2019-02-01 18:22:05 更新

前書き

北上さん短編です。
ドストエフスキー要素はありません。





(横恋慕が罪なら、この苦しさは罰なのかな?)




知らぬ間に落ちているのが初恋なのだと、誰かが言っていた。それを小馬鹿にしていた自分が、今はただ羨ましい。







私がここに…この鎮守府に着任したのは、大井っちより結構遅れての事。


だから、着任した時は凄かったなぁ。秘書艦として居た大井っちが飛んでくるんだもの。練度に差もあったし痛かったのなんの。


それを見て困ったように苦笑する提督も、その顔に浮かぶ喜色を隠しきれてなかったね。



着任して暫く。


出撃や訓練の日々をここで過ごしていく内に、色々な事が分かっていった。



在任してる艦娘の数。

いつもカツカツの燃料。

食堂の利用についてのルール。

提督の人柄、苦悩。


そして、大井っちの練度が100を超えている理由。左手に光る鈍色の指輪。

大井っちの一番が既に私では無い事。



…それがショックだったかって?

ううん、全然。むしろそれは、親友として心から嬉しい事だった。



私に囚われている大井っちは見てて痛々しく、辛かったし、そう思っている私を大井っちは当然喜んでもくれなかった。だから、もう私は彼女の枷にならない事を分かった時は素直に嬉しかった。



それもあってね。この鎮守府に来て暫くは、本当に幸せだったんだ。


気のいい同僚、美味しいご飯。


吹っ切れた様子で、明るい親友。

愚痴のように、私に惚気る親友。


うぶで気弱だけど、実は根性のある提督。

優しく、私なんかにも気遣ってくれる提督。


お人好しで、私達が傷つく事に傷ついてる提督。

無理した時は本気で怒る提督。


いつも困ったような顔をしてるけど、たまに見せる笑顔が素敵な提督…




……いつからだっけな。



いつも隣にいる大井っちにじゃなく、あの人に…

提督に目がいくようになったのって。



言い訳にしかならないけど…

…気が付いた時には、もう手遅れだった。



もうすっかり私は、甘くて苦い、決して抜け出せない泥沼に嵌まり込んでしまっていた。


嵌った泥沼から、抜け出せなくなっていた。


…泥沼から、抜け出したくも無くなっていた。




この感情を自覚しちゃったのは、提督と大井っちの…いわゆる、夫婦の営みを。偶然見た時。


夜、喉が渇いて起きて、水でも飲もうとした時に見てしまった。



その時私が抱いた感情は、申し訳なさでも、見てはいけない所を見てしまった気恥ずかしさでも無く、只ドス黒い感情だった。


嫉妬、憎悪、憤怒… …他には言葉が思いつかないけど、取り敢えずそういう感情。


最初はそんな感情を抱く自分に困惑した。いけない事だと思って、寝床に戻って深呼吸とかもして、心を落ち着かせようとした…



でも、落ち着けなかったや。

…その時はっきり解っちゃった。



私は提督が好きなんだ。



もうケッコンしているとか、愛の発露の現場を見たとか、親友への裏切りとか、そんな事じゃどうしようも無いくらいに。


理屈と論理と倫理じゃあ抑えきれないくらいに、理不尽なくらいに、提督が好き。

好きになってしまった。



…そして同時に解っちゃった。どうしようも無いくらい、この愛は届かないって事も。



初恋は甘酸っぱいなんて大嘘だよ。苦くて苦しくて辛くて…そんな事、今はどうでもいいか。



ともかく、その日は一晩中泣き明かした。

たはは。翌日皆に心配されちゃったよ。




それからは、今迄がウソみたいに辛かった。

地獄って言ってもいいかな。



それまでタブーとして封じ込めていた想いが、自覚を境に押し込めきれなくなった。


それと同時に、親友を裏切っている背徳感、親友の恋人への横恋慕の罪悪感。


大井っちと自分を比べ、優っている所を見つけ優越感に浸る私自身への自己嫌悪。


それはまるで壊れた蛇口みたいに。

そんな風にマイナスの感情が吹き出していって。そんな考えをする自分が只々嫌で。



それが無意識に分かっていたのか、大井っちは私に少し警戒しているみたいだった。


前みたいな惚気は言わなくなり、やけに他人行儀になっていった。


僻んだ私の被害妄想かもしれないけれど、目の前で提督といちゃつく事も多くなった様な気がするんだ。




どんどん、どんどん。

どんどんと、どんどんと、どんどんと。



私から離れ、提督を私から離し。


私も大井っちから離れて行く。




そしてだんだん、だんだん。


私の親友への想いは、黒いモノヘ変わっていった。



…不思議だなぁ。

愛情と憎悪はこんなに簡単に入れ替わるんだね。



そんなある日。


夜中、眠れずにいる提督が、同じく眠れずにいた私と鉢合わせ。で、ちょっと話をした。




提督は、疲れてるみたいだった。



他の子とあまり会話をするな、北上とは特に…

なんていう、無茶な要求。


その他の、異常な束縛。それに心労を感じているようだった。




頭の中で何かが切れる音が一つ、して。




私は、困った様に笑うその唇に、唇を重ねた。


頭を抑え、舌を絡めた。





………





気を浮つかせ、倫理に背かせる。浮気、不倫。それは間違いなく罪だ。救いようの無い、罪業だ。


ならそれをした私に、いつかまた罰がくるのかな?


救いようの無い罪にはそれ相応の、救いようの無い罰が下される?




「ねえ、提督」




…それでもいい。それでもいいから、今はただ、この甘い罪に溺れていたいんだ。


未来の無い…いや、始まってすらない関係だとしても。それでも今は幸せなんだ。


だから、私は…。




「私、貴方の事が好きだよ」





………







「……そう。」







おわり


後書き

以上です。

可愛い娘は曇ったらより可愛いと思うんです。


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-: - 2018-10-16 20:22:29 ID: -

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2: きらっちぇさん 2018-10-24 19:33:45 ID: S:VmYYnL

おおおおおおお!?なにこれ!良いです!最高です!
こんくらいどろっどろなのが欲しかったんです!

3: ウラァー!!ハラショー!! 2019-07-09 06:14:19 ID: S:RDbGma

辛いな。


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-: - 2018-10-16 20:21:42 ID: -

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2: きらっちぇさん 2018-10-24 19:34:15 ID: S:u57bmR

ドロドロな展開が好きな人向けですかね!


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