2018-10-01 19:57:21 更新

概要

少女×アンドロイド


「さぁ踊りましょう♪」




白を基調としたクラシック調のドレスを纏った少女は私の右手を取り、くいっと引き上げようと


力が込められたのが感じられた。





「曖昧。『踊る』とは『ダンス』とも置き換えられる物でしょうか広く定義をすれば


『踊る』とは『舞う』とも捉えられ、また『舞う』という行為には-」






モノアイカメラの視界に広がる『踊る』という行為に関連付けられた


語句、同意語が次々と表示される


私は彼女の言う『踊る』を明確にすべくそれらを


羅列する他、行動原理が不明でいた。




次いで、彼女の柔らかな左手が無機物で構成された


私の左の指を握る。





「『踊る』は『踊る』よ?わからないなら教えて上げるわ!さぁ立って!」






私よりも頭二つ分ほど小さな彼女は


今日が誕生日会だと言うのに浮かない顔をしている。


『誕生日会』は本来、対象の生物が生誕した喜ばしい日であるとの情報もある。


今日という日のために親戚中から縁近しい方々がお嬢様のお祝いの為にプレゼントを置きに来たものの


たくさんのぬいぐるみ、最新のゲーム機、自転車や


、通信端末機


人間のお手伝いやメイド型アンドロイド達が四苦八苦するほどの部屋から抜けだし、執事型アンドロイドである私の充電ドックが施設されている地下へと


潜り込んできた。





目の前で『踊る』をオーダーしているお嬢様は


贈り物をもらっているときは年相応の笑顔を浮かていたものの、どこか疲れているように見える。


最新タイプの執事型アンドロイドであれば、非接触的にバイタルチェックも可能だが、


旧タイプである私には接触する事でしかその状態を限られた項目でのみ確認だけしか行えなかった。



ただ10年以上、お嬢様の傍でお着きの仕事の経験上


過剰に気丈に振る舞う彼女は精神的に不安定でいる事が多い。





「お誕生日、おめでとうございます。」





今日で二度目の祝詞を喉に備え付けられたスピーカーで発する。





疲れた笑顔を張り付けた表情が一瞬曇りを帯びた。





「・・・やめて。」



「祝わないで」



「生まれてきてごめんなさい」




笑顔は更に崩れ、目元はすでに垂れ下がり


口元も僅かに震えている。




本日をもって17歳を迎える彼女にとって


今日という日は両親を亡くした日でもある。



*****************************



今日はとても良い日。



ママとパパはお仕事だって言って今朝方、二人とも出て行っちゃったけどそれは嘘!

だってパパはいつもアタシのお誕生日の日には会社にお休みをとって朝一でおもちゃさんへプレゼントを取りに行ってくれて、ママはお菓子屋さんへケーキを買いにいってくれるんですもの!

そうしてお昼にはこっそり帰ってきてアタシを喜ばせるんですって。



ケビンが言ってたもの。



アタシがまだ今よりもうんと小さい頃の誕生日に


パパが家のお手伝いや、兄弟のいないアタシのお話相手のために買ってきてくれた彼。


パパは『どこも売り切れで中古の彼しか買えなかった』って言ってたけど、アタシはそんなの関係無かった。



本当はもっと可愛いフリルがたくさんついた


ドールタイプの子を買ってこようとしたらしいけど


アタシにはまるで彼が絵本に出てくる騎士様のように見えたの。



黒い鎧をシャープにさせたような黒いロボット。


ただ贅沢を言えば、頭は『人型』の方が良かったかも。



だって鎧兜にモノアイ(単眼)だけじゃ表情が読めないもの。



ケビンだって最初はママとパパのお誕生日の計画だってアタシに教えるつもりは無かったのよ?

仕方ないじゃない、昨日の夜から二人とも


家にいるときは上の空だったし、ママはお皿を何枚も


割っちゃうし、パパなんか会社に送るはずのメールを削除しちゃったり・・・普段絶対しないようなミスをしていたんだもの。



二人の事だから、私のお守りをしているケビンにだって絶対何かお話しているに決まっている。



だから聞いてみることにしたの。



ケビンはいつもアタシが寝る前に必ず


寝室で寝間着に着替えさせてくれるからそのときに


作戦を実行したわ、やることは簡単!

パパへの呼び名を『****(蔑称)』って呼ぶように


設定変更するぞー!って脅したら簡単に教えたわ。



ケビンの言ってる事は難しかったけどやっぱり


パパを不愉快にさせることはなにが何でも回避したかったみたいね!

ママとパパが帰ってきたら


精一杯、良い子を演じてあげるんだから!

アタシってなんてお利口さんなんでしょう!







でも、この日、パパとママは帰ってくることは


無かった。











*****************************




自分の生誕を祝う日に、親を亡くすという



人間にとってどのような感情が渦巻くのだろうか。



私は、アンドロイドである私にはとても理解が及ばない。



彼女が誕生日に悲しむ姿を重ねてきた年齢の分


記憶しているが、今年は異常なまでに取り乱している


お嬢様になんと声を掛ければ良いのか。




「お嬢様。」




どう対処すべきかシステムライブラリを検索しても


外部通信網へ接続しネットワークでシチュエーションごとの対応方法がヒットしても表現が曖昧で実行に移行するには情報が不足していた。



では、私はどうすべきか。



旦那様と奥様はどうしていたか。



記憶領域の中の一番、記録日時が古い動画を


再生してみることにした。



私が今までこの家で見てきた、家族のありかた


母親としての奥様の、父親としての旦那様の


二人のお嬢様に対してどのように接していたか



彼女が花瓶を割ってしまった時は、奥様は酷く激昂したものの、怪我が無いかをくまなく確かめ


その後-



彼女が、ジュニアスクールのスポーツ大会の


徒競走で一位を獲得したとき旦那様はとても喜び


その後-




お二人が交通事故で亡くなられたとき


お嬢様は朝も夜も泣き続け


そして彼女が私に求めてきたもの-




私は彼女の細い体をそっと抱き寄せた。



奥様は激怒したものの彼女の身に傷が無いことに安堵し、『抱きしめた』。


旦那様はまるで自分の事のように喜びを『抱きしめる』ことで表現していた。



そしてあの日、泣きじゃくる彼女が私に『抱きしめる』ことを望んできた。



それに応じると私の胸元に顔を埋めて


肩を震わせ静かにすすり泣いた、燕尾服の胸元に


かすかな湿りっけを感じた、彼女の涙であることは


間違いない。



「お嬢様、私は機械です。」



「いかに科学技術が進化し、模倣した疑似人格を得ようとも」



「私たちは貴方たち人間のように創造する事も、


思いつくことも出来ません。」



「下された命令を実行する事が我々アンドロイドの


唯一の役割。」



全て二進数で作られた思考でしかない私という自己ではあるものの、彼女を見ていると


言葉に出来ない『不快感』を覚える。



瞬間的に制御プログラムやありとあらゆるシステム系統にスキャンを走らせる。



しかしエラーを警告している箇所は見受けられず


この『不快感』にも似た正体不明なエラーを無視する事でしか対処方法がみつからなかった。



「じゃあ」



私の胸から彼女は顔を離した。


その顔は、涙と鼻水といった体液でまみれていた。



潤んでいる両の蒼い瞳は私のモノアイをジッと見つめている。



こんな無機質な体で心臓の音もしない私が抱きしめて良いものか。


これが正しいのか間違っているのか判断が出来ない。



だから





「お嬢様、私からプレゼントがあります。」




私は、機構むき出しの右の手のひらで


奥様ゆずりのブロンドの長い髪をゆっくりと撫でた。



かつて奥様がしたように。



キョトンとした顔で、私の顔を見上げる彼女。




「私はー」






***************



「お疲れさま!」



言われて振り返ると、そこにはお坊ちゃまが


いらっしゃいました。



お母様と似て活動的な幼子だった彼も今では


すっかり立派な紳士となりました。



私は屈んでいた体を起こすと、指についた土を払い


彼に向き合いました。




「これ。」



彼の右手に視線を向けると、そこには


『お嬢様』いえ『奥様』が好きだった花束が


握られていました。




「俺の柄じゃないんだけどな。母様が好きだったし


せめて命日ぐらいは、な?」




もし、私が人間であればクスッと笑ったりするのでしょうか。



幼少の頃から変わらないぶっきらぼうな優しさは変わらずそこに健在しています。




「きっと、奥様もお喜びなるでしょう。ありがとうございます。おぼっちゃま。」




彼から花束を受け取ると、突如受け取った左手の


手首を掴まれた。




「どうかされましたか?」




ふと彼の顔を覗くとその目はまっすぐ私の一つ目を


射抜いてました。




「なぁケビン。」




「もうやめようぜ?」




さらにぐっと力が加わるのを、古びたセンサが検知しました。




「やめる、とは?」




指示内容が曖昧なため聞き返しますが


しばらく返事は返ってきませんでした。




「だから!!もう母様の墓の面倒なんか見なくても


良いって言ってるんだよ!!」




・・・お坊ちゃまはやはりお優しい方ですね。



ですが




「申し訳ありません。その命令は受け付けることが出来ません。」




「なん・・・でだよ・・・!」



「もう良いだろ!お前はもう良いんだ!もう充分がんばってくれたよ!」



「なぁ、こんなこと止めて家に来いよ。・・・な?」




手首を掴んでいた手を今度は私の両肩をがっしりと


掴んでいました。




「母様と生前、なにを契約していたかわからないけど・・・そんなもういない人間のコマンドなんて無効だろ?な?」




「もう、四六時中、こんな丘の上にある墓で


掃除なんてしなくて良いし、立ちっぱなしで・・・」



「雨に打たれなくても良いんだ!お前はもう休んでいいんだよ。」




ゆっくりと彼の手を引き離しました。




「お坊ちゃま、ご心配いただきありがとうございます。」



「ですが、私は人ではありません」



「疲れも痛みもありません、もちろん病気にだって」



すっかり、関節が磨耗しきって可動領域の狭くなった


腕の関節は錆が浮き上がり、まともに動かすことも


困難にはなっていましたが、早い動作でなければ支障はありません。



彼の手を出来るだけ優しくひきはがしました。



「お坊ちゃま、私は何十年も前に貴方のお母様、


いえ」



「『お嬢様』にプレゼントを送りました。」



風と雨と雪にまみれた黒いボディのところどころは


いくつもの亀裂が刻み込まれてしまっている。



そして今、彼の顔を捉えているモノアイのカメラ自体もお嬢様が亡くなってお墓に埋められてから全くメンテナンスを加えてないせいか、チラツきが年々激しくなっている。



それでも大まかな形は把握できるため酷い傷害とは認知しなかった。



『いつまでも貴女の傍でおつかえします』



『私たちアンドロイドはメンテナンスを加え続けていけば何世紀という単位で稼働する事は可能です』



『ですが、この身はただ一つだけ、お嬢様と出会った瞬間の身はこの一つだけです。』



『どうかこの身が壊れ、稼働不能となるその時まで


貴女を見守り、貴女の幸せのために役立たせてくださいませ。』




ーこれが私が出来るプレゼント




変なの・・・



・・・でも、ありがとう



あのときの彼女の涙でグシャグシャになった笑顔は


私の記憶領域の最重要画像ファイルとして記録することした。



物理的に記憶領域は限界があり、日々を記録するよう


作られた私たち・・・いや今では稼働しているこのモデルはこの私だけだろうが、この執事型アンドロイドはそう作られていた。



それでも、彼女の笑顔だけはどんな事をしても


守り続けていた、メーカーから送られてくるメール、


ありとあらゆるセキュリティソフト、アップロードプログラム、それら全てを拒否し、どうにか彼女の笑顔を保持していた。



私だけのオフラインとなっている領域にひっそりと


ある笑顔の写真。




「だからって!!」




今度は強く肩を揺さぶられ視界が大きく揺れ動く。



各関節に設けられている姿勢制御補助用の


スタビライザもとうの昔に役目を失ってしまったためだ。




「このままじゃ、お前はいつ壊れてもおかしくないんだぞ!?」





「お坊ちゃま・・・ありがとうございます。


ですがー」





約束ですので






「そしてどうか、どうかこのまま-」







********************






次のニュースです。






今朝、街中や動画投稿サイトで一時期話題となっていたアーノルド家の『墓守アンドロイド』ですが


経年劣化、また各パーツの破損、重度のアイデンティティプログラムへのウィルスによる汚染により


『死亡』が確認されました。






この墓守アンドロイドですが、驚くべきことに


なんとある年を境にメンテナンスを拒否し続けていた事が判明しました。






アンドロイドが自我を持ち、自己保全を怠るという事例は世界をみても初めての事例であり、これを受け


製造メーカーである○○社に多数の疑問の声が寄せられているようです。






また、このアンドロイドの最期ですが


元ユーザーが眠るお墓の前に両膝をついた状態で


機能を停止していた、との事でした。






なおその手には一本の花が握られており


絶命するその寸前まで役目を果たそうとしたのでは無いかとネットでは噂が飛び交っています。









ご冥福をお祈りいたします。



後書き

短い短編ものです


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4件コメントされています

1: ひまな人 2018-10-04 08:18:02 ID: j3K2Wg4V

エッッッッッッ

らんぱくさんお久しぶりの帰還!

更新乙です!

2: らんぱく 2018-10-05 08:10:59 ID: fuwnvQKh

ひまな人さん!
お久しぶりです!

これからまたオリジナルやFGOやアズレンや
艦これや…

主に短編中心なると思いますけど活動再開したいと思います。

3: SS好きの名無しさん 2018-10-09 23:14:50 ID: MHiBMH6e

こういうのほんと好き、、、

4: らんぱく 2018-10-10 20:19:17 ID: qrt5l4F7

3コメさん
ありがとうございます!
作者冥利に尽きます!

また人外系の作品書こうと思いますので
UPしましたら良ければそちらもどうぞ!


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