2018-10-05 12:03:26 更新

概要

愛されなかった軽巡の物語。有り得たかもしれない複数の決意をたどる物語。


前書き

本作は、単体でも楽しめますが『死が二人を分かつまで』を読んでから読むとよりわかりやすいので、もしよければそちらも読んでみてください。
シリアス&悲恋内容ですので、お気を付けください。



ケッコンカッコカリ、それは練度が最高になった艦娘の上限を解放するために行われる行為だ。


そして、つい先日ケッコンカッコカリをするための書類と指輪が我らが鎮守府にも届いたらしい。


私、軽巡能代はこの鎮守府に初期からいた艦娘だ。


提督の秘書官を務め続けて早二年。ずっと傍で彼のことを見てきた。


そんな彼に私が惹かれてしまうのは必然というものだろう。


そんな彼が今、私に指輪を差し出している。ケッコンカッコカリの指輪を。


提督「誰に渡すべきか悩んだんだけどさ、やっぱり性能とかよりずっと支えてきてくれた能代に渡すべきだと思ってさ。」


あなたは私の気持ちを知らない。私が今その差し出された指輪の下…左手の薬指にある指輪を見て。


どれだけ心を痛めているのかなんてあなたは知るはずもない。


つい、先日彼は鳳翔さんと結ばれた。その間に仮などというものは無く、真に愛し合っているという意味だ。


彼が鳳翔さんに好意を寄せているのは知っていた。知っていて、上手くいかなければいいのになんて思い続けていた。罰当たりなものだ。


彼に鳳翔さんに告白するなんて言われたときは、先に私が思いを打ち明けてしまおうと思った。でも。怖くてできなかった。


もし、拒絶されて今いるあなたの秘書官の席すら失ったら…あなたの横にいることさえでき無くなってしまったら、私は壊れてしまう。


能代「ありがとうございます、提督。もしよければ指輪をはめてもらえませんか?」


私は少し我儘を言ってみる。あなたにはめてもらいたいと。


提督「わかった。って、わざわざ左手の薬指じゃなくてもいいんだぞ?これはあくまで装備すればいいものだからな。」


私が差し出した指を見て、あなたがそんなことを言う。


その台詞に私の笑顔が崩れそうになる。それはあなたが私とのケッコンカッコカリをなんとも思って無いのと同義の台詞だ。


能代「それもそうですね、じゃあ右手にお願いします。」


提督「おう、俺も同じく右手の薬指にはめておくよ。どうだ?パワーアップした感じするか?」


能代「そんなすぐにはわかりませんよ。戦ってみないことにはなんとも。」


提督「そりゃそうか、次の出撃が楽しみだな。いずれにせよこれからもよろしくな、能代。」


能代「はい、提督。私こそよろしくお願いします。」


そう言って私は彼と握手をする。あぁ、いっそ私がもっと弱ければこの気持ちをあなたに曝け出せるのだろうか。


子供のようにあなたが好きと叫んでしまえば…なにか変わるのだろうか。


提督「どうした?気分でも悪いのか?」


黙り込んんだ私を見て、提督が顔を覗き込みながらそんなことを聞いてくる。


能代「いえ、提督との付き合いも長いものだなと思い出してました。」


提督「そうだな、最初は俺なにも出来ないぽんこつだったからな。」


彼は後頭部を書きながら苦笑いを浮かべ、そんなことを言う。


提督「だから、ずっと支えてくれてる能代には感謝してるよ。俺に出来ることならなんでも言ってくれ。」


もし今、私を愛して欲しいと言ったらあなたはどんな顔をするんだろう。今持つすべてを捨てて、私の為だけに生きて欲しいと言ったらあなたは叶えてくれる?


いや、それはきっとあなたにとっては出来ない事なのだろう。


能代「はい、なにかあったらすぐに相談しますね。それでは少し阿賀野姉の様子を見てきます。」


提督「あぁ、執務は一通り済ませておくからごゆっくり。」


彼に見送られて部屋から出る。そのまま雨の降る外に出る。紫陽花が綺麗だ。


冷たい雨にうたれながら、指輪をそっと左手の薬指につけてみる。あなたは気づいてくれるだろうか。


気づいたとしても、何を思うのだろうか。ふと、雨とは違う温かい雫が頬を伝った。







提督「夜遅くまで付き合わせちまってごめんな。それじゃおやすみ能代。」


能代「はい、おやすみなさい提督。」


あの後、びしょ濡れになっているのを矢矧に見つかりすぐに風呂に入らされた。


そして、いつも通り執務を提督と行い、すでに夜中だ。


私も自室に戻り床に着く。結局風呂上りに指輪は右手に戻してしまった。


私にはその指輪が、まるで私と彼が永遠に結ばれないことの証明のように思えてしまった。


気分を誤魔化すために自分で自分を慰める。もちろん、彼のことを思いながら。


夢中になって行うその行為は、絶対に実現しないとわかっていることを想像して行う行為は…虚しいだけだった。




<紫陽花の花言葉>


ふと、自室を飛び出し彼の部屋に向かう。


ずっと前に受け取った合い鍵で部屋の扉を開ける。そこには無防備に眠りふけっている彼がいる。


いっそ、ここで既成事実を作ってしまえば…あなたは私を見てくれる?私を…愛してくれる?


答えは…否だろう。そんなことをしてあなたを手に入れてもきっと、私の好きなあなたは消えてしまう。


不意に頬を涙が伝う。一粒だけだった涙が次から次へと止まらなくなる。


あぁ、神様。どうか今晩くらいは…少しくらいはお許しください。二年間思い続けたのです、どうか一つだけ我儘をお許しください。


そして、私は眠る彼の唇に自分の唇を重ねる。キスと言っていいのだろうか。


一方的な愛の押し付け…そのキスは少ししょっぱく感じた。私はそのまま部屋を後にする。


私は罪を犯してしまった。愛し合う二人の間に入り込んでしまった。


キスをしたからだろうか、私の中の何かが崩れてしまった。彼への思いが強くなってしまった。


とはいえ、今鳳翔さんを殺そうが彼を強引に愛そうが私の好きな彼は手に入らない。


なら私は常に彼のそばで笑顔を演じ続けよう。彼のそばで永久に…


そして、あなたが私を愛する日を待ち続けましょう。紫陽花の花言葉のように。


Even if you do not love life me , I continue loving you.





ー紫陽花の花言葉ーbadend











ー分岐ー[能代が提督の部屋に行かなかった場合]


それから、いくつかの月日を数え。すっかり私は思いを隠すことに慣れてしまった。


あなたと私は踏み込まない関係のまま、ただ付き合いが長いだけの仲。


あなたが鳳翔さんと過ごす風景も見慣れ始めていた時だった。


能代「秘書官との合同研修会ですか?」


提督「あぁ、なんでも秘書官と提督同時に参加する勉強会みたいなものらしいんだが強制参加らしくてな。泊まり込みになるが一緒に来てくれるか?」


能代「この鎮守府で秘書官経験があるのは私だけですからね、勿論同行しますよ。」


本当はあなたは鳳翔さんと行きたいのでしょう?彼はそんなことを思って無いとわかっていてもそう考えてしまう自分がいる。


いつかは消えるなんて楽観視していた。この気持ちにもきっと諦めがついて…二人を心の底から祝福できると。


でも、彼への想いは消えるどころか増す一方だった。手に入らないからこそ焦がれるなんていうのは…禁忌ゆえにだろうか。


机に向かうあなたの表情、少し不備を見つけたときの引きつった表情…私はすべて知っている。きっと鳳翔さんが知らない表情も。


なのに、私はあなたを手に入れることはできない。


提督「能代…?どうかしたか。」


能代「い、いえ、なんでも無いですよ。」


見つめていたことが彼にばれて少し不思議そうな表情で問われ、慌てて誤魔化す。


能代「とりあえず、この書類工廠に届けてきますね。」


提督「いつもありがとうな、頼むよ。」


私は適当に理由をつけて執務室を後にする。この調子で研修会に集中できるのかと思うと、今からため息が止まらないのであった。






時の流れとは早いもので、気づいたら研修会当日。


私は彼と一緒に電車に乗る。揺れるたびに触れる肩、たったこれだけのことで胸が熱くなるのは…少し乙女すぎるだろうか。


不意に眠気に襲われる。というのも、今日のことが心配で機能まともに眠れていないのだ。


提督「目的地である箱根まではまだ時間あるし寝ててもいいぞ?肩も使っていいからさ。」


私の表情を見て隣に座るあなたが言う。眠いことに気づく癖に、どうしてこの想いには気づいてくれないのだろうか。


肩なんて借りたら眠れるはずがないのに。そんなことを考えながらも彼の肩に頭を預けてしまうのは…少しでも触れていたいからだろうか。


心臓が鼓動を早くする。微かに香る彼の匂いが私に少し不純な感情を思い出させる。


昔から一緒に出掛けるとこうしてあなたは肩を貸してくれた。でも、この肩はもう私専用じゃないのだ。


思わず瞳から溢れるものを感じ、目を強く閉じる。


提督「能代ー、起きろって。着いたぞ。」


次に私が目を開くと、そこはすでに目的地だった。どうやらあんなことを想いながらも眠ってしまっていたらしい。


いっそ、これまでのことが全て夢であればいいのになんて寝るたびに考えてしまう。


提督「ほれ、行くぞ。」


私はそう言いながら差し出された手を強く握り、彼の隣を歩くのだった。借りものである彼の隣を。






研修会の内容は、特に難しいこともなく基礎の復習といったものだった。


とはいっても、この後泊まる部屋がペアで一部屋と聞いて内容が頭に入ってきていなかったので正直よくわかってはいなかったりするが。


そして、案内された宿に彼と向かう。彼は階級がそれなりなので立派な温泉宿に泊まることになっていた。


提督「こりゃ、凄いもんだ。思ってたのの五倍くらい豪華だぞ。」


能代「あまり騒いだらみっともないですよ?」


提督「ははは、こりゃ失敬。」


謝りながらあなたは帽子のつばを下げて表情を隠す。昔からあなたは恥ずかしいときそうして顔を隠す。


能代「でも、本当に立派な宿ですね。」


提督「あぁ、こりゃ温泉も期待できそうだな。」


そんな会話をしながら部屋に荷物を置く。研修会自体は二日間でどちらも時間が短くなっている。


というのも、研修会というのは形だけのもので本来の目的は提督と秘書官の親睦を深めようというのが今回の上の目的らしいのだ。


提督「それじゃ、折角だし箱根観光と洒落こみますか。」


能代「そうですね。」


私は彼の意見に賛同し、共に宿を後にした。






悩んだ末、私と彼は芦ノ湖に来ていた。観光船があると聞いて二人で船に乗っている。


提督「どうだ?艦が船に乗った感想は。」


彼がそんな風に訪ねてくる。


能代「感想ですか…風が気持ちいことと自分が何もしなくても水上を移動できる違和感ですかね。」


本当はあなたと一緒にいられるだけで幸せなんて言いたいが…言ったところであなたを困らせるだけだろう。


提督「そうか、海上で感じる風とは違うものなのか?」


能代「戦闘中に風を感じている暇なんて無いですからね。なんとも言えないです。」


私は少し困ったといったようにあなたに返す。あなたはそりゃそうだななんて言って後ろ髪を掻く。


提督「早く戦争なんて終わって、お前たちが危険な目に合わなくても済む世界になればいいのにな。」


能代「そうですね。」


彼の決意のこもった言葉に口先だけの同意をする。口先だけの理由はもしこの戦争が終わってしまったら私はあなたのそばにいられなくなってしまうから。


この指輪も…外さなくてはならなくなってしまうから。


提督「それで、この後なんだが対岸側にある箱根関所を見に行ってもいいか?少し興味があってな。」


能代「ええ、ご一緒しますよ。」


そうして、二人で箱根関所を観光する。歴史ある外観のある建物や展示物を見る彼はとても楽しそうで見ている私も思わず笑顔になる。


途中ではぐれたらまずいから何て手を握ってくれもしたが、その行動にははぐれないように。ただそれだけの理由しか無いのだろう。


そして、満喫したので再度船に乗り対岸側に向かう。船から見える夜景はとても綺麗だった。


告白するのには絶好といったシチュエーションだ。


私は…この気持ちを彼に伝えるべきだろうか。伝えれば少しはこの気持ちは楽になるのだろうか。






そんな私の考えは彼の独り言で一掃される。


提督「いつか、鳳翔も連れて来てやりたいな。」


きっと、なんの悪意もないただの独り言。それ故に残酷過ぎるほどに私に突き刺さる言葉。


能代「提督、少しお花を摘みに行ってきますね。」


私はトイレに逃げた。心の整理をするために、だって悲しすぎるじゃないか。


あの台詞は…今日一日私を鳳翔さんに重ねてみていたことの証明なのだから。


鳳翔さんなら喜んだだろうか、何を見るだろうか。それを考えながら彼は箱根を刊行していたのだ。


つまり、横に私がいるかいないかなんて…彼は気にも留めていなかったのだろう。あぁ、壊れてしまいそう。


いや、わかっていたのだ。本当はわかっていた。そして、それを受け止めることを決意したのに…どうしてこんなにも心が痛むのだろう。


トイレで一人涙を流す。彼に気取られてはいけない、一番甘えたい相手なのに彼には知られてはいけない。


涙を流しながら様々なことを考える。いつからあなたは鳳翔さんを呼び捨てするようになったの?鳳翔さんとはどこまでしたの?


どれも醜い嫉妬だ。


しばらくして、涙も枯れて彼と合流する。


提督「腹でもくだしたか?って、どうした?目が赤いぞお前。」


能代「大丈夫ですよ。少し目にゴミが入ってしまっただけです。」


そんな風に笑顔で誤魔化す。私は笑顔を作れているだろうか、歪んではいないだろうか。


そんなことを心配しながら、彼の手を強く握って宿に戻るのだった。






大きな大浴場で入浴を済ませ、豪華な夜食を食べる。


あとは寝るだけだが彼と同じ部屋で寝るのは…今の自分にはとても苦しかった。


提督「能代、お前右と左どっちで寝る?」


彼は二人分の布団を敷いて私にそう聞いてくる。


能代「それじゃ、右側で寝ますね。」


提督「了解、明日も朝が早いしとっとと寝るとしようぜ。おやすみなさい。」


能代「はい、おやすみなさい。提督。」


そうして、私は彼に背を向けて瞳を閉じる。きっと私はこの思いをあなたに伝えることはできないのだろう。


そして何度傷ついてもあなたのそばから離れることができないのだろう。


この戦争が終わって、私とあなたが生きていたとしても…今以上の関係になることはできないのだろう。


なら、私は秘書官で我慢することにしよう。あなたもきっとこれだけ傍にいれば忘れないでくれるでしょう?


この思いが永遠に届かなかったとしても、あなたの長い旅路の片隅に私がいられるのなら…私はそれで良しとしよう。


幸せは誰かの犠牲の上に成り立つなんてよく聞くフレーズだ。なら私は彼の犠牲ということだろう。


I am not get love to you,Let's dedicate this only for you.






ーアセビの花言葉ーbadend












後書き

紫陽花の花言葉『浮気・辛抱強い愛』 アセビの花言葉『献身・犠牲』
ということで、どうも作者こと狸蟹です。('ω')
今回は、私の中で初の悲恋ものということで色々挑戦してみようと考えた結果「if√」つまり、もしものお話を書いていってその先にtrueendを置いてみるという書き方を考えてみました。
思い付きでやってみたことなので、問題点などあるかもしれませんがよければ、お楽しみください。


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黄鼬狐さんから
2018-10-04 23:46:30

aaaaaaさんから
2018-10-04 19:16:15

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SS好きの名無しさんから
2018-10-06 11:01:18

黄鼬狐さんから
2018-10-04 23:46:36

このSSへのコメント

3件コメントされています

1: 黄鼬狐 2018-10-04 23:56:13 ID: EovjJhOR

どうもです。
お初にお目にかかります。

やっぱり、ずっと傍にいたというのに、
カッコカリというのは切ないものですね。
そして、それでも尚、
能代が思い続ける姿がまた....。
bad endとは言え、
感情移入で感傷に浸ることのできる、
素晴らしい作品だと思います。

....ところで、
紫陽花の花言葉は「辛抱強い愛」
から持ってきているのでしょうか....?
少し気になったもので...。

是非続編も見てみたいです。

失礼しました。

2: 狸蟹 2018-10-05 00:59:10 ID: UVeXvfHZ

>>1コメ様、コメントありがとうございます。(仮)という響きが彼女の心にどれだけ深く突き刺さるのか…想像するだけでも心が痛みますね…

花言葉に関してはまさにその通りなのですが、青い紫陽花には「浮気・移り気」という意味もあるんだそうですよ。

3: 黄鼬狐 2018-10-06 17:46:27 ID: lCwAt84H

どうもです。

悪意のない一言だからこそ、
余計に心に刺さるものがありますね...。
俺も日頃の言葉には気をつけないと....。

アセビですか....。
俺も実は以前、花言葉に使おうと思って、
思いつかずに断念したことがあります....。
成る程....、こんな風にすれば....。
非常に参考になりました。
能代が"危険"な思いにだけは、
至らないことを切に願います....。

失礼しました。


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