせちまう程追い込んだのかって思ったし…同時に、あいつの行動に疲れ切ってたのも事実だ。


そこでバキッと心が折れて、これ以上はお互いに良くねえってなっちまった。それで俺から振ったって訳。」


「…お互い様ね、__も相当悪いけど。」


「返す言葉もねえよ…再会してからはビビりっぱなしだし。

冷めたらこうも苦手になるかって、最近自分でも思ったな。


振り切るのに結構掛かったけど、今となっちゃあれで良かったのかな?ってな。

あいつはもっとこう…気を遣える奴の方が合うんだよ、きっと。ちゃんとあいつの事考えて人間関係こなせる奴って言うかさ。」


「例えば妻帯者の意識を持って人と接し、なるべくまっすぐ帰ってくる旦那さん。」


「そう、そんな感じの。」


「でもそれは誰でもそうだよー。

まぁいいんじゃない?分け隔てないのが君の良いとこでもあるんだし。

君に浮気心無かったんだし、そこは価値観の違いって事でさ。気にし過ぎない方が良いって。」


「……ありがとよ。ちょっとは報われるぜ。」


「自意識はもうちょっと持つべきだけどね。」


「んっ!!返す言葉もございません…。」


「はいはい、じゃあ呑んで昔の女は忘れちゃおうねー。」


「おい、表面張力まで注ぐなよ…。」




…で、明け方の現在。づほは俺の背中に絶賛フェイスハガー中。

後から酒が効いてきたらしく、「おぶれ…おぶるんだ……」と死にそうな声でしがみ付いて来た。


鎮守府までの近道を調べると、住宅地を突っ切る形。

ちっこい子泣き空母を背に歩いてると、目の前に橋が見えてきた。


へぇ…良い所あるんだな…でっけえ川だ。


「……懐かしいね。」


「初めて来たけど?」


「ほら、前のとこにも川あったじゃない?漫喫の時。」


「あー、あったなそんな事。ピアスの時だ。」


「そう、元カレにもらったやつ。あの時もこんな感じだったよね。」


漫喫事件の後、こんな感じの川で一息入れててな。

そしたらづほがピアス外して、「ありがとう!!ばっきゃろー!!」って叫んでぶん投げたんだよ。


……で、その勢いで俺の肩にゲロったっけ。


「……アレは大分助かったわ。優しいのを気に病む事なんて無いって。」


「そう言ってもらえりゃ助かるぜ…しかし、まさか未だにお前とつるんでるとはなぁ。」


「人の縁なんてそんなものよ。」


「だな、親友。でもそろそろ酒減らせよ?太るぜ?」


「善処しまーす…でもカロリーは確かに…うぷ。」


「だからって今入れた分出すなよ!?」


その後寮に帰って、そのままづほと別れた。

たまに朝陽浴びながら寝ると、気持ちいいんだよなぁ…良い酒だった。


さて、愛しの我が部屋へ、っと……ん?



「すぅ……すぅ……。」



…………何でこのタイミングかなぁ。


合鍵持たれちゃいるが、侵入された事は片手で足りる程度だ。特に最近はすっかり油断してた。

よりにもよって今かよ…さっさと寝たいんだけど…。


「もしもーし…こら、俺寝るから。起きろー。」


「……ん…おかえりなさい…。」


「……うわっ!?」


不意打ち喰らった。

ガバッと俺に飛び付くと、あいつはそのままベッドに倒れちまった。

痛えなこんにゃろ…無理な体勢取らせやがって、床に転がすぞ…!



「……すぅ……__……。」


「…………。」



……はぁ。


床に転がすのはやめて、ちょっとだけあいつの体を端に寄せた。

スペースも確保したし、やっと寝れる…後は寝るまで一瞬だった。 目を閉じてからは覚えてない。


昼に起きるとやっぱりあいつはいなくて、でもTシャツの裾がちょっとだけ伸びてた。

ヘッドボードの携帯を手に取ると、ペットボトルとメモが置いてあるのに気付く。



『あまり飲み過ぎないでね。お疲れ様。』



飲み明けは声もカサカサ、喉も渇いてた。

ペットボトルの水をぐいっと煽って、ボーッとしてた頭を叩き起こす。


そこでふと気付いたのは、着てた服から感じた匂い。

濃く残ってたあいつの匂いに混じって、づほの使ってる洗剤の匂いがした。


窓を開けると、今度はアスファルトの匂いがする。

一雨来るか…まぁ、今日はもう予定も無いしな。

そのままシャワー室でひとっ風呂浴びる頃には、匂いの事は何処かに行っていた。


ただ、その後横になったベッドには、まだあいつの匂いだけは残っていて。

そいつを感じたまま、俺はまた眠りこけてしまっていた。


酒と雨のせいかな。

その日は妙にぐっすり眠れたもんだった。







side 瑞鳳









『暇だったらでいいんだけど、飲み行かない?明日休みなんだ。』


『いいよ。店どうする?』


『越して来たばっかりだし、新規開拓したいのよね。何か良いお店知らない?』


『気になる所ならある。』


『じゃあそこ行ってみよっか。後で正門でいい?』


『大丈夫。ただ筋トレした後だから、ちょっとシャワーだけ浴びるわ。出たらまた連絡する。』


『うん、りょーかい。』


場所は変わっても、こんなやり取りは変わらない。

二人で飲む機会を伺ってた私は、前の所みたいにしれっと誘いをかけた。


……実は数日前から、色んな事を考えてね。


「うーす、お疲れー。」


「お疲れ様ー。あっちのマンションの方?」


「そう。そこからバス出てるから。」


バスに乗ろうとマンション群に向かうと、見た事のあるお下げ髪。

スーパーの袋……ははーん、そういう事かぁ。


「今通ったの、時雨ちゃんよね?」


「たまに飯作りに行ってるらしいぜ?

練習とか言ってるが、提督の手綱握りに行ってるのが正解だろうな。家入れてもらえるようになったみたいだし。」


「あー、また他の女においたしないようにだ?ふふ、可愛いじゃん。

でも良いなぁ…私もご飯作る相手とかいればなー。」


「相手作っても、激辛はやめてやれよ?」


「やりませんよーだ。__もご飯作ってくれる子見付けなよ。」


「余計なお世話だっての。」


時雨ちゃん、いいなぁ…。


…作る相手、本当はずっといるけどね。

でもいつも__に卵焼き食べてもらう時は、皆に振る舞う場面だけだったから。



「「かんぱーい。」」


気になる店があるって連れて来られたのは、私が好きな感じの居酒屋。

こういう趣味は本当合うのよね、これは期待出来そう。


「少しは慣れたか?」


「こっち?うん、思ってたよりは馴染めたかなーって感じ。」


「そりゃ良かった。」


皆癖あるけど良い子だもん。

ま、まぁ、憲兵な__の立場からすると大変なのはよーく分かったけどね…。


あ、これ美味しい。


「ふむふむ、このダシは…。」


「お、研究家モード?」


「卵焼きは一番好きだもん、拘っちゃうよね。」


だって、美味しいの食べて欲しいし。

お店で食べても、ついつい研究しちゃうのはいつもの事。


「づほの確かに美味えもんな。磯風もお前の爪の垢飲んで欲しいぐらいだぜ…。」


「えへへ…でもあの子、そんなにヤバいの?」


「俺がケツ悪くしたの、あいつのマカロンがきっかけ。『いそかぜ』の名は伊達じゃねえな…ありゃGUSOHだわ。」


「あ!トイレの件だ!」


「そ。思えば俺の健康運、あそこから下降の一途だぜ…。」


…はは、きっとあの卵焼きがトドメだったかな…。

酔っ払ってたけど、アレは本当に悪い事しちゃった。


「づほも酒頼む?」


「あ!ちょっと待って。今日はねー…。」


最近は晩酌の時、いつもと違うお酒を飲むようにしてたの。

それはね…体質的に酔いにくいのって何だったかなーって思って。ほろ酔いで済むか、もう一度検証したかったから。


「じゃあ私マッコリで!」


「珍しいな、どうしたよ?」


「たまには他のお酒試そうかなってね。」


「おいおい、後で暴れんなよ?」


「大丈夫よ、酔わない酔わない。せっかくだし一緒に飲も?ボトル入れてさ。」


「まぁいいけどよ。じゃ、店員さん呼ぶか。」


部屋で飲んでても思ったけど…マッコリ、確かに私は『上がる』酔い方はしないなぁ。

代わりにね、何だか寂しくなって来ちゃう。人によって違うんだろうけど、やっぱりダウナーになるお酒ってあるなぁ。


一昨日、飲んでてこっそり泣いたっけ。


「そう言えば、もう知り合って一年経ったんだねぇ。」


「言われてみりゃそうだな。早えもんだ。」


「で、君は先に異動したわけだけど。こっちで狙ってる子とかできた?」


「いや…さすがに地雷原でバタフライするような真似はしねえ。

それに、未だにちゃんとは知らねえ奴もいるぐらいだぜ?」


……私ももう、こっちのメンバーだけどね。むう。


「…ふーん、翔鶴さんで頭いっぱいだもんね。」


「おいおい…あいつで頭パンクしたのは違う意味でだよ。

だから相変わらずだな、特に何が起こるでも無しって所さ。春とか来る気しねえ。

それ訊いて来るづほはどうなんだよ?最近。」


「私?相変わらずよ。あーあ、どこかにいい人落ちてないかなあ。」


「お前だったら大体の奴落ちるだろ、卵焼き出せば一発じゃねえか?」


「だから焼く相手がいないんだってばー。」


相変わらず。本当に相変わらず。

こんな距離感も、フィルターの無い会話も何も変わらない。


焼く相手いないのも、誰も拾ってないのも全部事実だよ。

だって…今の二人はフリー同士の飲み仲間だもん。


拾うどころか、本当は目の前のものに飛び付いて攫っちゃいたい。

例えばそんな事をあざとく言ってみたって、近過ぎるこの距離感じゃネタで終わっちゃう。


普段は何だって言えちゃうのに、可愛くないなぁ…私。


「……モテ期、人生で3度あるって言うよな。」


「1度目は翔鶴さんでしょ?じゃああと2回だ。」


2度目は今だよ?ばーか。

目の前にいるよー?君限定でいつでも取って食える女が。


「あー…まぁ、高校の時は確かにあったかも。1回あいつ以外の子に、告白されたな。」


「翔鶴さんの前?」


「いや、後。だからすぐ断った。」


「軍学校は何も無かったんだっけ?」


「俺らの世代は確かに女の子増えてたけど、無かったな。

“ちょっと見た目のバランス悪いかなー”って囁かれてたの聞いたし…。」


「ま、まぁ気にしない気にしない。」


体の割に女顔だもんね…ダメな人はダメかも。

私は好きだけどね、そんなとこも。だって可愛いじゃない?


「……そう言えばよ、こないだのマジ恥ずかしかったぞ、こんにゃろう。」


「ん?ゴスロリメイド?

えー?すっごい可愛かったじゃん!ほら!」


「ぶっ!?待ち受けにしてんじゃねえよ!」


「あはは、盛れてるでしょ?これから夏祭りやクリスマスとイベント毎に…どう?」


「ぜってーやんねぇ。」


「ちぇー、いけずぅ。」


突っ込む所は、そこじゃないわよ。

3人で撮ってもらった写真、ツーショットになるよう上手く切り抜いたんだ。気付いてはくれないけど。


……だからスマホの画面には、『あの人』はいない。


普段なんて飲みの途中で、撮ってもお互い変顔ばっかりなの。

本当は……こういう罰ゲームの女装より、普通のツーショットが欲しいな。普通に二人で笑ってるようなの。


「でさー。」


「何?」


「……どうして翔鶴さんと別れたんだっけ?」


意地悪な女だって、自分が嫌になる。

触れない方が幸せだなんて分かってるけど…手を突っ込んじゃったんだ。


「昔言ったろ?行動が過激で持たなくなったって。」


「それはね。聞きたいのはそこに至るプロセス。」


「………笑わない?」


「大丈夫。」


「白状すると、別れるまではめちゃくちゃ好きだったよ。色々あってもな。

だから別れてからも、しばらくは悩んだ。」


「へー…。」


……気付いてたよ、全部。

ああ、でも段々ムカついてきちゃったなぁ。


「…でも、俺じゃダメだなって思ったんだよな。安心させてやれる器じゃねえって。

確かにぶっ飛んでる所に疲れてたのはあるけど、まずそうさせる俺が悪いだろ、ってな…。」


「……何かきっかけあったの?」


「…さっき話した、告白された件だな。

その後友達に説教されたんだよ、『お前は誰に対しても親身すぎる』って。」


「その子は何がきっかけ?」


「告白してきた子?んー…元々おとなしい子でさ、学祭のイベントも馴染めてなかったから、ちょっと心配になって引っ張り出したんだ。」


「翔鶴さんは一緒じゃなかったんだ?」


「学祭中は公開演武で忙しかった。で、俺学校じゃ帰宅部扱いだから暇しててな。

その日はその子イベントに混ぜて終わったんだけど、友達出来て良かったなー、なんて安心してた。」


あぁ、男慣れしてない子だ…端折ってるけど、どうせ無自覚にタラシたんでしょ。


今より若い時だもんね、相当タチ悪かったんじゃないかな。

彼女持ちでそりゃダメだよ…翔鶴さんがやきもきするの、ちょっと分かるかも。


「で、しばらくして告白されて、友達からお説教を喰らったと。」


「……だな。『__ちゃんの事もうちょい考えろよ!』って、マジ説教だった。

そこでちょっと、考える事は増えたっけな…。」


「お人好しの自意識無しだった訳ね。」


この時ばかりは、わざとらしく毒吐いてやったわ。大して変わってないじゃん。

ばーかばーか。しばらく小突いてやる。


「う…ぐうの音も出ねえ。

でも、この性分は直んなかったんだよなぁ…結局憲兵になったのも、だったら人を守れる仕事をしようって思ってな。

消防や警察も考えたけど、姉貴はもう艦娘やってたから、こんな仕事もあるぞって勧められて。」


長門さん、ありがとうございます。おかげでこの馬鹿野郎に出会えました。

でも、そっちももうちょっと教育して欲しかったです。


「そして加減の出来ない人助けの末、2回警察のお世話になった。」


「はは…バレてないの入れたら、もうちょいあるな…。

で、話戻るけど、その頃友達に言われたんだ。『お前が逆だったらどう思うよ?』って。


あいつとは付き合い出して1年経ってたからな…感情表現下手なのは、俺もよく分かってた。

……矢とか飛んでくる割に、裏で泣いてた場面もあったのかもなとか考えたよ。」


「……それで鉄の味チョコに繋がると。」


「…空手で血の味はよく知ってたからな、すぐ分かったよ。

ここまでさせちまう程追い込んだのかって思ったし…同時に、あいつの行動に疲れ切ってたのも事実だ。


そこでバキッと心が折れて、これ以上はお互いに良くねえってなっちまった。それで俺から振ったって訳。」


「…お互い様ね、__も相当悪いけど。」


まぁ翔鶴さん、それ抜きでもぶっ飛んでるしね。


でも高校生ぐらいの時なんて、誰かが振られたなんて話はすぐ知られる。きっとその件も、翔鶴さんの耳に入ってたと思うわ。

悩んだんだろうけど…言い換えれば__が逃げたとも捉えられるわね。翔鶴さんの独占欲も大概だけど。


責任感強いものね…自責の念は、多分今でも…。


「返す言葉もねえよ…再会してからはビビりっぱなしだし。

冷めたらこうも苦手になるかって、最近自分でも思ったな。


振り切るのに結構掛かったけど、今となっちゃあれで良かったのかな?ってな。

あいつはもっとこう…気を遣える奴の方が合うんだよ、きっと。ちゃんとあいつの事考えて人間関係こなせる奴って言うかさ。」


「例えば、常に妻帯者の意識を持って人と接し、なるべくまっすぐ帰ってくる旦那さん。」


「そう、そんな感じの。」


私は女友達や付き合いのキャバクラまでなら許す。いちいち目くじら立てきれないもん。


…ただしそれ以上は殺す。魂子焼にしてやる。

具体的には、よその女とキスしたらアウト。


「でもそれは誰でもそうだよー。

まぁいいんじゃない?分け隔てないのが君の良いとこでもあるんだし。

君に浮気心無かったんだし、そこは価値観の違いって事でさ。気にし過ぎない方が良いって。」


「……ありがとよ。ちょっとは報われるぜ。」


「自意識はもうちょっと持つべきだけどね。」


「んっ!!返す言葉もございません…。」


「はいはい、じゃあ呑んで昔の女は忘れちゃおうねー。」


「おい、表面張力まで注ぐなよ…。」


翔鶴さんの髪と同じで、真っ白いマッコリ。

それで出された器の方は、私の髪と似た色をしてた。


飲め飲めこのやろー。思い出なんて飲み干しちまえー。

飲み切っちゃえば、私の色な器だけだもん。白いあの人の記憶なんて、そのまま消化しちゃえばいい。


………飲んだら飲んだで、白いのに酔っ払っちゃう事になるけどね。





うう…酔ったぁ…。


子泣き爺かフェイスハガーか、私はいつものように__の背中にべったり。

無い胸と143cmのこの体も、こんな時だけは得だと思える。その分ギュってくっつけるから。


……わざとじゃないよ?


あ、ここにも川あるんだ。

思い出すなぁ…そう言えばあの時も…。


「……懐かしいね。」


「初めて来たけど?」


「ほら、前のとこにも川あったじゃない?漫喫の時。」


「あー、あったなそんな事。ピアスの時だ。」


「そう、元カレにもらったやつ。あの時もこんな感じだったよね。」


振られてからも、しばらく律儀に付けてたんだ。

でも勢いで外して投げたら、本当せいせいした。


ヤケクソで迫った時、めちゃくちゃ怒られたなぁ。

すごい怖かったけど、その時本当に親身に考えてくれる人なんだって思ったっけ。


……今も無い胸押し当てた所で反応無いのは、あの頃と変わんないわね。

むう…もっとしがみついてやる。


「……アレは大分助かったわ。優しいのを気に病む事なんて無いって。」


「そう言ってもらえりゃ助かるぜ…しかし、まさか未だにお前とつるんでるとはなぁ。」


「人の縁なんてそんなものよ。」


「だな、親友。でもそろそろ酒減らせよ?太るぜ?」


親友かぁ…親友だよね。

チビだから、近いとたまに気付いてもらえない。それと一緒なんだ。


あーあ、なんでこんな奴好きになっちゃんだろ。節穴めぇ。

大体太ってないし。鶏ガラみたいな幼児体形ですよーだ。


「善処しまーす…でもカロリーは確かに…うぷ。」


「だからって今入れた分出すなよ!?」


あの時は、投げた勢いで大リバースだったわね。

アレでキレないんだから、本当お人好し。離れられないぐらい甘えちゃうよ。




「着いたぜ、降りれるか?」


「うん、大丈夫。」


寮に着いたらもうお別れ。

でも今日の服は、しっかり匂い付くように洗ったんだ。香水も使ってるし。


…眠そう…このまま寝落ちする感じかな?

だから部屋に着いても、私の匂いのまま寝ちゃえばいい。

あの人の事なんて、どっか行っちゃうぐらいね。


階段の所で別れて自分の部屋に行こうとすると、隣の部屋が目に入る。

合鍵持ってるって聞いたなぁ……大丈夫、今ならきっと寝てる。

そう思って、私は部屋の扉を開けた。


カーテンさえ開けちゃえば、誰もいない部屋も明るくなる。

窓も開ければ、雨の匂い。今日はもう寝て終わりかな。


窓から顔を出して、斜め下の部屋を見てみる。

この角度じゃ見えないけど、きっと今頃ぐっすり寝てるはず。


そうだ、また二人で映画でも見よう。

ここに呼んで、ゆっくり部屋飲みでもしながら。

そうすれば、慣れないこの部屋にもあいつの跡が出来るから。


うーん…なんか眠くないなぁ。もう一杯飲んでみよっかな。


冷蔵庫を開けてみると、一人で飲んでた分のマッコリがまだあった。

ペットボトルに2〜3割残ってる白い奴。それを見たら、何か段々ムカついてきた。


あいつの中の2〜3割の白いのが、段々増えてくような気がしたから。

いつかまた、白いのに悪酔いされそうな気がしたから。


もうラッパで行ってやる。お前なんか飲み切ってやる。

ぐいっと飲み干して、空いたボトルを乱暴にゴミ箱に投げ捨てた。

はっはっはっ、これで私の勝ちよ。そこで回収日を待つがいい。


そのままベッドにうつ伏せになると、頭がぐるぐるして来る。

うえー…回ってきたわね…ちょっときついかな。


酔っ払った耳に、ざあざあと雨音が絡み付く。

その音を聞いてるうちに、何だか泣けてきてる自分がいた。


……匂い、付いたかな。

いつでもそばにいるよ、近くて見えなかったとしても。


枕に腕を回すと、何となくあの背中を思い出した。

でもベッドの中はまだ冷たくて、あのぬくもりとは似ても似付かない。


夢の中ぐらい、いいよね。

キスでもするみたいに枕に顔を埋めて、私はそのまま寝ようとしたんだ。

メイクも取らずに顔を埋めてると、目元が濡れてきた気もする。

でもいっか…カバー黒いからわかんないよ。


大丈夫、泣いてない。

……大丈夫、もう同じ場所だから。離れ離れじゃないから。


なのに、何でこんなに遠いんだろ?


結局そのまま寝落ちして、見事に寝ゲロした。

枕だけで済んだけど、しょうがないからその日は座布団を代わりにした。


その間部屋にぶら下がるのは、雨で乾かない枕とカバー。

楽しい時間を過ごした次の日は、文字通り枕を濡らしたサイテーな休日。



その日は一日、雨は止まなかった。








これでも服は好きで、それなりに気は遣ってる方だ。

休日に一人でモールや古着屋を回るのが、ちょっとした楽しみだったりする。


だが自分の身に付ける物は気にする割に、俺は他人の方にそこまで執着は無い。

分かりやすく言うと、「好きな子にはこういうの着て欲しい!」とか、そう言うのが無い訳。


俺としては、好きなもん着てる時の女の子が一番可愛いってのが持論。

づほには「分かってない」って突っ込まれたけどな。


そんな感じで男女問わず、身なりへの拘りは何かしらあると思う。

ただ、男と女で決定的に違う『ある要素』もあるんだ。


ささやかな疑問が、派手な火の粉を撒き散らす。

今日はそんな日常の話。





第21話・誰も見てはならぬ





「お疲れ様ですー。」


「ああ、憲兵君。お疲れー。」



飲んでる時やムカついてる時、それと頭使い過ぎた時は、たまにタバコを吸いたくなる。

この日事務作業で数字とにらめっこしてた俺は、久々に喫煙所に足を踏み入れていた。

この時中にいたのは提督だけ。この人と二人になるのはなかなか珍しい事だ。


ガラス張りの喫煙所からは、外がよく見える。

艦娘達が目の前を通るんだが…この時俺は、ある事に気付いた。


「……皆化粧ポーチ持ってますね。」


「あー、出撃前のあるあるだよー。軽く化粧直す子多いの。」


「へー…。」


ウォータープルーフも出回ってるご時世だが、この時俺の脳裏にはある疑問が浮かんだ。

……これから海でドンパチやんのに化粧?落ちねえか?


「マナー的な奴ですかね。落ちちまうと思うんだけど…。」


「いや、艦娘の化粧は特に義務でも禁止でも無いよー?まあそこは女の子って事。

艤装って一応紫外線保護も出来るんだけど、念の為もあるだろうし。」


「なるほど…。」


男にゃ分かんねえ世界もあるよなぁ…なんて考えてる間に、さっきの艦娘達が出て来た。

早えなぁ……あ、でも結構印象違う。

そんな事を考えてると、ガラスをコンコンと叩く音が聞こえた。


「憲兵さーん、お化粧に興味津々?前ので目覚めちゃったぁ?」


「蒼龍か…勘弁してくれよ、こないだので懲りたっての。」


「楽しかったなぁ、憲兵さんにお化粧するの。次はどうしよっかなぁ。」


「二度とやんねえ。」


蒼龍はメイクが得意だ。

こいつは女装事件のヘアメイク担当であり、一回プライベートのこいつに騙されてもいる。

同僚からしても腕は確かなようで、何でもここの駆逐や軽巡にメイクを教えてすらいるんだとか。


「なーんだ。てっきり目覚めてくれたかと思ったのに。」


「いや、何となく戦闘前にメイクすんのって不思議だなーって思ってな。落ちねえの?」


「そりゃ多少はね。でも私達にとっては、制服や艤装と一緒なんだ。

やっぱりちゃんとやると、心も戦闘モードになるんだよ。」


「空手家が道着着るようなもんか。」


「うん!戦国武将もメイクして合戦に臨んでたんだよ?戦化粧って奴。」


「なるほどなぁ。」


そう言えばそんな話聞いた事あるな…と感心してるのを、提督はいつものアルカイックスマイルで聞いていた。

まぁこの人はなまじ遊んでた分、俺よりずっとその辺の知識はあるだろうしなぁ。


「女の子の努力っていいよねー。

…憲兵君、化粧覚えるくらいの年齢になると、男的に楽しみな面もあるんだよー。すっぴんの方に。」


「すっぴんに?」


「そ。その辺になると女の子がメイクしてるの前提でしょー?

出掛けるにしても仕事にしても、いつも戦闘モードなわけ。


……だからそのぐらいのすっぴんって言うのはね、限られた奴しか見れないのさ。心を開いてもらった男の特権ってやつ。」


「……すいません。今の言葉、めっちゃグッと来ました。」


ああ、祥鳳さんのすっぴんとか憧れじゃん…づほの奴、連絡先教えてくんねえかなあ…。


……とか考えてると、またコンコンとガラスを叩く音が…。




<●><●> ←翔鶴


<●><●> ←瑞鳳




何か張り付いてるぅ!?白いのと茶色いの!!



「なにー?楽しそうな話してるじゃない。」


「お前らいつからいたよ?」


「空母組で訓練してたの。蒼龍ちゃん、入り口開けっ放しよ?」


「あ、いっけなーい。」



うわぁ…何か厄介の予感がするわ…。

で、さすがに吸わねえ奴ら3人もここにゃ入れとけねえって事で、とりあえず外に出た訳だ。


「男のスケベ心って深いわね…見えざるものを見たがる心理って奴?そう言うのパンツぐらいだと思ってたよ。」


「いや、見えざるものってお前…顔面の話だろ。」


「いーや、__は何にも分かってない。

君とは『散々朝まで飲んだ仲』だけど、私のすっぴん見た事無いでしょ?」チラッ 


「まぁねえけどよ…。」


「そうね…お化粧を覚えて思ったけど、家族か『余程深い仲』でない限りは少し恥ずかしいわ。」チラッ 


「あ、あはは…ココデケンカシナイデ……まぁそれぐらい女の子にとってお化粧って大事なんだよ。」


「そうよ!いい?__に分かりやすく言うなら、女の子にとってすっぴんは…


……股を開くより恥ずかしい!!」


「ドヤって何言ってんだ。」


「チョップしないでよちぢむぅ!」


「あのな、ここ廊下な。」


クワッて目えして何言ってんだお前は。シラフで。

提督はそんな俺らのやり取りを笑顔で見てたんだが、ふと後ろを見た瞬間、顔色が変わった。



「あー……皆、助けてあげた方がいいかも。」



その一言に一同が振り向いた瞬間、元カノと蒼龍は一目散に走り出した。

そこにはバケツとモップを持った駆逐の子……あの青い髪は確か……。


「五月雨ちゃん!大丈夫!?」


「あ、翔鶴さん!これからお掃除なんです。」


「重そうだね、どっちか持とっか?」


「蒼龍さん、大丈夫ですよ!お気遣いなく。」


まだあんまり話した事ねえけど、礼儀正しいまともな子だよな。

何焦ってんだあいつら?いくらなんでも大丈夫だろ……。


押し問答を繰り広げつつ、3人はこっちへ近付いてくる。

そうこうしてる内に、もっと近付いて来て…



「きゃっ!?」



バナナの皮……なんてここには存在しない。

しかし五月雨はそこで皮を踏んだかの如くバランスを崩し、俺と提督も咄嗟に五月雨の元へ飛び込んだ。


結果4人がかりで五月雨の体は支えてやれたが…手をすり抜けたバケツは、わずかなしぶきを上げつつグルグルと空中へ飛ぶ。


遠心力の恩恵により、バケツの水はこぼれない。

その回転は俺の横を素通りし、その先にいたのは位置的に一番出遅れる…。



「ぶっ!?」



づほの頭へナイスシュート。

水ごと綺麗にバケツを被り、ばしゃんと中身がこぼれた音が響いたのは、数コンマ後の事だった。



「づほ!?」


「あ、あ…ごめんなさい!!大丈夫ですか!?」


「う、うん…五月雨ちゃんもケガしてない?」


「大丈夫ですぅ!えーと!あ!手拭い使ってください!!」


渡された手拭いを手に、づほはひとまず顔を拭き始めた。

ちょうど俺に背を向ける位置だったんだが…手拭いを外した瞬間、ピタリと動きが止まる。



「…あ…今日、普通の化粧品だ…。」



ん?化粧品?

確かに白い手拭いには、わずかに黒や肌色が移っていた。

上半身はまだびっしょり。他も拭けよーと声を掛けようとしたら…


「……__、そこ動かないで。」


明らかに殺気立ったトーンの声で、づほはこう呟いた。


づほは手拭いを顔面に巻き付け、鉢巻を目深な位置まで下げる。

こちらを向かずとも、その背中はどんどん大きくなって行くように俺には見えた。

な、何だこの殺気…?


「おい、づほ…大丈夫か?」


心配になってそうポンと肩に手を置いた瞬間…


「…ケンペイ殺すべし!!すっぴん見たら!」


「誰だおめえは!?」


隙間から見えたぎょん!とした目に、思わずツッコミを入れてしまった。



「フシュ-……フシュ-…ダメ…化粧取れて化生になってるから…特に今は。」


手拭い越しの息は荒く、さながらキレた猫の如く。

おいおい…そんなに嫌か?皆ちょっと引いてるし…。


「ず、瑞鳳ちゃん、とりあえず着替えましょ?他もびしょ濡れだし…。」


「う、うん、ちゃんとタオル使わないとね…。」


元カノと蒼龍に手を掴まれ、づほはロズウェル事件っぽくよろよろと歩き出した。

アレ前見えてなくねえか…なんて思ってると、五月雨がづほに近付く。


「瑞鳳さんごめんなさい!!五月雨がタオル用意しますから…きゃっ!?」


床はびしょ濡れ。


もう一度言う、床はびしょ濡れだ。

そして五月雨は追っかける形でづほに近付いていた。


当然のようにコケる。反射的に五月雨の手が伸びる。

見事な放物線を描く腕は、その指先をとある場所に引っ掛けた。

そう、づほの後頭部、二つの結び目にしっかりと。


水分を吸い、舞う事も無く落ちる鉢巻と手拭い。

とさり、と言う音と共に俺たちの前に現れたのは……静寂だった。



「提督、__……二人とも、見たね?」



視線が交わる。

づほは言う程濃いメイクしてる訳じゃなかった。『顔立ちそのもの』は極端に変わった訳じゃない。

ただ…人体に本来存在する、ある物が無かった。全部。



<●><●>



↑この顔文字を想像して欲しい。

このようにカッと見開かれた目から、溶けたアイメイクが黒い涙として頬を伝い…


その顔に、眉毛は一本も存在しない人間を。




つまり……これだ→ ( ༎ຶД༎ຶ )




「……見いたぁわぁねぇえええええっ!!??( ༎ຶД༎ຶ )」


「落ち着けづほ!!そんなん誰でも怖えから!すっげえ怖えから!!」


「あぁん!?誰が怖いってぇ!?( ༎ຶД༎ຶ )」


「凄むからだっての!!」


俺ら相手だと上目遣いになっから余計怖え!!

づほは下からそのツラのまま、ぐいぐいと俺に詰め寄ってくる。


「はい、ストーップ。」


……と、その時突然 ( ༎ຶД༎ຶ ) モードなづほが視界から消えた。

代わりに眼前にいたのは…ティアドロップのサングラス。


「瑞鳳、いくら恥ずかしいからってキレちゃダメだよー?それ貸してあげるから。」


「提督…!」


「洋上用に持ち歩いてるからさー。瑞鳳には大きいけど、今は丁度良いんじゃないかな?」


「うう…ありがとうございます…。」


サングラスを掛けられた瞬間、づほはすごすごと大人しくなった。

あー…びっくりした……あんな剣幕でキレなくてもいいじゃんよ…。


「ふふ……眉毛整えてたら、うっかり片っぽ全部ね…。それで両方剃ったのよ…。」


「そのまま片っぽ残して描きゃ良かったのに…。」


「……うぅ。」


「ま、まぁ眉毛無いと恥ずかしいわよね…。」


「うん……鏡にマンボウや○ろいた…。」


今度はづほが段々暗くなってきた。

そ、そんなにか……不可抗力とは言え、何か悪い事した気になってくるな…。


「そ、そんな落ち込むなよ…黒いの以外は言う程変わってなかったし。」


「……ほんと?」


「本当。まだまだ気にする歳じゃねえだろ俺ら。」


「………ありがと。」


「でも瑞鳳ちゃんの気持ち分かるねー、私もすっぴんじゃ死にたくないし。」


「そうね、20歳越えると抵抗感じるもの…一度お化粧覚えちゃうとね。」


「憲兵さんもこの前ので私達の気持ち分かったでしょ?やっぱり顔も気持ちも変わるから、すっぴんに戻りたくないなーってさ。

あ、憲兵さんはまず男に戻りたくなかったかぁ。」


「あん時ゃ1秒でも早く戻りたかったっての。

大体デートとかならともかく、俺ら相手に気にすんなって。別に笑いやしねえしよ。」


……さっきのづほは怖かったけどな。

っとか思ってたら…あれ?何か皆顔色悪い?


「そ、そうだよねぇ…うん。」


「そうね…ソウイウトコロハナオッテナイノネ…。」


「すっぴんで萎えましたーとか言う関係でもねえだろ?憲兵と艦娘なんだからよ。

うちは姉貴いるし、それに翔鶴のすっぴんなら昔から何度も見てたし。」


「もう、言わないで……あ。」


「あ…?」


元カノが何かに気付いた瞬間、腰……と言うかケツに凄まじい殺気を感じた。


振り返ると、まさにヒットマンを連想させるティアドロップの黒光り。

しゃがみ込むそいつの手は、クリスチャンのお祈りの如く重ねられていたが…。



「…憲兵死すべし、慈悲は無い。」



その瞬間、ジャキンと言う幻聴と共にそいつの人指し指が立った。




『ずむっ……!!』




痛みとか、もはや覚えてねえよ。

その次の記憶は、もう医務室でしたとさ……。




「……づほ、あいつらは?」


「他の任務に行ったわよ。暇してたの私だけ。」


「…いってぇ〜……おめえなぁ、殺す気かよ…。

ビビったのは悪かったけどよ、痔主にカンチョーはねえだろ…。」


「人のすっぴんにあんなリアクションするからよ。ふーんだ。」


憲兵に暴行働いた張本人様であるこいつと言えば、まだ提督のサングラス掛けたまま。

腕組んでつーんとしたポーズ取ってるが…んのやろ、段々腹立ってきたぜ…!


「なーにカッコ付けてんだこんにゃろ。」


「あー!やだ!取らないで!」


けけけ、ヒットマン様の顔面ご開帳ってな。

あ、メイクちゃんと落としたのね…ってやっぱ眉毛ねえし。ネタにしっかり焼き付けてやる。


「うぅ…すっぴんなのに……。」


「やっぱな…別に言う程変わってねえじゃん。眉毛ねえけど。」


「うそつきー、絶対妖怪だよぉ。」


「眉毛無けりゃ誰でもなるわ。じゃあこうすりゃ良くね?」


こいつはちょっと前髪長えけど、それっぽく流してやれば上手く隠せる。

ほれ出来た、我ながら良い感じ。


「はーい、いつも通り可愛くなりましたよー、っと。

これで男捕まえ放題だな、眉毛無くても。」


「………ばーか。でもありがと。」


多少は機嫌直ったようで何よりだ。

ゔっ…!ケツに来てんなぁ……まぁ女のすっぴん見た罰かこりゃ…ん?


「…何触ってんのお前?」


「寝癖すごいよ?」


「誰のせいだよ…。」


「近くで見ると、やっぱり男の子の方がまつ毛長いよね…特に君のは。羨ましい。」


「まつ毛より迫力よこせって話だよ…職業柄、やっぱ厳つくねえとさ。」


「そっかー…なら眉毛全部剃りゅ?」


「どっからシェーバー出した!?」


「仲間だ…仲間になるんだ……!」


そこからはやいのやいのな攻防戦だったけど、づほの機嫌は大分良くなってくれたから一安心だ。

あーあ…事故でも安易にすっぴん見るもんじゃねえな…ひでえ目に遭ったぜ。


「隙あり!」


「なぁあああっ!?」



前言撤回。ひでえ眉毛になりましたとさ…麻呂。







鎮守府の中だと、俺ら憲兵隊の詰所は特異な空間らしい。


いや、別に悪い方の意味じゃねえんだ。

ただ、手っ取り早く日常から離れられる場所としてって意味。

不思議なもんで、ここへ茶をたかるついでに遊びに来る奴らもちらほらいる。


一応仕事の一環で悩み相談も受け付けてるし、基本来る者拒まずが詰所のスタンスなんだけど……。



「…この鎮守府には、渋みが足りない!」



今現在、そうバンッ!と机を叩くオレンジの着物に対しては、素直にこう思った。


何言ってんのこの子と。





第22話・有情破顔





「……飛龍。渋みも何も、お前それリプトンじゃねえの。」


「だーかーらー、お茶じゃないの!渋いおじさまがいないって話!」


「実艦の記憶は多少移ってんだろ?イマジナリー多聞丸で我慢しとけよ。」


「そりゃ多聞丸は憧れだけどさ、そうじゃないんだって…ちゃんと直接接せられる人!」


「俺らに言うなよなぁ…。」


「えー?でも聞くだけでもしてくれるんでしょ?」


「まぁそうだけどよ…お前の好みって、やっぱ『飛龍』になった影響?」


「え?」


艦娘発足当初、艦娘と連携する過程で様々な悪影響が懸念されていた。

艤装非装着時の精神や人格の汚染、体への悪影響など。その手のもんなら当然考えられる危険性だ。

結果、シリアスなそう言う側面はパス出来たらしいが…思いもよらぬ所で、艦娘化による変化があったらしい。


例えば食や異性の好みの変化だったり、夜が苦手になったり。

元カノの妹なんかは、七面鳥は名を聞くだけで発狂するぐらい嫌いになったそうな。


そう、危険要素はパス出来たものの、細かい嗜好の面で艦娘化の影響が出るとは各国も思いもよらなかった。

『飛龍』の適性が出た奴は、男の趣味が渋好みになる傾向が強いって聞いた事がある。こいつも御多分にもれずって所か。


「うーん…どうかなぁ。渋い人は昔から好きだよ!

こう、必死で出撃した後に渋いおじさまに迎えてもらえたら…もう入渠いらないぐらい癒される気がするぅ…うぇへへ。」


帰ってこい、現実へ。

妄想拗らせて春日部の5歳児みてえに笑う飛龍を見て、俺は何だか虚しい気持ちになっていた。


「飛龍の場合は、元の好みが適性が出た事で増幅されたと言う所だな。」


「憲兵長…。」


「しかし、なかなか現実は見えんものだ…飛龍、ここでは貴様の願望は叶わんぞ?

ここが若手運営のサンプルケースなのを忘れたか?」


「………だよねー。」


「ここは提督やその他職員、工廠…そして我々憲兵隊に至るまで若手で構成されている。

つまり、貴様の欲求を満たす存在はここにはいない。こればかりはどうにもならんな。」


「そう考えるとずるいよねー、男ども。

だってうちの提督はともかく、よその提督なら内心女の子たくさんで癒されるーとか思ってそうでしょ?疲れた時とか。

私だって出撃明けは辛いんだよぉ…大破した日なら尚更……。

癒されたい…こう、母港に帰った瞬間素敵なおじさまに癒されたい…多聞丸か大沢た○お的な…あ、中○貴一でもいい…。」


「提督に老け顔メイクさせます?蒼龍プロデュースで。」


「顔の系統が根本的に違うな。それに、飛龍を甘えさせたら時雨が発狂する。」


「……容易に想像付きますね。」


ふざけた話なようで、こいつのおっさん不足は切実な問題な気もしてきた。

やっぱこう、終わって帰ったら癒しって欲しいよなぁ…特にこいつら、戦場にいる訳だし。


「……はぁ、そう考えると翔鶴ちゃんほんと羨ましい。」


「あいつぅ?何でだよ?」


「憲兵さんいるもん。知ってる?あなたが来てから翔鶴ちゃんの戦果上がりっ放しなの。」


「それは提督から聞いたけどよ…。」


「健気だよぉ…この前だって、傷だらけなのに“あの人の所には絶対に行かせない!!”って敵に啖呵切ってさぁ…。」


「……………。」


「ふむ…要約すると、飛龍はおっさん成分と言うよりも、日頃の癒しが欲しいと言う事でいいな?」


「そうだね、それが素敵なおじさまだったら最高…。

最近ちょっと忙しかったからねー…。」


「体は寝るだけでも休める事はできるが、心は難しいからな。気だけ休まらん事はある。

だが病は気からは、気は病から。どちらもある程度はイコールではある。

おっさんは用意出来ないが、私なりに出来る事はあるぞ?」


「……ほんと?」




「おお〜う……。」


「ふむ、やはり背中周りだな。負荷が掛かっている。」


「そうそう…戦闘のは入渠で抜けるけど、訓練の疲れがねぇ…。」


ここのソファは、厳密にはソファベッドだ。

開いたソファに飛龍を寝かせ、眼鏡はマッサージを始めた。


「整体出来るんですか?」


「柔術を通った一環でな。人体の壊し方を知っていると言う事は、治し方も分かると言う事さ。

よし、ほぐれてきたな…。」


「憲兵長、最高だよぉ〜極楽極楽…。」


なるほど、ひとまず体を癒して、心の疲労も抜こうって魂胆か。

健全なる精神は健全なる肉体からなんて言うもんな。


そんな事を思っていると、頭の中で声がした。


“始まるでありますなぁ。”


“あきつ丸?”


“自分も受けた事があるのでありますが、ここからが地獄なのでありますよ。”


それまでは普通にマッサージをしていた眼鏡だが、おもむろに自分のストレッチを始めた。

一通り柔軟が済むと、再び手を飛龍の背中へ…。


「ほぁたぁ!!」ボキィッ!


「ちにゃっ!?」


「何やってんのあんた!?」


そこからは耳に残る嫌ーな骨の音と、あべし!とかうわらば!とかシュールな悲鳴のオンパレード。

最終的にソファに出来上がったのは、死んだ魚の如く白目を剥く飛龍だった。



「お、おお…う…。」


「ふっ…貴様はもう癒えている…。飛龍、体を起こしてみろ。」


「へ……?おー!すごい!体軽いよー!!」


「骨格の歪みから直したからな、少しは軽くなったんじゃないか?」


「うん、何か気も軽くなった気がするよ!ありがとう!!」


「おっさんはこの鎮守府にはいないが、他にも癒しようはあるものさ。

飛龍はおっさん鑑賞以外のストレス解消を上手く見つける事だな。」


「はーい。」


はー…すげえな。


提督や僚艦には出来ない艦娘のケアを。

それも憲兵隊の役目とは言われてるが、実際は出来る事なんて悩み相談ぐらいがいいとこだって思ってた。

でも眼鏡は、ボヤキの奥にある疲労感を見抜いてたって事か…実際に施術出来るスキルあってこそだけど。


……ムカつく奴けど、こう言うところは尊敬するぜ。


「癒されたねー…憲兵さん、この後ヒマ?」


「ああ、細かい仕事片付けるぐらいだけど。」


「ふふ…今日、翔鶴ちゃん出撃だったんだ。今帰ってきてる途中だって。

良かったら、母港に行ってあげて欲しいな。」


「母港に?」


「うん。それだけでいいんだよ。

憲兵長、ありがとね!じゃあまた!」


「あ…おい!」


母港…か。そう考えた時、飛龍のさっきの言葉が思い浮かぶ。



『“あの人の所には絶対に行かせない!!”って敵に啖呵切ってさぁ…。』



陸なら俺らがあいつら守ってるけど、海からのもんに対しては……。


…いや、でもそれは皆同じじゃねえか。

守ってくれてるのは、あいつだけじゃ…。



「……ひとまず行ってこい。今はそれだけで良いだろう?」


「憲兵長…。」


「翔鶴君に限らず、出迎えは誰でも嬉しいものさ。ましてや戦地から帰ってきた直後はな。

彼女達が安心して戻れるよう、この陸と日常を守る。それが我々の使命だ。


……貴様自身の結論を急ぐ事はないさ。

ただ、一人の仲間として迎えてやればいい。」


「………。」


“一度、行ってあげればいいのであります。”


“あきつ丸……。”


「……では、出迎えに行って参ります!!」


「了解した。残務は任せておけ。」


「はい!!」





母港に立つと、丁度遠くの方に影が見えていた。

ゆっくり近づいてくるのは、6人の人影…その中には、白い影もいる。


「あ!憲兵さんだ!珍しいね。」


「お疲れー。たまには出迎えでもってな。」


「ありがとう!」


まだちょっとずつだけど、こいつらともこんな挨拶するようになったんだな。

一人一人とそんなやり取りをしていて…最後に上がってきたのは、皆と同じく擦り傷だらけなあいつで。


「……怪我、大丈夫か?」


「ええ…しっかり勝ってきたわ。」


こいつが俺を『憲兵さん』って呼んだのは、最初だけだったな。

後はずっとあの頃のまま、俺の名前を呼んでた。


それでも今は憲兵と艦娘で、ただの仲間で。

何より俺は愛想尽かして、自分でこいつを振った男だ。


吐き出せる言葉は、せいぜい…。





「………『ショウノ』、お疲れさん。」


「ふふ…『リョウ』、ありがとう。」






たった一言の、労いの言葉。

それは皆と同じような、でも俺達ならではの会話だ。


役職や艦名じゃなく、本当の名前を呼ぶ瞬間。

変わり果てた関係でも、これだけは今も変わってなかった。


あいつは微笑んだまま、部隊と一緒に母屋の方へ。

ただそれだけの、何でもない挨拶だ。



「リョウちゃんお疲れー!!」


「いって!?何だよづほかよ…。」


「第二艦隊も無事帰還よ!珍しいねー、ここにいるって。」


「たまにはな。無事で何より、お疲れさん。怪我大丈夫か?」


「えへへ…大した事無いよ。」


づほもちょいちょい服破けてんじゃねえの…本当、お疲れ様だ。


迎えるって大事だなぁ…。

俺の感情はともかく、せめてこいつらがゲラゲラ笑える日常は、あちこちから支えてやろう。

改めてそんな事を思った初夏の夕暮れだった。







『随分リョウに目を掛けているのでありますな?』


「何の事だ?とんだ跳ね返り小僧だよ。」


『素直じゃないでありますなぁ。育て上げたいと顔に書いてあるでありますよ。』


「……小僧だからな。矯正してやる必要があるだけさ。」


『全く。おや、来客のようでありますな。』


「ひゃっはー!失礼するよー。

憲兵長ー!飛龍から聞いたよ、あたしも整体やってくんない?」


「…ふむ、貴様は全身を診るまでも無さそうだな。背中を向けてみろ。」


「こうかい?」


「ここが肝臓のツボだ。」


「ひでぶぅっ!?」



キョウと隼鷹殿が戯れているのを、浮き輪から出て見ております。

ふふ、あれでなかなかウブでありますなぁ…しかし自分は手を貸しませぬ。それが隼鷹殿の想いと意地を守る事でもありますから。


複雑なものはありますが、所詮自分は死んだ身。今はモラトリアムのようなものであります。

むしろ…いつかその日が来るのを願うばかり。

確かに未練もありますが、それ以上にキョウの未来を見届けたい。自分が安心して隼鷹殿に託せるまでは、恐らく成仏出来そうもありませんなぁ。


あれでふとした時に見せる顔は、同じ女である自分からしても可愛らしい。キョウもそこにムラっと来ればいいものを…。

はぁ…もう脱げばいいのに。ヘタレ女め。


これも三角関係のようなものでありましょうが、自分は故人と言う時点でもう負けなのであります。

でも、リョウは心配でありますなぁ…過去と今の板挟みは、いずれ答えを迫る日が来ましょう。

君は『片割れ』の方には、気付いていないようでありますが。


自分と違い、未来ある生者…故にこの先は、希望だけでは無い。

生きる限り、避けては通れぬもの。


…どうか君は、ゆめゆめ忘れる事無きよう頼むのでありますよ。

君を想う者たちは、どちらもまだ生きていると言う事を。


それは素晴らしく…時に残酷な事でもあるのであります。









“また『づほ』だったなぁ…私の本名、覚えてるのかな?

『ミズキ』って、一度も呼んでもらった事ないや…。


……ずるいよ、翔鶴さん。”










その日の夜、部屋に帰って一休みしてたら携帯が鳴った。

誰だ……あ、珍しいな。


『先輩、お久しぶりです。__さんから今__鎮守府にいらっしゃるとお聞きしまして。』


『また珍しいな、どうした?』


『今度演習でそちらにお伺いさせていただくので、ご挨拶に。

当日はよろしくお願い致します。』


『あー、そう言えば__に去年艦娘に転向したって聞いたな。

俺らで案内やると思うから、よろしくな。』


久々に連絡して来たのは、軍学校の時の後輩だ。

6対6のチームで面倒見てたんだけど、男女混成で、その中の一人。筋トレ好きで、ライフルの扱いも上手かったんだよな。

ちっこい割に腕っ節強くて、組手は燃えたっけなぁ…えーと、確か艦娘としての名前は…。


『艦名は“__”で良かったっけ?』


『違います!“__”です!そっちじゃ女優さんの名前ですよ。』


『そうだった、すまん。』


因みに俺と後輩の間には、ちょっと恥ずかしいエピソードもある。

伏せておきたいって言うか、お互い忘れたいエピソードだったんだが……



まさかの再現、後日ありました。








第23話・女三人寄れば心姦しく-1-







「憲兵長。今日の駐車場、俺行ってもいいですか?」


「ああ、確か貴様の後輩がいると言っていたな。」


演習組の案内は、憲兵隊の間じゃ駐車場で通じる。


大体バスで来るから、レーンに車誘導したらそのまま母屋へご案内。

面倒見てた後輩の一人だし、せっかくだから顔でも見に行こうかって訳。


「遠路遥々ご苦労様です!演習の皆様はあちらへお願い致します。」


一人一人降りてきて、あいつは何人か誘導したぐらいで出てきた。

艦娘の公的な移動は、スーツの方の制服着てる事が多いんだけど…あぁ、立派になった感あるわ。タンクか作業着のイメージばっかだったもんな。


「先輩、お久しぶりです!またお後でお話出来れば。」


「おう、久々。また後でな。」


話せるのは演習明けかな…確かあいつらはっと…ああ、当たんねえのかぁ。

せっかくだし、後で紹介してやるか。あいつらの後輩でもあるしな。




“…どんな子かちゃんと見えないなぁ…翔鶴さん、どう思う?”ガサガサ


“まだ分からないわね…リョウの事だから、きっと紹介してくれると思うわ。”ガサガサ


“クロじゃないといいね…後輩だもん、大分怪しい。いたた…イヌマキってちくちくするわね…。

あ…翔鶴さん、髪にコガネムシ。”


「へ?きゃあ!?」


“やば!リョウちゃん気付いたよ!”


“ごめんなさい!逃げましょう!”



「……何やってんのお前ら?」


「あー…そ、そう!四葉のクローバー探してたの!」


「うん!きょ、今日待機でやる事なくてさ…。」


「小学生か。暇なら丁度いいや、後で詰所来ねえ?こないだ言った後輩来てるから。」


「行くー。また連絡もらっていい?」


「了解。あ、ショウノ。」


「何かしら?」


「髪にイモムシ付いてる。」


「きゃあああっ!?取って!取って!!」





それからつつがなく時間も進み、仕事が粗方落ち着いた頃だった。



『お疲れ様です。今演習終わりまして、これから自由時間になります。』