2018-10-26 21:45:36 更新

概要

変わった指揮官とメイドであるベルファストのストーリー。


早朝、私は誰よりも早く目が覚める。


すぐに着替えをして部屋から出て、いつも通りに施設内の掃除を始める。


「おはよう、相変わらず早いわね。」


「おはようございます! いつもご苦労様です。」


仲間の皆様からのご挨拶を済ませた後は、厨房に立って朝食作り・・・


目覚めのコーヒーと紅茶を用意して、今日の朝食はどうしましょう・・・いつも通りのサンドウィッチにしましょう。



朝6時、


あの方はまだ寝ています・・・起こしに向かうのも私の日課。


「失礼します! ご主人様、お目覚めですか?」


私はいつも通りにご主人様に挨拶をする。


・・・・・・

・・・



私はメイドのベルファスト、以後お見知りおきを!


とある鎮守府で仲間と共に生活しており、その施設の長である”指揮官”の指示に従うのが私の役目です。


おっと、「指揮官」とは言い方が悪いですね、「ご主人様」と訂正いたします。


海を護り、メイドとしての役目を果たしながら生活しております。


ご主人様は私が来る前からこの鎮守府の長を務めておられたお方です、


この鎮守府に着任したからにはこの私、ベルファストはご主人様のために、誠心誠意尽くす覚悟でございます!


・・・・・・


困りました、


メイドであるこの私がこんなにも悩んでしまうとは・・・


悩みの理由、それはご主人様にあります。


メイドたるもの、ご主人様の下に就いたからにはどんな命令にも従う必要があります。


掃除や炊事に洗濯・・・買い物やご主人様の身の回りの世話など全て。


仮に女性で言う「セクハラ」を受けても、メイドである身は受け入れなければならない。


夜のお誘いにも進んで参加するのもメイドの務めです。


逆に言えば・・・「ご主人様の意見(命令)に逆らう権利が無い」のがメイドとしてのしきたり。


どんなに暴力的でも卑猥でも、下に就いた以上はご主人様に従う、それが本当のメイドなのです!



その習わしでさえも・・・ここのご主人様の態度に私は悩まされます。


いつも通り掃除をしていた時です、


「おはようベルファスト! 毎日掃除してくれてありがとうな。」


「おはようございます、ご主人様! メイドとして当然の仕事をしているだけです。」



ご主人様との会話はこの程度、余計な感情や情けなどメイドには必要ありません。



「寒いな、気温も氷点下近いし・・・君は大丈夫かい?」


「私の心配は無用です、ご主人様は早く温かいお部屋に戻って用意した朝食を召し上がって下さい!」



ご主人様は何故か頻繁に私に話しかけて来られます、会話が好きな御方なのでしょうか?



「こんなに寒いのに君一人で掃除をさせるのは申し訳ない。 よし、オレも掃除を手伝うよ!」


何とご主人様は私からモップを取り上げて掃除をし始めたではありませんか!?


「ご主人様、行けません! ここの長たるものがモップを持って掃除など!」


私は止めに入りますが、


「えっ、何で? 2人でやった方が早く終わるでしょ?」


「・・・・・・」


確かにその通りです、しかし、上官と部下・・・それを2人と同じ扱いというのは申し訳ないです、


「とにかく! モップをお返しください! 掃除は私一人で行いますので、ご主人様は早く温かい部屋にお戻りください!」


「・・・はぁ~、分かった分かった。」


必死の説得でご主人様はお部屋に戻られました。


・・・・・・


「ご主人様、昼食をお持ち致しました!」


いつもと同じ時間にご主人様の前に昼食を並べる、


「とても美味しそう・・・では、いただきます!」


そう言って、ご主人様は召し上がり始めます。


「・・・・・・」


私はご主人様の前で待機しています、


料理のお味がお気に召さなかった場合にすぐに謝り、新しい料理をお持ちする・・・


それがメイドである私の役目・・・なのですが、


「ベルファストも食べる? ほら、あ~ん。」


何とご主人様が1切れを取って私に差し出してきました。


「結構です、ご主人様がお召し上がりください。」


「いや、いつも立っていて見つめているし、本当は食べたいんでしょ? ほら、遠慮しないで!」


「・・・・・・」



どうやらご主人様は私が目の前に立っているのは物欲しそうに見ていたと誤解されていたそうです。



「ですから結構です、お味はいかがでしょうか?」


「美味いよ、だから君に勧めてるんだけど!」


「ありがとうございます、ご主人様からのお褒めの言葉だけで私は十分に満足しております。」



今日の味付けも問題なし。 ご主人様を満足させられ、安心しました。



「では、午後からの執務も頑張って下さい・・・失礼します。」


そう言って、執務室から立ち去り、午後からの掃除と出撃を始めます。


・・・・・・


出撃も無事に終わり、もう夕方・・・すぐに夕食の準備をしなければ!


休む間もなく私は厨房に立って調理を行います、


「少しくらい休んだら?」


「ベルファストは仕事熱心よ。」


皆様からのお気遣い、感謝致します。 ですが、メイドたるもの・・・誰よりも早く行動し、


ご主人様にお手間を取らせず、気分を害する事無くお仕えるのが本来の役目です!



「ご主人様、夕食をお持ち致しました。」


昼食と同じようにご主人様の前に並べていく。


「では、いただきます!」


黙々と食べていくご主人様、誤解を招かないため今回はご主人様の隣で待機しています。


「ベルファストは今夜予定ある?」


ご主人様からの夜のお誘い、でしょうか?


「この後、就寝の支度を始めますのでその後でよろしければお相手できます。」


「分かった・・・じゃあ、終わったらオレの部屋に来て。」


「・・・かしこまりました。」


夕食に使用した食器を回収して、部屋から出ます。


・・・・・・


少し体調がよろしくありません・・・寒さで体の免疫力が低下しましたか?


「・・・・・・」


もちろんそれが理由でご主人様のお誘いを断れません、免疫力が低下するのはあくまで私の体調管理不足なだけ。


「・・・失礼します。」


ご主人様の性処理を終えた後、ゆっくり部屋で体を休ませるとしましょう・・・と思ったのですが、


「そこに座って。」


何でしょう? 夜戦のお誘いでは無いのですか?


ご主人様は私の額に手を当てて、


「やっぱり、何か調子が悪い表情していたから体調が悪いのかなって思ったんだ。」


「・・・・・・」


何てこと・・・ご主人様に私の体調不良を悟られてしまいました。


「すぐに治ります、お気になさらないでください。」


咄嗟に説明するも、


「こんなに熱があって何が「すぐ治る」だよ? 既に大病だよ!」


「・・・・・・」


何を思ったのか、私をご主人様の寝床に「寝て」と指示してきました。


もちろん、逆らう権利などありません・・・素直に従います。


「布団を掛けて・・・よし、これで温かいな。」


何と、メイドであるこの私に布団を掛けてきました!?


「行けませんご主人様! メイドである私にこのようなご厚意は!」


すぐに起き上がるも、


「起きるな、寝てろ。 その様子じゃ明日の業務は休みだ。」


「・・・・・・」


「これは指揮官であるオレの命令だ、分かったな? 君は今からこの布団で眠って明日は休息する、いいね?」


「・・・かしこまりました。」


逆らう権利などない・・・それは承知の上ですが、


「のどは乾いてない? 水かお茶持って来るけど?」


「・・・結構です、お気になさらず。」


情けない、体調を崩した挙句にご主人様からの施しを受けるとは・・・


「オレは隣の部屋で休んでいるから、何かあったら呼び鈴で鳴らして。」


ご主人様は部屋から出て行きました。


「・・・・・・」


本当に変わったご主人様です、


特別頼んだ覚えはないのに、どうして私に話しかけて来るのでしょう?


どうしてメイドの私にここまで気遣ってくれるのでしょう・・・


今まで何人かの主に仕えて来た経験で、ここまで不思議なご主人様は類を見ないです。


・・・・・・


翌日、ご主人様の指示通りに部屋で休息しております。


「・・・・・・」


でも、やはり落ち着きません。


いつも通りに早朝に目が覚め、着替えも済ませ後は掃除を始め・・・いえ、休息しています。


「お~い、寝てるかベルファスト?」


扉をノックしてご主人様が部屋に入って来ました。


「!? ご、ご主人様!? 一体これは!?」


扉には鍵が掛かっていたはず・・・なのにどうして入れたのか?


「エディンバラから鍵を借りた、「食事を届けたい」と言ったらすんなり貸してくれたよ。」


「・・・・・・」



エディンバラ・・・体調が良くなったら後で説教をしましょうか。



「消化の良いお粥と桃缶を冷やして持って来た、さぁ食べな。」


お粥は仲間の誰かの調理でしょうか? 桃・・・倉庫に備蓄してありましたでしょうか?


「・・・いただきます。」


「食べろ」との命令です、素直に食べます。


「どう、美味しい?」


「・・・・・・」



味は悪くありませんが、少し塩が濃い感じは致しますが。



「これは誰が調理したのです?」


「オレだけど・・・不味かった?」


「!? ご主人様が!?」



ご主人様が作って下さったのですか・・・メイドである私のために?



「ごめん、あまり上手く作れなくて・・・不味かったら残していいからね。」


「・・・・・・」


残すなんて・・・そんな失礼な事を致しません、全て頂きます。


「おおっ? 全部食べた。 良かった。」


ご主人様が安心しました。


「じゃあもう少し休息して・・・桃はオレが食べさせてやろう。 はい、あ~ん。」


「・・・・・・」


申し訳ありませんが、私は子供ではありませんよ。


「? どうした? オレの顔に何か付いているか?」


無意識にご主人様を凝視していたようで、


「いえ、何でもありません。」


「そうか・・・ここに置いておくから、食べたいときに食べて。」


ご主人様は部屋から出て行きました。


後に調べましたが倉庫に桃は無く、ご主人様が特注で桃を手に入れていた事実を知ったのは、完治して数日後の事でした。


・・・・・・


体調も良くなり、いつもと同じ生活に戻りました。


早朝から掃除を行い、朝食の準備を。


昼になればご主人様の昼食を調理し、午後から出撃と委託と掃除を行い、


夕方になれば休む暇も無く夕食の調理を始めます。


相変わらずご主人様は私に頻繁に話しかけてきます・・・嫌では無いのですが、


「どうして私によく話しかけて来るんですか?」


「どうしてって、もしかして嫌だった?」


「いいえ、私よりも他の皆様に話しかけた方がよろしいかと・・・」


そう、何も私にではなく他の皆と会話をした方が楽しいかと、


「皆とも話しているよ、でもオレは君と話がしたいかな。」


「・・・・・・」



本当に変わったご主人様です。



・・・・・・


季節が変わり、春に入ったばかりの頃、


出撃と秘書艦を受け持ち、ご主人様との関係が良好になった時の事です。


「これを受け取って欲しい。」


そう言われて、私の前に差し出されたのは・・・指輪!!?


「これは一体、何の御冗談でしょうか?」


メイドである私に、主人に仕えるためだけに存在している私に指輪とは・・・


「君の事が好きだ。 だからこれからもオレの側で仕えて欲しいし、オレを支えて欲しいんだ。」


「・・・・・・」



女性なら喜び、愛するお方のために尽くすのでしょう・・・ですが、私はメイド。


主に仕える使用人であり、余計な感情を持ってはいけない。



「ご主人様の御好意、ベルファストには勿体ないお言葉でございます! ですが私は・・・」


「ですが・・・何? オレでは不服だった?」


「いえ!? 滅相もありません! とても感激しております、ですが私以外により魅力的な女性は


 たくさんいるはずです!」



そう、私よりも優雅で可憐な方々はたくさんいらっしゃいます、私よりもずっと・・・



「だから、オレは君が好きなんだ。 この時位は「メイド」としてではなく「1人の女性」として


 判断して欲しい。」


「・・・・・・」



1人の女性、ですか。



「もう一度聞く、オレの専属艦になってくれないか?」


ご主人様が改めて私に指輪を出そうとした直後、


近海に敵の奇襲攻撃が起きたとの事、


「直ちに迎撃して参ります! ご主人様はこの場所で待機してください!」


すぐに工廠場へと赴き、艤装を装着して近海に向かいます。


・・・・・・


敵は既に浜辺へと上陸しており、海水浴の人たちに襲い掛かろうとしている所でした、


「応戦開始! 人々を救出してください!」


人々を全員避難させ、私たちは応戦を開始しますが、


「くっ・・・敵の猛攻が激しいです!」


敵の皆様の攻撃は苛烈、私たちは苦戦していました。


「一度下がって応援を呼びましょう! 皆さま、私が時間を稼ぎます! 早く離脱してください!」


私の指示に仲間が下がり、私は応戦を続けますが、


「ああっ!? ・・・くっ、油断しました。」


片方の艤装が損壊、攻撃力は半減しました。


「・・・・・・」


敵の皆様が徐々に私に詰め寄ってきます、


「まだです、まだ私は戦えます!」


残りの主砲を向けて応戦をしますが・・・


「・・・ふぅ~、どうやら私はここまでのようですね。」


敵の主力の主砲が私に向けて突き付けられる。


「・・・・・・」



私は十分役立てましたよね? 無事に人々を避難させることができ、仲間の皆様も離脱させました。


ですが・・・ご主人様、あなたの元へと戻ることは出来ないですね。



「・・・・・・」



さようなら、ご主人様。 私の代わりにエディンバラか別の皆様に秘書艦を・・・


敵の主砲が音を立てて砲撃、そして私の体に着弾・・・



「・・・?」


まだ着弾していない・・・どうして?


「!? ご、ご主人様!!?」


何と着弾を受けたのは私ではなく・・・ご主人様!?


「応戦開始! 見方を援護しつつ敵を殲滅せよ!!」


仲間が応援を投入したことで、形勢逆転となり私たちの勝利となりましたが、


「ご主人様・・・ご主人様!! しっかりしてください!!」


ご主人様の胸から大量の血が流れ続け、


「すぐに、すぐに手当てを!」


私は仲間に必死に訴えた所で・・・


「オレは大丈夫だ・・・心配するなベルファスト。」


微かにご主人様の声がしました。


「ご主人様!? どうして、どうしてこんな事を!?」


何故私を庇ったのですか、その質問にご主人様は・・・


「何故って、愛する女を守りたかっただけだけど?」


「・・・・・・」



愛する女? 私の事ですか!?



「ははは、守ることは出来たけど肝心のオレがこのザマじゃあ意味無いね。」


「・・・・・・」


「意識がかすれて行く・・・オレはもう駄目、か。」


「・・・・・・」


「なぁ、ベルファスト・・・君の気持ちを正直に教えて欲しい。 あの時の・・・オレのプロポーズ。


 君にとってどう感じた? 嫌だったかい?」


「・・・・・・」



そんな事、決まっているじゃないですか!



「心の底から嬉しかったです、嬉しくて嬉しくて涙が出る程に。」


「・・・・・・」


「主の使用人であるこの私に、ここまで愛してもらえて・・・とても幸せでした!」


「そうか、良かった。」


そう言って、ご主人様は目を閉じてしまった。


「!? ご主人様! ご主人様!! 目を開けてください!! ご主人様!!」


私は何度も、何度も声を掛けました・・・しかし、二度と目を開ける事はありませんでした。


・・・・・・


私のせいです・・・全て、私のせい。


あの時、ご主人様の言う通り、「1人の女性」として最適な判断をしていれば、こんな事にはならなかったはずです、


もしくは自身の葛藤に負けず素直に「お断りします」と言えばよかったのです。


それが出来ず、結果ご主人様はあのような行動を起こしてしまったのです・・・


この施設の長が亡くなった事で仲間の皆様は新たな鎮守府へと異動が決まりました。


しかし、私は・・・


「ベルファスト、あなた正気なの!?」


「ここに残るって、この鎮守府は近いうちに撤去されるのよ!」


仲間の皆様が何度も私を説得しようとしましたが、


「私はここに残ります、ご主人様と一緒に過ごしたこの場所から離れる気はありません。」


双方の言い合いが続き、最終的に仲間たちも諦め私は今もこの施設でご主人様の思い出と共に


在籍しております。


・・・・・・

・・・



早朝、いつものように目が覚める。


すぐに着替えをして施設内の掃除を始めます。


「失礼します、ご主人様。」


ご主人様に挨拶をするのも日課です。


「・・・おはようございます、ご主人様。」


ご主人様の写真が入った写真立てにいつものように挨拶を済ませ、掃除の続きを行う。



・・・もう1か月が経ちましたか、早いですね。


今、この施設にいるのは私、ベルファスト1人のみです。


本営によると、この鎮守府は数か月後に撤去されるとの事。


私は構いません、その時はご主人様の思い出と共に新たな場所へと旅立つだけです。


さて、ここの掃除は済みました・・・では、今度は2階の掃除を始めますか・・・


そう言って、ベルファストは今日もメイドとして鎮守府内の掃除を行う。


・・・・・・


しばらくして、この鎮守府に人がやってきました。


・・・いえ、実を言うと人がやって来たのは今日が初めてではありません。


私を追い出したいのか、何人かの方々が立ち退き指示を求めてきました。


しかし、私は何度も拒否しています。


鎮守府が撤去されるまで断固として私はここを離れるつもりはありませんから。


ですが、最後に来た御方は何て言うのでしょう・・・前にこの鎮守府にいたご主人様と似た様な御方だったのです。


私が朝、いつものように掃除をしていた時の事、


「ここには君しかいないの?」


私に質問をしてきて、


「・・・見て分かりませんか?」


冷たく言葉を返して、掃除を始めるベルファスト。


「そうだね、ごめん。」


素直に謝って、その場を去る。



私が頑なに拒否すれば、諦めて去って行くはずですが、この御方は去るどころかこの鎮守府に居座ってしまいました。



「何故この場所に留まるんですか?」


「・・・・・・」


「何度も言いますが、私を説得しても無駄です。この場から離れる気はありません!」


「・・・・・・」


「それに、貴方は私の上官でもご主人様でもありません。 勝手に居座ると言うのは不法侵入と同じですよ?」


「・・・・・・」


ベルファストの言い分に相手は何も答えない。


「私はメイドです、主と決めた相手に尽くすのが役目。ですが貴方ではありません、この場に留まっていても


 食事を出す気もありませんし寝具も支給しません・・・すぐに出て行ってください。」


彼女の言葉に、


「別にいいよ、オレが勝手に用意するから。」


彼は留まる旨を改めて答える。


「それに、オレは「ある人」から頼まれているんだ。 それが達成するまでこの場所から出る気は無いから。」


そう言って、立ち上がると部屋から出て行く。


「ある人? ・・・どうせ本営からの私への立ち退き命令でしょう?」


以降、彼女は彼をなるべく干渉しないように、生活を続ける。


・・・・・・


「なるべく干渉しない」、そのつもりでした。


しかし、それには無理がありました。


何て説明すればいいのでしょう・・・私が1日に行う作業とあの御方の行動がほぼ被ってしまうのです。


「・・・何をしているのでしょうか?」


私が朝食を作ろうかと思い、厨房に向かうと、男が何やら作業をしていました。


「何って、自分の朝食を調理しているんだが?」


「今から私の朝食を作ろうとしているんですが?」


「悪いね、後5分程で終わるから・・・少し待ってくれ。」


「・・・・・・」


「待て」と命令される筋合いは無いのですが、


「・・・きちんと食器も調味料も全て元の位置へ片づけてください!」


私は厨房から出ようとしました、


「君が良ければ君の分も作るけど?」


その人の質問に、


「結構です! 私の朝食は自分で作ります!」


そう言って、ベルファストは厨房から出て行く。



5分後、


ぴったり5分で厨房を去った男性、食器と調味料は元の位置に綺麗に戻してありました。


・・・・・・


「あら? ・・・おかしい、モップが1つ足りない?」


掃除をしようと物置からモップを取り出そうとした所、1つ少ない事に気が付きました。


「・・・もしかして!」


ベルファストは何かに気付き、施設内を捜索、


「・・・何をしているのでしょうか?」


「何って、掃除しているんだけど?」


やはり、男性がモップを持って床掃除をしていました。


「許可も無く勝手に掃除道具を持って行かないで欲しいのですが!」


「許可も何も、道具は君の所有ではないだろ?」


「・・・・・・」


確かに、私個人の所有ではありません。 ですが・・・


「掃除は私が致しますので、モップをお渡しください!」


モップを渡すように言いますが、


「オレがやってるから君は窓拭きでもしたら?」


「なっ!? 私に命令をしないで! 命令をしていいのはご主人様だけです!」


「はいはい、だったら早く違う場所の掃除をしなさい! 口ばかり開いていても時間が過ぎるだけだよ?」


「・・・・・・」


確かにその通りです、ですがこの男性に言われると何だか腹が立ちます。


「「なるべく干渉しない」と自分から言っておいて、結構オレに話しかけるけど・・・もしかして、


 オレに気があるのか?」


「!? あ、あるわけがありません! 勝手な行動を慎んでほしいと言っているだけです!」


「ふ~ん、そうなんだ。」


「・・・・・・」


まるで、私の全てを見据えているかのような視線に、


「とにかく! 何か使用する時は・・・わ、私に一言言ってからにしてください!!」


そう言って、ベルファストは去る。


「一言って・・・何だ。 彼女も結構話したがり屋なんだね。」


男性は何故かにやけながら掃除を続ける。


・・・・・・


深夜、


「おやすみなさいませ、ご主人様。」


いつもと同じ、ご主人様の写真立てに挨拶をして寝室に向かいます。


「・・・・・・」


寝室に戻ると、いつもと違った光景が・・・


「何故あなたがこの部屋にいるんですか?」


私の寝室に事もあろうにあの男性が入室していて、


「いつも1人で寝ているのか? 寂しくないのか?」


「寂しくありません、早く出て行ってください!」


「・・・・・・」


男はベルファストをじっと見つめる。


「何でしょうか? 私の顔に何かついていますか?」


「・・・・・・」


「すぐに出て行ってください、私の許可も無く勝手に部屋に入るのは紳士としてどうなのでしょうか?」


「・・・・・・」


「紳士として、ではありませんね。女性の部屋に無断で入る行為は失礼だとは思わないんですか?」


ベルファストの言い分に、男は何も答えない。


「とにかく、早く出て行ってください! 明日も早いので、すぐに床に着きたいのです!」


ベルファストの言い分に男はようやく部屋から出ようとする。


「嘘だな。」


出る前に男が口を開いた。


「? 何ですって?」


「君は嘘をついている。」


「・・・その根拠は何でしょう?」


一向に部屋から出ない男に彼女は苛立ちを募らせるが、


「君の瞳は正直だ。 瞳の下側に筋が2,3本浮いてるぞ。」


「・・・・・・」


ベルファストは思わず鏡で自身を見つめる。


「少なくても今日で2,3回は泣いているね、君は。」


「・・・・・・」


「こんな施設でただ1人の生活、訪問する人間は全員立ち退き目的・・・精神も肉体も本当は限界なんじゃないの?」


「・・・・・・」


「それでも、表に出さないのは流石はメイドだけど、君の瞳は嘘をつかない。


 前の主人が亡くなった事を今でも悔やんでいるんだろ?」


「・・・・・・」


「まぁ、これ以上言った所で君から話すなんて事は無いだろうから・・・君が落ち着いて話したくなったら


 いつでも話してくれて構わないから。」


そう言って、男は部屋から出て行く。


「くっ、だから何だと言うのですか? 私だって泣きたい時はあります!」


そう言いつつ、明かりを消して床に着く。


「・・・ご主人様。」


ただ一言、「ご主人様」と言って・・・


・・・・・・


「ゴホゴホッ!」


朝から体調が良くありません、風邪でも引いたのでしょうか?


「・・・・・・」


だからと言って、毎日の掃除をやらないわけには行きません。


「掃除をしていれば自然に治るでしょう。」


その時の私は軽く考えていました。



「ゴホゴホッ! ううっ。」


時間が経つにつれて咳が多くなり、熱も上がって来た。


「・・・・・・」


ベルファストは近くの壁に寄りかかる。


「はぁ・・・はぁ・・・」


そのまま腰掛けて休み始める。


「ん、どうした? 地面に座り込んで?」


男がベルファストに近づく。


「!? 熱があるじゃないか、すぐに部屋に・・・」


そう言って、男はベルファストを担ごうとする、


「!? 私に触らないでください!」


男の行動を拒否するベルファスト、


「何だよ、君を担いで部屋に連れて行くだけだ・・・別にやましい事じゃないだろう?」


男は説明するが、


「私は大丈夫です・・・ですから放って置いてください。」 


「それのどこが大丈夫なんだ? 咳き込んで熱もあって意識を失いそうじゃないか?」


「ですから、私は大丈夫。 お願いですから・・・私の事は、構わないでください。」


「・・・・・・」


「ううっ・・・ゴホゴホッ!」


「はぁ~、やれやれ。」


男は彼女の言い分などお構いなしに担いだ。


「!? 止めて、下ろして!」


抵抗するが、弱り切った体ではとても叫ぶことしかできない。


「部屋に連れて行くだけだ、少し大人しくしていな。」


そう言って、男は彼女を部屋に連れて行った。


・・・・・・


「氷枕をセットして、それから汗拭き用タオルを用意してと。」


ベルファストが寝ている間、男は側で看病する準備をしている。


「新しい着替えに、桃とミカンの缶詰も用意して・・・」


「・・・・・・」


男をじっと見つめるベルファスト。


「? 何だ、起きていたのか。」


彼女の視線に気づくが、すぐにそっぽを向く。


「・・・別にそんなに嫌わなくても。」


男は「はぁ~」とため息をつく。


「嫌っているわけではありません、私の事は放って置いて欲しいだけです。」


ベルファストは口を開く。


「私に情けなど無用です・・・それなのに、どうしてあなたは私にここまで気遣うのですか?」


「・・・・・・」


「別に頼んだわけでも無いのに・・・どうして、余計なおせっかいをするのですか?」


「う~ん、どうしてと言われてもな・・・理由なんてない、目の前で倒れてたから助けただけなんだけど?」


「・・・・・・」


「それに君こそどうしてそんなに心を閉ざしているんだ? 何か男に対して嫌な事でもあったのか?」


男の質問に、


「私がある御方に情を持ったことで、その方を死なせる事になったからです!」


ベルファストは徐々に説明する。


・・・・・・



「そうか、そんな事があったのか。」


男は納得して、


「もう嫌なのです、私に情を持った方が不幸になる光景など、見たくはありません。」


「・・・・・・」


「ですから、貴方も早く・・・ここから出て行ってください。 私に余計なおせっかいを


 すれば貴方にもいずれ不幸が訪れます。」


「そうか? そう言うものかなぁ。」


「お願いします、私の事は放って置いて早くここから・・・出て行ってください。」


ベルファストは出て行くように願うが、


「悪いけど、オレは「ある人」から頼まれてここに来たんだ、それを達成するまでここにいる。」


「・・・その「ある人」と一体誰なのですか?」


「・・・それは。」


男が答えようとした、その時、


「? 何か焦げ臭い?」


先ほどまで臭わなかったが、徐々に焦げ臭い臭いが強くなっていく。


「・・・・・・」


男は部屋の扉を開けると、


「! 火事か、一体どうして?」


施設内の突然の火事、火の手は急速に周り全焼する手前まで来ていた。


「くっ・・・彼女を連れて脱出しなければ!」


そう言って、寝ている彼女を担いで部屋から出る。


「なっ!? どうして、どうしていきなり火事など!」


答えを知る間もなく2人は施設内から脱出した。


・・・・・・


施設から抜け出した2人、


「・・・・・・」


抜け出した際に数人の人間が逃げていく光景を見て、


「立ち退き屋の仕業か。」


一向に出て行かない彼女に対し、遂に強硬手段を取ったようだ。


「・・・・・・」


ベルファストは燃え盛る鎮守府を凝視する。


「ほら、これだけは持って来ておいた。」


男性が持っていた物、それは、彼女がいつも大切にしていた写真立て。


「!? いつの間にこれを?」


「さっき逃げる際に寄り道した。」


「・・・・・・」


「毎日、写真立てに朝、昼、夜に必ず挨拶をするんだ、とても大切な人だったんだろう?」


「・・・・・・」


ベルファストは何も言わず顔を背ける。


「・・・実を言うと、オレに頼んできた「ある人」とは、この人なんだけどね。」


「!? どう言う事ですか?」


彼女は再び男の方を見る、


「まぁ、ここでは何だからまずは、泊まれる場所を探そう。」


「・・・・・・」


ベルファストは自身の足で立ち上がり、


「体調は悪いですが、自分で歩けます。」


そう言って、宿を求めて歩き始める2人。


・・・・・・


しばらく歩き続け、


「ここでいいかい?」


簡易な宿泊施設を見つけ、


「私に変な行為をしなければ、同じ部屋で構いません。」


と、彼女の許可を貰い2人で1部屋の寝室を借りた。



「じゃあ、どこから話そうかな。」


男は座って自身の目的を話す。


「実はオレとその写真に写っている人間とは幼馴染でね。」


「・・・・・・」


「最近になって「オレに好きな女が出来た!」って言っていたよ。」


「・・・・・・」



好きな女性と言うのは、私の事でしょうか?



「「話はしてくれるけど相手が話に乗ってくれない事」もオレに言ってた。」


「・・・・・・」


「しばらくして、いきなりあいつから連絡があって言って来たんだ。」


「・・・・・・」


「「オレは末期の癌だ、もう余命1か月も無い」と。」


「!?」


「「オレが死ぬ前に彼女にプロポーズしたい、そして彼女のために死にたい」とも言っていた。」


「・・・・・・」


「君からあいつの最後を聞かされた時は「ああ、あいつは自分が望んだ事をやり遂げたんだ」と思った。」


「・・・・・・」


「余命宣告されたのも関わらず「愛した女を守れた事」があいつにとって幸せだったに違いないね。」


「・・・・・・」


「そして、事前に「もしオレが死んだときはオレの代わりに彼女を幸せにして欲しい」と頼まれたんだ。」


「・・・・・・」


ベルファストは理解するが、それでも、


「ですが、私はあの御方のご期待に答えられませんでした。」


「・・・・・・」


「素直に1人の女性としてお受けしていれば良かったですし、もしくはメイドとして素直にお断りしていれば、


 ご主人様は死ぬことは無かったのです!」


「・・・・・・」


「余命宣告されていたとしても、結果的に私が死なせてしまった事に変わりありません。」


そう言って、ベルファストは俯く、


「君のせいじゃない、それは確かだよ。」


「・・・・・・」


「あいつは君を好きになれたことで元気になれたんだよ。」


「・・・・・・」


「余命宣告され、いつ死ぬか分からない状況の中、毎日が苦痛だったあいつにとって、君の存在は


 希望そのものだったんだ。」


「・・・・・・」


「だから、あいつが死んだ時は本当に残念でならないけど、決して君が悪いわけじゃない、そこは分かって欲しいな。」


「・・・・・・」


男の言葉に、ベルファストは静かに涙を流す。


・・・・・・


翌日、


「これからどうするんだ?」


男の言葉に、


「この写真立てを持って、仲間がいる鎮守府に向かおうと思っています。」


「そうか。」


「・・・・・・」


男の前でベルファストは深々と礼をして、


「頼まれたとはいえ、貴方は私を見守ってくれていました。 私が倒れた時も、貴方は躊躇いも無く


 私を気遣ってくれて、今更ですが貴方に対して感謝の気持ちしかありません。」


「そう、まぁ気にするな。」


「本当に、本当にありがとうございました。 ベルファスト、貴方の恩は決して忘れません!」


そう言って、仲間がいるであろう鎮守府へと歩を進めるベルファスト。


「今度こそ、元気でやれよ!」


男も最後に挨拶をしてその場から離れる。


・・・・・・

・・・



「鎮守府が満員、ですか? ・・・分かりました。」


着任予定だった鎮守府の人数がいっぱいで、代わりにもう1つの鎮守府に着任せよとの指示を受ける。


「まぁ、私としてどちらでも構いませんが・・・」


彼女はもう1つの鎮守府へと目指す。



「ベルファスト、今日からこの鎮守府で誠心誠意尽くす気で参ります!」


鎮守府に着き、仲間との再会、指揮官に挨拶するため、執務室に向かうベルファスト。


「失礼します。」


執務室に入るも、肝心の指揮官はいない。


「もう少ししたら来るわ、それまで休憩していて。」


仲間の言葉にベルファストは椅子に腰かける。


・・・・・・


「鎮守府へようこそ。」


指揮官が執務室に入って来て、彼女は挨拶をする。


「あなたが私のご主人様ですね? 私はベルファスト、今日からご主人様のために誠心誠意尽くすつもりでございます!」


そう言って、ベルファストは顔を上げる、


「!? 貴方は!?」


彼女は驚く、


「よろしく・・・と言ってもさっき会ったばかりだけどね?」


目の前の指揮官、それは昨日まで自身を見守ってくれていた男性だった。


「指揮官、だったのですね。」


「うん、あいつとは同僚。 じゃないと赤の他人の頼みなんか聞かないだろう?」


指揮官は笑いだす、


「・・・・・・」


彼女は「ふっ」っと笑みをこぼし、再び改め、


「貴方が私のご主人様ですね、私はベルファスト。 今日からご主人様のために誠心誠意尽くす所存でございます!!」


こうして鎮守府にベルファストが着任した。


・・・・・・


それからと言うもの、


「ご主人様、また勝手に道具を持ち出して掃除を・・・私がやりますのでご主人様は書類整理をしてください!」


「そんなもの終わった! 暇だったから手伝っているだけなのに、文句あるか?」


毎日2人が言い合いになっている光景が度々目撃される。


「また指揮官とベルファストが喧嘩をしているわ。」


「指揮官に物申すベルファストも中々新鮮ね。」


仲間たちからすれば2人が喧嘩しているように見えるらしいが、


「ほら、君はぞうきんを持って窓を拭いてくれ。」


「はぁ~、貴方は前のご主人様と同じ頑固ですね。」


結局どちらかの言い分に従う、決して喧嘩をしているわけではないようだ。



そして、月日が流れ・・・


「ほら、ベルファスト。」


指揮官が彼女に指輪を差し出す。


「君が良ければ、オレの専属艦になってほしい。 まだあいつの事を想っているなら無理にとは言わないけど。」


指揮官の言葉に、


「いえ、前のご主人様と言い貴方様と言い、メイドである・・・いいえ、従者である私にこのような情けを掛けて


 貰うのはいささか抵抗があります。」


「・・・・・・」


「ですが、私も1人の女性です・・・ご主人様の御好意、喜んでお受け致します!」


ベルファストは指輪を受け取った。


こうして、彼女は指揮官の専属艦となった。


・・・・・・

・・・



ベルファストは昔の鎮守府に赴いていた。


「・・・・・・」


しかし、立ち退き屋の強硬手段により放火され、今は跡形もなく焼け焦げてしまっているが・・・


「・・・ご主人様。」


彼女は昔執務室だった場所に花を添え、


「ベルファスト、貴方の下に仕えた事、今でも誇りに思っています。」


掌を合わせ、黙祷をする。


「ご主人様の事、私は一生忘れません。 そして、貴方の願い通りに私はあの方の専属艦として


 これからも支えていく所存です!」


そう言って、ベルファストは立ち上がり、


「来年、またここに来ます。 それまで、さようなら。」


彼女は元来た道を戻る。



「あいつにお別れを言った?」


指揮官が少し離れた場所で待っていた。


「はい、でも来年にまたここに来るつもりです。」


「そうか、それがいい。あいつもそれを望んでいるはずだからな。」


指揮官は手を差し出し、


「では、行こうか。」


「・・・はい、ご主人様。」


ベルファストは指揮官の手を取り、これからの未来に向けて歩んで行った。










「ベルファストの心境」 終












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